高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「探り合いのカフェで」 (55)

――おしゃれなカフェ――

北条加蓮「こんにちは、藍子♪」

高森藍子「こんにちは、加蓮ちゃんっ」

加蓮「4日ぶりくらいだっけ?」

藍子「そうですね。今日も元気そうで、ちょっぴり安心しましたっ」

加蓮「4日くらいでバテたりはしないよ~」

藍子「あはっ、そうですよね♪」

加蓮「……」ニコニコ

藍子「……」ニコニコ

加蓮「……」ニコニコ

藍子「……」ニコニ...

藍子「…………あれ?」

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――まえがき――

レンアイカフェテラスシリーズ第51話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「薄明るい自室で」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「過ぎた後のカフェテラスで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「靄々の桜流しに」
・高森藍子「加蓮ちゃんの」北条加蓮「膝の上に 2回目」

お久しぶりです。

加蓮「何? どうしたのー? んー?」

藍子「いえ……。あれ? ……あれ??」

加蓮「じっと見ちゃって。私の髪に何かついてる?」

藍子「そんなことは……。……すみません、なんでもないんです」

加蓮「ふぅーん」

加蓮「あ、そうだ。今日は――」

藍子「!」

加蓮「何食べる? サンドイッチとか軽い系でもいいしがっつり行ってもいいんだけど、コーヒーだけってのもアリよね」

藍子「……あれ?」

加蓮「はい、メニュー」スッ

藍子「あ、はい。ありがとうございます……??」ウケトル

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「そうだ」(自分のカバンを漁る)

藍子「!」

加蓮「はいこれ。前に借りてたヘアピン、返すね」

藍子「え」

加蓮「ホント助かったっ。衣装に合うのがなくてさー。色々コレクションしたつもりだけど、私もまだまだだったね」

藍子「……役に立ててよかったです……」ウケトル

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「そーいえばさ。プレゼント――」

藍子「!」

加蓮「をファンからもらったんだけど、食べ物系ってNGじゃん?」

加蓮「バームクーヘンを贈ってくれたファンがいたみたいなの。それがすっごくもったいなくてさー」

加蓮「どこのお店のなのか調べるまですっごくかかっちゃった。藍子ってそういうことない?」

藍子「……ないと思います」

加蓮「ホントにー?」

藍子「あったかもしれませんけれど」

加蓮「そっか」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……あの、」

加蓮「も~、どうしたの藍子? メニューを握りしめたまんまで」

藍子「いえ、」

加蓮「のんびり屋なのはいつも通りだし相変わらずノロマで周りに置いていかれないか心配だけどやっぱり藍子は藍子なんだろうなーって思うけど、」

藍子「それは――ってそれ褒めてます? それとも私、貶されてます?」

加蓮「褒めて貶してる」

藍子「どっちですか~」

加蓮「いいじゃん。褒めて貶して。褒め殺しっていうのも疲れるでしょ?」

藍子「私はいっぱい褒めてあげる方が好きかな……」

加蓮「で結局何を注文するの。ほら、あっち見て。店員が直立不動になってるよ。ふふっ、命令を待ってる執事みたい」

藍子「あっ。そうですね。待たせているなら、早く決めちゃわないとっ」パラパラ

加蓮「藍子ってあんまりお嬢様感ないなー。未央や茜と一緒にいるからかなぁ」

藍子「何にしようかなぁ……」パラパラ

加蓮「藍子ちゃんがお嬢様感を出せる相手、募集中~♪ なんてっ」

藍子「決めましたっ。私はホットケーキにします」

加蓮「ひとくち」

藍子「もう、しょうがないですね」

加蓮「やったっ。じゃー私はサラダ小盛りでー。あ、そうだ。藍子にもあげる」

藍子「ありがとうございますっ」

加蓮「すみませーん」

藍子「注文――あ、あの、店員さん? 何かあったんですか? どうしてそんなに、緊張した顔……」

加蓮「ほらほら。きっと藍子が載ってる雑誌でも読んだんだよ。そうだよね?」チラ

藍子「……すっごく首を縦に振っていますね。そんなにしたら、目、回しちゃいますよ?」

加蓮「ホットケーキとサラダ小盛ー。と、アイスティーと……ココア辺りかなぁ」

藍子「あ。飲み物のこと忘れちゃっていました」

加蓮「お願いねー」ヒラヒラ

藍子「お願いします」ペコッ

加蓮「……あーあー。左手と左足が同時に出ちゃってる。(小声で)隠し事の下手な人だ……」

藍子「そんなに緊張させてしまうようなこと、最近あったかなぁ……、……かくしごと?」

加蓮「あ。……あー。ほら、よくさ、マンガとかドラマとか。あるじゃん。ああいうの」

藍子「確かによくありますよね。どんな隠し事をしているのかな……?」

加蓮「隠し事なんだから暴いちゃダメだよー」

藍子「それを加蓮ちゃんが言うんですか」

加蓮「私だからいーの」

藍子「なんだか納得できてしまいますね」

加蓮「~~~♪」

藍子「……」

加蓮「~~~♪」

藍子「……」

加蓮「~~~♪」

藍子「……あ、あの」

加蓮「んー?」

藍子「えっと……。……加蓮、ちゃん?」

加蓮「何ー?」

藍子「……いえ……。何でも」

加蓮「そっか」

藍子「…………」

藍子「…………」

藍子「…………???」


加蓮(……ふふ♪ そうだよね。こんな反応になるよね)

加蓮(誕生日なのに何も言ってこない。私が知ってるってことを藍子だって知ってる筈なのに)

加蓮(別に藍子は主張が弱い子じゃないけど、でもやっぱりこう、あんまりワガママを言ったりはしないんだよね)

加蓮(周りに背中を押されて、色々仕掛けられて、それでようやくモバP(以下「P」)さんに言うって程度)

加蓮(昔はそうでもなかったらしいけどねー……)

加蓮(それはともかく。「あんまり言わない」なら――「言わせたくなる」よね?)

加蓮(ふふふー。先回りして、店員にも頼んだのは成功だったねっ♪)

――回想:約1時間前――

加蓮『すみませーん。アイスコーヒーお願い。……藍子? 後で来るよ。何? そんなに楽しみなの?』

加蓮『だから藍子は私――まいっか。そうだ店員さん。ちょっとお願いがあるんだ。藍子絡みで』

加蓮『……なんでそこで目ぇ輝かすかなぁ。分かりやすすぎ』

加蓮『今日さ、藍子の――知ってる? プレゼントも用意した? そっか』

加蓮『それなんだけど、2つお願いしたいことがあって』

加蓮『まず1つは、私が解禁するまで言わないで欲しいの。……まーまー。そんなに困らせはしないから♪』

加蓮『それから、もう1つは――』

――――。

加蓮『……話が分かるじゃん♪』

――回想終了――


藍子「うーん……」

加蓮(悩んでる悩んでる。さて、どう来るかな?)

藍子「うーん…………」

加蓮(自分が誕生日だってことを素直に言うか。回りくどく来るか。それとも、私が言うのをひたすら待つか)

藍子「ううーん…………」

加蓮(相変わらず藍子は困ってるところも藍子だよね。うんうん)

藍子「ん~~~…………」

加蓮(……困ってるところ、かぁ)

藍子「ん~~~~~~………………」

加蓮(でもさ。私って普段からけっこう藍子のこと困らせたりしちゃうからなぁ……)

藍子「!」

加蓮(うーん……。やっぱり、こういうのは良くな)

藍子「む~」プクー

加蓮「い――……? あははっ、どうしたの。急にぷくーって。何か意地悪されたことでも思い出した?」

藍子「たぶん、今まさにイジワルされてると思うんです。私」

加蓮「店員から?」

藍子「違います」

加蓮「藍子を困らせるなんて悪い人だね。ちょっと文句言ってくる」

藍子「加蓮ちゃんからですよ!」

加蓮「私、何も言ってないよ?」

藍子「何も言っていないからです!」

加蓮「そっかそっか。藍子ちゃんは私に何を言ってほしいの?」

藍子「それはっ、……、…………ぅ~」

加蓮「ふふっ」


加蓮(……やるからには徹底的って言うし? あははっ、いいや♪)


加蓮「あ、店員さんだ――相変わらずロボットみたいな動きしてるね……」

藍子「……」プクー

藍子「……」クンクン

藍子「! ホットケーキのいい匂い……!」ペコリ

加蓮「(単純……)サラダも美味しそー。あれ、前の時よりトマトが増えてない?」

藍子「そうなんですか? あ、本当だ。プチトマトが増えていますね」

加蓮「ここのトマトってなんでこんなに美味しいんだろうねー」

藍子「カフェで食べる野菜って、すっごく美味しいですよね♪」

加蓮「ドレッシングとか切り方とかにコツがあるのかな」

藍子「私も真似して、家でいろいろ試してみているんです。でもどうしても上手くできなくて」

藍子「うぅ……店員さん。せめてヒントだけでも!」

加蓮「……すごく迷って拒否するってことは、このやり取り初めてじゃないの?」

藍子「えへ。だって知りたくなっちゃうじゃないですか。こんなに美味しいんですから!」

加蓮「今度私にも教えてね。……包丁の握り方とか」

藍子「それくらいなら私が教えてあげますから……」

加蓮「猫の手だっけ」

藍子「そうですよ。こう、猫みたいに手を丸くして」

加蓮「猫の気持ちで」

藍子「にゃー♪」

藍子「……って撮らないでください! ニヤニヤしないでください!!」

加蓮「藍子の猫ポーズゲットー♪ よかったね店員さん。良い物見れて」

藍子「うぅ……。加蓮ちゃんのばかぁ……」

加蓮「藍子も店員さんも顔真っ赤だよ。おもしろーい」

加蓮「あ、他のお客さんに呼ばれてるみたいだよ。また後でね」ヒラヒラ

藍子「……ホットケーキ、いただきますね」テヲアワセ

藍子「……」モグ

藍子「……美味しい……♪」

加蓮「あむあむ。……しゃきしゃきー。サラダ美味しー」

藍子「ココアも甘くて、冷たいのにすごくほっこり――」ハッ

藍子「!」

藍子「…………」プクー

加蓮「お。またハムスターになった」

藍子「…………」プクー

加蓮「……ふふっ。ホットケーキ、食べないと冷えちゃうよ?」

藍子「……」

加蓮「出した物は美味しいうちに食べてほしいって思ってるんじゃないかなー」

藍子「……。いただきます」モグ

加蓮「ふふふ」

……。

…………。

藍子「ごちそうさまでしたっ」パン

加蓮「ごちそうさまでした」パン

藍子「ふぅ……。お腹いっぱいで、ちょっぴり眠たくなってきちゃいました」

加蓮「外暑かったもんねー。少し寝てく?」

藍子「それもいいかも……。ここは涼しくて、つい、うとうと――」ハッ

藍子「違うんです! 私はまだ加蓮ちゃんに問い詰めてませんっ! ここで寝る訳にはいかないんです!」

加蓮「何を?」

藍子「それは、…………も~~~~!」

加蓮「あはははっ」

藍子「はあ……。1つ、聞いてもいいですか?」

加蓮「ん。何?」

藍子「加蓮ちゃんって、いい子ですよね」

加蓮「藍子よりは悪い子だけど?」

藍子「私の知ってる加蓮ちゃんはとっても真面目でいい子です」

加蓮「……ならなんで聞いたのよ」

藍子「よくPさんや奈緒ちゃんに、冗談を言ったりして困らせたり……私にも、よくイジワルしますけれど、」

加蓮「ほら悪い子」

藍子「意味もなく周りを困らせるような人ではありませんよね?」

加蓮「……さーぁね。道具を隠したり、できっこないことを無理強いしたりばっかりだったよ?」

藍子「それを悪い子だって言うなら、私だってそうです。私だって、小さい頃はそうでしたもん」

加蓮「藍子が? ちょっとそれは信じられないなー」

藍子「ワガママを言ったり、周りを困らせることを言ったり――」

加蓮「……ふふっ」

藍子「とにかくっ、加蓮ちゃんはいい子なんです。私の知っている加蓮ちゃんは――」

藍子「……いい子だって、信じていいんですよね?」

加蓮「ん……」

加蓮(……………………)

加蓮「藍子」

藍子「はい?」

加蓮「誕生日、おめでと」

藍子「へ? ……え!?」

加蓮「だから、誕生日おめでとう、藍子。ハッピーバースデー」

藍子「…………????」

加蓮「変なことやって困らせてごめんね?」

藍子「……? …………??」

加蓮「この辺が潮時だし。私は藍子のリアクションが楽しみであってさ、困らせたい訳じゃないし」

加蓮「あと……信じてもらえなくなるのって、やっぱり――」

藍子「……何だったんですかこれ~~~~~~~!!!」ガバッ

加蓮「わ!?」

藍子「何だったんですか!? 何だったんですかこれ!?」

加蓮「え、いや何って」

藍子「私、何か加蓮ちゃんを怒らせちゃったんじゃないか、とか」

藍子「もしかしたら夢の中なのかな、とか」

藍子「ひょっとして1日寝過ごしちゃってるのかな、とか」

藍子「色々考えちゃいましたよ!!」

加蓮「そ、そんなに色々考えちゃってたかー」

藍子「色々考えちゃいました!!」

加蓮「あははは……。いやほら、藍子がどういう反応するかな~、なんて?」

藍子「む~~~~~~~」

――10分くらい経ちました。――

加蓮「第2ラウンド」

藍子「第2ラウンド?」

加蓮「ここにピンクのリボンでラッピングされた箱とインディゴカラーのリボンでラッピングされた箱があります」

藍子「ありますね」

加蓮「ちなみにインディゴカラーは藍子にちなんで合わせてみました」

藍子「ありがとうございます♪」

加蓮「この色、好き?」

藍子「好きになっちゃいました。加蓮ちゃんは薄荷のお花、好きになれましたか?」

加蓮「……ん」

加蓮「で。この箱、片方はさっき店員が持ってきてくれました」

藍子「はい。持ってきてくれましたね」

加蓮「あの店員、ホント藍子のこと好きすぎでしょ」

藍子「あはは……。きっと、加蓮ちゃんのことだって大好きですよ」

加蓮「だといいけどね。さて藍子ちゃんに問題です。どっちが私からのプレゼントでしょうか?」

藍子「どっち、って……さっき加蓮ちゃん、カバンからピンクの方を取り出しましたよね? なら、そっちが加蓮ちゃんのじゃ――」

加蓮「ホントにそれでいいの?」

藍子「えっ」

加蓮「ピンクの方が私からのプレゼント。ホントにそれで大丈夫?」

藍子「それはどういう……」

加蓮「ちなみに私、今日さ、藍子が来る1時間前からこのカフェに来てたんだ」

藍子「1時間も前から!?」

加蓮「ちなみにこのクイズ、外したら……」

藍子「は、外したら」ゴクッ

加蓮「さてさっきの猫ポーズの藍子ちゃんは誰に贈ろうかな。やっぱり未央かな。きっと1日で事務所のみんなに拡散してくれるだろうし」

藍子「!?」

加蓮「それとも春菜がいいかなー。眼鏡以外でも猫好きアイドルで通ってるし。みくちゃんに対抗して猫耳ユニットとか出来上がらないかなー」

藍子「!?!?」

加蓮「今なら春頃に撮った、私の膝の上で丸くなって眠る藍子ちゃんもセットで――」

藍子「待ってください! 私もうちょっと考えますから! だからスマートフォンに指をかけるのはストップ! ストップで!!」

加蓮「ふふふ」

藍子「ぜー、ぜー、ぜー……。わ、分かりました。加蓮ちゃん。どっちが加蓮ちゃんの用意した物か、当てればいいんですね?」

加蓮「そういうこと」

藍子「と言われても、ヒントがなさすぎますね……。中を見るのはダメなんですか?」

加蓮「ん、いいよー」

藍子「じゃあ、開けちゃいます」(ピンクのリボンを解き始める)

