盗賊と終わりの勇者 (132)


勇者とくれば

思い浮かべるのは魔王だろう。

数え切れない怪物を従えて、人の世を支配しようと目論む恐ろしき魔の王。

それに立ち向かうのは勇者、神に選ばれた人の子だ。

そこらの酒場でゴツい戦士と年寄り魔法使いを仲間にしたら、長い長い旅の始まりさ。

勇者は仲間と共に数々の困難を乗り越えて、旅を通して絆を深めてゆく。

まあ、話しによっちゃあ勇者が女だったり戦士が女だったり……

無口無骨な騎士が鎧を脱げば絶世の美女だったり……

高慢で世間知らずの魔法使いは素性を隠していたお姫様だったりもする。

勿論、全員が可愛らしく美しい。

そうでなけりゃあ誰も見ないからな。

勇者以外は女ってのも、今ではちっとも珍しい話じゃないんだぜ?


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ああ、そうそう

何と魔王が美女だったりもするんだぜ!? 果ては勇者と恋するときたもんだ!!

まったく、今時のは良く分からんね。理解に苦しむよ。

他には主人公が別の奴で、勇者が敵になったり憎まれ役になるやつもあったっけな。

中には勇者が魔王だった!なんてのもあるくらいだ。

ま、出尽くした今なら何でもありさ。 節操も何もあったもんじゃあない。


あぁ、悪い。話しが逸れたな……


勇者は苦難の果てに魔王の城に辿り着き、死闘の末に魔王を打ち倒す。

人の身でありながら強大な魔を討ち、世界に安寧と平和が訪れる。

中には悲劇的な結末を迎えるやつもあるみたいだがな。


まあ、大体こんな感じだな。

ただ、今回の勇者の物語はちょっとだけ違う。

いや、俺が知らないってだけで、こんな話は既にあるのかもしれない。

何百年、何千何万回と繰り返されてる演目だけに、こんな物語があってもおかしくないからな。

それはともかく

この劇場都市で、終わることのなかった勇者の物語は遂に終わりを迎える。

勇者が勇者を終わらせるべく、劇場都市に反発し、長い長い物語に終止符を打つのさ。

台本なんざ無視!勇者が脚本家に牙を剥く!

劇の為に死んでいった役者達の命を背負い、真の勇者が立ち上がる!



勇者は脚本家を打ち倒し

人々は台本から解放されて初めての自由を得る。

斯くして、劇場都市は幕を閉じる……



とまあ、今回の劇はそんな『シナリオ』さ。


>>>>

盗賊「ふ~ん、じゃあ此処はずっと演劇を続けてきた都市ってわけか」

盗賊「で、あんたもこのデカイ舞台の役者なのかい?」

マスター「いやいや、俺はただの酒場の店主だよ。正真正銘の一般人さ」

盗賊「今のもセリフってことはねえよな?」

盗賊「この劇場都市丸ごと使って劇をするなんて聞いた後じゃあ信用出来ないぜ?」

マスター「ま、そりゃあそだろうな……あぁ、ところであんた」

盗賊「ん?」

マスター「此処には何しに来たんだ? 劇を見に来ただけってわけじゃあなさそうだ」

盗賊「見に来たって言えば見に来たんだけどさ、他にも色々と目的があってね」

マスター「……何が狙いか分からんが気を付けた方がいいぞ」

マスター「この劇場都市でシナリオを乱そうとする奴は、人生という名の舞台から下ろされる」


盗賊「……なるほどね。憶えとくよ」

マスター「それともう一つ」

盗賊「何だい?」

マスター「劇は、既に始まってる」

バンッ!

盗賊「わっ!?」


勇者「悪名高き盗賊がいるのはこの酒場か!」


マスター「ほーら、おいでなすった」

盗賊「……はぁ、やっぱりあんたも役者だったのかよ。いい演技だったぜ」

マスター「そりゃどうも」ニコリ

盗賊「(既に演劇が始まってるってことは、今酒場に入って来たのが勇者役の役者か?)」

パチッ…

盗賊「(お~、こりゃ凄いな。照明が切り替わって夜になった。流石は劇場都市……)」


勇者「……そこか」

盗賊「(しかし、こんなに間近で主役の演技を見れるなんてツイてるな)」

勇者「………」ツカツカ

盗賊「(凄いな。視線の運び、歩き方から何まで計算してるみたいだ)」

勇者「おい」

盗賊「いきなり何だよ…って、えっ!?」

勇者「貴様が盗賊だな?」

盗賊「い、いやいやいや!! 確かにオレは盗賊だけど、あんたの捜してる盗賊じゃないぜ?」

勇者「嘘を吐くな!!」

盗賊「えぇ……」

勇者「金の為ならば命をも奪う極悪人め。私が成敗してやる!!」チャキ

盗賊「ちょっ、ちょっと待てよ!! あんたは何か勘違いして……」


勇者「問答無用!!」

ガキンッ…

盗賊「(あ、危ねえ……この剣、本物じゃねえか。リアリティの追求ってやつか?)」


>>お見事お見事!いやぁ、素晴らしいですなぁ!

>>これぞ迫真の演技、遠路はるばる来た甲斐がありましたよ

>>パチパチパチ…


盗賊「ったく危ねえなぁ、少しは聞く耳持てよ。つーか、何で拍手?」

勇者「……ちょっと」ボソッ

盗賊「ん?」

勇者「ん? じゃないわよ。次のセリフはあなたでしょ?」ボソッ


盗賊「だからオレは盗賊役じゃ……」

『シナリオを乱そうとする奴は、人生という舞台から下ろされる』

盗賊「……次はどうすりゃいい?」ボソッ

勇者「あなた、舞台に上がると頭が真っ白になるタイプね?」


>>おぉ、緊迫したシーンですな

>>睨み合い一つでも迫力がありますねえ


盗賊「いいから、早く教えろ」

勇者「(はぁ、こんな駄目役者が私の相棒だなんて……)」

盗賊「は・や・く・し・ろ」

勇者「ちょっと抵抗してから私にやられる」

勇者「それから悔い改めて人々の為に尽くすことを誓うの。分かった?」ボソッ

盗賊「……やられ役にして下僕ですか。ったく、散々な役だな」


勇者「分かった? それじゃあ行くわよ?」

盗賊「(まっ、なるようになんだろ)」

勇者「せいっ!!」グッ

盗賊「(競り合いからの蹴りか。これで吹っ飛べばいいのか?)」

ドガッ…ズダンッ…

盗賊「(……本気で蹴ってきやがった。芝居に手加減無しってわけか)」

勇者「盗賊、貴様はその短剣で幾つの命を奪ってきた!!」ヒュッ

盗賊「(危ねっ!!)」サッ

ガギィン…カランッ…

盗賊「(役者なのに動きは本物、おまけに剣も本物。何か妙な感じだ、動きが良すぎる)」


勇者「(セ・リ・フ)」

盗賊「(くっ、こうなりゃヤケだ。主役ならどうにかしてくれんだろ)」

盗賊「……オレは確かに許されない罪を犯した。しかし、全ては母の為だ」

勇者「(アドリブ!? こいつ……いいわ乗ってあげる)」

勇者「母の為に人を殺したと言うのか!! それが母の為になると!?」

盗賊「……母は重い病を患ってな。所謂、不治の病というやつさ……」

盗賊「女手一つ、苦労なんて一切見せずに育ててくれた。強く優しい母だった……」

勇者「……だった?」

盗賊「悪事に手を染めた報いってやつさ。母は……死んだよ……」


>>むぅ、彼も中々良い味を出していますな

>>ど、どうなるんでしょう

>>しっ…お静かに……


勇者「………」

盗賊「少しでも楽にしてやりたかった。だから金になることなら何でもやった!!」

盗賊「それが例え人殺しの依頼であってもだ!! オレは母を救いたかった!!」


>>母への愛か……

>>あの若さで母への想いをストレートに表現出来るのは素晴らしいですな


盗賊「(好評でなにより。つーか、母ちゃんかぁ……)」

勇者「(へえ、中々やるじゃないの)」

盗賊「殺せ、オレにはもう何もない。母の下へ送ってくれ」

勇者「……罪に塗れたその魂が母の下へ行けると思うのか?」

盗賊「ならどうすればいい。教えてくれ(本当に分かんねえから)」

勇者「この劇場都市には、劇と称して命を奪い続ける存在がいる」

盗賊「?」

勇者「悲劇を生むには仮初めの死ではなく本物の死が必要だ。命は終わりの時こそ一際輝く。などと言ってな……」

盗賊「………(これ、演技だよな?)」

勇者「私は劇場都市を終わらせる。劇の度に起きる真実の悲劇を終わらせる為にな」

勇者「……盗賊。母の下へ逝くのは降り掛かる悲劇から人々を救ってからにしろ」


盗賊「どういう意味だ……」

勇者「今のままでは確実に地獄行きだ。母に会いたければ私と共に来い」

勇者「貴様の犯した罪は消えないが、悔い改めることは出来る」

勇者「これからは奪うのではなく、救う為に生きろ」

盗賊「……分かった。オレの命は人々を救う為にあると誓おう」


>>おお、これは素晴らしい

>>まったくです、これを間近で見られたのは幸運ですよ

>>二人とも良い役者だ。暗がりながら表情が輝いて見える

>>互いに決意した瞬間というわけですね


盗賊「(はぁ、やっと一段落か。さっさと退場してえけど、そうもいかねえだろうな)」

勇者「……」ツカツカ

盗賊「?」

勇者「ここは二人とも無言で酒場を出るの。もしかして、まだあがってる? ほら、立って」ボソッ

盗賊「えっ……ああ、悪りぃな」スッ

勇者「(さっきのアドリブは大したものだけど、先が思いやられるわね)」


ギィィ…バタンッ


>>パチパチパチ……


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脚本家「……役者変更にアドリブか。まったく、好き勝手やってくれる」

