慕「麻雀牌が無い!」古畑任三郎「ン~不思議ですね~」(79)

小学五年生 松江こども麻雀大会二日前

慕「ただいまー」

慕「…………」

慕「……今日も一人麻雀か……」

慕「…………」

ガサゴソ

慕「……あれ……?」

慕「えっ……? えっ……?」

ガサガサッ バサッ バタバタッ

慕「……無い! 麻雀牌が無いっ!!」

今泉「うぅ~トイレトイレ」

慕「!?」

今泉「なんか変なとこに迷い込んじゃったなあ……」ウロウロ

慕「?」

今泉「やだなぁ帰りたいなぁ……」ウロウロ

慕「あ、あの?」

今泉「うひょぃっ!?」

慕「??」

今泉「どっっどどどっどうしたんだい」

慕「あなたは……?」

今泉「ご、ごめんね! 怪しい者じゃないから!」

慕「?」

今泉「き、君こそ、悲しそうな顔をしてどうしたのかな?」

慕「……麻雀牌が……見つからないの……」

今泉「麻雀牌?」

慕「あの、私の麻雀牌……ここにあったと思うんですけど……」

今泉「麻雀牌? いや、ボクはただ通りがかっただけで……」

慕「……知りませんか?」グスン

今泉「うっ」

慕「?」

今泉「よ、よし! すぐ警察を呼ぶよ、安心して!」

慕「えっ」

今泉「大丈夫! ボクは警察の者です! ほら手帳!」サッ

慕「けいじさん……?」

ファンファンファンファン……

ワイワイ…… ザワザワ……

耕介「ただいまー、慕……って、なんじゃこりゃあ!!」

警官「ちょっと! 勝手に入らないで!」

耕介「いやいや、ここオレの家なんすけど!」

警官「ご家族の方……? ともかく、今は現場検証中ですので!」

耕介「慕は!? うちの慕になにかあったんですか!?」

警官「お嬢さんは無事です、ご心配なく」

…………

……

西園寺「報告します」

古畑「ん」

西園寺「被害を受けたのは、この家の住人である白築慕ちゃんの麻雀牌」

古畑「……麻雀牌?」

西園寺「空き巣・盗難の可能性が第一に考えられます」

古畑「…………んで?」

西園寺「以上です」

古畑「それだけ?」

西園寺「はい」

古畑「んっだよー、そんなんで呼びつけんじゃないよー」

西園寺「ごもっともです」

古畑「署員旅行中だったんだぜー? いくら近くにいたからってさ~」

西園寺「はい、私も同じです」

古畑「島根の事件にうちの署が関係ないだろうよ」

西園寺「……はい、そうなんですがひとつだけ」

古畑「何」

西園寺「今泉さんが第一発見者なんです」

古畑「んあ?」

西園寺「現場の第一発見者は今泉さんです」

古畑「何をやってんだろうねあのバカタレは……」

古畑「だから我々まで連絡が来たって?」

西園寺「はい、今泉さんから」

古畑「死刑だ死刑。あいつが犯人でいいよ」

西園寺「はい、私も同意ですが少し我慢していただいて」

今泉「あっ、古畑さん!」タッタッタッ

古畑「お、来た。じゃあ~こいつ犯人で、解散」

今泉「えぇーー!?」

西園寺「古畑さん、私もまったく同意見ですがひとつ堪えていただければと」

古畑「…………しょーがないねぇ~」

西園寺「では続いて、事件当時の様子ですが」

古畑「ん」

西園寺「慕ちゃんが帰宅するまで、家の中は無人の状態」

西園寺「玄関の鍵は慕ちゃんが開け、その他の扉や窓はすべて鍵がかかっていました」

今泉「うえぇ~、それって密室だよぉ~」

西園寺「そうですね」

古畑「…………続けて」

西園寺「帰宅した慕ちゃんが室内を調べたところ、麻雀牌が無くなっていたことに気がつき」

西園寺「その場に居合わせた今泉さんが警察へ通報しました」

西園寺「家の鍵を持っているのは二人だけ。被害者・白築慕ちゃんと、同居人で保護者である叔父・白築耕介さん」

古畑「……ふむ」

西園寺「窓が割られている等、外部から人が侵入した痕跡は今のところ見つかっていません」

今泉「それって本当に誰もいなかったってことじゃない~」

西園寺「……はい」

古畑「…………」

西園寺「……あ、あともう一人、現場に立ち入った人間がいます」

今泉「だ、誰?」

西園寺「今泉さん、あなたです」

古畑「…………ふ~ん」ジロッ

今泉「ななな、なんですか古畑さん! ボクじゃないですよ!!」

古畑「今泉くん~。短い付き合いだったね~」

今泉「いやいや待ってくださいよぉ!!」

古畑「面会来なくてもいいよな~?」

今泉「そんなぁ~!」

警部「……フン、とんだ部下を持ったものですな」

西園寺「あっ、お疲れ様です」

古畑「あなたは?」

警部「島根県警の警部だ。わざわざ来ていただき申し訳ないが、もう帰ってもらって結構です」

古畑「いやいや~、そうですか~?」

警部「こんなもん、もう解決ですから」

古畑「ンン~、ではあなたにはもう目星がお付きで~?」

警部「決まっとるでしょう! 第一発見者を装ってこの男が盗んだしかありえん」ビシッ

今泉「えええええーー!?」

古畑「ま、私もそう思いますけどね~」

今泉「ちょちょっと古畑さんまで!」

警部「では、もういいですな」

古畑「ンン~、しかし一応まだ証拠がないわけですから~」

警部「そんなもんは時間の問題だ」

古畑「私も即逮捕でいいとは思いますが~、もうちょっと調べてみても~?」

警部「…………フン、好きにしてください」

今泉「古畑さぁ~ん……」

ワイワイ ザワザワ

耕介(まいったな……。なんなんだよこれは……)

慕(あ、いっこ牌が落ちてた……)スッ

耕介(警察沙汰とか冗談じゃねえ、麻雀牌はオレが周藤に預けてきただけだっての……)

慕(……一索だ……。鳥さん……)ギュッ

耕介(……だがとても言い出せる空気じゃねえ……。早く終わらせて帰ってくれ……)

慕(……ひとつだけ……。鳥さんも私もひとりぼっちだ……)ショボン

耕介(にしても、慕のこの顔……。やはりちょっと可哀想だったか……)チラッ

慕(…………)グスン

耕介(…………いやダメだダメだ、ここは心を鬼にして……)

慕「…………」

耕介「…………なあ」

慕「……ん?」

耕介「なんか、大変なことになってるけど……」

慕「…………うん」

古畑「…………」チラッ

耕介「この際さ、忘れちまっていいんじゃないか?」

慕「…………えっ」

耕介「もう麻雀なんて、やめちまってさ」

慕「!」

古畑「…………」

耕介「姉貴のことと一緒にさ……。思い出してもつらいだろ」

慕「おじさん……」

耕介「……逆に考えたらさ、いいきっかけじゃないかな」

慕「……なんで……そんなこと言うの……」

古畑「…………ふむ」

古畑「西園寺くん、あの二人ってどういう関係なの?」

西園寺「保護者と扶養家族ですが?」

古畑「それはわかるよ。なんで叔父と姪で二人暮らしなの?」

西園寺「あ、はい。慕ちゃんのお母さん、耕介さんのお姉さんが失踪してしまったようですね」

古畑「失踪~?」

西園寺「はい、ちゃんと警察に捜索願も出てますよ」

古畑「ふ~ん、それで男手一人で……。大変だねぇ~」

今泉「さ、支えてくれるカレシとか必要ないかな!」

古畑「容疑者の立場で何言ってんの君」

今泉「違いますってぇ~」

古畑「ふぅ~む、ン~フ~フ~~……」

今泉「?」

古畑「…………ちょっと、興味がわいたね」

今泉「古畑さん~~」

古畑「君にじゃないよ。あの二人にだ」

今泉「?」

古畑「西園寺くん、ちょっと」

西園寺「なんでしょう、古畑さん?」

古畑「耕介さんのこと、詳しく調べられる?」

西園寺「耕介さんの……ですか?」

古畑「…………念のためだ」

西園寺「……かしこまりました」

耕介「……まあなんだ、こんなに騒がしくちゃどうしようもない」

慕「…………」

耕介「ひとまず落ち着いて、静かになったら考えようぜ」

慕「…………うん」

耕介「…………」

古畑「……どうもぉ~」

耕介「……はい?」

古畑「このたびは大変なことになりまして~。お察しいたします~」

耕介「…………あなたは」

古畑「はい~、私警部補の古畑と申します~」

耕介「……そうですか」

古畑「もう少し~時間がかかるようですから~。ご迷惑様ですが、どうぞごゆっくりお待ちいただいて~」

耕介「…………ええ」

慕「…………はい」

古畑「待ってる間、ちょっとお話いいですかお嬢ちゃん~?」

慕「……はい」

古畑「麻雀牌がなくなっちゃったんだね~」

慕「…………はい」

古畑「大事なものだったのかな~?」

慕「…………はい。おじさんとおかーさんと……たくさん打ったの……」

古畑「そう~。麻雀、大好きなんだね~」

慕「……はい」

古畑「叔父さんって、どんな人ですか~?」

慕「……やさしいひとです……」

古畑「ふむ~」

慕「でも……」

古畑「?」

慕「麻雀……もうやめなさいって言われた……」

古畑「ンン~」

慕「おじさんがあんなこと言うなんて……」グスン

古畑「ン~ン~、悲しかったね~」

チラッ

古畑「ん~? その手に持っているのは?」

慕「あ、ひとつだけ落ちてたんです……。私の麻雀牌……」

古畑「ン~、この絵は~……ブタさんかな?」

慕「……鳥さんです……」

古畑「そう、ブタさん」

慕「鳥さんです」

古畑「てことは~、なくなった方にはひとつ足りないのかな?」

慕「……はい、そうだと思います……」

古畑「ンンン~、そうなんだね~」

古畑「ところで~。それ、叔父さんにはもう見せたかな?」

慕「? いいえ……」

古畑「そう~。じゃあ、ひとつお願いしていいかな~」

慕「……はい」

古畑「そのブタさん。誰にも見せないでおいてね」

慕「?」

古畑「刑事さんとの約束だ」

慕「?? …………はい」

古畑「じゃあ、お母さんはどんな人~?」

慕「……優しくて……私といっぱい麻雀打ってくれて……」

古畑「ンン~」

慕「……お話を、いっぱい聞かせてくれたりしました」

古畑「そう~、例えばどんな~?」

慕「えっと……ある晴れた日の午後のことなんですけど……」

慕「おかーさんが道を歩いていたら……赤い点棒箱を頭に乗せた人が歩いてきたんです」

古畑「ほう」

慕「箱の中には溢れるくらい点棒が入ってたんですけど、その人は点棒を一本もこぼさないようにゆっくりゆっくり歩いてきて」

慕「変だなって思ったおかーさんが、勇気をふるって聞いてみたんです」

慕「『すみません、あなたはどうして赤い点棒箱を頭に乗せて歩いているんですか?』って。そしたら……」

西園寺「古畑さん!」

古畑「んだよー今いいとこだろー」

西園寺「すみません。耕介さんについてなんですが、家の中は一通り探し終わりましたので」

古畑「ふむ」

西園寺「こちらに引っ越してきたばかりのようで、さほど多くはありませんが。ひとまずご報告を」

古畑「ゴメンね~話の途中で~」

慕「あ、いえ……」

古畑「じゃあ、また後で~」

慕「はい……」

西園寺「……そして、このアルバムですが。耕介さんの昔の写真だと思われます」

パラパラッ

古畑「ラオウの配下だったの、彼?」

西園寺「いえ、アマチュアバンドのようですね。一緒に写っているのはご友人でしょうか」

古畑「…………ふむ」

