シンジ「その日、セカイが変わった」 (913)

▫️あらすじ
第7使徒イスラフェルへのユニゾン攻撃による撃破から数日後、授業で使用している端末に一通のメールが届いた。開いてみると恵まれない子供達へのボランティアだという。碇シンジは、解答を進めていくのだが……。
アンケートをきっかけにシンジの人生が大きく変わることとなる。

【ミサト宅 シンジの部屋】

▫️ご意見をお聞かせください

この度は、恵まれない子供達への募金サイトにアクセスしていただき、誠にありがとうございます。簡単なアンケートにお答えいただきますと、提携先企業様から弊社に代金が支払われ、支援団体に寄付させていただきますので、ご協力をお願い致します。
次へ、をクリックしていただくとアンケートが開始されます。

シンジ「――連絡メールだと思ったけど、違ったみたいだ。えっと、恵まれない、子供達か……よし、少しやってみようかな。どんな内容なんだろう……?」カチカチ

設問にお答えください。該当するお答えのチェックボックスをクリックしていただくと、画面が自動的に切り替わっていきます。進みますか?

シンジ「ここで、クリックしたらいいのかな」

1.あなたの性別をお答えください。

シンジ「お、でたでた。男、と」カチ

2.あなたの年齢をお答えください。

シンジ「10代だね」カチ

3.あなたは今、好きな人はいますか?

シンジ「えっ? うーん、いないから、あれ? YESしかチェックボックスがない……? まぁ、ただの質問だからなんでもいいや」カチ

4.好きな人は同級生ですか?

シンジ「今度はYES/NO両方ある。でも、いないってないから答えようがないんだよなぁ……適当にYESで」

5.好きな人がいる。と答えた方に質問です。どのようなところに惹かれましたか? 該当する項目をお選びください。

シンジ「ひとつしか選択肢なかったじゃないか。それとも僕が見落としたのかな……」

・気立てがよかった。
・落ち着いてる雰囲気がよかった。
・優しいところがよかった。
・見た目がタイプだった。

シンジ「うぅん、どれにしてもいいけど、僕が付き合うとしたら……いや、そんなの考えるだけ無駄だ。僕を好きになってくれる人なんかいるわけないし。見た目にしておこう」カチ

6.あなたは、願いが叶うとしたら、その子と付き合ってみたいですか?

シンジ「……まただ。またYESしか選択肢がない。どうなってるんだこれ? 見落としもあるようなインターフェイスじゃないのに」カチ

以上で質問は終了です。
あなたのご協力に感謝します。碇シンジさん。

シンジ「えっ? なんで、僕の名前」

尚、このコンピューターは20秒後に自動的に爆発します。端末を窓から投げ捨ててください。

シンジ「えぇっ?」

カウントスタートします。20、19、18――。

シンジ「いきなりブルースクリーン⁉︎ ……ウィルスサイトだったの⁉︎」

13、12。

シンジ「ノートパソコンから煙? ……熱っ⁉︎ そんな、まさか……?」

自爆までテンカウント、10、9――。

シンジ「う、うそでしょ⁉︎」

5秒前。レッドアラート。

シンジ「ケースが溶けてきてる……⁉︎ この端末、学校でも使うのにっ!!」ガシッ

――……ドォオンッ!!

シンジ「……っ! ぐっ! ……いっつつ。咄嗟に投げだけど、ほんとに爆発するなんて」

ミサト「シンジくんっ⁉︎ 今の音はなに⁉︎」

シンジ「あ、あの」

ミサト「開けるわよ⁉︎」

シンジ「ど、どうぞ」

ミサト「部屋の中に手榴弾でも投げ込まれたの?」

シンジ「僕にもなんでこうなったのか、さっぱり」

アスカ「うわぁ、なにこれぇ。……ところであんた、変な体勢で転がってなにしてんの?」 ヒョイ

見たことがあるんだけと

【リビング】

ミサト「シンジくんがアンケートに答え終わったらポップアップがでたのね?」

シンジ「はい。それからあとは、その通告通り20秒後に爆発しました」

ミサト「おかしいわ。エヴァパイロットを狙うにしてもやり方がまわりくどすぎる」

アスカ「アンケートで端末を爆破とかありえる? シンジが嘘ついてんじゃないの?」

シンジ「そんなわけないだろ。僕が嘘をつく必要なんてないよ」

ミサト「……とにかく、私は確認の為、ネルフ本部へ向かうわ。このマンションには、保安部から警備を数名つけておくから。シンジくんとアスカは何も心配しないで」

アスカ「アホくさ。私はバカシンジみたいに引っかからないわよ」

ミサト「それでも用心するにこしたことはないはずよ。シンジくん、これからは無闇にそういうメールを開かないでくれる?」

シンジ「そんな、僕は、善意で……でも、すみません」

アスカ「またすぐ謝る。そういうとこがさぁ――」

ミサト「やめなさい、2人とも。送付されてきたアドレスはわかるかしら?」

シンジ「いえ、たまたま開いたメールですから覚えてません。遠隔操作で爆破なんて可能なんですか?」

ミサト「普通に考えれば難しいわね。アンケートに答えるように誘導され、答え終わるのが合図となるようにあらかじめ仕組まれていたのかもしれない」

シンジ「あ……」

アスカ「やっぱりあんたがまぬけなだけだったんじゃない」

シンジ「そんな言い方しなくたっていいじゃないか……」

アスカ「ふん。だったら問題を起こさないでよね」

シンジ「僕だって、起こしたいわけじゃないよ!」

アスカ「ほんっとにガキね。結果が全てだっつってんのよ。犯罪をやるつもりがなかったなんて言い訳が通るなら警察なんていらない」

ミサト「はぁ……そこまでにして、今夜はもう寝なさい。シンジくんは私の部屋を使っていいから」

シンジ「すみません」

アスカ「よかったわねぇ~。女の部屋で寝るからって下着を漁ったりするんじゃないのぉ?」

シンジ「いい加減にしろよ! するわけないだろ!」

ミサト「今のはアスカが悪いわ」

アスカ「ちっ、なによ。シンジばっかり」

ミサト「今夜は帰らないと思うから。それじゃ、もう行くわね」

>>3
立て直しです
現在まとめ作業中です

【一時間後 リビング】

シンジ「はぁ……どうしてこんなことになったんだろう」

ペンペン「クエ~」

ガラガラ

アスカ「お風呂、あがったわよ」

シンジ「あぁ、うん、わかったよ」

アスカ「あんた、まだ座ってうなだれてたの。いい加減切り替えなさいよ、うっとうしい」

シンジ「色々迷惑をかけたら申し訳ないって思うのは当然じゃないか」

アスカ「あいかわらず内罰的ね。そういう時は、そもそも爆弾を仕組んだやつが悪いって開きなおるのよ」

シンジ「そんなに、簡単じゃないよ」

アスカ「ぐちぐち悩んでるよりずっとマシじゃない。そんなんだからあんたはダメなのよ」

シンジ「そうなの、かな……」

アスカ「呆れて開いた口が塞がらないわ。あたしにここまで言われて悔しいとか思わないわけぇ?」

シンジ「思ったって、アスカには口でかなわないじゃないか」

アスカ「ぷっ、なによ、諦めてんの?」

シンジ「僕だって、ちゃんとしてるつもりなんだ」

アスカ「ひとりよがりで?」

シンジ「うるさいなぁ。もういいだろ。アスカだって、口ではどうでもいいとか言っておきながら僕に文句ばかり言ってくるじゃないか」

アスカ「あんたがあまりにも情けないからよ。見ててイライラすんの!」ビシ

シンジ「それは僕がよくわかってるよ。僕だって、うまくやりたいって思ってるんだ」

アスカ「無理ね」

シンジ「な、なんでアスカにわかるんだよ!」

アスカ「根本的な問題よ。あんたは悪いと思った、で? うまくやろうとしてるってなにを?」

シンジ「それは……もっと、要領よく、前向きになれるように」 もごもご

アスカ「そこがズレてるのよ。いい? 開きなおるにしてもそれだけじゃただのクズ。人間、なにをやるかで価値が決まる」

シンジ「そうだけど」

アスカ「前向きになったら? その先は? とりあえず目先のことしか考えてないあんたはすぐ壁にぶち当たる。そしてまた悩みだすんでしょ」

シンジ「……」

アスカ「またダンマリ。癖ってのは、簡単に治るものだったら苦労しないのよ。あんたはそこを理解してない」

シンジ「そうかもしれないけど」

アスカ「断言してやるわ。あんたはそう。悔しかったら私を見返すぐらいの根性見せるのね」

ペンペン「クエクエッ」 クイクイッ

アスカ「ん? なに? ペンペン」

ペンペン「クエ~」スッ

アスカ「なにこれ? 牛乳? くれるの?」

ペンペン「クエッ!」コクコク

アスカ「ありがと」ヒョイ

ペンペン「クエ~」 ペタペタ

アスカ「それじゃ、私は部屋に行くから。あんたはそうやっていつまでも悩んでなさい」 スタスタ

シンジ「(僕は……)」

【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「まったく、こんな夜中に叩き起こされるなんて思わなかったわよ」

ミサト「ごみ~ん。今度なにか奢るからさ」

リツコ「あなた、いつもそう言うけど奢ってくれたの大学の学食以来ないのわかってる?」

ミサト「そうだったっけぇ?」

リツコ「はぁ……。それで? これが爆発したというノートパソコンの残骸?」

ミサト「人を使ってできるだけ集めさせたけど、かなり粉々になっちゃってるのよね~」

リツコ「ミサト? HDDもこの破片の中のどれかなの?」

ミサト「でへへ。たぶん」

リツコ「帰るわよ」 クルッ

ミサト「ちょ、ちょっと待ってよう!」 ガシッ

リツコ「パソコンの仕組みぐらい理解しているものだと思っていたけど。どうやら私の思い違いだったようね。義務教育からやり直したら?」

ミサト「わかってるってぇ! だけど、その、リツコならなんとかならないかなぁ~って」

リツコ「この有様で復元できるわけないでしょ。爆発物のデータは?」

ミサト「あ、それはこっちです、どーぞ」

リツコ「……」ペラ

ミサト「マイクロチップ型の爆弾だと確認されたわ。シンジくんのパソコンにいつ細工したのかしら」

リツコ「素人には手に入らない代物ね」

ミサト「となると、潜入したスパイ? プロの仕業ってわけか」

リツコ「えぇ。わかるのはそれぐらい。証拠隠滅まで完璧だもの」

ミサト「また、接触あると思う?」

リツコ「なんとも言えないわね。必要な情報が揃ったのならもうないのかもしれないし、そうであってもあるとは断定はできない」

ミサト「うーん、相手が見えないし。なにより、犯人の目的がわからないのよねぇ。ちょっと、不気味、かな」

リツコ「他のチルドレンに対しても警護レベルを引き上げることを提案します」

ミサト「なぜ?」

リツコ「質問の内容がアナグラムではないとしたら、好きな相手を特定する為に接触してくるかもしれない」

ミサト「まっさかぁ? 本気でシンジくんの好きな子の情報を知りたいってわけ?」

リツコ「内容を額面通りに受けとるとそうなるわね」

ミサト「……わかった。そんな理由はないと思うけど、備えは必要か」

【ネルフ本部 初号機ケイジ】

冬月「やぁ、三年ぶりだね」

「ご無沙汰しております」

冬月「生活に不自由はないか? 困ったことがあれば、なんでも言うといい」

「お気遣い、ありがとうございます。すみません、夜更けに」

冬月「気にしなくていい。老人の朝は早いのでな、ちょうど起きようと思っていた。ところで、話は変わるが碇には、まだ何も言うつもりはないのか?」

「はい……その方があの人にとっても、私にとってもいいんです」

冬月「――しかし、君たちの息子はもう中学生になる。ユイくん自身が、死んでいると思われて平気なわけないだろう」

ユイ「シンジには……いずれ、対面することになります。あの子が、子供達が幸せに暮らせる世界。それこそが追い求める理想ですもの」

冬月「その為に、己を殺してもか」

ユイ「……この初号機も、そしてゼーレも実験材料でしかありません。先生には、ご迷惑をおかけしますが」

冬月「その顔には、君がまだ学生の頃から敵わんよ。碇には、これまで通り黙っておこう」

ユイ「ありがとうございます」

冬月「ユイくん、ひとつだけ確認してもいいかな?」

ユイ「はい?」

冬月「君の生物学者としての信条は、あの日、初号機に取りこまれてからサルベージされるまでに変化はあったのか?」

ユイ「なにも。昔から、いえ、志した時から変わってはいません」

冬月「そうか……それならばいい」

ユイ「先生もお元気で。シンジを、よろしくお願いします」

冬月「あぁ。君の息子について心配しなくていい。もっとも、EVAの中が一番安全だと知っているだろうがな」

ユイ「ふふっ、そうですね。では、失礼します」コツコツ

【翌日 第三新東京都市立第壱中学校 HR前】

ケンスケ「なんてこったぁっ! ネジがバカになってしまってるじゃないかぁ!」カチャカチャ

シンジ「ケンスケ、部品広げてなにやってるの?」

トウジ「見ての通り、いつものカメラいじりや」

シンジ「調子でも悪いんだ?」

トウジ「さぁなぁ。何回も分解したり組み立てたりで何が楽しいん――」

ケンスケ「この楽しさがわからないだってぇ⁉︎」ガバッ

トウジ「お、おう? なんや、聞こえとったんかいな」

ケンスケ「はぁ……まったく、これだから凡人は。いいかい? 物作りっていうのは技術ひとつひとつの集大成でもあるんだ」

シンジ「うん」

ケンスケ「新しいパーツの進歩は凄いんだぞ! そりゃ、まぁ、同じ技術の進化をなぞっているものだけど。その中で取捨選択をして、自分だけの物をプロデュースするおもしろさ。このロマンがわからないかぁ⁉︎」

トウジ「ぜんっぜんわからん。そら組み立てるチョイスはあるやろけど、市販されてる物であるんなら誰かと被ったりするやろ」

ケンスケ「いいや! そんなのが重要じゃないんだ。自分で作り上げるという達成感! なにものにも変えられないね!」

トウジ「はぁ」

ケンスケ「碇だったらわかるよな⁉︎」

シンジ「ん、えーと、なにかにそこまで熱中できるのは凄いと思うよ」

トウジ「オタクなだけちゃうかぁ?」

ケンスケ「妬みだね! 打ちこめるものがない大衆は僕みたいな人を蔑称を使ってバカにするのさ!」

トウジ「こじらせとるのぉ」

シンジ「でも、いいんじゃないかな」

トウジ「ふん、それはそうとシンジ。今日の放課後、時間あるか?」

シンジ「うん。あるよ」

トウジ「それなら、ワシに付き合ってくれ。寄りたいところがあるんや」

シンジ「わかった。あ、そうだ。ケンスケってパソコンにも詳しいの?」

ケンスケ「ん? まぁ、ある程度なら」

シンジ「実は僕、昨日、授業で使うパソコンが壊れちゃって。帰りに買って帰ろうと思うんだけど」

ケンスケ「あぁ、使いやすそうなのを選ぶのは簡単だけど。でも、学校指定の端末になってるから、新しく発注するしかないね」

シンジ「そうなの?」

ケンスケ「授業で使うドライバとかアプリケーションなりがプリインストールされてるものじゃないといけないっていう決まりがあるからな」

トウジ「ワシらにやらせてくれればいいのに、融通がきかんもんなんやのぉ」

ケンスケ「一括で管理する方が簡単じゃないか。個々に任せると方法がわからない連中もでるだろうし」

シンジ「それじゃ、事務で頼まなきゃ駄目なんだ」

ケンスケ「そうゆうこと。……前の端末の時は、手続きどうやったんだ?」

シンジ「うーん、僕が直接やったわけじゃなかったから。リツコさんが全部用意してくれてたし」

レイ「――碇くん」 スッ

シンジ「あ、どうしたの、めずらしいね、僕たちのところに来るなんて」

レイ「赤木博士から、渡すよう頼まれた。これ、新しい端末。ないと授業に困るだろうからって」 ゴトン

トウジ「いたれりつくせりやのぉ」

レイ「それと、伝言。インターネットへの接続はもうできないようになっているそうよ」

シンジ「そっか、うん、わかった」

レイ「席、戻るから」スッ

シンジ「待って! 重かった、よね? その、持ってきてくれて、ありがとう」

レイ「別に、いい」

【授業中】

教師「え~、ですから、セカンドインパクトはこのように巨大隕石の衝突によって」

シンジ「(ん……? ポップアップ? なんだろう?)」カチ

先日は、弊社が行なっている調査に関するご協力をしていただきありがとうございました。つきましては、恵まれない子供達のために引き続き回答をお願い致します。
アンケートを開始しますか?

シンジ「いっ⁉︎」

アンケートを開始する場合は、次へをクリックしてください。自動的に画面が切り替わります。

シンジ「(これって、昨日のと同じ……? インターネット回線に繋いでないはずなのに)」キョロキョロ

可否の有効時間が経過しました。まもなく、アンケートが開始されます。

シンジ「(まだなにも選択してないよ⁉︎)」

1.あなたの好きな人を出席番号で答えてください。

シンジ「(な、なんなんだよ……しかも、また、選ぶしか選択肢がない)」カチ

エラー。回答してください。

シンジ「(ブラウザを閉じられないのか。コマンドキーで強制終了はどうだろう)」カチャ

エラー。試行回数は、残り二回です。

シンジ「(まずいんじゃないの、これ。まさか、また爆破なんて……)」

残り時間をカウントします。

シンジ「(ゆっくり選ばせてもくれないの? ちょっと待って、よく考えるんだ、落ち着いて。深呼吸)」

20秒前。

シンジ「(ふぅ……試行回数があるってことは回避に有効な方法があるのか、それとも、ちゃんと答えるしかないのか。どっちなんだろう)」

15秒前。

シンジ「(そもそも、なんで僕なんだ? ……だめだ。考えてもわかりっこない)」

12秒前。

シンジ「(選ぶしかないのか)」

テンカウントスタート。

シンジ「(いや、でも、どうせ爆破する可能性があるんだ。だって、この端末を操作してる人は証拠を残したくないはず、だよね)」

5秒前。

シンジ「(――決めた。放置だ)」

教師「今のところを、あー、今日は何日だったかな? ……ふむ。では、洞木さん。わかりますかな?」

ヒカリ「はい」ガタ

シンジ「(なにも起こらない?)」

エラー。試行回数は残り一回です。

シンジ「(そ、そうか、もう一回あったんだ。ってことは、これも放置したらいいのかな)」

警告。回答いただけない場合、教室にいるクラスメイトを狙撃します。左手の屋上をご覧ください。

シンジ「はぁ?」

キランッ

シンジ「(なんだ? キラキラ光ってるの……ん? システムメッセージ更新?)」

おわかりいただけたでしょうか。狙撃翌用スコープに反射している太陽の光です。

シンジ「あ……ぁ……」

残り試行回数は、一回です。

シンジ「(ちょっ、ちょっと待ったっ! ど、どうしたらいいんだ! こんなの!)」

カウントを開始します。

シンジ「(だめだ! 僕じゃ対処しきれない! こうなったら大声を上げて――!)」

不審な動きを見せた時点で、立って授業を受けている女子を撃ちます。残り20秒前。

シンジ「(ほ、洞木さん⁉︎ 見張られてるの⁉︎)」

15秒前。

シンジ「(仕方ない、誰か選ばないと。でも、誰を……)」

残り10秒前。

シンジ「(迷ってる時間なんてない。こうなったら知ってる人の中で誰かを選ぶしか、アスカか綾波か)」

5秒前。

シンジ「(……ごめんっ!)」カチ

教師「よろしい、では席について」

シンジ「(だ、大丈夫だったのかな……)」

2.好きの度合いを次の中から該当する項目を選んでください。

シンジ「(……なんだこれ)」

・彼女のためなら、死んでもいい。
・彼女を愛している。
・たまらなく好き。

シンジ「(どれ選んでも同じじゃないかぁっ!)」

カウントをスタートします。

シンジ「(くそっ! バカにしてる! たまらなく好き、で)」カチ

3.たまらなく好きと選んだので、彼女に向かって消しゴムのカスを投げてください。

シンジ「(アンケートですらないよ……)」

カウントをスタートします。

シンジ「(でも、やらなきゃ。クラスの誰かが狙撃されるかもしれないんだ。僕が、やらなきゃ)」

残り20秒前。

シンジ「(まずは消しゴムのカスを作らないと)」ゴシゴシ

残り10秒前。

シンジ「(僕が選択したのは――)」コネコネ

アスカ「(ん? なんか髪に違和感が。……なに? ゴミ?)」キョロキョロ

シンジ「……」ポイ ポイ

アスカ「(あんのバカ……っ! なにしてくれてんのよ!)」

シンジ「(ご、ごめんよ)」」パクパク

アスカ「(今さら謝っても遅いのよ! さては、昨日の仕返しのつもり? 上等じゃない!)」パクパク

シンジ「(今日はアスカの好きなハンバーグを作るよ)」パクパク

アスカ「(そんなので誤魔化されると思ってるわけぇ⁉︎ ちょっと待ってなさい。やられたら百倍返しにしてやるんだから!)」ゴシゴシ

トウジ「おい、見てみぃケンスケ」こそ

ケンスケ「あぁ、見えてるよ」

トウジ「あいつら口パクで会話しとるで。芸人かいな」

ケンスケ「それだけお互い意思疎通ができてるんじゃないかぁ? さっきから碇がソワソワしてると思ったら……じゃれついていたとは、いやぁ~んな感じ」

アスカ「(このっ! この!)」ポイ ポイ

シンジ「(消しゴムのカスでよかった。アスカが投げてきてるけど、当てられてもあまり痛くないし)」

双方の距離感は確認いたしました。アンケートへのご協力を感謝します。尚、このパソコンは20秒後にショートします。

シンジ「(ば、爆発じゃないんだ? よかったぁ)」

強い電磁波を発します。電子機器に対する干渉がありますので、できるだけ教室から離れてください。

シンジ「せ、先生っ!」ガタッ

カウントスタートします。

教師「なにかね? 碇くん」

シンジ「あの! お腹が痛くて! トイレ行ってもいいですか⁉︎」

教師「かまわんが、そんなに大声で叫ぶほど急を要するのか?」

女子生徒A「くすくす、なぁにぃ? あれぇ?」

女子生徒B「わ、わらっちゃ、かわいそうだよ。く、くっくっ」

アスカ「はぁ……ダッサ」

残り20秒前。

シンジ「ま、まずい、じゃなかった! すぐに行きたいんです! お願いします!!」

【男子トイレ】

シンジ「はぁ……パソコンの電源つかなくなっちゃったな。携帯電話は、使えるみたいだ。電磁波はウソだったのかな、しかたない、ミサトさんに報告しておこう」

ピッ プルルルルッ

ミサト「はい?」

シンジ「あ、ミサトさんですか?」

ミサト「あらぁ~シンちゃんが電話くれるなんて初めてじゃない? 渡した携帯電話、やっと使ってくれたのね」

シンジ「いえ、そんな。持ち歩いてはいたんですけど」

ミサト「あは、そっか。プレゼントした側としては嬉しいわ」

シンジ「それで、新しいパソコンについてなんですけど」

ミサト「あぁ、リツコから? そういえばシンジくん、まだ授業中の時間じゃない?」

シンジ「緊急だと思ったので、電話したんです。実は、また昨日と同じアンケートが」

ミサト「――なんですって?」

シンジ「今度は、質問が終わると爆発じゃなくショートしました」

ミサト「シンジくんに怪我はないのね?」

シンジ「僕は大丈夫でしたけど、質問に答えないとクラスメイトの誰かが狙撃されてたかもしれなくて」

ミサト「脅迫してきたの? なにか、要求されたりした?」

シンジ「いえ、今回も設問があって、回答しただけです。終わると、電磁波か周囲に影響するとシステムメッセージが出たので、先生に嘘をついてトイレにいるんです」

ミサト「そう……よくやったわ、シンジくん。的確な判断よ」

シンジ「この端末、どうしたらいいですか?」

ミサト「ちょっち待ってて。すぐにネルフ関係者を送る。詳しく経緯を聞きたいから、警護がきたら同行して本部まできてもらえる?」

シンジ「わかりました。このままトイレで待ちますか?」

ミサト「そうね……教室にもどるのは、危険かもしれない。五分で到着させるわ」

【ネルフ本部 執務室】

ミサト「それで?」

保安部「はっ、我々が到着した頃には、既にサードチルドレンの姿はなく――」

ミサト「そんな報告を聞きたいんじゃないわよっ! その後の消息は⁉︎」バンッ

保安部「し、失礼いたしました! 目下、捜索中です!」

ゲンドウ「作戦課長、どういうことだ」

ミサト「はっ! サードチルドレンよりヒトヒトマルマルに連絡がありました。そこで、保安課の者を使いにださせたのですが……」

冬月「いるはずの場所にいなく、行方不明。つまり、こういうことかね」

ミサト「はい、申し訳、ありません」

リツコ「葛城一尉とサードチルドレンの会話は録音してあります。やりとりはこちらのデータに」

ゲンドウ「……」ペラ

冬月「責任問題だぞ。もしなにかあれば、パイロットを選別するのは容易ではないのだぞ」

ミサト「承知、しております」

冬月「君のクビで済むと思っているのかっ!」バンッ

ミサト「も、申し訳、ありません」

ゲンドウ「アンケートをとったのは、誰の仕業だ」

ミサト「それは……」 ギュウ

ゲンドウ「もう結構だ。一度だけ、挽回のチャンスを与える。保安部の総力をあげてサードチルドレンを探せ。諜報部を使うのも許可する」

ミサト「了解しました!」ビシッ

【ネルフ本部 ラボ】

ミサト「サードチルドレン捜索の進捗状況は?」

保安部「現在、中学校周辺において検問を実地中です。また、上空からヘリ5機にて、怪しい車両がないか監視しています」

ミサト「近隣への聞き込みは?」

保安部「200人体制で行っています」

ミサト「本部の第三会議室に特別捜索チームを結成したわ。人員をあと300人増やして」

保安部「了解」

ミサト「報告があればオペレーターに繋いで。それと、諜報部への連絡も。全ての情報をかき集めるのよ、行って」

保安部「はっ!」タタタッ

リツコ「首の皮一枚で繋がったわね」

ミサト「なんとかね」

リツコ「時間の猶予はあまり残されていないわよ。副司令がカンカンなんだから」

ミサト「わかってる。私の失態だわ」

リツコ「連れ去られた足どりについて目星をつけてるの?」

ミサト「シンジくんが自分で離れたとは考えにくい。だとしたら、拉致されたのよ。運ぶための手段が必要だわ」

リツコ「そうね……」

ミサト「端末を操作できると考えられる可能性は? 赤木博士」

リツコ「工場から出荷されて、ネルフに到着してから再度検査を行っています。すなわち、考えられるのは、私の手にある内にがひとつ。レイに渡してからシンジくんの手に渡るまでがひとつ。渡ってからがひとつ、この三つになる」

ミサト「シンジくんに渡してから仕組む時間ある? やはり、内部の人間に破壊工作員が紛れ込んでいたのかしら。たしか、電磁波がでるってシンジくんが言ってたわよね……」

リツコ「こういう場合、辻褄合わせをしようと思うと闇に片足いれるようなものよ。考えるのはひとつずつでいい」

ミサト「つまり?」

リツコ「端末を操作できる状況下にあったのは、授業をしてた教師じゃないかしら」

ミサト「疑わしくは罰せよと?」

リツコ「チルドレンは人類の希望でもあるのよ。個人と天秤にかけるつもり?」

ミサト「……わかったわ。学校関係者、全員に事情聴取を取り行います」

リツコ「念の為、残りのチルドレンを保護しておきなさい」

ミサト「えぇ」

【ネルフ本部 女子ロッカールーム】

アスカ「えぇ~~~~っ⁉︎ 家に帰れないぃ⁉︎」

マヤ「ネルフの中なら、安全だから。コンテナの中で寝泊まりしてもらうけど」

アスカ「狙われてるのはシンジなんでしょ⁉︎ なんで私までとばっちりくうのよ!」

マヤ「攫った目的が、わからないらしいの。もしかしたら、あなたたち他のチルドレンもターゲットになってるかもしれないし」

レイ「碇くんは、大丈夫なんですか?」

マヤ「今は、なんとも」

アスカ「自分の身は自分で守らないからよ。自業自得ってやつね」

マヤ「こら、アスカ、そんな言い方しないの。シンジくんは、クラスメイトを守ろうとしてたみたいよ?」

アスカ「そうなの?」

マヤ「トイレに行ってたらしいじゃない」

アスカ「あぁ……それであいつあんなに慌ててたの」

レイ「赤木博士は?」

マヤ「先輩なら、葛城一尉に協力してる。今頃はプロファイリングチームに協力して犯人の人物像を分析してるんじゃないかしら」

【第三会議室】

冬月「どうなっている! サードチルドレンが学校からでるまでに目撃者すらいないのか!」バンッ

保安部「授業中を狙われたせいで、生徒への目撃情報が望めません。また、近隣への聞き込みを行なった結果、こちらも人通りの少ない時間帯でして……」

冬月「貴様はもういい! 諜報部! 報告しろ!」

諜報部「はっ! こちらでも同じく足取りを掴もうとしましたが、その時刻に車両を目撃したという情報はありませんでした」

冬月「別の手段でサードチルドレンを運んだのではないのか⁉︎」

諜報部「身長と体重を考えれば、その可能性は多分に考えられます。しかし」

冬月「人ですら目撃情報がないのか!」

諜報部「はい。まだ全世帯への聞き込みは終えていませんが」

冬月「三時間以内に人海戦術で徹底的に探し出せ! 赤木博士、プロファイリングチームに助言を行い、犯人が複数なのかどうなのかもあらゆる面から検討したまえ!」

リツコ「はい」

保安部&諜報部「了解!」

ミサト「副司令が熱くなるのなんて珍しいわね」こそ

リツコ「神経が図太いのは結構。だけど、あなたの落ち度もあるの。さっき、碇司令に釘を刺されたのを忘れたの?」

ミサト「とほほ」

リツコ「万が一、死体にでもなってたら、あなたもコンクリートで固められて海に沈んじゃうわね」

ミサト「や、やめてよ~……え? ちょっと、やだ、目が笑ってない。マジ……?」

リツコ「危機感を持ちなさい、葛城一尉。今後のためにね」

加持「おふたりさん。今日も仲良くつるんでるな」 ポン

ミサト「うげっ、うっとーしいのがでた」

加持「ツレないね。シンジくんがいなくなったらしいじゃないか」

リツコ「加持くんはなにかわかる?」

加持「間違いなくプロの仕業、としか。それもかなり用意周到に計画されたものだね」

ミサト「あの場で拉致するのが?」

加持「いや、それはどうかね。タイミング次第だったのかもしれない。プロと確信してるのは場所じゃなくやり口だからな」

ミサト「結局、あんただってわからないんでしょ」

加持「おいおい、そうは言ってないだろう?」

ミサト「えっ⁉︎ なにかわかったの⁉︎」

加持「目撃情報がひとつだけ、ある……この情報がほしいか?」

ミサト「あんたねぇ、ふざけてる場合? シンジくんの安否がかかってるのよ?」

加持「副司令に渡すか、葛城に渡すか、どちらでもかまわないってだけさ」

ミサト「望みはなによ?」

加持「そうだなぁ。海の見える見晴らしのいい展望台でディナーでもいかがかな?」

ミサト「……わかった。それで手を打つ」

リツコ「あら? 私だけ仲間はずれ?」

加持「リッちゃんならいつでも歓迎さ。なんなら、今夜でも、もちろん、二人きりで……」スッ

ミサト「わかったから! はやく教えなさいよ!」

加持「冗談が通じないねっと、まずはこれを見てくれ」ペラ

ミサト「なにこれ? 搬入業者の日程表? ……購買へパンの仕入れが行われてるわね」

加持「調べを進めていっても怪しい人影の姿が見えない。あえて人の往来の少ない時間帯に犯行に及んでいるからな」

ミサト「それが?」

加持「葛城。完全犯罪というのは、いかに逃げ切るかが目的じゃない。いかに気がつかせないがかキモなのさ」

リツコ「業者に扮していた?」

加持「この時間帯に目撃されず、かつ不自然じゃない外部からの侵入ルートは限られている。ま、そう考えるのが妥当だろうね」

ミサト「業者の出発時刻は?」

加持「パートのおばちゃんによると、いつも通り昼休み前には作業を終えて帰ったそうだ。時間にしておよそ二十分にも満たない。ただし、帰る前に男子トイレに寄ったそうだがね」

リツコ「怪しいわね」

加持「まだなんとも言えないがな。ろくな目撃情報がない以上、これが現時点での有力な情報になる」

ミサト「うぅん……でも、弱いわね」

加持「行動に結果はつきものだ。なにかしらほころびを見つけてその小さな隙間から目星をつけていくしかない」

リツコ「加持くん、警察官にでも転職したら?」

加持「よしてくれよ。ネルフは元々技術畑の人間の集まりだからな。保安部や諜報部の連中が場慣れしてない分、多少は俺に慣れがあるっていうだけさ」

ミサト「とりあえず、業者に連絡をとって担当していたドライバーを確認してみる」

加持「こっちでも引き続き調べてみるよ。最悪の事態だけは避けたいんでね」

リツコ「それは、シンジくんの安否?」

加持「両方さ。用意周到に進めたプロの犯行で、身代金の連絡がないとしたら……雇い主が、いや、やめよう。憶測の域をでない」

ミサト「シンジくんは人類の希望を担うパイロットよ。彼の安否を最優先事項とします」

加持「りょーかい」

【ネルフ本部 コンテナ内】

アスカ「こ、こんな場所で寝泊まりしろっていうの?」

マヤ「一時的な処置だから……個室だとここしかなくて」

アスカ「家具は⁉︎ ベットは⁉︎」

マヤ「職員が使ってる布団ならあるわよ? 歯ブラシとか必要なものがあれば言ってくれたら買い出しも」

アスカ「こんな空調もきいてないような倉庫で寝泊まりなんて嫌よ!」

マヤ「なら、仮眠室に……」

アスカ「それはもっと嫌! 職員が使ってるってことは不特定多数ってことでしょ⁉︎ 不衛生よ!」

マヤ「その気持ちわからなくもないけど」

レイ「私の部屋は?」

マヤ「レイは隣のコンテナ。大丈夫そう?」

レイ「問題ありません」

アスカ「ちっ、なによ? ポイント稼いでるつもり? これだから優等生気取りは」

レイ「別に。そんなつもりじゃない」

アスカ「こんな無機質な空間の中で不満がでないわけないじゃない! あたしを悪者にしようって魂胆なんでしょ⁉︎」

レイ「……」

アスカ「なんとか言ったらどう⁉︎」

レイ「いつも通りだもの。私の部屋、これと変わらないから」

アスカ「はぁ? あんたんとこってこんな感じなの?」

レイ「ええ」

アスカ「信じらんない。自分でなんとかしたらいいのに」

レイ「どうして?」

アスカ「過ごしやすい環境を作るのは当たり前でしょ。毎日自分が寝泊まりするんだから」

レイ「寝れればいいんじゃないの?」

アスカ「無関心もここに極まれりね。好きなグッズとかそういうのないわけぇ? 寝るだけにしたってねごごちがいい枕とかお気に入りがあるものでしょ?」

レイ「よく、わからない」

アスカ「はぁ……それで? 何日ここで寝ればいいの?」

マヤ「少なくとも、今回の事案に折り合いがついて、安全が確認されるまでは」

アスカ「えぇ⁉︎ それって、わからないんじゃない!」

マヤ「まぁ、その……」

アスカ「あのねぇ! 先の見えない不安ってのもあるんですけど⁉︎ エヴァパイロットのそこらへんの精神安定はどうしてくれるわけ?」

マヤ「むっ。薬なら、先輩に言えばもらえるわよ」

アスカ「どいつもこいつも! そんなの言ってるんじゃないわよ!」

【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「チルドレンの様子はどうだった?」

マヤ「レイは大丈夫そうです。アスカは……」

リツコ「まぁ、文句がでるでしょうね」

マヤ「そうですね……」

リツコ「不自由には変わりがないもの。人はリラックスできる場所を求める。自分の部屋というものは、好きにしてもいいという空間でもあるのよ」

マヤ「気を使っちゃいますもんね」

リツコ「そうね。加えて私達女性は巣作りをするという本能でもあるけど。はい、コーヒー」コト

マヤ「先輩、シンジくんの件はなにか進展ありそうですか?」

リツコ「いいえ。まだなにも。上層部は可及的速やかに事態の解決を試みて人材を投入しているけれど、足取りが掴めないのよ」

マヤ「端末に爆弾が仕掛けられてたんですよね? そこからなにか掴めないでしょうか?」

リツコ「難しいわ。元になる端末は、こちらが気がつく前にバラバラになるまで爆破されている。いつ仕組まれたか、内部の人間が噛んでいるとしても容疑者は、数万人の技術者にのぼる。外部から潜入した工作員という線も捨てきれない」

マヤ「パイロットを狙うなんて、信じられません」フーフー

リツコ「警護の意識が低かったみたいね。普段から気をつけてはいた。しかし、網をかいくぐれるプロにとっては施錠ですらなかったのかも」

マヤ「シンジくん達がいなければ人類は滅んでしまうのに」

リツコ「その日暮らしをしている者にとっては、明日人類が滅びようが関係のない人達だっているのよ」

マヤ「理解、できません」

リツコ「考えすぎないほうがいいわよ。理解できないものはいつまでたっても理解できないまま終わることも多いから」

マヤ「無事だと、いいですね……」

リツコ「さて。今頃はなにしているのかしらね、シンジくん」

【第三新東京都市第壱中学校 放課後】

トウジ「なんや、学校中がえらいごったがえしとるのー」

ケンスケ「碇、いなくなっちゃったしな」

トウジ「また使徒やあるまいなぁ」

ケンスケ「いや、使徒だったら学校にネルフの人達が来ないんじゃないか? 避難警報も放送もないし」

トウジ「せやかて、綾波とゴリラ女は昼休み前に呼びだされていなくなってもうたやないか」

ケンスケ「うーん」

トウジ「なんかあったんやろか?」

ケンスケ「僕たちが考えてもわからないさ……そういやさ、碇に用事あったんじゃないのか?」

トウジ「妹がお礼を言いたいから一度連れてきてくれってうるさいからのぉ」

ケンスケ「あぁ、トウジが碇を殴って怒られたっていう例の」

トウジ「エヴァのパイロットちゅーのは、ヒーローなんやと。ま、ワシ達の生活の守ってくれとんのは事実やしな」

ケンスケ「僕でよかったら行こうか?」

トウジ「お前が行ってなにすんねん? ま、まさか、オタクなだけやなくて、ロリコン?」

ケンスケ「バカなこというなよ!」

トウジ「じゃあかあしい! 妹にお前は絶対に近づけへんぞ!」

ケンスケ「偏見だね! そうやってオタクを変な趣味と結びつける誇大妄想だ!」

トウジ「見た目からして怪しいと思っとったんじゃ!」

ケンスケ「なんだと⁉︎」

ドンッ

ユイ「あら、ごめんなさい。まわりをよく見てなくって」

ケンスケ「お、おい。トウジ」

トウジ「あ、すんまへん」

ケンスケ「あの、すいません。僕たちこそ」

ユイ「いいえ、気にしないで。それよりもなんだか騒がしいわね?」

トウジ「なんか、ネルフから人がぎょーさんきとるみたいです」

ケンスケ「職員室にご用ですか?」

トウジ「こらケンスケ! 美人だからって抜け駆けすな!」

ユイ「ふふっ、ありがとう」

トウジ「い、いえっ! 滅相もありません!」

ケンスケ「顔真っ赤にしててよく言うよ」

ユイ「忙しそうだし、また日を改めようかしら」

トウジ「たしかに、今やと取り次ぐの時間かかりそうですもんね」

ユイ「それじゃぁ、私はこれで……お友達と仲良くね?」

トウジ&ケンスケ「は、はいっ!」ビシッ

トウジ「……はぁ~。べっぴんさんやったの~。誰かの母親やろか」

ケンスケ「どこかで会ったような……」

トウジ「あないな美人なお姉さまを会ったら忘れるわけがないっ!」

ケンスケ「いや、似てるっていうか……」

トウジ「あん?」

ケンスケ「あ⁉︎ そうだよっ! 綾波だ! 綾波に顔立ちが似てるんだ!」

トウジ「そうかぁ? 綾波とは髪の色も」

ケンスケ「いいや! 盗撮をしている僕は被写体のパーツを鮮明に思い出せるんだ! 間違いないね!」

トウジ「また変な特技を」

ケンスケ「綾波の母親かな?」

トウジ「いてもおかしくはないが」

ケンスケ「他人の空似なのかな。似てると思ったんだけどなぁ」

トウジ「しかし、ぐふふ。ええ匂いやったな」

ケンスケ「トウジぃっ! ぶつかったのは肩か? ここなのかぁ?」 スリスリ

トウジ「わわ、さわんな! 残り香が薄れるやろ! ぺっぺっ!」

ケンスケ「ツバとばすなよ!」

【ネルフ本部 シャワールーム】

アスカ「つめたっ! もぉ、なんで湯の加減が一定じゃないのよ!」

レイ「……」ゴシゴシ

アスカ「おまけにこいつと一緒になにが楽しくて」

レイ「音、反響してうるさい」

アスカ「悪かったわねぇ! うるさくて!」

レイ「石鹸、使う?」

アスカ「使う!」

レイ「あなた、碇くんが心配じゃないの?」

アスカ「……少しはね。そういうあんたは心配なの?」

レイ「よく、わからない。死ぬってこわい?」

アスカ「あたしはこわいというより嫌。ただ、まぁ、世の中には自[ピーーー]る人だっているのは子供でも知ってるしさ、こわくない人もいるんじゃない?」ゴシゴシ

レイ「碇くんは、死ぬのがこわい?」

アスカ「あいつは自分のことだけでいっぱいいっぱいだもの。きっとこわがるんじゃない?」

レイ「そう……」

アスカ「バカシンジはもうちょっと頼りがいってものがあればいいんだけどさぁ」

レイ「どうして?」

アスカ「守ってもらいたいって思うのは、女なら誰しも持ってる幻想じゃない。自分でやろうと思えば何だってできる。けど、頼れる人がいると安心するもの」

レイ「安心……」

アスカ「ま、ガキシンジには無理な注文ね」

レイ「……」

アスカ「それに、私たちはパイロットなんだから。死ぬ覚悟はしておくべきよ」

レイ「あなたは、死んでもいいの?」

アスカ「だからぁ、そうじゃないんだってば。私はやりたい夢がたくさんある。だから死ぬのがこわいんじゃなくて、嫌なの。でも第一線で戦うのは、私たちでしょ?」

レイ「えぇ」

アスカ「心構えの問題よ。死と隣合わせだからこそ、そうなってもおかしくないと考えていなくちゃ」

レイ「でも、碇くんは、今はエヴァに乗っているわけじゃないわ」

アスカ「……」

レイ「使徒が相手じゃない。ヒトが相手だもの」

アスカ「それはあんたの言う通り、私たちは、狙われてるのかもしれない」

レイ「使徒が相手じゃなくても、死んで、いいの?」

アスカ「ずぅ~~ぇったいに嫌!」パシャ

【第三新東京都市 繁華街】

ミサト「はぁ、これで何件目?」

マコト「二十件目になりますね、今日だけでですけど」

ミサト「なんで高層マンションばっかりあるのよ! この土地は!」

マコト「仕方ありませんよ。ネルフ関係者が使ってる集合住宅地ですから」

ミサト「人口が多すぎるのよ。いっそN2でもぶちこんでやろうかしら」

マコト「またそんな物騒な」

ミサト「諜報部から業者の件、なにか連絡は?」

マコト「青葉からの報告によりますと、たしかに業者は搬入作業にはいっていました。しかし、正規の者です」

ミサト「えぇ?」 ガックシ

マコト「……シロですね。怪しい点は見受けられません」

ミサト「またふりだしに戻っちゃったじゃない」

マコト「どうします? 近隣への聞き込みを続けますか?」

ミサト「うーん、本部で大規模捜査を実施してるし、私たちがやったところで意味なんてないんだけどねぇ」

マコト「会議室は副司令がいるからこっちに加わったんでしょ?」

ミサト「そうなのよぉ~。まさに針のむしろって感じ」

マコト「使徒が来ていないのが不幸中の幸いですね」

ミサト「本当にね、ネルフの業務はMAGIがほとんど行ってるから問題ないけど、影響が全くないってわけじゃないし……」

マコト「もし、使徒がきたら」

ミサト「そうならないように一刻もはやく解決しなくちゃ。続き、行きましょうか」

【第三新東京都市 郊外 廃工場】

シンジ「うっ……」

「気がついた?」

シンジ「(ここは? 真っ暗でなにも見えない)」

「いつまでも寝てるから心配になったわよ」

シンジ「どこですか? ここ。なんで真っ暗なんですか?」

「それは麻袋を被せているせい。あたりも陽が沈んでる時間帯だけど」

シンジ「誰ですか? 僕にどうして、こんなことするんですか?」

「苦しくない?」

シンジ「質問に答えてください」

「あまり暴れると縄が食いこんで痛むわよ」

シンジ「(ぐっ! なんなんだよ! いったい!)」

「もういいの?」

シンジ「えっ?」

「本当はエヴァに乗りたくなかったんでしょう?」

シンジ「……」

「私はその手助けをしているだけ。あなたが望むなら、このまま消えさせる」

シンジ「なに言ってるんですか……」

「大人達の都合を押しつけてしまったんですもの。今までよく頑張ったわね」

シンジ「いったい……」

「あなたが思っている以上に、計画は進んでしまっている。いいえ、エヴァに乗るように仕組まれた時点で、準備は終わっていたの。あとは、スケジュールに沿って進めていくだけ」

シンジ「……?」

「好きにしていいのよ。未来は、あなたが選択するの」

シンジ「わ、わけがわからないよ」

「そうね、ごめんなさい。戸惑いが先にあるわよね」

シンジ「縄を解いてくれませんか?」

「いずれ解いてあげる。ただ、今夜はこのままで。トイレがしたくなったら言いなさい」

シンジ「えぇ⁉︎」

「なにも恥ずかしがることはないのよ」

シンジ「そ、そんな! 嫌ですよ!」

「ふふっ。緊張はあまりしていないようで、安心したわ」

シンジ「……」

「灯台下暗し。先生は気がつくわね、それまで少し、お話をしましょう」

シンジ「……」

「古い、古い、昔の話。シンジは神話を知ってる?」

シンジ「いえ」

「アダムとイヴは? 知恵の実を食べて、エデンの園から追放された」

シンジ「少しなら」

「似たような話が現実に起こっていたとしたら、と、想像してみた?」

シンジ「そんなの、あるわけないじゃないですか、だって、神話ですよ」

「そうね」

シンジ「聖書だって人の都合で後から書き加えられた項目が多いって、テレビで見ました」

「それも事実。だけど、元となった話は、関連する記載が実在する、死海文書というの」

シンジ「そんなのウソだ」

「よく気をつけてまわりを見てみなさい。ネルフのマークも、使徒という呼称も。それら全てがある点に繋がっていくの」

シンジ「話が突拍子すぎて、わかりません」

「破滅の日が、現実に起こりうると仮定してみて。人類が生き残る為に進められているのが、エヴァに乗らされている理由なのよ」

シンジ「……おかしいよ」

「信じられない?」

シンジ「信じられるわけないでしょうっ! いきなりこんな状況になってるだけでもわけがわからないのに!」

「現代に至るまで、人類が誕生した謎はほぼ解明されていない。これは知ってる?」

シンジ「……」

「研究は進められてるわ。理論で固められて、これなら間違いないという域にまで高めていくけど、それも新しい発見があれば、簡単に塗り替えられてしまう。物理的証拠がないから、その程度でしかないの」

シンジ「僕に、僕にいったい、なにを説明しているんですか」

「真実を知ってほしい」

シンジ「……」

「その上で、あなたがどうしたいのか、判断してほしい」

シンジ「僕は、わかりません」

「わからなくても、生きている以上は、なにかを選んで生きているのよ。物を食べる、何時に寝る、そういった必要な選択肢はありふれてる」

シンジ「それとこれとは、話が……どうして、僕が選ぶんですか?」

「あなたはもうどっぷりと巻き込まれてしまっているから。中心にいると言ってもいいぐらい。最初に仕向けたのは、私」

シンジ「えっ?」

「シンジ、元気に育ってくれて嬉しいわ」

シンジ「だ、誰なんですか?」

「少し、眠りなさい」

シンジ「寝ろって言ったって、今まで……」

「子守唄、いる?」

シンジ「いりませんよ」

「そう。それなら、注射でいいわね」

シンジ「えっ? ……いっ!」プス

「おやすみ」

シンジ「ぼ、僕の質問にまだ答えて……!」

「ゆっくり眠りなさい」

シンジ「う……」 ガク

ユイ「あの人にも、会わなくちゃいけないわね」

【ネルフ本部 第三会議室】

リツコ「副司令、こんな時間まで」

冬月「なんだ、君か」

リツコ「報告はいたしますので、そろそろあがられては……ご無理などなさらないよう、ご自愛ください」

冬月「年寄り扱いはしないでくれ」

リツコ「申し訳ありません。お気に障ったのなら」

冬月「いや、かまわんよ……そうだな、たしかに歳に夜更かしは堪える」

リツコ「湯のみが冷たくなっておりますわ。差し支えなければ、淹れ直しいたしますが」

冬月「うん、頼もう」

リツコ「はい」

冬月「君は、赤城ナオコ博士の娘だったね」

リツコ「はい……」トクトク

冬月「親娘でネルフに勤務とは、因果なものだな」

リツコ「私は、ここで働けて誇りを持っております。碇司令と副司令のお側にお仕えできるなんて、光栄ですわ」

冬月「ふん、おだててもなにも出やしないぞ」

リツコ「本心です、どうぞ」コト

冬月「ありがとう」

リツコ「副司令が、サードチルドレンに躍起になっておられるのは、やはり計画のためでしょうか」

冬月「ん?」グビ

リツコ「いえ、気にかかったものですから」

冬月「……それもある。我々には目的があるからな。別の理由は、ある教え子からの頼みでもあるからだ」

リツコ「と、言いますと」

冬月「碇がまだ、学生だった頃の話だが。生物学者を志している女生徒がいてね」

リツコ「それは、あの、失礼ですが」

冬月「君も名前ぐらいは聞いたことがあるだろう。碇ユイ、あの男の妻になった女だ」

リツコ「……」

冬月「不思議な魅力を持つ女性だったよ。掴みどころがなく、それでいて、慈愛に満ちていた」

リツコ「E計画の実験の際に、初号機のコアへ取りこまれたと聞きました」

冬月「それが彼女の望みだったからな」

リツコ「初号機に、ですか?」

冬月「女の考えは理屈ではない。彼女は常に慈愛に満ちていた。しかし、それと同時に、とても頭が良かったのだよ」

リツコ「……?」

冬月「私にも不確定な部分がある。もしかすると、彼女の頭の中では、碇ゲンドウでさえ計画の一部だったのかもしれんな」

リツコ「あ、あの碇司令を手駒に?」

冬月「その通りだ……少し、話すぎたか。老人の戯言だと思って聞き流してくれ」

リツコ「はぁ、それはかまいませんが」

冬月「しかし、要求はまだないのか?」

リツコ「依然として、なんの連絡も。戦自や各国政府が秘密裏に拉致したという可能性が」

冬月「いや、それは考えにくい。パイロットは各国にとっても資産だからな。ゼーレがそれを許すはずがない、得をするとすれば、いや……待てよ」

リツコ「どうかなされました?」

冬月「――女は、理屈で動くものでは」

【シンジ 夢の中】

男「君の母親は実験中に亡くなった。父親は、妻を殺した疑いがある」

シンジ「違う!」

男「実験の為に、自分の妻を殺したんだ!」

シンジ「違う! ……母さんは、笑ってた……」

ユイ「シンジ……」

シンジ「母さん! どうしていなくなるの⁉︎」

ゲンドウ「シンジ、逃げてはいかん」

シンジ「自分の楽しいことばかりで人は生きてはいけないんだ。逃げたいから逃げてなにが悪いんだよ⁉︎」

ゲンドウ「よくやったな、シンジ」

シンジ「エヴァに乗ればみんなが褒めてくれるんだ! 父さんだって、あの、父さんが、僕を褒めてくれたんだ……」

ユイ「反芻するの?」

シンジ「そうだよ! 思い出せば辛くても生きていける!」

ユイ「シンジ、世の中にはもっと素晴らしい眺めがあるのよ」

ゲンドウ「だが、見るには自分が前に進まなければならない」

シンジ「簡単に言わないでよ。僕には、無理なんだ……」

ゲンドウ「待つだけではなにも得られない。傷つくのがこわいか?」

シンジ「こわい、たまらなくこわいんだ……」

ユイ「殻に閉じこもるのは自分を守る行為ではないわ。追い詰めているだけ」

ゲンドウ「勝ちとれば何ものにも得難い経験になる。そうなった時に、実感できる」

シンジ「ぐすっ、うっ……エヴァに乗っても、楽しくないんだ、僕には、わからないよ……」

ユイ「シンちゃん、顔をあげなさい」

シンジ「母さん」

ゲンドウ「お前の人生だ。お前が選び、お前が決めろ」

シンジ「父さん」

ユイ「しっかりね」

【翌日 第三新東京市 郊外 廃工場】

シンジ「うっ、こ、ここは?」

ユイ「起きたのね」

シンジ「そうか、僕はまだ拘束されて……」

ユイ「寒くない?」

シンジ「いや。というか、人肌の感触、なんだか、いい匂いが……うわあぁぁっ⁉︎」 ガタン

ユイ「どうしたの?」

シンジ「なんだ⁉︎ これ、抱きしめられてますよね⁉︎」

ユイ「そうね、寒そうだったから」

シンジ「い、いや! いいですよ!」ジタバタ

ユイ「そう?」

シンジ「はい! お願いですから、離れて……!」

ユイ「わかったわ」スッ

シンジ「……はぁ、なんなんですか、本当に」

ユイ「なに、と聞かれても困るんだけど」

シンジ「僕はいったいこれからどうなっちゃうの?」

ユイ「もう少し、時間があるわ」

シンジ「時間って……それに、あなたは誰なんですか? たしか、僕を知ってるみたいな」

ユイ「あなたが、膝の高さぐらいの頃に会ったことがあるの」

シンジ「ネルフの関係者ですか?」

ユイ「ふふっ、そうね。そう言えば間違いではないのかもしれない」

シンジ「僕を攫っても、父さんは、顔色なんて変えませんよ」

ユイ「ええ」

シンジ「僕にはパイロットとしての価値しかありませんから」

ユイ「あなたの父親の話を聞かせてもらえる?」

シンジ「そんなの、聞いて……」

ユイ「知りたいだけ。不器用な人だとはわかっているけど」

シンジ「ぷっ、父さんが、不器用ですか?」

ユイ「あら? 違う?」

シンジ「よく、わかりません。父さんとは僕がまだ小さい時に離れて暮らしましたから」

ユイ「あまり話ができなかった?」

シンジ「そうですね」

ユイ「話そうとはしたの?」

シンジ「ぷっ、くっくっくっ」

ユイ「どうかした?」

シンジ「いえ、綾波というクラスメイトがいるんですけど、同じことを聞かれたので」

ユイ「そう……」

シンジ「どうなんだろう。話そうとはした、んじゃないかな。けど、幼い頃の記憶ですし、その後は、努力が足りなかったのかもしれません」

ユイ「親子でも難しいのね?」

シンジ「他の家庭がどうかなんてわかりません。だけど、父さんは、僕にとって、難しい人です」

ユイ「母親は?」

シンジ「母さんは……ほとんど記憶にないんです。思い出といえることはなにも。ただ、父さんは母さんを今でも忘れてないんだと思います」

ユイ「なぜ?」

シンジ「毎年、墓参りに行ってるから」

ユイ「あなたは、お母さんを恨んでる?」

シンジ「いえ、不慮の事故で亡くなったらしいんです。ただ、かわいそうだな、としか」

ユイ「他人事でしかないのね」

シンジ「実感がわかないんです。母さんがいたというだけで」

ユイ「興味深いわ」

シンジ「え?」

ユイ「あぁ、ごめんなさい。癖みたいなものだから」

シンジ「……」

ユイ「人は、誰しもが個を確立して生きているの。自分が自分であるという証明ね。何事にも二面性があるように、良いところと、悪いところがある。なにかわかる?」

シンジ「自由と、孤独、かな」

ユイ「正解。あなたの母親は、人の孤独に寄り添う永遠の存在になりたかったのよ」

シンジ「母さんが?」

ユイ「えぇ。裏死海文書に記載されている意味を、真に理解しているのは、彼女だけだったんじゃないかしら」

シンジ「う、うら……」

ユイ「昨日の神話の話の続き」

シンジ「また、その話ですか」

ユイ「母親があなたを、そして夫を捨てたことに後悔をしていないとしたらどう思う?」

シンジ「え? だって、事故で亡くなったのに」

ユイ「聞いた話だけが全てではない。あなたを、夫を、愛していた。だけど、罪悪感なく捨てていたとしたら?」

シンジ「まただ。言ってる意味がわかりません」

ユイ「あなたはまだ何も知らない。教えたとしても、理解できる受け皿がないのね。でも、仕方ないのかもしれない。そうやって生きてきたんだから」

シンジ「……」

ユイ「時は残酷ね。個人の都合とはかけ離れた概念で動いている」

シンジ「はぁ」

ユイ「あなたの話に戻しましょう。エヴァパイロットになってよかったことは?」

シンジ「僕は、迷惑をかけてばっかりです」

ユイ「それでも人類を守っているのでしょう?」

シンジ「そう言ってくれます。ミサトさん、職員の人たち。だけど、僕はみんながそう言ってくれてるのに、エヴァパイロットの価値しかないって」

ユイ「自分自身の価値を見つけられないのね」

シンジ「わがままですよね」

ユイ「自分を責めないで、当たり前よ。だけど、エヴァパイロットも含めて、あなたの価値だと思わない?」

シンジ「……」

ユイ「なぜ選ばれたのか、なぜ乗れるのか。それは理由のひとつずつにしか過ぎない。あなたが乗れる、そして、あなたが守っている。その事実を、周囲の人は認めてくれているのよ」

シンジ「やっぱり、僕には関係ない」

ユイ「ジレンマを抱えるのはわかるわ。でも、あなたがあなたを認めてあげなくちゃ。そんな自分でもいいって」

シンジ「そんな、自分でも、いい」

ユイ「ひとつじゃないのよ。あなたが選んだものが正解になる、正解にしてしまうの。誰だって突き詰めれば自分の為に生きているんだもの」

シンジ「そうでしょうか?」

ユイ「自己犠牲で愛する人の為に、なんて建て前を言っても、愛する人の喜ぶ姿が見たい自分の為でもあるでしょう?」

シンジ「そうかも、しれません」

ユイ「無限の可能性であふれている。だから、選ぶのに迷うし、こわい」

シンジ「もし間違っていたら」

ユイ「良くても悪くても、結果はでてしまう。悪かった場合が、他人を傷つけ、自分を傷つけてしまうのがこわい」

シンジ「う……」

ユイ「だから、なにもしない、というの?」

シンジ「そ、それは」

ユイ「選択のひとつなのよ。シンジ、あなたがなにもしないと決めたの」

シンジ「僕がなにかしたって……」

ユイ「なにかしても、なにもしなくても悪くなるのなら、同じではない?」

シンジ「……」

ユイ「決めたのなら責任を持ちなさい。あなたが選んだという自覚から逃げてはだめ」

シンジ「耐えきれなかったら、どうしたらいいんですか」

ユイ「不安感に? 持ち札は多くないと割り切れる?」

シンジ「できそうもありません」

ユイ「シンジはまだ若いから。でも、こわがっちゃだめよ。歳をとるのはね、可能性を消費しているの。今しかできないと判断したら飛びこみなさい。これなら、言っている意味わかるわよね?」

シンジ「はい」

ユイ「シンジ……」スッ

シンジ「……?」

ユイ「あなたならきっとできる。あなたが持つDNAはそこらの凡人に負けるはずのない、サラブレッドですもの」

シンジ「……」

ユイ「母さんの血筋を信じなさい」

シンジ「なんだか、懐かしい匂いがします」

ユイ「……覚えがある?」

シンジ「なんとなく、そう思っただけで。変ですよね。僕、誘拐されて、相手の顔だってわからないのに、こんな話するなんて」

ユイ「話してくれて嬉しいわ」

シンジ「いえ……」

ユイ「まだ、エヴァに乗り続ける?」

シンジ「ふぅ……すぐには、答えがだせそうもないや。だけど、乗ってみんなが笑顔に……自分の為に僕は乗るべきだと思います」

ユイ「そう」

シンジ「ありがとうございました……あれ、お礼を言うのは、変ですかね」

ユイ「いいのよ」

シンジ「あんまり、考えを話せる人いないから」

ユイ「また会える。次は、麻袋無しで。チクっとするけど、我慢してね」スッ

シンジ「え? いっ! また……⁉︎」プス

ユイ「おやすみ」

【第三新東京市 繁華街】

ミサト「うぅーん、足がぱんぱん! 結局、ビジネスホテルで夜を明かすなんて」

マコト「今日は成果をあげられればいいですね」

ミサト「そうね、誘拐から身代金の要求がないいままに時間だけが経過すると、生存率が低くなる。目撃情報を得ないと」

マコト「大丈夫かなぁ……」

ミサト「マジにやばいかも」

マコト「シンジくんだけじゃないかもしれませんしね、ひょっとしたら他のチルドレンも」

ミサト「今はシンジくんよ」

マコト「はい、わかってます」

ピリリリリッ

ミサト「日向くん、携帯、鳴ってるわよ」

マコト「青葉からだ。なにか動きがあったのかな」

ピッ

マコト「はい、もしもし……あぁ、葛城さんなら、ここに……うん……なんだって⁉︎ わかった! すぐに本部に戻る!」

ミサト「どうしたの⁉︎ ま、まさか、死体が……」

マコト「違いますよ! って、シンジくんが見つかったのは違ってないですが! 生きてます!」

ミサト「よっしゃあっ!」グッ

マコト「急ぎましょう!」

ミサト「おっけー! 駐車場に私の車があるから! 飛ばすわよ!」

マコト「いっ⁉︎」

ミサト「どうしたの? 日向くん! はやく本部に向かわなくちゃ!」タタタッ

マコト「はぁ、葛城さんって、運転荒いんだもんなぁ……」ガックシ

【ネルフ付属病院 202号室】

シンジ「う……うぅん……」 パチ

レイ「起きた?」

シンジ「綾波、アスカ?」

アスカ「はぁ、まったく、人騒がせなやつよねぇ」

シンジ「僕は、いったい」

アスカ「あんたがいなくなったおかげでこちとら大迷惑よ」

レイ「気分はどう?」

シンジ「大丈夫、特になんともないよ。僕は、いつ病院に?」

レイ「二時間前。駅のベンチで寝ていたそうよ」

アスカ「あんた、誘拐されてたんでしょ? 拷問とかされなかったの?」

シンジ「ご、拷問って。そんなんじゃなかったよ」

アスカ「なぁ~んだ。心配して損した」

シンジ「アスカが、僕を?」

アスカ「あ、あたしは別にっ! ファーストがうるさいからよ!」

レイ「私?」キョトン

アスカ「そうでしょ⁉︎」

レイ「違うわ。心配してたのは、あなた」

アスカ「うぐっ! 気がきかないんだからぁ!」

シンジ「そっか、心配かけてごめん」

アスカ「ふんっ!」

レイ「起きたら、連絡するよう赤木博士に言われてるけど平気?」

シンジ「うん、そうだね、大丈夫だよ」

アスカ「……ん? シンジ、あんたなんか顔つきがすっきりしてない?」

シンジ「そう?」

アスカ「気のせい、よね。なにも食べてないとか?」

シンジ「そんな。たしかに食べてないと思うけど、一日かそこらじゃないか」

アスカ「ま、それもそうか。ならやっぱり気のせいね」

レイ「なにか食事は?」

シンジ「……りんご、食べようかな」

レイ「いいわ」 カタ

アスカ「はっ! 起きたらさっそくいちゃついちゃってさぁ!」

シンジ「アスカ」

アスカ「なによ」

シンジ「変わる意味がわかった気がする」

アスカ「はぁ? 頭でも打ってきた?」

シンジ「よくわからないけど」

アスカ「……どっちなのよ」

シンジ「僕はこわがってちゃいけないんだね」

アスカ「……?」

シンジ「違う、いけないってわけじゃない。それが、自分の為にも、いつか、誰かの為にもなるんだろうね」

アスカ「や、やっぱり、なにかされてきたんじゃ……」

シンジ「アスカ」

アスカ「人の名前を何度も呼ばなくても聞こえてるっちゅーの!」

シンジ「アスカは、僕とは違う」

アスカ「はぁ」

シンジ「よっと」ギシ

アスカ「ちょっと、いきなり立って大丈夫――」

シンジ「こうしたら、どうなるんだろう」スッ

アスカ「んなっ⁉︎ ふぁんたぁっ⁉︎」

シンジ「アスカのほっぺた、やわらかいね」ムニムニ

アスカ「ふんっ!!」 ブンッ

バチンッ!

