幼女「ゾンビが死んだ日」 (31)
ゾンビ「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
幼女「ふぇぇぇ、建物の中にゾンビが入ってきたよぉぉぉ」
幼女「窓も他の出入口も板で塞いであるから逃げ道がもうないよぉぉぉ」
ゾンビ「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
幼女「ふぇぇぇ、噛まれちゃうよぉぉ、噛まれてゾンビになっちゃうよぉぉ」
幼女「噛まれてる途中でゾンビになるから身体が食べ尽くされる事はないけど嫌だよぉぉぉ」
ゾンビ「あ゛ア゛あ゛ア゛あ゛ア゛」
幼女「ジョージ・A・ロメロが死んだんだけど知ってた?」
ゾンビ「は?マジで?」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1500264833
ジョージ・A・ロメロとは!
現在するゾンビ映画の基礎となる作品を作り上げた映画監督。
ナイト・オブ・ザ・リビングデッド
ドーン・オブ・ザ・デッド
デイ・オブ・ザ・デッド
このゾンビ三部作は今も多くの人々から愛されている。
尚、ゾンビという概念はブードゥー教に古くから存在するがロメロ監督が作り上げたゾンビ像とはまた別の物である。
ゾンビ「……いやいやいや、あれでしょ、ジョークネタでしょ」
ゾンビ「ジャッキーチェンとかも交通事故で死亡したってネタを毎年見かけるもん」
幼女「まあ、座るの」
ゾンビ「は、はぁ」
幼女「私もショックだけど、現実は受け止めないといけないの」
ゾンビ「……ホントに死んじゃったんですか?」
幼女「うん」
ゾンビ「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、ショックだわぁ……」
幼女「ロメロのゾンビ映画とか、やっぱり好きなんだ」
ゾンビ「そりゃ、ゾンビですからねぇ、まあゾンビになる前から好きだったんスけど」
幼女「ふーん」
ゾンビ「子供の頃の私はね、ホラー映画とか凄く苦手だったんスよ」
ゾンビ「子供って想像力が豊かだから、寝てる間に見ちゃうんスよ、怖い夢を」
ゾンビ「だからロードショーとかでホラー映画が放送されてる時は見ないようにしてたんスけど」
ゾンビ「それだと友達と話が合わなくなるんスよね」
ゾンビ「だから仕方なく、夜に録画した作品を、日曜の昼間見てみたんです」
ゾンビ「それが、随分面白くて……ああ、勿論、怖かったのは怖かったですけどね」
幼女「へー、それがロメロのゾンビ映画だったの?」
ゾンビ「バタリアンって作品でした」
幼女「ロメロじゃないじゃん」
「バタリアン」とは!
ロメロ映画に影響されたダンオバノン監督が作り上げたゾンビ映画。
「ナイト・オブ・ザ・リビングデッドが現実にあった話だとしたら」という前提で作られた作品。
良く考えるとこれって二次創作じゃね?
登場人物は全員個性的で、シリアスな癖にギャグっぽいやり取りがテンポ良く続くので飽きさせない。
ゾンビ映画としての絶望感は高く「あ、これ外に出たら絶対死ぬわ」と思わせてくれる。
ゾンビ「いやあ、あれもロメロ映画の系譜に入れていいと思うんですけどね」
ゾンビ「劇中でめっちゃリスペクトされてましたから」
幼女「まあ、私の好きだけどね」
幼女「それで、バタリアンを見てからロメロに入ったの?」
ゾンビ「ですね、ゾンビ映画は片っ端から見ました」
ゾンビ「ゾンビ三部作だけじゃなくて、フルチ作品とかも」
幼女「私はそっちの作品は殆ど見てないなあ」
ゾンビ「フルチ監督はもう20年前に死んじゃいましたしね」
ゾンビ「ロメロ監督も三部作作成後はゾンビ映画から離れてらっしゃいましたし」
ゾンビ「正直、1990年代はゾンビ映画の冬でした」
ゾンビ「駄作が続いたって意味じゃないですよ、殆どゾンビ映画が作られてなかったんです」
ゾンビ「まあ、それもある作品のお陰で改善されたんですけどね」
フルチ監督とは!
「サンゲリア」等のゴア表現の高いグロテスクなゾンビ映画を多く作った監督。
特徴的な音楽と突飛なシナリオで話題を呼んだ。
「最終的に何か良く分からない理由で主人公は死にました」がまかり通る世界。
幼女「ある作品ってもしかして」
ゾンビ「そう、あれですよ、あれ」
幼女「あのシリーズね……」
ゾンビ「あのシリーズについては賛否あるとは思うんですけど、死に掛けていたゾンビ映画を蘇らせてくれたのは」
ゾンビ「確かにバイオハザードでした」
バイオハザードとは!
PSゲームであるバイオハザードを映画化したもの。
当初はロメロ氏が監督する予定だった作品。
近代的な施設で特殊部隊がスタイリッシュにゾンビと戦うお話。
シリーズ的には回を増すごとにゾンビの出番はなくなっていくので「これゾンビ映画じゃないんじゃね」と言われる事が多い。
幼女「私は寧ろ、同時期に放映されたドーンオブザデッドのリメイク版の力が大きいと思うの」
幼女「走るゾンビはロメロに否定されてたけど、登場人物同士のやり取りとか、個人的に好み」
ゾンビ「そちらの力も大きいっスね」
ゾンビ「けど、それまでコアなファンしかいなかったゾンビ映画業界に一般人が眼を向けてくれるようになったのは」
ゾンビ「やっぱり、バイオの知名度が大きかったと思うんです」
リメイク版ドーンオブザデッドとは!
ゾンビ三部作の一角「ドーンオブザデッド」を現代風にリメイクした作品。
スピード感のある音楽と映像で飽きさせない。
特にショッピングモール脱出からエンディングへの流れは非常に秀逸。
そしてCJに萌える。
幼女「けど、古典から近代への流れでどうしても嫌だった事があるの」
ゾンビ「なにがです?」
幼女「古典作品でも、そういう要素はあったけど……」
幼女「近代の作品は、ちょっと銃に頼りすぎなの」
幼女「個人的には、大量の銃手に入れて攻勢に出て正面突破する作品より」
幼女「銃なんか手元になくて仕方なく鉈持って、数に負けて敗走して、たまたまたどり着いた家で篭城する……」
幼女「そんな流れのほうが好きなの」
ゾンビ「主人公が最後死んじゃう流れじゃないですか」
幼女「それも止むなしなの」
ゾンビ「自分は、主人公生存ルートの方が好きっスけどねえ」
幼女「ふーん、因みに一番好きなゾンビ映画は?」
ゾンビ「ブレインデッド」
幼女「ロメロじゃないじゃん」
ブレインデッドとは!
1990年代初頭に作られたゴア系ゾンビ映画。
ギャグ漫画的なグロテスク描写が続く作品。
登場人物も漫画的な人物が多く、無駄に戦闘力が高い人々が存在する。
最終的に幸せなキスをして終了。
ゾンビ「はぁ……けど、本当に死んじゃったんスよね……ロメロ監督……」
幼女「……人間は、死ぬことから逃げられないの」
幼女「例え屈強な兵士だろうと、天才的な科学者だろうと、優秀な政治家だろうと」
幼女「全ての人間は、等しく死んでしまうの」
幼女「だからこそ、人間は死に対して意味を求めたの」
幼女「それは宗教だったり、進化の礎だったり、家族との繋がりだったりしたの」
幼女「ロメロ監督の場合は、自分の作品だったのかもしれないの」
幼女「実際、ロメロ監督の産んだ物は多くのジャンルに浸透しているの」
幼女「そこには、ロメロ監督が生きていた証が、確かに残っているの」
幼女「残っているの」
幼女「……」
幼女「けど、実際にゾンビが発生したら?」
幼女「その証は、繋がりは、礎は、宗教は、全て」
幼女「全て、障害物に成り下がるの」
幼女「そんな物があったら、ゾンビを撃ち殺す時に躊躇が発生してしまうから」
幼女「だから、それら全てを捨てないと、私達は生き残れない」
幼女「それが」
幼女「ゾンビが蔓延る世界の、唯一の真理なの」
ゾンビ「まあ、確かにそうっスね」
ゾンビ「例えば、ゾンビ映画が好きで昔から一人娘にその話をしていた父親が」
ゾンビ「ゾンビになっちゃって」
ゾンビ「娘を襲おうとしてるとしたら」
ゾンビ「家族の絆とか、ロメロ監督を介した繋がりとか」
ゾンビ「そんなものは、全て無意味になっちゃうっスよね」
幼女「……うん」
ゾンビ「きっと、きっとそんな古い価値観に捉われちゃった人は、こんな世界では生きていけないっス」
幼女「……」
ゾンビ「あなたは、どうっスか」
幼女「……」
ゾンビ「そろそろ、踏ん切りがつけられそうっスか」
幼女「……」
ゾンビ「まあ、こんな幼い子供にそんな判断をさせるのは、流石に酷っスかねぇ……」
ゾンビ「自分はどっちでもいいっスけど」
ゾンビ「今はあなたのことを、美味しそうな肉としか見れないっスから」
幼女「……」
ゾンビ「じゃあ、そろそろイイっスよね」
幼女「……」
ゾンビ「ア゛」
ゾンビ「あ゛ぁ゛」
ゾンビ「あ゛あ゛あ゛あ゛」
ゾンビ「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
ゾンビ「あ゛ア゛あ゛ア゛あ゛ア゛」
ゾンビ「あ゛ア゛あ゛ア゛あ゛ア゛あ゛ア゛あ゛ア゛あ゛ア゛」
幼女「ごめんね」
幼女「実は私、もう幼女じゃないんだ」
「……ちょっと意識が朦朧としていました」
間近まで迫っていたゾンビの頭に鉈をたたきつけます。
危ない危ない。
やっぱり疲れているのでしょう、こんな所で昔の夢を見てしまうなんて。
この事件が始まった頃、私は両親と共に家に立て篭もっていました。
けど、食べ物の備蓄は少なかったんです。
誰もこんな事件が起こるなんて予想していませんでしたから。
父は、食料を探しに外に出ました。
そして戻ってきた父は、既に人間ではありませんでした。
母は絶望し、半ば身を投げる形で父に食われ、私は部屋の奥に追い込まれました。
父は迫ってきました。
普段からホラー映画が好きだった父が、まるでロメロ映画に出てくるゾンビみたいに。
幼い私は、父が残していった鉈を引きずって逃げました。
部屋の中を逃げ回りました。
当時の私には、鉈を持ち上げるだけの力は無かったのです。
けど、父の残した物を捨てる気にはどうしてもなれなかった。
その後、起こったことは、良く覚えていません。
幾つかの憶測が混じっています。
父は私を捕え、覆いかぶさりました。
私は必死になって、鉈を持ち上げようとしました。
ゴロゴロ、カラガラと何かが私たちの上に落下し。
気がつくと。
鉈は、父の頭に食い込んでいました。
ザクリという音と、手に残る感触だけ、覚えています。
それでおしまい。
私は運良く生存者のコミュニティに保護されました。
まあ、一年も持たずに瓦解しましたけど。
その後も、幾つかのコミュニティを転々として、今に至ります。
色んな人が死にました。
色んな人の死を目にしました。
けれど、私はそれに拘らないようにしてきました。
誰かの死に意味があると感じてしまうと。
多分、私は生き残れない。
そんな物は捨ててしまわないと。
この世界を生き残れない。
そうして、今まで、生きてきたんですけどね。
「はぁ……足が痛いです……」
「まさか、鉈が抜けなくなるなんて……」
「長年使ってきたから、歪みが出てきたのでしょうか……」
「こんな事なら、前に居たコミュニティで銃でも仕入れとくんでした……」
「……いや、駄目ですね、銃だと音が出る」
「それなら、やっぱり、鉈のほうが……」
「……」
「私は、何でこんなに鉈に拘っているのでしょうね……」
「もしかして……」
「お父さんの影響……なのかなぁ……」
「……」
今までも噛まれた人を沢山見てきましたが、助かった人は居ません。
例え噛まれた部位を切り落とそうと。
助かることはありません。
それが判っていても、特に怖くはありません。
私は、どうやら自分が死ぬことに対しても、酷く無頓着な様子です。
けど。
けど、私がもし。
ゾンビになったとしたら。
他の人に迷惑をかけてしまうでしょう。
それだけは、避けたいです。
けど。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません