西住みほ「いつの間にか私が不良として認知されていました」 (80)

大洗女子学園 2年A組 教室

みほ「はぁ……」

みほ(今日からここで新しい学生生活が始まるんだ……うまくやっていけるかな……。友達、今度こそできるかな……)

みほ「最初、最初が肝心って……お姉ちゃんも言ってたし……」


まほ『初対面の者と話すときは、なるべく目を見たほうが良い。もし視線を外したり、泳がせてしまえば不信感を抱かせることになる』


みほ「目を見て……しっかりと話す……それだけ……それだけ……」


華「あの方、先ほどから教室の前で何をされているのでしょうか?」

沙織「ていうか、見たことなくない?」

華「大洗の生徒も多いですから。見たことがない人がいても不思議ではないかと。それに珍しくはありますけど、高等部から大洗に通う人もいるみたいですし」

沙織「それもそっか。なんか困ってるみたいだし、ちょっと声かけちゃおーっと」テテテッ

華「あ、沙織さん」

沙織「ヘイ、彼女。なにしてるの?」

みほ「はい?」ギロリッ

沙織(目つき、ヤバ!! かなりこわいんだけど!!)ビクッ

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お送りします [saga]

以降P表記のモバP「思いの外ドッサリ買い込んじゃったなぁ」トテトテ

P「こう暑い日が続くとアイスとかジュースとかばっかりになるよなぁ…夏なんて何のために存在するんだよスイカの為か?」

タッタッタッタッタッタッタッ

P「はぁ…外あっちぃ。早く冷房のきいた部屋に戻らねば」

タッタッタッタッダダダダダダダダッ

P「うん?何やら背後から殺気が」

飛鳥「レゾン・デートル!!」ゴスッ

P「脊椎が!」

飛鳥「やぁプロデューサーこんな道端でどうしたんだい?」

P「お前、誰の、せいだと」ゲホッ

飛鳥「ふふ、相も変わらずキミの周囲は非日常なセカイが広がっているみたいだね」

P「げふっ…、取り合えず突然のダイビングクロスチョップの理由を聞こうか」

飛鳥「それは胸に手を当ててみるといいよ」

P「お前の?」

飛鳥「自分の!」

P「冗談だよ。手を当」

飛鳥「手を当てるほどもない、なんて言ったら封印されし左腕の雷帝が火を噴くよ」スッ

P「…身に覚えがないんだけど」

飛鳥「そうかい。だったら己が罪、直接その瞳に映してみるといい」

P「…?どうした飛鳥。何かエクステめっちゃニュルニュルしてね?」

みほ(知らない人に声をかけられた……!! 目線を外さないようにしなくちゃ……!! 友達を作るチャンスかも……!)

みほ「私に何か?」

沙織「あー、えっと……」

みほ「……」

沙織(すっごく睨まれてるよぉ……な、なになに……この子……)

みほ「なにか?」

沙織「いや、何か、困ってるのかなーって思って……」

みほ「困ってはいません」

沙織「そ、そうなんだー。あはは。ごめんねー。それじゃあ」

みほ「それだけですか」

沙織「う、うん。それだけ」

みほ「……」ジーッ

沙織「ご、ごめんなさーい!!」

みほ「あ……」

みほ(逃げていった……どうしたんだろう……)

沙織「はなぁぁ」

華「どうだったのですか?」

沙織「なんか、すっごく怖い子だった……」

華「そうなのですか? とても優しそうな雰囲気ですけど」

沙織「でもでも、目つきとか鋭くて、一切私から視線外さないんだよ!?」

華「何か武芸でも嗜んでいるのでは?」

沙織「そんな風には見えないから、怖いんだって」

華「人は見かけによらないといいますから」

沙織「あー、怖かった……」

華「沙織さんがここまで怯えてしまうなんて、初めてみたかもしれません。少し興味が沸いて来ました」

沙織「ダメだって。気軽には話しかけない方がいいと思う」

華「そうですか……」

みほ「……」キョロキョロ

みほ(上手くなじめるかな……不安だなぁ……)

みほ(とりあえず、教科書を机に……)ゴソゴソ






























































ああ
2017/07/12(水) 17:38:04.11ID: FO/WkdNt0 (4)
372: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]
乙です
2017/07/12(水) 17:46:27.91ID: HeBea9beo (1)
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担任「新しいクラスになりましたし、一人ずつ自己紹介をしてもらいます」

みほ(来た……!! 大丈夫、この展開は予測通り。ばっちりここを乗り越える作戦は練ってきてる……)

みほ(ノートに書いた自己紹介文。私の話す速度ならピッタリ60秒。十分、私をアピールできる)

担任「窓際の一番前からいきましょうか」

みほ(今の内に復習しておかないと)ゴソゴソ

みほ(今年度から黒森峰女学園より転校してきました、西住みほといいます)

みほ(大洗のことは何も知らなくて、皆さんには色々とご迷惑をかけてしまうこともあると思いますが、よろしくお願いします)

みほ(私はボコシリーズが小さいときから大好きで、ぬいぐるみをたくさん集めています)

みほ(もし、ボコのことが大好きな人がいたら教えてください。それでできればボコ愛好会を作れたらいいなって考えています)

みほ(そういうのって難しいかもしれませんけど、とっても楽しいと思うので是非声をかけてください)

みほ(目指せ、ボコ道!)

みほ(……よしっ)

担任「では、次の西住さん。お願いします」

沙織(お、あの子の番だ)

華(西住さんというのですか)






























































ああ
2017/07/12(水) 17:38:04.11ID: FO/WkdNt0 (4)
372: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]
乙です
2017/07/12(水) 17:46:27.91ID: HeBea9beo (1)
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みほ「……」ブツブツ

担任「……西住さん?」

みほ「……たく……ボコ……ボコ……」ブツブツ

ザワザワ……

担任「西住さん!」

みほ「あ、はい!?」

担任「自己紹介をお願いします」

みほ「は、はいぃ!」ガタッ

みほ「あー、えーと……」

みほ(そうだ……! まずはみんなの目を見ないと……ええと……)

みほ「……」ギロッ

ザワザワ……

沙織(なんでみんなを睨みつけてるの……!?)

華(皆さんの顔を一瞥してから話すなんて……。厳しい礼儀作法を叩き込まれたのでしょうか。格式あるお家で育ったのかもしれませんわ)

みほ(これでよし。次はノートに書いた通りに喋るだけ……!)

