ドジっ子メイド「ドジっ子を舐めんじゃねェ!!!」 (22)


ドジっ子メイド「ご主人様、背中にホコリがついてま――」

ドジっ子メイド「キャーッ!」ツルッ

ドテッ!

ドジっ子メイド「いたたたた……」

主人「大丈夫かい!?」

ドジっ子メイド「はいっ! ケガはありません!」

主人「ふふっ、君は相変わらずおっちょこちょいだなぁ」

ドジっ子メイド「えへへ……」


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ドジっ子メイド「ご主人様、手作りのケーキです」コトッ

主人「お、ありがとう」

主人「いただきます」パクッ

主人「!?」

主人「なんだ!? この塩っぽいケーキは!?」

ドジっ子メイド「あ、やだ! 私ったら砂糖と塩を間違えて……!」

主人「ハハハ、まったくしょうがない子だ」

ドジっ子メイド「うぇーん、ごめんなさーい!」


ドジっ子メイド「紅茶をお持ちしました!」

主人「おお、すまないね」

ドジっ子メイド「キャーッ!」

バシャッ!

主人「あちちちちち……!」

ドジっ子メイド「ああっ、紅茶が!」

ドジっ子メイド「ごめんなさい、ごめんなさい!」フキフキ

主人「いやいや、大丈夫だよ。さいわい、ヤケドはしてないみたいだ」


主人「やれやれ、君は本当にそそっかしいねえ」

ドジっ子メイド「ごめんなさい……」シュン…

主人「しかし、君のそそっかしさは逆に癒やしにもなるんだ」

主人「無理に直そうとせず、そのままの君でいてくれたまえ」

ドジっ子メイド「ありがとうございます……ご主人様!」





メイドA「……」

メイドB「……」


メイドA「ねえ、なんなのあの子?」

メイドA「いつもいつもドジ踏んで、ご主人様に可愛がられてさ。あざといったらないわ」

メイドB「ホント!」

メイドB「いつまでたっても家事上達しないしさ。頭悪すぎじゃない?」

メイドA「実はさ……あれってもしかして、天然装ってるだけなんじゃないの?」

メイドB「ああ、ありそ~! ご主人様に気に入られるためにわざと、みたいな!」

メイドA「ドジっ子の仮面の裏には計算高いコンピュータ、ってオチ?」

メイドB「キャハハ、ウケる~!」



「その通りだよ!!!」



メイドA&B「!!!」ビクッ


メイドA「ひっ、あ、あんた……」

メイドB「いつからそこに……」

ドジっ子メイド「“ねえ、なんなのあの子?”からよ」

メイドA「ほぼ最初からじゃないの……」

メイドB「で、なんなの? さっきの“その通りだよ”ってのは?」

メイドB「まさか、あんたのドジっぷりは本当に計算だとでもいうつもり?」

ドジっ子メイド「そうだ……全ては計算だ」

メイドA「どういうことよ……」


ドジっ子メイド「まず……私はよくこける。こけまくる」

ドジっ子メイド「一人だけ摩擦の少ない世界に生きてるのか、と思えるほどに」

ドジっ子メイド「何もつまずくものがないところでこけるのが、どれほど大変か分かるか?」

メイドA「そんなの分かるわけないじゃない!」

ドジっ子メイド「ならば、やってみろ! ――今すぐッ!」

メイドA「わ、分かったわよ……」


メイドA「えいっ!」ドサッ

メイドB「とうっ!」ドテッ

メイドA&B「……」

メイドA&B(む、難しい……!)

ドジっ子メイド「どうだ、難しいだろう」

ドジっ子メイド「まず、わざとよろめくのがかなり難しいし、どうしても早めに手をついてしまう」

ドジっ子メイド「これではとてもドジといえるこけ方にはならん」

ドジっ子メイド「かといって、手をつかずケガをしたらご主人様にご心配をかけてしまう」

ドジっ子メイド「つまり、なんでもない地面で、まるで氷の上で滑ったかのようにこけ」

ドジっ子メイド「なおかつ、手で自分をかばわず、自分もケガしないようにこける」

ドジっ子メイド「これら全てを成し遂げなければ、とてもドジっ子なこけ方とはいえんのだ!!!」

メイドA「な、なんという……」

メイドB「難度!」


ドジっ子メイド「どれ、手本を見せてやろう」

ドジっ子メイド「きゃっ!」スッテン

メイドA「うまい……!」

メイドB「まるでスケートリンクでスリップしたような自然さ……」

ドジっ子メイド「な?」

ドジっ子メイド「ちなみに私はこのこけ方を習得(マスター)するまでに、一日千回の“こけ修行”を」

ドジっ子メイド「一年間繰り返したのだ!!!」

メイドA「365000回!!?」

メイドB「まさに、“こけのむすまで”だわ……!」


ドジっ子メイド「私の技はなにもこれだけではないぞ?」

メイドA「なんですって!?」

ドジっ子メイド「たとえば、料理で砂糖と塩を間違える凡ミス……ドジっ子にはよくある話だ」

メイドA「そうね……」

ドジっ子メイド「だが、砂糖も塩も本来優れた調味料だ」

ドジっ子メイド「間違えて入れたとしても、かえって味が引き締まってしまうケースも多い!」

ドジっ子メイド「それではドジにはならぬのだ!」

メイドB「たしかに……味がまずくならなきゃドジにはならないわね……」


ドジっ子メイド「一方で、どちらも摂取しすぎると毒になることは貴様らとて知っておろう」

ドジっ子メイド「ご主人様の健康を損ねるようではメイド失格。というかメイド以前の問題だ」

ドジっ子メイド「ゆえに、ただ砂糖と塩を間違えるだけでは駄目なのだ!」

ドジっ子メイド「料理の味はちゃんと損ね、なおかつご主人様の健康は損ねない分量を瞬時に計算し」

ドジっ子メイド「間違った調味料を入れねばならないのだ!」

メイドA「なんて……!」

メイドB「繊細な作業……!」


ドジっ子メイド「さらに、私はさっき紅茶をご主人様のお体にブチまけた」

ドジっ子メイド「この時、私がなにを計算していたか分かるか?」

メイドA「えぇ~と……なんだろ……?」

メイドB「分かった! 紅茶の温度だ!」

ドジっ子メイド「うむ、その通り」

ドジっ子メイド「紅茶はちゃんとご主人様がヤケドしないような温度にしておいたのだ」

メイドB「やった!」グッ

メイドA「やるじゃん……」

ドジっ子メイド「だが、それだけではないぞ」

メイドA&B「え!?」


ドジっ子メイド「まず、紅茶をどのぐらいの量こぼすか」

ドジっ子メイド「ご主人様の洋服は当然高級品……洗濯で落とせる量にとどめなくてはならぬ」

メイドA「なるほど……」

ドジっ子メイド「それと、どこにこぼすか」

ドジっ子メイド「たとえば、ズボンの股の部分にこぼすと、まるでおもらししたようになってしまう」

ドジっ子メイド「もしそうなると、ご主人様の羞恥心を刺激することになってしまう」

ドジっ子メイド「メイドとして、それは避けねばならんからな……」

メイドB「ごもっとも……」


メイドA「だけど、なぜ!? なぜそこまでしてドジっ子を演じるの!?」

メイドA「単に可愛がられたいというだけで、そこまでできるとは思えないわ!」

ドジっ子メイド「決まっているだろう」

ドジっ子メイド「ご主人様の清涼剤となるためだ」

メイドA&B「!!!」

ドジっ子メイド「ご主人様は大富豪、屋敷を一歩出れば、ワンミスも許されぬシビアな世界で生きておられる」

ドジっ子メイド「そういった鋭利な心には、“ドジをしながらも頑張る娘”というのが最高の癒やしになるのだ」

ドジっ子メイド「私のドジに触れている時だけは、“ミスの許されない世界”を忘れることができるからな」

ドジっ子メイド「しかしもし、ご主人様が心から望むのなら、私はいつでも完璧なメイドとなろう……」


ドジっ子メイド「分かったか?」

ドジっ子メイド「私がいかに計算を尽くして、ドジを重ねているかが」

ドジっ子メイド「ドジっ子を舐めんじゃねェ!!!」

メイドA「……!」

メイドB「……!」

メイドA&B「ははーっ!!!」

ドジっ子メイド「分かってくれればそれでよいのだ」ニコッ


ドジっ子メイド「では、これからも共にご主人様に尽くそうではないか」

ドジっ子メイド「同じ屋敷に勤めるメイドとして……な!」

メイドA「はいっ!」

メイドB「一生ついていきます!」


……

……

ガチャンッ!

ドジっ子メイド「キャーッ、ティーカップを割っちゃった!」

主人「ハハハ、大丈夫か?」

ドジっ子メイド「ごめんなさい……」シュン…

主人「いいんだよ、いいんだよ」

主人「おーい、すまないがティーカップを片付けてくれないか。この子にやらせると危ないからな」

メイドA「はいっ!」

メイドB「今すぐに!」


メイドA「……見て」

メイドB「ええ……今なら分かるわ」

メイドA(落ちたティーカップ、安物のティーカップだけが割れている!)

メイドB(しかも、私たちが片付けやすいように破片が飛び散っている!)



主人「あまり仲間に迷惑かけちゃダメだぞ?」ナデナデ

ドジっ子メイド「はいぃ~」



メイドA(あの子のあの姿は全て、精密な計算とおびただしい鍛錬の結晶なんだわ……)

メイドB(恐るべし……ドジっ子メイド!!!)










― 終 ―

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