探偵「犯人の往生際が悪すぎる」 (21)

探偵「この事件の犯人は……あなただ!」ビシッ

犯人「ぐっ!」

犯人「ふ、ふざけるな! なんで俺が! この世に俺ほど平和を愛してる人間はいないぞ!」

探偵「いや、被害者を刺したのはあなただ」

犯人「やってない! 俺はあいつをナイフで刺したりなんかしてない!」

探偵「おや? 私は凶器がナイフだなんて一言もいってませんよ?」

犯人「あっ!?」

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探偵「刑事さん、容疑者の方々に凶器については話してませんよね?」

刑事「ああ、一切話していない」

探偵「なのにどうして凶器がナイフだと知ってるんです?」

犯人「くっ……なんとなくだよ! なんとなくナイフだって思ったんだよ!」

探偵「あくまでシラをきるつもりですか」

犯人「だからシラなんかきってないって!」

探偵「まぁいいです。では現場が密室だったのはご存じですよね?」

犯人「もちろんだ。俺は一歩も入ってない」

探偵「しかし……現場からは被害者のものではない髪の毛が発見されたんですよ」

犯人「え!?」

探偵「鑑定の結果、髪の毛はあなたのものであると断定されました」

探偵「これはどういうことでしょう?」

犯人「そ、それは……っ!」

犯人「そうだ! 風だ! 俺の髪の毛が風で飛ばされて、あの部屋に入ったんだ!」

探偵「そんな偶然があると思いますか?」

犯人「あるね!」

犯人「風が吹けば桶屋だって儲かるんだ! 俺の髪の毛が密室に入ることだってある!」

探偵「ふぅ……分かりました」

探偵「ところで刑事さん、さっき凶器のナイフから指紋が発見されましたよね?」

刑事「うむ」

探偵「誰のものでしたか?」

刑事「そこの……彼のものだ」

犯人「な、なんだと!? ちゃんと拭いたのに……!」

探偵「なにが、ちゃんと拭いたのに、なんです?」

犯人「いや、それは……その……」

探偵「指紋というのは、案外取れにくいものなんです」

探偵「布でちょっと拭いたぐらいでは残ってしまうことも珍しくない」

探偵「つまり、これで決まったわけです。あなたが犯人であるとね」

犯人「いや、違う!」

探偵「なにが違うんです?」

犯人「これは罠だ! 誰かが俺をハメるために指紋を捏造したんだ!」

探偵「指紋を捏造? どうやって?」

犯人「ほら、たとえば『指紋捏造マシ~ン!』とかで!」

探偵「なんですかそれ……」

探偵「そんなものがあるとは思えませんが……」

犯人「あるんだよ! 22世紀には!」

探偵「今は21世紀ですけど」

犯人「うるさい!」

犯人「とにかく、指紋ぐらいじゃ認めないからな! もっと決定的な証拠を出せ!」

探偵「……分かりました」

探偵「実は被害者の衣服から、メモ用紙が見つかったんです」

探偵「被害者はどうやら、力を振り絞って犯人を告発したようなのです」

犯人「なに!?」ギクッ

探偵「その紙には被害者の筆跡で、はっきりとあなたの名前が書かれてましたよ」

犯人「あぐぅぅぅ……」

犯人「い、いや違う! きっと被害者は勘違いしたんだ!」

探偵「何をです?」

犯人「たとえば後ろから刺されて、犯人の姿は見なかったんだけど」

犯人「俺に刺されたと勘違いしてメモに書いちゃったんだよ!」

探偵「まだ言い逃れるつもりですか……」

犯人「ああ! 言い逃れてやるともさ!」

探偵「では……」

探偵「刺された張本人に登場して頂きましょう」

被害者「よくもワシを刺してくれたな!」

犯人「え!?」

犯人「な、なんで……たしかにこの手で殺したはず……」

探偵「被害者は意識不明の重体でした。ですが、かろうじて助かったんですよ」

犯人「なんだってぇ……? ゴキブリかよぉ……」

探偵「被害者さん、あなたを刺したのは彼ですか?」

被害者「そうだ! あいつだ!」

被害者「ワシが一人で部屋にいるところに侵入してきて、刺したんだ!」

探偵「とうとう殺人未遂で捕まる時が来たようですね」

犯人「ち、違う!」

犯人「嘘だ……そいつは嘘をついている!」

探偵「はぁ?」

被害者「なにをいっとる! たしかにお前がワシを刺したじゃないか!」

犯人「いーや、それは嘘だ!」

犯人「俺を殺人未遂で逮捕させるために、嘘をついてるんだ!」

犯人「こいつはいつもそうだ! 人を陥れるためならどんな嘘だってつく!」

犯人「そんな性格にムカついて俺はそいつを刺したんだよ! ……わーっ、待った待った! 今の無し!」

探偵「……分かりました」

探偵「じゃあ、この映像をお見せしましょう」

犯人「映像……?」

探偵「実は被害者がいた部屋には、防犯カメラが設置してあったんですよ」

犯人「マジで!? 全然気づかなかった!」

探偵「なにが映ってるか、ゆっくりご覧下さい」



~映像~

犯人「ブッ殺してやる!」

被害者「や、やめろ!」

グサッ!

被害者「ぐぅぅ……」ドサッ

犯人「よし、指紋を拭いてからナイフを捨てて、糸を使ったトリックでこの部屋を密室状態にして逃げよう!」



探偵「ずいぶんと独り言が多い人が映ってますね……何か言うことは?」

犯人「えっと……」

犯人「そ、そうだ! この映像自体がニセモノなんだ!」

探偵「へ……?」

犯人「今はコンピュータグラフィックスとかが進化しまくってるからな!」

犯人「そうやってこんな映像をでっちあげたんだ!」

犯人「ひひひ、はははははっ! そうだ! 絶対にそうに決まってるぅぅぅぅぅ!」

探偵「はぁ……」

探偵「じゃあうかがいましょうか?」

犯人「おう、何でも聞いてくれ」

探偵「あなたの着てるシャツについてる、その返り血はなんです?」

犯人「あっ!? やっべ、着替えるの忘れてた……うっかりしてた」

犯人「こ、これは……そうだ!」

犯人「真犯人が俺に着せたんだ! そうに違いない!」

探偵「どうやって?」

犯人「それを推理すんのがてめえの仕事だろうが、探偵さんよぉ!」

探偵「もういいです。刑事さん、お願いします」

刑事「うむ」

刑事「逮捕する」ガチャッ

犯人「あれれぇ? なんで俺が逮捕されちゃうの?」

犯人「おかしい! こんなの間違ってる! 冤罪だ! 濡れ衣だ! 不当逮捕だ!」

犯人「あ、分かった! これは夢だ……夢に違いない!」

探偵「こんなに往生際が悪い犯人ははじめてですよ」

刑事「まったくだ」

犯人「これは夢だっ! 夢なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

……


……


……



犯人「……夢か」

犯人「いったい何度目だろう。こうやって自分が犯人だと指摘される夢を見るのは」

犯人「きっと自分の中の願望が、夢になって現れるんだろうなぁ」

犯人「俺は世界を平和にしたいがあまり、独自に大量の核ミサイルを作った」

犯人「そして、世界中あらゆるところに撃てるよう、核ミサイルをセットした」

犯人「ようするに、お前らが戦争したらこれ撃つからな、という脅しのつもりで用意したのだが」

犯人「俺は誤って、ミサイルを全弾発射してしまった」

犯人「地球上で助かったのは、俺特製のシェルターの中にいた俺だけ……」

犯人「人類史上最悪の殺人犯人となってしまったこの俺だが……」

犯人「俺を犯人だと指摘してくれる人間は……もういない……」

犯人「世界中……どこにも……いない……」










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