加蓮「……自分で選んだプレゼントを目の前で開封されるのってやっぱ緊張するよね。何度やっても慣れないや」

藍子「? ってことは、こっちが加蓮ちゃんの用意した――」

加蓮「あーっ。しまったーっ。ついうっかり口が滑っちゃったーっ」

藍子「ええぇ……」

加蓮「にやにや」

藍子「……とにかく中身を見てから考えますっ」シュルル

藍子「わぁ! 可愛いマグカップ♪ あっ、これマドラーもついてる。これは、猫の肉球でしょうか?」

加蓮「可愛いでしょ。今日は猫をよく見る日だね」

藍子「私も、ここに来る途中でお昼寝している猫さんを見ましたっ。あまりに気持ちよく眠っていて、写真を撮ることができなくて……」

加蓮「起こしちゃいそうだった?」

藍子「うぅ。はい」

加蓮「藍子は優しいねー。さ、もう1つの方も開けてみてよ。ほら、早く早く♪」

藍子「はーい。こっちは――」シュルsyル

藍子「あれ? 色々入っているんですね。しゃかしゃか、って音がしました」パカッ

藍子「これは……ネイルの道具、でしょうか?」

加蓮「よくわかったね」

藍子「前に加蓮ちゃんがつけているところ、見たことありますから。確か、リムーバーに、ジェルに、後は……」

加蓮「また今度詳しく教えてあげる」

藍子「お願いしますっ」

加蓮「ふふっ」

藍子「プレゼントありがとうございます、加蓮ちゃんっ」

加蓮「それはまだ早いよ。どっちが私のか、まだ分かってないでしょ?」

藍子「ふふ、そうですね」

藍子「確認ですけれど、これはどちらかが加蓮ちゃんの用意した物で、どちらかは店員さんが用意してくれた物なんですよね?」

加蓮「うんうん」

藍子「普通に考えたら、ネイル道具の方が加蓮ちゃんらしいですけれど……」

加蓮「でも私が取り出したのはピンクの方だった」

藍子「それに加蓮ちゃん、最近ネイルのお仕事をよくしていますよね」

加蓮「色々あってさ。ほら、前の撮影仕事の頃、フットネイルにハマってたんだ。サンダル履く季節だし」

藍子「足の指にも、ネイルってするんですか?」

加蓮「もちろんするよ」

藍子「手だけだと思っていました」

加蓮「ちょうどネイルをしている時に、Pさんがうちに来ることがあってさー」

加蓮「……あ。言っとくけど、資料を届けに来てくれただけだよ?」

藍子「ふんふん……あれ? もしかして――」

加蓮「ん?」

藍子「あ、いえ。それより、続きを話してくださいっ」

加蓮「……? フットネイルの話をしたら盛り上がって。盛り上がったって言っても私がずっと話してたんだけど」

加蓮「そしたらネイルのお仕事が急に増えました」

加蓮「相変わらず何でもアイドルのことに繋げるアイドルバカだよねー、Pさんって」

藍子「ふふ。加蓮ちゃんだってそうじゃないですか」

加蓮「しつれいなー」

藍子「Pさんが前に言っていましたよ。もう少し刺激のない格好にしてほしい、って」

加蓮「刺激? ……あー……あー、うん。分かった、って伝えといて」

藍子「はーい」

加蓮「ネイルってさ、本格的なのだとつけるのも剥がすのも時間かかるんだよね」

加蓮「それにリムーバーとかジェルとか塗るから、料理する人には難しいの」

加蓮「でも、入門用……っていうか、お手軽用? すぐつけてすぐ剥がしてー、ってネイルもいっぱいあって」

加蓮「そういうヤツなら、料理してる人でも簡単に使えるんじゃないかな?」

藍子「……つまり?」

加蓮「で、あの店員さ、藍子につられて写真の話とかよくするようになったよね。カフェにもそれっぽいのがあるし」

藍子「……うぅ。ヒントを探そうとしたら、逆に難しくなってしまいました」

加蓮「他に聞きたいことは?」

藍子「じゃあ……。そうだっ。加蓮ちゃん。このラッピングは、どこで用意した物なんですか?」

加蓮「包装紙は家にあったヤツと、あとリボンは雑貨屋で探したっけ」

藍子「どっちも同じ結び方でしたよね」

加蓮「簡単に結べるヤツだからね。店員のを真似しちゃった」

藍子「ふむふむ。ラッピングの色を選んだ決め手は?」

加蓮「それは――って、こらっ。直接聞くのは反則!」

藍子「えっ」

加蓮「えっ」

藍子「……あ。そうですよね。加蓮ちゃんが選んだ色が分かれば、答えも分かってしまいますよね」

加蓮「無自覚……! これだから天然って怖い……!」

藍子「天然じゃないです! ただ今のはちょっと見落としていただけですから」

加蓮「とにかくその質問はNGです。ダメ」

藍子「それなら……加蓮ちゃんが――」

藍子「!」

加蓮「ん?」

藍子「加蓮ちゃんが、……まぐかっぷ! を、用意したのは、いつですか?」

加蓮「……………………えぇ……それでカマかけたつもりなの……?」

藍子「……えへ」

加蓮「……。私が"プレゼント"を決めたのは――」

藍子「あぅ」

加蓮「結構悩んだからなぁ。確か……。そうそう、2日前に揃えたんだったっけ」

藍子「2日前ですね。……2日前?」

加蓮「なんかおかしいこと言った?」

藍子「いいえ。では、次の質問です」

加蓮「……む。ねぇ、これってなんか私が問い詰められてるみたいなんだけど。私だって藍子に質問――」

藍子「うーん。あとは何を聞けばいいのかな……」

加蓮「質問ないなら質問しなくていいでしょっ」ビシ

藍子「あうっ。なんとなくそういう雰囲気かなって」

加蓮「……てゆーかちょっといい?」

藍子「どうぞ」

加蓮「"あとは"って、もしかして……検討ついてる?」

藍子「なんとなく?」

加蓮「うぇ。じ、じゃあさっさと回答コーナーに行っちゃおう。外したら藍子ちゃんの写真大拡散だからね」

藍子「急かさないでくださいっ。それに、もう少し考えたいんです」

加蓮「なんとなく検討はついてるのに?」

藍子「せっかくやるなら、びしっと正解したいじゃないですか」

藍子「いつか秋の日にやった……秋染め、でしたっけ? あれと同じで」

藍子「適当に言って、正解するんじゃなくて」

藍子「しっかり、加蓮ちゃんの仕掛けたこと、考えていること……分かってから、正解にたどり着きたいんです」

加蓮「…………そっか」

>>38 3行目と7行目の加蓮のセリフ、「検討」は「見当」の誤りです。申し訳ありません。


藍子「加蓮ちゃんに、あと2つだけ、質問です」

加蓮「うん」

藍子「最近、このカフェに1人で来たことはありますか?」

加蓮「ないよ。1人で来ても楽しくないって分かったもん」

藍子「この仕掛けの中で、加蓮ちゃんはずっと演技をしていましたか? それとも……」

加蓮「たぶんだけど素が混ざってるとは思う。ずっと仮面をかぶってたら疲れちゃうもん」

藍子「分かりました。ちょっと整理しますね」メヲツブル

藍子「うん、……うん。確か――」ブツブツ

加蓮「…………」

藍子「私と加蓮ちゃんが……カフェに……2日前で――」

加蓮「…………」(髪の先をいじりだす)

