【よるのないくに2】ルーエ「護られること」 (17)


よるのないくに2、ルーエ主役のSSです
地の文ありありなので、苦手な方は申し訳ありません


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1505061018



月の女王によって空は闇に閉ざされ、人々は陽の光を失った
夜に閉ざされた世界では邪妖と呼ばれる怪物が跋扈し、人々は居場所を失った…
そんな夜に支配された世界にありながら昇らなくなった太陽の変わりのように光を放つ建物があった
ホテル・エテルナ
首都から近くかつては人々でにぎわったその施設も、今ではほとんど人が出入りすることはなかったが
ここ最近は違っていた
少数ではあるが夜に閉ざされた世界を救うべく、月の女王に打倒する者たちが集まり
活動の拠点として扱われているのだ

そのホテル・エテルナ前の広場…大きく開けた土地で二人の女性が剣を構え、向かい合っていた
一人は邪妖と対抗すべく組織された教皇庁に所属していた元聖騎士、ルーエンハイド
その手には身の丈を優に超えるほど巨大な愛用の大剣"気剣オーズ"が握られており、その顔には汗がにじんでいた
微かに息も荒くなっており、疲労の色が見える
しかしその双眸には強い力が籠められ、向かい合った相手を見つめていた
向かい合うは元教皇庁の騎士隊の隊長として腕を振るった聖騎士、ミュベール
疲労の色が見えるルーエンハイドに対し此方は涼しげな表情で剣を構えている
その剣は血剣──己の血を武器に変化させた剣を手にしていた
彼女はかつて邪妖の力を人工的に埋め込む研究の被験体となり
人ならざる力を手にしているが故の武器である


ミュベール「どうしたルーエ、まだ楽しませてくれるのだろう?」


ルーエ…ルーエンハイドの略称であり、親しい間柄の物はこう呼んでいる
そう言われたルーエが少しづつ距離を詰め始めた
じわり、じわりと距離が詰まり、互いの間合いが重なった…刹那──


ルーエ「はぁぁっ!!」

ミュベール「甘い…ッ」


ルーエが脇構え──左半身を前に出して正中線を隠し、下段に剣を下げ切っ先を
背後に向ける構え──から振るった渾身の横薙ぎを振るう
それに対しミュベールは一切臆することなく踏み込み
血剣の刀身を肩に当て、威力の削がれる鍔元近くで横薙ぎをしっかりと受け止める
それどころか強靭な体幹は渾身の一撃に一切揺らぐことはなく、ルーエの気剣オーズが弾き飛ばされる
鋼鉄の分厚い城壁に斬り込んだかのような衝撃と同時に腕に強烈な痺れが流れ、ルーエが僅かに表情を歪ませる

その隙をミュベールは逃さない

流れるように受けの姿勢から弧を描く様に血剣を振り下ろす
ルーエは寸でのところで僅かに弾かれたオーズを強引に引き戻し、大剣の分厚い刀身を盾のように構え受け止める
しかし咄嗟の動きだったせいか身体が揺らぎ、懸命に地面を噛んで踏ん張るが上半身が背後に流れる
腕の痺れはさらに増し、握力の鈍る掌の中でオーズの柄が僅かに踊った
ミュベールは防がれ弾かれる動きを利用して血剣を引き戻し、今度は峰に左手を添え再度ルーエに向かって振り下ろす
峰に添えられた左手が弾かれる血剣を抑えつけ、僅かに体勢を崩していたルーエの身体に強烈な圧力をかける
徐々に身体を押し込みながら圧力を強めるミュベールに対しルーエは懸命にこらえる
こらえるどころか逆にミュベールに迫るように僅かに後ろに崩れていた上半身を起こし始めていた
普段から身の丈を優に超える大剣であるオーズを振るうルーエの膂力は他の騎士と比べても特に優れていた
ミュベールを押しのけようとルーエが一気に力を籠める


ミュベール「やるな…が…!」


渾身の力を振り絞るルーエに対し、ミュベールは微かにではあるが口角を上げ不敵に微笑む
その微笑みの意味は何か、ルーエは考える間もなくその意味を思い知る
その瞬間地面を噛んでいたはずの右足が突然の衝撃と共に地面から弾き飛ばされ
行き場を失い宙を舞ったからだ



ルーエ「あ…」


ルーエは反射的に視線を下げ衝撃の正体に気付く、ミュベールに瞬間的に足を払われたのだ
徐々に身体を詰めていたミュベールの狙いはルーエを押しつぶすことではない
上半身に意識を向けさせたうえ、半ば密着するほどまで距離を詰めることで足払いを狙っていたのだった

