【艦これ】阿武隈「皆がお布団に潜り込んでくるんですけど」 (81)


~一日目 響~

阿武隈「ふわぁー……もう朝か。さてと、早く起きないと」

阿武隈「って思ったんだけど」

響「……すー」

阿武隈「響ちゃんがあたしのお布団に潜り込んできてるし」

響「……くー」ぎゅー

阿武隈「しかも、あたしの腕をつかんで離してくれません」

五十鈴「どうしたのよ阿武隈、寝起きにブツブツと……ああ、響ね」

阿武隈「忘れた頃に潜り込んでくるんですよ、もう響ちゃんってば」プニプニ

響「うにゃ……」

阿武隈「ふふっ、ほっぺたプニプニしてます。かわいーなー」

五十鈴「アンタもアンタで楽しそうね」

阿武隈「まあ、悪い気はしないですよ。いつもだとちょっと困りますけど」

響「うん……」ぱちくり

阿武隈「あっ、響ちゃん起きた? おはようございます」

響「おはよう……? あれ、なんで阿武隈さんが?」

阿武隈「なんでって響ちゃんがあたしのお布団に潜り込んで来たんだよ? もう、響ちゃんってば寝ぼすけさんです」

響「いや、そんなはずは……なんてことだ、まさか寝ている間に深海棲艦の手によりワープさせられてしまったのか」

五十鈴「そんなわけないでしょ。全く、恥ずかしがってないで素直に阿武隈の布団に潜り込んだって言えば良いのに」

響「冗談だよ。私はただ阿武隈さんの護衛任務でここにいただけだよ」

五十鈴「はいはい」

阿武隈「えへへ、かわいい護衛さんですねえ」

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響「もう、阿武隈さんは私を信頼していないのかい?」

阿武隈「そんなことないよ。ありがとうね、響ちゃん」

響「別に大したことはしてないさ」

阿武隈「後は普段からもうちょっと素直に言うこと聞いてくれると、完璧なんですけど」

響「それは無理だね」

五十鈴「阿武隈に構ってもらいたいからって、たびたび指示に従わずに困らせてるらしいじゃない。若葉や暁から聞いたわよ」

響「……さて、なんのことかな」

阿武隈「もう、とぼけちゃって。ほら、そろそろ離してね。これじゃあ起きられないから」

響「了解した、Верный (ヴェールヌイ)起床する」

阿武隈「はい、改めておはようございます、五十鈴お姉ちゃん」

五十鈴「ふふっ、おはよう阿武隈。今日も良い日になるといいわね」

阿武隈「はい! 響ちゃんもおはようございます」

響「おはよう阿武隈さん、今日も良い日になると良いな」

阿武隈「はい!」

響「と言うわけで……ウラー!」バッ!

阿武隈「ってお見通しなんだから!」ガシッ!

響「……なんてことだ。阿武隈さんへの飛び付きが防がれるなんて」ぷらーん

阿武隈「ふふーん、そう何度も背中に貼り付かせたりしないんだから」

五十鈴「阿武隈……響を抱きかかえながら言ってもカッコつかないわよ」

響「完全に不意を突いたと思ったんだけど」ジタバタ

五十鈴「事あるごとに阿武隈の背中に貼り付こうとして、不意をつくもなにもあったもんじゃないわね。完全にワンパターンよ」

響「なんてことだ……それじゃあ、これから阿武隈さんエネルギーをどうやって補給すれば良いんだい?(これはこれでいいな、ハラショー)」

五十鈴「そもそもそんなエネルギーは存在しないわ」


響「阿武隈さんエネルギーが枯渇すると、駆逐艦の稼働率がおよそ80%減少する。すなわち、鎮守府が機能不全に陥るんだ」

阿武隈「響ちゃんはあたしをなんだと思っているの!?」

響「ちなみに暁が昨日元気がなかったのもそれさ。阿武隈さん、早く私達の部屋に行って暁にエネルギーを補給してやって欲しい」

阿武隈「暁ちゃんすごい元気だったんですけど」

五十鈴「アンタ、阿武隈と一緒に遊んで欲しいだけでしょ」

響「そんなことないさ。私には全駆逐艦のために阿武隈さんエネルギーを回収するという大切な役目がある」

阿武隈「意味が分からないんですけど」

響「阿武隈さんはそれで良いんだよ。阿武隈さんは阿武隈さんの、私は私のなすべき事をやるだけさ」

五十鈴「で、アンタのやるべきことが阿武隈にじゃれつくことなの?」

響「……さて、そろそろ準備をしないと。もたもたしていたら時間がなくなってしまう」

五十鈴「最初にふざけたのは誰だと思っているのよ」

阿武隈「でも、そうだね。そろそろ準備しないと」

五十鈴「アンタも早く戻った方が良いんじゃない? 暁達心配してるかもよ?」

響「大丈夫だよ、置手紙をしてきた」

阿武隈「そうなの? それなら、大丈夫かな」



――暁型の部屋にて。

『真の不死鳥になるため、全駆逐艦のために遥かなる理想郷に旅立ってくるよ。 信頼と言う名を持つ駆逐艦より』

暁「なにこれ」

雷「響でしょ」

電「響ちゃんの置手紙なのです」

暁「……で、結局なにが言いたいのこれ」

雷「阿武隈さんのところでしょ」

電「きっとまた布団に潜り込んでいるのです」


阿武隈「さーて、髪をセットしないとね」

響「……」じー

阿武隈「あれ? 響ちゃん、どうしたの? あたしの方じっと見て」

響「……髪」

阿武隈「え? もしかして、髪のセットして欲しいの?」

響「……そうだね」

阿武隈「えへへ、しょうがないなあ。分かったよ、ほらこっち来て」

響「すぱしーば」トコトコ

五十鈴「ふふっ、響は甘えん坊さんね」

響「そんなことないさ」

阿武隈「で、どんな髪型にする? いつものストレート? ポニーテール? ツインテールもいいかなあ」

響「阿武隈さんと同じので」

五十鈴「……え? マジで?」

阿武隈「お姉ちゃん、それどういう意味ですか」

五十鈴「いや、だって、ねえ」

響「一度やってみたくて、何度も試してみたけど再現できなかったんだ」

阿武隈「ふふっ、そうだったんだ。じゃあやってあげるね」

五十鈴「阿武隈も嬉しそうねえ」

響「別に憧れているとか、そういうのじゃなくて気になっただけだから。勘違いしないで欲しい」

阿武隈「えへへ、分かってるよ」

五十鈴「なにその弁明」

阿武隈「それじゃ、始めるね。ふんふーん」

響「……」わくわく


阿武隈「はい、完成です! 響ちゃん、どうかなあ?」

響「これはいいな、すぱしーば」キラキラ

五十鈴「すごく目を輝かせていらっしゃるわ、この子」

響「うん、さっそく暁達に見せてくるよ。阿武隈さんの力作だからね」

五十鈴「また大げさな」

阿武隈「あたし頑張りました!」

五十鈴「アンタも乗ってるんじゃないわよ」

響「それじゃあ、阿武隈さん、五十鈴さん。また後で――」

夕立「ぽーい! おはようございます!」ガチャ!

阿武隈「あ、夕立ちゃん、おはよう!」

五十鈴「アンタねえ、いつも言ってるけどノックぐらいしなさいよ」

夕立「はーい! あれ? 響ちゃんもおはよう! ……ぽい?」

響「ああ、夕立おはよう」

夕立「響、それ……?」

響「ああ、この髪かい? 夕立も気づいたようだね。どうかな、似合ってるかな?」

夕立「フレンチクルーラーっぽい!」

響「そうフレンチクルーラーっぽい……え?」

夕立「ホワイトチョコレートのフレンチクルーラー! 響だけで独り占めなんてずるいっぽい! 夕立にも分けて欲しいっぽーいっ!」バッ!

響「いやちょっと待っ――!?」

夕立「いっただっきまーす! はむっ!」

阿武隈「響ちゃーん!? 夕立ちゃん、ストップストップ!」

夕立「んー? このドーナツ、味がしないっぽい?」がじがじ

阿武隈「当たり前です! 分かったら響ちゃんの髪の毛を口に入れないの!」

夕立「でもこれはこれで新鮮で良いっぽい!」

阿武隈「ふええええっ!?」

響「分かったから、かじるのはやめてくれないかな」

五十鈴「アンタ意外と冷静ね」

響「この鎮守府にはフリーダムな人が多いからね。もう慣れっこだよ」

夕立「響が言うなっぽい!」

響「!?」

五十鈴「なに心外みたいな反応してるのよ、フリーダム筆頭」


~二日目 雷~

阿武隈「さて……今日も一日頑張りました。そろそろお休みの時間です」

阿武隈「なのは良いんだけど……」

五十鈴「明らかに阿武隈の布団が盛り上がっているわね」

阿武隈「まーた響ちゃんかなあ……よいしょっと」バサッ!

雷「じゃーん! 響じゃないわ、雷よ! そこんとこもよろしく頼むわね!」

阿武隈「ふえ? 雷ちゃん、どうしたの?」

雷「今朝は響が迷惑かけたわね! お詫びに今日は雷が阿武隈さんを護衛してあげるわ!」

雷「だから安心してぐーっすり眠っていいのよ!」

五十鈴「それは良いけど、なんで阿武隈の布団に潜り込んでいたのよ?」

雷「それはノリってやつよ!」

阿武隈「そうなんだ……それじゃあ、仕方ないね」

五十鈴「え? そういうものなの?」

阿武隈「深く考えても仕方ないよ、お姉ちゃん」

五十鈴「アンタ、この子達の扱い慣れてるわねえ……」

雷「ほら阿武隈さん、早く寝ましょ! 雷が添い寝してあげるわ!」ポンポン!

