【艦これ】天を回す。 (86)

艦これのssです。
台本形式です。
オリジナルキャラクターが登場します。
暗いです。
深海棲艦との戦争は、ヒト型になる前の深海棲艦が上陸したことから始まっています。

これらの要素が大丈夫な人はどうぞ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1507574181

木曽「只今、帰投しました…」

提督「……戦果報告」

木曽「…敵艦隊、駆逐艦二隻撃沈…」
木曽「…こちら第二艦隊、旗艦の俺を除き…全滅…」

提督「………」

木曽「…く、駆逐艦、四隻…軽巡、一隻の損害…」

提督「…そうか、御苦労…」

木曽「…失礼、します」

ガチャ
バタン

木曽「……うう…」
木曽「………うわあああ……」

提督「……畜生…」
提督「もう何人目だ…」
提督「…撤退は間に合ってた筈なんだ…」
提督「……畜生…」

ガチャ

妙高「提督…」

提督「…ああ、今日は君が秘書艦だったな…すまん」

妙高「…いえ、お疲れでしたら、お休みになっては?」

提督「いや、大丈夫だ。私の方こそすまんね、情けない姿を晒してしまった…」

妙高「…仕事ですから」

提督「……そうだな」

〜夜〜

提督「…日が暮れたな」

妙高「そうですね」

提督「そろそろ上がりにするか」

妙高「そうですね」

提督「……ちょっと風に当たって来る」

妙高「そうですね」

ガチャ
バタン

妙高「………」
妙高「…羽黒…那智、足柄…」
妙高「……一人に…しないで…」

-鎮守府中庭・ベンチ-

提督「はあ」

提督「(三ヶ月前に補給基地が壊滅してから途絶えた物資はそろそろ底をつく…)」
提督「(敵本拠地近くのこの離島には資源の自給は望めない)」
提督「(この鎮守府の壊滅を必然と思っているらしい本部からは戦闘剤の支給だけが増え、数え切れなくなる死者…)」

提督「分かりやすい負け戦…か」

「…俺が、もっと早く基地の救援を指示していれば…」
「許してくれ、とは思ってない」
「すまん…すまんな…俺が、俺が悪かった…」


「どうしたの?一人でブツブツ言って」

提督「!」

皐月「あ、ごめん、驚かしちゃったかな?」

提督「ああ、君か…いや、大丈夫だよ」

皐月「何してるの?こんな所で」

提督「ん?いや、ただ風に当たりたくてね」

皐月「そうなんだ。ボクと同じだね」

提督「なんだそうだったのか、奇遇だ」

皐月「本当にね!」

提督「……」

皐月「……」

提督「…今夜は星が綺麗だ」

皐月「…そうだね…」

皐月「…司令官ってさ、『俺』って言うんだね」

提督「ああ、聞かれていたか。いや、情けない」

皐月「そんなことないよ、そこ以外はあんまり聞こえなかったけど」

提督「そうか、それは良かった」

皐月「いつも『私』って言ってるからなんか新鮮だね」

提督「…そうだね、少し気が動転してたかもなぁ」

皐月「……司令官」

提督「なんだい?」

皐月「…無理、してない…?」

提督「…まさか!私はこの通り、元気だよ」

皐月「……一人で抱え込まないでね」

提督「はは…なんだ、聞いてたんじゃないか…」

ギュッ

皐月「…ボクで良ければ、慰めてあげるよ」

提督「…はは、は……情けない限りだ…」

皐月「…司令官は頑張ってるよ…」

ナデナデ

提督「…………」

皐月「ふふ、良い子良い子…」

提督「……皐月」

皐月「…なあに?」

提督「君も、無理しなくて良いんだよ」

皐月「…やだなぁ、ボク、無理なんてしてないよ」

提督「…邪魔して悪かったなあ」

皐月「…………」

提督「一人で泣きに来たんだろう?」

皐月「……そんなこと…ないよ…」

提督「…泣きたい時に泣けないのは辛いだろう」

皐月「…なに…言って…」

提督「…だけど一人で泣くのはもっと辛いよ。私で良ければ、胸を貸すよ」

皐月「…う…」

提督「そうだ」

皐月「…う、うう……」

皐月「うわあああ……」

提督「……それで良いんだ」

皐月「…うう…司令官、司令官…」

提督「なんだい?」

皐月「…ボク…死にたく、ない…」

提督「…………」

皐月「…みんな、みんな死んじゃったあ…」
皐月「ボク、怖いよ…死にたくないよ…」

提督「…そうだな」

皐月「…死にたくない…死にたくないよ…!」

ギュッ

提督「…そうだよなぁ…死にたくないよなぁ」

皐月「…怖いよ…うう、うわああああん!」

提督「…死にたくないよな、私だってそうだ…怖いよな…当たり前だよなぁ…」

皐月「…うわああああ……」

提督「…嗚呼、今日は本当に、星が綺麗だ…」

皐月「…うう……ん…」

提督「(泣き疲れたか…)」

提督「(畜生…何も言ってやれなかった…)」
提督「(『私が守ってやる』?…言えるわけないよな…どの口が)」

提督「(とりあえず、この子を寝床まで届けるか)」

提督「よっこい…しょ!」

提督「はは…歳は取りたくないな…」

-執務室-

ガチャ
バタン

妙高「あら、提督」

提督「やあ、少しは落ち着いたかね」

妙高「ああ、はい。先ほどはすみませんでした、ぼうっとしてて」

提督「いや、良いんだ」

妙高「……背中のその子は?」

提督「ああ、ちょっとそこで拾ってね。私は女子寮には入れないから、君が部屋まで送り届けてくれないか?」

妙高「…ここじゃ駄目ですか?」

提督「?」

妙高「この子の部屋は、今回の被害で…」

提督「…ああ、そうだった。失念してたよ」

妙高「…一人は寂しいでしょうから…」

提督「奥の私の部屋を使いなさい」

妙高「ありがとうございます」

提督「君ももう上がって良いよ、私はもう少し仕事をしてからそこのソファで寝る」

妙高「…私、この子と寝ても構いませんか?」

提督「……そうか、そうだったな…」
  「予備の布団は押入れに入ってる。使いなさい」

妙高「…ありがとうございます…」

ガチャ
バタン

提督「(皆、疲弊している…)」
  「(何か、何か打開策は無いのか、戦局を一変させるような…)」
  「(敵の中枢の位置はもう判明してるのに…防御が硬すぎて近づけやしない…)」

何とももどかしい事だ。

ガラッ

引き出しの中のスイッチ…

『緊急用核弾頭起爆』

馬鹿げたものだ。運搬手段を持たず、上陸された際の最終手段とは。

すでに発見されている敵中枢を破壊できる威力を持つ人類最後の切り札…。

だが、米国の核攻撃は奴らの人知を超えた対空防御とジャミングで無効化され、失敗に終わり、凍結。

無線制御または自立制御までジャミングにより無効化されることが判明してからは有線式核魚雷も用意されたがケーブルの防御が出来なかったために破棄。

結局戦果を挙げられたのは、本土上陸に至った初期型深海棲艦群の殲滅作戦のみ……首都機能と2000万の国民の命と共に…

それを自爆用に転用とは…勝ち目がないならせめてこれで華々しく、とでも言いたいのだろうか。上層部は遂に焼きが回ったらしい。

なんとかならんものか。

-女子寮軽巡区画-

「…………」

「…この部屋も随分広くなっちまったなぁ」

「……姉さん」

「俺、くたびれちまったよ」

「ごめんな、バカな妹で」

「…ほら、俺末っ子だから」

「……だから、さ…理由になってないのは分かってるけどさ」

「…せめて仇くらい取らせてくれても良いよな」

『戦闘剤』

「…………」

木曽「…俺、行くよ」

ザラザラ

ガリッ

〜翌朝、早朝〜

ジリリリリリリ…

提督「ん…あぁ…」
  「…いかん、このまま寝てしまったか」
  「…目覚まし…じゃないな。これは…」

『非常用』

提督「非常用内線!」

ビー!

提督「すまん!どうした、何があった!」

黒潮『あ、やっと出た!司令はん!』

提督「ああ、私だ!どうしたんだ』

黒潮『木曽が…木曽がいなくて…!』
  『木曽の艤装一式と…倉庫から大量の弾薬がなくなって…!』

提督「なんて事だ…今から行く!私も船を出す!整備班に高速艇の用意を!」

黒潮『…わかった…司令はん、お願い、木曽を…』

提督「当然だ、あの子の場所の目星は付いているから、安心しなさい」

黒潮『…うん』

提督「じゃあ君も装備を整えておきなさい、護衛についてきてもらう」

黒潮『了解や!』

カチッ

提督「妙高!聞いていたかね。出撃だ」

妙高「準備は出来ています」

提督「流石、早いね」

妙高「ええ、仕事ですから」

提督「結構」

ガラッ

『標準自動拳銃』

提督「(あの子を…仲間を撃ちたくはないが、かくなる上は…)」

-格納庫-

整備兵「お待ちしていました、船の準備は出来ています」

提督「ありがとう、朝早くからすまんね」

黒潮「司令はん!こっちこっち!」

提督「ああ、待たせたね」

黒潮「それは良いんよ、それよりこんなもんが球磨型の部屋から…」

提督「戦闘剤の空ビン…」

黒潮「もしこの量飲んどったら…」

提督「……本当に撃たねばならんかも知れない、覚悟しておきなさい」

黒潮「…………」

整備兵「…倉庫からは弾薬以外に、非常用に置いていた手榴弾もいくつか無くなっていました」
   「それに弾薬も明らかに総装弾数以上の数でなおかつ炸裂系の物だけが無くなっていました。……もしかしたら」

提督「…大体予想通りかな、これは急がねば」
  「医療班も呼んでおこう、船に応急処置のできる者を乗せる」
  「あと、一応船の機銃の弾は装填しておいてくれ。気休めだが万が一の自衛だ」