ミュベールは足払いでルーエを崩すと同時に血剣を跳ね上げ、オーズを上方に弾き飛ばした
そしてがら空きになったルーエの胴に──


ミュベール「甘いと言ったろう!!」

ルーエ「グゥ…ッ!!」


ミュベールのソバット、中段の右後ろ回し蹴りが打ちこまれる
肝臓に深々と踵が突き刺さった
激痛と同時にその衝撃で腹の中の内臓が暴れまわり、肺を押し潰して息を詰まらせた


ルーエ「ま…だぁ…ッッ!」


しかしルーエは耐える、痛みに後ずさり、オーズを取り落としそうになりながらも歯を食いしばり
上段に弾かれたオーズを構え直し、ミュベールに振り下ろす


ミュベール「…ふん」


しかし力の入りきっていなかったその一撃がミュベールに届くはずもなく
足を引き半身になりつつ血剣の刀身で軽々といなし、その切っ先をルーエに突きつけた


ルーエ「くっ…」

ミュベール「私の勝ちだな…しかし流石だルーエ、楽しめたぞ」





その後も二人は幾度も剣を交えた、それが終わったのはルーエがついにオーズをまともに握れなくなるほど
疲労が積み重なった時であり、その時にはさすがのミュベールも息をかなり荒くしていた
しかし息を荒くしながらもその表情はかなり満足げであり、逆にルーエの表情は暗く沈んでいた
結局ルーエの剣がミュベールを捕えることは一度もなく、全敗であった


ミュベール「…負けて悔しいのは当然だが、落ち込み過ぎるなよ」

ルーエ「すみません、ミュベールさん…」

ミュベール「あくまでこれは訓練の一環だ、そのために私はお前の守護の力で護られているのだからな」


二人が向かい合い互いに剣を交えていた理由、それはルーエの訓練の為であった
ミュベールに対し自分の力を見て欲しいとルーエが志願してきたのである
そのため互いにルーエの特殊な力である守護の力を使い、万一まともに斬撃を受けても
大事にならぬようにしていた
ほとんど実戦に近い形式で向かい合えたのはこのためである


ミュベール「負けてもあまり塞ぎこむな、バネにしろ、少なくともあいつはそうしていたぞ」

ルーエ「あいつって…」

ミュベール「ああ、アルのことだ」


アル…ルーエの大切な幼馴染であり、ミュベールの元部下でもあるアルーシェのことだ
普段は天然気味ながら直情的で無鉄砲な性格のアルに振り回されながらも
ルーエは彼女のそんな素直で裏表のないところが好きであったし、信頼していた
だからこそルーエは彼女を護りぬくと心に誓っていたし、できることならばずっと傍にいたかった
そのためには強く──とにかく強くあらねばならなかった
だからこそルーエはミュベールに挑んだのだが、結果はこの通りである


ルーエ「アルは…勝ったんですよね、先輩に…」

ミュベール「ああ、完敗したよ」


苦笑しながらもあっさりとミュベールが答える
しかしその顔はどこか嬉しげであった


ルーエ「…何故、そんな顔が出来るんですか?」

ミュベール「…最初は私も悔しかったさ、あいつが私を超えて、もう私は必要ないのではないかとさえ思った」

ルーエ「…」

ミュベール「だがな、あいつと話しているとまだまだ危なっかしいと言うか昔と変わらないというか…」


少し呆れたようにミュベールが言う
ルーエもそう感じていた
アルは変わらない、昔よりはるかに強くなった今も無鉄砲でいつもひやひやさせられる
だからこそ今でもルーエは護りたいと思うのだ、自分より強くなってしまったアルであっても




ミュベール「だから逆にこう思うようにしたんだ、あいつが強いのはルーエ…お前の様な友がいるからだとな」

ルーエ「先輩…」

ミュベール「おいつが強いのは…私を超えたのはお前のおかげだルーエ、くよくよするな」


そう言いながらミュベールは塞ぎこんでいたルーエの手を取り、その目をじっと見つめる


ミュベール「今の私の目標はアルじゃない、お前なんだルーエ、お前のようにアルに信頼される人間になりたい」

ルーエ「そんな…畏れ多いです…!」

ミュベール「お前が強くなりたいのなら私はいくらでも手を貸そう、ルーエは私の憧れなんだからな」


微笑みながら放たれたミュベールの思ってもみなかった言葉に、ルーエの頬が赤く染まる
ルーエにとってミュベールは今も昔も変わらぬ憧れの存在であった
知らぬ間に自分がそんな彼女が憧れる存在になっていたという事態に驚きと喜びが一気に押し寄せる


ミュベール「とはいえ、お前もやはり強くなった実感が欲しいだろう、アルの傍にいるためにな」

ルーエ「は、はい・・・」

ミュベール「よし、なら良い、今度アルと手合せするんだルーエ」

ルーエ「・・・えぇ!?」

ミュベール「あいつに挑んで"ルーエは強い"と言わせればいい、簡単なことだ」

ルーエ「しかし先輩に歯が立たない私が今のアルに…」


自分でそう言ってルーエは唇を噛む
今の自分があるより弱いということを理解する心はある
しかし実際にアルに負けてしまったとして、その事実に耐えられるだろうか…


ミュベール「そう言うな、ルーエにも十分に勝機はある」

ルーエ「しかし…!」

ミュベール「あいつと直に戦った私が言うんだ、信頼しろ、少なくとも歯が立たないことはない」

ルーエ「…分かりました、先輩の言葉を信じます」

ミュベール「良い顔だな、やはり私はそういう顔の方が好きだぞ」


嬉しげに言うミュベールにルーエの頬はまた赤くなる
無意識にこんな言葉をいうところはアルと似ている…そうルーエは感じていた


ミュベール「それに私がみっちり鍛えてやるからな、安心しろ」

ルーエ「ありがとうございます、先輩の指導であれば心強い…!」

ミュベール「よし、では今日の手合わせでルーエのことは分かった、良い点も改善すべき点もな」

ルーエ「改善点…ですか」

ミュベール「今の私たちに残された時間は多くない、明日稽古を積んでやる…覚悟しておけよ」

ルーエ「は・・・はい!」









そして翌日、二人の打倒アルーシェの特訓が始まった
そのアルーシェは今日はヴェルーシュカと共に大型邪妖の討伐任務に就いている
二人は別の大型邪妖の討伐任務を担当しユーラルムに来ていた
任務の内容は街に複数現れたマウントシャドウの討伐である


ミュベール「短期間で経験を積むには実戦しかない、今回は実戦の中でアルの戦い方を学んでもらう」

ルーエ「アルの戦い方を…ですか?」

ミュベール「ああ、あいつの強みを知るにはそれが一番だと思ってな」

ルーエ「アルの戦い方を真似る…ということですか?」

ミュベール「ああ、とはいえ同じ動きをしろということではない、あいつのポジションに立つんだ」

ルーエ「アルのポジション?」

ミュベール「そうだ、昨日の手合わせで分かったが、ルーエの動きには意表をつくような動きが足りない気がしてな」

ルーエ「たしかに、足払いはともかく先輩の蹴りには驚きました…」

ミュベール「ああ、あれは元はアルの技なんだ」


その言葉にルーエが目を丸くする


ミュベール「学生時代から一番練習で手を焼かされたのがあいつなんだ…」

ルーエ「そ、そうなんですか!?」

ミュベール「無論、当時はあいつより腕の立つ者はいたが、あいつはとにかくやり辛かった」


当時を思い出しミュベールが眉をひそめる
新入生の実力を見る為初めて立ち会った時、他の新入生に比べ剣の基礎はおろそかながら実戦勘が鋭く
新人がかかりがちなフェイントや誘いに驚くほど引っかからず苦心した
結局先輩らしくを華麗にあしらうどころか正面から思い斬り結びあうことになり
その頃はまだ地力が足りないアルを力押しでミュベールが圧倒した
しかし後に"貴女らしくない"と教師や周囲から散々言われることとなりミュベールは苦い思いをした




ミュベール「とにかく定跡が通用しなかったからな、突然蹴りを放って来たり…」

ルーエ「たしかにアルの戦い方はとにかく危なっかしくて…目を離せなかったですね…」

ミュベール「だから、ルーエはずっと護ってきたんだろう、学生時代お前等は喧嘩ばかりしていたからな…」

ルーエ「うっ…あれは若気の至りというか…すみませんでした…」


正義感の強いルーエは不遜な上級生と衝突することが幾度もあった
原因はルーエの家柄に対する妬みによる度の過ぎた悪口や悪戯であったり
逆に貧しい家柄であったアルに対してのからかいや誹謗中傷であったり様々であった
普通の下級生であれば臆してしまうところだが二人は違った
ルーエは一切臆することなく正面から啖呵を切り、相手の上級生がルーエに胸倉をつかもうとしたり
手をあげる気配を出した途端にアルは先手必勝とばかりに上級生を蹴り飛ばしていた
相手が何人いようがおかまいなしである
だからその背中をルーエは護りきった、何人が相手でもアルの背中を護った
その内に気が付けば周りで立っているのは二人だけになっている
今のルーエとアルの関係はこのころから既に出来上がっていた


ミュベール「おそらく、ルーエが護ってくれていたからあいつは思い切った動きが出来たんだろう」

ルーエ「私を…アルが信頼してくれていたから…」

ミュベール「ああ、あいつがリスクが大きい定跡外れの動きができたのは必ずお前が護ってくれる、信頼の証だ」

ルーエ「アルが強くなったのは私のおかげ…」

ミュベール「ああ、だから今日は私がアルにとってのルーエの代わりになる、だからルーエも私を信頼してくれ」

ルーエ「先輩…」

ミュベール「私が何があってもお前を護る、だから思い切って色々と試してみろ」

ルーエ「分かりました…背中は任せました、先輩!」








ゴアアア!!!
静まり返ったユーラルムの資材置き場に複数のマウントシャドウの咆哮が響き渡る
その正面に立つのは私──ルーエ、そして背後にミュベール先輩が付く


ミュベール「いいか!武器は剣だけだと思うな!五体全てが武器だと思え!」

ルーエ「はい!いきます先輩!」


マウントシャドウの数は3、この後何体沸いてくるかは分からない…が今はそんなことは構わず前に進む
後ろに先輩がいてくれるから、迷わない
自分の中心に扇状に立つマウントシャドウの群れの中に一気に斬り込む
正面の一体に脇構えから渾身の横薙ぎを振りぬいた
一撃で両断とはいかなかったが、強烈な一撃にその巨体が宙を浮き左に向かって突き飛ばされる
その身体は左にいたもう一体を巻き込みながら地面に転がった
しかし私の背後から右にいたもう一体が腕を振り上げ──


ミュベール「やらせるか!」


その瞬間、先輩が疾風の如く相手に向かって斬り込んでいた
切り裂かれた傷口から蒼い血を散らせながら相手は後ずさる
それを横目で一瞬確認しつつ地面に転がった二対に向かって私は一気に踏み込む

ゴアアア!

先程傷つけた一体が咆哮を上げながら身体を起こしつつ、足元を薙ぐように腕を振るってきた
普段なら受け止める──が、今の私は普段の私ではない、アルならどうするか
そんなこと考えるまでもなく直感で分かる、後ろからずっと見てきたんだ
アルの動きは全て頭に入っている


ルーエ「──ッッ!!」


私は跳んだ
宙に浮いた私の下を腕が振りぬかれていく
不思議だった、まるで私が私ではないような感覚
見たことのない景色、これが戦いの中でアルの見ていた景色だったんだ

宙に浮きながら私は身体を捻る
地面と平行になりながら私の身体は回転した
そして地面に着地すると同時に──


ルーエ「はぁぁ!!!!」


両手に握られた気剣オーズを回転の勢いを載せて振り下ろした
その巨大な刃がマウントシャドウの巨体を半ばまで切り裂きながら叩き潰した
命を断った、たしかな手ごたえを感じる


ルーエ「次!!!」



それを言う間でもなく横にいたもう一体のマウントシャドウが立ち上がり
私に対し突進してきた
オーズをこと切れた相手からすぐさま引き抜きながら上段に構え、真っ向から斬り落とす
その刃を相手はあろうことか巨大な掌で受け止めてきた
互いに動きが硬直する



ルーエ(…思い出せ、私の武器はオーズだけじゃない…!)


私は迷いなくオーズから手を離した
その刃を握ったままの相手の懐に私は潜り込み──


ルーエ「おおぉッ!!」


アルから先輩へ…そして私に繋がったソバットを力の限りぶち込む!
オーズを注視していたのか私が懐に入り込んだことで視界から消えてしまったのだろうか
なんにせよ予想だにしない一撃にマウントシャドウは巨体をのけぞらせる

その顔面に私の上段回し蹴りが突き刺さった

流石に高さがあったため飛び跳ねながらの蹴りであったが、逆にそれで蹴りに上手く勢いが乗った
蒼い血を浴び異形の存在になろうが元は生物である
生物にとって動きをつかさどる頭部に衝撃を受けた相手はよろめき
手から握りしめていたオーズが零れ落ちる

零れ落ちたオーズを私は地に触れる前にその柄を掴みとりつつ距離をとる
オーズの威力が最大限に発揮できる間合いまで下がり、向かい合う
そこに背中合わせになるように先輩が下がってきてくれた


ミュベール「ルーエ!大丈夫か!」

ルーエ「はい!問題ありません!」

ミュベール「私も一体始末したがまだ増える気配がある…しかしこの調子ならやれる、いくぞ!」


先輩の言うとおり周囲に新たな邪妖の気配を感じる
しかし不思議と不安はなかった、私は護ることを意識してばかりいた
だからだろうか、護られる立場に立ったことが無かった私は護られることがどういうことか知らなかった

なんと心強いことだろう

アルはいつも私をここまで信頼してくれていたのかな

いや、アルの立場になって分かった

絶対に、アルは私のことを信じてくれていたんだって

昔から今までずっと変わらず

強くなった今も変わらず




気が付けば周囲の邪妖の姿は消え、資材置き場には二人が立つのみになった
先輩は私を護りきり、私は剣を振るい続けた


ルーエ「…ありがとうございます、先輩」

ミュベール「どうだ、護られる気分は…存外悪くなかっただろう?」


先輩が微笑む
きっと先輩は最初からこのつもりだったんだろう


ミュベール「まったく…お前は昔のあいつと似てるよ」

ルーエ「アルと?」

ミュベール「昔のあいつ、背後のことを全く考えずに相手に突っ込んでいたからな」

ルーエ「今のアルはそんなことないですけど…まさか──」

ミュベール「ああ、問いただしたらずっと親友が護ってくれてたからってな」

ルーエ「あのバカ…それで…」

ミュベール「徹底的に私の背後を護らせた、あいつはバカだが流石に反省してたよ」


ミュベール「お前──ルーエごめんって一日中塞ぎこんでな、だからルーエ、あいつがお前を信頼しなくなる日なんてない」


ミュベール「アルはお前がどれだけ立派な人間か分かってる、だから自分を卑下するな、胸を張れ」

ルーエ「先輩…」

ミュベール「それを分かったうえで強さを磨け、それがアルの通って来た道だ」

ルーエ「…はい!今からでも必ず…必ず追いついて見せます…!!」

ミュベール「その意気だ!機会があればいつでも言ってくれ、ルーエの背後は必ず護ってやるからな!」






アル「どしたのルーエ、二人きりで話したいなんてさ」


任務を終え、ホテル・エテルナに帰還したルーエは同じく帰還していたアルを屋上に呼び出した
屋上にはラベンダーの鉢植えが置かれ微かにその香りが鼻孔をくすぐる


ルーエ「いや、今日先輩と一緒に任務に出た時に色々と昔のアルの話を聞いてな…」

アル「へ?」


そう言うとアルの顔が暗闇の中でも赤く染まることが分かるほど紅潮した
嫌な予感を振り払うように頭を振りながらアルが問いかける


アル「ど、どの話したの!?」

ルーエ「アルがルーエごめん、って一日塞ぎこんだとか…まぁそんな話だ」


優しく微笑むルーエを見て顔を真っ赤に染めてアルが頭を抱える
アルにとってはよっぽど恥ずかしい過去だったのだろう


アル「だ、だってあの時先輩がすっごく怒ってさ…私ルーエのこと分かってるつもりで何も分かってなかったって…」


その言葉を聞いてルーエの顔から微笑みが消える
僅かに目を伏せ、自分の心を見つめるようにその目を少しの間閉じる
そして意を決したようにアルに歩みより──


アル「ルーエがいつも傍にいてくれてたの、当たり前に思っ──」


必死に言葉を並べるアルを抱きしめた
普段のルーエからはあり得ない大胆な行動にアルが目を丸くする



アル「ル、ルーエ!?」

ルーエ「私の方がもっと酷い、今までアルのこと…分かってるつもりで何も分かってなかった」

アル「ルーエ…どうしたんだ…」

ルーエ「いつも背中を預けてくれるアルがどれだけ私を信頼してくれてるか、全然分かってなかった…」

アル「…」

ルーエ「最近アルがどんどん強くなってるのを見て、不安だったんだ、私を信頼してくれなくなるんじゃって…」

アル「…そんなことありえない、私はルーエを信じてるって…何度も言ってるだろ」

ルーエ「うん、だから…アル、ごめん」

アル「私も…昔は言えなかったけど──いや、私がルーエに昔言えなかったから、悪いんだ」


アル「ルーエ、ごめん」


アル「ずっと護ってくれてありがとう」

ルーエ「ああ…ありがとう、アル…」








互いに謝り合った二人はロビーに戻り、カウンターで昔話に花を咲かせていた
アルの目の前にはいつも通りチョコドリンク
そして普段は飲まないルーエの目の前にもチョコドリンクが置かれていた
今日は特別だとルーエがアルに付き合う形で飲んでいるのだがアルのチョコドリンクは既に三杯目
ルーエが一杯目を一口ずつ味わいながら飲むのに対し、アルは横でおかまいなしに一気にドリンクを飲み干している

…それがにこやかな会話から雰囲気を一変させる


ルーエ「アルゥ…もう少し私のために遠慮して飲んでくれてもいいんじゃないかぁ?」

アル「えー、別にルーエも太ってる訳じゃないんだし、普通に飲めばいいだろ」

ルーエ「太ってるんだ!実際に体重計の数字が減らないんだからな…」

アル「…やっぱりおっぱい育ってるだけなんじゃないの?」

ルーエ「お、お前は昔っからそればっかり言って…!!」

アル「だって恥ずかしがってサイズ全然測り直さないじゃないかルーエは、絶対大きくなってる!」

ルーエ「お前はいい加減にしろ!」

アル「…」

ルーエ「ど、どうした…突然黙って」

アル「いや、そういえばさ、こうやって昔もいっつも言い争ってただろ?」

ルーエ「そういえばそうだな」

アル「それから喧嘩になって」

ルーエ「ああ」

アル「その割にどっちが強かったか記憶になかったなーって」

ルーエ「そういえばそうだな」

アル「なんでだっけ」

ルーエ「…」

アル「…」


ルーエ「そういえばアル、いつも言ってたな、こういう時は言い争うよりも…」

アル「やりあった方が早いって」

ルーエ「やるか」

アル「臨むところ」


コキコキと首を鳴らすアル
ペキペキと拳を鳴らすルーエ

お互いに昔を思い出したことで、精神状態が学生時代に逆行してしまったように感じていた

──お互いに思い切り頭突きをしあって開始の合図

思えばあの頃からよくとっくみあって喧嘩をしていた

──アルの拳が思い切りルーエの頬をとらえる

しかしその裏にはたしかな信頼があったように感じる

──ルーエの膝がアルの腹に突き刺さる

自分達はこれくらいじゃ絶交したりしないって

──アル得意のソバットがルーエを吹き飛ばす

絶対に明日には仲直りできるって

──ルーエが力づくでアルをカウンターにブン投げる

とっくみあって喧嘩した夜でもルーエに危機が訪れれば、必ずアルが助けに来てくれる

──アルがルーエの胸倉を掴み頭突きをお見舞いする

互いに口をきかなかった翌日でもアルが危険な場所に踏み込む時、必ずルーエが後ろに来てくれる

──ルーエがそのお返しに頭突きを返す

その絆は一度や二度の喧嘩程度じゃビクともしない

それになによりも──





リリアーナ「それで二人とも、どうしてこうなってるのかな?」

ルーエ「つい昔を思い出して…」

アル「あの頃に戻ったみたいになって…」

リリアーナ「もう、本当に二人とも変わらないのね」


二人はもう一人の幼馴染、リリアーナに正座させられていた
その顔にいつも浮かべている笑顔を一切崩さない、それが恐ろしく怖い
そして二人は思い出した、二人が喧嘩するたびに決着がつかなかった理由を…
途中でリリアーナが必ず二人を止めてくれていたからだ
当時と一切変わらない笑顔がむしろ恐ろしい


アル「変わらないのはリリアもおんなじだよ…」

ルーエ「ああ、全くだ…」


しかしルーエも、アルも、それが嬉しかった
今では遠い昔に感じる学園での生活
三人でいつも一緒に過ごしていたあの日々

卒業から皆違う道を進んだ
しかしそれでも自分たちは変わらない
立場は変われど、ルーエはルーエ、アルはアル、リリアはリリアであり、変わらない

彼女たちはひと時の安心を得て、今日もまた陽の昇らない朝が来る



以上になります
公式で薄幸言われてるルーエをアルといちゃいちゃさせるつもりが
ミュベール先輩といちゃいちゃさせてしまった…

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