【艦これ】特技研映像資料「艦娘建造」 (24)


艦これssです。
if戦史、独自設定、独自解釈に基づきます。(一部、参考もと有)
途中まで書き溜めあります。
ちょこちょこ投下します。

夕張改二が実装されたら提督復帰します。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1506985294

ーー特技研資料0032-イ(映)
>艦娘の建造にかかる基本事項
>記録対象 艦娘 駆201-3/102-3 [時雨]-001
記録者 特技研-艦人研 ミナトアカリ特務大尉

>本資料の持ち出しを禁ずる
再生は、技研内 認14から認28で行うこと

>検閲-済
但し要修正 修正箇所については別紙参照
期限-有 / **18年9月12日 迄


<再生>


***


『ーー特技研映像資料、0032。本映像では、艦娘建造の基本的な事項について説明します。私は、佐世保鎮守府付設特殊科学兵装技術研究機関 艦体人殻研究室所属 ミナト特務大尉です。』

『本機関、通称「特技研」では、かねてより艦娘の建造を行ってきました。初期の頃の建造は技術や手法が今ほど確立されておらず、お世辞にも質の良いものとは言えませんでしたが、現在は多くの研究員の努力により、安定した艦娘建造を行うことが可能となっています。本資料では、我が国の守護者たる艦娘がいかにして産み出されていくのか、その過程を説明したいと思います。』

ーーー

私は、旧特技研の内部にある"特別資料閲覧認可室-18号"にて、映像資料を再生している。この資料は作成後に映像内容の検閲が行われ、いくつかの修正箇所が指摘されたものの、修正が完了しない内に戦争が終わったためお蔵入りとなったものだ。

「戦争が終わった」
それを実感できている軍人が、果たしてどれほどいるのだろうか。私とて、それを実感できているとは言い難い。それこそ、こういった戦時中の資料に触れる度、未だ耳元であの砲撃の轟きが耳鳴りとともに蘇ってくるように感じる。
戦後、2年経った。2年という時間は、あまりに長く、そしてあまりに短かった。決戦の後、政治家たちと軍上層部は戦後処理に奔走せざるを得ず、それに伴い軍属だった私たちにも、戦争の遺物を処理する仕事が回ってくるようになった。この映像資料を再生しているのも、まさにその戦後処理の一端である。

映像は、恐らく工厰内と思われる金属の壁に囲まれた空間を映し出している。音声にはかすかに、金属を叩く音のようなものや、機械の駆動音のようなものも入っている。

ーーー

『ここは、特技研の主要部から少し離れた、特別工厰にあたります。ここでは、主に艦娘とそれらに装備する艤装の建造を行っています。艤装の建造や調整などに関しては、別資料にて触れることとして、ーーあっ、あそこに見えるのが、この度、建造予定である"駆201-3"の魂舶源体になります。』

映像は、工厰の奥にあるドックのように見える箇所に近づいていく。そこには、何本もの鎖で吊るされる様にして支えられた金属塊があった。

『近くで見てみます。これは…』

それは、両断された船舶の船尾側"だったもの"のようだった。全体が錆び付き、沢山のフジツボや海藻などが貼り付いている。きっと少し前まで、ずっと海の底にあったのだろう。

『保存状態としては、そこそこ良い方ではないでしょうか。これなら、戦いの記憶もかなり保持できているでしょう。源体としての質量も申し分ないですね。では、魂舶と魂舶源体について簡単に説明します。』

ーーー

魂舶源体。戦後の今では、忌まわしき戦争の遺産であり、戦争のきっかけになったとさえ言われる不可思議な技術の結晶だ。私からしてみれば、それは最早オカルトの域にある。しかし、戦時中には、国の守護者たる艦娘を偶然にも作り出すことができたのだから、それは大層有り難がられたのだろう。それがどういった過程によるものなのかは軽視され、結果だけが重宝される。戦争とは、その最たるものだ。

私は、この映像が撮影された戦争前期から中期頃には、魂舶源体がどのように解釈されていたのか気になり、映像に注視した。

ーーー


『魂舶は、イシダ博士が発見した特殊技術により抽出される、霊的エネルギーの結晶体です。魂舶とはすなわち、物体に宿る魂であり、物体とは基本的にかつての戦争で活躍した兵器群を指します。魂舶に''舟’’の文字が入っているのは、魂舶を最初に抽出することができたのが、軍艦であったことに由来します。そしてこの魂舶を抽出する源となるのが、魂舶源体です。基本的には先程のような轟沈した船舶や、大破した戦車、戦闘機などが用いられます。その保存状態や質量によって、抽出される魂舶に含まれる情報量が変化します。』

この説明を聞き、私は少し可笑しくなった。まさか軍の公式資料の中で「霊的エネルギー」なんて表現をこうも当たり前のように使うとは思わなかった。それだけでも、当時の状況が伺い知れるようだ。そんな表現をおかしく思わないほど、世界は狂っていたのだ。

『魂舶源体から魂舶を抽出する過程については、極秘事項なので本映像資料では省略させていただきます。そちらは、上位機密資料を参照ください。さて、抽出された魂舶ですが、艦娘の素体となる艦体人殻の脳内に転写されます。それにより、艦体人殻はその艦の魂と戦いの記憶を持つ艦娘になるのです。これからその艦体人殻の研究棟へ移りたいと思います。』

