【剣神】姫「疲れた、おんぶして」勇者「はいはい」 (113)



勇者「乗り心地はどうですかぁ?」

姫「最悪ね、速く静かに歩いてよ」

勇者「はいはい」




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姫「勇者、お腹すいた」

勇者「パンを持って来ようか」

姫「作ってよ」

勇者「半日はかかるけど」

姫「待ってるから速く作ってよ」



勇者「出来はどう?」

姫「中はふんわりしてて外はさっくり、良いブレッドね」

勇者「味は」

姫「最悪ね。あぁ、でも苺ジャムと合いそうかな?」チラッ

勇者「はいはい用意してあるよ」

おやすみなさい



姫「おはよう」

勇者「おはよう」

姫「歯磨きしたいー……」ゴロンッ

勇者「洗面所あるだろ」

姫「抱っこ」

勇者「はいはい」

< バサッ

姫「……ん、ありがと」




姫「寝間着やだ、着替えさせて」

勇者「ならメイド達呼んで来るよ」

姫「今日はドレスは着ないの、察してよね」

勇者「察して、って?」

姫「勇者の服と同じデザインのコスチューム作らせたの」ばさっ

勇者「おー、ちっちゃい可愛い」




勇者「着替えるのはいいけど、何で俺が手伝うんだ」

姫「面倒くさいからよ。早くして」

勇者「これどう外すの」ぶちっ

勇者「……千切れた」

姫「……最悪ね、今日は部屋から出ないで過ごすから」べしべしっ

勇者「下着くらい他にあるんじゃ?」

姫「今日はあれを着けてアンタと遊びたかったのよ、ばか」

勇者(どうせ下着なんて着けてても見えないのになぁ)



姫「フルハウス!」

勇者「……ツーペア、負けたなー」

姫「ふふん、ポーカーだと勇者は弱いのねいつも」

勇者「ギャンブルだしなぁ、それに勝ったら怒るだろ姫」

姫「当たり前でしょばか、はい私が勝ったからまたマッサージしてよ」

勇者「はいはい」もみもみ

姫「はぁぅ……ぅっ……ん」




勇者「今日は雨か……どうする?」

姫「外の散歩はムリね」

勇者「またトランプする?」

姫「じいやも混ぜたいからそこまで連れてって」

勇者「はいはい」がしっ

姫「お姫様抱っこは恥ずかしいからやめてよ」

勇者「はいはい」

姫「とか言いながらやめてないじゃないっ」

勇者「お姫様なんだからこれで正解だよ」




大臣「おやおや姫様、何かご用ですかな?」

姫「トランプでもしようかと思ったの、じいやも来なさい!」ビシッ

大臣「……姫様、当座は少し上品に振る舞って下され」

姫「なんでよ」

大臣「今宵は遠路はるばる伯爵様も見えておりますのじゃ」

姫「最悪、追い返してよ勇者」

勇者「さすがに大貴族相手はマズいだろこのドアホ!」

大臣「姫様は王女ですぞ勇者殿」




伯爵「ほほう! 此方に居ましたか、噂に聞くラダトームの姫様は実に美しいですなぁ!」

姫「……」

大臣「姫様、この方がメルキドを治める辺境伯、伯爵様でございます」

伯爵「どうぞお見知り置きを、ラダトーム王女の姫君」ニコッ

姫「っ、あ…………勇者……」

勇者「んー? はいはい。すいませんがちょいと通りますよっと」

伯爵「ふむ? どうされたかな」

勇者「姫様は調子が悪いだけです」スタスタ





姫「……なんか、眠い」

勇者「部屋に戻るか」

姫「戻らない。それよりおんぶしてよ勇者」

勇者「はいはい」ヨイショット

姫「このまま城の中歩いてて……」

勇者「はいはい」てくてく




勇者「……」

姫「zZZ」すやすや

勇者(まさか背中に乗ったまま寝るとは)スッ

姫「……んん……」もぞっ

勇者(ベッドに寝かせたし、また後で来るか)パサッ

姫「んっ、やだ……」ぎゅっ

勇者「起きてるのか?」

姫「……すぅ、すぅ……」

勇者「……(暫く隣にいようか)」



~【その夜】~

勇者「お呼びですか王様」ザッ

王様「勇者よ、姫がまた勝手に伯爵殿に挨拶せず帰ったらしいな」

勇者「はい」

王様「教育係は古来よりそなたの一族が担って来たのだぞ、どうなっている」

勇者「はい」

王様「今度の満月の夜我が城で舞踏会を開く、その日までに改めさせよ」

勇者「はい」




姫「疲れた、おんぶして」

勇者「もう少し歩いてみないか」

姫「なんでよ」

勇者「今度舞踏会があるらしい、一応姫の体力作りを……」

姫「何それ、私嫌よ」

勇者「……まぁそうか」がしっ

姫「いたっ、急におんぶするから顎ぶつけたじゃないばかっ」




姫「勇者、バラ園連れてってよ」

勇者「咲いてないぞ」

姫「咲いてるわよ」

勇者「はいはい、なら大臣の頭頂部も花が咲いてるさ」

姫「本当なんだから! 行きなさいよ!」

勇者「はいはい、髪を引っ張るな。大臣になっちゃうぞ」

姫「勇者の髪は黒くてフサフサだから平気でしょっ」



────・・・


姫「ほらね、たんぽぽ咲いてる」

勇者「あー……姫が撒いたのか?」

姫「この間ふーふーして撒いたのよ」

勇者「水は雨だけか、逞しく育ったな」

姫「アンタとは大違いね」

勇者「はいはい」なでなで




姫「今日なんか暑いわね、扇いでよ」

勇者「それ脱いだらどうかな」

姫「勇者と同じ服なのになんでアンタは涼しそうなのよ」

勇者「交換してみる?」

姫「ばかじゃないの、サイズが合わないでしょ」

勇者「はいはい、合えばいいんだなー」

姫「……ばか、なんでそうなるのよ」




メイド「キャー! スライムが台所に……!」

姫「勇者、メイドが!」

勇者「スライムがこんな所に?」


勇者「……!」

スラ「ぴっぴきぴー!」

勇者「……だめ、姫は怖がりだから」

姫「余計なこと言ってないで追い出してよ!」

勇者「はいはい」がしっ

スラ「ぴー……」




兵士「申し訳ありません! まさかスライムに侵入を許すとは……」

姫「この陽気じゃ居眠りしても仕方ないわよね」

勇者「でも心配になるなぁ」

兵士「も、申し訳ありません姫様! どうか王様には……っ」ガシッ

姫「っひ……!」


< ガッ!
勇者「……気安く触るな、別に咎めるつもりはない。落ち着けよ」ギロッ

兵士「っ……はぃ、申し訳ありませんでした……!」ビクッ




姫「あんなに怒る必要あったの?」

勇者「一応。じゃなくて、怒ってないだろ?」

姫「怒ってたでしょ」

勇者「怒ってない」

姫「……ふぅん……そう。ところで勇者……」チラッ

勇者「はいはい、おんぶだろう?」バサッ

姫「ん、楽ちん楽ちん♪」ぎゅっ




< 「おや? もしや姫様ではないですか?」


姫「っ……」びくっ

勇者「……」

伯爵「おー、奇遇ですなラダトーム姫! いやはや、今宵もなんとお美しい!」

姫「……」

伯爵「はっはっは、そう緊張なさらずとも大丈夫ですよ」

勇者「伯爵様、本日はどういった要件でここに?」

伯爵「なに、ちょっと王様とティータイムを楽しんでいただけですとも!」

伯爵「実に有意義な茶会でしたよ? 勇者くん……♪」ニッ

勇者「……」




伯爵「所で、何故に姫様は君の背中に?」

勇者「……先程城内に魔物が侵入した際に、足を挫いたらしく」

姫「ちょっと……?」

勇者「そうですよね姫様」

姫「……えぇ、そうね。早く医務室に連れてって勇者」

勇者「はいはい、ではこれで」スタスタ

伯爵「ええ、お大事に」


伯爵「……チッ」




姫「さっきの何よ」

勇者「なんとなく」

姫「嘘なんか吐いて、ばかじゃない?」

勇者「まぁ、ごめん」

姫「最悪ね、当分は毎日移動する時アンタにお願いするしかないじゃない」

勇者「……はいはい」なでなで

姫「なに撫でてんのよ」




姫「勇者、痛い」

勇者「またか、どこだ?」

姫「言う必要ないでしょ! ホイミかけてよぉ」

勇者「はぁ? とりあえず、はいはい」ポゥ……

姫(もう……定期的に胸が張って痛いなぁ)


おやすみなさいなの



姫「ねぇ勇者、ちょっと休憩しても良い?」

勇者「駄目」

姫「いいじゃない、ちょっとくらい」

勇者「そのちょっとが八回も続いてるからだよ」

姫「だって、各領地についての勉強って苦手で……」

勇者「いけません」

姫「むぅ」

勇者「はいはい、そのむーって言うのも八回目」




勇者「地図のここ、答えてごらん」

姫「……ど、ドムドーラ……」

勇者「ちがーう。ラダトーム北西にある町はガライの町だよ」

姫「ぁ、あはは、そうだったかしらー?」

勇者「こっちの湖に囲まれた都市は?」

姫「…………メルキド」

勇者「メルキドは例の伯爵が統治している、ラダトームから南端に進んだ山岳地帯の奥にある辺境領」スッ

勇者「ラダトームから東の湖に囲まれたこの都市は、リムルダールだな」

姫「……」

勇者「女の子が白目を剥くんじゃありません!」




勇者「久しぶりに城の外へ出るな」

姫「珍しくお父様が外出を許してくれたものね」

勇者「まあ、そこはお使いだからなんだけどな」

姫「最悪ね、お使いに手間取った事にして遊ぶわよ」

勇者「はいはい(楽しそうな声だな)」




姫「勇者、あれやりたい」

勇者「射的か」

姫「ボウガンなんて触ったことないけど、やりたい」

勇者「矢は俺が付けるから、姫はよーく狙って撃つんだ」

姫「うん!」



< パスンッ

姫「……当たらない」

勇者「残り二本まだ矢があるよ」

姫「最悪な気分、やめる」

勇者「そっか」チャカッ

< スコンッ!

< 「おお! 兄ちゃん大当たりだぜ! あと二本の竹筒を落としたら景品やるよ!」

姫「……」

勇者「どうかした?」

姫「おんぶして、それから……私は見てるから勇者が代わりに当てなさいよ」

勇者「はいはい。オヤジさん、矢を五本追加」




────・・・


姫「……もふもふしてる」モフモフッモフッ

勇者「ぬいぐるみっていう、子供向けの可愛い玩具だよ」

姫「城には無いけど、なんでなの」

勇者「王族には必要ないんだってさ」

姫「……そうね、必要ないわ」



姫「だから城に入る前に、勇者にぬいぐるみあげるから大事にしなさいよね!」ぐいっ

勇者「はいはい」

姫「おぶって!」

勇者「はいはい、よっと」

姫「……ぬいぐるみ、大事にしなきゃ怒るからね」

勇者(持っててあげるから、俺の背中で泣きそうになるなよ)




姫「zZZ」

勇者「寝てるのか……ま、いいか」

勇者「丁度いいから用事を今のうちに済ませるかね」

店主「おや、勇者様いらっしゃい」

勇者「ラダトーム王のオーダーしていた物を取りに来た」

店主「ラダトーム王様の! となるとそちらの方が姫様?」

勇者「ああ」




店主「王族の、それも姫様のドレスを見繕えるとは! 一職人として光栄ですな、ささどうぞ御用意してあります!」

勇者「なんだこれ」

店主「ラダトーム王様のオーダーで作りました、姫様の舞踏会でのドレスになります」

勇者「露出が多すぎるぞ」

店主「そう言われましても」

勇者「……仕方ない、代金はこれでいいな」

店主「ありがとうございます」



~~【ラダトーム城】~~


勇者「帰ってきたぞ姫、起きな」ユサユサ

姫「ん……おはよ」

勇者「おはよう」

姫「……この体勢つかれた」

勇者「降りるか」

姫「抱っこ」

勇者「はいはい」ぎゅ

姫「おやすみ……」

勇者「また寝るのかよ!」




メイド「お帰りなさいませ」クスクス

勇者「笑うなよ……」

メイド「小さな頃から仲が良いですね、姫様と勇者は」

勇者「俺の一族はロトの代から王家に仕えてるからな」

メイド「素直じゃないですねー」

勇者「素直だよ俺は」




勇者「こちらがドレスになります」バサッ

王様「おぉ! 実に美しいではないか」

勇者「王様、姫様には必要ない露出が含まれていますが、これは?」

王様「何を言うか、そなたが不甲斐ないばかりにわざわざ作らせたのだ」

勇者「は?」

王様「今度の舞踏会を通して、メルキドの辺境伯である伯爵殿に姫の婚約者となる事を許すつもりなのだ」

勇者「……!」

王様「……その目、何か言いたいならば申すが良い」

勇者「いえ……」



────・・・


姫「……勇者、つかれたよ」

勇者「体力作りもかねて、練習した方が上達するぞ?」

姫「何よ、私は絶対に踊らないからね! なんで私が舞踏会に向けて練習しなきゃいけないのよ!」

勇者「……」

姫「勇者なんて嫌い」

勇者「……はいはい」



< 「I、2、I、2、そこでステップ……」

< タッ タッ、スーッ

< 「あっ!」ずるっ

< ドターン!


姫「勇者ぁ……っ」

勇者「ごめん、じゃない! 大丈夫か足!」バッ

姫「挫いたのに大丈夫な訳ないでしょばかぁ……っ」

勇者「悪かったよ、無理に踊らせようとした俺が悪かった」

姫「待って……ホイミは部屋に着いてからかけなさいよ、話があるし」

勇者「…おう」




姫「こ、婚約? 私が、伯爵と!?」

勇者「ああ、それでせめて少しは踊れるようにって」

姫「それで心配したつもりなの?」

勇者「そりゃ心配だよ」

姫「……本当最悪、ばか勇者……ホイミはかけなくていいわ」

勇者「でも踊れないだろ」

姫「踊らない、そもそも踊れないの知ってるくせに」

勇者「……」

姫「出て行ってよ、勇者……っ! 出てって!!」




勇者「あー、初めて追い出された」

メイド「こんな庭園でどうしました?」

勇者「なんでもないよ」スタスタ

メイド「元気ないですね」

勇者「そりゃーもう泣きたいくらいにな」

メイド「私の師がそんな弱気でどうするんですか、何があったんです?」

勇者「……いや、本当に何でもないんだ。悪いのは俺だから」スタスタ

メイド「はあ……」




勇者「ただいま」

勇者(まあ兵舎の角部屋で独り暮らしなんだから返事があるはずない)

勇者「…………」

勇者(もう姫のわがままを聞いてあげられないな)

勇者(このまま隠し通したら、姫の心が壊れるかもしれない)

勇者(………ラダトーム王女。姫の持つ確認出来た病の数は小さな疾患含めて22種類)ガサッ

勇者(その内、キアリーで治せた物は19種類)

勇者(だが再発した。何度も、何度も……)

勇者(今の姫は……幼少期の専属薬師がそんな彼女を一度攫い、身代金を要求してきた事件の時に男性恐怖症にも似た病も患っている)

勇者(……踊れるわけがない、そんなのは、分かってた)

勇者(足だって度重なる高熱の影響で上手く踏み込めない、近くに人がいなければ死への恐怖で眠る事も出来ない)

勇者(姫の人生、16年間で3度も呪いに似た原因も分からない病で昏睡してる……ああ、そうだ。俺は彼女を……)




