男「たとえ森羅万象が滅びるとしても」 (27)


キイ
バタン

女「リキー、ただいまあ」

ガサガサ

女「帰るの遅くなってごめんねえ。でも安売りのニンジンがあったから、きょうは野草じゃなくてニンジンにしよう…」

バサッ

女「…誰……かいる?」

シン

女「…リキ、電気つけるよ」

カチカチ

女「…!!」ビクッ

男「っ…」

ウサギ「」ぐたぁ

女「リキッ!?」

男「…」

女「…うちのウサギに何かご用ですか」ジリ

男「……いいえ」ニコ

女「では、我が家に何かご用ですか」

男「いえ」

女「とりあえず、そのウサギ離してくれませんか」

男「はい、わかりました」

ポイッ
ドサ
ウサギ「」

女「リキ!!!」バッ

女「くそやろう!!」ギロ

男「……」しれっ

女「誰だあんた!?土足で人んち侵入して暗闇でウサギ殺すってきちがいなんじゃないの!?」ポロポロ

男「…」

女「リキ、リキ……!」

ウサギ「」

女「ころす!殺す!殺してやる!」バタバタ

包丁ギラ

男「!、ちょっとまって」

女「待つものかああああ!!」バタバタバタ


***

ピチョン

女「!」パチ

ぼんやり
男「…意識ありますか?」ふりふり

女「うっ…痛ぁ…首」

女「お前…絶対に殺してやる」ギロ

男「寝ててください。自己防衛とはいえ少し強くやりすぎました。すみません」

額しめしめ

女「冷たっ、何がしたいの…?住居侵入、殺害、暴行だから。警察よ警察。うぅ、痛くて動けない…!」

女「…リキは」

男「カゴに戻しておきました」

女「ハハッ、やっぱあんたきちがいだね。命ひとつ殺しておいてそんな平静でいられるなんて頭おかしくなきゃできないよ」

女「言っとくけど、私はあんた怖くもなんともないから。私のことも殺せるもんなら殺してみな!!?一生祟ってやる」

男「そんなに叫ぶと通報されかねます」

女「いや通報されないほうがおかしいでしょ。此の期に及んで。日本語すら通じない?ねえ?おい」

男「お元気なようで安心です。ウサギは、相すみません」

女「あいすみませんって…」

男「…」

女「はあ…。ねえ、これはあたしの夢なの?リキの体調が悪かったのに、一夜だけ飼育を怠ってお酒を飲みに行ってしまった、罰としての悪夢?」

男「遺憾ですが、現実かと。今の世に記憶を改ざんする発明はされていないので」

女「そうよね悪夢よ。この一ヵ月で起こったことは全部悪夢なんだ。絶対にそうよ。でなけりゃ私、何にも悪いことしてないのに、どれだけ不幸者なのよ」

男「…」

女「親死んで、男に逃げられて、大事な物なくして、リキも……うぅっ」ポロポロ

男「…女さん」

女「なに!?」

男「頭でも打って忘れてくださいませんか。今日のこと」

女「わかった。これほどのきちがいが横に居るととっても冷静になれるのね。発見ね」グスッ

男「できればあなたのお力になりたいのですが、それはあまりにも残酷な結末を迎えるし、かといって全ての顛末をお話するわけにもいかないのです」

女「ほーそーかそーか。お前面白いなあ。今流行りのSFごっこ?よーしお姉さん宇宙人の役したげよーかアッハッハ」

女「殺して」

男「え?」

女「いや、殺してって。頭打って忘れても意味ないの。私の生きる意味この一ヵ月で全部消えたの。なくなったのよ」

女「通報はしないであげるわ、なんか事情あるみたいだし。それに今首やって動けないしね。その代わり殺して」

男「いや、それは困ります」

女「あ?」

男「もうちょっと…待ってください、死ぬのは。今は生きてください。まだ生きる意味たくさんあるでしょう」

女「ねーーーよ。ねえさっきからなんなの?本当にきちがいらしいけどさ、なんか可哀想になってきたわよ。あんたも辛いのね。同情はしないけどね」

女「じゃ、わかった。早く帰りなさい。すぐに帰って、絶対に通報もしないし、今日あんたと出会ったことは無しにしてあげるから」

男「僕が帰ったら死ぬつもりでしょう」

女「好きにさせてよ。わかんねえかなあ」

男「……」

女「…」

男「…致し方がないです。全てをお話しするので、今晩は死ぬことを待ってくださいますか」

女「意味深ね。この絶望だらけの私の人生にどれだけともし火を与えてくれるの?ハハッ」

女「どうせ寝たきりよ。リキも死んだの。なんにもすることない。どうぞ?なんでもお話しして?」

寝ます!また明日書いていきます!誰もいないけど!
失敬ドヒューン

いるよ

のんびり再開します。

>>12ありがとう!