みほ「……」

沙織(黙ってるんだけど……)

華(どうかされたのでしょうか)

みほ(どうしよう……あたまが……まっしろに……ええと……ええと……)

みほ「く、黒森峰女学園より、転校させられた、西住みほ……」

ザワッ……

沙織「(ねーねー! 華! 今、転校させられたって言ったよ!? なんか問題起こしたんじゃない!?)」

華「(緊張で言葉を間違った可能性もあるのでは?)」

沙織「(そ、そうなのかなぁ……)」

みほ「私は……皆さん……ボコ……ボコ……にできれば……いいなって……おもってます……」

ザワザワザワ……

沙織「(ちょ!? 華!! あの子、かなり危ないって!!!)」

華「(見かけに反してかなりアクティブは方なのですね)」

沙織「(そういう問題じゃないってばぁ!!)」

みほ「ご迷惑をおかけすることになりますが、よろしく……お願い……します……」

担任「……」

みほ「……」

担任「お、終わりですか?」

みほ「まだ、何か言わないといけませんか?」

担任「だ、大丈夫です! つ、次の人、どうぞ」

みほ「……」

沙織「(あの子、不良なのかなぁ。大洗を一人で征服しちゃう気なんじゃない?)」

華「(とてもそうは見えませんけど……)」

沙織「(けど、みんなをボコボコにしたいって言ってたじゃない)」

華「(皆さんを笑顔にするための冗談だったのでは?)」

沙織「(それっぽく言ってないし、結構本気のような……)」

華「(そうですねぇ……)」

みほ「……」

みほ(作戦、失敗……)

みほ(このままじゃ、ここでも友達なんてできない……! 次の作戦を練らないと……)

昼休み

「お昼、どうするー?」

「食堂いこー」

みほ「……」

みほ(そうだよね。あんな自己紹介だと、誰も声なんてかけてくれないよね)

みほ(ボコは子供っぽいもんね……)

みほ(でも、いつかボコが大好きって人に会いたいな……そんな人と友達になれたら……)

みほ「えへへ……」


沙織「一人で笑ってるよ……」

華「取り込み中のようですね」

沙織「とりあえず、食堂いこっか」

華「お声、かけなくてもいいのですか」

沙織「もうちょっと西住さんのことを知ってからでもいいと思う」

華「話さなければ知ることもできないと思いますけど」

沙織「いーから、いーから」

寮 みほの部屋

みほ「初日は失敗しちゃったけど、次の作戦が成功したらなんとかなるはず」

みほ「まずはクラスの人の顔と名前を覚えないと」

みほ「あと、誕生日も。これでぐっと話しかけやすくなるはず」

みほ(借りてきた生徒名簿を見て覚えれば一晩でどうにかできると思うし)

みほ「よしっ。やろう」

みほ「ええと……出席番号1番……」ペラッ

みほ「誕生日は……6月15日……」

みほ「次……出席番号2番……誕生日が4月……」カキカキ

みほ「あ、この人、誕生日が明日だ」

みほ「何かあげられるものはないかな……」

みほ「……」スッ

みほ「ごめんね。けど、私が仲良くなるためだから……」

みほ「本当にごめんね、ボコ」

みほ「ボコで仲良し作戦。明日、試してみないと」

翌日 大洗女子学園 廊下

ザワザワ……

沙織「ん? なんか教室の前にすごい人だかりが……」

華「何かあったのでしょうか?」

沙織「猫田さんっ」

ねこにゃー「あ、あぁぁ……。武部さん……おはようございます……」

沙織「何かあったの?」

ねこにゃー「ボクも今、見たんだけど……」

華「見た、とは?」

ねこにゃー「教室の中央に……に、西住さんが……その、一人で……」

沙織「に、西住さんが? なんだろう?」

華「見てみましょう」

沙織「ちょっと、華!」

華「一体、西住さんが――」


みほ(どうしたんだろう。誰も入ってこない。このボコ、プレゼントできないよぉ)ギュッ

華「……」

沙織「華? 何が見えたの?」

華「西住さんが大きなクマらしきぬいぐるみを抱えて、教室の中央に立っていました」

沙織「な、なんで……」

華「皆目見当もつきません」

ねこにゃー「昨日の自己紹介もあって、皆教室に入ろうとしなくて……」

沙織「仕方ないかも」

華「ここはわたくしが直接、お話を……」

沙織「待って!! 華!!」

華「このままではいつまでたっても西住さんがどういった人なのか、理解することができません」

ねこにゃー「DQNとかではなさそうだけど……メンヘラ……なのかな……あるいは厨二病……?」

華「猫田さん。そういったレッテルは相手に失礼ですわ」

ねこにゃー「あぅ……ごめんなさい……ボク、ネットにつかりすぎてて……」

華「ともかく、お話を聞いてみましょう」

桃「なんの騒ぎだ!! もうすぐチャイムがなるぞ!! 各自、速やかに教室へ移動しろ!!

沙織「ちょっと事情があるんですけど」

桃「事情だと?」

柚子「風紀的なことかな?」

華「あるいはそうなのかもしれませんが、生徒会のお力を借りるまでもないことです」

桃「だとしてもこうして騒ぎになっているなら、事情は聞かないわけにはいかない」

沙織「そうなっちゃいますか」

ねこにゃー「黒森峰から転校してきた西住みほさんが、教室に一人でいて……」

桃「西住……?」

柚子「今年度から転入してきた人。ちゃんと届け出が3月にあったよ」

桃「分かっている。それに西住は最後の希望だ」

柚子「うん」

沙織「希望?」

桃「こちらの話だ。それで、その西住が教室にいるだけで誰も入ろうとしないのか」

柚子「そ、そんなに怖い人なの?」

華「西住さんの自己紹介時に問題があったのは認めざるを得ませんが、最初の印象だけで相手の人格まで決めつけてしまうのは間違っているとわたくしは思います」

柚子「自己紹介?」

ねこにゃー「実はみんなをボコボコにしたいって発言してて」

桃「なんだそれは」

柚子「黒森峰では副隊長を務めていたって会長が言っていたけど」

桃「そういえば……。現隊長である西住まほはかなり厳格な人間であるという噂があったな」

柚子「普段抑圧されていた分、ダメな方向に行っちゃったのかな」

桃「可能性はあるな。去年の敗戦が理由で転校してきたいう話だが、事実は別にあるのかもしれない」

柚子「西住さんって、もしかして不良生徒……」

桃「だとしたら、素直にこちらの話に応じてくれるかどうか……」

柚子「それは困るよ、桃ちゃん」

桃「私に言うな」

華「あの……」

桃「すまない。気にするな」

沙織「気になりますって」

桃「おほん。とりあえず私たちが西住と話をしてみる。このまま騒ぎが大きくなるのは生徒会としても看過できないからな」

柚子「いいの、桃ちゃん」

桃「会長になんらかの危害を加えられたら戦車道どころの話ではないからな」

柚子「うん……」

華「わたくしたちでも十分かと」

桃「黙っていろ。入るぞ、柚子」

柚子「分かったよ、桃ちゃんっ」

ねこにゃー「だ、大丈夫かな」

沙織「どうだろうね」

桃「失礼す――」

みほ「……」ギロリッ

桃「ひっ……!?」

柚子「西住、さん……?」

みほ(知らない人……)

