【艦これ】甘々っくす (129)

以前立てたものの、完結せず流してしまった作品です。
ストーリーの目途が立ったので再投稿したいと思います。
お付き合いください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1504085757


提督「ふう・・・」

目を通し終えた書類をトントンと揃えて決済箱に入れる。
これで今日中にやっておかなければならない業務は全部片付いた。
時計をちらりと見やると19:00を回ったところだった。
いつもはもう少し遅くまで執務をしているが、今日はかわいいお客様との予定が控えているのだ、ほどほどのところで切り上げなければならない。

提督「そろそろ、かな」

秘書艦はすでに帰し、自分一人だけの執務室でつぶやく。
机の上を片付けぐーっと背筋を伸ばしていると、控えめに小さく執務室の扉を叩く音が聞こえた。

コンコン


提督「ん、どうぞ」

Z3「グーテンアーベン、提督」

来訪者はドイツ生まれの駆逐艦『マックス・シュルツ』
ちょこんと顔をのぞかせ中の様子を伺ったあと執務室に入ってくる。


Z3「どう、仕事は片付いた?」

提督「うん、たった今終わったところだよ」

Z3「ふーん。丁度いい時間に来れたみたいね」

提督「ああ、ナイスタイミングだ。今日も訓練に出撃にいろいろとご苦労様でした」

Z3「あなたこそ、朝から遅くまでお疲れ様」

提督「ああ、ありがとう。さ、それじゃあ夕食にしようか」

Z3「ええ、楽しみにしていたわ」

そう頷くと二人連れだって執務室を後にする。
向かうのは泊地の一角に設けられている提督の私室。
今日は恒例となっている提督の手作り料理によるご飯会の日なのだ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・


Z3「ごちそうさま、今日もおいしかったわ」

提督「うん、お粗末様でした」

ちゃぶ台を挟んで向かい合ったマックスが手を合わせ礼を述べる。
来たばかりの頃はぎこちなかった日本式の食事マナーも今では板についており、とても自然な仕草でできている。
マックスは緑茶をすすりながら今日の食事の感想を述べる。

Z3「『キンピラゴボー』というのは今日初めて食べたけれど、ザクザクとした歯ごたえがとてもよかったわ」

提督「それは良かった。気に入ってくれたみたいで嬉しいよ。でも『煮魚』に『鍋』に『おでん』と、ここのところ和食ばっかりだね・・・」

Z3「あら、和食は好きよ。ここに来てから色々なおいしい日本料理を食べさせてもらったわ。肉がメインにならなくても食事が成り立つと言うのは当初は驚いたけれどとてもヘルシーでいいと思う」

提督「そう言ってくれると嬉しいね」


マックスの言葉を聞き安心したように提督は笑う。

提督「マックスは向こうではどんな料理が好きだったんだい?たまには君からリクエストを出してくれてもいいんだよ?」

Z3「そう?嬉しい。あなたの料理はおいしいから不満はないのだけれど、そうね・・・リクエストしてもいいというのなら久しぶりにたっぷりの肉料理を食べたいわ。Schweinshaxeをお願いしてもいい?」

提督「シュバ・・・なんだって?」

Z3「『シュバイネハクセ』、ドイツ式の豚足よ。こっちの豚足は煮たものが多いけどドイツではローストするの。できるかしら?」

提督「ううーん、初めて聞いた料理だけど・・・マックスの頼みとあれば喜んで。頑張って腕を振るうよ」

Z3「ふふ・・・あなたが作るドイツ料理がどんなものになるのか期待してるわ」ニコッ


提督「それにしても・・・もう何度目だっけ、この食事会は?」

Z3「私たちドイツ艦が来てからほぼ毎週やっているし、不定期のものも含めたら・・・30回以上は軽くやっているんじゃないかしら」

提督「そっか、そんなにかぁ」

Z3「最初は私たちドイツ艦の親睦会として始めたのよね」

提督「そうだね。まぁ僕の趣味である手料理を振る舞うって思惑もあったけどさ。最初はマックス・レーベの二人きりだったなぁ」

Z3「ええ、そうだったわね」


当時を思い出し懐かしそうにマックスは目を細める。

提督「次第にビスマル子、プリン、ろーちゃん、グラ子ときてその度に歓迎会を開いたっけ」

Z3「ええ(マル子?グラ子?本人の前で呼んだら怒りそう・・・)」

提督「ゆーちゃんが改装を終えてろーちゃんになった時もお祝いをやったなぁ。あれは改装祝いじゃなく新しい娘の歓迎会したようなもんだったね」

Z3「あの変わり様には私たちの方が驚いたわ。あれはすでに別人の域よ」

提督「あははは、その通りだ」


お互いに他愛ない話題を振り穏やかに笑い合う。

提督「最近は他のメンバーも参加しなくなって二人の食事会ばかりだね」

Z3「私は静かに食事ができるからこっちの方がいいわ。嫌ではないのだけれどみんなと一緒だと騒がしくて」

提督「そっか、他の娘がいなくてつまらないとかだったら悪いなと思ったけど・・・僕もマックスとだったら落ち着いて過ごせるから好きだよ」

Z3「すっ・・・!そ、そう、ふーん」

提督「さて、名残り惜しいけど明日も沢山やることがあるしそろそろお開きにしましょうか」

Z3「え、ええ。そうね」


若干目が泳いでいるマックスを微笑ましく眺めながら提督は食器の片付けを進める。
てきぱきと洗い物を済ませると、日付を跨ぐ前にマックスを送り出す。

提督「部屋まで送らなくて大丈夫?」

Z3「鎮守府の敷地内よ、なにも危なくなんてないわ。でも、ありがとう」

提督「うん」

そう言ってお互いに別れのあいさつを交わす。
おやすみなさい、また明日、と。
・・・・・
・・・・
・・・
・・


Z3「提督、朝食の準備ができました」

提督「ああ、ありがとう。助かるよ」

Z3「今朝はホットケーキとコーヒーにしてみたわ」

提督「うん、おいしそうだ。頂きます」

普段は提督の方が食事を振る舞うことが多いが、マックスが秘書官の日は朝、昼、夜と食事を作ってくれる。
近ごろは秘書官でない時でもわざわざ作りに来てくれることも多い。


提督「なんか最近は朝も昼もマックスの食事ばかり食べている気がするよ」

Z3「あら、私こそ夕食は提督が作ったものばかり食べている気がするわ」

提督「マックスの手料理はおいしいんだけど重いのが多くてね・・・。たまにはシンプルな和食の朝食なんかも・・・」

Z3「なに?なにか文句でも?」ギロリ

提督「イエ、ナンデモアリマセンヨー」

Z3「でも確かに毎回ドイツ料理は重いかも知れないわね。得意なものだけじゃなくあなた好みの食事も作れるよう努力するわ」

提督「そうしてもえると助かる。でも決してマックスの食事がまずいと言っているわけじゃないよ?君の作る料理はとってもおいしい」

Z3「ふふっ、わかっているわ。ありがとう」

提督「それに最初に比べれば加減もわかってきてると思うよ」

Z3「最初・・・どんなのだったかしら?」

提督「覚えてないかい?あの朝食はインパクトがあったなぁ・・・」

~着任当初~

Z3「提督、朝食の準備ができました」

提督「ああ用意してくれたのかい、ありがとう・・・って」

提督「・・・ウィンナー・チーズ・ライ麦パンにたっぷりのマカロニ・・・それとバームクーヘンか。・・・作ってくれたのはありがたいけど朝からずいぶんと重めだし量もあるねぇ」

Z3「提督の口に合わなかったでしょうか?そういえば『ニホンジン』は野菜と生魚が主食だったわね」

提督「なんだその情報・・・。確かに肉や乳製品より魚と大豆を中心に生きてきた民族だけどさぁ」

Z3「ふーん、そんな食事でよく体が持ちますね」

提督「(カチン)・・・ふむ、そんな食事とな?よかろう、では今度の休日に貴艦等ドイツ艦の親睦会と称して盛大に日本料理を振る舞おうではないか」

Z3「なに?親睦会?別に私たちにそんなの――」

提督「なに、遠慮することはない。たっぷり、じっくり心行くまで日本文化の奥深さを味合わせてやろうではないか・・・」クックックッ・・・

Z3「!?」ゾクッ

・・・・・
・・・・
・・・
・・


提督「・・・っていうやりとりがあったじゃないか。覚えてないかい?」

Z3「ふふっ、思い出したわ。歓迎会という名目で執務もせずみんなでどんちゃん騒ぎをしたわね。あの時はまさかあなた本人が料理を作ってくれるとは思わなかったけど」

提督「僕だけじゃないよ、間宮さんも鳳翔さんも大鯨ちゃんまで動員したんだから」

Z3「あれは数と料理の暴力・・・親睦会というより洗脳だったような気がするわ。おかげさまで日本料理が好きになれたのだけれど」

提督「良かった良かった。そういえばあの親睦会で納豆を出したときのマックスの表情は面白かったなぁ。この世の終わりみたいな顔して震えててさ」

Z3「もうっ、それは忘れてっ」ぽかぽか

提督「アハハハ・・・」



榛名「今日は榛名が秘書官なのですが・・・。いえ、目の前でイチャつかれていても榛名は大丈夫です・・・」濁り眼



提督「今日は甘いものを作ってみました」

Z3「驚いた。あなたお菓子も作れるの」

演習終わりに執務室へ顔を見せに来たマックスに提督は新作のスイーツを振る舞っていた。
マックスを椅子に座らせると提督はいそいそと冷凍庫からグラスに乗せられたアイスとおぼしきものを持ってくる。


