今井加奈「温泉街とエイリアン」 【ウルトラマンオーブ×シンデレラガールズ】 (58)


※ウルトラマンオーブ×シンデレラガールズのクロスSSです。

※どこかで聞いたような名前が出てきますが別次元の同一人物って感じです。

※遅ればせながら、加奈ちゃん・こずえちゃん、総選挙上位入り&SSR実装おめでとう!

※主な登場アイドル
今井加奈(16) 遊佐こずえ(11)

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―――伊香穂温泉

加奈「プロデューサー、早く早くっ!」

 G県中部にある伊香穂温泉。伝統あるこの温泉街に加奈は訪れていた。
 以前一度仕事をしたことがある場所で、その時にもう一度来ようとプロデューサーと約束していた。
 今日は完全なプライベート。総選挙でいい結果を残せたことへのお祝いとして約束を叶えることになったのだ。

P「ちょ、ちょっと待って……」

 元気はつらつな加奈とは逆に肩で息をするプロデューサー。
 やたらと石段が多い温泉街である。日頃のレッスンで鍛えている加奈と違って二十代後半のプロデューサーにはきつい。

加奈「えへへっ、かなかなファイファイっ!ですよっ! がんばってください♪」

 弾けるような加奈の笑顔にプロデューサーの顔も思わずほころんでしまう。
 これまでプロデュースしてきて本当に良かったと思える笑顔だ。

P(思えば色んなことがあったなあ……)

 自信をなくしてしまい、自分を卑下するような言動が目立つ時期もあった。
 だけど加奈はプロデューサーの与えた課題に真摯に取り組んでそれを解決し、立派なアイドルへと成長した。

P(この前の総選挙では全体21位……誇らしかったな……)

 ……そんなふうに物思いに耽りながら歩いていると。


 がつっ。

P「うわっ!?」

 石段ということをつい忘れてしまい、プロデューサーはつんのめった。
 加奈が短い悲鳴を上げたのが聞こえる。視界に石段の角が迫ってくる。慌てて手を突こうとするが腕組みしていたため間に合わない。
 ぶつかる――痛みを予期し、プロデューサーは反射的に目をつぶった。

加奈・P「「……え?」」

 二人して素っ頓狂な声を出していた。
 今にも角に頭をぶつけそうになっていたプロデューサーが突然現れた男に支えられていたからだ。

男「大丈夫か? 気をつけろよ」

P「は、はい。すみません」

加奈「…………」

 加奈は首を傾げた。彼女は石段の上からプロデューサーを見ていた。
 だから彼の周囲に誰もいなかったことはこの目ではっきりと見ていたのだ。
 それなのにその男は急に姿を現し、プロデューサーを助けた。まるで瞬間移動でもしてきたかのように。


加奈「ぷ、プロデューサー。大丈夫ですか?」

 何はともあれ、加奈は石段を何段か下って二人の近くに寄った。
 男は黒のシャツとブルージーンズといった風貌で、焦げ茶色のジャケットを羽織り、中折れ帽をかぶっている。

 顔つきからすると二十代後半、プロデューサーと同じくらいだろうか。
 しかし格好も相まってどこか垢抜けているように見え、老成した雰囲気があった。

男「じゃあな」

 プロデューサーの肩をぽんと叩いて男は石段を登り、すぐ近くの店に入った。
 土産物屋だった。観光客なのだろうか。

P「ごめん、考え事してて」

加奈「もう、だめですよ。せっかくお休みとって来たんですから」

こずえ「かなー……ぷろでゅーさー……」

 加奈がプロデューサーに注意していると、こずえが上から呼んできた。

P「行こっか」

加奈「はいっ」


P「しっかし石段多いなあ。これ、何か理由があるんだっけ」

 プロデューサーが言うと、加奈はポケットからメモ帳を取り出して繰った。

加奈「え~っと……あっ、あった。全部で365段あるそうですよ。1年中にぎわってほしいっていう願いが込められてるらしいです!」

こずえ「それー……まえのおしごとのー……?」

加奈「うんっ。前来たときのメモ帳そのまま持ってきたんだ」

こずえ「みせてー……」

加奈「はい、どうぞ♪」

 こずえはメモ帳を受け取るとぺらぺらとめくり、すぐ加奈に返した。
 加奈がちょっと驚いているのを見てか、こずえはこう言った。

こずえ「みながらあるいてたら……ぷろでゅーさーみたいにころんじゃう……」

P「……」

 11歳の容赦ない指摘にプロデューサーはバツが悪そうに頭を掻いた。


こずえ「ふわぁ……たまごぉ」

加奈「あっ、こずえちゃん温泉卵食べる?」

こずえ「うん……たべるー」

 露店で温泉卵を買い三人並んで味わった。
 加奈はこずえの口元を拭いたりお姉さん役ができて楽しそうだった。

加奈「プロデューサー、この温泉街の伝説って知ってますか?」

P「伝説?」

加奈「はい。大昔、この土地で大暴れした龍神がいて、それを光の巨人が鎮めたとか。その話にちなんだグッズも売られてるそうですよ」

P「ふーん……光の巨人ね」

 この前まで東京で怪獣と戦っていた巨人のことが思い出される。
 今なにをしているのだろうか。ずっと戦い続けて疲れたから、案外温泉にでも行って疲れを癒やそうとしているのかもしれない。

P(もしくはハワイで休暇中、とか)

 あり得ない妄想にプロデューサーは自分で失笑した。


―――射的屋

 ぽんっぽんっ。

加奈「あぁーーっ。まただめでした……」

 温泉饅頭を食べたり土産物屋を覗いたりしながら歩いていた三人は今度は射的屋に入っていた。
 加奈がチャレンジしているのだが全然的に当たらない。肩を落とす彼女を見てはりきったプロデューサーも挑んだがあえなく撃沈していた。

