セエレ「ぼくセエレ!」 (64)

ぼく、セエレ!

はぐれちゃった双子の妹、マナをさがして旅してるよ!
でも帝国軍っていうわるい人たちがいるから世界が大変なんだ!
連合軍のみんなも女神さまを守るためにがんばって戦ってる!
女神さまが死んだら封印がこわれて世界がメチャクチャになっちゃうんだって!
メチャクチャってどんなだろう…?

女神さまはブラックドラゴンにさらわれて帝国領土に連れてかれちゃった
天使の教団っていう人たちもなにかしようとしてるみたい
こわいよ……。どうなっちゃうの?

だけど大丈夫!ぼくにはゴーレムがいるもん!
それにカイムにレオナールにアリオーシュだって!
みんなつよい魔物や精霊と契約してるから帝国軍なんかへっちゃらだよ!
待っててね、マナ!
女神さまを助けて必ず見つけてあげるから!

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連合軍駐屯地

セエレ「ねぇねぇゴーレム!」

ゴーレム「ゴォォ……?」

セエレ「あの木に登ってみたいんだ!でもぼくだけじゃ高くて登れないから持ち上げて?」

ゴーレム「ワカッタ」ズイッ

セエレ「ありがとう!キスしたげる!」チュッ

ゴーレム「ドウイタシマシテ」

レオナール「(わ、私もあんな風に…)」ハァハァ

アンヘル「息が乱れておるぞ。鬱陶しくてかなわん」

レオナール「い、いえ!なんでもありません!」

アンヘル「たまの休息だ。欲望にかまけて、せいぜい余計な体力は使わぬ事だな」

レオナール「(いけません、私としたことがまた過ちを犯すところでした……)」

カイム「」ジッ

レオナール「なんですか?カイム?」

カイム「……」プイッ

レオナール「(軽蔑の眼差し……当然でしょう。私の内に秘められた思いはあまりにも醜い)」

フェアリー「あれー?どうしちゃったんですかー!お兄さんったらー!セエレちゃんをねーっとり見つめちゃって!あんなこんな想像してアナコンダが飛び出しそうな感じですかー?」ヒラヒラ

レオナール「やめてください。私は決してそのような…」

フェアリー「えー?とか言いながらー?その膨らんだナニはなにーつって!バッチぃ!きったねー!サイテー!キャハハ!」

レオナール「言いがかりはよしてください…」

ヴェルドレ「レオナールよ。そなたの煩悩は我らにとっての雑音だ。これでは気が休まらん」

レオナール「ぼ、煩悩だなどと!私はやましい事など考えておりません!」

フェアリー「ほらほらー!我慢しないでセエレちゃんを襲っちゃえよー!一発抜けばスッキリ……ふぎゃ!」ガシッ

レオナール「黙っていてください!」ギュッ

フェアリー「むがむぐぐ!」ジタバタ

アリオーシュ「私の赤ちゃぁぁあああん!!!」ダダダッ

セエレ「あはは!鬼ごっこ?負けないぞー!」タタタッ

レオナール「お、おやめなさい!」ガシッ

アリオーシュ「キャハハハハハハハ!!アーハハハハハハハハハハ!!!」ジタバタ

レオナール「暴れるんじゃありません!セエレ!今すぐ離れるのです!」

セエレ「えー!どうして!レオナールも一緒に遊ぼうよ!」

レオナール「い、いや…遊びではなく彼女は君を…」

セエレ「ね!遊ぼ?いいでしょ?」

レオナール「しかし…」

セエレ「みんなで遊んだ方が楽しいよ!」

レオナール「せ、セエレ……なんと無垢で優しい」

フェアリー「キャハハ!キャハハ!おバカなセエレちゃん!命懸けの鬼ごっこしたいとよ!」

アリオーシュ「おいで…私が守ってあげる…」ニヤニヤ

セエレ「あはは!ほらほら!捕まえてごらんよー!」タタタッ

レオナール「(アァ…セエレ、君こそは地上に舞い降りた天使……)」ポワァァン

フェアリー「だっらしねぇ顔しちゃってマァ!ボケッとしてっと愛しのセエレちゃんがイカレポンチに喰われちゃうよー!?」

アリオーシュ「アハハハハハハハ!!!」ダダダッ

レオナール「ハッ!アリオーシュ…いつの間に!?」ダッ

裏の林

レオナール「はあ、はあ」シコシコ

レオナール「くっ…う!」ドピュッ

レオナール「ふぅ…今日もまた幾多の命を犠牲にしてしまった。どれだけの過ちを犯せば人は正常な未来を歩めるのでしょうか」

フェアリー「キャハハ!ここで汚した手も血にまみれた手も一緒だろー!?バッチぃバッチぃ!」

レオナール「そう…私はとても醜い人間だ。この背徳感さえも糧として…密やかな快楽に溺れてしまう」

フェアリー「自覚あんのー?あんのにこんなじゃタチわりーな!くさくてみっともなーい」

レオナール「(昼間の休息で遊んでいたセエレ……ゴーレムの頭部にキスをするセエレ……無邪気に笑うセエレ……)」ムクムク

フェアリー「おーい聞いてますかー?変態お兄さーん!下半身丸出しでみっともないッスよー!」

レオナール「(盲目であろうと心の目で見える…彼の純粋な仕草、あどけない表情……)」ガッ

フェアリー「ありゃ!また握っちゃった!やーねお盛んですこと!信じられない!どんだけ薄汚い心の持ち主なのかしら!?」

レオナール「(もっと…触れたい!私も!セエレのキスを受けたい!)」シコシコ

フェアリー「ひえー!おっぱじまった!こいつ理性とかないのかね?あんだけ人殺した直後に何回もやるかフツー?あーやだやだケダモノは!」

レオナール「セエレ!セエレ!セエレぇぇええ」ドクンッ

フェアリー「うっわ、さすがのオレさまも言葉失う迫力!」

セエレ「おはようレオナール!」

レオナール「おはようセエレ。よく眠れましたか?」

セエレ「うん!夜更かししないで寝たよ!母さんの言い付けだもん!」

レオナール「(ま、まぶしい…。私はこんなにも無垢な幼子を……汚らわしい)」

セエレ「どうしたのレオナール?顔色がわるいよ?」

レオナール「(そんな輝かしい瞳で覗き込まないでください…私は…私は……)」ブルッ

セエレ「だいじょうぶ?どこか痛いの?」ピトッ

レオナール「!!」ゾクゾク

セエレ「痛いの痛いの飛んでけー!」ナデナデ

レオナール「せ、セエレ!よしなさい!そ、そんな…直に触れては…!」

セエレ「えへへ!母さんに教えてもらったおまじないだよ?痛いのなくなった?」ニパッ

レオナール「(強いて言えば心が痛みますが…)」ズーン

レオナール「あぁ神よ…この浅ましい私に罰をお与えください…」シコシコ

フェアリー「ブッハー!ウッケルー!セリフと真逆な手の動き!どうやったらそんな器用に心と体、矛盾できんですかー!?」

レオナール「う!」ドクンッ

フェアリー「うげーきたねぇ!クセェ!死んだ弟たちに見してやりたいね!お前ら見捨てて生き延びたお兄さんはこーんなに元気だよーって!」

レオナール「私はもう二度と…かつての過ちを繰り返しません。これはその為に必要な儀式なのです」

フェアリー「おぉえっ!生臭いのぶちまけて自分を正当化かよ!相変わらずヘドが出ますねお兄さん!素敵すぎて吐きそう!」

レオナール「しかしそれだけではもはや限界のようです…」

フェアリー「は?は!?ちょちょちょ!まさかまさか?とうとうやる気になっちゃった?いいねーヤっちゃえよ!んで二人揃って地獄に堕ちたらサイッコー!幼児虐待バンザーイ!」