ーーー

ここで映像は暗転した。次のチャプターに移るようだ。魂舶…そんな訳の分からないものを有り難がり、あろうことかそれを…血と鉄と痛み、そして死と敗北の記憶を少女の脳に焼き付ける…なんて残酷なことをしていたものだろう。しかし恐ろしいのは、その残酷さに誰ひとり気が付かなかったことだ。

鋼鉄の屍を暴き、その魂を目覚めさせ、再び死地へと赴かせる…少女たちを生け贄にして。それにより平和が得られたとしても、果たしてそこに幸福を見出だして良いものか。

私は、かつての戦友たちに頭の中でそう問いかけた。

次に映し出されたのは、病院のような、白い壁に囲まれた空間だった。この空間が映し出された瞬間、私は胸の奥がズキンと痛むのを感じ、この映像を見るよう指示した上官を少しだけ恨んだ。

ーーー

『ここが、艦体人殻の研究棟の入り口です。研究棟の規模は、鎮守府に併設された軍病院の地下5階層に渡ります。全てをお見せすることはできませんが、出来る限りの施設紹介はさせていただきたいと思います。』

『その前に、艦体人殻について簡単にご説明します。艦体人殻はもともと"人殻"という新技術として研究が進められていたものです。戦争開始前、世界に開戦の兆しが表れて間もない頃から、【戦争において、人間はひとつの戦闘単位になりうるか】という命題が盛んに議論されていました。人間は、武器を持ったり、戦車や戦闘機、艦船を扱うことで"兵力"へ換算することができますが、逆に言えば、人間からそれらを奪ってしまえば、人間それ自体は兵力にならず、むしろ無駄に食糧を消費するだけの存在となってしまいます。そこで我が国では、人間そのものを兵器とする計画が立案され、それにより開発されたのが人殻ということになります。』

これが、当時の価値観だった。戦力になるか否か。それだけの基準で人も、物も、愛や憎しみといった想いすらも分かたれていた。
人殻…その特徴は誰より自分がよく知っている。むしろ、私はそれしか知らないのだ。普通の人間が感じる痛みを、わたしは知らない…。

私はじっと自らの掌を見つめ、そして強く握った。この身体は私のものだ…。たとえ弾丸を受けても殆ど傷つかず、化け物のようだと罵られようとも…

映像では、人殻の特徴がつらつらと述べられ続けている。

ーーー

『ーーつまり、外観としては人間そのものでありながら、その実態はまさに兵器として成立しているのです。骨や内臓、筋肉をはじめとしたあらゆるものを人工の、頑強でしなやかで、そして替えの効くものにすることで、兵器はおろか人間を治すよりも修繕の難度は格段に下がっています。開発当初は、人殻の運用方法について明確に方針が決まっていませんでしたが、魂舶の技術が確立されたことにより、魂の依代としての 艦体人殻 へ昇華されたと言えます。』

映像は、研究棟の中を進む。見覚えのある場所だった。あぁ、この先はあまり見たくない…そう思いつつも、仕事で見ている以上は覚悟を決めるしかない。

『さて、…ここはーーあら、***ちゃん、こんにちは』

画面に向かって歩いてくる少女に、撮影者が挨拶をしている。少女は顔をあげ、にっこりと微笑みながら『こんにちは!』と挨拶を返していた。白髪に近い薄い金の長髪に、細い紐のリボンを登頂部で結んでいる。瞳は、美しいグリーン…。私は彼女の姿を見て懐かしくなった。この頃は、語尾につくあの珍妙な口癖も無かったのかと気付き、少しだけ可笑しかった。

画面内では撮影者と少女が楽しそうにやり取りしていた。

『今日は、手術はおやすみ?』
『そうなの。だから、***ちゃんのところに、遊びに行こうかなって思って!』
『あら、そうだったの。***ちゃんは、イ区画だったものね。気を付けて行ってらっしゃい。走っちゃダメよ』
『はーい』

画面から少女が消え、撮影者は再び歩き始める。恐らく名前を言ったであろう箇所の音声は、消されていた。

『彼女も、艦体人殻のひとりです。現在は殆どの手術と大変なリハビリを終え、最終調整と魂舶転写、そして"条件付け"を待つばかりです。あのようなあどけない少女の見た目をしていながら、彼女がその気になれば私など簡単に肉塊できるほどの力をすでに持っています。』

ーーー

"条件付け"…映像の撮影者が何気なく出したこの単語に、私はゾッと寒気がした。この先、きっと"条件付け"の解説もあるだろうと思うと、気が重くなった。
魂舶の転写も、肉体の改造も、たしかに恐ろしい技術だと思う。ひとりの人間を…それも少女だけを鋼鉄の亡念を宿す怪物にする、悪魔の技術だ。しかし、"条件付け"は違う。少女の最も弱く、最も人間的な要素を巧みに操作する…とても簡単で、それでいて罪深い。太古より人間が大切にしてきたものを利用する、何者でもない、人間の技術。

この"条件付け"のせいで、わたしは何人もの仲間を失った。
腹立たしいのは、この"条件付け"のせいで没した彼女らが、他のなにものでもない"条件付け"のお陰で、悔いなく散っていったという矛盾に満ちた事実。そしてその事実を自分自身が無意識に納得してしまっていることだ。

これを受け入れていては、わたしはいつまでも人間になんてなれないというのに…。

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