脚本家「その分シナリオに沿っていると言えるが、これは少々やり過ぎだな」

脚本家「このシナリオでなければ消えてもらう所だが、彼の観客受けは実に良い」

脚本家「しばらくは好きに泳がせておいた方が此方も面白いというものだ」

ペラッ…

脚本家「ふむ、次は魔法使いとの出会いか……ん?」

ヒラリ…ヒラリ…

脚本家「これは……ふっ、はははっ!」

脚本家「これはいい、ますます面白くなりそうじゃないか!」







ーーー終わりなき

         勇者の物語り

ーーー神の脚本

         その結末

ーーー舞台の上より

         頂戴します


>>>>

勇者「……」ツカツカ

盗賊「(酒場を出てから一言もなし。今んとこセリフは必要ねえってことか)」

盗賊「(この後に何があるのか訊きたいとこだけど、そこら中に観客の目があるからなぁ……)」

勇者「………」

盗賊「(しかし、流石は勇者サマだな。歩く姿も堂々たるもんだ)」

盗賊「(視線が自分に集中してるってのに、気にする素振りなんて微塵も見せねえ)」

盗賊「(これが本物の役者ってやつか。いや、まあ、そのくらいじゃねえと劇場都市の主役に選ばれねえか)」

勇者「観客の目が邪魔だ。盗賊、裏道に入るぞ」

盗賊「ん? ああ、分かった(これもセリフか?)」


劇場都市のど真ん中、劇場大通り。

そこからわき道へ抜け、勇者はどんどん人気のない道を進んでいく。

いつの間にやら、ドーム型の天井は星のきらめく夜空へと変わっていた。

此処では朝も夜も取り替え放題。正に、演劇の為だけに生きる都市。


盗賊「(本当に人気がなくなってきたな。後を付けてた観客の姿もねえ)」

盗賊「(何だか解放された気分だ。しかしなぁ、まさかこんな形で舞台に立つとは思いもしなかったぜ)」


勇者「……」ピタッ

盗賊「?」

勇者「ふ~っ、やっと撒いたわね。さ、座りましょ?」

盗賊「え~っと、これは休憩?」

勇者「ま、そんなところね……」

盗賊「はぁ~、すっげえ疲れた」ストン

勇者「ねえ、一ついいかしら?」

盗賊「ど~ぞ」

勇者「あなた、役者じゃないでしょ?」

盗賊「最初に違うって言ったろ? 大体、こんな素人がオーディションに受かると思うのかい?」

勇者「……随分、あっさりと認めるのね」


盗賊「演技は下手なんだ。それに、一流の役者に嘘は通じないだろ?」

勇者「当たり前でしょ? あなた、顔はいいんだけど他はまるで駄目よ」

盗賊「は、はぁ……すいません」

勇者「酒場のアドリブは良かったけど、外に出た途端に気を抜いたでしょ?」

勇者「立ち姿もなってないし歩き方もなってない。丸っきり素人ね、素人」

盗賊「素人なりに頑張ったんですけどね……」

勇者「はぁ…あなた、夜間照明に助けられたようなものよ?」

勇者「歩いてる時もやたら観客の視線を気にして落ち着かない顔しているし」

盗賊「それは本業が盗賊だからさ、クセみたいなもんだよ」

勇者「盗賊? 本物の?」

盗賊「酒場でそう言っただろ? オレは盗賊だってさ」

勇者「……そう、そうだったのね。だから間違えたのね」


盗賊「ん?」

勇者「私、てっきり役に入りきってると思っていたのよ」

勇者「あなたが本物の盗賊だなんて知らずに、この人が『盗賊役』だってね」

勇者「本物がいたら勝てるわけないわ……盗賊役の人には申し訳ないことをしたわね」

盗賊「まあまあ、そんなに落ち込むなよ。過ぎたことを考えても仕方ないさ」

勇者「……はぁ、このミスがどれだけのことか分かってるの?」

盗賊「勿論分かってるさ。でも、オレには心強い味方がいる」

勇者「味方? 盗賊仲間ってことかしら?」

盗賊「違う違う、味方ってのはキミだよ」

勇者「私?」

盗賊「そう、オレには勇者サマがついてる。例えオレがド下手な演技をしようが、どんなヘマをしようが……」

盗賊「一流の役者が何とかしてくれる。そうだろ?」ニコッ

勇者「……何だか気分が悪くなってきたわ」

盗賊「はははっ、オレは大船……いや、豪華客船に乗ってる気分だけどな」

勇者「……私は泥船漕いでる気分よ」


盗賊「あのさ」

勇者「何よ? お金ならあげないわよ」

盗賊「そのつもりなら、もうとっくに盗んでるよ。聞きたいことがあるんだ」

勇者「何かしら」

盗賊「この劇の結末は勇者役の勝利、脚本家役の敗北なんだろ?」

勇者「……ええ、そうよ。あくまでも劇中での出来事だもの」

盗賊「オレはそれを本当にしたいんだけど、どうかな?」

勇者「!!」

盗賊「キミが酒場で叫んだセリフは演技なんかじゃない。あれは本心だ。違う?」

勇者「何を根拠にそんなことを……」

盗賊「さっき言ってたろ? 本物には勝てないってさ」


勇者「……ええ、言ったわね」

盗賊「あの時の表情は本物だった。芝居に関しちゃ素人だけど、それくらいは分かる」

勇者「………」

盗賊「答えたくないなら別にいい、オレがそうしたいだけだから」

勇者「あなた、一体何が目的なの……」

盗賊「う~ん、何だと思う?」

勇者「っ、ふざけないで! 真面目に答えなさい」

盗賊「物語に囚われ続ける終わりなき勇者……の、終わり」

勇者「……えっ?」

盗賊「オレの目的は囚われの勇者に自由を与えること……麗しき君の自由さ」


勇者「………」

盗賊「どうした?」

勇者「別に何でもないわ。よくもまあそんなセリフを言えるものだと思っただけよ」

勇者「ま、今の演技は良い線いってるんじゃないの? 素人にしては、だけどね」

盗賊「演技なんかじゃない、今のは本気だよ」

勇者「………」フイッ

盗賊「大体、女に戦わせるってのが気に入らないんだよなぁ」

盗賊「マスターの言ってた通り、最近の脚本家の考えることはさっぱり分かんねえ」

勇者「………」

盗賊「あ、ところでさ、これからどうするんだ?」

勇者「(こんなにも素直で正直な人が劇場都市にいるなんて、何とも皮肉な話ね)」

盗賊「お~い」

勇者「(この人は演技が下手なんじゃない。きっと、演技が出来ない人)」

勇者「(ねえ、みんな。この人になら話してもいいのかな……)」


盗賊「なあ、聞いてるか?」

勇者「えっ、ええ。なにかしら?」

盗賊「だから、これからどうするんだ?」

勇者「これから? えっと、この後は劇場大通りへ戻って魔法使いと会うことになってるわ」

盗賊「いいのか?」

勇者「えっ?」

盗賊「一緒に行っていいのか? オレは本物の盗賊なんだぜ?」

盗賊「それに、オレは目的を言ったけど、まだキミの気持ちを聞いてない」

勇者「……ごめんなさい。少し、考えさせて」

盗賊「あ~、そんな顔しないでくれ。話したいときに話してくれればいい。いきなり話せって方が無理だしさ」

盗賊「それにほら、誰にだって秘密はあるもんだろ? 女性なら特にね」

勇者「……あなたには? あなたに秘密はないの?」

盗賊「それは秘密で」ニコッ

勇者「(この笑みは何だろう。何の含みもない普通の笑顔なのに、何だか眩しく見える)」

勇者「(……ああ、そうか)」

勇者「(これは、私には出来ない笑顔なんだ。演技や作り物じゃない、本物の笑顔だから眩しく見えるんだ)」

盗賊「?」

勇者「(……彼を見ていると自分が勇者であることを、役者であることを忘れてしまいそうになる)」


盗賊「うっし。じゃあ休憩は終わりだな。行こうぜ」

勇者「待ちなさい。照明が夜から昼、朝へ変わる前に言っておくわ」

勇者「明るくなれば表情や仕草は誤魔化せなくなる。良くも悪くもあなたは目を引くから」

盗賊「えっ、急にそんなこと言われてもな……どうすりゃいい?」

勇者「別に? 何もしなくていいわ」

盗賊「は?」

勇者「あなたは自然体でいいの、下手に演じようとしない方がいいわ」

盗賊「えっ、何で?」

勇者「だって、あなたは本物でしょ?」

盗賊「……なるほど」

勇者「分かったのなら良いわ……盗賊、行くぞ」

盗賊「は、はい(一瞬で雰囲気が変わった。役者って凄えな)」


※※※※

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ーー夢見る貴方の劇場都市より抜粋


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勇者「警戒を怠るな。姿はなくとも、脚本家は常に我々を見ている」

盗賊「ああ……(さっきとはまるで違う。軽々しく話そうものなら何されるか分かんねえな)」


>>おっ、出てきたぞ!

>>あれが勇者か。何と美しく、何と凛々しい

>>とっても綺麗。私もあんな風になりたいな……

>>きゃー、盗賊さ~ん!こっち見て~!

>>騒々しい、顔でしか判断出来んのか。これだから女の客は……

>>おや、盗賊の彼、観客である我々にも警戒しているようですね

>>ええ、あの目が素敵なのよ。彼の演技はとっても新鮮だわ


盗賊「(なるほどね、自然体でいいってのはこういうことか)」

勇者「盗賊、あれを見ろ」

盗賊「?」

勇者「この延々と続く劇場大通りの先だ。あそこに塔があるのが分かるか?」


盗賊「……ああ、薄ぼんやりとだけど見える」

勇者「あれは神の塔と呼ばれている」

盗賊「神の塔……」

勇者「この劇場都市では脚本家が神と言っても過言ではない」

勇者「紡がれる物語の創造主にして、この都市の破壊者でもある」

盗賊「破壊者?」

勇者「奴は劇の為に命を奪い、都市をも破壊する。奴こそが私の、勇者の打ち倒すべき最大の敵なのだ」

盗賊「……それは本気なのか?」

勇者「ああ、私は奴を討つ。奴がいる限り、勇者の物語は終わらない」

勇者「これまで劇中で失われた数多の命、奴の演出した悲劇……それら全てを、私が終わらせる!」


>>長年見てきたが、今までの勇者役とは格が違うな

>>これは歴史に残るシーンかもしれん

>>は~、いやはや、これは凄い。声が出ませんでしたよ

>>異色作って言うから悩んでいたんだが、見に来て正解だったな……


盗賊「(今のセリフがさっきの答えってことでいいのか? それとも、ただのセリフなのか?)」

ザッザッ…

盗賊「なあ、あいつは誰だ? こっちに来るぜ?」ボソッ

勇者「きっと魔法使いよ、痺れを切らして来ちゃったみたいね」ボソッ

魔法使い「やあ、遅いから迎えに来たよ。おや、彼は誰かな?」

勇者「彼は盗賊。きっと頼りになるだろう」

魔法使い「へえ、盗賊……盗賊だって!? 金の為なら命を奪う人殺し!大悪党じゃないか!!」

盗賊「(ひでえ言われようだな……まっ、ここは勇者サマに任せるか)」

勇者「彼はこの都市の人々を救うと誓った。問題はない」

魔法使い「そんな安い誓いがあるものか、信用出来るはずがない!」

魔法使い「勇者、考え直すんだ。いつ背中を刺されるか分かったもんじゃない」


>>なにアイツ、盗賊様に向かって……

>>まあ、当然の流れだな

>>盗賊か、確かにいけ好かない奴だ

>>男の嫉妬は醜いわよ

>>けっ、うるせえ。あんなの顔がいいだけじゃねえか


勇者「私は彼を信じる。魔法使い、彼を信じた私を信じてくれ」

魔法使い「悪と手を組むとは、何と愚かな……」

勇者「私のことも信用出来ないと言うのか? ならばどうする?」

魔法使い「簡単なことだよ」ガチャ

盗賊「勇者、下がれ!!」

勇者「っ!!」

ゴウッ…ボォォォッ!

盗賊「……何しやがる」

魔法使い「あら、避けられちゃったか。今の魔法で二人とも燃やすつもりだったんだけどな……」

盗賊「何が魔法だ。火炎放射器じゃねえか」

魔法使い「やれやれ。この劇場都市でそんな夢のないこと言わないでくれるかな」

勇者「魔法使い、まさか……」

魔法使い「想像通りだよ。脚本家がもっと盛り上げたいらしくてね。シナリオ変更というやつだ」

魔法使い「私としても、こんな見せ場を貰えたのはラッキーだ。ここから先は即興だがね」


盗賊「……なあ、これもシナリオの内か?」

勇者「いえ、こんなの知らないわ」

魔法使い「さて、観客も沢山いることだ。待っているようだし、そろそろ始めよう」ガチャ

勇者「……魔法使い、止めろ。今なら間に合う」

魔法使い「断る。やっとのことで掴み取った役だ。今更手放すわけにはいかない」

魔法使い「そして、裏切り者とは悲劇を起こす存在。例え、やられ役だとしてもね……」


>>お、おい、こっちに向けてるぞ?

>>演出だろ?


勇者「止めろっ!!」

魔法使い「煩いな。これは私の見せ場なんだ、邪魔をしないでくれないか?」

盗賊「っ、おい、何見てんだ!さっさと逃げろ!」


>>これも演出なんでしょ?

>>少し離れれば大丈夫だろ

>>おぉ、熱気がここまで伝わってくる

>>凄い迫力だな、持つのも大変そうだ……


魔法使い「……燃えろ」

勇者「よせっ、止めるんだ!!」

魔法使い「全ては劇だ。痛みも悲しみも、その全ては現実だがね」ガチャッ

トントン…

魔法使い「!!」ビクッ

盗賊「ちょっと落ち着けよ。役者が観客を殺すなんてちっとも笑えないぜ?」

魔法使い「(こいつ、いつの間に……)」

盗賊「それにオレは、悲劇を止めると誓ったんでね。麗しき勇者様に」

勇者「……盗賊…」

魔法使い「っ、燃えろ!!」

ゴウッッ…ボォォォッ!

勇者「盗賊っ!!」

魔法使い「はははっ、燃えろ燃えろ!骨まで燃えろ!」

勇者「……魔法使い、貴様っ!!」ダッ

魔法使い「おっと、それ以上近付くなよ」ガチャ

勇者「くっ…」

魔法使い「剣で魔法に勝てるとでも思っているのか? 短慮で愚かな奴だ」

コツンッ!

魔法使い「だ、誰だ!?」

盗賊「オレだよ。そんな炎じゃちっとも燃えやしないぜ。火葬するには火力が足りないんじゃないか?」


魔法使い「何処だ!?」

盗賊「さて、どこでしょう?」


>>きゃ~、盗賊さま~!

>>ふぅ、本当に燃えちゃったのかと思った

>>彼はスタントも出来るのか、凄いな……


魔法使い「ど、どこに……」

盗賊「ここだよ、放火魔法使い」


>>おいっ、あそこだ。パン屋の屋根の上!

>>あの一瞬でどうやって……

>>あんな役者はこれまで見たことがないな


魔法使い「私は放火魔じゃない! 魔法使いだ!!」

盗賊「はははっ、そっかそっか。なら、これ使えよ」ポイッ

魔法使い「……箒?」

盗賊「どうした? さっさと来いよ、魔法使いなら箒に跨がって空飛べんだろ?」


魔法使い「馬鹿にするな!!」ボキッ

盗賊「どうした魔法使い、顔が真っ赤だぜ? 顔から火を噴くつもりか?」

魔法使い「っ!!」


>>あっという間に彼のペースだな

>>さっきまでの雰囲気が嘘みたい……


魔法使い「なら、最大火力で燃やしてやる」

勇者「いつまで下らない会話を続けるつもりだ?」

魔法使い「しまっ…」

勇者「まさか主役の存在を忘れたわけではないだろうな?」

ザンッ!

魔法使い「がはっ…」ガクン

勇者「舞台から下りろ。然もなくば……殺す」

魔法使い「……私は役者だぞ。舞台を下りるくらいなら、死を選ぶ……」カチッ

勇者「っ、自爆するつもり!?」

ズダンッ!

盗賊「幾ら何でもやり過ぎだ。あんまりシナリオ乱すと舞台から下ろされるぜ?」ガシッ

魔法使い「!?」

盗賊「すぐ戻るから待っててくれ」グイッ

勇者「あれはワイヤーロープ? ちょっと待って、何を……」

盗賊「大丈夫さ、悲劇は起こらない」

勇者「えっ…」

ギュララララ…

盗賊「お~、凄え勢いだな。まるで飛んでるみたいだ」

魔法使い「……どうするつもりだ」

盗賊「彼女、劇の度に生まれる悲劇はもう沢山なんだってさ」

魔法使い「……私は役者だ。舞台の上で死ねるなら本望だ。離してくれ」


盗賊「嫌だね」

魔法使い「このままではお前も死ぬぞ」

盗賊「あんたは生きたくないのか?」

盗賊「こんな劇が最後の舞台でいいのか?それがあんたの本望だってのか?」

魔法使い「………」

盗賊「舞台なんて世界中にあるんだ、あんたは自分で舞台を狭くしてるだけさ」

盗賊「あんたならきっとなれるよ。今の魔法使いよりもずっと素敵な魔法使いに」

魔法使い「!!」

盗賊「さあどうする? 背中の燃料と腕の噴射機、あんたが外せば生きられるぜ?」


ドガンッ!


