ちひろ「プロデューサーさんのフィギュア、発売が決定しました♪」 (51)


モバマスのSSです。

書きためてあるので、どんどん行きたいと思います。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1504933502




~事務所~



奈緒「ふぃー、疲れたぁー」

凛「二人ともお疲れさま。はいスポドリ」

奈緒「お、さんきゅー。んっ…んっ…ぷはぁ! あー生き返るー」

加蓮「奈緒、なんだか年寄り臭いよ?」

奈緒「う、うるさいなぁ!」

凛「ふふ、まぁ今日のレッスンが大変だったのは事実だしね」

加蓮「ほんとほんと。トレーナーさん、いつもに増して厳しかったもんね」

奈緒「大型ライブ開催が決定したからなぁ。トレーナーさんも張り切ってんだよ」

凛「うん。私たちも、トライアドプリムスで出演が決まったし、気合い入れていかないとね」

奈緒「おう!」

加蓮「うん!」




♪~♪~


加蓮「? 何の音?」

奈緒「あ、悪い。あたしのスマホだ」

加蓮「奈緒―? レッスン中は電源切れって言われてるよね?」

奈緒「い、いやーあはは。うっかりだようっかり。……なんだメールかぁ」

加蓮「まったく……」

凛「ふふっ」


♪~♪~♪


加蓮「あれ、また……もしかして、また奈緒?」

奈緒「いや、あたしじゃないぞ? 着信音違うだろ?」

加蓮「じゃあ……」


『メールが届いたみたいだぞ。早めに確認するように。いいな?』


♪~♪~♪


加・奈・凛『……』

加蓮「え、何今の」

奈緒「Pさんの……着ボイス?」

凛「あ、ごめん。私も電源切り忘れてたみたい」

加・奈『やっぱり凛か!』




凛「え、なに? どうしたの二人とも。あー、うんごめん。次から気を付けるから」

加蓮「いや、そうじゃなくて」

奈緒「まったく……凛のPさん好きにも困ったもんだな」

凛「……プロデューサーの写真を待ち受けにしてる奈緒に言われたくないよ」

奈緒「なぁっ/// い、いつ見たんだ!」

凛「さぁ?」

奈緒「りーんー!!」

加蓮「はいはい、ケンカしないの。それで、メールは大丈夫だったの? ほぼおんなじタイミングで来るなんて、偶然じゃない気がするけど?」

奈緒「あぁ、そうだったそうだった。えぇっと……なになに。あぁなんだ、『ちひろショップ』からのお知らせか」

加蓮「……ん?」




凛「へぇ。ほんとに毎月開店するんだね」

奈緒「そうだなぁ。先月突然『ちひろショップ、オープンです♪』って張り紙が張られた時はびっくりしたよなぁ」

凛「……ふーん。今月はプロデューサーグッズ特集なんだ」

奈緒「やっぱPさんの私物特集は、先月だけか。残念だなぁ」

凛「まぁ仕方ないよね。毎回あんな争奪戦騒ぎが起きたら、さすがのちひろさんも大変だろうし」

奈緒「だよなー。でもちゃっかり凛はゲットしてたよな、Pさんが一日中営業で着てたっていうワイシャツ」

凛「ま、あれくらいはね。でも他とられちゃったから、今月こそはって思ってたんだけど…」

奈緒「ま、次の機会があることを祈るだな。ってか、プロデューサーグッズって、『ちひろショップオンライン』の方でも販売してるやつじゃんか。今回はわざわざ店に買いに行く必要もないかな」

凛「ほら、パソコンとかスマホが得意じゃない人もいるし……今月はそういう人に合わせたんじゃないかな?」

奈緒「なるほどなぁ」




加蓮「……ねぇ、ちょっといい?」

奈緒「……? なんだよ、加蓮。そんな険しい顔して……は! まさか体調不良か!? やっぱり病み上がりだったから! あわわ、救急車を――」

加蓮「体調はすこぶる良好だから救急車は勘弁して。そうじゃなくってさ、さっきの話何?」

凛「なにって……『ちひろショップ』の話だけど?」

加蓮「いや、そんな知ってて当然みたいな顔されても困るんだけど……。『ちひろショップ』ってなに?」

奈緒「え、加蓮、『ちひろショップ』知らないのか!?」

加蓮「聞いたことすらない。初耳初耳」

凛「……あ、そうか。加蓮、先月体調崩してたから」

奈緒「あー、なるほど! 加蓮、事務所来てないから知らないのか!」

加蓮「……ははーん、なるほどね? 私がうーんうーんって苦しんでるときに、何やら面白いイベントがあったっていうことかな?」

奈緒「そんなトゲのある言い方するなよ……。いやまぁ教えなかったのは悪かったけどさ」

加蓮「つーん」

奈緒「おいー、そんな拗ねるなよー。悪かったって」

加蓮「……ハンバーガーセット」

奈緒「へ?」

加蓮「今日、いつものお店のハンバーガーセットおごってくれたら、許してあげる」

奈緒「あ、あたしがかぁ!?」

凛「おごってあげなよ、奈緒。それで加蓮の機嫌が直るなら安いものじゃない?」

奈緒「いやいや! 凛だってあたしと同じだろ!? なんであたしだけが奢ることになってるんだよ!」

凛「私、最年少だから。加蓮も年下から奢られるのは嫌だよね?」

加蓮「うん、やだ♪」

奈緒「こんな時ばっかり年の話持ち出してくるなよぉ」

凛「じゃ、今日の夜ご飯が楽しみになったところで……」

奈緒「ちょ、凛の分は奢らないからな!」

加蓮(あ、私の分はちゃんと奢ってくれるんだ)




凛「じゃ、改めて『ちひろショップ』について簡単に説明するね」

奈緒「無視するなよぉ……まぁいいや。えっとだな、『ちひろショップ』ってのは先月いきなりオープンしたちひろさんが経営する店のことなんだ」

加蓮「うん、それはまぁ……名前から予想できる。てか安直すぎ……」

凛「オープンって言っても一日限定だったけどね」

加蓮「一日限定? なんでまたそんな短く……」

奈緒「さぁ? 詳しいことは分からない。まぁでもPさんの私物やグッズを販売なんて普通はありえないことだからさ、あんまり長い期間やって上の人にバレたらまずいって感じだろ、たぶん」

凛「喫茶店の隣の空き店舗のところに急にできたからね。確かに一日くらいならバレないのかも」

加蓮「あー、あそこにできたんだ。いつまでたっても空いてるからおかしいなーとは思ってたんだよね」

奈緒「だいぶ前から、あそこでやるって計画してたのかもな」

凛「ちひろさんだからね……ありえる」

加蓮「ふーん……なるほど。一日限定だったから私が知る由もない、と。で、さっきの話から察するに、第一回目のオープンではプロデューサーの私物が売られたわけね」

奈緒「そうだな」

加蓮「それでちゃっかり凛はプロデューサーのワイシャツをゲットしたと」

凛「うん」(ドヤァ)

加蓮「……いいなぁ。私も行きたかったなぁ」

奈緒「あー、ごめんな?」

加蓮「連絡入れてくれたらすぐ行ったのに」

凛「……そう言うと思ったから、加蓮には連絡しなかったんだよ」

加蓮「なるほど、それは正しい判断」

奈緒「ま、安心しなって。加蓮みたいにお店に行けない人の為にあるのが『ちひろショップオンライン』だからな」

加蓮「なにそれ?」




凛「言葉通り『ちひろショップ』のネット通販版だね。ここならプロデューサーの私物ほど貴重なものは取り扱ってないけど、プロデューサーグッズがいつでも買えるんだ。えっと……ほら、こんな感じで」

加蓮「わ、ほんとだ。キーホルダーとか、Tシャツとかもあるんだ」

奈緒「あたしのPさんの待ち受けも、凛の着ボイスもここで配信されてるんだよ」

加蓮「へぇー、すごいねこれ」

奈緒「まぁ、まだできたばっかりらしいから商品はあんまりないんだけどな。壁紙もこの一種類だし、着ボイスも……なんだっけ?」

凛「メール着信、電話着信、あと目覚ましの一種類ずつだね」

奈緒「そうそう。まだそんだけしかないからなぁ」

凛「どんどん増えるって言ってたし、これからに期待じゃない?」

奈緒「そーだな」

凛「これは一日限定じゃないから、加蓮も登録したら? さっきのメールもこの『ちひろショップオンライン』から来るのだから、早いうちに登録したほうがお得かもね」

加蓮「どれどれ早速……あれ? 調べても出てこないんだけど」

奈緒「ああ、ここのアイドル限定のサイトだから普通に調べても出ないんじゃなかったっけ?」

凛「うん。今URL送るから待ってて」

加蓮「ありがと」




奈緒「ただ、気をつけろよ? さすがちひろさんが経営してるだけあるって感じがするからさ」

加蓮「どういうこと?」

奈緒「高いんだよ、値段が」

加蓮「そうなの?」

奈緒「ああ。元々こういうキャラクター系のグッズは高いんだが……それと比較しても、このちひろショップのは高額なんだ。下手したら二倍近く高い」

加蓮「へぇー」

凛「まぁそれでも買っちゃうんだけどね」

奈緒「ここにしかないからなぁ。まったく、このプロダクションのアイドル限定に販売してんだからもう少し安くしてくれてもいいのに――」

ちひろ「でもその分、皆さんの求めている高クオリティの商品を提供してますから♪」ニュッ

奈緒「それは分かる。いや、でもなぁ……ってぇ! ちひろさん!?」

ちひろ「はい、千川ちひろです♪」

凛(生えてきた……)

加蓮(生えてきたね……)

奈緒「な、なな何でここに!?」

ちひろ「偶然通りかかったら面白そうな話がきこえてきたものですから、つい混ざっちゃいました」

加蓮(いやいや、偶然じゃないでしょ、絶対)

ちひろ「加蓮ちゃん、何か言いました?」

加蓮「ううん、なにも」

ちひろ「そうですか。それで、奈緒ちゃん? 『ちひろショップ』に何か言いたいことがあるみたいですが、要望があれば聞きしますよ?」ニッコリ

奈緒「ひっ! な、なんでも……ないです」

ちひろ「ならよかったです♪」

奈緒「……」

加蓮(あ、奈緒の口から魂が…)




凛「あ、そうだ。ねぇちひろさん」

ちひろ「はい、なんですか?」

凛「今月のこの店頭販売の商品ラインナップ、オンラインの方で買えるやつだよね? 今月はやっぱり……プロデューサーの私物は無しになったの?」

ちひろ「はい……実は前回の騒動で上の人から若干お小言を言われてしまいまして」

奈緒「そりゃそうだ。100人以上のアイドルが一か所に詰めかけたわけだから、大事にもなるって」

ちひろ「私も、まさかあそこまで殺到するとは思っていなくて。ですので、当分はまた騒ぎを起こすわけにもいかないんです。でも『毎月開催します』と言った手前引くこともできず……仕方がないからこのラインナップといった感じなんです」

凛「なるほど」

奈緒「そっかぁ…そうなると、Pさんの私物が出品されるのは当分先かー」

ちひろ「そうなりますね。でも、安心してください。今回は、少々の新商品に追加して、アイドルみんなの不満を解消するとっておきのグッズを発売することに決めたんです!」

加蓮「とっておきのグッズ?」

ちひろ「はい。あとから皆さんにもメールするつもりだったんですが……三人には特別に見せちゃいますね。はい、これチラシです♪」

奈緒「あ、ありがとうございます……って、えええええっ!?」

加蓮「うわっ、びっくりした。いきなり大声出さないでよ」

奈緒「こ、これ! ほんとかよ!?」

ちひろ「はい、ほんとですよ」

凛「なに? なんだったの奈緒?」

加蓮「もったいぶらずに教えてよー」

奈緒「……Pさんの」

凛「プロデューサーの?」



奈緒「Pさんの……1/5サイズのハイクオリティフィギュアだ……っ!」



凛・加『!?』



―――――――――――――――――――――――――――――


――当時のことをよく知る神谷奈緒(17)は、そのことを振り返りながらこう語った。

「今思い返せば、あのフィギュア発売の情報が全アイドルにもたらされた瞬間から、水面下で戦争は起こってたんだろうな。欲しいモノを絶対に手に入れんとする女の闘い。そりゃあ熾烈を極めるのも、仕方がないさ」

「でもあの時は、誰一人として気付いてなかったんだ。あたしたちは……あの人の掌の上で、ただただダンスを踊っていたに過ぎなかったってことをさ」

――奈緒。

「なんだよ?」

――奈緒のそのかっこつけた話し方、笑える。

「はぁ!? お前らがプロジェ○トXみたいな語り口調にしろって言ったんだろ!? あーもうカメラ止めろ! ってかこんなん撮影してどうすんだよー!!」


―――――――――――――――――――――――――――――




~事務所~



桃華「皆さん、集まってますわね?」

みりあ「うん!」

薫「集まってまー!」

仁奈「仁奈も! 仁奈もいるでごぜーます!」

千枝「はい、千枝もいます」

桃華「よろしい。ではさっそくPちゃまのフィギュアについて勉強しようの会を開始いたしますわ!」

『はーい!』

桃華「この会は、今度発売されるPちゃまのフィギュアについて知識を深めて、手に入れた時の喜びをより一層大きくさせることを目的として行います。みなさんよろしくって?」

薫「うん!」

千枝「大丈夫です」

仁奈「目的とかはよくわかんねーですけど、仁奈もフィギュア手に入れてーです!」

桃華「ふふっ、その気持ちが一番大切ですわ。……ごほん、それでは今回の講師の先生をお呼びいたします。こういったグッズに詳しい、荒木比奈先生ですわ!」

比奈「どもっス。今日はよろしく」

『よろしくお願いしまーす!』




桃華「では、ご教授をお願いいたします」

比奈「いやー、こうやってものを教える立場って、なんだか照れるっスね……。まぁそれはおいといて、さっそく始めるっスよ」

比奈「えー今週末に、ちひろショップがまた一日限定で開店するっス。開店時間は午後5時から7時まで。前回の騒動のせいか、短い営業時間になってるっス。販売内容はプロデューサーグッズのみ。何個か新商品が発売されるみたいっスけど、前回のようなプロデューサーの私物はないみたいっスね」

千枝「残念です…」

比奈「あれだけの騒動が起きれば必然かと。まぁそういう事なんで、今回は現地のお店にいくメリットはほぼ無いっス。それよりも注目すべきは、やっぱりプロデューサーのフィギュアの方っスね」

桃華「わたくしもそう思いますわ」

比奈「そうっスねー。さっき言った新商品もきっと近いうちにオンラインの方で販売されると思うっス。それよりもフィギュア! 今回開店と同時に発売されるフィギュアは、正式な名前をいうと『シンデレラガールズ担当プロデューサー 1/5ハイクオリティフィギュア』っス。……えっと、みんなもう分数は習ったスよね?」

仁奈「うおー分数だー! 習ったばっかりでごぜーます!」

比奈「そっか……分数って小2辺りで習うんスよね。もう過去のことすぎて……泣けてくる」

みりあ「比奈ちゃん?」




比奈「なんでもないっス。仁奈ちゃんが分数を習っているなら、みんなも大丈夫っスね。それじゃあ話をつづけるけど、この分数は、フィギュアの大きさがプロデューサーの身長の1/5の大きさであるということを表しているっス」

桃華「つまり……具体的にどれくらいの大きさですの?」

比奈「ちひろショップから送られてきたメールには、カタログスペックが書いてないので詳しいことは分からないっスけど、成人男性の平均身長がだいたい170㎝だから……計算すると34センチっスね」

薫「34cm!?」

みりあ「大きいね!」

比奈「そうっスね。フィギュア業界全体から見ても34cmは大きいとされているっス。そして、大きいフィギュアにはとあるメリットが生まれるっス」

千枝「メリット?」

桃華「良いこと、という意味ですわよね? それはなんですの?」

比奈「ふふっ……大きいフィギュアは細かいところまで再現できるから、必然的にとても素晴らしい出来になるんスよ!」

みりあ「へー! そうなんだー!」

比奈「まぁ大きいからこそ造形が難しいとも言われるんスけど……このフィギュアはハイクオリティを謳い文句にしてるっス。つまりこれは、プロデューサーの良い所を余すことなく表現したとてつもない一品になると自分は予想してるっス!」

仁奈「おー……なんだかよくわかんねーけど、すげーことはわかるでごぜーますね……」

桃華「これは期待ですわね!」

比奈「ただし! 注意してほしいのは値段と個数っス」

千枝「どういうことですか?」

比奈「まず値段。さすがちひろショップと言わんばかりの高値になってるっスね。4万円強のフィギュアってなかなか無いっスよ……まぁガレージキットみたいなものだから仕方ないっちゃ仕方ないっスけどね」

桃華「4万円って高いんですの?」

比奈「いやまぁ、桃華ちゃん的にはどうということはない値段かもしれないっスけど」

千枝「4万円……確か先月のお仕事のお金で……うん、買えます」

みりあ「いっぱい貯金してるから大丈夫!」

薫「かおるもー!」

仁奈「仁奈も買えると思うなー」

比奈「あー、うん。みんな売れっ子ですもんね……稼いでるっスよね。ちひろさんもそれを分かってあの強気の値段なんスよね、きっと」




比奈「じゃあ値段の問題はいいとして。一番の問題は個数っスね」

薫「個数?」

比奈「メールの一番下に書いてあるので見逃してる人も多いと思うんスけど、このフィギュア、50個限定販売みたいっスね」

千枝「50個?」

桃華「この事務所に所属してるアイドルは180人以上……そんな!」

比奈「そう、もしみんなが買いたいと言っても、圧倒的に数が足りてないんス! 100人以上のアイドルは買うことすら許されないんスよ!」

みりあ「えー!」

仁奈「仁奈、買えないの嫌でごぜーます!」

比奈「この事務所は、桃華ちゃんたちを含め、プロデューサーのことが好きなアイドルは多いっス。ほぼ全員と言っても過言じゃない。しかもこの発売日は、くしくも事務所アイドル全員がオフという奇跡の日っス。仕事に時間を割かれることもなく、発売に向けて準備ができる」

薫「それじゃあ!」

比奈「このプロデューサーフィギュア争奪戦は、残酷で、無情で、悲惨な戦いになることは……間違いないっス」






泉「いい? さくら、亜子。今回のこのプロデューサーフィギュアの入手。激戦が予想されるこの戦いを勝つために大切なのは、スピードなんだ」

さくら「スピードぉ?」

泉「そう。いかに早くプロデューサーフィギュアのページを開き、いかに早くカートに入れるボタンを押し、いかに早く決算するか。それにかかってるんだよ」

亜子「ちょい待ってやいずみ。別に、スピードは関係ないやろ。だって、このフィギュア抽選販売って書いてあるやん。お一人様一個までで、抽選販売」

泉「うん、そうだね。抽選受付時間は午後5時から7時の間。9時には抽選結果を発表しますだって……ちひろさんの仕事の早さには驚かされるよ」

亜子「まぁそれは同意やけど……抽選ってことは、スピードじゃなくて、運の勝負と違うん?」

泉「……亜子、メールちゃんと全部読んだ?」

亜子「へ?」

泉「ほら、メールのここ。『なおお申し込みの早い方から、ちひろショップご愛好の証として、当選確率が少々上昇するようにしてあります』って」

亜子「なんやそのシステム!?」

泉「私も正直理解はできないけど……この文通り『すぐ申し込んでくれるということは、ちひろショップが大好きな証拠ですね。嬉しくなっちゃったので当選確率ちょっとおまけしちゃいます♪』ってことでしょ?」

亜子「うわ、いずみのちひろさんのマネ全然似てへんわ……」

泉「そ、それは別にいいでしょ!///」

さくら「わたしは好きだよぉ」

泉「ありがと、さくら」

さくら「えへへ~」

亜子「はいはい、ごちそうさんでした」




泉「……ごほん。まぁでも確率が上がったところで抽選は抽選。しかも一人一個だし。……複数個買って転売しようとか考えてたなら、残念だったね、亜子」

亜子「えっ! な、なんで分かったんや!?」

泉「まぁ、それなりに付き合い長いから」

さくら「バレバレだよぉ」

亜子「げ!? さくらにまでバレてたんか……。アタシの腕も落ちたなぁ」

さくら「どういうことー?」

亜子「あははっ、なんでもないなんでもない」

さくら「むー……でも不安だなぁ。ちゃんと買えるかなぁ」

亜子「こればっかりは運の勝負やしなぁ。難しいんとちゃう?」

さくら「えー!?」

泉「ごめん、さくら。こればっかりは頑張ってとしか言えない。私だってどうなるか……」

亜子「せやなぁ。運の勝負とはいえ、アタシらの事務所、Pちゃんのことになるととんでもないことしてくる子ばっかやでな……」

さくら「むー」

亜子「そないふくれっ面にならんでも……。まぁでも、アタシもほしいからなぁ、Pちゃんのフィギュア」

泉「あれ、意外。亜子は……その、なんていうか、Pの事好きってほどじゃないと思ってたんだけど」

亜子「うん、まぁそうなんやけど……。いやー、転売できへんならせめて、アタシの1個を高く売りつけるだけやなって思ってな」

泉「誰に?」

亜子「さくらに」

さくら「なんでわたしが買えないことになってるのぉ!」

亜子「あははっ、冗談やって冗談!」

さくら「もー!」

泉「…ふふっ」






文香「はぁ……」

ありす「文香さん? ため息なんてついて……どうしたんですか?」

文香「……すみません。少々自己嫌悪と言いますか……」

ありす「自己嫌悪……? 文香さんがそんな、嫌悪することなんてありませんよ!」

文香「ありすちゃん……ありがとうございます。ですが、こればかりは」

ありす「何かあったんですか? 私でよければ相談に乗ります!」

文香「では、お言葉に甘えて……。これなんですが」

ありす「? あぁ、Pさんのフィギュアですね。私も買う予定です! ……で、これがどうしたんですか?」

文香「このフィギュア、大変欲しいのですが『ちひろショップオンライン』のみの限定販売だそうで……」

ありす「そうみたいですね。でもそれのなにが――あ、そっか……。文香さんあんまりパソコンとか」

文香「はい……。ああいった機械類はまだ不得手で……恥ずかしながら、ちひろショップオンラインの使い方すら分かっていないんです」

ありす「そうですか……」

文香「……マキノさんや泉さんにもご教授いただいたのですが、やはりどうにも慣れることが出来なくて」

ありす「うーん、でもそうなるとこのフィギュアを買うのは難しいですね……さすがに文香さんのアカウントをお借りするわけにもいきませんし」

文香「そうですよね……。一応当日はちひろショップの現地に行ってみるつもりではあるのですが……」

ありす「オンライン限定、ですからあまり期待は……。あのちひろさんがそういう所で贔屓をするとは思えませんし」

文香「……」ショボーン

ありす「っ……文香さん落ち込まないでください! 」

文香「ありすちゃん……?」

ありす「大丈夫です。私が手に入れたら、文香さんにも貸してあげますから!」

文香「ですか……このフィギュアを手に入れるには、激戦の中で幸運を掴み取るしかありません。そんな戦いを制したありすちゃんの喜びを……何もしてない私が、一緒に受け取ることなんて……」

ありす「いいんです。私、Pさんのフィギュアも大切ですけど……それよりも、文香さんのことも大好きですから」

文香「ありすちゃん……」

ありす「待っててください。絶対に手に入れてみせますから! そしたら、二人で鑑賞会しましょう! いつまでも、何回でも!」

文香「ありすちゃん……ありがとうございます」ナデナデ

ありす「あっ……えへへ」







美優「あれ……川島さん?」

瑞樹「え? あら、美優ちゃんじゃない! どうしたのこんなところで」

美優「ええっと……この先の部屋に用事があって。川島さんこそ……それ、持ってるのノートとペンですか?」

瑞樹「そうよー。これからちょっと講習会みたいなのがあってね。それに参加するの」

美優「講習会……川島さんも、マキノちゃんのあれに参加するんですか?」

瑞樹「『も』ってことは、美優ちゃんも?」

美優「あぅ……そうです///」

瑞樹「なにー? 恥ずかしがることなんてないじゃない。ただオンラインショッピングのやり方について教えてもらうだけなんだから」

美優「そう……ですよね」

瑞樹「そうそう。でもありがたい話よね、講習会って形で教えてもらえるなんて。私、ああいうオンラインショッピングとかやったことなかったから、P君のフィギュアどうやって手に入れようかしらーってずっと考えてたのよ」

美優「……正直、意外です」

瑞樹「そう?」

美優「はい。川島さんは、そういう最新機器とか便利なことはどんどん活用してるイメージがあったので」

瑞樹「んー、そうねぇ。私も便利そうだしやってみようかなーとか思ったこともあったんだけど……ほら、ああいうオンラインショップって、商品を選ぼうとしても、画像しか見れないじゃない?」

美優「そう……なんですか?」

瑞樹「そうなの。だからどれくらいの大きさなのかーとか、どういう機能があるのかーとかっていうのは文字情報でしか見れないのよ。それがじれったくって」

美優「あー……なるほど」

瑞樹「私はもっとこう、実際に商品を見たいの。見て買いたいの! だから、性に合わなかったのよねぇ。……私は、美優ちゃんこそああいうのを活用してると思ってたわ。元OLなんでしょ?」

美優「元OLは関係ないかと……」

瑞樹「でもほら、ばんばんパソコンとかネットとか使ってるイメージだったから」

美優「あー、確かにそういう方もいらっしゃいますが……私はもともとこういう機械類が苦手で」

瑞樹「あー、そういうタイプなの」

美優「恥ずかしながら。OLの時も、必死にWordやExcelといった基礎的なものを勉強しただけで……。えっと、ネットリテラシーというんですか? ああいう能力は全くなくって……」

瑞樹「わかるわー。最近の機械ってホント複雑よね」

美優「はい……」




瑞樹「でも、若い子たちって、最新のものでもじゃんじゃん使いこなすわよねぇ」

美優「そうですよね。驚くことも多いです」

瑞樹「分かってくれる?」

美優「はい。この前、仁奈ちゃんがスマホを使っていた時はびっくりしました……」

瑞樹「仁奈ちゃんが? はー、やっぱり若い子ってすごいわね」

美優「そうですね……。今回のこの講習会も、参加するのは20代後半のアイドルばかりだって噂もありますし」

瑞樹「……つらいわねぇ」

美優「そうですね。……あれ、前、誰か歩いてませんか?」

瑞樹「あら、ほんとね。……ん? あの後ろ姿は――」

美優「あっ」







菜々「あれ! 瑞樹さんと美優さん! こんなところで会うなんて偶然ですねっ! あ、もしかして二人もマキノちゃんのオンラインショップ講習会、参加するんですか? 実はナナもでして……。もしよかったらご一緒してもいいですか?」

瑞樹「……」

美優「……」

菜々「あれ? 瑞樹さん? 美優さん?」

瑞樹「……参加するのは20代後半のアイドルばかり、よね?」

菜々「そ、その憐みの目はなんですかー! ナナは確かにネットがちょっぴり苦手ですけど! ちゃーんと17歳ですからぁ!」

瑞樹「……そうね。永遠の17歳だもの、若いわよね。若いはずよね、菜々ちゃん」

菜々「なな、なんですかその言い方はぁ!」

美優「川島さん、そんな風に言ってはダメです」

菜々「美優さん……?」

美優「大丈夫ですよ、菜々ちゃん。若い子でも、苦手なことぐらいありますよね。だから、ネットが上手く使えないくらいで、恥かしがることはないですよ?」

菜々「えっ、あ、はい……ゴシンパイヲオカケシテスミマセン」

瑞樹(しまった。この子はウサミンを信じてる人だったわ。なんていうか、迂闊にツッコミを入れられない分、菜々ちゃんも大変ね……)




―――――――――――――――――――――――――――――


奈緒「とまぁ、発売一週間前はこんな感じに慌ただしかったわけだ。そりゃいろんなヤツがいたさ。中でも変だったは、フィギュアを手に入れた後の妄想を膨らませたり、入手できるかわからないからって陶器でPさんを作りだしたり、フィギュア用の眼鏡を買ってきたり、フィギュアを見ながら食べるドーナツを買ってきたり、フィギュアを躾けるための鞭を買ってきたり……失礼なことは分かってるが、バカみたいなことをしてるヤツがたくさんいた」

奈緒「まぁそれだけみんなが、Pさんのフィギュアを熱望してたって証拠だけどな」

――奈緒はプロデューサーフィギュアの為になにかした?

奈緒「あたし? あたしは……特に何もしてないかな」

――ふーん、特になにもしてないんだ。

奈緒「な、なんだよ……?」

――じゃあ、フィギュアを一番いい場所に置くために、鼻歌唄いながら部屋を模様替えしてたのは、奈緒にとっては特別なことじゃないってこと?

奈緒「な、なんでそれを知って! てか鼻歌も聞かれっ! あぁもうなんだよー! この動画はあたしを辱めるためのものじゃないだろぉ!」

――奈緒。まだカメラまわってるんだから、早く進行して。

奈緒「え、あ、はい。……なんか、今日のお前ら冷たくないか? まぁ進めるけどさ……」

奈緒「それでだ。みんなが熱望していたからこそ、フィギュアが発売される当日はみんな鬼気迫る顔をしてたよ。あの時の事務所の雰囲気は今でも思い出したくない。……発売される前からそんな感じだったんだ、抽選の結果がでた瞬間は、歓喜の声と悲しみの絶叫がいたるところ聞こえてきたって話も、あながち嘘じゃないのかもしれないな」

奈緒「でも、みんなが知っての通り、物語が大きく動くのはここからなわけで」

奈緒「……フィギュア発売の翌日、その事件は起きた。事務所で今なお話題となる、あの事件がな」


―――――――――――――――――――――――――――――





~事務所~



泰葉「みんなお疲れ様、遅れてごめんね」

ほたる「い、いえ。私たちも今ちょうど集まったところなので……」

泰葉「そう? ならよかった。それにしても……予想通り、プロデューサーのフィギュアが当たった当たってないで大騒ぎだね」

裕美「そうみたい。でもみんな欲しがってたから、話題になるのはしょうがないよね」

泰葉「そうだよねー。みんなはどうだったの?」

千鶴「……買えませんでした。ほんと私ってここぞという時の運がないから……ほんとつらい……悲しい……」

泰葉「あはは……まぁそう言う事もあるって」

千鶴「うぅ……そ、そういう泰葉さんはどうだったんですか?」

泰葉「私? 私は当選したよ」

裕美「わ、私も! なんとか買えた! えへへ……」

千鶴「ほんとに!? 二人ともいいなぁ……。ほたるちゃん、二人で不幸な者同士仲良くしようね……」

ほたる「え、あのっ、私は」

裕美「いじけないでよ千鶴ちゃん。ほら、届いたらみんなで鑑賞会とかしよ? ね?」

千鶴「うん……裕美ちゃんありが――」

ほたる「あ、あの!」

泰葉「ほ、ほたるちゃん? どうしたの?」

ほたる「実は、あの、私も……と、当選したんです」

『……えっ!?』

千鶴「そ、そんな……ほたるちゃんが……!?」

泰葉「あのほたるちゃんが!?」

裕美「まさか、悪魔に魂を!?」

ほたる「た、魂は売ってないけど……実は――」

茄子「あ、ほたるちゃん。……その様子だと、無事当たったみたいですね、おめでとう♪」

朋「お、ほたるちゃん当たった? よかったよかった。あたしの開運ブレスレットのおかげだね!」

ほたる「茄子さん、朋さん。昨日はありがとうございました」




泰葉「……まさか、ほたるちゃん。お二方の力を借りて?」

ほたる「はい。なんとかフィギュアを手に入れられないかと、二人にお願いいしたんです」

茄子「私のお祈りが上手く届いたみたいでよかったです」

裕美「さすが……」

千鶴「幸運と開運のコンビ……! 私もお願いしたかったっ」

泰葉「……もちろん茄子さんは」

茄子「はい、私も当選してますよ♪」

泰葉「さすがですね……人も当てさせ、自分も当たるとは」

裕美「朋さんは?」

朋「あたし? あたしは落ちたよ!」

千鶴「えぇ……」






未央「え!? 茜ちん当選したの!? いいなぁ」

茜「そうなんです!!いやー、当選メールが来た時は思わずボンバーしそうになってしまいましたよ!!」

未央「しなかったんだ!? 茜ちんらしくない」

茜「もしボンバーしてスマホを壊してしまったら当選メールまで消えてしまうのではないかと思って、なんとか踏みとどまったんです!!」

未央「おー! 成長してるねぇ茜ちん!」

茜「はい! 代わりにマグカップを粉砕してホットミルクまみれになってしまいましたが!」

未央「うーん! 全然成長してないねぇ茜ちん!」

茜「藍子ちゃん! 藍子ちゃんはどうでしたか!?」

藍子「私ですか? 私は……えっと」

未央「ん? どうしたのあーちゃん? あ、もしかして……私に遠慮してる?」

藍子「あ、ううん。遠慮なんてしてないんだけどね」

未央「あ、遠慮してないんだ……。そっか……」

藍子「その……私、申し込みすらしてないの」

茜「え!? 藍子ちゃんが!?」

未央「プロデューサーさん好き好き大好きあーちゃんが!?」

藍子「もー、なにそれ」

未央(自分で言っておいてなんだけど、否定しないのか……)

