いろは「手つないでもいいですか?」 (76)



材木座「ふえっ!?」

いろは「ですから、手つないでもいいですか?」

材木座「えっ? なっ、て、てて手って、手? この手…?」

いろは「その手以外にどの手があるんですか」

材木座「ハムッ、す、すまない…」

いろは「それでー、いいんですか? ダメなんですか?」

材木座「だ、駄目というか…………どうして我と…?」

いろは「理由は聞かないでください」

材木座「えっ、そ、そう……」




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材木座(おおお落ち着け、落ち着くのだ材木座義輝、突如目の前に現れたおなごは何と言った?)

材木座(手をつなぐ、確かにそう言った。だが何故なのだ?)

材木座(理由は聞くなと言われたが、理由を聞かずしてそのような不埒な行為を認めるわけには……ここはひとつ、此奴の目を見て真意を…)

いろは「……」ジー

材木座(くうっ! なんだその仔犬の様な丸い目は!? まともに視線を合わせては吸い込まれてしまうのではないか!?)

材木座(ゼヒュー、ゼヒュー……一旦呼吸を整えるのだ。鎮まれ我が心臓よ、この程度の相手に焦る必要はない!)

いろは「はあーもういいです。失礼しましたー」スタスタ

材木座(な、なあに。ただ手をつなぐ、所詮はそれだけのこと。殊に理由などなくとも一瞬にして済ませてしまえば良いではないか)

材木座(怖れることはない! そりゃあ異性と触れ合うなど幼少以来殆ど無かったとはいえ、全くの初めてではないのだ!)

材木座(過去の我に出来て今の我に出来ぬはずがなかろうぞ! コヒュウコヒュウ……そうだ、落ち着け材木座義輝。今こそこの手を伸ばす時…!)


材木座「も、もももちろんボクでよければ……!!」



材木座「…………あるえ?」


本編おわり
以下おまけ



いろは「わたしとしたことが、何かにあやつられてましたね」


コンコンコン


八幡「…!」ピク

いろは「失礼しまぁーす」ガララ

結衣「いろはちゃん! やっはろー」

雪乃「こんにちは一色さん」

いろは「こんにちはー。おじゃましますね」

結衣「どうかしたの?」

いろは「あー、ちょっと先輩に頼みがあるんですけどー…」

八幡「……」zzZ

いろは「……先輩、机で寝ちゃってますね」

結衣「あれ? ホントだいつの間に」




いろは「おつかれなんですかね?」

結衣「そうなのかな。でも確かついさっきまで本読んでた気がするんだけど…」

いろは(うーん、ムリに起こすのはかわいそうかなぁ)

雪乃「その通り、その男はつい先ほどまで黙々と読書に耽っていたわ」

結衣「だよねだよね」

雪乃「けれど、一色さんの足音とノックの音に気がついた瞬間、本を閉じてその体勢に切り替えた」

いろは「へっ? それってつまり…」

八幡「……ぐー、ぐー」

結衣「ヒッキー…」

雪乃「狸寝入りね」

八幡「…………」

いろは「せーんーぱぁーーい???」ギロ

八幡(雪ノ下め……黙っててくれりゃいいものを)




八幡「ふああ、よく寝たー」ムク

いろは「なにがよく寝たーですか! なんでわたしがきた瞬間に寝たふりしたんですか!?」

八幡「さてなんのことやら」

雪乃「此の期に及んで白々しいわよ狸ヶ谷くん」

八幡「後ろに谷つければ何でも俺になると思ったら大間違いだぞ雪ノ下。そういうのは比企谷以外にも沢山あるだろ、世田谷とかな」

いろは「あーもーそんなことはどうでもいいです。それよりわたし先輩にお願いがあるんですよぅー」

八幡(そうなると思ったから寝たふりしたんですよぅー……)

結衣「お願いって生徒会の手伝いとか?」

いろは「んー、まぁそれとかですね」

結衣「そっか。ならヒッキー行ってあげないとだね」

八幡「えぇ…」

いろは「責任……取ってくれないんですか?」ウルッ

八幡(ぐっ、その台詞毎度別の意味に聞こえるからやめてくれませんかね)




八幡「分かった分かった、やりゃいいんだろ」

いろは「ありがとうございまぁーす♪」

雪乃「その手伝いというのはどのくらいかかるのかしら?」

いろは「今からですと、下校時刻までかかるかもですねー」

結衣「あたし達も手伝おうか? みんなでやれば早く終わると思うし、今日はもう依頼も来なそうだし」

いろは「いえいえ! 結衣先輩や雪ノ下先輩のお手をわずらわせるわけにはいきませんので」

八幡「俺のお手を煩わせるのはいいのかよ」

いろは「ほら、男手が必要っていうかー」

八幡(つまり重労働ってことか……ますますやりたくねぇ)

いろは「それに結衣先輩に手伝ってもらうと余計時間かかるかなって…」

結衣「い、いろはちゃん? それどーゆー意味かな?」

雪乃「賢明な判断ね」

結衣「ゆきのんまでっ!?」






八幡(とまあ、なんやかんや一色に生徒会室に連れて来られたわけだが)

いろは(とまあ、うまいこと先輩を生徒会室に連れてこれましたね)


八幡「……誰もいないんだけどどういうこと?」

いろは「当たり前ですよ、今日は活動日じゃないですし」

八幡「え、でも手伝いって……一色、まさかお前」

いろは「……わかっちゃいました?」

八幡「ハブられてるのか、生徒会内で」

いろは「えっ」

八幡「他のメンバーに無理やり仕事を押し付けられて……1人じゃとても終わらず俺たちを頼って…」グス

いろは「せ、先輩? あのっ、ちがいますよ? わたしハブられてなんかいませんし…」

八幡「まあそうだろうな」

いろは「って今度はウソ泣きですか!!」ポカッ!





八幡「おま、グーで殴るなよ」ジンジン

いろは「先輩が悪いです。わたしの心を弄んだ先輩が十悪いです」

八幡「悪かったよ。で、俺は何を手伝えばいいんだ? 男手が要るってことは荷物運びかなんかだと踏んでたんだが」

いろは「あー、それなんですけど、手伝ってほしいことはべつに生徒会の業務じゃないんですよ」

八幡「は?」

いろは「さっきのは先輩を連れ出す方便です。ただ男手が必要っていうのはほんとですけどね」

八幡「はあ。生徒会の手伝いじゃないなら何なんだ?」

いろは「ええと、あのですね…」


いろは「先輩と……手つないでもいいですか?」




八幡「は? 手?」

いろは「手、です」

八幡「手って、この手?」

いろは「その手以外にどの手があるんですか」

八幡「あるだろ……孫の手とか」

いろは「そんないまどきおばあちゃん家にしかないようなグッズが生徒会室にあるとでも思ってるんですか…」

八幡「いや、ねえ。いきなり手つないでいいかなんて言われても困惑するだろ普通」

いろは「そうかもですけどー、先輩って普通じゃないじゃないですかぁ」

八幡「人のこと真顔で異常扱いするのやめてくれませんかね……まず理由を教えろ、理由を」





いろは「理由ですか。ふふふ、乙女のヒミツって言ったらどうします?」

八幡「いやぁいい仕事した。戻るわ」

いろは「あーちょっと先輩! ひどいですぅー!」グイー

八幡「服引っ張るなよ。破けちゃうだろうが!」

いろは「こんなのでビリビリ破ける服なんて現実にありませんよ。先輩エロ同人の読みすぎじゃないですか? うわードン引きです」

八幡「え…?」

いろは「な、なんですかその腐ったような目は」

八幡「そこは腐ったものを見るような目って言おうね」

八幡「それより一色お前、なんでそんなこと知ってるんだ?」

いろは「なんでって、だってわたしの見た本では……あ」

八幡「……」

いろは「わー! わーーっ!! 今のナシです!! 見てません! 見てませんから!!」

八幡「この後輩エロ同人の読みすぎじゃないですか? うわードン引きですぅー」

いろは「ちがいますからぁ! 薄い本なんてぜんぜんまったく持ってませんからぁー!!」ポカポカ!

八幡「わ、分かったから! 叩くなって!」

八幡(しかも持ってるのか…意外すぎる。ま、まさか腐ってらっしゃるんじゃ…?)




いろは「うー、先輩にけがされました。もうお嫁に行けません」

八幡「んなわけないだろ」

いろは「……そこは『なら俺が貰ってやんよ』くらい言ってあげるのが男ってもんですよ」

八幡「そんなこと言ったらまたお前に早口でフラれるに決まってるからな。流石に学習したわ」

いろは「むう、これが巷で噂の人工知能ってやつですか」

八幡(え、俺ってばAIだったの? やだかっこいい)

八幡「それで結局なんで手を繋ぐだなんて言い出したんだよ」

いろは「そうでした。理由はまぁ、その……練習といいますか」

八幡「……練習?」

いろは「ほら、葉山先輩といざデートってなったときに失敗したくないっていうか…」

八幡(あれ? なんかまさにエロ同人で見たことあるような展開じゃね?)




八幡「練習って、手繋ぐのを練習するのか?」

いろは「はいっ! そのとおりです」

八幡「そんなの必要なくね? ただ繋ぐだけだろ」

いろは「ありますよ。いざデートのときにうまくできなかったらダサいじゃないですか」

八幡「だから上手いも下手も無いと思うんだが…なに? 一色レベルになると手の繋ぎ方にまでランク付けするの?」

いろは「別にそこまで求めてませんよ。うまいとかヘタっていうか、慣れです慣れ」

八幡「慣れ、ねぇ」

いろは「手つなぐだけで緊張してたら……ほら、手汗とかかいちゃうじゃないですか」

八幡「そういうことなら余計無意味じゃないか? 別人で練習したところで本人相手じゃまた違うだろうし」




いろは「それはそうかもですけど、ちょっとでも慣れときたいんですよ」

八幡「そんなもんなのか?」

いろは「わたし、見た目こんなですし……なのに手すらまともにつなげないってわかったら、相手も冷めちゃうじゃないですか」

八幡(見た目がこんなって自覚はあるんだな。というか一色の場合は分かっててやってるんだったか)

八幡(でも外見に反して初々しいってのは、寧ろ好感が持てるんじゃないのか? そう思うのは俺が童貞だからなのか…?)

いろは「だから男の人で練習したかったんです。こんなこと頼めるのって先輩しかいなくって…」ウル

八幡「そ、そうか」

八幡(ちょっ、そんな泣きそうな顔しないで! 抱きしめたくなっちゃうから!)




八幡「まあ、俺で良いなら全然構わないが」

いろは「ほんとですか!? やった! うれしいですっ」パァッ

八幡(なにこの天使のような天使の笑顔…)

八幡「けど、他にも頼めばやってくれそうな奴はいくらでもいるんじゃないの? 同級生とか」

いろは「え? だって、クラスの男子とかに頼んだらぜったい自慢して回るじゃないですかぁ。勘違いされても困りますし。その点先輩は心配ないですからね」

八幡「あー、そうだな。俺なら勘違いしないしな」

いろは「いえ、自慢するような友達がいないって意味ですよ?」

八幡「そっちかよ…」

いろは(……勘違いはしてほしいんですけどねー)




いろは「それじゃ先輩、始めますね。手出してください」

八幡「お、おう」スッ

いろは「あっ、手出すっていってもやらしい意味じゃないので勘違いして襲わないでくださいね?」

八幡「そんな勘違いするか! 早く握れ!」

いろは「は、早く握れって、先輩わたしに一体なにをにぎらせるつもりですか…?」

八幡(一体ナニを握らされるつもりなんですかねぇこの後輩…)

八幡「今すぐやめてもいいんだぞ」

いろは「もぉー冗談ですよぅー。ええと……」ギュ

八幡「…!」

いろは「……ど、どうですか?」

八幡「ど、どうって言われてもな」

八幡(小さくて…やわらかいです…)

いろは「あは、それもそうですね」

いろは(先輩の手、意外とおおきい…)





八幡「……」

いろは(先輩の手…)ニギニギ

八幡「…で? これからどうするの?」

いろは「へっ? あ、そうですね」

いろは「これじゃただの握手ですし、次のステップに進みましょうか」

八幡「と、言うと?」

いろは「先輩、横に立ってください」

八幡「……こうか?」

いろは「はい……あーっと、もう少し寄ってください」

八幡「ん」

いろは「このくらいですかね。それではどうぞ」

八幡「……んっ?」




いろは「なにしてるんですか。早く手つないでください」

八幡「お、おう。えーっと…」サワ

いろは「ひゃっ! ちょっ、なんで脚さわるんですか!?」

八幡「っ!? わ、悪い! わざとじゃなくてだな」

いろは「わかってますけど…気をつけてくださいね? 危うく先輩を痴漢で通報するところでした」

八幡「ああ、俺も線路があったらすでに飛び降りてるところだった」

いろは「チキンハートすぎませんか…」

八幡(いろはすのすべすべ太もも……やばいなんか興奮してきた)

八幡(落ち着け八幡、天上のシミを数えてやり過ごすんだ。あれこれなんか違うな)




八幡「じゃあ、改めて」ギュ

いろは「っ!」

八幡「……これでいいのか?」

いろは「いいんじゃ、ないですか?」

八幡「…そうか」

いろは「…はい」

いろは(先輩と並んで、手つないでる……)

八幡(それだけだってのに、なんだか本当にアレみたいに思えてくるな……)


八幡(っていやいやアホか俺は!)

