【モバマス】安部菜々と24人の千川ちひろ (18)


・「アイドルマスター シンデレラガールズ」の二次創作です。
・頭をからっぽにしてください
・私が過去に書いたものとはつながりありません

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●定休日/事務所

青い顔の安部菜々「ちひろさんに質問です」

汗タラタラの千川ちひろ「な、なんでしょう」

菜々「忘れ物をして偶然休日の事務所に来てみたら、信じられないものが見えたとします」

ちひろ「は、はい」

菜々「その人はきっとすごく驚くでしょうねえ」

ちひろ「ですよねー」

菜々「じゃあ同意も得られたので改めてきゃーあーーあーーー!!」

ちひろ「あ、あのあのあの」

菜々「ちひろさんが、ちひろさんが沢山いるー!!」

24人の千川ちひろ「菜々さん、菜々さん落ち着いて!!」



菜々「いやあああぷ、プロデューサーさぁん!いや警察!?」

24人の千川ちひろ「警察やめて!?」

菜々「あわわ、あわわわー(脱兎)」

ちひろ「待って!逃げないで!悲鳴あげないで!」

菜々「いやあああちひろさんが10人ぐらい菜々にすがりついてくるううう!」

ちひろ「そうです!おちついてください!!」

菜々「のこり14人ぐらいのちひろさんが冷静にあちこち施錠したりカーテン閉めたりしてるうううう!」

ちひろ「ごめんなさい!でもあのどうしても逃げて欲しくないんです!」

菜々「にに、逃げなかったらどうするって言うんですかー!!」

ちひろ「言い訳!!」

菜々「えええ」

ちひろ「言い訳させてください!!」

菜々「具体的には!?実はちひろさんがたくさんに見えるのはナナの目の錯覚とかそういう…?」

ちひろ「いえ実際今24人いるんですけどね」

菜々「助けてー!プロデューサーさん助けてー!!」


ちひろ「お願いだから大きな声出さないでー!騒ぎにはしたくないんです!ほら菜々さんよく考えてください」

菜々「えっ?」

ちひろ「菜々さんがうちの事務所に来てから、私と菜々さん長い付き合いですよね」

菜々「ええまあ…」

ちひろ「仕事のこととか、年齢の悩みとか。他のアイドルとは話せない色々な相談に乗ったりもしました」

菜々「確かに」

ちひろ「お互いのアパートでこっそりお酒を飲んで、将来の夢とか愚痴の話とかしました」

菜々「しましたね。ナナは外ではお酒呑めないし、ちひろさんが付き合ってくれるのは嬉しかったです」

ちひろ「仕事上の付き合いが発端とは言え、私と菜々さんは苦楽をともにした友人同士と言っていい間柄だったと自負しています」

菜々「ちひろさんの存在はナナにとって大きな支えでした」

ちひろ「そんな友人が24人も居るのだから24倍嬉しいということで納得してもらえないですか?」

菜々「無理があります!!」

ちひろ「ですよねー…でも騒ぎにしたくないんです。お願い、友達のよしみで警察だけは勘弁してくれませんか」

菜々「うーん…」

ちひろ「友達同士なのに何故渋るんですか…」

菜々「だって現在進行形で10人ものちひろさんに押さえ込まれているし…」

ちひろ「そ、そうでした。すぐどきますね」

菜々「うわあ一糸乱れぬ動き」

ちひろ「それで、あのー…」

菜々「…さすがにナナも、何も知らずに納得だけしろと言われても無理ですから」

ちひろ「まあ、そうですよね」

菜々「だから、色々教えてください。それで納得が行ったら、黙ってます」

ちひろ「ありがとうございます…!」



菜々「そもそもなんで24人もいるんですか?」

ちひろ「なんでって言われても…そういうものだからとしか…」

菜々「そういうもの?」

ちひろ「私は、物心ついてころからずっと『こう』なんです」

菜々「…こう、って…」

ちひろ「同じ姿の『私』がたくさん居て、深いところで意識を共有しています。ほら、個にして全、全にして個みたいな」

菜々「えええ…でも確かに今目の前にいっぱい居る…」

ちひろ「だから『私』は、ずいぶん長いこと人目に付かないよう、人里離れたあちこちでひっそりと生きて来たんですよ。同じ顔の人間が沢山、なんて気持ち悪がられますからね」

菜々「芸能事務所の事務さんって『ひっそり』とはだいぶかけ離れてませんか…?」

ちひろ「これでもだいぶ遠慮というか配慮したんですよ!?」

菜々「わけわからないですがどういうことなんですか」

ちひろ「…ひっそりと人里はなれた場所でばらばらに生きてきた『私』がこうして芸能事務所に就職したのは、アイドルに出会ったからです」

菜々「アイドル…」

ちひろ「それまで何百年も人との交流を避けて生きてきた『私』の一人は、ある日テレビに映るアイドルを見ました」

菜々「さらっと何百年とか言いましたね今…」

ちひろ「画面の中で光り輝くアイドル!あの衝撃はちょっと忘れられないです」

菜々「…気持ちは解ります」

ちひろ「それで『私』は集まって相談して、決めたんです。アイドルに関わる仕事がしたい!!」

菜々「あのー、いいでしょうか」

ちひろ「なんですか」



菜々「その流れで何故事務員なんですか?アイドルに関わる仕事はいっぱいあるでしょう。プロデューサーとか、ディレクターとか、それこそアイドルとか」

ちひろ「アイドルは無理だったんです…同じ顔沢山だから、なるとしたら代表で誰か一人の『私』がアイドルを目指してあとは共有意識で我慢、となるわけですが…『私』みんなが私がなりたいいいや私がなりたいと譲らなくて」

菜々「個にして全とか言ってる割に我がつよくないですか?」

ちひろ「しょうがないので泣く泣く断念しました―――プロデューサーとかは、不特定多数の人と逢う仕事ですからね。もし出先で『私』同士が出会ったら、ちょっとごまかしきれないし」

菜々「まあ、確かに」

ちひろ「そこで事務員です。アイドルのすぐそばで成長が見られるし、基本事務所の人たちとしか会わない。外の人から見たら事務員なんて没個性なものですし、髪形をちょっと変えておけば『よく似た人だなあ』でごまかせます」

菜々「なるほど」

ちひろ「まあ事務所を移籍したアイドルとかはさすがに驚くんですが、そこは事前に色々お願いして」

菜々「あー、それで移籍組の子のちひろさんへの態度が時々微妙だったんですね」

ちひろ「ほたるちゃんなんか何度事務所が潰れても行く先々に私がいるんで、最後の方は死神でも見たような顔してましたよ、あはは」

菜々「あははで済む話じゃないですよ!…ってあれ、ちょっと待って」

ちひろ「この事務所ではいい関係になれてホッとしてます…はい?」

菜々「行く先々にちひろさん…って。ちひろさん、一体何人いるんですか?もしかして24人だけじゃなく、もっと居る?」

ちひろ「な…なんてことを聞くんですか菜々さん!友人同士とはいえ、そんな質問、セクハラですよ!!」

菜々「何故恥らってるのか何故怒られたのかさっぱり解らない…!!」


ちひろ「あえて例えるなら『太いわねえ。あんた体重何キロあるのよ』って言われたような恥ずかしさです」

菜々「ごめんなさい」

ちひろ「いいんですよ―――でもまあ、今回は説明に必要だからお答えします」

菜々「……」

ちひろ「『私』の数は色々変動するので正確には言えないんですが、今現在日本全国に存在するほぼ全ての芸能事務所の事務員は『私』です。あと、銀行とか広告業界にも何百人か居ますね」

菜々「……」

ちひろ「菜々さん?」

菜々「一体、なんのためにそんな…?」

ちひろ「だから、アイドルが好きだからですよ。そのために都合よかったんで、いつの間にかこんな感じになりました」

菜々「アイドルのそばに居られるからとか、でしたっけ」

ちひろ「それもありますが…」

菜々「?」

ちひろ「『私』は、アイドルが好きなんです。だからアイドルに発展して欲しい!!いろんなアイドルが見たい!!」

菜々「うわあ目がキラッキラしてる」

ちひろ「清純派もロックもアダルトもホラーもドーナツもお笑いもキグルミもロリもお嬢様も滑り芸もみんなみんなみーんな見たいし活躍して欲しいんです!!」

菜々(アイドルってなんだっけ)

ちひろ「だけど残念なことにアイドル業界って縮小気味で、経済基盤が弱い事務所も少なくなくて、小さい事務所は食い合い潰しあいだし個性よりも『売れる』方向ばっかり狙うようになるし…そんなのつまらないじゃないですか」

菜々「…確かに」

ちひろ「だから、アイドル事務所の経営を円滑にし、食い合いを避け、暴走を防ぎ、色々な個性あるアイドルが楽しくアイドルできて、その姿を『私』が安心してみていられる。そういう社会を実現するために、『私』はこういう道を選んだんです。まあ、それでも倒産とかは完全には避けられないですけどね…」



菜々「…少し聞いていいですか?」

ちひろ「はい?」

菜々「その理屈なら、バレないためにはできるだけ集まらないほうがいいはずでしょう?一体何故事務所に24人も…?」

ちひろ「ふふふ、嫌ですね菜々さん」

菜々「?」

ちひろ「『私』のアパートに来たことあるでしょう?あそこに24人も入るわけないじゃないですか」

菜々「こんなとこだけ常識的なこと言われてもなあ…」

ちひろ「24人集まったのは、たまたま休日がかみあったからです。お互いの事務所のアイドルたちの最新情報をナマでやりとりしたかったものですから」

菜々「…ほんとにそれだけ?」

ちひろ「それだけですよ?」

菜々「……」

ちひろ「そういうわけでこの仕事を続けたいから、騒ぎにはしたくないんです。同じ顔が山ほど、なんて怪しいと思うでしょうが―――信じて黙っててもらえませんか」


菜々「……信じられません」

ちひろ「…」

菜々「言葉だけでは信じられないから、証明してください」

ちひろ「証明するって、どうやって?」

菜々「えーと、うちの事務所のちひろさんはどなたですか?」

右から三番目のちひろ「あ、私です」

菜々「じゃあ、ちひろさんがちひろさんたちを引率してください―――出かけましょう」



●都内某所カラオケショップ 20時 


菜々「おーねがい シンデレラ! 夢は夢じゃ終われない♪ 動き始めてーるー 輝く日のためにー」 

ちひろ「Yeah!」

ちひろたち「Hey!Hey!Hey!Hey!Hey!Hey!」


●都内某所カラオケショップ 20時30分 

ちひろたち「かがーやくー世界の魔法ー わたーしをーすきになあれー♪」

菜々(すごい指先まで感情入ってる…!)


●都内某所カラオケショップ 21時30分

菜々「そろそろ終了時間ですね」

ちひろ「延長しましょう」

ちひろたち「そうしましょう」


●23時10分、人気のない裏通り

菜々「いやあ、歌いましたねえ」

ちひろ「ええ、本当に」

菜々「歌を仕事にしていても、みんなでカラオケはいいものです―――あなたは、うちの事務所のちひろさんですね」

ちひろ「ええ。解りますか」

菜々「ちょっとしたクセとか、違うから。解るようになりました」

ちひろ「……」

菜々「……」

ちひろ「あの、証明の話ですけど」

菜々「証明はおしまいです。菜々、絶対話さないから安心してください」

ちひろ「……」

菜々「正直、怖さはあるんです。今まで一緒に過ごしてたちひろさんを知ってても尚―――同じ人がたくさんいるという怖さ、そこ知れなさはぬぐえません」

ちひろ「…ですよねー」

菜々「でも、アイドルが大好き、というのは解るんです。ナナも、魅入られた人間だから。届かなくても、『アイドル』がナナを選ばなかったとしても、ナナはアイドルを捨てない」

ちひろ「…知ってます」

菜々「だから逆に、思っちゃったんです。もし、私を説得するための言い訳にアイドルが好きだと言ったんだったら、許せないなって」

ちひろ「……」

菜々「でも、違いました。ちょっとの時間だけど、ちひろさんたちが本当にアイドルが大好きなのは、よく解りました…証明しろとか、信じられないとか言って、ごめんなさい」

ちひろ「『私』はアイドルが大好き。だからここに居ます…その中で菜々さんと仲良くなれたように、親しい相手が得られたら、それに勝る喜びはありません」

菜々「……」



ちひろ「『私』はたくさんですが、本質的には一人です。アイドルを好きになることで、菜々さんのような友人もできた。それを失いたくないとも、本当に思ってる。『私』の存在が気味悪いとは、理解していますけど―――」

菜々「―――アイドルが本当に好きなら、どうだっていいんです」

ちひろ「菜々さん……」

菜々「ナナにとっては、アイドルが大好きで。一緒に頑張っていけるなら、ちひろさんが何だっていいんです。沢山いても。たとえ宇宙人やアンドロイドだったとしても…仲間です」

ちひろ「ナナさん…ありがとうございます」

菜々「いいんですよ、エヘヘ」

ちひろ「そう言ってもらえると知ったら、きっと宇宙人もアンドロイドも喜びます」

菜々「えっ」

ちひろ「宇宙人の子にもアンドロイドの子にも伝えておきますね。私―――私嬉しいです―――!(ナミダグム)」

菜々「―――あは、あはは、どんとこいですよ、キャハッ☆」


ナナはそのとき知らなかったのです。
宇宙人もアンドロイドも神様もサンタクロースも居るんだよということに…


(おしまい)

おしまいです。
読んでいただきありがとうございました。

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