勇者「遊び人と大罪の勇者達」 (922)

【TIPS】

『大罪の力』

短命な寿命で生まれつく、賢者の一族がいた。

彼らは人間に巣食う7つの欲望を元に、禁忌の呪文を発動した。

儀式は失敗し、欲望は分裂し、7人の勇者の元に装備の形となって届けられた。

暴食の鎧
色欲の鞭
傲慢の盾
憤怒の兜
怠惰の足枷
強欲の腕輪
嫉妬の首飾り

欲望に応じた能力をもつこれらの装備の伝説は広まり。

7つの大罪、と呼ばれるようになった。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1501594739

遊び人「良いニュースと悪いニュースがあるの」

勇者「良いニュースから話してくれ」

遊び人「1試合目の賭けには勝って全所持金200Gが400Gになりました」

勇者「もう悪いニュースは話すな」

遊び人「……では、もう一つ良いニュースがあります」

勇者「なんだ」

遊び人「雨風を凌げそうな良い洞穴を見つけたの!」

勇者「でかした」

遊び人「えへへ」

勇者「えへへじゃねえ!!何全所持金使って遊んでるんだ!!今夜も野宿じゃねえか!!」

遊び人「ずびばぜん!!」

勇者「今度こそ財布係は俺がやるからな」

遊び人「そしたらギャンブルができなくなっちゃうよ!!」

勇者「だからだろうが!」

遊び人「財布なんて持ってたら戦闘に集中出来ないよ?」

男「関係ないだろ」

遊び人「敵にジャンプして斬りかかろうとしてる時に」

遊び人「『やべ、財布落としちゃうかも……』」

遊び人「って心配になっちゃって空中で後ろ振り返ってる間に返り討ちにされちゃうかもしれないんだよ?」

勇者「混乱呪文もかけられてないのにわけわからないことを言うのはやめてくれないか」

勇者「もう俺が管理するからな」

遊び人「ええー!!」

勇者「しつこいな!」

遊び人「勇者が管理することになって、勇者が寝てるスキに私がこっそりお財布取ってギャンブルしに行ったら本当に信頼関係終わるじゃん?」

遊び人「私が管理してれば、ギャンブルに行ってもまぁ私の管理の元だからセーフじゃん?」

勇者「それもはや管理してないからな。あとその発言でもはや信頼関係終わりかけてるからな」

遊び人「だ、大丈夫だって。次こそは必ず倍にして信頼を取り戻すから……」

勇者「ちっとも懲りてねえな!!」

~ほらあな~

遊び人「ふぅー、よっこいしょっと」

勇者「確かに寝心地はよさそうだ。町からそう離れてもいないし。魔物には気をつけないといけないが」

遊び人「町の片隅で寝た方がよかったかなぁ」

勇者「盗人の多い街だ。治安も悪い。ここの方が一夜を凌ぐには安全かもしれない」

遊び人「たしかに。お財布の中身もすっかりスラれてしまったし……」

勇者「お前がギャンブルでスッたんだろうが!!」

遊び人「ひぃっ!」

遊び人「洞窟の中は暗いね。身体も寒いなぁ。特に懐が寒いなぁ」

勇者「こっちのセリフだ」

遊び人「どうにかならないかなぁ」

勇者「ったく、しょうがねえな」

勇者は立ち上がり剣を構えた。

遊び人「勇者様、何を」

勇者「『太陽を追い求めし夜の女王よ。その黄金の輝きの一部を我が剣に授けよ!!』」

勇者「『アカリン』!!」

勇者は洞窟照らしの呪文を唱えた!

遊び人「…………」

勇者「しかし全く明かりは伴わなかった」

勇者「こんなの子供でも使えんのに。これだから呪文は嫌なんだよ」

遊び人「いや、ちゃんと発動しているみたいだよ。剣の先を見て」

勇者「ほんとだ。蛍光性の昆虫並に微かに光ってる」

遊び人「暗いだなんてわがまま言ってごめんね。勇者の気持ちだけで太陽に照らされたような気分だよ」

勇者「そういうやさしさは心が曇るからやめて」

遊び人「洞窟の中に魔物はいないようだけど、草原からは生き物の気配がするね」

勇者「交代で見張りをするか?」

遊び人「私は多分寝ちゃうよ」

勇者「俺も多分寝ちゃうと思う」

遊び人「詰んだね。全滅だ。タラララタラララタラララタララターラララー」

勇者「まあそんなに危険な魔物もいないだろ。どこぞの勇者様が魔王を葬ったこのご時世だしな」

遊び人「誰も魔王の亡骸を見ていないそうだけど」

勇者「亡骸よりも生体だよ。人間の住むどの場所にも現れなくなったし、実際瘴気も随分晴れたじゃないか。魔物の数もずっと少なくなった」

遊び人「そうだけど……」

勇者「死んでるかニートしてるかわからん魔王の話より、今は目下の心配をしよう。小さな魔物でも寝込みを襲われたらどうしようもない」

勇者「なんなら、今日いた町で俺に声をかけた商人の女の子が寝込みを襲ってくるかもしれん。やくそう買った時にめっちゃ俺の手握ってお釣り返してきてたもん」

遊び人「うわっ……男性って常に惑わしの呪文をくらってるの?というか、やくそう余ってるのに買ったのはそういうわけだったのね!」

勇者「なんだよ。やきもちかよ」

遊び人「はぁ……感心するわ」

勇者「なんだよ。お前こそどうなんだよ」

遊び人「私こそ心配が付き物ですよ。私の魅力にあてられた男性が、夜の魔物となって襲ってこないか心配で心配で。たった今もそばにお釣りニギニギ男Aがあらわれていますし」

おつりニギニギ男Aがあらわれた!

しかし、かんちがいをしている!

勇者「何エンカウントした風にしてるんだよ。かんちがいってどんな異常状態だよ」

遊び人「商人の女の子はにげだした!」

勇者「何言ってんだ。俺はその辺は紳士だからな、大人なバニーガール様にしか手を出さないと決めてるんだ」

遊び人「ふーん」

勇者「お前もどうしても俺に身も心もニギニギされたくなったら、バニースーツを着るんだな」

遊び人「絶対着ないし!!」

勇者「いつも思うんだが、どうして村娘みたいな格好をしてるんだ!!」

遊び人「恥ずかしいから着ないって出会った時に言ったじゃない」

勇者「どうして遊び人という職業でありながら、バニーガールの格好をしないんだぁあああああ!!!!」ドン!!

遊び人「いきなり激昂しないでよ!!」

勇者「一度でいいからバニーガールの格好をしてくれ!!頼むぅううう!!!」

遊び人「懇願に変わってるじゃない!!」

勇者「拝むだけ!!拝むだけだから!!さきっちょ拝むだけだから!!」

遊び人「とかいって全部拝む気でしょう!!絶対イヤ!!恥ずかしい!!」

勇者「恥じらいがあるバニーガールは加点だぞ!!」

遊び人「そんなに好きなら勇者が着ればいいじゃない!!」

勇者「……ハッ!」

遊び人「なに気づいたみたいな顔してんのよ!!それこそ絶対やめてよね!!」

遊び人「はぁ…はぁ…」

勇者「バニースーツ論争の続きはまた明日だな……」

遊び人「もうしません」

勇者「疲れたし俺は寝る。見張りは頼んだ。そして明日論争の続きをしよう」

遊び人「そしたら私は意地でも二度寝するからね」

勇者「だったら俺は三度寝してやるよ」

遊び人「じゃあ私は四度寝するよ」

勇者「どうぞどうぞ!!」

遊び人「本当にするよ?」

勇者「言ったからにはやるんだからな」

遊び人「わかった」

勇者「まあ四度寝してる間にバニースーツを着せるけどな」

遊び人「…………」

勇者「おやすみ」

遊び人「…………」

勇者「…………」

遊び人「…………」

勇者「いや、着せないよ?」

勇者「冗談だって!!ごめんって」

遊び人「…………」

勇者「わかった!着せないし二度寝していいから!!」

勇者「だからそんなに怒らなくても……」

遊び人「……zzz」

勇者「もう寝てんのか!」

勇者は見張りをした。

勇者は眠気をこらようとふんばっている。

勇者は考えた。

この眠気で魔物に襲われたら、どうせまともに戦えまい。

だったら寝ても変わらない。

寝てしまおう。

いや、寝ては駄目だ。

仲間を守る使命がある。

しかし、眠るのは気持ちがいい。

寝て体力を休めて、全力で魔物と戦おう。

そうしよう。

勇者「……zzz」



魔物の群れがあらわれた!

遊び人はのどをくいちぎられた!

勇者ははらをひきさかれた!

パーティは全滅してしまった!

遊び人「ぶはっ!!」

遊び人「はぁ……はぁ……」

勇者「生き返ったか」

神官「お目覚めですね」

遊び人「あれ、昨日たしか洞窟で寝て……」

遊び人「うわっ!この神官めちゃ身体でかい!!」

神官「ふふふ」

遊び人「昨日寝て、そして、たしか、ええと……」

勇者「いったん外に出るぞ。遊び人が死んでいた3日間について話す」

遊び人「3日間!?」

TIPS

精霊の加護。

勇者の身体の中には精霊が宿っている。

勇者一行のパーティメンバー(4人まで)は、戦闘・事故などで死んだ瞬間、身体が棺桶の中に即座に保管される。

その間、パーティの魂が現世を離れぬよう、精霊が魂を勇者(生体・死体問わず)の近くに束縛し続けてくれる。

パーティーメンバーが全員死亡した際には、魂は神官のもとに届けられ、精霊の宿りし肉体を持つ勇者のみ肉体を再生、魂と肉体の結合をさせられ蘇る。

蘇った勇者は、金銭を神官に支払い、仲間の蘇生を依頼する。

勇者「俺が見張りをしていたあの夜、見たこともないほどの巨大な魔物が現れた。必死で戦ったんだが、あらゆる剣技も呪文も通用しなかった」

勇者「もしかしたら、あれが行方をくらませた魔王だったのかもしれない……」

遊び人「勇者……」

勇者「俺だけ教会で復活し、遊び人の蘇生代金を貯めながら旅を続けた。目的の村にたどり着き、またこうやってお前と無事再会できた。これからもよろしくな!」

遊び人「……そうだったのね。ごめんね、勇者」

勇者「気にすんなって。失敗や寝落ちは誰にでもあるさ」

遊び人「ありがとう。勇者、やさしいね」

勇者「へへ、まぁな」

遊び人「ところでさ、どうしてさっきから目を合わせないの?」

勇者「へへ、まぁな」

遊び人「…………」

遊び人「それにしても、この村すごいね!!」

遊び人「巨漢しかいないよ!!」

勇者「ああ。あそこの武器屋の前でケバブを食ってる商人もデブ、宿屋の前で飯食ってる魔法使いもデブ、飯屋に並んでる間に飯を食ってる村人もデブだ」

遊び人「そしてここで寝転びながら話を聞くナイスバディなレディ」ゴロン

勇者「そして逞しいボディで寝転ぶダンディーな勇者」ゴロン

遊び人「もう一度聞いていい?私が死んでる間に何があったの?」

勇者「一緒に洞窟で死んで、教会で俺だけ蘇ったあと、たまたまこの村に向かう商隊を見つけたんだ」

勇者「夜で暗かったのもあって、最後尾の馬車に遊び人の棺桶をくくりつけてな。俺もその上に座って、優雅に星空を眺めながら」

勇者「いや、その商隊のあとを見失わまいとお前を必死で引きずりながらこの村に向かったんだよ」

遊び人「今の言い直しは聞き逃せないんだけど?」

勇者「なんにせよ、よかったな。早速最初の目的地について」

遊び人「なんだかモヤモヤするけど……」

遊び人「あのさ、勇者。もしかしなくても、この村って」

勇者「ああ。俺達が目指していた最初の地」

勇者「『暴食の村』だ!!」

お斎(オトキ)。

ある東洋の国では、僧侶は飲食を謹んで心身を清め、神事を行っていた。

口にするのは精進料理という、殺生や煩悩への刺激を割けることを目的とした質素な食事であった。

七七日(なななぬか)法要の際の食事においても、お斎が振る舞われる。

亡くなった者は七日ごとに閻魔大王の裁きを受け、四十九日目に極楽浄土に行けるかどうかの判決がくだされる。

法要終了後、遺族は僧侶や参列者に対する感謝を示し、また故人を偲ぶ目的をもって、お斎を振る舞う。

生死・宗教を象徴する場においても、食事は重要な意味を持つ。

食すだけが食事ではない。

食事を控えることでしか、避けられない罪があるのは、この国だけの話ではない。

【第一章 暴食の村 『胃袋を開く鎧』】

いただきますと、ごちそうさまを、忘れない。

遊び人「ここはなんて名前の村ですか?」

案内人「ここは…モグモグ……ムシャムシャ…」

案内人「このお肉は……ラム肉!!」

遊び人「あの、この村はなんて名前の村ですか?」

案内人「このラム肉は……モグモグ……ゴクリ……」

案内人「この肉は、ラム肉!!」

遊び人「ラム肉じゃなくて!この村の名前は!?」

案内人「このラム肉の名前は……」

遊び人「だーかーら!」



勇者「おう、遊び人。道具買っておいたぞ」

遊び人「ねえ勇者。この村の人常に何かしら食べ物口にしてない?あの道具屋も、武器屋も、宿屋の店主も何か頬張ってたし」

勇者「そうだなぁ」ムシャムシャ

遊び人「勇者もじゃないの!なんなのよ!」

勇者「この豚肉はハムといってな……」

遊び人「もうその下りいらない!!」

遊び人「ここは今では暴食の村よ呼ばれる場所でしょ!自分が何を口にしてるかわかってるの!?」

遊び人「7つの大罪の一つ『暴食』に関わる大罪の装備によってこの村の食物に影響が起きたのよ」

遊び人「この村の人を見てよ。みんなぶくぶくぶくぶく不健康に肥ってる。数年前まではこんなんじゃなかったって聞いたよ?寿命に影響をあたえるほど不健康なものが生み出されてるに違いないわ!」

勇者「まあまあ。お前にはこれやるから」

勇者は乾いたパンを手渡した。

勇者「大罪の力は寿命を削る。忘れちゃいねーさ。だから、お前は安心してこれを食え。3つ前に寄った村で買ったものだ」

ボロボロ…

遊び人「…………」

遊び人「……勇者はどうすんのよ」

勇者「この村の飯は、美味いくせにかなり安いんだ。普通にここのを買って食うよ」

遊び人「どれだけ身体に作用を及ぼすかも知らずに?」

勇者「俺は酒も飲まないし、葉巻っていうやつも吸わない。あれだって健康に悪影響与えるって話だぜ?」

勇者「それらをやってないんだから、ちょこっと飯食うのも変わりないだろ」

遊び人「駄目よ!!」

勇者「食料だって限られてるんだ。以前の村で入手した食料は全部お前にやる。俺の分はない」

勇者「俺がここで飲まず食わずで餓死して死んだらそれこそ意味ないだろ?空気を吸って死ぬより毒を食らって生きるさ」

遊び人「でも……」

勇者「話してたらまた腹減ってきた。あの飯屋に入るぞ」

遊び人「ちょっと!!」

勇者「うわぁ、うまそう!!なんだよこのコッテリと乗った油は!この肉たったの30Gだぜ?」

遊び人「…………」ゴクリ

勇者「そんじゃ、いただきまーす!」

遊び人「いただきます……」

勇者「う、う、うめぇ!!!」モグモグ

遊び人「…………」パサパサ

勇者「こりゃあ。こりゃあ酒とか葉巻がやめらんないやつの気持ちもわかるぜ!!やめたくてもやめられねーんだな!」

遊び人「…………」パサパサ…

勇者「くぅー!!最高!!大罪の力バンザイ!!!」

遊び人「…………」

勇者「わ、わりぃ。今のは、不謹慎だったな。わりぃ……」

遊び人「一口」

勇者「えっ?」

遊び人「ひとくち!」

勇者「あー、どうぞ?」

遊び人「う、うう!?」

勇者「うう?」

遊び人「うっ!!」

遊び人「うんまいぃいいいい!!!なんじゃこりゃ!!」

勇者「だろ?」

遊び人「うう……おいしいよお……」モグモグ…

勇者「旅の時はひどいもん食ってたからな」

遊び人「こんな美味しい食事食べたのいつぶりだろう」

勇者「ああ。俺も2日ぶりくらいかもしれん」ムシャムシャ

遊び人「めっちゃ近いじゃん……何私が死んでる時にうまい飯食べてるの……」ムシャムシャ

勇者「…………」ムシャムシャ

遊び人「蘇生代金たまるの遅れたのって……」

勇者「マスター、こんばんは。ここのご飯最高ですね」

遊び人「話を逸らすな!」

店長「へへっ、どうも。あんたら冒険者か。この村に来るのは初めてか?」

勇者「はい。商人の見習いとして今は色んな街を巡っています」

店長「へー、珍しいね。だったらこの村に来たのは幸いかもな、食料ビジネスならすぐに手をつけられるぞ」

勇者「こんな美味しいご飯を食べたのは初めてかもしれません」

店長「しばらく前まではこの村も普通の質素な飯しかない街だったよ」

遊び人「食物が異常に成長をし始めたとお聞きしました」

店長「そうなんだよ。みんな不思議がってたな。魔王がいなくなって瘴気が薄れたからだってみんなは信じてる」

店長「でも俺は変だと思うんだよな。この村以外じゃそんな話聞かないからな」

店員「タイミングとしても、魔王が姿を消す前から飯は異常に美味く、育つようになりはじめていた。家畜も野菜もな。人間もぶくぶく肥えてきはじめてた。俺自身野菜を栽培してるからわかるんだ」

店員「俺は思うんだ。あいつらが来てから、この村に変化が起き始めたって……」

遊び人「あいつら?」

店員「窓の外を見てみろよ。あそこに豪邸があるだろう?」

勇者「富豪が住んでるんですか?」

店員「農家の家だよ」

遊び人「農家ってそんなに儲かるんですか」

店員「実は、元商人の旅人だったんだ。数年前にこの村にやってきたんだ」

店員「肥沃とはいえないこの土地で、やつらが食物を育て始めた時はみんなが笑ったよ。けれど、この村で育てたものは途端にぶくぶくと育ちはじめた」

店員「ガリガリのあばらの浮いたやつばかりだったこの村も、今じゃぶくぶくの人間ばかりだ。これじゃあどっちが家畜かわからんね」

店員「今では冒険者もよく訪れるようになった。そしてみんなここが気にいって居座っちまう。本来の旅の目的も後回しにしてな」

店員「生きるために食べるか、食べるために生きるか、それが問題だ。って話だよ」

遊び人「勇者、間違いないね」

勇者「ああ」

遊び人「この村が7つの大罪の地の1つ『暴食の村』と化してしまったのは、富豪が持つ大罪の装備による影響のせい」ムシャムシャ

遊び人「暴食の装備を持つ者があの屋敷にいる。そして、装備はこの村の食料に影響を与え始めた」ムシャムシャ

勇者「ああ。そしてこの村の食べ物をたべた者は飯中毒になる」ムシャムシャ

勇者「自分の食欲もコントロールできず豚となり下がる」ムシャムシャ

遊び人「哀れな末路だね」ムシャムシャ

勇者「自分が食べているものが麻薬だとも知らずに」ムシャムシャ

遊び人「寿命を減らすような危険なものだとも知らずに」ムシャムシャ

勇者「きっと知っても尚やめられないほどに中毒になってるのだろう」ゴクリ

遊び人「胃袋に理性を支配されてしまうのね」ゴクリ

勇者・遊び人「おかわり!」

勇者「今すぐにでもあの屋敷に行こう」

遊び人「なんて言って入れてもらうの?」

勇者「大罪の装備をください」

遊び人「私なら断る」

勇者「それじゃあどうすりゃいんだよ」

遊び人「記事書きのふりをして、商売成功までの道のりをインタビューするとか?」

勇者「本人たちは、自分が持つ装備がどんな影響を与えるか知っていて商売をはじめたに違いない。聞かれたくないんじゃないか」

遊び人「こっそり屋敷に入って、盗むしかないのかなぁ」

遊び人「それにしても、どうして食料ビジネスなんか始めたんだろうな。金持ちになりたかったのかな」

勇者「わかった!」ポロ

遊び人「ご飯が口からこぼれてるよ」

勇者「富豪は、世界征服を目論んでいるんだ。暴食の装備の強大な力を使って食物を育て、人々の胃袋から支配し始めたんだ」

遊び人「嫁志願者みたい」

勇者「それか、極度の肥え専で、痩せてる人を根こそぎ世界から消すつもりなんだ」ポロ

遊び人「また食べ物こぼしてるよ」

勇者「目的は何にしろ、まずはストーキングをして正体を見極めないとな」

遊び人「それしかないかぁ」

勇者「ああ。やっと冒険らしくなってきたな」ムシャムシャ

遊び人「うーん?」ムシャムシャ

勇者「飯を食い終わったらさっそく行こう」

遊び人「えー、いきなり?」

勇者「いや、食べたあと動くのはきつい。食べて寝たあとに出発するぞ」ムシャムシャ

遊び人「それには賛成!」ムシャムシャ





~数日後~

遊び人「ムシャムシャ」ムシャムシャ

遊び人「ムシャムシャ」ムシャムシャ

遊び人「ムシャムシャ」ムシャムシャ

勇者「よお、交代の時間だ。調子はどうだ?」

遊び人「やっぱり森の奥に行ってるみたい。ところでさ」ムシャムシャ

勇者「ん?」

遊び人「これ見張りっていうのかな?屋敷の近くに寝転んでご飯食べながら眺めてるだけじゃん」

勇者「まあまあ、事前調査が何より大事だ」

遊び人「確かに行動パターンは読めてきたね。屋敷に住むのは召使を除いて、男二人と女一人」

遊び人「あいつらの向かっている森の奥に行ってみましょ。農園や牧場以外に、何かあるかもしれない」

勇者「ああ、出発の時だな!!」

勇者「よいこらしょっと!」ドデン!

勇者「うう、きつい……」

遊び人「勇者、ちょっと肥った?」

勇者「なんだよ。そういうお前こそふと」

遊び人「なんですってえええ!!!」

遊び人「今なんて言おうとしましたぁあああ!!!?」

勇者「えっと、ふとっ……」

遊び人「言っちゃダメでしょおおおお!!!!」

勇者「理不尽!!」

遊び人「3大女性に言っちゃだめワードがなんですからね!!」

勇者「覚えておくよ……」

遊び人「さ、出発するよ!!」ドデン

遊び人「うぐっ……」

遊び人「な、なんのこれしき!」

勇者「あっ、その前に、準備を整えないと」

遊び人「準備?もう道具もってるじゃん」

勇者「お前の装備がもうぼろぼろだろ。ずっと同じのを着まわしてる。これじゃ貧しき村娘Aにしか見えん。新しい防具を買ってこい」

遊び人「でも、私の蘇生にも使ってもうほとんどお金ないんじゃ」

勇者「飯屋の手伝いを少ししてたんだ。だから手持ちにちょっと余裕ができた」

遊び人「えっ……うそ……」

勇者「さあ、行ってこい」

遊び人「勇者……」ジーン…

遊び人「本当にありがとう!!」

勇者「いいってことよ」

遊び人「行ってくる!!」タッタッタ…

勇者「さっき見つけた防具屋に、格安のバニースーツが売っててな。値段の割に艶がいい感じで……おーい!!そっちじゃない!!そっちは普通の防具屋だ!!おーい!!」

遊び人「見張りの交代をしてる時に、そんなことしてたんだね。情報収集だけじゃなかったんだね。まぁ私も薬草とか拾い集めたりしてたけど」

遊び人「ふふっ、うれしいなぁ。おじゃましまーす」

防具屋「いらっしゃい」

遊び人「(……巨漢の女主人だ)」

遊び人「どうしようかな。安くて、頑丈で、ちょっとおしゃれなのがいいな」

遊び人「うーん、迷うなぁ」

遊び人「…………」



遊び人「よし。この皮のドレスください」

防具屋「あいよ」

遊び人はお金を支払った。

防具屋「さっそく装備していくかい?」

遊び人「はい!」

遊び人は皮のドレスをそうびすることができない!

防具屋「おっと、装備できないようだね」

遊び人「えっ」

防具屋「Sサイズじゃ入らない。Mサイズ買いな」

遊び人「えっ!!サイズの概念なんて意識したことなかったんですけど!!」

防具屋「返品はきかないよ。売却はできるけど」

遊び人「まだ着てもいないじゃないですか!!手持ちももうないんですよ!!」

防具屋:いらっしゃい。なにをかいますか?

遊び人「急にテンプレモードで喋りだした!会話を放棄した!」

遊び人「なんとか着れないかな」

遊び人「うう…」ギチチチ…

遊び人「うう!!!きつい!!!しぬ!!はく!!」

遊び人「だめだ……」

遊び人「せっかく勇者がお金まで貯めてくれたのに……。サイズが小さすぎて入らないなんて言えないよ」

遊び人「決して私が大きいんじゃなくて、この村のサイズの規格が異なってたせいで小さくて着れないなんて言えないよ」

防具屋:サイズの規格は どのムラもおなじだよ

遊び人「テンプレモードで独り言につっこまないでよ!!」

勇者「あれ、買ったんじゃなかったのか?」

遊び人「まだしばらく泥臭い冒険が続くだろうと思ってさ。森の中への侵入が終わったら着ようかなって。汚したくないの」

勇者「森の侵入にそなえての防具購入のつもりだったんだが。まあ好きにしていいが」

遊び人「それじゃあ、出陣しましょう!」

勇者「ああ」




勇者「ひぃ、ひぃ、ふぅ……生まれる」

遊び人「や、やっと着いた。歩くだけで精一杯」

勇者「この森か」

遊び人「『私有地につき立ち入り禁止。野獣殺し・盗人殺しの罠多数有り』って書いてある」

遊び人「この先には農園や牧場なんかがあって、そこの食料を奪う魔物がいるんだろうね。富豪は罠の場所を把握しているのよきっと」

勇者「人間様の森に私有地も何もあるか!いくぞ!」カチ

ビュン!!

ザクリ!

勇者「    」

勇者はちからつきた。

勇者の身体をどこからともなく現れた棺桶が包み込んだ。

遊び人「…………」

遊び人「勇気と無謀を履き違えるべからずよ!!」

遊び人「うう、どうしよう。せっかくここまで登ってきたのに」

遊び人「勇者様を蘇らせるために、街に戻るのしんどいなぁ。移動の翼もこの街には売ってないし、手持ちもないし」

遊び人「それとも、この棺桶を引きずって街に戻るか」

遊び人「…………」

遊び人「勇者を蘇らせたところでまたすぐやられそうだし、ちょっと私だけで様子を見てみますか。よし、棺桶を引きずって……」

遊び人「うげ!?重っ!!なにこのかつてない重さ!!」

遊び人「うぐぅう……明日にでも痩せられそう……」ズリズリ…

遊び人「勇者はすぐに特攻するからなぁ。精霊の加護があるからって平気で死にすぎなのよ」

遊び人「蘇生代が安いのは助かるけど。もっといのちだいじにしてほしいなぁ」

遊び人「って、私も人のこと言えないか。この前だって三日間も棺桶にいたんだから」

遊び人「勇者は私の身を守るために防具まで買ってくれたんだ。私もここで頑張らなくちゃ」

遊び人「おっ、なんか人が通った形跡がある。この茂みの中を通っていくのか。ちょっとでも踏み外すと罠にひっかかりそうで怖いなぁ」

遊び人「見ててね、勇者。そして、見守っててね」

遊び人「私、進むから!!」

ヒュン!

カン!

ヒュン!

カン!

遊び人 E かんおけのたて

罠A、罠B、罠C、罠D、罠Eは勇者の棺桶に刺さった!

遊び人「最悪に不謹慎ですが、この盾便利です」

遊び人「罠がありそうな場所に押し出せば身代わりになってくれる。矢が刺さりまくっちゃうけど」

遊び人「勇者様、死後もお守り頂きありがとうございます」

遊び人「決して、私の死んでる間に美味しいものを食べてたことを思い出したわけではないですからね」

書き溜めたものを修正しながら投稿しています。

長編のため、分割しながら投稿していきます。

今日はここまでです。おやすみなさい。

遊び人「ん、あそこ。通路が整備されてる。それに、見張りもいる。この先に農園があるのかな」

遊び人「見張りの数は、1人。他にもまだいるのかな。そして、やっぱり巨漢だなぁ」

遊び人「勇者、ちょっと離れるね」

遊び人は棺桶を茂みの中に置いた。

遊び人「見張りのいる場所の奥まで行ってみたいけど、どうしたらいいかなぁ……」

ガヤガヤ……

遊び人「なにかしら、近くが騒がしい」

盗賊A「ここだな。噂の場所は」

盗賊B「食料を荷車に詰めて持ってくぞ。詰めるだけ詰めたら移動の翼で他の場所に逃げるんだ」

盗賊C「以前の街で盗んだ防具が役に立ちましたね。全身を覆う鎧なんてそうそう買えないので」

盗賊D「そろそろ女の一人でも盗んでいきたいところですがね」

盗賊E「ハハ!この村の女はごめんだがな!」

遊び人「(盗賊!!5,6,7……8人くらいいる。今時めずらしいくらい多いな)」

盗賊A「というわけでだ」

盗賊A「そこを通せ。でなければ力づくで通るぞ」

見張人の前に、盗賊A、B、C、D、E、F、G、Hが現れた!!

見張り「通せば命は助けてくれるのか?」

遊び人「(見張りさん一人じゃ勝てないよ!!盗賊はみんな痩せてるしはやそうだよ!!)」

盗賊A「盗賊が皆、人を殺すものだと思ってたら大違いさ。俺たちみたいに捕まりやすい職業こそ、大罪は犯さないものなんだよ」

見張り「そうであればこそ通さん。お前たちは大罪を犯せないのだろう?」

盗賊B「ああ。身ぐるみ剥がして、骨を折って、見つかりやすい場所に置いておくだけさ!!」

盗賊たちがかまえた!

遊び人「(やばいよ!!見張りさん逃げて!!)」

盗賊A「お前ら、殺さない程度にやれよ」

盗賊たちは剣を構えた。

見張人「大丈夫だ。俺も生きるつもりだからな」

見張人は食料を取り出した。

見張人「食事中の運動にちょうどいい」ムシャムシャ

盗賊「くそが!!食事中に戦うなんてマナーのなってねぇ野郎だ!!かかれ!」

盗賊たちは襲いかかった!

見張人「知るか。ここは暴食の村と化した」

見張人「今では、食べ物に、最も礼儀のない村だ」

見張人は剣を抜いた。

盗賊「ぐああああ!!」



遊び人「な、なにあの動き!」

遊び人「巨漢なのに、蛇のように盗賊たちの間をすり抜けて動いてる」

遊び人「間合いを取るのが上手いんだわ。1対多数でしかできない戦い方をしてる」



見張人「お前らの骨を全員折って、裸で道端に置いておけばいいんだったか?」

盗賊「な、なんだよこいつ!!!」

見張人「安心しろ。命だけは助けてやる」

盗賊A「お、お前ら!逃げるぞ!!」

盗賊たちはにげだした!

しかしまわりこまれてしまった!

見張り「逃げていいとは言ってないだろ」

盗賊Aは頭を掴まれ、茂みに顔を突き出された。

盗賊A「グヘッ!!」

見張人「食え」

盗賊A「や、やめてくれ……」

見張人「少し冒険していればわかるだろう。毒草だ」

盗賊A「こ、こいつぁちょっときついんじゃねぇか……」

見張り「食え。食っても死なないものだ」

盗賊A「…………」

盗賊Aは毒草を咀嚼しはじめた。

盗賊A「……うへぇ!!おぇええ!!!」

見張人「食え。もっとだ。残さず食べろよ。食べ物を盗もうとしてたんだろ」

見張人「食べても死にはしない。それどころか気付け薬にもなる代物だ」

見張人「ただ、おそろしく不味いだけさ」

見張人「わがまま言わず、食え。お前もだ」

見張人は倒れている盗賊Bの口に毒草を突っ込んだ。

盗賊B「おぇええ!!!ぐほぉっ!!!」

見張り「ほら。もっと食え」

見張り「ほら、お前も。お前もだ。食え、食うんだよ」

見張り「死にたくても、食え。それこそ、生きるためにもな」

見張り「俺も、かつて、そうしていたんだ……」

遊び人「(……なにあの見張人。ただの見張人じゃない)」

遊び人「(強さも異常だけど。あの感じ。あの禍々しさ)」

遊び人「(まるで、世界の残酷さを見てきたような……)」

見張り「さて、食後のデザートでも取るかな」ムシャムシャ



遊び人「(肉の挟まったパンでしょ!というかそれさっきも食べてたし!)」

遊び人「(よし、持ち場から少し離れたし、油断してる今の隙きに森の奥まで……)」

見張り「うまい、戦闘後の食事は最高だ……んっ?」

見張り「なんだあれは。戦闘中は気づかなかったが、近づいてみるか」

ザッザッ……

遊び人「(やばい!!勇者の棺桶!!)」

見張り「…………」

見張り「なんだこの棺桶は。おびただしい数の矢が刺さってるが……」

見張り「おい、お前ら!!これはお前らのものか!!」

盗賊C「ごほっ!!ごほごほっ!!おぇえ!!!」

見張り「答えろ!!」

盗賊C「し、しらねえよ……うぉえええ!!」ゴボゴボ…

盗賊Cは毒草の不味さに気絶した。

見張り「ああ。そうだろうな。棺桶を引きずって冒険する者なんか、この世界で数百人しかいないだろう。そしてお前らのような5人以上で群れるような蛮族とは無縁のものだ」

見張り「勇者よ!!隠れているんだろう!出てこい!さもなくば貴様の仲間の棺桶を八つ裂きにするぞ!!」

遊び人「(やばい!!ていうか、それが勇者の棺桶だからね!)」

?「騒がしいなあ。どうしたの剣士」

?「たまには森の様子も見ようかと思って一人で散歩してたけど」

?「あれ、盗賊倒れてんじゃん。やばっ。勇者呼んできたほうがいい?」

遊び人「(えっ、勇者!?)」

戦士(見張り)「魔法使い。外では軽々しく勇者の名前を呼ぶなと言ってるだろ」

魔法使い「いいじゃんここくらい」

見張り(戦士)「まずいことが起きている。ここに別の勇者の一行がいる」

魔法使い「えっ!?本当!?」

見張り(戦士)「王国の手先かもしれない。生け捕りにするぞ!」

魔法使い「勇者なら私達の味方じゃないの?」

戦士「過去に勇者殺しの事件があっただろう。勇者を捕らえる力を持つのは勇者と魔王くらいのものだ。警戒するに越したことはない」

魔法使い「なるほどね。それに、この街の秘密を知りうるものの可能性もあるかもしれないしね」

戦士「その通り」

魔法使い「知られたら困るわね」

魔法使い「暴食の勇者は、私達が守るんだから」

TIPS

“魔王は討ち取られた。勇者の手によって”

「勇者」とは、魔王を討ち滅ぼすための呪文・戦闘センスを持って生まれしものである。

勇者として生まれたものは、幼き頃から勇者のみにしか使えない雷撃の呪文等を使用し、周囲に認められ始める。

そして、成長した勇者に天から青白い光が降り注ぐ日が訪れる。

これが精霊の降臨である。

精霊が勇者の肉体の中に入り込み、精霊の加護を与える。

勇者と冒険の契を結んだ仲間3人までは、戦闘によって肉体が滅ぼうとも神官の元で復活することができる。



この10年の間、精霊の加護を受けた勇者は数百人いたとされる。

そして、現在残っている勇者は半数未満だと言われている。

1つの原因としては、魔王が精霊を断ち切る術を身に着けたからであろう。

精霊を失って死亡した勇者は復活することができなくなってしまった。

もう1つの原因としては、魔王が討伐された後、処刑の王国が生き残った勇者達を呼び寄せたことと関係があるかもしれない。

初めは、戦い続けた勇者に栄誉を授けたいという理由で、世界中から勇者を集めた。

処刑の王国に不信感を持つ勇者は多く、呼びかけに応じないものも多数いた。

処刑の王国に入城した勇者は、二度と出てくることはなかった。

やがて、処刑の王国は、呼びかけに応じぬ勇者を罪人扱いし、賞金をかけて探し出した。

元勇者達は、処刑の王国に脅かされながら生きることを余儀なくされた。

処刑の王国の目的は、明かされていない。

魔法使い「捕らえて吐かせればいいんでしょ!ひとまず私に任せなさいな!」

ブツブツ……

遊び人「(やばい、巨漢の女性が詠唱し始めた!あの唱え方は……)」

キィイイン!

遊び人「うぅ、耳がキーンと……」

魔法使い「感知したわ。あの草陰の中よ。逃げる前に捕まえましょ」

遊び人「(もう逃げてるよ)」タッタッタ!!

魔法使い「なに、女じゃん。しかもちょっとしかふとってない」

遊び人「(ちょっとしかって何よ!ちょっとはふとってるってこと!?)」

遊び人「門の奥、小屋がある!」

遊び人「入るよ!!」

ガチャガチャ!!

遊び人「って、鍵がかかってるし!!」

遊び人「窓も割ったところで人が入れる大きさじゃない。でも中くらいは見れるかな」

遊び人「倉庫みたいに色んなものが置かれてる」

遊び人「そして……鎧のレプリカがある。お城の中に並べられてるような」

遊び人「分かる人には分かるよ。剣と、兜は安物のレプリカでも、この鎧は本物」

遊び人「これが、『大罪の鎧!!』」

遊び人「木を隠すなら森の中より、土の中に埋めればいいのに」

魔法使い「……これは困ったわ。よくご存知で」

遊び人「追いつかれた!?」

魔法使い「見た目で……はやさを……判断しないでほしいわね……」

遊び人「(凄い汗だくだけど)」

遊び人「あなた達は何者なの?元勇者なの?」

魔法使い「こちらこそ聞きたいわね。その鎧について知っているものが私達パーティメンバー以外にいるとは驚いたわ」

遊び人「やはり大罪の装備の所有者はあなた達なのね」

魔法使い「その装備についてどこまで知ってるの?」

遊び人「私のお父さんがその装備をつくったの。だから返しに貰いに来たの」

魔法使い「それは変ね。この装備はある夜、突然空から降ってきたものなんだってうちの持ち主から聞いたよ。それも、魔域にいる時にね」

遊び人「…………」

魔法使い「あなたのお父さんは魔域までものを飛ばすほどにこの鎧に移動の翼でもくくりつけたの?道具屋にある翼を全部買い集めても不可能だと思うけど」

魔法使い「あんた、どちら側の人間なの?」

魔法使い「”魔王を倒せなかった勇者を捕らえる側の人間”なのか、”魔王を倒せなかった勇者として身分を隠して生きる側の人間なのか”」

遊び人「どちらでもないわよ」

遊び人「世界に散らばった大罪の装備を集めて、ウハウハな老後を過ごす。それを目的に旅をしているだけよ」

魔法使い「まだ何か隠してるわね。隠してるもの全部吐き出させてやりましょ。幸い、そういう気にさせる毒草もあるしね」

魔法使い「さっさと気絶させてやるわ!!」

戦士「落ち着け、魔法使い」

戦士が遅れて現れた。

棺桶を引きずっていた。

遊び人「(人質に取られた……)」

魔法使い「こんな女さっさとふっ飛ばしちゃいましょうよ」

戦士「相手の実力もわからないし、他の二人のメンバーも見つからない。勇者のパーティなら4人である可能性が高い」

魔法使い「だから感知呪文を使ったけど一人だったって!」

戦士「用心するに越したことはない。お前の感知呪文の射程範囲は小さな町一つ分の距離だろう?」

魔法使い「じゅ、充分だと思うけど!普通の魔法使いなら小さな建物一つ分の距離なんだからね!ほとんど意味がないんだから!」

戦士「わるいわるい。実力は充分知ってるつもりだ。だから命を預けてきた」

魔法使い「……うっさいなー。包容力だけは認めてあげるわよ」

戦士「肥ってるからか?」

魔法使い「一言多いっての!」

遊び人「(なんか痴話喧嘩してるけど……)」

遊び人「(こういう追い詰められた時の作戦はもう決めてある。ポケットに入れてある羊皮紙とと羽ペンを取り出して……ぎゃ、インク瓶が零れた感触が……)」カキカキ…

戦士「この棺桶の中に貴様の仲間が入っているんだろ?」

遊び人「ぐぬぬ……」

戦士「他のパーティーメンバーはどうした?」

遊び人「さてね」

戦士「手を動かすな。道具袋から移動の翼でも使用する気か?」

遊び人「そんなことしないわよ。あんた達にも使用されたらいたちごっこだもの」

暴食「わかっているなら大人しく地面に伏せろ。そうすれば尋問もやさしくしてやる。この棺桶も破壊しないでおいてやろう。肉体の損傷が激しいほど魂との結合が困難になり、蘇生後の副作用も大きくなる」

遊び人「……わかった。言うとおりにするわ!」

ガサゴソ!

魔法使い「動くなって言って……!?」

魔法使い「あはは!!短剣を取り出したわ!!そんなんで戦うつもり?」

遊び人「戦わないつもり」

魔法使い「はぁ?」

戦士「まずい!!魔法使い、あの武器を取り上げろ!!」

魔法使い「えっ?」

戦士「急げ!!」

戦士「こうなりゃ俺も!!」

戦士はかんおけに肘を全力でたたきつけた!

棺桶の上部にダメージを与えた!

魔法使い「えーと!」

魔法使い「『所有されし装備よ!鈍重なる持ち主に汝のおもいの主張をせよ!』」

魔法使い「『オモリン』!!」

魔法使いの杖から空気の波が伝わり始めた。

遊び人「勇者、書くことは書いたからね!!」

遊び人 E 短剣

遊び人「あとは頼んだ!」

遊び人:こうげき  ▽戦士
  ▽暴食の勇者
          ▽魔法使い
          ▼遊び人

遊び人はじぶんのくびに短剣を刺した!

パーティは全滅してしまった……。

魔法使い「間に合わなかった!」

戦士「俺もだ。亡骸を確認しようとしたが、あの女の方が早かった」

魔法使い「してやられたわ。勇者一行のパーティが全滅した場合、今まで寄った中で最も近い街の教会に精霊によって瞬時に運ばれる。そして勇者だけが蘇る」

戦士「急いで教会に飛ぼう。移動の翼を使うんだ」

戦士「……勇者か。うちのリーダー以外を見たのは初めてだよ。勇者の特性を活かした戦いをしてくれるじゃないか」

戦士「精霊の加護が、いかなる時も守ってくれると思うなよ」

巨漢の2人は、移動の翼を大量にくくりつけて飛んだ。

神官:おお 精霊よ このものたちに 加護があらんことを!

勇者「はっ!!ここは教会!!」

勇者「ということは、あいつも矢のトラップにかかって死んだのか。おお、遊び人よ、死んでしまうとは情けない……」

勇者「遊び人を蘇らせられるお金もねえぞ」

勇者「あれ。赤色のメモ帳に書き込みがしてある。何かあったのか」

勇者「これは……」

ふごうはゆうしゃいっこう
つよすぎ きけん
いますぐにげて

勇者「…………」

勇者「なっ……なんだと……」

勇者「……///」ポッ

勇者「『ふごうはゆうしゃいっこう』」

勇者「俺があっという間に生涯賃金を稼ぐ男だっていう意味だろ?まいったなー、そりゃあ教会代金も気にせず死んでまうわな」

勇者「『つよすぎ きけん』」

勇者「……はぁー」

勇者「はぁー。はぁー」

勇者「あいつもついに俺のポテンシャルに気づいてしまったか。隠しても気づかれてしまうか」

勇者「『いますぐにげて』か」

勇者「……まぁな。そうだよ。俺も、この稀有な宿命を背負ってしまったことを呪いたくなる毎日だぜ」

勇者「でもお前を見捨てて逃げたりはしねーよ」

勇者「さて。また復活の銭稼ぎに出かけるとするか」

勇者「その前に。宿に棺桶おいて、腹ごしらえだな」

~屋敷~

魔法使い「教会への転送目的に自殺するなんて!!自分達以外の勇者に会ったことがなかったから、咄嗟に気が回らなかったわよ!!」

魔法使い「他に隠れていると思われたパーティメンバー二人も死んでいたの!?それともたった二人のパーティメンバーだったというの!?」

魔法使い「あーもう!!教会に急いで行ってもいなくなった後だったし!!はやく見つけないと!!」ムシャムシャ

戦士「鎧も無事、この館の地下室にしまいこんだし大丈夫だろ。そうムシャクシャすんなって」ムシャムシャ

魔法使い「してないわよ!やけ食いしてるだけよ!」ムシャムシャ

戦士「ムシャクシャしてんじゃねか。ムシャクシャしてムシャムシャしてんじゃねえか」

「転送目的で自殺なんて。命を粗末にする勇者か。食べ物を粗末にする僕らといい勝負だ」ムシャムシャ

戦士「勇者。お前は残さず食べているだろう」

暴食の勇者は食べ物を頬張りながら首を横にふった。

暴食「過剰と不足は同じだよ。時に、過剰のほうが罪が重い」

魔法使い「ねーねー。あいつらはどっち側の勇者なのかな」

戦士「捕まえて確かめるしか無い。やつらの目的は確実に例の鎧か俺達の捕縛にある」

暴食「……暴食の鎧か」

戦士「どうした?」

暴食「その勇者達がそんな風にあの鎧を呼んでたんだろう?でも、まさにそんな名前がふさわしい気がした」

暴食「戦士、無駄に食べ物を貪るこの村の住民を見て、醜いと言ったことがあったね。食べ物を粗末にしていると」

戦士「今でもそうだ。俺も同じだけどな。それがどうした?」ムシャムシャ

暴食「食べ物を食べてるのを見て食べ物を粗末にしているなんて、おかしいなと思ったんだ」

魔法使い「そんなお腹が減るようなこと考えてる暇があったら食べなさいよ」ムシャムシャ

戦士「ああ。食に対する倫理観など、冒険の終わった今となってはどうでもいい。うまいかうまくないか、量は多いのか少ないのかだ。俺はいつ死んでも悔いのないようにうまいものを食い続けてやる」

暴食「冒険してる時に倫理観はあったのかい?」

戦士「ああ、あったさ。腹が減って死にかけ、餓死のラインを超えたら精霊の加護で復活した瞬間にも即死してしまうんじゃないと精神的に追い込まれた頃はな。食べ物のために罪なき人々を襲うことを躊躇していた頃はな」

魔法使い「ちょっと、もういいでしょその話は!」

戦士「感謝の気持ち以上に感じていたさ」

戦士「食べることは、罪を伴う行為であるとな!!」

勇者「…………」

戦士「ふぅー、食った食った。もう満足だ。寝る。明日もたらふく食うぞ」

魔法使い「私ももう寝るわ。勇者もつまんないこと考えるのはやめなさい」

暴食「わるかったね。食事中に暗い話を持ち込んで」

魔法使い「前も聞いたと思うんだけどさ。なんで森奥の小屋に鎧を置くのさ。農園までの道に罠がしかけてあるから確かに安全だけど。私達のそばほど安全な場所はないわよ?」

暴食「……襲われるからだよ」

魔法使い「鎧目当ての侵入者に?今日みたいなやつらが他にもいるかしら……」

暴食「あの鎧にだよ」

魔法使い「へっ?」

暴食「僕も寝るよ。寝る子は育つと言うからね。食べた後に寝れるのは幸せだ」

暴食「寝食ともにする、という言葉は、仲間と四六時中一緒にいることを意味するんじゃない。本当の使い方は、寝ることと食べることは2つで1つだということだ」

魔法使い「アカデミーではそんな嘘を習わなかったんですけど?寝ぼけてるなら寝なさい。おやすみ」

暴食「ああ、おやすみ」

勇者「今日は村の付近に生えてる毒草を摘むだけの簡単なお仕事です」

勇者「僧侶の復活代金高いからなぁ」

勇者「それにしても、今朝の朝食もうまかったぁ。大罪で呪われた食物とは思えない。身体はすげえ重いけど、力がみなぎる。身体から溢れる栄養感が半端ない」

勇者「もしも魔王を倒した勇者が、巨漢だったら、世界は英雄と讃えてくれるんだろうか」

勇者「巨漢の勇者の冒険譚ってなんだかなぁ。銅像は痩せた形でつくられちゃうのだろうか」

勇者「やっぱり世界は痩せてる者を求めるんだろうな。痩せてる人は、あまり食料を必要としないイメージがあるからな。冒険には食糧不足が付き物だし」

戦士「それは違うぞ。肥っているものこそ食料は必要ないだろう。身体の中に蓄えているんだからな。肥っているレディを求める国もあると聞いた」

勇者「こんにちは。あなたも毒草詰みの日銭稼ぎですか?気が合いますね。僕もこういった楽なクエストが大好きでね。魔王のいなくなった最近じゃ魔物の残党狩りなんてのも流行ってるらしいんですが、私はにわかじゃないんでね、一貫して楽して稼ぎたいわけで」

戦士「俺はそのようなクエストの帰りだ。この村の食料を食べては肥大化したトカゲの魔物を倒してきた。臆病ではあったが、宿屋くらいの大きさになっていた。村から頼まれたので引き受けた」

戦士「毒草を詰みながら独り言をいってる怪しいやつがいたから気になっただけだ」

勇者「…………」

勇者「僕も毒草を集めて、僕の祖国を困らせている城くらいの大きさのドラゴンを毒草中毒で倒そうとしていましてね。ええ。毒草しか効かない魔物でしてね。お互い困ったもんですな」

続きはまた明日。おやすみなさい。

登場人物の名前がこんがらがってないか?
見張り(戦士)、戦士(見張り)とかさそしたら次は戦士になってるしさ暴食や戦士が会話してるところで勇者いるし…

>>64

確かにややこしかったですね。

[主人公側]
勇者
遊び人

[暴食の勇者側]
暴食
魔法使い
戦士=見張り

>>60の勇者「…………」も誤記入です。表記に気を付けます。

戦士「身体を見る限り、この街の住民ではないようだな。まだまだ痩せている」

勇者「この街に来て少し肥っちゃいましたけどね」

戦士「何を目的にこの街へ?」

勇者「魔王のいなくなった今の世界でこそ、冒険家はかなりの勢いで増えつつありますよ」

勇者「私は探し物をして色んな場所をまわっているんですが。来たこともない場所に来るのは、それだけで目的になりますよ。ほら、こうして美味しいご飯にも出会えた」

戦士「…………」

戦士「不健康な人間が増えた。この街で、異様な食料成長が始まってからだ。他の王国から研究者がやってきては、土だの、水だの勝手に持ってきているが、原因を特定できていないと聞く。魔王がいなくなったから土地の性質が変わったんじゃないかと結論づけたらしいがな」

戦士「ところで」

勇者「あい?」

戦士「棺桶を引きずって宿屋に入る、不審者の目撃情報があった」

キン!!

戦士「お前、勇者の仲間だな!昨日はこそこそ隠れていたようだが!!」

勇者「なっ!!」

戦士「どうなんだ!!」

勇者「ええ!!?」

戦士「勇者の自殺にあわせてお前も短剣を自分の首に刺したのか!?」

戦士「それとも棺桶の中に入ってたのはお前か?だとしたらあの勇者はどこにいる?教会ですぐに蘇生させなかった理由はなんだ?」

戦士「さては!!ダミーか!!昨日の棺桶はトラップか!!」ムシャムシャ

戦士「中に誰も入っていなかったのか?それとも誰か生きている仲間が入っているのか?」ムシャムシャ

勇者「ふぁ、ふぁ!!?」

勇者「このひと、食べ物を頬張りながら、わけわかんないこといってるアル」

ゆうしゃはこんらんした!

勇者「アカデミーで呪文の授業についていけなくなった頃のことおもいだして、つらいアル」

ゆうしゃはにげだした!!

戦士「くそ!待て!」

ゆうしゃのばらまいた毒草が戦士の口の中にはいった!

戦士は思わず飲み込んでしまった!

戦士「うぼぉおおえええ!!!!」

勇者「くう、持ってたアイテムも道具屋でほとんど売っちまった」

勇者「神官さん!遊び人を蘇らせてくれ!」

神官「2000G頂きますがよろしいですか」

勇者「相変わらずたけぇなおい!!でもお願いします!!」

神官は祈りを唱えた!

神官「遊び人の御霊を肉体と結合したまえ!!」

神官は祈りを唱えた。

棺桶は消え去り、遊び人は復活した。

遊び人「……ゆ、ゆうしゃ」

遊び人「勇者!!」

遊び人「勇者!!あのね!!」

勇者「何も言わなくてもわかってる。お前が俺のことをどう慕っていたのか」

遊び人「へっ?」

勇者「それよりも、自分は大きな魔物を倒したという妄想に駆られ、わけわかんないことを口走ってる日銭稼ぎに追われてる。逃げるぞ!」

魔法使い「『呪力を放ちし掌よ。主の唇と仲違いせよ』」

魔法使い「『マフウジ!』」

勇者は呪文をつかえなくなった。

勇者「誰だお前は!」

遊び人「あなたはこの前の!!」

魔法使い「追い詰めたわ。移動の翼も使わずに走って逃げるなんて」

遊び人「勇者ちゃんとメモ書き読んだんだよね!?なんで追い詰められてるの!?」

勇者「////」

遊び人「なんで照れてんの!?」

戦士「お前らを生け捕りにする。じきに俺らのリーダーも来るだろう」

神官「戦闘は外でしてくだされ!」

魔法使い「万が一にも移動の翼を持ってるかもしれないからね。ここで捕まえて連れてくよ!」

【TIPS】

呪文。

呪文は大気に満ちる精霊の力を借りて発動する。

精霊が信頼を置いたものは、幼子から老人までだれでも呪文を発動することができる。

古来より口承されている言葉としての呪文「マフウジ」「マハンシャ」「ネムリン」などの略称はあるが、魔力の低いもの、精霊の信頼が低い者はより丁寧に呪文の発動を依頼する必要がある。

精霊は人を選ぶ生き物であるからだ。

最たる象徴として、勇者という職業のみに限り、1体の精霊が宿り、精霊の加護を授ける。

信頼は職業だけではなく、その者の実力によっても積み重ねられる。

精霊から絶大な信頼を勝ち取った者は、念じるだけで精霊の力を最大限にまで引き出すことができる。

精霊は善悪で判断しない。

精霊から絶大な信頼を置かれたものは、言葉を発さずとも呪文を唱えることが可能となる。

「無口詠唱」が可能な者はこの世に僅かであるが存在する。

その代表格が、魔王であった。

勇者「……ふん」

勇者「その程度の呪文制御で、何かが変わる勇者様かよ!!」

魔法使い「なんですって!?」

勇者「『地獄にて罪人を引きずりし鬼々よ。その地獄車を以て、汝の敵を破滅たらしめよ』」

勇者「『鬼想ウ日ノ終焉ノ始マリノ終ワリ(ファイヤー・デ・ファンファーレ)!!!』」

勇者の血気が上昇した。

勇者「くらええええ!!!」

戦士は勇者を切りつけた。

勇者「ゴボェォオェ……」

勇者は力尽きた。

遊び人「呪文なんてろくに使えないのに……」

遊び人「神官様。勇者を蘇らせて下さい」

神官「はい。3Gね」

魔法使い「えっ!?何よその値段!!!」

神官「はい、蘇ったよ」

勇者はよみがえった!

戦士「はやい!!」

勇者「ぷは!よくもやってくれたな。本当の特技を見せるときが来たようだ」

勇者「くらえ!!『すてみ』!!」

勇者はすてみで戦士にぶつかりにいった!

戦士は勇者を切りつけた!

勇者は力尽きた。

遊び人「蘇らせて下さい」

神官「3Gね。はい、蘇ったよ」

勇者「ぷはっ!」

勇者「うおらああああ!!!」

勇者はすてみで戦士にぶつかりにいった!

戦士「またっ!」

戦士は思わずたじろいだ!

勇者は戦士に全力でぶつかった!

戦士「ぐほおお!!!」

戦士に大きなダメージ。

勇者は棺桶に入った。

遊び人「はい、3G」

神官「あいよ」

勇者「ぷは!」

勇者「うおらあああああ!!!!」

勇者はすてみで戦士にぶつかった!!

戦士「ぐおお!!?」

魔法使い「なにあの命の安っぽさ!!」

戦士「魔法使い……あいつ中々に強いぞ」

遊び人「はい、3G」

勇者はよみがえった!

戦士「まずい、次が来る!」

魔法使い「ちょっとまって!!防御力を今上昇させ……」

遊び人「相手も勇者一行よ!!気にせず突っ込んで!!」

勇者「おらぁああああ!!!」

勇者は戦士にぶつかった!!

戦士「ぐはぁ!!」

勇者「   」ポクリ

勇者は力尽きた。

遊び人「はい、3G!」

勇者「ぷは!」

魔法使い「まずい!回復を優先しないと!」

勇者「うおらあああ!!!!」

勇者は戦士にすてみでぶつかった!

戦士「ぐぉお!!!」

勇者は力尽きた。

戦士「はぁ……はぁ……」

遊び人「そこの戦士はなかなかレベルが高いようだからね!蘇生にも数千Gはくだらないでしょうね!!」

遊び人「私みたいに半永久的にお金を払い続けることなんてできないわ!!オホホホオホ!!」

遊び人は神官に3G払った。

勇者はよみがえった!

遊び人「さあ、やっておしまい!!」

勇者「ううぉおおおお!!!!」

勇者は戦士にすてみでぶつかった!

勇者は力尽きた。

戦士「ぐぁああああ!!!」

戦士に大きなダメージをあたえた!

遊び人「はい、3G!」

神官「はいはい」

勇者はよみがえった!

戦士「はぁ…!はぁ…!くそっ!!」

勇者「うおらあああああああああああ!!!!」

魔法使い「や、やめて!!!」

魔法使い「私たちは、精霊の加護を壊されているの!!」

遊び人「えっ」

ブオン――

勇者ははじかれた。

勇者は力尽きた。

「俺の仲間を傷つけないでくれ」

遊び人「(ブオン、って聞こえて剣を振りかざす効果音だと思ったけど)」

遊び人「(巨漢の人がお腹で弾いただけだった。それで私のパーティのリーダーは力尽きた)」

遊び人「あなたは……」

「大人しくついてきてくれ。さもなくば、蘇生後も苦しむほどに君の仲間を黒焦げにするよ」

遊び人「まさか」

「そう。元々は魔王討伐を目指して旅立った」

暴食「元、勇者だ」

暴食の勇者があらわれた!

暴食「僕らのことをこそこそ嗅ぎ回っていたようだね」

遊び人「(食べ物の臭いを嗅ぎながら寝転んで監視していただけだけど)」

遊び人「あの、私のパーティの勇者も蘇らせていいですか?」

戦士「さっきの男が勇者だったのか!どおりで勇敢な攻撃を!」

魔法使い「無謀というんじゃ……」

遊び人「はい、3G」

神官「おわりました」

勇者はよみがえった。

勇者「うおらあああ!!!」

勇者はすてみで走りだした!

遊び人「止まれ!!止まりなさい!!ドウ!!ドウドウ!!」

~富豪の館~

遊び人「本当だよ!この人には精霊が宿っていない!」

暴食「君は、精霊が見えるのか?」

遊び人「うん。精霊は勇者という職業の者に宿るでしょ。宿っている精霊を私は目視することができるの。その精霊の加護が及ぶパーティメンバーまではわからないけど」

勇者「精霊がいないのに、本当に勇者なのか?」

暴食「それを証明するのは簡単だ」

暴食の勇者は手をかざし、呪文を唱えた。

遊び人「おっ!」

小さな雷が宙に舞った。

暴食「勇者にしか使えない雷の呪文だ。ご存知だろう。今のは威力を弱めたが」

暴食「俺らの命は一度きり。死んだら終わりだ」

勇者「…………」

遊び人「…………」

勇者「あばばば」ジョボボボボ…

遊び人「おろろろ」ビチャビチャ…

勇者「さ、殺人者になるところだった……」

遊び人「殺人教唆の罪に問われるところだった……」

戦士「あれくらいで死にはせん!」

遊び人「あのぉ……」

勇者「これ、全部無料ですか?」

勇者達の前のテーブルには豪勢な食事が並べられていた。

遊び人「そこじゃないでしょ!」

暴食「気にせず食べてくれ。せっかくこうして出会った勇者仲間だ。君たちが処刑の王国の追手には見えないしね」

遊び人「でも……」

暴食「食べられることは、幸せだ。魔王を倒すことなんかどうでもいいと思えるくらいにね」ムシャムシャ

勇者「わかります。動物型の魔物を焼いて食ったことありますもん」

遊び人「うへぇ、あったね」

魔法使い「……まだいいわよ」

戦士「おい、魔法使い」

遊び人「?」

暴食「冒険者に食糧問題は付き物だ」

暴食「僕らも一度餓死して全滅したことがある。魔王城の近く、魔域の手前まで行き着いたときだった。近くに人間の住む町なんかなくて、ひたすら消耗に耐えるだけの日が続いた。その時は死の恐怖に怯えたよ」

遊び人「精霊の加護があるのに?」

暴食「肉体の損傷が激しいほど魂と肉体の結合が困難になり、復活後のペナルティーも大きくなるのは知ってるだろう?」

遊び人「ええ」

暴食「魔物に焼き殺されたり、体を粉微塵に吹き飛ばされて死んだことは無数にある。ただ、餓死して死んだことはなかった」

暴食「焼き殺された場合は、焼かれる前の身体で復活させてもらえる。ただ、餓死はどうなのかわからなかった。餓死する直前の身体で蘇らせられたところで、また数秒もしないうちに餓死してしまうんじゃないかと気が気でなかった」

暴食「そして、実際に餓死して全滅してしまったことがある。植物の魔物に身体を拘束されて、自殺すらできない状態で数日間も過ぎたんだ」

遊び人「でもあなた達は生きている」

暴食「蘇ったさ。でも、餓死からの復活による副作用は最悪だった」

暴食「肉体が復活するのは、餓死一歩手前の状態だ。骨と皮みたいな状態だった。そのまま復活してはまた即死してしまう。だから、精霊は俺が死なないように工夫をした」

遊び人「工夫?」

暴食「肉体にふさわしい大きさに魂を削ったんだ」

遊び人「どういうことですか?」

暴食「余裕がなくなるということだ。この贅肉みたいなものがなくなる」ブヨン

暴食「余裕がなくなると、荒むだろ?金があるものが盗人になんかなるものか。腕力があるものが子供を刺殺したりするものか。賢さを認められてきたものが人を騙したりするものか」

暴食「人間の心が少し失われた。以前ではためらっていたことも、平気で行えるようになった」

暴食「こんな冒険譚を小さい頃に読まされたことはなかったか?」

暴食「魔王を倒そうと旅している勇者の苦悩の物語。飢えに喘いでも食料を住民から分けて貰えない。魔物を倒しても魔物からの報復を恐れられ町を守り続けるよう拘束される。その特殊な力を調べようとする者達から人体実験をさせられる。旅が進むにつれて人間に対して憎悪を募らせていく話だ」

暴食「魔王城にたどり着いた勇者は、魔王を切りつける。人間の感情をほとんど失いながらも、勝利を噛み締めている時に、赤い返り血を浴びているのが目に入る。そして気づいた。魔王もかつては人間で、勇者と呼ばれる存在であったと。そして今や自分が人間への恨みを持つ、魔王となったのだと」

暴食「魔物を見て魔物に近づくんじゃない。人間を嫌って魔物に近づくんだ」

勇者「作り話じゃないのか?勇者だったら精霊の加護で蘇る。その元魔王も勇者だったのなら、近くの教会で復活したら騒ぎになるよ」

暴食「おとぎ話だからな。でもな、これらが全部創作であると思うか?」

勇者「何が言いたい」

暴食「大罪の装備で不健康な食料を提供しようが、俺らの心は痛まないってことだ」

勇者「…………」

暴食「ところで、さっきから食事に手をつけていないようだが。やはり気にめさんか」

遊び人「大罪の装備の影響がなくとも、敵の陣地に入り込んで安心して食べ物なんか食べられないわよ。何が入ってるかわからないわ」

暴食「まだ信用していないか。でも大皿だ。俺たちも同じ皿から飯を取って食っている。見た目で毒があるかわかるような食事でもあるまい」

暴食「お前らのそういう警戒心を読んで、席も先に自由に座らせた。食器に毒が入れてあると思われるかもしれないと思ってな」

魔法使い「そういうと余計怪しいと思われちゃうわよ」

暴食「怪しいと思われて良いだろ。実際、後ろめたいことばかり俺達は抱えているんだから」

暴食「だがな、うまいぞ?それに、食べてくれたら信頼してくれたとわかる。お互い口も軽くなると思うが」

遊び人「……でも」

暴食「毒が入っていると思ってるのか?だったらともに死ぬまでだ。はっはっは!」

魔法使い「相変わらずでしょ、うちのリーダー」

勇者「話題変わるんだけどさ」

遊び人「どうしたの?」

勇者「さっきのおとぎ話の魂の話聞いてたら怖くなっちゃって。俺の命の使い方大丈夫かな?人間の心失われたりしないかな?」

魔法使い「さっきの戦闘はやばい」

戦士「あれは問題だろ。というか切られる時痛いだろ」

勇者「それがさ、あんまり死の恐怖とか痛みの感覚がないんだよ」

暴食「それは精霊の加護のおかげだ。特にお前の場合、全然信頼がないんだろう。多少の痛手を負うだけですぐに棺桶に移される。すてみのとっしんだけで普通あの世行きになるものか。過保護なんだ」

勇者「過度に保護されてる結果すぐに死にまくってるってこと?」

勇者はこんらんした!

勇者「タベル!!」バクバク!!

遊び人「食の楽しみに逃避すな!」

暴食「ふはは。いいよな、食べ物は。忘却、逃避、そんなことにも使える」

暴食「暴食をして肥えてしまった人間は後ろ指をさされるが。暴食の代わりに自分を癒す方法がなかっただけなんだ。その者から暴食を取り払ったら、痛みを浴び続けるだけだ」

暴食「生きるために食べるという意味では、生きていくために必要最小限の食事を摂ることと、悲しみを誤魔化すために無駄に油の乗った食事を食べることは同じだろう?」

暴食「みんな忘れたがってるんだよ。食べたがってるんじゃない。食べるという生きていくために必要な正義の行為をしていることで、目を背けたい問題を先延ばしにすることを自分に許しているんだ」

暴食「自分には今色んなものがつきまとっているけれど、自分は今食事をしている。食事は絶対に必要な行為だ。そして幸せな行為だ。だから今、食べているこの時間は正しい。この時間だけは、あらゆる立ち向かうべき困難から目を背けても許される、とな」

暴食「そんなことを続けても、魂は全く肥っちゃくれないんだがね」

勇者「うめぇ!うめえなあこれ!」ハフハフ!

遊び人「(勇者も何かから逃避したがってるのかな……)」

魔法使い「はあ、また食事中に小難しい話してるよ」

暴食「食事の場でしか腹を割って話せないことがあるだろう」

魔法使い「腹を割ってくれるといいんだけどね」

勇者「うめぇ!!これもうめぇ!!」ガツガツ!

魔法使い「その前に腹を下しそうね」

遊び人「あなた達の目的は何?勇者として冒険していたはずなのに、この村に住んで、大罪の装備を利用して食料を作り出して」

魔法使い「聞き方が悪いわね。勇者として冒険していたけれど、魔王も無事他の勇者によって倒され、パーティメンバーと安住の地を見つけ美味しい食料を提供している、と考えてよ。もう充分な理由じゃない?」

遊び人「大罪の装備には代償が伴います」

暴食「寿命が縮むのだろう」

遊び人「それを知ってて!」

暴食「一度だけ、装備を身に着けたことがある。魔域にいた時だ。強大な魔物を一人で倒す時に、使用した」

暴食「一回の戦闘で寿命がごりごりと削られていく感触を味わったよ。この装備は寿命を食い物にしているんだとね」

魔法使い「ねえ、やっぱりあなたあの鎧を恐れているのね。近くに置いておきたくないのね」

暴食「…………」

戦士「僧侶殿のことと関係が……」

遊び人「僧侶?」

魔法使い「私は!!私はあの子の死を彼がいつまでも悼むのはおかしいと思うわ!!あの子が自ら生きることを拒否したんじゃない!!」

戦士「僧侶殿の信仰の問題だ!!生を放棄したかったわけではない!!」

魔法使い「何が違うのよ!!」

魔法使い「私達が、私達が生きるために……食べたのに……あの子は最後まで魔物を食べることを拒否して、餓死したのよ!!」

魔法使い「精霊の加護が破壊されていたというのに!!」

今日はここまでです。明日は仕事の都合で投稿が難しいかもしれません。おやすみなさい。

【TIPS①】

精霊の加護。

その存在に、魔王は頭を悩ませていたという。

人間最強の生物――勇者――であっても、戦闘能力は魔王に圧倒的に劣っていた。

形態変化を使うまでもなく、魔王は数々の勇者を蹴散らしていった。

しかし、勇者という職業の恐ろしさは、やり直しがきくことにあった。


勇者は学習する。


魔王の行動パターンを知り、対抗策を広大な人間の土地から集めてから何度も挑んでくる。

初期の魔王は単純な対応策しか持たなかった。

勇者を捕縛し、自殺を封じ、復活を阻止する。

しかし勇者はその対策も練った。

特殊な魔力を込められた毒薬を飲んでから戦いを挑み、魔王に監禁された場合に供え自動的に死ぬように備えた。

魔王が更なる対抗策を練っても、精霊の加護を持つ勇者一行(通常4人)は、繰り返しを基本に置いた戦略で戦いを挑んでくるため、為す術がなかった。

さらに、勇者のパーティー同士が繋がり、12人の勇者一行が魔王に立ちはだかったことまである。

その時、魔王は寿命を対価に第二形態にまで変身を遂げたという。
(勇者殺しの勇者、が現れたという噂が広まってからは、徒党を組むということもなくなってはいったが)。

繰り返しという勇者の特権に危機を覚えていた魔王は、本格的な対策を練り始めた。

【TIPS②】

魔王と四天王の協議の結果、3つの案に絞られた。

① 魔王城の牢獄内に神官を置く。
② 人間界にいる神官を殺害する。
③ 精霊を破壊する。

① のアイデアは最適に思えた。

勇者の復活時点は、死んだ瞬間から遡り、一度訪れたことがある居住地の中で最も距離の近い場所に存在する教会内の神官の目の前である。

魔王は、牢獄の中に勇者の復活地点をつくり、自殺を図ったとしても牢獄の中で復活するよう企てた。

しかし、これはできなかった。

神官という職業を侮っていた。

人間の神官そのものは、決して高尚な存在ではない。

盗みを働くこともあるし、貧しき女性を金で揺さぶることもある。

しかし、こと勇者復活に関しては、別の人格が宿るようだった。

神官は魔域の中のエリアを決して勇者復活の時点としてふさわしいと認めることはしなかった。

虫の息の勇者と神官に洗脳の呪文をかけても、無意味だった。

魔域は魔物の領域であり、人間の領域ではない。

人間の領域でしか神官の役目を果たすことはできない。

結局、魔王城から最も近い距離にある町の神官の前で復活してしまうのであった。

【TIPS③】

では、その町を攻略するのはどうか?

② 人間界にいる神官を皆殺しにする、に絡めて検討をした。

勇者ほどではないにしろ、神官も選ばれたもののみなれる職業であった。

神官を皆殺しにすれば、精霊は神官を仲介にした勇者の蘇生ができなくなる。

少なくとも魔王城付近の神官だけでも殺すべきだと言われた。

しかし、人間も巧妙だった。

魔王の領域「魔域」があるように、人間にも人間の領域がある。

「町」「村」「里」「城下町」などである。

中でも、魔王城から最も近い距離でありながら、滅ぼされずに生き残り続けている町の守護は強力で、魔王でも攻略することが容易ではなかった。

感知呪文を使っても感知できない。
目の前にあっても気づかない。
気づくには「人間の心を得る」ことが必要だが、それは魔族としての誇りを捨てることであった。
魔王は当然これをよしとしなかった。

人間の領域を破壊することはできても、創造することは極めて困難であった。

結局、実際に実行され、劇的な効果を示したのが

③ 精霊を破壊する。であった。

精霊の加護に悩まされているのであれば、その精霊を殺してしまうという取り組みだった。

魔王は勇者との戦闘を通じてデータを蓄積した。
繰り返しによって成長していたのは勇者だけではなかった。
勇者が訪れる度に様々な魔法陣を敷き、精霊が救済に来た時の反応を確認した。

精霊の加護の流れは大まかにこのようなっている。

精霊は勇者の魂の中に宿っている
→精霊はパーティメンバーの魂を勇者の魂に常につなぎとめている
→パーティメンバーが死んだ場合、精霊は棺桶を放り投げる(肉体の保護)
→パーティメンバーが全滅した際、精霊は勇者の魂から飛び出し、メンバーを神官の元まで瞬時に運ぶ。
→神官は勇者の肉体を修復し、魂と結合させる
→勇者復活

パーティメンバーが全滅した瞬間、精霊は飛び出す。

その瞬間に精霊を殺害する魔法陣を、魔王は創り出した。



魔王に十数回目の勝負を挑んできた勇者がいた。

魔王は勇者を呪文で焼き尽くした後、目に見えない存在――精霊――がいつものように出現したのを感じた。

勇者の魂から飛び出し、塵となった勇者と、その仲間の遺体を神官の元に届けようとしたのだろう。

瞬時に移動する精霊よりも早く、魔法陣は発動した。

 「バリンィイインン!!」 

ガラスが割れるような激しい音が聞こえた。

そして、勇者は蘇ることはなかった。

勇者の肉体から飛び出た精霊を破壊することを可能にしたのだった。


さらに、砕けた精霊の魔力をもとに、「魔剣」という1つの武器を創り出した。

これは、精霊を斬りつけることのできる武器である。

魔王は勇者を殺害できるようになった。

魔王軍は全盛を誇った。

魔王軍は世界を支配しつつあった。

しかし。

大罪の装備が世界に散らばった数ヶ月後に魔王は力を失った。

口論する戦士と魔法使いを遮り、暴食の勇者が僧侶の過去について語りだした。

暴食「魔王城の内部に侵入したことがあった。そして魔王の側近の一人と戦闘状態に入った」

暴食「側近は不自然に逃げ始めた。追いかけると、大きな広間におびき寄せられた。おそらく、魔法陣が見えないように敷いてあったのだろう」

暴食「本領を発揮した側近の呪文にやられ、僕らは全滅した。そして、通常通り教会で目覚めた。ところが、いつもと違う感触があった」

暴食「死の感触だ。日常だった『生』が突然日常ではないことに気付かされた」

暴食「恐怖で震えたよ。そして、初めて精霊を目撃した」

暴食「真っ白に輝く、ガラスのような生き物だった。眩しくて輪郭を捉えきれなかったけれど、羽根のようなものをパタパタと力なく羽ばたかせていた。俺は危機感を覚えて、急いで仲間を全員復活させた」

暴食「直後だった。ガラスが割れるような激しい音が聞こえた。後に、魔族が敷いた魔法陣によって精霊が殺されたとわかった」

暴食「敵の魔法陣も完全には発動しなかった。おそらく、魔法使いが放った自己犠牲呪文によって、魔法陣が損傷していたのだろう。精霊は即死せず、僕らを神官の元に運んでから力尽きた」

暴食「何もかもが狂った気がしたよ。勇者としての特権を失い、勇者ではなくなった気がした」

暴食「呪文の威力も著しく落ちたし、意思の疎通も以前のようにうまくいかなくなった。精霊の恩恵は思ったよりも多かったことに失ってから気付かされた」

暴食「精神的にも、死んだら蘇れはしないだろうという確信が自分たちを臆病にさせた」

暴食「それでも僕らは魔域に再び進んだ。怯んでいる暇はなかった」

暴食「魔族が人間の町になかなか侵入できないように、僕ら人間が魔域、とりわけ魔王城に侵入することも困難なんだ」

暴食「どうしても進むのが無駄に思える道があるだろ?道と認識するのもバカバカしいと感じるような」

暴食「魔王城の入り口には同じ守護がが、とりわけ強力な力でかけられている。魔族の魂を持つものにしか関心が向けられないような工夫がね。魔王城が目と鼻の先にあっても、古びた井戸並の興味しかそそられない」

暴食「しかし僕は奇跡的に認知することができた。どうしてだと思う?」

勇者「……人間としての魂が、削られていたから」

暴食「そう。肉体の激しい損傷や餓死によるペナルティで魂が削られ、少しだけ魔族に近い人間になっていた。よく刑務所にいる罪人が魔域に迷い込んだことがあるとうそぶくことがあるみたいだけど、それはほら話ではないと思うよ」

暴食「側近は精霊の加護の破壊に失敗したとわかっていただろう。そして、大広間までおびき寄せて僕達と戦ったということは、魔法陣はそんなに容易につくれるものではないはずだ。だから僕達が再び侵入するまでに、魔法陣の修正を行う必要がある」

暴食「死の恐怖に怯えながらも、相手の準備が終わる前に魔王城への侵入を再度試みた」

暴食「魔王と戦闘する気など失せていた。だが、魔王が所持しているという精霊殺しの剣だけでも手に入れようとしたんだ。魔王だって、肌身離さず持ち歩いているわけじゃないからね」

暴食「けれど、手に入れることはできなかった。魔族の会話から知ったのは、既に精霊殺しの魔剣は何者かが魔王から奪っていたということだけであった」

暴食「魔王城から出ることを決めた時、側近と再び遭遇してしまい、退却。命からがら逃げ延びた」

暴食「困ったのが帰り道だった。これは浅はかだったんだが、魔王城の外側だけじゃなく、内側からも認知に対する防衛を施したようだった」

暴食「出口がわからなくなった。そして魔王城の中を歩き回っていると、入ってきたときとは異なる場所に出る扉を見つけた」

暴食「紫色の空に覆われた、砂漠のような場所だった。振り返ると魔王城は消滅していた」

暴食「人間の街に行こうと、移動の翼に念じても、効力がなかった。なんというか、空を飛ぶ想像を頭の中で虚しくしているだけという感触だけしかなかった」

暴食「食料も尽きかけていた。そこで僕たちは殺した魔物を食した」

暴食「ひどいものだった。魔域に巣食う魔物の味は生まれてから口に入れたもののなかで最悪だった。人間界にいる魔物とは比較にならない。吐き気を抑えて飲み込んだ。味こそ最悪だったが、空腹は満たされた」

暴食「人の形をした魔物もいたよ。他の魔物と違って、緑色の血液を有していた。僕と、戦士と、魔法使いは食した」

暴食「しかし、僧侶だけは食べようとはしなかったんだ」

暴食「ある日、魔法使いが倒れた。魔法使いを背負って歩いていた、戦士も倒れた。僧侶は不思議と、体力が残っているみたいだった」

暴食「僕は仮死草を二人に飲ませた。このまま2人を引きずって歩き続けるか、僕と僧侶だけ人間界に戻り、王国の力を借りて再度侵入するかどうか迷った」

暴食「だが、二人を置いて、僕と僧侶で王国に戻ってから、またそのエリアを探し出すのは不可能に思えた。それに、王国はどこも勇者に請求することが多すぎる。あの頃はとくにそうだった」

暴食「結局、僧侶が魔法使いを、僕が戦士をひきずっていくことにした」

暴食「装備も全て砂漠に捨てた。背負うのに重りは少しでも減らしたかった。魔物が現れたら一発でおしまいだ」

暴食「僕らが持ったのは、魔物の死骸と、毒草だけだ」

暴食「特殊な毒草で、口に含むと一時的に疲れを忘れさせてくれた。時間が経った後の疲労感は酷いものだったけどね」

魔法使いは泣いていた。

戦士は泣いている魔法使いをなだめた。

暴食「僕は最後の力を振り絞って、魔法使いと戦士をおぶってあるき続けた」

暴食「幸運なことに、青みががった人間界の空が見えてきた。その付近にまでいけば、移動の翼を使用できるはずだった」

暴食「しかし、最悪なことに、巨大な砂の魔物が現れた」

暴食「終わりだと思った。装備も全て置いてまるはだか。仮死状態の仲間が二人と、少し空腹の満たされた勇者が一人。勝ち目はなかった」

暴食「絶望していたその時、空から青白い光がそばに落ちてきた」

暴食「精霊を失った俺が、今度は何に選ばれたのかと思ったよ。最後の晩餐でも降ってきたのかとな」

暴食「ところがそれは、鎧だった」

暴食「俺は導かれるがままに鎧を身に着けた。そして、かつてないほどの食欲が沸いた。目の前の砂の魔物が、砂漠に埋まる魔物の骨が、地面に広がる砂までがごちそうに見えた」

暴食「気づいた時には、俺は巨大な砂の魔物を食していた。見上げるほど巨大だった化け物は、俺の胃袋の中に収まった」

暴食「魔物を食した俺は腹が満たされ、力がみなぎるのを感じた。同時に、命がすり減った気がした」

暴食「力の対価だったのだろう。鎧がまるで、俺の寿命を食ったとでもいわんばかりに喜んでいたように感じた」

暴食「魔物を食べ尽くした俺は、一瞬、二人の仲間を見た」

戦士「…………」

魔法使い「…………」

暴食「恐ろしい考えに囚われたが、微かに取り戻した理性に従い鎧を脱ぎ捨てた」

暴食「魔物を倒した後、移動の翼を使用できる境界に入ることができた。そして高度な文明を持つ都に飛び、二人を無事復活させることができた」

暴食「そして、俺達は冒険を辞めた。使命感を失った」

冒険「かつて餓死しかけた時に寄り、ろくに助けてくれなかったこの村に居住をかまえた。大罪の装備の影響力を利用し、俺らは食物を育て、金持ちになり、空腹とは無縁の生活をおくることができるようになった」

冒険「これが俺たちの物語だ。魔王ではなく胃袋に負かされた惨めな旅だった」

遊び人「…………」

暴食「さあ、次はお前らの番だ」

暴食「大罪の装備とはなんだ?お前らの冒険の目的はなんだ?」

遊び人「それは……」

勇者「大罪の装備とは、人間の7つの欲望に基づく装備だ。大罪の賢者の一族が儀式によって創り出した、」

遊び人「勇者、話すつもり!?」

魔法使い「私達だって話したんだからいいじゃん!ねえねえ、7つの欲望って何?大罪の賢者って何よ?」

勇者「暴食、色欲、傲慢、憤怒、怠惰、強欲、嫉妬の7つの欲望だ。それぞれの欲望に基づく装備品が世界各国に散らばり、その欲望にふさわしいとされる者に届くと言われている」

勇者「暴食の鎧は、あんたを持ち主に選んだんだ。もともと大食らいのやつに届くと思ったが、そうではないらしい。大罪の装備には何かしらの基準があるようだ」

勇者「大罪の賢者とは、非常に強力な呪力を持つ代償に、短命な寿命しか持たぬ一族だ。里の者は生まれながらにして賢者の職業であり、強力な呪力と引き換えに常に寿命を身体から漏らしている状態にある」

勇者「その一族が行おうとした儀式は、寿命の転移だった。ある者が持つ寿命を、他の者に移すものだ。ところがその儀式は何者かの手によって巧妙にねじまげられ、大罪の装備製作の儀式にとってかわられていた」

遊び人「勇者、駄目よ。話しすぎよ」

魔法使い「それでそれで?」

勇者「寿命の転移呪文の魔法陣は完全に書き換えられていたわけではなかった。より高度で、禁忌の領域に踏み込むものに書き換えられていた」

勇者「7つの大罪の装備は1つでも強力な力を持つ。けれど、それら全てを身に着けることで……」

遊び人「もうダメだってば!!」ガバ!

勇者「ぐむむ……」

遊び人「まさか、あんたたち!!」

暴食「毒を飲むなら一緒に飲むと言っただろう。食事の中に判断力を鈍らせる、真実草と呼ばれる毒草を入れさせてもらった」

遊び人「卑怯よ!!」

暴食「僕らも食したのだから同じだろう。それに、何もかも話すほど強烈なものではない。本来ならば泡を吹きながらでも舌の呂律だけをまわしつづけて、自分の出生から話すような強力なものだ。実際、俺も一箇所だけ嘘をつかせてもらった」


暴食「大罪の装備は7つ集めると何かが起きるのだな。そして、魔王を倒したものがいるとされる処刑の王国の者は大罪の装備を集めている」

暴食「処刑の王国の動きは確かに妙だ。魔王討伐後に、なぜか全国各地にいる勇者を呼び集めた。そして、王国に向かった勇者は二度と姿を現していない」

暴食「さあ、7つの装備を身につけると何が起こるのだ。答えろ」

暴食は勇者に迫った。

遊び人「駄目よ!!」

戦士は立ち上がり、遊び人を勇者から引き剥がした。

暴食「話せ。もう隠す必要はない」

暴食「全てを話せ」

勇者「大罪の装備は……」

遊び人「勇者、だめ!!」

勇者「大罪の装備は……どんなことがあっても……」

勇者「お前らから、奪い取るつもりだ」

勇者は思っていたことをそのまま口に出してしまった。



魔法使い「……そんなことばかり考えながら今日はここにいたってことね」

遊び人「勇者……」

暴食「あの鎧は渡さない。俺たちはこの村で、それなりの権力を手にしながら、今後も一生生きていくつもりだ」

遊び人「この村への食べ物の恨みを晴らしながら?」

暴食「食べ物の恨みは恐ろしいというだろう」

遊び人「…………」

暴食「だが、そうだな」

暴食「お前が俺より暴食にふさわしいことを証明できたら、大罪の装備を渡してもいい」

なんかぬけてない?

>>102
抜けてました。おみそれしました。

>>96>>97の間

暴食「やがて、最後の食料も尽きた。魔物を食べないと言っていた僧侶用の食料も尽きた」

暴食「僧侶の体力も尽きた。魔法使いをおぶってあるくどころか、自分一人でもまともに歩けなくなっていた」

暴食「僧侶は、俺が戦士と魔法使いを背負って、歩き続けるように言った」

暴食「最後に彼女は、隠し持っていた食料を俺に差し出した。俺はそれを食し、いくらかの体力を取り戻し、2人を背負って歩き続けた」

暴食「僧侶は姿を消していた。最期の体力を振り絞って、俺から姿を隠したんだ」

魔法使い「何言ってんのよ!」

遊び人「勝敗はどう決めるの?」

暴食「断食で対決するんだ。より長い間食べ物の摂取を拒んだほうが勝ちだ。真実薬を飲めば、どれだけ断食できたか嘘は言えない」

暴食「君たちが勝利したら暴食の鎧をくれてやろう」

遊び人「私達が負けたら?」

暴食「真実薬を吐くまで飲んで貰う」

暴食「大罪の装備に、少し興味がわいたからね」

~二組のパーティが別れた後~

魔法使い「どういうつもりなのよ!!ただでさえ中毒性の高い食べ物をずっと食べてきたのよ?あいつらのほうがずっと有利よ!」

戦士「悪い冗談だと思ったぞ」

暴食「今日はたくさん真実薬を飲み込んだ。冗談で言っているわけではない」

暴食「俺は死なない。敵と毒を飲む覚悟で挑んだ。なんなら、餓死するまで耐えてやるさ」

魔法使い「本当に、何を考えてるのよ……」

暴食「僕が負けると思う?」

魔法使い「…………」

魔法使い「信じてるから、私たちは今日までついてきたのよ」

暴食「勝利を信じてもらえて何よりだ」

魔法使い「勝つかはわからないわよ」

暴食「えっ」

魔法使い「あなたが負けるならしょうがない。私にとっての信頼はそういうものなの」

暴食「そうか。そっちのほうが嬉しいよ。でも大丈夫だ。食に関して、僕は誰にも価値を譲るつもりはない。それが、食をしないということであっても」

戦士「話は戻るが、一つ聞きたいことがある」

戦士「あの勇者たちに嘘をついたといっていたが、どこだったんだ?全部真実を話していたように聞こえたが」

暴食「…………」

暴食「君たちにも内緒だ」

遊び人「どういうつもりなのかしら!断食で勝負だなんて。あんなこと言って、私たちを弱らせて自分たちだけはご飯を食べるつもりじゃないかしら」

勇者「やつらのほうが圧倒的に戦闘能力が高い。まともに剣技で対決したほうが明らかにこちらに分が悪いのに、あえてあんな勝負をもちかけてきたんだ。何か意味があるんだ」

遊び人「そうはいっても、勇者もどうして乗ったのよ!!負けたらあいつらに大罪の装備の在り処を全て吐いてしまうのよ!」

勇者「食べてはいけないものを食べたら吐いてしまうのは真実草を食べているときに限らない」

遊び人「本当に、何考えてるのよ」

遊び人「本当に……」

遊び人「…………」

遊び人「真実草、まだ利いてるのよね?」

勇者「そうだと思う。自分に実感はないけど」

遊び人「あのさ。私が死んでた三日間、どんな贅沢したの」

勇者「霜降り肉を食べてた。バニーガールのダンスを見ながらね。いやぁ、復活させるのが遅くなってわるかった」

遊び人「…………」

遊び人「そう。よかったわね。おやすみなさい」

~断食1日目~

暴食「あそこの区域にいる家畜は隣の村に出荷してくれ。移動のための魔物使いを一人手配しておいた。それから……」

…………

戦士「勇者、仕事をして無駄な体力を使うと賭けに不利になるぞ」

暴食「食を欲する気持ちという点では巨漢はふりだけど、生き延びるという点では圧倒的に有利だよ」

暴食「より食事の必要ないものに食欲があり、より食事が必要あるものに食欲がないのはなんとも皮肉なことだと思わないか」

戦士「そういうことにも頭を使うと余計エネルギーがなくなるぞ」

暴食「食べるということについて考えるのが好きだ。そのために食べているといっても過言ではない」

勇者「……zzz」

勇者「……zzz」

勇者「……zzz」

遊び人「全力でエネルギーを節約する気だよこの人。朝から晩まで宿屋で寝る世にも珍しい冒険者だよ」

遊び人「食べて寝ると牛になるっていうけど、牛のように寝て食べないつもりだよ」

遊び人「ううー、宿代稼ぐために働かなくちゃ!!遊び人なのに~!!」

~断食2日目~

暴食「ふぅー、今日も一仕事した」

戦士「勇者、仕事は休めといっただろ」

暴食「気が紛らわせるからかえっていいんだ」

戦士「手が震えてるな。ただの食欲だけでなく、大罪の装備の影響を受けた食料を食べられなくなって、禁断症状がでているんだろう」

暴食「一度悪事に染まった男が正義に寝返ると死ぬのと似ているな」

戦士「またわけのわからんことを。無理してると身体を壊すぞ」

暴食「なぁに。魔王の手下と戦うわけでもない。こんな勝負朝飯前だ」

戦士「朝飯すら食べることのできない勝負なわけだが」

暴食「無理をするなというならこっちのセリフだ。戦士も俺にあわせて断食してるだろ」

戦士「……お見通しであったか」

暴食「その気持だけで胸がいっぱいだ」

戦士「でも腹は空っぽか」

暴食「はは、よしてくれ」

遊び人「やばいこのアイスクリーム!!口の中でパチッシュワって!!はじけるうまさ!!」

遊び人「野菜も、その野菜を食べた牛もめっちゃうまい!!」

勇者「…………」グゥ~…

遊び人「あっ、起きてたんですか勇者様。お見苦しい所お見せしました」モグモグ

遊び人「ううー、ほっぺが落ちるうぅううう!!」

勇者「…………」グゥ…

勇者「あのさ……」

遊び人「はい」

勇者「なんか頭の中がお祭り騒ぎみたいな感覚であんまり記憶ないんだけど。あの日の夜の俺って、変なこと言ってなかった?なんか、贅沢してたとかなんとか……」

遊び人「自分の腹に手をあてて聞いてみればどうですか?」

勇者「…………」プヨン

勇者「ちょっと肥ったかも」

遊び人「これから痩せるといいですね」

勇者「どうしてさっきから敬語なの?ちょっと怖いんですけど」

遊び人「心配ご無用。大丈夫、あなたは賭けに勝ちますよ」

勇者「うん……応援してくれるんだ……うれしいなぁ……」

遊び人「私が食べさせませんもの」

勇者「…………」

~3日目~

遊び人「暴食の勇者も外であまりみかけなくなったな。つらいんだろうか」

遊び人「勇者のこともさすがに心配だな」

コンコン

遊び人「入るよ?」

勇者「…………」

遊び人「寝てる?」

勇者「起きてる」

遊び人「体調、大丈夫?」

勇者「わからない。でも、なんていうかな」

勇者「懐かしいんだ、この感覚。遊び人と出会う前、一人で冒険してた時に俺も飢えてた時期があったんだけど」

勇者「何も食べないと、俺の場合は足が痺れるんだった。身体の中で生まれ変わるべきものが生まれ変わっていないというかさ。蓄積した痛みが流れてくれないというか」

勇者「お腹が空いたら、お腹が苦しいんじゃないんだな。空腹なのに食べ物がないと思う、心が苦しいんだな」

遊び人「勇者……」


~6日目 夜~

遊び人「もうだめ!もうだめよ!いつまで二人とも続ける気よ!!」

遊び人「勇者の胃袋にご飯を詰め込まないと!」

遊び人「こんな賭け事おかしいわよ!!魂が削れるとか削れないとか以前に、こんなの生きた拷問よ!!」

遊び人「暴食の鎧は頑張って盗めばいい!!」

遊び人「勇者、入るからね!!」

ガチャ!

遊び人「…………」

遊び人「いなくなってる」

遊び人「夜食でも、こっそり食べに行ったのかな。私も小さい頃によくやったなぁ」

遊び人「…………」

遊び人「いいのよ、それで」

遊び人「生きるために食べるか、食べるために生きるか、か」

遊び人「食べるために生きてると思う瞬間が、生きてる中にはきっとあるよね」

遊び人「私もお腹空いたな。甘いものでも食べに行こっと」

痩せた勇者と、痩せた暴食は森のなかで遭遇した。

暴食「こんな夜中にわざわざここまでくるとは。こっそりきのみでも食べに来たのかな。それとも、鎧を盗みに来たのか。残念ながら、もうここにはないぞ」

勇者「…………」

勇者は首を横に振った。

暴食「そういうことを疑って、俺が待ち伏せてるんじゃないかと思って会いにきた、というように解釈してやろう」

勇者は首を動かさなかった。

暴食「いずれにせよ真実草が真実を吐くさ」

暴食「思い出話をしてもいいか」

暴食「俺は子供の頃、腹が減るということがどういうことかわからなかったんだ」

暴食「食欲、という感覚がまったくわからなかった。恵まれた地域で生まれて当たり前のように3食食べてきたというのもあるが、俺の体質の問題でもあったのだろう。勇者に生まれついたこととは全く関係なしに、俺固有の体質だ」

暴食「周囲の子供がお腹が空いたと言っていることの意味がわからなかった。どういうことか聞いてみても、お腹が痛いという精一杯の答えしか返ってこなかった。それから俺はお腹が痛くなると、お腹が減ったと親に言うようになって、飯を出されるという笑い話のようなことがあった」

暴食「お腹が空くという感覚を徐々に理解しはじめ、勇者として旅立ってからも、時々わからなくなった。戦士や魔法使いが文句を言う中、俺は空腹を多少感じながらも飯を食べたいという気持ちにはあまりならないことがあった。僧侶も、一度も不平を言ったことはなかったがな」

暴食「食べてる間にはわからない食べるということの意味を、食べない今になって思い出したよ」

暴食「いつもあって当たり前だったものがなくなってから理解できるのが人だ」

暴食「食事はまだいい。いただきます、ごちそうさま、という呪文があるから人は食事のありがたみを日頃から忘れないでいられる」

暴食「いつもいて当たり前の存在にはなんと言えばよかったのだ。おはようも、おやすみも、とても足りる言葉じゃない」

暴食「俺は、愛しているなんていう言葉を、最期の時まで使う勇気が出なかった。勇者と呼べる男では、なかったんだ……」ポロポロ…

暴食「僧侶……あと1日だけ……違っていたら……。お前はどうなっていた……二人とも生きていたのか、それとも死んでいたのか……。その死は、今の俺の命より劣る価値のものなのか……」

暴食「俺は、何のためにこれからも食べ続けなければならないのだ……」

暴食は涙を流した。

勇者は乾いた手を肩に置いた。

痩せた顔をあげた暴食の勇者に言った。

“はら へったな”

そして、ひどく咳き込んだ。

暴食の勇者は、勇者の酷いかすれ声にほとんど聞き取ることができなかった。

暴食「お、お前!!」

暴食「水すら、飲んでいなかったというのか!!」

~暴食の勇者の館~

戦士「ひとまず水を飲ませて寝かせておいた」

遊び人「勇者!!」

勇者「……よっす」

遊び人「ほら、支えてあげるから起き上がって」

遊び人「スープにパンをひたした食べ物だよ。よその国の素材を取ってきたの」

勇者「…………」

遊び人「食べて」

勇者「…………」

遊び人「食べなさい」

勇者「…………うん」

勇者「……いただきます」

勇者「…………」ゴックン

勇者「……ああ」ポロポロ……

勇者「……あぁ……あぁ……」

勇者「なんだよ、なんだよこれ……」

勇者「うめぇ……」ポロポロ…

遊び人「よかったね」

勇者「ううう……ひぐっ……うめぇよお……」

勇者「うわぁあああんん……」ポロポロポロ……

魔法使い「ほら、勝負はあなたの勝ちよ。よく耐えたわね。食べなさい」

暴食「…………」ゴクリ…

暴食「うぅ……あぁ……」

暴食「うぐ……」ポロポロポロ……

魔法使い「あれだけ暴食の装備の影響を受けた食物を食べてた男が、よその村の普通の食事を摂りたがるなんてね」

暴食「あぁ…あぁ……」モグモグ

魔法使い「そして、魔物に八つ裂きにされても泣かなかった男が、ご飯を食べて泣くなんて」

魔法使い「僧侶。あなたの勇者は、今も勇者のままでいるわよ」ボソ

勇者「……よし。もう行こう」カチャリ

遊び人「どうしたの?まだ全部食べてないじゃない。ゆっくりでいいよ」

勇者「勝負に負けたんだ。大罪の秘密を全て話すわけにはいかない。館の外に出て移動の翼を使用するんだ」

サッ…

暴食「空から降り注ぐ雷撃の呪文を使用する勇者を相手に、そんな愚かな逃亡を図ろうとする勇者がいるとはな」

遊び人「暴食の勇者!」

暴食「同じ釜の飯を、拒んだ者同士」

暴食「腹を割って、話をする時が来た」

~数日後~

魔法使い「ああーおながずいだよぉ……」ブルブル…

戦士「まったくだ」

暴食「清き泉の里がこの森の奥にあるという。もう少し探索してみよう」

魔法使い「もう近くの町に戻ってご飯食べようよ~。暴食を楽しもうよ~」

暴食「それでもいいが。せっかく昔みたいに痩せてスリムになったのに、もったいないなぁ」ボソ…

魔法使い「…………」

魔法使い「も、もう少し探索をがんばりましょうか」

戦士「なあ勇者」

暴食「何だ」

戦士「どうしてあいつらに大罪の装備を渡してしまったのだ」

暴食「これで聞かれるのは10度目くらいじゃないか。言っただろう」

暴食「あんな危険なものを持ち歩きながら旅には出たくない。装備の魅力に取りつかれ、いつ身に付けてしまうかもわからない」

戦士「それは奴らも同じでは」

暴食「あいつらは大罪の装備を封印する壺を持っている。壺の中にある物は魔力を外に漏らさない。俺も目の前で確認した。明らかに壺より大きい装備が中に吸い込まれ、存在を一切消したかのように収まった」

戦士「だったらあの村のどこかに隠しておけばよかっただろう」

暴食「俺はもう、あの装備の影響で、人の寿命を食らう食物が出ることを望まなくなったんだ」

戦士「…………」

暴食「削れた魂の欠片を、今回の1件で少し取り戻すことができたらしい」

暴食「それに、あいつらも言っていただろう。あの村から今すぐ逃げ出せと。大罪の装備を目当てに必ず処刑の王国の者が訪れると」

暴食「縁を切ったほうがいいものなのだ。俺達は空腹に喘ぎながら、こうして旅をするのがお似合いなんだ」

暴食「そうさ。俺はもう一度、こうやって、お前らと冒険がしたかったんだ」

魔法使い「……くくっ」

魔法使い「……ぷはっ!」

戦士「……くく。はは!」

魔法使い「あははは!!!」

暴食「な、なにがおかしい!」

魔法使い「こんな巨体の勇者一行なんている!?」

戦士「以前、例の勇者が面白い独り言を言っていた。世界を救った勇者が巨漢でも、世界は讃えてくれるのかと。石像は痩せた形でつくられるんじゃないかと」

暴食「あいつもよくわからないことを考える」

魔法使い「でも気になるんでしょう?私達さ、あいつらの冒険についていかなくてよかったのかな。それなりに戦力にはなれたと思うけど」

暴食「あの者たちは二人でパーティを組んでいる。4人まで精霊の加護を受けられるというのに」

暴食「俺達のように、何かしら事情があるのだろう」

暴食「そんなことを話している間にだ」

魔法使い「わぁ!!泉がある!!喉乾いた!!」

戦士「俺もだ」

ゴクゴクゴク……

戦士「あー、生き返る」

暴食「戦士。俺がどうしてあいつらに大罪の装備をわたしたか、別の方法で説明できそうだ」

戦士「どういうことだ?」

暴食「水を飲んでくれ。飲める限界まで」

戦士「まあいいが」ゴクゴク…

戦士「……ふぅ。もう飲めん」

暴食「よし、ではもう一口飲んでみろ」

戦士「馬鹿にしてるのか!」

暴食「いいから、飲んでみろ」

戦士「まあ飲めんこともないが……よし」

ゴクゴク…

戦士「うう……」

暴食「もう一口だ」

戦士「……吐く時は勇者の頭から吐いてやるからな」ゴクゴク…

戦士「ぷはぁ、もう無理だ……」

暴食「もう一口」

戦士「今度こそ本当に無理だ!」

暴食「そうか。悲しみを受け入れている状態もそれと似ている」

戦士「はあ?」

暴食「最期の一口の前に、たまたまあの勇者が訪れただけだ」

暴食「俺はあの勇者と遊び人に救われたんじゃない。あの二人が訪れた時、たまたま俺は時の流れによって救われつつあった。そして最期のひとくちを飲み終わり、大罪の装備を手放した」

暴食「時は最良の薬。良薬は口に苦し。と、言うだろう」

暴食「冒険に挫折した時から流れていた時間は苦く苦しいものであったが、俺の乾きもいつのまにか救われていたということだ。まさに最期の5日間、俺は最良の薬を食べ続けていたわけだ」

戦士「勇者、お前は僧侶のことを、やはり……」

魔法使い「ねえねえ!あっちに木の実が生えてるよ!!食べてみようよ!!」

暴食「痩せるんじゃなかったのか」

魔法使い「一口だけ!」

暴食「本当に一口でやめられたら、俺は奇跡を信じるぞ」

キィィイイイン――――

暴食「うぐっ……!」

戦士「大丈夫か勇者!」

魔法使い「どうしたの!?」

暴食「今、耳鳴りが聞こえたような……」

戦士「耳鳴り?」

魔法使い「感知呪文?でも私たちには何も…」

ヒューーーーーー……

魔法使い「……なに、この森がざわつく感じは」

戦士「構えろ。何かが来るぞ!」


「こんな森の奥にいるなんて。おかげで見つけるのにだいぶ手間がかかったよ」

「感知呪文の対象を勇者に絞った。だからお前らのような、選ばれなかった存在には当然ひっかからない」

戦士「誰だ貴様は!」

「醜かったなぁ。あの村の連中は、どいつも、こいつも、醜い身体をしていた。全員殺してやろうかと思うほどにね」

「君達もだ。君も、君も、君も。全員、肥えた豚みたいな身体で生きている。そんな身体で勇者を名乗るのは、他の勇者に対する侮辱だ」

魔法使い「な、なによこいつ……!!」

戦士「貴様は誰だと聞いている」

「今は、こう名乗っておこう」

「勇者を、殺す者だと」

戦士「勇者、下がっていろ!!」

戦士「処刑の王国の手先め!!!」

戦士が切りかかった。

「手先じゃないんだけどなぁ」

謎の男は手の平をかざした。

戦士「うぉおお!!!」

魔法使い「戦士、気をつけて!!」

男はため息をついた。

男の手の平から、風の刃が飛び出した。

戦士「ぐぁあああああ!!?」

「剣を抜くのもめんどうだ」

魔法使い「今のは!!呪文の詠唱に唇を動かしていないわ!!」

魔法使い「無口詠唱(むこうえいしょう)!超上級魔術よ!」

魔法使い「戦士、私の後ろに下がって!!」

魔法使い「『火の中で踊りし精霊よ。冷たき魂の持ち主を焼き付く……』」

魔法使いが詠唱を始めると、男が杖を振った。

魔法使い「んー!んー!」

「口も開かなければ少しは痩せるだろ」

暴食「目的はなんだ」

「心当たりがあるだろう」

暴食「腹を探るのはやめてくれないか」

「そんな醜い腹、探りたくもないね」

「裂いてやる」

戦士が蛇のような動きで近づいた。

戦士「喰らえ!」

男は魔法使いに手をかざした。

魔法使い「『焼き尽くし給へ!!』」

魔法使い「!?」

中断していた呪文が強制的に発動され、火の玉が戦士に浴びせられた。

戦士「ぐぉおお!!!!!!」

魔法使い「戦士!!!」

処刑人「ははは。仲間割れでも起こしたのかな?」

また誤字…謎の男は処刑人(仮)という認識で。

数分の後。

あたり一面の木は倒れ、焼け焦げていた。

戦士と魔法使いは倒れ、暴食の勇者がぼろぼろの姿で立っていた。

暴食「なんてやつだ……最大雷撃呪文が効かないなんて……」

「噂には聞いていたけど、精霊の加護を壊されているんだろう。勇者としての特権をほとんど失ったようなものじゃないか」

「俺がそこにいる仲間を殺してしまうかもしれないよ?そろそろ装備したらどうだ?」

「選ばれたんだろ。暴食の鎧に」

暴食「なるほど、それが目当てか」

「どこにある?」

暴食「……食べちまったよ。デブだからな」

「だったら、全部吐き出しやがれ!!」

男は暴食の勇者を戦闘不能にさせた。

処刑の王国に連れ去り、拷問を加えた。

暴食の勇者達は、全滅してしまった。

遊び人「どう、かな?」

勇者「おお」

勇者「おお、おお!」

遊び人「なによ」

勇者「おお、おお」

遊び人「おおってなによ!はいかいいえでいいから答えてよ!」

勇者「はい!はいはい!!」

勇者「似合うじゃん!!」

遊び人「えへへ、どうも」

遊び人 E 皮のドレス(Sサイズ)

遊び人「ふんふーん。こんなおしゃれな装備着て冒険できるのいいなぁ」

遊び人「ふふふんふーん」

勇者「楽しそうで何よりだ」

遊び人「あのさ、勇者」

勇者「ん?」

遊び人「今回さ、ご飯我慢してまで戦ってくれてさ……」

遊び人「その、あ……」

勇者「あ?」

遊び人「あ、えーと」

遊び人「あ……」グゥ~

勇者「ぐふっ!」

遊び人「…………」

遊び人のこうげき

勇者に5のダメージ

勇者「いって!!」

遊び人「お腹鳴ったくらいで笑わないでよ!」

勇者「だからって殴るこたぁないだろ!」

遊び人「虫の居所も悪くなるわよ!」

勇者「それは腹の虫かな?」

遊び人「……こんの馬鹿勇者!!!」

あ、から始まる言葉は、いつも言いづらい。

【暴食の勇者の思い出】

~旅の途中の思い出~

戦士「またこの乾いたパンもどきか」

暴食「値段が安い。腹にもたまる」

魔法使い「テンションあがんないわー。あんたも抗議しなさいよ」

僧侶「ふふ、私はこれでかまいません。修道院にいた頃も、食事は質素でしたから」

魔法使い「僧侶がそんなんだから、うちらの勇者は食費を全部武器と防具にまわすんだよ」

暴食「必要最低限に全てを振り分けてるだけだ」

暴食「宿も道具も武具も食事も、全て生きるために必要なものだ。それ自体が目的となってはいけない」

魔法使い「はいはい。大人しく食べるわよ」ボリボリ…

僧侶「いただきます」モグモグ

~魔域の思い出①~

暴食「戦士と魔法使いに仮死草を飲ませた。俺が戦士を背負うから、僧侶は魔法使いを背負ってくれ」

僧侶「わかりました」ニコ

暴食「…………」

暴食「お前はいつもそうだな」

僧侶「なんでしょう?」

暴食「何も文句を言わない。黙って受け入れる。腹が減ったとすら言わない」

暴食「お前は不思議な存在だ」

僧侶「天然ですか?天然って言われるのは僧侶の宿命です」

暴食「まぁそれもあるんだが」

僧侶「やっぱりありますか」

暴食「お前は不満を言うべきところで言わない。僧侶という職業のものはみんな、不満を吐くべきところで吐かず、悲しむところで何ともないような表情をする義務でもあるのか」

僧侶「人それぞれだと思いますが。あっ、あの紫色の雲、鳥の形みたいですね」

暴食「そういうところだ。わざとらしい。人間らしくしてみろ」

僧侶「人間らしくですか」

暴食「何でも言ってみろ」

僧侶「お腹がすきました」

暴食「焼き焦げたからすの死骸ならある」

僧侶「食べていいんですか」

暴食「魔物の肉もあるが、魔物は食べないんだろ」

僧侶「食べますよ」

暴食「なんだと?」

僧侶「戦士さんと魔法使いさんの体力の減りのほうが早かったものですから。私が食べる分を少し減らそうと思ったんです。魔物の肉はそれなりのエネルギーをたくわえていますし」

暴食「僧侶という職業だから、魔物を入れることに信念上の抵抗があったのかと……」

僧侶「前線で戦う仲間を後ろからただ癒やすだけ。それが僧侶の務めで、できることの限界ですから」

暴食「魔物の肉だ。魔法使いの火で炙ってあるから、食べても腹はくださない。多分」

僧侶「では、ありがたく」

僧侶「いただきます」

僧侶は魔物の肉片を口にした。

暴食「どうだ感想は」

僧侶「…………」

暴食「はは、なんだその苦そうな顔は」

僧侶「私は我慢して動物の死骸を食べていたつもりでしたが、みなさんも中々魔物を食すのに我慢されていたようですね。戦士さんの表情を見てある程度察していたつもりでしたが」

暴食「やっぱり我慢してたんじゃないか」

僧侶「食べられるだけでありがたいことです」

暴食「俺はくそまずいと思うだけだがな」

僧侶「そうですか」

暴食「まずいって言ってみろって」

僧侶「言いたくないことはいえません」

暴食「僧侶だからか?」

僧侶「私だからです」

暴食「死ぬまで不満を言わないつもりか?こんな勇者について来たくなかったって言ってみろ」

僧侶「今日は一段と機嫌がわるそうですね」

暴食「そうだね。でも安心していい。間もなく僕も餓死するだろう。だから、僕への恨みを言うんだ」

僧侶「思ってもないことは、なおのこと言えません」

暴食「本心をさらけ出す相手がいないことは不幸な人生だと思わないか」

僧侶「本心をさらけ出してまで嫌われたくない相手がいる人生は幸せだと思いますよ。本心をさらけ出せることが幸せなことであればこそ」

暴食「……説教がましい僧侶だ」

僧侶「それも僧侶の務めです」

理解してくれる人がいるのなら、他(タ)の人にはむしろ誤解された方がいい。

~魔域の思い出②~

僧侶「……勇者様」

暴食「喋るな。酷い掠れ声だ。無駄な体力と水分を使うな」

僧侶「ついに、立てなくなりました。私を置いていってください」

暴食「それはできない」

僧侶「かっこうつけないでください」

暴食「違う。俺も立てなくなったんだ。戦士のやつ、装備を外しても重すぎる。これならもっと飯を節約したほうがよかったくらいだ」

僧侶「そうですか。それじゃあ戦士さんに加えて魔法使いさんを背負っていくことはなおのこと無理ですね」

暴食「ああ」

僧侶「だったら、一人であるき続けて下さい。4人がいなくなるより、1人が生き残るほうが良いでしょう」

暴食「無慈悲な僧侶だ」

僧侶「悲劇が起こった際に『神などいない』と言う者が多くいます。しかし、これはおかしな話です。もしも慈愛や道理や成就した願いで満ちたこの世界であったなら、人が神を信仰することはなかったと思うのです」

暴食「……以前のお前なら決して言わなかったような言葉だな。信仰を捨てたか」

僧侶「いえ、布教活動です。神などいないと嘆きたくなる世界だからこそ、人は神を信仰するのです」

暴食「俺は改宗する気はない」

僧侶「そうですか。嫌なら1人で去ってください」

暴食「無理だ」

僧侶「もしかして、一人でも立てませんか」

暴食「それくらいの体力は残ってる。だが、お前と二人じゃなきゃ立てないんだ」

僧侶「…………」

暴食「勇者という職業の信仰上の問題でな」

暴食「俺の両親を殺した恨みを糧に、今まで魔王討伐の冒険をしてきたが」

暴食「糧にするものを間違えたな。こんなことなら、お前らと、もっと美味いものでも食べておけばよかった」

僧侶「魔族に大切な存在を殺されたのはあなただけではないですよ。ここまでたどり着けたのも、あなたが必要なことだけを選んでくれたからです」

暴食の勇者は短剣を腰から抜いた。

暴食「こんな食えないものなんかに金を使うんじゃなかった」

暴食「俺らは、空腹に殺されるんだ」

暴食は諦めたように目を瞑った。

僧侶「…………」

僧侶「……私は、食料をずっと持っていました」

暴食は起き上がった。

暴食「なんだと!?」

僧侶「みなさんの命を救ってまで、私はこの食料を差し出すつもりはありませんでした」

暴食「自分のために隠し持っていたのか?」

暴食は裏切られた思いがした。

僧侶「でも、あなたは無意味なことをしてくれました。自分だけなら助かるかもしれないのに、一緒に残るという、愚かな選択をしました。あなたは命を差し出してくれたんです」

暴食「さっきから何をぶつぶつ言っている!早く出すんだ!」

暴食の勇者は僧侶を見た。

ぼろぼろの服に、痩せた身体に、ペラペラの道具袋がひとつ。

暴食「……僧侶、気でも触れたか」

隠し持つことなど、できるわけがなかった。

暴食は絶望し、再び横になり目を閉じた。

僧侶「喉とお腹を満たしたあなたは力を取り戻し、2人を背負って外まで再び歩き出すのです」

僧侶は1人、語り続けた。

確信した目を以て。

~魔域の思い出③~

暴食「…………」

僧侶「…………」

暴食「…………」

僧侶「…………」

暴食「…………」

僧侶「…………」

暴食「…………」

僧侶「…………」

僧侶は何か言いたげに、力なき手を動かした。

暴食「……どうした」

僧侶は掠れた声で言った。

“い き て”

指先で暴食の勇者の唇にそっと触れた後、自身の身体を指差した。

そして、力尽きた。



暴食は、妄言だと思っていた僧侶の言葉の全てを理解した。



これから引きずっていかなければいけない仮死状態の仲間が二人。

命絶えた仲間が一人。

喉の渇きと空腹に飢え動くことのできない自分。

喉の渇きと空腹さえ満たせば動き出すことのできる自分。

一人の勇者はこの日、勇者であることを辞め。

人間であることを辞めた。



暴食の勇者の前に大罪の装備が現れるのは、それから1日後のことだった。

暴食の勇者達 ~fin~

『英雄色を好む』

性欲のことを”色欲”という言葉で表すこともあるように、性は色で表現できる。

例えば

「愛する者との性の営みは神様からのプレゼント」

ということを表現したければ、2つの色を混ぜれば良い。

1つの色ともう1つの色が混じり合うことで、新たな色が生まれる現象は、2人の男女が重なることで新しい世界が開けるのに似ている。

ヴァージンロードで花嫁が着ているのは、純白のドレスだ。

自分の色を1つの色と混ぜる覚悟の表現だ。

1人と1人が出会うことで、新しい快楽や幸福感が生まれるだけでなく、それこそ、子供が誕生する。


「不特定多数との乱れた性欲は邪(よこしま)だ」

ということを表現したいなら、多数の色を混ぜればいい。

摩擦を繰り返した性器のように色は黒く染まるだろう。

恋愛が桃色で。

愛情が薔薇色ならば。

性欲は、何色か。

一つだけ、わかることは。

どうやら英雄は、邪な色であるということだ。

【第2章:色欲の谷 『快楽を刺激する鞭』】

とある勇者は、モテたくて、強くなった。

遊び人「キャー!!!なに脱衣場に来てるのよ!!覗き!!最低!!!」

遊び人「しかも私の脱いだ服持ってるじゃない!!服泥棒!!変態!!」

勇者「ち、ちがうんだ!!さっき買ってきたバニースーツを置いただけなんだ!」

勇者「強制的にバニースーツしか着れない状況を生み出そうとしただけで、覗きでも服泥棒でも……」

つうこんのいちげき!

勇者に45のダメージ!

勇者「かはっ……」

遊び人「世界を救う勇者を名乗る者が、こんな変態で許されると思ってるの!」

勇者「英雄色を好むというだろ?これは俺の英雄である証明でもあるわけで……」

遊び人「だったら絵の具でも食べてなさい!!」

遊び人は化粧用の染料を勇者の口に突っ込んだ。

勇者「もががが……」

遊び人「そんなにバニーガールが好きなら、そういうお店でもなんでも行けばいいじゃない!!」

勇者「お、おはよう」

遊び人「…………」

勇者「街の人に聞いたら、目的の谷は近いそうだ。今日一日歩けばたどり着くって」

遊び人「…………」

勇者「き、昨日は俺もどうかしてたんだって。ちょっと夜外を歩いてたら、旅の商人がいたものだから。気になってみてみたら、それはそれは艶やかな……」

遊び人「…………」

勇者「冒険に出発しようか!!」



勇者と遊び人は途中で立ち寄った町を後にし、谷を登り始めた。

1日中無言であるき続け、日も傾いた時。

谷の中にある、歓楽名所にたどり着いた。

案内人「あおっ///あおんっ!!よ、ようこそ///」

案内人「ここは、おおん!今では///『色欲の谷』と呼ばれているほど、おませな場所だよ///おおん!!!」

案内人「ここでは他人に危害を加えない変態行為や、お互いの合意に基づくありとあらゆる性的な行為が許されているよ!!おんっ!!」

案内人「男だけのパーティや、変態的な欲求を持つ金持ちが、最近ではよく訪れるよ!!オオン!!////」

勇者「……三角木馬に座ってる案内人は初めて見た」

遊び人「ここは無関係そうね。次の街いきましょう」

勇者「いやいや。どう考えても大罪の1つ『色欲』に関係してるだろ!」

勇者「ムッチムチの肉体をひけらかすかのように歩く女武道家。透き通るような衣装を着てほほえむ踊り子」

勇者「普通の街では見かけないような大人な店がいっぱいありやがる」

勇者「股間への誘惑が凄過ぎ……。ごほん。性器への刺激が強すぎる谷だぜ」

遊び人「今何を言い直したつもりだったの?前後で発言の酷さが変わってないんだけど?」

勇者「まあ俺は全然女子なんかにキョーミねーけどな」

遊び人「うわっ、出た。童貞呪文『ジョシキョーミネーシ、ダチトイルホウガタノシーシ』」

勇者「わ、わりいかよ。それにドウなんちゃらなんて言ったことないだろ!」

遊び人「ぷぷ。そうでしたね、魔法使い様」

勇者「転職した覚えもねーよ!」

遊び人「勇者も初めて私とあった時はかわいかったなー。ろくに目も合わせてくれなかったし」

遊び人「それが今では……」

勇者「目以外も合わせる仲になるとは」サワ

遊び人「髪の毛一本触れるな変態」ドム

勇者「うごお……」

宿屋「2名ですか?」

勇者「はい。同じ部屋で」

宿屋「あいよ。今夜はお楽しみだね」

勇者「はい!!」

遊び人のこうげき!

勇者「ぐはっ!何すんだ!」

遊び人「どうせこのあと回復すんでしょ」

勇者「ドSか」

~夜~

遊び人「ぎゃあ!!」

半裸の勇者があらわれた!

遊び人「半裸で風呂から出てくるなっていっつも言ってるでしょ!!」

勇者「やべやべ、ついな。でもよく考えてみろよ。服を脱いでわざわざ裸になったってのに、お湯を浴びて出たらまた服を着るってどういうことだよ?せめて半分は裸でいさせてくれよ」

遊び人「わけのわからないことを」

勇者「気持ちいいぞ!!お前にもオススメ……ぐは!!」

遊び人「そんなに半裸でいたいなら、半裸で冒険してなさいよ」

勇者「それは……いいかもなぁ///」

遊び人「教会の神官様にお金渡したら、この人にかけられてる呪いでも落としてくれるのかしら……」

遊び人「この余りものの布のシーツで部屋仕切るから。こっから先には立入禁止ね」

勇者「毎度のことながらうるさいな」

遊び人「私は勇者様の中に巣食う魔物が覚醒しないか心配で心配で」

勇者「まぁ夜の街に繰り出すかもしんないけどな」

遊び人「勝手にすれば」

勇者「やきもちやくなって。安心しろ。俺は一人でしかしないよ」

遊び人「キモいから!なにやさしい口調で言ってんのよ!夜の街に出ていっていいから!」

遊び人「はぁ、最初の頃の勇者はかわいげがあったんだけどなぁ」

勇者「またその話かよ」

遊び人「はじめて二人で宿に泊まる時に、部屋を別々にするかどうか聞かれたときよ」

遊び人「顔を真っ赤にして、別々って言おうとしてるあんたを遮って、同じ部屋にしてくださいって言ったらきょどりまくってて」

遊び人「お金の心配のことを話したら、あんた頭下げて、外で寝るなんて言い出して」

遊び人「純朴な勇者様はいずこへ……」

勇者「あの頃と何も変わってねえよ」

遊び人「少しも大きくならないまま?」

勇者「心はな。心の話だから、下半身を見て言うな」

勇者「おはようございます」

宿屋「きのうは おあずけでしたね」

遊び人「何聞き耳立ててんのよ!!変態宿屋!!」

宿屋「ううっ///」

勇者「昨日はちょっと。仕事で疲れてるんだって言って背を向けて拒んでしまったんです」

遊び人「あんたも何いってんの?」




遊び人「今日も凄い景色ね。お店から連れ出してきた女性と手をつなぎながら、半裸で外をスキップしてる住人がたくさんいるわ」

勇者「住人じゃないんじゃないかな。きっと他の街に住んでいる人が多いよ。僧侶とか神官なんか特に、普段自分たちの街で抑えてる分ここで激しくやってるんだろう」

遊び人「失礼よ。あなたみたいな変態とは違うんです」

勇者「俺は大した変態じゃないさ。この谷のお店に入るとしても、普通のバニーガールのいるお店にしか……」

遊び人「あっ、戦士がおもてなししてくれる店があるみたいよ。男性限定で。行ってくれば?行きなさいよ。行きなさいってば」

勇者「押さないで!!押さないで!!」

遊び人「もう。何しにこの谷に来たんだか。これからどうするの」

勇者「大罪の装備について情報を集めながら、日銭を稼ごう。ほとんど手持ちもなくなっちまったからな」

遊び人「冒険者用のクエスト依頼が掲示板に張り出されているわね。どれどれ」

【指名手配犯】

・キラーパンツァー:下着どろぼう。四足歩行で人の敷地に入り、干してある下着を口に咥えて去っていくのが特徴。猫型の魔物の被り物をしている

・オナミック:宝箱の中に入り込み、下腹部を露出させた状態で自慰行為をしている。宝箱を開ける冒険者は基本的に男性なため、男色の可能性が高い。宝箱の底に穴を開けており、被ったまま高速で逃げる。

・パンチラの翼:天井の下でスカートを履いた女性に話しかけ、移動の翼を持たせるのが反抗手口。パンチラ目的と思われる。


<解決済>
ヤマタノオロチ?:近隣の街にて村娘が攫われる事案が発生。村娘が定期的に1人いなくなることから、古より伝わる伝説の竜の仕業だと村人は叫んでいる。
結果:近隣の街に済む富豪の息子の色男が女性をはべらせて囲っていただけであった。その人数は8人。八股の愚か者であった。

遊び人「性にまつわる案件ばかりじゃない!」

勇者「他人への迷惑がかかる変態行為は禁止されてるからな。度を越したプレイに手を出してしまったんだな」

遊び人「案内人なんて変な椅子に座ってたけど、あれはいいの?」

勇者「仕事だからしょうがないだろ。痴漢も覗きも関係性によって罪かどうか決まる。夫が妻の尻を揉んでも痴漢にはならない。お客が嬢のエッチな姿を見ても覗きにはならない。だが、通行人が通行人に手を出したら変態行為だ」

遊び人「いつになく真面目に語るわね」

勇者「さて、変態を成敗して、稼いだお金でキャッキャウフフなお店にでも……」

「キャー!!どろぼう!!」

勇者・遊び人「!?」

「ハフハフ!ハフハフ!アオーン!!!」

勇者「全裸の男が下着を咥えて四足歩行で走ってるぞ!!」

遊び人「ギャー!あれどろぼうなの!?それ以上の何かでしょ!!」

勇者「あいつがキラーパンツァーだな!!よし、捕まえるぞ!!」




勇者「止まれ!!」

キラーパンツァー「ガルルルル……」

キラーパンツァーがあらわれた!

遊び人「うう、直視できない……」

勇者「その下着を俺に返してもらおうか!!」

遊び人「あんたのじゃないでしょ!!」

キラーパンツァー「ジュルルルル……」

遊び人「ただの中年のおっさんじゃん……なんでこんなことしてんのよ……」

キラーパンツァー「オハエラハオレノハマヲフルトイフノハ……」

遊び人「下着咥えて喋ってるから何言ってるかわかんないわよ」

勇者「お前らは俺の邪魔をするというのか」

キラーパンツァー「ウハレハハハノフハハヘイヒルノヲホヒトヘフ、オノヘホヒフヲヘイヘヘントシタハホデハフフホノイヒハア」

遊び人「勇者!!こんなわけわかんない変態さっさと倒すわよ!!」

勇者「生まれたままの姿で生きるのをよしとせず、己の恥部を平然とした顔で隠すその生き方」

キラーパンツァー「ヘオホホヒホオホフ。イハホホヒンノフハハヲホヒホホヘ。イヒハイホウヒイヒフホヒハヒハ」

遊び人「露出狂をやめて囚人服でも着るがいいわ!!」

勇者「獣にも劣る。今こそ真の姿を取り戻せ。生きたいように生きる時は来た」

遊び人「なんで下着咥え語がわかるのよ!!」

勇者「読める…読めるぞ!!」

遊び人「誰にも読めない石版を自分だけ何故か解読できるようなかっこよさはないからね!!しかも言ってる内容かなり真面目なんだけど!!」

勇者「ほひふほひはひひひょうひははふは?(こいつの下着に興味はあるか?)」

キラーパンツァー「ハァ、フヘフハハヒハハホウ(まぁ、くれるならいただこう)」

勇者・キラーパンツァー「ふぁっふぁつふぁっ!」ケタケタ!

遊び人「何であんたも話してるのよ!てかこっちなんで見て笑ってんの!?なんて言ったのよ!!」

遊び人「くっ、見ながら戦いたくないという点で幻術魔法をかけられているようなものね……」

勇者「変態同士仲良くしたいが、こっちも日銭を稼ぐ運命を背負ってるんでね!」

ゆうしゃのこうげき!