みほ「なんでしょうか」

桃「あ……その、だな……」

みほ(目を見て話さなきゃ)

みほ「なんですか?」

桃「ぐっ……。ゆ、柚子、頼む」

柚子「えぇ~!?」

桃「こういうことは副会長の務めだろう!!」

柚子「こんなときばっかりだよね、桃ちゃん」

桃「いいから、いけ!!」

柚子「西住さん?」

みほ「はい、そうです」

柚子「どうして、そんな大きなぬいぐるみを抱えているの?」

みほ「え……?」

柚子「……」ビクッ

みほ「ダメなんですか?」

柚子「だ、ダメっていうか、そういうのは一応、校則違反なんだけど……。正門のところで風紀委員が立っていたと思うんだけど、何も言われなかった?」

みほ「分かりません。私が来た時はまだ誰もいなかったので」

桃(誰も来ていなかった? そど子は毎日朝の7時には正門にいるはずだが)

柚子「そ、そうなんだ」

みほ「……そういうことですか」

柚子「な、なにが?」

みほ「どうぞ」スッ

柚子「え?」

みほ「持って行ってください」

柚子「あ、えーと……」

みほ「……」

柚子「はい。没収します」

みほ「……さよなら」

柚子「さ、さよなら」

桃「そろそろ戻るか」

柚子「そ、そうだね」

みほ(ごめんね……ボコ……。ボコで仲良し作戦、失敗……)

桃「もう大丈夫だ。皆、早く教室にはいれ」

「「はぁーい」」

華「そのぬいぐるみ、どうされたのですか」

柚子「西住さんが差し出してきて」

ねこにゃー「そ、そうなんですか。なんのためにもってきたんだろう」

桃「それはわからんが、とりあえずは解決した」

柚子「解決なのかな?」

桃「西住も大人しく席に座っている。問題はないだろう」

柚子「うーん……」


みほ(誕生日おめでとうだけでも言っておこうかな。でも、プレゼントもないのに不自然だよね……)

みほ「……」


沙織「なんか目が死んじゃってる気がするんだけど」

華「クマのぬいぐるみになにか意味があると思うのですけど」

ねこにゃー「大きいし、目的もなくもってくるわけないかも」

生徒会室

杏「お? ボコのぬいぐるみ。どうしたの、これ」

柚子「西住さんが持ってきていたものです。その場の流れで没収してしまいました」

杏「西住ちゃんってボコが好きなのか」

柚子「それは分かりませんけど」

桃「会長はこのぬいぐるみのこと、知っているのですか」

杏「ボコられグマのボコ。昔、流行ったやつだね」

桃「はぁ……」

杏「西住ちゃんはぬいぐるみが好きなんだ。戦車だけのかたーいイメージを勝手に持ってたけど、実際は普通の女の子みたいで良かった」

桃「そうでもないようです」

杏「ん? そなの?」

柚子「もしかしたら問題を抱えているのかもしれません」

杏「ふぅん。なんで?」

桃「早朝から大きなぬいぐるみを抱えたまま教室にいるというのが既に奇行ですし、自己紹介では全員を殴るとまで発言したそうです」

杏「へぇ。面白そうじゃん。もっと聞かせて」

2年C組 教室

優花里「……」ペラッ

優花里(月刊戦車道でも記載はありませんか。西住みほさんが黒森峰を退学したという噂は本当なのでしょうか)

優花里(心配です……。会ったこともありませんけど)

「ねえねえ、聞いた。A組にすっごい怖い子がいるんだって」

「知ってる。今朝の話でしょ? 大きなぬいぐるみを抱いたまま朝から教室にいたとか」

「そうそう。しかもそのぬいぐるみ、包帯がグルグル巻きで、体中傷だらけで、結構不気味だったって」

「えー、やだねー」

優花里(変わった人がいるんですね)

「名前って分かる?」

「確か、西住……って聞いたような……」

優花里「西住!?」ガタッ

「キャッ!?」

「ど、どうしたの」

優花里「す、すみません。なんでもありません……」

廊下

優花里「西住……同じ苗字という可能性もありますけど……。でも、確かめてみないと……」

優花里(けど、先ほどの噂話の内容も気になりますね。テレビでみる西住みほさんはとてもぬいぐるみを抱えて一人でいるような人には見えませんでしたし)

優花里「A組。ここですね」

優花里(いるのでしょうか……)ソーッ


みほ「……」


優花里(い、いた……!! 間違いなく、あの西住みほさん……!! どうしてこの大洗に来たのかはわかりませんけど……)

優花里(なんとか……戦車道や戦車のお話をきいてみたい……)


みほ(次の作戦を考えなきゃ。このままだと大洗でも友達なんてできない……)

みほ(変わらなきゃ。戦車道を辞めて、お姉ちゃんたちから逃げ出した意味がわからなくなる)

みほ「まずは……」カキカキ


優花里(なにやらノートに書き込んでいますね。自習中でしょうか)

優花里(今は話しかけられる雰囲気ではないようですし、時間を改めましょう)

放課後

「バイバーイ!!」

「バイバーイ」

みほ(私もああして、お別れしてみたいな)

典子「あの!!」

みほ「は、はい!?」

典子「バレーボール、やりませんか!?」

妙子「やりませんか!?」

あけび「楽しいし、シェイプアップにもなりますよ」

忍「絶対に損はさせません!!」

みほ「あ、えと、わたし、バレーボールはしたことがなくて……」

典子「未経験者でも問題ありません!! とりあえず、これを受け取ってください!!」

妙子・あけび・忍「「おねがいします!!」」

みほ「はい!! わかりました!!」

典子「ありがとうございます!! よし!! 次いくぞー!!」

みほ「青春、しましょう。急募、バレーボール部員……」

みほ「部活動か……」

みほ(ずっと戦車道ばかりで他のスポーツをするなんて考えたこともなかったな)

みほ「部活なら、さっきの人たちとは友達になれるかも……」

みほ「でも、私じゃ足を引っ張るだけだろうし……ダメかな……」

みほ「……」


優花里(御一人で帰るのでしょうか。それならなんとか声をかけて、一緒に登下校を……)


みほ「んー……」

みほ(ここで勇気を出さないと……きっと一生友達なんて……)

みほ「よ、よしっ」


優花里(気づかれた!?)


みほ(バレーボール、始めてみよう。私にどこまでできるかはわからないけど)


優花里(あ、あれ? 学校のほうへ戻っていく……。忘れ物でしょうか……)

廊下

みほ「あれ……?」

みほ「バレーボールの表記がどこにもない……。ここって部活棟だったはずなのに……?」

希美「どうかされましたか?」

みほ「え!? あ、その……こ、このバレーボール部員募集って……」

希美「バレーボール部は廃部になりましたけど」

みほ「えぇぇ~!? でも、こうして……ビラ配りを……」

希美「部員が集まれば復活できるかもしれないっていう噂はありますけど」

みほ「そ、そうなんですか……」

希美「入部希望なんですか? それなら会長に直訴してみてはどうでしょうか。もしかしたら、バレーボール同好会での活動は認めてもらえるかもしれませんよ」

みほ「あ、いえ、ないなら……別に……」

希美「そうですか」

みほ「はぁ……廃部になってたんだ……」

みほ「……帰ろう」


優花里(何か気になる部活でもあったのでしょうか。西住みほさんとなら一緒の部活動も楽しそうです。戦車部とか作れたら……。けど、黒森峰からこちらへ来たのって……もしかしたら……)

通学路

みほ「はぁ……」

みほ(私って、どうしてこうなのかな)

みほ(さっきのビラ配りをしていた人たちに直接言えれば良かったのに……)

みほ「はぁ……」


優花里(話しかけてみたい……。こうしてずっと後をつけてしまうのも気が引けますし……)

優花里(でも、なんとお呼びすればいいでしょうか……。西住さんやみほさんでは、馴れ馴れしいですし、西住様ではちょっと違和感があります)

優花里(うーん。西住副隊長!! では、問題が多そうです)

優花里(西住みほさんを尊重しつつも、親しく呼びたいですね。あぅ、これは私の我儘でしょうか)


みほ「……ん?」

みほ(誰だろう?)


優花里(西住提督……ちがう……。西住氏! しっくりきませんね……)


みほ(つけられてる……? わけないよね。帰る道、一緒なのかな?)

