歩夢「君の超高校級の心は輝いてるかい?」(758)

※ダンロンパロです
※そのため死亡描写あり〼
※AqoursとPDPが同時系列です



幼稚園、年中だった頃のお遊戯会。

緊張して泣き出しちゃった私に、彼女は言ってくれた。

「いっしょだから大丈夫だよ。ふたりで思いっきり楽しんじゃおうよ」

私は今でも、その言葉を覚えている。

────東京・お台場、私立虹ヶ咲学園。

『卒業した者は将来の成功が約束されている』とまで言われる、超が幾つあっても足りないエリート学校。

そこに集まるのは、各界に名を連ねるほどの、才能溢れる生徒ばかり。

いわゆる『超高校級の才能』を持った人たちだけが入学を許される場所。

私の名前は、上原歩夢。

ひょんなことで、今日からその虹ヶ咲学園に通うことになった高校生です。

パリっとした虹ヶ咲の制服に身を通した今でも、ビックリしています。

だって、そんな凄い人たちの通う学校に足を踏み入れるんですから。

期待は胸いっぱいけれど、それと同じくらい、大丈夫かな、場違いじゃないかな、って、不安もあります。


えっと……そこに入学するってことは、あなたにも相応の才能があるんでしょう、って?

勿論。私は、超高▽級の×◎と呼ば√ていて……。

聞こえ■かった? もう♪度言〒ますよ。

私は……私は私は私はワタシワタシワタシワタシワタシワワワワワワワワワワ………。

…………。

…………。

…………。



   PROLOGUE

PERFECT Despair Project.

「おーい……」

歩夢「……」

「もしもーし?」

歩夢「──ん、あれ、私……」

歩夢(いつの間にか、寝ちゃってたみたい……?)

頭部に生暖かい重みを感じながら、私は目を覚ました。

硬い机に突っ伏して眠っていたみたいだけど……。

歩夢(机や椅子、教壇に黒板……ここは教室?)

「やっと起きた。おはヨーソロー!」

さっきまでの記憶が思い出せず混乱する私に、目の前にいた少女が話しかけて来た。

歩夢「あなたは……?」

曜「私は渡辺曜、超高校級の船乗りであります!」ビシッ

制服姿で敬礼する彼女はなるほど、サマになっている。

そういえば、彼女も私と同じ制服……ということは、虹ヶ咲の生徒なのだろうか?


《超高校級の船乗り 渡辺曜》

歩夢「私は上原歩夢。よろしくね、曜さん」

曜「んー……さん付けって、なんか息苦しいなー」

歩夢「じゃあ、曜ちゃんで」

曜「うむ!」

ところで、と話題を変えてみる。

歩夢「ここって、教室だよね?」

曜「うん、部屋の前には1-Aって書いてあったよ」

歩夢「じゃあ……あれは何?」

指さす先は、窓……というより、全ての窓に打ち付けられた鉄板。

教室が薄暗いのは、これが原因だろう。

曜「んー……よく分からないんだよね。なんか、正面玄関も塞がれちゃってるし」

歩夢「嘘、玄関が!?」

曜「いまみんなで手分けして情報を集めてるんだ。ついでに挨拶して来るといいよ」

歩夢「曜ちゃんはどうするの?」

曜「あー……あと一人、そこで寝てる人を起こさないといけないから」

歩夢「そこ、って……ひゃぁ!?」

「……むにゃむにゃ。ハルカぁ……もう食べられないってばぁ」

今の今まで、全く気が付かなかった。

まさか、テンプレートのような寝言を放つ少女がすぐ後ろの席にいたとは。

曜「さっきも起こしたんだけどね。またすぐ寝ちゃった」

歩夢「そ、そうなんだ……」

曜ちゃんのような人がいて良かったけれど、虹ヶ咲には案外ヘンな人もいるのかも……?

結局。その子のことは曜ちゃんに任せて、私は建物の中を散策することに。

歩夢「うーん……」

以前、学園案内のパンフレットを読んでいるから何となく分かる。

ここが虹ヶ咲学園である、ということは間違いないだろう。

いろいろ行ける場所があるけれど、まずは塞がれているらしい玄関へ足を進めた。

────玄関ホール


「お姉ちゃん、これって……」

「なるほど、本当に閉じ込められていますわね」

誰かの話し声が聞こえる。

歩夢「えっと……」

「ピギィ!?」

「……」

おどおどとした赤いツインテールと、しゃっきりとした黒いロングの2人。この人たちも、同じ制服だ。

「あなたは……確か、さっき教室で寝ていたという」

歩夢「あ、はい。上原歩夢、です」

ダイヤ「私は黒澤ダイヤ、超高校級の生徒会長ですわ。ほら、ルビィも」

ルビィ「えっと……黒澤ルビィ、です。ここには超高校級の妹、ってことで呼ばれました」


《超高校級の生徒会長 黒澤ダイヤ》

《超高校級の妹 黒澤ルビィ》

歩夢「ということは、2人は姉妹なんですか?」

ダイヤ「ええ。私が姉で、ルビィが妹。黒澤家……と言えば分かるでしょうか」

歩夢(うーん……?)

聞いたことがあるような、ないような。

だが、そこまで言うのならきっと由緒正しい名家なのだろう。

それにしても、生徒会長に妹。早速、才能の選別基準が分からなくなって来た。

ダイヤ「見ての通り、玄関は金属製の何かで塞がれています」

ルビィ「多分、機械だよね、これ……」

歩夢「……」

私は言葉を失った。

少なくとも教室で目を覚ます前の時点では、あんなものはなかった筈だ。

それはどうやら、2人も同意見らしい。

ダイヤ「それに、上を見てください」

歩夢「監視カメラとモニターと……えっ?」

まるで戦記モノに出てくるような機関銃。本物……じゃないよね。

ダイヤ「あなたが寝ていた1-A、そして私たちが寝ていた1-B。どちらにも監視カメラとモニターがありました」

ルビィ「廊下にもあったから、多分、色んなところにあるんだと思います……」


一体この学園で、何が起こっているのだろう。

とにかく、もっと情報を集めないと。

────廊下

歩夢(ここにも、監視カメラとモニター……ん?)


「むー、璃奈ちゃんボードかえしてください>_<。」

「別にいいじゃないですか~」

ルビィちゃんと同じくらいの背丈の子と、一回り小さい子が遊んでいる……。

歩夢(というか、小さい子が遊ばれてる?)

歩夢「何してるの?」

「この人が、私のボード取っちゃって`∧´」

「だったら、顔を隠さず見せてくれればいいんですよ」

「それは……ちょっと無理>_<。」

小さい子は顔を見られたくないらしく、袖で顔を隠したまま。

けれども、このままでは前が見えなくて転ぶ危険がある。

返してあげなよ、そう言いかけた矢先。

「ほいっと」

別方向からの声と共にボードが取り上げられ、持ち主の元へと帰って行く。

「ふー、助かった。ありがとうございます>v<」

「いいのいいの」

「……」チッ

歩夢「えっと、ありがとうございます。あ、私、上原歩夢と言います!」

果南「本当にいいってば。私は松浦果南。超高校級のダイバーだよ」


《超高校級のダイバー 松浦果南》


歩夢「ダイバー……ってことは、よく海に?」

果南「うん、子供の頃から海が第二の実家。ここ最近発見された海の生き物は、みんな私が見つけたんだよ」

歩夢「おおー……」

流石は超高校級。こうやって実績を聞くと、改めて凄い所に来たんだなと実感する。

璃奈「自己紹介、遅れた。私は天王寺璃奈。超高校級のディスガイザーって言われてる・v・」


《超高校級のディスガイザー 天王寺璃奈》


璃奈「変装する人、って意味。普段は恥ずかしくて顔を隠してるけど……ちょっと待ってて」

聞きなれない単語に困惑する私を他所に、彼女は廊下の隅へ掛けて行く。

そして、戻って来た時には。

璃奈(果南)「こうやって色んな人に化けることが出来るんだ。これが私の才能だよ」

果南「声までそっくり!?」

璃奈「流石に身長までは変えられない。あと、本人の才能も真似出来ないし、声や性格も知らないとコピーは無理」

気付いた時には、元の璃奈ちゃんに戻っていた。

やっぱり、ホワイトボードで顔を隠している。

果南「じゃあ、あとはあなただけだね」

かすみ「……中須かすみ、超高校級のパン屋です」


《超高校級のパン屋 中須かすみ》


かすみ「これでも有名なんですよ? ベーカリー中須って知らないですか?」

その名前には聞き覚えがある。

毎日行列の絶えないパン屋として、度々グルメ番組なんかで話題になる都内の店だ。

果南「そういえば、コッペパンとかよく食べてたっけ」

璃奈「美味しかった・v・」

かすみ「そりゃどうも。いずれベーカリーかすみんとして全国展開も視野に入れてますから、その時は是非」

日常生活に溶け込む超高校級の才能、こういうのもあるのか。

当の本人は先の出来事が少々不満だったようで、終始口をとがらせていた。

もっとも、先に手を出したのは彼女のようだし、自業自得なのでは……?

歩夢「あ、そうだ。3人も、目が覚めたらここにいた感じですか?」

果南「そうなるね。そして、玄関もああなってる」

璃奈「閉じ込められちゃったみたい?▭!」

かすみ「大方、学校が仕掛けたドッキリか何かですよ~」

果南「何のために?」

かすみ「それは……」

どうやら、3人も事情はさっぱりらしい。

────1-B


「──つまり、この堕天使ヨハネを含む十数名は皆、混沌渦巻く檻の中に堕とされた咎人なのです」

「んー、分かりづらいっ!」

「Johannesって、男の人の名前でしたよね……?」

「ダメ出しばっかりじゃないの!」

ここにも、個性的な人たちが集まっていた。

監視カメラとモニターも「いつもの」と言わんばかりに設置されている。

善子「私は堕天使ヨハネ……地上界では津島善子と仮の名前を名乗っているわ。超高校級の配信者、とでも言えば分かるかしら」


《超高校級の配信者 津島善子》


歩夢「配信者……もしかして、えがお動画で生放送していたヨハネさん?」

善子「ええ。あなたはリスナーのようだけれど、コテハンは何?」

歩夢「@アユムで登録してます!」

善子「常連さんじゃない! いつも視聴、ありがとうね」

ガシッ、と握手を交わす。まさか、あの人気生主ヨハネさんと会えるとは。

これが、超高校級ばかりが集まる学校……!

愛「ちーっす。アタシは宮下愛、超高校級のギャルやってまーす♪」


《超高校級のギャル 宮下愛》


歩夢「あ、上原歩夢です」

愛「ん~……いいねえ、イケてるねえ。ザ・ダイヤモンドの原石って感じ!」

歩夢「愛ちゃん、それはどういう……」

愛「着こなし次第で絶対可愛くなるよ~。私の見立ては3割当たる、ってね! いや、そりゃギャルの台詞じゃないか」

3割という言葉が引っ掛かるけれど……褒められてるんだよね?

愛「褒めてるよ~」

歩夢(よ、読まれてる!?)

エマ「さっきまで超高校級のコーディネーターさんがいましたから、その人に訊けばすぐに分かると思います。きっとその3割に入ってますよ」

エマ「あ、私はエマ・ヴェルデ。特にこれといった才能はありませんが、超高校級の幸運として入学することになりました」


《超高校級の幸運 エマ・ヴェルデ》


超高校級の幸運。

毎年、虹ヶ咲側が抽選をして、一般の学生から募集を掛けている才能。

確かに、全国の学生から1人だけが選ばれるのだから、相当な幸運の持ち主だ。

そして彼らは皆一様に、幸運の名に恥じぬ何かを持っている。

歩夢(私のような、超高校級の×◎と違って──)

歩夢「……あれ?」

エマ「私の顔に何か?」

歩夢「いや、そういうワケじゃないんだけど……」

歩夢(……何で?)

……キーンコーンカーンコーン。

「!!」

私の思考を遮るように、学生の耳には聞きなれた音が鳴り響く。

愛「ん、なんかモニターに映ったよ?」

愛ちゃんの言葉をキッカケに、私たちの目は一斉にモニターの方へと向けられた。



???「あー、あー、本日は晴天なり本日は晴天なり。マイクチェック、ワンツー」

???「うん、問題ないネ。さて、ぼちぼち皆さん目が覚めた頃でしょう」

???「新入生の皆さんへ、入学式を行います。体育館にお集まりください。繰り返します、皆さん、体育館にお集まりください」

ブツッ。

正体不明のシルエットは、それだけを残して映像を切ってしまった。

エマ「……何でしょう、いまの」

善子「とにかく、体育館(やくそくのち)へ行けということね」

愛「ここでとやかく言ってもしょーがないし、行こっか」

歩夢「う、うん」

今の放送は、何だったのだろう。

好意的に見ればただの入学式だ。けれども私は、ただならぬ“何か”を感じていた。

悪意……そう、悪意だ。今の声には、隠しきれない悪意がにじみ出ている。

歩夢「……」

何か、イヤなことが起こりそうな……そんな予感がしていた。

────体育館


「もーっ、何なんですか! せっかく人が気持ちよく踊っていたのに!」

「まあまあ、落ち着くずら……」

「……」


体育館には、私を含めて16人の顔ぶれ。ここで初めて顔を合わせるのが、そのうち7人。

……と思ったけれど、厳密には違う。

だって。

「まったく……」ブツブツ

歩夢「あの……もしかしてだけど」

「なんですか?」

歩夢「もしかして、せつ菜ちゃん? ほら、ひまわり組の上原歩夢!」

せつ菜「上原歩夢上原歩夢……歩夢ですか!? 久しぶりです!」

歩夢「幼稚園以来だね~。せつ菜ちゃんもここに来たんだ」

せつ菜「ええ。超高校級のスクールアイドルとして、晴れて虹ヶ咲の一員になりました!」

歩夢「昔から、アイドルになるのが夢だって言ってたもんね」


《超高校級のスクールアイドル 優木せつ菜》

「良かったですね、せつ菜さん」

「感動の再会ずら」

歩夢「えーっと、あなたたちは?」

しずく「申し遅れました。私は桜坂しずく、超高校級の演劇部です」


《超高校級の演劇部 桜坂しずく》


せつ菜「しずくちゃんは凄いんですよ? この前も舞台の公演で、世界中を飛び回っていましたから」

しずく「知ってたんですか?」

せつ菜「勿論。あらゆる役がハマリ役、桜坂しずくの代名詞じゃないですか」

しずく「は、恥ずかしいですよ~」

……アイドルと役者、関わることも多いのだろう。

花丸「オラは国木田花丸、超高校級の作家をやってるずr……やっています」


《超高校級の作家》


国木田花丸。その名前は、多少読書を嗜んでいれば知らない筈がない。

デビュー作「サカサマの夕立」が大ヒットし、それ以降も数々の作品を書き続けている。

とりわけ、彼女の書く推理小説は「あのミステリーが凄い!」に毎回入選している程だ。

歩夢(私は……あんまり作者とか気にしたことなかったから、どれが彼女の本かは分からないけど)

歩夢「ところでさっき、ずら、とか言ってたけれど」

花丸「ご、ごめんなさい。お婆ちゃんの口癖が移っちゃって、直そうとしても直らなくて……」

そのままでいい、と思う。

「hmm……つまり、1-Aと1-B。どちらにも9人ずついた、ということになるわね?」

「そう。だからまだ来ていないのは、曜ちゃんと彼女が起こしに行ってる子だけね」

「とりあえず、彼女たちを待った方が良さそうですね」

「ええ」

「そのようね」

何やら、真剣そうな顔つきで話をする3人。

そのうち金髪と青い髪の2人は赤い髪の子より身長が高く。

何故だろう、どちらもワイングラスを持つ姿が絵になりそうだ。未成年なのに。

歩夢「何の話をしていたんですか?」

鞠莉「んー、いま私たちが置かれている状況を整理しておきたくてね。私は小原鞠莉、超高校級の令嬢よ」

梨子「桜内梨子、超高校級の芸術家と呼ばれているわ」

果林「そして私が朝香果林、超高校級のコーディネーターをやらせて貰っているわ。よろしくね」


《超高校級の令嬢 小原鞠莉》

《超高校級の芸術家 桜内梨子》

《超高校級のコーディネーター 朝香果林》

小原鞠莉……世界的に有名な財閥『小原グループ』のお嬢様だ。その話題は、以前ニュースで見たことがある。

桜内梨子……ピアノと絵画に秀でた芸術家で、コンサートや絵画展には引っ張りだこらしい。

朝香果林……エマちゃんが言っていた『コーディネーター』は彼女のことか。

3人とも、話をまとめるのが得意そうな雰囲気を醸し出している。

今の状況において、これほど頼もしい人たちはいないだろう。

「ねえ」

歩夢「!?」

不意に背後から掛けられた声に、思わず身体をビクつかせる。

「あなたの才能は、何?」

その言葉で、震えた身体が再び寒気を起こす。

千歌「驚かせてごめんね。私は高海千歌って言うんだ」

歩夢「ええと、私は上原歩夢です」

千歌「それで、さっきの質問なんだけど……」

歩夢「……思い出せないんです」

千歌「?」

歩夢「どんな才能だったのか、どうしても思い出せなくって……」

千歌「そう、なんだ」

自分が何者なのか。何故虹ヶ咲に入学することが出来たのか。

幾ら考えても、その答えが姿を現してくれない。

千歌「大丈夫だよ。私だって何も才能が思いつかなくて……」

千歌「だってほら。超高校級の幸運なら、既にエマちゃんで枠が埋まっているし」

千歌「超高校級の普通だとか、凡人だとか、一応旅館の娘だから、超高校級の看板娘だとか、色々考えたんだけど……」



曜「お待たせー! 彼方ちゃん、連れて来たよー!」

彼方「うーん……超高校級の眠り姫、近江彼方ちゃんだよ~……」zzz


《超高校級の眠り姫 近江彼方》


ダイヤ「遅い、たるんでいますわ!」

彼方「うにー……あと十時間寝かせてー……」

せつ菜「どれだけ寝るつもりなんですか……」ハァ

歩夢「えっ、と……千歌、ちゃん?」

話が逸れそうになったけれど、千歌ちゃんのことも聞かなければ。

千歌「つまりね、私も歩夢ちゃんと一緒。何も思い出せないんだ」

千歌「私たち、どんな凄い才能を持っていたんだろうね?」


《超高校級の??? 高海千歌》

《超高校級の??? 上原歩夢》

果南「とにかく、これで全員揃ったみたいだね」

かすみ「一体何が始まるっていうんですか~?」

ルビィ「入学式って言うからには、整列しないといけないんじゃ……」



???「いやいや、整列してもらう必要はないネ」

???「何はともあれ、こっちにちゅうもーく!」

歩夢「!!」

また、あの声だ。

今度はハッキリと、悪意を煮凝りにしたような声であることが分かる。

やがて、ソレは舞台の壇上に現れた。

???「やあやあ皆さん、おはようございます」


「うちっちー?」  私の横で、千歌ちゃんが言った。

静岡県、沼津の方に、あんな感じのゆるキャラがいるのは知っている。

どこかの水族館で、着ぐるみがお出迎えしてくれたのを覚えている。

けれどもソレは、どう見ても身長が70㎝程度しかなくて。

???「ボクがこの虹ヶ咲学園の学園長」

モノっちー「モノっちーと言います」


何より、身体の左半分が真っ黒だった。

今回はここまで。
モノッチーのイメージイラストです

ttps://imgur.com/owgbMuT

ルビィ「喋る……ぬいぐるみ?」

モノっちー「ぬいぐるみじゃないよ。綿なんて詰まってないからネ!」

果南「じゃあ、ロボットか何か?」

しずく「だと思います。もしかしたら、先輩やOBに超高校級のメカニックがいたんじゃないでしょうか」

鞠莉「あのくらいならウチの技術で作れるわよ? 悪趣味だからデザインは変えるでしょうけど」

モノっちー「悪趣味とは何だい!」

善子「あの外見……悪魔の化身?」

かすみ「大体、こんなのが学園長だなんて……」プクク

曜「あんな色合いのうちっちー、見た事ないよ……」プククク

モノっちー「笑ったな? そこのオマエら、学園長を馬鹿にしたな?」

ダイヤ「お黙りなさい!」

「「……」」

目の前の何かに向けて口々に喋るみんなを、ダイヤさんはその一言で黙らせてしまった。

生徒会長……凄いです、威圧感が。


モノっちー「えー、現在午前10時6分。オマエらが静かになるまでに5分以上掛かりました。いいの? 避難訓練ならともかく、ホンモノの火事なら死んじゃうよ?」

果林「あなたも。学園長にせよ学園長代理にせよ、手早く式を始めた方がいいのでは?」

モノっちー「はいはい、生えてないクセに早漏だねえ」

果林「セクハラはお断りします」キッパリ

モノっちー「改めまして。皆さん、入学おめでとうございます」

果林さんの発言をシカトして、モノっちーは式辞を述べ始めた。

モノっちー「今。新入生である皆さんの顔は、希望に満ち溢れていますが……って、やめだいやめだい!」

……式辞が書かれていたであろう紙は、ものの数秒で投げ捨てられた。

果南「……多分、1、2行しか読んでないと思う」アハハ

モノっちー「まどろっこしいことは抜きにしてね。まずはオマエらにこれを渡します」

そして壇上から降りたかと思うと、モノっちーは目にも止まらぬ動きで皆の手に何かを渡していった。

梨子「これは……?」

善子「ノートPC……にしてはやけにちっさいわね」

モノっちー「それは、今後ここで共同生活するにあたって必要になる電子生徒手帳です。ただの生徒手帳じゃないよ、電子だよ電子!」

花丸「み、未来ずら!?」

モノっちー「この学園の地図、校則なんかが載ってるから、よーく読んでおくように! 何なら読む時間設けるようか? ボクもそのくらいは待つよ」

ダイヤ「結構。あとで確認しておきますから」

歩夢(……ん?)

歩夢「学園長、ちょっと待ってください!」

さっきの話……何か引っ掛かる発言があった。

モノっちー「上原さんだっけ? どしたのさ」

歩夢「さっき“共同生活”って言いましたけど……」

普通、こういう時に使われるのは“学生生活”ではないだろうか?

モノっちー「うん、そのままの意味だよ」

しかし彼(?)は、悪びれる素振りを一切見せず、言い放った。

モノっちー「オマエらには今後、この学園内で暮らしてもらうこととなりました!」

歩夢「……!?」

モノっちー「学園の外とは完全シャットアウト、期間は無限! つまり、この学園で一生を終えることとなるのです!」

モノっちー「ああ、食糧なんかについては心配しなくていいよ。ランドリーも、大浴場も、個室にシャワールームその他諸々完備してあります!」

ボクって至れり尽くせりだよねえ、と言いながら頭を掻くモノっちー。

確かに、生活に困らなさそうではあるが……。

梨子「そういう問題じゃなくて!」

璃奈「ここから出られないって、どういうことなの`∧´」

突拍子の無さすぎる宣告に、皆が揃って難色を示す。

この学校に学生寮があることは聞いていたが、この様子を見る限り全員が自宅通いのつもりだったらしい。

モノっちー「まあ……あることにはあるよ? 出る方法」

エマ「あ、あるんですね……」ホッ

愛「なーんだ、さっさと教えてくれれば良かったのに。で、その方法って何なのさ」



モノっちー「殺人だよ」

「……」

空気が凍り付いた。

千歌「それは……本気で言ってるの?」

モノっちー「本気も本気。ポピュラーな刺殺撲殺絞殺射殺毒殺、マニアックな呪殺……ああ、妖怪とか、バケモノの仕業に見せかけて殺すってのもアリだネ」

モノっちー「とにかく、この中の誰かを殺した人だけが外に出られる……そういう単純なルールなんだよ」

モノっちー「最低な手段で最高の結末を得られるよう、精々努力してく──」

せつ菜「じゃあ、ふざけたことを喋るあなたを壊せば終わりですね」

モノッチーのすぐ近くにいたせつ菜ちゃんが、彼の首根っこを掴んだ。

モノっちー「ふざけてるのはキミだよお。学園長への暴力は校則違反って、ちゃんと書いたのに」

せつ菜「本物の学園長を出しなさい。その上で、これを操っている張本人を退学にさせて貰います」

モノっちー「……」ピッ ピッ ピッ

せつ菜「何とか言ったらどうなんですか!」

モノっちー「……」ピッ ピッ ピッ

明らかに不味い電子音……まさか!

曜「せつ菜ちゃん、早くそれを投げて!」

せつ菜「……え?」

歩夢「いいから早く!」

私の声で、せつ菜ちゃんはモノっちーを遠くへ放り投げる。すると──



ドォォォォォン!!!



爆音、閃光、火薬のニオイ……

ルビィ「嘘……」

エマ「爆発、した……!?」

モノっちー「外したけれど、ボクはメガシンカしたことにより2回行動が可能なのだぁ!」ピッ ピッ ピッ

せつ菜「!?」

皆が呆気に取られている間に『どこからか現れたもう1体のモノっちー』が彼女の背後に飛び掛かろうとしている。

このままじゃ──!

歩夢「せつ菜ちゃん!」

こういうのを、脊髄反射というのだろうか。

気が付いた時には、私の身体はせつ菜ちゃんの方へと駆け出していて。

誰かが何かを叫んでいるのが、どこか遠くに感じられて。

二度目の爆音と、衝撃が私たちを襲い。

……私の意識は、闇の中へと葬り去られました。

────校舎1F、保健室。

歩夢「……ぅ」

せつ菜「歩夢!」

彼方「やっと目を覚ましたね~……」ウトウト

せつ菜「良かった、本当に良かったです……」

歩夢「ここ、は……?」

梨子「保健室よ。もともと何故か閉まってたんだけど……モノっちーに頼んで、開けてもらったの」

歩夢「……」

そうか。あの時せつ菜ちゃんを庇って、私は……。

梨子「あれから色々あったわ」

───
──


ダイヤ『歩夢さん! せつ菜さん!』

モノっちー『うぷぷぷぷ……』

しずく『3体目……どれだけ居るんですか!?』

モノっちー『ヒマな時は階段で亀の甲羅を蹴りまくってるからネ』

善子『……つまり、無限(インフィニティ)』

エマ『そんなっ……!』

モノっちー『見せしめも兼ねて、校則違反者はここで殺しておいても良かったんだけど……まあいいや』

モノっちー『これで分かってくれたよね? オマエらは、ボクに逆らうことは出来ないんだよ』

モノっちー『じゃあ、ボクはこれで失礼するよ』

彼方『ちょっと待って~……』

モノっちー『ん、何?』

彼方『この2人~、ケガしてたり、脳震盪になってたら大変だから~……保健室を使わせてくれないかな~って』

梨子『そういえば、鍵が掛かってたわね』

モノっちー『んもう、しょうがないなあ。特別だよ?』


梨子「それで、2人を背負ってここまで来たの。彼方ちゃん、結構看病の手際が良くてビックリしたわ」

彼方「いつも保健室で寝てたから、自然と身に付いちゃったみたい~」

歩夢「そうだったんですね……」

せつ菜「ありがとうございます、彼方さん」

彼方「2人ともかすり傷で済んでたし、良かったよ~。氷袋も置いてるから、痛かったら使って~。じゃあ、彼方ちゃんお部屋に戻って寝るから……」

歩夢「だったら、ここのベッドを使えばいいんじゃ」

梨子「それは無理だと思う」

せつ菜「私もさっき校則を確認したのですが……確かに」

ほら、とせつ菜ちゃんが電子生徒手帳の画面を見せて来る。

映し出されたのは、ずらりと書き連ねられた6つの校則。

1.生徒たちはこの学園内だけで共同生活を行いましょう。共同生活の期限はありません。

2.夜10時から朝7時までを”夜時間”とします。夜時間は立ち入り禁止区域があるので注意しましょう。

3.就寝は学生寮に設けられた個室でのみ可能です。他の部屋での故意の就寝は居眠りと見なし罰します。

4.虹ヶ咲学園について調べるのは自由です。特に行動に制限は課せられません。

5.学園長ことモノっちーへの暴力を禁じます。また、監視カメラの破壊を禁じます。

6.仲間の誰かを殺したクロは”卒業”となりますが、自分がクロだと他の生徒に知られてはいけません。


歩夢「なお、校則は順次増えて行く場合があります……」

彼方「それの3つ目~。一応モノっちーに訊いてみたら『才能が才能だしオマエは多少判定を緩くしておいてやるけど、なるべく就寝は自分の部屋でしなさい』って……」

眠り姫……実際どういう才能なのかはまだ分からないが、確かにこの校則がある限り不自由しそうだ。

大あくびの混ざった「じゃあね~」を最後に、彼方ちゃんは保健室からずるずると出て行った。

梨子「ところで、2人はこれからどうする? 私はこの後、みんなで学園内の探索に行くけど……」

せつ菜「えっと……」

梨子「あ、無理しなくていいわよ。15時に一度食堂に集まる予定だから、その時までゆっくり休んでて」

歩夢「あの──」

私たちが何か言うより早く、梨子ちゃんも保健室を出て行ってしまった。

せつ菜「……あの、歩夢」

歩夢「?」

せつ菜「さっきは、ごめんなさい。私のせいで……」

歩夢「いいのいいの。せつ菜ちゃんが無事で良かったよ」

せつ菜「……私たち、外に出られるのでしょうか」

歩夢「誰かを殺さないと出られない……そんな筈ないよ。きっと、どこかに出口がある筈!」

せつ菜「そうです、よね……」


不安そうな幼馴染の声に、私が掛けられたのは不安定な肯定だけ。

きっと大丈夫。今は、そう信じることしか出来なかった。

PROLOGUE END

ttps://imgur.com/Z3aBAuf

To be continued…….


プレゼント“虹ヶ咲学園校章”を獲得しました。

今回はここまで。

せつ菜「……」

歩夢「……」

せつ菜「とりあえず……食堂に行きましょうか」

歩夢「……そうだね」


『誰かを殺さないと外に出られない』

耳を疑うような条件のもと、私たちの学園生活は幕を開けたのです。



     Chapter1

Step! 18 to…… (非)日常編

────15時、食堂


果林「あら、もう動いて大丈夫なの?」

歩夢「はい、一応は……」

鞠莉「2人の席はこっちね。Come here♪」

広い部屋の中央、長いテーブルには既に何人かが待機している。

鞠莉さんに促され、私とせつ菜ちゃんも席に着いた。


エマ「紅茶とクッキー、出来ましたよ~」

せつ菜「……随分と、個性的な香りですね」

果林「これ、ルイボスティーね?」

エマ「正解です♪ 故郷のスイスではよく飲んでいました」

かすみ「私は紅茶パンにしようって言ったんですけどね~。反対されちゃいました」

~数分後~

曜「お待たせー!」

ダイヤ「もう集まっていましたか。これで彼方さんを除いて全員ですね」

せつ菜「そういえば姿が見当たりませんが……まさか!?」

愛「いや、寝たいから起こさないでってさ。まあ仕方ないっしょ」

せつ菜「あ、そうだったんですね」

歩夢「付きっきりで看病してくれてたもんね」

鞠莉「彼方には後で要点をまとめたメモを渡すとして、ひとまず情報のexchangeとしましょう」

善子「いくす……???」

ルビィ「exchange、交換って意味だよ」

果林「そうね。ここで暮らすことになった場合を見越して、得た情報は皆で共有しておくべきだと思うわ」

璃奈「結局、共同生活しちゃうんだね(>_<。)」

梨子「そうじゃないわ。勿論、最悪の可能性として考えなくちゃいけないのは確かだけれど……脱出に相応の準備が必要だって場合があるでしょ?」

しずく「相手は爆弾を使って来ました。迂闊な行動は避けて、準備をじっくり……ってことですね」

鞠莉「Exactly♪ じゃあ、まずは私たちのグループの話から行きましょうか」

花丸「鞠莉さんとおら……じゃなかった私、梨子さんの3人で、学生寮、個室の探索をしたずら」

エマ「ずら?」

花丸「ああ、ごめんなさい! おら、意識していないと訛りが出ちゃって……」

エマ「そういうことだったんですね。私は気にしていないので大丈夫ですよ」

花丸「良かった……。ええと、それで、学生寮には全員分の個室があったんだ」

梨子「中は机と椅子とベッド、ゴミ箱にクローゼット、それからシャワールーム。最低限、生活する分には困らないって感じかしら」

善子「え、パソコンとかないの!?」

梨子「なかったわ。コンセントは兎も角、LANケーブルを挿せる穴もない。ここじゃネットも無理ね」キッパリ

善子「そんなぁ……」

酷く落ち込む善子さん。ネット上で活動する彼女にとっては、生き甲斐を奪われたも同義なのかも知れない……。

鞠莉「ちなみに、クローゼットには制服の替えとみんなの私服が置いてあったわ。少なくとも私たち3人に関しては、普段着ていた私服と変わらなかった。後で確かめておくといいわ」

果林「私たちを閉じ込めた犯人は、私たちをよーく調査していた可能性もあるわね。気になるけれど、続けて頂戴」

鞠莉「部屋にも窓があったけど、教室と同じ。やっぱり鉄板で打ち付けられていたわ」

花丸「ちなみに、防音になっていたずら。部屋の中で幾ら大声を叫んでも、隣の部屋や廊下には聞こえなかったよ」

梨子「もっとも、部屋の前にインターホンがあって、それを使ってドア越しに会話は出来たけどね」

鞠莉「私たちの報告は以上よ。次は~……学生寮の残りの部分を調べていた人!」

愛「あ、それはアタシとりなりーだよ」

璃奈「上手く話せるかどうか分からないけど、頑張る(・v・)」

璃奈「ところでそんなあだ名、いつ付けたの」

愛「今」

愛「といっても、ほとんど報告することはないんだよね。ランドリーとトラッシュルーム、それとトイレがあったことくらいかな」

璃奈「本当は大浴場もあるんだけど、モノっちーに『水回りのトラブルがあったから、ここはまだ使えない』って言われた(>_<。)」

愛「そうなんだよねー、このあとパーっとみんなでお風呂に浸かろうって思ってたのにさ。あ、だからマップのバツ印はそういうことね」

歩夢「マップ?」

璃奈「電子生徒手帳に付いてるよ(・v・)」


寄宿舎 マップ
ttps://i.imgur.com/ldAk9Ea.jpg


せつ菜「あ、本当ですね……」

ダイヤ「歩夢さんもせつ菜さんも、あとで地図はきちんと把握しておいてくださいね」

歩夢「あはは……」

愛「トラッシュルーム……まあでっかいゴミ捨て場だね。スイッチ一つで起動する焼却炉もあるみたいだよ」

璃奈「今はシャッターが下りてる。鍵はモノっちーが預かってるから、必要になったら呼んでくれって」

千歌「2人はモノっちーに会ったんだね」

愛「うん。あとでみんなにも教えておけってさ」

璃奈「ランドリールームは洗濯機がいっぱい。乾燥機もあった(・v・)」

愛「あとは何の変哲もないトイレ。一応調べたけど特に何もなかったよ。なんなら調べにいっトイレってね!」

一同「「……」」

殺し合いを命じられた時とは別の寒さが、辺りに漂った気がする……。

曜「と、ところで、2人とも食堂は調べてないの?」

かすみ「だって、私とエマさんがいましたし」

エマ「その紅茶やクッキー、私たちで作ったんです」

かすみ「モノっちーはここにも現れましたよ。『夜時間になると食堂は立ち入り禁止になるから、死にたくなければ夜中は入らないことだね』って」

エマ「厨房にある食材の補充をするため……だそうです。18人で過ごすにしてもしばらくもちそうなくらい、食材がいっぱいありました」

果南「最悪、長期戦も覚悟ってことだね」

ルビィ「あの……ということは、食堂の前を夜中に見張っていれば、私たちを閉じ込めた人を捕まえられるんじゃ」

エマ「それは……無理なんです」

かすみ「ここのドア、自動でロック掛かっちゃうみたいなんですよね~」

花丸「ということは、犯人は本人しか分からない通路か何かを使って、食堂に出入りしている……?」

歩夢「どうなんだろう……。ところで、校舎側は何か見つかりましたか?」

果南「私と千歌でもう一度玄関を調べてみたけど……やっぱりダメ」

千歌「あんまりやりすぎると『あの機関銃が火を噴くぞー』ってモノっちーに脅されちゃったしね」

果南「だから玄関は収穫なし。ごめんね、みんな」

曜「大丈夫だよ。私たちも収穫ゼロだったし」

せつ菜「何を調べていたんですか?」

ダイヤ「私とルビィ、曜さん、善子さんの4人で手分けして、体育館、及び窓を調べていたんですの」

善子「ありゃダメね。開いてる窓はゼロ、アイツの出て来た体育館に何かあるかもと思ったけれど、それの手掛かりもなし」

ルビィ「本当に、このままずっと過ごすことになっちゃうのかな……」

しずく「そうとも限らない……と思います。ですよね、果林さん」

果林「ええ」

璃奈「何か見つかったの?」

果林「勿論よ。私としずくちゃんが担当したのは校舎全体。玄関は千歌たちがいたし、保健室には歩夢とせつ菜がいたからパスしたけれどね」

果林「教室に視聴覚室、購買部……今挙げたところは特に何てことない、普通の場所だったわ。強いて言えば、視聴覚室が思っていた以上にハイテクだったことくらいかしらね」

善子「じゃあパソコンもあったの!?」

果林「ええ。でも、最低限の機能しか付いてなかったし、こっちもインターネットに繋ぐのは無理ね」

善子「ちぇー」

しずく「でも、気になるところが3か所ありました。ひとつは倉庫……モノっちー曰く『今はゴチャゴチャしてるから!』ということみたいで、今は大浴場と同じく入れませんが」

果林「2つ目は赤い扉の部屋……扉というよりもはや門かしらね。マップにもあるでしょう? 一つだけ、用途不明の部屋がある」


校舎1階 マップ
ttps://i.imgur.com/CZVzxHC.jpg

愛「あらほんと」

果林「鍵が掛かっているみたいで中には入れないし、モノっちーに訊こうと思ったけれど反応してくれなかったわ」

梨子「じゃあ、そこが出口という可能性もあるのかも」

果林「ええ。次が3つ目。マップを見ていれば気づいたと思うけれど、この校舎、上へ向かう階段があるのよ」

エマ「じゃあ、2階もあるんですか?」

しずく「階段への道はシャッターが塞いでいて、通れませんでしたけどね……」

果林「開ける手段も見当たらなかったわ。でも、こうは考えられないかしら。2階や例の赤い門の向こうなら、脱出への糸口が見つかるかも知れない」

鞠莉「そうね。これは重要な情報だと思うわ」

しずく「私たちからは以上です」

鞠莉「fmm……ひとまずはここで生活をしながら、ここから出るルートを探るって流れになりそうね」

ダイヤ「でしたら、校則とは別に設けたいルールがひとつあるのですが」

歩夢「ルール?」

ダイヤ「ええ。朝と夜、食事は皆揃って同じ時間、ということにしたいと思うのです」

果林「奇遇ね、同じことを考えてたわ」

ダイヤ「本来、一日三食きっちり食べるべきである以上昼食もそこに含むつもりでしたが……食事の時間には個人差がありますからね。そこは臨機応変に」

愛「定例会議を食事と兼ねようってことでしょ? いいじゃん、アタシ賛成~」

曜「私も」

かすみ「朝食のパンなら任せてください~」

ダイヤさんの提案したルールに反対するものは誰もおらず、あっさりとこの件は決定した。

そして、これ以降、会議が特に進展することもなく。

いつの間にか、今日が終わろうとしていた。

────歩夢の個室

キーンコーンカーンコーン

歩夢「……?」

シャワーを浴び終えた頃、寄宿舎にチャイムの音が鳴り響いた。


モノっちー『えー、夜10時になりました。ただいまより夜時間になります』

モノっちー『まもなく、食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となります』

モノっちー『それでは皆さん、おやすみなさい』

プツン


個室にもしっかり設置されていたモニターによる、モノっちーのアナウンスだった。

勿論、監視カメラもセットだ。

歩夢「ふへーっ……」

ボフン、と音を立ててベッドに横たわる。

眠い。体の節々が、溜まりに溜まった疲労を訴えかけている。

彼方ちゃんじゃないけれど、ずっと寝ていたい気分だ。

無理もない。今日1日で、色んなことがありすぎたのだから。

願わくばこれが長い夢で、目が覚めたら元の日常に戻っていますように。

そんなことを考えながら、私は意識を闇に落とした。

~モノっちー劇場~

始まっちゃいました、学校生活。青春だねえ、青いねえ。

ところで青春って、何で青い春なんだろうネ。

中国では青春、朱夏、白秋、玄冬、なんて言われてたりするけど。

桜の咲く季節なんだから、桃春でもいいのにネ。

血の流れる季節なんだから、赤春でもいいのにネ。

まあ……青ざめたみんなの顔は見られるし、青春でもいっか。

今回はここまで。

────学園生活2日目

キーンコーンカーンコーン

モノっちー『おはようございます、朝7時になりました』

モノっちー『さてさて、今日も1日頑張っていきましょう』

プツン

歩夢「……朝、か」

ぐっすり……というよりは、ぐったりと眠っていたのだろう。

残念なことに、この学園生活は夢ではなかったらしい。

もう少し寝ていたい気分だったけれど、昨日の約束があるので渋々食堂へ向かった。

────食堂

歩夢「……」

食堂には、既に何人かが集まっていた。

ダイヤ「おはようございます」

果林「おはよう、歩夢ちゃん」

せつ菜「歩夢、こっち空いてますよ」

エマ「いま、かすみちゃんと梨子ちゃんが朝食を作ってくれています」

最初から居る彼女たちは、規則正しい生活を送るタイプなのだろう。

果南「おはよ。いい匂いがするね」

しずく「えっと……もう集まってます?」

曜「そういや、何時に集まるかは決めてなかったっけ」

花丸「ふわぁ……原稿書いてたら、夜更かししちゃったずら」

璃奈「あのベッド、あまり寝心地がよくなかった(`∧´)」

鞠莉「同感ね、お陰で寝不足だわ」

そして次に来るのが、時間にややルーズなタイプ。私も普段はこちら側だ。

ルビィ「お姉ちゃん、なんで起こしてくれなかったの!」

千歌「うーん……もう朝……?」

愛「太陽の光を浴びたいよう! なんてね。いやー、窓から太陽光が差し込まないと1日が始まったって気がしないんだよねえ」

善子「私、普段深夜に動画撮ってる夜型生活なのよ……」

更に遅れて来るのが、時間に思いっきりルーズなタイプ。


ダイヤ「いつまでも起きて来ないので、引っ張って来ましたわ」

彼方「あと10日……」ムニャムニャ

せつ菜「昨日より伸びてません!?」

そして最後は、それらの枠組みには到底収まらない例外。

昼夜なんて概念、眠り姫には存在しないのだろうか?

梨子「みんな、おはよう」

かすみ「おはようございま~す」

朝食の盛られたプレートを携え、朝食係も姿を現す。

卵のサンドイッチ、サラダ、ヨーグルト。いわゆる、一般的な洋風の朝食だ。

「「いただきまーす」」

……シンプルに美味しい。みんな、顔を綻ばせながら食べている。

特にこのサンドイッチ。使われているパンはかすみちゃんが作ったものだろう。

早くここから出て、家族にも食べさせたいくらいだ。

かすみ「パンのお代わり、数も種類もたっぷり用意してるので、食いしん坊さんは是非是非~」

花丸「じゃあ、1個貰うずら」

かすみ「どうぞどうぞ♪」

ルビィ「あ、じゃあルビィも……」

かすみ「……♪」ニィ

歩夢「……?」

かすみちゃんの笑顔に一瞬黒いものが? そう思った瞬間だった。

花丸「────ッ!?」

ルビィ「ピギャアアアアアアア!?」

愛「ど、どうしたの!?」

ルビィ「カライカライカライカライカライ!?」

花丸「だ、誰か、水を……」

ダイヤ「ルビィ、大丈夫ですか!」

果林「花丸ちゃんも!」

花丸「……」ゴクゴクゴクゴク

ルビィ「……」プハーッ

エマ「2人とも、どうしてこんなことに……」

彼方「ハムッ……うげ、ホントに辛い。唐辛子だねえこれ」

曜「サンドイッチは問題なかったし……辛いのは全部、あのバケットの中に?」

梨子「わ、私はそんなことしないわよ? かすみちゃんの用意したパンを切って挟んだだけだし」

歩夢「ということは……」

「「……」」ジー

かすみ「あれあれ~? ヘンな味しちゃいましたぁ~?」

せつ菜「しらばっくれないでください!」

しずく「これ、全部激辛パンですよね……」

かすみ「そうですよ~?」

果南「いやいや、それが何か? って顔されても困るんだけど」

かすみ「ああ、もしかして口に合いませんでしたか」

善子「私は普通に美味しいと思うけど? いい感じに刺激がキいてるし」モグモグ

花丸「多分、善子ちゃんだけだと思うずら……」

ルビィ「辛党なんだね……」

鞠莉「……食事係はもう1人、見張りを付けるのがいいかもね。かすみが今後もヘンなものを入れる心配があるし」ハァ

せつ菜「鞠莉さん、こんな人に今後も朝食を作らせるんですか!?」

鞠莉「あら、サンドイッチは美味しかったじゃない。パン作りの腕は確かなんだから、それを否定する理由はないと思うけれど」

せつ菜「それは……そうですけど」

果林「じゃあ、私がその役目を引き受けようかしら」

かすみ「げぇー。果林さん、厳しそうなんですけど」

千歌「厳しくなきゃ、見張りの意味がないと思う……」

千歌「あ。そういえば、見張りで思ったんだけどさ」

歩夢「?」

千歌「ほら、夜中にトイレに行きたくなっても自分たちの部屋にはないから、わざわざ外に出なきゃいけないでしょ?」

曜「そうだね」

千歌「でも、殺し合いを本気にした人がいるかもって思っちゃうと、なかなか外に出られなくってさ。まさかシャワールームでするワケにもいかないし」

曜「そもそも、夜時間にはシャワー動かなかったよ」

千歌「え、そうなの?」

鞠莉「そうね。夜の間はシャワーが使えない、覚えておいた方がいいかも」

愛「つまりさ、ちかちーはアレだね? 夜でも安心してトイレに行けるように、深夜の見張り役が欲しいってことかな?」

千歌「そういうこと。愛ちゃん話がわっかる~♪」

ダイヤ「しかし、夜通し見張りというワケにも行きませんわね」

彼方「見張りの立場を利用する、なんてことになったら目も当てられないしね~」

梨子「だったら、2人1組で1時間ごとに交代するといいんじゃないかしら? 夜時間は午後10時から午前7時までの9時間、2×9でちょうど18人になると思うんだけど」

璃奈「おお、それいい(>v<)」

果林「万が一を考慮して見張りのペアは毎日交代することにしましょう。決め方は……そうね」スッ

果林「部屋に備え付けてられていたメモとボールペン、これでくじを作るわ」

花丸「それ、ミステリー小説だったらくじに細工されるパターンずら」

善子「細工?」

せつ菜「あ、それアニメで見たことあります! 確か、引いたと見せかけて手に隠していた別のくじを出して、次に引く人に狙ったくじを引かせるように入れ替える……」

かすみ「まとめてから説明してください。分かりづらいです」

せつ菜「うぐ……かすみさんに正論を言われるとは」

果林「言いたいことは分かるから大丈夫。それを防止するために、裏に2人以上のサインを書くのよ」

果林「そうすれば、このくじは複製出来ない唯一無二のものになるでしょう?」

しずく「じゃあ、これで夜も安心ですね」

────その日の夜

キーンコーンカーンコーン

モノっちー『えー、夜10時になりました。ただいまより夜時間に──』


果林「頼んだわよ。おやすみ」

歩夢「おやすみなさい」

愛「おやすー。じゃ、よろしく歩夢。りなりーみたいに何かあだ名いる?」

歩夢「いや、別に……。よろしくね」

愛「ほいほーい」

くじの結果、今日の見張りは愛ちゃんとのペア。しかも責任重大なトップバッター。

そんなに気負うものでもないっしょ、って愛ちゃんは言うけれど。

愛「大丈夫。人殺しなんてするような人、この中にはいないって」

歩夢「だといいんだけど……」

愛「歩夢は心配性なんだって、自分の才能もじきに思い出せるよ。あ、もしかして超高校級の心配性とか!」

歩夢「流石にそんな才能はイヤだよ」

愛「同感。本当に心当たりとかないの?」

歩夢「うーん……」

記憶を辿ってみるけれど、思い当たるフシが見当たらない。

本人には悪いが「超高校級の妹」のように選別基準が良く分からない才能だってあるワケだし、何かしら虹ヶ咲学園の目に留まる所があったのだろうけれど……?

歩夢「千歌ちゃんみたいな候補も浮かばないしなあ……」

愛「看板娘とか言ってたねえ。旅館の娘だもんねえ」

歩夢「私は普通の家庭だし、一人っ子だし、これといって目立つようなこともなかったし」

愛「ま、ここを出てゆっくり思い出していけばいいよ」

歩夢「そうだね。……あれ、誰か出て来た」

愛「マルっちじゃん。どったの? トイレ?」

花丸「うん。お水飲みすぎちゃったみたい」

愛「いってらー」


愛「そういや、せっつん……せつ菜ちゃんだっけ? 彼女は何か知らないの?」

歩夢「……あ」

愛「こりゃ忘れてた、って顔だね」

そうだった。幼馴染のせつ菜ちゃんなら、私の才能を知っているかもしれない。

歩夢(明日聞いてみよう……)

~数分後~

花丸「……」キョロキョロ

歩夢「どうしたの?」

花丸「オラ……じゃなかった。マルの部屋、どこだったかなあって」

愛「そこの奥から3番目。電子生徒手帳見れば書いてる筈だけど?」

花丸「実は……操作方法がよく分からなくて。マル、機械が苦手だから」

歩夢「それは……仕方ないね」

花丸「部屋番号でも書いていればそれで覚えられたのに。希望は4990号室ずら」

愛「なんでまたそんな数字?」

花丸「四苦八苦(4989)の後だから」

2人「「……」」

ど、どうしよう……反応に困る……。

愛「あ、愛さんはそういうのだったら3841号室かなー」

歩夢「どうして?」

愛「ミヤシタ→384、アイ→I→1って感じだね」

花丸「タが行方不明ずら」

愛「んんっ……それは言わないで」

ルビィ「何の話してるんですか……?」ウトウト

愛「あ、9630」

ルビィ「?」

歩夢「3人でね、自分の名前を数字で語呂合わせにするならーって話をしてたの。ルビィちゃんはトイレ?」

ルビィ「はい。やっぱりお水飲みすぎたかなあって」

愛「朝のかっすん、ここまで引きずるかあ……」

その後は2人を見送り、他愛もない雑談をして、次の人にバトンタッチした。

本日も異常なし。

~モノっちー劇場~

人間に限った話ではありませんが、一度死んだ生物は蘇りません。

けれども、簡単に輪廻転生できる場所があるのです。それは温泉。

ほら、お爺ちゃんお婆ちゃんがよく言うでしょ? 「生き返るわ~」って。

あれは直前に一度死んでから、湯舟で即座に蘇っているのです。

つまり彼らは、お手軽に生と死の狭間を行き来しているのです。

さあ、君も温泉でレッツ輪廻転生!

────学園生活3日目

キーンコーンカーンコーン

モノっちー『おはようございます、朝7時になりました』

モノっちー『さてさて、今日も1日頑張っていきましょう』

プツン

歩夢「……」

前日よりは眠れた気がした。けれども、窓に打ち付けられた鉄板を見るたびにイヤな気分になる。

歩夢「……食堂行こ」

────食堂

歩夢「うーん……」

せつ菜「大丈夫ですか、歩夢。いかにも『今日は厄日だ』って顔をしていますが」

歩夢「あー……鋭いね、せつ菜ちゃん」

言いながら、指さした先にいるのはかすみちゃん。

せつ菜「かすみさんがまた何か?」

歩夢「何かした、ってワケじゃないんだけどねー……」

かすみ「歩夢さん、今夜はよろしくです。遅刻しちゃダメですよ~?」ニッコリ

歩夢「今日の見張り、よりによってあの子とペアだよ……しかも3時から4時」

せつ菜「それは地獄」

歩夢「夜もそんなに強い方じゃないしなあ……」

歩夢「そういえばせつ菜ちゃん」

せつ菜「何でしょう?」

歩夢「私の才能が何だったのか、心当たりがないかなーって」

せつ菜「その件については私もしばらく考えていたんですけど……やっぱり思い当たるフシがないです」

歩夢「そっかー」

せつ菜「ダイヤさんのように学生になってから才能が開花した人もいますから……多分、歩夢も小中学校で何かがあったんでしょうね」

歩夢「何か、って言われてもねー……」グヌヌ

せつ菜ちゃんでも知らないことらしい。私は何者だったのだろう。

しずく「あの……皆さんに聞きたいんですけど」

鞠莉「What?」

しずく「食堂に集合するのを1時間遅くしてもらえないかなーって……」

ダイヤ「何故です?」

しずく「恥ずかしい話なんですけれど、見張りで一度起きた後、もう一度寝つくのにかなり時間が掛かっちゃって」

しずく「だから、8時集合のところを9時にして欲しいなーって」

彼方「同感―」

ダイヤ「ふむ……確かに、彼方さんは兎も角、時間と体質によっては睡眠に悪影響が出かねませんわね」

彼方「兎も角って何だよーぅ」

果林「そうね……。冷めた朝食でも構わないなら、私は異論なしよ」

鞠莉「とか言いながら、果林もさっき8時ギリギリだったわよね?」

果林「あら。食堂に来たのが8時直前だっただけで、起きたのはもっと早かったわ」

梨子「まあまあ、ここでヘンな争いを起こさないでも……」

千歌「どっちみち、食パンはオーブンで焼けばいつでも温かいしね」

こんな感じで、他愛もない雑談を交わし1日が過ぎて行く。

脱出への手掛かりは、まだ見つかっていない。

────深夜

歩夢「……」zzz

ピンポーン

歩夢「……ん」モゾモゾ

ピンポーン ピンポーン ピンポピンポピピピピピ

歩夢「うるさい……」ムクリ

ガチャリ

かすみ「歩夢さん、見張りの時間ですよ~」

歩夢「分かってる、分かってるからインターホン連打は勘弁して」

かすみ「──と、いうワケでして。って、聞いてます?」

歩夢「……一応」

かすみ「そういえば今日、千歌さんと色々お喋りしていたんですよ」

かすみ「向こうは多少なりと才能に心当たりがありましたが、歩夢さんにはそれすらないんですよね~」

歩夢「……知らないよ。その話は昨日、愛ちゃんともした」

かすみ「本当に才能なんてあったんです? ほら、よくある話じゃないですか。裏口入学とか」

自分とは合わない人間に遭遇するという話は、決してないワケではない。

少なくともこの学園生活のメンバーに関して言えば、かすみちゃんとの相性は最悪だ。

人の神経を逆撫でするような喋り方と、ある意味それに相応しいトーク内容。

……むしろ、彼女と相性の良い人間はいるのだろうか?

かすみ「そもそも記憶喪失が嘘だったり。実は目の前にいる歩夢さんが『超高校級の通り魔』だった、なんてのはイヤですよ?」

かすみ「ほら、ニュースで騒ぎになっていたじゃないですか、確か名前は──」

歩夢「……もういいよ、私の話は」

かすみ「はい?」

歩夢「家に帰ってからゆっくり考える。だから、あることないこと言うのはやめて」

……たった数分話しただけで、もううんざりだと言いたくなる。

この見張りはあと半時間以上続くのに。

かすみ「……そうですか。やっぱりみんな、帰りたいって思ってますよね」

かすみ「まあ、そのうち警察が動くんじゃないでしょうか。皆さんの家族が捜索願を出していてもおかしくないですし」

歩夢「家族、か……。そういえば、かすみちゃんの家ってパン屋なんだよね」

同じ長ったらしいトークをされるなら、まだ彼女の身の上話を聞いていた方がいい。そう思って、私は家族の話題を振った。

……しかし、私はその選択をすぐに後悔することとなった。

かすみ「……」キラン

歩夢「……っ」ゾワッ

かすみ「ですよねですよね! 歩夢さんも気になりますよね、ベーカリー中須!」

歩夢「か、かすみちゃん?」

かすみ「オススメはやっぱりコッペパンですね~。お手頃価格、それでいて美味しいと評判。ウチでは食パンやロールパン以上に売れているんですよ!」

歩夢「あの、ちょっと」

かすみ「あとは最近、総菜パンの種類が結構増えました。お客さんからの意見を参考にして『こんなパンが食べたい』の声に可能な限り応えるようにしているんです!」

かすみ「中には絶対に合わないだろうって組み合わせもあるんですけれど、試行錯誤してそれらが綺麗にマッチングした時の嬉しさと言ったら!」

かすみ「近頃は健康に気を遣うお客さんもいますから、そういう人たちへのメニューとして──」

かすみ「他にも、建物を少し増築して、買った出来立てのパンをホッカホカの状態で食べられるようにスペースを設けて──」

かすみ「そもそも、ウチが有名になったキッカケは──」

───
──

────歩夢の部屋

かすみ「ではではおやすみです、歩夢さん」

歩夢「うん、おやすみ……」ガチャ

歩夢「はぁぁぁぁ……」バタン

……どっと疲れが湧いた。今すぐ眠りたい。

寝る前にシャワーを浴びようかとも考えたけれど、夜時間は水が出ないので仕方ない。

そもそも、かすみちゃんに喋らせること自体が大きな間違いだった。

一度スイッチの入った彼女は、まるでマシンガンのように言葉を撃ちだして来る。

こちらが言葉を挟む隙をほとんど与えない。相槌を打つのが精いっぱいだ。

歩夢(でも……かすみちゃんのこと、少しだけ分かった気がする)

話によれば、中須かすみの才能が開花したのは小5の頃。

母親が熱で倒れ、代わりに彼女が店番をすることになった。

その際、母の見様見真似で作ったパンが非常に好評を博し、以来ベーカリー中須への客足は一気に増えたという。

歩夢(普段は人を苛立たせたり、シャレにならないイタズラをしたりするけど……案外、根は家族想いのいい子なのかも?)

そんなことを考えながら、私は深い眠りについた。

本日も異常なし。

~モノっちー劇場~

突然だけどあるなしクイズだよ。

「セイウチに」あって「オットセイ」にない。「沼津」にあって「お台場」にない。

「理由」にあって「原因」にない。「事故」にあって「殺人」にない。

じゃあ「意味」はどっちに入るかな?

答えはない。そう、この問題に意味なんてないんだ。

無理に法則性を求めるのなら……それこそ、意味のない話だと思うネ。

────学園生活4日目

キーンコーンカーンコーン

モノっちー『おはようございます、朝7時になりました』

モノっちー『さてさて、今日も1日頑張っていきましょう』

モノっちー『ああそうそう。オマエら、10時になったら視聴覚室に集合してネ。全校集会みたいなものだから』

プツン

歩夢「……?」

いつものチャイムといつものアナウンス、その後に追加されたモノっちーからの言葉。

イヤな予感はするけれど、行かないと何をされるか分からない。

その意見は皆も同じのようで、朝の食事会は少々早めに切り上げることとなった。

────視聴覚室

モノっちー「おやおや、皆さんお集まりで」

せつ菜「あなたが呼んだんじゃないですか!」

鞠莉「ヘンな用事なら早く帰りたいんだけれど?」

彼方「……」ウツラウツラ

モノっちー「そうだったネ。これは失敬失敬」

梨子「ふざけてるのかしら……」

モノっちー「どうだろうネ。ボクはただ、退屈な日常生活に刺激を与えたいだけなんだよ」

千歌「刺激?」

モノっちー「とりあえず全員、座席にネームプレートが置いてあるからそこに座ってネ。座ったら、音が漏れないように用意したヘッドホンをつけること」

逆らうワケにも行かず、渋々と各々の席に座る。

既にパソコンの電源が入っており、デスクトップには『極秘ビデオ Ver上原歩夢』という名前の動画ファイルのアイコンがド真ん中に表示されている。

しずく「これを見ろ、ということなんでしょうか」

ダイヤ「まさか、いかがわしいものではないでしょうね?」

モノっちー「あら、そういうのをご所望だった?」

ダイヤ「質問に答えてください」キッパリ

モノっちー「大丈夫大丈夫、やらしい要素はないよ。それよりいいの? ここから出るための手掛かりかも知れないのに」

一同「「……」」

手掛かりをわざわざ各個バラバラにする理由はない。

つまりこれは罠だ。みんなの中で警鐘が鳴る。

けれども、脱出への糸口は何一つ掴めないまま3日が過ぎているのも事実。

藁にも縋るような思いで、1人、また1人と動画ファイルの再生ボタンを押した。

機械に弱い花丸ちゃんも、隣の席にいた愛ちゃんの助けで映像を見始める。

……そして、私も。

歩夢「……!」

声を上げそうになるのを抑え、映像に見入る。

だって、モニターに映し出されていたのは──お父さんとお母さん、私の大切な家族の姿。

恐らくは入学前にリビングで録ったのだろう。

「頑張ってね」「無理し過ぎるなよ」と、応援の言葉が私に向けられている。

けれども、こんな映像が用意されているということは。

ザザッ。ノイズと共に、場面が変わり──


歩夢「……嘘」

目に飛び込んできたのは、荒れ果てた我が家の光景。

両親の姿はどこにもなく、過激な泥棒に入られた、と言うには苦しいレベルだ。

『虹ヶ咲学園に入学した上原歩夢さん。どうやら、あなたの家族の身に何かがあったようですネ?』

『さてさて、一体何が起こったのでしょう。どうしてこんなことになっているのでしょう』

『正解は、卒業の後で!』

バクンバクン。心臓の鼓動が周りに聞こえそうなくらいに波打っている。

何なら、今ここで心臓発作で死ぬ、と言われてもすんなり受け入れられてしまうかも知れない。

果南「な、何、これ……」

エマ「どうして、なんでこんなことするんですか!?」

彼方「ハルカちゃん、が……嘘、嫌……」

善子「こんなの、あってたまるもんか……編集よ、この映像は編集に決まっているわ!」

愛「婆ちゃんが……信じない、愛さんは信じないよ……ドントビリーブドントビリーブ……」

璃奈「……(?□!)」

反応を見る限り、恐らくみんなも同じような映像を見せられたのだろう。

揃って、青ざめた顔をしている。

かすみ「モノっちーさん。これを見せて、私たちは何をすればいいんですか~?」

モノっちー「さあ? それはオマエらの自由だよ。校則違反をしない限りはネ」

果林「じゃあ、少し言い方を変えて訊くけれど……あなたは私たちに、何をさせようとしているの?」

果林「こうやって皆の『出たいという気持ち』を煽って殺し合いをさせる。なるほど、映画で見るようなデスゲームの定番と言ってもいいわね」

果林「だとしたら、あなたの目的は何かしら。金銭? それとも愉快犯?」

モノっちー「そんなの簡単じゃん。オマエらの絶望する顔が見たいだけ」

うけけけけけ……気味の悪い笑い声をあげて、モノっちーはどこかへと消えてしまった。

曜「愉快犯、ってことなのかな……」

花丸「あんなの信じちゃダメ。モノっちーの思うツボずら」

愛「そう思いたいのは山々なんだけどさー……いや、でも、これは確かめたくなるっしょ。殺人なんてまっぴらごめんだけど」

歩夢「みんながどんな映像を見たのか、それを話し合えば多少なりと軽減になるかも知れないけれど……」

一同「「……」」

沈黙。まあそうなるよね、と言いかけた瞬間だった。

ルビィ「……っ」ダッ

ダイヤ「っ、ルビィ、どこへ行くんですの!?」

私たちの中で一番顔色の悪そうだったルビィちゃんが、目にも止まらぬ速さで視聴覚室から出て行ってしまった。

慌てて追うダイヤさんと、数名の人たち。残ったみんなは、

果南「ごめん、先に部屋に戻ってるね……」

エマ「私も……気分が優れないので……」

彼方「寝る……寝て起きたら夢だったってことにしといて……」

果林「一応食堂の方でハーブティーを用意するから、必要だったら来て」

梨子「それ、予約入れていいですか……?」

せつ菜「…………」

せつ菜ちゃん、ルビィちゃんの次くらいに顔面蒼白だけれど……ごめん、今はルビィちゃんを探さないと!

