【再開】オリロンパ(β) (163)

注意
・原作の世界観をお借りした、オリキャラによるコロシアイssです。
・以前エタってしまったスレの再構成になります。一部の設定、展開が変わっています。
・原作とはパラレルになります。

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もう、ここには誰もいない。

自分以外の何もかもが、初めから存在していなかったかのように。









【PROLOGUE】再起





意識が覚める。


???「……」


冷えた外気を肌に感じる。刺すような冷たさが全身を包んでいる。

その冷たさは、冬の朝によく似ていた。

???「……」

吐息の音だけが耳に届く。

私が今感じているものは、それだけで……視界には何も映っていない。


ああ……瞼が開いていないんですね。間抜けですね……私。

蓋を引きはがすように、ゆっくりそれを開いた。

酷く重いそれを開くと、黒一色だった空間は色づきを始める。


???「――――」


……視覚が完全に戻った時、認識していたものは非日常的な空間だった。


???「……え?」


私はそこで立っていた。

薄暗い中、聖者の描かれたステンドグラスが僅かに光を漏らしている。

長い卓が何列も並んでいて、奥に出口らしき扉がある。扉と反対方向には十字架が掲げられて、講壇が一つ置かれていた。

???「……」

見た限りでは、ここは礼拝堂のようだ。自分がこの場所にいて良い存在なのかと一瞬思う。

???(どうして……こんな所に……)

ここへ訪れたような覚えはどこにもない。……というより、私の中の記憶自体が酷く曖昧だった。

それでもどうやら、自分の素性だけは忘れていなかったようだ。

私の名前は、稲羽兎……

そして……超高校級の幸運


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【超高校級の幸運】稲羽 兎(イナバ ウサギ)

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ふと宝くじを買うと、3回に1回くらい少額が当たって……自販機で50回に1回くらいの確率で当たりが出る。

いつも朝、たまたま早く目が覚めて……天気が崩れそうな日に限って傘を持っていて……

稲羽「……」

そういうささやかな幸運なら存在するけど、どれも超高校級と呼ばれる程には思えなかった。

生きていられること自体が幸運というのなら、それは殆どの人間に当てはまる気もしますし……

しかし、この場所には何も心当たりがない。ここで私が眠っていたのは確かなようなのに。

稲羽(ああ、これは夢でしょうか?)

室内には奇妙な物が存在していた。

監視カメラと1つのモニター。この場の内観にそぐわないそれらが、天井の隅から覗いている。

その異物感は、夢の中でイメージがごちゃ混ぜになっているかのような。そんなちぐはぐさに思えた。

だから多分これは夢ですね。……多分。

稲羽「……あっ!?」

僅かに後ずさった拍子に脚を縺れさせて、そのまま横転する。

稲羽「うう……」

全身を打ちつけた衝撃に呻いた。頭にぐわりとした鈍痛が残る。

後を引いて生じる熱を含んだ痛みは、今いるこの状況が夢ではない事を暗に示しているようだった。

稲羽「……」

私は羽織っている兎に縋るように、彼女を指で掴む。

指に触れる僅かな温もりが暖かかった。こうしていると、兎が私の傍で見守っていてくれるような……そんな妄執を抱く。

稲羽「……」

兎さんとは小さい頃からいつも一緒だった。

今も……きっとこの子が導いてくれるでしょう。

稲羽「……そう、ですね」

とりあえず、ここから出て……


ガタンッ

稲羽「……?」

不意に音がした。音のする方向へ目を向けるが、そこにあるのは木製の講壇だけだった。

稲羽「……」

誰か、いるんでしょうか……

……見てこよう。少し怖いけど、私には兎さんが付いているから大丈夫……



稲羽「誰か……いますか……?」

???「……」

暗闇の中、大きな電子機器の画面が数字で埋めつくされて、ちかちかと光を漏らしている。

その微量な光が反射する中で、不気味な青白い顔が浮いていた。

稲羽「……ひっ」

ぽっかりと、抉り取られた痕のように真っ黒な目玉。それがただ、こちらを凝視している……

???「……(無)」

……よく見ると顔ではなく、ただの仮面だった。

何だか不気味だ。それにどこかで見たような。


服には、画面を埋めているものと同じような文字列が無数に連なっている。

何だか耳なし芳一みたいですね。

稲羽「あの……」

???「……」

仮面越しでは、彼がどんな表情をしているのか判別が付かなかった。

それでも彼からの返答に期待して、声をかけ続ける。

稲羽「私……稲羽兎です。あなたは……」

???「あー……うん」

仮面姿の彼は、ばつが悪そうに声を上げる。

???「……ハック・ウィルヘルム」


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【超高校級のハッカー】ハック・ウィルヘルム(-)

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本名不詳、素性の一切が不明のハッカー。唯一分かっているのは高校生だという事。

サイバー犯罪などの対策をしているような人間ではなく……完全に、愉快犯的な犯行にその能力を使っている。

そういえば……あの仮面も彼が犯行声明を行う時に付けてますね。

稲羽「あなたには……ここがどこなのか……分かりますか?」

ハック「さぁな……知りたくも無ー……」

ハック「へっ……」

彼も……超高校級と呼ばれている人間です……

稲羽「……」

偶然でしょうか?

……そもそもここはどこですか?


【INFO】
ハック・ウィルヘルムと出会いました

【中庭】

礼拝堂を出ると、独特の芳香に満たされた。

一面が薔薇に囲まれた庭。

庭と言っても天窓から外が見えるのみで、屋内だった。

「ん……ぅ……」

天窓から見える外は、まだ薄暗い。

薄明りの中で、赤い薔薇が敷き詰められるように咲いている。

扉は2つ。先程教会から出てきた扉と……それとは別の奥の入り口、或いは出口らしき木製の扉。

稲羽(まだ、先があるんですね)

それらには長い間放置されてきたもののように、蔦が鬱蒼と絡みついている。

???「だめ……ん、あぁ……っ」

さっきから苦しそうな声が聞こえる。

大きなリボンを付けた、全体的に緑色の色調をした女の子。薔薇の前に屈んで何かに耽っている。

……何をしているんでしょうか?

???「はぁっ……はぁ……ぇ……?」

声を掛けられずにいると、リボン少女の大きな瞳がこちらを捉えた。

頬がほんのりと赤らんでいて、小柄で可愛らしいという印象を受ける。

???「淫乱そうな兎さん……もしかして……混ざりたぃの……?」

稲羽「え……いえ」

あんまり……混ざりたくは無いですね……

???「そっかー……」

少女は少し熱っぽい様子を残したまま、小さく笑ってこちらに向き合った。

???「……わたしは四季ヶ原咲。植物を愛しているよ」


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【超高校級の園芸部】四季ヶ原 咲(シキガハラ サキ)

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枯れた土壌を蘇らせ、その全土を花で埋め尽くすという環境保全を続けている。

彼女が自身の在籍する学校に立ち上げた園芸部は、最早園芸というより個人的な植物研究機関と化していて……

そんな状態故に部員は彼女しかいないらしい。

稲羽「……」

スケールの大きな話ですね。

四季ヶ原「わたしが専門的に扱ってるのは……人工授粉だょ。植物の更なる発展の為の手段の1つだね」

稲羽「品種改良……とかですよね」

四季ヶ原「ぅん。味の改良とか、見栄えの良さの向上とか……より良い植物を作る為に……」

四季ヶ原「……っていう名目にはなってるけど……わたしは植物ってみんな素敵だと思うんだ」

四季ヶ原「生まれつき弱くて劣等種となってしまった子だって、みんな必死で生きようとして……」

四季ヶ原「健気で……愛いょ……」

よほど、植物が好きな子なんだな。

稲羽「そういえば……さっきのも人工授粉の一環ですか?」

四季ヶ原「んー……こっちはね……」

四季ヶ原ちゃんは蕩けるような表情を浮かべる。

稲羽「……?」

四季ヶ原「関係を発展させる為の行為……酷く一方的だけどねぇ」

四季ヶ原「でもね、こうするとね……あへぇ……背徳感が凄いの……」

四季ヶ原ちゃんは薔薇の中に指を焦らすように挿し入れ、そのまま淫猥な動きでゆっくりと掻きまわす。

四季ヶ原「あっ……良い、ょ……んんっ……ぁ♡」

稲羽「……」

愛が……少し過激な方向に進んでしまった例でしょうか。

???「おい……」

彼女をただ見つめていると、背後に学ラン姿の男性が立っていた。

首からホイッスルを下げている。厳格そうな顔つきの人。

彼は精悍な表情を保ったまま、つかつかとリボン少女の元へ歩いて行く。そしてそのまま、地べたに座り込む彼女を見下ろした。

???「また下らん戯言を抜かしていたのか?」

四季ヶ原「ぇー……下らなくないょー……性欲は動物に強く根付いた本能だからね……」

四季ヶ原「あなたの身体だって、ちょっと舌で嬲ってあげれば……はぁ、本能に追従しちゃう筈だし……」

四季ヶ原「人間……気持ち良い事には抗えないからね……、んっ……」

話しながら喘いでいる四季ヶ原ちゃん。

学ラン姿の男性は、そんな彼女の様子に僅かな苛立ちを見せる。

???「ふん……貴様が何を思おうと勝手だがな……そのように口に出すのは慎むんだな。迷惑行為でしかない」

四季ヶ原「でも……事実でしょ?」

???「チッ……」

学ラン姿の男性はそれ以上の追及を止めた。そして彼の意識は私に向けられる。

???「少し良いか? 2つほど問いたい事がある」

稲羽「は、はい……」

???「お前は、自分がこの場にいる理由を把握しているか?」

突然振られた質問。それも……丁度私の感じた疑問と同じ。

横を見ると、ハックさんはいつの間にか姿を消していた。

稲羽「……いいえ。何も覚えていません」

稲羽「どうして自分がここにいるのか……ここまで来た経緯も、そもそもここがどこなのかも」

???「……そうか」

???「ではもう1つ。……お前は超高校級の人間で間違いは無いか?」

稲羽「……はい」

ハックさんがいなくなった事に少しの寂しさを覚えて、自分の素性を伝える。

学ラン姿の男性は、どこか想定通りだといった表情をして頷いた。

???「幸運か……なるほど、話は分かった」

???「橘高直人だ。一応審判として活動している」


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【超高校級の審判】橘高 直人(キッタカ ナオト)

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彼は球審を中心として活動しているけど、神出鬼没であらゆる種目の試合に現れる。果ては喧嘩の仲裁まで行うらしい。

非常に迅速かつ公平な審判をし、その審判の多くは双方が納得いくものとなるようだ。

四季ヶ原「んぇー……可変なんとかゾーンって……」

橘高「非常に残念だが無いな」

……確かに迅速ですね。

橘高「そんな判定基準に一貫性の無い輩がいるとすれば……選手達にしても観客にしても害でしかないだろうな」

四季ヶ原「ぁひ……」

橘高「ところで……」

橘高さんが茂みの中に目線を送る。そしておもむろに茂みの中へ手を入れる。

ハック「……」

橘高「貴様についても聞きたいのだが? 良いな?」

ハック「……へっ(死)」

ハックさんは、橘高さんに胸倉をつかまれる体制になっていた。

ハックさん……そんな所にいたんですね。


【INFO】
四季ヶ原咲と出会いました
橘高直人と出会いました

【体育館】

中庭の扉を出た。

扉を開くと、眩い光が差し込んで……目の奥を深く突き刺す。

少しすれば眩さも薄れていき、景色をはっきりと認識出来るようになっていく。

稲羽(ここは……)

広大な空間。少し古錆びた玉座が鎮座している。

床には煤けた赤い絨毯が敷かれていて、天井にはシャンデリアが吊るされている。

その重鎮さと、色褪せながらも豪奢な雰囲気は、西洋の古城を彷彿とさせる物だった。

けど……

稲羽「……」

王座はステージ上にあって……天井からはバスケットボールのゴールと……

ここは何というか、体育館と古城がそのまま融合したような空間だった。

???「ひええええん」

そしてその空間の中央に、数人の男女が集っている。

???「ノウマクサンマンダボダナン……――……」

???「oh、お経ですか?」

彼らの様子を窺う。

不安そうな人、考え込んでいる人、逆に平然としている人……様々だった。

橘高「これで全員だ」

稲羽「全員……」

橘高「この場には超高校級と呼ばれている人間が16人集まっている。それ以外の人間は確認できなかった」

稲羽「超高校級の人間だけ……ですか?」

橘高「ああ。どうにも奇妙な話だが……一先ず素性だけははっきりさせておけ」

ハック、四季ヶ原、橘高と合流したところで終了です。

続きます。

開始します。

・銃を下げた無表情の女の子


???「…………そこの……兎」

カウガール姿で、身体に所々古傷が見られる金髪の女の子。表情が無く、腰には長い銃を下げている。

稲羽「私……ですよね」

???「…………うん……そう……」

彼女は無表情のままで、私に問いかける。

???「…………喰える?」

稲羽「多分……喰えないんじゃないかと」

私は……兎さんを着ていますけど、肉体は人間ですよね。……人間を食べる対象に含むというのなら別ですが……

???「冥途の土産に…………名前を…………」

彼女は無表情で不穏な事を呟いて、自分の名を口にした。

???「リーチカ・ランジェ…………」


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【超高校級の狩人】リーチカ・ランジェ(-)

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海外のどこかの村で狩りをして生活していたが、近年来日して獣害対策などを行っている。

彼女は狩りに銃や各種罠を用いて、その腕は百発百中だとか

リーチカ「兎…………狩っても良い?」

稲羽「……い、いいえ」

なるべくなら、まだ……死にたくないですね。

リーチカ「…………うん…………ほとんどがそう答える………と思う……けど…………」

リーチカさんは帽子を深く被る。しかし表情は変わらず無のまま……

リーチカ「…………兎に…………拒否権は……ない…………」チャキ

稲羽「……!?」

彼女はあくまで無表情なまま、私へ向けて銃を構えた。

……本格的に危ない気がする。兎さんもそう言っている。


【INFO】
リーチカ・ランジェと出会いました。

・金髪に青が混じった髪色の人


自分が人間だという事を、何とかリーチカさんに伝えた。

稲羽「はあ……」

???「あら、今度は兎さんなの」

稲羽「……あ」

派手な髪色の……女性?

……綺麗な人……だなあ。目鼻立ちが整っていて……

???「疲れてるみたいね? 分かるわ……突然こんな事になっちゃって……」

???「おまけにここって個性の塊って感じの子ばっかりで……アタシも若干地味だからさ……ついていけるかしら?」

結構派手なような……

???「あ、ゴメンね。アタシは加々美優紫よ」


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【超高校級の美容師】加々美 優紫(カガミ ユウシ)

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凄腕の美容師。老若男女問わず顧客を持ち、状況に応じて一番最適だと判断した髪型を提案するらしい。

……というか、彼って確か男性ですよね。

加々美「やっぱり女の子は……身だしなみもしっかりしてるわね。それにその兎ポンチョもグッド」

稲羽「そう……でしょうか」

加々美「ええ。一体どんなケアしてるのかしら? お姉さん知りたいな」

稲羽「……」

とりあえず、普段の手入れの工程を伝えた。

加々美「……なるほどなるほど。しっかりやってるのね」

加々美「もし良かったら、違ったお手入れも試してみない? サービスするわよ?」

稲羽「良いんですか?」

加々美「勿論よ」

……美容師さんに髪を弄ってもらえるなんて。今、手持ちのお金が無いから……帰ってからになりますね。

加々美「贔屓にしてね~」


【INFO】
加々美優紫と出会いました。

・三角巾にエプロン姿の女性


???「こんにちわ」

稲羽「こんにちは」

三角巾を被ったエプロン姿の女性。女性の付けたエプロンの腹には、写実的な胎児が描かれている。

???「ねえ……試しに飲んでみる?」

彼女は私の身体を抱き寄せ、自身の胸を押し当ててくる。……とても大きくて……柔らかい……

???「うち、お母さんじゃけぇ……いっぱい出るわよ」

稲羽「……」

なんて事を言う人なんですか……?

稲羽「あの、母乳は十年以上前に卒業してますので……」

よし、完璧な言い訳ですね。これで彼女も納得してくれるはず。

???「でも、きっと……おいしいよ?」

稲羽「ひええ」

???「……あらあら。まだ、ちょっと怖いのかな……? じゃあ、まずはご挨拶しましょうね」

???「那波千代子です。超高校級のベビーシッターじゃ……」


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【超高校級のベビーシッター】那波 千代子(ナバ チヨコ)

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これまで何人もの赤子を育て上げてきた高校生ベビーシッター。彼女の育成は、対象に愛を注ぎつつ、着実に能力を伸ばしていく方針。

……という話。

那波「貴方は、哺乳瓶の方がええかの」

稲羽「ど、どっちも遠慮し……」

那波「うふふ」カポッ

稲羽「ーッ!!!!」

それから私は、那波さんに無理矢理ミルクを注がれ続けた。

味は……何だか苦かった。


【INFO】
那波千代子と出会いました。

・派手な装飾に身を包んだピエロ


???「ゴホ、ゲッホ!!!!」ビチャッ

???「……Hi☆」ダラダラ

那波さんの背後から、ハイカラな男の子がぴょこんと顔を出した。

というか、全身に包帯を巻いた血だらけの……これは所謂、ピエロですね。

彼は喀血しながらも、ニコニコと朗らかな笑顔を浮かべていた。

那波「もう大丈夫?」

???「うん」

ピエロ……

稲羽「チンドン屋……みたいですね……」

???「Oh……チンドン屋って今時……?」

???「君って……すっごく変な子だね?☆ ちょっとだけドン引き」

か、考えていたことが口に出ていたみたいです……

???「僕の名前は珍 問屋……じゃなくて、杯団。サーカス団さぁ☆」


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【超高校級の道化師】杯 団(サカス ダン)

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とあるサーカス団に所属している道化師。

彼はサーカス中の事故で高所から転落しても平然としていたらしく、その丈夫な肉体が評価されているらしい。

稲羽「あの、ところで……その怪我は……」

杯「うん……さっき廃材に突っ込んで……全身にPierce」

……本当に大丈夫ですか?