阿武隈「ふふっ、分かったよ」

五十鈴「ものすごくワクワクしてるわねこの子……なんとなく響と姉妹なのも頷けるわ」

雷「え? どういうこと?」

五十鈴「別に大した意味じゃないわよ」


雷「えへへ、阿武隈さんあったかーい」ごろごろ

阿武隈「もう、雷ちゃんってばそんなにくっついて寝にくくないの?」

雷「この方がぐっすり眠れるわ!」

阿武隈「雷ちゃんが良いなら良いんですけど」

雷「そうだ! 阿武隈さん、眠れるまでお話しましょ!」

阿武隈「うん、良いよ? じゃあどんなお話しよっか?」

雷「そうね……雷は阿武隈さんと司令官の話が聞きたいわ!」

阿武隈「あたしと提督?」

雷「うん! ねえねえ、司令官と阿武隈さんはどうやって付き合うことになったの?」

阿武隈「ふえ!?」

雷「告白はどっちから? 阿武隈さんは司令官のどこが好きになったの? 初めてデートした場所は? それから――」

阿武隈「え、えっと告白してくれたのは一応提督かな?」

雷「そうなの!? 素敵だわ! あ、でも一応ってどういうことなの?」

阿武隈「え、えっとそれは半分くらいはあたしが提督の気持ちを確認するようなことしたからで……」

雷「阿武隈さんもなかなかすごいわね! 具体的にどんなことやったの?」

阿武隈「ふえ!? え、えっと提督が今度伝えたいことがあるって言ったから、あたしがてーとくの胸に飛び込んで……その、ほとんど告白のようなことを」

雷「そうなの? むー、司令官ってば阿武隈さんにそこまでさせるなんて! 明日、雷が注意してあげないと!」

阿武隈「雷ちゃん、そんな必要ないよ。その、あたしもはっきりしてなかったのがいけないんだし。それに提督はちゃんと答えてくれましたから」

雷「そう? ……なら良いけど」

阿武隈「はい。心配してくれてありがとうね、雷ちゃん」

雷「ううん! これくらい当然のことだもの」


雷「ねえねえ、それからどうしたの? え、えっと……キ、キスとかしたの?」

阿武隈「ふえ!? してませんっ!」

雷「えー、じゃあ初めてキスしたのは? やっぱり夜景の見えるタワーとか? それとも高原のお花畑とかかしら?」

雷「司令官と阿武隈さんだもの、きっとロマンティックな場所よね!」

阿武隈「え、えっとその……」

雷「どこどこ? ねえ、雷に教えて!」キラキラ

阿武隈「お、お姉ちゃん助けてー!」

五十鈴「五十鈴は既に熟睡中よ。起こさないで。というか巻き込まないで」

阿武隈「なんてはっきりとした寝言!?」

雷「もう、阿武隈さん教えてってばー!」

阿武隈「雷ちゃんってば、予想以上におませさん……!」

雷「ねえってばー!」


~三日目 暁~

暁「響と雷ばかりずるいわ!」バンッ!

暁「じゃなかった……昨日は雷が迷惑を掛けてたみたいね。ごめんなさい、阿武隈さん」

阿武隈「別に良いんですけど……なんで暁ちゃんもあたしのお布団に入ってるの?」

暁「今日こそ阿武隈さんに安眠してもらうために、今日は暁が一緒に寝てあげるんだから!」

暁「また雷や響みたいな子が入り込んできたら、阿武隈さんがゆっくり寝られないもの」

五十鈴「むしろ五十鈴が眠れなかったんだけどね……」

阿武隈「あれ? 昨日はお姉ちゃんさっさと熟睡してませんでした?」

五十鈴「なかなか言ってくれるわねこの子」

阿武隈「冗談です。ごめんねお姉ちゃん」

五十鈴「まあ良いわよ。阿武隈が無駄に駆逐艦にじゃれつかれて、騒がしいのは今に始まったことじゃないし」

春雨「まったく困りますよね。あ、皆さん春雨スープでもどうぞ」

暁「あ、頂くわ! ちょうど寝る前に体を温めるものが欲しかったのよ!」

春雨「そう言ってくれると春雨も嬉しいです。はい、五十鈴さんと阿武隈さんも」

五十鈴「あら、ありがとう」

阿武隈「ありがとうね春雨ちゃん……えっと」

春雨「えへへ、阿武隈さんの膝に座ってるとなんだかほっとしますね」

暁「って! な、ん、で、いるのよアンタはーっ!?」

五十鈴「暁も人のこと言えた立場じゃないでしょうがーっ!」

阿武隈「そもそも春雨ちゃんが膝に座っていると、渡されても飲みにくいんですけど……」

五十鈴「そんなことはどうでも良いわよ!」


五十鈴「ほら、春雨はとっとと自分の部屋に戻りなさい」

春雨「むー……分かりました」

阿武隈「あ、春雨ちゃんスープありがとうね」

春雨「ふふっ、そう言ってくださるとありがたいです。また後日、出直しますね。それでは、お休みなさい皆さん」

バタン!

五十鈴「また来る気なのかしら、あの子」

阿武隈「春雨ちゃんもまだまだ甘えたい年頃なんですよ」

暁「もう、春雨もまだまだお子様ね! でもそんなところもかわいいわ!」

阿武隈「えへへ、そうですねえ」

五十鈴「阿武隈のぽわぽわしたところが駆逐艦の子達を引き寄せるのかしら……?」

阿武隈「むう。それってどういうことですか」

五十鈴「ふふっ、ごめんね。別に悪い意味で言ったんじゃないわよ」

阿武隈「そうなの? それなら良いんですけど」

五十鈴(素直な子ねえ……裏表のなさが駆逐艦の子達に好かれるのかしらね)


暁「それじゃあ暁が護衛を務めるから、阿武隈さんは安心して眠って良いのよ!」

阿武隈「ありがとうね、暁ちゃん」ナデナデ

暁「もー! だから暁はもう子供じゃないんだから、頭をナデナデしないっでっていつも言ってるじゃない!」キラキラ

五十鈴「顔がにやついてるわよ」

暁「そんなことないわよ!」

五十鈴「そんなこと言って。阿武隈と一緒にお休みできるのが嬉しいんでしょ?」

暁「だーかーらー! 暁は阿武隈さんの護衛に来たんだから! これは一人前のレディーとしての仕事なのよ!」

阿武隈「ふふっ、頼りにしてるね」

暁「どういたしまして! 大船に乗ったつもりで良いのよ!」えっへん!

五十鈴「大きく出たわねえ」

暁「ほら阿武隈さん、お布団に入って! 眠るまで暁が見守ってあげるんだから!」

阿武隈「分かったよ。よろしくね」

暁「任されたわ! 見てなさい、いつもの阿武隈さんみたいに立派に護衛を務めてみせるんだからね!」


――五分後。

暁「すやすや……」

五十鈴「はやっ」

阿武隈「ふふっ、暁ちゃんは良い子ですね」

五十鈴「まあ早寝早起きの健康優良児ではあるかもしれないけど……」

暁「えへへ、阿武隈さん……」ぎゅっ

五十鈴「阿武隈、暑苦しくない?」

阿武隈「ううん、大丈夫だよ」さすりさすり

暁「ふにゅ……」

五十鈴「護衛に来たとか言っておきながら、さっさと寝てるわね。しかも幸せそうに」

阿武隈「寝顔が可愛いですねえ」

五十鈴「ここまで振り回されてぽわぽわしていられるアンタも、大概だと思うわ」

阿武隈「ふえ?」

五十鈴「なんでもないわよ」

暁「暁も、あぶくまさんみたいに……れでぃ……すー」


~四日目 電~

電「もぐもぐ……」

電「ごくごく……」

電「ごちそうさまなのです!」パンッ!

暁「電は最近よく食べるわね」

電「電は早く大きくなりたいのです! だからよく食べて、よく学んで、良く訓練に励んで、良く寝るのです!」

阿武隈「ふふっ、電ちゃん偉い偉い」なでなで

電「はわ~。阿武隈さんに褒められたのです! 嬉しいのです!」

暁「ふっ、なでられて喜ぶなんて電はまだまだお子様ね」

若葉「そいつはどうかな」ナデナデ

暁「わ、若葉……あのねえ」

若葉「むう……やはり阿武隈さんみたいにうまくは行かないか」

響「若葉、暁に対するなで方はそうじゃない。もっとこう――」

暁「アンタはなに解説してんのよ!?」

電「電は早く大きくなって、阿武隈さんみたいな軽巡洋艦になるのです!」キラキラ

響「けど電は最近ますます頑張っているからね。私も見習わないといけないな」

初霜「そうね。電は前からすごかったけど、ますます頼りがいが出てきたわ」

電「そ、そんなこと言われると恥ずかしいのです」

霞「なに情けないこと言ってるのよ。もっと胸を張りなさいな!」バンッ!

電「霞ちゃんちょっと痛いのです! ……でもありがとう」


霞「まあ、霞にはまだまだ及ばないけどね」

電「電だって負けないのです!」

霞「言ってくれるじゃない! 霞も負けないわ!」

初霜「ふふっ。私だって二人にも負けませんよ」

白露「ちょーっと待った! あたしがいっちばーん! なんだからね!」

時雨「もう姉さんってば。僕だっていっちばーんは譲れないよ」

磯風「待てお前たち。師匠(阿武隈)の弟子である磯風を置いて一番争いか! この磯風も混ぜてもらうぞ!」

電「磯風ちゃん!?」

霞「ふっ……良い度胸ね! 霞に付いてこれるか、この目で確かめてあげるわ!」

若葉「相変わらずこの六人は熱いな」

阿武隈「ふふっ、でも競い合う仲間がいるって良いことだと思うな」

雷「電は相変わらず大きな夢を追いかけているのね! 雷も応援するわ!」

電「雷ちゃん、ありがとうなのです!」


――その夜。

電「う……ん?」

電「はわわ! 電の体が大きくなってるのです! 阿武隈さんと同じくらいの身長なのです!」

電「しかも……15.2cm連装砲も装備できるのです! はっ、もしかして――」

電「すごいのです! 艦隊司令部施設も装備できるのです! 嬉しいのです!」ぴょんぴょん!

電「電は阿武隈さんと同じ軽巡になれたのです! これで第一水雷戦隊旗艦にもなれるかもしれないのです!」

電「さっそく阿武隈さんに報告するのです! 善は急げ、なのです!」


電「阿武隈さん、阿武隈さん!」

阿武隈「ふえ? ……もしかして電ちゃん!? 急に大きくなっちゃってます!?」

電「はい! 沢山食べて、沢山訓練して、沢山寝たら大きくなったのです! 阿武隈さんとお揃いの軽巡洋艦なのです!」

阿武隈「すごーい! 電ちゃん頑張ったね!」

電「ありがとうなのです! 電も頑張ったの……です」

阿武隈「うん、電ちゃんはすごいよ!」

電「なんだか恥ずかしいのです……あの……」

阿武隈「どうしたの、電ちゃん?」

電「……いつものように頭を撫でて欲しいのです」

阿武隈「あ……ごめんね、電ちゃん。もうあたしと同じ軽巡洋艦だから、ナデナデするのもちょっとどうかなって思ったんだ」

電「なのです!?」

電「じゃ、じゃあ肩車して欲しいのです!」

阿武隈「うーん、もうあたしと電ちゃんの身長が同じくらいだし、それもちょっと……ごめんね」

電「はわわ!?」

阿武隈「水雷戦隊の旗艦になるなら、あんまりナデナデしてもらったり、肩車とかされてるのも示しがつかないし……これからは我慢しないとね。電ちゃん、頑張ろう?」

電「っ!? そんなの……悲しいのですーっ!?」


電「なのです!」ガバッ!

電「……ふえ? ゆめ……なのです?」

電「あっ、小さい電のままなのです……やっぱり夢だったのです」ほっ

電「……なのです」トコトコ


トントン――ガチャ

電「失礼するのです……阿武隈さんも五十鈴さんも寝てるのです」

電「……ごめんなさい、お邪魔するのです」モゾモゾ

阿武隈「うん……あれ? 電ちゃん、どうしたの?」

電「あっ、起こしてごめんなさいなのです……迷惑掛けちゃったのです」

阿武隈「ううん、そんなことないよ。電ちゃんがそこまで悲しそうにしてるの、久しぶりだね」

電「なのです……とっても怖い夢を見たのです」

阿武隈「そっか……でももう怖くないよ。あたしが付いてるからね」ぎゅ

電「ありがとう……なのです」

阿武隈「ふふっ、よしよし。怖くない、怖くない」さすりさすり

電「温かいのです……阿武隈さん、今日はここで寝てもいいですか?」

阿武隈「もっちろん! 電ちゃんなら大歓迎だよ」

電「嬉しいのですっ」

阿武隈「ほら、こっち寄って。ベットから落ちちゃう」

電「なのです……とっても安心するのです」

阿武隈「そう言ってくれると嬉しいな」

電「なのです……ふわぁ」

阿武隈「安心したら眠くなっちゃった?」

電「……なのです」

阿武隈「えへへ、おやすみなさい電ちゃん」

電「おやすみなさい……なのです」

阿武隈(電ちゃんが見た怖い夢って、どんな夢なんだろう……? オバケの夢とかかなぁ?)


~五日目 若葉と初霜~

阿武隈「うーん、訓練の後に木陰で一休みするのも良いですね」

若葉「ああ、潮風が気持ちいいな」

初霜「ええ、そうですね。夏の暑いこの時期でも、ひんやりとして心地良いです」

若葉「阿武隈さん、今日も指導してくれて礼を言う」

阿武隈「ふえ? あ、改めてそう言われると照れますね……えへへ、こちらこそありがとう」

阿武隈「若葉ちゃん、初霜ちゃんはいつも真面目に訓練に取り組んでくれるから、あたしも助かります」

初霜「いえ、阿武隈さんがしっかりと指導してくれるからですよ。私からも、いつもありがとうございます」

阿武隈「……もー! 二人とも本当に良い子なんだから!」ぎゅー!

初霜「きゃっ!? もう、阿武隈さんってば」

若葉「こら、はつしもふもふをするなら若葉に許可をもらってからにしてもらおう」

初霜「なんで若葉の許可制なんですか!?」

阿武隈「えへへ、初霜ちゃんもふもふ~」

初霜「ぽー……はっ!? もう、阿武隈さんってば悪ノリしないでください」

阿武隈「んー? 悪ノリなんてしてませんよ? ねっ、若葉ちゃん?」

若葉「その通りだ。これは奇跡のはつしもふもふだ」

阿武隈「そうです、初霜ちゃんもふもふです!」

初霜「だからなんなんですかそれ……あっ、だめ、そこはっ……」

阿武隈「もふもふ~」

若葉「もふもふだ」

初霜「はぅ……ふぇ……も、もう!」

初霜「私は決して、はつしもふもふなんかに屈したりはしません!」きりっ!


――五分後。

初霜「ふにゃ……阿武隈さん、もっともふもふ~」

阿武隈「ふふっ、初霜ちゃんも意外と甘えん坊さんですねえ」

若葉「初霜がこうもふにゃふにゃに……阿武隈さん、おそるべし」

阿武隈「恐れられてもちょっと困ります」

初霜「なんだかとっても安心して心地いいです……」

若葉「初霜……そんなに良いのか?」

初霜「ええ、とっても……ごめんなさい、なんだか眠くなってきました」

阿武隈「そう? 膝貸してあげるから寝ても大丈夫だよ?」

初霜「でも……阿武隈さんにご迷惑が」

阿武隈「あたしは大丈夫だから、良いですよ」なでなで

初霜「ふわ……そうですか? それでは……」

初霜「……すー」

阿武隈「えへへ、初霜ちゃん寝ちゃいました」

若葉「初霜は普段から頑張っているからな。疲れもたまっているんだろう」

阿武隈「そうだね。でもそれは若葉ちゃんもだよ。二人ともすぐ頑張り過ぎちゃうんですから」

若葉「二十四時間寝なくても、大丈夫」

阿武隈「それ絶対大丈夫じゃないから」


若葉「それにしても……本当にぐっすり眠っているな。そんなに良いのだろうか」じー

阿武隈「あはは、ごめんね。若葉ちゃんにも膝枕してあげたいところですけど、あたしは一人ですから」

若葉「ならパーフェクトボーナスで阿武隈さんがセブンアップすれば……」

阿武隈「なんの話してるんですか」

若葉「阿武隈さん、神経衰弱で勝負だ」

阿武隈「トランプ持ってないんですけど」

若葉「阿武隈……恐るべし」

阿武隈「だから何を恐れているんですか」

若葉「むう……」

阿武隈「ふふっ、また今度膝枕してあげますから」

若葉「……いいのか?」

阿武隈「はい、もちろんです!」

若葉「いつなら大丈夫だ?」

阿武隈「あたしの時間が空いてるときなら、いつでもいいよ」

若葉「そうか……礼を言おう。ありがとう、阿武隈さん」

阿武隈「別にこれくらい、お安い御用です。いつも言っている通り、若葉ちゃんにはお世話になってますから」

若葉「それこそ、こちらこそだ」

初霜「すやすや……」


――その日の夜。

若葉「というわけで来たぞ」

初霜「あの……私も」

子日「やっほい! 子日もきったよー!」

初春「その……妹達がものすごく乗り気での……べ、別にわらわもして欲しいとか思っておらんからの!」

阿武隈「あ、えっと……」

五十鈴「阿武隈の睡眠時間が無くなるわよ!?」


~六日目 村雨と春雨~

村雨「ふふっ、ぎゅー」

春雨「むー! 村雨姉さんばかりずるいですー! 阿武隈さん、春雨もぎゅーってしてください」

阿武隈「もう、春雨ちゃんも甘えん坊さんなんだから。ぎゅー」

春雨「ふわ……えへへ、春雨とっても安心します……」

村雨「もー! 村雨も放置は趣味じゃないんだってばー」

阿武隈「ところで二人とも、いきなりあたしのベットに入り込んできてどうしたの?」

春雨「えっと、ご迷惑でしたでしょうか?」

阿武隈「ううん、そんなことないよ。けど、何かあったのかなって」

村雨「だってー。暁や若葉達だけ阿武隈さんと一緒におやすみするなんてずるいじゃない」

春雨「春雨達だって、阿武隈さんと一緒にお話しながらおやすみしたいですっ」

阿武隈「そっか……えへへ、そう言ってくれる嬉しいな」

阿武隈「お姉ちゃん、その……」

五十鈴「はいはい、五十鈴は構わないわよ」

村雨「やったー!」

春雨「やりましたっ! 五十鈴さん、阿武隈さん、ありがとうございます!」

村雨「サンキュ、来週の村雨に期待しててね!」

五十鈴「来週なにがあるっていうのよ?」

村雨「それは来週のヒ・ミ・ツ」

五十鈴「ふーん、まあ別に期待してないけど」

村雨「ひっどーい!?」


春雨「阿武隈さん、あの……お願いがあるんですけど」

阿武隈「うん、なにかな?」

春雨「えっと……春雨のお姉様になってくださいっ」

阿武隈「ふえ……? お姉様?」

村雨「もう春雨ってば、いきなりそんなこと言われても分からないわよ」

春雨「そ、そうですか?」

村雨「変に思わないでね阿武隈さん。最近春雨ってば、少女漫画に凝っちゃって」

阿武隈「そうなの?」

村雨「素敵な先輩を見習って、成長していく主人公の子に感情移入しちゃってるのよ」

阿武隈「えへへ、そうなんだ。春雨ちゃん、頑張ってるんだね」

春雨「もう! 村雨姉さん恥ずかしいこと言わないでください! 春雨は別に感情移入なんて――」

村雨「なに言ってるの。お姉様になってくださいって、思いっきり影響されてなきゃそんな発想出てこないわよ」

春雨「むー! そんなことありません! 女の子は素敵な先輩に憧れるものなんですから!」

村雨「はいはい」

春雨「村雨姉さんってば、春雨の話聞いてないですー!」

阿武隈「こらこら、村雨ちゃん。あまり春雨ちゃんをからかわないの」

村雨「はーい、ごめんね。春雨がかわいくて、ついからかっちゃった」


春雨「むー。納得いきませんけど、許してあげます」

阿武隈「ふふっ、春雨ちゃん良い子だね」ナデナデ

春雨「はう……お姉様、ありがとうございます」

村雨「この子さらっとお姉様って呼んでるわ……」

阿武隈「村雨ちゃんもちゃんと謝ることができたね。えらいえらい」ナデナデ

村雨「ふふっ、お姉様っ。ありがとうございます」

春雨「村雨姉さんまた春雨で遊んでますーっ!?」

村雨「くすっ、そんなことないってば」

春雨「もう……それでお姉様。春雨、やってもらいたいことが」

阿武隈「ちょっと……いやかなり恥ずかしいんですけどその呼ばれ方。えっと、なにかな?」

春雨「そ、その……春雨のタイを直して、タイが曲がっていてよって言って欲しいんです!」

阿武隈「……はい?」

村雨「もうっ、完全に漫画の影響受けてるじゃない。弁護の余地ないわよ春雨」

春雨「そ、そんなことないです! 女の子なら誰だって一度はやって欲しいって思うはずです!」

村雨「いやー、ないわね」

春雨「ありますーっ!」

阿武隈「こら、二人とも。五十鈴お姉ちゃんも寝ているんだから、あんまり騒がないの」

春雨「あ、ごめんなさいっ」

村雨「そうだった。村雨もごめんなさい」

阿武隈「はい、良くできたね」


春雨「それでお姉様……そ、そのタイが曲がっていてよって」

阿武隈「うーん。でも春雨ちゃん今パジャマだし……タイつけてないし」

春雨「はっ!? そ、そうでした! ついやってもらいたいって思いだけ先行して忘れてました!」

村雨「春雨……それボケってレベルじゃないわよ」

阿武隈「振りだけやるとか? それか明日やってあげようか?」

春雨「だ、駄目です! ここは……そうです! 単にシーンの再現だけじゃなくて、春雨とお姉様ならではの要素を取り込んでなんとかしましょう!」

村雨「なにそれ」

春雨「こうしましょう! 春雨は今から春雨スープを持ってきますから――」


~春雨の想像~

春雨「お姉様、お待たせしました。春雨特性の春雨スープです」

阿武隈「あら、春雨ちゃん。ありがとう」

春雨「いえ。春雨、お姉様のために一生懸命作りました」

阿武隈「あら。それは楽しみね」

春雨「お姉様のお口に合うといいのですが……はい、どうぞ」

阿武隈「それでは、頂きますね」

春雨「……」ドキドキ

阿武隈「ふふっ、おいしい。優しくて暖かい。まるで春雨ちゃんのよう」

春雨「あ、ありがとうございます!」ぱあっ

阿武隈「あら、春雨ちゃんってば」

春雨「……あ、お姉様」

阿武隈「ほら、(スープの中の)春雨が曲がっていてよ」

春雨「は、恥ずかしい……」

~春雨の想像終わり~


村雨「どういう状況よそれーっ!? 春雨が曲がっててなにが悪いの!?」

春雨「お姉様素敵……」ぽー

阿武隈「どこに憧れる要素があったのか分からないんですけど」

村雨「春雨の感覚が理解出来ないわ……」

春雨「そこはほら、春雨ですから。春雨スープについては村雨姉さんにだって負けませんっ」

村雨「別に勝たなくてもいいんですけど」

春雨「でも、村雨姉さんには村雨姉さんにぴったりのシーンがあると思いますっ」

村雨「いや村雨は別に――」

春雨「そうですね、村雨姉さんなら――」


~春雨の想像その2~


村雨「できたわ……! 長年の試行錯誤を繰り返してついに……妖刀『村雨』が!」

阿武隈「おめでとう村雨ちゃん! 頑張ったね!」

村雨「あっ、お姉様! お姉様がいてくれたから『村雨』を作り上げることができたんです!」

阿武隈「ううん、あたしは大したことはしてないよ。これも村雨ちゃんが頑張った成果です」

村雨「お姉様……」

阿武隈「あっ、村雨ちゃん、ちょっとじっとしてて」

村雨「お姉様……? あっ……」

ベキッ! ボキッ!

