牙狼 女神ノ調 (38)

ラブライブと牙狼のクロス
短い、ご都合主義、設定簡略化。
思いつきなので書き溜めありません。
牙狼側の登場人物は禄に出てきません。
たったら書きます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1501920894

Where there is light, shadows lurk and fear reigns
光あるところに、漆黒の闇あり。古の時代より、人類は闇を恐れた

But by the blade of Knights,mankind was given hope
しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ

ザルバ「これは、新たな魔界騎士の伝説のほんの一章。歴史に埋もれることになる、歴代最弱の……黄金騎士の物語」

白いコートをなびかせながら、赤い鞘の剣を持った青年が闇の中を駆けていた。

?「ザルバ、奴の気配、まだ追えるか……?」

ザルバ「いや……消えやがった。恐らく、もう飛ばれたのだろう……」

青年は立ち止まり、懐から札を取り出した。

?「本当に使うことになるとはな……」

ザルバ「仕方がない。まさかザジが出てくるとは思わなかったからな。アイツは先代や先々代も苦戦したホラーだ」

?「そうなの? なら、少し自信になったかな?」

ザルバ「しかし、お前もついてないな。鎧を受け継いで早々にホラー大量発生。それによって蘇ったザジとの対決。そしてこれから時越えか」

?「そう聞くと、確かにひどいね。けど、師匠も言ってたじゃないか。それが俺たちの仕事であり、使命だ」

ザルバ「まだ雷牙から鎧を受け継いで数か月のくせに生意気言うようになったじゃないか」

?「この辺りは師匠の教えかな? ほら、無駄口叩いてないで、そろそろ行くよ。奴の邪気が強いうちに使わないと、向こうに着けなくなる」

札を投げると、それに邪気が集まり、その邪気はやがて門となった。

「じゃあ行こうか、過去ってやつに」

青年はそれに飛び込むのだった。

東京、秋葉原

穂乃果「いやー、今日は楽しかったー! 久々にμ'sで集まれたし、カラオケでたくさん歌えたし、もう満足!」

絵里「そうね、大学生の私はともかく、現役アイドルのにこや就職しちゃった希にはなかなか会えないものね、久しぶりに皆で会えてよかったわ」

にこ「希、あんたいい加減に吐きなさい。日本中に飛ばされるなんて、どんな会社に勤めてるのよ?」

希「それは内緒。ウチのことなんてええやん。今日はにこっちのファーストシングルの発売と、穂乃果ちゃんたちのラブライブ二連覇のお祝いなんやから」

海未「今回は雪穂や亜里沙たちバーーーローー年生を上手くまとめてくれた凜や花陽の力が大きかったですね。私たちは生徒会で練習に参加できないこともありましたが、彼女たちがしっかりと練習してくれていたおかげですんなりと合わせることができました」

ことり「ことりも衣装に、真姫ちゃんも楽曲に集中できたしね。本当に二人とも凄いよ! ね、真姫ちゃん!」

真姫「ヴェ? え、ええ、そうね。私も助かったわ」カミノケクルクル

凛「えへへ。皆に褒められると、本当にうれしいにゃー」

花陽「えへへ。それに、バーーーローー年生の皆がやる気があって、いい子たちなだけだよー」

>>4訂正
海未「今回は雪穂や亜里沙たち新1年生を上手くまとめてくれた凜や花陽の力が大きかったですね。私たちは生徒会で練習に参加できないこともありましたが、彼女たちがしっかりと練習してくれていたおかげですんなりと合わせることができました」

ことり「ことりも衣装に、真姫ちゃんも楽曲に集中できたしね。本当に二人とも凄いよ! ね、真姫ちゃん!」

真姫「ヴェ? え、ええ、そうね。私も助かったわ」カミノケクルクル

凛「えへへ。皆に褒められると、本当にうれしいにゃー」

花陽「えへへ。それに、新1年生の皆がやる気があって、いい子たちなだけだよー」




海未「そうですね、皆やる気に満ち溢れています。ありがたいことです」

にこ「どうせなら、その新1年生皆呼んであげればよかったじゃない。宇宙№1アイドルのこの私が、直々にアイドルとは何かを教えてあげようじゃないの」

凛「にこちゃんもシングル出したばかりの、まだ駆け出しのぺーぺーさんだけどにゃー」

にこ「なんですってー!」

凛「にゃー! 本当のことにゃー」

凜がにこに追いかけまわされ、皆が微笑みながらその光景を見守る。半年前まで当たり前だったその光景を、希はすごく懐かしいものに感じていた。

絵里「たった半年前なのに懐かしいわね。こうして皆で集まると、あの頃に戻ったみたい」

希「せやね。だからこそ、この当たり前をウチは守りたいんよ」

絵里「え?」

希「ごめん、何でもないんよ。……ほら、そろそろふざけるのはおしまい。もう遅い時間だし、そろそろ解散にしようか」

穂乃果「えー、もっと皆でいようよー!」

海未「穂乃果、我儘を言ってはいけません。それに、最近この辺りは危ないので遅くなるなと言われているではありませんか」

そうなの。と穂乃果と凜が首を傾げ、海未は呆れたようにため息を一つついた。

ことり「連続通り魔事件だよね? この近所らしいよ。お母さんも、その関係の対応とかしてるみたい」

凛「なるほどー。だから夏休みなのに全然人がいないんだね! ね、かよちん」

花陽「凜ちゃん、いないって言うより……気配すらしないんだけど……」

花陽の言葉に、全員そろって辺りを見渡すが、いつの間にかに、まるでその空間だけが切り取られたように、その9人以外の人間が居なくなっていた。

絵里「嘘……秋葉原の駅までで、まだ9時よ?」

穂乃果「き、きっと深夜アニメ見るために、皆早めに帰ったんだよ」

真姫「それでもこんなのおかしいでしょ、この辺り飲み屋さんだってあるんだから。……ホント何なのよこれ……」

ことり「すみませーん、誰かいませんかー!」

花陽「ダレカタスケテー」

凛「ちょっと待ってー! ……凜の声しか聞こえないにゃ!」

希「……皆、ウチの後ろに集まって……」

絵里「希?」

希「いいから、早く!」

言われるがままに希の後ろに集まる8人。希は鞄から大きな筆と札を取り出し、札をばらまき、空中に印を書くと、八人を囲むように、結界が現れた。

希「皆、すぐに済むから大人しく待ってるんよ?」

希はどこから取り出したのか、蛇の目傘を手に持っていた。

希「まさか、こんなに早く出てくるとはね……」

μ'sの前に現れたのは3体の怪物だった。

花陽「ヒッ」

花陽が小さく悲鳴を上げ、凜と真姫に抱き着く。

絵里「何、これ……」

希「これはホラーと呼ばれる怪物。そして、ウチのお仕事はこのホラーを倒すことを使命とする魔戒法師なんよ、スピリチュアルやろ? ……エリチ、にこっち、皆、今まで黙っててゴメンね」

希はそう言うと傘先をホラーに向け、そこから魔導力を放つ。一体のホラーが吹き飛び、壁に激突する。それと同時に残り二体のホラーが同時に希に襲い掛かった。

希はそれを傘と筆で受け止めると片方を蹴り飛ばし、もう片方は筆から出した魔導力で吹き飛ばす。

穂乃果「おー、希ちゃんかっこいい!」

凛「凄いにゃー」

希「ありがとう、ぱぱっと倒すから、も少し待っててね」

希はそういったが実際はどのタイミングで8人を逃がすかを考えていた。

希はまだ新米の魔戒法師であり、素体とはいえ、3体のホラーを相手にするのにはつらいものがあった。

希「こんな時に、お父さんがいてくれたらなぁ……」

そこまで言って、希は横からの大きな邪気に気が付いた。

とっさに本能で魔導傘を広げ、自身の体を守る。次の瞬間に、強い衝撃。希は数メートル飛ばされるが、空中で体制を立て直し、その攻撃をしてきた相手を見た。そこにいたのは、素体ホラーとは明らかに違う、魚のような鱗を持ったホラーだった。

希「嘘……やろ……」

素体ホラーではない。それよりも強力な、陰我と呼ばれる人間の負の思念から生まれる陰我ホラーと呼ばれる存在。

穂乃果「希ちゃん、後ろ!」

その陰我ホラーに気を取られている間に、希の後ろには素体ホラーが迫っていた。振りかぶられる腕。希は死を覚悟して目をつぶった。しかし、その腕が振り下ろされることはなかった。

?「はぁ!」

掛け声とともにホラーを斬る青年。響くホラーの断末魔。そこで初めて希は再びその目を開けた。

そして、目の前に立っている白いコートを羽織った人物を見て、まさかと思った。そして、次にその人物の持つ赤い鞘の剣、魔戒剣をみて確信する。しかし、同時に疑問も生まれた。なぜここにと。

希「お父さん! 何でここに?」

その問いに答えたのは、ザルバだった。

ザルバ「よう、希。残念ながら、この小僧は雷牙じゃないぞ」

希「お父さんじゃないん? じゃあ……」

?「希さん、話はあとだ。希さんは皆さんを」

青年は陰我ホラーを睨みつけた。

ザルバ「魔獣アズダブ、これまた懐かしのが出てきたな。これも奴の影響か……。小僧、お前も魔戒騎士……しかも黄金騎士なんだ、お嬢ちゃんたちの前だからって、格好つけるなよ?」

ザルバの声に反応してか、アズダブはこちらに飛びかかってきたが、青年は動じた様子もなく、魔戒剣で空中に円を描いた。

その円から発せられた光の中から現れる黄金の鎧。それは青年に装着され、青年は黄金の騎士となる。

希「黄金騎士……牙狼……!」

花陽「黄金騎士?」

ことり「綺麗……」

?「貴様の陰我……俺が断ち切る!」

飛びかかってきたアズダブの胴体に牙狼剣でカウンター一閃。切り捨てたのちに、素体ホラー2体にも斬撃を飛ばす。素体ホラーはそれに切り裂かれ、消滅するのだった。

穂乃果「すごい、あっという間に倒しちゃった!」

海未「落ち着きなさい、穂乃果。まだ彼が何者かもわかっていないのですから」

牙狼剣を鞘に納めると、鎧が消えた。

?「ザルバ、もう気配はない?」

ザルバ「ああ、近くに邪気は感じないぞ。しかし、お前は本当に運がいいのか悪いのかわからないやつだな。こっちに来て早々希たちを見つけられたのはいいが、ついでにホラーにも出会っちまうんだからな」

?「そうだね。けど、運はきっといいよ。皆さんに怪我がなかったし。だから――――その魔導筆は降ろしてくれませんか?」

青年は両手を上げながら言うが、希は魔導筆を降ろそうとはしない。

ザルバ「落ち着け、希。この小僧は確かに雷牙じゃないが、紛れもない。正真正銘の牙狼だ」

希「……わかった。ウチはザルバは信用してるからね。ただし、どういうことかは説明してもらうよ、黄金騎士さん」

?「もちろんですよ、冴島希さん」

希「!」

絵里「冴島?」

?「東條は、希さんのお婆様のお母様方の苗字だそうです。皆さんに万が一危害が及ばぬようにしていたんでしょうね」

希「……君、本当になんなん? ウチの本当の苗字に牙狼の鎧。牙狼の鎧は、称号を継げる者は1人しか存在しない。そして――――」

?「その称号はあなたのお父さん、冴島雷牙さんが現在の所有者です。詳しい話をしたいので、結界を解いて、どこかに移動しましょうか」

青年が振り返り、μ'sの皆は驚いた。黒い髪、赤い瞳。そして、幼さの残った整った顔立ち。そして、その顔は、矢澤にこにどこか似ていた。

虎太郎「皆さん、こんばんは。未来から来ました。矢澤虎太郎です。今は、冴島虎太郎と名乗っています」

「「「えええええええええぇ」」」

希の家

虎太郎「では改めまして。久しぶり……になるんですかね? 矢澤にこの弟、矢澤虎太郎です。未来では希さんの実家、冴島家に養子に入って冴島虎太郎と名乗っています」

「「「…………」」」

虎太郎「突然こう言っても信用できませんよね」

海未「いえ……あの……」

絵里「いろいろ理解が追い付かないというか……」

花陽「あなたの言う通り信じられないと言いますか……本当に虎太郎君なんですか?」

虎太郎「花陽さん、敬語なんてやめてください。俺のがずっと年下なんですから」

真姫「そもそもで、アンタが虎太郎だとして、何歳なのよ? 私たちと同じくらいに見えるけど」

虎太郎「今ですか? 半年前に17歳になりました」

穂乃果「17!? にこちゃん、虎太郎君って今年何歳なの?」

にこ「……6歳よ……」

ことり「じゃあ、11年後の虎太郎君かぁ」

希「まって、11年後? それに17歳? ……それで本当に牙狼を継ぐことを許可されたん? そもそも、何で君は魔戒騎士になれてるん?」

絵里「希、少し落ち着いて……」

希「落ち着いてなんていられへんよ! 魔戒騎士は基本的に一子相伝。とてもじゃないけど普通の家庭の子供は騎士にすらなれん! けど、この子はその最高位である牙狼の称号を受け継いだ。称号は騎士の家系でも受け継ぐのは難しい……これは異常なんよ!」

凛「牙狼? さっきの金色の鎧のことかにゃ?」

虎太郎「はい、合ってます。まあ、まず最初に、俺は幼いある日、牙狼に……希さんのお父さんに、出会いました。助けてもらったんです。

俺はその強さに憧れ、海未さんの家の道場で鍛えてもらいました。そして、道場通いを続けていると、再び牙狼に出会ったんです。そして……道場をやめて、今度は師匠に鍛えられ、矢澤家には過去に魔戒騎士になったものがいたらしく、俺もその才能があったから師匠と雷牙さん、元黄金騎士二人の推薦で英霊の塔でその称号を受け継げた。

