カイザル「そうか……そういう事だったんだ」(32)

進撃のバハムート・バージンソウル×異世界食堂
になります。


王宮 謁見の間


カイザル「陛下!」

カイザル「今一度、お考え直しを!」

シャリオス「くどいぞ、カイザル」

シャリオス「もう決めたことだ」

カイザル「しかしこのままでは悪魔達の反感を買うことに……!」

シャリオス「もうよい。下がれカイザル」

シャリオス「話すことは無い」

カイザル「陛下!」

カイザル「…………」

カイザル「……くっ」


―――――――――――

カイザルの自室


カイザル(…………)

カイザル(……どうすれば)

カイザル(どうすれば良いのだ……)

カイザル(人も悪魔も神も……)

カイザル(争わずに済む方法は無いのだろうか)

カイザル(……何か)

カイザル(…………)

カイザル(…………)


カイザル(…………)

カイザル(…………)

カイザル「……ん?」

カイザル「…………」

カイザル「なんだ? このドアは?」

カイザル「いつの間に私の部屋に……なんと面妖な」

カイザル「…………」

カイザル「鬼が出るか蛇が出るか」

カイザル「いずれにしても確かめなければならぬ」

     ガチャ… カララン♪


ライオネル「カツ丼お代わり!」

アレッタ「はい、ただいま!」

アルトリウス「こっちはビールを追加じゃ」

タツゴロウ「……こちらは清酒を二合追加で」

アレッタ「は、はい!」

カイザル「」

     ガヤ ガヤ

カイザル「な……なんなんだ……ここは……」

サラ「……ん?」

サラ「あんた……ここは初めてかい?」

カイザル「あ、ああ……」

サラ「まあ……あたしも最初は面食らったから気持ちはわかるけど」

サラ「ここは洋食のねこやっていう飯屋だよ」

カイザル「飯屋?」


サラ「変なドアが目の前に現れたでしょ?」

カイザル「そうだ」

サラ「あたしも詳しくは知らないけど」

サラ「7日に一度、どこかしこ、決まった場所に現れるドアをくぐると」

サラ「この不思議な食堂にたどり着くのよ」

カイザル「…………」

サラ「ま、物は試し」

サラ「せっかくここへ来たんだから、突っ立ってないで席について」

サラ「何か注文してみるといいわ」

カイザル「そ、そうか……わかった」

     …ストン

サラ「ちなみにあたしのオススメはメンチカツ」

サラ「最高に美味しい上、懐に優しいよ」


ハインリヒ「待たれよ」

ハインリヒ「どこか……異国の騎士殿とお見受けするが」

ハインリヒ「それならば、まずは最高に旨いシュライプを堪能できる」

ハインリヒ「エビフライをオススメしたい」

ハインリヒ「君も騎士ならば、一度は食しておくべき絶品だ」

カイザル「はあ……」

ライオネル「カツ丼、お代わりィッ!」

アレッタ「はーい!」

サラ「アレッタは忙しそうね」

サラ「詳しくはこのメニューを見るといいわ」

カイザル「ありがとう」


     ガチャ… カララン♪ パタン

ガガンポ「……オムライス、オオモリ」

ガガンポ「オムレツ、サンコ、モチカエリ……」

カイザル「」

カイザル(リザードマン!?)

サラ「あはは! やっぱりあれには驚くよね」

カイザル「大丈夫なのか? 武装している様だが……」

サラ「大丈夫よ。見ていてごらん」

カイザル「…………」


ライオネル「カツ丼、お代わりィィィィッ!」

アレッタ「はいはーい!」

アレッタ「マスター! カツ丼、お代わりと」

アレッタ「オムライス大盛りとパーティオムレツ三つ持ち帰りでーす!」


ガガンポ「…………」

カイザル「……佇まいが並みの者と違うな」

カイザル「かなりの手練れと見た」

サラ「分かるんだ」

カイザル「多少は」


アレッタ「お待たせしました」

アレッタ「オムライス大盛りになります」

ガガンポ「…………」 コクッ

     スッ…

ガガンポ「……イタダキマス」


カイザル「ほう……祈りの言葉も捧げるのか」

カイザル「ますます驚かされる」


サラ「さ、それよりもあんただよ」

サラ「何を食べるか決めたかい?」

カイザル「そうだな……」

カイザル「…………」 パラパラパラ…

カイザル「…………」

サラ「……どうしたの?」

カイザル「いや……確かにみんな旨そうだ」

カイザル「ただ、ここのところ気苦労が絶えず、食欲が落ちててな……」

サラ「そう」

サラ「騎士様ってのは、そんなのが多いね」

カイザル「ははは……」


サラ「なら、食べたいものを注文してみたら?」

カイザル「え?」

サラ「なんか聞いた話じゃ」

サラ「肉も魚も卵も乳も入ってない料理っての」

サラ「注文した客が居るんだって」

カイザル「……かなりの無茶振りだな」

サラ「でも、ここのマスターは見事にその注文通りの料理を出したんだってさ!」

カイザル「それは凄い」

カイザル「ここの店主は余程の達人と見える」

サラ「まあそんな無茶振りを真似しろ、なんて言わないけど」

サラ「頼んでみたらどうかな?」


ライオネル「カツ丼、お代わりィィィィィィィッ!」

アレッタ「はーい!」


サラ「じゃ……あたしはそろそろ行くね」

サラ「ごゆっくり」

カイザル「ああ。いろいろありがとう」

カイザル「助かった」

     ガヤ ガヤ

カイザル「…………」

カイザル「……よし」

カイザル「あー……すまない」

カイザル「注文をしたいんだが」

アレッタ「あ、はい」

アレッタ「ご注文は何になさいますか?」


カイザル「ウサギ肉のリゾットは出来るだろうか?」

アレッタ「ウサギ肉のリゾット……ですか」

カイザル「うむ」

カイザル「肉に関しては、無いのならそれでも良い」

カイザル「胃腸に優しいものを頼みたい」

アレッタ「分かりました」

アレッタ「マスターに聞いてみますね」

カイザル「すまないな」

―――――――――――

アレッタ「鶏肉でいいのなら出来るそうです」

カイザル「そうか」

カイザル「では、それを頼む」

アレッタ「はい!」


アレッタ「お待たせしました」

     コト…

カイザル「ありがとう」

アレッタ「いえ。 どうぞごゆっくり」

     スタ スタ スタ…

カイザル「…………」

カイザル(私が知るリゾットは、この様なフタは乗せないものだが……?)

     カパッ モワワッ

カイザル「……!」

カイザル「こ、これは!?」

カイザル「なんという……芳醇なハーブの香り……!」


     フタを空けた瞬間

     胸をすく様な、とても心地の良い香りが鼻に抜ける

     ……そうか

     フタを置いていたのは、この匂いを閉じ込め

     一気に嗅がせる為だったのか……!

カイザル「…………」

     そして、ハーブの良い香りの後には

     旨そうな肉と細かく刻んだ野菜のたまらなくいい匂いがして

     俺の食欲を刺激する

カイザル「…………」 カチャッ…

     この時の俺は

     うかつにも神への感謝の祈りを怠ってしまっていた

     なさけないが、それ程の衝撃だったのだ


カイザル「フーフー……」

カイザル「……はむっ」

カイザル「!!」

     ああ……今、俺は何を口にしたんだ?

     この味……想像すらも出来ないほど

     複雑で、濃厚で、それでいて優しい味わい……!

カイザル「はむっはむっ!」

カイザル「アツッ!……フーフー、はむっ!」

     塩が入っているのは間違いない

     だが他は何なのだろう?

     細かく刻んだ野菜……タマネギにニンジンだろうか

カイザル「ムシャムシャムシャ……ハフハフ」


     そして肝心の鶏肉がまた旨い

     俺が知っているウサギ肉のリゾットは

     雑味が少しあったりするのだが

     この鶏肉は何かでそれを消しているのか……?

     それとも良い鶏肉を使っているのだろうか?

カイザル「ムシャムシャムシャ」

     しかもこのライスすら、私が知るものではない

     旨く言えないが、従来のものより粘り気があり

     しかもほのかに甘味がして、それが他の食材の味を吸い込んで旨くなり

     さらには引き立ててもいる

     なんというライスなんだ!

カイザル「……ふう」


カイザル「…………」

カイザル(……なんてことだ)

カイザル(こんな……こんな……)

カイザル(こんなにも旨いリゾットが存在するなんて!)

カイザル(…………)

カイザル(……久しぶりに腹が満たされた気がする)

カイザル(リタの料理もかなり旨いと思うが)

カイザル(正直、桁違いだ……)

カイザル(…………)


マスター「リゾット、いかがでしたでしょうか?」

カイザル「!」

カイザル「あなたは……ここのシェフか」

マスター「はい」

マスター「それで、お口に合いましたか?」

カイザル「ああ……」

カイザル「私がこれまで口にした、どのリゾットよりも旨かった」

マスター「それを聞いて安心しました」

カイザル「……それにしても」

カイザル「ここは不思議な空間だな」

マスター「よく言われます」

カイザル「問題は起こらないのか?」

マスター「多少はありますが……大抵ここの料理を食べて頂いた後は」

マスター「おとなしく食事を楽しんでくれる様になってくれますので」

カイザル「……さもありなん、か。 分かる気がする」


カイザル「何にしても馳走になった」

カイザル「久しぶりに食事を堪能した気分だ」

カイザル「ありがとう」

マスター「いえ、こちらこそ楽しんで頂けたのなら光栄です」

カイザル「勘定を頼む」

マスター「分かりました。 こちらになります」つ(伝票)

カイザル「む……少々値が張るが、あの料理の味ならば納得もできるな」

カイザル「ではこれを」つ(勘定)

マスター「はい、確かに」

マスター「またのご来店をお待ちしてます」

カイザル「ああ。 7日後、また来る」


     以降、私は毎週末が楽しみになった


     思えば……

     この7日に一度のリゾットがあったおかげで

     私は陛下とアザゼル達の板ばさみに

     何とか耐えられていたのかもしれない


     あの芳醇なハーブの香りと

     鶏肉と野菜の匂いを思い出すだけで

     不思議とやる気が沸いてくる


     また食べたいな……



―――――――――――


悪魔街の廃墟


????「……ザル……カイザル」

????「起きろ、カイザル」

カイザル「……む」

カイザル「…………」

カイザル「ああ、ファバロか」

ファバロ「のんきに寝やがって……」

ファバロ「晩飯だぞ」

カイザル「ああ、分かった」


リタ「やっと起きたの、カイザル」

ファバロ「まったくだぜ」

カイザル「……すまん」

リタ「別にいいわよ。 ほら、あなたの分の食事」

カイザル「ありがとう、リタ」

リタ「……ふん」

ニーナ「うーん! 美味しい~!」

ニーナ「やっぱりリタの料理は最高ね!」

リタ「はいはい」

バッカス「これで酒がありゃあなぁ……」

ハンサ「無理なものは無理ですクヮアら」

ムガロ「…………」

アザゼル「…………」


カイザル「…………」

カイザル「……あ」

ファバロ「どうしたぁ? カイザル」

カイザル「そうか……そういう事だったんだ」

リタ「何の話?」

ファバロ「まぁだ寝ぼけてんのか?」

カイザル「……しっかりと起きている」

カイザル「以前、陛下とやりあった時を思い出していた」

カイザル「理想の為、どの様な道を選ぶのか尋ねられた事があってな……」

カイザル「その時は上手く答えられなかった」

ニーナ「…………」


ファバロ「けっ……道とか理想とか」

ファバロ「相変わらず堅っ苦しいこと考えてやがんな」

バッカス「……で?」

バッカス「何かまとまったのか?」

カイザル「今……本当にたった今、気がついたんだ」

カイザル「俺の目指す道は……望む世界は」

カイザル「この光景だった事に」

     !?

アザゼル「……貴様」

アザゼル「こんな惨めな光景を望んでいると言うのか!?」

カイザル「すまないアザゼル。 言葉足らずだった」

カイザル「俺が言いたい事は、だな」


カイザル「神も」

バッカス「…………」

ハンサ「…………」

カイザル「天使も」

ムガロ「…………」

カイザル「悪魔も」

アザゼル「…………」

カイザル「魔物も、竜族も、人間も」

リタ「…………」

ニーナ「…………」

ファバロ「…………」


カイザル「どの種族も、どの立場も、上も下も無く」

カイザル「こうやって顔を突き合わせ、食事が出来る世界を」

カイザル「俺は望んでいる事に気がついたんだ」


一同「…………」


アザゼル「……話になr」

ニーナ「うんうん! いいね! それ!」

ニーナ「私もそんな世界がいい!」

ハンサ「ニーナお嬢さん。実現はクヮアなり むずクヮアしいと思われます」

リタ「ホント……お花畑な考えね」

カイザル「言われるまでも無く分かっている」

カイザル「くだらない理想だ、と言われるのも仕方ない」

カイザル「でも……俺が目指しているのは、そういう世界なんだ」


ファバロ「……いいんでねーの」

ファバロ「理想くらい高くてもよぉ」

ファバロ「割かし嫌いなもんでもねーしな」

カイザル「ファバロ……」

ファバロ「ま、今それは置いといて」

ファバロ「目の前の現実ってやつを何とかしねーと いけねーけどな」

カイザル「……そうだな」

アザゼル「言っておくが」

リタ「俺は群れる気は無い、でしょ?」

リタ「こっちはご飯分くらいの働きを期待してるわ」

アザゼル「……ふん」


ニーナ「でもでも!」

ニーナ「私は騎士様の世界、いいと思うから応援する!」

カイザル「ありがとう、ニーナ」

ファバロ「さ……気は済んだか?」

ファバロ「なら、さっさとメシ食って、明日の話をしようぜ」

カイザル「ああ」

カイザル(…………)

カイザル(……あの時)

カイザル(ねこやで見たあの光景)

カイザル(あのマスターの料理があれば、あるいは……)


カイザル(…………)

カイザル(……いや)

カイザル(たとえそれが無くても出来る様でなければ、な)

カイザル(…………)

カイザル(不可能などではないさ……)

カイザル(きっと……)




     おしまい

バハムートの続き、どうなるのか楽しみっす。
カイザルはこんな事を考えているのかなー?という妄想でした。
異世界食堂も面白いっす!

良かったらこちらもどうぞ。

ガッツ「セルピコ……お前って料理が上手いんだな」
ガッツ「セルピコ……お前って料理が上手いんだな」 - SSまとめ速報
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