>>な、何だ?爆発!?

>>あいつ、本当に自爆するつもりだったのか?

>>ま、まさか、これも演出だろ?

>>いや、こんな危険な演出はあるはずがない

>>じ、じゃあさっきのは全部本当だったってことか?

>>では彼は? 彼はどうなった? まさか我々を助ける為に……


ズダンッ!


盗賊「皆様方、花火はお気に召しましたか?」ニコッ


>>キャーッ!!

>>ワアァァァッ!!

>>いいぞー!!


勇者「はぁ……まったく、シナリオなんてとっくに滅茶苦茶じゃない……」


>>パチパチパチ!!!

盗賊「ふ~っ、何とかなったな」

勇者「そうね、もう誰が主役か分かったもんじゃないわ」

盗賊「怒ってる?」

勇者「……怒ってなんかないわよ。ただ悔しいだけ」

盗賊「悔しい? 何で?」

勇者「この都市に響き渡る拍手を一身に受けるあなたが羨ましいの!」

盗賊「ははっ、そりゃ悪いことしたな。でも、今なら大声で話してもバレねえし良かったろ?」

勇者「まあ、そうね。でも私、舞台の上でこんな風に話したのは初めてだわ。台詞じゃなくて、自分の言葉で……」

盗賊「………」

勇者「もしかしたら、観客の皆がこんなに喜んでいるのも初めてかもしれない」

盗賊「いやいや、それは流石に言い過ぎだろ」

勇者「本当よ? きっと、観客の皆はこれが見たかったのね……」


盗賊「見たかったって何を?」

勇者「作られた物語や演劇なんかじゃなくて、人間が生み出す本物の感動や驚きよ」

盗賊「演劇に飽きてるってことか?」

勇者「そう、皆はもう偽物では満足出来ないのよ。皆は気付いてないでしょうけどね」


>>パチパチパチ!!!

>>ワアアァァァッッ!!


勇者「この拍手と熱狂を見れば一目瞭然よ」

盗賊「へえ、オレには楽しんでるようにしか見えないけどな」

勇者「はぁ……今更だけど言っておくわ」

盗賊「なに?」

勇者「素人のくせに目立ち過ぎ、あなたの所為でシナリオはめちゃくちゃよ」

盗賊「う~ん、もういいんじゃないかな?」

勇者「えっ?」

盗賊「だって勇者の……いや、キミの物語はそういうシナリオだろ?」


勇者「それはそうだけど……まあいいわ……」

勇者「それより魔法使いはどうしたのよ? 派手に爆発してたけど彼は無事なの?」

盗賊「勿論、今頃は劇場都市を出て新しい舞台を捜してるはずさ」

勇者「……そう、良かった。じゃあ私達も行きましょう。今なら群衆に紛れて身を隠せるわ」

勇者「それに、あなたに話しておきたいこともあるから……」

盗賊「……分かった。じゃあ行こうぜ」


>>飲め飲め!

>>踊れ踊れ!


盗賊「凄い盛り上がりだな。これじゃあ、まるで祭りだ」

勇者「私達なんて要らないみたいね。あれだけ騒いでるんだもの」

盗賊「何言ってんだよ、キミ主役だろ?」

勇者「ふふっ、そうね。そうだったわね……ねえ……」

盗賊「うん?」

勇者「……花火、綺麗だった」

盗賊「また見せてやるよ。次はあんな危なっかしいやつじゃなくて、安心して見られる綺麗なやつをさ」

勇者「……ありがとう、楽しみに待ってるわ」

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街灯もない裏道の裏道を進む。

劇場大通りの熱気と歓声も、此処にはほんの囁き程度にしか届いてこない。

奥へ奥へと進むうちに音は追って来られなくなり、あるのは靴音のみだ。

音も光も遠いこの場所にあっても、劇場都市の織りなす偽物の星空は異様な輝きを放っている。

星明かりは勇者の存在をより一層際立たせ、闇に紛れていた盗賊の存在を浮き彫りにした。

さらさらと揺れる勇者の金色の髪は、角度によって様々な輝きを見せた。

その輝きを前に、作られた星空は心なしか悔しそうにしているようだった。

やがて、星空は涙した。

この涙は、観客の熱気を冷ます為に脚本家が流ささせたのかもしれない。

雨音は次第に激しさを増していき、今にも劇場都市を包み込もうとしている。

遂には熱気も歓声も歌声も、裏道に響いていた二人の靴音さえも掻き消した。


星空も突然姿を眩ませ、代わりに暗闇が現れた。

変幻自在の劇場都市が作り出す、偽りの暗闇。

ふと勇者は立ち止まり、古ぼけた家を指した。

どうやら此処が目的地だったらしい。

当然明かりはなく、家の中は暗闇。

盗賊の眼が暗闇に慣れた時、勇者は既に暖炉の火を灯していた。

おそらく、古くからこの場所を知っているのだろう。

何処に何があるのかを把握していなければ出来ない、そんな所作だった。

外観こそ古いものの内装などは比較的新しく、家具に埃もない。

勇者は盗賊を気にする素振りも見せず服を脱ぎ、着替えを始めた。

盗賊も大して驚くこともなく、渡されたタオルで髪を乾かす。

二人は無言のまま暖炉の前に座り、そっと身を寄せ合った。しばしの沈黙ののち、勇者が語り始めた。


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パチッ…パチパチッ

勇者「今は裏道だけど、昔はこの辺りにも沢山の人が住んでたの」

勇者「けど、劇の為に燃やされたわ。随分昔のことだけど今でも憶えてる……」

勇者「勇者は助けてくれなかった。助けようとさえしなかったわ」

勇者「燃え盛る炎と、焼け落ちていく家を見つめてただけだった」

勇者「膝を突いて、顔を伏せながら『済まない』なんてぽつぽつと呟くだけ……」

盗賊「……それも、演出なのか」

勇者「ええ、勿論演出よ。観客はその『シーン』で泣いていたわ。私とは違う色の涙を流しながらね」

勇者「おかしいでしょ? 目の前で人が死んでるのに感動しているのよ?」

勇者「観客にとっては私達の涙も、泣き叫ぶ声も、演出の一つに過ぎなかったんでしょうね」

盗賊「………」

勇者「……私達は何も知らされてなかったわ。当然よね? 知らされていたら逃げるもの」

勇者「此処に住んでいた人達は、勇者の悲しみを演出する為だけに家族を失った。大勢が死んだわ」

勇者「きっと、私の他にも沢山いるでしょうね。感動を生み出す為に犠牲になった人達が……」

勇者「でも、誰も劇場都市から出ようとしない。夢から醒めようとしないのよ」


勇者「皆、夢を見てるのよ……」

勇者「全ては現実で起きているの出来事なのに、夢の中に生きてると錯覚してる」

勇者「自由を望んでいる人なんて、本当はいないのかもしれない」

勇者「そもそも劇場都市に疑問を持ってる人がいるかどうかも分からない」

勇者「寝心地の良い、夢見る都で、私だけがおかしいのかもしれないわね……」

盗賊「……何で勇者に?」

勇者「復讐よ。私を、私達をこんな目に合わせた脚本家にこの剣を突き立ててやるの」

勇者「私はその為に生きてきたわ。だから演技も剣術稽古も頑張れた。つらくても堪えられた」

勇者「……この『終わりの勇者』は、私にとって復讐を果たす絶好の機会だった」

勇者「あの時は必死だったわ」

勇者「厳しいオークションを何度も勝ち抜いて、やっとの思いで勇者役を掴んだの」

盗賊「……役者のことは把握してるはずだ。脚本家はキミの身元を調査しなかったのか?」

勇者「勿論知ってるでしょうね。それを分かった上で、脚本家は私を選んだのよ」


勇者「皆、夢を見てるのよ……」

勇者「全ては現実で起きているの出来事なのに、夢の中に生きてると錯覚してる」

勇者「自由を望んでいる人なんて、本当はいないのかもしれない」

勇者「そもそも劇場都市に疑問を持ってる人がいるかどうかも分からない」

勇者「寝心地の良い、夢見る都で、私だけがおかしいのかもしれないわね……」

盗賊「……何で勇者に?」

勇者「復讐よ。私を、私達をこんな目に合わせた脚本家にこの剣を突き立ててやるの」

勇者「私はその為に生きてきたわ。だから演技も剣術稽古も頑張れた。つらくても堪えられた」

勇者「……この『終わりの勇者』は、私にとって復讐を果たす絶好の機会だった」

勇者「あの時は必死だったわ」

勇者「厳しいオーディションを何度も勝ち抜いて、やっとの思いで勇者役を掴んだの」

盗賊「……役者のことは把握してるはずだ。脚本家はキミの身元を調査しなかったのか?」

勇者「勿論知ってるでしょうね。それを分かった上で、脚本家は私を選んだのよ」


盗賊「何で、そんなことを……」

勇者「全ては演劇を成功させる為よ」

勇者「今回のテーマは劇場都市への復讐。恨みを抱く私が演じた方がリアリティがあるから……ね?」ニコッ

盗賊「無理して笑わなくていい。そんな笑顔は心を痛めるだけだ」

勇者「……あなたには私が見えるのね。これまで、誰にも見透かされたことなんてなかったのに……」

ギュッ…

勇者「……離して。このままだと、私……」

盗賊「泣きたい時は泣いけばいい。此処に観客はいない、勇者を演じる必要なんてないんだ」

勇者「……無理よ。今更、自分なんて取り戻せない」

盗賊「そんなことないさ。だから、復讐の為だけに生きてきたなんて寂しいこと言うな」

勇者「っ、それ以外に何があるって言うのよ!? 勇者が終われば、私も終わるわ……」

盗賊「違う。勇者の終わりがキミの始まりになるんだ。キミの終わりなんて、オレは認めない」

勇者「フフッ、何よ、それ……何も、何も知らないくせにっ……あなたって本当に……グスッ…」

ギュッ…

盗賊「泣き顔は、誰にも見られたくないだろ?」

勇者「…………バカ」

パチッ…パチパチッ

盗賊「この雨が止んだら塔に行こう。脚本家が何かを仕掛けてくる前に」

勇者「……そうね。きっと、私達を捜しているわ」


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『これ以上の遅延は許されない!一刻も早く捜し出せ!』

この声は脚本家か、相変わらず騒がしい男だ。

脚本家という役を与えられたに過ぎない空虚な存在が、今やこの都市の神を気取っている。

役に呑まれたか、役に酔っているのか。どちらにせよ、虚しくも滑稽な男だ。

『この雨が止んだら塔に行こう。脚本家が何かを仕掛けてくる前に』

『……そうね。きっと、私達を捜しているわ』

ああ、スサナ。この雨音も、彼女と聴いた音色の一つだったね。

雨宿りしたのは何処だったろう?

あの時は確か、空き家に忍び入って暖をとったのではなかっただろうか。

暖炉の前で寄り添い、互いの夢を語る内に、瞬く間に夜が明けた。

『……あなたは、何で盗賊になったの?』

『この世界が輝くに満ちてるから、かな』

『フフッ、何それ』

『上手く言えないけど、それに触れたいんだ。触れ得ぬものに、その輝きに……』

『……雲を掴むような話ね。でも、そんなものがあるなら、私も触れてみたいわ』

そう、ちょうど、今の彼等と同じように……


記憶とは何と残酷な存在だろうか。

瞼を閉じれば彼女の笑顔が浮かび、耳を澄ませば笑い声さえも容易く再生される。

彼女は誰よりも自由で、世界に愛されているような女性だった。

しかし、彼女は世界から消えた。以来、私は動けなくなってしまった。

涙など一晩で涸れ果てた。

何度恨み言を吐いただろう。何度世界を呪っただろう。

あの日以降、私の時は動いていない。

今でも疑問なのは、自ら命を断たなかったことだ。

私が取った行動は、彼女を捜すというものだった。

彼女なら、ひょっこり現れてもおかしくないと思えたからだ。

狂ったわけでも何でもなく、本当にそう信じていた。

当然だが、彼女を見付けることは叶わなかった。そしてある時、私は一つの結論に行き着いた。


進めぬのなら、戻れぬのなら、繰り返せば良いのだ。

輝かしいあの日々を、彼女との日々を、何度も何度も繰り返せば良いのだ。

私はその為に舞台を作り上げ、彼女の為に脚本を描き続けた。

在りし日の彼女をレコードのように、繰り返し繰り返し再生する為に……

そんなことを続けている内に、此処は劇場都市と呼ばれるようになっていた。

この都市は彼女の夢を見る為だけに作ったというのに、人々は私の夢に群がってきた。

こうして此処は、戻ることも進むこともない、夢を見続ける都市となった。

それ以降も、私は脚本を書き続けた。

彼女を主人公に、数多くの作品を作り出した。

役者が男であっても、似通った部分が一つでもあれば採用し、主人公にした。

それが勇者、名は一つでありながら無限の物語に生きる存在。

触れ得ぬ虚像であっても、その内側に彼女の姿を垣間見られるのならばそれでいい。


それで十分だ。そう思っていた。諦めていた。

『ねえ』

『…すぅ…すぅ……』

『寝てる……緊張感の欠片もないわね。ふふっ、まあいいわ。暫くは止みそうにないし』

だというのに、彼女は蘇った。あの頃のままの姿で劇場都市に蘇った。

彼女が彼女ではないことは分かっているが、私にとっては、紛れもなく彼女そのものだった。

彼女の現れと共に、長らく止まっていた時は動き出し、私はペンを走らせた。

こうして完成したのが、終わりの勇者だ。

以前から構想はあったが、最後にしようと決めていた物語。やるはずのなかった演目だ。

私は劇の為に悲劇を生み出し、命さえも感動の材料にした悪党だ。

悪は裁かれなければならない。そして、私を裁くのは彼女以外に有り得ない。

私の作り出した最後の勇者が、私を裁くのだ。

そうすることで彼女は勇者から解放され、私は彼女の手によって解放される。

夢に生きる憐れな夢遊病者の目覚め。

それこそが私の結末、この都市の終焉に相応しい。

私はやっと、彼女の下へと逝ける。

他ならぬ、彼女の手によって……

あの小僧にも、小賢しい脚本家にも、この結末だけは絶対に変えさせはしない。

如何なる物語にも、終わりはあるのだ。


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勇者の衣装と盗賊の服が乾いた頃

あれだけ激しく降っていた勇者の涙も、何者かによって操作されていた星の涙も止んでいた。

劇場都市の熱気はすっかり冷めて、本物の静けさが訪れていた。

しかし、この都市でただ一人、勇者の熱だけは冷めることはなかった。

二人は暖炉の前で寄り添い、寝転んだまま。

盗賊はと言うと、勇者を抱き締めながら眠ってしまったようだ。

その腕の中で勇者は顔を赤らめ、時折上目で、ちらりちらりと盗賊の寝顔を覗き込んでいた。

子供のように無邪気で、吹き抜ける風のように自由で、空を漂う雲のように掴み所のない男。

演技の何たるかも知らないというのに、観客の心を一瞬で鷲掴みにした素人。

更には燃え上がる復讐心を和らげ、長らく閉ざしていた心にするりと入り込んできた。

「……きっと、女性の扱いを心得ているのね。もしかして女誑し?」

「…すぅ…すぅ……」

「これも寝たふりとかじゃないでしょうね?」

じっと見つめる内に彼女の方が耐えきれなくなったのか、再び彼の胸に顔を埋める。

胸の内はとても穏やかなのに、心音は高鳴るばかりで落ち着きがない。


けれど、彼女にはそれが嬉しかった。

それが何なのか理解した瞬間に身体が驚いただけで、心は喜んで受け入れている。

勇者である内は恋心が芽生えることなどないだろう。彼女はそう考えていた。

しかし結果はどうだ。こんなにも心を動かされ、緊張と動揺で身動きを取れずにいる。

そして気付けば、誰よりも自分の中心に近い場所にいる。無防備な寝姿を晒して。

「警戒心ってものがないのかしら」

しかし、喜びと同様に寂しさもあった。

彼の寝顔も、抱き締めて離さない腕も、いつかは離れてしまうだろう。

この劇が終えた時、彼はきっと遠い遠い場所へと飛び立つだろう。

自由な翼で何処までも何処までも、気の向くままに羽ばたいていくのだろう。


そう考えると、彼女の胸は酷く痛んだ。

彼と共にいられるのは今この時だけなのだと、彼女は直感的に理解していた。

「お願い、何処へも行かないで……」

これは彼女にとって一度も経験したことのない、人生という舞台において初めてのシーン。

それはぎこちなく、初々しく、愛らしさに満ち溢れていた。

彼女は彼の寝顔に優しく微笑んで、頬と唇に、そっとくちづけた。

すると、彼の瞼がぴくりと動いた。どうやら彼女のくちづけで目覚めたようだ。

彼女は悟られぬように素早く動き、顔を伏せた。

「ん、あれっ?」

「やっと起きたわね」

幸いにも気付かれてはいないようで、彼女はほっと胸を撫で下ろし平静を装った。

「……これってさ、本物の朝?」

「そうみたいね。本物の朝日なんて久し振りに見た気がするわ」

いつの間にか夜は退場していて、窓から差し込む眩い光が二人を照らしていた。


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盗賊「……寝てた?」

勇者「ええ、気持ち良さそうに寝てたわ」

盗賊「ん~っ、いい朝だ。涙の雨も止んだみたいだな」

勇者「バカ言ってないで起きなさい。面倒なことになる前に塔へ行くんでしょ?」

盗賊「あ、そうだったな。ん~っ!」ノビー

盗賊「うっしゃ、で? また大通りに戻ってから塔へ行くのか?」

勇者「ええ、敢えてシナリオ通りにね」

盗賊「なるほどね。でも、大丈夫なのか?」

勇者「何が起きるか分からないのは何処を通っても同じよ」

勇者「迂回して行くことも考えてみたけど、大通りの方が比較的安全だと思うわ」


盗賊「あ~、観客がいるから?」

勇者「そう。でも、魔法使いの件もあるから絶対に安全だとは言えないわね」

盗賊「観客にまで危険が及ぶ可能性があるな」

勇者「そうなってもおかしくないと思う。大体、劇の途中でシナリオ変更なんて初めてだもの」

盗賊「……まっ、なるようになるさ。何が出て来ても勇者は進む、そうだろ?」

勇者「ふふっ、そうね」

盗賊「……へ~」

勇者「な、なによ? じっと見て」

盗賊「いや、そっち方がいいと思ってさ」

勇者「?」

盗賊「昨日の寂しい笑顔より、今の方がずっと良い。演技も凄えけどさ、普通に笑った方がいいんじゃないか?」

勇者「っ、バカ!もう目は覚めたでしょ! さっさと行くわよ!」


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盗賊「あれ、人が少ないな。つーか劇場大通りってこんなに広かったのか……」

勇者「広く感じるのも無理ないわね」

勇者「昨日は通りを埋め尽くすくらいの大入りだったし、本当に凄い盛り上がりだったもの」

盗賊「それにしても少ないな。二日酔い?」

勇者「そうかもしれないわね。昨日は誰かさんのお陰でかなり盛り上がってたから」

盗賊「だとしたらちょっとマズいんじゃねえか? こんなにがら空きなら、どこから何が出て来てもおかしくないぜ?」

勇者「そんなに心配しなくても大丈夫よ。観客ならすぐに集まるから」

盗賊「……通りを見る限り、そんな気配はないけどな」

勇者「ま、すぐに分かるわ。取り敢えず進みましょ? このまま止まっていても始まらないわ」

盗賊「そうだな。あっ、そうだ」

勇者「?」

盗賊「歩きながらで良いからさ、この先のシナリオを教えてくれないかな」

勇者「えっ? それは別に構わないけど、何の役にも立たないと思うわよ?」

勇者「私が盗賊役を間違えた時から、シナリオは大幅に変更されているだろうし」

盗賊「あ、そっか。じゃあ、他の登場人物は? 仲間は盗賊と魔法使いだけ?」


勇者「他にもいたわよ?」

勇者「勇者と同じ境遇にある荒くれ者の戦士とか、荒んだ戦士を支える幼馴染みの僧侶とかね」

盗賊「同じ境遇……」

勇者「あっ、違う違う。あくまで、そういう設定ってだけよ」

盗賊「……設定ね。でも、そうなると結構長い話になりそうだな」

勇者「それはそうよ」

勇者「各自に見せ場を作らないと面白味に欠けるし、登場人物を掘り下げないと愛着も何も湧かないでしょ?」

盗賊「なるほど、ちなみに戦士と僧侶はどうなる予定だったんだ?」

勇者「戦士は脚本家を前に冷静さを失って、私の制止を振り切って斬り掛かる。で、脚本家が隠し持っていた銃で撃たれるの」

勇者「盗賊が脚本家にナイフを投げようとするけど間に合わず、戦士に止めの一発が放たれるんだけど……」

盗賊「僧侶が身を挺して戦士を守る」

勇者「半分正解。僧侶は戦士に想いを伝えて、結構長い間喋った後に息絶えるの」


盗賊「で、観客は号泣?」

勇者「そういう予定だったんじゃない?」

勇者「脚本家と対決する前に二人の擦れ違いとか色々なやり取りがあるから、観客には受けたんじゃないかしら」

盗賊「へ~、じゃあ盗賊は?」

勇者「最後の最後に金に目を眩ませて裏切って、怒りの頂点に達した私に斬られて退場」

盗賊「……ろくでもない役だな。この劇の盗賊って悪役なのか?」

勇者「そうね。実は最初から脚本家と繋がってて、勇者一行の情報を流して金を貰ってたって感じだったわ」

盗賊「うわぁ、そんなのやりたくねえなぁ。観客に何されるか分かったもんじゃない」

勇者「そういう役も必要なのよ。決して好かれはしないでしょうけど記憶には残る」

盗賊「そりゃあそうだろうけど、そんな役は御免被るよ。出来れば目立ちたいし」

勇者「目立ってたじゃない。あんなにも熱狂させた役者なんて数えるくらいしかいないわよ?」

盗賊「へ~、そいつは光栄だな。役者になりたい奴の気持ちが分かった気がするよ」

勇者「あなたはそのままだから良いのよ。あなたが役者だったら、ああはならなかったでしょうね」


盗賊「そうかな?」

勇者「そうよ。あなたが本物だからこそ、観客はあんなにも熱狂したんだと思うわ」

盗賊「ふ~ん。よく分かんねえけど、そんなもんなのかな」

勇者「ふふっ、そんなものよ。誰かを演じるということは、その人物になりきること」

勇者「でも、どんなに研究してどんなに稽古しても、違う人物になるなんて不可能なのよ」

勇者「本物であるあなたにはそれが必要なかった。観客の皆はそこに魅せられたんだと思う」

勇者「本物の輝きってやつにね」

盗賊「本物か……」

勇者「どうしたの?」

盗賊「……勇者は? 勇者はどうなるんだ?」

勇者「私? 私は脚本家を倒した後に……」

>>観客の皆様、大変長らくお待たせ致しました。

>>ただ今より第二部が開幕します。場所は劇場大通り。劇場大通り。

>>急がず、焦らず、慌てずに行動して下さい。

>>演劇の妨げになる行為、役者への接触は厳禁です。

>>報告、注意喚起は以上です。

>>観客の皆様、引き続き、終わりの勇者をお楽しみ下さい。


>>おっ、いたいた。早起きした甲斐があったぜ。

>>いや~、昨日は凄い盛り上がりだったな!

>>今日は昨日以上に盛り上がるぞ。何たって最終日だからな。

>>いや~、どんな結末になるのか楽しみですな。

>>ええ、これまでとは毛色の違う物語ですからね。予想も付きませんよ。

>>勇者様~! 頑張って~!

>>ちょっと、もっと前に行きなさいよ!彼の顔が見えないじゃない!


盗賊「……こいつは凄いな。あっと言う間に観客が集まって来た」

勇者「ね、だから言ったでしょ?」

盗賊「さっき言ってたのはこういうことだったのか。しかし、今更だけど本当に凄い設備だな」

盗賊「空を映し出す天井のパネル、朝夜自在の照明。天候操作に、さっきのアナウンス……」


勇者「それだけじゃないわよ?」

勇者「劇をやる時期になると、観客が何処にいても見られるようにモニターが設置されるの」

盗賊「……何か、監視されてるみたいで嫌だな。いやまあ、凄い技術だとは思うけどね」

勇者「でも、所詮は作り物よ。どんなに精巧でも、いつかは必ず壊れる時が来る」

勇者「……ねえ、あなたはこの都市の外観を見た時、どう思った?」

盗賊「う~ん。なんつーか、でっかいタマゴ?」

勇者「そう、この劇場都市は卵なのよ。夢という名の殻に覆われた、偽りの世界……」

勇者「私はその殻を破りたい。脚本家を倒して、これまで繰り返されてきた悲劇を終わらせたいの」

盗賊「それは勇者の台詞? それともキミの声?」

勇者「分からない……」

勇者「でも、終わりの勇者も、脚本家と都市そのものを憎む自分も、きっと同じことを望んでる」


盗賊「望むものって、復讐?」

勇者「そうね。結果的にはそうなるかもしれない。だけど、それだけじゃない……」キュッ

盗賊「どうした?」

勇者「ねえ、聞いて欲しいことがあるの……」

盗賊「ん?」

勇者「私が望むのは、夢の束縛から解放されること。夢の終わりと、その先にある自由」

勇者「……私はあなたと出会って、あなたを見て、それに触れてみたいと思ったの」

勇者「とても短い時間の中で、あなたは多くのものを私に与えてくれたわ」

盗賊「………」

勇者「それから昨日の晩、あなたは私に自由を与えるとも言った」

勇者「あの時はとっても嬉しかった。でもね、これは自分で掴み取らなきゃいけないと思うの」

盗賊「……そっか。でもまあ、確かに与えられるもんじゃないよな、自由ってさ」

勇者「っ、だけど、きっと一人じゃ無理だから……その……私と一緒に、来てくれる?」

盗賊「勿論さ、そんなの当たり前だろ? キミがそう望むなら喜んでお手伝いするよ」


勇者「……ありがとう」

盗賊「いいっていいって!」

勇者「(きっと大丈夫。彼と一緒なら、きっと……)」

盗賊「じゃっ、行くか。夢見がちなタマゴの主が、殻に閉じこもって待ってるだろうからさ」

勇者「そうね、行きましょうか」ニコッ


>>何というか、勇者役の彼女、雰囲気が変わりましたね。

>>そう感じるのも無理はない。昨日は笑顔なんて一度も見せなかったからね。

>>彼女、あんな風に笑うんだな……

>>たは~、今の笑顔はやばかった。可愛すぎる。

>>昨日はずっとキリッとしてたからな、余計にそう感じるんだろう。

>>勇者に徹しても、中身は年頃の女の子か。そりゃそうだよな。

>>ここで勇者の心情吐露か、やっぱり復讐の物語になるのか?

>>どうだろう。脚本家と対決するのは間違いなさそうだが、どうなることやら……


>>勇者と盗賊がくっついたら見るの止める。

>>何で? 別にいいじゃないか。

>>ああいう男って嫌いなんだよ。勇者にはきっちりした男と結ばれて欲しい。

>>きゃ~! 君がそう望むなら、だって!

>>はぁ~、私もあんなセリフ言われてみたいなぁ……

>>ああいう役だから許されるけど、現実で言われたら寒気がするわよ?

>>分かってる。あ~あ、勇者役の人が羨ましいよ。

>>盗賊役の彼、やっぱり素敵ね。

>>これが初舞台なんですってね。きっと凄い役者になるわよ。

>>彼、とても澄んだ眼をしているのね。あんな風に真っ直ぐに見つめられたら、ねえ?

>>ええ、こっちまでドキッとしたわ。

>>彼女の演技も素晴らしかったわね。素直になれない感じが焦れったくて、若さよねぇ……


盗賊「ですってよ、勇者様」コソッ

勇者「う、うるさいっ。さっさと行くぞ!」


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脚本家「くそっ、どうすればいいんだ!」

脚本家「何とか再開したものの、シナリオは奴の所為で取り返しの付かないほど滅茶苦茶だ」

脚本家「此処へ辿り着くまでにはまだまだ時間がある。幾つかのドラマを作らなければならない」

脚本家「このままでは観客が飽きてしまう。そうなる前に手を打たなければ……」

脚本家「………」

脚本家「そうだ!戦士役を出して、もう一度アクションシーンを……っ、駄目だ。それでは魔法使いと被る」

脚本家「なら僧侶役を仲間に……これも駄目だ。今更仲間を増やしたところで観客は受け入れないだろう」

脚本家「今や二人を主軸としてストーリーが展開しているんだ。邪魔にしかならない」

脚本家「観客が求めているのは二人の物語だ」

脚本家「これまで復讐に生きてきた勇者が恋心に目覚め、直隠しにしていた本心を露わに……そうだ」

脚本家「先程のやり取りは男女通して受けが良かった。二人の絡みを増やすべきだろう」

脚本家「手っ取り早いのは敵役を出すことだが、アクションは駄目だ。敵役、敵役、恋敵……」


脚本家「僧侶役を盗賊の幼馴染みとして出す」

脚本家「そして、二人の関係にやきもきする勇者。これなら受けるだろう」

脚本家「……しかし、ヒロインを二人にしてしまうと後が面倒だ。盗賊が二人の間をふらふらしては女性客が幻滅する」

脚本家「っ、そもそも奴は役者ではないんだ。そんな対応力を期待してどうする!」

脚本家「そ、そうだ。いっそラブストーリーにするのはどうだ? いや、それでは物語の根幹が揺らぐ」

脚本家「勇者の目的はあくまで私への復讐だ。対決なくして観客は納得しない……」

ガチャッ…

脚本家「おお! 詩人、良く来てくれた!」

詩人「その名で呼ぶなと何度言ったら分かるんだね。私は劇作家、戯曲家だ」

脚本家「そんなことはどうでもいいだろう。何か良い案はないか? 君なら何とか出来るだろう?」

詩人「座ってもいいかね?」

脚本家「ああ、勿論だとも」

ギシッ…

詩人「扉から溢れ出てくる君の案を聞いていたが、どれもお粗末なものだったな。溜め息すら出て来ないよ」


脚本家「だ、誰に向かって口を聞いている! 私は脚本家だぞ!」

詩人「そんなことは分かっている。君を脚本家役に選んだのは私だからね」

脚本家「…………何だって?」

詩人「私が選んだと言ったんだ。劇場都市とは、私そのものだ」

詩人「これまで行われた演劇の戯曲家であり演出家……」

詩人「加えて舞台装置や照明、音楽や音響。それら全てを操作しているのも、この私だ」

脚本家「な、何を馬鹿なことを……」

詩人「ところで、君はどんな景色が好きかね? 私は特に夕焼けが好きでね」スッ

パチッ

脚本家「(な、何で空が、こんな指示は出していないぞ……)」

詩人「どうだね? とても美しいだろう?」

詩人「この夕焼けを再現するのはとても大変だったよ。これだけの為にどれだけ歳月を費やしたか分からない」


脚本家「……だ、誰なんだ貴様は?」

詩人「つい先程も言ったが、劇場都市そのものだ。劇場都市を造った者でもある」

詩人「私はこれまでに何人もの脚本家役をサポート、監視してきたが、君は脚本家役失格だ」

詩人「このトラブルをどう乗り切るか見ていたが、あのような発想しか出来ないとはな」

詩人「残念だが、私が此処に来たのは君を助ける為ではない。解雇を言い渡しに来たのだ。今すぐ劇場都市から去りたまえ」

脚本家「ふ、ふざけるな! 私がどれだけ劇場都市に貢献してきたと思っている!」

詩人「貢献? 君は何か勘違いをしていないか? 君は脚本家ではなく、脚本家役だ」

詩人「君は、私の書いた脚本と私の考えた演出を指示通りに実行していただけに過ぎない」

詩人「だというのに、あたかも自分が作ったかのように振る舞い始めたことには実に驚かされたよ」

脚本家「それはっ……」

詩人「君は特に秀でた才能もない凡人だがプライドは高い。脚本家役を与えたのは単に扱い易い人間だからだ」

詩人「前任者達は君のように傲慢ではなく謙虚だった。私が正体を告げた時も礼節を欠くような言動はしなかった」

脚本家「ッ、黙れ!黙れ黙れ黙れ!」カチャ

パンッパンッパンッ!

脚本家「はぁ、はぁ、はぁ……そうだ、失ってたまるか。私は、私はこの都市の支配者なんだ……」


脚本家「……才能がないだと、ふざけるな」

脚本家「私には才能がある。だから今までやってこられたんだ。そうだろう?」

脚本家「大体、こんな奴がいなくても何とでもなる。私は脚本家なんだ。出来ないはずがない」

パンッ!

脚本家「……えっ?」ドサッ

詩人「まさか、ここまで愚かだとは思わなかったよ。私に刃向かった脚本家は君が初めてだ」

詩人「何とも憐れな男だ。生きてさえいれば、再び夢を見られたというのに」

脚本家「な、なんで……」

詩人「何で撃たれたのに生きているのか? この体を見て分からないのか? 血の一滴も流れていないだろう?」

脚本家「……まさか」

詩人「私は既に人ではない。歴代の脚本家役は、創設者と名乗った時点で察したんだが……」

詩人「それより私は、君がこの劇場都市の創設者の名前さえも知らないことに驚きだよ」

詩人「……さて、そろそろ目覚めの時間だ。私の夢から退場願おうか」カチリ

脚本家「や、止めてくれ」

詩人「私はチャンスをやったぞ。君がそれを無碍にしたのだ。残念だが、二度目は無い」

パンッ!

詩人「何、寂しがることはないさ。もうじき、私もこの夢から退場する。彼女と共にね……」

あー、覚えあると思ったらリメイクだったか
盗賊で何作か書いてなかったっけ

>>72 二つ書きました。
この他に書いた盗賊は、盗賊と不思議な宝石というSSだけです。


詩人「そう、夢は終わる。夜が明けるように」

詩人「役に呑まれた脚本家。君の場合は、目覚めの鐘が死だったというだけのことだ」

詩人「では、ここから先は私が引き継ぐとしよう。元々、その役は私のものだったからね」

詩人「君が犯した最大のミスは、自らが舞台に上がろうとしなかったことだ」

詩人「どうも君には、アドリブやインプロビゼーションの能力、役者としての才能が欠片もないらしい」

詩人「脚本家とは勇者の倒すべき敵だ」

詩人「であるならば、脚本家は観客に対して明確に示さなければならない」

詩人「最大の敵がどんな存在であるのか。手短に、分かり易く、それでいて印象に残る演出をしなければならないのだよ」

詩人「まあ、今の君には私の声など届くはずもないだろうが、憶えておきたまえ。さて……」

ギシッ…

詩人「……あの頃は夢にも思わなかった。まさか、私がこの椅子に座る日が来ようとは……」

詩人「さて、始めようか」

詩人「先程の映像を劇場都市全てのモニターに転送、再生。音声は場内アナウンスを通してして再生」

詩人「3、2、1……」スッ


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>>だ、誰に向かって口を聞いている! 私は脚本家だぞ!

>>そんなことは分かっている。君を脚本家役に選んだのは私だからね。


盗賊「っ、うるせっ! 何だ!?」キーン

勇者「ねえ、あれを見て。あのスクリーンに映像が映ってるわ。他のモニターやディスプレイにも……」

盗賊「ったく、何が起きてんだ?」

勇者「私にも全く分からないわ。これも演出なのかしら? でも、あの人……」

盗賊「どうした?」

勇者「あの人には見覚えがあるの」

勇者「けど、此処からだとはっきり見えないわ。もう少し近くに行かないと……」




>>………何だと?

>>私が君を選んだと言ったんだ。


勇者「あの人、やっぱり詩人だわ。でも、何で……」


盗賊「知り合いなのか?」

勇者「……恩人。いえ、恩師かしら」

盗賊「恩師?」

勇者「随分と前の話だけど、一人で稽古をしている時に色々と助言してくれたの」

勇者「あの人は何処からともなくやって来て、夜遅くまで私の稽古に付き合ってくれたわ」

勇者「演技法や演出論、役との向き合い方。芝居に対する熱量はとても凄くて、尊敬してた」

勇者「きっと名のある演出家なんだろうと思って一度訊ねてみたけど、自分は詩人だとしか言わなかったわ」

盗賊「(……詩人、ね)」

勇者「あの人は、私がオーディションを勝ち抜くと自分のことのように喜んでくれた」

勇者「でも、この役を掴んで以降は一切姿を見せなくなったの。てっきり都市から出たとばかり……」


>>劇場都市とは、私そのものだ。

>>私こそが、これまで行われた演劇の戯曲家であり演出家……

>>加えて舞台装置や照明、音楽や音響。それら全てを操作しているのも、この私だ。

>>ところで、君はどんな景色が好きかね? 私は特に夕焼けが好きでね。


盗賊「(さっき夕焼けに変わったのはこういうことだったのか。なら、あの男が……)」


>>……だ、誰なんだ貴様は?

>>つい先程も言ったが、劇場都市そのものだ。劇場都市を造った者でもある。

>>……さて、そろそろ目覚めの時間だ。私の夢から退場願おうか。


勇者「っ、やめてっ!」


>>パンッ!


勇者「………嘘よ。そんなの有り得ない。きっと何かの演出だわ」


詩人『演出ではない、これは現実だ』

盗賊「(映像が切り替わった。つーか、こっちの声が聞こえてんのか?)」

詩人『勇者役、ステラ・カデンツァ』

勇者「!?」ビクッ

詩人『先程の映像、私が語ったこと、あれらは嘘ではない。夢でもない。紛れもない真実だ』

詩人『劇場都市を造り上げ、これまでの演目全ての脚本を執筆したのは、この私だ』

詩人『演出の為に命を奪い、君の悲劇を引き起こした張本人。私こそが全ての元凶なのだよ』

詩人『つまり、君が倒すべき真の敵は脚本家ではない。この私というわけだ。理解したかね?』

盗賊「……デウス・エクス・マーキナー。いや、マキーナだっけ?」

詩人『使い古された技法だが、こういった局面では大いに役立つ。我ながら安直だとは思うがね』

盗賊「……あんたがこの機械仕掛けのタマゴの生みの親。そんで、機械仕掛けの神様ってわけか」

詩人『如何にもその通りだ。理解が早くて助かる。しかし冷静だな、脚本家とは大違いだ』

勇者「………」

盗賊「……冷静なんかじゃないさ。彼女を苦しめてどうするつもりだ? あんたの目的は何だ?」

詩人『それはこの場面で話すべきことではない。知りたければ、夕陽が沈むまでに塔に来たまえ』

詩人『間に合わなければ劇場都市を崩壊させる。では、塔の頂上で君達が来るのを待っているよ』


ブツッ…

>>今のでがらっと雰囲気が変わったな……

>>展開が急すぎる。いきなり出て来て、私が黒幕だとか言われてもな。

>>確かに唐突な感は否めない。だが、緊迫感のある演出だったよ。

>>何だか不気味な男だったな。良い味出してるけど、背筋がぞくっとしたぜ。

>>演出が上手かったんだろうな。電波ジャックみたいな仕掛けには驚いたよ。

>>いや~、今回は凄いな。あんなに大掛かりなものは初めて見たよ。

>>ねえ、裏で糸を引いてたのはあの男だったってこと?

>>みたいだね。敵は劇場都市!って銘打たれてたけど、こういうことだったんだ。

>>そのままの意味で、劇場都市が敵ってわけか。

>>相手は都市を意のままに出来る奴なんだろ? 勇者は勝てんのか?

>>それは勝つに決まってるだろ。まあ、どうやって勝つのかは分からんが……


勇者「………」

盗賊「……大丈夫かい?」スッ

勇者「一人で立てるわ。私なら大丈夫よ。それより、早く塔に行きましょう」


盗賊「お、おい、ちょっと落ち着けって」

勇者「落ち着けるわけないでしょ!? あの男は私を騙していたのよ!?」

勇者「私から何もかも奪っておいて、素知らぬ顔で私に近付いて演技指導なんてっ……」

勇者「何で、何でそんなことが出来るの! 私が何をしたって言うの? ねえ、答えてよ!」

盗賊「……オレが付いてるとか、オレがキミを守るとか、掛ける言葉なら沢山思い付くけどさ」

勇者「何言って……」

ギュッ

勇者「あっ…」

盗賊「キミを一人にはしない。だから、オレが傍にいるってことだけは忘れないでくれ」

盗賊「……大丈夫、きっと大丈夫さ。二人で何とかしよう。いや、何とかするんだ」

勇者「…グスッ…うん……」


>>お母さん、勇者様泣いちゃったよ? 勇者様は大丈夫? 怖い人をやっつけてくれる?

>>ええ、きっと大丈夫よ。だって、あんなに優しい盗賊さんが一緒なんだもの。


盗賊「ちょっとは落ち着いた?」

勇者「……ごめんなさい。もう少しだけ、このままでいさせて……離さないで……」

盗賊「……分かった」ギュッ


>>……綺麗。まるで一枚の絵みたい。

>>この時間が止まってる感じ、良いわね。

>>あのシーンを際立たせる為に夕焼けにしたのか。これは素晴らしい。

>>盗賊ってふざけた野郎かと思ってたから、ちょっと見直したよ。

>>ああ見えて誠実なのかもしれないな。野次もないし、彼を認めたってことだろう。

>>皆、空気を読んで静かにしてるわね。大騒ぎになるかと思ったわ。

>>夢見る乙女達の歯軋りはあちこちから聞こえてくるけどね。

>>あれ、くっついたら見るの止めるんじゃなかった?

>>うるせえ、抱き締められた時の勇者の顔を見ただろ? あれで良いんだよ。


盗賊「……あの、まだかな? 流石にちょっと恥ずかしくなってきたんだけど」

勇者「ふふっ、そうね。そろそろ離れましょうか。それに、まだ終わるわけにはいかないもの」パッ


盗賊「もう、大丈夫なのか?」

勇者「ええ、何とかね。じゃあ、行きましょ? そんなにのんびりもしてられないし」

盗賊「……そうだな。日が沈むまでには時間はありそうだけど、急いだ方が良さそうだ」

盗賊「しかし、最後の舞台は塔の頂上か。見るからに高いし、登るのはキツそうだな」

勇者「昇降機が動けばそれを使いましょう。もし駄目なら、諦めて走るしかないわ」

盗賊「んじゃ、行くか! 勇者様、準備はいいかい?」

勇者「ふふっ、勿論。さあ、この物語を終わらせに行きましょう。この都市が壊される前にね」


>>お、走った! 二人共、頑張れよ~!!

>>盗賊!勇者様を頼んだぜ!!

>>物語を終わらせに、か。何だか寂しいな。

>>この物語は、終わりの勇者なんだ。こればっかりは仕方ないさ。

>>夕陽に向かって走ってくのって、何かいいな。

>>俺達は見送る側だからな。あの二人には、ここからが本番なんだ。

>>行ってしまった。どうなるんだろうか……

>>分からない。けれど、あの二人なら、きっと素晴らしい結末を見せてくれるはずさ。

>>75>>77の改行をミスしました。
早くて今日明日には終わると思います。

>>75>>77の改行ミスしました。ごめんなさい。
早くて今日か明日の内に終わると思います。


※※※※※

その昔、夢見る若者がいた。

若者の名は、カンヴァス・ストラスバーグ。

彼は詩人であったが、詩のみならず、作曲、脚本、演出、演技指導など様々な分野で活躍。

役者としても優れた才能の発揮し、若くして新たな演技法を確立させたことでも有名である。

その演技法とは、役柄の内面を掘り下げ、役柄の過去を追体験するというものだった。

これは高い評価を受ける一方で、危険視する声もあった。

しかしながら、その演技力は圧倒的で、魅力に溢れ、あたかも実在する人物のようであったという。

彼の演技法はリアリティの追求であり、その演技は当時の役者とは一線を画すものであった。

出演作は8本と非常に少ないが、彼の出演作は批評家に大絶賛され、数々の賞を受賞した。

その影響は絶大なもので、後出の役者は彼に憧れを抱き、彼を師事し、その演技法を学んだ。

彼の手によって育てられた役者は、皆一様にスターダムへと駆け上がり、観客を熱狂させた。

若くして名声を得、周囲の期待を超える作品を世に送りした彼を、皆は天才だと持て囃した。


正に、傑出した才能の持ち主と言えるだろう。

しかしながら、それ以降、彼が役者として舞台に立つことは一度もなかった。

周囲は早過ぎる引退に嘆いたが、周囲の反応とは裏腹に、彼には一切の未練もなかったという。

「彼は常に何かを求めていたが、それが手に入ると、途端に興味を失ってしまうんだ」

「きっと、彼にはもう、求めるものがないのだろう。何もかもに飽きてしまったのさ」

「偽物は沢山だと言っているのを聞いたわ。演劇そのものに嫌気差したんじゃないかしら」

これが、彼の引退に関する数少ない証言である。

引退後、彼がどのような人生を歩んだのか定かではなく、今尚も議論の的となっている。

一説によると、彼は旅先でとある女性と出会い、恋に落ちたという。

「彼女は自由奔放な性格で、彼を度々悩ませていたが、彼はそれすらも楽しんでいるようだった」

「彼女が何かをしでかす度に笑っていたよ。目を丸くして、ぽかんと口を開けて、その後は決まって大笑いするんだ」

「初めは彼だなんて思わなかったよ。どこにでもいる普通の青年のように見えたんだ」

二人を目撃したという証言は多数寄せられた。このことから、これが一番有力な説とされている。

しかし、その女性が何者であるのか、その後どのようになったのか、それは未だに明らかになっていない。


ーーカンヴァスの技法より抜粋


>>>>>

盗賊「ふ~っ、やっと着いたな」

盗賊「塔って言うからどんなもんかと思ったけど、中は教会みたいだな。真っ白だし」

勇者「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

盗賊「えっと、大丈夫?」

勇者「……あんなに長い距離を走ったのに、何でそんなに余裕なのよ」

盗賊「そりゃまあ、職業柄、走り回るのには慣れてるからね」

勇者「逃げ回る。の間違いでしょ?」

盗賊「走るも逃げるも似たようなもんさ。走ってんだから」

勇者「全然違うわよ……」

勇者「それにしても、劇場大通りを走る日が来るなんて思いもしなかったわ。前代未聞よ」


盗賊「そうなの?」

勇者「ええ、役者を志す者にとって、あの大通りで演技することは最大の夢であり目標なの」

勇者「聖地と言っても良いかもしれないわ……」

勇者「そこを演技もせずに走り抜けるなんて罰当たりなんてものじゃないわ。冒涜とさえ言えるかもしれない」

盗賊「へ~、そうなんだ」

勇者「……はぁ。ま、そうでしょうね。あなたには分からないでしょうね」

盗賊「でもさ、それって凄いことじゃないか?」

勇者「えっ?」

盗賊「だってさ、今まで誰もやったことがないんだろ? つまりはキミが初めてなわけだ」

盗賊「キミはこれまでの役者が出来なかったことをやったんだ。想像も出来ないことをね」

勇者「……出来なかったんじゃなくて、やらなかっただけよ。奇抜なだけじゃ通用しないもの」

盗賊「走ってる時、観客の声を聞いたただろ? あれは昨日みたいな馬鹿騒ぎじゃなかった」

盗賊「きっとあれこそが、役者だからこそ作り出せる感動ってやつなんだと思うぜ?」


勇者「なによ、素人のクセに……」

盗賊「素人だから分かるのさ。皆がキミの背中を見て、声援を送ってた。純粋にね」

勇者「……そうだと嬉しいわ。素人に呑まれた主役で終わりたくないもの」

盗賊「そんなつもりはなかったんだけどな……」

勇者「はぁ、無自覚って罪よね。私の気持ちにもなってみなさいよ」

盗賊「え、何だよ急に」

勇者「まあいいわ。さて、息も整ったし行きましょ? 向こうに昇降機があるはずよ」

トコトコ…

盗賊「あ~、あれか。っていうか、あの昇降機って頂上まで続いてんの?」

勇者「ええ、あれは観光客用で、頂上にしか行けないようになってるの」

盗賊「観光客が来んの? 脚本家の塔なのに?」

勇者「このエントランスまでの立ち入り許可されているの。勿論、他の場所へは行けないわ」

盗賊「へ~、なるほどね。頂上は展望台みたいなもんか」

勇者「ええ、そんな感じ。後はこれが動くかどうかだけど……どうかしら……」カチッ


盗賊「柵みたいな扉だな。怖くねえのかな」

勇者「昇りながら景色を見られるようにしてるのよ。賛否両論あったみたいだけどね」

カララララ…ガッシャン…

勇者「……良かった。動いてなかったらどうしようかと思ったわ」タンッ

盗賊「流石に階段を登るのはキツいからなぁ。さて、行くーー」

ガシャン!

盗賊「えっ? オレ、まだ乗ってないんだけど……」

勇者「……ごめんなさい。やっぱり、あなたとは一緒には行けないわ」

盗賊「お、おいおい、此処まで来てそりゃないだろ。冗談キツいぜ」

勇者「これは冗談でもなんでもないわ」

勇者「これは私がやらなきゃいけないことなの。詩人は勇者が倒す。倒して、終わるのよ」


盗賊「終わるって、どういうことだよ……」

勇者「そう言えば、勇者がどうなるか、まだ言ってなかったわね」

盗賊「……開けてくれ」

勇者「勇者は、復讐を遂げて死ぬの」

勇者「ある種の達成感と復讐の虚しさ。復讐の先に何も見出せない自分に絶望して身を投げる」

盗賊「……自由に触れてみたいって言っただろ。あれは嘘だったのか」

勇者「嘘じゃないわ。あれは本当よ?」

盗賊「なら何でだよ……」

勇者「……人間は、そう簡単には変われない」

勇者「今まで復讐に生きてきた人間が、復讐の念を捨てるなんて無理なのよ」

盗賊「……何だそりゃ、夢も希望もあったもんじゃないな」

勇者「………そうね」

盗賊「っ、観客もオレもそんなことは望んじゃいない。そんな終わりは誰も望まない!!」


勇者「分かってる……」

勇者「誰かを憎んで復讐の為に生きるなんて、とても虚しいことだわ。それは分かってるの」

勇者「でもね? 私はそうやって生きてきた。奪われたものは決して返ってこないけど、償いはさせるわ」スッ

盗賊「止せ!」

勇者「……ごめんなさい。もう、行かなきゃ」カチッ

ガララララ…

盗賊「っ、ステラ! 行くな!!」

勇者「私は勇者よ。ステラなんて役は、この舞台の何処にも存在しないわ」

盗賊「……馬鹿なこと言うな。キミは確かに此処にいる。勇者じゃないキミを、オレは知ってるんだ」

勇者「あなたとは勇者になる前に出会いたかったわ。それなら、勇者にならなくて済んだかもしれない」

勇者「だってあなたは、ほんの一時でも、私から復讐を忘れさせてくれたもの……」

盗賊「………」

勇者「……さようなら、盗賊。こんな所まで連れ回してしまって、本当にごめんなさい」


盗賊「……行っちまった」

>>彼女は最初から一人で行くと決意していのか。

>>何だよこれ、勇者は死ぬのか? そんなの見たくねえぞ。

>>なんと身勝手な女だ。

>>はぁ?あんた馬鹿じゃないの? 彼女なりに彼を想っての行動じゃない。

>>彼が好きだから突き放したのよ。自分の復讐になんて付き合わせたくないでしょう?

>>それが身勝手だと言ってるんだ。置いて行かれる側の気持ちも考えろ。

>>ち、ちょっと落ち着けって、まだ終わったわけじゃないんだ。

>>問題は、彼がどうするかだ。彼の行動で全ては決まる。

盗賊「……さて、どうすっかな」

盗賊「隣にも昇降機はあるけど、大抵こういう場合って……」カチッ

シーン…

盗賊「はぁ、やっぱりそうだよな……」

勇者『さようなら、盗賊。こんな所まで連れ回してしまって、本当にごめんなさい』


盗賊「……ごめんなさい、か」

盗賊「ったく、あんな顔して行かれたら追い掛けるしかねえだろうが……」

盗賊「それに、このまま終わったら観客に何をされるか分かったもんじゃない」

盗賊「間に合うかどうか分かんねえけど、とにかく走るしかねえな。待ってろよ、ステラ」


>>よし、行け!

>>頼む、間に合ってくれよ……

>>これこそ身勝手じゃない。せっかくの決意が無駄になるのよ?

>>そんなに彼女の死が見たいのか?そんなものは糞食らえだ。

>>ああ、男なら追い掛けて当然だ。ここで行かなきゃ男じゃねえ。

>>何それ、馬鹿じゃないの……

>>でも、勇者様も本当は盗賊さんに追い掛けて来て欲しいんだと思う。

>>やれやれ、女ってのは本当に面倒な生き物だな。

>>そうね。女ってこういう時に限って面倒なことをするもなのよ。許してあげて?

>>しかし間に合うだろうか? 相当高いぞ。

>>応援しよう。彼には我々の声など届いていないだろうが、最後まで……

>>ああ、そうだな。俺達に出来るのは、それしかない。


>>>>>

勇者「……もうすぐね」

盗賊『……馬鹿なこと言うな。キミは確かに此処にいる。勇者じゃないキミを、オレは知ってる』

勇者「……名前くらい聞いておけば良かたかもしれないわね。でも、これで良いのよ」

勇者「だって、彼には彼の、私には私の人生があるんだもの。そう、これで良かったのよ……」


>>言い聞かせてるだけじゃないか……

>>やっぱり、本当は離れたくなかったんだな。

>>そんなの当たり前でしょ?

>>きっと、ずっと悩んでいたのね……

>>復讐は虚しいと分かっていても、か。

>>彼女が失ったものを考えれば、これは当然の結果なのかもしれないわね。

>>だが、彼は納得しない。きっと、今この瞬間も必死に走り続けているだろう。


カラララ…ガシャン…


勇者「………詩人」

詩人「勇者、よく来てくれた。私はこの時を待ちわびていたよ」


※※※※※

私は明日の今も、君を想っていることだろう。

この心が喪失の牙に砕かれようと、君との思い出は決して砕けはしない。

燦然と輝く君の姿が翳ることはなく、何者もその輝きを冒すことは出来ないのだ。


嗚呼、世界に愛された君よ、愛をくれた君よ。

何度日が昇ろうとも、私に夜明けが訪れることはないだろう。

朝は目の眩む夜に過ぎず、夜は夜明けなき夜の始まりに過ぎないのだ。


嗚呼、万物に愛された君よ。私が愛した君よ。

この世界に君がいないのなら、君のいる世界を創らなければならないだろう。

私の創造する世界は紛い物だが、君への愛が本物であることは確かなようだ。


嗚呼、世界を愛した君よ。私は世界を憎んだ。

偽りの世界で夢に埋もれた私は、今や悲しき夢の玩具と成り果ててしまった。

あの日に君と見た夕陽の面影が、今日も無機質な空の上で揺らめいている。

ただ、あの夕陽が沸き上がらせる想いだけは、偽りの世界で唯一の真実なのだ。



ーー作者不明の創作集 №11


>>>>>

勇者「………詩人」

詩人「勇者、よく来てくれた。私はこの時を待ちわびていたよ」

勇者「それは奇遇ね。私もこの時が来ることをずっと待っていたわ」ダッ

ガキンッ!

勇者「(ッ、硬い。剣が刃毀れしてる。あの体は何? まさか、本当に機械なの?)」

詩人「見掛けによらず手が早いな。もう少しお喋りをしたかったんだがね」

勇者「ふざけないで!今更話すことなんてないわ!」

詩人「まあ、落ち着きたまえ」

詩人「今の君に私を倒す術はない。それはもう分かっているはずだ」

詩人「何なら満足するまで斬り付けても構わないが、その場合は剣が折れるだけで時間の無駄だ」

詩人「君が折れるか、剣が折れるか。どちらにせよ、今の君に選択肢はない」

勇者「……あの時と何も変わってないわね。一切歳を取ってない。あなたは、何?」


詩人「それを説明するには少々時間が掛かる」

詩人「少しばかり長くなるが、私の話を聞いて欲しい。そうすれば、私を殺す術を教えると約束しよう」

勇者「あなたにそんなことを言われても信用出来るわけがないでしょう。話す前に教えなさい」

勇者「そうすれば、小話だろうが歌だろうが幾らでも聞いてあげるわ」

詩人「いいだろう」スッ

ゴゴゴ…ガゴンッ!

勇者「……台座? っ!?」

勇者「(あの台座に乗っているアレは何? まさか、人間の脳? っ、気味が悪い……)」

詩人「驚いたかね? これが、私だ」

詩人「気分を害したのなら申し訳ない。これは私の脳だ。劇場都市の全機能を司っている」

詩人「これを破壊すれば、この私は勿論、劇場都市全ての機能が停止する」


勇者「何よ、それ……あなたは何なの……」

詩人「ああ、これは済まない。そう言えば、まだ名乗っていなかったね」

詩人「では、自己紹介するとしよう。私はカンヴァス。カンヴァス・ストラスバーグだ」

勇者「カンヴァス・ストラスバーグ……カンヴァス演技法……演技の、神様……」

詩人「止してくれ、それは遠い昔の話だ」

詩人「しかし、君のような今時の役者が私を知っているとは意外だな。光栄ではあるが」

勇者「そ、そんなの嘘よ。だって、彼はもう百年も前に死んでいるはずだもの」

詩人「いいや、死んではいない」

詩人「……まあ、生きているとも言えないがね。半死半生とでも言っておこうか」

詩人「それより、私は方法を教えたのだ。約束通り、話を聞いてくれたまえ」

詩人「それともう一つ。ここから先は場内アナウンスを使って音声を流す。構わないかね?」

勇者「…………」

詩人「結構。では、少し付き合ってくれたまえ」

詩人「時に、人は最も大切な人を喪った場合、どんな行動に出ると思うかね?」


勇者「私のような行動に出るでしょうね」

詩人「確かに。君のように奪われたのなら、復讐という手段に出るだろう」

詩人「もしそうであれば、私もそうした。しかし、喪った場合はどうしようもない」

詩人「生きる目的も理由も失い、憎む相手もいない。私は恨み言を吐くことしか出来なかった」

詩人「君を怒らせるつもりはないが、憎むべき者がいるというのは幸福なことだ」

詩人「復讐という名の、明確な生きる目的が出来るのだから」

勇者「……生きる目的を与えたとでも言いたいの?」

詩人「いいや、そうではない。ただ単に、目的があるのは幸福だと言っているだけだ」

詩人「私には、それがなかった……」

詩人「そこで最初の問いに戻る。最も大切なものを喪った場合、人はどうするのか?」

詩人「大抵は悲しみに暮れる」

詩人「或いは思い出に浸り、或いは酒に溺れ、或いは傷が癒えるまで時間に身を任せるだろう」


詩人「最悪の場合は、後を追う」

勇者「…………」

詩人「しかし私は、その中のどれも選択することはなかった。受け入れ難かった」

勇者「その時に死んでいた方が幸せだったでしょうね。少なくとも、今よりは」

詩人「確かにそうかもしれない」

詩人「あの時に彼女の後を追っていれば、こんな夢を見ずに済んだだろう」

勇者「……だったら、何の為にこんな都市を造ったの? 何の為に、私を……」

詩人「この都市は彼女の夢を見る為に造った。いや、そもそも都市などではなかった」

詩人「この場所を見つけた者達が勝手に住み着いたに過ぎない。最も、拡張したのは私だがね」

勇者「都市の成り立ちは分かったわ。もう一つの質問に答えなさい」

詩人「何故に君を、か? ふむ、それについて簡潔に説明するのは非常に難しいな……」

勇者「さっさと答えなさい。私は早く終わらせたいの。出来るだけ手短に話して」


詩人「……こんな私にも恋人がいてね」

詩人「彼女の名はスサナ・ホリツォント。生涯でただ一人、私が愛した女性だ」

詩人「私は彼女を喪った後にこの都市を造った。その理由は、先程言った通りだ」

勇者「……死んだ恋人の夢を見る為だけに、この都市を造ったって言うの? 演劇もその為に?」

詩人「ああ、その通りだ」

詩人「悲劇も喜劇も、全てはその為だけに創作したものだ。勇者という、終わりなき物語も……」

勇者「……狂ってる」

詩人「ああ、そうだろうとも。そうでなくては、こんな様にはなっていない」

詩人「私は夢を見るだけで良かったのだ。しかし、予想だにしないことが起きた」

詩人「それが君だ。君は彼女と瓜二つ。いや、生き写しと言ってもいいだろう」

勇者「……そんなことを言われても、ちっとも嬉しくないわ」

勇者「大体、そのことと私の家族を奪ったことに何の関係があるって言うの」

詩人「あの区画一体を燃やすように指示したのは、確かに私だ。私が、君を生かすよう指示した」


勇者「私を、生かした……?」

詩人「そう、全ては意図して作られた運命。あの悲劇は、この時の為に作ったシナリオだ」

勇者「……何よ…それ……」

勇者「あなたは何がしたいの!? 死んだのよ!両親も友達も近所の人も!」

勇者「演技でも演出でもなく、本当に死んだの! 皆、あなたに殺された!」

詩人「そんなことは言われるまでもなく分かっている。故に、私は君に裁かれなくてはならない」

詩人「私は君に裁かれる為に此処に立ち、君は私を裁く為にそこに立っている」

勇者「……私に殺される為に、その為に、私から何もかも奪ったって言うの」

詩人「………ああ、そうだ」

詩人「スサナに殺されるなら私は本望だ。彼女の手で、私は彼女の下へ逝く」

勇者「私はスサナなんて女じゃないッ!!」

勇者「私はそんなことの為に、あんたの自己満足の為に生きてるわけじゃない!!」


勇者「私は、あんたの為に生きてるわけじゃない!」

ガキンッ!ガキンッ!

詩人「そうか。ならば何故、君は此処に立っているのかね?」

勇者「これは私の意志よ!」

詩人「違う。君は私の用意した道を歩んできた。作られた運命を、自分の宿命と信じて……」

勇者「違う!違う違う違う!!」

ガキンッ!ガキンッ!ガキンッ! パキンッ…

詩人「………気は、済んだかね?」

勇者「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

勇者「全部、全部仕組まれてたって言うの……私の人生、これまでの全て……」

詩人「その通りだ。あの悲劇を引き起こし、君を此処に導いたのは、この私だ」

詩人「その為に君を鍛え、演技を教えた」

詩人「終わりの勇者は、スサナの現し身である君でなければ成立しないのだから」


>>>>>

勇者『これは私の意志よ!』

詩人『違う。君は私の用意した道を歩んできた。作られた運命を、自分の宿命と信じて……』

盗賊「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」

盗賊「ったく、お喋りな神様だな。説明もやりすぎると飽きられちまうぜ……」ダッ

勇者『違う!違う違う違う!!』

勇者『全部、全部仕組まれてたって言うの……私の人生、これまでの全て……』

詩人『その通りだ。あの悲劇を引き起こし、君を此処に導いたのは、この私だ』

盗賊「はぁっ!はぁっ!ふざけんな……」

盗賊「んなわけあるか。あってたまるか。お前に、そんなこと出来るわけねえだろうが……」

詩人『その為に君を鍛え、演技を教えた』

詩人『終わりの勇者は、スサナの現し身である君でなければ成立しないのだから』

盗賊「はぁっ!はぁっ!はぁっ! ッ」ガクンッ

勇者『……嘘よ』

詩人『嘘ではない。君は虚構の人生を歩んで来た憐れな存在、神に操作された人形に過ぎない』

詩人『そう、人形に過ぎないのだよ。喪失も復讐心も、全ては私によって作れたれたシナリオ』

詩人『事実、君はその通りに生きた。そして、私の思惑通り、君は此処に立っている』


詩人『君は思惑通り、そこ立っている』

詩人『……機械仕掛けの狂った神、その意のままに……』


>>酷い。こんなの、あんまりよ……

>>何てことだ……

>>何してんだ、あの台座を壊せば終わるんだろ?

>>彼女には見えていないんだよ。突き付けられた事実に押し潰されているんだ。

>>お、おいおい、勇者が動ないぞ。これ、どうなるんだよ……

>>茫然自失。あんなことを言われて耐えられるわけがない。しかし、このままでは……


盗賊「……ざけやがって。言って良いことと悪いことってのがあんだろうが」

盗賊「全部が全部、お前が定めたことだって言うなら。オレが全部変えてやる」


>>盗賊……

>>ずっと走っていたのか。もう、立つのもやっとじゃないか……

>>でも、あいつなら、あいつならきっと何とかしてくれる。あいつは、まだ諦めてない。


詩人『どうした、何を呆けている』

詩人『立て、勇者。君には私を殺す義務がある。さあ、私を殺し、幕を降ろせ』

勇者『…………』

詩人『……やれやれ、君は役者失格だ。まさか、舞台を途中で投げ出すとはな』

盗賊「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」

盗賊「待ってろ、待ってろよ……今行く、今すぐ行くからな……」


>>盗賊さん、頑張って……

>>ッ、もう少しだぞ!頑張れ盗賊!!

>>頼む、間に合ってくれ。どうか、頼む……

>>盗賊、頼む!あの野郎をぶっ飛ばしてくれ!

>>あいつ、何か背負ってないか? よく見えないけど、樽みたいな。

>>ああ、確かに何かを背負っているな。何をするつもりなんだろうか……


勇者『………』

詩人『本当に折れてしまったのか?』

詩人『……何とも脆弱な精神だ。君の復讐心とはその程度のものだったのかね?』


勇者「…………」

詩人「……仕方がない。私が楽にしてやろう。その後で、私も彼女の下へ逝くとしよう」

詩人「こんな終わり方は本意ではないが、このままでは物語が終わらないのでね」カチリ

ガキンッ!