すてみでたいあたりをした

しかし身をかわされた

遊び人「動きがはやいわね!」

キラーパンツァー「がるるる!!」

キラーパンツァーのこうげき

四足歩行をやめ、遊び人の前で仁王立ちをした。

遊び人「ぎゃぁっ!」

遊び人は咄嗟に目を瞑った!

遊び人「こ、殺すしかない!!殺すしかないわこいつ!!」

勇者「お、落ち着け!!てめぇ、女性の前で裸をさらけ出すなんてゆるさねえ!!」

勇者の攻撃!

勇者「れろれろれろれろくちゅくちゅくちゅ……」チュパチュパ…

勇者はキラーパンツァーのブツを直視しながら、口でいやらしい音をたてた。

キラーパンツァー「…………オェエエェエエエエエ!!!」

キラーパンツァーの口から下着がこぼれ落ちた。

キラーパンツァーのブツが縮んだ。

勇者「今だ!!」

勇者はすてみでキラーパンツァーにぶつかった!

キラーパンツァー「ぐぬぬ……!!」

キラーパンツァーは倒れた。

勇者「やっ……たぜ」

勇者「これが新技『精神的すてみ』だ……」

勇者は力尽きた。

遊び人「な、なにが起こったの!?さっきの音は何!?」

遊び人はおそるおそる目を開けた。

遊び人「なにこの惨状……」

~翌日~

遊び人「勇者、昨日はすごかったね!!谷中の女性から感謝されてたじゃない」

勇者「ふはは。くるしゅうない」

遊び人「下着なんて自分の分身みたいなものよね。それを盗まれたらたまったもんじゃないわ」

勇者「下着は分身か。いいこというなぁ……」

遊び人「そういう言葉でしみじみされても困ります」

勇者「はは、別にいいじゃねえか……!」

ピキン!

勇者「!?」

遊び人「どうしたの?」

勇者「感知した。指名手配犯が近くにいる」

遊び人「えっ?」

勇者「あの洞窟の入り口にある宝箱。人間が入ってる。オナミックってやつだ」

遊び人「凄い!!感知呪文覚えたの!?」

勇者「いや、そうじゃない。そうじゃないんだ……」

勇者は顔を物憂げに伏せ、過去を眺めるような面持ちでつぶやいた。

勇者「俺と同じ、変態のにおいがするんだ……」

遊び人「シリアスな感じで言うのやめてくれる?」

勇者「宝箱を上から抑えろ!!」

ガシ!

遊び人「どうすんの!?」

勇者「街まで引きずれ!!」

バタバタ!!

遊び人「ぎゃあー!宝箱が暴れだした!!」

勇者「地面と擦れて痛いんだろう!!だが、こんな変態なやつだ!!じきにその痛みに病みつきになるはずだ!!」

勇者と遊び人は宝箱を上からおさえながら街まで引きずり続けた。

砂利道の上を通った時の阿鼻叫喚は凄かったが、段々喘ぎ超えにかわっていった。

~さらに翌日~

「いだぁああいいい!!!」

石でできた架け橋の近くを歩いている時のことだった。

勇者「どうされました!?」

町娘「うう……頭が架け橋の天井にぶつかって……」

町娘「お財布を落とされましたよって、男性に手渡されて。よく見たら羽根みたいなもので。そしたら風が巻き起こって身体が飛んで」

町娘「架け橋の下にいたもので、天井に頭がぶつかっちゃって……いたた……」

町娘「天井にぶつかった時、狂喜している声が聞こえました。痛みを堪えながら、犯人をひと目見ようと必死に目を開けると、一瞬のうちにいなくなっていたんです」

遊び人「パンチラの翼事件よ!!被害者は全員スカートを履いた女性で、渡されるのはいつも天井の下!この人もスカートを履いてる!!」

遊び人「天井に頭をぶつけさせることでパンチラの時間を増やし、ダメージも与えてすぐに追われないようにしているんだわ!」

勇者「…………」

勇者「失礼ですが、そのスカートの中身を拝見できますか」

遊び人「何言ってんのよ!」

町娘「いいですよ」バサリ!

遊び人「ちょっと!なにして!」

勇者「やはりな。見せパンだ。少し短いスカートだと、逆に履いている。俺も何度裏切られたことか」

遊び人「はぁ?」

町娘「ええ。見られるのは恥ずかしいもので……短パンを履いています」

勇者「犯人は彼女が天井にぶつかった時点で狂喜の声をあげていた」

勇者「つまりだ。普通なら舌打ちをするような場面で、相手の目的は達成されていたってことだ」

遊び人「どういうことよ」

勇者「考えろ……そして気づけ……共感しろ……全てを見落とすな」

勇者「移動の翼……スカート……天井……見せパン……」

勇者「…………!」

ピキン!

勇者「感知した。そして、真実を捕まえた!」

勇者「そこだ!!!」

勇者は近くでSMプレイに興じていたカップルの鞭を奪い取り、架け橋に向かって叩きつけた。

オナミック「ぎゃあ!!!」

フックのようなものを使い天井に張り付いていた男が落ちてきた。

勇者「お前は、スカートの中身を見たかったんじゃない!!」

勇者「天井に激突し、痛みに悶える女の子を見たかったんだ!!特にスカートの中身が下着の女の子は、手でスカートを抑えるために頭は無防備になるからな!」

勇者「この外道が!!変態紳士の楽園から追放されろ!!」

勇者は青年のふくろから落ちた翼を大量に取り出し、移動の念を込め、青年の腕に抱えさせた。

勇者「翼をもがれた堕天使と成り果てろ!!」

青年は石橋に全身をうち、気絶した。

~さらに翌日~


勇者「…………!」ピキン!

勇者「100m先、屋根の上。張り付いている男がいる。やつの狙いはなんだろうか」

勇者「考えろ……考えるんだ。」

勇者「……今日の天気は曇り。そういうことか!!」

遊び人「今ので何がわかったの!?」

勇者「雨の中に紛れて放尿するつもりだ!!きっと好きな女が家の中にいて、家を出た時に傘にかけるつもりなんだ!!現行犯で捕まえるぞ!!」

遊び人「何バカなこと言って……」

捉えられた犯人は、勇者の予測通りの犯行動機を述べた。




勇者「…………!」ピキン!

勇者「変態を感知した。相手は……旅の商人!!」

勇者「若い女性に渡す薬草だけ、脇に挟んでから渡してるに違いない!!」



勇者「……感知した!」ピキン!

勇者「……まただ!」ピキン!

勇者「……また変態がいる!」ピキン!


勇者は今までにないほどの恐るべき観察、想像、気付き、あらゆる力を総動員して輝かしい検挙をあげた。

勇者はこの谷の、英雄となりつつあった。

勇者「…………!」ピキン!

勇者「この近くに変態がいる!!」

勇者「どこだ……どこに……。半歩分以内の距離に……」

勇者「なんだ、俺か」

勇者「わっはっは!!」

遊び人「…………」

「キャー!冒険者さまぁ!!」

「この間はありがとうございます!!」

「よかったら、今度私のお店にきてください!!無料でおもてなししますわ!!」

勇者「くるしゅうない!くるしゅうない!!ふっはは!!」

遊び人「さぞおもてのようですね。変態が許されるこの町で、変態を取り締まることで人気者になるなんて」

勇者「何日でも住んでいたい気分だ」

遊び人「ふーん……」

勇者「お金もだいぶたまったな。ちょっとした小金持ちだ」

遊び人「……何に使うの?」

勇者「そりゃあ、新しい装備買って、道具も揃えて、余った分は……」

勇者「…………」ニンマリ

遊び人「なによ今の顔!!」

勇者「ち、ちげーし!!」

遊び人「何が違うのよ!!」

勇者「じょじょじょ、女子なんてキョーミねーし!!」ドバドバドバ…

遊び人「凄い汗かいてるけど!!目が泳いでるけど!!」

~夜~

勇者「ふぅー、今日も1仕事終わった。宿に帰って飯でも……」

「勇者様よ!!」

「キャー!!素敵!!」

遊び人「…………」

「私達のお店にいらっしゃらない?」

勇者「で、でも」

「今夜はバニーガールのダンスショーもあるの。せっかくだから観に来てくださいよ!」

勇者「なっ!!?」

遊び人「…………」

遊び人「行ってくれば。私眠いから先に帰る」

勇者「遊び人?」

「ささ、行きましょ!!」

勇者「ちょ、ちょっと!!」

~宿屋~

勇者「遊び人が心配で途中で抜けてきちった。普通の病気は神官でも治せないからな」

ガチャ

勇者「遊び人、具合は大丈夫か?飯も食べなかったって宿屋のおっちゃんから聞いたけど」

勇者「おーい」

勇者「…………」

スースー…

勇者「寝息が聞こえる。もう寝てるのか。まだけっこう早い時間だけどな」

勇者「それにしても、いい夜だったなぁ。ご飯もスパイシーでうまかったし、バニーガールのダンスショーもすごかったなぁ」ポワーン

勇者「自分でも、いつからバニースーツ姿のとりこになっていたか思い出せないな。俺の故郷の連中は、みんな僧侶だの賢者だの、真面目な職業の女の子にばかりエロイ妄想ぶつけてたし」

勇者「明日もやるから来てねって言われちゃったよ。困ったな。大罪の装備も探さなくちゃいけないのに」

勇者「まあ、あしたのことはあした考えればいいか」

勇者「風呂入ってこようっと」



遊び人「…………」

遊び人「馬鹿勇者」


~数時間後~

コンコン

勇者「んっ?ノックされてる。こんな時間に誰だ?」

「宿屋の店主です。勇者様にお見えになりたいという方が来ています」

勇者「わかりました!今でます!」

イソイソ…

ハキハキ…

ガチャリ!

勇者「今下着姿だったので、ズボン履いてました!!それで時間がかかったんです!!」

宿屋「はて?それはさておき、お客様がお見えです」

勇者「お客様?」

宿屋「この谷の警護を司る方です。最近の勇者殿の活躍に、褒美を与えたいという人がおるんです」

勇者「クエスト報酬なら既に受け取ってるけど?」

宿屋「直々にとのことで……」

「まだか。あがらせてもらうぞ」

宿屋「す、すみません!勇者殿が一人で営み中だったようで……」

勇者「ほらーやっぱり!内心そう思ってたんじゃん!わざわざ予防線はったのに!!」

遊び人「んもう……なんなのよ。こんな遅くに」

「冒険者殿。ここのところの活躍ぶりは王宮にも知れ渡っている。よくぞこの街に住む変態を成敗してくれた」

遊び人「ぎゃあー!!!変態がいる!!兜と軽装の鎧身に付けてるけど絶対中身全裸の変態がいる!!裸メイルよ!!」

「変態とは失敬な。鎧を身に着けてる時点で全裸ではあるまい」

宿屋「失礼ですぞ、遊び人殿。この方は元々この国の罪人だったが、改心されて、今ではこの谷を魔物の残党から守ってくださっている」

「そういうことだ。人をみかけで判断するとは」

遊び人「……そうね、ちゃんと中身まで見なきゃ……!?」

遊び人は裸メイルの男をしっかりと見た。

遊び人「見える!!勇者、この人付いてるわ!!」

勇者「馬鹿!!何言ってんだよ!!」

遊び人「勇者にも付いてるものよ!!」

勇者「や、やめろって!!///」

宿屋「私にもついているものかな?」ニヤニヤ

遊び人「いや、あんたには付いてない」

宿屋「    」

宿屋の主は黙って部屋を去った。

勇者「おい、いくらなんでも暴言過ぎるぞ」

遊び人「何言ってんのよ。私には見えるって言ったじゃない!」

遊び人「あなた!!精霊を宿しているわね!!」

「ほほう、変わった能力の持ち主だな」

遊び人「ということは……」

色欲「ご明察の通り。元勇者だ」

色欲の勇者があらわれた。

【TIPS】

処刑の王国は、他国から嫌われている。

勇者の通報に賞金がかけられた後になっても、勇者を処刑の王国に差し出そうというものは現れなかった。

世界を救うために人生を犠牲にしていた勇者を差し出したことが知れたら、裏切り者のレッテルを貼られることになり、処刑の王国以外では生きられなくなってしまう。

富豪の家に侵入して金品を奪う盗賊も、勇者を捕まえて大量の賞金を得ようなどと、割に合わないことは考えることもなかった。

勇者は、魔王の支配無きあとも世界の役に立つ、

元々戦闘能力が高いため、警護の仕事につく。

冒険で得た人脈や知識やルートを利用し、店を開く者もいる。

処刑の王国に正体を知られぬよう、勇者は己の身分を隠しながら生きるが、周囲の者は只者ではないと薄々気づくことになるのだった。

身を隠しながら生きる勇者もいれば、勇者であることを親しい住人に認めながら生きる勇者もいる。

いかなる場所においても、勇者が勇者であると、真に正体を知る存在は1人。

教会の神官である。

暴食の勇者達を襲った男を、処刑人(仮)としばらく呼びます。

~とある町にて~

処刑人「ここに勇者は運び込まれていませんか」

神官「…………」

処刑人「僕の友人がこの付近でなくなったと聞いていて。死体を蘇らせたいのです」

神官:ようけんはなんですか。どくをちりょうしますか。のろわれたそうびをかいじょしますか。

処刑人「聞き飽きたよそのセリフは。勇者に関することを聞くと途端に目が虚ろになりやがる」

処刑人は神官の頭を掴んだ。

神官の頭は混乱した。

処刑人を仲間だと思い込んだ。

処刑人「話せ。精霊の加護で復活させたものはいるか」

神官「御霊を身体に呼び戻したものはおります。勇者と、踊り子と、魔法使いと、僧侶のパーティです」

処刑人「いつだ」

神官「4年前です」

処刑人「くそが」

神官は気絶して倒れた。

処刑人「俺はな、お前ら神官を皆殺しにしたってかまわないんだぜ」

処刑人「お前らは無知だ。神官という職業に選ばれながら、神官のことを何も知らない。精霊殺しの陣を敷かれている魔王城であろうが、神官の元で復活できる方法さえある。お前らは死んだ勇者とメンバーをを蘇らせることしか考えようとしない」

処刑人は教会を去った。

処刑人「王国の魔術師どももまるで使い物にならん。対人間用の洗脳呪文を覚えてるやつなどろくにいない。勇者に限定した感知呪文ともなると、家ひとつ分の距離しか測れないやつもいるざまだ」

処刑人「この俺様が、いつまでこんなことを続ける必要がある」

色欲「さぁ。好きなだけ食事を取ってくれ」

色欲「それとも、あっちのほうがお好きかな?」

長テーブルには、大勢の美女が座っていた。

遊び人「…………」

勇者「こ、これは一体」

色欲「君たちの活躍ぶりは有名だよ。お礼をしないといけないとみんな思っていてね。特に僕達防衛師は、谷の近くに住む危険な魔物の残党処理に手がいっぱいで、町中の治安まで守りきれないのさ。谷の魔物はめんどうくさいのが多いんだ」

色欲「僕個人も興味がある。君たちの話を聞きたい。何のために冒険していて、どうしてこの谷にたどり着いたのか」

勇者「なるほど」

遊び人「この女性の方々は?」

色欲「3人だけというのも味気ないだろう。みんな勇者様をひと目みたいと言っていた」

「勇者さまぁ!!」

「本物に会えるなんて!!」

勇者「えへ、えへへ」

遊び人「…………」ゴホン

勇者「…………」

色欲「さあ、宴のはじまりだ!!今夜は誰も寝かさないぞ!!」

裸メイルの元勇者は立ち上がり、乾杯をした。

遊び人「裸メイルやめてほしいなぁ。目のやり場に困るよ。バニーガールもきわどいかっこうしてるし」

勇者「まったくだ。命を守る装備を舐めてるのか。ムカムカして腹がタちそうだ」ムラムラ…ムクムク…

遊び人「(どうして道具袋をひざの上に置いてるのかしら)」

踊り子「勇者者さまぁ!お話を聞かせて!」

勇者「ええー!聞きたい!?」

踊り子「やーん、こっちの女の子もかわいー!」

遊び人「ど、どうも……」

色欲「女ばかりで退屈か?呼べば男もいるぞ。屈強な男、細身の男、肥えた親父。どれがお好みかな」

勇者「こいつは脂ぎった肥えた親父が好みでしてね」

遊び人「何言ってんのよ!!けっこうです!!」

バニーガール「ちょっといい?おとなり失礼しまーす!」

勇者「バ、バ、バババ!!」

勇者「バー!!!!」

勇者「バニーガールだぁああ!!!!」

バニーガールA、B、C、D、Eがあらわれた!

バニーガール「お飲み物お注ぎしますわ」

バニーガールのこうげき!

勇者は胸元に見惚れている。

勇者「すぅううーーーーー」

勇者は大きく息を吸い込んだ。

甘い香りが体内に入っていくのを感じた。

体力が15回復した!

遊び人「あ、あのやろう……」

踊り子「今夜はありがとう。またお話しましょうね」

遊び人「うん。またね」

バニーガール「おやすみ、勇者様」

勇者「にへ……にへへ……」

遊び人「こいつは」

色欲「満足いただけたようで何よりだ。僕も君たちの話が聞けて楽しかった。君たちの馴れ初めの話なんか特にね」

遊び人「馴れ初めというか!!腐れ縁のはじまりといいますか」

色欲「もう夜も遅い。君たちもここに泊まっていったらどうだい?部屋もあいてるよ」

遊び人「宿屋に大事な荷物とかもあるので。今日は帰ります」

色欲「そうか。それじゃあ、手短に。最後に本題に入ろう」

遊び人「本題?」

色欲「優秀な君たちに、頼みがあるんだ」



色欲「大罪の装備というものが盗まれた。君たちに、それを見つけて欲しい」

色欲「褒美として、その『色欲の鞭』をそのままわたそう」

遊び人「色欲の鞭、というものに選ばれたあの色欲の勇者様だったのね」

遊び人「それを信頼できる神官に預けていたけど、盗まれたとのことだった」

遊び人「こんな簡単に大罪の装備にたどり着くとはね」

勇者「ああ。でも、元勇者が見つけられないとなると、どうやって探せば良いのか」

遊び人「この谷が性欲に溢れるようになったのは、大罪の装備の影響からだと聞いたわ。元々は戒律の厳しい谷だったって」

遊び人「まだ影響が色濃く残っているということは、この谷に住む誰かがずっと所持しているのよ」

遊び人「色欲の勇者様はその鞭を神官様に預けていたというわ。でも、神官様がある日倉庫の中に入ったら、鞭はなくなっていたそう」

遊び人「鞭は高級な装備の1つだからね。大罪の装備と知らずに盗んだ住民がいるのかもしれないわ」

勇者「どうして色欲の勇者は神官に預けたんだ?暴食の勇者だって大罪の装備との出会いは餓死寸前の時だった。きっと印象深い出会いがあったであろうものを、そう簡単に他人に預けるのか」

遊び人「きっと、遠ざけたかったのよ。それも、色欲とは1番無縁そうな神官様にね。邪な心に溢れてるものは神官という職業につけないもの」

勇者「それは世界のイメージにすぎないと思うけどな」

遊び人「そうかしらね。なんにせよ、色欲の勇者が鞭を手元に置かなかったのは、装備の誘惑に駆られないようにするためだったに違いないわ」

遊び人「暴食の鎧はあらゆるものを飲み込み自分の糧とする力を備えていた。色欲の鞭は……」

勇者「色欲の鞭は?どんな効果がある?」

遊び人「なんだろう。色欲を司るくらいだから……」

遊び人「…………」

遊び人「…………」カァァ///

勇者「どうした?今何を想像した?」

遊び人「し、してないわよ!!この変態!!」

勇者「変態?腰を打ったら子宝に恵まれるんだろうなとか、そんな想像をした俺が変態?」

遊び人「あんたにしてはまともな想像を……」

勇者「君は何を想像したんだい!?色欲の鞭は何の効果をもたらすと思ったんだい!?」

遊び人「うるさいなぁ!!もう寝る!!」

勇者「それにしてもさ、今回はすぐに手に入りそうでよかった」

遊び人「そうね」

勇者「探すのに10年もかかっちゃったら、この冒険の意味がなくなってしまうからな」

遊び人「…………」

勇者「俺も世界各地の異変を自分の冒険で味わって。冒険譚を自分で書いて。故郷のやつらから尊敬の眼差しを集められる日が待ち遠しいよ」

勇者「この谷に隠れている色欲の鞭を隠し持った犯人を、明日にでも暴いてやらないとな」

遊び人「勇者……」

勇者「ということで、明日もお互い元気に張り切っていこう!おやすみ!」

遊び人「うん!おやすみ、勇者」






アン…

アンアン!


アンアンアン!

勇者「…………」

遊び人「…………」

勇者「(気まずい)」

勇者「(両隣の部屋からすごい音が……)」

勇者「(遊び人、起きてんのかな。寝てたらいいんだけど)」

遊び人「…………」

遊び人「…………」グゥ~…

遊び人「あっ…」ボソ

勇者「(なんでお腹鳴ってんだよ。絶対起きてるじゃん。お腹空いちゃってんじゃん。あっ、とか言っちゃってんじゃん!)」

遊び人「…………」

遊び人「グ、グゴ~」

勇者「(うわっ!!いびきのモノマネへたくそ!!)」

勇者「(自分が寝ていることをアピールすることと同時に、さっきの腹の音はあくまでもいびきの音だと誤魔化そうとしはじめた!!いびきの音もたいがい恥ずかしいからな!!)」

~翌朝~

宿主「きのうは おたのしみでしたね」

冒険者カップル「えへへ///」

宿主「きのうは おたのしみでしたね」

街人カップル「どうも///」

宿主「きのうも おあずけでしたね」

遊び人「…………」

勇者「…………」

勇者、遊び人、色欲、踊り子の四人は広場を歩いていた。

勇者「……だめだ」

遊び人「鞭の持ち主は見つかりそう?」

勇者「変態感知にひっかからない。いつもなら『ピキン!』っていう音が脳内に響くのに」

遊び人「持ち主はただの鞭目当てで、変態な人ではなかったりして」

色欲「そんなことはない。どんなものでもあんな鞭をそばにおいておけば性欲をコントロールされる」イチャイチャ

色欲「やたらと急速に人気が出ている店を中心に見張りを送っている。女性がSMプレイに使っているのであれば、必ず男はその女性のとりこになる。女性があくまで仕事のために使用しているのならば、勇者殿の変態感知には引っかからないかもしれない」イチャイチャ

勇者「その場合はお役にたてなさそうだ」

色欲「消去法の手がかりになるだけでも大いに助かっているよ」イチャイチャ

勇者「どういたしまして」

遊び人「…………」

色欲「今日はここまでだ。明日また捜索を手伝ってくれ」イチャイチャ

踊り子「うふふ、またね」イチャイチャ



遊び人「ずっと踊り子さんのお尻触ってたわね」

勇者「ここにいると性の倫理観がおかしくなりそうだ」

~宿屋~

勇者「提案。俺もたまには窓際で寝たい」

遊び人「そうしたら夜トイレで起きたときなんか私のスペース通るじゃん」

勇者「通って悪いかよ」

遊び人「寝顔とか寝相見られるじゃん」

勇者「俺もたまには物憂げに夜の窓の外の景色を見たりしたいよ」

遊び人「まあ、たまにはいいけど。じゃあ今日はチェンジで」

勇者「やったー!」

遊び人「子供じゃないんだから。私お風呂行ってくるわね」

遊び人「はぁー。浴槽が修理中だなんて。身体だけ洗ってはやくでてきちゃったよ」

ガチャリ

遊び人「ねえー、聞いてよ。お風呂がさ……」

勇者「……くっ」

勇者「んっ…はぁ、はぁ…」

遊び人「(えっ、えっ?)」

遊び人「(勇者、何してるの?)」

勇者「はあ!……んあ!」

勇者「くっ!!!」

勇者「はぁ……!!はぁ……!!」

勇者「ふぅ……」

バタン

勇者「ん?今ドアの音が聞こえたような。気のせいか」

勇者「最近魔物と戦ってなかったし。鞭の持ち主と戦うことになったときに体力切れはまずいからな。気持ちだけでも身体を鍛えておかないとな」

勇者「さて、俺も風呂に入ってくるか」

~翌朝~

遊び人「昨晩はお楽しみでしたね」ニヤニヤ

勇者「ん?」

遊び人「精気も養ったし出発しますか。それとも失ったのかな?」

勇者「何のはなしだ?」

遊び人「ささ、今日も張り切っていきましょ!」




~街中~

勇者「怪しいやつもいない。今日も見つからなかったな」

遊び人「怪しいやつがいすぎてわからなかったわ」

勇者「こんなに目を凝らして探してるのに」

遊び人「勇者はバニーガールのお尻ばっかり見てたじゃない」

勇者「なっ!!尻じゃねえ!!俺は網タイツをだな……」

遊び人「…………」

勇者「いや、これは男の性というか」

遊び人「本能っていう言葉で何でも許されると世の殿方はみんなお思いのようですね」

遊び人「まったく。どうして男性はこうも……」

遊び人「…………」

遊び人「…………」

勇者「ん?どうした?」

遊び人「え、いや、べつに」

勇者「今通り過ぎた書店に見入ってたよな?なんか欲しい書物でもあったのか?」トコトコ

遊び人「いや、ちょ!べつに!」

勇者「…………」

勇者「ガチムチの戦士(♂)と武道家(♂)がいちゃついてる表紙の娯楽書があるんだが」

勇者「えっ?今まで散々まともなキャラでこちらの批判をしてきてたのに?ええー、そうなんですかー」

遊び人「ち、ちがうって!!」

遊び人「な、なんだろ。ちょっと気になっただけよ!魔が差したというか!今までの街にはなかったじゃない!」

勇者「こんやはおたのしみですね」

遊び人「買わないわよ!!」

~宿屋~

遊び人「お風呂入ってさっぱりしたぁ。今日は勇者にいじられて散々だったからなぁ」

遊び人「勇者だってチラチラ大人の書物を見てたくせに。私が気を遣って黙ってあげてたっていうのに」

遊び人「バニーガールがそんなに好きなのか」

遊び人「…………」

遊び人「やっぱり勇者も男の子だし、いろいろ我慢してるのかなぁ」

遊び人「この谷にいる時くらいは、お風呂上がりに半裸でいることくらい多めに見てあげようかな」

ガチャ

遊び人「おまたせ。浴槽の修理も終わってていい湯だったわ」

勇者「えっ……」

遊び人「勇者もお風呂入ってきなよ。なんだかスースーして涼しくて気持ちいいよ」

勇者「あの……」

勇者「その姿……」ボッ///

遊び人「えっ?」

遊び人「べつに、ただの下着姿じゃない」

遊び人「…………」

遊び人「えっ!!!??」

遊び人「わたし!!なんで!!!?」

勇者「おーい。布団にくるまって、大防御のつもりか」

遊び人「……ほっといて」

勇者「混浴に入ったものだと思えばいいだろ。薄手のタオル一枚よりはよっぽど厚着だ」

遊び人「女心も知らないで!!」

勇者「だったら水着だと思えばいいだろ」

遊び人「水着でも恥ずかしいのよ!!」

勇者「じゃあバニースーツを着れば……」

遊び人「なんで慰めに乗じてバニースーツ着せようとしてんのよ!!」

勇者「まあまあ。俺の半裸姿もあとで見せてやるから」

遊び人「それでおあいこみたいな雰囲気ださないでよ!!はやくお風呂でもいってきて!!」

勇者「そう怒るなって。俺もわるかったよ。じゃあ行ってくる」

ガチャ…

勇者「…………」

勇者「俺は悪くないよな……」

勇者「…………」

勇者「あいつ、あんな下着身に付けてたのか……」



ゆうしゃは レベルアップ した!

~翌日~

勇者「今日も色欲の勇者は魔物狩りで来れないらしい」

遊び人「また?大罪の装備が盗まれてるのよ?何が起きるかわからないわよ。わたしだってこの場所の影響を色濃く受けちゃってるみたいだし……」

勇者「元からそうしたかったとかではなく?」

遊び人「…………」ギロ

勇者「なんでもないです」

2人は捜査のためにあるき出した。

勇者「大罪の装備は持ち主を選ぶんだよな」

勇者「その持ち主以外が使用したら、どうなるんだ?」

遊び人「ふさわしいと思う持ち主の場所に飛んでいくだけみたいなの。使用は誰にでもできるわ」

勇者「そうだよな。だとしたら、新しく手に入れた者こそ、持ち主としてふさわしいとも言えるのかもな」

遊び人「どういうこと?」

勇者「本当に大事なものだったら最初の持ち主は手放さないし」

勇者「それを奪うってことは、最初の持ち主よりもそれを必要としてるってことだから」

勇者「人間でいう、略奪愛みたいなもんじゃないか」

遊び人「勇者の口からそんな言葉が出る日が来るとは思わなかった」

勇者「ふさわしいものはふさわしいところへたどり着く。運命の人は最初じゃなくて最後に出会う。これが俺が、過去の恋愛経験から学んだことだ」

遊び人「なにそれ、初耳なんだけど。どんな恋愛経験したのよ」

勇者「俺だって色々あるぜ。気になってた女の子から、回復呪文をかけて貰ったり。落とした短剣を拾って貰ったり」

遊び人「あちゃー……」

勇者「そんな哀れんだ目で見るなよ!」

~宿屋~

遊び人「今日も成果なしだったね」

勇者「ああ」

勇者「そろそろ日にちが経ちすぎてるな。遊び人、俺達の他に大罪の装備を探しているやつは、この谷に近づいてるか?」

遊び人「……まだ大丈夫みたい。全然検討違いの場所を探していると思う」

勇者「そっか。よかった」

勇者「いつまでもってわけにはいかないからな。その特殊な呪いの正体もいつ相手にばれるかわからないんだろ」

遊び人「うん」

勇者「大丈夫。明日こそ、俺が探し出してやるから。今日はもう寝よう」

遊び人「勇者、ありがとう」

勇者「気にすんなって。おやすみ」

遊び人「おやすみなさい」

勇者「…………」

遊び人「…………」

勇者「あのさ、質問があるんだけど」

遊び人「私もあるんだけど」

勇者「なんで俺の布団の中に入ってんの?」

遊び人「あんたこそなんで私の布団の中にはいってんのよ!!」

勇者「俺が窓際で寝ていいってことになってたじゃん!」

遊び人「それはあんたが寝たいって言った日限定でしょ!!」

勇者「しかも!!」

遊び人「なによ!!」

勇者「お前、また下着姿なのな」

遊び人「…………えっ」カァァ///

遊び人「ギャー!!」

勇者「ふ、服着ろって!」カァァ///

遊び人「あんたに言われたくないわよ!!」

勇者「じゃあ着ないのかよ!」

遊び人「着るわよ!!てかあんたも半裸じゃない!!」

勇者「えっ?」

勇者「あっ、まじだ。でも俺はいいだろ」

遊び人「よくないわよ!!」

勇者「俺は遊び人がどうしてもと言うならそのままでもいいけど」

遊び人「よくないわよ!!!」

アンアン!!ギシギシ!!アンアン!!

勇者・遊び人「(しかも今日も隣の部屋がうるさい!!)」

~隣の部屋~

色欲「ふふっ、結局勇者の皮をかぶってもただの雄じゃないか」

色欲「精霊の加護なんてものに守られて、命を永遠に感じているから異性に手を出さないだけだ」

色欲「男が死の際で考えることなんか、性のことだけだ」

色欲「なのに、普段からそうやって、性に無頓着なふりをしていると、今はの際でも自分の性欲に忠実になれない」

色欲「純情なんかを守って。純愛なんかを崇拝して。そうして、肉欲に塗れることを選ばなかった過去を後悔すればいいのさ」

色欲「かつての、僕のように」

「はぁ…色欲さまぁ……もっとご褒美を……」

「わたしもいじめてくださいませぇ……」

色欲「ああ。抱いてやるさ。とことんな」

色欲の勇者は腰を振り続けた。

遊び人「えっ!?見つかった!?」

色欲「ああ。冒険者から情報を集めた。まだ回収はしていないが、持ち主は確実に特定した」モミモミ

踊り子「ああん///」

遊び人「(また踊り子さんのお尻を……)」

勇者「(色欲の勇者さん。今は真剣な話し合いの場ですよ。謹んでください)僕も先日遊んでくれたバニーガールさんのお尻を拝借してもよろしいですか?」

遊び人「はっ?」

勇者「えっ?」

勇者に30のダメージ

遊び人「誰が持ち主だったんですか?」

色欲「それは教えられない」

勇者「俺たちに色欲の鞭をくれる約束じゃ?」

色欲「君たちが色欲の鞭にふさわしい存在ならと言ったはずだ。」

色欲「探す猶予期間を与えたのに、君たちは僕より早く見つけることができなかった」

色欲「そんな者達が、色欲の鞭の誘惑に耐えられるとは思えない」

遊び人「耐えられますよ。大罪の装備の力を封じ込める壺があるんです。それに入れれば……」

色欲「そこの勇者が、その壺を割る可能性は本当にないのか?」

勇者「俺が?なんで?」

色欲「色欲の鞭で叩かれた人間は、性の喜びに忠実となる」

色欲「現在の持ち主も随分楽しんでいるようだよ。自分に忠実な女性を増やしてね」

勇者「!?」

遊び人「い、一刻もはやくとめないと!!女性がそんな目に遭ってるのに放置できないわ!!」

色欲「大丈夫だ。相手は老人だ。女性を従えるのに夢中になっているが、直接触れたりはしていない。全く新しい形の、性欲に塗れたプラトニックラブだ」

遊び人「だからって許されるわけないでしょ!!」

勇者「そうか!!」

遊び人「何かわかったの?」

勇者「俺の感知の『ピキン!!』という感覚だが」

勇者「何が『ピキン!!』となっていたか、今わかった気がする」

勇者「その犯人の息子は、もう引退をしていたんだ!!」

勇者「だから俺の感知が反応しなかったんだ!!」

遊び人「…………」

遊び人「あんた確か街中歩いてる時に自分に対して……」

勇者「心配なのは女性だけじゃない」

勇者「大罪の装備は使用者の寿命を削る。それは持ち主ならわかってるはずだ」

色欲「寿命を……削る?」

勇者「他に使用したことがある者も言っていた。そんな感覚を覚えなかったのか?」

色欲「鞭を初めて振るった時のあの消え行く命の感覚は、そういうことだったのか……。てっきり、過去を思い出しただけかと……」

勇者「今の持ち主はそのことに気づいていないかもしれない。一刻もはやくとめないと」

色欲「…………」

色欲「俺が一人で取りに行く」

勇者「なんでだよ!!」

色欲「色欲の鞭に選ばれたのは俺だからだ」

遊び人「あなた、何が目的なのよ。やってることがいったりきたり」

色欲「質問は終わりだ。教えてほしかったら持ち主としてふさわしいことを示してくれ」

勇者「どうやって」

色欲「禁欲で勝負をするんだ」

色欲「より長い時間、射精を堪えた者が勝利とする」

遊び人「    」

勇者「なんだよそれ……」

踊り子「んふふ///」

~怪しい大人のお店~

遊び人「…………」ソワソワ…

遊び人「……ああ!!」

遊び人「落ち着かない!!なによこの馬鹿げた勝負!!」

遊び人「いやらしい格好をした女性と密室で二人きりになって、性欲を呼び起こすやくそうを飲み込むなんて!!」

遊び人「暴食の勇者といい!!色欲の勇者といい!!自分たちが大好きなものを耐える勝負をどうして持ち出そうとするのかしら!!」

遊び人「この扉に入ってから8分……中はどうなってるんだろう」

遊び人「ああ!!やっぱりこんな谷に来るんじゃなかった!!」

遊び人「勇者は暴食の勇者との断食勝負に、水も飲まないで6日間も耐えたわ。精霊の棺桶に入れられるぎりぎりまで耐えた」

遊び人「一体、この部屋で何日間耐えられるのかしら」

遊び人「こんな気分でずっと勇者が耐えるのを待ってないといけないなんて!!」

遊び人「はやくこんな勝負終わればいいのに!!」

ガチャ…

勇者「…………」

遊び人「えっ?」

勇者「世界を、救えなかった」

勇者のせいしはぜんめつした。

遊び人「…………」

勇者「ごめん……」

遊び人「別にいいよ」

勇者「本当ごめん」

遊び人「怒ってないって」

勇者「媚薬の効き目がものすごくて」

遊び人「どうでもいいってば!!!」

勇者「…………ごめん」

遊び人「だから、謝らなくてもいいって」

勇者「殺してくれ……」

遊び人「蘇らせるのにお金かかるからいいよ」

勇者「……ごめん」

色欲「情けない勇者だ。10分経たずにでケリがつくとは思わなかった」

踊り子「私の魅力が凄かったことは疑わないのかしら?」

色欲「ふふ、それは言えるかもな」

色欲「シャワーを浴びてきてくれ。あんな雑魚に君を抱かれたかと思うと嫉妬で興奮が収まりそうにない」

色欲「勝つものが抱く。これが自然界の摂理だ。さあ、今日は存分に楽しもう」

踊り子「シャワーを浴びる必要はないですよ」

色欲「なんだって」

踊り子「あの人、私に指一本触れてませんもの」

色欲「触れてない?」

踊り子「私の誘惑も、全部拒絶したんですもの。おしゃべりをして、あの人が自分で自分の性欲を部屋の隅で処理しただけよ」

踊り子「私があの勇者に迫って、生まれてから守ってきたものを奪ってあげようとしたの。そしたら言われちゃったのよ」

色欲「なんて」

踊り子「それを すてるなんて とんでもない!」

踊り子「ねえ、勇者様。性欲って悪いことじゃないわよね」

色欲「当たり前だ。楽しむためだけの性欲が認められていいに決まってる」

踊り子「そうですよね。でも、その楽しむためだけの性欲以上に。大切なことが、まさか男性の中にもあったりするみたいです」

色欲「…………」

踊り子「際で見せるのがその人の真の姿なら」

踊り子「敗北を確信した時の姿と、勝利を確信した時の姿を比べてもいいのでは?」

踊り子「性欲に勝ち負けなんてないですけどね。それでも、禁欲という勝負においては。たとえあの勇者は勝利していたとしても、そのまま私のところに戻って身体を求めようとはしなかったでしょう」

踊り子「あの勇者にね、私の仕事を否定する気かって尋ねたの。そしたら首を振ってね」

踊り子「あの子に馬鹿にされる自分のままがいい、って言ってきたの」

踊り子「穢れなき性欲に対して、罪悪感を感じてしまうその心」

踊り子「戒律の厳しかったこの谷で、私の身体を買って捕まって、パーティメンバーに泣いて詫びていた」

踊り子「かつての色欲の勇者様、そっくりじゃないですか」

(宿屋)

勇者「ムラムラして、すみません」

遊び人「…………」

勇者「バニーガールならともかく、踊り子にムラムラして、冒険の目的を見失ってしまってすみませんでした」

遊び人「…………」カチン

遊び人「もう……ほんと馬鹿」

遊び人「そりゃあ、かなりかなり思うところがあるけどさ」

遊び人「しょうがないわよね。女だからよくわからないけどさ。男の子って大変なんでしょ?」

遊び人「他に手段を考えましょう。四六時中尾行するとか、私達も聞き込みするとかしてさ」

勇者「ごめん……」


コンコン

遊び人「ん、ノック?」

ガチャ

色欲「支度を整えろ」

遊び人「何の用よ!!」

色欲「色欲の鞭が欲しいんだろ。俺が預けた神官が所有している。あの神官が乱用しはじめただけで、誰からも盗まれちゃいなかったんだ」

勇者「えっ……」

色欲「奪いにいくぞ。よりふさわしい者が持つべきものだからな」

~外~

遊び人「しまった!部屋の中にやくそう袋忘れた!!ちょっと待ってて!」

トットット…

色欲「外で交尾が許される国を俺は知らない」

勇者「二人きりになった時の第一声がそれですか」

色欲「交尾は愛し合うパートナーがいるものであれば誰もがやっている。しかも開放的な場所でやりたいことだろう」

色欲「俺も色んな国をまわってきたが、そこまで性に開放的な国はなかった。獣が外で交尾をするこの世界で、人間が太陽の下で交尾をすることが許される場所は俺は見つけられなかった」

色欲「性欲は、どうして隠されてしまうのだろう。誰もが興味あることなのにもかかわらず、公では隠されてしまうのだろう」

色欲「好きな女の子のためにしか性欲を捧げたくないという気持ちや、好きな女の子だけには性欲を押し付けたくないという男もいる」

勇者「男は四六時中女性の裸を考えているだとか、息子を穴に挿れることばかり考えて生きているとか、それは辞めて欲しいですよね」

勇者「確かにそういうことだけを考えている男は多いし。いや、たしかに全ての男はそういうことを1日中考えているんだろうけど」

勇者「そういうことを考えている男でも、1日のうちのいくらかの時間は、性を完全に拒絶するような純愛を心の中であたためていたりしますからね」

勇者「性欲さえ拒絶する男の子の魂があることを、この世界はあまりにも知らなさすぎますよ。女も知らないし、そして、知らない男もいる」

色欲「俺は、純愛を諦めたつもりになっていた。いや、諦めたふりをしようとしていた」

色欲「かつて、パーティメンバーに愛している女がいた。踊り子だった」

色欲「俺はその踊り子に性欲を向けるようなことを決してしなかった」

色欲「ある時この谷にたどり着いて、女性を買ったことがあった。踊り子という職業だ。それがばれて、仲間の踊り子がどんなに悲しそうな顔で無理して笑ってきても、俺はこれが最善の選択だと思っていた」

色欲「性欲をぶつけないことで、性欲以上の美しい感情があることを示したかった」

色欲「その女を抱きたいと、心の奥底では思っていたさ。けれど決して認めなかった。拒絶されることを恐れたからかもしれないし。今楽しく笑っていられる美しい時間を壊すことを自分で許せなかったのかもしれない」

色欲「やがてこの谷に再び戻ってきた。そして、この谷を魔物から守った。そんな俺を慕う女はたくさん現れた。食事や睡眠を毎日とるように、俺は女を抱き続けた」

色欲「自分の性欲についてさえ、俺は、よくわかっていない。ましてや、女の性欲についてなどわからない。俺が惚れていた女は、どういう性欲を抱えていたのか。性欲をどう認識していたのか。美しい純情を求めすぎていたせいで、何もわからずじまいだった」

色欲「今も答えを探し続けているが、わかりそうにない。女に直接尋ねてみても。美しき女たちと身体を重ねて、何度腰を振っても。何度喘ぎ声を聴かされても。俺は、女を理解してやれない」

勇者「俺もだ」

童貞は頷いた。

色欲「冒険に性欲は付き物だ。なのに、誰も真摯に向き合おうとはしない」

色欲「俺は答えを出せそうにない。だから、勇者。お前がお前なりの答えを出してくれ」

色欲「まずは、色欲の鞭に打ち勝て」

~教会~

色欲「神官よ!!戻っているか!!」

信徒A「あぁん///神官様ぁ///」

信徒B「強く説教してくださいまし///」

信徒C「あの鞭でもっと強くおしかりになって///」

色欲「なんだこの有様は。ここまで洗脳が強いものだったのか」

遊び人「きっと、色欲の鞭の使い方に慣れてきたのよ。取り憑かれたというべきかもしれないけど」

色欲「神官だけは信じていた。教会に立ち寄った冒険者から噂を聞きつけた時はまさかと思ったが……」

色欲「今はどこにいるんだ……」

勇者「…………」

――ピキン。

ピキピキ……

バキバキバキバキ!!!!!

勇者「!!!!??」

遊び人「どうしたの!?」

勇者「ま、まずいぞこれは!!!」

勇者「神官の神官が蘇った!!!」

遊び人「はぁ!?」

勇者「最近まで教会の秩序が最低限保たれていたのは、モノがなかったからだ。だからこそ、女性は手出しをされずに、鞭で叩かれるだけで済んでいた」

勇者「これからは本当の大罪人になりかねないぞ!!こんなブツ、今まで感じたことがない!!!」

色欲「……非常事態だな。わかった。隣街から最強の魔術師と僧侶を連れてこよう」



~隣町~

魔法使い「なによ、今更呼び出して」

僧侶「はぁ。私達を側室にでもする気でしょうか」

色欲「突然すまない。でも、命がけのことなんだ」

魔法使い「命がけねぇ。それで、死んでも精霊の加護で蘇るパーティメンバーの私達を呼んだってわけ?」

【TIPS】

『パーティメンバー』

勇者と魔王撃退の契を結んだもの。

精霊が人間から勇者を選ぶように、勇者が人間から仲間を選ぶ。

勇者は、勇者が認めたものとパーティメンバーを組むことができる。

しかし、魔王が死したという噂が流れてからは、パーティメンバーを組むことができなくなった。

勇者という職業は、魔王撃退のために存在しているようなものだった。

魔王がいなくなったと知った勇者達は、『魔王を倒すために結束する』ことができなくなった。

救いは、契約の更新は効かなくなったが、魔王が消える以前に結んだ契であれば継続することであった。

僧侶「でもそれは、私達があなたをまだ勇者と認めている場合に限りますわ」

色欲「でも君らはこうして来てくれた」

僧侶「…………」

色欲「死んでも教会で復活するという理由だけで君たちを選んだんじゃない」

色欲「今の僕の乱れぶりに君たちがどんなに失望しているかはわかっているつもりだ。それでも、君たちの力が必要なんだ」



僧侶「…………」

僧侶「私は、いけないわ」

色欲「……そうか」

僧侶「あかちゃんが、できたの。」

色欲「なっ!」

僧侶「け、結婚したのは知ってたでしょ!」

僧侶「私自身に精霊の加護があるにしても、お腹の中の子供が刺されたら……」

色欲「おめでとう!!」

僧侶「あ、ありがとう」

色欲「幸せそうで何よりだ」

魔法使い「うう……かつての仲間に嫉妬しそうだわ。私もいい年なのに……」

僧侶「かつての仲間と結婚したらどう?」

魔法使い「やりちんはパス」

色欲「あはは……」

魔法使い「まあ、ちょっくら手伝ってやるくらいならいいけどね」

色欲「魔法使い……」

魔法使い「……あの子のためにもね」ボソ…

勇者「精霊の加護で蘇るかぁ」

遊び人「何か気になるの?」

勇者「今倒そうとしている神官は、まさにこの谷の神官なんだろ?俺達が死んで蘇生したら、どこで蘇るんだ?」

遊び人「あっ……」

遊び人「うーん、運が良ければ、谷からもっとも近い場所であるこの街の教会で蘇るわね」

魔法使い「運が悪ければ?」

遊び人「変態神官の目の前で蘇る」

魔法使い「嫌よ!!」

遊び人「全滅しても蘇るのは勇者だから大丈夫よ」

遊び人「色欲の鞭に支配されていたら、オスメス見境なく何をするかはわからないけど……」

勇者「…………」ゾワッ

遊び人「迷っている時間はないわ。早く捕まえに行きましょ」

――ピキン!!ビキビキ!!

勇者「こっちだ。この道を登りきった先にいる」

魔法使い「なんでわかるの?感知呪文も使ってないのに」

勇者「無口詠唱してるのさ」

魔法使い「本当に!?感知呪文ってかなり精神力と集中力を必要とする魔術よ!それを無口詠唱だなんて、あなたすごいのね」

勇者「おだててもポロリしかないぜ」

遊び人「嘘ばっか……」

魔法使い「私はすっかりできなくなっちゃったわよ。誰かさんのせいで」

色欲「…………」

魔法使い「魔王討伐を果たせず、この地にたどり着いて。魔王より遥かに弱い魔物倒して有名になって、モテたら女囲いまくって。まぁモテたのは、あの薄気味悪い鞭のせいだとは思ってたけど」

魔法使い「あんたへの信頼が薄れてから、無口詠唱できなくなっちゃったのよ。元々呪文は得意だったけど、やはり、精霊の加護の恩恵をかなり受けていたみたい。杖無しで呪文なんてもってのほか。右手だけで火炎の玉を出せてたあの頃が懐かしいわ」

色欲「何も言えない……」

勇者「静かに。近いぞ。すぐそこにいる」

谷を登ったさきにあったひらけた地の上に、一人の老人が鞭を持ちながら立っていた。

星明りの綺麗な夜だった。


魔法使い「作戦通り、いきなり仕留めるわよ」

魔法使いは精神を集中し始めた。

魔法使い「『夜の頂きで数えられし無数の羊達よ。朝日を疎いし人間をそのまどろみの誘惑の中に再び引きずり戻し給へ』」

魔法使い「『ネムリン』」

羊の形をした淡いピンク色のシャボン玉が現れ、神官に向かって進み始めた。

神官は気付かず、頬を赤らめながら上の空のままだった。

神官の背後から、泡の羊がぶつかる直前のことだった。

バチン!!

勇者「なっ!」

突如、鞭が勝手に動き出し、泡を弾いた。

勇者「弾かれた!」

魔法使い「その程度の防御、散々経験してきたわよ!」

割れた泡は無数に分裂し、無数の小さな羊の群れとなった。

眠りの泡は四方から神官に向かって進み出した。

魔法使い「エロジジイは大人しく寝てなさい!!」

しかし、鞭は物凄い勢いで動き回り、羊の群れをすべて撫でるようにさわった。

小さな無数の泡をつなぎ合わせ、1つの大きな泡の塊をつくりだした。

キノコの形をしていた。

遊び人「ぶふっ!!」

勇者「おい、なぜ笑った」

魔法使い「なによそれ!魔法をそんなに繊細に操れる武具なんて他にないわよ!!」

神官は振り返った。

目が血走っていた。

神官「俺ト……交ワレ!!」

キノコの泡がとんできた。

魔法使い「『マハンシャ!』」

魔法使いはバリアを張った。

神官「ハァ……ハァ……フン!!」

神官の振るった鞭が魔法の鏡の表面をなぞると、震えながらへなへなと崩れ落ちた。

魔法使い「な、なに感じてんのよ!!私のバリアは!」

神官が魔法使いに鞭を叩きつけた。

魔法使い「きゃっ!!」

遊び人「大丈夫ですか!!」

魔法使い「痛い……けど、ダメージは薄いわ」

色欲「次は俺達の番だ」

勇者「ああ!」

2人は飛び出した。

勇者が右足を出した時には、色欲の勇者は神官の目の前にまで迫っていた。

色欲「気絶させる!!」

鞭を払いのけようと、色欲の勇者が凄まじい速度で剣を振るう。

神速のような攻撃を、鞭は全て弾き返した。

色欲「持ち主の寿命を喰らって好き勝手に動いているのか」

魔法使い「準備できたわ!かけるわよ!」

色欲「頼む!!」

魔法使い「『オナモミン!!』」

色欲の勇者の剣に無数の毛が生えた。

勇者「戦いの最中になんつーシモネタを……」

遊び人「敵の装備を絡め取る効果付与呪文だってば!!」

色欲の勇者が剣を振るうと、色欲の鞭が絡みついた。

色欲「このまま鞭を奪い取る!!持ち主から離れれば動けまい!!」

しかし、鞭は必死で抵抗し、持ち主を色欲の勇者の攻撃から避けさせようと抵抗した。

色欲「しつこいやつだな。エロオヤジというよりも、女王様のそれに近い」

色欲の鞭がぶるぶると身体を震わせると、くっついた魔法のトゲがばらばらと落ちだした。

色欲「魔法使い!!追加で呪文をかけてくれ!!もうひと押しだ!!」

魔法使い「…………」

魔法使い「……いや」

色欲「どうした?」

魔法使い「私、あの人攻撃できない……」

色欲「何を言ってる?」

魔法使い「恋の魔法にかかっちゃったみたい……」トロォン///

魔法使いの足には、さきほど鞭で叩かれた痣の跡が残っていた。

勇者「呪文を好きなようにあやつり、結合させたり、離したり」

勇者「鞭の攻撃をくらったものを虜にさせる」

勇者「なるほどな、”愛のムチ”ってわけか!!」

魔法使い「ねえねえ、あんたらもこっちおいでよ///」

魔法使い「『ヌメリン』」

魔法使いの杖の先から、ぬるぬるとした液体が流れ出した。

遊び人「キャー!!」

遊び人の全身と、術者の魔法使いの全身にぬめぬめとした液体がかかった。

勇者「いいぞ!もっとやれ!!」

遊び人「ぶっ飛ばすわよ!!」

勇者「はっ…!鞭の魔力に一瞬洗脳されてしまった!」

遊び人「そんくらいの煩悩いつも抱えてるくせに!」

液体は色欲の勇者のところまで飛び、足元を不安定にさせた。

色欲「くそ。魔法使い相手では分が悪い。一度退くぞ!」

遊び人「逃げるの!?」

色欲「魔法使いは俺がどうにかする!!」

色欲の勇者は神官から距離をおき、魔法使いのもとへと近づいた。

色欲「くそ、ぬめぬめしやがる……」

色欲「勇者!!移動呪文を唱えろ!!全員で谷に飛ぶぞ!!」

勇者「覚えてないけど?」

色欲「なんだと!?勇者の基本呪文だぞ!!」

勇者「移動の翼持ってるからいいだろ!!」

勇者はどうぐぶくろを取り出した。

ベチン!

勇者「いってぇ!!」

どうぐぶくろが地面に落ちた。

色欲の鞭が勇者の腕にあたった。

遊び人「勇者!!」

勇者「…………」

勇者「……あっ」

勇者「あっ、あっ、やばい。これはまずい」

勇者はだんだん前屈みになり、座り込んだ。

遊び人「何ふざけてんのよ!!はやく立ち上がって!!」

勇者「もうタってんだよ!!」

遊び人「いいからふくろを持ってこっちへ!!」

勇者「できないんだって!」

遊び人「なによ!!頭の堅いやつね!!」

勇者「硬いのは頭じゃねえんだよ!!」

勇者「確かに頭といえば頭だけどさ!!」

遊び人「何を言ってるのよ!!」

勇者「いいから俺のことは置いていけ!!3人で移動の翼を使え!!」

勇者は遊び人に道具袋を投げた。

勇者「エロジジイにドキドキする日が訪れるとはな!!」

勇者「どうせする恋なら、2人で添い遂げる恋だ!!心中しやがれ!!」

勇者はすてみで神官にとっしんした。

鞭で強烈に叩かれつつも、神官を転倒させた。

勇者「ぐはっ!」

勇者は力尽きた。

遊び人「いっつも無茶するんだから……」

遊び人「あんた蘇らせるために私は心中しないからね。あの神官が復活地点だったらまずそうだし」

魔法使い「キャー///何すんのよ///やっぱり昔から私の事そういう目で見てたのね」

色欲の勇者は魔法使いを後ろから羽交い締めにしていた。

色欲「早く飛べ!!この絵面はまずい!!」

遊び人「逃げるわよ!!!パーティ2つ分の翼よ!!」

遊び人達は道具袋から翼を取り出した。

神官「……マテ」

遊び人「えっ?」

鞭が遊び人の足首に絡まっていた。

神官「交ワレ……」

遊び人「うそでしょ!!」

遊び人「いやだ!!いやだ!!そんなの絶対イヤだ!!」

遊び人は混乱した。

遊び人はつばさをばらまいた。

色欲「落ち着け!!」

遊び人の周りにすさまじい風が起きた。

鞭はほどけた。

遊び人達は逃げ出した。

色欲の勇者と魔法使いは隣街に飛んでいった。

遊び人と勇者の棺桶は隣街に飛んでいった。

~隣町~

遊び人「うぇええん……怖かったよぉお……」ポロポロ

魔法使い「糞野郎!あのおっさんに捧げる羽目になりそうだったじゃんか!!」

魔法使い「変態どもに関わるんじゃなかったよ!!」

色欲「すまない……」

魔法使い「あとは谷の兵士にでも援軍を頼んで。命が関わるような危険はなかったし」

魔法使い「わたし、もう帰るから……」ウズウズ…

遊び人「?」

色欲「わるかった……」

魔法使い「でもまぁ」

魔法使い「最後は助けに来てくれてありがとう」

魔法使い「……じゃ」

魔法使い「さよなら、女性の目も見れなかったウブな勇者様」

ガチャン

色欲「なっ!!!!」

遊び人「えっ!?」

色欲「な、なんでもない!!今のは違う!!」

色欲「俺達も谷に戻ろう。俺の仲間を全軍要請する。こうなったら数で抑えるしか無い」

色欲「神官が動き出す前に。また他の犠牲者が出たらまずい」

遊び人「そうですね」

色欲「この谷史上、最悪の性犯罪者となりかねん。勇者の棺桶もはやく復活させてやれ」

遊び人「気になったんですけど。状態異常って死んだら全部治るものなのかな」

色欲「基本はそうだと思うが」

遊び人「でも、さっきのって状態異常っていうのかな……」

色欲「何が言いたい?」

遊び人「勇者はまだ、ムラムラしたままなのかな……」

色欲「…………」

遊び人「…………」

2人は棺桶を街の教会に残し、谷へと向かった。


カンカン!カンカン!!

ドタバタ!!

