ガードレール「ガキどもは……俺が守るッ……!」 (39)

少年「いっつも思うんだけどさー」

少年「なんでこんなとこにガードレールがあるんだろうな」

Tシャツ「通学路でここだけにポツンとあるもんな」

眼鏡「ここって車なんかほとんど通らないし、明らかに浮いてるよね」



ガードレール「……」

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少年「もしかして、こいつさ……ガードレール界のいじめられっ子なんじゃね?」

Tシャツ「ギャハハハ、ウケるー!」

眼鏡「そう考えると、しっくりくるね。落ちこぼれガードレールなんだよ、きっと」



ガードレール「やかましい!!!」

ガードレール「こっちだって好きで設置されてるんじゃねえ!」

ガードレール「何も知らないガキがとやかくいうな!」



少年「わーい、ガードレールが怒ったー!」

Tシャツ「逃げろーっ!」

眼鏡「アハハハハハッ!」

タタタタタッ!



ガードレール「ったく、クソガキどもが……!」

少年「よっ、ガードレール、元気かー!」

ガードレール「……」

少年「黙ってやがる。蹴り入れてやれ!」ガッガッガッ

Tシャツ「凹ましてやれ!」ゲシゲシゲシ

眼鏡「えいえいえい!」ガンガンガン

ガードレール「やめろ、このバカども!」

少年「いてて……ビクともしないや」

Tシャツ「硬すぎ……」

眼鏡「なんでこんな頑丈なの……」

ガードレール「こっちはバイクや車がぶつかっても大丈夫なようにできてんだ!」

ガードレール「ガキの蹴りでどうにかなるわけないだろが! ガッハッハッハッハ!」

少年「ちっくしょー! 覚えてろよ!」

タタタッ!

少年「よーし、今日はガードレールをハードルに見立てて、飛び越えよう!」

Tシャツ「オッケー!」

眼鏡「面白そう!」

ガードレール「またバカなこと始めやがって……ケガするぞ」

少年「えーいっ!」ピョンッ

Tシャツ「とりゃ!」ピョンッ

眼鏡「そらっ!」ピョンッ

眼鏡「うわっ!?」ガクッ

ビタンッ!

眼鏡「いたたたた……!」

少年「大丈夫か!?」

眼鏡「あうぅぅ……痛い、痛いよぉぉ……」

ガードレール「あーあ、だから言わんこっちゃない」

少年「ガードレール、お前のせいだぞ!」

Tシャツ「そうだぜ! ガードレールなのに、ケガさせてどうすんだよ!」

ガードレール「いやいやいや、俺のせいじゃねえから!」

眼鏡「いや、僕……もう一回跳ぶよ」ムクッ

ガードレール「ほう?」

眼鏡「だあっ!」ピョンッ

少年「おお、やった!」

Tシャツ「成功だ!」

ガードレール「ふん……なかなか根性あるじゃねえか」

眼鏡「へへ……」

少年「あっ、ガードレールが落書きされてる!」

Tシャツ「誰にやられたんだ!?」

眼鏡「きっと中学生の連中だね」

ガードレール「当たり。あいつら、暴走族のマネして、スプレー缶で落書きしやがって……」

少年「……よーし、俺たちで落書きを落とそう!」

Tシャツ「そりゃいいや!」

眼鏡「そうしよう! やっぱりガードレールは白くないとね!」

ガードレール「お前ら……」

ゴシゴシゴシゴシゴシ…

少年「完璧とはいえないけど、結構落ちたな」

Tシャツ「ああ!」

眼鏡「やったね!」

ガードレール「ありがとよ……恩に着るぜ」

少年「じゃあさ、最新ゲーム機ちょうだい!」

Tシャツ「俺、新しい野球グローブ!」

眼鏡「僕は図鑑セットが欲しいなぁ」

ガードレール「やれるかんなもん!」

少年「使えないなぁ、このガードレール」

ガードレール「少しはマシになったかと思えば……帰れ、帰れぇっ!」

――

――――

PTA会長「校長先生」クイッ

校長「な、なんでしょう?」

PTA会長「通学路にあるガードレール、撤去した方がよろしいのでは?」

PTA会長「あのガードレールは明らかに通学路の景観を損ねてますし」

PTA会長「ガードレールで遊んで怪我をしたり、落書きをする子供がいるのも報告されてます」

PTA会長「まさに百害あって一利なし。よりよい教育のためにも、撤去すべきですわ」クイッ

校長「分かりました……市と相談してみましょう」

校長「……というわけなのだよ」

市職員「そうおっしゃられても、撤去費用もかかりますし……」

PTA会長「子供たちのためなんですよ!?」

PTA会長「検討して下さらないのなら、市役所の怠慢として世間に公表する準備もできてますのよ!?」

市職員「た、怠慢!?」

市職員「け、検討します! 検討しますぅ!」

PTA会長(うふふふ……これを私の手柄とすれば、主人の会社の宣伝にもなるわね!)

PTA会長(主人の会社はリストラを行ったり厳しい状況が続いてたけど)

PTA会長(これで息を吹き返すことも可能……!)

少年「あのさー」

ガードレール「ん?」

少年「撤去が決まっちゃったらしいね」

ガードレール「おう、せいせいしただろ?」

少年「……するわけないじゃん!」

Tシャツ「ガードレールがなくなったら、俺たち寂しいよ!」

眼鏡「そうだよ!」

ガードレール「お前ら……」

少年「きっと俺たちのせいだ……俺たちがガードレールで遊んでるから」

少年「勉強しないのはガードレールのせいだ、みたいなことになっちゃったんだ!」

ガードレール「……そうじゃねえよ」

ガードレール「元々、ここに俺が設置されたのは、市の予算が余っちゃって消化しなきゃならないから」

ガードレール「仕方なく設置したってのがホントのところなんだ」

ガードレール「車の通行もろくにないこの場所に、ガードレールなんか必要ないしな」

ガードレール「お前らがいってた“ガードレールの落ちこぼれ”ってのもまんざら間違いじゃねえ」

ガードレール「だから撤去されるのは自然の流れなんだよ」

ガードレール「お前らのせいじゃない……気にすんな」

少年「ガードレール……」

ガードレール「それに撤去されるったって、今日明日の話じゃない」

ガードレール「もうしばらく、お前らの相手だってしてやれるさ!」

ブロロロロ……

運転手「ちくしょう……」

運転手「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!」

運転手「あのクソ社長め、よくも俺をリストラしやがったな! 俺はもうオシマイだ!」

運転手「そういや、あの社長の妻はこの近くの小学校でPTA会長やってるって聞いたことがある……」

運転手「こうなりゃヤケだ!」

運転手「どうせ人生終わりなんだ! 最後にガキどもひき殺しまくってやる!」

運転手「そうと決まれば、一杯ひっかけて……」グビグビ

運転手「アクセル全開だァァァァァ!」グンッ

ブロロロロロロロロ……!

ブロロロロロロロロ……!



少年「な、なんだ!?」

Tシャツ「トラックが突っ込んできたぞ!」

眼鏡「しかも明らかにこっちを狙ってるよ!」

Tシャツ「ど、どうしよう!? 逃げなきゃ!」

眼鏡「逃げる場所なんかないよ!」

少年「俺たち、終わりだぁ!」

ガードレール「おい、なにパニクってやがる! ここにガードレールがあるだろうが!」

ガードレール「みんな、俺の後ろに隠れろ!」

少年「でもあんなトラック、ガードレールでも防げないだろぉ!」

ガードレール「絶対防いでみせるさ……心配すんな!」

運転手「――あのガキども、ガードレールの後ろに隠れやがった!」

運転手「あんなチンケなガードレールで身を守れるわけねえだろうが!」

運転手「ガードレールごと押し潰してやらぁ!」

ブロロロロロロロ……!





ドゴォッ!!!





ガードレール「ぐおおおッ……!!!」メキィッ…



少年「うわわわっ!」

Tシャツ「ひいいいっ……!」

眼鏡「ああああっ……!」

ガードレール「ここは絶対通さねえ……ッ!」ミシミシ…





ガードレール「なぜなら、俺はガードレールだから……ッ!」メキメキ…





ガードレール「ガキどもは……俺が守るッ……!」

グググググ……!

運転手「な、なんでだぁ!?」

運転手「このスピードなら間違いなく、あんな小さなガードレールブチ抜けるはずなのに!」

運転手「もっとアクセルを……うっ、うわっ!」

運転手「トラックが倒れるぅぅぅぅぅぅ!!!」グラッ…



ドガシャァァァァンッ!!!

少年「ガードレール!」

Tシャツ「ガードレール!」

眼鏡「ガードレール!」

ガードレール「へ、へへへ……よかった、三人とも無事、か……」

少年「ガードレールのおかげだよ、ありがとう!」

ガードレール「だが、俺はここまでだな……グシャグシャに曲がっちまった……」

Tシャツ「死ぬなよ、死なないでくれよ!」

眼鏡「ううっ……」

ガードレール「泣くな……」

ガードレール「いっとくけどな、俺は……今、幸せだぜ……」

少年「ガードレールっ……!」

ガードレール「だって……撤去される前にガードレールとしての使命を……果たせたからな……」

ガードレール「じゃあなガキども……元気、でな……」

ガードレール「……」

少年「ああっ……!」

Tシャツ「うおおおおっ……!」

眼鏡「ぐうぅぅぅっ……!」

少年「うわぁぁぁぁぁぁん!!!」

――――――

――――

――

警官(……あれから十数年、みんな大人になり、“少年”だった俺は警察官になった)

警官(俺たちの命を救ってくれたあのガードレールがあったところには)

警官(今では新しく、より長くより丈夫なガードレールが設置されている)



児童「おまわりさん、おはよー!」

警官「おはよう!」



警官(え? どうして俺が警察官になったかだって?)

警官(それはもちろん、子供たちや市民を守る仕事につきたかったからさ)

警官(そう、あのガードレールのように――)







― 終 ―

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