今泉「あっ、この人……」

西園寺「はい?」

古畑「どうしたの、今泉くん」

今泉「いや、その人……今日会ってたんですけど……」

西園寺「えっ?」

古畑「何、共犯者?」

今泉「い、いえいえ! むしろアリバイがある人ですよ!」

古畑「ほう」

今泉「ボクがここに来る前に……、お店で会ってたんです」

古畑「お店?」

今泉「あ、はい……。この近くの質屋さんなんです」

古畑「……質屋?」

古畑「そんなとこで何してたの君」

今泉「あ~、なんというかその……。カレシを見つけにっていうか……」

古畑「あ?」

今泉「ボクの友達がこっちに住んでて……、いい人捜しに行こうっていうから……」

古畑「署員旅行から抜け出して、そんなことやってたの?」

今泉「せ、せっかくの旅先ですし……」

古畑「んで? なんでこの人?」

今泉「その友達が……。ここの質屋さんは有望だって」

古畑「有望~?」

今泉「お料理とかすごく上手で、家庭的ないい人だって紹介されて……」

古畑「なに言ってんだこいつ」

今泉「で、でも挨拶だけですよ! 今日は何も持ち合わせがなかったから……」

古畑「持ち合わせ~? 金欠なのによくやるね」

今泉「あ、いえ、そういうんじゃなくて……。プレゼントする物が無かったんです」

古畑「プレゼント?」

今泉「気になる人にはまずプレゼントをあげて、受け取ってもらえたらOKっていうのがボクらの決まりで」

古畑「興味ないよ」

今泉「だから、本当に顔合わせだけです。もしよければ今度そういうの持って来るからね、……って」

西園寺「要するにナンパですね」

古畑「な~にやってんだぃ……」

今泉「うう……」

今泉「そこから帰ろうと思ったら……。友達とはぐれちゃったんです」

今泉「それであちこち探していたら、このお家に迷い込んじゃって……」

古畑「それで白築さんの家に?」

今泉「はい……」

古畑「で、ちょうど現場に遭遇したって?」

今泉「……はい……」

古畑「バカだね~」

今泉「はうぅ……」

今泉「……あ、そう言えば……」

古畑「ん?」

今泉「ボクたちの帰り際に、入れ違いでお店に入っていった人……。耕介さんっぽかったなあ……」

古畑「!」

古畑「今泉くん……。それ確か?」

今泉「え、あ~、なんとなくそんな気がするだけで~」

古畑「……頼りないね」

今泉「えぅ~……」

古畑「ま、いいや。西園寺くん今の話の裏取ってくれる。あと……」

西園寺「……かしこまりました」

ワイワイ ザワザワ

耕介(やれやれ……。早く終わってくれ)

古畑「どぉもぉ~、少しよろしいですか~?」

耕介「あ、はい」

古畑「ちょっとお話、聞かせてもらっても~?」

耕介「…………ええ」

古畑「このたびは大変なことになってしまいまして~」

耕介「…………はい」

古畑「なくなったもの、姪御さんの大事な宝物だとお聞きしました……。さぞかし心配なことでしょう~……」

耕介「…………」

古畑「大好きな麻雀ができなくなってしまった心中……お察しいたします~」

耕介「…………」

古畑「なんとか取り返してあげたいですよねえ~」

耕介「…………ええ」

古畑「ン~フ~フ~」

耕介(…………くそっ、なんなんだこの人……。絡んでくるなよ……)

古畑「しかし犯人も~、麻雀牌など盗んでどうしようというんでしょうね~」

耕介「…………さあ」

古畑「私、細かいところが気になるものでして~。色々想像してしまうんです~」

耕介「…………」

古畑「……持ち帰って、自分で遊ぶため~?」

耕介「…………どうでしょう」

古畑「それとも、実はものすごく貴重なものですとか~?」

耕介「……普通の麻雀牌ですよ」

古畑「あるいはぁ~…………、質に入れるとか」

耕介「!」

耕介(まさかこの人……オレが牌を持ち出したことに気付いてる……?)

古畑「ンッフッフ~~」

耕介(……冗談じゃねえ、今麻雀牌が見つかったらさっきの説得が台無しだ)

耕介(せっかく、慕と麻雀を離せる機会だってのに……。この流れでオレのせいだとバレたら逆効果もいいとこ)

耕介(最悪、慕は麻雀を続けてオレへの感情が険悪になるだけという結果に……。それだけはマズイ)

耕介(ここはシラを切り通して……。警察には後で「やっぱり見つかりました」って言っとけばいい。それで終わらそう)

古畑「……どう思われますか~?」

耕介「…………」

古畑「…………」ジーッ

耕介「……わからないっスね。質屋とかよく知らないんで」

古畑「ンンン~そうですか~。質屋さんはご存じない~」

耕介「…………」

古畑「ン~フ~フフ~……」

耕介「…………」

古畑「……あ、そうそう~。ちなみにですが~」

耕介「?」

古畑「質屋さんというのは、牌が全部揃ってなくても引き取ってくれるものなんですかね~?」

耕介「!」

古畑「ン~フフ~……」

耕介「…………いや、だから知らないんで」

古畑「ひとつ、捜査でわかったことなんですが~」

耕介「…………」

古畑「なくなった方の麻雀牌……、どうやら数が足りないらしいんです~」

耕介(…………それは知ってるよ。オレが自分で箱に詰めたんだし、周藤にも言われた)

古畑「ひとつだけ、この部屋に落ちていたんです~。慕ちゃんが拾ってくれてました~~」

耕介「…………そうですか」

古畑「しかしwww随分マヌケな犯人だwww」プフフッ

耕介「…………」イラッ

古畑「常識的に考えてっ……ウププッ……全部なくちゃ売り物にならないwww」プクスッ

耕介「…………」イライラ

古畑「ちゃんとwww確認しないとwww大事なことなのにwww」ンフフフッ

耕介(…………うぜえ)イライラ

古畑「……では、最後にひとつ~」

耕介「……はい」

古畑「あなたは今日、今までどちらに?」

耕介「!」ドキッ

古畑「…………」

耕介「…………容疑者に聞く話じゃないすか、それ」

古畑「ン~フフ~。念のため全員に伺ってますので~」

耕介「…………」

耕介「……友人と会っていました」

古畑「ほう~。どちら様です~?」

耕介「…………」

古畑「…………」

耕介(…………くそっ、質屋だとは言いたくねえ……。今それはあからさまに怪しい)

古畑「…………」

耕介「…………昔の仲間ですよ。若気の至りでバンドとかやってた程度の」

古畑「バンドを! ンン~そうですか~」

古畑「そちらには、どういったご用事で~?」

耕介「……別に。いつもの世間話です」

古畑「世間話! なぁるっほっど~~」

耕介(……くっ……なんだよ……)

古畑「ン~フ~フ~、どうもありがとうございます~」

耕介「…………」

警官「ひとまず、現場の作業は終了しました。あとは鑑識の報告待ちです」

警部「うむ」

耕介「…………やっとか」

慕「……それじゃ、ごはんの用意するね!」

耕介「……ああ」

古畑「おや、お嬢ちゃんがご飯の用意してるんですか? えらいねェ~」

慕「あ……はい……」

慕「あの……刑事さんたちも食べますか?」

今泉「い、いいの?」

古畑「何を作るんですか~?」

慕「じゃあ、簡単にできるもので……。サンドイッチにします」

今泉「わぁ~ありがとう~」

古畑「私もひとつ、いただいちゃっていいですかね~。具は何ですか~?」

慕「んーと、ベーコンと、レタスと……」

古畑「BLTサンドですかぁ~、大好きですよぉ~」

慕「あ、えっと……。トマトは入ってないんです」

古畑「?」

慕「おじさんがトマトは苦手なので……。ごめんなさい」

古畑「ンン~、かまいませんよ~」

今泉「叔父さん思いのいい子ですね、古畑さん!」

古畑「なるほどぉ~。BLTのTがないんだね~」チラッ

耕介「?」

古畑「……ンッフッフ~、なるほどなるほど~……」

西園寺「古畑さん、先ほど言われたもの確認できました」

古畑「ご苦労様。君は本当に仕事が早い」

西園寺「恐縮です」

パラパラッ

古畑「……ふーん、やっぱり……」

西園寺「?」

古畑「大体筋書きが見えてきたね……。犯人は、彼だ」チラッ

古畑「……え~、さて……」

古畑「食事しながらで失礼します~……」モグモグ

古畑「麻雀を愛する薄幸の少女を襲った悲劇……」

古畑「大切な母親の思い出と友達を奪った犯人が、大好きな実の叔父であったという不幸……」

古畑「姪の幸せを思っての行動がぁ……逆に彼女を傷つける結果になってしまいました……」

古畑「なぜこうなってしまったのか? それは悲しい愛の真実……」

古畑「実の姉からあずかった大事な姪っ子と謳いながらも……」

古畑「彼の目に映っていたのは……違う笑顔であったんですね~」

古畑「…………」モグモグ

古畑「答えのカギはそう、今食べているこのサンドイッチ……」

古畑「ンッンッン~、そうです~。ベーコンレタスです~」

古畑「では後ほど。古畑任三郎でしたっ。」

警官「報告します。やはり他の人間が侵入した形跡は一切見つかりませんでした」

警部「ふむ。ではもう決定でしょうな」

今泉「えっ」

警部「さあ、もう署に来てもらいましょうか!」グイッ

今泉「ま、待ってください! ボクじゃないですよぉ!」

警部「言い訳は署でしたまえ。腐っても同業者が見苦しい」

古畑「はい~。警部さん、すみませんがちょっとだけ待っていただけますか~?」

警部「……何ですかね、古畑さん」

古畑「お話ししたいことがあります~。少しお時間をもらえますか」

西園寺「全員集合しました」

古畑「ん」

警部「……簡潔にお願いしますよ」

古畑「はい~。今回の件、あらためて皆さんの前で整理したいと思いまして~」

警部「…………」

慕「?」

耕介「…………」

古畑「今回の事件~。ただの空き巣泥棒にしては、不可解な点がたくさんあるんですぅ……」

警部「…………」

古畑「まずそもそも……、なぜ犯人は麻雀牌などを狙ったのか……?」

慕「…………」

古畑「一般的に考えればぁ……。金銭目当ての犯行……それが一番ありえそうですよねぇ~」

耕介「…………」

古畑「結論を言えば、はい。もう牌は売られてしまったと思うんです私」

耕介「!?」

古畑「ということで~、私の優秀な小男の部下に調べさせたんですがぁ……」

耕介「…………」

古畑「この近所でそうした古物取引を扱う店は、一件しかありませんでした」

耕介「…………」ピクッ

古畑「はい~。周藤質店というお店です~」

耕介「!」ドキッ

古畑「まずは皆でそこへ行き、話を聞いてみたいと思うんですが~」

耕介(…………マズイ)

耕介(ヤバイ、どうする……)

耕介(いきなり何言い出してんだよこの人……。だがどうあれ、今質屋に行かれるのはマズイ)

耕介(質入れしたんじゃねえ、個人的に預けただけだ。まさか陳列棚に並んでるなんてことはないだろうが……)

耕介(それもついさっきの話……。まだ目のつくところに置いたままかもしれん)

耕介(……なにより、あの事情を知らんアホが軽く口を滑らすなんてこと……。大いにありうる)

耕介(なんとか、質屋に行くのだけは阻止しないと……)


耕介「ちょ、ちょっと待ってください」

古畑「…………はい?」

耕介「さっきと言っていることが違うじゃないですか、古畑さん」

警部「?」

古畑「どういうことですか~?」

耕介「さっきオレには、あの牌は売れるわけないって」

古畑「言いましたっけ~?」

耕介「言いましたよ!」

耕介「売れないなら、質屋なんて行っても時間の無駄じゃないですか?」

今泉「売れるわけないって……」

警部「どういうことですか、白築さん?」

耕介「……ふ、古畑さんから聞いたんです、さっき」

古畑「ン~、私、なんて言いました~?」

耕介「とぼけないでくださいよ。盗まれた牌は一つ足りないから、売り物にならないって」

警部「足りない?」

今泉「初めて聞いた……」

古畑「おや~、どうしてそんなことわかったんです~?」

耕介「……一索がひとつ、ここに落ちてたんでしょう? 慕が拾ったって、それもあなたが言ったじゃないすか」

慕「!」

古畑「…………」ニヤッ

ざわ…

古畑「…………」

慕「…………」

耕介(…………えっ)

古畑「…………」

慕「…………」

耕介「…………」

ざわ… ざわ…ざわ…

耕介(なんだこの空気……?)

慕「……おじさん……」

耕介「?」

慕「どうして……足りない牌が一索だって知ってるの……」

耕介「!」

耕介「い、いやそれは……古畑さんが……」

古畑「はい~。私先ほど確かに言いました……慕ちゃんが牌を拾ったと……」

耕介「…………」

古畑「しかし、ブタさんの牌だとは一言も言ってなかったんですが~」

慕「鳥さんだよ」

耕介「…………」

古畑「しかし、どうしてそれがその……あァ……イーソーですかぁ? その牌だとわかったんです~?」

耕介「……ち、ちらっと目に入ったんですよ。慕が持ってたのが」

慕「……私、誰にも鳥さん見せてない……」

耕介「!!」

古畑「そうです~。私が慕ちゃんに、ブタさんは誰にも見せないでとお願いしました~」

慕「…………」コクッ

古畑「それなのに、あなたはその牌を知っている……。ンン~不思議ですね~」

耕介「…………」

古畑「つまりあなたはぁ……無くなった牌の様子を知っていた……。どの牌が足りないかよく覚えているほどに……」

耕介「う……」

古畑「ン~フ~フ~」

耕介(まさか……。カマをかけられたのか……?)