こずえ「つぎ……こずえのばんー……」

店員「ネクストはユーの番かい? ほらよ……って、おい」

 こずえに銃を渡そうとした店員の動きが止まり、加奈は首を傾げた。

加奈「どうしたんですか?」

店員「あっ……いや。ほらよ。グッドラック」

こずえ「うんー」

加奈「?」


 数分後、三人は戦利品を抱えて店を出ていた。
 こずえは渡された五発を見事全弾命中させたのだ。

加奈「こずえちゃんすごいね~……どうしてあんなにうまくできるの?」

こずえ「ふわぁ……? うーん……ふつうに……」

加奈「ふ、普通に? すごいね……」

こずえ「かなもぷろでゅーさーも……へたー……はじめといっしょ……」

P「肇? あっ、湯めぐりの仕事で一緒だったな。けっこう前だけど」

加奈(肇ちゃんも下手なんだ……)

 何でもそつなくこなしてしまいそうな雰囲気とは裏腹に肇はけっこう不器用だ。
 自分と同じように射的が上手くいってない彼女の様子を想像して加奈はくすりと笑んだ。

 藤原肇は同い年のユニット仲間で最近よく一緒に仕事をしている。
 彼女は岡山の山育ちということで高知出身の加奈とは上京組同士話が合った。

 346プロダクションには他にも同じような境遇のアイドルがたくさんいた。
 彼女らと仕事が一緒になると似たような思いを打ち明け合ったりしたものだった。

 その中でも、青森出身の工藤忍の言葉は深く心に残っていた。


忍『まるで別の星に来たみたいな気持ちだった』

 この伊香穂温泉で仕事をしたときのことだ。
 風呂上り、宿の庭園を二人で散策して四阿で休憩し、いい感じの雰囲気でちょっと気持ちも昂っていた。

加奈『別の星?』

忍『うん。言葉も文化も全然違うし、人の数も圧倒的に多くて……でもその人たちのことなんて全然わかんなくて』

 それは加奈も少なからず抱いていた感情だった。
 東京だけではない。アイドル界も。右も左もわからなくて自分がまるで異星人にでもなってしまったかのような不安感。

忍『アタシ、アイドルになるために家出同然で東京に来たんだけどさ』

 ほう、と息をついて、忍は夜空を見上げた。
 空気が澄んでいるからかとてもきれいに星が見えたのを覚えている。故郷の空を思い出す眺めだった。

忍『アタシが抱いてた理想の東京とも違ってた。失望を感じたりもしたよ。環境にも……自分自身にも』

加奈『……』

忍『でも、プロデューサーさんを信じてやってきてよかった。まだまだ立派じゃないかもだけど、一応アイドルやれてるから』

加奈『忍ちゃんはすごいよ。努力家だし、要領もいいし』

忍『要領……いいかなあ? だいぶ頑固な気もするけど……』

 くすくすと笑い合ってから忍は言った。


忍『ねえ、加奈ちゃん』

加奈『なに? 忍ちゃん』

忍『加奈ちゃんはさ、どんなアイドルになりたい?』

 加奈は忍の顔を見ながらぱちくりと瞬きした。

忍『アタシはなんとなく見えてきたんだ。夢を追いかけてきたからこそできることがあるような気がして』

加奈『へえ、どんなの?』

 そう訊くと忍は頬を赤くしてはにかんだ。

忍『へへっ、それはまだ秘密! それより加奈ちゃんはどう? そういうのあったりする?』

加奈『わたしは――』

 そういえば、そんなことは全然考えてもみなかった。
 ただ必死に目の前のことに取り組んでいただけで、それを楽しんでいただけで。

加奈(わたしは――)

加奈(わたしは、どんなアイドルになりたいんだろう……?)

 その答えは、今もまだ出ていなかった。


P「あっあれ美味そう」

 射的屋を出て歩いていると醤油の甘い匂いが漂ってきた。
 その方向に目をやると炭火でイカを焼いている店があった。

加奈「イカ焼きですね! この前来たときはなかったと思いますけど……」

店主「いらっしゃ~い。どうぞ見ていくんじゃなイカ~」

P(『イカ』……?)

加奈(キャラ付けなのかな……?)

 店主の妙なしゃべり方に戸惑いつつ三人分買って食べた。
 まさに屋台といった感じの濃い味付けが香ばしさを増している。プロデューサーは「ビールが欲しい」なんて言い出す始末だ。

男「俺も一本もらおうか」

 店の前で舌鼓を打っていると横からもうひとり客が来て加奈は驚いた。さっきプロデューサーを助けたあの男だ。

店主「イカカ!?」

 が、店主の驚きようはそれ以上だった。


店主「ク、ク、クレナイ・ガイ……ど、ど、どうしてここに……!?」

男「どうしてもこうしてもない、流れ着いただけさ。むしろお前たちこそ何をしているんだ」

店主「い、い、イカ……じゃなくて、いや……」

 ガイという男に詰問されて店主は見ていられないほど慌てている。

店主「わ、吾輩たちは心をイれカえたんじゃなイカ! だからこうして温泉街でのんびりと店を開いてるんじゃなイカ……」

ガイ「…………」

 疑わしそうな視線を受けて店主はさらに慌てだした。
 どうしようと思っていると袖を引かれた。プロデューサーが促していた。面倒ごとに巻き込まれそうだと判断したのかもしれない。

加奈「こずえちゃん、行こう」

こずえ「……ふわぁ……」

 こずえは不思議そうな目で二人を見てから、ふわりと身をひるがえした。


―――旅館

P「ごめんくださーい」

 暖簾をくぐって三人は旅館に入った。
 この前仕事で来たところと同じところだ。懐かしくてほっとした気持ちになる。

女将「はいはーい。いらっしゃぁーい」

 しかしながら、奥から出てきた女将を見て加奈とプロデューサーは揃って驚くことになった。
 見知らぬ顔だった。というより、想像できない顔だった。

P「あー……えっと。予約してた者です」

女将「ではこちらで手続きを……」

 着物は完全に女物だったが、顔は男だった。
 しかし声は高く、化粧もしている。振る舞いも女性っぽい。要するにオネエである。

加奈(……オネエの人も女将さんになれるんだ……)


―――露天風呂

P「ふぅー……」

 案内された部屋に荷物を置き、三人はさっそく露天風呂に行くことにした。
 まだ夕方なので人は少ない。景色を見ながらゆったりくつろいでいると、プロデューサーは気づいた。