勇者(……こんな現実を見せて、どうするんだ)

勇者(姫が結婚すれば将来は安泰だ)

勇者(きっと俺より優秀な魔法使いもムーンブルク大陸から雇える)

勇者(姫の人生は明るいはずじゃないかよ)


  『勇者……おんぶ』


勇者「…………はいはい」

勇者「っ、空耳……か」




────・・・


姫「なんでいるのよ」

勇者「鍵開いてたぞ」

姫「最悪、なんで開けるのよばか」

勇者「眠れないだろ」

姫「眠くない」

勇者「この時間は眠くなるからいつも撫でてたろ」

姫「……」

勇者「……」なでなで




姫「……勇者」

勇者「んー」なでなで

姫「私のこと、嫌いになることあるの?」

勇者「ならないだろ、姫に嫌われる事はあってもさ」

姫「……そう」

姫「明日は一緒に踊りの練習手伝ってくれる?」

勇者「はいはい、おやすみ」なでなで

姫「なによ! ばか!」




勇者「……やっぱり難しいな」

姫「特にターンがね」

勇者「なんか、姫の足が折れそうで怖いな」

姫「そこまで貧弱じゃないわよ、ばかっ! んきゃぁ!?」グキッ

勇者「はいはい、既に挫いたのな」ホイミ




伯爵「これはこれは、姫様、もしや舞踏会に向け練習を?」

姫「!」

勇者「ええ、まあ。少し苦戦していますが」

伯爵「なんと、私が少々見ましょうか姫様」

姫「っ……」びくっ

勇者(……)



< よた……よた……


伯爵「……ふむ、お世辞にもダンスが上手いとは言えませぬな」

姫「っ、勇者!」

勇者「はいはい……伯爵殿、姫様はこれより少々移動しますので」

伯爵「おやそうですか、では私もそろそろ行きましょうかな」

姫「申し訳ございません、伯爵様……」

伯爵「いえいえ! これだけ美人な姫様のお手を取る事が出来たのですからな! 柔らかな肌の感触、忘れませんぞ?」ニタァ

姫(………っ)ぎゅぅ

勇者「……」



伯爵「いやあ楽しみですな、16になったばかりとはいえ美しくなられた姫様と踊れるとは」

王様「しかし姫は少々礼儀作法に欠ける、教育係たる者がしっかりしないのだ」

伯爵「おやいけませんよ王様、彼はとてもよく働いている様だ」

王様「む? 伯爵殿は勇者の奴をご存知だったか」

伯爵「えぇ、彼は実によく『働いていましたよ』」




伯爵「それはそうと……随分とこの城は魔物の侵入を許してしまうのですね」

王様「何を言っている?」

伯爵「先日、小耳に挟んだのですよ。衛兵がうたた寝をしてる間にスライムが中に入り込んでしまったとか?」

王様「……事実だ」

伯爵「スライムすら侵入してしまう城……おお恐ろしい、民衆が聞いたらどんな顔をするか」

王様「伯爵殿、何を言っている?」

伯爵「噂は聞いている筈ですよ? ラダトーム王」

伯爵「『かの予言が示した者』が、ドムドーラを滅ぼしたのだ。とね」



王様「馬鹿な、あれは不運な事が重なって起きた天災によるものだ!」

王様「大地震が起きた後にドムドーラは火災により焼け野原となってしまった、一夜の出来事だ。誰もたまたま逃げられなかっ……」

伯爵「本当に、そんな事があると。そう思うのですね?」ニタァ

王様「……伯爵、貴様何を言いたい」

伯爵「よく御考え頂きたい。果たして今のままでこの国を守れるか否か、そして我がメルキドが誇る『ゴーレム』の守護を民が求めるか否か」

伯爵「仮に、メルキドの技術が欲しいならば……私が望む事は一つですよ」

王様「……」

伯爵「私を王族に加えて頂きたい、あの姫様を妻としてね」ニコッ



────・・・


姫「けほっ、けほ……勇者、おんぶ」

勇者「まだ熱が引いたばかりなのに、平気なのか? この間のダンスの練習以来高熱で伏せってたのに」がしっ

姫「治ったわよ、もう」フンスッ

勇者「そうか、無理はしちゃだめだぞ?」

姫「今日は城の裏庭に行くわよ!」ぺしぺし

勇者「はいはい頭叩くな」




~【ラダトーム城・裏庭】

メイド「あれ、何しに来たんですか姫様と勇者さん」

姫「散歩!」

勇者「仕事中か? 悪かった」

メイド「いえいえ、1人で草刈りするよりは楽しいです」

勇者「1人? 他のメイドは?」

メイド「伯爵様をもてなす為に他の仕事中ですよ」

姫「……あの人、また来てるの」

勇者(最近頻繁に来てるな、王様と何を話しているんだ? ……姫の事か?)




姫「勇者、私メイドの手伝いをするわ」

勇者「なんで」

姫「メイド1人じゃかわいそうじゃない!」

勇者「あー、メイドは手伝って平気か」

メイド「助かりますよ」

姫「ほらね! 私だってたまにはメイドの手伝いくらい……」

勇者「はいはい」がしっ

姫「なんで勝手に私を背負うのよ」




勇者「草刈り鎌は危ないんだ、もし姫が怪我したりしたら大変だろ」

姫「最悪ね、女は鎌も使えないっていうの?」

勇者「姫の手にこんなの刺さった所見たくない」ギラッ

姫「………」ぞぉ

勇者「わかってくれて良かった」

メイド(なんか面白いなぁこの2人)




勇者「終わったな」

姫「は、早い……」

メイド「大丈夫ですか勇者さん」

勇者「大丈夫」

姫「ほとんど1人で刈ったわねアンタ……」

勇者「どうだった?」

姫「え? そりゃかっこよ……って、何言わせたいのよばかっ」

勇者「はいはい」

メイド(勇者さん満足そうな顔してる)



姫「ふぁぁ……気持ちいい陽気ね」

勇者「風とかいい具合だな」

メイド「ここは私もお気に入りの場所なんです、実は。気に入って貰えて何よりです」

姫「……勇者」

勇者「?」

姫「よいしょ、しばらく勇者がベッドになっててよ。落とさないでね」よじよじっ

勇者「はいはい」なでなで




メイド「……勇者さんと姫様は、いつからお知り合いに?」

勇者「なんだ急に」

メイド「なんとなく気になりまして、ほら、私がこの城に来た時にはお二人はそんなご関係だったので」

勇者「なんとなくか、んーと……」

姫「……♪」zZZ

勇者「……多分赤ん坊の時からかな」

メイド「へー、えっ?」




勇者「……両親が今の王の教育係で、俺も親と同じように姫の教育係になったんだ」

メイド「勇者さん、歳は?」

勇者「19……当時は3歳で俺はよくわかってなかったよ」

メイド「凄まじい記憶力ですね」

勇者「ああ、不思議だよな」

姫「zZZ」

勇者「姫との記憶は全部欠ける事なく覚えてるんだ」




勇者「今まで色々あったな、病気とか怪我とか」

メイド「姫様、昔から体が弱かったですよね」

勇者「……必死に姫の病気治すために色々学んだな」

メイド「魔法も?」

勇者「ああ、姫を守る為に必要な力は全部」

メイド「惚れそうです」



メイド「……さて、と」

勇者「どうした」

メイド「いえ、そろそろ私も伯爵様の持て成しに参加しようかと思って」

勇者「そうか、ありがとうな」

メイド「ありがとうって?」

勇者「色々話し聞いてくれてだよ」

メイド「いえいえ、私もお二人の事は好きですから」




メイド「……」スタスタ

メイド(本当になんていうか、聞いてるこっちが嬉しくなるくらい姫様愛されてるなぁ)スタスタ

メイド(今日は大収穫かな、勇者さんが姫様をどう思ってるか聞けたし)スタスタ

メイド(今度は是非とも姫様の気持ちを聞きたいかなー)スタスタ

メイド(………)

メイド(そう言えば、勇者さんって伝説ロトの一族なんだよね)

メイド「……あははっ」












メイド「なんか、おとぎ話みたいに勇者さんなら悪い魔王に捕まった姫様を助けに行っちゃいそうだなー♪」











王様「……いよいよ明日、舞踏会か」

大臣「姫様の晴れ舞台ですな」

王様「晴れ舞台? とんでもない、娘にとって最悪の日になるに違いない」

大臣「王様、何を言うのですっ」

王様「そうだろう? 姫は愛してもいない男と、国の為に、そうだ……政略結婚する約束を交わすのだぞ」

大臣「し、しかし王様! 姫様もきっと王族として産まれたからには理解しているはず……」




王様「理解はしていても、姫の心は納得はせぬ」

王様「知っておるはずだな? 姫は勇者と共にいる時だけまるで活き活きとしている」

大臣「…………」

王様「伯爵の事だ、姫を独占し、近くに置くつもりだろう。そうなればこれまでの時間はもう無い……」

大臣「……王様、しかし国を思えばのご決断である事はいずれ理解し納得してくださる筈です」

王様「いいや!! 私が娘から生も希望も夢すらも奪ってしまうのだ!! もう親子としての絆は望めまい……っ」

大臣「……王様」





━━━━ よく来た……勇者よ ━━━━


━━━━ 我は竜王……竜族の王にして、この世界の覇者 ━━━━


━━━━ 我は待っていたのだ、そなたのような強き若者を ━━━━


━━━━ どうだ? 我が配下に加わらぬか、そなたの力も、大切なその姫も渡すのだ ━━━━


━━━━ そうすれば、そなたには世界の半分をやろう……闇に染まった絶望の世界をな ━━━━




━━━━ さあ……そなたの答えを聞かせて貰おう……! ━━━━





< バサッ!


勇者「……!!」

勇者(今の、夢は……ッ!?)


姫「ん……勇者、大丈夫なの?」もぞっ

勇者「………」

姫「な、何よそんな顔をして怖い夢でも見たの?」

勇者「姫の、部屋?……うたた寝していたのか、俺は」

姫「大丈夫?」

勇者「……ああ、悪い。窓を開けさせてくれ」スッ



< カタンッ
< ヒュォォ・・・ッ


姫「今夜は満月、明日は舞踏会の日ね」

勇者「……そうだな」

姫「なによ? まだ暗い顔して」

勇者「ちょっと現実味がなくてさ、舞踏会で伯爵と姫が踊った後に婚約するんだろ」

姫「分からないわよ、私の『体質』はアンタが理解してるでしょ」

勇者「まあな」

姫「だから、きっと大丈夫よ。こんな不健康なもやし姫よりも、グラマーでナイスバデーな踊り子さんの方が良いですよってね!」

勇者「……」




~【翌日・舞踏会の夜】~


姫「勇者ー、もう着替えるの?」

勇者「姫は王族だから、先にダンスホールで王様と待ってなきゃダメなんだと」

姫「退屈ね、私そういうの嫌」

勇者「知ってるよ」

メイド「所で勇者さん早く出て行ってくれません? 姫様にドレス着せたいんですが」

勇者「姫、手離して」

姫「やだ」




姫「……勇者から聞いてるわ、ドレスの見た目は」

メイド「そうですかー」

姫「だから私はどんな物でも覚悟出来てる」

メイド「なるほどー」

姫「あの、だから……目隠しとっていい?」

メイド「ダメです」



姫「…………」

メイド「どうですか、姫様にピッタリじゃないですか?」

姫「メイド、これって……」

メイド「私が自作したドレスですよ、動き易くて軽いでしょう。舞踏会のイメージに合わせた物より姫様のお身体に合わせて軽くてフワッとした生地を選びました」

姫「でもっ、お父様のドレスは?」

メイド「今頃私が飼い慣らした野良猫達がビリビリにしてますよ♪」



勇者「おぉ、似合うけどそのドレスなんだ」

姫「メイドが作ってくれたみたいなの! 似合う? 似合う?」

勇者「はいはい……」なでなで

勇者(……メイド)

メイド(せめて姫様らしい姿で今日の舞踏会に臨んで頂きたかったんです)ひそひそ

勇者(ありがとう、メイド)

メイド(ピンクも似合うと思ってたのですよねー、ティアラもよくお似合いで良かったです)




メイド「では私は姫様をダンスホールまで連れて行きます」

勇者「いや、俺が行くよ」

メイド「そうお願いしたかったのですが、勇者さんに宝物庫の確認をしろと王様が言っていましたよ」

勇者「王様が? わかった、直ぐ追いつくよ」

姫「……勇者」

勇者「はいはい。緊張するなって、まだまだ時間あるし」なでなで





勇者(宝物庫かー、久々に来たな)

勇者(……ん、錠の確認良し)ガチャガチャ

勇者(魔法磁場の罠も……問題無い)バチィッ

勇者(戻るか)

伯爵「御機嫌よう、勇者殿?」

勇者「!」

兵士「動くな」シャキン

兵長「勇者殿、貴方をラダトーム兵団の元に拘束させて頂く」





勇者「……兵長、アンタいつから伯爵の手下になった」

兵長「勇者、悪いがこれは王様の意志だ」

勇者「なんでだよ」

伯爵「貴方が婚約の際に邪魔をしかねないと、私と王様が判断したのですよ」

勇者「……婚約を姫に申し込むだけなんだろ? 邪魔は、しないつもりだ」

伯爵「おや、貴方はそれなりに博識だと聞いてましたが、まだまだ子供らしい」

勇者「…………?」



兵長「……伯爵様、勇者は私が幼少の時に剣を教えていた弟子みたいなもの……どうか夜については語らないで頂きたい」

伯爵「ふふ、そうですね……野蛮な一族の子孫など怒らせたくもない」

勇者「兵長、答えてくれ! こいつは何を……ッ」

兵士「勇者頼む動くな!!」

勇者「くっ!」ドサッ


伯爵「……無様ですねぇ、さっさとこの男に猿ぐつわと手足に枷を」

兵士「は、はっ」



伯爵「ご家族の安全を保障して欲しくば大人しくさせる事ですよ、兵士君」

勇者「……っ」

兵士「立て、妙な動きをすれば首を跳ねる」

兵長「よせ……今夜だけだ」

兵士「……」

伯爵「ああ、待ちなさい」

勇者「……?」ギロッ

伯爵(おやおや怖い、ですが何も出来ないでしょう? 王様が決めた事なんですから)ひそひそ

伯爵(せいぜい牢の中で想像するんですね……姫の処女が私に散らされる様を)くすっ


勇者「~ッ!!」ガタッ



ドガッ!!

勇者「………っ」

兵士「……頼む勇者、動かないでくれ」

勇者(畜生)

兵長「我慢してくれ勇者、お前の辛さはよくわかる……」

兵士「すまない、すまない……ッ」


勇者(誰も、姫の事を考えてくれないのか……畜生!!)


伯爵「……」クックックッ



姫「勇者、遅いなぁ」

メイド「もしかしたら宝物庫の宝箱を一つ一つ確認してるかもしれませんね」

姫「舞踏会までに間に合う…かな」

メイド「間に合いますよ、勇者さんですから」

姫「緊張してきた……」

メイド(勇者さんいないと姫様って借りて来た猫みたいで可愛い)




兵士B「あーあ、なんで俺達は外壁の見張りなんだ」

兵士C「貴族やあの伯爵様が、王様の下に集まったんだ、仕方ない」

兵士B「でも貧乏くじだよなー、見張りって四方の見張り塔に2人ずつの合計8人しかいないんだぜ」

兵士C「文句言うなよ……俺まで悲しくなってきた」

兵士B「西側の見張り塔もそんな気持ちだろうな」

兵士C「なんでだよ?」




兵士B「だって、見ろよ……2人共突っ伏してら」

兵士C「……寝てないだろうな、起こすか」

兵士C「おーい!! 見張りなんだからシャキッとしろシャキッと!!」

兵士B「……」

兵士C「……反応ないな」




兵士B「な、なんかおかしくないか? 東側の見張り塔も同じだぞ……」

兵士C「…………」ピクッ

兵士C(血の、臭い……!?)

兵士C「ま、まずい! 鐘を鳴らせー!!」


───── ドシュッ


兵士C「……ゴフッ……」

兵士B「え、え……」

しにがみのきし「……シィィ」ヒュッ!!


─────ドシュッ




メイド(……遅いわね、勇者さん何してるんだろ)

姫「メイドっ、もう舞踏会が……!」

メイド「すみません姫様、勇者さん探して来ます!」

< 「ではこれより、ラダトーム王家による舞踏会を……」

姫「は、始まったわよ?」

メイド「急ぎます! しばしお待ち下さい姫様!」タタッ




メイド「もう、勇者さんどこ行ったのかな……」

メイド(……一人でいなくなるとは思えないんだけど)

メイド(勇者さんなら、姫様の幸せを一番に願うかもしれないけど。だからって伯爵なんかと婚約する事を望むとも思えないし)

メイド(だとしたら何処に……)

メイド(……)

メイド(何か、良くない事が……?)



勇者(……どうしたら)

勇者(どうしたらいい? 姫……こんなの、酷すぎる……)

勇者(何かないのか……いっそ、この手枷を破壊してでも)



───── バチィッ! ─────



勇者(!?)ビクッ

兵士「い、今の音はなんだ……!」

勇者(……今、【誰かが死んだ】……)

勇者「兵士! 城内の様子はどうなってる、確認するんだ!」



メイド「はぁ……宝物庫にもいないなんて、どうなってるのかな」

メイド(やっぱり姫様のために?)

メイド(だとしたら説教しなきゃね、姫様の気持ちはともかく勇者さんは姫様が好きなんだから)

メイド「うーん、でもどこに行ったんだろう」


< フッ・・・!


メイド「え? あれ、なんで急に灯りが全部消えたの………」



勇者(来る!)

勇者(間違いない、感じる。これだけの魔力の慟哭を肌で感じたのは初めてだ……!)

勇者「こうしてはいられない! うおおおおお!!」ギシィッ!!

< バギィンッ!

兵士「勇者!? 何をして……」


勇者「魔物の襲撃だ兵士、剣を取れ!」





───── ドゴォオオオオオオン!!



姫「きゃぁあっ!?」

王様「なっ、何事か! 衛兵!!」

兵長「分かりません、この揺れは一体……ッ」

伯爵「今のはなんですかな……!?」



───── ゴバァッ!!



王様「ぬぉぉ!?」


兵長「天井が……! 姫様、王様危ない!!」

姫「……!?」




< グルルルル・・・ッ

━━━━ 【 我に平伏すがいい、人間どもよ・・・! 】



姫「………っ……!!」

伯爵「魔物!? それも、巨大なドラゴン!?」



━━━━ 【 クックック、そなたが美しきラダトームの王女か 】


姫「ひっ……ぁ」へなっ


━━━━ 【 美しい、我が妻に相応しい美貌よ……! 】


< ガシィッ


姫「きゃぁぁ!? 勇者ぁ!」




━━━━━━━ 【 我が忠実なる兵士よ! 邪魔する人間どもを喰い殺すがいい! 】



死神の騎士「……」ガシャッ

大魔導「……」


兵士D「姫様を救えー!!」バッ


ガブッ!!
兵士D「ッ!? ぎ、ぁ……!」

< ゴシュッ・・・!!


ダースドラゴン「……ゲフッ」ゴクンッ


兵士達「ぅ、うわあああ! 魔物だぁ!! 」

兵長「逃げるな! 戦え!! 来賓客を避難させろ、王と姫様をお救いするのだ!」シャキン



< ワァァアアアッ!!!

< ガキィンッ!! ザシュッ

< ゴォオオオオ・・・!!


伯爵(ひぃっ、はぁ……なんなんだあの魔物達は!)

伯爵(ラダトーム王家の兵士達すら蹴散らす力……なんなんだこれは、悪夢なのか……)

< 「だれか……」

伯爵(……!)ぴくっ


王様「……だ…れか いないのか……」


伯爵「ラダトーム王! ああなんと……瓦礫に挟まれているではないですか!」

王様「は、伯爵か……助けてくれ……」




伯爵「勿論ですとも、さあ私に掴まって下さい!」

王様「ぉお……」

< ガシッ
──── ドス!

王様「…………な、に……?」ゴブッ

伯爵「あの魔物達は想定外でしたが、これで取り敢えず私の予定通りです」ニタァ

伯爵「貴方が亡き者となった後。このラダトームは私が王となって預かりましょう、ついでに姫も頂くつもりでしたが……まぁあの様子では殺されるでしょうねぇ」

王様「キサマ……ッ」

伯爵「残念ですがここまでなんですよ、あなたは」グリッ


< ズシャァアッ!!



兵長「ハアアア!! 真空烈風斬!!」ザッ

死神の騎士「……」ヒュ!

< ギギギィンッガギィンッ!!

< ドガァ!!

兵長「うぉぉ!?」ドサァッ

死神の騎士「……シィィ」

兵長「おのれ……まるで刃が立たぬとは……」

死神の騎士「……」ブンッ


< 「兵長さん!!」
ガシィッ!

ビュカッッ……!


死神の騎士「……」ギシッ



メイド「はぁっ…はぁっ、兵長さん無事ですか!?」

兵長「メイドか? 危険だ! すぐに逃げろ!」

メイド「置いてはいけません!」

メイド「私だって……! メラ!」ボウッ!!


< チュドンッ!

死神の騎士「シィッ!!」ビュッッ


メイド「怯みもしない……?!」

兵長「メイド!!」


おやすみなさい



    ギィンッ!!

──── ギュオォッ!!

死神の騎士「ッ……!!」ジュゥゥッ

< ガクン!


メイド「い、今のは……ギラ?」

兵長「それも凄い火力だ……」

< スタッ

メイド「!!」バッ

勇者「2人共怪我はないか?」

メイド「勇者、さん……!」



━━━━ 【 ・・・ほう 】


━━━━ 【 我が忠実なる魔導師よ、あの男を殺せ 】


大魔導「御意」バサッ!

大魔導「哀れな男よ、我が王の怒りを買うとはな」

< バチバチィィッ!!

大魔導「消えるがいい人間……灰燼と化せ、『ベギラマ』!!」キィィンッ



───ゴバァァァッ!!───





勇者「兵長、メイドを」

メイド「そんな! 勇者さんも逃げっ…
兵長「大丈夫だアイツを信じろ!!」バッ


ギュォオオオオオ!!


< ザッ!

勇者「……邪魔だ」

大魔導「ばっ……馬鹿な!? 何故だ、直撃した筈ッ!!」

勇者「ふんッ!!」

< ドゴォッ!!

大魔導「ぐぁあああ!?」ズシャァアッ





━━━━ 【 ・・・ 】


ダースドラゴン「グルル……(私が行きますか)」



━━━━ 【 よい、ダースドラゴン。そなたは先に大魔導達と共に城へ戻れ 】

━━━━ 【 ・・・その男はどうやらそれなりに力を備えている様だ 】



大魔導「ぅぐ……く、スターキメラ!」

スタ-キメラ「御意、さぁ私の翼に触れて下さい」ピュンッ

死神の騎士「……シィ、ィ……」ギシッ


< ビュゥゥンッ!




勇者「……逃げる気か、ドラゴン」


━━━━ 【 我は逃げぬ 】


勇者「何者だ、何の目的で来た」


━━━━ 【 クックック・・・我の目的は『コレ』よ 】


姫「……」ぐったり


勇者「!! 姫ッ!」




勇者が巨竜の手中に捕まっている姫に向かい叫ぶも、返事は無い。

既に気を失っていた。

そして、巨竜が勇者の姿を数瞬見届けた後。

紫紺の翼を広げ、その威容をラダトーム城内に見せつける。



━━━━ 【 我が妻となる王女は頂いた、もうこの城に用は無い。ドムドーラと同じく灰となるが良い! 】



勇者「ドムドーラ……!?」

聞き捨てならない言葉を放つと同時に、翼を羽ばたかせ上空へ昇る巨竜。

吹き荒れる烈風の中、勇者は姫を掴む巨竜の軌跡を目で追った。



夜空の下で崩れかけているラダトーム城を見下ろす巨竜。

巨竜は見下ろすように舞い上がり、王者の如き覇気で圧倒した。



━━━━ 【 燃え盛る我が火炎にて苦痛を覚える事無く、果てる事を光栄に思うが良い!! 】


─── ゴボォゥッ!! ギュゥウッ!! ゴォオオオッ!!──────



巨竜の喉から凄まじい爆炎が漏れ出る。

漏れ出た炎の揺らめきだけで日輪の光を思わせる程の輝きが、ラダトーム城内を照らした。


メイド「何……あれ……」

夜天を照らす紅蓮の輝きを見上げて、誰もが言葉を失った。


かつて、数百年以上前に世界を支配していた大魔王でも、これほどの破壊と絶望を予感させる光景を人々には見せなかった。

それ故に瓦礫から怪我人を助けようと奔走していた兵士達は、見た事も無い圧倒的な光景を前にして、何も出来ずに立ち尽くしているしかなかった。

このままでは、数秒もしないうちにラダトーム城がどうなるか。


勇者(絶対に……やらせない!!)


唯一、踏み込む力を見せたのは勇者ただ一人。

そして彼は、一度周りを見渡してから夜天を見上げた。




      ッッ・・・ゴォオオオオオオオ!!────



ラダトーム城全体を揺さ振る程の衝撃。

空気中を伝導する濃密な魔力と高温の熱波が、崩壊したダンスホール内に佇んでいた人々の肌を打ったのだ。

巨竜の真下にいた兵士達はその音に自身の命運が尽きた事を悟り、目を閉じてその衝撃波に震えていた。


メイド「……嘘」

兵長「あれは……!」


しかし、この2人は確かに見た。

天高く君臨する巨竜、その凶悪な顎から放たれた爆炎は夜空に散っていたのだ。

夜天を赤く染め上げる程の業火の柱が一直線に上空へ伸びていた。


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