阿武隈「ほら、『村雨』が反っていてよ」

村雨「まあ……! お姉様の手で村雨が真っ直ぐに! さすがお姉様だわ!」

~春雨の想像その2終わり~


村雨「刀は反っているものだと思うんですけどぉ!?」

春雨「でも『村雨』なら、まさしく村雨姉さんにぴったりだと思うんです!」

阿武隈「というか、刀を手で簡単に真っ直ぐにする春雨ちゃんの想像の中のあたしって一体……」

春雨「お姉様は素敵な春雨達のお姉様です!」

阿武隈「答えになってないんですけどぉ!」

春雨「あっ、そうでした! 春雨は春雨スープを作ってきますね!」

阿武隈「春雨ちゃん、もう寝よう! ねっ!?」

春雨「え? でも春雨が曲がっていますって……」

阿武隈「また明日やってあげるから!」

春雨「本当ですか!?」ぱあっ

村雨「阿武隈さん……ごめんね、安眠妨害して」


~七日目 白露と時雨~

白露「いっちばーん!」ぎゅー

時雨「いっちばーん」ぎゅー

阿武隈「あの……二人とも? どうしたの?」

白露「村雨と春雨だけずるーい!」

時雨「僕だって譲れない」

阿武隈「別にずるいもなにもないと思うんだけどなあ……仕方ないですねえ」ぎゅー

白露「えへー、あたしだって譲れないんだからね」

時雨「ふふっ、阿武隈さん大人気だね」

阿武隈「そうかなあ?」

時雨「うん。湯たんぽとして大人気だと思うよ」

阿武隈「それはちょっと微妙なんですけど」ナデナデ

時雨「ふわ……冗談だよ。なんだか、こうやって一緒に寝てるとね、とても温かくて安心するんだって」

白露「暁がぐっすり眠れるって自慢してたよ!」

五十鈴「まあ、たしかにあの子はとてもぐっすり寝てたわね。護衛するとか意気込んでいたのに五分足らずで」

阿武隈「きっと普段から頑張っているから、疲れてたんですよ。暁ちゃん頑張りやさんですから」


白露「ねえねえあたしは?」

時雨「僕はどうかな?」

阿武隈「もちろん、白露ちゃんも時雨ちゃんもとっても頑張ってるの知ってるよ。いつも一番目指して訓練を頑張ってるよね」

白露「もっちろん! だってあたしがいっちばーんなんだから!」

時雨「僕だっていっちばーんだよ。姉さんにだって負けないから」

白露「ふふー、あたしだって時雨がライバルでも負けないよ」

時雨「じゃあ次もまた勝負しようか」

白露「望むところだよ!」

白露「というわけで阿武隈さん、あたしがいっちばーんになるための秘密特訓をお願いするね!」

時雨「あっ、姉さんずるいよ。阿武隈さん、僕も一緒にお願いするね」

阿武隈「うーん、普段の訓練だけでも大変なのに、二人とも体壊しちゃうよ?」

白露「それぐらい平気だって!」

阿武隈「それに二人だけじゃなくて、他にも特訓したいって子が出てくるかもしれないし」

白露「それじゃあ、みんなでいっちばーんになるための特訓しようよ!」

時雨「姉さんってば、それだといっちばーんじゃないと思うよ」

白露「なによー、時雨なんでそんなに笑うの?」

時雨「ううん。姉さんらしいなって思っただけ」

阿武隈「そうですね、白露ちゃんらしいです」

白露「もー、阿武隈さんまで笑うことないでしょ!」


阿武隈「それより早く寝ないと明日が大変だよ? 明日もお仕事あるんだから」

白露「あっ、そうだね。よし時雨、阿武隈さんを早く寝させてあげよっ」

時雨「そうだね、姉さん。阿武隈さん、今日こそ僕達がぐっすりと寝かせてあげるよ」

阿武隈「え? それってどういうこと?」

白露「こういうこと、いっちばーん!」ぎゅー

時雨「いっちばーん」ぎゅー

阿武隈「ふえ?」

白露「ふふー、白露抱き枕攻撃~」

時雨「時雨抱き枕攻撃……さすがにちょっと恥ずかしいかな」

阿武隈「二人とも、ちょっと暑いんですけど」

白露「そう言って本当は嬉しいでしょ?」

時雨「阿武隈さん、素直じゃないね」

阿武隈「まあ嫌じゃないですよ。でも二人とも大丈夫?」

白露「ううん、平気だよ。むしろこの方が寝やすいくらい」

時雨「阿武隈枕は寝心地良いね」

阿武隈「それなら良いんですけど。二人ともかわいいですねえ」


白露「えへへ、そうでしょ? じゃあね、阿武隈さんに子守歌を歌ってあげるね!」

阿武隈「子守歌? 別に良いよ、そこまでしてもらわなくても」

白露「もう、遠慮しないの! この日の為に一生懸命考えたんだから!」

阿武隈「だから別に……考えた?」

白露「いっちばーん早く眠る子はいっちばーん良い子~いっちばーん大きくなれるんだー」

阿武隈(なにこれ)

時雨「白露がいっちばーんよく眠れるようにって作詞した子守歌だよ」

時雨「ちなみに作曲は僕さ」

阿武隈「そうなんだ。二人ともすごいですねえ」

時雨「それほどでもないよ」

白露「お休みなさい~明日もみんなでいっちばーんを目指すんだー」

時雨「でも白露だけに歌わせるわけにはいかないね。僕も阿武隈さんがぐっすり眠れるよう、子守歌を歌うよ」

阿武隈「え、別に時雨ちゃんまで歌わなくても――」

時雨「ここは譲れない」

阿武隈「なんでそこまで子守歌に矜持を持ってるんですか」

時雨「春の小川はさらさら流る。岸のすみれやれんげの花に、匂いめでたく、色うつくしく~」

阿武隈「なぜ春の小川!?」

五十鈴「しかも昔の方の歌詞!?」

白露「もう時雨! 子守歌じゃない歌を歌っちゃ駄目でしょ? これじゃあ阿武隈さんが寝られないじゃない!」

時雨「ごめんね姉さん。佐世保の時雨ともあろうものが、うっかりしてたよ」

阿武隈「そういう問題なのぉ!?」


~八日目 五月雨と山風~

五月雨「うう~阿武隈さん、また失敗しちゃいました~」

阿武隈「よしよし。ほら、五月雨ちゃんそんなに落ち込まないの」

山風「……五月雨姉、元気出して」

五月雨「阿武隈さん、山風……はい、ありがとうございます」

阿武隈「ふふっ、五月雨ちゃんいつも一生懸命だもんね。そのことはあたしも山風ちゃんも、みんなもよく知ってるから。大丈夫だよ」

五月雨「阿武隈さん……はいっ」

五月雨「でも……私ってばどうしてこうドジなんだろう……はあ」

阿武隈「だから、そんなに落ち込まないのって言ってるでしょ」

五月雨「うーん……」

山風「五月雨姉、たしかにドジかもしれない……」

五月雨「がーん!?」

山風「でも、それ以上に任務も遠征も、頑張ってるし、ちゃんと成果も上げてるから……」

五月雨「山風……」

阿武隈「そうだよ五月雨ちゃん。山風ちゃんの言うとおり、あたし達だって五月雨ちゃんにすっごく助けてもらっているんですから」

阿武隈「みんな五月雨ちゃんを頼りにしてるんだからね。だから、もっと自信を持って欲しいな」

五月雨「阿武隈さん……はい! 私、もっと自信持てるようにしますね!」


阿武隈「うん! その意気だよ五月雨ちゃん! 偉いです!」ナデナデ

五月雨「はわっ……阿武隈さん、くすぐったいです」

山風「……五月雨姉、いいな」

五月雨「ふふっ、山風も阿武隈さんに頭なでて欲しいんですか?」

阿武隈「そう? じゃあ山風ちゃんも」

山風「え、その……あまり構わないで」

五月雨「もう、山風は恥ずかしがり屋なんだから」

山風「そんなんじゃないから……放っておいて……」

五月雨「山風ってば……そうだ」

山風「……?」

五月雨「阿武隈さん、もっとなでてくださいっ」

山風「っ!?」

阿武隈「うん、いいよ。こう?」ナデナデ

五月雨「はいっ、阿武隈さんありがとうございます……とても良い心地です」

阿武隈「そう言ってくれると嬉しいですねえ」

山風「……う~」

五月雨「阿武隈さん、えーいっ」ぎゅ!

