ブルー「俺達は…」ルージュ「2人で1人、だよねっ!」『サガフロ IF】 (355)






                         __、
  /ヽ   /ヽ          ( ̄ ̄   ノ           /ヽ
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( <  , -、 | |〈  ノ , -、      l l<〉,へ-、 ヘ_  /ヽ- 、 (_  ,-‐' 〈_,ノ ,-―'フ  ,へ-、
 > 〉l 0 j | し' l l 0 j     ノ |  `l γ / ,-、ヽ l r'7| | |   _  i くフノ  `l γ
// ー、ゝ ー-; l  ー、ゝ    ー   く_ゝ 、 ー' ノ |_ノ〈__|  |_ノ  l´ | ヽニ=-  く_ゝ
         l/                  ̄            ー'





[注意書き]


※一部のサガフロ 没ネタ

※クレイジー・ヒューズネタ があります

※オリジナル解釈と原作中に無い展開もあるのでご注意ください



※クレイジー・ヒューズ程じゃないけどキャラ崩壊もございます







           ※ - 序幕 - ※



  prologue<プロローグ> ~ 7歳の修士、忘れ去った思い出 ~











 その日は、一際暑い一日だった


 降り注ぐ猛暑が石畳を熱し、雑踏を奏でる靴底にさえ悲鳴をあげさせるのではないかと心配する程だった
額に浮き出る玉汗をハンカチで拭いながらも聖堂へ脚を運び、修士として勤行に励む者のあらば
快晴からのさして嬉しくも無い贈り物に根をあげ、ポプラ並木の木陰で涼を取る住民…


心なしか、夏の風物詩たちの鳴き声すら力無いように感じられる






その子供は修士のローブを身に纏い、そんな光景をぼんやりと眺めていた
 半刻ほどで時計の短針は正午を告げるだろう時間帯に噴水広場で座り込み
虫取り網や空っぽの虫籠をぶら下げた同世代くらいの少年たちが走り回る姿をただ、ただ見ていただけだった



「…どうしよっかなぁ」パタパタ



齢7歳、行き交う人々を眺めながら―――――彼は考えなしに飛び出したことをちょっぴりだけ後悔していた

歳相応に脚をばたつかせる、2本の脚が左右交互に宙を掻き分け、その度の影も動く


長く伸びた癖の無い銀髪、風に靡くキラキラとしたソレは噴水の水面に煌めく陽光の輝きにも勝るとも劣らない



「帰ったら、きっと先生達にまたお仕置きされるだろうなぁ…」



眼を細めて空を仰ぐように見つめる、眼界にはどこまでも蒼い空があり、その蒼さに吸い込まれていきそうな気さえした
 着の身着のままで森の奥の奥、誰に見つかることも無いであろう施設から大人の監視を掻い潜ってでも観たかった外


書物の上のインクでしか知り得なかった事柄や挿絵の中だけの情景、触れることができるのか、っと淡い期待を胸に
飛び出して来たが世の中というのはそこまで甘くなく

結局の所、知りたいと思った世界の1/10にすら満たなかった




…いや、1/10だから実りは有った、0じゃないのだから、有ったのだ








「…んんっ?」





彼はそれを見つけた


思えばそれは見えざる手によって手繰り寄せられたとも言えなくもない邂逅だった






 その日は、一際暑い一日だった


 東風が熱を帯びた身で忙しなく巡る人々の肌を焼く、日傘をさして歩く者も在らば麦わら帽子を被る者
露店で売られている飲料を透き通るグラスに一杯注ぎ氷をひとつまみ入れる
銅貨を数枚手渡し、これ見よがしに、それでいて贅沢に茹だる様な暑さに苛まされる者に見せつけて喉を潤す住人


猛暑日を肴に冷酒を嗜む、そんな夏の風物詩を満喫する通行人の顔が目に入る






その子供は修士のローブを身に纏い、木の根元に腰かけ書物を読んでいた
 半刻ほどで時計の短針は正午を告げるだろう時間帯にポプラ並木の木陰で捗らない読書にため息を吐いた
どうしても学院に居たくなかった、だから外へ飛び出したが失敗だったか、っとうんざりしていた



「……よくもまぁ駆けずり回れるものだ」



齢7歳、時折手にした書物から視線を外し―――――彼は何も考えずに溌剌と動き回る同世代に聴こえぬ言葉を放つ

歳の割りに大人びて見える彼は、そんな口調とは裏腹に羨望の眼差しを向けていた


束ね上げた長く艶やかな金髪は肩から流れるようで、丈夫な寿樹を背もたれにしていた彼の白い肌は雪のように美しい



「…我ながら馬鹿な事をした、抜け出せば帰った後がどうなるかわかるだろうに」



眼を細めて考えたくも無い事柄から逃避を図るように紙の上の文章へ眼を向ける
 この国一番の荘厳な創りの学院から、愛読書という名の教科書片手に窓から飛び出した


すこしだけ外の世界には興味があった、それが彼の知的好奇心を刺激する事もさることながら
気に入らない教師に教鞭を振るわれるのを嫌っていたという事も手助けしたのだ

何でも良い、何だって良いから適当な理由をこじ付けて逃げ出したかったのかもしれない




…我ながら馬鹿な事をした、と後々後悔すると分かっていてもせずにいられない若気のなんとやらだ








「……なんだ?」





彼はそれと目が逢った


思えばそれは見えざる手によって手繰り寄せられたとも言えなくもない邂逅だった







「ねぇキミ、僕と一緒に遊ぼうよ」

「お前と遊ぶ理由が無い、去れ」




初対面の少年に彼は手を差し伸べ声を掛けました

初対面の少年に彼はそれだけ言い放つと再び本に視線を戻しました




「えー、なんでさー」

「なら答えてみろ、俺がお前と遊ぶ理由があるか、言ってみろ」



少年は初対面の彼に問答を投げました

少年は初対面の彼からの謎かけの答えを探しました




「理由?そんなの簡単さ」

「簡単なモノか、嘘をつくな」



少年は初対面の彼に対して朗らかに笑いかけました

少年は初対面の彼に対してムッと頬を膨らませ怒りました










           「だって、キミはさっきから友達と遊んでる子をじーっと見てたもの」





少年は回答を口にしました

少年は回答を耳にしました




「どうかな?」

「…」



彼は口を開きました

彼は口を開けなくなりました





ずばり、彼の心の内を言い当てたのです、正解でした

ずばり、彼は言い当てられたのでした、驚きました


「本当は誰かと遊びたいと思ってるよね、でもお友だちがいないから一人で本を読んでる」

「仮にそうだとしたらなんだ、それとお前と俺が遊ぶ理由に繋がらないぞ」








首を振り、本の文面から視線をあげて銀髪の少年を見つめる

金色の糸がはらり、と肩から零れ落ちる




何処に行く宛ても無く、知り合いも居らず、頼れる者もなく、無計画に飛び出した

何をすれば好き事かもわからず結局のところいつもの書物を読み漁る"フリ"をするしかない




ただ、ただ…羨望の念に駆られて他者を見ているしかないだけの、そんな自分を








目の前の少年はそんな彼を言い当てたのだ




出会って間もない、名前も知らない彼に自分の立場を言い当てられた








「あるよ、僕も同じだから」

「なんだと」







「僕もお友だちがいないから、ぼんやり見てるだけしかできないから
                だから、僕とお友だちになってほしい、僕と遊ぼうよ」







「つまり、"お前とお友だちになればひとりで本を読む理由が無くなる"と」


「うん、僕もお友だちができて遊べるし、キミもじーっと見てるだけじゃなくて済むよ」



「それが"お前と遊ぶ理由"だというのか」


「そうだね、それが"キミと遊ぶ理由"になるね、ほらね簡単だったでしょ」



「面白い奴だな、いいだろう」

「ありがとう、キミも中々面白いと思うよ」





この時、しかめっ面しかしていなかった彼が初めて微笑みました、心からの微笑みでした

この時も、その前からもずーっと笑っていた彼は一層明るく笑いました、心からの喜びでした




同じ背丈、同じくらいの歳頃、両手を合わせてみれば鏡に触れたようにピッタリな手の大きさ





整った顔立ち、傍から見れば女の子に間違われてもおかしくない端麗さ
















           なにもかも "生き写し" のように そっくりな ふたり は 歩き出しました












 これは、15年後…此処、魔法大国の"リージョン"として名を馳せる[マジックキングダム]にて
運命の日を迎えであろう少年たち2人の忘却の彼方へ置き去りにされた思い出







      この運命的な接触から15年の歳月が流れる…


*******************************************************
――――
―――
――



【旅立ちの日 時刻 12時00分】



シュルッ…  スッ―――






              ブルー「…行くか」






 艶やかな蜂蜜色の髪を束ね、藍色の術士の法衣に裾を通し、22歳になった彼は長年暮して来た寮の部屋を発つ
後に使うであろう者の為に整理整頓をしっかりとし、修士修了の日を迎えようとしていた



教員a「修士ブルーよ、ついてくるが良い」



 重々しい声色が扉越しに彼を呼んだ、名を呼ばれた彼はゆっくりと瞼を開き廊下で待ち構える教員の後に続く





*******************************************************
【旅立ちの日 時刻 12時00分】



シュルッ…  スッ―――






           ルージュ「この部屋ともお別れか、なんだか寂しいなぁ」






 待っている間が暇なのか、するべきことない彼は癖の無い長く伸びた銀髪を弄っていた、朱色の術士の法衣に裾を通し
齢22歳の彼は椅子に座って脚をパタパタとさせていた
 時折欠伸をしたり腕を伸ばしたりと呑気に修士修了の日を迎えようとしていた



教員b「修士ルージュよ、ついてくるが良い」



 重々しい…が、何処となく哀しそうな声が彼を迎えに来た






コツッ…コツッ…




 教員b「…数年も前からお前には言っていたな、お前に双子の兄が居ること」


 ルージュ「はい、先生…えっと、僕と同じで兄も今日、学院を発つのですよね?」


 教員b「……そうだ、それと無理に敬語は使わんでもよい、いつものように話せ」



教員b「お前の兄は我々"裏の学院"と違い、"表の学院"で育てられた…
     我らが"裏"は学院の外へ出る事は禁じられている
      もっともそのことはお前が一番わかっているだろうから私からはこれ以上何も言わん」


ルージュ「兄のブルーは外へ―――」



教員b「……表と裏は違う、向こうは"リージョン"を出ることさえしなければ街を自由に出歩ける」


教員b「だがお前の兄はお前の事を名前しか知らない、顔も性格も、何もかもだ、お前と同じで、な」


それ以降だんまりを決め込む教師を見て、ルージュは肩を竦めそのまま歩く、これ以上は訊くだけ無駄なのだろうと




教員b「…」


教員b「これは独り言だ」


ルージュ「?」



教員b「私含め、一部を除いた殆どの者がお前を我が子のように想っている、よく立派に育った」

教員b「だから送り出すのが辛いのだ」




ルージュは"独り言"を聴いていた、此方から何かを口出しするでもなくただ聴くだけだった




教員b「修士修了式でお前は晴れてこの国の術士の1人となる、そして、何をすべきか勅令を授かる、それだけだ」




自分よりも一歩先を進む年上の人物は表情を窺えない、だが、その声だけはこれまでの"独り言"で一番哀しみに溢れていた




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【旅立ちの日 時刻 12時15分】

【BGM:ブルー編OP】
https://www.youtube.com/watch?v=bG-O7U2WWig&index=3&list=PL33021FE67F7DCC92


                『修士修了式 開会!』

            『終了者の氏名発表を主任教授から行います』




長い廊下を渡り、荘厳な大扉は開かれる、高い天井には天国に住まう住人たる天使たちが描かれていた
 そんな室内全域に響き渡るように開会式の発表は執り行われた


  『教授会による厳正な成績審査の結果、全会一致により今期の修士修了者を…』

           『修士ブルーに決定致しました』



            『 修士ブルー! 前へ! 』


ブルーは寡黙に、いや…普段冷静な彼でさえもこの時ばかりは緊張したかもしれない
 それだけ強張って見えたのだ、彼とて人の子だ

この優等生は"いつも以上に背筋を伸ばして"入室した


髭を蓄えた学会のお偉方は口元を綻ばせ拍手喝采で蒼の術士を歓迎する



      『ブルーよ…汝をマジックキングダムの術士に列する』

     『術士としての義務を果たし、キングダムへの忠誠を全うせよ』





 ブルーは表情にこそ出さないように努めていたが内心、打ち震えていた



自分は王国の為に…我が祖国の伝統と誇りある術士の1人となれた、と

祖国の名誉とさらなる躍進の為の1人となったのだ、と



それは中世の貴族が一国の妃に跪き、剣を天に掲げ命を賭す誓いを捧げる気持ちと通じているのだろう
 さながら物語の主人公か何かになったように義務と責任を背負うことに打ち震えた










     『慣例に従い、キングダムを離れ…リージョン界への外遊を許可する!』






"リージョン"界



この世界には混沌と呼ばれる漆黒の海がある、それは喩えるならば宇宙空間のようなモノで
 その真っ暗闇の空間に無数の"リージョン"と呼ばれる小さな世界がある





"混沌"を宇宙空間と喩えるのなら

"リージョン"はさながら暗黒の海に浮かぶ小惑星<べつせかい>である



機械技術が発達し、人工知能を搭載したロボットやサイボーグが生きる異世界が存在し

サムライ、忍者と呼ばれる風変わりな戦士が生まれ育った別世界もあり

ドラゴンやスライム、各種多様なモンスター種族が平和に暮らす小惑星も実在し

そして、此処…[マジックキングダム]の様に魔法大国として名を馳せるリージョンがあるのだ







このご時世、船<リージョン・シップ>に乗り、宇宙旅行…もといリージョン旅行なんてさして珍しくもなんともない

 されどもこの主任教授の御言葉を聴いて分かる通り、原則として[マジックキングダム]の住人は
船に乗り、他所の異世界へ気軽に旅行へ行くことは禁じられているのだ


外からの観光客は来るのに、内から余所へは許可なく行けない…この時勢にしては珍しく閉鎖的な部類の国家だ





   『修了者の第一の務めはリージョン界を巡り、術の資質を身に付けより高度な術を鍛錬することである』





資質、…焚火を起こそうと思えばそこには火種となるモノが必要となる、火種があって、燃えるモノがあり
初めてそこに大火を立ち昇らせる事ができる


資質を持つものは鍛錬を積むことで基本術以外の術、…即ち高位の術を操れるようになる
 それゆえに術士を志す者は喉から手が出る程に欲しいモノだ





 さて、22歳の若者に下された勅命は此処までを簡単に訳せば

国外へ旅立ち、術の資質を身に着けて最強の魔術師になって来い、簡単に訳せばそれだけだ




そう、これだけで終わる話ならば







              『……そのためには"あらゆる手段を用いてよい"』











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兄のブルーは幼少の頃よりそう学んだ、そしてそれは双子の弟であるルージュも同じである


目的達成の為ならば"あらゆる手段"を使う事も厭わないように、と


あらゆる手段…つまり人道に反する行いであっても、それを許可するというのだ






         ルージュ「あらゆる手段を…」ゴクッ







時を同じくして、全く同じ内容を聞かされていたルージュの顔は険しいものへと変わる

 彼もまたブルーと同じことを学びはした、しかし彼は"お利口さん"ではなかった



世の中の大半の人間は利益の為と他者を蹴落とし、時には何かしらの見返りを求めて動く、効率的な賢い生き方



生憎と、彼はその生まれつきの性格ゆえに他者を蹴落とす事よりも手を取り起き上がらせることをするのだ

何の見返りも無く、ただただ純粋な善意で他者に手を差し伸べる、全く以って非効率的なやり方

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                   『異例の事だが出発前に校長からのお言葉がある』





"裏の学院"でルージュがそれを聞き、ハッと我に戻ったころ

"表の学院"でブルーは、天を見上げ校長の言葉に意識を傾ける







                    - ブルー、貴方は選ばれし者です -


                      - 双子ゆえに魔力が強い -

                     - しかし、双子のままでは -

                   - 術士として完成することはありません -

                 - 貴方はその運命に従わなくてはなりません -



                       - 今日、別な場所で -

                    - 貴方の双子の片割れのルージュも -

                    - 同じように終了の日を迎えています -



                   - キングダムには不完全な術士よりも -

                    - 完璧な一人の術士を求めています -

                   - それは貴方だと信じてますよ、ブルー -









             - 行きなさい 資質を身につけ 術を高め そして――――  -













                双子の術士は同じ時間、同じタイミングで御言葉を耳にした












                   ル ー ジ ュ を 殺 せ !











                    ブ ル ー を 殺 せ !






魔術師を育成する学院の校長にしてこの国を治める者…

              …御国の最高権力者からの勅令、それは…







[双子の兄弟同士で殺し合え]という命令だった、22年間、彼等は生まれた時には既に施設に居た



一度たりとも出逢ったことの無い、双子の片割れ


名前しか知らない、赤の他人と変わりない相手



だけど、双子の兄弟


















      - 片方を殺して、自分こそが優れた魔術師であると、最強の証明をしてみせよ -














この物語は…

15年ほど前に、実は禁を犯して学院の脱走を試みた弟と兄が出会っていたという在りもしない物語




ただ、お互いに忘れてしまった

ただ、お互いが生き別れの家族だと知らない



たったそれだけの話




かくして、今日この瞬間、この言葉を合図に殺し合いは始まった



           - 国の威信を背負い、決闘に打ち勝ち生きる為に兄は旅立ち -


      - 兄弟殺しに躊躇いを感じながらも、国家反逆罪を恐れ戦う道を取るしかない弟 -







           ※ - 第1章 - ※



        ~ ファースト・コンタクト ~








 ルージュの足取りは酷く重かった


彼は先述の通り、"御人好し"と評されるタイプの人種だ

 温和でそして子供っぽさの残る純真さ、そんな彼に出逢った事が無いとはいえ(実際には会ってるが)
双子の兄を殺せと命を下されたのだ

 国家の最高権力者から直々の勅令、王国の意向に背く事となればどのような理由であれ
それは"国家への反逆"を意味する


平和なリージョンとして有名なこの王国に限った話ではないが国の"暗部"というのどこもそうだ
裏では人に言えない事が平然と行われるものだ


自分を迎えに来た教師の辛そうな声色、今ならあの意図も理解できる…


まだ見ぬ兄は殺し合いをどう思っているのか?生き延びる為にルージュを本気で殺すつもりなのか…




ルージュ「…ブルーを殺せ、か」トボトボ




出発前に教授等からいくらかの支給品を渡される

[バックパック]にいくらか詰め込まれた傷薬に精霊石、そして―――




ルージュ「…わわっ、1000クレジット」ジャラッ



教員c「国からの援助資金だ、最初の1ヶ月はそれでどうにかなるだろう
     その先は自給自足となる学院でサバイバルの心得は一通り学んだバズだ」


ルージュ「…1ヶ月かぁ」ジャラッ


教員c「それとこれも渡しておく」スッ



ルージュ「! この宝石は…」


白い手袋をはめた掌の上に輝く蒼い結晶…それは彼も見た事があった、魔術を学んできた彼にとって
それはある術を使う為にどうしても必要なアイテム


教員c「[リージョン移動]、知っての通りお前たちがそう呼んでいる<ゲート>の術を使う為の媒介だ」

教員c「これが無ければ一度行った事のあるリージョンへの瞬間移動も侭ならない、失くしても再発行はしない、良いな」


ルージュ「…はい」


銀髪の好青年は教員から重要なソレを受け取った、その直後だった
 昔から勘の良い彼が全身総毛立つような嫌な感触を覚えたのは



ルージュ「うっ…!?」

教員c「?…どうした」



ルージュ「…質問ですが、僕がこの旅で一度も<ゲート>を…ひいてはこのアイテムを使わないのは構いませんね?」


その質問に眉を顰めたが、別に構わないと答え聴き、ルージュはありがとう、と軽く会釈した
 この蒼い宝石から得体の知れぬ何かを感じた、願わくば資質集めの旅の最中で何処かに捨てても良いとすら思う程に

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ブルー「資質集めの旅か、証明してみせる…!」グッ



ルージュがシップ発着場へと歩き始めた頃、紅い宝石を強く握りしめ、彼は強く念じる






ブルー(祖国は不完全な1人の術士よりも完璧な術士を求めている)

ブルー(資質を集めろ?双子の片割れを殺せ?)




ブルー(俺こそが優れていると証明してやる、全ては国の為に!)






ブルー(そして…俺自身が生きる為に
      会った事も無い赤の他人同然の奴にみすみす殺されてなるものか!)




闘争心、互いの命を懸けた競い

優れているのは自分の方だと言ってくれた上層部への期待に応えるべくブルーは真っすぐに
自分が華やかに勝利という凱旋を通り、忠誠心を示すことに燃えていた

そして、同時に死にたくない、まだ生きて色んな世界を見たい


小さな望みもあった


だから尚更に負けられなかった、死ねばそこで終わる、どんな生物だってそうだから…







ブルーは意識を集中させる、頭の中に自分にとって連想しやすいモノを…"青"を


海…深海の奥底に居るイメージを思い起こす、そして空想の海にピラミッド状の抽象的な像を浮かべる


無数の三角形が姿形を変える、その"世界"を…その"リージョン"を象徴するヴィジョンへと変換するッ!








 ブルー「…さらば、故郷よ…必ずここに戻るその時までは…っ!」




ルージュ「バイバイ、マジックキングダム…必ず帰って来るからねっ!」







2人はそれぞれ行くべき世界を…進むべき小惑星<リージョン>目掛けて旅立った!

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                 ブルー「<ゲート>! …[ドゥヴァン]へ!!」シュンッッ!!




                 ルージュ「[ルミナス]行きのシップに乗せてください!」




*******************************************************



―――
――



【双子が旅立ってから…初日、18時27分】




「ピンポンパンポーン♪ Attention, please! Attention, please! お客様!
  本日は当機をご利用いただき誠にありがとうございます、[マジックキングダム]発、[ルミナス]便は間もなく
 [ルミナス]に着陸致します…機体が揺れますので、しっかりとお席についてシートベルトを着用お願い致します」






 キィィィィン…!  プシュゥゥゥゥ…






       ガヤガヤ…!



「着いたなー!ルミナス!此処で精神の修行かぁー!」
「ねぇ!陽術と陰術どっちにする?やっぱり光を操る術よね?恰好良いし!」
「ばっかだなー!恰好良いってったら影操る魔法だろぉ!!」



シップの着陸と同時に観光客や修行目的の客がなだれ込むように降りて来る、その中にも当然ルージュは居た





ルージュ「…すっげぇぇ!ルミナスに着いちゃったよ…術を使ってないのに!」キラキラ…!





マジックキングダムは機械科学に疎い、そして外遊を一部の者以外は許されない

つまり、まるで田舎から都会にやって来て大はしゃぎの子供よろしくと彼は浮かれていた


ゲートの術を使えば既に登録済みのこのリージョンへは一瞬で来られる、にも関わらず態々機械の船に乗って
混沌の海を越えて別の惑星に時間を掛けて来るなど非効率と言えよう




それでも彼は"アレ"を使うのが何故か気が引けたし、何より彼自身機械や外の世界の技術に興味があった



これがルージュと外界のファースト・コンタクトであった




「ねぇ?さっきの人なんだったんだろう?ほら?[オーンブル」の前に居た」ヒソヒソ
「ああ、随分前から此処に張り込みしてるパトロールさんだよ、なんでもリージョン強盗団を追ってるとか」ヒソヒソ
「妖魔だよな、あれ…俺、人間<ヒューマン>以外の種族見た事無くってさぁ」ヒソヒソ



ルージュ「…とりあえず、どうしよう」キョロキョロ



此処へ来たのは光の力を司る陽術の資質、もしくは闇の力を操る陰術の資質を得る為である
光と闇は裏表、どちらか一つの資質しか得ることができないのだ
 しかも出発前に兄ブルーの得た資質を得る事ができないと耳にした、…早い者勝ちの競争だから考え所だ



ルージュ「う~ん…」


発着場のラウンジの椅子に座り、悩む…


最終的には双子の兄と殺し合いをせねばならない、それを踏まえた上でどんな術を得るべきか
闘い方もある程度考えて置く必要がある








            緑髪の少女「……はぁ」トボトボ

            妖魔の女性「お辛いとは思いですが今はこれからを考え無くてはなりません」ギュッ



        緑髪の少女「…うん、そう…だよね、もうおばさんの家には帰れない、だからっていつまでも
                      くよくよする訳にいかないよね、いつも支えてくれてありがとう」ニコッ


            妖魔の女性「ふふっ、貴女様は笑顔でいらっしゃる方が素敵ですよ」






ルージュ「…」ポケー


ルージュ(…あの二人、珍しい人だなぁ…人間<ヒューマン>…じゃないよね?)




他のシップが次々と着陸し、ターミナルゲートはすぐに観光客の波でごった返し始めていた
そんな時、なんとなくぼんやりと眺めていた彼は2人組の女性が目に留まった



片方は紛れもなく妖魔だ

20代の女性で物腰が柔らかく、美しい女性
白いドレスに茶髪に着飾った花飾りがよく似合う女性が付き人を励ましていた


もう一人は10代半ばだろうか、緑髪の整った顔立ちでさっきまでがっくりと肩を落としていたが
付き添いの人に励ましの言葉を貰って笑顔を振りまく、その笑みは太陽のように眩しいものだった





ぐぅぅ~




ルージュ「っと、見とれてる場合じゃないや、まだご飯食べてなかったんだよねぇ
                  降りたら食べようと、シップ内の売店でお弁当を――」スッ








ルージュ「…!?あ、あれ? 僕のスーツケースが無い!?」



スリ「へへっ!見るからに旅慣れてない観光客だぜ」つ【ルージュのスーツケース】

スリ「早速[クーロン]の闇市あたりで売っぱらって―――へっ?」ガシッ






緑髪の少女「おい!見ていたぞ、さっきあそこに居た銀髪の人から盗んだだろ、返せ!」



スリ「な、なんだよお前!連れか!?離しやがれ!」ググッ

緑髪の少女「違う!ただ…そういうのは放っておけないだけだ!」ググッ




ルージュ「ああーーっ!僕の荷物!」




スリ「げっ!?…クソったれ!」バッ! タッタッタ…!




緑髪の少女「ふぅ…はいっ!これ!あなたのでしょ?」つ【ルージュのスーツケース】

ルージュ「あ、ありがとう…!いやぁ、まさか気づかれない内に盗られてたなんて」


緑髪の少女「リージョン旅行は初めて?観光客を狙うスリが多いから発着場は油断しちゃダメだ」


ルージュ「あ、あはは…お恥ずかしい」



 紅の術士は気恥ずかしそうに顔を朱に染めて後ろ頭をかいた、盗人から手荷物を取り戻してくれた
緑髪の少女はそんな彼をおかしくおもったのかはにかむ様に微笑んだ、そして――







  アセルス「私はアセルス、少し訳あって行く宛ての無い旅をすることになったんだ…」




 自己紹介をしてくれた、どのような訳があるか知らないが、それを口にする時に少しだけ目を伏せ
陰りのある顔を見せた



  アセルス「それと、こっちは白薔薇、私に付き合ってくてる人なんだ」

   白薔薇「白薔薇と申します、以後お見知りおきを…」ペコリ



白薔薇…そう呼ばれた妖魔の女性はやはりというべきか育ちの良いお上品なお辞儀をしてくれた
 外界に出て早々に盗難被害に遭うというアンラッキーに見舞われたが、端麗な顔つきをしたボーイッシュな少女
そして麗しの貴婦人とお知り合いになれたのだ、彼の旅立ちは幸先の良いものなのかもしれない





  ルージュ「僕はキングダムの術士ルージュだ、術の修行の為に各地を廻ってるんだよ」




彼は荷物を取り戻してくれた二人の女性に簡単な自己紹介をした



アセルス「へぇ…術の修行の為にか…(1人人称が僕か、変わったお姉さんだなぁー)」


ルージュ「?」キョトン



 若干違和感を感じたが、気にせず「まぁ、各地を廻ってるっていっても今日旅立ったばかりだけどね」と付け加え
紅き術士はふと気になった事を尋ねてみた




ルージュ「君も術の資質を集めているのかい?」




 [ルミナス]を訪れる者は大抵、陽術か陰術の資質を求め旅に出た者だ
とすれば彼女達もそうなのだろうか?そう思い立ってルージュは質問してみたのだ


もしそうならば、此処で出会ったのも何かの縁、協力して集めないかと誘おうかと考えた

 資質、それは生半可な覚悟では得られぬ試練を越えねばならないのだ1人より大勢の方が良いに決まってるし
ルージュ自身が純粋に彼女に恩返しをしたいとも思っている



アセルス「えっ!?えぇ…と」チラッ

白薔薇「アセルス様の御心のままに」



アセルス「ルージュ、私達はさっきも言ったように訳があって宛てのない旅をしてるんだ
       此処に来たのも…その成り行きで…」

アセルス「…資質集めをしに来たとか、特に明確な理由はないんだ…ただ逃げて来ただけ、でさ」



ルージュ「ごめん、言いたくない事だったら言わなくて良いから」




 ばつの悪そうな顔で途切れ途切れの言葉を発するアセルスは
自分が置かれている状況をどう説明すべきか言葉を選んでいるようだった



"逃げて来た" その一言がこの女性二人が何者かに追われる身であるという事を意味していた



アセルス「気を遣わせすまない、女性の1人旅は大変だろうけど、キミも修行の旅を頑張ってくれ」




ルージュ「うん!ありが―――じょ、せ、い?」



アセルス「?」



白薔薇「…アセルス様、お耳を」ヒソヒソ

アセルス「どうしたんだ、白薔薇……ん?………!?えっ、は!?っ?お、男の人!?」ヒソヒソ






ルージュ(…ははは、そっかー、僕女の子と間違われたんだー)ズーン


…やっぱり幸先よくない旅路だったかもしれない、これが彼の外界とのファースト・コンタクトであった




アセルス「ご、ごめ…っ!あっ、いや、だって髪だってサラサラで綺麗だったし
               顔も女の子っぽくて可愛い感じでそのつまりそのアレでえーっと」ワテワテ



自分の失態に真っ赤に染まった顔で両手を振りながら思いつく限りのフォローを入れようとする少女


が、思いっ切りその効果は願うモノとは真逆な効果した出していない




ルージュ「素敵なフォローをありがとう…」ズーン




これ以上は更に気まずくなると判断し白薔薇が二人の間に割って入るように
「アセルス様、陽術の館へ術だけでも見に行きませんか?」と声を掛ける、その助け船に乗るように
「あ、あーそうだった!資質はともかく白薔薇みたいに<スターライトヒール>くらい使いたかったからねー」と
抑揚の無い声でそそくさと逃げていく



アセルス「ま、またね!ルージュ!縁があったら何処かで逢いましょう!」




そういって発着場のセントラルゲートから[ルミナス]へと続く扉を開き彼女は出て行った



ルージュ「…」ポカーン


ルージュ「色々と忙しない子だったなぁ…」フゥ…


――キラッ


ルージュ「ん?」

ルージュ「これは…カフスボタンかな?」スッ



 床に落ちていたそれを拾い上げルージュは天上の灯りに翳す、赤紫の輝きを放つ宝石をあしらった見事な逸品
衣服の装飾品としてだけでなくコレ単体でも美術品として値が張るような代物だった




ルージュ(…あっ、これアセルスのだ)



 中世の貴族のような爵位の高い人物が身に纏うような衣装、言い換えると時代掛かった古めかしい…
ミュージカル劇場の舞台役者が着こなしてそうな服装のあの男装麗人の少女を思い返す

さっき大袈裟に両腕を振っていたがあの時に外れたのか…




ルージュ「走れば間に合うかな、落し物は届けてあげなくちゃっ!」タッタッタ!




…ルージュは"お利口さん"ではなかった

頭に馬鹿がつく程の御人好しだ、…そんな彼は思いもしなかっただろう



   …これが後の腐れ縁に繋がり、なおかつ資質集めの旅の長い長い寄り道になるなどと…

*******************************************************
―――
――



【双子が旅立ってから…初日、14時49分】




- [ドゥヴァン]には秘術と印術の手がかりがある、急げ!ルージュの得た術をお前が身に着けることはできないぞ! -


 表の学院に所属する教授等に背を押され、旅立ったブルーは<ゲート>を使い
占い師が集うリージョン[ドゥヴァン]へと舞い降りた



ブルー「…着いたか」



ルージュが[ルミナス]へ到達する時刻より時は遡る…彼はシップ発着場の手前に姿を現し初めてみる外界に目を配らせた
芝生の絨毯を踏み鳴らし、群れを成す矢印看板の示す方角へと歩き出す




      「へいっ!そこ行く綺麗な金髪ポニテのおねーちゃん!占いどうだい!」
      「俺も占えるぜ、骨占いだぜ、うん!明日も晴れだぜ」
      「ハープ占いどうですか~?」




ブルー「…」ムスッ


マスター「はいっ、コーヒーですよ」コトッ





ブルーはご機嫌ナナメだった、理由は至って簡単だ

来て早々に"綺麗な金髪のおねーちゃん"扱いをされたからだ



彼は男だ


が、端麗な顔、生まれつきの雪の様に白くきめ細やかな肌、そして蜂蜜色の艶やかな髪が見る者に女性の印象を与えさせた
奇しくも双子の片割れも今の自分と同じように、数時間後に女の子と間違われるのだが、それはまた別のお話である



外界に来て彼はすぐに疲れ切ったような表情だった


…祖国の為!

……上層部からの期待に応えるべく!

………誇りと伝統、名誉ある人間の1人としてっ!



と息巻いていたものの…来て早々にこれでは、と頭を抱えそうになった


まず、この[ドゥヴァン]というリージョンは風変りこの上ない土地だった

骨占いだの、植物占いだの…手相、ハープの音色だ、占星学だなんだと、何処もかしこも観光客を
見つけては頼んでもいないのに勝手に占っていくというのだ


此処を訪れた、何も知らないブルーは正しく、鴨がネギを背負ってきたようなモノなのだろう
詰め寄っては勝手に占い、「どうですか!!!ウチの占い素晴らしいでしょう!?でしょう!?アナタもどうぞ!」

と、訳の分からない"勧誘"をしつこく薦めて来るのだ、さっそくブルーは頭痛を覚えた




ブルー「手相図鑑に、星座の表…花の種…くそっ!いらんぞこんなもん!」イラッ


それらと一緒に手渡された契約書のような紙切れ、サインと朱印をすれば晴れてあなたも〇〇占いの同志ですっ!なんて
怪しい一文までついている



[ドゥヴァン]より先に[ルミナス]へ飛べば良かったかもしれないと浮かんできた悔恨の念を喫茶店のコーヒーで飲み流す




…甘い、砂糖とミルクの程よい甘味が彼の苦悩を溶かすようだった
齢22歳、術の修行に青春時代も何もかもを打ち込んだ"優等生"は甘党だった



同世代からの僻み、陰口…才ある者にはそれが付き纏う、更に努力家ならば尚更だった



いつの頃からか彼、ブルーは甘いモノを好むようになっていた、ブドウ糖の摂取は脳を活性化させるとはよくいったモノで
それをよく知らない子供の頃はとにかく甘いモノを食べれば頭が良くなる、というガセネタに踊らされたそうな


何れにせよ彼は甘いモノが好きになった、ソレだけの事だ



マスター「お客さん」


ブルー「ああ、良い味だったこれは少ないが受け取ってく――」





マスター「底の方にどろどろとしたのが残ってるだろう?」ニッコリ



ブルー「……」



財布からチップを差し出そうとするブルーの手が止まる、にっこりと爽やかな笑みで喫茶店のマスターは言葉を続ける


マスター「底に残ってる残りの形で運命を見るんだ、当店自慢のコーヒー占いさ!」フッ!




ブルー「…」







         " 貴様もか店主っ!! "





声に出さずとも目だけでブルーは訴えました


―――
――



「印術の誘いへようこそ!」

ブルー「…印術の資質について教えてくれ」ゲンナリ…



初日で既に疲れを覚え始めたブルーは気怠そうに尋ねる



すると、どうだろうか?

「ふふっ!流石印術、この間の金髪美女達と同じで訪れる者が多い!アルカナとは違うんですよ!はーっはっはっは!」


と高笑いまでし始めた…




さっさとこのリージョンから出て行きたい、ブルーの心境はその一言で埋め尽くされていた




「おっと、失礼…ふふっ、あなたの髪色を見て以前[クーロン]からお越しの3人組の女性を思い出しましてね」


ブルー「無駄話は良いから早く教えろ、頼むから」





「ええ…印術とは印(ルーン)の力、加護を得る術です、高位のルーンを召喚するには印術の資質を要します」


「また、印術の力とアルカナを呼び出す秘術の力は相反する為、どちらかを得るにはどちらかを捨てねばなりません」



「資質を得るには…この小石を以て各地にある4つのルーンに触れる必要があります」コロッ



そういって4つの小さな石を取り出す、何も描かれていない小石、だが微かに魔力を感じ取れた



「ルーン文字が刻まれた4つの巨石、"保護のルーン"は[クーロン]に、"勝利のルーン"は[シュライク]に
  "解放のルーン"は[ディスペア]に、そして"活力のルーン"は[タンザー]にあります」



「巨石に触れ、4つの小石が全てルーンの小石と変わった時、あなたは術の資質を手にすることになるでしょう」



ブルー「巨石を探すために世界各地を旅する、それが印術の試練か…良いだろう、寄越せ」

「ふふっ!印術の同志が増える事は歓迎です!どうぞ!」




 ブルーは小石を手にし、そして基本術の術書を購入する、資質は無くともこれで最低限の印術の術は唱えられる
 術の書物と同時に謎の契約書も手渡してこようとする相手を無視してテントを出る




ブルー「<ゲート>の術は一度行った事のある場所にしか飛べない、シップに頼ることになるな」



例外的に[ドゥヴァン]、[ルミナス]だけは初めから飛べる、手渡された媒介となる宝石に初めから登録さているからだ



ブルー「まずは[クーロン]だ、そこへ行ってみるか」




クーロン…九龍…九龍街、立ち並ぶ高層ビルに空は覆われ、ネオン輝く街並み、常に夜なのでは?と思う程の外観と
治安の悪さで有名なリージョンだ、彼も噂だけなら訊いた事があった


人間<ヒューマン>、妖魔、モンスター、メカ…各種多様な種族が共存し繁栄する暗黒街だと、彼は早速チケットを購入した


―――
――



「ぎゃーっはっはっは!こんな所に丸腰でくるなんて無用心なんじゃあねぇのか?ええっ!パツキンのチャンネーよぉ~」

「へへっ!此処を通りたきゃ通行料を払いな!1000000クレジットってトコを美人だから特別100に負けてやるぜぇぇ」



ブルー「」イライラ






早速、絡まれました。




発着場を降りて、まずブルーは驚いた

想像以上に人でごった返していたのだ、ネオン輝く街並みにスーツ姿のサラリーマン風の男から
スカートをたくし上げ胸元を寄せ、あからさまに"そういう金稼ぎ"を行うけばけばしい化粧の女たち

路上販売で声を張り上げ野菜を売るモンスター、汗水垂らして(るように見える)働くロボットたち


雑踏の伴奏に酔っ払いと売春を生業とする娼婦たちのコーラス、この汚れた都会のフルオーケストラに
平和なリージョンからやってきた青年は耳を塞ぎたくなった


耳はやられるは、目はネオン煌めくいやらしい看板やらの灯りでチカチカする


慣れるのに苦労しそうだ、と逃げるように裏路地にブルーは入り込んだ





そして、これである。





「あー、通行料が払えねーってんならそれで良いんだぜ?へへっ」

「そーそー、その代わりよォ、俺達とベットの上であつぅい夜を一緒に過ごそうぜぇ」




ブルー「」イライライライラ




何度も言うがブルーは男である、そして女性に間違われることは彼の密かなコンプレックスであった



「なぁなぁ、いいだるぅろぉぉ?こんな薄暗い所に一人でくるなんて、"そういう事"だろ?」

「ヒューッ!アンタみたいなネエチャンと一発よろしくヤれるなら本望ってもんさ!さぁ行こうぜ、愛の巣へな!」


              「「 ギ ャ ー ッ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ! 」」







 ブルー「」イライライライライライライライライライライライライライライライラ…ブチッッッ!!



今日だけで何度女と間違われたか分からない彼の堪忍袋はその卑下た笑い声を口火についに切って落とされたッ!

―――
――


黄金色の髪の女「あーっ!!!くっそぉ!!!ルーファスの奴!ほんっと腹立つ!!!」

紫色の髪の女性「…彼は昔からああなのよ、貴女だってわかるでしょ」





黄金色の髪の女「そりゃ分かってるさ!けど…けど…!
          エミリアは女なのよ!…あんな薬で眠らせて奴らに売り払うなんてっ!」ギリッ



紫色の髪の女性「…ええ、帰ってきたら謝らなくちゃいけないわね」






[クーロン]の街中を慣れた足取りで二人の女が歩いていた

犯罪が日常で財布の紐をきつく締め、隙を見せてはならないこの街で慣れた歩き方をする手練れの二人は愚痴を口にした



紫色の髪の女性「勝手な行動は許されない
         仮に出来てもラムダ基地に入る方法は今の所無し…エミリアを信じる他ないわ」

黄金色の髪の女「そんなの、わかってるよぉ…はぁー…」


紫色の髪の女性「今の私達に出来ることは彼女が帰って来た時
            次の作戦をスムーズにこなせるように準備をするだけ、ね?」

黄金色の髪の女「うん…」





             ――――ズドンッッ!!!



「「ぎゃーーーーーーーーーーっっッッ!!」」





黄金色の髪の女「!? な、なに今の悲鳴…」

紫色の髪の女性「…男性の声ね、それも二人…裏路地の方からだけど」


突然の悲鳴に驚く女と行き交う人々の騒音に紛れて僅かに聴こえた爆発音に首を傾げる女

それぞれがその方角を振り向くと…




ブルー「…」スタスタ



「「…」」



1人の人間とすれ違った、この街で見かけない術士の服装…


黄金色の髪の女「何事も無く悲鳴の方から来たわね…」

紫色の髪の女性「相当な腕前ね、パッと見ただけで分かったわ」


紫色の髪の女性「何にしても私達とは関わりの無い人間よ、行きましょう…」


―――
――



ブルー(チッ、薄汚い街だ、どいつもこいつも汚い…見た目も中身さえも)



虫の居所が悪いまま彼は路頭を彷徨う、術に関する情報を求め、此処にあると言われる"保護"のルーンを探し出すために
手当たり次第に声を掛け、聞き込みに回っていたが、これと言ってめぼしい収穫は無かった



 途中、宿を見つけ、10クレジットで宿泊できることも確認した
このまま実りが無いのであらば今日の探索は諦めようかと思った






「いらっしゃい!いらっしゃい!安いよ安いよ!」

「トリニティからの横流し品だよ~!リージョン界と統一する政治機関の開発した最新軍事品がなんとこのお値段!」

「革を買うよ!」

「わぁぁぁ…!すっごーい!メイレン!此処[スクラップ]よりも人が沢山だね!」

「そうね、そんなことより次の指輪よ、豪富が持っているっていう指輪を探しに行きましょう」

「足の装備品~!如何っすか~!大安売りだよー!」

「俺は見たんだ!アイツが鉄パイプを剣のように操るのを!」

「そこの宿屋の裏、ニワトリの後ろを通った所にある情報端末で調べたら?」

「ありがとうございます、ゲン様、行きましょう」

「おう!ん?にいちゃんどうした?」

「わりぃ!俺、此処のイタ飯屋に少し前に一緒に旅してた友達が居るんだ、久しぶりに会いたいし此処でお別れだ!」

「おう!そうかい!犬っ子とネエチャンには言っとくぜ!」

「サンキュー!」

「そこのお兄さん♡アタシとイイコトしない?うふっ」

「新聞!新聞はいらんかね~?巷で噂のアルカイザーの記事が載ってるよ![シュライク]で誘拐犯を倒したヒーローだ!」







全く以って騒がしい

だが、これだけ人が集まるのならこのリージョンが繁栄するというのも頷ける



ブルー「すいません、お時間よろしいでしょうか?」

「ん?なんだい?」


ブルー「私は故郷を離れ術を勉強する者なのですが、この街に保護のルーンがあると聴きやってきたのです
     何かご存じないでしょうか…」


「ん~…ルーンねぇ、あっ!そういうことなら裏通りの医者が詳しいかもしれないぜ」


ブルー「!本当ですか!ありがとうございます!」



猫被りのブルーはやっと有力な情報に辿り着いた…!

時刻は【18時03分】既に[クーロン]は闇夜に包まれていた

https://www.youtube.com/watch?v=HSh7-WrhFnk
[BGM:サガフロより…アイキャッチ専用曲]
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                                        , ソ , '´⌒ヽ、
                                 ,//     `ヾヽ

                                 ├,イ       ヾ )
                               ,- `|@|.-、      ノ ノ
                           ,.=~ 人__.ヘ"::|、_,*、   .,ノノ
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                       〈 :,人__.,,-''"ノ.。ヘヾi::::::ト
                        Y r;;;;;;;;ン,,イ'''r''リヾヽ、|;;)
                        ヽ-==';ノイト.^イ.从i'' 人

                         .ヾ;;;;;イイiヘr´人_--フ;;;)
     .,,,,,,,,,,,,,,,,,,,.    .,,.          ヾ;;;|-i <ニ イヽニブ;;;i、
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  ,,il'    ,i||l   ,||l'  ,l|' ,,,,,. .,,,, ..,,,,,,   (;;ヾ'ゝ-'^    ,.イ;;;;;;;;;;;ヽ
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                    <::::::::::::/ | └、 |      `ブ <ヽ、'~

                     レノ-'  |`-、、__ ト、、_, -' ´ _,ノヽ~
                          ~` -、、フヽ、__ ,, -'´ ̄ル~'
                            ヘ`~i、 ̄ ̄リ ノヽ ̄~

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                           ` ̄        .ト、 .ヽ

                                      ヾ、.A
                                       .ヽノニ'


───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三

サガフロとかすげぇ懐かしい

主人公が皆、並行で進んでるっぽいなエミリア編が一番進んでるの?



曇天、[クーロン]の街並みはこの時期、雨季であった

 他の異世界<リージョン>と比べれば降水量の多い土地にあたり尚且つ双子が旅立ったこの時期は
陽光を遮る灰色の空が我が物顔で天空を支配していた


 裏通りに朽ち果てたメカの残骸は主人を失い破棄された者達の死骸と言えた、物言わぬ鉄屑と化したそれに群がるのは
同じく捨てられたロボットたちで、錆びた自身のパーツを外し使える部分を死骸から奪い取る

道端で自動車に轢き殺された野生動物を食い漁る鴉の群れと変わらない鋼鉄の人型共


その人型共となんら変わらない行為をする者は他にもいた


貧困から逃れるべく迷い込んだ憐れな観光客を狙う浮浪者、彼等もまた金目のモノになるロボットだろうと
財布をぶら提げた人間だろうと、奴隷として売り飛ばせるモンスター種族の観光者であってもお構いなく襲う







人心は荒んでいた



これは言ってしまえば一種の"病気"である、心の病










だからだろうか?

…ただでさえ無法地帯として名を馳せる九龍<クーローン>街の裏通りを『彼』が居城とするのは






ブルー「…」スタスタ…パシャ…






蒼の術士が水溜りを踏みしめる

地に降ろされる靴底の圧力で飛沫は飛び、へこんだ空き缶の真上を飛び越える



 彼は印術の資質を得る為、広いリージョン界の各地を巡り、印<ルーン>の文字に触れるという修行の旅路を進む
この暗黒街には保護のルーンが刻まれし巨石があるのだ


 疑問に思っただろうか? 裏通りはご覧の通り濁った水が降り注ぎ、衛生面はハッキリ言って最悪
…そこかしこに黴菌が繁殖する不衛生極まりない裏通りだ、雑居ビルの群れと曇天で滅多に射さない日光

それが悪循環を更に加速させていると言っても良い


そんな異世界<リージョン>でありながらも表通りの繁華街にはなぜか一滴も雨水は垂れないのだ、疫病どころか感染症一つ
裏通りから表通りに流れてこない





それは単に此処が"保護"されているからだ

昔々のそのまた昔、誰も知らない程の大昔から、強い魔力を秘めた文字によって




「おい見ろよ…綺麗な髪だなアレ…」
「へへ…金糸かぁ、売ったらさぞイイ値段のウイッグになるんだろうなぁ」



 汚れた段ボール、菌類の繁殖しまくったベニヤ板、その上に乗っけただけの瓦棒屋根
お世辞にも家屋とすら呼べないソレから無数の視線が術士を値踏みするように見ていた



 先程、ブルーが二人組の不幸なごろつきに絡まれた階段をゆっくりと降りていく最中
蒼の法衣に身を包んだ彼は自分の影が"何かの影"と重なるのを見た


小さな影は徐々に大きくなり、それは上空から飛来してくる鳥系のモンスター族の影であることに気がついた





「ケケケ!そこのお前、有り金全部出しな!!鞄も、そのひらひらの服も脱げ、靴も全部だ!!」

「オイオイ、待てよ相棒…独り占めは狡いぜ、久しぶりの金ヅルだ、俺にも食わせろよ」

「私も混ぜてよ…きゃははっ!」




 裏通りに巣食う者共は単独で犯罪を起こす者から種族の壁を越え、1つの目的の為に徒党を組んで襲う者も居る
舞い降りて来たのは人体に鳥のシンボルとも呼べる翼と鉤爪の足を持つ半人半鳥の[ハーピー]が2体

 紅髪を二つに結ったツインテールに露出度の高いアーマー右手には鈍い輝きの斧を携えた人間の女が
品の無い卑しい笑みを浮かべて舌なめずり…勝った後の戦利品分配でも考えているのだろうか


「俺も相棒も姐さんも気が短けぇからよ、分かったら早ぇとこ全部寄越しな、そうりゃ命は取らねぇぜ!ケケ」
















                ブルー「断る、失せろ蛆虫共」
















沈黙

ブルーを迷い込んできた馬鹿な旅人と嘲る笑い声はピタリと止み、雨音だけが場を支配する


 彼は頗る機嫌が悪かった、初日から何度眉間に皺を寄せたか分からぬ程に
そんな彼の声はゾッとする程に冷淡で、同じ血の通った人間とは思えない程に冷めていた





[ハーピー]に斧を持った女戦士[アックスボンバー]…裏通りは先述の通り浮浪者の巣窟である
だが此処に居る3体の実力はその中でも段違いだ


 電線の上から兎のようなつぶらな瞳で黄色い小動物に蝙蝠のような翼の生えた[ラバット]
犬猫程の背丈を持つ蛙[フェイトード]等が"自分達よりも圧倒的に強い"者に不遜な態度を取る術士を見ていた

ああ、あの金髪の人間は生きて帰れないだろうな、と憐れむ様に







その予測はすぐさま裏切られるのだが





「‥ケ、ケケ…てめぇ、許さねぇその綺麗なお顔ぐちゃぐちゃにしてやらぁぁぁああああああああ!!!!!!」

「アンタたち!!このクソッタレをやっちまいなぁァ!!」




 縄張りのボス気取りたちの顰蹙を見事に買ったブルーは涼しい顔だった
彼は目を瞑り、歌うように口ずさむ、右手の中指と人差し指を合せ自身の額に近づける…



             「ケェェェェェー―――――ッ!!」ヒュォォォォオオ



 鷹が獲物目掛けて行うような急降下、[ハーピー]の鉤爪はブルーの喉元を切り裂くため
先頭の1体に続き後続は心臓を鷲掴みそのまま抉る為にそれぞれ狙いをつけていた









          ブルー「『<インプロ―ジョン>』」キュィィィン 










ぼしゅっ、




音がした


 後続の[ハーピー]は目の前の相棒が光に包まれたのを間近に見た、光は相棒を取り囲む球体の檻のようになっていて
立方体…そう無数の正三角形と正五角形で形作る変形二十二面体のような檻だった

半人半鳥のモンスターを閉じ込めたそれは徐々に小さくなり、"消滅した"…中身ごと



"爆裂魔法<インプロージョン>"の檻に閉じ込められた憐れな一体は塵一つ残さずに"焼失"した、だから消えたように見えるのだ


     ブルー「…む?完全に消し飛ばせなかったか…頭部だけが残ったか…ちっ」


 光の檻が内部にある者を"爆裂"させる寸前に頭部だけが檻の外…範囲外に突き出ていた
だから首から下が忽然と消えた生首が宙を舞った







「う、ウワアアアアアアアアアアアアアアアアア」




 戦慄した、突如として光と共に消えた相棒の首から下、残った頭部は首の付け根部分から血飛沫をあげて吹き飛ぶ
サッカーボール大の頭部は胴体がコンマ0.02秒で焦げ臭さすら残さずに焼失…否、消滅した為


 頭部の下はギロチンで切り落としたかのような断面図となった、そこから噴出する真っ赤な鮮血
空気でパンパンにした風船に爪楊枝で穴を空けた時のように、急降下していた筈の"ソレの一部"は逆に上昇した




上から無色透明な雨水とは別で紅い体液が降り注ぐ、[ハーピー]その様に半狂乱となり―――










               ブルー「『<エナジーチェーン>』…!」









ギュルッ! ―――ベシャッ ジタバタ…!