────赤い門の前

ルビィ「……」

廊下の隅、ライオンに怯える小動物のように、彼女は縮こまっていた。

身体は小刻みに震えていて、顔からは完全に血の気が引いている。

歩夢「ルビィちゃん、大丈夫……? ダイヤさん、呼んで来ようか?」

ルビィ「……ん、なさい」

歩夢「え?」

ルビィ「ごめん、なさい。今は……お姉ちゃん、呼ばないで」

歩夢「……分かった」

ルビィ「それに、大丈夫なワケない。あんなもの見せられて、ルビィたち、どうなっちゃうの……?」

歩夢「……きっと、大事になっているんだから警察が動く。じきに助けが来るから、それまでの辛抱だよ」

自分にも言い聞かせるように、彼女に精いっぱいの言葉を投げかける。

そうしないと、自分までルビィちゃんと同じようになってしまいそうだったから。

歩夢「それに、殺人なんて起きたりしない。ここから出る方法はきっとある筈、いや、絶対にあるよ。だから、ね?」

ルビィ「歩夢さんは……」

歩夢「?」

ルビィ「歩夢さんは、味方、ですよね……?」

歩夢「うん。私は味方、安心して」

ルビィ「──っ」

歩夢「わわっ!?」

ポフンと音がして、ルビィちゃんが私の懐に飛び込んで来る。私はそれを、ただ無言で抱きしめた。

温かい。そして、まだ少し震えているけれど、さっきよりは収まった気がする。

こうして見ると、彼女は小さくて愛らしい。超高校級の妹、と言われるのにも納得が行く。

月並みな言い方をするなら『庇護欲が掻き立てられる』というものなのだろう。

やがて落ち着いたのか、彼女は私の元から離れ、部屋へと戻って行った。

────夜、食堂

しずく「あれ、どうしたんですか? 歩夢さん」

歩夢「うーん……見張りは0時からなんだけど、何だか眠れなくてね」

千歌「だったら歩夢ちゃんも混ざる? みんなでUNOしてたところなんだ~」

歩夢「あれ、UNOなんてどこにあったの?」

かすみ「暇潰しになるものでもないかってモノっちーに聞いてみたら、倉庫から引っ張って来てくれたんですよ」

花丸「みんなの部屋の引き出しに、いつの間にか置かれていたんだ。マルの部屋には囲碁が置いてるずら」

かすみ「私は人生ゲーム。流石にここまで持ってくるのが面倒なので放置してます」

しずく「チェスでした。ルール分からないのに……」

ルビィ「ルビィは、トランプが」

千歌「それで、私の部屋にあったUNOを持ってきたってこと。多分歩夢ちゃんの部屋にも何かある筈だから、あとで確認しておくといいよ」

言いながら、千歌ちゃんは既に私の分の手札を配っている。やれということなのだろう。

~十数分後~

千歌「ぐぬぬぬぬぬ……」

歩夢「よし、これでアガリ!」

千歌「負けたー!」

花丸「いい勝負だったずら」

歩夢「前もってローカルルールを話し合った結果だね……ドロー2にドロー4を重ね掛け出来て助かったよ」

しずく「こういうのって、人によって少しずつルールが違いますもんね」

千歌「そうそう。記号カードを残した状態でウノを宣言出来ないの、すっかり忘れてたよー」

歩夢「どうする? もう1回やる?」

ルビィ「あ、じゃあルビィが……」

そう言って、ルビィちゃんが山札をシャッフルし始める、が。

ルビィ「あっ!」

手を滑らせてしまい、テーブルや床にカードが散乱してしまう。

ルビィ「ごめんなさい! 拾わないと……ぐぇっ!?」

かすみ「……え、あ、ごめんなさい。踏んでしまいました~?」

バキッ、と嫌な音がする。

運の悪いことに、1位抜けしてジュースを入れに行っていたかすみちゃんが、誤ってルビィちゃんの左手を踏んでしまったのだ。

ルビィ「────ッ!!?」

花丸「ルビィちゃん!?」

かすみ「こ、これは予想外でした……大丈夫ですか!?」

しずく「結構、痛い音が聞こえましたよ!?」

千歌「保健室! それと、誰かダイヤさんか彼方ちゃんを呼んできて!」

歩夢「わ、分かった!」

───
──

────深夜0時過ぎ、学生寮食堂前

せつ菜「……そんなことがあったんですか」

歩夢「うん、大変だった。彼方ちゃんは部屋に引き籠って出てこないし、ダイヤさんは少しパニックになっちゃうし」

歩夢「一応、氷袋で冷やしてる。明日診るから、それまで我慢してくれって彼方ちゃんが」

せつ菜「随分と大雑把な保健委員ですね、まったく。悪化するかも知れないのに」

歩夢「仕方ないよ。彼方ちゃん、あの映像でかなりショック受けてたみたいだし」

せつ菜「そういう意味じゃなくて。見張りの時に診てあげれば良いのに、と」

歩夢「それもそうだね……」

せつ菜「歩夢」

歩夢「どうしたの?」

せつ菜「……いえ、なんでも」

歩夢「そっか……」

せつ菜「……」

気まずい。さっきから、せつ菜ちゃんの声が少し震えている。

映像の件だろう。けれども、気の利いた言葉が思い浮かばない。

何しろ、ルビィちゃんに掛けてあげた言葉はほとんど効果が無かったのだから。

沈黙が、1時間どころか何時間も続いたようにすら感じられた頃。

せつ菜「……すみません。少々、お手洗いに」

歩夢「え、でも」

せつ菜「もう見張りも終わりですし、そろそろ我慢が」

歩夢「……分かった」

結局、せつ菜ちゃんに何も言えていない。

少しドタバタはあるけれど平穏だった学園生活は、モノっちーの介入によってあっさりと均衡状態に陥った。

考えたくはないが、誰かを殺して外に出ようとする、そんな人が現れたら──

歩夢「……ん?」

ふと、廊下に誰かがいるのが目についた。

ダイヤ「ルビィ、入りますわ」

妹の様子を見に来たのだろう。けれども、今は個室に他人を入れるのは宜しくないのではないか。

そう考え、声を掛けようとしたその時。

歩夢「──か、はっ……!?」

???「……」グッ

歩夢(何!? 首、絞められてるの……?)

歩夢(嘘、私、殺される……!?)

歩夢(嫌だ、誰か、助け……)

歩夢(せつ菜、ちゃ……)

歩夢(……)

ドサッ。

???「……」

本日……異常あり。

────学園生活5日目

歩夢「……」

歩夢「……ん」ゲホッ ゴホッ

歩夢「生きて、る?」

目が覚めたら、私は保健室の前で倒れていた。

昨日の出来事は何だったのだろう。何故ここで倒れているのだろう。

そもそも今は何時なのだろう。とりあえず、食堂に向かわないと。

────食堂

壁に掛かっている時計の短針は、既に9に達しようとしている。

何人かの姿が見当たらないが、大体の顔ぶれは朝食の真っ最中だった。

せつ菜「歩夢! 昨日は一体どうしたんですか!?」

果南「首筋……何か跡があるけど」

鞠莉「何か良くないことが起きたみたいね。説明してくれる?」

歩夢「え、えっと──」

せつ菜「そんな……でも、歩夢が無事で良かったです!」ダキッ

歩夢「ちょ、ちょっとせつ菜ちゃん! みんなが見てるから……」

善子「でも、やっぱり出ちゃったのね。殺し合いに乗った人」

かすみ「犯行は失敗しちゃったみたいですけどね~」プクク

歩夢「かすみちゃん! 人が死にかけたのに笑わないでよ!」

果林「とにかく、この件については一度みんなで話し合っておく必要があるんじゃないかし──」



ピンポンパンポーン




モノっちー『死体が発見されました。一定の捜査時間の後、“学級裁判”を開きます』

モノっちー『オマエら、死体発見現場の学生寮にお集まりください!』

プツン

歩夢「……え?」

善子「どういうこと、今の……」

千歌「死体、って言ってたよね……?」

璃奈「みんな、大変だよ! 早く来て!(>_<。)」

璃奈ちゃんボードで顔は見えないが、焦っているのが声から分かる。

果林「璃奈ちゃん、落ち着いて。何があったの?」

璃奈「それが……」

彼女のただならぬ様子に加え、さっきのアナウンス。みんな、一斉にに学生寮へと駆けて行き────





────そして、見た。

赤、赤、赤赤赤赤赤。

学生寮、黒澤ルビィの個室で。

腹部から包丁を生やし、壁にもたれかかり、青い床のタイルに赤い湖を作り。





超高校級の妹、黒澤ルビィが息絶えていた。

今回はここまで。


    Chapter1

Step! 18 to…… 非日常編

愛「ドッキリ……だよね?」

璃奈「ううん。脈、止まってる……(>_<。)」

ダイヤ「そんな……」フラッ

曜「ダイヤさん!」ガシッ

モノっちー「うけけけけ……あーあ、始まっちゃった始まっちゃった」

かすみ「始まった、ってどういうことなんですか~?」

モノっちー「決まってるじゃん、コロシアイだよコロシアイ。これから、オマエらは黒澤ルビィさんを殺した犯人を見つけるんだよ」

鞠莉「そんなこと言って、本当はあなたが殺したんじゃないの?」

モノっちー「それはないよ。ボクは校則違反でも起きない限り直接生徒に手を下さないんだ、これだけは信じて欲しいネ」

果林「つまり、私たちの中に犯人がいる。そう言いたいのね、モノっちー?」


モノっちー「ぽんぴんぽんぴーん。そう、確かにオマエらの中の誰かが彼女を殺したんだ」

歩夢「……っ」ゾワッ

梨子「でも、犯人を見つけるなんてどうやって……」

しずく「さっき放送で言われてた“学級裁判”でしょうか……」

モノっちー「そういやあ学級裁判のルールも説明してなかったね。ごめんごめん、最近物忘れが激しくってさ」

モノっちー「死体が発見されたら、さっきみたいにボクがアナウンスを流して、オマエらに事件を認知させるんだ」

モノっちー「そのあと一定の時間をあげるから、そこで手掛かりや証拠、証言を集めちゃってネ。いわゆる捜査時間ってヤツだよ」

モノっちー「捜査が終わったら、お次はウッキウキの学級裁判! オマエら全員で『誰が被害者を殺したクロか』を議論した上で、投票してもらうんだ」

モノっちー「正しいクロを指摘出来なければ、晴れてクロは学園から卒業。指摘に成功した場合は学園生活を続行、クロにはオシオキが待っています!」

花丸「オシオキ?」

モノっちー「処刑だよ。殺人犯への死刑執行は当然じゃん!」

エマ「この国でそれは通らないと思うのですが……」

善子「典型的なデスゲームのルールってことでしょ。さしずめ、モノっちーがゲームマスターってところかしら」

モノっちー「そういうこと~♪」

千歌「でも、手掛かりを見つけろって言われても……刑事ドラマとかで見た……ケンシ? の知識とかが必要になったりするんじゃ……」

彼方「検死なら一応出来るよ~。まさかこんな形でやることになるとは思わなかったけど……」

エマ「ほ、本当に大丈夫なんですか!?」

モノっちー「そうなるだろうと思ったから、オマエらにはこれをプレゼントしちゃうよ」

たりららったらー。どこかで聞いたSEを口ずさみながら、モノっちーが取り出したのは人数分のタブレット端末。

果南「何これ……“モノっちーファイル”?」

モノっちー「イェス! 死体の状況をボクが軽くまとめておいたんだ。これで素人でも捜査がしやすくなるネ」

モノっちー「忘れないうちに言っておくけど、クロを当てられなかった場合は、残ったシロはみ~んなオシオキだからネ。この辺ぜ~んぶ電子生徒手帳に追加しとくよ」

~校則~

7.生徒内で殺人が起きた場合は、その一定時間後に生徒全員参加が義務付けられる学級裁判が行われます。

8.学級裁判で正しいクロを指摘した場合は、クロだけが処刑されます。

9.学級裁判で正しいクロを指摘出来なかった場合はクロだけが卒業となり、残りの生徒は全員処刑です。

モノっちー「そういうことだから、せいぜい頑張ることだネ。うけけけけけ……」


花丸「……行っちゃったずら」

歩夢「とにかく、やるしかないんだね」


捜査開始!

歩夢(と言っても、何から調べればいいのか……とりあえずモノっちーファイルに目を通しておかないと)

歩夢(被害者は超高校級の妹、黒澤ルビィ。死因は腹部に刺さった包丁による失血死)

歩夢(死体発見現場は彼女の個室、発見は9:30頃。その他の外傷として、左手を骨折している……)

歩夢「本当に軽く、なんだね……」

《モノっちーファイル》の言弾(以下コトダマ)を入手しました。

鞠莉「ところで、2人ないし3人1組で行動しなくていいのかしら。Murderに証拠をインメツされたらおしまいよ?」

エマ「でしたら、昨晩の見張りでペアを組むのはどうでしょう」

愛「それ、愛さんフリーになっちゃうんだけどー」

果林「ダイヤちゃんも気を失っているし、昨日は代理を立てたりもしたからグチャグチャになりかねないわね」

歩夢「……えっ?」

しずく「でしたら、私と愛さん、ダイヤさんは食堂にいますね」

果南「まあ、仕方ないよね。愛ちゃんはそれでいい?」

愛「ほいほーい。まあ、こういうの考えるのって苦手だし丁度いいや」

せつ菜「では……私とペアですね、歩夢」

歩夢「うん。まずは果林さんから話を聞かないと」

歩夢「果林さん、さっき言ってた“代理”ってどういうことなんですか?」

果林「そのままの意味よ。昨日ルビィちゃんが怪我をしたでしょう、それでダイヤちゃんがあの子の分も見張りを買って出たのよ」

千歌「ちなみに果林ちゃんも彼方ちゃんの分を代わってあげてたよ~」

せつ菜「本当に引き籠ってたんですか……」

果林「順番を説明しておくと、10時から11時が善子ちゃんと璃奈ちゃん、その次が果南ちゃんと曜ちゃん」

せつ菜「0時から1時が私と歩夢で、1時から2時がかすみさんと花丸さんでしたね」

千歌「うん。2時からがダイヤさんとしずくちゃんで、次がダイヤさんと愛ちゃん。ルビィちゃんのはこの時だね」

果林「4時から私と梨子ちゃん、続いて私と千歌ちゃん。彼方ちゃんのを代わったのは4時からの方ね」

果林「最後は鞠莉ちゃんとエマちゃん……紙にまとめておいたから、役に立てると嬉しいわ」

ttps://i.imgur.com/buPpKvr.jpg

歩夢「ありがとうございます!」

《昨晩の見張りの順番》のコトダマを入手しました。

せつ菜「ところで、さっきから聞こえる水の音はなんでしょう」

歩夢「これは……シャワールームかな?」


────シャワールーム

果南「まったく、勿体ないなあ」キュッ

歩夢「どうかしたんですか?」

曜「シャワーの水が出しっぱなしになってたんだよ。さっきまで誰も入ってなかったから、昨日からずっとじゃないかな」

せつ菜「確か、シャワーって夜時間の間は水が出ないんじゃないでしたっけ」

果南「そうなんだよね。これって……」

曜「でもタオルは乾いてるんだよね。使った形跡はあるけど、特に血が付いてるワケでもないし」

《シャワールームの水》《シャワールームのタオル》のコトダマを入手しました。

歩夢「次は……ルビィちゃんを調べればいいのかな」

せつ菜「あまり死体を見たくはありませんが……」

────ルビィの死体

彼方「おー、ちょうど良い。検死の結果が出たから誰かにそれを教えたいところだったんだ」

歩夢「何か分かったの?」

彼方「死後硬直の状態を見るに、夜中に死んだのは間違いないね~。死体が大きく動かされた様子もナシ、死斑が教えてくれた」フンス

歩夢「シハン?」

彼方「死んだ人って血液の流れが止まっちゃうから、それがどんどん下に溜まっちゃうんだよね。それで出来た痣を死斑って言うんだ~」

せつ菜「なるほど……」

彼方「ふふん、彼方ちゃん物知りでしょ? それから、傷の大きさからして凶器もこの包丁で間違いない。ご丁寧に柄にまで血がべっとりついてるし。ただ……」

歩夢「ただ?」

彼方「何でだろうね、2回刺された跡があるんだよ。致命傷になったのは2つ目なんだけど、即死にはならなかったかも」

歩夢「じゃあ、ルビィちゃんはそれまで苦しんで……」

せつ菜「うぅっ……」

《彼方の検死報告》《凶器について》のコトダマを入手しました。

梨子「ねえ、そっち終わった? 見てもらいたいものがあるんだけど」

歩夢「?」

梨子「ルビィちゃんが左手に何か持っていてね、気になったから取ってみたの」

せつ菜「トランプ……ですね、♦のK」

梨子「ケースはこっちに置いてあったわ。取り出されたのはその1枚だけみたい」

歩夢(♦のK……まさか?)

梨子「でも、モノっちーファイルによると彼女は左手を骨折していたのよね……」

歩夢「昨日、色々あったから……」

歩夢(……)

《被害者の握っていたトランプ》《トランプのケース》《左手の怪我》のコトダマを入手しました。

せつ菜「……ん? 歩夢、ちょっと見てください」

歩夢「血で何かを描いたような……2本の、横線?」

せつ菜「彼女は、何かを書き残そうとしていたのでしょうか」

歩夢「右手の人差し指に血が付いてるし、もしかしたら……」

歩夢(でも、これが何を意味しているんだろう……?)

《床に描かれた血の跡》のコトダマを入手しました。

璃奈「ねえ歩夢ちゃん、昨日誰かに襲われたって聞いたけど大丈夫?」

歩夢「え、あ、うん……。何とかね、運よく生きてたって感じ」

善子「アンタ、悪運強いわね。ま、リスナーに減ってもらっちゃ困るんだけど」

璃奈「事件の流れ、善子ちゃんから聞いた。ちょっと首見せてくれる?」

歩夢「えっと……こう? というか、そのボードしていて見えるの?」

璃奈「……細いヒモ」

歩夢「えっ?」

璃奈「歩夢ちゃんを絞めたのは、細いヒモ。多分(・v・)」

善子「璃奈のボードってどうなってるのよ……」

歩夢「そっか……私の事件も関係あるかも知れないんだ」

善子「ルビィの部屋に入るダイヤを呼び止めようとして、後ろから襲われたのよね」

歩夢「うん。そのあと、起きたら何故か校舎にいた」

璃奈「何でだろうね?」

せつ菜「……」

《昨晩の事件》のコトダマを入手しました。

せつ菜「そういえば、凶器の包丁はどこから持ってきたのでしょう?」

歩夢「包丁ってくらいだし……厨房かな?」

せつ菜「じゃあ、そっちも見に行きましょうか」

歩夢「そうだね」

────食堂

愛「お、今かっすんとマルっちが厨房にいるよ~」

歩夢「ダイヤさん、どう?」

しずく「一応起きてはいるんですけど……」

ダイヤ「……」

愛「あんまし口きける状態じゃないかもね~」

せつ菜「妹さんが殺されたんですし、仕方ないですよ」

しずく「あ。そういえばかすみさんたち、何かを見つけたみたいですが……」

────厨房

かすみ「あれ、2人もこっちに来たんですか」

花丸「かすみちゃんが、包丁はここから取っていったんじゃないかって」

かすみ「ビンゴでした~。夕食の時、1個足りないな~くらいに思っていたんですけれど、あのときには凶器が持ち去られていたみたいです」

歩夢「夕飯の時には……?」

せつ菜「計画性のある犯行、だったのでしょうか……」

《厨房の包丁セット》のコトダマを入手しました。

歩夢「そういえば3人とも、私が襲われた後ってどうしたの? ほら、見張りの順番隣だったし」

花丸「ああ、それなら……」

かすみ『歩夢さんが見当たりませんけど~?』

せつ菜『もう寝たのではないでしょうか。私、さっきまでトイレに行ってたので』

花丸『歩夢さん、かすみちゃんと相性良くないみたいだし会いたくないのかも知れないずら』

かすみ『んー……次にペアになった時覚えていてください……』ブツブツ

せつ菜『歩夢、かなり愚痴をこぼしていましたからね。とりあえずおやすみなさい』

花丸『はーい』

───
──


花丸「こんな感じだったずら」

せつ菜「まさか、歩夢が大変な目に遭っているなんて夢にも思いませんでした……」

歩夢「そうなんだ……」

かすみ「ちなみにせつ菜さんを見送った後、すぐにルビィさんの部屋を確認しました」

歩夢「ダイヤさんがいた筈だよね。中に入ったの?」

かすみ「いえ、インターホン越しです」


かすみ『もしも~し? 人の部屋で何をしているんですか~?』

ダイヤ“別に、ルビィの様子が気になっただけですわ”

ルビィ“……うん。お姉ちゃんにはまた迷惑かけちゃったね”

かすみ『とにかく、終わったらすぐに出てくださいね?』

ダイヤ“……分かっています”

───
──


かすみ「まあ、そのあとすぐにダイヤさんは部屋に戻ったんですけどね」

花丸「そうだっけ?」

かすみ「そうじゃないですか~。現に、見張りを交代する時にはダイヤさん本人の部屋から出てきましたし」

花丸「そういえばそうだったずら」

《かすみの証言》のコトダマを入手しました。

────食堂

愛「やっほー」

歩夢「ダイヤさんとしずくちゃんが見当たらないけど……」

愛「気分悪いからってトイレに行ったよ。ああ、ついでだし話しておきたかったことがあるんだけどさ」

愛「ほら昨日、果林がここでハーブティー出してたっしょ?」

せつ菜「ええ、私も1杯御馳走になりました」

愛「せっつんが部屋に戻った後だったかなあ、私と果林だけの時、ルビィがここに来たんだよね。しかも厨房に入ってったの」

歩夢「厨房に!?」

愛「何でも、スイートポテトが好きみたいでさ。食べて落ち着きたかったんだって」

愛「結局サツマイモが厨房に無かったから、代わりに何か作ろうかって聞いたけど……すぐに帰っちゃった」

愛「2人とも厨房を調べてたし、だったら役に立つかなーって」

歩夢「うん、ありがとうね」

《愛の証言》のコトダマを入手しました。

────廊下

鞠莉「Hi♪ 2人とも、調査は進んでいるかしら?」

歩夢「うーん……進んでいるような、進んでいないような」

せつ菜「色んな人に話を聞いたりはしているんですけど……」

エマ「私たちも部屋を一通り調べ終えたところなんです」

鞠莉「ゴミ箱を漁ったり、クローゼットの中に何かないか探したりね」

エマ「クローゼットは何も変化なしでした。制服の替えと私服が何着か」

鞠莉「そういえばあの私服って、どれもバラバラなのよね。私、気に入った服は同じのを何着も買うことがあるんだけど……全部1種類ずつしかなかったわ」

せつ菜「そういえばそうでしたね。何か意味があるんでしょうか……?」

鞠莉「ここにみんなを閉じ込めたは着せ替えごっこが趣味なんじゃないかしら。それよりも、面白いものをゴミ箱で見つけたのよね」

歩夢「面白いもの? それってまだ部屋に残ってますか?」

鞠莉「残ってないわ、とっくに回収しちゃったもの。それにこれが手掛かりかも分からないから……裁判とやらまでsecretにしておくわ」

エマ「ごめんなさい。鞠莉さん、私にも教えてくれないんですよ……」

鞠莉「その時が来たら、かしらね♪ ヒントは……あの部屋にあった筈の物」

せつ菜「あった筈の物、ですか……」

歩夢(言われてみれば……僅かな違和感がある。あの部屋から消えた何か……?)

《個室の違和感》のコトダマを手に入れました。

ピンポンパンポーン

モノっちー『オマエら、ぼちぼち捜査は終わったかな? 終わってなくとも締め切りだけどネ!』

モノっちー『ボクもそろそろ待ちくたびれたからネ、いよいよお待ちかねの学級裁判です』

モノっちー『校舎1階、赤い門の前にお集まりください。ではでは』

プツン


せつ菜「赤い門……って、アレのことですよね」

歩夢「学級、裁判……」ゴクリ

────赤い門の奥の部屋

曜「エレベーター……」

エマ「外に通じる扉じゃなかったんですね……」

璃奈「私たちの中に、犯人が……(>_<。)」

かすみ「いい加減そのボード取ったらどうですか~? 仮面の下は醜い殺人犯だったりして」

果南「いやいや、それをこれから議論するんじゃないの」

善子「間違えたらみんな死んじゃうのよね……」

しずく「責任重大、ですね」

愛「だーいじょうぶだって。アタシの勘は3割当たるから!」

梨子「大丈夫じゃないわよ!?」

モノっちー『うけけけけけ……オマエら、揃ったみたいですネ』

モノっちー『それでは、正面にあるエレベーターにお乗りください!』

モノっちー『そのエレベーターが、オマエらを裁判場へと導いてくれます。うけけけけけ……』

プツン

千歌「いよいよ始まるんだね……」

彼方「んー……彼方ちゃん、足引っ張らないように頑張る」ウツラウツラ

花丸「寝ちゃダメずらよ?」

鞠莉「~♪」

ダイヤ「……」

果林「さて、みんな乗ったわね」

ゴウン、ゴウン。

耳に響く音を出しながら、エレベーターは地下へと降りて行く。

どこまでも、どこまでも。

せつ菜「……」

歩夢「……あれ、せつ菜ちゃん」

せつ菜「……どうしました?」

歩夢「いや、革靴を履いてるのが意外でさ。いつものブーツはどうしたのかなーって」

せつ菜「……スクールアイドルは服装のコーディネートにも気を配るのです」

歩夢「だったら、果林さんにレクチャーしてもらわないとね」

せつ菜「……そうですね」

歩夢「……」

《せつ菜の靴》のコトダマを入手しました。

────地下???階、裁判場

モノっちー「ガンクビ揃えていらっしゃーい! ささ、早く自分の名前が書かれた席に着いてちょーだい」

モノっちーに促されるまま、私たちは指定されたそれぞれの席へ向かう。

円状に陣取るように配置された席。みんなが証人で、みんなが被告人。

ぐるりとみんなの顔を見回して……そして、始まる。

間違えるワケにはいかない……命がけの、学級裁判!

~学級裁判準備~
交代制の見張り。そのさなか、超高校級の妹である黒澤ルビィが殺害された。
果たして誰がクロなのか。そして、クロはどうやって見張りを掻い潜ったのか?

コトダマリスト
《モノッチーファイル》被害者は黒澤ルビィ。死因は腹部に刺さった包丁による失血死。その他の外傷として、左手を骨折している。

《昨晩の見張りの順番》ttps://i.imgur.com/buPpKvr.jpgを参照。
ルビィは怪我で、彼方は部屋から出たくないという理由で交代してもらっている。

《シャワールームの水》皆が部屋に入るまで、水は出しっぱなしになっていた。
一方、夜時間の間は水が出ないようになっていた。

《シャワールームのタオル》乾いているが使用された形跡あり。血などはついていなかった。

《彼方の検死報告》彼方によれば、ルビィが死んだのは夜中。
死体を大きく動かした様子はない。また、被害者は2回刺された跡があった。

《凶器について》被害者に刺さっていたもの。柄にも血がべっとりついていた。

《被害者の握っていたトランプ》ルビィが左手に握っていた♦のKのトランプ。

《トランプのケース》ルビィの傍に置かれていた。残りのカードは全てケース内に収まっている。

《左手の怪我》昨晩、歩夢たちとUNOをした際に出来たもの。

《床に描かれた血の跡》2本の横線。被害者は右手で何かを書き残そうとしていた?

《昨晩の事件》歩夢が何者かに首を絞められ、目が覚めたら保健室前で倒れていた事件。
璃奈によれば凶器は細いヒモらしい。

《厨房の包丁セット》かすみによれば、夕食の時には1つ足りなくなっていたらしい。

《かすみの証言》昨晩ルビィの部屋を訪れたダイヤ。
その時にはルビィが生きていたのをインターホン越しに確認しており、ダイヤはきちんと自室に戻っていた。

《愛の証言》昨日、果林がハーブティーを用意している頃に、ルビィは一度厨房を訪れていた。

《個室の違和感》部屋からは何かが消えており、鞠莉はその何かを見つけたらしい。

《せつ菜の靴》彼女は今日、いつものブーツから革靴に履き替えていた。

今回はここまで。次回、学級裁判です。


 学 級 裁 判 
  開   廷!

モノっちー「まずは学級裁判の簡単な説明を行いましょう」

モノっちー「学級裁判では“誰がクロか”を議論し、最終的に投票で全てを決定します」

モノっちー「正しいクロをオマエらの過半数が指摘出来れば、クロだけがオシオキ」

モノっちー「不正解だった場合は、クロは卒業、残ったシロは全員オシオキです!」

モノっちー「……あー、最初はしっかり説明しないといけないからめんどくさいネ。とっとと始めちゃって~」

エマ「ところで、モノっちーさんに一つ聞きたいのですが……あれは何でしょう。日本にはそういう文化があるのでしょうか?」

エマちゃんが指さした先。裁判場の席は18だが、そのうちの1つ……ルビィちゃんの席には、×印のついた遺影が飾ってある。

モノっちー「演出だよ演出。仲間なんだし一緒にいたいでしょ?」

歩夢「……悪趣味」

かすみ「とにかく、ちゃっちゃと始めちゃいましょうよ~。17……犯人を除いて16人の命が掛かってるんですよ?」

果林「あなたに言われるのは癪だけれど……仕方ないわね」

花丸「何から話すずら?」

かすみ「じゃあまずは──」

ダイヤ「あの……少し、待ってくれませんか?」

曜「どうしたの?」

ダイヤ「少し、根本的な話から始めたいのですが……」

【ノンストップ議論開始!】
コトダマ
[|モノッちーファイル>
[|彼方の検死結果>
[|昨晩の事件>

【矛盾した発言】をコトダマで撃ち抜け!

せつ菜「根本的な話、とは何でしょう?」

ダイヤ「……被害者が誰なのか、についてです」

善子「被害者ぁ? そんなの、ルビィに決まってるじゃない」

ダイヤ「いいえ! もう一つ可能性があります。そうですよね、璃奈さん……いえ、ルビィ」

璃奈「え、私!?」

ダイヤ「【あの部屋で死んでいたのは、ルビィに変装した璃奈さんで】あなたが本物のルビィなのです」

愛「いやいや、確かにりなりーなら化けることくらい出来るだろうけどさあ」

かすみ「ちゃんと現実を見てくださいよ~」

かすみちゃんの言う通りだ。ダイヤさんには辛いけれど……受け入れて貰わないと!

[|モノっちーファイル>→【あの部屋で死んでいたのは、ルビィに変装した璃奈さんで】

歩夢「それは違うよ!」

break!

歩夢「ねえモノっちー。あのファイルに、ウソは書いてないんだよね?」

モノっちー「はい。議論を公平に進めるためにも、あのファイルに嘘は決して乗せません! 意図的に情報を隠すことはあるけどネ」

梨子「だったら、やっぱり死んだのはルビィちゃんなのね……」

ダイヤ「そんな……」

果南「……ねえダイヤ、追い打ちを掛けるようで悪いんだけどさ。ルビィが持ってたアレって、どう考えてもダイヤに関係あるよね」

アレ、ってもしかして……

【コトダマ一覧より選択しろ!】

→【被害者の握っていたトランプ】

歩夢「トランプ、♦のK……ダイイングメッセージだと言いたいんですよね」

千歌「♦のK……ダイヤ・Kurosawa……そのまんま!?」

彼方「安直に考えれば、ダイヤちゃんが犯人だってことを示してるよね~」

かすみ「だったら事件解決じゃないですか~。ダイヤさんに投票して、パパっと終わらせましょう」

しずく「そ、そんな簡単に決めちゃっていいんですか!?」

鞠莉「でもあのカードが示す人物、ダイヤ以外に心当たりがないけれど?」

果林「あら。たまたまスートが♦だっただけで、Kから始まる名前の人物だったって可能性は否定できないでしょう」

善子「すーと?」

花丸「トランプの記号のことをそう言うずら」

かすみ「あーもう、うるさいです! 名探偵かすみんがサクっと事件のあらましを説明してあげますから黙ってください!」

【ノンストップ議論開始!】
[|凶器について>
[|シャワールームの水>
[|シャワールームのタオル>

かすみ「昨日の夜、歩夢さんたちの見張りが終わる直前にダイヤさんは被害者の部屋に入りました」

かすみ「その後、私たちはインターホン越しに姉妹揃っての声を聞いてます。そうですよね、花丸さん」

花丸「う、うん。確かに聞いてる、けど……」

かすみ「まだその段階では生きている、そう印象付けた上でルビィさんを殺し【シャワールームで血を流して】……」

かすみ「わざと怪しまれるように【トランプを被害者に握らせる】! 怪しすぎて逆に犯人にはならない、って現象を逆に利用したんですよ~」

ダイヤ「……」

果南「ダイヤ。認めるか反論か、何か言った方がいいよ?」

あれ……? いま、明らかにおかしな部分があったような……。

[|シャワールームの水>→【シャワールームで血を流して】

歩夢「それは違うよ!」

break!

歩夢「待って。あのシャワーって、夜時間の間は水が出なかった筈だよ!」

かすみ「んー……あー、言われてみればそうですね」

エマ「じゃあ、シャワーを使わずに部屋を出たんじゃないでしょうか?」

曜「それはないと思うよ。シャワーの水は出しっぱなしだったんだから」

せつ菜「……では、朝に誰かがあの部屋に入っているということになるのでしょうか」

鞠莉「それなら、名乗り出た方がいいんじゃないかしら? 『私はルビィを殺していないけど、あの部屋のシャワーは使いました』って」

一同「「……」」

果林「誰も手を挙げないということは、シャワーを使った本人にとって知られると都合の悪い事柄のようね」

歩夢「だったら、やっぱりダイヤさんが犯人ってのは無理があるよ! 一度考えをまとめ直して──」

彼方「ここで彼方ちゃんの出番ですよ!」

反論!

歩夢「……えっ?」

彼方「歩夢ちゃんはどうしてもダイヤちゃんを犯人にしたくないみたいだけどさ~。私にはどうしてもそうは思えないんだよね」

彼方「というわけで、反論を展開させて貰うよ~」

【反論ショーダウン 開始!】
[|彼方の検死結果>
[|厨房の包丁セット>
[|かすみの証言>

彼方「確か歩夢ちゃんには伝えた筈なんだよね~。ルビィちゃんが死んだのは夜中だろうって」

彼方「ダイヤちゃんがあの子のお部屋に行ったのも夜中。だったら、ダイヤちゃんが最有力容疑者なのは変わらないと思うよ~?」


─発展─
でも、シャワーから水を出すこと自体は
  朝にならないと出来ないことなんだよ!?


彼方「そんなの、簡単に説明がつくことだよ~」

彼方「【朝まであの部屋に籠って】見張りが終わったあとで外に出ればいいのさ~」

彼方「こうすれば、誰にも見つからずに殺害を実行できると思うけど?」

いいや……その方法には無理がある。だって……

[|かすみの証言>→【朝まであの部屋に籠って】

歩夢「その言葉、斬らせてもらうよ!」

break!

歩夢「ダイヤさんに、朝までルビィちゃんの部屋に籠ることは出来ないよ」

彼方「んあ?」

歩夢「かすみちゃんと花丸ちゃんに聞きたいんだけど、2人が見張りを交代するとき、ダイヤさんはどこにいたっけ?」

花丸「えっと……ダイヤさん本人の個室だったずら」

かすみ「ええ。彼女は部屋に戻っていたので、彼方さんの推理は的外れです」

せつ菜「さっきまでダイヤさん犯人説を主張してた人が自信満々に言うことじゃありませんよね!?」

愛「迷探偵かすみん」ボソッ

璃奈「ブフッ!?(>v<)」

かすみ「何笑ってるんですか!」

彼方「んー……そういうことだったんだね~。ごめんごめん」

善子「でもこれで、議論が振り出しに戻っちゃったわね」

エマ「振り出しどころかグチャグチャです……」

しずく「でしたら、歩夢さんの言ってたあの話について議論してみるのはどうでしょう」

歩夢「えっ?」

千歌「そっか! もしかしたら、それが犯人の手掛かりに繋がるかも!」

せつ菜「……っ」

歩夢「それは……」

果林「どうしたの? 何か都合が悪いことでもあるの?」

歩夢「……」

歩夢(都合……都合、か)

せつ菜「大丈夫ですか、歩夢?」

歩夢「うん、大丈夫……。それよりさ、私のことは置いといて、凶器について話し合ってみない?」

千歌「うーん……それもそうだね」

かすみ「なにかキナ臭いですねえ。それこそ……って、本当に臭いますよ、善子さん」

善子「善子じゃなくてヨハネ! というか、いきなり人のことをクサいなんて言わないでよ!」

しずく「善子さん……昨日、シャワー浴びましたか?」

善子「あ、忘れてた」

愛「ゲゲェーッ!? てか、服も着替えてないでしょ!」

璃奈「不潔……(`∧´)」

果林「ともかく。歩夢ちゃんが言うのなら、ひとまず凶器の話をしましょうか」

歩夢「……うん」

歩夢(みんな、ごめん……。『あのこと』を言うのはもう少し待って……!)

【ノンストップ議論開始!】
[|凶器について>
[|かすみの証言>
[|愛の証言>

〈正しいと思う発言〉に同意しろ!

花丸「それで、凶器の何について話し合うずら?」

歩夢「包丁を、誰がいつ持ち出したのか、だよ」

エマ「えっと……〈犯人が持ち出した〉ワケではないのでしょうか?」

せつ菜「普通に考えるとそうなりますよね」

彼方「意外にも〈被害者自身が持ち出してましたー!〉なんて展開だったりして」

千歌「いや、だったらなんでルビィちゃんが死んでるの?」

曜「意外や意外、〈第三者がやりました〉なんてことは……」

鞠莉「流石に考えたくないわね……」

可能性があるとしたら……あれしかないよね。

[|愛の証言>→〈被害者自身が持ち出してましたー!〉

歩夢「そうかも知れない!」

break!

歩夢「愛ちゃん。昨日の昼、厨房にルビィちゃんが入って行ったんだよね」

愛「そうだよ? スイートポテトが食べたいからーって、食材を探しに行ったんだよ」

ダイヤ「ルビィの大好物、でしたわね……」

善子「うおっ、急に喋った!?」

しずく「さっきまで幽霊みたいでした……」

彼方「幽霊は成仏しろー」ナムナム

ダイヤ「……」

果林「それにしても、まさかあの時、ルビィちゃんが包丁を持ち出したっていうの?」

歩夢「うん、その可能性を示す根拠があるんだ。それは……」

【コトダマ一覧より選択しろ!】

→【厨房の包丁セット】

歩夢「包丁が1本、夕食の時には既に行方不明になっていた……そうだったよね、かすみちゃん」

かすみ「言いましたっけ、そんなこと」

花丸「確かに言ってるずら」

梨子「ちょっと待って。私も食事担当だったけど、その話まったく知らなかったわよ!?」

かすみ「梨子さんが知らなくて当然ですよ。言ったのは事件の後ですし」

梨子「そんなあっさりと……」

エマ「か、かすみさんは、それが事件の前触れだとは思っていなかったんですよね」

果南「あの動機ビデオの後で、随分と能天気なんだね」ハァ

鞠莉「故意か事故かはこの際置いておきましょう。厨房に入った人間が限られて来る以上、ルビィが持ち出した前提で話を進めるのがcleverだわ」

歩夢「護身用、だったのかも……。ルビィちゃん、かなり怯えてたから」

千歌「護身用なら、そのルビィちゃんが何で死んでるの?」

璃奈「部屋に入って来た犯人に、包丁を奪われた……(>_<。)」

曜「あまり考えたくないけど、ルビィちゃんが誰かを殺そうとして返り討ちって可能性も……」

ダイヤ「っ、ルビィに限ってそんなことはあり得ませんわ!」

善子「だから急に喋らないで! ビックリするのよ!」

花丸「観自在菩薩行深般若波羅蜜多……」ブツブツ

エマ「おお、本格的なお経……これが日本!」

果林「エマちゃん、般若心経は元々日本で生まれたものじゃないわよ……?」

果南「でもさ。もしそうだとしたら、犯人がルビィちゃんを殺したこと自体、計画性がないように見えるんだけど……」

彼方「しょーどーてきなはんこー、ってヤツだね」

花丸「でもルビィちゃんは怪我をしていたから、様子を見るって理由で部屋に行ってもおかしくはないずら」

歩夢「……うん。そこがどうしても引っ掛かってるんだよ」

果林「だったら話した方がいいと思うわよ、歩夢ちゃん。見張りに穴が出来たあのタイミングは、今回の事件と無関係とは思えないもの」

彼方「そーだそーだ。きちんと情報共有をしたまえ~」

歩夢「ええっと……」

愛「そうそう。さっき何か言ってたけど、何の話?」

歩夢「……」

そういえば、愛ちゃんのようにまだ知らない人もいるんだっけ……
でも、これを話すってことは……

【コトダマ一覧より選択しろ!】

→【昨晩の事件】

歩夢「……見張りを交代する少し前、相方だったせつ菜ちゃんがトイレに行ったんだよ」

歩夢「1人になったタイミングで、ダイヤさんがルビィちゃんの部屋に入っていくのが見えて。それで、声を掛けようとしたところで……」

梨子「誰かに首を絞められた」

歩夢「……うん。気づいたら朝になってて、食堂に向かった」

愛「説明サンキュー。でもさ、話を聞いてる限り……怪しいの、1人しかいなくない?」

千歌「えっと……ダイヤさんじゃないのは確かだよね」

果林「そうね、ダイヤちゃんに襲われたのならそう言う筈。でも歩夢ちゃんは、犯人が誰かを知らなかった」

エマ「つまり後ろから首を……それって」

歩夢「……」

分かってる。この話を出せば、彼女が疑われる。
でも、本当に彼女が……?

【怪しい人物を指名しろ!】

→【優木せつ菜】

歩夢「……せつ菜ちゃん。本当のことを言って欲しい」

せつ菜「な、何のことですか?」

歩夢「私を襲ったの、せつ菜ちゃんなんだよね……?」

しずく「トランプ同様に安直な考えですけど、真っ先に疑われますよね……」

せつ菜「ど、どうして私になるんですか! 確かに、一人でトイレに行ったり、歩夢は勝手に寝たのだと判断して見張りを交代しましたけど……」

せつ菜「だからと言ってどうして私なんですか、歩夢! まさか、根拠もなくそんなことを言ってるワケじゃ──」

歩夢「……あるよ、根拠」

せつ菜「なっ……!?」

歩夢「璃奈ちゃん、言ってたよね。私を絞めるのに使われたのは、細いヒモだろうって」

璃奈「うん。でも、どこを探しても首を絞められるヒモなんてなかったよ?」

歩夢「それが……あったんだよ。とても身近なところにね」

【閃きアナグラム 開始!】
ゆ ひ く ぶ も つ  正しい順番に並び替えろ!(ダミー有)

→くつひも

歩夢「みんなの足元にある凶器……靴紐だよ」

善子「別に私の足元にはないわよ? ほら」

愛「そりゃ、アンタが革靴なだけで……というか洗ってない足を向けないで!」

モノっちー「あー、制汗シートが必要ならあげようか? 使用済みだけど」

善子「別に要らない……って、私の話はいいでしょ! 今は歩夢の言ってることに集中しなさいよ!」

果南「話題を振ったのは善子じゃん……」

歩夢「と、とにかく! 靴紐なら『細いヒモ』には該当すると思うんだ」

せつ菜「歩夢、靴紐がないタイプの靴ならそれは成立しませんよ? ほら」

千歌「ほんとだ、革靴。しかも虹ヶ咲学園指定の」

歩夢「……違うよね、せつ菜ちゃん」

だって、せつ菜ちゃんは……
【昨日まではスニーカーだった】
【昨日まではブーツだった】
【昨日まではローファーだった】

正しい選択肢を選べ!

→【昨日まではブーツだった】

歩夢「昨日まで履いてたブーツは……どこへやったの?」

せつ菜「それは……」

かすみ「ちなみにせつ菜さんはロングソックスですから、意識していないとブーツから革靴に変わったことに気づけなかったでしょうね~」

花丸「……見張りを交代した時の言い訳ずら」

歩夢「昔からアイドルに憧れていたせつ菜ちゃんは、人一倍衣装へのこだわりが強かった。それこそ、普段の私服もステージ衣装と大差ないくらい」

エマ「では、せつ菜さんがそのこだわりを捨てたということは……」

歩夢「私がせつ菜ちゃんを疑うには、十分すぎるんだよ……!」

曜「歩夢ちゃんを襲って、ルビィちゃんの部屋に入って、殺した……」

果林「そう。歩夢ちゃんが気を失ったことで、隙のない筈だった見張りに穴があいた」

しずく「では、犯人はせつ菜さん……」

せつ菜「ちょ、ちょっと待ってください。まだ私と決まったワケじゃありませんよ!?」

かすみ「せつ菜さん、往生際が悪いですよ~?」

せつ菜「仮に私が歩夢を絞めたとして、歩夢が校舎まで運ばれた理由は何なのですか!?」

璃奈「歩夢ちゃん襲撃事件の早期発覚を防ぐため、とか(・v・)」

せつ菜「だったら尚更おかしいですよ! さっき『ルビィさんの殺害は衝動的な犯行によるもの』だと言ってましたよね!?」

梨子「……言われてみれば変よね。片や無計画、片や計画殺人」

果林「いえ。どちらも計画殺人だったけれど、『たまたま包丁があったから殺害方法をそっちに乗り換えた』可能性は捨てられないわ」

せつ菜「そんな!」

元々予定していた殺害方法、それは……
【絞殺】
【刺殺】
【毒殺】

正しい選択肢を選べ!

→【絞殺】

歩夢「絞殺。私を絞めた靴紐を、ルビィちゃん殺しに使いまわす……」

果林「ええ。ところが、ルビィちゃんの部屋にはもっとお手軽な凶器、包丁があった」

善子「確かに、絞殺より刺殺の方が時間が掛からずお手頃よね」

かすみ「まるで通り魔の連続殺人鬼ですね~。くわばらくわばら」

千歌「通り魔?」

かすみ「一時期ニュースで騒がれていましたよ。ご存じないんですか~?」

せつ菜「ご存じありませんし、何度も言ってますが私は犯人じゃありません!」

しずく「でしたら、みんなが納得出来る論理的な反論が欲しいです……」

せつ菜「ええあります、ありますとも!」

【ノンストップ議論開始!】
[|かすみの証言>
[|個室の違和感>
[|せつ菜の靴>

【矛盾した発言】を撃ち抜くか、〈正しいと思う発言〉に同意しろ!

鞠莉「それで、論理的な反論って?」

せつ菜「歩夢を校舎に運んだ後の行動ですよ!」

せつ菜「仮にそのあとルビィさんの部屋に行ったとしましょう」

せつ菜「ですが〈彼女の部屋にはダイヤさんがいた〉筈です!」

千歌「だったら【ダイヤさんが部屋を出た後でこっそり入る】とか……」

彼方「〈ダイヤちゃんと共犯関係だった〉可能性もあるよね~」

善子「その辺はどうなのよ、ダイヤ」

ダイヤ「……」

果南「あーもう、黙られたら話が進まないんだって!」

そうだ……これでせつ菜ちゃんの無実を証明出来るかも知れない!

[|かすみの証言>→〈彼女の部屋にはダイヤさんがいた〉

歩夢「それに賛成だよ!」 break!

歩夢「待って! ダイヤさんがルビィちゃんの部屋にいた時、ルビィちゃんはまだ生きてた筈だよ!」


かすみ『昨日の夜、歩夢さんたちの見張りが終わる直前にダイヤさんは被害者の部屋に入りました』

かすみ『その後、私たちはインターホン越しに姉妹揃っての声を聞いてます。そうですよね、花丸さん』

花丸『う、うん。確かに聞いてる、けど……』


歩夢「さらっと流しちゃったせいで意識していなかったけど……裁判中にも、その話題は確かに出ていた」

愛「ってことは、せっつんが歩夢を襲ったとしても、その後でルビィを殺すのは不可能じゃん!」

歩夢「それに、いま議論しなきゃいけないのは『誰がルビィちゃんを殺したか』だよ!」

モノっちー「はい。殺人未遂事件については、オマエらの中だけで勝手に片づけちゃってください!」

善子「というか、暗に歩夢を絞めたのを認めちゃってない?」

せつ菜「……認めますよ。私は歩夢を殺そうとして……出来なかった」

かすみ「悲しいヘタレですね~」プククク

鞠莉「その言葉を待っていたわ!」

歩夢「えっ……?」

鞠莉「悪いけど、せつ菜の疑いはまだ晴れないわ。私がもたらす“新情報”のお陰でね!」

千歌「新情報?」


鞠莉「ダイヤはね、ルビィの声真似が出来るのよ」


歩夢「……」

歩夢「ええー!?」

しずく「ど、どどどどういうことなんですか!?」

璃奈「あいでんてぃてぃ、取られた(?□!)」

ダイヤ「……」

鞠莉「一昨日の夜、私はダイヤと見張りのペアでね。そこで色々お喋りしたんだけど……」


鞠莉『えっ? ルビィの声真似が出来る?』

ダイヤ『ええ』オホン

ダイヤ『お姉ちゃん、見て! きょう家庭科で作って来たんだ~』

鞠莉『Wao! ソックリじゃないの!』


鞠莉「ちなみに、ルビィもダイヤの声を真似られるらしいけど……この事件には関係なさそうね」

モノっちー「うけけけけけ……声真似トリックなんて、どこかで聞いたことのある話だネ」

果林「でもそれが本当なら、話が根本から覆るわよ!?」

鞠莉「筋書はこうよ。歩夢を襲っだせつ菜は、彼女を校舎まで運んだ後で、ルビィを殺した」

鞠莉「その後ルビィの部屋を訪れたダイヤは、死体を発見。けれども妹の死を認められないダイヤは、思わずインターホン越しの会話で声真似」

鞠莉「この裁判の最初で『死んだのは璃奈じゃないか』なんて言い出すくらいの妹バカなんですもの。そこまでしてもおかしくないわ」

梨子「確かに、これならせつ菜ちゃんにも犯行が可能だね……」

せつ菜「違う……私はやってません……」

かすみ「でも歩夢さんを殺そうとしたのは、事実なんですよね~」

鞠莉「じゃあ、投票いっちゃってもいいかしら?」

モノっちー「おや、もう始めちゃっていいの?」

歩夢「待ってよ! まだ残ってる謎だってあるんだよ!?」

彼方「そこはほら、犯人が明らかになってから分かる真実、ってやつだよ~」


ダイヤ「もうやめてください!!!」

果南「……ダイヤ?」

ダイヤ「これ以上、せつ菜さんを責め立てるのはやめてください……」

花丸「でも、いまはせつ菜ちゃんが犯人だって流れになってるずらよ?」

ダイヤ「それが違うと言っているのです。だって……」

ダイヤ「ルビィを殺してしまったのは、私なんです」

歩夢「!?」

裁判場に、動揺が走る。

せつ菜ちゃん犯人説からは逸れそうだけど……ダイヤさんが犯人?

あのトランプは本物だった? まだ残っている謎も、説明がつくの?

歩夢「と、とにかく、詳しく話してください。ダイヤさん!」

本当の犯人は……一体誰なの?


 学 級 裁 判 
   中  断

~モノっちー劇場 番外編~

モノっちー「いや~。盛り上がってるネ」

ルビィ「うぅ……お姉ちゃん……」

モノっちー「うけけけけけ。黒澤ルビィさんは、誰が犯人だと思う?」

ルビィ「えぇっと……ルビィにそれを聞くんですか!?」

モノっちー「冗談だよ冗談、ここで正解を出されちゃったらツマラナイもの」

モノっちー「というわけで、被害者が余計なことを口走る前にこのコーナーは終わっちゃうよ!」

ルビィ(どこからツッコミを入れればいいんだろう……)

今回はここまで。


 学 級 裁 判 
   再  開

モノっちー「どうする? 刑事ドラマや探偵アニメから、犯人が自供するシーンのBGMでも持って来ようか?」

果林「結構よ。それよりダイヤちゃん、あなたがルビィちゃんを殺したというのは本当のことかしら」

ダイヤ「……ええ。ですから、せつ菜さんはルビィの事件に一切関与していないのです」

歩夢「どういう状況だったのか、教えて貰えますか」

ダイヤ「……昨晩のことです」


ダイヤ『ルビィ、入りますわ』 ガチャリ

ルビィ『お、お姉ちゃん!?』サッ

ダイヤ『……?』

ダイヤ『ルビィ、いま何を隠したの?』

ルビィ『な、なんでもないよ』

ダイヤ『……』

ダイヤ「普段の私なら、どうしていたでしょうね。わざと見逃したか、もう少し問い詰めたか」

ダイヤ「しかし、モノっちーによって皆さんの心が不安定な状況。加えて、ルビィは左手に大怪我を負っていました」

ダイヤ「きっと、患部を姉に見せたくなかったのだろうと思っていたのです」

ダイヤ「ですが、あの時──」


ダイヤ『大丈夫、あの映像は偽物。お母様たちはきっと無事』

ルビィ『……そう、なのかな』

ダイヤ『あなたは心配しなくていい。皆でここから脱出して、そうしたら……まずは近くの病院で診て貰いましょうか』

ダイヤ『今はとりあえず、彼方さんに言われた通り左手を冷やしておきなさい。おやすみなさい、ルビィ』

ルビィ『……』

ダイヤ『ルビィ?』

ルビィ『……うわああああああああああああっ!!!』

ダイヤ『!?』

曜「ルビィちゃんが、包丁を!?」

ダイヤ「驚きました。まだまだ未熟な妹ですが、私はルビィを心から信頼していましたから」

ダイヤ「そのルビィが……まさか私に刃を向けるなんて」

千歌「でも、ダイヤさんがこうして生きてるってことは……」

ダイヤ「……恐らく、いま皆さんが考えたであろう結果の通りです」

ダイヤ「グサリ、と私の手元に鈍い感覚が走りました。そうしたら……」


ダイヤ『ルビィ、こんなことをして……』

ルビィ『……』

ダイヤ『……ルビィ?』

ルビィ『ぉ、ね……ちゃ……』


ピンポーン


ダイヤ『!!!』

かすみ「あー。そこで私と花丸さんが出てきちゃったと」

ダイヤ「驚きました。ただ、この現場を見られるワケにはいかない……そのことだけで頭がいっぱいでした」

璃奈「じゃあ、ルビィちゃんの声真似をしたっていう鞠莉さんの推理は間違ってなかったんだね(>_<。)」

善子「じゃあ、トランプを握らせたのもダイヤなの?」

ダイヤ「それも……私です。シャワーを流したのも、私が」

愛「いや、わざわざ朝に戻って来る理由がよく分からないんだけど……」

かすみ「なんだか嘘が混じっているニオイがしますね~」

鞠莉「ちなみにダイヤは嘘をつく時、ホクロを掻くクセがあるのよ♪ ちょうど今みたいに」

ダイヤ「なっ……私は嘘なんてついていません!」

歩夢「だったら、もう一度きちんと話してあげてください。ルビィちゃんのために……そして、せつ菜ちゃんの疑いを晴らすために!」

【ノンストップ議論開始!】
[|昨晩の見張りの順番>
[|彼方の検死報告>
[|かすみの証言>

ダイヤ「ルビィの部屋を訪れた私は、帰り際にあの子から襲われて……」

エマ「それで、抵抗したんですね」

ダイヤ「ですが、グサリと手元に鈍い感触がしたと思ったら【気づいた時には目の前でルビィが倒れていて】……」

ダイヤ「そこにかすみさんたちが訪れ、慌てて【インターホン越しにルビィの声真似をした】のです」

ダイヤ「あとは【ルビィにトランプを握らせて】から部屋を出て、偽装工作のために朝、見張りの終わったあとで【シャワーのスイッチを入れました】」

鞠莉「ホクロを掻きながら言われてもね~」

せつ菜「本当のことをきちんと言ってください!」

ダイヤ「嘘なんてついていません。私がルビィを殺してしまった、それが真実です」

ダイヤ「忘れる筈もありません。大切な妹を【グサリと刺してしまった】あの感触は……ああ……」

確かに、ダイヤさんの発言には嘘があるのかも知れない。でもそれ以上に、気になるところが……。

[|彼方の検死報告>→【グサリと刺してしまった】

歩夢「それは違うよ!」

Break!

歩夢「ダイヤさん。2つ聞きたいことがあるんですけど」

ダイヤ「何でしょう」

歩夢「ルビィちゃんを刺したのは1回なんですね?」

ダイヤ「間違いありません。何度も言った筈です」

歩夢「ダイヤさんは、ルビィちゃんの死体の状況を詳しく知っていますか?」

ダイヤ「あの子を殺してしまったのは私が一番知っているのに、調べる理由なんてどこにあるのです。そんな戯言が質問なのですか?」

ダイヤ「もういいでしょう、歩夢さん。処刑される覚悟は出来ています、皆さん私に投票を──」

歩夢「だったら、やっぱりおかしいよ」

しずく「おかしいって……あっ!」

花丸「刺された数が合わない……!?」

ダイヤ「そんなっ……!? それは確かなのですか!?」

彼方「ルビィちゃんはね、身体の2か所を刺されてるんだよ~。1つはお腹、もう1つは右の肺にぐっさりと~」

せつ菜「致命傷になった方は後者、お腹の刺し傷は致命傷にはなりえないものだったそうです。言われてみれば変ですね……」

歩夢「数の合わない傷、嘘が混ざったダイヤさんの自白。そこから、1つの可能性が浮かんで来るんだ」

歩夢「1度刺されたルビィちゃんをもう1度刺した、“誰か”がいる」

ダイヤ「!!!」

果南「つまり、ルビィを殺したと思い込んでいたダイヤが、他の謎も全部背負い込もうとした……」

ダイヤ「……」

鞠莉「まったく、はた迷惑な姉だこと」

千歌「えーっと……じゃあ、今度こそせつ菜ちゃんが犯人なの?」

せつ菜「ま、またそのパターンですか……?」

梨子「決めつけるのは早いわ。ダイヤさんの一件があった時には、せつ菜ちゃんはもう部屋に戻っていた筈だから」

エマ「一旦、全てをリセットして考え直さないとダメですね……」

璃奈「決めつけ、ダメ、絶対(・v・)」

歩夢「うん。もう一度気になることについて話し合おう!」

せつ菜「……」ホッ

彼方「でもさ~。視野を広くするにせよ狭くするにせよ、1つだけ問題があるんだよね~」

果南「問題?」

彼方「ルビィちゃんの死んだ時間なんだよね~。ほら、検死結果について、歩夢ちゃんたちに話したでしょ?」

ルビィちゃんの死亡推定時刻、それは……
【見張りが始まる前】
【見張りの最中】
【見張りが終わった後】

正しい選択肢を選べ!