藍子「申し込みしなかったっていうか、出来なかったっていうか……私だって、ほんとは欲しかったんだよ? でも……」

茜「でも?」

藍子「発売まで待てないからって、愛梨ちゃんとかな子ちゃん、あと志保ちゃんとお菓子パーティーしてたら……いつの間にか申し込み時間が過ぎてて」

未央「うわぁ……それはそれは」

茜「でました! 藍子ちゃんゆるふわ空間発動ですね!」

藍子「お菓子パーティーは楽しかったから良いんだけど……ちょっと残念。茜ちゃん、届いたら見に行ってもいい?」

未央「あ、私もいきたーい!」

茜「おー!もちろんです!! 一緒にプロデューサーフィギュアを愛でましょう!!」






美穂「まさか……」

卯月「私たち三人とも……」

響子「誰も当選してないなんて……」

『……はぁ』

響子「……やっぱり、奪い取るしか」

卯月「響子ちゃん!?」

美穂「ステイステイ! 黒いオーラ出ちゃってるから! ブラック響子になっちゃってるから!」

響子「はっ! 私はなにをしようと……」

卯月「無意識だったんですか!?」

美穂「プロデューサーさんを好きすぎるのも、困りものだね……」





ありす「うっ……うぅぅ……ふ、文香さぁん……ぐすっ」

文香「……ありすちゃん、泣かないでください。人生は長いものです。躓く時も……あるものですから」

ありす「でも……でもっ、文香さんの思いも背負ってたのに……私……ぐしゅ…ごめんなさい……文香さん…うぅ……」

文香「ありすちゃん……。私の為に、頑張ってくれたのですね……ありがとうございます」

ありす「文香さん……」

文香「ありすちゃんの……とても優しい気持ち、私にちゃんと届きましたから。私は……それで十分です」

ありす「文香さん…っ!」

文香「それに……実は昨日、いいことがあったんです」

ありす「いいこと?」

文香「はい。プロデューサーさんのフィギュアに勝るとも劣らない……素晴らしいものが、手に入ったんです」

ありす「素晴らしい……なんなんですか、それは?」

文香「プロデューサーさんが来てからの……お楽しみです」




ガチャッ


モバP(以降P表記)「おいーっす! みんなお疲れさん……ってなんだこの剣呑な雰囲気は!? 空とてつもなく重いところと、とてつもなく明るいところがないまぜになって、空気が気持ち悪いことになってる……」

ちひろ「お疲れ様です、プロデューサーさん♪」

P「あぁ、お疲れ様ですちひろさん。……あの、なんですかこの事務所の雰囲気。俺がいない間に何かありました?」

ちひろ「さぁ、私には分からないですね♪」

P「逆になんでちひろさんはそんなにニコニコなんですか……」




まゆ「うふふ、Pさん♪」

P「おお、まゆ。お疲れさん。なぁまゆ、聞きたいことがあるんだけどさ。朝、なにかあったり――」

まゆ「うふふっ、Pさぁん…」

P「お、おう。プロデューサーだぞ?」

まゆ「うふふふっ……Pさぁん……Pさぁん♡」

P「まゆ、ちょっと待てまゆ。なんでそんなじりじり近づいてくるんだ…? どうした、何かあったのか?」

まゆ「Pさぁん♡ Pさぁぁん♡ Pさぁぁぁん♡」

P「こわ!? まゆこわ!? ちょいまじでなになになになに!? いつもの、いつもの可愛いまゆに戻ってくれぇ!」




麗奈「見なさい、光。あれが『愛さえあればPのフィギュアが手に入ると信じていたまゆ』の悲しい末路よ」

光「そ、そんな……」

麗奈「これでもまだ、愛だの正義だのが世界を救えると思ってるの?」

光「それは……」

麗奈「フン! 人っ子一人救えない正義の味方なんて、聞いてあきれるわね!」

光「くっ! 正義は……愛は……悪に勝てないっていうのか!?」

若葉「はいはい。光ちゃんを変ないじり方しないの。というか、まゆちゃんにも失礼だし……フィギュアが手に入らなかったイライラを人にぶつけちゃダメでしょ?」

麗奈「なっ!? アタシは別にPのフィギュアなんて!」

若葉「マキノちゃんにオンラインショップのやり方教えてもらってたのお姉さん知ってるわよ?」

麗奈「うぐぐっ、こんな時ばっかり年上風吹かせて……悔しいぃ」





ありす「文香さん、プロデューサーが……」

文香「はい、分かってます。……ちょっと、行ってきますね」




P「ふぅ。乃々と輝子がまゆを止めてくれなかったら、恐怖心でおしっこ漏らすところだった……危ない危ない」

文香「プロデューサーさん……」

P「お? 文香か。どうした?」

文香「これを……」

P「うん? ……封筒、いや手紙? 開けていいのか?」

文香「はい」

P「どれどれ……あぁー、これか!」

文香「今日から……よろしくお願いします」

P「あははは……まさかほんとに実現させるとは」

ちひろ「あら、文香ちゃん。さっそく使うんですか?」

文香「はい……ちひろさん、ありがとうございます。有意義な一か月を……過ごさせていただきます」

ちひろ「はい、楽しんでくださいね」




未央「ちひろさん。今のふみふみの手紙みたいなの、なんなの?」

ちひろ「あれですか? あれは――」



ちひろ「昨日のちひろショップの新商品『1か月プロデューサーさんとイチャイチャし放題チケット』です♪」



『!?』




未央「な、なななにそれー!?」

卯月「目玉商品は、プロデューサーさんのフィギュアだけじゃなかったんですか!?」

ちひろ「何を言ってるんですか卯月ちゃん。ちゃんと、メールに書いたじゃないですか。今回のちひろショップでは数点の『新商品』のほかに、プロデューサーさんのフィギュアを販売するって」

藍子「それじゃあ……そのチケットが」

ちひろ「はい。今月の新商品! 税込5万円です♪」

瑞樹「た、謀られたわ!」

美優「じゃあ文香ちゃんは、もしかして……」

文香「はい……。パソコンなどはうまく扱えませんでしたから、もしお店の方でフィギュアを取り扱っていればと思い……行ってみたんです。そしたら……」

美優「このチケットを見つけたと」

文香「はい」

P「ショップとかフィギュアって何のことです?」

ちひろ「プロデューサーさんは知らなくていいことです♪」

P「……そうですか」

まゆ「で、でも! こんな不純なチケット、まゆのPさんが許すわけ――」

ちひろ「甘いですよ、まゆちゃん。こんなものをプロデューサーさん非公認で売るわけないじゃないですか、ね? プロデューサーさん」

P「まぁ、そうですね。公認っていうか……確か、前の飲み会の時、俺が言ってたやつですよね?」

ちひろ「はい。プロデューサーさんが『この頃みんなと交流が全然できていない』『いっそのこと1か月アイドルとずっと一緒に過ごしてコミュニケーションをとりたい』と熱弁していらっしゃったので、このような形にしました♪」

P「まさか実現させるとは思ってませんでしたが……で、今回は文香に当たったと」

文香「……はい」

P「ということなんだ、まゆ。つまり一応俺公認ってことになるのかな」

まゆ「そ、そんな……ブクブクブクブク」バターン

森久保「まゆさんがショックでありえない倒れ方したんですけど!?」

輝子「あ、泡も吹いてる……。少し、安静にしておこう」

森久保「そうですね……」




瑞樹「待って! これじゃあ文香ちゃんのひとり勝ちじゃない!」

美優「一か月は長い、ですね。もしその間に、プロデューサーさんを文香ちゃんに取られてしまうかもしれないと思うと……」

瑞樹「これはちょっと、まずいわね」

菜々「ちょ、ちょっと待ってください! ちひろさん、プロデューサーさん!」

ちひろ「はい、菜々ちゃん。どうしましたか?」

菜々「さっきの話を総合すると、文香ちゃんの一か月間が終わったら、また別のアイドルに順番が回ってくる可能性もあるってことですか!?」

ちひろ「私はそのつもりですよ♪」

P「ちょ、そんな安請負するようなことを…」

ちひろ「プロデューサーさんは、アイドルの皆と仲良くなりたくないんですか?」

P「それは……仲良くなりたいに決まってますけど」

ちひろ「スケジュール調整とかは、私が何とかしますから、ね?」

P「……はぁ、わかりました。じゃあこれはちひろさんに任せますよ」

ちひろ「任されました。という事でもしかしたら今後、ちひろショップで今回のようなチケットが発売される、かも♪」

『!?』

泰葉「それじゃあ!」

千鶴「この1か月の寂しさを耐えれば……!」

裕美「チャンスがあるかもしれない!」

ほたる「そ、そのチャンスを活かすことができたら……」

『プロデューサーを自分のものにできる!』ザワ…ザワ…





亜子「……いやー、うまいなぁちひろさんは」

さくら「え? ちひろさん美味しいの?」

亜子「どんなズレた発言やそれは。そうじゃなくて、ちひろさんの商売の仕方がうまいって意味」

泉「どういうこと?」

亜子「……今回のPちゃんとイチャイチャできるチケットの販売をほのめかす発言。これのおかげで、ちひろショップに対するみんなの関心がうなぎ上りになってる。プロデューサーフィギュアとイチャイチャチケット。たったこの二つのせいで、アタシらの中で『ちひろショップ』という存在がどんどん大きくなってきとるの、分かるやろ?」

泉「……うん」

さくら「えっと、それが大きくなるとどうなるの?」

亜子「簡単な話や。ちひろショップの売り上げが大きくなって、ちひろさんがどんどん儲けることになる」

さくら「それ……あんまり良くないんじゃないの?」

亜子「良くないやろなぁ……。でも、もう止められんやろ。今の皆に『ちひろさんが儲けちゃうからチケットが販売されても買わないようにしよう』なんてゆうて、聞いてくれる人はおらん」

泉「……そうだね。私だって、自分を抑えられる気がしない」

亜子「せやから言ったんや。ちひろさんはうまいって。商売だけやなく、人心掌握もな」

ちひろ「……うふふ♪」





P「一気に騒がしくなってきたな……」

文香「……みなさんが何と言おうと、今は私の番です」ボソッ

P「何か言ったか?」

文香「いえ……なんでも」

P「そっか。とりあえず1か月間、どうしようか。イチャイチャっていうのはよくわからんが、せっかくなら有意義に過ごしたいよな?」

文香「そうですね……とりあえず、毎日の送り迎えをお願いしてもいいですか?」

P「送り迎えな、了解」

文香「それと……食事もできるだけご一緒したく思います」

P「食事か。時間が合えばだが……文香と食事か。楽しそうだな」

文香「はい。私も……楽しみです」

P「あとは――」

文香(……この1か月は、プロデューサーさんを独占できる。ずっと一緒に居られる。誰も邪魔はできない)

文香(そうなれば後は……)



文香(プロデューサーさんを、堕とすだけ)



文香「ずっと一緒に居ましょうね? ……私のプロデューサーさん」





~~1か月後~~



P「……この1か月、文香と共に過ごして、多くのことに気づくことができた。文香とコミュニケーションを重ねることで、俺のまだ知らない文香の素晴らしい魅力を何個も発見できたんだ」

P「俺は嬉しかった。だって、文香の新しい魅力に気づいたからこそ、彼女をもっと輝かせることができるんだから」

P「でも……それだけじゃなかった。文香と過ごす中で俺はもう一つ、重要なことに気づいたんだ。彼女の存在が、俺にとって大きくなっていることを。彼女の存在に心が惹かれてることを。どうしようもなく文香を好きになってしまっていたことを」

P「だから……長い長い時間をかけて、文香と話し合って決めたんだ」

P「文香がトップアイドルになった暁には――」

文香「……私は、アイドルを引退して」



P「俺と文香は、結婚することに決めた」



ちひろ「えっ」

『ええええええぇぇぇぇぇぇ!?』




まゆ「ブクブクブクブク……」バターン

乃々「まゆさんがまた泡拭いて倒れたんですけど!? あ、まゆさんだけじゃない。智絵里さんも、響子さんも、ゆかりさんも、凛さんも、藍子さんも、桃華さんも、留美さんも、心さんも……ああああ、みなさんショックでどんどん倒れてるんですけど!」

輝子「フヒ、もはや一芸になってきてるな……」

乃々「そんな冷静な分析をしてる場合じゃないんですけど!? もりくぼも普通に驚いてるんですけど!?」

ありす「わ、私は……私はどうしたら……Pさんも好きですけど……文香さんも好き……うううぅぅ……きゅう」バタン

輝子「……1名、追加だな。フヒ」




ちひろ「プロデューサーさん、正気ですか?」

P「俺は正気だ。心惹かれた女性と結婚したいと思って何が悪いんだ?」

ちひろ「いや、悪くはないですけど……」

未央「私の……私たちのプロデュースはどうなるのさ!」

P「もちろん続ける。それは結婚した後も変わらない、変えるつもりはない。俺はお前たちの担当プロデューサーだからな。みんなをトップアイドルにするまで、やめる気はないさ」

未央「それなら良いけど……いや良くないけど!」

瑞樹「……わかるわ。終わったのね、なにもかも」ガクッ

美優「川島さん! 気をしっかり持ってください! 川島さんがそんな風だと……私まで……うぅ」

菜々「み、みなさん落ち着いてください! プロデューサーさん! プロデューサーさんが結婚するのは、文香さんがトップアイドルになったらなんですよね?」

P「ああ、そうだ。俺は、文香のトップアイドルへの道を、途中で降りてほしくない。文香もそうだろう?」

文香「はい。私も……まだまだアイドルを続けていたいです」

P「そういうことだ。すべての事をやり切って、俺達は結婚したいと考えている」

菜々「そ、それだったら! 文香さん!」

文香「……はい、なんでしょうか?」

菜々「私は、まだ負けてません。私だって、絶対トップアイドルになってみせます。最後まで、絶対にあきらめませんから!」

『!』

瑞樹「……そうよ。よく言ったわ菜々ちゃん。まさかこの一か月で勝負を決めてくるなんて予想外だったけれど……まだ私たちの戦いは終わってないわ!」

美優「そうです…! まだ諦めるわけにはいきません」

『結婚なんて、絶対させない!』

P「なんでお前らそんなに結婚に反対なわけ!?」

ちひろ(ほんと鈍感……)

文香「……皆さんのお気持ちは、よくわかりました」

文香「でも……プロデューサーさんの隣は、絶対に渡しません」

文香「プロデューサさんのお嫁さんになるのは……私です!」

『望むところだ―!』

P「今日のお前らのテンション何なんだよ!?」

ちひろ(いや、プロデューサーさんのせいですから……)




―――――――――――――――――――――――――――――


奈緒「以上が、今でも語り継がれる『結婚宣言事件』の全容さ。めちゃくちゃだろ? Pさんを取られまいと徹底抗戦するやつらと、Pさんの心を奪ってしまっているという圧倒的優位に立つ文香さんの対立で、事務所は阿鼻叫喚。中にはショックで何日か寝込んじまった子もいた。ま、当たり前だよな」

奈緒「でも、さすがあたしたちのPさんだ。文香という1人の女性に心奪われても、あたし達というアイドルを大切に思う気持ちを絶対に忘れなかった。ほんとあの人はすごいよ。有言実行。Pさんの態度やプロデュースの熱はまったく変わらなかったんだから。あたし達の担当プロデューサーなんだから当たり前っちゃ当たり前のことだけど……それでも、嬉しかった。……まぁそれがむしろ辛いってやつもいたけどな」

――奈緒もその一人だったよね。

奈緒「う、うるさいな。お前らもそうだっただろ! もう割り切ったんだから掘り返す様な事いうなよ……ごほん、話をつづけるぞ?」

奈緒「でも、すごかったのはPさんだけじゃない。もっとすごかったのは、文香さんの方だ」

奈緒「あの宣言以降、文香さんの魅力が開花したっていうのかな……元々人気が高かったのに拍車がかかったわけだ。あぁいうのをきっと『愛を知った女は強い』って言うんだろうな。あっという間にトップアイドルの階段を登っていって……

奈緒「そして――」



奈緒「あたし達はこうして、Pさんと文香の結婚披露宴で流す、お祝いムービーを制作してるわけだ」





――誰も文香さんに勝てなかったよね。

奈緒「結果としてな。猛アプローチはかけてたらしいけど、結局プロデューサーの心は動かなかったってことだ。ま、心に決めた相手をコロコロ変えるような人だったら……みんな好きになることもなかっただろうから、考えてみれば分かることではあるな」

――そうだね。誠実で真面目な人だったから、私たちも一緒に居たいと思ったわけだし。

奈緒「そういうこと。……えっと、以上だよな? これで終わりだったよな?」

――うん。奈緒、お疲れさま。

奈緒「ほんとだよ。まったく、ここまでずいぶん長々とあたしだけにしゃべらせやがって……再現ドラマまで作ってさぁ、こんな盛大に二人の馴れ初めをやる必要あったか?」

――盛大にやるから面白いんじゃん。披露宴なんだからパーッといかないと!

奈緒「いやそうかもしれないけどさ。……ちひろさんは代役だったとして、披露宴の主役も本人役で登場ってこれもうわけ分からんぞ?」

――細かいことは気にしない! ほら、最後のお祝いメッセージ、お願いね。

奈緒「なっ、お前ら最後まで出ないつもりかよ。最後のメッセージくらい、凛も加蓮も映ったらどうだ?」

――しょうがないなぁ。

加蓮「ということで、ずっと天の声をやってた、凛と加蓮だよー」

奈緒「天の声っていうか、ただちゃちゃ入れてただけだろ……」

凛「もう、奈緒は細かいんだから……。えーと、プロデューサー、文香さん。結婚おめでとう。2人に、特にプロデューサーにはいろいろ言いたいことはあるけど……2人が幸せになってくれたら、それで満足だよ」

加蓮「2人とも、末永くお幸せにー!」

奈緒「確か文香さんはまだこれからどうするか、決めてなかったんだよな? アイドルは引退したけど……もしまだタレント業とか続けるなら、こらからもよろしくな! よし、そんじゃ……せーの!」

『以上! トライアドプリムスでした!』

加蓮「ここからは、みんなからのお祝いメッセージをお送りするよ」

凛「ほんとに全員からメッセージもらったから、だいぶ長くなっちゃったけどね」

奈緒「ま、こんな機会なかなかないからいいんじゃないか? みんなの気持ちがこもってるんだしさ」

凛「恨み言もこもってるかもね」

奈緒「いらんこと言わなくていいから! ま、最後まで見てくれよな!」


―――――――――――――――――――――――――――――



プツン





ちひろ「……いやー、まさかこんな動画が作られてたなんて。加蓮ちゃんが事務所のカメラを借りたって聞いた時は何事かと思いましたが、確認して正解でしたねー。私の代役まで立てちゃってまぁ……あれは志保ちゃんですか? なかなか似てましたねぇ」

ちひろ「まったく、こんな動画を披露宴で流されたら大変なことになってましたよ。関係者のみなさんに『トップアイドルの鷺沢文香が引退したのは、千川ちひろの責任』だって言われてもおかしくないですからね」

ちひろ「でも、一番悪いのはプロデューサーさんのチョロさですよ、もう! あのチケットを販売して、みんなの意識をちひろショップに向けたところまでは私の計画通りだったのに……あーあ、せっかくの稼ぎのチャンスが台無しですよー」

???「なるほど。それで、君はその動画をどうするのかね?」

ちひろ「もちろん、映像・編集データもろもろ全部消させて貰います。奈緒ちゃんたちには悪いですけどね。ちひろショップのことが、上層部にバレたらまずいですから」

???「そうだね。我が事務所に大打撃を与えたトップアイドルの引退が、間接的とはいえ、君の勝手な行動が原因だと知れたら処分は免れないだろう」

ちひろ「同感です。ですからパパッとデータの削除を……え? あれ? 私、誰と会話して……はっ!? あなたは!」

???「やぁ、千川ちひろくん」

ちひろ「上層部の偉い人!? どうしてここに!」

偉い人「いやなに、ちょっとしたタレコミがあってね。この部屋で面白いことが起こる、そう聞いたんだ」

ちひろ「……だ、誰がそんなこと」

偉い人「誰だって構わないだろう。ここで君が証拠隠滅を図ろうとしたことは事実なんだからね」

ちひろ「そ、そんな……」




偉い人「千川ちひろくん」

ちひろ「……はい」

偉い人「今すぐ私の部屋に来てもらえるかね? そこで、そのちひろショップとやらも含め、君が今までやってきたこと、全てを話してもらおう」

ちひろ「……はい」

偉い人「素直でよろしい。では行こうか」

ちひろ(……おかしい。絶対におかしい。私の行動は誰にもバレてないはず。この部屋を使うことだって、今日会ったアイドル以外……。アイドル…以外? ……はっ!?)バッ

まゆ「……うふっ」

ちひろ(さ……佐久間まゆっ!!)

まゆ「Pさんが、まゆから離れていってしまった……その原因を作ったあなたのこと、許すとでも思ってたんですかぁ? 甘いですねぇ」

ちひろ(きっ……貴様……!!)

まゆ「ぜーったい許しませんから。あなたの事も、そして……文香さんのことも。絶対、許しませんから」

まゆ「あと少し、あと少しで私のものになるんです」



まゆ「待ってて下さいねぇ、Pさぁん♡ ……うふふふっ♪」










おわり




ヤンデレまゆエンド


読んでくださってありがとうございました。
いろんなアイドルを出したいと思いながら書いていたら、ここまで長くなってしまいました。少しでもクスッとしていただけたら嬉しいです。


過去の三作品です。

モバP「プロデューサーってのは、アイドルの犬だと思うんだ」
【モバマスSS】モバP「プロデューサーってのは、アイドルの犬だと思うんだ」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1499088893/)
みりあ「姫はじめって言葉、知ってる?」美波「 」
【モバマスSS】みりあ「姫はじめって言葉、知ってる?」美波「」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1495089099/)
ちひろ「そばに置いておきたいアイドル?」
【モバマスSS】ちひろ「そばに置いておきたいアイドル?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1494588106/)


頃合いを見て依頼出してきます。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom