マシュ「恋仲の貴方ともう少し先へ」 (11)

「……」

「……」

「…………えっ、と……あの、先輩……」

「うん?」

「その……ちゃんと上手くできています、か……?」

「上手く……まあ、うん、そうだね。少なくとも悪い気はしない、かな」

「そうですか……なら、はい、良かったです……」

「……」

「……」

「……ごめん、今の強がり。正直こう……すっごく、良い」

「ほ、本当ですかっ?」

「本当も本当。なんだかもう、良すぎて……身体もこんな、ぽかぽか火照ってきちゃってるくらいだし」

「良かった……嬉しいです。そう言ってもらえたなら、良かった……。本当に、とっても、良かったです……」



 カルデア内のマイルーム。

 僕へと割り当てられたこの部屋。普段は職員やサーヴァントや……いろいろな人を受け入れているこの部屋の中、今は僕とマシュとの二人きり。

 特異点修復の旅を経て、互いのことを想い合うようになって、そうしてその末結ばれた……恋人、になった僕たち二人だけ。

 他には誰の邪魔も入らない。僕たちが恋人同士になってからカルデア全体の暗黙の了解になっている、この二人きりの時間。いつものようにそれへと浸る。ベッドの上、横になって抱き合って。



「……でも、なんていうかな。良いんだけど……その、良すぎて逆に困るというか」

「困る、ですか?」

「まあ嬉しい困惑だから、嫌なわけじゃないんだけどさ。……うん、こんなにされると」

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 いつもの通りの時間。

 ただ少しだけいつもと違う……正確には、いつも通り前回と違うことがあった。

 同じベッドの上へ寄り添いながら身体を寝かせて。お互いに相手のことを抱きしめて。幸せな恥ずかしさに赤面して。

 それは同じ。前回……昨日の今と、変わらない。

 ただ……



「困る……でも、嬉しいと感じてもらえているのですよね」

「それはもちろん。大好きな人にこうされて、嬉しくないなんてありえないよ」

「……それなら」



 言って、また。

 昨日までのそれとは違うこと。していなかったこと。……息が混ざりあうくらいに顔を寄せて、もうほどけないくらいに足を深く絡めあって、むぎゅむぎゅとふにゅふにゅと、胸を……下着も着けない状態で、その柔らかな胸をこれでもかと押し付けてくるこれ。これを、また何度も何度も繰り返す。

 潤んだ瞳。熱く濡れた吐息。紅色に塗られた頬。きっと内心とんでもなく恥ずかしい想いを抱えているのだろうマシュが、それでもそれを繰り返してくる。



「……マシュ」

「はい」

「顔、真っ赤だけど」

 指摘すると途端にびくん、と一つ震え。

 探究心豊かで勉強熱心で、その上周りにはいろいろな経験を持った何人もの教師がいて。だからきっとこれもそれ、このカルデアの中へいる数多くの教師の内の誰か、その教え、その入れ知恵なんだろう。毎日どこかで誰かから教わってきて実践して。これが、今日のそれなんだろう。

 でもマシュはそれでいて無垢だ。恥ずかしい、とは感じているようだけど。でもその奥、これをされた側が感じる思い……これをされた僕が、どんな何を求めてしまいそうになるのかまでは、きっとまだ分かってない。

 だから駄目だ。我慢しないと。だから駄目だ。これを、このままされ続けてしまうのは。

 大好きなマシュのことは大切にしたい。だけど、大好きなマシュのことだからこそ……その想いさえ越えて、求めてしまいそうになる。

 理性が保てなく、なりそうになってしまう。





「……マシュ。あんまり恥ずかしいのなら、そんなに無理はしなくても……」



 マシュを気遣うような言い方で。……本当は自分が堪えられなくなりそうだから、なのだけど。……そんなふうにして言う僕のその声を、マシュは少し表情を俯かせながら受け止めて。