レオナール「」ガシッ

フェアリー「へ?」

レオナール「協力してもらいますよ、フェアリー」

フェアリー「はぁ!?おいふざけんなよテメェ!?なに考えてんの!?うわやめろバカ死ね!!」ジタバタ

セエレ「あれ?フェアリーは?」キョロキョロ

レオナール「向こうの川辺で念入りに水浴びしてますよ」

セエレ「そうなんだ!ぼくも入ってこようかな!」

レオナール「いけません。妖精族は潔癖ですから後にした方がいい」

セエレ「ケッペキってなーに?」キョトン

レオナール「きれい好きという意味です」

セエレ「へぇ!レオナールはすごいや!難しい言葉いっぱい知ってるんだもの!」

レオナール「いえいえ、それほどでもないですよ」

セエレ「ねぇ!こないだのお城で本を拾ったんだ!読んでくれる?」

レオナール「もちろんいいですよ。貸してみてください」

セエレ「わーい!これだよ!」ポスッ

レオナール「!!!」ドキッ

セエレ「ぼく、まだ読めないんだ!どんなお話なんだろう?」ルンルン

レオナール「(ひ、膝の上に座って……くっ!まずい!また…!)」ムクムク

セエレ「はやくはやく!気になるよー!」ポンポン

レオナール「(アァそんな…!君はなんと無慈悲な誘惑を仕掛けてくるのですか…!?)」ハァハァ

レオナール「(なんとか読み切りました…)」ゼェゼェ

セエレ「わーい!おもしろかったー!ありがとうレオナール!」ダキッ

レオナール「ヒッ!無闇に抱きついては…」

セエレ「え…イヤだった?」シュン

レオナール「い、いえ!そういう意味では!」

セエレ「…ぼくね。母さんがいた時はいつもこうして甘えてたんだ」ギュッ

レオナール「……?」

セエレ「母さんはぼくだけを愛してたよ。だから……妹のマナを泣かせてたんだ」

レオナール「セエレ…」

セエレ「母さんがいなくなって初めて分かるよ。甘えられる人がいないのはとっても寂しいことなんだ」

レオナール「…私でよければ甘えていいんですよ」ナデッ

セエレ「ホント…?ぼくを好きになってくれる?」ジッ

レオナール「もちろんです」ニコッ

セエレ「ありがとう。ありがとう。レオナール。ありがとう」スリスリ

レオナール「で、ですがその…過度な接触は…」

セエレ「ゴーレムもレオナールもおんなじくらい大事な友達だよ?カイムもアリオーシュも…みんな大好き!」

レオナール「ぐっ!」ズキンッ

セエレ「マナを見つけたら今度は一緒に甘えさせてあげたいな…。ダメ?」ジッ

レオナール「くぅぅ…!いいですとも…いくらでも!」キュンッ

セエレ「よかった…。マナにはいっぱい我慢させちゃったから、もう泣いてほしくない」クスッ

レオナール「(あぁセエレ…君はとても良い匂いがする)」スンスン

カイム「……」

レオナール「どうしました、カイム?」

アンヘル「おぬし、先ほど何をしていた?」

レオナール「何を…とは?」

アンヘル「セエレがカイムに妹を探してほしいと懇願してきおった。どうせまたおぬしが余計な慰めをかけたのだろう」

レオナール「わ、私はただ本を読み聞かせただけです」

アンヘル「…あの谷にいなかったのであれば既に埋もれているであろうさ。よく言い聞かせるのだな」

レオナール「そんな…!セエレはまだ生きていると信じています!」

アンヘル「残酷な事実に耳を塞げど結果は同じこと。受け入れるのもまた寛容」

レオナール「私はそうは思いません!確信がない以上は信じさせるべきです!」

アンヘル「ありもしない希望にすがろうと待ち受けるは失望のみよ」

レオナール「帝国軍の脅威を排除すれば妹さんも姿を現すかもしれない。必ず救いはあります!」

アンヘル「やれやれ…我らには理解出来ぬわ。のう?カイムよ?」

カイム「……」

レオナール「カイム……あなたも女神を、いえ、たった一人の妹を追う身でしょう」

カイム「……」

レオナール「同じ妹を想う兄としてセエレの気持ちを分かってあげられませんか?」

カイム「」フイッ

レオナール「カイム…!」

アンヘル「情に訴えるだけ無駄よ。こやつもまた歪な道を歩んできた哀れな男だ」

カイム「」ジロッ

アンヘル「ふ……そう怒るな。おぬしの有り様を他にどう形容せよと言うのか」

カイム「」チッ

アンヘル「それに人間などというのはおしなべて愚劣な生き物だ。例外なく、な」

レオナール「……」

セエレ「マナはどこにいるんだろうね、ゴーレム」

ゴーレム「ゴォォ……」

セエレ「うん!きっと元気だよ!がんばって探さなくちゃ!」

ゴーレム「サガス、ガンバル」

ザッ

セエレ「あ、レオナール!」

レオナール「セエレ……」

セエレ「ぼく、カイムにおねがいしたんだ!マナを探しに行きたいって!もしかしたら帝国軍の集まるところに……」

レオナール「……」

セエレ「レオナール?」

レオナール「カイムから伝言を承りました」

セエレ「え?」

レオナール「明日より連合軍を率い、帝国軍との決戦に向かうと」

セエレ「…そっか。また戦うんだね」

レオナール「すみません」

セエレ「どうしてレオナールが謝るの?謝るのはぼくだよ。わがまま言ってごめんなさい」

レオナール「……」

セエレ「それにきっともう……ううん!なんでもない!」

レオナール「……?」

セエレ「がんばろうね、レオナール!一緒に女神様を助けよう!」

レオナール「はい…」ニコッ

フェアリー「ねえねえレオナールさん!レオナールさん!聞いてますかー!ド変態のオナ兄さん!」

レオナール「はぁ…なんですか。瞑想の邪魔をしないでください」

フェアリー「ぶっふー!瞑想だってよ、このタコ!朝から晩までしこしこ瞑想しやがって!契約の代償、間違えたかな?キャハハ!」

レオナール「……」

フェアリー「あの偽善者のガキにいつまで気に入られようとしてんだよ!ヤりたいならとっととヤっちまえって!そんででくの坊のゴーレムに潰されちゃってくださーい!」

レオナール「私はセエレが心配なのです。彼はまだ幼く、身の上も悲惨です……せめて妹さんだけでも見つけてあげたい」

フェアリー「バーカ!分かってんだろ!あのガキは妹なんか探しちゃいねーよ!ただ健気な自分を見せつけたいだけ!」

レオナール「……」

フェアリー「あーぼく、セエレ!とってもかわいそうなぼく!がんばり屋さんなぼく!妹思いなぼく!みんなぼくを好きになってーちゅっちゅっちゅっ!」

レオナール「はて、そうは思えませんが」

フェアリー「ぺっ!ぺっ!死ねゴミ!かっぺーっ!可愛い子ちゃんならなんでもありかよ!ほんっと欲望に正直ですね、人間様は!帝国軍さーん、こっちこっち!人間だけで殺しあえ!」

ヴェルドレ「フェアリーの言う通りだ、レオナールよ」

レオナール「大神官殿…」

フェアリー「うっげぇ!水瓶ジジイに同意されちゃった!消毒しなきゃ!おもに頭皮を!」

ヴェルドレ「」ジロッ

フェアリー「なんだよハゲ!タコ!ボンクラ!見てんなよ!やだ髪の毛抜けちゃーう!」

ヴェルドレ「相も変わらず、といったところか。そなたも苦労が絶えぬな」

レオナール「それよりも先ほどの言葉の意味は?」

ヴェルドレ「ふむ…言うまでもなかろう。あまりセエレに付き合うのはよせ」

レオナール「なぜです!彼はあんなに必死で妹さんを…」

ヴェルドレ「無論、見つけてやるにこした事はない。だが今は帝国軍との決戦に向き合うべきだ」

レオナール「分かっています…」

フェアリー「嘘つけ!ぜんぜん分かってねーし!おめぇが構ってやるから、あのガキ付け上がってんの!どーせ探す気もねぇのによくやるよ、ほんと!」

ヴェルドレ「…あの幼子は無垢を装っておるが本心では諦めておるよ。こちらの顔色を窺いながら妹の安否を気遣うのがよい証拠だ」

レオナール「か、彼は…そんな子では…」

フェアリー「あーうるせぇうるせぇうるっせぇ!うんざりなんですけど!あいつに嫌われたくないからって毎晩オレを辱しめやがって!爪先から旋毛までクッセェーの!死ね!」

ヴェルドレ「…レオナール、そなた、そんなことを」

レオナール「う、ぐ…!違います…!私は彼に汚れてほしくない一心で…!」

ヴェルドレ「そのような心持ちではとてもじゃないがやりきれまい。決戦を疎かにされては困るぞ」

レオナール「…もちろん、覚悟の上です。妹さんが帝国軍に拐われたのであれば帝都に囚われているかもしれません」

ヴェルドレ「ならばよいが…」

レオナール「ご心配をおかけしました。私は大丈夫です…」

ヴェルドレ「……」

フェアリー「オレが大丈夫じゃねーんだっての!耳付いてます?バカ!クズ!あのガキとヤッテロヨ!ゴミとクズでお似合い!祝福しますよ!あ~おぞましい!」

レオナール「(数日ほどで帝国領土に入る…女神が無事であればよいのですが)」

アリオーシュ「うふふ…」ジー

レオナール「アリオーシュ?何を見て……」ハッ

連合兵士1「いけません!アリオーシュ殿!大神官のお許しがあるまではこらえてください!」

レオナール「こ、これはいったい!」

連合兵士2「レオナール殿、良いところに!一緒に止めてくださいませ!」

アリオーシュ「おいしそう。おやつの時間。まだかしら」ニヤニヤ

アリオーシュ「うふふ、うふふ」ジー

連合兵士1「もう半刻はああして眺めておられる。暴走しないとよいが」

連合兵士2「あの食人鬼にしてみれば何よりのご馳走が目の前にあるのだからな。恐ろしいよ。まったく」

レオナール「あれはなんなんです…?私には見えませんが子供たちの悲痛な怯えを感じる…」

連合兵士1「帝国軍の捕虜ですよ。未熟な兵ばかりで構成された部隊ですが、どうしてか大神官様が生かして捕らえよと申されましてね」

連合兵士2「こいつら道中の林に火をかけようとしましてね。どうにか封じてやりこめましたがカイム様は納得いかぬ様子でしたよ」

連合兵士3「あの方は強烈だからな。容赦の無さといったら味方の俺たちまで震えるぜ」

レオナール「…大神官殿が。そうですか。何はともあれ幼い命を取り留められたのはよいことです」

フェアリー「ちぇっ!ズバッとやっちゃえよー!ちぇっちぇっちぇっ!」

連合兵士1「今夜は寝ずの番となるでしょう。レオナール殿も決戦に備えて休まれた方がよろしい」

レオナール「いえ、私もお供します。彼女も心配ですから」

連合兵士2「あぁ…」チラッ

連合兵士3「た、頼もしい限りです」ヒクヒク

アリオーシュ「おいで。母さまのお腹に。おいしいわ、きっと」ニヤニヤ

連合兵士1「ぐがーぐごー」

フェアリー「あちゃー!仕事ほったらかして寝てら!クビ切りけってーい!もちろん剣でバッサリ!」

レオナール「彼らも連日の行軍と争いで疲れはてているのでしょう」

アリオーシュ「血の味。匂い。もっと近くに来て」ガシャッ

レオナール「なりません!アリオーシュ!」ガシッ

アリオーシュ「ちょうだい…ちょうだぁぁい」ガシャガシャ

レオナール「おやめなさい!」

少年兵「おじさん…」

レオナール「!?」

少年兵「ぼくたち、どうなっちゃうの?」

レオナール「…決戦を終えるまでは出られません」

少年兵「いたい…いたいよ。こわい。血が止まらないんだ。たすけて…」

レオナール「辛抱してください…。私から大神官に掛け合って手当てを施すよう頼んでみます」

少年兵「ぼくたち、なにも悪くない。こわい人たちにおどかされただけなんだ。ほんとだよ」

レオナール「……!」

少年兵「おねがい、おじさん、たすけて!ぼく死にたくないよ!」

フェアリー「フヒャヒャ!なーんて哀れだこと!潤んだ目でじーと見てますよ、おじさん!甘ったるい猫なで声であざといガキがタチケテ、タチケテーって!くたばれ!トドメ刺しちまえよー!」

レオナール「っ……」

アリオーシュ「アハッハハハ、ハハ!出ていいわ!お腹が空いたのよ!出て!」ガシャガシャ

少年兵「ひっ!おじさん!たすけて!こわいよぉ!」

レオナール「できません…」

フェアリー「お?可愛いお子ちゃまの誘惑を断っちゃう?お兄さん、じゃねーや、おじさん!」

レオナール「君たちの命は必ず保証します…。ですから今は耐えてください…」

少年兵「いやだ。やだよ、そんな…あんまりだよ!」

レオナール「申し訳ありません…」

少年兵「ゆるして…もうやだ。お母さん…お母さん…」

レオナール「くぅ……!」

ドガァッ

レオナール「柵が…!?」

サラマンダー『食せ、女』

ウンディーネ『食さねば飢える』

サラマンダー&ウンディーネ『飢えれば死ぬ。我らも死ぬ』

レオナール「契約の力を……まずい!!」

少年兵「」ダッ

レオナール「あ…!ま、待ちなさい!」

アリオーシュ「キャアハハハ!」ダッ

レオナール「アリオーシュ!くっ…先に彼女を止めなければ!」ダッ

ヴェルドレ「後を追うがよい。アリオーシュは私が引き受けよう」

レオナール「大神官殿!」

ヴェルドレ「まだ遠くへは行っていない筈だ。カイムに見つかれば幼子とて容赦せぬだろう」

レオナール「恩に着ます…!」ダッ

レオナール「はぁはぁ!戻りなさい!逃げては為になりません!」

少年兵「」タタタッ

ズゥゥン

レオナール「!?」

ゴーレム「セエレ、イタ、ココ」ズシン

セエレ「ありがとう。ゴーレム!」

レオナール「セエレ…!なぜここに!?」

セエレ「レオナール!あとはぼくに任せて!」

レオナール「え?セエレ!なにを……」

セエレ「ゴーレム!やっつけて!」

少年兵「やだ!やめてよ!うわぁぁぁあ……」

ゴシャアッ

レオナール「セエレ…!?」

セエレ「大丈夫だった?レオナール!」

レオナール「わ、私はなんとも……」

セエレ「あ、カイム!」タタタッ

レオナール「は…?」

セエレ「カイム!ぼく、ちゃんとやったよ?見て、ほら、ね?」ダキッ

カイム「」ナデリ

セエレ「えへへ、うれしいな。カイム!もっとほめて!」スリスリ

カイム「」ジッ

レオナール「……!」ブルッ

レオナール「そんな…バカな……セエレ、君は」ガクッ

アンヘル「まだしぶとく疑うか。おぬしの思う理想像とあの幼子はかけ離れておろう」

レオナール「ドラゴン…殿」

アンヘル「あやつは気に入られる為なら、いかな手段もいとわぬわ。なにも知らぬ幼稚な己を演じながらな」

レオナール「嘘です…!私が知る彼は妹思いで気の優しい…純粋無垢な彼です」

フェアリー「まぁだ言ってら!バカこいちゃって!頭の悪さ一等賞!よっ!百点満点!」

アンヘル「…妹を思う心も優しい素振りも偽っておる訳ではなかろうさ。ただ無自覚に優先順位を決めておるだけのこと」

セエレ「ねえ、カイム!ぼく、もっとがんばるよ!だから…好きになってくれる?」

レオナール「」ピシィィ

フェアリー「ハイ振られましたー!ビッチで淫乱なセエレちゃん!あんたじゃなくてもよかったのね!心のオマタ開きっぱなし!穴があったら入りたい気分?やーね、ゴミのケツに頭突っ込んじゃえば?」

レオナール「こうなるように仕向けていたのですか…?」ワナワナ

アンヘル「左様。おぬしは少々、あやつに傾倒しすぎておる。いざ目前に控えた決戦の場で契約者たるおぬしの心が揺らいだままでは我らにも害が及ぼうぞ」

レオナール「そんなことで…少年の命や、セエレを利用したのですか!」

アンヘル「そうさな。もはや連合の勝利に契約者の力は欠かせぬ。ほとんどヴェルドレの案じた策だがな」

レオナール「冒涜です…!皆で命を、心を弄び、赦されません…!」

アンヘル「命の重みを尊く考えてやれるだけの器量が人間風情にあるものか。己の命惜しさに都合をまやかす畜生の分際が」

レオナール「あんまりです…!こんな…むごすぎる!」

アンヘル「おぬしとて下心にまみれた情けを聖人じみた言葉に直しているだけであろう。いい加減、その薄い化けの皮を剥ぎ取れ。不愉快でならぬわ」

アリオーシュ「あぁら、ぺちゃんこ。柔らかい。咬みやすいわ。うれしい」ガプッ

レオナール「」ゾクッ

アリオーシュ「ガチュッ…ゴリィ…くちゃ…ぺり」ズルズル

レオナール「少年……う、うぅ」ウプッ

レオナール「……」ズーン

フェアリー「落ち込んでますねー。レオナールさんってば、あれから裏の林にも行かないでシクシクシク!再起不能かぁ?おーい!下半身は元気ですかー!」

セエレ「レオナール!」

レオナール「」ピクッ

セエレ「なにしてるの?となり座ってもいーい?」

フェアリー「キャハ!だいちゅきなセエレちゃんが慰めてくれるってよ!質問!今日もイイケツしてますかー?」

レオナール「セエレ…」

セエレ「明日だね。みんな張り切ってるよ。ぼくはまだちょっと…こわいかな」

レオナール「一つ聞いてもよろしいですか…」

セエレ「? なぁに」キョトン

レオナール「君は…あの時、なぜ少年兵を説得しようとしなかったのですか?」

セエレ「?」

レオナール「彼らはまだ未熟で君のように幼い子供でした。それをああも無慈悲に……」

セエレ「…レオナールはぼくを嫌いになったの?」

レオナール「い、いえ!決して!」

セエレ「ごめんなさい。ぼく、ひどいよね。傷つけちゃったよね。ごめんなさい」

レオナール「ち、違います!そういう意味ではありません!」

セエレ「でもあのままにしてたらレオナールが危ないと思ったから」

レオナール「私が…?」

セエレ「うん。ドラゴンに言われたんだ。レオナールは前にも悪い帝国兵を庇ってだまされたって」

レオナール「っ……」

セエレ「心配だったの。早く、急がなくちゃ、助けてあげなきゃ。いつも助けてくれる。優しくて。大好きだもの」

レオナール「セエレ…君は…!」

セエレ「あんな時でも思いやりができるなんてすごいや。レオナールはやっぱり優しいね」ニコッ

レオナール「すみません…!私が間違っていました!セエレ!君はセエレだ!」ダキッ

セエレ「うん。ぼく、セエレ。セエレだよ。レオナール。ぎゅって、して」スリスリ

レオナール「くっ!はぁはぁはぁ」ギュッ

フェアリー「あ~あイチコロ。こえーこえー。やだね、うさんくさくて。キモチワリッ」

青の丘陵

ヴェルドレ「敵が退いていく。連合の勝利だ…!そなたの凄まじい活躍が勝因であろう!礼を言うぞ!」

レオナール「いえ、私の力など微々たるものです…」

フェアリー「そーそっ!ほんとに活躍したのはオレ!あとはゴミ!イカくせぇ血だぜ!ザマァミロ!」

ヴェルドレ「む?あれは?」

レオナール「……!強大な力の波動を感じます。天から」

チュドォォン チュドォォン チュドォォン

ヴェルドレ「ば、バカな…!なんだ、あの光の矢は!?」

ギャアアアアアアア

レオナール「危険です!ひとまず離れましょう!」

ヴェルドレ「地獄だ…この世の終わりだぁ…」ブルブル

レオナール「なんと絶望的な……連合のもたらした勝利が一瞬で消し飛んでしまいました」

アンヘル「…女神の命が危うい。いや、もしや既に…」

ヴェルドレ「ひぃぃ!恐ろしい!なんなんだ、あの浮遊する要塞は…!人間の技術ではありえぬ代物だぞ!?」

レオナール「丘陵を焼き払った光線の出所はあそこでしょう…。帝国軍……底が知れません」

アンヘル「ふむ、カイムよ。我らで要塞に乗り込むぞ」

カイム「」コクッ

セエレ「待って!ぼくも行く!」

アンヘル「何を言うておる。貴様を我が背に乗せろと?」

セエレ「そこに行けばマナがいるかも!だからおねがい!」

アンヘル「戯けたことを…付き合いきれぬわ」

レオナール「私からもお願いします」

アンヘル「……おぬし、未だ」ジロッ

レオナール「敵の本拠を叩くのであれば私達の力は決して無駄にはなりません。契約の力を尽くし、女神救出を共に成すと誓いましょう」

アンヘル「ふん…我が炎とカイムの殺意あらば容易いこと。人間ごときがドラゴンの背に跨がろうなど笑止」

アリオーシュ「空からおいしそうな匂いがするの。小さな小さな女の子……の肉」ジュル

セエレ「やっぱり!マナだ!きっとそうだよ!」

アンヘル「我はドラゴン。種の頂点に君臨する者ぞ。おぬしらなぞを乗せて羽ばたく翼は持たん」

レオナール「カイム!あなたからもどうか!」

カイム「……」

レオナール「この子の気持ちは演技ではない…!心からの感情です!分かっているでしょう?」

アンヘル「うむ。これ以上は時間の無駄よ。行くとするか」

レオナール「カイム!!」

カイム「」バキィッ

レオナール「ぐあ!」ズサッ

セエレ「レオナール!へーき!?」

レオナール「…大丈夫ですよ」ニコッ

レオナール「どうしても連れていってはいただけませんか?」

アンヘル「くどいわ。おとなしく連合軍と帝都に向かっておれ」

セエレ「いやだ!」

カイム「」ジロッ

セエレ「連れてって!絶対邪魔しないから!」

アンヘル「駄目だ。素直にしておれ。さもなければカイムはおぬしを嫌うと言うておるぞ」

セエレ「っ……いいもん!嫌われたって!いいよ!」

アンヘル「なんだと?」

セエレ「カイムに嫌われたら悲しいよ!でもここで諦めたらマナに一生会えない!もうやり直せない!」

カイム「……」

セエレ「謝りたいんだ。ぼく、母さんにぶたれて痣だらけのマナに…なにも言ってあげられなかった。ずっとマナをかわいそうって思ってた」

セエレ「石の里のみんなが死んで、母さんも父さんも死んで、ゴーレムと二人きりになって、初めて分かったんだ」

セエレ「ひとりぼっちのぼくをゴーレムが慰めてくれたみたいに…ぼくがマナを慰めてたら、ほんとはマナも…あんなに泣かなくてよかったのかも」

セエレ「謝りたいよ。嫌われて、ひとりぼっちになっても…マナが苦しんだ分だけ、ぼくもマナの気持ちを大切にしたいんだ…っ」ポロッ

アンヘル「……」

セエレ「ひっ…ん、ぐす、おねがい…おねがいです。ふぅう、カイム、ごめんなさい」ポロポロ

カイム「」プイッ

レオナール「カイム……憎むべき物に向ける執着も、慈しむべき物に向ける愛着も変わりありません」

カイム「……」

レオナール「あなたは帝国への憎しみと女神への愛情を兼ね備えた、心の通った人間の筈。セエレの心に嘘偽りがないと理解しているのでしょう?」

カイム「」チラッ

アンヘル「…ふん。しつこい者どもよ。あまり長くなっては面倒だ。致し方あるまい」

セエレ「いいの!?」パァァ

アンヘル「カイムよ。おぬしにも久しい感情が芽生えたのではないか?」クスッ

カイム「……」

セエレ「わぁいやった!ありがとうカイム!」ダキッ

カイム「……」ドンッ

セエレ「わっ!」ドサッ

アンヘル「ふっ…さっさと乗れ。女神が殺される前にな」

レオナール「ありがとうございます…!」

アリオーシュ「食べ頃…いい匂い、うふふ。待っててね。私の子供」

上空

イウヴァルト「カイムぅぅ!待っていたぞぉ!」

カイム「……!」

アンヘル「やはり現れたか…忌々しい黒龍めが」ギリッ

セエレ「わ、わ、わああ!すごい!すごい!ひゃー!」

レオナール「危ないですよ!振り落とされます!」ガシッ

アリオーシュ「なぁにアレ。まずそうね。つまらない」シラー

アンヘル「しかと掴まっておれ!おぬしらになど構ってやれぬぞ!」

イウヴァルト「ハハハ!カイム!フリアエはオレの物だ!」

カイム「」ギリッ

イウヴァルト「カイム…?怒ってるの?そんな目で見ないで、ボク、フリアエを守るよ。だから怒らないで。もっと強くなるから……フリアエ?ひ、ひ、ヒィィィイイイ」

カイム「……!?」

イウヴァルト「いくぞフリアエ!フリアエ!フリアエフリアエフリアエ!フリッアエフリッアエふりっあえフリフリぶりぶりぶりぶり」

カイム「……」ポカーン

アンヘル「隙だらけじゃな。ほれ」ボッ

ボォォン

イウヴァルト「ふりっあえエフリッふりっあえアエふりっ……」ヒューン

アンヘル「よし、行くぞ」

カイム「……」

レオナール「あれはいったい……」

セエレ「たかーい!やっほおおおお!」

アリオーシュ「」スッ

レオナール「そっと手を伸ばすんじゃありません!セエレも危険ですからふざけるのはよして!」ペシッ

セエレ「はーい」シュン

アリオーシュ「一口だけよ…」シュン

天空要塞

アンヘル「捉えたぞ。女神の気配を…む?なんだ、この禍々しい気は…!?」

カイム「……」

アンヘル「うむ…そうだな。降りてみねば分かるまい。我が翼で行けるのはここまでだ。あとはおぬしらに託すぞ」

レオナール「お任せを」

セエレ「ありがとう!ドラゴン!ぼく、がんばる!」

アリオーシュ「……近い、近いわ。お肉。うふふ。アハ!ア、ハハ」

カイム「……!」ギリッ

シュタッ

カイム「」ジャキッ

レオナール「これは…無数に帝国兵が犇めいてますね。彼らはどうやって、こんな所に…」

セエレ「マナ!どこなの?いるなら返事して!ぼくだよ、セエレだよ!」

帝国兵's「」ザッザッ

アリオーシュ「」バッ

ドゴゴォォン

サラマンダー『汝らに用はない』

ウンディーネ『汝らに望む物はない』

サラマンダー『近い。幼く。華奢な魂』

ウンディーネ『軟らかく。筋張った。あどけない魂』

サラマンダー&ウンディーネ『永遠の孤独。永遠の絶望。癒せるは女の狂気のみ。すなわち我らの源なり』ウインウイン

アリオーシュ「アァ~!!キャーハハハハハハッハハ!!!!」

レオナール「行きましょう。アリオーシュが敵を引き付けている内に」

カイム「……」ジリッ

レオナール「い、今は我慢するのです!目先の殺意よりも女神の救出を優先しなければ!」ガシッ

カイム「……」イライラ

レオナール「このような状況においても暴力衝動に疼くとは…最強種のドラゴンすら苦笑させる訳です」

カイム「」バキィッ

レオナール「うごっ!す、すみません…失言でした」

セエレ「大丈夫!レオナール?カイム!ダメだよ!今はケンカしてる場合じゃないでしょ!?」

アリオーシュ「アァら、こっちも食べ応えがありそう」ユラァ

レオナール「あ、アリオーシュ!彼女の食欲も限界のようです!セエレ!カイム!走りますよ!」ダッ

カイム「」ダッ

セエレ「わ、ま、待って!」タタタッ

要塞内部、祭壇

マナ「ねぇねぇ、どんな風にされたいの?ハジメテは痛い?ううん、ずっと痛い!だって封印の女神だもんね」

フリアエ「やめてっ…もう、言わないで!」

マナ「あ~かわいそう!あたしって、なんて不幸なのかしら。イウヴァルトより兄さんが好きなのに。どうしてもダメ?血が繋がってても男と女じゃない。どうしてダメなの?」

フリアエ「違う!そんなこと思ってない!」

マナ「ウソつき。わたしは本当のことしか言わないよ。だって愛されてるから。あ~苦しい。役に立たない男ばっかり!兄さん!好き!スキスキスキ~!!」

フリアエ「イヤッ!イヤァッ!」

カイム「」ザッ

レオナール「女神!」

セエレ「ま、マナ!」

フリアエ「兄さん…!」

カイム「」ジッ

フリアエ「」プイッ

カイム「!?」

マナ「ほら、愛しの兄さんだよ!ちゃんと見て!おねだりしなきゃ!いっぱいいっぱい!ね?」

フリアエ「やめて、違うの、私…そんなんじゃない」ブルブル

レオナール「……?なんの話を?」

マナ「はじめまして!」ニコッ

カイム「」ジャキッ

セエレ「待ってカイム!この子がマナ!ぼくの妹なんだ!」

カイム「……」ジッ

レオナール「せめて話だけでも聞いてやりましょう」ポンッ

カイム「……」スッ

レオナール「まず伺わせてください。君はセエレの妹さんで間違いありませんか?」

マナ「天使は笑う」ニコニコ

レオナール「は…?」

マナ「天使は踊る」グルグル

レオナール「天使……まさか」ハッ

マナ「天使。ラララ」ヒラヒラ

レオナール「よもや、こんな事があっていいのでしょうか…」ブルッ

マナ「天使を語ってはならない。天使を描いてはならない。天使を彫ってはならない。天使を歌ってはならない。天使の名を呼んではならない」

レオナール「この教えは……間違いない。エルフの里に記されていた天使の教団の物と一致しています」

カイム「……」

レオナール「おそらく彼女が…セエレ、君の妹こそが帝国軍を陰で操る天使の教団の司祭…だったようです」

セエレ「ッ…うそだ!うそだあぁぁ!!」

マナ「天使はワラウ?」ニマァァァ

セエレ「マナ…?どうしたんだい、その声…?」

マナ「ワタシは選バレシ子。神にアイサレタ子。テンシ。ラララ、ラララ」グルグル

レオナール「とてつもない邪悪な気配を感じます…。彼女はもはや君の知っている妹ではない」

セエレ「そんな、やだよ。うそだって言って!そうなんでしょ?マナ!?」

マナ「ラララ、ラララ、ラララ」グルグル

セエレ「マナぁっ!!」ダッ

レオナール「セエレ!いけません!」ハッ

バキィッ

セエレ「あぅっ」ドシャッ

セエレ「う、うぅ…マナ…どうして…?」ヨロッ

マナ「ラララ、ラララ、ラララ」グルグル

セエレ「父さんも……母さんも死んだよ。ぼくとマナだけなんだ。マナ、マナなんでしょ?ねぇ!おねがい!返事してよ!」

バキィッ

セエレ「わぁぁっ!?」ドシャッ

レオナール「セエレ!これ以上は危険です!」ガバッ

セエレ「はなして!ちがうんだ!マナはいい子なんだ!わるい子なんかじゃない!」ジタバタ

レオナール「気持ちは重々…ですが今の彼女は何者かによって操作されています!とてつもない…大いなる力によって!」ググッ

セエレ「ちがうよ!ぼく、知ってるんだ!」

レオナール「……!?」

セエレ「マナがいつも母さんの言い付けを守ってたこと!」

セエレ「好かれたくて必死に泣くのを我慢してたこと!」

セエレ「夜中にベッドの中でシーツを噛んでひっそり泣いてたこと!」

カイム「……」

セエレ「ぼく、ぜんぶ知ってるんだ!マナは優しくていい子だよ!ねぇ、マナ!そうだよね!?」

マナ「ラララ、ラララ、ラララ」グルグル

セエレ「目を覚ましてよ!もう絶対マナを見捨てたりしないから!ぼくも一緒に……ううん!ぼくがマナのかわりにぶたれるから!」

マナ「ラララ、ラララ……」ヒュルヒュル

セエレ「ぼくのともだち、みんなマナに優しくしてくれるよ!マナを愛してくれるよ!ぼくもマナが大好きだよ!マナ!信じて!」

マナ「」ピクッ

セエレ「マナ…!」

マナ「……」

セエレ「よかった!元に戻ったんだね!ほんとによかった!」タタタッ

マナ「ラ゛ラ゛ラ゛」ニマァァァ

セエレ「へ?」

レオナール「いけない…!セエレ!」バッ

マナ「」ブオンッ

バァァァン

セエレ「うわあぁぁぁあ!!!」ズザザッ

セエレ「う……うぅ、いたい。いたいよ…」ピクピク

レオナール「セエレ!大丈夫ですか!セエレ!?」ガバッ

カイム「」ザッ

マナ「ふふ、なんだよ。わたしをコロス?」クスクス

カイム「……」スッ

マナ「いいよ。コロしなよ。女神さまが見てる。ラララ゛ラ゛ラ゛」

カイム「」チラッ

フリアエ「……!」キュッ

マナ「うれしい!兄さんと目が合った!」

カイム「……?」

マナ「兄さん!見て!もっと!兄さん!本当は私……なんで私?私が何をしたの?封印?知らねーよ、クソッタレがよ!兄さん!好き!うるせぇ!黙れ!言うなクソガキ!でも本当は……ダメ!ダメ?ダメ!ダメ?」

カイム「……」ジッ

フリアエ「ち、ちがうの!兄さん!私、ここまでのことは……あっ」

カイム「……」

マナ「わたし、心が読めるの。あのお方に愛されてるから」

カイム「……」

マナ「ふふ、あ~あ、ぷっ!あはははは!」ケラケラ

フリアエ「頼むから…もうなにも言わないで。兄さん、聞かないで…!」

マナ「これ、とっておきのヒミツ!気になる?」

カイム「」ジャキッ

マナ「あのね、女神さまは~」

カイム「……!!」バッ

ズゥゥゥン

カイム「!?」クルッ

ゴーレム「ゴゴゴ……セエレ、キタヨ」ズシッ

セエレ「カイム……はぁ、ごめんなさい。でも、マナを許してあげて?ぼく、がんばるから…マナが目を覚ますまで、がんばるから」ゼェゼェ

カイム「っ……!!」ギリッ

レオナール「カイム!おやめなさい!セエレ、君もです!味方同士で争ってなんになると言うのですか!?」

セエレ「ぼくが…守らなきゃいけないんだ。ぼくはたくさんの幸せをもらったから、こんどはマナが幸せになる番なんだ…!」ジャリ

カイム「」ギロッ

セエレ「ゴーレム!マナを守って!」

ゴーレム「ゴォォ!!」ズシッ

レオナール「…互いに退けない状況とはいえ、これでは今までなんの為に」

フェアリー「フヒャフヒャ!大変っすねーお兄さん!愛しのセエレちゃんが裏切っちゃいましたよ!このまんま一緒に裏切ってみる?あのドラゴンの婆さんと殺戮狂いに歯向かってさぁ!ヒャヒャヒャ!」

レオナール「バカな事を…!なんとしても止めますよ!」

フェアリー「えー!いいじゃねーかよ!やらせとけよ!どっちが死ぬか清き一票投じましょ?もちろんオレはどっちも死ねに一票!」

ボォンッ ガラガラ

レオナール「ドラゴンの炎が天井を…!?」

アンヘル「全て見ておったぞ。幼児め…そうくるとはな」

レオナール「お待ちください!二人はあまりの状況に耐えかねて混乱しているだけなのです!」

アンヘル「ほざけ。我にはどうでもよいがおぬしらにとっては人類の存亡を賭ける選択だ。迷うものでもなかろう」

レオナール「そ、そうなのですが…」

アンヘル「諸とも殺してしまえ。それが人類の為、ひいては世界の為よ」

レオナール「そ、それは…セエレと妹さんを一度にとおっしゃるのですか!?」

アンヘル「そうだ。ゴーレムは我が炎で炙ってくれよう。おぬしはカイムに加勢し、あの双子を殺すがよい」

レオナール「そのような真似!私には出来ません!」

アンヘル「やるのだ。双子と人類。どちらを優先するか、決めるまでもなかろうて?」

レオナール「とても選べない…!私には…!」

アンヘル「しのごの言わずにやれぃ!!貴様から灰になるか!?」

レオナール「なぜです…!ただ健気に家族を救おうとしているだけではありませんか…!?」

セエレ「がんばって!ゴーレム!」

ゴーレム「セエレ、マナ、マモル、ゴーレム、モ、マモル」ズシッ

カイム「~~~!!」ガキィン

フリアエ「兄さん!!」

レオナール「妹を思う兄としての気持ちは通じているんです!しかし…偶然にも悲劇へ向かってしまった!彼らの背負う物が破滅に結び付くからと言って…!なぜ選べると言うのか!!」

アンヘル「世迷い言を抜かすな!封印の女神は世の理を保つ秩序その物!おぬしのくだらぬ情と同じ天秤で計れようものか!?」

レオナール「セエレは妹さんを説得しようとしています!彼女さえ目を覚ませば!」

アンヘル「無駄なことを…おぬしも感じたであろう。あれは大いなる力……世の理に干渉を及ぼすほどの存在によって動かされている」

レオナール「……!」

アンヘル「あれの洗脳を解くのは不可能だ。壊れた玩具のように支離滅裂な羅列をのたまうイウヴァルトを見たであろうが?」

レオナール「う、ぐ!」

アンヘル「たとえ小娘が意識を取り戻したとて同じこと。また別の誰かが選ばれし者となり、新たな軍勢に封印は蝕まれる」

レオナール「し、しかし!それでも私は…!?」

アンヘル「馬鹿者!!まだ喚くか!?」

レオナール「」ビクッ

アンヘル「この戦いを思い返してみよ!何人死んだ?いくつの種族が滅びた?どれほどの苦渋を強いられた!?」

レオナール「」ガクガク

アンヘル「小娘はそれら全ての犠牲に君臨した紛れもない悪よ!加担すると言うのであればその兄とて変わりない!!」

フェアリー「ですってよ~?あら、耳キンキーン。トカゲの鳴き声で脳ミソ破裂しそう!」

アンヘル「黙っておれ!!」

フェアリー「へいへーい。黙りますよ。黙りゃいんでしょ!トカゲが鳴くからかーえろ!ヒーこわっ」

アンヘル「レオナールよ!腹を括れ!おぬしとフェアリーの魔力をもってすれば難しくはない筈だ!」

レオナール「わ、たしは…わたしは…!」ブルブル

レオナール「カイム、セエレ……」

カイム「」ボッ

バゴォォン

ゴーレム「ご、ゴォォ…」グラッ

セエレ「ゴーレム…ごめんね。いたいよね。つらいよね。でも…」

マナ「いんらんな女神。はしたないね。兄さん、死んじゃうかも?死んだら、もう封印なんていらないよね。世界なんて壊れちゃえ!」

フリアエ「兄さん…兄さん、死なないで!兄さん!」

レオナール「…すみません」キュィィン

フェアリー「お、やっちゃいます?ドカーンといっちゃいます?オレもそうしたい気分!いいぞ!まとめてやっちまえ!」

レオナール「ハァッ!!」ブゥンッ

カイム「!?」

ドゴゴゴォォン

アンヘル「なっ……」

フリアエ「に、さん…?」

カイム「」ピクピク

レオナール「申し訳ございません…女神、カイム」

フェアリー「ウッヒョー!黒焦げ!前よりずっとずっと男前ですねー!胸キュン!偉そうなんだよ!婆さんも口無し野郎も死ね!死ね!かーぺっ!」

アンヘル「れお、なーる……きさま……」

レオナール「…どんな事情があれ、幼子を殺めるなど私の信条に反します」

アンヘル「ク、フフ……己の欲望を取った、か。やはり人間とは救い難い」

レオナール「カイムならばあの程度では死なないでしょう」

アンヘル「……」

レオナール「まだ方法はある筈です。ドラゴンよ。今しばらく時間をくださいませんか?」

アンヘル「愚かしい…その小娘か女神か、破壊か継続か、いずれにせよ…再生の未来など訪れぬ」

レオナール「……?」

アンヘル「おぬしの選択は最も罪深い…とくと後悔するのだな」

レオナール「それはどういう……」

いやぁぁぁああ!!!

