白坂小梅「涼さん、ピアスの穴空けて」 (31)

涼(ある日、「いっしょにホラー映画観よう」と小梅がアタシの部屋に来た)


小梅「ピアスの穴、一個、増やしたい…」

涼(小梅がわりと唐突にそう言う)

涼「ピアスホール?小梅、アンタまたピアス空けるの?」

小梅「うん。欲しい、から…だから…」


小梅「涼さん、ピアスの穴空けて」



涼(小梅がアタシにそうせがんできた)

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涼「あーーっ、えーっと、小梅サン?」

小梅「うん?」

涼「アンタこの前事務所に内緒で勝手にピアス空けて、Pサンに説教されたばっかだろ」

小梅「う、うん…怒られちゃった。でも、あれは、アイドルが勝手にピアス空けちゃダメなの…知らなかった、から」

涼「アイドルは勝手に身体イジっちゃダメなんだよ」

小梅「うん…しばらくは、カフを被せて誤魔化すように、って…」

涼「それで、なんでまた小梅は追加でピアス空けようとしてんのさ?」

小梅「どうせ、怒られるなら…一つ増やしても、二つ増やしてもいっしょ、かなって」

涼「小梅、アンタって結構イイ性格してるよな」

小梅「え、えへへ…」

涼「褒めてねーよ」

小梅「えっとね、だから…涼さんにピアスの穴、空けてもらいたくて」

涼「そこでどうしてアタシが出てくるんだよ…」

小梅「私、じ、自分では、ピアスの穴…空けられないから」

涼「先日やらかしたそっちの耳の穴はどうしたんだよ?」

小梅「これは…美容外科に、行って、空けてもらった、よ?」

涼「なら今回も美容外科に行けばいい」

小梅「涼さんに、空けてもらいたい、のっ」

涼「アタシを共犯にすんなよ。いっしょに説教されちまうだろーが!」

小梅「…………!!」むっ

涼(むくれ面の小梅がアタシの袖をつかむ)


小梅「涼さんが、してくれないなら…舌にピアス空ける、からっ」


涼「!」

涼「……ったく」はぁ

涼「どんな脅迫だよ……」

涼(そんなこんなで、アタシは女子中学生が自分の舌に穴を空けるのを阻止すべく、その女子中学生の耳に穴を空ける事になった)

涼(なんだこれは…)

涼(アタシがしぶしぶ了承し、翌日ピアッサーを買いに行く約束を取り付けるとむくれ面が笑顔になった)


小梅「涼さんほんと?明日?」

涼「ああ、アタシの負けだよ。道具一式は明日買いに行っちまおう」

小梅「え、えへへ…う、嬉しい、な…」にこにこ


涼(そう言うと満足したのか、アタシのベッドに横になり「おやすみなさい」と眠り始めた)

涼(…泊まっていく気らしい。まぁいいけどさ)

涼「やれやれ…どうしてこんな事になってんだ?」

涼「女子中学生ってのはよくわかんねーよなぁ」

涼(と頭を掻きながら自分の13歳を思い出す)

涼(……バカガキだったなぁ、アタシ)

涼「それと比べりゃ小梅は可愛気があるわ」

涼(などと独り言ちながらアタシは冷蔵庫から缶を取り出し、ソファに座る)


小梅「……」zzz


涼(アタシのベッドを占領した彼女の寝顔は無表情で、身体はピクリとも動かない。寝てても徹底してんなコイツ…)

涼「……」

涼(アタシにピアスを空けて欲しい、ねぇ…)

涼(やっぱり13歳はよくわからんわ)

涼(彼女の寝顔を見つめつつそんな考えを巡らせる)

涼(アタシはなるべく音を立てないように缶を開け、中身をすべて飲み干した後眠りについた)

涼(翌朝、小梅は「一度帰って着替える」と言って早朝に帰って行った。なんで泊まったし!)

