QB「ついに僕にも感情が芽生えたんだ!」 (117)

ほむら「嘘ね」

QB「酷いなぁ、前に何があったかは知らないけど君は本当に僕の扱いが雑だよね」

ほむら「まどかが概念として固定されて沢山のものが良くも悪くも変わってしまったけど、あなただけは絶対に変わらない自信があるもの」

QB「ははぁ、また夢物語の話かい」

ほむら「夢物語じゃないって言ってるでしょ」ガシャッ

QB「怖い怖い」

ほむら「第1あなたに感情が芽生えたところで何があるっていうの?」

QB「聞きたいかい?」

ほむら「…」イラッ

QB「確かめたいなら君の家に僕を連れて言ってごらんよ」

ほむら「鬱陶しいわね…」

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QB「…」モグモグモグモグモグ…

ほむら「…で?」

QB「…ん?見てわからないかい?」

ほむら「何が変わったのかしら」

QB「ご飯が美味しい」

ほむら「…?……???」

QB「僕らにとって食事はエネルギー補給でしかなかった、もちろん味なんて二の次だ、そういう変換方法だったならガソリンでさえ摂取しただろうね」

ほむら「…」

QB「でもね、今はご飯が美味しい」

ほむら「…つまり…ご飯が美味しいから感情が芽生えたって言いたいの?」

QB「そうだよ、これは僕らにしてはとてつもなく大きな変化だ」

QB「味を感じるってことは好みを感じるってことだ、つまり僕に好き嫌いが出来たんだ」

ほむら「人参も食べなさいよ」

QB「好き嫌いが出来たんだ」

ほむら「杏子を呼ぶわ」

QB「君たちはいつもそうだね、他者が思い通りにならないとすぐに暴力による鎮圧を良しとする…うぅっ…」

ほむら「長くここの星に居れば味覚ができるのも当然のことだと思うけれど」

QB「君らと一緒にしないで欲しいな、僕らがそう簡単に変わるのであればこんな非効率的なエネルギーの回収方法なんかに手を出さないだろう」

ほむら「…」

QB「感情がなかったからこそ、僕らはここへ来ることを余儀なくされたんだ」

ほむら「…で、それがどうしたの?」

ほむら「まさかあなたに感情が芽生えたからって扱いが変わるとでも思ってないわよね?」

QB「そうだね、未だまだ起伏は乏しいけれどそれでも少しは分かるつもりだ」

QB「いや、昔だって頭では一応論理として理解はしてた」

QB「君らにとってひどいことを僕らはしてるんだろうってね」

ほむら「…」

QB「うん、こういう事を軽々しく言えるのも今の僕だからこそ、という訳だね」

QB「だから、謝るよほむら」

QB「僕らは君にひどい仕打ちをしていたんだね」

ほむら「夢物語だと笑わないの?」

QB「あぁそうか、笑う、そういうことも出来るんだ」

QB「感情が芽生える以前と今の僕とでは明らかに違うけれど、それでも意識は連続してる」

QB「以前の僕は、今の僕から見てややおぞましい」

ほむら「…でも、契約をやめるつもりなんてないのでしょう?」

QB「残念ながらね、そもそも魔女とやらが居なくなったこの世界じゃ契約自体そこまで蔑視されるものじゃないと僕は思うよ」

ほむら「偽物の奇跡を餌に戦う使命を背負わせるくせに」

QB「その意見は変わらないな、君たちは真実を知っていたら願いを取り下げたかい?どんなリスクを背負ってでも叶えたい願いがあったからこそ君は今も魔法少女としてここに居る」

QB「その覚悟があったから、彼女はこの世界を変えたんじゃないのかい?」

ほむら「…」

QB「誰だって、自分の現状と誰かを見比べて不幸だ地獄だと泣き喚く」

QB「そんな不幸の真ん中にいる君たちは少しだけ運が良かった」

QB「魔法少女として生きる素質があった、それだけの話さ」

ほむら「イライラせずにあなたの話をここまで聞けたことが何より奇跡だわ」

ほむら「あながち感情が芽生えたというのも嘘じゃないのかしらね」

QB「だからそう言ってるじゃないか」

ほむら「…それで、あなたをそうさせたのは、一体なんなのかしら」

QB「え?」

ほむら「今まで普通にインキュベーターとして生きてきて、自ずと感情が芽生えたなんて言わせないわ」

QB「鋭いなぁ君は」

ほむら「…」

QB「着いてきてくれないかい?見せたいものがあるんだ」

ほむら「…」

ほむら「…これ…」

QB「僕もまだよく分かっていないんだよね、刷り込みという事象を知識としては知っていたけれど、見た目がこれまで違う僕に懐いてくる意味がわからない」

黒猫「……」スリスリ

QB「…なんだい?」

ほむら「…嘘でしょ…?」

ほむら「いっ…今まで多くの感情に触れてきて…眉一つ動かさなかったくせに…たった一匹の猫ぐらいで……くくっ…!」

QB「僕らに眉はないよ」

ほむら「……ぷっ……くくく……うふふふ…あはははっ…!」

QB「…そんなにおかしいかな」

ほむら「おっ…おかしくないわ…おかしくないけれど…ぷっ…!」

QB「やれやれ…やっぱり人間は度し難いね、黒猫」スリスリ

ほむら「……エイミー」

QB「え?」

ほむら「その子の名前は、エイミーよ」

QB「…エイミー…いい名前だね」

杏子「魔獣会議、行っとくか」

マミ「風見野の方で魔獣たちの群れを見つけたわ、恐らく今夜辺りにでも見滝原に到達するでしょうね」

ほむら「こっちは収穫なしね、まぁ収穫がないってことはいい事なんだろうけれど」

杏子「それじゃあたし達が濁りっぱなしじゃねえか、こっちも異常なし、ちっシケてんなぁ」

QB「こら、そっちはトイレじゃないよ、あっちでしないとほむらに殺されるよ」

杏子「突っ込んでもいいのか?」

ほむら「何て?」

杏子「お前猫だったのかよっ!?って」

マミ「可愛い猫ねぇ、暁美さんが飼ってるのかしら?」

ほむら「…私というか…QBが」

杏子「はっ!?猫の癖に猫飼ってんのかよ!傑作だなぁおい、あはははは!」

マミ「それが普通なんだけれどね」

ほむら「まぁ…邪魔にもならないし置いてあげてるのよ、ご飯も一応あげてるわ」

杏子「QBにはやらねーのに、猫以下かよQB」

ほむら「当然でしょう」

杏子「いやぁー面白いわ、ほむらの話聞いた限りじゃQBは極悪非道の限りを尽くすクズ野郎だったのに」

QB「君は一体どんな話をしたんだい?」

ほむら「事実を言ったまでよ」

QB「だからそれは…まぁいいや」

エイミー「ニャー…」

マミ「きゃっ…まぁ…とってもお利口なのね、この…」

ほむら「エイミー」

マミ「エイミーちゃんは」

杏子「なぁ、ほむら」

ほむら「え?」

杏子「この猫は割とどうでもいいんだけどよ、QBってこんなキャラだったか?」

ほむら「あら、あなたにはどう見えていたの?」

杏子「二言目には契約契約の契約馬鹿だ」

ほむら「あながち間違いではないわよ、3言目にエイミーが来るだけで」

杏子「そんなもんか…」

QB「僕にはうまく言い表せないけれど、エイミーがマミの膝に乗ってたら何となく胸の奥がグツグツしてくるよ」

ほむら「あら、偉いじゃない、それが嫉妬よ、エキスパートの杏子先生に聞くといいわ」

杏子「なんであたしが嫉妬のエキスパートなんだよ」

ほむら「さやかは上条恭介にずっと密かな想いを寄せていたわ」

杏子「ぐぅううおおおお…」ガンッガンッ!

ほむら「ああやって嫉妬を沈めるのよ、やってご覧なさい」

QB「人間はいつもそうだね、受け入れ難い現状に陥るとすぐ自傷行為に走ってしまう」

ほむら「手伝うわ」

QB「やめて」

杏子「さやかぁぁぁあああ……!なんで死んじまったんだァあああ…!」

マミ「ちょっと発作が起きてるじゃない、エイミー行ってきて」

エイミー「…ニャー」スリスリ

杏子「うおおおおお!!」スリスリスリスリスリ…!

QB「…あ」

ほむら「?」

QB「……そうか、さやかは死んでしまったんだね」

ほむら「あら、意外ね、死を悼むような性格だったかしら」

QB「いや、別に悼んではないよ、ただ…」

QB「自分にとって掛け替えのないものが失われた時が、僕にも来るのかなって思ってね」

ほむら「…出来てもないくせに、今からそんな心配?」

QB「そうか、杏子は強いんだね」

QB「……ううん、マミも、君も、とっても強い」

ほむら「強くなんてないわ」

ほむら「歯を食いしばって、辛さに耐えながら辛うじて生きてるだけよ」

QB「僕にはそんなことできそうにないや」

ほむら「本当に、あなたにそんな存在ができたらわかると思うわ、「じゃあ、今するべきことはなんなのか」がね」

QB「…」

QB「そんな時、来て欲しくないな」

ほむら「言うようになったじゃない」

QB「どうも人間は精神と肉体の強さが釣り合っていない」

QB「自分に近しければ近しい程失った時は、まさに身をもがれる痛みだろうに」

QB「そんな辛さには耐えられるくせに、どうしてそんなに脆い肉体なんだい?」

ほむら「さあね」

ほむら「でも、逆に言えば、肉体の痛みに耐えることが出来ても、心が耐えられないことだってあるわ」

ほむら「強さなんて、その時々で変わるわよ」

QB「…」

ほむら「あなたは、今痛いかしら?」

QB「……」

QB「ううん、心地いいよ」

ほむら「だったら、今はそれでいいのよ」

QB「うん、そうだね」






QB「予想通り風見野の方から魔獣の群れだ、気を付けて、増殖しながらこっちへ向かってる」

杏子「やれやれ、休ませてもくれないんだからしんどいわ」

マミ「どの道休む暇もないでしょう」

ほむら「……来るわ」

魔獣「オオオオオオオオオオオ!!」






QB「…」

エイミー「ニャー…」

QB「きっと大丈夫さ、今まで通りに、やってくれるよ」

エイミー「ニャー」

QB「…」

杏子「……キリッ……がねえ!!!」

マミ「……ほんと…!どうやったらここまで増えるのかしら…!」

ほむら「…っ……!」

ほむら(まずい…数が多すぎる…三手に分かれるのは愚策だった…)

ほむら(ちっ…時間さえ止められさえすれば、こんなの…!)