P(あの人……)

 奥の方の岩にもたれて同じく景色を眺めている男がいた。石段で助けてもらったあの男だ。
 イカ焼きの屋台で見かけた時は危ない空気になっていたので思わず退散してしまったが、

P(二度も無視したらちょっと失礼だよな……)

 そう思い、プロデューサーは立ち上がった。彼の体に刺青等がないことを確認して。

P「すみません」

ガイ「ん? あー、さっき石段で転げそうになってた」

P「はい、その節は……。あなたもこの旅館に?」

ガイ「ああ。ちょっとリフレッシュに」

 ガイの人懐っこい微笑みにプロデューサーは安堵した。
 しかし「お仕事は何を?」なんて訊こうとすると――


??「リフレッシュなんてずいぶん呑気だな。ガイ」

ガイ「ジャグラー!?」

 ガイが素早く振り返ったのでお湯が勢いよくプロデューサーの顔にかかった。

ガイ「あっ、すまん……。で、お前はどうしてこんなところに」

ジャグラー「失礼な奴だな。俺にも気分転換したい時くらいあるさ」

ガイ「嘘つけ」

ジャグラー「フフッ。まあ無防備に湯に漬かってる正義のヒーローさんよりはマシな理由かもな」

ガイ「お前……まさかこの近くに宇宙人が集まってるのは……!」

ジャグラー「おいおいおいおい、そこまで俺のせいにするってのか? 濡れ衣もいいところだ」

ガイ「じゃあ何だってこんなところに」

ジャグラー「お前には感じられないのか? この地に流れる邪悪な気が」

ガイ「邪悪な気……」

ジャグラー「フン、ヒントは与えてやったぞ。これからどうするかはお前次第だ、フフフッ」


P「…………」

 すぐそばにいる存在をすっかり忘れたような二人の言い合いを聞きつつ、プロデューサーはそろそろと立ち上がった。
 やっぱりだいぶヤバイ人なのかもしれない。今後はあまり関わり合いにならないように……。

P(俺一人ならともかく加奈とこずえに何かあったら大変だしな……)

P(刺青はないみたいだけど組同士の抗争とかあるかもしれないし……)

P(それにしてもさっき「宇宙人」とか言ってたか? 何かの隠語か? それとも……)

 そんなふうに考え込みながら歩いていたから、

ガイ「! おい、危な――」

P「――うわっ!?」

 足元に転がっていた石鹸に気が付かず思いっきり踏んづけてしまった。
 足が滑り、体のバランスが崩れ――

 ――ガンッ。

 その音を聞くと同時にプロデューサーは意識を失った。


―――医務室

加奈「プロデューサーっ!」

 ドアが開かれると勢いよく加奈が飛び込んできた。
 続いてこずえがゆっくり入ってきて、ドアを閉めた。

加奈「大丈夫ですか!? 床で滑って頭を打ったって……」

P「あ、あぁ……うん……。心配かけてすまん……」

 どんよりと沈んでいるプロデューサーのそばにはガイと例の女将がいた。

女将「全く、男の子が女の子を心配させちゃダメでしょっ」

P「いてっ! 頭叩かないでくださいよ……」

女将「ふふっ。でっかいタンコブこしらえただけだから心配しなくても大丈夫よ。加奈ちゃん」

加奈「は、はいっ」

ガイ「…………」

 一方でガイは入ってきた二人とプロデューサーの顔を興味深そうに交互に見やって、こう言った。


ガイ「……奥さんと娘さん?」

 思わずプロデューサーは噴き出した。

P「どこをどう見たらそうなるんですか!」

ガイ「いやだって姉妹にしては似てないし、兄妹にしても似てないし……」

P「だからって夫婦にも見えないでしょうに……。ガイさんは二人をご存知じゃないですか?」

ガイ「え? いや……」

P「二人はアイドルで、俺はそのプロデューサーなんですよ。……うーん。最近知名度上がってきたと思ってたんだけど」

ガイ「いや、すまん。テレビはほとんど見ないんだ。ぶらぶら旅してるから」

P「あぁ、そうなんですか」


 二人が話しているとこずえが近づいてきた。
 ガイの前に立ち、じっとその顔を見上げる。

こずえ「……」

ガイ「……」

 すると、にこやかだったガイの顔が徐々に驚きに変わった。

ガイ「お前……」

 こずえはくるりと反転すると、加奈の隣に戻って袖を引っ張った。

こずえ「かなー……もうもどろー……」

 すっかりフリーズしていた加奈はそれで我に返った。
 するとまるでのぼせたかのように急に顔を赤くし、あたふたしだした。
 そして、こんなことを口走った。

加奈「お、お、お、お、奥さんだなんてそんなっ!!」

P「その話もう終わってる……」


―――上ノ山

 伊香穂温泉街を南から見下ろす上ノ山。
 昼間は観光客が登山に来るが、夜になった今はひとけがなく閑散としていた。

 そんな上ノ山のひっそりとした洞窟。
 真っ暗闇で何も見えないその中で、何者かの不気味な笑い声がこだましていた。

??「くくく……育て育て……」

??「もう少しだ……もう少しで……」

??「あいつらへの復讐が果たせる……くくっ、くくくっ」

 洞窟の奥で何かがうごめく。それが青白く発光すると、山全体が身震いし、天井から石や砂が落ちてきた。
 しかし声の主は全く動じることなく高笑いを上げ続けていた。しかし――

「そんな大声を出していたら居場所がバレバレですよ」

 愚弄するような声がするとともに笑い声がぴたりと止まった。
 洞窟内に静寂が満ちる。入口に人影が立っていた。その手には光を放つ長刀が握られている。
 逆光になって見えにくいが、月光で照らされているのは甲冑を着込んだ騎士のような人物――魔人態になったジャグラーだった。


??「何者だ? 貴様」

ジャグラー「意味のない質問だ」

 ジャグラーが動く。電光石火で洞窟内に突入し、声の主に斬りかかる。

ジャグラー「ハァッ!」

??「フンッ!」

 金属音が響き渡る。ジャグラーの刀は受け止められていた。
 火花がぱっと散り、一瞬、声の主の顔があらわになる。

??「ヌンッ!」

 刺突。さっきの一瞬で相手の武器もわかっていた。
 右手に装着されたサーベルだ。突き出されたそれを間一髪で躱す。


ジャグラー「ハッ!」

 剣戟の甲高い音が鳴る。暗闇の中で鍔迫り合いになり、互いに互いを押し合う。

ジャグラー「お前、マグマ星人だな?」

マグマ「だったらどうした!」

ジャグラー「一体何を企んでいる。『復讐』だとか言っていたな」

マグマ「お前が知る必要はない!」

 マグマ星人が叫ぶとまたしてもぐらぐらと洞窟が揺れ始めた。

ジャグラー「……!」

 ジャグラーは気づいた。その奥にいる巨大な「何か」の気配を。
 その一瞬の隙を突き、マグマ星人がジャグラーを押し返す。サーベルを振り回して跳ね飛ばした。


ジャグラー「…………チッ」

 揺れが収まるとマグマ星人の気配はなくなっていた。
 どこかに秘密の抜け道でも用意してあったのだろう。この真っ暗闇の中でそれを探って追うのは不可能だ。

ジャグラー「…………」

 ジャグラーは歩を進め、洞窟の奥の「何か」の前に立ち、五感を研ぎ澄ませた。

 全長――約55メートル。マグマ星人は「育て」と言っていた。これからまだ大きくなるかもしれない。
 どこか金属的な冷たさを感じる。まるで生き物ではないみたいだ。これが動いているなんてにわかには信じがたい。
 その存在を確かめ、しばらく思いを巡らせてから、ジャグラーは深い溜息を落とした。

 刀を鞘に納め、魔人態の状態を解き、踵を返す。
 洞窟の入口に来てからもう一回中を振り返り、彼は呟いた。

ジャグラー「ここから先はお前の仕事だ……ガイ」


 ・
 ・
 ・

―――翌朝

加奈「もう帰るなんてちょっと物足りない感じしますね」

P「そうだなぁ。また来れたらいいな」

加奈「そうですねっ! 次は美羽ちゃんや肇ちゃんたちも一緒に!」

 翌朝、三人は部屋で帰り支度をしていた。
 プロデューサーが風呂場で転倒するというアクシデントはあったが、その後温泉街を歩いたり卓球をしたりと休暇の目的は果たせた。

加奈「こずえちゃんはどうだった?」

こずえ「ふわぁ……? たまご……おいしかったよー……あと……」

加奈「あと?」

こずえ「へんなひと……たくさんいて……たのしかったー」

加奈「変な人……」

 思い浮かんだのは、ガイ、旅館の女将、イカ焼き屋台の店主だった。
 あとは最初に入った射的屋の店員もそうだろうか。いわゆるルー語と呼ばれる妙なしゃべり方をしていた。


P「確かにキャラが濃い人とばかり会ったな今回」

加奈「そうでしたね……。……」

P「? 加奈、どうかしたか?」

加奈「えっ? あぁ……えっと、そうですね……」

 ここで切り出すべきかどうか迷ったが、言うことにした。
 一人で考え込んでいたって仕方がないのはもうわかっているのだ。

加奈「わたしもキャラ付けとか考えた方がいいのかな……って」

P「アイドルの話?」

加奈「はい。ほら、美羽ちゃんがお笑いキャラ目指してるみたいに、わたしも何かやった方がいいのかなって」

P「どうしてまた急に?」

 加奈は先の仕事のとき忍に言われたことを話した。
 どんなアイドルになりたいか、その答えをまだ見出せていないことも。


P「どんなアイドルになりたいか……か。大切なことだけど、そう焦ることないんじゃないか」

加奈「そうですか?」

P「何かきっかけがあれば思いつくかもしれないし。それより焦って空回りしてしまう方が問題だな。まずはできることをコツコツやることだよ」

加奈「なるほど……メモしておきます!」

こずえ「……きのうのと……べつのいろ……」

 加奈が書き込んでいるメモ帳の背表紙は昨日見ていたのと違う色をしていた。

加奈「昨日のはけっこう前のメモ帳だからね。今使ってるのはこっちなんだ」

こずえ「ふぅん……」

P「じゃあ、そろそろ行こうか」

加奈「はいっ」

 元気よく返事をし、旅行鞄を持ち上げようとした、そのときだった。


加奈「きゃっ……!?」

こずえ「ふわぁ……?」

P「じ、地震!?」

 突然建物が揺れ始めたのだ。ミシッミシッと嫌な音が立つ。プロデューサーは二人を抱き寄せて床に伏せた。
 しばらくそうしていると揺れが収まった。幸い、建物が壊れるようなことにはならなかったようだ。

加奈「だ、だいぶ大きかったですね……」

P「ああ……」

 すると襖が開き、例の女将が飛び込んできた。

女将「お客さんたち! 大変よ大変!」

P「どうしたんですか?」

 女将はそれに答えず部屋を横切ると、閉まっていた窓を開いた。


P「あれは……」

 南向きの窓にはちょうど上ノ山の方を向いていた。その山の前に灰色をした巨大な何かがいた。
 まるで鉱物で作った前衛的なオブジェのようだった。前面から背部にかけて「く」の形をしたブーメランのようなものが生え、右側は剣のような、左側は鋏のような形になっている。
 ところどころが青白く発光している。そしてそれは動いていた。山の麓からこの温泉街へ近づいているのだ。

こずえ「かいじゅー……」

加奈「怪獣……!?」

女将「早く避難するわよ! ほら!」

 女将に促され、プロデューサーたちは慌てて部屋を後にした。
 とにかく女将の背中を追いかけて走り続ける。旅館を出、温泉街へ入る。同じように避難している人でごった返している。
 ズシィィィィン……という重い音が鳴った。背後を振り返ると怪獣の姿が更に近づいていた。

怪獣「グゥゥゥゥゥオオ……!!!」

 洞窟に反響する風音のような声で怪獣が低く唸る。 
 人々の間にざわめきが走る。口々にある言葉が呟かれる。

「アーナガルゲ様だ……」

「伝説はほんとうだったのか……」

加奈(アーナガルゲ……温泉街に伝わる龍神伝説……)


女将「っ!」

 人々は思わず足を止めて怪獣の姿に見入っていた。
 その間を縫って女将がどこかへ行こうとするのを加奈は目にした。

加奈「女将さん!」

P「お、おい加奈!」

 女将は一心不乱に進んでいく。しかし派手な着物を着ているから人波の中でもわかりやすく、見失うことはない。
 しかしそこで加奈は疑問に思った。果たして着物でこんなにも機敏な動きができるものなのだろうか? それとも本職の女将さんたちならこれくらいできて当たり前なのだろうか。

 女将は人波を抜けるとある店の前で足を止めた。
 あのイカ焼き屋台。店主も彼女を待っていたようだ。そしてもう一人、射的屋の店員もそこにいた。

女将「イカリ、どうするの!?」

店主「そ、そんなこと言ったって……吾輩たちには何もできないんじゃなイカ~……」

店員「というか……この怪獣ってマジにあいつなのか……!? 何でこの星に……? ホワイ!?」

女将「何度も見てきたじゃない、この手口。忘れたの、ハルキ?!」

加奈(イカリ……ハルキ……。あいつ……? この星……?)

 無関係だと思っていた三人が顔見知りだったのも驚いたが、その口から飛び出してくる言葉の数々に加奈は大いに戸惑った。

加奈(みんな、何を話してるの……?)


 一方――

ガイ「っ!」

 異変を察知しいち早く旅館から飛び出していたガイは怪獣の足元に来ていた。

ガイ「ジャグラーが言っていたのはこいつのことか……」

ガイ(あの宇宙人たちのことも気になるが……)

 だがまずはこいつを止めるしかない。
 そう思い、ガイはオーブリングを取り出し、構えた。

ガイ『――セブンさん!』

『ウルトラセブン!』

ガイ『ゼロさん!』

『ウルトラマンゼロ!』

ガイ『親子の力……お借りしますっ!!』

『フュージョンアップ!』

『ウルトラマンオーブ エメリウムスラッガー!』


イカリ「あ、あれは~~!!」

 怪獣の前に光の柱が立つ。その足元からリング状の光が昇り、正体が明瞭になる。

オーブ『――知勇双全、光となりて!』

 上半身は青、下半身を赤く染めた巨人の姿。
 頭部には三本のスラッガーが収められ、鋭い双眸が青白く光っている。

ハルキ「あれは……ウルトラマンオーブか……? ミーたちが知ってる姿とはだいぶ違うけどよ」

女将「間違いないわ! あのオーラ、絶対ガイさんよ!」

加奈(えっ……?)

 さらに驚くべき発言が飛び出してきたところで、何者かの声がした。

??「さっきから口が軽すぎるな。ナックル、イカルス、バルキー」

 三人が一気に声のした方向に顔を向ける。
 仮面をつけた金髪の男――のようなものが立っていた。

ナクリ「マグマ……!」


マグマ「本当に気づいてないのか? そこの嬢ちゃん、さっきまでの話全部聞いてたぜ」

ナクリ「えっ」

 一斉に注目を浴びて加奈は息を呑んだ。

加奈「あ、あのっ、立ち聞きするつもりは……」

マグマ「嬢ちゃん、教えてやるよ。人間どもに紛れて安穏と暮らしてやがるこいつらはな、大悪党の宇宙人なんだぜ」

ナクリ「あんた!」

マグマ「昔は四人組で色んな悪事を働いたよなあ。盗賊の真似もしたし、上の命令があれば女子供にも手を上げたっけなあ」

加奈「…………」

ハルキ「で、でもミーたちは心を入れ替えて――」

マグマ「だから俺だけ残して逃げ出したのか? そして地球で幸せになろうとしたのか?」

イカリ「し、幸せになることの何が悪イカ!」

ナクリ「待ってイカリ」

 ナクリはイカリを制した。そしてハルキにもアイコンタクトを送り、三人でうなずいた。


三人「「「ハッ!」」」

 三人の姿が変わる。
 女将のナクリはナックル星人、イカ焼きの店主はイカルス星人、射的屋の店員はバルキー星人の姿に。

加奈「……!」

ナクリ「加奈ちゃん、隠しててごめんなさいね」

イカリ「で、でも吾輩たちはもう心を入れ替えたんじゃなイカ! 悪い宇宙人とはもうおさらばしたんじゃなイカ~!」

ハルキ「そういうわけさベイビー。今はこの温泉街を愛するただのハルキ、イカリ、ナクリだ!」

マグマ「…………」

 マグマ星人はこちらまで音が聞こえる歯軋りをした。

マグマ「お前らが地球で気楽に暮らしてる間、俺がどんな目に遭ったかわかるのか! 故郷の星も捨てた俺は一人で……!」

加奈「……!」

ナクリ「あんたをひとり残したのは悪いと思ってるわ! だから――」

マグマ「黙れ!」

 マグマ星人が右腕のサーベルを振り上げる。


加奈「待ってください!」

 しかし、加奈の声に動きが止まった。

加奈「わ、わかります。す……少しだけですけど」

マグマ「何?」

加奈「故郷から離れて、ひとりで不安になるって気持ち……わたしにもわかります!」

マグマ「フン。お前のような小娘が俺の怒りの何憶分の一理解できるっていうんだ?」

加奈「あなたはどうして怒ってるんですか?」

 そう訊くと、マグマ星人がわずかに顔をしかめた。


加奈「も、もしかしたら……寂しかったんじゃないですか? 一人っきりにされて……」

マグマ「……」

ナクリ「マグマ……」

加奈「だったらナクリさんたちと一緒にこの星で生きればいいじゃないですか! 今からでもやり直すことはできますよ!」

マグマ「黙れ……! 地球人の小娘風情がわかったような口を利くなァッ!」

加奈「!」

 マグマが突進してくる。ナクリたちを突き飛ばし、サーベルを振り上げる。
 加奈は全身が硬直して動けない。さっき話をしていた間だって緊張しっぱなしだったのだ。
 振り上げられた刃が朝日を浴びて鋭く光る。乾いた音を立てて振り下ろされ――


―――オーブサイド

オーブ「ジュワァッ!!」

 手にしたスラッガーがアーナガルゲの体を切り裂いた。
 怪獣の体を構成している鉱物がボロボロと零れ落ちる。

アーナガルゲ「グゥゥゥゥオオ……!!」

 アーナガルゲが右手の剣を振る。オーブはスラッガーでそれを受け止め、

オーブ「デヤアッ!」

 怪獣を蹴飛ばした。
 続けざまにスラッガーを空中に浮かべ、さらに二本のオーブスラッガーショットを空中に飛ばす。

オーブ『超ウルトラノック戦法!』

アーナガルゲ「シャギャァァオオオ……!!」

 三本のスラッガーが乱れ飛び、アーナガルゲの体躯を切り裂いていく。
 体を削り取り、ところどころに伸びた突起を撥ね飛ばす。オーブがスラッガーを頭部に収めた時には怪獣の体は萎んだように小さくなっていた。


オーブ「ハアアアア……!!」

 L字に組んだ腕にエネルギーが宿っていく。
 怪獣に向けて光線を放とうとした、まさにそのとき。

オーブ「グワッ……!?」

 背中に痛みが走り、構えが崩れてしまった。
 振り向くと、いくつかの岩塊が猛スピードでオーブに迫っていた。

オーブ「グッ! ジュワッ!」

 いくつかを手で払いのけるが捌ききれなかったものはオーブの体を襲った。
 そして彼の脇を通り抜け、一直線にアーナガルゲに向かっていく。

オーブ「……!」

 岩塊はまるで溶けるようにしてアーナガルゲの体と一体化した。
 欠けた体が修復される。それどころか、体を構成していた岩が右手に同化することで剣が鋭さを増していた。


アーナガルゲ「グルルルルルゥゥオオ!!!」

 細身になって機敏になったのか、素早い動きでアーナガルゲが接近してくる。
 両刃共に切れ味が増した剣を振ってくる。これは受けきれないと判断し、オーブは屈んでその軌道から身を逸らす。

オーブ「フンッ!」

 背後から攻めようと腕の下に飛び込むようにして転がる。
 だが身を起こした瞬間、脇腹に衝撃が走った。アーナガルゲが尻尾を振り回していたのだ。

オーブ「グ……ッ」

 吹っ飛ばされたが逆に距離ができた。片膝を突いたまま怪獣の方を向き、両腕で構えをとる。

オーブ『――ワイドスラッガーショット!!』

 金色の光線がアーナガルゲを捉えた。
 命中した腹部から全身に亀裂が走り、派手な音とともに木っ端みじんに砕け散る。

オーブ「…………」

 だが、オーブが想像していた通りだった。


アーナガルゲ「グゥゥゥゥオオ……!!」

 散らばった岩がひとつに集まり、再びアーナガルゲの体を作り上げたのだ。
 今度は全身から棘を生やし、まるでハリネズミのようになっている。

オーブ「ジュアッ……!」

 オーブがファイティングポーズをとる。
 アーナガルゲが体を揺らすと、全身の棘が青白く発光した。

オーブ「……!」

アーナガルゲ「シャギャァァオオオ!!!」

 怪獣の雄叫びとともにその棘が一斉に発射される。
 側転してそれを躱すが、地面に突き刺さった棘が再び宙に舞い上がる。

オーブ「デアッ……!?」

 またもや襲い掛かってくるのを見て急いで頭部のスラッガーを手に取る。
 猛スピードで迫り来るそれに向けて、オーブは刃を振るった。


―――加奈サイド

 暗闇の中で、ガキン! という音が鳴った。

加奈「……?」

 反射的に閉じた目をおそるおそる開ける。
 目の前にスーツの背中が見えた。でもプロデューサーではない。今日の彼は私服だから。

マグマ「お前……昨夜の……!」

ジャグラー「すぐ熱くなってしまうのはよくありませんよ? マグマ星人はみんなそうなんですか?」

 おちょくるような声音の敬語。
 その男が持つ長刀がマグマ星人のサーベルを受け止めていた。

ナクリ「ジャグラー、あんた何で……」

ジャグラー「ただの気まぐれだ」

マグマ「邪魔をするな……!!」

 歯軋りしながら刃を押し込めようとするが、ジャグラーも引かない。


ナクリ「考え直して、マグマ!」

イカリ「吾輩たちも謝るんだな~!」

ハルキ「ひとり置いていってすまん! ソーリー!」

ナクリ「この温泉街で私たちと一緒に暮らしましょう!」

マグマ「都合のいいことばかり言うな! 宇宙人の俺がこんなところにいられるわけないだろうが!」

 耳障りな金属音が立つ。刃の上を刃が滑り、二つの剣が離れる。

ジャグラー「はっ!」

 一瞬の隙を突き、ジャグラーの脚がマグマ星人の腹を捉えた。
 吹っ飛ばされた星人は屋台の壁に衝突した。木造の屋台はあえなく粉々になる。

イカリ「マグマ!」

マグマ「ぐっ……」

 埃の中で身を起こそうとした時だった。サーベルが踏まれ、起き上がれなくなった。
 しまったと思うより先に切っ先が突き付けられる。ジャグラーの目に見下ろされていた。


マグマ(ここまでか……)

マグマ(アーナガルゲ……俺の意思を受け継ぎ、この街を隅から隅まで破壊しつくせ……!!)

マグマ「ナックル! イカルス! バルキー!」

三人「「「!」」」

マグマ「いつまでもこの場所でのんきに暮らせると思わないことだ! いずれ必ずお前らの正体は誰かにばれ、弾劾され、追放される!」

マグマ「びくびくしながらその時を待っているといい! ハハハハハ!!」

ナクリ「……!」

マグマ「さあ、やれよ」

ジャグラー「……フン。なら望み通りあの世に送ってやる」

 ジャグラーの刀が翻るのを見て加奈は叫んだ。

加奈「待ってください!」


ジャグラー「何だ?」

加奈「ここは……そんな場所じゃないです……」

マグマ「何?」

加奈「ここは、どんな人だって優しく受け入れて笑顔に……幸せにする場所です! 都会の人も、田舎の人も……それに、別の星の人だって」

ナクリ「加奈ちゃん……」

加奈「だからあなたも一緒に生きられます! この街はあなたも受け入れてくれるはずです!」

ハルキ「……その通りだぜマグマ! 意地張ってないでミーたちと一緒にこの街に住もう!」

イカリ「仕事だって吾輩が見つけてきてやるんじゃなイカ~!」

ナクリ「そうよ。私たちはあなたを受け入れるわ! あなたを置いていったことも謝る! だから簡単に命を捨てないで!」

マグマ「…………」


P「加奈~!!」

 そのとき、プロデューサーがこずえを背負って走ってきた。
 が、その場を見て顔がこわばった。

P「え……えっと……??」

 加奈と、明らかに地球人じゃない奴が四人。ひとりは腕を踏まれ、スーツの男の刀を首に突き付けられている。
 混乱するのも無理はない光景だった。

加奈「ぷ、プロデューサー! 詳しい話は後でしますから!」

P「え……ええ、うん……わ、わかった」

 彼の登場で弛緩しきってしまった空気にジャグラーは溜め息を吐いた。
 刀を戻し、サーベルの上から足をのけた。

ジャグラー「せめてもの罪滅ぼしに言え。あの怪獣を止める方法を」

 ジャグラーはオーブの方に顔を向けた。


―――オーブサイド

オーブ「デアァァァアアアリャアアッ!!」

 スラッガーの高速斬撃で岩の棘をすべて切り払った。
 しかし地面に落ちた岩がアーナガルゲの方へ向かい、同化される。

アーナガルゲ「グルルルルルゥゥオオ……!!」

 アーナガルゲが突然左腕をオーブに向けると、鋏の形状をしたそれが発射された。
 オーブの首を挟み、彼が倒れたと同時に地面に突き刺さって拘束する。

オーブ「デアッ!」

 オーブスラッガーショットを放ち、その鋏を切断する。
 しかし身を起こしたときには既にアーナガルゲがその破片を吸収していた。完全に元の木阿弥だ。

オーブ「グッ……」

 ついに、胸のカラータイマーが赤い点滅を始めた。


―――加奈サイド

ジャグラー「何かないのか。もう時間がない」

マグマ「……ない。アーナガルゲの正体は鉱物に寄生する微生物だ。いくらあの巨体を破壊したって微生物が生きている限り奴は不滅だ」

ジャグラー「チッ……」

 ジャグラーが舌打ちをする一方で、加奈は違和感を持った。

加奈「あの……あの怪獣は『アーナガルゲ』っていうんですか?」

マグマ「ああ、そうだが……」

加奈「それはこの温泉街の伝説にちなんで?」

マグマ「伝説? 何だそれ?」

 加奈はぱちくりと瞬いた。大昔の伝説の龍神と現在現れている怪獣の名前が奇妙にも一致している。
 それが頭の中で何かに引っかかった。必死に頭を回転させ、それを思い出す。


加奈「――あ!」

P「どうしたんだ、加奈?」

加奈「思い出しました! 伊香穂温泉街の龍神伝説は、未来を予知したものなんじゃないかって説があったんです!」

 情報を集めているときに辿り着いた、確か「SSP」というサイトに載っていたはずだ。
 ちょっと突拍子もない話だとその時は思っていたが、その説が当たっているのかもしれない。

加奈「そうだとしたら、その伝説の中にヒントがあるはずです! あの怪獣を倒すヒントが!」

 興奮しながら加奈がポケットを探る。メモ帳を取り出して繰り始め――そして。

加奈「あぁぁぁーーーーーっ!!!」

 そんな絶叫を上げた。

P「ど、どうしたんだ加奈!」

加奈「メモ帳、これじゃないです! 伝説をメモしておいたのはカバンの中にしまってましたぁ~!」

 温泉街の情報は前の仕事の際に使ったメモ帳に書いてあった。
 今回も持ってきてはいたが、すでにそれは旅行鞄の中に仕舞っていたのだった。
 しかもそれは今旅館の中だ。取りに行こうにももうオーブには時間がない。


加奈(どうしよう……私がドジしたせいで温泉街がぁ~~っ!!)

 頭を抱える加奈。しかしそのとき――

こずえ「いかほおんせんにつたわるでんせつは……にほんたいへいふどきにかかれたものとどういつであり……ぺーじすうをかんがえるとみらいをよちしたものであるかのうせいがある……」

加奈「えっ?」

こずえ「でんせつにはつぎのようにある……むらをおびやかすりゅうじんをしずめるべくひかりのきょじんがたちあがり……りゅうじんをこおりづけにしてこなごなにうちくだいた……」

P「こ、こずえ、それは?」

こずえ「かなのめも……かいてあった……」

加奈「た、確かにこずえちゃんに貸したけど……!」

 歩きながら読んでいたらプロデューサーのように転ぶ、ってことですぐ返されたはずなのに。
 ぺらぺらページをめくっただけで中身を全部覚えたという事実に加奈は驚愕した。

P「こずえは記憶力がすごくいいからな……にしてもすごいな……」

加奈「こずえちゃん、光の巨人は龍神を氷漬けにしたの!?」

こずえ「うんー」

 こずえはゆるりとうなずいた。


マグマ「そうか……微生物の活動を止めてしまえば破壊しても再生することはない……」

加奈「ウルトラマンオーブ!」

オーブ「ジュアッ?」

 思わず呼びかけるとオーブが加奈の方を振り返った。
 一瞬ひるむが、めいっぱいの大きな声で叫んだ。

加奈「怪獣をー! 氷漬けにするんですー! それから、粉々に打ち砕いちゃうんですー!」

オーブ「シュワッ!」

 オーブはうなずき、再び怪獣に相対した。

アーナガルゲ「シャギャァアアオオ……!!!」

 またも全身に棘を生やしたアーナガルゲが、それを一斉に飛ばしてくる。

オーブ『オーブスラッガーショット!』

 それに対抗して二本のスラッガーを乱舞させる。
 迫り来る岩槍を次々と弾き飛ばしているうちに、オーブは額のランプを光らせた。


ガイ『ジャックさん!』

『ウルトラマンジャック!』

ガイ『ゼロさん!』

『ウルトラマンゼロ!』

ガイ『キレのいいやつ、頼みますっ!!』

『フュージョンアップ!』

『ウルトラマンオーブ ハリケーンスラッシュ!』

 オーブの姿が変わり、渦を巻くような動作でファイティングポーズをとる。
 それに伴って気流が発生し、光の粒子を乗せて青白い風となった。

オーブ『――光を超えて、闇を斬る!』


オーブ「シュアッ!」

 襲い来る岩槍をスラッガーショットで弾き飛ばしながらオーブが走る。

アーナガルゲ「グルルルルルゥゥオオ……!!」

 アーナガルゲが右腕の巨大な剣を振るう。

オーブ「テヤッ!」

 しかしそれはオーブに躱されていた。壁を駆け上がるようにアーナガルゲの体を蹴りながら登っていたのだ。
 そして最上部に入れたキックの反動で宙返りし、怪獣の前に着地した。

オーブ『――ハリケーンフロスト!』

 両手を合わせ、それをアーナガルゲに向けるオーブ。
 すると指先から冷凍ガスが噴出され、アーナガルゲの体をあっという間に覆いつくした。


アーナガルゲ「グゥゥゥゥゥ…………」

オーブ「シュアァッ!!」

アーナガルゲ「――――」

 しばらくは微かに動いていたアーナガルゲだったが、やがて全身が凍りつき、身動きも絶えた。
 オーブは乱れ飛んでいたスラッガーショットを操って自分の前に渦を巻かせ、その中心からオーブスラッガーランスを形成した。

オーブ『――ビッグバンスラスト!!』

 二回レバーを引き、槍を怪獣に突き刺す。
 エネルギーが伝導し、盛大な爆音とともにカチコチに凍り付いたアーナガルゲが爆散した。

加奈「やったぁ!」

ナクリ「加奈ちゃ~ん!! あなた、この温泉街の救世主よ~!!」

加奈「そ、そんな……」

 照れながら、加奈はオーブの顔を見上げて言った。

加奈「ウルトラマンオーブ! ありがとうございまーす!」

オーブ「シュアッ」

 オーブはうなずいて、空の彼方へ飛び立った。


―――車中

P「よし、帰るか。最後に大変なことがあったけど……」

加奈「そうでしたね……でも、みんなが仲直りしてくれてよかったです!」

 あの後、マグマ星人は(渋々といった様子だったが)三人の言うことを聞き入れ、この街で住むことになった。
 でもいずれ馴染んでくれるだろう。何と言ったって宇宙人も憩う温泉街なのだから。

加奈(宇宙人……か)

 東京に来て、アイドル界に入って、不安を抱えていた自分。
 忍はそれをエイリアンのようだと表現した。だとしたら――

加奈「プロデューサー、わたし決めました」

P「何を?」

加奈「わたし、どんな人も笑顔にして、幸せにできるようなアイドルになりたいです!」

 プロデューサーは微笑んで、力強くうなずいた。

P「よーっし! それじゃあこれからも頑張――」

加奈「あっ、プロデューサー!」

 加奈は口の前に指を立て、後部座席に顔を向けた。プロデューサーもハッと気づいて、口を閉じた。

こずえ「すぅ……すぅ……」

 こずえが安らかに眠りこんでいた。
 その寝顔を見て二人は笑みを突き合わせ、小さく声を合わせた。

P「がんばるぞー」

加奈・P「「おーっ!」」


―――伊香穂温泉

 一方、伊香穂温泉。
 事件に携わった一同はナクリが勤めている旅館の露天風呂に浸かっていた。

ナクリ「はあ~生き返るわ~」

マグマ「お前ここの女将なんだろ? こんなところでのんびりしてていいのか?」

ナクリ「大丈夫大丈夫。今日は建物に異常がないか確かめるらしいから休業なのよん」

ガイ「反省しろよ。お前の個人的な復讐で色んな人に迷惑かかってんだから」

マグマ「フン……温泉が休みになったところで俺には――」

ガイ「はあ!? お前、温泉のことを何だと思ってるんだ!?」

マグマ「えっ?」

ガイ「いいか? 温泉は大地の恵みを感じられる素晴らしい文化だ。銭湯もいいが、こうして外の空気に触れ、いい景色を見られる露天風呂は――」


ガイ「――ということだ。わかったか?」

マグマ「オンセンスゴイ、ロテンブロサイコウ」

ジャグラー「洗脳されたみたいになってるぞ」

ハルキ「しっかし、温泉といえばあの嬢ちゃんもなかなか良いこと言ってたな」

ナクリ「そうねえ。宇宙人に囲まれても勇気を出して……健気な子だったわぁ~」

イカリ「そう考えればすごかったんじゃなイカ~。あの場もここも宇宙人だらけじゃなイカ~」

ガイ「あの『二人』以外全員地球人じゃなかったからな」

 ガイの言葉で露天風呂は笑いに包まれたのだった……。


おしまい


≪登場怪獣≫

“鉱脈怪獣”アーナガルゲ
・体長:64m
・体重:80,000t

『ウルトラマンネオス』第1話「ネオス誕生」に登場した怪獣。
岩石でできた体を持ち、全身に突き出た突起を武器とする。
その正体は岩石に取り付く微生物であり、そのため体を破壊してもすぐ再生してしまう。

宇宙人トリオは別次元の同一人物って感じで、マグマ星人と共にマスターに仕えて悪事を働いていた時期があり、その時にガイやジャグラーと出会った、という設定です。


以下、ウルトラマン×シンデレラガールズの過去作宣伝です。

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今回で担当の子を全員主役にできたのでちょっと満足してます。
でもまだ取り上げたい子ややりたい話もあるので時間があればまた書きたいです。

ネタ出ししてるうちにジードも始まっちゃって、毎週楽しんでます。
クロスかそうでないかは問わずジードSSもやりたいのですが、世界観が独特で難しいなって思ったりしています。

それでは、読んでくださった方、ありがとうございました。

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