耕介「……だからって、なんなんですか」

古畑「ン~?」

耕介「……仮にそうだったとして。別に牌がなくなったことと関係ないじゃないですか」

古畑「いえ~。単に、不思議だなァと思っただけですが~~」

耕介「…………」

古畑「しかしぃ~、あなたは他にも! 随分と不思議なことをしておられます~」

耕介「…………他にも?」

古畑「そう~……この事件の中で最も不可解な点~。それはぁ~」

耕介「…………」

古畑「耕介さん、あなたの態度です~」

耕介「!」

耕介「……どういう……ことですか……」

古畑「私、最初からどうしても気になっていたんです~」

耕介「…………」

古畑「ン~ン~ン~、盗み聞きの趣味はありませんのでご勘弁いただきたいのですが~」

耕介「?」

古畑「あなたが先ほど、姪御さんにかけていた言葉……。偶然聞こえてしまいまして~」

慕「!」

古畑「慕ちゃん」

慕「……はい?」

古畑「さっき叔父さんには、なんて言われたんだっけ?」

耕介「!」

慕「……えっと……その……」

耕介「ちょっと、何の関係が」

慕「麻雀……もうやめなさいって……」

古畑「ふむ~~」

耕介「それは、その、」

古畑「ンッフッフ~、不思議ですね~」

耕介「いや、だから、」

古畑「大事な姪御さんの宝物です~。普通そんなものがなくなったとなれば、まず姪御さんを気遣って~」

慕「…………」

古畑「慰めたり励ましてあげたり~。あるいは、犯人に憤ったりするのが先ではないでしょうか~?」

耕介「……それは……」

古畑「しかし、あなたから出た言葉は……。もう麻雀やめなさい、この際忘れてしまえ……」

耕介「…………」

古畑「……全然違いますよねぇ~……。まるで、なくなったのがこれ幸いとばかりに……」

耕介「…………」

古畑「……そこで私、ふと思ったんです~~」

耕介「…………」

古畑「もしかして耕介さん……。麻雀牌がなくなっても、別によかったんじゃないですか? って……」

耕介「!」

慕「…………」

古畑「………それともむしろ、なくなった方が?」

耕介(ぐぐ……)

耕介「…………言葉のアヤです」

古畑「ンンン~、そうですか~?」

耕介「……オレも焦って、ちょっと慕にかける言葉を間違えたのかもしれませんけど。別にいいなんて思ってないですよ」

古畑「ンン~なるほど~、そうとも言えるのかもしれませんが~」

耕介「…………」

古畑「ではもうひとつ……、こちらはどう思われますぅ~?」

耕介「……?……」

古畑「西園寺くん、あの写真を」

西園寺「はい、古畑さん」パサッ

耕介「げっ、黒歴史」

慕「これは……」

今泉「あのバンドの写真……」

古畑「ンフフ~、失礼ですが調べさせてもらいましたぁ~」

古畑「白築耕介さん……、いえ、バンドネーム・リチャードソン……」

古畑「あなた、質屋さんとは古くからのお知り合いでいらっしゃる……。こんな写真を撮るほどの……」

耕介「…………」

古畑「そして先ほど。あなたは今日お友達に会っていたとおっしゃったぁ~。昔のバンド仲間とぉ……」

耕介「…………」

古畑「そのお友達がこの質屋さんであることはぁ……。とある目撃者がおり確認ができています」

今泉「古畑さん……」

古畑「あなたは確かに今日、旧知の質屋さんを訪ねている! にもかかわらず!」

古畑「私からの質問には、質屋なんてご存じないとおっしゃった! これはどう考えても辻褄が合わないんです!」

耕介「…………」

古畑「つまりぃ……あなたは知られたくなかったんです……。自分が質屋に行っていたことを隠しておきたかった……」

耕介「…………」

古畑「……ン~フ~フ~……」

耕介(うう……)

古畑「……なぜなんですかねぇ~~~???」

耕介(……くっ……)

古畑「ブタさんを知っていた件……、慕ちゃんへの言葉……、質屋に行ったことの嘘……。細かく言えば他にもぉ……」

耕介「…………」

古畑「どれもこれも、随分と不思議な話ですね~~参っちゃいますよね~~」ウプププッ

耕介「…………」

古畑「…………しかし」

耕介「?」

古畑「実は、ある一つの前提に立てば! ここまでの話は、すべて一本につながるんです~」

耕介「!」

慕「!」

警部「何ですって?」

古畑「……そうですよね、耕介さん~~」

耕介「…………何の……話ですか……」

古畑「間違いなくそれこそが、今回の真実です……。麻雀牌を持ち出した犯人とぉ、理由の真相……」

耕介「…………」

古畑「もうお気付きの方もいらっしゃるかと思います~。そろそろ、話していただけないでしょうか~~?」

耕介「…………」

西園寺「……それって……」

警部「……まさか……」

古畑「ン~フ~フ~~、そうです~~~」

耕介「…………」

慕(……まさかおじさんが……最初から私に麻雀やめさせる気で……?)

今泉(……そうか、耕介さんが質屋さんに牌を持っていったのなら、それは……)

古畑「白築ぃ……耕介さぁん……」

慕「…………」ドキドキ

今泉「…………」

西園寺「…………」

耕介「…………はい」


古畑「ホモなんだろ?」


耕介「!」

慕「!?」

今泉(お誘いの……プレゼントだ……!)

古畑「…………」

耕介「…………」

慕「……おじ……さん……?」

耕介「…………」

古畑「…………」

慕「…………」

耕介「…………すまん、慕」

慕「!」

耕介「……古畑さんの……おっしゃる通りです……」

慕「!!」

西園寺「23時04分、被疑者確保!」

西園寺「本人の自白を確認! 被疑事由、ホモです!」

耕介「いやおいおい!! 牌を持ち出したって話だって!! ホモじゃねえから!!!」

今泉「問答無用だッ! この薔薇族め!」スリスリ

西園寺「今泉さん! どさくさにまぎれて被疑者に触らないでください!!」

耕介「おかしいだろおい色々と! 今の話ももう推理じゃねえだろ!!」

警官「おとなしくしなさい!」

西園寺「話は署で伺います!」

今泉「あ、取調べならボクがやりますよ!」

ワーッショイ ワーッショイ ワーッショイ

耕介「慕! しのーー!!」

本拠地、島根の自宅で迎えた突然の悲劇

幼き少女の目の前で、叔父の手首に冷たく固い輪が掛けられた

室内に響く古畑のため息、どこからか聞こえる「よ~し今夜は頑張るゾ」の声

無言で帰り始める警察官達の中、白築慕は独り立ち尽くして泣いていた

こども麻雀大会で手にしたかった栄冠、喜び、感動、そして何より大好きだったおじさんとおかーさん・・・

それを今の状況で得ることは殆ど不可能と言ってよかった

「どうすればいいの・・・」慕は悔し涙を流し続けた

どれくらい経ったろうか、慕ははっと目覚めた

どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たい雀卓の感覚が現実に引き戻した

「やれやれ、今日から本当にひとりぼっちか」慕は苦笑しながら呟いた

そうだ、レズビだ、レズビに出よう

おかーさんがビデオ屋で見つけてくれるような、立派なレズビ女優になろう

おじさんがホモなら、レズビデオに出ればいいじゃない

立ち上がって伸びをした時、慕はふと気付いた

「あれ・・・?お客さんがいる・・・?」

家から飛び出した慕が目にしたのは、外野席まで埋めつくさんばかりのレズビ撮影の観客だった

千切れそうなほどに旗が振られ、地鳴りのように時にはHAYARIに流されてが響いていた

どういうことか分からずに呆然とする慕の背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた

兒生「白築、リハーサルだ、早く行くぞ」声の方に振り返った慕は目を疑った

「す・・・鈴木さん?」 閑無「なんだ慕、居眠りでもしてたのか?」

「い・・・石飛さん?今日初めて会った・・・」 杏果「なんだ慕、かってに初対面の頃になりやがって」

「一緒にいたおだんごの子・・・」 慕は半分パニックになりながら「慕と絡む順番待ち」と書かれたボードを見上げた

1番:閑無 2番:はやり 3番:鈴木 4番:悠彗 5番:玲奈 6番:晴絵 7番:咏 8番:心 9番:ニワチョコ

暫時、唖然としていた慕だったが、全てを理解した時、もはや彼女の心には雲ひとつ無かった

「(レズビに)出られる・・・出られるんだ!」

杏果からローションを受け取り、カメラの前へ全力疾走する慕、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・


翌日、ニーマンの腕の中で冷たくなっている白築ナナが発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った

…………

悠彗「ていう同人誌作りたいんで出演許可もらえますか」

耕介「却下」


カン

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom