商人「人生の攻略本……欲しくありませんか?」 (16)


どうしても突破できない難所を、攻略本を読んで突破する。

何度挑んでも倒せない強敵を、攻略サイトを参考にして打倒する。



ゲームをやったことがある人間なら、おそらく誰もが経験したことがあるだろう。



そして、中にはこう思ったことがある人もいるはずだ。

もしも、人生にも攻略本があったなら――


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俺は人気のない路地裏を歩いていた。

なぜそんなところを歩いていたかというと、仕事で大きなミスをしてしまい、
傷心で帰宅している最中だったからだ。
なるべく人のいない場所を歩きたかった。


俺はなぜあんなミスを……。

おかげで職場での信用をすっかり失ってしまった。
これを取り返すのは、並大抵の努力では不可能だろう。

ああ、仕事にも、いや人生にも攻略法があればな、とかそんなことを考えていたかもしれない。


すると、突如声をかけられた。



「人生の攻略本……欲しくありませんか?」


声がした方向に振り返ると、そこには全身に布をかぶった怪しい男がいた。

間違いなく男だとは思うが、どことなく女っぽい雰囲気もある。
若そうでもあり、年寄りそうでもある。
不気味だが、どこか神秘的でもある。

不思議な気配をまとった男であった。


「今、なんていったんだ?」

「人生の攻略本、欲しくはありませんか?」


男は微笑みを浮かべた。


俺は興味を持ちつつも、男のいうことを一笑に付すことに決めた。


「バカバカしい。人生はゲームじゃないんだぞ」

「いいえ、人生はゲームですよ」

「え」

「正確にいえば、ゲームのようなものです」


「生まれ持った能力、手札、環境を武器に、経験値を集め、無数のイベントに挑んでいく。
 山あり谷あり、時には喜び、時には泣き、運が悪ければ死亡という名のゲームオーバー。
 その結果、ある者は大成功を収め、ある者は落ちぶれていく。
 まるでゲームのようではありませんか」

「まあ、たしかに……」


仕事の失敗で心が弱っていたこともあり、男の言葉には妙な説得力を感じられた。
俺はだんだんと男に飲まれつつあった。


「ゲームである以上、攻略本があるのは当然だと思いませんか」

「うん……そうかもしれない」

「そして、その攻略本が……これなのです」


男は古びた書物を取り出した。


もし、この状況がゲームならば「買う」「買わない」の選択肢が出ただろう。
しかし、俺の中では選択肢はすでに一択になっていた。

もちろん、「買う」だ。


「いくらだ」


男が口にした金額は決して安いものではなかったが、無理をすれば出せない額でもなかった。


「いいだろう、買おう」


自宅に戻った俺はさっそく本を開く。



すると、
早寝早起きを心がけよう、とか。
ストレスは万病のもとになるから発散しよう、とか。
野菜はしっかり食べよう、とか。
食べすぎ飲みすぎに注意、とか。
ヘルシーな料理の作り方、とか。

こんなことばかり書いてある。具体的な方策まで記してあった。



為になるといえばなるのだが、思ってたのと違う……そう思わずにはいられなかった。


真ん中らへんまで読み進めていくと、俺はようやくお目当てといえるページにたどり着いた。



≪あなたの人生の攻略法≫



今までのページとは明らかにオーラが違う。

ここから先のページには、きっと「俺の人生」の攻略法が書かれているに違いない。
これこれ、こういうのを求めてたんだよ。


俺は期待に胸をふくらませて、ページを開いた。








≪ここから先は君の目で確かめてくれ!≫







やられた、と思った。

笑いが止まらなかった。

そういや昔の攻略本ってこういうの多かったよな、なんて思った。



ちなみにこの攻略本、前半部分はわりと本当に為になるので、
俺は今でも愛読していて、そこそこ豊かな人生を歩めてます。








― 終 ―

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