涼(まぁ夜に送って行く手間を考えれば同じか…)

涼(朝も寮に送って行くか聞くと「あの子が迎えに来てくれたから平気」だそうだ。…朝の明るいうちでも活動的な子なのか)

涼(てなわけで、どうせならピアス用具一式はアタシの部屋の近所ではなく、どっかで待ち合わせして買いに行こうという運びになった)

涼「何着て行こうか…」

涼(小梅の私服のセンスに合わせて…か?ならそれなりにカッコつけた服着ないと立場ねーんだよなぁ)

涼(あのおしゃれサンめ!服に迷うだろーが!)

涼(小梅はちょっと遅れ気味に待ち合わせ場所に来た。アタシも遅刻したけど)

小梅「お、お待、たせ…っ」

涼「アタシも今来たとこ。行こうか?」

小梅「うんっ。ね、ねぇ、涼さん…」

涼「ん?」

小梅「手、つないでっ、歩き、たいっ、涼さんと」

涼「手ぇ?あー、結構人通りも多いもんなぁ」

小梅「うん。えっとね、人混みで、はぐれちゃう、かもしれない…よ?」

涼「ああ…それもそうだよな。じゃ、しっかりくっ付いてこいよ?」

小梅「やっ、た!え、えへ…」ぎゅっ

涼「あれ?なんか小梅の手良い匂いする…」すん

小梅「あ、これっ、この前買った、こ、香水の匂い…だよっ」

涼「香水買ったんだ」

涼(小梅のやつ、服とかピアスとか香水とかゾンビグッズとかめちゃくちゃ買い物するな。絶対貯金とかしてないわ)

小梅「香水の、色が…血みたいに、真っ赤で…それで、欲しくなっちゃって」

涼「…色で香水選ぶのか」

小梅「へ、変…かな?」

涼「いいや。アタシが13歳の時には香水どころかスプレー缶のデオドラントしか使った事がねーよ」

涼「今日もイカした格好で来やがって。このおしゃれサンめ!」

小梅「え、えへへ…涼さんも、かっこいい、よっ」

涼(なんだか妙に照れくさくなって、とりあえず小梅の頬を指で撫でておいた)

涼(小梅とピアス専門店だけじゃなく、服屋やら本屋、映画館、レンタルビデオ屋なんか見て回った。後半は全部ゾンビ関連だなこれ)

涼(ピアッサーや消毒液等の『中学生の耳に手ずから穴を空けるセット』も無事購入。自分のものもいろいろ買った)

涼(で、今メシ中)

涼「日ぃ暮れてきたな。小梅この後どうする?」

小梅「え?涼さんち、じゃ、ないの?」

涼「あー、そうだな。今日もう施術しちゃうか。スケジュール的には大丈夫なんだよな?」

小梅「う、うんっ。数日はプロデューサーさんに会わないから、怒られるの、は、しばらく先、だよ」

涼「そういうスケジュールかよ…」

小梅「それで、涼さんに、してもらった後は、そ、そのまま泊まっていく…ね」

涼「連夜の外泊っすか。不良の小梅サン」

小梅「一回、寮に帰ってるから、連泊じゃない、よ?」

涼「どんな理屈だ…」

中断

涼(電車と歩きで帰るには二人ともカッコつけた靴履いて歩き回り過ぎた。タクシー乗ろう)

涼(車内で「領収書切りてぇ~!」というケチ臭い欲に激しく駆られる)

涼(だが、これからアタシは事務所の意向に逆らい中学生アイドルに肉体改造を施してしまう身)

涼(これ以上の不義理はできない。どうにかその一点だけは矜恃を貫きたい。…しょぼいプライドもあったもんだな)

涼(小梅は自分が買ったホラー映画の書籍をテンション高めにアタシに読み聞かせる。酔うぞ)

涼(我が家に到着。タクシーに料金を払う間に、小梅に鍵を持たせて先に車から下ろす)

涼(二人して両手に荷物を持ってはドアを開けられない。てかアタシら買い物し過ぎだな)

