憲兵「………………」女提督「あの」 (26)

憲兵「ん……何であるか?」

女提督「あーいえ。憲兵さんですよね?」

憲兵「そうであるが。貴女は?」

女提督「はい! 今日からこちらの鎮守府で提督をすることになりました、女提督です! よろしくお願いします!」

憲兵「あぁ……そうでありました。話は聞いているであります。本日よりよろしくお願いするであります」

女提督「今日から護衛をしてくれるんですよね? 珍しいですよね、提督の護衛は艦娘がするのが通例ですのに」

憲兵「貴女も話は聞いているでありましょう。この呪われた鎮守府について」

女提督「あー……まぁ、はい。聞いてます」

憲兵「ここへ就任された提督殿は既に20を越えています。ですがその全てが逃げるようにこの鎮守府を去っている……それほど、ここは危険な場所であります」

女提督「最前線……その重圧に耐えられなくなる人が続出しているんですよね」

憲兵「事はそう単純では無いのであります。が、今我輩から言えることは何もないのであります」

女提督「えーと……戦争の重圧以外にも何かあるんですか?」

憲兵「………………。我輩は貴女の護衛、メンタルケア、監視を任されています」

女提督「逃げ出さないように、ですか」

憲兵「気を付けるでありますよ。ここは……魔窟でありますから」

女提督「…………分かりました。よろしくお願いします!」

憲兵「我輩からのアドバイスはただ一点……艦娘と必要以上に近付くことの無いように」

女提督「………………」

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女提督「…………」

かりかり……

憲兵「…………」

コッ……コッ……コッ……コッ……

女提督「静かですね」

憲兵「ここはいつもそうでありますよ。敵深海棲艦の攻勢は激しさを増すばかりであります。それ故常に警戒を怠れんのであります」

女提督「そうなんですか。……少し寂しいですね」

憲兵「感傷には浸らぬことをオススメするであります。艦娘は兵器、感情を向けるだけ無駄であります」

かちん

女提督「……そんな言い方はないんじゃないですか?」

ふるふる

憲兵「残念ながら、真理であります。一隻が沈み、二隻が沈み。そんな毎日のなか、沈み行く艦娘全てに悲しみを抱いては貴女の心はすぐに壊れるであります」

女提督「そんな……」

憲兵「昨日話した者が明日も話せるとは限らない。故に余計なことを頭にいれることはやめた方が良い」

女提督「……私は、犠牲はなるべくなら出したくありません」

憲兵「確か……貴女は前の鎮守府で艦娘を一隻も犠牲にしなかったことで勲章を授与していたのでしたな」

女提督「あ、あれ? 知ってるんですか?」

憲兵「えぇ。そんな貴女にはここの現実は辛いでしょうが……それが現実であります」

女提督「そんな」

ブー!! ブー!!

憲兵「艦娘が帰還したようでありますな」

女提督「………………」

天龍「………………」

憲兵「本日の戦果は?」

天龍「んなもん、わかんねぇよ。撃ってる奴が敵か味方かもわかんねぇんだからな」

憲兵「三隻だけでありますか」

金剛「…………デース」

村雨「……皆、沈んだわよ……叫び声が、聞こえてきたもの」

憲兵「それでは次の出撃まで自室で待機をしているのであります」

女提督「ちょ、ちょっと待ってください! あの、私は」

天龍「新しい提督……だろ? 悪いけど疲れてんだ、挨拶はいらねぇよ」

ぞろぞろ

女提督「あ、ま、待って!」

憲兵「提督殿。先ほど言ったことはお忘れではないでありますな?」

女提督「待ってください! あんな、ボロボロなのに……入渠させないと!」

憲兵「次の出撃は一時間後であります。そんな暇はないのでありますよ」

女提督「なっ……ここは私の鎮守府ですよ!? それは私が決めます!」

憲兵「……待つのであります。少しでも穴を作ればすぐに深海棲艦に押し返されるのであります。沈んだ艦娘はすぐに補充されるのでありますよ。上が望まれていることはあくまで現状維持……わかるでありますね?」

女提督「……黙りなさい。この鎮守府のことは、私が決めます」

憲兵「……まさか……貴女は艦娘のことを人間だとでも思っているのでありますか?」

女提督「私たちと同じ見た目をしていて、私たちと同じように物を考える。ほとんど人間と変わりません」

憲兵「分かっていないのでありますな……。艦娘は兵器。我々人間には対抗できない化け物に唯一対抗できる手段でしかないのであります」

女提督「私の考え方とは違うようですね」

すたすた

憲兵「………………優秀な人間が何人もここに配属され、艦娘を守ろうとし……そしてどうなったのか」

女提督「…………」

憲兵「艦娘を何隻も失い、壊れた人間。そのなかには、英雄・男提督といるのであります」

女提督「…………、……え!?」

憲兵「優秀な人でありました。艦娘と共に戦い、優秀な艦娘を増やし、いずれ世界を救うと思っていました」

女提督「し、知っています……ですが、男提督は海外に行ったと」

憲兵「いいえ。精神病院で今もなお己を傷付け続けているのであります」

女提督「……なんで貴方がそんなことを……」

憲兵「……彼は友人でありましたから」

続く……

久しぶりに起動してやる気だしたら赤城と比叡轟沈させたので、ヤケクソになって始めました
あまり長くはやりません

憲兵「…………」

女提督「…………」

かりかり


憲兵「…………」

女提督「お疲れ様!」

吹雪「お疲れ様です……」


憲兵「…………」

女提督「ここはこうして……」

武蔵「いや、これは……」


憲兵「…………」

女提督「あの」

憲兵「おや、なんでありますかな? 我輩のような冷酷にして冷血なる男とは話したくも内のではないかと、口を慎んでいたのですが」

女提督「別にそこまでは思ってませんよ。思想の違いですから。私は艦娘を大事にするし国のためにも動く。貴方は……貴方達は国を第一にし、艦娘のことは切り捨てる」

憲兵「聞かなかったことにしておきましょう」

女提督「憲兵さん。確かに失えば辛いです。ですが……無駄なことなんて、世の中には無いんですよ」

憲兵「これは面白いことを言われる。世の中無駄だらけだと我輩は思っていますがね」

女提督「何故ですか?」

憲兵「一致団結。これを公約としたお上がその内で何をしているのか。知らぬわけではないでありましょう」

女提督「……聞かなかったことにしておきます」

憲兵「感謝するであります」

女提督「……憲兵さん自身は、どう考えているのですか? 艦娘にたいして」

憲兵「我輩の守るべきは民。艦娘は民ではないであります」

女提督「分かりました」

憲兵「…………」

女提督「今回はどうだった?」

響「ダメだね。まともに競り合って勝てる相手じゃない。死物狂い……とにかく鬼気迫るものを感じたよ」

大和「でも提督のおかげで最近はこちらの被害も減っていますから、士気は向上しています」

女提督「うんうん! 頑張って戦って、生きて帰って皆で美味しいもの食べよー!」

憲兵「…………お忘れなきように。こちらの被害が減っているということは、向こうへの打撃も減っていく。即ち憎き深海棲艦共に息継ぎを許してしまのであります」

艦娘「…………」

女提督「分かっています。でも戦力を削られない上での消耗戦ですから、こちらが大きく有利を取っています」

憲兵「本当にそうでありますかね? 気が付いたときに大惨事、なんて目も当てられないであります」

女提督「大丈夫です。心配してくれてありがとうございます」

憲兵「本当に……そうでありますかね」

女提督「…………」

憲兵「天龍と吹雪、鳳翔の三隻が轟沈でありますか」

女提督「…………」

憲兵「奇襲され大破、応戦するも他の艦娘を逃がすために囮を。なかなか分かってきたのでありますな、提督殿。出来ることなら深海棲艦を道連れにするために応戦するべきでありましたが」

ガタッ!

女提督「生かすために死んだ彼女達への侮辱は許さない!」

憲兵「生かす? ……何を言っているのでありますか?」

憲兵「艦娘は……ただの兵器であります。提督殿は己の武器を破壊され使い物にならなくなったとき、その武器を守るために死を選ぶでありますか?」

女提督「彼女達には意思がある! 感情がある! 痛みがある!」

憲兵「やれやれ……。その余計な感傷が被害を大きくしていくことを自覚した方が良いであります」

女提督「黙れ!」

憲兵「戦わなければ勝てないのであります。死を恐れれば、死に魅入られるのであります」

女提督「…………」

憲兵「『無駄死に』……でありましたな」

女提督「ッ!!」

バンッ!

龍田「…………」

ガッ!

憲兵「が……!」

龍田「………………天龍ちゃんが無駄死に……? ふざけないで」

ググッ!