八幡(中学じゃよく話してただけで気があると勘違いして破滅したんだ。高校生ともなれば手つなぐ程度で勘違いしちゃいけない)

いろは(このまま、次のステップに…!)





いろは「先輩、次は、あれしてください」

八幡「えっ? アレ?」

いろは「はい」

八幡(どれ…?)

いろは「……先輩? わかってますよね?」

八幡「あ、ああ。当たり前だろ」

八幡(やべ、反射的に肯定しちゃったよ)

いろは「ならいいですけど」

八幡(今さらやっぱり分かりませんはちょっとな……手繋いだら次はなんだ?)

八幡(くそっ、まともなソースが無い。せめてギャルゲーを豊富にプレイしていれば!)

いろは(先輩、ぜんぜん手が動かないけど本当にわかってるのかな)

八幡(手の次は……足? 二人三脚とか? いやいやそんなわけあるか)




八幡(思い出せ、世の忌々しいカップルどもが俺に見せつけてきた情景を。えーっと公園のベンチで確か暑苦しい口づけを……)

八幡(ば、バーロー! んなことできるか! 相手は一色だぞ? んなことした日には即通報即周知即退学まっしぐらだ!)

いろは「せーんぱーい、まだですかぁー?」

八幡「あ、ああ、今やる」

八幡(落ち着け、ひとまず一色の顔を見るんだ。そうしたらキスだとかそういう馬鹿な妄想は現実的に不可能ってことが認識できるはずだ)

いろは「? な、なんですか先輩?」

八幡「……」

八幡(決して厚みがあるわけじゃなく小ぶりな……されどちょこんと出ていて艶のある唇)

八幡(なんだこれ、不思議と吸い込まれるような……)スッ

いろは「………へっ?」

いろは「あの、ええっ!? せ、せんぱ……」


八幡「……はっ!?」


いろは「っ……!?」




八幡「はあ、はあ……」

八幡(な、なんだ今の? 俺は一体何をしようとしてたんだ? まるで一色に吸い寄せられたみたいに体が…)

いろは「…………」

八幡(ギリギリのところで気がついた。気がついてよかった。おかげで最悪の事態は回避できた)

八幡(ん? それから俺はどうしたんだっけ?)

いろは「せ、先輩…?」

八幡(あれれ~? なんか一色の声が耳の後ろから聞こえるぞぉ~?)

いろは「あのっ……は、ハグだったんですか? 次って…」

八幡「……」ギュー

いろは「……」

八幡「違いますよね……」

いろは「いえ、その……わたしとしては恋人つなぎのつもりで言ったんですけど」




八幡(あ、ああー、恋人つなぎね。アレね、相手が逃れられないようにガッチリホールドするやつね)

八幡「悪い……本当は次が何なのか分かってなかった」

いろは「あ、あー。そうなんですかぁ。それならそうと言ってくれればいいのに」

八幡「なんか妙なプライドに邪魔されてな…」

いろは「先輩にもプライドなんてあったんですね。この前プライドレスとか言ってたくせに」

八幡「言ったことねぇよ。仮に言ったとしたらプライスレスだ」

いろは「そうでしたっけ」

いろは(先輩の体、がっちりしててなんか安心する……)

八幡(てかどうすんだこの状況……)

八幡(いや、さっさと離れるべきなのは分かってるよ? でもなんつーか取り返しのつかない状態から進むも退くもできないっつーか)

いろは「あの、先輩…?」

八幡「ちょっと待ってくれ、今俺は山道で出会った熊と対峙してる気分なんだ」

いろは「どういうイミですか!? 抱いてみたらクマの筋肉みたいにかたかったってことですかっ!?」




八幡「そうじゃねぇよ、やわらかいし抱いてて心地いいし」

いろは「っ! そ、そういう発言はセクハラですよ…」

八幡「つってもこの状況が既にセクハラ確定なんだよな…」

いろは「ま、まあたしかに」

八幡「それだけにここからどうしていいのか分かんないんだ。放したら人生終わるからな……ハハッ、どうしてこうなった」

いろは「……」

八幡(どうせ同じアウトなら、やるとこまでやって人生終了したほうが得か?)

いろは「…先輩」

八幡(いや、俺はよくても一色が更なる傷を負うのか。そういうのは駄目だな)

いろは「先輩、聞いてますか?」

八幡「え? な、なんだ?」





いろは「えと、セクハラって、好きでもない人にされて嫌な気分になるからセクハラなんですよね?」

八幡「は? まあ、ハラスメントっていうんだからそんな感じだとは思うが…」

いろは「ですよね」

八幡「なに? 時事ネタの勉強的な? 一色ってそんな意識高い系だったっけ」

いろは「ちがいますよ……あとそのダジャレは死ぬほど寒いです」

八幡「え?」

八幡(あ、『一色』と『意識』か……そんなつもりじゃなかったんですが……)

いろは「……」

いろは「寒くなっちゃったので……先輩があっためてください」

八幡「…………え、なんだって?」





いろは「で、ですから! 先輩のせいで寒くなったので! そのぶん先輩があっためてください!」

八幡「…………え、なんだって?」

いろは「あーもうなんで全く同じ反応なんですか!! ガチな難聴系なんですか!?」

八幡「いや聞こえちゃいるんだけど、温めるの意味がよくな」

いろは「っ!! そ、そこまで言わないとわかんないんですか先輩は」

八幡「分からんだろ普通…ストーブでも持ってくるか?」

いろは「ちがいます! だから、あのっ……」


いろは「もっと強く……ぎゅってしてください……」


八幡「…………」





八幡(あ、ありのまま、今起こったry)

八幡(何を言ってるか分かry)

八幡(俺の後輩がこんなに可愛いわけがない……)


いろは「先輩……? わたしにここまで言わせて聞こえないフリはさすがに傷つきますよ?」

八幡「い、いや。大丈夫だ、ちゃんと聞こえた」

いろは「ほんとですか? なら早く…してください」

八幡「ああ……」

八幡(いいんだよな…? 本当にいいんだよな?)