阿武隈「もう、五月雨ちゃんってば結構な甘えん坊さんですねえ」ぎゅー

五月雨「だって阿武隈さん温かいです~」

山風「……五月雨姉ずるい。あたしもおかーさんにぎゅってして欲しい」

阿武隈「だからあたしはお母さんじゃないけど……ほら、山風ちゃんもぎゅー」

山風「あ……おかーさん、えへへ……」ぐりぐり


五月雨「もう、山風ってば構って欲しいのに素直じゃないんですから」

山風「五月雨姉だっておかーさんに甘えてたくせに……」

五月雨「五月雨は最初っから素直ですから」

山風「むー……おかーさん、五月雨姉がいじめる」

阿武隈「ほらほら、いじけないの。二人とも姉妹なんだから仲良くしないと、ねっ?」

山風「うん……」

五月雨「はいっ、ごめんなさい山風。私、つい山風にいじわるしちゃいました」

阿武隈「いじわるじゃないよ。五月雨ちゃんは山風ちゃんが素直になれるようにしたんだもんね」

山風「……そうなの?」

五月雨「もう! 阿武隈さんってば、バラさないでください」

阿武隈「えへへ、ごめんごめん。五月雨ちゃんが山風ちゃんにいじわるしてないってことを、伝えてあげたかったんだ」

山風「五月雨姉って、お節介……」

五月雨「う……その、さっき励ましてくれたから、お礼しようと思ったんです」

山風「余計なお世話……」

五月雨「うう~」

山風「でも……ありがとう」


~九日目 不知火~

不知火「ぬいぬいってあだ名はどうかと思うんです」キリッ

阿武隈「どうしたのいきなり。しかもあたしが寝ているお布団に潜り込んできてまで」

不知火「ここじゃないと、他の人にも聞かれてしまいますから」

五十鈴「五十鈴はいいのかしら……」

不知火「五十鈴さんは別に構いませんよ。朝潮や響達に聞かれるとややこしくなるだけです」

不知火「それで……不知火のあだ名ですが」

阿武隈「可愛いと思いますよ、ぬいぬい」

五十鈴「別に良いじゃない、似合っているわよ。ぬいぬい」

不知火「ぬいぬいやめて」

阿武隈「不知火ちゃんは嫌いなの?」

不知火「別に嫌いではありませんが……不知火はもうちょっとかっこいいあだ名のほうが好みです」

阿武隈「かっこいいかぁ……みんなに考えてもらうって言うのはどうかな?」

不知火「それは……不知火もかっこいいあだ名が良いと言ったのですが」


~回想~

電「かっこいいあだ名なのです?」

暁「そうね。エレガントレディーとかどうかしら?」

響「闇に舞い降りた鷲(ワシ)とかどうかな」

雷「雷電とかどう?」

磯風「そうだな……不知火……なら火影とかどうだ?」

不知火「……不知火はあだ名を考えて欲しいと言ったのであって、二つ名が欲しいわけではないのですが」

朝潮「では、ぬいちゃんとかどうでしょうか!?」

大潮「しーちゃんはどうでしょうか!?」

磯風「なら火影から取ってほーちゃんならどうだ」

不知火「ですからかわいいのではなく、かっこいい方向性で……」

霞「別に良いじゃない、思いつかないなら不知火で。面倒くさいったらありゃしないわ」

朝潮「それは駄目です! 不知火が気に入ってくれるようなあだ名を、なんとしてもつけてあげなければいけません!」

大潮「その通りです! アゲアゲで行きましょう!」

不知火「なんでそこまで燃えているんですか、二人とも」

響「……いまいち良いアイデアが思い浮かばないね。ちょっと阿武隈さんに登ってエネルギーを補充してくるよ」

暁「やめなさい」


不知火「別に私はあだ名がなくても構わないですが――」

霧島「話は聞かせてもらいました! この艦隊の頭脳たる霧島の出番ですね!」バンッ!

鳥海「いえ! この鳥海が不知火さんにぴったりなあだ名を考えて見せます!」バンッ!

電「艦隊の頭脳たる霧島さんと鳥海さんなのです!」

暁「二人が来てくれたならもう安心ね! 不知火、大船に乗った気でいて良いわよ!」

不知火「なんでこんな大事に……?」

霞「諦めなさい。この鎮守府では、どうでもいいような事に情熱を燃やす連中が出るのは日常茶飯事じゃないの」

響「……あっ、阿武隈さんだ」

トテトテトテ――

暁「あっ、こら響!」

――ぴょん!

響「yapaaaaaa!」

阿武隈「ふえええええ!? 響ちゃんいきなり飛び付いてこないで!? 危ないでしょ、もー!」

若葉「なんと ひびきがおんぶしてほしそうに あぶくまさんをみている! おんぶしてあげますか?」

阿武隈「なんで片言!?」

若葉「そんなひどい……」

阿武隈「なにが!?」

暁「二人ともいい加減にしなさーい!」


神通「不知火さんのあだ名を考えているって聞きました! 私もぜひ仲間に加えてください!」バンッ!

阿武隈「あ、神通、こんにちは。どうしたの急に?」

神通「阿武隈、こんにちは……あ、響さんをおんぶしてる……いいなあ」

阿武隈「ふえ?」

文月「ふわ~、みんな楽しそう~。文月もまぜて~」

若葉「あ! やせいの ふみつきが とびたしてきた!」

電「やせい!? 文月ちゃんは野生じゃないのです!?」

雷「そもそもさっきからなんなのよ、そのしゃべり方」

若葉「単なるジョークの一種だ」

神通「文月さん、おんぶしてあげましょうか?」わくわく

文月「……ふみぃ?」

響「はらしょー」


~回想終わり~

不知火「といった感じで……」

阿武隈「うん、なんていうか……大変だったね」

不知火「皆さんが親しみを持って、あだ名を考えてくださるのはありがたいのですが」

阿武隈「不知火ちゃんが嫌なら無理する必要ないと思うんだけど……かっこいい方が良いんだよね」

不知火「はい、かわいいのはちょっと。やはりかっこいいあだ名の方が良いです」

五十鈴「かっこいいあだ名って何気に難解よね」

阿武隈「なにか理由でもあるのかな?」

不知火「それは……はい」

阿武隈「そっか、それじゃ頑張って考えてみようかな」

不知火「え? いえ、阿武隈さんにそこまでして頂くわけには。ただでさえお忙しいのですから」

阿武隈「別にそんなこと気にしなくてもいいのに」

不知火「いえそれは――」

五十鈴「そうね、じゃあ五十鈴も考えてあげるわ」

不知火「そんな五十鈴さんまで」

五十鈴「気にしないの。それじゃあ不知火だから――」

五十鈴「ふっくん」

不知火「なぜ」

阿武隈「まったく不知火ちゃんと関係ないんですけど」

五十鈴「なによ、じゃあ阿武隈はなにか良い案があるのかしら?」

阿武隈「うーん……ぬいちゃんはかわいいから……ぬいさん?」

不知火「悪くはないと思いますが……なんかこう……もうちょっとインパクトがあった方が」

不知火「シラヌーイ13世とかどうでしょう」

五十鈴「なんで13世なのよ」

不知火「箔が足りませんね。鋼の13世……これならなかなか」

五十鈴「どこから鋼が出てきたのよ。しかも不知火が完全に消えてるじゃない」

不知火「名前にこだわる必要はないかと。それに新しい価値観を切り拓きそうな感じがしませんか?」

五十鈴「呼びにくいことこの上ないわね」


阿武隈「そうだ、不知火ちゃんはどういう風にかっこよくなりたいの?」

不知火「どういう風、ですか?」

阿武隈「うん。折角なら不知火ちゃんのイメージに合ったあだ名を、付けたいなって思ったんだ」

不知火「どういう風ですか……」

五十鈴「例えば、なにかに憧れてたりするのかしら」

不知火「それなら阿武隈さんですね」

阿武隈「ふえ!?」

五十鈴「ふーん、どこらへんに憧れたのかしら?」

不知火「普段は駆逐艦や空母の皆さんに明るく気軽に接しながらも、作戦のときは見事に駆逐の皆さんを取りまとめ、空母の方の護衛もしっかりこなしてますから」

不知火「ですから阿武隈さんは不知火達にとっては憧れ――」

五十鈴「ふうん。なるほどねえ」

阿武隈「不知火ちゃん……!」キラキラ

不知火「……なんですか、その反応は」

五十鈴「良かったわね、阿武隈」

不知火「なんですか。にやにやしないでください」

五十鈴「別に? にやにやなんてしてないわよ?」

不知火「絶対してます」

阿武隈「不知火ちゃん、あたし嬉しいなっ」ぎゅー

不知火「あの、阿武隈さん。あまり抱きついてこないでください。嬉しいのは分かりましたから」

阿武隈「えへへ、ごめんごめん」

不知火「阿武隈さんは不知火達、駆逐艦に親しく接してくださるのは美点ですが、あまり距離が近すぎるのもどうかと思います。威厳がなくなります」

五十鈴「なに言ってるの。にやにやしながら言っても説得力ないわよ」

不知火「にやにやなんてしてません」

阿武隈「不知火ちゃん、ありがとう! あたし不知火ちゃんの期待に応えられるように、頑張るからね!」ぎゅー

不知火「だから……はあ、もう良いです」

不知火「……けど、悪くありませんね」


~十日目 磯風と浜風~

磯風「師匠(阿武隈)! 他の者を呼んで、師匠の弟子である磯風を呼ばないとは、磯風になにか落ち度があるということですか!?」ドンッ!