藍子「あの時は……加蓮ちゃんが……」

加蓮「…………」(メニューを何度もパラパラと捲る)

藍子「……よしっ」

加蓮「!」

藍子「それなら、こっちの」スッ

藍子「ネイルの道具が入った、インディゴカラーのプレゼント。こっちが、加蓮ちゃんのですよね?」

加蓮「……」

加蓮「……根拠」

加蓮「藍子の考えた、"私の考えたこと"。自信は?」

藍子「そこそこ」

加蓮「藍子にしては強く出たね」

藍子「あなたのことですから」

加蓮「聞かせて?」

藍子「まず加蓮ちゃん、さっき、ずっと演技をしていた訳ではないって言いました」

加蓮「うん」

藍子「最初にプレゼントを並べた時、加蓮ちゃんはこう言いましたよね」


加蓮『ちなみにインディゴカラーは藍子にちなんで合わせてみました』


加蓮「あっちゃー……」

藍子「すごく自然な言い方だったので、きっとあれは演技ではないと思ったんです」

加蓮「はいはいせーかいせーかい。それだけー?」

藍子「いいえ。次に、プレゼントを用意した時のお話です」


加蓮『簡単に結べるヤツだからね。店員のを真似しちゃった』
加蓮『そうそう、2日前に揃えたんだったっけ』


加蓮「…………ん?」

藍子「あれ? どこか間違っていましたか……?」

加蓮「あ、や……。よく覚えてたね。藍子って勝負にそこまでマジになるタイプだっけ?」

藍子「加蓮ちゃんのお話ですし」

加蓮「……"揃った"って言い方だったら、マグカップに合うマドラーを探してたのかもしれないよ?」

藍子「違います。そこではありません。加蓮ちゃんが私へのプレゼントを用意してくれたのは、2日前なんですよね?」

加蓮「うん」

藍子「結び方を、加蓮ちゃんは"店員さんの真似をした"って言いました」

加蓮「それが?」


加蓮『4日ぶりくらいだっけ?』
藍子『そうですね』


藍子「加蓮ちゃんが最後にこのカフェに来たのは、4日前。プレゼントを揃えたのは2日前」

藍子「そして、結び方は店員さんの真似をしたってことは――」


藍子『最近、このカフェに1人で来たことはありますか?』
加蓮『ないよ。1人で来ても楽しくないって分かったもん』


藍子「前々から店員さんと打ち合わせをした、ってことは、できないハズです」

藍子「加蓮ちゃん、今日ここに来て店員さんにお話して、箱を渡してもらって、それを真似た……んですよね?」

藍子「真似たのは、結び方で区別がつかないように、でしょうか」

加蓮「……で、それでこの辺の話がどう正解に繋がるの?」

藍子「加蓮ちゃんはすごく真面目でいい子です。イタズラをする時もいつだって全力ですよね」

藍子「もし、もっと日にちや時間に余裕があったら、もう少し店員さんとよくお話をして、計画を企てることができます」

藍子「例えば……。……例えば、はちょっと思いつきませんけれど……」

藍子「あ、思いつきましたっ。例えば、店員さんにもっとネイルのお話をしてもらったり、逆に加蓮ちゃんがマグカップの話をしたり」

藍子「そうしたら、私をもっと上手く騙せると思いますし――」

藍子「それだけの余裕があれば、加蓮ちゃんは絶対にそこまでしますよね?」

加蓮「…………ん」

藍子「そうではないってことは、これって、今日急に決めた仕掛けですよね?」

藍子「急に決めた仕掛けなのに、加蓮ちゃんが偶然"店員さんの用意しそうな"マグカップを」

藍子「店員さんが偶然"加蓮ちゃんの用意しそうな"ネイルセットを」

藍子「お互いが用意していた、っていうのは……ちょっと、おかしいと思います」

加蓮「成程ね。仕込む時間があれば敢えてお互い逆にするって仕掛けもできるけど、急に決めたならそうではないと」

藍子「はい。――それと、もう1つ」

加蓮「ん?」

藍子「これは推理ではありませんけれど……」

藍子「それに、もし、事前に用意する期間があっても、きっと加蓮ちゃんなら」

藍子「自分の大好きな物を人に用意してもらって、人の大好きな物を自分が用意する、なんてこと、しないと思うから……」

加蓮「…………」

藍子「私、最後の最後で、ちょっとだけ悩みました。加蓮ちゃんのどっちを信じればいいんだろうって」

加蓮「どっち、っていうのは……」

藍子「イタズラとイジワルに全力な加蓮ちゃんか、好きな物には全力で好きな加蓮ちゃんか」

藍子「ちょっとだけ悩んで――」(インディゴカラーの箱を手に取り)

藍子「やっぱり私は、好きな物に全力になる加蓮ちゃんを信じたくなっちゃいました」ニコッ

加蓮「っ……」

藍子「あたっていますか……?」

加蓮「…………完敗! 私の負け!」

藍子「やったっ♪」

加蓮「あーもう! ホント……ホントにも~~~~!」

藍子「あんまり周りの人を困らせちゃダメですよ、加蓮ちゃん。意味のあることでも、ですっ」

加蓮「そ、そこだけは誤解を解かせて! 計画持ちかけたら悪い顔で乗ってきたのあっちだから!」

藍子「……向こうの方から見守ってる店員さん、顔を真っ青にして首を横に振っていますけれど」

加蓮「私今日は藍子に嘘だけはついてないでしょ!」

藍子「それもそうですね。それなら、加蓮ちゃんを信じることにします」

藍子「でも、この仕掛け、楽しかったですよ?」

加蓮「楽しかった、って……。こんなのただのイジワル――」

藍子「解いていく途中で、加蓮ちゃんがどう考えて、どう行動したのか……加蓮ちゃんの気持ちになって、色々推理できちゃいましたから♪」

加蓮「~~~~~~~!!」ツプセ

藍子「きっと小説の探偵さんにはできないことですよね。だって、今回の犯人さんは私の大好きな――」

藍子「? 加蓮ちゃん?」

加蓮「~~~! ~~~~!!」ジタバタ

藍子「そんなに悔しかったんですか……?」

加蓮「ちがっ……うぅ、トイレ行ってくる!」バッ

藍子「はあ」

<ばたばたばた
<がちゃん!

加蓮(~~~~~~~!)

加蓮(あーあーあーあーあーあーあー!)

加蓮(なんでこう……ぜんぶ見抜いてくるしぜんぶ覚えててくれるし! それに最後の……最後のあの笑顔!)

加蓮(色々反則でしょうが! 私を惚れさせる気か!)

加蓮(あ~~~~~~~~~~………………)

加蓮(…………!!! ………………!)

加蓮「……すぅー、はぁー」

加蓮「あー……うー……」

加蓮「ごほんっ。あーあーあー……」

加蓮「……」

加蓮「よしっ」パンッ

<がちゃ
<てくてく


加蓮「お待たせ藍子」

藍子「お帰りなさい、加蓮ちゃん」

加蓮「ごめんねー? ちょっと悔しくてつい――」チラ

加蓮「ん? 何これ。テーブルに……猫の写真と、家の写真?」

藍子「ふふ♪ これ、片方は私が撮った写真です。そして、もう片方は、最近店員さんが撮った写真だそうです。さっき借りちゃいました」

加蓮「……ねえ。もしかして」

藍子「さて問題です。加蓮ちゃん。どっちが私の撮った写真でしょうか♪」

加蓮「んなっ! ……ぜ、絶対当てる。いやそれだけじゃない。全部暴く。絶対暴いてやる~~~……っ!!」

藍子「……♪」



おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。

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