盗賊♀「ゆ、勇者様!もう勘弁してくださいっ///」 (89)

王「なに・・・?勇者が行く先々で問題を起こしておるだと?」


大臣「ええ、陛下」


王「はて、そのような男には見えなかったが・・・」


大臣「いえ、悪に手を染めたというわけではございませぬ」


王「では・・・?」


大臣「その強い正義感が故か、その土地の領主と揉めたり」


大臣「時には、法を破ったこともあるとのことで」


王「ふむ・・・少し安堵した」


王「この世界は広い、我が統治が及ばぬ土地では悪政が蔓延ることもあろう」


王「法律とて、全ての事例に対応でき得るものではない」


王「勇者に正義がある限り、見守ってやろうではないか」


大臣「し、しかし、我が国は法治国家、建前というものがございます」


王「ふむ、大臣の申すことも最もだ」


王「何か、手はあるか?」


大臣「はい。陛下の了承が頂ければ、すぐにでも取り掛かります」


王「うむ」





王「よきに計らえ」

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騎士♂「というわけで、出来上がったのがこのパーティーだ」


商人♂「はあ、急に酒保から異動を命じられたので」


商人「てっきり、何かやらかしたかと思ったんだけど」


賢者♂「では、我々の主要業務は勇者のやらかしたことの後始末と考えてよろしいですか?」


騎士「まあ、言葉は悪いが端的に言えばそうだ」


騎士「正確には、『勇者事業における特別職勇者係の管理及び、指導』だな」


商人「特別職勇者係?」


賢者「それはですね」


賢者「勇者を期間を限って役人扱いにして、一部の権限を融通してるんですよ」


賢者「そうしないと、関所越えの手続きだけでも手間暇が掛かりますからね」


商人「ははあ、勇者の待遇一つにしても理解しずらい文言で括るとは」



商人「さすがお役所仕事だなあ」


賢者「お役所ですから」


騎士「まあ、そこら辺にしておけ」


騎士「ひとまず、私たちの仕事は各地で勇者が起こした問題に対処しつつ」


騎士「最終的には勇者に追いつき同行することが目標だ」


騎士「追い付かなければ、指導も管理もできないしな」


賢者「なにより、勇者が問題を起こす前に対処できる、ですしね」


騎士「そのとおりだ」


商人「うわあ、勇者一行はだいぶ先行しているんでしょう?」


商人「それは面倒だなあ」


賢者「商人さん、私たちは組織図で言えば大臣の直轄」


賢者「うまくすれば、大臣の覚えめでたく」



賢者「若くして要職に就くなんてことも・・・」


商人「さあ、みんなで頑張りましょう!」


商人「何をしているんですか?のんびりしている暇はないんですよ!」


騎士「まあ、落ち着け」


騎士「現場では、職長である私を含めた4人で行動することになる」


賢者「4人?3人の間違いでは?」


騎士「もう一人のメンバーは、先行して勇者を追っている」


騎士「役人としての経験は浅いから、皆でカバーしてやってくれ」


賢者「わかりました」


商人「後輩の育成ですね、お任せください」


騎士「では、我々も出立するか!」


賢者「おーっ!」


商人「おーっ!」



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盗賊「勇者が隣町の町長と揉めやがった!」










騎士「盗賊さん、言葉遣い」


盗賊♀「あ、すみません!」


賢者「もう一人のメンバーは貴方ですね、初めまして」


商人「おー、男臭いパーティーかと思っていたけど」


商人「女の子が一人いるだけでも場が和むねえ」


騎士「紹介しよう、王国で暴れまわっていた義賊の娘、盗賊さんだ」


商人「・・・ん?」



賢者「えっと、それは・・・?」


騎士「安心してくれ、彼女自身は罪を犯していない」


盗賊「あ、よろしくおねがいします!」


騎士「まあ、盗賊のスキルは親父さん仕込みらしくてな」


騎士「本人も、真面目で勉強熱心なところを大臣が目をつけて」


騎士「大臣付き秘書という形で新たに採用したそうだ」


盗賊「この業務をやりとげたら、投獄中の父さんの減刑と」


盗賊「私を正式に役人にしてくれるって約束なんです」


盗賊「頑張りますので!よろしくお願いします!」


賢者「我が国も、なかなか無茶をしますね・・・」


商人「と言うか、それって黙ってたほうがよくない?」


盗賊「・・・あっ!」



盗賊「・・・」


騎士「・・・」


騎士「・・・で、盗賊さん。勇者がどうしたって?」


盗賊「あ、はい!」


盗賊「勇者一行ですが、隣町の町長さんと揉めたらしいです!」


騎士「うん、それで?」


盗賊「え?」


騎士「・・・え?」


盗賊「えーっと・・・以上です!」


騎士「うん・・・」


騎士「賢者さん、お願いできるかな」


賢者「あー、盗賊ちゃん。ほうれん草はわかる?」



商人「そこからやるのか・・・」


盗賊「はい!報告・連絡・相談ですね!」


賢者「うん!元気はよろしい」


賢者「盗賊ちゃんは、隣町の事件を、いち早く聞きつけて報告に駆けつけてくれた」


盗賊「はい!」


賢者「報告ってのは早いに越したことはないけどね」


賢者「情報は正確でなくちゃあならない」


商人「詳細がわからない、そのうえ『揉めたらしい』という不確かな情報」


商人「これじゃあ、報告とは言えないってこと」


盗賊「!」


盗賊「・・・すみません」


賢者「よし!それじゃあ、それを踏まえて、もう一度情報を探ってきてもらえるかな」


盗賊「はい!では、行ってきます!」


商人「・・・切り替え早いなあ」


商人「って!もう居ねえ!ほんとに素早いなあ」


賢者「前途多難ですね・・・」





騎士「まあ、うまいこと指導してやってくれ」



------






盗賊「洞窟の魔物を倒した後、街に戻ってきた勇者が」


盗賊「出迎えた住人達の目の前で、町長を叱責したそうです」


盗賊「それで町長さん、『面目丸つぶれだ!いったいどんな指導を受けているんだ!』」


盗賊「てな、具合です」


商人「なんでまた、勇者はそんなことやらかしたんだ?」


盗賊「どうやら、魔物の怒りを鎮めるために町の娘を生贄に出してたみたいで」


賢者「ああ、正義感の強い勇者が怒りそうな案件ですね」


騎士「ふむ、苦情処理が我らの初仕事というわけか・・・」


商人「別に、手続き上の問題はないんだし無視して出発ってわけにはいかないんですか?」


騎士「私たちの仕事は勇者事業の管理・指導だからなあ」



騎士「勇者の不手際には積極的に関わらないと、職務放棄と見なされかねん」


商人「はあ、そんなもんですか」


騎士「ええっと・・・苦情対応はっと・・・」


騎士「いや・・・町長からの苦情だから・・・通常の苦情対応じゃまずいか・・・」


盗賊「な!なんですか、その分厚い本は!?」


商人「『業務取扱要領』通称『要領』。まあ簡単に言うと業務マニュアルだよ」


賢者「説明しよう!」


商人「よろしく」


賢者「我々の業務は、すべて法律や政令に則って執り行われます」


盗賊「はい」


賢者「この要領は、第一線で働く我々のために」


賢者「法律や政令に基づいた業務の取り扱いを分かりやすくまとめられたものです」


盗賊「え・・・、こんな分厚いんですか・・・」



賢者「そりゃ、あらゆる業務取扱を網羅しているからね」


商人「役人で出世したければ、ある程度は覚えておいたほうが良いよ」


商人「手続きや、書式に詳しいってのが管理職の必須スキルだからね」


盗賊「えぇ・・・」


商人「まあ、どこに何が書いてあるかだけでも覚えておきなよ」


賢者「騎士さん。地方行政の首長からの苦情も、通常の苦情対応で問題ないですよ」


賢者「ですので業務改善推進室の管轄です」


賢者「業改推に報告書、というか反省文ですね」


賢者「それの提出で処理は完了です」


賢者「書式も全て、頭に入っていますので書き起こしましょうか」


商人「まあ、こういう変態も稀にいるけどね」


盗賊「す、すごい・・・覚えてるんですか」



賢者「まあ、伊達に賢者と呼ばれていないよ」フフン


騎士「噂には聞いていたが、頼りになるな・・・賢者くん・・・」


賢者「とりあえず、報告書を作成するにも状況を確認しないといけません」


賢者「町長に直接話を伺いに行きましょう」


賢者「盗賊ちゃんの報告通りだとすると、町長は相当怒ってると思います」


賢者「騎士さん、同行して頂けないでしょうか」


騎士「うむ、まあ頭を下げるのが私の仕事だしな」


商人「じゃあ、こちらは街で食料と水を補給しておきます」


盗賊「あの・・・私はどうすれば?」


盗賊「またすぐに、勇者一行を追いかけたほうが良いですか?」


騎士「うーん。・・・もう日も落ちるし、出発は明日で構わないよ」


騎士「盗賊さんは、商人くんと一緒に装備の補充をお願い」


盗賊「はいっ!」


騎士「それと、今晩は盗賊さんの歓迎会やるから」


商人「はい!幹事はお任せください!」


騎士「うん、よろしく」


賢者「では、行きましょうか騎士さん」





騎士「よし、気は重いが怒られに行くか!」



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盗賊「騎士さん、怒られるの分かっていて町長に会いに行かないといけないなんて」