ガチャ

小梅「ただいま~」

涼「小梅がただいまはおかしいだろ…」

小梅「へへ、へ、荷物、ありがとね、涼さん」

涼「どういたしまして。あ、手洗いうがいキッチンな」

小梅「うん。わかっ、てる」

涼「ふぅ。どっこらしょ…!」ドサリ

小梅「ふ、フフッ、涼さん…どっこらしょだって…!」クスクス

涼「荷物を下ろす時はアイドルだって言うんだよ」

小梅「ううん…この前、あの子も言ってたから、おも、おもしろい、ね…」クスクス

涼「え?もしかして物持てんの…っ!?」

小梅「それより涼さん。私は何を…準備、すれば、いい?」

涼「ん?あ、ああ。ピアスな。えーっと、道具はどの袋だ?」ごそごそ

涼(小梅はもうワクワクして待ちきれないらしい。早速だ)

涼「あった。あー、まず、ピアスを空ける位置を決める。小梅、どっち耳のどこにすんだ?」

小梅「涼さんが決めて」

涼「アタシかよ」

小梅「涼さんに、空け、て、もらうんだから…涼さんが、決めてっ」

涼「…そう言われてもなぁ」

涼「なぁ。ホントにアタシが決めていいのか?」

小梅「うん」こくり

涼「~~~~、せめて右か左は小梅が決めろよ」

小梅「そ、それ、じゃぁ……み、右、右耳、が、いい…」

涼「右か…耳たぶはもう空いてるからなぁ」

小梅「その、隣にっ、に、2個目が…欲しいなっ」

涼(なんだ。だいたい自分で決めてたんじゃねーか)

涼「よし。そんじゃあここら辺だな」

小梅「うんっ、うん…っ!」こくこく

涼「そんじゃ決定。次に…石鹸でよく洗い消毒、か」

小梅「石鹸。薬用の?洗顔の?」

涼「後で消毒するから洗顔でもなんでもいーよ。今日一日歩き回って疲れたし、まずはそうだな」

涼「小梅、シャワー浴びてこい」

小梅「うん。でも、私が先でいいの?涼さん、お先どうぞ?」

涼「いや、アタシ喉渇いた。先に風呂使っていいよ」

小梅「それ、じゃ、お先に、お湯いただき、ます」

涼「どうぞー」

涼(やれやれ。どっと疲れた気がするぜ…まだ一仕事残っているけど)

涼(冷蔵庫…缶はアレしかねーし。水だな)

小梅「涼さーん」

涼「どうした小梅?」

小梅「いっしょに、入ろ?」

涼「入るかっ。耳の石鹸よく洗い流せよ」

小梅「ケチ」

涼「ケチじゃねーわっ」

涼「……ったく」

涼(その後アタシもシャワーを浴びてから、いよいよ本題)

涼(まず無いが、ピアッサーを刺した際に出血する人もいるらしい)

涼(血が垂れてもいいように小梅にはアタシのシャツを着せておいた。ブカブカだな)

涼(と、思ってたら消毒液が垂れて小梅がシャツの裾でキャッチした。け、結果的には役に立ってる!)

涼(穴の位置を再確認してマーキングする。耳たぶに2つ目なのでバランス考えて結構慎重に決めるぜ)

涼(さて、あとはもう施術に入るだけなのだが…)


涼「小梅、心の準備はいいか?」

小梅「う、うん……っ!」ドクン、ドクン

涼(触れた肌からドクドクと小梅の鼓動が伝わる)

涼(めちゃくちゃ緊張してんな…)

涼(小梅のヤツ、今まで何回もピアス空けてきてんだろう)

涼(まったく。これだから13歳はわかりづらい…!)スクッ

小梅「りょ、涼さん…?」

涼「小梅。目ぇ瞑れ」

小梅「え…う、うん…?」ぱちり

涼「あーんして」

小梅「あ、あーーん」

涼「はいっ」


ころん

小梅「ふわっ…!?」ぴくっ

涼「キャンディ。何味だ?」

小梅「キャン、ディー…?え、えと…っ」チュパ

小梅「…はちみつ?」

涼「惜しい!蜂蜜レモン味でした~」

涼「小梅。これからせっかく小梅が楽しみにしてたピアス空けだぜ?ガチガチに緊張してたんじゃ楽しめねーだろ」

涼「飴舐めて、少しは落ち着いたかよ?」


小梅「…………!」

涼(あ、あれ?ハズした…!?)

涼(てか、アタシ、やっべ…)

涼(こ、子供扱いし過ぎたかッ!?!?)

涼(そりゃ!そりゃあそうだよな!?13歳でピアス空けますって言ったらもっとオトナの階段上る的なイベントだよ!)

涼(それをお前…ガキあやすみたいに飴ちゃん舐めさせるって!ダメなやつだわこれは!!)


小梅「フッ、フフッ、あ、あははっ」クスクス

涼「こ、小梅、これはだな…っ」


小梅「ありがと、涼さん」にこっ


涼「えっ?あ、ああ…」

涼(どうやら良かったらしい。ビビらすなよ。心霊以外でまで)

小梅「子供、扱い…して、甘やかしてくれる、の…う、嬉しい…なっ」にこにこ

涼「…そうかよ」

小梅「え、えへへ。あのキャンディ、私のために用意してくれてたの?」

涼「たまたまだよ。アタシは常にのど飴とか持ち歩いてんだ」

小梅「そっか。でも嬉しい…」

涼「どうする?今ならピアッシングやめられるぜ?」

小梅「ううん。やって、欲しい。涼さんにして欲しい、よ」

涼「ん。わかった」

涼(改めて手を消毒し、もう一度小梅の耳に触れる)

小梅「ひゃふっ…!」ぴくっ

小梅「く、くすぐったい…」

涼「さっきまではよっぽど緊張してたんだな」

小梅「うん。さっきマーキングや、消毒でふれられてた時は…全然なにも感じなかったのに」

涼「あんまり動くと狙いがズレる。もう一回緊張させてやろうか?」

小梅「ふふっ、もう、大丈夫、だよっ」

涼「時に小梅。この段になって聞くことじゃないとは思うんだけどさ」

小梅「なーに、涼さん?」

涼「事務所には無許可なわけだけど、ご両親の許可とかは取ったのか?」

小梅「うちの親、ピアスくらいじゃ、なんにも言わないよ?」

涼「へぇ。それじゃあ、中学校の校則でピアス禁止とかされてねーの?」

小梅「されてる、よ?でも…私はそんなの、気にしない、からっ」

涼「不良中学生。やっぱ小梅はイイ性格してるわ」クスッ

小梅「えへへ、えへ…」クスクス

涼「よし」

小梅「うん…」


涼「いくよ、小梅」

小梅「お願い、涼さん」





バチンッ!





小梅「…………っ!!」

小梅「えっへ、っへへ、へ」にまー

小梅「涼さんに、してもらったピアス。嬉しい、な、嬉しい…なっ」にこにこ

涼「そいつは何よりだ。だけどファーストピアスのケアはこれからだからな」

涼「むやみにイジるな。1~3ヶ月は安静にして経過看るから」

小梅「3ヶ月、な、長い…な。早く、好きなピアス、着けたい、のに」

涼「アタシが空けてやったピアスホールで事故りたくない。絶対に変なことしないと誓え」

小梅「約束、します」

涼「よし。じゃあ小梅こっちおいで」

小梅「?」

涼「アタシから小梅にプレゼント」

小梅「えっ!?」

涼「ドクロのピアス。アタシとおそろい。今日の記念にだ!」

小梅「いいの?いいの、涼さんっ!?」

涼「ああ。貰え貰え」

小梅「わぁー、わぁ~~っ!」ぱぁぁぁ

涼「小梅が右耳に着けるんなら、アタシ左に着けようかな」

小梅「嬉、しい…!今、着けてみちゃ、ダメ?」

涼「絶対ダメ。穴が安定するまで絶対安静!」

小梅「1ヶ月っ、1ヶ月、ちゃんと待つからっ」

涼「1ヶ月たって様子みて、安!定!して!たら!だッ!!」

小梅「うぅ~~、長い…」

涼「ノリで今渡したけど、失敗だったな…」

小梅「…ねぇ、涼さん」

涼「さっきちゃんと、穴が安定するまで待つように約束したからな」

小梅「うん」

涼「定期的に看るからイジればわかるぞ?」

小梅「はい。でも、もし…」

小梅「もしも、だよ?約束破って、すぐにこのピアス着けちゃったら…どうなるの?」

涼「その時こそはその舌に穴空けてやる!」


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