男「狂気と凶器は紙一重」 (5)

放課後・教室にて

女「そうだ、狂気の話をしよう」

男「そうだ京都に行こう、みたいなノリで誘ってくるな。大体、キョウキだけじゃあ字面が思い浮かばないだろうが」

女「そんなの決まってるよ。狂気だよ、狂気。狂人の狂に、気違いの気で狂気だよ。あっ、そういえば気狂いでも気違いと読み一緒だ。こうやってみると、昔の人ってホント文字選択のセンスがぱないね」

男「昔の人の文字選択のセンスになんて興味ねえよ。つうか、年頃の娘が楽しそうに気違いだの気狂いだの連呼するな」

女「どうして?」

男「そりゃ、品がないって思われるからだろ」

女「品がないのはダメなことなの?あたしが品なし女になるのは、男にとって残念なことなの?」

男「そ、それは……別に興味ねえよ」

女「あっ、顔赤くなった」


男「っ──!?」


女「はい、ウソー!いえーい、騙されてやんの!バーカバーカ!」

男「クソっ、付き合ってられるか……僕は帰るぞ」

女「えっー、もう帰るの!これからが良いとこなのに」

男「お前はのんびりだべっていても平気かもしれないけれど、こっちはそうもいかないんだ。勉強しないと、置いてけぼりになる……ただでさえ期末試験の成績が悪かったのに、これ以上点数を落としたらたまったもんじゃない」


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女「留年するのは、やっぱり嫌?」

男「当然だろ。できることなら、明日にでも卒業したいくらいだ」

女「学校に行くの、そんなに嫌いなんだ」


男「ああ、少なくとも過ごしやすいと思ったことは、一度だって──ない」


女「じゃあさ、あたしが一緒に留年してあげるっていったら、どう?」


男「どうもしない。まずお前が留年するなんて事態に陥ったら、担任が責任の重さに心をやられて投身自殺しかねないからな。まかり間違っても、そんな事態は起こり得ない。仮に起こるとしたら、そのときはこの学校が廃校になるときだろうさ」

女「そんな褒めたってなにも出ないよ。ほら、今日はビスコ持ってないし」

男「ビスコ欲しさで語ってたわけじゃねえよ!どんだけ卑しい人間なんだ、僕は!」

女「えっ、違うの!?」

男「信じられない、みたいな顔をするな。駄菓子欲しさで人を過剰に褒め称えたりなんて真似、恥ずかしくってできるか」

女「男って超イケメンだよね。性格はアレだけど……あの、ほら、最近流行の厨……えーっとなんだったっけ。ああそうそう、厨二病っぽいけど、イケメンだから良いよね。なにが良いってイケメンなのがもうほんっと最高。むしろそれ以外良いとこないし」

男「雑に褒めるのはやめろォ!菓子が欲しいなら直接言ってくれ!」

女「おう、ならそこのコンビニまで行ってビスコ買ってこいよ。ジャンプも一緒な」

男「そこまでストレートな物言い求めてねえよ!ていうか、そろそろビスコから離れろ!」

女「だってお腹空いてきたんだもん」

男「昼食にカツカレー大盛とラーメンセット食べたやつの発言とは思えないが……しょうがない、ほらこれやるから元気出せ」

女「飴玉ぁ?なんかジジババくさい」

男「飴ちゃんをバカにするな!僕のことはどれだけバカにしてもいいが、飴ちゃんのことをバカにするな!喉にも良いし、ビタミンCたっぷりなんだぞ!」

女「もう、しょうがないなあ……今はこれで勘弁してあげるとしますか」

男「……何故上から目線なんだ」

女「暇を持て余している純情な青少年に潤いを与えてあげている、可憐で瀟洒な美少女に奉仕するのは当然のことじゃん」

男「誰が可憐で瀟洒だ。リアルで自分のことをそんなふうに言うやつ初めて見たぞ」

女「つまりあたしは男にとって初めての女……まあ、いやらしい」

男「うわぁ、めんどくせえ……これ以上関わり合いになってたら時間食うだけだし、そろそろ帰るか」

女「なーんーでーよー!まだ話は軌道に乗ったばかりでしょ。これから狂気に凶器とかけて、ミステリアスでサイコな青春ジュブナイルな物語が始まるんでしょ。こんなとこで帰ったら一生後悔するぞぉ」

男「始まらねえし、始まらせるかよ、そんな物語。とっととその手を離せ、重いだろうが」

女「レディに対して重いとは何事か!お世辞でも『お前、見た目より結構軽いんだな』とか言うとこでしょ、そこは!」

男「そんなキザな台詞を素面で言うやつは大抵碌な男ではない、とだけ言っておく」

女「嘘だ、そんなことぉ!きみかぜの瀬戸くんはそんな男じゃないもん!」

男「きみかぜは少女漫画だろうが!そもそも、瀬戸くんも二股三股当たり前のクソ野郎だから同情の余地なんてあるか!」

女「瀬戸くんをバカにするな!あたしのことはバカにしてもいいけど、瀬戸くんのことはバカにするな!イケメンだし、女の子にはメチャクチャ優しいんだぞ!」


男「益々最低じゃねえか、そいつ。お前はイケメンだったら全てを許せるのか……」


女「全てではないけど、ほとんど許せる!」


男「女……可哀想な娘。はあ……いいか女、そんなのは全部作り物でしかないんだよ。僕らの日常にあるのは、テストの裏に夢を書いたはいいものの、紙ヒコーキにしてみても意外と飛ばないという悲しい現実だけだ」

女「古っ!しかも暗っ!どんだけネガティブなの!?19の歌詞をそんな湾曲して例えに使ったの、多分男が初めてだよ!」

男「つまり19にとって僕は初めての男……なってみたら意外と、何の感慨も湧かないな。モテる男の感傷って、こういうものなのかな」

女「触れちゃいけない部分に触れちゃったみたいね……よし。19の話はやめよう」

男「いやいや、彼らについてもうちょっと語らせてくれよ。あれは僕が十ニ歳の頃の話なんだけれど──」

女「シャラップ!会話の手動権はあたしにあることをお忘れなく。オッケー?」

男「お、おっけー」

女「わかっているならよろしい。さて、では気を取り直して狂気の話を────」



担任「なんだ、お前らまだいたのか」



男・女「先生っ!?」

担任「外は大騒ぎだというのに、呑気なものだな。まあ、それもいつものことだが」

男「あの、僕らが知らない内に……なにかあったんでしょうか」

担任「…………まあいい。いずれ知ることになるなら、今知ろうが後で知ろうかは問題ではなかろうて」

女「それで、一体なにが?」

担任「それがな、非常に言いにくいことではあるんだが……お前らもよく知っている三組の友がいるだろう。やつがな、その────」









担任「死体で発見されたそうだ」





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