幼馴染「ネットをはじめて使います」 (20)

幼馴染「ネットの先生やってよ」

男「いいけど、本当に使ったことないのか?」

幼馴染「ないない。本当に全くないの」

男「授業でも使う機会あったろうに」

幼馴染「怖くて毎回欠席してた。だって爆発すると思ってたんだもの」

男「パソコンが?」

幼馴染「ネットが」

男「んー……うん。とりあえず状況は分かった。まず、ネットは爆発しないから大丈夫だ」

幼馴染「うっそだー、だって炎上とかするらしいじゃないか」

男「それは形容だ。ほら、この問題難しすぎて頭が爆発しそうだー、みたいな。本当は爆発しないけどそう言うだろ?」

幼馴染「あっはは! 頭が爆発する訳ないだろー」

男「ネットも爆発しないんだよ!」

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幼馴染「よし、パソコンを立ち上げたよ」

男「うん、起き上がらせても仕方ないんだ。このボタンを押すんだよ」

幼馴染「あーはいはい。お得意の形容ね」フン

男「言っとくけど一般常識だからな……。じゃあ次にクロームのアイコンを押してくれ。これだ」スッ

幼馴染「よしきた!……あれ、動かないよ?」

男「……ごめん、指で押しても仕方ないんだ。マウスを使ってくれ」

幼馴染「餌で誘き寄せればいいの? チッチッ」ヒョイヒョイ

男「アーーー!!!」

幼馴染「そんなに怒らないでよー。マウスが逃げちゃうでしょ?」

男「逃 げ な い!」

幼馴染「よしよし、パソコンについては一通り分かったよ。これがマウス! で、これがキーボード!」

男「まさか平成の世に原始人がいるとは思わなかったよ」

幼馴染「仕方ないでしょ? だってクラスメートはすまほってやつを指で操作してたもん」

男「それはごめん。もっと言うと、今は指でタッチ操作出来るパソコンもある」

幼馴染「……うー。こんがらがってきた! これが頭が爆発しそうってことか!!」

男「わ、悪かった! とりあえずないことにしよう! 指で操作出来るパソコンはない!」

幼馴染「フシュー……」

男「前途多難だ」

幼馴染「おお、なんかカラフルなロゴが出てきた! オリンピックみたい!」

男「これがGogleの検索エンジン。今は、さっきのアイコンを押すとこのページが表示されるって覚えておけばいいよ」

幼馴染「はーい……ん? エンジン……?」

男「このエンジンが炎上するってことではないからな?」

幼馴染「ほら、映画とかで車が炎上するじゃん!」

男「検索エンジンっていうのは、見たいサイトや必要な情報を探してくれるプログラムなんだ」

幼馴染「ほ、ほう?」

男「分かりやすくいうと、ネットの旅行ガイドさんってところだな」

幼馴染「なるほど! 検索エンジンさん、シチューの作り方を教えて下さい」

男「……うん、喋っても意味はないんだ」

幼馴染「だってすまほって奴で――」

男「ああそうだ、もうこの流れ二回目だな! すまん俺が悪かった!」

幼馴染「ですって。どうします? 検索エンジンさん」ヒソヒソ

男「もう突っ込まないぞ」

幼馴染「なるほど、ここでキーボードを使うんだね」

男「言っとくけど楽器ではないからな?」

幼馴染「ははは! 楽器な訳ないだろー!」

男「……」

幼馴染「ほれマウス、キーボードに文字を打ってくれ」

男「マウスはそんなに万能じゃない!」

幼馴染「――指で打つ?」

男「そうそう。このくらいなら携帯電話でやったことがあるだろ?」

幼馴染「うん! あれは苦戦したなー」

男「ほら、キーごとに文字が書いてあるだろう? 後は打ちたい文字を探して押せばいい」

幼馴染「し、ちゅ、ー、の、つ、く、り、か、た」カタ、カタ

男「よし、打ち終わったら最後は――」

幼馴染「ッ!」ターンッ!