レオナール「」ビクッ

フリアエ「兄さん…!そんな……兄さん!いやっ!いやぁぁぁああ!!!」

マナ「死んだ、死んだ。死んじゃった。ラララ、ラララ」

セエレ「カイム!大丈夫!?」

カイム「……」グッタリ

フリアエ「」フラフラ

マナ「ふふふ」

フリアエ「すみません、兄さん…私が至らぬ妹だったばかりに」チャキッ

レオナール「女神…!早まってはなりません!」

フリアエ「うぐっ…」ドスッ

レオナール「バカな…!カイムはまだ生きている!動けないだけだ!失った声を出せないだけだ!なぜよく確かめもせずに…!?」

マナ「諦めるのは慣れてるの」

レオナール「……!?」

マナ「だから、もういいの」クスッ

レオナール「それが彼女の心だと言うのですか…!?」

マナ「封印は解かれた。あのお方も喜んでる。天使はワラウヨ、ら゛ら゛ら゛」

レオナール「」ゾクッ

アンヘル「再生の卵が出現した」

レオナール「再生の卵…!神話によればあれは……」

アンヘル「馬鹿者め。あんな物を希望と信じるのは人間くらいのものだ」

レオナール「し、しかし他に手立ては…」

アンヘル「手立てがあるとすれば再生の卵に何者も寄せ付けぬ事だな」

レオナール「群れ…邪悪な魔の者が密集している…!?」

アンヘル「魔物、精霊、悪霊、竜族、全ての種が再生の卵を求めてもがいておる。今からでは間に合うかどうか」

レオナール「なんとかならないのですか…!?」

アンヘル「貴様の大層な魔力を浴びせられ、カイムは満身創痍よ。契約によって繋がった我も同様だ。こうして意識を保ってはいるが…身じろぎ一つ叶わん」

レオナール「もし再生の卵に接触すればどうなると…!?」

アンヘル「今、おぬしの心に宿る恐怖を遥かに上回る絶望が襲い来るだろうな」

レオナール「~~~!!?」

セエレ「マナ!どこに行くの?マナっ!!」

レオナール「どうしたのですか!?」

セエレ「マナが…飛んでっちゃう。どうしよう!やな予感がするよ!」

レオナール「落ち着いて!取り乱してはなりません!」

セエレ「ねぇレオナール!マナはどこに行ったの?なにしに行くの!?」

レオナール「くっ……」

アンヘル「再生の卵に入るつもりか…。ふん、誰の差し金か知らぬが酔狂な」

カイム「」ヨロッ

アンヘル「よせ。執念だけでは越えられぬ境というものがある」

セエレ「カイム!」

カイム「……!!」クワッ

セエレ「ひっ!」タジッ

レオナール「…お許しください。私もセエレも冷静ではなかった。女神をむざむざ死なせてしまうとは…」

アンヘル「口を開くな。そやつの怒りをたぎらせるだけぞ」

レオナール「せめてこの命を贖罪に充てられぬものでしょうか…」

アンヘル「おぬしごときの命では到底足りぬよ。小娘は既に再生の卵に迫っておる」

セエレ「マナはどうなっちゃうの!?」

アンヘル「はて、どうなるものやら。想像するより目にした方が分かりやすかろうて」

カイム「」ググッ

アンヘル「馬鹿者…同じことを二度言わすな。おぬしの身体はもはや戦える状態にない」

カイム「……」ジャキッ

アンヘル「ほう……好きにせい。どう喰らい付こうと悪あがきに過ぎぬわ」

アンヘル「……!再生の卵が孵化したぞ」

レオナール「私も感じます…!かつてない悪意が猛烈な勢いで迫っている!」

セエレ「こ、こわい。こわいよ!ぼくたち、どうなっちゃうの!」

ゴーレム「カワイイネ、セエレ、ゴーレム、マモル、アンシン」

ドォォォン

レオナール「あ……アリオーシュ!?」ハッ

アリオーシュ「わかる…。大好物よ。いらっしゃい。母さまはここよ」ニヤニヤ

セエレ「アリオーシュ!無事だったんだね!」

アンヘル「恐慌に駈られた世界にあって唯一、代わり映えもせぬか。荒れ果てた地に伏せって拝み倒す聖人などより、よほど頼もしいわ」

アリオーシュ「待ちきれないわ…!うふ、フフ、ふああああぁぁああはっはははは!!!!」ゲラゲラ

カイム「!!!」キッ

アンヘル「来るぞ…!」

ズォォォン

巨大マナ「」ニマァァァ

レオナール「な、なんですか、巨大な…何か巨大な物を感じます!?」

セエレ「マナ…なの?あれが?うそ……しんじない。マナじゃない!あんなのマナじゃないよ!」

アリオーシュ「おぉぉおきいぃぃぃ」ジュル

カイム「……」

アンヘル「…再生の卵とは何か、いやと言うほど認識しただろう。成れの果てがあの姿よ」

巨大マナ「イッショにアソボ?」グルン

アンヘル「伏せろ!何かする気だぞ!!」

巨大マナ「ら゛ら゛ら゛ら゛ら゛ら゛ら゛ら゛ら゛ら゛ら゛ら゛ら゛ら゛ら゛」ブォンブォン

ブワァァァァアア

アンヘル「おのれ…!小癪な風車めが!本来であれば貴様などのそよ風に煽られる翼ではないわ…!」グラグラ

レオナール「皆、床に!この強風をもろに受ければ私達など簡単に凪ぎ払われますよ!」

セエレ「!」ギュッ

レオナール「そうです、セエレ!私にしがみついて……おぉう」

フェアリー「こんな時にまで欲情してんなよな!変態はミッドガルドのお外まで吹っ飛ばされちまってくださーい!」

アリオーシュ「イイ子…もっとこっちよ」ユラユラ

サラマンダー『無茶をするな、女』

ウンディーネ『無理をするな、女』

カイム「……!」ググッ

セエレ「ゴーレム!みんなを風から守って!」

ゴーレム「ゴォォ」ズシッ

巨大マナ「あはは!あはは!」ピタッ

レオナール「止まりました…!今なら攻撃を仕掛けられます!」

セエレ「やめてよ!」ガシッ

レオナール「セエレ…!?」

セエレ「マナにひどいことしないで!マナはわるくないもん!」

レオナール「今はそんな事を言ってる場合では……」

アンヘル「左様」ボォッ

巨大マナ「ギャアッ!」ボォンッ

セエレ「あぁっ!マナ!?」

アンヘル「ようやく気付いたか。己のした愚行がいかに罪深いものか」

レオナール「……すみません、セエレ!」キュイイイン

巨大マナ「ひげぇえ!?」ボゴゴン

セエレ「やめて!うたないで!マナが死んじゃう!」

アリオーシュ「動いてたら食べにくいわ」ヒュッ

巨大マナ「イ゛ッダァァァイ!!!」ドゴォッ

セエレ「あ、あ、う、ああ」ブルブル

巨大マナ「ヤメデッ!ブタナイデッ!ゴメンナサイ!イイコニシマス!ゴメンナサイ!」ボォンッボォンッ

アンヘル「あと一息だ!一思いにやれ!」ボォッ

レオナール「くっ……!」キュイイイン

アリオーシュ「いただきます…」ヒュッ

巨大マナ「オガァザァァァン……!!!」ボゴゴン

セエレ「マナっ!マナぁぁああああ」

ヒューン

ドシャアアア

セエレ「ふ……うえ、ひっく…マナ……」ポロポロ

ゴーレム「セエレ、カナシイ、ヨクナイ」

レオナール「こうするしかなかったのです。分かってください」ナデリ

アリオーシュ「落ちちゃったわ。拾わなきゃ」スッ

サラマンダー『飛び降りるな、女』