色欲「なんだ!この騒ぎは!!」

兵士「色欲殿!!大変です!!」

色欲「何があった!?」

兵士「谷中の女どもが、神官様から鞭で叩かれておかしなことに……」



バニーガール「うふふふふ///」

女戦士「あはははは///」

武道家「誰があそんでくれるのかしら///」

神官「ハハハハ!!ハハハハ!!」

神官「交ワレ!!交ワレ!!」

神官「俺は世界中の女を俺のものにする!!」

神官「男の欲望の全ては女を手に入れるためにある!!強くなるもの!!賢くなるのも!!それが目的ではない!!」

神官「良き女が欲しいからだ!!」

神官は歩きながら、すれ違う女という女に鞭をぶつけていく。

神官が歩く度に神官のとりこになる女が増えていき、巨大な軍団となった。

兵士「くそ、うかつに手をだせん!」

神官「私は、望んでいた!!若き頃の私は、性欲の魔物であった」

神官「教会に祈りに来た美しき女性と、交わることを想像した!!」

神官「私は確かに敬虔深き信徒であった!!誓って言おう!!私は私の穢れた心に常に罪の意識を感じていた!!」

神官「にも関わらず、私は女性の身体を頭の中で求め続けていた!!」

神官「すれ違う女性!初めて見る女性!!いつも見る女性!近くにいる女性!!」

神官「同じ人間として生まれ、違う性別として生まれ。女性という神秘的な存在は、一人一人に神の魂が宿っているほどに価値のあるものだった。美人はやまほどいれど、同じ美人は一人としていない。それだけで、この世界は私に苦悩をもたらすほどに魅力的なものであった」

神官「魔王を倒す喜びなど、この世で1番愛する女と結ばれた喜びには勝らないと、若き頃の私は思っていた」

神官「今思えば、貞操感など馬鹿げていた。何の抵抗もなく、女性と身体を重ねるものがいる。酒を交えながら話す盗賊の色話なんかを聞いていると、私は私が何と戦っているのかわからなくなった。戦う必要のないものと戦っているんじゃないかと」

神官「そんな馬鹿げた潔癖を求めたまま、老人になった。そして、性欲の葛藤という呪縛は解かれないまま、ただひたすら遠ざかっていった」

神官「そんな私に、この鞭は、女王様は、教えてくれた」

神官「禁欲のバカバカしさを!!この世は性であるということを!!」

神官「私は私を捨てる!!あの頃叶えられなかった欲望を今夜満たすのだ!!」

神官「さあ、全ての女よ!!!」

神官「私の身体を、求め……!!?」

遊び「神官の様子が!」

神官「ぐっ……」

神官「うぐっ……」

神官「ううっ…………!!」

神官はうめき声をあげ、倒れた。

色欲「何が起きた?」

遊び人「選ばれしものでもないのに、鞭を多用しすぎたのよ。以前からこっそり使っていたし、今日あまりにも力を借りすぎたのね」

遊び人「寿命が尽きたのよ」

神官は力尽きた。

谷の騒動はなかなか収まらなかったものの、女性たちは時が経つに連れ段々とわれにかえり始めた。

数時間もした後には、悶々とした男たちが、また女性に酒を振る舞う歓楽地の光景がもとにもどっていた。

遊び人「1つ、お聞きしてもいいですか」

色欲「ああ」

遊び人「あの神官の叫びは、全ての男性の叫びですか」

色欲「そうだと思うか」

遊び人「わかりません」

色欲「ならば、まず、そうだと言っておこう」

遊び人「…………」

色欲「理由は細かく述べない。性へのタガを外したこの谷の人々を見ればわかるはなしだ」

色欲「そのうえで、1つ気になったことを言っていこう」

色欲「どうして神官は、あの谷の上にいたのか。女性どころか、魔物も通らぬような開けた地で。何をしていたのか」

遊び人「…………」

色欲「あそこには、神官の亡くなった妻の墓がある」

遊び人「……!?」

色欲「男が死んでもいいと思う瞬間は、美しい女を抱いている時かもしれないが」

色欲「男が生きることを思う瞬間は、好きな女と唇を重ねている時だ」

色欲「男は汚いが、男もちゃんとその汚さを克服しようとする心もあるのだと思う」

色欲「連戦連敗だがな」

~大人の個室~

踊り子「どうしたんですか!!!」

色欲「なにがだ」

踊り子「鎧の下に服を着てるじゃないですか!!裸メイルをおやめになったんですか!!」

色欲「服は脱ぐためにあると気づいたんだよ。俺は、より変態に近づいたわけさ」

色欲「お前はあの鞭に叩かれたか」

踊り子「いいえ。魅力もない男に抱かれるなんて嫌ですもの」

色欲「魅力がある相手ならいいのか」

踊り子「そうですね。だから、私には一人しかお客様がいないんですの」

色欲「それは難儀なことだ」

色欲「魅力があればよくて、なければダメか」

色欲「関係性によって、善悪はいとも簡単にかわってしまうんだろうな」

色欲の勇者は踊り子の頭をなでた。

踊り子「うふふ。どうしたんですか」

色欲「初対面の女の頭をなでたら殴られるか牢獄に送り込まれるかのどっちかだ」

色欲「しかしお前は笑ってくれる」

踊り子「笑ってあげます」

色欲「あの神官は自分の言葉を、もっと綺麗な飾ってもよかったのかもしれないな」

色欲「自分は、許される人になりたかったのだと」

踊り子「勇者様自身、許される人になりたかったですか」

色欲「ああ。でも、もう無理だ」

色欲「俺の愛していた人は死んでしまった」

踊り子「勇者様と一緒に冒険をされていたお方。職業は、私と同じ踊り子」

踊り子「この谷で、私の身体を買ったのも、あの人にぶつける性欲を逸らしたかったからですか」

色欲「……魔が差した。そうとしかいいようがなかった」

踊り子「性欲をぶつけないくらいにあの方を愛されていたんですね。それでも、勇者様の身体にも心にも惹かれてしまった私はこう思ってしまうんです」

踊り子「あなたの初めての相手が私でよかった。あなたが人生で1番愛していた人と、身体を交えていなくてよかった」

踊り子「それが性欲を超えるほどの愛情だとしても、やはり実際に身体を交えていたほうが嫉妬していたでしょう」

色欲「女もそうなのか」

踊り子「男は身体の浮気を、女は心の浮気を許さないなんて魔王が人間界を滅亡させるためについたうそっぱちです。女も、身体の浮気の方がよっぽど許せないですよ」

踊り子「絶望的な鬱になりますよ。激鬱です。私みたいな、軽いお尻の女でも。憧れの男性が持つ、他の女性との肉体の夜の思い出は」

踊り子「そろそろ、本命にしてくれないかなぁと思います。二番目でもいいので、世界一大切な二番目にしてくれませんか」

色欲「…………」

色欲「俺だけの女でいてくれるか」

踊り子「はい。あなたも、私だけの男でいてくれますか」

色欲「ああ」

谷中の女を抱いた元勇者。

しかし、この踊り子に対しては、身体をまさぐりあうことはあっても、決して鎧を脱がなかった。

この踊り子も、彼が谷から帰ってきてからというもの、一度も服を脱いだことはなかった。

二人は初めてベッドに入り込んだ。



自分で自分を許す、というのは、口にするのはたやすくとも、実際にできることではない。

それを可能にする方法を、俗世からひとつだけ挙げるとしたら。

自分が認める異性から、身体を許してもらうことだ。

色欲の勇者は、この夜、初めて自分に性欲を許した。

しあわせな一夜。

こんなにも美しい魔法があるのかと、初めて知った夜だった。

勇者「目が覚めたら、全ての問題が解決していた」

勇者「そして、教会で目覚めたときに、何故か遊び人がはるか遠くから見守っていたことがなんだかショックだった」

色欲「世話になった」

踊り子「この人を救ってくれてありがとう」

遊び人「私たちは何もしてないですよ」

色欲「君たちの持つ壺に色欲の鞭も封印された。これからこの谷は、もとの戒律の厳しい谷に戻っていくのであろう」

遊び人「嫌ですか?」

踊り子「もう関係ないしね。この人と旅に出るし」

色欲「俺は良いが、嫌がる連中のほうが多いだろうな。性欲は戦争の引き金になるほど強烈な人間の欲望だからな」

色欲「だが、戒律が厳しいからこそ守られるものもある。俺のいなくなったこの谷を魔物から守る兵士が、鼻の下をのばしているわけにもいかないだろう」

遊び人「そうかもしれないですね」

色欲「それと、言い忘れていたことがある」

色欲「俺も、お前たちを試すような真似をしてわるかった」

遊び人「私達の何を試していたんですか?」

色欲「何もしないことを試していたんだ」

遊び人「?」

勇者「色欲の鞭……」

遊び人「何ものほしそうに壺の中見てんのよ」

踊り子「勇者様、その鞭を取り出せたら何に使いたいですか?」

勇者「そりゃあ、バニースーツを意地でも着たがらない女の子に着衣の命令をするだろうなぁ」

踊り子「着せることに使うなんて、さすが勇者様ですわ……」

遊び人「あんたも壺に封印できたらいいんだけど」


別れの際まで、4人は笑いあった。


遊び人「それじゃあ、私達、もう行くわ」

踊り子「…………」モジモジ…

勇者「お前らも気をつけてな」

踊り子「……あの、こんな時にごめんなさい……」

色欲「トイレだろう。行ってこい」

踊り子「すみません。勇者様、遊び人さん。本当におせわになりました」トットット…

遊び人「さような……もう行っちゃった」

色欲「お腹を下しやすいんだ。生まれつきらしい。自分の身体を呪い、苦労もしたらしいが、そこもまた魅力的に思う。誰もが持っているような悩みで、自分しか持っていないと錯覚する類の悩みだ」

遊び人「ふふ、やさしいですね」

色欲「生理現象だし仕方ないだろう」

勇者「…………」

勇者「生理現象だから仕方ないか」

遊び人「ん?」

勇者「七つの大罪も同じじゃないのかな。生理現象だから仕方ない」

遊び人「色欲に溺れてお尻触って生理現象だから仕方ないなんて言ったら怒るよ?」

勇者「まさか」サッ

遊び人「ねえなんでいま手降ろしたの?ねえ?」

勇者「暴食、色欲、傲慢、憤怒、怠惰、強欲、嫉妬」

勇者「大食いのやつと、すけべなやつと、偉そうなやつと、怒りっぽいやつと、サボりがちなやつと、金好きなやつと、ヤキモチ焼くやつがパーティだったら楽しそうに思うけどな」

遊び人「そんな甘い欲望じゃないことは知ってるはずでしょ」

遊び人「色欲の勇者様。何度も言っておきますけど、今夜にでも出発してください。色欲の鞭の持ち主を探して、追ってが必ず来ますから。」

色欲「わかってる。お前たちも気を付けて冒険しろよ」

遊び人「目下の敵は隣にしかいませんから」

勇者「うう、バニーガールよさよなら……」

遊び人「はぁ」

暴食「…………」

暴食「ちょっといいか。男だけで、話がしたい」

勇者「俺と?」

遊び人「お好きにどうぞ。私もトイレ行ってきます」

色欲「抱きたかった女がいた」

勇者「二人きりになった時の第一声が今度はそれか」

色欲「ずっと後悔していることがある」

色欲「死に追い込まれた、あの星降る夜。幻想的な時間。命の制限時間に迫られたときに、俺は、好きだった踊り子の身体を求めることをせず、純愛を守った」

色欲「なのに、こうしてこの谷に住み着いている今。もしもあの時、生涯で1番好きになったものと肌を重ねていたらどんな感触だったのだろう毎晩考えてしまっていたのだ」

色欲「俺は俺が大嫌いだ。性欲なんて軽んじてしまおうと思った。性欲を吐き出して生きようと思った。自分に宿る力でこの谷に貢献した。魔王がいた時は元犯罪者だったのに、魔王がいなくなってからは一転英雄となった。それも、この大罪の装備の影響のおかげなのだろう」

色欲「あの夜、俺はどうすればよかった。最後の最も輝かしい時間を、腰をふるのに使うべきだったんだろうか」

色欲「お前だったら、どうしていた」

勇者「…………」

勇者「後悔すると、心底理解していながらも」

勇者「手を繋いでいたと思う」

色欲「所詮は俺と同じ綺麗事か」

勇者「なあ、どうして穢らわしい方が人間の本能だとか、本音だとか、欲望だってことになっちまうんだよ」

勇者「性欲よりも、もっと深いところに性に対する考え方っていうのが人間にはあるんじゃないのか。お前は、その本能に従ったんだ」

勇者「禁欲という本能に色欲という本能が負けたんだ。禁欲は、理性なんかじゃ抗えない、人間に与えられた欲望の1つなんだ」

勇者「どうしようもなかったんだ。お前はそういう人間に生まれついて、そういう選択を取るような環境で育ってしまった」

勇者「そんなお前だからこそ、その子とたった一部でも人生を共有することができたんだ」

遊び人が遠くから向かってくるのが見えた。

勇者「男同士の話はここまでだな。お前もこれから、愛を知っていけばいいさ」

色欲「お前は……素晴らしい勇者だ」

勇者「勇者ねぇ。そんなものにふさわしい俺ではないよ」

色欲「何を言う!勇者にふさわしくないとしたら、お前は一体……」

勇者「俺は」

勇者は青空を見つめながら言った。

勇者「通りすがりの、魔法使いさ」

【色欲の勇者の思い出】

愛情は基本的に、伝えるものであり、見せるものであるが。

時として、わざとみせないものである。



踊り子「女の子3人との冒険はいかがだった?」

満点の星空を見上げながら、踊り子と色欲の勇者は寝転んでいた。

色欲「気を遣ったよ」

踊り子「私と初めて会った時も、噛み噛みだったからね。ろくに目も合わせてくんなかったし」

色欲「女の子と接したことがろくになかった。厳しい親の元で育って、勇者の素質を持っていることがわかって、ますます厳しく育てられた」

踊り子「そのおかげで私達みたいな高度な術士と冒険に出れたじゃない。めでたしめでたし」

色欲「何がめでたしだよ」

色欲「この夜が開けると、君が死ぬというのに」




色欲「夢を司る魔王の四天王の一人」

色欲「ここは奴が過去に訪れた場所」

色欲「孤島のような場所に、風が運ぶ花の香り。広がる草原に、夜空に浮かぶ満点の星」

色欲「間違いなくここにあいつの弱点があるはずなんだ」

色欲「ヤツが目覚める前に見つけないと、君だけが夢の中から出られなくなってしまう。僕の精霊との繋がりを、断ち切られた君だけが」

色欲「一生を独りここで過ごさなくてはいけなくなる。そんな生き地獄があるか」

色欲の勇者は立ち上がろうとした。

踊り子「ダメって言ってるでしょ」

色欲「どうして!!」

踊り子「星が見れなくなるからよ」

色欲「そんなことを言って……」

踊り子「どうせ、ここで永遠の時を過ごすのならさ」

踊り子「永遠に回顧する価値のあるだけの時間を、今つくっておきたいの」

踊り子「二人きりになれる時間なんて、なかったんだもの」

色欲「…………」

踊り子「私のこと、どう思う?」

色欲の勇者は口を開いた。

色欲「愛して」

踊り子に唇を塞がれた。

色欲の勇者は教会で目覚めた。

覗き込む顔は、魔法使いと、僧侶だけで、踊り子はいなかった。

消滅したのよ、と魔法使いは言った。

あの満点の星空が広がる夢の世界の中で。

踊り子は、永遠に近い時を過ごすことになったのだ。

目覚めた勇者が手に握っていたのは。

見たこともない、妖艶な魅力を持つ鞭だけであった。

~思い出②~

巨大な球体が割れた。

かつて歯が立たなかった四天王の一人を、いとも簡単に陵辱し、倒した。

右手に持っていた鞭を投げ捨て、冒険者の積み重なった死体をまたいで歩いた。

眠れる姫をそこに見つけた。

変わらぬ姿で眠っているように見える、好きな人の亡骸を抱えた。

あと数十分で世界が閉じてしまうという極限状態の中。

あの夜、何故踊り子の身体に手を伸ばさなかったのか、正直今でもわからない。

恥じらいなんかで動けなかったわけでもない。

踊り子は、身体を受け入れてくれたかもしれない。

踊り子は、身体を求めていたのかもしれない。


世界で1番好きな人と、世界で1番したいことを、あえてしない。

それが、愛していることの証明だと思っていたのだ。


この世の半分なんていらなくていいから。

この世の全てよりも大切なたった1つのものを大切にしたかった。

今後、生きていく間、世界で1番愛した女を抱きしめておけばよかった後悔するという、最大の性的欲望に苦悩すると頭の中ではわかっていても。

俺は、星空ごときを選びとってしまったのだ。

世界一の美女と同じベッドに入るより。

そばかすのある踊り子と、夜の星空を見上げるほうがずっとしあわせだ。

たとえこれからの自分が、純愛というものを憎み、極端に性というものを軽んじるようになってしまうとしても。


あの子と生きていた時は。


世界で1番愛おしい人とセックスする以上の快楽が、喜びが。

この世界のここには、あると思って生きていたんだ。



色欲の勇者達 ~fin~

続きはまた明日以降投稿します。

投稿文字数はここまでで、76,035文字だそうです。
(お墓の話で73,403文字くらい)

長文なのに読んでくださって、本当にありがとうございます。

暴食、色欲、傲慢、憤怒、怠惰、強欲、嫉妬。

7つの大罪の中で自分が最も何に該当するかを考えた時に、傲慢、であることを思い浮かべる者は最も少ないのではないだろうか。

なぜなら、傲慢である者こそ、こう考えてしまうからだ。

「私は、謙虚な存在である!!」

傲慢であるがゆえ、傲慢であることを自覚しない。

だが、どうだろう。

「私は大した存在ではない」と思っている大多数の人間こそ、この欲望に該当しているのではないだろうか。

自分より社会的身分の低い者に丁寧に接する者はみな謙虚とは限らない。

地道に愚直に生きている人にだけ敬意の言葉をかける人は謙虚とは限らない。


“自分が手に入れたくても、手に入れられなかったモノを手にした上々の人にも謙虚でいられるか”


謙虚な人は、1番手に入れたかったものだけは手に入れた人である。

傲慢な人は、2番目までに好きなものはほとんど手にしてきた人である。

傲慢な人は、1番手に入れたかったものにかぎって、手に出来なかった人である。

虚栄心に塗れた者は何かにしがみつく。

2番目に理解できた知識を見せびらかす。

2番目に好きだったパートナーを自慢する。

嫉妬が上にいるものを引きずり落とそうとする欲望であれば。

傲慢は下にいると思っているものに自分を押し上げさせようとする欲望である。

周囲の人間は3番目以降のものしか手にしていないと決めつけかわいがる。

1番欲しかったものを手にしているものには胸を張って威嚇をする。

戦いの優勝者に表彰として盾が与えられるのは、2番目以降の者から1位の座を守るためではない。

勝者自身の満たされなかった思いを、その盾が守ってくれるからである。

【第3章 傲慢の町 『自尊心を守る盾』】

一人ぼっちの夜の部屋で傲慢は叫んだ。

誰か、あたしを認めておくれ。



案内人「この街は世界で1番凄い街さ!!」

案内人「どのくらいすごいかって?手で表現すると」

案内人「こんっっっのくらいさ!!!」バン!!

勇者「…………」

案内人「えっ?お前らがどんなにちっぽけな存在かって?」

案内人「爪先で表現すると」

案内人「こんんんんっっっっのくらいさ……」シュン…

勇者「すてみしてもいいか?」

遊び人「誰も見てないところでね」

勇者「はぁ」

遊び人「どうやら、『傲慢の街』についたみたいね」

勇者「宝石店、装飾屋、飼育用魔物売り場、変わった店が多いな」

遊び人「資格取得の店も多いね。呪文知識検定。農場経営スキル検定。かっこいいなぁー。私もなんか資格取ろうかなー。遊び人検定はないのかな」

勇者「遊び人検定8段とかになったら、もうそいつはすでに遊び人じゃないだろう」

遊び人「私はまだまだあまちゃんの遊び人だな。見た目は普通の旅人ガールだし」

勇者「そろそろバニーガールの格好をしたいという振りか!?」

遊び人「しないよ!!まだ遊び人検定4級だもん!!」

勇者「8段になってはちきれんばかりのバニースーツとうさみみをつけてくれ!」

遊び人「似合わないよ!!」

勇者「傲慢の街で謙虚になってどうする!」

遊び人「傲慢の街で色欲に塗れてどうする!」

勇者「それにしてもなんだか騒々しい街だなぁ」

遊び人「たしかにおしゃべりの声が大きいね」



主婦A「おほほ。私は子供にこの都1番の家庭教師をつけているわ」

主婦B「おほほほ。私は子供にこの都1番の家庭教師を2人もつけているわ」

主婦C「おほほほほ。私は逆にこの都で最弱と言われる家庭教師をつけていますわ」

遊び人「それ子供かわいそうでしょ!」


男A「ふはは。俺の筋肉はどうだい!この前は牛を押し倒したぜ」

男B「ふははは。俺なんか象を押し倒したぜ」

男C「ふはははは。俺なんかのれんに腕押しだぜ?」

遊び人「何も倒せて無くない?」


占い師A「ふふふ。私なんか魔王が倒される未来を予言していたわよ」

占い師B「ふふふふ。私なんか魔王が倒される未来を予言していたという今言うあなたまで予言していたわよ」

占い師C「ふふふふふ。私なんか、魔王が砂場で井戸掘ってると思ったら、黄金の仏像がでてくる夢を見たんだった……」

遊び人「なに荒唐無稽な夢の話をしてるのよ!」


ブルジョワ娘A「ほほほ。私なんかまた別荘たてちゃいましたよ」

ブルジョワ娘B「ほほほほ。私なんか犬のために家をたてちゃいましたよ」

ブルジョワ娘C「ほほほほほ。わたしなんかお城をたてちゃいましたの」

勇者「ふひひひひ。ぼくなんか君たちみておっ勃てちゃいましたよ……」

ブルジョワ娘ABC「ギャー!!!!」

遊び人「なにあんたも混じってんのよ!!」

勇者「なーにが私は俺は僕はだよ!鼻もちらないなあ!大罪の装備を2つも手に入れたこの吾輩が聞き耳をたててやってるともしらずに!」

遊び人「この高等で麗しき気高き乙女も聞き耳を立ててるとも知らずにね」

勇者「…………」

遊び人「何よその目は」

勇者「やんのかこら?」

遊び人「望むところよ」



勇者「昨日寝てないわ―!ぜんっぜん寝てないわ―!3時間しか寝てないわ―!!」

遊び人「昨日めっちゃ寝たわ―!13時間は寝たかなー?ロングスリーパーだからさー!」

遊び人「だから、まじっ、昨日ぜんっぜん勉強してないわ!!ぜんっぜんだわ!!今日のテストやばいわ!!絶対アカデミー留年するわ!!」

勇者「もう今週で5回飲み会あったわー!!武器屋と道具屋と防具屋と宿屋と酒場の店主と飲み会したわー!!」

遊び人「ふん、それがなによ!私なんてもう今週入って……」



~夕暮れ~



勇者「13体は魔王倒したわ!!もう倒しすぎて慣れちゃって、装備無しで戦ったことあるわ!!全裸で倒したこともあるわ!!放尿しながら倒したこともある!!」

遊び人「子供の頃10は人格持ってたかな!エミナ、マキナ、サラサル、チーナ……大人たちは私に巣食う10の人格に怯えてたわ!!同じ年頃の子供はままごとの延長上だと思ってたみたいだけど。ふふっ、今もまた私の中に巣食う少女の魂が……コラコラ、マキナ、落ち着いて。ここで暴れちゃだめよ……」

子供A「なにあの人達」

親A「みちゃダメ!!」

遊び人「はあ、はあ。いつの間にか暗くなってたわね。ひとまず道具屋にでもいきましょう」

勇者「色欲の谷で俺が大活躍して稼いだからな」

遊び人「はいはい。もう自慢ごっこはおしまい」

勇者「いいじゃねえか。俺だって珍しく活躍できたんだから。俺も老後はバニーガールに囲まれてあそこに住もうかな」

遊び人「大罪の装備は封印されて変態性は薄れてきているはずよ。暴食の村の食べ物も普通に戻ったって噂で流れてきたでしょ。色欲の谷でも一人だけ変態になっちゃうよ」

勇者「……………」

勇者「そうか……」

勇者「…………」

勇者「…………変態、か」

遊び人「何くだらない単語で思索にふけってるのよ」

勇者「だれが自慰にふけってるだ!!」

遊び人「……誰も言ってないけど、きっとあんただと思う」

勇者「ふと思ったんだけどさ。大罪の装備は人の心を変えてしまう装備、というわけではなかったりして」

遊び人「どういうこと?」

勇者「人の理性を外す装備なんじゃないかな」

勇者「人間には元々、罪の意識があるだろ?夜中に油の乗ったご飯を食べ終わって罪悪感に駆られたり。夜中に油汗を垂らしながら自分の分身をしごいて罪悪感にかられたり」

遊び人「そ、それはよく知らないけど……」

勇者「そういう、してはいけない、という気持ちを取り外してしまうものなんじゃないかな」

勇者「食べたい、変態したい、と思わせる装備ではなくて」

勇者「食べてはいけない、変態してはいけない、という理性の蓋を外す装備」

遊び人「外す装備、か……」

勇者「…………」

遊び人「…………」

勇者「変態、か……」

遊び人「なんでまたそのワードで感慨にふけろうとするのよ」

遊び人「でも、確かにそうかもしれないね。暴食、色欲、傲慢、憤怒、強欲、嫉妬、怠惰の気持ちは誰にでもあるものだからね」

遊び人「大罪の装備をそんな風に考えたことなかったな」

遊び人「この街の人も、傲慢を司る装備によってタガを外されているのかな」

遊び人「私は大した存在である。この街にいる人は、みんなそう思ってるのかな」

勇者「ちなみに俺はどういう存在だ?」

遊び人「大した変態である」

勇者「ふふん」

遊び人「威張ることじゃない」

勇者「えー」

遊び人「さて、夕食も兼ねて、情報収集に行きましょう。この世で最も寛大な心の持ち主の勇者様」

勇者「仕方あるまい。今宵は少し贅沢なものを食べよう」

遊び人「やったー!」

遊び人「コンテストが開かれるんですか」

酒場「ああ。エントリーの締め切りは間近だよ。試しに出てみると良いよ」

酒場「ちから、まもり、かしこさ、はやさ、あとなんだったかな。それぞれの優勝者には景品と栄誉が与えられるのさ。面白いことに、冒険者よりもこの街に住んでるものの方が入賞しやすいんだ。これのために人生注いでるやつもいるからね」

遊び人「昔からあったんですか?」

酒場「つい数年前だよ。魔王が倒される前くらいだ」

酒場「その前もコンテストをやってたみたいだが、小さなイベント程度だった。種目も主婦とか子供向きのものだった」

酒場「話はそれるが、ずっと前のことで、面白いはなしがあってね」

酒場「子供自慢コンテストが開かれたことがあったんだが。優勝者は、なんと子供を誘拐してきた女性だった」

酒場「その子のことなんてなにも知らないはずなのに。饒舌に語ってね。子供もそれを聞いて喜んで、凄くなついていたそうだ」

酒場「子供を溺愛している親に圧倒的な差をつけ、実の子供をもたないその人が優勝した」

酒場「他の街の出身者で、普段は誰とも交流を取らないらしい。なぜそんなことをしたのか、結局わからないままだった。きっと、子供と過ごす生活を夢見ていたんだろうな」

遊び人「なんだか切ないお話ですね」

酒場「空想は現実を超えることがあるみたいだ」

酒場「この街では、数年前から偉そうに自分を語りだすやつが増え始めた。俺は魔王がいなくなって、人々が恐れを失ったせいだと思うんだが。俺は良いことだと思った」

酒場「夢と傲慢の何が違うっていうのさ。夢が許されるなら傲慢も許されよう。俺も故郷の人間に散々とめられながら、この街で自分の店を持った」

酒場「俺はこのままでは終わらない。俺はこんなんじゃない。特別な存在だ。選ばれた存在だ。そんな気持ちがあったから、努力することもできた」

酒場「見てみろ、様々な商売の中心になったこの夜も光輝く街を」

酒場「虚栄心がこの街を強くしたんだ」

~食後~

勇者「数ある職業の中でさ」

遊び人「うん」

勇者「最も謙虚な職業って何だと思う?」

遊び人「賢者じゃない?」

勇者「本物の賢者ならそうかもな。でも王宮直属で働いてる賢者なんかになってみろ。傲慢にならずにはいられないと思うぞ」

遊び人「ちょっとは威張っちゃうかもね」

勇者「最も傲慢な職業はなんだと思う?」

遊び人「勇者じゃないかな」

勇者「そう。俺もそう思った」

遊び人「10年で数百人しか選ばれないと言われてるからね」

勇者「魔王を倒すのに最も近い職業から傲慢な傾向があるならさ」

勇者「遊び人こそ最も謙虚な職業なのかもしれないな」

遊び人「うふ、なによ急に」

勇者「この街に染まる前に、他人のことを誉めておこうと思ってな」

遊び人「褒められてるのかなぁ」

勇者「褒めてるよ。これからも立派に遊んでくれ」

遊び人「わーい!」ガシ

勇者「まて、財布を掴んでカジノを見るな」

勇者「コンテストにエントリーするぞ。こういう時の展開として、優勝商品が大罪の装備だって相場は決まってんだ」

遊び人「違うみたいよ。どの部門も一律賞金だもん」

勇者「なんだよ。じゃあいいよ、めんどうくさい。ちなみにいくらだよ」

遊び人「5000G。勇者の命1000個分くらい?」

勇者「よし、出よう。大罪の装備は後回しだ」




【部門一覧】

・ちから自慢コンテスト

・すばやさ自慢コンテスト。

・かしこさ自慢コンテスト。

・みのまもり自慢コンテスト。

・うんのよさ自慢コンテスト。



勇者「遊び人は運のよさ自慢コンテストにでろ」

遊び人「はい」

勇者「俺はかしこさ自慢コンテストに出る」

遊び人「いいえ」

勇者「じゃあ何に出ればいいんだよ」

遊び人「みのまもり自慢コンテストは?死ぬぎりぎりまで粘れる唯一の人じゃん。死んでも蘇るし」

勇者「なんだよその命の軽さ。それに街人の前で急に棺桶に入ったら勇者だってばれるだろ」

遊び人「5000G」

勇者「やるよ」

司会「2日目!午後の部!みのまもり自慢コンテスト!!」

司会「厳正なる検査の結果、次の4名に決まりました!!」

司会「バニーガールのムチシゴキ地獄に耐え抜いた猛者達を紹介しよう!!」

遊び人「(予選を勝ち抜いた話を何故かしたがらないと思ったら……!誰かさんにとってはご褒美じゃないの!)」


大男A「俺はあらゆる痛みに動じない!!岩が頭に落ちた時も立ち続けた時のように!!」

大男B「俺はあらゆる痛みに屈しない!!雷が俺を撃ち抜いたときに気絶しながらも立ち続けた時のように!!」

大男C「俺はあらゆる痛みに耐え抜く!!盗賊に拷問されても宝の在処を吐かなかった時のように!!」

勇者「僕は、痛みを快感と捉えます」

司会「さぁー!最強の男たちが出揃った―!!この世界最強の街で、最強の座を手にするのはだれだー!!」

司会「準決勝の競技はこちらだー!!」

準決勝

「ちょう我慢大会」

司会「さあ、下剤入りの氷を食べて下さい!!」

ザワザワ…

遊び人「な、なにが始まるというの?」


司会「全員食べ終えたようです!!」

司会「それでは、勝負開始!!」

大男A「ああ!!敗退すりゅぅうううう!!!」ブリリイビチイチ!!

司会「おっとー!?開始1秒で大男Aが脱落したぁー!!勝負本番で胃が痛くなる体質が祟ったかー!?」

大男B「くっそ……臭いやがる……」

大男C「貰い下痢してしまいそうだ……」

司会「全員顔が青いぞー!!」


~数分後~

司会「残るはあと1名!!」

勇者「…………」

遊び人「(勇者、ずっと目を瞑ってる。がんばって!!)」

大男B「……っ!?待たれよ!!」

司会「どうした大男B!?」

大男B「お前は誰だ!!!!」

大男B「私はガスです」

大男B「よろしい!!ならば通れ!!」

大男B「はい」ビチチチブリュリュリュリュ!!!

大男B「ぬぉおおおお!!!!らめぇえええ!!!!」

司会「1試合目終了!!勝ち残ったのは大男C、そして勇者だー!!」

勇者「…………」

遊び人「(なによ、表情1つ変えないじゃない。普段からへんなもの食ってるから頑丈なのかな)」

勇者「うぼろぇえええ!!」

遊び人「ええっ!?」

司会「おっと!!勇者あまりの汚物の臭いに吐いてしまった!!ポーカーフェイスは吐き気を堪えていただけだったようだ!!」

大男C「おうぇええええ!!!」

大男B「うぼろぉおおええええ!!!」

司会「おっとー!他の選手ももらいゲロだぁうぼろろろろ!!」

遊び人「汚い!!!!」

遊び人「最後の戦いはどんなものになるんだろう」

遊び人「対戦相手は大男Cね」

遊び人「勇者も、普段はふざけてるけど。こんなことあなたの前で言うと、笑われちゃうかもしれないけど」

たとえあなたが倒れても。

地面に倒れたあなたに、私が王冠を被せてあげる。



遊び人「(大男Cと勇者の頭の上に水の入ったお盆が乗せられたわ。一体何を……)」

司会「決勝戦!!『美女我慢コンテスト!!』」

バニーガール「しつれいします!」

大男C「ん?」

勇者「えっ?」

司会「ルールの説明です。これはバニーガールに背後からはがいじめにされ、甘い言葉をささやかれても頭の水をこぼさずにいられるか……」

勇者「ああでりゅううううう!!!!もうらめぇええええ!!!!」ビクンビクン!!

司会「勇者脱落!優勝、大男D!!」

遊び人「こらぁああああああ!!!!何が出たの!!?何がでたのよ!!!!!?」

遊び人「こんのっ馬鹿!!!!変態勇者!!!色欲の谷からやり直してこい!!!」

遊び人「1回戦で負けるならまだしも!!こんちくしょお!!!私は予選敗退っていいたいのかよ!!!」

勇者「いててて!!何のはなしだ!!?」

勇者「恥ずかしくて言えなかったけど、小便ずっと我慢してて……」

遊び人「そんなにバニーガールがいいのかよぉおおお!!!バニーガールでも転職しろよぉおおお!!!!」

勇者「わ、わるかった!転職するから!バニーガールに転職するから!!」

遊び人「するんじゃないわよっ!!!!」

勇者「ええっ!?」

司会「さて、みさなま。最後に、この戦いへと移りましょう」

司会「唯一予選がない部門があったことを皆様ご存知のことと思います」

遊び人「運のよさの部ね」

司会「なぜなら、この勝負は、皆様全員が決勝で戦うからです」

司会「全ての応募者のなかからくじ引きで選びました」

遊び人「そういうこと!?」

司会「優勝者は……」




司会「遊び人!!!」

遊び人「わたし!?」

司会「今宵、彼女が最も運の良い人物です!」

遊び人「うそでしょっ!?ギャンブルは負け越してるのに!!今まで使い果たした運は今日という日のためだったのね!!!」

遊び人「やったわ!!勇者!!5000Gよ!!」

勇者「まじかよ……」

遊び人「お金は後日指定の場所で受取だって。楽しみだなぁ。またこの街でもたくさんお金稼いじゃったね」

遊び人「ということでさ。勇者様」

勇者「はぁー、しょうがねえなあ」

遊び人「勇者も遊びたいくせに」

勇者「まあな。カジノにでも行くか」

遊び人「やった!!!!!!!」




「運の良さなんてくだらないわ。自分に不相応な幸せを手に入れた人間こそ、最も不幸な目に遭うというのに」

「ちから、みのまもり、すばやさ、かしこさ、全てにおいてこの街最強の座に君臨した私でさえ、甚だしい思い違いをしていたと気づかされたのよ」

「あなた達も、束の間の勘違いを楽しんでいればいいわ」

傲慢「自惚れを、この元勇者様が踏みにじってあげるから」

遊び人「うう……」

遊び人「頭が痛い。昨日カジノで遊んで、いけないと思いつつ店員の人から貰ったお酒を飲んじゃったせいかな。慣れないことをしちゃだめだな」

遊び人「それで、確か、急に具合が悪くなって、休める部屋に案内されて、そこで寝て」

遊び人「えーっと、ここはどこ?」

傲慢「不正行為をした客を、罰するための地下室よ」

遊び人「あなたは!?」

傲慢「この街を、誇るに足る街に育て上げた者よ。昨日の大会や、このカジノの経営も、私の権力が及ぶ範囲にあるの」

遊び人「責任者さんですか。あの、私、不正行為なんてしていません。その証拠に、昨日は見事な負けっぷりでしたもん。賞金がなかったらこのまま餓死してしまうほどですよ」

傲慢「あら、それは運が悪かったわね」

遊び人「ホントですよ。遊び人だというのにギャンブル運わるいんです」

傲慢「おまけに賞金も貰えないしね」

遊び人「はぁ!?」

遊び人「はぁあ!?どういうことですか!!?あなた自分が何を言ってるかわかってますか!?」

遊び人「というか、なんで私ここいいるんですか!?賞金くれるっていうのは嘘だったんですか!?勇者はどこよ!?賞金は何故貰えないの!?なんでこの街のお偉いさんと一体一になってるのよ!?賞金はどうなるのよ!?詐欺!?盛大な詐欺だったの!?賞金はどうなのよ!!」

傲慢「…………」

遊び人「はぁ…はぁ…」

遊び人「あの、手始めにひとつ」

傲慢「どうぞ」

遊び人「あなたの職業、勇者なんですね」

傲慢「……恐れ入ったわ。街のうわさでも聞いたのかしら」

遊び人「そんなところです」

遊び人「(精霊が宿ってるのが見えるだけだけど)」

遊び人「(やっぱりそう。暴食の村、色欲の谷、そして傲慢の街。大罪にまつわる場所に勇者という職業の者がいる)」

遊び人「(そしておそらく、大罪の装備の所有者として選ばれるのも……)」

傲慢「何を遠い目をしているのかしら」

遊び人「…………」

遊び人「この部屋、不正行為をした客を罰するための部屋だって言ったのに。トロフィールームじゃないですか」

遊び人「金色の盾が数多く陳列されてる。これは、あなたがこの街で権力を握った軌跡ですか?」

傲慢「……関心しちゃうわね」

遊び人「こんなの洞察のうちにも入りませんよ」

傲慢「洞察の問題じゃないの。だって、他人の栄誉に関心をもつこと自体、奇跡的なことなんだから」

傲慢「私は、私が育った街のアカデミーで、期待されていた生徒だった。先祖が勇者だと言われている家系に生まれ、実際に私は幼い頃からその頭角を表しはじめた」

傲慢「勇者特有の戦闘センスがあり、勇者にしか唱えられない呪文を覚え、他の生徒と圧倒的な実力差があった。そして、ある日精霊が私に降り注ぎ、私は完全に勇者として選ばれたことが証明された」

傲慢「アカデミーの校長先生にも何度も部屋に呼び出されたわ。元冒険家だったというその人の部屋にも、たくさんの盾や杯が飾ってあったの」

傲慢「そんな輝かしい表彰の数々を見て、私は何を思ったと思う?」

遊び人「自分はこれを超えられる?」

傲慢「ふふ。反対よ」

傲慢「何とも思わなかったの。それが、ほとんどの人間の、正常な反応だと思うわ」

傲慢「数ある盾のうち、ひとつだけ手に入れるのもすごい苦労を伴うことなのに。『ドラゴニクスレース 銅賞』と書かれている盾を見ても、普通の人なら数秒もしないうちに興味を失うでしょう。全国から選ばれし魔物使いが大勢集まって、命を懸けて目指すものにもかかわらず」

傲慢「魔物使いでもない者までが、その盾欲しさに、栄誉のために命を落とすのよ」

傲慢「自分は他人のことを見ないくせに。自分は他人に見られていると思い込む人がどれだけ多いことか」

傲慢「話が逸れたわね。私があなたに聞きたいことがあるのに」

遊び人「何をでしょうか」

傲慢「暴食の街と色欲の谷で、棺桶を引きずって歩く冒険家の目撃情報があったの」

傲慢「加えて、今その2つの場所では、最近起きていた怪奇現象がなくなっている。食物の異常な成長は止まり、性文化に対する過剰な許容は規制されつつある」

傲慢「おそらくこれは、大罪の装備がその場所から失われたことによるもの」

遊び人「(やっぱり、大罪の装備について知ってるんだ)」

傲慢「あなた達が二人の勇者を処刑の王国に突き出し、大罪の装備を奪ったからでしょうね」

遊び人「はぁ!?」

傲慢「暴食の村の勇者、色欲の谷の勇者、彼らはあの国で死んだと聞いたわ」

傲慢「そして次は、傲慢の街の私が殺される番なんでしょう?」

遊び人「し、死んだ?」

傲慢「しらばっくれてもいいわよ。これから全てを吐いてもらうから」

傲慢「昨日の試合。本当に厳正なる抽選の結果、あなたが選ばれたと思う?賞金を受け取らせるために都合よく呼び出すために仕組んだのよ。まさか、カジノで浮かれて捕まえられるとは思ってなかったけど。あなた、最高に運が悪いわね」

傲慢「暴食の村で栽培されていた真実草はもう手にはいらないけど。力づくで全てを吐かせることならできるわ」

遊び人「うぐっ…!!」

傲慢の勇者は遊び人の頭を掴んだ。

傲慢「さあ。勇者にひざまづきなさい」

遊び人「……うぐっ!!!!???」

傲慢の勇者は、白目を剥いた女を掴みながらほくそ笑む。

勇者のみに授けられる雷撃の力を、拷問・洗脳として利用した。

とても繊細な呪文で、脳の中にある情報をそのまま話せば苦痛が与えられることはない。

脳の中にある情報を秘匿しようとし続ければ地獄のような苦しみを浴びる。



それでも、遊び人は、話すことをためらい、激痛を味わい続けた。

どうして話していけないかを理性で判断することはできなったが。

どうしてかわからないものこそ、守らねばならないと本能は感じていた。

盾も持たずに、遊び人は守った。

自分の、大切な生い立ちを。

明日以降また続きを投稿します。
真面目と下ネタの落差が激しいのは、書き溜めのタイミング差の都合です……。
おやすみなさい。

【過去の章 賢者の里】

長老「この子は、長く生きまい」

無邪気に笑いながら大岩を破壊していく少女を見て、若き長老は父親に告げた。

長老「お前の母さんと一緒だ。この子は天賦の才を授かって生まれた。身体から膨大な寿命がダダ漏れにでもなっていなければ、通常呪文でここまでの威力は出んよ」

父親「どのくらい、生きられるでしょうか」

長老「里のものはおよそ40半ばにて天寿を全うする。この子が平均以上の才能を持っていなかったらより長く、もっていたらより短くなる」

長老「悲しいことだが。これが大罪の賢者の一族の宿命じゃよ」

少女「『おくちチャーっく!』」

少女が笑いながら叫ぶと、森のなかにいた魔物は全て有口詠唱を封じられた。

長老「マフウジをこんな雑に唱えられるものが世界にどれだけいる。この子が呪文を使いたがっているのではない。呪文がこの子に使われたがっているのだ」

長老は告げた。

長老「この子は、ただ一事を成すべきためにのみ生まれて来たんじゃ」





父親「一事を成すべきために、だと」

父親「ふざけるな!!」

~遊び人の父の若かりし頃~

男は、国家所属の研究員として働いていた。

エリートとしての道を歩む前、アカデミーにいた頃は何のために生きているかわからない時期もあった。

勇者という存在を見て羨ましいと思っていた時期もあった。

何か一事を成すために人は生まれ、そのために生涯を注ぐ。

「魔王を倒す」

生まれてきた意味や目的意識を持っている存在が羨ましく思えた。

目的のできた男は若いうちから仕事で頭角を現し、ある程度の裁量権を与えられた。

男は森の調査をしていた。

魔物が人間の村に入り込めない(気づかない)のと同様、不思議な生き物によって人間に秘匿されているエリアがある。

そのエリアを探すのが彼の仕事の1つだった。

同僚「また森に行ってきたのか。エルフの生き残りでも探しているのか」

男「エルフになら会ったことがあるし、もうごめんだよ。こちらがどんなにエルフに関する知識の理解を示しても、蔑まれてろくに相手にされなかった。長寿の彼らは年功序列の世界に生きてるんだ。人間の青年はエルフにとってガキにすぎない」

同僚「じゃあ何を探しているんだ。帰ってきたら魔力がいつも尽きているじゃないか」

男「1日中感知呪文を使っているんだ」

同僚「感知呪文?何を感知してるんだ?」

男「探し物以外を感知している」

同僚「はぁ?」

男「もしもガラスの靴を置き忘れた女の子を探したい場合、どうやって探す?」

同僚「広域を対象にして、俺なら性別やサイズの指定をするな」

男「そうだな。より細かく分類していくのが感知呪文の基本だ」

男「だがな、拒否される場合があるだろう?魔王が人間の町村を感知できないのと同じだ。『人間以外がこの村を感知するのを防いでください』という防護呪文が人間の居住地には施されている。そして魔王城にも同様に『魔物以外がこの場所を感知するのを防いでください』という防護呪文が施されている。では何故、魔王城に侵入することができる勇者が大勢いたのか」

同僚「感知にはあまり詳しくはないが、魔物を洗脳したり尾行したりしてたんじゃないのか?」

男「洗脳は出来ない。人間に洗脳された魔物は人間の思考となり、魔王城を感知できなくなると言われている。一方、尾行は可能だ。魔物と自分を鎖で結んだら、魔物が結界に入った瞬間は途端に興味を失ってしまうが、無理やり内部まで引きずって貰えれば侵入することができるだろう。まぁ、広大なエリアから魔王城に出入りする魔物を特定すること自体がかなり困難だが」

男「実際に行ったのは、”引く”という発想だった。ある膨大なエリア全体を感知する。そのあと、魔王城に関わる要素以外を全て差し引く。結果、魔王城というエリアだけが感知されていない場所として浮き出る。この国のかつての研究員は、この地味な作業が得意だったんだ。そして勇者をばかすかと魔王城に送り込んでいた」

男「例の森のエリアにも同じような聖域がある。他の仕事も並行しながら3年近くかかったが。もうすぐだ」

同僚「お目当ての場所が見つかりそうか」

男「正確にはお目当ての場所以外の全ての場所が、だな」

同僚「いちいち会話をするのも疲れるやつだ。女性には面倒なやつだと思われないようにな」

男「余計なお世話だ」

幾月が経った頃。

男「ついに……」

男「ついに終わった。長かった。明らかにこの空間だけ浮いている。近くを通ったことは今まで何度もあったのに」

男「ここに、父さんの呪縛を解くヒントが……」

男は森の中の空間を見定め、強烈に意識をし始めた。

すると、空間の歪みのものが目に見えてきた。

男「ここが、入り口……」

「触れては駄目」

男「誰だ!」

「いつ諦めるのかと3年前からニヤニヤしながら見守ってきたけど。あなた、相当暇なのね」

「里の外に出る者なんて私以外に皆無だから、まだ誰も気づいていないわよ。殺されないうちに帰りなさい」

男「君は……エルフか?」

「はぁー!?なによそれ!新手のナンパ!?」

女は頬を染めた。

「例のろくでもない国家の人間さんなんでしょう?さっさとお家に帰って、魔王を倒す研究の続きでもしなさいな。魔王は倒せても私たちは倒せないわ」

男「やはり、ここに!」

男「大罪の賢者の一族が!!」

「『ネムリン!!』」

ピンク色の泡が東洋の伝説の生き物――虎と呼ばれる獣――となり、男は10頭のそれらに囲まれた。

男「……なんという魔力だ」

「獅子は眠るのが好きなの。あなたもおやすみなさい」

男「させない!!」

男の身体を球体の反射鏡が覆った。魔法を跳ね返す呪文である。

「無口詠唱できるのね。私はあんまり好きじゃないんだけどなあ。呪文への感謝を感じられないんだもの。ほら、突き破っちゃって!」

1頭の虎が鏡に向かって突進した。

鏡は跳ね返そうともがいたが、溶けて消えてしまった。

「ほらね。呪文も眠りたい時があるの。気持ちを考えてあげなくちゃ」

男「魔力にここまでの差が……」

「記憶は頑張って消してあげるから。また三年後においでなさい」

女が呪文に指図しようとした時、男は声を張り上げた。

男「ま、待ってくれ!!大罪の賢者の一族にとってもこれは必要な話だ!!」

女「魔王を倒すって話?どうでもいいわよ。たまに勇者が潜り込んできては私達に討伐を頼み込んできたって聞いたことがあるけど……」

男「僕の父は、賢者の石の研究者だ!!

男「君たちの寿命を延ばせるよう、協力したい!!」

女は驚いた。

虎の群れは弾けて消えてしまった。

女「……凄いわ。天才よ。ここまで研究してきた人間がいたなんて」

資料の束や、謎の浮遊物がある小瓶を眺めながら女は言った。

女「あなたの父親は何者なの?」

男「国家の研究員だった。回復呪文を垂れ流すという賢者の石の創造に取り組んできた。死者の蘇生の研究を勝手に始めて辞めさせられてしまったけどね」

男「それと、その研究資料の作成は僕も手伝ったんだぜ?」

女「あなたも同じ道を辿っているってことかしら」

男「まさか。死んだ者は蘇らない。似たような研究をしている変わり者は決まってこう言うんだ」

男「日々の研究の成果は出ている、死者の蘇生は不可能だということの証明が日進月歩で進んでいる、ってね」

女「あなたの父親はどうしてそんな研究を始めたの?」

男「十年前に死んでしまった母さんを、蘇らせようとしたんだ」

男「死者を復活させることはいかなる方法でもできない。勇者と呼ばれる職業でさえ、肉体が滅んだ後も精霊が魂を束縛しているだけで、死に至っているわけではないという」

女「あなたは何故お父様のお手伝いを?」

男「無駄にしたくないからだよ。母の死や、母の死を悼む呪われた父の研究をね。死者に対して研究は無力でも、生者に対してできることは多いからね」

男「例えば、命を永らえさせることは可能だ。食料が多い国は長生きする。衛生の良い国は病死率が低い。長寿は努力によって可能にすることができる」

男「死んだ母を蘇らせることは望まない。けれど、母が生きていた頃に、母の命を永らえさせることなら僕にもできたはずなんだ」

男「寿命の増長の理論は構築しつつあるんだ。だけど、それを確かめるための呪力が足りない。データが足りない。そんな時に、幼い頃に母に聞かされた物語を思い出した」

男「短命な寿命で生まれつく、賢者の一族がいた。彼らは己の寿命と引き換えに、強力な呪文を創造し、放ってきた」

男「僕の研究には君たちの力が必要なんだ。お願いだから力を貸して欲しい!」

女「……事情はわかったわ」

男「なら!」

女「『ネムリン!!』」

虎が女の手から飛び出し、男に直撃した。

女「今日はもう疲れちゃったの。またね」

男は薄れ行く意識の中、小指に何かが触れた感触を覚えた。

そして、深い眠りに落ちた。

~小雨の降る日~

男「……見つけたぞ」

女「あら、ごきげんよう」

男「よくもこの前は眠らせてくれたな」

女「クマがひどかったんだもの。よっぽどお仕事がお忙しかったんだろうなって」

男「荷物も全てなくなっていた!!研究資料も、ここにたどり着くための特殊な地図もだ!!また3年かかるところだった!!」

女「今日こうして会えたじゃない」

男「偶然のおかげだ!!奇跡だよ!!どうしても里に入れさせないつもりか!!」

女「まあまあ、そう怒らないでよ。雨も降ってるのに熱い人ね」

男「それはあんたが……」

女「『かさ!』」

そういうと、葉っぱが女の頭上に浮いた。

男「……そんな呪文聞いたことがない」

女「あなた達が興味を持ってないだけよ。燃やしたり、凍らせたり、惑わしたり、そういう物騒なことばかりに興味を持つ」

女「まるで戦うためだけに生まれてきたみたいに見えるわよ」

~小雨の降る日~

男「……見つけたぞ」

女「あら、ごきげんよう」

男「よくもこの前は眠らせてくれたな」

女「クマがひどかったんだもの。よっぽどお仕事がお忙しかったんだろうなって」

男「荷物も全てなくなっていた!!研究資料も、ここにたどり着くための特殊な地図もだ!!また3年かかるところだった!!」

女「今日こうして会えたじゃない」

男「偶然のおかげだ!!奇跡だよ!!どうしても里に入れさせないつもりか!!」

女「まあまあ、そう怒らないでよ。雨も降ってるのに熱い人ね」

男「それはあんたが……」

女「『かさ!』」

そういうと、大きな葉っぱが頭上に浮いた。

男「……そんな呪文聞いたことがない」

女「あなた達が興味を持ってないだけよ。燃やしたり、凍らせたり、惑わしたり、そういう物騒なことばかりに興味を持つ」

女「まるで戦うためだけに生まれてきたみたいに見えるわよ」

男「戦うためだけに生きてきた、か」

男「勇者という職業はまさにそのような運命を辿るのだろう」

女「哀れんでるの?」

男「哀れむさ。でも、戦う宿命を背負っているのは、勇者だけではない。僕の父も、今では孤独に母の死と戦うためだけに生きている」

男は物憂げな顔をして言った。

男「人は、何のために生きてるんだろう」

女「…………」

男「大罪の一族として生まれついた君たちこそ、こういう問をよくするんじゃないのか」

女「そうね。でもこの問は、古代から人類が問い続けていたことで、今だ解の出ないこと」

女「だからこそ、私達には最も不向きな問なの。考えてる間に、寿命が尽きてしまうもの」

女「だから、簡単に、こう思うことにしたの」

女は言った。

女「何のために生きてるかわからないから、生きることは素晴らしいのよ」

女「人間には何か成すべき一事があって、それを叶えて神様に認めてもらうために生きているわけではないの」

男「何のために生きるんだ?」

女「しいていうなら」

女「しあわせに生きるために生きるのよ」

男「どうやったら幸せになれるんだ?」

女「質問の多い人ね!幸せになればいいのよ!」

男「そのままじゃないか!!」

女「『ネムリン!!』」

男は深い眠りに落ちた。

女「面倒な男ね!」

男「どれだけ俺を眠らせれば気が済む」

女「あら、こんな森のなかで奇遇ね」

女「目の隈は取れたかしら。よく見せて。『アカリン』」

女が呪文を唱えると、手の平から輝かしい光が溢れた。

男「やめろ!眩しい!!」

女「うんうん。最近綺麗になってる。寝不足は健康によくないよ?」

男「それに関してはこちらも聞きたいことがある」

男は目を細めながら女に言った。

男「大罪の賢者の一族は呪文を使用すると寿命が削れると聞いた。そんなに気軽に使用して大丈夫なのか?」

女「削れるよ。使わなくても短命だけど、使うとより短命になる」

男「じゃあ使うなよ」

女「あなただってよく削ってるじゃない。森の中を歩き回ってる時にスパスパやってた」

男「ああ、これか」

男は葉巻を取り出した。

男「確かに寿命に影響をもたらすと大方証明されてるな」

女「あなたにとって、それは命より大切なものなんでしょ?」

男「それとこれとは」

女「同じよ。暴飲暴食や、過度な鍛錬は、人を短命にする。けれどそれはその人にとって命そのものに等しいから、やめられないのよ」

男「お前が呪文を使うのはどうしてなんだ」

女「どうせ、短いんだもの。だったら短いものを長くするよりも、太くすることに注ぎたいじゃない」

男「さっきも言っていたな。呪文を使わなくても短命だと」

女「寿命が漏れているの」

男「寿命が漏れている?」

女「そう。身体から常に寿命が漏れてるの。呪文の使用によっても追加でどばどば溢れちゃう」

女「私たちは呪術の餌なのよ。だから代わりに、強力な呪文を使用させて貰える。だったら使わなきゃ損じゃない」

男「わかったよ」

女「何がよ」

男「俺はスパスパをやめる。だから君も、不要な呪文を使うのをやめてくれ」

女「嫌よ。ただの寿命の短い女に成り下がるだけだもの。あなた一人でやめなさいよ」

男「やめるよ。代わりに今日100本だけ吸わせてくれ」



男はその日、葉巻を100本吸った。

50本を超えた頃には、嫌だ、吸いたくないと思いながらも吸った。

そしてこの日以来、手が震えるほどの禁断症状が出たが、、一度も葉巻を吸うことがなくなった。




後に、女は考えた。

この男は、私を彼の母親に重ねたんじゃないだろうか。

この賢い男は、研究のための呪力を求めて私達を探してきながら、私の寿命のために呪文の使用を辞めさせるという愚かな矛盾に気づいていない。

私達の寿命を伸ばすという話も、まだ絵空事の段階だ。

やはり、外界の人間は自分勝手な生き物だ。

その身勝手さに、私の寿命を巻き込んできた。

愚かだ、と思いながらも。

いつしか、女も男の前でだけは呪文を使わなくなっていった。

男「あのさ」

女「なにかしら」

男「どうして俺がいるところがわかるんだ。いつも先回りされている」

女「ふふ、思い上がりじゃないかしら。あなたが私をつけているんじゃなくて?感知呪文なんかを使って」

男「なっ!特定の人物を感知できる芸当ができるなら3年もかからなかったさ!」

男「この森にやってきて、君と話しては眠らされて。里の手がかりを失ったと絶望して森に訪れると、また君に奇跡的に再開して、そして眠らされる」

女「最近体の調子はどう?」

男「すこぶる良い。だが、寝てる間に虫に刺されてかゆい」

女「魔物避けは張ってあげてるんだから、贅沢言わないでよ」

男「……すみません」

男と女は幾日も出会いを重ねた。

地図もなしに、約束もなしに、男が森に入ると不思議と女と出会うことができた。

浅い話で笑ったり、深い話で共感したり。

男は女を研究の協力者として。女は男を森をさまよう不審者として。お互い認識していたが。

1秒も建設的な話もせずに帰った日に、男はふと思った。

「何のために会ってるんだろう」

何のために会ってるかわからない時間にこそ、男が今まで生きてきた時間の中で最も価値を感じていた。



男は女に惹かれていた。

それを悟られたくはなく、表情をなかなか崩せず、時々研究の話題で誤魔化した。

女も男に惹かれていた。

それを表情で素直に伝え、自分の話したいことを話した。

寿命が短い一族だからこそなのか、気持ちの表現に遠回りをしないようだった。

男は女の好意を感じ取り、情けなく思った。

自分が生涯を捧げる覚悟を決めた研究というものが、唯一脇に避けられてしまうことに気づいていた。

「君が好きだ」

あまりに似つかわしくないそのセリフに、女は驚いた表情をした。

里への尾行を封じるために男が深い眠りに落とされることはもうなかった。

代わりに、2人は深い恋に落ちた。

男は里の中に入ることを許された。

里の中で議論はあったものの、里随一の呪力を持つ女を信頼する者は多く、さらに寿命の延命という一族最大の目標を叶えられる可能性を持つ者として男は受け入れられた。

男「やっぱり僕は異端に見えるんだろうか」

女「どうして?」

男「みんなが僕を見てクスクス笑っている気がする。特に女の子がだ」

女「思い上がりじゃなくって?」

男「手を見られている気がする。研究者のか細い腕は馬鹿にされやすいんだろうか」

女「この里は呪文に頼ってばっかの頭でっかちの賢者ばかりよ。気にすることないわ」

そういう女も、クスクス笑いを堪えているようであった。



男「どうして里の者達は外に出ようとしないんだ」

女「色々精神的な理由が多いけど。1番の理由は、結界の外に出ると寿命がより激しく流出するからよ」

女「天才研究者でさえ発見に3年もかかるほどに、この広大な里には結界が張り巡らされているのはご存知よね」

男「はは、よしてくれ」

女「私たちは別に、人間を含む他の生き物の侵入を恐れているわけではないの。見つかるのもめんどうだから、見つからないようにはしているけど」

女「さっきも言った通り、結界の外に出ると寿命が激しく漏れ出すの。里の中にいる間はある程度流出が抑えられる。だからみんな中にいつもいるのよ」

男「でも君は外に出ていたじゃないか」

女「自由の制限に対する抵抗のつもりだったの」

男「もうやめてくれ」

女「やめてるじゃない。あなたも中に来てくれるようになったし」

女「来る日も来る日も感知呪文を使い続けている人間の気配があれば、嫌でも気になって外に出てしまったわよ」

男「わるい……」

男は王国の研究者として働くかたわら、里にも頻繁に訪れ研究を重ねた。

おとぎ話である大罪の一族を発見したことはそれだけで大きな偉業とも言えるべきことであるが、男はその発見を秘匿し続けた。

死者蘇生の研究を続ける故郷においてきた哀れな父や、亡くなった母を思ううち、いつの間にかこの呪われた一族の命に貢献できないかと考えるようになった。

男は初め里の者から疎まれていたが、呪文の創造などに貢献していくうちに信頼されるようになった。



男が王国で今までしてきた研究は、主に命を奪うことにつながっていた。

男が今勝手にしている研究は、命を豊かにすることに繋がっている。


呪文で全てを解決しようとしてきた一族は、植物や鉱物に関する知識が少し乏しい所があった。

男は科学の知識を提供した。

高度な治療呪文の使用機会を減らすことは、たとえ数分程度であろうと、里の者の寿命を伸ばすことを意味した。


次第に里でも男が認められ、男も里に対して第二の故郷のような愛着を持ち始めた頃。

女が珍しく、里の歴史に関する話題を自分から話し始めた。

女「どうして私達が、大罪の賢者の一族と呼ばれるか知ってる?」

男は里の他の男から聞いたことがあったが、黙って話を聞いた。

女「遥か昔。現代と同じように、勇者が魔王を倒すために冒険していた時代のこと。私達の祖先は、こう呼ばれていたの」

女「精霊殺しの一族、と」



女「智に聡く、呪術を知り尽くし、一般の人間や、魔族とも別に生きていた私達賢者の一族」

女「一方、自らの人生を捧げ、報いを求めることもなく、魔王を倒すためだけに我が身を注ぐ勇者という存在。そして、彼らに自らを捧げた精霊達」

女「私たちは、その精霊を殺すことが可能だった」

女「私たちは特別な目を持っている。精霊を目視することができる。精霊を呪文で破壊することも、儀式の生贄に利用することもできる」

女「精霊は有益な存在よ。賢者の石の材料にもなる。禁忌の儀式の材料にもなる。そんな貴重な精霊は、普段は違う世界に住んでいると言われている。この世界に現れること自体稀だし、捕縛することなんて数百年に一度可能かどうかというほどだった。そんなとき、魔王という存在が現れ、同時に勇者という存在が現れた。そして勇者に精霊が取り付くことを知った」

女「私達の祖先はね、人間が魔王と対峙して苦しんでいる時に、勇者を捕縛したの。勇者に取り付いている精霊を利用するためにね。精霊だけを引き剥がす術を知らなかったし、勇者を生きて逃がすことに意味もなかった。勇者殺しの一族でもあったわけなの」

女「もしも、私の寿命を伸ばすのに、精霊が必要だとわかったらどうする?」

男「…………」

男「勇者を殺しちゃうだろうな」

女「私が断ったら?」

男「断れないさ。その頃にはかわいい子供もいるんだから」

女「あら、そうなの?」

男「そうだと思ってる」

女「あなたも大罪人ね」

男「牛や豚や鳥を食べて生きているんだ。勇者と精霊を犠牲にして長生きして何が悪い」

女「悪いわよ」

男「悪くても生きるんだ」

女「私が死ぬまで間に合うかしら」

男「間に合わせるよ」

男と女は結婚した。

女の寿命の漏れは里の中でも激しいものだ。

このまま何もしなければ、二人で老後を過ごすなど、夢のまた夢だとわかっていた。

男は彼女といる時間以外は、全てを長寿命化の研究に取り組んだ。

命の研究、精霊の研究、魔族の研究、勇者の研究、長寿の手がかりになりそうなことについてはどんなことでも研究をした。

遠くの故郷では亡くなった母を蘇らせようと父が研究していて。

ここでは早く亡くなる運命の妻を長生きさせようと自分が研究している。

研究者として生き、運命や因果応報等には関心を向けず、命を個数として考えて生きてきた彼もこう思わずにはいられなかった。

男「どうして価値ある命こそ、早く尽きてしまうのだろう」


研究員としての立場を利用しながら、あるいは大罪の賢者の里という貴重な研究環境にいることを利用し、彼は研究成果をあげていった。

充実した日々だった。

王国で仕事をし、移動の翼で帰宅し、妻と会話をし、生まれた子供の寝顔を見る。

この日々を守るために、日々時間を費やした。

一仕事終えた男は、王国の研究室で考え事をしていた。

男「今日も無理をしないといいが」

妻は里で新呪文の開発に取り組んでいた。

呪文の開発には多くの魔力の使用を伴うが、仕方のないことだ。

膨大な魔力を使えぬ者にしか行うことのできない仕事がある。

その中でも最たる目標が、自分らの寿命を長生きさせることではあった。

そのために寿命をすり減らして研究をするのは、皮肉といってはいけないことで、やめさせることのできないことであろう。

同僚「おい、何をぼーっとしてるんだ」

男「おお。ちょっと考え事をな」

同僚「それどころじゃないだろ。急げ、間に合わないぞ。闘技場に行くんだろ?」

男「闘技場?下賤な見世物を見る暇はないぞ」

同僚「お前、まさか例の話を聞いてないのか!?」

男「ここしばらく現地調査をしていた」

同僚「俺らの王国から勇者が誕生したんだよ!」

男「なっ……!?」

異国や書物の研究に夢中で、探し求めていた人物がまさに足元に現れていたことに気づかなかったことを恥じた。

同僚「ああ。表向きでは馬鹿王子……おっと、王子様が勇者に選ばれたってことになっているんだがな」

同僚「奴隷が選ばれたんだよ。広場で労働していた奴隷に精霊の光が直撃したんだ」

同僚「これから行う実験は『精霊の加護』の特性の研究だ」

同僚「精霊の加護の専門チームがつくられる。俺も今の研究をきりあげて、近々チームに加わらせてもらうことになる」

同僚「お前も今は何故か転移呪文の研究をしているそうじゃないか。お前みたいな変人にもきっと興味がわくものが見られると思うぜ」

奴隷「…………」

魔物使い「本当に、いいんだな?」

研究員A「構わん」

魔物使い「ラック。あいつを引き裂いてくれ」

魔物使いが命じると、巨大な虹色の鳥が、爪で奴隷の首を引き裂いた。

奴隷の姿は消滅していた。

研究員A「本物だ!!」

同僚「い、今のはなんだよ!」

男「伝説の通りだ。かつてこの王国も、一人で冒険していた他国の勇者を生け捕りにしたことがあったが、勇者が短剣で自分を刺し逃亡をはかったという」

同僚「意味わかんねーよ。なんでお前詳しいんだよ」

2人の会話をよそに、研究者は続々と移動を始めた。

同僚「どこ行くんだ?」

男「教会だろう。闘技場の近くにある」

教会にたどり着くと、倒れた奴隷の姿があった。

研究員A「何が起こった?」

研究員B「私たちはここで待機していました。一瞬白い光が見えたような気がして。気づいたら奴隷が横たわっていました」

研究員B「神官の様子がおかしかった。無意識に蘇らせているようでした」

研究員A「おい。あんたが蘇らせたのか」

神官「蘇らす?」

研究員「そこの奴隷だよ」

神官:なにがおのぞみですか。どくをちりょうしますか。まひをなおしますか。のろわれたそうびをはずしますか。

同僚「おいおい、どうなってるんだ……」

男「…………」

研究員A「次の実験に移る。仲間がいる状態での死亡ケースだ」

研究員A「かつて同じ屋敷で働いていた奴隷を用意した」

研究員A「こいつを仲間だと認めろ。さもなくば、こいつの命は失われることになる」

奴隷「…………」

奴隷B「ひ、ひぃ……」

研究員A「よし。まずはこの仲間から殺せ」

魔物使い「ラック」

鳥の鉤爪が奴隷Bの首を引き裂いた。

生首はごろごろと飛び跳ねながら転がった。

同僚「うげぇ!!」

研究員A「棺桶が出現しないぞ!」

研究員A「貴様!!奴隷同士の命には関心がないというわけか!!」

研究員B「もしかしたら、目的の共有がないからでは。勇者のパーティが結束されるのは、魔王討伐という目的のためです。そのことを意識させてみては?」

研究員A「それくらい知っている!!おい、新しい奴隷をもってこい!!」

その後も、少しずつ条件を変えながら実験は繰り返された。

しかし、奴隷は、元いた屋敷の奴隷を仲間だと認識しなかった。

転がる生首の数だけが増えていった。

研究員A「駄目だ、仲間だと認識しない。魔王討伐に関する知識を吹き込み、討伐拒否に対する恐怖を拷問で植え付けようとも、討伐成功に関する報酬を洗脳で見せつけようとも、一切変わらない」

研究員A「4人のパーティなど、ただの冒険譚の中の伝説だというのか……」



同僚「伝説なんじゃねーの。棺桶がパーティの肉体を保護する、だったっけか?」

男「……なぁ。どうしてさっきから、男の奴隷ばかりが使われているんだ」

同僚「そりゃあ、あの商人の屋敷に勤めていた奴らだからだろう。力仕事のできる奴隷しかいないんだ」

同僚「なんだお前、女の生首が飛ぶところでも見たいのか?研究しすぎておかしくなったか?」

男「…………」

男「所詮は……」

同僚「おい、何してる!中に入るな!」

男は見学の取り巻きから離れ、闘技場内にいる研究員Aに近づいた。

研究員「何だ、お前は」

男「所詮は、男という生き物だ」

男「恋をさせればいい。同じ年頃の、美しい奴隷を連れてくるんだ」

男「俺も、精霊の加護の研究チームに入れてくれ」

精霊→勇者を選別
目的:?

勇者→仲間を選別
目的:魔王の討伐?