「あっぐぶゥ!?お、おごっぉ ォ こ"こ"こぉぉ"ぉ」ジタバタ






ブルーの術、[マジックキングダム]の技術によって生み出された科学的超能力<サイオニック>の力…!



指先から放たれる光り輝く念動力の鎖は相手との実力差も分からぬ愚か者の首を縛り上げた






べしゃ、ゴミが浮かぶ水溜りに絞殺刑に今この瞬間、処されんとする憐れな半人半鳥が墜ちた



「い、い いい"い"い"いいい""いいいい"いいいき"きぎき"きぃぃぃぃいィぃィ」バチバチッ



古い電線剥き出しになったコード…銅線に当たる部分に鴉や雀が引っ掛かった瞬間を見た事があるだろうか?
それが雨の日ならば尚更だ、電流が流れ瞬く間にローストチキンになる瞬間だ


 魔力の塊、念動力の力……蒼き術士の攻撃的な思念を鎖の形にしたそれは巻き付いた首元を焼いていた
焼け爛れていく首、絞めつけられ酸素供給ができなくなる気道

水溜りに落下した事で更に"感電"していく彼は先ほど弾け飛んだ相棒の顔と同じく苦悶の表情を浮かべていた




「…な、なんなんだいアンタはァ…」ガチガチ




人間の所業ではない、それが同じ人間の―――生きる為に強盗殺人を生業とする者の率直な感想だった



彼は蜂蜜色を束ねた髪は湿気と雨水で重みを増し、前髪から滴る水滴を鬱陶しそうに払う

 今しがた絶命した[ハーピー]2体を屠る時などさもどうでもいい、それより前髪から垂れて来る水滴の方が
面倒だとでも言いたげで…その仕草がより一層この人間には赤い血など流れていないのではないか?
血脈を循環しているのは冷水か、さもなくば人間<ヒューマン>と異なる種族、妖魔と同じ青い血でも流れているのでは、と?





ブルー「丁度いい、こういう事は地元の奴に尋ねるのが手っ取り早い」


ブルー「貴様、この辺りに医者は住んでいるか?裏通りに"ルーン"に詳しい医者が居ると聞いてきたんだ」


ブルー「さっさと答えろ…オイ聞いているのか」





「っ、の野郎……イイ気になってんじゃないよ!!!」




猫被りの時とは全く以って違う、礼儀正しい青年を"演じる"ブルーの本性…





「っずぁらああああああああああああああァ」ブンッッ



ずばっっ!蒼い法衣の左肩を切り裂く…じわりと蒼が赤く染まる




「はっ…ははははっ…」




なんだ、この冷血無比な術士にも紅い血が流れているのか
乾いた笑みが浮かぶ、目尻に涙が溜る、瞳の奥に詠唱を終えトドメを刺そうとする死神が焼き付く





ブルー「ふん、斧を振り回すしか能が無い女か、屑め」





ブルー「死ね」






取り繕う必要性が無い相手、体裁をなど気にする必要性の無い相手

それにだけ見せる"冷徹な男<ブルー>"の本性


今宵、暗黒街[クーロン]の裏通りに本日2度目の悲鳴が上がった

―――
――



ブルー「…」スタスタ…



ブルー(失せろと言った時に消え去れば良かったものを、答えろと言った時に答えて逃げれば良いものを)







くだらない事に術力を使った、くだらないモノで自分の手を汚した、不愉快だ、彼の心中にあるのはそれだ


先に言っておくが彼は裏通りの最奥に息を潜める様なクレイジーな快楽殺人犯とは違う


-『自分の目的を果たす為ならばあらゆる手段を用いてよい』-


自国で、国の最高責任者から言われた事、幼少の頃から学んだ教え




国家からの勅令、国の威信と名誉の為ならば何をしても良い、それが"正義"である、そう教えられて育った



"王国の術士"としてなら必要あらば100人だろうが1000人だろうが関係なく殺す、王国の忠実な術士としてなら、だ



襲われたから殺した、自分の命、ひいては国家の任務遂行の妨げになる障害物だったから消した、たったそれだけの話
そうでなくとも、どの道あの手の連中は迷い込んだ観光客の命を食い物にする


何れにせよ死傷者は出る、今回の場合それは相手側で、そしてこれ以上死傷者は出なくなるという話、たったそれだけ







ブルー「…」スタスタ…ピタッ

ブルー「…此処か」




雑居ビルに囲まれた裏通り、長い長い階段を降り、点滅する電子の輝きを見つめる
そのネオン看板は病院でお馴染みの十字のマークとは違っていた

喩えばアルファベットのNを反転させて少し傾けた見た目の文字




ブルー「…エイワズ…ふっ、此処にこの文字とはな」




それを見て鼻で笑った




エイワズ、ルーン文字の一つであり暗示する意味は『生命の樹』『防御』…そして『死』

命が生まれる場所であり、万病の攻め手から防御する為の場であり、そして最後は誰かに看取られて死を迎える…


蒼の術士は古びた診療所の戸を開く




まずブルーを出迎えたのは鼻につく消毒用のアルコールの匂いだった


 薄暗い病院のエントランスにして待合室となる間はパイプ椅子が数脚
机の上には人体について詳細が書かれた医学書が無造作に置かれていて、受付のには今時誰も使わないような黒電話
ダイヤル式の電話機の向こうに見える壺や壁棚板の上に陳列する薬瓶には元からこの医院に居た人物と来院した術士を映す


此処の責任者に話を伺いたいが受付には人影はなく、それどころか呼び鈴の一つだってありゃしなかった


訝し気に眉を顰めたブルーは何時頃から待っているのか分からない男に語り掛ける事にした、誰も居ないのなら
この人物に尋ねる他ないからだ、無論、礼儀正しい青年を演じて




ブルー「あのー、待ってるんですか?」




青白いカッターシャツ、俯いたままの青白い男はやけに肌が白かった

医院の薄暗さも手伝って気づけなかったのかもしれない





ごとんっ、男の首が取れて落ちた、先程の[ハーピー]のように


落ちたクルリと振り返る、ああ、暗さも手伝って気づけなかった



この男は肌が白いと思っていたが思い違いだった





振り向いたその男の生首は白骨だった







理科室の標本にありがちな頭蓋骨がケタケタ笑いだし、スゥーっと消えた



           ボォォン……!


                      ボォォン…!




それを合図にするかのように柱時計が音を鳴らし、その横にあったアルコールを溜めた洗面器にぴちょりと音がなる
何処か雨漏りでもしてるのか




ブルーは少しだけ目を見開いていた、狐にでもつままれたとでも言いたげな顔で固まっていた

彼とて人の子だ、人並みの感情は当然有していて、戸惑いもする


先の事が事だけに今のはブルーに少なからず情動を与えた
















 「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ」















ブルー「」ビクッ


「次の方、どうぞ」




診察室、と札が掛けられた部屋の向こうから声が聞こえた



心臓に悪い所だ、固まっていた術士は気を取り直して、ドアノブに手を掛けた…



ギィィ、と木製の扉の軋む音を耳に彼が目にしたのは膝下まである白衣と流れる様な黒髪の後ろ姿



裏通りの闇医者「よろしい、早速手術だ、そこに横たわり給え」


ブルー「…外界の連中は人の話を聞かないものなのか」





[ドゥヴァン]の占い師共といい、ごろつき共といい、この無免許医師といい…額に手を当て、噂の闇医者をよく観察する


 風変わりな医師、医療費を取らずに難病を抱える患者を片っ端から治療する闇医者
裏通りに入る前、ルーンに詳しい医者が居ると知ってからある程度、どのような人物かさらりと聞き込みは行っていたが





ブルー「それとも、貴様が人間ではなく妖魔だからか?」


裏通りの闇医者「…ふむ、よくわかったな」ピクッ



ブルー「貴様から感じる魔力…いや妖力、人とは明らかに異質であることぐらいわかる」



ブルー「人間だろうと妖魔だろうとそんなことはどうでもいい、保護のルーンについて何か知っているか?」



裏通りの闇医者「[クーロン]の地脈には保護のルーンが刻まれている、その力がこの土地を栄えさせている
         しかしだ…近年この街の治安は悪くなる一方だ」



そう言って闇医師は…妖魔は振り返る、眼鏡を掛けた気品ある端麗な顔立ちは一目で彼が上級妖魔だと悟らせる



ヌサカーン「私の名はヌサカーン、君も知っての通り此処を根城に医師をしているモノだ」

ヌサカーン「尤も、君達の言葉を借りるなら私は"モグリ"という奴だがね」

ヌサカーン「どうだろうか、私は地脈に異常が無いか調査に赴きたいと前々思っていた、だが私一人では何分厳しくてね」



ヌサカーン「何があるか分からないから中々踏み出せず困っていた、そこへ君が都合よくやって来た」

ブルー「貴様なら道案内ができるという訳か」


少し考える素振りを見せ、ブルーは「良いだろう」と胡散臭いこの妖魔の医師と少しの間同行することにした


紫色の怪しげな炎が揺らめく燭台、二つの影が揺れ、妖魔医師は「よろしく、ブルー君」と笑うのであった





一旦此処まで

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『<エイワズ(ユル)>』

暗示:『生命の樹』『防御』『死』


───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三


ヌサカーン先生宅の看板の文字が地味にルーン文字だったり凝ってる



>>32 名作ですね

>>33 YES、現在エミリアはラムダ基地潜入(?)の為、シップに乗せられてる…つまりアセルス達は…



妖魔、それは姿形こそ人間に酷似しているが異なる種族である


彼ら、彼女らに性別という概念は無い
女性的な容姿、男性的な容姿と身体の創りや人格そのものに差はあるが、世間一般的な人間の概念でいう性別とは違う






美麗の男性が同じく顔立ちの整った男と仲睦まじく暮らす様子を見ることもあれば

華奢な身体の女性が美しい人魚姫のような女性型の同種族と愛を育んでいたり…









傍から見ると怪しい関係を疑いたくなる種族であるが、彼等(彼女等?)には人類と同じ性別の概念は通じない






 人と比べて飲食を必要としない者、年中一睡も必要とせず生きることができれば、生殖機能が存在しない生態系だったり
大小なれど差はあるが根本的に人間<ヒューマン>と違うのだ





今、ブルーの目の前にいる眼鏡を掛けた白衣の医師も同じ

見た目こそ人間の成人男性に部類される肉体だが、何処か人と違う



血管は全ての妖魔に共通する青い血液が流れていて
見た目こそ年若い美青年だが年齢など、余裕で100歳を超えているのかもしれない





ヌサカーン「ふむ、…肩に切り傷があるな」ズイッ

ブルー「寄るな、食い入るように私の肩に顔を近づけるな」



若干引き攣った顔でブルーはこの妖魔から距離を置こうとする





ヌサカーン「なぜだね?…ん?あぁ……そうか、安心したまえ、私は"病気という存在を愛する者"でね」

ヌサカーン「世にも珍しい奇病や病状の患者と出会い、それを観察するというのが私の望みなのだよ」

ヌサカーン「従って君達、人間社会で言うところの同性愛とやらには興味の欠片も無いし、世間帯とやらも熟知している」



純粋に"興味の対象物である『患者』"を見たいからでありブルーが危惧するようなことはないと男性型の妖魔は告げる



無音、風も何も無い室内で妖魔の身に纏う白衣は不可視の力ではためき、蒼の術士の肩に幻想的な輝きの粒子を舞わせた



ヌサカーン「どうだね?ん?痛みは消えただろう」


左手で肩に触れる…なるほど、上級妖魔なだけはあると彼は思った



古びた廃病院に勝手に住み付き、勝手に改築した風変りの人ならざる者はしばしの間自身の根城を留守にする




懐に柄部分のスイッチを押す事により刃が出る光学兵器[レーザーナイフ]を忍ばせ、その手に大型の重火器[水撃銃]を持つ
 ブルーは記憶の引き出しから書物で知る限り妖魔という存在は機械音痴で有名だという話を引き出していた




ヌサカーン「…くくっ、意外かね?」


ブルー「!」



ヌサカーン「そう目を丸くされてはすぐにわかってしまうよ、ブルー…どうやら君は冷静に見えて感情的な人間のようだ」


ヌサカーン「……私も長い年月を人間社会で生きた、何より患者を観察するのが好きだった」


ヌサカーン「そうこうしている内に科学文明というモノにも詳しくなったのさ」





ブルー「そうか…」フイッ



それだけ言うと彼は絶え間なく水を地表へ注ぐ天を見上げた、いや、逸らした
あまりこの妖魔と長く話していたくない、自分の心の内さえ見透かされそうだから




ヌサカーン「くくっ…この[水撃銃]というのも中々に面白い、銃"火"器という部類でありながら高圧で水を飛ばし…
         ああ、面白いと言えば君の魔術もそうだ、魔術と銘打っておきながら科学的超能力<サイオニック>と――」




ブルー「なんでもいい、早く行くぞ…」スタスタ






どっと疲れた、初日からこれで本当に自分は資質を集めきれるのか…

勢いを増し始める降水量、水煙で眼鏡のレンズを曇らせながら不敵な笑みを浮かべる闇医者
目的を済ませて宿のシーツに顔を埋めたくて仕方がない旅の術士は目的地へと続く廃線へと続くマンホールを降りていく




 道中、海星の中央に蛸の様な口部(触手の下にある肛門のような部位)を持つモンスター[ゼノ]を初め
溶解液を飛ばす[スライム]…人に混じり金銭の略奪を働く下級妖魔らに襲われたが…




1人はもはや説明するまでもなく、もう片方の同行者も両手銃で向かい壁まで弾き飛ばし、解剖手術でも行うように手際良く
モンスター、あるいは人や妖魔の野盗たちを掻っ捌き、時には妖魔の術やカードを召喚する術で無謀にも襲ってきた
身の程知らずを次々と叩き伏せて行った








【18時53分】[クーロン]裏通りでの出来事であった…

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            …あっれれ~?おかしいなぁ?どうして僕こんなことになっちゃったんだろう?














時刻は完全に月が昇る【19時49分】


彼は"喫茶店"で項垂れる様に今現在の自分の状況を振り返った






そう…あれは遡る事、1時間と少し前…





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―――
――


【時刻 18時40分】


 此処、陰陽の術を操れる資質を求め各地より修行僧が集う異世界<リージョン>、[ルミナス]で紅き法衣に身を包んだ青年が
大慌てで走っていた行先は光の力の尊さを説く陽術の館



ルージュ「こんな高そうなカフスだもん、落とし主には届けなくちゃ…!」タッタッ…!



 赤紫の宝石を握りしめた掌の中に、人の良い彼はスリから荷物を取り戻してくれた少女アセルスの後を追う
発着場から扉を勢いよく開き、ロープと丸太で組んだだけの簡素な吊り橋を渡って陰陽の分岐路へ向かう…その時だった



            ぞわっ…!



昔から彼は直感が優れていた

術士として霊感能力が高かったのも確かにあったかもしれないが野生の直感に近かった




背筋に嫌な感触が這う、走ったせいもあるかもしれないが額に玉汗が滲む、こういう時いつだって碌なモンに遭遇しない
22年間生きてきた彼の人生経験が警鐘を煩いくらいに鳴らす



 無意識にルージュは足を速めた、短距離走で後先考えずに力の限りを尽くすような疾走、丸太の吊り橋が揺れ
他の観光客から「何しやがる!」なんて罵声が飛ぶが脇目さえ振らない


            "まずい、このままじゃ手遅れになる…ッ!"


 根拠なんて無い、だが紅の法衣は更に加速する、銀の髪が靡く、息が苦しい…
だからどうした?後悔することになるよりはマシだ、歯を食いしばり彼はそこに辿り着いた!





               「逃がしませんよ!!」





その声が聞こえ、空間が歪みだしたのと同時だった

ルージュがグニャグニャと景色のブレる結界に飲み込まれていく二人の美しき女性たちの元へ滑り込んだのは――


―――
――




アセルス「きゃあああぁぁ!!」

白薔薇「アセルス様っ!」



 貴婦人の女性型妖魔と緑髪の10代半ばの少女が結界の中へと飲み込まれようとしていた

 彼女達は"追っ手"の魔の手から逃れる為に逃亡を余儀なくされていたが、此処に来て見つかり
邪魔が入らぬようにと閉鎖された異空間に引き込み始末するつもりなのだ

 レースカーテンのような影のベールに飲み込まる寸前、白薔薇は悲鳴をあげる少女の身を守るように抱く
彼女自身も追手の奇襲という恐怖に怖れを感じていたが腕の中で震える小さな少女を勇気づけねばと気丈に振る舞う

だから反射的に目と瞑らなかったアセルスと違い白薔薇姫は確かに見た、影に飲まれゆく自分達の元へ彼が走って来たのを





ルージュ「どぅおおおおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!」ズサァ――!



スライディング、靴底がすり減り、シャッターの様な影の結界で完全に外と内が遮断される直前で紅き術士はやって来た



白薔薇「ルージュさん!?」

アセルス「…ぇ、…!?ル、ルージュ!?どうして!!」


恐る恐る目を開けたアセルスが知り合ったばかりの闖入者の登場に驚きの声をあげる

闖入者に驚いたのは二人だけではない




水の従騎士「なんですか、貴方は…」




それは清流のように穏やかにして静かな声に…聴こえないことも無いが、言葉を発する全身鎧固めの騎士から溢れる
敵意を見てしまえばそんな印象は何処かで跳んでしまう事だろう



一方でルージュはその鎧騎士を見て一瞬呆気に取られた

この騎士風の妖魔と思しき存在が「逃げて来た」と口にしたアセルス達を追ってきた者だと察することはできた


問題は…



ルージュ「……"青"」



青…蒼…ブルー…

そのカラーリングは嫌でも双子の兄を連想させる、言ってみれば彼にとって今一番見たくない色合いであった




水の従騎士「…何者か存じませんが、邪魔をするのならばその命、もらい受けます」チャキッ



白薔薇「従騎士!この御方は私達とは関係の無い方です、結界の外へ逃がしてください!」

アセルス「ハッ!そ、そうだ…!ルージュは関係ない!やめろ!」




なんで来たんだ!?と叫びたかった緑髪の少女は目の前の追手が黒鉄の剣の切っ先をルージュに向けたのを見て慌てた

自分達の所為で無関係な人間が巻き込まれ命を落としてしまう…っ!なんとしてでも逃がしてあげねばと考える





だが、ルージュは―――



ルージュ「いいや、関係なくなんて無いよ、目の前で物騒な恰好した奴が無抵抗の女性を追っかけ回してるんだ」

ルージュ「人間としてそんなの放っておけないッ!理由なんてそれだけ十分だ!」



正義感の強い、超が付くほどの御人好しはそれを見過ごせる程に器用な人間では無かった



ルージュ「それにね、その恰好!」ビシッ!



全身"青"を基調としたカラーリングの鎧騎士を指さし彼は言った




ルージュ「すっごい個人的な感情だけどさ、今一番見たくない色合いの人に言われると反発したくなるんだよねっ!」フン!




兄の件で思い悩んでいるというのに、ただでさえ蒼色を自分の抱えてる悩みで頭痛がしそうだというのに…!
そんな私情で彼はこの騎士のいう事なんて聞いてなんかやるもんか!と息を巻く



水の従騎士「…いいでしょう、黄泉の国で後悔なさるが良いっ!!」



その言葉を皮切りに騎士は玄武の盾を構え突撃してくる、狙いはルージュだ



アセルス「でやぁぁぁ!!」ディフレクト!

水の従騎士「ぐぅっ!」ギギッ…



 重厚な見た目に反し、敏速な動きで一気に間合いを詰めた鎧騎士は右腕の得物を天へ振りかざし唐竹割りの要領で
ルージュの頭部を叩き切る気でいた、だがそれに一早く反応したのは先ほどまで震えていた少女アセルスだった



 予想に反した動きに反応が遅れた好青年、目的を邪魔する者を排すべく動いた騎士の隙間に割り込むように
彼女は腰に下げていた血濡れの様に妖しく、それでいて美しい妖刀の刀身で黒鉄の刃を受け止めたのだ



アセルス「くぅぅぅ~っ」ググッ

水の従騎士「はッ!!」ガンッ!ゲシッ!



アセルス「きゃぅ!」



 大剣に近いソードの創りと刀に部類されるブレードでは質量にも差があった
何より彼女の細腕と見るからに逞しい騎士の剛腕では鍔迫り合いに持っていたアセルスが打ち負けるのも当然と言えよう


一瞬、腕を引いてその後に勢いをつけて押し返しアセルスが後方へ仰け反った隙をついて蹴り飛ばす


小さな悲鳴と共に尻餅をついたアセルス目掛けた刺突を騎士は繰り出す
 その一突きは態勢を崩した少女の身体を突き刺すことは無かった、何故ならば突如として伸びて来た念動力の鎖に
腕を絡めとられたからだ、彼女の胸部を貫き心臓の動きを止める筈だった一撃は大きく逸れ、大地に深く突き刺さる



水の従騎士「貴様…っ!」


ルージュ「アセルス!ごめんっ、助かったよ!!
       そして騎士さんとやら!狙うなら初めっから1人に絞っとかないとこんな風に横やり入れられちゃうよ!」


鎧越しに伝わる熱と締め付けられ軋み罅が入る鎧に更なる追い打ちが掛かるッ!


白薔薇「門よ!声に耳を傾け開きなさい!『<幻夢の一撃>』出でよ…!"ジャッカル"」


貴婦人を中心にサークル上の陣が展開される、異界より召喚されるは術者に仇なす者を喰い殺す魔狼
 その牙はルージュの<エナジーチェーン>で締め上げられた腕の罅に突き刺さった…!



 異形の魔獣が突き立てた牙は罅を更に広げ、冑に覆われ表情を窺い知る術はないが騎士が苦悶の声を漏らし
牡山羊を彷彿させる2本の角が生えた頭部を振るう姿を見るに恐らく皮膚にまで食い込んだのだろう





紅き妖刀を手にアセルスが咄嗟に機転を利かせた防御

あれだけ大口を叩いた癖に油断したッ!と舌を打ちながらも飛び退きエネルギー集合体で敵の腕を縛るルージュ

詠唱を終え、自身を中心とした陣で異形の存在を呼び出す妖<あやかし>の術でジャッカルを召喚した妖魔、白薔薇姫




 単純に力量差ならば騎士に分配が上がっていた
しかしながら古来より戦いというモノは数に左右される、如何なる兵<ツワモノ>も、百戦錬磨の英雄であろうとも
多くの敵の連携を前にしては辛酸を舐めさせられる事となる





 白薔薇「星光の加護よ、彼の者に安らぎを―――『<スターライトヒール>』パァァァァ!!



 澱んだ溝水のように一点の光さえ刺さない結界の中に一筋の輝きが降りて来る
それは従騎士の剛脚で蹴りつけられた腹部を押さえていたアセルスを温かく包み、光に抱擁された彼女の表情も和らぐ




アセルス「白薔薇!すまない……、私にはまだこの妖刀を、幻魔を扱い切れないのか…っ」



手にするは紅い劔、ただならぬ気配が漂う刃は何も答えてくれない



 先程、ルージュを護った紅き妖刀を鞘に納め、少女は右手を前に翳す…
何も掴んでいなかった筈のその手の中に突如として1本の長剣が姿を現した



ルージュ(…!何も無い空間から剣を取り出したっ!?)

白薔薇(っ、アセルス様…それは!!)



水の従騎士「…ほう、[妖魔の剣]を呼び出せるようになったのですね」

アセルス「だぁぁぁぁぁぁあぁあああああぁぁ!!」ヒュッ!スパッ!



水の従騎士「仮にもあの御方の血を注がれ、半分とは言え妖魔の仲間入りを果たされただけはある…しかし!」ガキィィン!


ルージュ「うおぉおお!?(なんて腕力だ、腕を振り回して縛ってる僕ごと)」




念動力の鎖が巻き付いた腕を大きく振り回し、ルージュごと振り回す
大地から足が離れ遠心力に翻弄されたルージュは堪らず術を解除し、地面に叩きつけられる


彼の身体が地につくのとは真逆だった、彼女が全く同じタイミングで地から飛翔したのは…!



 青年の肉体が地を2度跳ね、少女が剣の先を敵の顔面目掛け突き刺すような姿勢で跳び
妖魔が驚愕の表情のまま口元を手で覆い、騎士は自由になった利き腕の剣で迎え撃つ



これが一瞬の出来事であった










                        【< 妖 魔 化 >】







―――――――カッッ!!








 目を見開いた、春の若葉を連想させる綺麗な緑髪は暗色を深め、重力に反するように外側は逆立つ
その姿を見たルージュは勢いよく突きを放つアセルスの剣先を目で追う…


その刃先は水の従騎士の冑で眼の位置に当たる部位を突き刺すのは間違いなかった







剣先が届けばの話だ










水の従騎士「クゥォォオオオオ、ボッッッッッッ!!」ガコッ ブシャァァァァ!!!





口の部分がシャッターのように開く、人間とは違った歯並びの大口が顔を覗かせた


 消防車のポンプから噴き出す高出力の水圧、いや、それ以上の出力で
それこそ重火器[水撃銃]に匹敵する[水撃]が妖魔の騎士の喉奥から放たれたのだ



 鈍い音、障害物も何も無く、真っすぐ跳んでくるはずだったアセルスの右肩から骨が折れたような音がした
滞空中の少女の身体はさながら風を受けた風車のように回りながら弾き飛ばされる




そして追い打ちの一太刀がアセルスの身体を裂かんとする





時間を要する白薔薇の術は間に合わない

弾き飛ばされすぐさま態勢を整えて術を放とうとするルージュでも間に合わなかった





17歳の少女の鮮血が騎士の剣先に付着した




言葉を失った、自分の目の前で助けられたかもしれない人が命を落とす





深々と刃が通った少女の肉体が嫌にルージュの網膜に焼き付く、脇腹から臍の位置までざっくり…
やや、斜め上に胃腸から肝臓まで切ろうとでもしたのだろう



あれでは助からない




ルージュ「なんてことだ…」ワナワナ




 このような非道が許されようか、年端もいかない娘が目の前で切り殺されたて平然と何故できようか!?
握り拳を創り、彼は暴挙をあげた騎士を何としても葬らねばと怒りに震えた


 誰にでも優しい彼とて相手が微塵たりとも救いようの無い極悪非道の悪漢ならば手心など加えない
容赦なく爆裂魔法<インプロージョン>でその生命をも奪う事だろう



立ち上がり、彼が術を唱えようとしたその直後―――












                     "それ"は起きた











         ドクンッ!

                 ドクンッ






        ―――ゆらり…





本日何度目になるか、分からないがルージュは絶句した


何故ならば…











                 ドクンッ!

                     ドクンッ!



                ドクンッ!












            シュウゥゥゥゥゥ…!
























                  アセルス「」ユラァ…






























     明らかに致命傷を受けた筈のアセルスが立ち上がったのだっ!!その手に血染め色の妖刀[幻魔]を手にして!





                             ビチャッ!


アセルスの血が地面に落ちた…




アセルスの―――















ルージュ「紫色の血液…?」



妖魔の血は青色

人間の血は赤色




あの血はなんだ?





白薔薇「アセルス様…」





裂けた腹からは血液が滴る…そして驚く事にその傷口が尋常ではない速度で塞がっていくのだ、術の力じゃない


ジュゥゥ…!



ルージュ「あ、アセルス…キミは一体」



アセルス「」フラリ…フラリ…フラッ



意識が無い、何も答えず、虚ろな眼は何も映さない

ゾンビのように起き上がり、風に揺れる草原の芝のように左右に身を揺らし、そして―――






             アセルス「           」ボソッ








  彼女は誰に聞き取れる訳でも無い小声でつぶやいた

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               イ`ヽ、::ト、ヽ:\  .._    ̄ ニ´/ /ヽヽ_  -ー /
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亅   ヽ|f⌒ヽ `ー-、___` ̄`      ヽー、: :├──イ   { 〈 ヽ戈Zノ / l!     〉 }
`ヽ、   \ |   >、  (::(`¨     _∨: : :\  `ヽ    =≧=彳_ヽ′ノ    /ハ
   >、 j/| ∠   ` ̄{厂 > 、 {: : : : : : : : :.ト、  `Y  、_  ̄ _ - ´   ヽ_ノムノ
  |\」/   ヽ{f⌒i    / ̄   |:>'=-: : : : : :..:| f=ーハ     ̄  }    ,f´广´
  ヽ      \ ヽ  / 7ヽ  ハ: :..:∧ニニつ:.//: :..:/ ゝv'⌒)__ノ廴/>′
     ̄ ̄>、  入ノ`ー`ー': : | /  X/_: !: : : : :〈〈: :/    / >、ィ´⌒`‐ア〈
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          -    幻   魔   相   破   -









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気がついた時には全てが終わっていた



妖魔の騎士はもう動かなかった



蒼を基調としたカラーリングの鎧は音を立てて砕け、その破片が砂粒のように変貌する

流れ出した粒子は天へ昇り、蝶へと変わって何処かへ飛び去って消えゆく




幻想的な『死』だった…


後には彼が持っていた[玄武の盾]が転がっていた







意識を失ったアセルスもまた、元の[ルミナス]の風景に戻ったこの場所に倒れていた





「おい!何の騒ぎだ!」

「戦闘があったんじゃないのか…」

「誰か!警察を!IRPOのパトロール隊員を呼べ!」



ルージュ「騒ぎを聞きつけて人が…」バッ!



 倒れて動けないアセルス、その傍らに泣き出しそうな白薔薇
群がる群衆…パトロール隊員の要請、…穏やかじゃないのは確かだ



白薔薇「嗚呼…!そんな!」


白薔薇「厚かましいとは思われますが!お願いです!どうか人を近づけないでください…!」


白薔薇「今のアセルス様を人に視られる訳には!」






紫色の血液を流した少女…


人に視られる訳にはいかない…


シップ発着場の方から来る人集り、逃げ場がない…







    ルージュの中で答えは出た



ルージュ「白薔薇さんっ!アセルスの身体をしっかり掴んで僕に捕まってくれ!」つ【リージョン移動】



外界に出てからは一度たりとも使うまいと思っていた宝石を強く握りしめた



 涙ながらに悲願する貴婦人の妖魔、如何様な理由があるかまだハッキリと分かってはいないが
今、彼女らが民衆の眼に触れるという事は"泣くほど"の事なのだ


ならば誰の眼に触れることも無く脱出する手段を使う他ない

























                ルージュ「『<ゲート>』…[ドゥヴァン]へ!!」
























―――
――



時刻(アセルス達を連れて逃げた回想シーンから今、現在)【19時49分】





「お客さん、どうだいウチのコーヒー占い」ニカッ


ルージュ「あー、すごくいいです」グデー


白い歯を見せて笑うマスターを前に喫茶店のカウンターに突っ伏すようにルージュは疲労の混じった声を出す




ルージュ「…陰術か陽術の資質を取る為に[ルミナス]に行ったはずなんだけどなぁ…あれ~おかしいなぁ」

ルージュ「なんで僕ってば丸1日使ってこんな事になってんのかなぁ、あはははははー」(泣)




「ありゃ?間違ってコーヒーにお酒入れちゃったかな?お客さん?大丈夫ですか」ポリポリ




ルージュ「大丈夫です、それとお酒入ってないんで安心してください、うっ、うぅぅ…」ブワッ






カランカラン!




アセルス「…あのー…此方に銀髪の男の方はいますか?」


ルージュ「」ビクッ ハンカチ、トリダシ ナミダフキ!



ルージュ「やぁ!!もう平気なんだね!良かったぁ」


アセルス「ルージュ、…此処に居たんだ、白薔薇の手当のおかげでなんとか、それで目を覚ました後で聞いたんだ」

アセルス「資質、私達のごたごたに巻き込まれたから取りに行けなかったんでしょ…ごめんなさいっ!」ペコッ


ルージュ「…いや、そのことは良いんだ、自分から突っ込んでいったんだしさ」

ルージュ「それよりも大口叩いといて結局僕は何もできなかった謝るのは僕の方だ」


アセルス「…」チラッ

ルージュ「…マスター!コーヒー美味しかったし個性的な占いで楽しかった、また来るよ!じゃあね!」



緑髪の少女はチラリと喫茶店の店主を見た、目配せ…


此処じゃ話せない事があると暗に言いたいのだ、それを汲みルージュはアセルス、そして外で待っていた白薔薇と共に
神社の方へと歩き出す


白薔薇「ルージュさん…アセルス様のことでお話があります、ただ口外しないことをお約束願いた―――」

アセルス「いいんだ白薔薇、どうあれ巻き込んだのは事実だ、だから…私の口から"話す"」


白薔薇「…畏まりました」





神社の長い階段、紅葉が風に舞い、蒼白い月の光はそれを幻想的に染め上げる


アセルスは告げた…彼女達の立場を、包み隠さずに



*******************************************************


[BGM:主人公アセルスのテーマ(未使用曲) ]

https://www.youtube.com/watch?v=R9iIWQlZxzM





妖魔、人とは異なる種族が住まう世界<リージョン>がある


妖魔の王の中の王、"魅惑の君"と崇められるオルロワージュなる者の統治の元その地は悠久の時を流れていた


変わらぬ日々、代わり映えの無い行動、決められたルーチンワーク、住人も城の召使も騎士も皆が淀んだ時間を過ごす




時が止まったように動かない世界、何もかもが"いつも通り過ぎる"世界



そこで"人間の少女"アセルスは目を覚ます




彼女は困惑した、生まれ育ったリージョン[シュライク]の自宅ではない、見た事も無い天井、見た事も無い部屋での目覚め


彼女は思い出す、育ての親の叔母の頼みでお得意先に本の配達に向かった事を…


彼女は思い出す、その帰り道に





  命を落としたことを…






アスファルトの上を歩いていた、真夜中の道路上には自動車のライトもエンジン音も何も無かった

そう、音もなく、突如として現れた馬車に、馬に、轢き殺された





思い出して頭を押さえた、このご時世で馬車? …頭を強く打って記憶がこんがらがってるのか?ここは何処の病院だ?と



もしかしたら、自分はおとぎの国に迷い込んだ夢でも見てるのかもしれない、なんて楽観的な考えも持っていた

中世のお城のような内装を歩き…


棺桶に入ったたくさんの女性を見て青ざめるまでは





彼女は知る事になった


その城に住まう妖魔の君、オルロワージュの馬車に轢き殺され絶命した事を

そして、"暇つぶし"で城主オルロワージュに妖魔の青い血液を注がれ

半分人間で半分妖魔という、この世でたった一人の奇異の存在に変えられてしまった事を…っ!


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アセルス「お願い!この城から出たいの!叔母さんに…家族の所に帰りたいの!!」


白薔薇「アセルス様…」



妖魔の君より、教育係としてアセルスの面倒を見ることになった者が2人居る

1人はアセルスに武術を教えるようにと騎士を(尤も手当たり次第に圧倒的実力差のモンスターと戦わせるだけの人だが)




1人はアセルスに礼儀作法、妖魔の世界について教育するようにと99人居る城主の寵姫<ちょうき>…人の言葉で言う愛人
その99人の側室の中で誰よりも優しい姫、白薔薇姫が担当することになった



血液を体内に注がれたアセルスとは違い、妖魔の君に血液を吸われ…それこそ御伽噺の吸血鬼のように吸われた白薔薇姫は
人間としての人生を強制的に終わらせられ、妖魔へと変えられた


そんな白薔薇姫は故郷に、そして家族の元へ帰りたいと願うアセルスの姿にかつての自分を重ねたこともあり

彼女の脱出に加担する



そして、念願の[シュライク]へと帰郷できたものの…






アセルスの叔母「…アセルスは12年前に行方不明になったんだよ!あの時と変わらない姿なんて…私を騙す妖怪かい!」

アセルス「叔母さん…違う、違うの!私、アセルスだよ!生きてるんだよ…っ!」





アセルス「12年…、私が意識を失って12…年…?」


アセルス「白薔薇…どうして、教えてくれなかったの?」



白薔薇「…私達のリージョン[ファシナトゥール]では時間の流れなど意味を持ちません」

白薔薇「ですがそれ以上にアセルス様に…ショックを与えたくなかったのです」



眠り姫

もしくは、竜宮城から帰って来たばかりの浦島太郎か



母親代わりの叔母は白髪で、数日前までは同級生だった女子高校生は子供の母親…、街並みは所々変わっていて



アセルス「12年も歳を取らないなんて…やっぱり私はもう人間じゃないんだ…、化け物なんだっ!!」

白薔薇「そのような物言いをしてはいけません!」




城を抜けだしたことで、帰る場所を…迎えてくれる人も失くした自分の唯一の理解である白薔薇姫を奪い返そうと

従騎士たちがやって来る


自分はもうどこにも行けない、誰の元へも帰れない、だからアセルスは白薔薇を護る決意を…逃げ切る決意を胸にする


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   .o:%  ミミi{{ ;{{ゝ='フフ ,ノ ,}:八 ヽ,斗ぅ炒フ| : : : |X>: : :ハ/

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白薔薇「アセルス様…これから何処へ向かわれるのですか?」

アセルス「…何処だって良い、二人で逃げ切れる場所へ行くんだ…」


―――
――





そして二人が乗り込んだシップの行先は[ルミナス]だった…そこから先はルージュも知る通りである





ルージュ「そんなことが…」


アセルス「お腹、切られちゃったんでしょ?私」

アセルス「でも、この通り私はもうピンピンしてるんだ、血管を流れてる血だって人の赤と妖魔の青で紫」




アセルス「前にもお腹をグサッて刃物で刺された事があるけど、すぐに傷口が塞がってさ…ゾンビみたいに」





アセルス「気味が悪いでしょ?」



自嘲気味に笑った、それがなんとも言えない、…この少女が一体何をしたというのだ



アセルス「[ファシナトゥール]から逃げて来る前にこの妖刀、[幻魔]を手に入れた」

アセルス「逃げるなら少しでも万全の準備が必要だったからね…でも、困った事にこの剣は使いこなせてないし…
                       白薔薇を護るって言っときながら実際、騎士との闘いはあんなんだよ」


アセルス「私が劔を使ったんじゃない、私が劔に使われた、気絶したまんま、引き摺られるようにね」


アセルス「何から何まで駄目さ」





ルージュ「君達は、これからどうするんだい」



 彼には使命がある、祖国の最高権力者から双子の片割れを殺せ、と…国家が欲するのは完璧な1人の術士
双子の片割れを決闘を通じて打ち倒す事で唯一無二の最強を証明せよ、と



その勅令を無視すれば国家反逆罪として追手がやってきてルージュは始末される、それは兄ブルーにも言えることだが…









生き残るためには国の御言葉に黙って従い、各地での修行を終え、資質を集め、術を磨き兄を抹殺する事…






アセルス「もう引き返せないんだ、これからも追手から逃げ続けるさ、白薔薇と二人でね」

ルージュ「―――っ!」





目の前の彼女は、追手に追われる身の彼女は他人事とはどうしても思えなかった

未来の…そう、選択によってはこうなるであろう、未来の自分の姿なのだ





ルージュ「僕も…」


振るえる唇から声を絞り出す、止められない



ルージュ「僕も…君たちの旅路に付き合わせてくれないか…資質集めの旅で世界各地を歩き回る」

ルージュ「君達が安住の地を見つけるその時までボディーガードくらいにはなれる!」



アセルス「ルージュ……」


その眼差しには光があった、何かを見出したい

国を出て、これから誰かに言われた通りに決められたレールの上を歩くだけの人生、兄を殺すか殺されて終わるか



たったそれだけの『生』の中で何かを残したい、その何かを残せるかもしれない、そんな希望があった



 紅き術士の旅の最終目的を知らない半妖の少女は戸惑い、共に逃げて来た妖魔の貴婦人に目を配らせる
それを見かねた白薔薇は口を挟む


白薔薇「ルージュさん、わたくし達と共に行動をなさるという事は従騎士に襲われる危険があります」

白薔薇「それでも良いと仰るのであらば歓迎いたしますわ」


アセルス「し、白薔薇?」ギョッ


 目配せはした、危険に巻き込むのも吝かではないアセルスはこの男性にどうお断りの言葉を掛ければ良いか困っていた
しかし瞳の奥にある希望を見たような光に戸惑い彼女に助け船を出したが、予想に反した声が来たので驚いた



 白薔薇の姉姫…"44番目の姫"に勇敢な姫君が居る、噂で聞く限り城主に眠らされ続けている彼女に限らず
決意を持つモノの眼には通ずる物があるのだ、一歩たりとて退こうとしない強き意志を宿した目…それを彼女は知っている


恐らく、彼は『退かない』そういう目をしているのだと解るのだ



ルージュ「覚悟の上です、それでこの命を落とすというのなら…僕はそれまでの人間だったということだ」


ルージュ(そう、兄に殺される、国家反逆罪になり大勢の人間に囲まれ死ぬ、旅路の果てで死ぬ)


ルージュ(死ぬまでの過程で何かを作りたい、誰かの役に立ちたい…
         もちろん死なずに済む方法、兄を殺さずに済む策が見つかるならそれが一番だし)









ルージュ(それに、知ってしまった以上もう他人事とは思えない…!)





白薔薇「アセルス様、私からのご意見をお許しください…現状私達は行く宛ても無く、また頼れる人もおりません」


白薔薇「此処はルージュさんのご提案を受け入れるべきだと思いますわ、…アセルス様の心中もお分かりですが」



アセルス「……分かった」クルッ


アセルス「ルージュ、私達が安住の地を見つけるまで…お願いできる?」


ルージュ「ああ!当然だ」ニィ!




朗らかな笑み、青年は手を前に差し出し、少女もその手を握ろうと前へ――――





             「今だっ!!!」」ブンッ!




       プシュウウウウウウウゥゥゥ――――っ!


ルージュ「!?」

アセルス「な、なに!?」





 茂みの中から光る物体が飛んできた、それは月光に照らされて僅かに反射することから金属だと解することはできた
スプレー缶の噴出音の様なそれは二人の合間に飛んできて"ガス"を噴き出す


ルージュ「げほっげほっ…こ、れ――ぁ」バタッ

アセルス「ルー…げほっ!」


「おおっと、そこの嬢ちゃん動くんじゃない!」



 目が痒い、それと同時に襲ってくるの体内に妖魔の血が流れているアセルスでさえも意識を手放しかねない強烈な睡魔
茂みからガサガサと掻き分けて歩いてくる音と野太い男性を聴覚は認識する


「俺達は手荒な真似したくないんだ、それにそっちの白い子を視ろよ」


アセルス「し、白薔、ごほっ…」フラッ


 睡魔、"ガス"に遮られ視界が暈ける中、いつの間に白薔薇の身体を取り押さえたのか男が数人
白薔薇を拘束、口元を覆うようにハンカチのような布を押し当てているのが見えた


がっくりと項垂れるように、目を瞑った彼女…恐らくこのガスと同じ成分の薬を染み込ませた布で白薔薇を眠らせたのだ




アセルス「!白薔薇、しろばらああああぁぁぁぁ」


「うるせぇ!!お前も眠ってろ!!」


アセルス「ぅぐうっ!…‥っ!…!!…・・・っ・…」ジタバタ、…ガクッ





「ふぅ…いっちょ上がりか、へへっ…イイ女が3人も」





…3人、どうやらこの男達、全員女だと思い込んでいるようだ



「どれもこれも上玉だぜ…、にしても…聞いてた情報と違うな」

「ああ、[ドゥヴァン]の神社に[ファシナトゥール]から逃げ出した妖魔の姫が出没するって噂だったが…」チラッ

「この頭に花飾りつけてる奴じゃねぇのか?」
「俺に聞くなよ、噂だけで容姿とかは分らなかったしよ…そもそもガセネタの可能性があったろう?」



"[ドゥヴァン]の神社に妖魔の姫君が居る"…リージョン界で誰が流したか知らない噂…尤も眉唾物として扱われていたが



「っていうか、この銀髪のネーちゃん人間じゃねぇの?」

「なんだっていいさ、このレベルならヤルート執政官も満足するだろうよ」




「ああ、最近妖魔狩りに凝ってるっていうあの変態のな…あんなのが各地のリージョンの取締役、トリニティの執政だろ」

「政治家が軍事基地に自分のハーレム作って女と変態プレイとか…世の人々が聞けば税金返せって喚くよな…よいしょっ」


「おい!そっちの女たち運べや!…小型の高速艇をわざわざ借りてシップ発着場に止めたんだ」

「早いトコ運んで礼金貰おうぜ!」



「おう!あのシップならトリニティのラムダ基地まで1時間もしねぇつけるぜ」


―――
――

















            …まずは一つ目か、認めたくないが背を預けられる者が居るというのは悪くない














自然洞窟、人間がいつしか忘れ去ったそこは神秘的な世界だった


希少価値の高いレアメタル、鉱石、あるいは古代のお宝を求めた野盗、モンスターも徘徊していたが…






 それでもこの空洞は表の[クーロン]よりも居心地が良いと感じたのは保護の力だろうか…




ヌサカーン「ほう…大したモノだな」




 白衣の妖魔医師は目の前で荒れ狂うルビーの嵐に感嘆の声を漏らす
蒼の術士が唱えた魔術はその名を冠するにふさわしい輝きを見せた、朱色の太陽達…そのまんま、その通りだ


彼が言葉を切ると同時に巨大な宝玉が現出し、それは惹きあうようにぶつかり砕け、弾け飛ぶ




衝突の瞬間に出た火花は正しく日没の一瞬の煌めきに等しい光で、その残光は飛び散った無数の破片に乱反射する

物理法則を完全に無視した光の迸流、大気も何も無い無風の空間に渦巻く竜巻




熱を帯びた鉱物の棘は地脈から"保護の力"を喰らっていた巨虫たちを貫き、体内に熱を送る

 腹、胸、頭の三構造を持つ体節はどれもこれも針の筵の上を転がされたかのように穴だらけで
タンパク質の焼け焦げた異臭と白い煙が立ち上り始めていた、蚤虫に酷似したモンスターの死骸を見てから
ブルーは1匹だけまだ息のある蟲…[クエイカーワーム]を睨みつけた



ブルー「醜い粗虫め、今楽にしてやる…」



文字通り虫の息、放っておいても息を引き取るであろうモンスターに向けて爆裂魔法<インプロージョン>を打ち込もうと――



ヌサカーン「…ふんっ!!」シュバッ!


「ギィッ "ッ ッ」




ヌサカーン「たった一撃で沈む相手にそれはないな、仮にも医者を前にして瀕死の相手に追い打ちをかけるのはどうかね」

ブルー「……」



ブルー「……」プイッ



ヌサカーン「やれやれ…君は情けや人情とやらを学ぶべきだな」



手にした[妖魔の剣]を霧雨のように消し、妖魔は白衣をはためかせながら眼鏡越しに目の前の青年の後ろ姿を見る
 決して殺しを愉しんでいる訳ではない…、それは分かるのだが



ヌサカーン「人間にも様々なタイプが居る者だ、冗句の通じない相手などがな」



 他者に自分の心の領域を犯す事を一切許そうとしないタイプ、調和性が極端に低い人種
根が真面目過ぎるが故に手加減を知らぬ者…


束ねた金糸の髪が揺れる彼はその3点が見事に揃っているという…



ヌサカーン「私から君に診断結果を告げるべきかな?…君は人との繋がりを持つとイイ、さすれば自ずと心にゆとりが」
ブルー「どうでもいい話は後にしろ、それよりもルーンは何処だ」



やれやれ、と肩を竦め「まだルーンが何処にあるか気づかないのかね?」と妖魔医師は言葉を続けた




ブルー「なに?」ピクッ



ヌサカーン「」トントン



妖魔は何も言わない、ただ片足をあげて爪先で地表を叩く

革靴の底が2回音を鳴らし、術士はそれが意味する所に気がついた




ブルー「…!なんと」


ヌサカーン「この街が何故ここまで栄えたか理解できたようだね」




ルーン文字の刻まれた巨石に触れる、そのためにリージョン界を廻る旅をすることになった
巨石というからにはそれなりのサイズだろうと思ってはいたが…






           ブルー「この地脈そのものが保護のルーンだというのか」




"今自分が立っている大地そのものが"目的の大岩だったのだ


 地盤そのものが目的の石、大地には窪みがあった、1本の長い…川か何かが元は流れていてそれが干からびてできたと
そう思えるような痕があった、途中枝分かれのように三岐路になったような地層



もしもブルーが鳥か蝙蝠か…何れにせよ翼を持った生命体でこの地下空洞のこの場所を
少し浮遊して真上から見ればすぐに分かった事だろう



この場所こそが保護のルーン…<エオロー>の刻まれた巨石だと…!!












                フォン…!

      i⌒i    
. <^\ .|  |. /^>
  \     / .
    \  /   .
      |  |    
      |  |      フォン…!
      |  |    
..    弋_ノ    


  フォン…!



           『保護のルーン』を手に入れた!



https://www.youtube.com/watch?v=HSh7-WrhFnk
[BGM:サガフロより…アイキャッチ専用曲]
───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三


                                        , ソ , '´⌒ヽ、
                                 ,//     `ヾヽ

                                 ├,イ       ヾ )
                               ,- `|@|.-、      ノ ノ
                           ,.=~ 人__.ヘ"::|、_,*、   .,ノノ
                        , .<'、/",⌒ヽ、r.、|::::::| ヾ、_,ニ- '

                       〈 :,人__.,,-''"ノ.。ヘヾi::::::ト
                        Y r;;;;;;;;ン,,イ'''r''リヾヽ、|;;)
                        ヽ-==';ノイト.^イ.从i'' 人

                         .ヾ;;;;;イイiヘr´人_--フ;;;)
     .,,,,,,,,,,,,,,,,,,,.    .,,.          ヾ;;;|-i <ニ イヽニブ;;;i、
   ,,,'""" ̄;|||' ̄''|ll;,.  ,i|l          ,;;;;;イr-.、_,.-'  ./;;;;;;;;i
  ,,il'    ,i||l   ,||l'  ,l|' ,,,,,. .,,,, ..,,,,,,   (;;ヾ'ゝ-'^    ,.イ;;;;;;;;;;;ヽ
  l||,,.    l|||,,,,,,;;'"'  ,l|' ,|l' .,|l .,,i' ,,;"   ヽ;;;||、_~'   .|`i;;;;;;;;;;;;;|
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                    <::::::::::::/ | └、 |      `ブ <ヽ、'~

                     レノ-'  |`-、、__ ト、、_, -' ´ _,ノヽ~
                          ~` -、、フヽ、__ ,, -'´ ̄ル~'
                            ヘ`~i、 ̄ ̄リ ノヽ ̄~

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                           ` ̄        .ト、 .ヽ

                                      ヾ、.A
                                       .ヽノニ'


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【時刻 21時23分】




 常闇の街は夜が深まるにつれ昼間以上の輝きと華やかさを増す
特に居酒屋、路上で鍋から湯気を湧き立たせる屋台には顔を赤くしてグラス一杯の焼酎を呷るスーツ姿が目に映った


闇医師ヌサカーンと別れ、1人[クーロン]の安宿へとブルーは歩いていた


 夜なのに昼間以上に明るくなる摩訶不思議な街はその特徴的な色を濃くしていた、路上で客引きをする売春婦
酔っ払い同士の殴り合いを肴に酒を呷りどっちが勝つか金銭を張る警官…数が明らかに増えていた


喧騒と欲望に塗れた暗黒街の小さな安宿、カウンターの向こう側には翼竜の姿をしたモンスター種族の店主が経営している



「1泊、10クレジットだよ」


良く言えば質素な、悪く言えばただの寝床が置いてあるだけの部屋を貸し与えるだけの宿
シャワー、食事等は別料金のオプション扱いだ



しかし、隙を見せれば無一文、裏通りを歩けば追剥の末に骸へと変えられかねない無法地帯で羽休めができる所とあらば
喩え雑魚寝しかできない粗末な場所であろうとも砂漠のオアシスに等しい楽園なのだ




部屋の鍵を受け取った後、シャワーと軽く胃に詰められる物を注文しようと思いながら荷物を整理していた時だった






ブルー「!?…無い、無いっ!!」ガサゴソ



ブルー「【リージョン移動】が無いだとっっ!!」



息を荒げ、何度も自身の荷物をひっくり返して鞄の底を漁る、目当ての宝石は出て来ない
ブルーは一旦呼吸を整え、考えられる可能性を一つ一つ挙げた…

盗まれた?いや、それは無い、此処がどういう街かこの数時間でいやという程に知った
それに、自然洞窟へ入る前に[傷薬]の確認等で一度鞄を見たが…その時は確かにあった…とすれば



ブルー「くそっ!!自然洞窟に落としたというのかッ!」


 ヒステリックに両手で自身の金髪を掴み、忌々し気に床を蹴り飛ばす
疲れた身体に鞭打って彼は既に目的を果たした筈の地下空洞へと再び赴くこととなったのだ…






災い転じて福となす、これは何処かのリージョンに伝わる諺だが、これが後々彼の資質集めの旅にまた関わって来る



無論、福となす方…つまり良い意味で



―――
――






黄金色の髪の女「…はぁ…モヤモヤするなぁ~」


紫色の髪の女性「そう」



黄金色の髪の女「そうって、ライザぁ…」



ライザ、と向かいの席に座る女を呼んだ女は机に突っ伏したまま洋酒入りのコップの淵を指でなぞっていた






ライザ「あと2時間するかしないかでラムダ基地にエミリアを乗せたシップが着地するでしょうね…」


ライザ「エミリアが自分の婚約者の仇、ジョーカーの情報を首尾よく掴めたとしてどう脱出するか」ゴクッ


ライザ「私達は現状、助けたくてもそれが儘ならない…
       基地から適当に小型艇でも奪ってエミリアが逃げて来るのを信じて待つ他ないわ」



口にアルコールを含んだ女が一呼吸おいて淡々と事実だけを述べる

仲間の1人が任務の為とは言え女癖の悪い事で有名な政治家の元へ薬で眠らされて売られたのだ
 表に出さないだけで心配してはいるのだろうが…




ライザ「それで、アニー…貴女はどうする気なのかしら?このまま私と朝までヤケ酒を交すつもり?」ゴクッ


アニー「…遠慮しとく」グデー




アニー「…」

ライザ「」ゴクッ、ゴクッ…




アニー「ライザ」

ライザ「なにかしら?」



アニー「暇」

ライザ「そう」





そっけない返事に黄金色の髪を持つ彼女はムッと頬を膨らませた


アニー「はぁー、もう良いよ…!本当はエミリアが帰ってきたら3人で行く気だったけど…」チャキッ


そういって、彼女はポケットの[レーザーナイフ]とは別で仲間達と同行中に街中で買った得物を…
机の脚の所に凭れさせていた[サムライソード]を手に立ち上がる



アニー「解放、活力は取ったけど、身近にある保護と[シュライク]の勝利は後回しにしてたからね」

アニー「自然洞窟のお宝さがしついでに行ってくるよ、ちょっと鬱憤晴らしたいしさ!」



 鬱憤を晴らす為、金銭を得る為、と威勢良く飛び出していった彼女の後姿をライザはコップを傾けながら見送った
ショートパンツにブラジャーの上から緑色のジャケットを羽織っただけの相変わらず露出度の高い彼女は店を出る前に
溌剌とした笑顔で「お宝みつけてくるから!楽しみにしてなよ!」とだけ言って飛び出す



ライザ「」ゴクッ



傾けたコップを卓上の上に置く、片寄った液体は水平になりイタ飯屋の照明の灯りを何処か寂しげに反射させる







「心配なら、ついていけば予感じゃないのかい?此処で独りでの飲んでたってつまんないだろう?」







ライザ「…珍客ね、今日は定休日なのだけど」ゴクッ





「いやぁ~![クーロン]に寄る機会があったもんでさぁ!久しぶりにエミリアに会いに来たんだよ!」



イタ飯屋…皆が犯罪履歴を持つ構成員であり、役に立たないパトロールや法律ではどうにもできない事柄を解決する
裏組織"グラディウス"の隠れ蓑である店内にやたらと明るい声が冴えわたる




 扉の前に居る珍客は紺色でボサボサの髪に民族風の帽子と服装…如何にも「田舎から出てきました」と言った風貌で
腰には使い込まれた剣が一本、その背中には彼の名前と全く同じ弦楽器が背負われていた





ライザ「そう、残念ね、エミリアは今"お仕事中"なのよ…それより、貴方まだ仕事が見つからないのかしら?」ゴク



弦楽器を背負ったニート「ありゃ?エミリア居ないのかー………仕事の方は、まぁぼちぼちな!」



ライザ「…貴方の言う通り、一人でお酒を飲むのも虚しいわ、面白いお話でも聞かせてくれないかしら?」





弦楽器を背負ったニート「おっ!なら今日の出来事を話すぜ!」


弦楽器を背負ったニート「[スクラップ]の酒場で出会った"指輪を集める奴"と"謎のメカ"と一緒に悪党を退治した話さ!」


弦楽器を背負ったニート「さぁさぁ!聞くも語るも愉快な物語の始まりだぜ!」ポロロン~♪






―――
――

【時刻:22時14分】





アニー「[飛天の鎧]だ!」チャリッ!



軽快な足取りで自然洞窟へ脚を踏み入れた彼女を絶好のカモと勘違いし戦いを挑んだモンスター、野盗が返り討ちにされて
そこら中に転がる中、彼女は頬を綻ばせた


そんじゃそこらの出店では早々見つからない希少価値のある宝が湯水の如く湧いていたと言うべきであろうか
上機嫌で値打ちのある手土産を収穫し、もはやオマケと目当てが逆になりつつある保護のルーンを彼女は目指す




「くそ…!此処にも無い!」




アニー「ん?」スタスタ









ブルー「…考えられるとすれば、やはりあの粗虫共の所か…っ!」


アニー(あいつ…裏通りから出て来た奴か)コソッ





男性二人の悲鳴が上がった路地裏の方から何食わぬ顔で歩いてきた珍しい法衣の人物の顔はよく覚えていた
 妙に苛立った様子で辺りを散策する様子に眉を顰め、岩陰に身を隠す

術士の周りにはなんとも惨ったらしい死体が複数転がっており、それがアニーを警戒させる一因でもあった


妙な気配を感じるから戦闘の準備を、とヌサカーンに言われ、ルーンの地脈がある空洞へ入り込む前に[術酒]の瓶を開けた
 酒瓶を取り出す為に鞄を一度開けたが、あの時に何らかの形で彼の命の次に大切な国家からの大事な支給品を落とした


宿を飛び出てすぐにそう考えて再び最奥の此処まで彼は戻って来たのだ





 裏組織グラディウス、常に命の綱渡りを繰り返す組織に属するアニーは…いや、組織に属する前から厳しい環境で
育った彼女は人一倍、自己保存と自己防衛の本能に研ぎ澄まされている



だからこそ不用意にブルーには近づかない



下手な真似をすればすぐさま自分もあそこに転がる死骸の仲間入りを果たしかねないからだ


後退ろうと一歩脚を退いた、不味かった




                  ―――コツッ



ブルー「!? 誰だ!!」

アニー(っ!…アタシとした事が、しくっちまった…)チッ




アニー「あたしはこの奥にあるルーンを探しに来たんだ…そしたらアンタの姿が見えてね」ザッザッザッ…

アニー「先に言っとくけどその辺の野盗共と一緒にしないどくれよ…この通りだ」



両手を上げながら、ゆっくりとアニーは術士の前に出る

 隠れてやり過ごすことは不可能、逃げれば後ろから術を撃たれる可能性も無きにしも非ず…
ならば両手を上げて敵対の意志が無い事を示した方が良いと考えたのだ



ブルー「…証拠はあるのか?」ジトッ



アニー「あたしの鞄の中に[ドゥヴァン]で貰ったルーンの小石がある、それが証拠さ」
ブルー「出してみろ、ゆっくりとだ、妙な動きは見せるな」



ゆっくりと、その言葉に従うように鞄から小石を取り出す…


アニー「ほら、これさ…アンタその恰好からして術士だろ?術士がこんなとこに居るんだなら、同じ石を持ってるはずだ」



ブルー「…!("活力"、それに"解放"まで…)確かにそのようだな…」



ブルー「女、貴様も資質集めをしているようだな?」


アニー「…ああ、それとあたしはアニーって言うんだ、女なんて名前じゃないね」ムッ!




目の前の術士のやけに尊大な態度に内心怒りを覚える
上から目線で他者を見下したような眼差し、…ハッキリ言ってアニーにとって苦手なタイプの人種だ


ブルー「ならば訊くが、この付近でこれぐらいの大きさの宝石を見なかったか?」


アニー「…いや、見てないね」




 正直に言えば仮に見ていたとしてもシラを切ってやりたいと思ったが、相手の機嫌を損ねたくない
見ていたと言えば、案内しろと言われかねないし、もし道中拾っていたとして知らないと言えば「ならば鞄を見せろ」と
そう言われる可能性もある



ブルー「鞄の中身を見せろ」



ほれ、言わんこっちゃない

アニーは内心で愚痴る





アニー「…ほら?嘘はついてないだろう」


ブルー「…疑ってすまなかったな、どうにも気が立っているようでな」


アニー「…ふぅん?」


これは意外だ、偉そうな態度が鼻につく奴だと思っていたが、謝るとは…



ブルー「こちらに非があるならば謝罪の一つでもいれるのが筋だ、…顔に出てるぞ貴様」ジロッ


アニー「そ、そう…」ギクッ




ブルー「それにしても、そうなるとやはり…」ブツブツ

アニー「…あのさぁ、アンタ落し物ってことはこの奥まで行ったの?」


その宝石とやらをこの自然洞窟で落としたというからには一度ここに脚を踏み入れたという事、それが意味するところは
この術士もルーンを求め此処へ来たばかりか、事を為し終えた後のどちらかである


ブルー「ああ、そうだが」


アニー「だったらさ、あたしを保護のルーンのある所まで案内してくれない?その代わりアンタの探し物を手伝う」


アニー「あたしは保護のルーンに触れられるし、アンタは探す目が増える、悪くないと思うけど?」



ブルー「ふむ?」



 道中、野盗やモンスターの群れを剣の錆にしてきたアニーではある、だが予想を超えて広がる大自然の地下迷宮と
敵意を以て襲い来る者達の数の多さに少しだけ疲れの色が出ていた


突破できるかできないで言えば目的を果たしてライザの元へ帰る事はできる

しかし、1人だと威勢よく此処へ来たものの流石に疲弊の色が滲んでくるのだ



見る限りこの術士は相当の手練れ、ならば戦力として申し分ないし、それはこの術士ブルーにとっても同じ事が言えた





            露出度の高い女…見るからに頭の悪そうな女


アニーは世の男が見れば放っておかない容姿だ、女としての魅力があるのだが…

如何せん、目の前の男は例外中の例外、世の全ては知性で決まると判断する男で外見的な容姿には目もくれない




 この場にもし、リージョン界を魅了した元スーパーモデルの金髪美女が居たとしても『頭の悪そうな女だ…』と
鼻で笑うような男である




上記の通り、ショートパンツに上半身はブラジャーにジャケットという肌の露出の多い姿はブルーにとって最悪な第一印象
しかも、岩陰に隠れて此方を窺っていたのだから尚更である




…当然ながらブルーとしては、「こんな女と行動なんぞ共にしたくない」というのが本音なのだが




ブルー「…いいだろう」



[術酒]はヌサカーンと来た時に使った、宿から此処まで全速力で悪鬼の如く駆け抜けて立ちふさがる者を術力の限り屠った
術力が底を尽きればブルーは戦力を失い窮地に立たされることになりかねないのだ

不本意ながら、剣を手に此処まで来たであろう女を利用する他ない



それに、この徹底した合理主義者にはもう一つだけ目論見があった




アニーの持っている"活力"と"解放"のルーンだ





 リージョン界の何処かにある巨石探しの旅路で、ブルーは初日で残り3つの内2つの在処を知る事が出来るのだ
双子の弟が今、どれだけ資質集めの旅を進めているのかは知らないが



 自分の名を告げ、[マジックキングダム]から資質集めの修行の旅をしている事を語り、他愛の無い会話をすること早数分
彼が"活力"や"解放"に関する情報を聞き出そうとしたところで―――






ブルー「所で、訊きたいのだがその小石――」

アニー「おっ!こんなとこにクレジットが落ちてるなんて使ってくださいねっていってるようなもんじゃん!」チャリッ









ブルー「…先程は言いそびれたが貴様の集めているルーン―――」


アニー「500クレジットだわ!」ダッッ! チャリッ!










ブルー「……見たところ既に"活りょ―――」イライラ

アニー「[術酒]だわ!…飲めるのかしらねコレ」チャリッ!









ブルー「………貴様の持っている"解ほ"―――」イライライライライラ…!

アニー「[星屑のマント]じゃん!!これで軍資金もかなり財布の中に貯めとける!」チャリッ!

アニー「ふふっ、これで大儲けね」ニィ








   ブルー 「 い い 加 減 に しろ ! !!さっきから金、金、金!と守銭奴か貴様はッ!!」




キレました。




アニー「~っ!んな大声出さなくったって聞こえるっての!!」キーン


 両手で耳を押さえる女をしり目に肩で息を切る術士、フラストレーションを一気に解き放つ
その怒声は薄汚れた都会の地下に存在する大迷宮に響き渡り反響させる






ブルー(…っく、これだから薄汚い街の女はッ)ギリッ





アニーに背を向け、見えない様にブルーは端麗な顔を歪める…顔は見えずとも歯軋りは聴こえているかもしれない



表の街並みで見かける売春婦を汚物でも見る様に彼は見ていた、金の為に身体を売る女
そんなにまでするのか、と





冷ややかな眼差しは背後の女を見ない、見ないが「どうせこいつも薄汚い下賤な者だろう」とアニーを見下していた



"この時までは"





アニー「っ!」チャキッ

ブルー「!」バッ!




「きぃぃぃーー!!」キコキコ…!




アニー「…チッ、アンタがバカでかい声出すから余計なモンが来たじゃない」

ブルー「ふん…!悪かったな」プイッ







一言でいうとソレ


真っ白な体毛、長くうねうねと動く尻尾、それは紛れもなく白猿そのものであった
奇妙な点を挙げるとすれば、その猿は人類に利器(?)に跨っている事だ…


頭に[ヨークランド]の民族衣装を連想させる帽子を被り、一輪車を乗りこなす猿…[モンキーライダー]だ



アニー「2匹か、お互い一匹ずつ片づけるわよ」


ブルー「ああ、そっちは任せた」



アニーが[サムライソード]を手に地を蹴り、それを皮切りにブルーも術を口ずさむ



「ウキャキャ!」


大道芸の荒業か、ペダルを漕ぎながら突撃してくる白猿は一輪車に跨ったまま跳ぶ、でこぼこ状の石床を器用に走りながら
ペダルに両脚を乗せたまま猿は人の背丈を優に二回りを越える大ジャンプを果たす


「キッキィィ~っ!!」



高く飛び上がるライダーはそのまま鍾乳洞に在りがちなつらら状に垂れ下がった鍾乳石にしがみつき
公園のブランコで子供が遊ぶ様を再現するように猿は動きをつける、後退、前進、それを生かし

ニタニタと笑いながら猿はアニーを車輪で踏みつけようと勢いをつけて強襲を仕掛ける――――ッ!





             ジュバッッッ




「キッ きゃ?」ブシャアアアアアアアアアアアアァァァ




[モンキーライダー]の網膜に映った映像は…



アニーが[サムライソード]で何も無い空間を切った光景



[モンキーライダー]の鼓膜に飛び込んだ音声は…



見えない真空の刃が自分目掛けて飛ぶ音





気がつけば白猿の視界は180℃反転していた、地表に居るはずのアニーを見つめていた二つの眼は天上を見つめていた


 黄金色のショートヘアーを揺らしながら彼女が放った[<飛燕剣>]は…剣気によって生じた真空の刃は
猿の首をスッパリと切断した、天井の洞窟生成物に

べちゃり、と音を立てて何かが突き刺さるが見るまでも無い

 頭部の無い遺体がアニーの数㎝先に落下し、紅い水溜りを創る
そして主を亡くした一輪車はカラカラと音をたてながら何処へなりと駆けた



…派手な音がアニーの後方から鳴り響いた、きっと壁にでも衝突したのだろう




アニー「ふぅ…掃除完了っと…」クルッ



ブルー「…先を急ぐぞ」



プスプスと煙を上げる焼死体を背にブルーが声を掛ける



アニー「ちぇっ、先に仕留められる自信あったのに」

ブルー「誰も競争なんぞしてはおらんだろうが…」




ブルー「」スタスタ…

アニー「」テクテク…








アニー「…アンタ、は……さ…その、"家族"とか居るの?」テクテク…


ブルー「なんだ藪から棒に」スタスタ…


アニー「良いから、答えなよ、別に減るもんじゃないしいいだろ?」




ブルー「……」







ブルー「居る、」






――――――物心ついた時から…施設暮らしだった、祖国の学院で…自分は育った


―――――――祖国は自分の親代わりだ、自分を育ててくれた父親であり、母親である


――――――――― 子供は…子供は大恩ある親に尽くす義務がある…
              だから俺は…祖国の誇りの為に尽くし、国家の為に身を粉にする、それが俺の誇りでもある






             だから俺は…――――-






ブルー「たった"1人だけ"…居る」









             ― 名前しか知らない、顔も見た事無い双子の弟<ルージュ>を殺す ―





      ―――弟を殺して、自分こそが優れた人間である証明を掴む、そして祖国に求められる完璧な魔術師となる







後ろを歩く女は目の前を歩く男の顔を見ることはできない

もし見たのならどれだけ険しい顔だったかを知れただろう






アニー「たった"1人"…?」



アニー「…そう」


アニー「…」





アニー「あたしさ、どうしてもお金が欲しいのよね」テクテク…


ブルー「なんだ突然、話の前後が繋がらない――」スタスタ…














     アニー「あたしには弟と妹が居る…あたしが稼いで養わなきゃいけないのよ、あたし達、親いないから」




                      ブルー「…」ピタッ







"弟"という言葉に反応するように、男は足を止めた




アニー「二人共施設に預けててさ、こんな街だから費用も馬鹿にならない」

アニー「身体の弱い妹は[ヨークランド]の裕福な家庭に養子になったから一安心なんだけどね」

アニー「弟の方はまだ小さくて、そんでもって手が掛かる悪ガキで」



アニー「こんな街で女が小遣いを稼ぐなんて殆ど決まってる…男に身体を売るか荒っぽい事をするかの二つ」


アニー「あたしだってこれでも女だからね……腕っぷしでヤバい橋を渡る方を選んだわ」



アニー「アンタの言う通りあたしはお金にうるさいの、気分を悪くして悪かったわね」




アニー「…」

アニー「ああ!!やめやめ!こんな湿っぽい話、らしくない!」



数分前、アニーはこの不遜極まりない男に驚かされた


今度はブルーが目の前を通り過ぎて行った女に驚かされた



「薄汚い街の女」「どうせ肌の露出の多いその恰好…表に居た醜い売春婦共と同じだろう」と見下していたが…




その考えは改めざるを得ない、人は外見に寄らない、目に見える物、言動だけが全てではない




ブルーにとって今日一番の外界で驚かされた事、一番の衝撃との出会い、ファーストコンタクトだ










ブルー(…露出度の多い女には違いないがな)














  この世に かみ が居るとするならば、なんと数奇な巡り合わせを用意したのだろうか…




  奇しくも此処に居る者は…【弟を自らの手で殺す為に戦う男】と『弟たちが生きれるよう食わせていくために戦う女』









    これほど奇妙な組み合わせがあるだろうか…














2名は自然洞窟の奥、[クエイカーワーム]が巣食っていた空洞内へと到達する


ブルー「!! 【リージョン移動】…此処にあったのか!」ダッ!







          「ギュィィイイイイイイイ イ   イ イ "ィイ "ぃ 」シュバッ


             ブルー「 ?!ぐ、がっ ぁ!?」ド ゴ ッ





地下空洞の最深部に落し物はあった

彼は敬愛する祖国からの支給品という命の次に大切なそれをここに至るまでに術を乱発し文字通り血眼になって探し求めた








だから、気が抜けた、有り体に言えば完全に"油断していた"




 妖魔医師と一度ここに来た時、ブルーは自身の唱えられる最高位の攻撃術を放った…目に見える物全てを巻き込み
広範囲に渡る灼熱の宝玉の嵐、熱を帯びた鉱物の破片は蟲の群れを物言わぬ亡骸へと確かに変えた


辛うじて生きていた粗虫もヌサカーン医師の一太刀で生命線を断ち切りそれを締めに殲滅したと思った





 先入観や思い込み、これほど恐ろしいモノは他にあるまい…入口から一直線に入って来たブルーの鳩尾目掛けて
突進してきた巨蟲のモンスターは何処に潜んでいたのか、はたまた彼等が一度地上へ帰還していた合間に余所から来たのか




アニー「!!―――っくぉぉっっらぁぁ」シュパッ!ザシュッ!


「ギッッ!」ガシュッ!ジュブッ



アニー「おい!しっかりしろ!生きてるのか…おい!返事をしろって!」



 目の前を歩いていた蒼の術士が猪を裕に上回る大型の昆虫モンスターの突撃で跳ね飛ばされると同時に
彼の後ろをついて来ていた彼女は脊髄反射で[サムライソード]を鞘から引き抜き蟲の前脚を切り飛ばした



 大胆不敵に思い切った踏込、そして股下から頭部目掛けた切りつけ、剣術における"逆風"という名称のそれを放つ


前脚を切り飛ばされ血飛沫を上げる蟲を見据え牽制しつつも彼女…アニーは後方の術士に声を掛ける


ブルー「…ぅ、粗蟲共…まだ居たのか…っ」ヨロ…


アニー「…生きてるんだね、良かった」ホッ



腹部を抑えながらも返事を帰してくれた男の顔はまだ見れない、だが生きている事が確認でき安堵した



アニー「目の前で死なれたりされちゃ、流石にあたしも夢見が悪いからね」チャキッ





「ギィィ…」ギチギチ
「ギュゥゥィイイイ」カサカサ…





 刺々しい触覚のような手足、牙をギチギチと鳴らし威嚇をする[ワームブルード]の群れ
前方に2体、右斜め後ろに前脚を切り飛ばした1体…羽音を響かせながら降りて来るのが1体…計4匹の巨蟲がお出ましだ




ブルー「…おい、ゴホ…女」


アニー「…あたしは女なんて名前じゃないね、なんだよ」


ブルー「さ、っきので、上手く声を――うぐっ…だ、せん  ゲホッ」ビチャ…


アニー(コイツ血ぃ吐いてんのか…)




 目を離せば彼奴等はなだれ込む様に襲ってくる、後ろの魔術師は察する所、術を唱えようにもそれが儘ならないときた







ブルー「整うま、で…ッ 時間が居る、時間を稼げ」

アニー「言ってくれるじゃん、難しい注文をさぁ…!」ダッ!





 要点は確かに聴いた、女手一人で馬鹿デカイ蟲の化け物を4匹相手にしろと言っている
術の使えん魔術師など恰好の餌食でしかない、ならばこそアニーが猛進し後方のブルーに近づけさせない、それしかない




<うらぁぁぁ!! ガキィィン ザシュッ!
<キイイイィィ ィ ィ ィ ィィ ィ!!







ブルー「ゼェ…ゼェ、くっ…」スッ!バッ!



ブルー([ドゥヴァン]で買った術書が功を成すようだな…!)シュッ!サッサッサッ!





 シップに乗っていた合間に術書を開き、内容を頭に叩き込んだ彼は両手を動かす
幼子のあやとりを初めとする手遊びや手話のように忙しなく動かし、"印"を表す


それはかのリージョンでは"九字護身法"などと呼ばれる式の築き方だ




ブルー(印を構築した…あとはこのまま印を切りれば…)ゴホッ



永い詠唱はできない、短く、それでいて今の自身を癒す方法…!






           ブルー「…生命を繋げ…っ [活力のルーン]!!」






 素早く印を切り、短く喉の奥から捻り出すように声を捻出する

基本術の一つにして自身の細胞を活性化させ身体の損傷を癒す印術[活力のルーン]目の前に出現するライトグリーンの光は
ルーンの文字を宙に描き、ブルーの身を包む…すぐさま自身の身にせいの力が漲って来るのを感じ取る




―――
――




    キィン…!



                 パァァン…!







     アニー「あうっ!」ドサッ


 アニー「~っ、こいつ…他の奴よりも強い…どうして…」ハッ!?










  「ギッ~ギイギイィ…!」バタタタタッ![アシスト]!


  「ギイイイイイイイイイイイイイ――――ッィイ!」"STR UP!"."QUI UP!"."INT UP…










アニー「くそっ!こいつら仲間同士で互いに強化させてるからか!」




「キシャアアアアアアアアアアアァァァァァアアアアア!!」バタタタタタッ!ガリッ



アニー「なっ!―――きゃあああっ!!」ガシュッ



猛スピードで突っ込んできた1匹に肩を喰われる

鍛え抜いた反射神経で掠る程度には留めたものの羽織っていた緑のジャケットが裂け、露出した肩肌からは血が滲みだす





アニー「い"っ‥‥、こ、こんのぉ!クソ蛆虫ぃぃ!あたしのお気に入りだったってのに!!」






肩の痛みを気に入りの服を破かれた怒りで紛らわす、目尻に浮き出た涙を振り払うように渾身の一撃を打ち込む






        アニー「喰らええぇぇぇぇ!!![稲妻突き]ぃぃぃ!!」ダンッッ――ギュンッッ!!



             「ビギィィッ!?―ギッ」ブチュンッッッ!!グシャ!




雷光一閃


刺突技を十八番とする彼女が可能な限りの瞬発力を発揮し稲妻の如く突っ込む






 [仲間の体術使い]と[銃火器を巧みに扱うスーパーモデル]等と共に

"多くの剣術を閃き"[達人]の域に到達した彼女の剣先には闘気が渦を巻き、稲妻が迸る突きの一撃は滞空する虫の胴体を
ものの見事に吹っ飛ばす、頭部、腹、なんやようわからん昆虫系モンスターの臓器が散乱する



同胞の贓物と血飛沫の雨に臆んだか、後に続いて追い打ちをかける予定だった1匹の動きはやや鈍いモノとなる


勢いを落とした突撃など多くの修羅場を潜り抜けて来た彼女からすればスローモーションで―――






         アニー「ふっ!!―――」サッ




くるり、踊るような足さばきで回避行動を取ると同時に手早くジャケットの内ポケットから[レーザーナイフ]を取り出し
グリップを握り締めてボタンを押す


このご時世何処にでもあるビーム兵器の大して珍しくない駆動音と同時にナイフの柄から先に光り輝く刃先が伸びる








 ――――――クルッ…ザシュッ! ガシュッ!





           アニー「…[かすみ青眼]っと!」ボソッ





遠心力を上乗せした両手の得物で害虫を一匹スライスする




アニー「これで2匹、あとは―――」キッ!




害虫を2体駆除し、すぐさま[<アシスト>]で肉体を強化された粗虫共を睨みつける


アニーが振り返ると同時に虫の一匹(最初にブルーに突撃して彼女に脚を切り飛ばされた奴)が強化された奴の頭上を
忙しなく飛び回っていた



すると何ということだろうか、強化済みの[ワームブルード]の身体についた切り傷が癒えていくではないか…っ!!






アニー「…[<マジカルヒール>]回復までできんのね、随分と多芸な事で」チッ!



最初に仕留めとけば良かったと舌を打つ、芸達者の蟲は凝りもせずアニー目掛けてその巨体で体当たりを仕掛ける


当然ながら彼女もそれに対して迎撃すべく剣を構え地を蹴る…










…が!











          ヒュンッ! ヒュンッ―――!






             アニー「!!」






強化された蟲の背後から飛んでくる力の塊、それはモンスター特有の技[エルフショット]であった―――ッ




 飛んできたエネルギー弾の直撃はもはや免れようがない、それでも抵抗すべく刀身で2発叩き落としたが残りは全弾被弾
後方から放たれた援護射撃に遅れて強化済みの蟲がアニーの身体を撥ね飛ばす


血を吐いて仰け反る様な恰好で吹き飛ぶ彼女に[エルフショット]を放った蟲が牙を突き立てるべくアニー目掛けて羽ばたく




 余程、片足を切り飛ばされた事でも根に持っているのか
その執念の赴くままに接近し柔らかな人間の女性の肌に[毒液]滴るその牙を…!








            ブルー「爆ぜろ、[インプロージョン]!」キュィイイイン!






「アギッ!」ボンッッボジュッ





…粘り気の強い[毒液]が滴るその牙は彼女の身体に突き刺さらなかった




短い断末魔、一瞬の焦げ臭さを残し、この世から消え失せた


片脚を切り取ばされた恨みよりも、不意打ちで鳩尾に一撃喰らわされた魔術師の方が根に持つタイプだった、それだけの話






ブルー「ふぅーっ…このクソゴミ蟲共が…此処に保護のルーンがなければこの場所諸共消し飛ばしてやりたい所だ」




見るからに青筋を立てて、惜しみなく不機嫌を表現する術士は目だけで人が殺せそうな視線を残りの害虫に向ける




アニー「なぁ…こいつはあたしにヤらせてくんない?」




腹部を片手で抑え、同じく怒りで肩をわなわなと震わせる黄金色の髪をした女がゆっくりとブルーの背後に近づいてくる

ブルーは呆れた、この女の耐久性に





自分でさえああなったというのに、強化された彼奴の突撃を直に受け止めてその程度で済んでるのか、と







                      ブルー「勝手にしろ」

                      アニー「ん、わかった」



                      「ギッ!?ギイイイィィ!?」









元より、お宝さがしに加えて鬱憤晴らしの為に来たのだ
蟲如きにコケにされては財宝の他に苛立ちまでお土産にしてしまう、怒りの一撃をお見舞いせねば



不穏な空気を感じ取ったのか、モンスターは脇目も振らずに一目散に逃げ出そうとする



アニー「逃がすかぁぁぁぁ!!」



 剣を構える、達人の域に到達した彼女が閃いた一つの到達点
無駄なく敵の急所のみを狙い、生命活動の源となる部位を確実に寸断する手法








       アニー「だあああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」シュバッ!















                   [デッドエンド]ッッッッ!!











 地下空洞内全域に轟くような音、天井すれすれまでに跳躍した彼女の身体は逃走を試みる小蟲の一生に幕を下ろした



―――
――


https://www.youtube.com/watch?v=L-oSUIEn218
[BGM:クーロン]



【クーロン:発着場前】



ブルー「まさかあんなところに抜け道があるとはな」

アニー「大昔の地下鉄だからね、こうやってシップ発着場に繋がってる場所もあんのよ」



 お互いに目的を果たした男女は[クーロン]の街へと戻って来ていた、アニーは同僚のライザから教わった道を使い
蒼の術士と共に帰って来たのだ


アニー「あのデカイ蟲が保護のルーンになんかしてるから、街の治安が悪くなるんでしょ?」

アニー「なら、これで安心して暮らせる奴もちょっとは増える、良い事ね」




自分の後ろについてくる術士から聴いた話からそんなことを考える、お宝は手に入るし運動にもなった
挙句にはこの街で暮らす人々の平穏にもつながる良い事じゃないか、と




ブルー「…」スタスタ


ブルー「おい、おん………アニー」






「おい、女」と言いかけて改める、初めて目の前を歩く女の名前を尊大な態度の術士は口にした





アニー「な、なにさ?」




この無礼極まりない男が急に改まったので内心驚きを隠せない、とりあえず返事を返してみれば








ブルー「癪だが、貴様には一つ借りができたな…」

ブルー「粗虫の最初の不意打ちからあれだけの数に囲まれれば俺も命を落としたやもしれん」




ブルー「礼を言わせてもらう」




アニー「お、おう……気にすることないっての…」



偉そうな態度が鼻につく男ではある、が最初の邂逅の時もそうだったが自分に非がある時は素直に謝るのが筋だと述べたり
この男は変なところで真面目だ



ブルー「この借りはいつか何らかの形で貴様に返させてもらう」

アニー「そ、そう?(なんか調子狂うわね)」




借りを返す、かぁ…しかし、返してもらうにしたってどうする
どうせな貰うのなら満足のいくものが良いと思うのが人の常





アニー「……!ねぇ!アンタさ!その恩返しだけどなんでも良いの?」

ブルー「? ああ、可能な事であるならばな」



命を救う、これに匹敵する恩ならば返してやってもいいと思うし、何よりこの女は"[解放]のルーン"、"[活力]のルーン"

ブルーが喉から手が出る程欲しいモノの情報を彼女は二つも有しているのだっ!






…要するに、純粋に恩義に報いてやるのが半分、もう半分は貴重な情報源の機嫌を損ねたくないという利己的な考えなのだ








アニー「ふっふっふ…なんでも良いのね♪」ニシシ




―――この時ッ!アニーの頭上に豆電球が灯るッ!



アニー「じゃあ、あたし含めてあたしの仲間達をディナーに連れてって欲しいのよ!アンタの出費で」


ブルー「晩飯を奢る程度で良いというのか?その程度なら構わんが」




アニー「OK!契約成立ね!取り消しは無し!」つ【紙切れ】




ブルー「? なんだこ―――」





ブルーが手渡されたのは一枚のチラシだった…先程のリージョンシップ発着場で誰でも気軽に貰えるチラシ







アニー「すっっっごくお金の掛かる豪華客船での食べ放題バイキングディナー」

アニー「いやー、一度で良いから皆で行きたかったのよねぇ~♪」





ブルー「  」





そのチラシにはこう書いてありました






                         【チラシ】

  ~『美しき白鳥のフォルム、展望台から一望できるリージョンの空!満点のサービスに豪華三ツ星ビュッフェ』~


     ~『 [マンハッタン]発の宇宙船<リージョン・シップ>  《キグナス号》で優雅な一時を! 』 ~
            ※三ツ星ビュッフェは別料金となり、クレジットはお一人様――――




アニー(…エミリアが帰って来た時に、詫びの一つは要るだろうとは思ってたし…)

アニー(グラディウス皆でちょっとした旅行みたいで良いわよね!)ニシシ♪


アニー(不本意だけどルーファスの奴もこのキグナスって船に乗せてやって、皆でご馳走ね)




───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三

      【解説:アニーの閃き率】

どの主人公を選んでも印術の資質入手EVで仲間に出来る子、ラッキースケベの主人公曰く「う~ん、でかい。」

仲間キャラそれぞれに閃きやすい系統というモノが存在する、"体術" "剣技" "銃技"…その中で彼女は剣

とくに[突き]系の剣術を閃きやすいというが…



   実 は そ ん な こ と は な く 寧ろ 全仲間キャラの中で閃きが一番悪い

 というのも彼女だけが閃きの系統が異質、剣とか銃とかそういうレベルじゃなくて

 彼女は 『[名前がカタカナ]系の技』 を閃きやすいという 何故か独特の系統が設定されてるらしい


 だから漢字の刀技や剣技も新技が覚えにくいらしく
       代わりに[ディフレクト]とか[ロザリオインペール]等の名前がカタカナは閃きやすいという噂



           , _,r '' ´ ̄ ̄ ̄`ヽ、

          //               \
         _//                  ヽ---イ
        /            \ \\  \ヽ
      / /        / |     ヽ ヽ ヽ   l l
      l//      / |  ト 、 ヽ  |l  |ハ | | |
      | |   /  / /| |  | `、 || | |イ} リ | | |
      | |   |   | ハ |⊥|-- | || / ,ィ〒| /| リ
      | |   |   | { l八,⊥= l /|/ ヒj_ K |/
      | |      |川 リィlトイ:} リ/〃   、 "VV
      リ} l     ||ト|ヽ ゞ='´     ′ ハ ト==‐
      〃|| |    ヽ \`ヽ、""   ー一  /| | |
        |j/ /  ヽ\ヾミ        /| | |/
        // / │ | | hヽ ‐- ..__, イ {/イ
       //// ∧ | | lTリ____」 │  | {〃
      |/|/ / /川川/ナ人____| ̄`Y | ヽ、_
      |l | / ///レ┴┴‐tュ_r‐┬r)〉  ト|ヽ、_ノ
      l! | / //      \┴┴'⌒ヽト、
          | { ケ/>====t \   \ \
          〈rイノイ´ ̄ ̄ ̄|L -ヘ ___>‐、ヽ、
           〈 〈 |       └┬⌒〉      ヽ `ヽ、
            ヽ| |  , ---- 、|  |       }     ヽ、_
            ヽV , ---- 、)  |        /     /フ二入
             |Y      |   |     ∧   // 〃    `丶、
             | |      |  |二>--イ ヽ` '‐|レ/_          `>- 、
            /│       |   |-──┤   \//″ ` ''‐ 、 __/    ``ヽ.
            /   |      |    lニニニl  /// |    ,、‐ ''´     `ヽ、    ヽ
            \  |     |    l     レ'  | || | ,  '´             /       |
              ヽ_|       l    \  /|   ノノ/      /      |_i    |
              |     |一''´ ̄ ̄ _l |ァ-イ/         | {        | |l、__/ lハ
             / ̄ ̄ ̄ヽ---─ ''´ |」k/|==ァ     V       し1 / 丁7
             〉‐───く __r─ニロテ7 /|) 〃      /        / 〃 / /
             L -──‐、_)テ }} // |// ∨ ̄了    /         しl |_/‐'
              レ── 、|〉   }}厶//レ'   ヽ 〃    /          /
              |       ん~┬〒イ  |    ヽ-─┐/         /`丶、
               |      /   / |  | |   |       \ //           /    `ヽ、
                |     /   / |  | |  |      ヽ/           /        \
             j     ハ  / │ l |  ヽ      /,'          /    /      ヽ
            ∧   / `、   |  | ヽ   \   / !           / __/ノ      |
           / ヽ二二ソ  \      \   `ニン |       /´              |
        rr '´       |     \         __ノ   |       /            /
        //ヽ__人   ノ      `ー‐ '´ ̄ ̄    /|      /            /
       / / /  , `'"            ____,.  '´  │     /               _/
      (_/    ̄       rァ⌒ト-‐''´  /     j       /        ,  '"´
                 _,ノ /    /      / /    /_...  --‐ ''´
               , イ   //    /      r'´ ̄ ̄`ヽ、/
            //  / |「レ== 、_ ヽ、___, イ       ヽ
            厶/ |< M Lト=ッ7/7| _.. -'´ /         /个L
            | ∧//ヽ|ラ‐イ//|し1´    〈 ┬‐ 、  (( イ/| 〉〉
            レ冖\__/Jl」 ̄      /   ト|`Tヒ// |しノ
            `ヽ⊥ -‐'´           |__  \\//大」
                            ├  ``ヽ、 ̄|/ ⌒⌒ヽ、_
                            | r─、    ̄ ̄二二ー‐ヽ
                            ヽ三三 r─‐ 、` ー----ハ

                                  ``<┬三三三ヽ/
                                     ` ーニニソ

───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三

















    …うぐっ!? 痛い…? 僕はどうなったんだ…?確か[ドゥヴァン]の神社でアセルスの身の上話を…














痛みで覚醒した僕はゆっくりと瞼を開いた、紅葉の香りが鼻をくすぐったあの神社の前とは全く違う光景だった


無骨な鋼鉄の部屋、まるで僕が本で読んだ牢屋みたいな何も無い部屋で


  [マジックキングダム]の寮部屋みたいな二段ベッドが幾つかあって…僕はその寝具の梯子部分に縛られてたんだ





目の前には知らない男の人が数人いて、なんだか困ったような顔で僕を見てる…




*******************************************************
―――
――



【双子が旅立ってから…2日目、夜明け間際 4時27分… トリニティの軍事施設があるリージョン [ラムダ基地] 内部】




「やっと目ぇ覚ましたぞ…」ハァ

「…で、こいつどうすんだよ……つーか誰だよコレが女とか言った奴」




ルージュ「???」キョロキョロ




 ラムダ基地…赤焦茶色の岩肌だらけのその土地に築かれた前線基地には
この広いリージョン界を束ねる政治機関"トリニティ"の執政官が着任している…現状この基地に居る執政官は…まぁ、その









…実に評判がよろしくない




その理由は…










「どうするよ、あの変態になんて言い訳すんだ?」

「どうったて…なぁ…」


「さっきの妖魔の女たちはヤルート閣下のハーレムに送ったが…この男は…」ウムム…





…税金で創られた軍事基地に美女を集めハーレムを築いているという悪評が出回っているからだ
 物的証拠が無い為、誰も検挙できないでいるが噂自体は広まっている、これで変態執政官と名高い彼のハーレムから
半ば拉致監禁に近い形で連れられた女性が基地内から脱走し証言でもすればお巡りさんが手錠を持って動くだろうが…



ルージュ「!妖魔の―――アセルスと白薔薇さん!!彼女達を何処へやったんだ!」ギッ!ギッ!




 縄で両手両足を拘束された彼は華奢な身体を精一杯動かし、反抗的な態度を露わにする
穏やかな眼つきを鋭いモノへ変えて目の前の男衆を睨み恫喝するのだが…



「あー、ったくうるせなぁ!あの女共ならこの基地のお偉いさんトコに連れてったよ」

「女好きのドスケベ野郎だ」



特に臆することも無く、縛られた男一人、術さえ使われなければどうとでもなるだろうといった風である




ルージュ「…あなた達はこんなことをして…恥ずべきだと思わないのかっ!!」



 男達の口から飛び出す内容を整理して凡そ分かった事、それはこの男衆は所謂人攫いのようなモノで
自分達はその"ヤルート閣下"とやらの基地に連れて来られたということ


そしてその閣下とやらが無類の女好きということもハーレムという単語からよくわかる、手癖の悪い男だ




「思わんね、正義感なんぞじゃ腹は膨れん、おまんまの食いっぱぐれだけはお断りだ」

「そんなことよりもこいつの処遇をどうするかだ…」ハァ



ルージュ「くっ…なんて奴らだ!」ジタバタ




「…」ジーッ


「あん?どうしたんだ…」


「いやさ、この男…本当に女みてーな顔してんなぁって……思ったんだけどさ」













「こいつ女の恰好させてヤルート閣下に引き渡せば良くね?」





「…」ピタッ
「…」ピタッ


ルージュ「…」ジタバタ…ピタッ








 刹那、凍り付いた…
威勢よく暴れていたルージュもまるで[停滞のルーン]でも使われたんじゃないかと見間違う程に微動だにしない




ルージュ「」ダラダラ…



「いやさ?だって…あのヤルート閣下だぜ?妖魔狩りにハマるような変態度だぞ?なんかもう男の娘です!とか言ったら」



ルージュ「」ダラダラダラダラ…


滝のように汗が噴き出る、止まらない…


―――
――





「出ろ」




アセルス「…」テクテク






アセルス(意識を失ってあの後、目が覚めたら此処に連れて来られた…)


アセルス(白薔薇の安全を確認して助け出すまでおとなしくしなきゃ…っ)ギリッ


アセルス(…あいつら、ルージュを女の人と間違えて連れて来たって言ってたから此処にルージュも居るはずだし、まず)















           トリニティ軍人?「こんな連中に捕まってしまうなんて…まだまだだね君は」フゥー










アセルス「?」


 俯き気味だった半妖の少女はその声に顔を上げた、声の主は深々と帽子を被り軍服をピシッと着込んだ少し色黒の男性で
妙に親しげに話し掛けるこの男性が何者であったか記憶の引き出しを漁り答えを探そうとしていた



少考、一呼吸の間を開けて結局誰だか分らなかった彼にアセルスは



アセルス「誰?」



そのまま抱いた疑問を言葉にして投げかけるしかなかった



色黒の男は「ふふっ」と…そう、まるで悪戯が成功して喜ぶ無邪気なお子様染みた含み笑いを浮かべ帽子を取る

 アセルスはこの時、漸く声の主が誰であったか思い出した、逆立った赤紫色の髪、悪戯小僧と名付けたくなる笑い…
一度見たらそれはもう忘れられない衝撃的な恰好のアイツだ


…今はその衝撃的過ぎる恰好じゃないからこそ、規則遵守を体現したような出で立ちだから思い至らなかったのやもしれん











     乳首にお星さまを付けた上級妖魔「この程度の縛めなんて、ちょっと力を入れるだけで破れるのに」ヤレヤレ



      アセルス「ゾズマっ!!!此処で何をしてるんだ!!」






帽子を取り、逆立った赤紫の髪を、そして「ふぅー、この堅っ苦しい服は嫌だねー」と服を脱ぎだす上級妖魔



アセルスが[ファシナトゥール]で出会った男性型の妖魔

 彼曰く「自分は此処のナンバー2で自分を止められるのは妖魔の君だけ」との事、自由を誰よりも愛し
自分を束縛する者を嫌う、興味がある事にはとことん首を突っ込むスタイルで俗にいう美男子という顔立ちであり
上半身裸で乳首にお星さまをつけるという一度見たら誰もが通報したくなるようなスタイルを進む自由人である





 ゾズマ「別にアルバイトとかそんなんじゃないよ…よいしょっと」ドサッ


 アセルス(!私達の荷物…)


 ゾズマ「妖魔を弄んだ連中に、火遊びが過ぎるとどうなるか思い知らせてやるのさ」


 ゾズマ「もう数人侵入して手筈を整えているところだ」フフッ



 アセルス「…ふぅん、随分と仲"魔"思いだな」



何考えてるんだか正直よう分らん露出狂くらいにしか見てなかったがちょっとだけこの自由人の評価が彼女の中で上がった



 ゾズマ「さぁ~どうかな♪とにかく楽しい宴になりそうだよ」ニヤニヤ







 アセルス「…」





 アセルス(こいつめ、何やらかす気だ…?)





決して長い付き合いとは言えないがある程度この上級妖魔の事で分かった事がある


コイツがこういった悪戯を思いついたような悪ガキめいた笑みを浮かべる時は大抵ロクでもない事を起こす時だと

先程上がった評価がまた元の位置に戻りそうだ





アセルス「君、この先に白薔薇が居るのかい?」スタスタ…


「はい、ゾズマ様がご確認なさっております、白薔薇姫様の他、お連れの方もいらっしゃいますよ」


アセルス「そうか、ありがとう、此処から先は私一人で行けるから君はゾズマの所に戻ると良い」


「畏まりました」スゥ…


アセルス「…消えた、アイツ何人この基地に妖魔を潜入させたんだ…」スタスタ…



扉を潜ればそこは……





アセルス「 」







アセルス(う、うわぁ……)ヒキッ




 如何にも成金趣味の部屋だった、いや下手するとそれより酷い、天井にキラキラ光るカラーボール
一昔前に流行ったディスコかと見紛うような内装で女の子が1人の肥え太った醜夫を満足させる為にいやらしく踊っている



醜夫「そらそら~もっと踊らんか!生皮剥いで釜茹でにしてしまうぞ~」


「いやぁ~ん、ヤルート様ってば~そんなことしないでぇ」



 軽口のように飛び出た恐ろしい拷問に掛けられまいと媚びを売った声色でバニーガール衣装の女が
扇子を仰ぐ東洋風の礼装に身を包んだ女が愛想笑いを浮かべご機嫌取りと来たものだ




ヤルート「ぐへへ…そういわれちゃぁなぁ」デヘヘ

道化師のような仮面をつけた男「……ヤルート閣下、そろそろ取引を」



ヤルート「まぁ待たれよジョーカー殿、もう少し余興をお楽しみくだされ…ぐへっ」ゲヘゲヘ!



 歯磨きなんて生まれてこの方一度たりともしてないんじゃないかと思うような粘りっ気の強い唾液が
前歯にこびり付いているのを見てアセルスは嫌悪感を露わにする

脂ぎった手で近くにいた10代半ばの少女を抱き寄せ頬ずりする様はなんともまぁ……


アセルス(あからさまに嫌そうな顔してるよ…)


ヤルート「ゲへへ、最近身体の発育がよくなったんじゃないのか~」


「や、ヤルート様に美味しいご飯を頂いているからです…」


ヤルート「おお!そうか!そうか!うむ!そっちの女子も近くに寄れ」

「は、はいぃ…」



アセルス(…あ、あまり目を合せない様にしよう)ゾーッ


中央で椅子に踏ん反り返りハーレムを楽しむ醜夫、仮面の所為で表情は窺えないが呆れの色が見て取れる男性
そんな二人を余所にアセルスは白薔薇を探す…



アセルス(…!居た、あんな隅っこに!…でもルージュは何処に居るんだろう)キョロキョロ



バニーガール、民族衣装の少女、ヤルートの趣味でランドセルを背負い腿が良く見えるスカートの女子大生程の人
誰も彼もが拉致同然に連れられたのだ…


そこにはアセルスが嫌悪感を拭えない理由がもう一つある





それは、自分の今の境遇の元凶たる魅惑の君と通ずる所があるからだ





 先程ゾズマに荷物を返してもらった、当然[幻魔]だって手元にあるし
あそこのドスケベ魔人に対して峰内でも叩き込んでやりたいのが率直な感想だ鞘から引き抜かなければ
妖刀に引き摺られることもないだろうし…

ただ、軍事基地のお偉いさんにそれをやれば周りの連れて来られた人に危害が無いとは言えない、だから堪えるしかない



アセルス「ごめん、そこを通して…!」



半妖の少女は水着姿で踊る少女等に道を譲ってもらい漸く辿り着いた

白薔薇姫はベリーダンスを隣に居たセーラー服の銀髪美女と踊っていた



アセルス「白薔薇!私だよ…!」ヒソヒソ

白薔薇「!…アセルス様!ご無事で何よりです!」ヒソヒソ


白薔薇「此処に連れられた方々はこの戯れが終われば自分達に与えられた部屋へ戻されるそうです」

白薔薇「ですのでその時が来るのを待ち、隙を見て逃げ出しましょう」ヒソヒソ

アセルス「うんっ!」ヒソヒソ


 逃げ出せる好機を怪しまれぬよう他の者に混ざり踊りながら待つ白薔薇のすぐ横でアセルスも彼女の真似をする
舞などこれといってできるモノは無いが、白薔薇の動きを真似るぐらいならばなんとかなると考えた


アセルス「……ねぇ、ルージュは何処にいるの?この基地の何処かに捕まってるんでしょ」ヒソヒソ


白薔薇「…ルージュさん、ですか…」


アセルス「…? 白薔薇?」

何故か苦笑する白薔薇に首を傾げた、白薔薇の視線の先がある一点へ向けられる、その先を目で追えば-――



セーラー服を着た女子大生くらいの年頃の銀髪美女「……///」プイッ




アセルス「……」

アセルス「あっ(察し)」



"それ"に気がついて間抜けな声が出た

緑髪の少女はさっきから白薔薇姫の隣で舞っていた銀髪美人が誰なのか、漸く悟った




アセルス「……」


アセルス「えーっと、そのぉ…なんていうか、うん、似合うよ、うん」



白薔薇(アセルス様、フォローになっておりませんよ…)



 さて、読者諸氏は既にお気づきの事だろう、この麗しの銀髪美女が何処の誰なのか…
彼女、否、"彼"は顔を赤らめていた、名は体を表すとよく言ったものだが赤色を冠する名を持つ彼は若干半泣きだった


なにゆえ自分はこんな所でこんなワケのわからない恰好をさせられているのか?


理不尽だ、と彼…ルージュは心底そう思った





ルージュ「…素敵なフォローをありがとう」ズーン

アセルス「あっ、そ、その…なんかごめん」アセアセ




どんよりとした顔で力無く笑う彼を見てアセルスは強引に話題を変える、変な気まずさに耐え切れない、空気を変えねば!



アセルス「ル、ルージュ…私!荷物を取り戻したんだ!あの[ゲート]って術を使う為の道具も入ってる!」ボソボソ

ルージュ「!…どうやって?」ボソボソ


アセルス「此処に知り合いが居て、そいつが持って来てくれたんだ」

アセルス「詳しくは私も知らないけどもうじき何かを起こすらしい、その隙がチャンスかも」



この場で直ぐにでも別のリージョンへ移動するのは容易い、が…




アセルス「…相談があるんだ」






アセルス「此処に捕まってる女の人達…皆を連れて移動ってできる?」


ルージュ「此処に居る全員を…」


此処に居る女性は皆が、アセルスやルージュ達と同じだ






何の前触れも無く人攫いに捕まり、此処に監禁された謂わば被害者なのだ、同じ女として、そして…

魅惑の君、オルロワージュの居城に軟禁されて十数年…家族との繋がりを断たれたアセルスだからこそ救いたいと願った



アセルスの境遇は知っている、だから彼女の心情は紅き術士にも妖魔の貴婦人にも当然汲み取れる
白薔薇はアセルスの望みを叶えてあげたいし、ルージュもこのような状況を見過ごせない



ルージュ「…できないこともない、けど全員を一か所に集めなければならない」チラッ



 気持ちとしては彼女の頼みに快くYESと言いたい、しかし重々しく開かれた口から出た言葉はこの無駄に広い娯楽室で
両手で数えきれない人数の女性を一切、不審に思われる事無く集めて術を発動させるという到底不可能である事を
VIP席に座る執政官と傍らの仮面の男を見ながら言った




最悪、あの醜夫はどうとでもなる…問題はそこじゃない





ルージュは…いや、白薔薇姫もアセルスも奇妙な仮面をつけた男を警戒していた、確か"[ジョーカー]"と呼ばれていた


被り物の下がどのような表情を浮かべているか分からない、だが…妖魔の二人も、魔法大国出身の青年も分かるのだ
 あの仮面男の前で妙な動きをすれば命取りになる






 ウィーン!



アセルス/白薔薇/ルージュ「「「!」」」



3人がどうすべきか思い悩んでいた最中、事態は好転することになる

アセルスが入って来た入口の扉が開かれたのだ…そこにブロンドの髪を結った幸運の女神様をお通しするかのようにッ!













   元スーパーモデルの金髪美女(うわー、悪趣味な所…あの怪物がトリニティの執政官??)スタスタ…












 童話で喩えよう、雑踏といっそ耳障りなくらいにい煩いオーケストラ賑わう舞踏会にシンデレラが舞い降りた
伴奏を奏でる音楽家も政略結婚を狙う口煩い政治家の話術もハイヒールの雑踏さえもピタリと止まる



瞬き程の僅かな合間、ルージュ等も拉致監禁された沢山の女性も、ヤルート執政官も



……そして、ジョーカー、もその姿に目を奪われた…



ヤルート「―――ハッ!」


ヤルート「如何ですかな?私のコレクションは?」



 入って来た女性にヤルートは惚けた、艶のあるブロンドの髪を結わせたポニーテールが歩くたびに揺れ
しなやかな身体のラインがくっきりと強調された煽情的な踊り子の装束
透けて見える空色の薄布は腰回りをより色っぽく、くびれも上半身に実ったたわわな果実も魅せる露出度で―――



――いや、一番は"女"の部位を前面的に押し出した美貌じゃない、雰囲気だ




例えば同じ美人美女でも歩き方一つで感じる印象が違う



同じ顔立ちでも前を見て朗らかに微笑みながら歩く女と、鬱蒼とした顔でオドオド歩く神経質な女じゃあ抱く感情が違う


舞台役者が一つの劇、芝居でその役を完璧に演じるように、そのものに為り切っているように…目の前の美女は歩く



心の底から『美しい』『綺麗だ』そう感じ取らせるオーラがあったのだ…!





アセルス(うわぁ…綺麗なヒトだなぁ…//)ポーッ

白薔薇「…アセルス様、舞わねば不審に思われますよ」ボソ

アセルス「ぁ、う、うん…!」


相手方に気付かれないように脇腹を小突く白薔薇とアセルス、ルージュもハッと我に返り止めていた動きを再開する

それは水溜りに投じた一石から生まれ出る波紋のように広がり、止まっていた全ての女性等の動きを、執政官達を動かす






ジョーカー「…流石はトリニティ第三執政官のヤルート閣下、良いモノを飼っておいでです」




 被り物に隠された顔は相変わらず読み取れない…筈だが、心なしか仮面の男の声がほんの少しだけ感情を持った
そんな風にルージュは感じた



ヤルート「それでは今日は特別に1匹、お持ち帰りになるとよろしい!ジョーカー殿!」ゲヘ!ゲヘ!


気分を良くした醜夫は来客のジョーカーに揉み手をしながら愛想笑い、対照的に入って来た女は心を波立たせる







元スーパーモデルの金髪美女(ジョーカー…っ!!)






波立った心を落ち着けようと彼女は演技に全意識を集中させる、でもなければ歯軋りが聴こえてしまうだろうし
 今にも自分の婚約者を殺害した憎き仮面男をこの手で縊り殺さん勢いで飛び掛かってしまいそうだったから…



ヤルート「いやぁ…丁度鮮度の良いのが入荷したようですな、おい、お前何かやってみせろ!」


鮮度の良い入荷品の出来をまずは知ろうとヤルートは命じる、その声に彼女はハッとする



ヤルート「んん~?どうした?早くしないと生皮を剥いで釜茹でだぞ!」



元スーパーモデルの金髪美女(やっぱりヒドイ所だぁ~!ルーファスの奴…帰ったら覚えてなさいよ!)


 彼女の頭の中には常にサングラスを外さないロン毛男が浮かび上がる、帰ったら真っ先にグラサンを叩き割ってやろう
そう決意を固めながら「舞わせて頂きます」と初々しくお辞儀をする


今は上司への恨み言は後回し、最優先は役を演じ切ることだ





そうこうしてればグラサンの上司と、気の合う仲間…[ライザ]そして[アニー]が助けに来てくれると信じて…




 軽やかな足取りで中央のダンスステージに飛び乗り金髪美女は舞う、この人の邪魔をしてはいけない
舞い込んだ白鳥に魅了された女性たちは彼女の為に十分なスペースを開けようと静かにその場を離れていく…




これはなんだ?

踊りか?

それとも劇か?



ゆったりと降り立った女性は明るく、この世の幸せは此処に在る、とでも言いたな表情で舞うのだ



まるで女が求める最大の幸せ、愛おしい男との結婚を控える女が魅せるような顔



幸せの絶頂に居る、しかしその後の舞は一変、至福の丘から絶望と哀しみの奈落への転落
エキゾチックな衣装の彼女は天を仰ぐように…どうかこれは悪い夢で目が醒めれば幸せに戻れるますようにと

乞い願う女性を演じた、満ち足りていた表情も今は演技なのか本当に泣きそうなのか分からない顔立ちであった









 結婚を控えた幸福な女、突然の悲劇、絶望に打ちひしがれ、一筋の光が差す…女がゆっくりと再生に向かって立ち上がる





踊りというよりも寧ろオペラ座や歌劇に近かった


それも迫真の演技だ、特に何かを決意した女がゆっくりと再生に向かっていく様は鬼気迫る物すら感じる


起承転結、物語性のある舞いだった…疑問なのは『起』『承』『転』こそあれど『結』の部分が無いことだ




ジョーカー「…美しい」ボソ

ジョーカー「見事な舞い、これを頂きたいですな」




ヤルート「い、いや、ま、待ってくれ!これはワシも気に入った、中々に食欲をそそられるぞ!」

ヤルート「代わりにアレなんてどうだ!?[ファシナトゥール]から命からがら盗み出して来た女だ!」

ヤルート「妖魔に血を抜かれて体質が変化しているのだ、中々興味深いぞ」



 想像以上に見栄えの良い女が手に入った
執政官は思わぬお宝を客人に横取りされては堪らんと上擦った声でアセルス等を指差す、『特別に1匹持って帰ると良い』
そう言った手前、この仮面をつけた上客に前言を撤回する訳にいかない

 雇った男衆がその辺のリージョンから偶然見つけて来た妖魔の女を
妖魔の総本山[ファシナトゥール]から命懸けで盗んできました!とちょっとでも箔がつくように嘘を付け加える

それだけ手放したくないのだ



そんなこんなで指差され夏祭りの出店で売りに出される兎や雛鳥か何かの如く指定されたアセルス等はギョッとした


これはマズイ


そう感じた次の瞬間…っ!







    ズ ド オ オ オ オ オ オ ォォ ォ ォ ォ  ォ ォン







基地全体が揺れた、電気系統に異常が出たのか次々と天井の照明が切れていく




ヤルート「な、何事だ!?」

元スーパーモデルの金髪美女(グラディウスだわ!!)パァァ…!

アセルス(…ゾズマか)ハァ…



狼狽える執政官

仲間達が来てくれたと勘違いし、花が咲いたように喜ぶ金髪美女

「ああ、これか…アイツめ、無茶苦茶な」とため息を吐くアセルス




ジョーカー「トリニティの基地で非常事態とは、世も末ですな」

ジョーカー「ヤルート閣下の足元も意外と脆いのやもしれませんな」クルッ




仮面の男が呟くと同時に全ての照明が切れ、室内は闇に包まれる



 悪趣味な娯楽室が闇に包まれる、静寂を破ったのは誰の甲高い悲鳴だったか
それはルージュ等にもヤルート達も金髪美人にも分からない、唯一つ理解できたことはそれを切っ掛けに拉致された女性が
一斉に非常灯目掛けて駆け出したという事だけだった


 川の流れを塞き止めていたダムというのは一度決壊すれば後は濁流が止め処なく溢れるモノで狭い出入口からは
女達が凄まじい勢いで飛び出していった


その中には騒ぎに紛れて部屋を脱するルージュ、アセルス、白薔薇の3人

次に遅れてヤルート執政官、ジョーカーの姿もあった、3人とは別の方角へ逃げていく姿は人の波に紛れ目撃できなかった





ルージュ「おわっとと…」ヨロッ


ルージュ「ふぅ…なんとか逃げられたけど…これじゃ」チラッ




あちらこちらと逃げ惑う人影を見て彼はバツの悪そうな顔をする、これでは到底[ゲート]の術で全員を逃がすなどできない


アセルス「…」

白薔薇「アセルス様…時には妥協も必要に迫れるときもございます」




アセルス「分かってるよ…、理解はできる、理解だけなら」




 これ以上は此処に留まる訳にはいかない、この騒ぎで基地全体は臨戦態勢に入る…モタモタしてればそれだけ逃げ遅れる
奥歯を噛み締めその場を去ろうとした時、彼女等は声を掛けられた







    元スーパーモデルの金髪美女(…!人が3人、留まってるわ)タッタッタ…!



    元スーパーモデルの金髪美女「早く逃げて!」ハァハァ…!








息を切らして金髪の美女は駆けて来る、その手には何処に隠しもっていたのか黒光りする厳つい銃火器が握られていた
3人を逃げ遅れた人と判断したのか、軍人たちがやってくる前に逃げろと促す

基地内部に居る以上それはあまり意味を成さない忠告なのだが…




ルージュ(この人…さっきの…)

アセルス「貴女は逃げないの?」




元スーパーモデルの金髪美女「私…ふぅ…私は、ね――――」



一呼吸置いて、金髪の美女は悪戯を好む年上の女性の様な笑みを浮かべて告げる



https://www.youtube.com/watch?v=4TJsob5IMSo&list=PL33021FE67F7DCC92&index=8
[BGM:主人公エミリアのテーマ]


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                 .<  ´ ̄     >.、
             ,.イ    y _         >.、
         ,.イィ  ィ、 y / ィケヘ  ー 、   >.、>z、  ,
        ̄ /   l .rミ.y///∧ ヤ ヘ  ヘ ヽ  、 ヘ   ̄
.         /,イ   .l .!ヤ/////ヤ.!ーヘ  ヤ ',  \ヘ
        /ィ , /  ! !´´` ̄ ̄ リ!  ヤ .リ ',     iヘヤ
         / ,'/チ/l !シ l      |! __ヤ l!ヾ、,.ク   l ヘ
.        / .l//イ l .l ゞ、     サ _,,,.._l! !イ癶ゝ  l!
.          |/イ / .! !ー \     l ヘ:::cじ>=≠   ヘ
       / !/l,'ノ、.!、 ィ=、      ーメリイイイ入 !ヽ.\
.          | , ,イヤ!.ヘ    ノ      'ノイoイ  ヘリ ゝ         『私はこれから、お仕事♪それじゃ!』
            !,イ .! l!ヤ゚ヤ、  ` 、   ,  イ.ll l !    ヘ、
         メ,.イサ」ヘl:l:Y>    ̄ イ,イ.サイ:l     ヘ \
          ィ  ィリ_ 〉ヘl:lヘリl:l:o><  ,.イリzl.',       ヽ、
      /   /r _以ー‐七ァ入。メァ'゚ーo7:.:.キj       >z-
   rーイ、   ,.孑チ:.:.:.:.:.:./イ ,.ィ!ー‐゜゚´ .ム:.:.:.リ\      ∧
  」∧_ \_入<:.:.:.:.:.:.:/_  .〈_/   / リ:.:.,イ!:.:.:.キ      .リ
.  l7  /☆ Y:.:.イ >:.:.,イ   ヽ   イ __ ム:.:.:.:.:.:.:.:.:ヤ、     ハ
.  〉<ヽヤ  イイ ´:.:./      ` ´     .,' .:.:.:.:.:.:.:.:.:_jヤ ヽ   ,イ.リ
  l:.:.:.:.:. ̄ヽ〈ヽ,>チ、   .:       /:.:.:.:.:.:.>¨ ̄ーハ     .!
 ノ:.:.:.:.:.:.:.:.:/γ: : : :ヽヽ  /´ ,.斗ー,、 /:.:.:.:.:.:.:.∧.:.:.:.:.:.:.:,イ   ./
 リ:.:.:.:.:.:.:.:.:.l ;: : : : : : :ヽヾ<><´ヘ:.ソ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:∧.:.:.:.:.Y  イ,イ
 l:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.lヘ: : : : : : : :Y: : : : : : : : :/:.:.:.:.:.:.:.:.:.___ヤ=У,イ イl′

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ぱからっ…!ぱからっ…!


金髪の美人が片手に拳銃…[アグニCP1]を持ちながらその場を去ろうとした時だった、その蹄音が耳に入ったのは

 目と耳に悪いハイテクな機械仕掛けの灯りとけたたましいアラーム音が鳴り響く軍事基地にミスマッチした足音に
彼女は首を傾げた、幻聴か?とゆっくりと音のする方へ視線を動かせば






「ヒヒィィィィー―――z_______________ンンッ!!」パカラッ!パカラッ!





元スーパーモデルの金髪美女「ぇ、えええぇぇっ!?!?」





馬だ。


いや、こんな所に馬が走って来たというだけでも驚きなのだが何よりもその額には一本の角が生えている

それはモンスター種族の中でもそれなりに高位の存在として知られる有名な獣…一角獣[ユニコーン]そのものだった!




この基地で軍が飼育しているだとかそういう情報は一切無い、人間を襲う意志に満ちている血走った目
 どうみても人間社会で暮らす種とは違う、野生のソレだ


剛脚と言っても過言ではない2本の前脚を振り上げ目の前に居る金髪美女の頭部に蹄を振り下ろさんと動く[ユニコーン]
 あれが直撃すれば美女の脳天は憐れ、柘榴のようにパックリかち割られてしまうであろう






                ―――ズドンッッ!


「ギュゥゥグゥゥゥ―――ッ!?」ブシャァァ



突然の事でルージュは無論、白薔薇姫も対応に遅れた、アセルスでさえ[ディフレクト]することが間に合わない…!
その一瞬誰もが目を覆う悲劇が到来すると皆の脳裏に過り掛けた…


が、それは一発の銃声と共に打ち砕かれる


右眼を寸分違わず、針に糸を通すような[精密射撃]で撃ち抜いたのだ、金髪美女が



 誰も彼もが反応に遅れた中、敵に一番近い位置に居た彼女が脊髄反射で射抜く、一角獣の眼球が付いていた部位からは
血飛沫が噴出し、痛みと奪われた視力で大きく目測を誤った蹄の一撃は彼女の真横―――何も無い地面を叩き割る




元スーパーモデルの金髪美女「―――全く、潜入捜査だからってこんな拳銃しか渡されなかったっていうのに!」



"いつもの彼女なら"今手にしている[アグニCP1]なんて威力の低い安物とは雲泥の差がある高火力の銃を両手に構え
お得意の[二丁拳銃]捌きを披露した事だろうが…生憎と彼女の手によく馴染んだ愛銃はサングラスを掛けた上司が
薬で眠らせてこの基地へ送り込む前に没収したという…


不満を口にしながらも彼女――エミリアは持ち前の気丈さと共に後ろの3人にコイツを片付けるの手伝って!と声を掛けた

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           \   今 回 此 処 ま で !  /

           lヽ     ,_
           ヽ\゛⌒::て     _
            {`´::ノ ⌒i::}   /::::::`ヽ
            シ゛    }シ⌒` ̄ヽ:::::::|
            /  ● , '      }::::::::し
             /   /      .|´⌒´
           ヽ、/{     ___,、 l
                    | i`‐´| | {  } {
                   } {  } {_{  }_{
                  }_{  }_{;;} {;;;;}
               {;;;;}. {;;;;}
───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三






                「フゥーッッ…!フゥーッッッ!」ギリッ






本来ならば眼球が"あった"部位からは止めどなく、油のようにどろりとした粘度の高い血液が、

そしてボタッ、という音と共に腐れて腐汁が溢れ潰れたトマトを思わせる眼球だったモノが落ちる








目の前の4本脚が息を荒げ熱り立ち発砲した女を睨むのも当然と言えた。






エミリア「…」チャキッ!




それに対し彼女、エミリアは臆することなく無言で銃を構え続ける


エミリア「貴女達、得意な分野は何?…見たところ術士の人もいるみたいだけど」

アセルス「…一応剣を、後ろの二人は術がメインだ」バッ



[幻魔]をいつでも鞘から引き抜けるように半妖の少女も抜刀の姿勢に入り、後ろの人間と妖魔も術を発動させる態勢へ移る



エミリア「…分かったアイツの足止めをする、貴女はあいつに一太刀浴びせて頂戴!後ろの二人も術で彼女を援護して!」





言うが早いか、それを合図に一角獣は額に生えた雄雄しい[角]の先端を戦槍の如く憎き相手の銅目掛けて突っ込む…ッ!


  「ギィヒィィィィィン!!」ダンッ

  エミリア「遅いっ!」ズダダダダダッ!!




 槍と銃、近接武器と飛び道具…ただの馬ではない4本足の瞬発力を以てすれば銃弾に勝ることすら可能であったが
相手はそれ以上の反射神経の持ち主であることは先の眼球を撃ち抜いた件でもハッキリとしていた



場数が違う、この女相当の修羅場を潜り抜けているのだ…レベルに差があり過ぎる




片手銃で[早撃ち]からの[地上掃射]という荒業を実践するエミリアの真横をアセルスが駆け抜ける!
 地団駄を踏む様に忙しなく四股を動かし、被弾しないように努める[ユニコーン]の喉元目掛け横凪に一閃
紅い劔の軌道上にワンテンポ遅れて一角獣の鮮血が後を追うように迸る


白薔薇「光熱よ降り注げ…っ!―――『<太陽光線>』」



 白薔薇姫が手を天に翳す、掲げた右手は太陽へ手を伸ばす女神の絵画を連想させ――掌は小さな淡い光に包まれ
その輝きから直径20㎝相当の光球が生み出される

風船が浮力を持って地を離れるように彼女の手から浮かびあがり…っ!






         ドジュウウウウウウウウゥゥゥゥ!!



「ぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいじぃぃじゅぅぅいいいいいいーーーっ」




熱線を放つッッ!アセルスが切りつけた剣傷をなぞっていく光線は肉の焼ける音と血の蒸発する異臭を漂わせる
『<太陽光線>』が照射されるタイミングに合わせて飛び退いたアセルスお嬢は生き物が焼ける匂いに顔を顰めたが
幸いにも他の3人は後方支援に徹している為、敵の最前線にいる彼女の顔を見る者はいなかった


陽術の神秘が純白の毛並みを黒く焦がし、肌を焼き、皮膚の裏側を―――傷口から焦熱が入り込む



外と内、両方への攻めに悶え苦しみ奇声を上げる[ユニコーン]は首を狂ったように振り回す
 苦し紛れの挙動、出鱈目に振り回す角の先端は宛ら執拗に肌を焼く光を薙ぎ払おうとしているようにも思えた




ルージュ「…これで、眠ってくれ!!『<インプロージョン>』」キュィィィン!!



 人に仇なす野生のモンスターとは言え、その有様にはさしものルージュも憐れみを覚えたのか、最後にそう言ってから
爆裂魔法を発動させる、二十二面体の光の檻が一角獣の棺となり―――獣を一瞬でこの世から消し去った







  せめて、痛みも苦しみも感じる間も無く、逝けるように彼がそんな念を込めて放った即死の魔術である







エミリア「」ポカーン


エミリア「貴女…、すごいじゃないの!なぁんだ!一撃でそれができるなら早く言ってよね!」


ルージュ「えっ、あ…はい」



"貴女"…金髪の女性の自分を見る目とニュアンスから…『ああ、またか…』と彼はうんざりした顔をした



エミリア「? ああ、自己紹介が遅れたわね!私はエミリアよ!貴女達は?」

アセルス「私はアセルス!そして」クルッ


白薔薇「白薔薇と申します」


エミリア「そう!(白薔薇…凄いあだ名ね)」


アセルス「そっちの銀髪の人はルージュっていうんだけど…その人は…その男の人なんだ」





エミリア「へぇ!アセルスに白薔薇ちゃん!そしてルージュ…」










エミリア「…」













エミリア「ごめん、もっかい言って?」



ルージュ「僕は男なんです…今、こんな格好だけど、無理矢理着せられたんです…」





今度はアセルスではなくルージュ本人が答えた














エミリア「ええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇ!?!?!?!?」









仰天、そりゃそーだ、こんなセーラー服の似合う銀髪女子大生としか思えない人間が男とか誰も信じない


エミリアは色んな意味で叫んだ


『なにそれ!?似合い過ぎでしょ!』とか…『えっ、あの怪物<ヤルート>ってそういう趣味もあったの?』とか…




とにかく驚いた、目を白黒させた



ハハハ、と乾いた笑みを出し始めたルージュを見て、ハッと我に返り彼女は
『それにしてもなんであんなのが基地に居るのかしら?』と目をそらしながら口にした



感情豊かな人なのだろう、表情をコロコロと変えるエミリアを見て率直な感情を胸にアセルスが回答を述べる


アセルス「きっとゾズマ―――私の知り合いの妖魔なんだけどね、そいつがこの基地を大騒ぎにしてやるって言ってた」


アセルス「さっきの[ユニコーン]もたぶん、アイツが連れ込んだんだ」




エミリア「えぇ!?グラディウス関係無いの!?」ガーン

エミリア「…ルーファス達はなにやってるのよぉ…」ハァ…



がっくり肩を落としてグラディウス…後に説明されたが、彼女エミリアが所属する組織らしい…そのグラディウスとやらが
自分を助けに来なかったことに落胆した


エミリア「…あぁっ!もうっ!良いわ!」キッ!

エミリア「貴女達、此処から出たいんでしょう?
      私はこれからあのヤルートの奴をとっ捕まえて色々聞き出さないといけないの!」


エミリア「荒っぽいことになるから、何処かに隠れるなり避難した方が良いわ」






アセルス「ヤルートを捕まえるの…?」

アセルス「ルージュ!白薔薇!」バッ!






振り返ったアセルスの眼を二人は見つめ返す

分かってる、手伝いたいのだろう…






白薔薇「アセルス様のご随意に」ペコリ
ルージュ「まぁ、見過ごせないよね!」ニコッ


アセルス「…ふたりとも、ありがとう」




  アセルス「エミリア!ヤルートを捕まえるなら私達も手伝うよ!……あんな奴は許しておけない!」



"あんな奴は許しておけない"その一言にはアセルスの個人的な感情も含まれていた



かくして、旅のトラブルはまだまだ続くのであった…

―――
――







           ※ - 第2章 - ※



        ~ 交叉するキグナス号の紅蒼 ~




















            [活力のルーン]を手に入れた!














…まさか、このような事になろうとはな


塞翁が馬、とでも言えばよいのか?






 今なら、この不快な空間に居る事すら笑って許してやれる程だった























     弦楽器を背負ったニート「いやぁ~良かったじゃんか!探してたルーンが手に入ったんだろう?」











                       ブルー「…」





今なら、この不快な空間に居る事すら笑って許してやれる程だった

彼は今現在、自分がこんな気色の悪い生物の体内に居る原因の一人を不問にしてやろう、と考えた







なぜこんなことになったのか?そう…あれは時を遡る事数時間前、まだ[クーロン]に居た頃だ…














【双子が旅立ってから…2日目、早朝 朝6時27分  [クーロン:安宿]】
*******************************************************



 
 7時前に蒼き術士は起床し、気怠そうにラウンジへ脚を運んだ…薄っぺらい食パンにキツネ色の焦げ目がついていて
その上に溶けだしたバターの乗ったトーストが一枚、レタスとミニトマトだけのサラダが注文<オーダー>した朝食だった




昨晩は…疲れた、術力を使い果たす程には戦闘を重ね、肉体にもダメージを負い…ついでに悩みの種が出来た



ブルー「…不味い」モグモグ



味気ない、値段の割にカロリーが全くない薄いトーストと酸味の無いドレッシングの掛かったサラダという最低な朝飯だ
 淵が少し欠けたカップに注がれた苦みを喉に流し込む…角砂糖もミルクもついてこない100%のブラックは否応なしに
ブルーの瞼の裏に残る微睡を吹き飛ばす


 この安宿は食事等のオプションは別料金制になっている、それは以前書き記したことだろう
サービス自体は決して良い店舗とは言えないがそれでも物足りなそうな顔で頬杖をついている彼が
文句を言わずとも済む献立くらいは用意できた、金さえ払えば




ブルー「世の中、金か…チッ」ゴクゴク




肉体、精神ついでに悩みの種を作って来た一夜、その悩みの種というのが…





   - アニー『ん?"[解放]のルーン"と"[活力]のルーン"について教えて欲しいって?』 -


   - アニー『…ふっふっふ…良いわ、教えたげる、あっちの方に"イタ飯屋"はあるでしょ?そこ行ってみな』 -


   - アニー『そこに[解放]のルーンに詳しい女が居るのよ、…ついでに[活力]にも』 -


   - アニー『案内料は高くつくけど、その女にしか案内できないから、んじゃ!そういうことで~♪』 -











  ブルー「 お 前 じ ゃ な い か !!ふざけるな!!!」机ダンッ!!



空になったコップを半ば叩き付けるように怒りと共に机を叩く



早速そのイタ飯屋に脚を運んでみればどうだ?シップ発着場で別れた女が何喰わん顔で店前で壁に寄りかかって
彼が来るのを待っていた、別れ15分も経たない再会であった

しかも開口一番にこう言ったのだ



   - アニー『よく来たわね、待ってたわよ?解放のルーンは刑務所のリージョン[ディスペア]にあるわ』 -

   - アニー『そ!アタシがその案内人の女ってワケ!んで案内にはとーぜんお金が要るわ、これも商売なんで♪』 -


ちろっと舌を出して、監獄に潜入するには定期的に行われる電気系統の修理点検や配管工に扮して入る他ない事

それをやるには彼女…アニーの協力が必要不可避という事を知らされたのであった



 ぴしっ、叩きつけた衝撃で元から欠けてたが安っぽい瀬戸物に罅が入る…

ブルーは額に手をやり深くため息を吐いた、これはいけないカルシムと糖分が絶望的に足りない


旅立ちから僅か2日で資金難に陥るなど誰に想像できようモノか



 無駄な出費が出そうになった所で冷静になろうと努める、如何せん彼は冷静さを象徴する色を名に持ちながら
直情的な一面がある……というよりも神経質な所があるのだ


今まで国家の誇る優等生として学院に大事に育てられた温室育ちのお坊ちゃんだったのも加味しているのだろうな




豪華客船のチケット代とバイキングディナーの料金…それに加えて[ディスペア]への潜入費用
 家族を養うべくお金が必要なアニーへの支払金は今のブルーの手持ちでは…"ギリギリ足りない"


いや、頑張ればどうにかできそうではあるが、その日から路上ホームレス生活まっしぐらである














           ブルー「…金を稼ぐ方法…そんなの俺は知らんぞ…どうすりゃいいんだ…」











そうなのだ、ブルーは"温室育ち"なのだ


両親がいない、物心ついたころから国家の保護施設に居て、『親』である御国の為に奉仕する、それがブルーだった

周りの学友の中には街でアルバイトというモノをやっていたのをブルーは聞いた事があった


自分でお小遣いを溜めて欲しいモノを買ったり、友達と遊んだり……だがブルーにはそれが無い

 欲しいモノなど無いし、特別仲の良い友人と呼べる間柄の人物も居なかった、青春の大半は術士としての学に励んだ
修行の日々、魔術の学問を追い求める、それだけ



ある意味で欲の無い男だった。



そして、『普通の人』とは明らかにズレていた、世間を全く知らない、善くも悪くも俗世に疎かった






  天才であると同時に努力家でもあった、…だが融通が利かない

   なんでも知ってるようで、本当はなんにもわかっちゃいない…"世間の一般的な事"を何一つ分かっちゃいない


  22歳になって金銭を稼ぐ方法をまったく分からない…そんな現実に天才は打ちのめされた



途方に暮れる、と言った所だ

頭抱えて少しの間一考するも、濁り模様の思惑に光明が射すことはなかった




ブルー(…考えても仕方あるまい、今できる事をせねば)




今できること、修得可能な術の資質を手にすること…即ち陰陽のどちらかの資質を取得することだった




太陽の力、光を司る"陽術"

影を、闇の力を操る"陰術"



どちらを取得するかブルーは既に決めていた…宿でチェックアウトを済ませ『<ゲート>』で[ルミナス]へと飛ぶ










もう一度言おう、ブルーはあらかじめ取るべき資質を決めていた

そこまでは良かったのだ…








悪い事や不都合というのはどういうワケか一度起きるとドミノ倒しのように連動するようで…

[ルミナス]に到着したばかりのブルーは…







        ブルー「封鎖中だと!?おい!どういうことだ!!!」


  「お、落ち着いてください!…コホン、お客さん見たところ術士の御方ですよね…なんとも間が悪い」

  「いえ…昨日、このリージョンでちょっとした事件があったらしんですよ」

        ブルー「事件だと?一体なんだというのだ!」





  「それが…昨日の19時近く吊り橋の先、分岐路付近で戦闘行為があったらしいんですよ」

        ブルー「なっ!?修行者の聖地[ルミナス]で戦闘行為だと!?どこの馬鹿だ!」




おずおずと答える職員の口から告げられた事実にブルーは激昂する
 術士にとっての聖地と言っても過言でないこの地は…ルミナパレスとオーンブル以外は非戦闘区域と指定されている
にも関わらず戦闘を行うなどよっぽど非常識な輩に違いない、もし会おうものなら殴りつけてやりたいと思った



…ちなみ、その非常識な輩は今、緑髪の半妖少女、頭に花飾り乗っけた妖魔、金髪美女と軍事基地に居る



「詳しい詳細は不明ですが…妖魔が関わっているとかで…今、IRPOの方にも捜査してもらっているのですが…」



そこまで言って職員は首を横の振る…



「誠に申し訳ございませんが、お客様の安全の為です…テロの可能性もありますので…当面の間は陰術も陽術も…」



ブルー「~っ!くそっ!!」






術さえ使えば[ルミナス]にはいつだって飛べる、それは分かるがこれは何とも間が悪い話だ…


結局ブルーは[クーロン]に戻って銭を稼ぐ方法を調べるか、他のルーンを探す旅に出るかしかない訳だ









クレイジーなIRPO隊員「はぁ~…ったく、なーんもわかんねぇ、か」

無口な妖魔のIRPO隊員「………」

クレイジーなIRPO隊員「あぁん?なんだって……マジか、妖魔の君絡みか…めんどくせぇ」

クレイジーなIRPO隊員「お前は引き続きこっちの調査やっといてくれ、俺?俺は別件でこれから[マンハッタン]だよ」

クレイジーなIRPO隊員「前々から話に挙がってたろ?ミス・キャンベルの件だ…ちょっくら行ってくるわ」






遠目にIRPOの捜査官と思わしき人物が何やら話し合っているのが見えた、だがそれはブルーには関係の無い出来事である

しばらくしてから来るしかない、ブルーはすぐに『<ゲート>』の術で飛び去った



―――
――


【双子が旅立ってから…2日目 朝7時14分】



弦楽器を背負ったニート「あ"ぁ"~…」ヨロッ

弦楽器を背負ったニート「飲み過ぎたぁ……」



弦楽器を背負ったニート(酒には自信あったんだけどなぁ…ライザ飲み比べ強すぎるぜ)



 [クーロン]の屋台が立ち並ぶ通りで空がぼんやりと明るみだした頃…

 如何にも二日酔いです、といった風の男が1人歩いていた、ぼさぼさの長く伸びた髪に田舎者丸だしな服装
民族風の帽子を頭から落とさないように抑えながら彼は電柱やら建物の壁やらに無許可に張られた広告や求人のチラシに
視線を泳がせていた






弦楽器を背負ったニート(なぁんかエミリアは仕事で今は居ないっていうしなぁ、近場に寄ったから顔見せに来たけど)


弦楽器を背負ったニート(こりゃクーン達についてくべきだったかな…)ポリポリ




弦楽器を背負ったニート(…んと、何々?頭を取り外して笑える人大歓迎…ヌサカーン院…なんのバイトだよ…)チラッ



弦楽器を背負ったニート「…面白そうな事ねぇかな…」スタスタ













弦楽器を背負ったニート「…やっぱ、艦長さんトコにでも行ってみるべきかね」スタスタ













何処か不思議な男だった、飄々としていて、不思議と目を向けたくなる…そんな気にさせる男が歩いていた

 田舎から就職の為に上京してきたが、未だ職にありつけないでいる彼は
ひょんなことから出逢ったとあるリージョンシップの艦長の事を思い出した


自分の父親の知り合いらしい女性、そしてあまりにも無唐無稽な話を語り出した反トリニティの旗を掲げるリージョンの人






―――そこまで考えて彼は首を振った







弦楽器を背負ったニート「これからどーすっかなぁ…―――」




両腕を組んで後頭部に当てながらブラブラと街中を歩いていた彼は妙な気配を感じた

妙な、としか言いようがない、風も何も無い室内で木の葉が風に舞っている、そんな矛盾した感覚

彼はその方角へ目を向けるすると…




   ブルー「…いっそのこと先に[勝利]のルーンを探すべきか…」ブツブツ



何も無い空間から1人の人間が音も無く現れた、それをみて彼は思った『面白いモノを見つけた』と




弦楽器を背負ったニート「なぁ!!!そこのアンタ!!」キラキラ!


ブルー「!?!?」ビクゥ!!




 朝っぱらから大音量の音声がブルーの鼓膜に直撃する、考え事をして足元を見ながら歩いていたのも相まって
その大声は効果抜群だった、術士が無駄に肺活量の高い人物の方を振り向くと




弦楽器を背負ったニート「今のスゲーな!どんな手品だ!?あっ!その恰好…はは~ん分かったぞ術士だろ~!」ニヤニヤ


ブルー「…」










ブルー(なんなんだこの男は)



変なの目をつけられた、瞬時に悟った彼は『すいません、先を急ぐ身なので』と逃げる様に立ち去ろうとするが…





弦楽器を背負ったニート「~♪」テクテク

ブルー「…」テクテク





ブルー( な ぜ つ い て く る !! )



ブルー「あの、僕に何か用ですか?」クルッ

弦楽器を背負ったニート「ん?別に俺はあっちの方角に用事があるだけだぜ」




ブルー「そうですか…」

弦楽器を背負ったニート「おう!ところでアンタさ!」





1つ、失敗を犯した

此処で振り返ってこの男に声を掛けた、そのまま無視して相手が諦めるまで歩けば良いものの…

ブルーはこの男に『会話を切り出させる機会を与えてしまった』のだ




      成績優秀で融通が利かない世間知らずの天才

      田舎からやってきた無職<ニート>…なのだが、世間を巧く乗れる男



アニーに続く後の腐れ縁その2との出会いだった





弦楽器を背負ったニート「その法衣、[マジックキングダム]の人だろ?俺、前に観光に行ったからよくわかるんだ~」


ブルー「…そうですが何か?」



好奇の目に晒されるのは好かない、見世物小屋の珍獣じゃないんだぞ、と苛立ちが滲みだしそうなブルーは
さっさと会話を切り上げてしまいたかった





この返答はミステイクだった





弦楽器を背負ったニート「ふぅん…やっぱそうか~[ルミナス]とも[ドゥヴァン]とも違うからそう思ったんだよな~」

























弦楽器を背負ったニート「あの国ってさ、国民は他所のリージョンへ外出が禁止されてんだろう?アンタ何者なんだい?」

                    ブルー「!」ハッ!





[マジックキングダム]は国の最高機関である"学院"が定めた者以外、リージョン界の外遊を許可されない
ブルーの返答はこの男の興味心を更に掻き立てる返答だったのだ







ブルー「…貴様」ジロッ




空気が変わった、眉間に皺を寄せ不機嫌を露わにするブルーに動じない男は呑気な声調で
「おいおい、そんな怖い顔しなさんなって、単なる興味本位さ」と笑うのだ




怖いモノを知らないのか、それともこの男が大物なのか、その態度が彼は気に喰わなかった




だから…ちょっと脅してやろう、と彼は考えた、無論この鬱陶しい男を遠ざけたいのもあった


ブルー「…故郷のちょっとした風習でな、俺は外界でより高度な術を学ぶために資質を得る旅をしている」


弦楽器を背負ったニート「へぇ~、それにしても『俺』かぁ、なんとなく思ったけどやっぱ猫被りだったんだなアンタ!」


ブルー「」イラッ


へらへらと笑いながら横を歩く男にムッとしながらも話しを続ける

ブルー「己の術を磨き、どこまでも洗練しそして…」




弦楽器を背負ったニート「そして?」ワクワク










          ブルー「故郷の慣例に従って、自分の身内を殺す」









御伽噺に出て来る魔女か何かだ、口元を歪めて悪い魔女が魅せる様な笑みを浮かべる

彼の予想通りとでも言うべきか、目の前のボサボサ髪の男は面食らったような顔で立ち尽くした




ブルー「国の習わしで、双子が生まれた場合…片割れがもう片方を殺すという風習なんだ」

ブルー「分かったか?血が繋がった相手を殺すという宿命なんだお前に構ってる暇なん「アンタ双子なのか!すげー!」





ブルー「……は?」




弦楽器を背負ったニート「いやぁ~俺んトコの地元にも双子が居るんだけどさぁ、双子って珍しいからなァ」

弦楽器を背負ったニート「それにしても双子同士で争うって物騒だな、もっと平和的に解すりゃいいのに」






ブルー(…な、なんなんだこの男は!!)




頭痛がしてきた、自分からこの話題を振っといてなんだが、このノリは何だ!?


弦楽器を背負ったニート「宿命の対決かぁ…あっ、そういや俺まだ名前言ってなかったな俺、リュートってんだ!」

リュート「兄ちゃんアンタは」





ブルー「……なんでお前に名乗らねばならんのだ」


ペースが乱される、艶やかな金髪を鷲掴むように頭を抑え、この―――…鋭いんだか天然ボケなんだかよく分からん男に
目線も合わせずに答える




リュート「えぇー、別に良いだろう減るもんじゃねーしよぉ……なら、そうだな…」ジーッ




ブルー「…」アタマ、イタイ




リュート「よしっ!」グッ



リュート「アンタ蒼い服着てるから、ブルーな! Mr.ブルー!」ニカッ!



ブルー「っ!?」ドッ!




すっ転びかけた、本当にペースが乱される


リュート「んん?どうしたんだ?」


ブルー「…いや何でもない」


―――
――




リュート「って訳で俺は故郷から就職できる場所を探して旅してるってワケさ!」

ブルー「朝っぱらから酒臭い匂いを漂わせてる奴が言う台詞じゃないがな」




二日酔いのリュートに指摘する、終始調子を狂わされっぱなしの彼は、追い払うことを諦めた…



リュート「それにしてもアンタも銭稼ぐのに困ってんだなぁ」

ブルー「ふん…」



観念したブルーは口数の多い男を話しながら歩いていた、昨日のがめつい女に関する愚痴や[ルミナス]に行ったのに
無駄足だった事…

誰でも良いから胸の内を吐きたかった、追っ払えないなら精々コイツを話し相手ぐらいにしてやろうと開き直ったとも言う




リュート「しっかし、アンタ聞けばとんでもない女にふっかけられたんだな、そんな簡単に用意できないぜ?」

ブルー「ああ、まったくだ…」ハァ…




リュート「俺の知り合いにもお金が好きな女が居るけど…」


ブルー「はっ!そんな奴がこの世に何人も居るなんぞ考えたくも無いことだがな!」




鼻で嗤う金髪の術士は知らない、実は今隣を歩いている男の知り合いの金に目が無い女が同一人物であることを


リュート「…お金、金…カネ…」










リュート「!」(豆電球)ピコンッ!




リュート「なぁ!!さっきの術![ゲート]だっけ?あれって一度行った事ある場所ならどこでも行けるのか?」ガシッ


ブルー「なんだ突然藪から棒に…」



肩を強く掴まれ訝し気に眉を顰めるがそんなの知った事かとリュートは続ける








      リュート「俺とコンビ組まないか?今日一日でアンタを大金持ちにしてやれるぜ!」ニィ!!


                ブルー「…どういうことだ?」







リュート「へっへっへ!なぁに!真面目に働くのも良いことだけどさぁ~、こういうのは財テクってのがあるんだ」


リュート「良いか!兄ちゃんよォ、まずアレを見な」びしっ



ブルー「?」チラッ





         金券ショップ:クーロン店『 金、銀、プラチナ…なんでも買います! 』ドンッ☆






ブルー「…あれがどうかしたか?」


リュート「移動しながら話す!まずはシップ発着場だ!そこから[ネルソン]へ行くんだよ!」ダッ

ブルー「お、おい!待て!まだ俺はお前と組むなんて一言も言ってないぞ!説明しろ!!」ダッ!




―――
――




…これ弦楽器を背負ったニートことリュートとの出会いであり、今現在巨大生物[タンザー]に飲み込まれた発端である

割愛するが、リュートと名乗る青年の提案はこうだった




[ネルソン]というリージョンがあり、そこでは金塊を一つ500クレジットで購入できる…

世界を統括する政治機関…トリニティに属さないリージョンの為、グローバル通貨であるクレジットが手に入らない
つまり他所のリージョンから輸入ができない

そこで観光客に地元の品とクレジットの交換を求めるケースが多いのだ




金塊、金のインゴットが1つ辺り500という価値に対し、此処[クーロン]街における金相場は1000…

早い話が安い所から仕入れて物価の高い土地で売り払う、単純な転売という事だ


[ネルソン]は今説明した通り、少々特殊なリージョンで片道だけでも船の乗り継ぎが必要という手間の掛かる土地だ



船賃と時間、人件費を考えるなら大抵の人は素通りしていく、資産家が一気に買い占めて一気に売り払う
極力、安くないだろう船賃を払って何度も行ったり来たりしない、という前提で漸く利益を取れる




そう…"何度も船賃を払って往復するから収支差益があまり良いモノと呼べない"のだ






なら交通費用が無料<タダ>だったら?余計な経費が無ければその分黒字が増えるのは当然と言えよう


この案に術士は目を丸くした、このちゃらんぽらんなニート…中々面白いことを考えるじゃないか
ブルーはこれに承諾、さっそく船に乗り込み一攫千金目指して船内で身を休める事にした

















 世の中、甘くない

 乗った船が童話のピノキオに登場するオバケ鯨よろしく船を飲み込む怪獣[タンザー]に飲み込まれるアクシデントと遭遇







  ブルー「 ど う し て こ う な っ た !!」

  リュート「いや~、ついてないなぁ!」ハッハッハ!




 巨大生物[タンザー]…あらゆる生物が生存不可能な混沌の海に唯一耐性がある生物であり
その体内は一つのリージョンとも呼ばれていた


がっくりと膝をついて項垂れる金髪術士の隣で何が可笑しいのかお気楽に笑う男、その少し先には他の乗客達が
困惑の色を浮かべ、思い思いに不安を口にしていた


「ここは何処だ!」
「ひょっとして[タンザー]とか言うのに飲み込まれちゃったの!?」

「嘘だろ…俺は船乗りたちのホラ話だと…」









緑の獣っ子「あれ~?…ねぇメイレン、僕達[ヨークランド]に行く予定じゃなかったの?ここが[ヨークランド]?」

チャイナドレスの美女「違うわ…此処は[タンザー]よ…予定と違ったけど此処にも"指輪"があるわ」







リュート「ん?あれは―――…」

ブルー「…いや、こういう時こそ[ゲート]で脱出すれば」ブツブツ…







   「おらおら!!全員動くんじゃあねぇぞ!船から積み荷を降ろせぇ!」
   「へっへっへ…久々のシップだぜ…酒や食料はたーんとあるだろうなァ」



見るからに柄の悪い…ヨレヨレの服を着た男達、恐らく"不幸にもタンザー]の先住民となってしまった輩"なのだろう


   「このバケモンに飲み込まれてから俺達の食糧も底をつきかけてたんだ…天は俺達を見捨ててねぇぜ!」へへっ

   「オラァ!ハチの巣にされたくなけれりゃ全員荷物を寄こしなァ!ついでに金目のモンもだーーーっ!」ズドドド




リュート「おい、ブルー、いつまでもそうやってぶつくさ言ってる場合じゃないぜ?」ポンポン

<ヤメロー
<逆らう気か!?この獣!


ブルー「そうだ、此処にはアニーから聴いた話だと[活力のルーン]があるはずだ、ならば不運なんかじゃ――」ガバッ!

ブルー「…?なんだあの連中は」


<ほー、アンタら強いね


リュート「此処の先住民じゃないか、…ってかお前今アニ「ちょっと待ったぁ!」



     ザワザワ…

              …誰?


弁髪の男「その女についていってはならん!」



弁髪の男「その女は悪名高いリージョン強盗団のノーマッドだ!」


「強盗!?」
「マジ!?」
「いい女だ…」ポーッ


ノーマッド「ああ、そうさ、あたしゃ外じゃそれなりに悪さしまくったさ」

ノーマッド「言い訳する気はさらさらないけど、どうすんだい?ちんたらしてたら[タンザー]の奥まで飲まれちまう」

ノーマッド「あたしについてくも良し、そのハゲ頭についてくのも良しさね」





弁髪の男「ハゲではないッ!!」




ノーマッド「ふんっ!」シュタッ!



ざわざわ…がやがや…



リュート「ほへ~…なんか俺らが喋ってる間に色んな事が起きてんな~…ってブルー?」チラッ











ブルー「…」スタスタ




リュート「あっ!?おい!勝手に独りで何処行く気だよ」トテトテ…!




ブルー「ふん、外野共が何をしようが知ったことか、俺は此処でルーンを見つけてあとは[ゲート]で出て行く」スタスタ



先の喧騒…弁髪の男と此処に呑まれたらしい強盗の女首領との小競り合いだの、なんだのは微塵も興味が無い
 自分の目的をとっとと達成して此処を出て行くだけである…[ネルソン]の金塊の売買に関しては何でもリュートに
コネの効く人物がいるらしい、リュートくらいは連れてってやろう、彼はそう言いて他の群衆とは違う道を―――


2人で[タンザー]奥へと歩いていくのであった





そして―――今現在




         リュート「いやぁ~良かったじゃんか!探してたルーンが手に入ったんだろう?」






                       ブルー「…」




   リュート「しっかし凄かったなぁ!…あの術、[ヴァーミリオンサンズ]だっけ?」


 時折…足元にある無数の網目模様じみた緑色の血管が脈を打っていた
それは偏にこの巨大生物[タンザー]がちゃんと生きている証拠であり、ぶよぶよとした毒々しい肉の壁も
天井から垂れ下がった人間<ヒューマン>の肝臓に似た何かも規則的に動いていた


生物の体内に居るというのは本能的に居心地が悪い



今居る所が身体の部位で言うところの胃、消化器官にあたるのならば尚更であった




術士ブルー、放浪の詩人…もとい就活中の男リュートは[タンザー]内部の最深部へと脚を踏み入れた

磯巾着のような触手蠢く入口に自ら飛び込み別の区画に移動する事もあった、胃液の様な粘液で滑る下り坂も降りて行った
そうして、到達したのが通称"スライムプール"と呼ばれる場所だ


…尤も、この二人は此処に詳しかった先程の弁髪の男…フェイオンという名なのだが、その男を無視して手探りで来たから
そのような名称で呼ばれている事など露知らずなのだが



胃の消化液の代わりをしているのかどうかは分からない、だが此処に誤って入り込んだ者は
無尽蔵に湧いてくるゲル状モンスター[スライム]の群れに囲まれ四方八方から[溶解液]を噴きかけられて溶かされるだろう






 - アニー『―――ってわけよ、ヤバかったわマジで…全体攻撃無いとキツイわよ[活力のルーン]…』ハァ -





 ブルー(…早速情報が役に立ったか)





ブルーは予め此処に一度来た経験のある人物から覚えている限りの道順と対策を聞いていた
だから、弁髪の男達を無視して勝手に此処まで来れたのだ

そうでなければ、何の手がかりも無しでルーンを探すなどと言う無策には走らない


以前、此処に来たというアニーは自身含めた3人組で、剣、銃、拳で無限湧きの[大スライム]に苦戦したそうな





 複数の[大スライム]とその後ろに更に一際大きい[特大スライム]…それ等は
自分達に生を与えてくれる大事な物を護っていた

キラキラと輝く結晶体、水晶玉にも見えるその中に刻まれた"活力"を意味するルーン文字を




リュート「真っ赤なデケェ宝石が出てきて、バーン!って割れて皆ぶっ飛ばしちまうんだもんなぁ~」

リュート「俺も覚えらんないか?あれが出来たらスゲーだろうしよぉ」



ブルー「貴様には無理だ、あれは【魔術の"資質"】を持った者だけが扱える高位の術だ」

ブルー「魔術の"資質"は[マジックキングダム]で生まれた人間にしか授かる事ができん、諦めろ」




 単細胞生物の群れを昨日の粗蟲共と同じく、自身が使える最大火力で消し飛ばし
粘液のプールから新たな生命を持って再誕する前に手早くルーンが刻まれた結晶体に[触れる]…これで手持ちの小石に
2つ目のルーンが刻まれた[保護]と[活力]…



 後は[解放]と[勝利]だけだ…それでブルーは【印術の"資質"】を会得できる…っ!
祖国の勅令に、育ての親への奉公がまた一歩出来る訳だ




ブルー「ふん…、用が済んだならこんなとこに長居は無用だ、リュート掴まれ、此処を出るぞ」つ【リージョン移動】




ブルー(身体中がベトベトだ……くそっ!一度シャワーを浴びたいくらいだ)チッ



リュート「おう、今行く…ぜ?」


ブルー「どうした!さっさとしろ!」

リュート「…なぁ、ブルー、アンタ「なんだ歯切れが悪い、さっさと言え」



リュート「んー、まぁいいや、アンタ早く出たそうだし後で言うよ」スタスタ



コイツは何を言ってるんだ?身体中、粘液塗れでどろどろのぬとぬと状態の術士が少しだけムッとした顔になる
彼は目の前のお気楽者が何を言いたがったのかすぐには察せなかった


舌打ちするくらい、早く帰って湯浴みをしたいと考えていたのも相まったのだろう










リュートが蒼いの術士の足元を凝視していた理由……水溜り(?)を踏みつけたブルーの脚に"そいつ"が這っていた事に






   [タンザー]帰りのお土産「…(´・ω・`)ぶくぶくぶくぶー。」ピトッ ヨジヨジ…







…こうして[ゲート]の術で 2 人 と "1 匹"  が[タンザー]から脱出したのであった











【双子が旅立ってから2日目 朝 10時25分  ブルー[タンザー]脱出】


―――
――

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                オマケ【術士が去った後の[タンザー]】


 【双子が旅立ってから2日目 朝 10時 26分】


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弁髪の男「ハイーーーーッ!!」ヒュッ!ゲシィッ


「ウゲェ!?」ドゴッ

「野郎!―――おぼげぇ!!」ドシャッ!




緑の獣っ子「…ふぅ、フェイオン!大丈夫?」



 [あびせ蹴り]を強盗団の一人にお見舞いした男は背後を狙われていた、凶器を振り下ろされるよりも先に
緑色の影が弁髪の男―――フェイオンを救うべく背後から不意打ちを仕掛けようとした相手の鳩尾目掛けて飛び出した




フェイオン「すまない、クーン助かったよ」


クーン「えへへ!褒められちゃったぁ!」



チャイナドレスの美女「クーン!フェイオン!まだ終わってないわ!和むのは後よ、後!」ジャキッ



ケモ耳と尻尾の生えた緑の子供とフェイオンに声を張り上げながら前方に[アグニCP1]を構え直す
3人は今現在リージョン強盗団の女首領ノーマッドを追っていた

ノーマッドが所有する"指輪"を手に入れる為だ



フェイオン「くっ、しかし…数が多すぎるメイレン!」


メイレン「ええ、雑魚に一々構っている時間は無いわ、そうこうしてる内に彼女は更に奥に逃げてしまう…っ」ギリィ




チャイナドレスを着た紫色の髪を結った美女が儘ならないこの状況に奥歯を噛み締める
このままでは"指輪"に逃げられてしまう、と




               グラッ…!





その矢先だった、突然、[タンザー]が苦しみ出すかのように暴れ出したのだ!


体内に居る彼等彼女等、皆に聴こえる程の唸り声を、…身体全体の細胞が地震災害に遭ったかのように揺れ動き
その場で交戦していたあらゆる者達が思わず、蹲る程の揺れ…






それもその筈だ



[タンザー]の体内、奥部で広範囲に渡る、とんでもない火力の全体魔術をどっかの金髪の蒼法衣の男がぶっ放したのだから








「な、なんだってんだ!今のは!!」

「う、うるせー!俺が知るかよ、んなことより野郎共を」










「てっ、てぇへんだ!てぇへんだぁぁァーーーーーーーーーーーーー!!」ハァハァ…!







「おお!丁度いい所に!お前!加勢し「ばっきゃろぉ!!それどころじゃねぇ!!フェイオンの旦那ァ!後生だ!」バッ






フェイオン「な、なんだ…一体?」

メイレン「気を付けて、私達を油断させる罠かも」ジャコッ!チャキッ!


フェイオン「ま、待ってくれ…相手はあの通り土下座までしてるんだ話くらい聞くんだメイレン」ガシッ

クーン「そうだよ、メイレン!鉄砲を下ろしてあげて」



メイレン「…引鉄は引かないわ、でも牽制の役目はさせてもらうから」



フェイオン「…昔からそうだった、こうなると君は梃子でも動かないからな、分かった」




フェイオン「すまない、そのままの状態で話してくれ!何があった!」





「い、今の揺れで…お頭が!お頭が[タンザー]に喰われちまったんだ!」

「な、なんだってーーー!?」
「お頭がァ!?」


フェイオン「何!?ノーマッドの奴が!?」

メイレン「!?!?!?"指輪"がっ!?」


クーン「??? 何言ってるの?ボク達は[タンザー]に飲まれてるでしょ?」



「い、いやそういう意味じゃなくてよぉ…なんか[タンザー]の器官だか何だか、にウチのお頭が喰われかけてて…」

「あぁ!!んなこたぁどうでもいい!頼む!フェイオンの旦那ぁ、俺達じゃどうにもできねぇ!お頭を!!」


フェイオン「うむ!例え悪党だろうと善人だろうと関係ない!あんな奴でも助けねば!」

メイレン「ええっ!指輪を手に入れなくちゃ!」

クーン「ああ!待ってよぉ~!」

~ オマケ1 完~ 
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 その日は、一際暑い一日だった


 東風が熱を帯びた身で忙しなく巡る人々の肌を焼く、日傘をさして歩く者も在らば麦わら帽子を被る者
 露店で売られている飲料を透き通るグラスに一杯注ぎ氷をひとつまみ入れる
 額に浮き出る玉汗をハンカチで拭いながらも聖堂へ脚を運び、修士として勤行に励む者のあらば
 快晴からのさして嬉しくも無い贈り物に根をあげ、ポプラ並木の木陰で涼を取る住民…



 暑い中、二人のよく似た少年…整った顔立ちと長く伸びた髪から少女にも見えたかもしれない





 蒼を身に纏った金髪と、紅を身に纏った銀髪が石畳の広場を歩く







    【わぁ!見てよ!広場に青いシートが敷いてあるよ!キミの服と同じ色だね!!】
    『…何の変哲も無いブルーシートだろ、大袈裟な…』


    【えへへ~!僕はお外で遊ぶ事ってあんまりないから色んな物が珍しいんだ】
    『そうか、…どうやらアレは露店のようだな、縁日にはまだ早いが他所のリージョンから来たようだ』


    【他所のリージョン!?凄い凄い!見てみよう!】
    『お、おい!引っ張るな!』



    「いらっしゃい!色んな品があるよ!」



    【わぁ…これ何ですか!】

    「それはおもちゃのピストルだよ、空気しか出せないけど恰好良いだろ?」

    『…ふむ、[ワカツ]剣道?…面白い本だな』

    「ほー、キミ[ワカツ]流の剣術に興味があるのかい?いやー[シュライク]書店から買った甲斐があったね」



    【? 露店のおじさん、この本は?】ペラペラ


    「あー、それは―――!?」





    【…?なんでこの女の人達みんな服脱いでるんだろう?】キョトン


    【ねぇキミ、なんでこの人暑いの?】スッ


    『……なんだ、この本、文字が全く書かれていない上に下品な女達の絵だけ…』ペラペラ


    『無意味な本だな』ポイッ




    「あ、あー、キミたちこれは見なかったことにしてくれ!なっ!」アセアセ

          【『???』】


―――
――

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―――って、ってば、ねぇ!ルージュ! 起きて!!そろそろ到着するよ!!























              ルージュ「…むにゃ?」パチッ













アセルス「はぁ~、漸く起きた…確かに[ラムダ基地]でのドタバタで疲れたけど、油断し過ぎだよ」

アセルス「また荷物盗まれるよ?」



ルージュ「…あー、ごめん、なんか小さい頃の夢見てた…」ゴシゴシ


白薔薇「夢ですか?」



ルージュ「うん、夢だから顔がぼんやりとしか思い出せないけど…昔、仲の良い友達と遊んだ夢…」ふわぁ…







エミリア「3人とも![クーロン]行きのチケットどうにか手に入ったわ!」タッタッタ…!










【双子が旅立ってから2日目 朝 11時17分  [マンハッタン]:ショッピングモール】




 都市型リージョン[マンハッタン]…リージョン界を統括する政治機関"トリニティ"の御膝元であり
また最先端科学の髄は此処に在りとさえ言わしめる程に発展している


貿易センタービルが立ち並ぶ大都会の中央にはトリニティの"セントラルゲート"が聳えている
 今現在、彼等はショッピングモールの真ん中で別行動を取ったエミリアを待っていた



白薔薇(人がたくさん居ますわね…)キョロキョロ



[ファシナトゥール]から数百年余りは他所のリージョンに出た事が無い妖魔の姫君は現代の発展に目を丸くしていた

 何処もかしこもも、人、人、人…居眠りをしていたルージュとアセルス等と共に待つ傍ら、摩天楼を一頻りに眺めては
ある一点に目を向けた





白薔薇(…?あの塔、…いえ、"ビル"というのでしたね、妖魔の気配がしますが…)





妖魔は機械音痴の種族、それもあってこのリージョンでは妖魔は特に珍しい
…従って、"何故か大勢の妖魔が集まっている"場所が嫌でも目に付くのだ






後に、とある出来事が切欠で昇る事になるビル…"キャンベル貿易ビル"である




ルージュ「すいません、僕達の分のチケットまで確保して頂いて」


エミリア「いいーの!いいの!ヤルートの件を手伝ってくれたお礼も兼ねてるから」


 パチッとウインク一つ、金髪美女は朗らかな笑みで返してくれる…あの後、結局ヤルートには逃げられ
エミリアも追っていた仮面の男ジョーカーに関する情報は得られず終いに終わった


唯一の救い、とでも言えば良いのか…捜査中にアセルスの知り合い…ゾズマに出逢い
『モンスターを侵入させて基地を混乱させたんだから責任ぐらい取ってよね!!』と強気に出たアセルスが
拉致監禁された女性たちの身柄保護、そして基地から脱走の手助けをゾズマ率いる部下の妖魔達に手伝わせた事ぐらいだ






…どうでもいい話だが、最初ゾズマの恰好を見たエミリアは黄色い悲鳴をあげて銃をフルオート射撃しそうになったそうな


女装男子に続き、上半身裸で乳首に星型ニップレスという色黒イケメンという時代を先取りしたファッションの妖魔と遭遇



なんというか、その後もどっと疲れた様子で「ばかやろー…」と力無く嘆く姿が物悲しかった





ルージュ「ほんっとうにすいません!!」ペコッ ペコッ

アセルス「私からも本当にごめん!私のトコの変態が!」ペコッ ペコッ



エミリア「い、いや!良いから!二人共顔上げて!周りの人の目線が痛い!?」





      エミリア「白薔薇ちゃん!この二人をどうにか…ってあれ?白薔薇ちゃんは?」








ピタッ、助けを求めだしたエミリアのその一言が"皮肉"にも目の前の二人を止めた




周りはこれでもかと言わんがばかりの人混み、その雑踏溢れる賑わいの中に花飾りの貴婦人の姿は―――無い





アセルス「し、しろばらぁぁぁぁぁ!!!」

ルージュ「白薔薇さんがいなくなったぁ!」ガーン!?






…妖魔は機械音痴の種族である、そして浮世離れした妖魔の姫君は絶賛、機械仕掛けの摩天楼で迷子となっていた


―――
――





白薔薇「」ポツーン


白薔薇「こ、此処は一体どこなのでしょうか…」オロオロ







Tシャツに鉢巻姿の酔っ払い「…んで、次は何処行くんだ?」テクテク



記憶喪失のロボット「レオナルド博士にメモリを増やして頂きました」

記憶喪失のロボット「その点を踏まえ次は[シュライク]、その次に[シンロウ]へ行く事を推奨します」


Tシャツに鉢巻姿の酔っ払い「なら次は[シュライク]だな…っと」

記憶喪失のロボット「どうされましたか?」


Tシャツに鉢巻姿の酔っ払い「…いや、派手な格好だなって、あんまジロジロ見るのも悪ぃな、行くぜ!」

記憶喪失のロボット「はい」




白薔薇姫の姿はこの通り傍から見て目立つ、おとなしくしていればすぐに3人に見つかるのだが
 見慣れぬ環境…[ファシナトゥール]ではまずお目に掛かれないメカの存在が彼女を"じっと"はさせなかった

人は自分にとって慣れぬ物、理解できない物を見ると興味を示すか、訳も無く畏れてそれから遠ざかろうとする心理が働く


彼女が前者か後者か、どちらの心理が働いたのかは分からないが、その場でとどまるという事はさせなかった








クレイジーなIRPO隊員「さぁ~て…キャンベル社長のトコに行く前にちと早いがちょっくら昼飯にでも―――」スタスタ












白薔薇「」オロオロ



クレイジーなIRPO隊員(なんだぁ?ありゃぁ…映画の撮影か何かか?)




 近未来都市の摩天楼に一人の貴婦人が居る、通りがかりの男はその麗しの美人をマジマジと見つめていた
ブロードウェイのミュージカルシアターから舞台衣装のまま女優さんが逃げ出して来たのか、と通行人なら皆が思う

 男は全身黒づくめ、靴もジーンズもダークカラーで統一していて襟元に毛皮が付いた革ジャケットを羽織り
裾口から先の手首もこれまた真っ黒なグローブという服装だった

唯一、暖色が見えるとすれば、襟元の毛皮と紅いネクタイ…そして外側が少しはねたショートヘアのくすんだ金髪だ



ポケットに手を突っ込み、先程まで煙草をふかしながら歩いていた彼は遠目に見える"問題の企業"を目指していた

職業柄、いつも手帳と何処のリージョンでも使用可能なタブレット端末…そして、腰ベルトの背には銃が備わっている






彼は[IRPO]隊員だ



I…inter<インター>

R…region<リージョン>

P…patrol<パトロール>

O…organization<オーガニゼーション>






即ち…混沌の海に浮かぶ無数の惑星<リージョン>を跨いで、日々犯罪者を追い続けるリージョン警察である


 今日、彼は[IRPO]本部から[ルミナス]で起きた戦闘騒動の調査後
すぐに此処[マンハッタン]にある、とある企業を捜査する手筈だった、吸い殻をポイ捨てしたいトコだったが
 仮にも市民のみなさんを護るお巡りさんがそれをやると苦情が来るから面倒臭がりの性格である彼は渋々と
最寄りのコンビニによって煙草の吸殻を捨て、仕事前にお気に入りのファーストフード店にでも入ろうかとした矢先だった



クレイジーなIRPO隊員「…あー、そこの麗しいお嬢さん、何かお困りですかな?」ニッコリ


白薔薇「?」キョトン



紳士スタイルで美女に接する下心丸出しな隊員Hさん



クレイジーなIRPO隊員「あぁ、失礼、私はこういう者でしてね」ピラッ


黒ジャケットの男はそういうと腕に[IRPO]の正式隊員であることを証明する腕章を見せる、これに白薔薇はしばし戸惑った




彼女は外界を、世間一般の常識を知らない

無知という訳ではない、数百年あまりの悠久の時を鎖国状態のリージョンで過ごしたからだ



稀に[ファシナトゥール]にIRPO隊員が来る事があってもその腕章が何を意味するのか、知らぬのだ



白薔薇(…!そうですわ!アセルス様が教えてくださいましたわ、これは確かパトロールの御方の!)ハッ!


白薔薇「刑事さん、でよろしいのですね?」


クレイジーなIRPO隊員「ええ!そうです!見たところお困りのようですが、何かありましたか?」



男は大袈裟に両腕を広げておどけてみせる、芝居じみたその仕草に緊張が解けたのか白薔薇も小さく笑い
仲間とはぐれてしまった事を告げた



クレイジーなIRPO隊員「なるほど、…お仲間さんのお名前は?」スッ



情報端末を取り出す、全パトロール隊員に配布されたタブレットは各リージョンの住人は無論、シップ発着場から
下船したお客の情報も問い合わすこともできる

パスポートの偽装、違法シップの運用を想定してだ

パトロール隊員はあらゆる権限を持たされており、隊員1人の権限で企業、店舗の営業停止から突然の立ち入り捜査まで
許可されている……簡単に言えば、この広いリージョン界でほぼ何でもできる権力を持っている


 それゆえに権限の悪用や、"収拾がつかない状態"にならぬようにと、隊員は増やし過ぎず…それでいて
人格面、能力全てが厳選されている





余談だが隊員は全部で な ん と "6 名" …いや、1人殺害された、とのことで5名である


数多の惑星<リージョン>に対してたった5~6名ほどしか任命されない、逆に言えばそれだけ権限を持った者達なのだ





白薔薇「…その機械は?」


クレイジーなIRPO隊員「ん?ああ、これは発着場から来た人達を調べる機械でしてね」

クレイジーなIRPO隊員「あぁ…妖魔の方ですか、通りでお美しいと思いましたよ」ピッピッ


人助けの為であって悪用する訳じゃないのでご安心を、と笑う男に白薔薇はどう答えるべきか困った








[ラムダ基地]から船を奪ってなんとか逃げ出して来た自分達をどう説明する?

もっと言ったら、12年前に行方不明となったアセルスの名前なんて出せるかッ!面倒な事になるに決まってるッッ!



 しばしの戸惑い、その一考に革ジャケットの男は少しだけ眉を顰めた、名前を言うのに何を躊躇う必要がある?
腐っても厳選される程には有能な刑事さんのようだ







   白薔薇「私のお連れの方なのですが…その"ルージュ"という殿方なのです」


クレイジーなIRPO隊員「ほー、ルージュ…フランス語で赤ですか」ピッピッ





クレイジーなIRPO隊員「………」ピッピッ




クレイジーなIRPO隊員「お嬢さん、お間違いはありませんかね…?ウチの機械に、"ルージュって名前が出ない"ですがね」







空気が変わった。









白薔薇「それもその筈ですわ」

クレイジーなIRPO隊員「はぃ?」



白薔薇「その御方は術士の方なのです、昨日[ルミナス]で出会い術の修行の旅にお付き合いすることになりまして」

白薔薇「ルージュさんは[ゲート]という術でリージョン間を移動できるのでして」

白薔薇「私達はシップに乗ってきたわけではないのです…だからどうご説明すればよいのか迷いました」



クレイジーなIRPO隊員「…」



男は下顎に手を当て考えた、なるほど、それなら入国…もといリージョン入りしても記録に残らない訳だ
術による移動事態はトリニティの制定した法律上、違法でも何でもない

名前を端末で検索しても情報が無いから徒労に終わる、彼女が名前を出すのに躊躇ったのも全て辻褄が合う









   クレイジーなIRPO隊員(俺の勘が告げてやがる…どうもそれだけじゃねぇな…それに[ルミナス]から来ただと?)


   クレイジーなIRPO隊員「なら此処は一つ、元来た道を戻ってみるってのはどうかな?」


   クレイジーなIRPO隊員「お連れさんとはぐれたんなら、向こうも探してるだろうし…可能性が高いと思うぜ?」






クレイジーなIRPO隊員「自己紹介が遅れたが、俺はヒューズって言うんだ、麗しのお嬢さんお名前をお伺いしましょうか」



ニィ、と男は…ヒューズは笑う、…コードネーム、一度キレたら手の付けられない男<クレイジー・ヒューズ>

本名ロスター捜査官の通称だ



白薔薇「白薔薇と申します」ペコリ



ヒューズ「白薔薇さん…う~ん、なんとも可憐なお名前だ、おっと途中から敬語じゃなくなってるがすいませんね」

ヒューズ「俺はどうにも敬語って奴ぁ苦手でしてね、教養の無さは多めに見てくださいよ、っと」



へへっ、と笑うヒューズ、ふふっと笑う白薔薇…



 掴みは上々、綺麗な女性に良い男アピールができたヒューズは此処でもう一押し
紳士的にエスコートして差し上げようと手を差し伸べる




うんうん、これも警察として当たり前の事だ、なーーんにも下心なんて無いモンねー、と内心で呟きながら




































   アセルス「この痴漢めぇぇ!!白薔薇から離れろおぉぉぉぉ!!」ゴスッ!!!!

   ヒューズ「へっぶぁぁぁぁっ!?」ボキャァ!!





鼻の下が思いっ切り伸びまくっていたお巡りさんに清々しい程に右ストレートが決まった





アセルス「このっ!このっ!このぉ!!!白薔薇逃げて!!」


白薔薇「あ、あのぉ…アセルス様」オロオロ


ヒューズ「ひでぶっ!?おい、おま――ちょ、やめ、あっぶぅ!?」












  ヒューズ「 や め ろ っって ん だ ろ が ッ!!こ の コ ギ ャ ル が ぁぁぁ!!」クワッ


   アセルス「きゃあああああああぁぁぁぁ!?!?」







ルージュ「白薔薇さんっ!やっと見つけ―――…えっとこれはどういう状況?」


<キャー!ヘンタイー!

<ウルセー!!



白薔薇「…何から説明すればいいのか」



―――
――





アセルス「ごめんなさい!ごめんなさいっ!」

ヒューズ「…あぁ、俺も悪かったわ」ポリポリ



アセルス「白薔薇を保護してくれてた人に、あんな早とちりを……」



どうにも白薔薇絡みになるとアセルスは冷静さを欠く傾向があるがある…ルージュは短い間だが一緒に居て分かった
アセルスの事情は知ってるし[ファシナトゥール]から此処に至るまでに幾度となく支えられてきた謂わば心の支えなのだ






――――もしも…もしも、だ








【白薔薇姫が "何らかの形" でアセルスの元から引き離されてしまったら】きっとアセルスの心は折れてしまうのでは?


そう一抹の不安さえも感じてしまう程に依存している傾向にあるのだ



ヒューズ「ま、お連れさんが見つかって良かったじゃねぇか」


白薔薇「はい」

アセルス「あの…!お礼とお詫びも兼ねて何かできませんか」



自分の早とちりで傷つけてしまった人に出来る限りのお詫びをしようと申し出るアセルスに対して


ヒューズ(血の気が多い娘だが、なんだい良い子じゃねぇか…)


ヒューズ(まだ子供だが後数年すりゃあいい女だな)ウンウン



アセルス「あの…?」


何故か自分を見て頷いた男に疑問符を浮かべる、殴った頬が傷むのだろうか?公務執行妨害とやらで逮捕されるのか?



ヒューズ「んじゃ、ご厚意に甘えて昼飯でも奢ってもらうか!」ニシシッ


ヒューズ「俺の気に入ってるファーストフード店があってな、そこでハンバーガーでも…」














          蒼褪めた、サーッと音が聞こえるくらいにみるみるうちに顔から血の気が引いた









読者諸氏、彼…クレイジー・ヒューズを知る人が居れば彼がどのような人物で過去に何をやったか知っていることだろう



彼の眼は人混みの中にある"一人"を捉えた、向こうはこちらに気づいていなかったのが幸いだ




モノクロ写真のように回りの風景だけは色をなくし、その人物だけは色があった…




リケーネカラーリングのスカートに緑色の上着を羽織り、艶のあるブロンドの髪を靡かせながら歩く見返り美人



[ラムダ基地]で着ていた衣装から本来の私服姿に着替えた"元スーパーモデル"…そして…





 ヒューズが冤罪で証拠も何も無いと知っていながら、キレて裁判もせず刑務所…[ディスペア]送りにした女エミリアだ





ヒューズ「」ダラダラ…


あっ不味い、見つかったら俺間違いなく殺られる、不良警官は思った

 汗が止まらない、なんか見つかったら関節技キメられそうな気がする
…もっと言ったら投げ技を極めた人物にしかできない一人連携技を喰らって頭蓋骨が陥没しそうな気がする



アセルス「ヒューズさん…や、やっぱり私が殴った所が痛かったんじゃ…」




ヒューズ「いや、違うんだ…なんつーか、ちょっと腹が痛くなって…あ、今度会えたら、なっ!お礼そん時で良いから!」

アセルス「えっ、あの、待って!」



ヒューズ「じゃ、じゃあな!!!」ダッッ!!





ルージュ/アセルス/白薔薇「「「…」」」ポカーン





エミリア「此処に居たのね!!白薔薇ちゃんが見つかって良かったわぁ…?どしたの3人共」ハァハァ…


ルージュ「いえ、なんでもないです…」


何がどうしたというのだ?3人共首を傾げるばかりであった…

―――
――



アセルス「白薔薇、今度ははぐれないようにしてね?」

白薔薇「申し訳ありませんでした…」



エミリア「さて、[クーロン]行きの船がもうすぐ出るけど…貴女達…[クーロン]へは何しに行くの?観光とか?」



[シュライク]行きのシップが滑走路から飛び立ち混沌の海へと飛んで行ったのを発着場のカフェレストランの窓際の席から
眺めながらエミリアは尋ねてみた


エミリアは[クーロン]に詳しい、というより詳しくなったという方が正しい…






  エミリア「私の仕事仲間が[クーロン]に居るのよ、それであの街には詳しくてね、観光名所巡りならできるわよ♪」


  ルージュ「仕事仲間、と言いますと、その"グラディウス"…ですっけ?」



法律で裁けない者や解決できない事件を"法に反する手段"を以て解決する組織…ルージュは小声で組織名を口にする




  エミリア「そっ!仕事仲間で…ライザ、それからアニーって気の合う女友達も居て、…後、女心の分からない上司も」




アセルス(うわぁぁ…エミリアさん、すっごく嫌そうな顔…)



 緑髪の半妖少女は目の前の綺麗なお姉さんがご機嫌から不機嫌に一変するのを垣間見た

基地から脱出の際、サングラスを掛けた彼女の上司に睡眠薬を盛られて寝てる隙に人攫いに自分を売り飛ばさせて
あの悪趣味なハーレムへ潜入させたという話は半ば愚痴のような形で聴かされはしたが…


 アセルスは自分達の目的を話す、という名目で話題を変えた方が良さそうだなーと
フォークに刺したハムエッグを口に運びながら考えた


ルージュ「僕は術の資質集めの旅を続けていて、リージョン界を廻る旅をしてます」

ルージュ「[クーロン]には情報収集のためにも前々行ってみたいとは思ってました」



そんな彼女の考えを察したのか紅き術士が先に口を挟む、


エミリア「…術の資質、ねぇ」んーっ



頬に手を当てて少し考える、それからエミリアは自分のポケットから"あるもの"を手渡したのだ



ルージュ「名刺ですか?」パクッ


ほうれん草とベーコンのキッシュを頬張りながら術士は小さな紙に書かれていた文を黙読する



ルージュ(…お困りごとなら何でも解決!裏組織 グラディウス![クーロン]イタリア料理店、詳しくは店前の女まで!)




ルージュ「あの、これは…?」

エミリア「名刺よ」



ルージュ「いえ、そうではなく…」



裏組織が住所とか堂々と書いた名刺作るなよ…、ツッコミを入れたいと思うのは野暮だろうか
岩塩の塩っ辛さだけがやけに舌に残るキッシュだ、ハズレメニューを頼んだかなと水で口直しをする


エミリア「何かあったらそこを頼ると良いわ、私が居なくても、その名刺さえ見せれば」

エミリア「グラディウスの誰かがちゃんと手を貸してくれるから」



 ウチは術の資質を取りたいって人のために手助けもしてるってアニーから聴いたのよ、お金は取られちゃうけどね
それだけ言うと元モデルはカフェオレのカップに口をつけた








この段階ではまだ誰も知る由もないことである




後にエミリアから貰ったグラディウスの名刺が、 "悪の組織と戦う正義のヒーロー" を幹部のアジトまで導く事になると





白薔薇「そういえばルージュさんは秘術と印術どちらを取得なさるのですか?」


 至極まともな問いが飛んできた、エミリアの友人のアニーさんとやらが術の資質集めを手伝う仕事も請け負っている
それは今聞いたが、問題はそれが『印術』なのか、はたまた『秘術』かだ


パチクリ、それを聞いて再びパニーニを口にした貴婦人を見返した



そうだった…よくよく考えてみたらまだ印術にするか秘術にするか決めてないじゃないか……



エミリア「ルージュ、あなたは希望とかあるの?」

ルージュ「実の所、とくには無くて…」




 ただ双子の兄とは相反するモノでなくてはならない…被ったら早い物勝ちの競争になること必須で、そうなってしまえば
先に相手に取得され、これまでの苦労が水の泡に終わる

そんなリスクだけは極力可能な限り避けたい


第一、ルージュは祖国からの使命にあまり乗り気じゃないのだ…


会った事が無いとは言え、双子の兄弟をこの手で殺めるなどと人道に反する行いだと重々承知している
できることならこのまま修行の旅が終わらなければいい




それこそ[ルミナス]で適当な旅人を見つけて『資質集めの旅をしてるんです!協力して一緒に集めよう』とでも言い
 その後、旅人の背中についてって自分の使命すっぽかして一生終わりの見えない旅をしたって良いとすら思ってる


…思ってはいるけど現実問題そうは行かない


国家反逆罪で追われたくないから、体裁だけでも良いから取り繕うしか無いのだ、少なくとも今現在は



エミリア「…印術は、正直オススメできないわね」


ルージュ「何故ですか」



エミリア「んー、私と仲間二人が印術の試練に挑戦してるのよ、ほら」つ『ルーンの小石』×2


ルージュ「!? "解放"と"活力"のルーン!!凄い!昔、学校の本で見たのと同じだ!」



エミリア「…この二つ、滅茶苦茶厄介な所にあったのよにあったのよ」ハァ…



余程苦々しい思い出なのかエミリアは重いため息を吐く

1つは自分の復讐劇の序幕が上がった場所、2つは気色悪い巨大生物の体内のこれまた気色悪いゲル状モンスターのプール




エミリア「強制じゃないけど…私は秘術にした方が良いんじゃないかって思うのよ」






エミリア「それに、秘術の試練だけど、その内の1つは何をすれば良いのか知ってるわ」



ルージュ「試練の1つを知っている!?」ガタッ


アセルス「わっ!!ルージュ!突然身を乗り出さないでよ!飲み物が零れるでしょ!」



ごめん、と矢継ぎ早にアセルスを制しエミリアに続きを話して欲しいと促す




エミリア「私、ある任務でカジノのバニーガールをやってたのよ!」

ルージュ「……」




ルージュ「は、はぁ…?」



とりあえず、黙って続きを聞く事にした、細かい事は敢えて触れずに


エミリア「そのカジノ…[バカラ]ってリージョンなんだけど、そこの地下に金を集めるのが好きな精霊ノームが居たわ」


エミリア「金よ、金塊!…あの人(?)達はとにかく金が好きで」

エミリア「"たくさん"の金を持って来た人間には快く秘術の試練…アルカナのカード集めの1つ"金のカード"をくれるわ」


ルージュ「た、たくさんの金ですか…」





金塊をたくさん…そんなお金が何処にあるというんだ!!!




ルージュは頭を抱えたくなった、奇しくも今日、全く似たような悩みを双子の兄も抱えたという…









白薔薇「これでは足りませんか?」つ『金』×2




エミリア/ルージュ「「えっ」」


アセルス(あ、[ファシナトゥール]から逃げ出す時に飛ばし屋さんに払った貴金属…そういえばまだあったんだね)





白薔薇「ルージュさん、これでよろしければ…」


ルージュ「い、いやいや!受け取れませんって!」



アセルスと白薔薇は妖魔の王から逃げている最中、安定した衣食住だって保証できない、いつ終わるやも分からぬ逃亡生活

先立つモノが必要になるに決まってる、そんな人から何故これを受け取れようか…




ルージュ「二人共、お金は必要になるでしょう!!そうでなくてもこんな高価な…」



白薔薇「私もアセルス様も命を賭してまで助けて頂いたのは事実です」

白薔薇「であるならば今度は私がアセルス様の分も含めその恩をお返しするのが道理です」



ルージュ「で、でもですね―――」



白薔薇「では、こうしましょう、私は『秘術の資質』を得たいと思っています」

白薔薇「この金はその為に使用するモノであって貴方にはお渡ししません、私が"個人的"にノームへお渡しします」



白薔薇「これで如何でしょうか」



ルージュ「…(唖然)」



アセルス「…」フゥ…


アセルス「『君も術の資質を集めてるのかい?では協力して集めよう』」

アセルス「ルージュ、キミ自身が言った言葉だ、"協力"して集めよう…白薔薇はこうなると退かないんだ」



困ったように笑う緑髪の少女を見て、「参った、降参だ」と手をあげる術士
「アセルス様にこうなると退かないんだ、と申されますとは…」苦笑する貴婦人

これは面白い人達に出逢ったと笑顔でカップを傾ける金髪美女…



まだ100%秘術にするとは決まっていないが
どちらかといえば"アルカナ"のカード集めにするのも良いかなと彼は思い始めていた



昼、12時49分、シップ発着場のカフェレストラン…滑走路から飛び立つ宇宙船<リージョン・シップ>が一望できる窓際の一角は
談笑に包まれる温かな空間だったという…



















           ドォ ォ ォオ オオオオオオオオ オオ オオ オオ   オオ  ン!!!!














――――それは、何の前触れも無く起きた







エミリア「っ!!な、なんなのよ!今の音は!!」



店内、いや、発着場そのものさえ揺れる大きな振動、カップの中身がテーブルの上に零れる

アセルスは傍らに居た白薔薇の手を握り、周りを警戒する…そしてルージュは…!
















ルージュ「! み、みんな、見てくれ!あのビル!! あの一番大きな建物から煙が出てるぞ!!」












「て、て…!!」






「テロだぁーーーーーーーーっ!!!!」



「た、大変だぁぁぁぁ!!!!!」



「う、嘘だろぉ!あの建物は…っ、トリニティの中枢が!セントラルゲートが!!!」


「爆破テロ!?どうなってんだよぉ!!」
「お、落ちつけって!事故か何かかもしんねぇだろ!」




誰が開口一番にそう叫んだか、正午の穏やかな談笑など、いともたやすく消し飛んでしまった

そこかしこから悲鳴があがり、民衆はパニックに陥っていた…


―――
――


                 マム   マム \ / `マム:::::  |l;  /
                     マム    丶マムヽ    マム  マム/|
           \     __マム  冫ヽ\  |\   /|  マム     ボッゴォォォン!!

                 \マムマ≧ムマム、     |\  \   |  > i\
                 \ム \ \マ          ..::::   /;. |  \
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    .|i  |i-三.|i _ニ|i―ニミヽ .|i`ト、..i| `.i|  人__      }   Tヽイ ≧=-
    .|i  |i_.=-.|i ̄ !|i     `ヽ|i` 、...i|i、  |  |i /i|`ト、 _,. ´   / ヘ ヘ
    .|i=-|i   |i   !|i__   !|i>...!i| `i!|  |i' |iヘ  Y ̄`ヽ ̄   ヘ^丶   バッグォォン!!
    .|i  |i_-ニ!|i-ニ .|i ̄ ̄> !|i    |`'守| /` |i  ー'ト  i| ヘ     j
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【双子が旅立ってから2日目 昼 12時49分  [マンハッタン]:セントラルゲート前】



「た、たすけてぇぇぇ!!」



ヒューズ「IRPOの者だ!!一般人はさっさと現場から離れやがれ!!…クソったれッ!!キャンベルどころじゃねぇ!」


ヒューズ「おい!そこのアンタ!車どかすの手伝え!救急車が怪我人運べねぇだろ!」


ヒューズ「…あ"ぁ"ん"!?決まってんだろ壊れてんだから手で押すんだよ馬鹿野郎!!力入れろ!」ググッ!!




<ピーポー! ピーポー!

<ウゥーーー、ウゥーーー!!





「救急隊です!怪我人は!?」

「消火栓にホース運べ!急げ!」


「まだ中に人が居るんだ!お願いだ早く」


「おい!肩貸してくれ!この子両脚が潰れてるんだ!」



「生き残ったのはこれだけか…」

「何がどうなってるんだ…うぐっ」









「あ、嗚呼…! レオナルド博士がまだビルの中に閉じ込められてる!!」

「うっ…、駄目だ…見ろよ、あの爆発をよぉ」

「…博士のラボがある階が粉々に吹っ飛んじまったぁ!!」


「そんな、レオナルド博士が…」








この日、政治機関の中枢で爆破テロが起きるというリージョン界を震撼させる事件が発生した


これによりトリニティ上層部は、テロ実行犯の逃亡阻止、また他のリージョンで何らかの事件が起こる事を危惧し
トリニティ政府に属する全リージョンのシップの運行を丸一日ストップさせるという異例の法令を発した


犠牲者は数え切れず、その人数は裕に数千人規模…!





死亡者リストにはロボット工学の権威、[レオナルド]博士…レオナルド・バナロッティ・エデューソン氏の名前も載った




政府の対応は早かった


爆破テロの実行犯、あるいは支援する組織が他所のリージョンで犯行を犯した際、逃げ場を潰して置くためにも
また、発着場、移動中の船内で爆破を起こされる二次被害が起きてはどうしようもない




ルージュ一行の居る発着場にも当然ながら、シップ運行緊急停止の法令がすぐに届いた
厳戒態勢が敷かれ、こうなってはどんな船も気づかれずに離陸は不可能である






エミリア「……なんか、大変な事になっちゃったわね」




 発着場のターミナルでは見当違いなクレームを、罵声の数々を同じく被害者である発着場職員にぶつける旅行客
理不尽な怒りを受けてなお、歯を食いしばりひたすら平謝りを続ける職員の光景がいつまでも続いていた


本来の持ち場から立ち往生を余儀なくされた旅行客にブランケットとクッションを配るキャビンアテンダントの女性

怒鳴り散らしてもどうにもならないと漸く悟り、一夜を発着場で過ごそうと不貞寝を始める客達

サイレンの音が今だ鳴り止まない街に勇気を振り絞って踏み出し、空いている格安宿を探しに出る者達…etc




アセルス「みんな、ピリピリしてるね…」



眉間に皺を寄せている男達を見て居心地の悪さを覚える女性陣…いや女でなくとも人の怒声なんて聞いて良いモンじゃない



ルージュ「[クーロン]経由の船も欠航…僕らも此処で一日足止め、か…」






ルージュに至っては術で他所へ行ける、が…[ゲート]は一度行った事のある場所にしか瞬間移動できない

つまり[ルミナス]か[ドゥヴァン]にしか行けない
仮に行った所で全シップが運行を停止されているのだから他所へは旅立てない


 こんな非常態勢が敷かれてる中で悠々と飛べる船があるとすれば、トリニティに属さない[ネルソン]の船か…
海賊が乗った違法シップくらいである





アセルス「はぁ…明日まで[クーロン]はお預けか」



エミリア「…そうだ」




ふとエミリアはさっき聞けなかったことを訊こうと思った

ルージュが[クーロン]に行きたがる理由は知った、だがアセルス達はどうして[クーロン]に行きたがる?


多種多様な種族が暮す街だから身を隠すのに丁度いい?ルージュの手伝いか、…いや
どちらかと言えば彼の方がアセルス等を手伝ってる方だし


エミリア「ねぇ、アセルス達はどうして[クーロン]を目指す気になったの?観光じゃないなら――」





     アセルス「…私が[クーロン]に行こうと思ったのは私の身体を"診て"もらうためなんだ」




     エミリア「診てもらう…って貴女」








アセルス「ルージュは知ってるし、エミリアさんにも基地から逃げる時簡単に説明したでしょ?」


アセルス「私は妖魔から元の人間に戻りたい」


アセルス「普通に歳をとって、普通に生きて、普通に死ねる身体に戻りたいんだ」

アセルス「剣で刺されてもゾンビみたいに塞がったり、血の色が紫だったりしない……元に戻りたい…っ!」ギュッ!






白薔薇「…[クーロン]にはゾズマの知り合いで上級妖魔の身でありながらも人の社会を好み、医者として働く方がいます」




エミリア「…ゾズマ、ああ、あの…」




白薔薇「…た、確かに人間社会で暮らしたがる変わり者という点でゾズマとは気が合ったらしいのですが!」

白薔薇「人間社会に順応なされている御方です、きっと服装は人と変わりませんよ、たぶん」





一瞬死んだ魚みたいな目をしかけたエミリアにすかさずフォローを入れる白薔薇姫、最後は妙に語気の弱い言葉だった…







白薔薇「コホン、兎に角、まずはその御方にお会いして、アセルス様の御体を診察して頂く事」


白薔薇「それが[クーロン]を目指す私たちの理由です」




アセルス「うん、…今は藁にも縋りたいんだ、人間のお医者さんじゃどうしようもできない、なら1%でも賭けたいから」



アセルス「だから[クーロン]に住んでるっていうそのお医者さん…名前は…確か」





その続きは白薔薇姫が答えた




       白薔薇「…妖魔医師 [ヌサカーン]様ですわ」



【双子が旅立って2日目 午後15時20分】



 結局、今日一日は機械仕掛けの摩天楼で足止め…
ルージュ等一行はエミリアの誘いで裏組織"グラディウス"の[マンハッタン]支部で一夜明かす事になった


 此度のドタバタ騒ぎでどこのホテルも空きは無い、路上のベンチや飲み屋街の看板を抱き枕にして倒れる旅行客すら居た
自棄酒もここまでくればいっそ清々しいモノだ




ルージュ「…それじゃ、明日はどうにかして[クーロン]のヌサカーン先生?って人に会いに行くとして」

ルージュ「僕は今の内に術を使って[ドゥヴァン]へ行こうと思うんだ…印術か秘術か、気になる方を取って来るから」




エミリア「二人は任せて頂戴、此処なら妖魔の1人、2人来たって平気だから」



 追われる身にある妖魔二人が匿ってくれる金髪美女達に恭しく頭を垂れる、行く宛てもなく、保護してくれる人も居ない
そんな彼女等にとってエミリアの誘いはこれ以上ない申し出であった


一夜限りとはいえ、安心して眠りにつけるのは有難い







             ルージュ「[ゲート]!…[ドゥヴァン]へ!」ヒュン!!





 光の粒子に包まれて、何光年と先の遠い宇宙<ソラ>の先にある他所の小惑星<リージョン>へ瞬間移動したルージュを見届け
エミリアは受話器を取り、ダイヤルを回す…


アセルス「エミリアさん、何処へ電話を?」

エミリア「うん?あぁ、友達の所にね、…ほら?今日の騒ぎでシップのチケットが駄目になったからそのことで」




…プルルル! プルルルル!


エミリア「…もしもし!」








  受話器の向こうの声『エミリア!!!アンタ無事だったのね!!』



  エミリア「ええ!なんとか命からがらね、それとジョーカーの件だけど…収穫は無かったわ」



  受話器の向こうの声『…そっか、いや、そんなモンどうだって良いわ!無事で良かった、ライザも心配してたわ』


  受話器の向こうの声『あ、言っとくけどライザはグルじゃないからね…』


  エミリア「うん…」





   エミリア「もう、ニュースになってると思うけどさ」


   受話器の向こうの声『ええ、シップが全便欠航でしょ…本当災難よね』



   エミリア「なんとかならない?できれば早めに[クーロン]に帰りたいのよ…」


   エミリア「訳あって連れてかなきゃいけない子が居て」



   受話器の向こうの声『ふーん…OK!アタシに任せな!何人だろうと問題無く[クーロン]に連れてくから!」



   エミリア「本当!?…詳しく事情は聴かないのね」



   受話器の向こうの声『なぁに言ってんのよ!アタシとエミリアの仲じゃん!気にしないっての!』






   エミリア「ありがとう、アニー」





   受話器の向こうの声『お安い御用よ、明日の便で帰れるように手配しとく!で?連れは何人』






―――
――



【双子が旅立ってから2日目 午後16時01分】


ルージュ「…」



「では!この4枚のカードを…ってお客さん聴いてます?」


ルージュ「え、あ、あぁ…ごめんなさい、少しボーっとして」


「なんだか顔色が優れませんが…ハッ!?まさかルーンの誘いのテントで怪しい勧誘でも受けたんじゃ!」


ルージュ「ははは…いえ、そういうんじゃないんで」


「あそこは悪徳ですからねー!それに比べて秘術は素晴らしいぃ!!」

「誠実、安心、最高の術ッ!あんなオンボロテントとは大違いです!あなたは実にお目が高い!!」ドヤァ


ルージュ「ははは…」




"既に双子の兄がやって来た"その事実を先程、そのオンボロテントで聞いた…自分を殺す為に旅立った双子の片割れの事を


…夢でもなんでもなく、本当に自分の兄が資質集めの旅、――自分を殺す旅路ををしてると実感を得る証言だった



出逢った事はなくとも、血の繋がりがあるのならばあるいは―――心の何処かでそんな淡い期待はあったかもしれない









 だが、実際に兄…ブルーの姿を見たという人間の証言を聞いてしまうと






「お客さん、本当に大丈夫ですか、冗談じゃなく本当に顔色悪いですよ…まるで」





まるで死人か何かだ



 そう言いかけて、慌てて取り繕うように「そんな時こそ!『杯』の術は如何ですかー」と誤魔化す目の前の人間に
気にかけて頂きありがとう、と愛想笑いをしてルージュは出て行く…





ルージュ(…ここに、本当に兄さんが来たんだ)フラフラ







                   ドンッ!










ルージュ「あっ!…す、すいません!よそ見してて」





余程、精神的にキていたのだろう…覚束ない足取りの彼は小さな少女とぶつかってしまった…








      転生した幼女巫女「……おぬし、嫌なニオイがするな」


      ルージュ「ぇ?」パチクリ


      転生した幼女巫女(…オルロワージュの匂い、いや…これは残り香というべきかのう)


      転生した幼女巫女「おぬし、最近妖魔か何かと知り合いになったか?」


      転生した幼女巫女「悪いことは言わん碌な目に遭わん内に縁を切るのじゃな」




出会い頭に奇妙な事を言われたものだ、紫色の髪…小さな背…しかし、目先の子供から感じる大人びた物腰




ルージュ「…あの、つかぬ事を窺いますか貴女は」




どう見ても自分よりも年下だ、だがこの人物には"目上の人に対する態度"で接せねばいけない、直感的に彼はそう思った




転生した幼女巫女「なに、そこの神社で巫女をやっておる身じゃ、忠告はしたからな」クルッ ザッザッ




ルージュ「あ、ちょ、ちょっと待ってください!…行っちゃったよ」



ルージュ「…どういう事だろう…」




<まぁまぁ!かてぇ事言うなって
<リュート!!貴様ァ!




ルージュ「なんだかあっちの方が騒がしいな…はぁ…僕も帰ろう」


―――
――

*******************************************************
【双子が旅立って2日目 午後15時31分】







リュート「いやぁ!にしてもアレだな!俺達はやっぱ運が良いよなぁ!」テクテク


ブルー「…」テクテク



リュート「俺達が[ネルソン]で金を買って、んでその直後だろ?なんか[マンハッタン]でテロがどうとかって」

リュート「シップは全便欠航、俺達はこの機に乗じて金塊を転売しまくる」

リュート「他の資産家は他所のリージョンに行けないから実質俺達の独占だったよな~、金融市場」




ブルー「…」テクテク





   [タンザー]帰りのお土産「…(´・ω・`)ぶくぶくぶくぶー!」





ブルー「貴様はいつまで俺達の後をついてくるんだ」イラッ




  [タンザー]帰りのお土産「…(´;ω;`)」ブワッ


  リュート「オイオイ、ブルー…何もそんな冷たい言い方するこたぁないだろう?見ろよ?」

  リュート「このスライム泣いてるだろ」



  ブルー「俺には違いがさっぱり分からん」




 [タンザー]から脱出の際、ブルーの脚に引っ付いていたモンスターが1匹、ぬるぬるとしたゲル状のボディー
それ以上でもそれ以下でもない、そう[スライム]だ



スライム「ぶくぶくぶく…;つД`)」ポロポロ…



リュート「なぁブルー、こいつの目を見ろよ?こーんな円らな瞳なんだぜ?涙ぐんで、可哀想に」


ブルー「そいつの何処に目玉がついてるのか分からん、強いて言えばそのヌメッとした粘液が噴出してる所か?」



ゲル状生物の…顔?にあたる部分から湧き水のように粘液が出ている、そこが眼なのか…?




リュート「なんでもお前に一目惚れしたらしくスライムプールから出て来てお前についてきたってよ、健気だろ?」

スライム「ぶくぶー (`・ω・´)」キリッ



ブルー「俺はお前が何故『ぶ』と『く』しか発音できない生物がそう言ってるように思えるのか不思議だ、病気か?」




リュート「いや、俺ン所にモンスターの知り合いが多くて自然と分かるようになったっつーか、それよりもどうだ」

リュート「こいつを連れってやろうって思わないのかい?こんなに一途なんだぜ?」



ブルー「思わん」キッパリ



リュート「思う、だって!?良かったなァ!連れてってくれるってよ!」

スライム「ぶくぶーーーー!(`・ω・´)」



ブルー「言ってないだろうが!!」

リュート「ハハハハ!まぁまぁ!かてぇ事言うなって」ヒョイ(スライム抱き上げ)


スライム「Σ(・ω・ノ)ノ!ぶくっ!?」ビックリ!


リュート「そーれっ!」ポーン ベチャッ!



朗らかに笑いながら、抱き抱えたスライムちゃんをポーン!とブルーの肩目掛けて放り投げるリュート
べちゃっ!!ミネラル成分満載の可愛い可愛いスライムちゃんがブルーの肩に着地!



     ブルー「リュート!!貴様ァ!」





 キィィ―ィィイイィン…!





ブルー「!」ピクッ





リュート「わわっ、悪かったって!確かに悪ふざけが過ぎ…ってあり?」

スライム「(。´・ω・)?」ノソノソ



 肩に乗ったモンスターを払いのけ、拳を強く握り後ろのお気楽男を怒鳴りつけた所で術士は魔力を感じ取った
それは…自分がよく使う[ゲート]の力と同じような









  ブルー「いや…まさか、…"居た"、というのか?」バッ!







急に熱が冷め、忙しなく周囲を、人の姿を探すかのようで、身構えていたリュートは思わず尋ねた



リュート「誰か知り合いでも見かけたのか?」



ブルー「…」

ブルー「…いや、気のせいだ」



リュート「そうか?一儲けができてすぐにこのリージョンに飛んだからてっきり此処に知り合いか誰か居て探したのかと」

ブルー「違う、そんな理由じゃない」スッ


術士が首を振り、蒼い法衣の袖先はこの土地で一番小高い場所を指さしていた
 鳥居の先にポツンと居を構える祭神の家、此処の観光地の1つともされる神社であり、彼が[クーロン]に戻らず
此処へ寄り道に来た理由の一つであった



ブルー「以前訪れた時には留守だったようだが、あそこの社に居る巫女が『"時術"』…『"空術"』に関して知っている」

ブルー「そう聞きつけてな、今日ならば帰ってきていると聞いたんだ」


リュート「ふぅん?」



 噴水広場を突っ切って、左手にアルカナ・パレスそして昨日の喫茶店を、と横切り奇妙な狛犬(?)達の間を抜けて
年中紅葉が頂上からヒラヒラ舞ってくる山の石段を登っていく…


―――
――


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【同時刻:マンハッタン 『キャンベル・ビル :社長室』




「しゃ、社長!例の物はなんとか回収し終えました!」




 機械仕掛けの摩天楼、そのリージョンの一等地にあたる立地条件で尚且つ大規模の高層ビルがある
大手ブランドメーカーとして名を馳せる、大企業"シンディー・キャンベル氏"の経営する会社だ

社長室内に慌ただしく駆け込んだ女性社員の声に落ち着きなさいな、と背を向けたまま口を開く



女社長「今日、[クーロン]行きになる筈だった品物は全品回収したのね?」


「は、はい……それにしてもとんだアクシデントでした、まさか爆破テロが起きてシップの立ち入り調査とは」




 ギィ、音を立ててキャスター付きのリクライニングチェアが向きを180℃変わる赤紫の帽子を被り
女社長ことミス・キャンベル氏は妖艶な笑みを浮かべて煙管<キセル>を吹かす…


キャンベル「うふふ…それもまた一興というものよ」ニコッ


「は、はい…//」ドキッ


キャンベル「あら?顔が赤いわね…階段を駆け上がるのに息を切らせたのかしら…それとも」スッ



煙管を手にしたまま、女社長は立ち上がる
 高そうな絨毯の上をゆったりと歩き、女性社員のすぐ間近で立ち止まる…品定めでもするように
息の上がった顔、少しはだけたカッターシャツから脚の爪先までをじっと眺める




キャンベル「私に逢いたくて堪らなかったのかしらねぇ?」クスクス


「しゃ、社長!お戯れを…」



キャンベル「あら、冗談ではないわよ、私の眼をごらんなさい」







女性社員は目の前の美しい瞳を見つめた、そして思うのだ「ああ、いつ見てもお美しい、ずっと眺めていたい」と






  まるで "蜘蛛" に絡めとられた蝶にでもなった気分だ



同じ女性でありながら、こうも夢中にさせられる、その辺の人間には決して感じられない色香に惑わされる
 …この会社に居る多くの人材がそうであった


キャンベル「…貴女、この後空いてるかしら?」

「はい?…あっ、いえ、あ、空いてますが…」









          キャンベル「――――――」ボソボソ



               「~~~~っ!!///」







 - 貴女さえよければ、私の愛する人にならない?その気があるなら今夜、社長室にいらっしゃい -




耳元で愛の言葉を囁く



「あ、あぅ…」



言葉は女性社員の胸に火を灯す、耳たぶから顔全域が真っ赤だ




キャンベル「冗談ではなくてよ?…ふふ、貴女みたいな可愛い子は食べてしまいたいと思うわ」



ミス・キャンベルが舌なめずりをする、唇の端から反対側まで紅い舌の動きを目で追ってしまう…
 胸の動悸が収まらない、火照った身体が時よ、過ぎ去れ、陽よ今この瞬間に沈めと願ってしまう程に熱い
夜の冷えた外気に肌を晒したくて仕方ない、この女性の前で晒したいと強く想わずに居られない



キャンベル「どうかしら?……この世の物とは思えない多幸感を教えてあげるわよ」スッ…ススッ



ゆっくりと腕を女性社員の背に回し、後ろ首を撫でる…獲物を捕食せんとする蜘蛛の動きそのものだ



「わ、わたしでよろしければ…!!!」


キャンベル「ふふっ、良い子ね…そういう子は好きよ」ナデナデ


キャンベル「楽しみにしているわ、今夜をね」


「は、はい!…し、失礼しました…!」ダッ


キャンベル「まぁ、あんなに慌てて走ってしまって…そんなに恥ずかしいのかしらねぇ」




キャンベル「…今夜、私の元に来れば貴女に至福を与えることを約束するわ…」







     キャンベル「我らが【ブラッククロス】の劣兵として生まれ変われる至福を、ね」ジュルッ



…もう、後ろ姿さえ見えなくなった女性社員に、女社長はそう呟いた




キャンベル「…あの子を初め、社員の4割は事実を知らないわね…」スッ



煙管を再び口につけ、椅子に腰を下ろす背凭れに身体の重心を預け室内に誰も居ないことを再度確認して独り言ちる
 "表向き"は新作のブランド物バックに欠陥があったため、出荷前に全品回収という筋書きだ



だが、本当の所はそうじゃあない





[クーロン]の"シーファー商会"なる場所にあるブツを発送する手筈だった…法律に触れるヤバい奴を、だ


偶然にも今回のテロ騒動で全便欠航、立ち入り調査が起きた為、事が発覚する前に社員に急ぎで
 欠陥品のブランド物の衣服や鞄を回収、世間様に自社のお株が下がってしまうようなお恥ずかしい事がばれる前に
引き取りをしました、とでも普通の社員は思っているだろう





 まさかこの会社が国際的な犯罪組織の武器を秘蔵に創り

  組織の支部に送っていると…犯罪の方棒を担がされているなど夢にも思うまい






キャンベル「さて…」カタカタ



煙管を置き、オフィスデスクのPCを立ち上げ、明日のリージョンシップのデータを見る…



キャンベル「まったく…シュウザーも急な注文を寄越すものね…戦闘員の育成がうまく言ってないのかしら」カタカタ



キャンベル「……明日、[クーロン]にあれだけの荷物を積載しても問題なく、その上で最短で到達する船は―――」









――――液晶画面には、白く美しい白鳥のフォルムを模った船が映し出されていた







キャンベル「リージョン・シップ『キグナス号』…ええ、今日のテロ騒動で配達できなかった分はこの船に乗せましょう」





社長室で…人ならざる女社長は魔女のような唇を釣り上げて笑う


―――
――

















            …俺は何をしてるのだろうか














俺には使命がある


国家から、"親"である祖国に忠義を尽くすという大事な責がある






 だというのに、どうしてこうなった…




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―――
――




【双子が旅立ってから2日目 夜19時07分 [クーロン] アニー視点 】





- エミリアも御人好しよねー、潜伏先に基地で知り合った男女3人を連れてきたいか -

- ブルーの奴に『キグナス号』の乗船代を約束させたけど、流石に明日までに用意しろー、とか無理よね -




- しゃーない

  そんときゃアタシのポケットマネーで建て替えときますかね、っと!このお惣菜半額シールじゃん!ラッキー! -





 九龍<クーロン>街にあるスーパーマーケット、そこは一般的な主婦もよく出入りする"普通"の店舗であった
大概、この街の店と呼べるモノは普通じゃない…マンホールの下で本物の拳銃の取引が行われたり
裏通りで政府軍の兵器が横流しで売られたり、白衣を着た怪しい学者風の男が[裏メモリーボード]を売ってたりする


 一見普通の飲食店にしか見えないイタリアンレストランだって金さえ振り込まれれば違法捜査やらなんやらを行う
裏組織があったりするのだから困る



買い物籠を腕にぶら提げ、"次の仕事"があるまで長期休暇の女が1人、仲間の無事を確認できたことからその祝いも兼ねて
ちょっとした酒盛りをしようとつまみを買いに来ていた


 活発な印象を受ける短髪の金髪ショートヘアー、男が見れば釘付けになるだろう裾の短いショートパンツに
ブラジャー一枚の上に緑のジャケットを羽織っただけのいつものラフな恰好




昨晩、ブルーと共に粗蟲の群れを撃退した女性アニーであった



余談だが、蟲に破かれたジャケットは自分で塗って縫合したらしい



アニー(エミリア帰還祝い、うんっ!パーッと飲み明かそうっと!)


緑の買い物籠の中は缶飲料(チューハイ)や酒瓶が数本、あとは缶詰の類や閉店間近の値引きシール付きお惣菜で埋まる


アニー(店が閉まるギリギリだと財布に優しいから良いわよね~、人参に大根、胡瓜、生野菜スティックも悪くない)ヒョイ



 瞬く間に籠の中身は埋まっていく、片手で持つには少し重くなった籠を両手で持ってレジへ運び会計を済ます
郵便局で施設に居る弟にも生活費の仕送りも済ませた、やるべきことは完璧、あとは友人…ライザ辺りを誘って
朝まで酔いつぶれてしまおうという算段だったが



アニー「えっ、ライザ来れないの!?」

受話器から聴こえる声『ごめんなさい、ルーファスと作戦の相談があって』

アニー「! へぇー、ルーファスとねぇ~」ニヤニヤ

受話器から聴こえる声『…作戦の相談だけよ、他意はないわ』


アニー「わかってるわ、ちょっとからかいすぎたわ…それじゃ!頑張ってね!」

ちょっと、アニー!と受話器から聴こえてくる声を半ば無視して通話を切る
『close』と書かれた看板をぶら提げたイタ飯屋に帰って1人寂しく、店内で飲み会か、とアニーは夜空を仰いだ






 - 独りで酒飲みかぁ…エミリアの帰還祝いをライザと祝うつもりだったけど、しゃーない、か… -






彼女は賑やかな雰囲気や盛り上がる事が好きだ


宵が深まれば輝きを増すネオンの煌めきも、この暗黒街の喧騒――住んでいる人々の営み―――も好きなのだ




どうにも湿っぽい空気というのは性格上、嫌いで…寂しがりなのかもしれない



酒は飲めば、気分が高揚してくる

嫌な事も辛いことも一時の思考の揺らぎに任せて投げだせる、だが、親友と隣同士、語り合って飲む酒は何よりも旨いのだ




身内を養う為、命を担保にして出稼ぎを行う人生を選んだ彼女が明日を生きていく上で学んだ事だ


誰かと飲んでふざけ合って、愚痴を聞いたり言い合ったり、それこそが最高の肴なのだと






アニー「他の連中もみーんな、次の作戦に備えて他所のリージョン…船は動かないから当然帰ってこないし、参ったわね」




ガサガサと両手のビニール袋が音を鳴らす、デザートを買おうにもお気に入りの物が売り切れていたから
多少、出費が上がるが一度荷物を置いて近場のコンビニエンスストアで適当に洋菓子でも買って行こう


ぼんやりとそんなことを考えながらアニーはイタ飯屋へと向かっていた





        その矢先である…




リュート「んじゃ!またなブルー!ほら行こうぜスライム!(金塊で)臨時収入も入ったから飯たらふく食わせてやるよ」

スライム「ぶくぶく…(´・ω・`)」シュン


ブルー「やれやれ…そいつを連れてさっさと行ってくれ」スタスタ




アニー「…ブルーに、リュート?何、アイツ等知り合いだったの?」ハテ?


アニー「…」

アニー「!!…ふふ!暇そうな奴みーっつけた!」ニヤリ




酒というのは誰かと飲んでこそ楽しい物である

  特に普段スカした態度の奴が酔いつぶれて醜態を晒せば、それは最高の笑いの種(酒の肴)になる

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                                        , ソ , '´⌒ヽ、
                                 ,//     `ヾヽ

                                 ├,イ       ヾ )
                               ,- `|@|.-、      ノ ノ
                           ,.=~ 人__.ヘ"::|、_,*、   .,ノノ
                        , .<'、/",⌒ヽ、r.、|::::::| ヾ、_,ニ- '

                       〈 :,人__.,,-''"ノ.。ヘヾi::::::ト
                        Y r;;;;;;;;ン,,イ'''r''リヾヽ、|;;)
                        ヽ-==';ノイト.^イ.从i'' 人

                         .ヾ;;;;;イイiヘr´人_--フ;;;)
     .,,,,,,,,,,,,,,,,,,,.    .,,.          ヾ;;;|-i <ニ イヽニブ;;;i、
   ,,,'""" ̄;|||' ̄''|ll;,.  ,i|l          ,;;;;;イr-.、_,.-'  ./;;;;;;;;i
  ,,il'    ,i||l   ,||l'  ,l|' ,,,,,. .,,,, ..,,,,,,   (;;ヾ'ゝ-'^    ,.イ;;;;;;;;;;;ヽ
  l||,,.    l|||,,,,,,;;'"'  ,l|' ,|l' .,|l .,,i' ,,;"   ヽ;;;||、_~'   .|`i;;;;;;;;;;;;;|
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                    <::::::::::::/ | └、 |      `ブ <ヽ、'~

                     レノ-'  |`-、、__ ト、、_, -' ´ _,ノヽ~
                          ~` -、、フヽ、__ ,, -'´ ̄ル~'
                            ヘ`~i、 ̄ ̄リ ノヽ ̄~

                            `|;;;;;;|ヽ~-←-ヘ
                             |;;;;;|    ヽ- ┤

                             l::::人    .ヽ  .|
                             ///     ヽ .|
                            ノ´/      .ヽ  |
                           ` ̄        .ト、 .ヽ

                                      ヾ、.A
                                       .ヽノニ'






              今 回 は 此 処 ま で !!





                次回!飯テロ(酒飲み)回!



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―――
――



ブルー「しかし…あの男が居なければこうも短期間で金を工面することはできなかったのも事実か」スタスタ



 バチバチ、と消えかけのネオン看板の下で座り込んだ浮浪者の視線が突き刺さる
荒んだ眼差しが注がれているのは彼の片手に引っ提げられた黒いアタッシュケースだった…


[ネルソン]で購入した金塊を無法都市[クーロン]で売り捌いたのだ、当然ながら"鼻の利くハイエナ"達の間ですぐ噂になる

 近場の店で売られていた黒革のケースに眼を惹かれた彼は財布に到底収まらない額のクレジットを収納する為に
即決で買い取り、札束を入れ店を去った



世間知らずの魔術師お坊ちゃんをお金に困った方々が、これまたよろしくない感情の入り乱れた眼差しで見送った










…スライムとリュートが一緒だったため手出しはしなかったが

単独である今の彼はまさしくサバンナの真っ只中を歩く高級和牛肉と同じである、後ろからブスリとやって金を盗るだけだ










ブルー(…チッ、汚らわしい)


ブルー(人をジロジロと、敵意と欲望の籠った目線…本当に汚らしい、俗物共め)






 彼とて殺意に気がつかない訳では無い…襲い掛かって来ようものならその場で焼殺死体に変えてやろうくらいの気がある

さて、どうしてくれようか?そう考えていたら…殺意とも敵意とも違う、…欲望は含まれる声と視線が背後から掛けられた










           アニー「ブルー!!良い所であったわね!」タッタッタ!




ビニール袋引っ提げた金にがめつい女が、良からぬ事を考えながら走って来たのだ…



ここ、九龍街で喧嘩を売るとヤバい奴リストに含まれる裏組織の女が

つい最近も数人の男をぶちのめして刑務所送りになったばかりのヤバい奴が、だ

その姿を確認してある者は舌を打ち、ある者は苦々しい思い出をぶり返してブルーの尾行を止めた
 アニーの知り合いであり、金を持っている人物から金品を毟り取るという行為は…
自分のタマを投げ捨てるようなモンであると、金と命を天秤に掛けて割りに合わないと判断したのだろう





 ブルー「貴様か、アニー…」(すごく嫌そうな顔)


 アニー「何よ、その顔」



 アニー「ってか、その鞄どうしたのよ?随分良いモンじゃん」




本革製のアタッシュケース、それはビジネスに成功した経営者のトレードマークと言っても過言ではない

 安物の鞄ゆえに『間違って知らない誰かの鞄と取り違えましたー』などと言った不測の事態を
避けるという理由もそこにはある、値が張るものであればあるだけ仕事上の大事な書類の入った鞄を見失うリスクも減る


儲けている人間程ブランド品を好むが、何もただ単に成金趣味という訳では無いのだ




…このような土地では逆に悪手かもしれんが





ブルー「あぁ…これか、丁度良い嵩張るからな貴様にさっさと渡してしまうか」

アニー「はぃ?」




ブルー「ほら、約束の金だ、[ディスペア]への潜入に必要な費用、先日の礼代わりの船賃もそろって入ってるぞ」




アニー「…なっ!アンタ、マジで用意したワケぇ!?」ガーン


ブルー「…貴様が要求したんだろうが、要らんなら別に良いんだぞ」イラッ


アニー「あぁ!!嘘嘘、要るから!…っつーか見ろって!アタシ両腕塞がってるじゃん!」つ『ビニール袋』

ブルー「むっ」




アニー「はぁ…参ったなぁ、あわよくばアンタに荷物持ちさせようって思ってたのに」

ブルー「そんなこと考えってたのか貴様」




アニー「でも、そうねー…金払いの良い客はアタシ好きよ、特別に飲み会に付き合わせてあげるわ!」ニィ!



勿論、あたしの奢りで酒も飯も食わせてやる、感謝しなよ、などと言い出したが、むしろそれが本命である

べろんべろんにブルーを酔わせて、ダウンしたところを壮大に笑ってやろうと思っている
気前のいい客だから気に入った、酒と飯を奢ってやると一見善意に見えて相手を後々小馬鹿にするための口実を作る気だ



アニー「ほら、昨日イタ飯屋覚えてるでしょ、そこ行くわよ」ダッ!


ブルー「あっ、おい!」タッタッタ!


アニー「その重たい鞄でいつまでも手を塞ぎたくないんでしょ!なら置いて手も自由になる一石二鳥じゃん!ほら早く!」



―――カラン、カラン





ブルー「ほう?中々悪くない店じゃないか」





『Close』そう書かれた札付きの戸を開錠して、店内へ脚を踏み入れた蒼の術士の感想は好意的なモノだった


 入口から入ってすぐの所にイーゼルに掛けた黒板があり、描いた者は絵心があるのだろう素人目から見ても
才あるデザインのチョークアートが施されていた

 赤茶色の床タイルは仄かに薄暗い照明に当てられて雰囲気が出ていてカウンター越しに見える
石窯や木製ピザピール・パドル等調理器具への拘りも見て取れた


厨房奥では当店自慢のミートソースが仕込まれて、置いてあるのだろう何やら良い匂いがした


 四枚羽の天井扇風機<シーリングファン>によって効率よく室内に行き届いた暖房の温かさは夜は冷え込みの増す九龍街を
歩いてきた来店客への気配りが行き届いていた




アニー「よっと!さぁ~てブルー、どうやって一日で大金稼いだのよ?銀行強盗でもしたの?」クスクス

ブルー「おい、人聞きの悪いことを抜かすな」


ムッ、と眉間に皺を寄せて不機嫌を露わにする男に「冗談だってば、カリカリすんのはカルシウム足りてない証拠よ?」と
ビニール袋をカウンターレジの横に置いてアニーはケラケラと笑う



アニー「でさぁ、悪いんだけど中身だけ確認させてもらって良い?職業柄ね、こーいうのって見とかないいけないのよ」



偽札をつかまされたり、ずっしりと思い鞄をいざ開けてみたら中身は札束じゃなくその辺のスーパーのチラシの山でした
なんてことがザラなのが裏稼業というモノだ


ブルー「ふん、勝手にしろ」ドサッ


アニー「はいはい、じゃあお言葉に甘えて勝手にさせてもらいますよーだ」カチャッ パカッ!




    札束の山『 』




アニー「…」スッ


アニー「…本物みたいね」

ブルー「当たり前だ、前金で払ったんだ…仕事はしてもらうぞ」



アニー「OK、契約成立よ…代金はしっかり頂いたわ」


アニー「どうやって稼いだか知らないけど、実の所助かったわ…急遽明日までにシップの乗船代が欲しかったのよ」

ブルー「なんだと?」


アニー「友達が今色々あって[マンハッタン]に居るの、その子が連れを3人連れて[クーロン]に帰りたがってたのよ」

アニー「なんにしても助かったよ、自分のポケットマネーから立替たとしてかなり今月ピンチになる所だったわ」




その鞄諸共くれてやる、無駄に重い荷物を手放す為にブルーは彼女にそう言い放つ

その言葉にアニーはヒューッっと口笛を1つ、彼の持って来たアタッシュケースをレジ裏に置いて飲み会の準備を始める






アニー「っと、そうだったわね」ハッ!

アニー「あたしのお気に入りのデザート売り切れてたからコンビニ行こうと思ってたんだ、ねぇ!」


ブルー「なんだ」


アニー「お高い鞄を丸ごとくれた釣銭って訳じゃないけどさ、アンタもなんか奢ってやるからついてきなよ」

ブルー「荷物持ちなら御免だが」

アニー「わぁってるっての!」



カランカラン…!



 イタ飯屋の出入口を1組の男女が出てベルが鳴る、鍵を一度施錠し戸締りを確認したうえでアニーを先頭に歩き出した
魔術師はルーン探しの為に一通りこの無法都市を散策したものの地元民と比べれば圧倒的に土地勘が劣る


 徒歩10分もしない内に二人がとある店舗に辿り着く、緑、白、空色、3本カラーリングの横縞が印象的な看板灯が見えた
幟が立ち並ぶ店先には『家庭ごみの持ち込みを固くお断りします』と書かれたゴミ箱が綺麗に並び
その隣には煙草に火をつけながら屯うガラの悪い若者が座り込んでいた






ブルー「」ポカーン…キョロキョロ


アニー「ん?なんか欲しいモノでもあったわけ?」


ブルー「いや…この『"こんびにえんすすとあ"』とやらは…随分と変わった店なのだな、と」キョロキョロ







[マジックキングダム]にはコンビニという物が存在しない

異文化交流…ちょっとしたカルチャーショックを受ける魔術師、慣れた手つきで緑の籠に次々と甘味を放り込む女
なんとも奇妙な組み合わせであった


ブルー(…なるほど、確かにこの街は人口が多いし生活リズムも皆バラバラだ)

ブルー(24時間営業でも利用客はある程度確保できるか、人数も必要最低限で人件費も――)う~む








アニー(…こいつ、何そんなに難しい顔してんの?、そんなにコンビニが珍しい文化なのかしら)ヒョイ、ガサゴソ







ブルー「むっ!!!」




『プッチンプリン』



ブルー(カスタードプティングか…)ジーッ



アニー「何か欲しいモンでもあった――――ぷっ!!」



不愛想な男が棚に置いてある商品を1つマジマジと眺めていた、何かと思えばそれはお子様なら誰もが喜んだことだろう
お皿にひっくり返してポキッ!とやるあの3個入りのプリンだったのだ


アニーは思わず笑いそうになって口を手で押さえた(堪えきれなかったが)





ブルー「…なんだ、貴様悪いか」ギロッ


アニー「…くっ、ぷぷ、…い、いえいえ、なぁ~んにも悪ぅございませんよ?人それぞれですし」プッ ククッ…





 [ドゥヴァン]のカフェで砂糖とミルクたっぷりの珈琲を褒めちぎったストレスを貯め込みやすい優等生は迷わずプリンを
アニーの籠に入れてやった


レジで会計を済まし二人は荷物を置いてきたイタ飯屋前へと再び戻る、アイスクリームを購入した事もあって若干急ぎ足で
帰路についた彼女は鍵を開けて店内に入る…その彼女の後ろを根に持ったてるのか膨れっ面の魔術師が追う



アニー「…」

アニー「」チラッ





ブルー「…人が何を喰おうが勝手だろうが…そもそも、それを言えば…」ブツブツ






アニー「…」




 - なんだよ!姉ちゃんに関係ねーじゃん! -

 - うるせぇよ!好きなモンは好きなんだし仕方ねーじゃん!ふんだっ! -




アニー「そういうとこ、似てんのよね」ボソ

ブルー「は?」


アニー「なんでもないわ」


―――
――





ストトトトトト…!

ストンッ!




アニー「ほいっ!一丁あがり!」つ『生野菜スティック』


人参、大根、胡瓜、セロリ、買ってきた野菜を5㎝ほどに均等に切り分け、透明なグラスカップに入れておく
小皿にそれぞれマヨネーズとケチャップ…オーロラソースを乗せて運んでくる


テーブルの上には半額シールの惣菜たち…焼き鳥だったり、コロッケや胡椒を利かせたイカ下足炒め
麻婆茄子と皿に薄く切り分けたチーズやハム等が並べられた




ブルー「アニー…これは、どうやって飲むんだ?」つ『缶チューハイ』

アニー「はぁ?どうって…普通に開けて飲むんだろ」



ブルー「…俺は生まれてこの方、缶を開けた事が無いんだ」

アニー「はぁ~…ほれ、貸してみな…イイ?ここん所にプルタブってのがついてんでしょ?これに指を引っかけて」プシュ

ブルー「!…こうやって開けるのか」



アニー「アンタ、よくそんなんで世間に出て来れたわね、術よりまず一般教養を学びなよ」ヤレヤレ プシュッ


ブルー「…善処はする」









アニー「それじゃ!乾杯!」

ブルー「ああ、乾杯」










ブルー(……)


<んん~!!うまいっ





        ブルー(…俺は…)


        ブルー(…俺は何をしてるのだろうか)





ブルー(俺には使命がある)

ブルー(国家から、"親"である祖国に忠義を尽くすという大事な責がある)












ブルー(だというのに、どうしてこうなった…)チラッ







アニー「んっ、んっ…んぅ?何よ、アンタ飲まないワケ?」キョトン

















この女には【利用価値】がある



コイツが居なければ刑務所のリージョン[ディスペア]に潜入できない

"解放のルーン"を手にできなければ試練はクリアできない





それに、頭の悪そうな女だが…剣の腕は立つ、戦闘の際いざとなればコイツを囮や盾代わりにして保身に走ることもできる

…だから、"上辺っ面"だけでも取り繕い、友好的な関係を築いておいて損は無いのだろう







こいつの戯言に適当に付き合い、今のような突発的な誘いにも顔を出してご機嫌取りせねばならんのが癪だが…



せめて…[ディスペア]潜入、そしてルーン取得まではこの女の顔色を窺わねばならんな

用済みになったらすぐにでもこんな奴、こっちから捨てて――――





アニー「ちょっとぉ!!聞いてんのかって!」

ブルー「…」

ブルー「聴こえているぞ、叫ぶな」



アニー「缶持ったまんま微動だにしないし、呼んでも返事しないし、そりゃデカイ声だって出すに決まってんじゃん」

ブルー「すまなかった、少し考え事をしていてな」










ブルー(…こんな下らん茶番に付き合う時間が惜しいというのに)

ブルー(俺が呑気にこんなことをしてる間にもルージュは資質を集めているかもしれんというのに…!)






アニー「だったら飲みなよ?酒飲みなんて一人でやってもつまんないから暇そうなアンタ誘ったのよ?」フゥー


アニー「酒は誰かと騒いで飲むのが一番楽しいからね」ゴクゴク




ブルー「…」ゴクッ



 缶に口をつける…祖国には缶飲料はあった、免税店や他所のリージョンからの観光客を狙った店先で扱われる事が多く
基本的に魔法薬を瓶詰で保管していた歴史から塩漬け、酢漬けのピクルスなどは皆、瓶と最先端魔法技術で保存してきた

学院の学生寮で育った彼は缶を見る機会こそあれど口にしたのは初だった





ブルー「美味い…」





自然と口に出していた言葉だった



アニー「でしょー、食わず嫌いせずまずは何でも飲んだり食ったりするもんなのよ、缶持って硬直してたけどさぁ」

アニー「自分トコじゃ珍しい文化だからって偏見を持つのはよくないわ、うん」ゴクゴク





…別に動きを止めていたのはそういう理由じゃなかったのだが

黒い背景に桃と柑橘系のイラストが描かれたチューハイ、香りも果物の独特のフレーバーを活かし初心者でも飲みやすい物
一方対面する女の手には対照的に白に染め上げた缶でまろやかな喉ごしのサワーだった




ブルー「……まぁ、見た目だけで判断するのは誤りがあるのは確かだな、貴様の言う通りだ」ゴクッ



 目の前の人物の第一印象は「ガサツな女」「頭の悪そうな奴」「どうせ男に身を売ってるような奴」だったが
正しく見た目で判断してはいけない例だったと、打ちのめされたばかりである





ブルー「……貴様には兄弟が…『弟』が居た、のだったな」


アニー「ん、そうよ…前に話したじゃんか」ポリポリ



 頬杖を突きながら金髪の女はスティック胡瓜にマヨネーズをつけて食べていた
意外にも話しを切り出した男を少し意外そうに見ていた彼女に彼は続けた









    ブルー「お前にとって、『弟』というのは…自らの身を削ってでも守るべき存在なのか?」







ブルー(…俺は、本当に何を言ってるんだろうな)






 アニー「そんなん当たり前じゃん、『家族』なんだから」ポリポリ







女は男の質問に、さも事も無げに言ってのけた





 アニー「前にも話けど、あたしには妹と弟が居んのよ、んで妹は[ヨークランド]の金持ちの家に養子になったけどさ」

 アニー「悪ガキで小さい弟はあたしが養うしかないのよ」




前にも話された事だ、両親が居ないから長女である彼女が年下二人の面倒を見ていると





 ブルー「お前はその養育費を自分の為に使おうと思わんのか?」

 ブルー「今までつぎ込んできた仕送りの額がどれ程かは知らんが人間1人を食わせて行けるだけの金額だ」

 ブルー「命の危険を冒す職務などせずとも穏やかな土地で平穏に過ごせるだろう」




 ブルー「そいつの事を見捨てたとしてもそれを責める人間が、そのような環境がお前のすぐ傍にあるとでもいうのか」




この無法都市で、明日を生きるためなら隣人から財布を掠め盗るような街で


…そうでなくても365日、常に誰かが貧困の中でその命を消してしまうような土地で
誰に自身の生命を優先することを咎められようか?

ブルーが言ってるのはそういうことだ




アニー「…」ゴクッ



アニー「ま、アンタの言い分も分からなくないよ…そりゃあ誰だって自分で頑張って稼いだお金を自分の為に使いたい」

アニー「そう思うことは間違いじゃあないし、こんな街なら…ましてやあたし等みたいなのは庇護されない」

アニー「自分の身の安全も生活の保証も何もかも全部自分でどうにかするっきゃない」




アニー「ああ、アンタは間違ったことは言ってないよ…けどね、そういうんじゃないんだよ」




ブルー「…なんだというのだ」








アニー「そうだねー、あたしは頭良くないからさ、巧いこと説明できないけど、強いて言うなら『心』ね」


アニー「あたしの『心』がそうしたいから、損得とかそういう話じゃないのさ、…それじゃ納得できない?」







ブルー「……俺には理解できん、そこまでして『弟』を守ろうという思考が」








                弟<ルージュ>を殺す



その【思考】で祖国を出た男には、女の『感情』が今一つ理解できずに居る




アニー「ああああ!!もうっ!あたしは楽しく酒飲みたいの!なに!暗い話してんのよ!」


アニー「やめやめ!湿っぽいのは本当嫌いなんだってば!」ゴクゴクゴク!



ブルー「そんなペースだと酔いが回るぞ」ゴクッ

アニー「うっさい!!…あ、空になった、次の空けよ」ゴソゴソ






コンコン!!



<おーい!!アニー!エミリアー!ライザー!誰か居ないかー!開けてくれぃ
<ぶくぶくぶー!


ブルー「…この声は」




アニー「はいはい、今開けるわよ…」ガチャガチャ



ブルー「お、おい…」









             バーーーン!!





リュート「イエーイ!アニー!久しぶりだなぁ!!さっき、そこの店でおっちゃんが蟹の安売りしてたんだ!」つ『蟹』

スライム「ぶくぶくぶー!(`・ω・´)」つ『白菜、ネギ、しらたき…etc鍋セット』





リュート「いやぁ!色々あって金塊売りまくって臨時収入があってさぁ、景気よくパーッと…んあ?」チラッ

ブルー「…」ゴクゴク



リュート「ブルー!お前こんなとこに居たのかよ!丁度いい!お前も鍋パーティー参加な!!」


スライム「ぶくぶくぶくぶく!(/・ω・)/」ワーイ!ワーイ!





ブルー「貴様、この女と知り合いだったのか…」

ブルー(…あの時、リュートが言ってた知り合いの女ってアニーの事だったのか)




リュート「おう!そうそう…いやぁ~!なんつーか奇遇だよな!」

アニー「そうね、人の縁って不思議よね~」ポリポリ



ブルー「…酔いが回ってきたのやもしれんな、頭が痛くなってきた」




自分は酒には強い筈だったんだがな、とため息交じりにブルーは席を外す、少し夜風に当たって来たいと一声かけて




<リュート、このスライムなに?

<ブクブクー

<面白れぇ奴だろ!話し見ると結構楽しい奴だぞ!



ワイワイ…ガヤガヤ…!



―――
――




【店の外】



ブルー「…ふぅ…ドアの向こうから声が丸聴こえだ」カラン



 氷の入ったミネラルウォーターを口に含む…昼も夜も変わらない明るさが変わらない常灯の摩天楼で
イタ飯屋の壁に背を預け、騒がしい女と男、そしてゲル状生物の声を聴く








ブルー「…やれやれ、まったく喧しいったらありゃしない」ゴクッ

ヌサカーン「ほう?その割には中々にキミは楽しそうにしているがね?」

ブルー「フッ、まさか…そんな事あるわけないだろう…」ゴクッ





















ブルー「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」ブ―――ッ!!!


ヌサカーン「口に含んだ水を勢いよく噴き出すのは上品とは言えないな…」ヤレヤレ





ブルー「貴様ァ…!いつからそこに居た!」


ヌサカーン「うん?あぁ…今来たところだ、此処の店は良い所だ、偶にサングラスの店長が作ったグラタンが恋しくなる」






気がついたら、当たり前のように自分の隣に居た上級妖魔…そう、あの粗蟲共の元へ共に行った妖魔医師ヌサカーンだ


相変わらず白衣を身に纏い、そしてブルーの隣に違和感なくブランデー入りのグラスを持って立っていた





ヌサカーン「キミ、気づいていないのかもしれんがね、彼等の声に耳を傾けていた時何処となく楽しそうに見えていたよ」

ブルー「そうか、そう見えたのならば眼科へ赴くことを奨めるぞ、闇医者」



ヌサカーン「中々にイイ傾向だ、他者との交流、会話は自分の感情に彩をつける」

ヌサカーン「現にキミは【呆れ】や【驚き】時に【怒り】そして……相手の思考が読めない事から【戸惑い】や【疑問】」

ヌサカーン「様々な『感情』を抱き始めているではないか、交流の無い者は次第に心を閉ざしていく」


ヌサカーン「キミの心に巣食い始める病の予防薬になるだろう」ゴクッ



ブルー「突然現れて訳の分からないことを抜かすな」








    ヌサカーン「そうかね…まぁ、良い、今日はキミにしばしのお別れを告げにきたのだよ」


       ブルー「"お別れ"…だと?」






ヌサカーン「うむ、実は…訳あって私はしばらく[クーロン]を去る事になったのだ」

ヌサカーン「勘違いしないでくれたまえ、ただ[ヨークランド]に病気の少女が居ると今日来院した者に言われてな」

ヌサカーン「少し往診をしに行くのだよ」




ブルー「ふん!そんなことをわざわざ俺に言いに来たのか、暇してるようだな藪医者」



ヌサカーン「本当ならキミの旅に同行しようかと思っていたのだがね、キミは中々興味深い人間だからね観察したかった」


ブルー「それを聞いて尚更安心した、さっさと往診に行くがいい、そして戻って来るな」





ヌサカーン「やれやれ冷たいものだ、……結構な長旅になるんだがなぁ」

ヌサカーン「[ヨークランド]で患者を診た後で、もう一人気になる患者が居るから…本当に当分の間戻って来れんのだよ」



ヌサカーン「しばらくの間、私の病院に留守にしている、という主旨の書置きは残しておくが」

ヌサカーン「念のためキミに伝えておこうと思ったのだ、何かあっても私は居ない、とね」スゥゥ…






それだけを言い残し白衣の男は影となって消えた、後には空になったグラスだけがアスファルトに取り残された…




ブルー「…夜風に当たりに来たというのに、余計に気分が悪くなったな」チッ

ブルー「戻るか…」








               蟹すき鍋『  』グツグツ…!





リュート「豪富さんトコかぁ…そういやぁ俺が旅に出る時よりも前に言ってたっけなぁ、施設から女の子引き取ったって」

アニー「ええ…その子ウチの妹よ、生まれつき身体の弱い子だったのだけど」



アニー「それにしてもリュートが引き取り先の人の事知ってるなんてね、本当アンタ顔が広いわね」

リュート「[ヨークランド]は俺の地元だし、まぁ知ってるさぁ~…と!そろそろカセットコンロの火弱めようぜ!」カチッ


スライム「ぶくぶく(・ω・)/『お皿&ポン酢』」








ブルー「今、戻ったぞ」ガチャッ カランカラン…



リュート「おう!丁度いい感じ煮えて来たぞ!」

アニー「ブルーの分の小皿とポン酢もあるからね」スッ


―――
――



リュート「うめぇ!!」ガツガツ!

アニー「あっ!蟹取り過ぎよ!!」

ブルー「元はリュートが持って来たモノだろう」モグモグ




―――――騒がしい空気



『…おい、見ろよ、ブルーだぜ』
『学院の成績トップ、首席は揺るがないってあの…』
『アイツ気に喰わないよな、あのお高くとまった態度…ちょっと勉強できるからって』



リュート「ほらほら、もっと喰えよ!よそってやるから」スッ

ブルー「なっ!?貴様!勝手に人の皿にそんな大量に!」



――――馴れ馴れしい連中


『なんでアイツに勝てないんだよ、俺達だって必死で勉強してんのに』
『あいつ、死なねぇかな…』



アニー「それでさ!その時エミリアってばおかしんだよ!」あははっ!

ブルー「そのエミリアという女がどんな奴かは知らんが聞く限り頭の悪そうな奴なのは分かった」


―――人の気も知らないで絡んでくるこいつ等…













      スライム(素面)「ぶくぶくぶーー!(*´ω`*)」モグモグ しあわせ~♪



      アニー(ほろ酔い)「よーしっ!3番!アニーちゃん!いっきまーす!」

      リュート(酔い)「いいぞ!そん次俺な!4番リュート、歌っちゃうからヨロシクぅ!!」




<あーっははは!!





   ブルー(素面)「…」パクッ モグモグ…ゴクゴクッ










   アニー(ほろ酔い)「ジャグリング!そらそらぁ!!この酒瓶をお手玉のように落とさず回し続けるわよ!!」

    リュート(酔い)「おおおっ!すげぇぇぇ!!!」









――――………





―――…妬みも僻みも無い…純粋に接して来る馬鹿共










          -ヌサカーン『ほう?その割には中々にキミは楽しそうにしているがね?』-



ブルー「…ふ、馬鹿馬鹿しい…そんなことあるものか」ゴクッ


リュート「おおっ!ブルーが笑ったぞぉ!」アハハッ

アニー「マジ!?仏頂面のブルーが!よっしゃ!なんかテンション上がって来たわ!」



ブルー「笑ってなどいない、貴様らいい加減酔いを覚ませ…水置いとくぞ」ハァ…






俺には使命がある


国家から、"親"である祖国に忠義を尽くすという大事な責がある







こんなことをしてる暇なんて無いのに、…くだらない、こんな馬鹿馬鹿しい茶番劇に付き合って…それで―――
















―――――それで、このふざけた空気が、少しだけ悪くないとも思ってる

















            …俺は何をしてるのだろうか














           …本当に何をしてるんだろう、…酔いが回ったな、悪酔いしてるようだ





―――
――

【クーロン:イタ飯屋前】

リュート「うげぇ…飲み過ぎたぁぁ…ぶ、ブルー…歩けねぇ…手伝ってくれぇぃ」

ブルー「マヌケが、一人で這ってでも帰れ」スタスタ







アニー「あたた…頭痛い……なんか予定と違ったような…いたた…」ヨロッ


スライム「ぶくぶく!(;゚ω゚)」ササッ!ピトッ

アニー「あっ、転びそうな所、支えてくれてありがとう…」



スライム「ぶくぶくぶく(;´ω`)」ススッ

リュート「あ、肩(?)貸してくれんの?わりぃ助かる」フラフラ


―――
――

【クーロン:シップ発着場前】


クーン「あーっ!先生!待ってたんだよ!」

ヌサカーン「クックック!済まないね、知り合いに別れを告げて来たところだ」

フェイオン「準備はよろしいですね、ヌサカーン先生」

メイレン「さっ!シップに乗り込みましょう!」



―――
――

【マンハッタン:グラディウス支部】


ルージュ「…」

白薔薇「こんな所で何をなさっているのですか?」


ルージュ「星空を、眺めていたんです………そうしたい気分だったもので」

白薔薇「何か悩み事、ですか?」

ルージュ「まぁ…」



アセルス「あっ!二人共こんなとこに居た!晩ご飯ができたってよ」

エミリア「明日には宇宙船<リージョン・シップ>『キグナス号』で[クーロン]に行けるわ、ご飯を食べて寝た方がいいわ」


アセルス「はいっ!…[クーロン]かぁ、ヌサカーン先生って人になんとしても会わなくちゃ!」グッ

―――
――


【マンハッタン:キャンベル・ビル】

「社長!停泊中の『キグナス号』に例のブツの詰め込み完了しました!警察にも見られていません!」

キャンベル「ウフフ!いい子ね…後は貴女に任せるわ!可愛い子猫ちゃんを待たせてるからね」

「はっ!」



―――
――




アニー「調子に乗り過ぎたわね…」フラッ…



アニー「明日はエミリアを迎えに行くために始発で[マンハッタン]に行って合流してから『キグナス号』に乗るのに」


アニー「……ブルーの奴、ぜんっぜん酔わないし……うぅ、飲み過ぎたわ…んっ?」











        紙袋『  』





アニー(カウンター裏の…あたしがブルーから受け取った鞄の横に、これ…あのコンビニの包装?)ガサッ…パサッ











  -『アニー へ

      此処に酔い止めの薬を置いておく

      飲んで治してさっさと[ディスペア]潜入の用意を進めろ ブルー』





アニー(…あぁ、アイツ夜風に当たりたいって出て行ったわよね…)

アニー(蟹すき鍋がに煮えるまで戻ってこないのは遅いと思ったら)




アニー「……命令口調なのはアレだけど、一応ありがとう、ってとこかしらね」


―――
――



リュート「ブルー…ありがてぇ、ありがてぇ…」

ブルー「酔い止めの薬くれてやったんだ、さっさと帰れ」

リュート「何だかんだ言いつつ、薬買って俺を待っててくれるなんてありがてぇ…流石相棒だぜぇ」グスッ

ブルー「良いから!さっさと帰れ!…まったく、金塊の件はこれでチャラだ」スタスタ






各々の夜は更け、そして…朝はやってくる…双子の旅立ち、三日目

        …運命の交差点<ターニングポイント>――― 紅と蒼の道がほんの僅かに重なり合う『キグナス号』の日が…

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            今 回 は 此 処 ま で !



               __
              ,-‐'´::::,ゝ    _γ:ヽ   ,.ィ
            l::::::,' ̄`⌒`ヾ{:::`:,、⌒/ /
            {::::ノ      {γ´ {_;;ヽ<´  <生命の雨
             ヽL_      |    ヽ::}
                 '-l_.iヽ     ヽ ━  l
                  {;;;} `ー---、ム    }、
                      {;;;;}` ̄I;;;}


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               オマケ②【妖魔医師、ヌサカーンの診断書<カルテ>】


 【双子が旅立ってから2日目 夜 9時 54分】


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その日は多くの人間にとって"散々な1日"だったことだろう


 政治の中枢たるリージョンで大規模な爆破テロが起きた、それによって各地のリージョンでシップの運行が停まった
この御時世で宇宙船<リージョン・シップ>が全便欠航となれば流通は当然ストップするのだから堪ったもんじゃない


物販店からはいつもなら棚に陳列している商品が企業や工場からの出荷が来ないという嘆きを体現するようにガラ空きで
 仕事帰り、あるいはこれから出勤予定"だった"スーツ姿のリーマンが会社から居酒屋の暖簾の奥へと姿を消す




誰も彼もが立ち往生、明日まで何処にも行けず帰れずという不測の事態に陥った

もし幸運があるとすれば目的地に丁度到着したところでシップの運行停止に巻き込まれた者等だろう









「お客さん!ワタシ身体よく効くクスリ持ってるネ!今なら安くしておくヨ!」


フェイオン「すまないが他を当たってくれ」










暗黒街[クーロン]…大通りで堂々と"おクスリ"を販売する怪しい男の誘いを突っぱねる弁髪の男は仲間達の元へ急いでいた



フェイオン「いかん、情報収集にかなりの時間を喰ってしまった…メイレンが怒っているだろうなあ」タッタッタ






彼は今日のまだ朝陽が昇り始めて、そう長くない時間までずっと巨大生物[タンザー]の体内に居た男だ



ひょんなことから、どこぞの蒼い術士と弦楽器を背負ったニートのおかげで久しく見る事の叶わなかった日光を拝んだ



 巨大生物の体内から脱出した後、彼は恋人であるチャイナドレスの似合う彼女と滅びゆく故郷を救うべく旅する少年等と




 【 全 て 集 め る と ど ん な 願 い も 叶 う 魔 法 の 指 輪 】 を集める旅に同行した




モンスター族の少年への恩返しと恋人の女性を護る為の同行だ





そんな彼は…今、汗水たらして長らく目にしていなかった人間社会の人混みを掻き分けていた

汗水たらして、と今しがた表現したが何も全速力で走っているから汗をかいたというわけではない




これは恐怖から来る冷汗だ、彼は知っている……自分の恋人は怒ればどんな怪物よりも恐ろしいヒステリックを起こす事を



 男は恋人の女が取った宿が見え始めた所でラストスパートと謂わんばかりに過去最高の脚力で駆け出し
自分達の部屋へ転がり込む様に入り込んだ







    フェイオン「メイレン!遅くなってすまな「こんのぉ大馬鹿ぁぁぁ!!!」ぐぎゃあああああああっ!!」








 メイレン「情報1つ見つけて来るのに何時間かかってんのよォ!!ええ!?」メキメキ


 フェイオン「おぎゃあああああああぁぁぁ腕があああああああぁぁぁ変な方向にぃいいいいいいいいっ!」





 クーン「わぁ~!すっごーい!僕だってあんなふうに腕を曲げられないのに…フェイオンは身体が柔らかいんだね!」






 バンバン!「ギブ!ギブ!降参だ!たすけてぇぇぇ!!」と男の悲痛な叫びが宿の一室に木霊する最中
純真無垢なピュアっ子で獣っ子な緑色の少年が目の前の惨事を見て目を輝かせていた





メイレン「まったく……[ヨークランド]で"指輪"を持ってる大金持ちの豪富…その養子の女の子を治せそうな医者を探す」


メイレン「私達がわざわざ一度[クーロン]までシップに乗って逆戻りしてきたのはその為なのよ?」



クーン「僕たち運が良かったよね!!僕たちが丁度[クーロン]に戻ってきたら、船がぜーんぶ動けないんだもん」



メイレン「…クーンはポジティブで良いわね」ハァ


クーン「???」ニコニコ



メイレン「この暗黒街は大勢の人間が集う、此処を探せばあるいは…と考えたわ」

メイレン「実際、この街に妖魔の医者が居ると小耳に挟んだこともあるしね…」




メイレン「その人の居場所を手分けして探しましょうって所までは良かったわ、ええ…」


メイレン「でもね、…なぁんで探し出して2時間で私達が掴めた情報を8時間近くかけて見つけられてないのよ!!」ギリギリ



フェイオン「うぎゃああああああああああああぁぁぁぁ死ぬぅぅぅぅうううううううう!!!!」ジタバタ



―――
――



メイレン「ぜぇ…ぜぇ…まぁ、良いわ、私は今からクーンと例の医者の所に交渉に行くから…」


メイレン「あなたはシップ発着場で[ヨークランド]行きの始発のチケットを手に入れて来るのね」



フェイオン「ま、待ってくれメイレン……始発のチケットは誰だって喉から手が欲しい筈だ、簡単に手には――」ボロッ




メイレン「 」ギロッ



フェイオン「ひぃぃ!?分かった!なんとかする!なんとかするから!なっ!?」土下座





クーン「わぁ~!こういうのって『かかあてんか』っていうんだよね!」



メイレン「クーン、変な言葉を覚えてきちゃ駄目よ、さぁ行きましょう…フェイオン」

メイレン「場合によってはこの部屋を交渉材料に使う事ね」


フェイオン「へ?」



メイレン「あなたも見たでしょうけど…どこもかしこも事前に宿泊施設は今日のゴタゴタで帰れない旅行客で満室よ」

メイレン「この状況で宿をとれるのは、お金が腐る程あるって奴かあるいは"早いもん勝ち競争"に勝てた人よ」





メイレン「路上で寝てればいつ身ぐるみ剥がれても、…いえ、人身売買にすら持ってかれるかもしれないこの無法都市」


メイレン「宿部屋をあげるからチケットを譲ってくださいと頼み込めば、始発便に乗れるかもしれないでしょう?」




フェイオン「!!…なるほど」



メイレン「うまくやりなさい、…期待してるわよ」ボソ




―――
――


【クーロン裏路地:ヌサカーン病院】



ヌサカーン「…それにしても彼、ブルーと言ったか…中々興味深い身体だったな」カキカキ



白衣を着た長髪の人物、その眼鏡のレンズに映っているのは現在進行形で綴られていく自分の筆跡で埋まっていく診断書だ


ヌサカーン「…彼は中身が半分、いや…あの国家は確かにそういうところがあったな…」

ヌサカーン「そういえば[シュライク]の例の研究所にも裏で資金提供を行っていたのだな、ふむ…そう考えるならば」ピタッ




妖魔医師はインク壺に筆を戻す、上級妖魔であるがゆえに彼は力の流れを探ることに長けていた

彼がこの街の地脈を流れる"保護"の力を捉え、それが弱まっていることも察せられたように…





ヌサカーン「……これは、どうしたことだ?こんなドス黒い力の塊は久しく診ていないな」




妖魔の中でも変わり者、そう評される彼の生きがいは…


『誰も見たことの無い世にも奇妙な病原菌と遭遇したい』

『不治の病と呼ばれる病魔を治してみたい』

『未知との遭遇を愉しみたい』


と言ったものだった



彼はこの世で一番"病気を愛する医者"なのだ





病気を殺す、が…同時に病気を美しい女性か何かのように愛しているのだ、医者が一番病んでる、ヤンデレ





ガチャ!



クーン「あなたが…ええっと、ぬさかーん先生?入口の仕掛けすごいね!ボクすごくビックリしちゃった!」

メイレン「…あの悪趣味な仕掛け…はぁ、いいわ、文句を言いに来たんじゃないし」ゲンナリ






ヌサカーン「……」ジーッ


クーン(ボクの顔何かついてるのかな?)キョトン


ヌサカーン「…」クルッ…スタスタ ジーッ

クーン(あ、ボクを無視してメイレンの方をジーって見始めちゃった、ちょっと悲しい)ショボーン




メイレン「…?」


ヌサカーン「……」ジーッ






   ヌサカーン「…… "君が患者か"?」


  メイレン「違うわよ…私のどこをどう見て患者だと思ったのよ(こいつヤブ医者かもしれないわね)」




ヌサカーン「そうか…それは失礼した(…ふむ、自覚症状なし、か)」





妖魔医師は至って身体は健康そのものと呼べる女性を見た…







いや、厳密に言えばちょっと違う…女性の"薬指についてるモノ"を診た…







クーン「あの!先生はよくわからないけど、すごいお医者さんなんですよね!!」

クーン「えっとね!えっとね![ヨークランド]って所に身体の弱い女の子が居て、その子に変な病気が憑いてるの」

クーン「どんな願いも叶う"指輪"の力でその子は死なないで済んでるけどそれも時間の問題で苦しそうで…」





クーン「お願いだよ、助けてあげて…あの子はちゃんと皺くちゃのおばあちゃんにならなきゃだめなんだよ」




自分の故郷の惑星<リージョン>……寿命で惑星のコアが持たないリージョン、滅びゆく[マーグメル]を少年は思い出す

指輪を全て集めて故郷を救う、だがその為に病気の少女を生き永らえさせている指輪を取り上げるのはまた違う




ちゃんと大人になって、お婆ちゃんになって、そして穏やかに眠らなくちゃ駄目だとクーンは言う
 それに対して医師は眼鏡の位置を指先で少し上げなおして―――





ヌサカーン「往診は基本的にしないことにしている、例外はあるがね」




メイレン「相手は大富豪の娘よ、報酬は思いのまま」


ヌサカーン「ふむ、報酬か…興味深い患者だな」





半分本当で半分嘘だ

報酬で"指輪"を仮にもらえたら、それは興味深い…だが医師は何も指輪の力で願いを叶えたいなどといった理由ではない


この医者は今、"一番興味深い患者"の旅に同行してその病の進行状態を間近で観察したいのだ

その病は"指輪"が深くかかわって来る…実に興味深い





[ヨークランド]に居る患者も確かに興味深いが、むしろそっちはオマケ程度にしか見ていない、大本命は目の前に居る






メイレン「ではヌサカーン先生、私達と共にご同行を―」


ヌサカーン「あぁ、待ちたまえ…少し時間をくれ、この街に昨日知り合ったのだが[マジックキングダム]の術士が居てね」


ヌサカーン「しばしの間、[クーロン]を離れると別れを告げてきたいのだ、構わないかね?」



メイレン「ええ、問題ありませんわ、準備は大事ですものね」


ヌサカーン「では先に宿にでも戻っていると良い…君たちは見たところ他所から来たのだろう?」


メイレン「いえ…シップ発着場で落ち合いましょう」


ヌサカーン「ふむ、分かったではまた後程」






ヌサカーンは二人の背中を見送る、眼鏡のレンズには去っていく少年と患者の背が小さくなっていくのが映る





ヌサカーン「さて、まずは書置きだな…私が留守の間にヒューズの奴がくるかもしれん、っとその前に診断書も書かねば」






妖魔医師の脳裏には『ぬーべー!助けてくれぃ!』などと叫びながらタダで診察してもらおうとする不良刑事の顔が浮かぶ
あれで[IRPO]隊員なのだから不思議だ

そういいつつも何だかんだでタフで面白い奴リストに含まれる彼の為に一応書置きは残しておく

しばらく留守にするぞ、と




ヌサカーン「双子…命、…[シュライク]にある[生命科学研究所]への裏金と技術提供による…」カキカキ



ヌサカーン「大昔に滅んだリージョンの伝承に残る技術…同化、継承、7人の英雄、皇帝… 死によって 力の譲渡」カキカキ



ヌサカーン「同じく死によって、資質の…技術の髄を寄せたコレにより本来ならば得られぬ筈の――…」カキカキ


ヌサカーン「ふむ、こんなものか、…まだ時間がある、さっきの患者の診断書も書いておくか」ペラッ カキカキ







その後、ヌサカーンは"診断書"をいくらか書いてから鞄に一頻りの荷物を纏めて自宅を後にした




なお、此処で詳細を語る必要が無い為、大雑把に書いておくがフェイオンは
 その後、家族8名で狭い客室に雑魚寝するしかなかったらしい大家族と宿部屋の権利を譲る交渉で
見事シップの一室を得てメイレンに褒められ、シップ発着場にやってきたヌサカーン医師共々にシップの客室に入り
始発の時間まで一夜を明かしたらしい


~ オマケ2 完~ 
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僕が祖国[マジックキングダム]を旅立って今日で3日目になる



国家からの支給品としてもらった資金、[リージョン移動]媒介用の宝石、医療品を入れた[バックパック]





そして…今、僕のこれまでの資質集めの旅を書いている小さな手帳














 誰に書けと言われた訳じゃない、ただ僕が自主的に書きたいから書いているんだ

 いつまで続くか分からない旅路だけど、その終着点が見え始めて、その時、この手帳を僕が見返して


 「あっ、あの時はこんなことがあったんだなぁ~懐かしいな」と思い出を振り返って笑う事ができるかもしれないから












           …あるいは―――













           ――…あるいは、もしかしたら…ううん、やめておく、縁起でもないからね!




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―――
――



【双子が旅立ってから…3日目、朝7時20分】




ルージュ「」パシャッ!バシャバシャ


ルージュ「…あ、また寝ぐせが…髪長いのも問題だよなぁ」つ『ブラシ』




 エミリアが所属する裏組織の支部でお世話になり、そして陽が昇り始め
人々の生活音が目覚ましのアラーム代わりに鳴り始める頃、紅き術士は洗面台の鏡に映る自分と睨めっこをしていた



瞼裏に残った眠気を洗顔で共に洗い落とす、サッパリとした気分で仲間達が待つフロアへと降りていくと



エミリア「あら、おはよう…ってあなたアホ毛みたいに寝ぐせがピンっとしてるわよ」クスクス


ルージュ「あはは…一応濡らしたんだけどなー」ポリポリ



エミリア「それと…はい、これっ!」っ『乗船チケット:キグナス号』&『キグナス号パンフレット』


ルージュ「ありがとうございます…へー、白鳥の形をしたシップかぁ」ペラ


エミリア「ええ…サービスも充実してる、とてもいい船なのよ」




いい船だ、目の前の金髪美女はそう告げるのだ、一瞬だけ哀しそうな顔をしたのを彼は見逃さなかった


 エミリアが裏組織に入った経緯は…婚約者である男声を殺害され、その濡れ衣で刑務所[ディスペア]に送られたこと
そして刑務所からの脱獄にアニー、ライザという2名の女性の助力を得て成功

後に婚約者の仇"ジョーカー"という仮面の男をこの手で討つべく、アニー等が所属する組織に加入したという






…キグナス号、この船には事件が起きる前に、エミリアが婚約者のレンという男性と共に乗っていたそうだ




同僚の女性二人にもそのことは話していないらしく、ある意味辛い思いをさせる船旅になってしまうのだろう

亡くなった彼氏との思い出の船に乗船するのだから…





エミリア「そ・れ・よ・り!!フライトまでまだ時間があるわ!街に出て何か朝食を取るなり旅支度をするべきよ!」




溌剌とした持ち前の性格で彼女は術士の背を叩いて、そう促す


もしかしたら強引に話題を変えたかっただけかもしれない…それを彼が計り知ることはできないが



最先端科学のリージョンを自負するだけはあり、人々の従来は目を目を見張るものであった
 シップが運行を再開した[マンハッタン]のモール街を歩く経営者の靴音、重たい荷物を運ぶロボットの機械音
田舎から上京してきた所謂"おのぼりさん"という人なのだろう、恰好からして[京]から来た人なのだろうか



ルージュ「…護身術ですか」


エミリア「ええ、ルージュは術士なのはわかるわ…でもね、いざという時に術力が切れてしまったら、その時どうするの」



ルージュ「それは…」

アセルス「エミリアさんは銃が無くても体術が使えるんですよね?」



エミリア「ええ、ライザ…ああ、私の同僚の女性なんだけどね、彼女に色々と技を教えてもらったのよ」



「…変な覆面つけられたけど」と何か遠い目をして明後日の方角を向き始めたエミリアを尻目にルージュは考えた
もしも肝心な時に術力が切れてしまったら…

魔術師が力を使い果たして術を使えない…それは銃弾が切れ補充すらもできないピストルと同じだ

その時点で戦いに置いて"敗け"が確定してしまう



ルージュ「そうか、…ならば僕も自分だけの武器を手にするべきなのか」

ルージュ「…よし、決めた!」



ルージュ「エミリアさん、銃を手に入れられるお店ってありませんか!」


エミリア「なんであの時"仮面舞踏会"と"仮面武闘会"を間違えたのかしらね…ハァ…えっ?何ごめんよく聞いてなかったわ」


ルージュ「銃ですよ、銃!銃なら剣や体術と違ってあまり身体を鍛えていない僕でも望みがあるかもしれないと…!」


エミリア「う~ん、銃ね…実際使った事無い人は分からないと思うけど」

エミリア「あれって発砲の時、反動で肩とか結構持ってかれるのよ?」

エミリア「私も組織に入って間もない頃、射撃訓練で腕がパンパンになるほどやったし…」

エミリア「…なんにしてもこのリージョンじゃ難しいわ、[クーロン]なら顔の利く店もあるし」う~ん


エミリア「低反動で負担の少ないのあるか聞いてみましょう?」

ルージュ「本当ですか!?ありがとうございます!!」




アセルス「ルージュってばはしゃぎ過ぎだよ、子供じゃないんだからさ」クスッ

アセルス「ね!白薔薇もそう思わない――――」クルッ




『現在パーティーメンバー』

ルージュ
エミリア
アセルス
白薔薇 ←(迷子)


アセルス「……」


アセルス「し、しろばらあああぁぁぁぁぁ!!!!」ガーン

―――
――







  わらわら…

             がやがや…

         ざわざわ…

                                 わいわい…!


















白薔薇「」ポツーン




白薔薇(ど、どうしましょう…また皆さんとはぐれてしまいましたわ…)オロオロ











            『 待 て や ァ ァ ァァ!! ゴ ル ァ ァァ!!!』



            『お、俺がなにしたってんだよォ!!!!』







白薔薇「! この声は…確かヒューズさん?…まぁ!なんという幸運でしょうか!!」ダッ!









迷子の迷子の白薔薇姫さんは、知り合いも何もいない大都会のど真ん中で独り

しかし、これは僥倖か…?昨日お近づきになった不良刑事の怒鳴り声が聞こえて来たではないか?


困り果てた彼女は知り合いの声と、必死な年若い男性の声がする方へ駆けて行った









   ヒューズ「こんの餓鬼ァ!!人突き飛ばしといて逃げるたぁどいう了見だァァァ!!」カチャ! ダダダッ








   サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「ひぃぃぃーーー!そりゃ俺がわりぃけどよぉぉ!」


   サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「知らないおっさんが銃構えて走ってきたら逃げるだろうがぁ!!」









  ヒューズ「 誰 が お っ さ ん だァ!!俺ぁ 2 7 だあああぁぁぁぁ!!」バキューン!!



  サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「うわぁああああああああ!?!?おっさんじゃねーか!!」ヒョイッ










 サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「くっそぉ…!なんなんだよぉ一体!?」ぜぇぜぇ


 サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「俺はキグナス号の積み荷の事を知りたいだけだってのに!!」



  ヒューズ「…あ"?キグナスの積み荷だぁ?」ピタッ









   サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「はぁ…ッ!はぁ…?なんだあのおっさん動きが止まった?」

   サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「とにかく逃げねぇと!この曲がり角を曲がればっ!!」バッ!













           白薔薇「えっ」バッ!


   サボテンみてーな髪型した特撮ヒーロー「なっ!?―――あ、危ない!!ぶつかるッ!」



*******************************************************











  父さん、母さん、藍子――――――












            ――――――俺は、俺は…絶対にブラッククロスを許さねぇ!必ず仇をとってみせる!!














*******************************************************







【  双子が旅立つ  "数日前"  朝9時27分 】


『レッドの回想:[シュライク]の高速道路』









 都市型リージョン[シュライク]…経済特区として知られ、自然環境も整った緑溢れる街
ロボット産業を始め、生命の神秘を日夜追究する研究所も存在し独特な食文化や歴史もある平和な土地であった






 四輪駆動のエンジン音を響かせながら一台の自動車が高速道路上を走行する、乗っているのは二人組の男性
運転席でハンドルを握る男はまだ年若い19歳の子供、その横には壮年の男性―――子供の父親が乗っていた


ありふれた光景だったとも、この街じゃさして珍しくもない

 親子で自家用車に乗ってドライブなんて何の変哲もない普通の事だった、だから神妙な顔つきの父親を横目で見る
若者もこの後に起きる悲劇など予想だにしなかった





       バイオメカニクスの権威、  小此木<オコノギ> 博士





助手席に座る父親は誰もが知る著名人だ

彼はその腕に茶封筒を抱き抱えるように持ち重々しくその口を開いた




小此木博士「これは…Dr.クラインが悪の秘密結社ブラッククロスの幹部と結託している証拠だ」


小此木博士「この封筒を[IRPO]本部に持って行けば彼の悪事を阻止できる」







小此木烈人…愛称でレッドといつも呼ばれていた少年は訝し気に父親に尋ねた




レッド「父さん…なぜそこまでしてそこまでしてDr.クラインに拘るんだい」


小此木博士「彼と私は共に学んだ仲だ、だが彼は研究の為ならば手段を択ばなくなっていった」


小此木博士「私は…それを知りながら止めることができなかった、私には学会から疎外されていく彼を救えなかった」





小此木博士「私は彼にこれ以上悪事を重ねて欲しくない、あんなふうになってしまっても、彼は私の友だ…」







自らの知的好奇心の為、飽くなき探求心の為、―――道を踏み外し外道の道に堕ちても

それでも掛け替えのない友だから、博士は自分の気持ちを打ち明けた














               ヒュッ!ゴスッッッッッ





レッド「なァッ!?」ギュルルルゥ





哀しみ、憐れみ…そのどちらともつかない表情<カオ>の父を横目で見やった僅かな瞬間だった


突如として真上からボンネットに"鋼鉄製の何か"――今思えば、鎧武者の甲冑のようにも見えた――それが飛びついてきた



ずっしりと重みのある金属の塊が飛来し、乗用車は嫌な軋音をあげてバランスを崩した
真冬の凍り付いた路面を夏用タイヤで走ったような嫌な感覚、ブレーキペダルを踏み、ハンドルを正面に戻そうともした





だが、その金属製の人型は腕を振り上げ、車体に拳を叩き込み配線をブチブチと引き千切って操縦不能にして飛び去った






親子の乗る乗用車は長いカーブで蛇行し、最後にはカードレールを突き破って崖下に真っ逆さま

少年が最後に見たのは金属製のボディーと、その脇に抱えられた父の姿だった







     キイイイイイィィィィ   ガシャァン



―――
――





レッド「…ぅ、…ぐ」ムク


どれだけの時間意識が沈んでいたのだろうか、彼が眼を覚ました時視界に飛び込んできたのは木漏れ日の射す緑の屋根

身体を動かしてみる、奇跡的に目立った外傷は無い、上体を起こせばフロントガラスの破片がパラパラと頭から落ち首を
動かせば拉げた自家用車が黒煙をあげていた…本当によく無事だったものだ




レッド「いってぇ…」



レッド(くそっ…何が起きたってんだ、車運転してたら時代劇の鎧武者みてーなのが降って来て)




レッド「はっ!?父さん!…父さん!!!!」





レッド「くそぉっ!やられた!!ブラッククロスの奴らめ…」ダンッ



拳を大地に叩きつけ、歯軋りを1つ…あの鎧武者は、恐らくブラッククロスの手の者に違いない

証拠品をパトロール隊員に渡す算段を何処で知ったか知らないが連中はそうなる前に彼等親子を亡き者にしようとしたのだ





レッド「…!」ゾワ






そこまで考えて彼は背に薄ら寒いモノを感じ取った



犯罪組織は証拠隠滅の為に自分達親子を襲った…そして父の身柄拘束、ならば…









――――ならば、自分、父と来て"次は何を狙う"







レッド「…か、母さん、藍子…!!」ワナワナ






ブラッククロスの次の狙いは、恐らく小此木博士の妻と娘…即ちレッドの母と妹だ



レッド「ち、ちっくしょおおおおおおぉおぉぉ!!!」ダッ!



その場から彼は走り出した、ペース配分も何もあったもんじゃない、喉が痛くなる程の全力疾走

茂みを掻き分け、郊外にある一軒家へ、家族が居るはずの自宅へと





レッド「ハァハァ…!」



[シュライク]郊外の美しい森林、その中に佇む豪邸…まだ自分が幼かった頃はすぐ外で木登りや蝶々を追いかけたあの道





レッド「…ハァ、うぐ!」ドテッ ズサーッ




まだ赤子だった妹を抱き微笑を浮かべる優しい母、休日には自分を肩車して森の中を散策した父との思い出





レッド「……こんなとこで転んでる場合じゃねぇんだよ」ググッ





学者である父の所へ都心部から自転車で本の配達に来る憧れのアセルス姉ちゃん、よくヒーローごっこに付き合ってくれた










何もかもがレッドの脳内で鮮やかに輝いていた、在りし日の思い出が




立ち上がり森林の悪路を走る、何度も転び、泥にまみれ、傷を作っても止まらずに…



寿樹の香り…花の匂い、













焦げ臭い匂い、何かが燃える音





自宅に近づけば近づくほどに【当たって欲しくない予測】が現実になっていく




乗用車の襲撃から崖下への転落、眼が醒めた時はまだ木漏れ日の射す時刻で…彼が自宅へと戻った時は既に夕刻であった




              オレンジの空、茜色の雲…そして

                            空の色と同じように燃え上がる実家が…


【  双子が旅立つ  "数日前"  夕方16時47分 】




  【炎上する小此木邸 前】






パチパチ…メラメラ





現実は…残酷だ、さっきまで彼の脳裏には家族との温かな思い出が美しい鮮やかな景色があった


だが、目の前の鮮やかな"赤"はそれを否定する


頬に飛んできた火粉が当たる、熱い、ああ、熱いとも…痛いくらい熱い


これが崖下に転落し未だ昏睡状態の自分が見ている夢、幻ではなく無情な現実なのだと嫌でも彼に悟らせる痛みだ

















  レッド「う、ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ―――――ッ!!!」










それを目の当たりにして彼は折れてしまった、膝から崩れ落ち、大粒の涙を流した



屋敷は全焼、あれではもう母も妹の藍子も……


泣くしかなかった、ただただ哭くしかなかった






しかし、世界はどうやら彼に悲しみ途方に暮れる時すらも与えてくれぬようだ…燃え盛る炎の篝を背に彼の元へ影が伸びる


項垂れていたレッド少年の頭上から声が浴びせられた





              「キサマ、小此木博士の息子だな、死ね 母と妹の後を追わせてやる」






レッドはゆっくりと顔を上げた、赤々と燃える炎を背に揺れ動く人影がこちらに歩いてくる
眼を擦り、涙を振り払い暈けて見えた輪郭はしっかりとその姿を現した…


 思わず声を漏らし掛けた、何せ自分の目の前には自分よりも一回りも身の丈がある大男が立っていて
その男は両腕が義手だったのだから


義手…それも"普通の"ではない、事故で腕を切断し生活が儘ならない人間が手術で義手や義足をつけること自体は
なんら普通の事と呼べたが、目の前の男のソレは明らかに日常生活が目的で造られたソレとは異なっていた






人間にあるべき腕が無く、肩から先は無機質な金属…手首の先は鉤爪で、刃先には血糊が付着していた



自分の数歩前に男が来たことで漸く焦げ臭さと共に生臭い血の匂いが鼻孔に入り込んだ…
 よく見れば男の口元にも血液が付いていた、ギラついた眼差しでレッドを見下ろし、口元の血をジャムでも舐めるように
ペロリと舐めていた異様な人物



その両隣には護衛であろうか、顔すらも覆いつくす全身青タイツの人物が二名
 青の生地に黒い帯が交差するように腹部、そして頭部についているのがなんとも奇妙な出で立ちだ










 いや、この際そんなことはどうでもいい、重要なのはそこではなく――――










       レッド「…てめぇ、今…なんっつった」








ゆっくりとレッドは立ち上がった、青筋を立てて、未だかつてない程の怒りを、腸が煮えくり返る程の憎しみを声にした






  ――――死ね 母と妹の後を追わせてやる



目の前の人物は間違いなくそう言った、それが意味する事はつまり



   「フン、なんだ落下の衝撃で耳がイカレたのか、天国の母と妹の元へ送ってやると言っているんだ」






プツン、頭の中で何かが弾け飛んだ音がした

全身の血流が一瞬だけ真逆になったかのようだ、冷静さも思考も要らない、ただ「コイツをぶちのめす」それだけがあった





レッド「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァぁぁぁぁァ!!!!」




やんちゃ坊主でよく喧嘩もしていた、著名人の父を護りたいと空手教室や銃の訓練もまともな学び舎で習った事がある






そんな彼の怒りの一撃は
















               ドゴッシャアアアアアアァァァッッッァァァアアア――――ッ!!!










                  「今、何かしたのか?」ニィ


                    レッド「うっ!?」















怒りの一撃は…腹部に放った渾身の蹴りは、あまりにも無力だった




                   「死ね」ザシュッ



小五月蠅い便所蠅を叩き落とすように軽く振るった左腕、5本指の鉤爪は自分の力が一切通用せず唖然とする
レッドの肉を一振りでズタズタに裂いた



ずしゅり、身体が痛い、あまりにも呆気ない




レッド(…俺、死んじゃうのかよ)





ドサッ…




横たわった彼が真っ先に思ったのはそれだ、生温かい…自分の血ってこんな感じなんだな、血は温かくて抜け出ていく度に
身体が氷漬けになるみたいに冷たくなってく




            「へっ、口先だけの餓鬼が…」レロォ…



鉤爪の男は刃先に付着した血を舐め取り、踵を翻す…この傷じゃ助かるまいと判断したのだろう






レッド(うそだろ、俺まだ死にたくねぇよ…まだ俺は…俺は…)









レッド(おれ、は…みんなの、父さん、母さん、藍子… あいつ、まだカタキ…)













ズリッ…グッ、グググッ



    「…あぁ?」ピタッ


    「……ほー、まだ立ち上がるのか、まるで生まれたての子鹿だな」クルッ









      レッド「ハァ…ぜぇ、み んな   カタ キ…てめぇ、だけは…っっ」プルプル




     「健気だなぁオイ、泣かせるじゃあねぇか、その敬意に表して確実に殺してやる」


鉤爪の男は両腕を組むような姿勢を取る、そして肩を竦めると―――



  ガシャッ、ガコンッ…!




レッド「な、んだと…!!」




「へっ、面白れぇもんみせてやるよ!ゆけぃ!![クロービット]」



男の義手が外れ、そしてその両腕は――――ッッ!!




クロービット『』ヒュンッ ヒュンッ

クロービット『』ヒュンッ ヒュンッ




レッド(義手が飛んでやがるッ!―――俺の方に回転しながらマズイッ)




鉤爪の男の両肩、腕が外れた部位は機械で出来ていて…大男は所謂サイボーグという奴だった






  悪の秘密結社ブラッククロス、狂気の科学者クラインが手を貸す前から人攫いを積極的に行い

  攫った人間を改造手術で怪人に改造する……まるで日曜日の朝に特撮ヒーロームービーでやってるようなふざけた話だ



  だが、その狂った内容を現実<リアル>で、三次元でやってるから警察も血眼になって探す犯罪組織なのだ





 父から聴かされた時は最初あまりにも馬鹿馬鹿しい話だと思い冗句か何かだと思ったが…
機械男をこうして見せられては信じざるを得ない





 「な?面白れぇだろ、俺様の腕はこの脳髄の遠隔誘導操作システムで動いてるんだ…あの世で家族に自慢しな」



クロービット『』グルグルッ ギュゥウウウ――z__ン!  ドブッジャアアアアアア!!

クロービット『』グルグルッ ギュゥウウウ――z__ン!  ドブッジャアアアアアア!!



レッド「ぐっぁああああああああああああああああぁぁぁ……」パタッ



採掘ドリルよろしく螺旋を描きながら飛んできたソレは無慈悲にも彼の胃腸、肺に大穴を開け、男の元へ戻っていく


断末魔、そして―――家族の仇をとることすら叶わず朽ちていく自分の非力さに涙しながら彼は地へと伏した…


















              正義のヒーロー「シャイニングキィィィィイイイク!!!!」シュピーン!ゴシャッ!!!






                  「おごぁァ!?!?!?!?」












レッド(…ぁ、? なん だ  だれか  いるの か  もう みみ も まともに きこえな )





              正義のヒーロー「くっ、遅かったか!シュウザー!!私が相手だ!」




              シュウザー「うぎ・・ぎぎ、キサマァ…」ギロッ






その時、何処からかともなく一人の男が現れた全身鎧スーツを身に纏う男は光り輝く蹴脚[シャイニングキック]を放った
鉤爪のサイボーグ…[シュウザー]は脊髄から脳に痛みという電信信号を伝わらせた人物を恨みがましく睨みつけた




   シュウザー「きえええええええええぇぇぃぃいい!」ヒュッ シュバッ!


   正義のヒーロー「遅いっ![ブライトナックル]!!」


全身鎧スーツの闖入者目掛けて貫手、からの袈裟切りを繰り出すもそれを見越した動きで闖入者は紙一重に躱す
 そして光り輝く拳を勢いよく踏み込んできたシュウザーの下顎目掛けて打ち込む

敵の上半身はこちらへの踏み込みで、自身の拳は一回りも大きい巨体の下顎へ、お互いの体格差と動きを利用した拳は
下顎をぶち抜く、敵の方から正面衝突しにきたようなものである




  シュウザー「か"っ"…ぐ、ぶ」ツー――ッ、ポタッ


  シュウザー「俺様の顔に、よくも…クソ覚えていろ!!」バッ!ギュルルルル



唇の端から血を垂れ流したサイボーグは片脚を軸に独楽<コマ>のような大回転、砂埃を舞わせそれを煙幕代わりにし
護衛を連れて去って行った




 正義のヒーロー「取り逃がしたか…、いやそんなことよりも…!」バッ



 正義のヒーロー「おい!君しっかりするんだ!おい…しっかりしろ!!」




レッド(瀕死)「 」




 正義のヒーロー「いかん、このままでは助からない……ならば」カッ!!!



レッド(瀕死)『  』パァァァァ…!


レッド(?)『』ガシィィン!!





 正義のヒーロー「おい、しっかりしろ!"アルカイザー"」





レッド(?)(ある、かいざー?)





薄れゆく意識の中、レッドは暗闇に差し込む光を見た、あの落下事故で目覚めて最初に木漏れ日を見た様に






そして違和感に気がつく






レッド(?)「…うん?」ガシャッ

レッド(?)「アンタ…なんだそのふざけた格好は…俺にもこんなもの着せてふざけてるのか!」ガシャガシャ





 違和感、それは…目覚めてすぐ目の前にいる全身よろい鎧スーツという
まるで特撮物に出てくるヒーローのようなコスプレをした男と全く同じような衣装を自分も着ているということだ


つま先から肩まで全身に頑丈なアーマー、頭部はバイザー付きでユニコーンの角が生えたようなヘルメット






 正義のヒーロー「混乱する気持ちは分かるが、…いいかよく聞け、君の命を救うにはこれしか方法がなかった」


 正義のヒーロー「本来は君にその資格があるか調査し、宇宙<ソラ>の彼方にある[サントアリオ]のヒーロー協会に行き」


 正義のヒーロー「審査が通り次第、力を分け与えヒーローにするのが正式な手順だ、だが細かく調べる時間が無かった」




にわかに信じられないような話だった、目の前のコスプレ男は宇宙の彼方にあるヒーローのリージョンからやってきた

 フィクションでは無い、正真正銘本物の正義のヒーローで、悪の組織ブラッククロスと戦っていた最中で
瀕死のレッドとこうして出会い、彼にヒーローに変身する力を授けたのだという


この鎧スーツ男…名をアルカールというらしいが







レッド改めアルカイザー「ま、待ってくれ話を整理させてくれ……すると俺は本当にヒーローになっちまったのか?」



アルカール「そうだ、君は今日から正義の使者『アルカイザー』だ」




アルカール「ヒーローになってしまったからには"ヒーローの掟"に従わねばならない!」


アルカール「【ひとつ、ヒーローにふさわしくないと判断されれば君は消去される】」

アルカール「【ふたつ、一般人に正体を知られた場合は記憶を全て消される】」





悪の組織に、特撮番組に登場する変身ヒーローのお約束みたいな"掟"…いよいよ以って現実かどうか頭が痛くなってきた


頭痛がする、痛いのならこれは残念ながら現実なのだろう…信じがたいが




…信じがたいが消えかけていた命の灯を救われたのもまた事実、そして






アルカイザー「…なぁ、ヒーローは強いのか?俺を強くしてくれたのか?」




あの時、朦朧とする意識の中、光り輝く脚で自分の技が通用しなかった家族の仇を"ヒーロー"は確かに圧倒していた



アルカール「…君が今何を考えているのか大体予想はつく、ヒーローの力は『正義の為』に使わなくてはならん」







        アルカイザー「ブラッククロスの奴らをこの力でぶちのめすッ!!!」ギリィッ!!


   アルカール「復讐はいかん!!正義の戦い以外に力を使えば君は消されてしまうのだぞ!」







   アルカイザー「はっ!どのみち俺は死んでたんだろう、ブラッククロスは…ブラッククロスだけは絶対許さねぇ!」






―――
――



その日から、小此木烈人…レッドは父親の親友だったらしいホークという人物の誘いで

[キグナス号]という船の機関士見習いとして住み込みで働き各地のリージョンを転々とする日々を過ごした








あの日の事は一日たりとも忘れない、家族を殺され、復讐を誓ったあの時の気持ちを…!





ある時は巨大カジノのリージョン[バカラ]でシュウザーを見たという情報が入り
 そこでブラッククロスの戦闘員と怪人を倒し、またある時は[シュライク]に戻り女児誘拐事件を起こした戦闘員たちを
ヒーローに変身して次々と打ち倒していった


…その時は誘拐された女児の証言や、都市型リージョンということもあり大々的に新聞にも載ったが

変身した姿を見られなくて良かった…








そして、時は現在に戻る




[マンハッタン]の爆破テロでシップの運行が一日遅れたが彼は[キグナス号]と共にやってきた

そして…ひょんなことから船内に大量の密輸武器を見つけてしまった!!何処かで戦争でもやるというのか
こんな物騒なブツを一体どこの誰が持ち込んだのだッ!


家族の仇への復讐心は忘れない、だがそれとは別に元から彼は正義感の強い男だった


だから今回の密輸武器の真相を突き止めるべく、[キャンベル・ビル]に向かう矢先で妙な不良刑事に追い回された、と


そして―――


















           白薔薇「きゃ、きゃああああ!!!!」


        レッド「う、うわぁぁぁぁぁ…あ、ぶつかる訳にぁ行くかぁぁぁぁ!!!」キキィ―ッ!!



───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三


                    今回は此処まで!!!



『BGM:サガフロより…戦え!アルカイザー!』

https://www.youtube.com/watch?v=ZqhEamURFyM



  液晶画面の前に居るちみっこの諸君ッッ!!今日はみんなのヒーロー、アルカイザーについて解説するッ!


 説明しようッッッ!!アルカイザーとは!!正義のヒーローが住むリージョン[サントアリオ](原作中名前しか登場しない)からやって来た
正義のヒーロー、アルカール男爵から力を授かった小此木烈人<オコノギ レット>少年が変身した姿であるッ!





彼は一部のイベント戦闘を除き全ての戦闘で『変身』コマンドが使用可能なのだ

【人間<ヒューマン>】【モンスター】【妖魔】【メカ】その4種族のどれにも属さない【ヒーロー】という特殊な種族であり
専用技ヒーロー技という特殊な技術を閃くぞ!



レッドは変身に1ターン消費してしまうが、変身した場合はHPが全回復し


  『 最 大 HP が 2 5 0 も 上 昇 ! 最 大 VIT 7 5 更 に 他 の ス テ 値 が 全 25 上昇 』

  『 気絶(即死)、石化 、睡眠 、麻痺 、毒 、精神(魅了や混乱)といった全状態異常が効かなくなるのである』




ただし、ヒーローに変身した場合戦闘終了時にステ値が上昇しないので基本は生身で殴り合いをした方が良い

噂によると変身時に自動的に装備される[レイブレード]等のヒーロー装備によってステ補正が付くから成長しないシステムだとか…
サガフロは基本的に装備すると大幅に能力値が上がる武具を装備すると成長の妨げになる

アセルス編で調子ぶっこいて[幻魔]頼りにしてるとアセルスが修行不足になりやすいとか…

結論:ヒーローたるもの日々の鍛錬を疎かにしてはならないッ!


なお、変身シーンを一般人(仲間キャラ)に見られる訳にはいかない為、味方がレッドの変身を目撃できない状態でない限り変身はできない

※ヒーロー協会は『見られさえしなければOK』のスタンスらしく、仲間が麻痺、暗闇、睡眠、石化、戦闘不能、混乱など
 仲間が全員レッドの変身を認識できない状態異常なら可能
 ちなみに、人間、妖魔、モンスターは駄目だが、メカには見られても良いらしい、命令を固く守るロボットは人に言いふらさないし、無機物だからである
───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三

                      }  ヽ    |∨/ //    ____
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                   ̄ ̄ ̄ ̄|ソ ./ .//|_/ }_/、   /li     //  ヽ、
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                 ,、o     {`'~>‐'´ `ヽ-.、   ヽ〈、 ̄~ ,'.l´}`lz、  |
             _,..-''"`}l     .人 |~ヽ   `、/ヽ、  | .|    ヽヽヽヽヽ./
            _}}__  }ヾ_  / >-' .`、   .`、 ヽ__ノノ}    <ヽ```ヽ/
          /  }}  `ヽ、~} / .,/ ./    `、   }    <ー'、     ̄ ̄ヽ
      ,xー=x、_..-、,r}ヾ、  ``}}ー'|,-}___  }ー--/    .∧_|        `、
     /   //  `==ヾ、   }}    |`'´`ヽ_)'<三彡}     .| .|    、     .`、
   ./    //   〉=/ r-,'~)、__..‐'‐、 /~/_`ヽ__)ヽ、,..'|" ノヽ  .`、     `、
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/ /          ̄ </~ヾ、/| ̄フチフく´   `ー、ヽ ヽ  / /,--、 |   `、     |
               ヽ  ./|.,ト/ /,.|   ̄`ー―.'-‐'´ ̄~~| ,' |  .ヽ.|    `、    |
                \/〉´`l //ソ     ./~`ヽ___|,' |   `、   `、   ./
                 |/  .|/ ./    /      ./ .|  }    .}`、   `、 ./
                .,rl_/ /ー―'''´        ∧  } }    } ``‐--‐ヽヽ_,、
                ./ / /             .〈  } / /    .}      ヽ /
                }__}´ /´               } } { .{     /
             /},-、 /                 `-'ヽ {   ,〈

        }ヽ_..'// .}'/                     |ヽ  ./ |
        |~ヽ /´ 〈___/|/                     ヽ.}_/__ノ
        `ー``―'―‐'

───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三




全身全霊を掛けた急ブレーキ、靴底の踵部分が一気に数㎝すり減り、路面はマッチ箱を擦ったかのような跡と摩擦熱が残る
あわや惨事になる寸での所で彼と彼女は激突を免れた



レッド「だ、ダイジョウブ、か?」



恐る恐る、眼を開いた白薔薇に対して、心拍数が2倍速でリズムを刻む彼は片言ながら尋ねた…



白薔薇「は、はい…」




レッド「よ、良かったぁ~」ヘナヘナ


とりあえず、女性を全力で跳ね飛ばさなかった事に心底安堵したようで、彼はその場にへたり込んだ
 そんな二人の元へ遅れてやって来るのは不良刑事ことヒューズであり手にした銃を下げ目の前に奇妙な光景に眉を顰める



ヒューズ「…昨日のレディか、また迷ったんですか?」

レッド「うげっ!?お、おっさ―――ごほんっ、知り合いなのか?」



 どうやら目の前の貴婦人はこの不良刑事の知人らしい
怒り狂って先程までレッドを焼き焦がそうとしていた凶悪な重火器は――知り合いの前だからか――既に彼を狙っておらず
兎にも角にも事態が自分にとっていい方向に転がりそうな気配を少年は感じ取った


…此処で間違っても「おっさん」などと言って怒りの導火線に再点火しない限りは




白薔薇「まぁ…!ヒューズさん!またお会いできましたね!」ニコッ

ヒューズ「へへっ!いやぁ~連日のように美人さんに巡り合えるとは俺もツイてますなぁ、はっはっは!」


白薔薇「そちらの方はどうかなされたんですか?なにやらお急ぎで逃げていたようですが」


ヒューズ「え、あ、あ~、いやね?ここは大都会でしょう?白薔薇さんと同じようにこの坊主、迷子になってたんですよ」

ヒューズ「それで俺がいち警官として道案内してたってワケで」




レッド(このおっさん…よく言うぜ)




っと、見た目麗しい貴婦人の前でマジメな警察を演じ始めたおっさんに内心毒づいたが
それで自分が助かるならば何も言うまいとレッドは合わせる事に決めた



レッド「いやー、そうなんですよ、俺、あのビルに行こうとして、急ぎの用だったんで全速力で走ってて…」

レッド「本当にすいません、さっきはぶつかりそうになって」ぺこっ


白薔薇「いえいえ、良いんです、私もぼんやりと歩いていたのが悪いのですから」


ヒューズ「(…そう来たか)くぅ~…なんて良い人なんだ、オイ小僧、次からは気ぃつけて歩けや!」

レッド「わかってるって…んじゃ俺は急ぎの用なんでこれで!」タッタッタ!


道すがりの女性を利用したようで気が引けたが、ともかく彼は不良刑事のリンチから逃れるチャンスを生かし、場を去った





             アセルス「白薔薇ぁぁぁぁ!!!!!」タッタッタ!

              ルージュ「や、やっと見つけた…」ゼェゼェ




白薔薇「まぁっ!アセルス様!ルージュさんもエミリアさんも!」


ヒューズ「げっ!?エミリア…!!」ビクゥ


ヒューズ「な、仲間が来てくれてよかったじゃないですか!じゃ、俺はこれで!」ビシッ!ダッッ!







アセルス「駄目じゃないか!!勝手に居なくなって!」

白薔薇「も、申し訳ございません…」

エミリア「まぁまぁ…それより行きましょう?」






―――
――



【双子が旅立ってから…3日目、朝8時07分 :[マンハッタン]シップ発着場】



アニー「着いたわね![マンハッタン]」

サングラスを掛けた男「そのようだな…、後2時間もすればエミリア達と合流し[クーロン]に帰る事になるだろう」


アニー「じゃあさ!!それまで買い物楽しんできても良い!?此処のアクセサリーショップ人気高いんだよね~」

アニー「風邪で寝込んだライザの分までなんかお土産買ってあげたいし」

サングラスを掛けた男「好きにしろ」



サングラスを掛けた男「君はどうする?ライザのチケットが余ったからとアニーに連れられたのだろう?」




ブルー「…別に」






元は自分の金で買った乗船チケットだ、急遽来れなくなったアニー等の仲間の1人の代わりに自分が乗る事になった

 この3日間で"保護のルーン"…なにより遭遇できるかどうかさえ怪しい[タンザー]の体内にあった"活力のルーン"を発見
その功績は大きいと言っても良い、そして…



サングラスを掛けた男「…それにしても中々感心した、君のような男が居るとは…勝利こそ男のロマン!分かっているな」

アニー「うわっ、出たよ…ルーファスの病気が」ハァ~


ルーファス「アニー、何を言うか、勝利は良いモノだ、女のお前には分からんだろうがな…!」






"勝利のルーン"



 印術の資質を修得する為に乗り越えねばならぬ4つの試練、その内2つは既に乗り越え、もう半分は今この場に居る男女が
試練の成功へと繋がる鍵を握っている


刑務所への潜入はアニー、そして…―――この日の朝、ブルーが知り合ったルーファスというサングラスの男



 彼はどういう訳か"勝利のルーン"が刻まれている遺跡によく赴き
観光目的で訪れた男性客に『勝利ッ!それは男の勲章!そう思わんかね?』と問うらしい…それだけ聞けば変質者である




 先述の通り、この3日間で試練を2つも踏破したのは功績として大きい、陰と陽の資質は先日の事件が切欠で今は誰ひとり
修行することができない為、ブルーもルージュも指を咥えて待つか他の資質集めに奔走する他ない…

先に[ドゥヴァン]で小石を受け取り、既に半分試練を終えたブルーには余裕があった


仮にルージュが秘術ではなく印術の試練を選択していたと仮定しても、追い抜かれることはほぼ無いに等しいし

 万が一にも弟が兄より優れていてこの3日間で秘術の4試練を全てクリアしてたとしてもだ
[ルミナス]の封鎖が解除されるまで暇を持て余すのだ









ブルー(術の鍛錬…それと、術力が切れて魔術が使えなくなった時の対処法を練るなりしようと考えていたが…)



ブルー「ルーファス、本当に"勝利のルーン"について詳しいんだな?」





ルーンの刻まれた巨石付近は力に引き寄せられてモンスターが出没する、粗蟲共然り、スライムプール然りだ
前情報を得られるならば、聞いておいて損は無かろう…



ルーファス「ああ、何度か[武王の古墳]には潜ったことがあるからな、経験譚を聞かせてやろう」



腕を組み相変わらずサングラス越しの眼はどうなってるのか分からんが微笑を携え、それはそれはご機嫌といった様子だ








アニー「ルーファス!!ちょっと買い物行ってくるからねーーー!」



ルーファス「ああ!…さて何から話したものか…まず、入口から入って左側の奥に宝箱が3つある部屋があるがそれは」


―――
――







ルージュ「お、おぉ…!あれがキグナス号!!」





シップ発着場の展望エリアから眺める宇宙船<リージョン・シップ>の機影に銀髪の彼は目を輝かせた

 白く美しい白鳥をモチーフにしたデザインは実に見栄えの宜しい外装であった、一眼レフカメラを手に
その姿を写真に収めるマニアのシャッター音が激しいのも頷ける



白薔薇「…綺麗ですわ」

アセルス「どう?機械にもああいうのがあるんだ」

白薔薇「ええ…[ファシナトゥール]に居た頃は全く想像もつきませんでしたが…これは」




エミリア「…」


エミリア(キグナス、か……レン、私達あの日、二人で一緒に乗ったわね…パトロール隊員なんて危険な仕事辞めてって)


エミリア(私があそこであんな事言わなければ喧嘩なんてせずに済んだの…?)


エミリア(気まずさも何も無く、もっと陽の高い内からウェディングドレスを持って家に行けて…そうすればレンも)ジワッ


エミリア「…っ!」フキフキ


エミリア「いつ見ても!綺麗な船よね!!!三人共!売店でも見に行かない?観光ガイドとか必要でしょ」ニコッ






「…おい、あの船か?」ヒソヒソ
「ああ、情報は確かだぜ…」ヒソヒソ
「よし、ノーマッドのお頭に報告だ」ヒソヒソ









様々な思惑、想い、人々を乗せて、白鳥の乗降口は閉ざされていく…








【10時25分】 [マンハッタン]発 [クーロン]行き便は今、大空の彼方へとその翼を広げ飛び立った…









混沌、それは雲が悠々と流る青空を突き抜けた先にある"空の先にある空"の事だ



 その空間は死が充満していて、あらゆる生命は放り出された瞬間に身体が圧縮されて潰れ、消滅すると学者は説いた
大気圏、という世界<リージョン>を覆うフィールドバリアに護られているからこそ地上の生物は生きていける


だが大気圏の外、即ち混沌の空では身体が重力の激流に常に晒され肉も骨も軋み縮み、最後は圧縮されて粉微塵となり死ぬ

どこかのリージョンでは混沌の事を"宇宙空間"という名称で呼ぶようだが…それは少数派である











ブルー(悪くないな)






死の空を白鳥を模した光り輝く箱舟が渡航していく

 金の髪を束ねた魔術師は船内を暇つぶしがてらに散策していた
オーバーワークな鍛錬も祖国からの任務も今日は遂行しない、適度に急速を取らねば効率が落ちる…

テラスから眺める空は、月並みな言葉しか出せないが綺麗だった

 雲を突き抜け、星が矢の様に眺める自分達の視線から外れていく…
こんなにも美しいというのに、外は一歩出れば身体が朽ちて死に至る空間だというのだ



紙コップに入った甘いカフェラッテを傾け、彼は穏やかな時間を過ごして居た…思えば初めてかもしれない
祖国に居た時は術士としての学業に明け暮れ、寝ても覚めても参考書の文面とにらめっこで


いや、遠い昔、学院を抜け出して同い年の誰かと遊んだような気がするが…この歳になってからは初めてだ





アニー「あっ!居た居た!アンタねぇ!勝手に居なくなって探したわよ!」タッタッタ!


ブルー(…鬱陶しい女が来たか)ハァ…


アニー「ちょっと、なにさ、その顔…露骨に嫌そうな顔を」


ブルー「別に、それより何か用があって来たのか?」ゴクッ



面倒臭い、そんな態度を顔に思いっ切り出しながら紙コップを口元に運び甘味を嗜む
 相変わらずの不愛想な男に少しだけムッとしつつも金髪の女は答えた


アニー「あたしの知り合いとこの船で合流する予定って前言ったじゃん?」

ブルー「ああ(聞く限りで頭の悪そうな女か)」


アニー「時間帯も丁度いいしバイキングを楽しみながらって思ったのよ、ブルーも来る?」


ブルー「結構だ」


豪華客船のビュッフェは彼自身も興味はあるが、アニーだけでなく更にうるさそうなのが一緒なのは御免だ、そう思った




アニー「そうかいそうかい、ならそこに1人で居るんだね」

 折角人が飯に誘ってやったのに、と文句の1つ言ってやりたいが…
此処で騒ぐのも他の乗船客に迷惑だな、と彼女は慎む事にした

上司であるグラサン男はVIP専用の部屋で趣味の東洋刀を磨いている頃だろう…隠れ刀マニアで[シュライク]まで赴いては
[刀]を何処かの古墳から拾ってきたがっていたそうな…



青い法衣の男に背を向け、彼女は階段を下りてレストランへ向かっていく













アセルス「…美味しい」

エミリア「ふふっ!なら良かったわ」クスッ




レストランは人気が高く、昼食を求めてやって来た家族連れも含め大盛況と言っても良いだろう
銀食器で切り分けたガレットを一口、アセルスお嬢は蕩けるようなチーズとハムのハーモニーに正直な感想を漏らした


エミリア(この子も歳相応な笑顔をよく魅せるようになったわね…)

エミリア(突然、拉致同然で連れてかれてしかも人間としての生涯を奪われて…)ホロリ



アセルス「それにしてもこの料理…なんだかクレープみたいだね」

白薔薇「これはガレットですわ、痩せた土地で栽培が可能な粉を練った物で何世紀もの時を得てクレープになったのです」


アセルス「ふぅん?要するにクレープの御先祖様なんだ」クルクル


切り分けて生地で半熟卵<スクランブルエッグ>やハム等を巻いて食べる料理をマジマジと見つめる

まだ[シュライク]で普通の女子高校生として暮らしてた頃、帰り際に寄っていた屋台で売られてるホイップクリームだの
苺やバナナを包んだデザートの元となった物なのか、と感慨深げに眺めてそれからもう一口、噛み締める





白薔薇「それにしてもルージュさん、船内を探検したいだなんて」

アセルス「ルージュもあれで結構子供っぽいとこあるからなー…」



 この場に居ない紅い魔術師は目を爛々と輝かせて船内を歩き回っている
機械文明がそれほど盛んではないリージョンからやって来たのも相まって色々と見て回りたいのだろう



特に、医務室前で[医療用ロボット]を見た時なんか視線がもう釘づけで―――





アニー「エミリアーーーーっ!!」パタパタ…


エミリア「んん?アニー!アニー!!」ガタッ


アセルス(走って来る女の人、あの人がアニーさんか…綺麗な人、っていうか胸が大きい…)じーっ



【双子が旅立ってから3日目 午後13時40分】




レッド(…まさか、この船に兵器が積み込まれてるなんてな、クソ!キャンベルビルの社長め)

レッド(あのヒューズって刑事のおっさんと成り行きで一緒に行ったけど証拠もつかめない以上何とも言えなかったし)



ホーク「レッド!作業が雑になってるぞ!」


レッド「あ、わりぃ…」

ホーク「気をつけろ、俺達機関士は船に乗ってる客の命を預かる身でもあるんだからな」


レッド「ああ!」


―――
――



アニー「そう…アセルスちゃん、だっけ?今あの白い人に連れてかれた子」

アニー「彼女も相当苦労してるのね」

エミリア「事情は分かったでしょ?この子を[クーロン]の闇医者の所に連れて行きたいの」

アニー「ええ!そういうことならお姉さんも協力しちゃうわよ!」フフンッ

エミリア「さっすが!アニー!話がわかるわ!」



アニー「所で?あと、1人居るんじゃなかったの?」


エミリア「ああ、術士が1人居るんだけど…今は船の中を散歩中よ」





アニー「へえ?…"術士"…奇遇ね、あたしも今は連れに術士の男が居るのよね…」

エミリア「あら?本当に」



―――
――



ルージュ「凄いなぁ、モニター画面をタッチすると船の案内図がでるんだぁ」ピッ!ピッ!



白薔薇「あら、ルージュさん」

ルージュ「お二人共、どうしたんです?」


アセルス「あ、うん……調子に乗って食べ過ぎちゃって///」カァ///


―――
――


「うん?」

「どうした」

「機長、未確認シップ急接近が衝突コースに入ります」

「なんだと!コンマ1回避、エマージェンシーパルスで警告!一体どこのヘタクソだ…」

―――
――


ルージュ「ほらほら!これ凄いでしょ!ボタンを押すと船の見取り図が」ピッピ!

白薔薇「まぁ…!機械というのは不思議ですわね」

アセルス「う~ん、二人にはそんな風に見えるのか…」



―――
――




ブルー「…」テクテク


ブルー(道に迷った…)ズーン





<ほらほら!これ凄いでしょ!ボタンを押すと船の見取り図が

<まぁ…!機械というのは不思議ですわね









ブルー「うん?なんだ曲がり角の先に人が居るのか…丁度いい、此処がどの辺なのか訊くか」スタスタ


―――
――




アニー「それでさぁ!その男…すっっごく嫌味な奴なのよ!…変なとこで律儀だけどさ」ハァ

エミリア「何か話聞く限りその術士の人、かなりアレな人ね」


アニー「うん…悪い奴じゃないんだろうけどね」


エミリア「アニーってば、飲みすぎじゃないの?」

アニー「べっつにー、ちびちび飲んでるから良いのよ、それに迎え酒だから飲んだ方が良いのよ」






エミリア「あ、術士同士なら魔術とか共通の話題があるじゃない?アセルスの連れの彼と会わせてみない?」

アニー「うーん?あの協調性ゼロ男とぉ~」ヒック


エミリア「丁度この船に乗ってるんでしょ?これも何かの縁って奴よ」

アニー「うーん、アイツとねぇ…」

―――
――



「だ、駄目です!回避パターンに追随してきます!進路を押さえています…これは!!」

「海賊船<パイレーツ・シップ>か! 緊急事態発令、全乗客・乗員を速やかに固定位置に!急げ!」




【双子が旅立ってから3日目 午後13時48分】




 豪華客船の順風満帆な渡航は一転、最悪のアクシデントを迎える事となる

 機長の的確な指示によって突如として鳴り響いたアラートは旅行客のアルバムに忘れられない思い出の一頁になるだろう
未来予想図を語らう新婚旅行に出ていた男女、子供連れの裕福な一家、経費で優雅な船旅を楽しんでいたリーマン


酷く耳障りなサイレンと慌ただしく逃げ惑う乗客、そんな群衆を避難誘導する乗組員







   ――――混沌の大海原をフライト真っ只中、逃げ場の無い宇宙船<リージョン・シップ>内部は"檻"と呼んでも良い





近くに着陸可能な小惑星<リージョン>は無い

 これが普通の水面を走る帆船で、しかもただ座標しただけとあらば、救命ボートなり何なり出すだろうが
生憎とこれは星空を走る船、もっと言えば後ろからは武装した海賊船…乗客を乗せて緊急艇を射出しようものならどうか?



…まぁ明るい結末にはならないな






「大変だー!海賊だぁ!パイレーツが船を襲いに来たぞぉ!!」





乗客の誰かがその言葉を叫んだ、次に叫んだのは女性だった、お決まりのように「きゃー」なんてシンプルな悲鳴


 毛を逆立てた猫が飛び跳ねるが如く椅子から立ち上がるスーツ姿の男、酒気を帯びた真っ赤な顔が真っ青になる中年女性
子供を抱き抱え妻の手を引き何処かへ逃げようとする旦那、我先にと他人を押し退け、押し倒し逃げる自分勝手な輩






 阿鼻叫喚の絵図と化したレストランに取り残されたエミリアとアニー…
二人の女性もまた騒ぎの渦中から抜け出そうと藻掻いていた




「ひ、ひいいいぃぃぃ、た、助けてくれぇぇぇ!!」バタバタ

「ど、どけぇぇ!!俺が先だぁぁ!!」ドガッ




エミリア「きゃあっ!?」ドサッ!

アニー「エミリアっ!――――あたしの連れに何すんだこのクソ野郎!!」バキャァ!!


「うげーーーーっ!!」ベキッ!ズサァ―――ッ!!



アニー「エミリア、大丈夫?立てる…」スッ

エミリア「い"っ…あ、脚が…」ズキッ



アニー「さっきのハゲおやじに突き飛ばされた時、思いっ切りぶつけたから…そん時に挫いて、くそっ」

アニー(武器はルーファスの所に置いて来てる…よりによってこんな時に)ギリッ






エミリアの肩に手を貸し友人をどうにかして安全な所へ移動しよう、彼女がそう判断すると同時に船体は大きく揺れた


―――
――



「コンマ5最大減速後にコンマ3回避だ!それから1コンマゼロの緊急出力で振り切る!」


「りょ、了解!パターン準備完了ですカウントダウン開始しま―――」




     ド ガァ ァァ アアアアァァァァ―—…ッッ!




「こ、攻撃です!パイレーツが砲撃を うわぁっ!」グラッ


「い、いかん…!カウントダウン停止しろ!ミニマムドライブまで減速だ………くっ、これでは奴らに乗り込まれるな」

「き、機長…」


「…おお、神よ」



―――
――



ブルー「うぐっ…」ドガッ


ブルー「なんだ…さっきからこの揺れは…海賊が外から撃って来てるのか!」



<あ、アセルス様!此処から離れましょう!
<わかった!二人共行こう!
<う、うん!あっちに乗組員さんが居るから僕たちも!

<タッタッタ…!



ブルー(あっちに行けば良いのか、…とんだ船旅だな)チッ


今しがた壁に打ち付けた背中を擦りながら蒼き術士は声がした曲がり角の先に行こうとしたが…




ウエイトレスの少女「! あ、あんなところに逃げ遅れた人が! そこの人!!!こっちへ早く来てください!!」


彼は自分を呼び止める声に脚を止め、振り返った、紺色のショートヘアーに如何にもウエイトレスですと主張する
白いフリフリのホワイトプリムを頭に付けた娘と……医療用ロボットが一機


ウエイトレスの少女「此処からなら向こうの東ブロックより西ブロックの避難エリアが最寄りです!」


―――
――



ドカッ!バキィ!


「うわらばっ!?」
「おぎゃっ」
「あばっぷぅッ」




ヒューズ「ふぃーっ、…よう、小僧」コキコキ







キグナス号を襲撃した海賊が優先的に狙ったのは機関室、そして機長らの居る操縦室だ

機関士見習いのレッド少年は世話になった父の友人ホークを人質に取られ両手を上げて降伏することを余儀なくされていた
そこへいつの間に紛れ込んでいたのか、あの不良刑事が瞬きする間もなく相手を叩き伏せたのだ


レッド「ヒューズのおっさん!アンタもこの船に乗り込んでたのか!」


ヒューズ「だ・か・ら!俺はおっさんじゃ―――ああ、このやり取り何回やらせんだボケ!」

ヒューズ「いいか、連中の狙いはこの船に積み込まれた密輸武器だ」


ホーク「海賊共が情報を掴んだのか?」



 ホークが帽子を被り直し、刑事に問う「ああ、だが情報を流したのはキャンベル社長さ、あの女、大したワルだ」と頭を
掻きながら刑事は吐き捨てる様に返答を返した



レッド「!キャンベルが海賊を使って武器の密輸売買してるって情報を隠滅しようとしてたのか!!」


ヒューズ「まっ、そういうことだわな、偶々この船に乗り合わせた乗客の皆さんにゃいい迷惑だ」




ヒューズ「ざっと見て来たが奴ら迅速だったぜ、ブリッジの占拠から避難区画に逃げ遅れた乗客を船室に押し込んで人質」

ヒューズ「こりゃモタモタしてたらあの女社長の犯罪を暴く為のブツも海賊がお持ち帰りしちまう」





レッドは正直言って碌な印象の無いヤクザ染みたこの男を初めて見直した、これでも厳選された刑事なんだな、と




ホーク「そこの配管から上へ伝って行けばレストラン方面へ出られる、どうする?」



レッド「決まってんだろ!ヒューズ!海賊共をとっちめるんなら俺も協力するぜ!」



 ヒューズはしばし、考えたがこの船に詳しい奴が1人でも居れば策は練りようがある
連れて行く価値があると判断し同行を許可した



ヒューズ「いいだろう、やり方はお前に任せるぜ、機関長のおっさんは此処を見張っててくれ」




 動力室のパイプダクトをよじ登り、天井の小さな緊急用の出入口に手を触れる
有事の際に天井扉を潜り狭い道を進んでいけばレストランに置いてあるピアノの真下に出て来れる仕組みだ

乗組員だけが知っている緊急避難ハッチ、レッドは機関長に手渡された工具で天井の戸を開けて入り、その後を刑事が続く



レッド「…まさか、ガキの頃みたスパイ映画みてぇな事するなんてなぁ」

ヒューズ「へっ、スパイ映画か…笑える例えだぜ、全く」



レッド「この真上だな、今開ける」カチャカチャ

ヒューズ「おう、匍匐前進で狭い中を野郎のケツばっか見んのも嫌だからな早めに頼むぜ」



 カチャカチャ…!カチッ!




  レストランフロア緊急ハッチ『 』パカッ!





―――ヨジヨジ、ゴソゴソ…ヒョコッ!





レッド「 」キョロキョロ


レッド「よし、誰も居ない!」バッ!


ヒューズ「……めっちゃくちゃだな、料理の乗ったテーブルひっくり返ってらぁ、勿体ねー」キョロキョロ



刑事は、ホルスターからIRPO隊員に支給される[ハンドブラスター]の電源を入れる
 敵を痺れさせるパラライザー形態から電光剣と化すソード形態にもなる多様性のある重火器だ



レッド「野郎共め…!通路を楽器で塞いでやがる」

ヒューズ「コンサート用の楽器か、出鱈目に積み上げてバリケードのつもりか」



レッド「…右側の通路と左側の通路、どっちから攻める」

ヒューズ「右だな、俺の勘だが左は奴さん達が見張ってると見たね」




スタスタ…!



ヒューズ「! 待ちな」ガシッ

レッド「おわっ!」

ヒューズ「声出すんじゃねぇ!…ほれ見て見てろ、俺の勘は正しかったろう、曲がり角の向こう」スッ

レッド「あぁ!人影が…」

ヒューズ「この船の構造上、どう見る?」

レッド「…この先に行けばグルっと回り込める…俺とアンタでアイツを挟み撃ちにできそうだ」

ヒューズ「決まりだな、レッドお前はあっちから行け」






「ふわぁ…眠ぃ…」

「おいおい、気ぃ弛み過ぎだろ、そりゃあ長ぇこと[タンザー]の中に居たってのぁ、あったがよ」

「いいじゃねぇか、あのくっせぇ空間からやっと出られたんだぜ、リラックスしたってバチ当たらねぇだろ~?」






客室の前に二人、見張りが居た

 彼等の頭領が目的の"ブツ"を回収して出て行くまでの僅かな時間、退屈で欠伸が出る程に何も無いだろう時間が刻一刻と
過ぎていくのだろうとボヤいていた…



ましてや戦い慣れした輩が自分達を挟み撃ちにする気だなどと思いもしなかった








レッド「うおおおおおおおおおっ!!」バッ!



「なッ、だ、誰だてめぇ―――へげっ!?」ゴベキャッ



ヒューズ「おっと、援軍呼ばれちゃ堪んねぇからな、ちょいとばかし"おねんね"してなァ!」蹴り!


「はごっッ!」









 奇しくも、怠惰を貪りたがったサボりたがりの海賊の願いは叶う事となった
刑事の蹴りと後ろから猪突猛進で殴りかかって来た少年の手によって




レッド「ふぅ…呆気なかったな」

ヒューズ「なぁに、案外こんなもんよ…援軍呼ばれりゃそんな軽口も叩けねぇ状況になってたのはこっちだぜ」



 防音仕様の船室内では恐らく、他の下っ端共が屯ってトランプ遊びでもしてんだろう?っと
扉の前に居た二人を縛り上げながらヒューズは口にする



ヒューズ「こういうモンは各個撃破が基本だ、馬鹿正直につっこみゃやられんのは俺達だ」

ヒューズ「極力、見張りの奴さん達に見つかんねぇように動く、良いな?」


レッド「ああ」


バキッ! ゴスッ! タァンッ!

<て、敵襲
<言わせねぇぞオラァ!


ガシッ!グワァン!  ゴシカァン!

<警察舐めんな!




ガチャッ!



ウエイトレスの少女「ひっ!」ブルブル





レッド「ユリア!無事だったかっ!!」


ユリア「…ぇ、レッド?…レッドなの?」オソルオソル





 船室に押し込まれたウエイトレスの少女は何時海賊の男達に乱暴されるのかと肩を震わせていた
扉が開かれ人影が駆け込んできた時、反射的に目を瞑った彼女は聞き覚えのある声にゆっくりと目を開けた



ユリア「レッド!あぁ…!助けに来てくれたのねっ!ホークは無事なの!」ジワッ

レッド「ああ!ホークのおっさんは無事だ!他の人達は?」


ユリア「そ、それが分からないの…」

ユリア「私、BJ&Kと一緒にお客様の避難誘導に当たって…そ、それから逃げ遅れた人を案内してたら見つかって」ブルブル


レッド「ユリア…大丈夫だ、俺達が来たから…」ギュッ

ユリア「…レッド」





ヒューズ「あー、あー…うぉっほん、キミたち青春すんのは良いんだがね、TPOを弁えちゃくれませんかねぇ?」




レッド/ユリア「「あっ//」」




ワザとらしい咳払いと棒読みな刑事の発言に少年少女は照れくさそうに離れる、小声で「く、くそぉ…おっさんめぇ」っと
レッドの恨み言が聴こえた気がしたがヒューズは気にしない



ヒューズ「んで?ウエイトレスのお嬢さん、あー、ユリアさん?覚えてる限りで海賊共の動向や気になることは?」


ユリア「わ、わかりません…海賊たちは積み荷が目的みたいで私達は皆、船室に押し込まれて…」



ユリア「あっ…!あの!見つかった時に一緒に居た蒼い服を着た術士風のお客様とはぐれたんです!」

ユリア「なんとか捕まらずに逃げてくれたのなら良いんですが…もしかしたら船内の何処かに隠れてるかもしれなくて」


ヒューズ「ふむ、逃げ遅れた一般人の乗客ね、…要救助者か、貴重な情報感謝しますよお嬢さん」




レッド「わかったよ、俺達が探してくるからユリアは此処で待っててくれ!じっとしてるんだぞ」

ユリア「うん、…レッド、気をつけてね」


レッド「ああ!任せとけ!」ニィ!


タッタッタ…!バタンッ



―――
――







    ヒューズ「 こ の こ の ぉ ! 羨 ま し い じゃ ー ね か ! 小 僧 !」グリグリ







レッド「痛ぇぇ!!いででででで!や、やめろってば頭ぐりぐりすんな、おっさんてめぇ!!」


ヒューズ「くぅ~!あんな可愛い子ちゃんとよぉ!これだから最近のガキは!」グリグリ



レッド「離せっての!!」バッ




レッド「ぜぇ…ぜぇ…ったく、それより話聞いただろ?逃げ遅れた客がまだ船の中うろついてるかもしれねぇって」

ヒューズ「だな、一般人の救助も警察のお勤めだ…他の客室も回るっきゃねーな、こりゃ」


レッド「…あ、そうだ、ヒューズ、隣の部屋に行こう、戦力になりそうな奴が居るんだ!」タッタッタ!


ヒューズ「あん?…なんだぁ?"医務室"?」


レッド「とりあえず入れよ」ガチャッ!




―――
――



【キグナス号:医務室】



レッド「えっと…」キョロキョロ

ヒューズ「何探してんだよ」


レッド「…あっ!いたいた!アイツだ」





医療用ロボット(節電モード)「 」シーン


レッド「…良かった、パイレーツ達に壊されてない、電源を切られてるだけだ…」カチカチ!ポチッ!



ウイーン、という起動音と共に1台のメカがスリープモードから目を覚ます
丸っこいボールのような足が3つ、その中心はチェスの駒で言うポーンを逆さまにしたような体型

両腕を挙げて、動作確認を行い、そして開幕一言が…








医療用ロボット「異常ありません。」


レッド「異常大ありだろう!ちょっとついてこい!」ガシッ





丸っこい、愛嬌のあるロボットを掴み、医務室を出ようとするレッド少年に刑事は口を挟む




ヒューズ「おい、レッド…そいつ役に立つのか?」


レッド「ああ、立つさ…こいつは[BJ&K]、正式名称は[Black Jack&Dr.K<ブラックジャック &ドクター ケー>]」

レッド「ウチの船に派遣されてる医療用メカで最終兵器だ」


ヒューズ「最終兵器ぃ?こいつが?」



レッド「ああ、こういう緊急事態を想定してこいつには[圧縮レーザー砲]が装備されてるんだ」

レッド「どんな敵が来てもコイツのレーザービームでイチコロだぜ」




医療用ロボット…確かに怪我を負った場合、居てくれれば心強い事この上無いだろう
しかし、[圧縮レーザー砲]…


その名前を聞いてヒューズはギョッとした



それは正式な軍隊で戦闘メカに搭載される[破壊光線銃]に負けずとも劣らない重火器装備ではないか…!
風の噂では[クーロン]の闇市場でさえ、早々お目に掛かれない武装だ




ヒューズ「マジかよ…なんつーモン装備してんだよ、ってかソレ本当に医療メカかよ」


レッド「燃費の割りに凶悪な破壊力だからな……」

レッド「まぁ、俺も初めて知った時『コイツぜってぇ戦闘メカの間違いだろ』って思ったけどな」



BJ&K「」じーっ


BJ&K(?…解析結果、体調安定、怪我人無し…非常事態ゆえに体温、脈拍の乱れあり…生体反応…???)




2人のそんなやり取りの中、医療メカはレッド少年を"診て"奇妙な違和感を察知していた…

この時、それは『戦闘による緊迫や呼吸の乱れ等から来るモノ』、とその程度にしかまだ認識していないが…

―――
――



【キグナス号:客室 ブルーの居る場所】



ブルー「…っち、面倒な事になったものだな」




あの後、ウエイトレスの少女ことユリア、そして隣に居た医療用メカと移動していた最中に海賊に見つかり彼は
ユリアと"ワザとはぐれた後"追って来た下っ端を"追って来れない身体"にした




ブルー「[タンザー]に飲み込まれ、ハイジャック事件に巻き込まれる…どうにも船には縁がない様だ」ぽふんっ




 自室のベッドに腰掛け、大事な荷物の入った[バックパック]を確認する…祖国からの支給品は無事だ
先日、粗蟲共の所で[リージョン移動]を落としたばかりで次は海賊に奪われましたなど、笑い話にもなりゃしない

今度からは肌身離さず持っておこうと術士は宝石を握りしめ、固く誓った








――――バンッッッ!!





「ヒャッハー――!!見ろよォ!!まだこんな所に乗客が居たみたいだぜェ!!」

「もうこの階の奴ぁ全員連れてったと思ったがこいつぁ運が無かったなァ!」ケラケラ!

「おっ!見ろよ!あの金髪のチャンネー!手に綺麗な宝石持ってんじゃんか!」









                  ブルー「…あ"?」ピクッ








チャンネー


ブルーの横顔を見て、見回りに来た海賊共は"逃げ遅れた女"が居る、そう判断したようだ




そして、その"チャンネー"は眉間に皺を寄せた、キレる数秒前である



「へへっ、そいつをこっちに渡しなぁ・・・そうすりゃ乱暴しないでやるぜ」スチャ

「おう、貰うモン貰ったら後はこの部屋に監禁する程度で済ましてやっからよぉ!アヒャヒャヒャ!




―――
――



レッド「見張りが向こうを向いてる間に走り抜ける、ちょっとヒヤッとしたかな…」

ヒューズ「見つかればリンチ確定だ、[ロックバブーン]や[ドラゴンミニー]とかあれこそ集団で来られたら勝てねぇ」

BJ&K「…」ウィーン




2人(と1機)がキグナス号の廊下を、それも丁度とある客室前を歩いていた時だった




バゴンッ!!








      「うわらばっ!!!」「あべしっ!」「ひでぶっ!」ドキャ―――z____ンッ!!







レッド「うわっ!な、なんだぁ!?」




「「「――――――」」」ピクピク…



BJ&K「生体反応あり、3名とも昏睡状態、身体中に火傷、感電の痕が見受けられます」


レッド「こ、この部屋から吹っ飛んできたぞ…」




―――
――



ブルー「…ふぅー」


ブルー(アイツ等何処かで見た気がしたと思ったら[タンザー]に呑まれた時に居たな…)

ブルー(まぁどうだって良いか、くだらんことに術力を使ってしまった)



ガチャッ



ヒューズ「ちょっとお邪魔するぜ、部屋の外に吹っ飛ばされた連中…アンタがやったのかい?」

ヒューズ「おたく相当強いねぇ、協力してもらえないかい?」



ブルー「関わり無いな」シレッ



…面倒なことに巻き込まれそうだ、瞬時に判断した彼は一言そう言い放った




    レッド「シップが動かなきゃ困るだろ!!」バッ!





 腕を組んだまま、術士は刑事と自分の間に割って入って来た年若い男を一瞥した
齢は20になるかならないかと言った所なのだろう、血気盛んで如何にも無鉄砲な男なのだろうと彼の第一印象は決まった





ブルー(……『シップが動かなきゃ困る』か)




彼の手には輝きを秘めた宝石が握りしめられている、祖国からの支給品である魔術の媒介だ
 念じれば何時だってブルーは[ゲート]の術で脳裏に浮かべた景色へと瞬間的に跳べる




つまる所、宇宙船<リージョン・シップ>が動けようが動けまいが彼には正直何の関係も無く、1人でさっさと脱出可能という














だが…







ブルー(…ちっ、この船にはあの女が居る)




このハイジャック騒動に共に巻き込まれた金髪の女の顔が過った


 印術の試練の内、"解放のルーン"を得る為には某刑務所に潜入せねばならない
――そして唯一の架橋である守銭奴のお嬢ことアニーを置き去りにして行った場合


最悪…奴に連れて行ってもらえない可能性も浮かび上がるのだ



 今、双子の方割れが資質集めの試練をどれ程成し遂げているのか分からないが、印術を諦めて秘術へ鞍替えするとなれば
ここまでの労力はとんだ徒労に終わる
 そればかりか、ルージュの方が先に秘術を取得してしまえば……



"双子の片割れが修得した資質は取ることができない"……置き去りにして脱出するのはリスキー過ぎる





      ブルー「……そうだな、協力しよう」



彼は、刑事と少年…そして医療メカと共に同行することを決めた



レッド「本当か!?ありがとうな!」

ブルー「有事だ、やむを得ん」スッ


レッド「いやぁ、助かるぜ…ええっと」スッ



 術士は宝石を大事に仕舞いこみ、[バックパック]を背負う、まだ名も知らぬ少年と刑事に向き合い…
少年が差し出した握手の右手に目を向け、名を名乗ることにした



ブルー「自己紹介がまだだったな、ブルーだ」



ヒューズ「俺はヒューズ、見ての通り[IRPO]所属の刑事だ、そっちの小僧はレッドってんだ」


















                  ブルー「赤<レッド>…だと…?」ピタッ













差し出された右手に答えるべく手を伸ばし掛けたブルー……だが、その手が先方の挨拶には答えず、空虚を掴む事となる





レッド…red… 赤



少年の名を聞いてあからさまに術士は怪訝な顔をする

"苛立ち"…表情どころか体全体から醸し出す不愉快だと言いたげな空気に、若干少年は気圧された


レッド「ど、どうしたんよ?」







ブルー「…」


ブルー「やはり、やめた」


レッド「はぁぁぁぁぁ!?なんでだよっ!!」



ヒューズ「おいおい、術士さんよぉそりゃまたどうしてだ」

ブルー「気が変わった、それだけだ」



レッド「何言ってんだよ!アンタさっき協力しようって言っただろう」




―――パシンッッ!




レッド「~っッ!」ビリッ










   ブルー「貴様の名前が気に喰わん」








差し伸べた右手は…友好の挨拶は白い手で弾かれた、乾いた音が響いた船室…一瞬の静寂と張りつめた空気



 小此木烈人<おこのぎ れっと>…通称レッド少年は…目の前の男を睨みつけた
突然の仕打ちだった、此方に一体なんの非礼があったというのか、アイスブルーの瞳はゾッとする程に冷たく

それこそ、親の仇でも見るかのような眼つき…叩かれた手の甲の痛みも熱もサッと引いてしまう程に凍てついていた




ブルー「失せろ…俺は貴様らと共に行動はせん」


ヒューズ「…おたく、"赤"って単語に恨みでもあんのかい?えらく冷たい目だな」


レッド「なんだってんだよ…くそっ!」



ブルー「……」


ブルー「船が賊共に占拠されたままなのは此方とて都合が悪い、だが俺は俺で独自に行動する」

ブルー「分かったら、さっさと出て行け」プイッ



ヒューズ「…はぁ~、レッド、理由は分からんが奴さんは梃子でも動きそうにない、諦めようぜ」

レッド「…わかったよ」



スタスタ…



ブルー「行ったか…俺もアイツ等を探しに行かねばな」




レッド「何なんだよアイツ…」ブツブツ

ヒューズ「まっ、世の中色んな奴がいるってことだろ」



納得いかない、口に出さずとも表情で隣を歩く刑事に訴えかけるも「俺にぶー垂れ顔見せるなよ」と肩を竦められるだけだ
 感じの悪い陰気な奴に遭遇した、レッドはそう思って忘れることにした…パイレーツ共の事に切り替えようと…



この時、彼は思いもしなかったであろう





後に"家族の仇"が待ち構える建物に乗り込む際に、術士ブルーと手を組むことになる等と…






―――
――




白薔薇「厄介なことになりましたね」

アセルス「…うん、ルージュとはぐれるし、偶々逃げ込んだ部屋でこうして息を潜めたけど…」

白薔薇「海賊がまだ出歩いているかもしれませんからね…」


アセルス「まさか、あんなに強いのが沢山出てくるなんて思わないし、まだ大人しくしていよう」






―――ガチャッ



アセルス/白薔薇「!?」



アセルス「まさか――!この部屋に居るのがバレたのか!白薔薇は武器を持って私の後ろに下がって!」つ【幻魔】チャキッ






レッド「いてて…なんでこの廊下あんなに敵ががうろついてたんだ?この部屋は逃げ遅れた人は――――!?」



アセルス「海賊めっ!!出て行けぇぇぇ――――!!!」ブンッ


レッド「うわっ!?」



鞘に納めたままの【幻魔】を鈍器代わりにッ!アセルスは突然の来訪者目掛けて一太刀振り下ろすッッ!



レッド「ウオオオオオオオオオオオオォォォ!!」ガシィィン!

アセルス「なっ――素手で受け止められた!?」



真剣白羽取りであるッ!!



         レッド(あ…危ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!)グググッ!

       アセルス「こ、この…!離して!離しなさいっ!!」グググッ!



アセルスは腕に力を籠めるも、レッドが両手で掴んだ妖刀は大岩の下敷きになった西遊記の孫悟空のように抜け出せない









          レッド「ぐぅ、ぐぎぎぎぎ……あ…?…アセルス姉ちゃん?」


           アセルス「くぅぅぅぅ…って、ぇ…? うわぁッ」スポンッ! ――ドサッ








レッドは入室と共に襲い掛かって来た襲撃者の顔を見て、―――思わず手の力を抜いた

アセルスは鞘による殴打で気絶させようとした来訪者の声を聴いて驚き、―――引っ張った[妖魔]ごと後方へすっ飛んだ






レッド「ね、姉ちゃん!大丈夫か?」


アセルス「…?誰?」




尻餅をつきながら、自分を覗き込んでくる顔を見る―――自分の名前を知ってる彼を思い出そうとするが記憶に出てこない

ふと、自分は12年間も歳を取らずに意識不明状態だったのだからそれもそうかと思い当たった…記憶にある顔の筈が、無い




レッド「やっぱり!やっぱりそうだよ!!俺だよ、烈人…おこのぎ れっと!」

アセルス「おこのぎ――――」ハッ!





レッドにとっては、実に12年ぶりの…

アセルスにとっては、ほんの僅か数日前の…


―――奇妙な再会となったのである…




アセルス「烈人くん!ああ!小此木先生の所の烈人くんか!…大きくなったな~、いやぁ全然わからなかったよ」

アセルス「でも目の辺りなんか変わってない感じかな」



彼女がまだ人間だった頃、[シュライク]の街で普通に女子高校生として生きてた頃によく遊んであげた7歳の少年
確かに、よく見れば顔に面影がある…



アセルス「…てっきり海賊が来たのかと思って、ごめんね?」



レッド「ははは!さっきのは驚いたよ、昔のチャンバラごっこを思い出すなぁ~本当よく遊んでもらってさ」

レッド「姉ちゃん全然変わってないよな~髪の色は緑じゃなかったけど…」


 後ろ頭を掻きながら10歳年上の、それでいて憧れだった近所のお姉さんとの記憶を思い出して
レッド少年は気恥ずかしそうに笑った













そして、"違和感"に気が付いて、ピタリと顔に浮かべた笑みを消した








レッド「…い、いや、ちょっと待てよ、いくら何でも変だぞ!?」ハッ!







同じくしてアセルスの顔からも笑みが消えた、12年の時を経て、"自分を知ってる人"に巡り合えた安堵が失せた

分ってしまったのだ、そうだとも、…人間が、普通の人間が10年近く年を取らない筈がないのだのだから








レッド「どう見ても高校生くらいだ!!もう10年以上も前の話だっ!」


アセルス(…あぁ…)







悪意は、あったわけじゃない



好きで傷つけたというのでもない




誰が悪い、という話でもあるまい






レッド「貴様っ!何者だ!!」バッ!



レッドは飛び退き、大好きだった近所に住む憧れのお姉さんに化けた"何者"かに向け拳を構える










アセルス(…そう、だよね…私は―――私の存在は、"おかしい"んだよね…)








白薔薇と[ファシナトゥール]を脱し、故郷の[シュライク]へ帰って来た時…彼女は自宅で育ての親の叔母に会った

少しだけ老けた叔母に、10年近く前に行方不明になった―――死亡者扱いされた――娘と同じ姿の化け物が現れた






そう言われた時のアセルスの心情とくれば、胸の奥を抉られたような心持ちだった





そして、今…再び、自身の存在を否定された

人間じゃない、自分は【バケモノ】になってしまったんだと打ちのめされる想いを再び…っ






        白薔薇「お待ちください!」



レッド「あ、アンタは…」

ヒューズ「この船に乗ってたのか!」




白薔薇「この御方は…本当にアセルス様なんです、複雑な事情があって齢を取らない肉体となり眠り続けていたのです」


レッド「そんな眠り姫みたいな話を信じろっていうのか…ぃ…」




 眠り姫、童話のタイトルがパッと思い浮かぶような御伽噺<オトギバナシ>さながらな事を言われ率直な感想を述べたが


……そこまで言いかけてレッドは、ふと『宇宙の彼方からやってきた正義の味方に命を救われ変身ヒーローになった』と
自身も大概、夢物語な体験をしてるではないかと思い当たり、否定できなくなった





レッド「………」


レッド「ほ、本当に…姉ちゃん、…なん、だな?」



アセルス「…」…コクッ


レッド「…そ、そうか……ごめんよ、俺ヒドイ事言っちまった…」ペコッ





ヒューズ「はぁ~…お前らなぁ、今そんなこと言い合ってる場合じゃねーだろう」


ヒューズ「白薔薇さんに、アセルス、だったな……あの銀髪小僧と、もう一人は?」




銀髪小僧、…はぐれた紅い魔術師ともう一人…ヒューズにとって会いたくない人物ベスト1に入る女性を尋ねた



アセルス「それが二人共はぐれちゃって…」


レッド「? 知り合いが船の何処かに居るのかい?」


白薔薇「はい、金髪の女性と、紅い服を着た魔術師の方です…」




ヒューズ「まーた、船内にいる逃げ遅れの要救助者が増えたワケか」


ヒューズ「おう、二人共ここで待ってろよ…こういうのは野郎の仕事だからな、行くぞレッド」

レッド「ああ!アセルス姉ちゃん!それに白薔薇さんだったな!二人共此処に隠れててくれよな!」



アセルス「何処に行くつもり!」



レッド「ちょっくら船を取り戻しにだ!」

ヒューズ「ハイジャック犯を逮捕してボーナス貰うんだよ、かつ丼くらいは奢ってやるぞ」




アセルス「私達も行くわ!はぐれた仲間をどのみち探すつもりだったし、それに烈人君を放っておけない」

白薔薇「アセルス様の御命令とあらば御付きします」スッ




ヒューズ「…」ピタッ


ヒューズ「おい、こいつぁ映画やドラマじゃねーんだ、マジモンの実戦だ」ギロッ




アセルス「…私だって、戦える!」




レッド「…姉ちゃん」


BJ&K「…生体反応異常数値」ウィーン





レッド「…わかった一緒に行こう、いざとなったら、後ろに下がってコイツに怪我を治してもらう」

レッド「ヒューズ、今は戦力が欲しいんだろ?」


ヒューズ「……はぁ、わぁーったよ、好きにしろい」

―――
――




「ひぎぃぃぃぃぃぃ――――ギッ」ボッブジュシュッッ





 蟲型モンスターが悲鳴を上げたのは、頭部が光の牢獄に囚われたからであった
球体状の発光する檻は一瞬縮み上がったかと思えば勢いよく破裂した、"中身"と一緒に弾け飛び

後には頭部を失い、手足をバタバタさせる胴体が残った…脳が焼失させられても少しの間動くのは虫ゆえの生命力の高さか


それをやった張本人は手で鼻を覆いながら、血の匂いと醜いソレの最期の"もがき"から顔ごと背けた






ブルー「…気色の悪い奴らめ、…やけに屯って居るから乗客を閉じ込めているのかと思えば」



 階段を下り続けて、パイレーツの手下どもが妙にうようよ居る通路だと、…目的の人物が囚われているかもしれない
そんな可能性が浮かび、正面から出向き残さず駆除して行ったものの




ブルー「動力室か、…当てが外れたな」クルッ



宇宙船<リージョン・シップ>の心臓部と呼べる部屋を見張っていただけだったようだ





物言わぬ屍と化したモンスターの群れを横切り、階段を上がる

…彼は共に乗って来たアニー、ルーファスを求め船内を廻っていた






ブルー「…ん?」テクテク…ピタッ



ブルー(展望エリアに居るあの後ろ姿は…あの時のウエイトレス…確かユリア、と言ったな)






ユリア?「……」



ブルー(逃げ遅れか、一応世話になった身だ…適当な部屋まで連れてってやるか)テクテク


ブルー「おい」


ブルーはユリア、と思われる後ろ姿に声を掛けました…





           ユリア?「…ふ、ふふふ、うふふふ!まだ捕まってない乗客が居たのね」ニヤッ






くるり、その後ろ姿は此方へと振り向く



フリルのついた可愛らしいウエイトレス衣装も艶のある黒髪にもそぐわぬ顔がそこにあった






骨、それ以上でもそれ以下でも無い顔立ち…というか皮膚が無い、人間<ヒューマン>の肉体ではない



船内のスタッフルームから盗って来たのか、衣装を纏い鬘を被った[スケルトン]系譜のモンスターがそこに居たのだ








         ユリアに化けてた海賊「BINGO!」バッ!


          隠れていた海賊A「はーっははは!まんまと引っ掛かったな!マヌケぇ!!」バッ

          隠れていた海賊B「こうやって目立つ格好で突っ立ってればアホが釣られると思ったぜェ!」バッ







   化けてた海賊「くっくっく!我らノーマッド海賊団!死の属性トリオ!」

   隠れていた海賊A「俺達のチームワークから逃れられた奴ぁ今まで一人も居ないんだよォ!!」

   隠れていた海賊B「テメーの不幸を呪うんだなァ!!」








      海賊s「「「金目のモン頂いた後、ふんじばってやんよぉ!!覚悟しやがれッ!!」」」ヒャッハー!
















              ブルー「『<ヴァーミリオンサンズ>』」キュィィィィン!





 化けてた海賊「へっっぶぅ!?」
 海賊A「まそっぷ!?」
 海賊B「ギエピー!?」
 






ブルー「…なんだったんだ、今のは」スタスタ…





 やけに自信満々で襲ってきた海賊は見事なチームワークで他界した、横一列に並び最大火力の直撃で同じタイミングで
仲良く消滅したそうな…



―――
――






レッド「」キョロキョロ…

レッド「おっし!!VIPルームエリアは見張りが居ねぇ!皆!いいぜ!」サッ!



ヒューズ「ふぅーっ…VIPルームね、客室に酒のボトルでもありゃ景気づけに貰ってきたいモンだ」

レッド「[IRPO]本部に請求書出すぞおっさん」


アセルス「此処以外は全部見回ったの?」


レッド「ああ、レストランもユリアやBJ&Kが居た医務室、会計室…大体全部みたさ」

レッド「だから、その連れの人が何処かに隠れてるならこの階の可能性が高い筈なんだ」


ヒューズ「こっち側は来なかったからな…」





『VIPルーム扉前』






レッド「…みんな準備は良いか?」チラッ

アセルス「うんっ!」

白薔薇「はい」


レッド「海賊が待ち受けてるかもわかんないからな、せーので行くぞ!」

―――
――



【VIPルーム内部】



ルーファス「ふむ、それにしても君は運が良いのだな船内を逃げ回っていたら此処に辿り着いたとは」

ルージュ「いやぁ…本当に助かりました、仲間とはぐれて心細かったんです」」ペコッ、ペコッ

ルーファス「何、エミリアの知人ならそれくらいどうということはないさ、それで?行くのかね」


ルージュ「はい!外の様子も落ち着いたようですしそろそろ探しに行こうかと」




 サングラスを掛けた男性にとう告げて彼は扉の前に立った、無論この部屋を出て仲間を探す為だ
しかし、彼がその扉を開けることは無かった


ガチャッ!バンッッ!


ルージュ「ほぐっ!?」ゴッッッ



鈍い痛みが頭部に走る、開けようとした扉が勢いよく開いた、開けたのはルージュではない廊下に居た人物だ



レッド「あっ…」




ルージュ「~~~っ」(頭抱えて蹲り)


レッド「そ、そのわりぃ…」アセアセ




 扉の眼と鼻の先に誰か居るとは思わなかった、その人物が海賊共の仲間かどうかは知らないが
レッドはそれよりも先に罪悪感が勝り、相手を警戒よりも謝る事を優先した…



この時、ルージュは顔を伏せていたから瞬時には気づかなかった




"さっき"見た顔と瓜二つだ、と




アセルス「ルージュ!ルージュじゃないか!」

白薔薇「まぁ!こんなところにいらっしゃったのですね!」



レッド「えっ!?ってことは探してる人なのかい?」

ルージュ「う、うっ…その声は、二人共無事だったんだね…」


レッド「あー、ルージュ…でいいんだよな?その、本当ごめん、まさかドアの前に居るとは思わなくて」

ルージュ「い、良いんだよ、僕も悪かったから…」スッ






レッド「!?」ギョッ


ルージュ「…? 僕の顔に何かついてるの?」



レッド「ぇ、あ、違う…けどよ…」



"すこし前に会った感じの悪い奴"と似通った顔

ただ、アイツよりかは眼つきがきつくなくて、なんだか温厚そうな人柄だな、と少年は思った
涙目で見てくるのと、罪悪感の所為かもしれないが…

 兎にも角にも彼がルージュ、という人物に対して抱いた感情は対立的ではなかった
ブルーの不遜極まりない態度の後でもブルー似の顔に悪い感情を持たなかったのであった



レッド(…にしても、似すぎだろ)

レッド(世の中、自分にそっくりな人間が3人は居るってよく言うけどなぁ~)マジマジ




マジマジと銀髪の魔術師を眺める



蒼い法衣、金を束ねた髪…凍り付くような鋭い眼差しと人を寄せ付けない冷たい雰囲気


紅い法衣、流れる銀の髪…どこか人懐っこそうで誰とでも手を取り合ってくれそうな人柄




まるで正反対だ、なのに…"似ている"のだ、不思議なことに



白薔薇「あのー…彼がどうかなさったんですか?」

アセルス「あ!わかったぞ…そりゃ確かにルージュは女の子みたいな顔してるし初見じゃわかんないよね私も間違えたわ」




勝手に自分の中で答えを出して勝手に納得するアセルス姉ちゃん

…そう考えるのも無理はないだろう、まさか彼の双子の兄とこの船で出会いましたなどと普通思わない、世の中狭すぎだ




ルージュ「えぇ…僕、男だよ…」ゲンナリ




またか、また間違われたのか…、げんなりとした表情でアセルスの言葉に続けていく術士


そんなコント漫才染みた緊張感の無い会話が繰り広げられる中、ヒューズが1人の男をじっと見ていた…








ヒューズ「‥ほー、まさかお前が乗ってるとはなぁ、ルーファス」ニヤリ

ルーファス「…腕利きパトロールがこんな所でなにをしている?さっさとシップを取り戻せ」






方やエリート警察、方や裏社会の組織の幹部…




ヒューズ「今やってるとこだ、実を言うと戦力がちと足りてなくてな、どうだ?協力しないか」

ルーファス「…"連れ"が奴らに捕まったようだ、協力させてもらおう」ハァ…





"連れ"……サングラスの男は金に煩い部下の女と、スーパーモデルの顔を思い浮かべながらため息を吐いた





レッド「って!オイ!おっさん同士で勝手に話を進めんなよ!」


ヒューズ「お前等が漫才やり始めたからだろーに」

ヒューズ「それにな、こいつは結構使える男だぜ」


ルーファス「君は?」


レッド「レッドだ、こっちは医療ロボのBJ&K、それから…」



アセルス「アセルスよ、彼女は白薔薇」

白薔薇「以後お見知りおきを」ペコッ



ルーファス「…ふむ、とすると君達がエミリアの言ってた連れか」


ヒューズ「」ギクッ


ヒューズ「な、なぁ?ルーファス、この船ってエミリアどっかに居んのか?」

ルーファス「居る、というよりも捕まっている連れの1人がそうだ」




ヒューズ「そ、そかー、たははは…」

ルーファス「お前の自業自得だ、IRPO隊員の特権で裁判なしに留置場送りにしたんだ半殺しくらい覚悟しとけ」


ヒューズ「うぐっ!?…海賊共を逮捕したら即逃げるわ…」




ルーファス「さて、よろしく頼むよレッド君達」




 妖魔2人、メカ1人、そして人間<ヒューマン>が4人…これだけの人数ならば海賊に太刀打ちできなくも無い
戦いに置いて必要な物は古来より『数』と謂われている


かの異世界<リージョン>でもとある老人が『どんな勇者も多くの敵の連係には耐えられんものだよ』と格言を残す程だ




必要最低限の人員はそろったかもしれない、だがそれでも後もう一押しだ

 敵だってアホじゃない真正面から行けば敵の[ガンファイター]共の火線真っ只中だ
それこそ飛んで火にいるナントヤラで蜂の巣にされてしまう




白薔薇「それで、どうなさるおつもりなんですか?」

ヒューズ「ああ、クソ真面目に行きゃ、あっという間にお陀仏だ…他に通路ねぇのか?」




レッド「他に…」ウ~ン

レッド「…」



レッド「いや待てよ!確か下の方に非常用の通路があるんだ!船がドライブ中でもそこからなら!」ハッ!


―――
――



【キグナス号:操縦室】


ノーマッド「"ブツ"の積み込みはまだ終わらないのかいっ!」


海賊A「もう少しですお頭」


ノーマッド「ったく、チンタラしてたらサツが来ちまうだろうに」


ノーマッド「ま、いざとなりゃあこの人質共を使うがねぇ」ニィ




「ひっ!」ビクッ
「なんで…こんなことに、私は旅行を楽しんでただけなのに」グスッ


海賊B「ぶつくさ言ってんじゃねえぞ人質共!撃ち殺されてぇのか!ああ"?」ジャコッ



「ひぃぃっ!!」
「~~~っ」プルプル

アニー「…」
エミリア「…」

「こ、殺さないで…」ガタガタ


海賊B「けっ!」チャキッ、スタスタ…




「もう、もうやだよぉ…」
「うっ、ううっ…」

エミリア「…アニーごめんね、私が脚を挫いたりしなきゃ逃げれたでしょ?」ヒソヒソ


アニー「ダチ見捨てて逃げる程アタシは腐っちゃいないよ」ヒソヒソ


アニー「何度も一緒に組んでヤバい橋を渡った仲じゃんかよ、だから今度も運命共同体って奴だわ」ニィ


エミリア「アニー…」

アニー「大丈夫、まだルーファスや…期待していいか分かんないけど知り合いの魔術師が居るわ」

アニー「海賊共が吠え面かくのを楽しみにしましょう」フフッ


エミリア「ふふっ、それもそうね、こんな時だからこそ前向きにならなくちゃね」




―――
――



【双子が旅立ってから3日目 午後16時10分  キグナス号:非常用通路前】


レッド「着いた、ここがそうだ」

ルージュ「此処から、操縦室に行けるの?」

レッド「ああ…けど、覚悟を決めた方がいいぜ」



レッド「この非常通路を通れば操縦室に辿り着ける、…海賊もまさかこの通路から人が来るなんて思わない」

ルージュ「うん?そういう場所程普通は警戒するんじゃないの?」



 至極尤もらしい意見だ、機関室から配管をよじ登った所にある業務員しか知らない隠された緊急脱出用通路なら兎も角
こんな船内の誰の眼からも見える位置に堂々と扉があるのだ




レッド「言ったろ、覚悟決めた方がいいって」

レッド「このドアの向こうは"船外"だ…混沌<宇宙空間>の海をドライブ中に宇宙船<リージョン・シップ>から出れば…」



ヒューズ「おいおいおいおい!ちょいと待てって…この船は普通に渡航中だせ?」

ヒューズ「んな状態で外になんざ出たらどうなるか分かってんのか?」





混沌の海…見渡す限りが闇である空間、星々<リージョン>の合間にある暗黒の海


そんな所に生身の生物が出れば瞬時に身体が圧縮され、最後は消しゴムになって消滅する…塵どころか脳細胞1つ残らない




ヒューズ「混沌に飲み込まれるのはごめんだぜ、まだ敵さんの弾掻い潜る方がマシってもんだ」


カンベンしてくれよ…と大袈裟に腕を振るう、他の面子も顔色は優れない



レッド「俺にも詳しいリクツは分かんないけど、船の周りにリージョンと同じでフィールドが張られてるんだ」

レッド「だから短時間なら外に出ても大丈夫だってホークが言ってたんだ」



 機関士であり上司の言葉を口にするレッド少年、この非常用通路は本当に有事の際にしか使われない
仲間が述べているように、生身で混沌の海に出るのだ


 短時間は大丈夫だと言っても、"あくまで短時間"だ…道中で立ち止まったり、何か躓いたりしようものなら
その場で身体は圧縮され、暗黒海の地平線の遥か彼方に消え去り、THE・ENDである




ルーファス「立ち止まらずに駆け抜ける、そういうことだな」


アセルス「うっ…それしかないんだね」



レッド「姉ちゃん…危ないし、今なら引き返せる、俺達が後はなんとかすっからさ」

アセルス「…いや、私も行くよ!」


ヒューズ「はぁ…腹括るしかねーな」





一同は、扉の前に立つ…レッドが戸を開ける為に手を伸ばす…後ろで息を飲む音、駆け抜ける準備をする者

…全員が覚悟を決めた




…ペタペタ


カモフック「お頭~!」ペタペタ





彼は[カモフック]見ての通り、モンスター族でありノーマッド団の一員である

http://epsaga.sapp-db.com/zukan_det.php?no=512&tid=2
※参考画像


 海賊帽子を被り、右腕が"フック船長"宛らの鉤爪で二足歩行で語尾が「~カモ」という団員きっての愛苦しさである
キュートな足をペッタペッタ鳴らしながら彼はノーマッドに積み荷の積み込み作業が終わった所を報告しに来たのだ



カモフック「"ブツ"の積み込み終わったカモ~!」

ノーマッド「あぁん"?終わったかもぉ?ハッキリしなこのバカチン!」バキッ


カモフック「ふげっ!?い、痛いカモ…」


ノーマッド「荷物運ぶのに時間を掛け過ぎだよ!仕事は迅速にやんな!」

ノーマッド「…チッ、パトロール隊員の小型艇がこの船に取りついてたって報告が今更来たんだ…」

ノーマッド「こうして正面口に[ガンファイター]を配備して見張っちゃいるが…どーにも嫌な予感だ」




 腕を組み、女海賊は苛立ちを隠さないでいた
海賊の勘が知らせている、雲行きが怪しいと……パトロール隊員もそうだが、それ以上に操縦室のモニターに映る
混沌の地平線を彼女は眺めていた…


何も見えない、映らない暗黒の宇宙…胸騒ぎはその深淵の先にあるようでならなかった



ノーマッド(…なんだってんだい、援軍のパトロールでも来るってのかい…)





闇の向こうに、何か、自分達のとって好からぬ者がいる気がしてならない

嘗て、海賊として強奪を行った帰り道[タンザー]に飲み込まれたあの日のような…言い知れぬ悪寒がするのだ




ノーマッド「気分が悪いったらありゃしない、おい!カモ!酒持ってきな!」イライラ


カモフック「わかりましたカモ…」トボトボ








結論から言おう

リージョン強盗団、ノーマッドの勘は正しかった





今、この瞬間も離れた宇域からキグナス号の様子を監視する一機の機影がある

…それは軟骨魚介類の鱏<エイ>の様な形をした漆黒の機体であった





ガチャッ!ドタドタドタ…!





カモフック「…?なんか下の階が騒がしいかも」ペタペタ


カモフック「かもっ!?!?」








ヒューズ「動くな!パトロールだ!全員手を上げろ!」カチャ!


ノーマッド「なっ!こいつら…どっから沸いて出たんだいッ!カモ!やっちまいなっ!」バッ!

レッド「あっ、待て!」



カモフック「行かせないかもぉ!!」ガコッ ヒュッ!





 気の抜けた声とは裏腹に、茶色の体毛を逆立たせ海賊の一員は敵意を"文字通り"飛ばして来た
先述したが[カモフック]の右腕は鉤爪になっており、彼奴の右腕は着脱が可能なのだ

右脚を前に出しのめり込むように踏み込んで、その勢いを活かしながら右手首を軽く曲げる
投球でスナップを利かせて変化球を投げるのと同じ様に…


金属製の鉤爪は遠心力を伴い、空を切りつけながら舞う、彼奴の独自の戦法[ブーメランフック]だ!



   レッド(!? 腕を…金属の腕を飛ばして来やがったッ!)









           -『へっ、面白れぇもんみせてやるよ!ゆけぃ!![クロービット]』 -






   レッド「…っ、義手を…飛ばす…攻撃っ!」ピタッ





ふと、彼の脳裏には1つの風景が思い起こされた、炎上する自宅、白髪の大男…あの忘れもしない家族の仇の顔がッ!



ヒューズ(あんの馬鹿っ!何棒立ちしてんだ!)

ヒューズ「レッド!避けろォ!」


レッド「―――ハッ!う、うわぁぁ!」







        アセルス「――-―危ないっ」ディフレクト!

         レッド「ね、姉ちゃん!?」





ヒューズにも、ルーファスでさえも反応しきれない速度で前に出る人物が居た
 それは引き抜いた妖刀と人ならざる者の血が混ざったアセルスだからこそ可能な反射速度であった

女性の細腕が繰り出したとは思えない劔の一閃、刀身は輝く義手を弾き飛ばし幼馴染の身を守る盾となる



カモフック「おおっ!?や、やるぅかも~!」バッ!カポッ、カチャッ タァン!タァン!


二足歩行の鴨はその場で高く飛び上がり器用にも宙に跳び、そのまま弾き飛ばされた義手を手首が離れた右腕に装着する
 左腕のライフル銃で銃を撃ち始めたヒューズ、[サムライソード]片手に接近を試みるルーファスを牽制しながら



レッド「姉ちゃん…すまねぇ!油断した!」

アセルス「気にしなくていい!白薔薇!ルージュ!アイツの動きを!」



白薔薇「はい!」ポォォォ!
ルージュ「任せてよね!」キュィィン




ルージュ「『<エナジーチェーン>』

白薔薇「其、御心は我の前に伏せよ!―――『<ファッシネイション>』」





深紅の魔術士は指先から人の念動力による鎖を――

薔薇の淑女は妖魔が扱える妖<あやかし>の魅了術を―――



                           ―――――それぞれ、放つッ!





ヒュッッ バチィィ!!


カモフック「はぎゃぁッッ!」ビリィィ!!



金属製の鉤爪の先端部に念の鎖が絡みつく、そして身体全身に伝わる電流に鴨は身を焦がし…
 プスプスと焦げ臭い匂いを漂わせる彼奴の瞳にハート型の薄いピンクの光が飛び込んでくる



カモフック(―ぉ、ぉあああぁつ!!)クラッ




がくがく、と脚を震わせ、惚けた顔で天井をぼんやりと眺める海賊…淑女の放った魅了魔法にに骨抜きにされた彼目掛けて




          BJ&k「圧縮レーザー、発射します」ピピッ ビーーーッ!!



 光学兵器の輝きは真っすぐ、[カモフック]目掛けて飛んでいく




    ボジュッッッ!!



 アセルスの剣技や白薔薇の妖術、ルージュの『<エナジーチェーン>』…ヒューズの体術やルーファスの[稲妻突き]
そしてレッドの鍛え抜いた拳による一撃


 この面子の中で恐らく尤も高火力であろう物騒な代物を搭載した医療メカは惚けた顔で棒立ちの鴨を
こんがり焼けた香ばしい北京ダックに変えてやった




カモフック「…ゲホッ…やばい、かも」




嘴を開けば、喉の奥から真っ黒な黒煙が出てくるという漫画タッチな見た目と化した彼は今更ながら数の上での不利を悟る




カモフック「し、下っ端かもーん!!」ダッ!







ソルジャービル×4「「「「キィーーーーッ!!」」」」





レッド「あっ!あんにゃろう手下を呼び出して自分だけ逃げやがった!」

ルージュ「くっ!!マズイぞ…アイツ、人質が居るところへ向かったんだ!」


ソルジャービルA「キッキィー」ダダダダッ



 槍の先端に勝らずとも劣らない[クチバシ]を吐き出す様な姿勢で突撃を始める兵隊達
それを蹴り飛ばすレッドとヒューズ、嘴を刀の鍔で受け切って殴りつけるルーファス、単純な戦力で言えばこの様に
攻撃を防ぎつつ返り討ちにてきる程度……


つまり、何ら問題無く倒せる"雑魚"だ




本当に単なる時間稼ぎだ、…そう逃げ出した鴨にとって時間さえ稼げればいいのだ














人質の首元に刃を押し当て戻って来れる時間だけの時間さえ稼げれば…っ!!





 リージョン強盗団、ノーマッド一味は悪運の強い奴か否かで言えば…まぁ強い方なのだろう
[タンザー]に飲み込まれても、"指輪"を探しに来た緑の獣っ子たちに助けられることもあり、こうして外に運よく出れた


そんな彼等も今日ばかりは運に見放されていたのかもしれない



 レッド少年、武装した医療メカ、刑事のヒューズ、妖魔二人組に紅き術士、裏組織の幹部…早々たる顔ぶれが
寄りにもよって今日同じ船に乗り合わせたのだから



カモフック「これで逆転のチャンスかもー!今に見てろ~」ペタペタ…!



そして、人質が一か所に集められているスペースに裏組織の構成員が二人、つまりアニーとエミリアである












カモフック「…かも?」








     ガンファイターの残骸×2『  』プシュー プスプス…







そして、…そして、もう一人




この船には寄りにもよって、厄介な人物が後1人、乗り込んでいる



…非常口から突っ込んで来た襲撃者たち以外に、まさか"それとは別で単独行動してる奴"が居るとは思わなかったのだ












        ブルー「…ほう?蛻の殻だったからな、人質を置いて海賊共は皆逃げたと思ったが…」

        ブルー「ちゃんと見張りを置いていたようだな」








…神は言っている、オマエは此処で北京ダックになる定めだと

―――
――




アセルス「うぐっ…!」ズサァァ!!


ソルジャービル「クワアアアァァァ!!」ヒュッ!











ルーファス「背がガラ空きだ」ザシュッ!スパッ



 ソルジ/ャービル「 」(真っ二つ)



アセルス「あ、ありがとうござい「身の丈に合った武器を使え、でなくばいざという時に死ぬぞ」ダッ!


アセルス「っ!」



 これまで、幾度となく戦闘を重ねてそこそこ戦える力を得たと思っていた…
手にした妖刀[幻魔]も最初期と比較すれば扱えはしていた


 だが、わかる人間には分かるのだ、"アセルスは剣に引き摺られている"っと
達人の眼から見れば使用者の技量が武器と釣り合わないと



ヒューズ「おう、あんま気にすんなよ野郎はいつもあんな感じでな、昔っからデリカシーってのがねぇのさ」ガシッ バキィ!

ソルジャービル「ほか"っ」ゴキャッ




 鋭い[クチバシ]の突きを繰り出して来た兵の下顎から脳天をぶち抜くようなアッパーカット
頭部が天を見上げるを通り越し背後を見据えるようになった、脊髄があり得ない曲がり方をしている…



ソルジャービル「」ドサッ



ヒューズ「ふぃーっ…朴念仁なんだよ野郎は、あんなんだから13歳年下の鉄の女に関節技キメられんの、さッ!!」ブンッ!




ソルジャービル死骸「 」グワァン!!


ヒューッ!ドガッ!!! ぐべぇ!? ドシャァァ!!




BJ&K「レーザー標準、OK、発射します!」ギュィーーン!



チュドーン! ぎぃびぃいいいいいい!?!?



ルージュ「大分…よっと! 数が減って来たね!!」サッ! ゲシッ!!


 突っ込んで来た敵を避けに蹴り飛ばし、それをすぐ傍で彼同様に術で援護していた白薔薇が切りつける
サングラスを掛けた男が一刀両断した個体、不良刑事の剛腕で撲殺された者…



レッド「どっせいぃぃぃ!!!」シュバッッ!



ソルジャービル「ぅぎゅッ!!―――ぎ、ぎゅ」バタッ




ソルジャービル「き、キィイイイイイイイイイイイイイイイ!!」



 残すは1体、次々と倒れる同胞を見て破れかぶれとなったか
見境なく突撃を繰り返す…此処までくれば勝敗など決まった様なものだ



ルーファス「ヒューズ!行けッ!道を塞いでいた障害は粗方排除した!コイツ1体どうという事は無い!」



先の[カモフック]が人質を取って戻ってくれば戦局は一変、此方は手出しもできず一方的に嬲られる可能性はあり得る
 敵の半数以上は既に落ち、この状態であれば人員の一人二人追跡に欠いたとしてもさして問題は無いだろうと判断した



ヒューズ「へっ!あんがとよ!お前ん所の店で今度お高いメニュー注文してやるよ!」ダッ!


ルーファス「注文するより飲み食いしたままのツケをいい加減払え!」バッ!カキィィン!!ブンッ!






ルージュ「アセルス!レッド!僕がルーファスさんを援護する!君達も行くんだ!」

白薔薇「この中で脚が速いお二人ならば間に合います!さぁ!」



レッド「すまねぇ!恩に着る!BJ&Kお前も来てくれ!」ダッ!

アセルス「分かった二人共!後で合流しよう!」バッ!

BJ&K「了解、戦闘行為を一時中断します」ウィーン!




 捜査官ヒューズの後をレッド、アセルスが追い、人質に万が一の事があった場合を考え医療ロボを連れて戦線離脱をする

 持久走なら術士の自分よりも体力がある少年少女(後、疲れという概念が無いロボット)に任せるのが賢明だろうと
紅き術士は、未だ死に物狂いで抵抗を続ける[ソルジャービル]と対峙する壮年の援護に回った



―――
――




タッタッタ…!


ヒューズ「…?なんだぁこりゃ」



        北京ダックにされた者「 」ブスブス…



ヒューズは困惑した、鴨が一足早く人質を確保し最悪の展開を想定していた為…これは何とも面食らった様な感覚だ



[カモフック]はもう何処にもいない

代わりに黒ずんだ鴨肉が焦げ臭い匂いを漂わせながら転がっているだけだ




よく目を凝らすと顔が"あった"と思われる部分から、此処で恐ろしい何かがあったのだろうと苦悶に満ちた表情が伺えた




レッド「ヒューズぅぅぅ!!…ぜぇ、ぜぇ…!人質はみんな無事なのか―――…?えっ、こいつは…」

アセルス「…うわっ…なにこれ、死んでる………うっ」




 犯罪者ではあった、しかしながらさっきまで生きてて人語を喋ってた生物が此処まで惨ったらしく死んでいるというのは
流石にキツイ光景であった、モンスターの命を奪うことを体験して来たアセルスお嬢でさえ口元を覆う死にざま



BJ&K「…ピピッ!生体反応なし…」

BJ&K「死因、焼殺、外肉に留まらず、胃腸、肝臓…内肉まで完全に焼かれていると判断、死亡推定時刻は…」





ヒューズ「…こりゃあ、本当にすぐのすぐだった見てぇだな、まだほんのり熱が残ってらぁ」ピトッ



死骸に手を触れ、それからカモフック……だったモノ、の瞼をせめて閉じさせる

眼を見開いたまま絶命していて、食品店で売ってる水揚げされた魚…いや、調理済みの塩焼きみてーな目だと思った




「ひ、ひぇぇぇ…!」ガクガク!

「う、うわぁぁぁ…!なんだあの死骸はぁ!?」



ヒューズ「んん?…人質の皆さんか? あー!うぉっほん!皆さん!落ち着いてください!IRPOの者です!」バッ!



刑事が[IRPO]捜査官であることを証明する腕章を見せ、解放された人質を宥め始めた
 聞くところによると、金髪の中世的な顔立ちをした人物が部屋に入って来て、人質一人の縄を解いた後




 『何があったか知らんが、見張り一人置いて海賊共は撤退したらしい…無駄に疲れた、俺は自室で寝る、後は任せたぞ』




とだけ、知り合い?らしき金髪の女性にそれだけ告げて足早に去っていた、らしい


「あ、あの死体…あの刑事がやったのかな?」ヒソヒソ

「うわぁ…ヒくわ…」ヒソヒソ



ヒューズ(えぇ…なんか、俺が虐殺したみたいな流れになっちゃってるよオイ…)




ヒューズ(捕まってた人質に怪我人は無し、か…)


ヒューズ「負傷者はいねぇ見てぇだ…おいレッド!逃げたノーマッドの奴を追――」チラッ









エミリア「けほっ、けほっ…ちょ、ちょっとなによ、この焦げ臭い匂い…」

アニー「うえ…っ、本っ当鼻にくる匂いじゃん…くっそ、ブルーの奴~…助けに来たかと思ったら人に全部押し付けて」









ヒューズ「レッド、ノーマッドを追うぞ、めちゃくちゃダッシュで」ガシッ


レッド「えっ、お、おわぁ!?」


アセルス「あっ!?ふ、二人共!?」



<嬢ちゃんとメカは人質の面倒みてくれーーーッ!





 ぞろぞろと部屋の奥から出て来た人質の皆さん、その中で一人、ブロンド髪の美人を目にするや否や逃げるように刑事は
走り去っていった
 後には唖然とした顔で残されたアセルスと、テキパキ人質の健康チェックを行う勤勉な医療メカの姿あった




―――
――


【双子が旅立ってから3日目 午後17時37分  キグナス号:展望デッキ】



レッド「くそっ!」ガンッ


 逆立った黒髪の少年は握り拳を作り、下唇を悔しそうに噛んでいた…そんな彼の横に立つ刑事はデッキの窓から
遠ざかっていく1機の船体を眺め心底、憂鬱そうに溜息を吐いた


ヒューズ「逃げられちまったな、積み荷は奪われちまってこれであの会社がクロだって証拠はパーだ」


ヒューズ「…後は何処の惑星<リージョン>に逃げるか知らんが海賊共をとっ捕まえて吐かせるしかねぇな」


…めんどくせぇ、とぼさついた髪を掻きながら、「エミリアとは相乗りだし、今日も厄日だぜ…」と彼は呟き
窓硝子から背を向けて退室しようとした直後であった




  レッド「!? ヒューズ!!なんだあれは!!」





逃げた海賊の船に近づく1機の黒い機影をレッドが見つけたのは―――!



混沌の空間を漆黒の鱏<エイ>が泳いでいた、バーニアスラスターを吹かし白亜色の炎が箒星の輝きを創り前方へ進む



プロペラ式の海賊船とステルス機能を始めとした科学の最先端を織り込んだ漆黒の機体では距離が縮まるのは当然であり
 魚介類を模した機体は生物で言う口にあたる部位を海賊船に向ける



バチッ



星が弾けたような眩さだった、喩えるならば夏の夜に火をつけたばかりの一本の線香花火


見渡す限り闇しかない空間で光の華が咲いた






漆黒の機体から放たれた破壊光線は、寸分違わず"獲物"を花火にしてしまったようだ


一瞬の光、上がる火の手、赤々と上がる火柱にミニチュア人形の影が、遠目に見ていた彼等の眼には映った






…混沌<宇宙空間>の中を、―――生物が生きられない空間で生身の人間が船から放り出されたらどうなるか
それこそ先刻、レッドが全員を引き連れて、非常口から突入する前に説明した通りである




ヒューズ「…あれは、"ブラックレイ"…捜査官の間でも与太話だと噂されていたが…実在したのか…」


ヒューズ「ブラッククロスの戦闘シップが…!」



レッド「…ブラッククロス」ピクッ




両親と妹の仇である悪の秘密結社の名前…レッドはそれを聞いて青筋が浮かぶ想いだった



レッド「…キャンベル社長と、ブラッククロス…」




少年も刑事も考えることは一緒だった、あまりにも状況が出来過ぎている

武器の売買を行っていた会社の女社長からのリーク

それで積み荷(密輸武器)を奪いに来た海賊…

その海賊船を粉微塵にした犯罪組織の戦闘シップ



ヒューズ「…ま、あの女社長はクロだと睨んでたがね、目論見通り証拠は隠滅、ってことか」

レッド「シーファー商会」ボソ


ヒューズ「あ"?」


レッド「言ってたろ、[クーロン]のシーファー商会ってトコと取引してるって、キグナス号の次の目的場は[クーロン]だ」


レッド「…ブラッククロスとキャンベルは繋がっている、となればその商会も怪しいもんだ、停泊中に降りて調べてやる」

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     ,:⌒7 l rュ    . -‐   ___V‐:': : :,ハニニム
      ー{   ー─一 ´  . -=ニニニ -=≦ニ}ニニj
       ≧=-------=ニニニニニニニ} ̄ ¨¨¨  ̄
          ̄ ̄ ¨¨¨¨¨¨  ̄ ̄



 T-260G「…ゲン様、私達出番が少ないです」

 ゲンさん「うぃーっく!酒だ酒ぇ…」





              今 回 は 此 処 ま で !!  次回 3章



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