高垣楓「だらだら。ただ貴方と重なって」 (23)

「…………ん……」


 ぴちゃ、と音。

 口の中。二つに折り畳んで高さを調節した枕の上へと乗せた顔、身体と同じく横へ寝かせたそこで……その口の中で、その下側の頬の内側で、小さく水の跳ねる音がする。


(……ふふ)


 頬の中へと溜まったそれ……内からどんどん溢れてきて止まらない唾液や、顔の表面をなぞりながら滴り落ちて流れ込む汗、自分のもの。とろとろと滲み出すように零れてくる透明な汁、一度ずつ時間を置きながら何度も何度も注がれる真白く粘ついた液、プロデューサーのもの。自分のものとプロデューサーのもの。二人のいろいろが混ざりあったそれへ、また何度目かの液が注がれて、ぴちゃんと淫らな音を鳴らす。

 ぴちゃん、と。ぴちゅ、ぴちゅ、と音。口の中で小さな音が三度四度響いて止まる。


(あ……)


 開きっぱなしの唇の端からどろ、と。半透明に濁る熱い水溜まりからその上澄みが零れていく。

 一度前の時よりも少ない。量も、数も。それに濃さも。最初の頃よりも……もうどのくらい前になるのかも分からない最初、一番初めの時よりもすっかり薄くなったそれ。プロデューサーから注がれたそれを受け止めて、もう限界まで溜まっていた私たち二人の混じる水が外へ。

 頬の中に溜め込んでいられなくなったそれが唇の端を越えて、そのままゆっくりゆっくりと……這うように粘りつきながら頬の外を滑って、そうして枕へ染みていく。

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「……ん、じゅ……ぅ……」


 溜め込んで。味を、匂いを感じて心を満たしていたそれ。プロデューサーは含んだままで口を閉じて、そうして舌に絡めて味わい、吐息を注いで泡立てて口の中すべてを塗っていたそれ。それを吸い上げる。吸い上げて、そのまま飲み込み身体の中へと迎え入れる。

 溢れていってしまうのがもったいなくて。このまますべてを飲み込んでしまうのも、それはそれでもったいなく感じるけれど……でも、それよりプロデューサーを外へと手放してしまうことのほうが嫌で。だから飲む。ごくん、ごくん、と喉を鳴らしながら。

(……プロデューサー)


 生ぬるい、喉に絡む粘ついたそれ。かすかに苦いような、ほのかにしょっぱいようなそれを舌の腹で一度舐めあげるようにしてから飲み込む。

 舌がぴりぴりと痺れたようになる。喉の奥がギシギシと軋んだようになる。痺れて軋む。でも何故だか嫌じゃない。何度も重ねている内に慣れて、何度も繰り返している間にむしろ好きになってしまった感覚。プロデューサーを、身体の中へ受け入れる感覚。

 それを感じて、ふわふわと幸せな気持ちに心の中を満たしながら上を見る。

 吸い上げた時ずぞぞぞ、なんて卑猥な音を響かせてしまったのが少し恥ずかしくて。それにそんな音を響かせながら吸い上げる度、私に吸われて飲み込まれる水へ巻き込まれたプロデューサーがびくんびくん震えて反応しているのを感じて、視線を上へ。

「ん……」


 視線の向きを変えるだけじゃ足りない。見たかったものに届かない。上を向いて見えた肌色では満足できなくて、体勢を変える。

 プロデューサーを放すわけにはいかない。そんなことしたくない。だから、身体。ベッドの上へ寝かせている身体をずりずり動かす。身体全体を足の先のほうへと動かして、顔も枕ごとその方向へ。口にはプロデューサーを含んだまま、むしろ移動に合わせて吸い付き引っ張るようにしながら動く。

 膝から先がベッド端の向こうへと放り出されふらふら揺れてているのを感じながら動き終え、体勢を整えてそれから上。首を上へと傾けて、視線も上へ。そうして見る。さっきは見えなかった、私の見たかったもの。


「…………じゅち、ゅっちゅ……」


 見て、それから吸う。

 残り少なくなってきた口の中の水と一緒に……今度はむしろ、それよりも優先しながら吸い上げる。

 ちゅう、ちゅう、と。もうすっかり固さを失ってしまっているプロデューサーのそれ、その先端を何度も何度も。

「……」

「……」

「……楓さん」


 すると声。

 私が口をすぼめて吸い付く度、熱く濡れた吐息と小刻みな震えを伴わせながら愛しい表情を見せてくれていたプロデューサーが口を開いた。

 ぽんぽん、と頭を撫でながら。汗でべたついて乱れる私の髪を時折弄りつつ頭を優しく撫でながら、プロデューサーがぽつりと私の名前を。


「んー……じゅ、るちゅ……」

「っ……もう」


 放してしまいたくなくて。吸い付く度に見られるプロデューサーの姿をもっと見ていたくて。だから口は開かずにもう一度吸い上げることで応えた私を、プロデューサーが軽くつつく。

 とん、と優しく。べったり張り付いた髪の毛を掻き分けてから、その奥の私の額を軽く一度。

「そろそろ、ほら」


 お風呂とか、ご飯とか。そんなふうに言って、私に放すよう促してくる。

 確かに二人とも汗でベタベタ。ベッドのシーツもぐっしょりと、すっかり色が変わってしまっているくらいに濡れていて。それにご飯もずっと食べていない。

 今日、私もプロデューサーも仕事のないオフの日。その朝から……というより、昨日仕事を終えて帰ってきてからずっとこうしているわけで。だからそれは、もうお風呂もご飯も入って食べてとしなければいけないのは分かる。分かる、のだけど。


「……んーんー」


 それでも放すのは惜しくて。

 昨日から何度も私を貫いていたこれを……私に握られ、吸われて、迎え入れられて。そうして何度も私の肌を汚したこれ、私の中を満たしてきたこれを放すのはどうしても惜しくなってしまって。

 だから私は首を振る。含んだそれが外へと出ていってしまわないよう唇で挟みつつ舌を絡めて、そうして縛り付けながら小さく横にふるふると。

「イヤイヤしない。……ほーら、まずは放して。こっち来ましょう?」


 頭を撫でていた手が離れ、それが今度は枕を叩く。私の頭の下にあるのとは別、私を見つめるプロデューサーの顔の少し手前、いつも私を優しく抱いてくれるプロデューサーの腕を。

 腕枕。それをプロデューサーが示してくる。魅力的な、手に取りたい提案。


「うじゅー……」


 でもこのままこうしてもいたい。

 確かに疲れてもいる。舌の付け根も顎も、唇も。ずっと……確か、日が出始めた頃から。もうその頃から意識はそこまではっきりしていなくて、だから正確にではないけれど……でも確かそのくらい前から、今この昼前までずっとこうし続けているから。

 だけどそれでもこうしているのは幸せで。べつにこうしていても特に気持ちいいわけではないのだけど、でもやめられない。上手く説明はできないけれど、それでもなんとなく好き。なんとなく、けれど確かに好きでやめられない。そんな感覚。……そしてだから悩む。

 こうしていたい。でもプロデューサーの腕枕へも向かいたい。そこへ行けばきっと他の幸せも待っているはず。抱きしめてもらえる。キスしてもらえる。まっすぐに見つめ合いながら、たくさんの『好き』や『愛してる』をもらえる。きっともらえる。

 だから悩む。どちらを選ぶか。ぼんやりと惚けた頭でもんもんと。

「お、っと……え、……って……楓さん……?」

「ちゅー……ぅ……」

「ん……そんな、いきなり強く……」

「ち、ゅうぅ……っ!」

「んっ、もう……」


 悩んだ末に決める。いくらかの時間を置いてからやっと決めて、そしてそのために動き出す。

 舌で筋を撫で、皮に覆われた窪みへ差し込み、先端をつんつんつつく。口の中のそれをそうして弄って、それから今度は吸い上げる。前にしたときのようにじゅるじゅると音を鳴らしながら、前にしたときよりもっと強く深く搾り取るように吸い上げる。

 それにプロデューサーがびくんと震える。震えて、小さくではあるけれど喘ぎ混じりの吐息を漏らしてくれる。その震えを唇で、その吐息を耳で感じながら続ける。

「……ん、ふふ」


 じゅぽん、と最後に大きな音を立てて。その後に一度だけ、先端へキスを降らせて。そうして離れる。

 それまでずっと口の中へと含んでいたそれ……どろどろに汚れて濡れた、もうすっかり縮んでしまっているそれを解いて放す。


「プロデューサー」

「はい……?」

「えーい」


 ぴょん、と飛び付く。寝かせていた身体を跳ねさせて、晒されたそのプロデューサーの腕へと。

 逸る気持ちを胸に抱いて、飛び掛かるようになりながら。


「……」

「……」

「……ずりずり」


 と、いうのが思い描いていた理想だったのだけど。でも私の身体はすっかりぐったり溶けてしまっていて。だから頭の中でのように飛び付くことは叶わず、ずりずりと下に敷かれたシーツを引き摺りながら這い進む。

 進みながらも逸らさず見つめ続けている先……プロデューサーの瞳が、ちゃんと私のことを見ていてくれているのを確かめながら。ゆっくり、少しずつ。

「……とーちゃく」

「ん、いらっしゃい」

「はい、いらっしゃいました」


 やがて辿り着く。プロデューサーの腕枕。目の前にはプロデューサーの顔があって、抱き寄せられたおかげで全身にプロデューサーの身体が感じられて、プロデューサーが溢れるくらいにたくさんで……そんな、幸せな感覚。


「プロデューサー」

「もっと?」

「はい」

「ぎゅーってするのですか? ちゅーってするのですか?」

「それはもちろん」

「もちろん?」

「どっちもです。ぎゅーもちゅーも、どっちも」

「了解です」

 抱きしめられる力が強くなる。ぎゅっと、ぎゅうっと。

 唇と唇が重なる。ちゅ、ちゅ、と啄むように。じゅぽじゅぽ、と舌を差し入れあいながら。

 それまで感じていた幸せとはまた別の幸せ。同じ人から贈ってもらえる、心の奥の底まで染み入ってくるような本当の幸せ。それが感じられる。

 触れた場所から広がってくる温かな心地よさが、直接へ触れていない場所も塗り染めて。そのまますべてを満たしてくれる。


「……プロデューサー」

「うん……?」

「もう少しこのままでもいいですか?」

 私が抱きしめる力を強くする度、それに応えてくれるプロデューサー。私が唇を触れさせる度、舌を差し入れて絡み付かせようとする度、それを受け入れながら返してくれるプロデューサー。

 もう身体はすっかり疲れきっていて。心が昂るのも、もうとっくの前に頂点を終えているはずなのだけれど。それでも止まらない、止められないプロデューサーとの行為。プロデューサーへの想い、愛おしく感じてたまらなくなってしまう心。その心に身を任せて、ただしてしまうがままに繋がり合うことを繰り返して。そうしていくらか、何分か経った頃に口を開く。

 そこまで激しくしていたわけじゃない。互いに互いを貪りあうような、そんなまるで獣のような……昨日の、このプロデューサーの部屋へと辿り着いたばかりの私たちのような、そんな激しさで重ねていたわけじゃない。……けれど、それでも。熱く濡れた吐息を、互いに少し乱して荒げながら。

 プロデューサーへ一言。間に架かる水の糸を結んだままで、そっと。


「もう少し?」

「はい。……お風呂もご飯も分かります。こんなに汚れて、こんなに何も食べずにずっといて。だから入って、食べなきゃいけないんだっていうのはちゃんと」

 ……まあ、プロデューサーに汚れるのなら構わない。プロデューサーから貰ったもので、お腹の中もたっぷり満たされてはいるんですけどね。

 そんなふうに付け加えつつ『でも』と続けて。


「まだ、もう少しだけこのままで。……プロデューサーを私の中へ受け入れている感覚はだんだん薄くなってきました。もうそんな、違和感みたいなものもそこまでなくて……。でも」


 ぎゅっ、と。プロデューサーを抱く腕へ改めて力を込める。

 そして胸には胸を、腹には腹を、足には足を。それぞれを深く強く擦り付けて押し付けながら。


「……プロデューサーのせいですよ。こんな……腕枕をされて、身体を擦り付けあえて、キスまでできて……せっかく少し動けたのにまた今度はここから動けなく……幸せすぎて……離れたく、なくなっちゃいました」


 はむ、と甘噛み。

 無防備に晒されたプロデューサーの唇。すっかり濡れて、互いの涎に塗れた真赤のそこを唇で柔く食む。

「お風呂も入ります。ご飯も食べます。プロデューサーと一緒に入って食べます。……でもその前にもう少し、このままもっとイチャイチャ……していたいです」


 はむはむ。言葉を発しながら甘噛みを続ける唇を、プロデューサーも噛み返してくれる。

 抱き返してくれる。擦り付け返してくれる。求めた分だけ求め返してくれる。そんなプロデューサーへ……大好きな人へ、愛を注ぐ。


「……ほんと仕方ない人ですね」

「ダメですか?」

「そんなことありませんけど。……こうしているのが幸せなのは楓さんだけじゃありませんしね」

「ふふ。そうですよね。プロデューサー……私にすっかりお熱なんですから」

「否定はできませんし、しませんけど。……楓さんは違うんですか?」

「もちろん同じくです。……それどころか、プロデューサーよりも大分重症にお熱ですよ」


 ちゅ、ちゅ。細かく小さなキスを降らす。

 一度重なって離れる度、透明な細い糸が間に架かる。それを見てだんだんと、見る度胸の中の愛おしい想いを強めながら繰り返す。

「……あ、プロデューサー」

「はい?」

「元気すぎませんか?」

「あー……いやまあ、我ながら」


 柔らかいまま。それでもびくびく、と跳ねて。少しずつではあるけれど、確かに形を大きく変えているそれ。それを感じる。

 押し付けたそこ。濡れたまま乾くことなく、今もぐっしょりいろいろなものに塗られているそこで感じる。ぐっぐっ、と押し上げられる感覚。プロデューサーが猛りを取り戻していくのが鮮明に感じられる。


「一応聞いておきますけど……私、ですよね?」

「この状況で楓さん以外を考えられるわけないでしょう」

「こういう状況じゃなければ、私以外でもこんなにしちゃうんですか……?」

「……今日の楓さんはやきもちだなぁ」

 むっと怒っているようにしてみせる私を見てプロデューサーが笑う。

 なにも本当に怒っているわけじゃない。それはプロデューサーも分かっている。でもその上で、分かっている上でキス。それまでのものよりも少し長いキスを落として、機嫌を取るような口調で言葉をかけてくる。


「こんなに好きなんです。今に限らず、楓さんのことしか見えてませんよ」

「それ、プロデューサーとしてはどうなんでしょう」

「まあ、確かに問題かなとは思いますけど」

「でも嬉しいです。プロデューサーにそう思ってもらえるのは」

「楓さんに喜ばれるのなら良かったです」

「ふふ」


 まっすぐ一途に向けられる視線を受け止めて、同じようにまっすぐ一途な他のどこにも逸れない視線を返す。

 互いにまっすぐ見つめあいながら、合間に何度もキスを織り混ぜつつ言葉を交わす。

「……と、プロデューサー」

「はい?」

「もう一回、します?」

「楓さんはしたいんですか?」

「あら、女にそういうことを言わせるんですか?」

「今更では」

「それはまあそうですけど」


 言葉では答えず、擦り付けることで答える。

 ぐち、ぐちゅ、と粘つく水音を響かせながら答えを返して、それから誘うように息を吐く。熱い息を、プロデューサーへと届け染み込ませるように深く大きく吐きかける。

「……まあでも、先にお風呂とご飯ですかね。またしちゃうと動けなくなりそうですし」

「えー」

「えーって」

「ぶーぶー。いけずですよー。据え膳食わずはなんとやらーですー」


 ぷく、と頬を膨らませる。

 何度も何度もキスを重ねながら。緩みきった顔と蕩けきった心で、形だけの非難の言葉。


「じゃあ、せめてプロデューサー」

「?」

「抱っこ」

「抱っこ?」

「お姫様抱っこ。お風呂までそれで運んでくれないと嫌です」

「……ふふ、分かりました。それから?」

「あーんも」

「はいはい。お姫様抱っことあーん、ですね」


 唾液や汗に濡れた頬と頬、それを擦り合う。にちゃにちゃ、と音を立てながらの頬擦り。

 顔全体でプロデューサーの吐息を受け止めて。押し付けた胸を通して互いの鼓動を交換して。ほどけてしまわないよう深く深く足を絡めて。そうして繋がりながら言う。わがまま。私からプロデューサーへのおねだり。


「んふー」

「もう、そんな緩んだ顔して……」

「プロデューサーだって言えないじゃないですか」

「そうですけど」

「ふふ……ねえ、プロデューサー」

「はい?」

「愛してます。他のどんな誰よりも何よりも大好きです。……ずっとずっと、これからもずうっと……私と一緒にいてくださいね?」

以上になります。

速水奏「裸で重なる一時」
速水奏「裸で重なる一時」 - SSまとめ速報
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