千川ちひろ「傲慢ちきなプロデューサーさん」 (30)



モバP「みんなが売れたのは俺のおかげだ!」

P「候補生から面倒見て、営業して、曲作ってもらって」

P「なにかあったら頭下げて、フォローして、とりなして」

P「安定してきたら別の子を紹介して、次の仕事に繋げて、また営業して」

P「全部、全部、全部俺のおかげだ! 俺がいたから上手くいったんだ!」

P「それなのに、それなのに……こんな小さい部署に飛ばされるなんてぇ……」

P「社長のやったこと、犬畜生以下だ。鬼だ。外道の極みだ! うわぁあああああ!」

千川ちひろ「毎日毎日、よくもまあ飽きませんね」



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P「飽きるもんか! 俺は今頃、売れに売れたアイドルたちの甘い汁を吸っているはずだったんだ」

P「それを、それをあの社長がぁ……」

ちひろ「堕落一歩手前のあなたを見かねた、社長の気遣いでしょう」

P「堕落してなにが悪い! 俺はこの事務所でいくら稼いだと思ってるんだ!?」

ちひろ「はした額ですね。私の個人資産の一割にもいきません」

P「え、マジっすか」

ちひろ「冗談です。事実なら私が働いてるわけないじゃないですか」

P「あぁあああああ! 嫌だ。この俺をおちょくるような事務員がいる部署なんて嫌だ!」

P「辞めてやる。辞めてやるぞぉおおおおお!」

双葉杏「プロデューサー、仕事辞めるの? じゃあ杏もやーめた」



ちひろ「おはよう。杏ちゃん」

杏「はいはい、おはよーございます」

P「杏ちゃん! 良い所に来た。一緒に社長に直談判しに行こう」

杏「詳しく」

P「俺の素晴らしさを説いて元の大きな部署に戻してもらう!」

杏「杏はどうなるの?」

P「俺は一生忘れないよ」

杏「日本語でおっけー。じゃあ杏はソファーで寝るから」

ちひろ「レッスンの時間になったら起こすわね」

杏「自分で起きれるって」

ちひろ「そう言って起きてきたことないじゃない。もう」



P「杏ちゃんもさぁ! 俺にもっと感謝すればいいじゃん!」

P「CD出して不労所得が入るようにしたじゃん! それを思ったら直談判の一つや二つさぁ!」

ちひろ「杏ちゃんには才能があったんです。あなたじゃなくても、そのうち芽が出てましたよ」

P「はぁ、こういうこと言う事務員がいるの……芽吹かせるのを早めたのは俺なのに……」

ちひろ「それに、杏ちゃんは感謝してますよ。そうじゃなきゃ自分から事務所まで来ませんから」

P「引きこもりが出不精になっただけでしょ。感謝は態度ではなく俺への奉仕で表せ!」

杏「杏が良い子になったみたいに言うの、こっぱずかしいからやめてくんなーい」

P「悪い子だ、悪い子だ、悪い子だ! 俺の栄転に手を貸さん子は悪い子じゃー!」

神谷奈緒「朝から何叫んでんだよ……いつものことだけどさぁ」



P「おお、神谷。今日も眉が素敵だな。どうだ、ちょっと触らせてくれよ。運気が上がりそうだ」

奈緒「素直にキモイからやめろって! ――だ、もう、本当に触ろうとするな!」

P「福の神みたいな眉しといて何言ってんだよ! 俺は運気を上げて元の地位に戻るんじゃい!」

奈緒「福の神なら眉じゃなくて耳たぶだろ」

P「冷静に突っ込みやがって……昔は俺の一言二言に顔を赤く青くしてたくせに!」

P「そうだ。あの時の神谷は可愛かった。雨の日に傘を届けにきた神谷へ、折り畳み傘を見せつけてやった時のお前の顔ときたらもう」

奈緒「もういいだろその話! Pさんは何回その話蒸し返すんだよ!?」

P「神谷が反応し続ける限りに決まってるだろ。次はなんだ? 新婚風グラビアの話でもするか? ん?」

奈緒「あー、もうやめだ! Pさんとは口きかない! 栄転でもなんでもすればいいだろ!」

奈緒「ちひろさん! あたし自主トレしてくるから、用があったら呼んでくれ」

ちひろ「はーい。無理しないようにね」

P「そうだぞ。無理するなよ。俺の査定に響くようなことするなよ! 約束だからな! な!?」

奈緒「うるせー!」

P「口きいてんじゃねぇか!」



P「あー、もっと俺のことを思ってくれる子はいないもんかね」

ちひろ「奈緒ちゃんは割と思ってるほうですけどね」

P「あいつは努力して成果で返すタイプだから駄目! 俺は間接的にじゃなく直接返してほしいの!」

P「そういう意味じゃ麗奈は最高だな! 社長にしょっちょう嫌がらせしてるからな!」

ちひろ「は? 麗奈ちゃんにそんなことさせてるんですか?」

P「あいつが勝手にしてるんだよ! 人聞き悪いなぁ……」

ちひろ「……さすがに見損ないましたよ。口は悪いし品性もないけど、そんなことはしないと思ってたのに」

P「口が悪くて品性もない奴がそんなことしないはずがあるかぁ!」

ちひろ「それもそうですね」

P「急に引くんじゃない。びっくりするだろ!」

小関麗奈「これでも飲んで落ち着きなさいよ」

P「おお、悪いな。千川の相手をしてると喉が渇く」ごくごく



P「おぼろっしゃあぁああ!」

麗奈「アーッハッハ! 引っかかったわね。その緑茶には砂糖が入ってるのよ!」

P「……冷静になると意外と美味い」

麗奈「あら? 玉露を淹れたのがまずかったかしら?」

P「美味いって言ってんだろ!」

麗奈「その不味いじゃないわよ!」

P「おおっと、冷静に見てみると麗奈じゃないか! 今日も社長室には寄ってきたか?」

麗奈「アンタ、冷静に見なきゃアタシってわかんないわけ?」

P「社長室には?」

麗奈「行ったわよ! 別にそんなことどうでもいいでしょ!?」

P「俺には重要なんだよ! それでそれで!?」

麗奈「それで? ――パソコンにつないであったマウスの感度を、最大にしておいたわ!」

P「最高だぜレイナサマ! お前の担当プロデューサーをやっててよかった!」

麗奈「そ、そう? まあそうよね! これからもレイナサマのプロデュースを続けるといいわ!」

P「おうともさ! ついては、次の悪戯はもっと派手に――へぶっ」ベチィ!

ちひろ「はいはい、悪だくみしない。麗奈ちゃんも、後で一緒に社長さんに謝りに行きましょうね?」

麗奈「ち、ちひろがどうしてもって言うなら、行ってやらないこともないわ……」



ちひろ「社長が麗奈ちゃんと喋るの楽しんでるからいいですけど、度を越しそうなら止めてあげてくださいね」

P「嫌だ!」

ちひろ「止めれなくしてもいいんですよ」

P「やれるもんならやってみろ! 俺の男の部分を出す時がようやくやってきたようだなぁ!?」

P「レースゲームか? 格闘ゲームか? なんでもこい――ちょっと千川、なに電話してんの?」

ちひろ「あ、美優さんですか? いえ、今日は事務所に寄るのかな、と。ああ、もうすぐそこですか!」

P「え、待って。美優さん来るの? 本当に? タンマタンマ、髪型ちゃんとするから……」

三船美優「おはようございます。ちひろさん、Pさん」

ちひろ「おはようございます! 聞いてくださいよ、美優さん。さっきプロデューサーさんに」

P「おっとちひろさん、なにかありましたっけ? 俺たちさっきまで仲良く話してたじゃないですか」

ちひろ「気安く下の名前で呼ばないでくれます?」

P「美優さん。これはちひろさんの冗談なんですよ。僕とちひろさんは仲良しですから!」

美優「ふふふ、はい。いつもこんな場面で会ってますから、知ってますよ?」

P「ですよね。ははは!」



美優「いくら仲良しでも、扉の外から聞こえるような喧嘩しちゃ駄目ですからね?」

P「え」

美優「ちひろさんもか弱い女性なんですから。Pさんも優しくしてあげてくださいね」

美優「それじゃあ今からお仕事ですから、行ってきます」

ちひろ「はい。いってらっしゃい」

P「お、お気をつけて……」

P「――美優さんに聞かれちまったじゃねえか千川ぁ!」

美優「怒っちゃ駄目ですよー!」

P「もっちろんですよ。美優さん!」



P「もう美優さんってば天使過ぎ! 結婚するならああいう女性三人とがいいな!」

ちひろ「なに言ってるんだか……」

P「俺ほど有能なら三人くらい余裕で養えるんだよ!」

ちひろ「そんなに余裕なら養ってくださいよ」

P「千川なら三人と言わず二百十八人くらい養えるわ! 舐めんな!」

ちひろ「なにを基準でその数字なんですか」

P「可愛さに決まってんだろ」

ちひろ「……いっぱい欲しいくらい可愛い?」

P「いっぱいいなきゃ割に合わない」

P「あ、美優さんは三人くらいいて欲しい、だからな! 例え一人でも大満足だわ!」

ちひろ「――ぐすっ」



P「え? なに? なんで泣いてんの?」

ちひろ「そこまで、そこまで言わなくても……ひぐっ」

P「やめ、やめろって。嘘泣きでしょ。嘘泣きだよな?」

ちひろ「私だって、美優さんほど可愛いなんて思いませんけど……」

杏「ふわぁ、おはよう。うわ、ちひろさん泣いてるじゃん。なにしたの?」

P「は? 違うって、泣かしてないって! 俺はいつも通りじゃれてたっていうか!」

杏「言い過ぎたんじゃない? ちひろさんだって人なんだからさ」

ちひろ「杏ちゃん、いいんです……私みたいに可愛げのない女なんて……」

杏「……なに言ったの?」

P「怖いって、杏ちゃん! なんでそんな睨むの!?」



ちひろ「ぐすぐす……」ぽちぽち

P「ちょ、おい! なにメールしてるんだ!?」

奈緒「ちひろさんからメールで呼ばれたんだけど――Pさん、なにしたんだよ……?」

P「なに神谷を呼んでんだよぉ!」

ちひろ「プロデューサーさんが、私のこと可愛くないって……しくしく」