アイスクリームショップ

沙織「やっぱさぁ、西住さんってかなりのワルだったんじゃない?」

華「そうでしょうか」

沙織「あの目つきに行動だよ? 相当な不良だったと思うなー。麻子もそう思わない?」

麻子「会ったことも話したこともないから、なんとも言えない」

華「冷泉さんも今朝のお話は聞きました?」

麻子「沙織から聞いている。昨日の自己紹介でもおかしなことを言っていたらしいな」

沙織「全員をボコボコにできればいいなって、普通言わないって」

華「違うことを言いたかっただけかもしれませんし」

沙織「どう違うように言えるの」

麻子「緊張で言い間違えたのなら、訂正するだろうしな」

沙織「ボコボコにしたいっていうのは本当ってことでしょ」

麻子「その西住さんが抱えていたぬいぐるみ、ボコという名前らしいな」

沙織「え?」

麻子「殴るではなく、ぬいぐるみのことを指していたのだとすれば意味が違ってくるかもしれない」

華「聞き取れなかっただけで、他にも何かを言っていたかもしれないということですか」

麻子「自己紹介のとき、ボコボコといったのではなく、間をあけてボコ、ボコと言ったのならあり得る」

沙織「確かに、ボコボコとは言ってなかったような」

華「皆さんはボコが好きですか? 私もボコが好きなんです。と言っていたとも考えられます」

沙織「それだけの言葉を聞き逃しちゃうかなぁ」

華「しかし、全員を殴りたいといきなり発言してしまう人間だという説よりは説得力があります」

沙織「そう言う人がいないとも限らないじゃない」

麻子「沙織は調べてみたか」

沙織「何を?」

麻子「西住さんが黒森峰で何をしたのか」

沙織「そんなの調べて見つかるものなの?」

麻子「ネットで調べればすぐに見つかった。これだ」

華「ええと、滑落した戦車の乗組員を救出するために川に飛び込んだ、とありますね」

沙織「西住さんって戦車道してたんだ」

麻子「ワルが他人のために自分の命を投げ出すか否か。ゆっくり考えてみればいい」

華「この行動が原因で黒森峰は敗戦しているのですね」

麻子「そうらしい」

華「勝利よりも仲間を選んだわけですか」

沙織「西住さんに問題がないなら、なんで転校してきたのよぉ」

麻子「詳細は本人に聞いてみなければ分からないが、戦車道が関係しているのかもしれないな」

華「戦車道も武芸であり、それぞれに流派があります。きっと学校によっても特色があるはず」

沙織「何がいいたいの?」

華「西住さんは黒森峰の戦車道についていけなくなったために、戦車道から退いてしまったかもしれないということです」

華「もちろん、退いたのは本人の意志かどうかにもよりますが」

麻子「確かに。戦車道を辞めるという条件での転校だったのかもしれないな」

沙織「戦車道したいのにできなくなったってこと?」

麻子「憶測ならいくらでも語ることができる。嫌になって辞めたのか、続けたいのに辞めなければいけなくなったのか」

華「後者だとしたら辛いでしょうね。わたくしも華道を取り上げられてしまうのは悲しいですから」

沙織「西住さん、悩みごとが多いのかなぁ」

麻子「悩みを話せる相手が一人もいない、という悩みもあるだろうしな」

沙織「そうだよねぇ……」

華「大洗にも戦車道が選択授業であれば確かめられるのですが」

沙織「どうやって?」

華「戦車道を一緒に選択しましょうと誘ってみるんです。それで西住さんが嫌だと言えば、転校してきた理由がはっきりするわけですから」

沙織「なるほどね。同じ選択科目を受ければ一緒になる時間も多くなるし、西住さんの女子力も飛躍的にアップするもんね」

華「女子力はどうか分かりませんけど、少なくとも戦車道を完全に断ち切っているかどうかは分かります」

沙織「自分でやめたーって思っても、どこかで後悔しているときってあるもんね。新しい彼氏と付き合ってみたら、前の彼氏のここがよかったなぁって気が付くみたいな」

華「付き合ったことあるんですか?」

沙織「別にいいじゃない!」

麻子「そもそも大洗の戦車道は廃止になって20年以上経過している。今年いきなり復活する可能性はゼロに近いな」

沙織「そっかぁ」

華「戦車道部を作ってみるのもいいかもしれませんね」

麻子「タンカスロンでもする気か」

沙織「なに? そのカンタスロンって」

麻子「タンカスロンだ。タンカスロンというのは――」

秋山宅 優花里の自室

優花里「結局、みほさんを終始追跡しただけで終わってしまいましたぁ」

優花里(まともな友達なんて小学校以来いませんし、憧れのみほさんに声をかけるなんて無理かもしれません)

優花里「良い呼称があればいいのですが……」

優花里「何か……」

『今週の戦車ー!! 戦車大好きなテレビの前の君、今週も素敵な戦車を紹介するよー』

優花里「お! もうそんな時間ですか」

『今日の戦車はこれ! 第二次世界大戦における日本軍の主力戦車の一つ、九七式中戦車チハです』

優花里「チハは確かにすごい戦車ですよね」

『マレー作戦などで大活躍。マレーの虎こと山下殿の指揮下でその性能を遺憾なく発揮し――』

優花里「山下……殿……? おぉ!! それですぅ!! その呼び方がありました!!」

優花里「西住殿……。西住殿! いい! 実にしっくりきます!!」

優花里「相手の尊厳を保ちつつ、親しみもあり、尚且つ戦車道を嗜んでいたみほさんを呼ぶときになんの違和感もありません!!」

優花里「西住殿!! にしずみどのー!!」キャッキャッ

好子「ゆかりー? 何さわいでるのー?」

寮 みほの部屋

みほ「ふぅ……。よし。みんなの名前と誕生日はちゃんと覚えられた」

みほ「あとは……あとは……。どうしよう……」

みほ(結局、転校してから話せたのって、武部沙織さんだけだし)

みほ「そういえば、武部さんはどうしてあのとき声をかけてくれたんだろう)

みほ「困ってるかどうか訊ねてきたけど、私ってあの時困ってるように見えたのかな」

みほ「はっ……!?」

みほ「も、もしかして、私……武部さんと友達になれるチャンスを……不意に……?」

みほ「見ず知らずの相手を気遣えるぐらい優しい人なら、きっと良い友達になれたのに……」

みほ「どうして私っていつもこうなんだろう」

みほ「こんな私だから……戦車道から……」

みほ「ボコ……」ギュゥゥ

みほ「戦車道のことは忘れないと。私はもう戦車に乗ることなんてないんだから」

みほ「そうだよね、ボコ?」

みほ「……おやすみ、ボコ」

訂正

>>38
みほ「も、もしかして、私……武部さんと友達になれるチャンスを……不意に……?」

みほ「も、もしかして、私……武部さんと友達になれるチャンスを……ふいに……?」

翌日 大洗女子学園 2年A組 教室

みほ「……」


沙織「うーん……」

華「やはり声をかけてみませんか? 沙織さんも西住さんのこと気になるのでしょう」

沙織「そりゃ、麻子の話を聞いた後だし、気になるけどさぁ」

華「怖いのですか」

沙織「だって、まだ確証が……」

華「そんな人には到底みませんよ」

沙織「そんなのわかってるもん」

華「では……」

沙織「まって、心の準備が」

華「沙織さんっ」


みほ(なんだろう……。私のこと噂してるのかな……)

みほ(ボコが好きって言ったのは、逆効果だったなぁ)

昼休み 廊下

みほ(今日も食堂の隅で食べよう……)

「あの子でしょ?」

「そうそう」

みほ(え……?)

「黒森峰から転校してきたんだって」

「黒森峰って名門だけど、生徒は不良が多いって聞いたことあるよ」

みほ(わ、私のこと……?)

「知ってる。黒森峰の生徒ってみんなお酒飲んでるとか」

「えー? 完璧に不良じゃん」

みほ(確かにみんなノンアルコールのビールを毎日飲んでるけど……)

「やっぱり西住さんも不良なんじゃない?」

みほ「うぅ……」ダダダッ


優花里「あぁ……」

優花里「西住殿……走り去ってしまいましたぁ……。今日も一人でご飯を食べましょう」

食堂

みほ(いつの間にか私って不良になってたんだ……)

みほ(益々、友達なんてできないよぉ)

みほ「はぁ……」ピッ

カシャン

みほ「……あれ!? カツ丼!?」

みほ「普通の定食がいいんだけど……えっと……返金はできないのかな……そもそも誰に言えば……」オロオロ

あや「すみませーん。まだですかー?」

みほ「あ、ご、ごめんなさい!!」テテテッ

梓「ちょっと、今の先輩だよ?」

あや「そーなの?」

あゆみ「入学式のとき、あんな人いなかったし」

優季「あゆみすっごーい。一年生の顔、みんなおぼえてるんだぁ」

桂利奈「綺麗な人だったね」

紗希「……」コクッ

カエサル「くそっ……!! なんてことだ!!!」ダンッ

エルヴィン「取り乱してどうした。お前らしくもない」

カエサル「我が軍の補給が途絶えてしまったのだ……」

おりょう「それは一大事ぜよ」

左衛門佐「して、何が途絶えたのだ」

カエサル「既に焼きそばパンが……事切れていた……」

エルヴィン「なんだと!!!」

おりょう「くっ……!! どこの藩の仕業ぜよ……!!」

左衛門佐「最後に購入したものを打ち首じゃー!! 皆の者、出会え―!!!」

カエサル「誇りを取り戻せ!!! ローマ帝国の名の下に!!!」


みほ(いいなぁ……。あんな友達がいたらなぁ……)

みほ「はむっ……」


華「結局、間違えた食券で済ませてしまうようですね」

沙織「あそこで返金してもらえるよって言ってあげればよかった……」

廊下

みほ(次の授業、なんだっけ)