詩人「…………」

盗賊「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

盗賊「……どうやら、盗賊の投げナイフは間一髪で間に合ったみたいだな」

勇者「………盗…賊……?」

盗賊「遅くなってゴメンな。これでも急いで来たんだけど、階段が長くてさ」

勇者「何で……」

盗賊「傍にいるって言ったろ?」

盗賊「まさか忘れたわけじゃないよな? まあ、とにかくあれだ。助けに来たぜ、勇者」

勇者「……っ!!」ダッ

ギュッ…

盗賊「……大丈夫、もう大丈夫だよ」

盗賊「もう何も心配要らない。後はオレが何とかする。だから、此処で待っててくれ」


盗賊「大丈夫……」

盗賊「なわけねえよな。後はオレに任せて休んどけ。何があっても此処から動くなよ?」

勇者「(……幻なんかじゃない。本当に、本当に来てくれたんだ)」

盗賊「ふ~っ、こんだけ高いと流石に冷えるな。そうだ、これ羽織っとけよ」バサッ

勇者「えっ…あ、ありがとう……」ギュッ

盗賊「それから、これも預かっといてくれ。こんなの背負ってたら、まともに戦えないからさ」

勇者「これは……」

盗賊「ま、それは後のお楽しみってやつさ。んじゃ、行ってくるよ」ザッ

勇者「………っ、お願い、無茶はしないで。あなたまでいなくなったら、私……」

盗賊「大丈夫さ。悲劇なんて起きやしないよ」

ザッ…

詩人「…………」

盗賊「悪い悪い、待たせちまったな。いや、待っててくれたのか」

盗賊「ともかく、お目に掛かれて光栄だよ。偉大なる演出家、カンヴァス・ストラスバーグ」

詩人「……名も知らぬ盗賊よ、お前は何者だ」

盗賊「オレ? オレは、そうだな……アル・レッキーノ。アルって呼んでくれ」


詩人「アルレッキーノ……」

詩人「確か、即興演劇の道化師がそんな呼び名だったな。全くふざけた名前だ」

盗賊「まあまあ、そう言わないでくれよ」

詩人「盗賊であり道化師よ、お前は何の為に此処へ来た。私から何を盗む」

盗賊「それは勿論、この演劇の結末さ」

詩人「私がそれを許すと思うか?」

盗賊「……なあ、もう芝居は止めようぜ? あんた、オレを待ってたんだろ?」

詩人「………何を馬鹿な」

盗賊「あんたには無理なんだよ」

盗賊「惚れた女に手を汚させるなんて、あんたには出来やしない。勿論、殺すこともな」

詩人「…………」

盗賊「あんたは都市そのものだ。オレが見えないはずがない。あんたは時を計ってたんだ」

盗賊「長々と喋って時間を稼いで、オレが来る絶好のタイミングで銃を構えた。違うかい?」


詩人「馬鹿馬鹿しい」

詩人「妄想もそこまで行くと傑作だな。だが、その想像力は褒めてやろう」

盗賊「お褒めに与り光栄だね。なら、妄想ついでに聞いてくれよ」

盗賊「あんたが言ってたことはデタラメだ。彼女の人生を操ってたなんて流石に無理がある」

詩人「ほう、根拠はあるのかね?」

盗賊「根拠なんてないさ。けどな、あんたはそんなことが出来るような男じゃない」

盗賊「あんたが如何に優れた脚本家だろうと、他人の人生丸ごと操るなんて不可能だ」

盗賊「あんたはステラに殺されたいが為に、彼女を追い詰めた。でも、それも失敗した」

盗賊「それ以前に、彼女を前にして迷ってた。本当にこれで良いのか、ってね」

パンッ!

盗賊「………そうかい。これが、あんたの答えなんだな」

詩人「世迷い言は聞き飽きた。お前を殺し、彼女を殺し、その後でスサナの下へ逝くとしよう」

盗賊「偽物の世界じゃ、世迷い言こそ正論さ」

詩人「口だけは達者だな」

盗賊「生まれつき口先は良いんだ。その代わり、手癖は悪いけどね」


詩人「……結末を盗むと言ったな」

盗賊「ああ、盗んでやるよ。あんたが迎えようとしてる、悲しい結末をな」

詩人「出来るものなら、やってみろ」

盗賊「ああ、陰気なトラジェディを飛びっ切りのファルスにしてやるよ」ダッ

詩人「品の無い喜劇など願い下げだ。お前には此処で退場して貰う」

パンッ!パンッ!

盗賊「ぐっ…」ガクンッ

詩人「……散々息巻いて、その程度かね。道化師には相応しい最後だな」

勇者「っ、盗賊!!」

盗賊「大丈夫さ。こんな豆鉄砲じゃ止まらねえよ。それに、今ので弾切れだろ?」

詩人「!!」

盗賊「あんたは気付いてないだろうけどさ、ハートにヒビが入ってるぜ?」ジャキッ

ズギャッ!

詩人「………そうか、斬り付けられて脆くなっていたのか」

詩人「フッ、そうか、そうだったのか。全く気付かなかったよ」

詩人「生身と違って、機械の体というのは、どうも痛みに鈍いらしい……」ドサッ


盗賊「鈍いのは機械の体だからじゃない」

詩人「?」

盗賊「あんたは、ずっと傷付いてたんだ。これ以上ないくらいに傷付いてたのさ」

盗賊「痛みを痛みと思わない程にね……」

詩人「……面白いことを言う男だな」

タッタッタッ…

勇者「と、盗賊、大丈夫なの?」

盗賊「これくらい何ともないさ。それより、あれを持ってきてくれないか」

勇者「でも、止血しないと……」

盗賊「頼む。彼には時間がないんだ。あれがないと、この劇は終わらない」

勇者「………分かったわ」

詩人「何を、するつもりだ? あれを壊せば、終わると言うのに……」

盗賊「劇場都市の機能停止か? その程度のラストシーンじゃ観客は納得しない」


詩人「……手厳しいな」

勇者「持ってきたわよ。でも、花火なんてどうするの?」

盗賊「こうすんのさ。ちょっと離れてな」ジュッ

ジジジッ…ドンッ! ガラガラ…

勇者「っ、ちょっと何してるのよ! 西側の天井パネルが崩れ……」

詩人「…………君には参ったよ。降参だ」

盗賊「どうだい? 綺麗だろ?」

詩人「ああ、そうだな……」

詩人「あんなにも美しい夕陽を見たのは、あの時以来かもしれない……」

盗賊「……見る機会は何度もあった。ただ、あんたは見ようとしなかったんだ」

盗賊「殻に閉じこもったまま、記憶に沈んだ夕陽を眺めることに一生懸命で、本物を忘れてたのさ」


詩人「……そうだな。そうかもしれないな」

詩人「私は失ったものばかりを、追い続けて、いたんだろう。夢も、記憶も」

勇者「…………ねえ」

詩人「?」

勇者「その、さっき盗賊が言っていたのは本当なの?」

詩人「ああ、本当だよ」

詩人「あの一画を燃やすように指示したが、君を狙ってのことではない」

詩人「見苦しい言い訳にしか、ならないがね……」

勇者「…………」

詩人「しかし、命を奪ったことに変わりはない。私は咎人だ、裁かれなくてはならない」

勇者「なら、私に演技を教えたのは? あれは何だったの?」

詩人「…………最初は彼女を重ねていた。だが、次第に、次第に私は……」

勇者「しっかりして。お願い、最後まで話して」

詩人「可笑しな話だが、我が子のように思えた。私と彼女の子供のように、思って…いたよ……」

詩人「……君がオーディションを通過した時は、本当に嬉し…かったなぁ……」


勇者「…………っ」

詩人「……君に頼みが、ある、んだ」

勇者「っ、なに?」

詩人「私を、終わりにしてくれないか?」

勇者「………分かったわ。あれを壊せばいいのね」

詩人「ああ、そうだ。それで、劇場都市の機能は停止する……」

詩人「そして、君が、本当の意味で、終わりの勇者になるんだ」

盗賊「あのさ、これもシナリオ通りだなんてことはないよな?」

詩人「………さあ、どうだろうね」

盗賊「…………」

勇者「まさか崩壊したりしないでしょうね?」

詩人「……フフッ、そんなことはないよ。あれは、ハッタリ。口から出任せだ……」

勇者「まったく、大した役者ね。分かったわ。私が止めてくる」

詩人「……ありがとう、ステラ。こんな私を救ってくれて、本当にありがとう」

勇者「………いいのよ。さようなら、ーーーー」


>>>>

勇者「……あれで良かったのかしら」

盗賊「ああ、あれで良かったのさ。彼も笑ってただろ?」

勇者「……ええ、そうね」

盗賊「どうした? 泣きたきゃ泣いていいんだぜ?」

勇者「うるさいわね。絶対に泣かないわよ。それより……」

盗賊「ん、どうした?」

勇者「……夕陽、とっても綺麗ね」

盗賊「ああ、そうだな……」

>>良し、二人共いたぞ!

>>あら、これは素敵なシーンだわ……

>>ステラさん、是非インタビューさせて下さい!

勇者「これは劇だったのかしら?」

盗賊「全部本物さ。あの夕陽も、彼の最後も、キミの今も、全て本物だよ」

勇者「そうね。ありがとう……」

盗賊「いいって。それよりほら、記者が首を長くして待ってるぜ? 行って来いよ」


勇者「ええ、そうするわ」

勇者「じゃあ、ちょっと待ってて? 怪我してるんだから、じっとしてなさいよ?」

盗賊「分かってるさ。此処で待ってるよ」

勇者「……また後でね。絶対よ?」

盗賊「分かったってば。ほら、皆は主役をお待ちかねだ。早く行ってやれよ」

>>ステラさ~ん、写真お願いします!

勇者「あっ、はい。今行きます!」

>>あの、勇者を演じての感想をお願いします。盗賊役のアルさんは後ほど……

>>劇場都市はこの先どうなると思いますか?

勇者「…………」クルッ

ふと、さっきまで座っていた場所を振り返ると、彼は忽然と姿を消していた。

分かっていたのに、覚悟していたのに、涙が溢れて止まらない。

名前を叫ぼうにも、私はまだ彼の名前さえ知らないことに気が付いた。

何と罪深い男だろうか。

あれだけのことをしておきながら、挨拶の一つもなしに行くなんて薄情だ。

そんなことを考えながら彼がいた場所に向かうと、何かがあった。

視界は涙でぐちゃぐちゃなのに、それは妙に鮮明で、やけにはっきりと見えた。

置いてあったのは手紙。手紙というより、書き置きのようなものだった。

そこに書いてあったのは、一言だけ……




      宣言通り
    
   終わりの勇者 の終わり
          
     頂戴しました


ではまた、夕陽の見える舞台の上で会いましょう

終わりです。
おそくなりましたが、最後まで読んでくれて本当にありがとうございました。


勇者「はぁ……」

美粧「どうしたんですか? 舞台前に溜め息吐くなんて珍しいですね」

勇者「あなた、これを見た?」ピラッ

美粧「それは宣伝広告ですよね? あ、ポスターまで付いている。これが何か?」

勇者「何かじゃないわよ。全く、好き勝手書いてくれちゃって、流石に煽りすぎだわ」

美粧「それだけ期待してるんですよ。何せ、伝説の舞台ですからね!」

勇者「ち、ちょっと、あなたまでそんなこと言わないでよ。私だって人間よ? 緊張するわ」

美粧「ふふっ、ごめんなさい。でも、本当に大丈夫なんでしょうか……」

勇者「大丈夫って、何が?」

美粧「……私、あの舞台を見ていたんです。今の劇場都市になる前の、劇場大通りで」

勇者「………そうだったの」

美粧「お芝居のことは分かりませんけど、彼以外に盗賊を演じるなんて不可能だと思うんです」

美粧「あの日に彼が見せてくれた盗賊は、格好良くて情熱的で、それでいて掴み所がなくて……」

美粧「口では表現できない不思議な魅力がありました。とっても輝いて見えたんです」

勇者「(それはそうよ、彼は本物だったんだから。とは言えないわね……)」


勇者「あなた、彼のファンなの?」

美粧「はい、今でも枕元に写真を置いて寝てますよ!」

勇者「……はぁ、そんなんじゃ苦労するわよ? 幾ら待っても来やしないんだから」

美粧「へっ?」

勇者「コホンッ、いえ、何でもないわ」

美粧「?」

勇者「……はぁ、やっぱり気が重いわね」

美粧「ご、ごめんなさい。本番前にあんなことを言ってしまったから……」

勇者「いいのよ。だって、私もそう思うもの。彼以外に、盗賊役は有り得ない」

勇者「完全再現なんて書いてるけど、彼がいなければ再現も何もあったもんじゃないわ」

美粧「……あの、一つ訊いても良いですか。ずっと気になってたことがあるんです」

勇者「彼を好きかって?」

美粧「は、はい。だって、あの舞台の時のステラさんは、何というか、とっても女の子でしたから……」

勇者「あら、失礼ね。今は女の子じゃないって言いたいの?」


美粧「そ、そんなことないですっ!」

勇者「冗談、冗談よ。でも、そうね……」

勇者「今も彼を想ってるわ。きっと、明日の今も……彼を想わない日なんてないと思う」

勇者「彼はそれくらい大きなものを、たった二日の間に私に与えてくれたの」

美粧「……彼は、何をくれたんですか?」

勇者「生きる目的ってやつかしら。それが、私が舞台に立ち続ける理由でもあるわ」

美粧「舞台立ち続ける、理由……」

勇者「彼と約束したのよ。舞台の上で、また会いましょうってね」ニコッ

美粧「(……可愛いなぁ)」

勇者「じゃっ、そろそろ行ってくるわ。ま、この舞台はコケるでしょうけど」

美粧「はい。って、えっ!?」

勇者「それじゃ、またね……」

美粧「あ、ちょっと待って下さい。衣装のポケットに何か挟まってますよ?」

勇者「………紙切れ? っ!!」ダッ

美粧「えっ、ちょっとステラさん!? どこに行くんですか!?」

ヒラヒラ…

美粧「?」カサッ




真実の夕陽
      貴女の訪れ
            心よりお待ちしております




追記。ステラ、遅れてゴメン

蛇足っぽいですが、これで終わります。
指摘や質問、感想などありましたら、是非お願いします。

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