杯「It's a pain……僕はこんなドジだから……うぅ……うえぇぇ……一座でも未だに末端なのさぁ」

稲羽「……」

杯「でもね! Don't worry! 僕は幸せなんだ。皆が僕を見て笑ってくれるから」

杯「それこそ……僕ら道化の生きる意味さ……☆」

杯君は笑っていたかと思えば泣いて、また笑って……そんな表情の変遷を忙しなく繰り返していた。


【INFO】
杯団と出会いました。

・着物姿に簪を刺している女の子


???「……」

着物姿の、淑やかそうな女性。

彼女は静かに目を閉じ、何かに意識を向けているようだった。

???「……どなたか……いらっしゃいますか?」

稲羽「あ……はい」

私の返答を確認すると、彼女は深々と礼をする。

???「失礼致しました。少し、音を拝聴していたのです」

???「お初にお目にかかります。わたくし、お琴を弾かせて頂いております……辰爾和琴と申します」


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【超高校級の琴奏者】辰爾 和琴(タツミ ワコ)

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代々琴奏者を輩出してきた辰爾家の跡取り娘。

辰爾家は琴奏者として伝統的な家系で、その正式な後継者である彼女の琴は人の感情に強く作用する働きがあるらしい。


辰爾「稲羽兎様……因幡の白兎の伝承を思い起こさせますね」

彼女は考え込むように、手を顎に添える。その一挙一動に丁寧さが伴っている。

辰爾「皮を剥がれた痛みに泣いていた兎に、正しい治癒法を教えた大国主命は……兎から予言を受け、八上姫を娶る事になります」

辰爾「その兎はある意味では、大国主命に幸運を齎したと言えるのではないでしょうか」

確かに兎って、縁起の良い物の象徴とされる事がありますけど……この話も、少なからず関係しているんでしょうか。

辰爾「……稲羽様は、その白兎の生まれ変わりかもしれませんね」

稲羽「そ、そうですか……?」

辰爾「ええ。兎で幸運ですから、何かの縁を感じます」

稲羽「え……えへ……」

……な、何を喜んでいるんだ、私は。

辰爾「ふふっ」

辰爾さんは、少し悪戯っぽく笑っていた。


【INFO】
辰爾和琴と出会いました。

・全身に機械を付けた小柄な少年


小学生くらいの幼い男の子。全身にアンティークな機械を付けている。

彼は天井の隅をじっと見つめている。

那波「そうだ、僕も自己紹介してみようか。兎のお姉さんにこんにちは」

???「ん……ボク様か?」

少年が反応を示す。彼は視線はそのままに、声だけをこちらに向ける。

???「ボク様は……一応高校生の筈なんだが……」

那波「それはどうかしら……」

???「ん? そうか……」

少年は、当てが外れたと言うような声色で呟く。

???「ボク様の名前は……絡繰時矢。こっちは確かな筈だ……うん」


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【超高校級の機械職人】絡繰 時矢(カラクリ トキヤ)

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自作の機械を売ったり、時計などの修理屋として生計を立てている。

彼の作った機械は、思い付きで不可思議な機能が付加されるらしい。

絡繰「……」

彼の小さな胸には、時計が付けられている。

針は4時を示している。

中庭から漏れていた灯りからすると……今は朝の4時という事になるでしょうか。

絡繰「……ところで、あそこの監視カメラ。随分と高性能なカメラみたいだな」

絡繰「恐らく、今流通している技術では考えられないような機能が組み込まれているに違いない」

稲羽「そう……なんですか?」

絡繰「ああ。是非とも分解してみたい。一体どんなパーツを使っているのか……」

絡繰君は、何かに思いを馳せるように目を閉じた。

絡繰「アレをバラせば……世界征服に一歩前進するだろうな」

……世界征服?


【INFO】
絡繰時矢と出会いました。

・アラビア調の褐色女子


???「……」

アラビア調の衣装を着た女の子が、冷たい目線をこちらに向けている。

彼女の格好は薄い布地で露出度が高く、褐色の肌が覗いている。……目のやり場に困る。

???「あのさ……」

稲羽「は、はい……」

???「さっき彼と親密そうに話していたけど……ボクより美しい自信があるのかい?」

稲羽「……ええ……っと……」

???「ふふ……ないだろ? 出直して来なよ……」

稲羽「……」

出直すって……何の事でしょうか……

???「……でもま、こんな状況だしね。名前だけは伝えておくよ」

???「小倉真帆だよ」


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【超高校級のダンサー】小倉 真帆(オクラ マホ)

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アラビアンダンサー……ベリーダンサーとも呼ぶ。

熱心なマニアから彼女の名前を耳にするが、肝心の彼女については謎に包まれている点が多い。彼女は所謂アングラな存在だろうか。

小倉「……話してる最中にじろじろ見てるなんて、キミは随分余裕だね」

稲羽「えっ? ごめんなさい……」

そんなに見ていたんでしょうか、私……

小倉「……ボクの身体に興味があるのかい?」

稲羽「えっと……」

……無いと言えば嘘になる。

彼女の身体……無意識に視線が吸い寄せられて、そのままずっと見ていたくなるような怪しい魅力がある。

小倉「良いよ。気の済むまで見ても」

小倉「ふふ……気が済むかは保証できないけどね」

稲羽「……」


【INFO】
小倉真帆と出会いました。

・宣教師姿の男性


先程から何かを唱えている人。

経典らしき書物を手にした、宣教師姿の男性。不思議な神々しさを伴って、彼は静かに佇んでいた。

???「……――――…………――……」

彼はしばらく唱え続けていたが、やがてそれも終わりを迎えた。

???「集団催眠……有り得ない話では御座いませんね」

稲羽「……」

???「おや、御挨拶が遅れましたね」

???「私共は迎心教団。人々の心を迎え、救う事を目的とした団体で御座います」

???「そして私は天草神門。迎心教団の教祖を担っております」


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【超高校級の教祖】天草 神門(アマクサ シモン)

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迎心教団は、近年発足した信仰宗教で。今では信者の総数が1000万を超えるらしい。

活動内容はよく分からないが、「健全な生を」とか、「平等なる救い」とか、そんな謳い文句はよく目にする。

天草「人々を苦しみから解放する事が、私共が与えられた役割です」

稲羽「私共……?」

天草「はい。離れていようと強く感じるものです……我が同志達の生命の躍動を……」

す、すごい……

稲羽「……もしかしてエスパーですか?」

天草「エスパー……近い事象が働いている可能性は大いに御座いますね」

天草「心理的な繋がり……共通の意識を以って活動する類似性による調和……」

天草「私共は迎心教団という1つの枠組みを介し、無意識的に繋がる事を可能としているのです」

稲羽「……」

どういう原理なんでしょうか?


【INFO】
天草神門と出会いました。

・煙管を手にした前時代的な女性


???「やぁ」

羽織を着て、煙管を手にした女性。片目が髪の毛で隠れている。

まるで……国語や歴史の教科書に載せられているような容貌です。

???「私の代表作は『不幸代行人』……まあ、代表作云々は今適当に決めたのだがゴホン」

???「しかし勿論、君もこの表題を一般的教養として有しているね? 私は返答を促す」

稲羽「はい……」

特異な血筋の生まれの主人公が、他人の不幸を代行して引き受けるという怪奇物だった。

主人公が己の身に苦痛を受け続けて、周囲に対して呪いを抱き、その感情に徐々に蝕まれていく。

恐怖を覚えつつも、彼に少しだけ共感を抱いた。

???「はは、嬉しいね……さて、そんな君には説明しなくても分かっているとは思うのだが」

???「様式美という事で名乗っておこう。私こそ現代に蘇った文豪、辻垣理緒であると」


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【超高校級の小説家】辻垣 理緒(ツジガキ リオ)

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辻垣「君は……超高校級の幸運だったね。良い機会だ、是非君の幸運に関するエピソードを聞かせてくれ賜え」

辻垣「例えば石油を掘り当てたとか……そんな事があったら是非肖りたいところだ」

稲羽「そんなに……運は良くないですよ」

辻垣「ははは、謙遜することは無い」

辻垣「超高校級と呼ばれる以上、君には何らかの能力が備わっている筈だ……私は興味深そうに君の顔を覗き込む」

彼女は自身の言葉通り、何かを考えるような様子で私の顔を覗き込む。

辻垣「自己否定などしていては、折角の肩書が泣いてしまうよ」

稲羽「……」

でも……あんまり自信ないんですよね。


【INFO】
辻垣理緒と出会いました。

・帽子に札を付けた少年


???「嘿呀!!!」

壁を殴りつけている、中華風の服装の男の子。

帽子から顔全体を覆うくらいのお札が下がっていて、完全にキョンシーと形容できる。

???「……アイヤー!? 嚇到我了!?」

稲羽「!?」

???「何だお前!? お前は誰だ!?」

稲羽「わっ、私は……あ、初めまして。稲羽兎です」

???「稲羽……? 稲羽、兎……稲羽兎。稲羽兎……稲羽兎……稲羽……稲羽兎……」

???「我、李紅運」


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【超高校級の拳法家】李 紅運(リー コウウン)

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彼は中国拳法家として中国各地を放浪しているらしいけど……詳しい事は分からない。

稲羽「キョンシーですか? こうして……腕を伸ばしてピョンピョコ……」

李「どこを見たらキョンシーに見えるのだ?」

稲羽「……」

お札とか……かな

李「キョンシーとは要するに死体の活動であろう? 中々縁起がよいな」

李「まあ、そのように蘇ったところで奴らが……決定的に欠落しているのは変わらぬが」

李「……というか! お前こそ何なのだ? 兎の真似事か?」

李さんが、私の顔をまじまじと見つめてくる。

そして、自身の額の札を指で遊ばせながら話を切り返す。

李「よいか? この札は、我が老師により施された符呪にすぎない」

稲羽「符呪……」

李「ああ。絶対的な服従の」

稲羽「……」

やっぱり……キョンシーじゃないですか……?


【INFO】
李紅運と出会いました。

・長いコック帽を被った女の子


???「ひええええええええっ!!!」

コックコートを着て、やけに縦に長いコック帽を被った女の子。彼女の背丈の半分以上はあるだろうか。

彼女は頭を抱えて、膝をガクガクと震わせている。

???「ゆゆ……悠長に名前なんて言ってる場合なのですか……ッ!!!」

稲羽「え?」

???「こんな大規模な誘拐沙汰ですよ……!? 米菓たち……きっときっと! 臓器を売られるんですよ!」

???「臓器の活きをよくするために、きっと……危ない人たちから執拗に拷問を……」

稲羽「……」

???「いやああああああ!!! 痛いのは嫌なのです!!!!!!!! せめて殺してからあああああ」

稲羽「お、落ち着きましょう! まずは……し、深呼吸です、はい。すーはー」

???「す、すーはー……」

しばらく2人で深呼吸をつづける。

……そうして彼女もようやく落ち着きを取り戻したようだった。

???「はぁ……ごめんなさい……取り乱してしまって……」

???「こ、これで……15回目なのです」

稲羽「……」

自己紹介の度に……取り乱していたって事ですね。

かなり心配症の子みたいだ……でも、こんな状況じゃ無理はありませんよね。

???「米菓は……米菓リリィなのです。しがないパン屋なのです」


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【超高校級のパン屋】米菓リリィ(ベイカ-)

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彼女の作るパンはその中毒性から『麻薬入りパン』とか『アンパン(隠語)』といった異名を付けられている。

インターネット上では、彼女のパンをただ崇拝する米菓リストという謎集団まで現れだした。

米菓「はあ。本当なら仕込みをしている時間なのですのに……」

米菓「あー、パンをしこたま焼きたいのですー」


【INFO】
米菓リリィと出会いました。

・髷を結ったふくよかな男性


さっきから……ずっと気になっていた人。

???「……」

ふくよかな男性。頭頂部の髷が、光沢を発しながら雄々しく主張している。

あの肉付き、立ち振る舞い、貫禄……私は、あの人を知っている。

四季ヶ原「あー……おでぶさんだ」

四季ヶ原「乳房山だっけ……? 潮の吹きだっけ……?」

稲羽「違います! 沙慈の海さんです!」

???「……いかにも。姓を沙慈、名を百舌と申すでごわす」


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【超高校級の相撲取り】沙慈 百舌(サジ モズ)

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現役高校生にして力士……

彼は稽古を重ね続け、どんどん上り詰め……横綱間近という話も出ている。まさに期待大です。


稲羽「沙慈さん! いつも試合……いえ取組を見ています! こうして姿が見れて感激です!」

四季ヶ原「ミーハーくさいねぇ」

沙慈「はっはっは、娘っこよ。ありがとう。何だか照れるものでごわすな」

豪快に笑う沙慈さん。かっこいいなあ……

沙慈「うむ、それでは……」スッ

稲羽「……!」

沙慈さんが、私へ向けて手を差し出す。

これは……握手の合図。

稲羽「あ……あぁ、ぁ……」

稲羽「……」ガクガク

私は恐る恐る彼の手に触れる。彼の大きな手が、私の手を握り返す。

力強い手の平に掴まれ、彼の熱が全身へ循環するように……私の身体を熱くする……

沙慈「よろしく、娘っこ」

稲羽「よ、よろひくお願いしまひゅ……」

もう、右手洗わない……

四季ヶ原「イッちゃった……」


【INFO】
沙慈百舌と出会いました。

一通りの挨拶を澄ませる事が出来た。

李「……ところでこれは何の集まりか? 忘れてしまった」

四季ヶ原「それがねぇ、皆忘れてるんだょ。綺麗さっぱりしっぽりねぇ」

稲羽「皆さんも……ですか?」

四季ヶ原「ぅん」

全員、記憶の無いままこの場にいるらしい。

沙慈「妙な話でごわすな。誰も彼も超高校級の肩書を冠している」

杯「偶然じゃないかな???」

ハック「なワケ無ーだろ?(爆笑) 確率的に換算してみろ」

ハック「全人類……そっから俺達16人が引き抜かれる可能性……へっ、とんだ低確率、低低低低低確率だな」

加々美「犯人は何の為にこんな事したのかしらね?」

絡繰「超高校級に用があるんじゃないか? 純粋に能力を求めているのか、怨恨の類なのかは知らないが……」

絡繰「何せボク様は天才だからな、他人の羨望を買ってしまう」

四季ヶ原「すごい自信だねぇ……」

辻垣「集まったのは私達自身の意思で……何かの原因で記憶が……なんてね」

辻垣「はは、よく出来た話ではないかね?」

???「やぁ」

稲羽「……?」

いきなりツートンカラーの熊が現れた。

それは奇妙な光景だったが、その熊の姿はどことなく可愛らしく思えた。

ハック「何だ……こいつ……」

???「ボク……モノクマです。この施設の管理者です」

???「そして現在高校生であるオマエラを導く……有体に言うと教職員です」


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【管理者兼学園長】モノクマ(-)

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管理者? 教職員?

米菓「はあ!? 変な嘘はややややややややや」

モノクマ「嘘じゃないよ!」

熊がぷんぷんと腕を振る。挙動は可愛らしいが、言葉の端々が胡散臭い。

辻垣「教職員と言うが……ここは学校の類なのかい?」

モノクマ「まあ、形式上は。オマエラは高校生だしね、才能を救うと書いて救才学園とでもしようか」

四季ヶ原「入学した覚えも無いんだけどねぇ」

那波「うふふ、可愛い赤ちゃん。おまんま飲む?」

モノクマ「ボクは、親に全てを支配される赤子とはまるっきり正反対の存在です」

モノクマ「何せオマエラを管理する役目を担ってるからね」

モノクマは自分への言葉をのらりくらりと交わす。

絡繰「お前、分解しても良いか?」

モノクマ「どこの世界に、「身体をバラさせてください」っつって二つ返事でOKくれるような人がいるのかな?」

モノクマ「でも、そうだね……ボクの答えは。……OK! 分解しても良いよ」

モノクマ「ただし、要件が終わってからで……あ、あと……優しくしてね……?」

絡繰「出来る限り優しくするさ」

モノクマ「じゃあ簡潔に言うよ」

モノクマ「オマエラには、今この瞬間からここで暮らして貰うから」

ハック「……あ? なんだって」

モノクマ「キミ達全員でこれから、共同生活を行うんだ」

ハック「……は?(死)」

唐突な話だった。それでいて目的が不明瞭で……

僅かに不安が立ち込める。

辰爾「……何故、そのような事を行う必要があるのですか? それもそちらの独断で」

沙慈「うむ。少々急でごわすな、連絡なんかもしておらんし」

モノクマ「ほら、すぐぶーたれる。これだから現代っ子は困る」

米菓「ひえええ……米菓、店を開けっぱなしなのです……」

米菓「早く帰らないとお父さんが過労死するのです」

絡繰「……そういえば、その共同生活に期限は設けているのか?」

モノクマ「期限?」







モノクマ「無いよ」

モノクマ「これからは、この空間がオマエラの世界になるんだ」





辻垣「それはつまり……死ぬまでという事かね?」

モノクマ「そーでーす」

モノクマはさっきと変わらない、至って可愛らしい様相で答える。

けれどその答えには……漠然とした恐ろしさだけしか感じられなかった。

稲羽「……」

辻垣「死ぬまでならば……早めに命を絶てばすぐに解放されるという訳だね」

加々美「縁起でもない……」

米菓「ひええええ! 米菓は早く帰りたいのです!」

米菓「は、早くしないと粉塵爆発で店が焼け野原になってしまいます!」

モノクマ「大丈夫、何とかなるよ。秩序を乱すような人が出ないよう、罰則も完備してあるし」

モノクマ「細かい事は気にしないで、共同生活をエンジョイすれば良いよ」

橘高「待て。貴様には説明する義務がある。何が目的でこんな事を仕出かしやがった?」

橘高「そして何故、俺達の記憶に抜けがある? 原因は何だ?」

モノクマ「……」

モノクマは無言になる。

橘高「……チッ、くだらんタヌキだな。所詮貴様は二流以下か」

モノクマ「タヌキじゃなくてモノクマ!」

杯「皆は嫌がるけど! 僕はここって良いところだと思うな!」

杯「MonochromeでPsychedelic! そして笑顔がとってもCuteな熊さんもいるしね!☆」

杯「マーベラス!」

米菓「うええええん! 何でもしますから帰してくださいぃ!」

四季ヶ原「……何でも?」

ハック「そ、そうだ……あ、あんなカルト男といられるかよ……(怯)」

天草「……」ニコ

ハック「クソ(死)」

口々に非難が上がる。

そうです……理由も分からないし……

小倉「まあ、ボクはあの人さえいれば良いんだけど」

加々美「……」

小倉「出来れば……こんな窮屈な所じゃない方がありがたいかな……」

モノクマ「……しょうがないなぁ」

モノクマ「出たい人の為に……特別な条件を用意してあるんだ」




モノクマの声が冷たくなる。

……ただの、私の思い込みかもしれない。

けれど急に、周囲の空気が冷えきったような気がして。強い悪寒が全身を巡った。


モノクマ「うぷぷ、それはね……」


その笑い声には、どこか聞き覚えがあって……

それは嫌な思い出を抉るような……悪意を凝縮させたような表情で。



モノクマ「秩序を破れば……そうだねここにいる中の誰かを殺せば……」

モノクマ「そいつには、秩序を乱した罰としてここから出て行ってもらいまーす!」


稲羽「……え?」

モノクマ「殺し方は問わないよ。色々あるよね」

モノクマ「刺殺で一発勝負……またはめった刺し……」

モノクマ「撲殺、絞殺、毒殺……はたまた拷問の要領でじわじわ嬲り殺し……」

四季ヶ原「わたし、毒は好きだよ。植物から分泌される卑猥な汁だもん……」

李「今はそれどころではない気がするな」

杯「HEY! モノクマさん! 君を殺すっていうのもアリかな?」

モノクマ「ダメだよ。これは生徒間でのコロシアイだからね」

モノクマ「ほら、ボクは生徒じゃないし」

モノクマ「ボクも殺したり殺されてみたいけど、生徒じゃないから駄目なんだ。ああ、つれえわー」

杯「そっか! あはは!」

モノクマ「理解が早くてうれし」


パン


モノクマ「いっ」

杯「……????」

モノクマさんがどうにかなってしまったところで終了です。

続きます。

音が聞こえたと同時に、モノクマが呻いた。

モノクマ「な、なに――――あっ」パン

間髪入れずに同じ音が響いて……モノクマの身体が弾けた。

モノクマ「――」

モノクマは身体に穴を開け、そのまま糸が切れた様に倒れ込む。

そうして倒れた彼は、動きの一切を止めた。

ハック「……(笑)」

那波「……え? え?」

彼の身体から目線で辿ると、銃口に行きつく。

リーチカ「…………」

リーチカさんが構えた銃から、煙が立ち上っている。

杯「……What!?☆ どうしたんですか!? モノクマさん!」

杯「ねぇねぇねぇ!!!」バラバラバラ

絡繰「揺すりすぎてパーツが飛び散ってるぞ」

もう声は聞こえない。

さっきまで揚々と言葉を発していた彼は、最早何も言う事が出来ない残骸となっていた。

彼の最期は、あまりにもあっけないものだった。

那波「こうして見ると……やっぱり小さい子じゃの……」

天草「こんな御方でしたが、命には変わり御座いませんしね。供養致しましょうか」

李「卒塔婆でもぶっ刺すアルか?」

天草「そうですね、それが良いでしょう」

李「在天国安眠」グサ

天草「南無阿弥陀仏……」

辻垣「酷い死体蹴りを見た」

加々美「……っていうか、いつもそんなの持ち歩いてんの?」

結局……彼が言っていた事は何だったんでしょうか……

ここから出るには……誰かを殺すとか……

稲羽「……」

本当に……これで終わりなんですよね?