提督「といっても家庭で作れる範囲のものだけどね。段々暖かくなってきたから今回は涼しげにチョコミントアイスにしてみたよ」

Z3「すごい。難しくはなかった?」

提督「ミントリキュールさえあればそんなに難しいものではないよ。まぁ執務の目を盗んで定期的に掻き混ぜるのに苦労したくらいかな」

Z3「クスクス、いけない指揮官ね。それじゃあ軍規を冒してまで作ってくれたアイス頂くわ」

提督「どうぞ召し上がってくださいませお嬢様」

提督は冗談めかして執事のように腰を折る。
おかしそうに笑いながらマックスは提督の作ったアイスを口に運ぶ。
アイスを口に含むと口の中で広がる爽やかな甘みに思わず頬がゆるみ、マックスは幸せそうに顔を綻ばせた。


Z3「ああおいしい。火照った身体に染み入るわ」

提督「喜んでもらえたようでよかったよ。ミント系の香りを嫌がる人もいるから好みじゃなかったらどうしようかと思った」

Z3「とてもいい出来よ。提督、ダンケシェーン」

提督「自信はあったけど味見をしていなかったからね。おいしいと言ってもらえて安心したよ」

Z3「ふーん、そう。・・・あっ」

提督「ん、どうかした?」

Z3「えっと・・・味見をしていないっていうのなら・・・。ほら、あ、あなたも一口どうかしら?」

提督「!?」


そう言うとさっきまで自身が使っていたスプーンでアイスをすくい、おずおずとこちらへ差し出してくる。
その顔が赤く見えるのは差し込んでいる西日のせいだけではないだろう。

提督「えっ、いやっ・・・その・・・。い、いいのかい?」

Z3「ほ、ほらっ早く食べて。溶けてこぼれてしまうわ」

若干潤んだ上目づかいでそんなことを言われたら提督も断れない。
恥ずかしさで震えるスプーンを、緊張に震える唇が迎え入れる。

提督「んっ・・・甘い、な・・・」

正直緊張のあまり味など分からなかったが、なんとなく照れ隠しでもごもごと答える。

Z3「ふふっなにその感想。人に出すものならちゃんと味見をしてから出して」

提督「ははっ、面目ない」

Z3「どう?おいしかったでしょう?」

提督「ああ、なんたってマックスが食べさせてくれたから、ね」

Z3「もうっ・・・」

赤くなって頬を膨らませるマックス。
それを見て楽しそうに提督も笑う。


提督「この出来なら上等だ。間宮アイスには敵わないだろうけど、少しでも君の疲れが癒せるのであればなによりだ」

Z3「ううん、間宮のよりもおいしいわ」

そう言って一旦言葉を切ると真っ直ぐと提督の目を見て見て伝える。

Z3「・・・・・・あなたが作ってくれたんだもの」

提督「はは・・・照れちゃうな、ありがとう」

Z3「ふふっ・・・」

提督「ははは・・・」

幸せそうにアイスを食べるマックス。
その姿を眺めている提督の顔はマックス以上に幸せそうな表情をしていた。

・・・・・




足柄「白昼堂々執務室で惚気るな・・・ッ!」ブチッブチッ
Z1「うわぁ、報告から戻らないから様子を見に来てみたら・・・秘書艦の足柄さんがオーガみたいな顔してソファーの背もたれを毟ってる・・・」
・・・・・
・・・・
・・・
・・


漣「ねーねーご主人様ってばー、海行きましょうよー。うーみーーー」

潮「だ、駄目だよぉ。お仕事中なんだから・・・」

朧「ご迷惑でなければと思ってお誘いしたんですが・・・。どうでしょう?」

提督「うーん・・・」

夏真っ盛りの8月。
提督を海に誘おうと水着姿の第七駆逐隊の四人が執務室へ押しかけて来ていた。


曙「せっかくこんな美少女達が声掛けてあげてんだから執務室に籠ってないでありがたく付き合いなさい、このクソ提督!」

提督「自分で美少女とか言っちゃうのか(困惑)。気持ちは嬉しいんだけどなぁ、まだやることが残ってるんだよ。これを片付けておかないと後から大淀になに言われるか・・・」

提督とて海に行きたくないわけではない。
誘われたのは嬉しいし、水着少女達と波打ち際でリフレッシュ・・・とも思うが、大淀の笑っていない笑顔を考えると流石に執務を放り出してまで遊びに行くのは気が引けてしまう。


提督「悪いけど今回は・・・」

漣「えー、せっかくぼのタンが提督のためにって気合入れて水着選んでたのにー」

曙「ちょっ、な、な、何言って・・・!!!」

潮「すごい真剣に時間かけて選んでたもんねぇ」ニコニコ

曙「な、潮まで何を――」

朧「提督、どうかここは曙の顔を立てて一緒に行ってやってはくれませんか?」

曙「あああああ!もおおお!朧おおおおお!!!」

提督「うーーーん・・・しかしなぁ・・・」

煮え切らない態度で提督がいると、喧騒を破りコンコンと執務室の扉がノックされた。


提督「ん?誰だい?悪いが今は取り込み中で――」

Z1「グーテンターク。失礼するよ提督」

提督「む、レーベか。どうしたんだい?すごく楽しそうな様子だけど・・・」

Z1「うん、ちょっと提督にお誘いがあってね。ほらマックス・・・」

Z3「グ、グーテンターク・・・」

提督「おや、マックスもいるのか。こんにちはマックス――!!!?」

レーベに手を引かれ部屋に入ってくるマックス。
何気なくあいさつをした提督だったが、レーベとマックスの姿を確認した途端、目を見開き体を硬直させた。


提督「白の・・・マイクロビキニ、だと・・・!?」

漣「おおぅ、これはなんともまたエロエロで挑戦的な・・・」

潮「わぁ、涼しそうでいいですね」

曙「なっ・・・私とたいして変わらない胸部装甲のくせしてなんて大胆・・・」

朧「曙、それは失礼だよ・・・」

Z1「えへへ、ちょっと恥ずかしいけどかわいいでしょ?」

Z3「ど、どうかしら・・・」

狼狽える面々を前に、恥ずかしそうに耳まで赤くしながら震え声で訊ねるマックス。
あまりの衝撃に数秒惚けていた提督だが、ハッと我に返ると慌てて言葉を返す。


提督「あ、ああ。とても可愛くてびっくりしたよ。思わず見とれてしまうくらいに」

Z3「っ!そ、そう。ふーん・・・」

Z1「よかった。どれを着たら提督が喜ぶかなって二人で相談して選んだんだよ」

Z3「そ、それは言わなくていいから・・・」

提督「ああ、すごく似合っている。本当に可愛いよ」

Z3「・・・ダンケシェーン」

恥ずかしそうに、でもどこか嬉しそうにわずかにマックスは微笑む。

曙「っ・・・っ・・・!!!」ワナワナ

朧「うわぁ曙がカニみたいに赤くなって震えてる」

潮「あ、曙ちゃん落ち着いて・・・」

Z1「それでどうかな?提督さえよければ一緒に海に行きたいなぁって」

Z3「ど、どうかしら?」


曙「なっ・・・!」

漣「おおっとこれは強力なライバル出現!どう出るぼのぼの選手!?」

曙「ええい、漣うるさい!」

漣の冷やかしを一喝すると曙はマックス達へ顔を向ける。

曙「ふん!でも残念ね、私たちも今こいつを誘ってやったところなんだけど忙しいからって――」

提督「しょうがねぇなぁ(高音)」→水着にアロハシャツ

漣「ファッ!?一瞬で前言撤回!?さっき漣たちが誘ったときはあんなに渋ってたのに!」

提督「いやーさすがに五人も六人も声かけてくれてるのに無下にするのもなぁ。それに嫌がってたわけじゃないし僕もやっぱり行きたいと思っててさぁ」ハハハ

潮「ええ・・・(困惑)」

朧「なんという見事な手のひら返し」

漣「これはひどい」

Z1「よかった、じゃあ早速行こうよ」

Z3「お弁当も作ってあるのよ。さ、行きましょう」

提督「ハハハ、それは楽しみだなぁ」

二人に手を引かれうきうきと出掛けようとする提督だが、憤怒の形相の曙が目の前に立ちはだかる。


曙「このっ・・・クソ提督、もといエロ提督っ・・・!!!」ゴゴゴゴゴ

潮「わあー!お、落ち着いて曙ちゃん!」

朧「曙から見たことのないオーラが立ち上ってる・・・」

漣「なにを迷うことがある!奪いとれ今は悪魔がほほえむ時代なんだ!!」イケーイケー

提督「ちょっと待ってどこから出したのその武器。OK落ち着いて話しをしよう、このままじゃ海に行く前にこんがり焼けちゃ――」

曙「死ね!クソ提督!!!」ドーンドーン

提督「ぎゃあああぁぁぁ!!!」

ギャーギャードタバタ

Z1「あわわわ・・・、まずいタイミングで誘っちゃったかなぁ」

Z3「(可愛い、か。ふふふっ・・・)」

大騒ぎが始まる執務室。
その喧騒を他所に、マックスは一人笑みを零すのだった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・

