モバマス『言の葉の記憶』 (70)

これはモバマスSSです

基本的になおかれです
かなり気合い入れて書きました

前前作 佐久間まゆ「遠く届かなかったあなたへ」
佐久間まゆ「遠く届かなかったあなたへ」 - SSまとめ速報
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前作  春香「先輩後輩と感謝の気持ち」
春香「先輩後輩と感謝の気持ち」 - SSまとめ速報
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SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1501668343

「今度の福岡公演楽しみだなぁ!」

この梅雨の季節のせいでいつもに増してふわふわした髪の毛の奈緒が
うれしそうに何回も同じ話をしている

「もー、な~お?その話何回目?」

アタシはそんな奈緒にあきれた風にそんなことを言ってみる

「何回言っても足りないだろ~?」

奈緒は至極当然のような顔をしてこう言葉を続ける

「今回は加蓮も一緒に福岡行くんだから楽しみに決まってるじゃん!」

奈緒はにこっとアタシに微笑みかける
ほんと…この表情はずるいと思う…

「でも今回は何の曲を歌うんだろうな?」

「アタシたちが並んでるならトラパルとかじゃない?」

「でも凛がいないだろ?」

「前にアタシ抜きで歌ってるの知ってるんだからね?」

「うっ…覚えてたのかよ…」

このやりとりも、もう何回目になるのだろうか?
実際アタシの方も今回の福岡公演は心の奥では楽しみにしている

「セットリストはまだ渡されていないんだよなぁ」

「奏もいるしモノクローム・リリィもそろってるんだよねぇ」

「奏と合わせて三人でトランシングパルスとか無いかな?」

「あはは、そんなことしたら凛が拗ねちゃう」

「ははっ、確かに」

そんな話をしていると同じ福岡のメンバーのうち何人かが部屋に入ってくる

「あれ?奈緒ちゃんに加蓮ちゃんじゃん、早かったんだね」

「夕美さんじゃん、なんでここに?」

「あれ?奈緒ちゃんスマホ見てないの?」

「スマホ?」

そう言って奈緒は自分のスマホを確認する
アタシも自分のスマホを確認する
そこにはプロデューサーからここの部屋で待ってるようにと言う連絡が入っていることに気がつく

「あれ、プロデューサーから連絡入ってるじゃん」

「ほんとだ、何の用なんだろ?」

「アレじゃ無いか!?セットリスト!」

「そうかも!」

そんなことをやいやい言っている間にプロデューサーが入ってくる

「まだ全員は来ていないみたいだな」

「あっ、プロデューサーさんおつかれさまでーす」

「おう、お疲れ」

プロデューサーさんは夏で暑いからかジャケットを脱ぎ
シャツ一枚でファイルをぱたぱたしている

「今日は何の為に集めたの?」

「おぅ、今日は今度の公演の詳しいことが決まったから、その話をしようと思ってな」

「おぉ!ついに決まったのか!」

「私たち今度のライブ何歌えるの!?」

「おぉ、奈緒も加蓮も元気だなぁ」

プロデューサーさんは私たちの問いつめを軽くあしらうと
鞄の中から紙の入ったクリアファイルを出し、それを一つ一つ手渡していく

「なんだこれ?」

「今度のライブの詳細の資料だ、セットリストも…」

「えっ!?セットリストもあるの!?奈緒!早く見よーよ!!」

アタシはプロデューサーさんが最後まで言い切るより先に資料を机の上に広げる

「あー、説明しながらにしようと思ってたのに…」

「まぁまぁいいじゃんいいじゃん!」

アタシたちはセットリストの書いてある紙を見つけ、自分の名前が書いてある部分を探す

「うーん、アタシ始めの方はそんなに無いんだね」

「おい!加蓮!!後ろの方見てみろよ!!」

奈緒は興奮しながら下の方にある自分の名前を指している

「この曲って…」

奈緒が今回ソロで歌う曲はライブでは初めて歌う曲である「Neo Beautiful Pain」で
なんともかっこいいクール感溢れる曲が歌えるのがかなりうれしいらしく、かなり良い笑顔をしている
でもそんな顔するから、いろんな所で奈緒はキュートだって言われるんだよ?