憲兵「……三隻が轟沈し、敵への損害は無し……これが、無駄死にではなくて、なんだと?」

龍田「そんなの認めないわ……。絶対に!」

グッ!

龍驤「それ以上はアカンって」

グイッ

憲兵「げほっ、ごほっ! ……今回のことは無かったことにするであります。さっさと自室へ戻るであります」

龍田「ッ……」

龍驤「行くで」

スタスタ

憲兵「提督殿。人間は多くのものは守れないであります」

女提督「……そんなの分かってます」

女提督「龍田、舞風……」

憲兵「今回は大戦果でありましたな。敵の殲滅に成功したであります」

女提督「……違う……違います……仲間を失って得られた戦果なんて……」

憲兵「提督殿が認めようが認めまいが関係無いであります。それに……彼女達の犠牲を無かったことにするでありますか?」

女提督「え……?」

憲兵「……ようやくこちら側の思考に馴染めてきたようでありますな)

女提督「そう、ですよね……。最後まで……戦ったんですもんね……彼女達は……」

憲兵「…………やれやれ。甘い夢からは未だ覚められないのでありますな」

女提督「憲兵さん」

憲兵「なんでありますか?」

女提督「……私は憲兵さんが」

憲兵「その先は言わなくて良いのであります。我輩は我輩の正義のためにここにいるのであります。提督殿がどう思われようと、我輩は何度でも言い続けるのであります。艦娘はただの兵器だと」

女提督「そんな生き方……辛すぎます」

憲兵「それで良いのであります」

女提督「…………」

武蔵「……憲兵について?」

女提督「はい。貴女なら何か知ってるかも、と」

武蔵「…………なぜそんなことを気にする?」

女提督「いえ……少し気になったので……」

武蔵「他人の過去を詮索するのはいただけないな。しかし……隠す程の過去があるでもない。憲兵の奴が話すとも思えんし、私の口から語るとしようか」

武蔵「憲兵のやることは今も昔も変わらんよ。ここはもっとも戦闘が過激な最前線故、提督の護衛、補佐をしていた。だが数年前のあの日までは、あんなやつではなかった」

女提督「数年前……」

武蔵「あいつはある艦娘と……正式なものではなかったが、ケッコンしていたのだ」

女提督「ええ!? あの憲兵さんが!?」

武蔵「この鎮守府だけでのささやかなものだったが……あの日は今でも忘れん。良い思い出だ」

武蔵「その時のここの提督が男提督だ。あいつと憲兵は最初こそいがみ合っていたが気がつくと親友のような関係になっていた」

女提督「…………あの……その憲兵さんとケッコンした艦娘って」

ふるふる

武蔵「轟沈したよ。あの日から三ヶ月後……」

ザァァ……ザァァ……

ブツ……ブ、ブブ……

『…………さん……』

憲兵「お願いであります!! 帰って……帰って来てください!! 我輩は!! 我輩には!!」

『ご……なさ…………』

ザザ……ザザザ

『……してま……たのこと……』

男提督「クソッ! なんとか……なんとかできないのか!?」

大和「今の天気では……」

『………………さん……』

憲兵「なんでありますか!?」

『……後を…………みます……』

ザザザザッ!

ブツッ!

憲兵「……あ……あぁぁ……!」

男提督「く……」

ドン!

憲兵「赤城殿ぉぉぉぉ!!!」

女提督「………………」

武蔵「それ以来、あいつは変わった。深海棲艦をひたすら憎み、感情を捨て、艦娘のことをただの兵器として扱うようになった」

武蔵「だが誰もそれは責められんさ。それがあいつなりの自衛なのだからな」

武蔵「その後の敵の相次ぐ襲撃に男提督も心を病んでしまった。それ以来点々と提督を変えていき、今に至るというわけだ」

女提督「…………ありがとうございました」

武蔵「いや。腹が立つのも分かるが、あいつの言うことはまったく正しい。我々は兵器だよ、提督」

女提督「……誰がなんと言おうと私は、自分を曲げません。ですが……約束します」

女提督「今後どんなことがあっても、私は死ぬまでここの提督であり続けます。絶対に……逃げない」

武蔵「そう願うよ。おやすみ、提督」

女提督「…………ッ!」

続く……赤城……

お願いします、深くは考えないでください……
赤城さん追悼SSなんです……

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年09月25日 (月) 10:20:34   ID: iYbxi2PI

悔やむ心が一番の追悼だ。
もう繰り返すな

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