奈緒「Pさんさぁ、デリカシーないとは思ってたけど、そんなこと言うか。普通」

P「言ってねーよ! 千川の曲解だよ今のは!」

奈緒「そうなのか、杏?」

杏「判定グレー」

奈緒「Pさんさぁ」

P「待てよ、グレーじゃん! 黒じゃないでしょ! もっと意見聞いてこうよ!」



ちひろ「ぐすぐす……新しい、候補生……」

P「は? なに?」

ちひろ「候補生……面倒……見る……ぐす」

P「インディアンかよ」

杏「あ、今ちひろさんのことインディアンみたいって言った」

奈緒「現行犯とは恐れ入ったな」

P「おいおいおい、それはインディアンに失礼だぞ! インディアンに悪いイメージ持ち過ぎだぞお前ら!」

P「ちょっと世界史習ってこいよ。インディアンのこと悪く言えなくなるぞお前ら!」

杏「なんか、お茶会事件とかあった気がする」

奈緒「まじかよ、インディアンさいてーだな」

P「その全貌を知るのが世界史だろうが!」


ちひろ「候補生の面倒を見るなら……もう泣きません」

P「とうとうはっきりと条件を提示してきたぞ」

杏「これは飲むしかないんじゃない? プロデューサー」

P「嫌だよ! つい最近一人成功させたじゃん! また面倒見始めたら、部署移動できなくなるじゃん!」

奈緒「Pさん、償いはすべきだって」

P「重いだろ代償がぁ! なんでまた長い期間拘束されなきゃいけないだよぉ!」

P「俺は、元の部署に戻りたいのぉ!」

美優「Pさん、元の部署に戻ってしまうんですか……?」

P「え!?」



ちひろ「美優さん、そうなんです。私も泣いて引き止めてるんですけど」

P「はぁ!?」

杏「杏たちも説得してたんだけどねー。決意は固いみたいでさー」

P「お前がしてたのは揚げ足取りだろ!」

奈緒「あたしは別に……その、ちょっと寂しいけどさ」

P「唐突にツンデレしてんじゃないよ神谷!」

麗奈「今後の悪戯は、このレイナサマに任せておきなさい!」

P「お前はいつからいたんだよ!?」

美優「他部署になるときっと会う機会も減っちゃいますけど、私、Pさんのこと忘れませんから……!」

P「あー、待って! 別れを済ませないでください。美優さん!」

P「お、おい、千川! その候補生の資料寄越せ! 俺が面倒見る、面倒みるから!」



『お、おい、千川! その候補生の資料寄越せ! 俺が面倒見る、面倒みるから!』

ちひろ「言質がとれましたね。みなさん、ご協力ありがとうございました!」

P「は?」

杏「悪いね。ほら、飴で懐柔されちゃったからさ」

奈緒「Pさんも悪いんだぞ。プロデュースを終えるたびに辞めるっていうから……」

麗奈「アタシの手下なんだから、簡単に離れられると困るのよ!」

美優「私も、その、他部署に行っちゃうのは寂しいですし」

ちひろ「というわけで、部署居残りおめでとうございます。明日から新アイドルプロデュース、お願いしますね!」

P「――あああああ! もう嫌だ! 俺はこんなにもできる男なのに、こんな小さい部署に縛り付けられる!」

P「前の部署では好き勝手できたのに、この千川のせいでいつまで経っても自由になれない!」

P「次こそは、次こそはこのプロデュースを終えて、辞めてやるからなぁああああ!」

ちひろ「はいはい、期待してますよ」

ちひろ「――傲慢ちきなプロデューサーさん!」

                                おしまい

おしまい

依頼だしてくる

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