みほ「あ。あの雲、ボコに似てる」

みほ「かわいい」

ドンッ

みほ「あぅ!?」

ナカジマ「おっと」

みほ「いたた……。す、すみません!」

ナカジマ「いえいえ。怪我はないですか?」

みほ「私は大丈夫です。ええと、貴女は?」

ナカジマ「私も大丈夫ですよ。けど、わき見運転には注意してくださいね」

みほ「は、はい」

ホシノ「どうしたのー?」

ナカジマ「ごめん、ホシノー。今行くー」

みほ「私も教室に戻らないと」

教室

みほ「次は数学……」ゴソゴソ

バサッ

みほ「あぁ……教科書、落ちちゃった……んー……」

みほ「とれた」

バサバサ……

みほ「あぁ……ノートが……」

ガシャン

みほ「あぁ……ペンまで……」

みほ「はぁ……」


沙織「もしかして、西住さんって結構ほっとけないタイプかも」

華「もしかしなくてもそうではないですか」

沙織「……」

華「どうします?」

沙織「わ、私に聞かないでよ」

放課後 通学路

みほ「今日も誰とも喋れなかったなぁ……」

みほ「はぁ……。最近、溜息ばっかり……」

みほ「あ、黒森峰でも同じだった」

みほ「あはは……。はぁ……」


沙織「一人で帰るみたいだね」

華「声をかけますか」

沙織「……そうだね。よし、行こう!」

華「はいっ」


みほ「……ん? あの、どうしたの?」

紗希「……」


華「あの方は誰でしょう?」

沙織「一年生っぽいね」

華「お知り合いでしょうか?」

みほ「迷子かな?」

紗希「……」

みほ「ええと、同じ制服だから、大洗の生徒、だよね」

紗希「……」

みほ「なにしてたの?」

紗希「探してる」

みほ「探してる?」

紗希「でも、見つからない」

みほ「大事なもの?」

紗希「……」コクッ

みほ「そうなんだ……。ええと、迷惑じゃなければ一緒に探すけど」

紗希「……」

みほ「一緒に探してもいいかな?」

紗希「……」コクッ

みほ「ありがとう。それで何を探してるの?」

紗希「……」

みほ「そっちにあるの?」

紗希「あるかもしれない」

みほ「そうなんだ。ええと、形は?」

紗希「これぐらい」

みほ「75mm砲弾ぐらいの大きさ……。それならすぐに見つかるかも」

紗希「……」

みほ「どんな色かな?」

紗希「色々」

みほ「色々? なら、迷彩色なのかな……。それなら分かりにくくなるかも……」

紗希「……」

みほ「とにかく探そう」

紗希「……」コクッ

みほ「大きさが大きさだし、道に落ちていれば誰かが交番に届けてるかも。一度、交番に行ってみましょう」

紗希「……」

みほ「交番には届けられてないみたい」

紗希「……」

みほ「だったら、大きな道に落ちている可能性は排除してもいい。人目につかない場所を重点的に捜索すれば発見できるかもしれない」

みほ「この辺りに公園はあるかな?」

紗希「……」

みほ「あっち?」

紗希「……」コクッ

みほ「そういえば、名前をまだ言ってなかったね。私は西住みほ」

紗希「さき。まるやま、さき」

みほ「まるやまさん、他に探しているものの特徴は?」

紗希「……」

みほ「名称はある? 俗称でもいいけど」

紗希「……」

みほ「……とにかく、公園に行きましょう」

紗希「……」コクッ

公園

みほ「こっちはどうかな」ガサガサ

紗希「……」ガサガサ

みほ「無い、か」

紗希「……」

みほ「こっちかも」ガサガサ

紗希「……」ガサガサ

みほ「うーん……。こっちじゃないのかな」

紗希「……」

みほ「公園じゃないなら……。人目につかない場所……林の中……。この近くに森林エリアはありますか?」

紗希「……」コクッ

みほ「そこへ誘導してください」

紗希「……」

みほ「行きましょう」

紗希「……」コクッ



みほ「まるやまさん、そちらはどうですか?」

紗希「……」

みほ「目標物は発見できず……。もう少し、奥へ行ってみるべき? けど、時間をかければ日が落ちて益々捜索が困難になる」

紗希「……」

みほ「奥に進むなら増員しないと流石に効率が悪すぎる……」

紗希「……」

みほ「私には友達がいないから……。まるやまさん、今からお友達を呼べませんか? 応援が可能なら是非加わって欲しいんですけど」

紗希「……」

みほ「ダメですか」

紗希「……」コクッ

みほ「はぁ……。分かりました。次の手を考えます」

紗希「……」


華「話しかけるタイミングを逃してしまいましたね」

沙織「ここで話しかけたらあとをつけてたってバレちゃうよね……」

みほ「いくら考えても、二人だけじゃ作戦は限られてくる。こうなったら時間の許す限りローラー作戦を実行するしか……」

紗希「……」

みほ「ケータイで現在位置を調べて……」ピッ

みほ「まるやまさん」

紗希「……」

みほ「今日は現在地から半径500メートルを捜索しましょう。それが時間的に限界の範囲です」

紗希「……」コクッ

みほ「それではローラー作戦を開始します」

紗希「……」

みほ「はぐれたら困るので一緒に行きましょう」

紗希「……」

みほ「絶対、見つけるから」ガサガサ

紗希「……」ガサガサ


優花里「何を探しているのでしょうか……。今更、声はかけられませんし、不審物を見つけたらそれとなく置いておきましょう」

優花里「私はこっちを捜索します、西住殿」ガサガサ

大洗女子学園 正門

「さようならー」

みどり子「はい、さようなら。寄り道せずに帰るよーに」

杏「おつかれー、そど子」

みどり子「名前を略さないでください!! 会長、どこに行くんですか?」

杏「ちょっとねぇ」

みどり子「生徒会のお仕事、まだ残っているんじゃないんですか」

杏「まぁまぁ。小山と河嶋がなんとかしてくれるから」

みどり子「あのですねぇ。会長はこの学園艦を統べる存在であって――」

桂利奈「紗希ちゃーん!! どこー!!」

優季「もう終わりだよぉー」

あや「紗希ちゃーん!!」

杏「どうかした?」

梓「いえ、大したことじゃないんですけど、遊んでいる最中に友達がいなくなって」

みどり子「なにして遊んでいたのよ」

生徒会室

柚子「桃ちゃん、履修選択説明会の資料」

桃「桃ちゃんと言うな。ありがとう、柚子」

柚子「成功するかな」

桃「してもらわねば困る。30名ぐらいは戦車道を履修してもらわねば困るんだからな」

柚子「そうだね」

桃「この学園を失くすわけにはいかないんだ……!」

柚子「そのためにも西住さんが戦車道を履修することは絶対条件なんだよね」

桃「頼るしかない。我々は素人なんだからな」

柚子「協力、してくれるかな」

桃「西住が不良生徒でなければ、いいんだが」

杏「かわしまぁ、こやまぁ」

柚子「会長? 用事があるんじゃあ……」

杏「ちょっと探しものがあるんだけど」

桃「探しものですか?」

大洗女子学園 正門

麻子(保健室で寝過ごした……。今日も殆ど授業をサボってしまったな。また沙織に何か言われる)

麻子「今日は帰るか」

みどり子「冷泉さん」

麻子「なんだ、そど子」

みどり子「その名前で呼ばないで! それはそうと暇そうね」

麻子「帰宅するから暇ではない」

みどり子「ちょっと手伝いなさいよ」

麻子「何をだ」

みどり子「人探しよ、人探し」

麻子「誰か行方不明にでもなったのか」

みどり子「一年生の丸山紗希さんが見つからないのよ。なんでも同学年の子たちと学園内の探検を兼ねてかくれんぼをしていたそうなんだけど」

麻子「そうなのか。がんばれよ、そど子」

みどり子「冷泉さんも一緒に探すのよ!!」

麻子「なぜかくれんぼに付き合わされなくてはならないんだ」



みほ「はぁ……はぁ……」ガサガサ

紗希「……」

みほ「ここもダメ……。もう日も落ちそうだし、これ以上の捜索は厳しい……」

紗希「……」

みほ「まるやまさん。ごめんなさい。今日はもう無理かも」

紗希「……」

みほ「こんなに暗くちゃいくら大きくても見つかりにくくなっちゃうし」

紗希「……」

みほ「だから、明日に……」

紗希「……」

みほ「まるやまさん……」

紗希「ありがとうございます」

みほ「ごめんなさい。力になれなくて」

紗希「西住先輩、ご迷惑をおかけしました」

通学路

紗希「こっちなので」

みほ「うん。また、明日」

紗希「はい」

みほ「……」

みほ(まるやまさん、とても悲しい目をしてた……。きっとすごく大事なものだったんだ……)

みほ(落としたもの、どうしても見つけたかったんだろうな……)

みほ(落としたもの……見つからなかったら……拾えなかったら……)

みほ(拾うことが正しいのか正しくないのか、分からないけど……けど……)

みほ「どうしてだろう、後悔する気がする」

みほ「行かなきゃ……」

みほ「ここで行かないと、諦めたらもう見つけることが出来ない気がする」

みほ「大丈夫。ケータイのライトで照らせばまだ可能性はある」

みほ「バッテリー残量は十分にある。通話とかしないから、100%のまま」

みほ「同じ地点に戻って、半径1キロを捜索してみよう」

大洗女子学園 正門

桃「やはりまだ寮にも戻っていないようです」

杏「これだけ探しても見つからないなんて……」

桂利奈「さきちゃぁぁぁん」

梓「泣かないで」

あや「私が提案しなきゃ……こんなことには……」

あゆみ「そういうの禁止だってば」

優季「どこにいったんだろう……」

柚子「会長。付近の方にも頼んで捜索してもらいますか?」

杏「大事にはしたくなかったけど、万が一も考えられるしな」

みどり子「冷泉さん、ちゃんとさがしたの?」

麻子「当たりまえだろ」

紗希「……」

あゆみ「紗希!?」

梓「い、いつから居たの!?」

紗希「今、戻った」

優季「どこに行ってたのぉ? 心配したんだからぁ」

あや「そうだよぉ」

紗希「ごめんなさい」

桃「丸山。皆と遊んでいる最中に何故、姿を消した」

紗希「外へ探しに」

梓「隠れるのは学園内だけだって言ったじゃない」

紗希「誰も見つからなかったから」

桂利奈「見つかって、よかったぁ!」

杏「いやぁ、一件落着、だね」

桃「人騒がせだな。全く」

柚子「何事もなかったんだからいいじゃない」

麻子「私は帰るぞ」

みどり子「ええ。ありがとう」

杏「丸山ちゃん、結構汚れてるけど、どこ探検したの?」

紗希「森の中」

杏「一人で?」

紗希「西住先輩と」

杏「西住ちゃん?」

麻子「……」ピクッ

紗希「はい」

桃「西住と一緒だったのか」

梓「にしずみ……?」

あや「誰のことー?」

みどり子「ああ、転校してきたっていう。噂ではすごい不良らしいわね。風紀委員の間ではブラックリストに載る直前よ」

杏「その西住ちゃんは今、どこ?」

紗希「……」

桃「時間も時間です。帰ったのでしょう」

杏「質問を変えるか。丸山ちゃん、西住ちゃんとこんな時間まで何してたの?」

紗希「……」



みほ「……」ガサガサ

みほ(生き物かどうか聞けばよかった……。でも、まるやまさんの言い方ならきっと無機物のはず)

みほ(大きさもあるし、虱潰しに探せば絶対に見つけられる)


