【デレマスSS】P「最近、藍子がいたずら好きになって困っている」 (23)

最近、藍子がいたずら好きになった。

元はゆるくふんわりした子だったのにどうしてこうなったのかわからない。

とても辛い。

毎日が辛い。

例えば、俺がソファで昼寝をしていると、いつの間にか藍子が隣で寝始めている。

俺が目を覚ましたの気付くと藍子はにっこり笑う。

「ドキドキしちゃいましたか?」

藍子は嬉しそうに言ってくる。

ドキドキしないはずがない。

藍子の顔が目と鼻の先にあるのだ。

心臓に悪い。

あまりにひどいいたずらだったので「こんなことはしてはいけない」と叱った。

藍子はほっぺを膨らましてそっぽを向いた。

説教はまったく効果がない。

次の日も懲りずに同じいたずらを仕掛けてきた。

あまりにいい匂いがするからすぐにわかる。

胸に顔を埋めてくるのですぐにわかる。

しがみついてくるのでスーツにシワができて嫌になる。

ソファで寝ると毎回こうなってしまう。

まったく、ふざけた話だ。

藍子のいたずら好きは改善せねばならない。


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その日は朝から晩まで根を詰めて仕事をしていた。

やはり藍子にいたずらをされた。

仕事の邪魔をされてとても困った。

仕事を始めて3時間経った時はよかった。

「紅茶とクッキーです。休憩してください♪」

藍子は素直にお茶を入れてくれた。

なんていい子なのだろうと思った。

甘いクッキーは疲れた身体のエネルギーになった。

俺がぶっ続けで仕事を続けると、藍子の悪い症状が現れた。

「プロデューサーさん。あんまり仕事をし過ぎると倒れてしまいますよ」

心配そうに声をかけてくれていたのに、突然いたずらを始めた。

「ああ。大丈夫」

と生返事をしていたことが藍子の気分を害したのかもしれない。

「だーれだ?♪」

俺が仕事をしていると、いきなり藍子に目隠しをされた。

手で目を覆われた。

小さく温かい手なのですぐにわかった。

「藍子だろ」

「正解です♪」

藍子は俺からいきなりペンを取り上げた。

ノートパソコンを閉じてしまった。

「では。正解のご褒美として30分間私の膝枕です♪」

俺は仕事をしなければいけないんだと訴えた。

急ぎではないけれど、仕事をしなければいけないんだと訴えた。

藍子はまるで聞く耳を持たなかった。

「8時間くらい机に向かいっぱなしですよね? 急ぎではないなら、なおさら休まなきゃ駄目ですよー♪」

俺が断ろうとすると、藍子は心底悲しそうな表情を浮かべた。

「駄目です。心配です」

藍子は消え入りそうな声で言った。

目もにわかに潤んでいた。

とんでもない悪女になってしまった。

いたずらが過ぎると演技もうまくなる。

あまりに真に迫るようで俺は断れなかった。

仕方なく仕事を中断しなければいけなかった。

「ほら。頭を膝に乗せてください。ゆっくり休んでくださいね♪」

さっきまで辛そうにしてたのにもう笑顔になっていた。

やはり演技だ。

そうに違いない。

また騙されてしまった。

なんということだ。

俺は敗北感を感じたが、おとなしく膝枕をしてもらうことにした。

目を閉じると思いの外疲れていてよく眠れた。

気づけば2時間ほど眠ってしまった。

「おはようございます♪ よく眠れましたか?」

30分だけと言っていたのに藍子は起こしてくれなかった。

起こす気などさらさらなかったらしい。

いつの間にかタオルケットもかけられていた。

俺を深い眠りに落とす魂胆だったのだろう。

これはいたずらの度を超えている。

あまり気にしていなかったが、2時間も動かずに膝枕をするのは、藍子も疲れるはずだ。

それだけいたずらにかける想いは強いということだ。

ご機嫌取りのつもりなのか肩を揉んでくれた。

最高に気持ちよかったがそれだけでいたずらがチャラになるわけではない。

温かいお茶も淹れてくれたがそれだけでチャラになるわけではない。

お茶は美味しかったがまったく関係のない話だ。

やはり藍子のいたずら好きは改善せねばならない。

その日、俺は熱を出していた。