魔獣「……オオオオオオオオオオオ!!」

杏子「……ゲッ……!ぐぅっ……!」

マミ「……精神……汚染……!?」

ほむら「……んっ……ぐぅっ!!」

ほむら(……まずい……意識が……)

QB「……遅いね」

エイミー「……」

QB「やれやれ、手間がかかるね、やっぱりどうも僕は彼女たちのそばにいないといけないようだ」

エイミー「ニャー」

QB「大丈夫、すぐに帰ってくるよ」

QB「……」

QB「でも、きっと3人とも疲れて帰ってくるだろうから、その時は」

QB「その時は、三人を労ってあげてくれないかな?」

エイミー「ニャー!」

QB「うん、行ってくる」

「あの時とめてくれればよかったのに、そうすれば私は固定なんかされなかったのに」

「だからお前は魔女だと言ったんだ、他者を傷付けて繋ぐ歪な命になんの意味がある?」

「楽しそうに嬉しそうに生きてるのね、もうきっと私たちのことなんて忘れてしまったのね」

ほむら「……ぐううううっ……!」

ほむら(頭が……!割れる……!)

ほむら(違う……!違う違う違う違う!!!まどかはそんな事言ってはいない!)

ほむら(助けられなかったけれど、でも、まどかはそんな事を言わない!)

ほむら(言わない言わない言わない言わない言わない!!!!!)

「嘘つき」

ほむら(あ……)

ほむら(……ま、ど……)

QB「いつまでそこでうずくまっているんだい?」

ほむら「……Q……」

QB「早くしておくれよ、僕はもうお腹がぺこぺこなんだけど」

ほむら「……」

QB「いやまぁ、そうだね、いざとなったら僕はガソリンでも舐めるさ」

QB「試したことはないけれど、基本僕らに不可能はない、多分生きることは出来る」

QB「でもね、エイミーがうるさいんだ」

QB「早く帰って来いってうるさすぎてたまらない」

QB「感情が多少なりとも芽生えると、彼女の鳴き声がここまで耳障りなものになるんだね」

QB「同じ鳴き声にしても、君らに対してのものなら幾分かはマシだ」

QB「まだかい?僕はもうとっくに」

QB「君らは克服したものだと思っていたんだけれど」

ほむら「…」

ほむら「……うるさいわね、バカ」

ほむら(そうだった、何を考えているのかしら…)

ほむら(…私はもうとっくに、乗り越えたはずでしょう)

ほむら(あの子の分まで、生きるんでしょう)チラッ

杏子「…」

マミ「…」

「ほむらちゃ」

ほむら「うるさい!」ドシュッ!!!

「……あぁ、ああぁ……!ほむら……ちゃ……!」

ほむら「……まどかはそんなこと言わないわ」

ほむら「……」

ほむら「もちろん、杏子の父親も、マミのお母さんもね…」


ズガァン!!!

エイミー「……」

エイミー「ニャー……」

エイミー「……」

ガチャッ

エイミー「……!」

QB「……」

ほむら「……」

杏子「……」

マミ「……」

エイミー「ニャー!ニャー!!!」

QB「ほら、エイミーが君たちを労ってくれたよ、何か言うことはないのかな」

杏子「嫌もう勘弁してくれ……精神えぐられて……結構キツいんだよ」

QB「……やれやれ、酷い人たちだねエイミー」

エイミー「ニャー」

杏子「…全く……くく……くくっ……!」

QB「人間は窮地に陥ると涙より笑が零れるらしい、未だ僕にはわからない現象だね」

杏子「うるせーよ、あはっ……ふふふっ……」

マミ「…平気かしら?暁美さん」

ほむら「ええ、もちろん」

QB「他社の記憶を盗み見て投影するタイプの魔法だ、それに耐え難いほどの頭痛をプラスしてた、まぁいわゆる原始的とも言える洗脳だね」

杏子「あ゛ー…今はお前の魔法解説聞きたくねぇ……」

ほむら「……」

QB「……」

ほむら「ねえ」

QB「なんだい?」

ほむら「……その、助かったわ…まさか、あなたに気付かされるとは思ってなかった」

ほむら「…まどかの事を一番よく知っているのは私だと思ってたけれど…」

QB「気にすることは無いよ、他者への一方的な思いは奇しくも直進的になりがちだからね」

QB「それに、君には優しい言葉をかけてあげるよりも、奮い立たせる言葉をかけた方がいいだろう?」

マミ「……ふふ、随分と暁美さんの事を知ってるのね」

QB「こういう言葉があるだろう?押してダメなら引いてみろさ」

杏子「馬鹿な私にもわかるぞ、微妙に誤用だろそれ…」

ほむら「…まぁ、ありがとう」

QB「…どういたしまして、でいいのかな」

ほむら「……えぇ、いいと思うわ」

QB「やれやれだね、ようやくこれでエイミーも静かになるよ」

ほむら「杏子とマミが帰ってなおうるさいのだけれど」

QB「それくらいは許してあげてほしいな」

ほむら「それで、一つ聞きたいことがあるんだけど」

QB「なんだい?」

ほむら「聞きたいことが多くて上手くまとまらないから、大雑把に聞くけれど、あなたはどう変化しているの?」

QB「……それは」

ほむら「今までインキュベーターとして生きてきて、そしてそういうふうに生きていく上で邪魔にしかならないものを抱え込んだあなたが今迄と同じように生きていける、そんなことあり得るの?」

QB「…」

QB「やれやれ、そこまで分かってくれるのなら、涙の一つでも流して欲しいものだね」

ほむら「冗談でしょ」

QB「インキュベーターは一つの意識を共有してる」

QB「そうして情報を共有して生きていくことで、僕らはエネルギー回収の効率化を図ってる」

QB「「そういうもの」を抱えてしまった個体が、どういう扱いを受けるのかは、君が予想しているとおりだ」

QB「精神疾患を患った個体として処理される……とまでは行かないけれど、僕の意識はもう総体から切り離されている」

QB「インキュベーターの種としての個体ではなく、この世でたった一つの存在になった訳だ」

ほむら「…」

QB「寂しくない、といえば嘘になる、運命を共にした種族との別れが辛くないはずはない」

QB「けれど、まぁこれも悪くは無いかなって思うんだ」

QB「マミがいて、杏子がいて、君がいてエイミーが居る」

QB「うん、だったら何にも苦しむ必要は無いよね?」

ほむら「まるで仲間だと言わんばかりの言い草ね?」

QB「そうだね、ただ生きていく上では君らなんて必要ないのに」

QB「それでもどこかで拠り所を求めてしまう、これも、感情が芽生えたからなのかい?」

ほむら「…」

ほむら「人間は一人じゃ生きていけないわ」

QB「それは、また……君の口から聞くとは思わなかったよ」

QB「むしろ誰にも頼らないと決意を固めてそうな君なのに」

ほむら「ちょっと言い方が悪かったかしらね、それは、生きているとは言えないの」

ほむら「楽しいことを楽しいと思うためには、一人より二人の方がいい、って事よ」

QB「随分と変わったんだね、最初の頃は君はまるで鉄仮面だったのに」

ほむら「あなたに言われたくはないわ」

ほむら「…私も同じよ、マミがいて杏子がいて…だから今、生きるのが楽しい」

QB「そっか、僕らは似たもの同士だったんだね」

ほむら「…なんかムカつくわね」

QB「酷いや」

QB「厄介だな、人間は」

ほむら「そうね、厄介すぎてね」

QB「でも、悪くない」

ほむら「ええ、悪くない」

QB「今まで、すまなかったよ、ほむら」

QB「僕らは君たちのことを真の意味で何一つ考えては居なかった」

QB「お詫びなんていうつもりもない、君はそんなこと必要としないだろうしね」

QB「でも、ごめん」

ほむら「…」

ほむら「悪いと思ったら、謝る、ちゃんと出来てるじゃない」

ほむら「…こちらこそ、すまなかったわ」

ほむら「今まで邪険にしすぎたわね」

エイミー「ニャー」

QB「…うん、そうだよ」

QB「僕は今、幸せだよ」スリスリ

QB「……」

QB(綺麗な月だ、こういうのを落ちてきそうなって言うのかな)

QB(魔獣の反応は……無し……うん、これで彼女たちも今日は平穏に眠ることができそうだ)