→【見張りの最中】

歩夢「夜中……見張りが行われていた、10時から7時の間に死んだ、ってことだよね」

彼方「そそ。死後硬直と死斑は全てを教えてくれるんだよね~」

果林「だとしたら、ダイヤちゃんの一撃による衰弱死……は、あり得ないのよね」

彼方「ないない」

鞠莉「じゃあ、夜中にダイヤ以外の何物が部屋を出入りしているってことになるわね」

善子「それこそが、哀れな仔羊を殺した罪人……」

愛「……あれ? じゃあ、結局シャワーは何だったの?」

千歌「どういうこと?」

愛「だってさ、夜に殺されたんだったら……犯人は夜と朝、2回部屋に出入りしてるってことじゃん」

愛「それとも、彼方が言ってたみたいに朝まで部屋に籠ってたワケ?」

かすみ「後者だとすれば、1人気になる人が居るんですよね~」

エマ「本当ですか?」

かすみ「というわけで、今度こそ名探偵かすみんの名推理です!」

【ノンストップ議論、開始!】
[|モノっちーファイル>
[|シャワールームのタオル>
[|昨晩の見張りの順番>

かすみ「怪しい人物、ずばりそれはしずくさんです!」

しずく「え、えぇぇぇ!?」

かすみ「【朝まで被害者の部屋に籠る】なら、9時の集合までに空白の時間を空けておくのが望ましい、というのは皆さんにも分かりますよね?」

歩夢「うん、それは分かるけど……」

かすみ「2日前の朝、【食堂への集合時間を変更してもらう】ようにお願いした人物。それがしずくさん」

善子「そうだっけ?」

果南「間違いないよ。その後、鞠莉と果林がくだらない言い争いをしてたのも覚えてるし」

しずく「で、でも、見張りが終わったのは7時、当初の集合時間は8時です! どっちみち【1時間の空き時間がある】じゃないですか!」

かすみ「念には念をってヤツですよ~。これが事件の全貌です!」

確かに一応のスジは通っている。でも、しずくちゃんにその計画は不可能な筈……

[|昨晩の見張りの順番>→【朝を待って部屋から出た】

歩夢「その矛盾、撃ち抜く!」

Break!

歩夢「かすみちゃん、忘れたの? それともわざとなの?」

歩夢「昨日、しずくちゃんの見張りは“かすみちゃんのすぐ後”だったじゃない!」

ダイヤ「しずくさんは、きっちり見張りをこなしていました。廊下を出歩く人間がいなかったことも保証します」

歩夢「そう。私が気を失っている間に部屋に入ることは出来たとしても、出るタイミングがどこにもないんだよ」

かすみ「……」

かすみ「ああ、そこまでは考えてませんでしたね~」ケロリ

善子「やっぱり迷探偵じゃない!」

果林「忘れないように言っておくけれど。私が担当した4時から6時、怪しい影はなかったわ」

エマ「朝方にもそれらしき人はいませんでした。7時手前に梨子さんと善子さんを見かけましたけど、梨子さんは朝食を作るため食堂に、善子さんはトイレに」

エマ「そのあとすぐに善子さんも食堂に来ましたし、2人は怪しい人にはならなさそうです……」

千歌「じゃあ、歩夢ちゃんより前の順番だった人の中に犯人が?」

曜「いやいや、ダイヤさんの件があったのはそのあとなんだよ!?」

千歌「でも、最初からシャワールームに隠れてた可能性だってあるじゃん!」

エマ「確かに、そこは盲点でしたね……」

愛「そこんところどうなのさ。えーと……歩夢とせっつんより前だった人!」

果林「善子ちゃん、璃奈ちゃん、果南ちゃん、曜ちゃんの4人ね」

善子「いやいや、そんなことなかったわよ!?」

璃奈「交代する時も、出入りはしっかり確認した(`∧´)」

果南「そうだね。その辺りも徹底した方がいいと思ったからさ」

曜「歩夢ちゃんとせつ菜ちゃんも、一応見てたしねー」

千歌「うーん、いい線行ってると思ったんだけどなー……」

しずく「いっそ、隠し通路でもあれば良かったんですけど……」

モノっちー「隠し通路? そんな都合のいいものあるワケないじゃん」

モノっちー「脱線しまくりなオマエらのシロウト議論っぷりにうんざりしてるから言っておくけれど、今回、隠し通路やその類は一切使われておりません!」

しずく「ですよねー」

善子「こうしてみると、本当に見張りの隙はなかったのね。強いて言えば、歩夢が襲われた1時前くらい……」

花丸「あ……」

エマ「花丸さん、どうかしたんですか?」

花丸「な、なんでもないずら! それより、シャワーに関して1つ思ったことがあるんだけど……」

歩夢「思ったこと?」

花丸「うん。そもそも、マルたちは根本的な勘違いをしてるんじゃないかって」

彼方「なになに~? 何に気付いたのかな~?」

花丸「ルビィちゃんの部屋にいなくても、シャワーの水を流す方法ずら」

せつ菜「そんなことが可能なんですか!?」

花丸「“夜は水が出ない”ってモノっちーは言っていたけれど、お手洗いはきちんと使えた筈ずら」

かすみ「確かにそうですけど、それがどう関係しているんですか~?」

花丸「ちょっと考え方を変えると、“夜に止まるのはシャワールームに向かう水だけで、水道自体は動いてる”ってこと」

花丸「それに、マルたちが部屋を調べた時にも、水が出しっぱなしになっていた。つまり、スイッチを切らない限りは、自動的に水が止まらない……」

果林「……なるほど。確かにその方法なら、夜中でも問題ないわね」

千歌「??? どういうこと?」

歩夢「大丈夫、分かりやすく説明してあげるよ」

花丸ちゃんの言いたいこと、それは多分……
【シャワールームとトイレの水道は繋がっている】
【シャワーのスイッチはタイマー仕掛けになっている】
【シャワーには何かしらの細工が施されている】

正しい選択肢を選べ!

→【シャワーのスイッチはタイマー仕掛けになっている】

歩夢「“夜のうちにシャワーのスイッチを入れておけば、朝になれば自動的に水が流れ出す”。夜に止まって朝に機能する水道を、タイマーのようにしたんだ」

花丸「多分、そういう仕組みになってると思うんだけど……」

モノっちー「はい、その通りでございます。悪用されると水道代がとんでもないことになっちゃうよネ、まったくもう」

果南「そんな仕様にしたのはそっち……いや、虹ヶ咲側がそういう設計にしたのかな」

せつ菜「でも、さっきから妙にアドバイスをくれますね……」

モノっちー「サービスだよサービス。こうでもしないと、脱線ばかりしているオマエらに飽きて、時間切れにしちゃいそうだからネ」

エマ「じ、時間切れなんてあるんですか!?」

歩夢「とにかく、犯人が朝にあの部屋を出入りする必要がないってことは分かったんだよ。逆に言えば──」

曜「私が航路を正してあげる!」

反論!

曜「……ごめん、黙っていたつもりも、歩夢ちゃんの推理を邪魔するつもりもないんだけどさ。私が知ってる手掛かりを踏まえると、どうしても納得出来ないんだ」

歩夢「曜ちゃんが知ってる、手掛かり……?」

曜「でも、みんなのためにも間違った推理には行かせない!」


【反論ショーダウン、開始!】
[|シャワールームのタオル>
[|床に描かれた血の跡>
[|個室の違和感>

曜「手掛かりっていうのはね、シャワールームのドアノブについた血なんだ」

曜「あの扉は外開きだったせいで、最初に開けた私と果南ちゃん以外は気づかなかったかも知れない。でも、ドアノブには“外側だけに血がついていた”んだよ!」

曜「それに、誰も意識していなかっただろうけれど“ルビィちゃんの部屋そのものの扉には、どこにも血が付いてなかった”んだ」

曜「やっぱり、犯人はあのシャワーで手を洗ってるんだよ!」


─発展─
そんなの血のついてない手で
    ドアノブを開ければいいことだし
        何かで血を拭くか血が乾くまで待てばいいことだよ!?


曜「確かにそうかも知れない。でも、歩夢ちゃんの推理通りに事が運んだ証拠だってないんだ!」

曜「あの部屋には死体周辺とシャワールームのドアノブ以外どこにも血の跡なんてなかった。それに、包丁の柄とドアノブ、ついてたのは左右別々の手形だったんだよ!」

曜「早く犯人を見つけたいのは分かるけど【他に手掛かりがない】以上、もっと慎重に議論しないと!」

手掛かりがない? ううん、そんな筈はない。それを切り返すんだ!

[|床に描かれた血の跡>→【他に手掛かりがない】

歩夢「その言葉、斬らせてもらうよ!」

Break!

歩夢「いや、手掛かりはちゃんとあった。ルビィちゃんが血で描いた、2本の線だよ」

歩夢「それこそが、ルビィちゃんの残した本当のダイイングメッセージなんだ!」

曜「なんでそれがルビィちゃんのものだって分かるの?」

璃奈「♦Kを持たせたのがダイヤさんじゃない以上、あのカードは犯人の偽装(・v・)」

璃奈「だったら、その血も犯人が偽装したって考えられない(・v・)?」

せつ菜「いえ、それはきっとないと思います。ルビィさんの右手、人差し指の腹に血がついていましたから」

曜「うーん……何だかスッキリしないなあ。シャワーの謎は解けてないのに」

エマ「でも、一つの分からない謎にこだわるより、解けそうな謎から考えていくのはいい考えだと思います!」

果林「そうね。犯人が分かれば、残った謎が芋づる式に解けるかも知れない……」

ダイヤ「ところで……2本の線と言いましたが、具体的にルビィはどう書き残していたのでしょうか」

歩夢「横線が2本、並行になるように書かれていたんだ」

しずく「漢数字のニやカタカナのニ、イコールの記号なんかもそうですね!」

梨子「でも、それが何を意味するのかさっぱり分からないのよね……」

愛「ひーふーみよー、いつむー……」

かすみ「こんな時に何を数えてるんですか~?」

愛「じゅういちじゅうにじゅうさん……あ、分かった!」

彼方「なんですと!?」

愛「へっへーん。これが正解なら愛さんのお手柄だね」

歩夢「分かった、って、犯人が誰か分かったの!?」

愛「そうだよ。あのバイキングソーセージは“誰に向けたものだったのか”、それに気づいたら解けちゃったよ」

せつ菜「ダイイングメッセージです。こんな時に飯テロしないでください」

愛「ずばり。愛さんの推理が合っていれば、あのメッセージは私と歩夢、そしてマルっちに向けられたものだよ!」

花丸「ずら!?」ビクゥ

千歌「何もそんなに驚かなくても……」

果林「でも愛ちゃん、どうしてその3人なのかしら」

愛「3日前の夜、歩夢と愛さんが同じ見張りのペアだったのよね。その時、トイレに行くために部屋の外にいたマルっちとルビィ、2人とお喋りしたんだ」

愛「“ここにいる何人かは、名前を数字の語呂合わせに出来る”って、ちょっとした言葉遊びをね。ちなみに愛さんは3841、ミヤシ(タ)アイで3841」

しずく「タが行方不明ですよ!? あ、でもそうしたら花丸さんは870で、ルビィさんたち姉妹は9630……」

花丸「イコール13……」

歩夢「えっ……?」

花丸「トランプでKは、13を表した筈ずら。だとしたら、ルビィちゃんの残した2本線は『=』の記号なんじゃ……」

愛「そゆこと♪」

かすみ「でも、どうしてカードと組み合わせちゃったんでしょうね。ややこしい……」

彼方「犯人に刺された傷は致命傷にこそなったけれど、即死じゃなかったんだよ。でも意識は朦朧としていただろうし、カードを握らされた左手は動きそうにない」

花丸「仮に動いたとしても、♦Kに血がつくこと、姉であるダイヤさんに疑いが向くことは避けられない……」

彼方「だからルビィちゃんは考えたんじゃないかな。犯人の残した嘘のダイイングメッセージを利用して、逆にそれを“犯人を告発する本当のメッセージ”に仕立てる方法をね」

ダイヤ「勿体ぶらずに教えてください! 誰なのですか、その犯人は!」

千歌「そもそも、私たちの中に『13』が名前に入ってる人なんていたっけ?」

しずく「13……トミ……ヒトミ……うーん???」

愛「あれ、何でややこしくなってるの?」

ダイヤ「あなたが正解を言わず、格好つけた言い方を繰り返すせいです!」

歩夢「……」

歩夢「もしかして、合計の数字……?」

愛「そういうこと♪」

歩夢「イコール13……つまり、名前を数字に変換して、その合計が13になる人がこの中に……!」

それに該当するのは……あの人しかいない……よね

【怪しい人物を指名しろ!】

→津島善子

歩夢「ヨ、シ、コ……“4+4+5=13”。あなたのことだよね、津島善子ちゃん」

千歌「そんな、善子ちゃんが!?」

ダイヤ「どうなんですか、善子さん!」

善子「……それ、本気で言ってるの?」

歩夢「勿論、この推理が間違っているかも知れない。だから、違うなら違うって言って欲しい」

善子「クックックッ……この堕天使ヨハネが、これほどまでに愚弄されようとは……」

善子「違うに決まってるでしょ! 何よ、そんなデタラメ推理は! 大体私は善子じゃなくてヨハ──」

果林「電子生徒手帳を起動すると、真っ先に本名が表示されるわよ」

善子「だから、津島善子は地上で生活する時の仮の名前……じゃなくて!」

善子「アンタたち、ようやく犯人候補が1人あがってホッとしてるかも知れないけど、他に根拠なんてないでしょ!」

花丸「あるよ」

善子「は……?」

花丸「うん。その根拠を話す前に、みんなに謝らないといけないことがあるんだ」

しずく「謝らないといけないこと?」

花丸「マル、“昨日の見張りはちゃんと出来てなかった”んだ」

千歌「え、え???」

花丸「多分、善子ちゃ……犯人がルビィちゃんの部屋に入ったのは、マルが見張りをしている時」

エマ「えっと……昨日、花丸さんとペアだったのって確か……」

せつ菜「かすみさんです」

かすみ「~♪」ニコニコ

彼方「でもでも~。幾ら何でも、ここに来て“見張りに穴があった”なんて通用しないよ~?」

果南「見張りをサボった人がそれを言う?」

歩夢(いや……もしかしたら。2人の見張りが成立していなかったのだとしたら、考えられる理由は……)

【閃きアナグラム、開始!】
が の ば み か す か す な な な し  正しい順番に並び替えろ!(ダミー無)

→なかすかすみのながばなし

歩夢「かすみちゃん、1つ聞いていい?」

かすみ「なんですか~?」

歩夢「2日前の夜、私とペアになった時……。かすみちゃん、何かのスイッチが入ったみたいに、延々とトークを繰り広げたよね」

歩夢「話術こそ巧みだけれど、耳にタコが出来そうな長話……それって、見張りに隙を作るには十分すぎたんじゃないかな?」

曜「そうなの、花丸ちゃん?」

花丸「それずら! マルはそれに……」

かすみ「花丸さんが嘘をついてるだけかも知れませんよ~? 私が同じことをやったというなら、その根拠を示してください」

歩夢(根拠……。少し無理はあるかもしれないけど、今から思えば、あの証言には不確かな部分があった……)

【コトダマ一覧より選択しろ!】

→【かすみの証言】

歩夢「厨房で2人に話を聞いた時、こんなことを言ってたんだ」


かすみ『まあ、そのあとすぐにダイヤさんは部屋に戻ったんですけどね』

花丸『そうだっけ?』

かすみ『そうじゃないですか~。現に、見張りを交代する時にはダイヤさん本人の部屋から出てきましたし』

花丸『そういえばそうだったずら』


歩夢「普通なら『ダイヤさんが部屋に戻っていくのを見た』って言えばいいのに、かすみちゃんはあえてぼかした言い方をした」

歩夢「ねえ、2人は……いや、かすみちゃんは“自分の部屋に戻っていくダイヤさんの姿をちゃんと確認した”の?」

かすみ「どうでしょうね~♪ ……と、言いたいところですけど」

かすみ「白状しちゃいます! 歩夢さんの言う通り、私は“わざと”マシンガントークを使って見張りに隙を作ったんですよ」

曜「わざと……!?」

かすみ「だって、このまま殺し合いが起きないなんてつまらないじゃないですか。だから、私が犯人さんのお手伝いをしてあげたんですよ~」

かすみ「ま、これ以上議論をかく乱しちゃうと、私の命も危ういですからね。ここらが潮時です♪」

果南「何、それ……」

ダイヤ「では、あなたは善子さんがルビィの部屋に出入りしていたことも知っていたのですか!?」

かすみ「それはどうでしょう。どう答えても……まずは、善子さんを納得させる必要がありそうですよ?」

善子「当たり前よ。結局、花丸は何を言いたいのかしら?」

花丸「えっと、シャワーのトリックについて少し考えたんだけど……」

善子「またそれを蒸し返すの? 結局、本当に使われたのかどうかすら怪しい話だって保留になってた筈でしょ?」

花丸「けれども、もしあのトリックが使われていたんだとしたら、“犯人の目的”は何なんだろうってね」

エマ「犯人の目的……?」

花丸「アリバイの確保、ずら」

歩夢(シャワーの仕掛けがアリバイの確保になる? それってもしかして……)

【ロジカルダイブ、開始!】
Q1.シャワーから水が流れているのはいつ?
a.24時間いつでも
b.朝から夜時間に入るまで
c.夜時間の間

Q2.犯人が確保したかったアリバイはいつのもの?
a.夜時間の間
b.自分の見張りの番の間
c.朝から死体が発見されるまで

Q3.Q2の答えの間、津島善子はどこにいた?
a.食堂
b.本人の部屋
c.被害者の部屋

3つの連続した問いに答えろ!

【c→c→a】

歩夢「繋がったよ!」

COMPLETE!

歩夢「そうか……犯人が朝にルビィちゃんの部屋に行った、って思わせたいなら、死体が見つかるまでのアリバイが必要になる!」

歩夢「私が目を覚まして食堂に行った時には、もう善子ちゃんはそこにいた!」

鞠莉「ちなみに。さっきエマの言った通り、7時手前から死体が発見される9時半頃まで、善子はずっと食堂にいたわ」

歩夢「確か善子ちゃんって、夜型だから朝は苦手……だったよね?」

善子「フフ、フフフ……」

善子「ああ──もう。そんなことで疑われるなんて、私って本当に運が悪いのね」

善子「ちゃんとエマが証言してくれたでしょう? トイレに行きたくなって目が覚めた、それだけのことよ」

かすみ「でも、状況は段々あなたにとって不利になってますよ~?」

善子「まだよ……まだ反論はあるわ!」

【ノンストップ議論、開始!】
※【ウィークポイント】を記憶(キャプチャー)して、新しいコトダマにしろ!

善子「私を犯人にしたいようだけど、それは大間違いよ!」

ダイヤ「間違いならば……今までの根拠をひっくり返せるというのですね?」

善子「ええ! 何度も言われているけど、私は朝、【ルビィの部屋に行くことは出来なかった】」

花丸「うん。だから、あの【シャワーのトリック】が使われたって思ったずら」

善子「それなら説明して欲しいわね。私はどうやって部屋を出たのよ!」

曜「さっき私が言ってた【手形】のことだね?」

善子「そうね。【包丁は右手、シャワールームのドアノブは左手】」

善子「つまり、両手を使ったのは確かよ。だったら、部屋そのもののドアに【血をつけずに出る方法】がないじゃない!」

果南「それが説明出来ない限りは犯人じゃない……そう言いたいんだね?」

善子「どう? これを説明出来る人なんているの?」

やっぱり……犯人は善子ちゃんなんだね。もう、決定的だ。

[|手形>→【包丁は右手、シャワールームのドアノブは左手】

歩夢「……それは、違うよ」

Break!

歩夢「善子ちゃん。逆に聞きたいんだけど……今の発言はどういうことなの?」

善子「……は?」

歩夢「なんで善子ちゃんは、包丁とシャワールーム、それぞれの手形がどっちの手なのかを知っていたのか──」

善子「そ、それはほら、曜が言ってたでしょ!? ついてたのは左右別べつの、てがただっ……ッ」

せつ菜「曜さんは『どっちが右でどっちが左か』なんて一言も喋ってませんでしたね」

歩夢「それに、曜ちゃんはそのことについて『新しい手掛かり』だと言った。曜ちゃんと、実際に手形をつけた犯人以外は知ることの出来ない情報だったんだよ!」

善子「いやいや、普通に考えてみなさいよ! 人間という生き物は右利きが多いのよ!?」

善子「だったら、凶器を持つ手はより力のこもる右だって分からないの!?」

愛「でもそれって、ドアノブにも同じことが言えるよねー」

善子「フフフ……そうはいかないわ。右と左、どっちの手が開けやすいかなんて、ドアノブの位置で変わる」

善子「人間とは、無意識のうちにそういうことを判断してしまう、罪深き生き物なのよ。下界の民たちには分からないことでしょうけどね……」

曜「分かる筈がないよ。そもそも、嘘なんだから」

善子「……え?」

曜「善子ちゃんの話には、私も賛成。現にあのドアは、左手を使った方が開けやすいからね」

曜「でもね、手形が左右どちらのものかを判別することは……出来なかったんだ」

善子「な、ななななな……何よそれええええっ!?」

曜「犯人を捜す手掛かりに使えるかもと思って、ずっと取っておいたんだ。果南ちゃんにも黙ってもらった」

曜「まさか……本当に役に立つとは思ってなかったけどね」

璃奈「ブラフをかけた……(?□!)」

ダイヤ「では、本当に……あなたがルビィを殺したのですね?」

善子「まだ話は終わってないわ! 血をつけずに部屋を出た方法が謎のままよ」

善子「それが出てこない限り、私に犯行が可能だったって証明は出来ないわ!」

鞠莉「なるほど……つまり、“アレ”はここで使うものだったのね?」

鞠莉「その時が来たわ。じゃーん、これは何でしょう」ピラン

善子「!!」

しずく「破れたビニール袋……ですか?」

千歌「ただのゴミにしか見えないけど~……」

果林「ここで取り出すってことは、今回の事件に無関係ってことではなさそうね?」

鞠莉「イェース! 歩夢なら答えられる筈よ?」

私があのビニール袋を知っている……? もしかしたら……

【コトダマ一覧より選択しろ!】

→【個室の違和感】

歩夢「裁判が始まる直前、鞠莉さんが言ってた『あの部屋から消えた何か』ですよね?」

鞠莉「ええ。ゴミ箱から見つけた物……そしてこれが、ルビィの部屋から血をつけずに出た方法の答えになるわ」

善子「いい加減にしなさいよ、勝手に話を進めないで」

善子「ただのゴミが何? まさかそれを手につけてドアを開けた、なんて言わないでしょうね!?」

善子「だったらその袋の内側に血がべっとりついてる筈よ。ドアノブの謎とは関係ないじゃない」

歩夢「善子ちゃん……」

善子「今さら思い出したわ。歩夢……アンタ、私がゲーム配信をしてた時、たま~にコメントでヒントをくれたりした有能リスナーだったわね」

善子「でもね、これはゲームとは違うのよ。みんなの命がかかってるのよ、分かる!?」

歩夢「ううん……あのビニールが答え、その事実は変わらない」

善子「……」ハァ

善子「悪いけど、血が乾くまで待つことは不可能よ」

善子「かすみが長話をしていた時間は1時間にも満たないでしょうね。べっとり血をつけたなら、乾くのを待つ間に見張りは交代しちゃうわ」

善子「何かで拭くのも不可能。部屋には他に血痕は見つからなかったし、私は昨日から服を着替えていない」

善子「知っての通り、クローゼットには同じ服が2着用意されてない。全部1種類ずつしかないのよ」

善子「最初からドアを開けっぱなしなんてのは論外よ? かすみの行動がわざとだとしても、

善子「だから……どうしても私が犯人だって言いたいのなら……」

善子「何度も言ってるでしょう! どうやって部屋から出たのか説明してみなさいよ!」

歩夢(このままじゃ埒が明かない……)

歩夢(あのビニール袋の正体……ドアノブに血をつけずに部屋を出た方法を、善子ちゃんに認めさせるんだ!)

【理論武装、開始!】

善子「私を犯人にしたいようだけど、それは大きな間違いよ!」

善子「アンタたちの話は不確かな憶測ばっかり!」

善子「荒らしコメントはお断りよ!」

善子「どうせ犯人はダイヤかせつ菜に決まってるわ!」

善子「あんな血文字だけで犯人扱いされた身にもなってみなさい!」

善子「認めない認めない認めない認めない……」

善子「NGユーザーに登録してやるわよ!?」

善子「1回の失言で揚げ足を取られてたまるもんですか!」

善子「あの部屋から出る方法がない以上、私に犯行は不可能なのよ!」


善子「【そんなゴミが、一体なんだって言うの!?】」


〇…り  △…こお □…くろ ×…ぶ  正しい順番に並び替えろ!

→△〇×□  [|こおりぶくろ>

歩夢「これで……終わりだよっ!!!」

break!!!

歩夢「ビニール袋の正体は氷袋……そして、氷が溶けて作られた水で手についた血を洗い流したんだ!」

善子「ぐっ……!?」

梨子「氷袋?」

歩夢「ルビィちゃんは昨日、左手を骨折した。その対処として、彼方ちゃんのアドバイスもあって保健室から氷袋を持ってきたんだ」

歩夢「手を全部洗う必要はない。指先を洗えばドアは開けられるし、袋に血を残さない工夫は出来る」

歩夢「朝になって、トイレで手を洗う。朝のアリバイを完璧にするには、見張りがいる7時までに自分の部屋を出る必要があったからね」

善子「っ……」

せつ菜「本当に、善子さんが犯人なんですね……」

歩夢「最後にもう1度、事件を最初から振り返ろう。それで……この事件を終わらせる!」

【クライマックス推理】
ACT.1
事件の発端は午前1時前……ダイヤさんに声を掛けようとしたところで、私がせつ菜ちゃんに襲われたところから始まる。
せつ菜ちゃんが殺したと思い込んでいた私を保健室に運んでいる頃、ダイヤさんがルビィちゃんの部屋を訪れていた。
ダイヤさんに殺意はなかったけれど、そこで予想外のことが起きた。
ルビィちゃんが、前もって厨房から持ち出していた包丁で、ダイヤさんに襲い掛かったんだ。
でも、2人にとって更に予測出来なかったことが起こる。
もみ合いの末に、ダイヤさんが誤ってルビィちゃんを刺してしまったんだ!

ACT.2
そこに、インターホンを鳴らす人たちがいた……。
花丸ちゃんとかすみちゃん、2人が。ルビィちゃんの様子を見に来たんだ。
現場を見られるワケには行かないダイヤさんは、慌てて、ルビィちゃんの声を真似ることでその場を誤魔化した。
けれど、根本的な解決にはならなくて、少ししたあと結局部屋に帰って行った。
一方、ルビィちゃんはまだ生きていた。ダイヤさんの傷は致命傷にはならなかったんだ!

ACT.3
でも、彼女の未来が変わることはなかった。ダイヤさんの後に、部屋に入って来た人……真犯人がいたんだ。
犯人は、ルビィちゃんの身体から包丁を引き抜き、もう一度刺した。それが本当の致命傷になって、彼女は死ぬことになる。
犯人は、ダイヤさんの仕業であるように見せかけるため『♦K』のカードを左手に握らせた。
その数時間前、食堂で起きたトラブルでルビィちゃんが左手を骨折していたことを知らずにね。

ACT.4
更に犯人は、アリバイを強固にするための偽装を図った。
まずシャワールームに入り、スイッチを押す。
その上で、両手に血をべったりとつけ、血の手形を包丁の柄とシャワールームのドアノブに残す。
仕上げに氷袋を破いて、その中に溜まっていた水で手を洗った。もしかしたら、作業をやりやすくするために最初から破いておいたのかもね。
氷袋の残骸を捨て、一連の偽装工作を終えた犯人は被害者の部屋を後にした。本来、部屋に入った段階で見張りがその姿を目撃している筈だったんだけど……。
今回、かすみちゃんがわざと見張りに隙を作っていた。犯人はそれを利用して、今回の計画を実行したんだ。

ACT.5
ただ……犯人には一つ誤算があった。ルビィちゃんがダイイングメッセージを残していたことだよ。
一見理解出来ないメッセージは、ダイヤさんに罪を重ねたくない思いで、彼女が必死に考えたんだろうね。♦Kを握ったまま、犯人の名前を告発する方法を。
そして朝7時前、犯人はエマちゃんと鞠莉ちゃんに姿を見せ、一旦トイレに向かう。そこで今度こそ手を綺麗に洗い、食堂に姿を現したんだ。
7時……夜時間が終わって、被害者の部屋からシャワーが流れ出す。
『犯人は朝7時から死体の発見される9時半までアリバイがなかった人物』という図式を組み上げ、本人は何食わぬ顔で食堂にいたんだ。

歩夢「一連の犯行を行った人物……それは、あなたなんだね」

歩夢「超高校級の配信者、津島善子ちゃん!」


      COMPLETE!!!

善子「……ここまでね」

歩夢「いいの? まだ、言い逃れ出来る余地は残されてるけど」

善子「バカね。確かに私がやったっていう明確な物証はない、けど」

善子「何年も配信者やってると、どの辺が引き際かってのは分かるのよ」

善子「それに、モノっちーが提示したルールは多数決。過半数が私の自白を信じれば、それでいいんでしょ?」

モノっちー「おやおや、議論はもう終わったみたいですネ?」

善子「ええ。始めちゃって……いや、終わらせてちょうだい」

モノっちー「それでは皆さん、投票タイムです。お手元のスイッチを押してください!」

モノっちー「ああそうそう。ちゃんと誰かに投票してよネ。投票を放棄した人も、オシオキされることになるからさ」

歩夢(私たちの席には、18のスイッチと、その下にシールか何かで名前が貼ってあった)

歩夢(私は、ごめん、と呟きながら、津島善子と書かれたスイッチを押す……)

モノっちー「投票が終わったみたいですネ。さあ、クロとなるのは誰なのか、その答えは正解なのか不正解なのか!」


   VOTE

善子 善子 善子
   GUILTY


歩夢(モニターに映し出されるスロット画面)

歩夢(場違いなファンファーレは、それが正解だということを示していた)


 学 級 裁 判 
   閉  廷

モノっちー「なんと大正解! 《超高校級の妹》黒澤ルビィさんを殺した犯人は……」

モノっちー「《超高校級の配信者》くろs……津島善子さんでしたー!」

ダイヤ「……っ」

善子「……」

しずく「肝心なところでセリフを噛むんですか……」

モノっちー「噛んでないよ? 津島さんの本当の苗字が黒澤だっただけ」

歩夢「えっ……!?」

モノっちー「でもそういうのって、直接本人の口から語らせた方が面白いでしょ? ほら、ミステリー小説におけるお涙頂戴ってヤツだよ」

花丸「なんだか心外ずら」

千歌「でも、どういうこと? 善子ちゃんの苗字が黒澤って……」

善子「私ね、ルビィを殺すつもりなんてなかった」

善子「そもそも昨日は、本当にただトイレに行こうとしただけなのよ」

歩夢(その言葉を皮切りに……善子ちゃんは、ぽつぽつと語り始めた)

────昨晩、深夜1時過ぎ

善子(……あんな映像流石にそろそろ寝ないとね)

善子(その前にトイレだけ……ん?)

ダイヤ『……』ガチャリ

善子(今の、ダイヤ……ルビィの部屋から出て来た……?)

善子(顔、青ざめてるし……)

善子『……』

かすみ『──という仕組みなんですよ。どうです? 花丸さんさえ良ければ、明日作ってあげますけど……』

花丸『おお、是非お願いします、ずら!』

善子(アイツ、“また”やってるのね……仕方ない)

ガチャリ

善子『何かあったのかし……っ?』
───
──

梨子「また……?」

善子「3日前の夜、かすみとペアだったのよ。だからアイツのマシンガントークはよーく知ってたわ」

かすみ「~♪」

果南「それで、包丁の刺さったルビィを見つけたんだね」

善子「ええ。ダイヤがやったってことはすぐに分かったし、壁にもたれかかってたから、死んでるって勘違いしたのよ」

善子「で、ダイヤが犯人だって分かるように、トランプを握らせたのよ。たまたまケースの一番上にあったカードが♦Kだったし、すぐに思い浮かんだわ」

せつ菜「その時点で、花丸さんたちを呼べばよかったことなのでは……?」

善子「なんでかしらね。単純に『私があの部屋に入った』事実を誰かに知られると面倒くさそう……多分、最初はそう思ったのよ」

ダイヤ「でしたら……」

善子「?」

ダイヤ「でしたら何故、ルビィにトドメを刺したのですか! 皆さんの証言が確かなら、その時ルビィはまだ生きていた筈です!」

ダイヤ「それこそ、誰かを呼ぶべきではなかったのですか!? 彼方さんでなくても、誰かが止血をすれば、ルビィは助かったんじゃ……っ!」

曜「ダイヤさん、落ち着いて!」

善子「……むしろ。アイツが“生きてたせいで”迷いが生じたのよ」

善子「今ここでルビィにトドメを刺せば、犯人が私になる。ダイヤも犯人扱いになるかどうかは分からないけど、とにかく、私は犯人になれる」

モノっちー「ちなみに学級裁判において、議論する内容の終着点は“最後にトドメを刺した人物が誰か”になります」

モノっちー「たとえ殺意がなくとも、引き金を引いた人間がクロになってしまうのですよ」

善子「……じゃあ、私だけか。とにかく、ダイヤに罪をなすりつけて、私は外に出る」

善子「外に出れば、私の出生に関わる謎が分かる……そんな迷いが生じたのよ」

愛「出生の秘密……私には本当の家族がいた、とかそういうヤツ?」

果林「さっきモノっちーが言ってた“本当の苗字”の話ね」

善子「ええ。これを見てもらえばすぐに分かるわ」

歩夢(そう言って、善子ちゃんは自身の電子生徒手帳を起動させた)

歩夢(起動時、最初に『本名が表示される』仕様だったその電子生徒手帳には……)

彼方「黒澤……サファイア?」

善子「小学生の頃、お母さんに内緒でお母さんの部屋を覗いた時……ヘンな写真を見つけたのよ」

善子「幼少期の私と、両親とは違う大人の男女。それから、黒い髪と赤い髪の女の子……年は、その頃の私に近かったわ」

ダイヤ「まさか……」

善子「結局、そのあと帰って来たお母さんにこっぴどく叱られた。おまけに、あの写真については何も答えてくれないしね」

善子「中学生になって、えがお動画で配信をするようになった。雑談やゲーム配信……何万ものリスナーとお喋りしたし、数多のゲームに触れた」

善子「そのうちイヤでも分かったわ。ああ、私には何らかの“家庭の事情”があるんだなって」

善子「だからって、それをどうすることも出来ないまま……私は虹ヶ咲にやって来た」

鞠莉「じゃあ、視聴覚室であなたが見たムービーは……」

善子「黒服の男たちが、住んでた家……マンションだけど──に入って来て、お母さんに詰め寄る映像だった」

かすみ「《超高校級の配信者》津島善子、もとい黒澤サファイアさん。あなたのご家族の身に何かが起きたみたいですね」

歩夢「!」

かすみ「一体何が起きたでしょう……正解は卒業の後で! ……でしたっけ?」

善子「……見たのね」

かすみ「ええ。昨日、全員分の映像をこっそり見させて頂きました」

エマ「じゃあ……かすみさんには、誰かが事件を起こすって分かっていたのですか!?」

かすみ「当たり前じゃないですか。でなけりゃ、厨房から包丁が1本なくなっていたことを黙っていると思います?」

歩夢「あれもわざとだったの!?」

璃奈「……最初から、事件を起こす気満々だったんだね(`∧´)」

かすみ「だ~からそう言ってるじゃないですか~。あ、でも! ルビィさんの手を踏んでしまったことだけは事故ですよ」

かすみ「あの時、食堂にいた皆さんに出そうとした飲み物には、保健室から盗んできた睡眠薬を混ぜてましたから」

歩夢「なっ……!?」

かすみ「見張りシステムを機能停止させ、包丁を盗んだ人が誰かを殺しやすい状況を作る……こんな楽しいゲーム、乗らないワケにはいきませんよ」

曜「最っ低……」

花丸「でも……現に乗った人がいた」

かすみ「サファイアさんだけじゃありません。ルビィさんも、せつ菜さんも……どうやら、あの映像は皆さんに突き刺さったみたいですね」

せつ菜「……」

かすみ「ちなみに、ルビィさんもサファイアさんと同じ。実は、苗字が津島だったんですよね~♪」

ダイヤ「……ルビィ、が?」

モノっちー「黒澤家と津島家……両者の間には、表に出すことが憚られる事情がたくさんあったワケです」

モノっちー「その事情の結果、黒澤家とは血縁でないルビィさんが黒澤ダイヤさんの妹となったワケですが……」

モノっちー「不思議に思いませんか? そんな彼女が何故《超高校級の妹》などと呼ばれるようになったのか」

モノっちー「ぶっちゃけ、血の繋がっていない姉に対して実の妹のように接していたこと、その小動物のような性格、言動……」

モノっちー「誰の目から見ても『黒澤ルビィは妹だ』と思われる……ある意味、そんな彼女を皮肉った肩書だったワケですネ」

モノっちー「余談ですが、ルビィさんが誰かの殺害を計画したのも、あの動機ビデオが──」

ダイヤ「もういいです……聞きたくありません……」

歩夢(ダイヤさんの言う通りだ。これ以上、モノっちーにどうこう言われたくなかった)

歩夢(確かに、ルビィちゃんは『妹』を体現したような子だった。昨日、映像に怯える彼女を慰めた時、それを感じた)

歩夢(でも、彼女は立ち直ろうとしていた。気丈に振る舞い、みんなとUNOを楽しんでいた)

歩夢「あなたに……ルビィちゃんの何が分かるの!」

歩夢(……気づいたら、その言葉が口から飛び出していた)

モノっちー「うけけけけけ……」

歩夢(みんな……モノっちーを睨んでいた。ヘラヘラしているかすみちゃんと、うなだれる善子ちゃんを除いて)

善子「ねえ。私は……どうすればよかったのかしら」

善子「もし私が、昨日の夜、トイレに行かなかったら」

善子「もし私が、血まみれのルビィを見た時、誰かをすぐに呼んでいれば」

善子「もし私が……出生の秘密を知りたい、なんて欲に負けなければ」

善子「血が繋がってないとはいえ、妹を殺すことにはならなかったのかしらね……」

モノっちー「ところでさあ。しんみりムードのなか悪いんだけど……これから何が始まるか分かってる?」

千歌「何が……って」

果林「オシオキ……犯人への処刑、と言ってたわね」

善子「分かってるわ。デスゲームものにおいて、物語の中で誰かを殺した人は、たいてい物語が終わる前に死ぬ」

善子「最後に幾つか、堕天使ヨハネからの啓示よ。今後も誰かを殺める罪深き者が出るなら……あなたは、もっと計画性を練ることね」

善子「でないと、即興であらゆる仕掛けを考えざるを得なかった私のように、いずれ足元を掬われるだろう」

善子「そして、希望を捨てぬ者たちよ……。あなたたちが未来を掴みたいというのなら」

善子「必ず、この忌々しい檻、虹ヶ咲学園を取り巻く謎を陽の下に晒してみせなさい!」

善子「もっとも、議論のスキルが必要になるかも知れないから……それは留めておくことね」

善子「さあ、この堕天使ヨハネが、現世への未練を断ち切れなくなる前に……早く、終わらせてもらいましょうか」

歩夢(僅かに震えている声は、善子ちゃんの強がり……そう思えて仕方がなかった)

モノっちー「今回は《超高校級の配信者》津島善子さんのために、スペシャルなオシオキを用意しました!」

善子「はあ……これで終わりね……」

モノっちー「それでは、ワックワクでドッキドキの……」

善子「さよなら……お姉ちゃん」ボソッ

ダイヤ「っ、待っ──」

モノっちー「オシオキターーーーイム!!」

ダイヤ「サファイア!!!」


     GAME OVER
ツシマさんがクロにきまりました。
  おしおきをかいしします。

歩夢(善子ちゃんに駆け寄ろうとするダイヤさん)

歩夢(でも、その手は妹に届かなくて)

歩夢(善子ちゃんは、どこからともなく出てきた首輪に引きずられ、扉の向こうへと──)


津島善子がたどり着いたのは、広く、薄暗い部屋。

磔にされた彼女を、PCの画面越しに見ているモノっちー……。



      〈Hell Tube〉
《超高校級の配信者 津島善子処刑執行》

モノっちーは、一つの動画を見ているようでした。

カチリ。再生ボタンをクリックすると、画面の向こうで、金属が怪しげな音を響かせます。

磔にされた善子の周りを、数多の電動ノコギリが漂っていました。

モノっちーはマウスを握ったまま、じっと動画の成り行きを見守ります。

1回、2回、3回。電動ノコギリが何度も何度も、善子の身体を傷つけては離れ、傷つけては離れを繰り返します。

そのたびに善子は苦しむ様子を見せますが、強がっているのでしょうか、あまり表情を崩そうとしません。

怒ったモノっちーは、メニューバーの設定機能を使い、再生速度を倍速にしました。

ギュィィィィィィン!

するとどうでしょう。ノコギリが善子を狙う頻度が倍になりました。

20、30、40……致命傷にならない傷を幾つも作り、それでも善子は顔を変えませんでした。

動画のシークバーは終わりに差し掛かっています。このままなら、彼女は瀕死にはなるものの、オシオキを耐えて生き延びるでしょう。

ですが、モノっちーはそれを許しませんでした。シークバーをメチャクチャに弄り始めたのです。

70、80、90……メチャクチャな動きで善子を傷つけるノコギリ。

しぶといことに、彼女はまだ表情を崩しませんでした。

カチリ。モノっちーが再生停止ボタンをクリックすると、電動ノコギリも全て動作を停止します。

「…………ヨ……を……る、な……」

涙を堪え、何かを言っているようです。モノっちーは、音量バーのツマミを最大に上げました。

「だてんし、ヨハネを……なめる、な……」

少し黙った後……モノっちーは、1つのボタンをクリックしました。

ダン!!!

巨大なブーイングマークに、一瞬で押し潰される善子。

もはや、跡形も残されていないでしょう。

モノっちーが押したのは、動画につけられる『低評価』のマーク。

『この動画はユーザーの手によって削除されました』

その文字列を見ながら、呆れたように笑うモノっちーでした。

モノっちー「いやっほう! エクストリーーーームッ!」

ダイヤ「ぁ、っ……」

エマ「いやあああああああああ!?」

梨子「酷い……」

せつ菜「こんなのって……」

花丸「……」

かすみ「……♪」

璃奈「悪趣味……(>_<。)」

歩夢(私たちの目の前で……善子ちゃんは、死んだ)

歩夢(惨たらしく、尊厳を踏みにじられ……モノっちーの手で処刑された)

モノっちー「いやあ、最初のオシオキとしては物足りなさがあるけど……それでも凄いね! こう、脳汁がドバドバ出るっていうのかな!」

愛「いや、こんなのゲロしか出ないって……ちょっと、トイレ行って来ていい?」

モノっちー「いいよ~。裁判は終わったし、あとは自分の部屋に戻るなり、好きにしちゃってくださいな!」

愛「みんな、お先失礼するね……」ウェッ

モノっちー「それにしても、オマエら、クロにまで言われちゃったねえ。もう少し議論を上達させないと、学級裁判を生き残れないよ?」

歩夢「……ふざけないで」

モノっちー「うん?」

歩夢「ふざけないで。私たちはこれ以上、犠牲を増やさない。死んだ2人のためにも、生きて、ここから出るんだ!」

モノっちー「……」ハァ

モノっちー「うけけけけけ……威勢だけはいいよね、歩夢さんは」

歩夢「……?」

モノっちー「この学園の秘密が解き明かされた時……オマエが絶望する顔を見るのが楽しみだよ」

鞠莉「じゃあ、1ついいかしら」

モノっちー「どうかしたの? ボクはクレームを受け付けたりはしないよ」

鞠莉「モノっちーファイルを見ていた時、妙に引っ掛かったことがあったのよね」

彼方「引っ掛かったこと?」

鞠莉「生年月日よ」

曜「生年月日……?」

モノっちー「おっと、小原さん。早速ボクが仕掛けたヒントに気付いちゃったねえ」

鞠莉「あのファイルには被害者の生年月日も一緒に書かれていたワケだけど……2003年9月21日」

鞠莉「ヘンね。私は2001年6月13日生まれ、留年をした覚えはない……」

千歌「あれ……私は2002年生まれだよ?」

曜「うん、私も……」

しずく「私は2001年です……」

鞠莉「なのに私たちはあの日、『入学式』の名目で体育館に集められた……」

鞠莉「これって一体どういうことなのかしらね?」

モノっちー「うけけけけけ……そこから先はオマエらで考えてよ。じゃあ、ボクはそろそろ帰るネ」

歩夢(不快な笑い声をあげ、モノっちーは裁判場から姿を消した)

歩夢(後には、仲間を喪った悲しみと、湧き上がる疑問の処理に困る私たちが残されていた……)

────同日夜、せつ菜の部屋。

歩夢「入るよ、せつ菜ちゃん」

せつ菜「歩夢……」

歩夢「大丈夫。せつ菜ちゃんを殺すとか、そんなことは考えてないから」

せつ菜「……怒って、ますか?」

歩夢「怒ってないよ」

せつ菜「ですが、私は歩夢を……」

歩夢「ううん、いいの。むしろ、せつ菜ちゃんの様子がおかしいことに気付いてあげられなかった私のせいなんだから」

せつ菜「でも!」

歩夢「……」ギュッ

せつ菜「っ……!」

歩夢「手、冷たいよ……? それに震えてる……」

せつ菜「歩夢の手は、温かいです……」

歩夢「昔、聞いたことがあるんだけど……こうやって、誰かの体温を感じると、リラックス出来るんだって」

歩夢「……どう、かな?」

せつ菜「ぅ、ぁ……」

せつ菜「ごめんなさい、ごめんなさい歩夢……」

歩夢「いいの。私はせつ菜ちゃんを、友達を責めるなんて、出来ないから……」

せつ菜「うぅ、うあぁぁぁぁぁ……」

歩夢(ひとしきり泣きわめくせつ菜ちゃんを、私はぎゅっと抱きしめた)

歩夢(きっとせつ菜ちゃんにも、大切な何かがあったのだろう)

歩夢(でも、モノっちーはその『大切な何か』への想いを踏みにじり、殺し合いを起こした)

歩夢(だから、ルビィちゃんや善子ちゃん、せつ菜ちゃんがそれに乗せられてしまった)

歩夢(大丈夫。きっと私がみんなを、この学園の外に、出してあげる……)

歩夢(そういえば、もうすぐ夜時間だけど……)

歩夢(『他人の個室で寝ること』は禁じられていなかったし……いいよね)



────同時刻、校舎1階。

(やっぱり……倉庫も入れるようになってるみたい)

(……ん?)

「あれは……?」

Chapter1 END

ttps://i.imgur.com/ZrqWeMr.png

To be continued……


プレゼント“黒い羽根”を獲得しました。

今回はここまで。

赤く、不透明な世界。

ただ、うめき声と叫び声だけが聞こえる。

何が起きたんだろう。あれらの声は誰のものなんだろう。

そんなことを想っているうちに、ぼやけていた視界が晴れてゆく。

けれども、視界を覆う赤は剥がれなくて──


歩夢「……っ」ガバッ

歩夢(そこで、私の目は覚めた)

────学園生活6日目

キーンコーンカーンコーン

モノっちー『おはようございます、朝7時になりました』

モノっちー『さてさて、今日も1日頑張っていきましょう』

プツン

歩夢(何だったんだろう、今の夢……)

せつ菜「zzz……」

歩夢「……」

歩夢(いつものアナウンスで目を覚ます。あれから結局、せつ菜ちゃんの部屋で寝てしまっていた)

歩夢(モノっちーが何かを言ってくることもなかったし、個室であれば他人の部屋での就寝も問題ないらしい)

歩夢「はぁ……」

歩夢(ルビィちゃんが殺され、犯人だった善子ちゃんが処刑された)

歩夢(モノっちーは、みんなにまだまだ学園生活を強いるつもりでいる)

歩夢(18人だった私たちは、あっという間に16人に減ってしまった)

歩夢(もし、これからも殺人が起きたら? もし、またあの学級裁判が開かれたら?)

歩夢(……ここを出る頃には、私たちは何人になっているのだろう。そんな不安が頭をよぎった)

せつ菜「……おはようございます、歩夢」ムクリ

歩夢「うん、おはよう」

せつ菜「幼稚園以来でしょうか。こうして2人で寝るのは……」

歩夢「一応、この前の保健室はそうだったんじゃないかな?」

せつ菜「あ、あれはノーカウントです!」

歩夢「……そうだね」フフッ

せつ菜「何がおかしいんですか!」

歩夢(せめて、せつ菜ちゃんだけでも……そんな妥協と弱音が混ざった思考を振り払う)

歩夢(みんなで出るんだ、ここから。死んだ2人のためにも……!)



      Chapter2

Spiteful Trapper (非)日常編

────食堂

歩夢「おはようございます」

せつ菜「……あんまり人がいませんね」

果林「そうね。あんなことがあったばかりだし……」

歩夢(起きてこない人、起きているけれど部屋から出たがらない人……。食堂は、普段と比べて静かだった)

梨子「あの……一応、来てないみんなに朝食を届けて来ようと思うんだけど」

しずく「あ、手伝います!」

果林「私も食べ終えたら手伝うわ。結構な数だし」

梨子「あ、いいんですいいんです。まだ食べてる人に急かすような真似は……」

果林「そう? じゃあお言葉に甘えて。歩夢ちゃんたちも早くいらっしゃい、みそ汁が冷めるわよ」

せつ菜「みそ汁? パンじゃないんですね」

梨子「ええ。一応パンもあるけど、和食にしたの」

歩夢(なんで……訊ねる前に、不服そうな顔を浮かべる“彼女”の姿が目に入った)

かすみ「まったく、パン屋業界の危機ですよ」プンスカ

曜「危機だかWikiだか知らないけど、よく顔を出せたよね」モグモグ

かすみ「だってかすみん食事係ですし~? 果林先輩たちに外されましたけど」

歩夢(その場にいたみんなが、曜ちゃんみたいに冷たい視線を“彼女”へ向ける)

歩夢(中須かすみちゃん。殺し合いをゲームのように楽しみ、事件をわざと起こさせた張本人)

曜「誰かさんが余計なことをしなけりゃ、ルビィちゃんも善子ちゃんも死ななかったのにね。ごちそうさまでした」

かすみ「別に私が行動しなくたって……おっと失礼。ところで曜先輩、ご飯3杯は食べすぎじゃないですか?」

曜「誰かさんのせいでね。やけ食いになっちゃった」

果南「……私はあまり食欲湧かないんだけど」オハヨー

曜「梨子ちゃんしずくちゃん、私も運ぶよ。誰かさんと同じ部屋にいたくないし」

梨子「え、あ、うん……」

かすみ「さっきから誰かさん誰かさんって、誰のことなんでしょうね?」

せつ菜「あなた以外に誰がいるのですか……」ハァ

歩夢(結局。正午を過ぎても、何人かは食堂に姿を見せなかった)

果林「……まあ、仕方ないわね」

鞠莉「あんなことの後じゃあ、ねえ……」

しずく「ダイヤさんはしばらく1人でいたいそうですし、花丸さんも見張りの件で責任感じちゃってるみたいです……」

璃奈「彼方ちゃんもずっと部屋に引き籠ってた(>_<。)」

梨子「3人とも朝食に手をつけてないから、ちょっと心配ね……」

せつ菜「死んでは……いないんですよね?」

果南「大丈夫、生きてるよ」

愛「かっすんもいないけど……まあいいよね?」

千歌「かすみちゃんは……いたら、なんだかフインキ悪くなりそうだし」

エマ「あれ、フンイキじゃなかったっけ?」

果林「フンイキで合ってるわよ。それでエマちゃん、昨日何か見つけたって言ってたけど……」

エマ「あ、はい。実は昨日……」

────校舎1階、2階への階段前

歩夢(エマちゃんの発見は、この学園生活に大きな変化をもたらすものだった)

歩夢「本当だ……シャッター、上がってる」

千歌「上、行ってもいいんだよね?」

エマ「だと思うよ。校則には『この学園について調べるのは自由』って書いてたし……」

鞠莉「じゃあ、何組かに分かれて探索といきましょうか」

梨子「あ、私はお昼ご飯作って来ます。ダイヤさんたちの分も用意しないといけないし」

果林「じゃあ私も、誰か来てるかも知れないから一旦食堂に戻るわね。昼食のあと情報交換にしましょう」

愛「うぃっす、任せたよー」

せつ菜「行きましょうか、歩夢」

歩夢「うん」

歩夢(脱出への手掛かりが見つかる。そのことを願って──)

歩夢(私たちは、2階へと足を踏み入れた)

────校舎2階

せつ菜「見てください歩夢。電子生徒手帳のマップが……」

歩夢「そう、みたいだね」

歩夢(2階が開放されたからなのだろう。マップに新しく、2階のページが表示された)

ttps://i.imgur.com/zYTEWuk.jpg

歩夢「プールに図書室、理科室と教室か……」

せつ菜「男子用のもありますね……私たち、女子しかいませんが」

モノっちー「まあ、学校である以上は教職員用って必要だしネ」

歩夢「ひゃぁ!?」

モノっちー「そんなに驚かなくってもいいのに~。どう、2階は気に入ってくれたかな?」

せつ菜「気に入るも何も、まだ探索が済んでませんし……そもそも、私たちはここから出る手掛かりを探してるんです!」

モノっちー「うけけけけけ……まあ、精々頑張ることだネ」

歩夢「……行っちゃった」

────女子更衣室

鞠莉「Hi♪」

果南「やっほ、2人とも!」

歩夢「果南さん、その恰好は……」

せつ菜「ダイバースーツ……?」

果南「だってプールだよ!? 淡水だけど泳げるんだよ!? 潜れるんだよ!?」

鞠莉「奥にスクール水着とダイバースーツ一式があったわ。多分、みんなにあったサイズがあるんじゃないかしら」

果南「ここから出れば近くに海はあるっちゃあるけど……あそこは汚いしねえ」

モノっちー「まあ、お台場の海はとてもじゃないけど泳げたもんじゃないよネ。ボクも内浦にいた頃が懐かしいよ」

せつ菜「……また出た」

モノっちー「オマエらに一応、プールの説明をしておいた方がいいと思ってネ。とりあえず、電子生徒手帳の校則一覧を見て欲しいんだけどさ」

~校則~

10.夜時間のプールの遊泳は禁止とします。

モノっちー「水の管理とか色々あるからネ。更衣室やプールサイドに立ち入るのは自由だけど、水の中に入っちゃダメだよ?」

鞠莉「ナイトプールみたいなのはNGってことね。分かったわ」

モノっちー「あーそれと。更衣室は男女に分かれてるけど、ぶっちゃけこの学園に男子も女装男子も男の娘もいないから自由にしちゃって構わないよ」

せつ菜「男の娘……?」

モノっちー「それに、更衣室の出入りに電子生徒手帳が必要とかもないよ。とりあえず遊泳だけはダメ、覚えといてネ!」

果南「あー……なんかテンション削がれたけど。まあいいや、私はひと潜りしてくる!」

鞠莉「いってらっしゃい、私は他の探索を続けるわ。じゃあね~」

せつ菜「……歩夢、男の娘ってなんでしょう?」

歩夢「多分、せつ菜ちゃんは知らなくていいと思う……」

────理科室

かすみ「げっ」

せつ菜「……先に来てたんですね」

かすみ「ええ。2人も2階の探索ですか~?」

歩夢「……」

かすみ「しかしまあ、殺そうとした人と殺されかけた人。よく一緒にいれたものですね~」

かすみ「曜先輩はあんなこと言ってましたけど……私がいなくたって、殺し合いを起こそうとしてた人が目の前にいたんですよ?」クスクスクス

せつ菜「──ッ!」

歩夢「せつ菜ちゃん、落ち着いて!」

歩夢(思わずかすみちゃんに掴みかかろうとしたせつ菜ちゃんを、反射的に抑える)

歩夢(私を絞めたあの時とは違う……せつ菜ちゃんの行動に“迷い”が見えない。放っておいたら……悪い予感がした)

かすみ「じゃあ私はこれで失礼しますね。歩夢先輩、せつ菜セ・ン・パ・イ?」

タッタッタッ

せつ菜「……」

歩夢「人のことを悪くは言いたくないけど……かすみちゃんの話は真面目に聞いちゃダメ、だよ」

せつ菜「……」

せつ菜「そう、ですね……」

歩夢(昨日の学級裁判で、鞠莉さんが話した“生年月日”の話題……)

歩夢(あれ以来、かすみちゃんは年上の人に対して先輩呼びをするようになった)

歩夢(まだ生年が分からない人がいるけれど、きっとその人たちも年齢が判明すれば、かすみちゃんは先輩呼びするのだろう)

歩夢「……」ハァ

歩夢(特に手掛かりのなかった理科室を調べ終えて、私はため息をついた)

────図書室

愛「やっほー」

璃奈「……(・v・)」

せつ菜「本棚、多いですね……ぎっしり詰まってる」

愛「もしかしたらマルっちの書いた本が見つかるかもね。漫画はなさそうだけど……」

璃奈「図書室って、漫画はないと思うけど(・v・)」

愛「ほらこう……海賊王の冒険とか、願いを叶える七つのボールを集めるのとか、それ以外だとトラブルだらけの恋愛モノとか、真実はいつも一つな探偵とか……」

歩夢「こ、これ以上は危ない話になる気がするから一旦よそう!?」

せつ菜「見てください歩夢、こっちの棚にいっぱいライトノベルがあります! 可愛くないツンデレ妹モノやゼロから始める異世界転生モノ、ああ、魔法少女モノまで……」

歩夢「危ない話はよそうって言ったよね!?」

璃奈「……ところで。これ、何(・v・)?」

愛「ん、どしたのりなりー」

歩夢「ノートパソコン……?」

カチッ カチッ

せつ菜「……電源、つきませんね」

愛「あーこれ、バッテリーがついてないや」

璃奈「探さないといけないね(>_<。)」

歩夢「多分、この部屋にあると思うけ──」

バァン!

歩夢「──ど?」

せつ菜「……しずくさん?」

しずく「……っ」

ダッ!

愛「……隣の部屋から出て来たよね? というか、何か持ってなかった?」

────書庫

歩夢(図書室の奥にある小部屋は、図書室よりも本やファイルなんかの密度がびっしりで)

歩夢(その中央で、エマちゃんがあたふたしていた)

エマ「しずくちゃん、急に逃げるように……私、何か悪いことしちゃったのかな?」

エマ「うぅ……みんなと打ち解けようって、喋り方を変えたのがマズかったのでしょうか……」

愛「いや、言いながら戻さなくていいからね!?」

エマ「でも……」

せつ菜「この辺り、ファイルが落ちてますけど……しずくさんが持っていたのも、こんなものでしたよね?」

エマ「しずくちゃん、何か読んでたみたいで……」

璃奈「じゃあ、そのファイルの中に……何か、悪いものでも見ちゃったのかもね(>_<。)」

歩夢「悪いもの、って?」

璃奈「……人には人の秘密がある。多分、エマさんは悪くないよ(>_<。)」

エマ「だといいんだけど……仲直り、出来るかなあ」

愛「大丈夫大丈夫。今度、愛さんが仲直りのコツを教えて進ぜよう!」エヘン

エマ「あ……ありがとう、愛さん!」

愛「愛ちゃんでいいよ?」

エマ「でも、自分のことを愛さんって……」

璃奈「愛ちゃんは、呼ばれるなら愛ちゃんがいいらしい……私、何度も言われた(・v・)」

エマ「じゃあ、愛ちゃん」

愛「よろしい!」

せつ菜「……みんな、少しずつでも仲良くなる努力をしてるみたいですね」

歩夢「……うん」

歩夢(それにしても、一体なんのファイルだったんだろう)

歩夢(落ちてるファイルはどれも『未解決事件・ケース〇〇』と書かれたものばっかり……)

歩夢(……まさか、ね?)

────3階へ続く階段前

千歌「2階の窓も全部ダメ。こっちはシャッター閉まってるし、なんなの!」

歩夢「怒らなくても……」

千歌「たまにはお日様に当たりたいの! ずっとこの学園に閉じ込められたままだから、どうにかなっちゃいそうだよ!」

せつ菜「教室の窓も全部ダメだったのですか?」

千歌「そうだよ。手掛かりも全然見つからなかったし……」

千歌「あーもう、シャッター開けーーーー!!!!」

せつ菜「……開けゴマ、とはいきませんね」

千歌「ぐぬぬぬぬ……叫んだらお腹すいてきちゃった」

歩夢「とりあえず、一通り調べ終わったみたいだし……一旦戻ろっか」

せつ菜「それにしても、何階まであるのでしょうか……」

────夜、歩夢の部屋

キーンコーンカーンコーン

モノっちー『えー、夜10時になりました。ただいまより夜時間になります』

モノっちー『まもなく、食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となります』

モノっちー『また、本日校則を一つ追加致しました。夜時間でのプールの遊泳も禁止となります』

モノっちー『それでは皆さん、おやすみなさい』

プツン

歩夢(結局、今日は彼方ちゃんたちが姿を見せることはなくて)

歩夢(それどころか、梨子ちゃんが何かを見つけたみたいで部屋に籠ってしまった)

歩夢(お陰で、せつ菜ちゃんが張り切って料理を作ってくれたけど……)

歩夢「せつ菜ちゃん、料理苦手だったんだ……」

歩夢(見た目はともかく、味の感想は……。梨子ちゃんの復帰が待たれる、としか言いようがない)

歩夢「明日には仕上げるから、って言ってたけど……何のことなんだろう」

歩夢「……」ハァ

歩夢(ここに来てから、一生分のため息をついた気がする)

歩夢(不安や疑念から来るそれは、まだまだ増えるような気がして……)

歩夢(もう一度、ため息をついた)

~モノっちー劇場~

お花見、海水浴、焼き芋、雪だるま……。

漫画やアニメ、小説に映画……それらに限ったことじゃないけど、季節ネタってどこにでもあるよネ。

お盆の時期にクリスマスの作品はどうしても場違いになるし、雪の季節に梅雨のネタなんて……って、違和感を覚えちゃうよネ。

でもそれは、季節の変化を感じられる世界だから使えるんだ。

窓の外の景色や気温で「ああ、季節が変わったんだな」と感じられる世界だからこそなんだ。

……つまり何が言いたいかって?

オマエら、よいお年を!

今回はここまで。

────学園生活7日目

歩夢(モノっちーのアナウンスで目が覚めて、食堂に向かう支度をする)

歩夢(習慣化してしまった生活に、軽く嫌気がさしていた)

ピンポーン

歩夢「……?」

ピンポーン ピンポーン ピンポーン

歩夢「はーい、誰でs……」

ガチャリ

彼方「ぐんもーにん歩夢~! 朝食が出来たから呼びに来たぞ~!」

歩夢「か、彼方ちゃん?」

彼方「彼方ちゃんですよ~? ほら、早く支度をしろ~!」

歩夢(なんだろう、機嫌がいいのかな?)

歩夢「……凄く、ハイテンション」

────食堂

歩夢「おぉー……」

せつ菜「凄い量……」

歩夢(テーブルに並べられた食事は、昨日までのものとは明らかに違った)

曜「いただきます」

彼方「どうぞどうぞ、召し上がれ~」

鞠莉「ん~~っ、It’s delicious! まさかウチ以外で朝からクラムチャウダーを食べられるなんて!」

果林「このオムレツも、トマトの酸味と卵のコクが混ざって……今まで食べたことない味だわ」

かすみ「……おにぎりは専門外ですけど、なんだか負けた気分」モグモグ

せつ菜「今度、彼方さんにお料理を教わらなきゃ……」

歩夢(次々とあがる称賛の声。昨日の夕食が“アレ”だったことを加味しなくても、この学園に来てから一番美味しい食事だ)

千歌「これ全部彼方ちゃんが作ったの?」

彼方「そうだよ~。私は残りのみんなを呼んで来るから、しっかり味わいたまえ~」

タッタッタッ

かすみ「それにしても……急に元気になりましたね、彼方先輩」モグモグ

エマ「元気なのはいい事、です」モグモグ

曜「しかもこんなに美味しいご飯作れるなんて……ゴクン あ、おかわり欲しいんだけど……」

果南「炊飯器なら厨房に……ってもう2杯目!?」

果林「曜ちゃん、まだ来てない子たちの分も残しておかないとダメよ?」

歩夢(数分後、彼方ちゃんに連れられて愛ちゃんが。その後ろから、元気の無さそうな花丸ちゃんとしずくちゃんが)

歩夢(程なくして、ボサボサ髪で、一睡もしていないであろうダイヤさんが食堂に現れた)

愛「りこっぴーとりなりーはもうすぐ来るってさ。それより、マルっちから何か話があるみたいだよ?」トンッ

花丸「え、あっ……」

愛「大丈夫だって。ほら」

花丸「……」

花丸「みんな、ごめんなさいずら」

一同「……」

花丸「ルビィちゃんの事件は、全部マルのせいずら。マルがしっかりしていれば、ルビィちゃんは……」

ダイヤ「花丸さん……。その、あなただけの責任じゃなくて……」

花丸「でも! 見張りを怠らなければ……っ!」

ダイヤ「……」

歩夢(苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるダイヤさん。事件に関与していたとはいえ、どうしても割り切れない部分があるのだろう)

歩夢(一方の花丸ちゃんは責任を強く感じすぎている。「でも」の一言で、全てを自分で背負い込もうとしている)

歩夢(なんとかしなきゃ、そう思った時)


「花丸ちゃんのせいじゃないよ」

花丸「えっ……?」

歩夢「嘘……」

ダイヤ「ル……ルビィ……?」

歩夢(みんなの表情が、幽霊を見たようなものに変わる)

歩夢(だって。“死んだ筈のルビィちゃんがそこに立っていた”んだから)

ルビィ?「花丸ちゃんも、お姉ちゃんも悪くない」

ルビィ?「だからね、二人が背負い込む必要はないんだよ」

ルビィ?「二人が悪いなら、包丁を持ち出した私はもっと悪いことになっちゃうワケだし……」

ルビィ?「……どう、上手く真似出来た?」

曜「あれ、この声って……」

愛「そ。りなりーだよ♪」

璃奈「……うん」

歩夢(いつの間にか、目の前にいる少女が璃奈ちゃんの姿に変わっていた)

ダイヤ「っ……」

璃奈「騙すような真似しちゃってごめん。でもきっと、ルビィちゃんだったらこう言う(・v・)」

璃奈「二人があまりにも思い詰めているみたいだったから、何とかしてあげたくて……。そうしたら、愛ちゃんが嗅ぎつけてきて……(>_<。)」

花丸「……愛さん」

愛「だってさぁ、いつまでも引きずってちゃ前に進めないじゃん」

愛「自分のせいで自分のせいでって、突き詰めて行ったらキリがないの。やれマルっちが悪い、やれダイヤっちが悪い、かっすんが悪いって」

かすみ「なんで私の名前が出てくるんですか」

鞠莉「今回、明確に悪意を持っていたのはかすみだけだったからね~」

愛「いやいやマリー違うっしょ!? 確かにかっすんは悪いかも知れないけどさぁ、モノっちーがいなけりゃあんなことしなかったよね?」

ダイヤ「あっ……」

愛「悪意とか責任の所在とか、愛さんはまどろっこしいの嫌いなの! そんなの、モノっちーを倒して全部押し付ければいいんだよ」

愛「だからさ、せめてそれまでは前を向いて欲しい。後ろを向くのは、目の前の壁をぶっ壊してからじゃん?」

ダイヤ「愛、さん……」

花丸「……」

梨子「私も愛ちゃんの意見に賛成よ」

千歌「あれ、梨子ちゃん?」

歩夢(振り向くと、いかにも徹夜明けといった雰囲気の梨子ちゃんの姿があった)

せつ菜「昨日は何をしていたのですか?」

梨子「ダイヤさんと花丸ちゃんに、渡したいものがあったの」スッ

ダイヤ「絵……ですか?」

梨子「校舎1階の倉庫に使い慣れたものと同じ画材が揃ってたから、落ち込んでる二人のために、ってね」

歩夢(片や、花丸ちゃんとルビィちゃんが、食堂で仲良くお喋りしていた風景を切り取って)

歩夢(片や、ダイヤさんとルビィちゃん、そして善子ちゃんの、あったかも知れない三姉妹の日常)

歩夢(それは、見事なまでの水彩画だった)

梨子「お陰で、寝不足になっちゃった。背景の描きこみが甘いから、必要なら足してもいいけど……」

花丸「いらない。これで、いいずら。これで……」

ダイヤ「ありがとうございます、梨子さん……」

グゥゥゥゥ~~~ッ

花丸「あっ……」

ダイヤ「……一昨日から、あまり物を食べていませんでしたわね」

千歌「ほらほら、一旦絵は横のテーブルに置いておくから二人とも座りたまえ~♪ 梨子ちゃんも!」

梨子「ちょっと、押さないでよ千歌ちゃん」

曜「彼方ちゃんの作ってくれたご飯、とっても美味しいよ!」

エマ「こういうのを、花より団子と言うのでしょうか?」

せつ菜「多分、違うと思います」

歩夢(感動ムードは、二人の空腹を訴える音でかき消された。けれども、このくらいが私たちにはちょうどいいのかも知れない)

歩夢(ぶつかったりもするけれど、笑い合って、たまにふざけて。きっとみんなも、ルビィちゃんと善子ちゃんも、そんな生活を望んでいた筈だから)

歩夢(愛ちゃんたちの言うとおりだ。モノっちーをどうにかして、この学園から脱出するまでは前を向く)

歩夢(決意を新たに、私たちは彼方ちゃんの朝食に舌鼓を打った)



しずく「……」

かすみ「……♪」

────20時頃、大浴場

かすみ「……で、何人か来てませんけど~? しずくさんとか」

千歌「ええっと……参ったね」

ダイヤ「彼方さんもダメでした。鞠莉さんに至っては……どこにいるのでしょう」

愛「りなりーもだよ。やっぱり、どうしても抵抗があるってさ」

せつ菜「仕方ありませんね……とりあえず、私たちは先に入りましょうか。あまり待ちすぎると夜時間になっちゃいますし」

歩夢「そうだね……」

歩夢(今ここにいるのは、鞠莉さん、しずくちゃん、璃奈ちゃん、そして彼方ちゃんを除く全員)

歩夢(どういう経緯でこうなったのか……それは、夕食中の話にさかのぼる)

───
──


千歌『温泉だよ!』ガタッ

歩夢『えっ?』

果南『ちょっと千歌、急に立ち上がってどうしたの』

千歌『だから温泉だって!』

果林『ここには温泉なんてないわよ? 大浴場のことを言ってるのかしら』

千歌『あーもう。だったら大浴場!』

愛『だから、それがなんなのさ?』

千歌『分からないかな~。みんなのシンボクを深めるために、一緒にお風呂に入ろうって話なの!』

しずく『一緒に……ですか』

ダイヤ『確かに、アイデアとしては悪くありませんわね。私たちはまだお互いの素性を分かり合えたワケではありませんから、腹を割って話しやすい場を設けるのは──』

かすみ『現に、しっかり話をしなかったお陰で黒澤さんたちは……』クスクス

ダイヤ『ッ……』

鞠莉『ダイヤ、落ち着きなさい』

ダイヤ『……オホン、失礼。つまり、今後団結してモノっちーに立ち向かうためにも、一度裸の付き合いを挟もうというワケですね』

せつ菜『裸の……って、なんだかいやらしい言い方ですが』

千歌『別にそこまでは言ってないけど……でも、どうかな? 歩夢ちゃんとか』

歩夢『えっ、何で私!?』

千歌『向かいの席にいたからだよ♪ で、どう?』

歩夢『んー……私は賛成だよ。別に否定する理由もないし』

千歌『よし、じゃあ今夜8時に大浴場前に集合ってことで!』

彼方『んあー。ごめん、パスでいいかな?』

千歌『……へっ?』

彼方『りこっぴーが倉庫で見つけてくれた枕がじゃすとふぃっとしてさ~。彼方ちゃんはそろそろおやすみしたい気分なのだ』

千歌『そんなぁ……。じゃ、じゃあ明日はどうなの!? 明日もやる予定だけど!』

しずく『え、明日もやるんですか……?』

彼方『ごめんねぇ。彼方ちゃん、湯舟に浸かるとすぐに寝ちゃいそうだし……シャワーは浴びるから……じゃあねぇ』ウツラウツラ

しずく『ごめんなさい、私もちょっと……あ、ごちそうさまでした!』タッタッタッ

エマ『しずく、さ……行っちゃった』

璃奈『……ごめん。素顔、見せるの恥ずかしいから(>_<。)』トテトテトテ

愛『え、ちょっとりなりー!?』ダッ

千歌『……』

花丸『とりあえず、残った人たちだけでも集まるずら?』

千歌『そう、だね』アハハ……


歩夢(そんなこんなで、大浴場に足を踏み入れる)

歩夢「そういえば、まだ入ったことなかったっけ……って、えっ?」

果南「鞠莉!?」

鞠莉「Hi♪」カタカタ

エマ「鞠莉さん、それは一体……?」

鞠莉「見て分からないの? ノートパソコンだけど」カチッ カチッ

歩夢(部屋にいなかった鞠莉さんは、脱衣所の隅にあるマッサージチェアに座り、真剣な顔でノートパソコンをいじっていた)

せつ菜「確か、図書室にあったものですよね?」

愛「ああ、バッテリー見つかったんだ」

鞠莉「倉庫を漁ったらね。画材や枕があるくらいだし、あってもおかしくないでしょう?」カタカタ 

かすみ「ネットには繋がってるんですか~?」

鞠莉「答えはNo……っと。一旦休憩にしましょうか」フゥ

曜「何か見つかったの? というか、なんでこんなところで……?」

鞠莉「その辺もお風呂に入りながら説明しましょう」

チャポーン

果林「ん~~~~っ」ノビー

花丸「いい湯ずら~」ポケー

エマ「日本のお風呂……いいものです……」ノホホーン

鞠莉「んー……上物揃いだけど、特に果林たちはいいモノ持ってるわね」

果南「セクハラ禁止!」パシン

鞠莉「ouch!」

歩夢「それで、話をするって言ってましたけど……」

千歌「そうそう、ずっとそれ気になってるんだけど!」

鞠莉「みんなは気づいたかしら? 他の部屋とここには、決定的な違いがあるのよ」

曜「決定的な違い……?」

果林「監視カメラがないこと、かしら」

歩夢「言われてみれば……!」

鞠莉「Yes! 脱衣所、バスルーム、サウナ。放送を伝えるモニターはあるけど、監視カメラはここにはないのよ」

愛「んー……監視カメラがないと何なの?」

梨子「言い換えれば、モノっちーの監視が届かない場所。モノっちーに聞かれるとマズいことを話すには、うってつけね」

鞠莉「そういうこと~」グッ

かすみ「ってことはモノっちーにすら犯人の分からない殺人も……」ブツブツ

果林「何をボソボソ呟いてるのかしら~?」ニッコリ

かすみ「か、果林先輩……?」

果林「あなたには一度お灸を据えた方がいいと思うのよね~」ワシワシ

かすみ「ギャァァァァァッ!? どこ触って、というかどこ揉んでるんですか!?」

かすみ「は、破廉恥案件ですよ! ダイヤ先輩あたりがこんなの見たら……」

ダイヤ「続けなさい、果林さん」

かすみ「にぎゃああああああああああ!?」

エマ「かすみちゃん、お風呂で暴れるのはマナー違反だよ?」

花丸「諸行無常……いや、自業自得ずら」
───
──

────夜、歩夢の部屋

キーンコーンカーンコーン

モノっちー『えー、夜10時になりました。ただいまより夜時間になります』

モノっちー『まもなく、食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となります』

モノっちー『また、本日校則を一つ追加致しました。夜時間でのプールの遊泳も禁止となります』

モノっちー『それでは皆さん、おやすみなさい』

プツン


鞠莉『パソコンのデータはまだまだ解析中よ。モノっちーにバレないためにここで作業してるけど……ロックが多すぎて疲れるわ』

歩夢「あんなこと言ってたけど……鞠莉さん、大丈夫かなあ」

歩夢(それに、姿を見せなかった残りの3人も心配だ)

歩夢(彼方ちゃんと璃奈ちゃんは、一応理由としては通っているけど……)

歩夢(しずくちゃんに至っては、図書室の一件から様子がおかしい)

歩夢「こんな状態で団結……出来るのかなあ」

歩夢(ちょっとだけ、不安になった)

~モノっちー劇場~

バケモノから逃げながらクリアを目指す脱出ゲームって、よくあるよネ。

青い鬼の住む館だったり、魔女の住む家だったりさ。

ボクはいつも思うんだよ。なんでこういうゲームの主人公たちは机の上や机の下を通らないんだろうって。

大抵のバケモノって机を迂回しないといけないくらいに大きかったり飛べなかったりするから、机を上手く活用すれば簡単に逃げ切れるんじゃないかなって。

だからね、ボクはお友達を集めて脱出ゲームごっこをやったんだよ。

大きな机の上を土足で歩いて、勝った気でいたんだよ。

巨人もびっくりのちゃぶ台返しを食らってようやく気付いたんだ。

結局、死ぬ時は死ぬんだなあって。

────学園生活8日目

キーンコーンカーンコーン

モノっちー『おはようございます、朝7時になりました』

モノっちー『さてさて、今日も1日頑張っていきましょう』

モノっちー『それから、今日は全校集会があります。オマエら、午前10時に体育館に集まってください』

プツン


歩夢(全校集会……前回のことを考えると、イヤな予感しかしない。でも……)

歩夢「行かなきゃいけないんだろうな……」ハァ

────体育館

モノっちー「うけけけけけ……ちゃーんとみんな揃ってるネ」

かすみ「何を始めるつもりなんですか~?」

モノっちー「いやいや、大したことじゃないよ。オマエらが団結なんて醜いことをしようとしているから、“アレ”をやろうと思ってね」

曜「アレ、ってまさか……」

モノっちー「お待ちかね、動機発表ターイム! どんどんぱふぱふ~」

鞠莉「わー……」ボウヨミー

モノっちー「ちょっとオマエら、ノリが悪いよ! セイウチハートが傷ついたよ!」

ダイヤ「ですが、私たちはもうあなたには屈しません」

モノっちー「おろろ? どうしたの黒澤さん。妹さんの死体はとっくに片づけたけど……お別れは済ませた?」

ダイヤ「っ……あなたが何を言おうと、もう殺し合いなんて起こさない……そう言っているのです」

モノっちー「ふーん……正義感気取りだネ。昨日までのワタクシとは違いますって感じ!」

モノっちー「でもホントにいいのかな~?」



モノっちー「卒業した人には“一つだけ願いを叶える権利をあげる”のにさ」

歩夢「……」

モノっちー「そう、前回はオマエらの不安を煽る動機だったからネ。今回はご褒美をあげることにしたのです!」

モノっちー「殺害を実行した人は、ボクに願いを言ってください! 学級裁判で投票を乗り切ることが出来れば、卒業する時にそれを叶えてあげましょう」

果林「随分と安いエサで釣って来たのね」

モノっちー「うけけけけけ……安いエサだとしても、広範囲にばら撒けばサビキ釣りのごとく掛かる人が増えるんだよ」

モノっちー「死んだ人を蘇らせたい、あの人と仲直りをしたい、どうしようもないコンプレックスを治したい……」

モノっちー「コロシアイを終わらせたい、でもいいんだよ?」

せつ菜「なっ……!?」

モノっちー「本当だよ? コロシアイを終わらせたいって願いでも問題ありません」

モノっちー「その場合、クロが卒業したあと、残ったシロたちもオシオキすることなくこの学園から出してあげるよ」

エマ「でも……それは学級裁判が起きないといけないんですよね」

彼方「ってことは~……殺し合いを終わらせるためにも……」

モノっちー「誰か1人は必ず殺されなきゃいけないのですよ」

千歌「そんな……!」

モノっちー「じゃあ、そういうワケだから……せいぜい頑張ることだネ! うけけけけけ……」

「「……」」

歩夢(コロシアイを終わらせるためには、誰かが犠牲にならなきゃいけない)

歩夢(そうじゃなくても、強い願いを持った人が行動に出るかも知れない)

歩夢(何とも言えない空気の中、私たちはひとまず解散することになった)

────食堂

千歌「はい、これでアガリ!」

せつ菜「ぬおおおおおお……もう1回、もう1回です!」

曜「あはは……ん?」

花丸「どうかしたずら?」

曜「いや、何だろう……何か忘れていたような気がするんだけど……やっぱりいいや」

歩夢「あ、せつ菜ちゃんここにいた」

エマ「お邪魔しま~す」

せつ菜「あゆむぅ……」ダキッ

歩夢「わわっ、どうしたのせつ菜ちゃん」

せつ菜「千歌さんたちにUNOで全然勝てないんです……どうすればいいんでしょう」

千歌「せつ菜ちゃん、最初は調子良かったんだけどねー」

歩夢「ああー……アドバイスが欲しいなら、あげるけど……」

せつ菜「うぐぅ……言った手前なのですが、アドバイスまで行くと負けた気分です……」

エマ「ふふっ、大丈夫だよせつ菜ちゃん。私がなんとかしてあげる」

せつ菜「エマさんが?」

エマ「とりあえず飲み物入れてくるから、みんなはカードを配ってて」

花丸「分かったずら」

~数分後~

せつ菜「アガリです! やった、勝てました!」

歩夢「早っ!?」

曜「せつ菜ちゃん、同じ数字のカード多すぎじゃない!?」

エマ「ふふっ。あ、アガリ♪」

花丸「ずらっ!?」


~数十分後~

せつ菜「連戦連勝です!」

千歌「悔しい……こうなったら、ゲームを変えよう! 渡辺軍曹!」

曜「はっ! 私の部屋から持ってきたすごろくであります!」

花丸「今度は負けないずら!」

~1時間後~

せつ菜「ゴールです!」

千歌「何故だ、何故勝てない……」

曜「ズルとかしてないよね……?」

せつ菜「してませんよ!?」

花丸「でもこれは、イカサマを疑うレベルずら。それこそ、幸運でもなけりゃ……あっ」

エマ「ふふっ」

歩夢「もしかして、エマちゃんが……?」

エマ「うん。ちょっとだけ私の運を分けてあげたんだ」

花丸「そういえば、エマさんは超高校級の幸運だったずら……」

エマ「私ね、故郷のスイスでは8人兄妹だったんだ」

千歌「8人!?」

エマ「弟や妹たちとよく遊んだりするんだけど、昔からこういうゲームは必ず勝つから、つまんないって言われちゃってね」

エマ「でも、ある日気付いたの。私の運は、誰かに分けることが出来るんだって」

エマ「だから、みんなの運を均等にして、正々堂々勝負したり」

エマ「兄妹の誰かに大事なイベントがあったら、上手く行きますようにって大きく運を分けたり」

エマ「誰かが病気になっちゃったら、早く治りますようにって……」

歩夢「いいお姉さんなんだね」

エマ「そんな、いいお姉さんだなんて。私はただ、平和に暮らせればよかったんだ」

エマ「私が虹ヶ咲学園に選ばれた時は、家族みんながお祝いしてくれて……それなのに、こんなことに巻き込まれて、弟や妹は……」

歩夢(そっか。以前モノっちーが出した映像、エマちゃんのそれには……)

果林「あ、いたいた。歩夢ちゃんたち、ちょっと話があるんだけど」

エマ「っ……と、ごめんね、こんな話しちゃって。私、そろそろお部屋に戻るね」

曜「あっ、エマ、ちゃん……」

果林「……何かあったの?」

せつ菜「いや、そういうワケではないんですけど……」

果林「……そう。単刀直入に聞きたいんだけど、今後、見張りって必要かしら?」

歩夢「見張り……ですか」

果林「見張りってね、言い換えれば誰かを疑うってことなの。信じることが出来ないから、見張りをつける……そう思わないかしら」

千歌「確かに……それじゃあ団結とは言えないかも」

果林「それに……」チラッ

せつ菜「……分かっています」

果林「ならいいの。だから、ここ数日うやむやになっていた見張りを改めて廃止するかどうか、みんなの意見を聞きたいの」

曜「こういう言い方をされちゃ、ね……」

歩夢「うーん……」
───
──

キーンコーンカーンコーン

モノっちー『えー、夜10時になりました。ただいまより夜時間になります』

モノっちー『まもなく、食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となります』

モノっちー『それでは皆さん、おやすみなさい』

プツン

歩夢(散々悩んだ末、私たちが出した結論は廃止だった。ある意味では、安全を放棄する愚策かもしれないけれど……)

歩夢「安全と信用って、両立出来ないのかな……」

~モノっちー劇場~

ある青年が、本屋で万引きをしたんだ。

でも、万引きを終えた後で、防犯カメラに映っているかも知れない……そう思ったんだよ。

実はそのお店には防犯カメラなんて設置されていなかったんだけどネ。

けれども、怖くなった青年は、店に放火をしたんだ。

結果、近隣住民から通報されて放火の罪で逮捕されるワケなんだけど、青年は心の底から思ったんだ。

良かった、万引きはバレていないからセーフだ、って。

めでたしめでたし。

────学園生活9日目

キーンコーンカーンコーン

モノっちー『おはようございます、朝7時になりました』

モノっちー『さてさて、今日も1日頑張っていきましょう』

プツン

歩夢(いつの間にか、もうすぐここに来てから10日経つ)

歩夢(よく考えてみたら、警察はどうしているのだろう?)

歩夢(私たちが10日近く行方不明になっていることが知られれば、警察が動き始めてもおかしくはない筈だ)

歩夢(助けが来ると信じて、私は食堂に向かった)

────食堂

千歌「ごちそうさま! 今日も美味しかったよ彼方ちゃん!」

彼方「ふふん。そう言ってくれると、起きて頑張った甲斐がある」フンス

梨子「でも、本当にいいの? 食事係、全部代わってくれるなんて……」

彼方「彼方ちゃんの半分はお料理、もう半分は遥ちゃん、そして残りは睡眠で出来ているのです!」

璃奈「ハルカちゃん(・v・)?」

歩夢(そういえば、動機ビデオの時にも『ハルカちゃん』という名前が出ていたっけ)

彼方「近江遥、私の大切な妹だよ~」

ダイヤ「あなたにも、妹がいたのですね」

彼方「そうだよ~。寝ぼすけな私のお世話をしてくれたり、私の作ったご飯を美味しく食べてくれたり、可愛いんだよね~」

彼方「この料理も、遥ちゃんに喜んでもらうために腕を磨いたんだよ~」

歩夢「妹想いなんですね」

彼方「それほどでも~」

せつ菜「……今度、卵焼きの作り方を教えて貰ってもいいでしょうか」

果林「私もお願いしていいかしら」

彼方「んー……じゃあ、明日の朝食はみんなで作ろっか」

千歌「いいね! これこそ団結って感じだよ!」

鞠莉「かすみ? ヘンな調味料入れたりしたらダメよ?」

かすみ「……先に言わないでもらえますか」

愛「じゃあさ、団結ついでなんだけど……今日のお昼、みんなで泳がない?」

花丸「お風呂で泳ぐのはマナー違反ずら」

愛「お風呂じゃないよプールだよ! 競泳会を今日、ええかいってね!」

一同「「……」」

愛「……あれ?」

────プール

千歌「泳ぐぞーっ!」ドボーン

愛「うおおおおおおおおおっ!」ドボーン

果南「こら千歌と愛! ちゃんと準備運動しなきゃダメでしょ!」

果林「元気すぎるのも考え物ね」

歩夢(愛ちゃんの駄洒落に空気が凍ったりしたけれど、なんやかんやでみんなプールに来ていた)

歩夢(……やっぱり、欠席者はいるけれど)

せつ菜「しずくさんと彼方さん、今回も来ませんでしたね」

歩夢「うん。今回は鞠莉さんはいるし……」

璃奈「……何(・v・)?」

歩夢「璃奈ちゃんもいるけど」

せつ菜「でも、なんで男子更衣室を使ったんですか?」

璃奈「顔見られるの恥ずかしいし……でも、私だってみんなと仲良くしたいから(>_<。)」

璃奈「それに、男子更衣室を使っても問題ないんでs──」

愛「遅いぞりなりー、泳ぐよ!」グイッ

璃奈「え、あ、うわあああっ(?□!)」

タースーケーテー

せつ菜「……璃奈ちゃんボード、大丈夫なのでしょうか」

歩夢「防水加工らしいし……大丈夫なんじゃないかな?」

~2時間後~

曜「負けたーっ!」

愛「愛さんの勝ち~!」

曜「うーん……水泳は得意だった筈なんだけどなあ。しばらく泳いでなかったから体が鈍ったのかも」

鞠莉「鈍ったってレベルじゃないと思うけど?」

璃奈「明らかに水泳が苦手な人の動き……だった(・v・)」

かすみ「そういえば璃奈さんって、水泳が得意な人に変装すれば泳ぎが早くなったりするんですか~?」

璃奈「……しないよ。私が真似られるのは声と顔だけだって(`∧´)」

ダイヤ「皆さん、そろそろ上がりましょうか」

エマ「彼方ちゃんが夕食を作って待っているみたいだよ」

花丸「今日も楽しみずら」

────夜、図書室

歩夢「彼方さんも、行きたかったって言うくらいなら来ればよかったのに」

花丸「でも、男子更衣室に入ろうとした彼方ちゃんを璃奈ちゃんが見てたずらよ?」

果林「もしかしたら……ね。それより、鞠莉ちゃんとエマちゃんはまだなのかしら」

花丸「エマさんはともかくマルたちを集めた本人が遅刻とは……」

鞠莉「最初からいるわよ?」

歩夢「うわっ!? か、隠れてたんですか!?」

鞠莉「ちょっとしたsurpriseよ♪ それにしても、この部屋暑くないかしら」

花丸「オラはこのくらいでもいいけど……確かにちょっと暑いずら」

鞠莉「んー……まあいっか」

ガラッ

エマ「ごめんなさい、遅れました!」

果林「全員ね。それじゃ、始めましょうか……と言いたいところだけど」

鞠莉「何かしら?」

果林「あの件でしょう? なんであの場所で話をしなかったのかしら」

鞠莉「だって、モノっちーは最初から気づいていたもの」

エマ「えっ……?」

鞠莉「昨日作業している時にね、彼がやって来たのよ」

鞠莉「そのPCは、最初からオマエらに渡すつもりのヒントだったって。嘘は書いてないから安心しろ……ってことらしいわ」

歩夢「じゃあ、この中には……」

鞠莉「ええ、そうね」ピッ

歩夢(鞠莉さんは、PCの電源を入れる)

花丸「おお……これがぱそこん……」

歩夢(デスクトップにはアイコンが1つしかなく、中にあったのは3つのファイルだった)

鞠莉「これだけやって片方が多少見れるようになったくらい。いくら何でもパスワードロック掛けすぎで骨が折れるわ」プンスカ

歩夢「虹ヶ咲学園・極秘プロジェクト……?」

『虹ヶ咲学園は、更なる才能の獲得・育成に努めるべく、新たなプロジェクトに着手した』

歩夢(この一文から始まるレポートは、過去、虹ヶ咲学園が超高校級の才能を研究し続けて来たもののようだ)

歩夢(超高校級の医者や超高校級の弓道部など、本人の知識と技術を極めるもの)

歩夢(或いは、超高校級の占い師や、エマちゃんと同じく超高校級の幸運のように半ばオカルトじみたもの)

『そして、そ●らの才能を△繧ソべく、今回の喧望鐔�計画は� 鐚醐執鐚�……』

歩夢(そこで、読める文章はストップしていた)

鞠莉「もう少し頑張れば、修復出来そうな気がするんだけど……」

果林「ヒント、という割には随分と意地悪なことをするのね」

エマ「それより、残りの2つのファイルが気になるんだけど」

花丸「【持ち出し厳禁】と……」

歩夢「【虹ヶ咲学園生徒プロフィール】!? それって……」

歩夢(もしかしたら、忘れてしまった私と千歌ちゃんの才能もそこに……?)

歩夢「鞠莉さん。プロフィールのファイルって、開くのにどのくらい掛かりそうですか?」

鞠莉「分からないわ。少し触った感触だと、【虹ヶ咲学園・新プロジェクト】よりは時間が掛かりそうだけど」

鞠莉「でも、歩夢と千歌っちにとっては死活問題よね。分かった、頑張ってみるわ」

果林「それにしても鞠莉ちゃん、あなたプログラムも出来たのね」

エマ「私には何が起きているのかさっぱりです……」

花丸「オラも……」

鞠莉「まあ、将来は小原グループを担うことになるワケだからね。このくらいは出来なきゃ、小原家の恥よ」

果林「流石、超高校級の令嬢は言うことがちが──」

ガラッ

しずく「あっ……」

歩夢「しずくちゃん?」

歩夢(不意に開かれた、図書室の扉)

歩夢(そこに現れたしずくちゃんは、何かのファイルを持っていた)

しずく「あ、えっと……」

しずく「し、失礼しました!」ダッ

エマ「待って、しずくちゃん!」ダッ

果林「ちょっと、走ると危ないわよ!」

歩夢(何が起きたのか分からないけれど、ひとまずしずくちゃんとエマちゃんを追おうとして──)


バツン!


歩夢「えっ……!?」

歩夢(もっと、意味の分からないことが起きた)

鞠莉「停電!?」

果林「慌てないで、みんな今いる場所から動かない方が……」

花丸「うわあああっ!?」ドテーン

歩夢「花丸ちゃん、大丈夫!?」

花丸「大丈ぶっ!?」ゴチーン

鞠莉「大丈夫じゃなさそうね……」

歩夢(突然の出来事に慌てる私たち)

パッ

歩夢(けれども、ものの1分足らずで停電は収まった)

歩夢「ふーっ……」

花丸「痛いずら……」

果林「転んでテーブルに頭を打ったのね……よしよし」

タッタッタッ

エマ「みんな、大丈夫!?」

鞠莉「マルが頭を打ったけど、それだけよ。それより、そっちは?」

エマ「……」フルフル

モノっちー「まったく、停電とはねえ」

歩夢「……何。こんな時にまで構ってられないんだけど」

モノっちー「別に~? それよりオマエら、もう10時だよ、夜時間だよ! とっとと寝ろ!」

果林「……そうしましょうか」

────歩夢の部屋

歩夢「酷い目に遭った……」

歩夢(まさか学校で停電なんて。滅多に経験できるものじゃないけれど、二度と経験したくない)

歩夢(それにしても、虹ヶ咲学園生徒プロフィール、か……)

歩夢(私は一体、どんな人だったんだろう……)

────学園生活10日目

キーンコーンカーンコーン

モノっちー『おはようございます、朝7時になりました』

モノっちー『さてさて、今日も1日頑張っていきましょう』

モノっちー『そうそう。何とは言わないけれど、ボクは悲しいです。何とは言わないけどネ!』

プツン

歩夢「……?」

────食堂

歩夢「おはよー……あれ、朝食は?」

かすみ「確か、彼方先輩と一緒に作るって話でしたけど」

歩夢「あ、そうだった……」

歩夢(けれども、その彼方ちゃんがいないから朝食会が始まらない……ってことみたいだ)

梨子「あの……今、彼方ちゃんの部屋に行ってきたんだけど……」

千歌「いないんだよ、彼方ちゃんが!」

歩夢「……!?」

歩夢(私の中で、最悪の答えが導かれていく)

歩夢(今この場に1人だけいない彼方ちゃん。さっきのモノっちーのアナウンス……)

ダッ!

歩夢(同じ最悪の答えを出したみんなが、一斉に食堂を後にする)

歩夢「どこ……?」

歩夢(個室にはいない。トイレにも、いつの間にか開いていたトラッシュルームにも、大浴場にも……ということは、校舎!)

歩夢(1階の教室、購買、保健室……)

「きゃああああああああああああああっ!?」



ピンポンパンポーン



モノっちー『死体が発見されました。一定の捜査時間の後、“学級裁判”を開きます』

モノっちー『オマエら、死体発見現場の2-B教室にお集まりください!』

プツン

────校舎2階、2-B

悲鳴をあげるせつ菜ちゃん、茫然と立ち尽くす千歌ちゃん。

次々と集まって来るみんなの視線は、一点に注がれている。



窓際の席で眠る彼女は、首にロープを巻かれ、何故かスクール水着姿で。

それは、二度と目を覚ますことのない《超高校級の眠り姫》近江彼方の死体だった。

今回はここまで。


      Chapter2

Spiteful Trapper  非日常編

歩夢「なに、これ……」

歩夢(もし、これが夢だとしたら……睡眠第一の彼方ちゃんに笑われそうな悪夢だ)

歩夢(もし、現実なのだとしたら……)

歩夢(どうして……彼方ちゃんは息をしてないの?)

モノっちー「うけけけけけ……酷い顔だよネ、全く」

歩夢「!」

モノっちー「他人のエゴで己の人生を突然終わらされたことを心底憎んでいるような……そんな顔だよネ!」

花丸「さっきの放送……学級裁判がまた行われる、ってことは」

モノっちー「ええ勿論! 前回同様、近江彼方さんはオマエらの中の誰かに殺されました!」

しずく「そんな……っ!」

歩夢(彼方ちゃんは、ただ眠っているだけのように見えた)

歩夢(少しすれば、うーんと伸びをして起き上がりそうに……そう、見えた)

歩夢(けれども。首に掛かっていたロープと、何かに襲われたように見開かれた両目)

歩夢(そして『殺された』とモノっちーに告げられて……嫌でも、彼女が死んでしまったことを受け入れてしまった)

ダイヤ「また……あれをやらなくてはいけないのですか」

モノっちー「そゆこと~! というわけでちゃっちゃと始めちゃいましょう、ザ・モノっちーファイル2~!」

モノっちー「これを配るから、捜査頑張ってネ! 後ほど学級裁判でお会いしましょう!」

エマ「イヤです……あんな酷いこと……」

花丸「でも、やらなきゃみんな死んじゃうずら……」

鞠莉「それに……なんで彼方が殺されたのか……それをハッキリしないワケにもいかないでしょう」

せつ菜「それは、そうですけど……」

歩夢「とにかく、みんなで生き残るためにも……始めなきゃ!」

捜査開始!

歩夢(……まずは、モノっちーファイルを確認しておこう)

『被害者は超高校級の眠り姫、近江彼方。死体発見現場は校舎2階、2-B教室』

『死亡推定時刻は昨夜22:00前後、発見時刻は翌7:30頃』

『被害者は首をロープで絞められており、体内からは毒物が検出されている』

歩夢(ロープはともかく、毒……?)

せつ菜「酷い……これじゃあまるで、2回殺したも同然じゃないですか」

かすみ「てっきりクロは『殺し合いを終わらせたい』から彼方先輩を殺したのかと思いましたけど~……」

果南「この分だと、そうじゃないのかもね……」

歩夢「……」

《モノっちーファイル2》のコトダマを入手しました。

花丸「……ずら?」

歩夢「どうしたの、花丸ちゃん」

花丸「前回、検死をしてくれた彼方ちゃんが死んじゃったから、マルがやろうとしたんだ。現物を見た経験はないけど、一応推理作家だから……」

花丸「そうしたら、机の中にこんなものが……」

歩夢「未解決事件・ケース“タカマガハラ”……?」

かすみ「あーっ! それ、一時期ニュースを騒がせていた通り魔じゃないですか!」

歩夢「かすみちゃん、知ってるの?」

かすみ「知ってるも何も……そのファイルを見た方が早いと思いますよ? あ、かすみんは捜査に戻るので、失礼しま~す♪」タッタッタッ

せつ菜「まさか……彼方さんは、その通り魔に殺されたんじゃ……」

歩夢「それはまだ……分からないけど……」ペラリ

歩夢「……」

歩夢(私の手が止まったのは、殺害現場の写真ばかりが集められたページ)

歩夢(タカマガハラという名の通り魔に殺された被害者たちの名前も一緒に載っていた)

歩夢(佐藤美香(23)、松本純子(17)、西本唯(30)、桜坂小百合(28)……)

せつ菜「桜坂……って!」

歩夢「うん。しずくちゃんと同じ苗字……だね」

歩夢(被害者はいずれも、2種類以上の外傷を受けている。撲殺されてから首を絞められたり、絞殺されてからナイフを刺されたり、ロープを巻かれてから池に沈められたり)

歩夢(共通しているのは、どの事件にもロープによる絞殺が出てくること。そして、現場には『タカマガハラ』と何かしらの方法で文字が残されていること)

歩夢(それによって、その通り魔が『タカマガハラ』という名前で呼ばれていること……)

せつ菜「……なんだか気分が悪くなってきました。ごめんなさい、お手洗いに行ってきます」

歩夢「うん、いってらっしゃい」

歩夢「……」ペラリ

歩夢(次のページに載っていた内容は、タカマガハラに関する週刊誌のコピーだった)

『一連の犯行は、いずれも平日夜、または休日に行われている』

『平日昼間には決して事件が起きないことから、犯人は学生なのでは? との推測がなされている』

『タカマガハラに刃物で襲われた人物曰く、抵抗した際相手の顔に大きな傷を負わせたという』

『暗がりでよく分からなかったが、タカマガハラの目は真っ赤に染まっていた』

歩夢(……よくある『ゴシップ記事』と言われるものだ。イマイチ信憑性に欠ける)

歩夢(仮にこれが真実だとしても……だから、何なんだろう)

歩夢(まさか、その通り魔が私たちの中にいる?)

歩夢(ありえないよ。確かに今回の事件、タカマガハラの手口に似ている気はするけれど、みんな顔に傷なんて──)

璃奈「……私の顔になにかついてる(・v・)?」

歩夢「い、いやそんなつもりは……」

歩夢(……ない、よね?)

歩夢(最後のページには、小さな新聞記事の切り抜きが載っていた)

【劇団さかみち団員、襲われる 通り魔の犯行か】

『8月21日午後20時頃、全国を駆け回る人気劇団・さかみちの団員たちが、静岡公演のために宿泊していたホテル近辺の路地で何者かに襲われた』

『劇団の若手スターとして活躍している桜坂しずくさん(16)などが重症を負ったが、全員命に別状はない』

『また、犯人と思しき人物は同日16時頃にも近辺に出没しており、その際近江遥さん(16)ほかが頭を打つなどの軽症を負った』

『いずれも現場にはロープが落ちていたことから、警察は通り魔・タカマガハラが事件に関与している可能性を視野に入れて捜査を進めている』

歩夢「……」

歩夢(この新聞に載ってる名前って……)


彼方『近江遥、私の大切な妹だよ~』


歩夢(それに、しずくちゃんの名前も……?)

歩夢「このファイルは……このくらいかな」

《タカマガハラ事件ファイル》《新聞記事》のコトダマを入手しました。

花丸「何か分かったずら?」

歩夢「……うん、後で読んでおくといいかも。花丸ちゃんの方はどう?」

花丸「専門的なことはまだ分からないけど……明らかに気になることはあったよ」

花丸「彼方ちゃん、火傷の跡がいっぱいあったんだ。背中と、右足首と、両足の裏……」

歩夢「火傷……?」

花丸「いつ付いたものなのかは分からないけど、もしかしたら、彼方ちゃんがお風呂やプールに来なかった理由ってこれなのかも……」

歩夢「確かに……そういうの、あんまり見られたくないってのは分かるかも……」

花丸「グロテスクだからあんまり見ない方がいいずら」

歩夢「うん、そうするね」

《火傷の跡》のコトダマを入手しました。

千歌「ねえ歩夢ちゃん。これって何だろ?」

歩夢「台車……みたいだね」

千歌「そうなんだけど……この前教室を調べた時はこんなのなかったんだよね」

歩夢「台車があるってことは……何かをここまで運んだのかな?」

千歌「どうなんだろ。運ぶ物があるとしたら……彼方ちゃんくらいだよね」

歩夢「うん……」

歩夢(彼方ちゃんの死体は……何処かからここまで運ばれた?)

歩夢(水着だったし……後でプールとか調べた方がいいかも)

《台車》のコトダマを入手しました。

せつ菜「戻りました、歩むっ!?」コケッ

歩夢「大丈夫、せつ菜ちゃん!?」

せつ菜「何かに躓いたみたいですが……アイロン?」

歩夢「なんで教室に……しかも、電源入ってる!?」

せつ菜「や、火傷しなくて助かりました……」

エマ「ここにもあったんだ、アイロン」

歩夢「エマちゃん、何か知ってるの?」

エマ「いや……教室の前にもあったし、電源がついてたから、誰かが触れちゃったら危ないなって」

歩夢「エマちゃん、他のアイロンはどこにあったの?」

エマ「えっと……そこと、あそこです」

ttps://i.imgur.com/9t8ypiL.jpg

せつ菜「全く……誰かのイタズラだとしても、度が過ぎますよ」

エマ「でも、怪我がなくて良かったよ」

《アイロン》のコトダマを入手しました。

せつ菜「気を取り直して……次はどこに行きましょうか?」

歩夢「えっと……とりあえず、調べたいところがあるんだけど」


────プール

果南「プールの中は何もないよー」ザパァッ

せつ菜「なんで泳いでるんですか……」

曜「そういえば、更衣室には彼方ちゃんの着替えなかったね」

果南「部屋に置いてるんじゃないかな?」

歩夢「まさか……水着のまま校舎に来るってことはないと思うけど」

せつ菜「あ、昨日彼方さんを見かけた時はいつもの私服でしたよ?」

歩夢「せつ菜ちゃん、彼方ちゃんを見たの?」

せつ菜「ええ。昨日の夜、食堂で千歌さんたちとゲームをしてたんですけど……」

~昨晩、20時半頃~

せつ菜『ぐぬぬぬぬ……この前は勝てたんですけど』

千歌『へっへーん。私だってまだまだ負けないよ!』

せつ菜『……あ、エマさん!』

エマ『?』

千歌『あ、ずるい! またおまじないしようとしてる!』

璃奈『……おまじない(・v・)?』

かすみ『エマ先輩、誰かを幸運にするおまじないが出来るらしいんですよ~』

愛『へぇー。そのおまじないがあれば、全然窓のないこの学校でも外が見れるのかな』

千歌『なんでそうなるの?』

愛『雲海を見れる私は、幸運かい? ってことだよ!』アッハッハ

『『……』』

エマ『大丈夫だよ。全員の運を同じくらいにすることも出来るから』

かすみ『つまり、戦略とイカサマをすればかすみんでも1位に……』

愛『エマっち、かっすんだけそのおまじない掛けなくていいよ』

璃奈『むしろ、物凄く不運にするのも……(・v・)』

エマ『まあまあ。同じくらいと言ってもムラがあるから……』

エマ『ヴェルデパワー、注入! は~い、ぷしゅっ!』

せつ菜『ちゃんと掛け声があるんですね』

エマ『うん。以前、誰かに教わった筈なんだけど……よく覚えてなくて』

愛『おおー、なんかスピリチュアルなパワーが貰えた気がする!』

千歌『じゃあ、改めて人生ゲームで勝負! 誰が本当の幸運かを今度こそ決めるよ!』

璃奈『エマちゃんも一緒にどう(・v・)?』

エマ『あ、ごめん。私、ちょっと用事があるから……また今度ね!』タッタッタッ

~数分後~

彼方『おおー、やってるねぇ』

千歌『やってるよー。彼方ちゃんもやる?』

彼方『んー……やりたいのは山々だけど、彼方ちゃんは泳ぎたい気分なのだ』

せつ菜『い、今からですか!?』

彼方『ぷか~って浮かんでるの、気持ちいいんだよね~。あ、大丈夫だよ? ちゃんと夜時間までには上がるからさ』

モノっちー『ちゃんとプールの中にも時計があるからネ! しっかり見ないと校則違反でオシオキだよ!』

璃奈『……出た(`∧´)』

モノっちー『ま、プールサイドは10時を過ぎてもセーフだけどネ。寝るのはダメだけど』タッタッタッ

愛『ほんっと、モノっちーって神出鬼没だよね』

彼方『とりあえずー、ここの厨房ってスポーツドリンク置いてたっけ?』

かすみ『でしたら、かすみんが取って来てあげますよ~』タッタッタッ

せつ菜『……』ハッ

せつ菜『まさか、かすみさん何かヘンな物を入れる気じゃ……私も取って来ます!』

せつ菜「とまあ、こんな感じで……彼方さんに飲み物を渡して、私たちは夜時間になるまでゲームに白熱してました」

歩夢「じゃあやっぱり、彼方ちゃんはプールに来てたんだね」

《せつ菜の証言》のコトダマを入手しました。

果南「じゃあ、結局着替えはどこにあったの?」

果林「男子更衣室よ。今見て来たわ」

曜「えっ」


────男子更衣室

歩夢「ホントだ……ロッカーに服が入ってる」

果林「足元、気を付けた方がいいわよ。飲み物がこぼれて水たまりになっちゃってるから」

せつ菜「ホントですね……」

ttps://i.imgur.com/lZVBLbo.jpg

曜「ってことは、彼方ちゃんはここに間違いなく来てたんだね。でも、なんで男子更衣室に……?」

果南「男女分けられてるけど、別にどっちを使ってもいいってモノっちーは言ってたよ」

果林「水たまり以外、気になるところはあまりないかしらね。物置の水着は全部女モノだったけど……」

果林「あ、強いて言えば。ランニングマシーンが1個動きっぱなしだったのよね。もう切っちゃったけど」

歩夢「ランニングマシーンが?」

果林「ええ。そっちの……ベンチに近い方のだけど。スイッチを押すとそれっきり動き続けるタイプだったみたいね」

せつ菜「ということは、彼方さんは運動もしていたのでしょうか……?」

歩夢「あんまり……想像つかないね」

《更衣室の水たまり》《ランニングマシーン》のコトダマを入手しました。

歩夢「他は……どこ調べればいいかな?」

せつ菜「今朝、トラッシュルームのシャッターが開いていましたから……そこに行ってみるとか?」

────トラッシュルーム

ダイヤ「……」

歩夢「ダイヤさんも来ていたんですね」

ダイヤ「ええ。何かないかと思いましたが……これは手掛かりなのでしょうか?」スッ

果南「ダイヤ、これ何?」

歩夢「何かの……ケーブル?」

せつ菜「ほとんど焼けちゃって、ところどころ中が見えちゃってますね……」

ダイヤ「焼却炉の前に落ちていたものですから、犯人が何かを処分し損ねたものかも知れませんね」

《焼け落ちたケーブル》のコトダマを入手しました。

ダイヤ「それと……歩夢さん。少しこっちに来て頂けますか」ヒソヒソ

歩夢「え、何ですか?」ヒソヒソ

ダイヤ「昨日の夜、ここ数日の間に溜まってしまった洗濯物をランドリーで洗っていたのですが……」ヒソヒソ

ダイヤ「その時、果南さんの姿を見たのです」

ダイヤ「夜時間のアナウンスが流れ、1、2分程でした。何かに怯えたような顔で……校舎の方から走って来ました」ヒソヒソ

果南「……?」

ダイヤ「一応、本人がすぐ近くにいるのでこうして話すことになったのですが……手掛かりになるでしょうか?」ヒソヒソ

歩夢「ど、どうでしょう……」

《ダイヤの証言》のコトダマを入手しました。

歩夢「ここにはもう何もなさそうだけど……あと調べなきゃいけないところって……?」

ダイヤ「でしたら、理科室に行ってみるのは如何でしょう。今回の事件には毒薬が使われているようですから……」

────理科室

愛「ここはなーんもナシ。毒の瓶とかそういうの、一個も見つからなかったよ!」

璃奈「……準備室にも、なかった(・v・)」

歩夢「でも、モノっちーファイルには毒物が出てきてるんだよね……」

せつ菜「保健室にもそのような物はなかったみたいですし……犯人はどこで毒を入手したのでしょう?」

愛「一応、薬品の棚を見たな、しとく?」

璃奈「まさか、食材を組み合わせて化学反応で毒を作ったとか……(・v・)」

せつ菜「とりあえず、棚を見ておきましょうか」

愛「おーい! 愛さんのギャグを無視しないでくれよーぅ」

歩夢(……結局、薬品棚は以前私たちが調べた時から、何も変化がなかった)

《理科準備室の薬品棚》のコトダマを入手しました。

────校舎2階廊下

鞠莉「……なるほど、そういうことね」

モノっちー「全く、ボクはボクで色々忙しいんだから無暗に呼び出さないでよ」トテトテトテ

歩夢「鞠莉さん、モノっちーと何を話してたんですか?」

鞠莉「ああ、歩夢にせつ菜。校則違反者が出た時のお話についてよ」

せつ菜「なんで校則違反が?」

鞠莉「既に聞いてるかも知れないけど、校則違反があった時は、学園中にサイレンが鳴り響くらしいのよ」

鞠莉「その上で、モノっちーによる処刑が行われるみたいね。一応、校則を読み返しているんだけど……」

《校則》《校則違反者への処遇》のコトダマを入手しました。

せつ菜「でも、昨日はそんなサイレン聞こえませんでしたね」

鞠莉「んー……それについてなのよね、問題は。ちょっと来てもらえるかし──」

ピンポンパンポーン

モノっちー『あー、色々面倒なこともあって疲れちゃった』

モノっちー『というわけで、捜査終了でーす。オマエら、校舎1階にある赤い門の前にお集まりくださーい』

モノっちー『締め切りだよー。学級裁判だよー』

プツン

鞠莉「終わっちゃったわね。別に行けない距離じゃないけど、モノっちーに何言われるか分からないし……要点だけ話しておくわ」

歩夢「それで、問題ってなんですか?」

鞠莉「校舎の1階にね、隠し部屋みたいなのがあったのよ」

せつ菜「か、隠し部屋!?」

鞠莉「場所はMAPを見れば検討がつくと思うわ。その部屋がとんでもない場所に繋がっていたし、部屋にはとんでもない物があったんだけど……」

鞠莉「なんだか、しっくり来ないのよね。昨日の停電と関係あるかなって思ってたんだけど……」

せつ菜「停電? そんなものがあったんですか?」

歩夢「うん、10時頃にあったよ。その後、モノっちーに『もう寝ろ!』って怒られたけど」

せつ菜「私は食堂にいましたけど……全然知りませんでした」

鞠莉「……とにかく、急ぎましょうか」

《校舎1階の隠し部屋》《停電騒動》のコトダマを入手しました。

────赤い門の前

梨子「えーっと……これで15人」

歩夢「まだ来てないのは……千歌ちゃんだけ?」

梨子「みたいね。あ、そうそう、2人にも渡しておかないと。一応、昨日10時頃のみんなのアリバイをまとめておいたの」スッ

ttps://i.imgur.com/vRofAt7.jpg

梨子「一緒にいた人たちはひと纏めだけど、なるべく全員に聞いて回っていたから……間違いない?」

せつ菜「間違いありません」

歩夢「……」

梨子「歩夢ちゃん?」

歩夢「う、うん。大丈夫」

歩夢「……」

《昨晩のアリバイ》のコトダマを入手しました。

タッタッタッ

千歌「ごめんごめん、遅くなった!」

ダイヤ「全く、遅刻ですわよ!」

千歌「だって、教室でずっと考え事してたらいきなりエアコンが点いたんだもん! ビックリしちゃってさ」

歩夢「エアコンが?」

千歌「それで、壁についてる操作パネルみたいな物を調べたら……8時半に電源が入るようになってたんだ」

かすみ「今って何時でしたっけ、しずくさん♪」

しずく「な、なんで私に……えっと、8時、35分ですけど……」

果南「それから5分も何してたの?」

千歌「隣の教室のエアコンも気になっちゃって。そしたら、こっちも8時半に電源が入ってたよ」

鞠莉「タイマーは8時半……? じゃあ推測は外れてる……」ブツブツ

《教室のエアコン》のコトダマを入手しました。

モノっちー『全く、校長のアナウンスが入ったら集まるのは常識でしょ!』

モノっちー『次からは罰則与えるかもよ? というわけでオマエら、正面のエレベーターに乗ってちょうだいな!』

プツン

千歌「じゃ、行こっか!」

果林「遅刻した人が言うセリフじゃないわね、全く……」

曜「でも今回、犯人を見つけてもいいのかなあ……」

璃奈「犯人の願いがコロシアイを終わらせることだったら、それを止めることになっちゃうかも……(>_<。)」

愛「大丈夫大丈夫♪ 投票するしないの自由くらいはあるっしょ」

しずく「……」

エマ「とにかく、行くしかない、よね……」

かすみ「~♪」

歩夢(そして、私たち全員を乗せたエレベーターは地下へと降りて行く)

歩夢(みんな、無言。息苦しくて、呼吸が本当に止まりそうで……)

歩夢(……やがて、エレベーターは停まるべき場所に停止した)

────地下???階、裁判場

モノっちー「いらっしゃーい! どう? 裁判場を模様替えしてみたんだ!」

せつ菜「星空模様の壁紙……ですか」

モノっちー「近江さんはどこか不思議な雰囲気があったからね~」ゲラゲラゲラ

ダイヤ「そんなところにこだわらなくたっていいです。サ……善子さんや彼方さんの遺影といい、相変わらず酷い趣味をしていますわね」

モノっちー「ツレないなあ。誉め言葉以外の感想は認めないんだけど?」

モノっちー「まあいいでしょう。オマエら、自分の席に移動しちゃってください!」

歩夢(始まる。2回目の学級裁判が、始まる……)

歩夢(《超高校級の眠り姫》近江彼方ちゃん……)

歩夢(普段から寝ていて、協調性も欠けているように見えたけど……。それでも彼女は、起きている時はなるべく一緒にいようとした)

歩夢(妹想いで、料理も出来て……最初の学級裁判では、ルビィちゃんの検死にも一役買ってくれた)

歩夢(そんな彼方ちゃんを殺した人が……私たちの中にいる?)

歩夢(モノっちーは『コロシアイを終わらせるためには誰かを殺さないといけない』なんて言っていた)

歩夢(仮にその言葉に乗せられたのだとしても……やっぱり、殺人なんて間違ってる!)

歩夢(私たちが生き残るために……真相を見つけるしかないんだ)

歩夢(嘘と真実が交錯する、この“学級裁判”で──!)

~学級裁判準備~
超高校級の眠り姫、近江彼方が殺された。
背後にチラつくモノっちーの動機と、通り魔『タカマガハラ』の影。
果たして、この謎を解き明かした先に見えてくる真実とは──?

コトダマリスト
《モノっちーファイル2》被害者は近江彼方。死亡推定時刻は昨夜22時前後、発見は翌朝7時半頃。
首をロープで絞められており、体内からは毒物が検出されている。

《タカマガハラ事件ファイル》
通り魔“タカマガハラ”に関する資料。被害者はいずれも2度に渡って殺されており、そのうちの片方は必ず絞殺。
現場には何かしらの形でタカマガハラの文字が残されているという。

《新聞記事》
劇団さかみちが通り魔によって襲撃された事件。
この事件で、桜坂しずくが重症を、近江遥が軽症を負っている。

《火傷の跡》
彼方の身体には、背中、右足首、両足の裏に火傷の跡があった。いつついたものかは不明。

《台車》
2-B教室の隅に置かれていたもの。以前はこの部屋になかったらしい。

《アイロン》
2-B教室の3か所に電源が入った状態で放置されていた。
ttps://i.imgur.com/9t8ypiL.jpgを参照。

《せつ菜の証言》
昨日、彼方はプールに行く前に食堂を訪れていた。
その際、スポーツドリンクを受け取っている。

《更衣室の水たまり》
ttps://i.imgur.com/lZVBLbo.jpgを参照。
すぐ横に口の開いたペットボトルが落ちている。

《ランニングマシーン》
上記画像、上側のランニングマシーンの電源が入りっぱなしだった。

《焼け落ちたケーブル》
トラッシュルームに落ちていたもの。何のケーブルかは不明。

《ダイヤの証言》
夜時間のアナウンスが流れた1、2分後、ダイヤは校舎の方から走って戻って来た果南を目撃している。

《理科準備室の薬品棚》
毒薬は見つかっておらず、そもそも最初に歩夢たちが見た時から変化はない。

《校則》
電子生徒手帳で確認出来るもの。まとめは後述。

《校則違反者への処遇》
校則違反を犯した者が出た際、学園中にサイレンが鳴り響く。
その後モノっちーによる処刑が行われる。

《校舎1階の隠し部屋》
鞠莉が見つけたもの。とんでもない場所に繋がっており、とんでもない物があったらしいが……?

《停電騒動》
昨晩、歩夢たちが経験したもの。
食堂にいたせつ菜は経験していなかった。

《昨晩のアリバイ》
https://i.imgur.com/vRofAt7.jpgを参照。
梨子がみんなに聞いて回ったもの。

《教室のエアコン》
2-A、2-B教室のエアコンは、8時半に電源が入るようにタイマーが設定されていた。

~校則~
1.生徒たちはこの学園内だけで共同生活を行いましょう。共同生活の期限はありません。

2.夜10時から朝7時までを”夜時間”とします。夜時間は立ち入り禁止区域があるので注意しましょう。

3.就寝は学生寮に設けられた個室でのみ可能です。他の部屋での故意の就寝は居眠りと見なし罰します。

4.虹ヶ咲学園について調べるのは自由です。特に行動に制限は課せられません。

5.学園長ことモノっちーへの暴力を禁じます。また、監視カメラの破壊を禁じます。

6.仲間の誰かを殺したクロは”卒業”となりますが、自分がクロだと他の生徒に知られてはいけません。

7.生徒内で殺人が起きた場合は、その一定時間後に生徒全員参加が義務付けられる学級裁判が行われます。

8.学級裁判で正しいクロを指摘した場合は、クロだけが処刑されます。

9.学級裁判で正しいクロを指摘出来なかった場合はクロだけが卒業となり、残りの生徒は全員処刑です。

10.夜時間のプールの遊泳は禁止とします。

※なお、校則は順次増えて行く場合があります。

今回はここまで。次回、学級裁判です。

虹ヶ咲のボイスドラマが公開されましたね
幾つか当SSと違う呼称が出て来ました(かすみ→しずくの「しずく」やせつ菜→歩夢の「歩夢さん」等)が、
当SSでは現行のままで行こうと思います

切れていたURLがある、hを抜かなくてもURLを貼れるみたいなので改めて
>>50 モノっちーイラスト
https://i.imgur.com/owgbMuT.jpg

>>70 プロローグ終了
https://i.imgur.com/Z3aBAuf.png

>>79 学生寮 マップ
https://i.imgur.com/ldAk9Ea.jpg

>>83 校舎1階 マップ
https://i.imgur.com/CZVzxHC.jpg

>>152 1章 見張りの順番について
https://i.imgur.com/buPpKvr.jpg

>>272 1章終了
https://i.imgur.com/ZrqWeMr.png

>>282 校舎2階 マップ
https://i.imgur.com/zYTEWuk.jpg

>>365 2-B教室 見取り図
https://i.imgur.com/9t8ypiL.jpg

>>370 更衣室 見取り図
https://i.imgur.com/lZVBLbo.jpg

>>378 2章 アリバイについて
https://i.imgur.com/vRofAt7.jpg


 学 級 裁 判 
  開   廷!

モノっちー「まずは学級裁判の簡単な説明を行いましょう」

モノっちー「学級裁判では“誰がクロか”を議論し、最終的に投票で全てを決定します」

モノっちー「正しいクロをオマエらの過半数が指摘出来れば、クロだけがオシオキ」

モノっちー「不正解だった場合は、クロは卒業、残ったシロは全員オシオキです!」

モノっちー「ちなみに、ちゃんと誰かに投票してネ。投票を放棄した人もオシオキだからネ?」

モノっちー「それじゃあ朝から謎解きタイム、行ってみよーう!」

千歌「私は今回の犯人、誰なのか分かってるよ!」

曜「本当なの!?」

果林「じゃあ、まずはその話から聞かせてもらおうかしら」

千歌「へっへーん。名探偵チカッチの名推理なのだ!」

【ノンストップ議論 開始!】
[|タカマガハラ事件ファイル>
[|新聞記事>
[|停電騒動>

千歌「今回の犯人は、殺人鬼タカマガハラだよ!」

千歌「彼方ちゃんの首は【ロープで絞められていた】んだ!」

エマ「……本当に通り魔の仕業なの?」

千歌「勿論! 【タカマガハラの手口と同じ】だし、間違いないよ!」

鞠莉「じゃあ千歌っちには、そのタカマガハラが誰なのかも分かってるの?」

千歌「えっと、それは……」

花丸「資料によると【赤い目をしていた】らしいずら」

千歌「そうそう赤い目だよ赤い目……かすみちゃんだね!」

かすみ「なんでそうなるんですか!」

犯人は本当に通り魔……? 気になることは山積みだけど……順番に整理していこっか。

[|タカマガハラ事件ファイル>→【タカマガハラの手口と同じ】

歩夢「それは違うよ!」

Break!

歩夢「確かに、彼方ちゃんの殺され方はタカマガハラの手口と似てるかも知れない」

歩夢「でも、犯人は必ず“タカマガハラ”と現場に文字を残していたんだ」

千歌「あれ、そうなの?」

せつ菜「事件ファイルに書いてありました。その文字がキッカケで、タカマガハラって名前が定着したそうです」

ダイヤ「では、歩夢さんは通り魔が犯人ではないと思っているのですね?」

歩夢「うん。根拠は他にもあるけど──」

果南「その考えは浅いよ!」

反論!

果南「いいや、通り魔は学園の中にいたんだ。私たち以外に、誰かが潜んでいたんだよ」

歩夢「誰かって?」

果南「勿論、タカマガハラに決まってる!」

【反論ショーダウン 開始!】
[|モノっちーファイル2>
[|火傷の跡>
[|理科準備室の薬品棚>

果南「私たち以外に人がいる可能性。歩夢はそれを見逃してる」

果南「そもそも彼方は私たちの中の誰かじゃなくて、学園に潜んでたタカマガハラに襲われたんだよ」

果南「だから犯人はタカマガハラで決まり。これ以上議論することなんてどこにもないよ!」


─発展─
でも、文字は現場に残されてなかった
   通り魔の手口に似せた、別の誰かの犯行かも知れない!


果南「だったら、タカマガハラ事件ファイルそのものが現場に残された文字だよ」

果南「あれって【机の中に入ってた】んでしょ!?」

果南「首を絞められて、毒を口の中に入れられて」

果南「タカマガハラと同じ、【2度にわたって殺された】んだ!」

通り魔にこだわる人がいてもおかしくはない……けど、議論を進めるためにも、前提を変えなきゃ!

[|火傷の跡>→【2度にわたって殺された】

歩夢「その言葉、斬らせてもらうよ!」

Break!

歩夢「2度じゃないよ。彼方ちゃんの外傷は、3つあったんだ!」

果南「3つ……?」

エマ「モノっちーファイルには、ロープと毒しか出てこなかったよ?」

歩夢「彼方ちゃんの身体には、何か所か火傷の跡があったんだ」

花丸「背中、右足首、両足裏……確かに、火傷だったずら」

愛「けどさー。かなちゃんってしずくと同じで、プールとか大浴場とかに参加しなかったっしょ? それって火傷を見られたくなかったからじゃないの?」

歩夢「……火傷がどこか1か所だけだったなら、そう考えるのが自然かもね」

梨子「もしその中に、今回の事件で負った火傷が混ざっていたとしたら……」

璃奈「ロープ、毒、火傷。1つ多くなるね(・v・)」

歩夢「タカマガハラの被害者の外傷はどれも2種類。けど彼方ちゃんの外傷は3つ……」

曜「じゃあ、犯人はタカマガハラの手口を真似た別人の可能性があるってこと!?」

歩夢「うん。だから“犯人がタカマガハラ”って考えは、一旦置いた方がいいと思うんだ」

果南「っ……」

果南「……分かったよ、そうする」

かすみ「それじゃあ……次は何から話しましょっか」

かすみ「ねぇ、天王寺璃奈さん?」

璃奈「……え(・v・)?」

愛「ちょっと、なんでりなりーがそこで出てくるの?」

かすみ「蒸し返すようで悪いですけど、さっきの千歌さんの話で思ったんですよね~」

かすみ「タカマガハラは赤い目だった……だとしたら、素顔を晒していない璃奈さんがそうである可能性はありませんか?」

璃奈「……ないよ。私の目は赤じゃないし(`∧´)」

かすみ「だったらそのボードを取ってくださいよ。それまでは信用出来ません」

璃奈「……それは、出来ない(>_<。)」

かすみ「無理じゃないです。かすみんだって、みんなを疑いたくないんですよ~」

かすみ「だからこうやって、1人1人可能性を潰しているんじゃないですか。ほら、さっさとボードを取ってください」

愛「やめなよ。りなりーが顔を見せられないのと今回の事件は全く関係ないよ」

かすみ「……はぁ? じゃあ愛先輩は、璃奈さんが殺人鬼の可能性は絶対にないと言い切れるんですか?」

愛「言い切るよ」

かすみ「……」ハァ

かすみ「信じるって……これは学級裁判なんですよ? 疑ってナンボじゃないですか、愛先輩」

歩夢「待ってかすみちゃん。私も、璃奈ちゃんは犯人じゃないと思う」

かすみ「何か根拠はあるんですか、歩夢先輩。それとも、正義感に目覚めたりでもしたんですか~?」

歩夢「だって、モノっちーファイルによれば、彼方ちゃんが死んだのは昨日の午後10時頃なんだよ?」

歩夢(そうだ。その時間は……)

【コトダマ一覧より選択しろ!】

→【昨晩のアリバイ】

歩夢「梨子ちゃん。みんなに昨日の10時頃、どこにいたかを聞いて回ってたよね?」

梨子「う、うん」

歩夢「だったらかすみちゃんも知ってる筈だよ。昨日は10時まで、食堂でゲームをしてたんでしょ?」

愛「……言われてみれば! 確かに、10時の放送が鳴って、みんなで食堂を出た!」

歩夢「その時のメンバー、覚えてる?」

愛「えーっと……」

かすみ「愛先輩、千歌先輩、かすみん、せつ菜先輩、それから璃奈さんです」

かすみ「つまり、食堂にいた人たちには彼方先輩を殺せないと。はいはい、璃奈さんには彼方先輩を殺せないってことですよね」

ダイヤ「では、彼女の容疑は晴れますね」

愛「良かったじゃんりなりー! 歩夢と愛さんのお陰だね!」

璃奈「……愛ちゃんは何もしてない(`∧´)」

かすみ「まあいいです。かすみんも璃奈さんがクロだとは最初から思っていませんし」

かすみ「単に璃奈さんのボードを剥いでやりたかっただけです。それに本命は……おっと、今のは独り言なので気にしないでください」

千歌「ということはさ。食堂にいなかった人たちの中に犯人がいるってこと?」

花丸「その可能性は高いずら。けど図書室組も外していいと思うよ。ね、鞠莉ちゃん?」

鞠莉「……そうね。みんな一緒に、私の調べ物に付き合ってもらっていたから」

エマ「あ、途中でしずくちゃんが顔を見せたよ。10時になる少し前……だったよね?」

しずく「……」コクリ

千歌「じゃあ、食堂にも図書室にも居なかったのは……曜ちゃんと梨子ちゃん、果南ちゃん、それにダイヤさんだね」

せつ菜「4人の中に、犯人が……?」

曜「ちょ、ちょっと待ってよ! 私は犯人じゃないよ!?」

果南「私だって、彼方を殺してなんかいない!」

ダイヤ「生憎、私も犯人ではありません」

梨子「わ、私も!」

愛「あーもう、順番に喋って!」

【ノンストップ議論 開始!】
[|せつ菜の証言>
[|ダイヤの証言>
[|停電騒動>

千歌「ダイヤさんから右回りに!」

ダイヤ「私は【ランドリーにいました】。洗濯が全て終わった時には10時を少し回っていましたが、すぐに部屋に戻りました」

ダイヤ「ですので、私は彼方さんを殺してなどいません」

曜「私は【自分の個室にいたよ】。食堂組に混ざろうかとも思ったけど、何だか気が進まなくて……」

曜「アリバイは……ないけどさ」

梨子「私は【部屋で絵を描いてて】、そのまま寝ちゃったわ。アリバイがあるとは言えないけどね」

果南「わ、【私だってずっと部屋にいた】よ!」

せつ菜「見事に全員、犯人ではない宣言ですね」

花丸「しかも揃ってアリバイがないずら」

昨晩の4人の行動……1人だけ、あの手掛かりと矛盾するよね。

[|ダイヤの証言>→【私だってずっと部屋にいた】

歩夢「それは違うよ!」

Break!

歩夢「どれもアリバイ証明にはならない。けど、1人だけ明らかに嘘をついた人がいる……」

歩夢「そうだよね、果南さん」

果南「……なんで、そうなるのかな」

歩夢「昨日の10時過ぎ、校舎の方から走って来た果南さんを見た人がいるんだよ。ですよね、ダイヤさん?」

ダイヤ「ええ。夜時間のアナウンスが鳴って少しした後でしたから、10時過ぎなのは間違いありません」

果南「っ、ダイヤが嘘を吐いてる可能性だってあるでしょ?」

ダイヤ「嘘ではありません。この目で確かに、何かに怯えているような果南さんをしっかり見ました」

エマ「怯えている……?」

梨子「もしかして、事件に関する何かを見てしまったとか?」

かすみ「もっと言えば、自分が彼方先輩を殺してしまったから……だったり」クスクス

果南「ち、違う! 私は彼方を殺してなんかいないってば!」

せつ菜「でも、話してくれないと議論が進みません。このままだと果南さんを疑うことになってしまいます」

千歌「果南ちゃん……」

果南「……怖かった」

歩夢「え……?」

果南「昨日、私は夜時間になるまで男子更衣室にいたんだけど……」

璃奈「なんで、男子更衣室(・v・)?」

果南「トレーニングだよ。器具は男子更衣室にしかなかったからね」

彼方『ふいー。あれ、いたんだ』

果南『うん。ここに来てから本格的なトレーニングが出来てなかったからね』

彼方『頑張るね~。超高校級のダイバーさんは、やっぱり体力とか要るのかな?』

果南『まあね。どう、彼方も一緒に走る?』ピッ

彼方『いやー、遠慮しておくよ。私はインドア派だし、スポドリ飲んで体育会系の気分を味わうくらいが丁度いいのさ』

果南『あ……そういえば、飲み物持ってくるの忘れちゃったな』

彼方『ん、まだ口つけてないけど……飲む?』

果南『いや、部屋に置いてあるから大丈夫だよ』

彼方『そう? じゃあ飲んじゃうけど──』


バツン!


果南『ひぃぃぃぃぃっ!?』

果南「急な停電でビックリしちゃってさ……けど、それだけじゃなかったんだよ。だって、停電が直ったと思ったら……」


果南『うぅぅぅ……』ブルブル

果南『……あれ? 電気、ついた』ホッ

果南『ごめんね彼方、見苦しいところ、見せ、ちゃ……』

ドサッ

果南『────!?』


鞠莉「彼方が、倒れた……!?」

果南「死んでいたかは分からないけど……。今から思えば、あの時に殺されたんだと思う」

花丸「それで、ビックリして逃げた……ということずらか」

せつ菜「犯人の姿……見てないんですか?」

果南「見てない。停電が明けてもしばらく目も耳も塞いでたし……それに、しょうがないじゃん。お化けに殺されたんでしょ!?」

かすみ「……は?」

果南「通り魔じゃなけりゃ、そうとしか考えられないじゃん!」

【ノンストップ議論、開始!】
[|台車>
[|アイロン>
[|焼け落ちたケーブル>

果南「通り魔が犯人じゃないなら、彼方を殺したのはお化け……じゃないの?」

かすみ「幽霊なんているワケないじゃないですか~」

果南「暗くて周りが見えない中で彼方を殺したんだよ!? それに、彼方の死体だって何故か教室で見つかったし……」

しずく「やっぱり、その時点では彼方さんはまだ生きていて……《教室でトドメを刺された》……のではないでしょうか」

果林「だとしたらどうして教室に? 学生寮まで来ればみんな居るじゃない」

曜「単純に彼方ちゃんを殺した《犯人が死体を運んだ》んじゃないの?」

せつ菜「ですが、本当にお化けがいるなら……」

花丸「幽霊に憑かれた彼方ちゃんが、《ひとりでに教室まで歩き出した》ずら……」

果南「ひゃぁぁぁぁぁぁ!?」

エマ「怖いの、ダメなんだね……」

歩夢(殺害現場と死体発見現場の違い……その答えは、あの手掛かりが握っている筈だよね)

[|台車>→《犯人が死体を運んだ》

歩夢「それに賛成だよ!」

Break!

歩夢「彼方ちゃんの死体は移動させられていたんだよ。多分、教室の隅にあった台車を使ったんだと思う」

果南「台車……そんなもの、あったんだ」

千歌「そうそう。2階が開放された時、私は教室の探索をしてたんだけど……その時は置いてなかったんだよね」

果林「じゃあ犯人は、停電が起きた間に彼方ちゃんを殺して、果南ちゃんが更衣室を去った後で、死体を運んだってことなのね」

鞠莉「死体を運ぶだけなら、夜時間中にでも出来たと思うわよ」

エマ「それじゃあ犯人は、どこかにずっと隠れてたってこと?」

歩夢「多分……ね。停電が起きていた間に彼方ちゃんを殺して、そのあと果南ちゃんに見つからないようにする必要があったから……」

花丸「あの時犯人も更衣室に居たってことなのかな……?」

愛「プールか更衣室か、その辺りだろうね。んで、その後は一旦プールに隠れればいいワケだ」

璃奈「……夜時間はプールに入れないって話じゃなかったっけ(・v・)?」

愛「プールに入れなくても、プールサイドに立ち入りは……どうなの、モノっちー?」

モノっちー「うん、敷地に入る分にはOKだネ」

愛「ほらね」

せつ菜「そうなると、怪しくなるのは……」

千歌「図書室に居た人たち、食堂に居た私たち、ダイヤさんと果南ちゃんが外れるから……」

歩夢「やっぱり、曜ちゃんと梨子ちゃんの2人が怪しいってことに──」

かすみ「練り込みが足りていませんよ~?」

反論!

かすみ「ま~だ気づかないんですか? 停電が起きたっていっても、精々1分程度なんですよね?」

歩夢「それが……どうかしたの?」

かすみ「おバカな先輩たちに教えてあげますよ。残酷な真実ってヤツです……」ニィ

【反論ショーダウン 開始!】
[|アイロン>
[|理科準備室の薬品棚>
[|教室のエアコン>

かすみ「停電は1分程度。その間に彼方先輩をどうやって殺すんでしょう?」

かすみ「ロープで絞め殺すにしたって、幾ら何でも無理があると思いませんか?」

かすみ「そもそも、クロは本当にそこに居たんでしょうかね?」


─発展─
居たから彼方ちゃんは殺されたんだよ?
    かすみちゃん、何が言いたいの?
        もしかして、何か知ってるの?


かすみ「毒殺……」

かすみ「刃物を使わずに1分足らずで人を殺すなら、それしかありません」

かすみ「【停電中に誰かが毒薬を飲ませた】んですよ」

かすみ「モノっちーファイルにも書いてましたよね?」

毒薬……本当に、そんなものはあったのかな?

[|理科準備室の薬品棚>→【停電中に誰かが毒薬を飲ませた】

歩夢「その言葉、斬らせてもらうよ!」

Break!

歩夢「確かに、彼方ちゃんの体内からは毒物が検出されている……」

歩夢「でもそれって、毒薬なのかな? だって、保健室にも理科準備室にも、そんなものはなかったんだよ?」

かすみ「……」

果林「そういえば、歩夢ちゃんは理科準備室も調べていたのよね」

せつ菜「私も一緒でした。毒薬やその類が一切なかったのは、しっかり確認しています!」

千歌「あれ? じゃあモノっちーファイルが嘘ってこと?」

モノっちー「失敬な! ボクは嘘なんて書かないよ!」

ダイヤ「毒薬ではなく、何か毒になる物を作ったということでしょうか……?」

かすみ「……」クックックッ

かすみ「あっははははははははははははは!」

歩夢「か……かすみ、ちゃん?」


かすみ「先輩たち、この前の事件から何も学んでいないんですね」

しずく「やっぱり……何か知ってるんですね」

かすみ「ええ、知ってます知ってます。歩夢先輩の考えが間違いだってこともです♪」

歩夢「私の考えが……間違い?」

かすみ「よーく思い出してください。理科準備室に毒薬は本当になかったんですか?」

せつ菜「それはなかったとさっき……」

かすみ「あったんですよ。それを持ち出せた人が1人だけいたことも……知ってる筈ですよ?」

歩夢「……っ」ゾクッ

歩夢(ダメ……凄く、嫌な予感がする)

かすみ「答えてくださいよ~。歩夢先輩たちよりも先に、理科準備室に足を運んでいた人って……誰なんでしょうね?」

歩夢(答えは分かっているのに……どうして?)

【怪しい人物を指名しろ!】

→中須かすみ

歩夢「かすみちゃん、だよね」


かすみ『げっ』

せつ菜『……先に来てたんですね』

かすみ『ええ。2人も2階の探索ですか~?』


歩夢「私とせつ菜ちゃんが理科室に入ろうとした時、扉から出て来た……」

歩夢「それって、奥の理科準備室に行っていたんじゃないかな……?」

かすみ「わー、大正解です♪」パチパチパチ

かすみ「皆さんが校舎探索を始めるより早く、かすみんは理科準備室に向かっていたのです。そこで見つけた毒薬を、持ち帰ったというワケですよ♪」

曜「じゃあ、犯人はかすみちゃんで決まりじゃん。用意した毒薬を飲ませたんでしょ?」

かすみ「早とちりしないでくださいよ~。私が現場に行けなかったことは、歩夢先輩が証明してくれたじゃないですか」

曜「っ……」

果林「あくまであなたは、犯人じゃないって言い張るワケね? だったら、どうして毒薬の話題を持ち出したのかしら」

かすみ「全くもう、先輩たちは急ぎすぎです。順を追って説明させてください」

かすみ「かすみん、実はある物に毒薬を仕掛けていたんですよ~♪ 何か分かりますか?」

かすみ「ヒントは~……彼方先輩が口にした物、です」

歩夢「っ……」

歩夢(何となく、分かっちゃった……)

歩夢(かすみちゃんの目的、それって……)

かすみ「……」ニッコリ

【閃きアナグラム、開始!】

ポ ン コ ツ ー ム ド ク ス リ ガ (ダミー有)

→スポーツドリンク

歩夢「スポーツ、ドリンク……」

歩夢「スポーツドリンクを飲んだ彼方ちゃんが、中に入っていた毒で死んだ……」

かすみ「正解です♪ いやー、危なかったですね果南先輩。危うく先輩も死ぬところでしたよ?」

果南「それが……どうかしたっていうのさ」

ダイヤ「今のままだと、犯人はかすみさんであることは変わりませんわよ?」

かすみ「それが変わるんですよ~。歩夢先輩に次の質問です」

歩夢(分かる……どんな質問が来るのか……)

かすみ「彼方先輩が食堂に来た時、スポーツドリンクを渡したのはかすみんじゃないんですよ~」

かすみ「というか、渡そうとしたところである人に遮られちゃったんですけど……」

歩夢(嫌だ……答えたくない……)

かすみ「それって、誰なんでしょうね?」

歩夢「……」

【怪しい人物を指名しろ!】

→優木せつ菜

せつ菜「私です。かすみさんが何かイタズラをするんじゃないかと思ったので……」

せつ菜「確かに、彼方さんにスポーツドリンクを渡しました。でも、それがどうかしたんですか?」

歩夢(違う……違うんだよ……)

千歌「結局、毒を仕掛けたかすみちゃんが犯人だって話だよね? せつ菜ちゃんを経由したところで……」

かすみ「変わるんですよ」

千歌「ほえ?」

かすみ「だってこれは、“犯人”を当てるゲームじゃありません」

かすみ「“クロ”を当てるゲームなんですから」

せつ菜「……?」

かすみ「前回の学級裁判で、モノっちーはこう言いました」


モノっちー『ちなみに学級裁判において、議論する内容の終着点は“最後にトドメを刺した人物が誰か”になります』

モノっちー『たとえ殺意がなくとも、引き金を引いた人間がクロになってしまうのですよ』


かすみ「つまり、この事件のクロは……」

かすみ「毒入りスポーツドリンクを渡した優木せつ菜先輩で決まりなんです」

せつ菜「……」

せつ菜「……え!?」

せつ菜「ちょ、ちょっと待ってください! どうして私が彼方さんを殺さなきゃならないんですか!?」

かすみ「だから、殺す理由がなくても殺したんですって」

かすみ「というワケで、今回の事件のクロはせつ菜先輩です。モノっちー、投票タイムに移って──」

鞠莉「Wait! かすみ、あなたがこんなことをする理由は何かしら?」

かすみ「?」

鞠莉「こんなことをしても、あなたがこの学校から出られるワケじゃない……あなたにメリットがあるとは思えないわ」

かすみ「だって、メリットなんて要りませんし」

鞠莉「……っ」

しずく「で、でも、犯人にしたいなら……もっといい人……いましたよね?」

かすみ「おっと、しずくさん自らそれを言いますか」

梨子「えっと……どういうこと?」

歩夢(しずくちゃんがあんなことを言う理由……それって……)

【コトダマ一覧より選択しろ!】

→【新聞記事】

歩夢「タカマガハラ事件ファイルに付いてた……新聞記事のことだよね」

しずく「……」

花丸「そういえばそうだったずら。タカマガハラの被害を受けた人の中には、しずくちゃんと彼方ちゃんの妹、遥ちゃん……」

花丸「それから、しずくちゃんのお母さんらしい名前もあったずら」

果林「確かに、前回のように何か動機があるとしたら、しずくちゃんを事件に関わらせるのが手っ取り早いわね」

かすみ「あー……そのことですか。ぶっちゃけ、オマケです」

しずく「オマケ、って……!」

かすみ「連続で似たような動機だと、モノっちーもつまらないでしょう? 現に私がつまらないと感じたワケですし」

かすみ「だから、タカマガハラの存在をにおわせておきながら少しも関わっていない! そんな事件を起こしたかったんですよ」

かすみ「そのために、わざわざ死体を教室まで運んで、ロープを首に巻いてあげたんです。少し疲れましたよ~」

梨子「酷い……人の命を何だと思って……」

かすみ「それより。もう投票に進んじゃってもいいんじゃないですか?」

千歌「まだあるよ!」

かすみ「どうしたんですか? 聞いてあげますよ、千歌先輩」

千歌「ちょっと気になったんだ。どうして、果南ちゃんが死体を見つけた段階でアナウンスが鳴らなかったのかなって」

果南「そういえば……!」

千歌「死体が発見されました~って放送、あれが流れたのって、私とせつ菜ちゃんが教室に入った時だったんだ」

璃奈「ルビィちゃんが殺された時は、何人かでルビィちゃんのお部屋を見に行ってた……(>_<。)」

愛「もしかして、アナウンスが鳴るためには何か条件があるってこと?」

ダイヤ「どうなのですか、モノっちー」

モノっちー「あー……そこに気付いちゃった? んもう、デリケートな話だから触れないようにしてたんだけど……」

モノっちー「死体発見アナウンスってのはネ、推理の材料に使っていいものじゃないのさ」

モノっちー「あくまで、校正に学級裁判を起こすために流すものであって……」

愛「そんなことはいいからさ。条件はなんなの、条件は」

モノっちー「“3人以上の人間が死体を発見すること”だよ。オッケー?」

愛「さーんきゅ!」

エマ「確か、アナウンスが流れるまでに死体を発見したのって……」

璃奈「最初に果南ちゃん。次が……かすみちゃん(>_<。)?」

かすみ「確かに、死体を移動させた私は、ある意味第2発見者でしょうね」

曜「次が、千歌ちゃんとせつ菜ちゃん……」

花丸「4人……」

かすみ「これじゃあ、手掛かりにはなりませんね~」プククク

歩夢「ね、ねえ! どっちが先に発見したのか……覚えてないの!?」

せつ菜「そ、そんなこと急に言われても……」

ダイヤ「“3人”に犯人を含む場合と含まない場合……どちらにしても、発見者が4人である以上、判断材料にはなりませんわ……」

歩夢「そんな……このままじゃ、せつ菜ちゃんが……」

せつ菜「……」

かすみ「……♪」

歩夢(嫌だ……このまま、せつ菜ちゃんが犯人だなんて)

歩夢(何か……何かないの!?)

歩夢(この状況を打ち破る、手掛かり……)


 学 級 裁 判 
   中  断

~モノっちー劇場 番外編~

彼方「といっても……モノっちーはここにいないけどね~」

善子「じゃあこの場は何なのよ」

ルビィ「犠牲者の集い……なのかな?」

彼方「多分そうだと思うよ~。それにしても、ドッキドキの展開になって来たね」

善子「アイツ……拘束でもしておかないと大変なことになるんじゃないかしら」

彼方「既に大変なことになってるからね~……」zzz

善子「寝てる!?」

ルビィ「『犯人がハッキリしたら起こして』って書いてるよ」

善子「今までのは全部寝言だったの!?」

今回はここまで。


 学 級 裁 判
   再  開

エマ「えっと……とりあえず、今まで出た情報をまとめてみると……」

曜「通り魔“タカマガハラ”の仕業のように見えた彼方ちゃん殺しは、実は通り魔なんて関係ないもので」

果林「実際は、かすみちゃんが“誰かを殺人犯に仕立て上げる”ために起こされた悪意まみれの殺人」

鞠莉「かすみは犯人にならず、毒入りスポーツドリンクを彼方に渡した人物が犯人になってしまう……」

かすみ「その罠に引っかかったのが、せつ菜先輩だったってワケです♪」

せつ菜「……」

ダイヤ「一応、筋は通っていますわね」

かすみ「さっさと投票に移っちゃいませんか? かすみん、朝ご飯をまだ食べてなくてお腹ペコペコなんですよ~」

花丸「まだずら! まだ話し合いの余地はある……筈」

璃奈「まだって言っても、これ以上話しても結論は……(>_<。)」

花丸「いや……可能性は、ゼロじゃないずら」

【ノンストップ議論 開始!】
[|モノっちーファイル2>
[|理科準備室の薬品棚>
[|昨晩の停電騒動>

花丸「《せつ菜さんが犯人》と決まったワケじゃないずら!」

せつ菜「……それは、本当ですか?」

かすみ「この期に及んでまだ何かあるんですか」

しずく「悔しいですが、かすみちゃんの言う通り……」

かすみ「彼方先輩はせつ菜先輩に【毒殺】された……」

かすみ「これは揺るぎない事実なんですよ~?」

せつ菜「私は……」

愛「ねえマルっち、もうやめにしようよ。これ以上はせっつんが……」

花丸「大丈夫……ずら」

歩夢(私はせつ菜ちゃんを信じてる……そのための突破口は……)

[|モノっちーファイル2>→【毒殺】

歩夢「それは違うよ!」

Break!

歩夢「やっと見つけた……ありがとう、花丸ちゃん」

花丸「どういたしましてずら。歩夢さんも、分かったみたいずらね」

千歌「???」

果南「さっぱり分からないんだけど……」

歩夢「モノっちーファイルに書かれていなくて、この議論の中でまだハッキリしてない事……それを思い出して欲しいんだ」

ダイヤ「ハッキリしてない……?」

歩夢(それは……)

【死亡推定時刻】
【死因】
【死体発見現場】
【殺害現場】

正しい選択肢を選べ!

→【死因】

歩夢「死因だよ……モノっちーファイルには、彼方ちゃんの“死因が書いてなかった”んだ!」


『被害者は超高校級の眠り姫、近江彼方。死体発見現場は校舎2階、2-B教室』

『死亡推定時刻は昨夜22:00前後、発見時刻は翌7:30頃』

『被害者は首をロープで絞められており、体内からは毒物が検出されている』


果林「あら、言われてみれば確かに書いてないわね」

歩夢「幾つも外傷があって、それら全部が通り魔の仕業じゃないって分かる」

歩夢「その上でかすみちゃんの話が出て来れば、誰もが毒殺だって思い込むよね?」

歩夢「でも実際は書かれてない。モノっちーはこういうことに関して嘘を吐かない……」

歩夢「だったらまだ、せつ菜ちゃんが犯人じゃない可能性も残されている筈だよ!」

せつ菜「……!」

果南「うーん……確かに、そうなんだけどさ……」

果南「実際、彼方が停電中に殺されたのは変わらないしねえ……」

ダイヤ「その問題が解決していませんでしたわね……」

千歌「せつ菜ちゃん以外に怪しい人……思い浮かばないや」

かすみ「結局、歩夢先輩の独りよがりですよ」

果林「そうかしら? 私は歩夢ちゃんの意見に賛同するけど」

璃奈「……私は、信じられない(>_<。)」

曜「このままかすみちゃんのペースも悔しいし、私は話し合いを続けたい!」

エマ「うーん……みんなの意見が真っ二つになっちゃったね」

鞠莉「綺麗に割れたわね。どうやって決めたもかしら……」


モノっちー「謎は、全て解ける!」

\待った!/

モノっちー「意見が真っ二つ……綺麗に割れた?」

モノっちー「確かに聞きました……これはアレの出番ですネ!」ポチッ

歩夢(モノっちーがスイッチを押すと、裁判場の両サイドにあるカーテンが開く……)

歩夢(そこには、向かい合うような形で、2列の議席……)

かすみ「随分としょっぱいんですね~。もっとこう、変形する裁判場! みたいなのをかすみんは期待していたんですけど」

モノっちー「あったら面白かったんだけど、生憎そこまでは用意出来なかったからネ」

モノっちー「というワケで、それぞれ席に着いてちょうだいな。両者揃ったら、議論開始っ!」

歩夢(せつ菜ちゃんは犯人じゃない。それを証明するために……)

歩夢(ここで、負けるワケにはいかない!)


        意
        見
        対
        立

       
【優木せつ菜に投票するか?】
  【議論スクラム 開始!】


[|投票する!> V S <投票しない!|]
  松浦果南    上原歩夢
 黒澤ダイヤ    エマ・ヴェルデ
  高海千歌    小原鞠莉
  桜内梨子    渡辺曜
 天王寺璃奈    国木田花丸
   宮下愛    桜坂しずく
 中須かすみ    朝香果林
          優木せつ菜

相手の主張を対応するこちらの【主張】で撃ち返せ!

果南「私は彼方が死ぬ現場を見てるんだよ?」

ダイヤ「せつ菜さん以外に怪しい人物は、もう居ませんわ」

千歌「けど、もう事件の謎はハッキリしちゃったし……」

梨子「かすみちゃんの話は、かなり筋が通っていると思うけど……」

璃奈「毒薬が使われたのはハッキリしてる……(`∧´)」

愛「かすみの罠に掛かった……悔しいけど、それが真実じゃないの?」

かすみ「だからそれは歩夢先輩たちの独りよがりなんですってば~」

VS

歩夢「【独りよがり】なんかじゃない! 私は真実を見つけるんだ!」

エマ「【彼方】ちゃんがスポーツドリンクを飲む瞬間は見てないんだよね?」

鞠莉「まだ停電に関する【謎】が残っているわよ」

曜「【筋】が通っているだけで、証拠はないよね?」

花丸「彼方ちゃんが死んだ後に【毒薬】を飲ませた可能性だってあるずら!」

しずく「かすみさんがまだ何かを隠している【怪しい人物】……そう思えてならないんです」

果林「もっと話し合えば、違った【真実】が見えて来るかもしれないわ」

果南「私は【彼方】が死ぬ現場を見てるんだよ?」 エマちゃん!
エマ「【彼方】ちゃんがスポーツドリンクを飲む瞬間は見てないんだよね?」
Break!
 
ダイヤ「せつ菜さん以外に【怪しい人物】は、もう居ませんわ」 しずくちゃん!
しずく「かすみさんがまだ何かを隠している【怪しい人物】……そう思えてならないんです」
Break!

千歌「けど、もう事件の【謎】はハッキリしちゃったし……」 鞠莉さん!
鞠莉「まだ停電に関する【謎】が残っているわよ」
Break!

梨子「かすみちゃんの話は、かなり【筋】が通っていると思うけど……」 曜ちゃん!
曜「【筋】が通っているだけで、証拠はないよね?」
Break!

璃奈「【毒薬】が使われたのはハッキリしてる……(`∧´)」 花丸ちゃん!
花丸「彼方ちゃんが死んだ後に【毒薬】を飲ませた可能性だってあるずら!」
Break!

愛「かすみの罠に掛かった……悔しいけど、それが【真実】じゃないの?」 果林さん!
果林「もっと話し合えば、違った【真実】が見えて来るかもしれないわ」
Break!

かすみ「だからそれは歩夢先輩たちの【独りよがり】なんですってば~」 私が!
歩夢「【独りよがり】なんかじゃない! 私は真実を見つけるんだ!」
Break!


「「「「「「「これが私たちの答えだ!」」」」」」」

        全   論   破
          All Break!

歩夢「やっぱり、全ての謎が明らかになってない以上、せつ菜ちゃんが犯人だって決めつけるのは早いと思う」

千歌「うーん……分かった。もう一度考えてみよう!」

愛「仕方ないかぁ。命、かかっちゃってるし」

せつ菜「……ありがとう、ございます」

ダイヤ「ですが、そうなると彼方さんの本当の死因は何なのでしょう?」

エマ「今のままじゃ、手掛かりがないよね……」

鞠莉「だったら、別の観点から攻めてみればいいんじゃないかしら」

しずく「別の観点?」

鞠莉「停電について話し合うの。今回の事件とはとても無関係とは思えないからね」

かすみ「みんなで力を合わせて、ってやつですね」

果林「かすみちゃんはその“みんな”に入って欲しくないけどね」

【ノンストップ議論 開始!】
[|アイロン>
[|停電騒動>
[|教室のエアコン>

鞠莉「まずはあの停電が起きたキッカケだけど……」

曜「電気の使い過ぎで、ブレーカーが落ちたんじゃないかな?」

果林「或いは、ブレーカーに細工か……」

かすみ「そもそも、ブレーカーがどこにあるかなんて【知りません】よ」

しずく「前回の事件のように電化製品……例えば【エアコンでタイマー仕掛け】にすれば、狙った時間にブレーカーを落とせますね」

ダイヤ「そもそも……本当に停電は事件と【関係がある】のでしょうか」

花丸「電化製品周りはよく分からないずら……」

かすみ「せつ菜先輩も考えてくださいよ~」

せつ菜「あなたにだけは言われたくありません!」

歩夢(停電の原因……それを、突き止めないとね)

[|教室のエアコン>→【エアコンでタイマー仕掛け】

歩夢「それは違うよ!」

Break!

歩夢「停電が計画的なら、タイマー仕掛けを考えるのは自然……。でも、少なくともエアコンが引き金になったとは考えにくいんだよ」

しずく「ですが、千歌さんは捜査中勝手にエアコンが点いたと言っていたような……あれ、8時半?」

歩夢「そうなんだよ。8時半じゃ、電力消費にはなっても、10時に電気を落とすことは出来ないんだ」

せつ菜「だとしたら、犯人が教室に居て、アイロンの電源を入れたのではありませんか!?」

果林「それだと、停電が起きてる間に更衣室には向かって、彼方ちゃんを殺すのは難しいわね」

せつ菜「そこは……ほら、懐中電灯を使うとか」

エマ「それはないよ! 停電が起きた時、私としずくちゃんは図書室の外に出たけど、明かりなんて見なかったよ?」

しずく「間違い、ありません。私はまっすぐ部屋に帰りましたし、誰にも会っていませんが……」

エマ「私も、そのあとすぐ図書室に戻っちゃったからね。停電が明けた時にはしずくちゃんの姿はなかったけど……」

かすみ「全く……困った先輩たちですねえ。このままだと私まで死にかねないので、もう一つ白状しちゃいましょうか」

曜「やっぱり、まだ何か隠していたんだね」

かすみ「停電の原因を作ったのもかすみんです。アイロンのスイッチを入れて、エアコンのタイマーもセットしました」

かすみ「それが、昨日の夕方くらいのことです。元々、停電に関してはただのイタズラ目的でした」

果南「イタズラ目的……?」

かすみ「ええ。歩夢先輩たちが夜に図書室で集まるって話を耳にしたので……ちょっと驚かせようかなと」

果林「そのイタズラが、どうして彼方ちゃん殺しに発展したのかしらね」

かすみ「そこはあとのお楽しみってことでお願いしますよ、果林先輩」

梨子「ちょっと待って。アイロンもエアコンも夕方に準備していたなら、どうして夜10時に停電が起きたの!?」

歩夢(かすみちゃんが10時に停電を起こした方法……)

歩夢(10時……夜の、10時……)

歩夢(もしかして……?)

【閃きアナグラム 開始!】
ナ ウ ち の モ ア っ ー ノ ン ス (ダミー無)

→モノっちーのアナウンス

歩夢「そうだ、モノっちーのアナウンス!」

千歌「えっ?」

歩夢「毎朝7時と毎晩10時に鳴る定時アナウンスだよ! 確か、ほとんどの部屋と廊下にモニターとスピーカーがあった筈!」

梨子「そっか……アナウンスが鳴って、一斉にそれらの電源が入ったら……」

ダイヤ「アイロンやエアコンで電力消費量が大きくなっていたところにトドメが刺され、ブレーカーが落ちて停電、という寸法ですか……」

歩夢「よく考えたら……図書室にいた私たちは、夜10時のアナウンスを聞いていなかったんだよ!」

鞠莉「もしかしたら、モノっちーに電力の限界は聞いていたかも知れないわね」

モノっちー「どきぃっ!?」

かすみ「どきぃっ!?」

果林「……これは、図星ってことでいいのかしらね」

璃奈「そもそも、学校がそれだけで停電しちゃっていいの(・v・)?」

モノっちー「あのネ。補足するような形になっちゃうけど、2階にはプールがあるんだよ」

モノっちー「水の管理だとか、そういったことに手を回してるもんだから、2階はかなりの電力を消費するんだ」

モノっちー「そんなワケで、電力負担を調整するために、各フロアそれぞれが別々の電源を使っているんだよ」

鞠莉「なるほどね……。そういうことだったの」

エマ「何か分かったの?」

鞠莉「ちょっとね。私が捜査中に見つけた“アレ”の謎が、何となく解けたのよ」

かすみ「アレって何ですか~?」

千歌「鞠莉ちゃん、前回もそんなこと言ってたよね。隠してないで私たちにも教えてよー!」

歩夢(鞠莉さんが見つけたもの……? それってもしかして……)

【コトダマ一覧より選択】

→【校舎1階の隠し部屋】

歩夢「校舎1階にあったっていう、隠し部屋のこと……だよね」

鞠莉「Yes!」

愛「か、隠し部屋!?」

せつ菜「そう言えば、捜査中にそんな話をしていましたね。何やら、とんでもない発見だったそうですが……」

千歌「ねえねえ、どんな発見だったの!」

鞠莉「歩夢が言ったように、隠し部屋があったのは校舎の1階。廊下の壁が、一箇所だけどんでん返しになっていてね」

鞠莉「大体こんな感じよ。広さは教室とほぼ同じってところかしら」

https://i.imgur.com/DXQDA9w.jpg

せつ菜「ちょっと待ってください! これ、ここ(裁判場)のエレベーターホールに繋がってないですか!?」

鞠莉「ええ、けど一旦置いておきましょう。今回の事件と大きく関わっている可能性があるのはそこじゃないわ」

ダイヤ「どういうことなのです?」

鞠莉「あの部屋ね、ブレーカーがあったのよ」

曜「ブレーカー!?」

果林「つまりあの停電は、モノっちー以外の誰かがブレーカーを上げたことで直った……って言いたいのね?」

かすみ「でも、それが今回の事件とどう関係あるんですか~?」

鞠莉「突拍子もない可能性だけどね……彼方の死因に関係しているとしたら、どうかしら」

しずく「死因に……!?」

エマ「あ、あり得ないよ! どうやってブレーカーで彼方ちゃんを殺すの!?」

歩夢(ブレーカーが、彼方ちゃんの死因に関係している……?)

歩夢(だとしたら、彼方ちゃんの本当の死因って……)

【毒殺】
【感電死】
【絞殺】
【溺死】

正しい選択肢を選べ!

→【感電死】

歩夢「感電死……」

せつ菜「え……?」

歩夢(でも、そんなことが狙って出来るの……?)

歩夢(いや……まさか……)

歩夢「感電死だよ! 電気に関連するとしたら、それしかない!」

愛「いやいや、ブレーカーを上げただけで感電は無理があるっしょ!」

璃奈「幾らなんでも厳しくない(・v・)?」

鞠莉「間違っていたら謝るわ。けど、可能性がある以上、是非を明らかにするためにも……」

花丸「話し合ってみる必要が……あるずら」

【ノンストップ議論 開始!】
[|アイロン>
[|更衣室の水たまり>
[|教室のエアコン>

エマ「感電死なんてあり得ないよ!」

曜「仮にそうだとして……感電するような仕掛けがあったの?」

果南「更衣室には何もなかったよ。彼方が死ぬような【仕掛けなんてどこにも】……」

千歌「タンス……じゃない。ええっと……スイッチを入れると電気が流れる機械!」

かすみ「もしかして《スタンガン》のことですか~?」

千歌「そうそれ! スタンガンを使って感電死させたとかは?」

ダイヤ「いえ……スタンガンの電流で人間は死なないと聞いたことがありますが」

せつ菜「初耳ですよそんな話!?」

歩夢(感電死は不可能じゃない……けど、本当にこんなことって……?)

[|更衣室の水たまり>→【仕掛けなんてどこにも】

歩夢「それは違うよ!」

Break!

歩夢「更衣室に残っていた水たまり……あそこに電気が流れたら、感電死は起こり得るかも知れない!」

花丸「もしかして……!」

梨子「何か分かったの?」

花丸「マル、ずっと考えてたの。彼方ちゃんの身体にあった3つの火傷、背中と右足首の裏はともかく……両足の裏を火傷するって、何があったんだろうって」

ダイヤ「では、まさか!」

花丸「水たまりに流れた電気が、それを踏んでいた両足を通して、感電した……」

曜「じゃあ、あの火傷は……」

歩夢「その時に出来たもの、ってことになる──」

エマ「? diverso!」

反論!

歩夢「……え?」

エマ「ごめん。『それは違うよ』って意味だよ」

エマ「違うよ……歩夢ちゃんたちの推理は、間違ってる!」

【反論ショーダウン 開始!】
[|更衣室の水たまり>
[|校則>
[|校則違反者への処遇>

エマ「そもそも、彼方ちゃんが感電死って前提自体が違うんだよ!」

エマ「前提が違う以上、この話を続ける意味なんてない!」

エマ「さっきから言ってるのに、なんで分からないの!」

─発展─
前提が違うってどういうこと?
    他に死因があったりするの?

エマ「校則違反だよ!」

エマ「【個室以外で居眠りしてはいけない】って校則があったよね!?」

エマ「彼方ちゃんはプールで寝てしまって、それで【モノっちーに殺された】んだよ!」

歩夢(校則違反で死んだ……? そんなこと、本当にあるのかな?)

[|校則違反者への処遇>→【モノっちーに殺された】

歩夢「その言葉、斬らせてもらうよ!」

Break!

歩夢「ううん……彼方ちゃんが校則違反で死んだとは考えられない」

エマ「どうして……?」

歩夢「校則違反者への処刑を実行する時は、まず、学園中にサイレンが鳴り響くらしいんだよ」

エマ「そんなの……昨日、2階は停電してたんだから、そこにサイレンが鳴らなかったのかも──」

歩夢「でも、学生寮にいたみんなもそんなサイレンは聞いてないんだよね!?」

エマ「っ……!?」

ダイヤ「ええ……確かに、サイレンは聞いていません」

かすみ「というか、停電していた2階でもうっすら聞こえるんじゃないですか?」

歩夢「……だから、モノっちーに殺されたとは考えられないんだ」

エマ「……」

鞠莉「じゃあ改めて、水たまりの話に関する議論を再開させましょうか」

果南「そもそも、水たまりに電気を通すって話がよく分からないんだけど」

鞠莉「あら。果南の話の中に、その手掛かりが十分あったと思うけど?」

果南「え?」


彼方『頑張るね~。超高校級のダイバーさんは、やっぱり体力とか要るのかな?』

果南『まあね。どう、彼方も一緒に走る?』ピッ


せつ菜「この話に手掛かりが……?」

鞠莉「果南。あなた、あの時ランニングマシーンの電源を入れたのよね?」

果南「う、うん……」

歩夢「だとしたらおかしいよ。私たちが更衣室を調べた時って、ランニングマシーンの電源が入ってたんだよ!?」

曜「おかしいところなんてないんじゃない? スイッチを入れておけば、ずっと動き続けるタイプなんでしょ?」

曜「じゃあ停電が直った時に、もう一度電源が入ったんじゃ……。現に、エアコンがそうみたいだし」

果林「いえ、それだと妙ね。捜査の時に電源が入ってたランニングマシーンは“一つだけ”だもの」

ダイヤ「果南さんが使っていた方と彼方さんに走らせる方。スイッチを入れっぱなしなら、どちらも点いていないとおかしい、ということですわね?」

せつ菜「ですが、どうしてそんなことが起きたのでしょう?」

歩夢「考えられるとしたら……」

【コトダマ一覧より選択】

→【焼け落ちたケーブル】

歩夢「トラッシュルームで見つけた、焼けたケーブル……」

歩夢「あれって、そのランニングマシーンの電源ケーブルなんじゃないかな?」

璃奈「処分されていたってことは……重要な証拠(>_<。)?」

かすみ「恐らく、アレは不良品だったんだと思います」

かすみ「本来電源ケーブルって、電気を通さないためにビニールか何かに包まれているじゃないですか」

かすみ「でも、もしそのケーブルが不良品だとしたら。しかも、そこに水たまりがあって、その上に人がいたら……」

https://i.imgur.com/oyA6M0h.jpg

花丸「停電が直ったら、そこにいた人は感電する……」

かすみ「これについては、処分含めてかすみんがやったワケじゃありませんよ? 流石に、感電死なんて考えもしませんでしたから」

ダイヤ「ほとんど、かすみさんの手のひらの上で転がされている気がしますわね」

千歌「な、なんて恐ろしいトリック……」ゴクリ

鞠莉「いえ。トリックというよりは……事故と言った方がいいかもね」

鞠莉「恐らく彼方は、停電に驚いてスポーツドリンクを落としたのでしょう」

鞠莉「飲む直前だったってことは、口は開いてる。つまり、床にこぼれた……」

梨子「そんな……それじゃあ、ブレーカーを上げた人が感電死させたことになって……!」

モノっちー「そうですネ! 近江さんを殺した、犯人ということになりますネ!」

愛「ね、ねぇ……愛さん、それだったら議論したくないよ。そいつは善意で行動したのに、どうして人殺しにならなきゃいけないのさ!」

ダイヤ「ですが……やらなくてはいけません」

果林「鞠莉ちゃん。ブレーカーを上げた人が誰なのか……手掛かりはなかったの?」

鞠莉「ないわよ」

せつ菜「じゃあ、当てずっぽうで犯人を当てるしかないのですか!?」

鞠莉「早とちりしないで頂戴。そもそも私が見つけたブレーカーは、“校舎1階の電源だけ”なんだから」

しずく「……え?」

鞠莉「ほら、モノっちーも言ってたでしょ?」


モノっちー『水の管理だとか、そういったことに手を回してるもんだから、2階はかなりの電力を消費するんだ』

モノっちー『そんなワケで、電力負担を調整するために、各フロアそれぞれが別々の電源を使っているんだよ』


鞠莉「さて、ここで考えて欲しいんだけど……」

鞠莉「校舎1階の隠し部屋に、校舎1階のブレーカーがあった」

鞠莉「彼方が死んだ男子更衣室は、校舎2階……」

梨子「2階のブレーカーは、2階の隠し部屋にある……ってこと?」

鞠莉「Yes!」

愛「そ、そんなの分かりっこないじゃん! 1階に隠し部屋があることすら知らなかった私たちが、2階の隠し部屋なんて……」

歩夢「いや……分かるかも知れない」

愛「……マジで?」

歩夢「鞠莉さん、言ってたよね。隠し部屋は教室くらいの広さだったって」

鞠莉「ええ、そうね」

歩夢「だとしたら……何となく、分かる気がするんだ」

歩夢「1階の隠し部屋が、ああいう隠され方をしていたのなら……」

【スポットセレクト 開始!】

https://i.imgur.com/KIEAhB9.jpg

隠し部屋はどこにあった?

https://i.imgur.com/xwzuYfw.jpg

歩夢「ここだよ。今考えられる可能性は、それしかない」

千歌「図書室の……すぐ近く?」

鞠莉「可能性としては十分高いでしょうね。2階が開放された時、私たちは色んな部屋をくまなく調べた」

鞠莉「そこで隠し部屋が見つからなかったということは、廊下に隠されている可能性が高い……」

果林「なるほど? だから、この地図にある空白のスペースが、その部屋だってワケね」

歩夢「そうなんだよ。だとしたら……停電を復旧させたのが誰なのか、検討がついちゃうんだ」

せつ菜「えっ……!?」

曜「分かった、ってこと?」

歩夢(校舎2階の隠し部屋は、図書室のすぐ前にあった)

歩夢(停電が起きた時、善意でブレーカーを上げることが出来た人……)

歩夢(それは……)

【怪しい人物を指名しろ!】

→エマ・ヴェルデ

歩夢「エマちゃん……あなたなんじゃないかな?」

エマ「……」

かすみ「へぇ。エマ先輩が犯人だったんですね」

歩夢「昨日の夜、私は鞠莉さん、果林さん、花丸ちゃん、エマちゃんと5人で図書室にいた」

歩夢「色々とお話をしている途中で、しずくちゃんが来た。今思えば、あれが10時ちょっと前」

歩夢「私たちがいることに驚いたしずくちゃんが、慌てて図書室を出て行って、それを追いかけたのがエマちゃんだった」

歩夢「停電が起きたのがその直後。だとしたら、ブレーカーを上げることが出来た人は……」

果林「慌てていたしずくちゃんにその発想があるとは考えられない。だから、エマちゃんしかいないってワケね……」

エマ「……」

かすみ「どうなんですか~? 何か反論は──」

しずく「ま、待ってください! それだけで、エマちゃんを疑う理由にはなりません!」

しずく「隠し部屋だって、本当はそこになかったのかも知れないじゃないですか!」

しずく「彼方さんが感電死だって、証拠がないじゃないですか!」

エマ「しずくちゃん……」

歩夢「違うよ……。感電死だってことは証明されたし、隠し部屋だって……」

しずく「さっきのせつ菜さんの話と同じです! 手掛かりを都合よく並べて、筋が通っているだけの間違った推理をでっち上げただけじゃないですか!」

しずく「ランニングマシーンの電源を入れた果南さんだって……いえ、私だって疑われるべきなんです!」

しずく「果林さんはさっき慌てていたと言ってましたけど、本当にそうだったんでしょうか!?」

しずく「私が犯人なんです! 私がブレーカーを上げたんです!」

しずく「それでもエマちゃんが犯人だって言うなら、根拠を出してください!」

エマ「……っ」

歩夢(エマちゃんが犯人になる根拠……)


モノっちー『殺害を実行した人は、ボクに願いを言ってください! 学級裁判で投票を乗り切ることが出来れば、卒業する時にそれを叶えてあげましょう』


歩夢(今だったら、分かる……)


モノっちー『おはようございます、朝7時になりました』

モノっちー『さてさて、今日も1日頑張っていきましょう』

モノっちー『そうそう。何とは言わないけれど、ボクは悲しいです。何とは言わないけどネ!』


歩夢(それをぶつけるしか、ない……!)

しずく「このままじゃ、私は納得出来ません!」

【理論武装 開始!】

しずく「エマちゃんは犯人じゃない!」

しずく「こんな推理、納得出来ません!」

しずく「カーテンコールにはまだ早いです!」

しずく「証拠を出してください!」

しずく「果南さんや私だって疑われるべきじゃないんですか!?」

しずく「そもそも、私が犯人なんです!」

しずく「こんな幕切れ、認められるワケないじゃないですか!」


しずく「【エマちゃんが犯人だっていう根拠を出してください!】」

      △:訪れた
□:図書室に      〇:昨晩
      ×:モノっちー

→〇□△×  [|昨晩図書室に訪れたモノっちー>

歩夢「これで……終わりだよ!」

Break!!!

歩夢「停電騒動のあと……図書室にモノっちーが来たんだ」

歩夢「あの時は単に、停電でアナウンス出来なかった10時の時報を伝えに来たのかって思ってたけど……」


モノっちー『殺害を実行した人は、ボクに願いを言ってください! 学級裁判で投票を乗り切ることが出来れば、卒業する時にそれを叶えてあげましょう』


歩夢「本当は、彼方ちゃんを殺してしまったエマちゃんに、動機となる願いを聞きに来たんじゃないかな……?」

しずく「そんな、荒唐無稽すぎます……!」

歩夢「そもそも今回の事件は、事件というより事故のようなものだった。つまり“自分が犯人になっていたことに気付いていない”んだよ」

しずく「でも事故だっていう証拠は……」

歩夢「今朝のモノっちーのアナウンスだよ」

しずく「え……?」


モノっちー『おはようございます、朝7時になりました』

モノっちー『さてさて、今日も1日頑張っていきましょう』

モノっちー『そうそう。何とは言わないけれど、ボクは悲しいです。何とは言わないけどネ!』


歩夢「自分が犯人になったことにも気付かないまま、折角モノっちーが用意した動機を無駄にした」

歩夢「それを踏まえての、あのアナウンスってことじゃないかな?」

しずく「っ……それでも!」

果林「そもそも、しずくちゃんは犯人じゃないって、既に言ってるしねえ」

しずく「……!?」

エマ『それはないよ! 停電が起きた時、私としずくちゃんは図書室の外に出たけど、明かりなんて見なかったよ?』

しずく『間違い、ありません。私はまっすぐ部屋に帰りましたし、誰にも会ってませんけど……』

エマ『私も、そのあとすぐ図書室に戻っちゃったからね。停電が明けた時にはしずくちゃんの姿はなかったけど……』


果林「まっすぐ部屋に帰った、のよね?」

しずく「あ、あれは私の嘘で……えっと……」

歩夢「私だって、エマちゃんを疑いたくない。けど、ここからは信じるしかないんだ」

歩夢「エマちゃん、本当のことを教えてくれないかな……?」

エマ「……」

しずく「エマちゃん……」




エマ「もう、いいよ」

しずく「……」

しずく「……エマ、ちゃん?」

エマ「しずくちゃん……もう、いいんだよ……」

エマ「もう、やめて……」

果林「じゃあ、ブレーカーを上げた張本人だって、認めるのね」

エマ「……うん。隠し部屋のことをずっと黙っていたこともね」

しずく「そんな……」

エマ「歩夢ちゃん……最後に、この事件を最初から振り返って欲しいんだ」

エマ「しずくちゃんも、きっと納得してくれるから……」

歩夢「わ……分かった。やってみるよ」

【クライマックス推理】
ACT.1
今回の事件……いや、事故の発端は昨日の夕方。
図書室に集まる予定だった私たちへのイタズラ目的で、かすみちゃんは校舎2階を停電させる計画を立てたんだ。
エアコンが8時半に点くようタイマーをセット、2階の教室に電源の入ったアイロンを設置。
あとは、夜10時のアナウンスで停電が起こる……そんな計画だった。
けど……かすみちゃんの計画は、これだけじゃ終わらなかったんだ。

ACT.2
夜、食堂でせつ菜ちゃんたちがゲームをしていたところに、彼方ちゃんが訪れる。
プールで泳いだあとに飲みたいからと、スポーツドリンクを取りに来たんだ。
そこでかすみちゃんは……どういう心変わりがあったのか分からないけど、洒落にならないイタズラを実行に移した。
彼方ちゃんを殺し、せつ菜ちゃんをクロにさせる、恐ろしい計画……。
毒入りスポーツドリンクをせつ菜ちゃんに渡させて、それを彼方ちゃんに飲ませるという、悪意に満ちた罠だったんだ!

ACT.3
そうとも知らない彼方ちゃんはプールでひとしきり泳いだあと、更衣室に戻る。
背中と右足首、火傷の跡を気にする彼女は男子更衣室を使っていたけど、そこにはトレーニングに励む果南ちゃんの姿があった。
この時、果南ちゃんが入れたランニングマシーンのスイッチが彼方ちゃんの命を奪うことになるなんて……誰も、恐らくかすみちゃんでさえ予想していなかっただろうね。

ACT.4
午後10時、モノっちーの時報アナウンスが鳴ると同時に、学園中全てのモニターとスピーカーに電源が入る。
そして、使用電力の限界を迎えた校舎2階はブレーカーが落ちて停電した。
更衣室組と図書室組、2階にいた人たちはパニック状態になった……。
その中で、ある行動を取った人がいた。
それが、今回の事故で“最後の引き金”を引いてしまった人物……。

ACT.5
その人は、図書室を出てすぐにある隠し部屋へと向かった。
そこに2階のブレーカーがあることを知っていたからだよ。
善意から彼女の上げたブレーカーは……思いもよらぬ仕掛けを発動させてしまうんだ。
更衣室にいた彼方ちゃんは、停電の拍子に持っていたスポーツドリンクを落として、床に水たまりが出来てしまう。
すぐ近くにあったランニングマシーンの電源ケーブルが不良品だったことなんて、夢にも思わなかっただろうね。
停電が明け、スイッチを押したままだったランニングマシーンに電源が入り……彼女は感電死した。
スポーツドリンクはよく電気を通すし、ましてプールあがり……感電しやすい条件が揃っていたんだよ。

ACT.6
停電の最中に殺されたと思い込んだ果南ちゃんは、現場から逃走。
その後……更衣室を訪れたかすみちゃんが、ある偽装工作を行った。
前もって理科準備室から持ち出していた毒薬を死体の口に入れ、殺人鬼タカマガハラの手口に状況を似せた。
最初から、かすみちゃんによって仕組まれていた、今回の事件……。
けど彼女は……今回の犯人にならないんだ。

歩夢「犯人になってしまうのは……その才能を持ちながら、皮肉にも不運な事故を引き起こしてしまった人物」

歩夢「それが……あなたなんだね」

歩夢「超高校級の幸運……エマ・ヴェルデちゃん……」

    COMPLETE!!!

歩夢「これが……彼方ちゃんの死の真相……」

しずく「……」

エマ「ごめんね、しずくちゃん。折角かばってくれたのに……」

モノっちー「どうやら、議論の結論が出たみたいですネ? それでは皆さん、お待ちかねの投票タ──」

愛「ちょっと待って」

モノっちー「──んぐっ!?」

歩夢「愛ちゃん……どうしたの?」

愛「モノっちーの動機は、まだ有効なのかな」

千歌「……どういうこと?」

愛「確かに、エマちーは取り返しのつかないことをしたのかも知れない」

愛「けどさ、違う人に投票するっていう手もあるっしょ?」

璃奈「エマさんは……願い事をモノっちーに伝えてない筈だよ(・v・)?」

愛「だったら今すぐにでも“コロシアイを終わらせたい”って願って、エマちー以外に投票する」

愛「そうすれば、クロだけじゃなくて、私たちもこんな学園から出られる……筈じゃないかな?」

ダイヤ「どうなのですか、モノっちー」

モノっちー「うけけけけけ……確かに、面白い提案だと思うよ」

モノっちー「でも残念、願い事はもう失効してます! だって既に……叶っちゃってるみたいだしネ」

千歌「そんな……」

愛「畜生……じゃあ、マジでエマちーに投票するしかないのかよ……」

歩夢(……?)

歩夢(願い事が既に、叶っている……?)

モノっちー「もういいよネ? じゃあ、お待ちかねの投票タイムに移ります!」

モノっちー「皆さん、お手元のスイッチで投票しちゃってください!」

モノっちー「ああそうそう。ちゃんと誰かに投票してネ? 投票を放棄した人も……オシオキだからさ」

しずく「……」

エマ「ごめんね、しずくちゃん……」

歩夢(エマ・ヴェルデの名前が貼ってあるシール。その上にあるスイッチを押す……)

歩夢「……あれ?」

せつ菜「どうかしたんですか、歩夢」

歩夢「いや……何でもない」

歩夢(シールに、うっすらだけど剥がしたような跡が……)

歩夢(気のせい……?)

モノっちー「投票が終わったみたいですネ。さあ、クロとなるのは誰なのか、その答えは正解なのか不正解なのか!」

曜「ちょっと待って、モノっちー!」

モノっちー「んもう。さっきからこのパターンばっかりだなあ。待ったが多すぎるゲームを作ったら、殺されるんだよ?」

モノっちー「大体、投票は終わってるの! あとは開票速報を待つだけなの! 今さら変更なんて出来ないよ!」

曜「さっき、鞠莉ちゃんの話を聞いて……疑問に思ったの」

曜「隠し部屋が、ここ(裁判場)のエレベーターホールに繋がってるって話……」

曜「結局、関係ないからってことでスルーしたけど……誰かが、その通路を通ってここまで来たとしたら……」

曜「実際……エマちゃんとかすみちゃんの名前シールに、剥がしたような跡があるんだよ」

璃奈「……えっ(?□!)」

花丸「ど、どういうことずらぁ!?」

鞠莉「誰かが投票スイッチに細工をした。しかも、入れ替わっていた名前はエマとかすみ……」

鞠莉「迂闊だったわ……。エマ、あなた最初から知ってたんじゃないの?」

エマ「……」

果南「えっと……どういうこと?」

歩夢「かすみちゃんは、ケーブルの処分はしてないって言ってた……。もしかしたら、それをやったのが……」

せつ菜「エマさん、ということですか……!?」

しずく「嘘……」

鞠莉「ついでに、死体発見アナウンスについてもよ。モノっちーは“3人以上の人間が死体を発見すること”を条件にあげていたけど……」

鞠莉「今回の事件の犯人はその『3人』の中に“含まれていなかった”んじゃないかしら」

モノっちー「ぎくっ」

鞠莉「だろうと思ったわ。確かに、彼女が自分のやったことに気付いて、証拠を処分しようと動くなら……あのアナウンスは邪魔になりかねない」

梨子「果南ちゃんとかすみちゃんで、既に2人が死体を見ていたから……」

かすみ「どうなんですか、エマ先輩。このままだと、先輩を除いて全滅ですよ?」

千歌「えっ!? なんでそうなるの!?」

ダイヤ「私たちが押したのはエマさんのスイッチではなく、かすみさんのスイッチだからです」

エマ「……」

せつ菜「モノっちー、今すぐ投票のやり直しを……」

モノっちー「あーあー聞こえなーい聞こえなーい。というわけで、投票結果の発表と参りましょーう!」

エマ「違う……私は……」

しずく「エマ……ちゃん?」

モノっちー「投票の結果、クロとなるのは誰なのか? その答えは正解なのか、不正解なのか~!?」

エマ「私、は……」

歩夢(焦る私たちを他所に、モノっちーは投票結果を画面に映し出す……)



   VOTE

エマ エマ エマ
   GUILTY



エマ「……」

エマ「……え?」



 学 級 裁 判 
   閉  廷

モノっちー「ひゃっほーう! 2連続正解だぁ!」

モノっちー「《超高校級の眠り姫》近江彼方さんを殺し、裁判場に細工をした不届き者は……」

モノっちー「《超高校級の幸運》エマ・ヴェルデさんなのでしたー!」

エマ「…………」

歩夢「どういう……こと?」

璃奈「かすみちゃんじゃ……ない(?□!)」

梨子「モノっちーも、最初から細工のことには気づいていた……ってことかしら」

モノっちー「まあネ。ここにも監視カメラは仕掛けてあるし……青ざめた顔した彼女が夜中に侵入して来たことも、全部お見通しだったよ」

花丸「じゃあ……自分が殺してしまった、ってことも知ってたずら……?」

エマ「……全部」

しずく「え……?」

エマ「全部……かすみちゃんが、悪いのに……!」

────昨晩0時頃、学生寮廊下

エマ『んー……なんだか眠れないや』

トテトテトテ

エマ『……?』

かすみ『……あれ、エマ先輩じゃないですか』

エマ『かすみちゃんも、眠れないの?』

かすみ『んー……ある意味、そうですね。予想を大きく裏切ってくれる超高校級の皆さんには、尊敬の念を抱かずには居られません♪』

エマ『……どういうこと?』

かすみ『まさか感で……おっと、今のは独り言です。じきに分かりますよ、先輩』

エマ『……よく分からないけど、おやすみ』

かすみ『はーい。おやすみなさ~い』ガチャリ

エマ『……』

果南「夜時間に、かすみと会ってた……?」

かすみ「あー、そういえばそんなこともありましたっけ」

エマ「何だか嫌な予感がして……校舎を見て回ったの。そうしたら……」

果林「彼方ちゃんの死体を見つけた、ってワケね」

エマ「すぐにみんなを呼ぼうって思った。けど、少し考えて……気付いちゃった」

エマ「元々悪いのはかすみちゃん。でも、最後に引き金を引いたのは私……」

歩夢「だから、電源コードを処分したんだね……」

エマ「……うん。燃え残っちゃったのは、慌ててたから、だと思う」

かすみ「だからって、裁判場に細工までしなくったっていいじゃないですか~。そこまでして死にたくないんですか?」

エマ「死にたくないに決まってるよ!」

エマ「停電が起きた時、図書室から悲鳴が聞こえてきて、何とかしなきゃって思った!」

エマ「廊下を走ってたしずくちゃんが、転んだら危ないって思った!」

エマ「ブレーカーがどこにあるかを知ってるのは私だけ! 私にしか出来ないって思った!」

エマ「私は、みんなを助けたくて行動したのに……」

エマ「なんで彼方ちゃんが死んでるの!? なんで私が殺されなきゃいけないの!?」

エマ「なんで、こんな、理不尽なこと……」

モノっちー「まあ、理不尽なゲームだからね。多少のことは受け入れて貰わないと」

ダイヤ「今は黙っててくださる?」

モノっちー「いやいや、そうも行かないよ。ボクだって、そろそろアレをやりたくて仕方がないんだ」

愛「……まさか!」

モノっちー「うん、そのまさか。オシオキだよ」

モノっちー「オマエらだって、投票そのものを誤認させて全滅を狙った人の話なんてもう聞きたくないでしょ?」

バッ

しずく「やらせない……!」

エマ「しずく、ちゃん……?」

しずく「エマちゃんが彼方ちゃんを殺したとか、全滅させようとしたとか、そんなことはもういいんです……!」

しずく「エマちゃんは怯えていた私のことを、ずっと想っていてくれた。みんなの為を思っていた」

しずく「そんな優しい人が、殺されていい筈ありません……!」

かすみ「だったら、優しかった津島先輩たちも殺されるべきではありませんでしたよね~」

モノっちー「オシオキの邪魔をするなら、オマエも校則違反扱いにしてオシオキだよ?」

しずく「っ、それでも……!」

エマ「ダメだよ、しずくちゃん」

しずく「……」

エマ「いいんだよ、もう……」

しずく「諦めるん……ですか……?」

しずく「あんなに、死にたくなかったのに……どうして諦めるんですか……っ」

しずく「エマちゃんは、何も悪くないのに……!」

エマ「いいんだよ……。モノっちーの言う通り、願い事は叶ったから……」

しずく「え……?」

モノっちー「さて、茶番もいいところで……」

モノっちー「今回は《超高校級の幸運》エマ・ヴェルデさんのために、スペシャルなオシオキを用意しました!」

エマ「しずくちゃん、みんな……本当にごめんね」

モノっちー「それでは張り切って行きましょう! オシオキターイム!」

エマ「ようやく、仲直り出来たのになぁ……」


     GAME OVER
ヴェルデさんがクロにきまりました。
   おしおきをかいしします。

前回のクロ同様、首輪で薄暗い部屋に連れ去られたエマ・ヴェルデ。

これまた前回同様、磔にされた彼女。前回と違うことがあるとすれば。

背後に大きな壁があることと、その壁に十字架のポーズで磔にされていること。



〈Crisi dei capelli rossi(赤髪危機一髪)〉
《超高校級の幸運 エマ・ヴェルデ処刑執行》

磔にされたエマの前に、帽子を被り、クロスボウを持ったモノっちーが立っています。

彼(?)が放った赤い色の矢は、まっすぐエマの身体に……当たることはありません。

軌道が逸れて、右腕の下に当たったようです。これには思わず彼女も冷や汗。

モノっちーは、再び矢を放ちます。

2本、3本、4本……。

しかし、どれもエマには当たりません。

ギリギリ当たらないものもあれば、大きく軌道が逸れたものも。

幸運なことに、彼女にはかすり傷ひとつつきません。

幸運な彼女の奥歯は、ガチガチと歪な音を鳴らします。

業を煮やしたモノっちーは、機関銃のようなものに大量の矢をセットしました。

赤い軌跡を描いて放たれる幾多もの矢。

それらはすべて真正面にいるエマに向けられている筈なのに、1本たりと命中しません。

ぜぇ、ぜぇと息を切らせるモノっちー。

赤い矢が大量に刺さった壁は、当然ながら真っ赤に染まります。

しかし、その中央、磔にされたエマだけは赤く染まらず。

さながら、彼女の故郷であるスイスの国旗のようでした。

当の本人は、目玉があちらこちらに泳いでいるようです。

そんな彼女が最後に捉えたのは、ゼロ距離でクロスボウを構えたモノっちー。

トスン。

確実に脳天に当てると、彼女を磔にしていた壁が突然動き出します。

ぴょーん! と、大きな図体に見合わぬ跳ね方をした壁は数秒で落下し、バラバラに砕け散りました。

仕事を終えたモノっちーは一息。

手元に置いてあったリンゴをかじろうとして……ふと、思い出しました。

これは元々彼女の頭上に置くものだったのではないか、と。

……まあ、いっか。

そんな表情を浮かべながら、結局ティータイムに入るのでした。

しずく「エマ、ちゃん……」

千歌「……っ」

果南「……」

モノっちー「うけけけけけ……精々、安らかに眠ることだネ……」

歩夢「……」

歩夢(終わった……)

歩夢(2度目の事件、2度目の処刑)

歩夢(改めて……この学園では、人の命がどれだけ軽く扱われるのかと実感する)

かすみ「あーあ、これじゃまるで葬式パーティーじゃないですか。皆さん、超高校級のお顔が台無しですよ~?」

ダイヤ「相変わらず、人を苛立たせることには長けていますわね」

かすみ「ふふん♪ それじゃ、かすみんは一足先に帰らせてもらいますよ~。いい加減朝ご飯を食べないといけませんから」タッタッタッ

歩夢(言うだけ言って……かすみちゃんは足早に裁判場から姿を消した)

歩夢(後に残された私たちは……文字通り、お葬式のようだった)

しずく「……私。左腕が、肩から上にあがらないんです」

花丸「……ずら?」

しずく「最初に気付いたのは、この学園に来てすぐでした。その時はまだ、原因が何なのかよく分かっていなかったんです」

しずく「けど、あの日……図書室で例のファイルを見かけた時……」


しずく『未解決事件・ケース“タカマガハラ”……?』

しずく『……』

エマ『しずくちゃん、どうかしたの?』

しずく『い、いえ、何でも……』


しずく「読んではいけない。頭のどこかで、分かっていました。けど、私はその指を止められなくて……」

【劇団さかみち団員、襲われる 通り魔の犯行か】

『8月21日午後20時頃、全国を駆け回る人気劇団・さかみちの団員たちが、静岡公演のために宿泊していたホテル近辺の路地で何者かに襲われた』

『劇団の若手スターとして活躍している桜坂しずくさん(16)などが重症を負ったが、全員命に別状はない』

『また、犯人と思しき人物は同日16時頃にも近辺に出没しており、その際近江遥さん(16)ほかが頭を打つなどの軽症を負った』

『いずれも現場にはロープが落ちていたことから、警察は通り魔・タカマガハラが事件に関与している可能性を視野に入れて捜査を進めている』

しずく(何、これ……)

しずく『……っ!』ダッ!

エマ『え、しずくちゃん!?』

しずく(通り魔……重症……!?)

しずく(分からない……何も、分からないよ……)

しずく「お部屋に戻ってすぐ、シャワールームに入りました」

しずく「その時、ようやく気付いたんです……」

歩夢(そう言うと、しずくちゃんは突然上着を脱いで行く……)

モノっちー「なになに、そういうショーでも始まるのかな!?」

果林「あなたは黙ってて」

歩夢(彼女が私たちに見せた、その背中は……)

しずく「……ひどい、傷ですよね」

曜「背中を……ナナメに……」

歩夢(服を着直し、彼女は再び説明を始めた)

しずく「原因は、すぐに分かりました。腕が上がらないのはこれなんだって」

しずく「笑っちゃいますよね。お陰で、この学園を出ても大好きな演劇に支障が出ちゃいます」

しずく「でも私は、何も覚えていないんです」

梨子「覚えていない?」

しずく「そもそも私は、劇団さかみちの一員として静岡に行ったことはまだないんです」

しずく「それなのに……私は、静岡に行ったことになっていて」

しずく「いつの間にか通り魔に襲われていて、いつの間にか左腕が上がらなくなっていて」

しずく「どうして……こんなことになっているんですか」

しずく「どうして、私はっ! 自分の身に降りかかった不幸を何も覚えていないんですかっ!!!」

しずく「こんなっ……大好きなことが出来なくなるような、大きな傷なのにっ……!」

せつ菜「しずく、さん……」

千歌「だから……しずくちゃんは部屋に閉じこもってたんだね」

千歌「怖くて、怖くて……何もかも、信じられなくなってたんだね」

しずく「……」コクリ

しずく「でも……エマちゃんには、悪いことをしちゃいました」

しずく「図書室で調べ物をしている私に、届かない位置にある本を取ってくれたりと、親切にしてくれたんです」

しずく「それなのに、私は……」

しずく「だからせめて、庇ってあげたかったんです」

歩夢「それで、あの反論……」

しずく「エマちゃん、言ってくれたんです。慣れないことが多くて、失敗も多いかも知れないけど……これからもよろしくね、って」

しずく「でも、私はっ……!」

愛「……願い事は叶ってた、って、そういうことだったんだね」

しずく「えっ……?」

愛「エマちーは、しずくと仲直りしたいってずっと悩んでた」

愛「でも、二人がそうやってお互いを想うことが出来たってことはさ」

愛「きっと、出来てたんだよ。仲直り(>v<)」

璃奈「ちょっと、璃奈ちゃんボード勝手に取らないで(>_<。)!」

愛「ごめんごめん。とにかく……今は前を向いて行けばいいんだよ」

愛「折角仲直り出来たのに……お友達に示しがつかないっしょ?」

しずく「……」

しずく「……そう、ですね」

しずく「ありがとうございます……」

グ~~~

曜「……」

曜「ごめん……私のお腹の虫、みたいだね」

しずく「……」プッ

しずく「……ふふっ」

曜「ちょっと、笑わないでよー!」

歩夢(こうして……2回目の学級裁判は幕を閉じた)

歩夢(失った物は大きい。この学園生活の終わりも、まだまだ姿を見せない)

歩夢(けれど……一歩ずつ、先に進んでいる)

歩夢(みんなで力を合わせれば……きっと、大丈夫)

鞠莉「歩夢……時間のある時に、私の個室に来てくれるかしら」

歩夢(……幾つかの、不安を除いて)

かすみ「あーやだやだ。協力って、かすみんが一番嫌いな言葉なんですよ」

かすみ「力を合わせたところで、どうにもならないものはどうにもならないんです」

かすみ「だったら、私は……」

かすみ「……」

かすみ「ま、ゆっくり考えますか。今日は甘い物が食べたい気分です♪」

Chapter2 END

https://i.imgur.com/2E4DkKE.png

To be continued……


プレゼント“切れたミサンガ”を獲得しました。

────歩夢の個室

キーンコーンカーンコーン

モノっちー『えー、夜10時になりました。ただいまより夜時間になります』

モノっちー『まもなく、食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となります』

モノっちー『それでは皆さん、おやすみなさい』

プツン

歩夢「……」

歩夢「なんで……私と千歌ちゃん、だけ……」

歩夢(2度目の学級裁判を終えて、その日の夜)


鞠莉『歩夢……時間のある時に、私の個室に来てくれるかしら』


歩夢(私の脳裏には、鞠莉さんの話がこびりついていた)

────夕方、鞠莉の部屋

鞠莉『まずはお疲れさま、歩夢。あなた、超高校級の探偵を名乗ってもいいんじゃないかしら?』

歩夢『そんな、私なんて……』

鞠莉『ケンソンしなくたっていいのよ。さて、本題だけど……単刀直入に言うわ』

鞠莉『あなたと千歌っち、プロフィールがない』

歩夢『えっ……?』

鞠莉『昨日話したでしょう? 例の【虹ヶ咲学園生徒プロフィール】の話よ』

歩夢『あの、そうじゃなくて……』

鞠莉『苦労したのよ? 先に解析出来そうなロックを後回しにして、難しい方から手をつけたんだから』

歩夢『いや、だから……』

鞠莉『分かってるわ。どうして2人の分がないのか、でしょ?』

鞠莉『プロフィールがないというよりは、削除された、と言った方が正しいわね』

歩夢『削除……消されたってことですか?』

鞠莉『ええ。あなたたちのページは、入力データが消去された痕跡があるのよ』

歩夢『なんで、そんなこと……』

鞠莉『2人が才能を思い出せないこと、もしくは……他に消されたページと関係があるかも知れないわね』

歩夢『?』

鞠莉『意図的に消されたと思われるプロフィールは、あなたたちを含めて10人近く』

鞠莉『それら全てに共通しているのは、私たちと同じ“虹ヶ咲学園14期生から16期生までのデータ”だってことよ』

歩夢『……』

鞠莉『わざわざ削除したってことは、モノっちーにとって知られたくない秘密があるってことなんじゃないかしら』

歩夢『なんで……私の才能が……知られたくない秘密なんですか……』

鞠莉『【持ち出し厳禁】のファイルを確認しないことには、何とも言えないわ』

鞠莉『幸い、【虹ヶ咲学園生徒プロフィール】よりは組まれてるプロテクトが楽だからね。頑張るわ』

歩夢『……』

鞠莉『それと、今回の彼方の事件に関してなんだけど──』


歩夢(……そこから先、鞠莉さんが何を言っていたのかは、ほとんど覚えていない)

歩夢(“分からない点が残っている”……覚えているのは、そのフレーズだけ)

歩夢(何が、分からないんだろう。あんな悲しい事件のことは、あまり思い出したくないのに)

歩夢(ただでさえ、分からないことがいっぱいなのに)

歩夢(これ以上、“分からない”を増やされても……)

歩夢「……」

歩夢「……おやすみなさい」


     Chapter3

キリングフレンド (非)日常編

────学園生活11日目

キーンコーンカーンコーン

モノっちー『おはようございます、朝7時になりました』

モノっちー『さてさて、今日も1日頑張っていきましょう』

モノっちー『なお、本日より新たに校則を追加しました。オマエら、後で電子生徒手帳を確認しておくように!』

プツン


~校則~

11.電源管理等の関係上、隠し部屋への侵入を禁止します(これに伴い、隠し部屋への扉を施錠させて頂きました)。

12.鍵の掛かった扉の破壊、こじ開け等を禁じます。ただし捜査に必要な場合はこの限りではありません。

────食堂

愛「それっぽいこと言ってるけどさ~。絶対、裁判場に侵入されないために追加したんだって、アレ!」

ダイヤ「やはり、愛さんもそう考えますか」

愛「まあね。あ、おはよー歩夢、せっつん」

歩夢「うん、おはよう」

せつ菜「例の……新しい校則の話ですか」

ダイヤ「ええ、まあ」

歩夢(あんなことがあって起きてからまだ一夜しか経っていないけれど、それでも人間はお腹が減る生き物)

歩夢(朝食を食べながらの雑談は、11、12番目の校則に関する話題で持ち切りだった)

歩夢(彼方ちゃんの死、エマちゃんの取った行動。モノっちーが校則を追加した背景は、間違いなくそこにある)

歩夢(ただその議題を話すのは、当然食堂にいた面々に限った話で……)

せつ菜「そういえば、果南さんたちの姿が見えませんが?」

璃奈「言われてみれば、そうだね(・v・)」

歩夢(この場にいない人は……というより、いる人を数えた方が早い)

歩夢(私とせつ菜ちゃん、ダイヤさん、愛ちゃん、璃奈ちゃん、梨子ちゃん)

歩夢(残りのみんなは……まだ顔を見せていない)

ダイヤ「恐らく……」

梨子「一応、止めたんだけど……仕方ないわよね」

歩夢「?」

愛「そういや、さっき曜とかがかすみの部屋に入ってったけど……」

歩夢(みんながいない原因は……すぐに分かった)

────かすみの個室

かすみ「カンベンしてくださいよ~。かすみん、これから朝御飯を食べる予定だったんですから」

果南「だったら、トレイに入れて持ってくるよ」

かすみ「手足を縛られた状態でどうやって食べろっていうんですか~」

曜「知らない。自分で考えて」

かすみ「食べさせてくれないんですか~? 例えば~……果林先輩とか」

果林「それはどういう意味かしら」

かすみ「果林先輩、曜先輩たちを抑えようとはしてくれていたじゃないですか。それに、その手の人たちには需要あるらしいですよ~?」

果林「……私はあなたの母親になったつもりはないわ。大体、乱暴はよしなさいとは言ったけれど、あなたの処遇については考える必要があるのよ」

かすみ「リーダー気取りは大変なんですね」

果林「……」

歩夢「ちょっと……これ、どういうこと?」

花丸「見ての通りずら」

しずく「かすみさんを縛って、部屋に閉じ込めておく……みたいです」

果南「彼方やエマが死んだのだって、元を辿ればかすみが原因みたいなものでしょ?」

せつ菜「でも、ここまでしなくても……」

花丸「かすみちゃんは……オラたちを『せつ菜ちゃん犯人説』に誘導しようとしていた。もしかしたら、オラたちもみんなオシオキされていたのかも知れないずら」

歩夢「だからって……」

千歌「ルビィちゃんの時と、昨日ので2回。放っておくと、また何をやるか分からない……んだよね、曜ちゃん」

曜「うん。ごめんね、千歌ちゃん。こうするしかないから……」

千歌「ううん、いいよ。乱暴は嫌いだけど……仕方ないよね」

歩夢「……」

────校舎2階、3階へ続く階段前

千歌「やっぱり……開いてるね、シャッター」

歩夢(あのあと、私たちは食堂で今後のことを話し合った)

歩夢(かすみちゃんの処遇は……ひとまず、代替案が見つかるまでああしておくらしい)

歩夢(そして……その議論に鞠莉さんは出席していなかった)

歩夢(相変わらず、例のPCと睨めっこしているのだという)

せつ菜「先に行ってますよ、歩夢」

歩夢「……うん」

千歌「歩夢ちゃん、具合悪いの?」

歩夢「ううん、そうじゃないんだけどね……」

千歌「?」

歩夢(大丈夫、だよね)

歩夢「行こっか」

歩夢(言い聞かせながら、私たちは階段を上って行った)

────校舎3階

歩夢「今度の教室は……」

https://i.imgur.com/kSyxb2Q.jpg

https://i.imgur.com/CVnUq9M.jpg

千歌「教室に美術室、被服室と衣装倉庫、職員室とその隣が学園長室」

歩夢「長い廊下を渡って、音楽室……」

千歌「梨子ちゃんが喜びそうな部屋がいっぱいだね。美術室とか音楽室とか!」

歩夢「うん。それに、職員室と学園長室……」


鞠莉『ええ。あなたたちのページは、入力データが消去された痕跡があるのよ』

鞠莉『2人が才能を思い出せないこと、もしくは……他に消されたページと関係があるかも知れないわね』


歩夢(もしかしたら……)

千歌「歩夢ちゃん?」

歩夢「……なんでもない。行こ、千歌ちゃん」

────美術室

千歌「おおー……凄いね。絵とか彫刻とか、いっぱい飾ってる」

歩夢「その割には……絵の具とかキャンパスとか彫刻刀とか、そういうのがあんまりないような?」

愛「ああ、それなら……多分、1階の倉庫に揃ってたんじゃない?」

璃奈「実際、この前梨子さんは倉庫から画材を持ってきてたみたいだし(・v・)」

歩夢(言われてみれば……画材が全部美術室に置いていたら、ダイヤさんたちの絵は描けなかったのかも知れない)

愛「画材はどこに? あそこの倉庫に! なんてね」

「「……」」

千歌「……ねえ、この部屋って冷房掛かってたっけ?」

歩夢「さ、さぁ……?」

歩夢(寒さから逃げるように、私たちは美術室を後にした)

歩夢(愛ちゃん、口を尖らせていたような気がするけど……あれはキツいよ!)

────被服室

せつ菜「凄いです歩夢! 隣の衣装倉庫に、いっぱいアイドル衣装がありました!」

歩夢(被服室に入るなり、目を輝かせたせつ菜ちゃんが話しかけて来た)

せつ菜「これはかの有名なニチアサアイドルアニメの衣装で、初めて登場した時のエピソードは──」

歩夢(これはマズい。せつ菜ちゃん……いつぞやかのかすみちゃんみたいに、だいぶ『スイッチ』入ってる気がする)

果林「衣装だけじゃないわ。初心者でも少し教えれば衣服が作れるようなミシンや、アイロン……かなり充実した設備ね」

???「アイドル衣装以外にも、色んな服があったし……」

???「こーんなのもあったよ!」

歩夢「……えっ!?」

歩夢(衣装倉庫からのっしのっしと歩いてきたのは、大きなモノっちー……じゃなくて)

千歌「曜ちゃん! 何してるの?」

うちっちー(曜)「えへへ……いつか着てみたかったんだよね、これ!」

歩夢(うちっちーの着ぐるみを来た、曜ちゃんだった)

千歌「凄いね、こんなのもあるんだ……」

曜「ちなみに、初代うちっちーの着ぐるみもあったよ!」

歩夢「初代うちっちー?」

千歌「んーとね……そもそもうちっちーって、沼津のマスコットキャラクターなんだ」

曜「最初は人っぽい造形だったんだけど、後から今の丸っこい着ぐるみにデザインが変更されたんだよ」

モノっちー「そうそう。パイセンにはお世話になってたよネ」

千歌「……うえぇ」

果林「……相変わらず、出て来る時は急ね」

モノっちー「いやぁ。本家サマのグッズは沼津に行けばいっぱい買えるからネ。ボクもいつかはあそこに並ぶのが夢だよ」

歩夢(言うだけ言って……いつものように、モノっちーは姿を消した)

千歌「うーん……なんだか、大好きなものを汚された気分だよ」

曜「うん、私も同感」

果林「ところで歩夢ちゃんたち……ファッションに興味はないかしら?」

歩夢「?」

千歌「そういえば、果林ちゃんって超高校級のコーディネーターだったね」

果林「ええ。流行や雰囲気、体格、その日の気分やイベント。それらに合わせて、みんなの衣服を整えていくっていうのは、結構楽しいものよ」

せつ菜「分かります分かります! 今日などんな衣装でステージに立とうとか、どんな格好でお客さんたちを喜ばせようとか、悩みすぎて時間が足りないくらいです!」

果林「せつ菜ちゃんの場合はちょっと違うけれど……でも、本質は一緒ね」

果林「人は外見だけじゃないとは言うけれど、その人を表す判断材料の一つであることは間違いないわ。いつも誰に見られても恥ずかしくない恰好でいる、これって結構難しいのよ」

果林「その点、璃奈ちゃんはある意味では凄いと思うわ。顔を見せられないことを逆手に取って、小柄な体格と合わせて一つのキャラクターを作り上げてるんだもの」

果林「……っと、ごめんなさい、話しすぎちゃったわ。ちなみに、衣装作りもある程度は出来るから、何か必要だったら言ってね」

歩夢(果林さんのファッションコーディネート……凄く気になるけれど、今は3階の探索を優先することにした)

歩夢(ちなみに、曜ちゃんとせつ菜ちゃんは果林さんに連れられて衣装倉庫に行った)

千歌「多分……着せ替えのお人形さんコースだね」

────職員室

歩夢(職員室……本来ならば、先生たちがデスクワークに励みながら、学生たちの今後を話し合ったりする場所)

歩夢(けれど……)

花丸「誰もいないずら……」

ダイヤ「全く……この学園はどうなっているんですの!?」

歩夢(頼れる教員の姿はどこにもなく、コピー機や、ずらりと並んだ教員デスク……)

歩夢(そして、花丸ちゃんとダイヤさんがいるだけだった)

花丸「机や棚なんかは一通り調べたけど、何も入ってなかったよ」

ダイヤ「それに、相変わらず窓には鉄板……そんなに、私たちを外に出したくないのですか」

モノっちー「もしかしたら……外の世界が見せられない理由があったりして」

千歌「また出た……」

花丸「……外を見せられないって、どういうこと?」

モノっちー「……どういうことなんだっけ? まあいいや」

ダイヤ「ちょっと、お待ちなさ──おや?」

歩夢「どうかしたんですか?」

ダイヤ「写真……ですわね」

千歌「モノっちーが落としていったのかな?」

花丸「こ、これって……!」

歩夢(私たちは、一枚の写真をじぃっと見つめる)

歩夢(そこに写っていたのは……)

ダイヤ「彼方さんと……」

千歌「エマちゃん、だよね」

歩夢(その写真の季節は、夏なのだろうか。2人が仲良くかき氷を食べている姿が写っていた)

歩夢(何故、この学園で初めて出会った筈の2人が? ……というより、疑問はそこだけじゃない)

花丸「なんで……“窓に鉄板がない”ずら?」

歩夢(写真は、どう見ても学校の教室を写している。けれど、その教室の窓からは青空が広がっていて……)

歩夢(いつ撮った? 誰が撮った? どこで撮った? 何故撮った……はちょっと違う)

歩夢(浮かんだ大量の疑問符は……不意に、そして強制的にかき消されることになる)

モノっちー「あっ、見たな!」ヒョイ

ダイヤ「なっ……」

モノっちー「いやぁ、落とし物したかも知れないって戻って来て正解だったよ」

モノっちー「ほら、よくあるよネ。ちゃんと鍵かけたかな、ガスの元栓閉めたかなって心配になって、何度も家に戻るヤツ」

モノっちー「大体は大変なことになんてなる筈ないから、心配しなくたっていいんだけどネ」

モノっちー「見ろよ、このしがらみに囚われていない、幸せそうな青春の顔を!」

千歌「この写真、何か知ってるの?」

モノっちー「秘書がやりました!」

ダイヤ「……は?」

歩夢(意味不明なことを叫んで、モノっちーは足早に消えて行った)

歩夢(……勿論、写真はひったくられた)

────学園長室前

ガチャガチャガチャ!

千歌「……開かないね」

果南「鍵が掛かってるみたいだよ。頑張れば破れそうだけど……校則がね」

歩夢「そういえば……ここに来る途中にもあったね、大きな扉」

果南「廊下の真ん中にあった扉でしょ? あれも開かないし……もしかしたら、外に繋がってるのかな?」

千歌「えっ……それじゃあ、3階から飛び降りることになっちゃうの!?」

果南「倉庫にロープがあるから、心配しなくていいよ」

千歌「うーん……」

果南「シャッターは下りてるけど、4階に続く階段もあるし……この学園、どこまで続くんだろうね」

歩夢「……」

歩夢(入れない学園長室、か)

────音楽室

歩夢(音楽室というより、大ホールと呼ぶに相応しいその部屋では……)

歩夢(綺麗な旋律と歌声が、完全防音の中を反響していた)

梨子「~♪」

しずく「~♪」

歩夢(グランドピアノを鳴らす梨子ちゃんは、今まで見られなかったピアニストとしての才能を遺憾なく発揮していて)

歩夢(舞台に立って歌うしずくちゃんは、そこだけスポットライトを独占しているよう……)

歩夢(まるでこのホールは、2人のためにあるのではないか……そう、錯覚するほどだった)

千歌「すごいね、2人とも」ヒソヒソ

歩夢「……うん」

歩夢(音楽室を調べることも忘れて、ひとしきりプチミュージカルを鑑賞した私たち)

歩夢(抜かりなく調査済だったことを梨子ちゃんたちから聞かされ、4人で食堂に戻ることとなった)

────歩夢の個室

キーンコーンカーンコーン

モノっちー『えー、夜10時になりました。ただいまより夜時間に──』

歩夢「ふーっ……」

歩夢(ぼふん。倒れ込むように、ベッドにダイブ)

歩夢(結局、今回の探索でも、外への出口は見つからなかった)

歩夢(相変わらず窓には鉄板。一体、いつになったらお日様を拝めるのだろう)

歩夢(……その頃には、私たちはどうなっているのだろう)

歩夢(例の写真についても、誰もが「分からない」としか答えるほかなかった)

歩夢(そして。新しい校則のせいで調べられてはいないけれど)

https://i.imgur.com/n0lOfmg.jpg

歩夢(多分、3階の隠し部屋はここだろう、という結論になった)

歩夢「教室大の広さ、か……」

歩夢(もしかして……消えた名簿と、関係があったりするのかな……?)

~モノっちー劇場~

物語を構成する上で大事な要素の一つとして『フラグ』というものがあります。

生死や恋愛、勝ち負け……とにかく「こういう展開になったら、こんな結末になるんじゃないか?」と、受け手が簡単に勘づくものの総称ですネ。

ところが。そういったフラグが使い尽くされた結果、それを逆手に取った展開が喜ばれることもあります。

伝説の剣を手にする直前で、勇者が魔王に敗れたり。

あからさまに怪しい人物が、順当に犯人だったり。

いかにもな発言をしたキャラクターが、程なくして退場したり。

とはいえ。そういった『フラグ潰し』も主流になり、一周まわって王道の方がウケがいい、なんてこともあったりします。

そういったフラグ管理の循環は、もう何周目になるのでしょうネ。

世のクリエイターは何度、期待と裏切りを連鎖させたのでしょうネ。

……え? これは何かのフラグなのかって?

それはボクにも分からないよ。

今回はここまで。
お久しぶりです。まったり続けて行きます。

────学園生活12日目

キーンコーンカーンコーン

モノっちー『おはようございます、朝7時になりました』

モノっちー『さてさて、今日も1日頑張っていきましょう』

プツン

歩夢(……また、この檻のような学園での1日が始まる)

歩夢(虹ヶ咲に入学する前、いわば春休みの不規則だった生活習慣が改善されつつあるのが……何とも皮肉だ)

────昼頃、食堂

歩夢(いつものように、梨子ちゃんが作ってくれた食事をみんなで食べる)

歩夢(今日のお昼ご飯である海鮮丼が放つ独特の生臭さと、少しぎこちない雰囲気を漂わせながら……)

鞠莉「Good morning everyone!」

歩夢(朝からずっと続いていたムードをぶち壊したのは、場違いなくらい元気な……というより、深夜テンションの延長上にいる鞠莉さんだった)

ダイヤ「もうお昼です。朝食には手をつけなかったそうですね」

鞠莉「ごめんなさいね。徹夜明けで疲れてたのよ」

花丸「じゃあ、あの『ぷろぐらむ』っていうのは解析が終わったの?」

鞠莉「それが行き詰っちゃったのよ。しばらく目と頭を休めないと、脳みそがpanicよ」

千歌「鞠莉ちゃんでも、限界があるんだね……」

鞠莉「ある程度のラインまで解析されることは、向こうも想定済みだったみたいね。そこにたどり着いた途端に別のプログラムが起動して、身動きが取れなくなったのよ」

鞠莉「お陰でPCを強制シャットダウンさせる羽目になってね、再起動したら、解析はリセット。これまでの努力が大体パー」

鞠莉「まあ、職員室のコピー機で印刷はしてあるから、見たかったら言ってちょうだい」

歩夢(ずぞぞぞぞ、とわざとらしい音を立てながら、鞠莉さんは紅茶を口にする)

ダイヤ「鞠莉さん、あなた──」

歩夢(我慢ならなかったダイヤさんが口を開いたのと同時に、彼女は私たちにある質問を投げかけた)

鞠莉「そういえば、あなたたちは何も覚えてないの? “虹ヶ咲学園に籍を置いていた”のに」

ダイヤ「……は?」

鞠莉「花丸たち1年生や、才能も思い出せない歩夢と千歌っちは仕方ないとして、2年生と3年生が“どんな高校生活を送っていたのか思い出せない”なんて……」

鞠莉「ヘンだと思わない?」

愛「……どゆこと?」

璃奈「私たちはみんな、年がバラバラだって話になったことがあったよね。それのことを言ってるんじゃないかな(・v・)?」

鞠莉「ええ。歩夢には話したけれど、生徒プロフィールまでは解析が出来ていたのよ」

歩夢(鞠莉さんは、淡々と明かされた事実を披露し始める)

歩夢(私たち18人は、虹ヶ咲学園の14期生から16期生までとしての学籍があることになっていた)

歩夢(載っていたのは、全員のプロフィール……といっても、持っている才能、生年月日や血液型、アレルギー持ちか否か、といった簡易的なもの)

歩夢(血液型までは、電子生徒手帳にも載っていた情報だ。アレルギーに関しても本人が分かっている以上、特に気にすることではない)

歩夢(それらより気になるのは、私と千歌ちゃんを含めた10人近くの名簿データが消えていること。そもそも、消えたデータは誰の物なのかハッキリしていない)

鞠莉「ここまでが、解析で明らかになったこと。何を言いたいか、分かったかしら?」

花丸「……オラたちはみんな、虹ヶ咲学園の入学式に向かう途中で意識を失って、気が付いたら教室にいた」

花丸「それなのに、鞠莉さんたちは既に2、3年ここで学園生活を送ったことになっている……」

千歌「ちょっと待ってよ! それじゃあ、まるで私たちが……」

梨子「虹ヶ咲学園で過ごした記憶を、失ってる……!?」

愛「そ、そんなバカなことあるワケ……」

花丸「あるずら。根拠なら、いっぱい……」

愛「……は?」

璃奈「しずくちゃんが大怪我を負ったことを覚えていないのは、ここで過ごしている間にあった『何か』を忘れているのかも……(>_<。)」

花丸「そもそも職員室で見つけたあの写真だって……普通に考えたら“彼方ちゃんとエマさんが一緒に学園生活を送っていた”ことの証明になる……」

モノっちー「まあ、それで正解だからネ」

愛「!?」

モノっちー「ぶっちゃけ、学年が違う段階で察して欲しかったんだけどネ。いつ気づくかず~っと待ってたんだよ」

モノっちー「というワケで、オマエらは虹ヶ咲学園で、1年から3年を過ごした仲間なのでしたー!」

モノっちー「例の写真も、その学生生活のワンシーンなんだよ。どう、楽しそうでしょ?」

歩夢「……」

モノっちー「どしたの? 折角、謎が一つ解けたっていうのにさ」

梨子「いや、だって……」

「「……」」

モノっちー「絶望的だよネ。オマエらは、そのクラスメイト間で殺し合ってたんだからさ」

歩夢(そういう、ことだ)

歩夢(モノっちーの言葉を信じるなら、私たちはきっと、元の学園生活では友達だったのだろう)

歩夢(なのに、その記憶を失って、友達同士でコロシアイなんて……)

千歌「……こんなことをさせて、私たちをどうしたいの」

モノっちー「何度も言ってるじゃん、ボクはオマエらが絶望する顔を見たいんだって。うけけ、今のオマエらの表情は及第点だよ!」

ダイヤ「……虹ヶ咲学園に、何か恨みでも持っているのですか」

モノっちー「それはどうだろうネ。あると言えばあるし、ないと言えばない……」

モノっちー「まあ、然るべき時まで黙秘権を行使させてもらうよ。それまでに何人生き残ってるかな……うけけけけけ」

歩夢(神出鬼没。好きなだけ喋って、モノっちーは姿を消す)

歩夢(いつもどこに消えているのか……なんて疑問は、今回に限っては微塵も浮かばなかった)

愛「……嘘、だよね。うん、嘘だ」ガタッ

愛「ご馳走様。……部屋、戻ってる」

璃奈「待って、愛ちゃん(?□!)!」

愛「ごめん……ちょっと、1人にさせて」

璃奈「……(?□!)」

ダイヤ「……無理もありません。動機ビデオか、それ以上にショッキングな話ですから」

千歌「どうしよう……この話、曜ちゃんたちにする……?」

鞠莉「正直、あまりオススメはしないわね。この話をキッカケに殺人が起きる可能性だってないとは言い切れないもの」

梨子「でも、愛ちゃんのことを話さないワケにもいかないし……」

鞠莉「Fmm……そういえば、他のみんなはどこに行ったのかしら?」

花丸「えっと……確か、曜ちゃんと果南ちゃんがプールで……」

千歌「しずくちゃんが、せつ菜ちゃんと果林さんに連れられて……多分、被服室かな?」

梨子「衣装がどうの、って話をしてたから、多分……」

鞠莉「……かすみは?」

ダイヤ「彼女は、自室で頭を冷やして貰うことになりました」

鞠莉「そう……効果があるとは思えないけどね」

ダイヤ「ですが、何もしないよりはいい、というのが皆さんの判断です」

鞠莉「まあね。毒薬なんて危ない物をもち、だ、し……」

鞠莉「……っ」

歩夢(食事に手をつけようとして、鞠莉さんは寸前で手を止めた)

鞠莉「毒薬はどうなったの?」

花丸「えっ、と……」

鞠莉「もしかして、放置したまま?」

千歌「大丈夫だよ。かすみちゃんはしばらく、あの部屋から出てこないし……」

鞠莉「……」ダッ!

歩夢(血相を変えて、食堂を飛び出す鞠莉さん)

歩夢(彼女が向かった先は、勿論……)

────かすみの部屋

かすみ「……」

鞠莉「何とか言ったらどうなの、かすみ」ガサゴソ

歩夢(目に飛び込んできたのは、引き出しやクローゼット、部屋の中を物色している鞠莉さんの姿)

歩夢「これは、何が……」

鞠莉「見つからないのよ、毒薬が」

歩夢「え……?」

鞠莉「まずいことになったわ。このままだと、私たちは全滅しかねない」

歩夢(毒薬、全滅。それらの熟語から、ただならぬ事態になっているのは確かだ)

歩夢(……けれど)

歩夢「ど、どういうことかちゃんと説明してください!」

鞠莉「……みんなを、食堂に集めてくれるかしら」

かすみ「かすみんは行かなくていいんですか~?」

鞠莉「あなたは信用出来ない」


かすみ「……」

かすみ「……そうですか」

────食堂

せつ菜「無自覚殺人!?」

鞠莉「ええ。一番警戒しなければならないのは、無差別に、そして無自覚に起きる殺人よ」

果南「話が全然見えないんだけど……どういうこと?」

果林「かすみちゃんが毒を持っていなかったってことは、既にかすみちゃんがどこかにやったか、誰かが奪った後ってことよ」

曜「誰かが奪ったなんて、そんな……」

ダイヤ「どちらにせよ、私たちは有るかどうかも分からない毒薬に怯える日々を過ごす羽目になります」

ダイヤ「例えば、厨房の食材。どれかに毒薬が仕掛けられていたとしたら、どうなりますか?」

歩夢「誰が死ぬか分からない状況が、出来上がる……」

鞠莉「それだけじゃないわ。以前、モノっちーはこう言っていた」


モノっちー『ちなみに学級裁判において、議論する内容の終着点は“最後にトドメを刺した人物が誰か”になります』

モノっちー『たとえ殺意がなくとも、引き金を引いた人間がクロになってしまうのですよ』

鞠莉「このルールは見事に適用され、彼方とエマが犠牲になった」

しずく「……」

鞠莉「さっきの話にこのルールを当てはめると……もう、分かったかしら?」

花丸「“誰が毒入り料理を口にするか分からない。その上、誰がその料理を出してしまったのか、突き止めることはほぼ不可能”……」

鞠莉「ええ。もしそんな事態に陥ったら、ほとんど全滅と言っていいでしょうね」

梨子「そんな……」

果林「何か……対策はあるのよね? まさか、飲まず食わずで餓死しろなんてことはないでしょうし」

ダイヤ「幸いなことに、厨房には缶詰や菓子類といった保存食が用意されています。……種類は心もとないですが」

ダイヤ「しばらくの間は、それらで凌ぐしかないでしょうね」

鞠莉「いい? これは強制よ。誰か1人が命を落とす、だけで終わる話じゃないの」

璃奈「あとで……愛ちゃんにも、伝えておく(>_<。)」

ダイヤ「そうしてくれると、助かります」

鞠莉「というわけで、ごめんなさいね、梨子。しばらくあなたの料理は食べられそうにないわ」

梨子「ううん、こんな状況だし……」

千歌「でも、やっぱりさ……」

千歌「また、みんなでご飯食べたり、お茶会したり……出来るようになるといいね」

千歌「曜ちゃんも、そう思うよね」

曜「……」

千歌「曜ちゃん?」

曜「え、あ……そうだね! 千歌ちゃんの言う通りであります!」

千歌「むー……話、聞いてなかったでしょ」

曜「ごめんごめん」

ダイヤ「……とりあえず、当面の方針は決まりましたわね」

鞠莉「一応、モノっちーにも交渉してみるわ。あまり期待は出来ないでしょうけど」

歩夢(こうして私たちの、毒薬という見えない影に怯える生活が幕を開けた)

歩夢(飲食物が何もない、というワケではないから、しばらくの我慢で済む……)

歩夢(そんな流れになって、この日は解散となった)

────夜、プール

ザパァ

曜「……」ゼェ ゼェ

キーンコーンカーンコーン

モノっちー『えー、夜10時になりました。ただいまより夜時間になります』

モノっちー『まもなく、食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となります』

モノっちー『それでは皆さん、おやすみなさい』

モノっちー『ああそうそう。オマエ、結構ギリギリだったからね。もう少しあがるのが遅れていたらサイレン鳴ってたからね』

プツン

曜「……」

~モノっちー劇場~

世界三大〇〇、四天王、五人囃子……何かしら、数が決まっている事柄。

全て知ったら死ぬ、ともっぱら噂の『学校の七不思議』もその1つ。

ところで、学園を管理するボクはいつも思うんです。

何故『七つ』なんでしょうネ。

一説には『七』という数字は、人間が感知出来る数の限界だったから、とも言われているそうです。

八百屋だとか八百万の神だとか、嘘八百だとか。

『八』には数えきれないほど多い、という意味があるから……なんだそうな。

でもネ、それって『八』じゃなくて『八百』なんじゃない?

人間、意外と799までは認知出来るんじゃない?

やるじゃん、人間。

というワケで、ボクは今日も学園の七九九不思議を考えるのに忙しいんだ。

アイデアはいつでも募集しているよ。

────学園生活13日目

キーンコーンカーンコーン

モノっちー『おはようございます、朝7時になりました』

モノっちー『さてさて、今日も1日頑張っていきましょう』

プツン

────食堂

せつ菜「今日はコンビーフですか……」モッシャモッシャ

璃奈「今となっては貴重なタンパク質だね……(・v・)」モグモグ

花丸「う~……やっぱりひもじいずら……」

果林「かすみちゃんと愛ちゃんにも届けて来るわね」

歩夢(未開封のペットボトルと缶詰を丁寧に洗って、口にする)

歩夢(空腹を訴える者がいれば、手が加えられていないことを念入りに確認したスナック菓子を提供する)

歩夢(ダイヤさんが言っていた通り、確実に安全な飲食物の種類は、極端に少ない)

歩夢(今までとは違った意味で、死と隣り合わせの生活)

歩夢(最悪の事態に陥らないために最善を尽くす心労)

歩夢(満足な食事が摂れないことによる栄養の偏り)

歩夢(ゆっくりと、そして確実に私たちの間に落とされる影)

歩夢(それらがハッキリと効果を表したのは……夕方のことだ)

────保健室

ドタドタドタドタ

バン!

千歌「曜ちゃん!」

果林「シーッ。気を失っているから、静かに」

千歌「あ、ごめん……曜ちゃんが大怪我したって聞いたから……」

果南「プールで盛大にやらかしたみたいだね。正直、大人しくしてもらった方が都合がいいよ」

千歌「ちょっと……果南ちゃん、なんでそんな言い方なの!?」

果南「……」フン

千歌「果南ちゃんってば!」

歩夢「2人とも、落ち着いて……」

歩夢(事の発端は、昨日。曜ちゃんと果南さんがプールに行っていた時のこと)

歩夢(数日前の水泳大会で上手く泳げなかった曜ちゃんは、果南さんに水泳のレッスンを受けていた)

歩夢(“海が第二の実家”と自称する果南さんに教われば、きっと『以前のように速く泳げる』と)

歩夢(けれど、いくらレッスンを受けても、曜ちゃんの泳力は満足できる領域に戻らなかった)

歩夢(それで焦った彼女は、夜時間ギリギリまで自主練をしていたのだ)

歩夢(そして、無理がたたり──今に至る)

果南「ここに来る前から、曜のことはダイバー仲間に聞いてたよ。超高校級の船乗りであると同時に、水泳選手にも劣らない泳力だって」

果南「広い海で活動する曜は、海難事故の現場に遭遇することも多かったんだ。事故現場での人命救助に役立っていたらしいよ」

梨子「だから、泳げなくなったことに焦っていた……」

果林「ここ最近、様子がおかしかったものね」

歩夢(事の発端は、昨日。曜ちゃんと果南さんがプールに行っていた時のこと)

歩夢(数日前の水泳大会で上手く泳げなかった曜ちゃんは、果南さんに水泳のレッスンを受けていた)

歩夢(“海が第二の実家”と自称する果南さんに教われば、きっと『以前のように速く泳げる』と)

歩夢(けれど、いくらレッスンを受けても、曜ちゃんの泳力は満足できる領域に戻らなかった)

歩夢(それで焦った彼女は、夜時間ギリギリまで自主練をしていたのだ)

歩夢(そして、無理がたたり──今に至る)

果南「ここに来る前から、曜のことはダイバー仲間に聞いてたよ。超高校級の船乗りであると同時に、水泳選手にも劣らない泳力だって」

果南「広い海で活動する曜は、海難事故の現場に遭遇することも多かったんだ。事故現場での人命救助に役立っていたらしいよ」

梨子「だから、泳げなくなったことに焦っていた……」

果林「ここ最近、様子がおかしかったものね」

千歌「……」

果林「とりあえず、応急処置は済ませたわ。出血が酷いようだったから、輸血もしておいたわ」

梨子「輸血パックまであるなんて、ちょっとした医療施設ね……」

果南「電子生徒手帳に血液型も載ってて助かったよ。とりあえず、曜が起きたら説教だね」

千歌「……私、ずっと曜ちゃんの傍にいる」

果林「無茶は言わないの。居眠りしてしまったら、校則に引っ掛かってしまうんだから」

モノっちー「そうだネ。事が事だしベッドで寝てるそいつはOKだけど、付き添いの居眠りは許されることじゃないよ」

千歌「何? 今は構ってる場合じゃないんだけど」

モノっちー「校則に関する案件が出たから、念押ししに来ただけだよ。それにしても、よりによって彼女がねえ……うけけけけけ」

歩夢「……行っちゃった」

果林「定期的に顔を出さないと死ぬ病気、かしらね……」

千歌「……曜ちゃんの馬鹿」

千歌「泳げなくても、曜ちゃんは曜ちゃんだよ」

千歌「記憶をなくしても、超高校級じゃなくなっても……私はずっと、曜ちゃんの友達だよ」

歩夢「千歌ちゃん……」

果林「とりあえず、一旦食堂に行きましょうか。みんなに詳しく話す必要があるし」

曜「────」

千歌「……また来るね、曜ちゃん」

歩夢(こうして、また無駄に一日が過ぎて行く)

歩夢(脱出の手掛かりも、私の才能も、毒の行方も。何もかも五里霧中のまま)

~モノっちー劇場~

あらやだ。あの子たち、あんな過ごし方でどうにかなると本当に思ってるみたいですよ!

なんだって、それは本当かいハニー?

そうなのよ、困ったものよね~。

大丈夫さハニー、これを使えばナベにこびりついた頑固な汚れだってイチコロさ!

あら、流石ジョニーね!

────学園生活14日目

キーンコーンカーンコーン

モノっちー『おはようございます、朝7時になりました』

モノっちー『さてさて、今日も1日頑張っていきましょう』

モノっちー『オマエら、このあと10時から全校集会があります。体育館に集まってください!』

モノっちー『部屋に閉じこもっている人も閉じ込められている人も、全員揃わないと、揃ってオシオキだからネ。その辺注意するように!』

モノっちー『ああ、流石に気を失っている人は連れて来なくていいよ。そもそも話を聞きようがないしネ』

プツン

歩夢「全校集会……」

歩夢(また、動機の発表だろうか。ある意味、この極限状態そのものが動機になりかねないのに……)

────体育館

愛「……」

かすみ「これじゃ、まるで連行されてるみたいじゃないですか」

果林「文句言わないの」

せつ菜「みんな、疲れきってますね……」

歩夢「仕方ないよ、こんな状況だし」

ダイヤ「さて。そろそろ時間ですわね」

鞠莉「鬼が出るやら、蛇が出るやら……」

モノっちー「残念、出て来るのはセイウチだよ! というワケで、保健室の子以外はみんな揃ってるネ」

果南「私たち、十分厳しい状況なんだよ。まさか、このタイミングで動機発表だなんて言わないよね」

モノっちー「そのまさか、動機発表に決まってますけど?」

歩夢(瞬間、周囲から「うげぇ……」といった雰囲気が流れてくる)

モノっちー「ボクは小原さんの交渉で考えました。今回は、毒薬騒動からオマエらを救うことも出来る、画期的な動機だよ!」

千歌「私たちを……救う?」

モノっちー「ずばり! 明日の夕食会は、音楽室で行ないます!」

モノっちー「ある条件をクリア出来れば、ボクからご褒美をプレゼントします」

かすみ「既に怪しさ満点の話ですね」

璃奈「今は言ってる場合じゃない。それより、詳細は(・v・)?」

モノっちー「夕食会……明日の午後6時までに、事件が起きること。もしくは、その夕食会で、オマエらがボクを満足させるパフォーマンスを披露すること」

モノっちー「そのどちらかの条件を満たせば、毒薬がどうなったかを教えてあげましょう! ついでにカレーライスも振舞っちゃうよ」

モノっちー「勿論、カレーライスに毒やヘンな薬は入ってません。オマエら、ここしばらくロクな食事が出来てなかっただろうしネ」

せつ菜「それなら楽勝です! あのステージなら、あっという間に私の独壇場に出来ます!」

モノっちー「ああ、1人で盛り上がってるところ悪いんだけど……オマエの舞台を彩るためにも照明とか音響とか、ちゃんと演出も考えてよネ?」

モノっちー「それに1人じゃダメだよ。出し物は最低3つ、それぞれ違う人が担当するってのが条件だよ」

鞠莉「なるほど。今回の動機のコンセプトは『団結』と言ったところかしらね?」

鞠莉「モノっちーを満足させるには、私たちが団結しなければならない」

鞠莉「その団結に異を唱える者が行動……殺人を起こしても、モノっちーにとっては万々歳」

モノっちー「まあ、そんなところだネ」

千歌「でも、大丈夫だよね? 梨子ちゃんとしずくちゃんもいるし……」

しずく「……分かっています。皆さんのため、一肌脱ぎましょう」

梨子「大勢の前でピアノを弾くのは久しぶりだけど……頑張らないとね」

モノっちー「どうやら、出演者は決まったみたいだネ。演目は自由だけど、才能を遺憾なく発揮してよネ?」

モノっちー「うけけけけけ……お友達同士の団結力と、超高校級と言われる連中の才能。楽しみにしているよ」

モノっちー「というワケで、今日の全校集会は終わり! 起立、礼、解散!」

────食堂

千歌「……曜ちゃん、まだ寝てた」

果林「そっとしておきなさい。さて、出し物の話だけれど……」

鞠莉「出演者は決まり。となれば、残りのみんなで音響や照明を担当することになるわね」

梨子「あ……出来れば、誰かにピアノを運ぶのも、お願いしたいかなぁ。せつ菜ちゃんとしずくちゃん、ステージを幅広く使うだろうし」

しずく「1人で運ぶのは難しいでしょうね……補助キャスターがついているとはいえ、結構重そうです。3人くらい必要ですね」

果南「じゃあ、私と……ダイヤ、鞠莉。いいよね?」

ダイヤ「……承知しました」

鞠莉「OK♪ そうすると運ぶ時間を考えて、梨子の出番は最初か最後がいいけど……」

せつ菜「はい、はい! トップバッターは私がやりたいです! いいですよね梨子さん!?」

梨子「う、うん。いいけど……」

歩夢「気合入ってるね、せつ菜ちゃん」

せつ菜「当たり前じゃないですか! こんな形だけど、ようやく私のスクールアイドルとしてのパフォーマンスを披露出来るんですから!」

せつ菜「皆さん、どんな曲がいいと思いますか!? やっぱり最初なので、テンションの上がる曲がいいでしょうか!?」

花丸「ど、どんな曲と言われても……」

千歌「あまりアイドルの曲って分からないし……」

璃奈「せつ菜ちゃんのオススメでいいんじゃないかな(・v・)?」

しずく「舞台裏の楽器倉庫に、色んな音源がありましたよ。多分、せつ菜さんのお気に入りも──」

せつ菜「分かりました、行って参ります!」バビューン!

果南「早っ!?」

歩夢「あはは……せつ菜ちゃん、昔からこんな感じだったから」

歩夢「幼稚園の頃、一緒に遊びに行った時だって……」

歩夢「……」

歩夢(……あれ?)

千歌「どうかしたの?」

歩夢(……なんで、思い出せないんだろ)

歩夢(確か、せつ菜ちゃんとお母さんたちで、デパートに行った筈……)

歩夢(途中でアイドルショーをやってて……あれ?)

千歌「あーゆーむーちゃん?」

歩夢「あ、ううん、何でもないよ。それより、まだ決まってないのは照明と音響だっけ?」

ダイヤ「ですわね。機材の構造上、この役はアナウンスも兼ねることになりそうです」

愛「だったらさ~」

花丸「うーん……マルは機械類、苦手だし……」

愛「おーい」

璃奈「私、声あまり大きくないし……(>_<。)」

愛「愛さんを無視しないでおくれよーぅ……拗ねちゃうぞ?」

璃奈「……引き籠ってたクセに(`∧´)」

愛「悪かったって! この通りだから!」ピース

果林「笑顔でピースされても、どの通りなのかさっぱりね……」

璃奈「それより、もう具合は大丈夫なの(・v・)?」

愛「大丈夫! 愛さん完全……とはいかないけど、復活だよ」

愛「なんというか、せっつんに助けてもらった感じ……かな。底抜けに元気な姿見てたら、私も頑張らなきゃ、って思ってさ」

愛「というワケで、照明、音響その他諸々は愛さんに任せてくれたまえよ! 一度目は通したけど、あのくらいの機材ならチャチャっと使えるね」ビシッ

千歌「うん。愛ちゃんなら声も良く通るし、盛り上げるにはピッタリだよ!」

鞠莉「ええ、適任だと思うわ」

花丸「台本ならお任せずら♪」

愛「げっ。愛さん、自由に喋りたいんだけど……」

果林「進行役がしゃしゃり出てどうするのよ……」

璃奈「でも、良かった。愛ちゃんが元気になって」

梨子「この調子で、曜ちゃんも元気になってくれるといいわね」

歩夢(こうして、私たちは解散となった)

歩夢(しずくちゃんたちは、リハーサルのために音楽室に向かったようだ)

歩夢(本番まで時間はないけれど、急ピッチで進めるのも十分楽しいようだ)

歩夢(暗かった雰囲気も、着実に良い方向に動いている)

歩夢「大丈夫……モノっちーの思惑通りには、絶対にさせない」

歩夢(……でも)

歩夢(あの日、せつ菜ちゃんと遊びに行った記憶)

歩夢(なんで……才能や学生生活だけじゃなくて“その日の出来事まで思い出せない”んだろう……?)

歩夢(何とも言えない不安は、私の中にこびりついていた)

~モノっちー劇場~

『御』ってさ、便利な漢字だよネ。

これを付けておけば、多少の違和感こそあれど、大体の言葉は丁寧になるワケだし。

「おみおつけ」なんて、漢字で書いたら「御御御付」だよ。どんだけ丁寧にしたらいいんだ!

御モノっちー……なんとなく、おしとやかさが増したかな?

やっぱり、世界に必要なのは丁寧さなのかもネ。

御殺人、御処刑、御泥棒、御戦争、御不治の病……。

ギスギスした話題も、いっきにトゲが無くなるかと思ったけど……そうでもなさそうだよ。

というワケで、御覚悟!