だが、大きなイベントの仕事だったので隠し通すつもりで踏ん張った。

バレなければ熱など存在しなかったことになる。

気合いを入れればそれくらい余裕だと思った。

だが、藍子には見抜かれてしまった。

いたずらのターゲットだからなのだろう。

藍子は目ざとく俺の弱点を突いてきた。

「プロデューサーさん。ポカリです。水分補給を忘れないでください」

「プロデューサーさん。なるべく日差しに出てはいけません。日差しに出る時は私が日傘をさしてあげます」

「プロデューサーさん。書類には私が目を通しますから。確認だけお願いします。休んでいてください」

ここで踏ん張らなければ心が折れる。

甘えることなどできるはずがない。

だが藍子はそれを許さなかった。

俺が弱っているのをいいことに、だ。

流石に、何ヶ月も準備して開催したイベントを中止にさせようとはしてこなかった。

それでも仕事の手を止めるようなことを何度も言ってきた。

本来、俺がやらなければいけない裏方の仕事を代わりにやってくれた。

涙が出そうになった。

なぜ涙が出そうになったのかは自分でもわからない。

多分、藍子のいたずらが酷過ぎたせいだろう。

喉が渇いていたのでポカリは美味しかったし、日傘があるだけでとても楽になった。

書類の内容はほとんど頭に入ってこなかったので、藍子がいなければどうなっていたかとわからない。

いたずらも時にはいいことがある。

怪我の功名だ。

帰りの車の中、俺はほとんど動けなかった。

頭痛はひどかったし、熱いのに寒気がした。

吐き気もあって、意識は朦朧としていた。

「プロデューサーさん。横になってください。もうお仕事は終わりですから、気を張らないで大丈夫なんですよ」

俺は藍子の膝にまた頭を乗せることになってしまった。

身体を横にすると楽だったが、どうにかして身体を起こそうとした。

藍子から離れようとした。

藍子に風邪が移ってしまうと焦った。

しかし、藍子は意地でも起き上がることを許してくれなかった。

どうやら風邪を移されて、仕事に穴をあけて俺を困らせたいらしい。

まったく困ったものだ。

何が何でも藍子のいたずら好きは改善せねばならない。

その日はポジティブ・パッションの面々と遊園地にやってきていた。

CDでミリオンセラーを達成したご褒美として「連れて行ってください!」とねだられた。

プロデューサーをなんだと思っているんだ。

断ろうかと考えたが「お願いします」と頼まれてためらってしまった。

何故か藍子はじっと目を合わせてきた。

そんな視線に屈するものかと目をそらさずに見つめてやった。

藍子の方が先に目をそらした。

何故か?を赤く染めた。

ようやく藍子に勝てたと気分が良くなった。

?を染めた藍子は可愛かった。

いたずらさえなければ藍子はいい子だ。

だから藍子のいたずら好きは改善せねばならない。

遊園地の入場券を買う時、未央が「前にもここ来たね」と笑った。

思えば以前も未央にねだられて連れて来たことがあった。

その時は2人きりだった。

しばし思い出話が弾んだ。

入場券を配る時、何故か藍子は?を膨らましていた。

「不公平です」

藍子はむすっとしたまま言った。

何の話だろうかと思った。

藍子にそれとなく聞こうとしたが、藍子は教えてくれなかった。

クレープを買ってあげると喜んで食べた。

おそらくクレープのために不機嫌なふりをしたに違いない。

不自然に?が入っている箇所は「ほお」の漢字が入ります。つまりは「ほっぺた」です。変換されないんですね…これ

しばらく園内のアトラクションを楽しんだ。

最後にお化け屋敷に入ることになった。

係員の誘導で2人ずつの入場となった。

未央と茜がペアになった。

俺と藍子がペアになった。

「お、お化けなんて。怖くないですからね!」

そう言っていた茜の悲鳴が奥から聞こえた。

「俺たちも行こうか」

俺が言うと藍子は嬉しそうに「はい♪」と返事をした。

お化け屋敷で喜ぶなんて、実は肝が座っているのかもしれない。

いや、新しいいたずらのヒントを探し出そうとしているのかもしれない。

なるほど、きっとそうだ。

そうに違いない。

俺は確信した。

おのれこの可愛い悪魔はと憎々しい気持ちでいっぱいになった。

