【ミリマス】未来と夕焼けの丘で (17)


カリカリカリ。ゴシゴシ。カリカリ。
私も、いい加減手が疲れてきた。それでもなんとか頭を動かして、手元の紙に数字と式を書き綴る。最初は、こんなの書けてる私すごーい!ってなってたけど……もう飽きてきたよぅ。

「……プロデューサーさーん……」
「どうした?」
「疲れたので休みたいです……」
「あと数問じゃないか。とっとと終わらせよう」

 酷い。却下された。分かってはいたけど、もう少し何かしてくれても良いじゃないですか。
 仕方なく、唇を尖らせつつ書き続ける。隣で見ているプロデューサーさんの顔がチラチラ見えるけど……もー集中できないよー!
 微妙に頬っぺたが熱くなるのを感じるけど、それでもなんとか書き進める。よ、ようやく最後の問題……
 ――あれ?

「プロデューサーさん、この問題って……」
「ん、ちょいとひねられてるな。公式そのままじゃ解けないように出来てる」
「ど、どうすればいいんだろ……」
「少し考えてごらん。さっきまでやった奴を使えば出来るように出来てるから」


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 ニッコリと笑ってくるプロデューサーさん。でも、素直に教えてくれる気はないらしい……折角いるなら教えてくれてもいいのに。
 もう一度聞いても教えてくれないだろう。しょうがないから、しばらく考えてみる。さっきまでやったのは、これとこれと……あれ、この式ってこういう風に形変えたら使えるんじゃない?
 さっきまでの疲れはどこにいったのか、新しいおもちゃみたいに問題用紙を見つめる。こう考えたら、全部パズルみたいに見えてくる。途端に、いつもは苦手な問題用紙がキラキラして見えてきた。
 カリカリとシャーペンを動かしていると、隣から息を漏らす声がした。ちらりと横目で見てみると、プロデューサーさんはうんうんと頷いている。こちらが見ていることに気が付くと、ぐっと親指を立ててきた。
 ――やった、これが正解なんだ!

「プロデューサーさん、出来ました!」
「……なんで、最後の符号逆になったの?」
「へっ?あぁー!」


 何故か、横棒が一つ余分についていた。どこでついたのか確かめると、いつの間にかついていた汚れをそのまま書き写していた跡がある。残念、今度はちゃんとできたと思ったのに。
 落ち込んでいるのが分かったのか、優しい彼は肩をポンと叩いて声をかけてくる。

「まぁ、よくある事だからな。考え方があそこまでちゃんと出来てたんだ、十分褒められたもんだと思うぞ?」
「ほ、ホントですか?」
「ああ。未来、よく頑張ったな」

 頭をガシガシと撫でられる。力強いその撫で方に、身を委ねてみる。髪の毛洗ってもらう時もそうだけど、どうして人に頭を撫でられると気持ちいいんだろう。ほわほわーとしながら、私は少し大人っぽく考えてみる事にする。
 ――うん、分かんないや!
 素直にニッコリしながら撫でられる。しばらく身を任せていると、プロデューサーさんが離れていってしまった。確かに、終わらないとずっと続くけど……もっとやっててほしかったなぁ。
 そんな私の表情が見えていたのかいないのか、プロデューサーさんはニッコリと笑って問いかけてきた。
 
「よし、未来の宿題も終わったことだし買い出しに行くか。未来、今日何が食べたい?」


―――――

 二人で手を繋いで歩く。スーパーの帰り道。もう、ちらほらランドセルを背負った子供たちが駆けていくのが見える。
――私、結構宿題やってたんだなぁ。
そう思いながらブラブラと繋いだ手を揺らしていると、子供に戻ったみたいで無性に楽しくなってきた。疲れてるのかな?
 どんどん動きが激しくなってくる。すると、流石に見かねたのかプロデューサーさんが声をかけてきた。

「こら、未来。ケーキ崩れちゃうだろ」
「えー……ダメですか?」

 私は、ちょっと落ち込んだ風な顔をしてみる。そのうち、プロデューサーさんの方から、いいよと投げやりに返事が返ってきた。

「やったー!」
「あっ、コラ!揺らすなって!」


 嬉しくなってピョンピョン跳ねてしまう。小学生の時に戻ったみたいに心が軽かった。ウキウキして、このまま飛んで行ってしまいそう。顔が異様にニコニコしてしまうのを抑えきれないや……でへへ~!
 そんな私の様子を見ていたのか、隣で歩いてくれている彼がくすりと笑いを漏らしたのが聞こえる。そ、そんなに子供っぽかったのかな……ちょっと反省。
 
「どうした?さっきみたいに跳ねてて良いんだぞ?」
「で、でも……プロデューサーさん、笑ったじゃないですかぁ」
「別にイヤミで笑ったわけじゃないよ。ただ、そういうはしゃいでるのって未来らしいなぁって思っただけさ」
「私らしい……?」

 私は首をかしげてみる。プロデューサーさん、優しいけどたまに良く分からない事ばっかり言ってくるからなぁ……そういえば、私らしさってなんだろ?
 悩むのを諦めて、答えを聞いてみる。


「プロデューサーさん、私らしさってなんですか?」
「そりゃお前……いや、やめとく。すぐ教えたら未来の為にならないからなー」
「もー、イジワルばっかりしないでくださいよー!」

 頬を膨らませる。彼は、そんな私にじっと見られている事に気付いたのか、プロデューサーさんはニヤリと笑った。もー、そうやって笑ったからって誤魔化せないんですからね!?
 笑ってもなお、ジト目で見てる私に少し反省したのか、プロデューサーさんは頭をポリポリとかいている。
 プロデューサーさんは、そのまま立ち止まって少し考え込みはじめた。そして、しばらくすると私に向き直って声をかけてきた。

「なぁ、未来。一緒にイイ所に行かないか?」
「カラオケとかですか?私、『恋をはじめよう』なら得意ですよ!」
「い、いや……そういうのじゃないんだけどさ」

 悪戯っぽく笑うプロデューサーさんの表情は、まるでさっきまでの私みたいだった。

―――――

 プロデューサーさんと一緒に歩いていく。彼は、先ほどと違って私の前を歩いていく。背中追いかけてるのって、なんか嫌だなぁ……

「プロデューサーさん、一緒に手つなぎましょうよー!」
「隣に居たらすぐ分かっちゃうだろー?ま、もう少しだから待ってな」

 もう……折角二人でお出かけしてるんだから、手くらい繋いでくれてもいいのに。さっきまで舞い上がっていた心が嘘みたいだった。
 そんな私の様子に気付かずに、プロデューサーさんはズンズン坂道を登っていく。もう太陽は沈みかけている。辺りもそろそろ暗くなっちゃうのに、いったいどこ行くんだろう?そんな風に少し疑問に思ったけど、文句は言わずについていく。

 「よし、着いたぞ」

 そう声を上げて、プロデューサーさんは立ち止まった。その隣まで、小走りになって辿り着くと、辺りを見回してみる。
 辺りは開けている。二人か三人用かのベンチが一つあるだけの広場。人はいないみたい。
 でも、この場所には一番の特徴があった。私はそれを見て、大きな声を上げる。


「わぁ……綺麗な夕焼けですね!」

 目の前に広がったオレンジ色の太陽が、キラキラと輝いている。開けている場所だから、余計にそう見えるのだろうか。人のいない広場は、まるで太陽の為のステージに見えた。
 キラキラと輝く太陽を、心底綺麗だと思って見つめる。こんな夕焼け、今まで見た事なかったなぁ……
 プロデューサーさんが、こっちを見て笑ってくれている。優しいその表情は、私たちをいつも励ましてくれていた心強い顔つきだった。
 少しだけ、心が落ち着く。それを感じたのかどうかは分からないけど、プロデューサーさんはそのまま夕焼けに近づいていった。

「ここに連れてきたのな、未来で二人目なんだ」
「二人目?一人目は、私の知ってる人なんですか?」

 私が質問すると、プロデューサーさんはさあねってポーズをした。教えてくれる気はないみたい。教えてくれたっていいのにな……


 唇を尖らせて、じぃっと大きな太陽を見つめる。一人で空にキラキラしているその様子はまるで――

「これ、アイドルみたいですよね」
「アイドル?夕焼けがか?」
「え?そうじゃないですか?お空のステージで、太陽がキラキラ輝いてるんですから」

 プロデューサーさんが振り向くと、目を丸くしている顔が見えた……あれ、そんなにおかしなこと言ったのかな、私。
 私が少し自信を無くしていると、プロデューサーさんがもう一度声をかけてきた。
 
「……じゃ、太陽のライブには観客がいないのか?ここにいるのは、俺たちだけだが」
「そ、それは……うーん」

 頭を抱えて唸る。
 そうなのだ。太陽がステージで踊っていても、ここから見ているのは私たちだけ。アイドルのライブなら、流石にもうちょっと観客の人がいてもいいはず……

 うーん……どうしよう。

「……でも、確かにアイドルみたいだな。綺麗に、空を彩ってるんだから」
「空……あーっ、そうですよ!」

 閃いた!宿題が解けた時みたいにはしゃいでいると、プロデューサーさんがこちらを見てきた。
 ――聞かせてほしいって、事だよね?なら、聞かせてあげるのが探偵の役目でしょう!推理ドラマの終わりのところみたいに人差し指を立てて、振ってみる。
 
「つまりですね、太陽は空に浮かんでるじゃないですか」
「おう」
「って事は!世界中の皆が、ステージを見てるって事なんですよ!」
「…………」

 ふっふーん、この素晴らしい推理にプロデューサーさんは言葉も出ないらしい。珍しく出し抜けたことが、たまらなく嬉しかった。

 これで、私も知的ってことに……

「未来。夕焼けの空って、ここでしか見られないんじゃ……?」
「…………」

 うっかりしてた。そうだった、日本が夜でも、地球の裏側では朝なんだって授業で習ったのを思い出した。
 私が肩を落としそうになると、プロデューサーさんが声をかけてきた。

「悪い悪い、ちょっと意地悪だったな」
「へ?」
「こういうのに正解なんてないんだよ。だから、未来がそう思ったならそれでいいんだ」

 プロデューサーさんはそういうと、もう一度夕焼けに向き直る。そのまましばらくそうしていると、ボソリと彼がこんな事を呟いたのが聞こえた。

「でも、そう考えると太陽って凄いよな。ここだけじゃない、世界の至る所で輝き続けてるんだからさ」

 ――そう、とっても凄い。私も、いつかあんな風になれたらなぁ……
 そう思って、今日が誕生日だって事に気付いた。そうだ、今日くらいワガママ言っても良いよね!

ちょっとだけ息を吸い込んで、声を出した。

「プロデューサーさん。私、この夕焼けみたいなアイドルになってみたいです!世界中のみーんなが見てくれて、見てくれる皆と楽しめるようなアイドルやってみたいです!」
「……そうか」
「……なれると思いますか?」

 少し、言ってて不安になってきたから聞いてみる。凄い事言ってる様な気がするけど、ホントに私に出来るのかな……?
 そう思っていた私の顔を見たプロデューサーさんは、優しい顔で笑ってくれた。

「勿論。お前がそうなりたいなら、それを目指そう。俺の仕事は、アイドルのお願いをかなえてやる事だからな!」

 グっと手を握って、プロデューサーさんはさっきよりも元気よく笑った。それにつられて、私も笑っちゃう。どうして、プロデューサーさんはこんなに私に勇気をくれるんだろう。今なら、なんだってできる気がしてきた。


 しばらく、二人で夕焼けを見続けていた。段々、辺りが暗くなってくる。そろそろ、帰らないといけないんだ……ちょっと寂しいな。
 そう思ったら、自然に足が前に出てた。

「プロデューサーさん!」

 プロデューサーさんの前、高台の端っこの方まで行って振り返る。意外と、こっちからなら人の顔って見えるんだ。そんな事をちょっぴり思う。
 ――まぶしいから、きっと見えないよね?

「これからも、アイドル続けていく私ですけど……ずっと、一緒にアイドルやってくれますか!?私が困ったら、助けてくれますか!?」
「……ああ、勿論」

 ――良かった、ちゃんと言えた。折角の誕生日、言いたいことくらい言わないと。
 そう思って言った一言は、確かに彼に届いたようだ。
 ――それじゃ、最後にもう一つワガママ言っちゃおうかな。

「……私と、一緒に」
「ん?」
「ずーっと!私と一緒に居てくださいね!プロデューサーさん!」


 ――後でプロデューサーさんから聞くと、そう言っていた私の頬っぺたは夕焼けみたいに赤くなっていたらしい。


未来ちゃに一人称やらしちゃいけない、これが今回の教訓
すみません……俺ではこの程度しか未来が書けなかったみたいだ……

お前いつものかまちょはどうしたんだ、って話なんですが……実は、昔のミリマスssで構って欲しがってる未来が居てな……二番煎じになっちゃうからって事で書けないのです、辛い

最後に、未来誕生日おめでとう!また、美咲と一緒に新しく歩いていこうな!

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