阿武隈「いきなり言われても困るんですけど!? 他の子も別にあたしが呼んでいるわけじゃないんですけど! 磯風ちゃんに落ち度なんてありません!」

浜風「ふむ。見事な三段ツッコミですね」

五十鈴「どこに感心してるのよ浜風」

浜風「戦いに置いて機先を制するのは重要なことです。その点、今の阿武隈は見事でした」キリッ

五十鈴「アンタもなんだかんだでずれてるわね……」

磯風「それではなぜ磯風を呼んで頂けないのですか! 毎晩師匠の元に駆逐艦が集っていると聞き、声が掛かるのはいつかと一日千秋の思いで待っていたのですよ!?」

阿武隈「いえ、集まってるというより勝手に潜り込まれているんですけど……」

五十鈴「どうでも良いけど、なんで阿武隈に対して敬語なのよ」

磯風「何を言うかと思えば。師匠に対して敬意を払うのは当然でしょう?」

五十鈴「いや、なんで五十鈴にも敬語なの?」

磯風「師の姉と言えば我が師も当然でありましょう!」

五十鈴「その理屈はおかしいわよ。別に構わないから普通にしゃべってちょうだい」

磯風「しかし……」

五十鈴「良いのよ、そんなしゃべり方されたら肩が凝って仕方ないわ」

磯風「……む。五十鈴がそう言うなら、そうさせてもらおう」

阿武隈「磯風ちゃん、あたしにも普通にしゃべって良いんだよ?」

磯風「師匠に対してそのような不敬、できるはずもない!」

阿武隈「あたしは駄目だった!?」

浜風「磯風は自分の意志は曲げませんよ。磯風は本気で阿武隈を慕っているんです、諦めて師として接してあげてください」

阿武隈「磯風ちゃんが良いならそれで良いけど……」


磯風「それで師匠。この数日、皆とどのような修行をしていたんですか?」ワクワク

阿武隈「修行とかしてないよ?」

磯風「なら戦術の教授などか?」

阿武隈「ううん。みんな勝手に布団に潜り込んできてただけだよ?」

磯風「なるほど。一水戦旗艦の師匠と絆を深めることにより、よりよい師弟関係を築こうとしていたのだな!」

阿武隈「どうしてそうなるの!?」

磯風「だがこの磯風! 師匠の弟子として共に歩んだ時間と思いはそう劣るものではない!」

浜風「磯風は前から頼もしかったですが、最近はますます頼り甲斐が出てきましたね。私も負けていられません」

阿武隈「うん、磯風ちゃん最近ますます立派になってきたなってあたしも感心してたんだ。磯風ちゃんすごいです!」

磯風「これも師匠の薫陶(くんとう)の賜物だな!」

浜風「だそうです」

阿武隈「あたしは大したことしてないです、磯風ちゃんが頑張った成果です!」

磯風「それも師匠があってこそです。磯風一人の力ではありません」

阿武隈「ううん。別にあたしは――」

磯風「なにを言う、師匠がいなければ磯風は――」

五十鈴「はいはい、二人ともそこまでにしておきなさい。二人ともすごい、それでいいじゃない」


磯風「仕方ないな、まったく師匠は頑固なんですから」

阿武隈「磯風ちゃんもなかなか負けてないと思うんですけど」

浜風「違いありませんね」

磯風「だがここは磯風が折れよう。この機会に師匠との親交を深めなければな!」モゾモゾ

五十鈴「その台詞で取る行動が、阿武隈の布団に潜り込むことってどうなのよ」

浜風「なにか問題でも? 妹分が尊敬するお姉さんと一緒に寝ようとしているだけじゃないですか」

五十鈴「いやまあそうだけど」

阿武隈「えへへ、磯風ちゃんいらっしゃい」

五十鈴「阿武隈も満面の笑みで出迎えているし」

浜風「磯風も意外と思い込んだら一直線ですね。そこが磯風の良いところなのですが」モゾモゾ

五十鈴「ってアンタも潜り込んでるんじゃないわよ!」

浜風「……私だけ一人部屋に戻れと?」

五十鈴「……それもそうね」

阿武隈「ふふっ、浜風ちゃんもいらっしゃい」

浜風「お邪魔します。いつも磯風が世話になってますね」

阿武隈「こちらこそ。いつも磯風ちゃんと浜風ちゃんに助けられているよ。ありがとう」


五十鈴「にしても阿武隈。アンタの所に駆逐艦集まりすぎじゃないの? なんで毎日入れ替わりで来てるのよ?」

阿武隈「あたしに言われても困るんですけど」

磯風「やはり師匠が師匠だからな。さすが師匠と言わざるを得ない」

五十鈴「まともな言葉を話しなさい」

浜風「暁曰く、阿武隈と一緒にいると安心するらしいですよ」

磯風「響は阿武隈さんエネルギーを補充するために、仕方なく阿武隈さんに貼り付いているとか言っていたな」

五十鈴「この期に及んで、なにを否定しているのかしらあの子」

阿武隈「前から言ってるけど、阿武隈エネルギーって一体なんなんですか」

五十鈴「アンタが妙なエネルギー出しているせいで、毎晩騒がしいったらありゃしないわ。さっさと引っ込めなさいよ」

阿武隈「だからそんなエネルギー知らないですけどぉ!?」

五十鈴「前は五十鈴もそう思ってたけど、こう駆逐艦が阿武隈に集まっていると、やっぱりアンタがなにか出しているんじゃないかと思えてくるわね」

阿武隈「出してません!」

磯風「そのとおりだ五十鈴! 師匠がそんなよく分からないエネルギーを放出するわけがないだろう!」

浜風「まったくです。そんな非科学的なエネルギー、認めるわけにはいきませんね」

五十鈴「あー、はいはい。五十鈴が悪かったわよ」

磯風「それはそうと師匠! 夜は短い。普段忙しいからこそ、この機会に弟子との交流を存分に深めることを所望するぞ!」

浜風「磯風ばかり構ってないで、私の話相手になってくれると嬉しいです」

阿武隈「えへへ、分かったよ。でもあんまり夜更かししないようにね」

五十鈴「さっきの言葉が全然説得力ないんだけど!?」


浜風「そうは言いますが、五十鈴。あなたも阿武隈と同じようなエネルギーを出しているのでは?」

五十鈴「すっごく心外なんだけど!? そんなわけないでしょ!?」

磯風「え、でもそこにいる初月はどうしたんだ?」

五十鈴「……は?」

初月「すー……」

五十鈴「この子いつの間に五十鈴の布団に潜り込んできたのぉぉぉぉ!? さっきまでいなかったわよね!?」

阿武隈「お姉ちゃん、初月ちゃんが起きちゃいます」

五十鈴「あ、ごめんなさい……え? 五十鈴が悪いの?」

磯風「初月を起こすと悪いな。磯風達も小声でしゃべるとしよう」

浜風「そうですね。それが良いでしょう」

阿武隈「うん。それじゃあお姉ちゃん、おやすみなさい」

五十鈴「おやすみなさい……え? ええっ?」


浜風「……」じー

阿武隈「ふえ? どうしたの浜風ちゃん、こちらをじーっと見て」

浜風「阿武隈さんの髪、長いのに綺麗ですね」

阿武隈「そう? そう言ってもらえると嬉しいな」

浜風「その……ちょっと憧れます」

阿武隈「浜風ちゃんの髪も綺麗だよね」

浜風「いえ……私は別に。おしゃれとかよく分かりませんし」

阿武隈「浜風ちゃんかわいいのに」

磯風「髪と言えば浜風、前髪切ったらどうだ。一般人相手なら何も言わんが、その目が隠れる前髪は私達に取っては危険だぞ」

磯風「いざというときに視界がさえぎられたらどうする」

浜風「それは分かってますが……少し恥ずかしいので」

阿武隈「あたしも以前から言ってるんだけど……」

浜風「すみません……」

阿武隈「浜風ちゃん、恥ずかしがる必要ないんだよ。だってほら」スッ

浜風「え、阿武隈?」

阿武隈「ほら、綺麗な目してて、こんなにかわいいです」

浜風「……ふえ」


磯風「だとさ。浜風、良かったじゃないか」

浜風「ななな、何を言っているんですか二人とも! わ、わた、私がかわいいなんてそんなことありません!」

阿武隈「そんなことないのに……あたしで良ければ、前髪切ってあげようか?」

浜風「そ、そんな阿武隈のお手を煩わせるわけには」

阿武隈「そっか。やっぱり専門の人に切ってもらった方がかわいくできるもんね」

浜風「だからかわいくなんて……もう! そこまで言うなら阿武隈が切ってください!」

阿武隈「えへへ、任されました」

磯風「むう……師匠! この磯風の髪も切ってもらえないだろうか!?」

浜風「なんで磯風が張り合ってるんですか!?」


~十一日目 霞と朝潮~

霞「まったく毎晩毎晩、人の布団に勝手に潜り込んで、一体なにやってるのよみんな!」ぷんすか!

朝潮「霞、落ち着いて」

霞「阿武隈さんも阿武隈さんよ! 駆逐艦が潜り込んできたからって、そのまま一緒に寝させているんじゃないわよ!」

阿武隈「別に良いと思うんだけどなあ……」

朝潮「霞も一緒に阿武隈さんとお休みしたいけど恥ずかしくて言えないのに、みんなが一緒にお休みしているからすねちゃっているんですね!」

霞「んなわけあるか!」

阿武隈「恥ずかしがる必要ないのに。それじゃあ霞ちゃんも一緒にお休みしよ」

霞「だから違うって言ってるでしょ! ニコニコ笑いながら寄ってくるんじゃないわよ!」

朝潮「阿武隈さん、霞はこう言ってますけど最近夜そわそわしてたんですよ」

阿武隈「そうなんだ。気づけなくてごめんね、霞ちゃん」

霞「ちょっ!? 朝潮姉さんでたらめ言ってんじゃないわよ!」

朝潮「この前なんて寝ぼけながら阿武隈さん……どこ? って寂しそうにつぶやいてました!」

霞「朝潮ねえさーん!?」

阿武隈「えっと……」

霞「ち、違うのよ! こんなの全部姉さんのデタラメで、その、違うってば!」

朝潮「と言うわけで阿武隈さん、良ければ霞と一緒に寝てあげてください! 阿武隈さんと一緒なら、霞もこれ以上無くぐっすり眠れるはずです!」

阿武隈「あたし的にはとってもOKです!」

朝潮「はい、これは阿武隈さんにしか頼めないことなんです!」

霞「勝手に話を進めるんじゃないわよ!」

五十鈴「朝潮……恐ろしい子」


霞「ったく、そこまで言うなら今晩だけ一緒に寝てあげるわよ!」

朝潮「ふふっ、霞が素直になって良かったです」

霞「そこ! 微笑ましくこっちを見てるんじゃない!」

阿武隈「えへへ、よろしくね霞ちゃん、朝潮ちゃん」なでなで

霞「阿武隈さんも頭なでるんじゃないってば!」

朝潮「霞は嬉しくないんですか? 私は嬉しいですが」

霞「子供じゃあるまいし、こんなんで喜んでんじゃないわよ!」

朝潮「私も嬉しいんですから、阿武隈さんが大好きな霞ならもっともっと嬉しいと思ったのですが……」

霞「だ、誰が大好きだって!? そんなことあるわけ……あるわけ」

五十鈴「……嘘でも嫌いとか言えないようね、まったく難儀な子だわ」

霞「そんなことないわよ!」

阿武隈「ふふっ、あたしは霞ちゃん大好きだよ」ぎゅー

霞「きゃっ!? いきなり抱きしめてくるんじゃないわよ! ったく、本当にぽわぽわしてるんだから……」

霞「水雷戦隊旗艦なら、もっと威厳出しなさいよ。そんなんだから、普段指示に従ってくれなくて苦労するはめになるんじゃない……」

阿武隈「それを言われるとちょっと辛いなあ」

霞「阿武隈さんの場合、自業自得よ……ふふっ」

朝潮「霞、嬉しそうですね。良かったです!」

霞「っ!? ちっとも嬉しくなんかないわよ!」


霞「ったく、寝るんならさっさと寝るわよ。じゃないと明日に差し支えるんだから」

朝潮「はい! 不肖、この朝潮もご一緒させて頂きます!」

霞「え? 姉さんも一緒に寝るの?」

朝潮「ええ……はっ!? 霞は阿武隈さんと二人で寝たかったんですね! 申し訳ありません、霞の姉でありながら、霞の気持ちに気づきませんでした!」

霞「そんなわけあるか! 良いわよ、朝潮姉さんも一緒に寝ればいいじゃない!」

阿武隈「えへへ、朝潮ちゃんも一緒ですね。あたしも嬉しいです」

朝潮「はい! 私も霞と阿武隈さんと一緒でとても嬉しいです!」

霞「アンタら……はあ、もう良いわ」


霞「阿武隈さん、朝潮姉さんももっと寄りなさい。落っこちるじゃないの」

阿武隈「うん、大丈夫だよ」

霞「……」ぎゅー

阿武隈「えへへ、霞ちゃんかわいいですねえ」

霞「ち、違うわよ! これは三人も寝てるから、近寄らないと落ちちゃうから仕方なくよ!」

朝潮「阿武隈さん、霞は恥ずかしがり屋さんですから、霞の言うとおりということにしておいてあげてください」

霞「おいこら」

阿武隈「もう、駄目でしょ霞ちゃん。そんな言葉使いしちゃ」

霞「あ……その、ごめんなさい」

阿武隈「良くできました。霞ちゃんは良い子ですねえ」

霞「……言っておくけど、今日は仕方なく一緒に寝てあげてるんだからね!」

霞「このままじゃ朝潮姉さんがうるさくて、一度だけでも阿武隈さんと一緒に寝ないと勘違いしたままだと思っただけなんだから!」

阿武隈「そうなんだ」

霞「そうよ! 別に霞が望んでたわけじゃないんだから! 勘違いしないことね」

阿武隈「うん、分かったよ」

霞「……ふん」

阿武隈「けど、あたしは霞ちゃんならいつでも大歓迎ですから」

霞「え……? あ、ありがとう……はっ!? あーもう、ホントバカね阿武隈さんは!」

阿武隈「もー、あたしバカじゃありません」

朝潮「ふふっ、良かったですね霞」

阿武隈「もちろん朝潮ちゃんも大歓迎です!」

朝潮「あ……その、ありがとうございます! たまにご一緒させて頂きますね。ねっ、霞」

霞「知らないわよ!」


霞「もう! ここは霞の実体験で、阿武隈さんと一緒にお休みしても、そこまで良いものじゃないって他の駆逐艦に伝えてあげる必要があるわね!」

五十鈴「なによその妙な使命感は」

霞「朝潮姉さんや不知火が霞に対して、これ以上変なことを言ってこないようにするためよ!」

朝潮「霞、阿武隈さんを独り占めしたいんですか? 駄目ですよ、わがまま言ってはいけません!」

霞「だからそういうのを言っているのよ!? もういいわ、おやすみ!」

阿武隈「うん、おやすみなさい霞ちゃん」

朝潮「今日はきっと良い夢が見られますよ」

霞「やかましいわ! きっと夢見がこの上もなく悪いでしょうね! 皆にそう伝えてやるんだから!」

五十鈴「なんていうか……先の展開が読める気がするわ」


――十数分後。

霞「すやすや……」ぎゅー

五十鈴「阿武隈にしがみつきながら、この上もなく幸せそうな寝顔してるわこの子」

阿武隈「えへへ、かわいいですねえ」

朝潮「霞が幸せそうでなによりです。せっかくの機会です、霞の寝顔を撮っておきましょう」パシャ

朝潮「これは……かわいいです! 大潮や荒潮にもお見せしたいです!」

阿武隈「もう、朝潮ちゃんってば。勝手に写真送ったら霞ちゃん怒ると思うよ?」

朝潮「もちろん後で許可は取りますから。駄目なら送りません」

阿武隈「それなら良いかな。それにしても、本当にかわいいです」

霞「えへへ、阿武隈さん……」ぎゅー


――後日。

曙「ふん、霞もだらしないわね」

潮「曙ちゃん、あの」

曙「みんなあっさりと阿武隈にほだされてバカみたい! こうなったら私が流されない駆逐艦の姿をビシッと示すしかないわね!」

阿武隈「えっと……つまりどういうことなんでしょう?」

曙「仕方ないから一緒に寝てあげるって言ってんのよ! 言っとくけど霞と同じだと思わない事ね!」

潮「阿武隈さん、曙ちゃんが迷惑かけてごめんなさい」

阿武隈「あたしは大丈夫だよ、潮ちゃん」

五十鈴(なんでこの子もフラグ立ててるんだろう……)

その後、潮により曙の寝顔写真が一部の艦娘に出回ることになるのであった。


~十二日目 長波~

?「抜き足……差し足、忍び足っと……」

阿武隈「……すー」

五十鈴「くー」

?「ふふん、まあぐっすりと眠ってることで……隙だらけですなあ」

?「と言うわけで……突撃ぃ!」バッ!

阿武隈「がら空きなんですけどぉ!」バッ!

長波「ってなにぃ!?」

阿武隈「ふふーん、長波ちゃん捕まえたよ」

長波「うー、ぐっすり寝てたと思ってたのに、起きてたのかよ」

阿武隈「こっそり近づいて来てたつもりかもしれないけど、まだまだ気配を断ち切れてないよ、長波ちゃん」

長波「ぼんやりしてるようで、やっぱすげえな阿武隈は。けど覚えてろよ、次はちゃんと不意を突いてやるからな!」

阿武隈「堂々と不意打ち宣言されても困るんですけど……仕方ないですねえ。あたし以外に迷惑かけないようにね」

長波「へーい」

五十鈴「阿武隈……アンタ自分は迷惑掛けられて良いの?」

長波「あっ、ごめん五十鈴。起こしちまったか?」

五十鈴「……長波。アンタこんな夜中に何しに来たのよ?」

長波「なんだよー。子日や暁は良くて、長波サマは駄目なのかよー」

阿武隈「別にそんなことないよ。ただ急に来たからちょっとビックリしちゃいました」


長波「完璧にあたしの奇襲を察知してた阿武隈に言われても説得力ないけどさ。まあ良いならお邪魔するぜ」

阿武隈「えへへ、長波ちゃんいらっしゃい」

五十鈴「あー、今晩も結局こうなるのね」

長波「なんだ、五十鈴さみしいのか? 子日呼ぶか? きっと喜んで来てくれるぞ」

五十鈴「いらないわよ。アンタこそなんで阿武隈のところ来たのよ」

長波「良いじゃんか、阿武隈とはキスカで一緒した仲なんだし」

阿武隈「あのときは本当にありがとうね、長波ちゃん」

長波「ふふーん、長波サマにこなせない任務はそうはないぜ。っても、あん時は阿武隈の指揮と状況判断あってこそだったからなあ」

阿武隈「けど長波ちゃん達がいないと、皆を助けることはできませんでしたから」

長波「そう言われるとむずかゆいな、なんか。でも悪い気はしないよ。こちらこそありがとうな」


長波「それはそうと。連日、阿武隈のところに駆逐艦達が布団に入り込んできてるらしいな」

阿武隈「そうだね。あたしは構わないけど、なんであたしのところに来るんでしょうね」

長波「駆逐艦と精神年齢近いから、共感しやすいんじゃねーか?」

阿武隈「あんまりなんですけど」

長波「あはは、冗談だって。半分は」

阿武隈「半分なんだ」

長波「本当は……阿武隈って、駆逐艦の子達にとってはお姉さんみたいなものだからな」

阿武隈「そうかな?」

長波「優しくて、温かいし、面倒見は良いし。ぽわぽわしてて威厳なさそうだけど、ちゃんと叱るときは叱ってくれるしな」

長波「ちっとも凄そうに見えないけど、いざって時はすごく頼りになるから……駆逐艦のみんなにとっては拠り所になってるんだと思うぜ」

長波「全員が全員、そうだとは言わないけどさ」

阿武隈「そこまで言われると、さっきの長波ちゃんじゃないけどむずかゆいです」

長波「そんな反応されると、あたしも恥ずかしいんだが」

長波「それはともかくだ。良ければそのままの阿武隈でいてやってくれよな」

長波「あたし達はさ……過去の軍艦のときの記憶はあるけど、今は子供であることには変わりないんだ」

阿武隈「そうだね……」

長波「おっと、駆逐艦は軍艦じゃないとか野暮なツッコミはやめてくれよ」

阿武隈「ふふっ、分かってるよ」

長波「それも、生まれてまだそんなに経っていないしさ……やっぱり子供らしく、誰かに甘えたい時だってあるんだ」

阿武隈「……」

長波「そんな駆逐艦達にとって、過去もっとも多くの駆逐艦を率いた一水戦旗艦で、今も頼りになる優しい一水戦の阿武隈お姉ちゃんにみんな甘えたいのさ」

長波「阿武隈もそれを分かってるから、迷惑掛けられたり、前髪崩されたりして文句言いながらも甘えさせてやってるんだろ?」

阿武隈「あはは、あたしは別にそこまで深く考えてませんから」

長波「ははっ、そーかい。じゃあこんな風に語って損したぜ」


長波「まっ、いいさ。夜は長くても、あまり話し込んでたら明日が辛い。はやくねよーぜ」

阿武隈「そうだね。長波ちゃん、あのね」

長波「なんだ?」

阿武隈「ありがとうね。長波ちゃん」

長波「別にお礼を言われるようなことはしてないぞ?」

阿武隈「もう、照れちゃって。長波ちゃん、良い子です」

長波「なんだよぉ。あたしを褒めたって、なにも出ないぜ」

阿武隈「ふふっ、分かってるよ」

長波「ったく、あたしまで甘えちまうぞ」

阿武隈「大歓迎だよ」

長波「前髪思いっきしわしゃわしゃするぞ、いいのかー?」

阿武隈「仕方ないですねえ。今日だけ特別です」

長波「お、言ったなこのやろー。後悔させてやるからなー!」


~十三日目 島風~

島風「えへへ~、お姉ちゃんと一緒~」

五十鈴「島風嬉しそうね」

島風「だって島風、お姉ちゃんと一緒だと楽しいんだもん」

島風「お姉ちゃん優しいし、温かいし、作ってくれるおやつはおいしいし」

五十鈴「ふふっ、そこで出てくるのが食べ物なのね」

島風「も、もちろんそれだけじゃないから!」

阿武隈「えへへ、あたしも島風ちゃんと一緒だと楽しいよ」

島風「にひひー。そうでしょそうでしょ?」

島風「だったらもっと島風に頼って良いよ? 島風は速いけど、それだけじゃないからね!」

島風「雷装もそうだけど、電探だってすごいし、通信設備だってすごいんだよ! 臨時旗艦だってできるんだから!」

阿武隈「うん、分かってるよ。島風ちゃん凄いね」

阿武隈「最近は皆との連携も良くできてるもんね。本当、頑張ってるもんね」

島風「うん! でもこれもお姉ちゃんや電ちゃんとかのおかげだよ」

島風「他にも、長波ちゃんとか、天津風ちゃんとか、風雲ちゃんとか、それだけじゃなくて赤城さんも……みんな親切に教えてくれたから」

阿武隈「そうだね。うん、みんなのおかげですねえ」

島風「でも、やっぱりお姉ちゃんには特別にお世話になってるよ!」

連装砲ちゃん「いつもありがとって、しまかぜちゃん」


阿武隈「うん、連装砲ちゃんもありがとうね」

連装砲ちゃん「おれいいわれちゃった」

島風「良かったね、連装砲ちゃん」

連装砲ちゃん「うん!」

島風「それとね、お姉ちゃんと一緒に買った靴、島風にとっても合ってるよ! ちょっとだけど、ますますかけっこが速くなったの!」

阿武隈「そうなんだ。えへへ、それならあたしも嬉しいです」

島風「あとね、あとね。この前の出撃でね――」

五十鈴(本当に妹みたいに阿武隈に懐いちゃってるわねえ)


島風「ねえねえ、お姉ちゃん。島風、お姉ちゃんの作ったおにぎり食べたいなあ」

阿武隈「そう? それじゃあまた今度作ってあげるね」

島風「やった! にひひー、楽しみだなあ」

阿武隈「そこまで期待されると、ちょっと緊張しちゃいますけど……でもちゃんと作ってあげるからね」

島風「うん! ふわぁ……」

阿武隈「眠い? そろそろおやすみしないとね」

島風「でももっとお話したい……」

阿武隈「お話ならまたしようね? 今日はもう寝ないと明日が大変だよ?」

島風「うん……」

阿武隈「ふふっ、島風ちゃん良い子良い子」ナデナデ

島風「えへへ……あっ、連装砲ちゃん、明日の目覚ましお願いね」

連装砲ちゃん「まかせて!」

島風「それじゃあ阿武隈さん、おやすみなさい……」

阿武隈「うん、おやすみなさい、島風ちゃん」

島風「うん……すー」


――翌日、早朝。

連装砲ちゃん「……ぱちくり」

連装砲ちゃん「あたらしいあさがきた」

島風『連装砲ちゃん、明日の目覚ましお願いね』

連装砲ちゃん「しまかぜちゃんとあぶくまさん、おこさないと」

連装砲ちゃん「しまかぜちゃん、おきておきて」

島風「むにゃ……」

連装砲ちゃん「おきてくれない……こうなったら」

阿武隈「うん……あれ? 連装砲ちゃんどうしたの……?」

連装砲ちゃん「れんそうほうちゃん、めざましほう、はっしゃじゅんびー」

連装砲ちゃんB「らじゃー」

連装砲ちゃんC「うちかたーはじーめー」

阿武隈「ってちょっと待ってー!?」

連装砲ちゃん「ふぁいや!」

ちゅどーん!

島風「きゃああああ!?」

阿武隈「ふえええええ!?」

五十鈴「何事!? 阿武隈、島風!? 大丈夫!?」


――数時間後。

五十鈴「……これでよし、と」

『しばらくの間、島風と連装砲ちゃん達について、五十鈴と阿武隈の部屋への入室を禁ず』

島風「なんで!?」

五十鈴「当然でしょ!」

連装砲ちゃん「しょんぼり……」


~十四日目 ??~

?「そーっと、そっーと。五十鈴さんと阿武隈を起こさないように……」

五十鈴「すーすー……」

阿武隈「むにゃ……」

?「二人ともぐっすりですね……なんだか悪いことをしてる気分です」

?「ふふ、阿武隈の寝顔かわいい……し、失礼します……」モゾモゾ

阿武隈「う……ん? だれ……?」

神通「あ、あの……私です……」

阿武隈「なんだ、神通かぉ……神通?」

神通「はい、神通です」

阿武隈「……なんで神通があたしの布団に潜り込んできてるの?」

神通「そ、それは……えっと」

阿武隈「えっと?」

神通「その……駆逐の子達の話を聞いてうらやましくなってしまいまして」

阿武隈「あはは、そうなんだ」

神通「もう、笑わないでください」

阿武隈「ごめんね、でも神通でもそんなことあるんだなって」

神通「自分でもちょっと意外です……」

阿武隈「でもなんであたしのところに?」

神通「私が素直に甘えられそうなのは、阿武隈しかいないです」

阿武隈「そこまで頼りにしてくれるのは嬉しいなあ」

神通「ふふっ、私はいつも阿武隈を頼りにしていたつもりだけど」

阿武隈「それはあたしもだよ。いつも神通を頼りにしてるんだから」


阿武隈「でも神通だとさすがに……双子の姉妹って感じかなあ」

神通「進水日は阿武隈の方が早いから、阿武隈がお姉さんですね」

阿武隈「こんなに大きい妹を持った覚えはないんですけどぉ」

神通「お姉ちゃんヒドいです……ふふっ」

阿武隈「あはは、すねないの。かわいい妹ですねえ」

神通「阿武隈が意地悪するからです」

阿武隈「そんな意地悪したつもりはないんだけどなあ」

神通「むー……」

阿武隈「ほら、機嫌直してね」

神通「分かりました、許しちゃいます」

阿武隈「ふふっ、ありがとう神通」

神通「阿武隈は温かいですね。駆逐の子達が来ちゃうのも分かる気がします」

阿武隈「そうかな? あたしそんなに体温高いかな?」

神通「そういうことじゃないんだけど……ふふっ、阿武隈は楽しいですね」

阿武隈「むー、神通なんで笑うの?」

神通「ううん、褒めてるだけよ」

阿武隈「それなら別に良いけど……」


――数十分後。

神通「すやすや……」

阿武隈「くー……」

神通「う……ん……」ぎゅー

阿武隈「……んん? 神通?」

神通「すー……」

阿武隈「寝てるね……もう、勝手にあたしを抱き枕にしないで欲しいなあ」

神通「ん……」

阿武隈「別に良いんだけど……まったく幸せそうな顔しちゃって」

阿武隈「こんなに大きいのに、甘えん坊さんですねえ」ナデナデ

神通「んんっ……」


阿武隈「こうして見てると、神通も幼い子みたいです」

神通「……んー」ぎゅー

阿武隈「ふえ? 神通?」

神通「待って……」ぎゅー

阿武隈「ちょ、神通ちょっと苦しいんですけど……」

神通「ふふっ、阿武隈捕まえた……」ぎゅー!

阿武隈「いた、いたいいたい! 神通タンマタンマ!」

神通「やー……」ぎゅー!

阿武隈「ふえええええええ、だれかたすけてえええええぇ!」

五十鈴「ちょ、何事!?」

――ドタドタドタ! バタン!

風雲「どうしたの阿武隈さん――って本当にどうしたのこれ!?」

電「大変なのです! 阿武隈さんしっかりするのです!」

神通「……はっ!?」

阿武隈「……」しーん

神通「阿武隈、どうしたの阿武隈!? しっかりして!」

神通「ひどい……いったい誰がこんなことを!? 許しません! 犯人は私が絶対に捕まえて見せます!」

五十鈴「犯人はアンタだあああああぁ!」

神通「ええええええぇ!?」

風雲「……なにこれ?」

電「電も分からないのです」


――翌朝。

五十鈴「これでよしっと……」

『しばらくの間、神通について、五十鈴と阿武隈の部屋への入室を禁ず』

神通「がーん!?」

五十鈴「なに意外そうな顔をしてるのよアンタ!?」

島風「入室禁止仲間だね、神通さん」

連装砲ちゃん「ぼくたちといっしょ」


~後日談~

提督「いやー、心配したぞ阿武隈」

阿武隈「いえ、別に大したことはなかったから良いんですけど……神通が落ち込んじゃって」

提督「まあ、それは仕方ないな。取りあえず五十鈴や電達には他言無用としておいたから、そこまで心配ないとは思うが」

阿武隈「それなら良いんですけど」

提督「幸い、知っているメンバーは阿武隈と神通以外は五十鈴と風雲、電だけだ。他人に言いふらすようなことはしないだろう」

阿武隈「ですね」

――コンコン

蒼龍「提督、いるー?」

提督「蒼龍か、どうぞ」

ガチャ

蒼龍「失礼します」

翔鶴「提督、おはようございます」

提督「おはよう、蒼龍。翔鶴。どうしたんだ二人とも」

蒼龍「ちょっと阿武隈のお茶飲みに来ただけですよ」

提督「おいおい、遊びに来たのか?」

翔鶴「もう、蒼龍さんってば」

蒼龍「良いじゃないですか、たまには羽根伸ばしたって。提督みたいにいつも根詰めてると、いざというときに頑張れませんからね」

提督「あはは、言ってくれるなあ」


翔鶴「そう言えば阿武隈さん、最近駆逐艦の子達に大人気みたいですね」

阿武隈「別にそんなことないと思うんですけど」

蒼龍「そうそう、前から阿武隈は駆逐艦の子達によく遊ばれていたよね」

阿武隈「なんだか聞き捨てならないんですけどぉ」

蒼龍「ふふっ、ごめんごめん。冗談だって」

阿武隈「まったくもう、蒼龍さんってば」

蒼龍「でも駆逐艦の子達の気持ちも分かるなあ。阿武隈だったら私もお姉ちゃんに、いやいっそお嫁さんにしたーい!」

阿武隈「なに言ってるんですか」

蒼龍「だって、一途だし、気が利くし、人懐っこくて頑張り屋さんだし、料理上手だし。提督にはもったいなくない?」

提督「ちょっと待て」

蒼龍「ねー、良いでしょ? 阿武隈ちょうだい」

提督「やらないからな」

蒼龍「ちぇー、残念」

阿武隈「蒼龍さん、もしかして酔ってます?」

蒼龍「ヒドいなぁ。朝から飲んだりしないって」

翔鶴「でもそう言われても仕方ないですよ、蒼龍さん」

蒼龍「もう、翔鶴までそんなこと言うの?」


蒼龍「でも阿武隈だったら翔鶴だってお嫁さんに欲しいでしょ?」

提督「さっきからおまえはなにを言っているんだ」

翔鶴「蒼龍さん、阿武隈さんは提督一筋ですから、諦めた方が……」

蒼龍「いや、そこで真面目に返されても困るんだけど」

翔鶴「え? 冗談だったんですか?」

蒼龍「そりゃそうだよ。本気で阿武隈をお嫁さんにするとか思ってないから」

翔鶴「そ、そうですよね……」

蒼龍「そうそう」

翔鶴「阿武隈さんはむしろお母様ですよね」

蒼龍「そうそう……は?」

阿武隈「え?」

翔鶴「お母様……いつも翔鶴達を護ってくださって、ありがとうございます」

阿武隈「……え?」

翔鶴「駆逐艦の子達を率いて、私達、機動部隊を護ってくださるその姿を見て……私、阿武隈さんをお母様みたいだなって。勝手にそう思っていたんです」

阿武隈「えっと……そんなこと言われても」

翔鶴「お母様~」ぎゅー

阿武隈「えええええ!?」

翔鶴「どうしたんですかお母様……翔鶴のこと、お嫌いですか?」

阿武隈「翔鶴さん、悪ノリしてません!?」

翔鶴「そんな!? 翔鶴はお母様のことをただ慕っているだけなのに……」

阿武隈「絶対悪ノリしてますよね!?」

翔鶴「そんなことありません! お母様ー」

蒼龍「お母さんー」

阿武隈「蒼龍さんまで乗らないでください!?」


――コンコン

赤城「提督、失礼します」

提督「ああ、赤城。入って良いぞ」

ガチャ

赤城「おはようございます、提督――あら?」

翔鶴「お母様! 今日の訓練頑張りますから、応援してくださいね!」

蒼龍「お母さん、私はお母さんの作ったケーキ食べたいなー」

阿武隈「二人ともいい加減にしてー!?」

赤城「あらあら、阿武隈さんいつの間にかこんなに大きい子供ができたんですね」

阿武隈「ほほましく眺めてないで助けてくださいよぉ!?」

赤城「良いじゃないですか、二人とも可愛くて良い子ですよ」

阿武隈「明らかにあたしが二人のお母さんとかおかしいんですけど!?」

赤城「あら、そんなことないですよ。ねえ、お父さん?」

提督「っておい!? だれがお父さんだ!?」

赤城「提督がお父さんで、阿武隈さんがお母さんでしょう? 他に誰がいるんですか?」

提督「その理屈はおかしい」

阿武隈「……あたしがお母さんで、てーとくがお父さん。そして娘が二人……えへへ」

翔鶴「ふふっ、阿武隈さん幸せそう。提督のことが本当に好きなんですね」

蒼龍「本当、阿武隈はかわいいなぁ」

赤城「阿武隈さんは乗り気みたいですよ、お父さん」

提督「阿武隈戻ってこーい!?」

これで終わりです。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。

イベント皆さん頑張ってください!(E3輸送苦戦中)

響で出オチと思いきやかなりの伏兵が待っていた

乙と感想ありがとうございます
阿武隈さんや艦娘のかわいさを表現できたのなら嬉しい限りです

>>80
神通「油断しましたね。次発装填済みです」

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