今にもスキップをしだしそうなくらいの笑顔で藍子は歩き始めた。

いたずらを企むのならポーカーフェイスを身に付けるべきだ。

藍子の考えていることなどすべてお見通しだ。

そう言ってやりたかった。

絶対に藍子のいたずら好きは改善せねばならない。

思いのほか、藍子はお化けに怖がっていた。

入る前のうきうき感はどこへ消えたのだと聞きたかった。

ただ怖がるだけならまだしも、その度に腕に抱きついてくるものだから困った。

お化け屋敷の中は冷房が効いていた。

暑苦しくはなかったが辟易した。

お化け屋敷の施設は大きかった。15分は歩かなければいけない。

が、藍子が途中で何度も震えて動けなくなってしまうものだから余計に時間がかかった。

後から来たカップルに抜かれてしまった。

それでも藍子は怯え震えていた。

「ぷ、ぷ、プロデューサーさん…怖いですっ!!」

このままでは非常口から出ることになってしまう。

それは嫌だった。

未央にからかわれてしまうに決まっている。

だから俺は藍子を励ましながら歩いた。

藍子は俺の手を握ってきた。

なにやら体を寄せてきた。

これで歩くのが早くなるならば仕方ないと許容した。

「や、やっと出口です…っ!」

出口が見えると泣きそうな声で藍子は言った。

完全に俺の腕に抱きつく格好になっていた。

それには流石に意識せざるを得なかった。

もしやこれもいたずらだったのか。

俺の反応を楽しんでいたに違いない。

そうだ。そのはずだ。

出口をくぐり抜けると藍子はお礼を言ってきた。

「本当にありがとうございました。プロデューサーさん…///」

恥ずかしそうに言うのも演技に決まっていた。

顔を赤くしてうつむきながら小声で話すのは演技以外の何者でもない。

少し心にぐっときたが騙されるものか。

負けることなく藍子のいたずら好きは改善せねばならない。

遊園地の帰り道に俺は藍子と2人きりになった。

未央と茜とは駅で別れた。

もう暗いのだから藍子を送るべきだと未央と茜は主張した。

ギャーギャーワーワー主張した。

家まではさほど距離はないはずだったが、押し切られる形で俺は了承した。

「今日は楽しかったですね♪」

「そうだな。でも、明日からまた仕事だ」

「もぉー、今日くらいお仕事のことは忘れましょうよ」

「いいや。仕事第一だ」

おもむろに藍子は俺の背中に頭突きをしてきた。

蚊ほども痛くないが何度もぽこぽこ頭突きをしてきた。

何かに抗議をしているに違いないが、意図はよくわからなかった。

「髪が乱れるぞ?」

「知りませんっ」

「怒ってる?」

「怒ってますっ」

藍子は顔をむっとしかめていた。

まったく怖くはない。

むしろ愛らしさしかない。

それでも怒っていることには違いないので謝った。

「意味もわかってないのに謝らないでくださいっ」

「ごもっともです」

「でも…本当に申し訳ないと思ってるなら、1つだけ言うことを聞いてください」

「できることであれば。いいよ」

すると藍子の顔がぱあっと明るくなった。

藍子は嬉しそうに言った。

「じゃあ♪ 今度は2人だけで遊園地に行きましょう♪」

「2人だけで?」

「は、はい…えっと。駄目でしょうか?///」

俺はいいよと答えた。

藍子は幸せそうな表情を浮かべた。

きっと散々いたずらを仕掛けられるに違いなかった。

藍子の喜びようからして間違いない。

これは気を引き締めなければいけない。

願わくばその前に藍子のいたずら好きは改善せねばならない。

久しぶりに時間があったので俺はソファで本を読んでいた。

しばらく1人でいると、藍子がやってきた。

なにも言わずに冷たいお茶とお菓子を用意してくれた。

俺はお礼を言って、お茶をひとくち飲んだ。

冷えていて美味しかった。

藍子は当然のように俺の隣に座ってきた。

ゆっくりとした仕草で身体を寄せてきた。

そっと本をのぞいてきた。

「何を読んでいるんですか?」

「『走れメロス』」

「知ってます。中学生の頃に読みましたよ♪」

藍子は懐かしそうに言った。

特に目新しい話でもないのに心底嬉しそうだった。

俺は本を閉じて藍子と話すことにした。

