杉本「貴金属カムイ」(16)

2001年・小樽

杉本「あのー、杉本佐一と申します。貴金属の買取に来たのですが」ピーンポーン

お婆さん「いや、うちはそういうのはないです」ガチャ

杉本「ハァ、さっぱりだな。もうこの辺りの貴金属は東京の業者が買い尽くしたか……」

アシリパ「……」テクテク

杉本(ん……このうちの子供か?)

アシリパ「……」ピーンポーン

お婆さん「はいはい」

アシリパ「中古の着物を売っている者だ!」

お婆さん「すいません、間に合ってますので」

アシリパ「そんなに沢山あるのか?」

お婆さん「ええ、もう沢山ありますから」

アシリパ「じゃあ買取の見積もりをしてあげよう。もちろん無料でだ」

お婆さん「え、あ、でも今そんなに困っている訳でもないし」

アシリパ「いつか処分に困るくらいなら売った方が良いだろう。そういう時に値段を知っていると判断し易い」

お婆さん「はあ……」

アシリパ「なにも今売る必要はない。近所の奥さん方にも好評だからどうだ?」

お婆さん「あら皆さんも見てもらったの? じゃあ見て貰うだけ見て貰おうかしら。今開けます」

杉本(上手い……間と良い落とし方と良い、ぶっきらぼうな態度以外は完璧な営業じゃないか)

アシリパ「丁度良い、暇なら着いてきてくれないか?」

杉本「え?」

アシリパ「さっき見ていた。お前貴金属買取業者だろう? 頼む、分け前はやるから」

杉本「あ、ああ」

ガチャ

お婆さん「どうもー……あら、今話していた女性は?」

アシリパ「私だ、兄と二人でこの地区を回っている」

杉本「あ、はじめまして」

お婆さん「あら、そんな歳で偉いのねぇ」

アシリパ「父が病気で倒れたんだ。目利きは小樽でも一番の自信があるから安心してくれ」

お婆さん「まあそうなの、うちの主人も去年脳溢血で入院してねぇ」

アシリパ「それはお気の毒に。まだ入院中なのか?」ズカズカ

杉本(世間話をしながらさり気なく家の中へ……なんてスムーズなんだ)

お婆さん「こういうのはどうかしら。ちょっと適当に仕舞っておいたから、駄目だとは思うんだけど」

アシリパ「そんなことはない。樟脳でしっかりと防虫もしていたようだ。奥さんは着物をとても大切に扱っている」

お婆さん「まあ、そうかしら」テレ

アシリパ「花の絞り汁……吉乃一廉か。奥さん、この着物は25000円で買取可能だ」

お婆さん「そんなに高いの? じゃ、じゃああれはどうかしら」ゴソゴソ

杉本(子供なのに凄い着物の知識、流石は着物屋さんだな。しかし少し触っただけでこうも分かるものなのか?)

アシリパ「これは8000円。これは12000円だ」

お婆さん「なるほどぉ。大事に仕舞っておいてよかったわ」

アシリパ「うちは古物全般を扱っているから、良かったら他の物も見よう」

お婆さん「あら本当? 買ったきり使ってない健康器具を――」

杉本(え、着物専門の業者じゃないっていうのか?)

アシリパ「古い型のマッサージチェアか、これは500円で買い取ることが出来る」

お婆さん「まあそんなものよねぇ。大きいから処分にも困っていてねぇ」

アシリパ「良い値段をつけて上げたいところだがなかなか……。そうだ、ブランド物やネックレスはないか?」

お婆さん「ネックレス?」

アシリパ「ずっと使っていないまま忘れられているアクセサリー類とかだ。最近売るのが流行っている」

お婆さん「あ、そういえば戸棚にあったような……」

アシリパ「じゃあ早速見に行こう」

杉本(えぇ!? お婆さん貴金属あったの!?)

アシリパ「純金の指輪、銀細工のコンパクト等々、合わせて23万円だ」

お婆さん「えぇ、そんなに頂いても良いものなの?」

アシリパ「もちろんだ。わざわざ探して貰ったし、こちらもサービスは惜しまない」

お婆さん「へぇーそうなの。そんなに高かったのねぇ」

アシリパ「今日買取しても良いならあのマッサージチェアも引き取ろう。もちろん無料でだ」

お婆さん「あら、そんなこともしてくれるの?」

アシリパ「うん。旦那さんも大変な時だろうし、ああいうものは処分出来る時に処分しておいた方が良い」

お婆さん「そうねぇ。……じゃあ買取お願いしようかしら」

アシリパ「ありがとう、今現金で支払う。身分証と判子はあるだろうか?」

お婆さん「ちょっと待っててね」スタスタ

アシリパ「杉本、帰りにチェアの運搬を手伝って貰えるか?」

杉本「あ、ああ」

杉本(凄い……着物の査定から気づけば貴金属買取の成約まで結びつけたぞ)

アシリパ「じゃあこれで帰る。なにかあれば渡したチラシの番号にいつでも電話をしてくれ」

お婆さん「本当にありがとうねぇ、それじゃあ」

バタン

アシリパ「ふう」

杉本「凄かったなぁ。良いものを見させて貰ったよ」

アシリパ「感謝を言うなら私の方だ。子供だけでもいけると思っては居たんだが、やはり大人が居てくれて助かった」

杉本「君一人で買取をしようとしていたのか?」

アシリパ「父は今本当に病気なんだ。医療費を稼がないといけない」

杉本「強い子だなぁ。このチェアはどうする?」

アシリパ「直ぐ近くに馴染みの廃品回収業者がある。そこに行こう」

杉本「分かったよ。よっこらせ」ズシ

アシリパ「杉本は力持ちだな。分け前のこともある、これを処分したらなにか食べに行こう!」

杉本「ああ! 俺、昼まだなんだ」

小樽市新光

杉本「なると、屋?」

アシリパ「なんだ杉本、小樽ははじめてか?」

杉本「うん。最近北海道に貴金属買取に行く業者が多いから、俺も一攫千金を狙って来たんだ」

アシリパ「北海道はまだ買取業者が回っていない土地が多いからな。おじちゃん半身揚げ二つ。で、良いか?」

杉本「ああ、任せるよ」

アシリパ「なると屋は創業60年の老舗で、今はチェーン店も多いが元は小樽発祥なんだ」

杉本「へえ、随分歴史があるんだな」

アシリパ「ああ! ザンギにメンチカツ・カキフライも美味いが、中でも若鶏の半身揚げは絶品だ」ジュルリ

杉本「それは楽しみだ」

アシリパ「おじちゃん、やっぱりザンギも追加してくれ!」

杉本「よく食うなぁ」

アシリパ「頂きます」モグモグ

杉本「――うおっ! なんだこれ、カリカリの皮の中で肉汁が蕩けてる! 癖になる味付けだなぁ」

アシリパ「この秘伝の味付は誰にも真似出来ない。同じ味を提供するチェーン店が出来たのは凄いことだ」モグモグ

杉本「俺の地元にも出来ないかなぁ」モグモグ

アシリパ「美味しい美味しい! ほら、杉本も美味しいって言え!」

杉本「あ、はい。美味しい美味しい……?」

アシリパ「うんうん。いいか杉本、小樽では美味しい物を食べた時に美味しいって言うんだ」ニコ

杉本「う、うん……俺も言うよ……?」

アシリパ「美味しい美味しい!」ニコ

杉本「……ははは、美味しい美味しい!」ニコ

杉本「ご馳走様」スタスタ

アシリパ「おじちゃんご馳走様ー。ふう、良い具合に満腹だ!」

杉本(結局半身揚げ六個も食べてたもんな……)

アシリパ「さて、じゃあ分け前だな。折半でどうだ?」

杉本「折半!? いや、そんなに貰えないよ」

アシリパ「そう言わないでくれ。小樽人は儲けを独り占めしない!」

杉本「お、小樽人は優しいんだなぁ」

アシリパ「さあ遠慮せず受け取ってくれ」ズイ

杉本「いや、やっぱり良いよ。営業したのはアシリパさん一人なんだし、お父さんのこともあるだろ?」

アシリパ「ま、まあ確かに父のことは……」

杉本「それより、良かったら俺と組まないか?」

アシリパ「組む……?」

杉本「ああ。アシリパさんは大人と一緒の方がやり易いだろうし、俺もアシリパさんに色々教わりたい」

アシリパ「なるほど、それは助かる!」

杉本「こちらこそだ。実を言うと俺、営業が苦手なんだ」

アシリパ「そうだろうな。さっき見ていたがあれは酷い。くく、まるで怪しい宗教の勧誘だった」

杉本「アシリパさん俺そういうの言われると泣くタイプだからね?」

アシリパ「じゃあ今日からよろしくな。改めて、私はアシリパ! 小樽人だ」

杉本「杉本佐一、よろしく」

杉本(さっきから小樽人ってなに?)

※とりあえずここまで。
ゴールデンカムイの現代板で、小樽のグルメ貴金属買取バトルSSです。

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