勇者「バッドエンドじゃ終わらせねえ!」 (128)



剣士「海賊たちは、あの洞窟の中だ」


魔法使い「とうとう、追い詰めましたね」


剣士「ああ・・・俺たちの旅も遂に終幕だ」


魔法使い「いろいろありましたね・・・」


剣士「そりゃあそうさ、一年も一緒に旅してたんだ」


剣士「しかし、俺を仇と勘違いして斬りかかってきた君と、旅をすることになるとはなあ」


魔法使い「剣士さんっ!その話はしないって約束だったじゃありませんか!」


剣士「ははは、ごめんごめん」


魔法使い「旅が終わるんですね、少し寂しい気もします・・・」


剣士「・・・」

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剣士「おっと、気を抜きすぎたな!ともかく海賊どもを倒すとしよう」


剣士「おしゃべりは、その後でいいだろ」


魔法使い「そうですねっ・・・」


勇者「すきありーっ!」ぽかっ


勇者の攻撃
剣士は昏倒した


剣士「」ちーん


魔法使い「えっ!えっ!だっ誰ですか!?海賊の仲間っ!?」


勇者「問答むよーう!」ぽかっ


勇者の攻撃
魔法使いは気を失った


勇者「あなた方の旅の終わり、バッドエンドは似合いません!」



------


戦士「あ、こんな所にいたよ」


僧侶「勇者!あんた、また勝手に飛び出して!!」


賢者「ほっほっほ、勇者様は元気がええのう」


賢者「しかし、急に駆けだしたときは何事かと思ったぞ」


僧侶「あっ!なにこのカップル!なんで気を失ってるの!?」


戦士「うわ、すげえタンコブ。痛そう」


僧侶「勇者!?」


勇者「はい、わたしがやりました!」


戦士「・・・また例のあれか」



勇者「バッドエンドの匂いがしたのです!」


戦士「相変わらず鼻が利くなあ」


勇者「わんわんっ!」


僧侶「どういうことよ!理由を説明しなさい!」


勇者「こうせざるを得ない事情があったのです!」


僧侶「だからそれを言えって言ってんの!」


賢者「お主たちのキャットファイトは、それはそれで魅力的ではあるが」


賢者「二人とも、そこらへんにしておきなさい」


僧侶「でもっ!」


賢者「お客さんじゃよ」


戦士「!」



海賊A「お前らこんなところで何やってんだ・・・?」


海賊B「へっへっへ、女が三人!しかも上物だ!」


海賊C「売り払う前に、順番で回そうぜ!」


海賊頭領「お前たち!女には傷をつけるな!あとは好きにしろ!」


海賊「「「よーほーっ!」」」


勇者「よーほーっ!!」


戦士「気に入ったのか、そのフレーズ」



------


賢者「なんじゃ、口ほどにもない連中じゃったのう」


僧侶「ああもう!服に血がついちゃった!」


戦士「ん?あの程度のやつらに、傷を負わされたのか?」


僧侶「返り血よ!か・え・り・ち!」


賢者「ほっほ、儂が洗って差し上げよう僧侶よ」


賢者「さあ、服を脱ぐがよい」


賢者「こう見えて、クリーニングには定評があっての」


賢者「儂の絶技、否、舌技見せて進ぜよう!ほれ、はよう股を開かんか!」


僧侶「こんの糞じじい!!!」



戦士「爺さん、セクハラしてる暇があったら手伝え」


勇者「そうですよ!そこの冒険者カップルの身ぐるみを剥ぐのを手伝ってください!」


僧侶「な、なにしてるのよっ!あんたたち!!!」


戦士「なにって、身ぐるみ剥いでる」


僧侶「海賊どもなら兎も角、なんでカップルから略奪してるのよ!?」


賢者「お、戦士殿!この魔法使い娘、着痩せするタイプじゃぞ!!」


賢者「おひょひょひょ、役得役得ぅ!」


僧侶「海賊の死体ともども埋めるわよ糞じじい!その娘から離れろ!!」


賢者「・・・ん?すまんのう最近、耳が遠くて」


賢者「なんなら膝枕アンド耳かきで、儂の耳を綺麗にしていただけるとありがたい」



戦士「そこまでだ爺さん、それ以上は見過ごせねえぜ。娘から離れろ」


賢者「・・・むぅ」


賢者「せっかくのお楽しみが・・・」


僧侶「勇者ぁっ!」


勇者「あ、はい、理由ですね」


勇者「身ぐるみ剥いだら、ぜんぶ説明しますから」


勇者「あ、海賊達は死体ごと持っていくので後で良いですよ」


勇者「ほら急いで急いで、カップルが目を覚ます前に姿を隠しますよ」


戦士「だとよ、さっさと終わらせようぜ」


僧侶「もうっ!納得できなかったらゲンコツだからねっ!」


賢者「///」


僧侶「・・・なんで頬を染めるのよ」



------


剣士「・・・んあ」


剣士「・・・なんで俺は、こんなところで素っ裸になってるんだ」


剣士「隣には肌着一枚の魔法使い・・・」


剣士「誤解を生みそうな状況だな」


魔法使い「・・・、ん、あ、おはようございます」


剣士「おはよう、魔法使い」


魔法使い「・・・」


魔法使い「!?」


魔法使い「///」


剣士「・・・海賊共に裏をかかれたのかな?」


魔法使い「あ、そ、そうですよね、そうでした、私ったらまた勘違いを・・・」



魔法使い「・・・」


魔法使い「海賊どもの仕業・・・そう考えるのが妥当ですね」


剣士「お前、持ち合わせある?」


魔法使い「お財布は一緒でしょ・・・」


剣士「剣もない、服もない、貯蓄もない・・・」


魔法使い「仇の海賊どもの姿も見えませんね・・・」


剣士「何にせよ、俺たちが未熟だったってことか」


魔法使い「そのようですね」


剣士「・・・命があるだけ幸いか」


剣士「事情を説明して、近くの村で施しを受けよう」


魔法使い「装備を調えるお金も貯めないと・・・」


剣士「腕も磨かないとな」


魔法使い「・・・ふふっ」


剣士「どうした・・・?」


魔法使い「・・・まだまだ、私たちの旅は続きそうですね///」


剣士「・・・そうだな」



------


勇者「ね?」


戦士「うん、ハッピーエンドだな」


賢者「紛れもないハッピーエンドじゃ、この後ふたりはめちゃくちゃ・・・」


僧侶「う~ん・・・まあ、事情は何となく分かったけど・・・」


戦士「納得がいかないようだな」


僧侶「まあねえ・・・」


僧侶「見るに、あの海賊どもが誰かの仇だったんでしょ?」


僧侶「だったら別に、仇をとらせてやってもよかったんじゃない?」


賢者「一理あるのう」


勇者「いえ」


勇者「彼らじゃ力不足でした」



勇者「奇跡が起こって仇をとったとしても、男の方は間違いなく死んでいたでしょう」


勇者「決着がつき、一瞬の油断、盗賊の頭領が放ったナイフ、女を守る為に身代わりになる男」


勇者「男は、女に愛の言葉をささやき、そして天に召されます」


勇者「女は、彼を救えなかったことを一生後悔しながら生きることになったでしょう」


勇者「バッドエンドです」


勇者「そんな終わりかた、気に食わない」


賢者「えらい具体的じゃのう?」


戦士「勇者は昔から、演劇が好きだったからな」


戦士「想像力が豊かなんだよ」


僧侶「なら、助太刀するとか・・・」


勇者「この物語の主役は彼らです」



勇者「私たちは観客に過ぎない」


僧侶「彼らを昏倒させて、盗賊ども薙ぎ払っておいて?」


勇者「ラストシーンに納得がいかない観客が」


勇者「舞台に乱入することもあるでしょう?」


賢者「らんにゅう・・・エッチな響きじゃ・・・」


戦士「そうだな」


僧侶「いいのかなあ・・・これで・・・」


勇者「いいんです」


勇者「だって」





勇者「ハッピーエンドなんですから」



------


------------


街の酒場


戦士「久しぶりの休息だな」


賢者「強行軍もいいところじゃからのう、この年だと辛い辛い」


僧侶「まあまあ、そうグチグチ言わないの」


僧侶「私たちが魔王を倒せば、それだけ早くこの世界に平和が訪れるんだから」


勇者「もぐもぐ」


勇者「できれば、その舞台も観客席で観たいんだけどなあ」


僧侶「またそれ?勇者」


僧侶「私たちの旅は演劇とは違うのよ」


僧侶「現実に人々は苦しんでいるし、気を抜けば待っているのは死よ」



戦士「まあ、そう言うな僧侶」


戦士「こいつは昔っからこうなんだよ」


戦士「世界は舞台、人々は演者、そんでもって勇者は観客」


戦士「女神さまは何でこいつを勇者なんかに選んだのかねえ」


僧侶「ちょっと!女神さまへの冒涜は許さないわよ!」


賢者「むしろ勇者様への冒涜の気がするがのう・・・」


勇者「・・・ん!」


戦士「どうした?勇者」


勇者「臭いです」




大男「おい!今回はやばすぎる!俺は降りるぞ!」


格闘家「・・・かまわないさ、俺一人で行く」


大男「違う!俺はそんなことを言ってるんじゃねえ!」



戦士「あっちの席、なんか揉めてるなあ」


賢者「ほっほっほ、この喧噪あっての酒場じゃ」


賢者「若者共のぶつかり合いを肴に一杯楽しもうではないか」


勇者「ぷんぷんします」


僧侶「あ・・・あいつら」


賢者「なんじゃ、知り合いか?昔の男か?図星じゃな僧侶よ」


賢者「今夜、儂が慰めて差し上げようではないか!ほれ胸を貸そう、否!胸を貸すのじゃ!」


僧侶「そんなんじゃないわよ・・・ちょっとごめん」


戦士「行っちまった」


賢者「そっけなくて、ちと寂しいわい」



大男「いまさらお前が一人で出て行って収まる話じゃねえんだ!」


格闘家「これは、俺のケジメなんだよ」


僧侶「・・・見つけたのね」


格闘家「・・・僧侶か」


大男「僧侶!お前、今まで何処に行ってたんだ」


僧侶「そんなことどうでもいいでしょ、それより」


格闘家「ああ、あいつを見つけたんだ」


僧侶「行くのね?」


格闘家「・・・ああ」


僧侶「・・・私が行くなって言っても?」


格闘家「お前は俺の何なんだよ・・・」


僧侶「そう、あんたの葬式に出るつもりはないわよ」


格闘家「呼んでも来ねえだろ・・・」




戦士「ああ、これは俺でもわかる」


勇者「バッドエンドの匂いです」


賢者「儂は勇者様の匂いを嗅ぎたい」



------


戦士「で、ここまでついてきたわけだが」


賢者「お!あの格闘家、屋敷の壁をあっさり飛び越えてしまいましたぞ!」


賢者「目的地はこの屋敷で間違いないようじゃの」


勇者「開幕中はお静かに!」


戦士「へいへい」


僧侶「・・・」


戦士「実際、どうするつもりだ勇者?」


賢者「この間と同じ手でいくのは如何かな?」


賢者「推測するに、仇を見つけて一人で戦いに赴くと言ったところ」


賢者「ケースとしては前回のムチムチ魔法使いと同じパターン」


賢者「ならば同じ道を辿ればよい」


勇者「いえ、それは無理です」



戦士「どうして?」


勇者「あの格闘家相手に不意を突くことはできません」


戦士「やってみなきゃわからんぞ」


勇者「いえ、わかります」


勇者「彼の目と勘」


勇者「異常です」


賢者「ふむ、儂にはそれほどの男には見えんが」


僧侶「・・・流石ね勇者」


僧侶「あの格闘家相手に奇襲は無駄よ」


僧侶「あいつは、背後から弩を打たれたとしても避けられるわ」


賢者「それほどの手練れなら、あっさり仇も討ってしまうんじゃないかのう」


僧侶「相手も同等かそれ以上の化け物よ・・・」



戦士「・・・最悪、気づかれても4人がかりなら、どうにかなると思うが」


勇者「だめです、舞台への乱入は最後の手段です」


賢者「ふむ、観客の矜持と言ったところじゃな」


勇者「それに同じ手はとりたくないです」


賢者「そりゃまた何故じゃ?」


勇者「前回と同じじゃあ」


勇者「つまらない」


僧侶「・・・呆れた」


僧侶「・・・悪いけど今回は別行動をとらせてもらうわよ」


僧侶「あんたらには付き合いきれない」


戦士「おいおい」



賢者「まあまあ、落ち着きなされ」


勇者「どうぞご自由に、僧侶さん」


勇者「今回は、あなたも演者の一人のようですし」


僧侶「いい加減にして・・・こんな奴が勇者だなんて」


僧侶「神託さえ無ければ、絞め殺してやりたい気持ちよ・・・」


僧侶「・・・」


僧侶「あとで、合流するから・・・」


戦士「あーあ、行っちゃった」


賢者「ほれ勇者殿、我々も続きましょう」


賢者「出遅れちゃあ、いいところを見逃してしまいますぞ、ぐへへ」


戦士「いちいち言い方がいやらしいんだよなあ」


勇者「そうですね、では抜き足差し足忍び足で」


勇者「よろしくおねがいします」


勇者「にんにん」



------


格闘家「・・・久しぶりだな、狂戦士」


狂戦士「・・・格闘家か」


格闘家「そろそろ決着をつけようじゃないか」


狂戦士「お仲間も一緒か」


格闘家「!」


僧侶「・・・」


格闘家「・・・何しに来た」


僧侶「あんたが死んだら誰が死体を持って帰るのよ」


格闘家「手は出すなよ」


僧侶「・・・」


狂戦士「準備はよろしいかな諸君」


狂戦士「では、始めよう」



------


狂戦士「」


格闘家「」


僧侶「・・・」


勇者「終わったようですね」


僧侶「・・・手が出せなかった」


僧侶「少しでも助けになればと思ったけど・・・レベルが違いすぎた」


賢者「正解じゃのう、下手に手を出してれば相手に利するどころか」


賢者「お主が死んでいたかもしれんぞ」


賢者「それほどの戦いじゃった」


僧侶「で、感想はどうよ勇者様?」


僧侶「・・・楽しめた?」



勇者「バッドエンドは嫌いです」


僧侶「流石のあんたでも、今回は何もできなかったのね・・・」


僧侶「なにが観客よ・・・ただの傍観者じゃない」


勇者「僧侶さん、蘇生魔法は使えますか?」


僧侶「無駄よ・・・蘇生魔法で生き返らせられるのは女神の加護を受けたものだけ」


勇者「使えますか?」


僧侶「使えるわ・・・」


勇者「では、女神を召喚しましょう」


賢者「なんじゃと?」


賢者「そんなこと・・・」


勇者「できます」



賢者「一体、どうやって・・・?」


勇者「私にもたらされている勇者の力は、女神様の力の一部です」


勇者「この力は、常に女神様とつながっています」


勇者「ですので、あとは綱引きの要領で女神様を現世に引っ張り出します」


賢者「えらい力技じゃのう」


戦士「と言うかお前、勇者の力なんてもん授かっていたのか?」


戦士「まあ、女の身にしては動けるとは思うが・・・その程度のもんだぞ」


勇者「勇者の力は、身体能力を高める類のものではありません」


賢者「そうじゃったのか」


勇者「さあ、説明はこれくらいでいいでしょう」


勇者「今回は、せっかく僧侶さんも役がもらえたんです」


勇者「ハッピーエンドを始めましょう」



------


女神「なに?もう・・・私を現世に召喚するなんて無理しちゃって」


戦士「あっさり出てきた」


僧侶「あわわ・・・」


勇者「お久しぶりです」


賢者「おおおおおおお、女神さまじゃ!美しい!美しいぞお!」


戦士「泣くな爺さん、うっとうしい」


女神「時間は少ないわよ、早く要件を言ってちょうだい」


勇者「あそこに倒れている格闘家に女神さまの加護を」


女神「あーはいはい、そういうことね」


女神「ではホイっと」


戦士「軽いな・・・」



女神「はい、完了」


戦士「早いし」


女神「で、捧げものは?」


勇者「・・・」


勇者「右目では、どうでしょうか」


女神「うーん・・・ちょっと少ないけど・・・ま、いいか」


女神「観客であり続けたい貴方にとって目は大事ですものね」


女神「出血大サービス!召喚分と施し分、目ん玉ひとつで手を打ちましょう!」


僧侶「なっ!」


勇者「では、どうぞ」


勇者「ぐ」


女神「はい、ではまたのご利用をお待ちしておりまーす」



勇者「さようなら」


賢者「あぁ・・・もう行ってしまわれた・・・儂の女神様・・・」


戦士「爺さんのじゃねえよ」


僧侶「あんたっ!何してんのよ!」


僧侶「目がっ!それに血がっ!」


戦士「爺さん、勇者に回復魔法を頼む。血だけでも止めてやってくれ」


賢者「む、相分かった」


賢者「回復魔法キュア」


勇者「・・・ありがとうございます。では僧侶さん」


勇者「蘇生魔法を格闘家さんに」


僧侶「ありがとうだなんて言わないわよ!」


僧侶「だいたい、あんた今後はどうするのよ!」



僧侶「片目で倒せるほど魔王は容易くないわよ!」


勇者「僕の目は、観劇のためのものです。戦うためのものじゃない」


僧侶「屁理屈を!」


僧侶「今後も、人死にを見る度に代償を払って女神様を呼び出すつもり!?」


僧侶「それとも私に同情したって言うの!?」


勇者「観客は往々にして、演者に共感するものですよ」


勇者「それに今回は、どうしようもありませんでした。これは、今回限りの奥の手です」


勇者「だいたい、神の登場で物語を締めくくるのは安直すぎます」


勇者「ハッピーエンドは筋に沿ったものじゃなきゃ」


戦士「機械仕掛けの神ってやつか」


勇者「今回の物語は、残念ながら駄作ですね」




勇者「だが、それでも」






勇者「ハッピーエンドに変わりない」



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彼女の鼻は、あらゆる物語からバッドエンドを嗅ぎつける


俺と彼女は幼いころからの付き合いだ
彼女に父親はなく、母親も勤めに出ており
近所で面倒見のいいと評判の、俺の母親に預けられていることが多かったからだ
年の近かった俺と彼女は、兄妹のようにいつも一緒だった


俺の母は、演劇が大好きで
時折、街にやってくる芝居小屋には俺たちを連れ立ち、必ずと言っていいほど足を運んでいた
彼女の演劇好きは、俺の母親ゆずりなのだ
実を言うと、演劇は俺も嫌いではないのだが


今の彼女は、バッドエンドを憎み、ハッピーエンドを好む
誰がどう見ても、立派なハッピーエンド中毒者だ
だが、幼いころからそうであったわけではない
むしろ彼女は、悲しい結末の演劇も好んでみる子供だった
当時、彼女にどういった芝居が好きか尋ねたことがある
「心が、どったんばったん動かされるやつ!」
彼女が求めていたのは、心動かされる物語
たとえその指針がマイナスに振れたとしても
重要なのは心の振れ幅、その絶対値にあったのだ



彼女がバッドエンドを忌避するようになったのは
俺の母親が、流行り病で死んでしまってからだった
俺と彼女は、これまで以上に演劇にのめり込んでいった


彼女は言う
「世の中は、こんなに辛いことに溢れてるんだから芝居ぐらい全部ハッピーエンドでいいのに」


その頃からだ
彼女はバッドエンドに鼻が利くようになった
芝居の中盤辺りになると、バッドエンドの香りがします
そういって、出て行ってしまうのだ
彼女の見立てはたいてい当たっていたが、外れることもしばしばあった
俺が自慢げに、「どんでん返しの大団円だった」と言うと
悔しそうに地団太を踏むのだ、それがたまらなく愉快だった
そうして彼女のヒステリーを一しきり楽しんだ後、二人でもう一度、その芝居を見直しに行った


彼女のハッピーエンド中毒は、徐々に悪化していく
遂には、舞台に上がり込み悪役を蹴り飛ばすようになった頃
彼女は勇者に選ばれた
それ以来だ
彼女は、これまで以上にバッドエンドを嗅ぎつけるようになった
彼女が「バッドエンドだ」と言えば、必ずそうなる、信じられないが必ずだ
かつてのように、見立てが外れることはなくなっていた


彼女は勇者の力を授かったと言っていた
もしかすると、その力がバッドエンドを嗅ぎつける一助となっているのかもしれない
バッドエンドをハッピーエンドに変える
それが勇者の役割であると言わんばかりに
そうであるならば、俺は女神を恨む
女神は彼女から心休まる日々を奪った
常にバッドエンドに怯える彼女を、無理やり舞台に引き上げた、くそったれの女神を


心から



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惑いの森の村

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日は完全に落ちていた

雲が陰っているせいか、月明りも見えない

だが僕たちは明るく照らされている

木々が、民家の茅葺が、物見台が

そして、人が

あらゆるものが、熱と光を放っている

メラメラとグラグラと


戦士「くっそ!なんてザマだ!」


僧侶「だめ、村の西側は全滅だったわ」


少女「あ・・・あ・・・・あああああああああああ!」


賢者「落ち着きなさい少女、お主たちの命は儂らが必ず守る」


巫女「・・・」



勇者「私たちが森で迷ってさえいなければ・・・あと半日早くこの村にたどり着いていれば」


戦士「悔やむのは後だ、今はあの魔物をどうにかしよう!」


巫女「それは、私の仕事です・・・」


少女「巫女っ!」


巫女「村を見守る立場にありながら、森に出かけた私の不始末」


巫女「私が、やります」


戦士「なっ!?」


僧侶「何をする気!」


巫女「私の存在そのものを媒介にして発動する、一族に伝わる秘伝の魔術」


巫女「あの魔物と、それに関わる全てを無かったことにします」


賢者「存在そのものを媒介に、じゃと?」


勇者「無かったことにする・・・?」



巫女「ええ・・・詳しい説明は省きますが、それでこの村は救われます」


巫女「ごめんね少女、ずっと一緒にいようって約束したのに」


勇者「!」


巫女「その約束すら、貴方は忘れてしまうだろうけど」


巫女「ずっと見守っているから・・・」


少女「それってどういう・・・?」


勇者「ありがちな!ハッピーエンドっぽいバッドエンドの匂いです!」


巫女「さようならっ・・!少女!」


勇者「させるかあっ!!!」




勇者「リセットおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」ザシュ



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惑いの森


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惑いの森、その名は伊達ではない

僕たちの頭上を木々が覆っている

日の光がほとんど入ってこない

そのせいで、僕たちは日の方角を知ることすらできない

だが、それでも僕は必死に思い出し道を辿る

僕たちがたどり着くであろう、あの村へと急ぐ



勇者「急いでください皆さん」


戦士「おい勇者!お前自分がどっちに向かってかわかっているのか!?」


勇者「バッドエンドの匂いがするのです!それも強烈な!」


勇者「おそらくこちらに集落があります!」


戦士君は的を得ていた

私は自分がどちらを向いているかわかっていなかった

ただ前回と同じように、同じ道を同じように迷っているだけだ



勇者「強力な魔物の匂いもします!」


賢者「ちょ、もうちょっと年寄を労わってくだされ」


僧侶「ひぃーひぃー!」


賢者「僧侶殿!もうちょっと色気のある吐息を聞かせてもらえんかのう!」


僧侶「ふひぃーふひぃー!」




「きゃあああああああああああああああああああああ!」




戦士「勇者!今の声!」


勇者「き、聞こえました!でも何処からでした!?」


賢者「ひ、東じゃ、子供の声じゃった・・・」


勇者「・・・・っ!まずは、そっちに向かいましょう!」


僧侶「なに・・・?これが勇者の言ってたバッドエンドの匂いとは別件ってこと?」


戦士「とにかく急ごう・・・!」



------


少女「あ・・・・あ・・・っ」


戦士「大丈夫か・・・?ケガは無いようだな?」


巫女「」


僧侶「こっちの娘は、酷い・・・完全に炭化してる・・・」


間違いない、あの魔物の仕業だ


僧侶「いったい、何があったの?」


少女「わ、私、村で噂になってる魔物を見に行こうって・・・巫女ちゃんと二人で」


賢者「むぅ・・・なんということじゃ」


少女「魔物が・・・っ!突然、魔物が現れてっ!巫女ちゃんがっ!巫女ちゃんがっ!」


戦士「身代わりか・・・くそっ」


勇者「・・・おそらく、この先の村の子供でしょう」


勇者「魔物はどちらへ行きましたか」



少女「む、村のほうに・・・っ!」


賢者「まずいのう・・・」


勇者「魔物を追いましょう!」


僧侶「まって!あ、あれっ!」


日の入らない

暗い森の中に、赤く揺れる光が伸びる


僧侶「・・・っ!間に合わなかったようね・・・」


勇者「先に子供たちを救うのが先か・・・次は最短ルートを探って・・・」


賢者「勇者様!まだ生存者がおるかも知れん、急ぎましょう!」


勇者「りせえええええええええええええええっと!」ザシュ



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惑いの森


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戦士「ぐあああああああああああっ!!」


賢者「戦士殿っ!だ、だめじゃ・・・」


僧侶「な、なんて早さなの!この魔物!!私たちじゃあ適いっこない!」


勇者「リセット!」

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夢の中で女神様に勇者の任を命じられた数日後

王国騎士が僕を迎えに来た

どうやら、王国付きの大神官にも女神様からお告げがあったらしい

為されるがまま、王都へと連れていかれ

綺麗な服を着せられ、気が付けば王の前に跪いていた

とても退屈な儀礼儀式を終え、王から伝説の勇者の剣を授かり

旅のお供をつけられ、さあ旅の始まりだと城門を出ようとしたところで

僕は馬車に轢かれた


ああやっぱり、芝居のようにはいかないなあっと薄れゆく意識の中で悔い改めていたら

王国騎士が僕を迎えに来た

どうやら、王国付きの大神官にも女神様からお告げがあったらしい

予知夢かなと思いつつ、再び退屈な儀礼を終え

城門を出て、ものすごい勢いで突っ込んできた馬車を華麗に避け、王都の住宅街を抜けようとしたところで

僕の頭に、鉢植えが落ちてきた

アマリリスの綺麗な赤がよく映えていた



そして、また王国騎士が私を迎えに来た

あとは経験に基づいて、様々な不運を乗り越えるだけだった

馬車をよけ、鉢植えをよけ、流れ矢を払い落し、脱走した闘犬を捕まえ

凶漢をいなし、鉢植えをよけ、鉢植えをよけ、鉢植えをよけ

この街、鉢植え多すぎじゃないかと疑問に思った頃には

ようやく、王都の外に出ていた

不運はそこでやんだ


今考えると、あれは魔族の呪いだったのではないかと思う

旅の始まりに、秘密裏に出鼻をくじこうとしていたのだろう

あまりにも僕が不運をよけるから、最後にはレパートリーが尽きたのだろう

あの鉢植えの雨は、呪術師のやけくそに違いない

そんなこんなで、僕は自分に授けられた力を学んだ


女神から授かった、勇者の恩恵

僕が死んだときに発動する魔法

事件が起こる前まで時間をさかのぼる

時渡りの力

いつも通り

僕は力を奮う

ハッピーエンドを迎えるために



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惑いの森


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戦士「鬱蒼とした森だな、おい」


僧侶「虫が多い・・・いくら近道だからと言っても気が滅入るわ・・・」


勇者「・・・森を迂回していると3日はかかります」


勇者「突っ切るのが最短です」


賢者「枝葉に太陽が隠れているのが問題じゃのう」


賢者「これじゃあ、方向を見失ってしまうわい」


勇者「みなさん、こっちです」


戦士「やけに足取りが軽いな勇者、まるで来たことがあるみたいだ」


勇者「太陽が見えなくても方向を探る方法はいくらでもありますよ」


戦士「ぜひ、ご教授願いたいものだな」



勇者「機会があれば」


賢者「今が、まさにその機会なんじゃがのう」


勇者「また今度にでも」


戦士「教える気はないってことか」


勇者「皆さんお静かに」


勇者「人の気配です」


嘘だ

僕に人の気配を探る力なんてない

密林の中での方向の探り方なんてものも知らない

頼っているのは五感ではなく経験

確か、この辺りだったはず

見つけた、少女が二人

あの独特な装束、見間違えるはずがない



巫女「勝手に森に・・・、また大人・・・に叱・・・るよ?」


少女「大丈・・って!巫女だ・・・あの魔・・・みたいでしょ?」




僧侶「人間の子供のようね」


戦士「こんな森の中に?」


賢者「集落でもあるのかのう?お、なかなか可愛いぞ」


勇者「集落があるなら、ぜひ案内していただきましょう」


勇者「森を抜ける道を知っているかもしれませんし」


戦士「よし声をかけてみるか、僧侶、糞じじいを押さえておくから頼む」


僧侶「絶対に離さないでよ、何しでかすかわかったもんじゃないんだから」


賢者「さすがに子供は専門外なんじゃがのう・・・」


勇者「日頃の行いを恥じて詫びてください」




------


僧侶「こんにちは、お二人さん」


少女「!」


巫女「・・・ど、どちらさまですか?」


僧侶「旅の者よ、貴方たちは近くの集落の子?」


少女「そうだよ」


巫女「あっ!こら!」


勇者「安心してください、野盗の類ではありません」


勇者「私は、勇者。魔王を倒す為に旅をしています」


僧侶「この森を抜けると魔王城までの近道らしいのよ」



巫女「・・・だったら方向が違いますよ」


戦士「なに?」


戦士「おい勇者!」


勇者「すみません、方向を誤ったみたいです」


賢者「この子たちに出会えたのは幸運じゃったのう・・・」


少女「迷子なの?」


勇者「ええ、どうやらそうみたいです」


僧侶「今日中に森を抜けるのは無理そうね・・・」


巫女「・・・もしよろしければ、集落まで案内します」


巫女「私たちも昼食をとりに帰ろうと思っていたところです。あなた方も集落で休息をとられてください」


勇者「ぜひ」



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惑いの森の村


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僧侶「つ、ついたあ・・・」


賢者「も、もうだめじゃあ」


勇者「二人ともだらしないですね」


僧侶「全力で走らせるからよ!こんな足場も不確かな森の中で!」


賢者「こ、殺す気じゃあ、勇者様は儂を老衰で殺す気なんじゃあ・・・」


戦士「だらしねえなあ、俺と勇者は子供背負って走ってるって言うのに」


少女「おろろろろろろろろろろrrrrr」


戦士「あ」


巫女「じ、地面が揺れてr・・・・・」


勇者「酔っちゃったようですね」



勇者「まあ、村の中なら安全ですから放っといていいでしょう」


賢者「///」


僧侶「・・・何に反応したのよ糞じじい」


戦士「で、この強行軍に意味はあるんだよな勇者?」


勇者「もちろん」


戦士「で、この次は?」


勇者「食事をとったら、また森に戻ります」


僧侶「はあっ!?」


賢者「ま、まさか!また走るのかっ!?勇者様っ!勘弁してくだされ!」


賢者「こういうのは趣味じゃないですぞ!」


勇者「もちろん徒歩ですよ、戦う前にバテバテじゃあ困ります」


戦士「戦う・・・何とだ?」



勇者「魔物です。先ほど匂いを感じました」


僧侶「もう突っ込まないわよ」


賢者「///」


僧侶「やめろ」


勇者「このままだと、村が襲われる可能性が高いです。先手をうちます」


戦士「わかった」


僧侶「物分かり良すぎよ戦士、どうせ根拠なんてないんでしょう勇者」


勇者「はい、バッドエンドの匂いがた。それだけです」


僧侶「はいはい、わかりました。従います従います」


勇者「ありがとうございます」



------


賢者「本当におったわ・・・」


僧侶「でも匂いなんてする?しないわよ?」クンクン


賢者「おっほ」poooo


賢者「すまん///」


僧侶「しばくぞ」


戦士「確かに、村の方向に進んでるな」


勇者「背後から奇襲をかけます」


賢者「相分かった」


勇者「では、行きましょうか」



------


戦士「思ったより楽勝だったな」


賢者「そりゃあ、背後から神速の戦士殿と勇者様のコンビネーションを食らえば、ああなるわい」


勇者「いえ、決定打には欠けていました。反撃を許さず倒せたのは、お二人の魔法のおかげです」


僧侶「そりゃ、どういたしまして」


勇者「あの魔物、正面から立ち向かっていたら4人がかりでも厳しかったと思います」


勇者「村に現れる前に倒せて良かった」


僧侶「・・・」


僧侶「腑に落ちないわね」


戦士「なんだ、今更」


戦士「村を一つ救ったんだ、勇者の働きとして申し分ないだろ」


僧侶「そうね」



僧侶「ただ普段の勇者なら、ギリギリまで物語に手を加えようとしない」


僧侶「勇者の言葉を使えば、物語の演者たちが如何に動くか、どのようなドラマを刻むか」


僧侶「それを傍から楽しむ」


勇者「そうですね、それが私です」


戦士「それに付き合う俺たちも同罪だがな」


戦士「だが、今更それについて懺悔するつもりはねえぞ」


僧侶「ごめんごめん、責めてるわけじゃあないのよ」


僧侶「ある意味、それが関係者たちの意志を尊重している部分もあるしね」


賢者「続けておくれ」


僧侶「さっきも言ったけど、ぎりぎりまで物語を見極める、それが勇者の嗜好でしょ?」


賢者「至高の嗜好」


賢者「略してしこしこ」



僧侶「なのにどうして、今回はこんなに積極的に、魔物退治に乗り出したの?」


賢者「・・・」


勇者「そうですね・・・確かに私の嗜好にそぐわない行動でした」


勇者「ただ今回は演者が足りていませんでした」


戦士「・・・?」


勇者「抗える力があってこその戦いです」


勇者「あの村には、その力が圧倒的に足りていなかった」


勇者「ですから、私たち勇者が物語の舞台に上がることにしたのです」


勇者「少女と巫女の友情物語の結末を観たい気はありましたが、それは諦めました」


僧侶「友情物語?昼に出会った二人のことよね?どういうこと?」


勇者「彼女たちの物語ではハッピーエンドに成り得ませんでした」


僧侶「・・・」



賢者「演者不足と言ったのう。勇者様なら気づいていたじゃろうが、森で出会った巫女」


賢者「かなりの魔力を秘めておった、おそらくは村の守り手」


賢者「それでも不足だったと?」


勇者「ええ、どうも彼女は思い詰める質があるようで。戦闘には向かないと判断しました」


僧侶「まるで知己のような口ぶりね」


勇者「ですので、無理やり勇者の冒険譚に書き加えることにしたということです」


僧侶「まあ、納得は言ったわ・・・」


僧侶「芝居好きのアンタが、物語の半ばから無理くり舞台に上がった気分はどう?」


勇者「・・・」



楽しかったわけがない

物語は傍目から見てるのが一番楽しい

どんなに楽しく愉快な事件が起ころうとも

僕は、その中心には居たくない

確かに、以前の僕は心を揺り動かされる物語を好んでいた

でも世の中が辛いことに溢れていることを知った今の僕は

心の平穏を何より望む

事件は舞台の上だけで充分だ


もし僕が、好きな役につけるなら

何の事件も起きずに

くだらない事を永遠と繰り返す、穏やかな日々

そんな物語に出たい


今でこそ、魔王という存在のせいで世界のすべてが劇場と化し

どういうわけか、勇者という大役で舞台に無理やり引きずりあげられているが

この冒険物語が終わった後でなら


そんなおまけが

番外編があってもいいじゃないか



勇者「もちろん面白くなかったです」


戦士「・・・」


勇者「もし私が積極的に、心から喜んで舞台に立つとするならば」


勇者「私を、監督にしてもらわないと」


賢者「勇者様の作る物語、いったいどのような内容になるのかな」


勇者「そうですねえ、朝起きて、ご飯を食べて、家事をして、たまに演劇をみて、夜は眠る」


勇者「こんな物語なら出てもいいです」


僧侶「なによ、そんなのただの日常じゃない」


勇者「そうですね、言うなれば日常物」


勇者「演劇では、新ジャンルですねえ」


僧侶「何が面白いのよ、そんなの」


勇者「何って、そんなの簡単ですよ」


勇者「日常ものなら」




勇者「バッドエンドが起こりえない」



-------


魔王城城門前


------------


勇者「作戦をお伝えします」


戦士「唐突だな」


勇者「今回のバッドエンドの匂いは、これまでの比じゃないです」


勇者「まだ、城門の前だというのに鼻が曲がりそうな勢いです」


勇者「というわけで、作戦が必要と判断しました」


戦士「作戦を立てよう、ではなくお伝えしますか・・・」


戦士「もう出来上がってるってことだな?」


勇者「ええ、もちろんです」


賢者「ちっとは儂らに、相談してくれてもよいと思うんじゃがのう」



勇者「いえいえ、この物語は私が主役ですから」


勇者「ぜひ脚本も私に任せてください」


戦士「・・・まあ、勇者の作戦なら間違いないだろう」


戦士「だが、勇者一人が無理をするのような作戦は許容できないからな」


勇者「いえいえ」


勇者「無茶をしてこその勇者です」


戦士「・・・ああそうかい」


僧侶「まあ、とりあえず聞いてましょうよ」


僧侶「内容はそれから判断すればいいでしょ?」


戦士「そうだな・・・」


勇者「すみません、ちょっと気を持たせてしまいましたが」



勇者「作戦というよりは、魔王と戦ううえでの心得のようなものです」


僧侶「わかったから、早く言いなさい」


勇者「まず、魔王の間合いには決して入らないでください」


戦士「間合い?」


戦士「それって、どれくらいだ?」


勇者「魔王は武器を持ちません、ですので、手の届く範囲ですね」


戦士「入るとどうなる?」


勇者「触れられると体が腐食します」


僧侶「ふうん・・・相変わらず、何でも知っているのね」


勇者「・・・ですので、間合いを取りつつチクチク痛めつけようと思います」


賢者「ふむ、4人がかりで持久戦に持ち込むのじゃな」


戦士「ちょっと卑怯だが、まあ魔王相手だし仕方ないか」



勇者「はい、仕方ないと割り切ってください」


勇者「もう一つ危険なのが、魔王の放つ強力な魔法です」


勇者「後衛のお二人も、とにかく動き回って狙いを散らすよう努めてください」


賢者「それはきついのう・・・持久戦で常に動いていては体力がもたんぞい」


勇者「お願いします」


賢者「むう・・・最大限、努めてみるわい」


僧侶「まあ、最後の戦いだから」


僧侶「もし力を使い果たして老衰で死んだとしても、看取ってあげるから安心なさい」


賢者「ひゅぅ!相変わらずキレッキレじゃのう!僧侶ちゃんが看取ってくれるなら本望じゃ!」


僧侶「・・・ッチ」


勇者「最後に」


勇者「トドメは私が差しますので」



勇者「例え隙があったとしても、決して逸らないでくださいね」


戦士「わかった」


勇者「・・・」


戦士「ん?どうかしたか?」


勇者「・・・皆さん」


勇者「今日まで大変お世話になりました」


戦士「おいおい、改まってどうした」


僧侶「何か変なものでも食べた・・・?」


賢者「・・・まったく」


賢者「戦士、僧侶、お主らの神経の図太さには驚かされるわい」


賢者「儂らは今から、あの魔王と戦おうというのじゃぞ・・・?」


賢者「これが、最後の語らいになるかもしれん、勇者様はこの時間を惜しんでおるのじゃよ」



勇者「・・・まあ、そんなところです」


勇者「今日は、私の初主演の舞台が終幕を迎える日です・・・」


勇者「今日まで、お付き合いいただき本当にありがとぅございました」


戦士「付き合わされたつもりはねえぞ、こっちが好きで着いてきたんだ」


僧侶「わ、私は教会に命令されて着いてきただけなんですけど!」


賢者「すばらしい・・・様式美じゃ///」


賢者「あ、儂も老い先短い身じゃ、久方の旅を楽しませてもらったんじゃから気にするでないぞ」


戦士「言っておくが、これを最後の会話にするつもりはないぜ?」


戦士「だいたい、倒せそうにないなら一度撤退するって手もあるんだ」


戦士「あんまり気負うなよ、勇者」


勇者「そうですね・・・」


勇者「うん、ありがとう戦士くん」


戦士「おう!」


勇者「では、行きましょうか!」



------


魔王「よくぞここまでたどり着いた・・・勇者諸君」


僧侶「す、すごい瘴気・・・!」


賢者「しかも!ナイスミドル!出来る男の風格を漂わせておるっ!羨ましい・・・っ!」


魔王「・・・話に聞いてはおったが、本当にたった4人でやって来るとはな」


魔王「そのうえ小童が一人に、小娘が二人、それに老人が一人・・・なめられたものだな」


戦士「ふん、そのたった4人に倒されるお前が哀れだよ魔王」


魔王「・・・ふむ、闘志は十分か」


魔王「・・・感じるぞ、女神の残り香」


魔王「その禍々しい光の力・・・小娘、貴様が勇者だな」


勇者「はい、その通りです」


魔王「こんな娘に加護を与えるとは・・・女神の眼も曇ったか」


勇者「さあ、どうでしょう、それは貴方自身の眼でお確かめください」



魔王「ほざきおる」


勇者「そろそろ始めていいでしょうか?」


魔王「・・・構わん、来るがよい」


勇者「皆さん!行きますよ!」


戦士「魔王!ネタバレして悪いが、この物語、結末はハッピーエンドだ!」


僧侶「絶対に、エンドロールまで眠っちゃだめよ!」


賢者「さあさあ!勇者様の晴れ舞台!とくとご覧あれ!」


勇者「それでは、一世一代勇者物語の幕引きと行きましょう!」


勇者「魔王覚悟っ!」


魔王「ふははははははは」


魔王「せいぜい楽しませてくれよ・・・勇者ぁっ!」





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戦士「くらえっ!流星斬り!」


魔王「ふはは!どうした、踏み込みが浅いぞ!そんなことでは刃が届かんぞっ!」


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僧侶「じじい!あわせろ!」


賢者「合点!」


僧侶「風魔法 ハリケーン!」


賢者「炎魔法 ファイアードラゴン」


「「火災旋風 ファイアストーム」」


魔王「ぬるいわっ!!」


魔王「闇魔法 ダークネス!」


僧侶「きゃあ!」


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勇者「疾っ!」


魔王「応っ!」


勇者「ぐ、ぐぬぬ・・・・っ!剣を素手で止めるなんてっ・・・!」


魔王「所詮、小娘の膂力!よくぞこの程度で我に挑んだものよ!」


戦士「勇者っ!離れろっ!」


戦士「火炎斬り!」


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魔王「究極闇魔法 ダークネスフレイム」





賢者「ぐは・・・」


賢者「むう・・・ぬかった・・・」


戦士「じじい!大丈夫か!?」


戦士「僧侶!回復を・・・」


僧侶「ごめ・・・もう魔力が・・・ぁっ」


戦士「くそっ・・・っ!」


魔王「まったく・・・実に面白みのない戦いだ」


魔王「たかが人間が持久戦で、魔族に勝てると思うたか・・・?」


魔王「浅はか・・・実に浅はかだ・・・」


勇者「・・・」



勇者「果たして、そうでしょうか・・・?」


魔王「なんだと?」


勇者「身にまとっていた闇の瘴気が薄らいでいますよ」


勇者「私には貴方が、魔力を使い切ったように見えますが」


魔王「貴様らが、ちょこまかと逃げ回るおかげでな・・・」


魔王「無駄に魔法を放ったせいだ・・・」


魔王「確かに、貴様の言う通り我が魔力は底をついておる」


戦士「!」


戦士「それならっ!?」


魔王「だが!我を魔力切れごときで地に伏せているそこの小娘と一緒にするな!」


魔王「魔力尽きようとも、我が肉体は未だ健在である!」


魔王「魔族の膂力を見誤るなよ小僧!人間如き容易く引きちぎってくれる」



魔王「対して、満身創痍の貴様ら」


魔王「さあ、如何とする!?勇者諸君!」


勇者「・・・お休みの時間です魔王」


魔王「なに?」


勇者「クライマックスだと言っているのです」


魔王「貴様、周りが見えていないのか・・・?」


勇者「見えていますよ・・・片目だけですけど」


魔王「冗談を言える余裕ぐらいはあるようだな、それで?」


魔王「教えてくれ勇者よ」


魔王「如何にして幕を閉じようというのだ・・・?」


勇者「魔力が尽きた貴方に、この魔法を止める術はない」


魔王「ふん、この期に及んで、ただの魔法か・・・」



勇者「ただの魔法じゃない!この魔法に僕のすべてをかける!」


魔王「・・・やってみろ!火か?水か?土か?風か?」


魔王「それとも闇か?光か?どんな魔法だろうが受け止めてやろう!」


勇者「これまで、ありがとう・・・みんな!」



賢者「なっ何をする気じゃ勇者様・・・!?」


僧侶「ぇ・・・」


戦士「勇者っ!?」




光の奔流が全てを包み込む




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----
--



------


???


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戦士「・・・・ん」


戦士「一体、何が・・・?どこだ・・・ここ?」


戦士くん


戦士「・・・勇者か?」


戦士くん、お別れの時だ


戦士「なに・・・?」


戦士「あの時・・・突然、目の前を・・・光がすべてを覆って・・・」


戦士「!」


戦士「お別れ!?」


戦士「な、何を言っている!いったい何をしたんだ勇者!?」



僕はね


僕の魔力、僕の肉体、それに女神様から頂いた勇者の力


僕の持ちうる全てを使って


究極の封印魔法を発動させたんだ


この魔法なら、魔王だって封印することができる


戦士「封印魔法だあ!?」


戦士「お前!いつの間にそんな魔法覚えていたんだ!?」


とある村でね、見たんだ


自身の存在すら代償にして、発動するこの究極の封印魔法を


あの時、見た魔法を、僕なりに再現してみたんだ


戦士「待て待て待て!!この旅の中、いつも一緒にいただろう!俺はそんな魔法見覚えないぞ!」


・・・僕が見てきたのは、この魔法だけじゃない



息の無い若いカップルが寄り添って眠っている姿・・・


仇に返り討ちにされた、一人の男・・・


泣きじゃくる僧侶さん・・・


夜の闇に明かりを灯す、焼き滅ぼされた村・・・


僕は、大嫌いな悲しい結末をいくつも見てきた


見てきた、実にたくさん、いっぱいいいっぱい見てきたんだ


戦士「な・・・」


だけど、この勇者の力をつかって


時渡りの力をつかって


むりくり、ハッピーエンドに作り直してきたんだ


だけどね、もう疲れたよ・・・戦士くん


残念だけど


僕じゃあ、力不足だ



僕の力じゃ、魔王は倒せない


戦士「まだだ、まだ終わっていない!」


戦士「勇者っ!俺を頼れよっ!俺はまだ戦えるぞ!」


そんな傷で?


知ってるよ、もう立っているのがやっとだろ・・・?


僕ね、何回も時間を巻き戻していたんだ


だけどね、魔王は無理だ


彼は強すぎる


何度も、何度も、何度も、何度も


いくら試しても駄目だったんだ


君たちの助けがあっても、乗り越えられない壁


それが魔王という存在なんだ


だからさ・・・



この物語の結末は次の演者に託そうと思うんだ


せめて、それぐらいの時間は稼いでみせるよ


この勇者の力と、ぼく自身を代償としたこの魔法で


戦士「なんだよそれ!勇者が諦めてるんじゃねえよ!」


諦めるさ・・・一体、何度繰り返したと思うんだ?


言ったろ?もう疲れたんだ・・・


戦士「だったら!勝てないって言うならそれでも構わない!俺はお前と共に果てるならそれでもいい!」


戦士「俺を置いていくなよ!一人ぼっちにするなよ!ずっと一緒にやってきたんじゃないか!」


僕はね、世界にハッピーエンドをもたらすんだ


人々が、なんの不安も感じずに、退屈な日々を過ごせられる世界を僕が作る


その人々の中には、君がいてくれないと意味がない


戦士「馬鹿言うなよ!これが、お前が主演の勇者の冒険譚の結末か!?」


戦士「こんなのハッピーエンドじゃねえ!全然ハッピーエンドじゃねえよ!」



紛れもないハッピーエンドさ・・・


僕にとってはね・・・


戦士「お前はいつもそうだ!お前のハッピーエンドは独りよがりなんだよ!」


戦士「世界の平和なんかどうでもいい!」


戦士「例え迎えるものがバッドエンドだとしても、お前の隣に入れるならそれでいい!それが俺のハッピーエンドなんだよ!」


戦士くん・・・


もう時間だよ・・・



戦士「おいっ!話はまだ終わってねえっ!」




ごめんね・・・





戦士「待ってくれ、勇者っ!」






さようなら・・・







戦士「おいっ!勇者!返事しろ!こらっ!」








戦士「勇者のくそったれえええええええええええええええええええええええっ!!!」





------




『 究極封印魔法 グレイトシールド! 』




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--


------


半年後


------------


僧侶「もう行っちゃうの?」


戦士「ああ、まあ傷は治ったしな」


賢者「ほっほっほ、まだ病み上がりなんじゃ無理をするでないぞ」


戦士「お前らに言われたかないよ」


僧侶「しかし、本当に勇者を蘇らせる術なんてあるのかしら」


戦士「・・・ひとまず、勇者の物語は結末を迎えたけどな」


戦士「俺は、全く納得できちゃいねえ」


戦士「必ず見つけるさ、俺自身のハッピーエンドのためにな」



僧侶「当てはあるの?」


戦士「そうだなあ、とりあえず東へ向かってみるよ」


賢者「なあに、世界はまだまだ儂らの知らぬ不思議に溢れておる」


賢者「必ず・・・とは言えんが、きっと見つかるじゃろうて」


戦士「ああ、次に会うときは4人でだ」


僧侶「そうね・・・ケガが治ったら、私は西に行ってみようかしら」


賢者「おっと残念じゃが儂は、もうちと久方の平和を楽しませてもらうよ」


僧侶「減らず口を!この糞じじい!」


賢者「まあ、飽きたら・・・することも無いし、北にでも旅してみようかのう」


戦士「ありがとうな二人とも」


僧侶「・・・気を付けてね」


賢者「無事を祈っておる」


戦士「ああ、行ってくる!」




例え、勇者の物語が終わろうとも




戦士「 俺たちの物語はこれからだ! 」




世界に平和が訪れた


大陸中から魔王の瘴気が消え


新たな魔物が生まれることがなくなった


街道に人々の往来が戻り、街は活気を取り戻していった


人々は、勇者を称える


自らを犠牲にし、世界をハッピーエンドをもたらした少女のことを


誰かが、一人魔王に立ち向かった勇敢な少女のことをこう呼んだ


数多の物語を幸せに導いた者






『ハッピーエンドメイカー』と





------


HAPPY END


------



------


女神「はあい!お久しぶり!元気だった?」



女神「会うのは、これで二度目ね!」




女神「    戦士くん    」


------



------


戦士「いまさら、何しに来た糞ばばあ」


女神「まー、嫌われたものね。せっかくこちらから会いに来てあげたって言うのに」


戦士「勇者から平穏を奪ったお前が、俺に愛されているとでも思ったか?」


女神「ま、それもそうか」


女神「ただ一つ、彼女はもう勇者じゃない」


女神「言うなれば、『先代』ね」


戦士「・・・お前とおしゃべりを楽しむ気分じゃない」


女神「あら、そう?じゃあ手っ取り早く行きましょうか」


女神「私ね、魔王君の件を先延ばしにする気はサラサラ無いのよ」


女神「先代の勇者ちゃんには悪いけど、いい加減、さっさと終わらしたいわけ」


戦士「だったら聞くが半年も何をしていたんだ。随分、悠長じゃあないか」



女神「・・・あの娘、魔王を封印するのに自身の肉体と勇者の力を燃料にしたんだけど」


女神「実際、その程度じゃ魔王を封印するのに全然足らなかったの」


女神「そしたらね、あの娘ったら」


女神「少し前に私を召喚したことあったじゃない?」


女神「あの時の要領で、私の力を無理やり引っぺがしていっちゃったのよ!」


戦士「ざまあないな」


女神「おかげで、半年も眠りこけちゃったってわけ」


戦士「それで?」


女神「あん、せっかちね」


女神「これはね、面接なのよ」


女神「勇者の面接、面接官は私、求職者は貴方」


戦士「俺は、求めてなんかいない・・・」



女神「果たしてそうかしら?」


女神「では、問いましょう。貴方の願いは?」


戦士「勇者の復活」


女神「残念だけど、それは無理よ。彼女は魔王を封印する器となった」


女神「人の形に戻すことは出来ない」


女神「執着は見苦しいわよ?戦士くん?」


戦士「ふざけるな!お前の話なんぞ誰が信じるか!」


戦士「不可能だあ?そんなもん知るか!闇の力でも!神の加護でも!」


戦士「失われた古代魔法でも!愛の力でも!」


戦士「ご都合主義だと言われようが知ったことじゃねえ!」


戦士「何が何でも実現してやる!どんな壁だろうが乗り越えてやる!」


戦士「いいか?俺が望むのはハッピーエンド!勇者の言ったそれじゃない!」


戦士「俺自身のハッピーエンドだ!」



戦士「 バッドエンドじゃ終わらせねえ! 」



女神「ブラボーっ!」


戦士「なっ・・・!?」


女神「すばらしい!すばらしいわ戦士くん!貴方もいつのまにか成長していたようね!」


女神「もう貴方も、何処に出しても恥ずかしくない立派なハッピーエンド中毒者よ!」


女神「そんな貴方には、魔王をぶった切る世界最強の力を授けましょう!」



------


僧侶「女神様・・・?」


女神「はあ~い、貴方の信仰する女神様でーす」


僧侶「あわわ、いったいどうして・・・?」


女神「まあいろいろあってね!じゃあ早速いってみましょうか!」


女神「僧侶ちゃん!貴方の望みを聞かせて!」


僧侶「私の望み・・・」


僧侶「私は、私は・・・」


僧侶「勇者に謝りたいです」


女神「あら・・・?」


僧侶「助けてくれたのに、気にかけてくれたのに・・・私」


僧侶「つい意地になっちゃって、素直にありがとうって言えなかった・・・」



女神「あらあらあら」


僧侶「こんなことになるなら、早く言っておくべきだったんです!」


僧侶「旅を始めて、私たちは多くのハッピーエンドを観てきました」


僧侶「魔王も案外、あっさり倒せるんじゃないかなって・・・私、思いあがっていたんです」


僧侶「勇者が、必死になって作ってきたハッピーエンドにタダで乗っかっていたんです!」


僧侶「なのに、私は勇者に感謝の言葉ひとつ伝えられなかった」


僧侶「・・・女神様、私は酷い女です!」


女神「告解になっちゃってる!」


女神「逆!逆ぅ!僧侶ちゃんは聞く方聞く方!」


僧侶「し、しかし女神様っ!」


女神「ああもう!面倒くさい!」


女神「許しましょう!貴方の罪は、全てこの私が受け止めます!」


女神「ついでに、貴方のように信仰心豊かで根がやさしいツンデレちゃんには、特典で女神の加護を差し上げましょう!」


女神「この力で、先代勇者を救うのです!」


女神「貴方に授けるのは、癒しの力!ツンケンしながら、先代ちゃんに使ってあげなさい!」



------


賢者「め、女神様じゃ!女神様の降臨じゃあ!!!」


賢者「儂の祈りが通じたんじゃ!儂の想いが届いたんじゃ!」


賢者「愛しておりますぞっ!女神様!きっキスを!誓いのキッスを儂に!儂にいいいいいいい!!」


女神「ハウスっ!!!」


賢者「バウバウっ!」


女神「もうやだ・・・帰りたい・・・」


賢者「帰らせてなるものか!帰らせてなるものかああああああ!」


女神「ハウスっ!」


賢者「バウバウっ!」


女神「正直言って、貴方は数合わせです!さっさと終わらせましょう」


女神「賢者よ、貴方が望むものはなに?」


賢者「儂が望むもの!それは女神様!貴方様です!」



女神「それ以外で、お願いします」


賢者「ならばっ!勇者様っ!それと僧侶ちゃん!二人を儂に!儂のお嫁さんに!」


女神「まったく、ぶれないわねえ・・・」


女神「それに僧侶ちゃんはともかく、先代勇者ちゃんは、もうこの世にいないわよ?」


賢者「ほっほっほ、何を仰るかと思えば」


賢者「勇者様は帰ってこられるぞ」


女神「なぜ、そう思うのかしら?」


賢者「なに、戦士がまだ諦めておらんからな、それに僧侶に儂もな」


女神「ふうん、貴方もまだ諦めてないのね」


女神「蘇らせる方法は無いのよ?これは嘘偽りのない神の言葉、これが真実」


賢者「それでもじゃ」


女神「ま、及第点ね。諦めない心は何より大事だもの」


女神「貴方にも、勇者の力を授けましょう。そうね、絶大な魔力でどうかしら」



賢者「・・・このような老いぼれにですか」


賢者「『貴方にも』と仰ったが、戦士や僧侶の下へも降臨されたと言うことですな?」


女神「もちろん、そうよ?」


賢者「一つ疑問が生まれました」


賢者「儂の知る限り、同時期に勇者は一人のみ。それが、戦士に僧侶、そして儂と3人に勇者の力を授けた」


賢者「勇者が3人もいるなどと、儂は聞いたことがない」


賢者「女神様には相応の負荷がかかっておると見るが?」


女神「それはもちろんそうよ、おかげさまで今すぐにでも掻き消されそうな勢いよ」


賢者「なぜ、いまさら?」


女神「同情しちゃったから、先代勇者に」


賢者「神々は人の感情とは別次元の世界に生きておると思うておったが・・・」


女神「そうなんだけどね、あの娘、無理やり私を召喚したり無茶してたから」


女神「彼女の持つ勇者の力の源である、私と彼女との繋がりが強まっちゃったのよ、おかげで彼女の感情までダダ洩れ」


女神「そしたら、やるせなくなっちゃった」


賢者「ふむ・・・」


女神「ま、そういうことだから、4人の勇者でちゃっちゃと魔王を倒してきちゃって頂戴な!」



------


戦士「4人?」


僧侶「どういうこと?」


賢者「もう一人・・・」


女神「さあさあ!話はこれくらいにしましょう!」


女神「今から始めるわよ、みんなの勇者としてのデビュー戦!」


女神「今回は出血大サービス!」


女神「私の力のすべてを使って、貴方たちに最高の舞台を用意してあ げ る!」


女神「では、いってらっしゃーい!」



-------


魔王城城門前


------------


勇者「作戦をお伝えします」


戦士「・・・最高の舞台って、こういうことか糞ばばあめ」


戦士「何が蘇らせることは不可能だだ!」


勇者「?」


僧侶「気にしないで、勇者。こっちの話」


僧侶「まあ、嘘はついてないわね」


賢者「・・・女神様も粋なことを」


賢者「全ての力と言っていた・・・無事では済まないじゃろうのう」


戦士「・・・っち」



勇者「お話いいですか・・・?」


戦士「続けてくれ」


勇者「今回のバッドエンドの匂いは、これまでの比じゃないです」


勇者「まだ、城門の前だというのに鼻が曲がりそうな勢いです」


勇者「というわけで、作戦が必要と判断しました」


戦士「その必要はない」


勇者「な、何を・・・どういうつもりですか?」


僧侶「 な い しょ 」


僧侶「アンタも私たちに、いっぱい隠し事してるでしょ!お互い様よ!」


賢者「ちっとは儂らを頼ってもよいのじゃぞ勇者様」


勇者「・・・いえいえ、この物語は私が主役ですから」


勇者「ぜひ脚本も私に任せてください」



戦士「そりゃあ、無理な相談だな」


戦士「悪いが、この物語の主役は俺だ」


僧侶「そうかしら?私だと思うんだけど?」


賢者「儂かも知れんぞ」


勇者「皆さんさっきから何を・・・?」


僧侶「とにかくアンタの作戦は不要よ」


賢者「そうじゃのう」


勇者「では、ひとつだけ・・・」


勇者「トドメは私が差しますので」


勇者「例え魔王に隙があったとしても、決して逸らないでくださいね」


戦士「聞けねえ相談だ、隙があったら俺がぶった切る」


勇者「なんなんですか!皆さん!さっきから!」



勇者「これから魔王と戦うというのに!冗談じゃないんですよ!」


戦士「僧侶が言っただろ、内緒だよ」


僧侶「そうそう、たまには先の見えない物語を楽しみなさいよ」


賢者「なに、安心しなさい勇者様。魔王は必ず倒して見せる」


勇者「・・・」


勇者「わかりました」


勇者「みなさん・・・今日まで大変お世話になりました」


戦士「・・・いらんな、そんな別れの挨拶」


僧侶「まったく、力を入れすぎよ!少しはリラックスしなさい勇者!」


勇者「いえ・・・今日は、私の初主演の舞台が終幕を迎える日です・・・」


戦士「あんまり気負うなって言ってんだろ」


勇者「そうですね・・・」



勇者「ありがとう戦士くん」


戦士「おう!」


勇者「では、行きましょうか・・・」


戦士「勇者」


戦士「今回の物語は、これまでにないサプライズてんこ盛りでお届けしてやる」


戦士「楽しめよ!勇者、お前が最善席だぜ!」


勇者「?」



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魔王「よくぞここまでたどり着いた・・・勇者諸君」


僧侶「相変わらず、すごい瘴気ね」


魔王「・・・話に聞いてはおったが、本当にたった4人でやって来るとはな」


魔王「小童が一人に、小娘が二人、それに老人が一人・・・なめられたものだな」


戦士「ふん、そのたった4人に倒されるお前が哀れだよ魔王、だったな・・・」


魔王「・・・ふむ、闘志は十分か」


魔王「・・・感じるぞ、女神の残り香」


魔王「その禍々しい光の力・・・ん・・・?」


勇者「?」


魔王「ど、どういうことだ・・・?」


勇者「そろそろ始めていいでしょうか?」


魔王「待て待て待てっ!ちょっと待てっ!」



魔王「どういうことだ!?何故、4人全員が女神の加護を受けておるのだ!」


魔王「だれだ!誰が勇者なのだ!?」


勇者「誰って?私が勇者です」


戦士「いや、勇者は俺だ」


僧侶「私が勇者よ」


賢者「儂こそが勇者じゃ」


勇者「はい!?」


魔王「ずるいぞ女神め!こ、このような卑怯な仕打ちがあろうか!」


勇者「お、落ち着いてください魔王!」


魔王「おおおお落ち着いてられるかっ!」


勇者「どういうことですか!?みなさん!」


戦士「どうもこうもねえ、そういうことだ勇者」


勇者「だ、だから・・・!?」



僧侶「落ち着きなさいよ勇者」


賢者「ほれ、魔王の狼狽ぶりをご覧なさい、なかなか楽しめますぞ」


魔王「こここれは、夢だ・・・悪夢だ・・・」ガクガクブルブル


勇者「・・・」


勇者「プッ」


勇者「なんですかこれは、せっかくの僕の晴れ舞台が」


勇者「これじゃあコメディじゃないですか!」


僧侶「いいじゃないコメディ」


賢者「儂もシリアスな雰囲気より、ギャグのほうが好みじゃ」


戦士「そうだな、コメディ上等だ」


戦士「勇者も好きだろ?」



魔王「ふ、ふはははははは!上等だ!4人か!4人の勇者ぐらいがなんだ!」


魔王「かかってくるがよい!まとめて冥途へ送ってやろう!」


戦士「だとよ!いくぜ勇者!」


僧侶「今度は誰一人、失わないでみせる!」


賢者「さあて!今度こそ、ハッピーエンドで締めくくろうぞ!」


勇者「ええっ!行きましょうか皆さん!」


僕はコメディが一番好きだ


そりゃあそうだ、コメディには僕のきらいがアレがない


そう


コメディでバッドエンドはありえない



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あ、おかえりー


へえ、隣町に芝居小屋が


演目は?もちろん聞いてきてくれたよね


『リア王』?異世界で作られた?


・・・うーん、ちょっと匂うなあ


偵察に行ってくるだって?


ま、たまにはいいさ


一緒に見に行こうよ


芝居の中の悲劇ぐらい何てことないさ


だって






今のぼくは、こんなに幸せに溢れているんだから

おわり

勇者「俺の知らないところでイベントが進んでる」

魔王「もし儂の味方になれば、有給をやろう」

盗賊♀「ゆ、勇者様!もう勘弁してくださいっ///」

直近の3つのSSです。
こちらも感想頂けると幸いです。

あとツイッター始めました。酉で探していただければ出てくると思います。
スレが落ちたら、そちらに感想ください。よろしくおねがいします。

駄目だしや、具体的な指摘をいただけると幸いです。

感想ありがとうございます。
もう少し、丁寧に描写しないとキャラクターへの共感も誘えないかなと思ったんですけど、如何でしょうか。

なるほど
掘り下げる場合は、本筋に少しずつ混ぜ込む感じがよさそうですね
ありがとうございます

ジレンマですね
SSでは、テンポよくやって
描写を増やすのは個人的に練習する感じにしてみます

もともと続かせることを考えていなかったので整合性が取れていないかもしれませんが
次は公務員パーティーの続きを書いてみようと思います。

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