佐久間まゆ「まゆはまだ、死にたくないかもしれません。」 (15)


「貴方が言うなら、そうしましょう。」

アイドルとして順風満帆で、ユニット仲間も出来て、プロデュースしてる俺も幸せで、すごくうまくいっていた。それは間違いないことで。
それでも、まゆ自身の恋心はどうしようもないことだった。
アイドルとしての佐久間まゆは、その片思いがあってこその魅力があるって、承知していた、つもりだった。

けど、まゆに触れて、触れるうちに、俺自身がまゆを好きになってしまった。
両想いじゃ、意味がないんだよ。

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まゆにも誰にも恋心を悟られないように動き続けた、けど仕事を重ねて、時にはオフで遊んで、そんなことを繰り返すたびに思いは増していった。
まゆの気持ちがわかっていって、どれだけ酷なものかを理解はすれど、アイドル佐久間まゆには片思いが必要だとわかっていたから頑張れた。
どうしようもないほどに好きになっても、必ず実のる恋だとわかっていても、身動きの取れない恋が、痛いくらいにもどかしくてどうしようもなくなっていく。
仕事で、事務所で、笑顔を向けられるたびに、その裏にあるもどかしさを理解したせいで、辛くなって、嬉しくなって、泣きたくなる。

かつて、まゆのデビューの前に
「トップアイドルになったら結婚でも何でもしてやる」
と言ったことを思い出した。

その言葉をまゆが覚えてくれていると思えば、トップアイドルの先を思えば、頑張れた。

頑張ることも、できた。

ある日、会社が消えた。
社長が新規事業に失敗、蒸発、会社も消えて、活躍していたアイドルは別々の場所に引き抜かれた。
けど、プロデューサーは実質クビでしかなかった。

まゆが引き抜きの際に俺を担当につけることを絶対条件としてこれたおかげで、再就職先は簡単だった。
けれど、俺のプロデュースなんてできたものじゃなく、すべて会社が決めて、伝えるだけ、マネージャーと大差なんてなかった。
会社内でも物置のような場所に追いやられ、いないもののように扱われ、佐久間まゆの邪魔な付属品という扱いを徹底された。

まゆが
「傍にいてくれるだけでいいんですよぉ」
そういってくれることだけが救いだった。

どうしようもない毎日でも、まゆがいた、まゆが元気だった、それだけで頑張れた。
けど、ある日、お偉方とまゆが壊れた共用トイレに一緒に入ったのを見た時に、全て壊れた

冗談だろ。

今にも倒れそうになるのをこらえて、回り続ける視界に歯を食いしばっていると、トイレから出たまゆと目が合った、あってしまった。
人の目から、光が消える瞬間を見た。

「プロデューサー、あの」

「大丈夫、わかってる」

「プロデューサーを会社に置いておきたかったら、言うとおりに」

「まゆ、大丈夫」

「でも、」

二人きりの車内は、真夏なのに異様に寒かった。

大丈夫、大丈夫、と口にするたびに、心は余計に崩れてく

もう、どうしようもないや、と言わんばかりに体から力が抜けていく

「プロデューサー…?」

「なあまゆ」

「…どうしたんですか?」

「俺と死んでくれないか?」

イカれちまった頭は口と直接つながって、取り返しのつかない提案をする。
自分の屑さに嫌になる、だってこんなことを言ったら、まゆは

「貴方が言うなら、そうしましょう。」

こう言うに、決まってるんだから。

かつて働いていたビルの屋上に、二人並んで立つ。

「綺麗ですねぇ、プロデューサー」

夕日の中でほほ笑んでいる顔は、今までで一番綺麗で、赤いリボンでつながれた震える手も、これ以上ないくらい愛おしかった。

この下に落ちた時、俺とまゆは一つになれるんだと思うと、嬉しくてたまらなかった。

「じゃあ、いこうか」

そっと手を繋いで重心を変える。
身体が外に流れてゆく

「は、い」

ああ、まゆ
無理して笑わなくていいんだよ。

リボンがほどける音がして
俺の右腕を強くまゆが掴む

「ごめんなさい、プロデューサー」

「まゆは、まだ、死にたくないかもしれません。」

「アイドル、楽しいんです」

「あの人みたいに、とってもひどい人もいて、辛いこともあるけど」

「友達がいて、キラキラのステージに立てて」

「何よりも、貴方が教えてくれたこの世界を、嫌いになれるわけないじゃないですか」

泣きながらまゆは話す

「けど、貴方がいないとダメなんです」

「まゆは、貴方が好きなんです、どうしようもないほどに」

「貴方がいないと、この世界に何の意味もない」

「貴方と笑って、貴方と泣いて、喜んで、怒って、進んでいきたいんです」

「何もかも、貴方がいないとダメなんです・・・」

「だから、お願いです・・・」

力が緩んでく、涙が腕に落ちる

「まゆ」

「はい」

「俺も好きだ、愛してる」

「プロ、デューサー、さん」

だからこそ、ダメなんだよ
言葉になったかわからないまま、まゆの腕を振りほどく

まゆが好きで、愛してる、だからこそ、俺はあの場所にはいれないんだよ

俺はもう頑張れないんだよ。

まゆの叫び声が聞こえた、泣き顔が見えた、人生最後の記憶が、まゆでよかった。

そんなことを思いながら、意識は消えた。

ドチャクソ短いけどここで終わり
しばらく経ったら別スレ立てて まゆ視点+後日談 やります
ありがとうございました

続き書くのに一月以上はかかりそうなのですが…
とりあえず少しここ残して書けたらここに書いていくことにします、そんな早く落ちないよね

かなりゆっくりですが再開します。
今日は一レスのみで失礼、視点がまゆに移ります。
よろしくお願いします。

『赤いリボンが解けたあとに』

わたしがアイドルでいられるのは、あなたのおかげなんです。

「あなたの傍にいられるのなら、なんだっていい。」なんて思ってました。

あの時、アイドルは手段の一つで。「あなたがそれを望むなら」なんて。

何もかもがあなたの為で、自分の為で。周りなんか、見てなかった。

けど、アイドルとして、ステージに触れて、仲間に触れて、貴方に触れて、重ねていくうちに、何もかもが変わっていって。

まゆは、『アイドル』として、『プロデューサー』の貴方と共にいたいって、そう思ったんです。

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