男「死に際おしゃべり」 (22)


女「今日が私の死ぬ日。前から言ってたようにね」

男「ああ」

女「ついに来ちゃったね」

男「…」

女「なに?」

男「ほんとうに死ぬのか?」

女「冗談だと思ってたの?」

男「そういうわけじゃないけど」

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女「死ぬよ。決めたから」

男「周りのだれかには言ったのか?」

女「周りってなによ」

男「親とか、友達とか」

女「バカじゃないの? そんなの言えるわけないでしょ。どうせ必死に止められるか泣かれるか怒られるかするだけよ」

男「それもそうか」

女「うん」

男「ところでどうやって死ぬつもりなんだ?」

女「あれ、言ってなかったっけ?」

男「たぶん」

女「飛び下りするの」

男「飛び下りなんだ。どこで?」

女「○×マンションの屋上」

男「なんでそんな遠いところで」

女「元彼が住んでる」

男「ああ、前にフラれたっていう?」

女「そうよ。あなたにも散々愚痴ったあのクソ男」

男「クソって」

女「童貞のあんたには私の気持ちはわからないでしょうね」

男「ど、童貞とか決めつけるなよ」

女「ちがうの?」

男「ちがわないけど」

女「意味わかんない」

男「言ってみただけだ」

女「話戻していい?」

男「ああ、ごめん」

女「あの男ってほんとに最低でさ・・・って前にも話したよね。おんなじ話何回も聞きたくないよね」

男「ああ」

女「でも、そんなクソ男でも好きだった。だから悲しくてつらい。結局私なんて人間は幸せにはなれない」

男「私なんてって」

女「クソ男を好きになる癖があるみたいなの。こんなんじゃ幸せになんてなれないでしょ」

男「だから死のうってか?」

女「うん。だって幸せになれないってわかってるのに生き続ける意味ないしね」

男「彼氏はびっくりするだろうな」

女「なに?」

男「フった女に死なれちゃな」

女「…なにが言いたいの」

男「な、なんでもない」

女「彼氏はひどい人間だから私が死んだところで気にしないわ。まだあんたのほうが優しい」

男「そうかな」

女「そうよ。だから彼女なんてすぐできるんだから勇気だしなさい」

男「付き合ってくれる人現れるかなぁ」

女「余裕よ。あんた優しいから」

男「女ちゃんも優しくて魅力的だよ」

女「あなたに言われても嬉しくない」

女「あー、死にたくないよぉ」

男「え?」

女「死にたくないよ。男くん、私どうすればいいと思う?」

男「どうするって」

女「だって怖いよ、やっぱり」

男「まあそりゃ怖いよな」

女「怖いの」

男「じゃあとりあえず今日はやめて、一旦考えるか?」

女「いや、やっぱり死んだ方がいいよね! 私死ぬよ」

男「そうか」

女「さっさと[ピーーー]よって思ってるでしょ」

男「そんなひどいこと思うわけないだろ」

女「自分でも思うもん」

男「ああ」

女「やっぱり死ぬよ。今日」

男「死ぬんだな」

女「うん。話聞いてくれてありがとう。男くんとおしゃべりして気が楽になったよ」

男「それはよかった」

女「幽霊になったら男くんちに行ってビビらしてやるから覚悟しててね」

男「やめろよ」

女「そして彼女ができるまで見守っててあげるよ」

男「まじか」

女「男くんなら幸せになれるよ。優しいし」

男「そうかな」

女「だからこれからは強気でがんがんいって、彼女をゲットするだよ? 童貞のままなんてダメだよ?」

男「お、おう」

女「そして私も幸せになるから」

男「?」

女「天国があるんなら、さすがにそこでならわたしでも幸せになれるでしょ」

女「この世ともお別れだね。男くんとも」

男「ああ」

女「そういえばもうちょっとでスタバの新作が出るんだよね。食べたかったなぁ」

男「ああ」

女「男くん私の代わりに食べて天国にいる私に感想教えてね」

男「どうやって教えるんだよ」

女「なんとかなるでしょ」

男「なるかなぁ」

女「そういえば買ったばかりのあの服まだ一度も着てないや。けっこうかわいくてお気に入りだったのに」

男「…親と別れるのが一番寂しいんじゃないか?」

女「それが全然寂しくなんかないの。お父さんやお母さんはひどい人間だからね。でも、いい思い出もちょっとはあるし、ここまで育ててくれたことは一応感謝しなくもないかな」

男「ひどい親だったんだな」

女「お父さんは酔ったらお母さんに暴力振るうし、お母さんはいっつも私と言い合いのケンカしてたし」

男「それはひどいな」

女「男くんの親って優しそう。男くん見てればなんとなくわかる」

男「まあケンカとかはないかな」

女「いい親なんだから大切にしてあげなよ」

男「ああ」

女「でもこの世とお別れするってやっぱり寂しいね」

男「そうだよな」

女「…」

男「?」

女「…」グスッ

男「な、泣いてる?」

女「…」グズグズ

男「えぇ」

女「ふふ、めっちゃ困ってるじゃん」グスッ

男「いや、だって」

女「もう大丈夫だから…」

男「それならよかった」

女「じゃあ行くね」

男「もう行くのか?」

女「これ以上男くんを付き合わせるの申し訳ないし」

男「俺はかまわないけど」

女「男くんは優しい」

男「優しくなんかない」

女「優しいよ」

男「もし俺が優しかったら全力でお前の自殺を止めてる」

女「…」

男「俺はひどい人間で、弱い人間なんだよ」

女「優しいよ」

男「?」

女「自殺を止めに来る人ってきっと私の気持ちも考えずに、ただ止めたいからって止めてる自分勝手な感じなんだよ」

男「そんなことないだろ」

女「偽善みたい。私そういう人嫌いなの」

男「そうかな…」

女「それとちがって男くんは自分勝手に止めようとしないから優しい」

男「…」

女「自分で気が弱いからとか思うんならそれでもいいけど」

男「…」

女「とにかく死ぬね」

男「そうか」

女「屋上に立って、彼氏に電話して、文句を言いながら飛び下りる」

男「まじか」

女「なによ」

男「なんでもない」

女「悪いのはあの男なんだから。私は彼が好きだったのに」

男「なら仕方ないな」

女「ってわけで、さようなら」

男「あ、おう」

女「あはは、なによ。最後なのにその歯切れの悪い挨拶~」

男「だ、だって」

女「私が死ににいくから素直に挨拶できないって?」

男「まあな」

女「そんなの私もだよ」

男「え?」

女「私だって怖い。でも死ぬしかないから死ぬの」

男「ああ」

女「不幸なんて思わないけどね。自分で選んだことだし」

男「そうか」

女「うん。だからもう行くね」

男「ああ」

女「男くん勇気だして彼女つくって早く童貞卒業してねー」

男「お、おう」

女「元気でがんばって!」

男「ああ」

女「バイバーイ」

男「こっちこそいままでありがとう。さようなら」

女「ふふっ」




そして彼女は死んだ

○×マンションからの飛び下りで

死体の近くには壊れたスマホが転がっていたらしい

俺はなにが正しいのかわからないまま、ただ学校で配られたプリントを見つめていた

おわり

読んでくれた人ありがとうございました!

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