男「おお、Enter知ってたのか!」

幼馴染「いや、なんとなくターンッ! ってしなきゃいけない感じがした」

男「ターンって本能的な衝動だったんだな」

男「これが検索結果の画面だ。この中から好きなサイトを選んでクリックしてみよう」

幼馴染「えぇ……どれでも好きなものを選んでいいの?」

男「? ああ、どれでもいいぞ」

幼馴染「お金は、お金はかからないんですか?」コソコソ

男「もちろん。有料サイトもあるけど、殆どのサイトは無料って考えていいぞ」

幼馴染「素晴らしい! 素晴らしいじゃないか!? ねえマウス!」

マウス「……」

男「……」

幼馴染「あ、でもタダより怖いものはないっておばあちゃんが――」

男「クリィィィック!!!」

幼馴染「わかってるってばーもー」カチ

幼馴染「うわぁ。みてみて! 写真付きのレシピだよ!」

男「ほー。俺もこのサイトははじめてみるけど、結構見やすいんだな」

幼馴染「凄いなぁ。もうこれさえあればコックさんじゃないか!」

男「ははは、楽しめてるみたいで良かったよ」

幼馴染「ん? コメントってなに?」

男「この記事に対しての感想とか、感謝を書き込める機能だ」

幼馴染「へぇ、こんな誰かも分からない人繋がれるって……未来だなぁ」ニコニコ

男「お前が過去なんだよ……」

幼馴染「そうだっ、私もコメントを書いてみたい!」

男「おお、やってみな」

幼馴染「ええっと……」カタ、カタ

コメント「○○県○○市○○区○ー○。幼馴染。17歳。電話番号――」

幼馴染「よしっ! クリッ――」

男「待て待て待て待て!」

幼馴染「今度はなにー?」ジト

男「お前このコメント、個人情報じゃないか!」

幼馴染「あ、身長も書いた方がいい?」

男「なにも書くな!」

幼馴染「身分を明かさないで書き込むなんて失礼じゃないか!」

男「そういう慣習なんだよ! ネットに書き込む内容は、世界中の人が見ることが出来るんだ」

幼馴染「私有名人になっちゃうの!?」

男「ならないようにするんだよ!」

幼馴染「な、なるほど……」

男「うん、個人情報っていうのは本当に怖いものなんだ。ちょっとしたきっかけで漏洩して、事件に巻き込まれるケースもある」

幼馴染「おっかないなぁ」

コメント「HN・O。素敵なレシピをありがとうございました。明日作ってみます」

幼馴染「これでどう……?」

男「そうそう。本名は使わないで、丁寧な言葉遣いをする。これがネットマナーだ」

幼馴染「ッ!」ターンッ!

男「よし、これでコメントに反映される筈だよ」

幼馴染「フゥゥ……なんだかネットって疲れるねー」

男「皆が気軽に使いすぎているんだよ。コメント一つを書き込む時も、相手が居ることを忘れないで礼儀正しくあるべきだ」

幼馴染「なるほどねー」

男「ネットには便利な情報だけじゃない、嘘や危険な情報もあるんだ。それをしっかりと見極めることも大切だな」

幼馴染「ふむふむ」

男「そもそもはじめからそういうサイトは見ないっていう心が――」

幼馴染「あ、そうだ! 2chっていうサイトを見てみたいんだけど!」

男「お前、俺の話聞いてなかっただろ」

幼馴染「壷だ。壷があるよ」

男「これが2chだ。掲示板っていうジャンルのサイトだな」

幼馴染「掲示板?」

男「ああ。さっきのクックパッドみたいなサイトが情報を発信するサイトなら、掲示板は情報を発信し合うサイトってとこだな」

幼馴染「ようするにレシピを教えあいっこできるってこと?」

男「そうそう。レシピを教えあえるし、そのレシピが良いものかどうかを話し合ったりも出来る」

幼馴染「なるほど、主婦の井戸端会議みたいなものだ!」

男「ん、んー……そうだな、うん」

幼馴染「なんか一杯書いてあるんだけど、どこを押せばいいの?」

男「2chはとても大きなサイトで、自分の好きなジャンルの掲示板をみることが出来るんだ。まずは適当にクリックしてみな」

幼馴染「ニュース速報VIP!」カチカチ

男「おお……どうしてまた」

幼馴染「なんかゴージャスな感じがする!」

男「はじめてみる人にはそう見えるんだなぁ」

幼馴染「これが、スレッドっていうの?」

男「うん。今はスレッド=話題っていう風に覚えていればいいよ。このスレは漫画が話題らしいな」

幼馴染「開いたっ。ふむふむ……へえ、あの漫画はクソみたいなクオリティなんだ!」

男「早速情報に流されてるんじゃないっ!」ベシ

幼馴染「いてっ」

男「ネットに書いてあることを鵜呑みにしないで、しっかり自分で考えること」

幼馴染「わ、分かってるよー」

男「まあ、これは何年もネットをやっている人でも難しいみたいだけどな」

幼馴染「難しいんだねー、ネット」

男「難しいんだぞー、ネット」

幼馴染「よし、私も早速なにか書き込んでみる!」

O「皆さんこんにちは。わたしは、今日の猫村さんという漫画が好きです。」

名無し「句読点つけるやつは大体地雷」

名無し「[ピーーー]」

幼馴染「ッ! ……ひどい、ひどいじゃないか!」

男「うん……でもこれがネットの現状だ」

O「[ピーーー]って言わないで下さい。どうして句読点をつけたら駄目なんですか? それに、私は地雷じゃないです」

名無し「そうかそうか悪かった。[ピーーー]」

名無し「ネカマ乙」

幼馴染「ネカマってなんじゃああああ!!!」ガンッ

男「キーボードをクラッシュするな!」ガシ

幼馴染「はなせぇぇ! なんだこらぁ! 地雷じゃなくて人間だ馬鹿やろー!!」ジタバタ

男「ほ、ほら。マウスも見てるぞ!」

マウス「……」

幼馴染「マ、マウス……ごめんよ」

男「うん、お前はこういうサイトに向いてない」

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