八幡「……」ギューー

いろは「っ…」

八幡(強くってこのくらいでいいのか? 全然加減が分からん…)

八幡「痛くないか?」

いろは「だ、大丈夫です……けど」

八幡(けど?)

いろは「ちょっと苦しい…です」




八幡「わ、悪い! 強くしすぎたか」パッ

いろは「あっ! まっ、待って先輩! いま離れたらっ…」

八幡(しまった、一色に対してどんな顔すればいいのか分からないってのに放しちまっ……っ!?)

いろは「あ……」

八幡「い、一色……お前……」

いろは「ーーーっ!! ばかばか! 先輩のバカ! 見ないでくださいっ!」バッ

八幡「お、おう……悪い」

いろは「謝らないでくださいぃ……ううぅー…」

八幡「悪い……」

八幡(今や後ろを向いてしまったが……瞳に入った光の情報は神経を介してしっかりと俺の海馬に刻まれた)


八幡(オオグンタマのメス……じゃなくて、一色いろはの貴重な紅潮シーン!!)





いろは(先輩にみられた先輩にみられた先輩にみられたぁ……)

八幡(え? なに? 今のが素の顔ってやつなの?)

八幡(作り笑いして生きてる系ヒロインの本当の笑顔(笑)とか思っててごめんなさい…笑顔じゃないけど素の顔可愛すぎんだろコンチクショウ!!)

八幡(どうでもいいけど素の顔と味の素ってちょっと似てるな……いや本当どうでもいいわ)

いろは「……」

八幡「……あの、一色さん?」

いろは「忘れてください」

八幡「いや、ほら。そういう一面もあっていいんじゃないかって俺は思うぞ」

いろは「よくないです! あんな……あんなのわたしじゃないですっ」

八幡「はっ?」

いろは「絶対ふやけた顔してたもん…ぶさいくだったもん…」




八幡(ああ……そうか。こいつも外骨格組だから)

いろは(先輩の前では…かわいいわたしでいようって思ってたのに……)

八幡「あー、一色」

いろは「…なんですか」

八幡「これは俺の友達の友達の話なんだが」


八幡「そいつの学校にはある一学年下の女子がいてだな、これがまあ学年中の男子を手玉に取る魔性の女みたいなやつらしいんだ」

いろは「……はあ」

八幡「で、そいつはどういう経緯かその後輩の女子と関わりをもつようになった」

八幡「その女子の外面は確かに見た目良く、人気があるのも頷けた。でもそういう分かりやすい仮面はそいつにとっては警戒の対象でしかなかったそうだ」





八幡「その女生徒はことあるごとに厄介ごとを持ってきてはそいつを使役した」

八幡「いやマジで、扱いがもうね。もはやパシリ。しかも超あざといんですわこれが。まさしく魔性の女」

八幡「………らしいんだが」

いろは「……めちゃくちゃ感情こもってましたねいま」

八幡「ところがある時ふとその女生徒の仮面がぽろっと落ちて、そいつは初めて仮面の内側を見ることになった」

いろは(あくまで続けるんだ…)

八幡「警戒していた女生徒の素顔を目にしたそいつは心底驚いたそうだ」

八幡「……『こんなに綺麗なものがこの世にあったのか』と」

いろは「……えっ」

八幡「……」

いろは「先輩、それって…」

八幡「その後そいつは社会的に死にました。オワリ」

いろは「ええええっ!? ちょっ、どんな終わりかたですかそれ!」

八幡「彼のことはずっと忘れないよ……ズッ友だょ……! めでたしめでたし」

いろは「ぜんぜんめでたくないですからね!?」





八幡「いいんだよ別に、ただの友達の友達の話なんだから」

いろは「先輩、友達もいないのに友達の友達なんてもっといるわけないじゃないですか」

八幡「……」

いろは「いまの、もしかしなくてもわたしと先輩のお話ですよね?」

八幡「いや…」

いろは「ですよね?」

八幡「お前な、そう言いたくないから伝聞形式で話した俺の気持ち汲んでくれてもよくない?」

いろは「わかってますよ。でもわたしだってそういうことはちゃんと聞きたいんです」

八幡(まじかよ……話さなきゃよかったな…)





八幡「まあ、あれだ。一色っていつもあざとくキャラ作ってるだろ?」

いろは「えー、あざとくなんかないですよぅー」

八幡(はいはいあざといあざとい)

八幡「それだけに本当は何考えてるのかよくわかんなくてな。ぶっちゃけ怖いんだよ」

いろは「先輩からそんな風に思われてたんですかわたし……地味にショックなんですけど」

八幡「とまあそんな印象がある中でさっきのことだ」

八幡「よく分からんが俺と抱き合ってたら、どういうわけか一色が顔真っ赤にして慌てふためいてて」

いろは「わーー! そういうこと言わなくていいですからっ!!」

八幡「俺だって言いたくねぇけどお前が話せって言うから…」

いろは「そうですけど……うぅ」





八幡「それで……だからその、つまりそういうやつってことだ」

いろは「ちょっ、肝心なとこにごさないでください!」

八幡「いやだってこんなの公開処刑じゃん…恥ずかしいし…」

いろは「わ、わたしだって恥ずかしいんです! それでどうしたんですか!?」

八幡「あーー、あれだよ、ある意味ギャップ萌えっつーか」

いろは「はあ、ギャップですか」

八幡「普段作った表情しか見せないお前が見せた素の顔っつーか……まあそれがな」

いろは「…………どう思ったんですか?」

八幡「………言っても引くなよ?」

いろは「もう先輩からはこれ以上引けませんよ」

八幡(最底辺じゃねーかチクショウ)


八幡「まあ……」

八幡「控えめに言って、世界一可愛かったな」

いろは「へ」


QB「やれやれ、なにやら隣の部屋が騒がしいことになっているね」

ドカーン! ドン!  マミ!オチツケ!!
ガシャーン! キャー!! ティロフィナーレ!!

QB「つくづく人間というのは不思議だね。やれ胸が大きくなった小さくなった、太っただの痩せただの。そんなことで別人に見えるなんて。容姿がいくら変わったところでその中身まで変わるわけじゃないじゃないか。わけがわからないよ」

バキバキバキ! マミサーーン!!
ガイーン!!  スクワルタトーレ!!

QB「さて、こっちに飛び火する前に僕は退散させてもらうとしようかな。みんなもおっぱいだけで人を見るような人間にはならないよう気をつけることだね。」キュップイ



おしまい



いろは「あ……わ……わわ……」

八幡(こりゃ言っちまった感あるな……でも一応本音だしな。我が後輩のデレ力は世界一ィィィ!!!)

いろは(せ、先輩ならプラスのこと言ってくれるかもとは思ってたけど……そこまで言われるなんて……)カァァ

いろは(うーっ、また顔がふやけちゃう…!)

いろは「先輩っ! あの、だっ、抱いてください!」

八幡「ファッ!?」

八幡(あ、抱いてって普通にハグしてって意味ね? もちろん分かってるよ他意がないことくらい)

八幡(つーか普通にハグってのもすごいと思うが……まあさっきもやってるしな。いいんだよな)ギュー

いろは「ん……」

いろは(これなら顔見られないし。ていうか、先輩のにおいする……)

八幡(さっきと違うのは一色の頭が体の前にあるってとこか……髪きれいだな……イイニオイダナー)

いろは(あれ、先輩の心臓、ちょっと早いかも…?)




いろは(もう、伝えちゃってもいいのかな)

八幡(これ結局元に戻ってるよね? ここから進むにはどうすればいいんだ…? 教えてエロい人!)

いろは(もしくは聞いちゃっても…)

いろは「先輩……あの、わたしのこと、どう思いますか?」

八幡「え…? 宇宙一可愛い?」

いろは「スケールアップしてますよ!? や、そう言ってくれるのは普通にうれしいんですけど、そういうことじゃなくて」

八幡(容姿やそういった類のことではなく……ってことは、やはりアレなんだろうか)

八幡(だがもしここで勘違いだったらどうなる? 過去の教訓が泣くことになるぞ)

いろは「……先輩、いまドキドキしてますよね?」

八幡「えっ」


ちょい小休止



いろは「この位置だと心臓の音が聞こえるんです。わたしとこういうことして、ドキドキしてるんですよね?」

八幡「あ、ああー。そりゃもうね、いつセクハラで通報されるかハラハラドキドキしてるね」

いろは(むぅ……そういうことじゃないのに)

いろは「さっき言いかけた話なんですけど、セクハラって好きでもない人からされて嫌な思いをするから成り立つんですよね」

八幡「そういやそんなこと言ってたな」

いろは「……なら先輩は大丈夫です」

八幡「……ん?」

いろは「先輩、手つないでください」

八幡「はっ? この状態で?」

いろは「この状態でです」

八幡「……いいけど」ギュ





八幡「これでいいのか?」

いろは「まだです。指……絡めてください」

八幡(ワアー、それってつまり)

いろは(恋人つなぎ……とはちょっとちがうけど)

八幡(細いな。力入れたら折れそうだ。男女でこうも差が出るのか)

いろは「こんなことしたってイヤじゃないです」

八幡「……おう」

いろは「もっと言うと、ですね」


いろは「さっき先輩、わたしにキスしようとしましたよね?」

八幡「ブブブフゥ!!」




八幡「あー、えー……え、なんだって?」

いろは「ムダですよ。先輩が難聴じゃないのは確認済みです」

八幡(駄目か…)

八幡「なんで分かったのかしら…」

いろは「そりゃあそこまで顔近づけられたらわかりますって」

八幡「……正直すまん。未遂とはいえあの時は本当どうかしてた。許してくれ」

いろは「……いいですよ?」

八幡「助かる」

いろは「いえ、そうじゃなくて」

八幡「ん?」

いろは「しても……いいですよ?」




八幡「……」

いろは「……」

八幡「え、なんだっt」

いろは「それは通じませんってば」

八幡「hahaha……」

いろは「……しないんですか?」

八幡「待て、いろいろとおかしい」

いろは「宇宙一可愛い後輩がオーケーしてるんですけど、したくないんですか?」

八幡「お、お前、ここでそれ持ち出すなよ」

いろは「先輩が言ったことですもん」

八幡「そりゃそうだけど…」




いろは「もしかして、わたしとするのイヤなんですか…?」

八幡「だ、だから待てって。こういうのは許可されたからってホイホイするもんじゃないだろ」

いろは「……じゃあ、言いかたを変えます」

八幡「え?」

いろは「先輩………わたしにキスしてください」

八幡(嘘だろおい)

八幡「一色? お前、自分が何言ってるか分かってんのか?」

いろは「……」

いろは「分かりませんよ…」

八幡「分かんねぇのかよ…」




いろは「わかんないんです。自分でもなんでこんなこと言ってるのか、正直ぐちゃぐちゃで」

いろは「こんなつもりじゃ…なかったんです」

八幡「は?」

いろは「ほんとは今日、手をつないで、デートとかもして、ちょっとずつ進めていって」

いろは「気がついたらー…って、そういう感じの作戦だったんです」

八幡「作戦……? あれ、練習は?」

いろは「……先輩って実はわりと鈍感系ですよね」

八幡「んなわけないだろ。超敏感だっつの。なんなら敏感すぎて困ってるまである」

いろは「それはそれで気持ち悪いです…」

八幡「そういう傷つく言葉にも実は敏感なのよ?」

いろは「ならそういう感想を抱かせるような発言しないでくださいよ」

八幡「ごもっともで…」




いろは「はぁ、なんか結局はぐらかされてる気がします」

八幡「この短時間でいろんなことがありすぎて心の整理が出来てないんだよ…察してくれ」

いろは「じゃあその整理が終わったら応えてくれるんですね?」

八幡「善処する」

いろは「わかりました。3分間待ってあげます」

八幡「お前はムスカかよ……それなりに人生に関わる選択だから真剣に考えたいんだけど」

いろは「うっ、そう言われると……じゃあ整理っていつ終わるんですか?」

八幡「俺ってば男だから生理が終わる以前に始まってないんだよね」

いろは「……」

八幡(あ、やばい怒らせたか?)