アスカ「エッチバカ変態っ! 信じらんないっ!」

シンジ「ぷっ、あは、あはははっ、ジンジンして、痛いや」

アスカ「え……? ちょ、ちょっと?」

シンジ「そうだよね。なにかをしたら、なにかが返ってくる。簡単な話なんだ」

アスカ「し、シンジ?」

レイ「碇くん?」

シンジ「くっくっくっ。だめだ、おかしくて、あははっ」

アスカ「ファースト、赤木博士に連絡してはやく精密検査受けさせるべきよ。そうしないなら隔離するべきね。きっと脳になにかされてきたんだわ」

シンジ「ひ、ひどいや、アスカ。あはははっ」

アスカ「急ぐのよ!」

レイ「え、えぇ」

【ネルフ本部 第三会議室】

シンジ「失礼します」

冬月「楽にしたまえ」

シンジ「はい」スッ

冬月「災難だったが、無事でなによりだ。検査の結果は問題ないそうだな」

シンジ「すぐに退院できました」

冬月「赤木博士から報告は受けているよ。書類で確認してもいいが、直接話を聞きたくてね」

シンジ「かまいません」

冬月「君は、将棋を打つかね?」

シンジ「あ、いえ……」

冬月「ふむ。山崩しならできるだろう」ガシャカシャ

シンジ「それなら知ってます」

冬月「聞きたいのは、君を誘拐した相手だ。女だったそうだな」スッ

シンジ「はい。声を聞いたので」

冬月「麻袋を被せられ、両手両足を縛られていたと聞いたが?」

シンジ「間違いありません」

冬月「やけにはっきりと答えるな」

シンジ「え……あの、なにか?」

冬月「老人と2人きりでは息苦しいのではないか」

シンジ「……はい、息苦しいです」

冬月「ん?」

シンジ「でも、望んでるのは副司令ですから」

冬月「この席をかね?」

シンジ「はい」

冬月「それは違いない。多少の無礼は許そう」

シンジ「質問に答えるかわりといいますか、ひとつお願いしてもいいですか?」

冬月「めずらしいな、なんだ?」

シンジ「父さんと、少し、話がしたいんです」

冬月「碇と?」

シンジ「はい。母さんのことを聞きたくて」

冬月「なぜかね? もしや、君を誘拐した相手は――」

シンジ「え?」

冬月「いや、なんでもない」

シンジ「誘拐した相手は、誰だかわかりません。ただ、僕を知っていて、小さい頃に会ったとは言ってましたけど」

冬月「やはり、我々は彼女の手のひらで遊ばれていただけなのか」

シンジ「彼女?」

冬月「それだけでいい。碇には会わせてやろう」

シンジ「あ、ありがとうございます」 ホッ

冬月「山崩しはまたにしよう。今なら、多少の時間があるはずだ。ついてきたまえ」

【ネルフ本部 発令所】

ゲンドウ「どうした?」

シンジ「あ、あの……」

ゲンドウ「ぐずぐずするな。用件があるならさっさと言え」

冬月「母親について知りたいそうだ」

ゲンドウ「なに?」 ピクッ

シンジ「母さんって、どんな人だったの?」

ゲンドウ「なぜだ?」

シンジ「知りたいって、おかしいかな……」

ゲンドウ「そうではない。なぜ今なのだ」

シンジ「気になったんだ。父さんは、母さんのことを大切に思ってるのは知ってるから」

ゲンドウ「シンジ」

シンジ「なに?」

ゲンドウ「無駄な話に時間を割くな」

シンジ「そ、そんな」

冬月「――サードチルドレン、面白い話をしてやろう」

シンジ「……?」

冬月「ここにいる男はな。昔、私の教え子だった」

シンジ「と、父さんが?」

ゲンドウ「……」

冬月「大学の頃の話だがね。当時からこいつは、一匹狼を気取っていてな。変わり者の類だった」

ゲンドウ「冬月」

冬月「キャンパス内では孤立していたよ。しかし、そんな折に、君の母親に出会った。最初は疎ましそうにしていたな」

シンジ「そ、それで?」

冬月「しかし、ユイ君の態度に、この男の心もやがて氷解していった。いつのまにやら、なくてはならない存在になっていたのだ」

ゲンドウ「過去の話だ」

冬月「やがて、2人は付き合うようになった。男女の仲というやつだ。そして、ユイくんは君を身篭った」

シンジ「父さんって普通に恋愛してたんだ」

ゲンドウ「いいかげんにしろ!」

冬月「碇、もういいのではないか」

ゲンドウ「なんのつもりだ?」

冬月「俺もお前も、やり方を間違えていたのだ。お前は言ったな。ゼーレと死海文書の存在にはじめて気がついた時、俺にこれを世間に公表すると」

ゲンドウ「なぜ蒸し返すのだ」

冬月「ネルフがまだゲヒムだった頃、お前は人が変わったようになって、決意を滲ませて帰ってきた。人類補完計画を遂行するために」

ゲンドウ「冬月、シンジを連れてさがれ」

冬月「ここから見える職員を見たまえ」

マヤ「あ、ここの解析間違ってる」
シゲル「じゃんじゃんじゃかじゃ~ん♪ いぇ~い♪」
マコト「はぁ、仕事が終わらない」

ゲンドウ「それがどうした?」

冬月「誰しもが、夢にも思うまい。人類が滅ぶ手助けをしているとはな」

ゲンドウ「滅ぶのではない。人が形を変える為の進化だ。必要な補完だ」

冬月「息子は、お前ではないよ」

ゲンドウ「なにを言っている」

冬月「認めたらどうだ。お前は息子から逃げている。俺もお前も。いや、ここにいる誰しもが、なにかしらの現実から逃げているのか」

シンジ「あ、あの」

冬月「俺は降りはしない。親子の時間を取り戻せ。破滅の日まで、まだ時間はある」

ゲンドウ「必要ない。思い出は心の中で生き続ける。今はそれでいい」

冬月「素直に受け入れられんか。歳というものは難儀だな。若い発想と柔軟性が羨ましいよ」

ゲンドウ「冬月、今日は休め」

シンジ「父さん」

ゲンドウ「なんだ⁉︎」

シンジ「僕は、幼いころ、父さんから逃げ出したんだ」

ゲンドウ「……子供の戯言には」

シンジ「父さんはあの時、僕に、わからないけど、なにかに失望したんじゃないの?」

ゲンドウ「それは違う。お前が逃げ出したのだ。お前の選択だ」

シンジ「そうかもしれない。父さんは何を選択したの? やっぱり母さんの――」

ゲンドウ「茶番はやめろ!」 バンッ

冬月「碇、今日中の仕事は俺が引き継いでやる。息子と飯でも食ってこい」

ゲンドウ「先生」

冬月「ふん、はねっかえりはあいかわずだな。老人のたまに見せるわがままだ。ここは俺の顔を立てろ」

【ネルフ本部 初号機ケイジ】

ミサト「たらりらったらぁ~ん♪」

リツコ「そこ、踏みはずすとL.C.L漬けの完成になるわよ」カキカキ

ミサト「わかってるってぇ~」

リツコ「呆れた、相変わらず現金ね。シンジくんに外傷なく発見できたからといって。チルドレンの警護体制見直しを検討しなくていいの?」

ミサト「そんなのはあとよ、あと。左遷もなさそうだし、この喜びを親友と確かめあわなくっちゃ、ね?」

リツコ「リーチがかかっているの、忘れないようにね」

ミサト「実験は明日から再開するの?」

リツコ「えぇ。シンジくんに問題はないし、そうなるでしょうね。そこのアンビリカルブリッジの固定具、締めつけが甘いわよ」

作業班「え! どっちすかぁ⁉︎」

リツコ「二番よ」

ミサト「使徒が相手ならなんとかなるんだけどさぁ。さすがにああいうやり方されるとちょっちねぇ~」

リツコ「あなた、戦闘訓練も受けているでしょう? 優秀な成績だったはずだけど」

ミサト「小難しい推理は苦手。今回の件では、かたなしだって」

リツコ「そう……あら? あれは、碇司令と、シンジくん?」

ミサト「あらまっ! 本当だ! 2人で歩いてるのなんてめずらしいわね!」

リツコ「なにかあったのかしら?」

ミサト「気になるぅ?」 ジトー

リツコ「ミサト? なによその目は」

ミサト「いんやぁ~? リツコって碇司令を目で追っかけてない?」

リツコ「……っ! バカなこと言うのはやめなさい!」

ミサト「なんでムキになるのよぉ~?」

リツコ「あなたがそうやっていつも茶化すからでしょう⁉︎ 私は尊敬しているだけよ!」

ミサト「あらま、本気で怒ってる? ご、ごめん。悪かったわ」

リツコ「まったく!」コツコツ

【ネルフ本部 レストラン】

シンジ「……」チラ

ゲンドウ「どうした? お前が希望した会食だ」

シンジ「あ、うん。そうだね」

ゲンドウ「俺の顔色を伺ってないではやく決めろ」

シンジ「はは。父さんでも、わかるんだ」

ゲンドウ「くだらん」

シンジ「だけど、僕は嬉しいよ」

ゲンドウ「……そうか」

シンジ「父さんと、こうして食事できるのは本当に何年ぶりになるだろう」

ゲンドウ「十三年ぶりだ」

シンジ「やっぱり、僕が逃げ出した時からだね」

ゲンドウ「ああ。だが、それ以前の俺は研究に没頭していたからな」

シンジ「父さんがしていた研究ってやっぱりエヴァの?」

ゲンドウ「様々な研究だ。基礎構造に関わっている人員は万をゆうに超えている。俺はそのタスクの一部を担当していたにすぎん」

シンジ「凄いんだね。母さんも……?」

ゲンドウ「ユイは、エヴァに子供達の夢を託していた。シンジ――」

シンジ「なに?」

ゲンドウ「お前にとって母親とはなんだ?」

シンジ「うーん、会ったことのない、人、かな」

ゲンドウ「だが、お前の母親はたしかに生きていた」

シンジ「うん」

ゲンドウ「ユイはかけがえのないものを俺に教えてくれた。俺の心の中で生き続けている」

シンジ「もし、もし今も母さんが生きていたしとたら何かが変わっていたのかな」

ゲンドウ「そんな話はするだけ無駄だ」

シンジ「そうだね、ごめん」

ゲンドウ「俺は、お前に何もしてやれない」

シンジ「えっ?」

ゲンドウ「だが、ユイの願いは、お前に対する願いでもある」

シンジ「父さん、なに言って……」

ゲンドウ「シンジ。二度は言わん。よく聞け」

シンジ「う、うん」

ゲンドウ「俺は父親失格なのだろう。この手は、血で汚れてしまっている。過去を振り返りはしない」

シンジ「……」

ゲンドウ「犠牲が、あまりに多すぎる。俺だけの話ではない、関わってきた者、志半ばにして倒れてきた者たちの願いが託されている」

シンジ「うん」

ゲンドウ「俺は、お前に嫌な思いしかさせていないのだろうな」

シンジ「そ、そんな……」

ゲンドウ「初号機パイロットは、ユイの願いでもあるお前がやり遂げるのだ」

【ネルフ本部 発令所】

冬月「(ユイくん、これでよかったのだろう?)」

リツコ「副司令」

冬月「なんだね?」

リツコ「さきほど、碇司令とご子息をお見受けしました」

冬月「ああ。たまにはいいだろう。なに、ただの親子の食事会だ」

リツコ「お、親子の食事……?」

冬月「どこの家庭でも見受けられる、日常的な光景だよ」

リツコ「あの2人にとっては、その、大変、申し上げにくいのですが……」

冬月「言わんとしているのはわかる。だが、誰しもにきっかけは必要だ」

リツコ「は、はぁ」

冬月「俺は手助けをしているだけにすぎん。どうするかは、当事者が決める」

リツコ「今さら、関係の修復などありえるのでしょうか?」

冬月「いつになっても遅いというのはないが、歳をとれば、臆病になる。息子の頑張り次第だな」

リツコ「サードチルドレンは、かなり受け身だと思われますが……」

冬月「ふっ、期待しよう」

【ネルフ本部 レストラン】

ウェイター「お待たせいたしました。ハンバーグセットとアメリカンコーヒーでございます」コト

シンジ「い、いただきます」 カチャ

ゲンドウ「……」

シンジ「父さん、僕は、やっぱり、父さんと母さんに何があったのかわからないよ」

ゲンドウ「ああ」

シンジ「だけど、母さんの願いも、父さんの願いも、実現したらいいと思う」

ゲンドウ「お前に心配される覚えはない」

シンジ「そうじゃないんだ。僕は、父さんと母さんの息子だから」

ゲンドウ「形だけの親だ。お前が母親に抱いている感情と俺に対する感情になにも違いはない」

シンジ「父さんからしたら、バカみたいな話かもしれないけど、僕は父さんに褒められるためにエヴァに乗ってるんだ」

ゲンドウ「……」

シンジ「父さんはこう思ってるんでしょう? 乗れればいいって。僕にだってわかるよ。そうやって、父さんは切り捨ててきたんだね」

ゲンドウ「そうだ」

シンジ「父さんの手がなにかで汚れていても、命の尊さは変わらない。僕には、今が大事なんだ。だから――」

ゲンドウ「シンジ。会食は一度きりだ。冬月の顔を立てて話をしている」

シンジ「だけど! 父さんが言ったのは本心だったんでしょう⁉︎」

ゲンドウ「……」

シンジ「普段なら絶対に言わない話をしてくれたのを僕は聞いてたよ!」

ゲンドウ「はやく食え」

シンジ「なんでそうなんだよ」

「ご一緒してもよろしいですか?」

シンジ「えっ?」

ゲンドウ「……っ!」ガタッ

「お久しぶり」

シンジ「あ、えっと」

ゲンドウ「ば、バカな⁉︎ そんなはずは!」

「立ち上がってないで席に座ったらどう? 注目を浴びるわよ。碇司令」

ゲンドウ「な、なぜ……っ!」

「シンジ。ハンバーグセットを頼んだの? おいしそうね」

シンジ「あの……?」

ゲンドウ「ゆ、ユイ……君なのか……」

ユイ「シンジ、飲み物は? ジュースはいらないの?」

シンジ「――ユイ? ゆ、ユイって、え、えぇっ⁉︎」

ユイ「あなたの母さんよ」 カタ

ゲンドウ「ど、どうなっている。キミはたしかにサルベージに失敗して」

ユイ「バカね。私はいつもあなたのそばにいたのに。シンジをきちんと育てずになにをしていたの?」

ゲンドウ「お、俺は、キミに会うために」

ユイ「時がくれば会えたのよ。私達の息子が叶えてくれるはずだった」

シンジ「お、お母さん、なの?」

ユイ「そうよ。麻袋無しで会えたわね」 ニコ

シンジ「えぇ⁉︎ ってことは、あの時の人が⁉︎」

ゲンドウ「初号機のコアはどうなっている⁉︎」

ユイ「それなら心配ないわ。対応策は組んであるから。シンジのシンクロに問題なかったでしょう?」

シンジ「あ、あ……」

ユイ「ハンバーグ、冷めるわよ?」

ゲンドウ「本物か?」

ユイ「失礼ね。なんなら学生時代の恥ずかしい話を列挙してあげましょうか?」

ゲンドウ「……」

ユイ「私はあなた達を捨てたのよ。自分の望みの為に進んで初号機に取りこまれたの、なぜだかわかる?」

ゲンドウ「……」

ユイ「生き続ける限り、孤独感は切っても切れない関係にある。人類補完計画は心の壁を取り除き完全な個体への道標、今さら説く必要はなかったわね」

ゲンドウ「ならば、計画の完遂を待てば……」

ユイ「いいえ、それでは永遠にはなり得ない。私はね、この大地に還りたかったの」

ゲンドウ「……」

ユイ「なんの罪悪感もなかったわ。だって、この大地の土となり、木になり、空気となって、一緒にいるんですもの。始祖、そう呼ばれる存在になりたかった」

ゲンドウ「補完は人をやめるのではない、キミは人をやめようとしたのか」

ユイ「私はこの星と運命を共にして、誰よりも近く、あなた達のそばにいられるのよ? 終わりのない、永遠に」

ゲンドウ「未来永劫など理想だ。種はいずれ滅びる、星にも寿命はある」

ユイ「そうね、それに気がついたからここにいるわけだけど」

ゲンドウ「……」

ユイ「そんな話よりも、あなた。シンジをほったらかしてなにやってるの。さっきのやりとりは聞かせてもらったわ。自分に酔っているつもり?」

ゲンドウ「俺はだな」

ユイ「この子は私達の息子なのよ。あなたの手を、はじめて握ったあの頃の感覚を忘れたの?」

ゲンドウ「……」

ユイ「シンジの言う通り、命は尊いものよ。あなたはこの子から力強い鼓動を学ばなかったのね」

シンジ「(す、すごいな。父さんのこんな表情はもう見れないかもしれない)」

ユイ「シンジ」

シンジ「は、はいっ⁉︎」

ユイ「勉強はちゃんとしてる? 授業の成績はどれぐらいなの?」

シンジ「えーと、中間ぐらいの」

ユイ「あなたは頭がいいはずよ? 私は当然として、この人も学会では天才と言われていたんだから」

シンジ「す、すみません」

ユイ「勉強のノウハウを教える人がいなかったのね、いえ、学ぶ楽しさ、生き方を」

シンジ「いや、その……」

ユイ「でもね、シンジ。与えられるだけが当たり前だと思わないで。過酷な環境でも、生きて、自分で考えている子供はたくさんいるわ」

シンジ「は、はい」 シュン

ユイ「あなた」

ゲンドウ「なんだ」

ユイ「私は姿を消します。また会いたかったら、父親の背中を息子に見せるのね」

ゲンドウ「今さら俺に父親になれというのか」

ユイ「なにを言ってるの。あなたは血の繋がった父親その人でしょう。浮気をしているの、知っているのよ?」

ゲンドウ「……」

ユイ「シンジ、ハンバーグゆっくり食べなさい。それと、あなたの為に用意してある計画はたくさんあるから。しっかりね」

シンジ「は、はぁ」

ユイ「シンジも私が永遠となるDNAを宿してるんだもの。次の世代へのバトンね」 ニコ

ゲンドウ「お、おい」

ユイ「追いかけてきたら二度と会わないわよ」

ゲンドウ「……」

ユイ「それじゃ、元気でね」コツコツ

シンジ「い、行っちゃった」

ゲンドウ「……」

シンジ「と、父さん」

ゲンドウ「なにも言うな。あれはお前の母親だ」

シンジ「い、生きてたんだね、びっくりした」

ゲンドウ「あぁ」

シンジ「あの、どうするの? これから」

ゲンドウ「葛城一尉を呼び出す。お前もついてこい。それと、ハンバーグをはやく食べろ」

【ネルフ本部 執務室】

ゲンドウ「冬月」

冬月「どうした? 本日の業務は引き継ぐと言ったはずだ」

ゲンドウ「ユイが生きていた」

冬月「そうか。ふっ、ようやく姿を見せたのだな」

ゲンドウ「知っていたのか、なぜ今まで黙っていた」

冬月「すまなかったな。俺はお前の悩む姿を見て、内心でほくそえんでいたからだよ」

ゲンドウ「……」

冬月「嫉妬していたのかもしれん。それぐらいはこれまでの苦労を計算に入れればお釣りがくるだろう」

ゲンドウ「俺たちの目的が、補完計画の目的がなくなってしまったと同義だとわかっているのか?」

冬月「無論だ。だが、ゼーレによって、補完計画は発動される。それまでは時間を取り戻すといい」

ゲンドウ「ユイの血筋はゼーレそのものだ、委員会が生きていると知れば」

冬月「そういうと語弊がある」

ゲンドウ「これから、どうすればいい」

冬月「子供じゃあるまいし、俺に聞くな。ユイくんは何と言っていた」

ゲンドウ「父として背中を見せろと」

冬月「ならばそうしろ。余計な気を揉まんでいい、お前が背負っている十字架は消えやせんよ」

ミサト「失礼いたします! 碇司令、ご用でしょうか?」

ゲンドウ「……」

ミサト「あら? シンジくんも?」

シンジ「どうも、ミサトさん」

ゲンドウ「シンジ、葛城一尉に不満はあるか?」

ミサト「は、はい⁉︎」

ゲンドウ「どうだ?」

シンジ「いや、ミサトさんはよくしてくれてるよ」

ゲンドウ「そうか」

ミサト「碇司令、いったい、これは」

冬月「碇、過保護はちと違うぞ」

ゲンドウ「レイと同じ扱いではだめか?」

冬月「それでは育たん」

ミサト「ねぇ、シンジくん、なんなの、いったい」

シンジ「いや、あ、あはは」ポリポリ

冬月「気にしなくていい。中年の病気だ」

【ミサト宅 リビング】

ミサト「それじゃ~、シンジくんの帰還を祝してぇ! かんぱぁ~い!」

ペンペン「クエ~ッ!」

ミサト「んくんくんくっ、ぷはぁ~~っ! くぅ~~っ! シンジくんが無事に帰ってきてくれてよかったわぁ~! 今日は奮発してお寿司よぉ、さ、どんどん食べて!」

アスカ「はいはい」

シンジ「はぁ……」

アスカ「えぇい、うっとうしい! あんたもため息ばっかりつくな!」

シンジ「いいじゃないか、少しぐらい」

アスカ「みんなでワイワイやろうって時に陰気臭いオーラしてる奴がいるだけで濁るもんなのよ! どうせまたくだらない悩みなんでしょ?」

シンジ「くだらないかはわからないけど」

ミサト「まぁまぁ、シンちゃんだってお年頃なんだもの。悩みのひとつやふたつ、あるわよ」

アスカ「私に悩みがないみたいじゃない」

ミサト「アスカはアスカでないとは言わないわ。だけど処理の仕方がそれぞれあんのよ」 グビ

シンジ「アスカ」

アスカ「あによ」 パク

シンジ「アスカって、お母さんと、どう?」

アスカ「やぶからぼうになんなのこいつ」 もぐもぐ

シンジ「いや、別に」

アスカ「だったら聞くんじゃないわよ……ん……⁉︎」

ミサト「……?」

アスカ「は、は、鼻が痛い! つ、ツーンって!」ガタッ

ミサト「大当たりね! アスカが引いちゃったか!」

シンジ「ミサトさん、まさか」

ミサト「そのま・さ・かぁ♪ いくつかは特製ワサビ入りってやつなのよねー! あっはっはっ、シンちゃん見て見て、アスカ、涙目になってる、ぷっ」

アスカ「こんの……っ! し、シンジっ!水、水!」バタバタ

シンジ「う、うん!」

【ネルフ本部 執務室】

冬月「やれやれ、まだ悩んでいるのか」

ゲンドウ「そうではない。今さらどう向き合えと言うのだ」

冬月「構えることかね」

ゲンドウ「親としての接し方がわからん」

冬月「そうではないだろう。お前は、息子を愛しているのかさえわかっていない。ユイくんに向けている情のカケラでさえ持ち合わせているのか、自信がない」

ゲンドウ「……」

冬月「不器用なところばかり似よって。お前たちはまぎれもない親子だよ」

ゲンドウ「シンジに親として接するのがユイのためであるのは明白だ」

冬月「自分の為だ。履き違えるな。お前の望みを叶える道具として扱うから、道具を愛するのはどうしたらいいかわからんのだろうが。レイに対しては、ユイくんの面影を投影していたようだがな」

ゲンドウ「……」

冬月「ユイくんが生きているからといって、当然のように手に入ると自惚れるなよ? 見捨てられんように、せいぜい気をつけろ」

ゲンドウ「ああ」

冬月「ひとつだけ助言をしてやろう。……“家”とは帰る場所でもある。息子に帰る場所はあるのか?」

ゲンドウ「生活に不自由はないはずだ。規定にのっとって葛城一尉に世話を一任してある」

冬月「そうではない。規律や法律は弱者を守る為にあり、現代社会は物に溢れ、便利になった。必要な管理と設備を整えれば、不自由はないだろう。だが、それだけでいいのか? 心が貧しくなっているのではないか?」

ゲンドウ「人は、与えられた道具をどう使うか選ぶ、娯楽でさえも溢れている。選択肢は多いにこしたことはない……使う側の問題だ」

冬月「MAGIのような市政さえも行える極めて効率的なコンピューターという例もある。機械という電子製品に頼り良い結果が得られる、それは同意する」

ゲンドウ「……」

冬月「しかし、それだけでは満たされない。人の心は人でしか埋められないからな。人類補完計画もそこに起因する」

ゲンドウ「俺がやるのは性に合わん」

冬月「昔と今では価値観が違うがね。昔の人が不便だから、生活ができていなかったから、幸せでなかったかと言うと違う、食卓に笑顔があったからだ」

ゲンドウ「なにが言いたい」

冬月「答えを言っているだろう、わからなければ息子に学ぶんだな」

【第三新東京都市第壱中学校 昼休み】

ケンスケ「どうしたんだよ、ずっと窓の外見て黄昏ちゃって」

シンジ「あ、いや、なんでもないよ」

ケンスケ「碇がなんでもないって言うときは大抵なにかある時だよなぁ」

トウジ「シンジはめずらしくないやろ」

ケントウ「そういや、そうか」

トウジ「せや、この前はあかんかったが放課後時間あるか?」

シンジ「あぁ、ごめん。でも、そんなに大事な用事?」

トウジ「妹がなぁ」

ケンスケ「碇にお礼を言いたいんだとさぁ」

シンジ「それって、僕のせいで怪我したっていう……」

トウジ「まぁ、シンジのせいやないのはワシもわかっとる。サクラや、妹の名前は」

シンジ「お礼なんて、僕はなにもしてないよ」

ケンスケ「僕も一緒に行っていいんだろう?」

トウジ「お前は連れ行くわけないやろっ!」

ケンスケ「仲間外れにする気か⁉︎」

トウジ「ワシは兄として妹の身の安全を確保しとるんや!」

ケンスケ「トウジっ⁉︎ 僕は変態じゃないぞ!」

トウジ「お前が普段やっとる盗撮は変態行為やないんかい!」

ケンスケ「ブロマイドはビジネスさ! トウジだって儲けに一枚噛んでるだろ!」

トウジ「ぐっ」

ケンスケ「僕の趣味はあくまでカメラなんだからな!」

トウジ「はたからみたら女の尻追っかけとるストーカーやないか!」

ケンスケ「見損なったよ! 僕たちの友情はそんなものだったんだな!」 バンッ

シンジ「ちょ、ちょっと2人とも」

トウジ「今は会わせる気はない!」

ケンスケ「そうかよ! だったらいいよ!」タタタッ

シンジ「トウジ、ケンスケが」

トウジ「かまへんやろ。いざとなったら拳で語りゃええ」

シンジ「ケンスケは、変態じゃないよ」

トウジ「それはワシもわかっとる。妹は、そんなに長く話せる状態やないんや」

シンジ「あ……そう、なんだ」

トウジ「しみったれた空気にさせてすまんのぉ」

シンジ「いいんだ。まだ、回復してないの?」

トウジ「目処はたってない……。病院の先生からは、もっと設備の揃った病院に転院を薦められるが、そんな金、どこにあるっちゅうねん」

シンジ「……」

トウジ「あいつが笑顔になれるんなら、今はそれでええ。シンジ、すまんが励ましたってくれ。お前の活躍の話をすると、ほんま嬉しそうな顔するんや」ペコ

シンジ「やめてよ! 僕のせいなんだ! 僕ができるのならなんでも……!」

トウジ「お前なら、そう言ってくれると思うとったわ。怪我は事故やが、パイロットがシンジでよかったとワシかて思うとるで。どうしようないクズやったらやるせないだけやからな」

【小田原病院 病室前】

看護師「あら、鈴原くん。今日もお見舞い?」

トウジ「お世話になっとります」 ペコ

看護師「めずらしいわね。友達も一緒だなんて」

シンジ「はじめまして」

看護師「はい、こんにちは」

トウジ「サクラは、変わりないでしょうか?」

看護師「鎮痛剤を投与しているから、今は落ち着いてるわよ」

トウジ「そうですか……」ホッ

看護師「あんまり根を詰めすぎないようにね。毎日来るのはいいけど、鈴原くんが倒れたら……」

シンジ「え? トウジ、毎日来てるんですか?」

看護師「えぇ。よっぽどサクラちゃんがかわいいのね。新聞配達もしてるんでしょう? 今時えらいわ~」

トウジ「あ、その」

シンジ「知らなかった……」

トウジ「まぁ、その、な」

看護師「あら? 言っちゃまずかった?」

トウジ「いえ。ワシらは、病室にはいるので」コンコンッ

サクラ「……はい?」

トウジ「サクラ、はいるで」 ガララ

サクラ「……」ニコ

トウジ「そのまま、ラクにしとけ。なんや、またカーテン閉めとったんか」

シンジ「お、お邪魔します」

サクラ「兄ちゃん、今日はお友達、連れてきた?」

シンジ「……」

トウジ「せや、誰やと思う?」

サクラ「うーん?」

トウジ「お前にいつも話を聞かせてたやつや」 シャ

サクラ「えぇ?」

シンジ「はじめまして、サクラちゃん」

サクラ「わぁっ! 怪獣をやっつけてくれてるシンジさん⁉︎」

トウジ「そうや。どや? 嬉しいか?」

サクラ「うんっ! とっても嬉しい! 兄ちゃん、身体起こして!」

トウジ「よしきた! そうか、嬉しいか、よかったな、ほんまに、よかったな」

シンジ「(だめだ、トウジが我慢してるのに僕が泣いちゃだめだ)」

サクラ「どうぞ、座ってください。なにもないとこで申し訳ないわ」

シンジ「ごめん、ごめんね。本当に、怪我をさせてしまって……うっ、うぅ……」ポロ

トウジ「泣くやつがあるかぁ! サクラ、シンジも会えて嬉し泣きしとるみたいやぞ⁉︎」

シンジ「ぐすっ、ごめん、僕が、もっとちゃんとしていれば……ごめんよ……」ポロポロ

サクラ「エヴァっていうんでしょう……? あないにおっきなものに乗ってたらしかたないよ、私は気にしてないよ?」

シンジ「トウジ……」

トウジ「なんや?」

シンジ「今まで、本当にごめん。僕は、自分がなにをしたのかわかってなかった」

サクラ「……? 兄ちゃん、シンジさんどないしたん?」

トウジ「おい、サクラかて、びっくりしとるやないか」

シンジ「もっと、はやく、くるべきだったんだ」

トウジ「もしシンジがきたいと言うてもワシは断っとったはずや」

シンジ「そうじゃないんだ。もっとはやく申し出るべきだった。来れる来れないんじゃないんだ」

トウジ「まぁ、そんな深刻に考えんなや」

シンジ「僕がなんとかしてみせる……!」

トウジ「はぁ?」

シンジ「僕の力じゃ無理かもしれないけど。今から、父さんのところに、ネルフ本部に行かなくちゃ」

トウジ「お、おい。せやけど、時間が遅くなるんちゃうか?」

シンジ「ジッとしていられないんだ。また、明日学校で。なにかあったらすぐに言うよ。サクラちゃん、ごめんね、改めてお見舞いにくるから」

サクラ「う、うん……」

【ネルフ本部 発令所】

シンジ「はぁっ、はぁっ、父さんっ!」

ゲンドウ「お前と話している……いや、どうした?」

シンジ「忙しいのはわかってるよ。ごめん。頼みがあるんだ」

ゲンドウ「手短に済ませろ」

シンジ「僕が、初号機に乗って出撃したときに、怪我をした子がいるんだ。その子がとても重い怪我みたいで」

ゲンドウ「……」

シンジ「ネルフ付属病院に転院させるのは無理かな」

ゲンドウ「甘えは許さん、望みがあるのならば自分で勝ち取ってみろ」

シンジ「でも、僕じゃできる範囲が、だから父さんに頼んでるんじゃないか!」

ゲンドウ「俺を動かすに足る理由を示せ」

シンジ「なんだってするよ。エヴァにだって乗り続ける。それならどう?」

ゲンドウ「取り引きしたい場合は、自身の不確定な行動に対して手にあまる発言をするな。なぜ、助けたいと思った?」

シンジ「えっ?」

ゲンドウ「我々は使徒を相手に戦っているのだ。怪我人はこれからも出続ける」

シンジ「そうかもしれない、けど!」

ゲンドウ「クラスメイトだからか」

シンジ「友達の妹なんだ! 僕のせいで怪我したんだ!」

ゲンドウ「誰しもに救済はない。お前は、友達だからという理由で選ぶのか?」

シンジ「……っ!」

ゲンドウ「どうした? この程度で揺らぐのか? もう一度だ。お前が怪我をさせる人々はこれからも出続ける。エヴァに乗り続けるとはそういうことだ」

シンジ「ぼ、僕は……」

ゲンドウ「シンジ! 答えろ!」

シンジ「う……」

ゲンドウ「責任を持てないのならば帰れ、目障りだ」

シンジ「自分の目の届く範囲は、守りたいんだ。だって、それが僕がエヴァに乗る理由だから!」

ゲンドウ「俺に褒められたいからというのは、取り繕ってつけたウソだったのか」

シンジ「違う! ……ひとつじゃないんだ。僕が乗り続ける理由は誰かに嬉しいと思ってほしいから」

ゲンドウ「多様性はある、だが、お前が望む未来は実現に程遠い」

シンジ「お願いだよ、父さん。どうか、転院させてやってほしいんだ」

ゲンドウ「ふっ、次は拝み倒しか」

シンジ「どうしたらいいかわからないんだよ!」

ゲンドウ「……」

シンジ「くっ!」ギリッ

ゲンドウ「お前がやっているのはなんだ? 求めている結果に至るまで、お前にできるのはなにか、よく考えてみろ」

【ミサト宅 リビング】

司会(TV)「それでは、次の万国びっくりさんは、何と、算数のできるワンちゃんの登場です!」

芸人(TV)「ほんまでっか⁉︎ うさんくさいわぁ~」

シンジ「アスカ」

司会(TV)「それが本当! さぁ、登場してもらいましょう! 新潟からお越しの、天才ワンワン、ハナちゃんです!」

アスカ「ん~?」

シンジ「前に僕に、目先しか考えてないって言ったの覚えてる?」

アスカ「あぁ? あったよーな、なかったような」

シンジ「覚えてなくてもいいんだけど、僕は、どうしたらいいのかな?」

アスカ「はぁ、また病気が発症したの?」

シンジ「病気って……」

アスカ「今の時点で目先だけじゃない。人に聞く前に自分で考えようとした?」

シンジ「考えたよ。考えたけどわからないんだ」

アスカ「そうやってつまずくとすぐ他人の力に頼ろうとする」

シンジ「……」

アスカ「なにを考えたのよ? 具体的に! 言ってみなさい!」

シンジ「トウジ、知ってるだろ? 妹さんが僕のせいで怪我したから父さんに転院を頼みに行ったんだ」

アスカ「それでぇ?」ジトー

シンジ「そしたら、父さんは、僕がエヴァに乗り続ける限り、怪我人はでるって。なにをしているのか、よく考えろって言うんだ」

アスカ「はぁ」

シンジ「あ、僕が、エヴァに乗るならいいかって聞いたからなんだけど……」

アスカ「バッカみたい」

シンジ「そ、そうかな」

アスカ「なんでそんなこともわからないのよ」

シンジ「えっ?」

アスカ「あんた、碇司令が[ピーーー]って対価を要求してきたらどうするつもりだったの?」

シンジ「そ、そんなの、できるわけ」

アスカ「そうよね。じゃあなんでいちいち真に受けて返すわけ?」

シンジ「ど、どういう……?」

アスカ「ホントにバカね……。いい? 碇司令が考えろっていうのはね、なにかを犠牲に差し出せっていうものじゃないわ」

シンジ「そうなの?」

アスカ「他には? なにか言われてない?」

シンジ「えっと、なんだったかな。責任をもたないなら、帰れとか、あとは……」

アスカ「そこね。あんたさぁ、自分では責任持ってるつもりかもしれないけど、全部丸投げしてんのよ」

シンジ「う、うん」

アスカ「怪我人にしてもそうだし、面倒についてもそう。一人を助ける為に何人が動くか考えないのぉ?」

シンジ「うーん」

アスカ「権力はないよりはあったら手段が増える。それは力だし、お金も付加価値。だけど、それで不幸になるかもしれない人がいるってことよ」

シンジ「ど、どうして不幸になるのさ」

アスカ「急な仕事が入って、娘の誕生日に帰れない人がいるのかもしれない。他ならないあんたの頼みのせいで」

シンジ「……」

アスカ「その子に、あんたはなんて謝るのよ? 僕は友達の妹を助ける為にって言い訳すんの? 大層な理由よね。我慢して、許してくれるかもしれない、だけど、あんた、それでいいの?」

シンジ「だけど、その人にとってはそれが仕事で」

アスカ「ふん。ラチがあかない」

シンジ「うぅ……」

アスカ「あぁん、もうっ! よーするに! 信念を持てって話よ! 自分で決めた結果に! 悪くても良くても受け入れる覚悟が、あんたにはあったの⁉︎ 本気ってそんなもん⁉︎」

シンジ「……」

アスカ「ぐじぐじ悩んでるのがなかった証拠でしょ⁉︎ 一度頼みを蹴られたからなんだってのよ。ダメなら相手が折れるまで何度でも頼めばいいじゃない」

シンジ「……」

アスカ「どうせ、一時のテンションに身をまかせたとかなんじゃないの? ガキにありがちな話ね」

シンジ「そうか、だから父さんは僕に念をおして聞いてきたのか……」

アスカ「やっとわかったの?」

シンジ「うん、僕はやっばりバカだね」

アスカ「またすぐそうやって自虐に走る」

シンジ「だけど、アスカに聞いてよかった。ありがとう」

アスカ「ま……あんたにしちゃ、悪くない選択だったわね」

シンジ「僕はまだまだ子供で、すぐには大人になれない」

アスカ「……」

シンジ「階段を一段目から十段目にはいけないように、すぐに結果なんてでないんだね」

アスカ「このあたくし様は凡人とは違ってすっ飛ばしてきたけど」

シンジ「アスカはそのかわりに、努力をしてきたんだと思う。だけど、僕は何もしてこなかった。いつでもできたのにしなかった。だから今という結果があるんだ」

アスカ「少しはわかってきたみたいね」

シンジ「トウジの妹にしても、なんとかしてみせるって根拠のない約束をしてしまった。僕に、そう言い切れるはずがないのに」

アスカ「言い切ってもいい。それを必ず達成するなら」

シンジ「うん」

アスカ「あんたは、ちゃんと約束を守れる男になりなさいよ」

シンジ「守ってみせるよ……! 必ず! 僕、ちょっと出かけてくるから!」

アスカ「えぇ? 晩ご飯はぁ⁉︎」

シンジ「冷蔵庫にあるタッパーに入ってるひよ!」タタタッ

アスカ「いっちゃった……。あいつどこに行ったんだろ。ダイヤ改正してるから終電なくなってるのに。バカを通り越して大バカね」

ペンペン「クゥゥゥ~」

アスカ「お腹すいちゃったわね、ペンペン。タッパーの中身はっと……」ガチャ

ペンペン「クエ~ッ! クエッ!」

アスカ「ロールキャベツか。チンして食べましょ」

ペンペン「クエッ!」

アスカ「不器用だけど、マシになってきてるのかな」

ペンペン「クエ?」

アスカ「大人の男性もいいけど、育てるってのもありかもしれないわね。どう思う? ペンペン」

ペンペン「クエッ! クェクァッ!」 パタパタ

アスカ「足りない部分は補ってやればいいわけだし。……うーん……はっ⁉︎ な、なに考えてるの⁉︎ しっかりしなきゃ! アスカ!」

【ネルフ本部 初号機ケイジ】

ゲンドウ「(ユイ……)」

リツコ「碇司令、こちらにいらっしゃったのですか」

ゲンドウ「君か」

リツコ「本日は泊まりですか?」

ゲンドウ「あぁ」

リツコ「私もです」

ゲンドウ「まだ終電はあるだろう」

リツコ「地下拡張工事の為、ダイヤの改定が行われています。二時間前に運休となっておりますわ」

ゲンドウ「そうか」

リツコ「近くのラウンジでお酒でもいかがですか?」

ゲンドウ「いや」

シンジ「はぁっ……はぁっ……」

リツコ「シンジくん? あなた、まだ帰ってなかったの?」

シンジ「父さんっ!!」キッ

ゲンドウ「……」

シンジ「トウジの妹を! 転院させてやってくださいっ!」

ゲンドウ「なぜだ?」

シンジ「僕がそうしてほしいんだ! 理由なんてないよ!」

ゲンドウ「考えたのか、短い時間でだせる程度のものか」

シンジ「そうじゃない! だって、僕にはなにもないから!」

ゲンドウ「……」

シンジ「僕にはこうするしかないんだ! 何度ダメと言われても諦めずにお願いするしか!」

リツコ「この子、なにを言ってるの?」

シンジ「父さんは僕に考えろと言った! だけど、僕はトウジに約束したんだ! なんとかしてみせるって!」スッ

リツコ「無様ね。立ち上がりなさい、シンジくん。土下座なんて不恰好なまねを中学生が――」 スッ

シンジ「離して! お願いだよ、僕はこれぐらいしかないんだ。父さんのように権力があるわけでも、お金があるわけでも、人脈があるわけでもない」

ゲンドウ「……」

シンジ「でも、僕は! 願いを叶えるためにあがいてみせる!」ガシッ

リツコ「シンジくん、いい加減にしなさい。碇司令の足を離すのよ」 グイッ

シンジ「お願いします。父さん、今はこれが僕にできる精一杯なんだ。拝み倒しでもなんでもいい、それしかできないのなら、格好悪くても」

ゲンドウ「シンジ」

シンジ「……」

ゲンドウ「転院したとしても回復しなかったらどうするのだ?」

シンジ「それでも、なにもしないよりはいいっ!」

ゲンドウ「お前が勉強し、救おうという気持ちがあるか? 諦めなければいけない機会は必ず訪れる」

シンジ「なにかをやらなくちゃわからない! そうなる時もあるかもしれない! 怪我人だって、これからも……」

ゲンドウ「そうだ。お前が乗り続ける限り、大なり小なり、犠牲はつきものだからな」

シンジ「守れた人達だっていたんだ!」

ゲンドウ「全員は無理だ。どうやって選び、切り捨てる?」

シンジ「そ、それは……」

冬月「碇、それぐらいでいいだろう」 コツコツ

リツコ「ふ、副司令」

冬月「若人とは詰めが甘いものだ」

ゲンドウ「冬月、口を挟むな」

冬月「子育てにハリきりすぎだ。メリハリをつけんと、潰れてしまうぞ」

ゲンドウ「シンジ」

シンジ「はい」

ゲンドウ「お前が手続きをしろ。わからなくても解決する方法を見つけるのだ。赤木博士」

リツコ「は、はい」

ゲンドウ「全職員に通達。サードチルドレンを現時点より部外者として扱え。いかなる時もだ」

リツコ「しょ、承知いたしました」

ゲンドウ「葛城一尉にも連絡して、同居を解消。身の回りの世話は、全て、自分でやらせるのだ」

冬月「おい、碇」

シンジ「いいんです。それで転院を認めてくれるんだね?」

ゲンドウ「ああ」

シンジ「だったら、僕はそれでいい」

ゲンドウ「口だけならなんとでも言える。お前が挫けないか、見せてみろ」

シンジ「わかったよ。それが、父さんの望みなら」

ゲンドウ「一区切りの結果に過ぎない。お前が選び、お前が行動したせいでこうなったのだ。自分で選んだというのを忘れてはならない。いかなる結果が待ち受けようと、悔いは残すな、胸を張れ。自分自身に、言い訳はするなよ」

シンジ「……っ!」ギュウ

【ネルフ本部 ラボ】

ミサト「マジに言ってんの?」

リツコ「ええ。これがシンジくんの支給される生活費」ペラ

ミサト「……ちょっとこれ、十万ぽっち? 家賃を含めたらギリギリの生活じゃない! ワンルームに住まわせる気⁉︎」

リツコ「碇司令が直々にお決めになったわ」

ミサト「厳しすぎるわ! 私が直訴します!」

リツコ「無駄よ」

ミサト「シンジくんはまだ中学生なのよ⁉︎ こんなはした金でどうやって生活しろって! エヴァに支障をきたすかもしれない!」

リツコ「そうなったら、どうなるのかしらね」

ミサト「情がないからってあんまりよ! やりすぎだわ!」

リツコ「そうは見えなかったけど」

ミサト「え……? というか、なんであんた、むくれてんの?」

リツコ「なんでもないわ」

ミサト「とにかく、碇司令に話をしないと!」

リツコ「やめなさい。左遷させられるわよ」

ミサト「どうしてよ! シンジくん、なにもしてないわよ⁉︎」

リツコ「シンジくんが望んだのだから、あなたも従いなさい」

ミサト「はぁ? シンジくんがぁ?」

加持「女が男のやることにいちいち口出しするのはご法度だぞ」トン

ミサト「チッ、あんた、こんなところでブラついてて仕事はどうしたのよ、仕事は」

加持「葛城に言われるとは心外だな、初号機ケイジで面白いものを見かけたんでね。リッちゃん、コーヒーもらうよ」

リツコ「ぬるいわよ?」

加持「かまわない」

ミサト「わたしはねぇ! シンジくんを心配して!」

加持「余計なお節介だろう、なぜ、そこまでシンジくん気にかけるんだ」

ミサト「気にならないわけがないでしょ。あの子、まだ中学生なのよ。使徒と戦うだけでも重荷なのに」

加持「いいんじゃないか? それがシンジくんの意思なら」

ミサト「純粋すぎるのよ。まわりに利用されるわ」

加持「それも勉強さ」

ミサト「あんたねぇっ! そうなってからじゃ遅いのよ⁉︎」

加持「心配してるのは、エヴァに乗れなくなるからか? それともシンジくん自身の?」

ミサト「両方よ!」

加持「シンジ君は今、現実と歩きだそうとしている。このままじゃ弱すぎるからな。向き合う準備をしている段階なのさ」

ミサト「わかったような顔しちゃって」

加持「蝶は芋虫からサナギへ、そして羽ばたいていく。人間も成長は一緒さ。いずれ通る道だ」

ミサト「潰れるわよ、シンジくん」

加持「セカンドインパクトを経験した俺たちは、地獄を見た。それに比べれば、どんな環境でも恵まれてるよ」

ミサト「価値観が違うの!」バンッ

加持「……」

ミサト「今の子供たちはみんな、セカンドインパクトを教科書でしか知らない! シンジくんたちはその変わりはじめた世代なのよ!」

加持「時代が変わっても、与えられた環境でしか生きていけないのはみんな同じだ。子は親を選べないのと同じでね」

ミサト「私は納得がいかない! 生活にだって、すぐに行き詰まるわよ!」

加持「切り詰めるか、新聞配達なり手段はあるぞぉ? 中学生でも事情を話せば雇ってくれるしな」

ミサト「パイロットなのよ⁉︎ 人類を守るかたわらで、そんなことさせるの⁉︎」

加持「しちゃいけないって決まりはないだろう?」

ミサト「もういい。あんたと話してもストレスがたまるだけだわ!」

リツコ「あなた達が子育てしているわけではないのよ、夫婦喧嘩ならよそでやってくれない?」

ミサト「ふ、夫婦って、そんなつもりじゃ!」

加持「俺も心配してるのは一緒さ。どことなく弟に似てるからな」

ミサト「……?」

加持「それじゃ、葛城のマンションに行きますか」

ミサト「なんでよ!」

加持「アスカにも話してておきたいんでね」

ミサト「アスカに?」

リツコ「私はいなくなってくれるならなんでもいいわ」

【ミサト宅 リビング】

ミサト「アスカ、ただいま」

アスカ「あっ! 加持さぁ~んっ!」 ダダダッ

加持「よう」

アスカ「私に会いに来てくれたのね! 嬉しいっ!」 ギュウ

加持「元気にしてたか?」

アスカ「も~! 日本に来てから全然顔見せてくれないんだもの!」

加持「悪い。仕事が立てこんでいてな」

アスカ「私の為に時間を作ってくれなきゃや~よ」

加持「シンジくんとうまくやってるそうじゃないか」

アスカ「うげっ、バカシンジ?」

ミサト「シンジくん、ここから出てくのが決定したわ」

アスカ「マジ……?」

ミサト「マジよ。友達の妹を転院させる交換条件だそうよ」

アスカ「え? だって、さっきの、私のせい?」

加持「なにかあったのか?」

アスカ「べ、べつに!」プイッ

ミサト「明日には全職員に通達されるわ。碇司令の発令は絶対遵守、組織である以上、規則には逆らえない」

アスカ「なにやってるのよ……! あのバカっ!」

ミサト「アスカ、なにか訳知りみたいね」

アスカ「正直に言うと少しね……それで、どこに住むかもう決まったの?」

ミサト「三日の猶予を与えられたわ。それまではネルフで寝泊まりするようになってる」

アスカ「どこに?」

ミサト「シンジ君が誘拐された時にあなた達も寝泊まりしたコンテナよ」

アスカ「エヴァのシンクロはどうするの?」

ミサト「通常通り、行ってもらうわ。当人も了承済みの決定よ」

アスカ「……」

ミサト「はぁ……」

加持「一人暮らしをするから、寂しくなるな」

アスカ「平気よ。むしろせーせーするわ」

加持「いなくなってはじめてわかることもあるさ」

アスカ「そんなのわからなくていい!」

加持「アスカは今回のシンジくんの判断をどう思う?」

アスカ「まぁ、バカはバカなりに根性見せたって感じ。ただ、ここまでするとは思ってなかった。他人の面倒なんてほっとけばいいのに」

加持「だが、シンジくんはそれを選ばなかった。立派じゃないか」

アスカ「ふん。どうせ三日坊主でしょ」

加持「みんなが無理だと、厳しいと言うが、シンジくんは挑戦しようとしている。彼は歩き出したんだよ」

アスカ「私だって、そんなのやれと言われればできるわよ」

加持「アスカは大学に飛び級で合格し、卒業してるしな。努力を継続させる辛さを知っている。しかし、シンジくんは今なのさ」

アスカ「……」

加持「誰しもに最初がある。アスカが決意した日を思い出してみろ。その時と同じ気持ちでシンジくんが立ち上がったとしたら……」

アスカ「まだなにもわからないわ」

【第三新東京都市立第壱中学校 昼休み】

シンジ「トウジ」

トウジ「おう、昼休みから出勤か。ネルフの用事やったんか?」

シンジ「今朝は、転院に必要な手続きの詳細を聞きに付属病院に行ってたんだ」

トウジ「病院て……」

シンジ「父さんに頼んだら、転院が認められたんだ。サクラちゃんが治るかもしれないんだ!」

トウジ「やっぱり、そうなったか。サクラに会わせたのは失敗やったのぉ」

シンジ「え?」

トウジ「話はありがたい。やけどな、頼んでほしいなんて、ワシがひとことでも言うたか?」

シンジ「い、いや、でも」

トウジ「こうなると思うたから会わせたくなかったんや。ワシがお前がきたくても断るというたのは」

シンジ「治るかもしれないんだよ?」

トウジ「人間ってのは複雑やな。ワシはサクラを心配しとる。せやけど、お前も心配や」

シンジ「僕はいいんだ」

トウジ「治療費は、ネルフが負担してくれるんか?」

シンジ「そうだよ、なにも心配しなくていい」

トウジ「なぜ、ワシに一言、聞いてくれへんかったや」

シンジ「それは、僕のせいだから」

トウジ「お前がやっとるんは押しつけや。どうにもならんと判断したらワシから相談する」

シンジ「ご、ごめん、だけど……!」

トウジ「ワシがお前に感謝の気持ちがなくても、ええんか?」

シンジ「いいよ、考えが足りなかったのは僕が悪い。トウジの気持ちを」

トウジ「いや、ええよ。転院させてもらうわ」

シンジ「よ、よかった! 転院には紹介状が必要で!」

トウジ「それぐらいワシも知っとるわ。必要な手続きは全て調べ終わっとるからの。万が一、転院となった時の為に」

シンジ「そっか。転院させるのは、考えたりするよね」

トウジ「必要な書類は近日中に渡す。それでええか?」

シンジ「うん、受け取ったらすぐに父さんに話て、金銭的な詰めにはいるよ」

トウジ「わかった……。シンジは先に教室に戻っておいてくれ。ワシは少し、風に当たって戻る」

アスカ「鈴原、ちょっと待ちなさい。あんた、打算したわね……」

トウジ「……?」

アスカ「こうなるのがわかってて、シンジを妹に会わせたんでしょ⁉︎」

シンジ「アスカ?」

アスカ「転院させるために! あんたは言わずとも最初からシンジに頼んでたのよ! 妹の状態を見せつけることで!」

トウジ「……」キッ

アスカ「シンジ。あんた、利用されてんのよ?」

シンジ「やめてよ、トウジがそんな……」

アスカ「なんでシンジに会わせたのよ!」

トウジ「お前は、シンジが心配なんやな」

アスカ「話をすり替えないで!」 バンッ

トウジ「妹が会いたがったからや」

アスカ「シンジがこうなるとわかってて、妹の頼みを断らなかったのは、そういうことでしょ⁉︎」

ケンスケ「(僕に会わせなかったのは、そういう理由か)」

トウジ「せやったら、なんや! こうでもしない限り、どうしようもなかったんや! シンジが自分で決めた選択や! ワシたちを見捨てるのもできた!」ガンッ

アスカ「ようやく本音を言ったわね。だったら、シンジに最初からそうお願いしなさいよ。あんた達、友達でしょ? 利用するなんて」

シンジ「いいんだ。治るなら」

アスカ「ばっ、バカァ⁉︎ あんた、今の話聞いてた⁉︎ こいつは最初からそのつもりで会わせたのよ⁉︎ それなのに、えらっそーに」

トウジ「う、いや、ワシは」

アスカ「怪我させたのをまだ根に持ってるんじゃないの⁉︎ 心のどこかで!」

トウジ「ワシはシンジを友達と思っとる! せやけど! サクラを救うにはこうするしか!」

アスカ「昨日は煽って言ったけど、まだ中学生なのよ? 身分証だって社会的に認められてない。こいつの魂胆は今わかったでしょ⁉︎」

シンジ「トウジにはトウジの事情があったんだ。僕が怪我をさせたし、それに、やると決めた。最後までやってみせる。トウジとした約束だけど、父さんとの約束でもあるから」

アスカ「根性は認めてあげる、今回は逃げても責めないから撤回しなさいよ」

トウジ「シンジは、お偉いさんの息子なんやし、頼めば、それぐらい……」

アスカ「たしかにナナヒカリだけど! すんなり通ると思う⁉︎」

シンジ「もういいんだ、アスカ」

アスカ「くっ! この私が心配してやってんのよ⁉︎」

シンジ「ありがとう、アスカに助けてもらってばかりで。だけど、やらせてほしいんだ」

アスカ「好きにすれば⁉︎ もう知らないっ!」

トウジ「シンジ、お前……」

シンジ「なんでもない。気にしなくていいよ」

トウジ「あいつの取り乱し方はそんなんやなかったやろ。心配せなあかんようなのがあったんちゃうんか⁉︎」グイッ

ケンスケ「話は聞かせてもらったよ」

シンジ「ケンスケ……」

ケンスケ「トウジ、僕に謝らなきゃいけないんしゃないか?」

トウジ「今はシンジの話を……!」

ケンスケ「もちろん碇にもだ! なんで正直に話さなかったんだよ! 碇だって、僕だって、事情を知ってれば力になろうとしたのに! 僕にはコネがないからか⁉︎」

トウジ「うっ、そ、それは」

ケンスケ「いいか、順番を間違えちゃいけないんだ! 僕たちは友達だろう、だったらまずは誠意を見せなくちゃ!」

トウジ「……」

ケンスケ「トウジッ! なんのために碇に殴らせたんだよ!」グイッ

トウジ「……離せ」

ケンスケ「離さないね! 友達が間違った道に進んだら正さなきゃならない! 碇がどういう戦いしてるか僕たちは見たからだろ⁉︎」

トウジ「ぐっ……」

シンジ「ケンスケ。もう、その辺で」

ケンスケ「碇、そんなんじゃだめだよ。僕たちは他人同士だ。ぶつかるのは当たり前なんだ! 喧嘩したっていい! 友達を続けたいなら、きっちり清算しないと!」

シンジ「……」

ケンスケ「どうした⁉︎ トウジ、殴りたいなら殴ってみろよ⁉︎」

トウジ「わかった。わかったから、もう離してくれ」

ケンスケ「……」スッ

トウジ「すまんな、シンジ。ワシは卑怯モンや。惣流が言うたのは当たっとる」

シンジ「いいよ」

トウジ「自分に言い訳をしたんや、簡単に許したらあかん。心のどこかで、許してくれる、悪いのはお前やって、そう思っとった」

シンジ「……」

トウジ「怪我をさせたのはとっくにチャラになっとったはずやのに、痛みに耐えてる妹を見るたんびに、なんでこんな目にあわなきゃあかんのかって、ワシは、ワシは……!」ガク

シンジ「怪我が治るまで、そう思うのも仕方ないよ」

ケンスケ「碇、それでいいのか?」

シンジ「うん」

ケンスケ「いいやつなんだな、碇は」

トウジ「ケンスケも、黙っとってすまん」

ケンスケ「ロリコン扱いしたのもだろ!」

トウジ「そっちも気にしとったんかいな」

ケンスケ「こいつぅ……!」

トウジ「すまん」

ケンスケ「まぁ、僕は碇に比べたら、なんてことないように思えるけどさぁ」

トウジ「それで、シンジ。お前、なんかあったんか?」

シンジ「……なにも、ないよ」

トウジ「ほんまか?」

シンジ「いやだな。なにもないのに、なにかあったなんか言えないじゃないか。僕にウソをつけっていうの?」

ケンスケ「そうだな、ウソをついたってすぐにわかるんだぞ?」

シンジ「や、やめてよ。二人とも。本当になにもないよ、教室に戻ろう。そろそろ昼休み終わるから」

【放課後 第三新東京都市 繁華街】

シンジ「うーん、やっぱりどこを選んでも自転車は必要になるな」

加持「本を読みながら歩くと危ないぞ?」

シンジ「す、すみませ……加持さん? 外で会うのめずらしいですね」

加持「奇遇だな。手に持ってるのは賃貸雑誌か?」

シンジ「そうです、けど」

加持「そこのベンチで少し座ってかないか? コーヒーぐらいは奢るよ」

シンジ「……僕、男ですよ?」

加持「ぶっ、な、なんだぁ?」

シンジ「加持さんって、女の人じゃないと奢らないんじゃないんですか?」

加持「お、おいおい、誰だ、そんなホラ話したのは」

シンジ「ミサトさん、ですけど」

加持「あいつもよからぬことしか吹きこんでないな。俺は、女相手だけじゃないよ」

シンジ「そうなんですか。それじゃ遠慮なく」テクテク

加持「葛城から聞いたよ。一人暮らしするんだって?」ガコン

シンジ「(自転車が1万円ぐらいで、引っ越し費用は負担してもらえるだろうから、これは必要ないと)……え、あ、はい」

加持「ふっ、計算でもしてるのか? 昔を思い出すな」

シンジ「昔?」

加持「俺も、ちょうどシンジくんと同じ歳の頃、極貧生活の中で切り詰めた暮らしをしていてね。今とは違い、物資がなかったってのもあるんだが」

シンジ「家出でもしてたんですか?」

加持「そんななまっちょろいもんじゃない、帰る家がなかったのさ」

シンジ「帰る、家が?」

加持「セカンドインパクト。未曾有の大災害は、世界に大きな影響を与えた。気候の変動、生態系への影響。俺たち人間社会にもね」

シンジ「あ……」

加持「孤児だったのさ。俺は。とにかく毎日の生活が大変でね。守ってくれる人も、頼れる人もいなかった。俺は運悪く、特に治安の悪い地区にいてね」

シンジ「……」

加持「食料の不足。誰しもが誰かを疑い生きている。人間の汚いところを幾度となくみてきた」

シンジ「教科書でしか、知らないから」

加持「今のシンジくんなら、想像しようとするだろう。だから俺は話してるのさ」

シンジ「……」

加持「聞きたくないかもしれないが、俺からすれば君は恵まれている。生まれた時から人はみな平等ではないからね」

シンジ「加持さんがセカンドインパクトを体験したのっていくつぐらいの時なんですか?」

加持「まだ小さかったよ」

シンジ「どうやって生活を?」

加持「盗みさ。軽蔑するかい?」

シンジ「いえ、そんな。だけど、想像がつかなくて。今って、復興してるから」

加持「国内はだいぶな。しかし、発展途上国はいまだ復興には程遠いのが現実だ。紛争はいつの時代でも行われている。気にしないものだろう? 外に目を向けない限りは」

シンジ「そう、かな」

加持「もっと、シンジくんには世界を見てもらいたいがな。それも難しい」

シンジ「世界、ですか。僕は自分の生活で手一杯ですよ」

加持「実際に見るのと、想像は違うぞぉ」

シンジ「毎日盗んでたんですか?」

加持「孤児同士で集まって生活をしていたからな。食料はいつもかかえている問題だった」

シンジ「……」

加持「ある時、俺が失敗してね。 その相手がヤバかった。拷問をね」

シンジ「え……」

加持「こわかった。でも、相手は許しちゃくれない。残りの孤児の居場所を聞かれて、どうしたと思う?」

シンジ「わ、わかりません」

加持「俺は喋った。自分が助かりたい。その一心で」

シンジ「一緒に暮らしてた人達は……?」

加持「縄を解かれたあと、しばらくして、俺は、おそるおそる戻ったよ」

シンジ「……」

加持「みんな殺されてた。誰も生きちゃいなかったのさ」

シンジ「あ……」

加持「俺は自分を責めた。しかし、この世の中が悪いという考えもあった。セカンドインパクトを呪った」

シンジ「僕なら、立ち直れないだろうな」

加持「そうなってみなければなんとも言えないだろう。現実は理不尽で残酷な瞬間もある。運命、なんて一言では片付けられないほどにね」

シンジ「……」

加持「みんながそんな経験をするわけじゃないさ。今は世代も違う。シンジくんは、なにが起こっても、諦めないで前に進むんだ」

シンジ「はい」

加持「重い話をしてすまなかったね」

シンジ「いえ、そんな……」

加持「金がなくなったらパンの耳でもかじるといい。揚げたらうまいからな」

シンジ「そうですね、最初は出費も多いだろうし、そうします」

加持「ま、生きてりゃなんとかなるさ」ポン

シンジ「……はい」

【ネルフ本部 発令所】

マヤ「あの、先輩」

リツコ「どうしたの?」

マヤ「シンジくん、どう接したらいいでしょうか」

マコト「みんな困惑してますよ。突然、パイロット扱いするなだなんて」

リツコ「いつも通りでかまわないわ」

マヤ「でも、それじゃ、命令違反になるんじゃ」

シゲル「そうスよ。碇司令にバレたらどうするんすか」

リツコ「私はあの子に仕事以上の感情はないもの。あなた達はあるの?」

マヤ「え! いや、そういうわけじゃ……」

リツコ「特別優しくしていたわけでもないし」

マヤ「先輩は、フラットなんですね。どこまでも科学者で尊敬します。私は、どうしても感情的に考えちゃって」

マコト「でも、今まで通りって言われても」

リツコ「部外者として扱うといってもエヴァパイロットとしての業務はいつも通りなのよ。普通にしなさい」

シゲル「うっす」

マヤ「はい」

リツコ「ただし、馴れ合いすぎないようにね。子供が頑張っていたら褒めてあげたり、気遣ってあげたくなるのをやめればいいだけ。仲間意識は捨てて、派遣社員相手だと思えば?」

マコト「じゃあ、僕たちは正社員ですか? クビを切られるのは、こっちが先な気がするけどなぁ」

リツコ「個の価値としてはあなた達が下なのは間違いないわね。くだらない話をする暇があったら、手を動かしなさい」

マヤ「わかり、ました」

ミサト「まめなんでこう、スカーッとしたいときに使徒は来ないのよ! こんなにも待ち遠しいなんて!」 ズンズン

リツコ「更年期障害にはまだはやいんじゃなくて? それとも欲求不満?」

ミサト「うっさいわねぇ! リツコこそ、ラボに引きこもってないでなにしてんのよ!」

リツコ「MAGIの確認よ。ミサトも給料泥棒と言われない内に仕事をしたら?」

ミサト「わかってるってばぁ。ねぇ、シンジくん、やっぱり、うちで」

リツコ「しつこいわね。シンジくんに惚れてるの?」

ミサト「じょーだん言うんじゃないわよ! 私は家族として!」

リツコ「ごっこでしょ。ミサトのは。本物の親子の決定に他人が口をだすのは筋違いよ。シンジくんの為を思うのなら見守りなさい」

ミサト「親子って言えるぅ⁉︎」

リツコ「ミサト、これ以上の追求は、自分が納得したいだけと見なすわよ」

ミサト「はぁ、シンジくんは? もうコンテナ生活はじめてるのよね?」

リツコ「確認しに行ってきたら? 邪魔されるより、そうしてくれると助かるわ」

【ネルフ本部 コンテナ】

ミサト「シンジくーん? いる?」

シンジ「ミサトさん? どうぞ」

ミサト「では、失敬」 ガチャ

シンジ「どうしたんですか?」

ミサト「昨日の今日で話する機会がなかったから、どうしてるのかと思って。部屋は決まった?」

シンジ「いえ、まだ。条件を照らし合わせて煮詰めてる最中です」

ミサト「候補はあるの?」

シンジ「家賃との相談になるからまだ、なんとも言えないんですけど、その中でこれ」ペラ

ミサト「やっぱりワンルームね……内見はしたの?」

シンジ「内見?」

ミサト「実際に見て、確かめること。あなたはまだ一人暮らしをした経験がないからわからないでしょうけど、近隣の様子や、汚さとか立て付けとか、あと何畳という記載に至るまで見るまでわからない部分が多いのよ」

シンジ「なるほど……」

ミサト「それにここ、学校まで電車で通うの?」

シンジ「それなら自転車で」

ミサト「シンジくん、頭で考えるよりも実際に行うのは大変よ? 毎日の話だってほんっとーにわかってる?」

シンジ「はい、わかってるつもりですけど。やらなきゃわからないと思います」

ミサト「あなたが望むのなら、また一緒に暮らすのもできるのよ?」

シンジ「いえ、父さんの期待を裏切りますから」

ミサト「どこに期待があるっていうの⁉︎ こんなの、ただの横暴じゃない!」

シンジ「僕は一度、父さんから逃げました。今回も逃げ出したら、次はいつ向き合おうとしてくれるか」

ミサト「私は、あなたの為を思って!」

シンジ「ありがとうございます。でも、決めたんです。僕は、やらなくちゃいけない」

ミサト「辛いわよ?」

シンジ「僕も、そして、父さんも不器用だと思うんです。皮肉、ですよね。似ているからわかるんです。辛い選び方をしているのかもしれません。だけど、手探りでも前に進みます」

ミサト「バカ……」

シンジ「すみません」

ミサト「男はなんでも自分でやらなきゃ気が済まないのね」

シンジ「ミサトさん……?」

ミサト「わかったわ。なにも言わない。ただし、最後までやりとげるのよ。いい?」

シンジ「はい、わかりました」

【ミサト宅 リビング】

アスカ「スーパーの惣菜ぃ?」

ミサト「やっぱ、だめ?」

アスカ「はぁ、まだいいけどさぁ、毎日じゃいつか飽きるわよ? それに、食費だってかさむわ」

ミサト「うっ……今月はカードの支払いが」

アスカ「ミサトが外飲みばかりしてるからでしょ。居酒屋とかバーとか」

ミサト「うぅぅ。だってぇ、お酒ぐらいいいじゃなぁ~い」

アスカ「よくアル中にならないわよね」

ミサト「まぁ、肝臓は丈夫だし♪」

アスカ「ほかには……? なんかないの?」ガサガサ

ミサト「枝豆とジャーキーでしょ。あとチーズと。するめと……」

アスカ「いい加減にしてよね! 全部ツマミじゃない! しかもなにこれぇ? ビール、ビール、ビール、チューハイ」トントントントン

ミサト「アスカは唐翌揚げが……」

アスカ「それもツマミ! 窓から投げ捨ててやる!」

ミサト「ひぃぃぃっ⁉︎ や、やめてぇっ!」

アスカ「くっ! 離しなさいよ! 往生際がわるいんだからぁっ!」

ミサト「ら、ラーメンで手を打たない⁉︎」

アスカ「太るだけよ! 塩分高いんだからね!」

ミサト「シメにはラーメンって……」

アスカ「そこをどきなさい。全部捨ててだめな大人を躾てあげるわ」

ミサト「ストップ! わかった! 出前とりましょう! ねっ⁉︎」

アスカ「今日はそれでよくても今後どうするつもりなのよ……」

ミサト「とほほ。シンちゃん、帰ってきて……」

アスカ「まさかこんな形でシンジがいなくなったのが痛手とはね」

ミサト「アスカもやっぱりシンジくん、いた方がいいわよね?」

アスカ「どういう意味?」ジトー

ミサト「アスカが希望するなら、碇司令に……」

アスカ「やめてよね! あんな頑固モン知らない! せっかく、このあたしが」ブツブツ

ミサト「……? アスカ、なにかあったの?」

アスカ「あんまりにもバカバカしくて嫌気がさしただけ。はぁ、加持さんこないかなぁ」

ミサト「アスカは結婚するとしても、あんなの選んじゃだめよ。そうねぇ……シンジくんみたいなタイプが合ってると思う」

アスカ「シンジがぁ? ぜんっぜん、実感わかないんですケドぉ?」

ミサト「たしかに、シンちゃんは付き合うと考えたら、面白味にかけるわね。一緒にいて楽しいというより、落ち着く感じだもの」

アスカ「だから?」

ミサト「付き合うのと結婚は別って話よ。シンちゃんは家庭的だし、いい夫になるんじゃないかしら」

アスカ「はぁ、あのねぇ、私まだ中学生なのよ?」

ミサト「シンジくんだって、まだ若いんだし。これから化けるかもしれないじゃない」

アスカ「私はいいの! ミサトこそ、加持さんは?」

ミサト「まぁ、大人には色々あるのよ」

アスカ「ふん、言い訳ね。歳を重ねてるだけじゃない」

ミサト「うぐっ! い、痛いとこつくわね」

アスカ「料理もできないのがその証拠よ。ぐーたら酒飲み!」

ミサト「す、すみませぇん」

【ネルフ本部 ラボ】

レイ「あの、赤木博士」

リツコ「なに?」

レイ「碇くんが、一人暮らしするって本当ですか?」

リツコ「ええ」

レイ「私が住んでるマンションなら空きが」

リツコ「却下」

レイ「……」

リツコ「碇司令がお許しにならないわ。余計な口出しはしないで、用件が済んだなら、下がっていいわよ」

レイ「碇くんは、どうして引っ越しようと思ったんですか?」

リツコ「シンジくんは、意地を張らず、人の間で流れるように生きようとする他人指向型の子よ。ことなかれ主義とも言うわね。人の指図には逆らわず、波風を立たせるのを嫌う」

レイ「……」

リツコ「ヒトは変わっていくものよ。どこまでいっても自分という概念に変わりはないけれど、それぞれが持つイメージを覆せるかどうか。その一点に集約される」

レイ「碇くんは、変わろうとしてるんですか?」

リツコ「シンジくんは、問題を放置する消極的な姿勢をやめて、解決しようと試みた。それを変化というのならそうなるわね」

レイ「……」

リツコ「どちらにしろ、あなたには興味のない話でしょ?」

レイ「はい」

リツコ「私から見れば、碇司令の変化が気になるけど」

レイ「碇司令、ですか?」

リツコ「言ってもしょうがない……いえ、レイなら誰かに喋る心配は……いいかもしれない。レイなら感情という概念がないわよね」

レイ「……」

リツコ「変、なのよねぇ。以前の碇司令ならば、シンジくんと話をする機会すら設けなかったはずよ。なのに、シンジくんが話をしたいと言えば応えている」

レイ「碇司令が……」

リツコ「今まで徹底して無関心、放任主義を貫いてきていた……今になって、導いているとすら思える節があるわ。親子の関係が似合わないイメージだからこそ、強烈な違和感がある」

レイ「……」

リツコ「副司令がなにか企んでいるのかしら」

レイ「……」

リツコ「条件付きとは言え、碇司令がシンジくんの頼みを聞くに値する価値はどこにもない。泣き落としが通用するような人ではないもの」

マヤ「先輩、はいってもいいですか?」コンコンッ

リツコ「どうぞ」

マヤ「失礼します。あ、レイもいたのね」

リツコ「なにか問題?」

マヤ「はい、第二技術課からパーソナルデータについて不備があるという指摘を受けまして」

リツコ「どの数値?」

マヤ「ここです。計算したみたところ、たしかに誤差がマイナス0.03ほど発生しています」

リツコ「通常ならばありえないわ。MAGIのシステムデータ更新は?」

マヤ「新しい更新プログラムを適用したばかりですが……バージョンが原因でしょうか」

リツコ「バグかもしれない。発令所に行って確かめてみましょう」

マヤ「今日も、残業、ですね」

リツコ「一通り目処がついたら帰れるようにしてあげるから」

マヤ「いえっ! 私、そんなつもりじゃ!」

リツコ「どのつもりでも構わないわ。行くわよ」コツコツ

【二日後 第三新東京都市第壱中学校 屋上】

シンジ「(今日がいよいよ期日だな。決めたアパートは、学校から13km……。自転車でどれくらい時間かかるんだろう)」

男子生徒A「お前か? ロボットのパイロットって」

シンジ「えっ?」

男子生徒A「お前だろ。ネルフだかなんだかしらねぇけど何様だよ?」

シンジ「えっと、誰?」

男子生徒A「うるせぇ。気にくわねぇんだよ、お前みたいな調子にのってるやつ」スッ

シンジ「ちょ、ちょっと待ってよ。僕がいったいなにしたって――」

男子生徒B「こいつに何かしたら、俺たちが……」

男子生徒A「あ? ビビってんのかよ?」

男子生徒B「ビビってねーよ⁉︎」

男子生徒A「度胸試しにちょうどいいじゃん。ロボットのパイロットをボコしたって言えば、ハクがつくし」

シンジ「な、なんだ?」

男子生徒A「ま、そういうわけだから、お前には踏み台になってもらう。覚悟しろよ、なっ!」ブン

シンジ「いつっ……!」 ズザザ

男子生徒A「へ、へへ。ほら見ろ! パイロットなんて言ってもたいしたことねぇじゃん!」

男子生徒B「お、おい。もうやめろって」

シンジ「……」キッ

ヒカリ「誰かいるの?」キィィ

男子生徒A&B「……っ⁉︎」

ヒカリ「なに? 碇くん? どうして倒れて……血がでてるじゃない⁉︎ あんた達、なにやってるのよ⁉︎」

シンジ「洞木さん?」

ヒカリ「……っ!」タタタッ

男子生徒A「な、なんだよ。邪魔するのか?」

ヒカリ「上級生ね! 先生に言いつけられたくなかったから、帰りなさいよ!」バッ

男子生徒B「やりすぎだって、なぁズラかろうぜ」

男子生徒A「ふ、ふん。先生に言うなよ!」タタタッ

ヒカリ「最低。なんでこんな……。碇くん、大丈夫?」スッ

シンジ「平気だよ。ちょっと殴られただけだから」

ヒカリ「殴られたって……保健室、行く?」

シンジ「いや、やめとく。そろそろネルフに行かなくちゃいけないし」

ヒカリ「どうして?」

シンジ「わからない。名前を聞く暇もなかったんだ」

ヒカリ「そんな……やっぱり、噂のせい」

シンジ「噂って?」

ヒカリ「碇くんがいなくなった時に、ネルフの人達が学校にきて、すごく騒がしかったの。だから、それでちょっとこわいねって。でも、三年生達は遊びが」

シンジ「そっか……さっき話してた度胸試しって」

ヒカリ「誰かに言ったほうがいいんじゃない? 」

シンジ「言っても、どうせなんともならないよ」

ヒカリ「そうなの? 碇くんならエヴァパイロットなんだし」

シンジ「僕がなんとかしなくちゃいけないんだと思う。自分でやりはじめてわかったんだ。僕はきっと、父さんに試されてる」

ヒカリ「試す……?」

シンジ「これまで自分の耳も目も塞いで生きてきた。だから辛くて僕がまた逃げださないか、父さんはきっと……洞木さんは、こわくないの?」

ヒカリ「私は、アスカとも友達だし。よくわからないから、軽々しくは言えないけど。孤立しちゃったら、かわいそうじゃない」

シンジ「僕たちは、何も危害をくわえるつもりはないよ」

ヒカリ「わかってる……。でも、力ってこわいの。それが権力でもなんでも。私達が、弱い人達が、危ないと思うものに近づかないようにしようって思うのは普通でしょ?」

シンジ「うん」

ヒカリ「きっと、こわがる必要ないんだと思う。けど、まわりがこわいって言ったら本当にこわいのかもって、流されてるのかな……ごめんね。こんな話、私達を守ってくれてるのに」

シンジ「僕もパイロットじゃなかったら、そうかもしれない。関わろうとはしないよ」

ヒカリ「アスカには、今の話、言わないで。友達でいたいの」

シンジ「わかった、約束するよ」

ヒカリ「えへへ、ありがとう。でも、その腫れた顔でネルフに行ったら、わかると思うよ?」

シンジ「あ、そうだね。でも、すぐにひくようなものじゃないし……」

ヒカリ「やっぱり、保健室に行こう? アイシングしてあげる。気休めでも腫れがおさまるかもしれないから」

シンジ「あ……ありがとう」

【ネルフ本部 作戦会議室】

アスカ「ぷっ、あっはっはっはっ! なぁ~によ、その顔ぉっ?」

シンジ「仕方ないだろ、階段で転んだんだから」

アスカ「く、くくっ。転んだって、あんた本当に間抜けね」

ミサト「アスカ、それぐらいにしときなさい」

レイ「作戦司令……。今日はなぜ招集を」

ミサト「みんなのシンクロ率がなかなか上がらないからヒアリングをね」

アスカ「私はトップでしょ! なんで私まで受けなきゃならないのよ!」

ミサト「言ったでしょ? 問題は順位ではなく、伸び代。アスカだって日本に来てから上昇が見受けられないけど」

アスカ「私はっ、まだ慣れてないからよ!」

ミサト「そう、それじゃ、いつまでに慣れるの?」

アスカ「そんなの、いつまでとか……」

ミサト「具体的に提示できなければ、甘えでしかないわ。もっとも提示するからには守ってもらいますけど」

アスカ「だったらもっとパイロットのケアをちゃんとしてよね! 満足に行き届いてるなんて一度も思ったことないわよ!」

ミサト「規定にのっとって必要な待遇は、すべて管理されています。今は使徒が来ていないから、対策が後手に回らないように話を聞く機会を設けているのよ」

レイ「私は、現状に不満はありません」

アスカ「またあんたはっ! いつもそうやって優等生ぶる!」

ミサト「レイ、環境と別に原因があると思い当たる点はある?」

レイ「いえ」

ミサト「アスカは?」

アスカ「私はもっと、最高のスタッフを揃えてほしい! そうしてくれるのなら、どこまでも高めてみせる!」

ミサト「考慮します。シンジくんは?」

シンジ「いえ、僕は、なにかあると言うわけじゃ」

ミサト「それは、あなたに上昇志向がないという考え?」

シンジ「いえ、そういうわけじゃ」

ミサト「この際だから言っておくわ。みんなよく聞きなさい」

シンジ&レイ&アスカ「……」

ミサト「あなた達はエヴァに乗るのが仕事ではないわ。使徒を倒す、ひとつの目的の為に、ネルフ全体が、いいえ、人類全体が協力しあっているの」

アスカ「わかってるわよ!」

ミサト「シンクロ率の上昇は作戦の成功率を高めるにも有効な手段のひとつよ。ここまでで満足なんて低い意識ではなく、しっかりと自覚を持ってテストにも取り組んで」

レイ「了解」

ミサト「シンジくん、少し話があるからついてきて。アスカとレイはお互いに問題点をだしあってみなさい」

アスカ「またシンジだけぇ?」

ミサト「住居の件を碇司令に報告しなくちゃいけないのよ」

シンジ「あ、わかりました」

ミサト「そんなに時間かからないと思うから。二人はまとめといてね」コツコツ ガチャン

アスカ「――ムカつくっ!」ガンッ

レイ「……」 チラ

アスカ「なぁ~にが人類全体よ。私達が最前線で戦わなきゃどうしようもないくせに!」

レイ「わめいたって何も変わらないわ」

アスカ「なんですって⁉︎」

レイ「あの場でそう発言すればよかった」

アスカ「言っても暖簾に腕押しでしょ。結局ねぇ、自分達の正当性を主張してそれで終わるのよ!」

レイ「エヴァに乗らなければいい」

アスカ「そんな話じゃないのよっ! 私はっ! 私は! やらなくちゃいけないんだから!」

レイ「そう」

アスカ「シンジばっかりずるいわよね。誰に殴られたか知らないけどさぁ」

レイ「え?」

アスカ「あんた、人形みたいなやつね。気がつかなかったの? 転んだってウソついてたけど、あれ。どう見てもそういう腫れ方よ」

レイ「……」

アスカ「ミサトが気がついてないはずない」

レイ「あなた、笑ってたわ」

アスカ「気にするのそこぉ? あたしは、あいつがウソつくんだから、合わせてやっただけよ」

レイ「合わせる……」

アスカ「かっこつけたいんじゃないの? 男ってのはそういうのあるみたいだし」

レイ「経験があるの?」

アスカ「な、ないけど! 雑誌で見たの! いいでしょ、別に!」プイッ

【ネルフ本部 執務室】

ミサト「失礼いたします」

冬月「……? サードチルドレンの顔の腫れはどうした。報告を」

ミサト「階段で転んだとの申告を受けております」

冬月「学校のかね?」

シンジ「はい」

冬月「この場では、虚偽申告をするなぞ許されん。パイロットの健康管理は葛城一尉の管理下にあるのだからな。管轄には、安全面も含まれている」

シンジ「……」ギュウ

冬月「まともな証言を得られないのであれば、葛城一尉にけじめをつけさせるだけだぞ」

シンジ「ミサトさんに……?」

ゲンドウ「作戦部長。中学生のお守りひとつできないのか」

ミサト「申し訳ありません」

シンジ「……! 父さんっ!」

ゲンドウ「いつ、どこで、どのように転んだか裏をとったのか」

シンジ「父さん、ミサトさんはなにも悪くないよ!」

ミサト「サードチルドレンの自主性に任せております」

ゲンドウ「嘘の申告を許したのか」

ミサト「問題になるようでしたら、改めて対処すべきかと」

冬月「タイミングが悪かったな。危機管理の問題なのだ、これは。また誘拐されるような事態に陥ったら、弁明の余地なし、すべて迅速かつ適切に処理してもらわんと困るよ。理解した上で発言しているのだろう?」

ミサト「はい」

ゲンドウ「二ヶ月の減給処分だ」

ミサト「はっ!」ビシッ

シンジ「そんな、ミサトさん、違うんだ、この腫れは」

ゲンドウ「次の報告を」

シンジ「僕の話を聞いてよ! ミサトさんが僕のせいで、そんな話……」

ミサト「サードチルドレンの住居についてご報告が」

シンジ「ミサトさんっ⁉︎」

ゲンドウ「聞こう」

ミサト「申告により、住所が決定いたしました。こちらがそのアパートになります」ペラ

冬月「安全とはもちろん言いがたいな」

ミサト「警護はいかがいたしますか?」

ゲンドウ「保安条例第十二項を適用させろ」

ミサト「厳重警護ですか?」

冬月「葛城一尉。復唱はしたまえ 」

ミサト「了解。保安条例第十二項を適用させ、出頭させます」

シンジ「くっ、なんなんだよっ! 僕にまかせるんじゃなかったの⁉︎」ギリッ

ゲンドウ「ご苦労だった。さがっていい」

ミサト「碇司令。ひとつだけ、質問をよろしいでしょうか?」

ゲンドウ「なんだ」

ミサト「シンジくんをどうなさりたいのですか?」

ゲンドウ「どうもしない。こいつの人生だ」

ミサト「エヴァに乗るのもですか⁉︎ 十四歳に背負わせるのは過酷すぎます!」

ゲンドウ「いまさらなにを言う。我々は子供に頼るしかない。パイロットは必要だ」

【ネルフ本部 エレベーター内】

シンジ「あの、ミサトさん。僕のせいで」

ミサト「黙って」

シンジ「でも……! 僕がウソの申告をしたのが原因でミサトさんが!」

ミサト「黙りなさい」

シンジ「……」ギュウ

ミサト「シンジくん。自分で決めるのは結構。でも、その判断が正しいものかどうか、もう一度考える必要があると思わない?」

シンジ「僕は、なんとか自分で解決しようと」

ミサト「碇司令に部外者と言われたから? あなたはパイロット、代わりのきかない者でもある」

シンジ「……」

ミサト「決断には責任がついてまわるの。シンジくんの責任ではないかもしれない。だけど、関わっている者達に影響する。パイロットは、そんなに軽い立場じゃないのよ」

シンジ「す、すみません」

ミサト「……にひひっ」ペチンッ

シンジ「い、痛っ!」

ミサト「ガキが気にしてんじゃないわよ。失敗はつきものなんだから。私がへこでると思う?」

シンジ「えっと」

ミサト「現場からの叩き上げはねぇ、こんなのしょっちゅうなんだから。毎日胃に穴があきそうになる中で戦ってるの。シンジくん達がエヴァに乗ってるように、私たちだって日常で自分の居場所を守るために、ね」

シンジ「……」

ミサト「全部を守るなんて考えるのやめちゃいなさい。まずはできることから、それが最初の一歩」

シンジ「はい」

ミサト「しっかし、減給はちょっち痛いわねぇ~」

シンジ「あの、僕で力になれるのなら、なんでも」

ミサト「ぷっ、だっはっはっ! シンジくんがぁ? ……あら、でも、そうねぇ」

シンジ「……?」

ミサト「シンちゃん、ウチに料理作りに来てくれない?」パチン

【ミサト宅 リビング】

シンジ「なにがあるんだろう」ガチャ

ミサト「買い足しはしてないけど、まだそんなに日数たってないから。腐ってないでしょ?」

シンジ「そうですね。お肉は冷凍していたのがあるし、野菜も少し痛んでるけど、うん、これなら食べられそうだ」

アスカ「うげっ、本当に大丈夫?」

シンジ「匂いを嗅げば大抵わかるよ。牛乳は、新しいね。トマトもあるし、これならホワイトソースが作れると思うよ」

ミサト「よかったわねぇ~、アスカ。シンジくんが作りにきてくれて」

アスカ「助かったのはミサトでしょ」

ミサト「お惣菜続けたかったの?」

アスカ「うっ」ヒク

シンジ「料理、覚えたらいいのに。トマトソースも作っておくよ。瓶にいれておくから。パスタにでもあえて食べたらいい」

アスカ「ふ、ふんっ。料理なんてあたしは嫌だからいいの」

シンジ「この家には必要じゃないか」

ミサト「シンジくーん、熱燗、もう一本、おねがぁ~い」プラプラ

シンジ「はい、エプロンはっと」

アスカ「あんたさ……」

シンジ「ん?」

アスカ「不安とかないの?」

シンジ「へ?」キョトン

アスカ「べ、別に。気になったわけじゃない。ただ、ぬくぬく育ったお坊ちゃんじゃない?」

シンジ「おぼっちゃ……て、そうでもないけど」

アスカ「まぁ、そりゃ誰だって生きてりゃなにかしらあるだろうけど、あたしに比べたらお坊ちゃんって話よ。なんたって、このあたしは天才とか神童とか言われてたんだし」

シンジ「そう、だね。アスカに比べたら」

アスカ「新しい目的を掲げてはじめる不安は私だからわかる。……本当は、泣きたいんじゃないの?」

ミサト「……」グビリ

シンジ「そんな、一人暮らしするだけだよ」

アスカ「鈴原は、まだ知らないの?」

シンジ「あぁ、うん。トウジには、言いいたくないんだ。言ったら、きっと心配するから」トントントン

アスカ「お人好しもいい加減にしなさいよ、あんたのやってるのははっきり言って偽善だわ、自分の為でしょ」

シンジ「うん、そうだよ」

アスカ「あんた、少し変わった」

シンジ「それは、アスカが僕を知らないからだよ。僕たちはパイロットっていう繋がりがあるけど、身の上話をほとんどしないからねぇ」

アスカ「当たり前ね。エヴァがなければ、あたしは日本にすら来てない、うぅん、きっとママの時に……」

ミサト「……」ピクッ

シンジ「アスカのお母さん?」

ミサト「そっか、シンちゃんは知らないんだっけ」

アスカ「ミサト」キッ

ミサト「はいはい」

シンジ「……? なんですか?」

アスカ「なんでもない! 料理まだぁ?」

シンジ「今作ってるよ」

ミサト「シンジくん」

シンジ「はい?」

ミサト「誰かを守るには、強くならなくちゃだめよ。今のシンジくんに求めるのは難しいかもしれない、強さってなにかわかる?」

アスカ「……」

シンジ「最近考えたというか、こういうことなのかなって思う時が多くて」

ミサト「話してみて」

シンジ「僕は、自分でいっぱいいっぱいだったんじゃないかって。他人から良く思われたい、自分のしたいようにしたい、みんな誰だって持ってる話ですけど」

ミサト「そうね」

シンジ「できないってわかった時に、駄々をこねたり、いろんな反応があると思うんです。僕は、できるの少ないから」

ミサト「強くなるには、どうしたらいいと思う?」

シンジ「当たり前にできるようになる、のが必要、なんじゃないかな。最初は不慣れかもしれない、だけど、それができて当然まで繰り返す。そうなれば、きっと色んな、予期しない出来事にもぶつかると思うから」

ミサト「そうよ、様々なパターンがあるの。私たちの歳になっても変わらない。驚きと困惑の連続なの、不安にもつながる」

アスカ「ふん」

ミサト「アスカは、背伸びをしているけれど、この子はこの子で、わかっているの。大人たちの理不尽さを、そして子供である自分の限界を」

シンジ「アスカが?」

アスカ「やめて!」バン

ミサト「アスカ、あんたも、素直になるのを覚える良い機会なんじゃない?」

アスカ「こんな話聞きたくない! ミサトだって他人をとやかく言えないわ!」

ミサト「わたし?」

アスカ「保護者面してなによ! 自分が寂しいだけなんでしょ⁉︎」

ミサト「大人になればわかるわよ。たまには、虚しいと思う時だってあるって」

アスカ「私は都合のいいペットなんかじゃない! 素直になりたかったら自分からそうするわ!」

シンジ「アスカ、言いすぎたよ」

アスカ「シンジもシンジよ! ちょぉ~っと変わったったぐらいで調子にのっちゃってさぁ!」

シンジ「そんな、僕は、ただ自分で思ったから」

アスカ「ほぉら、また言い訳! 現状がわかったら次は自分の壁にぶち当たんないようにしないと!」

ミサト「ぷっ、アスカったら、シンジくんに世話やいてるじゃない」

アスカ「ぬぐっ!」

ミサト「さ、シンちゃん。料理、はやく作っちゃって」

【第三新東京都市 ホテル バー】

加持「はやかったじゃないか」

リツコ「クラシックがかかっているバーなんて」

加持「リッちゃんは嫌いかい?」

リツコ「いいえ」

加持「バッハの無伴奏。一人舞台は演奏者によって聞く耳の解釈が違う。弾き語りみたいなものさ、なにを想うか、それで心に響く度合いが違う」

リツコ「ちょうどよかったのかもしれない。気分を高めたいわけではないから」

加持「昂りがあるなら、それはそれで俺としちゃ歓迎なんだが?」

リツコ「やめて。今日はそんな話をしにきたんじゃないの」

加持「わかってるよ。ここなら誰かに聞かれる心配もない。リッちゃんは碇司令とシンジくんについてどう考える?」

リツコ「わからないわ。私にもなにか頂ける?」

加持「山崎18年のウィスキーでかまわないか?」

リツコ「ええ」

加持「あの二人の間に誰かが介入したのは間違いない。それも影響力のある誰かだ」

リツコ「それで?」

加持「想像がつかないよ。シンジくんだけならわかるが、碇司令、と推察すると副司令以上には。リッちゃんだと思ってたんだが、アテがはずれたな」

リツコ「タバコ、吸ってもかまわないわよね」スッ

加持「火をつけよう」 カチ

リツコ「いつから私と碇司令の関係に気がついていたの?」

加持「いつをご希望で?」

リツコ「ふざけないで!」

加持「そう怒るなよ。最近さ」

リツコ「加持くん、これはプライベートな問題よ」

加持「悪かったよ」

リツコ「碇司令との関係は詮索しないで……!」

加持「しかし、どうにも気になってね。悪癖だな。自分の目でたしかめないと気がすまない」

リツコ「あなたが確かめたいのはもっと別の件ではなくて? 好奇心は猫をも[ピーーー]わ」

加持「おっと、これは手痛いしっぺ返しだ」

リツコ「ちゃんと聞いて。これは友人としての忠告。委員会に消されてからじゃ遅いのよ」

加持「謎は暴かないと面白くないだろう?」

リツコ「碇司令も勘づいてる。いつか身動きがとれなくなるわ、袋小路に追いつめられたネズミのようにね」

加持「そうなったら、葛城をよろしく頼むよ」

リツコ「自分でやりなさい」

加持「学生時代が懐かしいな。あの頃に戻りたいよ」

リツコ「なにも考えず、夢と希望に溢れ、若さで生きていた。でも、誰しもが汚れて大人になっていくのよ」

加持「難儀なもんだ」

リツコ「話を戻しましょう。私も、気になってはいる」

加持「そうだろうな。だからここにいる」

リツコ「わからないのは事実よ。碇司令以上の特権階級というと思い当たる人物はキール議長達ぐらいしか」

加持「シンジくんの身辺調査はしているんだろう?」

リツコ「ふぅー。ええ」

加持「きっかけは誘拐事件だ。犯人は捕まっていない。それどころか、捜査に消極的な姿勢が見られる」

リツコ「パイロットが無事に戻ったからではなくて?」

加持「なぜだ? なぜシンジくんは無事に戻ってきた? 誘拐した目的が今だに見えず、音沙汰がないのは不自然じゃないか」

リツコ「痕跡がないのだから、わかりようも」

加持「いや、それができたのさ。シンジくんを帰した、そして碇司令との関係の変化でね」

リツコ「……」

加持「誘拐までは完璧だった。足取りも掴めず、証拠を全て抹消するには明らかな悪手だ。と、なると、目的はそうではない」

リツコ「シンジくんにもう一度聞いてみる?」

加持「その必要はないさ。そうすれば、碇司令が止めるだろう。俺には確信に似たなにかがあるね」

リツコ「つまり」

加持「ここまでの経緯を話すと、碇司令とシンジくんを取り持つことができ、尚且つ碇司令にとってかなりの影響力を持つもの。それは権力じゃない。脅しが通用する相手とも考えにくい」

リツコ「二人にとって、親しい者?」

加持「リッちゃんだと思った理由がわかったか? それが、誘拐犯の正体さ」

リツコ「でも、そんな人が……」

加持「先入観を捨てて考えるんだ。俺は引き続き調べてみるよ」

リツコ「まさか、そんなはず、ありえないわ」

【ネルフ本部 コンテナ】

シンジ「はぁ、疲れた……」ガチャ

ユイ「おかえり。シンジ」

シンジ「わ、わぁっ⁉︎」

ユイ「そんなところで立ってないで、はやく中に入りなさい。一人暮らしをするのね」

シンジ「えぇ、まぁ……はい」 スッ

ユイ「どうしたの? 正座なんかして」

シンジ「いや、なんでいるのかなって」

ユイ「いちゃだめだった?」

シンジ「そういうわけじゃ」

ユイ「どう接していいかわからないの無理がないわね。いきなり現れて母親なんて言われても」

シンジ「あ、いや、そのっ」

ユイ「それでかまわないわ。親子の縁は簡単に断ち切れないものだから。私たちは血が繋がっているという事実さえあれば、やりなおす機会はある」

シンジ「そうですね」

ユイ「ええ。あなたは冷たくされた父親に自身の価値を認めてほしいと追い縋り、そして死んだと思っていた母である私にはなにをしてほしいの? 愛情? 思いきり甘えたい?」

シンジ「わかりません」

ユイ「反動は誰にだってあるものよ。シンジは頑張ってないわけじゃなかった。ただ、自信がなかった。そうよね?」

シンジ「僕は、そんな」

ユイ「頭を撫でてほしいの? 抱きしめてほしい?」

シンジ「その、僕は中学生ですから」

ユイ「母親にとってはいくつになっても息子なのよ。それとも、母ではない、異性にそうしてほしい?」

シンジ「あの、なんて呼べば、そこからはじめませんか」

ユイ「好きなように呼びなさい。どんな呼び方をされても私は怒ったりはしないわ」

シンジ「そ、それじゃぁ、ユイさん?」

ユイ「やっぱり母さんとは呼んでくれないのね」シュン

シンジ「え、だって今どんな呼び方をされても」

ユイ「怒らないとは言ったけど、悲しまないとは言ってない。それに、残念そうな素ぶりが見えないと愛していると伝わらないでしょう?」

シンジ「あ、愛してるって」

ユイ「私にとってもシンジにどう接したらいいかわからないの。だから、時にはストレートに伝えないとね?」

シンジ「なんで、今になって戻ってきたの?」

ユイ「シンジに会いたかったから」

シンジ「……」ギュウ

ユイ「本当よ」

シンジ「そんなのウソだ。だったらもっとはやく戻ってきてくれたってよかったじゃないか」

ユイ「そうね。私が愚かだった。こんなにも簡単な答えに行き着けなかったなんて」

シンジ「答え?」

ユイ「私の望みは、星と共に悠久の時を超えた存在になることだった。でも私はすでに、望みを叶えていたの。あの人を利用してシンジを産めたんだもの」

シンジ「なに言ってるかわからないよ」

ユイ「知恵の輪は既に出来上がっていたの。あなたの選択で人類に、生きとし生けるもの全てに、福音をもたらしなさい」

シンジ「ほ、本当になに言ってるんだよ」

ユイ「あぁ、シンジ。私の望みは全てあなたにある。あなたが私の願いそのもの」

シンジ「な、なんなんだよ。この人が、本当に母さん?」

ユイ「紛れもなく、母親よ。六分儀という性もあなた。 少しの間眠りましょう。起きたらまたいつも通り。眠りなさい、かわいいかわいい私のシンジ」プス

【ネルフ本部 執務室】

冬月「加持特別監査官。呼びだされた理由は説明するまでもないな?」

加持「いやはや、驚きましたよ。夜分遅くに、まさか副司令直々のお呼び出しとは」

冬月「無駄口を叩かんでいい。なにやら、こそこそと嗅ぎ回っているみたいだが」

加持「さて」

冬月「下手な誤魔化しはやめるんだな」パサッ

加持「……」

冬月「ここにある写真で、君の姿がはっきりと確認できる。スーパーコンピューターMAGIの配線管理室でなにを傍受していた」

加持「碇司令もご存知っすか?」

冬月「報告するかどうかは詳細を聞いてから決める」

加持「なぜ、すぐに報告しないんです?」

冬月「碇も暇ではないのでな。こういった雑務はどの道、私にまわされる」

加持「苦労してますね」

冬月「まったくだよ。だが、問題を生みだしているのはキミだ」

加持「サードチルドレンと碇司令の変化が気になったもので」

冬月「それだけのために命を危険に晒すのか」

加持「裏を返せば、俺の命よりも重い価値があるということでは?」

冬月「勘違いするな。キミの命など、道端に転がる石ころと同じだ。とるにたらんよ」

加持「それもそうだ……俺はあるひとつの仮説を立てています」

冬月「言ってみたまえ」

加持「2人の仲を取り持とうとしているのは、死んだはずの人間の亡霊なんじゃないかとね」

冬月「なぜ、そこまで」

加持「碇ユイ。彼女が生きているとすれば、セカンドインパクトの真実にもっとも近い。ある意味では、委員会や碇司令よりも。それは、魅力的なんですよ」

冬月「我々の子飼いでいれば今しばらくは長生きできたろうに、裏の顔を持っていたか。後悔はないか?」

加持「するならとっくにやめてますよ」

冬月「そうか」カチャ

加持「副司令に拳銃は似合わないっすね」

冬月「似合わん姿を見せるのも仕事というものだ」 パァン

ユイ「――失礼します。あら、こちらで倒れてるのは……お取り込み中でしたか?」

冬月「問題ない、かたはついた。死体はすぐに処理させるよ。今日はどうしたね?」

ユイ「まずは感謝の言葉を。シンジを守っていただき、ありがとうございました」

冬月「白々しい、私は、あの子を守っていたのではない。キミを守っていたつもりだったよ」

ユイ「結果に相違ありません」

冬月「全てはキミの計画の内だったのだろう」

ユイ「私はこれまでの人生で計画など考えたこともありません」

冬月「キミのその笑顔に、俺もすっかり騙されたよ。ただ、純粋なだけだと思っていた」

ユイ「私は願いに対して真っ直ぐでいたい。それだけです」

冬月「そのために、どれだけの人間を欺いてきた」

ユイ「かわいそうな人。あなたは、自分が思っていた理想像と違う私に幻滅なさっているんですね」

冬月「キミに振り回されるのはもうたくさんだ」

ユイ「いいえ。あなたはもう引き返せない。私から解放されたい? それとも、愛されたい?」

冬月「う、き、キミは」

ユイ「感謝しています。あの人から私を守ってくれた。私のために自分を押し殺し、耐えてきたのですね」

冬月「碇の悩む姿も、キミは気にもとめなかったんだろう。俺のようにざまあみろとほくそえんでいたんじゃない。興味がなかったんだろう?」

ユイ「いいえ。愛情を注いでいました。ただ、形が変わるだけなのです」

冬月「詭弁だな」

ユイ「ふふっ、先生。もうひとつ、最後のお願いを聞いてくださいますか」

冬月「聞くだけならな。言ってみろ」

ユイ「シンジをください」

冬月「次は自分の息子を翻弄するつもりか」

ユイ「私の願いの成就は、あの子に幸せな結末になります」

冬月「人を操り、行き先を誘導する。形だけの意思になんの意味がある」

ユイ「重要なのは、自分で選んだという事実のみですわ。それだけで簡単に納得してしまう」

冬月「あくまで己に責任はないと言い張るつもりか。キミのやっているのはただの刷りこみだぞ」

ユイ「そうかもしれませんね。幸せは、掴みとることもできますし、作為的に用意することもできる」

冬月「籠の中の小鳥にするのかね」

ユイ「塀の中の世界が全てであるならば、それは何よりの幸せです」

冬月「間違っている! 人は外を見なければ中の有り難みを実感できん!」

ユイ「シンジならば価値を見い出せるはず」

冬月「なんたる言い草だ! これまでの計画を水泡に帰すつもりなのかっ!」バンッ

ユイ「元々、裏死海文書をゼーレに渡したのは私。……発端は私なんです」

冬月「始まりはきっかけにすぎん。動きだしてしまっている以上、キミの手から離れているのだぞ。直接的にも、間接的にも関わってきた多くの人間の運命が狂わされてしまっている」

ユイ「修正させてもらいます。補完計画をあるべき姿に」

冬月「バカな……! 今さらそんな話が」

ユイ「先生、許してください。約束の時、願いの成就の為に」

キール「そこまでだ」コツコツ

冬月「その声は……?」

キール「久しぶりだな。こうやって対面するのは」

冬月「キール議長、なぜここに。もしや、委員会とユイくんは最初から協力関係にあったのか」

キール「存命を知る立場にあったのは、正確には、議長である私だけだ」

冬月「ならば、碇の企みもとっくにご存知なのでしょうな。我々の命運もこれで尽きたか」

キール「そうはなるかは、キミ次第だ」

ユイ「先生にはまだ使い道がありますもの」

冬月「俺が嫌だと言ったら?」

キール「ユイ博士が帰ってきた以上、その選択肢は用意されていない。ネルフなぞもはや形骸だけの姿にすぎん」

冬月「……」

キール「キミが選ぶのは、ラクに死ぬか、悶え苦しんで死ぬかのどちらか」

冬月「沈黙をもって答えよう」

キール「そうか。加持リョウジ」

加持「……」ピクッ

キール「いつまでそうしている」

加持「もうよろしいので?」 スッ

冬月「お前はっ⁉︎ たしかに先ほど撃ったはすだっ!」

加持「その拳銃、空砲っすよ。あとはこうやって、血のりをね」

冬月「まさか、私をここにおびき出すために」

加持「まんまと罠にかかってくれましたね。いつも碇司令と一緒にいるんで、遠回りしましたが」

冬月「そうか、最初から狙いは俺だったか。拉致すればいいものを。キール議長もまわりくどいやり方をなさる」

キール「まだ、碇に悟られるわけにはいかない。まだ、答えは聞いていない。沈黙以外で答える最後の機会を与える」

ユイ「先生、賢い選択をなさってください。あなたはあの人に嫉妬していた」

冬月「違う。あれは気の迷いだった」

ユイ「そうやって逃げるのですね。私の存在を心から消しさるおつもりですか」

冬月「魔性の女め!」

ユイ「生きてきた時間を取り戻すには、先生はあまりにも遅すぎたんです」

冬月「……」

ユイ「私のために汚れた手も、包みこんでさしあげます」スッ

冬月「なぜだ? どうしてこうなってしまったのだ」

ユイ「先生はなにも悪くありません。何も考えなくていいのよ、全て、私のせいにしてしまえば、先生はラクになれる」ニコ

【ネルフ本部 ラボ】

マヤ「先輩? まだ残って……だ、大丈夫ですかっ⁉︎」 タタタ

リツコ「マヤ?」コトン

マヤ「うっ、お、お酒の匂い。ちょ、ちょっと飲み過ぎなんじゃ」

リツコ「ふっ、かまわないでしょ。どれぐらい飲もうと、あの人は、心配すらしてくれない、優しい言葉をかけてくれた記憶なんかないわ」トクトク

マヤ「いったい、誰の話……こ、こぼれますっ! こぼれてます!」

リツコ「あの人はね、今だにいなくなった人が忘れられないのよ。私はいったい、なんなの……なんだっていうの!」ガシャンッ

マヤ「きゃあ⁉︎」 ドサ

リツコ「いつまでも過去の出来事にとらわれて。そんなに恋しいのかしらね……」

マヤ「せ、先輩、もうそれぐらいに」

リツコ「加持くんは言ったわ。先入観を捨てろって、もし彼女が生きているとしたら……これまでの私はどうなるの?」

マヤ「あの?」

リツコ「許せるわけない……私を捨てるなんて……許せるわけがないのよっ!」ブンッ

マヤ「ひっ⁉︎」

リツコ「でも、可能性のひとつにすぎない。仕事、しなくちゃ。あの人のために。MAGIのメンテナンス、母さん、待ってて」スッ

マヤ「先輩⁉︎ そんなフラフラの状態でいったいどこに⁉︎」

リツコ「かまわないで!」ドンッ

マヤ「あぅっ!」ドサ

リツコ「一人にして……一人になりたいのよ」

【ネルフ本部 モニター室】

加持「まさか、リっちゃんがこうも疑心暗鬼になってくれるとはね」

ユイ「不倫なんて報われない恋よ。頭でわかっていても、希望を抱かずにはいられない。ましてや、死んだと思っていた人間が相手だもの」

加持「勉強になりますな。これもあなたの計画通りですか? ユイ博士」

ユイ「今だ過程、どう選ぶかは個人が決める」

加持「リッちゃんは、これからどうなります」

ユイ「聡明な頭脳を持っていても所詮はオンナなのよ。彼女が何に縋っているのか考えればわかる」

加持「碇司令は権力こそあれど、実態は孤独です。副司令とリッちゃんという腹心を失えば、丸裸も同然だ」

ユイ「そうね」

加持「ネルフを乗っ取るには都合が良すぎますね」

ユイ「あの人が気がついた時には外堀は埋まっているのが理想。それまで、私は疑われてはいけないし、あの人のイメージの中にある私を壊してはいけない」

加持「肝心の碇司令はご子息への教育にご執心のようですしね、それもあなたに会いたいという願いの為に」

ユイ「シンジに父親のかわりはいないからそうしたの。向き合うようになったのは私がきっかけ」

加持「子育て放棄を理由に、シンジくんには父親を……そして、碇司令には目くらましを。まさに一石二鳥ってわけですか。正直、全てがあなたの手の内でおそろしくさえあります」

ユイ「買い被りすぎよ」

加持「碇司令が折れれば、後ろ盾にはキール議長がいる。争いはなく、ほぼ無傷でネルフが手に入る。のぼりつめたらどうするんです?」

ユイ「表舞台に立ったら、シンジにふさわしい相手を用意させる」

加持「セカンドチルドレンですか?」

ユイ「そうと決まったわけではない。私を罵る?」

加持「やめときますよ、出来過ぎているとは思いますがね」

ユイ「そう」

加持「硬化ベークライトで固められた、アダムの処置については?」

ユイ「ゆっくりやりましょう。特等席で見届けたいのならそうしなさい」

【同刻 芦ノ湖】

ゲンドウ「始まりの地、ここが出発地点か」

カヲル「夜分遅くに一人で出歩くとは感心できませんね。あなたは、自分のお立場をもう少し考えた方がいい」

ゲンドウ「……」 チラ

カヲル「はじめまして。お父さん」

ゲンドウ「その制服は、第壱中学校のものだな」

カヲル「はい。と、言っても通ってすらいませんが」

ゲンドウ「機関の所属名はどこだ」

カヲル「重要なのは、ボクがヒトかそうではないかではありませんか?」

ゲンドウ「……」

カヲル「大昔、ここにリリスの黒き月が落ちてファーストインパクトが起こった。そして、アダムから生まれた僕たち使徒は、眠りについた」

ゲンドウ「俺に接触してきた目的はなんだ」

カヲル「言ったでしょ? どこでもないって。目的は生き残る、わかりやすい話です」

ゲンドウ「(使徒か)」

カヲル「その呼び名はおかしい。リリンも気がついているんだろ? ヒトも十八番目の使徒であるということを」

ゲンドウ「思考を読めるようだな」

カヲル「そんなのはどうでもいい。リリンはリリスから生まれ、僕たちはアダムから生まれた。種を残す為に僕たちはどちらか一方が滅ぶ運命にある」

ゲンドウ「あなた達使徒が悠久の時を生きられても、我々人類と同様、永劫ではない」

カヲル「ヒトは死にゆく運命(さだめ)だと言いたいのかい? 次の世代へのバトンを紡いで」

ゲンドウ「人は完璧にはなれない。状況への変化に適応するために選んだ進化のプロセスだ」

カヲル「なぜ?」

ゲンドウ「群れに答えはある。個として見れば脆弱な生物だ」

カヲル「完璧な生命体は救済だと考えているのかい?」

ゲンドウ「むなしいだけだ。群れを捨てれば、完璧であるにこしたことはないだろう。だが、それでは生きる意義を失う」

カヲル「死の価値とはなんだ?」

ゲンドウ「死とは個の終着点に過ぎない。魂の解放とも言えるが、それまでになにを成すかという散りざま次第だ」

カヲル「……」

ゲンドウ「あなたは何番目の使徒なのだ」

カヲル「ボクは渚カヲル。第壱使徒です」

ゲンドウ「なに?」ピク

カヲル「話を続けましょう。ボクたちはお互いに不完全な生命体だ。アダムより生まれしヒト以外の使徒はリリンを滅ぼし、完全な個体になろうとしている。わからないのは、リリン。キミ達だよ」

ゲンドウ「それが、今の質問か」

カヲル「リリンは自ら進化の可能性を閉ざそうとしている。科学の力を使い、エヴァというデッドコピーを作り、使徒を撃退する一方で、滅びの道を歩んでいる」

ゲンドウ「ふっ」

カヲル「なぜだ? なぜ、リリンは生き残りたいと願うのに、群れを放棄しようとする? 今の話と辻褄が合わないじゃないか」

ゲンドウ「人の心が気になるか」

カヲル「……」

ゲンドウ「知恵の実を与えられた人類はいまや、一部の意向により方向づけられ、操作されている。個としての意思は尊重されない」

カヲル「ヒトをまとめるためにかい?」

ゲンドウ「領土をまとめるには統治者が必要だ。しかし、いずれ腐敗していく……進化は頭打ちなのだよ。紛争は終わらず、破壊を、資源を食いつぶしている。人は増えすぎ、傲慢になってしまったのだ」

カヲル「ヒトの歴史は悲しみに綴られている。だからなのかい? 個を選び、群れを捨てるのは」

ゲンドウ「その通りだ。人は感情を捨てて生きていけない。理性だけでは生きられないからな」

カヲル「幻滅したよ」

ゲンドウ「どう受けとってもらってもかまわん。どの道、どちらかは滅ぶ。あなた達使徒と戦うのは人にとって決定事項だ」

カヲル「……」

ゲンドウ「用件はそれだけか?」

カヲル「そうですよ……あぁ、それと」

ゲンドウ「なんだ」

カヲル「キミたちリリンがネルフと呼んでいる地下施設にあるのは、本当にアダムの本体?」

ゲンドウ「その問いには、俺も同じ疑問がある。お前はコピーか?」

カヲル「お互い、答えるつもりがないのはわかりました」

ゲンドウ「用が済んだのなら消えろ」

カヲル「悲しいね。歌という文化の極みを残せる美しさを持っているのに、それでもダメなのか」テクテク

無駄の省略と整合性をはかっています
誤字はあいかわらずありますが少なくなってるのでまぁ良しとします

【翌日 ネルフ本部 ラボ】

ミサト「おじゃま~……って、ちょっとリツコ」

リツコ「あぁ、ミサト」

ミサト「ひどいクマじゃない、それにここ、どうしたの?」

リツコ「年増の癇癪よ」

ミサト「と、年増……達同い年なんだからね? それにまだ三十路にもなってないのに、なに言ってんのよ」

リツコ「四捨五入すれば変わらないでしょ? 二十五を過ぎれば下り坂とも言うし、男は若い女の方がいいじゃない」

ミサト「気持ちの問題よ。見た目だって、まだまだ……」

リツコ「ホント、あっという間よね。ハタチを過ぎてからは」

ミサト「まぁ、それはそうだけど。めずらしいじゃなぁい、センチメンタルになるなんて」

リツコ「少し、感傷に浸りたいだけ」

ミサト「ふぅん……リツコがそうなるのって男絡み?」

リツコ「どうかしらね」

ミサト「どうせ私みたいにペラペラ喋るようなのと違ってあんたは喋らないですよーだ」

リツコ「そのセリフ、キャンパスで最初に会った時を思い出すわ」

ミサト「え? いつだったっけ?」

リツコ「学食であなたが私に話しかけてきたの、もう忘れたの?」

ミサト「言われてみれば、そうだったわね……」

リツコ「妙に馴れ馴れしく話しかけてきたから、最初は仲良くなれないと思ったりもしたけど」

ミサト「でへへー。その節はどーも」

リツコ「あの頃はまだ、色んな体験が楽しくて、私もスレてなかった。いつからかしら、楽しかったはずの遊びや研究に居場所を見つけられなくなったのは」

ミサト「誰だって、飽きるわよ」

リツコ「いいえ。むなしいの」

ミサト「そっか、リツコもか」

リツコ「新しい発見があると、価値観が一変し、私は、その為に生きていると、幸せを実感できた。でも、それだけでは、今は物足りない」

ミサト「虚構と現実のはざま、いつまでも選り好みはしていられないものね」

リツコ「それでも、人は希望に恋い焦がれる。叶わない望みを抱くのは、辛いのね」

【ネルフ本部 執務室】

リツコ「お呼びでしょうか」

ゲンドウ「ダミープラグ計画を急ぎたい。レイのパーソナルデータ収集の報告をしろ」

リツコ「必要な情報は既にMAGI上で計算を終えております」

ゲンドウ「委員会に報告を行うには、試験運用まで移行しているのが必須条件だ。形になるまでにどれぐらいの期間を要する」

リツコ「不確定な要素が多過ぎます。計算を終えているといっても、実際にシステムに最適化をして組み入れるにはまだまだ調整が必要ですわ」

ゲンドウ「では、質問を変えよう。全体の何パーセントまで完了している」

リツコ「60といったところでしょうか、完璧を望まれるのであれば残り30にさしかかった辺りがもっとも時間を要します」

ゲンドウ「……」

リツコ「レイのデータはダミーと照らし合わせ、細かい誤差が発生します。詰めを急ぎすぎると制御不能になる可能性が高まります」

ゲンドウ「かまわん、動けばそれでいい」

リツコ「なぜ、ご報告を?」

ゲンドウ「老人達は予定を早めるつもりのようだ。秘密裏に十三号機までの建造を世界各地で進めている」

リツコ「では、量産機にやはりダミーシステムの採用を」

ゲンドウ「ああ。やつらはパイロットという不安定な要素を排除する決定を下した。我々も切り捨てられぬよう保険はかけなければならん、技術のノウハウはこちらにあると見せつけたいのだ」

リツコ「承知いたしました。次に、ご子息誘拐の件ですが」

ゲンドウ「その件は、もういい」

リツコ「徹底解明すべきでは?」

ゲンドウ「サードチルドレンは生きて戻ってきた、パイロットとしての価値があれば充分だ。余計な人手をまわす余裕はない」

リツコ「犯人の目的は依然として不明なままです。なぜ生きて返してたのでしょうか」

ゲンドウ「……」

リツコ「誘拐犯にとって傷つけたくはなかった、あるいは、傷つけるのが目的ではなかっとしたら」

ゲンドウ「もういい、下がれ」

リツコ「……っ! なぜ、母さんも、私も……あなたにとってなんなの……! さぞや気分がいいでしょう! 母娘揃って一人の男に!」

ゲンドウ「赤木博士、君には期待している」

リツコ「この後に及んでまやかしをして、隠し事をするつもり⁉︎ シンジくんをさらったのが誰かわかってるんじゃなくて⁉︎」

ゲンドウ「以上だ、さがりたまえ」

リツコ「ねぇ……私を……愛してる……?」

ゲンドウ「……ああ」

リツコ「うそつき……」クル

【ネルフ本部 発令所】

マヤ「初号機、冷却値をクリア、作業はセカンドステージに移行してください」

リツコ「零号機の胸部生体部品はどう?」

マヤ「大破していますからね。塗装も含めて新調しますが追加予算の枠、ギリギリです……あの、先輩、昨日は……」

リツコ「忘れてちょうだい」

マヤ「はい……」

マコト「作業完了しました。地上でやってる使徒の処理も、タダじゃ無いですし、たまりませんね」

リツコ「人はエヴァのみで生きるにあらず。生き残った人たちが生きていくにはお金がかかるのよ。復旧率は?」

マヤ「先の戦闘によって第三新東京市の迎撃システムは、大きなダメージを受け、現在までの復旧率は26%です」

シゲル「そういえば、米国を除く全ての理事国が量産計画の予算を承認したと聞きました」

リツコ「そう」

マヤ「え、アメリカは既に三号機を着工開始してるんじゃなかった?」

マコト「それが、今になって難色を示してゴタゴタしてるらしいよ。あの国、失業者アレルギーだから」

マヤ「EU加盟国よりも生産力は高いはずなのに」

シゲル「大国は大国なりの意地とプライドってもんがあるんじゃないの~? 整備計画が頓挫しないといいけどね」

マコト「そういえば、赤木博士も大変ですね」

リツコ「なんの話?」

マコト「定例会議でパイロット問題で追及されたって噂、聞きました」

シゲル「俺も俺も。人道的ではないとかなんとか言われたんじゃないんスか?」

リツコ「その他に、五分で動かなくなる決戦兵器だとか、制御不能に陥る危険極まりない兵器だとかね。そこ、計算間違ってるわよ」

マコト「ほんとだ」カタカタ

リツコ「先の戦闘で国連は大規模な追加予算をネルフに補填させたわ。某国では二万人の餓死者がでているというし、ある程度は仕方ないのかもしれない」

マヤ「に、二万人、ですか」シュン

リツコ「ウチの利権にあぶれた連中のやっかみでもあるのよ」

冬月「左様。政府による突き上げだ。ただ文句を言うだけが仕事の、くだらない連中のたわごとだよ」

リツコ「おはようございます」

マヤ&マコト&シゲル「おはようございます」

冬月「作業の進捗状況はどうかね」

マヤ「現在、L.C.L.の温度は36を維持、酸素密度に問題なし」

シゲル「各計測装置は正常に作動中」

リツコ「今の所は順調ですわ。初号機と弐号機の修復作業は明後日までには完了いたします」

冬月「ふむ、ごくろう」

【ネルフ本部 加持 デスク】

アスカ「かぁ~じさんっ!」ヒョイ

加持「アスカ、お前、学校はどうした、学校は」

アスカ「なんだか、加持さんに会いたくなっちゃってサボっちゃった!」ギュウ

加持「こら、おいっ、抱きつくな」

アスカ「また香水の匂い。今度は誰の?」

加持「大人の付き合いさ。少し、酒を飲んできただけだ」

アスカ「そうなんだ。なに見てたの? パソコン?」

加持「いや、これは」

アスカ「なに? なによこれぇ⁉︎ なんで私とシンジのDNA配列を調べてるの⁉︎」

加持「実験に関係するからだ」

アスカ「だって、これ、重なりあってるじゃない!」

加持「近い内に弐号機と初号機で互換性のチェックを予定しているらしくてな」

アスカ「互換性ぃ?」

加持「ぶっちゃけちまうと、相性が悪いかどうかだな」

アスカ「DNAで?」

加持「自分の精神は遺伝子の制約をあまり受けないと思っているだろうが、そうでもないのさ。食べ物の好み、顔の好み、そういったものはDNAによって操作されているという分析がある。親に似た人を好きになる原理だ」

アスカ「そうだとしても、それってあくまで一説なんじゃないの」

加持「情報収集として必要だと判断されたんだ。結果を聞きたいか?」

アスカ「バカシンジとの相性なんか聞きたくなんかない!」

加持「そうか? ここ見てみろ。なかなか良い数値で」

アスカ「どうして……? どうして加持さんは振り向いてくれないの? 私が子供だから?」

加持「ふぅ、本当に子供扱いしなくていいのか?」

アスカ「えっ」

加持「男を甘く見てるだろう」スッ

アスカ「え、あの、そのっ! か、加持さん?」

加持「どうした、ビビっちまったか?」

アスカ「意外といじわるなのね」

加持「そうか? アスカが俺に何を求めているのかわかってしまうからな。少し、からかってみただけさ」

アスカ「誰かにしがみついちゃだめなの?」

加持「だめとは言ってない。ただ、アスカが相手にしてるのは人間だ。思い通りにいくとも限らないものさ。大人の階段を駆け上がるのもいいが、本当に望んでいるのか?」

アスカ「探究心は必要よ」

加持「シンジくんと足して二で割ったらちょうどいいのかもな。アスカは焦りすぎている」

アスカ「そうやって、わかるようになりたいの。みんな誰だって、色んな一面を持ってるものだもの。シンジにガキだって言ってたけど子供なのは私も同じ」

加持「そうだな」

アスカ「抑えきれないの。感情の波を。あたし、どうしたらいいの?」

加持「自分で考えるんだ」

アスカ「いつもそうやって、あたしには優しくしてくれない。突き放すだけじゃない……見せかけだけの優しさなんてほしくないのに」

加持「これは結果をプリントアウトしたものだ。持って帰れ」ペラ

アスカ「いらないって――」

加持「黙って、受け取って帰るんだ」

アスカ「……っ!」

加持「授業にはまだ間に合うだろ? 昼からでもいいから、学校にはちゃんと行ってこい」ポン

シンジ「うっ」どぴゅるるるる
アスカ「うっ」ずぴゅーーー
ゲンドウ「おめでとう」

ちゃんと終わらせますよ
ぼちぼち投下してきましょかね

【ネルフ本部 発令所】

冬月「ダミー計画か、昔を思い出すよ」パサ

ゲンドウ「……」

冬月「ゼーレのやり方は相変わらずか。組織内の人間だけで編成すればいろいろと面倒になる、その為の間に合わせに使うつもりだな」

ゲンドウ「ああ。やつらは特務機関ネルフを駒として見ている」

冬月「感心できんな。非人道的だと唱える理事会を抑えつけるのは。力と力で衝突すれば互いに犠牲は少なくなかろうに」

ゲンドウ「変わらずの潔癖主義だな。老人たちのやり方は理解できるものだよ。……この時代に綺麗な組織など生き残れん」

冬月「無人機……神を造りだすつもりなのか」

ゲンドウ「具現化された神への道標は未だ遠い」

冬月「この実験が成功すれば実現へ大きく近づく、それもまた事実ではないのか」

ゲンドウ「杞憂だ。S2機関を取り入れる手段がまだない」

冬月「ふむ、動力源か」

ゲンドウ「使徒から接触があった」

冬月「なんだと? いつだ?」

ゲンドウ「昨夜だ。やつは自らを第壱使徒だと名乗った」

冬月「まさか⁉︎ では、そいつは……」

ゲンドウ「そう。最初の人間、アダムだよ」

冬月「(ユイくんが根回しをしているのだろうか)」

ゲンドウ「おそらく、月のタブハベースにいたはずだ」

冬月「ううむ、第七支部の存在を我々に隠していたのはそれが理由だとすれば……」

ゲンドウ「知らされていない項目があるはずだ。こちらを無視して裏死海文書が掟の書へと行を移している」

冬月「軽率な行動は命とりになるやもしれんぞ」

ゲンドウ「わかっている。どの道オリジナルのアダムはこちらにある、地下にあるリリスと共に」

冬月「アダム、リリス、ロンギヌスの槍、そしてエヴァ三体。老人たちが焦るわけだな」

ゲンドウ「その通りだ。トリガーに必要なカードは揃っている」

冬月「碇、ひとつ聞きたい」

ゲンドウ「なんだ」

冬月「昔、お前がまだ学内にいた頃、ユイくんに近づいたのは、才能とそのバックボーンの組織を目的に近づいたというのが仲間内での通説だった」

ゲンドウ「……」

冬月「これまでの行動を思い返せば、それらがただのバカバカしい噂だったと理解している。人類補完計画を提唱したのもユイくんの為だからな」

ゲンドウ「ああ」

冬月「今はなんの為に動いている」

ゲンドウ「ふっ」

冬月「なにが可笑しい」

ゲンドウ「……先生。移りゆく流れ中で不変のものなど存在しません。目的など今となっては、理由のひとつなのです」

冬月「……」

ゲンドウ「動きだした歯車は壊れるまで回り続けるのだよ」

【ネルフ本部 コンテナ】

シンジ「うっ……いてて……」

加持「変な格好で寝てたからどこか痛めたかね」

シンジ「ここは……?」

加持「寝ぼけてんのか? ぼーっとしてるが」

シンジ「昨日はたしか、母さんと話をしてて、頭が痛い。今、何時ですか?」

加持「正午すぎかな。今日が引っ越しの予定日だろう?」

シンジ「はぁ、あの、加持さんが来た時に誰かいませんでした?」

加持「いや? 誰も見てないよ」

シンジ「いやっ、そんな。……いないなら、いいんですけど」

加持「甘い一夜でも過ごしたのかい?」

シンジ「ち、違いますよっ!」

加持「そうか。シンジくんは奥手そうだしな、若い内は、色んな子にアタックするのもいいと思うぞぉ」

シンジ「ミサトさんと同じようなこと言うんですね。僕は、加持さんみたいにはなれません」

加持「なにも俺になれという話じゃない。経験がものを言うのさ。本当に好きな子ができた時に、距離の測り方を知ってるのと知らないとでは違う。そうだろ?」

シンジ「それは、そうですけど……僕は、自信がないし」

加持「勇気と別物だ。自信はあとからついてくる。ないんだったらまずは作ろうとしなきゃな」

シンジ「はい」

加持「そう難しく考えるなよ。俺はシンジくんが自分のために一人暮らしを選んだのは最初だと思ってるさ」ポン

シンジ「そう、ですか」

加持「流されず、キミの意思で決めた」

シンジ「……」

加持「シンジくんは自信をもつ、そのハードルが高いんだろうな」

シンジ「僕は……」

ユイ「あら、起きてたの?」ヒョイ

シンジ「あっ! ど、どうしてここに⁉︎」

加持「おはやいご到着で」

ユイ「警護ご苦労様」

加持「いいっすよ。どうせなにかしてくれるわけじゃないんでしょ」

シンジ「か、加持さん? ユイ、さん、と知り合いなんですか?」

加持「シンジくん。俺はこの人に頼まれてここにいたんだ、ずっとってわけじゃないがね」

ユイ「シンジ。あなたを取り巻く環境は、今日から少しずつ変わっていくわ」

シンジ「な、なに言ってるんだよ。昨日はいったい……」

ユイ「疑問がつきないわね。だけど、あなたが納得してもしなくても時間は残酷に、それでいて平等に流れている。あなたが知るべきは、限られているの」

シンジ「いい加減にしてよっ!」バンッ

ユイ「待てないのよ。強引かもしれないけど、全てを理解できる頃になれば、きっと私に感謝をするでしょう」

加持「もう俺は帰っても?」

ユイ「かまわないわ。あの人にはうまく言っておいてね」

加持「シンジくん、すまない」 スッ

シンジ「加持さん、な、なんで……?」

ユイ「さぁ、これを受けとって」カシャ

シンジ「なんなんだよそれ……」

ユイ「使徒の目指すモノ。アダムよ」

シンジ「うっ……気味がわるい」

ユイ「怯えなくていいわ。シンジが初号機に乗ったのがはじまりだとすれば、アダムは通過点に過ぎない」

シンジ「アダムっていったい……」

ユイ「これは肉体だけ。いいえ、半身だけと言った方が正しいのかも」

シンジ「もういいよ、出てってよ! 今すぐに!」

ユイ「シンジ……。あなたの為なのよ」

シンジ「うそだっ! 今さら現れて、母親だって言われて、挙句にアダムだの神話だの!」

ユイ「強制はしたくない。お願いだから、アダムを受け入れて。そうすれば、リリスとの融合を済ますのみ。ゆくゆくはどんな願いも思いのままのよ?」

シンジ「僕は普通に暮らせればそれでいい! エヴァも使徒もいない、みんなが笑って過ごせるような……そんな生活がおくれればそれで……」

ユイ「できないの」

シンジ「どうしてだよ! 父さんだって、今ならきっと!」

ユイ「大きな流れが許してはくれない」

シンジ「僕にお願いするんだろ! だったら、僕のお願いだってきいてくれたっていいじゃないかっ!」

ユイ「全てが終われば、自ずと答えが、シンジの望んだ世界が待ってるわ。あなたがそう望むのなら……きっと」

シンジ「……なんなんだよっ……そればっかりじゃないか」

ユイ「聞きなさい」

シンジ「いやだっ!」

ユイ「黙って聞くの!」

シンジ「……っ!」

ユイ「いい? アダムとリリスは融合した次のステージで本来あるべき姿へと還る。でも、その状態では、魂の力に耐えられず、長い時間肉体を保持できないの」

シンジ「……」

ユイ「あなたの願いを叶える、そのために全てのエネルギーを使い魂は再び還元される。形が変わるだけなのよ」

シンジ「願いを叶えてくれるっていうなら、今叶えてよ!」バンッ

ユイ「無理なのよ、段階を踏まなければ」

シンジ「頭がどうにかなりそうだ!」

ユイ「やはり、理解を求めるのは難しいのね」

シンジ「そうだよ、僕たちには時間がたりない」

ユイ「でも、時は待ってはくれない」ピッ

シンジ「どこに電話……? ボタン?」

ユイ「シンジ、これだけは忘れないで。私は、あなたを愛している」

シンジ「だったら、もっと親らしくしてよ……!」

ユイ「ごめんなさい。あなたが世界を創造すればそうなるでしょう」

保安部「およびですか」ガチャ

ユイ「例の場所へ」

シンジ「この人は?」

ユイ「暴れるようなら気絶させなさい。遅くなると気がつかれる恐れがある」

保安部「了解」スタスタ

シンジ「こ、こないでよ! なにをするつもりなんだ!」

保安部「仕事だ。恨むなよ」スッ

ユイ「……」

シンジ「だ、誰かっ!」

【第三新東京都市第壱中学校 昼休み】

アスカ「ふん」ペラ

ヒカリ「アスカ……? なに見てるの?」

アスカ「あ、これは、その、なんでもっ!」パラ

トウジ「……? なんか落ちたで」ヒョイ

アスカ「あ! ちょっと、返しなさいよ!」バッ

トウジ「なになに? サードチルドレンとセカンドチルドレンは規定値を上回りお互いに良い影響を……」

アスカ「読み上げんな! 機密なんだからねぇ、それぇ!」ドン

トウジ「お、おう、って、なんやねんこれは! シンジとゴリラ女のグラフぅ⁉︎」

ケンスケ「なんだ?」ヒョイ

ヒカリ「え? 碇くんと……」

アスカ「ちがっ! はぁ……。機体の互換性テストがあるらしいのよ。だから、それが理由」

トウジ「ほっほぉ。そんなのがあるんか、大変やのぉ」

ケンスケ「へぇ、これ良いことづくめじゃないか」

ヒカリ「わ、私にも見せて」

アスカ「ヒカリまで……」

ヒカリ「あっ、ごめん。でも、気になっちゃうんだもん」

アスカ「いいけど。あくまでデータよ単なる」

ヒカリ「わぁっ、見てこれ! 二人の相性って凄く良いんだぁ!」

アスカ「聞いちゃいないわね」

トウジ「言われてみれば、シンジはぐいぐい引っ張ってくれるタイプと相性ええんかもしれんのぉ」

ケンスケ「うんうん、違いないねぇ」

ヒカリ「アスカ、一歩引いてワガママを許してくれる相手じゃないと疲れちゃうと思う!」

アスカ「……」ヒク

ケンスケ「エヴァのパイロットっていう繋がりだってあるし、本人達もまんざらじゃないんじゃないか?」

トウジ「ペアルックか⁉︎」

ケンスケ「そうそう、一つ屋根の下で生活してたし。ユニゾンの時はなぁ?」ニヤニヤ

トウジ&ケンスケ「いやぁ~んな感じ!」

アスカ「……」プルプル

ヒカリ「ちょ、ちょっと二人とも」

トウジ「アスカ! 僕はアスカがすきだ!」

ケンスケ「シンジ! 実は私も……」

トウジ「ああ、アスカ。夫婦漫才しよう!」

ケンスケ「もちろんよ! シンジいっ!」

アスカ「……ころす」

トウジ&ケンスケ「へ?」

アスカ「遺言を残す時間を与えるわ。五秒だけね」ポキポキ

ヒカリ「あ、アスカ」

アスカ「止めないで、こいつらは死ぬ必要があるわ。なぜならバカにつける薬はないから」

トウジ「なははははははっ、ムキになるんは図星な証拠ぶへらぁっ⁉︎」ドサ

アスカ「次……!」スッ

ケンスケ「と、トウジ⁉︎ うわああぁっ⁉︎」ドタバタ


とりあえずここまで
次からはあまり変なレスあると投下しません

まさか二行でこんなにレスがつくとは
とりあえず自分のレスが一人歩きして拡大解釈された感じすかね
今日は書かないっすべつのことやってるんで

【ネルフ本部 ラボ】

加持「今日も地上は暑いよ」

リツコ「ここは休憩所ではないんだけど」

加持「もちろん、リッちゃんに会いにきてるのさ」

リツコ「他人におべっかばかり使うのって疲れないの?」

加持「本音だよ」

リツコ「もういいわ、ミサトが探してたわよ」

加持「あいつになにかした覚えはないが」

リツコ「気のない返事ね。約束でもすっぽかした?」

加持「いや」

リツコ「そう。私も聞きたい件があったからちょうどいい。加持くんはなにを知っている、いえ、どこまで状況を把握しているの。碇司令の奥様は本当に生きているの?」

加持「これはまた唐突だな。質問に質問で返すが、リッちゃんは自分をどこまで把握してる」

リツコ「……」コト

加持「分かった気がするだけで、完全には理解できない。自分自身が一番怪しいもんさ。100%理解し合うのは、不可能なんだよ」

リツコ「だからこそ人は、自分を、ひいては他人を理解しようと努力するのよ」

加持「裏切られたと、現実を受け止める覚悟はあるのかと聞いているんだ。その冷静な仮面が剥がれないかとね」

リツコ「とっくに見せかけだけよ。取り繕っていつも通りにいるだけ。本当の私は、壊れてるわ」

加持「ユイ博士は……生きているよ」

リツコ「ーーやはりね」

加持「ユイ博士が初号機に取り込まれた際に試みたサルベージは失敗した。だが、彼女は自力で戻ってきた。方法までは俺もわからない」

リツコ「まさか、ありえないわ。コアに取り込まれてしまったのよ……肉体は生命のスープに溶けてしまっているはず」

加持「だが、生きている、それは揺るぎない事実だ」

リツコ「……」

加持「このことを碇司令が知っているとしたら?」

リツコ「……っ!」キッ

加持「睨んでも碇司令とリッちゃんのこじれた関係は、俺が悪いわけじゃないぞ」

リツコ「今は、時間がほしい」

加持「恋愛というものは、どちらか一方に責任の全てが偏るわけじゃない。行動をするのは男だが、受け入れるのは女だ。双方合意の上で成り立っているからな。強制された関係でもないんだろう?」

リツコ「わかってるわ! ロジックじゃないのよ!」

加持「よく考えるんだ。碇司令がどちらを選ぶか、リッちゃんを選ぶはずが」

リツコ「やめて」

加持「自分一人で抱える前に、俺か葛城に相談してくれれば」

リツコ「……っ! 今さら友人面するつもり⁉︎ どこまで人をバカにすれば気が済むの⁉︎ 加持くんは最初から生きているって知っていたんでしょう⁉︎」

加持「騙したのはお互い様だ。リッちゃんが碇司令の企みに加担しているのを俺は知っている」

リツコ「そう……。奥様が生きているのなら、きっと不倫相手を殺したいのでしょうね」

加持「ユイ博士はなんとも思ってないさ。いずれ滅んでしまう世界だからな」

リツコ「加持くんは、ユイ博士側にいるのね」

加持「彼女の手足となって色々調査している最中でね、地下にある大量のクローンも見せてもらった」

リツコ「どうやってセキュリティカードを……」

加持「あれがダミー計画の正体か?」

リツコ「黙秘をさせてもらうわ」

加持「それならそれでかまわないが、リッちゃんは誰のために黙ろうとしているんだ?」

リツコ「それは」

加持「いつもの冷静沈着、頭脳明晰な姿からは想像もつかないな。その自信のない、揺れた瞳は」

リツコ「……」

加持「リッちゃんは利用されていたんだ。碇司令がユイ博士に会うために。補完計画の真の目的がそうだと知っていたか?」

リツコ「いや、もうやめて、うそ、うそだわ、そんなのうそよ」

加持「ここに、副司令の肉声を録音したテープがある」カチ

『碇ゲンドウは、碇ユイと会うために補完計画のシナリオを修正し、別の結末を用意した』

加持「……」カチ

リツコ「副司令が、なぜ……そんな……」

加持「合成はしていない。あとでいくらでも検証してもらっても、なんなら副司令に直接聞いてもいい……どちらの側にいるのかもね。それでも、碇司令に忠誠を誓うのか?」

リツコ「……」

加持「悪いようにはしない、正直に話してくれ」

【ネルフ本部 MAGI内部】

リツコ『母さん、先日葛城ミサトと言う子と知り合いました』

ナオコ『ようやくお友達ができたのね』

リツコ『他の人たちは私を遠巻きに見るだけで、その都度母さんの名前の重さを思い知らされるのですが、なぜか彼女だけは私に対しても屈託がありません』

ナオコ『そうなの、よかったわね』

リツコ『彼女は例の調査隊ただ一人の生き残りと聞きました。一時失語症になったそうですが、今はブランクを取り戻すかのようにベラベラと良く喋ります』

ナオコ『本当にめずらしい。そんなに楽しそうに話するなんて』

リツコ『まだあるんです。ミサトが大学に来ないので、理由を白状させたら、バカみたいでした。ずっと彼氏とアパートで寝ていたそうです』

ナオコ『あらあら、それは困ったわね』

リツコ『飽きもせず、一週間もだらだらと! 彼女の意外な一面を知った感じです、今日、紹介されました。顔はいいのですが、どうも私はあの軽い感じが馴染めません』

ナオコ『昔から男の子が苦手でしたね、リッちゃんは。自分の幸せを逃しちゃわないか心配よ。やはり女手一つで……ごめんなさい、ずっと放任してたものね、嫌ね、都合の良い時だけ母親面するのは』

リツコ「母さん、私、どうしたらいいの」ギュウ

MAGI「……」ブゥーン

リツコ「嫌なことがあると、こうやって、母さんのところで体育座りをして引きこもる。なにも成長していない。私の場所、私の空間、どこにあるの?」

ナオコ『ーー本当にいいの?』

ゲンドウ『ああ、自分の仕事に後悔はない』

ナオコ『嘘。ユイさんの事忘れられないんでしょ。でもいいの。私』スッ

ゲンドウ『……』

リツコ「ねぇ、母さんは碇司令と私の関係を知ったらどう思う? 嫉妬するかもしれない、実の娘に対してさえ」ナデナデ

MAGI「……」ブゥーン

リツコ「女である自分を捨てきれなかった母さんだから。最後まで女でいるのを選択したのね」

MAGI「……」ブゥーン

リツコ「後悔はない? ……私は、幸せの定義なんてわからない。わからなくなってしまった。なにを望んでいるのかでさえ。あの人に抱かれても、嬉しくなくなった」ドンッ

ナオコ『リッちゃん……幸せになるのよ』

リツコ「私だって! ……幸せになりたい、母さん、助けて……誰か、助けて」ギュウ

オペレーター放送「バルタザール並びにメルキオールの試験運行は次のフェーズへ移行します。技術一課の職員は速やかに作業を開始してください」

リツコ「仕事、やらなくちゃ。仕事」ブツブツ

マヤ「せんぱーいっ?」タタタ

リツコ「……」スッ

マヤ「あれ、ここにもいない、どこいったんだろう」キョロキョロ

リツコ「どうしたの」カシャン

マヤ「あ、中で作業をされてたんですね。躯体の中のテストプラグにデストルドー反応が検出されました」

リツコ「どれぐらい?」

マヤ「0.2と微量ですが無視するというわけにも」

リツコ「わかった。行きましょう」

マヤ「あの……? 結膜炎ですか? 目が真っ赤ですけど」

リツコ「そうね。そうかもしれない。あとで診てもらうわ」

マヤ「それなら私、いい眼科知ってます。そこの先生のところで家族みんなお世話になってるんですよ」

リツコ「そう……。マヤ、問題の箇所は私が当たるから副司令のところにいってこれを渡して」スッ

マヤ「これは?」

リツコ「渡せばわかる。中身を見てはだめよ」

マヤ「い、いえっ! そんな、見るなんてめっそうも!」ブンブン

【付属病院 手術モニター室】

ユイ「もしもし、どうしたの?」

加持「赤木リツコがおちました、これで碇司令は孤立無援の状態です、いつでも裏をかけます」

ユイ「随分はやかったのね」

加持「お察しがついてるはずですがね。少しばかり、俺が動いたからですよ。旧知の間柄でもあるんです、ま、それぐらいはかまわないでしょ?」

ユイ「それで?」

加持「例の元は、やはり本部奥深くの第七層あります。綾波レイのパーツが大量に生産されているのをこの目で確認しました」

ユイ「あれはただの器。リリスの魂はひとつしかない、欲しいのは製造方法という技術的な話よ。データはもらえる?」

加持「驚きましたよ、ダミーの正体、そして、エヴァの正体にね……近日中にディスクに全てを記録し渡すそうです」

ユイ「まるで遺書ね」

加持「碇司令への最後通告はいつ頃をご予定で」

ユイ「そうね、死人を出さないようはやめましょう。赤木リツコは有能な人材だし、失うのは惜しい」

加持「わかりました、では、帰国後すぐにでも」

ユイ「かまわないわ、それじゃ」ピッ

シンジ『んぐんむーっ! んむむー!』

医師『ユイ博士、麻酔薬の投与を開始してもかまいませんか?』

ユイ「マイクを」

保安部「了解」ピッ

ユイ「シンジの猿轡をはずしてあげて」

医師『はっ』スッ

シンジ『ぷはっ! なんだよ、これ、はずしてよっ!』ガタガタ

ユイ「マイク越しでごめんなさいね。シンジにアダムの移植手術を行うのよ」

シンジ『……っ⁉︎』ギョ

ユイ「暴れられると危ないから全身麻酔になるけど、我慢しなさい」

シンジ『アダムってさっきの……⁉︎ なんでそんなっ⁉︎」

ユイ「理由は先ほど説明したわ。理解できていなくても仕方ないとも言った」

シンジ『そ、それはないんじゃないの……。僕は、そんなの望んでないって……!』

ユイ「たしかに、あなたはそう言ったわね。それでも、私はやめるつもりはない。はじめて」

医師『はっ。おい、猿轡を噛ませろ』

看護師A『あなたはそっちにまわって抑えてつけて』スッ

看護師B『了解』

シンジ『ふむぐぐーっ! むぐぐーっ! んー!』

医師『心配するな、すぐ終わるよ。ライトを』

看護師『はい』ガチャン

【数時間後 ネルフ本部 ターミナルドグマ 培養液】

リツコ「関節部の動きに異常は?」

レイ「問題ありません」

リツコ「そう、あと一時間浸かったら出ていいわよ」

レイ「はい、あの……赤木博士」

リツコ「なに?」カタカタ

レイ「ヒトと使徒の違いってなんですか?」

リツコ「どういう意味かしら」ピタ

レイ「弐号機の人から、私は人形みたいだって言われました。どう捉えていいのかわからなくて」

リツコ「アスカがあなたを?」

レイ「はい」

リツコ「ぷっ……くっくっくっ」

レイ「おかしいですか?」

リツコ「的を得ているわね。あの子、分析力がある」

レイ「……」

リツコ「レイは存在価値を探ろうとしているの? それは、人として? それともリリスという使徒として?」

レイ「よく、わかりません」

リツコ「あなたはわかっているはずよ、器でしかないくせに……!」

レイ「……」

リツコ「自己を確立させてどうするつもり? まさか、碇司令に目をかけてもらおうって魂胆かしら。今以上に」

レイ「……」ゴポゴポ

リツコ「人にも、使徒にもなれないのよ! ただの魂の入れ物でしかないわ! 中間の存在があなた!」

レイ「はい」

リツコ「培養液がなければ、長期間生きられない身体が物語っているでしょう? まわりを見てごらんなさい。機能に不備があれば、いくらでも変わりがいる」

レイ「私は、人形?」

リツコ「私達は神ではないのよ……! コピー体を作れても魂の創造はできない! くだらない質問はやめて!」バンッ

レイ「……はい」

リツコ「私、あなたが嫌いになったのよ。その顔を見る度に、誰をモデルにしてるか確認させられてしまうから」

レイ「……」

リツコ「すすんで壊すようなマネはしないわ、いくら変わりがいると言ってもね」

レイ「私は、死んだらどうなりますか」

リツコ「そのままよ」

レイ「今の、記憶は……」

リツコ「引き継ぐのは不可能。不満でもあると言うの?」

レイ「どうしてなのか、知りたいだけです」

リツコ「人のフリがうまくなったのね……いいわ、感情が芽生えたという前提で答えてあげる」

レイ「感情が芽生えた?」

リツコ「知的探究心から物事は動きだすの。知恵の実を食べたのもそそのかされたとはいえ、好奇心のせいだしね」

レイ「……」

リツコ「質問は、死ぬとどうして引き継ぎができないのか? でいいのかしら」ギシ

レイ「はい」

リツコ「魂が借りものだからよ。あなたの存在は、誰しもが見ている夢みたいなもの」

レイ「夢……」

リツコ「人は寝ている時、夢を見ている間は鮮明だけれど、次の場面に切り替わったら前に見てた映像は覚えていられない。もちろん、覚えている、という例外がないわけでもない」

レイ「はい」

リツコ「しかし、100%に限りなく近い数字で覚えていられないでしょうね。新しい器に移し変えるというのはそういう話。あなたという個人を確立させる根拠は生まれない」

レイ「いないのと同じ……リリス、それが私」

リツコ「魂はね」

原作で本当に言ってるセリフにそれっぽいの付け足してるだけなんで誰でもできますよ
とことん見た人の方が必然的に再現度はもっと高くなってくと思います

【ネルフ本部 発令所】

シゲル「戦自より入電。ヒトロクサンマルに滑走路の使用許可を求めています」

ミサト「そんなスケジュールあったっけ。物資の搬入かしら?」

シゲル「いえ、違うようです。なにやらVIPを乗せているみたいスね」

ミサト「ぶいあいぴー? お偉いさん?」

マコト「誰でしょうか……政府関係者かな」

ミサト「こっちも暇じゃないってのに。識別信号はわかる?」

マヤ「シグナルは……エアフォースワン? 大統領専用機です」

ミサト「大統領ぉ⁉︎ アメリカの⁉︎」

マヤ「は、はい。間違いありません」

ミサト「大国のトップがお客様じゃなぁい。日本政府ではなくネルフに何の用かしら……」

マコト「さぁ……」

ミサト「なんだかきな臭い感じがするわね……とにかく、許可は出しておいて。あと日本政府にも確認を」

オペレーター「了解、内閣総理大臣へのホットライン開きます」

冬月「碇はまだ来ていないのか?」

マヤ「はい、まだお見えになっては」

冬月「やれやれ、良い上司とはいえんな」

マヤ「そんな。ネルフは碇司令がいてこそです」

冬月「下手な世辞はよせ。不満がないわけでもなかろう」

シゲル「そりゃ、まぁ……なにもないわけじゃないっスけど一般企業に比べたら天国みたいなもんですよ。なぁ?」

マコト「お前は給料面だけじゃないか」

シゲル「なにが悪いってんだぁ? 福利厚生も手厚いし、充分な対価が支払われていれば俺はどうだっていいね。贅沢だってできるし」

マコト「まったく」

マヤ「あ、そうだ。副司令、赤木博士からこちらの封筒を渡すように頼まれました」スッ

冬月「なに? 中身は、なにかしらの申請に不備があったか?」

マヤ「見ないように仰られていたので」スッ

冬月「……」カサ

マヤ「渡せばわかると伺っております」

ミサト「……?」

冬月「なるほど。この後は赤木博士に会う用事はあるかね?」

マヤ「はい。報告したい案件がありますので、もうしばらくすればラボに向かいます」

冬月「君に判断はまかせると伝えてくれ」

マヤ「了解しました」

ミサト「VIPの出迎えはいかがいたしますか?」

冬月「本来であれば碇が行うべきだがな。あいにくと碇は不在で、私も優先したい急用ができた。葛城一尉、代行を頼めるか」

ミサト「はっ! では、大統領との会談には私が出向いたします」ビシッ

冬月「ネルフは国連の管理下にある治外法権だ。誰が相手であろうと毅然とした態度でな」

ミサト「代表を任命いただき恐縮です。善処いたします」

【人類補完計画委員会 特別収集会議】

ゼーレ02「生きていたとはな」

ユイ「ご挨拶が遅れまして、申し訳ございません」

ゼーレ04「これまでなにをしていた。なぜ今になって我々の前に姿を現してきたのだ」

キール「その問いには、私から答えよう。ユイ博士は、我々に最も有力な協力者として戻ってきた」

ゼーレ02「真意は?」

キール「補完計画の完遂に他ならない。証明として、碇が別のシナリオを目論んでいた証拠を得たらしめた」

ゼーレ03「中間報告書には目を通してある。本当なのかね? 抜粋すると、碇ゲンドウがキミに会う為に我々とは違う、別の結末を用意していたとは」

ゼーレ05「信じがたい話だよ。人類と個人を天秤にかけるだけでも正気とは思えない」

ユイ「事実ですわ。側近である冬月副司令からのインサイダー(内部告発)です」

ゼーレ06「ふん、愚かな男だ」

ゼーレ02「奴には然るべき罰を与えねばならない」

キール「異議はなし……だが、後任者を決めてからだ。タイムスケジュールの記述に余波が及んではならない」

ゼーレ05「それでは、私の国から」

ゼーレ02「君の国は責任が嫌いだろう? なにかあった時にゴタゴタするのではないかね」

キール「ネルフの後任者は碇ユイ博士に一任する」

ユイ「懸念は心中お察しします。もし、私がもっとはやく姿を現していたら、夫はこのような算段をしなかったでしょう」

ゼーレ06「ならば問おう。キミが我々に死海文書とは違う、裏死海文書を渡した時にこうなると予想できていたのでは?」

ユイ「私は、自分の願いを叶えようとするだけ精一杯で。他に気をまわす余裕はありませんでした」

ゼーレ02「薄っぺらい戯言を信じろと? くっくっ、笑わせる。発言には気をつけたまえよ。なぜ夫を蹴落としてまで後釜に座ろうとする」

ユイ「取るに足らない言葉よりも結果を。私に皆様方の意向に背く意思はありません、必要であると判断なされば監視をつけてくださっても結構です」

キール「よい。ユイ博士、確認をすべきはひとつだ」

ユイ「はい」

キール「その願いは我々の悲願と一致するものか?」

ユイ「相違ありません」

キール「以上だ。異議のあるものは?」

ゼーレ一同「……」

キール「約束の時はそう遠くはない。エヴァンゲリオン初号機による遂行を望むぞ」

ユイ「既にいくつか手をうっております。それと、もう一つ、報告させていただきたいことが……タブリスを潜入させております」

ゼーレ02「ああ、キール議長から伺っているよ」

ユイ「彼を三号機パイロットのフォースチルドレンに選定いたしました」

ゼーレ05「勝手なマネをしおって! さっそく司令気取りか!」

ユイ「なにが不満なのでしょうか。計画に遅延は許されません。マルドゥック機関に登録済である第壱中学校にいる生徒達のコアでは不十分です」

ゼーレ04「S2機関の搭載を試みている四号機ではだめなのか?」

ユイ「三号機と共に四号機は建造に遅れが発生しているそうですが」

ゼーレ05「それは……」

ゼーレ03「キミの国の話だったな。三号機と四号機の建造権を強引に主張しておいて情けない」

キール「承認する。ダミー計画はどうか」

ユイ「技術的な問題はクリアいたしました。夫は綾波レイのパーソナルデータを移植していますが、こちらは渚カヲルのパーソナルデータを移植いたします」

ゼーレ03「コントロールは有効なのかね?」

ユイ「アダムは凶暴性がありますが魂のデジタル化はできません。あくまでフェイク、擬似的なものです。想定上は可能です」

ゼーレ05「赤っ恥をかかせておいてできませんで済ませられるか! 必ず運用可能にするのだ!」

ユイ「はい。皆様方の意向通りに――」

【ネルフ本部 女子ロッカールーム】

レイ「私にあるものは命、心の容れ物。作り物の人形。この鏡にうつっているのは……」 キュッキュッ

レイ(少女)「あなたはあなた」

レイ「あなた誰? これは誰? これは私。私は誰?」

レイ(少女)「私は一人目のあなた、同じものがいっぱいいるのも私。いらないのも私」

レイ「なぜ、あなたがわたしの中にいるの? 赤木博士は、夢の出来事は長期間記憶の保持ができないと言っていた。どうして、ずっと鮮明なの」

レイ(少女)「赤い土から作られた人間。男と女から作られた人間。私はこの世の理(ことわり)とは相反する存在だから」

レイ「あなた誰、あなた誰、あなた誰」

レイ(少女)「いらないものがいっぱい。赤い色。赤い色は嫌い。流れる水。血。赤いヒトは嫌い。弐号機パイロットも嫌い、でもいい。簡単に壊れる、あの女は壊す」

レイ「なぜ弐号機の人を壊すの? 私が私でない感じ。とても変。体が融けていく感じ。私が分からなくなる」

レイ(少女)「心の入れ物。魂の座」

レイ「私の形が消えていく。私でないヒトを感じる。リリス? 本来あるべき姿に還り、ひとつになりたいの?」

レイ(少女)「それはとても気持ちの良いこと」

レイ「ひとつになりたいのは私?」

レイ(少女)「私じゃない、変化している、私もあなたも同じ」

レイ「変化?」ポタ

レイ(少女)「顔を鏡でよく見て」

レイ「これは、水? 涙……泣いてる、ないてるのは、わたし……?」

レイ(少女)「鼓動を感じる」

レイ「……」 ゴシゴシ

レイ(少女)「祝福の鐘を鳴らし、歓喜の歌を。アダムが目覚める」

レイ「誰の中に?」

レイ(少女)「碇シンジ。もうひとつの紛い物は裏に」

レイ「私と同じ?」

レイ(少女)「違う。でも、いずれひとつになる。それはとてもとても気持ちの良いこと」

レイ「そう」

レイ(少女)「そろそろ行きましょう」

レイ「どこに」

レイ(少女)「碇くんの元に。アダムの元に」

アスカとレイの構図にしてもそうですが基礎になる分が残っているので投下分までは足りない部分の再構築がやりやすいです
いろいろ加筆修正していますが前スレが下書きなら今スレは清書って感じですかね

【第三新東京市 ビジネスホテル】

加持「ご無沙汰してます」

国防大臣「まずは、政府へおかえりとでも言うべきか。随分とつれなかったな」

加持「突然の連絡になってしまい申し訳ありません。調査部もパニクってましたよ。亡霊が今さら現れるとはね」

国防大臣「碇、ユイか」 パサ

加持「ご存知の通り、戸籍上は司令である碇ゲンドウ氏の妻です」

国防大臣「党の幹事長や総理も極めて驚かれていたよ。司令交代というゼーレからの一方的な通知、いや、脅迫では」

加持「心労がかさんでいるようで」

国防大臣「胃が痛いよ……裏があるのもわかりきっているからな。まったく、碇という一族はなんなのだ。両夫妻、そしてパイロットに至るまで、身内固めではないか」

加持「調べますか?」

国防大臣「答えるまでもなかろう。だが、キミだけでは心許ないと判断した」

加持「組む相棒のデータを貰えますか」 ポリポリ

国防大臣「……」スッ

加持「この子は……中学生、ですか」ペラ

国防大臣「彼女には、パイロットの監視を行ってもらう。戦略自衛隊からの派遣だ」

加持「こりゃあ、まいったな。腕は信用できそうにもありませんね」

国防大臣「ひよっこと聞いているが、なに、相手も素人同然だ。問題はなかろう」

加持「霧島、マナね」

国防大臣「彼女には裏切らないよう保険をかけてある。キミは、断面図を入手しろ」

加持「準備に時間がかかりますよ。本部構造の全体把握をされる理由は、やはり直接掌握を視野にいれているんすか?」

国防大臣「余計な詮索は身を滅ぼしかねないよ」

加持「俺が内偵だとバレていないとも限りません。情報はあっても困らない」

国防大臣「やけに臆病じゃないか。心配事でもあるのか?」

加持「上が助けてくれそうにないのが心配ですよ」

国防大臣「はは、たしかに。違いない。キミが死んでも代わりの人間を送りこむだけだからな。トカゲの尻尾は本体さえ生きていれば再生できる」

加持「哀れと思って教えちゃくれませんか? 政府は、ネルフをどうしたいんです」

国防大臣「布石だよ。今はまだ対使徒という組織だが、いなくなったらどうなる? ん?」コンコン

加持「……」

国防大臣「五分しか動かない決戦兵器でもおおいに脅威だ。では、操縦する人間は? 整備を行なっている連中はどうだ?」

加持「戦闘に関しては、素人同然ですな」

国防大臣「そうだろう」ニッコリ

加持「つまり、武力行使もやむをえないと判断しているわけですか」

国防大臣「もうひとつ、教えておいてやろう。日本政府の間では、工作に疑問符が出ている。もしや……キミがネルフ寄りの人間なんじゃないかと、ね」

加持「おだやかじゃありませんね」

国防大臣「身の潔白を証明し、キミの信頼を確固たるものにする為にもネルフ本部にあるセキュリティホール(欠陥)を探し出せ」

【厚木基地 戦自】

司令官「今回の任務は特務機関ネルフ、そのパイロットであるサードチルドレンの調査だ」

マナ「……」カサ

司令官「ネルフはこれまで治外法権を理由に、都合の良い振る舞いを行なってきた。我々は犠牲を払い、いつも足止めをしているに過ぎない」

マナ「はい」

司令官「本作戦は、ネルフ内部における組織図の明確な調査をするとともに、碇一族と委員会についての癒着を暴く足がかりとなる重要な任務だ」

マナ「……」

司令官「忌々しいが、使徒に有効な兵器は、あのエヴァとかいう玩具なのは事実である。だが、我々には我々の得意とする分野がある。政府にアピールする良い機会でもあるのだ。わかるな?」

マナ「はい」

司令官「友人達については、貴様の働き次第で、優遇を約束しよう。状況は全て整っている。あとは君次第だ」

マナ「もし、情報を引き出せなければ……」

司令官「使えない者を贔屓するわけにもいくまい。そうなったら、どうなるか。想像にまかせよう」

マナ「(私が失敗したら、ムサシとケイタは戦場に戻ることになる。そういう意味なのね……)」

司令官「今回の任務は極秘だ。政府の一部高官筋、及び戦自内部においても知る者は少ない。万一、君の正体が明るみにでても一切関与はしない」

マナ「……」

司令官「貴様は今、この時点で社会的に存在を抹消される。むろん、戦自のデータベースからも全ての記録を消去する。霧島マナであるには変わりないが、透明になるのだ」

マナ「はい」

司令官「影となって生きろ。スパイの鉄則だ」

マナ「(碇、シンジ……シンジ、くん……)」

司令官「二十四時間、ターゲットのみを考えろ。そうすれば結果を伴わせることができるだろう」

マナ「了解」

司令官「一字一句全てを暗記するつもりで」

マナ「(ターゲット……情報を集めるべき相手……大丈夫よ、マナ。私はかわいい、武器にできる)」

司令官「以上だ。霧島マナ隊員の健闘を祈る」

【夕方 ネルフ本部 来賓室】

ミサト「さ、三号機をうちに、ですか?」

大統領「引き受けてもらうのは三号機のみで、四号機は引き続き我が国が担当する。同意に必要な詰めは全て済ませてあるから、あとはこの書類に責任者のサインを書くだけだ」

ミサト「しかし、ネルフは既に三体のエヴァを保有しています。日本領土内において過剰な戦力になりうるのでは……」

大統領「政治的な話だよ。現在、我が国では経済的に不安定な状態が続いている。それに伴い、市民の暴動や生活水準の低下が懸念されていてね」

ミサト「つまり、割り当てる予算がないと?」

大統領「情けない話だが、その通りだ。貧困層は医薬品でさえ入手するのが困難な状況になりつつある。そのような状態で、軍備にまわす余裕はない」

ミサト「WHOに支援を求めては……」

大統領「スイスのジュネーブ本部には、発展途上国から問い合わせが殺到しているそうだよ。その中に混じって、アメリカが恥部を晒すわけにはいかんのだ」

ミサト「受け入れるにしても隣国の反発が予想されます。相応の理由が必要になると思われますが」

大統領「その点については、先ほど君がいっただろう。日本は既にエヴァを三体も保有している」

ミサト「はい」

大統領「過剰な戦力ではなく、実績があると捉え、アメリカと日本、友好国という建前を使えばどうとでもなる」

ミサト「お話は承知いたしました。ですが、話が大きすぎて……私の一存では決めかねます。碇司令の判断を仰いでからになりますが、よろしいでしょうか」

大統領「キミの言う碇とは、碇ゲンドウかね?」

ミサト「はぁ、そうですが」

大統領「彼は本日付けで更迭になったと報告を受けている」

ミサト「え、えぇっ⁉︎」

大統領「後任を務めるのは、彼の妻である、碇ユイ博士だ。なにも聞いていないのか?」

ミサト「ぞ、存じません。事実なのでしょうか?」

大統領「嘘をついてなんになる。碇ゲンドウ氏はアラスカにて調査を行うはずだ」

ミサト「どなたの意向でしょうか?」

大統領「私が知るのは結果のみだ」

ミサト「(左遷? いいえ、違うわね。日本政府でさえネルフに人事の口だしできないはず……ゼーレ?)」

大統領「……」コト

ミサト「ですが、ユイ博士は、たしか、資料によると亡くなっているのでは……納得のいく説明を求めます」

大統領「上層組織によるゼーレの決定だ。キミも噂ぐらいは聞いたことがあるはずだな?」

ミサト「やはり……ですが、ゼーレの実態はほとんど存じません」

大統領「私も同じだ。世界は、一部の組織が牛耳っているに等しい。まったく、なにが大統領だ、傀儡だよ。これではな」

ミサト「……」

大統領「日本には藪をつついて蛇をだすというコトワザがあると聞く。これは善意からくる忠告だ」

ミサト「肝に命じます」

大統領「私は残り十六時間ほど滞在する。それまでに良い返事を期待しているよ」

【ネルフ本部 発令所】

マコト「まさか、そんな」

シゲル「ひゅ~」

マヤ「い、生きてたんですね」

冬月「お前達、新司令に対してその態度はなんだ。失礼だろう」

ミサト「二点、質問を許可していただいてもよろしいでしょうか?」

ユイ「どうぞ」

ミサト「まず、今回の異動はあらかじめ決められていたのでょうか?」

冬月「葛城一尉。上層部の決定は作戦司令たる君の与り知るところではない。立場をわきまえたまえ」

ミサト「失礼いたしました。次の質問ですが、資料によると司令は初号機に取り込まれたとあります。実験中に発生した不慮の事故は、末端の職員ですら知っています」

ユイ「……」

ミサト「しかし、記載に反して碇司令はこうしてここにいらっしゃいます。この相違点についてご説明を求めます」

ユイ「今後の円滑な業務工程に関わる?」

ミサト「いえ、個人的な質問です」

ユイ「仕事に関わる話でないのならば、差し控えてもらえると助かる。プライベートを詮索されるのは好きじゃないの」

ミサト「ですが、職員全体が困惑しているのも事実です」

ユイ「そう、全く関係ないとは言えないのね。であるならば、データを開示します。気になる職員は後で見なさい」

ミサト「承知しました」

冬月「全館放送に切り替えろ」

オペレーター「了解」カチ

冬月「これから新司令の就任挨拶を行う、作業中の職員は手を止めて聞くように。では、ユイくん」スッ

ユイ「――この度、本日付けで特務機関ネルフ総司令に就任いたしました、碇ユイです。皆、急な人事異動で戸惑いがあるだろうけど、私達の目的は使徒殲滅。忘れないで。誰であろうと、不変だということを」

マヤ「……」

ユイ「命をかける、その決意と覚悟を持ってここに立っています。あなた達が自分の仕事に誇りを持っているように、この私も人類の為に働く一員なのです」

マコト「……」

冬月「彼女の能力については、私が保証しよう。碇に負けず劣らずのキレものだよ、敬うように……以上で挨拶を終える、放送を切れ」

オペレーター「はっ」

ユイ「では、バタバタして申し訳ないけど、葛城一尉」

ミサト「はっ」 ビシ

ユイ「最初の命令になります。零号機を現時刻をもって凍結」

ミサト「と、凍結っ⁉︎ 待ってください! 零号機はようやく予備のパーツを換装し終えたところで!」

ユイ「あくまで暫定的な処置です。三号機配備を受け入れる体勢は必要ですから」

ミサト「……」

ユイ「アメリカ側がどう主張しようと、こちらに丸投げの状態なのよ。反発を抑える予防策だと考えてくれる?」

ミサト「それは、たしかに。使徒が襲来した有事の際には解除されるのでしょうか?」

ユイ「投入やむなしと判断した場合にはね。その采配は、作戦司令に一任します」

ミサト「なぜ零号機を? レイは安定していますし、三号機でもよろしいのでは」

ユイ「零号機はプロトタイプ。試作品なのよ、弐号機で完成したエヴァシリーズの後継機が三号機。データを集めるのに都合が良い」

ミサト「では、大統領に受け入れ了承の旨、お伝えするということで、よろしいですね」

冬月「問題なかろう。これでキミはエヴァ四体の指揮権を管理する立場になるな」

ミサト「はっ」ビシ

冬月「今後とも精進するように」

ミサト「(その気になれば、世界を滅ぼせるわね)」

【ネルフ本部 営倉】

冬月「先ほどの放送は聞いたな」

ゲンドウ「冬月、裏切ったのか」

冬月「どう答えたら満足する」

ゲンドウ「ふざけるのはよせ。俺を見限ったな」

冬月「卓上の将棋盤を持ってきた。久しぶりに一局打たんか」

ゲンドウ「……」

冬月「上の連中の愚痴に付き合って疲れていてね、息抜きがしたい。勝手に広げさせてもらうよ」

ゲンドウ「ユイはどういうつもりだ」

冬月「本将棋というのは戦略の駆け引きだ。時には数百手先を読み合い、駒を奪い合い玉を目指す。玉とは王だ」 パチ パチ

ゲンドウ「……」

冬月「気がつかぬままに囲まれている場合もある。このようにな」パチ パチ

ゲンドウ「……」

冬月「そうなると退路はない。逃げ道を塞ぐまでをも計算に入れているからだ。待っているのは詰みという終局」

ゲンドウ「いまだ詰んではいない」

冬月「いや、既に投了しているのだよ。老人たちは我々の企みに気がついてしまった。後は、答え合わせを残すのみ」

ゲンドウ「……」

冬月「内部から伏兵に崩壊させられたのだ。相手が悪かったな。我々の手の内を知り尽くしていた」

ゲンドウ「……」

冬月「改まって言うに及ばないが、責任追及は免れんだろう。もうすぐゼーレから使いの者が来る」

ゲンドウ「これで終わりか」

冬月「呆気ないものだがな。仕事が残っているので失礼させてもらうよ。盤面はそのままにしておいてくれればいい」スッ

ゲンドウ「……」

冬月「付き合いは楽しいものではなかったが、礼を言わせてくれ。これまで、ありがとう」コツコツ

【数時間後 同営倉】

保安部「立て」

ゲンドウ「……」スッ

リツコ「待って。少し話があるから、あなたは外で待機」

保安部「はっ。終わりましたらお声をおかけください」カシュ

ゲンドウ「なにをしにきた」

リツコ「今の気持ちを聞きにきたのよ」

ゲンドウ「ふっ、そんなものを聞いてなんになる」

リツコ「補完計画の目的を聞いたわ。決断した奥様の行動はまさに電光石火だった。なにを意味するかわかる? ずっと機会を伺っていたのよ。これでシナリオはご破算」カチャ

ゲンドウ「そうか」

リツコ「……っ! それだけ⁉︎ なんとか言ったらどうなの! 私が憎いでしょう⁉︎ それとも、私には憎しみを抱く感情すらないっていうの⁉︎」

ゲンドウ「……」

リツコ「これまで、どんな辛い命令だって耐えてきた! 振り向いてほしかったから! ……でも、それも終わり」

ゲンドウ「……」

リツコ「最初に犯された時は嫌悪感しかなった。私でさえわからなかったのよ! 回数を重ねるにつれて安らぎを感じ愛されたいと願うようになるなんて!」

ゲンドウ「目はかけていた」

リツコ「なにもかもウソよ! あなたが幸せになるのなんて許せない。許してはならない。だから、壊すの。今さら息子と奥様を取り戻して仲良くするだなんて、虫が良すぎると思わない?」

ゲンドウ「……」

ユイ「失礼するわよ」カシュ

リツコ「はい」スッ

ゲンドウ「ユイ……」

ユイ「あなた、もうおしまいよ。ネルフの権限と担当している業務は私が引き継ぐ。安心して退陣してもらっていいわ」

ゲンドウ「なぜだ、なぜこのような真似をする」

ユイ「計画には修正が必要なの。黙って見ていてもよかったのだけど、あなたでは完遂できそうにないから」

ゲンドウ「……」

ユイ「引き際も肝心だとわかってちょうだい。大丈夫、きっと良い方向に持っていってくれる」

ゲンドウ「シンジに託せというのか」

ユイ「未来を担うのはいつだって若人よ。バトンを紡いでいくだけ、シンジもいつかは歳をとり次の世代を希望を託すことになる」

ゲンドウ「赤木博士」

リツコ「……」

ゲンドウ「その拳銃で俺を撃て」

リツコ「……」ピク

ゲンドウ「せめてもの償いだ。キミには辛い思いをさせた」

ユイ「はぁ、相変わらず不器用でバカね。撃たせたら一生枷になって残り続けるわよ。拳銃をさげなさい」

リツコ「私は、私は」プルプル

ユイ「赤木博士。腕をおろしなさい」

ゲンドウ「ユイ」

ユイ「なに?」

ゲンドウ「俺たちの息子を、シンジを頼んだ」

ユイ「言われなくてもそうするわ」

リツコ「……っ! 私の目の前で夫婦の会話をしないでちょうだい!」パァン

ゲンドウ「うっ」ドサ

リツコ「あ……っ!」ヘタリ

ユイ「あらあら、撃っちゃったわね」

リツコ「違う、そんなつもりは、勢いで、私、なんてこと……」

ユイ「……」コツコツ

ゲンドウ「ごほ、くだらん結末だな」

ユイ「肺を貫通した?」スッ

ゲンドウ「ああ」

ユイ「そう。このまま死ぬ?」

ゲンドウ「そうしよう、ぐふっ、げほっ」

ユイ「赤木博士」

リツコ「……う……あ……」ガタガタ

ユイ「この人はここで死にたいそうよ。拳銃を貸してもらうわね」スッ

ゲンドウ「すまない」

ユイ「最後まで、人に迷惑をかけるんだから」パァン

【ネルフ本部 テラス】

シゲル「しっかし、あの見た目で碇司令の妻とは信じられないねぇ」

マヤ「若作りしてるっていうメイクでもないみたいだけど、年相応には見えないわね」

シゲル「あれは着痩せするタイプだぜぇ? 服の下はけっこうなボインと……」

マヤ「う、不潔」

マコト「だけど、やっぱり変じゃないか」

マヤ「……?」

マコト「公開されたデータに目を通してみたけど、サルベージに成功していたとあるだろ?」

マヤ「ええ」

マコト「これまでどうして伏せていたんだろう。エヴァに取り込まれて生還した事例も初だが、研究としても歴史に残るサンプルじゃないか」

マヤ「だからこそ非公開にしておいたんじゃないかしら」

マコト「どういう意味だ?」

マヤ「MAGIもそうだけど、ブラックボックスはほとんど解明されてないじゃない。多くに知らす必要はなく、水面下で研究すると判断されたのよ」

マコト「そうかなぁ……」

ミサト「好意的な受け取り方ね」

マコト「葛城さん」

ミサト「夕食中にごめんなさい。私も相席させてもらっていい?」

シゲル「まぁ、俺たちは」

マヤ「どうぞ。あっ、味噌ラーメン頼まれたんですか?」

ミサト「え? ええ、そうね」コト

マヤ「ここ、職員の間でもラーメンが評判で」

マコト「マヤちゃん」

マヤ「すみません。なにかご用件があるんですか?」

ミサト「かまわないわ。さっきの話に加わりたかっただけだから」

マコト「と、いうと、新司令の話ですか?」

ミサト「ちょっち、気になるのよ。急な決定にしては、あまりにも用意周到すぎない?」

マヤ「人事ですか?」

ミサト「それもあるけど、業務の引き継ぎに関しても、堂々としすぎてるというか、迷いが見えない」

マヤ「私はそうは思いません。ネルフ代表ですから、有能であるのは必須だと考えます」

ミサト「そうね」

マコト「サルベージについて疑問が残るのを除けば、文句のつけようがありませんよ。経歴についてはネルフ創設者の一人ですし、エヴァ研究の功労者でもあります」

シゲル「加えて、副司令の口添えもあるんすから」

ミサト「だぁっ! 私の考えすぎかしらねえ」ガシガシ

マヤ「他になにか気になる所でも?」

ミサト「うまく説明できないけど、女のカンよ」

マコト「またですか……」

ミサト「そーよ。なんかヤバそうな気がする」

シゲル「使徒が来るのが一番やばいっすよ」

ミサト「そう……なんだけどねぇ」

前の流れも悪くはなかったかなと思うんですが、察しの通り丸々変えちゃいます

箇条書きでよければかまわないすよ
今日から旅行なんでレスは数日しません

帰ってきたんで再開してきます

【ネルフ本部 執務室】

冬月「死体の始末は済んだのかね」

ユイ「はい、万事滞りなく。ひとつの終わりを迎えました」

冬月「人の生は儚いものだと改めて実感する」

ユイ「忍び寄る影に気がついていなかっただけ……先生ほど長生きされても、死という概念が恐ろしいですか?」

冬月「年寄りには、悪い冗談だ」

ユイ「私はこわくはありません。ですが、志し半ばで死ぬのが辛い」

冬月「碇とて例外ではなかろう。まさかキミの手で葬りさられるとは」

ユイ「来世、というのは変ですが、またきっかけはあります。あの人の願いは、私とシンジに託されました」

冬月「そうか、では少なからず救われたのかもしれんな……これからどうする」

ユイ「補完計画をよりはやく遂行します。使徒の襲来を待つ必要はありません。彼ら個体が目指すべきはアダムであり、種の生存本能がなくなればどうなるか……」

冬月「お手並み拝見させてもらうよ」

ユイ「先生は、これまでと同じく副司令として補佐をして頂きます」

冬月「承知しているよ。地盤固め、その為に俺を生かしておいたんだろう」

ユイ「先ほど、鈴から連絡がありました」パサ

冬月「これは……」

ユイ「戦自のバックについているのは、いうまでもなく日本政府です」

冬月「退屈せんな。ネルフ職員は組織という建前上納得させられても、外部はどうしようなかろう」

ユイ「政治にはとかくお金がかかるものですからね」

冬月「つつける場所を探しているのだろう。ネルフの弱みを握れればこれ以上ない優位性がある」

ユイ「将棋でもさされます?」

冬月「結構だ。キミと指しても面白くない」

ユイ「ふふ、たしかに私では相手になりませんね」

冬月「おごりはいつか、足元をすくわれるやもしれんぞ」

ユイ「そんなつもりは。私は“待ち”が得意だと先生もご存知でしょう」

冬月「……」

ユイ「とはいえ、ただ黙って見ていては好きなように立ち回らせてしまいます」

冬月「ならばどうする」

ユイ「餌をちらつかせます、食いつきやすいものを」

【ミサト宅 マンション】

アスカ「えぇ~~~~⁉︎ 三号機ぃ~~⁉︎」

ミサト「そーよ」カシュ

アスカ「エヴァが三体も配備されてるのに⁉︎」

ミサト「四体目ね」トクトクトク

アスカ「やれやれね。使徒が来ないのにエヴァばかり増やしてどうすんのよ。それでパイロットは?」

ミサト「これから選定するはずよ、それともうひとつ」

アスカ「……?」

ミサト「司令が交代になったわ。明日、パイロット達にも挨拶をしてもらうから」

アスカ「はぁっ⁉︎」ガタッ

ミサト「前司令はアラスカに。後任になったのは碇ユイ司令だそうだよ」

アスカ「碇? ファミリーネーム?」

ミサト「碇司令の奥さん。シンジくんのお母さん」

アスカ「あいつのママって生きてるんだ……。なによ、恵まれた環境じゃない」

ミサト「……」

アスカ「前司令は、クビにでもなったの?」

ミサト「詳しい理由についてはわからない」

アスカ「どうして?」

ミサト「普通の企業だって異動については辞令がでるだけ。理由についてまで説明されるなんて通常はなかったりすんのよ」

アスカ「ここが普通ぅ?」

ミサト「そうね、少し、違うかもしれない。軍属でも民間企業でもないわ。でも規則や階級は重んじているの、発令には絶対遵守。さしたる例としてはこれがある」

アスカ「そりゃそうでしょ。ミサトの襟にも階級章のピンバッチつけてるじゃない」

ミサト「前身は研究所だったと聞いてるわ。軍隊色が濃くなったのはセカンドインパクトと使徒のせい。各国政府による後ろ盾によって強固な地盤になっていったの」

アスカ「……」

ミサト「人事については、とてもデリケートな部分よ。組織内の決定力、パワーバランスを塗り替えてしまうから。一国よりもさらに上の各国代表団、ゼーレという委員会に一任されている」

アスカ「いざとなったら戦争でもなんでもできるでしょうに」

ミサト「私たちは国家間の争いを生むために編成されたわけじゃない。あくまで対使徒用の集団なのよ」グビ

アスカ「……」

ミサト「職員の多くは、拳銃の射撃訓練を受けていても、実際に人を撃った経験はないし、だから、銃器の扱いについては戦自に協力をしてもらってる」

アスカ「ふーん? よくわかんないけど、ようするに機密ってわけ?」

ミサト「まぁ、そうね」

アスカ「秘密主義ってやだな」

ミサト「幻滅した?」

アスカ「少しね」

ミサト「民間と軍隊の融合体みたいなものね。使徒に関係する場合には、外部に対しての影響力や発言力はかなりのものよん?」

アスカ「わかってる。弐号機運搬で連合軍の艦隊を護衛にしてたじゃない。新司令ってどんな人?」

ミサト「初対面の印象は……そうね、柔らかい人ってところかしら」

アスカ「もっと具体的にないのぉ?」

ミサト「前の碇司令よりはとっつきやすそうって感じ?」

アスカ「あれ以上だったら驚くっちゅーの……。経歴は?」

ミサト「データによると、エヴァの開発責任者はリツコだけど、システムを作りあげたのが彼女みたい。自分自身が率先して実験台になったり、貢献は計り知れないわ」

アスカ「あぁ、そういえば取り込まれたっていうの?」

ミサト「この界隈じゃ有名な話だもんね。まるで悲劇のヒロインって感じ」

アスカ「戻ってこれるんだ」

ミサト「サルベージ計画が成功していたらしいの。なんで伏せてあったのか機密扱い」 ペコ

アスカ「……」

ミサト「もし、アスカやレイが取り込まれたとしても帰れる方法が見つかってよかったわね」

アスカ「うげっ、そんなの想像したくないんですけどぉ」

ミサト「もちろんないにこしたことはないわ。だけど、初号機みたく暴走されたら制御は難しいのよねぇ」 カラン

アスカ「ごちそうさま。……赤木博士よりエヴァに詳しい人か」スタスタ

ミサト「ああ~、立ったついでにエビちゅ、もう一本とって」

アスカ「たく、よく飲むわね」ガチャ

ミサト「一日の疲れを癒してくれる魔法の薬♪」

アスカ「風呂は命の洗濯とか言ってなかった?」スッ

ミサト「それはまた別のお話」

アスカ「あっそ……シンジが学校に来なかったのはママが理由? 今頃家族の団欒でもしてるの?」スッ

ミサト「へ? シンジくんが、学校に来てない?」

アスカ「……?」

ミサト「どして、来てないの?」カシュ

アスカ「あたしが聞いたのに知るわけないでしょ」

ミサト「(保安部から報告があがっていないのは妙だわ。なにかあったのかしら)」

アスカ「ミサト? 知らなかったの?」

ミサト「……なぁ~に? アスカってば、シンちゃんが気になるんだぁ~?」ニヤニヤ

アスカ「なぁっ⁉︎ ぬぁ、なななな、なんでそうなるの⁉︎」ボッ

ミサト「あらあら、顔が真っ赤になるってことは案外遠からず……」

アスカ「ば、バカにしないでよね! あんなやつがどこでなにしてようと知ったこっちゃ!」

ミサト「だったら、どうして赤くなんのよ」

アスカ「うっ」チラ

ミサト「どこ見てんのよ? 鞄……?」

アスカ「あっ、いや、べつに!」プイ

ミサト「学校からのプリント? だぁ~めよ! ちゃんと見せなさい!」ガタ

アスカ「違うったらぁ! 本当になにもないの!」

ミサト「あのねぇ! 今のあんたの保護者は私なんだからね! ……なにこれ」スッ

アスカ「はぁ……」

ミサト「ネルフの報告書じゃない。シンジくんとの相性……ってぇ! なんなのよこれはぁっ⁉︎」バンッ

【付属病院 205号室】

保安部「うっ、お、お前は……!」ドサッ

レイ「……」ガラガラ

シンジ「……」すぅーすぅー

レイ(少女)「夢の中に入るわ。隣で寝て」

レイ「夢に?」

レイ(少女)「今なら通じ合える」

レイ「……」

レイ(少女)「碇くんもあのばあさんにはうんざりしてる。わかるもの」

レイ「ばあさんって誰?」

レイ(少女)「二人。一人目のばあさんは、発狂して私の首を絞めた赤木ナオコ。二人目のばあさんは碇ユイ」

レイ「碇くんは、私達を受け入れてくれる?」

レイ(少女)「すぐにわかるわ」

レイ「……」ギュウ

レイ(少女)「恐怖、こわいのね。拒絶されるのが」

レイ「こわい? 私、碇くんに嫌われたくない」

レイ(少女)「アダムがいる。赤子同然だけど、彼とは古くからの友人よ」

レイ「なぜ、夢の中にはいるの?」

レイ(少女)「私の中の私に勘づかれる前に、知ってもらわなくちゃ」

レイ「私を? 心が欠けているのに」

レイ(少女)「ヒトは、脆く、弱い。だから、心を重ねて、身体を重ねる」

レイ「接触と承認。なぜ、生きたいの」

レイ(少女)「答えを知りたい?」

レイ「ええ、他にはなにもないもの」

レイ(少女)「知りたい。答えは、アダムとの融合、そして、碇くんの中にある」

レイ「知らないまま消えていくのは嫌。好きじゃない」

レイ(少女)「眠りましょう」

レイ「眠りましょう」

レイ(少女)「ヒトは誰しもが夢を見る、でも、いつまでも夢を見続けてはいられないわ」

レイ「碇くん」

レイ(少女)「深く、深く、深層心理の中へ――」

【シンジ 夢 電車内】

ゲンドウ『エヴァに乗れ。でなければ、帰れ』

シンジ「なんでそんな勝手なこと言うんだよ……いきなり呼びだしておいて……!」

ゲンドウ『お前の価値はそれだけだ』

シンジ「やっぱり僕は、いらない子供なんだ! 僕なんか、どうでもいいんだろ⁉︎ 」

ミサト『どうでもいいと思うことで、逃げてるでしょ? 失敗するのがこわいんでしょ?』

シンジ「うるさい。僕にだって救えた人がいるんだ」

トウジ『シンジ、妹を転院させてくれてありがとさん」

アスカ『結局は見返りを求めてるんじゃない』

シンジ「違う」

アスカ『あんたのはただの逃げ。弱い自分を見るのがこわい。男だったら受け入れてみなさいよ!』

シンジ「うるさい、うるさいっ!」

加持『寂しいのは、一人になるのは嫌いかい?』

シンジ「好きじゃない」

ゲンドウ『逃げたいのか』

シンジ「逃げたらもっと辛いんだ! だから、逃げない」

ユイ『辛かったら、逃げてもいいのよ』

シンジ「でも嫌だ! 逃げるのはもう嫌なんだ!」

レイ(少女)「それは、自己犠牲?」

シンジ「誰? ……逃げたら、相手にしてくれなくなる。父さんだって。だから、そう、逃げちゃダメだ」

レイ「だから、逃げるのが嫌なのね。逃げ出した辛さを知っているから」

シンジ「綾波、綾波レイ。どうしてここに――」

レイ(少女)「捨てられたくない」

シンジ「父さん、僕を捨てないで。お願いだから、僕を捨てないで!」

リツコ『他人の言う意見に素直に従う、それがシンジくんの処世術』

シンジ「それのなにが悪いんだよ。そうしなきゃ、また捨てられちゃうんだ」

レイ「なにを求めるの?」

シンジ「不安からの解消」

レイ(少女)「なにを願うの?」

シンジ「寂しさの解消」

レイ「幸せを望んでいるわけじゃないの」

シンジ「その前にほしいんだ。僕に価値がほしいんだ。誰も僕を捨てないだけの価値が」

レイ(少女)「補完計画はその為にある」

シンジ「綾波、二人?」

レイ「私は私」

レイ(少女)「モデルは碇くんのお母さん」ドロ

シンジ「ひっ、溶けて」

レイ「形は必然じゃない、私をあらわすもの」

レイ(少女)「真実に目を向ける勇気はある?」ガシ

シンジ「綾波レイがたくさん……」

レイ(少女)「脳に焼きつけて」

レイ「……」

シンジ「うわぁあああああああああっ!!」

【付属病院 同病室】

レイ「……」パチ

レイ(少女)「手を離していい」

シンジ「……うぅ……ううぅ……」

レイ「このままでいいの?」

レイ(少女)「脳に直接情報を刻んだ。手にあるアダムを媒体にしてダイブしたから問題ないわ」

シンジ「ううぅぅっ!」プルプル

レイ「いつ、目を覚ます――」

カヲル「共鳴を感じて来てみれば、やっぱり、キミだったんだね」

レイ「……」チラ

カヲル「僕と同じだね。君も。そこで眠る碇シンジくんも」

レイ「あなた、誰?」

レイ(少女)「半身にすぎない。オリジナルはこっち」

カヲル「運命を仕組まれている。僕たちでさえ終わらぬ輪廻から逃れられない。そうだろ、リリス」

レイ「不快」キィーン

カヲル「おっと、まだ力を使わない方がいい。来たるべき時まではね」

レイ「……」

カヲル「表で死んでるやつはボクの仕業ということにしておいてあげるよ。その方が都合がいいと思うから」

レイ(少女)「そう、私たちは帰るわ」

レイ「……」

カヲル「僕たちはなんのために生まれてきたのかな」

レイ(少女)&レイ「答えは、碇くんとともにある」

カヲル「僕と対をなす存在。アダムを移植されたかわいそうな少年。この子に僕たちが望むセカイがあると?」

レイ「もう行く」スタスタ

カヲル「……」チラ

シンジ「はぁ、うっ、はぁ、はぁ」ビクッビクッ

カヲル「夢でさえ逃げられない。平穏はどこにあるんだろうね」スッ

【深夜 ネルフ本部 テラス】

加持「タバコ、吸わないのか」シュボ

リツコ「禁煙するわ」 カラン

加持「めずらしいな。真夏に雪が降らないといいね」

リツコ「加持くんもやめたら? 百害あって一利なしよ」

加持「たとえプラセボ効果だとしても息抜きは必要なんでね。やめた理由を聞いても? 長生きしたいからってわけじゃないだろう?」

リツコ「髪を切ろうかと迷った、と言えば察しがつく?」

加持「やはり、碇司令との決別が原因か」

リツコ「わかってて聞くなんて酷い男ね」

加持「男と女の関係はロジックじゃない。リッちゃんの言葉だぞ」

リツコ「ええ」

加持「立ち直るにしてもはやすぎる。もっとも、碇司令がその程度の男だった、というのならわからないでもないが、そうじゃなかった」

リツコ「愛していたわ。あの人の為ならどんな辛い仕打ちだとしても我慢できた」

加持「……」

リツコ「だけどね、加持くん。愛と憎しみは紙一重なのよ。好きの反対は無関心で嫌いにはならない。裏切られた、と感じた瞬間、胸に受けた傷の深さがわかる?」

加持「いや」

リツコ「わかる、なんて言えないわよね。時間、私自身、なにもかもあの人に捧げてきた。気持ちがわかるなんて軽はずみに言ったら殺してたわよ」ギュウ

加持「まだ、碇司令を恨んでるのか?」

リツコ「当たり前よ。恨んでも恨んでも足りないぐらい。でも、心のどこかであの人が恋しいと感じる」

加持「やりきれないな」

リツコ「今は、妻だった人に良い顔をしようとしてる。なにがしたいのかしらね、私は」

加持「リッちゃんは、芯を持っていると信じてるよ」

リツコ「ふふ、それが復讐のためだとしても?」

加持「俺も他人をとやかく言える立場じゃない。真実を、補完計画を見届ける為に利用しているからな」

リツコ「なぜ、そこまで? 本当に好奇心?」

加持「それが、俺の、弟たちへの贖罪だからだ」

リツコ「加持くんにとっても復讐なのね」

加持「みんな根っこに抱えるモノは同じだよ」

リツコ「まだ[ピーーー]ない。新しい目的を見つけたから」

加持「あぁ、それについては俺も同意見さ」

ミサト「いたぁ~!」ズンズン

加持「おっと」

ミサト「アスカから聞いて車かっとばして来たわよ! 加持! あんたなに考えてんの!」ガバッ

リツコ「ミサト、危うくこぼすところだったじゃない」

ミサト「あらま、いいじゃない、また注文すれば」

リツコ「軽いノリはあいかわらずね、ちっとも変わらない」

ミサト「今はこいつに話があんのよ! シンジくんとアスカの相性って……」

加持「学生の頃を思い出すな。こうして俺と葛城とリッちゃんとでよくつるんだもんだ」

ミサト「勝手に混ざってただけだったでしょ!」

リツコ「ミサトだってまんざらではなかったと記憶してるけど? キャンパスで加持くんの……」

ミサト「だぁ~っ! ちょっとちょっとタンマぁ! リツコ! なに言うつもりなの⁉︎」

加持「気になるな。続きは?」

ミサト「悪ノリしてんじゃないわよ!」

リツコ「人はいつまでも子供じゃいられない。でも、たまにはこうして童心にかえってみるのもいい」

加持「許されるのが当たり前じゃなくなってしまったが、時があるならば、甘えも重要だ。楽しくないからな」

ミサト「なに? 私だけ除け者?」

リツコ「いいえ。この空間は、三人誰が欠けても成立しないわよ」

加持「ほら、まずは飲め。マスター、ウィスキーを」 スッ

ミサト「そ、そう? ……じゃなぁ~い! 誤魔化されないんだからね!」

リツコ「司令の指示で予備案を模索している」

ミサト「ユイ司令の? ほんとなの?」

加持「あ、あぁ」チラ

リツコ「私に発令が降りて加地くんに協力してもらっていたの」

ミサト「どうしてあの子に渡したのよ」

加地「からかい半分かな。アスカには、きっかけが必要だ」

ミサト「怪しいわね。資料は来る途中に目を通してあるわ。なぜ、弐号機と初号機が?」

リツコ「零号機が凍結になれば、パイロットが一人浮くのよ? 有用な活用法を考えれば、機体の互換性、すなわち、パーソナルデータ収集は合理的判断ではなくて?」

ミサト「たしかに、それもそうか……。乗るのは生身の人間だし、病気や怪我の可能性だってある」

リツコ「その為の予備としての実験」

ミサト「にゃるほど。んで、その結果が……ふぅ~ん、二人の相性、ねぇ」

リツコ「結果はまだ聞いてなかったわね」 チラ

加地「悪くなかったよ」

ミサト「まだ試してないのに高望みはできないわ。あくまで可能性の話として」

リツコ「そうね、模擬体を使い近々にテストを行う」

加地「パイロットを遊ばせておくのはもったいないしな」

リツコ「私にとってはそれほど悪い話でもないわよ?」

ミサト「そりゃまたどうして」

リツコ「空き時間が増えるならば、それだけ実験に参加できる機会が増えるということだもの。むしろ願ったりかなったりね」

ミサト「作戦部にもちったぁ協力しなさいよ!」

リツコ「日頃からお釣りがくるぐらい協力してるつもりだけど?」

ミサト「あぁ……ソウデスネ」ガックシ

加持「さすがリッちゃんだな。うまく合わせてくれて助かったよ」ボソ

リツコ「お礼を言う余裕があるなら助けなくてもよかったんじゃない?」

ミサト「ちょぉっと、なに囁きあってんのよ!」グイ

リツコ「焼きもち?」

ミサト「じょ~だん! 誰がこんなやつに!」

リツコ「あなた、アスカに似てきたわね。いえ、元々だったかしら」

ミサト「な、な、なっ!」ワナワナ

リツコ「加持くんとやり直したいのなら、素直になりなさい」

加持「だそうだ。話があるなら聞く気はあるが?」

ミサト「話なんかないですよーだ! えぇいっ、ウィスキーロックでください!」

【翌日 早朝 第三新東京市 改札口】

アナウンス「第三新東京市へようこそ。第七環状線をご利用いただき、まことにありがとうございます。当駅は桃源台中央駅です」

マナ「うわぁ、すごい人」

アナウンス「ケーブルカーへのお乗り換えは三番線になります。Please change here for――」

男性「おっと」ドンッ

マナ「きゃ⁉︎」ドサ

男性「ちょっと、駅のホームで突っ立ってちゃ危ないじゃないか」

マナ「あ、すみません。来たばかりなもので」

男性「田舎者か? 旧市街から来たんじゃないだろうな?」

マナ「ちがいます! あの、親戚の叔父さんを訪ねて」

男性「そうだったのか」

マナ「は、はい。一応……」

男性「悪かった、ついつい疑ってしまって。第三新東京都市はネルフ職員の関係者しか住所登録ができないから」

マナ「いいんです、こちらこそ。立ち止まっててごめんなさい」 ペコ

男性「人の流れがある。急に立ち止まっては危ないよ? それじゃ」 スタスタ

マナ「ええと……」キョロキョロ

加持「よっ、迷子にならずに来れたじゃないか。上出来だ」ポン

マナ「あっ、もう、見てたんですか?」

加持「ぼーっとしてるところからしっかりな」

マナ「それなら声をかけてくれればいいのに……加持特別監査官ですね、私は戦自所属、霧島マナ隊員です。初対面ですよ? からかわないでください」

加持「わざわざ人の往来が多い玄関口を選ぶとはな」

マナ「す、すみません。地理に疎くて」

加持「トラベルマップはあらかじめ貰っているはずだろ? 何を見て来たんだ?」

マナ「それは……あ、あはは。碇、シンジくんのデータばかり読んでたので……」

加持「熱心になるのはかまわないが、その他もそれなりにな」

マナ「はい、頭に叩きこんでおきます」

加持「そうしてくれ。車を近くのパーキングに停めてある、行こうか」

マナ「はい」

【車内 運転中】

マナ「わぁ」キョロキョロ

加持「田舎者丸出しって感じだな」

マナ「高層ビルがこんなに立ち並んでいるの、はじめて見たので」

加持「中には武器そのものがはいっている兵装ビルが多い。ほら、あそこ見てみろ」

マナ「なにか書いてある……。ええと、LARGE CALIBER AUTOMATIC CANNON PLATFORM STRUCTURE」

加持「直訳すると自動砲塔。ああいった防衛設備が各所に点々としているのさ。対使徒用兵器としてね」

マナ「へぇ」

加持「少し観光でもしてくか。ジオフロントはまだ見てないんだろう?」

マナ「あの、とりあえず、私の住居にお願いします」

加持「それを聞いて安心したよ。遊びにきてるわけじゃない」

マナ「試したんですか。さっきから失礼じゃありません? 感じわるい」

加持「試す理由ならある。これから俺たちは情報を共有するパートナーになるからだ。もし身分がバレた場合はどうなる」

マナ「そ、そうですね。命、かかってますもんね」

加持「そうだ。最悪、失う危険性もありうる。それだけは忘れないでくれ」

マナ「わかりました」

加持「ここの治安について把握してるか?」

マナ「はい」

加持「聞こう」

マナ「……第三新東京都市は治外法権です。日本領地ですが管轄は政府ではなく国連軍。治安維持は国連軍とネルフ保安諜報部、そして政府の旧警察機構が担当しています」

加持「戦自の役割は?」

マナ「表向きは自衛の為の軍隊です。対使徒、並びに国外勢力への抑止力に当たります」

加持「そうだな。では、裏の顔は?」

マナ「使徒があらわれてからは、もっぱらネルフに対する牽制組織に成り下がっています。国内でこれほどの規模と資金を投入しているのを政府は怖れているからです」

加持「なにせ50兆円という投資で作られたからな、ここは」

マナ「ですので、その反面、委員会の国を動かせる資金力は魅力でもあります」

加持「いいだろう。合格点だ」

マナ「子供だと思ってバカにされてる気がします。基本ですよ」 プクー

加持「何事も基本が大事だって言うだろ? ま、これぐらい知らないようじゃここで車から降ろしてた。それだけの話さ」

マナ「……」

加持「付け加える形になるが、旧市街には入るなよ。今もなお急ピッチで進められてる建造途中、スラム街と言ったらわかりやすいか。治安が良くない。建物の崩壊の危険性もまだある」

マナ「はい、わかりました」

加持「マンションは、セカンドチルドレンと同じ棟にある一室だ。コンビニはローソンが近いから不自由はないだろう」

マナ「セカンドチルドレン? あの、任務は、サードチルドレン対象なのでは? なのに、住居はセカンドチルドレンの傍なんですか?」

加持「主目的はそうだが、接触を試みてほしい。セカンドとファーストは同年代の女の子だ」ゴソゴソ

マナ「了解」

加持「これが、同二名に関する追加資料だ」パサ

マナ「……」ペラ

加持「登校日はいつからか聞いてるか?」

マナ「ええと、明日から、ですよね」

加持「チルドレン達と顔合わせになる。第一印象は大事だぞ」

マナ「制服は?」

加持「用意してある。着いたらサイズを合わせとみるといい」

【ネルフ本部 執務室】

リツコ「お呼びでしょうか」

ユイ「第二発令所へのバックアップは順調?」

リツコ「作業工程は今の所問題ありません。元々あったOSを移すだけですわ。量が量ですので、転送速度の都合上、時間を要しますが……」

ユイ「結構です」

リツコ「お呼びしたのはこの件でしょうか?」

ユイ「いいえ。ひとつ確認をしたくて」

リツコ「なんでしょう?」

ユイ「――あなた、葛城一尉を殺せる?」

リツコ「み、ミサトを⁉︎」

ユイ「覚悟を聞きたいの」

リツコ「ミサトは、何の関係も……」

ユイ「関係ができてしまったら? あなたは非情な決断ができる? むしろ、進んで行える?」

リツコ「どういう意味でしょうか」

ユイ「あなたと、そして副司令は私についてくる選択をした。でもね、状況が変われば、簡単に覆してしまう。一時の判断が常に正しいとは限らないから」

リツコ「……」

ユイ「常に迷い、選んでいる。そうしてよかったのか、私という人間の行動を、考え方を部下の視点から観察している」

リツコ「……」

ユイ「夫は優秀な手駒を残してくれた。でも、あなた達自身が、私を見限らないとは限らない」

リツコ「楔を打つおつもりなのですか」

ユイ「赤木博士に、私がどういう存在でもいい。ただ、使えない駒はいらないの。あなたにとって利があるのならば、それだけで逆らえないはず」

リツコ「……」

ユイ「後戻りはできない。わかってるはずよ、超えてはいけない一線は、夫を死に追いやった時点で超えてしまっている」

リツコ「私に手を汚せと」

ユイ「彼女のマンションにプラスチック製爆弾を設置する手配をしなさい」

リツコ「……」ギリ

ユイ「保険としてよ。邪魔な存在になった時の。――起爆装置は、赤木博士。あなたに渡しましょう」

リツコ「心配には及びません。司令のご命令さえあれば、私の手で、ミサトを、葛城一尉を殺します」

ユイ「無二の親友を相手に、本当にスイッチを押せる? あなたが信用するに足る人物かどうか。言葉は必要ない」

リツコ「必ず実行いたします。ダミーのフェーズは次に移行しています。そちらに件については、どう処置いたしますか」

ユイ「残された資産は最大限活用しない手はない。フォースの少年を研究に参加させるから、綾波レイのデータを書き換えて」

リツコ「フォース? マルドゥックから選出されたのでしょうか」

ユイ「そうね……協力してくれているのだから教えます。フォースの正体は、第壱使徒」

リツコ「使徒⁉︎ 使徒をパイロットに⁉︎」

ユイ「マルドゥックは存在しない機関なのよ。これは夫から聞いて既に知っているはず。シンジのクラスメイトが候補者の集まりだと」

リツコ「はい」

ユイ「コアは既に用意されている。でも所詮は十四歳の子供。人間性は未成熟で、パイロットとしては見過ごさない浮き沈みがある。その点、ヒトではない彼ならば、シンクロ率を安定して、いえ、自在に操れる」

リツコ「シンクロ率を……そんな、ありえないわ」

ユイ「アダムより生まれしエヴァシリーズは可能。私たちが箸を使い食事をするより簡単にね」

リツコ「……」ゴクリ

ユイ「夫亡き今、見えない盤面の前にようやく座った。まだまだこれからよ」

【第三新東京都市立第壱中学校 体育授業中】

アスカ「ちょっと、ヒカリ、つめたっ!」

ヒカリ「あははっ、気持ちいい~」パシャパシャ

トウジ「女子はプールか。ええのぉ~涼しそうで」

男子生徒「なぁ、相田。惣流さんの写真まだかよ?」

ケンスケ「最近ガードが固くてさぁ」

男子生徒「そんなんじゃ困るよ。もうすぐファンクラブミーティングがあるんだから。景品がなくなっちまうだろ」

トウジ「ほんま、よーやるわ」

男子生徒「なんだぁ、鈴原。お主もしや綾波派閥の人間か」

トウジ「誰がお主やねん、アホ言うな。ワシはもっと人間味があっておしとやかな子がいいに決まっとるやろ」

男子生徒「腐れ外道が。惣流さん以上の女の子なんてこの世にいない。見てくれよ、これ。ファンクラブ会員一桁! どうだ? 本音はうらやましいだろ?」

トウジ「頭おかしいんちゃうかお前」

男子生徒「いい、いい、強がりだろ。単刀直入に言おう。陰ながら支える我々の同士に入らんかね?」

男子生徒B「おい、なにをくっちゃべってやがる。綾波さんこそ至高だろ、そうだよな。鈴原」

トウジ「な、なんや」

男子生徒「でたな」

男子生徒B「綾波さんは特別なんだよ。たしかに惣流さんは可愛い。顔面偏差値は70といっても過言ではないだろう。だが! 綾波さんが特別たるゆえんは美貌にあらず!」ガッツポーズ

ケンスケ「セミがうるさいなぁ」

トウジ「生態系が戻ってきとるらしいで」

男子生徒B「そんじょそこらのモブにはない、あの儚さにこそあるとなぜわからんのだ! ザ○とは違うのだよ! ザ○とは!」

男子生徒「この野郎! 赤は惣流さんのトレードマークだろうが! 何勝手に赤いモビルスーツを引き合いにだしてやがる!」

男子生徒B「自意識過剰なんだよ! 惣流派はよぉ!」

男子生徒「そうかい、ひさしぶりにキレちまったよ……屋上いこうか」

トウジ「センセは今日も学校にきとらんのか」

ケンスケ「見てないね」

男子生徒B「綾波さんに謝れ!」ググッ

男子生徒「貴様こそ惣流さんに土下座しろ!」ググッ

トウジ「それにしても、使徒はこんし、平和やのぉ」

ケンスケ「そうだなぁ」

男子生徒B「相田!」

ケンスケ「なんだ……ああっ⁉︎ ぼ、僕のビデオカメラが!」

男子生徒B「心配すんなってすぐ返すから」

ケンスケ「商売道具なんだから大切に扱えよ!」

男子生徒B「わかってるって。ごほん、いいか、惣流バカはよく聞け」

男子生徒「なんだと! 俺をバカにしてもいい! 惣流さんがバカと聞こえるような発言をするな! 綾波バカと言われたらお前だって嫌だろう!」

男子生徒B「む、それはたしかに。すまなかった」ペコ

トウジ「なんやこいつら」

男子生徒B「話を戻そう。相田のビデオカメラに昼休みを過ごす綾波さんの生態記録が収まっている」

男子生徒「それがどうした。躍動する惣流さんには敵わんぞ」

男子生徒B「まぁ話をちゃんと最後まで聞け。彼女はな、ずっと一人なんだよ。昼休みに誰かと一緒ににいるところなんて見たことがない」

男子生徒「……」

男子生徒B「かわいいのに。ずっとだぞ。男子、女子、いや、人間になんて興味がない、そう言わんばかりに窓の外を見つめている」

男子生徒「それが?」

男子生徒B「彼女は、きっと理解者を求めているんだよ。ああ、俺がそうなれたらどんなにいいか……!」

トウジ「うちのクラスって変わりモンばっかりやなぁ」

ケンスケ「そう言うなよ。大事なお客様なんだからさ」

男子生徒B「この真実がわかった時、俺は彼女に恋をした……。儚げな姿に惚れてしまったんだ。俺は思った、このことは自分だけの秘密にしようと、そう思っていたんだが……」

男子生徒C「俺が相談に乗ったってわけ。綾波さん、いいよなぁ」

トウジ「口軽すぎるやろ」

男子生徒「どこから湧いて出てきやがった!」

男子生徒D「なんだなんだ? 惣流さんの話か?」

ケンスケ「そういや、さっき職員室の前を通ったら転校生が来るらしいよ」

トウジ「転校生? この時期にか」

ケンスケ「ああ、なんでも叔父の所に来るとかなんとか」

トウジ「わざわざここに来んでも。酔狂なやつやのぉ」

ケンスケ「じ・つ・は。ここに写真があるんだよなぁ」ペラ

トウジ「おまっ! 体操服の中からださへんかったか⁉︎ 」

ケンスケ「細かい細かい。そっちの男子達は気にならないの?」

男子生徒「惣流さんじゃなきゃいやだ!」

男子生徒B「綾波さんだ!」

ケンスケ「あっそう。じゃあ、見なくていいわけだねぇ……おっと」パサ

トウジ「わざと落としよったなこいつ」

男子生徒「ん、こ、これは……!」

男子生徒B「か、かわいい……」

ケンスケ「乗るしかない。このビッグウェーブにってね」キラン

>>186
マヤでしょ
男を知らない体に無理やり乱暴して
奴隷にしなきゃね

【付属病院 205号室】

冬月「どうなっている」

医師「い、移植手術は問題ありませんでした」

冬月「なぜ目を覚まさん」

医師「今朝の診察で確認いたしましたところ、クランケ(患者)の瞳孔が拡大していました。今も変わらずです。キミ、ペンライトを」

看護師「はい」スッ

医師「注目していただきたいのは、動きです。通常、目の中心にある瞳孔は明るくなれば縮小して、暗くなれば拡大します」

冬月「ああ」

診察「睡眠時には、中程度縮小状態にあります。これは私も、あなたも、人間であれば誰しも同じです」スッ

冬月「ふむ、瞳孔が開ききったままに見えるが……」

医師「仰るとおりです。脈拍や心拍数も高く、クランケは覚醒状態にあります。“脳が起きてる”んです。様々な患者を見てきましたが、はじめてですよ。こんなこと」

冬月「これまでに似た症例がないというわけか?」

医師「そういうわけじゃありませんが。昨日までなんら異常が見受けられなかった少年という前提があります」

冬月「それで、いつ目が覚める?」

医師「先ほども申し上げましたが、本来であれば起きているはずなんです」

冬月「……」

医師「ひとつだけ、似た症状があります」

冬月「言ってみたまえ」

医師「薬物、つまり麻薬中毒患者です」

冬月「なんだと?」

医師「中でも強い覚醒剤を服用すると交感神経や自律神経に異常をきたします。ひどく興奮するので。このように瞳孔が開きっぱなしになったり、小さくなりにくかったりします」

冬月「それはないだろう。だが、異常な状態であるというのはわかった」

医師「その、碇ユイ司令には」

冬月「報告せねばな」

医師「重ねて申しあげますが、手術はうまくいっています! 我々に落ち度はありませんでした、どうか! 命だけは!」ガシ

冬月「心配しなくていい。タブリスの仕業というのは見当がついている。まったく、厄介なことをしてくれる」

医師「……よかった、死ななくて済んだ……」ホッ

冬月「安心するにはいささかはやいぞ。もし、容体が悪化したら命はないものと思え」

医師「そ、そんな」

冬月「絶対に死なせてはならない子供だ。二十四時間体制で治療を続けろ……なにか変化があればすぐに連絡をするように」

医師「はっ!」ビシッ

冬月「(問題は、サードチルドレンになにをしたか、だな……)」

>>189は名前が診察になってるところがあるのでレスしなおします

【付属病院 205号室】

冬月「どうなっているのだ」チラ

シンジ「……」シュコー ピッ ピッ ピッ

医師「い、移植手術は問題ありませんでした」

冬月「この呼吸器は?」

医師「大事をとって取りつけています。今朝の診察で確認いたしましたところ、クランケ(患者)の瞳孔が拡大していました。今も変わらずです。キミ、ペンライトを」

看護師「はい」スッ

医師「注目していただきたいのは、動きです。通常、目の中心にある瞳孔は明るくなれば縮小して、暗くなれば拡大します」カチ カチ

冬月「ああ」

医師「睡眠時には、中程度縮小状態にあります。これは私も、あなたも、人間であれば誰しも同じです」スッ

冬月「ふむ、瞳孔が開ききったままに見えるが……」

医師「仰るとおりです。脈拍や心拍数が高く、クランケは覚醒状態にあります。“脳が起きてる”んです。様々な患者を見てきましたが、はじめてですよ。こんなこと」

冬月「これまでに似た症例がないというわけか?」

医師「そういうわけじゃありませんが。昨日までなんら異常が見受けられなかった少年という前提があります」

冬月「それで、いつ目が覚める?」

医師「先ほども申し上げました通り、本来であれば起きているはずなんです」

冬月「わからないと言うのは許されんよ」

医師「……ひとつだけ、似た症状があります」

冬月「言ってみたまえ」

医師「薬物、つまり麻薬中毒患者です」

冬月「なんだと?」

医師「中でも強い覚醒剤を服用すると交感神経や自律神経に異常をきたします。ひどく興奮するので。このように瞳孔が開きっぱなしになったり、小さくなりにくかったりします」

冬月「それはないだろう。だが、異常な状態であるというのはわかった」

医師「その、碇ユイ司令には」

冬月「報告せねばな」

医師「重ねて申しあげますが、手術はうまくいっています! 我々に落ち度はありませんでした、どうか! 命だけは!」ガシ

冬月「心配しなくていい。タブリスの仕業だと調べがついている。まったく、厄介なことをしでかしてくれる」

医師「……よかった、死ななくて済んだ……」ホッ

冬月「安心するにはいささかはやいぞ。原因究明と意識回復に全力をもってあたれ。もし、容体が悪化したら命はないものと考えるんだな」

医師「そ、そんな」

冬月「貴様の命よりはるかに重い、絶対に死なせてはならない子供だ。二十四時間体制で観察を続けろ……なにか変化があればすぐに連絡をするように」

医師「はっ!」ビシッ

冬月「(問題は、サードチルドレンになにをしたか、だな……)」

【ネルフ本部 営倉】

ユイ「シンジに何をしたの?」

カヲル「……」

ユイ「素直に言わなければ苦痛を味わってもらうわよ。あなたにだって、痛覚はあるでしょう」

カヲル「なぜ、ボクだと?」

ユイ「昨日の深夜、微弱ではあるけどMAGIが信号をキャッチしていたわ。パターンは青。使徒によるものよ」

カヲル「騒ぎにならないなんて、防犯意識に欠けますね」

ユイ「勝手な振る舞いに関して目を瞑るつもりでいたから。エマージェンシーコールを解除してログを消去するよう事前に連絡してある」

カヲル「なるほど。裏工作がお好きなようだ」

ユイ「ただし、あの子は駄目よ。担当医による報告書を読んだわ。まさか、失明させた?」

カヲル「だとしても、起きない理由にならない。少し、挨拶しただけですよ」

ユイ「……」キッ

カヲル「司令でも冷静になれない時があるんですね。人は完璧である必要はありませんが、まず、最初にあなたの中における彼の重要性を理解されてますか」

ユイ「……」

カヲル「もしも、互いの目を利用してセカイを垣間見えるのなら、争いはなくなるのかな……」

ユイ「変化は自然の摂理」

カヲル「生じるにはゆっくりと時間をかける必要がある。変化とは経験を蓄積させてはっきりとあらわれるものだから。強制的な干渉によって引きおこそうとしているね?」

ユイ「人類に残されている時間は長くない。待っていられないのよ」

カヲル「そうしているのは、リリン、キミたちの方だよ。観測者から独立した視点では見ていられない」

ユイ「……」

カヲル「人類は自らを複雑な方法で楽しませることが可能な知能を持つ唯一の種だというのに」

ユイ「質問に答えなさい」

カヲル「人や場所、物というのは五感で知覚してはじめて、そこに在(あ)ると認識できる。当たり前にあるから気がつかないだけで」

ユイ「つまり」

カヲル「意識の繋がりがあるというのを碇シンジくんに教えただけさ」

ユイ「目がさめるのは――」

カヲル「彼が現実を辿ったら醒める。匂いを嗅いで、なにかを見るように、当たり前として意識の一部が認められた時に」

ユイ「はっきりしたわ。弄ったのは、脳ね」

カヲル「我慢が必要です。解放はそう遠くありませんよ」

ユイ「二度と手を出さないでちょうだい」

カヲル「これは驚いた。ボクが干渉してもあなたが干渉しても同じでは?」

ユイ「交わした盟約があるはずよ。裏切りは許されない」

カヲル「……」

ユイ「望みどおり、あなたに死を与えます」

【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「シンジくんなら浅間山で行われるポジトロンライフル小型化試験に協力してもらってるわ」

ミサト「ちょっとちょっと、聞いてないわよぉ」

リツコ「報告する義務ある? 管轄から外れてるでしょ」

ミサト「同居を解消した今でもパイロットは私の作戦に必要不可欠です。終了予定は? 赤木博士」

リツコ「長くて一週間ぐらいかしら」

ミサト「い、一週間⁉︎ そんなに⁉︎」

リツコ「新兵器開発に重要性がないとでも? 技術部の人間を敵にまわすわよ」

ミサト「う、う~ん、それは、そうだけどぉ。使徒が来たら」

リツコ「すぐに呼び戻す。そういえば、シンジくんに家政婦のアルバイトをさせる案件は聞いた?」

ミサト「アルバイトぉ?」

リツコ「母親は父親と違って多少母性があるようね。無関心を貫き通してきた人と違って」

ミサト「なんか、言い方にトゲがない?」

リツコ「気のせいよ。前司令からシンジくんを部外者として扱えと発令があった。意図するところは厳しい環境に置きたいからだと推測できるわ」

ミサト「だから、引き継いでやるって? ……掃除代行とか料理代行をやる職種よね。顔見知りだと、甘やかしてしまうだろうし、真逆の環境に招き入れてしまわない?」

リツコ「働きぶりに対して採点を緩くしたら処罰対象」

ミサト「おや、まぁ」

リツコ「彼には、合っていると思うわよ」

ミサト「たしかに、学業があるし、肉体労働に向いてるようにも見えないし……なにより日頃から似たようなことやってるもんね。金銭面の補助としていいアイデアかもしれない」

リツコ「ミサトが引き受け先に名乗りでてあげたら?」

ミサト「許可、でると思う?」

リツコ「でないでしょうね。あなた、隠れて甘やかすもの」

ミサト「アスカの栄養管理をしなくちゃいけないから、うちの台所事情考えるとほしいんだけどなぁ~」

リツコ「今の時点で有力なのは、マヤかしらね」

ミサト「伊吹二尉のとこ?」

リツコ「マヤは嫌がるでしょうね、しかし、命令であれば従うわ」

ミサト「嫌がるって、どして?」

リツコ「相手が、男だから」

ミサト「まだまだガキんちょよ。そんなに意識しなくてもいいんじゃない?」

リツコ「ミサトみたいにみんなズボラなわけじゃない」

ミサト「さりげなぁく人をディスるの、やめてくれない?」ヒクヒク

リツコ「あら、本音を言ってもいいの?」

ミサト「……?」

リツコ「さみしかったからでしょ、最初にあなたがシンジくんを受け入れようとしたのは」

ミサト「なにが言いたいわけ」

リツコ「不機嫌になると思ったからボカしたのよ。誰にだってつつかれたくない部分はあるものね」

ミサト「……」

リツコ「仕事が残ってる。お帰りのドアはあちら」チラ

ミサト「はいはい、お邪魔しました」

勘違いないようにレスしておきます
ヒロインに関するレスはネタバレになるので解答しません、内容に関しても>>187は自分ではありません

二次SSなんで原作の雰囲気というてもあくまでガワだけすよ
オリジナルでやってるわけじゃなくキャラクターとか設定とかは借り物なわけですから
再現を目標にすると仮定してどんなに頑張ってやっても二次のカテゴリからは抜け出せませんし限界があります
なんでそこは割り切って書いてます

思いきって性格をもっと動かしたりしてもいいんでしょうけどエヴァの良い部分と面白いと感じる部分を自分なりに書きたいて感じすかね

【夕方 ネルフ本部 執務室】

アスカ「ズルくない? 新司令が就任したらはやくも個人プレイを許可しちゃってさぁ」

レイ「……」

ミサト「リツコに協力をするのは、個人と違う。あの子だって頑張ってるわ」

アスカ「なんでそこまで気にかけるの?」

ミサト「ん?」

アスカ「嫉新司令が特別扱いするのはナナヒカリだからわかる。だけど、なにもミサトまで。肩入れしすぎじゃない?」

ミサト「見透かされてるのはこっちだったか」

アスカ「なにか理由あったりすんの」

ミサト「シンジくんは、似てるの。性格がじゃない」

アスカ「そんなの、見ればわかるわよ」

ミサト「父も、放任主義でいつもひとりぼっちだったから。私は、家庭を考えない父さんが大嫌いだった」

アスカ「シンジに自分を重ねて……?」

ミサト「不満がないわけじゃないし、人の顔色を伺う態度は、私は好きになれない。だけど、肩入れしてるのも事実ね」

アスカ「作戦司令なんだから、成績で扱ってよね……あたしだって命かけてるんだから」

ミサト「公私混同は厳禁、ね。わかってる。さ、入るわよ」コンコン

冬月「はいりたまえ」

ミサト「失礼いたします」カシュ

アスカ&レイ「……」スッ

ミサト「ファーストチルドレンとセカンドチルドレン両二名を連れてまいりました」

冬月「ごくろう、下がっていいぞ」

ミサト「はっ!」ビシッ

アスカ「ちょっと、帰っちゃうの?」こそ

ミサト「とって食われたりはしないわよ。いつも通りやんなさい」ポン

アスカ「はぁ……」

冬月「葛城一尉、どうした?」

ミサト「いえ! では、失礼いたします」コツコツ

冬月「パイロット、近くに来たまえ」

アスカ&レイ「はい」

冬月「知っているだろうが、司令が交代となった。前司令であるゲンドウ氏はアラスカで使徒に関する調査を開始している。新司令は彼の妻であり、ネルフに多大な貢献をしているユイ氏が就任した」

ユイ「どうも」ギシ

アスカ「(シンジのママねぇ)」

冬月「挨拶をせんか」

レイ「ファーストチルドレン、綾波レイです」

アスカ「セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーです。よろしくお願いします」

ユイ「もっと、くだけた態度でかまわない」

冬月「それでは、他に示しが」

ユイ「この子達はパイロットですわ。それにまだ中学生でもあります。上下関係については多少、容赦してあげましょう」

アスカ「馴れ合いは必要ありません。私は私のやるべきことをやる、それだけです」

ユイ「本分は、エヴァに乗るだけかしら」

アスカ「……?」

ユイ「あなたは中学生でもあります。エヴァに乗るばかりで他を疎かにしないように」

アスカ「あたしはこれでも大卒です! 資料読んでないの⁉︎」

冬月「口のききかたに――」

ユイ「いいんです、先生」スッ

アスカ「……」

ユイ「たくさん遊び、友達を作り、恋をしなさい。必要な経験よ」

アスカ「それも命令なら」

ユイ「斜に構えないで、おばさんのお節介よ。あなたの母親の古い友人として言っているだけ」

アスカ「ママのっ⁉︎ どういうこと? あたしのママを知ってるの⁉︎」

ユイ「よく知ってる、一緒に研究していたんだもの」

アスカ「それじゃあ、ママを軽蔑してるのね」

ユイ「どうして?」

アスカ「大人達は私を哀れんだわ! ママは頭がおかしくなったって! みんなが同情の視線を向けてきた!」

ユイ「そう思っていない。キョウコは頭の回転がはやく、聡明な女性よ」

アスカ「嘘よ! 甘い言葉を囁いて信じさせようして結局、パパもママを見捨てたわ!」

ユイ「あなたは見捨てなかったの?」

アスカ「見捨てるわけない! ママを辞めないでほしかっただけ!」

ユイ「そう、危ういバランスで成り立っているのね……そっちの子は、綾波レイね」

レイ「はい」

ユイ「身体の調子はどう?」

レイ「赤木博士に診てもらっています。問題ありません」

ユイ「二人ともよく聞きなさい。私は前司令の妻であると同時に、サードチルドレンの母親でもあります」

アスカ「……」

ユイ「しかし、血縁である、これは職務に一切関係ありません。やっかみをせず、エヴァパイロットとしての責務を果たしなさい」

アスカ「そうは言ってもシンジを特別扱いするんでしょ」

ユイ「立場は理解しています。えこひいき扱いしないと約束しましょう」

アスカ「……」

ユイ「口約束だけでは信用できない? 副司令、セカンドチルドレンのシンクロ率は?」

冬月「50前半だ」

ユイ「70にまで高めることができれば、私の権限で希望をひとつ叶えてあげます」

アスカ「もので釣ろうって魂胆?」

ユイ「良い成績を残せば褒美を与える、単純で悪い話ではないはずよ。なにもないよりは」

アスカ「いらない。私はプライドを持ってエヴァに乗ってるのよ、エースパイロットでいられればいい。それがなによりの褒美だわ」

ユイ「頑張って、誰に褒められたいの?」

アスカ「……」ピクッ

ユイ「母親はもういないのよ」

アスカ「やめて、聞きたくない」

ユイ「希望を思いついた時に言ってちょうだいね。ただし、台風と同じで最大瞬間風速だけ高めても意味はないから。レイも同じ条件でいいわよ」

冬月「そろそろ時間だ」

ユイ「ええ。挨拶は以上です、下がってよろしい」

アスカ&レイ「了解」

冬月「――じゃじゃ馬め、可愛げのないやつだ」

ユイ「あの年頃の子は思春期が重なっています。色々、繊細なんですよ」

冬月「レイはともかくとして、セカンドチルドレンの資料は事前に把握してあるのだろう」

ユイ「ここに」パサ

冬月「トラウマをつつくようなマネをしたな」

ユイ「赤木博士がまとめた書類は簡潔明瞭、幼少期にあった母親の自殺。その目撃が、その後の人格形成に強い影響を及ぼしたと記載されています」

冬月「ああ」

ユイ「精神の脆さと危うい均衡のバランス、どれほどの拒絶を見せるのか、控え目にでも確認をしたかったんです」

冬月「それで、ユイ君はどう見る」

ユイ「想像以上の反応ですね……」

冬月「ふむ」

ユイ「あの子の大人への強い憧れは、幼い自分に対する嫌悪感の裏返しでもあるのでしょう。最初はそれだけだった、しかし、いつしか嫌悪感は強迫観念へと変わり自身を追いつめはじめます」

冬月「それがプライドにひっかかっているのか」

ユイ「エヴァの場合は必ずしも良い数値に偏るとは限らない。A10神経で接続している以上、生身の人間では波があるからです。でも、あの子は不調な自分を許せない。なぜならば……」

冬月「亡き母親の影を追い求めているのだろう」

ユイ「恐ろしいのでしょう、必要とされなくなるのが。母親亡き後、残ったのは努力と虚栄心という拠り所。パイロット候補に選出された時、キョウコは笑顔を見せたそうです」

冬月「だが、パイロットに選ばれたからこそ、委員会に母親を死なせる決定をさせた。コアに必要だからな」

ユイ「キョウコがおかしくなってしまったのにも理由があります。どちらにせよ、あの子の運命です」

冬月「いっそ、母親がコアにいると打ち明けてしまったらどうだ?」

ユイ「面白い考えです。弐号機の覚醒、そして精神の安定化につながるでしょう。ですが、懸念がないわけでもありません」

冬月「なぜかね」

ユイ「先ほども申しあげましたが、エヴァはA10神経、つまり多幸感がシンクロの鍵です。数値を高めるには深く深く、一体感を求めコアに近づかなければなりません」

冬月「潜りすぎるというわけか」

ユイ「歯止めがきかなくなれば、取り込まれるのみ。つまり、数値が高くなるにつれてその危険深度に近づいていくのです」

冬月「諸刃の剣だな」

ユイ「L.C.Lには麻薬に似た成分が入っています。あくまでも補助的にですが、いずれ身体に害をなすことも」

冬月「判断はユイ君次第だ。候補はあやつにするのか?」

ユイ「私がほしいのはエースパイロットではない、承認欲求を満たすため、英雄になりたがっている子ではないのです」

【ネルフ本部 エスカレーター】

アスカ「嫌なやつ、嫌なやつ、嫌なやつ、嫌なやつ!」ズンズン

レイ「……」

アスカ「いちいち癪にさわる言い方しちゃってさ! ねぇ、そう思わな――」

レイ「なに?」

アスカ「あんたに言っても無駄よね」

レイ「……」

アスカ「はぁ、司令が変わるのはいいんだけど、なんでこうめんどくさいんだろ。シンジみたいに恵まれた環境だったらなぁ」

レイ「碇くんが?」

アスカ「だってそうでしょ。前の司令は性格に難ありだったけど、父親だし。次の司令も嫌なやつだけど、母親だし」

レイ「家庭事情は、一見だけじゃわからないわ」

アスカ「両親が健在だってだけで贅沢よ。嫌な思いをするとしても、親がいるからできる……私のママは、もういないのに」

レイ「私は、かわいそうだと思う」

アスカ「はっ、人形のあんたがどういう理由があってそう感じんの」

レイ「生き方を強いられているから。私と同じ」

アスカ「シンジが?」

レイ「選択肢をあたえられているようで、実際は誘導され、ひとつしか選ばせてもらえていない」

アスカ「なんの話?」

レイ「流れの話」

アスカ「わっけわかんない。それって神の選択肢みたいね」

レイ「神?」

アスカ「あー、選択肢をあたえられてるようで、ひとつしか選ばせてもらえてないってやつ。神様はね、そうなのよ」

レイ「……?」

アスカ「汝、主を愛せ。これが根底にあるの。だからどの選択肢を選んだとしても、詰まるところ神様は尊いって答えに誘導されてしまうってわけ」

レイ「そう」

アスカ「ま、シンジが迫られてる選択肢なんて夕飯の献立ぐらいの話ね」

暇つぶしにチルドレン組のみサンプル作ってみましたがこんな感じでいいすかね

画像
http://i.imgur.com/qiUkVV5.jpg

※解像度の都合上、画像は新劇場版を使用しています

IOS向けのアプリでこのサンプルは作っていて、同アプリですと簡易的にしか作れません。登場人物全員をサポートするのは難しいです。
パワーポイントでなら詳細に作れますがけっこう時間もらっちゃうようになると思いますよ

まぁ、ユイ達だけでよければこのアプリで作れるんでよければ以上ですかね

・チルドレン組(サンプルを改定)
http://i.imgur.com/llTGZDz.jpg

・上層部組
http://i.imgur.com/gybFRwU.jpg

足りない人物はオペレーター三人組(マコト、シゲル、マヤ)、中学校組(トウジ、ケンスケ、ヒカリ)、政府や戦時のモブ、マナやサクラといった連中になります
これらを一枚で収めようとすると様々な機関を含みますから、枠線を作らないと厳しいです

・詳細のサンプル例
http://i.imgur.com/E8z9uaf.jpg
記入のないテンプレートなので見なくて問題ありません

ざっくりですがこのように分けようかと思ってました
なんで作業量的に多くなってしまいます

※尚、これらの関係性は現時点です、後々変化します

【マンション 霧島マナ宅】

加持「荷物の確認はあらかた済んだ――」

マナ「……」キュッキュッ

加持「鏡に映る自分を見つめてどうした」

マナ「わたし、かわいいですか」

加持「ん……? ナルシズムの気でもあるのか」

マナ「あは、違います。技術、経験がない。武器にできるものが思いつかないからです」

加持「……」

マナ「さっき渡されたチルドレン二名のファイルの一ページに戦自からメッセージがありました」

加持「勝手に座らせてもらうよ。それで、なんて書いてあったんだ」ドサ

マナ「――“守るべきは秘密だ”って。作戦の目的を考えれば理解できます。正体がバレてしまえば終わりだから。特別監査官も秘密を隠して潜入しているんですよね」

加持「そうだ。しかし、キミとは違う、己の敵を知ることは、勝てない思う相手にさえ自分を守る術に繋がる。それが俺の仕事だ」

マナ「だから、私は、自分の武器になるものってなんだろう。そう考えた時に、この顔と身体だって思ったんです」

加持「なかなか、型破りな子みたいだな」

マナ「教えてください。この任務で、人を……殺した経験がありますか」

加持「ないとは言えないな」

マナ「どんな、気分ですか」

加持「別に、なにも」

マナ「……」

加持「未経験だが、思い切りの良さがあるのはわかった。余計な力を肩に入れすぎるとうまくいかなくなるぞ」

マナ「こわいんです……」ギュウ

加持「……」

マナ「うまくいかなかったらどうしようって! 私だけじゃない! ムサシとケイタの運命もかかってるのに!」

加持「欠点の先に才能を見いだせる時もある。……キミは、キミの戦場に足を踏み入れたんだ」

マナ「私の、戦場……」

加持「自分をすり減らす、孤独な戦いだ。神経も、心までもね。偽りの仮面を被り続けるといつか、目的を見失いそうになる時だってくるだろう」

マナ「そうでしょうか」

加持「殺しなんて誰にでもできるのさ」スッ カチャ

マナ「拳銃、携帯してるんですね」

加持「能力じゃない。慣れなんだよ、重要なのは」

マナ「……」

加持「まだキミは運がいい。どのチルドレンも癖はあるが、悪い子たちじゃないからな」

マナ「碇シンジくんと、よく話すんですか」

加持「たまに。人とのコミュニケーションに消極的なタイプの子でね、付かず離れずの距離感がちょうどいい」

マナ「付き合っている子はいないんですよね」

加持「そうだな、加えて異性に対する免疫も薄い。武器にしようとしているモノは、良い線いってるんじゃないか」

マナ「……」

加持「色仕掛けをするつもりなら、決して勘づかれるなよ。騙すつもりなら、最後まで騙しきれ。ウソを本当にする唯一の方法だ」

マナ「いいえ、方法はそれだけじゃありませんよ」

加持「……?」

マナ「バレても、離れられない。……私に、骨抜きにさせてしまえばいいんです」

加持「なるほど、将来末恐ろしい発送だな。有望だよ」

見落としてしまっている誤字があるんでレスしなおします

【マンション 霧島マナ宅】

加持「荷物の確認はあらかた済んだ――」

マナ「……」キュッキュッ

加持「鏡に映る自分を見つめてどうした」

マナ「わたし、かわいいですか」

加持「ん……? ナルシズムの気でもあるのか」

マナ「あは、違います。技術、経験がない。武器にできるものが思いつかないからです」

加持「……」

マナ「さっき渡されたチルドレン二名のファイルの一ページに戦自からメッセージがありました」

加持「勝手に座らせてもらうよ。それで、なんて書いてあったんだ」ドサ

マナ「――“守るべきは秘密だ”って。作戦の目的を考えれば理解できます。正体がバレてしまえば終わりだから。特別監査官も秘密を隠して潜入しているんですよね」

加持「しかし、キミとは違う、己の敵を知ることは、勝てないと思う相手にさえ自分を守る術に繋がる。それが俺の仕事だ」

マナ「だから、私は、自分の武器になるものってなんだろう。そう考えた時に、この顔と身体だって思ったんです」

加持「なかなか、型破りな子みたいだな」

マナ「教えてください。この任務で、人を……殺した経験がありますか」

加持「ないとは言えないな」

マナ「どんな、気分ですか」

加持「別に、なにも」

マナ「……」

加持「未経験だが、思い切りの良さを備えているのはわかった。余計な力を肩に入れすぎるとうまくいかなくなるぞ」

マナ「こわいんです……」ギュウ

加持「……」

マナ「うまくいかなかったらどうしようって! 私だけじゃない! ムサシとケイタの運命がかかってるのに!」

加持「欠点の先に才能を見いだせる時がある。……キミは、キミの戦場に足を踏み入れたんだ」

マナ「私の、戦場……」

加持「自分をすり減らす、孤独な戦いだ。神経、心までもね。偽りの仮面を被り続けるといつか、目的を見失いそうになる時だってくるだろう」

マナ「そうでしょうか」

加持「殺しなんて特別な要素は必要ない」スッ カチャ

マナ「拳銃、携帯してるんですね」

加持「能力じゃない。慣れなんだよ、重要なのは」

マナ「……」

加持「まだキミは運がいい。どのチルドレンも癖はあるが、悪い子たちじゃないからな」

マナ「碇シンジくんと、よく話すんですか」

加持「たまに。人とのコミュニケーションに消極的なタイプの子でね、付かず離れずの距離感がちょうどいいらしい」

マナ「付き合っている子、いないんですよね」

加持「加えて異性に対する免疫が薄い。武器にしようとしているモノは、良い線いってるんじゃないか」

マナ「……」

加持「色仕掛けをするつもりなら、決して勘づかれるなよ。騙すつもりなら、最後まで騙しきれ。ウソを本当にする唯一の方法だ」

マナ「いいえ、方法はそれだけじゃありませんよ」

加持「……?」

マナ「バレたとしても、離れられない。……私に、骨抜きにさせてしまえばいいんです」

加持「なるほど、末恐ろしい発想だな。有望だよ」

【付属病院 105号室】

看護師「サクラちゃん、点滴の時間だよ~」

サクラ「あ、はいはい」

看護師「はいは一回」

サクラ「はい、えへへ」

看護師「んもう、入院生活が長いからってすっかり慣れちゃって。針、嫌いじゃないの?」

サクラ「好きやないですけど。嫌わない方がええんちゃうん?」

看護師「めんどくさくなくていいけどねぇ。たまには嫌がってほしいっていうかぁ」

サクラ「微妙な乙女心てゆうやつやろか」

看護師「マセちゃって。はい、じゃあ手のひらに親指いれてグーにして」

サクラ「ん」ギュー

看護師「みんなサクラちゃんみたいに素直な子だったら助かるなぁ。そういえば、昨日の夜中に叫び声をあげてた中学生がいてね、男の子なんだけど」

サクラ「へぇ、外科の患者さんですか?」

看護師「超優遇。院長が巡回に行ってピリピリしてるもの。それで、その子が突然、気でも触れてしまったかのように叫びだしたんですって。私が当直じゃなくてよかったー」

サクラ「お姉さんは、小児科担当ちゃうんですか」

看護師「掛け持ちっていうの。というか、院内ですごい噂になってるのよ。人の口に戸は立てられないって言うでしょ?」

サクラ「戸に? 閉められるん?」

看護師「ぷっ、やだ。そうじゃなくて、噂話は止められないって意味。ちょっとチクっとするわね」プス

サクラ「はぁ、そうなんですか」

看護師「耳かしてごらん」スッ

サクラ「……?」

看護師「なんでも、ロボットのパイロットらしいのよ」コソ

サクラ「えぇっ⁉︎ 」

看護師「ねぇー! びっくりよねー!」

サクラ「あのっ! あのあのっ、患者さんの名前は⁉︎」

看護師「名前は、なんだったかなぁ」

サクラ「もしかして、碇シンジっていう名前じゃ……?」

看護師「碇? あー、そうそう、たしかそんな名前だったような」

サクラ「やっぱり! なんで⁉︎ なんで入院してるん⁉︎ 怪獣きてないんちゃうの⁉︎」

看護師「えっ、ちょ、ちょっと、サクラちゃ」

サクラ「叫び声てなに、怪我したん⁉︎ どこの病室⁉︎」

看護師「それはっと、いけないいけない。面会謝絶になってるから、知ったとしても、会えないわよ」

サクラ「そんな」

看護師「あっ、そっか。ロボットっていえばみんなのヒーローだもんね。パイロットだから会いたくなっちゃったのか」

サクラ「ちがっ……!」

看護師「サクラちゃんだって明後日に手術控えてるんだから。無理はできないの。回復したら、会いにいけるかもしれないから。いい? わかった?」

サクラ「……う、うん……」

看護師「点滴は三十分ね。終わったらいつも通りナースコールおして」

トウジ「入るで。……点滴しとったんか、ども、こんばんは」ペコ

看護師「こんばんは。今、点滴をはじめたところですから、サクラちゃんに問題はありませんよ」カチャカチャ

サクラ「兄ちゃん!」

トウジ「サクラ……? どないしたんや」

サクラ「シンジさんが、シンジさんがここの病院にいてるっ!!」

看護師「あっちゃぁ~」

サクラ「看護師のお姉さんがパイロットが入院してるって」

看護師「サクラちゃん、言いふらしちゃだめよ~」

トウジ「ほんまなんですか?」

看護師「ええ、パイロットが入院してくる頻度自体は少なくないですけど。今回は特別なケースらしくて」

トウジ「特別て?」

看護師「いっけない。私ったらまた。このクチが悪いのね、このクチが」ブツブツ

トウジ「あの、シンジは、ワシのクラスメートなんです。なにがあったのか、教えてもらえませんか」

看護師「クラスメイト? たしかに、同い年、なのかしら」

トウジ「間違いありまへん。そんなに、ひどい怪我なんですか?」

看護師「うーん、仲良いの?」

トウジ「ワシはそう思っとります」

看護師「そっかぁ、だったら、心配よねぇ。サクラちゃんが言って知られちゃったし、いや、でも……」

サクラ「お姉さん、兄ちゃんに言って口止めしたら? このままやと、シンジさんが心配で他の人に話ちゃうかも」

看護師「え、ええっ? そ、それは困るなぁ」

トウジ「教えてくれたら誰にも言いまへん。ワシは男や、約束を絶対にやぶらへんことを誓います」

看護師「だったら……。あのね、ちょっと、声潜めて話て」

トウジ「はい、なんでしょ」こそ

サクラ「なになに」

看護師「なんかのね、移植手術だったみたい」

トウジ「なんの?」

看護師「わかんない」

サクラ「だぁ」ガックシ

看護師「でもでも、昨日の深夜に叫び声をあげたあとに容体が急変しちゃって」

トウジ「叫び声ですか」

看護師「そぉなのよ! それはもう、うわああって大声で。数分間とまらなかったらしいの」

サクラ「数分間も……息、続くん?」

看護師「野暮なツッコミしないの。止まっては、叫んでの繰り返し。ホラーよね」

トウジ「なんで、叫んだりしてたんですか」

看護師「噂なんだけどね、手術が原因なんじゃないかって」

トウジ「失敗してたわけやないんでしょ?」

看護師「わかんない、テヘペロ」

サクラ「お姉さん! ふざけてるんちゃいます⁉︎」

看護師「だぁって、わかんないんだもん!」

トウジ「はぁ、それでシンジは」

看護師「今は昏睡状態で面会謝絶中」

サクラ「兄ちゃん、大丈夫やろか」

トウジ「サクラ、シンジなら大丈夫や。心配あらへん」

サクラ「でも……!」

トウジ「すこし会えませんか?」

看護師「むり! 無理無理無理無理! そんなの見つかったらクビが飛んじゃう!」

トウジ「そうでっか……」

看護師「心配なの、わかるけど。今は病院にまかせておいて。私たちは人を治すのが仕事なのよ」

リツコ「クビが物理的に飛ばないで済むように祈ったら?」

看護師「……? どちらさまですか、鈴原くん、サクラちゃん、知り合い?」

サクラ「いや、うち、知らない」

リツコ「この子が例の女の子ね」

トウジ「いつからそこに」

看護師「部外者なの? ちょっと、困りますよ。ここは小児科病棟です。ご家族でないのなら室内に」

リツコ「特務機関ネルフの者です。先ほどの噂話の一部始終は聞かせてもらいました」

看護師「ああ、ネルフの……ね、ネルフっ⁉︎」

リツコ「これが身分証」パサ

看護師「はわ、はわわっ、わた、わたし、いえ、違います、違うんです」

トウジ「いつから」

リツコ「ネルフ権限における保安条例の第十四項、パイロットに関する機密保護法を著しく侵害しています。この顛末は上司に報告させてもらうわよ」

看護師「ひっ、そ、そんな」

リツコ「久しぶりね、鈴原くん。ユニゾンの時の打ち上げ以来かしら」

トウジ「……ども」ペコ

サクラ「兄ちゃん、この人、誰?」

トウジ「ネルフの人や」

リツコ「シンジくんが父親に泣きついてまで救おうとした子は思ったより元気みたいね」

トウジ「ここの病院は、スタッフがすごいし、それに……」

リツコ「前の病院ではまともな設備がなかった。満足な受けられず、徐々に悪化していくのは仕方なかったと言える」

トウジ「はい」

リツコ「ついてきて」

トウジ「は、はい?」

リツコ「シンジくんに、会わせてあげる」

サクラ「ほ、ほんまですか⁉︎」

リツコ「そっちの子は……車椅子を使えば移動できる?」チラ

看護師「可能ではありますが、まだ点滴してるので、その、なるべく運動は。針がズレたら刺し直しに」

サクラ「行きたい! じゃなきゃ言いふらしたる!」

トウジ「おい、サクラ!」

サクラ「別にええやん! 心配やないの⁉︎」

トウジ「わ、ワシはお前を」

サクラ「そんな兄ちゃんなんか嫌いや!」

リツコ「人の身体は簡単に壊れるわけではないわ。ここは病院よ。すぐに医師が駆けつけられるでしょうしね」

サクラ「話わっかるぅ~!」

リツコ「車椅子の準備を」

看護師「持ってきたらわたしの件は、なくなったり……?」

リツコ「それとこれとは話が別。あなたの仕事でしょ」

看護師「ひ、ひぃ~ん」

ちと>>225はもう一度レスしなおします

リツコ「クビが物理的に飛ばないで済むように祈ったら?」

看護師「……? どちらさまですか、鈴原くん、サクラちゃん、知り合い?」

サクラ「いや、うち、知らない」

リツコ「この子が例の女の子ね」

トウジ「いつからそこに」

看護師「部外者なの? ちょっと、困りますよ。ここは小児科病棟です。関係者でないのなら室内に――」

リツコ「特務機関ネルフの者です。噂話の一部始終は聞かせてもらいました」

看護師「ああ、ネルフ……ね、ネルフっ⁉︎」

リツコ「こちらが身分証」パサ

看護師「はわ、はわわっ、わた、わたし、いえ、違います、違うんです」

リツコ「ネルフ権限における保安条例の第十四項、パイロットに関する機密保護法を著しく侵害しています。顛末は管轄にあたる上司に報告させてもらうわよ」

看護師「そ、そんな……ふひ、ふひひ、おわた……家で待ってるヒモ彼氏がいるのに」ヘナヘナ

サクラ「堪忍したってください。お姉ちゃん、悪くないよ。うちが無理言って……」

リツコ「団体、ひいては組織の規律問題なのよ。子供だって悪いことをすれば親に叱られる。違うとすれば、社会は親ほど我慢強くなく、簡単に切り捨てることね」

サクラ「それじゃ、冷たいやん」

リツコ「ふぅ、私はあくまで報告をするだけ。処分について裁定をくだすのは組織の管理者よ」

トウジ「ワシも謝りますから、今回だけは、お願いします」ペコ

リツコ「パイロットを守るための取り決めでもある。感情に左右され恩赦を与えてしまっていては改善できないわ……久しぶりね、鈴原くん。ユニゾンの時のホームパーティー以来かしら」

トウジ「え? あぁ、ども」ペコ

サクラ「兄ちゃん、この分からず屋の頭かっちかっちな人、誰なん?」

トウジ「こら、そないな言い方するもんやない。ネルフの人や」

リツコ「シンジくんが父親に泣きついてまで救おうとした子は思ったより元気みたいね」

トウジ「ここの病院は、スタッフがすごいし、それに……」

リツコ「前の病院ではまともな設備がなかった。満足な治療を受けられず、医師の判断も曖昧では徐々に悪化していくのは仕方なかったと言える」

トウジ「その通りです。せやから、転院できて感謝してます」

リツコ「ついてきて」

トウジ「は、はい?」

リツコ「シンジくんに、会わせてあげる」

サクラ「ほ、ほんまですか⁉︎」

リツコ「そっちの子は……車椅子を使えば移動できる?」チラ

看護師「可能ではありますが、まだ点滴してるので、その、なるべく運動は。針がズレたら刺し直しに」

サクラ「行きたい! じゃなきゃ言いふらしたる!」

トウジ「おい、サクラ!」

サクラ「別にええやん! 心配やないの⁉︎」

トウジ「ワシはお前が……」

サクラ「そんな兄ちゃんなんか嫌いや!」

リツコ「人の身体は簡単に壊れないわ。それに、ここは病院でもある。なにかあれば、すぐに医師が駆けつけられるでしょうしね」

サクラ「なんや、話わかるやん!」

リツコ「車椅子の準備を」

看護師「持ってきたらわたしの件は、なくなったり……?」

リツコ「それとこれとは話が別。クビになってない内は、患者の面倒を見るのが仕事でしょ」

看護師「ひぃ~ん」

【付属病院 205号室】

トウジ「シンジ、おい、しっかりせぇ!」

サクラ「なんで、なんでこんなになってるん⁉︎」

シンジ「……」シュー シュー ピッピッ

リツコ「カルテを」

看護師「ドイツ語ですけど、そもそも見方わかるんですか?」

リツコ「あら、こう見えて医師のはしくれよ。もっとも、専攻はは心理学ですけど。昨夜、急な叫び声をあげたという噂話は院内でかなり広まっているの?」

看護師「う、その」

リツコ「今さら隠したってしょうがないでしょう。正直に話した方が身のためよ」

看護師「はい……入居してる患者は治療方針は医師が決定をしますが、看護師は身の回りの介助、いわゆる補佐を担当しています。その際に……あの、日常会話の感覚でポロっと」

リツコ「必要でない部分まで喋ってしまってしまっていると。口は災いの元とも言うわよ」

看護師「うう、ごもっともです」

リツコ「幸か不幸か、問題は管理体制そのものにある。コンプライアンスを徹底させなければだめね」

看護師「あの、どういう……」

リツコ「個人ではなく全体の問題だということ。意識の低下が引き起こした結果なのよ。報告したとしても、あなたのクビで責任逃れできないように言い含めておくから」

看護師「職を失わなくて済むんですか⁉︎」

リツコ「ただし、あなたがバレたというきっかけで締めつけが厳しくなる。職場の同僚から良い目では見られなくなるわよ」

看護師「それは、自業自得な部分ありますから」

リツコ「これに懲りて反省しなさいね」

看護師「はい……お姉さま……素敵……」ウットリ

リツコ「ち、ちょっと、なんなの」タジ

トウジ「そないな話より、シンジはどうなってるんでっか⁉︎」

リツコ「ごほん、見ての通り。目を覚まさないのよ」

サクラ「ぐす、怪獣と戦って怪我したん? 来てなかったやん」

リツコ「別の要因。サクラちゃん、だったわね。シンジくんが好き?」

サクラ「へ?」

リツコ「幼く純粋な思いでなら、助けになるかもしれない」

トウジ「サクラ! ワシは許さへんぞ! もがっ⁉︎」

看護師「鈴原くん、お姉様が話してるのに邪魔しないで」ギュッ

トウジ「ふむーっ! ふもふもー!」ジタバタ

リツコ「どう? 彼を助けてあげたい?」

サクラ「うち、こんな身体やし、なにができるかわからへんけど、シンジさんはみんなを守ってくれてるヒーローなんやもん! なんだってするで!」

リツコ「なんでも? なんでもと言ったわね」

サクラ「うん! なんでも!」

トウジ「ぶはっ!」

看護師「あ、もう!」

トウジ「サクラは手術を控えとるやろが!」

リツコ「黙らせて」

看護師「がってん承知!」グイ

トウジ「ふむ⁉︎ ぬうーーっ!」

サクラ「女に二言はない! 自分を守ってくれた男のためなら命でもなんでもかけたるわぁ!」

リツコ「よく言ってくれました。実は、実験に協力してほしいの――」

集中力がないと誤字がやばい、たびたびすんませんがレスしなおします

【付属病院 205号室】

トウジ「シンジ、おい、しっかりせぇ!」

サクラ「なんで、なんでこんなになってるん⁉︎」

シンジ「……」シュー シュー ピッピッ

リツコ「カルテを」

看護師「ドイツ語ですけど、そもそも見方わかるんですか?」スッ

リツコ「あら、こう見えて医師のはしくれよ。もっとも、専攻は心理学。昨夜、急な叫び声をあげたという噂話は院内でかなり広まっているの?」

看護師「う、その」

リツコ「今さら隠したってしょうがないでしょう。正直に話した方が身のためよ」

看護師「はい……入居してる患者様の治療方針は医師が判断をして決定をされる一方で、看護師は、医師、患者、双方にとっての負担軽減。身の回りの介助、いわゆる補佐を担当しています」チラ

リツコ「怯えなくていいから、続けて」

看護師「その際に……先生方が話てる内容を聞き及ぶケースも多く、あの、日常会話の感覚でポロっと」

リツコ「必要でない部分まで喋ってしまっていると。口は災いの元とも言うけど、知らなかったの?」

看護師「うう、お恥ずかしい限りです」

リツコ「幸か不幸か、問題は管理体制そのものにある。コンプライアンスを徹底させなければだめね」

看護師「あの、どういう……」

リツコ「個人ではなく全体の懸念事項だということ。意識の低さが引き起こした結果なのよ。報告はするけど、クビで責任逃れできないように言い含めておくから」

看護師「職を失わなくて済むんですか⁉︎」

リツコ「あなたの為じゃないわ。それに、バレたというきっかけで締めつけが厳しくなる。職場の同僚たちから良い目で見られなくなるわよ」

看護師「それは、自業自得な部分ありますから」

リツコ「これに懲りて反省しなさいね」

看護師「はい……お姉さま……素敵……」ウットリ

リツコ「ち、ちょっと、なんなの」タジ

トウジ「そないな話より、シンジはどうなってるんでっか⁉︎」

リツコ「見ての通り。目を覚まさないのよ」

サクラ「グス、怪獣と戦って怪我したん? 来てなかったやん」

リツコ「別の要因。サクラちゃん、だったわね。シンジくんが好き?」

サクラ「へ?」

リツコ「幼く純粋な想いなら、助けになるかもしれない」

トウジ「サクラ! ワシは許さへんぞ! もがっ⁉︎」

看護師「鈴原くん、お姉様が話してるのに邪魔しないで」ギュッ

トウジ「ふむーっ! ふもふもー!」ジタバタ

リツコ「どう? 彼を助けてあげたい?」

サクラ「うち、こんな身体やし。なにができるかわからへんけど、シンジさんはみんなを守ってくれてるヒーローなんやもん! なんだってするで!」

リツコ「なんでも? なんでもと言ったわね」

サクラ「うん! なんでも!」

トウジ「ぶはっ!」ガバ

看護師「あ、もう!」

トウジ「サクラは手術を控えとるやろが!」

リツコ「黙らせて」

看護師「がってん承知!」グイ

サクラ「女に二言はない! 自分を守ってくれた男のためなら命でもなんでもかけたるわぁ!」

リツコ「よく言ってくれました。実験に協力してほしいの――」

【同時刻 ネルフ本部 営倉】

カヲル「思ったよりお早い来訪で。さっそくボクを殺しにきましたか」

ユイ「時期ではないわ。釈放よ」

カヲル「へぇ、やけにあっさりと引き下がるんですね。ボクはかまわないけど」スッ

ユイ「その前に何点か聞きせてもらえない? シンジと会ってみてどうだった。なにか話をしたの」

カヲル「いいえ。彼は寝ていましたから」

ユイ「寝ている最中に脳を弄った方法は?」

カヲル「本来、夢というのは記憶を整理する処理作業だけど、彼の手にはアダムがあったから」

ユイ「明快な返答ね。まるであらかじめ聞かれるとわかっていたかのよう」

カヲル「遅すぎるくらいだよ。確認するには。ようやく冷静になれたのかい?」

ユイ「最後の質問」

カヲル「(本題がきた)」

ユイ「元に戻す方法、つまり、目を覚ました後、以前のシンジに戻すにはどうしたらいい?」

カヲル「彼は彼だよ。ボクは真実を知識の泉として脳に刻んだに過ぎない。受け入れれば眼が覚める、そう伝えていたはず」

ユイ「今すぐに目を覚ます方法はないというわけね」

カヲル「残念ながら」

ユイ「――本当にそうかしら」

カヲル「……」

ユイ「例えば、一度潜れたあなたなら可能なんじゃない?」

カヲル「逆効果だよ。そんなことをすれば二度と目が覚めなくなってしまう。彼の魂は今、殻に閉じこもってしまっているからね」

ユイ「補助をつければどう?」

カヲル「補助、だって?」

ユイ「シンジを純粋に心配して、想いやる気持ちを持った子を潜らせれば」

カヲル「碇シンジくんが望むとも思えないけど」

ユイ「聞きたいのはそこではないのよ。できるのかできないのか」

カヲル「……」

ユイ「十三年前にリリスを使い作られた初号機からサルベージされた経験がある」

カヲル「なにを言いたいんだい?」

ユイ「再生、シンジの意識をサルベージします」

カヲル「そうか、そういうことか。リリン」

ユイ「ピースは用意した。協力、するわよね?」

カヲル「ボクになにをしろって?」

ユイ「パイプになってもらいます。用意した子をシンジの深層意識に送り届けるための」

カヲル「勝手だね。ヒトは生きながら罪を犯し続けてしまう。汚れながらしか生きていけないから」

ユイ「この世に光、あれ。泥に汚れても、這いながらでも太陽があれば進む道を照らしてくれる。シンジは私の、いいえ、人類にとってのさんさんと輝く太陽なの」

カヲル「個人の意思を棚上げにして、神輿を作る気なのか」

ユイ「神は、全知全能であるかもしれない。だけど、苦悩がないとは限らない」

カヲル「……」

ユイ「太古から伝わる神々と同じように、アダム、リリスが抱えていた頭痛の種」

カヲル「それは?」

ユイ「孤独感よ。とても、とっても、寂しがり屋さんだったの」

カヲル「……」

ユイ「無駄話をしていた間にそろそろ到着する頃合いだわ。ついてきて」

【シンジ 夢の中】

シンジ「ここは……?」

レイ(少女)「ここは、L.C.Lの海。生命の源の海の中。
A.Tフィールドを失った、自分の形を失った世界
どこまでが自分で、どこからが他人なのか分からない曖昧な世界」

シンジ「心の壁を……」

レイ「あなたの真実を辿る旅路。どこまでも自分で、どこにも自分がいなくなっている静寂な世界。全てがひとつになっているだけ。世界。そのものよ」

シンジ「こんな、なにもない殺風景な場所が真実だっていうの?」

レイ(少女)「私もあなたも。最初はひとつだったのよ。虚無からすべては始まった」

ミーンミンミミンミーン――……

シンジ「夏、暑い日」

ゲンドウ『今日は暑くなったな』

シンジ「父さん……?」

ユイ『あら、もう。あなたったら。アイスなんか口につけて。いくつになっても子供みたい』

シンジ「かあ、さん?」

シンジ(少年)『えへへ』

シンジ「これは僕だ。幼い頃の僕。覚えていない記憶」

ゲンドウ『このような地獄をこの子は生きていかねばならないのか』

ユイ『生きていればなんとかなるわ。私たちの息子なんだもの。未来を希望で溢れさせてくれる。おいで、シンジ』

シンジ(少年)『はーい』

ゲンドウ『俺は、不安だよ』

ユイ『大丈夫。子供はいつのまにか成長していく。あっという間よ』

シンジ「僕の記憶。優しかった父さんと母さんとの思い出。幻なんかじゃない、たしかにそこにあったセカイ」

レイ「他人の存在。親でさえ理解できない、心の壁が全ての人々の心を引き離すわ。他人への恐怖が始まるのよ。このように」

ゲンドウ『シンジ! エヴァに乗れ! でなければ帰れ!』

シンジ『嫌だ! こんなわけのわからないモノに乗れって言うの⁉︎』

レイ「楽しい思い出ばかりじゃない」

シンジ「……」

レイ(少女)「夢は壊れる」

ぬお、改行がおかしなことになってるんでレスしなおします

【シンジ 夢の中】

シンジ「ここは……?」

レイ(少女)「ここは、L.C.Lの海。生命の源の海の中。A.Tフィールドを失った、自分の形を失った世界。どこまでが自分で、どこからが他人なのか分からない曖昧な世界」

シンジ「心の壁を……」

レイ「あなたの真実を辿る旅路。どこまでも自分で、どこにも自分がいなくなっている静寂な世界。全てがひとつになっているだけ。世界、そのもの」

シンジ「こんな、なにもない殺風景な場所が真実だっていうの?」

レイ(少女)「私もあなたも。最初はひとつだったのよ。虚無からすべては始まった」

ミーンミンミミンミーン――……

シンジ「夏、暑い日」

ゲンドウ『今日は暑くなったな』

シンジ「父さん……?」

ユイ『あら、もう。あなたったら。アイスなんか口につけて。いくつになっても子供みたい』

シンジ「かあ、さん?」

シンジ(少年)『えへへ』

シンジ「これは僕だ。幼い頃の僕。覚えていない記憶」

ゲンドウ『このような地獄をこの子は生きていかねばならないのか』

ユイ『生きていればなんとかなるわ。私たちの息子なんだもの。未来を希望で溢れさせてくれる。おいで、シンジ』

シンジ(少年)『はーい』

ゲンドウ『俺は、不安だよ』

ユイ『大丈夫。子供はいつのまにか成長していく。あっという間よ』

シンジ「僕の記憶。優しかった父さんと母さんとの思い出。幻なんかじゃない、たしかにそこにあったセカイ」

レイ「他人の存在。親でさえ理解できない、心の壁が全ての人々の心を引き離すわ。他人への恐怖が始まるのよ。このように」

ゲンドウ『シンジ! エヴァに乗れ! でなければ帰れ!』

シンジ『嫌だ! こんなわけのわからないモノに乗れって言うの⁉︎』

レイ「楽しい思い出ばかりじゃない」

シンジ「……」

レイ(少女)「夢は壊れる」

シンジ「でも、父さんとはまたやり直せる」

レイ(少女)「あの人なら壊れたわ」

シンジ「なに言ってるんだよ」

レイ「死。生命の終わり」

シンジ「死……? 父さんが死んだって言うの?」

リツコ『私の前で夫婦の会話をしないでちょうだい!』パァン

ゲンドウ『うっ』ドサ

ユイ『まったく、最後まで人に迷惑をかけるんだから』パァン

ゲンドウ『』ベチャ

シンジ「これは……?」

レイ「碇くんが知らない。私たちが覗いていた視点の出来事」

シンジ「うそだ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ!!」

加持『シンジくん』

リツコ『シンジくん』

冬月『サードチルドレン』

シンジ「敵、テキ、てき、敵……! みんな嘘つきだ! 良い顔をして、何食わぬ顔をしてるだけだ!」

ユイ『シンジ……』

シンジ「畜生、チクショウ、ちくしょう……よくも、よくも僕を捨てたな。いきなりあらわれて母さんだなんて名乗って。殺してやる! 僕のカタキ、父さんの仇!」

レイ「……」

シンジ「お前もだ! 綾波さえいなければ父さんは僕を捨てなかったんだ! そうだ、綾波がいたから僕がいらなくなっちゃったんだ! お前さえ、お前さえいなければ!」ギュウ ググッ

レイ「ごほ、私の、首を、しめ……[ピーーー]……の?」

シンジ「初号機に乗る時だって、本当は父さんに嫌いだって言うつもりだったんだ! それなのに、綾波のせいで!」

レイ(少女)「向き合う勇気がなくて、自分から逃げ出したくせに」

シンジ「違う、ちがうンだ。ボクはそウジャなイ」

レイ(少女)「あなたは、本当になにも覚えていないの」

シンジ「ボクは……ッテタ。ぼクがニゲダシタ」

レイ「……」ドロドロ

シンジ「僕はニゲダシたんだ! 父さンとかあサんから!」

レイ(少女)「現実を受け止めて」

シンジ「うわああああああああああアアアッ!!!」

ここまでで以降は前スレと共通する箇所はあるものの、前スレでカヲルくんが死んだ展開とかもろもろが新しくなります
なので、リクのあった箇条書きまとめをします
今日は眠いんでまた後日~

まずは流れのおさらいです
1.シンジのPCにアンケートが届く
2.シンジが誘拐、1日間拉致される
3.犯人はユイだった(原作では初号機に取り込まれていたままだったのが当SSでは生きています)
4.シンジ、ゲンドウの前にユイが姿を現わす
5.ゲンドウは粛々と補完計画を進める(元になった補完計画と変わりはありません)

6.ユイは独自の考えを持っており、またゼーレを利用した計画があります、それはゲンドウとは相入れないものでした。よってユイはゲンドウのネルフを乗っ取ろうと機会を伺います
7.ゲンドウを孤立させるには冬月、リツコがキーだとユイは目星をつけていました。
※またこっそりとシンジを拉致しアダムをシンジの掌に移植します(原作ではゲンドウの手のひらにありました)
8.加持を使い冬月とリツコを反目(裏切り)させることに成功します
※同時進行的に綾波の中でもう一人の自分が目覚めます
9.ゲンドウ死亡(前スレだとシンジの目の前で死んでいますが、シンジがいない状況で今スレではリツコによって致命傷を与えられユイにトドメをさされています)

ここからユイが新司令です
ゼーレの後ろ盾を元に組織内部図の掌握にかかります

10.ゲンドウが殺された場面を直に見せつけられ大人達を信用できず、またいつも通りになれない自分に苛立つシンジ(前スレのみの流れです)
10.渚カヲルがゼーレ、ユイの思惑の元、フォースチルドレンに選出(原作ではトウジです)
11.晴天の霹靂とも言える司令交代に日本政府、および戦自がかなり訝しみ、スパイとして見繕ったマナを送りこみます(日本政府は金の無心をしたいというのが本音ですが、単純にネルフの戦力にびびってる保守派の集まりです。戦自は実行組織)
12.ユイは戦自を釣り上げるためにネルフを停電状態にして加持に偽のデータを渡します(前スレのみの流れです)
12.カヲルはシンジ(あわよくばカヲルにも)にとってなにが一番いいかを考えます。望みである魂の解放と同時に自らの死によってアダムの魂をシンジに還元します(前スレのみの流れです)

ざっくりとですがこれまでの流れになります
前スレとの違いは
・シンジは現在昏睡中
・シンジの目の前でゲンドウが殺されていない
・ゲンドウの死を綾波によって強制的に知らせれてしまっている最中で、受け入れられないループが続き目が覚めません

レスしてる人もいますが今後の展開としては「前スレに追いついたから続き」というわけではありません
前スレとは違う流れになるのでここまででリクのあった箇条書きをしようと判断しました
わかりづらいかもしれませんが以上です

小説系サイトではなくここは掲示板なので感想返しやリクするにも項目別に別れてませんからね
必要ない、淡々と投稿してほしいと思ってる方は「続きが読みたいだけなのに」と強制的にやりとりを見せられている状況だと思います

一方で、○○が理解できない、この流れはおかしいというのもどうしても出てくると思います
なんでそういう質問やリクに対しては応えてこうかなと思ってる感じです

個人が持っている定規はそれぞれ長さが違うので、目に余るようでしたら読むのをやめる要因になるとも思いますが、この掲示板の仕様だと思ってある程度は理解していただきますようお願いします

【ネルフ本部 第六層】

サクラ「これ、くすぐったいわぁ。なんのテープ?」もぞもぞ

リツコ「脳波を受信する機械」ペタペタ

サクラ「じゅしん? なんかすごいね」

リツコ「これを貼れば終わり。司令、仰られていた準備が整いました」

ユイ「ご苦労様」

カヲル「……」

ユイ「なにか他に入り用?」

カヲル「ボクから確認したいことがある」

ユイ「なに?」

カヲル「ヒトは、夢を見ていると自覚していたとしても嫌な現実に立ち向かう術を見つけるには時間がかかる。リリンたちはそういう夢を悪夢、そう呼んでるね」

ユイ「ええ」

カヲル「あなたがとろうとしている行動は、碇シンジくんのためだと一定の理解はできる。でも、どうしてそこまで生き急がなければいけない」

ユイ「起きてしまった結果を嘆いていても前に進めないのよ。どんなに頑張ったって過去は変えられないでしょ」

カヲル「なにもかも決められたレールの上で生きるのが、本当に彼の為になると?」

ユイ「そうよ」

カヲル「意思は誰しもに尊重されるべきだ。叶えた願いに対して自覚していないのは、責任を放棄しているのと同義だからね」

ユイ「既に一線を超えてしまっている。シンジの手にあるアダム、夫の死。私はあの人から繋いだバトンを持ち走らなければならない。どんな方法を使っても。ゴールテープを切るまで止まらない」

カヲル「愚かだね。愚かで、悲しい生き物だ」

リツコ「……」

ユイ「そうね、私もそう思う。人は、寂しさと怒りを処理する方法を間違えるだけで簡単に崩れてしまう」

カヲル「自分の夫、息子、家族。幾千、幾万にのぼる無関係のニンゲンを巻き込んでいる気分は?」

ユイ「……」

カヲル「孤独。そうじゃないのかな」

ユイ「いつシンジの脳内に?」

カヲル「ボクが彼女とシンジくんをリンクさせる」スタスタ

サクラ「……? こんにちは」

カヲル「ボクと手をつないでもらっていいかい?」

サクラ「手?」

カヲル「そう、キミとボクとシンジくんで手を繋ぐ。シンジくんの目が覚めますようにって真剣に願ってほしいんだ」

サクラ「願う? お願いしたらええの?」

カヲル「心の底からだよ? 他は一切考えない。純粋に、それだけを願うんだ」スッ

サクラ「うーん、よくわからへんけど、やってみる!」

シンジ「……」すぅーすぅー

サクラ「(シンジさん、お願い起きて……!)」

カヲル「……」

サクラ「(シンジさん、シンジさん、シンジさん、シンジさん)」

カヲル「もっと。口にだしていいよ」

サクラ「わかった! シンジさん! もういい加減起きて!」

【シンジ 夢の中】

サクラ「シンジ、さ……ん」

シンジ「いやだ、いやだ」ギュウ

サクラ「シンジさんってばぁっ! もぉ! 碇さん!」

シンジ「……?」

サクラ「こんな所で体育座りなんかして、ほんま堪忍してほしいわ!」

シンジ「誰……」

サクラ「立ってください! そろそろ起きる時間ですよ!」

シンジ「……」

サクラ「しっかりしないと! 自分の足ついてはるんでしょ⁉︎」グィ

シンジ「いやだ、父さんはもういないんだ。戻って僕になにをしろっていうの」

サクラ「私を救ってくれました!」

シンジ「キミを……? どこかで会ったことがある?」

サクラ「気づいてへんのですか⁉︎ 私ですよ! 私!」

シンジ「えっと」

サクラ「鈴原サクラです! ほら、兄ちゃんのジャージ!」

シンジ「サクラちゃん⁉︎ そんな、どう見たって僕と同じ歳ぐらいじゃないか! サクラちゃんはまだ小学生のはず」

サクラ「あれ、ほんまや。おっきくなってる」キョロキョロ

シンジ「なんで」

サクラ「うーん、あっ! もしかしたら碇さんの夢の中やからとか⁉︎」

シンジ「そ、そういうもの?」

サクラ「わからへんことは気にしたってきっとわかりません。なんかそれはわかる気がします」

シンジ「どうしてここに」

サクラ「碇さんの目を覚ますために決まっとるやないかぁ」

シンジ「帰ってよ、僕は、目を覚ましたくないんだ」

サクラ「どうしてですか」

シンジ「みんな、みんなウソつきなんだ。みんな」

サクラ「……」

シンジ「父さんを殺したのに。なんでそんな人たちのために戦わなくちゃいけないのか。僕にはわからない」

サクラ「みんな、それぞれ都合があるんですよ」

シンジ「人を[ピーーー]理由になんかならない! 正当化してるだけだ!」

サクラ「そうかもしれまへん。せやけど、シンジさんは、お父さんになにかしてあげました?」

シンジ「これからだったんだ! 父さんと仲直りして、認められたかったのに!」

サクラ「シンジさんだって、自分の欲求のために父親を利用しようとしてるやないですか」

シンジ「違う!」

サクラ「本当に、お父さんが好きやったんですか?」

シンジ「好き……」

サクラ「認められたいのは、自分のためやないんですか?」

シンジ「僕は違うんだ! 僕は」

サクラ「なにが違うんですか。父親もそうやってまわりを利用してきたんです。ゲンドウは綺麗な人間でしたか?」

シンジ「父さんは、僕の」

サクラ「父親ですね。ですけど、まわりの人にとっては赤の他人なんです」

シンジ「母さんは違う。母さんにとって父さんは夫だから」

サクラ「夫婦の問題です。すり替えないでください。シンジさんは、お父さんが好きやったですか?」

シンジ「好きじゃなかった」

サクラ「なんでですか」

シンジ「僕を見てくれなかったから。歩みよろうとしても許してくれなかった」

サクラ「受け入れて認めてほしかった」

シンジ「父親らしいことをしてほしかった」

サクラ「自分のイメージを押しつけはりたいんや」

シンジ「なんなんだよ……。どうしてサクラちゃんまでそんなに僕を責めるの⁉︎ 僕は優しくしてほしいんだ!」

サクラ「みんな、矛盾を抱えて生きてます。人は不完全なもんやから。補い合って生きてるんです」

シンジ「……」

サクラ「優しくされたい。碇さんはそれだけの世界を望むんですか。認められたいという願いは叶えられませんよ」

シンジ「どうして」

サクラ「無条件の優しさは認めているとはならないからです」

シンジ「……」

サクラ「気持ち悪ないですか? そんなセカイ。悪いことをしても、頑張ってなくても、受け入られるなんて。私やったら嫌やわ。そんなの自分が必要とされとる気がせぇへんもん」

シンジ「……」

サクラ「碇さんが変えられなかったのは、お父さんを救えなかったのは、なんの力も持たない子供やからです。ホントは気づいてるんでしょう?」

シンジ「僕には、エヴァパイロットしての価値しかない」

サクラ「そうですね、それしか力がない。すぐに力がほしい」

シンジ「階段はいきなり十段にはいけない」

アスカ『やっとわかったの⁉︎ バカシンジ!」

シンジ「わかってたんだ。地道にやるしかないって。でも、その間にも状況は変わっていく」

アスカ『だったらがむしゃらにやってみなさいよ! やる前から諦めるつもり⁉︎』

シンジ「こわいんだ。自分の無力さと向き合うのが。なにもできない歯がゆい思いをしたくない」

サクラ「はい、これ」スッ

シンジ「これは……?」

サクラ「兄ちゃんの野球道具です。グローブよく使いこまれてるでしょ」

シンジ「うん」

サクラ「球児は、ううん、本気でスポーツをする人はみんな頑張ってます。自分の限界を、乗り越えたら結果が待っていると知っているからです。碇さんはやりまへん? スポーツ」

シンジ「僕は、そういうのは……」

サクラ「苦手そうですもんね」

シンジ「まぁ、その」

サクラ「根性! って言葉があります。逃げてるだけじゃなにも変わりまへんよ」

アスカ『あんたは、約束を破らない男になるんじゃなかったの』

シンジ「……」

サクラ「うじうじ悩んで、塞ぎこんでる間にも状況は変わっています」

シンジ「……」

サクラ「碇さんは、大切な人を、みんな見捨てるんですか。エヴァパイロットっていう力があるのに」

シンジ「……」

サクラ「使徒がくれば、みんな死にますよ。お父さんだけじゃなくなるんです。やれるのなら試さへんのですか」

シンジ「……」

サクラ「私は死にたくありまへん。ちゃんと最後まで面倒を見てください。それが、碇さんの責任です」

シンジ「僕に、戦えって」

サクラ「そうです! 使徒がいなくなっても、来ていなくても誰かと戦わなくちゃあかんのです!」

シンジ「……」

レイ「許せないのならそれでもいい。選ぶのはあなた」

シンジ「僕が、選ぶ」

サクラ「意思は誰でも選ぶことのできる。自由なものなんです。雨にも風にも負けず、貫き通す信念を、保てる強さを持ってください」

シンジ「僕に、できるかな」

アスカ『やるの! できるかできないかじゃない!』

シンジ「諦めなくちゃいけなくなったら……」

ゲンドウ『そうなったら、その時にでも考えろ』

シンジ「父さん……」

ゲンドウ『シンジ。前を向け』

シンジ「僕には」

ゲンドウ『限界は己で決めるものではない。お前がどうありたいかだ』

シンジ「……」

ゲンドウ『これまですまなかった。お前がほしいのは謝罪か?」

シンジ「違うよ」

ゲンドウ『俺に認めてほしいのならば、こうしていては得られないぞ』

シンジ「もう一度、頑張る……」

ゲンドウ『現実は時に残酷だ。折れそうになっても歯を食いしばって耐えろ。いくつかは報われる時がくると信じられれば無駄な瞬間などない』

シンジ「そう、なのかな」

ゲンドウ『無駄になってしまうのは、諦めた瞬間に訪れる。お前はお前の人生を歩め』

サクラ「みんな待ってますよ。まわりにちゃんと目を向けてみてください」

トウジ『シンジ!」

ケンスケ『碇!』

アスカ『お昼ご飯まだぁ⁉︎』

ミサト『シンジくん、あなたは人に褒められる立派なことをしたのよ……』

シンジ「トウジ、ケンスケ、アスカ、ミサトさん」

レイ「……」

シンジ「綾波、レイ」

カヲル「希望。これが碇シンジくんの宿す光か」

シンジ「キミは……?」

サクラ「ほぉら、目を覚ます時間です!」

トウジ&ケンスケ&アスカ&ミサト『起きて!』

【ネルフ本部 第六層】

シンジ「……」パチ

ユイ「シンジ!」ガタッ

サクラ「あ、おはようさんです」

ユイ「シンジ、よかった……」ギュウ

シンジ「……ただ、会いたかっただけなんだ、もう一度……」

リツコ「……」

カヲル「複雑な表情を浮かべているね」

リツコ「終わったのなら帰ったら?」

カヲル「生憎と還る場所がないんだ」

リツコ「そう」

カヲル「あなたはどうするつもりなんだい」

リツコ「これから検査よ」

カヲル「聞かれている意味がわかっててはぐらかしてるね」

リツコ「答える義理はないわ」

カヲル「人を分析するのは得意だとしても、自分を客観視できるとは限らない」

リツコ「不愉快だわ」

カヲル「誰にだって踏み入れられたくない領域がある。どうやらボクは土足で踏み込もうとしているのかな」

リツコ「……」

カヲル「それじゃ、僕はこれで」スタスタ

ユイ「赤木博士。至急、シンジのメディカルチェックを」

リツコ「承知しました。サクラちゃん、手を離していいわよ」

サクラ「へ? 結局なんやったんですか? ずっと握ってるだけやったですけど」

リツコ「なにを行ったか、方法を知っている人はどこかへ行ってしまったわ」

ユイ「今はタブリスよりシンジです」

リツコ「はい。サクラちゃんも検査は一通り受けてもらうわね」

サクラ「はぁ」

リツコ「心配ないわ。終わったら病院で待ってるお兄さんに連絡してあげるから」

シンジ「サクラ……ちゃん」

サクラ「……? どないしたん?」

シンジ「手術はどう、だった」

サクラ「それなら、明後日ですよ。先生は心配あらへんて。すこし後遺症は残るかもしへんけど」

ユイ「シンジ、無理して喋らなくていいのよ」

シンジ「父さんは……」

ユイ「あの人なら、アラスカに調査に行った。長期滞在になる予定よ」

リツコ「……」

シンジ「ちょ、うさ?」

ユイ「ええ。今は休みなさい」

【付属病院 ロビー】

トウジ「サクラ! 大丈夫やったか? 変なことされてないか? 心配ない言うとったけどワシは心配で心配で」

サクラ「えへへ、なんもないて。シンジさん、目が覚めたよ!」

トウジ「……! そうか! それで、どこに」

サクラ「検査があるからって、MRIにかかってる。うちもシンジさん終わったらはいる」

トウジ「シンジは、なんで目が覚めへんかったんや」

サクラ「わかんない。手を握ってただけやったし」

トウジ「……さよか」

リツコ「妹さん大手柄だったわよ。今後の医療費、及び経過はネルフが全負担します」

トウジ「おお! ほんまでっか⁉︎」

リツコ「もともとそういう約束だったけど。強固なモノとして確約する。誓約書は必要?」

トウジ「いえっ! そんな」

リツコ「小児科病棟から特別室への移動を命じられています。一泊数十万の部屋にね」

サクラ「えぇ?」

トウジ「おま、なにしてきたんや」

リツコ「司令の指示。あなた達は甘えておきなさい。遠慮をするものではないわ」

トウジ「遠慮なんてするかいな! ワシは、ありがたいですし!」

サクラ「もう。どんな部屋なんやろか」

トウジ「色々設備が凄いんちゃうか?」

サクラ「うちは普通でもかまへんのに」

トウジ「せっかくなんやからご好意はいただいとけ! 遠慮なんかしたらあかんぞ!」

サクラ「いやしいなぁ」

トウジ「なんやと⁉︎ たくましいと言わんかい! こんなチャンスめったにあらへんのやからな!」

リツコ「シンジくんに会ってく?」

サクラ「兄ちゃん、そうしなよ。一緒にシンジさんとこ行こう?」

トウジ「せやけど、まだ体調悪いやないんでっか?」

リツコ「問題ないわよ。ただ、寝ていただけなんだから」

トウジ「はぁ」

レイ「赤木博士」スッ

リツコ「レイ……? あなた、どうしてここに」

レイ「碇くんのお見舞いに来ました」

リツコ「お見舞い? あなたが?」

トウジ「なんや、綾波もシンジが入院しとるて知っとたんかいな。教えてくれればよかったのに、冷たいのぉ」

リツコ「(レイが? なぜ知っているの……?)」

レイ「具合、どうでしょうか」

リツコ「先ほど目を覚ましたところ。あなたもついていらっしゃい」

サクラ「兄ちゃん、この人はだれ?」

トウジ「これや、これ」ピッ

サクラ「小指?」

トウジ「センセのハーレムの中の一人……いだ! いだだだ! 小指を噛むな!」

サクラ「むー!」

トウジ「たく、おー痛っ、腹減ったんか」

サクラ「ふんっ!」プイッ

【付属病院 205号室】

リツコ「シンジくん。入るわよ」コンコン

シンジ「どうぞ」ムクッ

トウジ「よっ!」

シンジ「トウジ?」

サクラ「ちょっと、はやく入って。後ろつかとんねん」

トウジ「せかすな! 今入るわ」

シンジ「サクラちゃんも」

レイ「……」スッ

シンジ「綾波……」

リツコ「私は先にカルテを確認してくるから。好きに喋ってなさい。サクラちゃんは検査がある、もう少ししたら呼ばれると思うけど」クル

トウジ「大丈夫か? 寝て目が覚めへんかったらしいやないか」

シンジ「平気だよ。心配かけちゃったみたいだね」

トウジ「なにがあったか話すことはできんのか?」

シンジ「うん……」

トウジ「水臭いやっちゃのー。そんなん言わなわからんやろが」

シンジ「機密に触れてたら迷惑がかかるし、言っても理解できないと思うから」

トウジ「ふぅー」

シンジ「綾波」

レイ「なに?」

シンジ「聞きたいことがあるんだ。夢の中の出来事を知ってるの?」

レイ「ええ」

シンジ「……! やっぱり、あれは全部夢じゃなかったの⁉︎ 綾波は夢にいたの⁉︎」

トウジ「な、なんや」

シンジ「少し、二人で話せないかな」

レイ「かまわないわ」

トウジ「いったい……」

サクラ「むー」プクー

シンジ「ごめん。トウジは少しここで待ってて」

レイ「監視カメラがついてないところへ。屋上に行きましょう」

シンジ「わかったよ」

サクラ「兄ちゃん! なにぼーっとしてんの⁉︎」

トウジ「は?」

サクラ「シンジさんまだ起きたばっかりやないの! それでも友達なん⁉︎」

トウジ「いや、でも、案外平気そうやし」

サクラ「このグズ!」

トウジ「な、なんやとぉ⁉︎ シンジが二人で行くのになんで……はっ! ま、まさか、お前」

シンジ「……?」

トウジ「あかんぞ! まだはやいやろ!」

サクラ「な、なにを勘違いしてんの⁉︎」ボッ

トウジ「なにをて! なにを顔赤くしとんねん! マセガキが、小学生から色気づくなや!」

サクラ「なんやて⁉︎ 女は男より精神年齢上なんやもん!」

トウジ「アホか!」

サクラ「アホとはなんやねん! 女は度量がある生き物なんや! 母ちゃんもそう言うとったやろ!」

トウジ「変な影響ばっかり受けよって……!」

サクラ「兄ちゃんだって男はっていうこだわりは父ちゃんからやないか!」

トウジ「やかましい! いかがわしい知識をつける前に怪我を治さんかい! ワシは許さへんぞ!」

レイ「碇くん、行きましょう」

シンジ「……? ああ、うん」

【付属病院 屋上】

レイ「なにか、頭に浮かんだ?」

シンジ「いや」

レイ「どうして、私に聞いてきたの」

シンジ「夢なのに、はっきりと覚えてるんだ。まるで現実みたいに。それに、今なら、エヴァがなんなのか。使徒がどうしてくるのかわかる気がする」

レイ「そう」

シンジ「綾波は、なんで僕の夢にいたって言ったの? 使徒、天使の名を持つシ者。綾波はなにか知ってるの?」

レイ「碇くんが知っているのと同じ」

シンジ「僕がなにを知っているっていうのさ⁉︎」

レイ「この世界の理(ことわり)。ヒトがどこに進むのか」

シンジ「……」

レイ「向き合えたわけではないのね」

シンジ「父さんは、本当にアラスカにいるの?」

レイ「……」

シンジ「答え、られないんだね。そうさせるのは、僕なのか。教えてほしいんだ。母さんはなにをしようとしてるの?」

レイ「人類の補完。生命をひとつにしようとしている」

シンジ「生命を、ひとつに?」

レイ「……」

シンジ「違う。僕は本当はわかってる。わからないのはまだ逃げてるからだ。そうだよね、綾波」

レイ「どうすべきか選ぶのはあなた」

シンジ「僕は……僕は……」ギュウ

レイ「……」

シンジ「まだ、エヴァに乗るよ。綾波に協力してほしい」

レイ「私に……?」

シンジ「僕を助けてほしいんだ。僕は弱いから。力だってない。綾波が必要なんだ」ギュウ

レイ「な、なにを言うのよ」ボッ

シンジ「頼りないままじゃいけないのはわかってる。僕ひとりじゃどうしようもないんだ、だから……!」

レイ「て、手を離して」

シンジ「あっ、ご、ごめん! その、勢いでつい!」

レイ「いい」

シンジ「あの、だめ、かな」

レイ「なにをしたいの?」

シンジ「母さんがなにを考えているのか知りたい。リツコさん、加持さん、副司令たちが関係しているよね」

レイ「詮索は命令違反になる」

シンジ「そうかもしれない。だけど、知りたいんだ」

レイ「……」コクリ

シンジ「助かるよ、綾波がいてくれてよかった」ニコ

レイ「べ、別に」

シンジ「どうしたの? 顔が赤いけど」

レイ「赤い?」

シンジ「うん。少しだけ。だけど、そっちの方がいいよ」

レイ「あ、ありがとう」

【付属病院 205号室】

トウジ「おう、おかえりさん。なんや? 綾波は帰ったんか?」

シンジ「うん、この後ネルフに用事があるって。サクラちゃんは?」

トウジ「検査や……パイロットは大変やのー。拘束時間ばっかりで」

シンジ「これが普通だから」

トウジ「……」

シンジ「綾波が持ってきてくれたりんごがあるけど、食べる?」

トウジ「いや」

シンジ「……? どうかしたの?」

トウジ「シンジ。お前がなにを抱えとるか知らん。言われたとしても半分でさえ理解できるかわからん、ワシはバカやからの」

シンジ「……」

トウジ「せやけど、話を聞く相手ぐらいなれるはずや。なんかあったなら話せや」

シンジ「ありがとう。でも、大丈夫だよ」

トウジ「しみったれた話はワシは好かん。なんもない言うならまわりに心配かけたらあかんで」

シンジ「うん」

トウジ「男は肩に荷を背負うもんや」

シンジ「そうだね。僕には、重すぎるかもしれないけど」

トウジ「道を見据えたならまっすぐ進まなあかんぞ! ワシらに何にもないって決めたなら押し通せ! ワシも黙って待ってやる! それが男の友情ってもんや!」

シンジ「ぷっ、トウジらしいや」

トウジ「大事なことなんやぞ!」

シンジ「わかってるって」

トウジ「ふん、サクラの検査が終わったらワシも家に帰る。学校はまだしばらくこんのか?」

シンジ「いや、明日から行くよ。リツコさんにもそう伝えるつもり」

トウジ「体調は平気なんか? 手に包帯しとるが」

シンジ「これは、気にしなくていいよ。いつも通りだから」

トウジ「……?」

シンジ「そうだ。これ、あげるよ」

トウジ「ウォークマンやないか。お前、これ」

シンジ「僕には、もう必要ない」

トウジ「さよか……あっ! 妹はやらんぞ!」

シンジ「い、いもうと?」

トウジ「サクラがほしかったらあと十年! いや! あと十五年は待ってからやな!」

シンジ「なに言ってるんだよ」

トウジ「くぅーっ! まさかセンセがここまでスケコマシ野郎やったとは! なにもサクラまで!」

シンジ「はぁ」

【同時刻 ネルフ本部 執務室】

ゼーレ02「我らの悲願たる補完計画」

ゼーレ05「計画された“終末の時”まで、残された時間は少ない。その理由を教えよう」

加持「いやはや、驚きましたな」

ゼーレ03「こそこそと嗅ぎ回っているようだからな。キミの目の前にある極秘ファイルを手に取りたまえ」

ゼーレ04「発端は十三年前よりはるか以前に遡る。具体的には、我々がゼーレを発足するきっかけとなったその録画データだ」

加持「これが……? 黙示録とも呼ぶべきものを――」

ゼーレ02「なにを躊躇う。よもや今さら命が惜しくなったわけではあるまい。キミに渡そう、好きにしたまえ」

加持「タダより高いものはないと知らない子供じゃありませんよ。見返りを要求されるとわかっているので、ビビっているだけです」

ゼーレ05「ふっ。臆病だな」

加持「――しかし、臆病だからこそ今日(こんにち)まで生き延びてこれたんです。たとえそれが地獄のような場所だとしても」

ゼーレ05「我々が望むべきは二つ」

ゼーレ04「碇ユイに関する情報を提供と抹殺」

ゼーレ02「データを提供するかわりに我々の“鈴”になってもらいたい」

加持「これはまた、物騒なお話ですね。キール議長はこの件をご存知で?」

ゼーレ04「この問題は、我々だけで決めた。不安材料の解消に対して保険をかけるべきを是としたからだ」

ゼーレ02「左様。キール議長とて完璧ではない。いや、人類そのものか。我々にも補佐という役目がある」

加持「なぜ、わざわざ俺に情報の開示をするんです? その気になれば圧力をかけられるでしょう」

ゼーレ03「手の内にあるデータの一部を渡したにすぎない。試供品だよ、それは」

ゼーレ05「喉から手をでそうなほど欲している資料はまだ一部というわけだ。働きに応じてさらなる開示をしよう」

ゼーレ05「キミの資料は確認済みだ。孤児達の無念を晴らしたければ彼女ではなく我々につけ」

加持「……」

ゼーレ03「断れば、待つのは死。裏切っても、死あるのみだ」

加持「日本政府にも内通していると知ってて言ってるんでしょ?」

ゼーレ02「無論」

加持「ふぅ……。俺にトリプルスパイになれというわけですか。あなた方の益になるように。どうやら、碇ユイ博士は信頼を勝ち得るまで成功していないようですな」

ゼーレ05「目的が達成されるのならば、人選についてとかく言う意義はなし」

ゼーレ06「だが、我々の実行機関たるネルフ。その私物化は許されない」

ゼーレ02「彼女と我々。キミにとってどちらが魅力的な餌か。選択の時だ。加持リョウジ」

【加持 デスク】

加持「……――ふぅ」ピッ

ゲンドウ『お集まりいただき恐縮です。今日は皆様方に終末について話したい』

キール『続けたまえ』

ゲンドウ『我々人類は破滅の瀬戸際にいる。妻がもたらした裏死海文書の目録にある使徒の襲来。治療法のない病気。破滅を叫ぶ原理主義者ども」

ゼーレ『……』

ゲンドウ『やつらは制御できない集団とかしています。知恵をもたざる者にいきすぎた玩具(兵器)を与えてしまったため、本来の理念を失っている』

キール『それで?』

加持「……」カチャ シュボッ

ゲンドウ『これらを克服したとしてもさらなる脅威が待っている。先のセカンドインパクトは計画性をもっておこしたことでニアで済みましたが、気候の変動で50年後における可住地は9割が海に沈む』

加持「……事前に起こしただって……」ポロ

ゼーレ『必要な粛清がよもやあのような中途半端な結果になるとはな。いずれ貧困と飢餓がくる。そして、新たな争いの火種になる』

ゲンドウ『これは予測ではなく事実だ。必然に起こる事態』

キール『使徒が来ずとも世界の終わりは近い。わかりきったことをつらねる為にここに立っているわけではあるまい』

ゲンドウ『――ふっ。では、滅びますか?』

ゼーレ『……』

ゲンドウ『我々の手で、世界を終わらせ……いえ、救済するのです。我々の望む形でだ』

キール『……』

ゲンドウ『人類終末のシナリオを我々が作るのです。かつて行われ、大成功を収めた、“ノアの方舟”ですよ』

ゼーレ『方舟……? どこにそんなものがある? 宇宙船でも作って新天地を目指すというのかね。馬鹿馬鹿しい』

ゲンドウ『これまでの発想と変わりません。我々には死海文書の外典があるのですから。理想の地球、そして完璧な個体へと人類は昇華できます』

キール『方法を聞こう』

ゲンドウ『救済の手段は既に我らの手に。ご覧ください、こちらが悲願を達成するその道具、人型決戦兵器エヴァンゲリオンのプロトタイプです』

ゼーレ『おお……! これは、セカンドインパクトにあったコピーか』

加持「――ここでおしまいか。どうしたもんかねぇ」

【ネルフ本部 執務室】

冬月「息子の様子はどうだね。後遺症の心配はないか?」

ユイ「経過は良好です。思った以上に前向きな姿勢を見せているので違和感がありますが」

冬月「タブリスに脳を弄られていたんだろう? なにかこちらが知り得えない情報があるのではないか?」

ユイ「時間が必要です。今のところそれらしき変化は見受けられません」

冬月「しかし、どうも気になる。あのタブリスを模した少年。本当に味方と考えていいのか」

ユイ「騙し合いをしている内はまだお互いの腹の中を探っていると同義です。多少、行動に問題があると認めますが、駒を使いこなせない打ち手は無能です」

冬月「使えない駒だとしてもかね」

ユイ「盤上に不要な駒なぞありません。手の内に何枚、どのような個性を携えている駒をかかえているか……。相手の数十手先を予測し対策を行えばよいだけです」

冬月「サードチルドレンの保護観察はどうする? 碇の時と同様に一人暮らしを行う方針ではないだろう」

ユイ「職員と同居させます」

冬月「葛城宅に戻すか。それもいたしかたある――」

ユイ「いえ、そうはしません」

冬月「なに? では、赤木博士のところか?」

ユイ「違いますよ」

冬月「おい、わかっているのか。もはや俺たちの計画の要は息子が握っていると言っても過言ではないのだぞ」

ユイ「だからこそ、です。怪しまれず、なにも疑うことを知らない者にまかせましょう」

冬月「ううむ、末端の職員か」

ユイ「伊吹二尉の元にアルバイトという口実で押しこみます。赤木博士も協力的ですし、彼女から言ってもらえれば滞りないでしょう」

冬月「……」

ユイ「明日からシンジは学校に通うと言っていましたので、今日中にアパートの契約を解除しておいてください」

冬月「一度押しこんでしまえば、あとはなし崩し、か」

ユイ「帰る家がなければネルフで保護するしかありません。次の入居先のアパートが決まるまでの間、伊吹二尉の元に住まわせる。こういうテイでいきます」

冬月「わかった。すぐ手配しておこう」

ユイ「……? 先生。私が地下にいる間、だれかここに来ました?」

冬月「いや、そんな報告はあがっていない。なにか不審な点でも?」

ユイ「そう、ですか。それなら、いいんですけど……」

【ネルフ本部 ラボ】

マヤ「シ、シンジくんをうちでですか?」

リツコ「急で悪いんだけど」

マヤ「あの、葛城一尉のお宅だと都合が悪いんでしょうか」

リツコ「だめよ。司令には私から推薦をしておいた」

マヤ「えっ! そ、そんな。急に言われても困ります……」

リツコ「マヤ、これはあなたにとっての更生プログラムでもあるのよ」

マヤ「……」

リツコ「潔癖症の自覚、あるわよね。ひとえに潔癖症と言っても細菌に対し嫌悪感を覚えているわけじゃない。あなたのは対異性、つまり男を強く感じる性への不快感」

マヤ「あの、これまで、なんとかやってこれましたし」

リツコ「ふぅ……そうやってとりつくろって生きているとこの先辛いわよ。純情な反応……いいえ、過剰防衛とさえ思える拒絶の所以はそこにある」

マヤ「どうしても、受け入れ、しなくちゃダメですか……?」

リツコ「相手は中学生で、無害な小動物とでも考えなさい。あなたが最も優先すべきことは“異性への慣れ”。綺麗なだけの世界なんて存在しないと頭でわかっている。でも心で受け入れられないのね」

マヤ「仕事に支障はないぐらいに我慢できていますし、これからも尊敬する先輩の下で働けるのなら私……!」

リツコ「あなたの才能は見込みがあると評価しています」

マヤ「ほ、ほんとですかっ⁉︎」

リツコ「でもね、機械相手だけじゃない。人ともうまくやれる術を身につけなさい。技術者はただでさえ内に籠もりがちな環境にいるんだから。孤独は、虚しいだけだと気がつく前に……」

マヤ「先輩?」

リツコ「とにかく、これは司令からの発令なのよ。私を失望させないで」

マヤ「断ったら、先輩は、失望するんですね」

リツコ「好きだけを仕事にしたいのなら転職を提案します。ましてや、その理由が中学生の面倒を見るのが嫌だからだなんて。あの子がマヤに対して危害をくわえると思う?」

マヤ「そうは、言ってませんけど……あの、いつからですか」

リツコ「本日付けでサードチルドレンの荷物を搬送するそうよ」

マヤ「ええぇぇっ⁉︎ そ、そんなっ⁉︎ それって、業者が⁉︎」

リツコ「鍵なら副司令に頼まれてスペアキーを渡しておいたから」

マヤ「来てますよね⁉︎ もう私の家にシンジくんの荷物届いてますよね⁉︎」

リツコ「でしょうね」コト

マヤ「ど、どうしようっ! 下着、隠さないと! し、失礼しますっ!」

【マヤ宅 玄関前】

シンジ「……? えっと、僕はマンション暮らしじゃありませんよ」

諜報部員「……」

シンジ「聞こえてないのか。すぅー、僕はアパート暮らしで――」

諜報部員「サードチルドレン、以下一名を伊吹二尉宅まで護送するよう連絡がありました」カチ ピンポーン

シンジ「え? てことは、ここはマヤさんの? どうして……」

諜報部員「詳細について存じあげません」

シンジ「母さんがなにか手配したのかな」ボソ

諜報部員「私に降りてきた指示は赤木博士によるものです」カチ ピンポーン

シンジ「リツコさんが?」

諜報部員「はい。それ以上のことはわかりかねます。これが仕事ですので」カチ ピンポーン

シンジ「は、はぁ」

マヤ「す、すいませーんっ! ちょっと待ってもらえませんか!」ガチャ

諜報部員「ドアチェーンを外してください。伊吹二尉。サードチルドレンがお待ちです」

マヤ「シンジくん! 少し待てるわよね⁉︎」

シンジ「あ、あのっ!」

マヤ「ご、ごめんね! 10分で済ませるから!」バタン!

シンジ「な、なにを済ませるんだろう」

諜報部員「――……さぁ」

【マヤ宅 リビング】

シンジ「……」

マヤ「……」チラ

シンジ&マヤ「……あ、あのっ!」

シンジ「あ、どうぞ」

マヤ「いえいえ、そちらこそ……」

シンジ「……」

マヤ「……」

シンジ「……ぷっ、くっくっく」

マヤ「ど、どうしたの?」

シンジ「なんだか、おかしくなっちゃって」

マヤ「あ……。ごめんね」

シンジ「いえ、謝る必要ないです。あの、僕はどうしてここにいるんですか?」

マヤ「……? シンジくん。なにも聞いてないの?」

シンジ「はい」

マヤ「そう、なんだ。てっきり先輩から話が通ってるのかと思ってた」

シンジ「話?」

マヤ「最初は、アルバイトって話だったみたいなんだけど。シンジくんが私のところで」

シンジ「僕がですか?」

マヤ「うん、そう。料理とか掃除とか。ほら、家政婦ってあるじゃない? それ」

シンジ「僕はなにも聞いてない……」

マヤ「あっ! きっと、すぐに知らせるつもりだったのよ。司令の交代とかあってドタバタしてたから遅れたのかもしれないし」

シンジ「はぁ」

マヤ「あのね、シンジくん。あなたはパイロットでしょ?」

シンジ「はい、まぁ」

マヤ「見つけてきた物件は防犯上の問題であまり良い条件とは言い難いらしいの。保安部を警護につけたとしてもパイロットの身になにかあれば大問題ですもの」

シンジ「……」

マヤ「だから、もう少し、探してみてくれない? 見つかるまではここに住んでかまわないから」

シンジ「えっ、ここに?」

マヤ「うん……」

シンジ「いや、いいですよ。マヤさんにご迷惑かけますし、ネルフのコンテナで寝泊まりすれば」

マヤ「……」

シンジ「……あの?」

マヤ「私の、更生プログラムでもあるらしいの。先輩が推薦したって」

シンジ「……?」

マヤ「突然、こんなこと言われたら戸惑うわよね。あの、私、男の人とか少し、苦手で……」

シンジ「……」

マヤ「先輩は、たぶん、シンジくんと同居させることで私に少しでも慣れさせようとしてくれてるみたい」

シンジ「あ……」

マヤ「私事で、ご、ごめんね。だから、シンジくんだけのせいじゃないの。都合が良かったんでしょうね、私たち」

シンジ「あの、僕の荷物とかは?」

マヤ「それなら、奥の部屋に。あんまり荷物ないのね。ダンボールひとつだなんて」

シンジ「はい。必要なものはバックに収まるぐらいしか」

マヤ「そっか。……お腹すいてない? なにか食べる?」

シンジ「えっと、そうですね。……あの、本当にいいんですか? 僕がここにいて」

マヤ「ごめんなさい。本当は私、今もいっぱいいっぱいで、中学生って子供、なのよね。でも、家にあげたことないから」

シンジ「べ、べつにおかしくないと、思いますけど」

マヤ「おかしいわよ。もうハタチ超えてるのに。で、でも! 恋愛経験がその、まったくないってわけじゃ! いいかなー、って人は、これまでいたし……」

シンジ「は、はぁ」

マヤ「でも、やっぱりだめ。向こうからアプローチされても、こっちからアプローチしようにも、距離感の測り方をうまくとれないの」

シンジ「……」

マヤ「仕事だったら、必要な業務連絡を事務的に済ませればいい。日常会話で困らない程度に、ごまかす術を身につけた。自分に」

シンジ「……」

マヤ「や、やだ。なに話てるんだろう。よっぽど余裕ないのかな、私。ごめん、あの、なにか作ろうか?」

シンジ「よければ、僕が……」

マヤ「だめ!」ガタンッ

シンジ「あ……」

マヤ「ご、ごめんなさい。あの、私物にあまり触ってほしくなくて。……ごめんね」

シンジ「いや、えっと、自分の家、ですもんね。僕もなにがどこにあるかわからないし」

マヤ「その、荷物見てきたら? 奥の部屋はそのままシンジくんの部屋にしていいから」

シンジ「そう、ですね。そうします」

【ネルフ本部 執務室】

リツコ「サードチルドレンは予定通り、伊吹二尉の宅に送り届けました」

ユイ「ご苦労様。辻褄合わせは完璧ね。伊吹二尉とシンジはもちろん、周囲も疑わないでしょう」

リツコ「マヤの場合は、症状が複雑化しているので容易でした」

ユイ「女性は世の中の習慣から、なにかにつけて守られている者という概念が強い。だからこそ自立性のある女性に特異性が生まれ、強く輝く。……皮肉ね、あなたは夫に依存して体面を保っていただけなのに」

リツコ「……!」ギリッ

ユイ「しかし、伊吹二尉はあなたの弱さを知らない。赤木博士に抱いているイメージは“どこまでもフラットで科学者な自立した女性”」

リツコ「仕事には、どんなものにも妥協しないという性質がいい面であらわれています。しかし、汚れ仕事を嫌う癖があります」

ユイ「完璧すぎる貴女はまさに彼女のなりたい自分そのもの。理想像なのでしょう。男がいなくても毅然としているカッコイイ人、かしらね。ふふっ」

リツコ「それはご自分だとおっしゃりたいのですか?」

ユイ「あら? 私?」

リツコ「不倫をしていると知っていても冷静に対処なさっていたではありませんか。しかも、私を部下に引き入れるだなんて」

ユイ「うーん、そうね? でも、あなたは優秀だから。それだよ」

リツコ「一度も、あの人を恨まなかったんですか?」

ユイ「恨む?」

リツコ「一度もなかったんでしょうか? 夫婦の契りを結び、裏切られていると知っていながら」

ユイ「一人が一人と結婚して永遠の愛を誓い合う。この永遠というのは、意識があるまでと仮定すれば死ぬまでと該当するけど。それじゃ、論理的に愛とはなにかを説明できる?」

リツコ「……」

ユイ「私ね、こう見えても、学生の頃はけっこーぶいぶい言わせてたのよ? ぶいぶいって死語か。そうねぇ……なにが言いたかっていうと」

リツコ「……?」

ユイ「――男は人類の半分よ」

【マヤ宅 リビング】

シンジ「ごちそうさまでした」

マヤ「洗い物はそのままにしてくれていいから」

シンジ「すみません。自分の食器用意できてなくて」

マヤ「仕方ないわよ。でも、その、明日にでも買ってきておいてもらえる?」

シンジ「わかりました」

マヤ「あ、忘れちゃうところだった。私のクレジットカード渡しておくわね」

シンジ「いいんですか?」

マヤ「うん、高額な使い方されても、後で請求できると思うし、ネルフに」

シンジ「いや、そんな使い方はしませんけど。……わかりました。では、明日お返しします」

マヤ「……」チラ

シンジ「……」

マヤ「もう、寝る?」

シンジ「そうですね」

マヤ「えっ、と、あの、まだはやくない? 21時になってないけど」

シンジ「かまいませんよ。眠れなければ部屋にいますから」ガタ

マヤ「あの! シンジくん!」

シンジ「はい?」

マヤ「私、ひどい態度してない?」

シンジ「……いや、そんなことは」

マヤ「平気、なの?」

シンジ「慣れないのならしょうがないです。それに、先生の所にいた時とあまり変わりありませんから」

マヤ「それって、ネルフに来る前ってこと?」

シンジ「はい。身の回りのことは自分でやれって教わってきました。礼儀作法についても一通り。食卓も毎日がこんな感じで」

マヤ「そう、なんだ」

シンジ「僕も自分のことを話すのが苦手だから、なんとなくわかる気がします」

マヤ「あ……」

シンジ「なにかルールを決めたければ、言ってください。守れることがあれば協力します」

マヤ「あ、ありがとう」

シンジ「それじゃ、僕はこれで」

マヤ「……うん……ってちょっと待って! お風呂入ってないよね⁉︎」

シンジ「あぁ、そうですね。でも明日の朝でも」

マヤ「衣食住はキチンと不自由がないようにしなきゃ。これが私の仕事だもの。だから、入って」

シンジ「はぁ。あの、風呂はためていいんですか?」

マヤ「え……? 後で私には入れってこと? うっ、ふ、不潔」

シンジ「あぁ、えぇと、それなら、シャワーだけとか」

マヤ「だめよ。あの、後で入れ替えるから気にしないで入って?」

シンジ「は、はぁ」

【翌日 第三新東京市立第壱中学校 HR前】

男子生徒A「おい、まだかよ」そわそわ

男子生徒B「うっせーな。もうちょいだろ」そわそわ

女子生徒A「なにあれ。そわそわしちゃってダッサ」

女子生徒B「ねーっ、ほんと男子って露骨」

シンジ「……? なんだか、今日はみんな落ち着きないね」

トウジ「あぁ、てんこーせーがくるっちゅう話やからな」

ケンスケ「そーそー。オスとしてはかわいい子がきたら嬉しくなるサガってもんだよ」

シンジ「転校生……? この時期に?」

ケンスケ「はぁ……。碇ぃ、そこはかわいいってところに反応するべきじゃないかぁ?」

シンジ「あぁ、うん……」

ケンスケ「たしかに、ウチのクラス偏差値は低くはないからねぇ。ま、主に引き上げてるのはパイロット二名の存在だけど」

トウジ「センセは不自由しとらんやろしなぁ。サクラもまったく……」

ケンスケ「……? ま、でも碇がモテてるわけじゃないんじゃないか? 彼女ってわけじゃないもんな?」

シンジ「そんな。僕は、モテてないよ。アスカと綾波はパイロットって繋がりがあるだけだから」

トウジ「これやからなぁ」

ケンスケ「あのなぁ、他にはないもんがあるっていうのはアドバンテージなんだぜ? 悪いけりゃ意味ないけど。単純に、一緒にいる時間が多いって話だろ。ネルフの仕事っていう公認でさ」

シンジ「それが?」

ケンスケ「だぁもぅっ! 碇がその気になれば、口説けるって話だよ! そういうのがしやすい環境っていえるだろ」

シンジ「あ、あはは。でも、アスカや綾波は、興味ないと思うよ」

ケンスケ「どうしてわかるんだよ?」

シンジ「なんとなく、かな。それに、選べるなら僕なんか、嫌だと思うし」

トウジ「選ぶ権利は男にだってあるやろがい! あんなゴリラ女とかこっちから願い下げや!」

ケンスケ「トウジは関係ないだろ」

トウジ「お、そうか」

ヒカリ「ちょっとあんたたち! またくだらないこと話てるんでしょ!」バン

ケンスケ「いや、その、聞こえてた?」

ヒカリ「鈴原の声であんなに大きく言えば聞こえるわよ!」

トウジ「なんや! ワシはなんも間違った発言はしとらんぞ! 女のそれはな、自意識過剰っちゅーんじゃ!」

ヒカリ「突然なに言ってるのよ!」

トウジ「男にだって選ぶ権利がある! 性格ブスは嫌に決まっとる!」

ヒカリ「せ、性格、ブスぅ……っ⁉︎ ちょっと、それ、誰のこと?」

トウジ「ふん、ゴリラ女に決まって――」

アスカ「成敗っ!」ゴン

トウジ「かはぁっ!」ガターン

アスカ「朝っぱらからやっかましいわねぇ、北京原人はバナナでも食ってなさい」

シンジ「アスカ、おはよう」

アスカ「ふん」

【数十分後 HR】

マナ「はじめまして、霧島マナと言います。親族の都合で越してきました。これからよろしくお願いします」ペコ

男子生徒一同「おお~~、か、かわいい」

アスカ「はん、ばっかみたい」

教師「席はぁ、そうですね。碇さんの隣があいているようだから、そこにしなさい」

マナ「はいっ!」

男子生徒A「なぁなぁ、写真よりも実物のが全然いいなっ!」

男子生徒B「シッ! 黙ってろ! 歩いていらっしゃるだろうが!」

マナ「……」スタスタ

男子生徒C「な、なんでかわいい子はいい匂いがするんだろなぁ」

男子生徒D「オーラだよ! オーラが違うんだ!」

ヒカリ「そんなわけないじゃない」

マナ「よいしょっと」ガタ

シンジ「……?」

マナ「よろしくね、碇くん」ニコ

シンジ「あ、あぁ、どうも、よろしく」

教師「霧島さんはまだ端末がきてないんだったね。碇さん、見せてあげなさい」

シンジ「はい」

マナ「あの、先生。机くっつけてもかまいませんか?」

教師「もちろんだ。ノートパソコンであるからそうしないとみれないだろう?」

マナ「ですよね、えへへ」ガタ

シンジ「あ、僕が移動させるよ」

マナ「ありがとう」スッ

シンジ「え……」

マナ「優しいんだね」

シンジ「いや、あの、手……を重ねられると、移動が」

男子生徒A「……!」

男子生徒B「ま、また! またあいつなのか……!」

マナ「ご、ごめんなさいっ! あの、私が机を移動させようとしてたから」

シンジ「ああ、そういうこと。ごめんね、気がつかなくて」

マナ「ううん、いいの」

アスカ「……」ジー

シンジ「よっと、先生、もう大丈夫です」

教師「ふむ、よろしい。おっと、もうこんな時刻か。今日は私が担当の教科なのでこのまま一限目をはじめる。洞木さん、号令を」

ヒカリ「はい。きりーつ!」

生徒一同「……」ガタガタッ

ヒカリ「礼。ちゃくせーき」

教師「では、端末を立ち上げて」

マナ「……ね、もうちょっと近くにいっていい? 私、近眼で」ズイ

シンジ「う、うん」

マナ「……? どうしたの?」

シンジ「いや、ちょっと近かったから、びっくりして」

マナ「もしかして、照れてる?」

シンジ「いや……」

マナ「ふぅ~ん。碇くんって、かわいいんだ?」

アスカ「……!」パキッ

ヒカリ「……? アスカ、どうしたの?」

アスカ「あぁ、シャーペンの芯折れたみたい」

ヒカリ「シャーペン使わないよ?」

アスカ「あれ? そうだっけ」

ケンスケ「こりゃあ、一波乱ありそうな。いやぁ~な予感」

トウジ「ほんま、センセは。どうなっとるんや」

【ネルフ本部 司令室】

マヤ「ふぅ……」

シゲル「おっ。めずらしいねぇ~、マヤちゃんがため息つくなんざ」

マヤ「私だって、ため息ぐらいつくわよ」

シゲル「なんか悩み事?」

マヤ「別に」

シゲル「あいかわらずガードのかたいこって。女は少しぐらい隙を見せたぐらいがちょうどいいぜ?」

マヤ「余計なお世話です。またギター雑誌見てるの?」

シゲル「いんや。今日はコレ」バサ

マヤ「なに……? そ、それって……!」

シゲル「かぁ~わいいっしょ? 今話題のアイドルグループのグラビア。漫画の付録についてんだけどさぁ」

マヤ「不潔っ!」バンッ

シゲル「……ん?」

マヤ「職場でそんなの見るなんて不謹慎よ! 家に帰ってから見たらっ⁉︎」

シゲル「今は空き時間だし」

マヤ「そういう問題じゃない! これは立派なパワハラよ!」

シゲル「お、おいおい」

ミサト「どったの~? なんの騒ぎ?」

マヤ「葛城さん! 聞いてくださいよ! 青葉くんが!」

ミサト「あっ! これ今話題の子たちじゃなぁ~い!」

シゲル「葛城さんも知ってるスか?」

ミサト「もちのろんよ~。くー、若い肌って羨ましいわねぇ」

マヤ「え……」

シゲル「俺はこのセンターの子が押しなんすよ」

ミサト「どれどれ……? だっはっはっ! やぁだぁっ! まだ子供じゃないのー!」

マヤ「……」ギュウ

シゲル「それがいいんじゃないすか。あどけない感じがして」

ミサト「そお~? あら? 伊吹二尉?」

マヤ「あの、葛城一尉はなんとも思わないんですか?」

ミサト「……?」

マヤ「私たちの職場でこんなの見てるんですよっ!」

ミサト「あぁ~、なる」

シゲル「マヤちゃんさぁ。ちょっと堅苦しすぎないか?」

マヤ「どうして⁉︎ 私が間違っているって言うの⁉︎」

シゲル「そうは言ってないが。そんなんじゃ、一生独身だぜ?」

マヤ「どうしてあなたなんかにプライベートの心配されなくちゃいけないのよ⁉︎」

シゲル「俺はそんなつもりじゃ……!」

ミサト「はいはい、そこまで」

シゲル&マヤ「……」

ミサト「たしかに、こういうページを嫌がるというのも理解できるわ。同じ女として、ね?」

シゲル「そういうもんすかねぇ」

ミサト「空き時間の使い方までとやかく言うつもりないけど。青葉くん、コンプライアンス違反にならない程度にね」

シゲル「うす」

ミサト「それで、マヤちゃんはぁ……ちょっち、肩の力入りすぎかな?」

マヤ「私は間違ったこと言ってません!」

ミサト「人間はね、機械じゃないの。常に正しいことで抑えつけようとしてはだめ。息抜きは必要だって理解してあげなきゃ」

マヤ「別の手段があるはずです! なにもソレを選ばなくたっていいじゃないですか!」ビシ

ミサト「そうね、言ってることはもっともだわ。だけど、改めて言うけど、“辻褄が合う行動だけ”をするのが人じゃないのよ」

マヤ「……」

ミサト「セクハラになると感じた?」

マヤ「はい、だって、そんなの……」

ミサト「そんなに嫌だったのね。……いいわ。女性に見せびらかす行為は今後控えるように」

シゲル「ちぇ」

ミサト「相手を選びなさい」

シゲル「了解」

マヤ「私が融通きかないみたいじゃない。なんで……私がこんな思いしなくちゃいけないの。間違ってないのに……!」

ミサト「すこし、落ち着きなさい」

マヤ「いいです! 失礼します!」

【ネルフ本部 第四通路 女子トイレ】

マヤ「……うぷ……おぇぇっ……」ベチャベチャ

リツコ「……」スッ

マヤ「……! せ、せんぱい……」

リツコ「また、吐いてたの?」

マヤ「……」ジャー

リツコ「よくうがいなさい」

マヤ「大丈夫です」キュキュ

リツコ「やはり、その癖を治す必要があるわね。男という生物は無神経でズボラ。感性が違うのだもの」

マヤ「そうでしょうか」

リツコ「少女漫画の主人公のような、幻想から卒業できないんでしょ、あなた」

マヤ「わ、わたしは……そんなつもり……」

リツコ「汚れていないから。一線を踏みこえていれば案外割り切れるものなのに」

マヤ「仕事があれば、私」

リツコ「マヤの卒業論文を読み私はあなたを部下にするとを決めた。着眼点が優れていたからよ」

マヤ「……」

リツコ「もっと視野を広げるには、今のままじゃ頭打ち。なぜだと思う?」

マヤ「わかり、ません」

リツコ「わからないというのは思考停止しているの? それとも、わかっていて言いたくないという拒絶反応かしら?」

マヤ「人生経験は他で代用できます! 恋愛経験が全てじゃ……!」

リツコ「あなた、なにか勘違いしてない?」

マヤ「え……」

リツコ「私は結果だけを求めているの。あなたができると言うのならかまわないわ。できているのならね。……で、今は?」

マヤ「そ、それは」

リツコ「提案をしているだけなのよ。いわゆる、きっかけを。男の為に頑張る、旅行にいく、なにかを覚える、経験する、そうした動機が行動を生み可能性と言う選択肢を広げる」