***

男「まず…どこから話そう」

女「ちょっと待って、長くなるの?長くなりそうだけど」

男「ええ仔細に話すとだいぶ長くなりますが、生憎そんな時間はありません」

男「では、まず、先ほど親が亡くなった、と言っておられましたが、それは△日の夜ではありませんか」

女「!、ええそうよ…」

男「それから元彼氏さんが浮気をして逃げられたというのが△日、なくされた大事なものは、ぬいぐるみだったでしょう」

女「…ストーカーですか?もしかして」

男「似たようなものです。あなただけのストーカーではありませんが」

女「そういう趣味なの?」

男「いえ……」

シン…

女「…」

男「森羅万象、という言葉をご存知ですか」

女「なんか聞いたことあるけど、意味まではわかんない」

男「森羅万象とは、日本の辞書によると『宇宙に存在する限りない一切の物事』と書かれてあります」

男「つまり宇宙に存在するもののこと全てです」

女「はあ…」

男「宇宙があって、地球があって、この地球には、生命があります。あなたや僕のような人間を始め、ウサギという動物、ニンジンという植物、他にも虫や微生物や鉱物や水など」

男「地球には存在していますね」

女「はい」

男「この地球上の限りないものたちは、皆一枚の織物のようにつながっています」

女「……」

男「地球が存続するために、これらは『なにか』が偏ることは一切ありません。」

男「例えば、不幸。あなたは今日、とてつもない悲しみを迎えましたが、この地球で悲しんでいる人と喜びを味わっている人の数はほぼ平均的にあります」

男「それは、簡単にいうと地球を偏らせないためです」

男「あなたが今日どこかでお酒を飲んできたのも、実はこの星が存続するために行動された一個のエネルギーなのです」

女「ごめんちょっと、ぜんぜんよくわかんない。宗教?」

男「宗教ではありません。ではもっと簡潔に言います」

男「あなたが今不幸な目にあっているのは、これからも地球が、宇宙全体が存続するためなのです」

女「あーうん、はいはい、わかったわ。で?あんたとそれはなんの関係があるの?」

男「……」

男「…僕は、この地球上で万物がうまく回るように、手伝いをしています」

男「それが仕事なのです」

チクタクチクタク

男「もっと具体的に言いましょう。例えば今新生児が生まれたとします。この新生児が八年後になんかしらの役割を果たし、十年後に死ねば地球は、宇宙は存続することができる、とします」

女「…ええ」

男「では十年後にどうやって死ぬのか。なにかしら、小児ガンにしましょうか。新生児を十年後、小児ガンで死なせるために、僕はただひとつの行動をとります」

男「例えば、誕生40日目の夜中に、こっそり水分を与える」

女「…」

男「…」

女「それで?」

男「それだけです。それだけで、十年後ちょうど死ぬのです。逆も然りで、事業に成功させるべき人がいて、その人ひとりの力では間に合わなさそうだったら、僕がなんらかのアクションをかけます。たったひとつの行動ですが」

男「全ての森羅万象が折り合って存在しているのです」

女「あんたって神様かなにか?」

男「いえ、僕ひとりでやっているわけではありません。決して公開されない組織が……いえ。とにかく僕はそういう仕事をしていて、この地区を担当しているということです」

女「ふうん、まあ信じてあげるわよ。いや、信じない方がいいのかしら?あんた都合としては」

女「そしてリキが殺されたのにはもちろん訳があるのよね?この地球が存続するため?」

男「はい。もちろん…」ジィッ

女「…なにか言いたげじゃない」

男「率直に申し上げますと、あなたはあと二週間で、自殺していただく予定でした」

女「!」

男「ですので、最近はあなたの身に不幸が回っていました。手向けたのは僕ではありませんが、それはあなたが誕生されたときからほぼ決まっていました」

女「はは…運命?ってわけ?」

男「運命とはちが」
女「冗談じゃないわ…そんな意味のわからない力によって死ぬものですか」


女「意味わかんないわよ、そんなの。なにが地球が存続するため、よ。私が死ぬなら地球なんか滅びたってかまいやしないわ」ポロ、ポロ

男「…」

女「リキ、リキ…大好きだったわ、大好きだったわ…。私の唯一の親友…」ボロボロ

女「リキ……」

男「…」

女「……。すぅ、すぅ…」

男「…」

***

ブォオン
ガタガタッ

女「…ん、」

ガタガタ

男「おはようございます」

女「……。夢じゃなかったのね」

男「申し訳ありませんが、しばらくあなたを監視させていただきます」

ブゥウン

女「心配ご無用、逃げなんかしないわ。私が予定より早く死なれると困るのね」

男「…首の加減はいかがですか」

女「平気よ。それよりどこ向かってるの?まさか私を山奥に監禁するつもり?」

男「いえ、仕事です。○○の地区担当が急遽休みになってしまったので、自分の仕事も終わったので向かっています」

女「…今何時?」

男「午後二時半です。お腹空きませんか?コンビニによりますか?」

女「コンビニによったら地球が滅びるかもよ」

男「いえ…無数のものが織物のように、とは言いましたが、その時その一瞬の選ばれしものごとは限られています。言いかえれば、多少の動きなら他のものごとは自由にしていても問題はないのです」

女「おなか、空いてない…」

男「そこに水があるので、それを飲んでくださいね」

ブゥウン


***

バタン
バタンッ

女「で、こんな山奥の更地でなにするの?」

男「決まった仕事内容だけが指令として送られてくるのです。そこの杉林の木を一本倒します」

女「それが指令なの?」

男「ええ。木が倒れることによりどこかでなにかが起こるようですね」

スタスタ…


ギコギコギコギコ

男「…」ギコギコギコギコ

女「…」

ギコギコギコギコ

女「ねーえ」

男「…」ギコギコギコギコ

女「ねーえ!ってば!」

ピタッ
男「はい」

女「おなか空いたんだけどお」

男「承知しました。倒したら食事に出かけましょう」

ギコギコギコギコ

ギコギコギコギコ…

女「…」

用事に出かけるのでまた夜にでも書いていきます!

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