QB「……」ピクッ

「……やあ」

QB「やあ」

「驚いたよ、まさか前例少ない精神疾患の個体がまだ生きているなんてね」

QB「……姿を表さないで語りかけるなんて、どういうつもりなんだい?」

「随分と人間らしいことを言うんだね君は」

「まぁそれも当然といえば当然だ、人間と同じものを持っているんだから」

QB「僕を処理しに来たのかい?」

「そういうものが僕らに備わっていないということは、君が一番よく知っているはずだよ」

QB「じゃあ、何しにきたんだい?」

「何ってことは無いんじゃないかな」

QB「……」

「彼らに与えた知識と科学は全て元を正せば僕らのものだ、その元が興味深い対象への観察から成り立ってることは知ってるだろう?」

QB「……僕は研究対象か」

QB「いや、モルモットかな」

「その言葉はどういう定義からなのか、という事を君と僕とで擦り合わせることには意味がない」

「どうだい?感情というものは」

QB「知りたければ僕をまた総体に戻してくれればいい話じゃないか」

「そうもいかないよ、君の汚染された意識が混じってしまったら他の個体にまで影響が出る可能性がある」

「感情についてまだ結論は出ていないけれど、それは恐ろしく理不尽で、途方もない」

「僕らには不必要なものだ」

QB「……汚染……か」

「怒っているかい?」

QB「哀れんでいるよ」

「……」

「哀れむ、それも僕らにはないものだ」

「ただ、それが物理的法則を超えたエネルギーになることはよく知っている」

「奇跡を叶えるために使うエネルギーを遥かに凌駕するほどの感情の昂り、特に絶望、怒り、悲しみ、といった負の感情には目を見張るものがある」

「こういう方法は君には効果があるんだっけ?」

「幸せでいたいかい?」

QB「何が言いたいのかな」

「僕らには君を処理する程の爪は牙は備わってはいない、でも僕らにはもっと優れた武器がある」

「僕らという種をを今まで生きながらえらせた、君もよく知っている武器がね」

QB「それで、僕を脅すってことかい?」

「いいや、君に直接危害は加えないよ、君には」

「ただ、まぁ、いかに爪や牙がない僕らと言えど、人間の赤子にも満たない動物を殺すくらいならわけない」

QB「……」

「何も無茶を言っているわけじゃないよ、ただ観察させてくれればそれでいいんだ」

「君の精神が汚染される前、興味深い話を聞いた」

「なんでもこの世界は、ある一人の少女が絶望から逃れるべく作り替えた新しい世界なんだってことだ」

「勿論この話は君から送られてきた情報の一つに過ぎないんだけれど」

QB「……暁美ほむらの物語」

「「夢」物語だね」

「それで、その話を聞いて僕らは確かに微かな違和感を覚えた」

「魂をソウルジェムに変えた目的は、脆い人間をカバーするためのものなのか?」

「エネルギー回収は、魔獣を倒すことでしか成しえないのか?」

「負の感情が最大のエネルギーになると知っていた僕らが、その方法を模索しなかったのか?」

「……濁りきったソウルジェムを導く、僕らの干渉し得ない円環の理とは一体何なのか」

QB「……」

「一度気になってしまえば、僕らは止まることが出来ない」

「君らで言う情熱とやらが僕らを突き動かして、ようやくこういうものが完成したんだ」

QB「……それは……?」

「干渉遮断フィールド発生装置」

「知らないよね、君が総体から離れて急拵えで作ったものだから」

「もちろん完成品ではない、完璧な調整にはまだまだ時間がかかる」

「僕らはこれを完璧なものにしたいんだ」

QB「なるほど、黙って見ていろ、そういう事だね?」

「そうだね、黙って見ていろ」

QB「……」

「なんて、君たちの口調を真似たところでやっぱり感情なんてものは理解できないな」

「君に束の間の幸せを約束するよ」

「僕らの誰も、君たちの空間に立ち入ることはしない」

「だから、君も僕らに関わって欲しくはないんだ」

「分かるよね?感情があり、僕らのことをよく知っている君だからこそ、分かるはずだ」

QB「…」

「この場合、沈黙は了承ってことかな」

「この装置を完成させたら僕らは実験に移る、誰を選ぶかはまぁその時によるけれど」

「少なくとも暁美ほむら、巴マミ、佐倉杏子には手を出さないよ」

「それで、いいかな?」

QB「拒否権なんてないって言ってるようなものだ」

「そうかな?これでも君たちのことをきちんと考えた上での提案のつもりなんだけど」

QB「分かったよ」

「そう言ってくれて嬉しいよ」

「じゃあ、僕はこれで……」

QB「ねえ」

QB「僕からも一つ質問してもいいかい?」

「……」

QB「君たちと彼女たちの最大の違いはなんだと思う?」

「感情の有無かな、アレのせいで彼女達は合理的ではない理不尽な選択を強いられることになる」

QB「そうだね、それでどっちがより望ましいと思う?」

「……」

QB「感情を、心を侮ってはいけないよ、彼女達は心があるからこそ君たちには到底生み出せないエネルギーを生み出すことが出来る」

「そのせいで絶望に陥ることもあるなんて、酷く滑稽だね」

QB「心があるから奇跡が起きる、今に吠え面掻いたって知らないよ」

QB「君たちの足元を掬う存在があるとすれば、それは他の知的生命体なんかじゃなく、心を持った彼女たちだ」

QB「奇跡を対価に彼女たちは人間を捨てる、でも」

QB「心を捨てたわけじゃない」

「……」

「まぁ肝に銘じておくよ」

QB「…」

QB「……」

QB(やれやれ、折角しがらみから解かれたと思っていたのに、隠し事があったんじゃ彼女たちに合わせる顔がないね)

QB(……)ジー

QB(……でも、まぁうん……僕は顔に出にくい、そんな風に生きてきたことに感謝だ)

QB(これならば、彼女達から隠し通せるだろうね)

ほむら「おかえり」

QB「……」

ほむら「どこに行っていたのかしら、こんな夜遅くに」

QB「君こそ、魔獣退治で疲れているはずなのにこんな時間まで起きていてもいいのかい?」

ほむら「こんなのなんて事無いわ、明日も明後日も魔獣退治があるかもしれない、疲れてなんかいられないのよ」フワァ

QB「そうかい、体を大切にね」

ほむら「……」

QB「……特に、なんてことは無いよ、散歩に出ていただけさ」

QB「感情を持ってしまうと、無駄だとさえ思えることもしたくなってくる、それだけだよ」

ほむら「……そう、ならいいわ」

ほむら「……」

ほむら「美樹さやかも、鹿目まどかも私は失ってしまった」

ほむら「いえ、巴マミも佐倉杏子も、多くの人間を、私は何度も何度も失ってきた」

ほむら「その痛みに慣れたことなんて一度もない、とはいえない」

ほむら「身を割かれるようなその痛みは、次第に麻痺してきた」

ほむら「……誰が死んでも、私は耐えられる」

QB「……」

ほむら「けれど、エイミーは、そういう訳では無い」

QB「……!」

ほむら「何があったのかなんて聞かないわ、知りたくもない」

ほむら「けれど、自ら命を捨てようとすることも、そういう選択をする事も馬鹿のやることよ」

ほむら「誰かが死ぬ事で訪れる平和は、根本的解決になっていない」

QB「……それは、僕に言ってるのかな?彼女に言ってるのかな?」

ほむら「……」

ほむら「……一度、目の前で見たからこそ、もう誰も犠牲にしたくない」

ほむら「感情があるなら、当たり前のことだと思うわ、おやすみ」

QB(鋭いね、だからこそ、彼女は今まで苦戦を強いられてきたんだろう)

QB(何があったか、なんて話せるわけがない)

QB(それを知って、君は死ぬなと言ってくれてるんだね)

QB(そうだ、他人の為に生きられる君たち魔法少女が優しくないはずがない)

QB(僕は死なない)

QB(そして君達も、むやみに死なせるつもりもない)

QB(けれど、実際のところ彼らが彼女たちに手を出さないと言ったのは、明らかに嘘だ)

QB(僕らは、彼らは、真実を隠す)

QB(僕という約束の対象が消えたとしたら、彼らに実験できるという名目を与えてしまったら)

QB(彼らはすぐにでも動き出す)

QB(どうすればいい?どうすれば、彼らに干渉させず、彼女たちを守ることが出来る?)

QB「……はは、彼女の言う神様にでさえ、成し得なかったことだ」

QB「そもそも無理な話だ、既に魔法少女としての契約という形で関わりあっているのに、今更その関わりを断ってしまおうなんて」

QB「魔法少女として生きている限り、その生き方には必ず彼らが関わる」

QB「…鹿目まどか」

QB(曰く、絶望にまみれた世界を救済するために、神様として固定化されてしまった魔法少女)

QB(たった一人で世界を救えるはずがない、それは君もわかっていたことなんだろう?)

QB(それなのに、どうして君は自分一人だけを犠牲にして、この世界からその存在を抹消してしまったんだ)

QB(それは、逃げじゃないのか)

QB(「そこそこ都合のいい世界」とやらを創ってやった、後は僕らでなんとかしろっていう逃げじゃ)

QB(いいや、そんな事、考えているはずがない)

QB(だとしても、どうして君はそう神様をやっていられる?)

QB(作り替えたところで絶望の連鎖が終わることは無い、それは分かっているはずなのに)

QB(たった一人で全てを救えるはずもないのに)

QB(すくい上げて、隙間からこぼれてしまった悪意を、君はどうやって救うつもりでいたんだい?)

QB「教えておくれよ」

QB「僕は今、きっと誰より君との会話を望んでいる」






ほむら「……」

QB「眠れなかったようだね」

ほむら「ぶつぶつと独り言がうるさくてね、詳しいことは聞こえなかったけれど」

QB「済まないね、感情を持ってしまうとどうも無駄なことに時間を割いてしまうようだ」

ほむら「……一つ言っておくけれど、あなたは割と昔も独り言が多かったと思うわ」

QB「状況確認のために言葉を出すのとは訳が違うさ、現に僕は昔の僕じゃ絶対に口に出さないことを出している」

杏子「へえ、なんだよそれ?」

ほむら(何で一緒に登校してるのかしら)

QB「さぁね、それはほむらに聞くといい」

ほむら「だから聞いてないって言ってるでしょ」

QB「へえ、本当だったんだ、意外だな」

杏子「いや、だからなんだよ」

QB「……」

QB「君はいつもそうだね、そうして人の隠し事というプライベートな問題にずかずかと入り込んでくる」

杏子「お前人じゃねえじゃん?」

QB「僕が言っているのはそういう意味じゃないって言うのは分かってるよね!?」

QB「杏子、君はもっと人の心の機微というものを理解した方がいい、今の君じゃ確実に学校で浮く存在になるだろう」

杏子「うっせー!余計なお世話だ!そもそもちょっと前まで機械みたいだった癖にうるせーんだよ!マミみてーなこと言いやがって!」

QB「マミは未だに君を見捨てずに世話を焼いてくれるんだね、今度君はお礼にクッキーでも焼いてあげるといい」

ほむら(うまい)

杏子「はん!マミに世話焼かれるとか冗談だろ!あたしはあんなやついなくても一人で……!」

マミ「一人で?」

杏子「……生きて……いけ……」

マミ「私の援助なくして美樹さんとの約束を守れるのね?泥棒しない、ホテルに勝手に侵入しない、ええ、それはとっても素敵ね」

マミ「暁美さん、今日夕食一緒にどうかしら?一人分余ってしまったんだけれど」

ほむら「頂くわ」

杏子「嘘だよ!!嘘に決まってんだろ!ほむらァ!お前とるんじゃねーぞ!」

ほむら「……」クスクス

QB「……やれやれ」

ほむら「意外ね、あなたが口調を荒らげている姿なんて、初めて見たわ」

QB「僕も初めての経験だよ、難しいね」

ほむら「そうね、今からのあなたは初めてが多くなる」

QB「……」

ほむら「楽しい?」

QB「随分とストレートに聞くもんだね」

ほむら「嘘をつくのも濁すのも当分はやめにしたの、こっちが気を使っても向こうはこっちの気持ちなんてわかってくれやしないから」

QB「説得力があるね」

ほむら「それで?」

QB「口に出すまでもないだろう、いくら出せると言っても」

QB「こういう事は、出さない方が風情がある、違うかい?」

ほむら「……ふふ」

ほむら「案外、昨日の夜の事も口に出さなくても分かるものなのかしら」

QB「……さあね」

QB「ただ、僕にはそれを口に出す資格がないと思っただけさ」

QB「1種の願望であるそれを、年端も行かない少女から無理やり聞き出して騙していた僕に」

QB「それを望む資格も、必要も無い」

QB「だから、せめて祈るだけだよ」

ほむら「……そう」

ほむら「あなたがそう言うなら、別にそれでいいわ」

ほむら「……」

QB「……」

ほむら「まぁ、もしかしたら……」

ほむら「……」

ほむら「……もしかしたら、それは私と同じかもしれないから」

ほむら「あなたの分まで、望んであげるわ」

QB「……それは、心強いね」






杏子「……来たか」

マミ「油断しないでね、とても大きい魔力の波動を感じるわ」

ほむら「……」

杏子「しかし慣れたもんだな、さやかが居なくなっても案外なんとかなるもんだ、ま、あいつはいうほど戦力になってなかったし当然といや当然か」

QB「ホントは?」

杏子「すげえ寂しい、ってうるせーよ!」

杏子「……大きさもそうだけどよ、半端じゃない数だぜこりゃあ」

ほむら「……今のうちに数を減らしておくべきかしら、マミと私なら遠距離からでも攻撃できるわ」

杏子「却下だ、遠くなればなるほど当たりにくいし何より外したら街がぶっ壊れちまう」

QB「へえ、君に他人を心配する気持ちがあったのかい」

杏子「おめーは何かとすぐちょっかいかけてくるな……」

ほむら「楽しいのよ、人と口喧嘩するなんて今までしたことなかったから」

杏子「……へっ」

マミ「今の内に作戦でも立てておきましょうか」

マミ「いつも通り、佐倉さんが前衛、私が中衛、暁美さんが後衛ね」

杏子「グリーフキューブの数はどうだ?戦ってる間に汚れが溜まっちまってそのままお導きとかシャレになんねーぞ」

マミ「数は大丈夫、けれど汚れをとる暇があるかどうか……」

ほむら「その時は汚れが溜まった人から後衛に回ってしまえばいい、適していると言うだけで、誰も前衛中衛が出来ないという訳では無いのだし」

杏子「そんじゃ、基本後衛のほむらは魔力を気にせずぶち込めるってわけだ」

ほむら「そうね」

杏子「でもこえーなー、ほむらの魔法案外外れることがあるから、最大威力土手っ腹に受けてそのまま死んじまうことも有り得るぞ」

マミ「まぁ流石に大丈夫でしょう……」

ほむら「あなたが避けきれなかった時は、私の夕食がタダになるだけよ」

杏子「何しれっとあたしの後釜に収まろうとしてんだよ……」

ほむら「私が作るよりマミの夕食の方が美味しいもの」

QB「違いないね」

ほむら「……」イラッ

スパァン!

QB「ぎゅっ!」

ほむら「……それと、まだ時間があるから聞いてほしいのだけれど」

マミ「?」

ほむら「……少し、私のお話も入るんだけれど……今の魔獣たちは少しずつ知能をつけているように思えるわ」

杏子「知能?」

ほむら「……ええ、少し前までは単なる魔法による攻撃だったんだけれど、前回は精神攻撃をしてきた」

ほむら「……私の知る限りでは、そんな攻撃をしてきた魔獣はそんなに多くない」

ほむら「魔女は、単なる攻撃で倒せることが多かったのだけれど……精神攻撃はかなり厄介だと思うの」

杏子「確かにな、あの時はかなり面倒くさかった」

ほむら「精神を攻撃されるとその分汚れがいつもより貯まる、それはもう分かっているわよね?」

ほむら「……そして、あいつらの精神攻撃の方法も、もう分かっているはず」

杏子「……」

マミ「……」

ほむら「……皮肉よね、辛い過去を持ってる人の方が多い魔法少女にこそ効きやすい方法だと思うわ」

ほむら「……対策、という訳では無い、そんなに大層な事じゃないけれど」

ほむら「……覚えていて欲しい」

ほむら「……自分たちの過去に、今の自分をどれだけ否定されても、あなた達を信じる私はここに居る」

ほむら「……今この瞬間だけじゃなくて、あなた達と過ごした時間や、一緒にお茶を飲んだときも、喧嘩をしたときも」

ほむら「……私は、忘れないでここに居るから」

ほむら「その時間が、どれだけ素敵なことか私は知ってるから」

ほむら「……その……だから……」

杏子「何言ってんだ、当たり前だっつーの」

杏子「この前は不覚をとっただけだよ、心構えさえしてりゃあんなもん屁でもねえ」

マミ「ふふ、そうね、確かに過去はとっても辛いものだけれど」

マミ「死にたくなるような過去が襲ってきたとしても、生きていたい今があるんだもの」

杏子「やられねーよ、誰も」

ほむら「……」

QB『意外だね、とは言わないよ、もとより君はそういう人間だったんだろうね』

ほむら『……』

QB『今が大事かい?』

ほむら『……ええ、そうね、今は……何より今が大切よ』

QB『なら君たちは負けないよ、行っておいで』




マミ「来るわ!」

杏子「オラァ!!!!!」

ほむら「……!!」

ガガガガガガァン!!!

魔獣「オオオオオオオオオオオオオオ!!!」

杏子「へっ!数がっ!多いって言っても!1匹1匹は大したことねぇな!っとと!!」

マミ「佐倉さん!左!」

杏子「っと……オラァ!!!」

ほむら(……杞憂だった……とはまだ言いきれない……だからあの攻撃が来る前に確実に数を減らしておく……!)

ほむら「……ふっ!!」ドシュッ!

魔獣「……オオオオオオオオオオオオオオ!!!」ババッ!!

ほむら「……っ!?」

杏子「……散開……!?いや……違うこれは……!!」

マミ「……私たちとの戦闘を放棄した!?」

ほむら(いけない!!)ドシュッ!ドシュッ!

杏子「やり切れねぇ!ほむら!!避けろ!!」

ほむら(……違う!!!狙いは……私ですら……無い!!)

魔獣「オオオオオオオオオオオオオオ!!!」ドドドド!!

ほむら「街の……方にっ!!!」

杏子「クソっ!!」バッ!

マミ「……迂闊だったわ、まさかあんな方法をとるなんて」

杏子「いいや、考えても見りゃ当然かもしれねー、魔獣の役割はあたし達を殺すことじゃないんだからよ」

ほむら「…でも、今までこんなことなかったわ」

杏子「お前が言ったんだろ、知能とやらを付けてんだろ、それか誰かの入れ知恵だ」

マミ「……幸い、魔獣は直接人を殺すことはないわ、でも急がないと多くの人が呪われてしまう」

杏子「ちっ、厄介なことになってきやがった」

ほむら「……」

ほむら(やっぱりおかしい……この前の今回で、こんなにも魔獣が戦い方を変えてくるなんて……!)

QB「皆!無事かい!?」

杏子「ああ!あたし達はな!クソっ!!」

QB「とにかく今は君たちが無事でよかったよ」

杏子「そうも言ってらんねーよ!街の方に魔獣が行っちまった!」

QB「大丈夫、今魔獣は君たちなんて眼中に無いよ、今の内に体制を立て直すべきだ」

杏子「……あ?」

QB「そうだね、ひとまず……」

ほむら「似てないわよ、全然ね」

QB「……」

ほむら「お前が何しに来たのかなんて、分からない、どうでもいい」

ほむら「私にとって今のお前は、まどかの真似をした魔獣が皆殺そうよって私に囁いてくる、それ位不気味よ」

ほむら「そしてそれ位腹が立つ……!」

杏子「……ほむら……こいつ……!もしかして……」

ほむら「相も変わらず人の気持ちを踏みにじって、お前はいったい何がしたいの?」

QB「勘違いしないでおくれよ、僕は……」

ほむら「黙れ」

マミ「……QB」

マミ「もうあなたの事は暁美さんから聞いているわ、あなた達の体にスペアがあるって言うこともね」

マミ「私たちがどこまであなたのことを把握してるのか、あなたは憶測でしか分からないんでしょう?」

マミ「中途半端なお芝居は辞めにしましょう、ね?」

ほむら「私が「お前」と呼ぶのはインキュベーターだけよ、これ以上あの子を騙ると言うのならお前を殺すわ」

インキュベーター「……やれやれ」

インキュベーター「別に騙したつもりは無いんだけどな、彼の今の立場を加味して、僕ならこう言うと思っただけで」

インキュベーター「僕は僕なりに君たちに助言をしたまでだよ、誤解させたならすまないね」

ほむら「白々しい……!」

インキュベーター「しかしまぁ、困ったことになったよ」

インキュベーター「僕らはただ単に「こうされたら厄介だね」ということを話していただけなのに」

インキュベーター「よりによって、魔獣なんかに聞かれているだなんて」

インキュベーター「知能が発達してきているのは知っていたけれど、まさか人語を理解できるようにまでなってたなんてね」

ほむら「……っ!!!!」

ほむら「……殺す……!お前は……殺す!!!」チャキッ

杏子「……おいやめとけ、まずはアイツらを倒すのが先だ」

マミ「……そうね、今は気にしちゃいけないわ」

インキュベーター「うん、僕もそれに賛成だ、そう言えば精神汚染された彼はどこかに行ってしまったよ、急いでいたようだけれど追いかけなくても……」

杏子「勘違いすんじゃねー、全部にケリつけたら、あたしらはお前をぶっ殺すって言ってんだよ」

インキュベーター「それが無意味だと知っていてもかい?」

杏子「さぁな、ただ、お前っていう個体はとりあえず殺す」

マミ「行きましょう……!早く彼らを倒さないと……!」

バシュッ!

ドガッ!!

杏子「……クソっ!!まだ全部じゃねーのか!?」

マミ「落ち着いて!確実に数は減ってきてる!もう少しよ!」

ほむら「……くっ……!」

ほむら(……真正面から向かってこない!やっぱり……!)

キィィィィィ!!

杏子「……精神……っ」

マミ「……ぐ……うぅうううぅ……!!」

ほむら「……耐えられる!!大丈夫よ!!」

杏子「分かっ……てるァ!!!!」ガァン!!!

マミ「……これ位で……へこたれるもんですか……!!」

ほむら(……早く……!早く倒さないと……!!皆が……あの子達が……!!)

杏子「……はぁっ……はぁっ……」

杏子「……これで……漸く……全部か?」

マミ「そうだと……いいのだけれど……はぁ……はぁ……」

ほむら「……」

ほむら(魔獣がつけた知恵とやらが……どこまで広がっているか……分からない……また対策を立て直さないと……)

杏子「……そうだ!QBは……!」

マミ「……!」

ほむら「……!!」







ガチャン!!!