とりあえずここまで。
ストーリーの本筋はできているので、今度こそ断念せず投下していきます。
遅筆ですが最後までお付き合いください。


提督「ゴホッ・・・情けない・・・軍人ともあろうものが体調を崩すなど」

Z3「なに格好つけてるの。しかもインフルエンザ。執務が滞るから早く治してちょうだい」

季節の変わり目、日々の残業や心労が祟ったのか提督は体調を崩していた。
布団にくるまり冷えピタを張り、苦しそうにゴホゴホと咳をする。

提督「ごめんね・・・君には迷惑をかけるよ。僕がこんな体でなければ・・・」

Z3「それは言わない約束でしょ?・・・ってこんな茶番ができる元気があるなら大丈夫そうね」

提督「うん、少し前まで辛かったけど今は薬も飲んだしだいぶ楽になったよ」

Z3「ふーん、そう。なにか口には入れられそう?」

提督「あまり食欲はないけど・・・軽いものであれば」

Z3「わかったわ。少し待っていて」

そう言うと冷蔵庫へ向かいマックスはゼリーを持ってくる。
ベッドの横の椅子に座りぺリぺリと包装を剥がすと当然のようにスプーンでゼリーを掬い差し出してきた。

Z3「ほら、あーん」

提督「えっ」

Z3「なに?やっぱり食べられない?」

提督「いやいや、流石に口に運んでもらわなくても一人で食べられるよ」

Z3「でも病気の時はこうすると聞いたわ」

提督「・・・誰に?」

Z3「秋雲よ」

提督「・・・そうか」納得

Z3「いいから黙って食べなさい。それに前にもしてあげたでしょう?」

ずい、となおもゼリーを差し出してくるマックス。
恥ずかしさはあるが提督とて嫌なわけではない。
看病してくれている手前無下にもできず、促されるままゼリーを口にした。


提督「ん、恥ずかしい・・・」

Z3「なら早く治すことね。ほらまだあるわ、あーん」

平静を装っているがマックスも恥ずかしいのだろう。
なんでもない風でいながらその頬はわずかに赤らんでいる。
それでも給餌するのは止めず、ゼリーをちゃんと食べ終えるまでに10回以上もマックスからの『あーん』は続いた。


Z3「さて、水分は置いてあるし・・・他になにか必要なものはない?」

提督「うーん、特にはないけど・・・」

ゼリーを食べさせ終えるとマックスは提督の体を横にする。
提督はしばらく悩んでいたが、ふとなにかを思いついたように顔を上げる。

提督「そうだな・・・わがままを言わせてもらえるなら・・・僕が寝付くまで側にいて欲しい」

悪戯っぽく笑いながら要求を口にする提督。
ぴた、とマックスは動きを止める。
しばらく固まったまま思巡していたが、ため息を一つつくとベッドの横に腰掛ける。

Z3「本当に仕方のない人。大の大人が甘えて」

提督「病気の時は人肌恋しくなるものさ」

Z3「もう、さっきは恥ずかしいって言っていたのに」

呆れたように言うもののマックスは横になっている提督の手を握る。


Z3「しょうがないから寝るまでこうしててあげる」

提督「はは、また熱があがりそうだよ」

Z3「そしたらまた私が看病するわ・・・今はゆっくりお休みなさい」

提督「うん・・・ありがとう」

安心したように静かに目を閉じる提督。
眠りに落ちるその間際まで、提督は自分の手を包む柔らかい感触を感じていた。

・・・・・





鹿島「私も提督さんの看病したいんだけどなー。お邪魔かなー」遠い目


提督「実家からマツタケが届きました」

Z3「マツタケ?」

提督「うん、日本を代表する秋の味覚だよ」

Z3「なに?食べ物なの?」

提督「そうか知らないもんね、そこから説明が必要か。ええっと、マツタケっていうのは――」

隼鷹「ヒャッハー!マツタケだぁ!宴だぁ!」

那智「うむ、昂るな!今夜ばかりは飲ませてもらおう!」

伊14「んっふふー、マツタケだってさーやったね!」

ポーラ「なになに?飲み会ですかぁ?」

Z3「!?」ビクッ

マツタケについての説明をしようとした瞬間、突如として酒飲み連中が顔を出す。

提督「うるせー飲兵衛ども!いくつかやるから向こうでやれ!」

あっという間に嗅ぎ付けて騒ぎ出す酒飲み達にマックスは驚くが、提督は慣れた対応で餌を与えて追っ払う。

ヤッターサケガノメルゾー
サイコウノサカナダー


提督「やれやれ索敵能力が高すぎるのも問題だね」

Z3「びっくりしたわ。・・・あげちゃってよかったの?」

提督「ああ、どうせ渡すつもりだったし大丈夫だよ。今年は豊作らしくて沢山送ってくれたからね、いいものはみんなで分け合わなきゃ」

Z3「すごい喜び様だったけど、そんなにおいしい物なの?」

提督「そうそう、説明の途中だったね。マツタケっていうのはキノコの一種でね、日本では高級食材なんだ。味がいいのはもちろんだけど、このキノコの魅力は香りにある。さらに人工栽培できなくて希少性が高く、状態の良い国産のものなら一本で1万円を超すものもあるらしいよ」

Z3「い、一本で1万円?」

提督「そう、だからあんなにはしゃいでいるのさ。庶民はなかなか口にできない代物だからね」

Z3「ふーん。あなたの家ってお金持ちだったのね」

提督「いえ、マツタケが採れるほどド田舎で山奥なだけです・・・」

Z3「そう・・・(山奥の人がなんで海で指揮官をやってるんだろう・・・)」


提督「さて、高級さばかり強調してしまったが、とにかく味わってみてほしい。網焼き、吸い物、蒸し物、食べ方は色々あるけど・・・やはり一番はマツタケごは――」

赤城「ごはんと聞いて」

加賀「流石に気分が高揚します」

提督「呼んでないから。まだ言い切ってないから。どこで聞きつけてきたのさ・・・」

Z3「うわぁ・・・」

お茶碗を携え期待に満ちた顔で目の前に現れたのは一航戦の二人。

あまりの反応の速さにマックスも露骨にドン引きしている。


提督「ちゃんと君達の分もあるから。ほら、間宮さんに料理してもらって空母のみんなで食べなさい」

加賀「やりました」キラキラ

赤城「急いで作ってもらいましょう、さあさあさあ!」キラキラ

Z3「すごい、食べる前から高揚してる・・・」

提督「一人・・・いや二人じめしないでちゃんと分けるんだぞー」

普段は見せない子どものようなはしゃぎ様で間宮に向かう二人に手を振って見送る。


提督「さて、なにを話していたっけ・・・ああマツタケの調理法についてだったか――」

秋雲「ところであたしのマツタケを見てくれ。こいつをどう思う?」

漣「すごく・・・大きいです」

提督「・・・なにやってんの二人とも。一体どこから湧いて出た」

Z3「バカじゃないの・・・」

次に現れたのは駆逐艦の二人。
秋雲は股にマツタケを添えてポーズをとり、漣はそれをうっとりとした表情で見つめている。
突如顔を出し下ネタを始める二人に提督もマックスも呆れて突っ込みを入れる。

秋雲「へへへ、こんなにヨダレを垂らして物欲しそうにしやがって・・・そんなにコイツが欲しいのかい?」ピタピタ

漣「ああ、この匂い、この形、たまらねぇです。早く漣(の口)にぶち込んでぇ」くねくね

提督「やめなさい。年頃の少女がはしたない」

Z3「・・・」

提督は過剰に反応せずたしなめ、マックスはゴミを見るような目で二人を見ている。


秋雲「いやーこんな御立派なの見せられたらテンション上げないわけにいかないっしょw」

漣「wktk」

秋雲「提督たちはこれからまた二人で食事会?いいねー」

提督「あー、まぁな」

漣「と、いうことはー?」

秋雲「二人でマツタケを堪能して、その後は『次は俺のマツタケを味わってくれ』って流れですかぁwww」

漣「らめぇー壊れちゃうーwww」

Z3「ッッ・・・」ガチャッ

声を真似てニヤニヤしながら二人は下品な内容に盛り上がり、マックスは顔を真っ赤にして砲を構える。


提督「待て待て待て。落ち着きなさいって」

秋雲「いやーでも提督のならせいぜいシメジっしょ?」

漣「エノキ程度かも知れないですよ?」

提督「なにおう、では確認してみるか!?俺の猛茸(タケリタケ)を!」カチャカチャ

漣・秋雲「おおおおおお!?」

Z3「やめなさい、なにあなたまで一緒になってふざけてるの!」ベシッ

提督「グハッ・・・冗談だってば」

漣「脱いでもらっても、私はッ一向にッッかまわんッッッ!」

秋雲「ちぇー、参考資料として実物を見てみたかったんだけどなぁー」

Z3「あなた達もいい加減にしないと本当に砲撃するわよ」

提督をひっぱたき、悪ふざけの収まらない二人にもギロリと視線を向ける。


提督「ほら、マックスの言うように君たちにもほどほどにして。マツタケあげるから駆逐のみんなで分けて食べてくれよ」

漣「ヤッター!ぼのタンに『提督のマツタケだよ』って見せに行こー」

秋雲「潮ちゃんや夕雲姉に挟ませるのもアリか・・・ん~色々と掻き立てられるねぇ~」

Z3「もうヤダこの二人」顔覆い

提督「貴重なものだからおもちゃにするなよー」

おもちゃ(食材)を手に入れパタパタと楽しそうに駆けていく二人。
それを見送り提督とマックスも移動する。

提督「さて、僕らも行きますか」

Z3「どこへ?」

提督「他の娘たちにもおすそわけしなきゃね」

そう言って提督はマツタケの入った段ボール箱を抱え直すと、まだまだ大勢いる仲間たちにも配るべく艦娘寮へと足を運ぶのだった。
・・・・・・


Z3「はぁ、配っていただけなのになんだかとても疲れたわ」

提督「ああ、5kgあったマツタケもほとんど配りきってしまったね。残ったのは中くらいのが2本だけか」

Z3「あんなにあったのに・・・」

提督「マツタケってのはそんなにモリモリ食べるものではないよ。少量をじっくり味わって楽しむのさ。それにちゃんと一番上等のをマックスのために残したから」

Z3「じゃあそれを使ってどんな料理を作ってくれるのかしら?」

提督「ではしばしお待ちを。期待して待っていてくださいな」

そう言ってウインクするとエプロンを身に着け、提督は調理に取り掛かかりはじめる。

提督「~♪~♪」

Z3「・・・ふふっ、私もなにか手伝うわ」

提督「そうかい?それじゃあ・・・」

楽しそうに調理する姿を優しい眼差しで見つめていたマックスだが、しばらくすると隣に来て手伝いをする。
食べるときだけでなく一緒に支度をしているこの穏やかな時間も、二人にとっては食事以上にとても大切なのだ。

・・・・・

提督「さ、できたよ。お待たせしました」

一刻の後
提督が用意したのはマツタケご飯とマツタケの吸い物と焼きマツタケだった。
ご飯の中にはマツタケ以外余計な具材は入っておらず、醤油とみりんで味付けされた茶色いご飯の中でしっかりとマツタケが自己主張している。
吸い物にはマツタケの他に麩が入っているだけで香りを最大限に生かす仕上げ方だ。
もう一つは薄切りにした焼きマツタケ。
味付けは粗塩のみで、皿の上に笹の葉を敷きその上に上品に並べられている。
副菜も漬物も無いとてもシンプルな食卓だが、お膳の上はいつもよりも高貴な雰囲気が漂っていた。

Z3「くんくん、不思議な香り。これがマツタケの匂いなのね」

嗅ぎなれない匂いのためか若干顔をしかめるマックス。

提督「あまり好みの匂いじゃなかったかな」

Z3「いえ、そういうわけじゃ・・・初めて嗅ぐ香りだったから少し驚いただけよ。頂くわ」

そう言うとマックスはマツタケご飯を口に運ぶ。
始めは恐る恐るといった様子で食べていたが、次第にぎこちなさが抜けていく。
口に含み噛みしめるとなんともいえないマツタケの香りが口一杯に広がり、鼻から抜けるその芳香にマックスは目を細めた。


Z3「・・・」

提督「どう、かな?」

Z3「ええ・・・最初は抵抗があったけど、これは悪くないわね。とてもいい香りでおいしいわ」

先ほどまでしかめ面だった顔を綻ばせ満足そうに感想を述べる。

提督「よかった。日本では秋の味覚の王様だからね、美味しいと感じてもらえて嬉しいよ」

提督もほっ、と安心したように笑う。

提督「わざわざ実家から取り寄せたかいがあった。誰よりもマックスに食べてもらいたかったからね」

Z3「あら、送られてきたんじゃなかったかしら?」

提督「っと、しまった口が滑ったか」

Z3「いえ、嬉しいわ。・・・私の為なんかにありがとう」

マツタケの香りに包まれ日本の秋を感じながら二人の穏やかな時間が過ぎていく。
また一つ日本の物を好きになってもらえたようで良かった。
次は何を作って喜ばせようか。
提督は自分が食べるのも忘れ、美味しそうにご飯を口に運ぶマックスを見つめていた。

・・・・




赤城「おかわりをねだりに来たのですが・・・流石に邪魔してはいけない雰囲気ですね」モグモグ


霧島「あーあー、マイクチェックワンツー・・・。えー皆様、今年も一年お疲れさまでした。一隻も欠けることなく無事一年を終えることができ、この霧島大変感激しております」

年の瀬の大晦日。
今日は任務で出ている最低限の艦娘を除き鎮守府全ての者が大食堂へ集まっていた。
これから一晩中かけて一年の締めくくりの忘年会が行われるのだ。

霧島「さて、では年越しの会を行うにあたって提督から一言いただきたいと思います、どうぞ」

提督「あーゴホン。皆この一年ご苦労だった。厳しい戦いを乗り越え、深海勢に奪われた海域も着実に取り返してきている。そして霧島の言うように一隻の轟沈もなく、また一年の終わりを迎えることができた。これも諸君の命がけの働きあってこそだ。改めてこの場を借りて礼を言いたい、ありがとう」

食堂は静粛な空気に包まれ、皆一様に提督の言葉に耳を傾けている。


提督「このまま全員で終戦を迎えるため、私も力の限りを尽くすつもりだ。皆もどうかこれまで以上に力を貸して欲しい」

そこまで言うと提督は一旦言葉を切り、すぅと息を吸う。

提督「・・・と、堅苦しいのはここまでにして・・・


 みんなーーー!!!今年も一年間ご苦労だった!大晦日の今晩はしっかり飲みしっかり食べ、日頃の疲れを癒してくれーーー!!!」


一同『うおおおおおぉぉぉぉ!!!』

先ほどまでの神妙な空気をぶち壊し大声を上げる。
艦娘たちも待ってましたとばかりに歓声を上げて応える。
戦争に身を置く彼女たちにも新年はやってくる。
日々過酷な戦いをしているからこそこのような行事を大切にしなければならない。
それをわかっているから、みんな行事の度に羽目を外し大騒ぎするのだ。
そしてそれは提督も同じだ。


霧島「さあさあ皆様お待ちかねの料理は間宮さん伊良湖さん鳳翔さん龍鳳さん・・・それに今回はなんと提督も執務を放り出・・・ゴホン、忙しい中時間を割いて手伝ってくださいましたー!」

提督「書類作業なんかクソ食らえ!料理してる方が楽しいんじゃー!今回は腕によりをかけて作った自信作だからよく味わってくれよー!」

サケガノメルゾー
オセチノオカワリクダサイ
ヤッパリ…ホウショウサンノリョウリヲ…サイコウヤナ
オソバハマダー?
ネッオドローヨー
ナカチャンセンターイチバンノミセバデス

ギャーギャー
ワーワー


大淀「まだ年末の仕事が片付いていないというのに・・・困った方ですね・・・」笑ってない笑顔

明石「まーまー、今日くらいは見逃してあげましょうよ。ほら大淀もたまには飲んで飲んで♪」

酒を飲む者、料理を食べる者、歌いだす者、踊る者、皆思い思いに宴会を楽しむ。
宴の喧騒を満足そうに眺めていた提督だったが、騒ぎが一段落したのを確認すると腰を上げる。

提督「さて、と」

明石「おや、提督どこか行かれるんです?」

提督「ん、ちょっとね。そろそろ哨戒組が戻ってくる頃合いだから出迎えに行ってくる」

大淀「それでしたら私も一緒に――」

提督「いや僕一人で大丈夫だよ。大淀はみんなと飲みながらここを見ていてくれないか」

大淀「よろしいのですか?」

提督「ああ、気にせず楽しんでてくれ。ちょっと席を外すだけだからさ」

大淀「そういうことでしたら・・・あっ」

明石「あっ、そうか。そういえば今日の哨戒は・・・」
・・・・・
・・・・
・・・
・・


Z1「はーっ・・・生身の体じゃないとはいえ寒いね」

Z3「ええ、今日は特に冷えるわね」

曙「ほんっっっとツイてないわ。大みそかに哨戒なんて」

漣「すげぇ疲れたゾ。辞めたくなりますよー艦娘」

潮「これくらいで辞めちゃダメだよぉ」

朧「本気で言ってるわけじゃないから大丈夫だよ潮」

年末年始といえど海の警戒を怠るわけにはいかない。
皆が年越しを祝っている中でも誰かが哨戒をする必要があるのだ。
そういう訳で今年最後の貧乏クジを引いたのは七駆の4人とドイツ駆逐艦の2人だった。


朧「みんなは今頃年越しの宴会やってるのかな」

潮「そうだねぇ。お腹すいたよぉ」

Z1「うん、僕も早く帰って温かいものが飲みたいよ」

漣「ビール!ビール!」

Z3「あらビールを御所望?だったらドイツのおいしいのを・・・」

曙「漣あんたビール飲めないでしょ!ほら、母港が見えてきたわ。もうじき着くからふざけてないで最後まで気を抜かないの」

雪のちらつく海上を泊地に向かって進む。
建物の明かりがはっきりと確認できる距離になる頃、先頭にいたレーベがなにかに気付く。


Z1「ん?桟橋に誰かいるね」

潮「あ、ほんとだ。誰だろう?」

朧「黒いコートの・・・あれは提督?」

Z3「ツ・・・!!」

曙「っ・・・!!」

漣「おぉ?この時間だと宴会の真っ最中でしょうに、どうかしたんですかねー?」

近づくにつれ手を振って出迎えてくれている提督の姿がはっきりと見えてくる。
桟橋までたどりつくと、マックスたち遠征部隊は慌てて陸にあがり敬礼をとる。


朧「艦隊ただいま帰投しました」

提督「敬礼は解いていいぞ。みんな、寒い中の哨戒ご苦労だったな」

Z3「ええ、ありがとうございます。・・・ですが提督はなぜここに?」

Z1「なにか問題ごとでもあったの?」

提督「ん?いや、心配するような事があったわけじゃないよ。みんなには大みそかに哨戒を任せてしまったからね、迎えにきただけさ」

潮「そっかぁ、ありがとうございます」

曙「ふんっ、司令官自らお出迎えなんて随分とお暇なようで」

朧「曙、そういう言い方しないの」

漣「ほんとは嬉しいくせにー」ツンツン

曙「はぁ!?そんなわけないでしょ!」

何事かと緊張の面持ちでいた一同だが、何もないとわかるとホッと肩の力を抜く。


漣「もーでもびっくりしましたよー実際」

提督「ああ、驚かせて悪かったね。まだまだ宴会は終わらないからみんなも中に入って混ざってくれ。大騒ぎで休めはしないかも知れないけどね」

潮「ふふふ、そうですねー」

Z1「それじゃあ僕は先に戻ってるよ。ビスマルク達が待っててくれているはずだから」

朧「私は次の艦隊に引き継ぎをしてから行くね」

提督「それは僕がやっておくからいいよ。真面目なのは大変素晴らしいけどたまには羽目を外すことも必要だ。朧も早く宴会に混ざりなさい」

朧「本当ですか?ありがとうございます」

Z3「では私も戻ります。提督、お疲れさまでした」



提督「あー・・・いや、悪いがマックスはちょっと残ってくれないかな?話したいことがあるんだ」


Z3「!?」

Z1「えっ!」

朧「嘘・・・!」

潮「これって・・・!」

曙「ちょっ!?」

漣「キタコレ!」

ざわっ、と提督の言葉を聞いた一同が一斉に色めき立つ。


提督「いやいやいや、そんな重大な話じゃないから!ちょっと料理の話がしたいだけだから!みんなそんなに身構えないで!」

Z3「え、ええ」ドキドキ

潮「お、おせちですか?びっくりしたぁ。てっきり・・・」

Z1「だよね、いくらなんでもいきなりは、ね」

曙「ま、紛らわしい言い回しするんじゃないわよ!このクソ提督!」

漣「なぁんだ、萎えー。よかったね、ぼのタン」

曙「なにが!?別になにも心配してないし!」

朧「まぁまぁ、そう怒鳴らないで曙」

曙「ふんだっ!そんな一人だけ贔屓しちゃって、感じ悪い!朧、潮行くわよ!」

赤くなったり青くなったり忙しく表情を変えていた曙だったが、ひとしきり騒ぐと肩を怒らせズンズンと歩いて行ってしまう。


潮「ああっ、待ってよー」

漣「ありゃりゃご機嫌ナナメー」

朧「(次は曙も構ってやってくださいね)」ボソボソ

提督「(そうだね・・・どこかで機嫌をとるよ。ありがとう)」ボソボソ

こそっと耳打ちをすると朧も曙について建物の中へと入って行く。


Z1「えっと・・・じゃあ僕も行くね」

Z3「あ、うん。私も後から行くわ」

提督「ああ、お疲れさまでしたレーベ。ちょっとだけマックスを借りるよ」

Z1「あ、うん。・・・ごゆっくり?」

提督「そんなに大した話じゃないから安心してってば」

手を振ってレーベも去っていく。
それを見送ると提督はマックスの方へと振り返る。


提督「さて・・・」

Z3「!」ドキッ

提督「だからそう身構えないでってば」

Z3「べ、別に身構えてないわ」

提督「マックスに残ってもらったのは渡したいものがあったからなんだ」

Z3「渡したいもの?」

そう言うとコートの中に隠していた手提げ袋から何かを取り出す。
それは重箱を模したお弁当箱だった。

Z3「これは・・・」

提督が蓋を開けると朱色の器の中に黒豆・伊達巻・かまぼこ・きんぴら・金団・海老・紅白なますといった料理が並んでおり、小さいながらしっかりとおせちの体を成していた。


提督「一足早いけど、あけましておめでとう。正月になってしまうとあいさつだったり初詣だったりでゆっくりと時間がとれないからね。少しの時間でもいいからマックスと正月気分を味わいたかったんだ」

Z3「凄い・・・これをあなた一人で?」

提督「うん、こればかりは他の娘の手は借りていないよ。他の誰の為じゃなくマックスに食べてもらいたくて作ったんだから」

Z3「そう・・・そうなのね。嬉しいわ」

マックスは頬を赤らめながらはにかんだ様に笑い、提督も答えるように笑顔を見せる。


屋外の風の当たらない場所に移動すると包みを広げ弁当を置く。
お酒も取り出し、二人で手を合わせ、小さな秘密の酒宴が開かれた。

提督・Z3「「いただきます」」

Z3「んっ・・・やっぱりあなたは料理が上手ね。どれもおいしいわ」

提督「本当かい?そうそう、これは特に自信作でさ」

Z3「『ニホンシュ』もおいしいわ。温めて持ってきてくれたのね」

提督「それは熱燗っていう飲み方で正月に飲むのはお屠蘇と言って・・・」

寒空の下の酒宴であるが、二人でぴったりと寄り添い楽しそうに語り合う姿は少しも寒そうではない。


ひとしきり食べ、飲み、語ると、マックスは隣に座る提督の肩に頭を預ける。

Z3「あなたを独り占めできるならお正月の哨戒任務も悪くわないわね」

提督「っとと。マックス酔ってる?」

Z3「あら、飲ませたのはあなたでしょ?」

普段よりずっと近い距離、寒さとアルコールで赤らんだ頬、濡れた唇と潤んだ瞳でそう囁かれ思わずドキッとさせられてしまう。

提督「そ、そうか、それならしょうがないよな」

Z3「任務で疲れているんだから倒れないように支えてて」


そう言ってマックスはより一層提督の方に体重を預けてくる。
提督もマックスの肩を抱きよせ頭を重ねる。

提督「しっかり支えさせてもらうよ・・・今年もよろしくお願いします」

Z3「ええ・・・こちらこそお願いします」

お互いの体温を確かめ合いながら二人は思う。
この娘のために頑張ろう。
この人のために戦おう。
今年も無事に過ごせるように。
今年こそは平和になるように、と。

・・・・・

一方宴会場では――


長門「戦艦との殴り合いなら任せておけ!」ドゴォ

武蔵「ハハハ!いいぞ当ててこい!私はここだ!!」ズドォ

霧島「うるせぇ!宴の席で暴れんな!!!」バゴォ

陸奥「一体誰!?長門にお酒飲ませたのは!」

ポーラ「お酒はみんなを幸せにするんですよぉ~?ほら~陸奥さんも~」

ザラ「あなたのせいね!もーポーラったらー!!!」


那珂「~♪~♪」

\引っ込めー/
\下手くそー/
\うざいぞー/

那珂「あぁ?」ビキッ

神通「駄目よ那珂ちゃん!それはアイドルがしちゃ駄目な顔です!」

嵐「こらぁ誰だ!いま那珂さんに舐めた口きいた奴は!!」


隼鷹「おーい酒が足んねーぞー」グビグビ

伊14「たんねーぞー!」ゴクゴク

赤城「おかわりも足りませんよ」ムシャムシャ

加賀「足りません」モグモグ


時津風「しれー、どこー?しれーってばー!しれー!うおーい!」

舞風「アハハハ、楽しーねーのわっち!」ぐるぐる

野分「ちょっ・・・酔った状態で振り回さないd・・・うぷっ」げろげろ

ガシャーン
ドカーン
ワーワー
バタバタ
ギャーギャー

明石「うへへへへへ・・・おーよどー・・・」

大淀「ああ明石も潰れちゃったし、私一人ではとても鎮められません。提督、早く帰ってきて~」


Z1「マックスってさ、最近表情柔らかくなったよね」

艦娘達の宿舎の一角、今日はドイツ勢全員の都合が合ったため、久しぶりに皆で集まりお茶会が開かれていた。
伊8も御呼ばれして参加している。
仕事の愚痴や日常の何気ない話題の中、ふとレーベがマックスへと話を振った。


プリンツ「そーそー、なんか顔の筋肉がほぐれたって言うか」

Z3「そうかしら?」

ビスマルク「あら、自覚がなかったの?以前を思うと大した変化よ」

呂500「へー、昔のマックスさんはよく知らないけどそんなに変わったんですか?」

伊8「さすがにあなたほど劇的な変化じゃないですけどね・・・」

ビスマルク「ここに来たばかりの頃は緊張の所為かいつも睨みつけるような顔してたのよ。今もツリ目だけど随分と優しい表情になったように見えるわ」

グラーフ「確かに、な。なにか満ち足りたような落ち着きのあるとても良い顔をしている」


Z3「ふーん。周りからはそう見られていたのね。自分ではよくわからないわ」

Z1「ふふふ、心境の変化になにか心当たりはないかい?」ニヨニヨ

Z3「なに?気味の悪い笑顔をするのは止めて」

意味あり気に悪戯っぽくレーベが話しかける。

Z1「僕はマックスが変わったのは提督と夕食を食べるようになったからだと思うんだ」

Z3「なっ!?」

グラーフ「ほう、言われてみれば・・・」

ビスマルク「確かにそうね。提督の部屋から戻ってきた時のあなたはすごく幸せそうな顔をしているもの」


Z3「そんなこと・・・」

プリンツ「キャー!まさかまさか!?どこまでいってるんですか!?実はもうヤっちゃってるんですか!?」

呂500「提督の部屋で行われるめくるめく秘密の近代化改修・・・キャッろーちゃん恥ずかしいっ」

Z3「そ、そんなわけないでしょう!なにを想像しているの!」

グラーフ「なに、恋というものは人を変える。酸いも甘いも乗り越えて少女から女へと成長してゆくものだ」んふー

Z3「ち、違うったら。そういうのでは・・・ないわ」

伊8「でもいつも楽しみにしているんでしょう?『提督との』お食事会を」

Z3「それは・・・まあ」

プリンツ「それはつまりー?」

呂500「恋、ですってー!」


恋愛の話になりきゃあきゃあと盛り上がる少女達。
初めは反論していたマックスだが途中から俯いて黙ってしまう。

伊8「おや?マックスさん?」

Z3「・・・」

呂500「なんか顔赤くしたまま固まっちゃってます」

ビスマルク「あら、少しからかい過ぎたかしら」

グラーフ「むう、いけないな、悪乗りが過ぎたようだ」

Z1「おーいマックスてばー」ユサユサ

レーベが声をかけるがマックスは下を見つめたまま動かない。
仲間たちは怒らせてしまったかと心配するが、マックスが黙ってしまったのは気分を損ねたからではない。
自分の中の『ある感情』に気付きそれを御しきれずにいたためだ。

Z3(考えたことがなかったけど・・・)

Z3(恋?これが、この気持ちが・・・そうなの?)

Z3(私は・・・私の思いは・・・)
・・・・・
・・・・
・・・
・・


伊14「コラー提督ー!なんか酒の肴になるようなネタはないのかー!」

千歳「お酒の席の話題といったら色事でしょう。これだけ沢山の女の子に囲まれているんですから浮いた話の一つや二つないんですか?」

提督「ええい絡むな酔っ払い」

鳳翔「あらあら、絡み酒はいけませんよー」

鎮守府の一角に設けられた小さな居酒屋『鳳翔』。
普段は艦娘の飲み会にあまり顔を出さないが、今日は提督も参加し飲み会が行われていた。
久々の参加に艦娘らも盛り上がり、あれやこれやといじりまわす。


隼鷹「そういやぁさ小耳に挟んだんだが、お前さん最近ドイツのロリっ娘とよろしくやってるみたいじゃないか」

伊14「んードイツのロリっ娘っていうと思い当たるのが三人ほどいるけど・・・」

隼鷹「ホラ、あの赤毛でツリ目の奴だよ」

千歳「あぁ、マックスさんのことですね」

提督「どこからそんな情報を・・・別になんにもしてないよ。まぁ確かに最近マックスとよく夕食とか一緒に食べたりするんだけどね」

ポーラ「んん~、それはほんとですかぁ~?」

那智「お、お、なんだなんだ。貴様はああいった幼い娘が好みなのか」


提督「人をロリコンみたいに言うんじゃないよ。別に狙ってああなった訳じゃなくていつの間にか自然とご飯を作り合う仲になってたってだけだよ」

伊14「ええーいいなー。私も提督と一緒にご飯食べたーい」

千歳「ダメですよー提督。あんな小さな娘に手を出しちゃ」

隼鷹「あんなちっちゃいナリでもちゃんとやることやってんだねぇ。提督ぅ~あんま無茶させんじゃないよ~?」

提督「だからなんもしてないってば」

酒を煽りながら改めて自分は潔白であると繰り返す。
しかしみんなから返ってきた反応は提督の予想していたのとは違ったものだった。


隼鷹「へっ?部屋に呼んで飯食う仲なのになんもしてねぇの?」

提督「しちゃマズイでしょ。まだ小さい女の子なんだし」

那智「我々艦娘において見た目と年齢は一致しないぞ。外見程度の些細なことは気にせずガツンと一発決めたらどうだ」

提督「えぇ、那智はそういうこと言う人じゃないと思ってたのに・・・」

隼鷹「種無しー」

伊14「意気地無しー」

ポーラ「根性無しー」

提督「ひどい言われようだ・・・手を出したら出したで憲兵だなんだと騒ぐくせに」

那智「だがそういう時は男の方からリードしてやるものだろう」

千歳「ダメですよー提督。女の子に恥をかかせちゃ」

提督「君さっきと言ってること違くない?」


伊14「提督ってばマックスさんに対して思うことはなんにもないの?」

提督「とてもいい娘だけど恋人ではないし、それに仲が良いと言ってもご飯を一緒に食べたり、体調が悪い時に看病してくれたり、あーんしてもらったり、海に行ったり、お酒飲んだりするくらいで特別仲がいいってわけでもないよ」ハハハ


ポーラ「えー・・・」

伊14「あほくさ・・・」

千歳「なんだ、ただの惚気ですか・・・」

隼鷹「おーい鳳翔さん、このカクテル甘過ぎんよー」

鳳翔「おかしいですねー、辛口のウィスキーのはずなんですけどねー」
・・・・・
・・・・
・・・
・・

いえ、帰ってきました。
しかししばらく間が空いたためダレてしまっておりました、申し訳ありません
待ってくださっていた方々、ありがとうございました。

続き投下させていただきます。


世界の国々には祭り・儀式・神事といった多種多様な行事があり、一年中どこかでなにかしらの行事があると言っても過言ではない。
日本も例に漏れず年間を通して様々な行事がある。

その中でも2月14日、若い少女たちが(男たちも)色めき立ち大騒ぎするイベントがある。

Z3「バレンタインよ」

Z1「バレンタインだね」

伊8「バレンタインですね」

呂500「バレンタインですってー」

プリンツ「私たちの国では男性から女性へ花を渡すけど、ヤーパンでは女性が愛する男性にチョコを渡すみたいですよ。変な行事ですねー」

伊8「ドイツのも日本のも、私たちがまだ艦だった頃にはなかった文化ですけどね」

呂500「ちなみにお世話になった人へ渡す義理チョコや友達同士で渡す友チョコ、自分のためのマイチョコ・・・男性同士で渡す〇モチョコなるものもあるんですってー」

プリンツ「キャー!」

呂500「キャー!」

Z1「わー・・・」

Z3「えー・・・」

伊8「あー・・・」


Z1「それで、マックスは今年も提督にチョコ渡すんでしょ?」

Z3「別に深い意味は無いわ。普段お世話になっているお返しってだけ」ぷいっ

伊8「あらあら、ほんとうですかー?」

プリンツ「そうですねー深くないですよねー丸見えですもんねー」

呂500「この日のために何度も練習した渾身のザッハトルテですって」

Z3「それは出来の悪いものを渡したら恥ずかしいっていうだけで・・・」

Z1「試作したケーキを全部処理してたビスマルクさんが、体重計に乗って青ざめるくらいにはたくさん作ったよね」

Z3「もうっ、なんだっていいでしょう!」

からかってくる仲間たちの相手をしつつ、あくまでなんとも思っていない風を装う。
それでも、期待せずにはいられない。
これを受け取ってくれた人が喜んでくれることを。
おいしいよと笑顔を見せてくれるところを。
顔を赤くしてチョコを抱きしめる姿は誰が見ても恋する少女のものだった。

・・・・・

バレンタインのネタを書いてて思ったけど、鎮守府中の艦娘たちがその日に合わせてチョコ作るとしたら厨房が大混雑になりそうだよね。
各部屋に調理設備があるとも思えないし。
そして艦娘がごったがえす厨房内で本命か義理なのかを探り合う水面下の争いが行われるわけだ。


提督「チョコレートとラブレターをもらいました」

Z3「えっ?」

なかなか執務室に入れずしばらく扉の前でウロウロしていたマックスだが、仲間に背中を押され意を決しチョコを渡しに行く。
緊張の面持ちで部屋に入るとすでに色々な娘から貰ったのであろう、チョコレートの山に囲まれた提督がいた。
若干ムッとした気持ちになるがそこまでは予想の範疇、毎年見る光景である。

しかし今回違っているのは机の上に可愛く装飾された恋文が乗っていることだ。


Z3「まさか、それ、全部?」

提督「いいや。チョコレートはみんな義理でくれたものだよ。金剛あたりは『バーニングラブなチョコレート』って渡してくれたけど、まぁこれはいつものことだし」

Z3「そう・・・」

提督「でも一人だけね、僕のことを慕ってる、もっと親密になりたいって言って恋文をくれた娘がいたんだ」

Z1「・・・」

提督「いきなりだったからびっくりしたけど、前から僕のことが好きだったんだって。手紙にそう書かれていたよ」

Z3「・・・」

Z3「・・・・・・」

Z3「・・・・・・・・・」



Z3「・・・・・・・・・ふーん」


あ、しまった
マックスの中に一人レーベがまじってしまった・・・

申し訳ありません、上げ直します


Z3「まさか、それ、全部?」

提督「いいや。チョコレートはみんな義理でくれたものだよ。金剛あたりは『バーニングラブなチョコレート』って渡してくれたけど、まぁこれはいつものことだし」

Z3「そう・・・」

提督「でも一人だけね、僕のことを慕ってる、もっと親密になりたいって言って恋文をくれた娘がいたんだ」

Z3「・・・」

提督「いきなりだったからびっくりしたけど、前から僕のことが好きだったんだって。手紙にそう書かれていたよ」

Z3「・・・」

Z3「・・・・・・」

Z3「・・・・・・・・・」



Z3「・・・・・・・・・ふーん」


提督「いやー、モテないモテないと思っていたけど僕も案外捨てたもんじゃないなぁ。はっはっはっは」

人生初の告白をされ、浮かれた提督は饒舌にその時の様子を語る。
マックスの表情がどんどん暗いものになっていくが、舞い上がっている提督はそれに気づけない。


馬鹿みたいにペラペラと話す提督を見やり、鎮守府に来たばかりの頃のような冷たい表情でマックスはつぶやく。



Z3「ふーん・・・そう、そうなの。よかったじゃない・・・」

・・・・・


Z1「あ、お帰りマックス。どうだった提督の反応は――」

Z3「・・・」

廊下の隅でマックスが執務室から出てくるのを今か今かと待っていたドイツ組の面々。
マックスが部屋から出てきたのを見るとワクワクしながら駆け寄るが、冷え切ったその表情を見ると言葉を詰まらせる。

呂500「えーっと、マックス、さん?」

プリンツ「か、顔怖いですよー?」

伊8「あの、なにかあったんですか?」

Z3「別に、なにもないわ」

Z1「でもその様子は・・・チョコも渡せてないようだし・・・」

Z3「悪いけど少し一人にしてもらえるかしら」

そう言うとなにも寄せ付けぬという様子でマックスはスタスタと歩き去ってしまう。

Z1「あ、ねぇちょっとマックス・・・」

伊8「いえ、あれはしばらくそっとしておいた方がいいと思います」

Z1「でも・・・」

慌てて追おうとしたレーベだが、伊8に制止され歩みを止める。


プリンツ「これは・・・間違いなくアドミラール関係ね」

呂500「ですよねー・・・」

Z1「バレンタインのチョコを渡しに行って・・・」

プリンツ「あの様子で帰ってくるって・・・」

呂500「嫌な予感しかしないですって・・・」

伊8「マックスさんに聞いても話してはくれないでしょうし、これは直接提督に聞きに行くしかないですね」

・・・・・


マックスが出て行った後の執務室で、腕組みをした提督は一人頭を悩ませていた。

提督「うーん、来たと思ったら特に何もなくすぐに出て行ってしまったな」

提督「自意識過剰かもしれないけど、マックスからはチョコ貰えると期待していたんだけどなぁ」

提督「やっぱり告白されたなんて話したのがマズかったか?いやしかし・・・」


コンコン


提督「!」


悶々としていた提督だが、部屋に響くノックの音で現実に引き戻される。
マックスが戻って来てくれたのかと思いパッと顔を上げるが、聞こえてきたのは期待した人物とは違う声だった。

Z1「ちょっといいかな、失礼するよ提督」

提督「あ・・・レーベか。どうしたんだい?」

Z1「少し聞きたいことがあるんだ。なんかマックスの様子が変なんだけど――」

・・・・・
・・・・
・・・
・・


Z1「は?」

ビスマルク「ちょっと待って、どういうこと?マックスがいるのに他の娘からの告白を受けたっていうの?」

提督「い、いや受けたわけではなくて本命だって渡されたのがあるよって話をしただけで――」

『立ち入り禁止』の札がかけられ施錠がされた執務室。
そこにはマックスを除く全てのドイツ艦(+伊8)が執務室に集合し、円を書くように並んだ彼女らの中心に提督は正座させられ聴取が行われていた。


プリンツ「ちょっと軽率すぎじゃありませんか?それを聞いてマックスがどう思うか考えなかったの?」

提督「だって別に付き合っているわけでもないし、僕ごときが誰かに告白されたからってそんなに気にするとは・・・」

伊8「あれだけ一緒に過ごしていたのにマックスさんの気持ちに気づかなかったの?口にしなくたって伝わるものはあるでしょうに」

提督「確かにマックスとの仲は悪くないし、いい雰囲気だなーって思う時もあったけど、お互い好きって確かめたわけじゃないし慕ってくれてるって確証はないわけで・・・」ごにょごにょ

ビスマルク「呆れた、こんな腑抜けだったのうちのアドミラールは」

グラーフ「では確証が持てないから他の奴になびいたと?言葉にしなければ気持ちが汲み取れないほどの愚か者なのか貴殿は」

提督「いや、僕なんて全然モテないし、マックスほどいい娘だったら引く手数多で他にいい男がいるかもとか・・・」


プリンツ「じゃあなんで自分からは事を進めるつもりがないのにあんな気を持たせるような関りをしたの?」

呂500「それともマックスさんの初心な反応を見て楽しんでいただけだとか?」

提督「ま、まさか!そんな弄ぶような真似するものか!」

Z1「じゃあマックスから言い出すまで放っとくつもりだったの?」

伊8「提督から告白する気はなかったくせに」

グラーフ「はっきりと口にしてちゃんと伝えるべきはあなたの方ではないのか?」

提督「でも、今までがとても心地よい関係だったから・・・。下手に仲を深めようとしたらその関係が壊れてしまいそうで・・・」


目の前の艦娘たちから次々に指摘をされるが、なおも提督はぼそぼそと言い訳がましい言葉を紡ぐ。
はっきりしない提督の態度に業を煮やしついにビスマルクが机を叩いて身を乗り出す。

ビスマルク「さっきから『だって』とか『でも』とかモジモジと女々しい奴じゃのう!キンタマ付いとんのかおどれは!」ガタッ

呂500「ビスマルクさん落ち着いて!キャラが違いますって!」

伊8「でも怒る気持ちもわかります。提督ってばはっきりせずに言い訳ばかりです」

プリンツ「はぁーアドミラールにはがっかりです。あれだけ好意を示されておいて、情けない『ヘタレー』ね」

グラーフ「あの娘を傷つけておいてこのまま放っておく気か?アドミラール」

Z1「どうするの?ううん、どうしたいの提督?」

真っ直ぐ視線を逸らさずレーベが見据えてくる。
他の娘も無言の圧力で返答を促す。


提督「・・・ああ、そうだ。臆病だったんだ自分は。なんとなくとはいえマックスの気持ちに気付いていながらはっきり言葉にせず、グダグダと誤魔化して!その上バレンタインなんかに浮かれてマックスを傷つけてしまったんだっ!」

そう言うと
ガツン!
と、思い切り提督は自分の顔を殴りつけた。
頭の中で火花が散り目の前がチカチカする。
鼻血が溢れ口の端からも血が流れるが、なんとか倒れずに耐える。

呂500「うわぁ!てーとくなにやってるんですって!」

提督「っっっ痛う・・・気にしないでくれ、これはどうしようもない自分への仕置きだ」

プリンツ「だからってなにも自分を殴ることないのに・・・」

Z1「もうっ、そこまでしろとは言ってないよ」

提督「いや、みんなに説教されて自分の不甲斐なさがよくわかったよ。たまらず殴りつけたくなるくらいにはね」

提督はまだ血の止まらぬ鼻を押さえながらも顔を上げる。


提督「もう遅いかもしれない、許してもらえないかもしれない、それでもちゃんとマックスに謝りたいんだ。みんなマックスがどこに行ったか心当たりはないか?」

先ほどまでの頼りない姿とは違い、目に光を宿した提督を見てレーベ達も表情を和らげる。

ビスマルク「ふん、ようやく腹を決めたようね」

呂500「マックスさんならきっと許してくれますって」

グラーフ「フッ、いいだろう。私の稼働機も全部出して探してやる。見つけたら離さぬようちゃんと捕まえてくるのだぞ」

プリンツ「ヘタレ―な提督だけど応援してあげます」

伊8「真剣に向き合えばマックスさんはちゃんと応えてくれるはずです」

Z1「きちんと提督の気持ちを伝えれば、遅いってことはないはずだよ。今度こそ誠実に提督の気持ちを伝えてあげて」

提督「ああ、もちろんだ・・・」

皆からの激励を受けて提督は立ち上がる。
離れてしまった大切な人を、もう一度迎えに行くために。
・・・・・
・・・・
・・・
・・



水平線にかかる太陽を前にして一人海岸に座っている人影がある。
その小さな人影は冷たい北風が吹く中厚着もせず、水平線に沈みゆく夕日を眺めていた。

夕日に照られたマックスはもう何度目になるかわからない自問自答を繰り返していた。


気にしないようにと思っても告白されたと嬉しそうに話す提督の姿が頭に浮かぶ。
彼はどうしてあんなことを言ったのか。
いや、わかっている。
所詮あの人と自分は上司と部下の関係、少しだけ仲が良かったに過ぎず恋慕の対象ではなかったということだ。
そう、少しだけ仲が良かっただけ。
一緒に食事をしたりデザートやお弁当を作ってくれたり励ましてくれる程度の・・・


提督の声、一緒の会話、食べた食事、過ごした時間・・・
提督との思い出が頭に浮かぶと目から何かが溢れそうになり、膝に顔を押し付けて抑える。
涙目になりながら、自分はクールなタイプだと思っていたがこんなにも落ち込みやすかっただろうか、と考える。
きっと変えられてしまったのだ
あの人と過ごしたことで、あの人の優しさを知ったことで・・・



提督「ここにいたんだねマックス」



Z3「!」

不意に背後から声を掛けられ物思いに耽っていた体が跳ねる。
今まさに思いを馳せていた人物に声をかけられ心臓が飛び出しそうになるが、表面上は努めて冷静に振舞い、振り向かぬまま何事もないように返事をする。

Z3「なに?なにか用?」

声色が意識せず棘を含んだものになる。
他の子の申し出を受けておいて私を慰めにでも来たのだろうか。
今更そんなことをされても余計みじめな気持ちになるだけなのに。


Z3「食事の誘いならお断りするわ。今日はそういう気分じゃないの」

素っ気なく突っ撥ねその場から立ち去ろうとするが、回り込んだ提督に進路を塞がれる。

提督「いや、食事の誘いなんかじゃない。マックスに謝らなければならないことがあってきたんだ。聞いてもらえないか」

Z3「なに?別にあなたはなにもしてないでしょう。なにを謝ることがあるというの」

提督「先ほどの執務室でのことだ」

Z3「っ・・・!」

嫌だ、聞きたくない。
そう思うが言葉は出ず、提督はそのまま話を続ける。

提督「告白に浮かれて君を傷付けてしまった」

Z3「やめて」

提督「言う必要のない、誰よりも言うべきではない人につまらない自慢話をしてしまった。本当にすまなかった」

Z3「やめて。そんな――」

そんなまるで自分が振られてショックを受けたような言い方は。
言葉は続かず涙声で声が詰まる。
ああ情けない、平静を装っていたのにこのザマだ。
やっぱり自分は相当弱くなってしまったらしい。


提督「マックス」

Z3「・・・・・・なに」

提督「告白してくれた娘はちゃんと断るつもりだ」

Z3「え・・・?」

提督「大切な人がいるからと。本当に想いを伝えなきゃいけない人がいるんだと。今は、その人が誰なのかちゃんとわかったから」

Z3「・・・」

提督「マックス」

Z3「・・・なに」

提督「君に伝えたいことがある」


マックスが顔を上げないため視線は合わないが、提督は構わず膝を折り頭の高さを揃える。

提督「自分の本当の気持ちに気付けず、君をないがしろに扱ったことを改めて謝らせてくれ」

Z3「・・・」

提督「意気地無しだし根性無しだし、艦隊指揮以外には料理を作るくらいしか能のない男だが―」

提督「心から君のことを大切に思っている。君のことを部下ではなく一人の女性として守っていきたいんだ。だからどうかこの指輪を・・・」


そう言って取り出したのはケッコンカッコカリの指輪。
最高練度の者もおらず、渡す当てもないためずっとしまい込まれたままだった指輪を提督は持って来ていた。
満を持してと指輪を取り出し、マックスの指にはめようとする。

が、しかし―――

Z3「イヤ」

指輪をはめようとするその手をペシっと叩き、マックスは拒否の意を示す。


提督「っっっ・・・!」

断られる可能性も考えていたとはいえ、あまりに素っ気ない態度に提督は酷くショックを受けた顔をする。
しかし先に傷つけてしまったのは自分の方、これは自業自得だと己に言い聞かせる。
拒否されたのであればそれ以上余計なことはできない。
提督はぎゅっと拳を握り下を向いた。


提督「そうか・・・」

Z3「謝罪が軽い、言葉が安い。償いで指輪を渡すとかなにを考えているの?しかもそれは本営から支給された指輪でしょう。軍の備品でプロポーズするとか雰囲気も何もあったものではないわ。・・・それに鼻にティッシュが詰められてるし、顔も腫れてる。酷い有様よ」

散々に言われるが返す言葉もない。
提督は悲痛な表情のまま絞り出すように声を出す。


提督「ああ、そうだな・・・。君の言う通りだ。失礼な真似をして申し訳―――」

Z3「それに」


うなだれ立ち去ろうとした提督だったが、話はそこで終わらなかった。
マックスの声にもう一度提督は顔を上げる。



Z3「それに、私はまだ指輪を付けられる練度ではないもの」




提督「・・・えっ?」


Z3「大切にしてくれるというのなら、押し入れの奥に引っ込めておくような真似はしないでちゃんと海域に出して。私は軍艦よ、使われなければ錆びてしまうわ。それを私に渡すというのなら受け取るのに相応しい練度になるまでちゃんと育ててからにしてちょうだい」

提督の目を真っ直ぐに見ながらマックスは言う。

Z3「いつかそのレベルになって、その時あなたを許せていたら・・・もしかしたら受け取るかもしれないから」

そう一気に話し終えるとプイっとそっぽを向く。
簡単には許さない、しかし猶予を与えてくれるということらしい。

提督「はは・・・」

一度は諦めた提督だが、完全には拒絶されなかったことに安堵したような笑いを漏らす


Z3「でも」

しかしまたしても話はそこで終わらず、今度はズイっと顔を近づけ念を押すように言う。

Z3「一度私に渡すと言ったのだから他の娘に渡したらダメ。浮気は許さないわ。すぐに最高練度になるからそれまで待ってなさい」

提督「そんな風に言われては気の迷いなんて起こせないな。わかった、君が受け取ってくれるまで辛抱強く待つよ」

Z3「まだ受け取るとは言ってないわ」

提督「猶予をくれただけでも十分だよ。完全に愛想を尽かされたと思っていたから」


ようやくいつもの表情に戻った提督がマックスの手を取る。

提督「でも僕は意思が弱くて臆病者だからね、君が成長するまで我慢できるだけの安心材料が欲しい」

そう言ってマックスを抱き寄せる。

Z3「もうっ!反省の気持ちはないの?少し気を許すとすぐ調子に乗るんだから」

提督「そう言わないでよ。ようやく自分の気持ちに向き合うことができたんだ。これからは誤魔化さず正直に想いを表現していきたいんだ」

しばらく提督の腕の中でもぞもぞと抵抗していたマックスだが、やがて諦めたのか動くのをやめる。


Z1「・・・仕方ないわ。一回だけ、よ」

溜息をつくとマックスは目を閉じる。
そして提督の顔に手を添え、ほんの一瞬



触れるか触れないかの短さで唇を重ねた。



提督「!」

Z3「ほらっ、これでいいでしょう?後は練度が上がるまでまっていなさい」

恥ずかしそうにそう言うと、真っ赤な顔を隠すためか提督の胸に顔を埋めてしまう。

提督「ああ、今はこれで十分だ。ありがとう、愛してるよマックス」

Z3「っっっ~~~///」

自分に正直になった(なり過ぎた)提督は恥ずかしいセリフを恥ずかしげもなく素直に伝える。
マックスは返事ができず耳まで赤くなった顔を隠すようにより強く提督にしがみつくのだった。

・・・・






Z1「仲直りできたみたい、だね」

グラーフ「ああ、これで一件落着だな」

ビスマルク「・・・」無言のガッツポーズ

伊8「ふふ、雨降って地固まる。曖昧な関係だった二人にはいいきっかけでしたね」

呂500「ねぇ!今チュッってしてませんでした?ねぇ!ねぇ!!」

プリンツ「なにを話していたのかは聞き取れなかったですけど、当然この後は朝まで二人して近代化改修を・・・。あーいいですねー」

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