【ガヴドロ】ガヴリール「バレンタインだからな……」 (16)

すみません、Cookieの関係で改行が消えちゃいそうなので1クッションおきます。

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年が明けてしばらくした今日このごろ。

暦上は春だとしても、冬の寒さは未だ衰えることを知らない。

最近この辺りの地域では珍しい雪まで降っていた始末で、バレンタインデーの今日も例外ではなかった。

連日続くこの降雪は異常気象とまで言われてる。

だから私の行動にちょっとした異常があってもおかしくはないだろう。

私がヴィーネにチョコを渡そうと思ったこと。

私がチョコを手作りしたこと。

私がそれを渡すタイミングを見計らってぐずぐずしてたこと。

私が結局放課後になった今までチョコを渡せなかったこと。

何もおかしくはない。

そのはずなのに、私の心は常に高鳴っていて余裕なんて存在しなかった。

昨日あれだけ思案して、シミュレートして、万全な状態にしたはずなのに。

このまま渡せずに終わってしまうのだろうか。

いやもしかしたらそもそも受け取ってもらえないのではないか。

考えれば考えるほど有りもしないことばかり脳を巡り、焦燥感に駆られる。

「ガヴ?」

「!? ……ヴィーネか。脅かさないでくれ」

いきなりヴィーネ話しかけられ、心臓が飛び出そうになる。

「別に脅かしてなんかないわよ……」

「それよりあんた大丈夫?」

「だ、大丈夫って何が?」

「何が? じゃないわよ。あんた朝からあからさまに変じゃない」

「へ、変ってどの辺が?」

「どの辺って言われても……なんかいつもよりそわそわしてる感じがするし、心なしか顔もいつもより赤いというか火照ってるというか……」

そんなに表面に出てたのか。

いや、自覚が微塵も無いわけではないが……。

それでももうここまできて今更開き直るのもばつが悪いので、次の好機を待つことにした。

「私はいつも通りだぞ? 心配される謂れのないくらいに」

「そう……でも心配だから家まで送ってあげるわ」

「いやぁ、私は本当に大丈夫だぞ?」

「それでも心配なものは心配なの! だから黙って送られる!」

「へいへい……」

終盤くらいは普段通りの対応ができたのではないか、と意味のない自己評価をしつつ鞄を持ち上げて帰路につく。

――――――――――――――――――――――――――

外は相変わらずの降雪。

傘に積もる雪の重さで今日の異常さを改めて実感する。

それでもヴィーネと歩く雪道は不思議な暖かさを感じた。

歩きながらの他愛ない話。

その合間にタイミングを見計らう。

いや、そもそもタイミングなんてものは無いのかもしれない。

意気地無しな自分が言い訳をしているだけにすぎないのかもしれない。

それでも私は未だにすんでのところで勇気を振り絞れずにいた。

気づけばあと2分も歩けば家に着くような場所だ。

もうこんなに歩いていたのか。

もうすぐで家に着いてしまうじゃないか。

あぁもう、馬鹿か私は。

そう自分を呪うばかりである。

「じゃあガヴ、また明日ね」

「あ、あぁ……また明日……」

駄目だ。

このままではヴィーネがどこかへ行ってしまう。

私の手の届かない遠いところへ――。

そんな大げさな考えすら起こしてしまうほど追い詰められていて、気付けば私は我を忘れてヴィーネを追いかけていた。

「……私の制服の裾なんて掴んでどうしたのよガヴ」

「……」

言葉が出ない。

体が震える。

……ええい、もうどうにでもなれ。

私は勢いのままに鞄からチョコを取り出し、ヴィーネに突きつけた。

「これ……チョコ?」

「あ、あぁそうだ。私の愛情がたっぷりと詰まったチョコだ」

言ってるそばから恥ずかしくなってくる。

もうここまで来ると自暴自棄とまで言えよう。

「……あんたっていつからそんなキャラになったわけ?」

「うっさい! いらないんだったらこのまま向こうに放り投げるぞ!」

「天使が堂々とポイ捨て宣言してどうすんのよ」

「いいからつべこべ言わず受け取れ!」

肩に掛けた鞄を固定している右手を無理矢理引っ張ってヴィーネの手にチョコの入った箱を押し付ける。

「……ありがとう。そうね、じゃあ私からもお返し」

そう言うとヴィーネは私のあげたチョコを鞄にしまい、何かを取り出した。

「はいガヴ、ありがとうね」

「……あぁ、私もありがとう」

まだヴィーネから貰ってないとは思ってたけど用意はしてあったのか。

なんで今までくれなかったんだろう。

「……! ていうかヴィーネ、チョコを貰ったらようやくお返しってちょっと現金すぎじゃない?」

「……それ、本命よ」

「…………え?」

その言葉を理解するのに私は優に時間がかかった。

「本当はね、あなたにそれを渡すつもりはなかったの」

「最初はそういうイベントだからとかなんとなく作ってみたとか適当に理由付けて渡すつもりだったんだけどね、でも」

「隠したくなくって。嘘つきたくなくって。ガヴにも、私の気持ちにも」

「悪魔なのにね、私」

ヴィーネは俯きながら自嘲気味に話す。

……きっとヴィーネも私と同じだったんだ。

いつの間にか生まれていたその感情は日に日に強さを増して、その度に心に苦しみを与える。

この感情の正体はもうとっくにわかってたんだ。

でもそれは言葉にした瞬間刃物のように日常を切り裂いて葬り去る。

過言かしれないけど、場合によってはそれほどの破壊力を持つことを知っている。

でも――。

「……ほんと、嘘の一つもつけないなんて悪魔としてどうかと思うよ」

「お人好しで、優しくて、真面目で、こんな私の世話をしてくれる」

「悪魔失格だよな」

「……そう、よね」

ヴィーネは更に下を向く。

まるで私から表情を隠すかのように。

「でも、だから」

「だからこそ私はそんなヴィーネが好きだ」

「世界でただ一人、悪魔未満の悪魔、月乃瀬=ヴィネット=エイプリルが大好きなんだ」

「例え天界から追放されようとも、私はヴィーネの隣にいたい」

言ってしまった。

もしかしたらこれまでの日常は今日を最後に崩れ去り、二度と返ってはこないかもしれない。

でも、それでも私はヴィーネが好きだから。

「……そんなこと言うなんて天使失格ね」

ふと見上げたヴィーネの顔には笑顔と涙が浮かんでいた。

「んなっ、失格とは失礼な。私の場合はただの駄天――」

「でも、駄目駄目天使と駄目駄目悪魔ってなんか相性よさそうじゃない?」

満面の笑みと恥じらいを足して2で割ったような表情の、いつもより一際愛らしく見えるヴィーネが傘を手放してこっちに歩み寄る。

「私も、ずっとガヴの隣にいたいわ」

ヴィーネの温かい体温が私を包み込む。

頭に降り積もる雪の冷たさすら忘れてしまうくらいに、私達は熱い抱擁を交わした。

おわりです。
初SSにてお目汚し失礼しました。

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