────学園生活15日目

キーンコーンカーンコーン

モノっちー『おはようございます、朝7時になりました』

モノっちー『さてさて、今日も1日頑張っていきましょう』

プツン

歩夢(今日は……夕方から、音楽室で食事会)

歩夢(短いようで異様に長く感じた缶詰生活から、ようやく抜け出せる……)

歩夢(そう思うと、腹の虫が一斉にわめきだした)

────食堂

せつ菜「~~~~♪」モグモグ

ダイヤ「せつ菜さん。楽しみなのは分かりますが、少々行儀が悪いです」

せつ菜「す、すいません」

せつ菜「……~♪」

花丸「早く夕方にならないかなー……」

しずく「梨子さん。あの場面のセリフ、やっぱりこうした方がいいでしょうか?」

梨子「えーと……」

愛「みんな、浮足立ってるね」

歩夢「うん。愛ちゃんも、楽しみでしょ?」

愛「え!? ま、まぁ……そうだね。愛さんも楽しみだよ!」

歩夢「……?」

果南「そういえば、璃奈の姿が見えないけど……」

愛「あー……りなりー、昨日は舞台装置の手伝いしてたから。疲れて寝てるんじゃない?」

しずく「璃奈さんだけ、途中で切り上げていましたね」

愛「愛さんも足、軽くやっちゃったんだよね~……たはは」

果林「まったく……笑うことじゃないわよ。擦り傷で済んだから良かったけど」

梨子「ごめんね、手伝わせちゃって……」

鞠莉「そういえば。生徒名簿のコピー、誰か知らないかしら」

果南「生徒名簿のコピー?」

鞠莉「ええ。昨日、どこかに置き忘れたっぽいのよね」

鞠莉「まあ、知らないならいいわ。また職員室で印刷すればいいだけだし」

鞠莉「それじゃ、また夕方会いましょう。お昼の缶詰、先に貰っておくわよ」

千歌「あ、それ……ミカンの缶詰! 私も狙ってたやつ!」

鞠莉「Sorry、早い者勝ちよ」

千歌「ぐぬぬぬぬぬ……」

歩夢「まあまあ。食事会が終わったら、普通のミカンも食べられるようになるよ」

千歌「それは……そうなんだけどさぁ」

果南「そういえば、まだ曜は寝てる?」

千歌「うん。さっきも見に行ったけど、まだ寝てた」

果林「そう……随分と、派手に打ったみたいね」

千歌「うん。曜ちゃん、夕方には来れるかなぁ……」

────夕方、音楽室

果林「……いよいよね」

千歌「結局、曜ちゃんは来なさそうだね」

モノっちー「さてと。ボクはこの席で見させてもらうよ」

歩夢「……」

ブーーーーー

歩夢(開演のブザーが鳴る。すると、ステージの両脇からは白い煙が出て来た)

花丸「……火事?」

鞠莉「スモークね。これがないと、ステージの照明が観客席まで届かないらしいわ」

愛『レディース&ジェントルマーン……って、ジェントルマンはどこにもいないね』

愛『今宵は、お集まり頂きましてありがとうございます。司会進行は私、宮下愛が務めさせて頂きます』

果南「だいぶ、様になってますね」

ダイヤ「お静かに」シー

愛『それじゃあ、まずはトップバッター。《超高校級のスクールアイドル》優木せつ菜のプチライブ!』

愛『曲は“ネガイゴトアンサンブル”! 私が大好きだった曲を、みんなも大好きになって欲しい、とのことです!』

愛『それじゃ、行ってみよーう!』

歩夢(空間を裂くようなレーザー照明と薄赤色の照明。せつ菜ちゃんは、その中心でパフォーマンスを始めた)

せつ菜「きっとShooting Love Shooting Heart♪」

せつ菜「もっと高く高く♪」

モノっちー「Fooooo!」

歩夢(!?)

モノっちー「フッフーゥ↑」

歩夢(いつの間にか、モノっちーはサイリウムを両手に、いわゆる『コール』と呼ばれるものをしていた)

歩夢(つまり、十分ライブを楽しんでいる……筈)

せつ菜「今は小さなタマゴも いつか 高く高く 飛んでゆけるよね♪」

モノっちー「イエッタイガー!」

歩夢(……概ね、好評?)

パチパチパチパチ

せつ菜「ありがとうございましたー!」

パチパチパチパチ


せつ菜「ふー……」

歩夢「お疲れ様、せつ菜ちゃん」

鞠莉「冷たい水、用意してるわよ」

せつ菜「ありがとうございます!」ゴクゴク

モノっちー「うんうん。やっぱり、ライブってのはこうでなきゃネ」

モノっちー「近頃は家虎がどうだ、改造サイリウムがどうだって騒がれてるけど。ここじゃあ外圧を気にする必要はないもの」

せつ菜「むー……厄介コール、本当はお断りなんですけどね」

せつ菜「モノっちーさん、外ではやらないでくださいよ?」

モノっちー「うけけけけけ。分かってるよ」

果林「2人が何を喋ってるのか……よく分からないわね」

歩夢「多分、アイドル関係だとは思うけど……」

愛『さて、テンションがブチ上がったところで、次は《超高校級の演劇部》桜坂しずくによる歌劇!』

愛『本日はお時間の都合により1曲だけとなっていますが、その才能は遺憾なく発揮されることでしょう!』

愛『曲はモーツァルト作曲のオペラ“魔笛”より“夜の女王のアリア”』

愛『それでは、どうぞごゆっくり……』

歩夢(薄水色の照明とともに、しずくちゃんは姿を現した)

しずく「Der H?lle Rache kocht in meinem Herzen──」

歩夢(いきなり、かなりの高音で始まった曲)

歩夢(聞いたことがある。この曲は音域がかなり高く、相当訓練を積んだ女性でないと、綺麗に音程が取れないらしい)

歩夢(並の人間では、途中で喉を潰してしまう。特に顕著なのは、サビの部分だ)

しずく「meine Tochter nimmermehr. hahahahaha──」

歩夢(片腕が使えない代わりと言わんばかりに、ずば抜けた歌唱力で私たちを圧倒する)

しずく「──Racheg?tter, h?rt der Mutter Schwur!」

パチパチパチパチ

しずく「……」

歩夢(やがて。荘厳なオーケストラと共に、その舞台は幕を閉じる)

歩夢(丁寧にお辞儀をして、しずくちゃんは舞台から降りて来た)

歩夢(入れ替わりに、果南さんたちが席を立つ。ピアノの搬入準備だ)

果林「お疲れ、しずくちゃん」

しずく「歌劇をやったのは久しぶりでしたが、充実感があります」

モノっちー「うけけけ……曲名を正確に言わなかったのは、わざとかな?」

果南「曲名?」

花丸「確か、夜の女王のアリアって、魔笛に出てくる2曲のことを示していて……」

花丸「1曲目は“ああ、恐れおののかなくてもよいのです、わが子よ!”」

モノっちー「そして2曲目は“復讐の炎は地獄のように我が心に燃え”。まあ実際は、こっちの方が有名だから、“夜の女王のアリア”で十分通じるんだけどネ」

しずく「……ご存知でしたか」

モノっちー「まあネ。分かりやすく才能を発揮するにはもってこいの曲だし、概ね満足かな」

千歌「じゃあ、もしかして……」

モノっちー「それはどうかな。あとは、桜内さんだネ」

モノっちー「総合評価だからネ。ここで台無しになったら……どうなるかな」

愛『それじゃあ、最後は《超高校級の芸術家》桜内梨子によるピアノ演奏!』

愛『曲は、桜内梨子オリジナル“海に還るもの”』

愛『それではどうぞ、ごゆっくり──』

歩夢(ステージに、薄いピンクの照明が灯り、舞台袖から梨子ちゃんが姿を現す)

千歌「頑張れ、梨子ちゃん……」

歩夢(私も、“頑張れ”と心中で呟いた)

梨子「……」スッ

梨子「~♪」

歩夢(優しいメロディーが、音楽室を包み込む)

歩夢(梨子ちゃんが滑らせる指から奏でられる音色が、自然と体の力を抜かせる)

歩夢(次第に、音が体に染み込んで来るような、不思議な感覚に囚われて……)

梨子「~♪」


モノっちー「……」

モノっちー「……うけけ」


歩夢(そして。曲がサビに入ろうかといったところで──)



ドガッ!



歩夢(──不意に、それは終わりを告げた)

歩夢「な……!?」

花丸「何の、音……!?」

果林「何か、“降って”こなかった!?」

歩夢(4つ目の出し物? いや、違う。出し物は3つだった筈だ)

歩夢(ステージの上では、梨子ちゃんが慌てた表情でグランドピアノに駆け寄っていた)

歩夢(そして)

梨子「ひっ……」

歩夢(小さな悲鳴。それを見て、私たちは一目散にステージへと駆ける)

梨子「ひ、人が……、上、から……」

歩夢(ステージの上から降って来たモノは、人の形をしていた)

歩夢(人は、見慣れたボードを顔に着けていた)

歩夢(けれども背丈は、私たちの知っている“彼女”のものではない)

歩夢(何より。その人が着ている衣服は……)

歩夢「……」

歩夢(“璃奈ちゃんボード”を、そっと剥がす)



璃奈ちゃんボードの下にあったのは、患者服姿の

冷たくなった《超高校級の船乗り》渡辺曜の、死体……。

今回はここまで。


     Chapter3

キリングフレンド  非日常編

歩夢(それはさながら……空から降って来た絶望のようだった)

歩夢(その絶望は……コンサートの終わりを意味していた)

千歌「曜、ちゃん……?」

しずく「嘘、ですよね……」

愛「……」

果南「……っ」

歩夢(なんで、こうなってしまうんだろう)

歩夢(この夕食会が終われば、みんなで仲良くご飯を食べて)

歩夢(彼女もそのうち目を覚ます筈だって、信じてたのに)

歩夢「なんで……」


モノっちー「うけけ……例のアレ、やっちゃいますか。ちょっと席外すよん」

ピンポンパンポーン

モノっちー『死体が発見されました。一定の捜査時間の後、“学級裁判”を開きます』

モノっちー『オマエら、死体発見現場の音楽室にお集まりください!』

プツン


モノっちー「ほいっと、ただいま」

モノっちー「ほとんどここ(音楽室)にいるから、放送で流す必要もなかったんだけど……まあ、いない人もいるしネ」

モノっちー「さてと。カレーの準備をしながら、まだ来ていない人たちを待ちましょう」

~数分後~

モノっちー「……来ないネ」

鞠莉「いま居ないのは……かすみと璃奈ね」

せつ菜「あの……かすみさんって、まだお部屋で縛られているんじゃ……」

モノっちー「まったくもう、これじゃあカレーを振舞えないじゃないか!」

愛「じゃあ、愛さんが呼んで来るよ。もしかしたら……りなりーに何かあったのかも知れないから」

歩夢(愛ちゃんの手にあるのは、曜ちゃんの死体についていた“璃奈ちゃんボード”だった)

果林「なるべく早く戻って来るようにね」

愛「大丈夫だって。かすみは縛られたままなんでしょ? だったら連れて来るのは簡単だよ」

タッタッタッ……

愛「二人とも、部屋に居たよ」

璃奈「……(>_<。)」

かすみ「今度の被害者は……曜先輩みたいですね」

歩夢(……しばらくして、愛ちゃんは二人を連れて帰って来た)

モノっちー「さてと。じゃあ、全員が揃ったところで……」

モノっちー「ぱらぱぱっぱぱー! カレーライス~……と、モノっちーファイル3~!」

モノっちー「オマエら、これでしっかりと腹ごしらえして、万全の態勢で学級裁判に臨むように!」

モノっちー「あ、モノっちーファイルは食べ物じゃないからネ。『※食べられません』とか書いてないけど間違えないようにネ?」

花丸「流石にそこまで悪食じゃないずら……」

モノっちー「というワケで、ボクはこの辺で──」

鞠莉「待ちなさい」

モノっちー「ん?」

鞠莉「動機発表の時、言ったわよね。毒薬の行方も教える、と」

モノっちー「ああ……そもそもあの毒薬は、オマエらが心配するだけ無駄だったんだよ」

ダイヤ「どういう意味ですの?」


モノっちー「毒薬は毒薬だけど、飲食物に混ぜたところでまったく意味がないモノだからネ!」

せつ菜「……は?」

モノっちー「文字通りの意味だよ。それなのに、オマエらは意味のないクスリにビクビクして……あー面白かった」

モノっちー「というワケだから……特別に配膳も済ませたし、さっさと食って働け野郎共!」

歩夢「……」

歩夢(モノっちーに怒鳴られ、私たちは出された食事を胃袋に押し込んでいく)

歩夢(……モノっちー特製のカレーライスは、憎たらしいほど、が付くほどに美味しかった)

歩夢(なんの心配もなく食事が出来るということが、こんなにも有難いことだったなんて……)

歩夢「……ご馳走様でした」

歩夢(ゆっくりと……身体の底から活力が湧いてくるようだった)

歩夢(周りのみんなも、食べ終えたようだ)

歩夢(始めなきゃ……ね)

捜査開始!

歩夢「まずは……」

歩夢(モノっちーファイルを手に取り、情報を確認する)

『被害者となったのは超高校級の船乗り、渡辺曜。死体発見現場は校舎3階、音楽室』

『死亡推定時刻は昨晩18:00頃、発見は翌18:30頃、夕食会の最中』

『後頭部を強く打った形跡あり。左腕に針の跡が1か所あるが、それは輸血及び点滴のチューブを繋いだ際のもの』

『また、被害者の体内から毒物及び点滴以外の薬品類は一切検出されていない』

せつ菜「……一瞬、眠っている間に毒を盛られたかと思いましたが、そうではないみたいですね」

歩夢「そうみたいだね。今回も死因が書いてないのは気になるし……」

歩夢(それに、この死亡推定時刻って……)

《モノっちーファイル3》のコトダマを入手しました。

歩夢(次は……曜ちゃんの死体を調べよう)

歩夢「何か見つかった?」

花丸「……傷らしい傷は、後頭部だけだったずら」

鞠莉「死因が分からないから何とも言えないけれど……曜の死体で気になるのは2つね」

せつ菜「2つ?」

鞠莉「1つは患者服のヒモ。腰に巻いて結ぶ紐なんだけど……どういうワケか濡れているのよね」

歩夢(本当だ。少し乾いているけど……確かに湿っている)

花丸「もう1つは、曜ちゃんの顔。こっちも触ってみたら分かるよ」

せつ菜「肌色の……ファンデーションですかね?」

鞠莉「恐らくね。ただ、曜本人が化粧するとは考えにくいし……」

花丸「犯人は死化粧でもやろうとしたずら……?」

《患者服の紐》《ファンデーション》のコトダマを入手しました。

せつ菜「次は……キャットウォークを調べに行きませんか?」

歩夢「キャット……?」

せつ菜「ステージの上、あの照明器具がぶら下がっている場所のことです」

歩夢「なるほど……」


────舞台・キャットウォーク

歩夢「やっぱり……曜ちゃんはここから落とされたのかな」

せつ菜「だと思います。つまり、梨子さんがピアノを演奏している時、犯人はここにいたってことですよ!」

かすみ「だといいんですけどね~」

せつ菜「……何か見つけたんですか?」

かすみ「ずっとお部屋にいた私に分かる筈ないじゃないですか。あ、でもあそこに付いてた跡とロープは気になるかなーってくらいです」

かすみ「じゃ、かすみんはこの辺で失礼しまーす」

歩夢「あ、走ると危ないよー」

<ワカッテマース

歩夢(かすみちゃんの話が気になったので、照明器具を調べてみる)

歩夢「とはいえ、どれも少しばかり埃をかぶっている程度で……ん?」

歩夢(3列並んだ照明機のうち……音楽室の座席の方から見て、一番手前、その真ん中)

歩夢(まるで溝のように、不自然に埃の付いていない部分があった)

歩夢「しかも、ここの真下は……」

https://i.imgur.com/ex5QXZ6.jpg

https://i.imgur.com/MR6Cru2.jpg

歩夢「ちょうど、グランドピアノ……曜ちゃんの死体が落ちて来た場所……」

せつ菜「見つけましたよ、歩夢!」

歩夢「え?」

せつ菜「ロープの束です! 犯人はこれを使って、曜さんをこの照明器具にぶら下げていたんじゃないでしょうか?」

歩夢「……」

歩夢「確かに、そういう方法もあるかも……」

歩夢(ロープの両端は、切ったような痕跡は見当たらない……)

《照明機》《ロープの束》のコトダマを入手しました。

歩夢「ねえせつ菜ちゃん。ここに来る道って、あのハシゴしかないんだよね?」

せつ菜「ええ。危険だから、あまり来ないように……って話になっていましたよ」

歩夢「確か、ハシゴの下って……」


────舞台袖(上手側)

愛「うん。ちょうど、アタシが音響とか照明とか色々やってたところだね」

歩夢「やっぱり……」

せつ菜「ということは、夕食会の最中に誰かがここを通ったら、すぐに分かりますよね?」

愛「うん。ピアノを運び終えたダイヤっちたちはここを通ったけど……それ以外は誰も見なかったよ」

せつ菜「誰も、ですか」

愛「間違いないよー。せっつんはステージから直で降りてたし、しずくっちは下手側から出たからね」

愛「それに、あの3人もすぐにそこの扉から客席に戻ってたよ」

せつ菜「うーん……愛さんに見つからずに、キャットウォ-クから曜さんを落とす方法……」ブツブツ

歩夢「……」

《キャットウォークのハシゴ》《愛の証言》のコトダマを入手しました。

────舞台袖(下手側)

せつ菜「スモークが?」

梨子「うん。元々、せつ菜ちゃんの番だけじゃなくて、ショーが終わるまではもつ筈だったんだけど……」

しずく「どうやら、途中でスモークが切れてしまっていたようなんです」

歩夢(そう言って、しずくちゃんが差し出して来たのは、スモークを発生させる手作りの箱……らしいのだが)

歩夢「何も入ってないように見えるけど……」

しずく「いえ、それは全部気体になったんです。ドライアイスの煙を使っていましたから」

歩夢「ドライアイスって……あのドライアイス?」

梨子「うん。モノっちーに訊いたら、冷凍庫に保存してあることを教えてくれたから……」

しずく「それで、必要分を持ってきて、発砲スチロール製のこの箱に入れていたんです」

せつ菜「分量を間違えた、というワケではないんですよね」

しずく「それはありません! 劇団に入る前に、演出のお勉強もしましたから。量はキッカリ、出し物が終わるまでだった筈です」

歩夢(これも……手掛かりになるのかな?)

《ドライアイス》のコトダマを入手しました。

せつ菜「あと、調べないといけないところは……」

歩夢「それなら、話を聞いておきたい人が居るんだよね。まずは璃奈ちゃん、かな」


璃奈「……璃奈ちゃんボードについて(・v・)?」

歩夢「うん。璃奈ちゃんの付けてるそれって、複数あるのかなーって」

璃奈「ないよ、これはお手製(・v・)」

果林「昨日、夕食会の準備をしている時にもその話になったわね」

果林「確か、持ち方をちょっと工夫するだけで、前が見えるようになる……だったかしら」

璃奈「うん。ただ普通に持つだけじゃ、何も見えない。けど、実は紙にちょっとだけ穴が開いてる(・v・)」

璃奈「でも、この持ち方を知っているのは私だけ。だから、普通は視界を確保するのは無理(・v・)」

せつ菜「愛さん、土下座までして持ち方を教えて貰おうとしていましたけど……」

璃奈「いくら愛ちゃんでもこれだけはダメ! 璃奈ちゃんボード、大事なものなの(`∧´)!」

歩夢「でも、曜ちゃんの死体に被せられていたってことはさ……」

璃奈「うん、なくしちゃってた。昨日、お風呂に入ってる間に……(>_<。)」

歩夢「お風呂、って……」

璃奈「大浴場の方だよ。やっぱり、お部屋のシャワーだけだと不便だから……こっそり夜中に入ってるの(・v・)」

果林「じゃあ、犯人はそこを狙って、璃奈ちゃんボードを盗んだってことかしらね」

璃奈「かも知れない。脱衣所のカゴに入れてたから……(>_<。)」

璃奈「あ。でも、夜中に入ってること、誰にも言ってなかったよ(>_<。)」

せつ菜「……そもそも、何のために犯人はボードを盗んだのでしょう」

歩夢「それなんだよね……。どうせ、すぐに被害者が誰か分かっちゃうのに」

璃奈「そういえば。愛ちゃんが持ってきた璃奈ちゃんボード、裏に両面テープが付いてたんだけど……(>_<。)」

果林「曜ちゃんの顔に貼り付けていたんでしょうけど、何がしたかったのかさっぱり分からないわね」

《璃奈ちゃんボード》《璃奈の証言》のコトダマを入手しました。

歩夢(音楽室で調べられそうなことは、もうなさそうかな……)

歩夢「ねえ、千歌ちゃんがどこに行ったか知ってる?」

せつ菜「そういえば……いつの間にかいませんね」

果林「千歌ちゃんなら、音楽室を出てどこかに行ったわよ」

璃奈「探さないといけないね(・v・)」

歩夢「そっか……。じゃあ、先に保健室に行こっか」

せつ菜「ですね。何か手掛かりがあるかも知れませんし」

果林「私たちの方でも、千歌ちゃんを探しておこうかしら」

せつ菜「助かります!」

────保健室

歩夢(保健室にいたのは、ダイヤさんと果南さん。2人は、何かを話し込んでいたようだ)

ダイヤ「──では、その情報だけで犯人を特定するのは難しい、ということですか」

果南「……そうなるね」

歩夢「何の話をしていたんですか?」

果南「曜がここに運び込まれてから、誰が来たかって話だよ」

ダイヤ「千歌さんが何度かここを訪れたことだけはハッキリとしているのですが……」

果南「入院の面会とはワケが違うからね。いつでも自由に来れるから」

果南「……まあ、千歌なら何か知ってるかもしれないけど」

せつ菜「そうですか……」

ダイヤ「とはいえ、何も手掛かりがなかったというワケではありませんよ」

歩夢(そう言ってダイヤさんは、曜ちゃんが寝かされていたベッドの布団をめくった)

歩夢(そこにあったのは……)

歩夢「……!」

ダイヤ「AB型の輸血パックと点滴。これは、曜さんに繋いでいたものでしょう。血液型も曜さんと一致しているようですし」

ダイヤ「チューブが繋がったままだと音楽室に運ぶには邪魔になるから、ここで外した……概ね、そんなところでしょうね」

ダイヤ「ですが、問題はこちら」

せつ菜「これって、ハンマーですよね……」

ダイヤ「最初は、落ちて来た衝撃で曜が死んだと思ってたけどさ。多分、本当の凶器はこのハンマーなんだろうね」

果南「後頭部にしか傷がないのも、これで説明出来るからさ」

歩夢(確かに、モノっちーファイルの外傷の話はこれで納得が出来るけど……)

歩夢「それにしては……シーツもハンマーも、綺麗すぎないかなぁ……?」

せつ菜「洗ったり、取り換えたりしたのではないでしょうか」

歩夢「うーん……」

歩夢(何かが引っ掛かるんだよね……)

《輸血パックと点滴》《ハンマー》のコトダマを入手しました。

歩夢「あとは、千歌ちゃんを探すだけなんだけど……」


ピンポンパンポーン

モノっちー『は~いお待たせ、みんなのアイドルモノっちーだよ~ん』

モノっちー『今日は~、学級裁判をやろうと思うんですよ、てへ☆』

モノっちー『……うん、このキャラはやっぱり没だネ。テコ入れの道はまだまだ険しいネ』

モノっちー『というワケで、いつもの赤い門の前にお集まりください!』

モノっちー『うけけ……オマエらの知恵比べ、楽しみにしてるよ』

プツン


歩夢「そんな……このタイミングで……」

せつ菜「前回の捜査もそうでしたが、相変わらず狙ったようなタイミングで打ち切ってくれますね」

果南「まあまあ。千歌もどうせ来るんだし、話は後でもいいんじゃないかな」

果南「……多分、歩夢も同じことが気になっているんでしょ?」

ダイヤ「とにかく、あの場所に向かいましょう」

────赤い門の前

歩夢(アナウンスを聞いたみんなが、集まって来る)

梨子「……」

花丸「……」

璃奈「……(>_<。)」

鞠莉「……」

かすみ「……」

歩夢(誰も口を開かない。言うべき言葉を探り合っているような……そんな雰囲気だ)

千歌「……」

歩夢(そして。最後の1人、千歌ちゃんが姿を現したところで門が開き、エレベーターもその口を開ける)

歩夢「ねえ、千歌ちゃん……」

千歌「……」

果南「千歌、歩夢が呼んでるよ」

千歌「これだけは言わせて。“私は今朝、曜ちゃんがベッドで寝ているのを見た”。間違いなく、死んでなかった」

果南「……だよね。今朝、そんなやり取りをした記憶があるからさ」


果南『そういえば、まだ曜は寝てる?』

千歌『うん。さっきも見に行ったけど、まだ寝てた』


果南「いよいよ、モノっちーファイルも信用出来なくなって来たかもね……」

千歌「……」

《千歌の証言》のコトダマを入手しました。

花丸「3人とも、何やってるずらー!」

しずく「もうみんな乗ってますよー!」

果南「ごめんごめん、今行くよ」

歩夢「行こっか、千歌ちゃん」

千歌「……」

千歌「嘘つき」

歩夢「……え?」

千歌「……」

歩夢(それっきり、千歌ちゃんは一切口を開こうとせず)

歩夢(気まずい雰囲気のまま、私たちはエレベーターに乗り込み……)

歩夢(エレベーターは、降下を始めた)

歩夢(鉄の箱は、振動を繰り返しながら落ちてゆく)

歩夢(こんなことを、あと何回やらなければいけないんだろう)

歩夢(燦然と輝く絶望と真っ暗な希望が、頭の中で交錯する)

歩夢(希望も絶望もグチャグチャになって、腐った何かへと様相を変え……)

歩夢(……やがて、鉄の箱は動きを止めた)

────地下???階・裁判場

モノっちー「いらっしゃ~い! 模様替えはモノっちーちゃんにお任せ~!」

モノっちー「今回は海原をモチーフにした背景にしてみたんだよネ。照明もわざわざ青っぽい雰囲気にしてみたりさ!」

モノっちー「というワケでオマエら、心ゆくまで学級裁判を楽しんじゃって頂戴な!」

歩夢(モノっちーの掛け声で、みんな席につく)

歩夢(ぽつぽつと目立ち始めた空席を見ながら、覚悟を決める)

歩夢(これが3度目の、学級裁判……)

歩夢(《超高校級の船乗り》渡辺曜ちゃん……)

歩夢(彼女は、泳げなくなったことに悩んでいた)

歩夢(才能を活かして人命救助活動をする彼女だからこそ、だったのだろう)

歩夢(けれども、彼女は努力していた。泳力を取り戻そうとしていた)

歩夢(そんな彼女の努力を終わらせた犯人が……私たちの中にいる)

歩夢(私はその人を、許せない)

歩夢(友達を裏切った犯人を……きっと許せないだろう)

歩夢(だから、それを見つけ出す)

歩夢(希望と絶望が連鎖する、この“学級裁判”で──!)

~学級裁判準備~
衆人環視の中起きた事件は、夕食会を血塗られたパーティへと変えてしまった。
目撃証言と噛み合わない手掛かり、不鮮明な死因……。
謎だらけの事件を紐解き、隠された真実を明るみに晒せ!

コトダマリスト
《モノっちーファイル3》
被害者は渡辺曜。死亡推定時刻は昨晩18時頃、発見は夕食会の最中。
後頭部を強く打った形跡があり、輸血、点滴のチューブを繋いだ際の跡も見つかっている。
体内から毒物及び点滴以外の薬品類は一切検出されていない。

《患者服の紐》
被害者が着ていた患者服がはだけないよう、腰に巻いて結ぶもの。
何故か少し濡れていた。

《ファンデーション》
被害者の顔には、何故か肌色のファンデーションが塗られていた。

《照明機》
https://i.imgur.com/ex5QXZ6.jpg
https://i.imgur.com/MR6Cru2.jpg を参照。
何かの跡がついており、その真下は死体が落ちて来た場所である。

《ロープの束》
キャットウォークで見つかったもの。
両端に切ったような痕跡はない。

《キャットウォークのハシゴ》
舞台袖からキャットウォークに向かう、唯一の道。
ここを通る際には、舞台袖(上手側)を必ず通ることになる。

《愛の証言》
夕食会の最中、ずっと舞台袖(上手側)にいた愛。
途中、ピアノを運び終えたダイヤ、果南、鞠莉の3人がそこを通ったが、
3人ともすぐに客席に戻っており、それ以外の人は見ていないという。

《ドライアイス》
スモークとして使われていたもの。
しずく曰く3つの出し物すべてが終わるまでもつ筈だったが、何故か減っていた。

《璃奈ちゃんボード》
死体の顔に貼り付いていたもの。
璃奈がいつも付けていたものであり、唯一無二。
裏には両面テープがついていた。

《璃奈の証言》
璃奈はいつも、夜中にこっそり大浴場に入っている。
その際、脱衣所に置いていた璃奈ちゃんボードを何者かに盗まれた可能性が高いらしい。

《輸血パックと点滴》
気を失っていた曜につけられていたもの。
至って普通の輸血パック(AB型)と、至って普通の点滴。
チューブに繋がった状態で、保健室に放置されていた。

《ハンマー》
保健室、曜が寝ていたベッドに落ちていた。
シーツ共々、綺麗なままだった。

《千歌の証言》
今朝、千歌は保健室で寝ている曜を目撃していた。
その時点でまだ息はあったという。

今回はここまで。


 学 級 裁 判 
  開   廷!

モノっちー「まずは学級裁判の簡単な説明を行いましょう」

モノっちー「学級裁判では“誰がクロか”を議論し、最終的に投票で全てを決定します」

モノっちー「正しいクロをオマエらの過半数が指摘出来れば、クロだけがオシオキ」

モノっちー「不正解だった場合は、クロは卒業、残ったシロは全員オシオキです!」

モノっちー「ちなみに、ちゃんと誰かに投票してネ。投票を放棄した人もオシオキだからネ?」

かすみ「今回の事件、かすみんはあんまり流れを把握出来てないんですよね~。ほら、ずっとお部屋でしたから」

かすみ「順を追って説明して欲しいんですけど……お願い出来ますか?」

鞠莉「あなたは場を引っ掻き回すだけでしょう」

かすみ「うーん……それを言われちゃうと痛いです。けど事件が起きた時、璃奈さんもそこには居なかったんですよねえ?」

かすみ「だったら、彼女のためにも説明は必要だと思うんですけど」

ダイヤ「璃奈さんをダシにするのは感心できませんが……仕方ありませんわね」

せつ菜「こういうのは、ずっと観客席にいた人たちに説明して貰った方が分かりやすいかも知れません」

花丸「じゃあ、オラが説明するずら」

璃奈「……お願い(・v・)」

花丸「まずは、夕食会の出し物が決まったところから。出し物の順番は、せつ菜さん、しずくちゃん、梨子さんの順番だった」

果林「せつ菜ちゃんが小さなライブ、しずくちゃんが歌劇、梨子ちゃんがピアノだったわね」

花丸「それから、ピアノを運ぶ係として、ダイヤさん、鞠莉さん、果南さんの3人が。音響と照明、アナウンスは愛さんが担当することになったんだ」

かすみ「結構本格的だったみたいですね。かすみんも見たかったですよ~」

花丸「本番になって、せつ菜さんとしずくちゃんの催しは、何事もなく進行していった」

梨子「けれど、最後。私がピアノを弾いている最中に……何かが、グランドピアノめがけて落ちて来た」

璃奈「……それが、曜ちゃんだったんだね(>_<。)」

果林「死体は患者服を着ていて、何故か、璃奈ちゃんボードを付けていた……」

愛「で、それをりなりーに届けるついでに、2人を呼びに行ったのがアタシだった」

花丸「……ここまでが、今回の事件の大雑把なまとめずら」

果南「曜が患者服だったのは、2日前、曜がプールで大怪我を負ったからだよ」

果南「気を失ったままだったから、保健室に寝かせていた……一応、補足」

かすみ「ありがとうございます、よく理解出来ました。ね、璃奈さん?」

璃奈「……ありがとう(・v・)」

しずく「うーん……考えれば考えるほど、今回も謎だらけな気がします」

鞠莉「謎が多いなら、順番に片づけて行けばいいだけ……そうでしょ、歩夢」

歩夢「え、あ、はい!」

歩夢(でも……実際、今回の事件は分からないことが多すぎる)

歩夢(それでも……やるしかないんだ!)

千歌「……」

【ノンストップ議論 開始!】
[|モノっちーファイル3>
[|ファンデーション>
[|璃奈ちゃんボード>

かすみ「まずは前提の確認なんですけど~……」

かすみ「曜さんの死因は、少なくとも【落下の衝撃によるものではない】という話でいいですよね?」

璃奈「……なんでそうなるの(・v・)?」

果林「今回のモノっちーファイルにも【死因は書いていなかった】筈……よね」

愛「あれ? だったら【突き落とされて死んだ】可能性だってあるんじゃないの?」

梨子「死因不明……早速、大きな壁にぶち当たっちゃったわね」

せつ菜「【毒が関係していない】のは確かですから……ん~……?」

果南「ちょっとかすみ、収拾がつかなくなってるんだけど」

かすみ「私のせいにしないでください!」

歩夢(色んな可能性が考えられる死因……とりあえず、ないと言い切れる可能性からしらみ潰しにするしかなさそうだね)

[|モノっちーファイル3>→【突き落とされて死んだ】

歩夢「それは違うよ!」

Break!

歩夢「待って愛ちゃん。突き落とされて死んだとは考えられないよ」

歩夢「曜ちゃんは……少なくとも、落ちてくるより前には殺されていたんだと思う」

愛「なんでそう言い切れるのさ」

歩夢「曜ちゃんの死亡推定時刻は昨日の18時。つまり、落ちて来た曜ちゃんは既に死体だったってことなんだよ」

愛「あれ、そうなの?」

花丸「モノっちーファイルに書いてあったずらよ」

かすみ「しっかりしてくださいよ愛先輩。モノっちーファイルは、一番ハッキリとしている手掛かりなんですから」

愛「……悪かったよぅ。そんなに責めなくってもいいじゃん」

ダイヤ「ともかく、犯人の行動パターンはおおよそ2つといったところでしょう」

ダイヤ「昨日のうちに保健室に曜さんを殺し、音楽室まで運んだか。或いは目を覚まさない曜さんを運び、音楽室で殺したか」

ダイヤ「曜さんは重体でしたから、目を覚まして自分から行動した線は薄いと見ていいでしょう」

千歌「……あり得ない」

ダイヤ「千歌さん。あり得ないと言われましても、何があり得ないのでしょう」

千歌「やっぱり、曜ちゃんが死んだのは昨日なんかじゃないよ」

梨子「千歌ちゃん、その話はもう終わったことで」

千歌「終わってない」キッパリ

しずく「何か、根拠があるんですか?」

千歌「……」

かすみ「あーもう、議論が進まないじゃないですか!」

歩夢(千歌ちゃんが言いたいこと……やっぱり、アレのことだよね)

【コトダマ一覧より選択】

→【千歌の証言】

歩夢「今の流れに水を差すんだけど……千歌ちゃんは今朝、曜ちゃんが保健室で寝ていたのを見たらしいんだ」

歩夢「しかも、その時点ではまだ生きていた……だよね、千歌ちゃん」

千歌「……」

果南「ちょっと。千歌が黙ったら話が進まないでしょ」

ダイヤ「千歌さん、この裁判が始まった時から虫の居所が悪そうですが……何かあったのですか?」

千歌「……」

梨子「ねえ、喋ってくれないと分からないよ!」

かすみ「どーせ、千歌先輩の嘘でしょう? 議論をかく乱させるための……あっ」

かすみ「もしかしたら、千歌先輩が曜先輩を殺した犯人だったりして」

愛「いやいや、それはないっしょ」

ダイヤ「千歌さんは曜さんと仲が良かった筈です。仲の良い人を殺すなんて……もう、考えたくありません」

しずく「ですが、千歌さんの証言を信じられないのも確かです」

せつ菜「千歌さん以外に、今日保健室に足を運んだ人はいませんか?」

「「……」」

果林「いない、みたいね」

かすみ「というワケで、千歌先輩の証言は聞かなかったことにしましょう。歩夢先輩も、こんな人に付き合わせれて大変でしたね」

歩夢「え、あー……」

千歌「あるよ、1つだけ」

歩夢(……え?)

千歌「ずっと黙ってたけど……あるよ。私の証言と死亡推定時刻、そのどっちもが成り立っちゃうパターン」

梨子「いや……それは無理があるんじゃない? まさか、死んだ人間が生き返ったなんて言うつもりなの?」

花丸「もしくは、何らかの方法で死亡推定時刻を誤認させたか……」

モノっちー「推理小説でありがちな“部屋の温度をいじるとかで、死亡推定時刻を誤認させる方法は一切通用しない”とだけは言っておくよ」

モノっちー「ボクには監視カメラがあるんだ。死亡推定時刻なんて言い方をしてるけど、大体の殺害時刻だと思ってくれていいよ」

千歌「そんな面倒な方法じゃなくて……“私が見た曜ちゃんが偽物だった場合”だよ」

しずく「曜さんが偽物……?」

鞠莉「あなたが見た曜は誰かの変装だった、ということでしょ?」

千歌「うん、そうだよ」

せつ菜「ですが、変装だなんてそんな──」ハッ

ダイヤ「その方法なら、矛盾が起きませんが……」

千歌「うん。あの人なら、それが簡単に出来る」

千歌「そうやって、私を騙したんだよね」

千歌「歩夢ちゃんも……もう、分かったよね」

歩夢(寝ている曜ちゃんに変装が出来た人……)

歩夢(それは……)

【怪しい人物を指名しろ!】

→【天王寺璃奈】

歩夢「璃奈ちゃん……だよね」

璃奈「……(・v・)」

歩夢「《超高校級のディスガイザー》……変装師」

歩夢「前に言ってたよね。背は変えられないけれど、見聞きさえしていれば他人の顔と声を真似られる、って……」

歩夢(けど、本当に璃奈ちゃんが……?)

果林「今回の場合、ベッドに入って、ただ眠っている曜ちゃんを演じるだけだから……」

千歌「十分可能、だよね」

璃奈「……(・v・)」

かすみ「まさか、璃奈さんまでだんまりを使う気ですか~?」

梨子「このまま反論がないなら、決定になっちゃいそうけど……」

愛「ま、待ってよ! それだとおかしくない?」

璃奈「……愛ちゃん(・v・)?」

愛「りなりーが犯人だったら、曜をキャットウォークから落とすタイミングがないじゃん! だってりなりーはずっと部屋にいたんだよ!?」

花丸「……言われてみれば、そうずらね」

鞠莉「実は私も、それが気になっていたのよね~。璃奈が音楽室に姿を現したのは事件発生後、愛が連れて来たから」

鞠莉「つまり。私たちの中で唯一曜に変装出来る彼女には、事件発生時に鉄壁のアリバイがあるのよ」

果南「殺害時刻の謎が解けたと思ったら、今度はアリバイの壁……」

かすみ「だったら、そこにトリックがあるのかも知れません」

愛「トリックって、どんなトリックなのさ」

かすみ「それはかすみんに言われても困りますよ~。曜先輩が落ちた瞬間を見たワケじゃないんですから」

歩夢「でも、ただ落とすだけじゃダメなんだ。キャットウォークに登るには、舞台袖上手側のハシゴを通る以外に方法がないし……」

愛「それに、アタシがずっと舞台袖にいた。途中でダイヤっち、果南、マリーの3人がそこを通ったけど、りなりーの姿は見てないよ」

かすみ「本当ですか~? 璃奈さんを庇っている……とかはナシですよ?」

愛「庇ってるワケじゃないって! アタシは本当のことを言ってるだけだよ」

歩夢「確かに怪しいけど、愛ちゃんの話はやっぱり信じていいと思う。璃奈ちゃんが個室……少なくとも音楽室に居なかったのは確かだし」

梨子「けれども、この問題を解決しないことには、真相を解明出来ないのよね」

花丸「容疑者は1人、完璧なアリバイ……」

せつ菜「やはり、あのロープがトリックの肝ではないでしょうか」

果林「ロープ?」

せつ菜「キャットウォークに落ちていた物です。あれを使えば、アリバイを確保出来る……かも知れません」

【ノンストップ議論 開始!】
[|ロープの束>
[|照明機>
[|愛の証言>

せつ菜「トリックに必要なのは、あのロープです」

千歌「それをどう使うの?」

せつ菜「犯人はまず、照明機に【曜さんの死体をくくりつけて】おいたんです」

せつ菜「その後、愛さんや私たちが来るより早くからキャットウォークに隠れていて……」

せつ菜「タイミングを見計らい【ロープを切って】曜さんを落としたのではないでしょうか」

せつ菜「そして、私たちが死体に気を取られている隙に、こっそり音楽室から抜け出すんです」

果南「そんなに上手く行くかなぁ……」

花丸「トリックとは、地道な作業の塊ずらよ」

しずく「ですが【最初からキャットウォークに潜んで】いれば、誰かに見つかることもありませんね」

璃奈「……(・v・)」

歩夢(せつ菜ちゃんの推理には、無理がある……。それを証明出来る証拠を、突きつけるんだ!)

[|ロープの束>→【ロープを切って】

歩夢「それは違うよ!」

Break!

歩夢「ロープを切って落としたっていうのは……考えられないんじゃないかな」

せつ菜「どうしてですか?」

歩夢「あのロープの両端、どっちの断面も、先端は綺麗じゃなかったんだ」

歩夢「普通、何かでロープを切ったら、綺麗な切断面が出来上がる筈だよね?」

歩夢「それに隠れていたんだったら、わざわざロープで固定しておく理由もないと思うんだ。直接落とせばいい話だし……」

鞠莉「そもそも、犯人の目的がアリバイを確保することだとしたら、キャットウォークに上ったこと自体が不自然なのよ」

しずく「どうして不自然なんですか?」

鞠莉「死体が落ちた時……つまり、梨子の演奏中のアリバイが欲しいのなら、一緒に音楽室で演奏を聴いていればいい」

花丸「璃奈ちゃんが犯人だとしたら、誰にも姿を目撃されないまま犯行を行ったことになる。それは、犯人の心理を踏まえると矛盾していることになる……」

鞠莉「そういうことよ。合ってるわよね、歩夢」

歩夢(そ、そこまでは考えられていないよ……!)

ダイヤ「では、犯人は璃奈さんではない。と言いたいのですね?」

鞠莉「ええ。けれど、今回の事件に一枚噛んでいるのは間違いないと思うわ」

千歌「……共犯者がいる、ってこと?」

鞠莉「f㎜……それも考えにくいのよねえ」

梨子「学級裁判のルールじゃ、ここから出られるのは誰かを殺した人だけだった筈……」

果南「共犯者って、それに含まれるの?」

モノっちー「含まれないよ。クロになるのは、殺人を実行した人ただ1人だネ」

鞠莉「でしょうね。つまり、誰かの殺害に協力を申し出たところで、卒業出来るというメリットはないのよ」

かすみ「ここから出ること以外にも、その人にとってはメリットがあったかも知れませんよ? 例えば、曜先輩が邪m──」

千歌「……かすみちゃん」

かすみ「じょ、冗談ですって千歌先輩! そんなに睨まないでくださいよ~」

梨子「なんだか、議論が振り出しに戻っちゃったわね……」

しずく「手掛かりは結構出てきましたが、どれも矛盾するものばかりで……」

果林「そうかしら。可能性はまだあるわよ」

梨子「どんな可能性なの?」

果林「璃奈ちゃんにしか、曜ちゃんに変装することが出来ない。でも、璃奈ちゃんにはアリバイがある」

果林「だったら“曜ちゃんをキャットウォークから落としたのは別の誰かだった”可能性は十分あると思わないかしら」

ダイヤ「それは、共犯の話をしているのですか? だとしたら、既にその話は否定され──」

果林「……共犯なんて、優しい話じゃないわ。“利用した”のよ」

璃奈「利用……(・v・)?」

果林「璃奈ちゃんを騙して、曜ちゃんに変装させた」

果林「そして、璃奈ちゃんに完璧なアリバイがある間に、音楽室で死体を落とす。こうすれば、一見打ち破れない矛盾が出来上がるのよ」

果林「実際そうだったんじゃないかしら、愛ちゃん」

愛「……え?」

果林「璃奈ちゃんと仲の良いあなたなら、彼女を騙して犯行のお手伝いをさせることは……可能よね」

愛「いやいやいやいや、なんでそうなるの!?」

歩夢「待って果林さん。愛ちゃんは、ずっと夕食会の進行役をやってた筈だよ?」

歩夢「それに、キャットウォークに上るにはあのハシゴしかなくて、愛ちゃんは誰も、みてな……」ハッ

果林「気づいたみたいね、歩夢ちゃんも」

かすみ「んー……つまりどういうことなんですか~?」

果林「何も私だって、仲がいいからって理由だけで疑っているワケじゃないわ」

果林「舞台袖を通った人は、ダイヤちゃんたち以外にはいない……それを証言したのは、愛ちゃんだったわね」

果林「けど、その“愛ちゃん自身がキャットウォークに行っていた”としたら、全ての辻褄が合うのよ」

千歌「時間は十分あるし、愛ちゃんなら誰かに見つかる心配もない……」

愛「ちょ、ちょっと待ってよ。愛さん、本気で疑われてる?」

しずく「疑われてるというか……」

花丸「最重要容疑者ずら」

歩夢(今思い返せば……今朝の愛ちゃん、どこか様子がおかしかったんだ)


歩夢『うん。愛ちゃんも、楽しみでしょ?』

愛『え!? ま、まぁ……そうだね。愛さんも楽しみだよ!』

歩夢『……?』

果南『そういえば、璃奈の姿が見えないけど……』

愛『あー……りなりー、昨日は舞台装置の手伝いしてたから。疲れて寝てるんじゃない?』


歩夢(なんだろう。上手く言い表せないけれど、何かを隠しているような……)

歩夢「ねえ。愛ちゃんが犯人じゃないなら、璃奈ちゃんには何も頼み事はしてないってことだよね?」

愛「し、してるワケないじゃん!」

璃奈「……(・v・)」

歩夢「だったら──」

ダイヤ「ぶっぶーーーーーですわ!!」

反論!

ダイヤ「皆さん、憶測で物を語り過ぎではありませんか?」

ダイヤ「愛さんが疑わしいことは確かです。しかし、璃奈さんとは仲が良かったのですよ?」

歩夢「で、でも……」

ダイヤ「それに、穴があるのです。あなたたちの推理には……!」

【反論ショーダウン 開始!】
[|ファンデーション>
[|愛の証言>
[|璃奈の証言>

ダイヤ「愛さんが璃奈さんを利用した。まず、この前提に無理があるのです」

ダイヤ「保健室で寝ていた筈の曜さんに化けてもらう。この時点で、璃奈さんは不自然に思った筈です」

ダイヤ「計画としては、いささかリスクが大きすぎると思いますが」

─発展─
確かにリスキーだけど……
  それが実行された可能性は、ないと言い切れないよ

ダイヤ「一度までなら、何かしら誤魔化しの言い訳はあったでしょう」

ダイヤ「ですが、曜さんが亡くなったのは昨日の夕方」

ダイヤ「【定期的に訪れる千歌さん】の目を欺くためには……」

ダイヤ「昨日と今朝、璃奈さんに【二度のお願い】が必要になります」

ダイヤ「疑わしさが増すだけで、計画としては御粗末すぎるのですよ」

確かに、ダイヤさんの言い分は一理ある。でも、それを否定出来る証拠があった筈だ!

[|璃奈の証言>→【二度のお願い】

歩夢「その言葉、斬らせてもらうよ!」

Break!

歩夢「二度目のお願いは、必要ないんだ」

ダイヤ「まさか事前に頼んでおいたとでも?」

歩夢「ううん、その必要もない。璃奈ちゃんボードを夜中のうちに盗んでおけばいいことなんだ」

ダイヤ「……あのボードが?」

せつ菜「確か……夜中、大浴場に入っている間に、なくなっていたんですよね」

璃奈「……うん(・v・)」

歩夢「顔を見られるのが恥ずかしいから、璃奈ちゃんボードで顔を隠している。裏を返せば“璃奈ちゃんボードがなければ人前に出られない”んだ」

歩夢「けど、誰かに変装した状態なら璃奈ちゃんボードは使わない……現に、私たちはその光景を見ている筈だよ」

梨子「ルビィちゃんに化けた時……ね」

歩夢「犯人はそこに付け込んだ。璃奈ちゃんボードを奪うことで、暗に“もう一度曜ちゃんに変装しろ”と脅しをかけたんだ」

歩夢「いや、もしかしたら……『もう一度やってくれたら、ボードは返す』くらいのやり取りはどこかであったかも知れない」

鞠莉「そうやって、他人を利用する……なるほど、考えたわねえ」

愛「……」

かすみ「ちょっと待ってください。いや、愛先輩が怪しいのは分かるんですけど……」

かすみ「もし璃奈さんがボードを2つ所持していたら、折角立てた計画が破綻しちゃいますよ?」

花丸「1つしかなかったと思うずらよ。死体が発見されて、愛さんが璃奈ちゃんとかすみちゃんを呼びに行く時に、ボードを持って行ったし……」

愛「それは……りなりーの物だし、ないと困るんじゃないかなーって、一応持って行っただけだよ」

かすみ「何にせよ、あんなもの簡単に作れそうじゃないですか。顔を隠せればいいんですから……」

歩夢「いや……そういうワケでもないんだ」

歩夢(かすみちゃんが知らない、璃奈ちゃんボードの秘密……)

【死体の顔に貼り付いていた】
【唯一無二】
【裏に両面テープが付いていた】

正しい選択肢を選べ!

→【唯一無二】

歩夢「あのボードは一つしかないんだよね、璃奈ちゃん」

璃奈「……うん、お手製。よく見ないと分からないけど、璃奈ちゃんボード、穴が開いてる(・v・)」

璃奈「そうしないと、前が見えなくて危険だから……(>_<。)」

かすみ「あー、やっぱり前見えてるんですねアレ」

梨子「特別な持ち方をしないと前は見えないけれど、それを知っているのは璃奈ちゃんだけ。そんな話をしていたわ」

璃奈「視界を確保出来るように穴を開けるの、大変。予備は作っておきたいけど、なかなか手が伸びないの(>_<。)」

かすみ「なるほど、そういうことでしたか」

璃奈「でも……璃奈ちゃんボードを盗んだの、本当に愛ちゃんなの(>_<。)?」

愛「いや、えっと……」

璃奈「……昨日みたいに、私を利用するつもりだったの(>_<。)?」

歩夢(……えっ?)

果南「昨日みたいに……って、まさか」

璃奈「愛ちゃんが犯人だなんて信じたくないけど……やっぱり、そうなんだね(>_<。)」

璃奈「バレちゃったから白状するよ。曜さんに変装していたのは私(>_<。)」

千歌「愛ちゃんに頼まれたから?」

璃奈「……うん、大体みんなが推理した通り。昨日、私は愛ちゃんにお願いされた(>_<。)」


愛『りなりー、ちょっと頼みがあるんだけどさ』

璃奈『……なに? 音楽室に戻って、明日の調整の続きをするんじゃなかったの(・v・)?』

愛『いやー……ちょっと、超高校級のディスガイザーさんの力を借りたいというか……』

璃奈『いいけど……誰に変装して欲しいの?』

愛『曜だよ。目を覚ましたはいいんだけど……なんか、プールに行きたいらしくてさ』

愛『それで、千歌ちーがお見舞いに来た時に何言われるか分からないから、何とかしたいんだって。曜に頼まれちゃってさ』

璃奈『……まあ、いいよ。いつまで(・v・)?』

愛『プールの校則があるし……夜時間になるまでだって』

愛「……」

璃奈「……あの時は、別に変だとは思わなかった。保健室に行ったら、曜さんもいなかったし(・v・)」

璃奈「夜時間になって、こっそり大浴場に入って……問題は、その後だった(・v・)」

梨子「璃奈ちゃんボードが盗まれたのね」

璃奈「……うん。それに、お部屋に戻ったら、こんな紙が置いてたんだ(・v・)」スッ


『明日の朝、もう一度曜に変装しろ』


璃奈「どうすればいいか分からなかった。けど、璃奈ちゃんボードが見当たらないし、そのままじゃ出るに出られなかったから……(>_<。)」

ダイヤ「だから、紙に書かれていた要求を呑んだのですね」

璃奈「……うん(>_<。)」コクリ

《璃奈への手紙》のコトダマを入手しました。

鞠莉「まあ、仕方ないわよね。手紙の主がボードを奪った……そう考えるのが自然でしょうし」

璃奈「そのあとは……途中で寝ちゃいそうになったから、こっそりお部屋に戻った(>_<。)」

璃奈「しばらくしたら、死体発見アナウンスが流れて……愛ちゃんが、ボードを持ってきた(>_<。)」

璃奈「かすみちゃんの部屋に寄ってから、音楽室に行って……あとは、みんなと一緒だった(>_<。)」

果南「ありがと、璃奈」

しずく「けど、これでハッキリしましたね……」

愛「……」

かすみ「愛先輩、そろそろゲロっちゃった方がいいんじゃないですか~?」

愛「……ない」

愛「知らない……あんな手紙、アタシ知らないよ……」

果林「璃奈ちゃんの証言と手紙がある以上、知らないじゃ通らないと思うけど?」

愛「本当だって! りなりーに頼み事をしたのは認めるけど……」

愛「手紙なんて出してないし、ボードを盗った覚えなんてないよ!」

愛「……信じて貰えるとは思ってないよ。けど、アタシは罠に嵌められた」

千歌「その罠って、璃奈ちゃんに裏切られたこと?」

果林「今まで黙っていながら、自分に疑いが向けられると矛先を逸らすのね」

梨子「な、何もそこまで責めなくっても……」

鞠莉「でも、犯人かどうかは兎も角、璃奈に曜の変装を依頼したことは認めるのよね」

愛「だから、それは罠に嵌められたせいで……」

歩夢「だったら……その罠の中身を教えて欲しいんだ」

せつ菜「お願いします。何かの手掛かりが掴めるかも知れません」

璃奈「……(>_<。)」

愛「……分かったよ。昨日、夕食会の準備で愛さんたちは音楽室にいたんだ」

愛「ひと段落したところで、早めの夕食……缶詰を取りに、食堂に行ってさ」

愛「準備の続きまで時間があったから、適当にふらついてたんだけど……」

愛「……今思い返せば、何で保健室なんか行ったんだろうね」タハハ

歩夢「保健室に行ったの?」

愛「うん。昨日の17時過ぎだったかな……ふらっと通りかかってね」

愛「そしたら……眠らされた。誰かに、薬を嗅がされたみたいなんだ」

かすみ「刑事ドラマなんかでよく見るやつですね。シロロヘルム……でしたっけ?」

花丸「クロロホルムのことを言ってるずら? 確かに推理小説でも使われるけど、本来あの使い方で眠らせるのは難しいよ」

モノっちー「ちなみに、そんなクロロホルムが推理小説でよく使われるようになったのは何故だと思う?」

モノっちー「19世紀半ば、イギリスのジェームズ・シンプソンという医師があの薬の効果に目をつけ、全身麻酔手術を成功させたんだ」

モノっちー「そして、彼はエディンバラ大学というイギリスの大学で教師をしていたんだけど……」

モノっちー「なんとビックリ! あのコナン・ドイルは、その人の講義を受けていたんだよネ」

花丸「だから、その講義がキッカケとなった可能性が高い。うん、有名な話ずらね」

梨子「普通は知らない話だと思うけど……」

せつ菜「えっと……愛さん、続きを話して貰ってもいいですか?」

愛「……保健室で眠らされたところからだったね。起きたら、何故かベッドの下にいてさ」

愛「そんなこと知らずに起きようとしたもんだから……ほら、これ」

歩夢(そう言って、愛ちゃんは前髪をペロンとめくる)

鞠莉「あら、少し腫れてるわね」

愛「ゴチーンとね。で、ベッドの下から抜け出したら……曜がいなくなってた」

愛「輸血のチューブなんかは放置されてて……代わりに、ハンマーが置いてたんだ」

千歌「だったら、なんでその段階で曜ちゃんを探さなかったの」

愛「……私が犯人になっちゃったかも知れなかったから」

歩夢「犯人に……?」

愛「前回のエマちーの時だってそうだったじゃん! 何も悪いことしてないのに、ただ停電を復旧させただけで人殺し扱いされて……」

愛「アタシはそれが許せなかった。許せなかったけど……あの時、いざ自分がその立場に立たされたら、怖くなって……」

愛「もしかしたらって思って……でも、頭まわんなくて……」

愛「だって、何がキッカケで犯人にされるか分からないし……」

愛「とにかく、誤魔化さなきゃって……慌てて保健室を出たら、りなりーの姿が……」

璃奈「……(>_<。)」

歩夢(必死に言い訳を連ねる愛ちゃんの声は、途中から泣きそうなものになっていて)

歩夢(というより、実際に泣いているのかも知れない。コロシアイ生活の中でも、元気を忘れなかった彼女が……)

歩夢(怖かったんだろう。私たちが記憶を奪われた学友だったこと、いきなり襲われたこと……)

歩夢(誰よりも友好的だったせいで、数多の負担が心のダムを崩壊させてしまったんだ)

果南「……話を続けたいところだけど、この様子じゃね」

愛「……」グスッ

果林「愛ちゃん、疑ったのは悪かったわ。だから、もう落ち着いて──」

愛「──」ウェッ

歩夢(愛ちゃんから、僅かに嗚咽が漏れる。もうしばらく掛かりそうだな、とみんなが思っていた──)


愛「……っ!?」ゲホッ

歩夢(──彼女の口から、およそ人間が吐いていいレベルじゃない量の血が飛び出るまでは)

璃奈「愛ちゃん(?□!)!?」

愛「な……ぁ……」

ダイヤ「どうしたのですか!?」

愛「……ぁ、れ……?」

歩夢(その顔から、血の気が引いて行く。ただ事ではない……のだけは確かだ)

愛「……」フラッ

バターン!

果林「ちょっと、しっかりしなさい!」

しずく「誰か、救急車を!」

かすみ「来るワケないじゃないですか!」

千歌「……」


ピンポンパンポーン


モノっちー「死体が発見されました。一定の捜査時間の後、再び“学級裁判”を開きます」

《超高校級の船乗り》渡辺曜を殺した犯人は誰なのか……謎だらけだった議論は、再び暗礁に乗り上げた。

最重要容疑者だった《超高校級のギャル》宮下愛の死をもって──


 学 級 裁 判 
   中  断

今回はここまで。

歩夢(疑問符が、頭の中でパンクしそうになっていた)

歩夢「どうして……?」

モノっちー「それはボクが言いたいセリフだよ」

モノっちー「学級裁判って、誰が死んだかを議論するための物であって、そこで誰かを殺す場ではないんだよネ」

モノっちー「でもまあ、何度か裁判やっていれば、いつかはこうなる日が来るよネ。それに、連続殺人なんてワクワクする展開じゃないか!」

果南「これのどこがワクワクなのさ……」

モノっちー「何にせよ、モノっちーファイルは用意したよ。お手元の端末をアップデートしておいたからさ」

ピローン

歩夢(モノっちーファイルから軽い電子音がした)

歩夢(……どうやら、新しいページが追加されたらしい)

かすみ「ねえモノっちーさん。さっき『連続殺人』って言いましたけど……曜先輩と愛先輩を殺した犯人って、同じなんですか?」

モノっちー「モクヒケンヲコウシシマース」ボウヨミー

鞠莉「だったら、犯人が別々だった場合……私たちは、その両方に投票すればいいのかしら」

モノっちー「ああ、それは違うよ。オマエらが投票するのは、最初の事件……渡辺曜さん殺しの犯人だけ」

ダイヤ「でしたら、愛さんを殺した犯人は……」

モノっちー「“学級裁判で1つの事件が処理される前に別の事件が発生した場合、投票対象となるクロは最初に起きた事件のクロです”」

モノっちー「“また、卒業出来るクロも最初に起きた事件のクロのみとなります”。……まあ、要は早い者勝ちだネ。あとで校則に追加しておくよ」

果林「まるで愛ちゃんの死が無駄、みたいな言い方ね。幾らなんでも酷すぎないかしら?」

モノっちー「無駄だよ無駄、連呼してあげるよ。無駄無駄無駄無駄ァ!」

モノっちー「宮下愛さんを殺した犯人は殺し損、宮下愛さんは殺され損、ってことになるんだよネ」

モノっちー「とはいえ、捜査はやってもらわないといけないんだよネ。まあ、形式上ってやつ?」

モノっちー「というワケで、現場は裁判場なので、捜査もこの中で! 退出は認められないし、捜査時間も短めだからネ。はい、よーいスタート」

千歌「……」

璃奈「……」

歩夢(よっぽど、愛ちゃんの死が不意打ちだったらしい。特に、璃奈ちゃんは……)

歩夢(彼女たちのためにも……しっかり捜査しないと!)

Re:捜査開始!

歩夢(アップデートされたモノっちーファイルには2ページ目……愛ちゃんに関する情報が載せられていた)

『2番目の被害者となったは超高校級のギャル、宮下愛』

『死体発見現場は裁判場、死亡時刻は学級裁判の最中』

『死因は毒殺であり、体内からそれに至った毒物が検出されている』

『また、おでこの辺りに軽い腫れと、左足に擦り傷がある』

歩夢「毒、殺……」

歩夢(あの苦しみ方は、確かにそんな感じだったけど)

歩夢(まさか、本当に起きてしまうなんて……)

《モノっちーファイル3-2》のコトダマを入手しました。

歩夢(次は……愛ちゃんの死体を調べよう)

歩夢(彼女の死体は……さっき、倒れた時のままだ)

https://i.imgur.com/WBjqFo7.jpg

花丸「……」

歩夢「何か見つかった?」

花丸「頭と足の怪我以外には、何も。何かを持っているワケでもないみたいだし……」

歩夢「……そっか」

花丸「一応、口の中も確認してみたんだ。推理モノでよく使われる毒殺って、口から特徴的なニオイが出るから……」

歩夢「アーモンド臭、って言うんだっけ」

花丸「うん。けど、そういうニオイはしなかったから……少なくとも“ついさっき毒を口にした、ってことはない”と思うずら」

《愛の死体》のコトダマを入手しました。

モノっちー「──ダメダメ! 学級裁判はまだ終わってないんだからさ」

せつ菜「……ケチですね」

梨子「諦めましょう。仕方ないわ」

歩夢「どうしたの?」

梨子「音楽室に戻って、確認しておきたいことがあったんだけど……」

せつ菜「モノっちーさん、私たちをここから出すつもりはないそうです」プンスカ

歩夢「じゃあ、確認しておきたいことって……」

梨子「みんなに配られたカレーライスよ」

せつ菜「あの中に毒が入っていた可能性は、捨てきれませんからね」

歩夢「……でも、どうやって確認するつもりだったの?」

せつ菜「それは勿論、食べて──」

歩夢「……もし入っていたら、せつ菜ちゃんも死んじゃうと思うよ」

せつ菜「あっ……」

歩夢(カレーライスに毒が入っていた可能性、か)

歩夢「ねえモノっちー。あのカレーって、モノっちーが配っていたよね」

モノっちー「そうだネ。ボクが大きな鍋から、プラスチックの器に入れて、オマエらに配っていったんだよ」

歩夢「……」

モノっちー「とにかく、多少の質問なら受け付けてあげるから、退出は認めないよ」

歩夢(前にモノっちーが言ってたことが本当なら……)

歩夢(愛ちゃんが毒を摂取した方法が、今回の事件の鍵……?)