「加蓮の曲もあたしの前にあるぞ!加蓮も新曲のやつじゃ無いか?」

アタシのソロ曲は奈緒の二つ上にあった
「Frozen Tears」はアタシの中で2曲目のソロ曲で
この曲もライブでやるのは初めてになる

「あっほんとだ~、奈緒のために舞台暖めておくね」

「おう!頼むぞ!!」

「アタシの歌う曲は全員曲とアンコール合わせて7曲かぁ」

全部で24曲中7曲ということで3曲に1曲で歌うということなっている
三時間という短い時間の中で密度の濃いライブになるんだろうなぁ

そんなことを考えていたら奈緒が何かを見つけたらしくプロデューサーさんに聞いているようだ

「なぁプロデューサー、ここのMemoriesって誰が歌うんだ?」

奈緒が見つけたのはアタシと奈緒の曲の間にある曲だったが
確かに歌手の欄は空白になっている

「もしかしてサプライズゲストってやつか!?」

「それをここに書いていたらサプライズにならないだろ…?」

Memoriesといえば、シンデレラガールズでの先輩ユニット「LOVE LAIKA」の曲で
クールの二人ユニットの代表的な存在と言っても過言では無い

「でも今回福岡にはLOVE LAIKA来ないよね?」

アタシは奈緒とプロデューサーさんの会話に混ざりに行く

今回のライブは346プロ全体でのライブツアーの一つで
各地方ごとに出演するアイドルが違うということで
LOVE LAIKAの二人は今回は福岡では無いところで参加すると言うことは聞いている

「おう、この曲はLOVE LAIKAじゃない人に歌ってもらうぞ」

「LOVE LAIKAじゃない人に?」

「それってだれに?」

アタシと奈緒の頭に?マークが浮かんでいるところに
遅れてきた他のメンバーも入ってきた

「あのー私の『おかしな国のおかし屋さん』の横に王子役って書いてあるんですけど今回は誰なんですか?」

他の人のところにも空白の欄はあるみたいで
みんな口々にプロデューサーさんに質問していく

「あ~もうわかったから、説明するから待てって!」

プロデューサーさんは一人一人に説明していき空白の欄が埋まるごとに歓声が上がったりしている

「んで、最後はMemoriesの話だな」

プロデューサーさんはアタシたちを見ながら話を進める

「この曲は神谷奈緒、北条加蓮の二人で歌ってもらう」

「「はぁ!?!?」」

アタシと奈緒の声が重なる

「だってMemoriesだろ!?」

「そんな先輩の曲をアタシたちが歌っても良いの!?」

「歌っても良いの?って言われてもな」

「あのあの…著作権とか…いろいろあるだろ!?」

「何言ってんだ、この曲についてはLOVE LAIKAの曲である前に346プロの曲だし」

プロデューサーさんは一呼吸入れて

「LOVE LAIKAの二人にもちゃんと許可貰ってるぞ」

「あの二人が…」

「アタシたちに歌ってもいいって言ってくれてるのか…?」

「あぁ、二人とも楽しみにしてるってさ」

プロデューサーさんは軽く笑うと全体の説明に戻っていった

「ねぇ…奈緒?」

「なんだ…加蓮…」

「これは大変なことになっちゃったね…」

「そうだな…」

アタシたちはその後なんにも話が耳に入らなかった
福岡公演はまだ先なのに期待に胸が高まっているのか不安に押しつぶされそうになっているのかわからなくなってしまっていた

「あぁぁぁあ!!!!!」

レッスン室に響き渡る絶叫にも似た悲鳴

「奈緒?どうしたの?」

「加蓮…Memoriesってこんなに踊るの難しいんだな…」

セットリストの発表からしばらく経ってライブに向けたレッスンが始まっていた
しかしそのレッスンの時間を全部使っても奈緒にとってはMemoriesのダンスは難しいみたいで、ずっと同じミスを繰り返している

「普段とは違う向きで踊ったりしなやかに踊ったりさぁ…」

奈緒はスポーツドリンクを飲みながら自分が何でできないかの分析を始めていた
本人の顔は少し疲れている顔をしてはいるけど
顔色も良い…と思う

「これ…ほんとに間に合うかぁ?」

奈緒の口からは弱音が出るようになってきていた
基本的に前向きな奈緒が弱音を吐くのは珍しいような気がする

「ほーら、アタシだってしんどいんだから。もうちょっとがんばろ?」

アタシは奈緒に手を差し伸べる
しかし奈緒はアタシの言葉を聞いて少し顔が曇る

「加蓮…ごめんな」

「どうしたの?」

奈緒は曇っていた顔がいきなり泣きそうな顔になる
そしてアタシに謝罪の言葉を告げる

「どうしてもこの曲できなかったらアタシ…誰かに代わってもらうよ」

奈緒はアタシにそんなことを言ってくる
アタシ自身も自分の曲の振り付けなどで頭がいっぱいいっぱいになっていて
奈緒のこの一言がきっかけでピンと張り詰めていた糸が緩んでしまった

「奈緒…」

アタシは落ち込んでいる奈緒に何にも言うことができずにただ…時間が過ぎていった

その後奈緒はソロ曲のレッスンがあるからといって別のレッスン室へと移動していった

アタシはその場に一人でいるのが苦しくてレッスン室から出て
近くの自動販売機のある休憩室に向かった

「あれ?加蓮ちゃん?」

誰かが声をかけてくる

後ろを振り返るとLOVE LAIKAの一人である新田美波さんがレッスン着に身を包んで立っていた

「新田さん…どうしよう…」

「え?」

アタシはいきなり新田さんに泣きついていた



「ふんふんなるほど…」

「だから奈緒になんて言えば良いかわからなくなって」

アタシはさっき奈緒との出来事を包み隠さず新田さんに伝えた

「確かにMemoriesのダンスって難しいよね、私も何回も失敗しちゃったし」

「新田さんも?」

「うん、私たちどっちもあの振り付けには苦労したんだよ?」

「そうなん…ですか…」

「確かに加蓮ちゃんがいろんな曲の練習で忙しいのはわかるけどね?」

新田さんは少し厳しい目線になって

「だからってアタシだってしんどいとかはダメだと思うな」

「…あっ」

「加蓮ちゃんはきっと奈緒ちゃんが大変なのをわかってて励ますつもりで言ったこと何だと思うんだけどね?」

アタシは自分が今の奈緒にどれだけ負担のあることを言ってしまったのか
奈緒だって大変なのはわかっていたはずなのに

気がついてしまったら自責の念を止めることができなくなっていた

「ごめん…奈緒…」

無神経な一言を言ってしまっていた
アタシが辛いのに、奈緒が辛くないわけがない

「加蓮ちゃんってね、奈緒ちゃんのことどんな風に思ってるの?」

「どんな風にって?」

「例えば同じアイドルをやってる仲間だったり、先輩だったり」

新田さんはアタシの目をじっと見てくる
もうさっきの厳しい目ではなくなっていた

「奈緒…」

アタシにとっての奈緒は…

「仲間…違うな…」

アタシは奈緒の姿を思い浮かべる
いつも誰かしらにいたずらされたりからかわれていたりしながらも
決して誰かを嫌うと言うことはなく
いつだって純真無垢な人値の少女のこと




「親友でありライバルでもある…大事な相方です」



アタシは言葉を口につぶやく
頬を暖かい何かが伝う

「新田さん…」

「うん、奈緒ちゃんきっと待ってると思うよ」

「うん、ありがとう」

アタシはその言葉を言ったと同時に駆けだしていた
何にでも一生懸命な相方の元へ…

~奈緒SIDE~

「逃げ出してしまった…」
あたしは加蓮の些細な一言でピンと張っていたあたしの心の糸は緩んでしまった
加蓮だってあたしを励ましてくれようとしていた…はず?
いくら加蓮だってあの一言を本気で言ってるはずが無い

「アタシだってしんどいんだから」

そんな一言でついカッとなってしまった

「はぁ…情けないなぁ」
自問自答のように口に出す
口に出してしまうと逃げてしまった自分がもっと情けなく思えてきて
こんな時はだれかと話していたかった
「まぁこれからレッスンなんだけどな」
これからの予定をぶつぶつ言いながら次のレッスンルームに移動する