そして、牙狼の称号を受け継いだから、できる限矢澤の家に迷惑をかけないように冴島家に養子に入った。それだけです」

希「それだけ……って、そもそもその師匠って誰なん? お父さんじゃないならクロウさん?」

虎太郎「クロウさんじゃないですよ。師匠は……あー……これ言っていいのかな? どう思う、ザルバ?」

ザルバ「この時期はまだだから黙っておいた方がいいだろう。すまないな、希。残念ながら小僧の師匠は内緒だ」

希「ザルバまでもう――――」

にこ「あーもう、うるさいアンタら!!」

先ほどまで静かだったにこが大声を出して、皆が驚く。そして、虎太郎の胸倉をつかんだ。

にこ「虎太郎。私が、あんたに聞きたいことは一つ! あんたは、それがやりたいからやってるの? それともできるからやってるの?」

虎太郎「……やりたいと思ったからやってる。俺は姉さんたちが作り出した光景を……μ'sのライブを今でも思い出す。俺はあの笑顔で溢れた会場を見て、その中に入りたいとは実は思わなかった。けど、俺はその笑顔は宝物だと思った。

この魔戒騎士という職業は守りし者と呼ばれている。だから俺は、その宝物を守る存在になりたいと思った。なんて……くさいかな?」

少し照れたように言う虎太郎を見て、安心したのか、にこはその胸倉から手を放した。

にこ「アンタがやりたくてやってるなら何も言わない。その代り、あまりママたちに心配かけるんじゃないわよ?」

虎太郎「わかってるよ」

ことり「……ねえ、いい話で終わりそうな所だけど一ついいかな?」

虎太郎「はい、なんですか、ことりさん?」

ことり「虎太郎君、17歳なんだよね?」

虎太郎「ええ、そうですよ?」

ことり「魔戒騎士って、お仕事なんだよね?」

虎太郎「はい、一応公務員になるんですかね? 政府から支援金出てるので」

ことり「……虎太郎君……学校どうしてるの?」

虎太郎「大丈夫です、共学になった音ノ木坂に通っています。アイドル研究部も健在ですよ」

ことり「共学になっちゃったんだ……」

虎太郎「少子高齢化社会ですから」

虎太郎(まあ、共学化した翌年に姉さんが女優として再ブレイクしたり、穂乃果さんが世界的なシンガーになったりで女子人気が再熱してほぼ女子高状態だけど……)

虎太郎は一つ咳払いをした。

虎太郎「話を戻します。俺がこの時代に来た理由ですが、皆さんを狙うホラーがいるので、そいつを斬るためです」

絵里「私たちを?」

虎太郎「はい。皆さんには『エイリスの残り香』と呼ばれる邪気が入り込んでしまっています」

希「エイリス!?」

エイリスの名を聞き、驚く希。

真姫「何なのよ? その、エイリスっていうのは」

虎太郎「エイリスというのは、20年前に俺の先代牙狼……つまりは希さんのお父様とお母様が封印した強大な力を持った古のホラーです」

希「虎太郎君、ちょっと待って。20年前にエイリスの近くにいて、力を移されたホラーなら去年にお父さんが斬ったって言うとったから解決したんよ?」

虎太郎「ええ、皆さんがラブライブ決勝で踊っていた時、希さんのお父様とお母様は、20年前にエイリスの力を吸って潜伏していたホラーを斬りました。けど、ここからが問題なんです。

エイリスというのは元々9体のホラーの体を転移しながら苗床としていたホラー。そして、去年斬られたホラーの力も、他のホラーに移ろうとしたんです。

しかし、それは叶わなかった。たまたまその時人間界にホラーが存在しなかったんです。

そんなことがある確率、ものすごく低いでしょうね。

そして、行き場のない邪気は、邪気に限らず、その時、その瞬間にこの人間界で、魔戒騎士以外の最も大きな力を持つ人間たちを依り代にした。

その時に依り代となってしまった存在……それがμ'sであり、皆さんを依り代とし、潜伏している邪気。それが『エイリスの残り香』です」

穂乃果「私たちが……依り代に?」

虎太郎「はい。そして……俺の時代で、この間、その『エイリスの残り香』を前に持っていたホラーが復活してしまいました。奴の名は、魔獣オルバス……時を渡る能力を持つ、ホラーです」

海未「タイムスリップ……ということですか。しかし、虎太郎。そのオルバス……でしたか。その怪物を見つけても、再び時を超えられて逃げられてしまうだけでは?」

花陽「そもそも未来の私たちを狙えばいいだけなんじゃ……」

虎太郎「それは大丈夫です。奴は時を渡るのに強大な魔力を使うようなので、逃げられることはないでしょう。

花陽さんの方の質問は、皆さんが絶望とは遠い人生を送っているので、邪気が薄れてしまったから未来じゃもう本当に搾りかすも残ってなかったみたいですよ?」

絵里「だから、まだ邪気が新鮮なこの時代に飛んできたと」

虎太郎「そういうことです。そして、タイミング的にもよかったんでしょうね」

希「異空間への接触」

虎太郎「希さん、正解」

にこ「異空間……私、もう何が来ても驚かないわ……」

希「ウチのお爺ちゃんとお婆ちゃんはお父さんの幼いころに異空間に吸い込まれたらしくてね? お父さんはお爺ちゃんとお婆ちゃんを探しとるんよ」

虎太郎「だから、ちょうどこの時間に繋がりやすくなってたんです」

希「皆ごめんね、うちの事情のせいで皆を巻き込んじゃって」

海未「ちょ、希、顔を上げてください!」

ことり「そうだよ。希ちゃんが悪いわけじゃないんだから」

にこ「両親がいなくなったのなら探すのは当然じゃない。それに、私たちには最強(?)の騎士の護衛があるんでしょ? なら大丈夫よ。ね? 虎太郎」

虎太郎「ああ、必ず俺が皆さんを守って見せる」

希「はは、頼もし――――」

希が顔を上げた瞬間、部屋の中の時が止まった。

ザルバ「小僧、結界だ!」

虎太郎「ああ……思いのほか早かったな……」

ザルバ「しかも、これは不味いな。希たちを人質に取られたも同然じゃないか」

虎太郎「……けど、最悪じゃない。あいつは希さんたちを殺せない。殺したら希さんたちに同化している邪気まで消えてしまうからな」

虎太郎とザルバが話していると、希の部屋から広大な草原へと景色が変わった。

虎太郎「驚いた。お前らホラーにはこんな綺麗な景色なんて用意出来ないと思っていたよ」

虎太郎はそう言うと同時に後ろに気配を感じ取り、魔戒剣を振る。しかし、虎太郎の背後に迫っていたホラー、オルバスはそれを腕で受け止めた。

オルバス「流石はガロ、このようなことをしても無駄なようですね」

虎太郎「ああ、だから大人しく斬られた方が楽だと思うけど?」

オルバス「冗談……ならば、こちらが今以上に強くなるだけです」

オルバスが邪気を辺りに向けて放つと、あたりが暗くなり、先ほどまで青々と輝いていた草原が黒く染まりだした。そして、その合間から無数の素体ホラーが現れた。

虎太郎「時間稼ぎか……」

オルバス「ええ。私はその間に彼女たちから力をいただきましょう」

オルバスは空間の狭間に消えていった。虎太郎は小さく舌打ちをし、迫りくるホラーたちに剣を振る。

虎太郎「ザルバ、ここがどこかわかるか!?」

ザルバ「恐らく時空の裂け目だな。奴は時間を操るホラーだ。だからこそ、時間と時間の裂け目に空間を作るなんて芸当もできたんだろう。しかし、相当な邪気が必要なはずだが……」

虎太郎「その対価を払ってでも手に入れる価値が、希さんたちに潜む邪気にはあるというわけか」

虎太郎「多勢に無勢……この数は流石に骨が折れそうだね」

ザルバ「頑張れよ、黄金騎士。お前の師匠はもっと狭い場所で飛び道具を持った奴らを相手にしたぞ」

虎太郎「本当に? やっぱりあの人は化物だな」

ザルバ「その化物と同じ力をお前も持っているんだがな」

虎太郎「最弱のレッテルはられたけどな!」

ホラーたちを切り伏せながら軽口を交わす虎太郎とザルバ。しかし、決して余裕があるわけでもない。こうしている間にもオルバスが希たちに何をするかわからず、さらに、この空間から抜け出す手段も未だに思いつかない。しかし、焦るわけにもいかない。ガロの鎧や魔戒剣に使われている金属はソウルメタルと言い、使用者の精神状況によって、硬軟・軽重といった属性が変化する性質を持つ特殊な金属であり、一般人には小さなかけらすら持つことすらできない代物である。

虎太郎は確かにガロの鎧は受け継いだが、元々が廃れた魔戒騎士の血筋で、しかもまだまだ若く、精神的に未熟である。そのために、ソウルメタルの扱いもまだ未熟な部分もあった。それを虎太郎も自覚し、ザルバはそんな虎太郎をサポートするように以前の持ち主たちに頼まれているので、こうして軽口をたたいているのだ。

そんな虎太郎の耳に声が聞こえてきた。

『あと4体……』

虎太郎「え? ザルバ? 何が後4体なの?」

ザルバ「おいおい、俺様はそんなこと言ってないぞ」

虎太郎「え?」

不審に思い、なんの声なのか考えたくなるが、ホラーたちはその暇を与えてくれない。虎太郎を殺さんと迫ってくるホラーを魔戒剣でまた1体切り伏せた。

『あと3体……』

虎太郎「ねえザルバ。よく見たらいつの間にかに陰我ホラーも何体かいない?」

ザルバ「なんだ、今更気が付いたのか。相当必死だったんだな」

虎太郎「当たり前だよ……一気に行こう。これ以上は希さんたちに何かあってからじゃ遅い」

虎太郎はガロの鎧を召喚し、目の前に居たホラーに牙狼剣を突き刺し、押し込んだ。そして、そのままその後ろにいたホラーたちへ向けて突進。数体のホラーが巻き込まれ、バランスを崩している隙に牙狼剣を引き抜き、その数体のホラーを横凪に切り捨てる。

『これで、資格を得た』

虎太郎「資格?」

虎太郎が声に対して問うと同時、意識が声に完全に向いた瞬間、後ろからホラーに羽交い絞めにされた。

虎太郎「しまった!」

虎太郎を抑えようと群がる素体ホラー。そして、虎太郎の目の前には鋭利な角を持ったホラーが虎太郎を突き刺さんと迫っていた。

虎太郎「うわぁああああああああ!」

素体ホラーを振り払おうとしつつも、このままでは間に合わないと死を覚悟して叫ぶ虎太郎。

その虎太郎の意識は、突然、白い空間へと導かれた。

虎太郎「え?」

自分は死んだのか? いや、刺された感触はなかった。ならばここは?

虎太郎は辺りを見渡すが、何もない。

?『ガロの鎧を受け継ぐもの、矢澤虎太郎よ……』

突然聞こえた声に、虎太郎は振り向く。そして、いつの間に現れたのか、そこにいた者を見て、驚き、声を上げる。

虎太郎「ガロ!?」

そこには赤い瞳の牙狼が立っていた。

ガロ『お前は先ほど、先人達と共に戦場を駆けた存在を召喚する資格を得た』

虎太郎「先人達と戦場を駆けた……轟天……ですか?」

ガロは頷いた。

虎太郎「しかし、俺は――――」

ガロ『ザジは牙狼に対する怨霊とも言える存在であり、牙狼が光ならばザジは闇。そのザジとの戦いで、お前の先代は轟天を召喚する資格得た。そして、お前はそのザジを既に打倒している。ならば――――お前にもその資格は十分にある。だが、お前にその資格を与える前に一つ問いたい』

虎太郎「なんでしょうか……?」

ガロ『お前は、彼女たちを何故助けたい?』

虎太郎「彼女たち?」

ガロ『そうだ。あの子たちはお前にとってかけがえのない者たちであろう?』

虎太郎「はい、皆さん俺にとって大切な恩人です」

ガロ『……言い方を変えよう。お前は、彼女たちから何を教わった?』

虎太郎「穂乃果さんから、前へ進む勇気を。

ことりさんから、諦めない心を。

海未さんから、相手と向き合うことを。

花陽さんから、優しさを。

真姫さんから、厳しさを。

凛さんから、自分を好きになることの大切さを

絵里さんから、自分を律することを

希さんから、魔戒に関わる者としての生き方を

姉さんから――――笑顔を」

虎太郎はガロに笑顔を見せ、にこがいつもするように、剣を持ってない方の手で、にっこにっこにーの手だけを作って見せた。

虎太郎「このサイン、一見ふざけているように見えるかもしれません。けど、俺は人々の笑顔を守りたくてガロになりました。その笑顔の象徴が、これなんです」

ガロは『ハハハハハッ! お前は歴代の中にもいなかった性格のガロだ。だが、だからこそ面白い。そして……だからこそ、我々もお前をガロと認めた』

虎太郎「最弱のガロとして……ですか?」

ガロ『確かに、今のお前は最弱と呼ばれてもおかしくはない。しかし、だからこそ我々は見たいのだ。お前がこれからどのようなガロ<希望>になるかを。

矢澤虎太郎よ、守りし者となれ。そして――――強くなれ!』

虎太郎「――――はい!」

そして、虎太郎は金色の光に包まれた。

希「いやー、時を操るとは聞いていたけど、まさか一瞬で虎太郎君と離されたうえに拘束されるなんて……予想外やね」

μ´sの全員が音の木坂の屋上に建てられた十字架に拘束されながら、体に寄生した邪気、エイリスの残り香を吸われていた。邪気に対して耐性のない希以外のメンバーは皆気絶してしまっている。

オルバス「それは結構。貴方は若いながらなかなか優秀な魔戒法師のようですからね」

希「それはありがとう。うれしくもなんともないんやけどね」

希は自分の迂闊さを恥じた。本来なら、虎太郎にオルバスの話を聞いた時点で何か対策を練るべきだったのだ。しかし、虎太郎の、ガロの存在から油断してしまったのだ。相手の能力を聞いたにも関わらず。

希(けど――――うちらの体にエイリスの残り香が上手く定着していたのが不幸中の幸いやね。これが魂だったら最悪やったもん)

魂に邪気が規制していた場合、オルバスにそれを吸い出されておしまいだった。しかし、今回その邪気が定着しているのは体である。体の場合、魂が体という器から無くなった瞬間にその邪気は新たな宿主を求めてどこ変え消え去るため、ゆっくりと体から直接邪気を吸い出すしかない。

つまり、邪気を吸い出すまでは希たちを殺せないのだ。吸い出される前に虎太郎が来ればという希望が希にはあった。

オルバス「ご安心ください。あなた達の体から邪気を吸い出しつくしたとしても、まだ殺しません。――――ガロを倒すまで」

希「ずいぶんと特異なホラーやね、わざわざ天敵(ガロ)を待つやなんて」

オルバス「……ええ、自分でもそう思いますよ。しかしね、私はこのエイリスの他にとある邪気も取り込みました。ようやく定着してきたその邪気が疼くんですよ――――ガロを、黄金騎士の系譜を消し去れと――――」

希「ザジ――――か」

希は父親である冴島雷牙に聞いたことがあった。ガロの倒したホラーの邪気が集またことで生まれる、ホラーとはまた別の邪悪なる者の存在を。

希「けど、それなら猶更急いだほうがよかったんと違うの? 悪いけど、あんさんの力じゃガロには勝てへんと思うよ?」

オルバス「それは問題ありません。彼は時の狭間に作った空間に閉じ込めていますし、ここはもともとあなたたちがいた場所とも離れています。来るまで時間がかかるでしょう。……しかし――――」

オルバスは希の首を持ち、十字架からの拘束を解いた。

希「カハッ――――」

希(あかん、息が――――しかも、力も吸われてる?)

オルバス「そうですね、9人もいるのです。一人くらい、質が悪くても力を吸い取っておいた方がいいかもしれません。しかも、魔戒法師ならなおのこと」

希はオルバスの手をけり、抵抗を試みる。これが素体なら吹っ飛ばすくらいはできただろう。しかし、相手はその素体よりも遥かに強力な陰我ホラーなのだ。あまりダメージはない様子だ。

オルバス「無駄です。法師よ、諦めて私の力の糧となるのです」

希はにやりと笑って見せた。

希「そんなの……お断りや!」

希は後ろ手に、腰に隠し持っていた魔戒筆を取り出し、そこから魔導力をオルバスの腹に放った。

流石のオルバスにも至近距離での魔導力は効いたらしく、小さく呻いた。そして、同時に自らの首を絞める手の力が緩んだのを感じた希は再びオルバスの体をけり、その拘束から逃れた。

希「こっちもただでそっちの餌になるわけにはいかないんよ。これでも法師の端くれやからね」

希は魔導力の爆発でおきた煙の中にいるはずのオルバスに言う。しかし、煙が晴れたなかに、オルバスはいなかった。

希「まさか!?」

いやな予感がした。

希が振り向くと、にこの拘束が解かれ、オルバスが力を吸収していた。

にこ「うぅ……」

希「にこっちっ!?」

希はオルバスに向かい駆ける。そして、その勢いのまま飛び蹴りを放つ。

しかし、オルバスの空いた手により、それは簡単に防がれ、投げ飛ばされる。

フェンスが勢いよく音を立て、そしてへこんだ。その音で穂乃果たちも目を覚ました。

穂乃果「え? にこちゃん? 希ちゃん!?」

オルバス「目を覚ましましたか……ちょうどいいですね。お友達が死ぬところを見れば、あなたたちが絶望し、その分邪気を抜き取るのが早く済むかもしれない」

オルバスはそう言うと体中から力の抜けているにこを大きく放り投げた。

μ’s「「「「「「「「にこ(っち!ちゃん!)!!」」」」」」」」」

にこは失いかけた意識の中で、落ちていく自分を心配そうに見つめる皆を見た。

そして思った。自分で良かった、と。ほかの子じゃなくてよかった、と。

にこ「けど……もう少しアイドルしてたかったなぁ」

にこは涙を流し、そして、このあと訪れるであろう死を受け入れ、目をつむった。

しかし、それが訪れるとはなかった。

虎太郎「にこ姉さん!」

抱えられた感覚と、浮遊感。そして、自らを呼んだ声。

目を開くと、自らの目に映ったのは、黄金の狼だった。

にこ「虎太郎……?」

虎太郎は一つ安堵の息をもらし、轟天に指示を出して屋上へと昇らせる。

屋上に着くなり、轟天に礼を述べてから虎太郎は鎧を外した。そして、にこを希の近くに寝かせる。ほかのメンバーもにこが無事なことに安心したようだ。

虎太郎「希さん、遅くなって申し訳ありません。姉さんのこと、よろしくお願いします。皆さんも、すぐに助けます、待っていてください」

虎太郎はそう言うと、律義に待っていたオルバスに剣を向ける。

オルバス「思っていたより早かったですね。流石は黄金騎士」

虎太郎「そう思ってたなら、あの三倍は用意しとくんだったな」

ザルバ「轟天がいなきゃあぶなかったがな」

虎太郎「うるさいよザルバ」

オルバス「おしゃべりとは、余裕ですね。私は今、彼女たちの邪気を吸い、先ほどまでとは比べ物にならないくらいの力を得ている。舐めない方がいい」

虎太郎「なら、その力、見せてもらおうか!」

虎太郎とアズダブが動いたのは同時だった。

アズダブがまず、その手で虎太郎につかみかかるが、虎太郎はそれを半身になることでよける。そのままアズダブの手をつかみ、腹部に膝蹴りを二回叩き込むと、魔戒剣の柄の底でアズダブの顔面を叩こうとするが、それは防がれてしまう。

アズダブ「この程度の攻撃はききませんよ」

虎太郎「まあ、そうだよね」

組み合っていた虎太郎とアズダブは互いに離れ、それと同時に虎太郎は空中に円を描き、ガロの鎧を召喚する。

虎太郎「魔獣アズダブ。貴様の陰我、この俺が断ち切る!」

牙狼剣を構えなおし、アズダブに向かって飛びかかる。

アズダブは迎え撃とうと、手を前に出してきたが、虎太郎はそれをお構いなしに牙狼剣を横一閃。その手ごと、アズダブの体を切り裂いた。

虎太郎「え……?」

あまりのあっけなさに、違和感を覚えた。確かに自分で言うだけあって、アズダブの邪気はだいぶ上がっていた。それがこうも簡単に切れるものだとは考えにくかった。

希「やったやん、虎太郎君。流石はガロやね」

いつの間にかに近づいてきていたのか、希が後ろから話しかけてきた。

その背後を見ると、にこの周りには心配そうにしているμ'sメンバーが集まっていた。

>>23の修正です、魔戒ノ花1話見直しながら書いてたらアズダブになってた……

虎太郎とオルバスが動いたのは同時だった。

オルバスがまず、その手で虎太郎につかみかかるが、虎太郎はそれを半身になることでよける。そのままオルバスの手をつかみ、腹部に膝蹴りを二回叩き込むと、魔戒剣の柄の底でオルバスの顔面を叩こうとするが、それは防がれてしまう。

オルバス「この程度の攻撃はききませんよ」

虎太郎「まあ、そうだよね」

組み合っていた虎太郎とオルバスは互いに離れ、それと同時に虎太郎は空中に円を描き、ガロの鎧を召喚する。

虎太郎「魔獣オルバス。貴様の陰我、この俺が断ち切る!」

牙狼剣を構えなおし、オルバスに向かって飛びかかる。

オルバスは迎え撃とうと、手を前に出してきたが、虎太郎はそれをお構いなしに牙狼剣を横一閃。その手ごと、オルバスの体を切り裂いた。

虎太郎「え……?」

あまりのあっけなさに、違和感を覚えた。確かに自分で言うだけあって、アズダブの邪気はだいぶ上がっていた。それがこうも簡単に切れるものだとは考えにくかった。

希「やったやん、虎太郎君。流石はガロやね」

いつの間にかに近づいてきていたのか、希が後ろから話しかけてきた。

その背後を見ると、にこの周りには心配そうにしているμ'sメンバーが集まっていた。

虎太郎「ええ、皆さんもご無事で――――」

 虎太郎が希に返事をした瞬間だった。

 目の前で、希が消えた。

虎太郎「え?」

 そして、召喚され、自分に装着されるガロの鎧。

虎太郎「これは――――」

ザルバ「見ろ、虎太郎!」

 ザルバの声に反応し、前を向く。そこにいたのは、先ほど自分が斬ったはずのオルバスだった。さらに周りを見渡すと、にこを支える希。そして、貼り付けにされたままの他のメンバーが目に映る。先ほど見た光景だった。

虎太郎「これは、時が……巻き戻ったのか?」

『ふふふ……はははははっはははははははっはははははっははははははははッ!!!!!!!!!』

 大声で笑いだすオルバス。虎太郎は反射的に牙狼剣を構えた。そして、同時に気付く。

虎太郎「ザルバ、あいつの邪気の感じ……かわってないか?」

ザルバ「ああ、さっきと変化している。面倒くさいことになりそうだぞ」

『感謝するぞ、黄金騎士! 私は今、生まれ変わった! 我が名はエイリス!』

虎太郎「エイリス!?」

ザルバ「耳を貸すな、小僧。奴の邪気は確かに強大だが、エイリスの物とはまるで別物だ。あくまで邪気だ」

虎太郎「じゃあ……」

ザルバ「ああ、邪気に取り込まれ、己を失ったのだろう。これはもう手が付けられん」

虎太郎「なら直ぐに切り伏せる!」

虎太郎は地を強く踏み込み牙狼剣を振り被った。
しかし、その一撃はオルバスの手により止められた。

虎太郎「何ッ!?」

『ふん……』

オルバスの放った邪気によって吹き飛ばされる虎太郎。
上手く着地はしたが、その為に目を離した一瞬だった。邪気は更に膨れ上がり、どんどん巨大化してゆく。

ザルバ「こいつはデカいな……」

その姿は、巨大な花から馬の顔をした女性の上半身が飛び出たような姿へと変貌した。

虎太郎「これはうれしくないサービスだな……斬るのが厄介だね」

『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

宙に浮くオルバスだったものは大きく吠えると、空気が震え、辺りが邪気によってできた結界に包まれた。

ザルバ「やつめ、ここで力を定着させる気だぞ。その前に叩くんだ!」

虎太郎「わかった」

虎太郎「行くぞ、轟天!」

轟天を召喚し、一気に跳躍させるが、その轟天に向けて、オルバスは邪気を放射する。

虎太郎はそれを牙狼剣で反射しようとした。

虎太郎「――――(やばい、威力が……)ぐぁぁあああああああああああああああッ!」

虎太郎と轟天ははじき返され、虎太郎は屋上のフェンスに、轟天は校舎に激突して崩れ落ちた。

鎧が解かれ、虎太郎はうめき声をあげながらその場をのたうち回る。

希「虎太郎君!」

希は虎太郎に駆け寄ろうとするが、虎太郎がそれを手で制止する。

虎太郎「大丈夫です、それよりも、希さんは結界を張って、皆さんの安全を確保してください。もう、あいつの意識も完全に俺に向いたから、ほかの皆さんの拘束も解かれているみたいですし」

虎太郎の言う通り、すでに全員の拘束が解かれていた。一足先に拘束を解かれていたにこと、体力のある絵里と凛、そして穂乃果が、ほかのメンバーの介抱をしている。

希「けど……」

虎太郎「大丈夫ですよ、俺はガロです。それに――――俺、姉さんだけじゃなくって、μ’sの――――皆さんの大ファンなんです。皆さんの歌、未来でも聞きたいから死にませんよ。だから、安心して守られていてください。なんてったって、俺は――――」

虎太郎は魔戒剣を杖に立ち上がり、そして、剣を真上に掲げた。

虎太郎「ガロ〈守りし者〉なんですから」

円を描き、そこから現れた金色を、虎太郎は再び纏う。

虎太郎「今度こそ、貴様の陰我、断ち切らせてもらう!」

虎太郎「轟天!」

虎太郎の声に反応して、轟天は瓦礫の中から抜け出し、虎太郎の元へと駆ける。轟天は虎太郎が自らに飛び乗ると同時に、力強く地面を蹴って、オルバスに向けて飛び上がる。
そんな虎太郎と轟天に向けて、邪気でできた球体を放つオルバス。虎太郎もそれを弾かんと牙狼剣を振るい、轟天は空を蹴って最初の数発こそ避けるが、その弾幕を裁ききれずに、攻撃を食らってしまう。
しかし、それでもなお、虎太郎はオルバスの元に届けようと、自らの足を動かすのだった。

虎太郎「ごめんな、轟天、ありがとう」

ある程度オルバスに近づいた虎太郎は轟天の背を踏み、飛ぶ。そして、オルバスの額に牙狼剣を押し込まんと剣先を向けるが、あっさりと、オルバスの放った強大な邪気によって吹き飛ばされてしまった。
そんな虎太郎の様子を結界内から見つめるμ´sメンバー。

穂乃果「ねえ、希ちゃん。穂乃果たちにできること、何かないの?」

海未「何を言っているのですか穂乃果!?」

穂乃果「だってさ、アニメとか漫画だとさ、あるじゃない? こう、パワーを送る感じの。だから、希ちゃんもそんな感じのできないかなぁって」

希は少し考えた。そして口を開いた。

希「じゃあ、歌おうか」

「「「「「「「「え?」」」」」」」」

希「牙狼の鎧に使われている金属……ソウルメタルって言ってね? あれは使用者の気持ちによって軽さとかそういうのが変わる代物なんよ。だから、うち等の歌で虎太郎君が少しでも元気づけばって気持ちを込めて歌えば、きっと反応してくれる。お母さんも、お父さんを思いで助けたことあるって言ってたから間違いないと思うんよ」

ことり「思いが力になるかぁ、それってとっても素敵だね」

凛「虎太郎君、何が好きかにゃ?」

にこ「もちろん、姉であるこの私がセンターの曲――――」

絵里「いいえ、ここは純粋に応援する感じの――――」

虎太郎「クッ……」

虎太郎は牙狼剣でオルバスの攻撃を弾きながら、何とか攻撃をしていたが、オルバスにダメージを与えるに至っているかはわからず、寧ろ、邪気がどんどん集まっているようにも感じられた。

虎太郎「このままでは……」

焦る虎太郎に、オルバスは一つ、巨大に固めた邪気の塊を放つ。防御態勢は取るが、これを繰ればひとたまりもないと、どこかで諦めのような感情が芽生えたそんな時だった。

歌が聞こえてきた。

ハッと我に返った虎太郎。その攻撃を力いっぱい上空へとはじき返した。それは結界の天井部にあたり、一部が壊れ、その結界の破片が邪気と月明かりと牙狼の輝きに反射して、きらきらと雪のように降ってくる。

虎太郎は振り返った。ボロボロになった音ノ木坂学院の屋上。そこで、女神たちが歌っていた。音響もないのに、その歌声は結界内に強く響き渡り、ライトもないのに、その空間で、一番の輝きを放っていた。

虎太郎「……はは、はははははっ! そうだよな、俺には女神たちが付いているんだ、だから、負けはしない!」

虎太郎の蘇った闘志に呼応するように、舞い降りてきた結界の破片がガロを包み込んだ。そして、その破片はガロの背中へと集約し、翼となった。

その姿に希は覚えがあった。祖母が残したと教えられた絵の中に、よく似た姿の物があったからだ。翼人牙狼と、祖父は呼んでいたそうだ。

虎太郎「行くぞ!」

虎太郎は再びオルバスへと攻撃をしかける。翼を得たことによって、空間内をよりスピーディに移動できるようになったため、先ほどまでとは違う、力を込めた斬撃を仕掛けられるようになったため、ダメージを与えているという手ごたえが、虎太郎には感じられた。

先ほどとは動きがまるで違うガロにオルバスも戸惑っているらしく、なかなか攻撃が定まらない。

しかし、それでも元々の大きさも違ってくるので、どうしても、致命傷になるような攻撃を、虎太郎は与えることができないでいた。

虎太郎「轟天!」

虎太郎の呼び声にこたえ、地面に伏していた轟天は立ち上がり、大きくその蹄を鳴らした。

それに牙狼剣が反応し、自身の身丈以上の大剣、牙狼斬馬剣へと、姿を変えた。

虎太郎「こいつなら!」

虎太郎は、翼を広げ、先ほど以上のスピードでオルバスに迫る。が、オルバスも虎太郎のスピードに慣れてきたようで、それを追撃しようと邪気の光束を放ってきた。

虎太郎「そんなものに、負けてたまるか!」

牙狼斬馬剣を振り降ろし、それを切り裂きながら、虎太郎は進む。

『なぜ、まだそこまでの力がある!? なぜ、そこまでして人間を守ろうとする!? 人間の邪心はなくなることはなく、お前たちの戦いには終わりはないというのに!? どんなにお前〈牙狼〉が輝こうとも、すべてを照らせるわけではないというのに!?』

虎太郎「たしかに、俺たちの戦いに終わりというものは来ないかもしれない。俺一人では、すべての闇を払えないかもしれない。

しかし、俺は知っている。闇を払えるのは、俺たち魔戒騎士だけではない。人は、自ら輝き、その輝きは、それを見るほかの人間の闇まで払うことができるということをッ!」

虎太郎は背後から聞こえてくる歌を聴きながら、かつて、女神たちが作り出した光景を思い出していた。彼女たちの歌が、ダンスが作り出した、皆が輝いていたあの光景を。

光束が全て霧散し、オルバスはまさかと怯んでしまった。虎太郎はその隙を見逃さなかった。

虎太郎「これで、終わりだぁああああああああああああッ!!」

虎太郎はオルバスの眉間に牙狼斬馬剣を突き刺し、それを思いっきり横薙に振りぬいた。

『馬鹿な、この私が……』

傷から邪気があふれ出し、オルバスはその姿を保つことができずに、徐々に粒子となって崩壊していく。

それと同時に結界も消えてゆき、星空が彼女たちの頭上に広がった。

「虎太郎君、やったんだね……」

ゆっくりと屋上に降り立ち、鎧を還す虎太郎。

それと同時に少しふら付いたのを、希が駆け寄って支えた。

「ありがとうございます、希さん」

「ええんよ、お疲れ様。よく頑張ったね」

「いえ、皆さんの歌のおかげです」

「本当よ。虎太郎、感謝しなさい。伝説のスクールアイドルである私たちの生歌を独り占めできたんだから!」

「それ、自分で言って少し恥ずかしくないかにゃー?」

「こら、二人とも喧嘩を始めない。虎太郎君、お疲れ様」

「絵里の言う通りです。二人とも、今は戦いつかれている虎太郎を労わろうと――――」

「まあまあ、海未ちゃん……虎太郎君、本当にお疲れ様」

「帰ったらごはんにしよう。おにぎり作るね」

「私も、鞄にほむまん入ってるから、それでお疲れ様会しようよ!」

「もう、その前に虎太郎の傷の手当でしょ? 応急処置くらいならできるから、ここでしちゃうわよ」

虎太郎「いえ……それはもうすぐ後になりそうです……」

つけていたウエストポーチから包帯を取り出した真姫を制止した虎太郎。

その視線を追った全員が驚いた。最初の形態よりもずっと小さいが、黒い霧の塊のような姿になったオルバスが、中に浮いていたのだ。

虎太郎「あれだけ強大な邪気だと、封じ込めきれなかったか……」

魔戒剣を構える虎太郎。

オルバス「まさか……あれほどの強大な力をもってしても破られるとは……黄金騎士、私はあなたの力を見くびっていたようだ……」

虎太郎「そうか。なら、次は相手の力を見た目で判断しないようにするんだな。覚えていればの話だが……」

オルバス「ええ。……しかし、まだ、私にはお前を倒す手段がある……!」

ザルバ「負け惜しみだな。そんな消えそうな、搾りかすみたいな体で何ができる」

オルバス「……先ほど、あなたの剣で斬られたときに、あなたという存在の力が流れてきました。そして――――あなたよりも弱いが、あなたと全く同じ力の波長を、この時代からも感じる……!」

虎太郎「俺と同じ……? まさか……ッ!」

オルバスはにやりと口元を歪め、飛んで行った。

虎太郎「轟天、頼む!」

虎太郎は魔戒剣を投げて、空中で回転する魔戒剣に飛び込む。牙狼の鎧と轟天が召還され、牙狼剣を回収した虎太郎はオルバスを追う。

オルバスに追い付かず、焦る虎太郎。

オルバス「ふはははッ、見つけたぞ!」

オルバスの視線を、虎太郎も追う。すると、かつて自分たちの住んでいたアパート。その屋上に、幼い虎太郎が一人で立っていた。

それをみて、虎太郎は思い出した。そういえば、何か不思議な気配を感じて、屋上に出てきたのだ。そして――――黄金騎士に出会った。

虎太郎はオルバスに切りかかろうと轟天に鞭を撃つが、届きそうにない。そして、鎧の時間ももう限界が近づいていた。

虎太郎「オルバス、闇に去れ!」

ならば。と、虎太郎はオルバスに向けて牙狼剣を投げ飛ばした。オルバスは、それを、あっさり避けた。

虎太郎「しまった……」

絶望する虎太郎。鎧が解けるのを感じながら、虎太郎はオルバスを見上げた。そして、輝きを見た。

月明かりで輝く金色が、虎太郎の投げた牙狼剣をキャッチし、元々持っていた牙狼剣と合わせた二本の牙狼剣でオルバスを切り裂いた。

虎太郎「牙狼……まさか……」

着地した虎太郎の前に、牙狼が舞い降りた。

牙狼「……君の剣だ」

虎太郎「ありがとう、ございます」

ザルバ(虎太郎)「希もだが、こうして若い雷牙の気配を感じると、過去に来ているって実感が湧くな」

雷牙「そうか……未来から来たのか」

虎太郎「はい。申し遅れました、俺の名は――――」

雷牙「いや、いいよ。未来で会えるんだろ? なら、その日を楽しみにしていたいな」

虎太郎「――――はい!」

ザルバ(虎太郎)「そうだな、ゆっくり挨拶している暇もない。虎太郎、邪気が薄れかけてる。このままだと帰れなくなるぞ」

虎太郎「なら、早く戻らないと……雷牙さん、挨拶できないのでこれだけ言わせてください。あなたの望みは、もうすぐ叶います」

虎太郎は牙狼の鎧と轟天を召還し、学校に向けて戻っていった。

雷牙「望みが叶う……か。どういうことだろう?」

ザルバ(雷牙)「さあな?」

マユリ「おい、雷牙」

牙狼の鎧を解いた雷牙の背後から、マユリが話しかけた。

雷牙「マユリ? どうやってここに?」

マユリ「媚空にここに移動させてもらった」

雷牙「そうだったのか。どうする? せっかく東京に帰ってきたんだ。希にあっていくかい?」

雷牙は久方ぶりに会っていない愛娘の顔を思い浮かべながら提案するが、マユリはそれに首を横に振った。

マユリ「いや、それはこの後一度クロウたちの元へと戻ってからだ」

雷牙「何かあったのか?」

マユリ「ゲートがつながった先で、二人の魔戒騎士がホラーの大群と戦っていた。一人の女性を守りながらな。クロウも媚空もその手助けをしている」

雷牙「なんだって!? なら急がないと」

マユリ「まあ、話は最後まで聞け。片方の騎士は、双剣使いの長髪の男。もう一人は……赤鞘の剣をも持った騎士だ」

雷牙「まさか……」

マユリ「行こう。希を祖父母に合わせてあげないとな」

雷牙「ああ!」

鎧を、そして轟天を召還して、その背に乗った二人は道を急ぐのだった。

一方、音の木坂に帰ってきた虎太郎はμ'sの面々に迎えられていた。

希「虎太郎君、お疲れ様。その様子を見る限り、大丈夫だったみたいやね」

虎太郎「はい、雷牙さんに助けられました」

希「お父さんに?」

虎太郎「駆けつけてくれたようでした」

希「そうなんか……なら、ウチにも来てくれるかな?」

虎太郎「いや……むしろ雷鳴館に帰ってこいって言われると思います、聞いた話だと、確かこの時期のはずなので」

希「え?」

ザルバ「おい、虎太郎。無駄話はそこまでだ。邪気が霧散してきている。このままでは、帰れなくなるぞ」

虎太郎「ああ。わかってるよ、ザルバ。希さん、すみませんが、この札で門を作ってくれませんか? 未来のあなたが作ったものなので、あとは法力を流すだけでいいので」

希「ええよ……ウチ、未来でこんなお札作れるようになるんやね……」

虎太郎「凄腕の魔戒法師ですからね、それくらい当然ですよ」

虎太郎はμ´sメンバーの方に向き直り、頭を下げる。

虎太郎「危険なことに巻き込んでしまい、申し訳ありません。そして、ありがとうございました」

にこ「……帰るのね」

虎太郎「はい」

にこ「……頑張りなさいよ」

虎太郎「ありがとう、姉さん。この時代の俺をよろしく」

にこ「言われなくてもわかってるわよ、大事な弟なんだから」

他のメンバーも虎太郎に一言ずつ述べて、希の方へと向き直る。

希はそれを確認して、札を使って門を作った。

虎太郎「ありがとうございます、希さん。未来で待っててください」

希「もちろん、ウチは黄金騎士を支える法師なんやろ?」

虎太郎「いえ、そうじゃなくて……あの……」

首をかしげる希と、そんな希に何かを言いたそうに頬を赤く染める虎太郎。

周りのメンバーはその様子から何かを察して、温かい目で二人を見つめていた。

虎太郎「あーもう! つまりはこういうことです!」

虎太郎は希の唇に己の唇を合わせた。

希は目を見開く。

虎太郎「それでは、皆さんお元気で!」

虎太郎は希から離れると、赤い顔を隠すようにすぐに鎧と轟天を呼び出してゲートに飛び込んだ。

希は己に何が起きたのかを理解できず、そのまま直立していたが、にこがポンと肩に手を触れると小さく悲鳴を上げて我に返った。

にこ「弟をよろしくね、義妹」

希「いやいや、にこっち! ええの? ウチ虎太郎君といくつ違うと思ってるん!?」

にこ「あの子がいいならいいんじゃない? あんたならよく知ってるし、それに、あんな虎太郎を支えてくれるんでしょ?」

絵里「良かったわね、希。あんなイケメンな彼氏ができるなんて」

海未「おめでとうございます、希。しかし、健全なお付き合いをしないとだめですよ?」

真姫(10近く離れてる子で、しかも未成年とお付き合いになったら健全じゃいないと思うのは私だけなのかしら……)

ことり(真姫ちゃん、それ以上は考えちゃいけないよ。それに未来の希ちゃんが虎太郎君を好きとも限らないし……)

花陽(けど、今の希ちゃんはまんざらじゃなさそうだよねぇ……)

凛「三人とも、こそこそ何のお話してるにゃ?」

花陽「何でもないよ、凛ちゃん」

そして、未来。

虎太郎は音ノ木坂の屋上へと降り立った。

虎太郎「……どう、ザルバ。戻ってこれた?」

ザルバ「ああ、快適な旅とは言えなかったけどな……さすがに今回は俺様も疲れた。、とっとと帰って休むぞ、小僧」

希「せやね。皆、虎太郎君を待ってるよ」

虎太郎「希さん、迎えに来てくれたんですか?」

希「繋がったゲートがこっちから閉じないように維持をしてたからずっといたんよ。気付かなかった?」

虎太郎「すみません。戻って来るのに必死だったので……」

希「仕方がないよ、あんな大物と戦って、時間移動もしたんやから」

希は虎太郎の頭をなでる。

希「お疲れ様。おかえりなさい」

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