《カレーライス》のコトダマを入手しました。

歩夢(他に気になるのは……愛ちゃんの動向と、毒薬がどんなものだったのか……)

歩夢(動向を知っていそうな人と言えば……)

しずく「昨日、ですか?」

歩夢「うん。死ぬ前の愛ちゃんの言葉が本当だとしたら、何か不自然なことをしてるかもって思って」

果林「昨日と言えば……食堂で出し物の詳細を決めてから、ほとんど音楽室で準備をしていたわね」

しずく「あ、でも。愛さん、怪我をして保健室に行ったんですよね」

歩夢「保健室に……それっていつ?」

果林「夕食の休憩より後……というか、夜時間になる前ね。派手にすっ転んでたわ」

果林「だから、軽く処置だけはしたのよね。絆創膏はいいって断られたけど」

歩夢(左足の擦り傷は、その時に出来たようだし……)


愛『愛さんも足、軽くやっちゃったんだよね~……たはは』


歩夢(愛ちゃんが今朝言っていたのは、このことみたいだね)

《夕食会の準備》のコトダマを入手しました。

歩夢(あとは毒薬についてだけど……)

ダイヤ「……」

鞠莉「……」

果南「ねえ、何とか言ったら?」

かすみ「……」

歩夢(当のかすみちゃんは、3年生たちに詰問されている真っ最中だった)

歩夢「かすみちゃんが喋らない?」

ダイヤ「ええ。ずっとあの調子です」

かすみ「……」イライラ

歩夢(というか……不機嫌そう?)


ピンポンパンポーン

モノっちー「はーい、終わり。記録は10分30秒でした」

モノっちー「感想ですが……オマエら、とっとと学級裁判を再開させやがれ!」

歩夢(本当に……駆け足の捜査だった)

歩夢(モノっちーに促されるように、みんな渋々と席に戻って行く)

歩夢(……いつの間にか、愛ちゃんの死体は回収されていた)

かすみ「……今回の犯人だけは、許すワケにいきません」ボソッ

歩夢「……えっ?」

かすみ「ん? かすみんの顔に何か付いてますか?」

歩夢「いや、別に……」

歩夢(そして、3回目の学級裁判が再び幕を開ける……)

歩夢(《超高校級のギャル》宮下愛ちゃん……)

歩夢(彼女は、コロシアイの中でも常に前向きだった)

歩夢(前回の裁判のあと、しずくちゃんを励ましてくれたのも彼女だった)

歩夢(一度、モノっちーのせいで躓いたことはあったけれど……)

歩夢(それでも、起き上がった。起き上がろうとしていた)

歩夢(そんな彼女を殺した犯人が……私たちの中にいる)

歩夢(愛ちゃんを殺したのは、曜ちゃんを殺したのと同じ人?)

歩夢(そうでなければ、2番目の犯人は勝ち逃げになるのかも知れない)

歩夢(……それでも、私は真実を見つけ出す)

歩夢(学級裁判という絶望の渦の中で──!)

~モノっちー劇場 番外編~

愛「そういやさ、エマちーって海外生まれなんでしょ?」

エマ「うん。スイス生まれだよ」

愛「海外といったらさー……アレ、ないの? ミドルネームってやつ」

エマ「うーん……考えたことなかったなあ」

善子「何、真名作り?」

ルビィ「そういう話じゃないと思うけど……」

彼方「……琴凪(コトナギ)とかどう?」

曜「どうして?」

彼方「エマ・琴凪・ヴェルデ、エマ・コトナギ、えまことなぎ……ふふっ」

エマ「わぁ、すっごく幸運に満ちてそう!」

ルビィ「あ、気に入ったんだ……」

~Re:学級裁判準備~
遂に起きてしまった連続殺人。2人目の死は、彼女たちの間に大きな影を落とした。
犯人は同一人物なのか? 何故、彼女たちは死ななくてはいけなかったのか?
先の見えない学級裁判が、再度その幕を開ける──

コトダマリスト
前半:>>598-600

追加コトダマリスト
《璃奈への手紙》
『明日の朝、もう一度曜に変装しろ』
昨晩、璃奈の部屋に置かれていた物。璃奈はこれに従い、今日の朝も保健室にいた。

《モノっちーファイル3-2》
2番目の被害者となったは超高校級のギャル、宮下愛。
死体発見現場は裁判場、死亡時刻は学級裁判の最中。
死因は毒殺であり、体内からそれに至った毒物が検出されている。
また、おでこの辺りに軽い腫れと、左足に擦り傷がある。

《愛の死体》
https://i.imgur.com/WBjqFo7.jpg
被害者は何も所持しておらず、口から特徴的なニオイ(アーモンド臭)もしなかった。

《カレーライス》
夕食会でモノっちーが配った物。
配膳は全てモノっちーが行っており、大きな鍋に入っていた。

《夕食会の準備》
愛、しずく、果林、せつ菜、梨子、璃奈が行っていたもの。
途中、夕飯のためにしばらく休憩を挟んでおり、璃奈は休憩の後から参加していない。
また、終わり際に愛は足の怪我を負った。

今回はここまで。


 学 級 裁 判
   再  開

鞠莉「オシオキの対象となるのは曜を殺したクロのみ。愛を殺した人はクロにはならず、そもそもこの学園から出られるワケではない……」

鞠莉「みんな、この前提自体は理解出来ているわね?」

しずく「分かってはいますけど……」

璃奈「……」

ダイヤ「愛さんの事件を放置、というワケにもいきませんわね」

千歌「……」

せつ菜「今後みんなで協力するにしても、殺人犯がいるかも知れないというのは落ち着きませんからね」

かすみ「そういう人は、私みたいに縛られちゃうかもですね」

果林「……とにかく、愛ちゃんの事件についてもしっかり話し合う。そういうことね、鞠莉ちゃん」

鞠莉「ええ」

しずく「あの、すいません。その愛さんについてなんですけど……」

しずく「これって……犯人、分かるんですか?」

歩夢「どういうこと、しずくちゃん?」

しずく「さっき私たちが食べたカレーライス……。毒って、あの中に入ってたんですよね?」

しずく「あの時、誰がどんな行動を取っていたかなんて思い出せませんし……」

しずく「鞠莉さんが恐れていた“誰が犯人になるか分からない事件”になってしまうのでは……」

かすみ「分からなくてもいいんじゃないですか? それで私たちがオシオキされることもないんですし」

梨子「大問題よ」

歩夢「ううん。そもそも、それについては心配ない……と思うよ」

しずく「何か、根拠があるのでしょうか?」

歩夢(しずくちゃんの心配が杞憂に終わると言える根拠。それは……)

【コトダマ一覧より選択】

→【カレーライス】

歩夢「あのカレーライスをみんなに配ったのは、モノっちーだったんだ」

歩夢「大きな鍋から、プラスチックの器に入れて、私たち1人1人に配っていった……そうだよね?」

モノっちー「はい、その通りでございます」

果南「だったらモノっちーが犯人……じゃ、ないんだろうね」

花丸「つまり、愛さんの目を盗んで毒を入れることは出来ないってことずらね」

歩夢「うん。鍋の中に毒が入れられていたら、私たちは今頃全滅しているだろうし……」

歩夢「それに、あの時のモノっちーの言葉がどうしても引っ掛かるんだ」


モノっちー『毒薬は毒薬だけど、飲食物に混ぜたところでまったく意味がないモノだからネ!』


歩夢「あの時は、ようやくマトモな物を食べられるってことであまり気にしなかったけど……」

歩夢「これって、カレーに毒を混ぜちゃったら、それで毒殺は出来ないってことになるよね?」

しずく「それも……そうですね。ありがとうございます」

せつ菜「そもそも……何故犯人は名乗り出ないのでしょうか」

果南「バレたらオシオキされるワケだし、普通は名乗り出ないんじゃない?」

ダイヤ「いいえ。曜さんの事件ならともかく、愛さんの事件は裁判の対象外です」

ダイヤ「オシオキの対象になることもない以上、名乗り出てもいいのではないか……ということですね」

せつ菜「はい。だから、名乗り出て欲しいんです」

璃奈「……」

歩夢(少しの無言。互いに、疑いを含んだ視線が飛び交う……)

歩夢(けれど)

梨子「……出てこないわね」

歩夢(誰も「私が殺しました」とは言わなかった)

せつ菜「どうして……出てきてくれないんですか……」

果林「……名乗り出たくても出られなかった、可能性もあるわね」

せつ菜「そんなワケないじゃないですか。そりゃ、気不味いとかはあるかも知れませんけど……」

果林「違うわ。私が考えてるのは……犯人が既に死んでいる場合」

果林「“愛ちゃんが自分から毒を飲んだ”としたら、どうかしら」

璃奈「……え(・v・)?」

歩夢「まさか……自殺!?」

果林「彼女は裁判中に死んだ。となると、自殺を疑うべきだと思うのよ」

鞠莉「“鍵の掛かった場所に入れない”。この校則のお陰で、裁判場に彼女を殺す何かを仕掛けるというのは不可能」

鞠莉「確かに、自殺の線はないと言い切れないわ」

梨子「愛ちゃんが自殺する理由なんてあるの?」

かすみ「普通はないですが……曜先輩を殺したのが、本当は愛先輩だったとしたらということですね?」

果林「……ええ、そうなるわね」

ダイヤ「では、先程の愛さんは嘘を吐いていたと?」

果林「流石に分からないわ。けれど、自殺する理由と言えばそれくらいでしょう?」

かすみ「内容の是非はどうあれ、愛先輩は隠し事をしていましたからね」

かすみ「オシオキが嫌だから、先に自殺してやろう……。ありえない話ではないですね」

花丸「もしそうだとして……犯人が自殺だった場合って、どこに投票すればいいのかな?」

モノっちー「同じだよ。この虹ヶ咲学園では“自分という人間を殺した”という意味で、自殺も立派な殺人」

モノっちー「その場合、既にクロは死んじゃってるのでオシオキは発生しないけど……まあ、仕方ないよネ」

しずく「待ってください! なんで愛さんが自殺という前提なんですか!」

千歌「じゃあ、しずくちゃんは自殺じゃないって証拠は出せるの?」

しずく「……っ」

梨子「ちょっと千歌ちゃん、急にそんな言い方……」

千歌「ねえ、忘れてないよね? 本来、曜ちゃんを殺した犯人を見つける裁判だった筈だよ」

千歌「それなのに、黙っていたらいつの間にか愛ちゃんを殺した犯人を見つける議論になって」

千歌「しかも、曜ちゃんを殺した上で自殺した?」

千歌「私だって、こんな結末は悔しいよ。けど、それは違うって言える証拠がないじゃん」

千歌「何かを仕掛けようにも、ここには裁判にならないと入れないんでしょ?」

歩夢(確かに……愛ちゃんが自殺したという話には、かなりの信憑性がある)

歩夢(殺害現場が何の仕掛けも出来ない裁判場である以上、やっぱり……)

かすみ「ありますよ。自殺じゃないって証拠」

千歌「……?」

かすみ「毒薬が液体だってことを踏まえれば、すぐに分かることだと思うんですけど」

歩夢「え、液体?」

【ノンストップ議論 開始!】
[|モノっちーファイル3-2>
[|愛の死体>
[|夕食会の準備>

かすみ「言ってませんでしたっけ? 毒が液体だって話」

果林「初耳よ、それ」

かすみ「前の事件で【彼方先輩に飲ませた】って言ったじゃないですか。とっくに気付いてると思ってたんですけど……」

鞠莉「それだけだと【錠剤やカプセル】の可能性も否定出来ないわね」

花丸「胃の中に入ってしまえば同じずらよ」

かすみ「とにかく。毒薬が液体である以上、愛先輩は《自殺じゃない》のは確かです」

しずく「どうしてその2つが繋がるのか、さっぱり分からないんですけど……」

千歌「どうせまた《かすみちゃんの嘘》だよ」

璃奈「……」

歩夢(毒が液体なら、自殺じゃない。そう言える根拠って……?)

[|愛の死体>→《自殺じゃない》

歩夢「それに賛成だよ!」

Break!

歩夢「そっか……そういうことだったんだ!」

せつ菜「何が分かったのですか?」

歩夢「死体を調べて分かったことなんだけど……愛ちゃん、何も持ってなかったんだ」

千歌「……毒を飲み込んだなら、何も持ってないのはおかしくないでしょ?」

歩夢「毒薬が錠剤やカプセルなら、それでいいかも知れない。けど、液体ならそうはいかないんだ」

歩夢(自殺を否定出来る、決定的な理由。それは……)

【持ち運べない】
【飲み込むタイミングがない】
【口に合わない】

正しい選択肢を選べ!

→【持ち運べない】

歩夢「液体の毒を飲んだなら……それを持ち運ぶための容器はどこに行ったのかな?」

千歌「……!」

歩夢「さっきも言った通り、愛ちゃんは何も持っていなかった……それは、容器になりそうな物もなの」

ダイヤ「まさかとは思いますが……容器を愛さんの死体からくすねた人は居ませんよね?」

「「……」」

梨子「誰も……居なさそうね。死んだ愛ちゃんがどこかに隠せる筈もないし」

歩夢「だったら間違いないよ。愛ちゃんは裁判中に毒を飲んだワケじゃない……」

歩夢「つまり、自殺なんかじゃなかったんだ!」

璃奈「……本当に、そうなの?」

鞠莉「いや。まだ可能性は残っているわ」

歩夢(えっ?)

ダイヤ「鞠莉さん。折角の空気を……」

鞠莉「空気を読めないと言われても仕方ないわ。でも、可能性は潰しておく必要があるのよ」

しずく「その、可能性というのは……」

鞠莉「裁判中に服毒したワケじゃないなら、その毒は、間違いなく遅効性ということになる」

果南「ちこーせい?」

花丸「飲んでから効果が出るまでに、ある一定の時間を必要とする物ずら。すぐに効果が出る物は、即効性」

鞠莉「そう。だとしたら“遅効性の毒を前もって飲んでいた可能性”が残されているのよ」

鞠莉「どうなのかしら、かすみ」

かすみ「……」

かすみ「えっ、なんで私なんですか?」

鞠莉「とぼけても無駄よ。さっきの捜査で、幾ら訊いてもあなたが喋らなかった毒薬の詳細」

鞠莉「いい加減、吐いてもいいんじゃないかしら」

かすみ「……はいはい、分かりましたよ」

かすみ「そうですよね。毒の詳細を知っているのは、かすみんと犯人しか居ませんもんね」

歩夢「お願いだよ、かすみちゃん。愛ちゃんが自殺じゃないって証明出来るのは、かすみちゃんだけだから……」

かすみ「じゃあ、土下座してください」

歩夢「えっ……?」

かすみ「冗談ですよ~。歩夢先輩が割って入ったから話がややこしくなっちゃったじゃないですか」

かすみ「さてと。茶番はここまでにして……毒薬の詳細でしたよね」

かすみ「最初に説明しておかないといけないのは、あの毒は“モノっちーさん特製の毒”だったってことです」

梨子「モノっちー特製の……?」

モノっちー「推理モノでやっちゃいけないことの定石。それらを纏めて『ノックスの十戒』なんて言ったりするんだ」

モノっちー「その1つに『未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない』って決まりがあるんだけど……」

モノっちー「残念。ここ、虹ヶ咲学園はボクのフィールドだからネ! ノックスの十戒なんてクソ食らえなんだよ!」

花丸「もしかして……“本来存在しないような毒薬”ってことずら?」

モノっちー「まあ、そういうことだネ。“とある人が作った薬をボクが改良した”物なんだよ」

せつ菜「とある人って、誰なんですか?」

モノっちー「しーん……」ボウヨミー

せつ菜「……そこは黙秘ですか」

かすみ「とにかく、あの毒薬はかなり特殊で、使用方法が限られているんですよ」

かすみ「液体だ、という話は既にしました。そして、即効性か遅効性か……これについては、鞠莉先輩の推理通りです」

鞠莉「問題はそこよ。一口に遅効性といっても、摂取してからいつ効果が表れるのか……そこが分からないと、何とも言えないわ」

かすみ「“この毒はとっても遅効性! 体内に取り込むと、半日程度で全身にまわるゾ!”」

かすみ「“やがて、数時間で血を吐いて相手は死ぬ! これで気になるあの子の命を奪ってみせよう!” ……注意書きには、こう書いてましたね」

果南「なんか、随分と腹の立つ書き方だね……」

せつ菜「ですが、これならある程度、愛さんが毒を飲んだ時間を絞れそうです」

歩夢「半日程度で全身にまわって、数時間で死ぬ……」

歩夢「少なくとも半日前……つまり、今朝の時点で、愛ちゃんは既に毒を飲んでいたことになるよね」

しずく「あれ? それって変じゃないですか?」

梨子「変って?」

しずく「夕食会まで、私たちはどこに仕掛けられているか分からない毒を警戒していた筈です」

しずく「万が一を考えて、缶詰やペットボトルで過ごしていたような……そんな状態で、どうやって毒を飲ませたんでしょう?」

ダイヤ「確かに……疑問ですわね」

歩夢(その通りだ。愛ちゃん殺しにおける一番の謎……『どうやって毒を摂取したのか』)

歩夢(これが判らないと、犯人が誰かも──)

かすみ「……あの、皆さん何か勘違いしてません?」

花丸「勘違い、って……」

ダイヤ「毒の詳細を話したのは、あなたでしょう」

鞠莉「……どうやら、まだ続きがあるみたいね?」

かすみ「あのですね、さっきから毒を“飲んだ”って言ってますけど……」


かすみ「あの毒は“飲んでも死ぬワケじゃない”んですよ?」


「「……」」

歩夢「えぇっ!?」

果南「幾らなんでも、話が飛びすぎじゃない?」

かすみ「そうですか? 今の情報だけで、十分な手掛かりになると思うんですけど」

果南「いや、そうじゃなくてさ……」

梨子「愛ちゃんが毒殺なのは事実なのよ? モノっちーファイルにも書いてたじゃない」

かすみ「確かに書いてましたね。“体内から毒物が検出された”と」

歩夢(モノっちーファイルには……)

『死因は毒殺であり、体内からそれに至った毒物が検出されている』

歩夢「もしかして!」

鞠莉「そういうことだったのね……」

千歌「……ちゃんと説明して」

歩夢「毒物が検出されたのは体内から。この文が、既に罠だったんだ」

せつ菜「罠、ですか」

歩夢(毒を飲ませる必要なんてない。ある場所から、体内に毒を入れたとしたら……?)

歩夢(そう、その場所は……)

【鼻】
【血管】
【目】

正しい選択肢を選べ!

→【血管】

歩夢「血管だよ! 何らかの方法で、血液の中に毒を入れたんだ!」

せつ菜「け、血管!?」

梨子「確かに『体内』ではあるけれど……でも、血液って!」

歩夢「だとしたら、音楽室でモノっちーが言ってたことがようやく繋がるんだ……」


モノっちー『毒薬は毒薬だけど、飲食物に混ぜたところでまったく意味がないモノだからネ!』


歩夢「あれは『毒を直接飲まないといけない』って意味じゃない。『特別な方法でないと毒殺出来ない』ってことだったんだよ!」

花丸「道理で意味がない筈ずら。血液毒は、基本的に経口摂取したところで意味がないものだし……」

ダイヤ「では、私たちはそんな物のために騒いでいたと……!?」

かすみ「ま、実際そういうことなんですよね~」スッ

歩夢(そう言って、かすみちゃんが取り出したのは1つの瓶)

歩夢(ラベルにはドクロマークと『毒殺専用の毒』……)

歩夢「って、毒薬!?」

かすみ「ええ、そうです。皆さんが待ち望んでいた、毒薬の在処ですよ」

鞠莉「ちょっと貸しなさい!」パシッ

歩夢(焦った表情の鞠莉さんが、隣の席のかすみちゃんから瓶をひったくった)

歩夢(そして、注意書きに目を通す……)

鞠莉「……」

鞠莉「“※この毒はとっても特殊! 主にヘビ毒をホンワカパッパしているため、毒殺するには血管に入れる必要があるゾ!”」

かすみ「ちゃんと書いてるでしょ、鞠莉先輩?」

鞠莉「……間違い、ないわね」

果林「じゃあ、愛ちゃんはこの毒で……」

璃奈「……ねえ、かすみちゃん(`∧´)」

璃奈「愛ちゃんは自殺じゃない、殺された。それは分かったよ(`∧´)」

璃奈「じゃあ、なんでかすみちゃんがその瓶を持ってるの(`∧´)?」

かすみ「……」

璃奈「愛ちゃんを殺した犯人だから、じゃないの(`∧´)?」

かすみ「だったらどうします? 私に投票しますか?」

かすみ「そんなことをしたら、曜さんを殺した犯人に喜ばれるだけですし……」

歩夢「そもそも……かすみちゃんに犯行は無理だと思うよ。璃奈ちゃん」

果林「かすみちゃんが部屋に拘束されていたのは、曜ちゃんの死体が発見されるまで」

果林「そして、曜ちゃんの死体が発見されてから、裁判中に愛ちゃんが死ぬまでにはせいぜい2、3時間といったところかしら」

ダイヤ「毒を盛る時間が足りない……ということですね」

果南「だったら、かすみはなんで毒を持ってるのさ? 確か、鞠莉が部屋を探した時には見つからなかったんでしょ?」

かすみ「だから、先輩たちは結論を急ぎすぎなんですってば。別に大した理由じゃないですよ」

かすみ「ある人の個室から、取り返したってだけですから」

せつ菜「いや、大したことあるじゃないですか!?」

しずく「この中の誰かが、かすみさんの部屋から毒薬を持ち去ったってことですよね!?」

ダイヤ「それもかすみさんの嘘……と言ったところで堂々巡りですわね」

かすみ「最初から怪しいとは踏んでいたんですよね~。次に殺人を実行するならあの人だろうって」

かすみ「けど、参りましたよ。曜先輩の方のモノっちーファイルには毒物類は一切検出されていないなんて書いてるものですから」

かすみ「でも、当たりでした。まさか2つ目の事件が起きるなんて……」

かすみ「さて。そろそろ皆さんも分かったんじゃないですか?」

かすみ「──愛先輩を殺した犯人が」ニヤリ

璃奈「……」

歩夢(その人物は、かすみちゃんの部屋から毒を盗み、愛ちゃんを遅効性の毒で殺した)

歩夢(毒の摂取方法、効果が表れる時間。それらを踏まえると、犯人は──)

【怪しい人物を指名しろ!】

→【朝香果林】

歩夢「あなたなんじゃありませんか……果林さん?」

梨子「か、果林さんが!?」

せつ菜「待ってください歩夢。まさか、果林さんが犯人だなんて……」

果林「……」

せつ菜「果林、さん?」

璃奈「……どうなの? 本当に、愛ちゃんを殺したの(>_<。)?」

ダイヤ「その沈黙は、肯定と見てよろしいの──」

果林「少し考え事をしていただけよ。ねえ歩夢ちゃん、私を犯人だと言うなら、根拠はあるのよね?」

歩夢「……あります」

果林「だったら、聞かせて頂戴」

歩夢(果林さんが犯人だという根拠。それは……)

【コトダマ一覧より選択】

→【夕食会の準備】

歩夢「昨日、夕食会の準備中に愛ちゃんは怪我をしたんだったよね」

しずく「はい。軽い擦り傷でしたけど、血は出ていたから処置した方がいいと……」

しずく「……まさか」

歩夢「その処置を担当したのも、果林さんだったよね?」


果林『夕食の休憩より後……というか、夜時間になる前ね。派手にすっ転んでたわ』

果林『だから、軽く処置だけはしたのよね。絆創膏はいいって断られたけど』


歩夢「だったら……その時に、傷口から毒を染み込ませることは簡単だった筈だよ?」

歩夢「絆創膏を使わない処置……消毒液に入れて、ね」

歩夢「どう、果林さん。何か反論は──」

果林「ないわ」

歩夢(……えっ?)

かすみ「あれ、ないんですか? てっきり、反論するものかと」

果林「ないわよ。流石に、部屋から毒を持ち出されることまでは想定外だったもの」

鞠莉「じゃあ、認めるのね? 愛を殺したこと」

果林「ええ。むしろ、ここから覆そうとしたところで、見苦しいだけだわ」

果林「それなら、潔く認めた方がいいでしょう?」

璃奈「……なんで」

璃奈「なんで、愛ちゃんを殺したの(`∧´)!」

せつ菜「そうですよ! なんで今まで黙っていたんですか!」

果林「そうね。璃奈ちゃんには恨まれてもおかしくないし、せつ菜ちゃんには悪いことをしたわ」

果林「……でも、その話は裁判が終わってからでもいいんじゃないかしら」

梨子「裁判が……終わってから?」

果林「この学級裁判で探すべきは、先に死体が発見された曜ちゃんの事件の犯人」

果林「私は愛ちゃんを殺したけれど、曜ちゃんは殺していないわ」

果林「だから、議論を続ける必要があるのよ」

璃奈「……嘘だよ。曜ちゃんも、果林さんが殺したんでしょ(`∧´)」

果林「だったら、落ちて来た死体にはどう説明を付けるのかしら」

璃奈「……落ちて来た死体(`∧´)?」

花丸「曜ちゃんの死体が落ちて来たのは、梨子ちゃんがピアノを弾いてる最中だった」

花丸「でも、果林さんは、ずっと観客席にいた。それは、その場に居たみんなが覚えている筈ずら」

ダイヤ「歩夢さんと花丸さん、千歌さんと果林さんは常に観客席。私と鞠莉さん、果南さんはピアノを運び出した時に席を立っただけ」

歩夢「せつ菜ちゃん、しずくちゃん、梨子ちゃんはそれぞれ自分の番に席を立っていて……愛ちゃんは、ずっと舞台裏にいた」

果林「つまり……ずっと席にいた私に、死体を落とすことは出来ないのよ」

果林「だから、私は曜ちゃんを殺した犯人じゃない。十分、根拠じゃないかしら」

千歌「どうせ、それも何かのトリックなんでしょ?」

果林「だったら、そのトリックって何なのかしら」

かすみ「このまま議論しても結末は変わりませんって。投票に移ってもいいんじゃないですか?」

鞠莉「もし違ったら……私たちは、曜を殺した犯人に喜ばれるだけね」

せつ菜「このままだと、愛さんが怪しいのは変わらないんじゃ」

花丸「それも含めて、議論するべきずら」

しずく「……すっかり、意見が割れましたね」

梨子「これは……アレ、かな」


モノっちー「オフコース!」

\待った!/

モノっちー「おおっと、何やら議論が盛り上がって来た!」

モノっちー「こういう時は……ポチっとな」

歩夢(モノっちーがスイッチを押すと……以前と同じ、2列の議席が姿を現す)

ダイヤ「また……やるのですね」

モノっちー「さあさあ席替えだよ! 全員揃ったら、議論開始!」

歩夢(果林さんは確かに怪しい。それに、愛ちゃんを殺したことは許せない)

歩夢(けれど……それだけで終わらせちゃいけない。まだ、全ての謎が解けたワケじゃないんだ)

歩夢(だから、話し合うべき点をハッキリさせて……みんなに納得してもらうしか、ない!)


        意
        見
        対
        立

       
  【これ以上議論を……】
  

[|続けない!> V S <続ける!|]
 天王寺璃奈    上原歩夢
  高海千歌    朝香果林
  桜内梨子    優木せつ菜
  松浦果南    国木田花丸
 桜坂しずく    黒澤ダイヤ
 中須かすみ    小原鞠莉
   
  【議論スクラム 開始!】

璃奈「愛ちゃんも曜ちゃんも果林さんが殺したに決まってる……(`∧´)!」

千歌「保健室に押し入って、曜ちゃんを殺したんでしょ?」

梨子「凶器の毒だって、果林さんの部屋にあったんだし……」

果南「最初からルールの追加を盾にする気だったんじゃないの」

しずく「音楽室での一件も、何かトリックを使ったのではないでしょうか」

かすみ「結論は変わりませんよ。根拠もしっかりありますから」

VS

歩夢「だから、その【トリック】について話し合うべきなんだよ!」

果林「だったら、その【根拠】について話してちょうだい」

せつ菜「曜さんの身体から【毒】は検出されていない筈です!」

花丸「【保健室】には誰でも入れたずら」

ダイヤ「【果林】さんが曜さんも殺したとは限りませんわ」

鞠莉「それはないわね。【ルール】の追加は2人が殺された後よ」

璃奈「愛ちゃんも曜ちゃんも【果林】さんが殺したに決まってる……(`∧´)!」 ダイヤさん!
ダイヤ「【果林】さんが曜さんも殺したとは限りませんわ」
Break!

千歌「【保健室】に押し入って、曜ちゃんを殺したんでしょ?」 花丸ちゃん!
花丸「【保健室】には誰でも入れたずら」
Break!

梨子「凶器の【毒】だって、果林さんの部屋にあったんだし……」 せつ菜ちゃん!
せつ菜「曜さんの身体から【毒】は検出されていない筈です!」
Break!

果南「最初から【ルール】の追加を盾にする気だったんじゃないの」 鞠莉さん!
鞠莉「それはないわね。【ルール】の追加は2人が殺された後よ」
Break!

しずく「音楽室での一件も、何か【トリック】を使ったのではないでしょうか」 私が!
歩夢「だから、その【トリック】について話し合うべきなんだよ!」
Break!

かすみ「結論は変わりませんよ。【根拠】もしっかりありますから」 果林さん!
果林「だったら、その【根拠】について話してちょうだい」
Break!


「「「「「「これが私たちの答えだ!」」」」」」

        全   論   破
          All Break!

歩夢「やっぱり、曜ちゃんを殺した謎が解けてない以上、慌てて投票するのは危険じゃないかな」

歩夢「それに、かすみちゃんの言ってた“根拠”もまだ聞けてないしね」

ダイヤ「どうなんですか、かすみさん」

かすみ「……いや、自分で言っておいて何ですけど、自信がなくなって来ちゃったんですよね」

かすみ「確証を持たせるためにも、曜先輩の死体落下について話し合って欲しいんですけど……」

果林「まったく、しょうがない子ねえ」

しずく「ですが……愛さんが犯人でないと仮定すると、どうやって落としたのでしょう」

鞠莉「それを話し合えばいいだけのことよ」

千歌「……」

【ノンストップ議論 開始!】
[|ロープの束>
[|照明機>
[|ドライアイス>

花丸「犯人が死体を落とした方法……」

梨子「キャットウォークに《誰かがいた》じゃ、説明がつかないのよね」

せつ菜「やはり、何かで《固定した》のだと思いますが……」

果林「ロープを切った話は、既に歩夢ちゃんに否定されていたわね」

璃奈「結んでおいたロープが【自然とほどけた】とか(・v・)?」

梨子「それだと……私の番までもたずに落ちてきちゃうと思うけど」

かすみ「でも、照明機にあった跡からして……」

かすみ「あそこに【何かを仕掛けた】のは間違いないと思いますよ?」

歩夢(犯人が仕掛けたトリック……それって、何が考えられるんだろう?)

[|ドライアイス>→《固定した》

歩夢「それに賛成だよ!」

Break!

歩夢「そっか……その手があった!」

せつ菜「どんな手なんですか?」

歩夢「ドライアイスだよ! あれを使って、曜ちゃんの死体を固定したんじゃないかな?」

梨子「死体を固定って……どうやるの?」

歩夢「そのために必要な道具は、ドライアイスだけじゃないんだ。最初に重要なのは、どこに固定しておくか、なんだよ」

せつ菜「それって、照明機の跡が付いてたところですよね?」

歩夢「うん。犯人は、あの場所で固定することを選んだ。次に重要なのは、曜ちゃんが着ていた患者服の紐を、水で濡らしておくことなんだけど……」

鞠莉「……凍らせたのね!」

歩夢「間違いないよ」

https://i.imgur.com/OfYVpaM.jpg

歩夢「あのとき落ちて来た死体は……」

https://i.imgur.com/ewSdiS8.jpg

歩夢「本当は、こうやって照明機に固定されていたんだ。“ドライアイスを接着剤のようにして”ね」

花丸「時間が来たら氷が溶けて、死体が落ちてくる……」

しずく「ドライアイスが減っていたのは、そういう理由だったんですね……!」

歩夢「患者服の紐が塗れていた理由も、これで説明が付くし……」

歩夢「この方法なら、愛ちゃん以外でも、曜ちゃんを落とすことは可能だよ」

梨子「じ、じゃあ、私たちがもし上を向いていたら……」

かすみ「死体とばっちり目が合っていたかも知れませんね♪」

せつ菜「ちょっとしたホラー体験じゃないですか……」ガクガク

璃奈「……もしかして、璃奈ちゃんボードに両面テープがついてたのも」

鞠莉「顔から剥がれて落ちないよう、固定しておいたんでしょうね」

果南「……結局、ロープは何も関係ないんだね。たまたまそこに置いてただけ、ってことでいいのかな」

歩夢「曜ちゃんの死体が照明機に固定されていたことを考えると……そこに運ぶため、だったんじゃないかな?」

歩夢「だって、曜ちゃんの死体を運ぶためには、どうしてもハシゴを上る必要があるし……」

ダイヤ「おんぶ紐の要領で、自分に死体を括りつけたのですね。まさか、担いでハシゴを上るワケにもいきませんし」

果南「なるほど……」

歩夢「これでどうかな、かすみちゃん。さっき言ってた“根拠”、話せそう?」

かすみ「歩夢先輩は随分と、私に気を掛けるんですね。まあ、いいですけど」

かすみ「問題ありません。果林先輩が犯人だという根拠としては、十分です」

果林「……」

かすみ「皆さん。学級裁判で勝ち残るコツって、何だと思います?」

せつ菜「急に何を言い出すんですか」

かすみ「重要な質問です。答えてください」

ダイヤ「勿論、皆で協力して、犯人が誰かを……」

かすみ「それは多数側の視点です。では、少数側……つまり犯人、クロならどう立ち回ればいいと思いますか?」

果南「知らないよ。誰かを殺すワケでもないし……」

かすみ「ただ誰かを殺し、トリックを用いて演出する。それも大切なんですけど……それだけだと足りないんです」

かすみ「学級裁判で勝ち残るには『誰かを犯人に仕立て上げること』。これこそが重要だと、私は考えるんです」

歩夢「それが……根拠?」

かすみ「思い出してください。この裁判で愛先輩に疑いの目が掛かった理由って、何でしたっけ?」

歩夢「それは……」


果林『璃奈ちゃんを騙して、曜ちゃんに変装させた』

果林『そして、璃奈ちゃんに完璧なアリバイがある間に、音楽室で死体を落とす。こうすれば、一見打ち破れない矛盾が出来上がるのよ』

果林『実際そうだったんじゃないかしら、愛ちゃん』


かすみ「それに、果林先輩はやたらと愛先輩を疑っていましたよね~」

果林「仕方ないでしょう。愛ちゃん以外、あの時は死体を落とす方法が浮かばなかったのよ」

かすみ「だったら……途中で“愛先輩は自殺だ”って説を引っ張り出したのは、何故なんですか? それも“曜先輩を殺した犯人だから”って動機を付けて」

果林「……は?」

かすみ「よく考えてください。愛先輩を殺した犯人である果林先輩は、裁判の対象外……つまり“クロじゃない”んです」

かすみ「だったら“曜先輩を殺したことに耐え切れず自殺した愛先輩”という図式は、果林先輩にとってあまりよろしくないんですよ」

かすみ「……愛先輩に投票したら、自分も死んでしまうことになるんですから」

ダイヤ「……言われてみれば、確かに矛盾していますわね」

果南「ええっと……つまり?」

花丸「愛さんを殺した果林さんなら、愛さんが自殺だなんて推理を出してはいけない」

花丸「何故なら、自殺する動機が“曜さんを殺したこと”になってしまうから……ということずら」

しずく「自分から疑いを逸らそうとしても、自殺行為になってしまうんですね……」

かすみ「ええ。ところが、果林先輩がクロだったとしたらどうでしょう」

鞠莉「全ての罪を愛になすり付け、自分は学級裁判に勝利出来る……なるほど、一理あるわね」

果林「……一理?」

果林「そんな話が……一理?」

果林「ふざけるのも……大概にしなさいよぉ!!!」

かすみ「あれ、気づいてないんですか?」

果林「……何がよ」

かすみ「いまの話以外でも、既に先輩は自白してしまっているんですよ?」

かすみ「自分が犯人だ……って」

果林「だったら、それを言ってみなさいって言っているでしょう!?」

梨子「ちょ、ちょっと、2人とも落ち着いて!」

果林「理不尽に疑われて、落ち着いていられるもんですか!」

かすみ「私はいつだって冷静沈着ですよ~♪」

かすみ「……さて。任せましたよ、歩夢先輩」

歩夢「え、えぇっ!? どういうこと!?」

【ノンストップ議論 開始!】
※【ウィークポイント】を記憶(キャプチャー)して、新しいコトダマにしろ!

果林「私は犯人じゃないって言ってるでしょう!?」

かすみ「曜先輩を殺せたのは……果林先輩しかいないんですよ?」

果林「だったら、証拠はあるのかしら?」

果林「【死体を落とした方法】が根拠かしら?」

果林「【璃奈ちゃんボードを付けていた】ことが怪しいのかしら?」

果林「【濡れていた患者服の紐】? それとも【あんな死因】?」

千歌「怪我をした曜ちゃんを手当てしたよね?」

果林「それが証拠? 【あの怪我】が?」

果林「そもそも、保健室に連れて来たのは果南ちゃんよ」

果林「一体、この話のどこに手掛かりがあるって言うのかしら!?」

かすみ「……歩夢先輩も分かりましたよね? 【果林先輩のミス】」

かすみ「私じゃ信用ないみたいですから」

歩夢(かすみちゃんが言う“ミス”……それって……)

[|果林先輩のミス>→【あんな死因】

歩夢「その矛盾、撃ち抜いてみせる!」

Break!

歩夢「果林さん……説明、してください」

果林「何を、かしら」

歩夢「“あんな死因”って、曜ちゃんの死因のこと……ですよね」

果林「そうよ。それが何……ッ」

梨子「あれ? 確か、曜ちゃんの死因って……」

歩夢「そう。愛ちゃんの死因や、殺害に使われたトリック。それから、曜ちゃんの死体落下については言及された」

歩夢「でも、曜ちゃんの死因はまだハッキリしていないんだよ」

歩夢「それなのに何故果林さんは“あんな死因”だなんて、まるで知っているようなことが言えるんですか!?」

果林「ぐっ……!?」

かすみ「誰も知らない筈のことをついうっかり口走る……」

かすみ「それって、自分が犯人だからってことですよね?」

鞠莉「かすみ。あなた、とことん果林をブラフに掛けたわね」

かすみ「何の話ですか~?」

鞠莉「善子の時と同じ。犯人を焦らせて、決定的な手掛かりを出させた」

鞠莉「そのスジの才能あるわよ、あなた」

かすみ「褒め言葉として受け取っておきますね」

璃奈「……でも、これでハッキリしたんだね。この事件の真犯人(・v・)」

歩夢「うん、間違いないよ。曜ちゃんを殺した犯人は──」

【怪しい人物を指名しろ!】

→【朝香果林】

歩夢「果林さん、あなたです。曜ちゃんを殺したのも、あなただ!」

果林「ぐ、ぎぎ……」

果林「だ、だったら、その“死因”ってのは何だったのかしら?」

果林「肝心の死因が分からないんじゃ、私が犯人と言いきれないんじゃない?」

歩夢「え、ええっと……」

花丸「こういう時は逆算だよ、歩夢ちゃん」

花丸「これが出来るのはこの人しかいない、じゃない。この人はこれをした、を探すずら」

果南「けど果林が曜にしたことって、それこそ保健室に運んできて、輸血とか手当てして……」

歩夢「……」

歩夢(もしかして……あの時から、既に?)

【閃きアナグラム 開始!】

つ け い い ゆ け (ダミー無)

→【いけいゆけつ(異型輸血)】

歩夢「曜ちゃんに使った輸血パック……もし、あれの血液型が違っていたら、どうなるのかな」

鞠莉「異型輸血……本人の血液型と異なる型の血液を輸血した際に起きる、ある種アレルギー反応のようなものね」

鞠莉「対処が遅れた場合、2、3日で死に至る。死亡推定時刻を踏まえても、合致するでしょうね」

歩夢「逆に言えば、果林さんが取った行動で死因に直結する物は、あれくらいしかないんだ……」

ダイヤ「保健室にあったハンマーではないのですか?」

歩夢「それもないと思うんだ。確かに、プールで負った怪我のお陰で誤魔化しは利きそうだけど……」

歩夢「そんなことをしたら、ハンマーだけじゃなく、ベッドのシーツも血で汚れると思うんだ」

歩夢「曜ちゃんに変装した璃奈ちゃんに、気づかれるだろうしね」

璃奈「……うん。シーツは全然汚れてなかったよ (・v・)」

果林「ねえ。確定事項のように語っているけれど……」

果林「さっき、鞠莉ちゃんはアレルギー反応って言ったわよね」

鞠莉「ええ、そうね。死ぬまでに時間が掛かるとも」

果林「そんな殺し方をしたら……顔色も悪くなるんじゃないかしら?」

花丸「死体の顔に塗られていたファンデーションは、そのためだったずらね」

果林「っ!?」

花丸「これは推測だけど……多分、果林さんは別の計画を立てていたんじゃないかな」

せつ菜「別の、計画?」

花丸「だって、璃奈ちゃんボードを被せるなら、わざわざファンデーションを塗る意味はない」

歩夢「もしかして、愛ちゃんが偶然保健室に来ちゃったから……」

花丸「愛さんを犯人に仕立てて最後は殺す……そう、計画を変更せざるを得なかった」

歩夢「だとしたら、愛ちゃんは口封じで──」

果林「っははははははははははは!」

反論!

果林「あー……面白い。面白くてお腹がよじれちゃいそう」

果林「愛ちゃんを殺したのは口封じ……」

果林「だとしたら、まだ説明がつかないことがあるんじゃないかしら!?」

かすみ「ありゃりゃ、何だか情緒不安定になってますけど大丈夫ですか?」

果林「うるさい、うるさいうるさいうるさい!」

果林「どうなのよ、答えられるなら答えてみなさい!」

【反論ショーダウン 開始!】
[|患者服の紐>
[|照明機>
[|キャットウォークのハシゴ>

果林「愛ちゃんに罪をなすりつけて、口封じ……」

果林「そもそも、罪のなすりつけ自体が無理だと思わないかしら?」

果林「それとも、私の失言1回程度で、その謎をスルーするつもり?」

─発展─
罪のなすりつけって……死体落下だよね?
    その方法ならさっき議論した筈だよ
        ドライアイスで凍らせたってさ

果林「っふふふふ……まだ分からないの?」

果林「凍らせて死体を固定したとしましょう」

果林「でも、死体が落ちないくらいガチガチに凍っていたんじゃ……

果林「【いつ落ちるかは分からない】んじゃないかしら?」

果林「夕食会の最中に死体を落とさないと……」

果林「アリバイ工作も意味を成さないわよ!?」

歩夢(死体がいつ落ちるのか……その謎、今なら自信を持って言える)

歩夢(こんな苦し紛れの反論なんかに……!)

[|照明機>→【いつ落ちるかは分からない】

歩夢「その言葉、斬らせてもらうよ!」

Break!

歩夢「待って。狙ったタイミングで死体を落とす方法ならあるよ」

果林「無理よ。ずっと席に居た私に──」

歩夢「3つの照明機は……それぞれ、違う色のスポットライトだったよね」

歩夢「1つ目は赤色……せつ菜ちゃんに使われた物。2つ目の薄水色は、しずくちゃんの番で使われた」

歩夢「そして最後……ピンク色の照明を使った照明機。あそこに曜ちゃんを吊るしておいたんだ」

果林「まさか、照明が点くだけで死体が落ちるとでも?」

歩夢「……照明を点けた時に、照明機が発する熱。これなら、死体を括りつけていた氷を溶かせるよね」

果林「──っ!?」

鞠莉「死体落下トリックの一番の肝は、愛自身にそのスイッチを押させることだったってワケね」

果林「う、ぅぅぅっ……!」

果林「…………ふふ」

果林「うふふふふふふふふふふっ」

しずく「だ、大丈夫なんですか本当に……」

果林「ねえモノっちー。確か電子生徒手帳には、持ち主の血液型が表示されるのよね」

モノっちー「はい。その通りでございます」

果林「だったら、曜ちゃんの生徒手帳に何て書いてあったか……言えるわね?」

モノっちー「AB型だネ」

果林「ねえ歩夢ちゃん。あなたが保健室で見つけた輸血パック……何型かしら?」

歩夢「……AB型、だよ」

果林「だったら、異型輸血だなんて起こる筈ないわよねえ!?」

果林「つまり、あなたの推理は根本から間違っているのよ!」

歩夢「っ……」


千歌「────超高校級の船乗り、渡辺曜」

歩夢「千歌、ちゃん?」

千歌「誕生日、2002年4月17日、AB型」

千歌「……重度の魚介アレルギー」

歩夢(……!?)

果林「急に何を言い出すかと思ったら……」

歩夢(いや、違う……でも、こんなことって……)

歩夢「やっぱり……間違っているのは果林さんだよ」

果林「……はあ?」

歩夢(どんなに残酷な真実でも、やらなくちゃいけないんだ……)

歩夢(この事件に、決着をつけるために……!)

【理論武装 開始!】

果林「私は愛ちゃんを殺しただけよ!?」

果林「曜ちゃんはAB型、輸血パックもAB型」

果林「歩夢ちゃんの方こそ、間違っているんじゃない?」

果林「あなたの推理は乱れているわ!」

果林「今すぐ謝ってちょうだい」

果林「謝って」

果林「謝って」

果林「謝って」


果林「【あの輸血パックじゃ、曜ちゃんを殺すのは不可能よ!】」

      △:プロフィール
□:虹ヶ咲       〇:生徒
      ×:学園

→□×〇△  [|虹ヶ咲学園生徒プロフィール>

歩夢「これで……終わりだよ!」

Break!!!

歩夢「千歌ちゃん。いまのって、虹ヶ咲学園の生徒プロフィール……だよね」

千歌「……そうだよ。鞠莉ちゃんが印刷したものを、こっそり持ち帰った」


鞠莉『そういえば。生徒名簿のコピー、誰か知らないかしら』

果南『生徒名簿のコピー?』

鞠莉『ええ。昨日、どこかに置き忘れたっぽいのよね』

鞠莉『まあ、知らないならいいわ。また職員室で印刷すればいいだけだし』


鞠莉「千歌っちが持っていたのね……」

ダイヤ「ですが、それが証拠になるのでしょうか?」

歩夢「思い出して欲しいんだ。毒薬騒動が起きる直前の昼食を……」

歩夢〈いつものように、梨子ちゃんが作ってくれた食事をみんなで食べる〉

歩夢〈今日のお昼ご飯である海鮮丼が放つ独特の生臭さと、少しぎこちない雰囲気を漂わせながら……〉


歩夢「魚介類アレルギーの曜ちゃんは、食べられなかった筈なんだ」

梨子「でも、曜ちゃんは完食してたわよ?」

歩夢「だからこそ、おかしいんだ。アレルギーで食べられない筈の物を、どうして食べられたのか……」

歩夢「それに、本人の記憶では泳げた筈の曜ちゃんが、泳げなくなっていたこと……」

しずく「……私と同じようなことが、曜さんにも?」

鞠莉「骨髄移植で血液型が変わり、その記憶も奪われた……まあ、そう考えるのが妥当でしょうけれど」

ダイヤ「それだと、アレルギーの方が説明出来ませんわ。入学時に持っていたアレルギーが在学中に完治していたとしても、その記憶を奪われていれば……」

千歌「別人だったんだよ」

果南「別人……?」

千歌「あの曜ちゃんは、本当は曜ちゃんじゃなかった。曜ちゃんのフリをした“嘘つき”だった」

千歌「別人なら、血液型も違うかも知れない。本当は、AB型じゃない別の誰かだったんだよ」

歩夢「……」

果林「……ねえ。さっきから、何の話をしているのかしら?」

果林「私は、あの輸血パックでは曜ちゃんを殺せない、って話をした筈よ」

果林「それなのに、これは一体何の茶番かしら?」

果林「曜ちゃんが別人ですって? そんな話、私は絶対に認めないわ──」

かすみ「だったら、決定的な証拠を出しましょうか?」

果林「──よ?」

歩夢「あるの? 証拠……」

かすみ「残念ながら、曜先輩の正体についての証拠ではありません」

かすみ「ですが、果林先輩が犯行に関わっている、明らかな証拠だと思いますよ」スッ

歩夢(そういって、かすみちゃんが取り出したのは……)

梨子「紙の……束?」

せつ菜「ぱっと見、20枚近くありそうですけど……」

かすみ「覚えてませんか? ルビィさんたちの事件で、謎が複雑化する原因にもなった見張りの……」

かすみ「順番決めに使った、くじ引きです」ニィ


果林『言いたいことは分かるから大丈夫。それを防止するために、裏に2人以上のサインを書くのよ』

果林『そうすれば、このくじは複製出来ない唯一無二のものになるでしょう?』


歩夢「あの時の……!」

かすみ「もしかしたらと思って、持って来ておいて正解でしたよ。これでハッキリさせられますよね」

かすみ「“果林先輩の筆跡”と、“璃奈さんに送られた手紙の筆跡”が」

果林「……」

かすみ「あれ、どうしたんですか? 汗びっしょりですよ?」

果林「……」

かすみ「というワケで、こういうのは得意なイメージがありそうな……ダイヤ先輩、お願いします♪」スッ

ダイヤ「……分かりました」

かすみ「ほら、璃奈さんも手紙出してください」

ダイヤ「……少し、時間が掛かります」

かすみ「だったら……最後のまとめは、歩夢先輩にお願いします」

璃奈「……お願い、歩夢ちゃん。もう、こんな事件は……早く、終わらせて(>_<。)」

歩夢「……分かった」

【クライマックス推理】
ACT.1
今回の事件は、動機が発表されるずっと前から始まっていた。
プールで大怪我を負った曜ちゃんを、果南ちゃんと犯人が手当てしたんだ。
その手当てに用いられた輸血パックは……どういうワケか、曜ちゃん本人の血液型と違っていたんだ。
故意か事故か、私は事故だったと信じたい。
だっていつも私たちの前に立ってくれた人がこんなことをするなんて、信じられないから。

ACT.2
犯人が、いつ曜ちゃんの異変に気付いたかは分からない。
けれどその異変は、悪くなった顔色が物語っていた。
だから犯人は、肌色のファンデーションを塗ることで、ひとまずその場を凌ぐことにしたんだろうね。
実際、千歌ちゃんの目は欺けていたようだったし……。
でも、モノっちーからの動機が発表された日、犯人にとって予想外の出来事が起きた。
愛ちゃんが、偶然保健室に来てしまったんだ!

ACT.3
犯人は慌てて、愛ちゃんに薬を嗅がせて眠らせた。
恐らく、曜ちゃんが死んだのもこの頃。
この時点で犯人の用意していた何らかの計画は狂っていた筈だけれど、犯人は新しい計画を行うことにしたんだ。
愛ちゃんに全ての罪をなすりつけ、最後は自殺に見せかけて殺す、恐ろしい計画を……!
計画の下準備として、曜ちゃんの死体を一旦隠し、愛ちゃんをベッドの下に押し込める。
その間に犯人は、かすみちゃんの部屋から持ち出した毒薬を、消毒液の中に入れておいたんだ。
かすみちゃんが証拠を幾つも持っていたのは、持ち出したのが誰かに気付いてたんだろうね。

ACT.4
目を覚ました愛ちゃんは、曜ちゃんが消えたことに焦った筈だよ。
そして、前回の裁判もあって怖くなった愛ちゃんは……ある行動に出た。
璃奈ちゃんに、曜ちゃんに変装してもらうようお願いする。
この行動が犯人にとって計算済みだったかは分からないけれど、犯人はこれも計画に加えたんだ。
その為に璃奈ちゃんボードを盗み、彼女を人前に出られなくした上で、手紙を使って脅迫したんだよ。
一方で、夕食会の準備の終わり。
怪我をした愛ちゃんに、手当てとして毒入り消毒液を使う。
そう。この毒は、血管に入ることで初めて作用する遅効性の毒だったんだ……!

ACT.5
夜時間になり、脱衣所から璃奈ちゃんボードを盗んだ犯人は、大掛かりな仕掛けの準備を始めた。
隠しておいた死体を音楽室……ハシゴを上った先にあるキャットウォークに運んだ。
ロープは、このとき死体を安全に上に運ぶため使ったんだろうね。
そこで犯人は、あらかじめ濡らしておいた患者服の紐を照明機にくくり付けた。
更に、ドライアイスでその紐を凍らせ、接着剤の要領で、曜ちゃんの死体は照明機に固定された。

ACT.6
そして、訪れた夕食会。
梨子ちゃんの出番で使われたピンク色の照明の電源が入ると、照明機が熱を発する。
こうして、凍らせていた紐が溶け、死体はグランドピアノめがけて落下。
その間、犯人はずっと観客席にいて、絶対的なアリバイを確保しながら、愛ちゃんに容疑を被せることに成功した。
最後は、遅効性の毒が回り、裁判中に愛ちゃんが毒死する……。
こうして犯人は2人の人間を操り、自分の都合のいいように事件をコントロールしようとしたんだ。

歩夢「超高校級のコーディネーター、朝香果林さん」

歩夢「あなたがこの連続殺人の犯人です!」

   COMPLETE!!!

歩夢「……これが、この事件の真相だよ」

璃奈「……そう、なんだね(>_<。)」

果林「ま、まだよ……まだ手紙が……」

ダイヤ「果林さん」

ダイヤ「……もう、投票に移りましょう」

果林「……」

歩夢(ダイヤさんの言葉で、みんなは確信する)

歩夢(長かった裁判に、ようやく終止符が打たれるのだと……)

モノっちー「んじゃあ、行っちゃいましょうか、いつものヤツ!」

モノっちー「皆さん、お手元のスイッチで投票しちゃってください!」

モノっちー「ああそうそう。ちゃんと誰かに投票してネ? 投票を放棄した人も……オシオキだからさ」


   VOTE

果林 果林 果林
   GUILTY


 学 級 裁 判 
   閉  廷

モノっちー「うんうん、じゃあ結論から言っちゃおうっか」

モノっちー「またまた大正解! これで3連続だよ!」

モノっちー「正体不明の誰かさんと《超高校級のギャル》宮下愛さんを殺したクロは……」

モノっちー「《超高校級のコーディネーター》朝香果林さんなのでしたー! どんどんどん、ぱふぱふっ」

歩夢「正体不明、って……」

千歌「本当に、曜ちゃんじゃなかったんだね」

モノっちー「そうなんだよネ。とある事情から、彼女は渡辺曜さんとしてこの学園で生きていたワケだけど……」

モノっちー「よりによって、その彼女が死ぬとはネ! お陰で彼女に用意しておいたとっておきの絶望を話しそびれちゃったよ」

璃奈「……だったら。だったら愛ちゃんは、何で死ななくちゃいけなかったの(>_<。)」

モノっちー「さあ? そんなの、クロに訊けばいいじゃん!」

モノっちー「もっとも、話が出来る状態じゃあないだろうけどネ」

果林「……」

歩夢(果林さんの視界には、もう私たちは映っていなかった)

歩夢(空白、後悔、虚無……そして絶望)

歩夢(それらをごちゃまぜにしたような目で、どこか遠くを見ていた)

モノっちー「さてと、時間も押し迫ってることだし……」

璃奈「待って……」

モノっちー「《超高校級のコーディネーター》朝香果林さんのために、スペシャルなオシオキを用意しました!」

璃奈「愛ちゃんのこと……」

モノっちー「それでは張り切って行きましょう! オシオキターイム!」

璃奈「謝って貰ってない……(>_<。)」


     GAME OVER
アサカさんがクロにきまりました。
   おしおきをかいしします。

朝香果林が首輪で連れて来られたのは、南国ビーチ……のように作られた、安っぽいセット。

水着にパーカーの出で立ちは、さながらファッションかグラビア雑誌の撮影のようです。

ですが、両手両足には鎖が繋がれ……おっと、サングラスをかけたモノっちーが現れました。

どうやら、撮影会が始まるようです。



   〈南国ビーチ・de・Starlight!?〉
《超高校級のコーディネーター 朝香果林処刑執行》

太陽を模した照明ライトが、ジリジリと果林を照らしています。

モノっちーがスイッチを押すと鎖が動き、彼女は様々なポーズを取らされます。

パシャリ、パシャリ。

その度に、モノっちーは三脚に立てかけたカメラのシャッターを切ります。

パシャリ、パシャリ。

一方の果林は、ライトの温度が相当なものらしく、汗がびっしょり。

さっきまでの冷や汗がどれかなんて、分からなくなってしまいました。

尚も照りつける照明ライト。

幾らなんでも、これは身体がアツくなりすぎです。

その証拠に、どこからか焦げ臭いニオイ……セットの端に、火が付いたようです。

慌てふためくモノっちー。

鎖で逃げられない果林を放って、さっさと撤収します。

そして、モノっちーが居なくなり、火の勢いが強くなった頃……。

セットの中に、どこからともなく雨が降り始めました。

雨の勢いは徐々に強くなり、彼女の体温を奪っていきます。

それでも雨は弱まらず、それどころか吹雪へと姿を変えました。

果林は顔を青ざめさせ、ガタガタと身体を震わせますが……逃れることは出来ません。

ビュオオオオオオッ

おや……吹雪が強くなりすぎて、画面がホワイトアウトしてしまいました。

吹雪が収まった頃、モノっちーが再び姿を現し、ホワイトアウトした画面を直します。

そこに映っていたのは、魅力的なポーズのまま氷漬けになった、朝香果林の姿でした──

歩夢(……終わった)

歩夢(今までの殺人と違い、果林さんは保身のために愛ちゃんを殺した)

歩夢(それでも、みんなに謝って、どうにか前に進めないワケでもなかった)

歩夢(けれども……その機会が来ることはなかった)

璃奈「……」

歩夢(彼女に掛けられる筈だった謝罪の言葉も、なかった)

花丸「璃奈ちゃん……大丈夫、ずら?」

しずく「今はそっとしてあげましょう。私もそうなる筈でしたし……あのとき励ましてくれた彼女は、もう……」

歩夢(……愛ちゃんが居なくなった)

歩夢(ムードメーカーで、みんなを励ます立場にあった彼女が、居なくなった)

歩夢(その事実は、璃奈ちゃんだけじゃなく、私たちの心にも少なからず影を落としていた)

歩夢(……やがて。1人、2人と、裁判場を後にした)


────夜時間前、璃奈の部屋

璃奈「……」

コンコン

璃奈「……」

ガチャリ

歩夢「居る……よね」

璃奈「……」

歩夢「これ、届けておいた方がいいかなって思ったから……愛ちゃんの部屋にあったんだって」

璃奈「……ノート(>_<。)?」

歩夢「多分、璃奈ちゃんに渡した方が良いかなって思ったから」

歩夢(本当は……裁判場を去る直前に、かすみちゃんに頼まれたことなんだけど)


かすみ『歩夢先輩。愛先輩の部屋に何かあったら……持って行ってあげてください』ボソッ

璃奈「……」

歩夢(璃奈ちゃんは、しばらくそのノートを見つめる)

歩夢(何が書いていたかは分からない。分からないままで、いい)

璃奈「ぐすっ……」

璃奈「うわああああああああああああああんっ!」

ギュッ

歩夢(だって、こんな風に泣き崩れる彼女を)

歩夢(今まで溜めていたあらゆる感情を爆発させたように泣く彼女を、放ってはおけなかったから)

璃奈「嫌だよ、愛ちゃん……」

璃奈「なんで、なんで居なくなっちゃったの……」

璃奈「バカ、バカ、バカバカバカ!」

歩夢(……釣られて、私も泣いていた)

歩夢(こんな目に遭っている理不尽への涙なのか、友達を喪った悲しみなのか)

歩夢(けれども、私たちは前に進まないといけない)

歩夢(それが、生き残った私たちに課せられた義務だから……)

────校舎3階、音楽室

かすみ「だから毒薬は処分しましたって。鞠莉先輩たちと一緒に、トラッシュルームに捨てたじゃないですか」

「────」

かすみ「もう毒はどこにも仕掛けられていません。そんなに信用ならないなら、モノっちーさんにでも聞いてください」

「────、────?」

かすみ「……彼方先輩に毒を飲ませた理由、ですか? 死体に、しかも意味のない経口摂取」

かすみ「だからあれは、モノっちーファイルがどこまで正確なのかを試したかっただけですってば」

かすみ「いい加減しつこいですよ。もしかして、せつ菜先輩あたりに頼まれたとかじゃないですよね?」

「────」

かすみ「そうじゃない? なら、この話は終わりです」

かすみ「どうしても私が憎いなら、私を殺したらどうですか?」

かすみ「そんなことをしたら、あなたもクロになりますけどね」

────千歌の部屋

千歌「……」

千歌「そっか」

千歌「そういうことだったんだね」

千歌「分かっちゃった」

千歌「あの曜ちゃんの正体も」

千歌「私の才能も」



千歌「全部、思い出しちゃった」

Chapter3 END

https://i.imgur.com/GMlmzp3.png

To be continued……


プレゼント“お手製カーディガン”を獲得しました。

今回はここまで。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2018年07月22日 (日) 01:50:57   ID: GbESrZxt

続きまだかな〜

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