 でもすぐに元へ戻る。俯いていたのはほんの一瞬。すぐ元の通りに再開して、むしろそれまでよりも強く深く押し付いてくる。



「いえ、その……でも、先輩に喜んでもらえるのなら……」

「喜んでもらえるのなら、ってそう思ってもらえるのは嬉しいけど……でもそんな、本当に無理はしなくても」

「……いえ、無理じゃありません。……ありませんし、それに……」

「……それに」

「まだ……これではまだ半分、ですから」

 そう言ってやめない。

 だんだんと息を荒くしながら。熱く焼けたその身体を、僕の身体へと押し付け続ける。

 むぎゅむぎゅ。ふにゅふにゅ。柔らかな感触を伝えるその胸の形を何度も何度も僕の胸へと寄せて変えながら、形を変えるその度に声を出す。

 甘えるみたいに。何かを期待して、それを願うみたいに。何度も何度も「先輩……先輩……」と。僕を呼ぶその声を口に出す。



「マシュ……」



 唇が熱い。声を出すその度、もうあとほんの数センチ前へ出てしまえば触れ合えてしまうくらいに近い桃色の唇……マシュのその唇から声と一緒に吐きかけられる濡れた吐息に焼かれて、唇が燃えるみたいに熱くなる。

 潤んだ瞳をまっすぐに向けて、まるでそれを求めてくるかのように蕩けた声を送ってくるマシュへ触れたくなってしまう。

 もっと先。今よりも先。抱き合って、キスをして……そうして、それから深く結ばれたい。

 そう思ってしまうのを……マシュがそれを望んでいるのかどうかも考えずにそうしてしまいたくなってしまうのを、奥歯を噛み締めてぐっと堪える。



「先輩……」

「……」

「……先輩……こっちを、見て……私を見て、ください……」



 まっすぐ一途に見つめてくる瞳を直視し続けていられなくて。込み上げてきて止まらない想いを堪えようと視線を逸らす僕へ、マシュが言う。

「先輩…………その、先輩は……」

「…………う、ん……?」

「先輩は……私のこと、好き……ですか……?」



 逸らした視線を元へ。ぶれることなく向けられてくるマシュの視線にもう一度応え直した僕へ、マシュが囁くような声で問いかけてくる。

 絡めた足をもっと深く。抱きしめる腕をもっと強く。吐息が混ざりあうくらいに近く添わせていた顔を、もう言葉を口に出すその度に唇が擦れあってしまいそうなくらいの……これ以上はないくらいの傍へ寄せながら、そう僕へ。



「私は好きです、先輩のこと……好きで、大好きで、愛しています。……誰よりも、想っています」

「……それは、もちろん。僕だって……」

「本当ですか?」

「嘘なんて吐かない。本当だよ、マシュのこと……」

「なら」

「……?」

「……なら、先輩は……私のことを、抱きたいとは思ってくれないのですか……?」



 まるで泣いてしまっているみたいな震えた声。大粒の涙が溢れ落ちてきてしまいそうなくらいに潤んだ瞳。これまでよりもより一層力の込められる両腕。

 マシュが、僕へと迫ってくる。

「聞きました。恋人同士ですること……抱きあって、キスをして、そして結ばれる。男女の仲になる、ということ」



 視界からマシュ以外が消える。鼻と鼻がぶつかりあう。近い。近くて……そうして、もうマシュの他の何もかもが思えない。

 顔を赤くして迫ってくるマシュのこと。愛しい恋人のことしか、考えられなくなっていく。



「先輩は先ほど『困る』と言いました。……それはきっと、我慢しているからなのですよね。……我慢。それもきっと、私のことを思ってしてくれている、我慢」

「……」

「嬉しいです。私のことを思ってくれるのは。私のことを大切に思ってくれて、そしてきっと大好きだと想ってくれるのは。……でも」

「でも……?」

「先輩、私は先輩のことが好きです。大好きなんです。私だって、先輩のことを愛しているんです。だから……」



 と、そこで一旦言葉を切って。

 深呼吸。大きく吸って、大きく吐いて。熱い、熱い、想いに濡れた息を吐いてから。



「……だから、私もしたいんです。先輩と。恋人同士のいろいろなこと。抱き合うことも、キスをすることも……先輩が、私を気遣って我慢していることだって。……したいんです。先輩のこと、大好き、ですから……」



 言い切る。

 固まってしまって動けないでいる僕へ、そんな告白を。



「……私、今とてもドキドキしているんです。こんな薄着で抱きついて、はしたないくらいに押し付いて……こうすれば、きっと先輩も楽になってくれる。我慢をやめて、求めてくれる。……そんなふうに言われ、そして教わった通りにこうして迫って。そうしながら今、私は……たまらなく、高鳴っているんです」

 囁く。

 顔を前へ突き出して……唇を避け、けれどそれ以外へ触れながら。熱く柔らかいその唇を、僕の鼻や頬、額や瞼へと触れさせながら……震える唇でキスを落としながら、囁きを送り届けてくる。



「分かりません。知識として知っているだけで、まだちゃんと確かめたことはありません……まだ、経験したことはありません。だから分かりません。分かりません、けど……でも、きっと今私が抱いているこの想いは、そういうこと、なんだと思うんです」

「…………マシュ」

「……ほしいです。してほしい。……先輩……私、先輩に抱いてほしい、です……」



 言って、キス。

 それまで避けていたそこへ、唇へ、マシュのそれが触れてくる。

 一瞬の、ほんの一瞬重なるだけのキス。けれどこれまでのどんな何でも感じられなかったくらいの、深く深く濃厚な蕩けるように甘い、そんなキス。



「……ぁ…………」



 とろとろに蕩けきった表情で、マシュが一つ息を吐く。

 ぴりぴり、唇から全身へと広がっていく痺れに理性が熱く焼かれていく。それを確かに自覚しながら、だんだんと手元を離れていく理性を感じながら、蕩けつつも視線は逸らさず見つめ続けてくるマシュを見て、愛しい想いを募らせる。

 好きだ。大好きだ。愛してる。

 マシュが自分へ向けてそう言ってくれたみたいに。これまでずっとマシュへ対して抱いていたその想いたちを、胸の中へ溢れさせていく。

「……マシュ」

「はい……」

「ごめん」



 抱きしめる。

 それまでずっとしていたそれを、それまでよりもずっと強く。いっぱいの力を込めて、でも優しくそっと柔らかく。腕の中のマシュの身体を、精一杯に愛おしみながら。



「本当は僕から言わないといけなかったのに。マシュのことを傷付けたくないから、なんて建前を理由にして……マシュに嫌われたくないから、だから勝手に、ずっと何もしないでいて。マシュに……マシュから、言わせるようなことになって」



 ごめん。そう言って謝る。

 言って撫でる。抱きしめながら、抱きしめるその手でマシュの背中を優しくそうっと。



「……そんな、先輩は」

「うぅん、ごめん。……そしてだから、言わせてほしいな。今度はちゃんと、僕のほうから」



 こくん。

 小さく首を頷かせて、そうしてそのまま。静かに無言で、じっとまっすぐ見つめてくるマシュ。

 それを確かめて、僕からの言葉を受け止めようと待ってくれているのを確かめて。それから一度深く息。間を置いて、覚悟を決めて……そして、言う。



「マシュ、好きだよ。大好きで、愛してる。……僕は、君と結ばれたい」

「……はい。……私も、先輩と……」



 キス。今度は僕から。一瞬の、でも甘くて幸せな愛しいキス。

 大切な人との、最愛の恋人との、大好きなマシュとのキス。



「……好き。……大好きです。誰よりも何よりも、先輩……先輩のこと……私……」

「うん……。僕も、マシュのこと……」



 何度も何度も。僕からもマシュからも。お互いに相手のことを求めて愛して、そうして何度も繰り返す。

 大好きの熱。恋しい気持ち。愛おしい想いを贈りあう。



「愛しています。……先輩、私のこと、貰ってください。……私のこと……愛して、ください」

以上になります。


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