ウンディーネ『落ち着け、女』

アンヘル「……!」

カイム「!?」

「アソビマショ」

セエレ「ふえ…?」パッ

巨大マナ「うふふふ、うふふふ」クスクス

セエレ「マナ!生きてたんだね!」パァァ

レオナール「バカな…確実に倒した筈では」

アンヘル「抜かったわ…。再生の卵は神の造りし玩具。我らの想像など遥かに越えよる」

巨大マナ「ドーレダ?」

セエレ「へ?」

巨大マナの群れ「」ゾロゾロ

セエレ「へ……?」

巨大マナの群れ「オカアサンとイッショ!オガァザァァァン!!!!」グワングワン

レオナール「つくづく契約に感謝しています。代償がこの目で良かった。目の前に広がる光景を見なくて済むのですから」

アリオーシュ「あら、こんなに…ぜんぶ私のよ!ぜんぶ!キャハハハハハ!!!」

アンヘル「奇妙なものだ。数万の年月を生きた我が今、思い浮かべるのはおぬしと過ごした時らしい。たかだか人間の…刹那の時間を」

カイム「……」

アンヘル「カイムよ。おぬしは馬鹿者だ。だがそんな馬鹿者と共に在った日々もあながち悪くはなかったようだ」

カイム「……」コクリ

アンヘル「そうか…ふっ。よいぞ。最期の瞬間までおぬしとの時を刻もう。我とおぬしは一心同体なのだから」ニヤリ

セエレ「あ、はは。マナ……よかったね。マナいっぱい。マナいるよ。ひとりじゃないね、マナ」

巨大マナ1「これで最後……あぁ、こんなことならヤっとくんだった!」

レオナール「!?」

巨大マナ1「抱きしめたい!撫で回したい!しゃぶりつきたい!泣き叫ぶ顔かわいいなぁ!あ~汚したい!セエレ!せっせっセエレ!」

レオナール「誤解です!邪な思いなど一欠片も…!?」

フェアリー「だぁれもあんたのことなんて言ってなくな~い?どちちゃいまちたか、お兄さ~ん?」

レオナール「う!」

巨大マナ2「おいしそうおいしそうおいしそうおいしそうたべたいたべたいたべたいたべたいおいしそべたいたべたいおいしそうべたい子供おいで赤ちゃん私のお腹でやすらかにたべたいおいしそうおいしそうたべたい」

アリオーシュ「ふふ……だいじょうぶ。こわくないわ。母さまが守ってあげる」

巨大マナ3「ムカつく憎たらしいガキがぶっ殺すぞてめぇ殺すよくもフリアエをイウヴァルトを妹を親友を父を母を祖国をカールレオンの民を殺す殺してやる復讐だ切り裂いて臓物ぶちまけて血ヘドまみれのてめぇを踏みつけてぶっ刺してやる何度も何度も何度も」

カイム「……」

アンヘル「……聞くに耐えぬな。おぬしの心は。先ほどの語らいが薄らぐわ」

巨大マナ4「我の死に場所が貴様のそばで良かった。貴様に会えて良かった。人間は最後まで理解に苦しんだがカイム、おぬしだけだ。我の心を解いたのは」

アンヘル「悪趣味な……どこまでも我らを屈辱に染めてやりたいらしい。人が醜い訳だ。人を造りたもうた神はその上をいく醜悪の権化なのだから」

カイム「」ニィィ

アンヘル「な、なにをほくそ笑んでおるか…!馬鹿者!」

巨大マナ5「」ジー

セエレ「なぁに?マナ?」ニヘラ

巨大マナ6「」ジー

セエレ「やっとぼくを見てくれたね。聞かせて。ぼくもみんなみたいに」ヘラヘラ

巨大マナ7「」フイッ

セエレ「マナ?どうしたの?いいんだよ。ぼく怒らないから」

巨大マナの群れ「」グオッ

ヒィィ! ウワァァァアア

ベシャンベシャンベシャンベシャン

ポタタ ポタ

セエレ「あはっ…みーんなぺしゃんこだ」

セエレ「ねぇマナ!ぼくは?」

巨大マナの群れ「」ユラユラ

セエレ「こっちを見てよマナ!」

巨大マナの群れ「ひひ、ひゃひゃひゃ」ケタケタケタ

セエレ「ぼくも……」

巨大マナの群れ「」スー

セエレ「待って!待ってよ!ぼくを置いてかないで!」

バラバラ バラバラ

セエレ「マナ!マナぁぁ!!」

シーン

セエレ「……」

ゴーレム「ゴ、ゴゴ」ピシッ

セエレ「ゴーレム?」

ゴーレム「セエレ、ゴーレム、クズレル」ピシピシ

セエレ「どうして!?ぼく、元気だよ!なのにどうして!?」

ゴーレム「ワカラナイ、ケイヤク、ナイ、ニ、サレタ、ワカラナイ……」ガラガラ

セエレ「やだよ!やだ!ゴーレムまでいなくなったら…ひとりぼっちはやだよ!?」

ゴーレム「セエレ、カナシム、ヨクナ……イ」ザァァァ

セエレ「そんな……ゴーレム、うわぁぁぁあああん」バサッ

セエレ「砂になっちゃった…!これもマナがやったの…?」サァァ

セエレ「マナ、どうしてこんなことするの?ぼくはただ謝りたくて、仲直りしたくて、それだけなのに」

セエレ「マナ?おいでよ、こわくない。おはなししよ?」

セエレ「母さん、いないよ。もう誰もぶたないよ」

セエレ「マナ?マナ……」

シーン

セエレ「っ……そんなにイヤなら殺せよ!?」

セエレ「ぼくが嫌いだろ!憎いだろ!殺せっ!!」

セエレ「母さんを一人占めしたのも!ぶたれてるのを知らんぷりしたのも!」

セエレ「ぼくだろ!?」

セエレ「だってこわかったんだ!しょうがないじゃんか!マナがぶたれてれば、ぼくはぶたれないから!」

セエレ「ほんとはずっと…母さんがぼくだけを好きなのがうれしかった!マナなんて、どうでもよかったんだよ!」

セエレ「ぼくが愛されてるなら、それでよかったんだ!」

セエレ「弱虫のマナ!意気地無しのマナ!おっちょこちょいのマナ!どんくさいマナ!母さんの大嫌いなマナ!」

セエレ「こんなことしたって母さんは好きになってくれないよ!母さんが好きなのはぼくだもん!」

セエレ「あは!あはは!どうだ、まいったか!べーだ!あはははは!」

セエレ「は、は……」

セエレ「…ごめんなさい」ペタン

セエレ「ごめんなさい…うっ、ぐす」メソメソ

セエレ「ぼくのせいだよね。ぜんぶ、ぼくがわるいんだ…」

セエレ「ぼくが慰めてたら、守ってたら、母さんに…マナはいい子だよって言えてたら…」

セエレ「こうはならなかったのかも…」

セエレ「ごめんなさい。マナ。ごめんなさい」

セエレ「ふぅ…えぅ…ゆるして…おねがいします。マナ、さん……マナさま」グシグシ

セエレ「ぼくをひとりにしないでっ…」グスッ

セエレ「おかぁさぁぁぁん!!!」


キャハハハハハ キャハハハハハ


END

DODらしい救いのないオチ

久々にいいものを見た

実際帝都に大量に出現してて帝国のダニどもがすぐ再生の卵に入れたよね

2で再生の卵に入ったなれの果てのモンスターが出てくるからギョロアエが例外で描写されてない所でバンバン入ってたのか

懐かしい
またやりたくなった

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年07月23日 (日) 22:12:48   ID: t7tlfdta

カテゴリドラッグオンドラグーンだろ

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