男「魔王の討伐を望むのは世界の望みであって、勇者の望みではないのではないか」

男は羊皮紙に書いた自分の書き込みを見て考え事をしていた。

男「だとしたら、命を失わせたくないという思いだけで、パーティは結束できるはずだ」



幼い頃にアカデミーに通えなかった者達が、大人になってから通いはじめるコースが有る。

そのような環境を擬似的に作成し、男の奴隷と女の奴隷を2人の生徒に見立てた。

男奴隷はまだ自分が勇者であることどころか、勇者という存在についてさえよく知らなかった。

女奴隷は屋敷での酷い虐めから解法されながらも、新たな環境に移されたことに対する不安で一杯のようだった。



研究員は適当な嘘を並べ、試練を用意した。

魔物の討伐であったり、治療薬の合成であったり、2人で協力すれば達成できる試練であった。

奴隷が男女で喋ることなどご法度であったため、なかなか男奴隷は話そうとしなかったものの。

女奴隷から男奴隷に話しかける機会を増やさせ、2人を親密にさせる機会を多く創り出した。

いつしか。

男奴隷は、時折笑顔を見せるようになった。

小さな箱庭の中で。

数週間後のこと。

奴隷「やめろ!!貴様ら!!またこんなところに連れてきやがって!!」

研究員A「おうおう。ちょっと日がたっただけで随分威勢がよくなったねぇ」

女奴隷「……何がはじまるの?」

研究員A「まずは男からだ」

魔物使い「ラック」

鳥の魔物が男奴隷の首を撥ねた。

女奴隷「あ……あ……」

研究員「見ろ!!棺桶が出現した!!肉体の損傷を抑えるためのシステムだ!パーティが結成されている証だ!!」

研究員「肉体が粉々に砕けた場合での蘇生の限界も知りたいが、失敗すれば永遠にあいつが失われるからな、なやましいところだ」

研究員A「女も殺せ」

女奴隷「いや、うそよ、やめて!!」

鳥の魔物は女奴隷の首を撥ねた。

女奴隷の棺桶は出現せず、2人は同時に消滅した。

研究員A「理論通りだ!!教会に行くぞ!!」

研究員達は走り出した。

同僚「……おい。俺ら、禁忌に触れようとしてるんじゃないか……」

男は同僚の言葉に応えず、教会へと走った。

女奴隷の首が飛んだ瞬間に、女の笑顔があたまをよぎったが、首を振った。

奴隷「くそ……貴様ら……」

研究員A「男奴隷しか蘇っていないな」

神官:女奴隷を蘇らせますか

研究員A「はい、でいいんだよな」

神官:50G頂きます

研究員「神官のくせに人の命に値段つけやがって。ほら、やるよ」

神官:女奴隷の御霊を呼び戻し給へ!

女奴隷は蘇った。

女奴隷「うーん……あれ、私……」

研究員「お前、さっきまでの記憶はあるか」

女奴隷「鳥の魔物に襲われて、それからは何も……」

研究員「死ぬ瞬間のことは覚えてるか」

女奴隷「すぐに意識が消えたから……」

2人の奴隷はまた闘技場に連れ戻された。

同僚「いちいち移動がめんどうくさいな。教会でやったらどうなんだ」

男「こんなことがばれたらまずい。世の中の奴隷が大人しく従うのは、大人しく従えば命だけは助かると思い込んでいるからだ」

男「奴隷仲間がこんな実験をさせられてると、街中の奴隷が知れば反旗を翻すものが現れかねない。すでに商人の家の奴隷が急に売り飛ばされたという噂に疑いの目を向けている者も多い」

同僚「はぁー。あの馬鹿上司は何を試したいのかねぇ。あらゆるパターンを虱潰しにする気かね」

男「……見つけたいものがあるならば、見つけたくないもの全てを見つけるのも感知の方法の1つだ」

同僚「ああ?」

男は上司に様々な提言をしていた。

今行っている残酷な実験に関する案も、ほとんどが男が提案したものだった。

上司はそれらの手柄を全て横取りにしていたため、上司が発案したものだと周囲のものは理解していた。

男にとってはかえって都合がよかった。

魔物使い「ふぁー。ラック」

鳥の獣が女奴隷を殺した。

奴隷「…………」

奴隷は拘束具で縛られた手に力を込めながら、鳥の魔物を睨みつけていた。

研究員A「棺桶を破壊して、中身の遺体を塵にしてくれ。どこまで肉体が損傷しても蘇るか確認したい」

奴隷「やめろ!!」

魔物使い「エグいこと考えるねぇ」

魔物使い「ラック。棺桶を破壊して、火炎を吹くんだ」

鳥の魔物が棺桶を鉤爪で破壊し、女奴隷の亡骸が現れた。

火炎を吹くために大きく息を吸い込んだ、その時だった。

奴隷「……ぐぉおおおおおおおお!!!!!」

同僚「な、なんだ!?」

男「まずい!!!」

空に暗雲が立ち込めた。

びりびりと空気が震え感触がした。

男「『マハンシャ!!』」

研究員達は慌てて防御呪文を唱え出した。

魔物使い「ラック!!防御呪文だ!!」

奴隷「ぐぉおおおおお!!!!!!!」

巨大な雷撃が空から降り注いだ。

雷撃は防御呪文を突き破り、魔物に直撃した。

鳥の魔物は死んでしまった。

魔物使い「ラック!!!」

研究員C「『マフウジ!!』」
男「『マフウジ!!』」同僚「『マフウジ!!』」

囲んでいた研究員が勇者に呪文封じを多重にかけた。

同僚「はぁ……はぁ……。おい、あれ見てみろよ」

同僚の指差す方を見ると、研究員Aは女奴隷の亡骸を抱えていた。

棺桶を囲うように、雷撃があけた穴の塊があった。

研究員A「き、きさま……」

研究員A「こいつは呪文を知らないはずだ!!無口詠唱ですらない!!なのに何故!!」

男「……直感型の逸材だ」

思ったことを口にするだけで、聞いたこともない呪文を唱える恋人を男は思い出していた。

研究員「こいつはあの上級魔物を焼き尽くすほどの呪力をすでにそなえている!!」

魔物使い「レオ!!その棺桶の女を焼き尽くすんだ!!」

研究員Aは急いで飛び退いた。

タテガミの生えた猛獣は火を吐いた。

女奴隷の体は焼き尽くされた。

魔物使い「そいつも殺せ!!」

猛獣は勇者の首を噛みちぎった。

教会に着くと、男奴隷は研究員や賢者に囲まれてい床に横たわっていた。

研究員B「ひどく暴れたので、気絶させてしまいました……」

研究員A「それでいい。おい、神官。いつものやつだ」

研究員Aはお金を神官に渡した。

神官:女奴隷の御霊を呼び戻したまえ

女奴隷は蘇った。

女奴隷「……!!」

女奴隷「ウゥー!!!ウゥーーーー!!!」

女奴隷の様子はおかしかった。

奴隷女「オゥエエエエ!!!」ビチャビチャ!!!

研究員A「やはりそうだ。棺桶は肉体の保護のためにあったのだ。身体が損傷しているほど、蘇った時の副作用も大きい」

研究員A「これを100回繰り返したらどうなるか、非常に興味がわくところだ」

男「…………」

女「おかえりなさい」

男「……ただいま。欲しがってた王国のお菓子、買ってきたよ」

女「やった!!さっそく出会った日記念日を2人で祝いましょ!!」

男「ああ」

女「……あのね。私実はね、あなたに内緒にしていたことがあるの。でもこの日に打ち明けようって思ってたの」

女「あるおまじないに関することで、ずっと打ち明けたくなかったんだけど、いつかは言わないとって……ねえ、どうしたの?」

男「え、ええ?」

女「なんか嫌なことでもあったの?凄い怖い顔してたよ?」

男「ああ……仕事で、理不尽な上司がいてさ。くだらないことばっか手伝わされて疲れたんだ」

女「そうだったんだ。あんまり無茶しないでね。この子も心配しちゃうから」

女は自分のお腹を撫でた。

男「ああ、そうだな」

男は自分の手を、お腹に添えることはしなかった。

男「適当にやるさ」

男は嘘を告げた。

この幸せを守るためならば、他の幸福がどんなに壊されたってかまわない。

~王国~

神官「何をする!!」

奴隷「降り注げ!!!!」

教会で待機していた研究員の、呪文封じの呪文が遅れた。

教会の屋根を貫き、雷撃が奴隷と神官に突き刺さった。



男「どういう状況だったんだ」

同僚「女奴隷が死亡し、続いて男奴隷が死亡。教会で蘇生した瞬間に男奴隷が雷撃の呪文を放ったそうだ」

同僚「しかし、呪文の威力が強すぎて、周囲の人間だけでなく男奴隷にも雷撃が直撃してしまった。すると、面白いことが起こった」

同僚「男奴隷だけがその場で蘇ったんだ。神官は焼け焦げたままだ」

同僚「男奴隷は状況が読み込めず、再び自分に雷撃を注いだ。おそらく女奴隷と心中するつもりだったんだろう。しかし、研究員が秘匿でつくっていた地下室の教会の神父の前で蘇った」

同僚「今は魔力も全て抜かれて眠らされている。実験もしばらく中止だ」

男「つまり、強力な雷撃を浴び、奴隷と神官は同時に死んだ。しかし、奴隷は蘇った」

男「……タイムラグがあったというわけか」

同僚「神官という職業の定めだろうな。自分の命が消え行く時でも勇者の復活を最期の瞬間まで成し遂げようとする。勇者を蘇らせていたのは、やはり精霊ではなく神官だったということだ」

同僚「何かに活かせないかとみんな考えているんだが、使い道は思い浮かばないね。思い浮かんだところで、次は神官殺しの始まりだ。こんなのは、研究者がやる域をとっくに超えてるよ」

同僚「魔物がやることだ」

深夜の王国に警報が鳴り響いた。

同僚「緊急事態だ!!またやつらが脱走を試みた!!!」

男「なんだと!対策は講じていたはずじゃ……」

同僚「あの女奴隷もいつの間にか呪文を習得していた!!僧侶の特性を持っていたようだった!!男奴隷が自分に雷撃を与えて拘束具を壊し続ける間、回復呪文を浴びせていたようだ!!拘束具だけが壊されたんだ」

研究者Aが血相を変えて賭けてきた。

研究者A「神官は全員殺された!!今やこの王国に奴らはいない!!」

研究者A「おい、男!!この場合はどうなる!!この王国に最も近い街に出現するのか!?すでに賢者を派遣して……」

男「無闇やたらに探さないでください!!対処マニュアルをつくっていたでしょう!!」

男は怒鳴った。

研究者A「お、おまえ……」

男「あいつは輸入奴隷なんです!!この王国に来る前は北の港町に奴隷船が寄っていたんだ!!以前訪れたことのある場所に出現するという伝説が本当ならそこを探すべきだろう!!会議資料にも記載していたはずだ!!」

男「逃亡の可能性を防ぐために他の街へ連れて行く実験だけはしていなかった。やつが以前訪れたことのある場所にしか出現しないはずだ!!」

男「早く追うんだ!!奴はまだ移動呪文を覚えていない!!だとしたら、自分が蘇った街の神官を殺した後に立て続けに自殺をはかることで移動していると考えられる!!奴の訪れたことのある場所の教会を全て確認するんだ!!」

同僚「男……お前なんだか……」

男「はやく探し出せ!!」

王国中が騒いだ夜となった。

国民は何が起こったかも知らないまま、王国の研究者や賢者が無闇に発動する感知呪文に1日中頭を痛みつけられる目に遭った。

だが、数日が経っても、結局男女の奴隷を見つけることはできなかった。



男「まだ、試さなければならないことがたくさんあったんだ……」

男「実際、今まで集めた”精霊の教会への転移”のデータを元に、新呪文の理論を構築できた」

男「このまま研究が続けば、長寿命化の儀式も完成する見通しがついていたというのに……」

男「ともに、老後を過ごすことができたはずだったのに……」

男「そのためになら俺は、魔物になる覚悟さえあったんだ」

数年後。

男は出世のコースから逸らされていた。

研究者として形見の狭い思いをする傍ら、家庭で過ごす時間が増えていた。

女「ただいま!あなたのかつての研究の成果がついに今日結ばれたわよ!」

男「おかえり。新呪文が完成したのか」

女「強制転職呪文ができたわ。転職の神殿でも大罪の賢者しか選べなかった私達が、ついに他の職業になれるようになったの!!」

男「おお!!それは……凄いことなんだよな?」

女「私達の願いの一部は叶えられそうってとこね。誰もまだ使用してないし、理論上でわかる部分の範囲だけど」」

女は咳払いをして説明をはじめた。

女「良い面。身体からの寿命の放出の速度を遅くすることができる。里の外に出ても漏れを遅くできるわ。なんせ、大罪の賢者という職業を放棄できるのだから」

女「悪い面は、代償が大きすぎること。呪文の発動に際して、発動者が極めた職業1つ分のスキルを全て捧げなければならない。そのかわり、発動者が指定した者なら誰でも強制的に転職させられるわ」

女「もう1つ悪い面。寿命の漏れは多少抑えられても完全に止めることはできない。大罪の賢者の一族の呪いはそう簡単に解かせてくれないってわけよ」

男「それでも新たな道は拓けたわけだ。いっそのこと、僕の研究者としてのスキルを犠牲に、君を呪文を一切使わないような職業にでも変えてしまおうかな」

女「そんな職業あるのかしら。一度覚えた呪文は他の職業に転職しても使えるんだから、あなたが私を戦士に変えたって無駄よ」

男「僕は女戦士よりもバニースーツのほうが……」

女「はいはいうるさいうるさい!!子供も出来たってのにまだそんなこと言ってるわけ!!?ガリ勉研究者に限って過激な衣装に夢中になるんだから!!」

男「ガリ勉研究者で悪かったな!!別にいいだろ!!男どもに聞いたらいつも賢者と僧侶が人気トップ2だ!!君はぼくがそんな平凡な男でいいというのか!!」

女「あー!!そう!!賢者で悪うござんした!!」

男「別に君はどの職業になっても一番素敵だよ!!」

女「うるさいわね!!あなたもよ!!」

勇者という職業に生まれついた奴隷と、女奴隷が逃亡してから数年。

小声で激しく口論する2人の隣の部屋では、小さな女の子が眠りについていた。

精霊の手がかりをなくした男の研究は行き詰まり、長寿への手がかりは遠のいてしまった。

この穏やかであたたかい時間は、遠くない未来で失われてしまうとわかっているものだ。



男は思った。

絶望は、今まで積み上げてきたものが何もかも失われてしまった過去にあるのではない。

これから積み上げて行くはずだったものが、何もかも失われてしまう未来にあるのだ。

~数年後 小雨の降る日~

女「あの子も、同じなのよね。長く生きられないのよね」

母は隣の部屋の寝室で眠っている娘を思った。

男「ああ。長老もかつてそうだと言っていた」

女「ノーマル(非一族)のあなたと私の子供だから、寿命も足して半分こになると思ってたんだけどな」

男「片親が大罪の一族であれば子供も大罪の一族の賢者として生まれる。わかっていたことだ」

女「あなたとあの子、どちらが長生きするのかしら」

男「…………」

女「ノーマルと結婚する人が里に極わずかしかいない理由を、最近身をもって感じるの」

男「僕と出会ったことを後悔しているか?」

女「そうね。こんなに素敵な人と出会わなければよかったって思ってるわよ」

女は男の肩に頭をあずけた。

女「覚えてる?」

男「初めて出会った頃のことか」

女「人は何のために生きるのかってあなたが言ったこと」

女「この年まで生きても、答えはあまり変わらなかった」

女「何のために生きるのかわからないまま生きてるから、生きてることに価値があるということ」

女「生きる理由があって生きてたら、当たり前すぎるんだもの。毎日おいしいものたべて、好きな人と過ごして、好きな勉強をして、周囲から尊敬されて、生きてるのが愉しいって人も極少数はいるんだろうけどさ」

女「食べたいものもお財布を見て我慢して。好きな人は他の人に夢中で。何のために就いているかわからない職業で働いて。やりたくもないことをそれなりにやってガミガミ怒られて。なのに我ながらどういうわけか生きている、というのが大多数の人だと思うの」

男「君と出会う前の、かつての僕はとくにそうだったね」

女「それは、やはり生きることに価値があるからなのよ。苦痛にもかかわらず、苦悩にも関わらず、絶望にも関わらず、切ないにも関わらず」

女「それでも生きてしまうほどに、生きることは可能性に満ちたことなのよ」

女は男と目をあわせぬまま話を続けた。

女「だから、思春期の頃の私に言ってやりたいよ。馬鹿みたいに呪文の連発するなって。外に出るのは、怪しい男がうろつく気配を感じるときだけにしろって」

女「あなたと過ごせる時間が、1秒でも減っちゃうんだもの」

男「…………」

女「だから、今の私の答えはこう」

女「生きることに意味は見いだせない。でも、出会うために生きることは必要だった」

女「好きな人と時間を重ねるために、人は生まれて、生き続けていくのね。だから命は、大切なのね」

女「あの子と生きて」

女「すきよ、あなた」



肩に、重い力がかかった。

女の身体がだらりと崩れた。

男は泣きながら抱きしめた。

女は目覚めることはなかった。

寿命が尽きたのだった。

【遊び人 14才】

少女「うるさいな!!」

賢者の少女は怒りを呪文に乗せた。

家の中にヒビが入った。

男「やめなさい!!」

父親は少女に命じた。

少女「直せばいいんでしょ!」

少女が念じると、家はもとの姿におさまった!

男「不用意に呪文を使うな!!」

少女「私の勝手でしょ!!」

少女は家を飛び出した。

数分もしないうちに、森から爆発音が聞こえた。

男「はぁー。君とそっくりの子が生まれたよ」

父親は亡き伴侶を思い出しながらつぶやいた。

一族の人間は、自身の寿命に対して不満を抱かない。

賢者の里のに生まれた自分達を特別な存在だと思っており、普通の人間が他の生物の寿命と自分の寿命を比較することが少ないように、ノーマル(非一族。普通の人間)より自分たちの寿命が短いことは気にしなかった。

ところが、少女は特別だった。

賢者の母とノーマルの父親というハーフであるものの、里の中で桁違いの魔力をほかった。

里の中で誰よりも短い生涯を終えるのは明らかであった。

そのことを、周囲の大人や老人たちが神聖なことのように崇めているのも気に食わなかった。

少女「こんな狭い里の中で生まれて。こんな狭い里の中で早く死ぬのかなぁ私」

少女「こんなところ、絶対脱出してやるんだから。それで、物語みたいに、勇者様と冒険して、魔王を倒しにいくんだ」

少女はまた禁止事項を試みようとした。

少女「よーし、結界の外に出てやるわ!!」

少女は足を踏み出した。

少女「うっ……」

少女「やばいやばい。これはさすがにまずい感じがする」

結界の外に出た途端、自分の中からものすごい速度で時間が流れ出していくのを感じた。

少女「アカデミーでも習ったわ。里の結界から外に出ると寿命の放出が著しくなるって」

少女「でも、それは寿命という対価を多く支払い強力な呪文も使えるということよね」

少女「『孤独に生きる空よ、涙で汝の罪を拭いたまへ』」

少女「『アーメン!!』」

少女は単純な雨の呪文を使用した。

そのとたん、空から滝のような水が流れ出した。

少女「なにこれ!!!」

少女「わたし、すげー!!」

少女「…………」

少女「……果たして、今の一発で私の人生はどれだけ短くなってしまったんだろう」

少女「冒険なんて私には無理なんだな。魔王城に着く前に寿命が尽きちゃうよ」

少女は父に尋ねたことがあった。

どうして賢者の里の一族が魔王を倒しに行かないのかと。

倒す理由がないからだ、と父は答えた。

水には火をかけると良いように、暗闇は光で照らすのが良いように、魔王には勇者をさしあてるのが良い。

勇者一人の資質で魔王との勝敗は決してしまうものなのだそうだ。

火(魔王)を消すのに水(勇者)という存在がいるのに、その火を消すためにわざわざ強い風である賢者の一族がでる必要はない。

実際に一族を抜け出して冒険に出た者もいたが、音沙汰を聞かない。

それに。

魔王がいることで救われていることもあるんだと、神妙な面持ちで父は最後にぼそりとつぶやいた。

賢者「今日も来てくれてありがとうね。そこに立ってちょうだい」

やさしい口調で里の大人たちに命令される。

数多くの大人に囲まれながら、少女は魔法陣の中心に立たされる。

見守る大人の中には、私のお父さんもいる。

娘を実験台にして、やっていることといえば、新しい研究報告書のページ数を増やすだけ。

賢者「いくわよ」

賢者たちが詠唱を始めた。

痛みを伴わない実験だといいなと願った。

強力な魔力を持って生まれてしまったがために、呪文創成の溶媒として使われてしまっている。

母の才能を恨みながら、亡くなった母を恋しく思った。

今日はひときわあかりが強く輝いた。

私は気絶して倒れた。

目覚めると、自宅の布団の上で横たわっていた。

怒りをぶつけようと家の中を歩き回るが、父の姿は見つからなかった。

少女「わたし、何のために生きてるんだろう」

後日研究員の賢者に聞いたところ、私を実験台とした成果として、人間の感情を物に閉じ込める研究が少し前進したらしい。

私のこの虚しさを、壺にでも閉じ込めてくれないだろうか。

研究の呼び出しを無視して、結界の外に出た夜のことだった。

少女「みんな困っちゃえばいいよ。目の前にある生命を大切にしない人達が、長寿命化の研究だなんて馬鹿馬鹿しいよ」

結界の外に出た少女は、体から凄まじい速度で時間が流れているのを感じた。

少女「はは……。私は里で一生を過ごして、朽ちていくのかな」

少女「冒険譚みたいにさ、勇者様と出会って、旅をしてみたかったな」

少女「いつの時代も魔王と戦うのに、賢者は必要でしょ?」


楽しい空想をしながらも、自暴自棄になっていた。

母の死さえ早かった。

その母よりも早く寿命が尽きると言われてきた。

少女「呪文なんて使えなくてもいいから、ノーマルの人達みたいに長生きしたかったな」

少女「そうだ。今日は近くの街まで行ってみよう。里の人以外話したことなんて、滅多になかったからな」

少女「うう……」

少女「迷ってしまった。どうやって帰ろう……」

少女は困った。

里の特殊な結界のせいで、移動呪文を発動しようとしても具体的な場所のイメージがわかない。

自力で歩いて帰るしかなかった。

少女「月明かりはあかるいけど、やっぱり夜の森って不気味だな……」

少女「怒りにまかせてこんなことしなければよかった。大人しく里で実験台にされてればよかった」

少女「どうしよう。私の寿命、どれくらいの速度で流れてるんだろう。もしかして、一日で死んじゃうくらい流れてたりするのかな」

少女「お父さん……助けに来てよ……」

少女「うっ……うう……」

少女「……あれ、なんだろ」

少女は小屋を見つけた。

明かりはついていなかった。

少女「こんな森の中に、誰か住んでるのかな?」

少女「『マハンシャ』!!」

少女の周囲を、宝石のような輝きが覆った。

少女「いつにまして呪文が綺麗だな。寿命という餌は呪文にとってよほどおいしいんだろうな」

少女「ちょっと、侵入してみよっか」

少女は小屋の入り口に立った。

少女「東洋の冒険譚にもこういうシーンがあったな。なんだかワクワクしてきたよ」

少女「『開け~、ゴマ』!!」

通常の呪文集では決して載っていないようなセリフを唱え、少女は小屋の鍵を開けた。

少女「おじゃましまーす」

自分の存在を強調しないように、月明かりだけを頼りに少女は部屋の中を歩き回った。

少女「誰もいない。というか、本ばっか。誰かが書庫代わりに使ってるのかな」

少女「どうしてこんなところに。誰のための小屋なんだろう」

少女は書架にある本を眺めた。

少女「……なによこれ」

少女「『賢者の石のつくりかた』『新呪文創造の儀式』『生贄を必要とする呪文集』『勇者に宿る精霊の加護の効力』『呪いを転移させる術』『太古の呪文』」

少女「『側室を求めた勇者の伝説』『冒険の書の完結について』『僧侶の手記』」

少女「『死者蘇生に必要なもの』『生贄としての精霊』『魔剣を奪いし者』『魔王は死したか』『大罪の賢者の一族は実在するか』」

少女「今里で行われている実験に関するものばかり。それと、勇者に関する本も多い」

少女「誰が、何のために……」

混乱にとらわれる少女の視界に、綺麗な用紙に書かれた紙の束が見つかった。

少女は「ぐりもわーる?どういう意味の表題だろう」

少女「なになに?」

少女「これは王国研究者による、精霊の加護に関する実験結果報告書である」

少女「どういうことなの……」

紙の束の前半は、無数に分けられた実験パタ―ンと数値の羅列が多く、読むには退屈な内容だった。

少女「対象Aが使用する雷撃呪文の分析結果。コントロール可域。最低値、最大値……」

少女「パーティメンバー結成による効果。伝達速度の向上。”命令”と”洗脳”における反応差異。アイテム効力範囲の増減」

少女「神官死亡時のタイムラグから測る魂の消滅時間の推定」

少女「過激なことが書いてありそうな割には、淡々とし過ぎてて頭に入ってこないよ。表と数値ばっかりで面白くない」

少女は飽きて頁をめくると、一転、メモ書きのようなものが書き込まれた用紙がみつかった。

少女「『大罪の賢者と呪文の関係』!!」

少女「凄い!通常呪文集に載っていない内容ばかり書いてある!!呪文使用のイメージの魔法陣までついてる!!凄い呪文があったら使ってみようっと!!」

少女「どれどれ」

少女は頁をめくった。

独特の呪文が羅列されており、魔法陣を見るだけで少女は次々と呪文を習得していった。

少女「面白い……。私が知らない呪文がこの世界にはたくさん存在していたんだ」

少女「これは……」

【総魔力放出呪文】
この呪文の特性について述べられる時、威力に焦点をあてられがちだが、最大の特性は断続性がないということに尽きる。一度呪文を浴びたものは、詠唱者の魔力が尽きるまで反対呪文を唱える隙きを与えられない。
大罪の一族にこの呪文が伝承されていない理由は自明である。大罪の一族は寿命を魔力に変換して術を発動する。一度この呪文を唱えた場合、寿命が尽きるまで発動し続けると考えられる。



【赤い糸の呪文】
大罪の賢者の一族にまつわる伝説の呪文である。感知呪文の一種に分類されるが、使用に魔力は伴わない。大罪の賢者の一族にのみ使用が可能であることは、寿命の漏洩と関係がある。
身体から漏洩する寿命を特定の人物に結びつけることにより、疑似パーティを結成する。パーティメンバーにできるものは一人が限界とされ、勇者がパーティメンバーに”命令”を行えるのと同様、赤い糸の呪文はパーティメンバーに対して”移動”に関する制限を課すことができる。糸を引っ張ることで対象者を無意識に自分の元に寄せることが可能となり、また、対象者との距離感をおよそ把握することができる。
欠点として、大罪の賢者の一族はこの赤い糸を目視することができるため、非一族相手にしか使用することができない。
これには私も困らされた。


男「見たのか」

私は恐る恐る振り返った。

汗だくの父が息を切らしながら立っていた。

顔は恐怖と、怒りに満ちていた。

少女「ご、ごめんなさい!!今日、抜け出して……」

男「見たのか!!」

男の危惧していたことが起こった。

少女は赤い糸の呪文を覚えた。

少女は総魔力放出呪文を覚えた。

【少女 20才】

「王国から連れて参りました」

「7人の、勇者です」

特殊な魔具で身体を拘束された勇者達が、魔法陣の中心に投げ込まれた。

賢者「ついにこの時がきたわね」

男「……ああ」

賢者「寿命の転移呪文を行う」

少女は広場の外側から、黙って様子を見ていた。

今まで実験材料にされていた少女は、父親達がどのような実験をしているかをだいたい把握していた。

その実験によって、犠牲になる命があることもわかっていた。

少女は何も感じなかった。他国で戦争が起きていると聞いた時のような気持ちで、今陣の中にある生命が7つ失われようが、遠い出来事のように感じるのだった。

里に束縛されて生きてきた彼女は、自分の人生に無関心にならざるを得なかった。

長寿命化どころか、自分の命にさえ関心を失いつつあった少女にとって、他人の命の心配をする気持ちを生じさせることは難しかった。

賢者B「これが精霊の輝きか。幼き頃に読んだ伝説の存在が、七体もいるのを見ると圧巻だな」

賢者「他のパーティメンバーは処分しているのよね?精霊が現れずに棺桶が出現したら第無しよ」

「抜かりはない。全て手はず通りだ」

賢者B「そりゃよかった。そうだな、儀式が成功したら、魔王は俺達が代わりに倒してやるさ」

賢者B「よし、さっさと始めるぞ」

賢者B「撃て」

七人の術士が、七人の勇者に魔法弾を打ち込んだ。



その時だった。

少女「わっ!」

少女はとっさに、グリモワールの書のメモ書きで覚えた「飛行虫の目」の呪文を唱えた。

世界がスローモーションで動き始めた。

凄まじい速度で白い輝きが勇者の中から外に飛び出した。

ガラスで出来たような羽根の生えた存在が、勇者の亡骸を抱えた時だった。

賢者「来るわ」

魔法陣は自動的に発動した。

ペリペリペリ、という音が聞こえた。

賢者「精霊が勇者から引き剥がされたわ。呪術の網に入れるわよ」

賢者たちは有口詠唱を唱えた。

無言で巨大な魔物を切り裂く呪文を唱えることのできる彼/彼女らが、声を揃えて長い詠唱を始めるのは異例なことであった。

呪文の発動には精霊の力を介在する。

精霊殺しのための呪文の発動は、賢者と言えどよほどの敬意を払う必要があった。

世界に日常的に寿命を提供している彼らでなければ、発動さえ決して許されることのない、禁忌の儀式であった。

儀式は淡々と進んだ。

少女「14歳のときに書物で見た儀式が、ついに完成を迎えたんだ」

少女「寿命の移転が,始まる」

この一族が魔王の討伐に出なかった理由が、腑に落ちた。

私達一族にとって、勇者は、人間は、実験動物となんら変わらぬ存在だったんだ。

父にとっても。

かつてないほど長い詠唱だった。

少女はただじっと耳をすまして聞いていた。

それは、あまりに突然の出来事だった。

賢者「……待って!!」

賢者「あなた、どういうつもりよ!!」

賢者の言葉で、他の術者も違和感に気づいた。

術者「…………」ブツブツ…

術者のうちの1人だけが、明らかに異質な詠唱を始めていた。

男「その詠唱は……!」

男「今すぐ止めろ!!」

6人の術士が、詠唱封じの呪文を放った。

しかしそれは、天から降り注ぐ雷撃によって遮られた。

男「なんだ!!」

「命令させてもらったんだよ。勇者という職業は電流を操るのに長けている。その術士は僕のパーティメンバーで、洗脳に近いことをさせて貰った。よくご存知だろう?」

冒険者の衣服をまとった男が立っていた。

賢者「この男、勇者よ!!精霊を宿しているわ!!」

賢者はとっさに魔法陣の中にいる勇者を数えた。

賢者「7人いるわ……だとしたら、あなた一体……」

「君たちは王国と手を組み、そこにいる7人の勇者を提供してもらっただろう。」

「僕はその王国出身の勇者だ。そして、こう呼ばれていたこともある」

「勇者殺しの勇者、とね」

男「お前は、まさか……」

奴隷「ひさしぶりだね、研究者さん」

奴隷「今度は、僕が実験する番だ」

操られた術士は、詠唱を終えた。

魔法陣の色が、強烈な紫色に変わった。

儀式は失敗し、欲望は分裂した。

『キィィイイィイイイイ!!!!』

ガラスを鋭利なものでひっかくような音が響いた。

精霊が絶叫していた。

死んだ状態で精霊を引き剥がされた勇者達は、こと切れていた。

7匹の精霊は自分が宿っていた勇者の元まで飛んでいき、中に入り込んだ。

ぼこっ、ぼこっ、という音とともに、勇者の死体がうねりだした。

7人の勇者が身に付けている装備の一部だけを残し、他の部分は青い光の中に消滅していった。

賢者「どうなっているんだ!!」

奴隷「お前らは失敗したんだよ」

奴隷「勇者の命を大罪の賢者に送り込むための儀式は、勇者の死体に大罪の賢者の命を送り込む儀式へと変わった」

奴隷「装備に飲み込まれてしまえ。精霊殺しの大罪人どもめ」

7つの装備から、青白い手が伸びだした。

賢者「えっ?」

青白い手が賢者を掴んだ。

途端、賢者は装備を中心とした青い渦の中に飲み込まれた。

賢者B「破壊しろ!!」

術士達は呪文を放った。

強烈な呪文を食らっても、手は怯まずに、大罪の賢者を次々と引きずり込み始めた。

危険を知らせる感知呪文が里中に伝達された。

男は娘のもとへ駆けた。

少女「お父さん!!これ、どうなってるの!!」

男「逃げるんだ!!手の対象は、一族出身者に絞られている!!」

男「俺が、間違っていたというのか。生きながらせたい命を願ったことの代償は、こんなにも……」

男「あの混乱の夜から、何も変わっていない」

里にいたものは逃げ出そうとしていた。

空中浮遊呪文や、魔法反射呪文、移動の翼などあらゆる手段で逃げようとした。

しかし、青白く光る7つの手が、片端から捕らえ渦の中に引きずり込んでいった。

奴隷「無駄だ!!」

大賢者と呼ばれる者達が、己の有する最大級の呪文を放つ。

それでも青白い手は弾かれては立て直し、腕を伸ばして襲いかかった。

絶え間なく呪文を放つが、劣勢に立たされていった。

少女「持続性……」

少女「持続性のある呪文を唱えれば、足止めができる……」

焦燥に駆られた少女は頭に浮かんだ呪文を、念じかけていた。

男「よせ」

父親は少女の頭に手を置いた。

男「今から大事な話をするからよく聞くんだ」

父親は里の混乱をよそに、少女に説明をはじめた。

男「大罪の一族が全て飲み込まれたら、あの手は引っ込むはずだ」

男「そしたら、あの7つの装備を身に付けなさい。そしたら、今度こそ正規の効力を発揮する。あの装備達が飲み込んだ寿命を、大罪の賢者に送り込むことができる」

男「寿命を伸ばすことができるんだ」

父親はまっすぐ娘の目を見つめていた。

男「生きることは、欲望だ。命の力を、人間を構成する7つの欲望に変えて、欲望に最もふさわしい者のもとに装備は向かってゆくだろう」

男「冒険に出なさい。そして、君を助けるものを見つけなさい」

男「生きるんだ」

少女は、目の前の父親に強烈な怒りをぶつけたかった。

少女「愚かよ!!!」

少女「おじいちゃんと一緒よ!!お母さんの亡骸に捕らわれて、私が生まれる前に王国でろくでもない研究をして!!そして自分を認めてくれた一族を滅ぼそうとしている!!」

少女「私もあの手に掴まれて死ぬんだわ!!それに、冒険なんかできっこない!!寿命が尽きてしまうもの!!」

少女「誰も、こんなこと望んでいなかったのよ!!」

少女は、涙を流しながら罵声を浴びせた。

父親は、涙を流しながら聞いていた。

男「お前の言うとおりだよ。父さんは、愚か者だった」

男「これからすることも、愚かなことなのだろう」

父親は魔力を使用し、地面に即席の魔法陣をつくった」

少女「一体、何を……」

父親は詠唱を始めた。

少女「たしか、これ、あの書物にあった……」

男「『我から能力を奪い給え。我の全うせし職業を奪い、この子へふさわしい職業を与え給へ』」

父親は強制転職呪文をつかった。

少女「きゃっ!!」

少女は遊び人へと転職した。

父親は今までに身に着けた研究に関する知識を全て忘れてしまった。

父親は今までに覚えた呪文を全て忘れてしまった。

父「君はもう、何ものとも戦うな」

少女に向かって伸びかけていた手は空中で止まり、他の獲物へと向かっていった。

手は、少女を、恨みを晴らすべきものたちではないと感じたらしかった。

奴隷「最期まで立派なお父さんだ。自分たちの幸せだけは守りたいというわけか」

すぐそばに、混乱を引き起こした男が立っていた。

男「奴隷……」

奴隷「俺は今、迷っている」

奴隷「あんたの大切な娘さんを目の前で殺すか、それとも拷問にかけるか」

父親は奴隷を睨みつけた。

奴隷「もう呪文は使えないんだろう?どうやって抗う?」

少女「あの……」

少女は座ったまま、奴隷の手を握った。

少女「助けてください……」

奴隷「……くく」

奴隷「はははは!!!!命乞いか!!!!!」

奴隷「気に入った!!痛みを与えずに今すぐ殺してやろう!!」

奴隷は手を天にかかげた。

奴隷「女が灰になる姿を、もう一度眺めればいいさ」

男「やめろ!!!!」

バリィイイインン!!!!!

バリィイイインン!!!!! バリィイイインン!!!!!

ガラスが激しく割れる音が立て続けに聞こえた。

奴隷は思わず振り返った。

奴隷「精霊が破壊された時の音だ。装備が完成したんだ」

奴隷「もう飲み込み終えたということか。これで大罪の賢者は全滅だ」

絶望している父娘に、奴隷は告げた。

奴隷「あとは生き残りのノーマルを殺すだけだ」

奴隷は掲げたままの手を、振り下ろそうとした。

その時だった。

奴隷「ぐぉ!!?」

装備のうちの1つが、奴隷の首に絡まりついた。

奴隷「どういうことだ!!」

奴隷が混乱している隙きをつき、父は1枚だけ懐に入れていた移動の翼を娘にもたせた。

男「生きてくれ」

広場に生き残っていたものは、奴隷と男だけであった。

奴隷「はぁ…はぁ…」

奴隷「そういうことか。俺は、選ばれたということか」

奴隷は、狂喜に満ちた表情をしていた。

奴隷「嫉妬の欲望は俺を所有者として認めた!!嫉妬の首飾りは俺を選んだのだ!!!」

奴隷「まさか大罪の装備の所有者として選ばれるとは思わなかったぞ!!!だが、今なら確信できる!!」

奴隷「俺以外に、この欲望にふさわしき者などいないとな!!!」

男「……嫉妬か」

奴隷「ふん、娘を逃して父親の役目を果たしたつもりか。用が済んだなら、他のノーマルの生き残りより先に殺してやろう」

男「その力を以て、何を望む?」

奴隷「大罪の装備を全て手に入れる。はなからそのつもりだった」

男「自分の欲望のためになら、他の幸福を踏み台にできるか」

奴隷「当たり前さ。お前がそうしてきたようにな」

男「僕は、自分の欲望のために世界を犠牲にしようとしたことを後悔してはいない」

奴隷「正当化か。くだらん」

男「正しいも間違っているもない。強いていうなら、全て間違っている」

男「魔王の気持ちが、今ならよくわかるよ」

男「きっと生まれ変わっても。同じような選択をしてしまうほど」

男「あの子に惹かれていたんだ」

奴隷は男の言葉をろくに聞かず、首を刎ねた。




奴隷「お前には、少しだけ感謝をしているんだ」

奴隷「こんな俺と、出会わせてくれたのだからな」

奴隷は広場を見渡した。

奴隷「他の大罪の装備は消えたか」

奴隷「いずれ俺が全てを手にしてやる」

奴隷「手に入れられなかったものを全て、奪ってやるのさ!!」



残り6つの大罪の装備は、世界に散らばっていった。

暴食、色欲、傲慢、憤怒、怠惰、強欲。

それぞれの欲望に、ふさわしき持ち主を求めて。




~fin(後編に続く)~


ここまで読んでくださりありがとうございました。
長い文章のため、世間が連休に入るこの時期までに後編も完成させたかったのですが、間に合わずに前編だけ投稿しました。
後編の投稿は秋頃の予定です(書き溜めを全体的に見直したいのと、仕事の都合で、少し間が空きます)。
中途半端になって申し訳ございませんが、お待ち下さると幸いです。


[紹介]
・ツイッターアカウント
踏切交差点
@humikiri5310
ウェブサイト代わりに使用しています。
後編が完成したらお報せします。


・他作品はこちらです(上からオススメ順)

女「また混浴に来たんですか!!」

女「人様のお墓に立ちションですか」

男「仮面浪人の道」


あらためて、長文にも関わらず読んでくださりありがとうございました。

素敵な夏を過ごせますよう。

その、美味しそうに食べ物を頬張る姿に。

その、美しき肉体に宿る色気のある姿に。

その、手にした栄光を自慢げに誇る姿に。

その、感情を全面に出して怒りだす姿に。

その、床に寝そべり自由にくつろぐ姿に。

その、欲を張ってひたむきにもがく姿に。

その、となりを見てやきもちをやく姿に。

僕達は、恋をした。

次回「遊び人と大罪の勇者達(後編)」

戦わないことを許してくれた人のために、勇者は戦う。

まだ書き溜め終わっていないのですが、投稿を再開します。
完成予定は年末ですが、引き続きお楽しみ頂けると幸いです。

【前編】
1.暴食の鎧の村
2.色欲の鞭の谷
3.傲慢の盾の街(前編)
☆.賢者の里の思い出

【後編】
3.傲慢の盾の街(後編)
4.憤怒の兜の城下町
5.怠惰の足枷の廃墟
☆.勇者の思い出
6.強欲の腕輪の都市
7.嫉妬の首飾りの王国
☆.魔王城

少年も、冒険譚が好きだった。

平和な場所で育ち、寝る前にお母さんから読み聞かされる「勇者の物語」に惹きつけられた。

いつか自分も、勇者になって、世界を救うために冒険に出ることを夢見ていた。



勇者「ごめん……。本当に、ごめん」

勇者「一人で逃げ出して、ごめん……」

遊び人「…………」

少年は、守れなかった仲間にひたすら謝っていた。

傲慢の街のカジノで遊んでいた夜。

遊び人が休憩所で寝ている間、コンテストの時の不調が残っていた勇者は抜け出して、トイレで吐いていた。

しばらくして戻ると、遊び人が兵士によって捕らわれていた。

ひときわ強い気配を放つ女性が勇者に気付き、歩み寄ってきた。

事態も飲み込めないまま――けれど危険な事態だと気づいた勇者は――遊び人とあらかじめ定めていた取り決めに従った。

勇者は遊び人を置いて逃げ出した。

そして、移動の翼によって以前訪れた「花の香りの村」にたどり着いた後、自殺を図った。



2人の取り決めは正しい機能を果たした。

まず、花の香りの村に移動したことは正解だった。傲慢の街の教会は、既に”傲慢”の部下が包囲していたからだ。

しかし、勇者が移動の翼で花の香りの街にたどり着くまで、遊び人は”傲慢”から脳内に微弱の電流を流される拷問を受けていた。

幾程かの時間が経った頃。

身体にしびれが残る中、遊び人は僅かな隙きをつき、毒針を自身の身体に刺した。

2人が死亡したことによって、花の香りの村の教会で勇者は蘇生した。

勇者が神父に所持金のほとんどを渡し、遊び人を復活させた時だった。

遊び人「……ぎやぁあああああ!!!!!!!」

蘇った瞬間から遊び人は激しく暴れだした。

勇者が何を語りかけても、苦しそうにもがいていた。

時間が経って落ち着いたかと思うと、しくしくと泣き出してしまった。

遊び人は、里にいた頃の記憶に悩まされているようだった。

勇者は、女々しく見守ることしかできなかった。



戦闘能力が著しく低い。

それだけのことで、失ってしまうことは、あまりにも多かった。

遊び人が宿で一日中眠っている間、勇者はお金を稼いでいた。

といっても、戦闘能力が並に劣る勇者は、強力な魔物を倒すようなクエストには挑まなかった。

道具集めや素材集めなど、普通の冒険者が行うようなクエストをこなし、お金を稼いだ。

暴食の村や色欲の谷に戻ることも頭を過ぎったが、「里を壊滅させた男」と出くわす可能性があるため、一度訪れた大罪の地に足を踏み入れることはしなかった。

勇者「ずっと前に遊び人が話してくれた里で起きた大事故の話」

勇者「里を壊滅させるような男に、俺が勝てるわけがない」

遊び人が精神を病んでいる今、勇者には為す術がなかった。

どうすればいいか答えを見出すことができず。

遊び人の心が落ち着くまで、お金を稼いでためていた。

10日ほど経った頃。

遊び人「全額賭けるのよ!!ここで勝負に出ないでどうするの!!それでも冒険者の端くれなの!?ガンガンいきましょ!!」

勇者「俺の一週間を紙切れにするつもりか!!」

モンスターレースの闘技場で、2人は口論をしていた。

賭け事に誘っても最初は宿から出るのを嫌がっていた遊び人も、小さな闘技場に連れてこられ試合を見ているうちに、勇者の期待以上に興奮してしまっていた。

村人の騒音と歓声が響く中勇者は尋ねた。

勇者「あのさ!ずっと聞きたかったんだけどさ!」

遊び人「なぁに!?」

勇者「賭け事のなにが楽しいの?」

遊び人「つまんないこと聞くなぁ!!!」

歓声にかき消されないように遊び人は大声で話す。

遊び人「私だって遊び人になる前はそんなに興味なかったよ!」

遊び人「転職を境に、大きく変わってしまったみたいなの!」

遊び人「元々の素質はあったんだと思うよ。里のルールをよく破ったし。外の刺激的な世界に興味があったし。それを、賢者という職業だったから抑え込まれていたんだと思う」

遊び人「あなたはこういう人間だと周りから決めつけられることで、そのとおりになることもあると思うよ!」

勇者「そんなもんなのかなぁ!」

遊び人「わかんない!とにかく今は、全額ベッドするのみよ!!」

勇者「だめ!!今度は俺が寝込む番になる!!」

遊び人「宿代もなくなっちゃうし私は働かないから野宿だね!!」

勇者「働けよ!!」

遊び人「遊び人は働かないことで職務をまっとうする職業なんだもの!!さあ、賭けるわよ!!」

勇者「ちょっと!!!」

勇者は困りながらも、遊び人が元気を取り戻したことに安堵していた。

そんな勇者に対して、歓声にかき消されるような小声で遊び人はつぶやいた。

遊び人「それにね、好きな所に来れたことが嬉しいんじゃなくてね」

遊び人「好きな所に連れてきてくれたことが嬉しいの」

勇者「珍しく勝ったな。珍しく小金持ち状態だ。今日こそはお前のギャンブル魂に感謝しないとな」

遊び人「…………」

勇者「遊び人?」

遊び人「えっ、ああ。そうだね。何食べよっか」

遊び人は時々、ぼーっとした表情で何か考えことをしているように見えた。

勇者「ひとつ、言いたいことがあったんだ」

遊び人「どうしたの」

勇者「見捨てて逃げてごめん」

遊び人「もともと、そういう取り決めだったでしょ」

遊び人「勝てない敵に出会った時は、勇者が遠くに逃げて自殺を図る。そのあと私も自殺を図れば、勇者の位置を基準に、最も近い教会に精霊が運び込んでくれる」

遊び人「精霊は戦闘による死に恐怖を与えない。どくばりを自分に刺したところで私の記憶は途切れてる」

遊び人「だけど、あの拷問はつらかったな。傲慢の勇者」

遊び人「勇者という職業のみに与えられる雷属性の力を使って、かなり特殊な呪文を開発したみたい。あれは、隠し事を話させる呪術だった。戦闘能力もさることながら、かなり高度な呪術師でもあるみたい」

遊び人「私が『隠さなければ!』と感じた記憶に関する部分が頭の中でいきなり膨れ上がったの。言葉にしないと爆発しちゃいそうなほどの頭の痛みに襲われた」

勇者「それでも、話さなかったのか」

遊び人「そうだね。話さなかった」

遊び人「出会った頃の勇者には、簡単に話していたのにね」

遊び人「勇者、お金には充分余裕があるよね」

勇者「あるけど」

遊び人「私、もう一度あの傲慢に挑むわ」

勇者「狂気の沙汰だ」

遊び人「正気だよ。勝機もあるし」

遊び人「勇者がこの街に残り続けて、私が単身で乗り込むの」

遊び人「それで、悪いけど、勇者にはあらかじめ死んでいてもらう」

遊び人「私が傲慢の装備を奪ったら、私も自殺を図る」

遊び人「盗んだものは所有物となる。2人が死んでいた場合、私の身体は強制的に勇者の元に償還されて、勇者だけがこの街の教会で蘇る」

遊び人「これで簡単に盗めるわよ」

勇者「うまくいくのか。そもそもどこに傲慢の装備があるのかもわからないんだぞ」

遊び人「心当たりはあるの」

勇者「山勘か?」

遊び人「そうね」

遊び人「でも、やるしかないの」

遊び人「私はさ、挑まなければ寿命が尽きる運命だから」

遊び人「遊び人のくせに、戦い続けなくちゃ、死んでしまうんだもの」

~傲慢の街~

傲慢「あはははは!!!」

傲慢「私より傲慢な人間がいたなんて!!それとも単なる愚か者なのかしら」

傲慢「私を殺して、大罪の装備でも奪うつもりかしら」

遊び人「あなたは殺さない。けれど、大罪の装備は奪う」

遊び人「その、”傲慢の盾”を!!」

遊び人は傲慢が撫でている盾を指差した。

トロフィールームで、遊び人と傲慢は再び対峙した。

遊び人「このトロフィールームの中で、唯一文字の掘られていなかった盾」

遊び人「傲慢の盾に選ばれたあなただからこそ、無防備にもそれを目立つ場所に持ち運ぶ」

遊び人「自分から奪えるものなどいないと、タカをくくっているから」

傲慢「そうね。でも、わかったところで、どうしようもないわよ」

傲慢「精霊の加護の恩恵で、何度蘇っても同じ。あなたじゃ私から盾一個奪えないわ」

傲慢「何度も蘇る数多の勇者を、魔王が全て薙ぎ払ってきたようにね」

傲慢「いいわよ、来なさい」

遊び人は、短剣を、置いた。

遊び人「戦わない」

傲慢「どういうつもり?」

遊び人「私は遊び人だから、戦わないの」

傲慢「だったら、一方的に苦しみなさい」

傲慢の勇者は、前回同様遊び人の脳に電流を流した。

傲慢「はぁ……はぁ……」

傲慢「これが……」

傲慢「あなたが隠していた、過去の秘密ね……」

傲慢は汗を流し、息を切らしていた。

遊び人は、今回は全く抵抗をすることなく、自分の頭のなかに秘められている「賢者の里」に関する過去を全て傲慢に伝えた。

遊び人「言ったでしょ。私達は本当に殺していない」

傲慢「だったら、前回の時に教えてくれても良かったじゃない」

遊び人「あなたが信頼に足る人物かわからなかったんだもの」

傲慢「この数日間でどうやって信頼してくれたのかしら」

遊び人「この部屋にある盾の名前を、全部覚えていたの」

遊び人「あなたが過去にしてきた貢献を、一個一個、調べてきたの」

遊び人「魔王が姿を消した後の小国の争いで、あなたが陰ながらこの街を守り続けてきた英雄だということもわかった」

傲慢「あなたは、里の人間の寿命が吸い取られた7つの装備を身に付けて、寿命を取り戻したいのね」

遊び人「そう。だから、あなたの装備を譲って欲しいの」

傲慢「他の装備を全部集めてから私のところに訪れることは考えなかったのかしら」

遊び人「時間がないの。私の里を壊滅させた男が、次はこの街に来るの。この街の急激な発展が、傲慢の盾による影響だとかなり強く疑っているの」

傲慢「あなたの持ってる”封印の壺”に入れれば、安心ってわけね」

遊び人「あなたも危ないわ。だから、はやくこの街から……」

傲慢「私を誰だと思ってるの?」

傲慢「傲慢の勇者よ。傲慢が許される強さを供えた勇者よ」

傲慢「勇者殺しの人物は私が殺してあげる。安心なさい」

遊び人「それじゃあ、傲慢の盾は」

傲慢「私の最も愛おしい装備を、どうして他人の命のために譲らなきゃいけないのよ」

傲慢「私は私が輝くために他人に力を貸しただけ。他人に力を貸したかったわけではないのよ」

傲慢「少ない余生をあの頼りない男と過ごすことね」

遊び人「そんな……」

傲慢「どうしても欲しかったら」

傲慢「私と、戦って勝ちなさい」

~夜中の闘技場~

傲慢「ここに入るのは懐かしいわ。昔はここで魔物と戦ったりしたこともあったわ」

傲慢「さて」

勇者「……傲慢の勇者」

傲慢「避けられない戦いがあるの。今までの武具はまわりくどいやり方で手に入れたそうだけど。私はこのやり方でしか認めないわ」

傲慢「戦闘で、実力で、私と戦って勝ちなさい」

傲慢「勝てないものに、世界は何も与えなどしないわ」

遊び人「私達が負けたら」

傲慢「負けるに決まってるわよ。100%勝敗が決まってる勝負に賭け事は成立しないわ」

傲慢「あなた達の持ってる、暴食と色欲の装備にも、私には興味がないもの。誇りで満たされたこの街に、そんな不潔な欲望など害悪でしかないわ」

傲慢「決まってる戦いを終わらせましょう」

勇者は剣をかまえた。

勇者「ああ、やってやるさ」

傲慢「無駄なことよ」

勇者「やってみなくちゃわからない」

勇者「勝てる見込みが限りなく0に近くても、闘わなくちゃいけないときがあるんだ!」

傲慢「あははは!!」

勇者「何がおかしい!!」

傲慢「0よ」

傲慢「積み重ねてきた者を、積み重ねて来なかった者が打ち負かすなんてこと、ないのよ」

傲慢「まぁ、大罪の装備でも使えば結果はわからないかもしれないけれど」

勇者「使わない」

勇者「壺を割らないと装備は取り出せない。それに、壺を割ったら賢者の里を滅ぼした男に居場所を感知される恐れがある」

傲慢「やっぱり勝つ見込み0じゃない」

勇者「やってみなくちゃわからないって、言ってるだろ!!」

勇者は踏み込んだ。

勇者「はぁ……はぁ……」ボタボタ…

勇者「勝負……ありだな……」

勇者は倒れた。

遊び人「勇者!!」

傲慢「だから言ったでしょ。傲慢の盾を使うまでもなかったわ」

傲慢の勇者の圧勝だった。

傲慢「ねこだましをたくさん使ってくれたわね。剣に見せた魔法銃だったり、移動の翼をばらまいて私を場外に飛ばそうとしたり」

傲慢「あなたの生き方の集大成を見れたわよ。何も積み重ねず、その場しのぎで、こうやっていつも生きてきたんだなって」

傲慢「あなたたちが20年かけて積み重ねてきたものがあるとして、それを私が1日で打ち勝つって言ってきたらどう思う?何を馬鹿なことを、と思わない?それと同じよ」

傲慢「結局、あなたが私に勝ってるのなんて、運の良さくらいなんでしょうね」

策は尽くした。

あらかじめ地形を調べ、武具を買い、事前にしかけられるものは調べていた。

月や天気についても調べ、あらゆる”運”をこちらに傾けようとした。

しかし、実力差を埋めることはできなかった。

傲慢「少なくとも、今の今の戦いで証明できたわね」

傲慢「あなた達が話していることは本当だと」

傲慢「だって、そんなに弱いはずないもの。暴食の勇者、色欲の勇者を倒せたわけがない」

傲慢「ねえ」

傲慢「あなたって、本当に勇者なの?」

勇者「…………」

遊び人「勇者」

遊び人「諦めましょう」

遊び人「近いうちに里を滅ぼした男が来るわ。私達がこの街に残り続けて、存在がばれるのが一番まずいことよ」

遊び人「逃げましょう」

遊び人は移動の翼を取り出し、空へと飛び立った。

傲慢が追撃してくることはなかった。

勇者たちは逃げ出した。

勇者は一日にしてならず。

毎日剣を振るって腕の力が付くように。

毎日戦略を練って思考に磨きがかかるように。

毎日勇気を出すことで、より大きな恐怖に打ち勝つことができる。

やり直しに依存した勇者など。

勇気を、持ち合わせているはずもなかった。



逃げ続けてきた勇者も、否応なしに感じさせられた。

このまま実力をつけなければ、今以上に取り返しのつかないことになる、と。

勇者たち一行は、移動の翼で色欲の谷の隣町にたどり着いた。

遊び人「色欲の谷の勇者の仲間は、彼が死んだという噂を知らないかもしれないわ」

遊び人「精霊の加護が引き剥がされている可能性を伝えておかないと」

勇者「ああ……」



偶然にも、2人は家の前で楽しそうに談笑していた。

勇者と遊び人は2人に話しかけた。

魔法使い「あいつが死んでるかもしれないって?」

僧侶「あいつの棺桶はどこにあるのよ。教会で蘇らせなきゃいけないじゃない」

魔法使い「私達が自殺して、色欲馬鹿を蘇らせろってお願いでもしにきたの?」

遊び人「駄目です。違うんです」

遊び人「彼は、もしかしたら、精霊の加護ごと……」

この後の2人の表情は忘れられない。

無力感に打ちひしがれた夜だった。

数日後。

傲慢「この街も、虚栄心に見合う実態を求めて、なかなか強くなったわね」

参謀「周囲の強国に飲み込まれずに済んだのも傲慢様のおかげです」

参謀「けれど、気にかかるのが……」

傲慢「憤怒の城下町。そろそろ、あの王国との冷たい戦争に答えを示さないといけないわね」

傲慢「手はず通りにお願いするわ」

参謀「仰せのままに」

傲慢は他国との争いの問題の対処に追われていた。

弱者の遊び人たちの言葉など、頭の片隅に追いやられていた。

事実、傲慢の勇者を襲う者はいなかった。

傲慢「傲慢の盾。自尊心を守る盾」

傲慢「私は一体、何と戦っているのかしらね」

【傲慢の勇者の思い出】

後述。

神鳴り。

かみなりの語源は、神の怒りの声だと言われている。

勇者のみに使用が許される雷の属性は、勇気の象徴でも、ましてや優しさの象徴でもなく、まさに怒りの象徴であった。

怒りとは、震わすものである。

7つの大罪の感情の中で、人が人を殺害する最も多くを占めるのが怒りである。

また、憤死という言葉があるように、人は怒りで自死することもある。

怒りは真実の指標でもある。

的はずれなことを言われても人は怒りで人を殺さない。

真実をついてはいけないのは、相手の逆鱗に触れるからだ。

龍も頭は撫でてもいいが、鱗を逆撫でしてはいけない。


力無き戦士に、弱さを指摘してはいけない。

速さ無き武闘家に、鈍さを指摘してはいけない。

神に裏切られた僧侶に、信仰の疑いを指摘してはいけない。

魔力弱き魔法使いに、緻密さの欠如を指摘してはいけない。

愚かな賢者に、知力の低さを指摘してはいけない。

逃げ出した勇者に、臆病さを指摘してはいけない。


なぜなら。

怒りをかって、殺されるからだ。

【第3章:憤怒の街『血の登る兜』】

何を言っても笑って許してくれたのは、遊び人だけだった。

勇者「…………」

きのこの魔物があらわれた。

勇者たちはにげだした!


幼虫の魔物があらわれた。

勇者たちはにげだした!


鳥の魔物があらわれた。

勇者たちは逃げ出した!


遊び人「(どうしよう……。勇者が自信喪失し過ぎて、現れた魔物全てから逃げ出している……)」

遊び人「(励ましてあげたほうがいいのかな……)」

切り株があらわれた。

勇者たちは逃げ出した!

遊び人「それ単なる木の切り株だから!魔物ですらないから!」

勇者「躓いたら死んじゃうかもって……」

遊び人「どうせ3G払えば蘇るわよ!かんおけ引きずってあげるから堂々としなさいよ!」

遊び人は怒り出した!

勇者「ひっ……!」

勇者は逃げ出した!

遊び人「ちょっと!待ちなさい!」

勇者「…………」ションボリ

遊び人「…………」

勇者「…………」ションボリ

遊び人「んふっ」

勇者「……どうしたの」

遊び人「いいね」

勇者「なにが?」

遊び人「私だったら、見られたくないところを見られたら、怒ったり、不機嫌になっちゃうもの」

遊び人「傲慢の町の影響を受けていたらなおさらそう。折られたプライドを人から指摘されるのを怖れて、威嚇するのが普通だと思う」

遊び人「勇者は怒らないからいいな」

勇者「……ありがt」

とりのふんが落ちてきた!

勇者達はにげだした!

遊び人「前言撤回!ちょっとは悔しさをバネにできないの!」

遊び人「本当に世話が焼けるわね」

勇者「いくら世話を焼いても今の俺に火はつかないよ」

遊び人「焼け石に水ね」

勇者「むしろ水を燃やすのに近い」

遊び人「口だけは達者なんだから……」ケホッ…

勇者「どうした、体調悪いのか?」

遊び人「うーん、正直ちょっと熱っぽいかも。でもよかった、ちょうど街にたどり着いた」

勇者「早く宿屋に行って休もう。あの、すいません。この城下町の名前は……」

案内人「そんなことも知らねえできたのかよおお!!!!ぶっとばしてやんよおおお!!!」

案内人が現れた!

コマンド 会話

遊び人:ちょっと、なにエンカウントしてるのよ!

勇者:きっと、『憤怒の街』に到着したんだ。

案内人のこうげき!

勇者に27のダメージ。

勇者はしんでしまった。

遊び人はにげだした!

神官:何死んでんだよおお!!命を粗末にしてんじゃないよおお!!!

勇者「すいません……でもお金は払ったし」

神官:5Gってええええ!!!!お前なんでそんなに命安いんだよおお!!!命を粗末にしてんじゃないよおお!!!

勇者「すいません……」

遊び人「この街の人みんなキレすぎじゃない?」

神官「キレて何がわるいんだよおお!!!!」

遊び人「うるさいんだよおおおお!!!!」

勇者「お前も怒るなよぉおおおお!!!!」



勇者「まったく。血気盛んでやんなっちゃうな」

遊び人「まあまあ。私たちは穏やかにいきましょう。嬉しいことに、勇者の命もちょっと値上がりしてたね」

勇者「2G命の価値があがったな」

遊び人「精霊様に少しは認められたのよ」

勇者「相変わらず弱いままだけどな。7つの大罪道具全部集める頃には10Gになってるといいな」

遊び人「…………」

勇者「心配すんなって。他の装備も集め終えたら、傲慢の盾を奪いに行こう。封印の壺を割って、他の装備全部身に付けたらさすがに勝てるっしょ」

遊び人「それはいいんだけど、あんまり勇者の命の値段が上がりすぎるとすてみ戦法ができなくなっちゃうのが心配で……」

勇者「俺の心配をしてくれない?」

遊び人「ううー、宿屋どこにあるのよー」ケホッ…

勇者「城下町は広くて歩くのも大変だな。ほれ」

遊び人「いや、おんぶのポーズ取らなくていいから」

勇者「なら、ほれ」

遊び人「お姫様抱っこのポーズとらなくていいから」

勇者「おんぶのポーズだよ。前から抱えるんだって」

遊び人のこうげき

勇者に24のダメージ

勇者「グボ……」

遊び人「まったく、病人を怒らせないでほしいわ。憤怒の装備の影響で、これからもっと怒りやすくなるわよ」

勇者「確かに町人からも血気盛んな感じがするな……」

兵士A「ああー!!腹立つわぁ!」

兵士B「どうした?」

兵士A「聞いてくれよ。昨日団長がさ、俺を飲みに誘ってくれたわけ」

兵士B「おう」

兵士A「俺も下戸だからさ、遠慮がちに断ってるとさ」

兵士A「『ちょっと、いっぱい引っ掛けるだけだから』って言ってきて。一緒にいくことにしたわけ」

兵士B「おうおう」

兵士A「そしたらよ、団長ってば」

兵士「お酒、二杯飲みやがった」

兵士B「腹立つわぁああああああ!!!!!!」

兵士A「腹立つだろぉおおおおお!!!!!!」

兵士B「いっぱい引っ掛けるっていったのに、二杯かよ!!!」

兵士A「それでさすがに俺もカチンときてさ。『いっぱいじゃなかったんですか?』ってキレ気味に言ったわけよ」

兵士B「おうおう」

兵士A「そしたらなんと、次々とお酒をおかわりしはじめたわけ」

兵士B「どういうことだよ?」

兵士A「俺が眉をひそめて見てたら、したり顔でこう言いやがった」

兵士A「『いっぱい(たくさん)』」

兵士A「腹たつだろぉおおお!!!」

兵士B「腹立つわぁあああああ!!」




夫人A「聞いてくださいな。昨日、主人に酷いこと言われましたの」

夫人B「あら、新婚なのにどうしてまた」

夫人A「最近口喧嘩が多くてね。昨日は特段ヒートアップしてしまって」

夫人A「私も、ついね。『賢者の石の角に頭をぶつけて死ねばいい!!』って言ってしまいましたの」

夫人B「ふんふん」

夫人A「そしたら、主人が『やくそうを喉につまらせて死ね!!』って言ってきたんですよ!!」

夫人B「まぁ!!!!!」

夫人A「わたしは、まだ、伝説上の物じゃない?無限に回復を垂れ流すという冒険譚に出てくるアイテムで。それに、そんなものなら頭の角にぶつけても回復しそうなものじゃない?」

夫人A「でも、やくそうは普通に実在するじゃない!!喉につまらせたら絶対死ぬじゃない!!リアルじゃない!!」

夫人A「さすがの私もカチンときましてね。『あなたなんか、毒消し草と毒草を、間違えて塗り込めばいい』って言ってやったのよ!!」

夫人B「ふんふん!」

夫人A「そしたら」

夫人A「『いやっ、間違えないだろ……』」

夫人A「『仮に間違えても、毒消し草を塗ればいいし、呪文で解毒するか、教会に行けば治して貰えるだろ……』」

夫人A「ですって!!!!」

夫人B「まぁ!!!!!」

夫人A「芸がない!!順当過ぎる答えだわ!!!」

遊び人「大罪の装備の影響はすごいわね。この街の口論の激しさといったら」

勇者「憤怒の装備か。一体どんなものだろうな」

遊び人「大罪の力とは関係なしに、怒ってると寿命が縮みそうなものよね」

勇者「遊び人ってどんなことに対して1番怒ったりするの?」

遊び人「パーティメンバーのセクハラくらいよ」

勇者「そりゃあひどい仲間がいたもんだな」

遊び人「…………」ジィー…

勇者「…………///」テレ///

遊び人「はぁ……」

遊び人「勇者はこれだけは許せないみたいなのってある?」

勇者「善を否定し、悪を尊ぶ輩かな」

遊び人「いやそういうのいいから」

勇者「そもそも怒ること自体そんなないからな。遊び人は本気で人を怒ったことってある?」

遊び人「えー、どうだろ」

遊び人「親に本気で怒られたレベルで、私が他人に怒ったことってそういえば一度もないかも。友達と喧嘩したことならそりゃあるけど」

遊び人「怒るのってさ、怒られるより、怒るほうが疲れるじゃない?一度私の里の子どもたちがけっこうな悪ふざけしてて、注意したことがあったんだけどね。注意した自分が嫌で、なんか1日中モヤモヤしてた記憶がある」

遊び人「怒るほうも、怒られるほうも嫌なのに、今日も世界中で人々は怒り怒られてるんだろうね。1日を回していくのに必要な行為なんだろうね」

勇者「俺は怒られてばっかりの人生だったからなあ」

遊び人「たまには怒る側にまわってみたら?何か違う視点が見つかるかも」

勇者「できるかなぁ……」

遊び人「やってみたら?」

勇者「…………」

勇者「……!?」

遊び人「何か閃いた?」

勇者「おいっっっ!!!!!」ゴゴゴゴ…!!!

遊び人「は、はい!!」

遊び人「(す、すごい剣幕……)」

勇者「どういうつもりだ!!!!!!自分が何をしてるのかわかってるのか!!!!!」

遊び人「(いつにない迫力じゃない……)」

遊び人「ご、ごめん!心当たりがなくて……なんかしちゃったかな……」

勇者「遊び人なのに、バニースーツを着てないとは服務規程違反だ!!!今夜は俺様が直々に……」

遊び人「そういうセクハラがむかつくってさっき言ったばかりでしょうがあああ!!!」ゴゴゴゴゴ!!!!

勇者「ずびばぜんでじだ!!」ブルブル…

~宿屋~

勇者「ただいま。具合はどうだ」

遊び人「おかえり。一眠りできたけど、熱はあがってきたかも」

勇者「しばらく寝てろ。こればっかしは呪文でも精霊の加護でも治せないからな。明日薬もらってくるよ」

遊び人「ありがとう。勇者は街探索どうだった?」

勇者「こんなに聞き込みが大変な街はなかった……。かき集めた話によるとこうだ」

勇者「この国の勇者であり、王子だった男が魔王討伐の戦いから帰ってきた」

勇者「昔の王様が”憤死”した後。王子が即位した」

勇者「王子は非常に有能で、弱小国家だったこの街の軍事力を強くした。経済も発展し、飢えもなくなった」

勇者「町の人は『魔王がいなくなってから人々は血気盛んになった』って言ってるけど、憤怒の装備を持って帰国した王子の影響だろうな」

遊び人「城に保管してるのかしら。盗もうとしているのがばれたら処刑されてしまうかもしれないわね」

勇者「処刑はいいけど投獄されたら困るな」

遊び人「そもそも相手が王子様となると、会うのは難しいわね」

勇者「どうすりゃいいかな。ううー、考えるだけで頭が痛い」

遊び人「熱は熱でも知恵熱ね。今日はもう寝ましょ。ごめんね、所持金も少なくて同じ部屋で寝ることになっちゃって」

勇者「くうきかんせん、だったっけか。気にすんな。同じ釜の飯を食う者同士、同じ病を培養しようじゃないか。ふっはっは!!」

遊び人「……今感じてる頭痛はきっと熱のせいではないわね」

~翌朝~

勇者「ううー、もう昼ごろか。二度寝最高」

勇者「布のカーテン越しに寝息が聞こえる。遊び人はまだ寝ているみたいだな」

勇者「そんなに大事じゃないみたいだし、遊び人が寝ている間に町の様子でも見に行ってみるか。道具屋に薬も買いに行こう」



ガヤガヤ…

勇者「なんか広場の方が騒がしいな」


町娘A「これ、本当かしら」

町娘B「この町だけじゃなくて、色んな国にこの広告が張り出されてるらしいわよ」

町娘A「私絶対立候補するわ!!」

町娘B「私もよ!!」

勇者「あの、何かあったんですか」

町娘A「王子様が結婚相手を募集するそうなのよ!!選考を勝ち抜いた者が王子様の后になれるの!!」

町娘B「王国を救い、戦闘能力も高くて、何よりハンサムな王子様!!ちょっと怖いという噂もあるけれど、惹かれる女性はたくさんいるでしょうね!!」

勇者「それは、男でも出られるのか」

町娘A「…………」

町娘B「…………」

町娘A「募集に制限は書かれてないけど……」

勇者「ただいま。起きてたか」

遊び人「おかえり、勇者」

勇者「調子はどうだ?」

遊び人「うーん、まだちょっと……。ギャンブルに行く気もおきない」

勇者「大丈夫か!?血は出てないか!?身体に毒はまわっていないか!?」

遊び人「どれだけギャンブル狂だと思ってるの……。ところでさっきまで勇者は何をしてたの?」

勇者「俺か。俺さ」

遊び人「うん?」

勇者「王子様と、結婚しようと思う」

遊び人「ぐはァ!!?」ゴホッゴホッ!!!!

勇者「何だ今の、やっぱり血吐きそうな勢いじゃねーか」

遊び人「ど、どういうことよ!」

勇者「王子様が結婚相手を募集し始めたらしい。今度選考が城の中で行われるんだ。城の内部に侵入して、情報を集めてみようと思う」

遊び人「な、なんだ。そういうことね」ゴホッゴホッ

勇者「遊び人は寝てろ。ちゃっちゃと盗んで脱出してやるから」

遊び人「うん、ごめんね」

勇者「気にするな。ところでさ」

遊び人「うん?」

勇者「やっぱり好きなのか」

遊び人「何が?」

勇者「男同士の恋愛」

遊び人「好きじゃないよ!!変なキャラ付けやめてよね!!」

勇者「病気は治らないか……」

遊び人「熱の話よね?そうよね?」

王子の后候補の選考に勇者がエントリーをしてから、数日が経った。

体調が治りつつあった遊び人は、”ちょっと気分転換に”ギャンブルをしに行き、再び体調を崩し寝込んだ。

珍しく勇者が遊び人に怒って説教をした。

勇者は街の小さなクエスト(物品の収集)をこなし、日銭を稼いだ。

ぼろぼろの安い宿屋に泊まる日は続き、王子の后候補の選考の日が訪れた。

~選考会場~

女性A「……ちょっと、あれ」ヒソヒソ…

お嬢様A「何かしら……」ヒソヒソ…



勇者「視線が痛い」

勇者「遊び人に着させるつもりだったバニースーツ着て来たけど、目立ちすぎたか」

兵士「準備が出来た。筆記試験を行うため順番に入室するように」



町娘「筆記試験なんて聞いてないわよ!!私の特技は料理とお裁縫なのに」

お嬢様「どういう問題かしらね。自分の経歴とか、結婚動機とかを書く問題だったらいいけど」

兵士「制限時間は30分間とする。その間入退室は禁ずる。退出するものはその時点で受験資格を失う」

勇者「(やべっ、トイレいっときゃよかった……。遊び人のためにつくったおかゆを俺が食べすぎたせいで尿意が限界に近い……)」

兵士「全員席についたな。申し付けがあるものは手をあげて近くの試験監督に相談するように」

兵士「それでは、試験を開始する!」

問1 ヒュブリスへの諌め
「殿も御存じのごとく、動物の中でも神の□□に打たれますのは際立って大きいものばかりで、神は彼らの思い上がりを許し給わぬのでございますが、微小のものは一向に神の忌諱にふれません。また、家や立木にいたしましても、雷撃を蒙るのは常に必ず最大のものに限られておりますことは、これまた御存じのとおりで、神は他にぬきんでたものはことごとくこれをおとしめ給うのが習いでございます。神明はご自身以外の何物も驕慢の心を抱くことを許し給わぬからでございます」

□□に入る単語を記入せよ。

問2 精霊の加護の特性
一人の戦士に対して、勇者Aと勇者Bがパーティメンバーに同時に加入させることは可能であるか、それとも不可能であるか。
可能である場合、勇者Aは町A、勇者Bが町Bで同時に死亡した場合、2人から同距離の町Cにいる戦士が死んだ場合はどちらの町で復活するか。


問3 時事
魔王消滅の噂が流れた後、情勢は大きく変化している。憤怒の城下町と呼ばれるこの王国も……

問4 ……


勇者「(なんだよこれ!!)」

勇者「(嫁候補の問題だろ!!なんでこんなわけわかんない問題出すんだよ!!)」

勇者「(精霊の加護の特性だなんて。勇者の存在を公にしているこの国ならではの問題とも言えるけど……)」

勇者「(一体どうすりゃ……)」

勇者「(ハッ!!)」

勇者「(よく考えろ!!これは嫁探しの試験だ!!嫁目線で回答すればいいんだよ!!)」

勇者「(試験の鉄則、わかるところから埋めよう)」

問3 時事

回答:わたしバカだからわかんなーい☆
でも、鶏肉の調理には自信があります!!王子様には甘いお菓子もいっぱいつくってあげたいです!!

勇者「(よし、まず1問解けた!!)」

問1 「ヒュブリスへの諌め」
「殿も御存じのごとく、動物の中でも神の■■に打たれますのは際立って大きいものばかりで……」

勇者「(はっはーん。これは巧みな、夜の生活に関する問題だな。確かに、夫婦生活を営む上で欠かせない問題だからな)」

勇者「(神=王子様だといいたいわけか。神に打たれるのは大きいもの……つまり巨乳か)」

勇者「(答えはムチだ!!憤怒の勇者は巨乳をムチで打つのが趣味な変態なわけだ!!)」

勇者「(解ける、解けるぞ!!この調子で他の問題も!!)」

憤怒「選考の様子はどうだった」

家臣「滞りなく。筆記試験を無事終えました。面接の予定は……」

憤怒「面接は飾りのようなものだ。筆記試験はどうだったんだ」

家臣「優秀なものが3名」

憤怒「そうか」

家臣「かつての彼女に伍する頭脳の持ち主探しですか」

憤怒「何か問題でも?」

家臣「い、いえ。滅相もございません」

遊び人「薬がきれちゃった……」

遊び人「勇者の帰りいつになるかわかんないし、ちょっと買ってきちゃおうかな」

~道具屋~

遊び人「こんな症状でして……」

薬剤師「まだ喉が少し腫れてるようね。調合するので少し待っていてくださいな」

薬剤師「暇だったらそれでも解いてて。難しくて私はろくに解けなかったよ。今日はその問題を解くために、たくさんの女性が躍起になっていたそうよ。私は優男がタイプだから興味なかったけどねー」

遊び人「なんだろうこれ。問題用紙?」

薬剤師「じゃ、ちょっと待っててねー」


問1 ヒュブリスの諌め
「殿も御存じのごとく、動物の中でも神の□□に打たれますのは際立って大きいものばかりで、神は彼らの思い上がりを許し給わぬのでございますが、微小のものは一向に神の忌諱にふれません。また、家や立木にいたしましても、雷撃を蒙るのは常に必ず最大のものに限られておりますことは、……」

遊び人「知識問題かな、それとも読解問題かな。知識問題ならこんな長ったらしい書き方しないよね」

遊び人「『また、家や立木に……』なるほど。並立の関係なのね。だとしたら、打たれると蒙るの主語が同じと考えてよさそうね」

遊び人「問2は、なんだ、精霊の加護の特性に関する問題ね。どれだけ私が死んできたと思ってるのよ。勇者に関する冒険譚もたくさん読んできたし」

遊び人「問3は……」



薬剤師「調合が終わりましたよ」

遊び人「ありがとうございます。それでは」

薬剤師「お大事にね」

兵士「邪魔する。毒消し薬の在庫が少なくなってきてな、大量に発注したいんだが」

薬剤師「いつもありがたいわ。どれくらい?」

兵士「5千G分だ」

薬剤師「ひぇ~。うちの在庫で足りるかしら。ちょっと確認してくるわね」

兵士「……おい。これは、どういうことだ」

薬剤師「ああー、それ?あなた達のお城で今日試験してたんでしょ?さっき掲示板で問題が公表されてたわよ」

兵士「回答もか?」

薬剤師「まさかー。誰も解けなくて、ますますみんな怒りっぽくなってるわよ。さっきそれ見てた女の子も諦めてすぐ出てったみたいで」

兵士「さっきすれ違った女か!!」ダッ!!

薬剤師「ちょ、どこいくのよ!!」

薬剤師「えっ、これって……」

回答1:雷撃

回答2:一人の人物を複数のパーティに入れることはできない。

回答3:暴食、色欲、傲慢、憤怒、怠惰、強欲、嫉妬

回答4:魔剣

回答5:A材料を36個、B材料を24個、C材料を244個使用することで最適化される。

~翌日~

遊び人「すっかりよくなった!!宿飽きた!!外出たい!!!」

勇者「病み上がりなんだから無理すんな!」

遊び人「カジノ!!カジノいかなくちゃああ!!」

勇者「落ち着け!!」

遊び人「手の震えがとまらないよおおおおお」

勇者「新しい病気が再発しやがった!」



遊び人「うぅ!」

勇者「どうした?」

遊び人「今、頭がキーンって……」

勇者「やっぱり治ってねえじゃねえか。大人しく寝てろ」

遊び人「違うの、今の感触は……」

コンコン

兵士「来なさい。面接だ」

遊び人「さっきのは感知呪文だったのね。でも、なんで私に……」

勇者「私は王子をお慕い申し上げております。ぜひ、夜の生活も……」

兵士「お前に用はない。そこの女、来い。お前に行き着くまでに他の女を感知して何度謝ったことか」

兵士「優秀な冒険者が、この国にたどり着いたものだ」

~城内~

憤怒「そう固くなるな。憤怒の城の主も、出会ったばかりの女性に怒鳴り散らしたりはしない」

遊び人「はい」

遊び人「(体内に精霊を宿しているのが見える。彼が、この王国の王子様で、元勇者。そして、憤怒の装備の持ち主……しかも)」

遊び人「(イケメンだ。こりゃあ各国から女性が集まるわ……)」

憤怒「君か。薬剤師の場所で問題を解いたそうだな」

遊び人「はい」

憤怒「満点は君を除いて数名だけだ」

遊び人「そうなんですか」

憤怒「どうしてわかった」

遊び人「勇者に関して私は詳しいんです」

憤怒「職業は何だ?研究者か?それとも賢者か?」

遊び人「えっと……」

遊び人「あ、遊び人です……」

遊び人「(くっ、世間様に後ろめたい……)」

憤怒「なるほど。賢者を目指しているというわけか。もう十分その資格はあると思うがな」

遊び人「へっ?」

TIPS

職業 ”賢者” に転職する方法は2つ有る。

1つは、賢者になるための魔法陣が封じ込まれた巻物を使用し、賢者の書の儀式を行うこと。

もう一つは、遊び人として冒険をし、一定以上のレベルに達すること。

何故、あそびにんが賢者に転職できるか。

“戦闘というものを傍観することに集中することで、戦闘の真髄を見極めることができる”というのが教科書に書いてあるが。

冒険者はこれが机上の空論だと知っている。何故なら遊び人は、戦闘中も空を眺めるのに夢中だからである。

世界の大きな謎の一つである。

ちなみに、強制転職呪文を利用しても構わない。

遊び人「ち、違います!!」

憤怒「はは、面白いことを言う!他の候補者もなかなか個性的だが」

遊び人「筆記試験合格者にはどんな方が」

憤怒「それはこれからのお楽しみだ」

遊び人「これから?」

憤怒「君も候補者として次の段階に進むということだ」

憤怒「最後まで残ったその時は……」

勇者「どんな男だった」

遊び人「思ったよりもやさしかった」

勇者「男前らしいな。それで見かけやさしいとか。絶対家庭内暴力が激しいやつだな」

遊び人「…………」

勇者「それにしても、どうやってまた城内に侵入するか。いっそのこと兵士にでも志願して」

遊び人「その必要はないよ」

勇者「どうして?」

遊び人「憤怒の伴侶にふさわしいものを見極める試練は城内で行われるの」

遊び人「1週間後に決定される。その時の儀式で、王子様は兜を掲げるの」

遊び人「元王様を死に至らしめたと噂されている、いわくつきの兜だそうで、普段は地下牢獄の中に閉じ込められているそうなの」

勇者「その兜が……」

遊び人「ねえ、勇者」

遊び人「私、あの人の后を目指す」

赤色は人々にさまざまな気付きを与える。

西洋での逸話によると、怒り狂った人の頭にのぼる血を見て、科学者は重力を発見したという。

逆上。逆鱗。逆襲。

怒りは下から上へ登る性質を持つ。

父は娘を叱る。母は息子を叱る。

同時に、上から下へ押さえつけようとするものである。

怒りは怯えや愛の裏返しでもある。

怒りはいつも、逆にある。

怒りの本質を見つけたければ、いつも怒りの対極を探さねばならぬ。

例えば。

人が最も怒りを覚えるのは。

怒りと対極にある、穏やかな時間を奪われたときである。

遊び人「おはよう」

勇者「…………」

遊び人「おはよう」

勇者「…………」

遊び人「おはよう!!!」

勇者「……おはよ」

遊び人「なに不貞腐れてんのよ」

勇者「別に……」コンッ…

遊び人「今両手をポケットに突っ込みながら片足で地面を蹴ったよね!!それ典型的な不貞腐れ行為だから!!不貞腐れの概念を可視化したものだから!!」

勇者「ぎゃーぎゃー朝から怒るなよ」

遊び人「怒ってんのはそっちじゃん」

勇者「で、何時から行くんだよ」

遊び人「夕方からだよ」

勇者「そんな村人みたいな格好して。高いドレスでも買ったらどうだ。優勝できなかったら王子様に近寄れすらしないだろ」

遊び人「なんでさっきから喧嘩口調なの?」

勇者「羨ましいですね。王子様はかっこよくて強くてやさしくて」

勇者「結婚したら、一緒に大罪の装備を探してくれるかもしれませんね」

遊び人「一国の君主が、国を置いて冒険になんか出ないわよ」

勇者「出たらどうすんだよ」

遊び人「なによさっきから仮定の話ばかり」

勇者「ほら!!もう家庭を築いた時のはなししてる!!」

遊び人「はぁ!?」

勇者「……なあ」

遊び人「なによ」

勇者「チッスせがまれたらどうすんだよ」

遊び人「はあ?」

勇者「チッスだよ」

遊び人「なによそれ」

勇者「なんでもねえよ」

遊び人「発音ごまかさないではっきり言いなさいよ。情けないわね」

勇者「わかってたんなら聞き返すなよ」

遊び人「せがまれてもしないわよ」

勇者「お前が好きになる可能性だってあるだろ」

遊び人「まー、私だって私の心がどうなるかなんて保証はできないわね。雰囲気に流されていい感じになったらしちゃうかもね」

勇者「あー!!そうかよ!!!」

勇者「…………」

勇者「……まじかよ」

遊び人「あのさー、あんたがあの王子の何が気に食わないのかわかんないけどさ。私の寿命がかかってるのよ?」

勇者「やっぱするんじゃねーか!!」

遊び人「するとは言ってないじゃん!!」

勇者「イケメンのやり手王子様に本気で求婚されてもか?」

遊び人「あんたがそんなに言うならイケメン王子とチッスしてやるわよ!!」

勇者「発音ごまかさないでセッ○スってはっきりいえよ!!」

遊び人「そっちの意味で使ってたんかい!!」

かいしんのいちげき!

勇者に69のダメージ!

遊び人「まぎらわしいわ!!死ね馬鹿!!するわけないだろクソ勇者!!」

遊び人「何が身も心も遊び人よ!!ファック!!ファックユー!!ファックユーシャ!!」

勇者「うるせー媚売り女!!心はバニーガールなのに格好は地味な農サーの姫!!」

遊び人「仲間も信じられない臆病者!!あんたなんて勇者じゃない!!者よ!!シャ!!一人で色欲の谷に戻ってなさい!!一人でシャってなさい!!」

勇者「ニートからついに転職できたな!!人の心を弄び人にな!!独り立ちおめでとう!!」

遊び人「……わたしが、どんな思いで。戦闘で役立てない私が……」ウルウル…

遊び人「ええ……。ええ!!一生出てってやるわよ!!今までお世話になりました!!これからはシンデレラストーリーを叶えて天井のついたベッドで寝ます!!」

勇者「勝手にしろ!!」

遊び人「賢者の石を喉につまらせて死ねば!」

勇者「やくそうを頭にぶつけてくたばれ!」




勇者「(あー、ムカつく!)」

遊び人「(もー、ムカつく!)」

勇者「(どうしてこんなに……)」

遊び人「(ムカつくのかしら……)」

学者「はじめまして」

お嬢様「さっさとしてよー」

呪術師「…………」

遊び人「は、はじめまして!」

家臣「全員集まったようですな」

家臣「では、王子の結婚相手として最もふさわしいものを探す最終選考を行います」

家臣「では、ルールの説明です」


ルール
①期間は一週間。
②1日に15分間だけ広場で演説をすることができる。
③演説の時間を除き、候補者は部屋を出ることを許されない。

家臣「そして、怒りを顕すことじゃ。以上」

遊び人「???」

学者「なるほど……」

お姫様「わけわかんないんだけど!」

呪術師「…………」

学者「ルールといっておきながら、勝利条件が書いていないのですが」

家臣「怒りを顕せと言ったじゃろう」

家臣「それに、結婚したら勝ち組か?必ずしもそうとは言えないであろう。ならば、当然勝つための条件などない。次は演説会場で会おう」

お嬢様「ちょっと!!」

呪術師「…………」

~1日目~

遊び人「あのまま他の三人の候補者とも話す時間も与えられず、部屋に閉じ込められたまま、いきなり演説の時間だ」

遊び人「しかも私は3番手か……。うう、緊張して吐きそう」

遊び人「怒りを顕せって何よ!!この言葉に関して怒りを表明したいわ!」

遊び人「広場で喋るなんて緊張するよ……」

遊び人「沈黙のまま15分、なんてことになってしまったら……」

兵士「定刻です。一番目、学者様」

学者「わかりました」

遊び人「が、がんばってね!」

学者「敵なのに応援していいんですか?」

遊び人「あ、えっと、がんばらないで!」

学者「いいえ、頑張ります」

遊び人「(うう、とっつきづらいなぁ。それに全然緊張してなさそう……)」


兵士「この魔法石に話しかけてください。拡声されて広場中に響き渡るようになる代物です」

兵士「今から15分間です。はじめてください」

ガヤガヤ…

ワイワイ…

遊び人「(うっわ!めっちゃ人いるの見える!!)」

学者「初めまして。異国からやってきた学者と申します」

学者「突然ですが、皆様に残念なお知らせがあります」

学者「王子の后の候補者は、私と、他国のお姫様と、呪術師と、遊び人でございます」

学者「皆様もご覧になった通り、あの極めて珍しい知識が求められる問題を解いた人達でございます」

学者「しかし、残念ながら、王子様にふさわしい者が彼女たちの中には一人もおりません」

遊び人「(えっ)」

学者「まず、お姫様ですが、彼女は湯水の国のお嬢様です。魔法水があふれる地に生まれて、贅沢な暮らしを送ってきました。最高級の賢者を家庭教師につけて、知識こそ身に付けてきたものの、国民の生活については何も知らないまま育ってきたと言ってもいいほどです」

学者「王子様の見た目だけで結婚を申し出たいと言っているのです」

ガヤガタ…

お姫様「あの女ぶっと○してやる…!」ワナワナ…

遊び人「お、落ち着いて!」

学者「次の候補者について。遊び人です」

遊び人「(わたし!?)」

学者「彼女がギャンブル場に入っていく姿を私は目撃していました。町娘のような格好をした冒険者だったので気になっていたんです。私も観光を兼ねてギャンブル場に入っていきました」

学者「まったく、運の悪いこと悪いこと。いつも大博打ばっかり狙って、賭けたもの全てを外しておりました。加えて、体調も崩されていたようです。自分の財布を空にしようとするその執念には恐れ入りました」

遊び人「あの女ぶっこ○してやる…!!」ワナワナ!!

お姫様「あなたこそ落ち着きなさいよ!」

呪術師「…………」ニヤ…

学者「このような女性らに一国の主の財布をにぎられてよいのでしょうか」

学者「続いて、呪術師についてです。3番目に演説する時にわかると思いますが、頭までフードをすっぽりとかぶっております。私達他の候補者も、素顔はおろか、声も一言も聞いていません」

学者「私は彼女が、敵国のスパイではないかと疑っております」

学者「彼女は即刻候補者から排除するべきです」

学者「以上、お三方の悪口を連ねてきましたが、私は元来このようなことを伝えにきたのではないのです」

学者「私は学者として、祖国に貢献してきました。今まであげてきた実績としては……」

学者「はい。次はあなたの番ですよ」

お姫様「散々ネガキャンしてくれたよね!!最後に自分がいかに優れた人材か自慢ばっかりしてさ。行ってくるわよ!!」

トコトコ…

学者「頭に血が上ってるわね。自滅してくれるとありがたいわ」

遊び人「あなたこそ愚かよ!!この街にはギャンブル好きが多い!!そしてギャンブルでは負けている人の方が多い!!あなたはその人達の票を失って、私はその人達の票を得たのよ!!!」

学者「男性のギャンブル好きにうんざりしている女性も多いんじゃないかしらね。まあいいわ。先手で悪口を言っておけば、あなた達はそれに対する反論に15分間を注ぎ込むしかないでしょうから」

遊び人「王子様がそんな人を好きになるかしら」

学者「王子様の好き嫌いで后を決めるなら、同棲生活を勝負内容にすればよかったじゃない。きっと、大勢の人の前で何を言うべきかをわかっている女かどうかを試しているのよ」

学者「さて、お姫様が何を言うか聞いてみましょうよ」

お姫様「はじめまして、湯水の王国の姫と申します」

お姫様「一つ訂正しておきますが、私は王子の見た目が好きですが、それだけが王子に惚れた理由などでは決してございません。異国の国の姫が、愛などという言葉を使うのも白けてしまうと思うので、政略結婚が主な理由である、ということは初めに申しておきましょう」

お姫様「私の国は豊かです。魔法水の資源に恵まれて、飢えと縁の無い生活を送っています」

お姫様「けれど、私達が持つ豊かさは、資源の豊かさです。資源が豊かな国が必ずしも生き残るとは限りません。歴史を見てもわかるよう、寒い地域の人々は火を起こすための知恵を身につけますが、暖かい地域の人々は実っている果実を薄着で取りに行くことだけを考えても生きていけるのです」

お姫様「私の国は今、思考をしていない状態です。ですから、来るべき戦いに向けて供えなければなりません」

お姫様「憤怒の城下町と呼ばれているこの国の皆様でなくとも、例の王国に怒りを示すものは多い」

お姫様「そう、処刑の王国です」

お姫様「遥か昔から奴隷制度を導入し、他国からの強奪を繰り返し、近年では勇者殺しの疑惑までかけられているこの王国に対して、即刻に手をうたねばなりません」

お姫様「悲しいことを言いますが、仮に王子様が私を后にふさわしいと認めてくれなくとも、私は受け容れることにしています。その時でも、軍事力をたった数年で劇的に伸ばしてきたこの国の皆様と私達とで手を取って、敵国に立ち向かわねばならないと思っています」

お姫様「とはいっても、私の王子様への気持ちが強いことも事実でございます。あれは、私がまだアカデミーに通っていた頃のことでした。他国への交流で……」



遊び人「(最初は単なるわがまま娘に見えたけど、人前で話す時は一切躊躇をしていない)」

遊び人「(なんだか、力強さを感じさせる女の子だな)」


お姫様「と、いうわけでございまして」

お姫様「恋のある政略結婚をしたい。以上、お姫様からのスピーチでした」

お姫様「……ふぅ」

お姫様「うへー、思いつきでつけた最期のキャッチフレーズ寒すぎでしょ!!」

遊び人「す、すごかったよ!!思わず聞き入っちゃった!!」

お姫様「あら、そりゃどーも」

学者「湯水の国のわがままお姫様にしては、ちゃんとお国のことも考えているようで」

お姫様「いくら本を読んでも、私達王族がどのような気持ちで生きているかなんてわからないでしょう」

お姫様「ワガママでいられるはずがないんだもの。閉じ込められてずっと生きてきたんだから。叶わない夢を部屋の中に押しつぶされてる分、許される範囲での主張をしてきただけだわ」

お姫様「あんたは机上の空論と他人の悪口を楽しんでなさい」

学者「学者が机上の空論だなんてのも偏見に満ちたことよ。空論であるならどうして世間からその地位を保証されていると……!」

お姫様「言っておくけどね!!あんたら学者は……!」

遊び人「お、落ち着いて!」

遊び人「(……みんなこの街に選考の時から滞在してたからか、憤怒の装備の影響で怒りっぽくなってるんだろうなぁ)」

お姫様「まったく。はい、つぎ。あなたの番でしょ」

遊び人「う、うん!行ってくる!」

トットット…

お姫様「大丈夫かしら」





遊び人「(う、うへぇ……。こんなに大勢の人に注目されるの初めてかもしれない)」

遊び人「(里で呪文の被験体になってた時だって多くても10人くらいだったし、みんな知り合いみたいなもんだったし)」

遊び人「(一応話すことは昨日の夜考えておいたし)」

遊び人「(行くぞー!!)」

遊び人「わ、わわ」


遊び人「わわわわ、わわ」

遊び人「わわわたくしは」

遊び人「…………」

遊び人「…………」

遊び人「…………」

ガヤガヤ…

ザワザワ…

遊び人「    」

遊び人「(や、やばい。内容吹き飛んだ)」

遊び人「(あれ、何話すんだったっけ。王国についての質疑応答みたいなことで)」

遊び人「(やばいやばいこの空気!!早く話さないと!!)」

遊び人「みんなー!!!」

遊び人「ギャンブルは、好きかー!!?」

ザワザワザワザワ……

遊び人「(わたし、何言ってるんだろう……)」



遊び人「(もういいや……沈黙よりはましだ……)」

遊び人「えーっと。そうですね」

遊び人「目撃情報があったとおりに、私はギャンブルが好きです」

遊び人「体調を崩して寝込んでいたのに、リハビリにギャンブルをしにいくくらいにギャンブルが好きです。おかげで、また体調を崩してしまいましたが」

遊び人「これでも私だって、昔はギャンブルなんかにこれっぽっちも興味がありませんでした」

遊び人「よくある言葉を言う側の人間でした」

遊び人「『そのカジノが運営される収益源はどこだと思う?』『確率という学問によれば全体で何割損をするか知っている?』」

遊び人「今言われる側の身になってみれば、そんなこととっくに知ってるんですよね」

遊び人「いいですか、ギャンブル好きでない皆さん」

遊び人「10人のうち2人しか幸せになれないと言われる世界で、私たちはその2人になれると信じているのです」

遊び人「信じることを諦めてはいけません。さあ、気になる女性に思いをぶつけましょう。9回断られても、1回実れば幸せです。さあ、気になる職業に転職をしましょう。9回職場に馴染めずとも、1回合えば幸せです」

遊び人「9回ギャンブルに負けたっていいじゃないですか。最後に1回勝てば、十分しあわ……」

遊び人「しあわ……」

遊び人「(……いや、さすがに9回負けたら取り戻せないわ)」

ガヤガヤ…

遊び人「(あああ……まだ全然時間残ってる。誰か助けて……)」

遊び人「(誰か……)」

遊び人「(そういえば……)」

緊張しないように極力見ないように気を付けていた広場を、遊び人は注意深く見渡した。

しかし、勇者の姿はどこにも見当たらなかった。

遊び人「(わたしがこんな目に遭ってるっていうのに!!今日演説するのは知ってるはずよね!!まだ不貞腐れて宿屋で寝てるのかしら!?)」

遊び人「女性のみなさん!!本当に、男の人ってどうしてこうなんだろうと思うことってありませんか!?」

遊び人「この人いいな、って思った時は本当にかっこよく見えるのに、どうしてそれを長続きさせてくれないんでしょうかね!!」

ザワザワ…

遊び人「広場の奥様方、うんうんと頷いていただきありがとうございます」

遊び人「男性は、だらしがないですよ!!人前だと偉そうなのに、誰もいないとこではぐちぐち弱気で!!」

遊び人「弱ってる時にやさしくしてあげると感謝してくるくせに、一旦活躍し始めると偉そうに振る舞ってきますからね!!こんな俺と旅が出来て光栄だろうと言わんばかりに!!」

遊び人「一人にしてほしい時にかぎって鬱陶しく話しかけてくるくせに、必要な時にはそばにいない!!!」

遊び人「これでよくも偉そうに……」

…………

遊び人「その時なんて言ったと思います!?『やくそうを頭にぶつけてくたばれ!!』ですよ!!」

兵士「終了時間です。戻ってください」

遊び人「しかも人には無駄遣いするなとか言ってくるくせに自分も女関係に金を費やしてますからね!!報われない女関係に!!お釣りで手を握ってほしいばっかりに!!気持ち悪くないですか!?だったら普段から尽くしてくれる女性に少しでも還元させようという考えはないんですかね!?」

兵士「時間です!!戻ってください!!」

遊び人「それに!!!!!」

遊び人「はぁ、はぁ……ふう」

遊び人「スッキリしたぁ!!」

お姫様「あんた……なんかあったの?」

遊び人「毎日あるよ」

学者「馬鹿ね。王子様との結婚演説で、元恋人の陰をにおわすなんて。勝手に自滅してくれて助かったわ」

遊び人「元恋人じゃないし!!」

学者「じゃあ現恋人?」

遊び人「現下僕よ!!略してゲボよ!!」

お姫様「あはは!!」

学者「はぁ……」

お姫様「男の性格なんて似たり寄ったりなんだから、見た目で決めればいいのに」

学者「知性こそ男性のかっこよさでしょう。だから男性も戦士より賢者がもてる」

お姫様「私は戦士の方が好きだけど。まぁ結局財力だよね」

学者「同意ですわ」

遊び人「そうね、ギャンブル運が強い男性がやっぱり……」

学者「お断りです」

お姫様「お断りよ」

遊び人「湯水のお姫様まで……」

遊び人「それじゃあ、次の番は……」

呪術師「…………」

お姫様「あんた呪術師って聞いたけど。頭までフードをかぶって、顔見せられない事情でもあるの?」

呪術師「…………」

トコトコ…

お姫様「返事くらいしなさいっての!」

呪術師「…………」




遊び人「どうしたんだろ」

お姫様「もう5分は経ったんじゃない?」

学者「なのに、一言も喋ろうとしない」

ガヤガヤ…

「おーい、緊張してんのかー!」

「声を出せない事情があるのかしら」

広場に集まっている民の声を無視し続けた。

人々の苛立ちが募り、14分が経過した時のことだった。

呪術師「この国の王子は、殺されます」



遊び人は驚いた。

彼女の発言内容に対してではない。

すれ違いざまに、呪術師――と呼ばれていた者――はフードの中から遊び人にウインクをした。

傲慢「久しぶりね、負け犬さん」

遊び人「はぁー、1日目が終わった」

遊び人「部屋に閉じ込められて誰にも会えない。豪華な夕食は運ばれるし要望したものはなんでも持ってきてくれるそうだけど」

遊び人「それにしても、どういうつもりなんだろう。傲慢の勇者は何故お嫁さんに志願したんだろう」

遊び人「湯水の国のお姫様みたいに政治的な問題なのか」

遊び人「それとも、私みたいに憤怒の装備を奪いに来たのか」

遊び人「何故正体を隠しているのか」

遊び人「うーん、わかんないことばっかりだよ。こんな時、勇者がいれば……」

遊び人「…………」

遊び人「いても何も考えないよあいつ。もう寝ちゃおう」

~2日目~

お姫様「ごきげんよう。いかがお過ごしでしたか?」

遊び人「部屋にこもりっきりでつまんなかったよー」

学者「学者はそういう日が続きますよ」

お姫様「私も小さいときからそうだったから慣れてるわよ。遊び人さんは后に向いてないんじゃない?」

遊び人「そうだろうね」

お姫様「張り合いのない人。さて、あなたは今日はどんな悪口を言ってくださるのかしら」

学者「これは戦いです。容赦はしません」

お姫様「社交術が身についてないのね。外交の基本は味方づくりですよ」

学者「私のことなんかいいじゃないの。それより、あなた。今日はどんな爆弾を投げてくれるのかしら」

傲慢「…………」

学者「まただんまり」

順番は変わらず、学者の演説から始まった。

学者は昨日と同様、他の候補者の批判からスピーチをはじめた。

しかし、民はろくに集中して聞いていないようだった。

4人目の候補者が、今日は何をのたまうのか興味津々であるかのようだった。

学者「……以上です。ご清聴ありがとうございました」



お姫様「今日もまあ次から次に他人の欠点を批判してられるわよ」

学者「いいじゃない。誰も集中して私の話なんか聞いてなかったみたいだし」

学者はフードをかぶった傲慢を睨んだ。

学者「でも、あんな猫騙しが効くのは最初だけよ。今日も驚かせられるといいわね」

傲慢「…………」

遊び人「ちょ、ちょっと……」

お姫様「はいはい。次は私の番なんだから、ちゃんと聞いてなさい」

お姫様「ねえ、あなた」

学者「何かしら」

お姫様「怒りを顕せ、が何を意味しているのかは私もわからないけれど」

お姫様「他人の悪口を言葉にすればいいってことじゃないのは教えてあげるわ」

お姫様「準備はできてるかしら」

兵士「ハッ」

お姫様「人間は、人間なりの方法で、怒りを昇華してきたの」



お姫様は演説場へと歩いた。

要望したものはなんでも持ってきてくる、との兵士からの説明にしたがって。

彼女は大きな物の要望をしていた。

兵士が布の覆いを剥がすと。

巨大な、黒い物体が現れた。

学者「あれは……ピアノ!!」

群衆のざわつきが大きくなった。

演説の開始の合図がされても、お姫様は黙って椅子に座ったままだった。

1分間ほど経ち、群衆のざわめきは収まった。

静寂が場を支配した時に、お姫様は腕を楽器に乗せた。



激しい曲調だった。

華奢で小柄な体型に似合わぬ、強い音だった。

聴く者に不安を呼び起こすような、怒りや恐れを込めた音楽だった。

遊び人「(なんでだろう。自分の中の血が騒ぐような気持ちになると同時に)」

遊び人「(大切な人を失ったかのように、切ない)」

お姫様「私のコンサート、どうだった?」

遊び人「とてもよかったよ。なんだか涙ぐんできちゃった」

お姫様「あはは、どーも」

学者「……ふん」

お姫様「はい、次はあなたの番。また元カレの悪口言ってきなさい」

遊び人「元カレじゃないってば!!」



お姫様と入れ替わりで、遊び人は演説の場に立った。

観客はまだ余韻に浸っているようだった。

遊び人「(うわぁ、やりづらいなぁ……)」

遊び人「おー、おほん!」



結局遊び人は15分間、ある男に対する怒りの表明に時間を全て費やした。

その男は今日も広場にいないようだった。

遊び人「ど、どうぞ」

傲慢「…………」

遊び人は拡声の魔法石を傲慢に渡した。

彼女は黙ってそれを受け取ると、演説に向かった。

遊び人「(あれ、何してるんだろう)」

傲慢は魔法石を指でなぞりながら、ぼそぼそと何かを唱えているようだった。

兵士「それでは、はじめてください」

魔法石を口元にあてながら、傲慢は演説を開始した。

傲慢「この、クズめ」

野太い男性の声が広場に響き渡った。

ざわめきが起こった。

遊び人「(酷い一声)」

遊び人「(あの石に変声の呪文をかけていたのね。正体を隠すためかしら)」

遊び人「(それにしても)」

気になるのは群衆の反応だった。

恐怖や怒りに満ちた表情をしていた。

群衆の一人が叫んだ。

「王を……侮辱するのか!!」

今にも奮起が爆発しそうな群衆を、警護にあたっている兵士が必死に抑えつけていた。

兵士らもまた、緊張に満ちた表情を浮かべていた。

どうやら亡くなった王様の声を再現したようだった。

“怒りで我を失う”

とはよくいったもので。

理性が飛んでしまう、ということだけを言い表しているのではなく。

怒りは自分から発信されるものであり、その怒りによって自らを滅ぼすことを意味している。

決して、怒りたくて怒る人など、いないというのに。

傲慢「王子は、王様から、怒鳴られて育てられました」

傲慢「彼を庇っていたやさしい母君も、心労で倒れ、病気でこの世を去りました」

傲慢「国王は、決して好かれてる人ではありませんでしたが、畏怖されている人でありました」

傲慢「小国でありながら、列強からの侵略を防ぎきれたのは、間違いなく元国王の決断力が優れていたためです」

傲慢「優しい王様では国を守れません。怒れる王様によって国は守られていたのです」

傲慢「怒りにも二種類あり、静的な怒りを冷徹と呼ぶのであれば、動的な怒りを憤怒と呼ぶのがふさわしいでしょう」

傲慢「みなさんもよくご存知のように、元国王は、憤怒の人でした。決して口には出せないけれど、恨んでいる方もさぞ多いことでしょ」

傲慢「息子とて例外ではありませんでした。国王の期待にそぐわない結果を出した王子を、国王は容赦なく突き放していました。彼が身体に負った傷は、魔物に与えられた傷よりも父に与えられた傷の方が多いといわれています」

傲慢「王子が精霊によって勇者に選ばれたことが救いでした。彼は魔王討伐を名目に、城を抜け出すことができたのですから」

傲慢「魔王消滅の噂も流れ、またこの国に危機が及んでいた頃。王子はこの国に戻って参りました」

傲慢「病床に伏していた父に代わり、彼は天才的な指揮力によりこの国を危機から救い、そして勢力を短期間で拡大させていきました」

傲慢「そんな中、彼の父は命を落としました」

傲慢「その理由が”憤死”であるということについて、詳細を詮索することは暗黙の禁止とされていきました。夜な夜なパブで、こんな声がささやかれながら」

傲慢「国王を殺害したのは、王子なのではないか」

今日も荒れた1日となった。

傲慢の勇者が演説を終えた時には、群衆の怒りは爆発寸前であった。

遊び人「どうしてあんなに過激な発言をしたんだろう」

遊び人「それにしても、私も勇者の悪口しか言ってない。このままじゃお姫様に后の座を奪われちゃうよ」

寿命。

遊び人にとっての旅の大名義とも言える、7つの大罪の装備の収集による寿命の延長。

このコンテストこそ命がけで取り組まねばならぬものに関わらず、彼女は内心、乗り気がしなかった。

勇者の前でこそ決して口にはしないものの。

遊び人の寿命は、彼女の力の対価によって短く設定されているだけであり、つまり、彼女の能力に対して、正当な寿命であった。

30代か、40代か、どこまで生きられるかはわからないものの。

彼女の母親が背負った宿命を、なぞることは生まれる前からわかっていたことなのだ。

偽りの愛情を示して、王子に取り入るなんてことを、やさしい彼女の心が望むわけもなかった。

気づけば、このままどうでもいい内容のスピーチを続けながら、兜だけを盗む方法はないかと考えていた。

遊び人「怒りを顕せって」

遊び人「そもそも人は、どういう時に怒るんだろうか」

3日目の演説でのことだった。

学者がいつものように演説を開始しようとすると、怒号が飛んだ。

それは、酔っ払った男による、特に意味のない批判であったが。

他の候補者の悪口を言う学者に対して、不愉快な感情を抱いていた者達がその感情を顕しはじめた。

学者は冷静沈着に演説をはじめたが、恐怖で足が震えているのが見えるほどだった。

一方、お姫様は自分の魅力を伝えることに集中していたため、彼女への好意を抱くものは多かった。

今日は笛による楽器の演奏を簡単にしたあとに、処刑の王国へ立ち向かわねばならぬ近況について述べた。

まさにこの演説場所は、友好を求める外交の場として適しているようだった。

遊び人は、性懲りもなく勇者への悪口を言っていた。



呪術師に関しては、驚くべきことに、演説を辞退した。

彼女が姿を見せないことに大衆は憤りを感じていた。

4日目、5日目、も同じような演説光景が繰り返され。


6日目になった時に、変化が起きた。

学者「じ、辞退します……」

学者は毛布を身体に巻き付けながら、ガタガタと震えていた。

お姫様「人の批判ばっかりしてるから石を投げられるのよ。自業自得よ」

学者「わかってるわよ。でも、それにしたって……」

学者「どう見ても、様子はおかしいわよ」

学者の言葉に、お姫様は黙るしかなかった。



学者の辞退の後、お姫様が演説場に向かった。

他の候補者を批判せず、自分の魅力を伝え、友好に関する本音をありのままに彼女は伝えてきた。

にも、かかわらず。

「おい、クソガキ!!」

「俺らの国を買い取ろうってんじゃねーんだろうなぁ!!」

「色目使ってんじゃないわよ!!」

お姫様「私が何言ったっていうのよ……」

お姫様「でも、話すしかないわよね」

お姫様は演説を始めた。

群衆は聞く耳を持たなかった。

各々が怒りを主張するばかりであった。

憤怒の城下町、と呼ばれるにふさわしい様相を呈していた。

お姫様「やっと終わった。15分間が永遠のようだった。こんな国に嫁いでいいものかしら」

お姫様「ねえ、あなた、何かやったんじゃない?」

お姫様は、今日も控え場所で黙ってうつむいている傲慢に話しかけた。

お姫様「魔法石に細工をして声を変えたわよね。最初は変声が目的だと思っていたけど、興奮の混乱呪文を封じ込めていたんじゃないのかしら」

傲慢「…………」

遊び人「だったら私達にも影響が出ているはずだし、そもそもこの二日間彼女は演説をしていなかったよ」

お姫様「なに、庇うつもりなの?」

遊び人「これは、違う理由によるものなのよ」

お姫様「何よ」

遊び人「きっと……」

遊び人は確信していた。

憤怒の装備の力が増しているのだと。

持ち主である、憤怒の勇者の心理に何かしらの変化が生じているのだと。

遊び人「とにかく、私の番だよね。行ってくるよ」


遊び人が魔法石に語りかけようとした時だった。

「いい加減あの女を出せ!!」

「逃げ出したんじゃないでしょうね!!」

「正体を顕しなさいよ!!」

遊び人「(みんな目が血走ってる。初日はこんな雰囲気じゃなかったのに)」

遊び人「(お父さんの書斎にあった哲学の本に書いてあった。全体とは、個々の総和以上のなにかであるって)」

遊び人「(彼ら、彼女ら一人ひとりが、たとえ穏やかな人達であろうとも)」

遊び人「(群れをなしたら、別の存在へと変貌するんだわ)」

遊び人は会場を見渡した。

遊び人「(まったく。あの馬鹿は今日も姿を見せないのね)」

遊び人「(私達だって同じでしょ。ひとりぼっちだった私達が、2人になれば2人以上の何かになれると思ってパーティを組んだのに)」

遊び人「(あとで何をしてたかきっちり問い詰めてやらないと)」

遊び人「(だから今日くらいは、あいつへの怒りは溜め込んで置かなくちゃ)」

遊び人は怒れる群衆に語りかけた。

遊び人「初日の演説から今日に至るまで、私は一人の男に関する悪態をつくのに費やしてきました」

遊び人「演説以外の時間に候補者は個室から出ることを許されません。その時間に、私はこの憤怒の城下町について考えを巡らせながら、怒りという感情に向き合ってきました」

遊び人「しかし、怒りそのものをいくら突き詰めていっても、答えは見つからないのでした」

遊び人「怒りという感情は特別で、”怒りという感情に対処するために怒りがある”のではないかと思いました。怒りが存在するのは、怒りのためでしかないと」

遊び人「人は、人から怒られたくないから、人を怒るんです」

遊び人「怒りたくもないのに、怒っているふりをするんです」

遊び人「みなさんがこの数日間、そうしていたように」

最期の一言は、遊び人が何の気なしに思ったことを言ったものだった。

しかし、それが群衆の逆鱗に触れた。

兵士「下がってください!!」

遊び人「わ、私そんなつもりじゃ……」

兵士「あなたは口にしてはいけないことを口にした!!」

彼は遊び人の回答を拾った兵士だった。

兵士「恐れるべき存在の消失に対して、内心ほっとしてしまう」

兵士「そんなこと、許されるのは、心の中だけです。決して口に出してはいけなかったんだ」

控室に戻ってからも、怒号が聞こえてきた。

お姫様「なに火に油を注ぐようなこと言ってんのよ」

学者「ひどい目にあいました。こんな国の面倒を見るなんてごめんだわ」

お姫様「私も。もう懲り懲りよ。せっかくイケメン王子と結ばれると期待してたのに」

遊び人「私は、なんであんなことを……」

遊び人は震えていた。

その遊び人の手をこじ開け、魔法石を奪い取った者がいた。

傲慢「じゃあ、行ってくるわ。私の番よね」

学者「あなた!!喋った!!」

お姫様「フードも取ってる!!び、美人じゃないの!!」

傲慢「あなたが話しやすい空気にしてくれたおかげで助かったわよ」

遊び人「……一体何を」

傲慢「怒りを顕してくるの」

傲慢の勇者はわざとフードを被りなおし、演説場まで歩いた。

遊び人の発言で興奮していた群衆は、勢いをつけてざわめき出した。

傲慢は一呼吸つき、変声の呪文をかけずに、魔法石に語りかけた。

傲慢「ただいま」

群衆のざわめきが、急速に収まった。

困惑している者が多い中、唖然とした表情を浮かべている者もいた。

傲慢「自己紹介がまだでしたね」

傲慢はフードを取り去り、素顔を見せてもう一度話しかけた。

傲慢「この城下町との冷たい戦争状態にある傲慢の街の勇者であり」

傲慢「憤怒の王子様の、許嫁でした」

傲慢は噴水のそばに立っている薬剤師の女の子に手を振った。

薬剤師の女の子は、その場で泣き崩れてしまった。

傲慢は思い出を語り始めた。

傲慢の街の故郷には、才能を見出された逸材のみが集う一流のアカデミーが在ったこと。

そこに、隣国の王子である憤怒の勇者も一時期通っていたこと。

彼女は、彼に嫁ぐふさわしき者として選ばれたこと。

彼女自身それを望んでいたこと。

精霊の加護の降り注ぐタイミングが異なり、魔王討伐の冒険にお互い別のタイミングで出発したこと。

憤怒の国王の裏切りにより、彼女の祖国が侵略され、彼女の両親は処刑されたこと。

傲慢の勇者は魔王消滅の噂がされていた時期に、今の傲慢の街の立役者として身を捧げたこと。

その傲慢の街がまた、憤怒の王国によって侵略されようとしていること。

傲慢「幼いころの私にやさしくしてくれたみなさん」

傲慢「私は、怒っていますよ」

演説はとっくに15分以上過ぎていた。

旅の途中で受け取った不条理な祖国の報告について、彼女はその時の感情を述べた。

冷静に交渉をするでもなく、昂ぶらせて扇動をするでもなく、一人の少女だった者として淡々と悲しき思い出を話し続けた。

遊び人「そっか」

遊び人は悟った。

遊び人「王子様も、私達をその気にさせてひどいなぁ」

遊び人「王子様の結婚相手を見つけるのが、この選考の趣旨だったんだもんね」

遊び人「はじめから、相手は決まっていたんだ」

憤怒「そのとおりだよ。ごめんね」

控室に憤怒の王子が姿を表した。

憤怒「あの問題は、僕達の通ったアカデミーで出題された難問だったんだ。少し内容に変化を加えたけどね。当時満点を取ったのは一人だけだった」

憤怒「優秀で、鼻持ちならなかった彼女に、久しぶりに話してくるよ」

悲しき時間となった。

久しぶりの再会にも関わらず、対話ではなく口論が始まった。

質問という名の非難を遊び人は繰り返した。

理由という名の言い訳を王子は繰り返した。

誰だって、怒りたくて怒っているわけじゃない。

不幸になりたくて不幸になっているわけじゃない。

その時は最善だと信じた選択が。

振り返ってみたら、誤った選択だというだけで。

亀裂の入ったこの状況を、誰も望んでいたわけではなかった。

これは2人だけの問題でもなく。

無き国王の意思や。

国民の総意や。

他国の思惑が。

余計なものが入り混じっていて。

誰もが納得できる正解を、導くことなどできないのだ。

憤怒「だからこそ。こうして、君に発言する場所を与えたんだ」

傲慢「随分回りくどいやり方をしてくれたわね」

憤怒「君こそ随分まわりくどい演出をしてくれたじゃないか」

傲慢「この短期間だといろいろな準備が必要だったのよ。この選考が終わったあとのことも含めて」

憤怒「何の準備だというんだ」

傲慢「戦争よ。怒れる王国が本格的に乗り出して来たら、傲慢な街に勝ち目などないもの」

傲慢「できるだけ被害を少なくして、守れるものを守ることしかできないの」

傲慢の勇者は、涙を流した。

憤怒の勇者は、ただ立ち尽くしていた。

傲慢「もしも、よ」

傲慢「あなた自身の意思が、私と同じものだとしたら」

傲慢「つまりね」

傲慢「いちばん大切な存在が、今目の前にいる相手だと心の奥底で思っているなら」

傲慢「あの子に、憤怒の装備を渡してほしいの」

傲慢が突然遊び人を指差した。

傲慢「あの子の過去を覗いたことがあってね。あの子なら一次選考の問題を解ける可能性が高いと思ったの。彼女一人をこの選考に乗せるために、私の国の人達がどれほど動いたことか」

傲慢「彼女は、大罪の装備を封印する壺を持っているの。そこにあなたの持っている憤怒の装備を封印すれば、この城下町の怒りは次第に収まっていくでしょう」

傲慢「元の小国に戻ろうとするわ。激情よりも同情が上回って、私を拾ってくれた街を侵略しようとはしなくなるでしょう」

傲慢「お願い。助けてほしいの」

憤怒「…………」

憤怒「俺がこの街を守りきれたのは、憤怒の兜があってこそだ」

憤怒「大罪の装備の及ぼす影響は甚大だ。やさしさではこの国を守れない」

憤怒「自分一人の私情で、国を滅ぼせというのか」

傲慢「あなたの国の総意で、一国を滅ぼすというの?」

憤怒「どうすればいいと言うんだ!!」

憤怒の王子は傲慢に怒鳴りだした。

傲慢は悲しそうな顔を浮かべるだけだった。





遊び人「あ、あの……」

遊び人「憤怒の城下町と傲慢の街を、1つに繋げてみてはどうでしょう?その間に隣接する小国も含めて」

遊び人「それで、大きな1つの傲慢の王国にしてしまうんです」

遊び人「あなた達が強大な軍事国家をつくりたいなら、憤怒の装備で支配すればいいと思いますが……」

憤怒「どういうことだ」

遊び人「大罪の装備の影響が及ぶのは1つの王国・街・村などの単位です」

遊び人「この国と傲慢の街を結びつければ、1つの巨大な王国とみなされます。もちろん条件があって、一定間隔に建物が置かれていることや、住民がいることなどがありますが」

遊び人「傲慢の街を訪れたことがありますが、素敵な街です。己の価値を示すために、自分に賭ける人達が多い街です」

遊び人「傲慢の盾は決して軍事的な力が高まる装備ではありませんが、文化や経済の発展に大きく寄与する装備です」

遊び人「それほど巨大な王国が建設できれば、他国との利害など些細なものです。覇者になれるのですから」

憤怒「……どれだけの年月と費用がかかると思っているんだ」

遊び人「お金なら、湯水の王国の姫様を后にして、支援してもらったらどうでしょうか」

傲慢「えっ……」

遊び人「意義あることに時間はかかるものです。学者様から知識をお借りして、短くする方法を考えましょう」

遊び人「簡易的でいいんです。人間らしさがそこにあれば、精霊はそこを人間の領域と簡単に認定してくれます。私の故郷でも、丸太を使った小屋を一定間隔に配置して、領域の拡大をしたりしていましたから。そこの区域に住むもの好きを募るのが大変ですが」

遊び人「怒りに寿命を奪われながら他国を侵略するよりは、よっぽどやりがいのある計画だと思いませんか?」

~7日目~

傲慢「私達、結ばれることになりました!」

などと、いきなり言えるわけもなく。

王子の口からは、休戦の延長について述べられた。

他国への支配は続けるという宣言のもと、秘密裏に1つの巨大な王国の建設計画が進められることになった。

それは、昨日の遊び人の一言がすべてのきっかけだったというわけでもなく。

大罪の装備の特性についてまだ完全に把握していない王子も、この装備を利用してより良き国の建設をすることについては日々考えをめぐらしていた。

最期の一滴がコップから溢れて、怒りがわき出すことがあるように。

ある一日をきっかけに、今まであたためていた計画が動き始めることもあるのだ。

わかってから動こうとすると、いつまで経っても動くことはできない。

わからないまま動こうとすると、必ず道を誤る。

誤るのは仕方のないことで、誤る度に修正しながら、正しき道を模索していくしか無い。

ただ、今回、王子に一つだけ落ち度があるとしたら。

憤怒「……すまなかった」

傲慢「もういいよ」

謝ることが、遅かったことだ。

そしてここにも、もう一人。

選考の終了が宣言された広場では、昨日までとは打って変わって人がいなくなっていた。

演説場の高台で一人座る遊び人と、一人の男の観客がいた。

勇者「昨日で終わったんじゃないのかよ」

遊び人「選考は7日間。今日まで本当は選考は続いているのよ」

勇者「そうかよ」

遊び人「王子の目にかなう者はいなかった、ってことで中止にされちゃったけどね」

勇者「誰も信じてないだろそんなこと。王子があの子のことを……」

遊び人「誰もがわかっているからといって、口に出しちゃいけないことってあるじゃないの」

勇者「そんなもんか」

遊び人「そんなものでしょ」

勇者「でも、その逆もまた然りだろ」

遊び人「なによそれ」

勇者「遊び人」

遊び人「何?」

勇者「色々酷いこと言って悪かった。本当にごめん」

わかっているからといって、言葉で伝えなきゃいけないことがある。

遊び人「ちょ、勇者!頭あげてよ!」

勇者「本当にごめん」

遊び人「しゃ、謝罪はいいからさ!それよりこの数日間どこに姿を消してたのよ!」

勇者「傲慢の街に行ってたんだ」

遊び人「えっ?」

勇者「俺も問題を解いただろ。第二問に精霊の加護の特性に関する問題があった」

勇者「一人の戦士に対して、勇者Aと勇者Bがパーティメンバーに同時に加入させることは可能であるか、それとも不可能であるか。
可能である場合、勇者Aは町A、勇者Bが町Bで同時に死亡した場合、2人から同距離の町Cにいる戦士が死んだ場合はどちらの町で復活するか」

勇者「答えは不可能。でも、その答えを知っているのなんて、研究者か、それらを試した本人達くらいのものだ」

遊び人「私もお父さんの本棚にあった本から見たけど……学者はともかく、姫様も解けたわけだし」

勇者「可能である場合は問題が長く続くだろ。そうすると回答者は可能であると思い込む。お姫様はそれがひっかけだと見抜いたんじゃないのかな」

勇者「傲慢の街とそう憤怒の城下町はそう距離が離れていない。そして2人の勇者がいる。俺はこの2人の間に何かしらの繋がりがあるんじゃないかと思ったんだ。実際に、過去に一人の戦士を同時にパーティに入れる試みをしたのかもしれないって。彼女の故郷が、この王国に飲み込まれたことまでは想像つかなかったけどな」

勇者「いろいろな聞き取りをしたけど、噂話を拾えたくらいで、確信に迫るものはなかった。無駄足だったんだ」

勇者「遊び人が一人で戦ってる中、俺も何かしなくちゃって気持ちが駆られてたんだ」

遊び人「そうだったんだ……」

勇者「ごめん」

遊び人「だから、もう、謝らなくて……」

遊び人「…………」

遊び人「わ、私も……」

遊び人「ええーと、その……」

遊び人「私こそ……」

愛おしいから、怒った。

好きだから、泣いた。

怒りは赤色。

愛も赤色。

怒りはいつも、本音と反対の場所にある。

本音を伝えれば済む問題を、人間は愚かなもので、誤って怒りを選択してしまう。

生きてるうちに、他人と争ってしまうのは仕方のないことで。

そのまま争いを続けるのも、別れてしまうのも簡単で。

でも、それがどうしても嫌だと思うなら。

それが嫌だと、伝えるしか無い。

それが嫌だと、思っているだけでは伝わらない。

怒りを救う魔法の呪文は、無口詠唱では唱えられない。

言い訳を、ぐっと飲み込んで。

照れ笑いや、苦笑いを堪えて。

勇気を、出して。

遊び人「私こそ、ごめんなさい」

遊び人「仲直り、しましょ」

赤い糸は、愛と、微量の怒りで紡がれている。

6日目の演説の日。

拡声石を外した傲慢と、突然現れた憤怒の王子が何を話していたか、騒ぎ立てる群衆は聞き取れてなどいなかった。

けれど、傲慢に対するあの王子の怒りと怯えの入り混じった表情を見て、群衆は理解していた。

王子は許嫁を諦め切れてなどいない。

この2人の糸は、もつれていれど、ほつれてはいなかったのだと。

遊び人「本来であればさ、今日お嫁さんが決定して、儀式が行われていたはずなのよ」

遊び人「なのに、あの2人は、周囲のわだかまりから抜け出せず、お互いをどう思っているかを公言しようともしない。今は敵国として対峙し合うそれぞれの国の長であるから」

遊び人「みんな、うすうすわかっていることなのよ?」

遊び人「どうにかできないのかな」

勇者「…………」

勇者「もしも、怒りが人の理性を奪うもので」

勇者「感情的で愚かな選択に導いてしまうものならば」

勇者「人々を怒らせれば、2人を結ばせてあげられるかもしれない」

遊び人「どういうこと?」

勇者「この6日間必死で聞き集めた、2人の思い出を話せばいい」

勇者「結ばれない2人が生まれる理不尽な世界に対して、腹を立てて貰うんだ」

2人は数時間かけて準備を整えた。

再び演説場に立ち上がり、兵士から(適当な理由を並べて)借りた拡声石に、勇者は語りかけた。

勇者「号外!!号外!!」

通行人が何人か立ち止まった。

勇者「優勝者の発表です!!優勝者の発表です!!」

次々と通行人が足をとめて、遊び人と見慣れぬ男に注目をした。

演説場には他にも。

お姫様「他人の恋の応援に、手伝う義理なんかないんだけどなぁ」

学者「私も、今夜中にでも祖国に帰るつもりでしたのに」

遊び人「まあまあ。振られたもの同士、たぶらかしてくれた王子様に対する怒りでもあらわしましょうよ」

遊び人「あなた達が2人を認める姿を見せることで、”公認”のための大きな後押しになるの」

遊び人は勇者の持つ拡声石に話しかけた。

遊び人「さあ、最期のスピーチです。今夜のゲストは、私が6日間語り続けたこの男です」

勇者「えっ、なに、俺のこと話してたの?なんかざわついてるんだけど」

遊び人「それでは、お願いします!!」

勇者「後で詳しく聞くからな……」

勇者「それでは、語らせていただきます」

勇者「国家という大きな責務に人生を束縛され、結ばれることが叶わなかった2人の物語について」

その人が身内に接する態度をみよ。

それがやがてあなたに接する態度である。

その人が敵に対峙する姿勢をみよ。

それがいつかあなたを守る時の姿勢である。


【傲慢の勇者の思い出&憤怒の勇者の思い出】


生まれつき優秀な少女に、お母さんは諭した。

「いつも怒ってちゃいけないのよ」

「どうして?」

「好きな人の前でだけ怒るとね、それが愛情だとちゃんと伝わるからよ」

「ふざけんじゃないわよ!!!」

バン!!

アカデミーの昼食の時間、おぼんを叩きつける音が食堂中に響いた。

傲慢「あんた達!またあいつの教科書捨てたでしょ!!」

「知るかよばーか」

傲慢「そんなんで世界を救う英雄になるとか言ってるの?」

「こいつ、気があんじゃねえのか」

傲慢「あんた達の卑屈さが許せないだけよ!!」

傲慢は、食堂の隅で一人ご飯を食べている憤怒に話しかけた。

傲慢「あんたも何か言い返したらどうなの!?」

憤怒「…………」

傲慢「勇者でしょ!?立ち向かいなさいよ!!」

憤怒「……いいよ」

傲慢「はぁ!!」

憤怒「ご飯食べないと昼休み終わっちゃうよ」

傲慢「もう!!食べるわよ!!」

憤怒の少女……ではなく、傲慢の少女は自分の席へと戻った。

生まれながらに器用で、優秀で、賢く、両親から溺愛されていた少女。

彼女は自分に絶大な自信を持っており、自分は他の弱者を救うために生まれてきたと自覚しており、多少の歪みはありつつも正義感に溢れて生きていた。

生まれながらに器用で、優秀で、賢いはずだったが、父親から怒鳴られ続けていた少年。

彼は短気な父親から自分の振る舞いを全て暴言や暴力で否定されており、本来の自分を出せなくなった。いつしか人と触れ合うことを避け、孤独に生きていた。

しかし、彼には幸いにもやさしい母親がおり、人を許して生きていくことができた。

そして、もう一つ幸いなことに。

人に期待することを諦めたかのような彼の態度に苛立ちを覚えながらも、傲慢な女の子が彼の存在を認めてくれたのだった。

先生「次の生徒」

憤怒「……はい」

憤怒は校庭の指定された位置に立ち、右手を前に突き出した。

先生「放て」

憤怒はぼそぼそっとした声で、炎の呪文を唱えた。

先生のつくりだした呪文壁に命中した。

先生「うーん、4点ね。狙いはいいけど、威力が弱い。完全に無効化されてるわ」

「なんだよ、あの王国の王子様も大したことねーじゃん」

「しっ、やめとけ。あいつの親に知れたらどんなことになるかわかんねーぞ」

「知るかよ。あいつの国はな、俺の友達の故郷を燃やしたんだ」

傲慢「あんたたち試験中よ、うるさいわ」

先生「次の生徒」

傲慢「はーい」

傲慢は校庭の指定された位置に立ち、左手を前に突き出した。

先生「放て」

傲慢「『傲慢の化身よ、己が自尊心を打ち立て神に雷撃を突き返し給え』」

傲慢「『ヒュブリス!!』」

傲慢は雷撃の呪文を放った!

先生のつくりだした魔法壁を粉微塵に破壊した!

先生「…………」

傲慢「ねえねえ、先生、何点?」

先生「はぁー……私も自信を無くしちゃうわね。雷撃の呪文を使用できるだけでなく、精霊への敬意の込め方も独創的だったわ。10点満点だけど、100点よ」

傲慢「やったー!」

傲慢「ねえ。どうしてあんた雷撃の呪文を使わなかったのよ」

憤怒「……目立ちたくないから」

傲慢「本当に勇者の素質があるのかって、みんなから疑われているよ?」

憤怒「僕はただ、雷の呪文が操れるだけだよ」

傲慢「それが凄いことなのよ!このアカデミーでも雷撃の呪文が使えるのは私達だけなのよ?」

傲慢「精霊の加護がいつか降り注ぐ日が楽しみだと思わない?不死の身体を手に入れられるのよ?」

憤怒「魔物に引き裂かれて、焼かれて、それでも立ち上がって戦う義務に過ぎないよ」

傲慢「はぁー。あんた、話してると疲れるわ」

憤怒「ご、ごめん」

傲慢「まあいいけど」

傲慢「ねえ、あの噂本当なの?」

傲慢「お父上様から酷い虐待を受けてるって」

憤怒「…………」

憤怒「虐待じゃないよ」

傲慢「嘘ばっかり」

憤怒「父上は短気だけれど、決断力があって、頭も切れるし剣技の腕も立つ」

憤怒「ただ。自分の期待に沿わないものに、徹底的に厳しいだけなんだ」

憤怒は服をまくって、自分の身体を見せた。

傲慢「……嘘でしょ」

憤怒の身体は痣だらけだった。

憤怒「初めて人にみせた。どう思った?」

傲慢「……どうって」

傲慢「私のパパも、ご存知の通り国を統べるような偉い人だけどさ。ずっと私に愛情を注いでやさしく育ててくれたわよ」

傲慢「こんな、酷いことって……」

その時、遠くから学友の声が聞こえた。

「おい!!傲慢が憤怒の服を脱がせようとしてるぞ!!」

「痴女だ痴女!!成績優秀ハレンチスケベ~!!」

傲慢「あいつら、空気も読まずに……。全員焼き殺してやる……!!」

蒸気が出そうな勢いで歩いて行こうとする傲慢に、憤怒は尋ねた。

憤怒「あのさ。君は、どういう時に怒るの?」

傲慢「こういう時よ!!」

憤怒「こういうって?」

傲慢「プライドを侮辱された時よ!!」

憤怒「プライドってなに?」

傲慢「傷つけられたくない心をそう呼ぶの!」

傲慢「私は私が守りたいものを守るの!!その中には私自身も含まれるの!!」

傲慢「なぜなら、私を愛してくれる人がいるからよ!!」

憤怒「それは、君の恋人?」

傲慢「馬鹿!!そんなのいるわけないでしょ!!私のパパとママよ!!」

憤怒「ふふ、そっか」

傲慢「何がおかしいのよ」

憤怒「何でもない」

傲慢「あいつらに地獄見せてくる!!」

怒れる人を見て、安堵を感じたのは彼にとって初めてのことだった。

恋人をつくるには少し早い、傲慢な少女と、諦めた少年。

この日から幾月も経たない内に、将来の王子と后となることが周囲によって決められた。

そして。

この少年が本気の怒りを顕すのも、先のこと――。

許嫁の王国に、祖国を破壊され、両親を処刑された。

過去に滞在した時には、国民は自分のことを王女のように慕ってくれた。

薬草の調合が趣味の変わった少女とも仲良くなり、第二の故郷のように感じていた場所だった。



故郷の消滅に関して、情報は錯綜していた。

敗者の語る事実は闇に葬られ、勝者の語る言葉が歴史に刻まれるように。

世界に表立って言われていることと、傲慢が独自に集めた情報とでは、あまりにも情報が異なっていた。

傲慢の両親がまるで極悪人の裏切り者であるかのように、周辺諸国は信じ切っていた。

元々呪文のセンスに長けていた傲慢は、勇者の雷撃呪文を活かした洗脳呪文を開発し、全ての事実を知ったのだった。

憤怒「ふざけるな!!!!」

地面に横たわる傲慢に向かって、青年になった憤怒は激怒した。

傲慢「……ははっ。数年ぶりの再会で、倒れているところを怒鳴られるなんて。前に再会した時はあんなに泣きそうになっていたのに」

憤怒「独りで魔王城なんかに乗り込むからだ。エルフから無謀な女がいると聞いたぞ。魔剣の存在も知らないのか」

傲慢「知ってるよ。死ぬ覚悟で戦いにきたのよ」

傲慢「大切に思ってた人達から裏切られて、大切な人達がみんな殺されちゃって」

傲慢「あなたの国が、私の故郷を滅ぼして」

傲慢「死んでもいいから、戦おうかなって、自暴自棄になっただけ。これは覚悟とはいえないかな」

憤怒「…………」

「ちょっといいかなー。イチャイチャするのはかまわないけど、戦闘中だよ?」

黒いドレスを着た少女は呆れていた。

「ハンサムなお兄さん初めまして。私の名前はマリア。四天王の一人よ」

マリア「ところで、3人いたはずのお仲間は死んじゃったのかな?」

憤怒「この広間にたどり着く途中でな」

マリア「よかったね。おわかりのように、ここの地面には精霊殺しの陣が敷かれている。目立つけれどとっても頑丈な造りなの」

マリア「だから、あなた達がここで負けたら精霊ごと死んじゃうの。よくも魔王城で、私に挑もうなんて思ったなぁ」

マリア「それにしても、泣けちゃうなぁ。大切な仲間を危険に晒して、一人で私達を倒そうなんていう傲慢甚だしい女を追いかけてくるなんて」

傲慢「……人間を舐めるんじゃないわよ」

マリア「ふわぁー」

あくびをしている少女に向かって、傲慢は左手を向けた。

傲慢「『ヒュブリス!!』」

眩い閃光と共に雷撃が少女に伸びた。

マリア「キャッ!!」

少女は驚いて口を開けて、雷撃をゴクンと飲み込んだ。

マリア「…………クゥ~!!沁みるぅうう!!」

少女は目をつむって痛そうに頭を抑えながら、地団駄を踏んだ。

「許さないんだから~!!」

少女が口を開けると、口の中からぬいぐるみがヌメェッっと吐き出されてきた。

憤怒「気をつけろ!あいつは召喚を司る四天王。あの人形も何か……」

ぬいぐるみを見て、憤怒は思わず言葉をとめた。

傲慢「……わたし?」

傲慢の勇者を模した人形だった。

少女は人形の腕をふりまわすようにいじった。

傲慢「危ない!!」

傲慢の身体が勝手に動き、剣で憤怒を切りつけようとした。

憤怒は寸出のところで躱した。

憤怒「コントロール系の呪術か」

マリア「ふふーん、しんでからのお楽しみ」

少女はニンマリと笑った。

憤怒は傲慢を抑えることができなかった。

気絶させようとして万が一にでも殺してしまったら、傲慢を教会に転送しようとして現れた精霊が殺されてしまう。

ただでさえ戦闘能力の高い傲慢を、魔族最高峰の召喚士が操っており、簡単に組み伏せることはできなかった。

傲慢の攻撃をただ躱すしかなかった。

マリア「たいくつだなぁ。じゃあ、これならどう?」

傲慢は剣を自分の首にあてた。

傲慢「う、うそ……」

憤怒「やめろ!!」

傲慢の自殺をとめようと憤怒が飛び出した。

途端に傲慢は左手を突き出した。

傲慢「『ヒュブリス』!!」

近距離まで迫った憤怒に、雷撃が直撃した。

ぼろぼろになった憤怒を見てニンマリしながら、少女は言った。

マリア「呪文のコントロールまで可能なんて、どれだけ戦闘力に差があるのよ」

マリア「あなた達なんて目瞑っても殺せるわね。どんなものかなと思って遊んであげたけど、やっぱり人間は弱過ぎるわね。そろそろ終わりにしよっか」

少女は色の着いた棒を取り出し、異様に早い速度で地面に絵を描き始めた。

マリア「六芒星なんて描いてらんないよね。生み出したい絵を描いた方が楽しいのに」

カカカカ、カカッっと響く音がして、即座に絵が完成した。

マリア「キャー!素敵ー!!うっとりするわ」

憤怒「あ、あれは!禁書に姿絵が載っていた……!」

マリア「本物には及ばないけど充分素敵よ。さあ、あいつらを殺してちょうだい」

マリア「魔王さま!」

絶望が2人に襲いかかった。

傲慢「っ……!動ける……!」

傲慢のコントロールが解かれた。

憤怒「下がっていろ!!」

憤怒は傷ついた身体で戦った。

傲慢の勇者を相手にしてこそ力を全く出せなかった憤怒の勇者。

今でこそ、実力の全てを発揮することができるが。

憤怒「……ぐぉおおお!!!」

マリア「うふふ!!やっちまえー!!」

魔王のコピーの戦闘能力に遥かに及ばなかった。

マリア「たかが人間の代表と、魔族の最高峰では、呆れるくらいに実力がかけ離れているよねー」

マリア「だからこそ、”不死”という加護を精霊が人間に与えることになったんだろうけど。精霊殺しが開発された今じゃもう勝ち目ないね」

マリア「じゃ、まずはそっちの女の子から殺してくださいませ」

傲慢「あ……あ……」

憤怒「やめ…ろ…」

マリア「素敵な男性が、絶望に苦しむ顔を見たいの。人間でもハンサムはいいものだわぁ」

マリア「死になさい」

魔王のコピーが、黒々と輝く魔法玉を創り出した。

生涯結ばれるはずだった女の子。

生きがいを失って、孤独に冒険していた。

それは全て。

憤怒「俺が、守ってやれなかったからだ」

憤怒は腹立たしく思った。

世界が絶望的で、理不尽な人間で溢れかえっていることなど、とっくに諦めていた。

けれど、そんな世界においても、守りたいものを守ることのできる自分でありたかった。

傲慢「ごめんね。私のせいで」

傲慢は憤怒の頬に手を添えた。

やさしかった母親が亡くなった日以来。

ずっと流すことのなかった涙を、憤怒は流した。

静かな憤りを感じた。

叫ぶことも、嘆くことも、怒り狂うこともない。

母親のやさしさに包まれて穏やかに生きてきた少年は。

この時、初めて自分の体の中に流れる、父親の血を感じた。

憤怒「……嬉しかったんだ」

傲慢「えっ?」

憤怒「俺のために、おぼんを机に叩きつけてくれたことが」

魔王のコピーが放った最大級の闇の呪文は、憤怒によって弾かれた。

マリア「はぁー!?うそでしょ!?」

憤怒「グォァアアアアアアアア!!!!!」

怒り狂った獣のように、憤怒は駆け出した。

傲慢「今の、なによ……」

傲慢「いきなり、兜が現れて……」

憤怒の動きを、もはや傲慢は目で追うことができなかった。

魔王のコピーは憤怒に馬乗りにされ、物凄い速度で殴られていた。

バサバサという音が響き渡り、紙切れが風で飛ぶように魔王のコピーは消滅していった。

マリア「魔王様がおっしゃっていた話は本当だったというの……?」

マリア「だとしたら、あれは、”憤怒の兜”!!」

少女は焦りながら、自分のお腹に手をあてた。

マリア「まずはコントロールを……」

マリア「……!?」

べちゃべちゃと液体が飛ぶようなくぐもった音が聞こえたあと、少女は紫色の血液とともに人形を吐き出した。

マリア「グボォオエエエエ!!!」

吐き出した憤怒の人形は召喚士のコントロールを振り切り、主を攻撃しようとした。

少女が急いで呪文のキャンセルを唱えると、人形は消滅した。

マリア「グブ……オェ……これも駄目……」

マリア「もう、あれを使うしか……」

少女は両手を同時に使い、地面に絵を描き始めた。

マリア「……えっ?」

憤怒「グァアアアアアアアアアア!!!」

少女の両手は吹き飛んでいた。

マリア「……遊ぶ余裕くらい、与えてちょうだいよ。短気な男は嫌いよ」


魔族最高峰の四天王の一人は、原型を留めないほどに一人の勇者に潰された。

打撃音がしばらく続いたあと、ぴたりと音が止んだ。

傲慢「……憤怒?」

憤怒「……ニゲ…ロ……」

憤怒は身体を地面に激しくぶつけた。

怒りに満ちた目で傲慢を睨みながら、必死でそれを自制しようとしているように見えた。

傲慢を殺す欲望に駆られながら、破壊を止めようと理性が虚しく抵抗していた。

傲慢「……世界はどうしてこうも」

傲慢「人間を、悲しませることしかできないの」

自分の身体を掻きむしる憤怒を、泣きながら見ていた。

傲慢「……私はどうしてこうも」

傲慢「自分のことしか、気にかけることができなかったの」

傲慢「大好きな王子様が救ってくれることを当然のように期待するだけで」

傲慢「私が彼を、守ってあげようとはしなかった」

傲慢「誰かに認められることばかりを望んで」

傲慢「誰かを認めてあげることなんて考えなかった」

傲慢はのたうち回る憤怒の元に歩み寄った。

傲慢「もう、いいよ。そのままじゃ死んじゃうよ」

傲慢「世界中を滅ぼしてでも、あなたには生き残ってほしいの」

傲慢「まずは、世界一傲慢な私を、殺してちょうだい」

傲慢「今まで見てあげなくて、ごめんね」



理不尽な世界は、最期まで理不尽だった。

今まで散々不幸な出来事を2人に与えておきながら。

傲慢「……今の光は、さっき現れたのと同じ」

傲慢「この、盾は」

気まぐれに、救いを与えた。

勇者「2人はアカデミーを卒業してからも、幾度か再会を果たしました。祖国の事情さえなければ、2人はパーティを結んで冒険していたのかもしれません」

勇者「四天王を倒してからもまた、2人は離れ離れになってしまいました」

勇者「傲慢の勇者は、彼の足枷になることをやめたかったんです」

勇者「けれど、お互いに惹かれる思いは強く、2人は再びこの王国で再会することがかないました」

勇者「みなさん」

勇者「また2人を、引き裂いてもいいのでしょうか」

勇者「もしも傲慢の勇者がこの国を許してくれるのなら。いや、決して許すことなどできないでしょう」

勇者「しかし、許せないままに、再び手を取り合うことを望んでくれるのなら」

勇者「彼女を、后に迎えませんか?」

遊び人「広場の声、聞いた?」

遊び人「裏切ったのは傲慢の少女の祖国だと信じて戦っていたって」

勇者「うん」

遊び人「どっちが正しいんだろうね」

勇者「何も正しいことなんてないんだろ」

遊び人「そうかもね。でも」

遊び人「今日という日は、正しそうに見えるけど?」

多くの人が駆り出されて、急いで式典の準備を始めていた。

本来行われるはずだった結びの儀式は中止になっていたが。

憤怒の城下町と、傲慢の街の友好を結ぶ式を挙げる準備が行われていた。

遊び人「勇者が頑張ってくれたおかげかな」

勇者「俺はきっかけの1つにしか過ぎないよ。みんなが本当は望んでいたことだったんだ」

王様を死にいたらしめたという、曰く付きの兜。

その兜を掲げ、王子は宣言した。

憤怒「傲慢の街と私達は、手を取り合って生きていかなければならない」

私情が見え透いたその言葉に、しかし反対を示すものはいなかった。

遊び人「憤怒の兜の封印は、もうしばらく待ってもよさそうね」

遊び人「封印でもしなければ、市民がまた暴動を起こすと思っていたけど」

遊び人が広場を見渡すと、薬剤師の女の子が、今度は嬉しそうに涙を流していた。

勇者「当初の予定だと、ここで兜を奪う予定だったんだよな」

遊び人「あはは。あらゆる人々の激怒を買っちゃうね」

憤怒と傲慢は、握手をしていた。

遊び人「傲慢の勇者、照れを隠しきれてないね。かわいいなぁ」

儀式が一通り終わると、兜を脇に抱えた憤怒と傲慢が、勇者達を招き寄せた。

傲慢「昨日も言ったけど、冒険が終わったら、最後に私達の場所を訪れなさい。傲慢の盾も、憤怒の兜も好きに使わせてあげるから」

遊び人と勇者は顔を見合わせ、笑みをこぼした。

傲慢「私達も国を守らなければならないから、しばらくは持っていさせてほしいの。これから大国統一の計画にも取り掛かるし」

遊び人「本当にありがとう」

傲慢「お礼を言うのはこっち。あなたたちが、私の代わりに怒ってくれたんだもの」

傲慢「この国が憤怒の父、元国王に騙されていたことは知っていたの。だけれど、故郷を滅ぼされたこと自体に対する怒りはおさまらなかった」

傲慢「怒りを主張して何が変わるかもわからない。冒険を通してやることなすこと全て裏目に出てね、何を信じればいいかわからなくなっていたの」

傲慢「プライドがへし折られちゃってたから」

傲慢は力無く笑った。

学者「私達も手伝ったんですよ。情報の裏付けを確認して、話を繋ぎ合わせて、勇者さんの言葉を意味あるものに仕立てたんです」

お姫様「はぁー、王子様タイプだったのになぁ…」

お姫様はため息をついた。

学者「これから忙しくなりそうですね」

憤怒「ああ。今まで目指していた方向と、対局に向かうわけだからな。君達の力もどうか貸して欲しい」

遊び人「全国の女性をたぶらかしておいてよく言いますねえ」

憤怒「僕のことを本心で好きでいてくれた女性なんて1人しかいないさ」

傲慢「はぁ!?」

遊び人「ふふふ」

お姫様「羨ましいなぁ…タイプだったのになぁ…」


遊び人「味方も今ならたくさんいますよ」

憤怒「そうだな。そして、彼女もいる」

憤怒は傲慢を見つめた。

傲慢「そ、そういうのは人の前では……」

遊び人「二人きりの時がいいってこと?」

傲慢「ちょっと!!」

一同は笑った。

照れくさそうにしている傲慢と、一名を除いて。

お姫様「いいなあ。素敵だなぁ」

お姫様「ハンサムだし、強いし、やさしいし」

学者「あなた、いつまで……」


お姫様「精霊の加護もついてるし、不思議な兜も持ってるし、羨ましいなぁ」

お姫様「"嫉妬"しちゃうくらいにさぁ」

お姫様は、取り出した笛に口をつけた。。

傲慢「一体なんなのよ…!!」

殺気を感じて傲慢が反射的に発動した防御呪文のおかげで、勇者達は気絶せずに済んだ。

しかし、憤怒の持っていた兜ははじきとばされ、奪われてしまった。

広場では人々が耳を抑えながらうずくまっていた。

傲慢「音の呪文の使い手だったのね。まさか湯水の国が裏切るなんて……」

憤怒「それはまだわからない。成りすましだったのかもしれない」

憤怒「この女が何度も繰り返している言葉があった。それを愉しんで言っていたとしたら」

清々しい顔で演奏を終えたお姫様は言った。

お姫様「そうよ。世界中の嫌われ者にして、数多くの勇者を殺してきたと噂されてきた」

お姫様「処刑の王国の、術士よ」

お姫様は、憤怒から奪い取った兜を手でいじっていた。

お姫様「魔力も備わっているし、国宝にふさわしいものなんだろうけど、憤怒の装備じゃないわね」

憤怒「遊び人、君の警告した通りだった。大罪の装備を狙うものが現れる可能性が高いと」

遊び人「元々は、私達が強奪する予定だったんだけどね」

お姫様「気に食わないわね。本物はどこに隠してあるの?」

憤怒「世界のどこかにな」

お姫様「だったら、手始めに。この国の住民全員殺して、隅から隅まで探してやるわよ」

お姫様は再び笛に口をつけた。

戦闘が始まって、しばらく膠着状態が続いていた。

避難する市民を守りながら、憤怒と傲慢はお姫様を隅に追いやっていた。

憤怒「まだ城内に避難できていないものはいるか」

隊長「市民の避難は済みました。残るは兵士のみです」

憤怒「わかった。君たちも下がれ」

隊長「そんな!!私達は何のために!!」

憤怒「相手が違いすぎる。君たちは、城内で市民を守り続けるんだ」

隊長「しかし」

憤怒「私を怒らせるな」

隊長「……承知しました」

去ろうとする隊長は、思い出したかのように付け加えた。

隊長「それと、非常事態の対策に従い、例の職業の者だけは……」

憤怒「わかっている。こういう時、彼らはテコでも動かない」

憤怒は教会を見て、その中に神父がとどまり続けていることを確認した。

お姫様は疲れて地面に座り込んでいた。

お姫様「はぁー。思ってたより手強いなぁ。あのウスノロどもはまだ迷ってるみたいだし」

お姫様「おーい!こっちだよぉ!」

お姫様は町の外に向かって手を振った。

魔物の大軍が草原をうろうろと彷徨っていた。

お姫様「街の守護すら突破できないなんて。これだから図体でかいだけの魔物は嫌なのよ」

お姫様「バカの研究者達もいつまで経っても来ないし。全員処刑にされても知らないわよ」

お姫様は、気だるそうに立ちあがった。

お姫様「さて、と。研究者が到着するまでは適当にいなしておく予定だったけど、遅刻してるんだからちょっとくらい遊んでもいいよね」

お姫様「さて、隕石でも降らせますか」

お姫様は目を閉じた。

憤怒「詠唱する隙きを与えるな!!」

傲慢「もちろん!!」

2人が飛び出そうとした時だった。

遊び人「待って!!あの構えで物体召喚なんて……」

傲慢「うっ!」憤怒「くっ!」

憤怒と傲慢がよろめいた。

お姫様「残念、勇者感知の呪文でした!」

お姫様「今のうちにっと」

お姫様は大きな鈴を取り出して振り始めた。

勇者「遊び人、自分の耳を塞げ!」

勇者は駆け出し、両腕でだき抱えるように、傲慢と憤怒の両耳を可能な限り塞いだ。

勇者「ぐぁああああ!!!」

勇者は雄叫びをあげて倒れた。

両耳から血が流れていた。

傲慢「どうして……」

遊び人「より戦闘能力の高い、あなた達を優先させたのよ」

傲慢「私が聞きたいのは……」

遊び人「次の攻撃くるよ!!」

勇者は雄叫びをあげて倒れた。

両耳から血が流れていた。

傲慢「どうして……」

遊び人「より戦闘能力の高い、あなた達を優先させたのよ」

傲慢「私が聞きたいのは……」

遊び人「次の攻撃くるよ!!」

傲慢「きゃっ!!」

憤怒「うぐっ!」

神官の前に、どこからともなく傲慢と憤怒が現れた。

憤怒「突然巨大な爆発呪文を唱えられた」

傲慢「なんなのよあいつ。並の人間の強さじゃないわ!」

息着く間もなく、教会の扉がバンと開いた。

お姫様「すごーい、本当に転送されてる。肉眼じゃ追えなかったよ」

お姫様「あれ、あんた達もどうして?」

お姫様は勇者と遊び人を見た。

遊び人「くっ……」

お姫様は悩んだ表情をしたあと、言った。

お姫様「もしかしてパーティメンバーだった?どっちに所属してるのかしんないけど」

お姫様「まぁ、雑魚はどうでもいいか」

お姫様は笛を取り出した。

傲慢「言葉が通じなくなるけど、背に腹は変えられないわね」

傲慢が呪文を唱えると、耳の中に水が詰まったような感触がした。

周囲の音が聞こえなくなった。

傲慢「%(O)J」”$(‘%”(!!」

傲慢は剣を構え、お姫様へ突進した。



高速で繰り出される戦闘に、他者の入る余地はなかった。

傲慢が剣で斬りかかろうとするも、お姫様は笛ではじき軽くいなしていた。

戦闘を見守る中、憤怒の勇者が異変に気づいた。

憤怒「$(%“%&‘”)!!?」

憤怒が地面を指差すと、うっすらと魔法陣のようなものが出現し始めているのが見えた。

憤怒は教会の隅へ走り、ぼろぼろの木箱から”憤怒の兜”を取り出した。

お姫様はそれをみやると、嬉しそうに笑った。

傲慢が戦闘する中、3人は外へと出た。

憤怒「お前らは一体!!」

教会の外に出ると、白衣を着た男たちが数名、教会を囲って詠唱を唱えていた。

遊び人「これ、教会ごと、捕縛呪文をかけようとしてるんだと思う!」

勇者「憤怒!!傲慢を外に連れ出すんだ!!」

憤怒「わかった。持っててくれ」

憤怒は兜を遊び人に預け、再び教会の中に入り込んだ。

勇者「処刑の王国の連中か!!」

勇者は白衣を着た男に突進した。

しかし、見えない壁のようなものに阻まれた。

勇者「いって!!なんだこれ!!」

遊び人「詠唱の邪魔をされないように防御壁を張ってるんだわ。ちょっと見せて」

遊び人が勇者のもとにかけより、見えない壁をなぞった。

勇者「硬化の呪文か?」

遊び人「えっと、だとしたら、軟化の呪文で相殺できるけど……」

遊び人「指でなぞると、硬い感触は感じられないわね」

遊び人「…………なるほど」

遊び人「時延化の呪文よ。時の流れを遅くしてるんだわ。だから、時間のはやさが通常の私達が触れようとすると摩擦が生じてしまうの」

勇者「?????」

白衣を着て詠唱を続けていた男は、驚いた表情を見せた。

遊び人「時間を対価にして物体の移動を許してるの。時間の進みが遅ければ、物体はゆっくりとしか動けない。そしてこの壁は、早い時間で動く私たちに、そんなに大きな対価は受け取れませんって拒んでるわけ」

遊び人「仲間と会話したり詠唱のタイミングを合わせるためにどこかに穴はあけてあるんだろうけどね」

遊び人「対処は二つ。この壁の時間を通常の流れに戻すか、私達がもの凄く遅い時間の流れに合わせるか。前者の選択しかありえないけどね」

遊び人が解説しているうちに、憤怒と傲慢と、お姫様が外に飛び出してきた。

その瞬間、教会全体が黄土色の輝きに包まれた。

研究者「ふん、惜しかったな。だが、檻は完成した。あとはもう一度そいつらをこの中に追いやれば終わりだ」

研究者「俺らの仕事はここまでだ。そこの女に防御壁の性質を見抜かれた。あとは任せたぞ」

6人の研究者たちは移動の翼を取り出すと、その場を離れた。

お姫様「ちょっと!!あんた達遅れといて何なのよ!!」

お姫様「まぁいいわ。憤怒の兜も姿を現したし」

お姫様は遊び人の抱える兜を見た。

お姫様「よく考えれば教会に隠すのはいい案よね。だって、非常時に教会に転送されるわけなんだから」

お姫様「それじゃ、頂くわよ」

お姫様は遊び人のもとに歩みだした。

傲慢と憤怒も駆け出そうとするが、見えない障壁に阻まれた。

傲慢は急いで時縮化の呪文を唱え始めた。

お姫様「あいつら良い置き土産を残してくれたじゃない」

お姫様と、勇者と、遊び人が対峙した。

お姫様「さっきから戦闘に加わらない男と村娘の格好をした仲間だなんて、何の役に立つのかしら。航海士か何か?」

お姫様「安心して。死んで教会に転送されても、捕縛されるだけだから。しばらくは死ななくても済むわ」

お姫様「思う存分、戦いましょう」

お姫様が笛を構えた。

勇者「くそっ……時間を稼がないと」

遊び人「勇者、少し持っててちょうだい」

遊び人は兜を勇者に渡すと、前に出た。

遊び人は両手を空中に乗せるように浮かし、祈りを唱え始めた。

お姫様「へえ、魔法使いか何かだったの?」

お姫様「雑魚の呪文なんて興味ないわ。すぐ叩きのめすのみよ」

お姫様は構わず笛に口をあてた。



遊び人「『リコルダーティ』」

遊び人「『スケルツォ』

お姫様は顔色を変え、演奏を止めた。

遊び人「『ベルスーズ』」

憤怒も空気の流れが変わったことに気づいた。

遊び人「『主を失いし旋律の怨嗟よ』」

お姫様「な、なんなのよ、この魔力は……」

遊び人「『大罪の仇讎曲を奏で給え』」

お姫様は恐怖に駆られた顔をし、後退りをした。

遊び人「『Morte』」

遊び人「『Tremolo……』」

遊び人はしゃがみ込み、落ちていた小石を宙に放り上げ、口でキャッチした。

遊び人「…………」

遊び人「……死ね私」

震えながら笛を構えていたお姫様は、きょとんとしていた。

お姫様「…………えっ」

お姫様「えっ、えっ」

お姫様「えええええ!!?」

お姫様「う、うそでしょ!?」

遊び人は赤面しながら、悔しそうに唇を噛んでいた。

お姫様「あはははは!!!うける!!!ちょー笑ける!!!」

お姫様「もしかしなくても、あんた!」

お姫様「遊び人なのね!!」

TIPS

遊び人という職業の者は、基本的に、戦いをさぼる。

とりわけ、戦うなという父の願いを込めて強制転職された彼女は、その度合いが甚だしい。

TIPS

遊び人という職業の者は、基本的に、戦いをさぼる。

とりわけ、戦うなという父の願いを込めて強制転職された彼女は、その度合いが甚だしい。

お姫様「はぁー、びっくりしたぁ。凄まじい魔力の気配を出して禁術を唱え始めるんだもの。はったりがお上手なのね」

お姫様「いつか賢者になれた時に、唱えられるといいわね、遊び人さん!」

お姫様は再びケタケタと笑った。

遊び人「と、唱えたことあるのに……」

涙目の遊び人の背中を勇者はやさしく叩いた。



傲慢「解除できたわ!!」

傲慢と憤怒が駆け寄ってきた。

憤怒「いい時間稼ぎになったぞ」

傲慢「あいつの特性はだいたい見抜いたわ。あとは私たちに任せなさい」

傲慢「広範囲にわたる音の呪文を発動している割には、本人は耳栓の呪文も唱えていない。なのに私達の会話は聞こえてる」

傲慢「音色の範囲に穴があるのよ。音への着色をすれば、攻略できそうだわ」

肩を落とす遊び人の前に立ち、2人の勇者は力強く胸を張った。、

折れた笛が地面に転がった。

お姫様は傲慢に蹴り飛ばされ、教会の中に入っていった。

お姫様「ちくしょお……」

中には気絶して地面に横たわっている神父だけがいた。

お姫様「……う、うぐっ!?」

お姫様はえびぞりに身体を反らせ、硬直した。

お姫様「う、うぐ…!がは…!!」

遊び人は教会の中を見て言った。

遊び人「……何が檻よ。こんなの拷問器具と一緒よ」

勇者「神父気絶してるぞ……」

傲慢「次の対策を練るわよ。この子は何かの時間稼ぎをしているようにしか見えなかったわ」

勇者「さっきの研究者達だけど、この街ごと檻で閉じ込めようとしているんじゃ……」

憤怒「この範囲の街に何かを施そうとしたら軍隊レベルの数が必要だ。それに、街の守護というものは強力で、外部から手を加えるなんてことはそうそうできん」

憤怒「傲慢、頼みがある。傲慢の盾を持ってきて欲しい」

傲慢「…………」

憤怒「僕が憤怒の兜を装備したら、理性を失って、誰にもとめることができなくなる。その時は傲慢の盾を装備した君しか僕を抑えられるものはいないんだ」

傲慢「……わかったわ。でも、時間がかかるわよ」

遊び人「トロフィールームに置いてないですよね?」

傲慢「もうそんなことしてないわよ。誰も興味を引かないような場所に埋めてある」

傲慢「私が取りに行く間、憤怒はこの街を守っていてちょうだい」

憤怒「ああ」

傲慢「それと。あなた達も、城の中に避難しなさい」

勇者「えっ?」遊び人「うっ?」

傲慢「あなた達の戦闘能力はよく知ってるわよ。教会に結界が張られた今、精霊の加護に頼っていられた今までとは違うの」

勇者と遊び人は顔を見合わせた。

憤怒「憤怒の兜を君たちが持っていてくれ。脇に抱えながら戦うことはできない。必要になったときは合図をするから、城からそいつを投げてくれ」

勇者「…………」

遊び人「そうね。勇者、お城の中に入りましょう。敵のいない今のうちしか、城内への橋を渡す時間が取れないわ」

遊び人「行きましょう」

遊び人と勇者が、城の中に戻ろうと歩み始めた時だった。





バチバチバチ。

遊び人「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

遊び人は絶叫した。

勇者「どうした!?」

勇者が遊び人を見ると、右手の小指が焼き焦げていた。

切断された小指の先端からは、電気がぱちぱちとほとばしっていた。

遊び人「いだい!!!いだい!!!!」

遊び人「だずげで!!!いだああああいいい!!!」

遊び人はぼろぼろと涙を流していた。

左手で短剣を取り出そうとしていた。

傲慢「自殺するつもりよ!!今教会に転送されるのはまずいわ!!」

勇者は遊び人を力づくで抑えた。

遊び人「死にだい!!いだい!!!死ぬの!!!」

憤怒「その子を連れて早く城の中へ!!医術師に診てもらうんだ」

勇者「わ、わかった!」

広場には憤怒と傲慢だけが取り残された。

憤怒「何が起きているというんだ……」

傲慢「わからないけれど。私、もう行くわ。一刻も早く盾を持ってこないと」

憤怒「ああ。君も気を付けてくれ。街の外では敵が大勢待機している。できるだけ高く飛んでから移動するんだ」

傲慢「ええ。それじゃあ」

「その必要はないよ」

一人の男が、街に侵入していた。

「これがほしいんだろ?」

傲慢の盾を手に持っていた。。

冷たい風が流れた。

お姫様「あぐ…うがっ……」

「遅れて済まなかったね。物体感知に傲慢の盾が引っかかってね、急遽それを奪うことにしたんだ」

「ここは君に任せてるから、安心していたんだよ」

男は結界の張られた教会の中に平然と歩み入り、お姫様を抱きかかえた。

男の首元ではネックレスのようなものが鈍く輝いていた。



広場に横たわせられたお姫様は、依然としてピクピクと身体を痙攣させていた。

「僕達の王国の者に酷い仕打ちをしてくれたね」

傲慢「あなた、誰よ」

「殺してみれば、少しずつ僕の正体がわかるだろうさ」

「できるものなら、だけどね」

城内にいる者が見守る中、遊び人は痛みに呻いていた。

医術師「敵は近くにいたのかね?」

勇者「いいえ。広場には、誰も……」

医術師「街の外から呪文を放って街人を攻撃できるんなら、魔物は苦労しないよ」

薬剤師「ねえ、よく見せて」

薬剤師は遊び人の手を取った。

薬剤師「……これは」

薬剤師「間違いない。雷撃の攻撃呪文よ」

勇者「雷撃?」

勇者「ば、馬鹿言うなって!憤怒と傲慢が遊び人を攻撃したっていうのか?」

薬剤師「まさか。でも、間違いないわよ。王子様の后を決める筆記試験の内容が気になって、最近勉強していたんだもの」

薬剤師「こんな冗談を聞いたことはないかしら。人間が認知できないはずの魔王城へ侵入する方法にはいくつかあってね。その1つが、魔王城へ帰ろうとしている魔物と自分をヒモでくくりつけるというもの」

薬剤師「自分がいくら認知できなくとも、魔物と結ばれていたら、強制的に引っ張られて中に侵入することができるの」

薬剤師「この子と、この子を攻撃したものは、何かで結ばれていたのよ」

薬剤師の言葉に反応するかのように、遊び人は言葉を発した。

遊び人「見破られていたのよ……私のまじないを……」

遊び人「勇者……あいつが……あいつが来る……」

遊び人「私の里を滅ぼした、あの男が……」

遊び人は起き上がり、城内を移動しはじめた。

勇者「どこに行くんだよ!」

遊び人「上の階へ。あいつの姿を確認できる場所に行きたいの」

遊び人は右手を庇うようにしながら、人混みの中を移動した。

遊び人「ここからなら、ちょうど街全体を見渡せるわ。まだ鍵を返してなくてよかったわ」

遊び人は選考中に使用していた個室の鍵を開けた。

部屋に入り、真っ直ぐに窓辺へと歩いた。

勇者「遊び人、大丈夫なのか」

遊び人「大丈夫じゃないわよ。でも、今は向き合わなくちゃ」

勇者「…………」

勇者は言葉をつぐむことしかできなかった。

遊び人の身体は、震えていた。

遊び人は外を見た。

教会に閉じ込められていたはずのお姫様が、救出されていた。

そして、忘れられない男がいた。

「そんなところにいないで、こっちに来たらどうだ?」

男は遊び人の存在に即座に気付き、広場から大声で呼びかけた。

「今日は婚姻の儀式のはずだったんだろ。せっかくだから、僕達で式を挙げたらどうだ?」

男はにんまりと笑った。

「赤い糸で、長年結ばれていた者同士」

遊び人は、膝から力を失うように倒れかけた。

勇者は遊び人の身体を支えながら、視界の端で、傲慢の勇者が祈りを結んでいるのが見えた。

男は、気づいているのかいないのか、こちらを見つめたままほくそ笑んでいた。

傲慢「滅びなさい!!」

突如、巨大な爆発が起きた。

傲慢の唱えた呪文が、男に直撃したのだった。

傲慢「あれだけ長い詠唱をさせてくれるなんて、どれだけ舐め腐ってるのよ」

煙で視界がくぐもる中、遊び人は叫んだ。

遊び人「……駄目」

遊び人「逃げて!!」

傲慢「えっ?」

傲慢の勇者は自分の胸元を見た。

背後から、剣で貫かれていた。

傲慢の身体は、棺桶に保管され、精霊によって教会に転送された。

神官によって蘇らせられた傲慢は、捕縛の結界に締め付けられた。

「さすが神官だ。気絶しながら勇者を蘇らせるとは。自分の死よりも勇者の蘇生を優先させるだけのことはある」

「それにしてもだ。噂通りで笑ってしまうよ。傲慢の勇者といい、憤怒の勇者の君といい、僕といい。パーティメンバーを3人加えられるにも関わらず、一人で生きようとする。あまりに傲慢だ」

「同じ勇者として、恥ずかしいと思わないか」

憤怒の勇者は、怒りをにじませながら尋ねた。

憤怒「お前は何者だ」

「ある時は処刑の王国の元奴隷だった。ある時は処刑人と名乗った勇者殺しでもあった」

「今ではその処刑の王国も、国民の性質を以て、嫉妬の王国と呼ばれている」

「今の俺を民はこう呼ぶ」

嫉妬「嫉妬の首飾りに選ばれし、勇者と」

TIPS

処刑の王国の元奴隷は、勇者に選ばれた。

1人の女奴隷と一緒に、逃亡を果たした。

時は経ち。彼は王国に戻り、君主として返り咲いた。

大罪の賢者の里を罠に陥れ、嫉妬の首飾りを手に入れた彼は、嫉妬の勇者と呼ばれるようになった。

偉大な存在でありながら、ある目的のために、処刑人と名乗り勇者の捕縛も行っていた。

嫉妬「大罪の賢者の里の残骸を、研究者共とあさり尽くした」

嫉妬「里から少し離れた森の中に、小屋があった。驚くべきことに、そこは俺らの王国の研究員の小屋だった」

嫉妬「そこに埋まっていた研究資料には、研究者の連中共も驚いていたよ。まさか、左遷されていた君の父親が、あれほどまでに深遠な研究を進めていたとは誰も思っていなかったそうだ」

嫉妬「赤い糸の呪文の存在をそこで知った。大罪の賢者の里において、口述で伝えられてきた恋のまじないの呪文」

嫉妬「驚かされたよ。魔力を一切消費せず、マハンシャなどの防御呪文も一切通用しない。また、使用者が解除を命ずるか、被使用者がその存在に気づき解除をするまで、呪文は永続する」

嫉妬「大罪の賢者の一族のみ使用でき、また、可視化することができる。何より、対象として結ばれた相手の、移動に関するコントロールを得る」

嫉妬「人間が魔王城を認知できず、魔族が人間の村や街を認知できないように、赤い糸の呪文は認知不可の領域にある」

嫉妬「俺がたどり着いた暴食の村、色欲の谷、傲慢の街から全ての大罪の装備は奪われたあとだった。そこには必ず一人の勇者と一人の遊び人の噂が残っていた」

嫉妬「俺の到着を、可能な限りコントロールしていたというわけだ。おかげで長い月日を無駄に過ごした」

嫉妬「研究者に俺の非合理的な行動を指摘され、ようやく気づいたよ。恥をかいたものだ。今日という計画の日を迎えるまでは、放置しておいたがな」

嫉妬「この街に侵入するため、精一杯の愛情を込めて、雷撃で解除させてもらったよ」

憤怒「詳しい事情はわからんが……」

憤怒「昨日、お前らが聞かせてくれた通りなら、勇者であるこいつを倒す方法は1つしかあるまい」

大罪の装備を狙うものが現れる可能性について話した昨晩、”精霊殺しの一族”と呼ばれた大罪の賢者の魂を宿した、大罪の装備に関する説明に触れていた。

“大罪の装備には、精霊を破壊する力がある”

憤怒「勇者」

憤怒は振り返った。

憤怒「さっそくだが、今だ」

勇者は憤怒の兜を窓から投げつけた。

憤怒は兜を受け取るなり、身に付けた。

憤怒の勇者は雄叫びをあげた。

遊び人「待って。身に付けたら、暴走した彼を誰にも止められないわよ。嫉妬の首飾りの能力だってわからないのに……」

勇者「憤怒の兜は、一度傲慢の盾に攻略されている。嫉妬の勇者に盾の能力を把握された時点で、負けてしまう」

勇者「考えてる暇はない。今すぐ倒しにかかるしかないんだ」

遊び人「もう一つ気になる点があるのよ」

勇者「何だ?」

遊び人「嫉妬の体内に宿っている精霊の光が、やけに強いの」

幸いにも、憤怒の飛び出しの速度の方が早かった。

嫉妬「……ほお」

嫉妬の腕は引き裂かれ、傲慢の盾は遠くへと吹き飛ばされていた。

遊び人「なんて速さなの……飛行中の目の呪文でも捉えられるかどうか……」

勇者「あの男、防戦一方だぞ」

嫉妬の勇者は、自身の身体を回復し続けるだけだった。

腕をちぎられては再生し、身体を引き裂かれては再生する、ということを繰り返していた。

勇者「大罪の装備を身に着けてトドメを刺せば、精霊を破壊することができる」

勇者「憤怒があいつを倒せば、もう何者も恐れる必要がなくなるんだ」

勇者「遊び人。お前の仇が、今にも討ち取れるかもしれない」

嫉妬「馬鹿みたいな直線攻撃しか来ないが、馬鹿げているほどに強い」

嫉妬はため息を付いた。

嫉妬「これならどうかな」

嫉妬は教会の内部に入っていった。

遊び人「おかしいよ。どうして結界の張られた教会に自由に出入りできるのよ」

勇者「味方が創った結界だからじゃないか?」

遊び人「強力な結界で、そんなに都合の良いものはないよ。実際、お姫様は苦しんでいたでしょ」

勇者「確かに……」

憤怒の勇者は、獣のように重身を落としながら、血走った目で嫉妬を睨んでいた。

僅かに残る理性が、結界に入ることに抵抗をしていた。

嫉妬は遠距離攻撃のための詠唱を唱え始めた。

嫉妬に動きに反応し、憤怒は本能に任せて突進をした。

憤怒「ウゴァアアアアアアア!!!!!!」

教会内部に入った憤怒は、結界により捕縛され、身体を硬直させられた。

傲慢「……憤怒」

同じく結界の捕縛にかかり、意識を失いかけている傲慢が、変わり果てた憤怒の姿を見た。

憤怒「グオアアアアアアアアアアアアア!!!!」

憤怒は傲慢には目もくれず、魔力を力でねじ伏せるように、暴走を続けた。

嫉妬「この呪力に抗うか」

憤怒「グウウウウォオアアアアアアアアア!!」

ピキ、ピキピキ、と、ヒビが割れるような音がした。

傲慢「そのまま……、全部、壊して頂戴……」

憤怒「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

憤怒が身体中の繊維を破壊させながら、力を暴走させ魔力をねじ伏せた。

ガラガラと、崩れる音が聞こえたかと思うと、黄土色に覆っていた建物の結界が崩壊した。

嫉妬「馬鹿げた力だ……」

憤怒は右手を突き出し、嫉妬の心臓部分を貫いた。

バリイイインン!!!

ガラスが激しく割れたような音がした。

勇者「なんだ今の音!教会の中はどうなってるんだ!」

遊び人「精霊が破壊されたのよ」

遊び人は教会を見つめながら呟いた。

遊び人「本当に、終わったの……?」

遊び人「もう、あいつは、いなくなったの……?」



2人は教会を見ていた。

しばらくすると、何かがもぞもぞと動くのが見えた。

傲慢「はぁ……はぁ……」

右手に憤怒の兜を持ち、左手で憤怒を引きずる傲慢の姿だった。

傲慢「私だって、死ぬほど痺れてるっていうのに……」

憤怒「……すまん。だが俺も、死ぬほどの頭痛に襲われてる」

傲慢「おかげさまで、兜を取るスキができたけどね」

勇者「や、やった……!!」

勇者「勝った!!勝ったんだよ!!」

城中のあちこちから歓声の声が聞こえた。


隊長「橋を降ろせ!!城と街を繋げるんだ!!」

隊長「お二人を救出するんだ!!」


薬剤師「傲慢……生きててよかった……」

薬剤師「また2人で、森の中を歩きたいな……」


周りの興奮や安堵の声の中、遊び人だけは表情を変えずに教会を見つめていた。

勇者「どうしたんだよ」

遊び人「暴食の勇者と色欲の勇者が殺害されたという話」

遊び人「嫉妬があの2人を殺害したのだとしたら」

遊び人「こんなに、呆気なく、倒せる相手なのかしら」

教会から出て広場で横たわる2人の英雄。

ぼろぼろになっているお互いの姿を見て、笑いあった。

笑った衝撃で身体が痛み、少し苦痛で顔を歪めながら。



嫉妬「よかった。何かいいことでもあったみたいだ」

嫉妬「俺にも教えてくれないか?」

嫉妬の勇者が平然とした表情で、教会から出てきた。

勇者「馬鹿な!!精霊は破壊されたはずじゃ!!」

勇者「なあ!遊び人!!これは一体……」

遊び人は恐怖の表情を浮かべていた。

遊び人「う、嘘でしょ……」

遊び人「ゆ、ゆうしゃ……」

遊び人は震えながら、勇者の袖をつかんで言った。

遊び人「せ、精霊が……」

遊び人「あいつの体内に、まだ6体も……」

遊び人「精霊の光が巨大だったんじゃない……」

遊び人「7体分の精霊を体内に宿していたのよ……。おそらく、一体が消滅したら、次の一体が出現するように施しているんだわ……」

遊び人「処刑の王国が呼び集め、行方不明になった数多の勇者がいたでしょ」

遊び人「彼らに住み着いていた精霊は」

遊び人「あいつの体内に、移し変えられたってことよ……」




嫉妬「勇者にとっては不幸なことに、時代は常に移り変わる」

嫉妬は語り出した。

嫉妬「精霊を一体所持していれば完全な命を保証されていた時代は終わったんだ」

嫉妬「魔族が創り出した精霊殺しの陣。精霊を切りつけることのできる魔剣」

嫉妬「おまけに精霊殺しの一族なんてのがいると知った。今は一人しか生き残りがいないが」

嫉妬「精霊が多くて困るということはない。数多くの勇者の精霊を奪って、その何体かを俺に宿させた。まだ王国には何体もストックがいるがな」

嫉妬「俺の精霊を一体破壊した罪は重い。君たち二体分の精霊を補填でもしないと気が済まない」

嫉妬はぼろぼろの2人に歩み寄った。

傲慢「まだ六回も殺害しなきゃいけないらしいわ」

城内から大げさなジェスチャーをする勇者を見て、傲慢はため息を着いた。

憤怒「……貸してくれ」

傲慢「そういうと思ったわ」

憤怒「止めるか?」

傲慢「ううん。その代わり、あなたが戦っている間、私も盾を取ってくる」

さきほどの戦闘中に、街の隅みまで飛ばされた傲慢の盾を彼女は見やった。

傲慢「2人で3体ずつよ。がんばりましょ」

憤怒「5体分は倒しておくよ」

傲慢「助かるわ」

傲慢は、憤怒の兜を手渡した。。

憤怒は嫉妬を真正面から見据えた。

憤怒「何をするか、わかっているな」

傲慢「もちろん。ペナルティーを避けるために、普段なら宿屋で休みたいところだけれど」

もはや教会の結界は崩壊していた。

傲慢「いくわよ!」

憤怒は自分の首に剣を突き刺した。

身体は棺桶に保管され、出現した精霊により気絶した神官の前まで転送され、蘇生した。

傲慢は自分の首に剣を突き刺した。

身体は棺桶に保管され、出現した精霊により気絶した神官の前まで転送され、蘇生した。

傲慢「取ってくる」

全快した傲慢は、傲慢の盾を取りに駆け出した。

憤怒「倒してくる」

全開した憤怒は、憤怒の兜を装備した。

憤怒の勇者が背後から嫉妬に飛びかかった。

傲慢「……えっ」

落ちていた盾を拾おうと手を伸ばした時に、自分の両手がなくなっていることに気づいた。

嫉妬「君の恋人にちょっと前に同じことをされたんだよ」

嫉妬を見ると、左手で、ぼろぼろになった憤怒の勇者を掴んでいた。。

憤怒と行動を別にしてから、数十秒も経っていなかった。

傲慢「な、なによこれ……」

死にかけた憤怒と、血のあふれる両腕を見て、傲慢はとっさに回復呪文を無口詠唱しようとした。

しかし、嫉妬の無口詠唱によって、マフウジをかけられた。

傲慢「あ……あ……」

嫉妬「まったくもって、妬ましいよ。憤怒の兜に選ばれたことも。傲慢の盾に選ばれたことも」

嫉妬「君たちの強さもそうだ。今朝までの僕が手にしていなかったものを、君たち2人は当たり前のように手にしている」

嫉妬「君たち2人の関係なんて、それこそ、吐き気がするほどにね」

嫉妬は兜をかぶったままの憤怒の頭を掴むと、電撃を流し始めた。

憤怒「ぐぉおおおあ!?」

嫉妬「街が認めた支配主を、支配することが一番楽な崩壊方法だ。まぁ、魔物にはできない芸当だけどね」

城下町を覆っていた特殊な結界が、ぱらぱらと崩れ落ちていった。

荒野を彷徨っていた魔物たちは、目の前に人間の住処があることを認識し始めた。

嫉妬「研究者以外は、まだ街に入ってくるな。その代わり、城の周りを囲うように並べ。人間を一匹たりともこの領域から逃すな」

魔物に指示を出す嫉妬のもとに、研究者が駆けつけてきた。

嫉妬「こいつらを王国まで連れて帰れ。自殺をさせないように拘束させながらな」

嫉妬は兜を取ると、憤怒を無造作に投げ飛ばした。

お姫様「嫉妬……様……」

倒れていたお姫様が、嫉妬に話しかける。

嫉妬はお姫様のもとに歩み寄った。

嫉妬「よくやった。君のおかげで僕は夢へとまた一歩近づいた」

お姫様「お、お許しになってくださるのですが……この弱き私めを……」

嫉妬「何を罰することがある。君は僕の国において、最高の音色を奏でる術士だ」

お姫様「嫉妬様……」

お姫様は感動で涙を流していた。

嫉妬はお姫様に様々な治癒呪文を施した。

お姫様はよろけながらも、再び立ち上がった。

嫉妬「研究者が開発したさっきの結界は厄介でね。通常呪文では痺れを完全には治せないんだ」

お姫様「いえ、充分でございますわ」

嫉妬「城のあそこから僕らを見ていた、冒険者2人を捕縛するのを手伝ってほしい。間違いなくやつらが暴食の鎧と色欲の鞭を所持している」

嫉妬「今日は人生最良の日だ。大罪の装備が4つも手に入るのだから」

嫉妬とお姫様は、城に向かって歩み始めた。



薄れ行く意識の中、傲慢は、ぼろぼろになった最愛の人を見つめた。

傲慢「二人とも、ここまで強くなったのにね……」

ふと、以前に傲慢の街のコンテストで優勝した遊び人を蔑んだことを思い出した。

傲慢「私達こそ」

傲慢「運の良さが、足りなかったかしら」

遊び人「あいつらがこっちに向かってくるわ。逃げなくちゃ」

勇者「どうやって」

遊び人「お城の屋上に行って、移動の翼でどこか遠くに……」

勇者はかつての暴食との会話を思い出した。

『空から降り注ぐ雷撃の呪文を使用する勇者を相手に、そんな愚かな逃亡を図ろうとする勇者がいるとはな』

勇者「駄目だ。嫉妬の勇者は雷撃の呪文を使用できる。空から発動することも可能なはずだ。それに、結界の解かれた今、鳥系の魔物が周辺を旋回しているはずだ」

遊び人「どうするのよ」

勇者「僕達といったら、あれしかないだろう」

勇者「屋上に向かうまでは、正解だ」

遊び人「……くっ!!」

勇者「大丈夫か!?」

遊び人「きっと、遊び人を対象にして感知呪文を発動してるのよ。こんな職業の人、そうそう多くはないでしょうからね」

遊び人「でも、もしも私以外に遊び人がいたら、殺されてしまうわ。ハズレを見つける度に殺していけばやがて私にたどり着くもの」

遊び人「ねえ、勇者……」

勇者「君の好きなようにやれ」

勇者は遊び人を見透かして言った。

遊び人「まったく、そんなにやさしかったら、いくら死んでも足りないわ」

遊び人は涙を堪えながら、所持していた拡声石を取り出した。

遊び人「私達が屋上に逃げることを伝えるわ」

お姫様「まさか、本当にいるとはね。呆れるわ。選考中から馬鹿だとは思ってたけど」

城の屋上にて、4人は対峙した。

嫉妬「そこの男の情報はあるか」

お姫様「ただの冒険者よ。ええーっと、航海士だったかな」

お姫様「あっ、でも、もしかしたらさっきの2人のパーティだったかも。あまり確認してないですけど……」

嫉妬「足らない人物に変わりは無い。問題はあの遊び人だ」

嫉妬「賢者の里の生き残りの少女が、こんなに大きくなったとはな。感激するぞ」

嫉妬は称えるように言った。

嫉妬「そして、賢者にふさわしき知恵をあの頃既に供えていた。最後に俺の手を握った時、命乞いの同情を引くためにそうしたのかと思ったが。赤い糸の呪文を発動させていたとはな」

嫉妬「だが、残念なことに、お前らの冒険もここで終わりだ。大方、その袋の中に大罪の装備を封印している壺があるのだろう」

遊び人「…………」

嫉妬「選べ。俺達の奴隷になるか、俺達に殺されるか。それとも、今ここで戦うか」

勇者「…………」

戦う、という選択肢はありえなかった。

嫉妬の首飾りの能力を見せつけられ、仮にここで暴食の鎧と色欲の鞭を装備しても、勝ち目がないことは完全にわかっていた。

嫉妬の質問に答えず、勇者は話しだした。

勇者「城内に逃げ、追い詰められた民達は、ここから脱出する手はずになっているんだ」

勇者「普通の人間同士の争いであれば、充分過ぎる道具が袋詰にされて保管されている」

お姫様「さっきから、一体……」

お姫様の視界に、白い羽根が浮かんできた。

お姫様「移動の翼?嫉妬様が何の呪文の使い手か……」

勇者「俺達は」

勇者と遊び人は短剣を取り出した。

勇者「俺達に、殺されることを選ぶ」

勇者は短剣を自分に突き刺した。

遊び人は短剣を自分に突き刺した。

2人の身体は棺桶に保管されたあと、即座に精霊によって教会に転送された。

お姫様「姿を消した!!」

お姫様「精霊の加護!!そんな、ありえない!!」

お姫様「私と戦闘した時、勇者感知をしたけれど2人しか引っかからなかったはず!!」

お姫様「嫉妬様!!お許し下さい!!私にはどういうことか!!」

嫉妬「……ふん、なるほど」

嫉妬は蔑みの表情を浮かべた。

嫉妬「精霊の加護こそ所持しているものの、勇者ですらなかったということか」


教会に転送され、勇者は目覚めた。

ふらふらの頭で勇者は思考を回転させた。

勇者「もしも、嫉妬も自殺を試みたら、即座にここに……」

遊び人を蘇らせる時間などなかった。

教会内には、気絶している神官だけがいた。

勇者「…………」

勇者の中に、黒い感情が流れた。

この神官を殺害して、もう一度自殺を試みれば、最後に訪れた街で蘇ることができる。

傲慢の街を出て憤怒の城下町にたどり着くまでに、小さな無名の村を経由していた。

精霊の転送に勝る移動手段はなかった。

勇者「そうすれば、確実に……」

棺桶の中に入っている遊び人を想った。

彼女のやさしさに救われたことを思い出した。

勇者「……やさしくなんかないよ、俺は」

勇者「戦わないことを許してくれた君に、報いたいだけだ」

勇者は教会を飛び出すと、移動の翼を大量にばらまいた。

回転する景色の中で、不思議と嫉妬が追いかけてきていないことに気づいた。

空を旋回していた魔物に追従されながらも、勇者は移動の翼をばらまき続けた。

精霊の加護によって繋がれた棺桶と、勇者は、行く宛もなく飛び続けた。

心細い思いをしながらも、勇者は遊び人を蘇らせなくてよかったと思った。

蘇らせる時間もなかったのだが。

もしも彼女が蘇っていたら。

今、勇者が涙を流していた姿を見られてしまっていただろうし。

それ以上に、遊び人は深く悲しんでしまったであろうから。



暴食の勇者。

色欲の勇者。

傲慢の勇者。

憤怒の勇者。

それらの街に住んでいた人々。

大罪の装備と、2人に関わった者達は、嫉妬の王国に囚われ。

残酷な末路を、迎えてしまった。

勇者「あの子一人が長生きすることを望むことが、そんなに罪深いことなのかよ」

勇者「答えてくれよ、神様」



傲慢の勇者達&憤怒の勇者達 ~fin~

ご支援ありがとうございました。

またしばらく書き溜めます。

娯楽商品があふれる時代に、このSSを読んでくれて本当に嬉しいです。

次回は怠惰の話と勇者と遊び人の出会い等。

おやすみなさい。

『不老不死』

身の丈に合わぬものを、手に入れようとしてはいけない。

言われるほどには理不尽でない、因果応報の成り立つこの世界では。

与えた分だけ返ってくることがあるように。

奪った分だけ、奪われる。

【第6章 強欲の街『欲望に伸びる腕輪』】

神は二つの事を禁じられた。

自殺をすること。

不死を望むこと。

遊び人「……ここは、どこ?」

蘇生されたばかりの遊び人は痛そうに頭を抑えながら尋ねた。

勇者「教会だよ。『庭の宝の村』という場所の」

遊び人「……ごめん、色々有りすぎて、頭がごちゃごちゃしちゃってさ」

遊び人「憤怒と傲慢の勇者と一緒にいて。それからお姫様が裏切って。そして、あいつが現れて……」

勇者「無理するな。宿屋に行ってゆっくり休もう」

遊び人「何言ってるの。ゆっくりしてる場合じゃないでしょ。今すぐにでも」

勇者「もう終わったんだ。落ち着ける場所で、頭を整理しよう」

遊び人「勇者はそうやって、いつもいつも問題を先延ばしにして……」

遊び人は怒りを込めた口調で言いながら、頭痛を堪えながら勇者を見上げた。

遊び人「……勇者!!」

勇者の顔色は、不健康に青白くなっていた。

身体は傷だらけで、頬も痩せこけ、目に隈ができていた。

勇者「俺達は敗北したんだ。逃げ切れたのは俺達だけだ」

勇者「やつらの魔物から逃げるのもぎりぎりだったよ。いつもならかすり傷程度で棺桶送りだったけど、自分の中に眠る精霊に保護しなくていいと願ったんだ。付近の教会に敵が配置されていたかもしれなかったから」

勇者「おかげさまで、この有様だけど、逃げ切ることができた。ろくに呪文の力を貸してくれないくせに、こういう願いばっかり聞き届けてくれるんだから」

勇者「とにかく、遊び人も無事蘇生できて……よか……」

勇者は言い切らぬ内に、地面に倒れ込んだ。

遊び人「勇者!!」

遊び人は勇者のそばに寄った。

勇者の呼吸は浅く、早かった。

勇者「……ここまでの輸送料、500Gな」

遊び人「馬鹿なこと言ってないの。肩を貸して。宿屋まで連れて行くから」

遊び人は勇者の身体を支えた。

勇者「…………」

勇者「……ごめん」

遊び人「何を謝ってるのよ」

勇者「……弱くて、ごめん」

遊び人は言い返そうとするも、胸に何かが詰まり、口をつぐんでしまった。

口を開くと、涙が溢れてしまうと思った。

お互いの弱さを補う合う、なんていうのは、強い部分を1つは持っている2人組だけの特権で。

弱いだけの2人にとっての助け合いとは、ただ交代に傷つくということだけだった。

~宿屋~

ろくに身体も拭かぬまま、ベッドに倒れ込み、2人は身体を休めた。

幾らか時間が経った頃、遊び人が喋りだした。

遊び人「勇者、起きてる?」

勇者「…………」

遊び人「なんだか、疲れてるのに眠れないね」

遊び人「ほんと、なんなんだろうね。よくわかんないね」

遊び人「生きるって、なんなのかなぁ」

遊び人「私の一族が寿命を望んだばっかりに、多くの人の命が失われてしまった」

遊び人「私という人間が一人生まれなかったら、失われずに済んだ命を数えてみたら、けっこう多そうだった」

遊び人「このまま寝ちゃってさ。次起きたら全部解決してるといいな」

遊び人「例えば、私が勇者にこんなお願いをするの。眠っている私を殺して、起きるべき時になるまで棺桶の中で死なせててって」

遊び人「ある時、目覚めたら、勇者が全部を解決してくれてるの」

勇者「俺が何も解決しないまま、100年経っちゃったらどうするんだよ」

遊び人「死んでる間に年を取っちゃうなら私も死んでるだろうけど」

遊び人「もしも、今の年齢のまま目覚めたとしたら」

遊び人「勇者のいない世界で一人目覚めても、独りぼっちで苦しいだけだな」

遊び人「生きてても、死んでても、苦しいね」

遊び人「はは。ごめんね、暗いね。夜に考え事をしてもよくないね。もう寝るね」

勇者「…………」

勇者「……ふわーあ」

遊び人「おはよう」

勇者「おはよう。えっと、今は……」

勇者がベッドから起き上がると、もう昼下がりの時間になっていた。

勇者「やべっ、俺どれだけ寝てたんだ……イテテテ!!」

勇者は全身に痛みを感じた。

遊び人「疲労が溜まってるんだから無理しないで。日付確認して驚いたよ。何日間不眠不休で移動してたのよ」

勇者「逃げるのに必死で……。それより、早く残りの大罪の装備を入手しないと……イテテテ!!」

遊び人「そこの人、動かない!」

起き上がろうとする勇者に遊び人は注意をした。

遊び人「昨日私に言ったことを思い出してよ。落ち着いて、まずは、体力つけないといけないでしょ」

遊び人「ご飯用意するから待っててね。といっても、店主に貰ってくるだけだけどね」

遊び人は部屋を出て、階下に降りていった。

勇者は窓の外を見た。

偶然たどり着いた土地だったが、身なりの良い住民が多く、風情のある景観だった。

冒険者なのだろうか、小金持ちそうな商人や、屈強な戦士も多く歩いていた。

勇者「みんな、立派に生きてるな」

勇者「精霊の加護がなかったら」

勇者「一体、俺には何が残るんだろうか」

独り言をつぶやいていると、ドアが開いた。

遊び人「おまたせ。味には期待しないほうがいいかな。でも残さず食べてよね」

しなびたパンと、食用の野草という、質素な食事だった。

自分が寝ている間に、遊び人も同じ物を食べていたのだろう。



思い返せば、この子にまともな食事をさせてあげたことがどれだけあっただろう。

まだ暴食の村に着く前の頃も、金銭的な余裕などなく、いつも安い宿屋の安い部屋で、2人でしなびた食事を摂っていた。

それでも遊び人が食事中に楽しそうに話をするものだから、陰鬱な気持ちにはならなかったのだが。

憤怒の王子から多額のお金を貰ったお陰で手持ちは多いものの。

道具を買ったり、装備を買い替えたりするのにお金が必要になるかもしれない。

遊び人の蘇生なんて特に多額の費用がかかる。

赤い糸の制約がなくなった今、無駄なことはしていられない。

今までは、遊び人の赤い糸の呪文によって、嫉妬の勇者の認知・移動に関してコントロールを行うことができていた。

嫉妬の“認識不可の領域”を操り、巧妙に大罪の装備の探索に遠回りをさせ、嫉妬の周囲の部下ごと非合理的な移動を繰り返させた。

赤い糸が焼き切られた今、嫉妬は制限なく大罪の装備を探すことができるようになった。

以前よりも遥かに短い時間で、残りの大罪の装備のある場所にたどり着くだろう。

遊び人こそ、呪力に対する感性は最高峰の逸材であり、大罪の装備から溢れ出る呪力を感じ、且つ装備の影響によって急激な変化を遂げた街や村の噂を分析し、短い期間で大罪の装備の居場所を特定することができていた。

居場所の特定に関しては先んじている今のうちに、一刻でも早く装備の場所に立ち寄りたかった。

何もかもが、切羽詰まっている。

~翌朝~

遊び人「変わった村だね。1件1件の建物の裏に小さな果樹園みたいなのがある。昔読んだ本に書いてあったけど、庭って呼ぶんだって」

勇者「へぇー。いい眺めだな」

遊び人「さて。今日は情報収集がてら、2人で小さなクエストでもこなしましょうかね」

勇者「でも、そんなことしてる場合じゃ……」

遊び人「勇者だって全快じゃないでしょ。身体を慣らさないと」

勇者「……そうだな」

遊び人「勇者はどれを選ぶの?」

勇者「……古い地図の更新の手伝いかな。洞窟マップ造りとか」

遊び人「そう。私は薬草摘みに行ってくるね」

勇者「わかった」

2人は別々に受付に行った。

遊び人は薬草詰みのクエストを受注した。

勇者「…………」

勇者は大型キメラ討伐のクエストを受注した。

「あなた、作業を中断して。今すぐ医療所へ向かってちょうだい」

遊び人「えっ、私ですか?」

村人からの報せを受けて、遊び人は指定された場所へと向かった。




「おい、あんたがこいつの仲間か!?」

遊び人「勇者!!」

身体が傷だらけになった勇者がベッドに横たわっていた。

「ろくに戦力にならねえくせに上級クエストに挑むんじゃねえ。たまにいるんだよな。集団クエストに参加しておこぼれに預かろうとするやつが」

「気絶してるだけだから、あとはあんたが面倒を見てくれや」

クエスト参加者達は文句を吐くと去っていった。

遊び人は倒れている勇者を見る。

治癒呪文が施された痕跡はあるが、対峙した魔物が特殊な毒でも持っていたのか、治癒に時間がかかっているようだった。

遊び人「どうしてキメラ狩りなんかに挑んだのよ」

勇者の体内に宿っている精霊は、小さく光り続けている。

遊び人「こんなに傷を負ってたら、いつもならすぐに肉体保護の棺桶が現れるのに」

遊び人「精霊様。勇者は、あなたに何を願って戦ったんですか」

遊び人は治療にかかった料金を支払い、勇者を担ぐと、宿屋へと戻った。

勇者「……はっ。ここは。教会……?」

遊び人「おはよう。宿屋だよ」

勇者「あれ、俺、たしか……イデデデ!!」

遊び人「動かないで。今日こそは絶対安静だからね」

勇者「遊び人、ごめん。俺は……」

遊び人「病人は黙って寝るのが仕事だよ」

遊び人の強めの言葉に勇者は口を閉じた。

遊び人「ちょっと外に行ってくるね。昨日のクエストの続きがあるから」

そういうと、勇者を残して出ていった。

勇者「……はぁー。死んでしまいたい」

勇者は、惨めな思いを抱えた。

恥ずかしくて、情けなかった。

戦闘から逃げ続けてきた弱い自分を克服したい、という思いが今更になって芽生えて。

いざ強敵に挑んだら、惨敗してしまった。

勇者「当たり前だよ」

勇者「今までみんなが毎日コツコツと積み重ねてきたものを、数日間の覚悟で越せたら苦労しないよ」

勇者「覚醒なんていうものは、積み重ねてきたものの特権で」

勇者「逃げ続けてきた俺の中には、そもそも力なんて眠っていないんだ」

勇者「精霊の加護を取り除いたら。俺は、空っぽなんだ」

暴食、色欲、傲慢、憤怒、四人の最強の勇者が勝てなかった嫉妬の勇者を相手にしているというのに。

勇者でもなんでもない、普通の人間が挑んでいたクエストさえ攻略できない自分は。

大切な者を守ることなんて、到底できやしないだろう。

勇者「俺こそ、なんで生きてるんだろうな」

劣等感に打ちひしがれながらも、勇者はいつしか眠りについていた。

物音が聞こえ、目を覚ました

窓の外を見ると夜になっているのがわかった。

音の正体を探ろうと首を動かすと、小さなあかりだけを灯して遊び人が机の上で何か作業をしていることに気づいた。

遊び人「…………」

大きな木箱に入った無数の小枝からきのみを剥がし、丁寧に皮を剥き、色ごとに分類をしていた。

道具屋が依頼をかけている小さなクエストを、黙々とこなしていた。



作業に集中している彼女の横顔を見る。

小さな灯りのなかで、地味で、退屈な作業に一所懸命に集中している。

普段ろくでもないことで言い争っているせいか、あまり意識はしてこなかったが。

綺麗な顔立ちだった。

加えて、呪文に関する知識も、歴史や自然に対する知識も深い。

どうして彼女は自分なんかと一緒にいるんだろう。

彼女は遊び人で、自分は精霊の加護がついているからだろうか。

世界には、自分より頼れる冒険者など、星の数ほどいるというのに。

遊び人「勇者、起きた?」

視線を感じたのか遊び人は作業をとめて、勇者のもとまで寄ってきた。

勇者はとっさに目を瞑り、そら寝をした。

遊び人「あれ、気のせいか。ここんとこ無理してたもんね」

遊び人「具合はどうかな」

ふと、冷たい手の感触が額にあてられた。

遊び人「どれどれ」

遊び人「うん、熱はなさそう」

ほっとしたような声が聞こえた。



とっさに寝たふりをしてしまった勇者は、緊張しながら目を瞑り続けていたが。

遊び人はベッドの脇から動く気配がなかった。

目を瞑っていても、強い視線を感じ、焦りで不自然に動いてしまいそうだった。





しばらくすると、遊び人は再び言葉をかけてきた。

遊び人「ねえ、勇者」

遊び人「がんばらなくても、いいからね」

やわらかい声色だった。

遊び人「私にだけは正直に伝えてね」

遊び人「駄目なものは駄目、無理なものは無理、ってさ」

遊び人は、んふふ、と笑うと、椅子に戻って作業の続きをした。

せめて。

役立たずだと、失望してくれたら。

諦めたよと、ため息をついてくれたら。

やさしさに、ここまで胸が張り裂けそうにはならなかったのに。

~翌朝~

遊び人「それじゃあ、行きましょうか」

2人は村を出て、移動の翼を取り出した。

遊び人「魔王消滅の噂の時期に急激に変化した都があるの。それに、大罪の装備独特の魔力の気配を感じる」

遊び人「もっと準備を整えてから行きたいところだけど、やつらに先を越されないように急ぎましょ」

翼に念を込め、2人は飛び立った。

遊び人「……あれ」

目的地付近に降り立った時、遊び人は不思議そうな顔をした。

勇者「どうした?場所を間違えたか?」

遊び人「ううん。装備の気配は確かに強くなってるし、間違いはないんだろうけど」

遊び人「この場所、見覚えがある気がして……」

勇者「里を出た後に訪れたのか?」

遊び人「里を出てからもあちこちまわったけど、ここら辺りには近づかなかったな。強い魔物も多い地域だし」

勇者「じゃあ小さい頃とか?」

遊び人「生まれてからずっと里育ちだよ。里の結界から出ると寿命の放出が凄かったんだもの。今でこそ遊び人に強制転職されたおかげで大分ましになってるけど」

勇者「とにかく入ってみるか」

勇者「すいません、ここの名前は……」

案内人「ここは強欲の都だぁああああああ!!!」

遊び人「どのような都市で……」

案内人「勇者が都長を務める欲望に塗れた都さぁああああ!!!!」

案内人「案内料200Gいただこうかぁああああああ!!!」

遊び人「馬鹿言うんじゃないわよ!払うわけないでしょ!!」

案内人「盗っ人だぁああ!!!情報の盗っ人が現れたぁああああああ!!!誰かお金を取り返してくれぇえええ!!!」

遊び人「ちょ、ちょっと!!わかったわよ!!払うわよ!!」

遊び人は200G手渡した。

案内人「へっへっ、毎度あり」

道具屋「いつもうるさいんだよ案内人。騒音料300G払いなさい」

案内人「そっちこそいつも陰気に商売しやがって!!静音料400G払いやがれ!!」

道具屋「なんだと。侮辱料で500G払って……」

遊び人達はにげだした!

勇者「いきなりとんでもない目に遭ったな。払う必要あったのか?」

遊び人「多分なかったと思う……。でも、大罪の装備の影響で、この国のルールがどれだけ非常識なものになってるかもよくわかんないし」

遊び人「強欲の都。案内人という職業の者にとっては良い商売のできる場所ね。なにせ、町の中で冒険者と一番最初にコンタクトを取れる職業だもの。最初にぼったくりできるわけよ」

勇者「まあ実際、貴重な情報は手に入った」

勇者「この都の長が勇者だと言っていた。おそらく、その勇者が持っている大罪の装備の影響で、この都は強欲な発展を遂げたんだ」

勇者「それにしても、どうやって強欲の勇者様とお近づきになろうか」

遊び人「堂々といけばいいじゃない。もう、奪ったり盗みに行くんじゃないんだから」

勇者「……それもそうか」



今までの冒険は、遊び人が7つの大罪の装備を身につけることを第一に考えていた。

他に大罪の装備を所持している勇者達がどんな人間性であるかもわからず、黙って盗めるのであればそれが一番であった。

里を滅ぼした男が嫉妬の装備に選ばれており、勇者達を殺してきた現状を見れば、もうこれは彼女達だけの問題ではなくなったといえる。

強欲の装備を持つ勇者と出来る限り情報を共有し、嫉妬を打ち倒すのが最善策に思われた。

遊び人「でも、大丈夫かな」

勇者「何が」

遊び人「強欲に選ばれた人よ」

遊び人「それこそ、大罪の装備を望むような人格かもしれない」

勇者「…………」

大丈夫だよ、なんて気軽に言えなかった。

なんとかなるよ、なんて励ませなかった。

全てを覆せるだけの力がなかったから。

全然大丈夫じゃなくて、なんともならなかった今があるのだ。

実力の無い今は、それでも黙って進むしか無い。

遊び人「あの、すいません」

遊び人は荘厳な建物の入口に立っている兵士に尋ねた。

兵士「何だ」

遊び人「都長に謁見したいのですが」

兵士「他所の国の遣いのものか?」

遊び人「はい。私は傲慢の街の遣いのものです」

勇者「私は憤怒の城下町の遣いのものです」

兵士「悪いが、遠国のことはあまり詳しくないんだ。用件はなんだ」

遊び人「強欲の装備の件についてお話したいと伝えてくだされば」

兵士「なんだそれは。まあいい。ついてこい」

兵士「伝言を頼んでおいた。しばらく待っててくれ」

建物の中に入ったあと、小さな部屋で待たされた。

遊び人「王国とはまた雰囲気が違うね。さっき通ったエントランスの材質も大理石だった。この危険な地域で栄えてるだけあるね」

勇者「ただ品物の物価が高いのは困りものだけどな。ここの周囲に街が少ないから、冒険者は嫌でも買うしかないんだろうけど」

兵士「田舎者かお前らは。そんなみすぼらしい装備でここまで来る冒険者なんて滅多にいないぞ」

遊び人「遣いの者に失礼なこと言ってくれるわね」

兵士「はは。悪い悪い。俺も元冒険者で、田舎から出てきたんだよ。それ、皮のドレスだろ。懐かしくなっちまった」

勇者「あなたもどうしてこんな地までやってきたんだ?」

兵士「貧しい村で育ってな。まずは裕福な隣町に行こうって決意をして。隣町で働いてから、さらに裕福な街があることを知って。気づいたら、パーティ組んで、冒険に出ていたんだよ」

勇者「そうだったのか。パーティメンバーは解散したのか?」

兵士「いいや」

兵士は憂いを帯びた顔で答えた。

兵士「全員魔物にやられて死んじまった。俺だけ逃げ延びたんだ」

勇者「わ、わるい……」

兵士「もうずっと前のことだ。あんたが気にすることじゃない」

兵士「あんたらも装備を買い替えな。値段は高いが、優れた材質の装備がこの都にはたくさんある」

兵士「金より、命の方が大切だろ?忘れちゃ駄目だぜ」

その時ドアが開いた。

兵士2「お二人方、私についてきてください。都長直々にお話しされたいとのことだ」

勇者「わかりました。ではまた」

兵士「はっ」

かしこまって敬礼をする兵士を後にし、二人は部屋を出た。

強欲「率直に言わせてもらう。お前らは傲慢の街の使者でも、憤怒の城下町の使者でもないな?そう名乗り出たと聞いたが」

遊び人「はい」

強欲「お前たちは何者だ?何故大罪の装備について知っている」

遊び人「事情があって、世界に散らばった大罪の装備を集めています」

遊び人「しかし、現在は、傲慢の街の勇者と憤怒の城下町の勇者は、嫉妬の王国の勇者に捕縛されました。装備を奪われ、おそらく、殺されているでしょう」

強欲「そしてお前らは憤怒の街から無事逃げ出したと」

強欲の勇者はにやりと笑っていった。

勇者「どうしてそれを……」

強欲は、束になった羊皮紙をめくった。

強欲「そこの女性は、憤怒の勇者の嫁候補に立候補したみたいじゃないか」

遊び人「はい。正直に申し上げますと、それは憤怒の装備を手に入れるためでした。しかし、殺害へは無関与であり、全ては嫉妬の王国の……」

強欲「どうでもいい。それより、湯水の国の姫君とは話したか」

遊び人「えっ、はい。どうして」

強欲「俺達の都と湯水の国の繋がりは深いからな。貿易による繋がり、というだけだが」

遊び人「ではあれは、本物の姫君だったのですか?」

強欲「そうだ。自ら名乗るなど愚かなことだが、遠国だからと高をくくっていたのだろう」

強欲「湯水の国の姫君はある日を境に姿を消した。国の警護は厳重である上、姫君自身が音色を操る最高峰の術士であった。身代金の要求もなく、誘拐であるとは考えにくかった」

強欲「姫君自身の望みで、王国を出られたのだろう」

遊び人「一体、何を望んで」

強欲「さあな。だが、1つ言えるのは」

強欲「嫉妬の首飾りを持つ勇者は、心に闇を持つ者を手懐ける魅力を持っているということだ」

強欲「奴には2人の強力な従者がいる。どちらも女で、そのうちの一人が姫君というわけだ」

強欲「魔王の四天王といい、悪い奴らは強力な部下を揃えるのが趣味の1つなのだろう」

強欲「憤怒の城下町が侵略されたように、俺達の都にも奴らの手が確実に延びている」

強欲「嫉妬の首飾りは、7つの大罪の装備の中で頂点に君臨する。このままのんびり待っていれば、俺も殺されかねない」

強欲「あいつらに関する情報をできるだけ教えてくれ」

遊び人「……勇者、怪しいよ」

勇者「どうした?」

遊び人「この人知りすぎている。大罪の装備が7つあることも、嫉妬の装備が首飾りであることも、普通は知らないはずだよ?」

勇者「だとしたら、こいつは嫉妬の王国と繋がって……」

強欲「おいおい、よしてくれ。手の内を隠している時間はないだろう」

強欲は呆れた顔をした。

強欲「まあ、お前の言う通り、確かに嫉妬の王国との繋がりはある」

遊び人「やっぱり!!」

強欲「扉の前で聞き耳立てるくらいなら、入って来たらどうですか。嫉妬の王国の元研究者さん」

強欲「それとも、孫娘のことが心配でしょうがない、錬金術師のお爺ちゃんと言ったほうがいいかな」

扉が開いた。

錬金「……急に呼び出すから何かと思ったぞ、馬鹿勇者め」

強欲「彼女たちが行方をくらましてうろたえていただろう。見つかってよかったじゃないか」

遊び人「うそ……あなたが……」

錬金「初めて会ったのは赤子の時じゃったな。里の中で、短い時間だったが」

錬金「里が滅ぼされたと聞いた時は、絶望したものだった。立派に生きていてくれて、嬉しいぞ」

遊び人「お父さんの、お父さんですか?」

錬金「お爺ちゃんで構わんよ、孫娘よ」

遊び人は、ワッと泣き出し、老人に抱きついた。

老人もやさしく彼女を抱きしめた。

里を出てから、初めて会えた親族だった。

都の周辺に辿りついたとき、遊び人は不思議と懐かしさを感じていた。

それは、遊び人のお父さんがこの辺りの風景を描いた絵や、薬草辞典の本などを里に置いていたからなのだろう。

勇者は奇跡的な再会を、ただ感動しながら眺めていた。

それに気づいた錬金は、表情を変えて睨んできた。

錬金「愚か者!!」

錬金が手をかざすと、勇者の身体が吹き飛ばされた。

羊皮紙の書類が舞い散った。

勇者「グボォ!!」

遊び人「お爺ちゃん!!」

強欲「部屋の中でやめてくれ……」

錬金「なんたる脆弱!!なんたる浅学!!」

錬金は遊び人から離れ、壁に叩きつけられた勇者の元に詰め寄ってきた。

錬金「この子を危険な目に遭わせおって!!精霊の加護がついているからと安心していたが、勇者ですらないそうではないか!!」

錬金「お前たちの旅路の噂を集めていたぞ!!棺桶を引きずる遊び人のオナゴの噂がどれだけ世界に散らばってると思ってる!!嫉妬の王国に対抗するために集めていた情報だったが、それらの噂が全てわしの孫娘のことだったとはな!」

遊び人「どうして私がお父さんの子だってわかったんですか」

錬金「嫉妬の王国の魔物の中には、わしらの国のスパイの魔物もおる。鳥系の魔物が多いんじゃが、何匹かの羽毛に”集声石”を隠している」

錬金術師は石を取り出し、念を込めた。

石から遊び人の声が響いた。

『リコルダーティ・スケルツォ・ベルスーズ』

『主を失いし旋律の怨嗟よ』

『大罪の仇讎曲を奏で給え』

勇者「これは、遊び人が憤怒の街で唱えようとした呪文……」

錬金「呪文の詠唱は個人によってやり方にアレンジが加わる。禁術ともなると無口詠唱で唱えるのは難しい。そこで、有口詠唱をするとなると、精霊への敬意の示し方に使用者の癖が見られるようになる」

錬金「『大罪の』という枕詞を付けたな。あの里の十八番とも言える言葉じゃ。ノーマルの人間ならまずつけることもないことばで、つけても効力を発揮しない」

錬金「この術自体は、遥か昔に魔王討伐を果たした勇者一行の術士が創造したと言われているものじゃ。こちらノーマル側の一部の人間しか知らぬもので、賢者の里で知っているものもそうはいまい」

錬金「わしの息子が持ち帰った本に書いてあったのだろう」

錬金「私達と通じている嫉妬の王国の研究者も言っていた。大罪の賢者は消滅し、ノーマルは殺されるか王国に拉致されていたと。そして、わしの息子の亡骸を見たところ、強制転職の痕跡があったとも」

錬金「もしかしたらと思っていたよ……。本当に、生きていてよかった……」

遊び人「お爺ちゃん……」

『……死ね私』

遊び人「……………」

勇者「あっ、これは石を投げて口でキャッチした時のイデデデ!!足、足痛い!!」

強欲「不思議な縁があるものだ。おかげで話は早く済んだ」

強欲「俺の持つ『強欲の腕輪』を近々やつは奪いに来る。この都でやつの息の根をとめる」

強欲は懐から、黄金色の鮮やかなブレスレットを取り出した。

遊び人「それが、強欲の腕輪……」

強欲「悲しいことに、俺の存在は勿論、この大罪の装備は既に感知されている。つい先日にその痕跡を見つけた」

強欲「感知呪文対策はしていたし、今まではそれで防げていたんだがな」

勇者「それはきっと遊び人が、赤い糸の呪文で嫉妬をコントロールしていたおかげだ。大罪の装備を認知不可の領域に持ってこれていたんだ。けれど今は、呪文を破られてしまって……」

錬金「……愚かなことをするわい。敵との絆を作るなんて、どこでアダになるかわからんぞ」

錬金は頭を抱えた。

強欲「次に嬉しい報せだが、やつがこの都に侵入してくる日も大方把握できている。嫉妬の王国に我々の味方がいるからな」

勇者「二重スパイの可能性はないか?」

勇者は手を顎に乗せ、鋭い眼光で指摘した。

遊び人「何か酔ってるよ……」

強欲「強欲の都で長をしている俺だ。信頼等という尺度は持たない代わりに、利害関係は熟知しているつもりだ」

強欲「それに、わが都きっての優秀な占い師もいる。緻密に準備して、返り討ちにしてやるさ」

遊び人「二つの大国の全面戦争になるのかしら」

強欲「そうはならない。俺だけをターゲットにした暗殺だ」

強欲「この戦いは詰まるところ、大罪の装備を奪った者が勝ちなのだ」

遊び人「でも、気になることがあるの。あなたの強さも知らずに失礼なことを言ってしまうけど」

遊び人「奴には絶対に勝てないわ。大罪の装備の中で、嫉妬は頂点に君臨すると言ってもいい」

遊び人「私たちは嫉妬の首飾りの力を見たの。そして、どうしてあいつが精霊を集めて体内に複数宿しているのかの理由もわかった」

遊び人「嫉妬の首飾りはね『一度起きた妬ましい状況を発生させない』装備なの」

遊び人「あいつは一度被害に遭った攻撃に対して、無効化する力を持っているの」



2人は憤怒の勇者に起こった出来事を忘れない。

憤怒の兜を被った彼が、目で捕らえられぬほどの速度で嫉妬に飛び出して行ったものの。

首飾りから冷気のようなものが吹き出し、憤怒を包み込み我に返させた。

遊び人「捕縛の結界の中を自由に出歩くことができたのも、一度その結界内に入ったことがあるからに違いないわ」

遊び人「あいつは一度受けた攻撃に対して免疫を持つの。だからこそ、一度目の攻撃は効いても、二度目は絶対に効かない」

遊び人「精霊を複数体内に宿しているのもきっとそのためよ。精霊殺しの陣、魔剣、大罪の力、今では精霊の加護を打ち砕く手段が複数存在する。それらを克服するためには、当然その方法で一度は破壊されなくちゃならないんだもの」

遊び人「あいつの体内にはまだ6体の精霊がいるの。その腕輪の力で一体分倒したところで……」

強欲「だからこそ、知恵を絞るのだ。さっきも言っただろう、この戦いは大罪の装備を奪った者が勝ちだ。奴の嫉妬の首飾りさえ奪うことができればいいのだ」

強欲「あいつに関する情報を、詳しく教えてくれ」

勇者「こういうの苦手だからお願いしたい」

遊び人「はいよ」

強欲「筆記具も使ってくれ。地形や絵を書きながら説明してくれると助かる」

遊び人は机の上に置いてあった羊皮紙と筆記具を手に取り、語りだした。

遊び人「どこから話し出せばいいかな」

強欲「大罪の装備にまつわる全ての街の記憶についてだ。何か手がかりを掴めるかもしれない」

遊び人「わかった。まずは、暴食の村についてから。ええっと、私は教会で目覚めたところからしか……」

錬金「また死んでいたのか!!お前はわしの孫を常に棺桶に閉じ込めていたのか!!」

勇者「ひっ……」

強欲「構わん、続けてくれ」

暴食の村、色欲の谷について、(恥ずかしい記憶はそれとなく濁しながら)遊び人は一通り記憶を語り終えた。

遊び人「それじゃあ、続いては、憤怒の街での出来事について」

強欲「嫉妬が現れた場所だな。一番詳しく聞きたいところだ」

遊び人「もう知ってるみたいだけど、私たちはまずお嫁さんの候補としての演説会に出場したの。それから……」




遊び人「お姫様との戦闘が終わったかと思った時、私の赤い糸が電撃で焼き切られたの。それであいつは街に侵入してきた」

遊び人「物体感知に傲慢の盾がひっかかったって言ってた。多分、あいつは赤い糸の呪文に以前から気づいていたのよ。赤い糸の呪文は見抜かれた瞬間に効力が切れるものなの」

遊び人「私と会話しているうちに、傲慢の勇者の爆発呪文があいつに直撃したわ。煙がなくなると、傲慢は嫉妬に剣で刺しぬかれていた」

遊び人「最後は教会の内部に入った嫉妬を憤怒が倒して、ガラスが激しく割れた音がした。奴の精霊が砕けた音ね」

遊び人「勝利に喜んだのも束の間。教会から嫉妬が出てきて、やつの体内に精霊が6体いるのがみえた」

遊び人「兜を被った憤怒が再び襲いかかったけれど、あっけなくやられたの。傲慢の盾も使う間もなく一瞬で奪われてしまったわ」

遊び人「それから、私たちは、移動の翼で逃げ出して……」

錬金「もうよい。よく話してくれた」

強欲「…………」

強欲は顎に手をあて、深く考え込んでいるように見えた。

遊び人「今の話を聞いて何かわかった?」

強欲「話を聞いてもわからぬことは多いが。手が語ってくれたことはある」

遊び人「手?」

遊び人は自分が描いた数々の図を見た。

その中でも嫉妬との戦闘シーンを記した図を見ると、嫉妬の移動にある特徴が見られた。

遊び人「……全然気づかなかった」

勇者「嫉妬の行動範囲が、ほとんど教会付近だ」

強欲「どういう訳かわからんが、教会の中に入ろうとしているように見える。傲慢の爆発が起きてから憤怒と戦うまで」

勇者「捕縛の結界があるからじゃないか?」

強欲「やつにとって教会にいることは何か意味があるのかもしれない、力を引き出すとか、弱点を防ぐとか」

強欲「爆発が最初に起きたと言ったな。嫉妬は確かに死んだのか?」

遊び人「煙がたっていたからなんとも」

強欲「妙だな。嫉妬の首飾りは無効化する装備なのだろう。だとしたら、爆発そのものを防ぐのではないのか」

遊び人「爆発が効かない身体になるのか、爆発そのものを抑えるのかは私達にもわからないわ」

強欲「もしかしたら、直撃していたかもしれんな」

強欲「なにせ、通常呪文で倒されたところですぐそばの教会ですぐに復活できるのだ。嫉妬のパーティメンバーは他にはいないと聞いている。」

強欲「首飾りの乱用をしたくないのかもしれない。大罪の装備の使用は術者の寿命を食らう」

強欲「自分が浴びる全ての呪文を無効化なんかしていたら、それだけで寿命が大方持って行かれてしまうだろう。奴は麻痺や石化などの状態異常に関する呪文だけに首飾りの能力を使用するのではないだろうか。もちろん、一度でも精霊の加護の破壊を遂げた攻撃に対しても、全て無効化しているのだろう」

遊び人「さっきも言ったけど、あいつの体内にはまだ6つ精霊が宿っているの。そして、憤怒の兜による攻撃はもう無力化されている」

遊び人「嫉妬の首飾りを除いたら、残る大罪の装備は5つよ。それら全てを使用しても奴の精霊を全ては破壊できない」

遊び人「加えて、精霊のストックもあるって言ってたわ。また体内に補充しているかもしれない……」

錬金「それは難しいじゃろう。可能な限り体内に詰め込んだ結果が、今の数のはずじゃ。賢者の石の発明を試みたわしだからわかる」

錬金「半年に1体ほどのスペースじゃろうて。それでも困ったことじゃがな」

強欲「だからこその、捕縛なのだ。奴の身動きを一度封じ、首飾りさえ奪えれば良い」

遊び人「状態異常の呪文は全て無効化の対象にしているに違いないわ。眠り、麻痺、混乱、そういった意思をコントロールする呪文はきっと効かない」

遊び人「魔法陣による呪縛も無効化の対象にしていたのだから、きっと呪文の捕縛も出来ないわよ」

強欲「大方の攻撃は無意味だろう。だが、奴の装備はこの世の全てを支配する能力を持っているわけではない。勝機は探せばいくらでもある」

強欲「俺は強欲な男なのでな。ここで人生を終わらせるつもりはないんだ」

強欲「さて、今までの旅の状況はわかった。だが、1つ気になることがある。勇者といったか」

勇者「な、なんだよ」

強欲「お前の職業が勇者ではないとしたら。一体、何なのだ?」





勇者「何だろ」遊び人「なんなんだろうね」

強欲「はぁあ!?」

強欲「お前、自分の職業もわからずにずっと冒険してきていたのか!?」

勇者「ずっと昔、旅の仲間と冒険してた時に転職神殿を訪れたことがあったけど、わからないって言われたんだ。イレギュラーな存在だって言われて」

勇者「でも何の能力も発現しないし。自分の適性もよくわからないし。戦術に優れたわけでもないし、呪文もほとんど使えないし」

勇者「困っちゃうよね……はは……」

錬金「こやつ……」

錬金「転職神殿が近くにある!一流の占い師がおるからそこで鑑定してもらえ!!」

錬金「無職だったら何かしらの職業についてこい!!」

勇者「ひっ!!」

遊び人「い、行きましょ!勇者!」

~転職神殿~

勇者「けっこうな人だかりだな」

遊び人「各地から集まっているそうよ。世界にある転職神殿の中でも最も優秀な神官、術士、占い師が集まっているからって」

勇者「それにしても多いよ。みんな自分の職業に満足していないのかな」

遊び人「キャリアアップをしたいんじゃない?」

勇者「賢者とか一流の職業を目指すのかな」

遊び人「だとしたら遊び人になるのかしらね」

勇者「色んなコーナーがあるな」

遊び人「転職相談をしている場所もあるわ。ちょっと覗いてみましょ」



武道家「今まで武道家をしていたんですけど、どう考えても、剣や槍を持った方が強いということに気づきまして……。もう辞めたいです……。毎朝起きた時から憂鬱で……新卒のときを思い出しては、若気の至りで長武器を持とうとしなかったことに後悔していて……」



僧侶「わたし、生まれつき魔力の器が小さくて。すぐ尽きてしまうんです。だから結局、呪文じゃなくてやくそうを使って仲間を回復してるんです。これだったらもう僧侶やめたほうがいいなって」



盗賊「犯罪じゃないですか。僕らの職業って。まずいなって、ふと気づいたんです」




勇者「人の悩みはそれぞれだな」

遊び人「みんな深刻な表情ね」

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくおねがいします。

遊び人「あっちでは面接をしてるね。こちらも覗いてみましょ」



面接官「自己紹介をお願いします」

踊り子「私は踊り子と申します。故郷で飲食店を中心に働いていました。食べるという目的で集まった人達を、演技によって一層食事の時間を楽しんでもらうことに、やりがいを感じていました」

面接官「なるほど、素敵な経験ですね。それでは、僧侶への志望動機をお願いします」

踊り子「はい。私が僧侶への転職を志望する理由は、人々のために祈り、より多くの人達への救いに貢献したいと考えたからです。回復手段や補助手段が一層多いことに僧侶への魅力を感じています」

面接官「そうですか。でも、踊り子のままでも味方に回復呪文をかけることはできるんじゃないですか?魔法封じの呪文をかけられても踊りであれば使用することもできます」

踊り子「はい。確かに踊りで回復することはできます。しかし、僧侶のように身体の傷を完全に癒やすほどの力もなく、また、瀕死の者を救う呪文などは使用できません。また、踊りを封じる敵もいるため、その場合は回復手段が失われてしまいます」

踊り子「私は、踊り子という職業を否定するつもりはなく、僧侶を経験してこの踊り子という職業を別の視点で振り返ってみたいと考えています。踊れる僧侶、が私の目指す姿です」

面接官「……わかりました。合否の結果は後日お知らせします。採用、不採用に関わらず1ヶ月以内に連絡致します。本日はありがとうございました。。お気をつけてお帰り下さい」

踊り子「はい。ありがとうございました。失礼します」

遊び人「面接官が満足げな顔してるわ」

勇者「合格したんだろうな」

遊び人「面接の模擬練習もできるみたい。ねーねー、私達もやってみようよ」

勇者「ええー、嫌だよ。ここで見てるからやってこいよ」

遊び人「つれないなぁー。じゃあ行ってくるね」

勇者「志望職種は何にするんだよ」

遊び人「遊び人に決まってるでしょ」





面接官「まずは自己紹介をお願いします」

遊び人「エントリーシートに書いてありますのでそちらを御覧ください」

面接官「失礼しました。それでは、あなたが直近で打ち込んだことを教えてください」

遊び人「はい、私はギャンブルにお金を注ぎ込みました。汗水たらして仲間が魔物を倒して稼いだお金を浪費して、自分の趣味に投資していました。リターンはかえってこず、野宿する羽目に何度もあいました」

面接官「わかりました……。では、あなたを物に例えるとなんですか?」

遊び人「私を物に例えると、やくそうです」

面接官「なぜ?」

遊び人「噛めば噛むほど、味がでるからです」

面接官「それはスルメのことでは?」

遊び人「やくそうだと言ったでしょう!どうしていきなりスルメがでてくるんですか!話聞いてくださいよ―」

面接官「…………」

面接官「最後に何か質問はございますか」

遊び人「はい。食事補助付きクエストの昼食代の支給に関して、昼食を取らずに私的に利用することは可能でしょうか」

面接官「あくまで労働者の方が昼食を摂取することを目的とした支給ですので、適切な使い方をして頂きたいというのが我々の気持ちでして……。他に質問はございますでしょうか」

遊び人「着替えの時間は勤務時間に含まれますでしょうか」

面接官「それに関しては……」

遊び人「また、入社三年目で退職した場合、退職金はどのくらい出るでしょうか」




遊び人「やった!!合格間違い無しだって!!ここ近年で最高得点だって言われた!!」

勇者「お前の右に出る遊び人はそんなにいないと思う」

遊び人「えへへ」

勇者「意外とやってみたら俺も行けたりして」

遊び人「おっ、やる気でてきたかな?」

勇者「でもこういうの苦手だしさ」

遊び人「やめとく?」

勇者「子供じゃないんだ。たまにはリーダーらしいところ見せてやろうかな」

遊び人「おお!」

勇者「ここで見ててくれ」



面接官「はーいつぎー。自己紹介してー」

勇者「し、しつれいじまず!!」カクカック


遊び人「(めっちゃあがってるじゃん……)」


面接官「希望する職業は何?」

勇者「はい、私は」

面接官「っていうかさ、レベルも20にも達していないのに転職できないよ」

勇者「(うっ、これ圧迫面接だ……)」

面接官「まあいいや、あなたのことを聞かせてよ。あなたをものにたとえるとなんですか」

勇者「わ、わたしは潤滑油です!!」

面接官「何故?」

勇者「なぜなら、人と人との間をぬるぬる、ぬちゃぬちゃ、効率よくぬちゃぬちゃ、することが得意だからでしゅ!!」


遊び人「(噛んだ……)」


面接官「私にはそうは見えないけどなぁ」

勇者「ど、どのように見えましゅか?」

面接官「見る限り、武道の心もない。神に対する信仰心もない。精霊に対する敬意も勿論見えない」

面接官「その割には中途半端に善意の心も持ち合わせている。盗みの心もないし、詐欺の心も無い」

面接官「戦士にも、武道家にも、魔法使いにも、僧侶にも適性がない。農夫、道具屋、盗っ人、商人も難しいだろうな」

面接官「最後になんか質問ある?」

勇者「……いいえ、ありません」

面接官「採用の通知については1ヶ月以内にお知らせ致します」

遊び人「あっ、勇者が肩を落としてこちらに歩いてくる……」

主婦A「最近の若い人たちは、やりたいことばかり口にして、すぐにやめちゃうっていうからねえ……」

主婦B「石の上にも3年って言う言葉もあるのにね」

勇者「うっうっ……乗せてくれる石もねぇんだよぉ……」ポロポロ…

勇者「職業選択の自由はどごにあるんだお……」

遊び人「勇者!泣かないで!一旦世間から逃げましょ!」

勇者「うう……」

勇者「今度こそ頑張ろうと思っでだのにぃ……」

遊び人「勇者は何もわるくないよ!!世間、政治、経済、社会がわるいのよ!!」

勇者「ビェええエン!!!」シクシク…

遊び人「ううう泣かないでぇ…」



勇者たちはにげだした!

勇者「俺なんか無職がお似合いなんだ……」

遊び人「元気を出して」

勇者「このまま都に帰るの嫌だなぁ」

遊び人「あれ、勇者。あそこにあるのって」

勇者「占い師がいるみたいだな。俺は占いなんて信じねーぞ」

遊び人「でも凄い人気みたいだよ。そういえばお爺ちゃんも、この都には優れた占い師がいるから会いにいけって言ってたじゃない」

勇者「本当に占いなんてあたるのかよ」

遊び人「私は占い好きなんだけどな。ねっ、ちょっと行ってみましょ」

勇者「ええー……」トボトボ…

勇者「やっと順番まわってきた」

遊び人「よろしくおねがいします」

占い師「あらあら、よろしくね」

遊び人「この人が職業のことで悩みを抱えているんです。相談に乗って頂けませんか?」

勇者「遊び人、ちょっと待てって。占って貰う前に、本物の実力持った占い師なのか証明して貰わないと。例えば、今俺たちが持っている所持金の額を当ててもらうとかさ」

遊び人「何言ってるのよ!」

占い師「申し訳ないけど、それは出来ないわ」

勇者「ほらな」

占い師「額はわからないけれど。最近まともな食事を摂っていないようね。肌に表れているわ。冒険者の身なりをしている割には、装備も安価なもの。あなた達のお金の使い方は特殊なようね」

勇者「…………」

占い師「私は目の前の人の生い立ちもわからなければ、水晶玉の中に未来を見る力もない」

占い師「その代わりに、人を見る勘にかけては長けていると自負しているわ。占いって、本来そういうものだとも思ってるの」

占い師「ほら、あそこで面接を受けている人をみてみなさい」



女盗賊「僧侶への転職を希望するわ!!僧侶ならみんな安心して近寄ってくるし、盗み放題、騙し放題に違いないんだもの!!人を騙すにはまず見た目からよ!!」



占い師「彼女の未来は明るいと思う?暗いと思う?」

勇者「暗いだろ。神の遣いを偽って人を騙したことがばれたら、殺されかねないぞ」

占い師「ほら、あなたにも未来が見えた」

占い師「自然の成り行きに未来は通じる。今自分の瞳に映る光景を適切に判断することは、未来予知と一緒よ」

占い師「それはパーティメンバーのリーダーこそ、最も数多く、そして責任を抱えてやっていることでもあるわ」

占い師「かつて偉大な勇者様もこうおっしゃっていたわ。自分の仕事はただ二つの指令を与えることだけだったと。すなわち、『たたかう』か『にげる』か」

占い師「私に任せれば、あなたに関する”自然の成り行き”を見通すことができる。あなたにとって最善な選択を、今この瞬間の状況からきっと判断してみせるわ」

占い師「どうする?『たたかう』か『にげる』か、選んでごらんなさい」

勇者「……こんな長蛇の列に並んで、今更帰るわけないだろ。俺を診てほしい」

占い師「ふふ、そう言うと思っていたわ」

占い師「……それで、あなた自身は、かつての勇者様のようになりたいと強く願っていると」

勇者「はい、そうです」

占い師「……わかりました。診断結果が出ました」

占い師「あなたにふさわしい職業は……」

勇者「…………」





占い師「案内人です」

勇者「はっ!?」

遊び人「案内人って……」

占い師「村や街の入口付近で立っている住民のことです。『ここは○○の村だよ!』というセリフパターンが多いですね」

遊び人「適性があるとは、どういうことでしょうか?」

占い師「あなた達が出会った案内人の中には、個性がある者もいたでしょう」

遊び人「確かに、暴食の村の案内人は食べ物を食べていたし、色欲の谷の案内人は変な椅子に乗ってたかな……。傲慢の街については自慢気に語られて、憤怒の城下町ではいきなり怒ってきたし。強欲の都の案内人からはお金をふんだくられちゃったよ」

占い師「その街がどういう街かを示すのに、彼らは素晴らしい仕事をしていたと言えるでしょう」

占い師「周囲の環境を自分に反映させるという能力において、彼らは人より極めて優れているのです。そして、あなたも」

占い師「今すぐ、案内人の募集をかけている場所に行きなさい。仕事を始めたその日から、あなたは頭角を現すでしょう。もしかしたら、世界中の案内人の誰よりも、その才能を発揮するかもしれません」

勇者「ちょっとまってくれ。意味わかんねーよ。そもそも、そんなことに得意な自覚なんて持ったことねーよ」

占い師「自分は根無し草だと、蔑んでいた過去はありませんか?」

勇者「…………」

占い師「欠けていることと、長けていることは表裏一体です。どこにでも馴染めるのは、どこにでも定着できなかったからです」

占い師「あなたは心に柔らかい壁を張っている。人々はそれを突き破ろうとはしないけれど、寄り掛かるにはちょうどいいと感じます。あなたが案内人として住み着いた場所は、人々の交流を盛んにさせ、やがて大きな発展を遂げるでしょう。自分がもう不要になったと感じたあなたは、他の村にまた移動することを繰り返すのでしょう」

占い師「世界中の町村があなたを求めることになりますよ」

勇者「勇者の適性は……」

占い師「そのことについて全く言及しないのは、あなたを傷つけたくないからですよ」

勇者「……わかったよ。ありがとうよ。もう帰るわ」

遊び人「勇者……」

勇者「1つ聞きたいんだけど。あんたが占い師になったのは、自分で自分が占い師として大成する未来が見えたからなのか?」

占い師「違いますよ。占い師として、世界中に共通している定説が1つあるのです。それは、占い師は自身の未来は見通せないということです」

占い師「同情を引くわけではありませんが、占い師は、自身が悲惨な人生を送っている人がとても多いのです。手に入れられなかった経験、認められなかった経験、結ばれなかった経験が、常人とは比較にならないほど深く刻まれていたりするのです」

占い師「どうして占い師は自分のことを占えないのか。それは、都合の良い予防線なんかではないのです」

占い師「とても自身を、直視することなんて出来ないからなのです。優れた占い師は、無数の他者への占いを通して、自身を見ることを望んでいるのです」

占い師「他者は自身の鑑であり、自身は他者の鑑である。そういう意味で、人を映す水晶玉を覗くことは、理にかなっている行為なのかもしれませんね」

占い師「それでは、良き未来を選択することを願っています」

勇者「職業差別なんかいけないっていう価値観は、当たり前のように持ってるけどさ」

勇者「自分が案内人として、村の入口に1日中立ち続けるのが最もふさわしい人生だって言われたら、どうすりゃいいかわかんねーよ」

勇者「それどころか、魔物から逃げに逃げてきたせいで、まだ転職できるレベルでも無いらしいんじゃんか」

勇者「転職できないし、適性あるのは案内人だけ。俺って、何なんだろうな」

遊び人「適性が1つでもあることは凄いことだと思うよ。案内人としては世界で最も優秀な存在になれるかもしれないって言われてたじゃない」

勇者「いいよな遊び人は。昔から賢者の一族きってのエリートだったんだから。他人事だよな」

遊び人「私はそんなつもりで言ったんじゃ……」

勇者「もう罵られてもいいからあの2人に報告にいくよ。僕は一流の案内人になれそうですってさ」

勇者は子供のように露骨に不貞腐れて先に歩いていった。



遊び人は呆れたりはしなかった。

これが憤怒の街を訪れる前であったら、遊び人もつられて不機嫌になっていたのかもしれないが。

人は自分の弱さや臆病さを、怒りで押し隠す不器用な生き物であると、今までの冒険を通して学んでいた。

能力を否定されることほど、男性にとってつらいことはない。

やさしい心を持っている勇者は普段、表ではなんでもなさそうにヘラヘラ笑っていても。

夜の布団の中では、ちゃんと一人で傷ついている。

遊び人「他人事じゃないよ」

遊び人「この職業になって、何もかもできなくなってから見えてきたことも、ちゃんとあるんだよ」

遊び人「何もできないというあなたが、それでも何かは成し遂げようと頑張ってくれてる姿、ちゃんと見ているつもりだよ」

遊び人は不貞腐れた子供のもとへ、走っていった。

~夜 宮殿内~

強欲「またせたな。ここのところやることがあまりに多くてな。もちろん嫉妬の王国に関する仕事だが」

強欲「さきほど占い師と話をしていた。そういえばお前らも昼間、彼女にあったそうだな。不機嫌にさせたようで申し訳ないと言っていたよ」

勇者「別に……」

強欲「嫉妬との戦闘の日に関して、情報の更新があったそうだ。今日から一月ほど経った頃になるそうだ。その日が嫉妬にとって最も暗殺をしやすい日にあたるとのことだ」

遊び人「なにそれ。だったらその日が訪れる前に、こちらから仕掛ければいいじゃない」

強欲「占いによって未来は変わらない。占い師によれば、それが俺達にとって最も防衛しやすい日でもあるそうだ」

勇者「占いさまさまだな。どうせどちらが勝つかの予言はできないって言うんだろう」

不機嫌そうに言った勇者に、錬金が睨みつけて返答した。

錬金「彼女にできるのは今を把握することだけじゃ。スタート地点に双子の子供が並んでいるのを見ることはできても、どちらが先にゴールするかは予測できまい」

錬金「わしらが今成すべきことは、不確定要素の多い未来に対し、勝利の可能性をできるだけ積み上げることじゃ」

錬金「と、いうことで、案内人の貴様」

勇者「案内人じゃねーよ。仕事についてないから無職だよ」

錬金「徹底的に鍛えてやる。精霊の加護を持つ貴様は必ず戦闘の要になる」

勇者「なんだよそれ。急に言われても」

強欲「錬金、孫娘に関わることだからといって感情的になるな。勇者、これはお互いにとって全く悪い話しじゃない」

強欲「もしもお前らが根無し草なら、俺達の都の住人になれ。無謀な冒険もここで終わりだ」

勇者「何言ってるんだよ!そしたら遊び人は……」

強欲「大罪の装備については俺もこの爺さんから話を聞いている」

強欲「7つの大罪の装備を揃えたら、遊び人、あなたに70年分ほどの寿命を吸わせよう。そのあとは全ての装備を俺に預けてもらう。俺は大罪の装備の力を利用して、世界を統一する」

強欲「俺の父親は魔物に、母親は人間によって殺された。俺はくだらない争いの起きるこの世界を調停する鍵が欲しいんだ」

強欲「俺らの仲間になってくれ、勇者、遊び人」

~宮殿裏 寮~

寮母「今日からここがあなた方のお家です。男子寮は手前の建物、女子寮は奥の建物になります」

勇者「うわ、外観からして綺麗だな」

遊び人「本当に泊まっていいのかな……」

寮母「宮殿に勤務する職員の宿舎として使われているの。門限は無いけれど、あまり夜まで遊ばないようにね。私たちはそこの事務所の中にいるから、用があったらいつでも声をかけてね」

遊び人「ついに、私達にもこんな平穏な寝床が……」

寮母「それと、男子寮は女子禁制、女子寮は男子禁制ですので。デートは街中のレストランにでも行ってくださいな」

遊び人「だって勇者」

勇者「な、なんだよそのフリ」

~部屋~

勇者「ふぅー、なんてふかふかなベッドなんだ。寮母さんのご飯も、温かくて美味しかったし」

勇者「宿屋に泊まる時はいつも最安値の場所だったからな。飯もろくなものなかったし」

勇者「俺なんかと冒険させたせいで、遊び人には苦労をかけたなぁ」

勇者「はぁー」

勇者「部屋に一人きりって、変な感じがするな」

勇者「女の子と相部屋なんて、落ち着かないしで、最初はすげぇ困ってたのにな」

勇者「女風呂を覗くのは望んでも、混浴で女性を直視はできないのと一緒だって言ったらドン引きされたんだったな」

勇者「変なところでズボラだったり、変なところで几帳面だったりで、文句の言い合いや我慢のし合いで正直ストレスが溜まることも多かったけど」

勇者「もうそれにも、けっこう慣れてきた頃だったんだけどな」

勇者「さて、明日も早いし寝るか」

~早朝 前~

ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!

勇者「う、うわ!!何の音だ!!」

勇者「机の上からだ!!」

真っ暗な部屋の中を手探りで進みながら、勇者は震える石を手に握った。

勇者「昨日錬金から貰った目覚まし石か!ギュッと握ったら止まるんだったな……。うへー、すげぇ振動」

勇者がしばらく石を握ると、振動は落ち着いた。

勇者「でも、どうしてこんな時間に。まだ日も登ってないし。うう、寒い」

勇者「あの神経質そうな爺さんが時間の設定を間違えるだろうか。ただの嫌がらせをするような人でもあるまいし」

勇者「……もしかして」

勇者「もう出社の時間ってこと?」

~宮殿 地下室~

錬金「待っておったぞ」

勇者「どうしてこんなに早いんだよ。もっと遅くでいいじゃんか」

錬金「馬鹿言うな。時間がないことへの自覚が足らんのか。夜も遅くまで付き合ってもらうぞ」

勇者「修行って何するんだよ。憤怒の勇者も、傲慢の勇者も勝てなかった相手に、俺が一ヶ月訓練したからって何になるんだよ」

錬金「……どこから叩き直せば良いのか」

勇者「こんな寝ぼけた状態で。まともに修行できるかよ。もっと、短時間で、集中的に、効率的に鍛錬してさ……」

錬金「その思考回路の結果が、今のお前じゃろう」

勇者「…………」

錬金「お前が届かないと言っている者達も、決して才能や効率的な努力だけでのしあがって来たわけではない。無駄な時間も、無意味な時間も、常人よりはるかに多く積み重ねてきたはずじゃ」

錬金「その点では嫉妬の者も、勇者に選ばれるだけの素質があったのじゃ。妬みや嫉みを、自分の力に変えてきたのじゃ」

錬金「だが、確かに貴様の言う通り、ちまちまと魔物を倒しても大した進歩はない。そこでだ」

錬金「強欲の都には、嫉妬の王国に引けを取らぬ技術の粋が集められておる。まだ未公表のものも多いが、貴様を確実に強くさせてくれる研究の成果物もある」

錬金「その部屋に入って、兜を身に着けろ」

勇者は大きな牢獄のような部屋に入り、特殊な形をした兜をかぶった。



勇者「あれ!!どういうことだ!!」

勇者「闘技場の真ん中にいる!!」

錬金「その兜には、強欲の勇者の電流が蓄積されておる。今のお前は洗脳されている状態じゃ」

錬金「装着者の脳内に保管されている戦闘の記憶を呼び出すこともできれば、こちらから戦闘データの転送を行うこともできる」

錬金「安心しろ。精霊の加護がなくとも死にはせんし、負けても経験値は手に入る。それも、通常に戦うよりも短時間でな」

錬金「まずは、その過去をやり直してみろ」



勇者はいつの間にか剣を握っていた。

そして、足元には使い捨ての魔法銃と移動の翼が散らばっていた。

勇者「見覚えがあるぞ」

勇者「だとしたら、対戦相手は……」

傲慢「…………」

夜中の闘技場に、傲慢の勇者があらわれた!

勇者「ぶはぁっっ!!!!」

勇者「痛ぃいい!!!だ、たずげで!!!ごろざれるぅうう!!!」

汗だくになった勇者は、兜を外すと同時に床に転がり落ちた。

錬金は呆れた顔を向けた。

錬金「傷1つついてないわい。情けない。もう60回は負けてるぞ。まだ昼にもなっておらんというのに」

錬金「対戦相手のデータは、貴様の記憶と、既に兜に蓄積されている強者のデータの混合物じゃ。当然、オリジナルには遥かに劣る戦闘力のはずじゃぞ」

錬金「さあ、また兜をつけろ。今日中にそやつを攻略する勢いで戦うんじゃ」

勇者「ちょっと、ちょっとまってくれよ」

錬金「一月後に嫉妬を前にして同じセリフを吐くつもりか?『ちょっとまってくれ
、俺がお前より強くなるまで。あと100年ほど』」

錬金「笑わせるわ。さあ、戦って、勝つんじゃ」

勇者は錬金に、何度もそうされたように無理やり兜を被らされた。



結局、勇者は一日中、”精霊の加護の無い状態で殺される体験””を繰り返し、一度も脳内の傲慢に勝てないまま帰路についたのだった。

遊び人「寮母さん、こんにちは」

寮母「遊び人ちゃん、こんにちは」

遊び人「勇者は今部屋にいますか?」

寮母「下駄箱に靴があるか見てごらんなさい。女性は入り口まで入っても大丈夫だから」

遊び人「わかりました」

遊び人「……えーっと、ここかな」

遊び人「あれ、カラだ。今日も外出してるみたい」

寮母「忙しいみたいね。遊び人ちゃんはこれから何か用事あるの?」

遊び人「はい、宮殿の方に呼ばれていて。色んな施設を見学させて貰えるみたいです」

寮母「あら、よかったわね。いってらっしゃい」

遊び人「はい!いってきます!」

勇者「う、うぇ、うぇええ……」

勇者「オェエエエエ!!!」ビチャビチャビチャ!!

錬金「精霊の加護に依存してきた報いじゃ。全ての冒険者は死と隣り合わせの覚悟で戦ってきたんじゃ。嫉妬と戦う貴様にもその覚悟を身に着けてもらわねばならん」

錬金「じゃが、精神の前に、やはり身体面の能力が低すぎるみたいじゃ。肉体を鍛えれば精神も鍛えられよう」

錬金「午後からは別室で肉体の鍛錬じゃ。昼の間に吐瀉物を掃除しておけ。わしゃ飯を食ってくる」

そう言うと錬金は去っていった。

勇者「…………」

勇者「……くそ、ちくしょう」

勇者「死んじまえ。ぶっ殺してやる」

遊び人と冒険していた頃には無かったような、負の感情を勇者は抱えた。

勇者「あれが、遊び人のお爺ちゃんって、本当なのかよ。嘘ついてんじゃねーのか」

勇者「亡くなった奥さんを蘇らせようと賢者の石の創造に狂っていたって聞いたことがあるけど」

勇者「叶わなかった夢の腹いせに、弱い冒険者を虐め抜いている腐れジジィじゃねーか」

勇者は掃除用具を手に取り、悪態をつきながら掃除を始めた。

勇者「ウグァ……!!アアアア!!」

勇者は小さい結界内に閉じ込められ、腹ばいになって呻いていた。

錬金「話で聞いた憤怒の城下町の教会に張られていた結界と同じものを用意した。術士の人数が多いほど力が増すものじゃ。わし一人分の力しかないんじゃからさっさと抜け出せ」

勇者「無理だこんなの……指一本動かすので精一杯だ……」

錬金「口は立派に動いてるじゃないか」

勇者「……なんか、ヒントとか」

錬金「はぁ?」

勇者「ヒントをくれ……相殺できる呪文とか、特技とか……」

錬金「…………」

錬金「お前はそんなことを、わしの孫娘の前でも言ってきたのか」

勇者「……えっ」

錬金「答えをやろう。自殺すればよい。教会に転送されて、あんたは晴れて自由の身じゃ」

錬金「そしたらもう明日から来なくても良い」



錬金はそう言うと、勇者を置いて部屋から出ていった。

~夜~

錬金「……とっくに逃げていると思っていたが」

錬金「この都まで生き延びてきただけのことはあるようじゃ」

勇者「…………」

勇者は気絶をしていた。

結界によって、身体中を床に押し付けられ、かなりのダメージが蓄積されているにも関わらず。

錬金「精霊の加護が出現していないということは、精霊が少しでもこやつを信用しているという証じゃろう」

錬金は呪文を唱えると、結界がガラガラと音を立てて崩れていった。

気絶している勇者に、錬金は気付けの呪文をかけた。

勇者「うう……」

錬金「ほれ、起きろ。今日の訓練は終わりじゃ。早めに返してやる」

錬金「明日は武器と防具の選定じゃ。遅刻するでないぞ」

身体中が激痛に侵されていた勇者は、長い時間をかけて寮までたどり着いた。

身体を洗う気力もわかず、そのままベッドに倒れ込んだ。

気絶しながらも耐え抜いた、という達成感など微塵もなく。

理不尽な痛みに耐え続けている自分に、惨めさと悔しさで涙が出そうだった。

兵士「久しぶりだな」

遊び人「この前案内してくれた兵士さん!」

兵士「元気でやってるか?」

遊び人「はい!色々宮殿の中も見学させてもらいました!」

勇者「…………」

兵士「勇者さん、大丈夫か?」

勇者「ええ、あ、ああ」

遊び人「勇者は最近1日中訓練してるみたいで、疲れてるんだ」

兵士「なるほどな。俺もこの都で働き始めた頃は大変だったよ。鬼隊長直属のチームに所属しちまってな。丸太担がされたり、焼けた地面の上を素足で走らされたり、訳のわからん地獄の特訓を受けたもんだよ」

兵士「まあじきに慣れるさ。今日は俺と散歩するだけだから、身体を休めるといいさ」

勇者「……ああ」

遊び人「こんな上質のローブ買って貰っちゃってよかったのかしら。道具も一通り揃えてもらったし。おいしいごはんまで奢ってもらっちゃって」

兵士「強欲の勇者様が、あんた達の望みは何でも叶えてあげるようにとおっしゃっていた。勇者様の特別な客人に、俺も失礼したな。身なりがあまりにボロボロなんで同じ田舎者出身かと思っちまったよ」

遊び人「あはは、気にしなくていいよ。私が無駄遣いをよくしたもので、装備を買うお金もなくってさ」

兵士「はは、なんつー冗談だ」

勇者「…………」

遊び人「勇者、どうしたの、浮かない顔して」

勇者「……明日からまた訓練が始まる」

兵士「お互い大変だな。宮殿内も最近バタバタしててよ、俺もろくに遊ぶ時間もねぇ」

兵士「まあ自分のペースでやるこったな。そんじゃあ、俺は宮殿に戻ることにするわ」

遊び人「私も宮殿に呼び出されてるの。上級術士の人が里の呪文について詳しく聞きたいんだって。私も都の開発した呪文に興味があるから話だけでも伺いたいなって」

勇者「……そっか」

遊び人「じゃあね、勇者。今日はゆっくり休んでね」

勇者「ああ」

遊び人「それと、この皮のドレス。捨てずに大事に取っておくからね!」

兵士と遊び人は笑顔で勇者に手を振った。



勇者「あの笑顔を守れる可能性が増えるなら」

勇者「それと引き換えに俺が憂鬱になることは、仕方のないことなのかもな」

勇者は重い足取りで寮に帰った。

勇者「…………」

勇者「わっ!!」

勇者「酷い夢見たな……てか、今何時だ!?」

勇者は慌てて布団から飛び出し、外を見た。

街中はまだ真っ暗だった。

勇者「はぁー、よかった。寝坊したかと思った……。二度寝するか」

勇者「…………」

勇者「……神経が張り詰めて、ろくに熟睡もできないよな」

勇者「嫌だぁな。半日後にはまたあの地獄の訓練場にいるんだよな」





~早朝~

ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!

勇者「……時間か」

勇者は石を握りしめ、音をとめた。

勇者「こんな石に無理やり叩き起こされて。ぼこぼこにされるとわかっている場所に自ら足を運びに行く」

勇者「俺が今客人として迎えられてるのも、優遇をきかされているのも、精霊の加護を持つ者として立派に働くことを期待されているからなんだ」

勇者「はぁー、逃げ出しちゃいたいなぁ。みんなの期待を裏切って、案内人として自分のペースで生きていくのもいいかもなぁ」

勇者「ずっと昔にそうやって、仲間を裏切ったように」

勇者「…………」

勇者「はぁー。行くか」