杏子「QB!!エイミー!!!」

マミ「……大丈夫!?」

QB「やあ、遅かったね」

ほむら「……」

QB「どうやら僕は……してやられたみたいだ」

エイミー「……」

ほむら「……!」

ほむら「エイ……ミー……?」

ほむら「エイミー……エイミー!!!」

杏子「……クソっ!!マミ!!!治癒魔法だ!!お前も使えるはずだろ!」

マミ「……」ポゥ……

杏子「エイミー!おい!早くしろ!!マミ!!早く治癒魔法を……!!」

マミ「……わよ」

杏子「マ……!」

マミ「……やってるわよ!!!!!」

杏子「……っ!」

マミ「……やってるわよ……ずっと治癒してるわよ……でも目を覚まさない……覚まさない!!」

マミ「体にはどこにも傷がないはずなのに!!目を覚まさない!!どういう事か、分かるでしょうっ!?」

ほむら「……うぅ……あぁぁぁああぁぁ……!」

QB「死んでしまったようだ、恐らく魔獣の精神攻撃に耐えられなかったんだろうね」

QB「激しい頭痛を伴うから、きっと単なるショック死だったんだろう」

杏子「……てめぇ……!何でそんなに冷静なんだ!もしかしてまた……!!っ……!」

QB「知りたくなかったな、こんな時に涙すら流せない自分の愚かしさなんて」

ほむら「……エイミー……!」ギュッ







ほむら「……」

QB「……まるで抜け殻のようだね」

ほむら「……」

QB「申し訳ないと思うけれど、言わせてもらうよ」

QB「猫が一匹死んで、そこまで君が塞ぎ込むなんて思っても見なかった」

ほむら「……」

ほむら「守ろうと思っても、すり抜けて落ちてしまう、まるであの時と同じ」

ほむら「……考えてしまうわ、エイミーが隣の家に拾われていたら」

ほむら「飼わずに居たとしたら」

QB「……」

ほむら「結局私は、堂々巡りもいいところ」

ほむら「同じ過ちを繰り返して、同じだけ後悔して、同じ数だけ死にたくなる」

ほむら「そうしていつかそんな痛みにさえ慣れてしまって……」

ほむら「いつかはきっと、心を無くす」

QB「少なくとも、今は失くす心があるんだろう、落ち込むっていうことはそういうことさ」

ほむら「……辛い……何かを抱えると……失った時、辛い……辛すぎる……!」

QB「彼女は確かに、幸せだった」

QB「キミに飼われていなかったらなんて、考えるだけ無駄だ、その分君は彼女に幸せを分けてあげたじゃないか」

ほむら「そんな風には、私は考えられない……!」

QB「じゃあ君は、そんな風に引きずって生きていくのかい?」

ほむら「人間は!そんなふうに合理的に考えて生きていけないのよ!!!あなたと違って!!」

QB「……!」

ほむら「……あ」

QB「……そう、かもね」

ほむら「……違っ……!待っ……!」

QB「僕も少しだけ、頭を冷やしてくるよ、やっぱり未だ、僕に本物の心は宿っていないかもしれない」

QB「……」

QB「エイミーが、死んだ」

QB(他の生命が失われて、もうこれから先絶対に交わることがない)

QB(楽しかったと思えて、共に過ごした日々が大きければ大きいほど、その喪失感は凄まじくて)

QB(未だに現実から切り離されているようで、地に足つかない浮遊感だけが確かなもので)

QB(今までの悪いことすべてが嘘だったんじゃないかと思えてきて)

QB(現実に引き戻されて、あの時こうしていれば、あぁしていればと言う後悔と自責の念に押しつぶされそうになる)

QB「これが、死か」

「やあ」

QB「……」

「どこまで聞いたのかな?僕らの失態を君にはあまり知られたくないんだけれど」

QB「まぁ、そうだろうね、大体は理解しているつもりだ」

「そうか、申し訳ないことをした」

QB「心にもない事を言うもんじゃないと思うよ、そういう態度は一層神経を逆なですることにもなりかねない」

「あの猫のことは残念だったね」

QB「君たちには関係の無いことだ、僕は彼女を守りきれなかった、それだけだ」

「そうだね、少しきつい言い方かもしれないけれど、君はあの時確かに役立たずだった」

QB「……」

「でも、今はそうとは限らない」

QB「……?」

「マレフィカファルス……って知ってるかい?」

QB「……魔女の心臓……?」

「感情が生まれると、記憶の整理が必要になってくるのかな、当然といえば当然か、記録に感情を足して記憶になるんだから」

「魔女の心臓から生まれた少女がいた、彼女は偽物の体でしかなかったのに、自分を人間だと信じて疑わなかった」

「偽物の体に、本物の心が宿った」

QB「……」

「僕らが契約できるのは、素質を持った少女のみ」

「定義すると、心を持っていて、因果を背負っているもの」

「しかし彼女は、実際には少女ですらなく、そして因果すらも背負ってすらいなかった、背負っていたとしたら、それは間違いなく作られた偽物の因果だ」

「にも関わらず、彼女の契約は成立した」

QB「……」

「君の言った通りだね、心があるから奇跡が起こる」

「一番重要なのは、心じゃないかって、僕は思うんだ」

「契約に必要なのは、心と、願い」

「それらが揃ってさえいれば、彼女ほどではなくとも、不完全ではあったとしても契約は成立するんじゃないかなってね」

QB「君は、悪魔だね」

「何とでも言っていいよ、僕らは呼ばれ方に特別こだわりを持たない」

「もちろん約束は変わっていないよ、僕らは、暁美ほむらにも佐倉杏子にも巴マミにも絶対に手を出さない」

QB「……」

「あぁ、後、全ての権利を剥奪したと思っていたんだけれどね、契約執行の権利は何かの手違いで君に残っていたみたいだ」

「契約したいと思ったらしてもいいよ、それ自体は僕らにとって不利益となり得ないからね」

「そうだね、鏡にでも話しかければいいんじゃないかな?」

「それじゃあ」

QB「……」

QB「ますます、鹿目まどかと話したくなってきたよ」

QB「君はこんな気持ちだったのかい?もう自分しかいなくて、どうしようも無くて」

QB「嫌々ながら、運命を恨みながら、神様になったのかな」





QB(こう言ってるわけだ)

QB(今の僕にできることは何も無い、但し、それでもエイミーを救いたいのならば一つだけ方法がある)

QB(なんて皮肉なんだろう、半ば無理やり、選択の余地もないくらい他の可能性を削ぎ落とし年端も行かない少女と契約しておいて)

QB(最終的に僕がすがるのはその契約だなんて)

QB(これが罰なんだとしたら、妥当すぎて笑えてくる)

QB(……でも、それもまた仕方が無いと考える僕がいる)

QB(契約出来るんだろうか、自分一人で、不完全とも呼べる心しかない僕は、たった一人で)

QB(エイミーを生き返らせるという願いを叶えることが出来るんだろうか)

QB(……いいや、出来るんだろうかって考えてる時点で答えはもう決まってる)

QB(僕は何があってもエイミーを生き返らせたい)

QB(例え、地獄に落ちたとしても)

QB「……あ」

杏子「……おう」

杏子「案外動じてねーみたいだな」

QB「さあね」

杏子「死んじまったなー、エイミー」

QB「君も、昨日と打って変わって随分と軽いじゃないか」

杏子「いいや、そんな事ねぇよ」

杏子「でもさ、さやかが死んだ時決めたんだ、誰が死んでもあたしは揺らぐことのないようにしようって」

杏子「死んじまっても、クヨクヨすんのはやめようってな」

QB「強いね、君は」

杏子「強くなんねーといけなかったんだ、あたしも、マミもほむらも」

杏子「だってこんな世界だぜ?誰かが死ぬなんて雨が降るよりも起こることだろうよ、それが今回エイミーだっただけだ」

QB「世界が悪いって、思ってるのかい?」

杏子「ほむらに言ったら殺されるな、こんな世界でもあいつにとっちゃまだ救いのある世界らしい」

QB「君はよくさやかに言っていたね、他人のために願うのはバカのやることだって」

杏子「言ったね」

QB「あの言葉の真意を聞かせて欲しい、どうして他人のために願うことが悪いことなんだい?」

杏子「……」

杏子「別に悪いことじゃねーさ、他人のために願うくらい優しいことが、悪いはずねぇじゃんよ」

杏子「悪いのは、やっぱり世界だ」

杏子「他人を思うくらい優しいやつから酷い目にあう、そんなふうな世界だからダメなのさ、他人のために願うってのは」

QB「……」

杏子「だからさ、それでも他人のために願ってんなら、覚悟を決めた方がいいんだ」

杏子「何が起こっても、そのためなら命でさえ捨ててもいいっつー覚悟を」

杏子「……それがないから、あたしは今でも後悔してる」

QB「覚悟か、それもまた僕に足りないものの一つだろうね」

杏子「さあて、あたしにはお前のことはよくわかんねーよ」

杏子「争いとか、下らねーもんが終始続く馬鹿みたいな世界だけどさ」

杏子「優しいやつにはとことん厳しくて、まともなやつが馬鹿を見る世界だけどさ」

杏子「それでも、ここはあいつが守ろうとした場所なんだ、だったらあたしは、死んじまったアイツの分までここで生きて戦わなきゃいけねーもんな」

QB「……生きて、戦う」

杏子「それくらいしか、今のあたしにはやることがねーんだけどさ」ケラケラ

QB「戦うという定義は、沢山あるよね、例えばそれが地獄に落ちてまで目的を果たすことだとしても、それは戦いだって言えるのかな?」

杏子「難しいことは良くわかんねーよ」

杏子「だけどまぁ、お前がそう決めたんならいいじゃねーか、何を決めたかしらねーが」

杏子「本気なんだったら、あたしにも世界にも止める権利はねーんだよ」

QB「……」

QB「……エイミーを、生き返らせようと思う」

杏子「……そりゃまた随分と大きくでたな」

杏子「どうやって?」

QB「僕に生まれた心を、不完全かもしれないけれど出来た心を使って、僕自身が僕と契約する」

杏子「そんなこと出来るのかよ?」

QB「理論上は不可能だろうね、でも、不条理を覆すことこそ魔法少女の使命なんだろう?」

杏子「さてどうだか、あたしはそんなこと聞いたことねぇな」

QB「何が起こるかわからない、契約不履行に終わってただただ自分の命を捨てるだけの行為に代わりないかもしれない」

杏子「その場合、ただで死ぬわけねーな」

杏子「いつぞやほむらが言ってた魔女ってのになっちまう可能性もある、か」

QB「円環の理が僕にまで作用するかどうかはわからない、いいや、きっとしないだろう」

QB「するはずが無い、だからこそ、今この事実を君に教えたんだ」

杏子「……」

杏子「損な役回りだね、ほんと」

QB「申し訳ないと思っているよ、それでもそういう事が出来るのは、今は君だけだと思ってね」

杏子「……あたしだって、辛くないわけじゃねーんだぞ」

QB「うん、ごめんね」

杏子「あんたは、何を望むんだ?」

QB「エイミーに、生き返ってほしい」

杏子「その願いは、あんたの命を差し出すに足るものかい?」

QB「うん」

杏子「そうか、ならもうあたしは何も言えねーな」

QB「……」

QB(後悔はない、ただ、僕みたいな存在がなにかのために死ぬ事が出来るという事実は、意外と悪くない)

QB(エイミー、君といて僕はとても楽しかった)

QB(君がいたお陰で、僕はかけがえのないものを手に入れた)

QB(だからもう1度、君に会うために僕はこの命を使うよ)

QB(君が理不尽に殺された事実なんて、僕は絶対に受け入れられないからね)

ズッ




インキュベーター「……始まったね」

QB(……)

QB(自分の魂が取り出されて、形作られるのがわかる)

QB(今の僕を見たら、君はなんていうだろうか)

QB(誰か一人の命と引き換えに訪れた平和は、根本的解決にならない、そう言ったね)

QB(肉体が崩れていく、魔法少女として不完全な形で出来上がっていく)

QB(無様で醜い、壊れかけのソウルジェムが、最後の僕か)

QB(……あぁ、ほむら)

QB(それでも、君たちといた数週間は、数百年生きてきた僕の人生の中で、一番輝かしいものだったよ)






ほむら「……!」

ほむら「……この魔力……嘘……ありえない……!」

マミ『暁美さん!!』

ほむら『……!』

ほむら『えぇ……気が付いているわよ……!』

ほむら(この強大な魔力……魔獣とは比べ物にならない、どす黒く禍々しい……!)

マミ『私も急いで向かうわ!あなたも……!』

ほむら『……えぇ、分かったわ』

ほむら(……有り得ない……魔女はもう消えたはず……濁りが溜まったソウルジェムはその存在を魔女に落とす前に……まどかに……)

ほむら(円環の理に回収される……そうじゃないの……!?)






杏子「……っの!クソっ!」

ほむら「……杏子……!何を……!」

杏子「出て来いコラ!QB!何してんだよ!!おい!」

ほむら「……これ……何……」

ほむら(……濁ったソウルジェムを囲うこれは一体……)

インキュベーター「うん、なかなかの硬さじゃないか」

ほむら「……っ!インキュ……ベーター……!」

ほむら「お前達……!あの子にいったい何をしたの……!?これは……!」

インキュベーター「干渉遮断フィールドだよ」

インキュベーター「濁りきったソウルジェムを外界から遮断する、一切の干渉を受けなくなったそれは、果たしてどんな風な結末を見せるのか」

インキュベーター「いつか、君が話してくれた通りのことが起きそうだ」

ほむら「……じゃあQBは……!契約……を……!?」

インキュベーター「不完全に終わってしまったようだけれどね、未完成の心を礎に生まれたあれはとてもソウルジェムとは呼べない」

インキュベーター「結局彼の不完全な魂は魔法少女というプロセスを飛び越えてしまったようだ」

ほむら(QBが契約を……!?いや……そんなことより……これは……)

インキュベーター「自身の中に結界を生み出したようだ、なるほど」

インキュベーター「彼の願いがなんだったのか定かではないけれど、安寧と平和が彼の望みだったことは言うまでもないね」カチッ












マミ「ふう……」

杏子「あ、もう終わっちまったのかよ、つまんねーな」

マミ「あなたが遅いからでしょ、……もう、私だって暇じゃないんだからたまには手伝ってちょうだい」

杏子「あたしがまるで暇であるかのような言い方だな」

マミ「そういう訳じゃないけれど……」

杏子「お前は根詰めすぎなんだよ、どうしようもないときゃほっとけばいいんだっての」

ほむら「……お待たせ……って終わってしまったようね」

杏子「おー、お疲れほむら」

ほむら「折角アルバイトを早く切り上げてきたのに……無駄足だったかしら」

杏子「いいや、そうでもねーよ、偉大な先輩がごちそうしてくれるってさ」

ほむら「……あら、じゃあ甘えようかしら」

マミ「もう……!……ふふふ……」

マミ「この所は平和ね、魔獣も出ないし」

杏子「ま、そうだな」

マミ「それにしても、いつになったらこの街に新しい魔法少女が出てきてくれるのかしら」

ほむら「望むだけ無駄よ、いくら願いを叶えるとは言っても命と引き換えに出来るほどじゃないわ」

杏子「魔法少女が生まれないことこそ平和の象徴だろ、うめぇ」

マミ「……それはそうなんだろうけど」

ほむら「ところで……ここが分からないんだけど……」

杏子「あーん?あたしに見せてみろよ、こんなのお茶の子ほいほいだぜ」

ほむら「さいさいね、マミ、分かる?」

マミ「……んーと……」

QB「あれ?今日は皆集まってるのかい?」

マミ「あら、QB、どこに言ってたのかしら?」

QB「エイミーが遊びたいというからね、少しその辺を散歩してきたんだ」

杏子「すっかり親猫だなお前……」

杏子「ようエイミー、すっかりQBよりでかくなっちまったな」

エイミー「ニャー」

ほむら「ちょっと太り過ぎじゃないかしら」

杏子「マミが?」

マミ「……」

杏子「うっ、嘘嘘!嘘だってば!」

QB「そうは言っても餌が欲しい欲しいってうるさいんだ、叶わないよ全く」

マミ「QBはエイミーに甘いのね、ふふ」

QB「そういうマミは杏子に厳しいね」

杏子「返してくれよお~!腹減ってんだよ~!」

ほむら「……」

QB「どうしたんだい?ほむら」

ほむら「……いいえ?」

QB「そうかい、君は思い詰めることが多いからね、たまには人に悩みを話すことも大切だよ」

QB「それにしてもエイミーを拾ってからもう6年だね、随分と街並みも変わったなぁ」

杏子「お前が言うと半端じゃなく感慨深いな」

マミ「土地開発でただでさえ少なかった自然がどんどん失われていくのを見ると、素直に喜べないけれどね」

QB「マミもほむらももう大学生だもんね、杏子はまだ小学生だっけ」

杏子「ぶっ飛ばすぞ」

QB「君たちは2人とも見滝原の大学を選んだんだね、どうしてだい?」

ほむら「……それは」

マミ「だってどこに行こうがどっちにせよ魔獣と戦わなくてはならないでしょ?どうせなら自分の生まれ育った街を守りたいじゃない?」

QB「そっか、僕にとっては都合が良かったよ」

ほむら「……」

ほむら「……」

ほむら「……何で?」

QB「……?だって、皆でこうしていられる時間が多い方が楽しいじゃないか」

ほむら「……」

QB「僕、何か変な事言ってるかい?」

ほむら「……いいえ」

QB「今日は楽しかったね」

ほむら「……ええ、そうね」

QB「……僕ね、ずっと思ってたんだ、エイミーを拾ったあの日から、こんな日がずっとずっと続けばいいなって」

QB「魔法少女でもないのに、願いが叶っていいんだろうか、幸せすぎてバチが当たってしまうよ」

ほむら「QB」

QB「何だい?」

ほむら「……鹿目まどかって、知ってるかしら?」

QB「……?……うん、もちろん知ってるよ」

ほむら「……そう、それなら……」

QB「明日来る、新顔の魔法少女のことだろう?」

ほむら「……は?」

QB「どこで知ったんだい?僕にだけ挨拶に来たのに」

ほむら「……魔法……少女……?」

QB「君たちがあまりにも、特に杏子だけれど、魔獣を狩るのに躊躇いがないものだから少し怖がっていたよ」

QB「でも大丈夫、見た目通りのとても優しい子だったから」

ほむら「……そう、そうよね……?」

ほむら(明日来る魔法少女……?)

ほむら(……鹿目まどかは……まどかは……?あれ……?)

ほむら「……まどかは……?」

次の日

QB「……」

ほむら「……おはよう、どうしたの?」

QB「いや、鹿目まどかが急遽来れなくなってしまってね」

ほむら「……そう」

QB「残念だよ、漸くこの街に新しい魔法少女が来てくれると思ったのに」

ほむら「……ねぇ、QB」

QB「なんだい?」

ほむら「鹿目まどか……と、いつ連絡を取り合ったの?」

QB「一週間くらい前かな」

ほむら「……でも、一週間くらい前は、あなたは私たちとずっと一緒に居たじゃない……!」

QB「テレパシーを感じて抜け出したんだ」

ほむら「……違う……!そんなはずは……!」

ほむら「……っ!ほ、他には!?他には誰か居なかった!?鹿目まどかの他には!?」

QB「居なかったよ、誰も、誰も居なかった」

QB「まぁそのまどかも来れなくなってしまったしね、また暫くは「いつもと変わらない」見滝原の日常が続くだけさ」

ほむら「……」

ほむら「……」

ほむら(……鹿目まどかは……)

ほむら(……私にとって、とても大切だった存在のような気がする)

ほむら(……でも、思い出せない、鹿目まどかと共に何かをした記憶もなければ、言葉を交わした記憶すらない)

ほむら(だとしたら、この気持ちは一体何なの……?)

ほむら(どうして私は、鹿目まどかの名前を聞くたびに、暖かくなるの?)

ほむら(……いけない、存在を疑ってはいけない……!)

ほむら(……きっと、いえ……絶対……私にとって鹿目まどかは絶対なんだ……!その気持ちだけは失ってはいけない……!)

ほむら「鹿目まどかは、存在するわ……!」

QB「……?そりゃもちろん……」

ほむら「……私にとって、最高の友達だもの……!」

QB「……そうか」

QB「そう言ってくれて、彼女もとても嬉しいだろうね」

ほむら「……」

エイミー「……ニャー」スリスリ

ほむら「……エイミー……私、おかしくなっちゃったのかな?」

ほむら「そんなはずないよね……じゃあ……誰が……」

エイミー「……ニャー」

ほむら「……え?」

ほむら(……エイミーの形が……?この傷は何……?)

ほむら「……」スッ

エイミー「ニャアァッ!!!」

ほむら「……きゃっ……!」

ほむら「エイミ……!……っ!」

エイミー「ニャアアアアア……!!」

ほむら「ひっ……!」

ほむら(……違う……!!これはエイミーなんかじゃない……!これは……そう、これは!!)

ほむら「魔女の使い魔、だ……」

ズズズズズズ

「不完全な魂と、不完全な契約によって願われたそれが、真っ当な形で叶うはずもない」

「それでもエイミーとやらを生き返らせたかった彼は、使い魔をエイミーと呼ぶことになる」

「かくして彼は自身の中で結末を迎える魔女となり、その願いは使い魔という形で果たされることになった」

「でもあの願いは単なる前座だったに過ぎないだろうね、本当に彼が願っていたのは」

「誰一人欠けることなく、この見滝原で生きていたいだったんだから」

ほむら「……!」

インキュベーター「実に興味深い観測結果だったよ、遮断フィールドを解いて君たちを招いたのはどうやら正解だったようだ」

ほむら「……インキュベーター!!!!!」ギリッ!

インキュベーター「気が付いていたかい?この街でQBと名乗る存在はこの偽りの世界の均衡を保つためにあらゆる外的要素を排除した」

インキュベーター「君にとって、ともすれば彼にとっても重要な存在であるかもしれない円環の理をあろうことかただの魔法少女と認識して」

インキュベーター「無意識のうちに、君の記憶を作り替えた」

インキュベーター「そうまでしてこの世界の均衡を保ちたかったんだろうね」

インキュベーター「僕は何一つ約束を破ってはないないよ、彼女たちの誰にも手を出していないし」

インキュベーター「彼女たちの人生を終わらせるのは、君だ、QB」

ほむら「私たちをここから出しなさい!」

インキュベーター「いいのかい?ここから君たちを出すということはこの魔女を野に放つということにほかならない」

インキュベーター「6年分の歳月を一瞬で過ごした君たちの精神的負担がどれほどのものかは知らないけれど、まともに立っていられることすら困難だろうね」

インキュベーター「今はまだ、皮肉らしいけどあの魔女のおかげで君たちは立っていられる」

ほむら「……!」

ほむら(どうして……!あの子は何も悪いことをしていないのに……!何で……!)

インキュベーター「かなりショックを受けているようだね」

インキュベーター「あまり落ち込まない方がいい、ここは円環の理の干渉すら届かない場所なんだから」

インキュベーター「さぁ、とは言ってもどうしようか」

インキュベーター「君も束の間とは言え、幸せな時間に浸ることが出来るんだ」

インキュベーター「ここは一つ、全てを諦めてこの世界に迎合するというのはどうかな?」

インキュベーター「この時間の早さだ、恐らく彼の寿命こそが魔女孵化へのトリガーになるだろうね」

インキュベーター「だから、君もそれまでこの世界で幸せに浸るといい」

インキュベーター「僕らはそれを、存分に観測させてもらうとしよう」

ほむら「……はっ……!」

エイミー「……ニャー……」

ほむら(……エイ……ミー……)

ほむら「……」




マミ「……こんな事があるから隠しておいたのに!」

杏子「隠しておくってことは見つかったら食っていいってことだろ!」

マミ「もう……!」

バァン!!

マミ「……」

杏子「……」

ほむら「はぁっ……!はぁっ……!」

杏子「……ほむら……?どうしたんだよ……?スゲー汗だぞ……」

ほむら「……」

ほむら「……そうね、どうにか、なったのかもしれないわ……」

マミ「と、取り敢えず落ち着いて……?」

ほむら「……」

ほむら「……私の話を、聞いてほしい」

杏子「……」

ほむら「……今からするのは……私の夢物語なんかじゃない……!」

ほむら(もう……どうしていいか分からない……!)

ほむら(確かにあの子は沢山の人を悲しませた、でも、これがその罰だとしたら余りにも……!)

ほむら(あなたは、言ったわね……エイミーは私に飼われて、幸せだったって!)

ほむら(そうよ……!あなただって、最後の最後には私たちに幸せをくれたじゃない!)

ほむら(そんなあなたが……!こんな終わり方をしていいはずがない……!だってそれじゃあ……あまりにも辛すぎる……!)

ほむら(……私は、無力だ……弱い……!)

ほむら「……弱いから、あなた達を頼るしかないのよ……!」

杏子「……」

マミ「……」

ほむら「……お願い……信じて……!」



────────

───

マミ「……」

杏子「随分と、途方もねー話だな」

ほむら「……」

杏子「いいか?あたしはどう考えてもお前の頭がおかしくなっちまった可能性の方が高いと思ってる」

杏子「あたし達は魔女なんか聞いたこともねー、QBが契約できたなんて事実も信じられねー」

杏子「鹿目まどかとやらの話も信じられねーし、あたし達のこの6年が嘘だったってのも信じられねー!」

ほむら「……」

杏子「でも、お前は信じられる」

ほむら「……っ」

杏子「……どっかに、引っ掛かりがあるんだ」

杏子「もしかしてあたし、忘れちゃいけねーもんを忘れちまったんじゃないかって」

杏子「いつも口うるさくて、何かと文句をつけてきて……ほんと鬱陶しい奴だったけどさ」

杏子「……どんなに忘れても、あたしはあのバカを完全には忘れられねーんだよ」

マミ「……」

杏子「誰だ?あたしにとって大切だったあいつは誰だ?」

杏子「あいつが守った世界を守ってやるって、誓ったんだ」

杏子「誰だよ、あいつは!?」

ほむら「……」

杏子「行こうぜ、ほむら、マミ」

杏子「ここが嘘の世界だって言うんなら、全部ぶっ壊して、あたし達から奪ったもんを返してもらおう」

ほむら「……杏子……」

マミ「……まぁ、後輩を見捨ててはおけないしね」

杏子「……QB!!!!出て来い!!」

杏子「もうこんな世界なんて要らねぇ!正々堂々、あたし達の前に姿を現して!」

杏子「そんで、あたし達を倒して叶えてみろよ!その願いとやらを!!」

ズズズズズズ

ほむら「……」

杏子「……」

マミ「……」

QB「……とても、残念だよ」

QB「いつしか君が話してくれた話が、まさか僕に降り掛かってくるなんて」

ほむら「QB……!」

QB「近付かない方がいい、この姿も罠みたいなものだ、僕の本体は君達を覆っている結界そのもの」

QB「真実を持って僕に触れたら、君たちはまた記憶を奪われることにもなりかねない」

杏子「そんときゃまた思い出してやるさ、何度でも」

QB「……」

QB「そうか、君とは約束をしていたね」

杏子「あぁ、ぶっ殺せ、だったか」

QB「僕はとても、幸せだ」

QB「最後の最後で、君たちと同じ時間を共有できて、終わってしまった人生だったのに、嘘とはいえ、その続きまで見られて」

QB「僕は本当に幸せだ」

杏子「……」

QB「時期に僕は孵化する、君たちは僕を倒すといい、そうすれば彼らも遮断フィールドを解いて外に出られるだろうね」

QB「どす黒く、心が濁っていくのがわかる」

QB(じわじわと、粘り気のある濃い毒が体を這い回る、これが僕の絶望)

QB(……)

QB「ありがとう」

ほむら「Q……!」

ゴォォォォォォ!

魔女「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!」

ほむら「……QB……」ポロポロ

杏子「……あれが、魔女なんだな」

マミ「……何て、おぞましい……」

インキュベーター「変わらぬ平和を願った彼は、魔女になりながら、自身の中で完結しながらも、その願いを構築した」

インキュベーター「記録だけは膨大な量だからね、街一つ再現するなんて訳ないだろう」

インキュベーター「さぁ、君たちはどうやって彼の人生を終わらせるつもりだい?」

杏子「いつもの下らねー話術か、ここであたし達が絶望すりゃあんたは一気に三人分の魔女とやらを得ることになる」

杏子「あんまり調子に乗んなよ、こんくらいであたし達がへこたれるたまか」

インキュベーター「……」

魔女「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!!」

ほむら「……QB……」

ほむら(……ごめんなさい……こんな形で、あなたを失いたくなかった)

ほむら(……私はまだ、あなたに謝りもできていないのに……)

杏子「来るぞっ!!」

マミ「……はっ!!」ドォンドォン!!

ほむら「……たぁぁぁっ……!」バシュッ!

インキュベーター「そこまでして彼を倒したいのかい」

インキュベーター「人間は本当に、愚かすぎて理解し難いよ」

インキュベーター「彼に身を委ねてしまえば君たちは涙を流しながら戦うこともなかったのに」

杏子「……うらぁぁぁぁっ!!!」

マミ「はぁぁぁぁ!」

ほむら「……たぁっ!」

魔女「……ァァァアアアアアアアアアア!!」

ほむら「……!」

ほむら(……これは……!私たちの記憶……?)

インキュベーター(なるほど、ここは明晰夢のようなものか)

インキュベーター(当然といえば当然か、彼が作り上げたこの結界で彼に不可能なことなんてない)

インキュベーター(いつかの魔獣がやったように、心をへし折るつもりなんだね)

杏子「ぐぅぅぅううっ……!」

マミ「……!」

ほむら「うぅぅうううっ……!」

ほむら(精神攻撃なんて……大したことない……!だってあなたの方が何倍も辛いもの……!)

ほむら「……邪魔しないで……これ以上……もう……苦しまないで……」

ほむら「……」

魔女「……」

ほむら(いつもいつも、憎まれ口を叩くあなたを、嫌いにはなれなかったわ)

ほむら(あなたは確かに罪を背負っていたけれど、それでも最後には改心した、だったらもうそれでいいんじゃないかって思う自分がいる)

ほむら(でも、まどかとは違うまた別の神が、それでもあなたを許さないというのなら、それを下すのは私の役目、そうよね?)

ほむら(QB、私はとっても幸せだった、あなたと過ごした日々は紛れもなく幸せだった)

ほむら「……」

ほむら「あなたは、どうだったかしら」

「……」

「……もちろん、僕も」

ほむら「……そうよね」





ドガァァァァァァアアン!!

魔女「……ゥ、ァァァアア……」

インキュベーター「やれやれ、終わってしまったか」

ほむら「……はぁっ……はぁっ……」

杏子「……終わった、のか?」

ほむら「……もう、魔女が死ぬのも時間の問題、あとは……」

ほむら「……」

魔女「……」

ほむら「……否定なんてできない、私だってまどかを救うために契約したんだから」

ほむら「それが間違いだって言うんなら、私は何度だってその言葉を否定する」

ほむら「あなたは、正しく生きたわ」

ほむら「だから……もう……」

ほむら「……」

ほむら(……?……インキュベーターはどうして……あの装置を解いたの?)

ほむら(……私たちをこの世界に閉じ込めるため?……私たちが入り込んだ結界を観測するため?)

ほむら(……どうして、あいつは、長く観測できる機会を棒に振ってまで私たちをここに……)

ほむら「……違う……観測出来なかったんだわ」

ほむら「「干渉遮断フィールド」……だもの……!!」

ほむら「杏子っ!!マミっ!!」

ほむら「インキュベーターを……!!殺して!!」





インキュベーター「とても良い観測結果だった」タッタッタッ

インキュベーター「あとはこのフィールドを閉じておしまいだね」

インキュベーター「やはり、と言うべきか、やっぱり円環の理は現れることがなかったね」

インキュベーター「彼を魔法少女として認識していないが故の結果だったのか、それとも憎しみがそうさせたのか定かではないけれど」

インキュベーター「……それにしても、改良の余地があるようだ、せめて僕らの情報のやりとりだけでも出来るようにしないと」

インキュベーター「……」タッタッタッ






杏子「居ねぇぞ!」

マミ「こっちにも……!」

ほむら「……ぐぅ……!」

ほむら「どこ!?何処にいるのよ!こんな風に、あの子達の死を弄んで、お前はどこまで……!」

ほむら「……どこまで……!!」

ほむら(インキュベーターが結界に入ってきたのには訳がある……!それはきっと、このフィールドは外界からの全てを遮断する代わりに……)

ほむら(内から外への干渉もできない……!)

ほむら「彼らの死を利用させるわけには行かないのに……!私は……!」

ほむら「私はどこまで無力なのっ!!!」ガァン!!

ほむら(いっつもそうだったわ……!私が何かをするたびに全てから回る……!)

ほむら(何にも出来なくて、私はあの頃から何も変わっていない……!)

ほむら(まどかに守られる私のまんまだわ……!!)

ほむら「どうすればいいの……?どうすれば……!」

ほむら「……誰か、教えてよ……!」

ズッ

ほむら「……!」

ほむら「……これ……っ!」

杏子「盾……?」

マミ「……一体……何の……?」

ほむら「っ……」

ほむら(……違う……!私はこれを知っている……!これは、私の誓そのもの……!まどかを守ると誓った証……!)

ほむら「これは……これは……!!」

「この結界は僕の明晰夢のようなものだ、この結界内で僕に不可能はないよ」

「少し辛いことを思い出させるかもしれない、君にとってそれは守る誓であると同時に、彼女を守れなかった証明でもあるから」

「それでも、記憶を覗いて再現した、君の仲間で居たいから」

ほむら「Q……」

「行って、ほむら、彼の持っているここでの結果を持ち帰らせちゃいけない」

「お願いだよ」

ほむら「……っ!」ダッ!

ほむら「……!」カチッ!!

ほむら(……本当に久しぶり、もう二度とこれを使うことはないと思っていたのに……)

ほむら(……何もかもが懐かしい……そうよ、私は……)

ほむら(……まどかを守れなかった……でも)

ほむら(……もう守れないなんて……)

ほむら「……そんなの、嫌よ」ガチャッ

ほむら(……銃まで再現してある、感情の生まれたあなたがここまで読むのは相当な辛さだっただろうに)

ほむら「……」

インキュベーター「……」

ほむら「……お前はきっと、いえ、絶対にこの事を覚えてはいない」

ほむら「この世界では私以外、何人たりとも動けない」

ほむら「だから、言わせてもらうわ」

ほむら「いつか必ずお前達の企みを暴いてやる……いつか必ずお前達をみんな殺しきってやる……!」

ほむら「お前達を終わらせるのは、私たちよ」

ほむら「とりあえず今回は……私の、私たちの、勝ちよ」

ほむら「ざまぁ……ないわね……!」



ドガァァァァァァアアン!!

シュウウウウウウ

ほむら「……結界が……」

ほむら「……丁度、時間だったのね」

杏子「ほむらァ!」

マミ「……暁美さん……!」

ほむら「2人とも……」

杏子「……って、うおっ……!」ズダァン!

杏子「……動けねぇ……なんだこりゃ……」

ほむら「……六年分の時間を1度に味わったんだもの……疲労は当然……」

ほむら(……盾も無くなってる……)

ほむら(……そっか……終わったんだ……QBは、死んだんだ)

インキュベーター「何が起こったんだい?」

ほむら「……」ギリッ!

インキュベーター「全く無意味なことをしたね、あの個体を殺したところで何一つ得られるものなんて……」

杏子「そうは言っても、内心悔しいんじゃねーのか?え?」

杏子「あの中じゃ、お前達もやりとりが出来ねぇんだろ?何の思惑があってシラ切ってるのか知らねーが、ちゃんと口に出せよ」

杏子「お前はあの結界の中で何の成果も得られなかった!お前達の負けだ馬鹿野郎!!」

インキュベーター「……」

インキュベーター「うん、確かに今回は僕らの負け、とでも言うべきなのかな?」

インキュベーター「僕らが時間と労力をかけて作った装置も使い物にならなくなってしまった、君たちがあの個体を殺したことで結果は全て闇の中だ」

インキュベーター「対して君たちはQBを失い、あの黒猫も失ってしまった」

インキュベーター「……うん、いいや……痛み分けといったところじゃないかな?」

杏子「……てめぇ……!」

インキュベーター「それでも勝ちと言い張りたいなら言えばいい、僕らにとって勝ち負けなんてどうでもいい事だ」

インキュベーター「それに僕らは……?」

インキュベーター「……これは……」

ほむら「……っ……!!」

マミ「……エ……」

杏子「……エイミー……?」

エイミー「……ニャー」スリスリ

ほむら「……エイミー……!エイミー……!!」ギュッ

インキュベーター「……有り得ない……!あんな不完全な契約で願いが叶うなんて……!そんなはずが……!」

杏子「どうだよ!これでもまだ痛み分けだっていうか!?QBのバカは自分の命でエイミーを生き返らせた!」

インキュベーター「……契約は成立していた……?でもあの時は確かに……」

杏子「うだうだ考えてもてめーには何一つ分かんねぇんだよ!」

杏子「有り得ねぇ!?これがお前達が笑った奇跡だろ!!」

インキュベーター「……」

インキュベーター「……分かったよ、今回は確かに僕の負けだ」

ほむら「……エイミー……!エイミー……!!」

ほむら(……叶っていたわよ……!あなたは、確かにエイミーを生き返らせた!)

ほむら「QB……!!!」






ほむら「……」

杏子「……」

マミ「……」

ほむら「……まぁ、妥当なところといったとこかしら」

杏子「なーに言ってんだ、立派な墓だろ、あいつには勿体無いくらいだぜ」

ほむら「……ふふ、そうかしら」

ほむら「死体も残らなかったから、埋めるものがなかったけれどね……」

杏子「良いんだよ、こういうのはきっと、形だ」

マミ「……エイミー、元気だよ、QB」

ほむら「……」

ほむら「今回のことで、一つ分かったことがあるの」

杏子「……?」

マミ「……?」

ほむら「……QBの結界に取り込まれた時、あなた達の記憶も多少なり私の中に流れ込んできた」

ほむら「………だから……きっと私の記憶もあなた達に流れ込んできたと思う……」

ほむら「……その……ごめんなさい、まどかを守るためとはいえ……あなた達にはひどいことをしたわ」

ほむら「……あの時の私は、何にも信じられなくて、一人でまどかを救おうとしてた」

ほむら「……でも、漸く分かったの」

ほむら「……やっぱり私達は一人じゃ生きていけない……誰かと一緒に生きていくべきなんだって」

杏子「……」

マミ「……」

ほむら「……一人じゃなくて、良かった」

ほむら「……えぇ、あなた達と出会えて、私はとても嬉しい」

ほむら「幸せよ」ニコッ

杏子「……」

マミ「……」

杏子「ほむらの奴からこんな言葉が聞ける日が来るなんてなぁ、マミィ」

マミ「ええそうね、今日はきっと槍が降るわ」

杏子「現実に出来るぜ、それ」

ほむら「……もう……」

ほむら「……」

ほむら(……まどか、あなたを守ることは出来なかった)

ほむら(QBも、守ることは出来なかった、けれど)

ほむら(二人は守ることが出来た、これは紛れもなく、あなたと皆のおかげ)

ほむら(あなたに導かれる日まで、私は精一杯生きるから)

ほむら(争いばかりを繰り返す残酷な世界だけれど、それでも私は精一杯抗うから)

ほむら(だから、見守っていてちょうだい)

ほむら「大好きよ、まどかも、皆も」

ほむら「……行きましょう、見滝原に」

杏子「……おう」

マミ「……ええ」






「……」

QB「それで、どうして僕はここにいるのかな」

QB「どう考えても導かれる存在ではないと思ったんだけど」

QB「え?契約をして魔女になったのならそれはもう導く対象だって?」

QB「いやぁ、どうだろう、厳密に言えば僕は魔女でもなく魔法少女でもないような気がするんだけど」

QB「あ、そうだ、そういえば君に一つ聞きたいことがあるんだった」

QB「もう誰も聞いていないし、言ってもいいよね」

QB「ほむらから聞いた話だと、君はこの世界を作り替えたらしいじゃないか」

QB「確かに彼女に聞いた通り、この世界は前よりは随分とマシになったようだけれど」

QB「それでもこの世界に呪いが蔓延っているのは紛れもない事実だよね」

QB「……まぁ、神様にまでなって作り替えた世界だ、きっとこれが最善なんだろうね」

QB「きっと君はそんなことないんだろうけど、わかり易く伝えるために敢えてこの言葉を使うよ」

QB「残酷すぎた世界がちょっぴりマシになった程度で彼女たちの人生が生きやすくなった訳では無い」

QB「特にほむらなんかは、君がいなくなってしまって、ともすれば前の世界よりも遥かに汚れを溜め込みやすくなってしまっている」

QB「それでいてどうして君は、そう平気な顔をしていられるんだい?」

QB「……わっ……!危ないなぁ……剣なんか投げないでよ」

QB「どうしてそんなことが聞きたいのか?って?」

QB「そうだね、僕に心が生まれてしまったからかな」

QB「だから、頭では理解していたはずの君たちの行動がより理不尽に感じられるようになってしまった」

QB「って、所かな」

QB「……」

QB「なるほど、「信じてるから」ね」

QB「ふぅん、全く、君たちには敵わない」

QB「君たちはきっと、僕が想像しているより遥かに強い絆で結ばれているんだね」

QB「今はそれが、とっても羨ましいよ」

QB「……」

QB「そうだね」

QB「ほむらもそう思っていてくれてるなら、嬉しいな」ニコッ

QB「あ、彼岸花か」

QB「死体のない墓に花なんて添えても意味なんてないだろうに」

QB「彼女を止めてくれるかい?今にも僕に襲いかかってきそうじゃないか」

QB「「また会う日を楽しみに」か」

QB「うん、僕もその時を楽しみにしているよ」

QB(ねぇ、ほむら)

QB(いがみ合っていた僕達だけれど、僕に心が生まれただけでこんなに僕達は寄り添えるんだ)

QB(だからきっと、残酷な世界でも、救いも希望もない世界でも、奇跡はあるんじゃないかって、そう思うんだ)

QB(次に君に会う時は、きっと僕はもっと君たちのことを理解している)

QB(君とともに喜んで、悲しんで、笑いあって泣きあって)

QB(今よりももっと、君たちのそばまで歩み寄る)

QB(そうして、漸く君に出会った時、かける言葉は決まっている)

QB(今度はもう、嘘だなんて言わせない、掛け値なし、言うことなしの真実だ)





QB「ついに僕にも感情が芽生えたんだ」

QB「そう言える日を、僕も楽しみにしてるよ」

終わり
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