四季ヶ原「何はともあれ、これで帰れるねぇ」

米菓「ほ、ほんとにほんとですか……?」

四季ヶ原「良かったね。リリィちゃん。お店が倒壊しなくて済んだょ」

橘高「……」

安心しきっている人もいれば、残骸を訝しげに見ている人もいる。

辰爾「……?」

辰爾「……何か、音が」

ザク


音が響いた。

柔らかいものが裂かれる音と……何かが弾けるような水音。



気が付いた時には、もう事は済んでいた。


リーチカ「…………」ボタ



リーチカ「…………」ボタボタボタ


【超高校級の狩人】リーチラ・ランジェさんの身体から、赤い血が止め処なく溢れ出ていた。

床から無数の槍が伸びていた。

リーチカ「…………」

身体を逸らして避けたのか、槍は彼女の脇腹をかけて右半身に集中している。

彼女は表情1つ変えないまま、ただその場で佇んでいた。

辰爾「リーチカ様!?」

ど……どうして?

杯「あっ? 気持ちいい?☆」

辻垣「台詞がそぐわないようだが……と私は状況も相まって混乱するのであった」

リーチカ「…………」

橘高「おい、応急措置だ」

那波「は、はい!」

橘高さんが呼びかけ、那波さんがリーチカさんを介抱する。

この時私は……起こった事を上手く処理できずに……

ただ見ていることしか出来なかった。

リーチカ「…………」

リーチカさんは無表情で微動だにしない。痛むような素振りも、声をあげる事も無く、ただ無表情だった。

まるで何事も起こっていないような。……或いは既に事切れているかのような。

沙慈「リーチカの娘っこ、無事でごわすか」

リーチカ「…………」

沙慈「うむ、一先ず無事でごわすな」

四季ヶ原「いやにあっさりしてるねぇ」

那波「うう……良かった……」

モノクマ「ふー」

沙慈「ぬお?」

モノクマ「何だか生まれ変わったような心持だよ」

先程壊された筈のモノクマが現れる。

米菓「ひええええええええええ!!!!!」

モノクマ「ん? なんだ、死んでないの?」

ハック「そりゃ、こっちの台詞なんだが……」

モノクマ「モノクマは永久に不滅です」

モノクマは自分だった物の残骸の前に立ち、壊れるまでと全く変わらない様子でケタケタと笑っていた。

……頭が付いて行かない。

モノクマ「良いね、早速血みどろ。コロシアイ共同生活の第一歩としては及第点……悪くないよ」

絡繰「お前……スペアがあったのか」

モノクマ「その通り、その気になれば無限に湧き続ける事だって可能で……」

四季ヶ原「ゴキブリ……?」

モノクマ「それはそうとリーチカさん……どうしようか」

モノクマ「キミは2発撃ったから……ボクももう1発撃っても良い筈だけど……」

リーチカ「…………」

リーチカさんは何の反応も見せず、ただモノクマの方を見ていた。

那波「だ、駄目じゃ、もう……」

モノクマ「……まあいいや、ボクも説明不足だったし」

モノクマはやれやれと口にしながら、説明を始める。

モノクマ「さっきも言ったと思うけど、秩序を乱したら罰があるんだ」

モノクマ「罰には今みたいな、物理的な死も含まれてるよ。っていうか、ほとんどがそうなんだけど」

小倉「その罰とやらに意味はあるのかい?」

モノクマ「コロシアイを円滑に過ごすために必要な事の1つだよ」

モノクマ「ちなみに今のは、管理者ことボクへの暴力行為禁止に抵触したものです」

ハック「どんな独裁だよカス」

モノクマ「はい管理者への暴言! イエローカード」

ハック「うわあああ(死)」

モノクマ「それで……規則を破ると、問答無用で槍に襲われる事に……」

モノクマ「今回は見逃すけど、次からは確実に死ぬように処理するから気を付けてね」

橘高「待て、規則とは何だ?」

モノクマ「うん、それを今から教えようと思ってたとこ」

モノクマ「規則は全て電子生徒手帳に網羅されているから、余すとこなく」

李「澱死生吐手帳? 斯様な物騒な物をもらい受けた記憶は無い気がするが」

モノクマ「オマエラのナカにこっそり入れておいたよ」

稲羽(中……?)

モノクマの言葉の意味を頭で反芻すると、ポケットの中に何かが入っているのに気が付く。

モノクマ「はぁ……あの背徳感は、鮭の卵に種付けした時以来の味わいだったぜ……」

辻垣「鮭に種付けか……逆ならば私も試したことがあるよ……着床はしなかったがね」

絡繰「聞いてはいけない事を聞いてしまったみたいだな」

モノクマ「そんじゃばいばい」

モノクマがいなくなる。

稲羽「……」

米菓「こ、ころしあ……コロシアイなんて……コロネの間違いじゃないのですかぁぁ」

沙慈「真に奇怪な話でごわすな……これが現だとすれば」

四季ヶ原「紛れもない現実だょー……」

これは夢じゃない……

しかし夢のように突飛で……夢よりも際限のない話。

この状況を形容するとしたら……“終わりの見えない悪夢”という言葉が丁度当てはまるような。

辻垣「奇妙奇天烈な話では無いか。さっきのリーチカさんを貫いた槍だってどれだけの費用をかけているのか」

辻垣「ここまで大規模な事をして……彼は我々に何を期待しているのだろうね?」

杯「What he wants to do……楽しいコロシアイ! じゃないんですか?☆」

加々美「ちょっと普通じゃないわね、モノクマちゃん……っていうか、これを考えた首謀者って言った方がいいかしら」

加々美「とにかくどっかおかしいみたいね……」

ハック「そこに怪しい奴がいるな……(横目)」

天草「何のことでしょう?」

橘高「……とにかくだ」

橘高さんが声を張る。

全員が言葉を止め、彼の方に意識を向ける。よく通る声だった。

橘高「奴の思惑に応じてやる必要は一切ない」

那波「……」

橘高「……下らん気は起こすなよ」





突然始まったコロシアイ共同生活。

私の中で、芽生え始めた恐怖心が蠢いていた。



 






【PROLOGUE】再起

End

残り人数:16人




 

設定です
思いつくまま羅列してるので偏っているかも


【名簿:女子1】

【超高校級の幸運】稲羽 兎(イナバ ウサギ)
身長:157cm 胸囲:78cm
好きな物:可愛いもの 嫌いな物:悪意
一言:「……」

【平和主義者】
【誠実】
【まな板】

【容姿】
茶髪 ブレザーに兎のポンチョ
ブレザーはメルヘン思考でロリ風味になってます。


【超高校級の園芸部】四季ヶ原 咲(シキガハラ サキ)
身長:147cm 胸囲:67cm
好きな物:植物 嫌いな物:人間の生殖
一言:「兎は生殖本能が活発なんだょね」

【小動物系】
【腐女子】
【下ネタ】

【容姿】
緑の大きなリボンに緑基調のセーラー服 気分によって身体に蔦を巻いてます。
茶髪のショートハーフアップ


【超高校級の狩人】リーチカ・ランジェ(-)
身長:167cm 胸囲:80cm
好きな物:肉全般 嫌いな物:喰えないもの
一言:「…………喰えない?」

【無表情】
【健啖家】
【野生動物並の死生観】

【容姿】
カウガールみたいな服装で、サイドに三つ編み 古傷が見られます。
常に無表情


【超高校級のベビーシッター】那波 千代子(ナバ チヨコ)
身長:168cm 胸囲:92cm
好きな物:幼い人 嫌いな物:虐待
一言:「かわいい子じゃの」

【子供大好き】
【慈愛溢れる】
【母性的】

【容姿】
エプロンと三角巾 エプロンの腹に胎児が描かれています。
ルーズサイドテール

【名簿:女子2】


【超高校級の琴奏者】辰爾 和琴(タツミ ワコ)
身長:164cm 胸囲:82cm
好きな物:兄 嫌いな物:血の臭い
一言:「風情を感じます」

【名家のお嬢様】
【謙虚】
【文武両道】

【容姿】
着物姿、髪に花の簪を刺しています。目にハイライトがありません。


【超高校級のダンサー】小倉 真帆(オクラ マホ)
身長:160cm 胸囲:88cm
好きな物:美しいもの 嫌いな物:それ以外
一言:「どうでもいい」

【面食い】
【男性的】
【褐色】

【容姿】
アラビア調の踊子の服装をしています。褐色肌で露出度が高いです。


【超高校級の小説家】辻垣 理緒(ツジガキ リオ)
身長:172cm 胸囲:83cm
好きな物:人間 嫌いな物:湿気
一言:「実に興味深い資料だ」

【嘘も方便】
【悪筆】
【回りくどい言い回し】

【容姿】
文豪みたいな見た目です。片目が髪の毛で隠れています。何故か煙管を常備しています。


【超高校級のパン屋】米菓 リリィ(べいか -)
身長:152cm 胸囲:72cm
好きな物:パン 嫌いな物:汚物
一言:「早く帰りたいいい」

【ショートスリーパー】
【心配性】
【潔癖症】

【容姿】
コックコート 茶髪のコロネヘアーの2つ結びです。
コック帽がやけに長いです。

【名簿:男子1】

【超高校級のハッカー】ハック・ウィルヘルム(-)
身長:165cm
好きな物:ウイルス散布 嫌いな物:直射日光
一言:「……(笑)」

【卑屈】
【ストーカー】
【手持無沙汰】

【容姿】
フードを着ています。服全体に数字列が描かれています。
時々奇妙なお面を被っています。


【超高校級の審判】橘高 直人(キッタカ ナオト)
身長:175cm
好きな物:グラウンド 嫌いな物:不等
一言:「大人しめな奴だな」

【厳格】
【迷いが無い】
【融通が利かない】

【容姿】
学ランを着てホイッスルを下げています。
表情が厳めしく常に機嫌が悪そうに見えます


【超高校級の美容師】加々美 優紫(カガミ ユウシ)
身長:179cm
好きな物:会話 嫌いな物:孤独
一言:「セットさせてね~」

【超イケメン】
【相談役】
【人との繋がりに飢えている】

【容姿】
金髪に青のメッシュがかかってます。フリルが付いた服を着てます。


【超高校級の道化師】杯 団(サカス ダン)
身長:156cm
好きな物:ダーツの的 嫌いな物:楽しませられない事
一言:「変な子だね☆」

【ドジっ子ピエロ】
【異常好奇心】
【表情豊か】

【容姿】
ピエロです。頬に目玉と涙のペイント

【名簿:男子2】

【超高校級の機械職人】絡繰 時矢(カラクリ トキヤ)
身長:132cm
好きな物:機械弄り 嫌いな物:作業妨害
一言:「全身に時計を付けてやりたい」

【天然タラシ】
【観察眼】
【可愛い系少年】

【容姿】
大きいキャスケットを被っています。
歯車を全身に付けて、右目に機械


【超高校級の教祖】天草 神門(アマクサ シモン)
身長:182cm
好きな物:救い 嫌いな物:見放す事
一言:「神々が我々を見守っております」

【カリスマ】
【献身】
【エンジェルスマイル】

【容姿】
銀髪の男性
宣教師のような見た目で、胸には迎と彫られた飾りを付けています。


【超高校級の拳法家】李 紅運(リーコウウン)
身長:160cm
好きな物:修行 嫌いな物:死
一言:「妙な仮装だな」

【真っ直ぐなフレンドリー】
【善悪に縛られない】
【求道者】

【容姿】
くすんだ灰色の長い三つ編み 服装はキョンシーっぽいです


【超高校級の相撲取り】沙慈 百舌(サジ モズ)
身長:192cm
好きな物:富士山 嫌いな物:窮屈
一言:「照れるでごわすな」

【心優しい】
【女性にモテる】
【所帯染みている】

【容姿】
髷を結って和服を着ています。立派な羽織紐を結んでます。







【CHAPTER1】白紙は黒インキで染まる





 

【1F 食堂】

机の上に料理が並べられている。

小倉「……これは誰が用意したんだい?」

橘高「ああ……那波と俺でな。当然食材はこの場にあった物になるが」

橘高「あの熊が用意した以上あからさまに怪しいが、一応毒見は済ませておいたから……」

橘高「害が無い事は確認済みだ」

四季ヶ原「ふーん」

橘高「食わねば始まらんしな。こんな物でも腹に入れるしかあるまい」

那波さんは、怪我をしたリーチカさんに付き添って行った。

心配しないでとの事でしたけど……

やっぱり心配です。

米菓「みなさん! 米菓のパンも! 召し上がってください!」

米菓「沢山あるのですよ! 異物は一切入っていないのですッ!」

米菓ちゃんが運んできたのは山のような量のクロワッサン。室内が芳ばしい香りで満たされる。

米菓「ご安心下さい! 米菓は清潔感には人一倍気を使っているのです!」

米菓「お風呂だって朝昼晩と3回入りますし……身辺の掃除も一日10回程してますから!」

橘高「……過剰過ぎないか?」

米菓「勿論マスクも常備しています!」

米菓「なので入っている物といえば小麦粉、お塩、卵、イースト菌……とにかく変な物は一切入ってません!」

ハック「いつの間に焼いたんだ……」

米菓「目が覚めてからすぐに……脊髄反射的に……」

ハック「お前……かなり図太いな……」

天草「皆で朝食を摂る……よき習慣で御座います」

四季ヶ原「神門くんはそればっかりだねぇ」

天草「ええ。やはり健全なのが一番で御座います」

小倉「それにしても規則か、本当に一生なんだね」

他の面々に倣うように、電子生徒手帳を開く。




【規則】

1.生徒達は当施設内だけで共同生活を行いましょう。共同生活の期限はありません。
2.就寝は個室でのみ可能です。個室外での故意の就寝は居眠りとみなし罰します。
3.管理者ことモノクマへの暴力を禁じます。監視カメラの破壊も同様に禁止です。
4.時間帯によって立ち入り禁止となる区域が御座います。

※規則は管理者の意向で随時追加する事があります。


 

四季ヶ原「わたし達、ここで繁殖していくんだねぇ」

四季ヶ原「人間託児所みたいな才能の子もいるしね」

沙慈「ううむ……しかし、こんな場所で産まれては……」

沙慈「親としてはなるべくなら、子供には外での幸福を願いたいでごわすな」

辻垣「いや」

辻垣さんがそれまで咥えていた煙管を離し、言葉を連ねる。

辻垣「こういう見方も出来るだろう」

辻垣「井の中の蛙大海を知らずというように……外の世界を知る事がなければ、この世界が彼らにとっての全てとなる」

辻垣「つまり、彼らにとっては一概に不幸とは言えないものだと」

辻垣「外を既知とする我々の多くは、この状況を不幸と形容するのだろうが」

沙慈「うむ……」

李「お前には分かるのか? 我には何の話をしているのやら……」

李「胃の中……子供を喰らうという事か?」

辻垣「一体どこからそんな言葉を連想したのかね?」

加々美「幼い子が世間から隔絶されたままここで育つのが、果たして幸か不幸かって話じゃないかしら?」

加々美「でも……そう悲観するのは早いわね! 出る方法はあるかもしれないし」

杯「そですよね!☆ Attack!! Kill!! Murderer!!!」

加々美「そうじゃないわ」

辻垣「はは、李君よ。君は脳まで腐っているのかい?」

李「……そうか?」

辻垣「防腐剤を嚥下すると良い、きっと君の役に立つだろう……と私は全身腐った彼へ勧める」

絡繰「そんなの飲んだら死ぬ上に、そもそも腐る前には戻れないと思うぞ」

絡繰「まあ、本当に腐ってたら、ボク様が患部をリニューアルしてやるから安心して良い」

――――

――



朝食を頂いた。

さっきより気分は落ち着いてきたようだ。

稲羽「……」

探索……しておきましょう。

どこかに出口に繋がる物があるかもしれません。

稲羽(と、兎さんも言っている……気がする)

ロマンティックポイズン

続きます

閉鎖空間という説明の一切が抜けていた……

ちょっとだけ進めます

【1F 入口ホール】

食堂に来る際にも通った道。

入口ホールと表記されているものの、肝心の入り口が謎の機械で封鎖されている。故に入り口ホールと言えるのかが疑問だった。

本当に私達を軟禁しているようだ。

李「ん? お前は……うーん……」

李「……ああ、稲羽兎とかいう者であったな?」

モノクマの銅像の前に、辰爾さんと李さんが立っている。

銅像の傍らには階段があって、階段は2階へ通じている。

李「珍妙な機械アルな。アレに攻撃したら射撃を受けたぞ」

稲羽「……」

李さんが入り口の機械の方を示す。付近の床に、銃弾の雨らしき痕跡が……

稲羽「い、生きてて良かったです……」

李「そうだな。生きるに越したことは無い。リーチカのやつも無事で良かったな」

稲羽「そうですね……ほんとに」

リーチカさんは怪我こそしたものの、命に別状は無かった。

彼女は狩人だから……経験によるところが大きかったのかもしれません。

李「この像も破壊したいのであるが……いちいち掃射を受けては敵わん」

次に李さんが示したのはモノクマの銅像。

モノクマ……こうして見る分には、可愛い見た目をしているんですけど……

綺麗な物にはトゲがあるってやつでしょうか?

辰爾「像……ですか?」

李「ああ、そこにあるではないか?」

辰爾「……そう、なのですか?」

辰爾さんが銅像へ触れる。彼女はゆっくりと形を確かめるように手を這わせている。

辰爾「本当。不可思議な形状ですね」

李「あの……熊? うん、あいつの像だな」

辰爾「これが……モノクマ様なのですね……」

辰爾さんは撫でるように触れ続ける。

李「お前……もしやあれか? 盲目なのか?」

稲羽「盲目、って……」

辰爾「……ええ、彼が仰った通りです」

辰爾「目の機能は備わっていると言えません」

辰爾「ですから、少し妙な挙動をとってしまう事がありますが……ご容赦いただければ幸いです」

稲羽「……」

目が見えない……

私には……想像もつかない話だ。

【1F 回廊】

中央に噴水、それを囲うようにして四面に扉が並んでいる。

扉は全部で8つ。ここが個室でしょうか。

稲羽「……」

こんなものまで用意していたんですね。

……家に帰りたいです。

稲羽「……はぁ」

稲羽と書かれた扉を開く。

ドアノブは少し冷えていて、手の平から伝う感触に僅かな心地よさを覚えた。

稲羽「――――」

稲羽(え?)

部屋の中は一面が兎だった。ベッドから棚、扉、小物に至るまで全てに兎が象られている。

稲羽「可愛い……」

何かが揺らぎそうだ。

稲羽「……」

それにしても……

ハック「……」

稲羽「……」

どうしてハックさんは、私の個室内のドアに張り付いているんでしょうか

ハック「……オレはストーカーじゃ無ーから(震え声)」

ハック「先に……ここに来ようとしてたし? お、お前が……後から来たんだぜ(死)」

まだ何も言ってないんですが……

稲羽「そういえば……仮面外してるんですね」

ハック「ああ……息苦しいからな……(鬱)」

ハック「ここじゃ付けてる意味も無ーしな」

素顔の彼は……少しだけ顔色が悪い。

それに……食堂にいた時、彼は何も口にしていなかったような……

稲羽「あの……大丈夫ですか? 顔色が……」

ハック「……あー、頭は大丈夫じゃ無ーな(無)」

稲羽「……」

稲羽(そういう意味では無かった……)

ハック「ほらよ……鍵だ」

稲羽「あ……どうも」

ハックさんから鍵を受け取った。

鍵まで兎仕様なんですね。

>>54

小倉「それにしても規則か、出口も閉じられていたし本当に一生なんだね」

という文を挿入します(無理矢理)

【1F 厨房】

米菓「竈が欲しい……ああ……」

米菓ちゃんは溜息を吐いている。

米菓「おや……稲羽さんですね、またお会いしましたね」

稲羽「こんにちは」

米菓「探索ですか? 米菓も微力ながらお手伝いいたしますのです」

稲羽「あ、ありがとうございます」

米菓「えーっと……これがリストですね」

米菓「米菓、念入りに確認したのですが、ここに書かれている調理器具や食器の類は全て揃っていたのです」

米菓「なので、欠けはないかと」

米菓ちゃんから手渡されたボードを見る。

調理器具や食器の名前と、その横に計数が並んで書かれている。

稲羽「……包丁って色々あるんですね」

米菓「そうですねぇ……寿司包丁や肉切り包丁……」

米菓「……あ、刺身パンなんて中々いいかもしれませんのです」

米菓「早速作りましょうか……」

米菓ちゃんは独り言を呟く。

すっかり自分の世界に入ってしまったようだ。

【1F 食糧庫】

食料が整頓して並べられていて、奥には冷凍室と書かれた鉄製の扉がある。

主に置かれているのは、乾物、レトルトパウチ等。

野菜などの生物もそのまま置いてある。

稲羽「これは……腐らないんでしょうか」

四季ヶ原「んー……種類に依るかなぁ……」

四季ヶ原「この条件下が最適な子もいるけど……もう少し冷えた環境で保存しないと駄目な子もいて……」

四季ヶ原「最適保存条件なんてのは、元々栽培されてた環境によっても変わってくるょ」

稲羽「なるほど……」

四季ヶ原「食べる為に殺しちゃった子たちだから、なるべく腐らせないょぅにしたぃねぇ」

四季ヶ原「腐ったら肥やしになるけどねー、ぅんー」

四季ヶ原ちゃんは野菜を一つ一つ手に取って確かめている。

絡繰「……」

絡繰「……ん? 冷凍モノはこっちだな」

絡繰君は鉄扉の方を向いている。

彼は何かに意識を向けているようで、視線を合わせない。

稲羽「……」キィ

鉄扉を開く。

天井から肉や魚類が吊るされている。中央に冷蔵庫が5つ。

肌に冷たい空気が触れ、比例するように吐かれる息が白くなる。

兎さんのおかげで……身体は暖かいですが……兎さんは寒くないでしょうか?

稲羽(……早く出た方が良いですね)

四季ヶ原「ん……寒っ」

四季ヶ原「ど……どうしてあの野菜たちは……置き去りなんだろうね……?」

四季ヶ原「その冷蔵庫……こっちにもくれればいいのにねぇ……」

稲羽(……?)

そういえば冷凍室に冷蔵庫って……よく考えたらおかしいような……

稲羽「……」

……何が入っているんでしょうか?

稲羽「……」ガチャ

冷蔵庫を開くと、中にはクーラーボックスが1点のみ。

マトリョーシカか何かですか?

【1F 廊下】

観音開きの扉。片方に張り紙が貼り付けられている。

【一日一回廃棄物の処理を行いますのでその時間帯での立ち入りはごえんりょください】

【PM22:00~AM3:00】

【全てを塵灰へ】

分別はされていないみたいですね。

稲羽「……」

【1F ゴミ置き場】

扉を開いた先は殺風景な空間だった。

稲羽「……」

血塗れの廃材……

さっき杯君が突っ込んだというのがこれですね。

天草「これは幸運の方」

稲羽「天草さん……」

天草さんは手を合わせ、優しく微笑んでいる。

稲羽「あの……それは?」

天草「お祈りに御座います……廃棄物が安らかに眠れるよう」

稲羽「廃棄物が……ですか?」

天草「ええ、彼らも元は何かの役目を担っていた者……死してその役目を終え、後は天に帰すのみです」

彼の言いたい事はなんとなく分かる。

私の着ている兎さんだって……私にとっては生きている者と同義な感じがします。

天草「物への感謝を忘れずに過ごし、壊れた時には丁重に供養を執り行う……これこそが、物との健全な共生です」

稲羽「……」

私も……見習わないと。

――――

――




天草さんに指導してもらい、私も祈りを捧げた。

橘高「……何をしているんだ? あれは」

辻垣「新手の柔軟体操だろうと私は橘高君へ告げる」

橘高「適当抜かすなよ」

辻垣「ただの雑談の一環であるのに橘高君は沸点が低いなと思わざるを得ない」

【2F 駄菓子屋】

こんな所に駄菓子屋……

奥には男子の個室と通じているらしい。

回廊側が女子、2Fの奥が男子の個室となっている。

モノクマ「いらっしゃい」

稲羽「……」

モノクマ……

モノクマ「その反応の薄さ……いくら全身鋼鉄のボクでもちょっと傷つくなあ……」

モノクマ「……」ショボーン

稲羽「ご、ごめんなさい……」

……いや、駄目です。こんな人に謝ってどうするんですか……

モノクマ「……」

この人はリーチカさんに酷い怪我を負わせたんですから……

それに、私達を閉じ込めてコロシアイなんてものを強要しているのが現状ですし……

モノクマ「……どうでも良いけど、このマシーン回してみない?」

稲羽「マシーン?」

モノクマが示す先には、ガチャのような筐体が。

モノクマ「色々出てくる優れものだよ?」

モノクマ「キミは暇そうだから嵌るんじゃないかな? 才能らしい才能も無いしね」

モノクマ「ぶひゃひゃひゃ!!!」

稲羽「……」

才能が無いのはその通りですけど……

一通りの探索を終えた……

今の所明確な出口らしいものは見つからない。

そして個室や食料など、ここでの生活を保障するようなものが多い。

稲羽「……」

中庭の天窓が唯一外と通じている事がはっきりしている場所だから、あそこをどうにかして壊せば出られる気がする。

稲羽「……」

【自由行動を開始します】

【一日目】自由行動 1/4


……そうだ、リーチカさんの容態は大丈夫でしょうか。

【1F 回廊】

稲羽「……」

ここ……インターホンまであるんですね。

那波「あら、稲羽さん」

インターホンを押して少し待つと、那波さんが出迎えた。

彼女の表情に暗いものは見えない。だから最悪な事態は起こっていないのだろう。

稲羽「リーチカさん……どうですか?」

那波「うん。リーチカさん……よく食べてくれる」

【那波の部屋】

那波さんに促されて部屋に上がる。

幼い子供の為の玩具や、可愛らしいぬいぐるみが至る所に置かれている。ベビーベッドにはメリーが付けられている。

この部屋も可愛い……

那波「リーチカさん」

リーチカ「…………」

リーチカさんは怪我をしている事を除いて、何も変わらない様子だった。

彼女の前にある机には、何枚ものお皿が積み上げられている。

那波「良かった。元気になってくれて……」

那波「臓器の損傷とかも無いし……でも、しばらく無理な事は出来ないけどね」

那波「私が面倒見てあげるけぇ、安心して良いのよ」

リーチカ「…………」

那波「美味しい?」

リーチカ「…………」

那波「うふふ」

リーチカさんが返答をしないので、酷く一方的な会話になっている。

それでも那波さんは笑顔を崩さない。

稲羽「……」

那波「ねえ、好きな食べ物は?」

リーチカ「…………」

リーチカ「…………何でも…………」

那波「何でも?」

リーチカ「何でも…………喰えるものは…………」

リーチカさんは無表情で答える。

那波「そっか。……母乳は飲める?」

リーチカ「…………」

那波「うふふ、それじゃあ……」スル

無言を肯定と受け取ったらしい。那波さんがエプロンを外して……

稲羽「そ、それは……色々と不味く無いですか?」

那波「え? 美味しくないの……?」

稲羽「い、いえ……そういう意味じゃなくて」

リーチカ「…………ごちそう……さま」

那波「あ、リーチカさん……味、どうだった? 何か足りないとか……」

リーチカ「…………」

少し不安げな那波さんの声。

リーチカ「…………よく分からない……けど……多分何もない」

リーチカ「…………つまり……美味しい……という事…………」

リーチカさんは表情を変えないまま、そう口にした。

那波「……」

那波「……リーチカさんっ」

那波さんの表情が明るくなり、彼女はリーチカさんを抱きしめる。

リーチカ「…………」

那波「うふふっ」

那波「もっと……いっぱい食べさせてあげる。精を付けなきゃ」

リーチカ「…………」

那波「じゃあ、私は行くわね」

那波「稲羽さん、またね。稲羽さんにも作り置きしておくけぇ、良かったら食べてね」

稲羽「あ、はい……ありがとうございます」

那波「うふふっ」

リーチカ「…………」

【INFO】
那波千代子と交流しました。
リーチカ・ランジェと交流しました。


四季ヶ原 □□□
リーチカ ■□□
那波 ■□□
辰爾 □□□
小倉 □□□
辻垣 □□□
米菓 □□□

ハック □□□
橘高 □□□
加々美 □□□
杯 □□□
絡繰 □□□
天草 □□□
李 □□□
沙慈 □□□


試験的に
後々無かった事になるかも

【一日目】自由行動 2/4


【体育館】

出口となるかもしれない中庭へ行こうと足を延ばした先で、辻垣さんと橘高さんに出会った。

辻垣「親愛なる橘高君よ、この施設は何だと思う? 私は問う」

橘高「……」

辻垣「学園という割には古城のようにも思える。そして数々の仕掛け……」

辻垣「実に奇妙だとは思わないかね」

橘高「さてな……これを起こした奴が相当いかれた奴というのは確かだが」

辻垣さんと橘高さんが話し込んでいる。私はそれを横でただ聞いている。

橘高「単に俺達を殺したいだけならば自分で殺せば済むだろうに……」

橘高「わざわざ俺達自身に殺し合わせようとは。何の意図が……」

稲羽「……」

辻垣「モノクマ君を操っている者、もとい私達を閉じ込めた者は、相当なエンターテイナーなのだろうか?」

辻垣「敢えて私達に最低限のルールを与えた上で放任し、あとは私達の行動の赴くままに展開される物語を眺める」

辻垣「まあ……モノクマ君が自立式で、私達人間への反乱を起こしたという線も捨てきれないが」

橘高「そんな創作みたいな話があるか?」

辻垣「あるだろう。研究者達の実験の一環かも知れない」

辻垣「人間への反抗心が芽生えたモノクマ君が人間に対しどういった行動をとるか? 極秘裏に行われたシミュレーションだったり」

橘高「馬鹿げているが……有り得ん話では無いと思うのが腹立たしいな」

橘高「チッ……一体あの熊は何なんだ?」

稲羽「あの……」

辻垣「何だね?」

……彼らに、自分の考えを伝えておいた方が良いだろう。

これがとりあえずの打開策になる可能性もあります……

稲羽「少し思った事があるんですけど……出る方法が……むぐっ」

そこまで言って口を塞がれる。

橘高「……声を落とすぞ」

辻垣「えっ…………なるほど」

橘高さんは監視カメラに目配せする。

そういえばこの施設、常に監視されている状況なんですね……

橘高「続きを」

塞がれていた手が外され、改めて言葉を続けるように促される。

稲羽「……はい。中庭の天窓さえ割れば、何とか出られるんじゃないかと思うんです」

辻垣「ああ、確かに天井に窓があったようだが……」

橘高「中庭は直接外と繋がっている……」

橘高「窓があるのは少々高い位置だが……不可能な話では無い」

橘高さんは何か考えるように目を逸らす。

辻垣「ここに梯子はあったかな?」

辻垣「無くても、SOSと大きく書いておけば上空から誰か気づいてくれるだろうか」

橘高「いや、それではモノクマに妨害される危険がある。下手をすれば全員の死を招きかねない」

橘高「実行に移すとすれば、迅速な行動が求められるだろう」

辻垣「それなら、割ってすぐに出ていくしかないというのが結論だろうね」

辻垣「では橘高君は何か上る為の道具を見繕ってくれ。当日、私はモノクマ君に邪魔をされないよう彼を引き付けておこう」

稲羽「危なく……ないですか?」

橘高「ああ。モノクマをどうにかするのは俺が引き受ける」

橘高「お前一人を残していく訳にはいかん」

辻垣「しかし、私はモノクマ君の生態に興味があるのだが……至近距離にて観察するついでだと思えば」

橘高「ガタガタ抜かすな。残って死にたいというのか?」

辻垣「そういう訳ではないよ……というかそれでは君も死ぬつもりになるのでは? 橘高君は指摘される」

橘高「……死んでやるわけがないな」

橘高「まあ……何とかなるだろう。そこそこ体力はあるつもりだ。選手のようにとはいかんが」

辻垣「そうかい? ふむ」

辻垣さんは納得したように一つ頷く。

辻垣「じゃあ稲羽さんは窓が割れそうな人間に声をかけて欲しい」

辻垣「勿論それが脱出の相談とモノクマ君に気づかれないよう、表面上を誤魔化しながらね。稲羽さんは快諾する……」

稲羽「分かりました」

辻垣「私は彼女の返答に安堵する」

辻垣「それでは日程は……」

その後も話し合いは続いた。

【INFO】
橘高直人と交流しました。
辻垣理緒と交流しました。


四季ヶ原 □□□
リーチカ ■□□
那波 ■□□
辰爾 □□□
小倉 □□□
辻垣 ■□□
米菓 □□□

ハック □□□
橘高 ■□□
加々美 □□□
杯 □□□
絡繰 □□□
天草 □□□
李 □□□
沙慈 □□□

【一日目】自由行動 3/4


【食糧庫】

四季ヶ原「ん……」

絡繰「……」

四季ヶ原ちゃんが野菜の整理をしている。対して絡繰君は冷蔵庫の前に座ったまま動かない。

四季ヶ原「あ、うさちゃんー。手伝ってぇ」

稲羽「あっ、はい。私で良ければ」

四季ヶ原「ぅん。ぁりがとー。じゃあまずキャベツはこっちー……」

山のようにある野菜を系統ごとに分け、常温の場から冷凍室へかけて並べていく。

四季ヶ原「……」ブチブチュ

四季ヶ原ちゃんがトマトに指を挿し始めた。

四季ヶ原「はあ、はぁ……ぁ……や、……めて……」グジュグジュ

彼女はそのまま抉るようにトマトの中を掻きまわす。

……何でしょう、それだけなのに明らかに別の行為に見える。

四季ヶ原「ん、あ……犯っちゃった……」

絡繰「最早死姦だな……」

四季ヶ原「……」ガブ

四季ヶ原「うーん、生野菜はおいしー」

四季ヶ原「うさちゃんもたーべよ」

稲羽「あ……」

四季ヶ原ちゃんからトマトを渡される。

そのトマトは瑞々しくて、でっぷりとして可愛らしく……とにかく可愛いトマトだった。

稲羽「ありがとうございます」

……

稲羽「美味しいです」

新鮮で甘くて……それでいて程よく酸味がある。

四季ヶ原「ょかったねぇ、その子もきっと報われるね」

四季ヶ原ちゃんは野菜達へ慈しむような目を向ける。

普段の言動とは別に、純粋な感情も抱いているようだ。

絡繰「……」カチャカチャ

四季ヶ原「……時矢くん? なにしてるの?」

絡繰「んー……」カチャ

絡繰「生き返らせた」

生き返らせた?

四季ヶ原「……そんな事できるの?」

絡繰「ボク様にかかれば余裕だ。何しろボク様は超天才だから」

四季ヶ原「へぇ……本当ならすごい技術だねぇ。死んだ子を生き返らせるなんて」

四季ヶ原「流石はショタだょー」

絡繰「それは関係ないと思うぞ」

絡繰君が生き返らせたという結果は奇妙だった。

野菜達は……蜘蛛のような機械の脚で床を這っている。

四季ヶ原「時矢くん? これは?」

絡繰「歩行運動補助装置だ」

野菜「」テクテクテクテク

絡繰「ふはははっ! この脚を取り付ける事により――――」

四季ヶ原「うわぁぁぁ!!!!!!!! やめて!!!!!!!!」

四季ヶ原ちゃんが一気に焦った様子を見せる。

彼女は涙を浮かべながら歩く野菜達をかき集める。

四季ヶ原「や、安らかに眠らせてあげてよぉ……」

絡繰「……お前がそれを言うのか? 末恐ろしいぞ」

四季ヶ原「わたしは……もう死んじゃっているのはどうしようもないし……」

四季ヶ原「わたしじゃあの子たちを生き返らせることは出来ないし……」

四季ヶ原「それだったら……死んでいるままぐちゃぐちゃに愛でてあげて良いかなって。ぇへ」

絡繰「んー……まあ、一理あるな。愛でる云々はともかく」

絡繰「これもあくまで機械が動いてるわけで、植物自体が蘇生したわけでもなし」

絡繰君は淡々と語る。

絡繰「けど、見方を少し変えてみると……新たな命を吹き込まれたと言えなくも無いか?」

絡繰「生物に備わっている運動行為を、この装置の補助により行う事が出来る」

絡繰「つまりコイツらは疑似的には生きている」

淡々と語る絡繰君の表情は、次第に綻んでいく。

四季ヶ原「それは生とは言えないし、第一植権侵害だょ……」

絡繰「お前が言うと矛盾している気がしてくるな。……まだ会ったばかりなのにひしひしと感じる。お前はかなりおかしいぞ」

四季ヶ原「そこはお互い様、だろうねぇ……ぁへ」

結局運動補助装置は取り外される事となった。

絡繰君は残念そうにしていた。

【INFO】
四季ヶ原咲と交流しました。
絡繰時矢と交流しました。


四季ヶ原 ■□□
リーチカ ■□□
那波 ■□□
辰爾 □□□
小倉 □□□
辻垣 ■□□
米菓 □□□

ハック □□□
橘高 ■□□
加々美 □□□
杯 □□□
絡繰 ■□□
天草 □□□
李 □□□
沙慈 □□□

【一日目】自由行動 4/4

【食堂】

加々美「……」

米菓「何ですか?」

加々美「いや、珍しい髪型ねーと思って……」

食堂で米菓ちゃんと加々美さんが話をしている。

米菓「な、何ですか……まさか……アレですか?」

米菓「アレですね!? ひああああ!!! 下品なのです!!!」

加々美「アレって何よ!?」

じゃれているみたいですね。

米菓「稲羽さぁん!」

稲羽「米菓ちゃん?」

米菓「こっ……この人が米菓の頭を……ずっと見ているのです……しかも変な目線を向けながらあああ」

米菓ちゃんは私の胸の中で泣いている。

米菓ちゃんの身長は明らかに帽子で補正されている。傍にいると、ますます小ささを感じて可愛い。

……でも、何をそんなに嫌がっているんでしょう?

加々美「ご、誤解しないでね? その……えっと…………あ、巻き貝……」

加々美「そうね、巻き貝みたいな形。とっても珍しくてかわいいって思ってたのよ?」

米菓「何で一瞬言い淀んだのですかぁ!!!」

そんな米菓ちゃんは料理を運んでくるころにはすっかり落ち着いていた。

何か具材を混ぜ込んだパンケーキ。

彼女は、突然訪れた私の分も用意してくれた。

稲羽「すみません……」

米菓「お気になさらず!!! 皆さんにお味の評価を聞きたいのです」

米菓「実はこれは試作品なのです、ぱっと閃いたのです。うまく行ったら商品化に持ちこむのです」

試作品なのか……

何だか、少しわくわくする。

米菓「まず、米菓が味見をしますのでそれまで口に入れないでくださいね」

米菓「食中毒なんかになったら大変ですから」

米菓ちゃんは人差し指を立てながら指導する。

常日頃から食品を扱う立場だからか、徹底しているようだ。

加々美「この混ぜ込まれてるのは何かしら?」

米菓「お刺身です。お刺身入りパンケーキなのです」

加々美「えっ!?」

米菓「ちなみに何となくマグロです。捌くのは中々大変だったのです」

稲羽(朝言っていたものですね……)

加々美「……ところで、お刺身って生魚の切り身の事よね? 火を入れたら何になるのかしら……」

米菓「微妙な所ですね……でも元々はお刺身だったのですし、ま、まあ良いのでは?」

言いながら米菓ちゃんはパンケーキを口に運ぶ。

米菓「……中々良いですね。何も問題ないみたいです」

加々美「……」

米菓「ってちょっと! 食べ物で遊ばないでください!」

加々美「あ、ああ……ゴメンなさい」

加々美さんは、ナイフでパンケーキの形状を弄っていた。

パンケーキがウニのような前衛的な状態になっている。

稲羽(どうやったらそうなるんだろう?)

加々美「うーん……可愛いわね……おにーさん……」

加々美「見違えるようだわ。……ね? 何か気分も変わってくるでしょ?」

加々美「そうね、記念に写メらなきゃね!」

米菓「酷いいいいい!」

加々美「あっ! ゴ……ゴメン、つい……」

米菓ちゃんが泣き叫んでしまう。

加々美さんは無意識的だったのか、米菓ちゃんの声に気づいてオロオロと狼狽え始める。

米菓「稲羽さんは……こんなに美味しそうに食べてくれるのに!!!」

稲羽「うぐっ!!!」

錯乱した米菓ちゃんに、パンケーキを無理矢理口に詰められる。

噛む暇も無く……喉奥まで押し込まれる。

稲羽「……」

けど……美味しい。……美味しすぎる。

マグロと生地が調和している……そして口の中に風味が広がり……

米菓「稲羽さん!!! 美味しいですか!?」

稲羽「」

加々美「ちょっと待って……稲羽ちゃん死んじゃうわ」

加々美「パンケーキって良いわね。丸くて……何枚も重なってるとなんか可愛いわね」

米菓「そうですね……米菓も好きですよ」

米菓「焼きあがった時、同じ形のパンがいくつも並んでいる光景……」

米菓「でも、一つ一つが違ってて……」

米菓「……ああ、早く帰りたいのです」

米菓ちゃんは少し寂しげだった。朝のような混乱は抑えられているけど、それでもやっぱり不安なんだろう。

……不安じゃないはずがないですよね。ここに来たのも、今の状況も突然の事ですから。

加々美「ね、米菓ちゃん、アタシにセットさせてくれないかしら?」

米菓「え?」

加々美「ほら、だって……」

加々美さんの言葉を、米菓ちゃんが遮る。

米菓「……ど、どうせ米菓の髪型が気に入らないのでしょう? ほっといてくださいよ!」

米菓「米菓は、パンに変な物が入りさえしなければそれでいいのですから……」

加々美「気に入んないなんて事は無いわよ! とっても似合っているし……」

加々美「ただ、ちょっとアクセント加えたりしてみたいななんて」

加々美「それにパンケーキのお礼もしたいしね」

米菓「うぅ……」

加々美「その髪って自分で巻いてるの? それともご家族の人とか? それかいきつけの美容院でも……」

米菓「そっ、そんな事どうだっていいじゃないですか!」

米菓ちゃんはそっぽを向く。

米菓「……もうっ! 自分で巻いてるのです!」

米菓「いつもはお父さんが巻いてくれるのですけど……」

米菓「お父さん……無事でいるでしょうか……」

米菓ちゃんは一層寂しそうに俯く。

米菓「食中毒や異物混入なんか起こして経営難になっていないでしょうか……」

加々美「……お父さんってそんなに危なっかしい感じなのかしら?」

米菓「そりゃもう……」

>>89 訂正

加々美「パンケーキって良いわね。丸くて……何枚も重なってるとなんか可愛いわね」

米菓「そうですね……米菓も好きですよ」

米菓「焼きあがった時、同じ形のパンがいくつも並んでいる光景……」

米菓「でも、一つ一つが違ってて……」

米菓「……ああ、早く帰りたいのです」

米菓ちゃんは少し寂しげだった。朝のような混乱は抑えられているけど、それでもやっぱり不安なんだろう。

……不安じゃないはずがないですよね。ここに来たのも、今の状況も突然の事ですから。

加々美「ね、米菓ちゃん、アタシにセットさせてくれないかしら?」

米菓「え?」

加々美「ほら、だって……」

米菓「……ど、どうせ米菓の髪型が気に入らないのでしょう? ほっといてくださいよ!」

加々美さんの言葉を、米菓ちゃんが遮る。

米菓「米菓は、パンに変な物が入りさえしなければそれでいいのですから……」

加々美「気に入んないなんて事は無いわよ! とっても似合っているし……」

加々美「ただ、ちょっとアクセント加えたりしてみたいななんて」

加々美「それにパンケーキのお礼もしたいしね」

米菓「うぅ……」

加々美「その髪って自分で巻いてるの? それともご家族の人とか? それかいきつけの美容院でも……」

米菓「そっ、そんな事どうだっていいじゃないですか!」

米菓ちゃんはそっぽを向く。 表情にはわずかな照れが見える。

米菓「……もうっ! 自分で巻いてるのです!」

米菓「いつもはお父さんが巻いてくれるのですけど……」

米菓「お父さん……無事でいるでしょうか……」

米菓ちゃんは一層寂しそうに俯く。

米菓「食中毒や異物混入なんか起こして経営難になっていないでしょうか……」

加々美「……お父さんってそんなに危なっかしい感じなのかしら?」

米菓「そりゃもう……」

【INFO】
加々美優紫と交流しました。
米菓リリィと交流しました。


四季ヶ原 ■□□
リーチカ ■□□
那波 ■□□
辰爾 □□□
小倉 □□□
辻垣 ■□□
米菓 ■□□

ハック □□□
橘高 ■□□
加々美 ■□□
杯 □□□
絡繰 ■□□
天草 □□□
李 □□□
沙慈 □□□

【稲羽の部屋】

稲羽「……」

夜になり、私は部屋で一人でいた。

この奇妙な状況で、慣れない部屋を使う事に僅かな抵抗はあったが、今はどうにもならないので恩恵を受ける事にする。

稲羽「……」

ありがたい気もしたが、そもそもこの部屋を用意したのも私達を閉じ込めている人だろうし……どうなんでしょうか。

そうしている内に、天井のモニターからチャイムが流れる。


キーンコーンカーンコーン……


モノクマ『こんばんわ。夜10時になりました。よい子は就寝時間とするのをお勧めします』

モノクマ『夜更かししてると取って食われちゃうかも? 同族という獣にね……うぷぷおやすみなさい』ブチッ



稲羽「……」

何だか……疲れた。

今日一日で……色々ありましたから……

稲羽「……」

私は、ここに来るまでの間に何があったのかを思い出そうと試みる事にした。

稲羽「えっと……」

記憶を辿っていく。

家にお母さんがいて……あの日は料理の手伝いをして失敗して……

稲羽「……」

そこから先の記憶は綯交ぜになっていて、はっきりと思い出す事が出来ない。

何度考えても、どうしても突然この空間に場面が転換する。

稲羽(……駄目ですね)

私は不安を押し殺す為に何となく、モノクマから与えられた電子生徒手帳を眺める。

一通り眺めたが、規則と、ここにいる人間の名簿、地図などの最低限の情報しか書かれていない。

勿論、名簿の中に首謀者の名前が書かれているなんてことは無く……

稲羽「……」

眠れない……

【体育館】

私は、初めにモノクマと出会った体育館へ訪れる。

稲羽「……」

相変わらず……体育館なのに玉座があるような、ちぐはぐで奇妙な空間。

こんな所でボール遊びをしたら……シャンデリアが割れてえらい事に……

辻垣「稲羽さんが物思いにふけながら歩いていると、やがて終着点へ行きつく」

思考に気を取られていると、目の前に辻垣さんがいる事に気が付く。

辻垣さんは玉座へ座り込んで、どことなく優雅に煙管を咥えている。

辻垣「彼女は驚いてこちらを見つめる」

辻垣「……丁度いい。君の才能がどのような物なのか聞かせて欲しい」

稲羽「才能……?」

辻垣「私はじれったさを隠しきれない。ほら、君は幸運なのだろ?」

稲羽「幸運……ですか? でもそれは……」

そこまで言って言葉を止める。





私はそこまで運が良い訳じゃないと思っていたけど……

だったらそもそも、私はどうして幸運と呼ばれるようになったんだっけ?

稲羽「……」

ただ、自分が幸運だと呼ばれている事実だけがあって……

そう呼ばれるようになるまでのいきさつは……私の記憶の中に存在しなかった。



 

辻垣「どうしたんだね」

稲羽「いえ……その」

私は、今自分の感じた違和感を辻垣さんへ説明する。

辻垣さんは静かに、私のまとまらない話を聞いていた。

辻垣「……なるほど」

稲羽「……」

私は表情を変えない辻垣さんに僅かな不安が芽生え、彼女の様子を黙って見ていた。

辻垣「稲羽さん……実はね、私も一つ引っかかるところがあった」

稲羽「……それは?」

彼女の続けた言葉に息を呑む。

そんな私の心境を知ってか知らずか、辻垣さんは煙管の煙を吐き、一呼吸の間を置く。

辻垣「私は世の中に多数存在している超高校級個人個人の情報を、大体持っているつもりだった」

辻垣「ここにいる者については、奇しくも全員の才能の詳細を知っている……李君やリーチカさんのような海外の者も含めてね」

辻垣「どのようにしてその才能を持つと認められる事になったのか……その才能を持つ者として世間に認知されている特性は何か」

稲羽「……」

ここに集められた人は……私も知っている人ばかりだった。

詳しくは分からない人もいた。けど、それは単に私が疎いからというだけで……

小説家である辻垣さんなら、知っていてもおかしくないと思えた。

辻垣「そして勿論、私は君の事も知っていた。君の名前も、幸運だという事も」

辻垣さんの言葉は想定外だった。

私の事なんて……誰も知っている筈がないと思っていたから。

辻垣「しかし、肝心の幸運の内容については、詳細どころか……さわりの部分すら何も知らなかったんだよ」

辻垣「それだけなら、君の才能の実態は殆ど世間に知られていない、という話だったが……どうも記憶に靄がかかっているような奇妙な状態だった」

えっ?

辻垣さんは……知らないのではなく忘れているのか。

私の幸運の事を……私だけでなく、彼女まで同様に忘れている。

稲羽「……」

ここに来るまでの経緯も、全員が忘れていた。

それはモノクマにとって都合が悪い事だったからだろうと納得していた。

けど……私なんかの事が、何故?

辻垣「……すまないね、不安にさせるような事を言ってしまったかなと申し訳ない気持ちが生じる」

稲羽「いいえ……大丈夫です」

辻垣「いや、何……そこまで気にする事じゃあない。そもそも私達がここに来た経緯、その記憶も不自然に失われているのだから」

辻垣「モノクマ君がどのようにして私達の記憶を改竄したのかは分からないが……君の幸運についての記憶が無くなったのだとすれば」

辻垣「単純に、何か手違いが起きたが故という可能性もあるだろうから」

稲羽「……」

辻垣「けれど、今日は興味深い話が聞けた」

辻垣「私は君の幸運が小さいものだとは思わないよ。君が自覚出来ていなかっただけで、君はきっととても幸運な人間だったのだろうと思っている」

辻垣「良ければまた改めて……君の話を聞きたいな」

稲羽「……私で、良ければ」

辻垣「ありがとう」







そう言って、辻垣さんは笑う。

その時の辻垣さんの笑みを、私は以前から知っているような気がした。





 

【2日目】

稲羽「……」

おかしな夢を見た。

大勢のモノクマに囲まれている夢。

モノクマ「……」

モノクマは最早床が見えなくなる程に敷き詰められている。

全てのモノクマの目が、私を見つめて離そうとはしない。

稲羽「……」

その内、私は夢から覚めた。

……辺りはやはり昨日と変わらず、部屋中が兎に満ちている。

稲羽「おはよう、兎さん」

いつものように、兎さんへ挨拶をする。

窓の無い空間は、卓上ランプの無機質な明かりで照らされている。

時計を見ると、まだ6時を少し過ぎたあたりのようだった。

稲羽「……」

クローゼットには、今着ている兎さんと同じデザインの兎さんと、今着ている制服等と全く同じ物が何着も収納されていた。

寝巻は無い。同じ服で過ごせという事でしょうか。

そこまで支障はありませんが。

稲羽「……」

私は簡単な準備を済ませて部屋を出た。

【廊下】

人気のない空間を歩く。

閑散としていて、自分の存在だけでは心許ない。

稲羽「……」

誰も彼もいなくなってしまって……今、ここにいるのは私と兎さんだけ……

なんて事……無いですよね?

天草「おはよう御座います」

天草さんの声がして、咄嗟に振り返る。

私の幻聴などではなく、天草さんはしっかりとそこにいた。

私は自分の妄想が外れた事に安堵する。

稲羽「……天草さん」

天草「……」

彼は神秘的な雰囲気を携えて、柔らかい笑顔を浮かべている。

天草「参りましょうか」ニコ

天草さんが私に進むよう促し、自分自身も歩を進める。彼もきっと食堂へ行くのだろう、私は彼の後に続いた。

稲羽「……」

私達は何も言葉を発する事なく無言で歩く。

何かを話すべきかどうか判断できずにそのまま黙っていると、ふいに天草さんから話かけてくる。

天草「お疲れですか?」

稲羽「え?」

天草「顔色が優れませんで」

稲羽「……」

今朝の夢のせいだろうか?

それに……昨晩辻垣さんから聞いた話も気になる。

私の才能についての記憶がお互いに無かったのは、本当に偶然なのだろうか?

稲羽「……いえ、大丈夫です」

今は余計な心配をかけるべきではないですね。

大丈夫……上手くいけばここから出る事が出来る筈だから。

天草「……」

天草「少し、寄り道しましょうか」

【中庭】

中庭には変わらず薔薇が咲いている。

天草「花には心を癒す作用が御座います」

昨日見た時には気づかなかったが、ここには白い薔薇や黄色い薔薇もあるようだ。

稲羽「……」

私は天窓の方を見上げる。窓越しに、広大な空が広がっている。

きっと……出られますよね。

稲羽「……」

けれど、リーチカさんを貫いた槍を思い出す。彼女の身体からは血が溢れ、僅かな鉄の臭いがそれが現実だと教えてくれた。

また……あんな事が起きてしまわないでしょうか?

天草「幸運の方、死を恐れておりますか?」

天草さんの言葉に思わず心臓が跳ねる。全て見透かされているように思えて、身体が強張る。

稲羽「天草さんは……その、怖いですか?」

私は緊張のあまり、質問を質問で返してしまった。

そんな見当違いな言葉に対して、天草さんは表情一つ変える事無く答える。

天草「……ええ。怖いですよ。それはとても」

天草「死とは恐ろしいものです。生命は等しく死んでゆきます」

天草「死は生を享受している以上は避けようのないものでしょう。現世に産まれた時点で我々には常に死が付きまとう」

天草「しかし例え死が避けられないものだとしても……そこに至るまでを悔い無きように生きていく」

天草「きっと、それだけで人心は救われると私共は感じております」

稲羽「……」

悔いのないように……

私に、死んだ後で悔いる事はあるでしょうか。

考えても答えは出ないので、私は天草さんの方を見る。

天草「……」

天草さんは花を見つめている。その瞳はどこか寂しげに見えた。

稲羽「……?」

天草「……ああ、少々昔を思い出しておりました」

天草「昔、私の傍には花がお好きな御方がおりました」

天草さんはぽつぽつと語り始める。

天草「かつて人に見放され、縋る事が出来ないようで御座いました。見かねた私共はその御方を保護しました」

天草「その御方は酷く苦しんでおられました。この現世に絶望し、本来受けられた幸福の総てを諦めきっているかのような」

天草「長い事傍におりましたが……私共は本当の意味であの御方を救う事が出来ておりません」

天草「此処の花々を見ていると思い出すので御座います。私共は死を迎えるまで……あの御方のような救うべき者を救い続けるでしょう」

天草さんは静かに目を閉じる。何かを悔いているようだった。

彼に悔いがあるとすれば、きっと人を救えない事なのだろうか。


「わたし、きっとその子と気があうねぇ」

四季ヶ原「おーはよう」

声のした方を振り返ると、四季ヶ原ちゃんが幼気な表情で佇んでいた。

天草「おや、これは……園芸部の方」

四季ヶ原「なーにしてるの? こんなとこで……」

四季ヶ原「あっ……もしかしてここで……ぐちょ濡れな蜜月を……」

四季ヶ原「薔薇と神門くんの香りが混ざり合う中……うさちゃんは蜜を溢れさせて……はぁっ……♡」

四季ヶ原「んぅ……美味しかった……?」

しかしやはり、彼女の言う事は幼気とは程遠いものだった。

四季ヶ原「あっ、そうだ……ご飯出来てるょぉ」

天草「有難う御座います、園芸部の方」

四季ヶ原「んへぇー」

四季ヶ原ちゃんはにへらと笑い、そのまま薔薇の元へ駆けて行った。

天草「幸運の方、くれぐれもご無理はなさらぬよう……。貴方様の安らぎを願っています」

稲羽「はい。……あの」

天草「?」

彼が中庭へ連れてきてくれたおかげで、少しだけ気が軽くなった。

せめてお礼の言葉だけでも伝えなければ。

稲羽「ありがとうございます、……励まして頂いて」

天草「少しでも救われたのなら、幸甚の至りです」

【食堂】

食堂には殆どが集まっていた。

那波さんとリーチカさん、ハックさんだけは来ていないようだ。

四季ヶ原「千代ちゃんはリーチカちゃんとお楽しみちゅうだょぉ。ハックくんは一人で慰めてるんじゃないかなぁ」

杯「That's awesome! 一体何を慰めているんだろうねっ!☆」

稲羽「……」

四季ヶ原「あ、ご飯はちゃんと部屋に持ってったから餓死はしないょぉ。安心してね……」

四季ヶ原「今日の朝ごはんは……女体盛りだょ……」

小倉「トマトにしか見えないんだけど……」

お皿には小さな可愛らしいパンと、丸ごとのトマトが並んでいる。

トマトの腹の中には、ひき肉やチーズが詰められている。これはトマトの肉詰めですね。

どうやら、このトマトは四季ヶ原ちゃんが調理したものらしかった。

四季ヶ原「あぅ……女体ごと物理的に食べちゃうなんて……アブノーマルすぎるねぇ……」

米菓「あんたの頭の方がアブノーマルですよぉ!!! このド変態!!!」

沙慈「うむ、美味でごわすな。よしよし」ナデナデ

四季ヶ原「あぁっ……百舌ちゃんの手の平……おおきすぎるょぉ……」

モノクマ「トマトを女と思い込むなんて、人間の目玉は低次元だね(口上)」

米菓「ひああああ!!!」

突然モノクマが現れる。

……今朝の夢を思い出して、少しだけ寒気がした。

稲羽(正直気味が悪かったし……)

小倉「さーて帰ろうか加々美クン」

加々美「え? うん」

モノクマ「ちょっと! 連れないなあ」

橘高「丁度良い、貴様には聞きたい事が山ほどある。今度は答えて貰うぞ」

モノクマ「ええー……」

橘高さんは有無を言わさないような目でモノクマを見据える。

モノクマ「……良いよ。出血大サービスでおっけーとします。ボクはおおらかなクマだから」

モノクマ「でも、答えられない質問ははぐらかすからね」

絡繰「それのどこがおおらかなんだ」

モノクマは拒絶する理由も無いのか、橘高さんの言葉に取り合った。

橘高「まず、何故超高校級の者に限定して集めたのかという事だ。一体貴様は超高校級をどうしたい?  目的は何だ?」

モノクマ「うーん……なんだろう? オマエラの遺伝子に価値があるからかな?」

遺伝子?

……一体どういう意味でしょうか?

四季ヶ原「遺伝子に価値を置くんだったら、殺し合いより乱交パーティーの方が良いんじゃないかなぁ……」

沙慈「う、うむ……シャブパーティーよりは幾分かマシでごわすが……」

米菓「どっちにしろ嫌なのですがぁ!!!」

橘高「……遺伝子……それが理由だと? 断片的過ぎる上に意味が通っていない」

橘高「真面目に答えろ」

橘高さんがモノクマを睨みつける。モノクマの表情は変わらない。

モノクマ「……答えてるよ。オマエラは才能があったからここへ集められたの」

絡繰「まあ、ボク様のような天才の脳を研究したい気持ちは分かる、ボク様も研究者の端くれな訳だし」

橘高「貴様はその価値のある遺伝子とやらを殺し合わせて、何が目的なんだ?」

モノクマ「駄目駄目。そこまで。はい、この話はおしまい」

橘高「……チッ」

モノクマはさっさと話を終わらせようとする。

橘高さんはそれ以上追及しても無意味と判断したのか、そのまま話を切り上げる。

橘高「……貴様の正体は何だ?」

モノクマ「言うと思う?」

橘高「思わんな。それに生憎と貴様の肉体を痛めつけて聞き出す手は使えん」

杯「Wow、Splatter。☆」

モノクマ「うぷぷ、こわいなぁ…………そうだね、指一本でも触れたらオマエが死んじゃうもんね」

モノクマ「ボクはそういうのキライじゃないけどね」

橘高「だが……言葉で追い詰める事は出来る」





橘高「」クドクドクドクド

モノクマ「ああー、うー、あー」

橘高さんがモノクマへ一通りの駄目出しをしている。

モノクマは煩わしそうに身を捩っている。

辰爾「……」

小倉「暇人のする事だね、馬鹿らし」

稲羽「……」

モノクマは橘高さんに一頻り罵詈雑言を受けたが、何も答える事はなかった。

【自由行動を開始します】

【二日目】自由行動 1/4

【食堂】

稲羽「……」

小倉さんと……

ハック「……」

あ、ハックさんだ。

彼は初めて会った時のように、机の下に潜り込んでいる。

テーブルクロスが捲られて、花瓶で固定されている。

小倉「何だい? さっきからボクに付きまとってるようだけど、早くそこから出てどっかへ消えてくれないか?」

ハック「……」

小倉「悪いけど、ボクは美しい人以外は極力視界に入れたくないんだ」

ハック「そんなんでよく生きてこれたな(正論)」

小倉「ここで当てはまるのは加々美クン……あの綺麗な顔……ずっと見ていたいね」

小倉「ここは本当にしょうもない所だから……彼を見ているのがボクにとっての唯一の癒しになるんだ」

小倉さんの表情は恍惚としている……

彼女は加々美さんの事が好きみたいですね。

ハック「あんなナヨナヨした野郎のどこが良いんだ……?」

ハック「というか何なんだ……あのキメェ口調……自分の性別すら分からなくなってんのか……?」

ハック「あ……頭湧いてんじゃ無ーのか?(引)」

小倉「はぁ……」

小倉「美しいものはそれだけで価値があるんだよ。……綺麗な物は愛でたいだろ?」

ハック「アレが美しいのか?」

加々美さんは……綺麗ですよね。

けど、ハックさん的にはどうでも良いかもしれませんね。

彼の性格的に……それに男性同士ですから、あんまり興味が無さそう。

小倉「あんなに美しい人はそういないさ……このめぐりあわせをくれた神に感謝したいくらいだね……」

ハック「ケッ……」

小倉「……」

小倉さんが屈み、ハックさんの傍へ近寄る。

そしてそのまま彼の元へ手を伸ばす。

小倉「……」ヒョイ

ハック「!?」

ハックさんの仮面が外され、素顔が顕わになる。

……彼は昨日と変わらず顔色が良くない。

小倉「……なんだ、仮面の方がまだ可愛い顔をしていたんだね」

小倉「勿体ないな……」

ハック「そーかよ(棒)」

小倉「……」

小倉さんはハックさんの顔から視線を離し……

小倉「……」ゴト

ハック「あ……?」

そして小さなボトルやペンのような物、ファンデーションなどをテーブルの上へ置く。

化粧道具のようですね。

小倉「……」

小倉さんはそれらを吟味している。

小倉「キミの事は全然好きじゃないけど、ボクの身体を見る目つきは好きだから……特別にボクが美しくしてあげるよ」

稲羽「美しく……?」

小倉「そうさ……こんな顔でも化粧を施せば少しはましになるよ」

ハック「いや……いらね(無関心)」

小倉「そう……」

小倉「……稲羽さん、悪いけど彼を押さえておいてくれるかな」

稲羽「えっ」

どうしよう。

ハックさんははあまり気乗りしないようだけど……どうなるのかちょっと興味がある……

うーん……

稲羽「……」

……ハックさん、ごめんなさい。

稲羽「……」ガシッ

ハック「お、おい……てめ……っ(驚愕)」

稲羽「ごめんなさい……」

ハック「あ……謝るくらいなら離せ……!(怒)」

小倉「離したら駄目だよ。ハッククンも往生際が悪いね」

ハックさんの身体は、女子である私でも抑えられるくらいにか弱かった。

彼は私から逃れようともがいている。

まさか、こんなに嫌がるなんて……あとでたっぷりお詫びをしないと。

私とお揃いの兎さんをプレゼントしましょうか? 彼も一人の時に寂しくなくなるかも

小倉「準備万端……」

ハック「(死)」

小倉さんがハックさんへ化粧を施し、数十分が経過した。

小倉「良い顔をしてきたね……」

ハック「……」

ハックさんの顔色は幾分かよくなっている。

そして、耽美というか……儚げな少女のような顔つき。

正直、とても可愛らしい……

小倉「こんなものかな……鏡見るかい?」

ハック「( ゚Д゚)ハァ? ……見ねーに決まってんだろ……吐き気がするからな(拒絶)」

小倉「はい」

ハック「うわああああああ!!!!!(死)」

鏡を見せられたハックさんは悶絶した。

小倉「さて……次は稲羽さんかな」

稲羽「私もですか?」

小倉「そうさ……ここまで来たら16人全員を美しくして……ふふ……」

稲羽「……」

ここにいる全員が、今のハックさんのような顔になったら……

想像してみたらなんだか、メルヘンチックですね。




加々美「あら、3人で何してるの?」

加々美「……ん?」

加々美さんの視線の先にはハックさん。

小倉「ふふふ……ボクがちょちょいのちょいと、ね……」

加々美「えっ……やだあ! かわいい!」

加々美さんは興奮した様子でハックさんを抱きしめる。

小倉「加々美クンに密着されるなんて……ふふ……妬けちゃうね……」

加々美「そんなに可愛くなっちゃって! この調子でヘアセットもしちゃいましょう!」

ハック「離せ!!! クソが!!!(死)」

【INFO】
ハック・ウィルヘルムと交流しました。
小倉真帆と交流しました。


四季ヶ原 ■□□
リーチカ ■□□
那波 ■□□
辰爾 □□□
小倉 ■□□
辻垣 ■□□
米菓 ■□□

ハック ■□□
橘高 ■□□
加々美 ■□□
杯 □□□
絡繰 ■□□
天草 □□□
李 □□□
沙慈 □□□

【2日目】自由行動 2/4

小倉さんに自分で化粧をしておいてくれと、化粧道具一式を渡された。

彼女は加々美さんについてどこかへ行ってしまった。

……どうしましょう? これ。

稲羽「……」

でも、化粧であそこまで可愛くなれるんですね。

私も試してみようかな?

杯「HEY~!☆」

稲羽「うわあ!!!」

急に目の前に杯君の顔が現れる。

杯「あっははは! やあ、こんにちは? 君の頭の中はいつでも楽しそうだね?」

杯君はニコニコ笑っている。彼自身も楽しそうですね。

稲羽「杯君は不安とかってありませんか?」

杯「不安? それは無いけど、悩んでる事ならあるよ?」

稲羽「悩みですか?」

杯「そうなんだ。☆ うぅ、ちょっと重大な悩みなんですよね」

杯君は頭を押さえ、うんうん唸っている。

杯「Just between us……実はモノクマさんを調教したいと思ってるんだよ~☆」

稲羽「モノクマを……?」

杯「うん!☆ 初めて出会った時からビビっときました!☆」

そういえば、あの人はクマですね。

クマと言えるのかよく分かりませんが

稲羽「芸を仕込むんですか?」

杯「そうそう! 縛り上げて鞭を打つんだ!」

杯「でも、調教しようとしたら☆ 抵抗されちゃうんですよねぇ、物理的に。☆」

杯「Umm……」

モノクマに危害を加えると……殺されてしまいますからね。

そればっかりはどうしようもありませんね。

……あ、そうだ。

杯君に化粧をしてみよう。

稲羽「杯君、お化粧しても良いですか?」

杯「何? 急に。でもすっごく面白そうだね☆ OK!☆」

杯君は快諾してくれた。

私は杯君へお礼を告げて、化粧に取り掛かった。

稲羽「……」


……



稲羽「……」

上手くいかない……

やっぱり化粧は、する人の技術によって完成度が左右されるんでしょうか?

……世の中甘く無いですね!



……


それから試行錯誤を続け、化粧を終えた。

杯君の目玉は爛れ落ちたように黒一色になり、口元は大きく裂けている。

稲羽「……」

うん、この絶妙な可愛らしさ、まさしくピエロそのものですね。

我ながら上手く出来ました。

杯君の顔がもともと幼げなのも上手くいった一因ですね。

杯「どうですか?☆ 僕の顔。あはは!!☆」

稲羽「可愛いですよ」

杯「そうなんだ!?☆ じゃあ早速誰かに……」

沙慈「ふんふふんふんふーん……ぬおおおおお!!!??」

稲羽「きゃああああああ!!!」

食堂へ訪れたらしい沙慈さんが驚いた様子で後ずさる。

沙慈さんの声に私も思わず驚いて、叫び声をあげてしまう。

沙慈さんの叫び声……男性らしく渋くてかっこいい……

稲羽(って、私は何を考えているんでしょう?)

沙慈「うむ、娘っこ……一体どうしたのでごわすか? 杯君は」

稲羽「お化粧したんですよ。可愛いですか?」

沙慈「かわ……かわいい? うむ……」

杯「アレ? なんか反応が微妙ですよ?☆」

稲羽「えっ……?」

……どうしよう、もしかして本当はあんまり可愛くないんでしょうか?

稲羽「……」


1.沙慈さんの顔を弄ってやる(奇数)
2.沙慈さんに顔を弄ってもらう(偶数)

64(偶数)

稲羽「そうだ、沙慈さんもやってみませんか?」

稲羽「沙慈さんなら、きっと私よりうまくできるんじゃないでしょうか」

そんな根拠どこにあるんだ? って言われそうですね。

確かに根拠は無いです……沙慈さんの得手不得手をそこまで知っている訳ではありませんし

でも、私沙慈さんが努力家って事知ってますから!

沙慈「何事も経験でごわすな。承知したでごわす」

杯「僕はこの顔のままで良いよ!☆」

稲羽「じゃあ、もし私の顔で良ければ……私の顔で」

沙慈「うむ。それでは」

沙慈さんが化粧道具を手に取る。

沙慈「……」

沙慈さんは私に、慣れない手つきで化粧を施す。

沙慈さんの手が私の肌に触れている。憧れの人に触れられて……私は緊張と高揚で身体中が熱くなる。

心臓が、ばくばくとうるさい……

杯「Umm……それ、もしかして歌舞伎ですか?☆」

沙慈「うむ、隈取でごわすな。折角でごわすからやはり日本的なものを」

杯「Excellent!☆ かっこいー!」

私は今、歌舞伎の人のような顔になっているのか。

小倉「キミたち何してんの?」

稲羽「あ、小倉さん」

小倉さんが戻ってきた。私は期待半分、不安半分で胸の中がざわざわした。

この杯君は、本当に可愛くないのでしょうか?

小倉「何これ?」

沙慈「歌舞伎風でごわす。歌舞伎は日本の古きよき芸能でごわすな」

小倉「あっそ……」

沙慈「そこまで興味なさげにされるといっそ清々しいでごわすな、はっはっは……」

小倉「まあ、興味がないわけではないよ……ただキミの化粧というものに興味がないだけで」

沙慈「はは……」

小倉「そんな事よりさ、この杯君は何なんだい?」

小倉さんは杯君の方へ冷たい目を向ける。その目には言いようのない嫌悪が見て取れる。

どうして……そんな目をするんでしょうか? ……いいえ、理由は何となく察しがついています。

稲羽「えっと……私が化粧をさせてもらいました……」

小倉「……」

沈黙が痛い……

小倉「……誰がこんな化け物を作れと言ったのかな? キミは化粧もまともに出来ないのかい?」

小倉「正直幻滅したよ」

小倉さんは怒っていた。

稲羽「ごめんなさい……」

かなり……可愛い自信はあったんですけど……

やっぱり……駄目だったんですね。

小倉「とりあえず、見るに堪えないからさっさと落として」

杯「Oh、僕はこのままでも良いんだけどな☆」

私と杯君は化粧を落とさざるを得なくなった。

【INFO】
杯団と交流しました。
沙慈百舌と交流しました。


四季ヶ原 ■□□
リーチカ ■□□
那波 ■□□
辰爾 □□□
小倉 ■□□
辻垣 ■□□
米菓 ■□□

ハック ■□□
橘高 ■□□
加々美 ■□□
杯 ■□□
絡繰 ■□□
天草 □□□
李 □□□
沙慈 ■□□

【2日目】自由行動 3/4

【中庭】

辰爾「お……おやめください……」

四季ヶ原「そんな事を言って……んっ……身体は、さ……正直だね……」

辰爾「いや、いやです……」

辰爾さんが四季ヶ原ちゃんに押し倒されている。辰爾さんの着物ははだけて、隙間から僅かに肌が覗いている。

2人とも苦しそうに息を吐き、頬を紅潮させている。

稲羽「……」

何してるんですか? あの2人……というか四季ヶ原ちゃんは。

四季ヶ原「うさちゃんが……来たょ? はぁ……3Pになっちゃうね……?」

辰爾「うっ……うぅ……」

辰爾さんはさめざめと泣いている……

四季ヶ原「ごめんね? 和琴ちゃん……ちょっと興奮しちゃった……」

四季ヶ原「和琴ちゃんの、全身……まるで柱頭みたいに敏感で……愛しいよ」

辰爾「そ、そんな……恥ずかしい……です……」

私は一体何を見せられているんでしょうか……

四季ヶ原「……ねえうさちゃん。どうしてぼうっとしてるの? こっちにおいでよ?」

稲羽「……」

私は……


1.辰爾さんの様子を窺う(奇数)
2.四季ヶ原ちゃんを襲う(偶数)

※この書き込みのコンマで判定

03(奇数)

辰爾さんが泣いている。

彼女は四季ヶ原ちゃんに襲われているこの状況が、苦しいのかもしれない。

辰爾「稲羽、様……」

辰爾さんの肌には痛々しいキスマークがいくつも付けられている。彼女の目には涙が溜まっている。

私は自分の着ている兎を脱ぎ、それを辰爾さんの身体にかける。

稲羽「……」

四季ヶ原ちゃんが植物だけでなく、人間にもここまでするなんて……いえ、彼女ならやりかねなさそうですが。実際今こうなっている訳で……

稲羽「一体、何がどうしてこんな事に……」

四季ヶ原「ぅーん……ただ、和琴ちゃんが可愛かっただけだょ」

困惑するしかない私に、四季ヶ原ちゃんは何でもない事のように答える。

四季ヶ原「和琴ちゃんは目、見えないんだょね? それがまるで植物みたいに思えるの……」

四季ヶ原「あの子たちは言葉を話せないし、わたしの姿が見えているかも分からない……だから……出来るだけ他の感覚全部で、わたしを感じて貰いたいんだ」

稲羽「……」

確かに、植物から四季ヶ原ちゃんの事は見えないかもしれませんね。

四季ヶ原「それで、和琴ちゃんが植物みたいだって思ってるうちに……和琴ちゃんの事が愛しくなってきて。それでね」

四季ヶ原「さっきの感度で……もっと好きになっちゃった」

四季ヶ原ちゃんはそこまで言って、はにかむ。

やっぱり彼女は、幼さとは到底かけ離れた感性を持っている。

四季ヶ原「和琴ちゃん、辛かった?」

辰爾「いいえ……ただ……」

辰爾「とても恥ずかしくて……」

四季ヶ原「大丈夫だょ。和琴ちゃん」

四季ヶ原「性欲は……子孫を円滑に残す為に存在しているんだから。恥ずかしくっても、悪い事なんて一つも無いんだょ」

辰爾「……」

四季ヶ原「ごめんね、無理にこんな事しちゃって。和琴ちゃん、少しずつ慣らしてって……また……しよ?」

四季ヶ原「今度は……優しくするから。……ね?」

辰爾「……」

辰爾さんは目を伏せて、俯く。

辰爾「四季ヶ原様……わ、わたくしは……」

辰爾「その……」

辰爾「……」

辰爾さんは、返答を濁した。

彼女が四季ヶ原ちゃんの言葉に何を思っているのか……それは曖昧なままだった。

四季ヶ原「……第二ラウンド行こっか? う・さ・ちゃん」

稲羽「わ、私?」

四季ヶ原「ぇへへ……うさちゃんの膨らみかけた控えめなその胸……とってもいやらしいって思ってたんだ……」

四季ヶ原ちゃんが熱っぽい目を私に向け……

稲羽「だ、駄目です! 私は――――」

【INFO】
四季ヶ原咲と交流しました。
辰爾和琴と交流しました。


四季ヶ原 ■■□
リーチカ ■□□
那波 ■□□
辰爾 ■□□
小倉 ■□□
辻垣 ■□□
米菓 ■□□

ハック ■□□
橘高 ■□□
加々美 ■□□
杯 ■□□
絡繰 ■□□
天草 □□□
李 □□□
沙慈 ■□□

【2日目】自由行動 4/4

【食堂】

うーん……あれ? 私は何で食堂にいるんでしょう?

稲羽「……」

機械の軋む音が聞こえる。

絡繰君が機械を組み立てている。大体の形は出来上がっているようだった。

李「起きたか?」

稲羽「……李さん?」

私の視界に飛び込んできたのは、漢字の書かれたお札。

勅令陏身保命……これってどういう意味でしたっけ?

李「なんかお前、花があるところでぶっ倒れていたぞ?」

稲羽「……」

そうでした。そういえば私は四季ヶ原ちゃんに……。どうしよう、あの時の事を思い出すと物凄く恥ずかしいです。

李「放置するわけにもいかぬから、こうしてここに運んできたという訳アル」

絡繰「んー、どうせなら個室に運んだ方が良かったんじゃないか?」

李「はて? 個室というのはどこだ?」

絡繰「ああ、ここを出て突き当りの――――」

李さんが私を介抱してくれたのか。

稲羽「李さん、ありがとうございます」

李「まあ、我らは盟友であるから。困ったときはお互い様」

いつの間にか盟友になっていたんですね。

嬉しいです。

私は身体が少し怠いので、その場で休む事にした。

李「……」

李さんが絡繰君の手元をじっと見ている。その視線に気づいた絡繰君が口を開く。

絡繰「なんだ? 興味があるのか?」

李「……ああ、老師がよく似たような事をしていたのでな」

李さんのお師匠さんが……ですか? なんか意外ですね。

絡繰「へえ。お前の老師って工学者も兼ねてるのか?」

李「コーガクシャ? なんだそれは?」

絡繰「んー、工学者って言うのは……」

絡繰君は機械を弄りながら言葉を続ける。

絡繰「基礎的な科学に基づいて人間社会に役立つ物を構築する……まあ簡単に言えば物を作る人間だな、ボク様のような奴だと思って良い」

李「ほう。それの使い手は有益な物を生み出すのか? では、我の身体も人間社会に有益となるのか?」

絡繰「は?」

李「老師はよく我の内臓を弄っていたアル。丁度今のお前のように」

稲羽「……」

一瞬意味が分からなかったけど、よく考えたら手術みたいなものかもしれません。

絡繰「なるほど、お前を被検体にしていたわけか。……バラして良いか?」

李「別に構わぬが……ただ、白い粉を用意して欲しい。アレを吸うと痛みが無くなる」

稲羽「……」

その粉って……いえ、深く考えるのはやめておきましょう。

李「一度あれを吸うのを忘れたんだが……酷い激痛だった」

李「しかし老師は一度没頭するとほかの事柄が一切頭に入らんから、いくら叫んでも気づいてくれず……」

絡繰「よく生きてたな……」

絡繰君は機械を弄る手を止めた。

絡繰「けどまあ、心配ないぞ。麻酔的な物なら確か部屋にあったと思うから」

そして彼は立ち上がる。そろそろ帰るつもりみたいですね。

そうだ、帰る前に……


1、李さんの拳なら割れそう(奇数)
2.絡繰君なら破壊兵器を作れる(偶数)

※この書き込みのコンマで判定

22(偶数)

絡繰君に天窓を割ってもらえないでしょうか。彼なら何か兵器を作れるかも。

稲羽「……」

辻垣さんは、モノクマに気づかれないようにって言っていましたね。

モノクマに気づかれないようにするには……そうだ、かなり強引な方法になってしまうけど……

稲羽「……」ガタッ

絡繰「ん? いな――――」

私は絡繰君の元へ近寄り、彼の身体を抱いて床に倒れ込む。

絡繰「……稲羽?」

稲羽「あの、その、ちょっと……しばらくこうしていていいですか……?」

李「アイヤー」

私は絡繰君を押し倒す体制になっている。

絡繰君の身体が私に密着している。彼の身体は、同じ高校生の男の子とは思えない程に幼くて可愛らしい。

絡繰「稲羽、お前疲れてるのか?」

監視カメラがある以上は、こんな方法をとるしかない。

これでモノクマから見れば私は、ただこの状況の不安からか、或いはそういう事に興味があったからか、とにかくそんな理由で突然男子を押し倒した女子というだけの事になる。

……でもこれじゃ、四季ヶ原ちゃんの事をとやかく言えませんね。

稲羽「絡繰君……」

私はそっと絡繰君の耳元へ口を近づける。

稲羽「えっと……いきなりすみませんでした。なるべく声を抑えて……」

絡繰「ん……用件は?」

稲羽「実は……」

私は事情を伝えた。

稲羽「という事で、何か破壊兵器みたいなものを……」

絡繰「お前の口から破壊兵器なんて言葉が出るとは思わなかったぞ」

絡繰「けど……んー、あそこは……」

絡繰君は目を逸らす。

絡繰「……いや、まあ良いか。とりあえず登って具合を確かめるか」

絡繰「じゃあ、登る道具だけ作っておく。それでも良いか?」

稲羽「登る道具……ですか?」

絡繰「ん? ああ。どっちにしろ登れなきゃ出られないだろ?」

確かにそうですね。

下から壊す事ばかり考えていましたが、登れなければ出る事も出来ませんしね。

それに、窓に近ければそこそこの衝撃を加えるだけでも割る事が出来ます。下から攻撃するよりも確実かも。

李「こいつら、モゾモゾと何をしているのだ?」

李「……まあいいや。もう帰ろ」

【INFO】
絡繰時矢と交流しました。
李紅運と交流しました。


四季ヶ原 ■■□
リーチカ ■□□
那波 ■□□
辰爾 ■□□
小倉 ■□□
辻垣 ■□□
米菓 ■□□

ハック ■□□
橘高 ■□□
加々美 ■□□
杯 ■□□
絡繰 ■■□
天草 □□□
李 ■□□
沙慈 ■□□



――――

――



【食堂】

あれから絡繰君はすぐに登るための道具を用意してくれた。

どうやら、元々自室にあったものを改造したらしい。

橘高「……」

今日が、橘高さん達と天窓を割ると決めた日。監視カメラを警戒して、なるべく表に出さないように他の人達には伏せていた。

橘高「モノクマ、今朝の続きだ」

モノクマ「えっ? そんなにボクを求めてるの? ちょっとドキドキしちゃうなあ……いや、ゾワゾワ?」

橘高「黙れ」

モノクマ「……」

橘高「まあいい、ところで、だ……貴様はロボットのようだが、野球というものは知っているか?」

モノクマ「……」

橘高「き、貴様ふざけているのか?」

モノクマ「だって黙れって言われたから……はっ喋ってしまった」

モノクマ「まあいいや。それで何だっけ? 野球? 千本ノックの事?」

橘高「それは守備練習法の1つだな。貴様程度でも知っているとは、多少は見直したぞ。それでは……」

モノクマの気を橘高さんが引いている。今のところ何事も無く、比較的平和な会話がされている。

私は内心で橘高さんの無事を祈り、絡繰君と中庭へ向かう。

【中庭】

中庭へたどり着く。見上げると空はもう暗く、星の灯りだけが注いでいる。

絡繰「ここだな」

絡繰君の傍らには大きな折り畳み式の梯子。その全長は天井まで届く。

小さな彼がこんな大きなものを持っている姿は見ているのがいたたまれず、一度は私が持とうと思ったけど、絡繰君はそれを拒んだ。

絡繰君は梯子を組み立てて、天井まで伸ばす。彼の手には謎のリモコンが握られている。

稲羽「そのリモコンは?」

絡繰「ん? ああ、お前が破壊兵器を頼んでくれたのに梯子だけじゃ何だから、兵器っぽい機能を付けておいた」

私の頼みをわざわざ……? 何だか申し訳がないです。

でも、それがどんな機能なのか……ほんの少しだけ興味をそそられてしまう。

絡繰「この梯子はただの梯子じゃない。側面に発射口があるだろ? なんとこの遠隔ボタンを押す事で……」ポチッ

絡繰「」ゴゴゴ

絡繰「そこから、こんな具合にミサイルが……」ポコッ

稲羽「……?」

梯子の側面から小さな筒が発射されたと思ったら、それは壁に弾かれ情けない音を立てて落ちていった。

もしかして、これがミサイルですか?

破壊力はなさそうですが、可愛いミサイルですね。

絡繰「……まあ、ふざけるのはここまでにするか」キリッ

そんな顔をされても格好がついていない。むしろただかわいいだけ……ゲフンゲフン

>>129 訂正

【中庭】

中庭へたどり着く。見上げると空はもう暗く、星の灯りだけが注いでいる。

絡繰「ここだな」

絡繰君の傍らには大きな折り畳み式の梯子。その全長は天井まで届く。

小さな彼がこんな大きなものを持っている姿は見ているのがいたたまれず、一度は私が持とうと思ったけど、絡繰君はそれを拒んだ。

絡繰君は梯子を組み立てて、天井まで伸ばす。彼の手には謎のリモコンが握られている。

稲羽「そのリモコンは?」

絡繰「ん? ああ、やっぱりお前が破壊兵器を頼んでくれたのに梯子だけじゃ何だと思ったから。ささやかな兵器っぽい機能を付けておいた」

私の頼みをわざわざ……? 何だか申し訳がないです。

でも、それがどんな機能なのか……ほんの少しだけ興味をそそられてしまう。

絡繰「この梯子はただの梯子じゃない。側面に発射口があるだろ? なんとこの遠隔ボタンを押す事で……」ポチッ

絡繰「」ゴゴゴ

絡繰「そこから、こんな具合にミサイルが……」ポコッ

稲羽「……?」

梯子の側面から小さな筒が発射されたと思ったら、それは壁に弾かれ情けない音を立てて落ちていった。

もしかして、これがミサイルですか?

破壊力はなさそうですが、可愛いミサイルですね。

絡繰「……まあ、ふざけるのはここまでにするか」キリッ

そんな顔をされても格好がついていない。むしろただかわいいだけ……ゲフンゲフン

絡繰「それでまあ、稲羽。ちょっと良いか?」

稲羽「はい?」

絡繰「期待を裏切るようで悪いんだけど、多分ここからは出られないんじゃないかと思う」

稲羽「えっ?」

絡繰「ああ、確証が無かったから言えなかったけど……」

絡繰「これは恐らく――――」ビュン

絡繰君が言い終わる前に、先程のミサイルが激しい音を立てて飛来する。



パリン



稲羽「っ!?」

窓が割れた音がした。

しかし……同時に、視界から灯りの一切が消えてしまった。

星から漏れていた僅かな灯りすらも無くなり、辺りはただ闇一色に染まっている。

……急に失明してしまったんでしょうか? まさか、窓ガラスの破片が目に入ったりして……

どうしよう……そんな事になっていたら……

絡繰「……な? あれは窓なんかじゃなく……」

モノクマ「偽りの空だったんだよ」

稲羽「っ?」

ランタンを持ったモノクマが現れる。仄かに辺りが照らされて、視界が戻ってきた。

良かった……失明したわけではなさそうだ。

絡繰「ん? 橘高と話は済んだのか?」

モノクマ「え? ああ、橘高クンね。彼の相手は別のモノクマがしているよ、ボクにはスペアが無数にあるから」

絡繰「へぇ……なら、1つくらい分解しても見逃してくれないか?」

モノクマ「駄目だよ。ボクとしてもキミにバラバラにされるのはちょっと興味があるけど……規則に抵触しちゃうから見逃すことは出来ないよ」

モノクマ「まあ、そんな話は置いておいて。実はこれね、本物の窓じゃなかったんだよ」

モノクマが天窓の方を見る。

本物の窓じゃなかった?

確かに、急に真っ暗になったりして変ですけど……

絡繰「ああ。人工日光ってヤツだろ? ボク様も作ろうとしたことがあるから覚えてる」

モノクマ「うん、そうだよ。科学の結晶だよね。窓の無い部屋に引きこもってても、日の光を浴びれるなんて科学は進歩したものだよね」

稲羽「……」

つまり、最初からここから外には出られなかったという事ですか……

それに、モノクマが2体同時に動けるなんて。それじゃあ……

モノクマ「いや~オマエラは馬鹿だな、ここから出たいなら誰かを殺すしかないってボク言ったのに」

モノクマ「こんなあからさまな出口用意するわけないじゃーん」

モノクマが笑っている。

私の心境は彼とは正反対に、笑えるような状態ではない。

モノクマ「ところでさ、これ」

絡繰「ん?」

絡繰君が何か紙を渡された。紙面に書かれていたのは13桁の数字。単位に換算すると兆にも及ぶ。

それは所謂請求書だった。

絡繰「流石に高いな……まあ、あれだけの物なら無理も無いか」

絡繰「踏み倒して良いか?」

モノクマ「良いわけ無いでしょ?」

モノクマ「もしオマエラのどっちかがここから出たら、後々きっちり払ってもらうからね~」

稲羽「……」

モノクマが去っていった。

稲羽「……」

私の早とちりで、皆さんに迷惑を掛けてしまった……

絡繰君にも……橘高さんや辻垣さんにも申し訳ないです。

絡繰「そう落ち込むな、稲羽」

稲羽「絡繰君……」

絡繰「弁償なんてしなくても、あの人工日光は修理すれば何とかなる」

稲羽「いえ、そうではなく……」

何といったら良いんでしょう。何だか少し気まずい。

稲羽「あの……ごめんなさい。この梯子を作ってもらったのに」

絡繰「ん? お前が謝る必要は無いぞ? ボク様の目的は元々あれを観察する事だった、だから梯子も作ったんだ」

絡繰「今回、お前に頼まれたのはついでだっただけだ」

絡繰君は空を見上げ、天窓の損壊部分を見つめていた。

絡繰「じゃあ、ボク様はしばらくここにいるから。お前はそろそろ帰った方が良いんじゃないか?」

稲羽「でも……」

絡繰「ん? ボク様の事を気にしているなら、無用な心配だな。ボク様は好きでここにいるだけだからな」

稲羽「そう、ですか?」

絡繰「ああ」

――――

――



【稲羽の部屋】

天窓はダミーだった。

……いよいよ出る方法が無くなってしまった。

稲羽「……」

本来の入り口は封鎖されている。強行突破は出来ない。そんな事をすれば、外に出る前に殺されてしまう。

他に、出口に繋がるような場所は無い。

稲羽「……」

酷く不安になって、私は兎さんを抱く。

自分でも気が付かなかったけど、身体が震えているらしい。

……暖かい。

稲羽「……」

兎さんのおかげで、だんだん気持ちが落ち着いてくる。

いつも、彼女には助けられっぱなしです。

稲羽「……」

消沈していても仕方が無い。

私は,これまでの情報を整理する事にした。

まずモノクマは、私たちを集めたのは、遺伝子的に価値があるから……って言っていましたね。

稲羽(それは、超高校級というからでしょうか?)

超高校級というのは、特定の分野に秀でている高校生に付けられる通称のようなもの。

全員、それに足る実績を持っている。

ただ、私にはその実績が分からないし、価値があるとは到底思えないけど……

稲羽「……」

でもモノクマは、それらを共同生活と銘打って閉じ込めて、殺し合わせる目的は何も語らなかった。

遺伝子的に価値があるなら、殺し合わせる意味は何なんでしょうか?

モノクマは何がしたいんでしょう? 彼は肝心な事は何も答えようとしない。

稲羽「……」

そしてここが一体どこなのか……学園のようなお城のような。

モノクマは、ここが才能を救う救才学園だ、とも言っていた気がします。確かに申し訳程度には学園の体を為しています。

でも、そんな名前の学園は聞いた事がありません。余程知られていない学園なんでしょうか? それとも、彼には妄想癖でもあるんでしょうか。

稲羽「……」

それから、私がここへ連れてこられてから何日経っているのかが分からない。

記憶が曖昧で、首謀者側から何かしらの接触を受けた正確な日時がつかめない。……肉体にそこまでの変化は無いから、仮に長くても1,2年程度でしょうか?

モノクマの正体については、ひとつだけわかった事がある。

モノクマは2体同時に現れる事が出来る。それが事実だという事は、あの後橘高さんにも確認をとった。

つまり、操作している人間が複数人いるのか、或いはモノクマ自身が自立しているのか。

稲羽「……」

モノクマは、一体どのくらいの数存在しているのでしょうか?

少なくとも、初日に壊された物、そして橘高さんの方にいた物、私と絡繰君の方にいた物、3体は存在していたことになります。

今残っているのは少なく見積もっても2体。

稲羽「……」

もし、全てのモノクマを無力化する事が出来たら、入り口から強行突破が出来るようになるんでしょうか?

>>138 訂正

モノクマは2体同時に現れる事が出来る。それが事実だという事は、あの後橘高さんにも確認をとったので間違いない。






【3日目】




 

まだ小学生だった頃の話。

お父さんは、急な事故で亡くなった。


葬儀の日、生気を無くしたお父さんの姿が目に焼き付いている。


お父さんが亡くなったのはきっと、私のせいだったんだ。

その事は……何となく自覚していた。

稲羽「……?」

煙管の香りで目が覚める。

辻垣「おはよう」

稲羽「辻垣さん?」

目を開いた私の前には、辻垣さんの姿があった。

昨日と同じ笑顔。煙管の香りと、彼女の笑顔が酷く懐かしく思えた。

出来る事なら、このまま彼女をずっと見ていたい。

稲羽「……」

……どうして、こんな感情が芽生えるんでしょうか?

辻垣「天窓を割るのは失敗してしまったようだね。残念だ、と私は落胆する」

稲羽「そうですね……」

少なからずショックではあった。

モノクマにいつ殺されるか分からない状況。今の所、初日以外は手を出してきていないようですが……それでも、こちらから手を出す事があれば、

彼は躊躇いなく私達を殺すだろう。

稲羽「……」

お母さんは……今何をしているんでしょうか? 私がいなくなってから、一体何日が過ぎているんでしょうか?

稲羽「……ところで、どうしてここに?」

辻垣「ああ、鍵が開けっ放しだったよ」

え……閉め忘れてたんですか

駄目ですね私

稲羽「辻垣さん、私に……何か用事とか……」

辻垣「ああ、ほら。昨日言ったじゃないか。君の事をもっと知りたいってね」

稲羽「……」

確かに言っていましたけど、こんなに早いとは思いませんでした。

稲羽「あの、本当に私なんかの事で……良いんですか?」

辻垣「私なんかの事で良いんですか……か。君は余程自信がないようだね。……それならば逆に言おう。私は君じゃなければ駄目なんだと」

辻垣「何故なら、君という人間は君しか存在しないのだから。同じ人間なんて存在しない、従って私にとって君の事は君で無ければ駄目なんだ」

辻垣「私は君という人間の事が知りたい」

辻垣さんの瞳が私を捉える。

私なんかの事を知っても、あんまり面白くないと思います。

稲羽「どうして……私の事が知りたいんですか?」

辻垣「まず、そうだね。君についての記憶が失われてしまったからだね。その記憶を持たないのは、君自身も同じことだけれど……」

辻垣「あとは、単純にここにいる皆に興味があるからだ」

稲羽「……」

辻垣「私はこの状況に乗じて、君達をもっと知っていきたいと思っている。幸い、まだ殺人を起こそうと考えている人はいないようだから」

殺人なんて、そんな事……起こらないで欲しいですけど。

辻垣「さて、それじゃあ君について聞かせて貰おう。まずは血液型から……」

モノクマ「B型です」

辻垣「……ん?」

モノクマ「あれ? どしたの?」

この人、相変わらず突然現れますね。

辻垣「……ああ、君はモノクマ君か。突然声変わりが起こったのかと」

モノクマ「うぷぷ」

辻垣「すまないがモノクマ君、邪魔をしないでもらいたい。私はモノクマ君を煙たがるような目で見やる……」

モノクマ「ええー、でも辻垣さん、ボクに聞きたい事があったんじゃないの?」

辻垣「ああ……そうだったね、出る方法が無くなった以上は聞いておきたい。念の為にね」

稲羽「え……?」

私は思わず辻垣さんの顔を見る。

辻垣「モノクマ君、仮になるのだけど……人を殺した者は、その後はどうなるのだろうか? ……まさか無罪放免とは行かないだろう?」

稲羽「辻垣さん……?」

彼女は……何を聞いているんでしょう?

モノクマ「ううん。良い質問だね? 答えは……そうだね、人殺しは立派な罪だから、当然罰せられるべきものだと言っておくよ」

だったら、コロシアイ共同生活なんてものをやめさせて欲しいんですけど……

辻垣「人を殺すのはノーリスクという訳では無いんだね、私は納得する」

モノクマ「そうだね、誰にもバレなきゃ無罪放免になるけどね~、うぷぷ」

モノクマ「うん、これ規則にも明記しておこうか」


ピロリン♪


ポケットにしまい込んでいた電子生徒手帳から、軽快な音が鳴る。




【規則】

1.生徒達は当施設内だけで共同生活を行いましょう。共同生活の期限はありません。
2.就寝は個室でのみ可能です。個室外での故意の就寝は居眠りとみなし罰します。
3.管理者ことモノクマへの暴力を禁じます。監視カメラの破壊も同様に禁止です。
4.時間帯によって立ち入り禁止となる区域が御座います。
5.モノクマのスリーサイズ開示 B129.3 W129.3 H129.3
6.仲間の誰かを殺した生徒は、当施設からの脱出が許可されます。ただし自分がクロだと他の生徒に知られてはいけません。
7.また、管理者は如何なる殺人にも関与しません。

※規則は管理者の意向で随時追加する事があります。


 

あっ……増えてる……

稲羽「……」

なんか変なの混ざってる気がしますけど……

モノクマ「ちゃんと表示出来てる?」

辻垣「ははは、うん。問題ないと思うよ」

問題ないとは思えませんけど、まあどうせモノクマの事ですから

ふざけてこんなものを混ぜたんでしょう。

稲羽「……」

それより、辻垣さんはどうして……あんな質問をしたんでしょうか?

辻垣「……どうしたんだい?」

稲羽「あの……辻垣さんは……殺し合いなんてしませんよね?」

辻垣「はは、勿論だよ」

モノクマ「え? しないの?」

辻垣「殺せる筈が無いだろう? 君達は貴重な生ける資料となるのだから」

稲羽「……」

辻垣さんはあっけらかんと笑ってみせる。

辻垣「……そうか、君は私がモノクマ君へ聞いた事が気になったんだね」

辻垣「あれは殺人が起こってしまうを懸念してだね。それで訊いたのだよ」

モノクマ「そうなの? つまんね」

辻垣「あはは。稲羽さん。君は心配性なのだね。全く」

そして、彼女は私の額を指で軽く小突いた。

良かった。殺人なんて誰にも起こして欲しくないですから。

【食堂】

いつも通り食堂へ来る。

大体の人間が朝ここへ集まっているのは、習慣によるものなんでしょうか。

いや、そんな事考えても仕方ないですね。

橘高「欠席者が増えたな」

杯「え? そう? 僕には分かんない!」

四季ヶ原「昨日いなかった3人と……あと、時矢くん。中庭でナニかしているんだけど、何だろぅね」

……絡繰君、きっと昨日の天窓を修理してくれているんですね。

四季ヶ原「ところで、何でタッパーなんだろ? 普通に皿に盛ればいいのに?」

沙慈「確かにそうでごわすな。はっはっは」

稲羽「……」

机の上には、タッパーに詰められたおかず。

その上に、可愛らしい柄のメモ書きが置かれている。

『稲羽さんへ 肉じゃがです にんじんをたくさん入れました、喜んでくれると嬉しいな 那波』

那波さん……

稲羽(頂きます……)

私だけ何もしないのは悪いですし、絡繰君の様子を見に行きましょう。

席を立とうとしたところで、辻垣さんがふいに声をあげる。

辻垣「さて、どうやら規則が増えたようだ、君達はもう確認したかね?」

橘高「確認したが……何故お前はモノクマを持っている?」

モノクマ「……」

皆辻垣さんの方を、奇異の目で見ている。

辻垣さんはここへ来るまでの間、こうしてモノクマを抱きかかえていた。

辻垣「ああ、彼についても私は色々知りたいのでね」

加々美「……それで、規則ね。うん。アタシも見たわよ。この電子生徒手帳……だったかしら、ここから音が鳴っていたから」

米菓「べべ……米菓も……ああ……」

小倉「……ねえ、モノクマのスリーサイズって何? 気色悪いんだけど」

モノクマ「え? 何それ?」

四季ヶ原「どうしたの?」

モノクマ「……うそ? だ、誰だ? こんないやらしい事をしたのは……」

あれ? モノクマが自分で書いたんじゃないんですか?

……ああ、別のモノクマが書いたんでしょうか? ややこしいですね。

杯「umm?☆ このスリーサイズどこかで見た事あるよ? 確か猫型の……」

橘高「それ以上言うな」

四季ヶ原「そもそも、もうそのネタは通じない気がするな……」

モノクマ「全くもう」

モノクマは辻垣さんの身体から抜け出すと、いつものように去っていった。

辻垣「あっ待ってくれと伸ばした私の手は、空を切るばかりだった」

私達の話は、新しく追加された規則についてになる。

米菓「き、規則なんて追加されても、ひ、ひひ、人なんて殺すわけないじゃないですか、なな、なので無駄ですね……無駄無駄、あ、ああ」

橘高「落ち着け、目が泳いでいるぞ」

確かに、そんな躊躇いなく人を殺すなんて出来る筈がないです。

四季ヶ原「人を殺したという事が知られちゃいけない……それってどうやって判断するんだろ」

橘高「ふん、そんな物考える必要は無い」

橘高「殺しなど起こそうとする奴がいようものなら、俺が肋骨をへし折ってでも止めてやる」

杯「こわいよお」

小倉「脱出する方法がない以上は、殺人が起こる可能性も視野に入れるべきだと思うけど」

李「という事は、殺すという事か?」

小倉「……別に。殺す気なんて無いよ。ボクとしては大して不自由は無いしね……ふふ」

加々美「……」

辰爾「確かに……不自由といえばここから出る事が出来ない事くらいのものです」

辰爾「モノクマ様はわたくし達を殺し合わせるおつもりなのに、何故これ程まで丁重に扱うのでしょうか……?」

辰爾「もう、3日程経ちますのに、初日以降何事も起こっていません」

辻垣「閉塞感によるストレスで精神に異常をきたさせて、コロシアイに発展させるつもりなのではないかね?」

何れそうなってしまうんでしょうか……?

天草「ご安心を。精神面での心配は御座いません、私共は簡易的なカウンセリングも行っておりますので」

天草「いつでも御来訪下さい。皆様の精神に安らぎがあらん事を」ニコ

米菓「カ、カカカカ、カカウンセリングなんてえええべべべ米菓には必要ない、のですね、そ、そそそそそんなもの」

加々美「今、一番受けた方が良いのはアナタじゃないかしら……」

稲羽「……」

中庭へ行きましょう。

【自由行動を開始します】

【3日目】自由行動 1/4

【中庭】

稲羽「……」

中庭へ訪れたけど、絡繰君はいない。

梯子は立てかけられたままだ。その傍らに、工具の入った箱が置かれている。

絡繰君はどこかで、休憩しているのかもしれませんね。

稲羽「……」

私は中庭に腰を下ろし、天井を見上げる。

天窓からは光が届いていない。今は、簡易的なライトが備え付けられている。

あの空が、単なる作り物だったなんて……

空が見えないと、何だか余計に息苦しい気がしてきます。

稲羽「はあ……」

リーチカ「…………」

稲羽「……?」

背後に気配がして振り向くと、リーチカさんが佇んでいた。

彼女は、感情の籠らない目で私を見ている。

リーチカ「…………」

稲羽「リーチカさん……怪我は大丈夫ですか?」

リーチカ「…………」コク

稲羽「それなら……良かったです」

リーチカ「…………」

米菓「おや? リーチカさんではないですか? それに稲羽さん?」

リーチカ「…………」

米菓ちゃんです。相変わらず小さくてかわ……いえ、長い帽子ですね。

米菓「米菓は、何だか落ち着かないので新しいパンの為に材料を採りに来ました」

稲羽「新しいパンですか?」

お刺身入りみたいなやつですか?

分かりました。薔薇を丸ごと練り込むんですね。

米菓「ローズヒップ入りのパンなのです。おいしいのですよ」

違うみたいですね。

リーチカ「…………おいしい?」

米菓「当たり前です! 何たってパンなのですから! パンより美味しいものはこの世に……」

リーチカ「…………質問」

米菓「はい?」

リーチカ「パンって……何……」

米菓「えっ……」

米菓ちゃんが絶句する。

それは……そうですよね。だって彼女は……

米菓「……そ、そんな!!! パンを知らないなんてええ!!!」

リーチカ「…………」

リーチカ「…………肉?」

米菓「に、肉……肉が入っている事もありますが!」

米菓「基本は小麦粉なのです! つ、つまりお野菜になりますかね……? どうなのでしょう?」

リーチカ「…………ごめん……肉以外の物が分からない……」

米菓「えっ……うそですよね? 正気ですか?」

リーチカ「…………」

米菓「……こ、こうなったらパンを焼くしかありませんね! 色々焼いて……」

米菓「リーチカさん! リクエストは?」

リーチカ「……………………」

米菓「聞いてますか?」

リーチカ「…………うん」

リーチカ「…………」

米菓「……」

リーチカさんは無表情のまま、ただ黙り続けていた。

米菓「そ、それじゃあ? 稲羽さんは……」

私ですか? そうですね……


1.肉入りのパン(偶数)
2.薔薇入りのパン(奇数)

※この書き込みのコンマで判定

やっぱり、薔薇入りのパンでしょうか?

こんなに綺麗な薔薇を入れたら、きっと可愛くておいしくなるかも。

稲羽「薔薇入りのパンとか……」

米菓「え? 今何て?」

稲羽「薔薇入りのパンが良いかなあって……」

米菓「……」

米菓ちゃんからの返答が来ない。

米菓「……はい、た、確かに食用の薔薇もあるのですが……」

米菓「それは食用前提だからいいのでして! こういうそこらへんに生えてるようなものを無暗に口に入れてはダメなのです……」

米菓「一体、どんな雑菌が発生しているのか!!!」

米菓「こ、こんなの食べさせたら、米菓のパンの信用にかかわる事態です! 店を潰さざるを得なくなって……一家を路頭に迷わせて……えええん」

稲羽「あの、ごめんなさい……」

何だか、軽はずみに悪い事を言ってしまいました。

リーチカ「…………」

リーチカ「…………」

米菓「ちょっと! 何食べてるのですかあああ」

リーチカ「…………駄目?」

米菓「駄目に決まっているでしょう!」

リーチカ「…………」

米菓「い、今すぐ吐くのです、喉に指を突っ込んで……」

米菓「いえそれでは汚いですね!!!! 丁度お箸を持っていたのでこれで!!!!」グサ

リーチカ「ウッ」

薔薇ってそのまま食べてもおいしいんでしょうか?

後でリーチカさんに訊いてみましょう。

【INFO】
リーチカ・ランジェと交流しました。
米菓リリィと交流しました。


四季ヶ原 ■■□
リーチカ ■■□
那波 ■□□
辰爾 ■□□
小倉 ■□□
辻垣 ■□□
米菓 ■■□

ハック ■□□
橘高 ■□□
加々美 ■□□
杯 ■□□
絡繰 ■■□
天草 □□□
李 ■□□
沙慈 ■□□

【3日目】自由行動 2/4

【礼拝所】

考えに耽っていたら、リーチカさんと米菓ちゃんが大変な事になっていました。

リーチカさんは終始無表情のままでしたけど、大丈夫でしょうか……

なんか、喉にお箸が刺さっていたような気がしますけど……

杯「What's up?☆」

稲羽「!?」

ぼーっとしていると、私の頭上から杯君の顔が現れる。

私は驚いて、腰を抜かしてしまう。

杯「あはは! また会ったね、Ms.稲羽さん?☆」

稲羽「……」

これは……空中ブランコ?ですね。彼は天井から吊るしたブランコに足をかけて、逆さにぶら下がっています。

稲羽「杯君、それ……自分で?」

杯「うん」

天井には、ブランコの骨組みのようなものが組まれている。いつの間に吊るしてたんでしょうか?

稲羽「杯君……きっとサーカスでもそんな風にしていたんですよね。器用なんですね」

杯「umm……」

杯君は足をブランコにかけたまま、大袈裟な身振り手振りで、困ったような表情をする。

杯「ちょっと違うんだ……」

稲羽「違う?」

杯「じ、実は……降りられなくて……」

杯「……てへっ☆」

稲羽「……」

大変です、助けないと。

とりあえず、彼の身体を支えて、ゆっくりと降ろしましょう。

杯「ひっ……ひゃひゃっ!!!☆ くすぐったいい!!!☆」

稲羽「さっ、杯く……」

杯君の身体は少し高い位置にあるから、背伸びしなければ届かず上手くバランスが取れない。

その内に杯君がくすぐったがってしまい、体勢を崩してしまう。



ビタン



杯「いったた……」

稲羽「ごっごめんなさい! 大丈夫ですか?」

杯「はぁ……はぁっ……問題ない、よ……!☆」

杯君、何だか息が上がっている。

ずっと吊るされていたから、苦しかったんでしょうか。

肩を上下して呼吸をしている彼の姿は、少し痛々しく思える。

天草「おやおや」

杯「あれ? Mr.天草さん?」

天草「幸運の方、道化師の方……思わぬ僥倖、今日も善き一日となるでしょう」

天草「……」ニコッ

この空間と彼は、妙に調和している気がします。

この礼拝所が、迎心教団と関係あるのかは分かりませんけど……

天草「道化師の方……何とお労しい。私共がささやかながら手当を」

杯「Oh」

天草さんが、杯君の身体を手当てしている。

天草「骨折……はしておられない。」

杯「It's a godsend」

杯君は痛がりながらも、にこにこと笑っている。

天草「どうも貴方様は……痛みを拒む様子を見せないようで御座いますね。受け入れ慣れているというか」

杯「Yes、慣れてるからね☆ 何たって僕は道化だから……」

杯「そんな間抜けな姿すら……人は滑稽さに惹かれるものなのさ!☆」

杯「あはは!」

本当に楽しそうに笑う子ですね。

天草「しかしながら、このような傷を遺すのはよろしくない」

杯「そう?」

天草さんは目を閉じ、緩慢な動きで懐から注射器を取り出す。

稲羽(……え?)

天草「……」

天草さんは杯君の腕を捲って、注射器の針を杯君の肌に宛がう。

杯「?」

透明色だった注射器の中身が、赤く染まっていく。

彼は今、杯君の血を抜き取って……

杯「What?」

天草「心配はいりません、道化師の方」

天草「このように微量の血液を抜き、体内に蓄積された悪い瘴気を払い去るので御座います」

稲羽「……」

彼が何を言っているのか……いまいちわかりません。

天草「そしてこちら、開運の骨董に御座います」

なんか出てきた……

天草「健康運、金銭運、商売運、恋愛運、家庭運、諸々……全てを網羅しております」

天草「厄除けの効果も御座いまして、永年健康健身、無病息災に御座います」

杯「こんなので運が買えるなら安いものだね!☆」

天草「一千万円になります」

杯「たっか!」

天草「入信なさるとタダになります」

杯「あっはっは! じゃあ僕は今日から迎心教団の信者だ!☆」

……価格が暴落しすぎではないでしょうか? 明らかに怪しいです。

少しだけ、杯君の今後が心配になってきます。

天草「ようこそいらっしゃいました、道化師の方……貴方様はこれより我らが同志です」

杯「うん☆」

天草「共にこの現世をより良くしていきましょう」

杯「OK、分かったよ!☆」

天草さんは優しい人だと思うけど、ちょっと怪しいところがあるみたいです。

>>161 訂正

天草「そしてこちら、迎心教団で取り扱っております開運の骨董に御座います」

【INFO】
杯団と交流しました。
天草神門と交流しました。


四季ヶ原 ■■□
リーチカ ■■□
那波 ■□□
辰爾 ■□□
小倉 ■□□
辻垣 ■□□
米菓 ■■□

ハック ■□□
橘高 ■□□
加々美 ■□□
杯 ■■□
絡繰 ■■□
天草 ■□□
李 ■□□
沙慈 ■□□

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