本を読んでいてはいたずらをされてしまう。

藍子の策にはまって心が動かされてしまう。

だから先手を打つのだ。

しばらくはとりとめもない話をした。

話は以前のイベントのことになった。

「プロデューサーさん。あの時、熱を出していたんじゃありませんか?」

「やっぱり気づいてたんだな」

「よく見てますから」

「うん。普段から見られてるのはわかる」

藍子は何故か照れていた。

いたずらを仕掛けるタイミングを見計らうために俺を見ているんだろう。

知らないと思ったのかまったく。

残念ながらバレバレだ。

「あの時は色々手伝ってくれてありがとうな。気を回してくれていたんだろう?」

俺は改めてお礼を言った。

「いえ。大したことはしてませんから」

「俺は助かった。藍子がいなかったらイベントを最後まで運営できなかったよ」

藍子はまた照れていた。

「じゃあ…感謝をしているなら、お礼をしてもらえませんか♪」

ここぞとばかりに藍子は言った。

やはり藍子はあなどれない。

いたずら好きになってからはいつでも何かを企んでいるのだ。

だから俺は警戒しながら「いいだろう」と答えた。

なんでもこいという気持ちだった。

ブランド物の服でも買ってやろう。

海外にでも連れて行ってやろう。

犬の真似をしろと言われたら全力でやってやろう。

無理なお願いをされるに決まっている。

それをいとも簡単に受け入れて、この小娘を逆に驚かせてやるのだ。

「言ってみろ。何でもいいぞ」

藍子は少しためらってから言った。

「…では、いま、ハグしてもらえませんか♪」

「…それだけ?」

「はい♪」

藍子は満面の笑みだった。

俺は藍子が何を考えているのかわからなかった。

だが、ためらうことなく俺は藍子を抱き寄せてハグしてやった。

相手のペースに乗るものかと強い意志を持った。

「わぁ…♪」

藍子はもぞもぞと俺の胸に顔を埋めてきた。

そして藍子からも抱きついてきた。

「しばらく…このままでお願いします…♪」

あまりにもリラックスした声で釈然としなかった。

だから俺は強めに抱きしめてやった。

これでどうだとしたり顔をした。

「それ…いいですね…♪」

だが藍子はより嬉しそうな声をあげた。

俺は直感的に確信した。

これは演技だ。

強く抱きしめられて本当は苦しいはずだ。

先に藍子が根をあげるまで抱きしめてやろう。

俺は藍子の考えを見抜いた。

藍子の頭を抱き抱え、背中を撫でてやった。

その度に藍子が嬉しそうな演技をするのがわかった。

嬉しそうだということは、つまり、本当は苦しいということだ。

髪を無遠慮に撫でられて嬉しいわけがない。

身体の身動きが取れなくなるくらい抱きしめられて嬉しいわけがない。

俺は心を鬼にした。

このように厳しく接して、藍子のいたずら好きは改善せねばならない。

俺は藍子と2人きりで遊園地に行った。

それだけではない。

藍子が「ここに行きたいです」と言うたびに、2人きりで遊びに行った。

すべては藍子のいたずら好きを改善するためだった。

だが、悲しいことに藍子のいたずらはエスカレートするばかりだ。

楽しそうに抱きついてくるし、楽しそうに甘えてくる。

楽しそうに笑うし、楽しそうに話す。

そのたびに心が動かされてしまう。

藍子はそれをすべて見透かした上でやっているに違いない。

俺は藍子をゆるふわなアイドルに戻さなければいけない。

いたずらなどとは縁を切らせなければならない。

それがプロデューサーとしてすべきことだ。

今日も仮眠室で寝ていると藍子が隣にきて抱きついていた。

俺が寝たふりをしているのも見透かしていたのだろう。

いきなり耳元で「大好きですよ」と言ってきた。

こんなに辛い仕打ちはない。

本気で抱きしめたくなってしまう。

だが、これはすべて藍子のいたずらだ。

騙されるものか。

残念ながらいたずらはまだ治りそうもない。

それでも藍子のいたずら好きは改善せねばならない。

一生をかけてでも。

終わり

以上です。お付き合いいただきありがとうございました。藍子ちゃん会議に出席したい…

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