いろは「いいかげんそろそろ泣きますよ…」

八幡「!?」





八幡「泣くって……え? マジで?」

いろは「くすん、マジで涙する5秒前ですよぅ」

八幡「わ、悪い。そんなつもりじゃなかったんだよ」

八幡(一色みたいな目立つ奴を泣かせたりしたら『女泣かせの比企谷』的な悪評が学校中に…!? なにそれすごいチャラい)

いろは「なーんて冗談に決まってるじゃないですかー」

八幡「って冗談かよ!」

いろは「先輩ごときがわたしを泣かせるだなんて片腹痛いです」

八幡(こいつ…)

いろは「あっはは! 先輩でも女の子の涙には弱いんですねぇ」

八幡「さあな。生憎そんな状況になったことがあまりないもんで」





いろは「あまりってことは、ちょっとはあるんですか?」

八幡「まあ何回かは」

いろは「ふうん。そうなんですね」

いろは(先輩ってやっぱりモテるときはモテるんだ…)

八幡(ノート返却でノートを渡した女子が突然泣き始めたとかな。あの時は心臓を彫刻刀で削られてるような気分だった)

いろは(先輩がモテるって……なんだろ、複雑っていうか、なんかすごくモヤってする)

いろは(わたしが話す男子は大体それが普通で、そんなこと思ったことないのに。葉山先輩だって)

いろは(でも、先輩は……)

八幡(やばい。また思い出してはいけない過去を掘り出したせいで俺が泣きそう)

いろは(……やっぱりわたし、先輩のこと好きだなぁ…)




八幡「ところで、コレどうすんの?」

いろは「へっ? ……あ、コレですか」

八幡(忘れないでいただきたい。今俺と一色は向かい合わせ(というかほぼ接してる)で手握り合ってる(しかも指絡めてる)状態である)

いろは「って、そうじゃないですよ! 結局よくわからないうやむやな感じになっちゃってるじゃないですか!」

八幡「まずよく分からんこの状態をなんとかしたいんだけど……」

八幡「大体、お前だって俺なんかと無闇に接触してたくないだろ」

いろは「えぇー……それ本気ですか先輩」

八幡「な、なんだよ」

いろは「はぁー。ここにきてまだそんなこと言うなんてもはや泣きたいのを通り越して呆れちゃいますよ」

八幡(分かってるよ。けどまだ整理が出来てないんだっつの。つーか泣くくだりは本気だったのか……)




いろは「わかりました。先輩のお望み通り一旦離れますね」

八幡(はぁー、やっと解放された…)

いろは「むぅ…露骨に安堵されるとちょっと悔しいです」

八幡「悔しいってなんだよ」

いろは「『いざ離れてみるとやっぱり惜しいことしたなー』って感じの顔するのが普通だと思うんですけどねー」

八幡「だってー、俺って普通じゃないじゃないですかぁー」

いろは「うわっ、うっざ…! ぜんぜん似てないんですけど。っていうかキモいんですけど」

八幡(うぐっ、またしても心が削られていく……)




八幡(これ以上はメンタルがやばい。いろんな意味でやばい。無理やり切り抜けるか…)

八幡「で、もう帰っていい?」

いろは「えっ、ちょっ、まだ依頼は終わってませんよ」

八幡「これは依頼じゃなくて手伝いだろ。なら最後まで遂行する義務はない」

いろは「それはそうかもですけど…」

いろは(うーー、いろいろ中途半端すぎるよー……変に近づいたせいでこれから先輩に避けられたりして…?)

いろは(なんか、先輩から避けられたらわりと本気でヘコみそう)

八幡「反論が無いなら俺は帰るぞ」

いろは「……」

八幡「……」

八幡「まあ、なんだ。続きはまた明日、学校でなら聞いてやるから」

いろは「へっ?」

八幡「じゃあな」


ガララ ピシャ


いろは「あっ先輩……」

いろは(また明日、って言ったよね…?)


いろは「……えへへ。素直じゃないですねぇ」




翌日 土曜日



いろは「…………」



いろは「って今日は休日じゃないですかぁ!!!!」





ヴー ヴー


八幡(誰だよ朝っぱらから。せっかくの休みを邪魔するとはいい度胸だ)ピッ

八幡「はい」

いろは『あっ先輩ですか!? よくもわたしを騙してくれましt』ピッ

八幡「……」

八幡「え? なに今の」ヴー ヴー

八幡「……」ピッ

いろは『ちょっと先輩!! いくら後輩だからって無言で切るなんてマナーとして最低です!』

八幡「おかけになった電話の持ち主は現在話す気がございません。即座に通話をお切りのうえ……」

いろは『バカにしてるんですか? バカにしてるんですね?』

八幡「……何の用だよ一色。つーか何で番号知ってんだよ」

いろは『結衣先輩に聞きました。そんなことより先輩、今日学校お休みなんですけど!』

八幡「土曜なんだから当たり前だろ」




いろは『今日、わたしの話聞いてくれるって言いましたよね!?』

八幡「あー、言ったような気がしないでもないな」

いろは『昨日ぜったい言いました! ちゃんとわたしの記憶と記録には残ってるんですからねっ』

八幡「だから『学校でなら』っつったろ。今日は休みだから学校はない。よってその義務も発生しない」

八幡(あれ、つーか今なんか不穏なワードが混じってなかった?)

いろは『うーー、やっぱり騙したんですね…ひどいですぅ』

八幡「いや、まさかそれで登校しちゃうとは思わなかったし…」

いろは『先輩はわたしのピュアな乙女心を弄んで傷つけました。責任とってください』

八幡「悪かったよ。なんかで埋め合わせするから」

いろは『じゃあ、今から学校にきてください』

八幡「はっ? い、今から?」

いろは『先輩どうせ暇ですよね? また生徒会室にいるのでダッシュでお願いします』

八幡「いやいや勝手に決めつけるなよ。これからアニメ観たりゴロゴロしたり、あと飼い猫と戯れたりとか色々忙しいっつの」

いろは『めちゃくちゃ暇じゃないですか! あーもう、待ってますからねっ!』ピッ

八幡「ちょっ、待て…」ツー ツー

八幡(嘘だろ……休日に突然出勤とか社畜かよ…まだ学生なのに)





スタスタ


八幡(次からはもっと別の躱し方を考えないとな)

八幡(この扉の向こうに一色が……なんかボス戦に挑む前みたいだ。セーブしとかなきゃ…)


コンコン


八幡「入るぞ」ガララ

いろは「よくきましたね、先輩」

八幡(マジでボスみたいな挨拶してきやがった)

八幡「お前が有無を言わさず来させたんだろうに」

いろは「無視することもできたじゃないですか。そういう忠犬みたいなとこ、けっこうポイント高いですよ?」

八幡「褒められてる気がしねぇ…」

八幡(忠犬ってハチ公かよ。いや八幡だからある意味ハチ公で合ってるけども)

いろは「ひとまずそこ座ってください。いまお茶出しますね」

八幡「ん、おう」





いろは「どうぞ。粗茶ですが」コト

八幡「粗茶も何も、ペットボトルのを注いだだけだしな」

いろは「むぅ、文句言うならあげませんよ」

八幡「いやいや出してくれるだけでもありがたい」

八幡(案外一色もこういう気遣い出来るんだな)ズズッ

いろは「……お味はいかがですか?」ニヤリ

八幡「……? なんだよ」

いろは「わたしがただのお茶を振る舞うなんて思いました?」

八幡「はっ?」

八幡(……なんだ? 言われてみれば市販の茶にしては苦味が強いような……)

八幡「お、お前、さては……」

いろは「ふふっ、気づいちゃいましたか。お察しの通り、これは普通のお茶じゃありません」

八幡「ぐっ……」

八幡(気のせいか眠気が……まさかこいつ……)

いろは「新商品のにごりほのかです」

八幡(…………気のせいだった………)




いろは「どうです? ちょっと普通のよりお高いぶん、本格的な味じゃないですか?」※綾鷹ではありません

八幡「……ソウデスネ」

八幡(まあ、夜更かししたしな。気のせいじゃなくても眠気は出るわ)

いろは「それじゃあ、さっそくなんですけど」

八幡「!」

八幡(昨日の続き、か)

八幡(最終的に何の話だったかうろ覚えというか、意図的に有耶無耶にしてたわけだが……もう逃げられないな)

いろは「………これを」ドサッ

八幡「ん? ……なにこれ」

いろは「え、えっと……それがですね、わたしがやらなきゃいけないお仕事なんですけど、ちょーっとまとめてやろうと思ってたっていうかぁー」

八幡「……」

いろは「あとさっき気づいたんですけど、まだ先かなーって思ってたのが月曜までのだったりして、しかもわたし明日予定ある感じでー…」

八幡「ほう。で?」

いろは「………えへっ♪」パチン

八幡「お前……」




カタカタ パチパチ


八幡(結局仕事することになるのか……やっぱ社畜じゃねぇか)

いろは「ふふっ、先輩はなんだかんだで手伝ってくれる優しいとこもポイント高いですねー」

八幡「仕事が回らなかったら学校側に響くだろ。で、生徒である俺にも不利益が生じかねないってだけだ」

いろは「なにげにツンデレなのもちょっとポイント高いかもですっ」

八幡「違うから……」

八幡(男のツンデレほど誰も得しないもんは無い。男の娘ならともかく。例えば戸塚とか、あと戸塚とか)

八幡「つーかそのポイント制なんなの? 小町の影響?」

いろは「んー、っていうか、女の子はわりとみんな無意識に点数つけてると思いますよ?」

八幡「そういうもんなのか」

八幡(要は好感度と同じってわけね。いつか貯まったら小町から何か貰えるのかと思ってたが、そういうわけじゃないんだな)






トサッ


八幡(大体は片付いたな)

いろは「あ、終わりました?」モグモグ

八幡「っておい、いつの間にサボってんだよ。しかもクッキーとか食ってるし…」

いろは「だって月曜までのは済んじゃいましたもん。わたし途中で言いましたよ? 先輩仕事に夢中で生返事でしたけど」

八幡「え、マジで?」

八幡(どんだけ集中してんだよ俺。そういや知らん内に肩と首が……こりゃ体質から社畜かも分からんね)クキッ

いろは「……よかったら肩もみしましようか?」

八幡「え?」

いろは「なんか凝ってそうにしてたので」

八幡「いやいいよ。そんなでも無いし」

いろは「まぁまぁー。わたし、けっこううまいって評判なんですよ? 失礼しますねっ」ススス

八幡「い、いやマジでいいって…」

いろは「えいっ」グイッ

八幡「……っ!」





いろは「やっ、とうっ」グイ グイ

八幡「……お…」

八幡(これは、思った以上に……)

いろは「気持ちいいですか?」グイ グイ

八幡「あ、ああ。こういうのは力が弱くてくすぐったいってのがよくあるパターンだが…普通に良いわ」

いろは「わたしの経験値をなめてもらっては困りますねー」グイ グイ

八幡(なるほど、上手いと評判って自分で言うだけはある)

八幡「……評判か」

いろは「はい?」

八幡「ん? いや、マジで経験値高いんだなと」

いろは「ふっふーん、そうでしょうそうでしょう」グイ グイ

八幡「……ってことは他の奴にも結構、こういうことしてんのな」

いろは「えっ?」

八幡「あ、違う、今のは……」

いろは(……えっ? えっ?)

いろは「それ、どういうイミですか? もしかして……」

八幡「べ、別に? 特に意味は無い」




八幡(どうした俺、妙なこと口走ったな。一色が誰に何しようと関係無いだろ)

いろは(やきもち……だよね? たぶん)

いろは「へへ、えへへへっ」

八幡「……なんだよ」

いろは「いーえー、べつにー?」グイ グイ

いろは(やばっ、ちょっとうれしいかも……っ!)

八幡(なんだか変な勘違いをされてる気がする。けどこういうのは言い訳するほど火に油だしな……)

いろは「ふふっ。あのですねー先輩、お父さんですよ?」

八幡「えっ?」

いろは「肩もみの相手です。ぜんぜん他の男子とかにしたことないですし」

八幡「へ、へぇ……あ、そう? まあ、うん、知ってたけどね?」

いろは「ほんとですかぁー? まぁそういうことなので、安心してくださいねっ」

八幡「い、いや意味分かんねぇし。安心ってなんだよ。元々してるから。朝まで熟睡だから」

いろは「先輩のほうがイミわかんないです…」

八幡(なんなら羽根つきで寝返りも大丈夫だから。いや本当意味分かんねぇな)




いろは「ふぅ。それじゃ肩もみはここまでですね」

八幡「お、おう」

いろは「名残り惜しいならもうちょっとしてあげてもいいですよ? 別料金ですけど」

八幡「金取るのかよ……つーかいいよもう、かなり楽になった気がするし」グルグル

いろは「それはよかったです。がんばった甲斐がありました!」

八幡「どうも。サンキュな」

いろは「……あの、先輩」

八幡「ん?」

いろは「わたしがこんなことするの、先輩だけですからね…?」ボソ

八幡「っ…!!」ドキ

八幡(耳元でそういうこと言うのやめてくれませんかね……心臓に悪いっつの)

八幡「……父親はどうしたんだよ」

いろは「お父さん以外でですよぅ。もー…わかってるくせに」

八幡(マジでどこまであざといんだこいつ……いい加減分かってても惚れちゃうだろ…)





八幡(まずいな、この状態で昨日みたいなことになったらどこまで耐えられるのか自分でも分からん)

いろは「えと、それじゃあそろそろ片付けて帰りましょうか」

八幡「えっ?」

いろは「なんですか?」

八幡「……もう終わりでいいのか?」

いろは「はいっ。先輩のおかげでノルマは終わりましたし」

八幡「いや、じゃなくて、元々昨日の続きっつーか、話聞くってやつで来た気がするんだけど」

いろは「あっ! そ、そうでしたねっ」

八幡「忘れてたのかよ…」

八幡(ミスったな、もしや言わなきゃそのまま帰れたんじゃねこれ)




いろは「んー、でも、今日はもういいかなぁ…」

八幡「え? マジで?」

いろは「少しですけど、思わぬ収穫もありましたし。それにやっぱりまだ計画どおりにしようかなーって」

八幡「はあ……」

八幡(よく分からんが、俺にとってもありがたいし無理に掘り下げることは無いな)

八幡(にしても計画通りってなんだよ。え、俺心臓麻痺で死なないよね…?)

いろは「なので先輩。き、昨日のことは……忘れてくださいっ!」

八幡「いや、あんなのそう簡単に忘れられるインパクトじゃ無いんだけど……」

いろは「うっ……それでもがんばって忘れてください」

八幡「記憶って頑張ったら余計忘れなくなりそうじゃね?」

いろは「いいからぁ! えいっえいっ、先輩の記憶、飛んでけーっ!」ペシペシッ

八幡「ちょっ、痛いの痛いの飛んでけー的なノリで恐ろしいこと言うな! 分かった、忘れるから!」

八幡(物理的に忘れさせようとしないで! あとそれ可愛いから! 萌えちゃうから!)




ガララ


いろは「はい先輩、どうぞっ」

八幡「ん、サンキュ」

八幡(休日は校門も自分で開け閉めするんだよな。チャリだから一色がいて助かった。まあそもそも休日に来なきゃいけなくなったのがこいつの所為なんだが)

八幡「じゃあ、俺こっちだから」

いろは「はぁーい。よろしくお願いします」チョコン

八幡「……は? 何してんのキミ?」

いろは「はい?」

いろは「あ、そっか。これは二人乗りと言いまして自転車の荷台に人を…」

八幡「いやいくら友達いなくても二人乗りくらい知ってるからね? じゃなくてお前千葉駅方面だろ」

いろは「えっ? 乗せてってくれないんですか?」

八幡「なんで当然のように俺が送迎係になってるんですかね……」

いろは「先輩、電話で埋め合わせするって言ってたじゃないですかぁ」

八幡「だからわざわざ来たんじゃねぇか。しかも生徒会の手伝いまでしてやったしな」

いろは「それはほら、肩もみでチャラですよっ」

八幡「有料だったのかよ……」




いろは「というわけで先輩、レッツアンドゴーです!」

八幡「それはミニ四駆な。どの道駄目だ、今は公道の二人乗りは法律で禁止されてんだぞ」

いろは「もぉー先輩カタいですねー、規則は破るためにあるんですよ?」

八幡「生徒会長の台詞とは思えないな……」

八幡「つーかそうだ、お前生徒会長だろ。二人乗りで万が一事故でも起こしたら学校の信用に関わるし、下手すりゃ新聞沙汰だぞ? いいのか?」

いろは「うっ、それは……」

八幡(流石にこれは反論できまい。少し可哀想だがここは大人しく引き下がって貰おう)

いろは「……」シュン

八幡「……」

八幡「ま、まあアレだ、二人乗りは出来んけど、駅まで送るくらいはな?」

いろは「ほんとですかっ!?」パァッ

八幡「あ、ああ。別に急いじゃねぇし」

いろは「わーいっ、じゃあお願いしますっ! えへへへー」

八幡(ぐっ、そんな露骨に嬉しそうにしないで! 俺まで嬉しくなっちゃうから!)




いろは「あっ。あと先輩、おなかすきません?」

八幡「あー、言われてみれば確かに。もう昼時だし」

いろは「じゃあじゃあ駅でお昼食べましょう! 先輩もどうせ行くならなんかしたほうがよくないですか?」

八幡「いいけど、今手持ちあったかな…サイゼくらいしか払えないかもしれないぞ?」

いろは「いいですよ。サイゼでもマックでも」

八幡「吉牛でも?」

いろは「んー、まぁ、それでもいいですよ?」

いろは(……先輩といっしょなら)

八幡(意外だな、もっと文句言われるかと思ったが)

いろは「とにかく決まりですねっ。今度こそヒアウィーゴーです!」

八幡「それはマリオカートじゃ…」

いろは「~~~♪」

八幡(……なんでもいいか)





八幡(しかしまあ、一色と休日に飯食いに行くことになるとはな。初めてってわけじゃないが…)

いろは(えへへ、これで制服デートも叶ったかな)

八幡「……」

八幡「ちなみに、だが」

いろは「はい?」

八幡「こういうのも…誰とでもするって訳じゃないのか?」

いろは「えっ…?」

八幡(って、何聞いてんだ俺は……)

いろは(先輩、やっぱりけっこう意識してる……?)

いろは「ふふっ。知りたいですか?」

八幡「べ、別にそこまでは。単純な興味っつーか」

いろは「もー、ほんと素直じゃないですね」

八幡「そんなんじゃねぇっつの」

八幡(……いや本当に…多分)





いろは「んー、そうですねー…」

いろは(あっ、そうだ)

いろは「先輩先輩っ。教えてあげてもいいですけど、そのかわり」

八幡(ちょっ、また何か要求されるのか?)

八幡「先に言っとくが奢る金はマジで無いぞ」

いろは「わ、わかってますよぅ。そうじゃなくてですね」

八幡「……?」

いろは「えと……て」

八幡(……て?)

いろは「……」


いろは「手……つないでもいいですか?」





八幡「……」



八幡「いや、無理だろ…チャリあるし」

いろは「ですよねー……」




おわり




10.5読み直してたらいろはす書きたくなった
あくまで本編は最初

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