男「ぎんいろの風」 (12)

男「…」ザッザッザッ

男(真っ白な地面を踏みしめるたび、自分の命が削れていってるのがわかる)

男(俺はもう、そう永くない)

男(でも死にたくないとは思わない、今まで死んでいたようなもんだったから)

男(死んだら楽になれるだろうか、寒さから、辛さから解放されるだろうか)

男「…」ドサッ

男(…寒い、冷たい…)

男(自分の体温が奪われるてるのが分かる)

男(…次に生まれ変わるなら)

男「…」

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カタカタカタ

ボッボッボッ…

男「…」

男「…あ」

男(…生きてる…生きてる…?)

「気が付いた?」

男(…女…)

男「お前が、助けてくれたのか?」

女「…?」

男「…」

女「…よく生きてたね…もう、死んでしまったかと思った」

男「放っておいてくれても良かったのに」

女「…」

男「…お前、1人か?」

女「…うん」

男(…どこを向いてる…?…あぁ、そうか)

男「お前、目が見えないのか」

女「…」

男「難儀だな、大方崩落に巻き込まれたんだろ」

女「…」

男「ここはどこだ?お前は…」

犬「…ワンワン!」

男「…あぁ、こいつが連れてきてくれたのか」

女「あなたも1人?」

男「見てわかるだろ、あ、いいや、見ないでもわかるだろ」

男(五年前、大崩落が起こり天地は一変した)

男(今までの既存の価値観は全部ぶっ壊れて、漫画よろしく暴力が支配する世界になった)

男(それだけならまだいい、世界は生き残った人間達をも残らず殺そうとした)

男(冷氷期、どうして火山が噴火してこんなことになるのか馬鹿な俺にはわからんが…)

男(まぁ、取り敢えずはこうして寒さに耐えながら生きるしか術はない)

男「…生きなくてもよかったんだがな」

女「…あたたかい、コーヒーあるよ」

男「…要らん」

女「…?」

男(…大崩落後にも小規模なりに世界は人間を殺そうとした…崩落…)

男(俺たちは生きてちゃいけないんだ、地球から生を否定された、それなのに何故生きる?)

男「…」

女「…はい」

男「…要らんと言ったが」

女「…ダメ」

男「…」ズズッ

男(ぬる不味い)

女「…あなた、ここから少し歩いたところで見つけた」

女「…近くで崩落も起こってたのに、どうして出歩いたりしたの?」

男「…わざわざ言わなきゃわからないか?」

女「…」

男「こんなクソみたいな時代なんだ、死にたいやつも多かろうよ」

女「…じゃあ、あなたは…」

男「寝起きで質問攻めなんて勘弁だね、俺はもう行く」

女「…」

男「…なんだその顔は…」

女「…初めて同年代の男の人と話したけれど…こんなに素っ気ないんだね」

男「…うるせえな…」

女「…ご飯…食べて行って」

男(…あぁ畜生…流されるままに晩飯ご馳走になってやがる)

女「それで、あなたはどこに行くつもりだったの?」

男「…アテなんて無かったよ、取り敢えず逃げたかっただけだ」

男「…なんでそんな事聞くんだよ」

女「あなたみたいな人、初めて見たから」

男「…見えないのにか?」

女「…ちょっと、疲れるんだけどね…」

男「…?」

女「…リル…おいで」

犬「…ワンワン!」

女「…綺麗な、若草色」

男「…は?」

女「…そして、私は…真っ白」

女「…私は、目は見えないけれど、その生き物の魂の色は分かる」

男「…俺は?」

女「…」

男「…色がない、か?」

女「…」

男「何言い出すかと思ったら…」

男(…色が無い、ね…バッチリ的中してるじゃねーか)

男「…」

女「…あなた、寂しいんでしょう?」

男「あ?」

女「…少しの間でいいから、私と一緒に過ごしてみない?」

男「どうして俺がそんなこと…」

女「…嫌なの?」

男「…」

女「…一応、一宿一飯の恩があると思うんだけれど…」

男(恩なんてもんじゃねーよ、余計なお世話ってやつだ)

男「…」

女「…」

男「お前はわからんだろーが、俺はお前より少し年上だ、お前よりものも良く知ってる」

男「俺の言うことは聞けよ、お前が死にたくないんなら」

女「…」

女「…うん、分かった」

男「飯はどうやって調達してる?」

女「リルが取ってきてくれる…あんまり美味しくはないけど」

男「…」

男「おい犬」

犬「ワンワン!」

女「犬じゃない、リルって名前がある」

男「俺にも名前がねえんだ、犬を名前でなんか呼んでたまるか」

男「お前がとってきたこいつは筋っぽくて不味い、とってくるならこっちにしろ」

犬「…?」

男「…だよなぁ…」

女「…ふふ」

男「なんだよ?」

女「リルとお喋りだなんて、私みたい」

男「…」

男「水は、雪を溶かせばいいか…おい、燃料は?」

女「まだあるよ」

男「…切れたらどうする?」

女「まだ結構残ってるけど、切れるまでここに居てくれるの?」

男「勘弁しろよ、ただもし切れた時のためにだよ」

女「…少し下れば町がある、あまり裕福な街じゃないけれどそこで…」

男「金は?」

女「…」

男「魂が見える目ってのも便利なもんだな、それ使って盗みか?」

女「…仕方がないじゃない」

男「責めてるつもりはねーよ、こんな時代だ、盗みくらい神も見過ごすさ」

男「いや、むしろそんな奴が絶えないからこその、大崩落だったのかもな」

男「…それにしてもまぁ、随分と古めかしい家だな」

男「お前が建てたんじゃあるめえよ、元々あったんだろ、親は?兄弟は?」

女「皆死んだ」

男「崩落か?大崩落か?」

女「…ううん…全く違う」

男「は?じゃあなんでお前はひとりなんだよ?この家は誰のだ?」

女「…この家は、お父さんの…」

女「…私が物心つく頃には、ここには私しか居なかった」

女「…家族は…病気で死んだ」

男「…」

女「…」

女「寒いのは、大丈夫、でも…1人は辛かった」

男「俺を拠り所になんかするんじゃねーぞ、俺はそういうの無理だから」

女「…ん」

男(こいつと過ごして分かったことがある)

男(こいつは俺のことを色無しなんて言ってたが、俺に言わせるとこいつの方がよっぽど色無しだ)

男(なんの目的もなくただ生きるだけ、死にたくないから生きるだけ)

男(生きたくないから死にに行った俺と何一つ変わらない)

男(だったら、とっとと死んじまえばいいのに)

女「…ねえ」

男「…ん?」

女「…今度は、あなたのことを教えて」

男「やだね」

女「意地悪…」

男「なんとでも言えよ」

女「…」

男「降りるぞ」

女「…えっ?」

男「あぁ、編み物してたのか、器用なもんだな」

男「降りて街に行ってみよう」

女「…嫌」

男「はぁ?」

女「…あまり、街には行きたくない」

男「バレたことねーんだろ?だったら大丈夫だよ、ほら行くぞ」

女「何しに行くの…?」

男「下見だよ下見、こう見えて…見えないだろうけど、俺口はうまいんだ、色々聞いてくる」

女「…ん、分かった」

バサッ

男「何だそれ?」

女「…髪の毛を隠す…あんまり、見られたいものじゃないから」

男(…銀髪、綺麗だと思うが)

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