「こんにちわー」
レッスンルームの扉を開いてトレーナーさんに挨拶する
「うん、奈緒ちゃんこんにちは」

お、今日はルーキートレーナーさんか
いつもより心が元気では無かったから、今こんな時にしんどいレッスンなんて来たらすぐに心が折れてしまうだろうな

「ほら!奈緒ちゃん!!ステップ遅れてるよ!!!」
「はい!!!」

レッスンが始まって30分
さすがに自主練から続いてるからなのか、自分でも疲労しているのがわかるようになってきた

「奈緒ちゃん、少し顔色悪いけど大丈夫?少し休憩挟む?」
「いや、大丈夫です!まだやれます!」

そういったときアタシの視界が眩む


「奈緒ちゃん!!!!!!!」



気がついたらあたしは


レッスンルームの床に倒れ込んでいた

「奈緒ちゃん!!大丈夫!?」
トレーナーさんが慌てているのがわかる
「だ…大丈夫です…」
膝をついてゆっくり立ち上がろうとする
けど力が上手く入らない

「早く!!私に捕まって!保健室行くよ!!」
トレーナーさんはあたしの腰を支えてゆっくり立たせる

ゆっくり歩き出した時に目の前に誰かがゆっくり歩いてくる

「アー、ナオ?どうしましたか?」

声をかけ来たのは今回Memoriesを元祖歌っていたLOVE LAIKAの一人で
何回かユニットでも一緒に活動しているアナスタシアだった

「アーニャちゃん!良いところに!ナオちゃん運ぶの手伝ってもらえる?」

「トレーナーさん?わかりました」

アーニャはトレーナーさんと逆の方を支えてゆっくりと歩いてくれた
あたしはそこからの意識は無い

~加蓮SIDE~

「奈緒!!!」
アタシはレッスンルームの扉を勢い良く開ける
しかしそこには誰もおらず、奈緒のタオルと水筒が乱暴に置かれているだけだった
「…奈緒?」
もしかしてアタシの言ったことが原因でほんとにやめてしまうの?
このまま奈緒が無くなったらアタシはどうしたら良いの?
「奈緒ぉ…」
アタシはそうつぶやくと床に倒れ込んでしまった
流れていた涙は走っているうちにかわいてしまっている

虚無感


今のアタシの心を表すのにはその一言で十分だった

あれ?アタシなにしてんだろ?

いつもからわがままばっかりで周りに迷惑ばかりかけて
今回なんて周りに気配りができずに大事な人を傷つけてしまった

取り返しの付かないことなのかもしれない

「あれ?加蓮ちゃん?こんなところでどうしたの?」

後ろから声をかけてきたのは
今日奈緒のレッスンを見るはずのトレーナーさんだった

「トレーナーさん!!奈緒は!?!?」

アタシはトレーナーさんの腕にしがみつき、自分でもびっくりするくらいの大きな声を出していた

「奈緒ちゃんならレッスン中に体調が悪くなってしまって、保健室で寝てるよ?」

「奈緒が…?」

「うん、30分くらいレッスンはできてたんだけど顔色悪かったから休憩させようとした時にね、ふらっと」

きっと奈緒は自分の身体の様子なんてわかってたに違いない
でもアタシとのユニット曲の練習に自分のソロ曲の練習にさらに自主練までやって
それでも人の心配ばっかりして、自分だけ無理して


「バカっ…!!」

「加蓮ちゃん!?」

アタシはトレーナーさんの横をすり抜ける
そしてレッスン室を出て保健室へ駆け抜けた

~奈緒SIDE~

「ん…っ?」
あたしが目を覚まして一番に見えたのは白い天井だった

「アー、ナオ?起きましたか?」

横に目をやると白い髪の毛をした少女が座っていた

「アーニャ…あっ!!レッスン!!!」

起き上がろうとすると頭がふらっとしてあたしの頭はもう一度枕にダイブしてしまう

「ナオ、まだ調子が良くないなら寝ていてください」

アーニャはあたしをたしなめるように布団を被せてくる

「ナオ?なんで倒れるほど無理したんですか?」

あたしが無理していたのは周りには丸わかりだったらしい
あたしは観念してアーニャにセットリスト発表からの出来事を打ち明けた
Memoriesのダンスが上手く踊れないこと
あたし自身がそのことにイライラして加蓮の励ましにひどい対応をしてしまったこと

「アーニャ達はすごいよ…なんか特別なにかで繋がってるみたいで、ハハッ…あたしには真似できないや」

「…ナルホド」

アーニャはあたしの話に口を挟むことなく最後まで聞いてくれた

「ナオは、勘違いをしています」

「勘違い?」

「私達は決して特別な何かがあるわけじゃ無いですよ?」

アーニャはあたしの目を見て語り出す

「確かにミナミは大事な人です、でもたまにはけんかもします」

「そうなのか?」

「加蓮もナオにひどいこと言いたかったわけじゃ無いと思います、ナオも心の中ではわかってるでしょ?」

アーニャの言ってることは間違いなかった
加蓮があたしに意地悪で軽口を言ってくるわけじゃ無いって

「ナオ?ナオにとって加蓮はどんな人ですか?」

「ん?どういうことだ?」

「私にとってミナミは変えることのできない大事な人だと思っています」

アーニャは目を閉じて新田さんを思い浮かべるように、そしてその情景をかみしめるように話し続ける

「きっとミナミも私のことをそう思っている…そう信じてます」


「ナオにとっての加蓮はどんな人ですか?」


あたしにとっての加蓮…
そりゃいつもいたずらしてきたり
憎たらしい口をきいてきたり
あたしのことを年上だなんて一切思ってないだろうな…

でも、そんな日々があたしにとって大切で
加蓮の居ない日々は考えられない




「あたしにとって…加蓮は…」



~加蓮SIDE~

アタシは保健室の前に立っていた
すると扉がガラっと開き、中からアーニャが出てきた

「アー、加蓮…ナオはベットで寝てますよ」

アーニャはアタシの顔をみて微笑みながらそういった
まるで何もかもをわかっているみたいに


「うん、ありがと」

アタシは奈緒の居る保健室へゆっくりと入っていく

「…奈緒?」

一言そういうとベットを囲むカーテンの中からびっくりしたようないつも聞いている声が帰ってくる

「加蓮!?おまえ!なんでここに!!」

アタシはカーテンを勢いよく捲り、ベットから起き上がっていたアタシの大事な人に抱きついた

「ちょぉ!?いきなりなにすんだ!!」

「奈緒…ごめんね?」

驚いてアタシの身体をがっしりとつかんでいた奈緒はその一言でゆっくり力を抜く

「アタシの方こそ…八つ当たりしちゃってたみたいだな、ごめん」

奈緒はアタシを優しく抱きしめながらつぶやく
こんなに暖かくて優しい存在がアタシを守ってくれてたんだ…

アタシは優しく奈緒を抱きしめ返した

その後はと言うと、奈緒は倒れるまでやったと言うことがPさんにバレてしまい
奈緒はみっちり怒られてしまったらしい

トレーナーさんに自主練のスケジュールまで決められてしまったけど
その自主練にはなんとLOVE LAIKAの二人も参加して
忙しい中付きっきりで練習を手伝ってくれた

そしてライブ当日

「ついに来ちまったな…」

奈緒はガチガチに緊張していた

「大丈夫だよな…あんなに練習したんだし…」

イスに座ってネイルをしているアタシの目の前で同じことを何回も言っている

「大丈夫…大丈夫…」

「なーお?手、出して?」

アタシが奈緒に手を差し出すと奈緒は素直に手を添えてくる

アタシはその奈緒の緊張で冷たくなったきれいな指先の爪に
奈緒のイメージによく良く合った青のネイルを施す

「これで良し…っと」

「加蓮…」

「あんなに練習したんだから大丈夫に決まってるでしょ?」

そう言うと奈緒の顔はペカーと明るくなり

「だよな!!よーしやるぞー!!」

と言い始める

「北条さーん、次Frozen Tearsでーす」

アタシのソロ曲の順番を告げに来るスタッフさん

「はーい、今行きまーす!」

「加蓮!」

ステージに向かおうとするアタシを奈緒が呼び止めた

「ステージ!暖めておいてくれよな!!!」

奈緒は笑顔でそう言う

「うん、任せといて!」

そう宣言してアタシはステージに立った

「煌めきに包まれ…今、いつかの涙の粒が希望の星に変わてゆく♪」

『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ』

アタシがゆっくり歌い上げると会場内は拍手と歓声に包まれる

そしてMemoriesのイントロが流れ出す…

観客の歓声はざわめきに変わる
そりゃそうだ、歌うアタシたちだって聞かされた時はびっくりさせられたんだから

そこにステージ袖から奈緒が走ってくる

ここからはアタシたち二人のステージだ


観客のざわめきはだんだん歓声に戻っていき
アタシたちの歌声に合わせるようにペンライトの海は前後に左右に揺れていく


奈緒もあの難しかった左右反対のステップも難なくこなした

そのときアタシと奈緒の目線が合った

「やったぞ!!加蓮!!!」

そう言いたげな目線に
「やったね、奈緒!」

そう目線で返す

伝わっているかわからないけど、伝わってたら…いいな

この曲は独りよがりだったアタシたちをつなげてくれた

ねぇ奈緒、このライブでアタシたち強くなれたかな?
アタシたちらしく歩き始められたかな?

「「ハローグッバイ 綺麗に輝くの~♪」」

二人で綺麗に歌い上げた旋律がだんだん小さくなる
会場は一瞬の静寂を迎える

奈緒の吐息が聞こえる
「加蓮…ありがとなっ」
ぼそっと奈緒がそう呟く

アタシが呆然としている間に会場は一斉に揺れるような大歓声に包まれる

そして奈緒のソロ曲のイントロが流れ始める

アタシは舞台袖に捌ける

後ろを振り返ると

奈緒がステージからどこまでも続く光の海に向かって叫んでいるようにも見えた


アタシはそんな奈緒に見惚れてしまった


時間は進み、その日の夜
アタシたちの出番は後半の方だったから
あの後はすぐにアンコールに入って公演は終了となった

「福岡公演!1日目お疲れさまでしたぁ!」
今回のセンターだったかな子の挨拶から始まった打ち上げは
ただただみんなでご飯を食べておしゃべりするという簡単なものだった
奈緒のソロ曲に感動したらしい他のメンバーから囲まれてやいやいされている奈緒を横目に見ながら、アタシは福岡名物の明太子のソースがかかっているポテトを一人つまんでいた


「加蓮!!たすけてくれよぉ」

奈緒の情けない声が聞こえてくる

「しょうが無いなぁ」

アタシはやれやれといった表情を作りながら奈緒が囲まれているところに向かう

「あっ!!加蓮ちゃんもよかったよ!!」

気がついたらアタシもその渦に巻き込まれてしまっていた


「はぁ…疲れた…」

「こんなんで明日のライブ大丈夫かよ…」

ホテルに戻った後アタシと奈緒で盛大にため息をつく
奈緒はベットに座り込んでしまっている
アタシは窓の近くに立っている

「みんな元気すぎるんだよなぁ…」

なーんて今日一日をしみじみと振り返っている奈緒
打ち上げの時にほとんど二人で話せなかったこともあって
アタシはそんな奈緒にいたずらがしたくなってきてしまった

「なーおー?」

「ん?なんだよ?」

アタシはこの福岡公演のMCの間に使った台詞を使ってからかうことにした



「奈緒…すいとーよ♡」


そういった途端に奈緒の顔がボッと赤くなる

「ばっ!!!いきなりなに言ってんだよ!!!」

「さぁ?なんでしょうね」

アタシはきっとこの先もこの二人で歩いて行くことになるんだろうな
そんな予感を胸に福岡の夜の空を眺めた

「なんでしょうねってなんなんだよぉ!!!!!」

アタシの大事な相方の叫び声を聞きながら…

HAPPY END

ここまでのお付き合いありがとうございました

そして福岡公演お疲れさまでした!!

この話はライブ中に思いついたネタを帰り道に必死に膨らませました

楽しんでいただけたなら幸いです

それではまた次回お会いしましょう

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