盗賊「可哀そうですね・・・」


商人「ああ、責任者はあれでいいんだよ」


盗賊「そうなんですか?」


商人「書類作成は、賢者や俺だけで何とかなるし」


商人「盗賊ちゃんは、俺たちに先行して情報収集の仕事がある」


商人「職長たる、騎士さんの仕事は規定の範囲内での最終的判断と」


商人「俺たち下っ端じゃ受けきれない問題を代わりに背負いこむことだからさ」


盗賊「なるほど・・・でもですよ」


盗賊「それって、騎士さんが受けきれない問題が出てきたらどうするんです?」


盗賊「騎士さん、潰れちゃいませんか?」



商人「そりゃあ、そうなったら騎士さんも大臣に振るでしょ」


商人「あの人も役人経験長いし、そこらへんは俺たちより重々承知してるよ」


盗賊「管理職って、大変なんですね・・・」


商人「なに、逆に言えば管理職の仕事なんて、そんなもんだよ」


盗賊「・・・そういうものですか」


商人「そんなことより、賢者は俺たち同期の中じゃ一番の出世頭だ」


商人「今のうちに仲良くなっておいて、損はないぜ」


盗賊「要領を全部覚えちゃうぐらいですもんね・・・」


盗賊「騎士さん形無し・・・」


商人「・・・まあ、部下のほうが業務の取り扱いを心得てるなんて、よくあることだよ」


商人「それに、職長の仕事はさっき言ったとおりだしね」


盗賊「よし!今日は賢者さんと仲良くなれるよう歓迎会がんばります!」





商人「言っておいてなんだけど、逞しいなあ盗賊ちゃん・・・」



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盗賊「勇者が関所を、突破しやがった!」








騎士「盗賊さん、言葉遣い」


盗賊「またやっちゃった・・・」アセアセ


商人「勇者の野郎、王都を出て初めの関所でいきなり問題起こしてんのか」


賢者「初っ端から、ぶっ飛んでますねえ」


騎士「盗賊さん、詳細をお願い」





盗賊「はい!」



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盗賊「関所での聞き込みによると」


盗賊「勇者一行は、関所を通る際に子供を二人連れていたそうです」


盗賊「ただ、勇者一行の持っている手形は勇者一行4名のみに有効ですので」


盗賊「その子供二人は関所を通せない」


盗賊「関所側は、その旨、勇者様に説明したそうです」


盗賊「その際、勇者様と関所の役人と激しい口論になり」


盗賊「結果的に、追跡したら殺すと捨て台詞を吐き」


盗賊「魔法で門を破って、関所を超えちゃったそうです」


騎士「こ、言葉遣い荒いね・・・勇者くん」


賢者「勇者一行にも、何かドラマが起こっているんでしょうねえ」



商人「『孤児を親戚の元へ送り届ける!』とかかな?」


商人「青臭い勇者のやりそうなことだな」


商人「というか・・・関所破りとか、ガチ犯罪者じゃん」


騎士「ちょっと、胃が痛くなってきた・・・」


賢者「まあ、勇者一行に起こっている感動物語は置いといて」


賢者「関所は、この事件どう処理してるんですかね」


盗賊「あ、それも聞いてきました」


商人「お、やるじゃん」


盗賊「でへへ」デヘヘ


盗賊「関所では、勇者一行の悪評を広めたら国に消されるんじゃないかって」


盗賊「事実の隠蔽に動いているようです」



盗賊「ただ、関所超えの列に並んでいた一般国民等、目撃者が複数おり」


盗賊「なおかつ、関所の施設に大きな被害が出ているため」


盗賊「隠ぺい工作は難航しているようですね」


騎士「とりあえず、隠ぺい工作は止めてもらおうか」


賢者「そうですね、私たちにバレてる時点でもう手遅れです」


商人「さて、どう処理しようか」


賢者「うーん、子供二人の手形を特例扱いで作っちゃいましょうか」


騎士「まあ、可能だが、子供の身元がわからんことにはな・・・」


商人「子供の身元ねえ・・・」


盗賊「あ、わかります」


商人「は?」


盗賊「え?」


賢者「子供の身元わかるんですか?」



盗賊「え、はい」


盗賊「勇者一行に起こったことも、念のために調べておいたので」


商人「前回の失敗から学びすぎだろ・・・」


賢者「有能ですね・・・」


騎士「それで、何処の子なの」


盗賊「両親は既に他界。関所近くの町で、兄弟二人で暮らしていたそうです」


賢者「子供二人で・・・?嫌な予感がしますね」


商人「それ、生活費はどうしてたんだ・・・」


盗賊「えっと、スリ、置き引き、万引き、その他もろもろです」


盗賊「何度か捕まって、鞭打ち等の刑罰も経験していたそうです」


騎士「」


賢者「」


商人「はい!アウト―っ!!」



盗賊「?」


賢者「子供とは言え、刑罰を経験しているなら前科者です・・・」


賢者「特例でも、手形を発行するわけにはいきませんよね・・・騎士さん?」


騎士「も、もちろん」


騎士「図らずとも商人くんの目測どおりだねえ・・・」


騎士「おそらく、見るに見かねた勇者一行が親戚のもとにでも連れて行こうと」


賢者「してたんでしょうねえ」


盗賊「どうします・・・?」


賢者「どうしましょう・・・」


騎士「どうしよう・・・」


商人「関所を通った人間は、勇者一行の4人だけでした」ボソッ


盗賊「?」


賢者「!」



騎士「おいおい、何を・・・」


商人「ですから、勇者一行の連れていた子供二人は人間ではないってことですよ」


騎士「いや、言っている意味がわからんぞ」


賢者「・・・なるほど」


盗賊「どういうことですか?」


賢者「・・・」


賢者「世の中には、私たちと同じ体格、同じ目の色、同じ言葉を話したとしても」


賢者「人間としての権利を与えられていない、はく奪された方たちがいます」


騎士「・・・奴隷か」


商人「そのとおり」


商人「勇者一行は、関所近くの町で身寄りのない子供二人を入手」


商人「盗みで生計を立ててた子供だ、身元保証人なんているわけがない」


商人「なので、入手経路に違法性は一切ないです」



商人「至って合法的に奴隷二人を仕入れた勇者一行は」


商人「他国にて売却するべく、関所を通過」


商人「こういうことなら、子供二人は勇者の所有物扱い」


商人「モノに手形を発行する必要はないですよね」


賢者「この場合、勇者一行に奴隷売買免許を発行すれば・・・問題はなさそうですね」


盗賊「うげ」


騎士「いやいやいや!まずいって!」


騎士「その場合、勇者一行が奴隷商人になっちゃうよ!」


騎士「それはまずい!対外的に非常にまずい!」


商人「あくまで、書類上の手続きですよ」


賢者「そうですね・・・関所には緘口令をひいて」


賢者「今回の隠蔽工作の件をチラつかせれば、快く飲んでくれるでしょう」


騎士「いや・・・まずいって・・・」



騎士「勇者は王国の道徳的模範でなくちゃ・・・」


盗賊(これ、騎士さんが勇者様の名誉を守る最後の砦だ・・・)


商人「その模範生が、関所破りですよ」


商人「騎士さんも正直、勇者一行に対して、ちょっと腹が立ってるでしょう?」


賢者「犯罪者を引き連れての関所破り・・・」


賢者「しかも勇者なら、今後も似たようなことをやるでしょうねえ・・・」


騎士「」


騎士「うぅ・・・胃が・・・」キリキリ


盗賊(頑張って・・・っ!騎士さん!)


商人「いやいや、書類上の話ですよ」


賢者「そうそう、書類上でちょっと勇者の肩書に奴隷商人の項を増やすだけです」


商人「ちょっとした復讐ですよ・・・」


賢者「そう・・・それも、表ざたには決してならない・・・」


騎士「・・・承認」


盗賊(堕ちちゃった・・・)


商人「よし!じゃあ、書類を作成しようか!」


賢者「お任せください!」


騎士「うぅ・・・」





盗賊(大丈夫かな・・・このパーティー)



