吸血娘「死なないハゲってさ、不老不死ってより不毛不死だよね」屍男「…」 (388)

吸血娘「って、毛根はもう死んでるか!アッハハハハハハァ!!!!」バンバン

屍男「…」

吸血娘「なんだよしけてんな!お前にはもう湿気なんて関係ないやないかーい!」バシッ

屍男「...」

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吸血娘「んだよ、今日は一段と暗いな。頭はいつも明るいくせに」

吸血娘「育毛剤の副作用で髪だけじゃくて感情も失ったのか?元気出せよハゲ、髪はなくてもお前には私がついてるんだから」


屍男「…少し黙っててくれないか。やかましい」


吸血娘「アんっ!?」ピキッ

吸血娘「調子乗んなハゲ!!!!死ねッ!!!!毛根ごと消え去れッ!!!!」バシバシ

屍男「…頭を叩くのはやめろ」

吸血娘「ちょっと頑丈だからっていい気になるなよハゲ!私だって不死身なんだからな!」ゲシゲシ

吸血娘「それにこのサラサラのパツキン!テメェのツルッパゲと比べたらまさに天と地だ!」

吸血娘「あ、地といってもお前のは作物一つも育たない死んだ土地だけどな。砂漠だ砂漠、ホワイトサンズだ」


屍男「…ホワイトサンズは砂丘じゃなかったか?」

吸血娘「知るか!どっちも似たようなもんだろが!」ゲシッ

吸血娘「ぜぇ…ぜぇ…ちょ、ちょっと休憩。動き疲れた」

屍男「…相変わらず体力がないな。お前は」

吸血娘「るせーよアホ、私は肉体派じゃないんだよ。脳筋のお前と違って繊細なんだ」

屍男「…モヤシ」ボソッ


吸血娘「誰がモヤシじゃゴラァ!!!!てめぇの腐った汁全部吸うぞゴラァ!!!!!」ガジガジ

屍男「頼むから降りてくれ、動きにくい」

吸血娘「ペッペッ、相変わらずまずい血だな。腐ってんじゃないの」ゴシゴシ

屍男「...見て分からないのか」

吸血娘「あーあ、こんなハゲの血じゃなくて、十代のピチピチの処女の血が飲みたいわ。もう長いこと飲んでないし」

吸血娘「いつも飲むのは中年のドラッグとアルコールで薄汚れた不味い血…薬中の血ってマジでゲロ吐きそうになるわ」

吸血娘「お前も食いたいだろ?若い女の肉」


屍男「…いや、俺はいい」


吸血娘「嘘つくなよ、このムッツリが。ハゲは全員ムッツリスケベって相場が決まってるんだよ」

吸血娘「ホント、そこら辺の女学生でもさらっちゃおっかな。力を使えば人に見られることもないし」


屍男「...」


吸血娘「冗談だって、そこまでするほど私も悪人じゃないよ」

吸血娘「仕方ない、今度どっかの献血所からまたパクってくるか。直飲みしたいけど我慢してやる」


ピピッ


吸血娘「ん、時間か。行くぞハゲ」スッ

屍男「…あぁ、分かっている」スッ



吸血娘「お仕事の時間だ」

……………………………………………………
……………………………………


グチャッ

グチャッ


吸血娘「ふぅ、全部で6人終わりっと」ゲプッ

吸血娘「さすがに飲みすぎたわ…合計50リットル以上はあったからな。お腹パンパン」ポンポン



死体『』



吸血娘「はい、あとはお前の仕事な、片しといて」

屍男「…分かっている」スッ


バキバキッ

グチャッ

吸血娘「ねぇ、人間って美味いの?私は血しか飲まないから分かんないし」


屍男「…女は基本的に全員、肉が柔らかくて美味い。男は脂肪がついたデブ以外は淡白な味だ」


吸血娘「ふーん、あそっ」

吸血娘「しかし、今回の依頼のやつも相当な悪人だな。集団強姦の常習犯だって、被害者は恐らく合計三桁以上」ペラッ

吸血娘「未成年の時には数人をバラシて埋めてるって…コワッ、最近の若いやつはなにするか分からんな」


吸血娘「ま、悪いことをしたら天罰が下るのは当然のことだよね。それを私たち怪物がやってるってのは皮肉っぽいけど」

屍男「…処理終わったぞ」


吸血娘「よーし、じゃあさっさと撤収だ。早くお風呂に入りたいし」

吸血娘「ハゲ、お前はあいつんところ行って報酬貰ってきて」

吸血娘「あとピザも買ってこい、肉いっぱい入ってるやつな」


屍男「…自分で」


吸血娘「んじゃよろしく。もし買ってこなかったら、お前が寝てる間に頭に永久脱毛のレーザー当てるからな」スタスタ


屍男「...」

…………………………………………………………………
………………………………


チリンチリン♪


魔女「いらっしゃーい」


屍男「...」


魔女「おっ、ゾンビくんじゃない、どうしたの?おつかいでも頼まれたのかしら?」


屍男「…金を受け取り来た」



魔女「あーはいはい、いつものやつね。まったく不愛想なんだから」ガサゴソ

魔女「はい、今回の報酬よ」ドサッ

屍男「…確認した」スッ

魔女「で、どう?そろそろ慣れた?この仕事も」

屍男「…あぁ、特に不自由はしていない」

魔女「あの子のところだと色々苦労してるんじゃないの?例えば頭に針刺されてヘルレイザーごっこされたり」

屍男「…いや、さすがにそこまではされてない」

魔女「なんだ、つまんないの」


屍男「…」

魔女「じゃあ“記憶“の方は?何か思い出したりした?」

屍男「...相変わらずだ。生前の自分が何者だったのかすら思い出せない」

魔女「そう…ま、これだけは気長に行くしかないわね。唐突に全部思い出すわけでもないし」


屍男「前例があるのか?死者が記憶をなくして蘇るなど」


魔女「前にも言ったけど、別に死体が蘇るのはそう珍しいことじゃないわよ?よく言うじゃない、地獄が満員になると死者が地上を歩き出すって」


屍男「…聞いたことないが」

魔女「まあ原理は幽霊と変わらないってことよ。違いは肉体が歩かないか、見えるか見えないかの些細な違い」

魔女「でも記憶がないのはちょっと特殊かもね。大抵は未練やら後悔やら、何か思い残したことが起因になって蘇ってるわけだし」


屍男「…未練か」

屍男「一つだけ、この仕事を始めて分かったことがある」

魔女「ほう、なに?」


屍男「…恐らく俺は、生きている時も似たようなことに関わっていた気がする。死というものに関係する何かにな」

魔女「ふーん…それは興味深いわね」

魔女「確かに、やけに手際がいいと思ってたわ。正直慣れるにはまだ早すぎるし、気を病んでる様子もない」

魔女「この手の仕事は人を殺すことに何も躊躇がない怪物にしか出来ないからねぇ、もしかして生前はどっかのマフィアお抱えのヒットマンとか?」


屍男「…そうかもな、思い出せないが」


魔女「ま、何か思い出したら相談に来なさいな。お金次第では情報を探してもいいわよ?」


屍男「…検討しておこう。では俺はそろそろ失礼する」スッ

魔女「ちょい待ち」ガシッ


屍男「…まだ何か用か」


魔女「ねぇ…今、時間ある?」


屍男「…あると言えばあるが」


魔女「…少し、遊んでいかない?最近溜まってるのよね…色々と」ヒラッ



屍男「...」



魔女「アナタもこの仕事を続けているなら…溜まってるんじゃないの?そういうのは発散した方がいいわよ」

屍男「…興味がないな。帰るぞ」グッ


魔女「ちょっとぉ…こんな美女が誘ってるのに、まさか何もしないで帰るつもり?それでも男なのかしら?」


屍男「…俺は死人だ。死体と寝る趣味があるなら、墓場にでも行ってくれ」スタスタ


バタンッ


魔女「…ふっ」

魔女「まったく…お堅いんだから」

ガチャッ

屍男「…帰ったぞ」



吸血娘「遅いんじゃハゲェェッッッッ!!!!!!」ブンッ




ブンブンブンッ

グサッ



屍男「...包丁を投げるのはやめろと前にも言っただろ」ブスッ



吸血娘「いいだろ別に!お前どうせ痛覚鈍いんだし、すぐ治るだろハゲ!」

吸血娘「ハゲだけに怪我ないってな!アッハハハハハハハハハァ!」



屍男「…自分で言ったジョークでうけるな」

吸血娘「それよりピザはどうした!まさか買ってこなかったんじゃないだろうな!」


屍男「…よく見ろ、ちゃんと買ってある」スッ


吸血娘「うっひょー!さっさと言えよな!この使えないハゲが!」

吸血娘「ん~~~んっま!やっぱピザは最高だね!このジャンクさがたまんない!」

吸血娘「あ、トマトが入ってるところはハゲにやるわ。野菜食べると髪が生えてくるかもな。感謝しろよ」ポイッ


屍男「...少しは栄養を考えたらどうだ。そんな体に悪いものばっかり食ってると成長しないぞ」

吸血娘「いいの、ヴァンパイアは血さえ吸ってれば他のエネルギーなんて摂取しなくてもいいんだから」パクパク

吸血娘「あーおいしい…ピザとコーラを作ったやつは天才だな。二十代後半の健康的な女の血くらいうまい」ムシャムシャ


屍男「…さっきまで血を何十リットルも飲んでたくせによく食えるな」


吸血娘「血と食物は別物、吸収機関が違う。あれ、正確には血を飲んでるんじゃなくて身体に取り込んでるんだからね」モグモグ

吸血娘「つーか、お前も似たようなもんだろ。死体6人も食って動けるとか、胃袋どうなってるんだよ」モグモグ

吸血娘「あーっ!ピザうまい!最高!フォウッ!」


屍男「…おめでたいやつだ」

屍男「ピザもいいが、報酬も受け取ってきたぞ。確認してくれ」スッ


吸血娘「んー…さていくら入ってるかなっと」ペラペラ

吸血娘「…はぁっ!?たったこんだけぇ!?」


屍男「...少ないのか」


吸血娘「いつもの半分以下じゃねえか!確かに雑魚で楽にやれたけど割に合わない!」

吸血娘「こっちは誰かに目撃されるリスクがあるんだぞ!あのクソビッチめ!!!!」


屍男「…不景気というやつだろう。あと、ビッチとかそういう汚い言葉を年頃の娘が使うもんじゃない」

吸血娘「いやどう見てもあいつビッチじゃん!無駄に露出高いし、おっぱいでかいし!歩くポルノじゃん!」

吸血娘「…はっ!?ハゲ!お前まさかやけに帰りが遅いと思ったらあいつと...!」


屍男「帰りが遅かったのはお前がピザを頼むからだろうが」


吸血娘「あんまりあいつと仲良くするなよ!あいつは人間のくせに私たちの世界に干渉しているちょっとヤバいやつなんだからな!」

吸血娘「それに、あの蛇みたいな目…絶対ろくなやつじゃない!ビッチだビッチ!」


屍男「…人間が俺達と関わっているのは珍しいのか?」

吸血娘「敵対するなら分かるけど、あいつはこっち側と癒着してるんだぞ」

吸血娘「例えるなら…カマキリの群れの中にいる蝶、すぐ食われてもおかしくないのに、それなりの立場にいる」

吸血娘「それに何かあいつと目を合わせると、観察されているみたいでキモいし…時折口調が別人みたいに変わるし」

吸血娘「なるべく関わらない方がいいやつナンバーワンだわ!私の勘がそう言っている!」


屍男「…まあそれは分かるが」


吸血娘「チッ…次会ったら抗議してやる。あとハゲ、お前そろそろ臭うから風呂入ってこい。くさいぞ」


屍男「…分かった」スタスタ

シャアアアアアアアワアアアアアアアア…



屍男「…」クンクン

屍男「…やはり、一日に三回は入らないと臭ってくるか。不便だな」

屍男(香水でも買うか?しかし大の男が香水の匂いがするのは…またあいつに何か言われそうだな)


ゴリッ


屍男「…なんだ、今、何か硬い感触が」

屍男これは…弾丸か?あぁ、前に撃ち込まれていたのを取り忘れていたのか」グチュッ


屍男「…」

屍男「…あれから、もう半年か」

▢▢▢▢  半年前  ▢▢▢▢



屍男「」

屍男「」ビクッ



屍男「」パチッ

屍男「...」


屍男「........?」 キョロキョロ


屍男「…ここはどこだ?ゴミが大量にあるが」


屍男「なぜこんなところに…うっ」ズキッ

屍男「――――俺は、誰だ?」

今日はここまで
こんな感じで続いていきます
そこそこ長くなる予定です

ワイワイ ガヤガヤ



屍男(気が付いたら…路地裏のゴミ捨て場で目が覚めた)

屍男(その前のことは何も覚えていない…自分の名前も、出身も)

屍男(…これは“記憶喪失”というやつなんだろうな。自分の過去だけが綺麗に丸ごと抜けている)


屍男(これからどうする。警察にでも行って事情を話せば保護してもらえるか?)

屍男(…いや、警察は駄目だ。なぜかは分からんが、嫌な予感がする)

屍男(…しかし、動かないと埒があかない。いずれにせよ、このままホームレスのような生活を続けるわけにもいかん)

屍男(人が集まるこの駅前なら、俺のことを知っているやつに声をかけられるかと思ったが…もう日が暮れてしまった)


グゥゥ


屍男(腹が減ってきたな。今日はここで一晩過ごし、明日になっても見つからなかったらおとなしく病院にでも行くか)



「うっ、なんだあのハゲの周り、めっちゃくっせえぞ」

「うわ!ハゲだ!ハゲ菌がうつる!」



屍男「…」

チッチッチッチッチッチッチッチッ



屍男(深夜の0時か。さすがにもう人はいないな)

屍男(…そろそろ寝るか。こんなところで横になると死体と間違われて通報される可能性がある…少し場所を変えるか)スッ


「ちょっといい?そこの髪がない人」


屍男「…なんだ、俺のことか?」


「そうよ、こんなところで何をしているの?」


屍男「…いや、何でもない。もうここを離れるところだ」

屍男(長居し過ぎたか、怪しまれると厄介だな)

「ふーん…そう」ジロジロ



屍男(…なんだ、この女は)

屍男(よく見ると…他の人間とは違う雰囲気がある。妖艶…蠱惑的…まるで魔女だな。薄気味悪ささえ感じる)

屍男(格好を見るに、娼婦か何かか?まさか商売の相手を探しているんじゃあるまいな)



魔女「アナタ…もしかして、記憶喪失だったりする?」



屍男「」ピクッ

屍男「…お前は、俺を知っているのか?」

魔女「残念、会ったこともないわね。でも…」

魔女「アナタに何が起きたかは…知っているかも」チラッ


屍男(この女は…なぜ俺のことを)

屍男(…考えても仕方ないか。今はこの女が一番の頼りだ)

屍男(…勘だが、こいつは何か特別な気配がする)


屍男「…あぁ、そうだ。俺には記憶がない」

屍男「お前は医者か、エスパーか?どちらにしても、俺が何者なのか教えてほしい」


魔女「いいわ、ここで話すのもなんだし、ちょっと場所を移しましょうか。着いてきなさいな」スタスタ

カランカラン♪


魔女「そこら辺にでも座っててちょうだい。お茶を出すわ」


屍男(…ここは古本屋か?どんな所に連れ行かれるのかと思ったら…意外とまともな場所だな)

屍男(この女の店…にしては似合わないな)


魔女「はい、レモンティー。口に合うかどうかは知らないけど」


屍男「…さっそく本題に入っていいか。お前はなぜ、俺が記憶を失っていると一目でわかったんだ?」


魔女「うーん…そうねぇ…」

魔女「じゃあ気付いてないみたいだし、正直に言ってあげるわ。あんまり取り乱さないでね」





魔女「アナタ、もう死んでいるのよ。人間じゃない、だからすぐ分かったの」



屍男「………は?」



魔女「気付いてなかったでしょ、自分が死んでいることに」

魔女「そりゃ駅の前で、死体が意味深な顔をして辺りの人間をチラチラ見てたら…人を探してるか、今夜のディナーを見極めているかのどっちかしかないわよ」

魔女「普通の怪物は私の目を見たら真っ先に警戒するし、アナタの態度を見ると何も知らない、蘇ってからそう日が経ってないアンデッドってことはすぐ分かったわ」

魔女「蘇生した直後は記憶が混乱して、ボーっとしてるしね」


屍男「…待て、勝手に話を進めるな。俺が死んでいるだと?」

屍男「笑えない冗談だ。死体が動くわけがない…俺を馬鹿にしているのか?それともイカれているのか」


魔女「そう言うと思ったわ。じゃあ論より証拠を見せてあげる」チャキッ

バンッ!!!!!!


屍男「!?」ドンッ

屍男(なっ…拳銃っ…撃たれッ...)



ドサッ



屍男「」

屍男「」


屍男「…??」ピクッ

屍男(…痛みがない?)


魔女「ほら、銃で心臓を撃ち抜かれても生きてるでしょ。これでも普通の人間だっていうの?」

魔女「これが現実、アナタは一度死んで蘇ったゾンビくんってワケ」

屍男(ど、どうなって…撃たれた傷は!?)バッ


ジュゥゥゥゥゥゥッ


屍男「に、肉が集まって再生しているだと…」


魔女「おぉ、再生のスピードはっやーい」



屍男「何がどうなっているんだ…?ぐぅっ」グッ

屍男「俺は……もう本当に……死んで、いるのか......?」



魔女「目の前で手品を初めて見た子供みたいなその顔…髪があったら男前なのにもったいない」

屍男「...」


魔女「まあショックなのは分かるけど、そんなに悲観することじゃないわよ。第二の人生だと思えば気楽なものよ?」

魔女「ほら、ゾンビ映画のゾンビ達も肉食べてる時はすごく楽しそうだし」


屍男「...俺はなぜ死んだんだ」


魔女「さぁ?そんなこと私に言われても
分からないわよ。全知全能の神じゃあるまいし」


屍男「...記憶はいつか戻るのか?」


魔女 「そうね、そのうち戻るんじゃないの。今は蘇った反動で脳が混乱してるだけだと思うし」

屍男「...俺みたいな境遇のやつは他にもいるのか」


魔女「えぇ、死者が蘇ったら主に二つに分類されるわ」

魔女「一つは『幽霊(ゴースト)』こ死の実感がない、つまり事故とか病気とかの突然死をした人がなりやすいわね」

魔女「幽霊の特徴は肉体がないこと、それに視える人にしか見えない。こっり暮らすなら最適の存在よね」

魔女「他にも足が付いてるのとか、自由に移動が可能なタイプもいるけど...ここら辺は話すと長くなるからとりあえず飛ばすわ」


魔女「そしてもう一つは『怪物(モンスター)』アナタはこっちに当てはまる」

魔女「怪物は死を実感しながら死ぬとなりやすいって言われてるわ。殺人とか、自殺とか…個人的な経験だと性格にクセがある人が多いわね」

魔女「怪物の特徴は蘇った肉体そのもの。超人的な怪力になったり、足が速くなったり、ワープしたり…まさにモンスターって感じ」

魔女「まあジェイソンみたいなのを想像すればいいわ。大体はあんな感じだから」



屍男「」グッ



グシャッ


屍男「...なるほどな、少し力を入れただけでカップが砕けた。ハルクにでもなった気分だ」パラパラ

魔女「ちょっと、勝手にカップ壊すのやめてくれる?」


屍男「…フッー、つまりアレか。俺は…誰かに殺されたということか」

屍男「そして蘇ったと…くだらんホラー映画じゃあるまいし…馬鹿みたいな話だ」

屍男「…一つ、気になることがあるんだが」


魔女「なに?」


屍男「この頭…髪が抜けたのも蘇った影響なのか?」

魔女「いや、それは違うと思う」キッパリ


屍男「…」

屍男「…あぁ、そうか」

今日はここまで
誤字脱字多くて申し訳ないです

魔女「しかしまあ、怪物になったのは運が悪かったかもね。幽霊なら実体がないから好き放題出来たのに」

魔女「いくら死んでるといっても、怪物は元のベースが人間だからどうしても睡眠と食事が必要になるのよね。幽霊はただ浮いてるだけでいいんだけど」


屍男「…どうすればいいんだ。俺はこれから…」

屍男「名も故郷も親も知らずに、化け物になった状態で生きろと?そのまま死んでた方がまだ楽だろう」

屍男「…姿も髪が抜けて、この有様だ」


魔女「だから髪がないのは元からだって」

魔女「まあそうねぇ…このままだと本当に野垂れ死んじゃいそうだし、アナタが良ければ記憶が戻るまでここに住んでもいいわよ?あ、もちろん仕事はしてもらうけど」

屍男「…いいのか?お前は」

屍男「会ったばかりの死人を家に招き入れるなんて…余程のお人好しか間抜けだぞ。正常な判断とは思えない」


魔女「家を提供してあげるって言ってるのに、普通そんなこと言う?」

魔女「別に理由なんてないわよ。ただ、困った時はお互い様ってだけ」

魔女「貸しは作っておいて損はないからね。いつか倍返し貰えればいいし」


屍男「…お前は本当に何者なんだ?人間なのか、それとも怪物というやつなのか」


魔女「さあ?そんなのどうでもよくない?」

魔女「アナタが直面してる状況と比べたら…私の正体なんて些細なものよ」

…………………………………………………
……………………………



屍男「…」ポンポン

屍男「…ここの本はこっちの本棚か」

屍男「…虫に食われているな。これはもうダメか」ペラペラ



屍男(あれから二週間か。成り行きであの女の店で働くことになったが…)

屍男(なんだこの本屋は、オカルト系の怪し気でインチキ臭い本しかないぞ)

屍男(…しかも半分くらいは何の言語で書かれているか分からん。状態も悪いし何年前の白物なんだ)