整備兵「分かりました」

-鎮守府沖-

提督「たしかこの辺の海域だったか」

黒潮「目星の付いてる場所?」

提督「ああ、この先の出撃で木曽の艦隊が敵と遭遇した辺りだ」

黒潮「じゃあ、やっぱり木曽は仇討ちに…」

提督「その可能性は極めて高いだろうね。むしろ仇討ちだけなら良いが…」
  「まあなんだ、早く見つければ分かること。君もほら、双眼鏡」

黒潮「あ、うん」

提督「妙高、君は偵察機を飛ばしてくれ。そんなに遠くにならないはずだから」

妙高「分かりました」

妙高「……いました!」

提督「どっちだ!」

妙高「ここから南東約4kmです」

提督「艦長!南東だ、南東に向けてくれ!」

妙高「待ってください!」

提督「何かあるのかね」

妙高「いたにはいたのですが、木曽からさらに約300m南に敵艦隊も…」

提督「…慎重に行こう。艦長、近づけるだけ近づこう」

艦長「りょ、了解」

妙高「前方1km切りました!目視できます」

提督「どれ…」

黒潮「敵と交戦中や…」

提督「…すごいな」

黒潮「…………」

提督「いや、感心している場合ではない事は分かっているが。あの子、一発も被弾してないじゃないか…」

黒潮「…知らん」

提督「…ん?」

黒潮「あんな顔、あんな動きする木曽はウチ、知らん」

提督「…………」

提督「恐らく戦闘剤の効果だろう、あの子の目には我々も敵と映る。そしてあの量だと、効果が切れた時には…」

黒潮「そんな…」

提督「…急ごう、何が何でも連れ戻すんだ」

提督「とにかくまずは作戦を説明する」
  「事は一刻を争うが、木曽と交戦中の敵艦隊の存在は無視できない」
  「従って、敵を引きつける囮役と、木曽を回収する役との二手に分かれる必要がある」
  「済まないが、囮役は黒潮、妙高。君たち二人に頼みたい」

黒潮「危険は今更やで」

妙高「流石に提督を囮にしようとは思ってませんので」

提督「ありがとう。そして私と…医療班の彼がボートで木曽の回収に向かう」

衛生兵「え」

提督「済まないが私だけでは木曽の手当ては出来ないと思って。応急手当てだけで良いよ」

衛生兵「…覚悟は決めます」

提督「ありがとう」

提督「あと黒潮、妙高。君たちにはこの弾を渡しておこう」

黒潮「?なんやこれ。初めて見た」

提督「試作品だがチャフ兼煙幕弾だよ。範囲の狭さと射程、精度が不安定だったので実用には至ってないが…まあ近距離からの離脱には使えるだろう」
  「君たちはまず二発、実弾を装填し、三発目にこの弾を装填しておきなさい」

妙高「二発ですか」

提督「そう。敵には二発だけ撃って気を引く。絶対に沈めようとは思わないこと。二発撃ったらひたすら回避に専念しなさい」

妙高「了解しました」

提督「悔しいだろうが我慢して欲しい。近頃敵も異様に強くなってきている。先日も精鋭だった木曽の水雷戦隊が壊滅したのが何よりの証拠だ」
  「そして、私たちが木曽を回収したら信号弾を撃つ。そしたら君たちは煙幕弾を撃ち込み北に離脱しなさい。そこでこの艦を待機させる」

黒潮「北やね、了解や」

提督「うむ。よろしく頼む」

提督「あと、最後に一つ注意。万が一木曽が私に攻撃をしようとしたのを見ても、決して彼女を攻撃しないこと」

妙高「死なれるおつもりで?」

提督「いや、どちらにしろ恐らくあの子は自爆する気で全身に弾薬を身につけている」

黒潮「え…」

提督「君らが攻撃しようものなら、回収に向かう私もろとも吹き飛ぶ。それにあの子は決して帰らなくなる」
  「なので私が説得を試みてみる」

妙高「可能なのですか?戦闘剤の影響があるとか言ってませんでしたか?」

提督「分からん。ただあの子が助かる可能性はこっちの方が高いだろう」
  「最悪、拳銃で撃つ。出来れば足を」

妙高「はあ」

提督「急場凌ぎの雑な作戦だが今思いつく限りは出した。やるだけやろう」

妙高「行ってきます」

提督「死ぬんじゃないぞ」

黒潮「自分の心配をしときや。司令はん」

提督「はは、厳しいなあ」

黒潮「じゃあ、行くで」

提督「よし。我々も行こう」

衛生兵「は、はい」

提督「艦長、ここで待機していてくれ。ここなら多分大丈夫」

艦長「信じますよ…」
  「必ず、彼女を連れ帰ってくださいよ」

提督「当然」

妙高「距離300!」

黒潮「木曽、待っててえな」

妙高「撃ちますよ!」

黒潮「二発やね」
  「おら!こっちや!」

ドン
ドン

タ級「(ジロッ)」

リ級「(ガシャン)」

黒潮「よし、食いついたで!」

妙高「さあ、逃げますよ!」

提督「……よし、妙高たちは上手くやったようだね。我々も木曽を引きつける」
  「さあ、行くぞ…」

衛生兵「あの司令、そんな小口径の拳銃ではなくもっとこう、狙撃銃とか機関砲の方が良いのでは…」

提督「心配しなさんな。腕には自信があるんだ」

衛生兵「いえ、そういう問題ではなく…」

提督「そんなもの使ったらあの子の足は千切れてしまうかもしれないだろ?」

衛生兵「しかし彼女らは普通の人間ではなく」

提督「良いんだ」
  「…傷は小さい方が治りは早い。それとあの子たちも、れっきとした人間だ。我々と同じ」

ウイィィィン…

提督「よし、良い距離だ。始めるぞ」

衛生兵「大丈夫かなぁ…」

提督「おーい!木曽ー!私だ、提督だ!」

木曽「…………」

提督「聞こえるか!私が分かるか、木曽!」

木曽「………ウゥ…」

提督「木曽!」

衛生兵「司令、様子が…」

木曽「…………」ジャキ

提督「…木曽ッ!聞こえないのか!」

木曽「……ウ…」

衛生兵「司令!」

木曽「………[ピーーー]…!」

ドン!

衛生兵「危険です!下がって!」

提督「クソ…やはりダメか」
  「仕方がない、撃つしかない…」

衛生兵「撃つ前に僕らが死んじゃいますよ!」

提督「操縦は任せた、君も海軍人なら男を見せたまえ」

衛生兵「えぇ!?そんな」

提督「頑張るんだよ!」

  (そうさ、あの子を助けるんだ)

  「木曽!聞けぇ!」

  (偽善かもしれない)

  「私は今から君を撃つ!」

  (それでも救えるかもしれない子がいるんだ)

  「多少痛いかも知らんが、我慢するんだぞ!」

木曽「沈め…」

提督(出来ることはしよう)
  
  「分かったか!」

木曽「…償え……償えェ!」

提督(泣かないでくれ…木曽)
  
  「今!助けるからな!」

パァン!

木曽「ウッ…!」

バシャ !バシャ バシャ…

提督「回収に向かうぞ!さあ!」

衛生兵「当てたんですか⁉︎」

提督「くるぶしに当たったらしい。アキレス腱かな」

衛生兵「効いたんですか?」

提督「腱を切られれば当然歩けない。当たり前だろう」

ウィィィィン…

木曽「ウ…ウゥ……」

提督「木曽!」

衛生兵「どどどどうしましょう…」

提督「とりあえず船を近づけてくれ、手で捕まえられるくらいに」

衛生兵「危険では…?」

提督「だからと言って君は目の前で沈みかけている女の子を見捨てるのかね」

衛生兵「……わかりました」

提督「さあ、木曽。痛かったろう…」

木曽「(ギロ)」

ガチャン

衛生兵「提督!」

ドン

ブチッ

提督「ぐぉ…!」

衛生兵「ああああ!提督、腕が…」

提督「……木曽を引き揚げるのを手伝ってくれないか」

衛生兵「それより早く止血を…」

提督「早く…!木曽は今気を失った、薬が切れたんだ。早くしないと本当に沈んでしまう」

衛生兵「わかりました、わかりましたから止血してください!」

提督「ああ…」

衛生兵「回収します!…よい、しょ!」

提督「ぐぅ…流石に片腕だと厳しいな」

ズル
ドシャ

木曽「う、うう…」

提督「木曽…木曽…!」

木曽「提…督…?」

提督「よかった…私が分かるのか!君!早く木曽の止血を」

衛生兵「は、はい!」

提督「ああ、信号拳銃を取ってくれないか」

衛生兵「いえ、僕が撃ちます。その体では…」

提督「いやはや済まんね…痛てて」

木曽「……!て、提督、腕が…」

提督「…今は良い、撃って悪かったね。痛かったろう」

木曽「俺が…撃った、のか…」
  「俺が…俺が…提督を…」

提督「木曽!しっかりしなさい!大丈夫だから」

木曽「……俺、どうやって…償えば…」

提督「聞いているか木曽!良いんだ!」

木曽「…俺が…グス…俺が…」

ジャキン

提督「何をしている、やめなさい!」

木曽「ご、ごめん、俺、こんな、償い方しか、知らない……」

提督「木曽‼︎」

ガシ

木曽「……」

提督「君が死んで何になる!私たちが何のためにここまで来たのか!」

木曽「……」

提督「それに私は生きてる!君が償うことは何もない!」

木曽「でも…俺…」

提督「良いんだ。私たちはもう仲間を失いたくない…分かってくれ」
  「君が死んでも、球磨たちは浮かばれない、と思う」

木曽「……」

提督「ごめんな。私が言えることじゃないことは分かっている。君の姉さんたちを死地に追いやったのは私だ…」
  「……勝手かもしれない、それでも、生きてくれ…お願いだ」

木曽「提督……」

提督「…木曽?どうした!」
  「君、木曽がまた気を失った」

衛生兵「…薬が多すぎましたしね…少し寝かせてあげましょう。止血は済んでますので」

提督「そうか、そうだな…」

衛生兵「後は先生(軍医)に任せましょう」

提督「そうだな。済まないが引き続き操縦を頼めないか、片腕だと少し辛い」

衛生兵「分かってますよ。信号弾は撃ってます、合流しましょう」

-鎮守府 医務部病室-

木曽「…………」

提督「…先生、木曽の容態は」

軍医「今はまあ安定してますが…いかんせん戦闘剤の量が致死量に達していて。回復するか、目を覚まさないかは五分五分ですな」

提督「……そうですか」

軍医「辛いでしょうが、司令官。貴方はご自身の身を心配しなさい。本来はまだ入院してる身なんですから」

提督「はは…同じことを黒潮にも言われてしまいましたよ」

黒潮「当たり前やで」

妙高「衛生兵の彼が優秀でよかったですね、本当に」

提督「全くだ。彼は特進だな」

軍医「義手の作製もできますが」

提督「ああ、まあ、少し考えさせて下さい」
  「じゃあ、私は部屋に戻るよ。仕事が溜まっているんだ」

妙高「補佐に行きますよ、片腕だと辛いでしょう」

提督「いや、良いんだ。少し一人になりたい。片腕での仕事にも慣れておきたいしね」

黒潮「大丈夫…?」

提督「まあ、なんとかなるだろう。じゃあ失礼するよ」
  「先生…木曽をよろしくお願いします」

軍医「ま、最善を尽くしますよ」

ガチャ

バタン

〜執務室〜

提督「……はぁ」
  「木曽……」
  
  「(ここまで磨耗している子もいるというのに…俺は…木曽の異変に気づいてやれなかった…)」
 
  「畜生…」

ガラッ

  「(…このスイッチに鍵を指し、一瞬手をかけるだけで…全て…)」
  
  「…私も焼きが回ったらしいな…ハハ…」


コンコン

提督「ん…?」

「俺です、司令官殿」

提督「ああ…整備班長…どうぞ入ってくれ」

班長「失礼します」

ガチャ

提督「どうかしたかい?どうぞ座って」

班長「長友が…長友二等整備兵が死にました…」

提督「…………」

班長「厠で首吊ってたのを中居上級整備兵が見つけた…」

提督「……遺書は」

班長「ここに…」

カサ

『御免なさい班長。木曽ちゃんを止められなかったのは俺です。鍵を渡してしまいました。彼女を責めないでください。悪いのは俺です』

提督「…………」

班長「……あいつに俺は鍵の管理を任していました。中居が言うにあいつは…この前戦死した…川内ちゃんと…そして木曽ちゃんと…よく話して、仲が良かったらしくて…」

提督「長友君は夜遅くまで何かしら弄ってたもんなぁ…」

班長「……耐えれなかったんだ…」

提督「…………」
  「……今年に入って何人目だ…」

班長「……坂本三等、田中兵長、倉田一等兵曹…長友二等…四人です…」

提督「…………くっ……そォ‼︎‼︎」

班長「…………」

提督「…………畜生ォ…」

班長「……司令官」

提督「…なんだい」

班長「俺ぁもう疲れちまいました…」

提督「……なんだと」

班長「……俺、疲れました…」

提督「……何が言いたい」

班長「整備科の仲間たちが…あの子達…艦娘達が悩んで、苦しんで、死んでいく。そんな姿を見続けるのに疲れました…」

提督「…………」

班長「……いつまで…一緒に戦ってきた部下達が…そして俺たちの娘同然に手をかけた子達が…死んで行く様を見続けなきゃいけないんですか…」

提督「……私に何を求める」

班長「……その引き出しの下のスイッチ」
  「司令官も、迷ってたんじゃないですか…?」

提督「私は…可能性がある限り、あの子達を見捨てたくはない…」

班長「……アンタも分かってる筈です…このままやっても俺たちに勝ち目は無いってことくらい…」

提督「……私は…」

班長「……もうこれ以上仲間たちを苦しめるのは…嫌なんです…」

提督「(…私は…それでも……諦めたく無い…)」
  
  「…………なあ班長」

班長「なんですか…」

提督「一つバカな話を思いついたんだ。聞いてくれんか」

班長「…………」

提督「君の欲しがるそれを、奴らに使いたいとは思わんか」

班長「…………」

提督「勝機はあるんじゃないか?これなら」

班長「…気でも狂ったんですか?」

提督「お互い様じゃないか」

班長「どうやって運ぶんですか。迎撃されますよ」

提督「魚雷にでも括り付けるさ」

班長「だから迎撃…」

提督「躱せばいい」

班長「無線はできませんよ」

提督「直接操縦すればいい」

班長「ケーブルは…」

提督「乗るんだ」

班長「…………は?」

提督「人が乗って操るんだ」

班長「………あんまりじゃないですか…」

提督「時間も金もない。これが一番確実だと思う」

班長「アンタって人はぁ!!」

ガッ

班長「俺の話を聞いてたんですか⁉︎俺はもう…仲間を失いたくないんだ!」

提督「だから心中かね。歪んでるのは君の方ではないか?」

班長「…………」
  「どうしろってんですか……」
  「…俺ぁもう、分からないんです…」

提督「君、今年幾つになる」

班長「…29ですが…」

提督「若いなぁ、まだまだ働いてもらわないと」

班長「…………」

提督「……死ぬには早すぎる。君も、部下たちも。そしてあの子たちも…」
  「…私はもう何人も娘たちを殺して来た…もう嫌なのは俺も同じだ…」
  「…でもな、まだ生きてる子がいるんだ…せめて、せめてこの子たちだけでも…救いたいんだ」
  「適性がある人間が、若い…いや、子供同然の女性だけだと?ふざけた技術だよ…本当に…」
  「これのおかげで何人の子供たちが人権を奪われ、兵器として使い潰されて来たか…」
  「……救うには、戦争を終わらせるしかないんだ…」

班長「…だからって…有人魚雷だなんて…」

提督「生贄は俺だ」

班長「…………」

提督「俺は片腕を失った。軍人としてはもう働けない。それに軍医の先生を除けば最高翌齢だ…乗るのは俺しかいない」

班長「……アンタも、『仲間』の一人なんですよ…」
  「…それに、あの子たちが心の拠り所にしてるのはアンタだ。いなくなってあの子たちが持つと思いますか…」

提督「……先生に頼んでおく」

班長「そういう問題じゃないんですよ…あの子たちだけじゃない。俺たちだってそうだ」
  「…俺たちだって…地獄みたいなここで働き続けられたのは、アンタになら付いていけるって思ってたからなんですよ…」

提督「…そうだったのか…ハハ、嬉しいねぇ。私は良い部下に恵まれた…」
  「…でも、だからこそ俺が乗らなきゃならないんだ」

班長「…俺が乗ります」
  「やっぱりあの子たちが可哀想だ…俺なら誰にも…」

提督「『整備班長』!!」

班長「は、はい…」

提督「君だって私と同じだ。君の部下は君に付いて来ているんだ」

班長「提督……」

提督「分かってくれ…頼む…」

班長「……魚雷は以前親父の友人がやってる博物館が空襲に遭った時に掠めて来たハイパーキャビテーション魚雷があります。それを改造しましょう」

提督「…!…ありがとう、ありがとう……!」
  「…制御系は艦娘の艤装と同じような神経接続を使ってくれ」

班長「…体が持ちませんよ」

提督「着弾まで持てば良い。それに今の私に操縦桿は握れないしね」

班長「分かりました。一応覚えはある技術なんでなんとかします」

提督「頼む。いつ頃までに出来そうかね」

班長「1週間でやって見せます」

提督「頼もしいな。では1週間後に。くれぐれもあの子たちにバレないようにな」

班長「任せてください!」

提督「…ありがとう…」

班長「失礼します。先ほどのご無礼、申し訳ありませんでした」

提督「…何、お互い様よ」

班長「…では」

ガチャ
バタン

提督「…はぁ」
  「必要な書類を作らねばならんな」

-執務室前・廊下-

妙高「…………」

〜1週間後・早朝〜

提督「…さぁ」

ガチャ

提督「行くかな」

バタン

-格納庫-

提督「やぁ」

班長「待ちましたよ」

提督「いや、すまんね。諸々の申請に時間がかかってな」

班長「いえ、構いませんよ。ものはこちらです」

提督「おぉ…」

班長「自信作ですよ。弾頭はまだ取り付けていませんがね」

提督「うむ、弾頭はここに」

『戦略熱核爆弾』

提督「自爆用としては過ぎた威力だと思わんのかねぇ」

班長「上の考えることは分かりませんね」

提督「全くだ」

班長「じゃあ装着しますよ」

ガキン
バシュ バシュ バシュ

班長「ハイ完了」

提督「うーん、私なんかの棺桶にゃちと立派過ぎるかなぁ」

班長「まあまあ。あとこんな物も作りましたよ、『俺たち』皆で」

提督「うん?」

班長「おーい、シャッター開けろー!」

中居上級整備兵「りょうかーい!」

ガラガラガラ…

提督「これは…」

班長「魚雷を敵陣近くまで運搬するための船が必要でしょう?」

中居「あり合わせですけど、ガチガチの装甲船に仕立て上げましたよ!」

早川一等整備兵「武装は…あの子たちの遺品の砲やら機銃やら魚雷発射管を積めるだけ積みました。使ってやった方が良いかなって思いまして」

島田二等整備兵「不格好な船ですけど、一回くらいの出撃には耐えられます」

提督「…君たち…」

提督「ありがとう…」

班長「それと、言い忘れてましたが、船長は俺で」

中居「観測手は僕」

早川「機銃手は俺」

島田「砲撃手は俺です」

衛生兵「ぼ、僕は応急処置を」

班長「まあ、俺たち皆いないと動かせないんで、そこんとこよろしくお願いします」

提督「衛生兵の君まで…死ぬつもりかね」

班長「アンタにだけは言われたくないですね」

早川「仲間の…仇討ちに行きたいんです」

提督「しかし…」

班長「心配ご無用。高速脱出艇は人数分用意してます」

提督「……私に付き合ってくれるのか…」

中居「僕らにこれを作らせた時点でもう今更ですよ」

島田「司令官、せめて最期を見届けるくらい、させて下さいよ」

衛生兵「乗りかかった船です。僕もご一緒します」

提督「すまない、ありがとう…君たち。どれだけ感謝しても足りないくらいだ」

班長「感謝は成功してから。地獄でお願いしますよ」

提督「手厳しいなぁ」

班長「最終調整をしますから、少し待って下さい」

提督「ああ、作戦の決行は明日の0100だ。夜明け前に奴らの本拠地を叩く」
  「チャンスは一度しかない。だが、これが成功すればこの長く辛い戦いは終わる。君たちは、あの子たちは、自由になれる」
  「必ず成功させようじゃないか」

整備班一同「了解!」

提督「うむ。では、後で会おう」

ガチャ

提督「……もう、引き返せないな…」
  「ふふ…覚悟を決めかねているのは俺か…」

「提督…」

提督「!」

妙高「こんにちは、提督」

提督「や、やあ君か…驚かさないでくれよ…」

妙高「申し訳ありません…少しお話がしたくて」

提督「ん?何かな」

妙高「…少し歩きましょう」

提督「あ、ああ…」

-鎮守府中庭-

妙高「…夕日が綺麗ですね」

提督「そうだなぁ…」

妙高「何だか初めて会ったときを思い出しますね…覚えていますか?」

提督「ああ、これくらいの時間だったかなぁ」

妙高「そうですよ。それに今日でちょうど15年になります」

提督「え!そうだったか…すまん、何も用意してないな…」

妙高「別に構いませんよ、『お父さん』」

提督「…随分久々に聞いた気がするなぁ。それ」

妙高「私が『妙高』になって以来かも知れませんね」

提督「そうか…ふふ、懐かしいなぁ…」
  「そうだったそうだった…君は瓦礫の町でマッチを売ってたなぁ…」
  「ふふ…あの時はマッチ売りの少女なんて本当に居たんだとちょっと驚いたっけ」

妙高「今思うとそうですねぇ…でも手に入ったのがそれくらいだったから仕方なかったんですよ。妹たちを養わなきゃならなかったですし」

提督「だなぁ…痩せてたよなぁあの時の君ら」

妙高「あら、今が太ってるみたいな言い方はやめて頂けません?」

提督「ははは、いや済まんね」
  「しかし…大きくなったなぁ…本当に大きくなったなぁ…」

妙高「……はい」

提督「……君たち四姉妹を引き取ってからの15年間、楽しかったなぁ」

妙高「……はい、父さん…私もです…」

提督「私の…掛け替えのない大切な家族…」

妙高「………はい……」

提督「…今まで楽しかったよ…本当に…ありがとう…」

妙高「…どうしてお別れみたいな事を言うんですか…」

提督「聞いてたんだろう?」

妙高「行かせませんよ…」

提督「妙高…」

妙高「あなたまで失ったら…私…」

提督「……すまん」
  「私にはこれ以外の手段が見つけられなかった…辛い思いをさせてしまうな…」

妙高「嘘よ…」

提督「……」

提督「聞いてほしい。私はな、この時が訪れたことがとても嬉しいんだ」

妙高「……」
提督「君たちを拾って…父親になってから、戦場で荒んだ俺の心は癒されたんだ」
  「お袋も親父も…女房も…みんな失った俺に家族の暖かさを思い出させてくれた…」
  「でも戦争が激化して、艦娘とかいう技術が生まれ、子供達は徴兵され俺はその指揮官になって……たくさんの子供を使い潰して……」
  「君たち…俺の娘までも……」
  「でもやっと、この時が来た。俺が…お前達を守ることができる……もう子供を使って戦わなくて済む……頼む、恩返しを…お前達を助けさせてくれ……」
  「もう誰も死なせないために…頼む…」

妙高「……うう…父さん…」
  「……嫌よ…もう一人は嫌なの…私を…私を一人にしないで…」

提督「…子はいずれ親離れをしなきゃならんという。だがまあ、逆も然りか…俺もお前と別れるのは嫌だ…」
  「…でもな、行かなきゃみんな死ぬんだ…」

妙高「…私も連れて行ってください…」

提督「…妙高」

妙高「私も父さんと一緒に…!」

提督「妙高!」

妙高「!」

提督「…………君の…小さな妹たちを…みんなを……頼む。皐月によろしくな…」

妙高「……うう…う………」

〜0045〜
-ドック-

早川「お待ちしておりました、司令官」

提督「やあ、少し遅くなってしまったかな」

班長「気になさらず。接続装置の調整も装甲船の燃料・弾薬も積み終わってますから、いつでも出れますよ」

提督「素晴らしい」

軍医「司令官殿…」

提督「あぁ、先生。来てくれたんですね」

軍医「今更かもしれませんが…本当に良いのですね」

提督「?接続装置何か問題でも?」

軍医「違う。子供達のことです」

提督「……」

軍医「…分かっているとは思いますが、あの子達は皆、あなたを心の支柱にして生きている。姉妹や友人を失ったその空洞を、あなたを想うことで無理矢理埋めているのです」
  「…そんな中であなたが戦死した場合…どういったことが起こる可能性があるか、分かってなお、行くのですね?」

提督「……はい。行きます」
  「……私はあの子達の心の平穏よりあの子達の生命を優先します。それがどれだけ残酷なことか分かっています…しかしあの子達はまだ若い。未来がある。こんな男を想って共倒れするより、自分たちの人生を……兵器としてではない、人間としての人生を。歩んでもらう方が何倍も良いに決まっている」

軍医「はぁ…説得は無駄なのは分かっていたよ…」

軍医「…これからはあなたの鎮守府の軍医としてではなく、旧友として話す」

提督「……」

軍医「お前が頑固なのは昔から変わらんな…それでもって面倒ごとは全部私に押し付ける」

提督「…すみませんね先輩、後は頼みます。子供達はあなたを慕っている。俺の代わりに、行き先が決まるまで面倒見てやって下さい」

軍医「馬鹿者が、一番厄介な問題を残して逝くつもりだったとはな!」

提督「…木曽の容態はどうですか?」

軍医「…目は覚まさないがな、安定している」

提督「そうですか…頼みます。皆を…」

軍医「全く。カウンセリングは専門外なんだがな。まあ、お前の頼みだ。最善を尽くすさ」

軍医「…………だから、安心して逝ってこい。子供達は必ず、皆幸せな家庭に届けてみせる」

提督「……ありがとうございます。書類は執務室の机の上にありますから」
  「…あと、妙高に…これを」

軍医「…あい分かった。お前の愛娘にきちんと渡しておくよ」

提督「…頼みます」

班長「お話のところ悪いですが、そろそろ時間ですよ」

提督「ああ、すまんね行こう」

軍医「(敬礼)」

提督「…さあ、出撃だ!」

〜0200〜
-鎮守府沖-

中居「そろそろ敵の防衛圏内に突入します!」

班長「よし。総員戦闘準備だ!司令官、接続しますよ」

提督「頼む」

バシュ ガシャン

提督「…うが…」

班長「…これであんたはこれと一体になった。着弾しようがしまいがもう戻れませんぜ」

提督「…ふふ、望むところ…君は最適な位置でのパージを。任せたぞ!」

班長「了解!さあお前ら、突入するぞ!」

中居「敵機二時の方向!早川ァ‼︎」

早川「了解!」

タタタタタタ…

中居「班長!魚雷一時の方向!」

班長「承知!回避する」

中居「敵艦接近重巡2!正面!」

島田「了解、砲撃を開始する」

ギギギ…ドォン…ドォン…

早川「グワ…」

中居「早川がやられた!敵機直上!」

班長「回避する!衛生兵!」

衛生兵「了解!」

ズドォン…

中居「右舷に被弾!」

班長「まだ行けるだろ!」

中居「敵艦…25!包囲されました!でもそろそろ発射地点です!」

班長「よし!司令官、行きますよ!」

提督「よし、出せ!」

提督「……エンジン熱走‼︎」

班長「切り離します!」

バキン

ゴォ……

班長「…よし行ったな。皆!離脱だ!脱出艇に乗り込め!」

班長「……」
島田「……班長!何してるんですか!早く乗って下さい!」
班長「やかましい!全員今射出したら的になるだろうが」
島田「どうするんですか」
班長「俺は船に残って可能な限り敵を引きつける。俺は最後に脱出する」
島田「しかし!」
班長「やかましい!早く乗れ!」
島田「いやちょっと待っ…」

バタン ガキン

班長「よし!」

島田「…!…………!」

班長「射出!」

バシュ バシュ バシュ バシュ

班長「……司令官…あんたにだけ良いカッコはさせませんよ…」
  「……オラァ‼︎かかって来いやァ‼︎」

-水中-

ゴォ……

提督「(確かに接続部分は痛いが、視界も操作も快適だ)」


提督「(ム、敵を魚雷か。回避)」

提督「(先には機雷原か…これは操作が必要なわけだ。爆雷の投下も激しい)」


提督「(目標地点まであと少し。しかし限界深度に近い)」

提督「(視界がボヤけてきた。頭も…痛い。しかし目標は…目前だ)」


  「(首筋が…焼けるように熱い。目はもう見えないが接続されたセンサーがあるため問題……は…ない……)」


  「(目標……だ……突入…開始…)」


  「(着………弾…まで……3……2……)

  「(………1……)」


  「(………俺……は………………)」




  「(……すま……なかった……妙……高……)」



ピカッ

-鎮守府・医務室-

木曽「………うぅ……ん」
  
  「…提督………」
  
  「……なんだ……夜明け……?」

  
  

  「…………きれい…」

〜5日後〜
-鎮守府-

軍医「………」

妙高「………」

軍医「…司令官…いや、親父さんのことは残念だったね。分かってやってくれ」

妙高「……はい」

軍医「彼からこれを預かっている。終戦のゴタゴタで君に渡せなかった」

カサ

妙高「…?」

軍医「読んでやってくれ」

妙高「……」

まず最初に君に謝っておきたい。

私は卑怯者だ。

結局自分だけ死に逃げする形になってしまった。責任から逃れ、一人だけ楽になろうとしてしまった。

許してくれとは思っていないが、伝えておきたかった。すまない。


事務的な話になるが、遺産の相続という形で、貯金と私たちがかつて過ごした家を君に渡したい。

養子縁組が必要ない子たちもいるだろうから、家を彼女らと共同生活できる場として使ってもらいたいのだ。

情のない文ですまない。

身勝手ではあるが、皆を頼んだ。
 

愛しき娘へ。父より。

妙高「………」

軍医「……だ、そうだ。今月にも君たちは兵役を解かれる。就職先や養子縁組の手続きは彼がが全部やっていた。学校の入学手続きまでもな。全く律儀な奴だ」

妙高「……ふふ」

軍医「…む?」

妙高「…ほんと…不器用な人…」

軍医「……遺言ならもっとそれらしいことを書けば良かったのに。愛情表現の苦手な奴だなぁ」

せんせー!

軍医「ん、年少組の子か?やあ、皐月。君か」

妙高「……」

妙高「(父さん……私たちはやっと前向きになれました…でも、あなたがいない…)」

妙高「(…私は…あなたと一緒に…あなたの娘として生きたかった…)」

皐月「どうしたの?妙高?」

妙高「ん?なんでもないわ」

皐月「そう…」

  「…司令官は……正しいことをしたよ……少なくともボクは……そう思いたい……」

  「……そう思わないと……辛いから…」

妙高「……ふふ」
  「…なぁんだ、分かってるんじゃない……」

皐月「…青い空がきれいだね」

妙高「そうね、本当に…」




~完~


何かと粗の目立つ内容になってしましましたが、一応完結はさせることができました。
分かりにくい所やら突っ込みどころも多々あるでしょうが、許してください。

蛇足になりますが、この後の話と補足。
妙高は軍から民営化された工業系企業でOLに、皐月は養子縁組のち故郷近くの中学校に。
黒潮と木曽は妙高と暮らしをしながら専門学校に。

整備班は皆生還しています。

今まで書いたもの

http://elephant.2chblog.jp/archives/52172953.html

http://elephant.2chblog.jp/archives/52173251.html

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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