------





商人「ほらほら、騎士さん、ちょっと飲みすぎですよ?」


騎士「だいたいっ!お前らがなあっ!」


賢者「もう、終わった話ですよ騎士さん」


騎士「いやっ!終わってないっ!終わってないねっ!」


盗賊「騎士さん!お水持ってきました!」


騎士「盗賊ちゃんは優しいなあ」


盗賊「いえいえ///」


騎士「それに比べてお前らときたらっ!」


商人「へーへー」





賢者「今夜は長くなりそうですね・・・」



------





商人「いやあ、この暑さたまらねえなあ・・・」


賢者「この砂漠地帯は日を遮るものが何も無いですからねえ」


騎士「ぼやくなぼやくな、もう少し行けばオアシスに築かれた街につく」


騎士「到着したら、しっかり休養をとろうじゃないか」


賢者「しかし、一向に勇者に追いつく気がしませんねえ」


商人「まあ、勇者の行く先々でトラブル処理やらされてるからな」


商人「追いつけるもんも追いつけねえよ」


賢者「・・・ん?なんですかあれ」


商人「あ?ああ、あれか」


商人「併合前の侯爵家、砂の国の王家の墓地。ピラミッドだよ」


賢者「へえ、あれがそうなんですか。見事なものですねえ」


騎士「賢者くんでも知らないことはあるんだな」


賢者「それはもちろん」


オーイ


商人「・・・ピラミッドの方から誰か来るぞ」


騎士「あ、盗賊さんだね、おーい!」


タイヘンデスー


賢者「嫌な予感がしますね」


商人「あ、お前も?」


騎士「・・・」キリキリ






盗賊「勇者がピラミッドで盗掘しやがった!」






騎士「言葉遣い」


盗賊「あら、失礼しました」


賢者「なかなか、治りませんね」


商人「俺たちと居るときは、普通なんだけどなあ」


盗賊「いえ、すみません・・・」


盗賊「皆さんと別行動中は、役人であることを隠して情報を集めているので」


盗賊「どうしても、口調が荒くなっちゃうんです」


騎士「役人であることを、隠してるの?」


騎士「なんでまた、そんなことを?」


盗賊「ええと、役人だとわかっちゃうと国民の皆さん口が堅くなっちゃう傾向がありまして」



商人「なるほどなあ、藪へびをつつかないようにってことか」


賢者「まあ、そういう理由があるならしょうがないんじゃないですか?」


騎士「それもそうだな、ただし」


騎士「正式に役人に取り立てられたら、ちゃんと治すんだよ」


盗賊「はい!」


盗賊「えっと、報告いいですか・・・?」


騎士「・・・いや、とりあえず街についてからにしよう」


騎士「ここは、暑い」


商人「そうしましょう」





盗賊「はい!」



------





商人「じゃあ、勇者様御一行の悪行について伺いましょうか」


騎士「その言い方は・・・」


賢者「まあ、あながち間違いではありませんね」


盗賊「えー、先行している勇者一行ですが昨日の昼に、この街に入りました」


商人「へえ、一日遅れか」


賢者「だいぶ追いつきましたね」


盗賊「それでですね、ピラミッドに隠された伝説の聖剣の噂を聞きつけたようで」


商人「もう、先が読めたな」


盗賊「はい、隠し通路をあっさり見つけて聖剣を持って行っちゃいました」


騎士「あぁ・・・もう・・・」


騎士「なんで、勝手に持っていくかなぁ・・・」キリキリ



賢者「まあまあ、騎士さん落ち着いて」


賢者「ところで、ピラミッドってそんなに簡単に入れるものなんですか?」


盗賊「入れますね、むしろ観光地になってるぐらいです」


商人「結構、有名だぞ」


賢者「へえ、じゃあ研究、発掘もあらかた済んでいたんでしょうね」


賢者「そんなところで、新たな通路を発見するとは」


賢者「流石は勇者ですね」


商人「やってることは墓荒らしと変わんねえけどな」


賢者「墓か・・・墓ねえ・・・」


賢者「通常なら、衛生局の管轄ですけど・・・」


騎士「いや、ピラミッドに関しては別だね」


騎士「あそこは、歴史的建造物だから文化局だね」


盗賊「ということは国の財産ってことになるんですか?」



騎士「まあ、一部はね」


盗賊「でしたら、国有財産を勇者に支給したってことで」


賢者「無問題、とはならないでしょうねえ」


商人「理屈で言えば盗賊ちゃんが正しくないか?」


賢者「権利関係ってのは、そう甘くないですよ」


商人「権利関係か、ということは砂の王家の末裔である侯爵家が絡んでくるわけか」


賢者「ええ」


騎士「未発見の遺物、当然侯爵家は所有権を主張してくるだろうし」


騎士「その権利はあって然るべきだろう」


商人「ちなみに、勇者が聖剣持ち出したことはばれてんの?」


盗賊「街中で噂になる程度には」


騎士「ということは、侯爵家の耳にも入っているだろうな」


騎士「盗掘の件は、発掘調査扱いにしてしまえば何とかなるだろう」



騎士「そっちの書類作成は、商人くんお願い」


商人「へーい」


騎士「盗賊さんも、後学のために商人くんを手伝ってあげて」


盗賊「はい!」


商人「盗賊ちゃん、手とり足取り教えてあげるよ!」


盗賊「セクハラ相談って、どこにすればいいんだっけ・・・」


賢者「人事局かなあ・・・」


商人「じ、冗談だって!やだなあもう!」


騎士「じゃあ、賢者くんは私についてきて・・・」


賢者「え、まさか・・・」


騎士「うん、侯爵家に事情を説明しに行くよ」


賢者「うげえ・・・」


騎士「まあ、君も出世頭だしね」


騎士「人間がどれだけ頭を下げられるか見せてあげるよ・・・」


騎士「これも後学のためだと思いなさい」ヒヒッ


盗賊(騎士さん、邪悪な笑みだわ・・・)





商人(騎士さん、順調に心を病んでるな・・・)



------





商人「で、どうでした」


騎士「いやあ、お怒りお怒り、すさまじかったよ」


賢者「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ」


盗賊(賢者さん、一体何を見せ付けられたんだろう・・・)


商人「てことは、お許しはもらえなかった感じですか?」


騎士「そうだねえ、聖剣の所有権をがっちり主張されちゃったよ」


騎士「補償しようにも、聖剣がどの程度の代物かもわからないしねえ」


騎士「このままだと、国に対して訴訟を起こしそうな勢いだったよ・・・」


商人「そうですか・・・参りましたねえ」


騎士「そちらの進捗はどうだい?」



盗賊「とりあえず、文化局に出す発掘調査申請書ができあがりました」


商人「勝手ながら発掘調査隊のリーダーである勇者様には、考古学博士号を取得してもらいました」


商人「国立學所と文化局には話を通してもらえますか?」


騎士「うん、学位取得のごり押しぐらい楽勝楽勝」


騎士「そちらは何とかなりそうだね」


騎士「問題は、侯爵家だ」


賢者「ハッ!ワタシハイッタイナニヲ!」


盗賊「おはようございます、賢者さん」


賢者「長い・・・長い悪夢を見ていたようだ・・・」


商人「はいはい、じゃあ侯爵家の問題に取り掛かりましょうか」


騎士「何か、いつもの悪知恵はあるんだろう?」


商人「まあ、あるには・・・あるんですけど・・・」



盗賊「えらく、歯切れが悪いですねえ」


賢者「もう勇者は目前なんです、手段は多少は選ばない方向で行きましょう」


商人「では申し上げましょう」





商人「勇者には侯爵家の家族になってもらいましょう」



騎士「なるほど」


賢者「では、さっそく侯爵家の家族構成を洗いましょう」


盗賊「ちょっちょっと!待ってください!」


盗賊「皆さん、物分かりが良すぎます!説明してください!」


商人「賢者くん、よろしく」


賢者「説明しましょう!」


賢者「要は、他人の物を勝手に持ち出したから悪いわけです」


賢者「ですので、勇者には侯爵家の血縁に入っていただきます」


賢者「すると、あら不思議」


賢者「侯爵家血縁である勇者にも、かつての砂の王家の遺産を受け取る相続権が生まれます」


賢者「そうなると、あとは簡単」


賢者「国と侯爵家の問題は、侯爵家と侯爵家血縁である勇者の所有権争いにすり替わってしまいました」



盗賊「でも、勇者は国の事業に基づいて動いているんですよ?」


盗賊「その場合、責任の所在は明らかではないですか?」


騎士「国、特に軍においては、兵士が自身の資産で武器や装備を調えることを禁じていない」


騎士「むしろ、奨励している節すらある・・・」


商人「我が国の財政もシビアだからねえ・・・」


盗賊「剣や鎧が支給されないのって、そういう理由があったんですか・・・」


賢者「ということだから勇者は、自身の財産で装備を調えたってことになるね」


盗賊「ん・・・てことは、私と商人さんで作った発掘調査申請書もろもろは・・・」


盗賊「全部無駄ってことですか・・・?」


賢者「いや、いくら所有者であっても歴史的建造物から勝手に物を持ち出すのはアウトだよ」


盗賊「よかった・・・私たちの仕事も無駄にはならないんですね」


商人「勇者に博士号まで取らせちゃったしねえ」



盗賊「でも、侯爵家の家族になってもらうって・・・」


盗賊「具体的には何をどうするんですか?」


騎士「まあ、真っ当にいくなら勇者の血筋と侯爵家の血筋を辿ってクロスするところを探し出すとかかな」


騎士「要は勇者が、砂の国の王家の末裔にあたることを証明すればいい」


騎士「人類みな兄弟、ひたすら遡っていけば、いつか見つかるだろ」


賢者「途方もない仕事量になりますよ、それ」


騎士「でも、適法だ」


商人「えっと・・・俺が考えていたのは」


商人「侯爵家に妙齢の女性がいれば、番わせちまうのが手っ取り早いかなって・・・」


盗賊「番わせる・・・?」


賢者「結婚させるってことですよ」


盗賊「なっ///」


商人「まあ、最悪、未婚の女性であれば年齢はどうでもいいか」


商人「腐っても勇者だ、侯爵家も血縁に迎えるのに『NO』とは言わんだろ」


騎士「本人のあずかり知らぬところで婚姻関係を成立させるってのは」


騎士「私の道徳心が、軋むほど痛むがな」


盗賊(前回のが相当こたえたみたいですね・・・)


騎士「まあ、それは最終手段にしよう」


騎士「まずは、両家の家系図を洗う」


商人「正気ですか?どれぐらいの仕事量になるか、見当もつかないですよ?」


騎士「まずは、真っ当にやろうじゃないか」


騎士「そもそも、君が提案したことだろ、商人くん」


商人「ま、まじかよ・・・」


盗賊「うげえ・・・」


賢者「うわあ」





騎士「さあ、デスマーチのスタートだ!」



------





盗賊「えっと、勇者の大叔父の従弟がハーフエルフで・・・」


賢者「エルフ筋は、砂の王家に絡まないでしょう」


盗賊「そ、そうですね・・・って商人さん寝てる」


盗賊「商人さ~ん、商人さ~ん、寝ないでくださ~い」


商人「 ZZZ 」


賢者「回復魔法キュア・・・」


商人「!?」


騎士「お~い、休むのは仕事が終わってからにしようじゃないか」


商人「す、すみません」


盗賊「でも、もう3日はやってますよ~騎士さん・・・」



賢者「とりあえず、宿屋に帰って水浴びをしたい・・・」


騎士「何を言っているんだ~、甘いぞみんな」


騎士「せっかく、勇者に追いつきそうだったんだ」


騎士「いま、働かずして、いつやるんだー」


盗賊「 ぐぅ・・・zzz 」


賢者「キュア・・・」


盗賊「はっ!?」


騎士「ほらほら、盗賊さんは次はこっちの資料を洗って」


盗賊「うぅ・・・髪がべとべとだ・・・」


商人「勇者ぁ・・・勇者ぁ・・・絶対に・・・許さねえ・・・」


騎士「いやあ、久しぶりだなあ、こういうの」


騎士「昔は、どこの部署もこんなもんだったのに」


騎士「今の若い連中ときたら・・・」


賢者「い、異動願いを申請・・・」


騎士「却下」


騎士「ほら、みんな元気がないぞ!元気出して国のために働こうじゃないか!」





盗賊(鬼・・・っ!)



------





騎士「いやあ・・・見つからなかったね・・・」


賢者「何代遡ったかわかりませんよ・・・」


盗賊「勇者の大叔父の従弟の祖父の孫の姉の・・・」


賢者「もういいんです!もう終わったんですよ盗賊さん!」


盗賊「はっ!?」


商人「諦めは尽きましたか・・・騎士さん?」


騎士「まあ、ここまでやって見つからなかったんだ、致し方ない」


騎士「調査報告をまとめれば、我々の面目もたつだろう」


騎士「商人くん、手はずは?」


商人「侯爵家に未婚の女性は一人」


商人「かつて数多の男性方から求愛受け、かつ薙ぎ払ったことから鉄壁と呼ばれた、絶世の美女」


商人「侯爵家娘」


商人(御年50幾年・・・)


騎士「うむ、じゃあ侯爵家に御見合い写真を持って行こうじゃないか!」


盗賊(さようなら・・・勇者様の操っ!)





賢者「うまくいくといいなあ・・・」



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騎士「うまくいきました」


商人「エクセレント!」


賢者「すばらしい!」


盗賊「ブラボーっ!!」


騎士「よしっ!勇者の結婚祝いだ今晩は私の奢りだ!」


商人「ひゅー↑↑」


賢者「パーッと飲みましょう!」


盗賊「おーっ!!!」





盗賊(勇者様、結婚おめでとうございます・・・)



------





盗賊「勇者が裏カジノで荒稼ぎしやがった!」






騎士「はい」


賢者「はい、じゃないです」


騎士「」


商人「オレ仕事頑張ル、給料モラウ」


盗賊「み、みなさん!?」


騎士「はい」


賢者「はい、じゃないです」


商人「酒買ウ、飲ム」


盗賊「てえいっ!唸れっ!とげのむちっ!」パチーン


騎士 賢者 商人「「「 はっ!いったい何が・・・ 」」」


盗賊「しっかりしてください!就業時間内ですよ!!」



騎士「盗賊さん、しっかりしてきたなあ・・・もう任せて安心だ」ホロリ


商人「というより、仕事に慣れて本性でてきた感じじゃないか?」ヒリヒリ


賢者「ああ、新人あるあるですね・・・」イテテ


盗賊「報告!始めますよ!よろしいですね!」プンスカ


騎士「あ、ああ、お願いします」


商人「よろしく頼むぜ!」


賢者「どんとこいです!」


盗賊「えーっ、王国きっての歓楽街である、この街には」


盗賊「官憲も手を出せない凶悪な犯罪組織があるそうです」


商人「ああ、聞いたことがある裏カジノを経営しているとこだろ」


騎士「商人くん、まさか行ったことがあるなんて言わないよね」ジロリ


商人「そ、そりゃあもちろん!」アセアセ


賢者「コンプラは大事ですよ・・・」



盗賊「その裏カジノの景品に、伝説の聖なる兜があったそうです」


賢者「また、その手の話ですか」


商人「犯罪者から、聖なる装備を取り返した!うん!なんの問題も無いな!」


賢者「それなら、問題にならないんですよねえ・・・」


盗賊「勇者一行は、しばらくこの街に滞在し裏カジノにゲームに興じ」


盗賊「最終的には、カジノオーナーとのゲームで勝利し、聖なる兜を手に入れ街を去ったそうです」


騎士「なんで!?」


盗賊「」ビクッ


騎士「なんで!ピラミッドでは勝手に持っていったのに!」


騎士「違法カジノでは、正々堂々と勝ち取っていくんだよ!」


騎士「逆だろ!?なんで、こんな時だけ正攻法なんだよ!!!」


騎士「おかしいだろ!頭腐ってんじゃないのか!!!」



騎士「だいたい、あんな若造が勇s」


賢者「睡眠魔法スリープ」


騎士「ぁ・・・」スヤア


賢者「寝かせてあげましょう・・・」


商人「そ、そうだな・・・」


盗賊「心労がたたってるんですね・・・」


賢者「報告続けてもらえますか?」


盗賊「はい」


盗賊「問題は、勇者が身分を隠さず違法カジノに出入りしてしまっている点ですね」


商人「お、少しはわかってきてるじゃん」


盗賊「それぐらい、わかりますよ!」プンスカ


賢者「目撃者は?」



盗賊「違法カジノの店員と10数名の客ですね」


商人「身分ぐらい隠せよ・・・勇者」


賢者「罪悪感のかけらもないんでしょうね、それかアホなのか」


盗賊「・・・」


盗賊「どうしましょうか?」


賢者「とりあえず、方向性決めてから騎士さんに伺うかたちでいきましょう」


商人「賛成」


盗賊「おなじくです」



------





盗賊「いつもみたいに、適当な地位や役職を勇者様に与えて違法性をなくしちゃうってのはどうですか?」


商人「それなら簡単なんだが、いかんせん」


商人「違法カジノに入り浸っていい役職なんて、ないんだよなあ」


賢者「そりゃあ、そうでしょうよ」


盗賊「独自の潜入捜査って線はどうです?」


賢者「身分を隠してたなら、そういう言い訳もできるんですけど」


賢者「名乗っちゃってるんでしょう・・・」


盗賊「うーん・・・だめだ」


盗賊「もう思いつきません・・・」


盗賊「私の頭じゃ、これで限界です」



商人「いや、それは俺もだよ・・・」


商人「というか、どうしようもないだろこれ」


賢者「・・・そうですね」


賢者「行き詰ってしまいましたね・・・」


盗賊「・・・」





騎士「目撃者をすべて消そう」



盗賊「!」


盗賊「起きていたんですかっ!?」


騎士「すまない、心配をかけたね」


商人「いや、それはともかく」


商人「ちょっと穏やかじゃない言葉が聞こえましたけど・・・?」


賢者「正気・・・ではないですよね?」


騎士「いや、いたって正気だよ」


騎士「盗賊さん、勇者一行がこの街を出たのはいつ?」


盗賊「半日ほど前です」


商人「なんだ、もう目と鼻の先だったのか」


騎士「そもそもが違法性のある場所での出来事だ」


騎士「情報が出回るには時間がかかるだろう」


賢者「つまり・・・」



騎士「まだ、間に合うかもしれない」


騎士「情報が出回る前に、この事件が国にバレる前に、全て消してしまおう」


商人「犯罪者どもはともかく・・・客も全てですか?」


騎士「・・・違法カジノに出入りしている輩だ」


騎士「碌な連中ではあるまい・・・」


賢者「反対ですね、完全に私たちの仕事の範疇外です」


賢者「そこまでする謂れはない」


賢者「勇者の名誉を守るために、私たちを暗殺者集団にするおつもりですか」


商人「俺も反対だ」


商人「ただでさえ、くそったれのけつを拭いてまわってるってのに」


商人「今度は、勇者の悪事を隠蔽するために俺たちが手を汚すだって?」


商人「冗談じゃねえ!」


騎士「そうか・・・強制はしない」



騎士「それならば、私一人でやるだけだ」


商人「勝手にしやがれ国家の犬め!」


賢者「見損ないましたよ騎士さん」


盗賊「・・・」


盗賊「ちょっと待ってください!みなさん!」


商人「新人は黙ってろ!」


賢者「騎士さんは、完全に正気を失っています」


賢者「こんな仕事をする必要はありません」


盗賊「聞いてくださいっ!!」


盗賊「・・・私の話も聞いてほしいんです」


賢者「・・・」


商人「・・・」


騎士「・・・」



盗賊「私は、皆さんに先行して勇者一行を追いかけていました」


盗賊「皆さんに報告している勇者様の動向・・・」


盗賊「あれは、ほんの一部に過ぎないってこと、ご存知でしたか?」


商人「・・・情報を隠していたってことか?」


商人「どういうつもりだ、盗賊ちゃん」


賢者「・・・」


賢者「いえ、そうではないでしょう」


賢者「私たちにとって、業務上必要な情報は主に勇者の起こしたトラブルに限定されます」


盗賊「・・・そういうことです」


盗賊「私は、皆さんの知らない勇者様の一面を知っています」


盗賊「彼は、とても優しい方です」


盗賊「先ほど、賢者さんが勇者様のことを罪悪感がないか、ただの阿呆とおっしゃいました」



盗賊「・・・それは大きな間違いだと思います」


盗賊「私の知っている勇者様は、自身が法を犯していることを自覚しています」


盗賊「知ってても尚、平和のためならばとあれば、迷うことなく法を破る」


盗賊「そういう方なんです」


盗賊「阿呆でもありません・・・」


盗賊「私たちは、手続きや法令等に日ごろから触れていますけど」


盗賊「勇者様は、その手段を知らないだけなんです」


盗賊「彼は、自分のできる範囲で平和を目指しているだけ」


盗賊「本当に責任感の強い人なんです」


盗賊「関所を破った際、連れていた子供二人」


盗賊「無事に、親戚のところへ届けられ、二人は更生を勇者に約束しました!」


盗賊「ピラミッドから盗んだ聖剣は」


盗賊「数多の集落を、魔物達から救うために振るわれています!」



盗賊「私たちは、なんですか!?」


盗賊「みんな勇者様の陰口ばっかり叩いて!」


盗賊「勇者様のサポートをするのが私たちの仕事じゃないんですか!」


盗賊「確かに、暗殺は業務の範囲外かもしれません!」


盗賊「でも、今回の事件を見逃したら、どうなると思います!?」


盗賊「すぐかもしれないし、魔王討伐後かもしれませんけど」


盗賊「勇者様が官憲に追われることになってしまいかねません!」


盗賊「それでいいんですか!?そんなことが許されるんですか!!」


盗賊「勇者様は、自分自身のために力を奮うことは今まで一度もありませんでした!」


盗賊「勇者様の行動は、全て私たちを含めた王国民のために為されているんですよ!?」


盗賊「いま!勇者様を助けられるのは私たちだけなんですよ!」


盗賊「・・・」



盗賊「私は、騎士さんの意見に賛成です」


盗賊「証拠を全部消しましょう・・・」


盗賊「騎士さんと二人きりでも、私はやります」


賢者「・・・」


商人「・・・」


騎士「・・・」


騎士「いや、そうじゃない・・・」


騎士「申し訳ない・・・私にはそんな高尚な動機はないんだ・・・」


騎士「私は、保身に走っているに過ぎない」


騎士「この事件が公になった際、私たちの立場はどうなる・・・」


騎士「未然に問題を防げなかった我々の立場だ」


騎士「減給程度で済めばいいが」



騎士「正直、勇者に関しては異例のことが多すぎて」


騎士「どんな判断がなされるか、全くわからん」


騎士「首が飛ぶ可能性だってある・・・」


商人(免職?)


賢者(いや、斬首ってことじゃないですか?)


騎士「私には、妻と娘がいる・・・彼女らを路頭に迷わせたくない」


騎士「ただ、それだけなんだ・・・」


商人「・・・」


賢者「・・・」


盗賊「騎士さん・・・」


商人「ふぅ・・・」


商人「盗賊ちゃんの話はともかく」



盗賊「えっ・・・!」


商人「騎士さんの可愛い娘さんに、ひもじい思いをさせるわけにはいかねえか!」


商人「将来、俺のお嫁さんになるかもしれねえしな!」


騎士「なっ・・・!」


賢者「10数名程度なら、私の魔法で記憶の消去が可能です」


賢者「ですので、殺すのは違法カジノの連中だけでいいでしょう・・・」


賢者「禁術に指定されている魔法なので、内密にお願いしますよ」


盗賊「みなさん・・・っ!」


騎士「ありがとう!二人とも・・・っ!」


商人「最悪、国にバレたら皆でトンずらこくか!」


賢者「その際は、頼りにしてますよ盗賊さん」


盗賊「・・・」





盗賊「はいっ!」



------





商人「いや、盗賊ちゃん強すぎない?」


商人「動きが完全にアサシンのそれだったけど・・・」


賢者「恐ろしく手際が良かったですねえ」


騎士「いやあ、まったく」


盗賊「そりゃあ、しっかり教育受けてますし」


騎士(どんな教育だ・・・)


盗賊「私こそ、騎士さんや賢者さんはともかく」


盗賊「商人さんが、まともに戦えるとは思っていませんでしたよ」


商人「失礼なやつだな」


盗賊「えへへ」



商人「・・・」


商人「俺さ、昔は伝説の冒険商人に憧れていてさ」


商人「それなりに戦闘訓練を受けていたんだ」


騎士(語りだした・・・)


賢者「初耳ですね」


盗賊「伝説の冒険商人?」


商人「ああ、ずっと昔の勇者パーティーにいたらしい」


騎士「そろばんで魔物を殴り殺していたってアレか」


商人「そうそう、ま、諦めたんですけどね」


盗賊「なんでまた諦めちゃったんですか?」


商人「・・・見つからなかったんだ」


商人「俺の力に耐えきれる、そろばんがさ・・・」


賢者(そろばんで戦う仲間は欲しくないですね・・・正直、ださい・・・)



盗賊「そろばんで戦う仲間は欲しくないですね、正直ださいです」


賢者「!?」


商人「ま・・・いつか俺の眼鏡に適う算盤が見つかったら・・・また追いかけてみようかな・・・」トオイメ


騎士(見つかりませんように・・・)


盗賊「見つからないといいですね」


騎士「!?」


商人「なんか、盗賊ちゃん俺にだけ厳しくない!!??」


盗賊「そんなことないです」


盗賊「さあ、仕事も終わったし飲みにでも行きましょうよ!」





商人「ちょっと勘弁してよ!盗賊ちゃ~ん!」



------





盗賊「勇者が聖なる祠から、聖遺物を持ち出すつもりだ!」






騎士「遂に・・・遂に追いついたなあ・・・」


賢者「為せば成るものですねえ」


賢者「見てください、街の更に奥、ほら微かにですけど魔王城が見えますよ」


騎士「随分、遠くまで来たものだなあ」


商人「盗賊ちゃん、あの最後の街に勇者一行がいるんだな!?」


盗賊「ええ、間違いありません」


盗賊「数刻前に、勇者一行が街の中に入っていくのを、この目で見ました」


盗賊「情報によると、私たちの後ろにある、この聖なる祠に」


盗賊「最後の聖遺物、聖なる鎧があるそうです」


盗賊「ここで、張っていれば間違いなく勇者一行に出会えます!」


商人「追いつくどころか、先回りできとるやん」



盗賊「勇者一行より先に、聖なる鎧の情報を集めることができたので」


盗賊「ここで待ってた方が確実かなって・・・」


騎士「確かに、街で入れ違いになったりしたらシャレにならないしね」


騎士「やっと追いついたのか・・・感慨深いものがあるなあ・・・おっと涙が」ホロリ


賢者「騎士さん、まだ仕事が終わったわけではありませんよ」


商人「そうそう、ここで勇者を待ち伏せて」


商人「これまでの恨みつらみを全部聞かせてやりましょうぜ!」


騎士「それはともかく、今まで特例ばっかで乗り切ってきてたからねえ」


騎士「今回は、やっと真っ当な手続きを取らせることができる」


騎士「ようやく、本来の業務に戻れた気がするよ」


盗賊「ちなみに、祠から聖なる鎧を持ち出すのには」


盗賊「どういった手続きが必要なんですか?」


騎士「えっとね、ピラミッドの時とほぼ同じかな」



騎士「文化局に、発掘調査の申請を出して許可が降りたら鎧を持ち出せる」


商人「いやあ、博士号とらせておいて正解でしたね」


賢者「ただ懸案事項がひとつ」


賢者「祠は歴史的建造物であると同時に、宗教施設でもありますので」


賢者「教皇庁の許可もいりますね」


騎士「げ・・・そうか・・・」


盗賊「何か問題があるんですか?」


商人「教会の坊主どもは頭がかたいから、聖なる鎧を出し渋るだろうなあ」


騎士「まあ、世界平和のためだし最終的には許可は降りると思うよ、ただ」


賢者「それなりに時間がかかるでしょうねえ」


盗賊「ぐ、具体的にどれくらい・・・?」


騎士「・・・経験則から言うと、半年ぐらいは見ておいた方がいいかな・・・」


商人「まじかよ・・・」



賢者「・・・それはまた」


盗賊「長いですね・・・」


騎士「・・・まあ、真っ当な手続きというのはそういうものだよ」


盗賊「あの・・・」


賢者「そうですね」


商人「そうだな」


騎士「私もそう思う」


盗賊「ま、まだ何も言ってません!」


商人「言わなくても、わかるさ」


商人「俺たちは、勇者に追いつくべきではない、だろ?」


賢者「私たちが居なかった勇者は、また勝手に聖なる鎧を持って行っちゃうでしょうねえ」


騎士「ああ、また特例の異例のオンパレードで乗り切る仕事になっちゃうなあ」



商人「そうですねえ、でもその分」


盗賊「半年、早く平和が訪れる」


商人「ははは、盗賊ちゃんの思考が手に取るようにわかるぞ!」


賢者「完全に毒されちゃいましたねえ」


騎士「いい新人を持ってきてくれたものだ、大臣に感謝だな」


盗賊「ひどい!そんな言い方しなくても!」


商人「まあまあ、それよりどうしますか」


商人「こんなところに居たら、間違って勇者に追いついてしまいますよ」


騎士「言葉に気をつけるんだ商人くん」


騎士「勇者に追いつくことは間違いでもなんでもない」


騎士「むしろ、それが私たちの仕事だ」


商人「へいへい」



騎士「ただ、あの最後の街に今から向かって、仮に勇者そっくりの人物に会ったとしても」


騎士「見間違いってことはあるだろうなあ・・・」


盗賊「ふふっ・・・」


賢者「それはいいですね」


商人「じゃあ、今日は大した仕事もなさそうですし飲みにでも行きましょうよ!」


騎士「うん、それはいい考えだ!」


賢者「もう、喉がからっからです!」


盗賊「あ!私、いいお店知っています!」


商人「ははは!流石、情報収集はお手のものだな!」


盗賊「はいっ!」


騎士「よし!では、最後の街で大いに楽しもうか!」





商人 賢者 盗賊「「「 おーっ! 」」」



------





盗賊「勇者が国境線の封印を解きやがった!」






商人「国境線の封印?なんだそりゃ」


賢者「私も知らないですね、騎士さんご存知ですか?」


騎士「いや、聞いたことがない」


盗賊「先代勇者が残した遺産ですよ!」


盗賊「魔王の領域と私たちの国の境界線に施された魔法です!」


盗賊「この魔法があったからこそ、力の弱い魔物しか」


盗賊「私たちの国に侵入できなかったんじゃないですか!」


賢者「なにそれ怖い」


騎士「えー・・・そんなこと言われても知らないものは知らないよ」


商人「これは、あれだな盗賊ちゃん優秀すぎて」


商人「国が一切把握していない情報を拾ってきちゃった感じだな」


賢者「ちなみに、勇者はなんでその封印を解いちゃったんですか?」



盗賊「それは、その封印が両方向に作用するからです」


騎士「なるほど、こちらからも力を持ったものは魔王城に近づけないわけか」


商人「どう思う賢者」


賢者「我々すら知らない情報ですから、勇者も知らないで封印を破ったと考えるのが妥当でしょう」


騎士「故意ではないと?」


盗賊「勇者様がそんなことするはずありません!」


商人「どうだかね」


盗賊「きっ!」ギロッ


商人「ひぃ!」


騎士「封印が解かれたとしたら、強い魔物がこっち側に進撃してくる可能性があるな」


賢者「とりあえず、軍に援軍を要請して陣を築きましょう」





商人「んー・・・ちょっとそれじゃ、遅すぎるかな」



騎士「ん?なんだこの音は」


盗賊「あれ!巨大な魔物です!サイクロプスです!」


騎士「こっちに向かってきているな」


賢者「サイクロプスだけではありませんね」


賢者「数はそれほど多くありませんがゴーレムも複数体見えます・・・」


騎士「じ、実は私には国に残してきた妻と娘が・・・」


賢者「知ってます」


騎士「そうか・・・」


商人「騎士さんの冗談、初めて聞きましたよ」


騎士「なに、みんなをリラックスさせようと思ってな」


盗賊「じ、実は私にも国に残してきた父が・・・」


商人「投獄されてる犯罪者の父ちゃんな」



盗賊「ご存知でしたか」


商人「そりゃもちろん」


商人「・・・状況は絶望的だなあ」


盗賊「私、あんな巨大な魔物と戦うの初めてですよ」


賢者「私だってそうですよ・・・」


騎士「だが、私たちの後ろには数多の国民の命がある」


騎士「騎士として退くわけにはいかない」


賢者「・・・やるしかありませんね」


商人「覚悟は決まってますよ」


商人「・・・」


商人「盗賊ちゃんは、逃げてもいいんだぜ?」


盗賊「私より弱いくせに何言ってるんですか!?」



商人「うっ・・・」


賢者「ほらほら、みなさんそのへんにしときましょう」


賢者「遊んでる場合じゃないですよ」


賢者「早く戦闘準備を整えてください」


賢者「気を抜いて勝てる相手ではありません」


商人「気を入れても勝てる保証はないけどな」


騎士「まったく、勇者一行には本当に苦労をさせられる」


商人「なあに、騎士さん」


商人「王国民の平和のためですよ」


盗賊「ふふっ・・・」


商人「ん?」


賢者「どうしました?盗賊さん?」


盗賊「いえ///」


盗賊「なんだか、商人さんの口ぶりが」


盗賊「まるで」





盗賊「私たちも、勇者パーティーの一員みたいだなって///」






騎士「みんな来たぞ!構えろ!」





商人「へいへい!」





賢者「お任せくださいっ!」










盗賊「     はいっ!///       」



------





数々の魔物を屠り

王都随一と言われる剣術道場の師範代


戦士





その弛まぬ信仰心から齢二十歳にして聖人に認定された

うら若き乙女


僧侶





王立魔術学院の最年少学位授与記録をもつ

若き天才


魔法使い



剣技右に並ぶものなし

若くして大魔導士と考古学博士の称号を得

あらゆる女性を魅了する端正な顔を持ちながら

侯爵家娘への揺るがぬ愛を誓った愛妻家

情に厚く、驕るところのない品性高潔な奴隷商人


勇者





若く逞しき彼らは、王国付き神官の受けた女神様からの信託により

わずか4名での魔王討伐を運命づけられ、王都を旅立ったことは。

皆が知るところにあるだろう。

だがしかし、彼らの華々しい冒険譚に潜む黒き影。

勇者パーティーを陰ながら支え続けた、もう一つのパーティーがあったことは。

あまり知られていない。

その名も





「王国勇者課勇者補助係」



------





「た、大変です!」


「はいはい、勇者は次に何をやらかしましたか?」


「も、もう、勘弁してほしいんだが」


「ごたごた言わない!盗賊さん報告をお願い」





盗賊「勇者が!魔王と和解しやがった!」










勇者の旅が終わろうとも

彼ら王国勇者課勇者補助係の戦いは終わらない。



------





「おい!魔族の言語わかるやつ直ぐに連れてこい!」


「和平条約結んだとして、魔族が条約を遵守する担保なんてあるんですか!?信頼性皆無ですよ!」


「そんなのいいから!まずは、要領を洗え!これ私たちの仕事に含まれるのか!?」


「ゆ、勇者様!もう勘弁してくださいっ!」





彼らの業務は就業時間内には終わらない。





だけども、おわり。

スレタイには反省しています。
他にもSS書いてます。
感想もらえればうれしいです。


魔王の物語

僧侶の憂鬱

王「勇者よ、死んでしまうとは情けない!」

勇者「みんな狂ってる」

勇者「お前ら弱すぎ」

勇者「駄目だ!殺せない」

俺たちは奴隷ではない。

女剣士「くっ・・・犯せ!」


面白かった


勇者の肩書がすごいことになってる…

勇者は五十路ババアとも結婚して愛を育めたのか…まさしく勇者よ

乙です。
勢いが良かった、もしや今まで俺達がやってきたRPGのシナリオの裏では……。

乙ー
おもしろかった

他所のまとめサイトで先に読んできたけど面白かった

あげんな

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