屍男(これだと客も来ないはずだ。今までに来た奴なんて数えるほどしかいない…)


屍男(…いや、問題はその客の方か)

屍男(時々来る客の中でも、本には目もくれずに店の奥に入っていくやつらがいる)

屍男(その客には触れるなと言われているが…あれは間違いなく、一般人ではない。気配で分かる)

屍男(そして、そいつらの共通点は馬鹿でかい荷物を持っているということだ。俺の勘だとアレは…)


魔女「おーご苦労、ご苦労。だいぶここら辺も片付いてきたわね」

魔女「やっぱり男の人がいると助かるわ。女の子一人だと本の整理もままないからねぇ」


屍男「…女の子という年齢はとうに過ぎてると思うが」


魔女「何か言った?」


屍男「…何も」

魔女「で、そろそろ記憶が戻ったりした?」


屍男「…いや」


魔女「え~まだ戻ってないわけ?それはちょっとおかしいわね…」

魔女「普通は数日から一週間で、頭が整理されて生前のことを思い出すはずなんだけど...」


屍男「…どうなっているかはこっちが聞きたい。本当に戻るのか?」


魔女「二度と戻らないってことはないでしょ。記憶自体は頭の中にちゃんと入ってるはずだし、気長に行くしかないってことね」


屍男「…そうか、待つしかないか。ところで一つ、こちらも聞きたいことがある」

屍男「ここはいつから死体安置所になったんだ?」



魔女「…え?」

屍男「隠しても無駄だ。俺も同じ死体なんだからな。死体の臭いは僅かな死臭で分かる」

屍男「それをお前が関わるなと言った客が運んでいることも知っている。理由を聞かせてもらいたい」



魔女「…」



屍男「こちらも居候の身だ。詮索はしたくないが、これはあまりに常軌を逸している」

屍男「返答次第では…こちらも黙っているわけにはいかない」



魔女「…それってつまりこういうこと?」

魔女「私が、人を殺して、その死体で何かしていると」



屍男「…あぁ、そうだ」

魔女「...」



魔女「はぁーあ…ばーれちゃった」

魔女「まあ半分正解ってところね。勘違いしないでほしいけど、私は死体を弄り回す趣味なんてないわよ。生きてるなら話は別だけど」

魔女「いいわ、着いてきなさい。真実を教えてあげる」スタスタ



屍男「…」



魔女「なに?警戒してるの?」

魔女「安心しないさいよ。バレたから口止めなんて古典的なことやらないから」

スタスタ…スタスタ…


屍男(…店の奥にこんな地下へ進む階段があったのか。まるで秘密基地だな)

屍男(しかしこの臭いは…奥に進めば進むほど、死臭がはっきりする。一人や二人の量じゃないぞ)


カチャッ


魔女「はい、この部屋よ」ガチャ



屍男「…なんだ。この部屋は…」



ゾォォォォォォォォォォォォォォォォォ



屍男(見渡すとまず視界に入るのが、台に乗せられた多数の死体…状態は損傷が激しいものから、ほぼ無傷のものまで様々だ)

屍男(そしてその中央にあるのが巨大な水槽、いや鍋なのか?中には液体が入っていて、沸騰している水のように煮え立っている。どう見ても人体に悪影響を及ぼす色と臭いだ)

屍男(最高に狂ってる光景だ…常人ならこの場を見るだけで卒倒するだろう)

屍男(…まさか、自分が呑気に本の整理をしていた部屋がこんな地獄だったとは)


屍男「…おい、これは一体どういうことだ?お前は…ここで何をしている」

屍男「こんなものが世間にバレたら逮捕どころの話じゃないぞ...歴史上ナンバーワンのクレイジーでイカれてる最高のサイコ犯罪者だ」


魔女「別に私はそこまで狂ってないわよ。異常が日常になってるだけ、すぐ慣れるわ」

魔女「で、ここで何をしているのかって話だけど…この死体の顔に見覚えはある?」



死体『』



屍男「…そいつ鼻から下がないぞ」

魔女「あら?ごめんなさい。分かりにくかったわね、じゃあこれは?」



死体『』



屍男「…記憶のない俺が人の顔を覚えてると思うか?」



魔女「えぇ、コレは結構有名人だったしね。ニュースでよくやってたから見覚えがあっても不思議じゃない」

魔女「ほら、これが生前の写真。これなら誰か分かるでしょ」ペラッ



屍男「…ん?」ピクッ

屍男「待て、こいつは確か...殺人犯で手配中の男じゃなかったか?老人を二人殺したとかいう...」

魔女「正解、一週間前に二人のお爺さんを殺して、その犯行の様子をSNSに公開したゲス野郎」

魔女「表では今でも逃走中ってシナリオになってるわね。ま、捕まることは永遠にないでしょうけど」


屍男「…なぜそいつが死体になって転がっているんだ」


魔女「何となくもう察してるんじゃないの?極悪人が殺されるなんて理由は一つしかないじゃない」


屍男「…復讐か」


魔女「だいせいかい~誰から依頼されたかは企業秘密で言えないけど、こいつは依頼されて殺されたのよ」

魔女「自業自得ってやつよね。人から恨まれることなんてするもんじゃないわ」

魔女「ここにある死体もみんなそう、殺人鬼から強姦魔に放火魔…麻薬王から頭のネジが外れたやつまで悪人のオールスター」

魔女「まるでクズの博覧会…標本にして飾ったらお金取れるレベルだと思うわ」


屍男「…するとあの死体を運んでたやつらは」


魔女「アナタ…いえ、私達の同類よ。人の姿をしているけど、みんな怪物や人外の化け物」

魔女「私が仕事を紹介して、彼らが実行し、達成したら報酬を払う…まあどこにでもあるビジネスよ」



屍男「...」

屍男「…はぁ、一体何なんだ」

屍男「いきなり目が覚めたら記憶を失っていて、娼婦のような恰好をした女に自分は死人だと告げられ、そいつの店に住むことになり...」

屍男「あげくの果てにはその女が実は殺し屋の元締めだと?そろそろ頭がパンクしそうだ…この世界はフィクションで出来ているのか」

屍男「…その鍋は何だ?まさか死体を溶かすとでも言うんじゃないだろうな」


魔女「おっ、ご名答」

魔女「ふんっ」グッ


グイッ

ドボンッ…


ジュッ…グツグツッ...グツグツッ…


魔女「この液体は私が作った特別製、人間の細胞を一つも残さずにこの世から消滅させる」

魔女「死体っていう証拠がないと殺人は立証できないって、かの有名な殺人犯も言ってたでしょ?」

屍男「…」



魔女「で、どうするの?」

魔女「これが死体を運んでたワケ、私の正体は復讐代行兼殺し屋」

魔女「いくら悪人を殺してると言ってもそれが善だとは思っていない。結局は全部お金のため、我ながら小悪党やってると思うわ」

魔女「アナタはこの事実を知って…どう行動をするのかしら?」



屍男「...」チラッ



死体『』



屍男「…」ゴクリ

ズキッ

屍男「…ッ」グッ

屍男(なんだ?頭が...)



魔女「どうしたの?頭を押さえて」



屍男「…何でもない」

屍男「俺がお前達の所業を知ってどうするかだったな…俺は」



屍男「…特に何もしない。好きにしたらいい」



魔女「えっ」

屍男「…なんだ、その反応は」



魔女「いや…ちょっとゾンビくんのキャラと違うなと思って」

魔女「私の目だと、こんな汚れ仕事は嫌いなタイプだと思ってたから」



屍男「...勝手に俺を判断するな。俺は…」

屍男「この世界には消えていい存在もいると思っただけだ。殺してるのは市民に危害を加えてるやつらなんだろ?」

屍男「なら…そんな屑は死んだ方がいい。貴様達が見境なく人を襲っているというなら話は違ってくるがな」



魔女「…ふーん」

魔女「私もそうだけど、どうやらアナタも元から相当ぶっ飛んだ思想を持っているようね。記憶がないのもそこから来ているのかも」

魔女「いや、これはどちらかと言うとアッチ系の…」



屍男「…?どういうことだ?」



魔女「ううん、何でもない。さすがに考え過ぎか…とにかく、アナタが敵に回らなくて良かったわ」

魔女「せっかく仲良くなってきたのにもう殺し合うなんて…勿体ないですもんね」ニコッ



屍男(…食えない女だ)

今日はここまで

…………………………………………………………
……………………………………………



屍男「…」キュッキュッ



屍男(ここの店の秘密を知ってから数日が過ぎた。あれから特にこれといった変化はない)

屍男(しかしよく死体の山の真上で商売なんて出来るものだ。案の定売れてないがな)


屍男「…よし、ここは綺麗になったな」キュッ




スゥッ…




屍男「…ん?」

屍男(…客か、珍しいな。しかもまだ子供か)

「...」ペラペラ



屍男(...背丈を見るにまだ小学生、いや中学生か?読んでる本のタイトルは…『呪い大百科』)

屍男(…まあここに来るやつが全員化け物ってわけでもないからな。呪いだの占いだのに興味を持つ年齢だろうし、そこまで不思議でもないか)



「…これでいっか」スッ



屍男(…ちょっと待て、なぜ本をもって出口に向かう?まだ会計が終わってないぞ)

屍男(これは…まさか万引きというやつか)

屍男(…さすがに止めた方がいいか。店番も頼まれてるしな)

屍男「おい、待て」



「...」



屍男「売り物を持ってどこに行くつもりだ?金を払うのが先だろう」



「…ハァ?お前、誰に向かって口聞いて…」




吸血娘「...っ!」ピクッ



屍男(…やはり中学生くらいか。平日の昼間からブラブラしているのは学校をサボっているからか)

屍男(少し、他の子供と違うように見えるが…まあ見るからに不良っぽいからな。そのせいか)

吸血娘「...」



屍男「…どうした、ジッと固まって」

屍男「何も問答無用で警察に突き出そうとは思ってない。金さえ払えばこちらも事を荒立たせるつもりはないからな」



吸血娘「…ハゲ」ボソッ



屍男「…」

屍男(…失礼な子供だな。最近の若いのはみんなこうなのか)


屍男「いいから代金を払え。今の発言も含め、今回は見なかったことにしてやる」

吸血娘「ハァ?何でただの死体が私に命令してるの?私を誰だと思っているんだ」


屍男「」ピクッ

屍男(こいつ…まさか)


屍男「…俺が死体だとわかるのか?」


吸血娘「んなもん見れば誰だって分かるわ。だって臭いし、目が死んでるし、おまけに毛根も死んでるし」

吸血娘「というかお前誰?あのビッチに雇われたの?」



屍男(…あの女のことも知っている。やはりこの子供も…)

屍男「…あぁ、そうだ。ワケあってここに住まわせてもらっている」


吸血娘「セフr」


屍男「違う」


吸血娘「反応はっや、まあいいや。そっか…そういうことか」

吸血娘「じゃあ私は急いでるから、またなハゲ」


屍男「おい待て、金を払えと言ってるだろうが」


吸血娘「あいつにツケといて、まあ返す気なんてないけど~」

吸血娘「んじゃそういうことで~」フリフリ



屍男「…なんなんだあいつは」

屍男「ということがあったんだが」


魔女「あぁ、ドラキュラちゃんね。あの子なら別にいいわ。うちのお得意様だし」


屍男「…ドラキュラ?」


魔女「正確に言うとヴァンパイア。人の血を啜る半不老不死の世界で最も有名な怪物…あ、怪物と言ってもアナタと違って死んでないわよ?あの子は先天性の方」

魔女「簡単に言うと人外ってやつね。こっちの世界なら、アナタみたいな死人よりこのタイプの方が断然多いわ」


屍男「…ヴァンパイアか。さすがに慣れたのかもうそこまで驚かなくなったな」

屍男「あの子供も人を殺しているのか?」

魔女「見た目は子供だけど、実年齢はそこまでじゃないわよ。もうお酒は飲める年頃だし」

魔女「仕事に関してはよくやってくれてるわ。暗殺って分野だとあの子の右に出る者はいないってくらいにね」


屍男「…そうか」


魔女「もしかして、あの子のことが気になってるの?ゾンビくんて意外とストライクゾーン広いのね」


屍男「…誤解を招く言い方はやめろ。俺はただ、ああいう子供が手を汚していることが気に入らないだけだ」


魔女「だからあれでも成人だって、まあそこら辺は種族の違いってやつだと思うけどね」

魔女「ヴァンパイアから見たら、結局は人間は食糧だってこと。人間は同種を殺すことに抵抗があるけど、あの子にはそれがないから割り切れるんでしょうね」

魔女「人間が家畜用の豚や鶏を殺すのと同じでね。目の前から死を極力まで排除している現代人からしたら残酷に思えるでしょうけど」


屍男「…」


魔女「価値観の違いってやつよ。じゃあ私はお風呂入って髪と死体をとかしてくるから食器洗っといてちょうだい」スタスタ




屍男(…価値観の違いか)

屍男(言葉で片付けるのは簡単だが、やはり異常だな…この世界は)

屍男(…ただ、少しだけ理解出来たような気がする)

▢▢▢▢ 翌日 ▢▢▢▢



吸血娘「でなーその男が私に言ったんだよ」

吸血娘「『け、警察!誰か助けてぇ!!!』ってね!」

吸血娘「自分は4人も殺しておいて警察に女の子みたいな声出して助け求めてやんの!身の程を知れってんの!アッハハハハハハハハハァ!!!!!」バンバン


屍男「…」


吸血娘「まあすぐぶっ殺してやったけどね。まったくああいうクズ共が相手だと何の迷いもなく殺れるから楽だわ」


屍男「…おい」

吸血娘「ん?なに?」

屍男「…なぜ今日もここにいる。そしてなぜ三時間もそこでくっちゃべっているんだ」


吸血娘「何でって、別に理由なんてないけど?ただの暇潰しだし」

屍男「…はっきり言うぞ。仕事の邪魔だ、帰ってくれ」

吸血娘「仕事って言ってもどうせ本の整理とか、掃除くらいしかやることないじゃん。せっかく退屈そうな顔してたから面白い話してやったのに」

屍男「…誰も頼んでない」

吸血娘「うるせぇ!このハゲ!お堅いのはこのハゲ頭だけにしとけ!」バシーン


屍男「...」ヒリヒリ


吸血娘「あー…気持ちいい!一度このハゲ頭を平手打ちしたかったんだよね!やっぱり殴り心地最高だわ!」バシバシ

屍男「...」イライラ

屍男(な、なんなんだこいつは…突然来たと思ったら、つまらん話と頭の話を延々と...)

屍男(さすがに腹が立ってきたぞ...グッ、押さえろ。相手はまだ精神的に未熟だ…我慢しなくては)


吸血娘「あっ、おいハゲ、ちょっとそこの本取って」


屍男「…どれだ」


吸血娘「そこの手前のやつ、表紙が黒いの」


屍男「これか?」スッ


ネチャッ

屍男「…なんだ?何か手に…」


吸血娘「アッハハハハハハハハハァ!!!!引っかかってやんの!その本の表紙の塗料はぐちゃぐちゃに溶けてて触るとくっ付くんだよ!」

吸血娘「しかもそれめっちゃくさいぞ…一度風呂に入っても取れないくらいに…まあ元から臭いし変わんないか!ぷぷっ」プププ


屍男「...」クンクン

屍男「」ブチッ



屍男「…いい加減にしろ。大人をからかうな」



吸血娘「アん?もしかして子ども扱いしてる?これでも二十歳なんですけど

屍男「ならもっと年齢に相応しい振る舞いをしろ。いつまでガキみたいな真似をしてるんだ」


吸血娘「だってヴァンパイアの歳だと二十歳なんて人生の十分の一にも満たしてないし、人間換算だとまだ8歳くらいだし」


屍男「そういう問題じゃないだろうが、同年代の人間を見てみろ、お前よりはずっと大人だぞ」


吸血娘「…んなこと言われても同じ歳の人間なんて話したことすらないし」


屍男「…?学校に行ったことはないのか」


吸血娘「ヴァンパイアが学校になんて行けると思う?豚小屋にオオカミを放り込むようなもんだろハゲ。少しはその何にもない頭働かせろ」

屍男「…お前、もしかして」

屍男「寂しい…のか?」



吸血娘「は、はぁ!?ち、ちげーし!全然そんなんじゃねーし!!」

吸血娘「ば、ばーか!あーほ!もう帰るわハゲ!頭洗って出直して来い!」ダッ



屍男「…」







屍男「といううことがあったんだが」

魔女「ほう」

魔女「あのドラキュラちゃんがねぇ…結構可愛いところあるんじゃないの」

魔女「確かに、あの子は自分と近い歳の人間との繋がりはなかったろうしね。周りは自分と同じモンスターか、獲物しかいなかっただろうし」

屍男「…あいつは今まで一人だったのか?」


魔女「...」

魔女「親は居たけど、あんまり仲は良くなったみたい」

魔女「ヴァンパイアは夜型の生活だから、人との繋がりは今まで仕事ぐらいでしかなかったのかも。後は同族の集会くらいか」

魔女「そもそもそのヴァンパイア自体が、今では少数の血統しか残ってないからねぇ…二、三世紀前はもっと数が多かったらしいけど」

魔女「ま、仕方ないか。彼女と同年代と言ったら、血液に一番脂がのってる時期だもん。仲良くなる前に出会ったら本能で襲っちゃうまであるし」

魔女「基本的に普通の人間には手を出さないから、自分から距離を取ってるところもあるんだろうね」

屍男「…そんな奴がなぜ俺にちょっかいをかけてくるんだ」

魔女「さあ?ゾンビくんって頭以外は男前だし、もしかしたら惚れられてるのかもね」


屍男「......」


魔女「冗談よ、本気にしないで」

魔女「まあ考えられる可能性としては…どこか同じ雰囲気を感じたのかもね」


屍男「…同じ雰囲気?俺とあいつがか?」


魔女「―――――」

魔女「そうね、二人は結構似てると思うわよ」

屍男「…」

屍男「…そうか、あいつは今まで孤独に生きてきたんだな」

屍男「記憶を失い、何も寄り添うものがない今の俺と…確かに似ているかもしれん」





魔女「えっ?アナタには私がいるじゃない」

屍男「…お前には貸しがあるし、恩も感じているが、深い仲になろうとは思ってないしなるつもりもない」

屍男「はっきり言うと、なるべく関わりたくない」

魔女「酷くない?」

今日はここまで

…………………………………………………
…………………………………………


吸血娘「私がぶっ殺したやつの中で一番強かったのは半魚人野郎だったなぁ」

吸血娘「あの時は初めて人間以外を相手にしたし、マジで死ぬかと思ったわ」

吸血娘「ま、最後は喉笛に噛みついて血吸ってやったけどね。味は予想通り生臭かった」

屍男「…そうか」


屍男(あれから毎日、こいつは店に来るようになった)

屍男(話す内容はやれ誰かをぶっ殺しただの、あいつは手強かっただの…低俗な話ばかりだが、聞いててそれなりに退屈はしない)

屍男(一人で過ごすより、二人の方が気が楽になるんだろう。こいつも…俺も)

屍男「その半魚人とやらは比喩か何かか?まさか本物じゃあるまいな」


吸血娘「いんや本物だけど、そりゃヴァンパイアがいるなら半魚人がいてもおかしくないだろ。常識的に」

吸血娘「ほかにも狼男とか、翼が生えてるやつとか触手がうねうねしてるやつもいるぞ」


屍男「…それを世間では非常識と言うんだがな」

屍男「殺し屋というのは人だけではなく、そんな輩も相手にするんだな。気苦労が絶えんだろう」


吸血娘「依頼するのは人間だしね。たまに人殺しの中にもそういうやつらが混じってることもあるよ」

吸血娘「でも普通の人間相手にするのとあんま変わらんけどね。私ヴァンパイアだし、最上級の魔族だし」ドヤァ

屍男「…同じ人外相手でも平気なのか。仲間みたいなものだと思うんだが」

吸血娘「ハァ?全然違うでしょ。あんな気持ち悪いやつらと一緒にしないでよ」

吸血娘「同じ人間じゃないってだけで、種族も思想も全然違うわ。そんなの気にしてたらゲロ吐くわ」

屍男「…そういうものか」



カランカラン♪






魔女「帰ったわよ…って、ドラキュラちゃん今日もいるの」

吸血娘「ゲッ」

魔女「ここ最近毎日じゃない?そんなにこの店が気に入ったのなら、何か買っても罰は当たらないと思うけど」

吸血娘「誰がお前に金なんて落とすか!ファッキュー!」クイッ

魔女「あらお下品」


吸血娘「んじゃ、あのビッチも来たことだしもう帰るわ。また明日なハゲ」


屍男「…あぁ」


魔女「もう帰っちゃうの?夕飯ぐらいはご馳走してあげるのに」


吸血娘「誰がお前の作った飯なんて食えるか!絶対違法な薬品とか入れてるわ!」ダッ

魔女「失礼しちゃうわね。たまにしか使ってないわよ」


屍男(…ん?)

魔女「さ、ドラキュラちゃんも帰ったことだし少し遅いけどディナーにしましょうか。今日は私が作るわ」


屍男「…」

屍男「いや、今日は俺が作る」


魔女「え?どうして?交代制って決めたのに」


屍男「当分、飯当番は俺がする。お前は休んでろ」スタスタ


魔女「えー…まあ休めるのはいいけどさ、正直ゾンビくんのご飯ってあんまり美味しくな」


屍男「絶対に俺が作る」

…………………………………………………………
………………………………………


吸血娘「ハゲ、お前死んでからどれくらい経った?」

屍男「…急にどうした」

吸血娘「別に、気になっただけ」

屍男「ひと月と少しだな。そろそろこの生活にも慣れてきたところだ」


吸血娘「ふーん...」


吸血娘「なぁ、そろそろ生前の自分の手掛かりとか探さないの?ずっとこの埃くさい店の掃除ばっかしてるけど」

吸血娘「普通だったら最優先に自分の正体を探すと思うんだけど、そんなゆっくりしてて大丈夫なわけ?」


屍男「...」

屍男「…最初の一週間は探した…が、何も有益な情報はなかった」

屍男「恐らく、この町は俺との関わりがほぼないのだと判断した。これ以上探すのは時間の無駄だ」

屍男「かと言って、他の地方に行くわけにもいかん…この店を離れたら俺はただの住所不定の無職だからな。そこまでする余裕はない」

屍男「だから今は現状維持だ…ここを離れて生活が安定したら旅でもして見つけるつもりだ」


吸血娘「…なんかお前って変だよな。まるで自分から逃げてるみたいだぞ」


屍男「…そうか?普通だと思うが」


吸血娘「私だったら真っ先に飛び回る。テレビのリモコンをなくしたのならともかく、自分の記憶だもん。そんな悠長な考え方はできない」

吸血娘「自分の過去とか気にならないの?親とか、友達とか」

屍男「…さあな、確かに気にはなるが、そこまでの執着はないな」


吸血娘「じゃあ自分を殺したやつのことは?確か路地裏のゴミ捨て場で目が覚めたんでしょ?」

吸血娘「自殺するにしては明らかに変な場所だし、殺されて誰かに捨てられた以外に考えられないじゃん」


屍男「...」

屍男「…それもあまり興味はないな。殺されたということは、それ相応の理由があったんだろう」

屍男「わざわざ犯人探しをするつもりはない」

吸血娘「…」

吸血娘「そう、私だったら犯人を見つけ出して絶対殺すと思う。復讐としてね」


屍男「…それが正常だろうな」



吸血娘「はぁ~~~とんだフニャチン野郎だな。どこまで無頓着なんだか」

屍男「…そういう言葉は使うな。下品だぞ」


吸血娘「…あっ、そういえばさ、さっき生活が安定したら離れるって言ってたけど、もしかしてここ以外に住居が見つかったらそっちに移るつもりなの?」


屍男「…あぁ、いつまでも一人暮らしの女と一緒というわけにもいかんからな。いや、その他の死体もいるか」

屍男「あいつから僅かだが、給料も貰っている。まとまった額が貯まったら出て行くつもりだ」

吸血娘「へぇ~…ふ~ん…」

吸血娘「…よし、決めた。ハゲ、今日はあのビッチ何時に帰ってくる?」


屍男「...?今日は遅くなるとか何とか言ってたが、それがどうした」


吸血娘「そ、じゃあ電話するか」ピッ


プルルルルルル…プルルルルルル…



吸血娘『あ、もしもし?私だけど』

吸血娘『今日からこのハゲ、私の家で引き取るから。ってことでよろしくぅ!』



屍男「!?」

屍男「ちょっと待て、何を言って…」

吸血娘『は?急に言われても困る?うるさいなぁ…ほら、買い取り代を口座に入金したから確認して、これじゃ足りない?』

吸血娘「―――ん、変われって」ポイッ



屍男「おい、携帯を投げるな。危ないだろ」グッ


『もしもし?ゾンビくん?話はさっき聞いてたと思うけど、そういうことで今日からドラキュラちゃんと暮らすことになったから』


屍男『はぁっ!?』

屍男『おい、お前達は俺をペットか何かと勘違いしているのか?本人の承諾もなしに勝手に話を進めるな』

『でもゾンビくんって居候でしょ?とやかく言える立場じゃないと思うんだけど』

屍男『…確かにそうだが、それとこれとは話が別だ。簡単に人を売買するな、こっちの事情も考えろ』

『え?もしかしてドラキュラちゃんのところに行くのが嫌なわけ?そんなに私と離れたくな...』


プツッ


屍男「…この蛇が」ポイッ



吸血娘「お前も投げてるじゃん」グッ

吸血娘「さっ、ってことで今日から私の家に引っ越しな。荷物さっさとまとめといてよ」

屍男「...なぜ俺を買ったんだ」

屍男「あいつがふたつ返事でOKしたということは…決して少ない額ではなかったんだろう。そこまでする動機は何だ」


吸血娘「…別に、そろそろまともに使える眷属が欲しかっただけ。だってお前、こんな誰も来ないオンボロ店でも毎日掃除してるじゃん」

吸血娘「だから便利だと思ったの。まあハゲてるのはマイナスだけどな」


屍男「…こちらとしては、ここにいるよりは快適に過ごせると思うが…」

屍男「…その、いいのか。大の男を住まわせるなんて。家族もいると聞いたが」

吸血娘「…またあいつ余計なこと言いやがって」ボソッ

吸血娘「いいよ。今は私一人だけしかいないし。無駄に広いから部屋も困らないしね」


屍男「…しかしだな」


吸血娘「あぁもう!優柔不断だなこのハゲ!中途半端なのはその頭だけにしとけ!いいから荷物まとめろ!」ゲシッ

吸血娘「向こうに行ったら掃除やら洗濯やらもやってもらうんだからな!きびきび動け!」ゲシゲシッ


屍男「…分かった。分かったから蹴るな」

……………………………………………………………………
.........................................................



吸血娘「ほら、ここが私の家」

屍男「...」

吸血娘「ん?どしたの。そんなまじまじと見て」


屍男「…いや、思ったより小さいと思ってな。ヴァンパイアというのはもっと貴族的なイメージを想像していた」

屍男「どんな豪邸か城が出てくるのかと思ったら…割と普通だった」


バシッ


吸血娘「今のご時世にそんな目立つもん建てられるかハゲ!このくらいでちょうどいいんだよ!」

吸血娘「というか見た目より中は結構広いんだからな!?いいからさっさと入れ!」ゲシッ

チリンチリン♪



屍男「…確かに、悪くはないな」キョロキョロ

吸血娘「ここに荷物置いていいから。トイレと風呂の場所も教えるからついてきて」スタスタ



屍男「ここの家に一人で暮らしているのか?だいぶ持て余しているように見えるが」

吸血娘「そう、一人暮らしするには大きいよ。でも狭いよりマシでしょ」

屍男「親は今はどこにいるんだ?ヴァンパイアと言ってもそこら辺は人間と変わらないと聞いたが」


吸血娘「...」

吸血娘「母親は病弱だったらしくて、私を産んですぐに死んだよ」

吸血娘「父親もつい先月ね」


屍男「......」

屍男「…すまない」


吸血娘「いいよ、父親とはそんなに仲良くなかったし。むしろ家のスペースが空いて助かったくらい」

吸血娘「ほら、ここが風呂。シャワーの使い方分かる?こっちを回してここを押すとお湯で...」



屍男(…いくら親しくなかったと言っても唯一の肉親だったはずだ。精神的なショックは大きいだろう)

屍男(やはり寂しかったのか。孤独を恐れるのは人もヴァンパイアも変わらない…か)

吸血娘「お前の作るご飯あんまり美味しくないな。なんか味が雑」モグモグ

屍男「…文句を言うな。ある材料で手早く作ったんだからな。それに俺はコックじゃない」

吸血娘「これならピザとった方が良かったわ。うん、マジで」モグモグ

屍男「…そのわりにはよく食ってるように見えるが」


吸血娘「ふぅ、食った食った。じゃあおやすみ~」


屍男「…もう寝るのか、眠る時間には早いと思うが」


吸血娘「ふわぁ…ヴァンパイアは昼間はあんまり活動しないの。人間が夜に眠るのと同じでね」

吸血娘「私が寝てる間に掃除と洗濯やっといて...あ、下着は絶対に見るなよ。見たら殺すから…」スタスタ

屍男「…」

屍男「…勝手なやつだ」


屍男「はぁ、しかしまた忙しい日になりそうだ。まさか今度はこの家に住むことになるとは」

屍男「片付けるならまずはリビングだな。洗い物も溜まってるし、窓も埃が大量にある。そのあとは二階で…」

屍男「…俺はメイドか。毎日掃除をしてるような気がするぞ」



屍男「...」



屍男「…一体、昔の俺はどこで何ををしていたんだろうな」

今日はここまで
魔女は嫌われているというより出来るだけ関わりたくないと思われていますね
何かそんなオーラが出てるんだと思います

▢▢▢▢ 一週間後 ▢▢▢▢


吸血娘「ふわぁ…ねむぃ...」ゴシゴシ

吸血娘「今何時だ…って、もう日が沈んでるじゃん。今日はよく寝たなぁ」


屍男「遅いぞ。もうとっくに食事の用意ができている」

屍男「夕食、いや朝食か。早く食え」


吸血娘「あむっ…一週間お前の作ったご飯食べて分かったことがあるわ」

吸血娘「これ、最初は割と普通でどんどん行けるけど、半分食ったあたりで手が止まる」モグモグ


屍男「…それは褒めてるのか?」


吸血娘「貶してるに決まってんだろハゲ。味付けがくどいってことだよ」モグモグ

吸血娘「ところでハゲ、お前今日はいつ風呂に入った?」

屍男「昼だが」

吸血娘「もう臭くなってるぞ。ちゃんと洗っとけ」

屍男「…そんなに臭うか?あの店にいた時はそこまで言われなかったんだが」クンクン

吸血娘「あのビッチは性根が腐ってるからな。ついでに鼻もひん曲がってるんだろ」モグモグ


吸血娘「ごちそうさま。はい、トマトはお前にやる」スッ


屍男「…相変わらずお前は野菜を残すな。何のために入れてると思ってるんだ」

吸血娘「だってトマトってクソ不味いんだもん。老婆の腐ってる血みたいな酸味がする」

屍男「…変な例えはやめろ」


吸血娘「さっ、今日は仕事あるしあいつんとこ行くか。会いたくないけど」

屍男「…仕事?」


吸血娘「あれ?言ってなかったっけ?今日は依頼が入ってるって」

屍男「…それは、あの殺しの仕事か?」

吸血娘「それ以外ないでしょ。私がカフェで働いてるように見える?」


屍男「...」

屍男「...どうしてもやるのか」


吸血娘「どうしてもって、そりゃ金がないとヴァンパイアでも生きていけない世の中だし」

吸血娘「強盗でも何でもやるってなら話は別だけどね」


屍男「...」


吸血娘「もしかして心配してるわけ?私が返り討ちに合わないかとか、どうか」

吸血娘「大丈夫だって、たかが人間に私が負けるわけないでしょ。あんまり舐めないでよね」


屍男(…心配なのは"今"じゃない。それから"先"のことだ)

吸血娘「あ、もしかして人殺しなんてしちゃダメとか言いたいの?言っておくけど、私は人間じゃないんだからね」

吸血娘「だから人間の決めてる共食いの摂理なんて気にならないし、当てはまらない。現に人だって他の種族を殺して富を得てるわけじゃん?私がやってることも」


屍男「…いや、その点はいい。殺すのは悪人なんだろ…なら死んで当然のやつらだ」

屍男「…」



ズキッ



屍男「――――あぁ、そうだ。間違いない」

屍男「…ひとつ、頼みごとをしていいか?」


吸血娘「えっ?」

魔女「…で、これはどういうことなの?」


屍男「...」

吸血男「い、いやだって…こいつも一緒について来るって言うから」



魔女「ついて来るって…まさかゾンビくんも一緒にやる気?」


屍男「そうだ」


魔女「…」

魔女「ちょっと、ゾンビくんってこんな積極的なキャラだっけ?この件に関しては不干渉で通すと思ってたんだけど」ボソッ

吸血娘「私に言われても知らんし…何か急に来たいって言い出して、ついてくんなって言っても聞かないし...」

魔女「はぁ…ゾンビくんにはこっち側に来てほしくなかったのに」

魔女「ゾンビくん、本気でやるの?人殺しを」

屍男「…あぁ、覚悟はしている」

魔女「想像以上にきつい仕事よ?相手の命を狙ってるわけだから、向こうも本気で抵抗してくる。計画通りにとんとん拍子で進むことなんてないと思っていいわ」

屍男「…そうだな、だがもう決めたことだ。今更変えるつもりはない」


魔女「…」

魔女「…ドラキュラちゃんも何か言ったら?せっかくのお気に入りを危険に晒すかもしれないわよ」


吸血娘「いやまあ…私がいればそんなに危険じゃないだろ。こいつだって一応怪力と再生能力は持ってるんだし」

吸血娘「でも…単独だとそれだけじゃ危ないかも」

屍男「足を引っ張るつもりはないし、死ぬつもりもない。自分の身くらいは自分で守れる」


魔女「引く気はないってことね。分かったわ」

魔女「じゃあこれ、今日の標的の資料。一度行ったら分かることも色々あるでしょう…気を付けてね」


屍男「…助かる」

吸血娘「まあ私が大体片付けるから、お前は後ろでボーっとしてればいいよ」

吸血娘「さて今回のやつは…と、また殺人犯か。最近多いな」


魔女「過去に分かってるだけでも三人殺してるわ。二度目の殺人で捕まった時は精神鑑定に引っかかって減刑されてるみたいね」

魔女「で、出所した後すぐに何も面識がなかった一般人を殺害…多分、近いうちにヘマやってまた捕まるでしょうね。こういうタイプは」

屍男「...」


魔女「潜伏先はもう分かってるわ。後は一人になったところを狙って死体を持って来て頂戴」


吸血娘「うぃー、まだ一人だから良かったな。前は三人もいて運んでくるのが大変だったわ」


屍男「...」


吸血娘「ん?どしたハゲ。まさか今になってやめたくなった?なら帰っても」

屍男「大丈夫だ。問題ない」


屍男(この感情は...)

吸血娘「あ、そういやハゲ。お前車の運転できる?」

屍男「…多分、出来るんじゃないか?」

吸血娘「多分ってなんだよ。まあいいや。じゃあこいつの住処まで運転よろしく」スタスタ


魔女「車の持ち主の私には一言もないのね。汚さないでよ、あとトランクには触らないこと」




ブルルン…ブルルン…


屍男(…なるほど、身体が操作を覚えてるのを実感する。知識や記憶を忘れても、文字通りに身に付いた技術は覚えてるということか)

屍男「出すぞ。シートベルトを締めておけ」

吸血娘「それ私たちにいる?」


ブゥゥゥン!!!!!!

………………………………………………………………………………
……………………………………………………


吸血娘「ここがやつの根城のアパートか」

屍男「…どうやって殺すんだ?建物を見ると壁は薄そうだ。銃なんか使ったらすぐ通報されそうだが」

吸血娘「バカか、銃なんて使うわけないだろ。暗殺するんだから物音は最小限、目撃者0、証拠を残さないが最低条件だっての」

吸血娘「ハゲは部屋の前で待機して、終わったら鍵開けるから」



吸血娘「見せてあげる、私の能力…ヴァンパイアの力を」スゥッ



屍男「…ッ!?」

スゥゥゥゥゥゥッ………


刺青男「...」

刺青男「ふぅ、まったくこのコカイン効きやしねぇな。とんだパチモンだ」

刺青男「上物があるっつうんで買ったのにとんだ詐欺だ。ノ野郎、すぐに金を返して…」



モクモクッ…モクモクッ…



刺青男「…アァ?なんかこの部屋煙たいな。炙ってねぇのに」

刺青男「チッ…クソが、窓開けるか」スッ

スゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!


刺青男「!?」ビクッ

刺青男(な…んだっ!?急に息が苦しくッ…)


刺青男「ゲハァッ!!」バタッ


刺青男「アッ…アッ…」ピクピク


刺青男(んだ…コレェ…さ、さっきやったコカインの副作用か…?)

刺青男(ざ、ざけんなよっ!あの野郎…い、今すぐ引きずり出して…!)


刺青男「アガッ…グアッ!?」ピクッ

刺青男「」ピクピクッ


刺青男「」ピクッ



刺青男「」シーン

スゥゥゥゥゥゥッ


吸血娘「よっと」スタッ


刺青男「」


吸血娘「死んだ?」ゲシッ


刺青男「」ピクッ


吸血娘「まだ生きてたか。まあいいや、どうせ血吸うんだし」スッ


ガリッ…

ギュッ…ギュッ…


吸血娘「…チッ、こいつ直前にキメてやがったな。まじぃ」ジュルッ


刺青男「」

スタスタ

カチッ


吸血娘「もう入っていいよ。終わったから」ガチャ

屍男「…」

吸血娘「さあ、早く死体袋に入れて撤収するよ。あー今日は楽だった」


屍男「…驚いたな。まさか自分の肉体を霧状にできるとは」


吸血娘「どう?ビビった?」


屍男「…あぁ、かなりな」

屍男(この能力があればごく僅かな隙間からでも侵入が可能、相手の呼吸器官に入れば騒音の一つも立てずに殺せるというわけか)

屍男(…確かに、暗殺には持ってこいだな)

ドサッ


屍男「…しかし大丈夫か?さすがにこの荷物は目立つぞ。アパートの住民に見られたらどうするんだ」

吸血娘「その時は私の力で記憶を消すから問題ないよ。そもそもこんな時間に誰も外に出ないでしょ」

屍男「記憶も消せるのか…便利なものだな」

吸血娘「何てったってヴァンパイアだからねぇ。他にも監視カメラとか写真に写ることはないから証拠も残ることはないし、最終手段として――――」




カチャッ




吸血娘「」ピクッ

屍男(何だ…後ろから物音が)クルッ



大男「ふぅ、スッキリした」ジャー

大男「…ん?なんだお前ら」



吸血娘(なっ…!?)

屍男(トイレにもう一人ッ…!)

大男「おい、ここで何をやってる?テメェら...」ギロッ


刺青男「」


大男「!?」ビクッ

大男「し、死んでるのかそいつ!?お、お前ら!そこを動くな!」



吸血娘(ぐっ、ミスった…まさかもう一人いたなんて…これなら"アレ"を飛ばせばよかった...)

吸血娘(仕方ない、今すぐ霧になって…)



ダッ

ボキッ



吸血娘「…へ?」

大男「」プラーン

屍男「…」ガシッ



吸血娘「…えっ?」

吸血娘「えっ…ちょっ…お、お前、何してんの?」



屍男「…首の骨を折った。これなら音が漏れる心配はないだろう」

大男「」


吸血娘「い、いやそうじゃなくて…なんで殺したの?見られただけなら記憶を消すだけでいいんだけど…」



屍男「…やつは拳銃を構えていた。もし後一秒でも遅れていたら、発砲していた可能性がある」

屍男「それに…恐らくこいつは殺しても問題ないはずだ。そこで転がってる刺青の男の仲間だろう」

吸血娘「た、確かに見るからに一般人じゃない顔つきだけどさ…普通即殺る?」


屍男「…おかしいか?」


吸血娘「ちょっと、ね」

吸血娘「…ま、まあいいや。殺しちゃったもんは仕方ないし、血吸っとくか」

吸血娘「あ、でも死体袋一つしかないもんなぁ…入るかこれ」




ギュッギュッ




吸血娘「入らねぇ」

吸血娘「…どうしよ。さすがに一人抱えて戻るのはリスク高いな」

屍男「…」

吸血娘「まず一つを袋に入れてトランクに閉まって、また戻ってくる?いやでもなぁ…あいつにトランクは使うなって言われてるし」

吸血娘「かと言って、車内に置いとくのは誰に見られてもおかしくないし...うーん、考え過ぎ?でもなぁ」

屍男「…ひとつ、提案があるんだが」

吸血娘「ん?何かアイデアある?」



屍男「そこの刺青の男…食べてもいいか?」



吸血娘「は?」

屍男「大男の方は量が多くて時間がかかるが、刺青の方ならすぐ終わりそうだ」


吸血娘「…え?ちょ、ちょっと待って。食べる?こいつを?」


屍男「…あぁ、食える気がする」

屍男「以前、あの地下室で死体を見た時に…気のせいだと思ったんだが、なぜか食欲が湧いた。目の前にご馳走があるような感覚だ」

屍男「正直に言うと、今でもその死体を見てると腹が減ってくる。恐らく怪物の特性のようなものなんだろう」


吸血娘「お、おう…」

吸血娘「本当に食べられるの?いくら血を抜いてるって言っても、人間丸ごとって何十キロもあるんだけど」

屍男「…行ける気がする」

吸血娘「そ、そうか…じゃあ食べれば?でもあんまり食い散らかさないでよ。証拠残したくないんだから」

屍男「…血抜きが済んでるなら問題はない」スッ



刺青男「」



屍男「…」カパッ

屍男(…常軌を逸しているな…死体を食うとは。正しくこれが本当の共喰いだ)

屍男(…一番恐ろしいのは、死体を喰うことにそこまで抵抗がないことだ。今まであまり実感はしなかったが、自分が怪物になっていると改めて理解する)

屍男(…記憶を失う前の俺が見たら、どう思うんだろうな)

ガリッ…


グチャッ…ガリッ…

グッ…ペチャッ…



屍男「…終わったぞ。そこの大男を詰め込んで撤収だ」



吸血娘「…本当に全部食べた」

吸血娘「いや…血を吸う私が言うのもなんだけどさ、ドン引きだわ...」

吸血娘「というか普通食べる?自制心とか、道徳心とかで止まるだろ…死体食うのはないわ。うん」

吸血娘「骨までムシャムシャ食べて一人丸ごとこの世界から消すって…お前の胃袋どうなってるんだよ…キモ」ボソッ



屍男「…お前にだけは言われたくない」

今日はここまで

……………………………………………………………
………………………………………………


吸血娘「ってことがあったから、死体が違うけどまあいいよね」


魔女「...」

魔女「事情は大体分かったけど、そのゾンビくんはどこに行ったの?姿が見当たらないけど」


吸血娘「フライドチキン買いに行かせた。あいつがムシャムシャ食ってるの見てたらお腹減ったから」


魔女「そう」

魔女(初仕事、一瞬の判断が迫られるところで冷静に人を殺める方法を導き出し、実行した)

魔女(しかもいくら怪物になったとはいえ、ほんの少し前まで人間だった者が容赦なく人を貪り食らった)


魔女(尋常じゃないわね)

魔女「…あら?」

魔女「この大男の顔、どこかで見たことあると思ったら...」ペラッ

魔女「…やっぱり、ギャングの売人じゃない。お薬専門の」


吸血娘「どうりで血が不味いと思った。なら殺しても問題なかったね」


魔女「まあそうだけど…コイツが所属してたギャングがちょっと問題なのよね。最近活発になってる組織の一つだし」

魔女「向こうは面子が全てだからねぇ…顔に泥塗られたってことが分かったら血眼になって犯人を捜すわよ」


吸血娘「別に。この手の輩に手を出すのは初めてじゃないし、あんなの普通の人間と何も変わらないじゃん」

魔女「今まではアナタの力で何も残さずにやってきたけど、今回はゾンビくんもいたからねぇ」

魔女「ヴァンパイアは被写体の対象になることはないけど、ゾンビくんだけなら話が別だし…万が一って可能性もないことはないでしょう?」


吸血娘「…もし仮に見つかったとしても、それがどうしたの?"狩人"ならともかく、ただの頭が悪い人間の集団に私が後れを取るって言いたいわけ?」


魔女「ヤり慣れてるドラキュラちゃんならいいけど、ゾンビくんも標的になりえるのよ。正体がバレるとしたら彼の方だと思うし」

魔女「いくら不死身の肉体って言っても限度はあるわ。私にだって彼を無力化させる方法はいくつも考えられる」

魔女「…アナタはもう一人じゃないのよ。少しはパートナーのことを考えてあげなさい」

吸血娘「…っ」ギリッ


魔女「はぁ、ちょっと言い過ぎたわ。脅かすようなこと言ってごめんね」

魔女「これ、今日の報酬。ゾンビくんの初任給ってことで少し上乗せしといたから、二人で遊ぶなり美味しいもの食べるなりしてきなさい」


吸血娘「…もう帰る」バシッ


魔女「最後にひとつ」

魔女「記憶を失ってもゾンビくんはゾンビくんよ。もしそれ以上を求めるなら…後がつらいことになるわよ」



吸血娘「…何言ってるか全然分かんない」バタン



魔女「…」

ガチャッ


屍男「…遅かったな。先に帰ってたぞ」


吸血娘「あのババアのが長かったんだよ。まったく年寄りは長い話が好きだね、ほんと」スタスタ

吸血娘「ところでチキンは?」


屍男「テーブルの上だ」


ガサガサッ

吸血娘「んー♪んまっ!夜はこういう油っこいものが食べたくなるよなぁ!」


屍男「…不健康だな」


吸血娘「ほらハゲ、お前にも一本やるよ」ポイッ


屍男「食べ物を投げるな。行儀悪いぞ」バシッ

屍男「…」パクッ

屍男「…」ボリボリッ


吸血娘「…」ジー


屍男「…何を見ているんだ」


吸血娘「いや、フライドチキンも骨まで食べるんだなって」


屍男「…そんなどうでもいいことを考えていたのか」





吸血娘「…」

吸血娘「なぁ、ハゲ。お前本当にこの仕事やっていくの?今回限りじゃなくて」


屍男「…あぁ、そのつもりだが」

吸血娘「…そうか。私はどうでもいいけど、あのビッチはちょっと心配してたぞ。私はどうでもいいけど」

吸血娘「傷を負っても霧になれば治る私はいいけど、お前は再生っていう手順が必要なんだぞ。絶対安全とは言い切れない」

吸血娘「そこまでのリスクを冒しても…続ける気なの?」



屍男「…」

屍男「…正直に言うが、俺が今日参加したのは…別にお前が心配だったとか、守りたいとかそういう類いの感情じゃない」

屍男「ただ、この手で悪党を殺したかったんだ。なぜかは分からんが奴等の所業を聞くと…腸が煮えくり返るような、決して高潔ではない感情が湧いてくる」グッ



吸血娘「...」

屍男「人を殺すという行為は正常ならもっと深く、重い、罪深い行為なんだろうな。だが、今日あの大男を殺めた時や、刺青の男を食った時は…何も感じなかった」

屍男「むしろ清々しい達成感すら感じた…これが怪物になった影響かどうかは知る由もないが、異常ということは確かだ」

屍男「何か、言葉で表すのが難しいんだが…悪を殺すことに使命感があるような気がする。我ながら狂気に歪んだ思想だ」

屍男「だが…この感情は確かだ。記憶を失い、全てを忘れ、何も残ってない空っぽの俺に残ったのは…殺意だけだ。正義もクソもない、純粋で真っ直ぐな殺意がな」


吸血娘「...」



屍男「…幻滅したか?」

吸血娘「ごめん、後半何言ってるかよく分かんなかった。もう一回言って」


屍男「...」


吸血娘「とにかく、お前は悪いやつをぶっ殺したいってこと?それの何が変なの。人間ってみんなそう思ってるんじゃないの?」

吸血娘「私だって、普通の人間を手にかけるのはさすがに悪いと思うけど、仕事の相手となったら容赦はしないよ。これの何が変なの?」


屍男「…だから、言葉で例えるのが難しい...」



吸血娘「あーもう!!!!まどろっこしいんじゃボケェェ!!!!!!」ドンガラガッシャーン

吸血娘「もっと分かりやすい言い方にしろよ!んなジジババみたいな遠回しの小難しい話し方はやめろ!!腹立つ!」

吸血娘「結局お前は何がしたいんだよ!」



屍男「…憎むべき悪をこの世から根絶」



吸血娘「言い方ァ!!!!」



屍男「…悪党をぶち殺したい」



吸血娘「それでいいんだよ、分かりやすいじゃん。最初からそう言えよ、時間がもったいない」

吸血娘「何か自分が特別だと思ってるみたいだけど、口に出さないだけでみんなお前と同じことを考えてるからな?勘違いすんなよ」

吸血娘「私もいつも被害者には同情するし、犯人を殺すときは仇を討ってあげるみたいに思ってる時もある」

吸血娘「感情ってそういうもんじゃないの?そりゃ悪いヤツが相手なら殺意だの敵意だのがバリバリ出るよ」


屍男「…そういうものか」


吸血娘「うんうん、だからお前は変じゃない。ただの動いて喋る死体だ。自信持て」


屍男「…馬鹿にされてる気がする」



吸血娘「じゃ、いろいろモヤモヤしたものがスッキリしたことだし…ん!」スッ



屍男「…なんだ?その拳は」

吸血娘「何って、こうやって拳を合わせるんだよ。よくアニメとかコミックであるだろ」

吸血娘「これから一緒に仕事やるんだろ?パートナーならこれぐらいはやるでしょ」


屍男「…あぁ、あれか。何となく分かる

屍男「…これでいいのか?」スッ



コンッ



吸血娘「お前、手冷たいな」

屍男「…死体だからな」

吸血娘「で、拳合わせた後は何すればいいの?」

屍男「…俺に聞くな」

吸血娘「まあいいや!記念にピザ食お!ピザ!」

吸血娘「つーことでハゲ!ピザ買ってきて!ダッシュで!」


屍男「…今、何時だと思っているんだ。どこの店も閉まってるぞ」


吸血娘「24時間営業のピザ屋があっただろ!早く買ってこい!」








屍男「…人使いが荒いヴァンパイアだ」

吸血娘「お前は人じゃなくて死体だろ!ハゲ!」

…………………………………………………………
………………………………………
………………………



シャワアアアアアアアアアアアアアアアアアア…



屍男(…もうあの目覚めた日から半年経ったのか)



屍男(あいつの家に住み始めて、仕事を続けていたが…記憶の手掛かりは一切見つからない)

屍男(…まあ今となってはもうそこまで重要なことでもないがな)



屍男「…少し長風呂し過ぎたな。そろそろ出るか」キュッ

今日はここまで
回想が長過ぎる

屍男「出たぞ」フキフキ


吸血娘「お前、風呂長すぎ。何分入ってるんだよ、ファストフードなら全品作って出せるくらいの時間だぞ」

吸血娘「あ、もしかして育毛運動でも」


屍男「してない」

屍男「俺はもう寝るぞ、寝る時は電気を消しておけよ。前も付いてたんだからな」スタスタ


吸血娘「へいへいわぁーってるって」フリフリ


屍男「…本当に分かっているのか」

ジリリリリリリリリ!!!!!!


屍男「…」パチッ

屍男「...」スクッ



吸血娘「Zzz...」グースカ



屍男「…結局付けっぱなしか」ピッ

屍男「しかもまたソファで寝て…仕方ない」グッ


吸血娘「Zzz…」ズルズル


ポイッ


吸血娘「Zzz…イテッ…んー…Zzz...」ドンッ


屍男「…ベッドまでくらい自分で歩け」

……………………………………………………………………
…………………………………………………


屍男「…」ペラペラ

魔女「あら?ゾンビくんがうちの本を読んでるなんて珍しいわね」

屍男「…客が来ないからな。暇潰しだ」

魔女「なら他のところで働いてもいいのに。わざわざまたここに来るなんてよっぽど私のことが恋しかったのかしら?」

屍男「…記憶喪失の俺を雇うところなんてあると思うか?もしあったら是非教えてほしいものだが」

魔女「それでも、夜の仕事やってるんだし別にここで働く必要はないんじゃない?」


屍男「…」

屍男「…家で何もせずにぐうたら過ごすのは性に合わないんでな」

屍男「それに、ここにある本は市場に出回ってるそれとはかなり異なる。もしかしたら記憶に関することも書いてあるかもしれない」

魔女「ふーん…私としては店番してくれると助かるからいいんだけどね。死体溶かしたり、調合する時間も増えるし」

屍男「…一つ、聞きたいことがあるんだが」

魔女「何かしら?」


屍男「…なぜ、ここまで大量に殺して警察は黙っているんだ」

魔女「いきなり仕事の話ね。急にどうしたの」


屍男「俺がこの仕事を始めてからだけでも、殺した犯罪者の数はそこまで多いとは言えないが、決して少ないと言える数でもない」

屍男「しかも、殺しをやってるのは俺だけじゃない。ここに死体を運んでくる連中の数と今までの年数も入れたら…どんな馬鹿でも異常事態だと分かるはずだ。誰かが犯罪者を消してるとな」

屍男「…しかし警察が勘付いてる様子も報道も見られない…おかしいんじゃないか」


魔女「…ゾンビくんはどう考えてるわけ?」


屍男「…お前が内部と通じていて、事件を揉み消していると思っている」


魔女「ぷっ」


屍男「…何がおかしい」


魔女「ご、ごめんなさい…ちょっとおかしくて、そんな真剣な顔で言うもんだから」プルプル

魔女「…残念だけど、私は無関係よ。最も警察やらが介入してこない理由はいくつか見当がつくけど」

魔女「考えられる候補は三つ。気付いていないか、追えないか、黙認しているか」


屍男「…三つだと?」


魔女「まず一つは私達の存在自体に気付いていない。まあこれは余程向こうがおバカさんじゃないとあり得ないわね」

魔女「私がこの商売を始めて二年は経つわ。いくら証拠を残してないと言っても、消えてるのは事実なんだし、ゾンビくんの言う通り普通は違和感を持つ人が誰かいるはずよ。この国の番犬が相当なおまぬけさんじゃない限りは」

魔女「そして二つ目は私たちの存在自体は察知しているけど、動けない。私としてはこの説を押すわ」


屍男「...」


魔女「ドラキュラちゃん達は人間と違って、超常的な力を操る。いくら警察の捜査能力が優秀だとしても、それは人間相手の話だからね」

魔女「それに加えて、ドラキュラちゃんみたいに画像媒体や映像媒体に干渉できる子は少なくない…あ、これは個人情報だから言っちゃダメか。忘れて」

魔女「とにかく、人間が追跡可能な範囲を超えてるってこと。ヘマをしない限りは捕まる心配はないと思うわ」

魔女(…まあこれに関しては、その筋の専門家に気付かれると不味いんだけどね)


魔女「そして最後は私達の存在を察知していて、証拠も掴んでいるけど手が出せない状態。つまり、殺しを黙認しているってことね」


屍男「…待て、それに関してはあり得ない。向こうにメリットがないだろ」


魔女「確かに、いくら犯罪者と言ってもそれを捕まえるのがあの人達の仕事…割に合わないと思うわ」

魔女「でもね、もし彼らの中で怪物や幽霊、人外といった存在が触れてはいけない禁忌…タブーになってるとしたら?」

屍男「…どういうことだ」


魔女「そのままの意味よ。警察は秩序を維持する組織、でもこれは人間社会での話…つまり人間じゃない者には手出しできないってこと」

魔女「例えば幽霊が人を殺したとして、その幽霊に法律が通じると思う?出来るわけないわよね。そういうことよ」

魔女「法の力で縛られるのは人間だけ、ドラキュラちゃんやゾンビくん達が関わってる事件は不審死や行方不明と言った原因不明の未解決事件として無視せざるおえない…どう?」


屍男「…馬鹿馬鹿しい。なんだそれは。つまり国が、いや世界自体が人ならざる者の存在を認めていて、尚且つそれに触れないようにしているのか?」

屍男「出来の悪い陰謀論だな…矛盾がいくつもあるが、もし仮にその話が事実ならこの社会は腐ってるも同然だ。人間ではない者が好き勝手に暴れても誰にも裁かれないということじゃないか」

屍男「…そんな理不尽な話があってたまるか」


魔女「…裁く、ね」ボソッ

魔女「あら、裁いてくれる人ならいるじゃない」


屍男「それは一体誰だ?」



魔女「神様♪」

屍男「……...」



屍男「…アホらしい、俺はもう帰るぞ。閉店の時間だからな」

魔女「え?閉店まであと30分くらい残ってるんだけど」

屍男「どうせ客なんて誰も来ないだろ」スタスタ

魔女「なら、ドラキュラちゃんに伝言頼まれてくれる?」

魔女「今日もお仕事お願いできる?ってね」


屍男「」ピクッ

屍男「…今日もあるのか?昨日殺してきたばかりだぞ」


魔女「普通は二日連続なんてないんだけどねぇ…今回は事情がちょっと特別で、早急に片付けないといけないのよ」

魔女「その分、報酬は弾むつもりよ?無理なら他の人に頼むからいいけど」


屍男「…分かった。伝えておく」

ガチャ


吸血娘「おかえり」ムシャムシャ


屍男「…もう起きてたのか。珍しいな」


吸血娘「たまには早起きしてもいいでしょ。あ、このゴミ捨てといて」ヒョイッ


屍男「…自分のゴミくらいは自分で片付けろ」

屍男「あの女からの伝言だ。今日もまた依頼があるそうだが…どうする?」


吸血娘「え、今日もあんの」

吸血娘「二日連続って初めてだな…何か言ってた?」

屍男「…特別だのどうとか、断っても問題はないらしいが」

吸血娘「んーそっか、でもこういう特殊なターゲットだと大抵いつもよりは報酬がいいんだよねぇ」

屍男「…あぁ、それはあいつも言っていたな」


吸血娘「よし、じゃあやるか。どうせ退屈してたところだし」


屍男「…いいのか?そんな簡単に引き受けて」

吸血娘「いいのっ、最近はマンネリな食事ばっかりだったからね。少しはスリルがないとやりごたえがないよ」

今日はここまで

カランカラン♪


吸血娘「うぃーっす、来たぞ」

屍男「...」


魔女「待ってたわ。じゃあさっそく、今日の仕事の内容を説明するわね」

魔女「今日の標的はこれ、顔に見覚えはあるかしら?」スッ


吸血娘「あるわけないだろ。誰だこのおっさん」

屍男「…俺もだ」


魔女「ま、そりゃそうね。じゃあ『ヘヴンズ・ドア』って名前はご存知?」


吸血娘「何かの漫画で見た気がする」

屍音「…俺もだ」

魔女「そっちじゃないんだけど…まあいいわ」

魔女「この男は『ヘヴンズ・ドア』という名前のカルト団体の教祖様」


吸血娘「あぁ、宗教ね」

屍男「...」


魔女「単刀直入に言うとこの団体、近いうちに集団自殺するらしいのよ。死んで天国に旅立つっていうよくあるやつ」

魔女「だからその教祖を殺して、自殺を止めるってのが今回の仕事の依頼」


吸血娘「なんだ、ただの人間相手か。結構普通だなぁ…全然難しくないじゃん」

屍男「…いいのか?教祖を殺しても」

屍男「信者の思想は理解出来ないが、教祖を殺してもすぐ後を追う可能性もある。殺せば解決するというのは少し安直過ぎると思うが」


魔女「それもそうなんだけど…だからと言って他に止める手立てがないのよね。言葉が通じる相手でもないし」

魔女「この手の宗教に洗脳されてる人ってのは大体は集団催眠に近い状態になってることが多いのよ。みんなが教祖を神と同一視して、崇めているのを見てるうちに自分もその一因になっている」

魔女「だから、まずは教祖が絶対の神じゃないってことから証明しないといけない。自分達と同じように暴力で簡単に死ぬちっぽけな存在ってことを分からせないとね」

魔女「…まあトップを殺したところで状況が変わらないって可能性も否定出来ないけど」

魔女「だから今回の仕事は死体を処理しなくていいわ。下手に消すと先に行ったとか変な想像されるのも困るからね」

魔女「この銃で頭を撃ち抜いてそのまま帰ってきて」スッ

吸血娘「集団自殺ねぇ。みんなで死んで何がしたいんだか。命を粗末にするやつが天国なんて到底行けると思えないんだけど」


魔女「銃はゾンビくんに預けるわ。安全装置の外し方は知ってる?」


屍男「…あぁ、何度か使ったからな。問題ない」

吸血娘「ちょっと待て、なんで私じゃないんだ」


魔女「だってドラキュラちゃんって道具使って殺すの嫌いでしょ。いつも血吸ってるし」


吸血娘「…それはそうだけど、何かハゲに劣ってるみたいでムカつく」

屍男「…遊びじゃないんだぞ」

魔女「あとこれも、教団が暮らしてる宿舎までの地図と建物内の見取り図」

魔女「教祖の男はこの部屋にいると思うわ。もしいなかったら…アドリブで何とかして頂戴」


吸血娘「敷地広くない?家…じゃないよなこれ」

屍男「…公共施設のように見えるな」


魔女「それ、人里離れてる廃校になった小学校をその教祖が買ったのよ。教団が暮らせるように改装したらしいわ」

魔女「現に今ではここに50人近い信者が集団生活してるらしいし」


屍男「…なるほどな。一筋縄ではいかなさそうだ」

吸血娘「そう?私の力があれば楽勝だと思うけど」

魔女「二人とも気を付けてね。正直、この教団に関しては分からないことが多いのよ」

魔女「私が知ってる情報もこれでほぼ全て、世界中に派生組織がいくつもあるってことは分かってるけど全容がつかめない」

魔女「挙げ句の果てには…神をこの世に降臨させるとかいうよく分からないことも企ててるみたいなのよねぇ。まあこれはさすがに妄想だと思うけど」


吸血娘「完全にイカれてるじゃん」

屍男「…まともではないことは確かだな」


魔女「中で何をやってるか分からないから不気味なのよねぇ…もしかしたらオカルト染みたことにも手を出してるかもしれないから、用心は怠らないで」

ブゥゥン


吸血娘「ビッチはあんなこと言ってたけど、よく考えたら結局はただの頭のおかしい集団だよね。髪を降臨させたがってるやつならここにもいるし」

吸血娘「とても私たちの相手になるような力はないよ」


屍男「…武装はしていても、猟銃程度だろうしな。訓練をされてるわけでもないし戦闘力はそこまで高くないだろう」

屍男「…だが、一つの信念を持った集団というのは厄介だ。何をやらかすか分からん」


吸血娘「どゆこと?」


屍男「自分の命を捨ててでも成すべき目標を持ったやつらが何十人もいるんだぞ。やろうと思えばテロでも暗殺でも何でも出来るはずだ」

屍男「…こちらの想像を飛躍してる考えを持っているからな。相手の動きを予測して殺す俺達から見たら天敵に近い存在だ」

吸血娘「でも所詮は人間じゃん。ハゲならともかく、ヴァンパイアの私が負けると思うの?」


屍男「…まあ人間の範囲であればお前を倒すことは不可能だろうな」

屍男「…人間だけならな」


吸血娘「?」

吸血娘「あ、見えてきたぞ。あの建物がそうじゃないの」


屍男「…車を止めるぞ」クイッ




吸血娘「そこから見える?教祖がいる部屋は三階の西側の部屋らしいけど」

屍男「…電気は付いてないな」

吸血娘「まあもう真夜中だしね。寝てるか」

屍男「…どうする?そのまま行くか?」

吸血娘「うん、もし寝てるならこっちも楽だしね。サクッと殺しに行きますか」



サッサッサッ

プーーーーーン



吸血娘「人の気配は…ないな。予定通りに裏口から侵入するか」スッ


カチッ

ガチャ


吸血娘「ほい、開いたぞ」

屍男「…本当に便利だな。その霧は」

吸血娘「えーっと…信者達が寝泊まりしてるのがこの先の一階と二階だな。三階には教祖以外の人間はいないか」

屍男「…好都合だな。銃声は響くだろうが、距離があるなら気付かれないかもしれん」

吸血娘「どうでもいいけどさぁ…普通こういうのってサイレンサーとか付いてるんじゃないの?めっちゃ音出るんじゃないのその銃」

屍音「…このサイズだと22口径だろうな。そこまでは大きくないはずだ」

吸血娘「気が利かないビッチだわ…もしバレたらどうすんだよ」



スタスタ スタスタ



屍男「…!」スッ

吸血娘(え、なに?急に止まって)

屍男「...」クイッ

監視カメラ『』ジー



吸血娘(あぁ、カメラね。私と一緒ならカメラに映ってもノイズで姿が見えないから大丈夫っと)グッ

屍男「...」フリフリ

屍男「…」グルッ

吸血娘(えぇ!?わざわざ迂回すんの!?)

吸血娘(め、めんどくさ…どんだけ慎重なんだよ)



コツッ…コツッ…



屍男「...」

吸血娘(ここが三階か。あそこの奥の部屋だな)

吸血娘(部屋にいるかどうか確認する)グッ

屍男「…」コクッ



プーーーーーン



吸血娘(人間の呼吸音が一つ、体温は…40代から50代の中年の男か。当たりだな)

吸血娘(ビンゴ、今から鍵を開ける)クイッ


屍男「...」




スッ

カチッ


ガチャッ…

吸血娘「…」

屍男「…」



「…」スースー



吸血娘(寝てるね、後は任せた)

屍男(…分かっている)



「…」ピクッ

「…時間だ」スッ



吸血娘(やばっ!起きた!)

屍男(…どうする)

教祖「...」チラッ

教祖「なんだ、貴様らは」



吸血娘「おっと、あんまり大きな声出さないでよね。これ、見えるでしょ?」

屍男「...」チャキッ



教祖「―――強盗か?それとも私を殺しに来たのか?この薄汚れた悪魔が」



吸血娘「」イラッ

吸血娘「あくまァ?私だって自分が善人だとは思ってないけどさ、アンタここの信者共を道連れにして集団自殺するつもりなんでしょ」

吸血娘「んなゴミクズ野郎に悪魔呼ばわりされたくないわ。むしろ人を惑わしてるアンタの方が悪魔だよ」

教祖「――――ハハッ」

教祖「私が惑わしている?いいや、違うな。我が兄弟たちは自ら望んで父や母の元に行こうとしているのだ」

教祖「我々はこの旅路を成功させなければならない。天の国への扉の鍵を開けるのが私の使命、天命なのだ」



吸血娘「…だーめだ。完全にぶっ飛んでるわ。聞くだけ時間の無駄だな」

吸血娘「もうさっさと終わらせて帰ろう」

屍男「…あぁ」チャキッ



教祖「待て、なぜ分からないのだ?今から我々が行う儀式はとても重要なものだ。この世界にとっても」

教祖「貴様達は勘違いをしている。これは自殺という罪深い行為ではない。天の扉を開く儀式だ」

教祖「肉体は滅びても、魂は天の国へと渡る。そこは楽園だ、慈悲深き父や母と共に永遠に生き長らえる」

教祖「扉を開けば、この世界にもその恩恵が溢れるはずだ。なぜ邪魔をする?」



屍男「…言ってることがよく理解出来ないが、確かなことが一つある」

屍男「お前は善人ではない。ただの異常者だ」



教祖「――――どうしても、私を殺すのか」



屍男「…お祈りの時間はもう済んだか?」

教祖「分かっていないな。私を殺しても何も止まらない。既に始まっているのだから」

教祖「私の死は終わりではない。先人達のように、この骸が、きっと彼らの旅路の道しるべになる」

教祖「後悔するだろう。いつか我が兄弟の爪と牙が、貴様達の肉を喰らい、抉るその刹那に、自分の愚かさを」

教祖「アーメ――」



バンッ!!!バンッ!!!



教祖「」


屍男「…」

吸血娘「終わったね」

吸血娘「最後にこいつ何か取ろうとしてたな、なんだこれ?」

屍男「…マイクじゃないか。恐らく校内に放送して助けを呼ぼうとしたんだろう」

吸血娘「人間くさいっていうか、小物っぽい最後だったな。結局は命乞いまでしてたし」

屍男「…早く撤収するぞ。銃声で人が来るかもしれん」


吸血娘「分かってるって…」


ヒラッ


吸血娘「…ん?何か落ちた?」

■■■■■■■■■■■■■■■■■■



 1978 ○

 1987 ×

 1993 ×

 1994 ×

 1997 ×

 2000 ×



           To the next level.

■■■■■■■■■■■■■■■■■■

吸血娘「…なにこれ?」



吸血娘(数字と○×が書いてるけど…意味不明の暗号じゃん。まったく分からん)

吸血娘(…まあ深い意味はないか。頭のおかしいやつの部屋にあるだし、これを書いたのも頭がおかしいやつなんだろ)

吸血娘(早くここから出るかっ!気持ち悪っ!)

ブゥゥン


吸血娘「誰にも見つからなかったね。いやぁ楽な仕事だった」

屍男「...」

吸血娘「なんだどうした、暗いな。頭の輝きがなくなってるぞ」

屍男「…いや、これで良かったのかと思ってな」

吸血娘「なんで?依頼は成功したし、何も問題はないだろ」

吸血娘「私たちが関わるのはここまで、ここから先はあそこの信者が決めることだよ」


屍男「…そうだな」


屍男(あの教祖が最後に残した言葉…『既に始まっている』か)

屍男(…考え過ぎか)

今日はここまで

吸血娘「あー仕事疲れで腹減った。甘いものが食べたいな、トゥインキー食いたい」


屍男「…やめておけ」

屍男「以前、お前の食べ残しを食ったが…ハッキリ言って不味かったぞ。あれのどこがいいんだ」


吸血娘「なんで?美味しいじゃん。あの甘さが癖になる」


屍男「砂糖にハチミツとガムシロップと、砂糖水とチョコをぶちこんだような甘さだ。あんなの食べてるとすぐブクブク太るぞ」


吸血娘「ヴァンパイアは体型変わらないっての。あいつんところに報酬貰いに行った帰りに買ってきて~」


屍男「…たまには自分で買ってこい」

カランカラン♪



屍男「...」



魔女「おかえりなさい、どう?上手くやれた?」

屍男「…あぁ、殺してきたぞ。銃は返す」スッ

魔女「んー…弾は二発使ったのね。一発で仕留めなかったの?」

屍男「…初弾で頭に当てたが、用心してもう一発撃っただけだ。銃声は増えるが、もしもという可能性もあるからな」

魔女「へえ…様になってきたじゃない」


魔女「はい、今回の報酬よ。スペシャルってことでいつもより多めね」

屍男「…確認した」

魔女「あ、そうそう。さっき言い忘れてたんだけど」

魔女「…どうやら同業者が姿を見られたらしくて、この町に狩人(ハンター)が来てるらしいのよね。当の本人はもう連絡つかないし、多分殺られちゃったみたいだけど」


屍男「…狩人?」


魔女「だから暫くは外出は控えてね。うちの店に来るのも一週間くらいは休んだ方がいいわ」


屍男「…待て、勝手に話を進めるな」

屍男「その…狩人というのはなんだ?」


魔女「あら?ドラキュラちゃんから聞いてなかった?」

屍男「…初耳だが」

魔女「そう、じゃあ家に帰ったら尋ねてみるといいわ」

魔女「私よりも…あの子の方が詳しいと思うから」

屍男「...」








屍男「ということがあったんだが」

吸血娘「へー」

屍男「一体どういう存在なんだ?狩人という者は」

屍男「…言葉通りに受け取るなら、大体想像がつくが」


吸血娘「その思い浮かべてるイメージであってると思うよ」

吸血娘「簡単に言うとアレだ。ブレイドとかサムとディーンとか、プレデターとかゴーストバスターズ系列のやつ」


屍男「…」

屍男「つまりは…怪物を狩る人間ということか?」


吸血娘「全員が全員、人間ってわけでもないけどね~私みたいな人外もいるって聞くし」

屍男「…なぜそんなことをするんだ?」


吸血娘「そりゃ金と名誉のためじゃないの?」

吸血娘「詳しくは知らないけど、私たちと同じシステムなんだと思う。依頼を受けて始末してるんじゃね」

吸血娘「まあこの点は正直、当然の権利だよね。こっちも人殺したり、迷惑かけてるやつらが大半なんだから文句は言えないよ。黙って殺られる気はサラサラないけど」


屍男(…あの女、あの時知っててわざと教えなかったな)


吸血娘「あいつらの特徴は…何でもありってところかな。殺すためなら文字通りにありとあらゆる手を使ってくるよ」

吸血娘「銃火器に刃物に爆薬、毒に格闘術に呪術…何でもありにね」

吸血娘「私が戦ったやつもスパイ映画に出てきそうな道具使ってたし、どうやって作ってるんだか」


屍男「…その狩人とやらとやり合ったことがあるのか?」


吸血娘「うん、言ってなかったけ?今までに二人殺したよ」

吸血娘「まあそこそこ強かったね。私の力なら苦戦するほどの相手でもなかったけど」

吸血娘「でも…もしハゲがあいつらと対峙したら間違いなく死ぬだろうね。相性が悪すぎるよ」


屍男「…それほどなのか」

吸血娘「あいつらってさぁ、普段から怪物だの人外だのを狩ってるから経験と知識が一番の武器なんだよね」

吸血娘「特に怪物ってのは弱点が共通してて、攻略法が確立してるからそこを攻められたら打つ手はないよ。いくら再生と怪力があってもね」


屍男「…弱点というなら、ヴァンパイアも似たようなものじゃないか」

屍男「創作でよくあるだろう。ニンニクだの、十字架だの、あれはどうなんだ」


吸血娘「あんなの全部嘘に決まってんじゃん。ばっかじゃないの」

吸血娘「弱点があるってのは否定しないけど、家系によって違うっての。それ以外の攻撃は霧化すればすぐ治るし」

吸血娘「そもそもヴァンパイアの弱点が全部本物だったらどんな虚弱生物だよ。タンスの角に小指ぶつけただけで死ぬわ」

屍男「…俺よりもよっぽど不死身の化け物だな。向かうところ敵なしじゃないのか」


吸血娘「………」

吸血娘「…まあそうだね、うん」


吸血娘「と、とにかく狩人がうろついてるなら、しばらくは外に出ない方がいいよ。あいつらに見つかったら一発でバレるし」

屍男「…どこかの部位で怪物と判別しているのか?見た目はあまり普通の人間と変わらないんだと思うんだが」

吸血娘「私たちも善人と悪人をあるところで見極めてるでしょ?あいつらもそこを視て対象を判断してるんだよ」


屍男「――――あぁ、"眼"か」

吸血娘「そう、この業界にいるやつなら相手の目を視るだけで正体も思考も感情も、力の強弱さえ分かる」

吸血娘「こっちも視たらすぐ理解るんだけど、あいつら普段から目を隠してるんだよね。サングラスとか眼鏡とか、最近はコンタクトでもいいみたいだけど」

吸血娘「だから基本的に襲われるこっちが不利ってワケ。日常的に目を隠してる用心深いやつなんて、慢心が強い怪物人外連中だと珍しいし」

吸血娘「それに加えて、怪物や幽霊だけはどうしても気配で気付かれちゃうんだよね。霊感ってやつで、これだけは元々死んでるからどうにもできないし」


屍男「…なるほどな。確かに相性は最悪だ」


吸血娘「まあ今はおとなしくほとぼりが冷めるまで待てばいいよ」

吸血娘「もう目撃されたマヌケは殺されたんでしょ?ならすぐ消えるでしょ。あいつら結構忙しいみたいだし」

屍男「…そうだな。少し休業ということになるか」

吸血娘「私は今までと変わんないけどねぇ。外には仕事がある日か、近くのマーケットくらいにしか行かないし」

屍男「…俺も遠出はしてないが、さすがにもう少し日の光を浴びた方がいいと思うぞ。太陽が弱点というわけでもあるまいし」


吸血娘「だって人ゴミって苦手だし、太陽が昇ってると何か眠くなるんだもん。人間でもそういうタイプっているでしょ」


屍男「…そういうのをロクでなしと言うんだが」


吸血娘「うるせぇ!お前は髪なしだろうが!」バシーン


屍男「...」

今日はここまで
そろそろ書き溜めが少なくなって来たので更新頻度がちょっと遅くなるかもしれないです
あともう後半戦に入ってます

▢▢▢▢ 一週間後 ▢▢▢▢


屍男「...」ポチポチ

吸血娘「なっ!このっ!」ポチポチ

屍男「…」ポチポチ


『K.O.』


吸血娘「んなァ!?」

屍男「…これで5連勝だ。俺の勝ちだな」


吸血娘「ちょ、ちょっと待て!なんで初心者に私が負けるわけ!?三日前までは圧勝してたのに!」


屍男「…お前がグースカ寝てる時に練習したからな」


吸血娘「ハゲのくせにセコいことすんな!」バシーン

屍男「どこがセコいんだ。正攻法だろうが」


吸血娘「あームカつく!クソゲーじゃんこれ!こんなので勝って何が嬉しいの!?現実だと私の方が強いのに!」

吸血娘「だからお前はハゲなんだよ!髪がないのは性根も毛根も腐ってる証拠だ!」


屍男「…自分もこの前は初心者狩りして嬉々としてただろ」


吸血娘「よっしゃ!もう一回…次のゲームはこれだ!これなら絶対に負けない!」


屍男「…いいぞ、付き合ってやる」

『K.O.』


吸血娘「ちょっと待て」

吸血娘「なんで私が負けるんだよ。このゲームなら間違いなく私の方がやりこんでるはずなのに」

屍男「…お前のことだ。自分が勝てないと分かったらすぐに別のゲームで勝負を挑んでくることは読めたからな」

屍男「このゲームも既に予習済みだ」



吸血娘「ざけんなハゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!」ドンガラガッシャーン

吸血娘「もういいわ!寝る!死ねハゲッ!」ダッ



バタン



屍男「…」

屍男「…やり過ぎたか」

屍男「少々からかってやろうと思ったが…あの怒り方はしばらく根に持つな。一週間は口を利かないつもりだ」

屍男「特にこれと言って困ることでもないが…引きずられるのも気分が悪い」

屍男「…世話が焼けるな」スッ



コンコン



屍男「…おい、今から買い出しに行くが何か欲しいものはあるか?」



『.........』



屍男「あれからもう一週間だ。そろそろ外に出ても問題はないだろう、冷蔵庫の中も切れてきたしな」

屍男「何もいらないならそのまま行くが」

『...アイス。でかいバケツに入ってるやつ』



屍男「…分かった。味は何だ?」



『チョコ』



屍男「チョコアイスか。じゃあ買ってくるぞ」



『…早く買って来いよ。今すぐ食いたいんだから』



屍男(…食い物に釣られてくれるのは楽でいいな)

………………………………………………………
…………………………………………


屍男「...」スタスタ

屍男(…時刻は1時か。思ったより時間がかかったな)

屍男(20分以内に戻らないといつも文句垂れるからな。ついでにピザも買っていくか)



スタスタ スタスタ



屍男「」ピクッ



スタスタ スタスタ



屍男(…背後から足音が一つ、まさか…尾けられている?)

屍男(偶然か?少し歩幅を変えてみるか)



スタスタ スタスタ



屍男「…」

屍男(…黒だな、間違いない。俺を追っている)

屍男(こんな真夜中だ。一人でいるところを狙った強盗か、それとも...)

屍男(…考えても仕方ない。今は最悪の状況を想定して動くべきだ)



屍男「」ダッ



『...!』バッ

ダダダダッ

ダダダダダダダダッ


屍男(…ここら辺でいいか)

屍男「…もういいだろう。追いかけっこは終わりだ」クルッ



『...』



屍男「隠れていないで出てこい。俺に何の用だ」



『…フーッ』スッ


『まさか自分から人気の少ない場所に移動してくれるとはな。これならやりやすくて助かる』

『あのクソガキが言った通り、まだ獲物が残っているとは思わなかった。これも神の思し召しってやつか』



屍男(…日はもうとっくに落ちてるのにサングラスか)

屍男「…確認したい。お前は狩人か」



『あぁ…もしかしてお宅、俺らとやり合うのは初めてか?』

『こいつはツいてるな、知ってるか?怪物の初戦生存率は30%だ。そのうちの20%は逃亡、そして10%が狩人を返り討ちにしてる』

『つまり70%が俺らに殺されてるってことだな。大体三分の二だ』



屍男「...」



『こちらも十分の一で殺されるリスクはあるが、大体はイレギュラーだ。一般人を人質に取られたり、新人の初陣だったりな』

『まあ結局何が言いたいかってことだが…』スチャッ

傷男「お前さんはここで死ねってことだ」





ゾクッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!


屍男「...ッッ!?」ビクッ


屍男(な、なんだ…今のは…背筋に何かが)

屍男(こんな経験は初めてだ…やつがサングラスを取った瞬間に、警戒信号のようなものが出た…本能的に恐れているのか)

屍男(…目を視れば理解るというのはこういうことか。油断したな…まさかこんなところで、しかも単独で狩人に遭遇するとは)


屍男(―――――最悪の状況を想定する、か)

フッ



吸血娘「え?」キョロキョロ

吸血娘「な、なんだ…何か…感じたような。気のせい?」

吸血娘「それにしてもハゲ遅いな。もうとっくに帰ってきてる時間なんだけど」



吸血娘「...」ブルッ



吸血娘「トイレ行こ」スタスタ

今日はここまで

傷男「俺も悪魔じゃない。大人しく抵抗しないのなら、楽に逝かせてやるよ」



屍男「…ッ!」グッ



傷男「そうか、交渉決裂か。まあ端っからそんなクソみたいな期待はしてなかったけどな」

傷男「精々足掻けよ、もう一度死ぬまでな」チャキッ



屍男(拳銃ッ…だがなんだ、この奇妙な感覚は)

屍男(今までに幾度も突き付けられたことはあったが、それらのとは明らかに違う…異様な存在感だ。目が離せない…!)



傷男「…」カチッ


バンバンッ!!!!!!!!

屍男「ぐっ…!」ダッ

屍男(いつもなら…銃弾を受けていた。そして弾切れになったところを攻めた)

屍男(だが今回は違う。目の前にいる男は俺の存在を、弱点を知り尽くしているはずだ…それにあの銃には絶対に何か仕掛けがある。ここは迂闊に手出し出来ない)

屍男(…携帯があったら、連絡を取れたんだがな。普段から持ち歩くべきだった)



傷男「…姿を隠したか」

傷男「正面から突っ込んでこなところを見ると、頭が足りない馬鹿じゃないらしいな。既に自分が劣勢になっているのを理解したか」

傷男「だが詰むのは時間の問題だ。怪物って時点でもう勝敗は決している」チャキッ

バンッ!!!!!バンバンッ!!!!!!



屍男「フーッ…フーッ...」ハァハァ

屍男(…やはり逃げ切るのは無理か。このまま背を向けて逃げるのもリスクが高い)

屍男(この闇に乗じて、どうにかしてやつに一撃を入れなくては…一撃だけでいい)

屍男(狩人と言っても、耐久力だけは普通の人間と変わらないはずだ。俺の腕力ならかするだけでも致命打になる)

屍男(…だが、相手は飛び道具を持っている。問題はどうやって近付くかだな)



傷男「鬼ごっこの次は隠れんぼか。いい加減にお遊びは辞めだ」ピンッ

傷男「…行くぞ」ポイッ

キンッ



屍男(…なんだ?甲高い金属音が落ちた音がした。何かを投げたのか?)チラッ




キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!




屍男「!?ッッッッ!!!!!!?!?!?」ビクッ

屍男(なッ…この音はッ…あ、頭が割れ…!)グラッ



傷男「見つけたぞ、そこか」チャキッ



屍男「あグッ…ぐォォッ…」フラフラ

屍男(防御を…間に合わ―――)

バンバンッ!!!!!!!


屍男「ガァッ!?」ズドンッ


屍男(ぐあっ…こ、これは…痛み!?)

屍男(や、やはりただの銃ではない!グッ…このままだと不味い!)


屍男「ウ……アアアァ……」ヨロッ

屍男「オオオオオオオオアオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」ダッ



傷男「…っ!」ドンドンッ



屍男(傷は戦いの後で癒せばいい…!腕や足の二三本は失っても…今、ここでやつを倒さなくては)

屍男(これ以上長引くとこちらが圧倒的に不利だ…速攻で終わらせる!)


ドンドンッ!!!!!!!


屍男「ウグッ!?アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!」グンッ

傷男(おいおいおい、もう十発は撃ち込んだぞ。これでも止まる気配なしか)

傷男(クソみたいにタフなやつだな…ここまでのやつは初めてお目にかかったぞ)

傷男(…まあいい。そこまで殴り合いがしたいなら受けてやるか)スッ


傷男「…!」チャキッ


屍男「アアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!」ブンッ


傷男「…っ!?」サッ



ブオンッ!!!!!!!


傷男(うおっ、空を切っただけでなんつー風圧だよ。まともに当たったら骨が折れるどころじゃないぞ)


屍男「ッッッッッ!!!!!」ブンッ

傷男(なっ!?足技っ...)


傷男「ぐおっ!?」ダンッ


屍男「ダアッッッ!!!!」ブンッ


傷男(こ、こいつ…ただ力を振り回してるだけじゃない。よく考えている。それも中々いい動きしやがる)

傷男(だが…何か違和感があるような気がするが…アホか、殺し合いの最中に何余計なこと考えてるんだよ、クソが)

傷男(とにかくこのままだとヤバいぞ。体格、身体能力の差もそうだが、格闘センスは間違いなくこいつの方が上だ。一発当たるだけでも死に繋がる)

傷男(ナイフだけじゃどうにもなんねえなこれ。いくら何でもこの猛攻を掻い潜って刺すのは無理だわ)


傷男(…"リング"を使うか)

屍男「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!」ダンッ


傷男「…っ!」ダッ


屍男(退いたっ…このまま押せば行けるっ…!)


傷男「オラッ!!」シュンッ



屍男「ッ!」グサッ

屍男(構えていたナイフを投げたか…追い詰めたぞ、あと一歩踏み込めば…入るッ!!)


ダンッ!!!!


傷男「」キュポンッ

傷男「…!」ブンッ



ビシャッ



屍男「!?」ビチャッ

屍男(な、何を、ボトルに入った液体をかけられたのか…?)

屍男(…あのボトルを見た瞬間に、一瞬だが背中に嫌な感触があった。これは――――)


屍男「」ピクッ

屍男「ッッッッッッッッ!?!??!?!!!!????!?」ビクッ

屍男「ぐがアッ…!!ガグッ!!??」ピクピク


屍男(が…体が灼け、溶け…あ、熱い!!)

屍男(あ、あの液体は酸か!?グゥッ…ギィ…!あ、足が動かなっ)

傷男「」ダッ



屍男(まずイッ...もう一本のナイフを…防御が出来ないっ...)

屍男(ギリギリで避けるしか、間に合ッ...)


スッ


傷男「...」チャキッ

屍男「ぐウッ!?」ツゥー


屍男(か、紙一重で躱せた…どうにかして次の攻撃に備えなくては)



キンッ



屍男(…?この音はさっき聞いた金属音と同じ…真下から…)チラッ

『』



屍男(…これはリングか?なぜこんなものが落ち…)

屍男(!!!!!!!しま――――)





ドッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!




傷男「ふぅ、どうにか引っ掛かったか。さすがにあの至近距離での爆発だ。半分は間違いなく吹っ飛んだな」

傷男「だが…リングを使わされたのは不味かったな。いくら人通りが少ないと言ってもあの爆発音だ」キョロキョロ

傷男「誰かに通報されてもおかしくねえな。ここからだとサツが来るまで5分ってところか」

傷男「…余裕で間に合うな」

モクモクッ…モクモクッ…



傷男「…ん?」

傷男「死体がない…だと?全部吹き飛んだか、死んで灰になったか」キョロキョロ

傷男「…それともあの手負いで動けるのか」


傷男「…はぁ、間違いなく生きてんなこれ。死臭がしねえわ」クンクン

傷男「しかし十数発の弾丸に聖水ぶっかけて、しかも肉体を爆弾で吹き飛ばしても動けるとか…怪物の耐久の域を超えてるぞ」

傷男「とんでもねえ執着心だ。生前の面を拝みたいほどにな」

傷男「もしこれ以上の隠し玉を持っているとしたら…一人だと厳しいか」チラッ

ビチャッ…ビチャッ…


屍男「ヴァッ…ギャッ…」ビチャビチャ


屍男(あ、あの接近した一瞬に…俺に手榴弾を仕掛けたのか)

屍男(グッ…胴体の六割、頭は三割が吹き飛んだ…それに加えて酸のような液体の攻撃、這いずるだけで精一杯だ…!)


グチャッ…ビチュッ…


屍男(再生が遅い…このままだと時間の問題か)

屍男(――いや違うな…ここまでだ。もう…終わりだ)


屍男(俺は…ここでやつに殺される)


屍男(逃れられない結果だ。打つ手がない)

屍男(既に意識が遠くなってきた。これならもう数十秒もたたないうちに…

屍男(…後悔はない。どうせ一度は死んでるんだ)

屍男(偶然に与えられた命だ。元から価値なんてない…やるだけやったんだ、それでいい...)

屍男(…この半年の間はあいつのおかげで退屈はしなかった…最後に、礼を言いたかったが…お前は長生きしろ、よ)



スゥ



屍男(…あぁ、視界が、暗く、黒く、闇――――――死)







ズキッ

……………………………………………………………………………
………………………………………………………
……………………………………



『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!!!!!!』


「怪物は死を実感しながら死ぬとなりやすいって言われてるわ」


『痛ェェェ!!!!!!痛アアアアアアアアアアアアアアアアアイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!』


「自分の過去とか気にならないの?親とか、友達とか」


『殺スゥゥゥッッッ!!!!!!ゼーッテェー殺スウゥゥウゥゥッッッッ!!!!!!』


「大抵は未練やら後悔やら、何か思い残したことが起因になって蘇ってるわけだし」






ザッ…ザザッ…ザァー…

ザザザザザ……





『逃げ…ッ…ろ……』





プツンッ…




ドクンッ…





ドクンッ…





ドクッ…













シュルッ…

シュルルルルルルルル……

カンッ


傷男(物音っ...)クルッ



グチャッ…

グチャッ…



スッ…



屍男「」




傷男(やはり生きてやがったか。だがもう虫の息だ)

傷男(肉体が再生しきっていない…皮と骨と、ほんの少しの肉しかないクソガリだ。これで終いに)

傷男(…ん?)

屍男「」



傷男(…なんだ?あいつ、あんなに図体がデカかったか?)

傷男(俺より身長は少し高いくらいだったはずだ。だが今は…前と比べると30、いや40インチは伸びてやがる)

傷男(この期に及んで肉体の変化...)





屍男「」ザッ

屍男「」ザッ


屍男「」シュンッ





傷男「!?」ビクッ

傷男(消えッ…いや違う!移動した!残像が僅かにだが見えた!どこにっ...)

屍男「」フッ

傷男(後ろ――――)サッ




グシャアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!



傷男「ぐわっ!?」ズサー

傷男(あ、あぶねぇ、今のは完全に運頼みの勘だった…あのスピードは驚異的だ。一度や二度見た程度だと追いきれねぇ)

傷男(まさか…肉体の変化はこの速さになるための形態か?)

傷男(再生が追い付かないだけかと思ったあのズタボロの姿も、体重を軽くして最高速で動けるように...)

傷男(おいおいおいおい、想像以上にこれは)

屍男「」グッ



傷男(追撃が来るッ…どうする?迎撃か、回避か)

傷男(…それともアレを使うか?…ナシだな、あれは完全に俺の手に負えないと判断した時に使う作戦だ。それにこいつとは相性が悪い)

傷男(足が速いヤツなら何度も相手にしたことがある。それと同じだ…落ち着けば十分に渡り合える)



屍男「」シュンッ


傷男(消えたッ…!勝負は一瞬だ、あいつの攻撃を避けると同時に弾をありったけぶち込む)

傷男(あの容姿を見るに、防御はもう完全に捨ててるからな。クソ同然の耐久力だ。少しでもダメージを受ければそれでチェックメイト…)

チッ…チッ…


傷男(…どうした?姿を消してから4秒は経った…さっきは一瞬で俺の背後を取ったのにあまりに長過ぎる)

傷男(…あいつのタイプは純度100%の怪物型のはずだ。霊体になれるなら、もっと早くに使ってる)

傷男(それとも逃げたか…いや待てよ?タイムラグがある地上の攻撃方法…)


傷男「…まさか」クイッ





屍男「」ヒュゥゥゥゥッゥ





傷男(―――――上からか!!!!!!!)バッ



ズドォォォォォォォン!!!!!!!!!!

傷男(どんな跳躍力だよ!?6秒は滞空してたぞ!一体どこまで飛んでやがった!)

傷男(だがこれで終わりだ...今のやつは腕が地面に食い込んでる状態、隙だらけだ)


屍男「」ググッ


傷男(あばよクソ野郎、地獄で先に待ってろ)チャキッ



屍男「!!!!!!」ブオンッ



ズドドドドドドドドドドッッッッ!!!!!!!!


傷男「!?」

傷男(なっ…地面を抉ってそのままアッパーだと!?クッ…最後まで往生際が悪いッ!俺が撃つ方が速いッ!)

傷男(死ねィ!)カチッ



シュンッ



ドンッッッ!!!!

屍男「」ズドンッ



傷男(…当たった)

傷男(コンマ一秒の差で俺の勝ちみたいだな。中々肝を冷やされたぞ)カチッ

傷男(…あ?)スッ

傷男(…ん?待て、なぜ一発しか当たってない?俺は全弾撃ち尽くすつもりで引き金を引いたはずだ)

傷男(………そもそもなぜ俺の手に銃がないんだ)




屍男「」クラッ

屍男「」グッ




傷男(……まさかこいつ)

傷男(あのアッパーは殴る為じゃない。俺に銃を握らせるためのフェイク)

傷男(本当の目的は...)チラッ






屍男「」スッ

屍男「」チャキッ






傷男(なぜ、お前が――――!)





屍男「...」

傷男(や、やられたッ!あいつ…一瞬の隙をついて俺の手から銃を奪いやがった!!)

傷男(まずいまずいまずい、あと一秒もしないうちにやつは引き金を引く!腰にはもう一丁、予備の拳銃があるが間に合うかッ!?)

傷男(…間に合うわけねーか。んな一瞬で抜いて撃つなんて西部劇じゃあるまいし、確実に間に合わない)

傷男(…油断した。まさかジョーカーを握ったまま死ぬとはな。マヌケにもほどがあるぞ)

傷男(あーあ…走馬燈まで出てきやがった。死ぬ寸前になると時間がゆっくり感じるってマジだったんだな。今まで死線はいくつもあったが、初めての経験だ)




屍男「...」



傷男(…つーか、いくら何でも遅く感じ過ぎるだろ。こいつもいつまで構えてんだよ、さっさと撃てよ)

傷男(ハハッ、まさか撃ち方を知らなかったりしてな。そうなったら一発逆転出来るんだが…さすがに今の状況だと猿でも撃つか)

傷男(しかし本当に時間がゆっくり流れてるな。この一瞬に体が動けばどれだけ楽か)ピクッ

傷男(…動くぞ)

傷男(…腰のホルスターの手を伸ばす)


スッ…


傷男(…安全装置を外して拳銃を構える)


チャキッ…


傷男「…そして、撃つ」カチッ



ドンッ!!!!!!!




屍男「」ズドンッ





傷男「…は?」

屍音「」バタッ

屍男「」ピクピクッ



傷男「...」

傷男(…ど、どうなってやがる。俺の反射神経が死ぬ寸前に限界でも超えたのか?)

傷男(それとも―――――)



屍男「」ピクッピクッ


スタスタ


傷男「…」

傷男「…てめぇがどんなやつかは知らないが、怪物を狩るのが俺の仕事だ」チャキッ

傷男「…じゃあな」

スゥゥゥゥゥゥッ.........




傷男「…霧?」ピクッ

傷男「…ッ!?」クルッ














「やっと見つけた…」スタスタ

「まったく…手間かけさせやがて」スタスタ

スゥゥゥゥゥゥッ!!!!!


吸血娘「...」バサァ




傷男(…新手か)





吸血娘「…!」ギロッ





傷男「!?」ビクッ

傷男(こ、こいつの眼は…怪物なんて生優しいもんじゃねえぞ。間違いなく強いっ…!)





屍男「」ピクピクッ

吸血娘「…良かった。まだ息はある」

吸血娘「待ってろ、すぐに終わらせてやる」

今日はここまで

傷男(…間違いなく出来る。今まで出会ったやつらの中でも群を抜いてるぞ)

傷男(まさかこんな大物とご対面するとは…さすがに一人だと荷が重いな。つーか正面でやり合う相手じゃねえよ、絶対無理だわ)

傷男(…どうやら切り札を使う時が来たな。こういう不測の事態に備えておいて正解だった)




吸血娘「…」スタスタ




傷男「…ッッ!!!」チャキッ


バンバンッ!!!!!!!




吸血娘「...」スゥ

傷男(弾が貫通した!?霊体化しているのか、実体が存在しないのか)

傷男(とにかく隙を作らねえと。アレの一撃は人外だろうが幽霊だろうが関係ないからな。当たりさえすれば確実に葬れる)

傷男(もう目立つとかそんなこと言ってる暇はない。こっちも手段は選ばねえぞ)


傷男「ッソラッ!」ポイッ





吸血娘「…」







ピカァッッッッ!!!!!!!!!

キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!

傷男(五感への直接攻撃はやつらの対抗策としては一番だ。どんな強靭な肉体や能力を持っていたとしても、この攻撃は防ぐのは不可能と言ってもいいからな)

傷男(これでやつの目と耳は封じた…後は任せたぞ。出番だ)ピッ





『.........!』ダッ





吸血娘「……閃光か。ん」ピクッ

吸血娘「…あと5秒」



傷男(4…)



吸血娘「…3」



傷男(2!)


吸血娘「…1」

『神は我が砦、我が強き盾。破れることなし』フッ




吸血娘「…っ!?」クルッ




修道娘「主よ!どうか我が手に戦う力を与えたまえ!!」シュゥ




吸血娘「…!」










傷男(決まったッ!!これでッ…)

修道娘「…っ!?」フラッ


吸血娘「…」



修道娘「」バタッ




傷男「…は?」




吸血娘「…不意打ちはいい作戦だった。最初から二人で戦うより、敢えて伏兵を忍ばせておけば、相手は敵は一人だと完全に思い込む」

吸血娘「で、隙が生まれたところを後ろからズドン。でも残念…こんな体温が高い人間を見逃すわけないでしょ?」ニヤァ


ゲシッ


修道娘「」




傷男「…っ!?」

傷男(な、なぜ最初からこちらが二対一だと分かっていた…!感知能力を持っていたのか!?)

傷男(いやそれよりも…どうやってクソガキを倒した?何も見えなかった。ただやつに攻撃を当てる瞬間に何かが起こったことは確かだ。何か...)

傷男「…...」チラッ





修道娘「」





傷男(…恐らくまだ死んでない。外傷がないところを見ると、精神的な攻撃か毒か…)

傷男(…間に合うはずだ、まだ...)


傷男「…ッッッ!!!!」チャキッ

吸血娘「あぁ、まだやるんだ、仲間が倒されて、独りになっても」

吸血娘「でも残念、もう終わってるんだよ。お前たちの負けだ」




傷男「…は?何を言って」


フラッ


傷男「!?」ピクッ




傷男「な、んだ…これ……」



傷男(や、やべぇ…意識が堕ちッ…何をされた...?)

プーーーーーーーーーーン


傷男(…?い、一瞬…耳元で、何かが聞こえ…...)

傷男(ま、まず…目が開けられなっ――――)




傷男「…ク……ソが……...」バタッ

傷男「」








吸血娘「…雑魚が」


屍男「……終わ…ったのか」フラッ


吸血娘「!?」ビクッ

吸血娘「お、おい大丈夫か!ハゲ!お前めっちゃボロボロだぞ!」

屍男「…あ、あまり無事とは言えんな。喋るの、も…きつい」


吸血娘「お、おう...でも生きてるんだな。鏡で自分の姿見た方がいいぞ。正直、私でも吐きそうなぐらいグロくなってる」


屍男「そ、そうか…それよりも...」チラッ






修道娘「」

傷男「」






屍男「…勝った、のか?」

吸血娘「うん、楽勝」

屍男「…気絶しているのか。ということは...」

屍男「そうか。アレを…使ったのか」

吸血娘「そう、私の切り札にして―――眷属」



プーーーーーーーーーーン





ピタッ


蚊『』




吸血娘「モスちゃんをね」

吸血娘「この子のおかげでもう一人の狩人がどこにいるのかも察知出来たし、私の血をあいつらに注入することで意識を奪うことができた」

吸血娘「まったく…ヴァンパイアの眷属が蚊ってのはちょっとアレだけど、人を殺すのにこれ以上の便利なモノもないよ。まさに人類の宿敵だね」


屍男「…あぁ、そうだな……グゥッ!?」ビクッ


吸血娘「ちょっっ!ほ、本当に大丈夫!?肩貸そうか?」


屍男「いや…いい。一人で立てる…クッ……」グッ

屍男「それにお前では…俺の体重を、支えることは出来ないだろうしな」


吸血娘「…そこまで憎まれ口を叩けるなら問題ないね。心配して損した」

吸血娘「…さて」チラッ

修道娘「」

傷男「」







吸血娘「あの狩人共を殺して終わりにするか。私の、ヴァンパイアの血は人間には猛毒だけど、殺すまでには至らないからね」

吸血娘「まったく…まさかまだ町にいるなんて。早く出て行けば長生きできたのに」


屍男「…よく俺がここで戦っていると分かったな。家からはかなり離れているはずだが」


吸血娘「あぁ…それね」

吸血娘「なんていうか…虫の知らせみたいなのを感じたんだよね。ハゲの帰りも遅かったし、ちょっと心配になって探しに行ったんだ」

吸血娘「そしたら向こうの方から爆発音が聞こえて、モスちゃん達がここを見つけて急いで駆け付けたってわけ」


屍男「…そうか。今回ばかりは本当に助かった」

屍男「お前がいなかったら…間違いなく俺は死んでいたからな。礼を言う」


吸血娘「…!」カァ

吸血娘「そ、そんな真面目な顔するなよ!照れるだろ!」

吸血娘「あーもう!早く殺して帰るぞ!私はチョコアイスが食べたいんだからな!」スタスタ


屍男「…あぁ、そうすると」

屍男「…ッ!」ズキッ

修道娘「」


吸血娘「…勿体ないな。食べ頃だし、いつもなら血を吸いたいところだけど…狩人の血を飲むのはちょっと危ないからな」

吸血娘「…悪く思わないでよね。この世界は負けた方が悪いんだから」シュッ









ガシッ








吸血娘「…?」















修道娘「」

傷男「」



屍男「...」グッ

吸血娘「…ちょっとハゲ、何で私の手を掴んでるの?殺せないんだけど」

屍男「...」

吸血娘「あ、もしかして肉が食いたいの?やめときなって、狩人の体は全身が武器みたいなもんだから、どこにどんな仕掛けがあるか分からないんだよ」

吸血娘「聖水を飲んで力を増強してるやつもいるって聞くし、怪物のお前が食べたら最悪死ぬかもしれないんだぞ。だから―――」



屍男「…違う、そうじゃない」

屍男「こいつらを殺すのは…よそう」



吸血娘「………は?」

今日はここまで
実は最初は吸血娘と執事の蚊の話にしようと思ったんですがいつの間にかハゲが出てきました

ごめんなさい今日は更新出来ないです
大体あと二回分の投下で終わると思うのでハロウィンには完結すると思います

吸血娘「ちょ、ちょっと…自分が何言ってるか分かってんの?頭大丈夫?」

吸血娘「こいつらを殺さないって…意味分かんないんだけど」


屍男「…」ギュッ


吸血娘「い、いいから早く離せよ!今ここでこいつらを殺さなかったらどうなるか分かってんの!?」

吸血娘「こっちは二人とも顔見られてんだぞ!それに住処もバレてる!いくら私が強くてもカバー出来る範囲は限界がある!」


屍男「…殺さなくても、お前には記憶を消す力があるだろう」

屍男「それを使えば…」


吸血娘「バカ!そんなの通じるのは一般人だけだ!こいつら狩人は普段から私たちの存在を知っているんだぞ!!」

吸血娘「記憶を消すって言っても完全に消えるわけじゃない…鉛筆で書いた文字を消しゴムで消したように、どうしても跡が残るんだ!こいつらは絶対にすぐ思い出す!そしたらどうなるかぐらいお前でも分かるだろ!」


屍男「…分かっている。もしこの狩人を生かしていたら…俺達の未来は破滅しかないだろう」

屍男「だがそれでも…俺は殺せない。殺させない」


吸血娘「だっ…だから!さっきから意味分かんないって言ってるだろ!?なんで殺さないんだよ!?何か考えでもあるの!?」


屍男「…」

屍男「…俺が今まで殺してきたやつは悪人ばかりだった。どいつもこいつも、その瞳は欲望に塗れて、他者を傷付けることに何も躊躇はしないクズばかりだ」

屍男「だが…この二人は違う。こいつらは…悪人じゃない。目を見て分かったんだ」

屍男「…こいつらの瞳には確かに正義があった。クズとは違う…他者のことを守ろうとする正義が」

屍男「狩人の本質というのは…そこから来ているんだろう。自らの命を危険に晒してでも、異形の者に立ち向かう…人々の為にな」

屍男「…俺は、そんなやつらを殺すことなんて出来ない。むしろ尊敬に値する存在だと思う」


吸血娘「ハァっ!?お前本格的に頭おかしくなったんじゃないのォ!?」

吸血娘「確かにこいつらはいつも仕事で殺してるやつらとはちょっと違うけどさ、お前を本気で殺そうとしてたんだぞ!!」

吸血娘「そんなやつらをノコノコ生かしておくつもり!?いつかまた絶対襲ってくるぞ!!!」

屍男「…それでも、俺には無理だ。理解してくれとは言わない…自分でも支離滅裂だと思う」


吸血娘「っっ…!!」

吸血娘「も、もういい!お前は多分、殺されかけて頭の回路がおかしくなってるんだ!」グイッ

吸血娘「どけ!私が力ずくでもそいつを殺す!!!!!」グッ



屍男「…すまない、それを見逃すわけにはいかない」スッ



吸血娘「…ッ!?」

吸血娘「わ、分かってんの!?そいつらの前に立つってことがどういうことか…!」

屍男「…あぁ、分かっている」

屍男「例え…お前と敵対することになっても、この狩人は殺させはしない」





修道娘「」

傷男「」





吸血娘「……...」

吸血娘「…な、なんでだよ。私は…ハゲを助けたんだぞ」

吸血娘「わ、私の身より…その狩人の命の方が大事なの...?」



屍男「...」

屍男「…お前とこの二人の命、どちらかを天平に描けるとしたら俺は間違いなくお前を選ぶ」

屍男「だが…今はどちらの命も助かるんだ。なら…俺はこの道を選ぶ」

屍男「…許してくれ、どうしても譲れないモノがあるんだ。それが何かは分からないが…これだけは守りたい」



吸血娘「…」

吸血娘「…もういいよ、話しても無駄だ」



吸血娘「私はそいつらを殺す、お前が何を言っても…それだけは聞けない」

屍男「…ッ!!」グッ











吸血娘「ッッッ――――!!!!!」ダッ










ウーウー ウーウー





吸血娘「…!?」ピクッ

吸血娘「こ、このサイレンは…!」

屍男「…どうやら、あの爆発音に寄ってきた者は他にもいたようだな」

屍男「もうすぐそこまで警察が来てる…時間切れだ」




吸血娘「…チッ!」スッ





スゥゥゥゥゥゥッ…





屍男「…霧になって帰ったか」

屍男「…」チラッ

修道娘「」

傷男「」






屍男「……...」

屍男「…俺は」






「おい!そこで何をしている!!」





屍男「…!」ダッ





「待て!!!!逃げるな!!!!」

ダダダダダダダダッ!!!!!



屍男「ハァッ…!ハァッ…!」ダダッ


屍男(…あの時)

屍男(爆弾で吹き飛ばされ、意識が飛びそうになった瞬間に…確かに聞こえた)

屍男(誰かの叫び声と…逃げろという声が)

屍男(叫び声の方に身に覚えはないが、もう一つの方は間違いなく...)


屍男(俺の声だった)


屍男(心の声でも、過去に言った覚えもない…ということは、俺の失われた過去の中で発言したものなのかもしれない)

屍男(もしそうだとすれば…もう一度、死の瀬戸際になれば記憶が戻るかもしれない。今回は欠片しか掴めなかったが、次こそは...)

ピギッ


屍男「ウグゥッッ!?」ビクッ

屍男(グッ…そ、そうだ…まだダメージが完全に回復していなかった)

屍男(急に動いたせいで傷が開いてきた…ここでまた意識を失ったら全てが無駄になる)

屍男(…家に戻るのは無理だな。あいつのところに行くか)





コンコン コンコン





ガチャ

魔女「はぁい、どちらさま…って」



屍男「」



魔女「!?」



魔女「えっ!?ウソっ!?ゾンビくん!?」

魔女「だ、大丈夫!?いや全然大丈夫そうに見えないけど!死にかけにしか見えないけど!」



屍男「」



魔女「…し、死んでる」

………………………………………………………………………………
……………………………………………



屍男「」

屍男「」ビクッ


屍男「」パチッ


屍男「…ここは、あの女の家か」

屍男「…家の前までに行った記憶はあるが、そこからが思い出せないな。倒れたのか」

屍男「…時間は昼の1時か?半日近く寝ていたのか」スッ



スタスタ スタスタ




魔女「~♪~~♪」




屍男「…おい」

魔女「…ん?」クルッ

魔女「あっ!ゾンビくん!良かった、気が付いたみたいね」


屍男「…あぁ、すまないな。ベットまで運んでもらって」


魔女「いいのよ…事情は大体ドラキュラちゃんから聞いたわ」

魔女「それにしても、まだ狩人が町に残ってて遭遇しちゃうとはね…怪物であるアナタが生き残っているのは奇跡と言っていいわ」


屍男「…そうだな。あいつの助けがあと一分でも遅かったら、俺はここにいなかっただろう」


魔女「それでも、狩人相手に抵抗してたゾンビくんも凄いわよ?でも本当に良かったわ、意識が戻って」

魔女「四日間ずっと寝込んでたからねぇ…このまま本当の死体になっちゃうかと思ったわ」

屍男「…四日、だと?」



屍男「あの戦闘から…四日も経っているのか?」

魔女「えぇ、もしかして気付いてなかった?」

屍男「…あ、あぁ、てっきり半日しか過ぎてないかと」

魔女「まあいいわ。ちょうどランチも出来た頃だし、一緒に食べましょうか」

魔女「私も…ゾンビくんと話したいこともあるし」

モグモグ モグモグ


屍男「」モグモグ

魔女「さすがに四日も食べてないとお腹が空いてるみたいね。私のも食べる?」


屍男「…あぁ、貰っておく」モグモグ


魔女「...」

魔女「ねえ、ゾンビくん。どうして狩人を殺さなかったの?」


屍男「」ピタッ


魔女「ドラキュラちゃん、態度には出さなかったけど相当怒ってたわよ。いや…あれは怒ってるというよりも戸惑ってるって言った方が近いか」

魔女「正直、私も同意見。理解出来ないわ」

屍男「…」ゴクンッ

屍男「…あいつにも言ったんだが、俺が殺せるのは悪人だけらしい」

屍男「うろ覚えなんだが、俺はあの狩人をあと一歩のところまで追い詰めた。指を少し動かすだけで殺せるところまで」

屍男「だが殺せなかった...あいつの瞳の中にあったのはドス黒い殺意でも敵意でもない。真っ白な何かだ」

屍男「…俺にはそれが眩しすぎた。だからあの狩人達は殺せなかった」

屍男「私利私欲の為に殺しをしてるんじゃない…彼らの目の中には人を守るという使命が感じられたんだ」



魔女「...」

魔女「まあゾンビくんの言ってることも分からなくはないわ…確かに、狩人は命をかけて怪物や人外に挑んでいる」

魔女「その根本にあるのは…誰かを救いたい、守りたいといった正義感でしょうね」

魔女「でもアナタは怪物なのよ?もう人間じゃない、そんな綺麗ごとは通用しないわ」


屍男「…分かっている。この感情が、俺の存在と矛盾していることも」

屍男「それでも、俺はあの判断を間違っているとは思ってない」


魔女「…」

魔女「そういう頑固なところはゾンビくんらしいわね。いいわ、この件に関してはもう私からは何も言わない」

魔女「さて、ここから本題と行きましょうか。ドラキュラちゃんが狩人に自分の血を注入して倒したって話は聞いてるけど、その効果がどこまであるかは知ってる?」


屍男「…あぁ、聞いたことがある」

屍男「ヴァンパイアの血は人間が摂取すると、量によるが数週間は動けないと」


魔女「そう、今回ドラキュラちゃんが使ったのは眷属の蚊が運べる量の血、ここから計算すると…短くても一週間は意識が戻らないと思うわ」


屍男「…一週間か。俺が四日も寝ていたことを考えると」


魔女「そう、あと数日しか残ってない。顔を見られた二人と、狩人が残っている今、残された道は一つしかない」


屍男「…出て行くしかないか。この町から」

魔女「逃亡先と飛行機のチケットやらは私が用意してあげるわ」

魔女「だから明日にはもう旅立ってもいいように準備はしておいて、このことを帰ったらドラキュラちゃんにも伝えてあげて」


屍男「…あぁ、分かった」


魔女「それと…今晩はドラキュラちゃんの話を聞いてあげて」

魔女「あの子は…狩人に怨みがあったから、今回の件には少なからずショックを受けてると思うから」


屍男「…怨みだと?それはどういう...」


魔女「これ以上は私からは何も言わない。ここから先はアナタが自分で知るべきよ」


屍男「...」

………………………………………………………
………………………………………



ガチャッ


屍男「…」

屍男「あいつは…まだ寝てるか。昼間だしな」

屍男「…先に荷物の整理をしておくか」スッ


屍男(…この町を出るのは俺だけじゃない。顔を見られた以上、あいつも姿を隠さなくてはならない)

屍男(…この家は思い出の場所のはずだ。亡くなった父と共に暮らしていたんだからな...)

屍男(…悪いことをした。本当に...)

チッ…チッ…チッ…



屍男「…そろそろか」



スタスタ スタスタ




吸血娘「…」スッ




屍男「…」



吸血娘「…」



屍男「…」

屍男(…ど、どんな言葉をかければいいんだ…?気まずい...)

吸血娘「…ん」


屍男「…?」


吸血娘「いやだから…ご飯は?私起きてきたばっかなんだけど」


屍男「あ、あぁ…そうだな。すまない、今から準備する」


吸血娘「いやいいよ、ないなら宅配ピザにするから。いつものガーリックミートピザのチーズ120%増し頼んどいて」


屍男「…分かった」

吸血娘「んー♪うっま…何かこの味も久しぶりに食った気がするな」モグモグ

吸血娘「ほら、ハゲにもあげる。トマトいっぱい入ってるやつ」スッ


屍男「...」モグモグ


吸血娘「…いつまでそんなくらいテンションでいるんだよ。一緒にいるこっちの髪までハゲそうだわ」


屍男「…」


吸血娘「まったく…そんなに気にしてるなら最初から殺しとけよ。意味分かんない」

吸血娘「あーあ…私もこの家を離れることになるのかぁ…20年間住んでたところを離れるってのは何か感傷深いっていうか、寂しいなぁ...」

吸血娘「…まあこれも全部誰かさんのワガママのせいだけど」チラッ

屍男「...すまない」


吸血娘「…今日が最後の夜なんでしょ?明日にはもうおさらばか」


屍男「…なぜそのことを」


吸血娘「何となく察するわ。そろそろ私の血の効果も切れるころだし」


屍男「…一つ、聞いてもいいか?」


吸血娘「…なんだよ」


屍男「…あの女から、お前は狩人に怨みがあると聞いた。それは本当なのか」

吸血娘「...あいつ本当に余計なことしか言わないな。個人情報もクソもないわ、上の口と下の口ユルユルじゃん」

吸血娘「はぁ…場所移すか。ベランダに来て」スタスタ


屍男「…あぁ」











ヒュゥゥゥゥッゥ





屍男「…」

吸血娘「今日はちょっと風が強いな。まあいいや」ゴトンッ

屍男「それは...」

吸血娘「お酒だけど、ほらお前も飲め」トクトク

屍男「…ではいただく」ゴクッ


屍男「…これはラム酒か?いい酒だ、美味いな」


吸血娘「お前酒飲めたんだ。飲んでるところ見たことなかったから飲めないかと思ってた」

屍男「別に…飲めないわけじゃない。嗜むぐらいはする」

吸血娘「ふーん、じゃあなんでいつもミルク飲んでるの?好物なの?」

屍男「好物…というわけではないが、ただ飲まないと落ち着かない気がしてな」

吸血娘「…変なの」ゴクッ

吸血娘「…フゥー」

吸血娘「…このお酒ね、父親が好きだったんだ。色も赤いし血っぽくて…だから私も嫌いじゃない」

吸血娘「他の飲むと吐いちゃうんだけどね」 ゴクッ



屍男「...」



吸血娘「私の父親がどうやって死んだかまだ教えてなかったでしょ?教えてあげる...」

吸血娘「…狩人に殺されたんだよ。多分ね」



屍男「…」

屍男「その…多分というのはどういうことだ?」

吸血娘「私の父親ってさ…結構ヴァンパイアの中では有名人なんだよね」

吸血娘「何でも200年以上も前から活躍してたらしくて、その強さから噛み殺し公爵って呼ばれてたみたいだし」

吸血娘「まあ私から見たら、ただの放任主義のクソ親父だったんだけどね」ゴクッ


屍男「...」


吸血娘「で…その父親が急に消えたんだ。今まで家を長いこと留守にしてたことは何回もあったけど…連絡も取れないってことは初めてだったし、何か分かっちゃうんだよね。肉親が死んだっていう感覚が...」

吸血娘「確信したよ。狩人に殺されたってね。私の父親を殺せる相手なんて…"あの狩人"しかいない」


屍男「…あの?」

吸血娘「私たちの世界でもさ…その存在から、関わるのが『禁忌』になってるやつらがいるんだよね」

吸血娘「『魔人』『色付きトカゲ』『悪熊』『メア&リリー』有名なのはこの辺りかな。こいつらは関わること自体が早死にするっていうくらいに触れちゃダメなやつら。レベルが違うバケモン共だよ」

吸血鬼「そのバケモン共の中に…同じく名前を連ねてる狩人がいるんだ。そいつの名前は…『Shadow』」



屍男「…シャドウ?」



吸血娘「うん、こいつはもう何年も前からこっち側で恐れられてる。名前も、顔も、性別も、種族も不明」

吸血娘「でも存在してるってことは確か…こいつの特徴はその狩りのスタイルそのもの、誰にも目撃されることなく標的を殺す」

吸血娘「世界中で、強いってことで有名だった怪物やら人外がある日、突然消えるんだ。まるで存在を消されたように」

吸血娘「で、付いた異名が『Shadow』いつの間にか背後にいる影…洒落てるでしょ?」


屍男「…話は分かったが、そいつが父親を殺したとは限らないんじゃないのか?」


吸血娘「ううん…これだけは間違ってないと思う」

吸血娘「こっち側のやつって名前を売るのが大好きだからさ、狩人にしても人外にしても、名が知れ渡ってるやつが殺されたら絶対に噂が広がるはずなんだよ。俺があいつを殺したってね」

吸血娘「でも『Shadow』に殺された場合は違う。誰もこいつの正体を知らないし、こいつも自分を隠してるから噂が広がらない…だから確信してる。私の父親はあいつに殺されたって」


屍男「…」

吸血娘「はぁ…もしお前が逃がしたやつが『Shadow』だったらどう責任取るんだよ…マジで」


屍男「…いや、それだけはないだろう」

屍男「お前の父は…かなり強かったんだろ?その娘に手も足も出なかったやつらがシャドウとやらなわけがない」


吸血娘「…まあ、それもそうだね。あいつらは所詮二流だったし…」

吸血娘「…ねぇ、もし私が『Shadow』を見つけて、殺そうとしたら…ハゲはまた止める?あの狩人を助けたみたいに」


屍男「…いや、それはない」

屍男「お前の復讐の相手というなら話は別だ。もしその時が来たら…全力で手助けするさ」

吸血娘「ぷっ…助けるって、あいつら相手でもボロクソにやられてたお前が言うなよ」ゴクッ


屍男「…それもそうだな」フッ


吸血娘「…私さ、父親のことはあんまり好きじゃなかったけど、死んだって感じた時は泣いたんだ。今まで何度かそんな想像はしたことがあったけど、涙なんか出なかったのに」


屍男「...」


吸血娘「…やっぱり家族だったんだと思う。自分が思っているよりも、あの人の存在が大事だったんだよ。気付いた時にはもういなくなってたんだけど」

吸血娘「だから…仇は絶対に取ってやろうと思う。それが私の、娘としての役目だと思うから」


屍男「…そうか」

吸血娘「…...」


屍男「…ん?」



吸血娘「Zzz…Zzz...」スゥ



屍男「…たった数杯でもう酔い潰れたか。無理して飲むからだ」ゴクッ

屍男「…復讐か」

屍男「こいつも…まだまだ子供だと思っていたが、そんなことを考えていたんだな」



吸血娘「Zzz...」グー



屍男「なら…俺も協力する。お前は命の恩人でもあり、俺の初めての友人だ…その時が来たら…」

~~~~ 翌日 ~~~~



吸血娘「ネッッッッッッッム!!!!!!!」

吸血娘「というかめっちゃ頭痛いんだけど…グラグラするし気分最悪…もう寝たい...」


屍男「…我慢しろ、あと数時間もしたら飛行機に乗ってるんだぞ。今寝たら確実に乗り遅れる」

屍男「それに気分が悪いのは前日に酒を飲んだせいだろ」


吸血娘「おえっ…マジで無理…なんでお前全然平気なの…このアルコール漬けの死体め…」

吸血娘「ちょっとトイレ行ってくる…吐きそう」オエッ


屍男「早くしろよ。もうそろそろあの女が迎えに来る時間だ」


吸血娘「分かってるって…いざとなったらあいつの車の中で吐いて嫌がらせするから」バタン


屍男「…頼むからやめてくれ」

ピンポーン



屍男「…ん?もう来たのか」

屍男「おい、時間だ。早くトイレから出ろ」コンコン


『ちょっと待てって言っといて…』

屍男「…仕方ない。落ち着くまで待ってるぞ」スタスタ



ガチャ



屍男「すまない、あいつの調子が悪いみたいでな。少し待ってて――――」






バンッ!!!!!!!!!





屍男「!?」ズドンッ

ジャーーーー

ガチャ


吸血娘「ふぅ、吐いたらスッキリした」

吸血娘「待たせて悪かったな、ハゲ。もういいぞ…って」


吸血娘「…ん?」


吸血娘「あれ…どこ行ったあいつ…もう外に出てるのか?」スタスタ



ボロボロ ボロボロ



吸血娘「!?」

吸血娘「な、なにこれ…玄関が荒れてる。ドアも外れてるし…こ、こんなこと出来るやつなんて一人しかいない」

ネチャッ

吸血娘「血痕…ま、まさか…」


吸血娘「――――――!!!!」ダッ

今日はここまで
最後はハロウィンに投下出来ると思います

プルルルルル…プルルルルル…

ピッ


魔女「もしもし?ドラキュラちゃん?どうしたの、今から迎えに――」


『ハゲが攫われた!!!!!』


魔女「…え?」


『私がトイレに入ってる間に消えたんだ!玄関で争った跡があって、血痕も残ってる!』

『でも死体はない…どこかに連れ去られたみたいなんだよ!』

『ど、どうしよう…まさかあの狩人達が早く目覚めたのかも…こ、このままだとハゲが!』


魔女「...」

魔女「…落ち着いて、ドラキュラちゃん。死体は残ってないのよね?」

『う、うん…それは間違いない』


魔女「なら狩人の仕業とは考えられないわ。あの人達はわざわざ怪物を攫うなんてまどろっこしいことはしない。殺すか殺されるかの二択だけよ」

魔女「それに、いくら何でも復帰するのが早すぎるわ。仮に目覚めたとしても、向こうも何日も寝たきりだったのよ?そんな病み上がり状態で狩りをするほどの馬鹿だったらとっくに早死にしてるわ」


『じゃ、じゃあ誰がハゲを攫ったんだよ!他に心当たりなんて...!』


魔女「…心当たりならあるでしょう。数え切れないほどに」


『…っ!?それってまさか...』

魔女「私の予想だと、ゾンビくんを攫ったのは人間ね。仕事関係の復讐、というよりお礼参りって言った方が正しいかしら」


『な、なんで人間が私の家を特定できたんだ!?それにそんなやつらにハゲが負けるわけないだろ!』


魔女「…恐らく、情報が漏れたのはゾンビくんからでしょうね。彼にはアナタみたいに姿を隠す能力なんてないから、何かのきっかけで正体がバレたんだと思うわ」

魔女「顔さえ分かれば住所を特定するなんてそう難しいことじゃないわ…いつか警告したことがあったでしょう。今はそれが現実に起こってしまったのよ」

魔女「ゾンビくんが抵抗出来なかったのは…それほどあの戦いでのダメージが響いてたみたいね。もう結構平気な顔してたけど、本人はまだ無理をしてたってことかしら」


『そ、そんな…最悪のタイミングじゃん...』

魔女「…悪い出来事が連鎖するのはそう珍しいことじゃないわ。むしろ不運が不運に重なって不幸になるのよ」

魔女「とにかく、今はゾンビくんを一刻も早く探し出さないとマズい…拉致されたってことはそう遠くないうちに間違いなく殺されるわ。一時間後かもしれないし、五分後かもしれない」

魔女「…早急に見つけないと最悪の事態になるわね」


『……』


魔女「今、ゾンビくんの携帯がどこにあるか分かる?もし本人が持ってたらGPSで一発で分かるんだけど」


『…家のテーブルに置いてある。あいつ普段から携帯持ち歩いてないから』


魔女「…そうなると、人力で見つけ出すしかないわね。私も情報を集めてみるわ」

魔女「ドラキュラちゃんは眷属を使って、広範囲に散策してみて。出来るだけ悪そうな人が関わってると思うから、その人達が集まりそうな場所なら何か手掛かりがあるかも」


『…分かった。何かあったら連絡して』プツッ


魔女「…」

魔女「…ゾンビくん」

吸血娘「モスちゃん、そっちは南をお願い。ガラが悪いヤツらがいたら私に連絡して」

吸血娘「そっちのモスちゃんズは北を、知らせがあったら伝達係を飛ばして」





蚊『』プーーーーーーーーーーン





吸血娘「…...」

吸血娘「私も…行こう」スゥッ

ブゥゥゥン!!!!!


屍男「...」

屍男「…ッ」ピクッ


屍男「…ここはどこだ?…狭いが」

屍男(…一体何があった。確か…家のドアを開けた時に…)












バンッ!!!!!



屍男「!?」ズドンッ

屍男(なっ…撃たれッ……!)バタッ


黒服A「おい、こいつであってるのか?」

黒服B「あぁ、間違いねえよ。手配書の写真通りのハゲだ」

黒服C「しかしこんなハゲにうちの組員が何人もやられてるとはな。とても信じられねえが」

黒服D「たかが一人に情けねぇ…組の恥だわ」





屍男(…なんだ、こいつらは……組?狩人ではないみたいだが)

屍男(うぐッ…!こ、これはただの銃弾じゃない…麻酔弾か、意識が―――!)





黒服A「オラ、早く車に運ぶぞ。港までこいつを連れてくのが俺達の仕事だ」グイッ

黒服B「重てぇなコイツ…三人がかりで運ぶぞ」グッ

屍男「――――!!!!!!」ドンッ




黒服A「!?」ボコォ





屍男「グッ…ハァッ…!」フラッ





黒服B「おい!こいつまだ動けるぞ!!撃て!!!!」




バンバンッ!!!!!!!バンバンッ!!!!!!!




屍男(こ、こんなところで……お、終わって......)

屍男「…思い出しだぞ、全部」

屍男(あいつらは何者だ…?組だのどうとか言っていたが、そうなると仕事関係のやつらか)

屍男(…駄目だ。誰か分からん。その手のやつらはもう何人も殺したからな、特定は無理か)

屍男(…それより、今はここから脱出しなくては。恐らく形状を見るに、ドラム缶か何かに閉じ込められてる状態だ)

屍男(この程度なら問題なくぶち破れ......)グッ


プラーン


屍男(…腕に力が入らん。脚もだ)

屍男(あの撃たれた銃弾が原因か…麻酔が抜けるまで待つしかないか)

屍男(…不覚だった。あの程度のやつらなら普段の俺なら全員始末出来た)

屍男(…あの狩人に負わされた傷がまだ癒えていない。よりにもよってこんな時に)

ブゥゥゥン


屍男(…エンジン音、地面の振動の動きを察するに、ここ車内か?一体どのぐらい時間眠っていた)

屍男(…そしてどこに運ばれているんだ)



『おい、あと何分ぐらいだ?』

『30分ってところっすね。渋滞があったんで少し遅れてますわ』


屍男(声…)ピクッ


『ったく…もうほとんど全員集まってるってメール来たぞ。急がねえと俺の評判まで下がる』

『しかしあれには驚いたな。一発で象3体を一瞬で眠らせる弾を五発も撃たされるとは…バケモンかよ』

『まあもう二度と面を拝むことはないんですしいいじゃないっすか。このまま海に沈めるんでしょ?』


屍男(…沈める?)

『しかし何で拷問しないんすかねぇ、この前のやつは硫酸プールに沈めたのにこいつはそのまま海にドボンなんでしょ?自分あれもう一度見たかったんすけど』

『俺が知るかよ。ただこいつは何人も殺ってるプロだからな。下手に外だすと何されるか分かんねえからじゃねえの』








屍男(…不味いな。いくらこの肉体でも深海に沈められたら脱出は困難だ)

屍男(仮にドラム缶から出られたとしても、外の水圧でペシャンコになる可能性もある…絶体絶命というやつか)

スゥゥゥゥゥゥッ!!!!!


吸血娘「はぁっ…はぁっ…」

吸血娘(クソッ…広範囲に広がり過ぎた…息がきつい…)

吸血娘(…建物の中も捜し回ってみたけど、何も情報がなかった…もうこの町にはいないのか?)

吸血娘(さすがの私でも…郊外まで出られると発見出来る可能性がガクッと落ちる。あれからもう一時間は経ってるんだ。早く見つけないと...)





プーーーーーーーーーーン





吸血娘「モスちゃん、何か見つかった?」

吸血娘「…!」

ブゥゥゥン!!!!!



吸血娘「…あの車か」

吸血娘(モスちゃんが言うには、あの車からは何人もの血の匂いがしたらしい。ってことは乗ってるやつは十中八九そっち側の人間)

吸血娘(…もうあれに賭けるしかない)スゥッ









白服A「おい、早く飛ばせよ。もう全員集まってるらしいぞ」

白服B「そ、そんなこと言われても…兄貴がそこら辺のチンピラをやっちゃって、その後始末してて遅れたんじゃないですか」

白服A「あ?俺が悪いってのか、殺すぞ」

白服B「そ、そういうわけじゃないですよ」

モクモクッ モクモクッ



白服A「…何か煙たくねえか、まさかテメェ吸ってるんじゃねえだろうな」

白服B「え?てっきり兄貴が吸ってるかと思ったんですけど。っていうか俺、運転中で両手塞がってるのに吸えるわけないじゃないですか」

白服A「空調が壊れてんのか。窓開けるぞ」グイッ


白服A「フゥッー、しかしわざわざ全員集まって公開処刑とか意味分かんねえわ。小学生の授業かよ」

白服B「何でもそいつ、俺達の組のやつらを何人も殺してるらしいじゃないですか。見せしめにして動画でも公開するつもりなんじゃないですかね」

白服A「ならもっと見栄えがある殺し方にしろって話だわ。ハゲてるんだから頭に針の植毛をするとか、埋めて日に晒し続けたらどうなるか実験するとかの方が面白いだろ」

白服B「そ、そうですね」

『ミツケタ』




白服A「あ?今何か言ったか?」

白服B「え?何も言ってないですけど」

白服A「っかしーな。女の声みたいなのが聞こえたはずなんだが」

白服B「それってもしかして、前に拉致った女の幽霊かもしれないですね」

白服A「ハッ、馬鹿なこと言ってんじゃねえよ。もしそうならもう一度遊んでやるわ。結構いい声で鳴く女だったからな」




スゥゥゥゥゥゥッ!!!!!

吸血娘「まったく、どいつもこいつもゴミばっかり。この世界は本当に腐ってるよ」


白服A「!?」

白服A「な、なんだテメェ!?どこから入った!?」


白服B「あ、兄貴!?どうしたんですか!!」


白服A「どうしたって、ここにガキが…!」


吸血娘「その臭い息を私にふりかけるのはやめろ。こっちまで腐る」グッ


白服A「ウグッ!?オガッ!!!!!」ギュッ


白服B「あ、兄貴!?」

白服B「お、おいゴラァ!!!!!ワレクソガキィ!!!!テメェ何してんだボケェ!!」


吸血娘「お前も黙ってろよ。劣等種如きが私に口聞くな」グッ


白服B「オエ!?ガゴッ…何…を...!!」ギュッ


吸血娘「さて、私は今からお前たちが行こうとしてるところに道案内してほしいんだけど、どっちが連れて行ってくれるの?」


白服A「アァッ!?ざけたこと言ってんじゃ…!!」


吸血娘「あっそ、じゃあお前は必要ないな」ギュッ



ボンッッッ!!!!!



白服A「」バタッ

白服B「あ、兄貴ィ!?」


吸血娘「さて、じゃあ残りはお前一人だ。早く行けよ」


白服B「ふざけんなァ!!!!誰がテメェなんか…!!」


吸血娘「…はぁ、何か勘違いしてるみたいだけどさ、お前まだ自分が生きて帰れるとか思ってんの?」ギュッ


白服B「ボウッ!?」ビクッ


吸血娘「お前に残された道は長く苦しみながら死ぬか、一秒でもその苦しみから逃れるために死ぬかのどっちしかないんだよ」

吸血娘「…どう?自分の肺の中に異物を詰め込まれてる気分は、内臓吐きそうなぐらい気持ち悪いでしょ?」

吸血娘「それをもう少し下に移動させると…」クイッ


白服B「…アアアアアアアアアアッッ!!!!い、イテエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!」グラッ


吸血娘「うるせえな、気道塞ぐぞ」


白服B「ガッ…!!カッ…カッ…」ピクピク


吸血娘「早く運転するか、その苦しみを延々に味わうか選べよ。もっとエグいやつも試してやろうか?」


白服B「ワガ…ワガッダガラッ…!!」ピクピクッ


吸血娘「…よしよし、賢い選択だ」ニヤッ

プルルルルル…


吸血娘「もしもし?」ピッ


『ドラキュラちゃん?今どこにいるの?』


吸血娘「車の中だけど」


『…?多分、分かったわよ。ゾンビくんの居場所が』

『どうやら南の港の方にマフィアの連中が集まってるらしいのよ。高級車が何台も止まってたらしいわ』

『こんな昼間から集まるなんて…取引か、何か重大な出来事でもあったのよ。確証はないけど、私もそこに向かって...』


吸血娘「あぁ、それなら問題ないよ。今、そいつらの仲間の車に乗ってるから」


『えっ!?』

吸血娘「…ん、もうすぐ着くみたい。じゃあ切るね。情報ありがと」プツッ

吸血娘「…待ってろよハゲ。今すぐ行くからな」
















ブゥゥゥン……


屍男(…あれから約30分、何も行動も出来ずに時間が経ってしまった)

屍男(…まだ麻酔が抜ける様子もない。そして車が止まった。どうやら目的地に着いたようだ)

屍男(…非常に不味い事態だ)

『おう、遅かったな』

『すいません、渋滞だったもんで』



屍男(…台車か何かを使って運ばれているのか?もう時間がないぞ…)



『そいつが例のハゲか。誰にも見られてないだろうな?』

『えぇ、間違いありません。ガキの方はまだ拉致らなくていいんですよね?』

『あぁ、そいつはこのハゲを沈める様子をビデオで録って鑑賞会をしながらヤる予定だからな。最後のお楽しみだ』



屍男(…最初に俺を捕まえて良かったな。もしあっちを先にしてたら今頃お前達は干物になっていたぞ)

『これで全員揃ったな。じゃあ早速、始めると』

『…ん?待て、なんだあの車は、こっちに向かって来てるが』

『あぁ、あれはウチの若いやつのだ。ったく…あいつ遅刻するなっつたのに』

『…にしてはスピードが出過ぎじゃないか。このままだとこっちに…』


屍男(…?何かあったのか)










ドッシャアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!

車『』ボロッ


「な、なんだあいつ!?突っ込みやがったぞ!」

「酔ってるのかラリってんじゃねえのか。おい、誰か見てこ...」




ドンッ



白服B「」ボロッ


吸血娘「あー失敗した。殺すの早過ぎたか。止まるまで待てばよかった」スッ

吸血娘「ちょっと頭打ったわ…ファックだね」

「…おい、誰だ。あのガキは」

「…待て、あいつは確かハゲのところの...」






吸血娘「数が多いな。20人はいるか…さすがに飲み切れないな」

吸血娘「まあどうせクソ不味そうな血だし、飲む気なかったけど…いやーそれにしても久しぶりだなぁ」

吸血娘「…食事と仕事以外で人間を殺るのは」






黒服A「おいガキ、テメェどうやってここを...」


吸血娘「黙れ」スッ

黒服A「バギャッ!?」ボンッ

黒服「」バタッ




「…っ!?」

「あ、頭が…弾け……」




吸血娘「…私の眷属に手を出して、生きて帰れると思うなよ」

吸血娘「早死にしたいヤツは前に出ろ、死にたくないヤツは隅で震えて神にでも祈ってろ」

吸血娘「全員まとめて地獄に送ってやるよ」スゥッ




「こ、こいつ…!もういい!ヤっちまえ!!!」チャキッ




パラララララララララララララ!!!!!!!!!!

パラララララララララララララ!!!!!!!!!!




吸血娘「…アッハァ」ニヤッ

………………………………………………………
……………………………………



屍男(…なんだ、何が起きている)

屍男(何かがぶつかる音がしたと思ったら、銃声が聞こえた。一発や二発じゃない。まるで戦争でもしてるような音だ)

屍男(外で一体何が…)




『…あった。これか』

『よっと…』グイッ



吸血娘「よう、結構元気そうだな。ハゲ」



屍男「…!」

屍男「な、なぜここに...」

吸血娘「なぜって、助けに来たに決まってんじゃん。ほら、早くここから出ろよ」


屍男「…どうやら麻酔か何かの薬を打たれたみたいだ。体が自由に動かない」


吸血娘「えっ?マジ?仕方ないなぁ…首筋ちょっと噛むぞ」ガリッ

屍男「ッ...」ビリッ



ギュインッ…ギュインッ…



吸血娘「ぺっぺっ…ほらこれで少しは動けるようになっただろ」

屍男「…!あ、あぁ…助かった」グイッ

吸血娘「まったくこの一週間でどんだけ襲われてるんだよ。私はお前を助ける騎士様かっての」

屍男「…すまない、今回ばかりは油断していた。まさか人間に襲われるとは」

吸血娘「…まあいいよ。私にも責任がないとは言えないしね、ちょっとこの仕事を甘く見てた」

吸血娘「とにかく無事でよかったよ」


屍男「…礼を言う」




屍男「…ところで、外にいたやつらはどうしたんだ?銃声が何発も聞こえてたが」

吸血娘「あぁ、あそこだけど」

死体『『『『『 』』』』』








吸血娘「全員ぶっ殺した。それなりに数がいたから時間がかかったけど」

屍男「…珍しいな。お前があんな殺し方をするなんて…ここら一帯、血の海だぞ。どんな殺し方をしたんだ」

吸血娘「霧の応用でね。ハゲには見せたことないやり方だし」

吸血娘「…何か、ムカついてさ。自分でも驚くくらいキレたわ…でも全員悪人だし文句はないでしょ?」

屍男「…あぁ、そうだな」

屍男「しかしどうするんだ。さすがにこれだけの死体の山は隠しきれないぞ。俺だって食えない」

屍男「大量殺人の現場の完成だ。明日の新聞の一面、間違いなしだぞ」

吸血娘「いいじゃん、別に。どうせもうこの国から出るんだし」

吸血娘「でも一応、あのビッチに連絡しておくか。あいつなら何とかするでしょ」




チャキッ…




屍男「…!」バッ




バンッ!!!!!

吸血娘「!?」

吸血娘「ハ、ハゲ大丈夫!?今撃たれたんじゃないの!?」


屍男「…問題ない。ただの銃弾だ。この程度ならすぐ治る」




黒服「こ……の、化け物共が…...」




吸血娘「…まだ生き残りがいたか」スタスタ




黒服「お、お前ら…こんなことして許されると思うなよ…...いつか絶対にぶっ殺してやる…...」

黒服「の、呪ってや、るぞ…絶対に許さねぇ……」

吸血娘「...」

吸血娘「私だって、こんな生き方をしてるんだ。いつか報復で痛い目に遭うことは覚悟してる」

吸血娘「でも私に裁きを下すのはお前でも、お前たちの仲間でもない。遺言はそれで終わり?」


黒服「ゆ、許さねぇ…絶対に...許さねぇ…...」


吸血娘「あー最後に一つ、殺された程度の怨みで化けて出るなら、お前たちの組織なんてとっくに壊滅してるだろ。お前はここで、何も残さずに死ぬんだよ。バイバイ」ギュッ


黒服「アギャッ…!ガッ…グッ」ピクッ

黒服「」



吸血娘「…」



屍男「...」



吸血娘「…行っこか」

屍男「…あぁ」

………………………………………………………………
……………………………………………


吸血娘「いやー飛行機乗るって初めてだわ!どんな感じなんだろ!」

屍男「…普通じゃないのか」

吸血娘「あっ!液体類は持ち込めないらしいぞ!ハゲ!育毛剤は持ち込めないな!」

屍男「…誰もそんな物持ってない」

屍男「…む」


屍男「…少しトイレに行ってくる。ここで待っててくれ」

吸血娘「んー迷子になるなよー」





屍男「…わざわざ隠れなくても、正面から見送りに来ればいいだろう」

魔女「だって私がゾンビくんと話してると、ドラキュラちゃんが嫉妬しちゃうから」クスッ

屍男「…あの一件はどうなるんだ?随分ともう暗殺とか、そんなこと言ってられないレベルで殺してたぞ」

魔女「まあ…何とかなるんじゃないの。元々敵が多い組織だったし、シナリオは自然と出来上がるでしょう」

屍男「…適当だな。それでいいのか」

魔女「まあ私も近いうちにこの町から出て行くつもりだしね。いざとなったら逃げちゃえばいいのよ」

屍男「…」

屍男「…それは俺があの狩人を見逃したせいか?」

魔女「えぇ、もちろんそうだけど」


屍男「…すまない」


魔女「別にいいわよ。そろそろ廃業するつもりだったし、いつまでも続けられる仕事じゃないしね」

屍男「…お前にはこの半年間、随分と世話になった。貸しをいくつも作ったからな」

屍男「…手を借りたい時はいつでも呼んでくれ、最大限の協力をしよう」


魔女「……...」

魔女「…そうね。いつか…私の命が危うくなったら、ゾンビくんの助けを借りさせてもらうわ」


魔女「あ、そうそう…最後にこれを見せに来たんだった」ガサゴソ

魔女「ゾンビくん、なぜドラキュラちゃんがアナタのことを気に入ってるか、その理由を知りたくない?」


屍男「…どういうことだ?」

魔女「これ、あの子の父親の肖像画の写真、ヴァンパイアは写真に写らないからこういうのしか残ってないんだけど」ペラッ


屍男「…この写っているのがあいつの父親なのか?これは...」


魔女「そう、アナタと同じで髪がなかったのよ。つまりハゲってこと」

魔女「どこか…アナタと父親を重ねていたのかもしれないわね。本当に…素直じゃないんだから」


屍男「…」


魔女「あ、これはあの子に教えないでね。バレたら本当に私が殺されちゃうから」クスッ


屍男「…あぁ、分かった」

屍男(…そうか、そんなことをあいつは…...)

魔女「はいこれ、一本引いてみて」

屍男「…?なんだそれは、茎か?」

魔女「そう、花占い。ゾンビくん達の未来を占ってあげるわ」

屍男「…占いは信じてないんだが」

魔女「まあいいじゃない、ゲン担ぎみたいなものよ」


屍男「…これでいいか?」スッ

屍男「これは…黄色い花だな、どういう意味なんだ?」


魔女「…...」

魔女「…まあまあってところじゃないかしら。さ、機内に花を持ち込むのは審査やらでめんどくさいって聞くし、それは返してね」スッ


屍男「…雑だな。もっと具体的なものはないのか、花言葉とか」


魔女「所詮は占いよ。ツイてるか、ツイてないかぐらいで分かればいいのよ。深い意味なんて特にないんだから」

魔女「じゃあね、ゾンビくん。向こうでも元気で、また縁があったら会いましょう」

魔女「あ、メールはいつでもしてもいいからね~何かあったら連絡してね」フラフラ


屍男「…あぁ、またな」

魔女「…」スタスタ




魔女「...」チラッ






魔女「…マリーゴールドね」

魔女「…まあ所詮は占いか。当てにならないこともあるわ」






屍男「…待たせたな」

吸血娘「遅いぞ!早くしないと飛行機が出発するだろ!」

屍男「…電車やバスじゃないんだぞ。まだしばらくは余裕がある」


屍男 「...」

屍男「…本当にいいのか?俺と一緒に来て」


吸血娘「急になに」


屍男「…考えてみると、狩人に襲われたのも、人間に拉致されたのも俺の落ち度だ。もしこのまま俺といたら、お前にまで危険が及ぶかもしれない」

屍男「…お前は強い。俺よりもずっとな、一人の方が安全なんじゃないか」

吸血娘「...」

吸血娘「…ぷっ」


屍男「…なぜ笑う」


吸血娘「いやだって、私より弱いやつが自分の身の程も知らずに心配してくるから…まずは自分の身を心配しろよ…ぷぷっ」クスッ

吸血娘「それに、私たちが行くところは極東のこっち側のやつらがいっぱい住んでるところらしいからな。私にとっても一番ベストなところだよ」

吸血娘「…私のことは私が決めるよ。ハゲのことも心配だしね。このまま一人にしてたら孤独死しそうだし」

吸血娘「お前は…私が守ってやらないとダメだからな」



屍男「...」

吸血娘「ん、じゃあ仕切り直しってことでアレやるか」スッ

屍男「…またやるのか?正直恥ずかしいんだが」

吸血娘「いいだろ別に、気持ちの切り替えってやつだよ。早く手出して」

屍男「…分かった」スッ



コンッ



吸血娘「これからも、よろしくな!ハゲ!」

屍男「…あぁ、こちらこそな。相棒」











END

…………………………………………………
…………………………………



吸血娘「飛行機って意外と大したことないな。揺れるのなんて乗る時だけじゃん。もっとジェットコースターみたいな感じだと思ってた」

屍男「…そんなもんだろ。四六時中揺れてる乗り物なんて誰が乗りたがるんだ」

吸血娘「…どうでもいいけどさ、さっきから気になってることがあるんだけど」

屍男「…どうした?」




吸血娘「お前、もしかして香水付けてる?何か匂うんだけど」




屍男「……...」

吸血娘「え?マジで付けてんの?ハゲが?香水を?」

屍男「…仕方ないだろ。何時間も風呂に入れないんだ。異臭騒ぎにでもなったらどうするんだ」

吸血娘「ぷぷっ…ウクククッ...」


吸血娘「アーッハッハッハッハッハッハァ!!!!!ハ、ハゲが香水付けてる!アハハハハハハハハハァ!!!!」



屍男「…」



吸血娘「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!も、もしかして頭にも振りかけてんの?それもうシャンプーじゃん!頭洗えるじゃん!!!!」



屍男「…静かにしてくれ、周りが見てるぞ」

吸血娘「いや無理…もうハゲで笑うことはないと思ってたけどこれは笑う…お腹痛い...」プルプル

吸血娘「ハゲと香水なんて世界で一番合わない組み合わせじゃん!これがフローラルな香りならぬ不毛なる香りってか!アッハッハッハハハハハァ!!!!!」


屍男「」イラッ


屍男「…そういえば風の噂で聞いたんだが」

屍男「…ハゲは遺伝するらしいぞ。それもかなりの高確率でな」


吸血娘「アハハハハハハハハハ――――――」

吸血娘「…え?」

吸血娘「え、ちょっと待って。嘘だよね?嘘だよねそれ?」

屍男「さあな…俺も詳しくは知らん」

吸血娘「えっ、女は大丈夫だよね?男ならともかく女は薄くならないよね?」

屍男「…性別は関係ないんじゃないか」



吸血娘「えっ…ちょっ……う、嘘って言ってよ」

吸血娘「嘘って言ってよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」


屍男(…いい気味だ)












おわり

はい終わりです
多分最後まで読んでくれた方は全員まだ途中じゃねえかって思うと思います
実はそうです、全体としては起承転結の起承ぐらいです
実はこれ書き出したの4月くらいで色々あって半年ぐらい終わらせるのにかかってます
で、来年以降も自分のリアルが忙しくなりそうなので本当に全部書けるか分からないんですよね...だから一応ここで終わりってことになります
多分...年明け以降になりますが続編は書けると思います
それまでちょっと待っていただけると嬉しいです

あと屍男の正体に関しては読み返して頂けると大体察しがつくと思います
というか続編がいつ書けるか分からないのでもうバレるように書いてます
他にも意味深な発言とかあれって結局何だったんだよ的なことがいくつもあると思いますが...年内に一応関連作っぽいのは投下してると思います
幽霊的なスレタイで立てると思うのでこっちも読んでくれると嬉しいです

ごめんなさい最後に一つ

幼女幽霊「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ!」DQN幽霊「!?」
幼女幽霊「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ!」DQN幽霊「!?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1466012540/)

一年くらい前に自分が書いたやつなんですけど次に立てるスレはこれとも思いっきり繋がってます
世界観は同じなのでこっちも読んでもらえると分かりやすいと思います

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