沙織「……」

華「まだまだ探すつもりのようですね。いえ、きっと見つかるまで探すのでしょう」

沙織「華、ここまで来たら私たちもとことん探そう」

華「西住さんにお声かけはしないのですか?」

沙織「今更、実は一緒にずっと探してたなんて言えないでしょ。そんなの重い女みたいじゃない」

華「そうですか」

沙織「明日は西住さんと一緒にお昼ご飯食べよう。絶対」

華「はいっ」


優花里「はぁ……はぁ……。どこですかぁ……」ガサガサ

優花里「これだけ探しても見つからないのあれば、捜索範囲をもっと拡大させるしかありませんね」

通学路

みほ「……もう0時か」

みほ「ふふ。初めてケータイのバッテリー全部使いきっちゃった」

みほ「でも結局、見つからなかったなぁ」

みほ「明日も探そう。その前にもう一度、交番に行ってみようかな」


沙織「つかれたぁ……」

華「本当に限界まで探し続けましたね、西住さん」

沙織「根性ありすぎよ……」

華「良い人、ですね」

沙織「あと、面白い」

華「そうですね」

桃「お前たち!!」

沙織「は、はい!?」

みどり子「こんな時間までなにしてるのよ。校則違反よ」

華「も、申し訳ありません。事情がありまして……」



みほ「早く寝ないと」

紗希「……」

みほ「まるやまさん!? ど、どうしてここに!?」

紗希「謝りたくて」

みほ「え?」

紗希「探していたもの、見つかりました」

みほ「そうなの!? どこにあったの!?」

紗希「学校に」

みほ「そうなんだ。置いて来ちゃっただけだったんだ」

紗希「ごめんなさい……」

みほ「よかったぁ、見つかって。これで一安心だね」

紗希「……!」

みほ「あ、暗いし途中まで送っていくけど」

紗希「大丈夫です」

みほ「いいの?」

紗希「はい」

みほ「それじゃあ、おやすみなさい」

紗希「……」コクッ

杏「――なるほどねぇ」

柚子「あれが西住さん……」

桃「どこが不良なんだ」

みどり子「西住さんは到底ブラックリストには載らないわね。0時まで外出していたのは問題だけど」

麻子「大目にみてやれないのか」

みどり子「別に問題にするとは言ってないでしょ」

杏「決まりだな」

桃「は?」

杏「どんな手を使ってでも西住ちゃんを引き込む」

柚子「あんなに優しい人を……ですか……」

杏(ごめんよ、西住ちゃん。その優しさに頼らせてほしい)

翌朝 みほの部屋

みほ「やっぱり……ケーキはいちごショートが……」

ピピピピ……

みほ「うぅん……」

ピピピピ!

みほ「わぁぁ!?」ガバッ

みほ「……」

みほ「そっか。もう家じゃないんだ」

みほ「うーん……ちょっと眠いけど……顔を洗えば……」

みほ「って、もうこんな時間!?」

みほ「あんまりゆっくりしてられない」

みほ「パン焼いて、歯磨きして、着替えて……それから……」ドタドタ

ガンッ

みほ「いっ……!? うぅぅ……足の……小指ぃ……」

みほ「朝から……何やってるんだろう……」

通学路

みほ「うちのほうにはないなぁ、サンク――」

ガンッ

みほ「ぁいたっ!?」

みほ「あうぅ……。あ、ブサかわいい」


沙織「看板に正面からぶつかってるよ」

華「危ないですね」

優花里「あぁぁ……! お怪我はないでしょうか……西住どのぉ……」

沙織「ん?」

優花里「あ!? いえ、なんでもありません!!」ダダダッ

沙織「誰だろう?」

華「さぁ……」

沙織「やっぱり、西住さんってあわあわしてて面白いよね」

華「どのタイミングで声をかけるのですか?」

沙織「やっぱ、お昼休みにナンパするのがいいんじゃない?」

大洗女子学園 正門

「おはよーございまーす」

みどり子「はい、おはようございます」

みほ「……」

みどり子「おはようございます」

みほ「あ、おはようございます」

みどり子「深夜の外出は控えるように」

みほ「え?」

エルヴィン「おはよう」

みどり子「ちょっと!! 制服はちゃんと着なさい!! 校則違反よ!!!」

エルヴィン「悪いがこれが正装だ」

みどり子「何いってるのよ!! あ、こら!! そこ!! そんな大きなマフラーは校則違反よ!!」

カエサル「これは軍神マルスを示すものだ。外すことはできない」

みどり子「何をわけのわかんないこと言ってるのよ!?」

みほ(空耳かな……)

廊下

優季「紗希ちゃんと一緒に探してくれた先輩ってどんな人なんだろう」

あゆみ「私たちもお礼いいたいよね」

あや「絶対、優しい人だよねぇ」

桂利奈「あってみたーい」

梓「そうだね。名前、なんて言ったっけ?」

あゆみ「梓、聞いてなかった?」

梓「ええと……」

紗希「……」

みほ(あ、まるやまさんだ)

紗希「……」ペコリッ

みほ「……」ペコリッ

梓「紗希? どうしたの?」

紗希「なんでもない」

桂利奈「あの人、昨日食堂でみた人だー」

「今日、小テストだってー」

「ええ!?」

みほ「……」

「ねえ、西住さんのこと、きいた?」

みほ「……」ピクッ

「なになに?」

「昨日、小さい子が落としたものを深夜まで探して、しかもみつけたんだって」

みほ「え……」

「西住さんって不良じゃないの?」

「それ、根も葉もない噂だってさ」

「えぇ……。私、西住さんのこと誤解してたよぉ」

みほ(なんだか事実に尾ひれがついているような……。誰が流したんだろう)

みほ(まるやまさんはそんなことするような人には見えなかったし……)

みほ(けど、昨日のことを知っている人なんて他にいないから……)

みほ(もしかして誰かに見られてたのかな?)

生徒会室

桃「西住の評判に関してはこれである程度、回復するでしょう」

杏「じゃなきゃ、困るしな」

柚子「昨日の出来事、多少脚色されていますけど……」

杏「いいんじゃない? そのほうが噂っぽいしな」

桃「不良と思い込まれていては、戦車道のイメージが悪くなりかねませんからね」

杏「あと、西住ちゃんの名誉にかかわる」

柚子「西住さん、履修してくれるでしょうか」

杏「……難色は示すだろうねぇ」

桃「やはり、黒森峰の敗戦が原因なのですね」

杏「きっと、西住ちゃんには恨まれる」

柚子「……はい」

桃「覚悟の上です」

杏「あんがと。それじゃ、今日の昼休みにでもいこっか」

柚子「心苦しいですけど……」

昼休み 2年A組 教室

バサバサ……

みほ「はぁ……。またノート落としちゃった……」

みほ「よいしょ……」


沙織「またやってるよ、西住ちゃん」

華「もう待ちきれませんわ。沙織さん」

沙織「まぁまぁ、西住さんが落ち着いてから声をかけようよ」

華「急に後ろから話しかけたら驚くと思いますけど」

沙織「ナンパっぽくていいじゃん?」

華「もう、沙織さんったら」

沙織「ヘイ! 彼女ぉ! 一緒にお昼どう?」

みほ「え? わぁぁ!?」

華「ほら、沙織さん。西住さん驚いていらっしゃるじゃないですか」

沙織「あぁ、いきなりごめんねっ」

華「あの、改めまして、よろしかったらお昼一緒にどうですか?」

みほ「えぇ!? 私と、ですか!?」

沙織「うんっ。ほら、いこっ。西住さんのことたくさん知りたいしねっ」


おしまい。

訂正

>>71
沙織「またやってるよ、西住ちゃん」

沙織「またやってるよ、西住さん」

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