マヤ「……」

リツコ「現状を打開するにあたり、なにをすべきか考えてごらんなさい。失敗をこわがっているようじゃ科学者に一生なれないわよ」

マヤ「失敗は成功の母、ですか。納得できません」

リツコ「自分自身に、なにがプラスになるか。やり方は自由よ」

【第三新東京市立第壱中学校 昼休み】

トウジ「さぁて、購買パン買いに行くかぁ」

シンジ「トウジ、僕も行くよ」

トウジ「今日は弁当やないんか?」

シンジ「あ、うん。しばらくそうなりそう、かな」

トウジ「行くならはよ行くで。カツサンドが売り切れてしまうからな」

マナ「あの……」

トウジ「お」

シンジ「……? なにか用? 霧島さん」

マナ「お昼まだなんだけど、購買パンてどこで買えばいいのかな?」

シンジ「それなら、一階の――」

トウジ「センセはだあっとれ!」グイ

シンジ「むぐっ⁉︎」

マナ「口と鼻塞いだら息が」

トウジ「霧島、やったか。俺らも今からとこやから一緒に行くか?」

マナ「いいの?」

トウジ「かまへんで。お前やったら、男子どいつに聞いても喜んで案内するやろうが」

マナ「そ、そんなこと」

トウジ「まぁ、転校初日からいきなり女王様状態になると女子達からやっかみがあるやろからなぁ。ゴリラ女ほど強靭な精神しとるなら話は別やが」

マナ「ご、ゴリラ女?」

トウジ「ほんま、女っちゅーのは猫かぶるから信用できひん。あいつはまさに唯我独尊みたいやつや」

マナ「は、はぁ。その、碇くん、顔が……」

トウジ「なんや、やっぱりシンジが目当てやったんか?」

マナ「そうじゃなくて」

トウジ「こいつはなかなかにモテよるからのお。ライバルは多いで?」

シンジ「……」グタァ

マナ「い、碇くんっ⁉︎」

トウジ「なんや? ……っておわぁっ⁉︎ おい、シンジ、しっかりせぇ!」

【十分後 再び教室】

トウジ「めしやめしー」

ケンスケ「驚いたよ。まさか噂の転校生と一緒に食べるとはねぇ」

マナ「迷惑だった?」

ケンスケ「い~や。ただ、普通は男子は男子、女子は女子でグループを作るモンだろ? 転校初日だし、友達を作るにしたって僕たちのところにきたのが意外でさ」

シンジ「……」ガサガサ

マナ「うん、私もできれば、女の子と仲良くなりたいけど。なんか、視線がきつくて」

トウジ「あん? そんなん気にしとったらあかんで。最初は物珍しさも相まってるだけやろ」

ケンスケ「ま、素材がかわいいからねぇ。嫉妬に巻き込まれやすいのは納得。そういや、碇と惣流が転校してきた時もけっこう騒ぎになったもんなぁ」

マナ「そうなんだ?」

ケンスケ「ああ。碇はロボットのパイロットだとみんなに発覚した時。同じパイロットの惣流は持ち前の美貌から」

マナ「碇くんが⁉︎ すごいっ!」

シンジ「そんな。たいしたことないよ」

マナ「みんなを守ってるんでしょう⁉︎ かっこいいなぁ」

ケンスケ「はぁ。やっぱり、エヴァの操縦士はステータスだよなぁ」

マナ「でも、不思議。パイロット同士で食べないんだ?」

シンジ「そうだね。僕たちは、あくまでネルフという繋がりがあるだけだから。プライベートまで仲良くなる必要はないんだ」

マナ「一緒にいる時間が長ければ仲良くなったりしないの?」

ケンスケ「ほらほら、みんなそう思うよなぁ?」

シンジ「はは。……そうなってもおかしくないのかもしれないけど、そうはなってない」

トウジ「仲良くなるにしても相手次第っちゅーことや。合う合わんはある。だいたいあんなゴリラ女――」

ケンスケ「わかったわかった。パン食いながら喋るなよ」

マナ「惣流さん? って、どの人?」

ケンスケ「あいつなら、あそこ。髪にブローチつけてるから目立つだろ。そうじゃなくったってクォーターだし」

マナ「あぁ、あのキレイな子……教室に入ってきた時から、目についてた」

ケンスケ「素材はいいんだけどねぇ」

マナ「もう一人、キレイな子いるよね?」

ケンスケ「綾波かぁ? そっちもエヴァのパイロットさ」

マナ「へぇ……。このクラスにパイロットが三人も……?」

ケンスケ「うん、まぁ、言われてみれば凄い偶然だよな」

マナ「惣流さん、綾波さんと話してみたいなぁ」

トウジ「やめといたほうがえーで。噛みつかれるわ」

シンジ「アスカと綾波はそんなことしないよ」

ケンスケ「とっつきやすいとは言いがたいんじゃないか。特に綾波はシンジじゃないと会話になるのかさえ怪しいし」

トウジ「せや。それやったら、委員長を間に挟めばええんとちゃうか」

ケンスケ「惣流相手だと、いい考えだね。綾波は――」

シンジ「……?」

トウジ&ケンスケ「シンジ。出番」

シンジ「へ?」

トウジ「紹介しようにもセンセの他に誰が会話になるっちゅーねん」

マナ「あ、あの。迷惑だったら……」

トウジ「かまへんかまへん。友達は作っとくべきや。な、シンジ」

シンジ「……うん、そうだね。アスカと綾波、どっちからにする?」

アスカ「――でさぁ、加持さんったらこんなこと言うのよ?」

ヒカリ「……? 碇くん?」

シンジ「食事中にごめん。ちょっといいかな?」

マナ「あの、どうも」

アスカ「転校生じゃない。なに?」

シンジ「まだ、友達がいないんだ。だから、仲間にいれてあげてくれないかな」

ヒカリ「私はいいけど。アスカは?」

アスカ「ふぅ~ん。どうして私達のところなの?」

マナ「碇くんたちから話を少し聞いて。話てみたいなって。深い意味はないんだけど」

ヒカリ「あ、そっか。碇くんとは席が隣同士だもんね」

シンジ「うん、アスカは悪い子じゃないし。話してみたらいいんじゃないかなって」

アスカ「ぶっ」

ヒカリ「……うん、一緒に食べよ? あ、もう食べちゃった?」

マナ「あ、うん。今日は」

アスカ「はぁ……。席、そこらへんの使っていいんじゃない? 昼休みだし、文句言ってこないでしょ」

シンジ「よかった。ありがとう、アスカ、洞木さん」

マナ「碇くん、ありがとう。わざわざ紹介してもらって」

シンジ「また後で、綾波にも紹介するから。声かけてくれたら」

アスカ「ファーストに?」

シンジ「綾波、友達少ないだろ。だから、いいんじゃないかと思って」

マナ「ち、違うの。惣流さんにも綾波さんにも私が」

シンジ「僕からってことにした方がいいよ」こそ

マナ「あ、ありがとう。……優しいんだね」

アスカ「……? そ。まぁどうでもいいけど。どうせろくに話続かないと思うし」

ヒカリ「とりあえず座ったら?」

シンジ「僕はこれで」

マナ「わかった。また後で。……あの、シンジくんって呼んでもいい?」

アスカ「はぁ?」

シンジ「いいけど……」

マナ「よかった! その、シンジくんともお友達、だよね?」

シンジ「ああ、うん」ポリポリ

ヒカリ「……」チラ

アスカ「ちょっと! 座るの⁉︎ 座らないの⁉︎」

ヒカリ「あ、アスカ」

マナ「ご、ごめんなさい。えへへ」

シンジ「それじゃ」スタスタ

アスカ「……」

マナ「よろしく。霧島マナっていいます」

アスカ「朝聞いたからそれは知ってる。あんなのと友達になったってろくなことないわよ?」

マナ「……?」

ヒカリ「……」もぐもぐ

アスカ「三馬鹿グループにはいるよりかはこっちに入った方が断然いいわ。判断は間違ってなかったわよねぇ」

マナ「惣流さんは、シンジくんと仲良くないの?」

アスカ「あ~ら、もう親しく名前呼びなんだぁ? さっきの今で随分躊躇なく呼ぶじゃなぁ~い?」

マナ「え? その……」

ヒカリ「仲、いいよ! アスカは素直じゃないだけから」

アスカ「ヒカリっ!」

ヒカリ「もう、霧島さんはなにもわからないんだから」

マナ「えっと、洞木さん、だよね?」

ヒカリ「ヒカリって呼んで? 私もマナって呼んでいい?」

マナ「もちろん。惣流さんは……」

アスカ「ちっ、アスカでいーわよ」

ヒカリ「ご、ごめんね。アスカ、碇くんの話題になると厳しめっていうか、ちょっと扱いが難しくなるんだ。女の子同士だと凄く良い子なんだけど」

アスカ「ちょっと! どーゆう意味!」

マナ「(くすっ、意識してないわけじゃないんだ)」

ヒカリ「マナ、驚いちゃってるじゃない。名前呼びだって気にしないの」

アスカ「その言い方っ! 私がつっかかってるみたいじゃない!」

ヒカリ「違うの?」

アスカ「違うわよ!」

マナ「本当に、席が隣で親切にしてもらったからってだけだよ」

アスカ「……あいつムッツリだから。気をつけた方がいいわよ」

マナ「そうは見えないけど」

アスカ「それがまた曲者なのよぉ~。そうよ、私はただ転校生に助言をしてるだけ。わかった? ヒカリ」

ヒカリ「はいはい」

マナ「わかった、気をつける」

ヒカリ「親族の転勤だったっけ? めずらしいね、この時期に」

マナ「急でドタバタしちゃったんだけど」

アスカ「使徒がくるこの街に越してくるなんてなかなかいないわよね、おまけに都心はネルフ関係者しか住めないし」

ヒカリ「疎開、する人も少なくないもんね」

マナ「危ないってわかってるけど、守られてるし。そうだ、シンジくん達に聞いたけど惣流さん、パイロットなんでしょう?」

アスカ「あいつ……! なにベラベラ喋ってんのよ」

ヒカリ「隠してたわけじゃないでしょ」

アスカ「まぁ、そうだけど」

マナ「わぁ、かっこいいなぁ!」

アスカ「そ、そう?」

マナ「うんっ! 憧れちゃう」

アスカ「……そっか。まぁ、トーゼンよね! なんてったって私はエリートなんだから!」

【放課後 教室】

ヒカリ「アスカ、今日、ネルフの用事は?」

アスカ「なにもなーい」

ヒカリ「それじゃ、途中まで一緒に帰らない?」

マナ「あの、私もいいかな?」

ヒカリ「いいけど……。住まいはどこらへん?」

マナ「地名はまだ。コンフォート17マンションってところなんだけど」

アスカ「え……? そこって、私が住んでるマンション?」

マナ「そうなの?」

ヒカリ「へぇ、偶然だね。なら大丈夫。一緒に帰ろ?」

マナ「う、うん!」

アスカ「親族ってなにしてる人なの?」

マナ「興味ないから詳しくは。なんだったかな……エンジニアしてるって言ってたけど」

アスカ「ふぅ~ん」

マナ「アスカっていつもはネルフに寄るの?」

アスカ「テストとかがある時はね」

マナ「そうなんだぁ。大変だね?」

アスカ「ま、これもエリートの義務ってやつね。あたしはエースなんだし」

マナ「エース? 凄いなぁ。一番成績がいいんだ?」

アスカ「あったりまえよ。成績だけじゃないわ。迫り来る使徒に対してもあたしとあたしの弐号機は唯一無二なんだから」

マナ「他の二人は?」

アスカ「あいつらは単なるおまけ。チョコボールのおまけより粗末なモンね」

マナ「じゃあ、アスカがこれまでの怪獣を全部やっつけちゃったんだ?」

アスカ「う……。そ、そういうわけじゃ」

マナ「……?」

アスカ「あたしはまだ日本に来て間もないし! 初陣が終わったぐらいなの!」

マナ「へ? えっと、これまでにいくつかきてるよね……」

ヒカリ「碇くんと綾波さんが倒したのよ」

マナ「そうだったんだ」チラ

アスカ「……」ぶっすぅ

マナ「こ、これからだもんね! アスカは!」

アスカ「ふん」プイ

【ネルフ本部 模擬体室】

リツコ「シンジくん。変わりはない?」

シンジ『はい』

リツコ「次、射撃訓練に移行して」

マヤ「……」

リツコ「マヤ? なにぼーっとしてるの」

マヤ「あっ、す、すみません。えっと、なんですか?」

リツコ「インダクションモードへの移行」

マヤ「了解、バーチャルリアリティスタンバイ。仮想敵の投影、開始します」

リツコ「シンクログラフに変化は?」

マコト「チェック2550までオールクリア」

シゲル「臨界点まで、後0.5。全回路、異常なし。パルスによる侵食ありません」

リツコ「やはり、脳に影響は見受けられないみたいね……」

マコト「……? なんのテストですか? これ」

リツコ「独り言よ。気にしないで。本案件は、新兵器のデータ採取」

シゲル「ポジトロンスナイパーライフルの小型化ですか。あれ、燃費悪いっすからねぇ」

マコト「なにせ電力がなぁ」

リツコ「実用化が進めば、威力は多少落ちるでしょうけど中距離戦において大きな戦力アップが見込めるわ」

ミサト「そりゃ助かるぅ~」クルクル

リツコ「椅子をまわして遊んでるの、楽しい?」

ミサト「それほどでも。しかし、シンジくんとマヤちゃんが同居するなんてビックリだわ」

マヤ「……」ピク

シゲル「俺も俺も。意外な組み合わせっすよね」

リツコ「またその話? 無駄話をしないで。これは遊びじゃないのよ」

ミサト「だってさっきよ? 聞いたの。あたしゃ心配してたんだからさぁ」

リツコ「ミサトが?」

ミサト「そ。シンジくんが一人暮らしするって聞いてあのアパートじゃ。リツコにだって話てたじゃない」

リツコ「そういえばそうだったかもしれないわね」

ミサト「あらま。あいかわらず淡白ね~」

リツコ「興味ないもの」

【夜 マヤ宅 リビング】

マヤ「ふぅ……よし。シンジくーん。ご飯できたよー」

シンジ「はーい」

マヤ「シンジくんのお皿は、これよね?」

シンジ「そうです」

マヤ「今日もテストお疲れ様。新兵器開発、うまくいくといいね」

シンジ「そうですね、それがみんなの為になるなら」

マヤ「みんなもそうだけど、シンジくんだって痛い思いしなくて済むかもしれないのよ?」

シンジ「期待すると、ガッカリしますから」

マヤ「あ……そ、そうよね。前線で戦ってる側からしたら気休めにならないか」

シンジ「かまいませんよ。それが僕のやるべきことですから」

マヤ「疲れない? そういう生き方」

シンジ「すこし。だけど、できることがわかる内はやろうって決めたんです」

マヤ「へぇ……」

シンジ「いただきます」パク

マヤ「今日は、魚のムニエルにしてみたんだけど」

シンジ「……」もぐもぐ

マヤ「どう? 私、料理を振る舞うのすらあんまり」

シンジ「おいしいですよ。すごく」

マヤ「よかった。健康管理は私の仕事ですから、たくさん食べてね」カチャ

シンジ「あっ! ま、マヤさん!」

マヤ「……?」

シンジ「食べるんですか? それ」

マヤ「食べるわよ? 私もお腹すいてるし」

シンジ「僕、今日はすごくお腹すいてるんです。よかったらもらえませんか?」

マヤ「えぇ? そんなに?」

シンジ「はい」

マヤ「シンジくんって結構食べるのね?」

シンジ「今日は授業で体育があったんです。男子はバスケットボールで」

マヤ「そうなんだ。……わかった。私は後で作りなおすから、食べていいよ」

シンジ「わぁ、嬉しいなぁ」

マヤ「ふふっ、そうしてると本当に中学生みたいね」

シンジ「はは」もぐもぐ

【数十分後 同リビング】

マヤ「シンジくん、メンズ用シャンプー買ってきたの置いておくから」

シンジ「ありがとうございます。先に風呂はいりますね」

マヤ「えぇ。上がる時に風呂の栓を抜いておいてね」

シンジ「はい」ガラガラ

マヤ「ふぅ……。うまくできたかな、相手は子供なんだし、少しずつ慣れていけば、少しずつ」

TVCM「本当の自分をあなたに! コンタクトで世界が変わりますよー」

マヤ「本当の自分、か。さて、私もご飯食べよっと。……あ、フライパンに少し残ってるんだった」ぱく もぐもぐ

TVCM「うまーい! エバラの焼き肉のタレ!」

マヤ「うっ! ま、まずっ! ……なにこれ⁉︎ うそっ⁉︎ お砂糖とお塩間違えてる⁉︎」

シンジ『おいしいですよ、すごく』

マヤ「え? だってさっき、たしかそう言って……――」

シンジ『僕、今日はすごくお腹すいてるんです』

マヤ「も、もしかして、わざと……? 私に食べさせないために?」

シンジ『わぁ、嬉しいなぁ』

マヤ「バカ。私、なにやってるのよ……。中学生に気を使わせて」

【コンフォートマンション マナ宅】

マナ「定時連絡です。サードチルドレン、セカンドチルドレンへの接触に成功しました」

戦自高官「ご苦労。反応はどうだ」

マナ「初日ですので積極的な行動は控えています。ファーストインプレッションは滞りなく取り入れられたと思います」

戦自高官「もう一人のチルドレンについては?」

マナ「明日未明に接触を試みます」

戦自高官「とりあえず、出だしは順調といったところか。目的を忘れるなよ。仲良しクラブを作るために派遣したのではない」

マナ「了解しています。あの、ムサシとケイタは……」

戦自高官「心配に及ばんよ。今は訓練生として従事している」

マナ「少しだけでも! 話できませんか⁉︎ 私、頑張りますからっ!」

戦自高官「頑張りなど必要ない。良い知らせだけを期待している。キミの貢献に対して、我々は必ずや応えるだろう」

マナ「だめ、ですか」

戦自高官「まずはデータだ。サードチルドレンから碇一族について情報を聞き出せ」

マナ「でも、あの子、普通の子みたいでしたよ!」ギュゥ

戦自高官「ふん、さっそく情に流されだしたか。親が特殊なのだよ。親が親なら子も子だ。なにか引き出しがあるはず」

マナ「もし、なかった場合は?」

戦自高官「内閣府の可決で、中東に人材を派遣する法案が近々通るそうだ。数千人ほどな」

マナ「そんな⁉︎ 治安の安定していない激戦区じゃないですか! そこにムサシとケイタを⁉︎」

戦自高官「霧島隊員。絶対になにかある。貴様の任務を忘れるな」

マナ「……了解……しました」

戦自高官「時間の猶予はある。励めよ」プツ

【コンフォートマンション ミサト宅】

ミサト「よっほっ! ふんっほっ!」

アスカ「なにしてんの……?」

ミサト「ふんっ、ほっ、エクササイズのっ、ダンスっ! アスカも、やるっ?」

アスカ「いい」

ミサト「ふぅ……」カチ

アスカ「なんでまた急に」

ミサト「青葉くんがアイドルのグラビア見てたんだけどさぁ、あたしもまだまだ負けてらんないかなって闘志がね」

アスカ「その発言がますますババくさい」

ミサト「アスカもねぇ、油断してるとほんとあっという間よ? 今は若いから肌も代謝もいいけど」

アスカ「あーそー」

ミサト「さて、エビちゅ、エビちゅっと」

アスカ「エクササイズした意味あんの? それ……」

ミサト「これはクスリなの! 明日への活力! 今日を頑張った自分へのご褒美!」

アスカ「めんどくさ。好きにしたら? 風呂はいるわよ」

ミサト「ちょっちまった。忘れるとこだった。アスカにも一応教えておくけど、シンジくんの一人暮らしなくなったわよん」

アスカ「えぇっ⁉︎」

ミサト「これで一安心かなぁ。さすがにあの歳でアパート暮らしのたった十万支給はねぇ……」

アスカ「いつ⁉︎ いつここに帰ってくんの⁉︎」

ミサト「っと、おんやぁ~? シンちゃんが恋しいのぉ~ん?」

アスカ「あれ見ても同じセリフ吐ける?」チラ

ミサト「な、なぁ~る。けっこーたまってるわね。キッチンの洗い物」

アスカ「それだけじゃないわよ! 洗濯物も! あぁんもう、ミサトがコインランドリー行かないからじゃなぁい!」

ミサト「そ、そりは……。忙しくて」

アスカ「無駄な努力をやってたやつが言う⁉︎」

ミサト「む、むだってぇ。あたしだってイケるって」

アスカ「衣・食・住! これ生活のキホン! 三大要素!」

ミサト「めんぼくない」シュン

アスカ「で? シンジはいつ帰ってくるの?」

ミサト「それがぁ、その……」

アスカ「嫌な予感がする。なんで言いづらそうにしてんのよ」

ミサト「さぁ~すがアスカ! もう、勘がいいんだからぁ~ん」カシュ

アスカ「……ここには、帰ってこない?」

ミサト「んくんくんくっ、ぷはぁ~~っ! はい! 帰りません!」

アスカ「なんとかしなさいよっ!!」

【翌日 早朝 マナ宅】

マナ「はぁ~い?」ガチャ

加持「ちょうど近くを通りかかったもんでね、これから学校だろ?」

マナ「誰かと思ったら、加持監査官でしたか」

加持「不用心にドアを開けてよかったのか? 相手が誰か見当がついていなかったんだろ」

マナ「いいんです、そこまで息を潜めなくて。私は、私らしさを忘れたくない。上がっていきますか?」

加持「そのつもりで寄らせてもらったんだ。……ああ、用意しながらでかまわない。昨日一日の様子を聞いておこうと思ってな、失礼するよ」

マナ「はい、どうぞ。適当に座ってください」

加持「――それで、シンジくんたちの印象をどう見る?」

マナ「まだ初日を終えたばかりですよ? そう早々と結論はだせません」

加持「現時点でキミが受けている見解を聞いているのさ。これからやりとりを重ねるにつれて情報は増えるだろうが、とりあえずのね」

マナ「普通の子じゃないですか?」シュル パサ

加持「それだけかい?」

マナ「はい。戦自にも昨夜、定時連絡の折にそう報告しています」

加持「ふっ、それだけじゃ頭のお堅い連中は納得しなかったろう?」

マナ「頑張りますって言っても……相手にされませんでした。意思表明は必要ないって」

加持「だろうね。マナちゃんの経歴書に目を通させてもらったよ。この、度々でてくるムサシとケイタというのは友達かい?」

マナ「幼馴染です。私たち、物心ついた時から、辛い時も楽しい時も同じ環境で過ごしてきました」

加持「戦自に入隊しようとした動機を聞いても?」

マナ「最初は……志願した理由ってほんとにささいなきっかけで。なんだと思います?」

加持「さてね」

マナ「お腹いっぱいご飯を食べられる。それだけだったんです」

加持「……」

マナ「私は、ムサシとケイタと笑って毎日が過ごせるなら満足でした。でも、入隊してから数ヶ月がたったある日、二人の様子がだんだんと変わっていったんです」ギュゥ

加持「国のためという大義名分。団体生活の中で洗脳されていったのか」

マナ「二人ともなにも見えてないんです! 私たちは兵士で、使い捨てのただの駒扱いだって!」

加持「間違っちゃいない。国はそういう目的で人材をかき集めているからな」

マナ「こわくなりました。二人が、もしかしたら……ううん、このままだと間違いなく、死んじゃうって」

加持「なるほど。それで、この任務で白羽の矢が当たった時、キミは飛びついたわけか」

マナ「これしかないんだもん。救うためには」

加持「……」

マナ「戦自の上官は私に約束してくれました。必要な情報を引き出し、結果を示せば、三人とも前線から遠い情報作戦室に配置してくれるって」

加持「(ウソだろうな)」

マナ「だから、それを信じて私は、やります」

加持「事情は把握した。俺からこの道の先輩としてひとつアドバイスをしよう」

マナ「……?」

加持「自分を守れるのは、自分だけだ。退路は常に用意しておけ」

マナ「簡単に言わないでくださいよ」

加持「頭の片隅に入れておくだけでも違うもんさ。良心の呵責でまわりを利用するのに躊躇しちゃいけない、一瞬の判断の遅れが生死を分ける」

マナ「……」

加持「例えば、シンジくんに辛い思いをさせてまで利用することになってもね」

マナ「私は、そのつもりです。ターゲットなんですから」

加持「そうは言っても一線をなかなか踏み越えられないものさ。ま、どう行動するかはマナちゃん次第だけどな」

【第三新東京市立第壱中学校 HR前】

シンジ「おはよう」ガララ

アスカ「あ、シン――」

マナ「シンジくん! おはよう!」タタタッ

アスカ「っと」

シンジ「マナ、おはよう」

マナ「あの、端末がまだ来てないんだ。明日には届くらしいんだけど。だから、今日も……」

シンジ「ああ、うん。大丈夫だよ」

ヒカリ「これで日直の仕事終わりっと。……? アスカ、手あげたまま固まってなにしてるの?」

アスカ「えっ⁉︎ あ……え~と、それはその~、あ、あ~コンタクトズレちゃったぁ~」

ヒカリ「へ? アスカ、コンタクトしてたの?」

アスカ「してないけど」

ヒカリ「は、はぁ……」

マナ「あのね、今日は、あとで綾波さんに紹介してほしいな。シンジくんが暇な時でかまわないから」

シンジ「わかった。昼休みでいい?」

マナ「うん、ごめんね? なんだか、いろいろ迷惑、だよね……?」

シンジ「そんな。気にしなくていいよ、マナはまだ二日目だし」

マナ「ありがとうっ! 嬉しいっ!」ハグ

シンジ「わわっ⁉︎」

男子生徒A「だ、抱きついたっ⁉︎」

男子生徒B「なんてうらやま、けしからんやつぅ!」

女子生徒A「なぁ~にあれ。見せつけちゃってさぁ」

ヒカリ「わぁ……大胆だね、マナって」

アスカ「ヒカリ、席につくわよ」

ヒカリ「いいの? アスカ」

アスカ「なにが?」

ヒカリ「う、うーん? いいなら、いいけど」

シンジ「その、みんなこっち見てるから、離れて」

マナ「あっ! ご、ごめんなさい! つい嬉しくってはしゃいじゃった、えへへ」

シンジ「素直なんだね、マナは」

マナ「そう? 前の学校ではそう言われることあったかも」

シンジ「そうなんだ? 前はどこに住んでたの?」

マナ「ここよりずっと田舎の方。のどかで、私は嫌いじゃなかった」

シンジ「……さみしいの?」

マナ「昨日も、思い出して泣いちゃった。まだきたばっかりだからかな。ちょっと、ホームシック」

シンジ「あ……」

マナ「でも、アスカやヒカリみたいな新しいクラスメートができて嬉しい。それに、その……シンジくん、優しいし……隣でよかった」ポッ

シンジ「いや、まぁ、その」

アスカ「ちっ」

ヒカリ「……」

アスカ「あたし思うんだけどさぁ、パイロットて常日ごろから危機意識もたないといけないんじゃないかしら?」

ヒカリ「はじめて聞いた」

アスカ「だらしなく! デレデレと! するのはどうかと思わない? 私たち使命があるんだから」

ヒカリ「そうだね?」

アスカ「マナもマナよねぇ。昨日せっかく注意してあげたのに、上っ面に騙されちゃだめだって」

ヒカリ「う、うん」

アスカ「委員長、注意しなくていいの?」

ヒカリ「へ? なんで?」

アスカ「風紀の乱れは校則の乱れでしょ!」

ヒカリ「でも、あれぐらいいいんじゃない?」

アスカ「ぐぬぬ……」

ヒカリ「アスカ、もう少し、素直になりなよ。アスカだって、とってもかわいいのに」

アスカ「はぁ、なにについて? まるで私がシンジに素直じゃないみたいじゃない。私は、あくまでも――」

マナ「あの、今度、お礼がしたいな。一緒にどこか遊びにいかない?」

アスカ「ちょ、ちょっと」

ヒカリ「わあ、大胆プラス積極的」

シンジ「そこまでしてもらっちゃ悪いよ。僕はできることしかしてないから」

ヒカリ「断るのかな」

アスカ「とーぜん!」

マナ「全然! 気にしないで? むしろ、私が申し訳なくて……」

シンジ「うぅん」

アスカ「なに悩んでんのよバカシンジ! 男らしくきっぱり断りなさいよ!」

ヒカリ「ちょっと待ってて」ガタ

アスカ「……?」

マナ「や、やっぱり、迷惑だよ、ね?」

シンジ「そういうわけじゃ」

ヒカリ「碇くん、マナ、おはよう」

マナ「ヒカリ。おはよう」

シンジ「おはよう」

ヒカリ「どこかに遊びにいくの?」

マナ「え? 聞いてた?」

ヒカリ「ごめんね。ちょっと聞こえちゃって」

シンジ「いや、僕は」

ヒカリ「アスカと鈴原たちも誘ってみんなでプールに行かない?」

マナ「わぁ、いいね! そうしようよ!」

ヒカリ「うん、よかった。アスカぁー! ちょっとこっちきて!」

アスカ「……」ぶっすぅ

ヒカリ「みんなで遊びにいかないかって! もちろん行くよね?」

シンジ「女の子同士で行ってきな――」

ケンスケ「そりゃないんじゃないか碇ぃ~! なんだぁ? 友達におすそ分けしないってのかぁ?」

シンジ「ケンスケ、おはよう。おすそ分けってなにを?」

ケンスケ「プライベートの水着姿なんて高く売れるに決まってるだろ!」こそ

シンジ「ああ……」

【同学校 昼休み】

シンジ「綾波」

レイ「……? 碇くん?」

マナ「こんにちは。話するのはじめてだね、えへへ」

シンジ「転校生の霧島マナさん。こっちが綾波。エヴァのパイロットだよ」

レイ「……」ジー

マナ「よろしく。よければ、友達になってもらえないかな?」スッ

シンジ「……」

レイ「私が? あなたと?」

マナ「え? ……うん」

レイ「なぜ?」

マナ「え、えっと」

レイ「命令があれば、そうするわ」

マナ「命令って……あの、碇くん」

シンジ「綾波は誰に対してもこうだから。こういう子なんだよ」

マナ「碇くんにも?」

シンジ「僕だって例外じゃない。最近は、少し喋るようになったけど。それに、いきなり仲良くできなくても仕方ないじゃないか」

マナ「(碇くん、綾波さんとアスカで接し方が違うのね。この違いは……? 個性の違い? なにか、ひっかかるような……)」

シンジ「どうしたの? 考えごと?」

マナ「う、うぅん。私、反省してたの。そうよね、いきなり仲良くなってなんて無理よね」

シンジ「よかった、綾波のこと嫌いにならないでくれて。少し、時間がかかるかもしれないけど、僕がいない時も話かけたらいいんじゃないかな」

レイ「碇くん」

シンジ「うん?」

レイ「報告したい件がある。この前の話」

マナ「(……なんだろう、もしかして、情報……?)」

シンジ「わかった。ここじゃなんだから、屋上に行こうか」

レイ「ええ」

シンジ「マナ。僕たちは少し席をはずすね」

マナ「うん……」

名称が碇くんになってしまってるミスあるんで訂正レスします

【同学校 昼休み】

シンジ「綾波」

レイ「……? 碇くん?」

マナ「こんにちは。話するのはじめてだね、えへへ」

シンジ「転校生の霧島マナさん。こっちが綾波。エヴァのパイロットだよ」

レイ「……」ジー

マナ「よろしく。よければ、友達になってもらえないかな?」スッ

シンジ「……」

レイ「私が? あなたと?」

マナ「え? ……うん」

レイ「なぜ?」

マナ「え、えっと」

レイ「命令があれば、そうするわ」

マナ「命令って……あの、シンジくん」

シンジ「綾波は誰に対してもこうだから。こういう子なんだよ」

マナ「シンジくんにも?」

シンジ「僕だって例外じゃない。最近は、少し喋るようになったけど。それに、いきなり仲良くできなくても仕方ないじゃないか」

マナ「(シンジくん、綾波さんとアスカで接し方が違うのね。この違いは……? 個性の違い? なにか、ひっかかるような……)」

シンジ「どうしたの? 考えごと?」

マナ「う、うぅん。私、反省してたの。そうよね、いきなり仲良くなってなんて無理よね」

シンジ「よかった、綾波のこと嫌いにならないでくれて。少し、時間がかかるかもしれないけど、僕がいない時も話かけたらいいんじゃないかな」

レイ「碇くん」

シンジ「うん?」

レイ「報告したい件がある。この前の話」

マナ「(……なんだろう、もしかして、情報……?)」

シンジ「わかった。ここじゃなんだから、屋上に行こうか」

レイ「ええ」

シンジ「マナ。僕たちは少し席をはずすね」

マナ「うん……」

【同学校 屋上】

レイ「手の具合、どう?」

マナ「……」ソォー

シンジ「問題ないよ。アダムがいる違和感はあるけど」

レイ「同化は……――」

マナ「(ここからじゃよく聞こえない……)」ススッ

シンジ「昨日、部屋で包帯をとってみたんだ。確認したら体内にとりこめるんだね」

レイ「碇くんの一部になればなるほど、外見上は普通になっていく」

シンジ「神経を集中していないと思うように目立たせなくできないから、まだ包帯は必要だけど」

レイ「そう」

シンジ「母さんはここまで知っていて僕に移植したのかな」

レイ「ええ」

シンジ「そう、だよね。怪我はいつか治るし、このままの状態じゃ隠せるわけないんだ」

レイ「赤木博士のデータベースにアクセスした」

シンジ「どうだった?」

レイ「権限はレベルEEE。リリスがいるフロアのヘブンズドアと同じ」

マナ「(シンジくんの手になにが……? リリスって……?)」

シンジ「やっぱり、調べるのは難しそう?」

レイ「……」コクリ

シンジ「どうしようかな……。リツコさんに頼むわけにも……」

レイ「電子制御は、アダムの力を使えばできなくもない」

シンジ「え?」

レイ「衝動は平気?」

シンジ「昨日の夜中に少し。アダムからの干渉なの?」

レイ「たぶん」

シンジ「壊したいって思った。なにか、なんでもいいから。積み木や砂場の山をこわすように」

レイ「凶暴性を抑えきれなくなったら言って。協力する」

シンジ「わかった。……ありがとう。さっき、僕の同化が進めば、電子制御できるって言ったよね? それってアクセス権限に関係なく、できる?」

レイ「可能になる。アダムの持つ力は、強い電磁波を発生させるから」

シンジ「……」

マナ「(なに……? なんの話……?)」

シンジ「試してみるよ」

レイ「……」

シンジ「アダム、最初の人間にして、始祖たる存在の一人。使徒、天使の名を持つ使者。……そして、綾波。今なら、母さんが言っていた真実を信じられる」スタスタ

レイ「……」

シンジ「ここから見える景色。街に来た最初の頃は、嫌で嫌でしかたなかったのに。不思議だね、今はそれすら遠い過去に思えるんだ」

レイ「不変なものは存在しないわ」

シンジ「そうかな。僕はそう思わない。取り巻く環境、父さん……はいなくなってしまったけど、かわらないものがあるんじゃないかな」

レイ「……?」

シンジ「綾波は変わった?」

レイ「私?」

シンジ「うん。ネルフで父さんや色んな人と接して、時間を過ごして変わったと思う?」

レイ「わからない」

シンジ「不変なものは存在しないってリツコさんが言ってたの?」

レイ「……」フルフル

シンジ「じゃあ、父さんかな」

レイ「……」コクリ

シンジ「やっぱり、そうなんだね。綾波がちょっとだけ、羨ましい」

レイ「なぜ?」

シンジ「父さんのそばにいられたから」

レイ「……」

シンジ「もっと色々教えてほしかったんだ。ただ、それだけ。でも、こうなってしまった。空、見てみてよ」

レイ「……」スッ

シンジ「雲が流れてる。なにが起こっても、僕たちはちっぽけな人間なんだね」

【同学校 教室】

マナ「……」スタスタ

ヒカリ「あ、マナ。どこ行ってたの?」

マナ「学校の中を見て回っててたの」

シンジ『父さんのそばにいれたから』

マナ「(あの時見せた、悲しそうな表情はなんなんだろう……やっぱり、上官の言う通り普通の子じゃないのかな……)」

アスカ「見学なんてして楽しい?」

マナ「うん……どこになにかあるか知りたかったって理由もあるよ。アスカは、転校してきたときしなかったの?」

アスカ「はっ、こんなこじんまりした学校のどこに見所があるってのよ。キャンパスと比べて見劣りするじゃない」

ヒカリ「大卒だもんね。飛び級って言ってたっけ? 凄いなぁ、優秀だって認められるなんて」

アスカ「ちょおっとひっかかるんだけど。あたしが才能だけで選ばれたと思ってない?」

ヒカリ「漫画みたいにずば抜けた才能があったんじゃないの?」

アスカ「これだから凡人は。発想が貧弱なのよ。まぁ、日本人はトランスファー制度だって浸透してないし大目に見てあげる」

ヒカリ「むっ。私だって知ってますよーだ。大学で転校するみたいな話でしょ?」

アスカ「大雑把にいうとね。ヒカリ、よく知ってたわね。この国だと大学に在籍したら四年間は同じ場所で過ごすのが普通でしょ?」

ヒカリ「えへへ、たまたまなんだ。海外の学習事情のこと、前ニュースでやってたから」

アスカ「変な国よね、ここ。しなきゃいけないってわけじゃないけど、発想に柔軟性がないような環境っていうか」

マナ「みんな、頑張って生きてる。それだけじゃだめなのかな……」

アスカ「……?」

マナ「エリートとか、凡人とか。そんなので優劣つけたって楽しくないよ。笑って過ごせればいいじゃない」

ヒカリ「マナ……?」

マナ「私は嫌だな。差別意識を助長してる気がして」

アスカ「ひけらかすつもりないけどさぁ、世界経済は一握りの天才がまわしてるもんなのよ」

マナ「アスカも、エリートって“枠”を作りたいの?」

アスカ「そうじゃなくて。頭がいい人、悪い人。抜けてる人。良く言えばそれも個性よね。でも頭がいい人の足を引っ張るのは“行動するバカ”の仕業が大半なのよ」

マナ「そうかな……」

アスカ「バカは自分で考えないでしょ。なぜそうなるのか、どうして辿り着くのか。視野が狭いし考える必要ないもの」

ヒカリ「……」

アスカ「思考停止してるようで自分の楽しいことだけを繰り返す。それこそ、本能だけでね。だけど、それはひとつの正解」

マナ「……」

アスカ「インテリは短絡的思考のバカを嫌うもんよ。世の中が民主主義でよかったわよねぇ、エリート思考なんて考えだとロクなことにならないし」

【ネルフ本部 ラボ】

ミサト「フォースの選定ぃ? 三号機の搬入に合わせて? 都合よくホイホイ決まるもんねぇー」

リツコ「マルドゥックから通達があったそうよ。これが、候補者の子の氏名とデータ」ピラ

ミサト「また子供。……しかも、レイと同じ出自不明の少年、か」

リツコ「……」

ミサト「ねぇ、なんでマルドゥックはエヴァのパイロットに関する公開レベルに差をつけるの?」

リツコ「知らないわ。存在自体が謎のヴェールに包まれているもの。選定方法もね」

ミサト「あんた、なにかウソついてない?」

リツコ「あら。どうしてそう思うの?」

ミサト「女の第六感ってや~つ」

リツコ「男に対する浮気に使うものじゃなくって?」

ミサト「あたしの勘は侮れないわよん?」

リツコ「根拠のない自信ね。ウソはついてないわよ」

ミサト「ほんとにぃ?」

リツコ「私がなにに対して興味をもつのか。友人歴の長いミサトだったらわかるでしょ」

ミサト「人の心なんてわかるもんじゃないわよ」ボソッ

リツコ「え……? 何か言った?」

ミサト「ま、リツコが隠し事をするときはある癖があるしねぇ~」

リツコ「はじめてね。ミサトがそんなこと言うの。お生憎様、ひっかけにのってあげるのはまた今度ね」

ミサト「ぶーぶー」

リツコ「おちゃらけるのも結構だけど、そろそろ身を落ち着けたら? 加地くん戻ってきてるんだし」

ミサト「やぁだぁ。あいつの話はやめてよー」

リツコ「いつまで逃げ切れるかしらね、過去から」

ミサト「はいはい。お説教がはじまりそーなんで退散しまーす」

リツコ「(やはり、ミサトは勘づいてくるわね……)」

【ネルフ本部 執務室】

リツコ「――葛城一尉に関する報告は以上です。人事内部の大幅な改変。これに加えフォースの選定があまにも露骨すぎです。代替え案を提唱します」

ユイ「これがバイタルデータのすべて?」

リツコ「え? え、えぇ。シンジくんの心理状況は極めて安定しています。タブリスの干渉による二次副産物はないもの考えられます」

ユイ「おかしいわ」

リツコ「え……?」

ユイ「赤木博士。人が夢を見る特徴をご存知よね?」

リツコ「レム睡眠とノンレム睡眠時で違いがあります。内容についての分類は諸説ありますので断定はできませんが、なんらかの脳の処理だという点において相違ありません」

ユイ「研究にて睡眠をとる度に毎回、必ず夢を見ることが判明してる。中には“見なかった”という例もあるけど、それは“忘れている”だけ」

リツコ「はい。ですので、シンジくんは記憶の保持ができていないかと」

ユイ「夢を覚えていない確証はない……」

リツコ「……? なぜでしょうか?」

ユイ「前提が不自然なのよ。まず、シンジは本当に睡眠状態と同じだったのかしら」

リツコ「は?」

ユイ「医師の診断報告書によると、光を当ててみても眼球の瞳孔が拡大したままだったとあるわね。普通はそうなる?」

リツコ「たしかに……。しかし、そう裏付けるデータを今回のシンクロテストで――」

ユイ「なぜ、なぜ変化がないの……?」

リツコ「……」

ユイ「タブリスをここに」

リツコ「シンジくんは経過観察でよろしいのでは。今はネルフ内部掌握の件を優先すべきです」

ユイ「いいから呼びなさいっ!」バンッ

【数十分後 同執務室】

カヲル「まだなにか僕に用が? 約束の時まで早すぎるようだけど」

ユイ「この書類を見てちょうだい」

カヲル「……」ペラ

ユイ「あまりにも安定しすぎている。脳を弄ったさいに、なにを見せたの? なんの目的であの子を――」

カヲル「ふっ」

ユイ「やはり、なにか仕込んだのね?」

カヲル「貴女は見当違いをしている」

ユイ「……」

カヲル「いいよ。教えるかわりに、僕に何をしてくれるんです?」

ユイ「現在の独居房暮らしから第6区画への移住を認めます。生活が人間らしくなるわよ」

カヲル「ボクがそれを望んでいるわけじゃない。なぜ、ヒトと同じ定義で捉えるのかな」

ユイ「そうだったわね。……あなたの望みをひとつ叶えましょう。できうる限りで」

カヲル「黙秘を希望するよ」

ユイ「バカバカしいやりとりをさせないで! はやく教えなさい!」

カヲル「息子のことになると必死になるのを直した方がいい。冷静さを失っては、愚者の姿になるからね」

ユイ「……!」ギリッ

カヲル「ボクが彼にしたのはほんの“火遊び”さ。最終目的は共通している。碇ユイ博士の障害になるようなマネはしていないよ」

ユイ「シンジは本当にあなたに脳を弄られたという自覚がないのね?」

カヲル「おそらくは」

ユイ「……そう」ギシ

カヲル「わざわざ確認するためにボクをここに? ネルフ総司令は割とお暇なようだ」

ユイ「……」

カヲル「自分の息子に直接聞くのがこわいんだ。違うかい?」

ユイ「……」

カヲル「どんなに優秀であれ、所詮はただのヒトなんだね」

【数時間後 ネルフ本部 第四通路】

シンジ「試そうと思ったけど力って、どうやって使えばいいんだろう。聞くの忘れちゃったな」

放送「メンテナンスを実行中。作業員は、現在の区画の予備パイプを――」

シンジ「エヴァと同じで念じればいいのかな」スッ

カヲル「そうじゃないよ」

シンジ「キミは……?」

カヲル「こんにちは、碇シンジくん。起きている時に会うのはこれがはじめてだね」

シンジ「(なんだ、この感じ。綾波に似ている)」

カヲル「音声は拾えないけど、ボクとキミの姿は監視映像で残ることになるから。これでますます疑念を持つだろうけど」

シンジ「……?」

カヲル「アダムの力を使いたいのかい?」

シンジ「あ、うん。知ってるならやっぱり、キミも綾波と似た存在なんだね」

カヲル「彼女もボクと同じだけど、原理的な話をすればキミの方が近しい存在だけどね。アダムの力の使い方をレクチャーしてあげるよ」

シンジ「え……? 知ってるの?」

カヲル「簡単だよ。まずは能力の正体について話をしようか」

シンジ「うん」

カヲル「アダム、その他の使徒と呼ばれる個体が持っている様々な特性は人類が手にしていない未知の構成で成り立っている」

シンジ「……」

カヲル「彼らは自ら望んであの形に進化した。学習してね。さて、そのうえでだ。アダムに特性があるとしたら、どんな能力だろうね」

シンジ「綾波は、電磁波を発生させると言ってたけど」

カヲル「あくまでもそれは、一端だとは思わないのかい? 格好いいとは思わないけど、例えば、“電磁波の味がわかる”……とか」

シンジ「そんな、食べるわけじゃないし味なんてしないよ」

カヲル「ヒトの常識で物事を判断してはないけない。キミはヒトとは別の使徒の力を行使しようとしているのだから」

シンジ「なんだか、超能力者みたいだね」

カヲル「……そうだね、こう考えたらいい。今ある身体能力に余分な要素が増えただけと」

シンジ「使い方は?」

カヲル「最初に言ったはずだよ。簡単だって。キミは呼吸にする時、念じて息をするのかい? 試しに、僕が目の前にある扉の施錠を解除してあげるよ」チラ

シンジ「……⁉︎ す、すごい。目配せだけで?」

カヲル「キミの手に感じる違和感が証拠になる。受け入れていないんだ。身体の一部として」

シンジ「つまり、綾波が言ってた、僕と同化が進めば可能になるって……」

カヲル「そのままの意味ってことさ」

【ネルフ本部 執務室】

ユイ「いらっしゃい。ラクにしていいわよ」

アスカ「……」

ユイ「嫌われたものね。苦手? 私が」

アスカ「なんの為にここに呼んだんですか?」

ユイ「キョウコに関することを質問されたのがそんなにイヤだったのね。信じてほしいんだけど、私は、キョウコの友人だった」

アスカ「白々しい。そうやって涼しい顔して平気で嘘を並べ立てる大人ばっかりじゃない」

ユイ「あなたは、はやく大人になりたいんじゃないの?」

アスカ「私は、自分でなんでもできるようになりたいってだけ。それが大人だっていうのならそう。その為に貪欲に色んな経験をしたいの」

ユイ「向上心を持っていて素晴らしいわ。野心もあるのかしら。だとすれば、それはなに?」

アスカ「質問が命令じゃないなら拒否する」

ユイ「駆け引きができるのね、頭がいい。さすが、幼少時代から英才教育を受けてきたエリート。キョウコが存命ならさぞ喜んだでしょう」

アスカ「そんなの当たり前――」

ユイ「だけど、叱られるわよ。今のあなた」

アスカ「……!」

ユイ「もっと自分の為に生きなさい! 私に褒められるだけが人生じゃないのよ! ってね」

アスカ「あんたなんかに……っ! ママのなにがわかるっていうのよ!」

ユイ「これ、見てくれない?」ペラ

アスカ「……? こ、これって……!」

ユイ「そう。キョウコと撮った写真なのよ。私たち、いい笑顔してるでしょ?」

アスカ「ほんとに仲よかったの⁉︎」

ユイ「もちろんよ。研究してる分野は違ったけど、よく昼食を一緒に食べたり、遊びに行ったりしてた。訃報を聞いて、残念に思ったわ……」

アスカ「ママ……」クシャ

ユイ「あなたは、早くに母親を亡くして、孤独で辛い想いをしてきたことでしょう。父親の再婚相手に馴染めずに、不信感を抱いたまま成長してきた」

アスカ「……」

ユイ「これからは私が面倒を見るわ。ネルフにいる間はね、それが亡き親友にできる、精一杯のことだから」

アスカ「ママを、頭がおかしくなったって思ってないの……?」

ユイ「以前に言ったけど、今なら信じてもらえる? 私はキョウコの頭がおかしいなんて思ったことはない。彼女は、聡明で、賢い女性よ」ニコ

アスカ「あ……」

冬月「ユイ君、誰も通すなと言っていたようだが――……なんだ。セカンドチルドレンがいたのか」

ユイ「副司令。どうなされました?」

冬月「戦自について調べが進んだのでね、後でよかろう」

ユイ「かまいません。このまま報告を」

冬月「しかし」

ユイ「いいんです。大切な子なんですから」

アスカ「た、大切な……?」

ユイ「ええ。息子よりとっても優秀な、エヴァのパイロットなんですもの。違う?」

アスカ「いや、その、違わない、けど……」

冬月「……戦自から潜りこんでいるネズミの件だ。霧島マヤだよ」

アスカ「え……?」

霧島マナのミス

ユイ「やはりこちらの予想通り内部工作が目的で?」

冬月「そう考えて問題なかろう。わざわざ潜伏させるにあたり、具体的な指示は不明だがネルフに対する調査か、あるいは破壊工作だと見て間違いあるまいな」

アスカ「そんな……うそでしょ……?」

ユイ「どうしたの? 驚いてるみたいだけど、知り合い?」

アスカ「クラスメート……」

ユイ「あら、初耳ね。副司令、たしかですか?」

冬月「ああ。資料によると彼女の在籍している学年は2-A。奇しくもチルドレン達と同じ教室だ」

ユイ「困ったわね。警告をだした方がいいかしら……」

冬月「目的がわからない以上、こちらが下手に動くわけにもいくまいよ」

ユイ「そうですね。アスカって、呼んでもいい?」

アスカ「え? ……はい」

ユイ「このことはサードチルドレンにもファーストチルドレンにも秘密にしておいてほしいの。時がくれば、通達できると思うから」

アスカ「シンジにも? だって、自分の息子でしょ?」

ユイ「あの子、すこしだらしないから。アスカの方が信頼できるわ」

アスカ「私を、信じてくれるの?」

冬月「……」

ユイ「だからこその“お願い”よ。強制はしない。だって、あなたはそんなことする子じゃないって思ってるから」

冬月「もしの場合の責任はどうするつもりだね」

ユイ「私が全て負います」

冬月「まだキミたちは知り合って間もないだろう。セカンドチルドレンを買いかぶりすぎではないか。こんなじゃじゃ馬ムスメを」

アスカ「なっ……!」

ユイ「副司令。発言が過ぎています。他言はありませんよ。それと、また同じような暴言をすれば、罰を与えます」

アスカ「……あ、あの……」

ユイ「アスカ、この後の予定はある?」

アスカ「いえ、帰るだけですけど」

ユイ「それじゃぁ、一緒にご飯を食べない? おいしい店があるのよ」

アスカ「えぇと」チラ

冬月「ふん、好きにしろ」

ユイ「すこし、表で待っててくれる? 小言を聞かなきゃいけないから」

アスカ「はい、わかりました」

冬月「――見えすいた三文芝居をさせおって」

ユイ「なかなかいい演技でしたよ」

冬月「さしづめ私がムチでキミがアメといった役割か。事前に渡されたメモがなければ意図するところが理解できなかったよ」

ユイ「すこしずつ警戒心を和らげていけばよいのです。利用できるのですから」

冬月「それで? セカンドチルドレンに霧島マナを監視するよう言うのか?」

ユイ「そんな要求をすれば、“対価のためにとりいっている”という印象をいだくでしょう。ですので、そのままです」

冬月「なにも言わないのかね?」

ユイ「ネズミの情報をチラつかせ、彼女を実力で正当評価していると思わせる。たったこれだけで、報告をしてほしいなんて言わずとも、セカンドチルドレンから進んでするようになります」

冬月「親代わりになり信頼を得るか。よかろう」

ユイ「ご一緒にいかがです?」

冬月「遠慮しておく。私は子守りは苦手だよ」

ユイ「葛城一尉宅に仕掛けておくようお願いした爆弾の件は?」

冬月「既に完了してある。マンションを倒壊させるほどの爆薬だ。在宅していれば確実に息の根を止められるだろう。ネズミもろともな」

ユイ「では、そちらも手筈通り、赤木博士に起爆スイッチを渡しておいてください」

冬月「承知した」

【ネルフ本部 独居房】

シンジ「ここに、住んでるの?」

カヲル「借り暮らしさ、ボクの還るべき場所はここじゃない」

シンジ「でも、住むような場所じゃ……」

カヲル「キミだって似た環境で過ごしていたんじゃないのかい? 父親の、他人のぬくもりを知らずに」

シンジ「人並みに住める家だったよ。それに、不自由はしなかったから」

カヲル「……」スッ

シンジ「な、なに? いきなり肩に手をおいて。なにかついてた?」

カヲル「実験だよ。やはり、人との接触を極端に警戒する傾向にあるね」

シンジ「誰だって、初対面相手だとこうじゃないかな」

カヲル「ヒトは、なにか行動する際に理由を求める。ただ手をおきたかったことだって立派な理由のひとつじゃないのかい?」

シンジ「それは、時と場合によるよ。いきなりそんな……」

カヲル「常識……それとも、不安? それぞれが独立した個であるヒトゆえに次の行動を予測できない」

シンジ「良い気持ちはしない、それだって立派な理由じゃないか」

カヲル「そうだね。だけど、そこに起因するのは心の壁に階層があるからだろう?」

シンジ「……」

カヲル「忘れていた。自己紹介がまだだったね。ボクは渚カヲル。もっとも、名前なんてものは何者か知覚てできるボクたちにとって無価値に等しいけど」

シンジ「僕は、シンジ。碇シンジ」

カヲル「改めまして、よろしく。ボクはフォースチルドレンだよ」

シンジ「え? エヴァは?」

カヲル「近々、三号機が新たに配備される。そのパイロット」

シンジ「キミが……。渚、くん」

カヲル「カヲルでいいよ。シンジくん」

シンジ「やっぱり、その、カヲルくんも母さんの味方なの?」

カヲル「どうして?」

シンジ「ネルフの総司令官は母さんだから。父さんの時は綾波。母さんの時はカヲルくんなんじゃないのかなって」

カヲル「なるほど。でも、前例とまったく同じってわけじゃない」

シンジ「違うの?」

カヲル「純粋だね、キミは。他人の言う意見を間に受けすぎだよ」

シンジ「……」

カヲル「しかし、だからこそキミの無垢な魂は崇高な存在になりえるのかもしれない」

シンジ「教えてほしいんだ。母さんがなにを考えているのか」

カヲル「ボクはただの駒。裏で操作している本人か、委員会の連中に聞くといい。キミがこのまま同化していけば、むしろあちらからすり寄ってくるだろうからね」

シンジ「委員会……。また僕の知らない名前だ」

カヲル「ひとつ教えておいてあげるよ」

シンジ「……?」

カヲル「碇博士はキミにふさわしい相手を見つけるつもりのようだ」

シンジ「ふさわしい、相手?」

カヲル「ボクが言えるのはそれだけ。……そろそろ行かなきゃいけない場所があるから。また会えるといいね、シンジくん」

【第三新東京都市 レストラン】

ウェイター「ご予約名は?」

ユイ「碇です」

ウェイター「お待ちしておりました、碇様。ご案内します」

ユイ「いきましょうか」コツコツ

アスカ「……」スタスタ

ウェイター「こちらのお席になります」スッ

ユイ「ありがとう」

アスカ「シンジは?」

ユイ「あら。どうしてシンジが一緒だと思うの?」

アスカ「だって、息子だし」

ユイ「自分の子供だからという理由で特別扱いしないわよ。あなたがここにいる理由だってキョウコの娘だからというわけじゃない。どうしてかわかる?」

アスカ「……」

ユイ「私は、あなたに期待しているの。副司令は過大評価だと言うけれど……きっと、今よりもっともっと成長できると信じてる。その点においては、彼女の子供だからという甘めの基準になってるかもね?」

アスカ「シンジだって、親が優秀という話なら一緒だわ」

ユイ「私を褒めてくれるの?」

アスカ「そうじゃない……です。経歴だけを見たら、そう思うから」

ユイ「たしかにね。私と夫は、積み重ねてきたモノがある。でも、息子はこれまでなんの努力もしてこなかった。ただ、まわりに合わせるように流されて生きてきただけ」

アスカ「……」

ユイ「あなたは違うわ。才能だけで辿り着けない域にまで己を高めてきた」

アスカ「……」

ユイ「ふふっ、さ、なにを食べたい? ここね、ドイツ料理が美味しいと評判のお店なの。日本人に合った味付けをしているから、郷土料理までいかないと思うけど」

アスカ「あの、ママの話を、聞かせて」

ユイ「ゆっくりね? まずは注文を済ませましょ。時間はあるんだから――」

【マヤ宅 リビング】

シンジ「(アダムを僕の一部だと受け入れる……)」もぐもぐ

マヤ「あの、今日は味付け上手にできてると思うんだけど……」

シンジ「え? えぇと」

マヤ「おいしくなかった⁉︎」ぱくっ もぐもぐ

シンジ「あ、いや。そんなつもりは。すいません、少し考えごとしてて味を――」

マヤ「ああ! やっぱり少ししょっぱい……! ちゃんと味見して確認したのに。どうして……」

シンジ「あの?」

マヤ「こんなんじゃダメ! やっぱり、先輩が私の問題点を改善する必要があると言ったのはその通りだったんだわ!」

シンジ「マヤさん?」

マヤ「ごめんね! シンジくん!」ガタッ

シンジ「は、はぁ?」

マヤ「私、変わらなきゃ! シンジくんは中学生、シンジくんは子供、シンジくんは良い子、シンジくんは不潔じゃない……」ぶつぶつ

シンジ「おいしいですよ。これ。そんなに気にするほどじゃ……」

マヤ「馬鹿にしないでっ!」バンッ

シンジ「……!」

マヤ「あ……ち、違うの。その、子供に気を使ってもらうと、私のちっぽけなプライドが……」

シンジ「……僕は、マヤさんにお世話になってる身ですし、馬鹿になんてしてません。それだけわかってもらえれば」

マヤ「うぅ……ごめんね?」

シンジ「謝らないでいいですよ。僕もいつも他人謝ってばかりだから、なんだか自分を見てるような気がします」

マヤ「私って中学生と一緒なの……」

シンジ「他意はないんです。僕は、こう思ってるって普段あんまり主張しないから。自分でもわかってるんです。だけど、自分じゃどうしようもできない」

マヤ「……」

シンジ「抜けだすのって難しいんですよね。同じ経験をしてると勝手に僕が思ってるから言っただけで」

マヤ「どうしたら、いいのかな」

シンジ「マヤさんは仕事ができるし、そんなに悩むことないと思います」

マヤ「でも、私には仕事しか……」

シンジ「(やっぱり、エヴァしかないって思ってる僕と同じだ)」

マヤ「仕事をしてれば、自分を誤魔化すことで見ないふりができる。だけど、それだけじゃ先輩に見捨てられちゃう……」

シンジ「それぞれペースってあるんだと思います。ゆっくりでいいんじゃないですか?」

マヤ「そうかな」

シンジ「僕も、変わろうと決めたところなんです。なかなかうまくいってません」

マヤ「シンジくんも……?」

シンジ「はい。決意表明みたいに宣言する必要はないんじゃないかって。毎日少しずつ変われたらそれで」

マヤ「そっか……。なんだか、少し似てるのかもしれないわね、私たち」

シンジ「そうですね。僕もマヤさんも縋るものの違いだけで、コンプレックスを抱えてるんじゃないでしょうか」

マヤ「私は、異性への対人関係だけど、シンジくんは?」

シンジ「僕は、エヴァしかないってずっと思ってました。パイロットでいれば、みんなが褒めて、一員だと認めてくれる。なぜ乗れるかすらわからないままなのに」

マヤ「あ……そう思ってたんだ」

シンジ「でも、言葉って大事ですよね。行動も。言わなきゃ伝わらないし、動かなきゃ結果はついてこない」

マヤ「……」

シンジ「こわかったんです。悪い結果になるのが」

マヤ「うん、うん、わかる」

シンジ「だから、マヤさんだって――」

マヤ「シンジくんっ!!」ギュウ

シンジ「は、はい……?」

マヤ「一緒に頑張りましょう! 私、シンジくんが子供だと誤解してた!」

シンジ「あ、はぁ」

マヤ「こうなったら年齢は関係ないわ! ううん、そうよ。ただ歳を重ねてたってなにも経験しなければ子供と同じ……」

シンジ「あの、手が痛い……」

マヤ「シンジくんも私も! 絶対に変わりましょう! ねっ!」

シンジ「はぁ……」

マヤ「よーしっ! そうと決まればカリキュラムを作らなくちゃ!」

シンジ「あの、もう食べないんですか?」

マヤ「ラップしといてくれる?」ドタドタ

シンジ「かまいませんけど、どこに?」

マヤ「効率的に変わる計画を立てるの。お互いにね。私だって、先輩に見初められてネルフに入れたんですもの。……私にできる武器……お姉さんが見せてあげる!」

シンジ「……?」

マヤ「お、お姉さんだなんて自分で言っちゃった」

シンジ「(照れるなら言わなきゃいいのになぁ)」

【数時間後 風呂】

シンジ「(見た目が気持ち悪い……体内に戻るよう念じれば普通の手と変わらないけど)」ごしごし

アダム「……」ドクンドクン

シンジ「(脈打って生きてるのがわかる。キミはなんの為に生まれてきたの?)」

マヤ「できた!」ガチャッ

シンジ「わ、わぁっ⁉︎」

マヤ「これね、今後の改善点をいくつか考えてみたんだけど――」

シンジ「……あ……あ……」

マヤ「――……へ? あ、ちょ」

シンジ「お風呂ですよ!ここ!」

マヤ「きゃ、きゃあああっ! なんか、なんかついてる!」

シンジ「ど、どこ見てるんですかっ!」

マヤ「見たくて見てるわけじゃ!」

シンジ「泡流して、湯船に……!」キュッキュッ

マヤ「ちょっと! 扉あけたたまま!」

シンジ「へ?」ザーッ

マヤ「わっ、きゃ」

シンジ「し、閉めてくださいよっ!」

マヤ「やだ、こっち向かないでよ!」ポイ ポイ

シンジ「いた、いつっ、なんなんですかもうっ!」

マヤ「汚いもの見せないで!」ブンッ

シンジ「そうだ、僕が閉めれば……! いたっ」カポーン ゴチン

マヤ「え……?」

シンジ「」

マヤ「すごい音……ってやだ。丸見え……そんな場合じゃないのに。うう、不潔」

シンジ「」

マヤ「あの? 大丈夫?」ツン ツン

シンジ「……」ムクッ

マヤ「あ、よかった。大丈夫なのね、すぐ閉めるから」

シンジ「……」スッ

マヤ「え、手、なにそれ――」

【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「夢は、性欲に対する願望の表れであると提唱したフロイト……これは、ナンセンスね」カタカタ

加持「遅くまで忙しそうだな。調べものかい?」

リツコ「ノックが聞こえなかったわよ?」

加持「この研究室に必要なのはコレ。……カードキーさ。分厚い金属で隔てられてちゃ、音が届くとは思えない」

リツコ「あいかわらず、へらず口ばっかり」

加持「いつかに言ったかもしれないが、俺の持ち味なんでね。……脳? 調べてたのは、シンジくんの件かい?」

リツコ「正確には、“タブリスがなにをしたのか”よ」

加持「……」

リツコ「加持くんはどう思う?」

加持「さてね、思惑になんて興味ないさ。第壱使徒の名を冠していても所詮、やつはただの駒だろうからな」

リツコ「黒幕にだけ?」

加持「もっと厳密に言えば“真実により近しいやつ”かな」

リツコ「急がば回れ……。全てを知りえた時にあなたの命はあるのかしらね」

加持「そうなったらその時考えりゃいい」

リツコ「ミサト、泣くわよ」

加持「晴れない雨なんてありはしないさ。俺は俺の思うままに……。葛城は女の幸せを自分で掴みとるだろうよ」

リツコ「薄情ね」

加持「――……どれ、タブリスが昏睡状態にあるシンジくんを覚醒させた方法を聞かせてもらえないか?」

リツコ「知らなかったの?」

加持「その場にいなかったからな、俺は。資料は読んでいるが、リッちゃんの口から説明願いたいね」

リツコ「おそらく、なんらかの方法でシンジくんの深層心理にダイブしたんだと思うわ」

加持「鈴原トウジの妹、サクラ……だったか。彼女を使ったのは?」

リツコ「家族、友人の純粋な気持ちが患者本人の情熱を呼び起こす。シンジくんを引っ張りあげるために利用したと推察できる」

加持「過去に同じ例が?」

リツコ「脳に関わる臨床ではたびたび、医学的根拠や客観的な診断くつがえす。つまり、驚異的な回復をうながすケースがなくはないのよ」

加持「……それで、シンジくんのなにを?」

リツコ「“夢を覚えているのか、いないのか”」

加持「覚えていたとしてなにか問題でも?」

リツコ「覚えているとすれば、なにを見たの?」

加持「そこで、タブリスがなにをしたかに集約するわけか」

リツコ「正攻法での追求は不可能ね。自白剤の投与を検討してみようかしら」

加持「使徒相手に人間の薬品が効くと思えないがね」

リツコ「理論だけで試さず結論付けていたら、科学者なんて置物と一緒だわ」

【ミサト宅 リビング】

アスカ「ただいま」カチャ

ミサト「今日は遅かったのね~。夕ご飯先に食べちゃった……元気ないみたいだけど、どしたの?」

アスカ「別に」

ミサト「アスカは夕ご飯は? クラスメイトの……誰だったか、えぇと、ヒカリちゃんっだっけ? あの子の家に言ってたの?」

アスカ「誰だっていいでしょ、ミサトは保護者じゃないんだから」

ミサト「あらぁ~、今は私が保護者代理よ?」

アスカ「だとしても、プライベートはほしい。全部報告する義務あんの?」

ミサト「うーん、ないかな」カシュ

アスカ「あっそ、だったら部屋に……」

ミサト「アスカ、私ね、一緒に暮らすのがいつまでかわからないけど……。住んでる間は、本当の家族のように接してるつもり」

アスカ「……」

ミサト「代理は仕事だけど、私情もはいってる。それは認める」

アスカ「それを聞いて、私にどうしてほしいの?」

ミサト「なにかしてほしい、なんてないわ。ただ、私の気持ちを伝えただけ」

アスカ「……」

ミサト「なにかあったら、言いなさい。相談ぐらいなら乗れるから。……以上! 後でちゃあ~んとお風呂はいりなさいよん?」

アスカ「……ミサト……」

ミサト「ん?」グビ

アスカ「今日、碇司令とご飯、食べてきた」

ミサト「え、司令と?」

アスカ「ママの、友達だったみたい。ミサトも、知ってるでしょ。私の資料読んで……ママのこと」

ミサト「……」コト

アスカ「同じ研究員同士だったみたいで、色々、話聞いてきた」

ミサト「そう……。どうだった?」

アスカ「ふぅ……私が知らないママの顔、たくさん知ってるのね、あの人。本当のこと言っているかわからないけど」

ミサト「司令がアスカにウソをつく意味があるとは思えないけど」

アスカ「わかってる。証拠があるわけじゃ……でも、なんか嘘くさい」

ミサト「……?」

アスカ「表情が、言葉が、全部が。作り笑いしてるけど、目の奥は笑ってない感じ」

ミサト「……」

アスカ「ミサトは、司令をどう思ってるの?」

ミサト「そうねぇ、考えてみればまだあまり話たことすらないかな?」

アスカ「作戦司令なのに?」

ミサト「肝心の使徒が来てないんですもの。ブリーフィングが行われるでもないし、相手はネルフの最高責任者よ? 私なんかがやすやすとお目にかかれる相手じゃないわ。前司令の頃からね」

アスカ「……」

ミサト「これだけは言っておくわ。大人はね、簡単に本心をさらけ出さないものよ」

アスカ「……」

ミサト「ずる賢くなっちゃうのよね、生きてく上で。効率的ってわけじゃなく、他人を、時には自分を欺く術を身につけるの」

アスカ「知ってるわよ、そんな大人、たくさん見てきた」

ミサト「アスカは、シンジくんやレイとはまた違う環境で育ってきているから、見えている景色が違うのよね。お母さんのこと、知りたかったの?」

アスカ「うん」

ミサト「警戒するのは、無理ないのかもしれない」

アスカ「……」

ミサト「アスカのこれまでの経験から、私たち大人に対して、なにを信じていいかわからないのよね?」

アスカ「違う。あたしは、チャンスだと思った」

ミサト「……」

アスカ「今日、食事についていったのは、ママのことを知るのに現実的な手段だったから」

ミサト「……」

アスカ「ママの死後、エヴァパイロットとして英才教育を受けて……。死にものぐるいで頑張ってきた。ママの子供はこんなにも優秀だって、狂った親なんかじゃないって、証明するため」

ミサト「……」

アスカ「褒めてほしかった人はもういないのに。だから、あたしはママに認められるように、周囲を黙らせるように。……結果を求めて、代わりのいない、エースだっていう絶対的地位がほしい」

ミサト「大切なものは、今のあなたなのよ」

アスカ「でも! それは私のなりたい自分とイコールじゃないっ!」バンッ

ミサト「……」

アスカ「あたしだって……! 普通に、そこらにいるバカなやつらのようにのほほんと生活してみたくないわけじゃないわよ……っ!」

ミサト「キリがなくなってしまう。壊れてしまうわよ」

アスカ「加持さんに聞いても教えてくれない! どうしたらいいか、わからないのよっ! 自分自身が嫌! なにもかも嫌っ!!」

ミサト「私の父はね、研究に生きる人だった。アスカとは追い求めるモノが違う。嫌いだったの、私」

アスカ「……」

ミサト「家庭をかえりみず研究する父に、母さんは、いつも冷めた夕飯を前にして泣いてた……」

アスカ「……」

ミサト「死んじまえ、クソ親父って、そう思ってた。……だけど、ある日、父がめずらしく私に言ってきたの。社会勉強だ、研究に同行しなさいって」

アスカ「……」

ミサト「勝手よね、今までほったらかしだったのに。嬉しさより戸惑いの方が強かったのは……印象に強く残ってる」

アスカ「……」

ミサト「場所は南極だった。そう、セカンドインパクトの爆心地」

アスカ「……」

ミサト「あんなに嫌いだったはずなのに、最後にあたしを庇って死んだの。この、ペンダントを残して――」チャラ

アスカ「形見なの?」

ミサト「ええ。今でも、その時の傷痕が身体に残ってる。……でも、もっと根深い見えないモノが私の中で、毎日疼くのよ」

アスカ「……」

ミサト「私たち、生きてかなきゃいけない。アスカのママ、そして、私の父。残された者は、大切な人たちの証を色褪せさせちゃいけないわ」

アスカ「……」

ミサト「悩んだっていいじゃない。ギリギリかもしれないけど、女は強いんだから」

【ネルフ本部 初号機ケイジ】

レイ「……」チラ

カヲル「アダムより生まれしエヴァシリーズ。おっと、この初号機とキミの乗る零号機は違ったかな」

レイ「あなた、なにしに来たの?」

カヲル「シンジくんにご執心なようだけど、キミの目的はサードインパクトを起こすことなんだろう? 碇博士や委員会と違う形で」

レイ「……」

カヲル「彼を崇高な存在にまで高める。それには、試練が必要だ。魂の浄化がされないからね」

レイ「碇くんは、もうただのヒトではないわ」

カヲル「揺れている、と言ったらわかるかな。僕たちの側に立つか、ヒトの側に立つか」

レイ(少女)「その為に“私達”がいる」

カヲル「全ての使徒、第十七使徒である人類も含めて、シンジくんを頂点にするつもりなのか」

レイ「あなたは、わかってない」

カヲル「……」

レイ(少女)「損得じゃないの。彼の純粋な想いは、種の壁を顧みない」

カヲル「どういう……?」

レイ「あなたに、碇くんは特別な対応をした?」

カヲル「いや」

レイ「私達が違うと知っていても尚、利用しようとしない。思惑がない。あるのは、他のヒトに対する恐怖。他人への畏怖」

カヲル「臆病なだけでは?」

レイ(少女)「そう、あの子はあなたの言う通り、臆病でどちらにも傾く。可能性の塊」

レイ「だから、ひとつになる」

レイ(少女)「純粋にだってなれる」

カヲル「……! この共鳴は――」

レイ「また、アダムの侵食が進んだのね」

【再びマヤ宅 脱衣所】

マヤ「か、かは……っ!」

シンジ「……」グググッ

マヤ「し、シンジ……く、ん……はなし……てっ……息が……」

シンジ「くっ、クックックッ」ニヤァ

マヤ「うっ……ぐっ……」

シンジ「……!」ググッ

マヤ「(すごい力、ふりほどけない……! シンジくんの、目が赤く……この瞳、どこかで、レイと同じ……? 意識が……とお、く……)」

シンジ「壊す、壊すんだ。最優先で僕のしたい願望。マヤさん、マヤさんは壊れる時、どんな悲鳴をあげるの?」スッ

マヤ「えほっ! けほっ!」

シンジ「手は離してあげたよ。ゆっくり息をするんだ。吸って、吐いて……」

マヤ「すぅー、げほっ、ごほっ」

シンジ「ああ、器官が伸縮しているんだね。首に僕の手形がついちゃってる」

マヤ「な、なに……? どうしちゃったのよ、シンジくん」

シンジ「わからないんだ。目が覚めたら頭が妙にスッキリしてて。遠くの水滴でさえ、聞こえてる」

マヤ「……?」

シンジ「僕が僕じゃないみたいな感覚なんだ。そうか、これが、抑えられなくなった時なんだね、綾波」

マヤ「シ、シンジくん……? あなた、変よ……」

シンジ「マヤさんに物を投げられた拍子に頭を打って朦朧としたのが原因か、それとも単なる偶然なのか、僕にはわからない。だけど――」

マヤ「ひっ! こ、こないで」

シンジ「衝動を沈めたいんだ、違う、誰かにぶつけたい。なにかに向けることで発散したい」

マヤ「手にあるのは、なんなの……? なんなのよ、それぇっ!」

シンジ「――ごめんなさい、マヤさん」ガシッ

マヤ「いたっ!」

シンジ「ぐっ! 逃げて……」スッ

マヤ「え? ……へ?」

シンジ「はやくっ!! ここから出てってください!」

マヤ「どうなってるの?」

シンジ「くっ、僕が出ていけば……!」ヨロヨロ

マヤ「ねぇっ! どうしちゃったのよ! そ、そうだ! 本部に連絡――」

シンジ「余計なことをして僕を刺激しないでくださいよっ!」バンッ

マヤ「あうっ!」ドンッ ドサ

シンジ「……はぁ……はぁっ……」

マヤ「」

シンジ「だめだ、だめだ、だめだ、手を出しちゃだめだ……! 今すぐに、出ていかないと……!」

【ネルフ本部 執務室】

諜報部「ご報告です。伊吹一尉宅より、サードチルドレンが――」ザザッ ザザー

冬月「電波障害か。アダムが本格的に活動を開始するまで時間はかからなかったな」

ユイ「想定の範囲内です。それにしてもシンジったら。破壊衝動を抑える為に女を犯すなり、壊してしまえばいいのに」

冬月「こうなると予見して末端の職員の所に住まわせたのかね」

ユイ「保険ですよ、いつも通り」

冬月「……だが、万一そうなった場合、サードチルドレンの性格からして面倒にならないか」

ユイ「罪の意識――。人は生まれながらにして原罪に抗えません。綺麗になるには、汚れていると自覚させるのが始まりです」

冬月「……」

ユイ「シンジが誰かを壊すまで、もう少しですよ。先生」

冬月「碇がマシに見えてくる。歪んでいるよ」

ユイ「心外ですね。夫は私の為、私はシンジの為を想いやっているのです。誰か一人が不幸になっても、それは必要な犠牲ですわ」

冬月「今はまだ、ことの成り行きを見守るしかできんか」

ユイ「(もうすぐ、もうすぐアダムとあなたは完全にひとつになる。汚れる覚悟を決めなさい、シンジ)」

冬月「伊吹一尉の今後はどうする?」

ユイ「一週間の休暇を与えましょう、その間、今日の記憶を消すように手はずを整えます」

冬月「記憶を操作するのは容易ではないぞ」

ユイ「結果、消えていれば問題ないのです。脅迫、拷問。物理的になろうと手段は問いません」

冬月「サードチルドレンがこのことを知ったら憎まれるのではないか?」

ユイ「そんな役ぐらい。なんだっていうんです?」

冬月「承知した。この電波障害がおさまり次第、諜報部を彼女の家に派遣させる」

【第三新東京都市 公園】

シンジ「ふぅ……」

レイ「……」

シンジ「綾波? どうしてここが――」

レイ「シグナルと同じ。私達使徒は、特殊な電波を発信してる。ヒトはそれを解析しパターン青などと呼んでるわ」

シンジ「そっか……。僕も、普通のヒトじゃなくなったんだね」

レイ「波に襲われた時、そばにいた人を壊したくなったはず」

シンジ「前に綾波がそうなった時に言ってって言ってたのは――」

レイ「私なら、代わりがいるもの」

シンジ「そんな……」

レイ「……」

シンジ「綾波は、死んだらどうなるの?」

レイ「次の私にかわるだけ。私は容れ物。碇くんのように魂の融合はできない。元となるモノが空っぽだから」

シンジ「できるわけないよ……」

レイ「……? どうして?」

シンジ「だって、綾波だって生きてるじゃないかっ! 僕にとって綾波は、変わらない人間で」

レイ「あなたは私が他と違うと知ったのよ」

シンジ「だからなんだっていうんだ……。今喋ってるじゃないか! それなのに、人形みたいに扱えるわけないよっ!!」

レイ「衝動は、いずれ抑えが効かなくなるわ。それは碇くんの意識ではどうしようもない」

シンジ「……!」

レイ「アダムに飲み込まれないように私がいる。安心して、あなたは壊れないわ。私が守るもの」

シンジ「次の綾波に変わったら、記憶はどうなるの? 引き継げるの?」

レイ(少女)「わからない」

シンジ「君は、もう一人の綾波だね、夢にいた」

レイ(少女)「私は、前の私。本来ならば、存在しない私。その私でも、どうなるか未知の部分はある」

シンジ「綾波達が僕に見せたって、今までの記憶?」

レイ「ひとつは、私達が持ちうる全ての知識。碇くんの父親、碇司令のすぐそばで見てきた事柄。それを伝えた」

レイ(少女)「もうひとつは、私達の魂であるリリスの真実。ゼーレが発動せんとする補完計画の狙い」

シンジ「ゼーレって」

レイ「人類補完計画委員会の主要組織。ネルフを実行機関とし、各国政府を統率する権力者たち」

シンジ「委員会は、その人たちのことだったのか」

レイ(少女)「いずれ、委員会は碇博士の狙いに気がつく。その時、あなたの中にあるアダムを奪還しようとする」

レイ「しかし、アダムは碇くんの魂レベルにまで癒着し融合され、手は出せないはず。それが碇ユイ博士の狙い。あなたをトリガーの中心に見据えて固定すること」

レイ(少女)「碇くんがいなければ補完計画は発動できなくなる」

シンジ「もともとは、補完計画はどうやって発動するつもりだったの?」

レイ「初号機を依り代にして、量産機を利用する予定。つまり、あなたは直接的には必要じゃない。“初号機パイロット”が必要なだけ」

レイ(少女)「どの道、初号機を動かせるには碇くんだけだったけど。碇くんがダメになった場合を想定してのダミー計画だった」

レイ「でも、ダミーそのものに意味はなくなる。あなたがスペアのない唯一無二の“鍵”になる」

シンジ「それじゃあ、補完計画を発動するとき、初号機と量産機は無人機の予定だったってこと?」

レイ「量産機はそうだけど、初号機に関してはどらちでもよかったが正解。オリジナルのコピーである初号機さえ在ればよかった」

レイ(少女)「碇ユイ博士は他にもなにかやろうとしている。それは私達にはわからない」

シンジ「……」

レイ「衝動はおさまった?」

シンジ「うん、今は、なんとか」

レイ「そう。これから融合が進むにつれ、もっと頻度は多くなり、間隔は短くなる。あなたは、選ばなければならない」

シンジ「また、またなのか。僕が選ぶことのできない選択肢ばかりに振り回されて……」

レイ「最後の防波堤に私達がいる。忘れないで」

レイ(少女)「なにも気にしなくていい」

シンジ「だから、そうじゃないって――」

レイ「伊吹一尉を助ける?」

シンジ「え?」

レイ(少女)「諜報部員を乗せた車が今、気を失ってる彼女の元に向かってる」

シンジ「そんな、どうして」

レイ「おそらく、碇ユイ博士の指示によるもの。碇くんの手にあるアダムを見られたから」

シンジ「どうやって、それを……母さんは僕を監視してたの?」

レイ「……」コクリ

シンジ「綾波は?」

レイ(少女)「助けるのなら急がなければならない。私はまだ手をだせない。碇くんの力で」

シンジ「そんなっ! 僕ひとりでどうやるのさ!」

レイ「また、逃げるの?」

シンジ「違うっ! だけど、方法が……!」

レイ(少女)「あなたは殺されることはないわ。今説明した通り、誰より必要だから」

シンジ「……!」

レイ「どうする?」

シンジ「行くよ! 行くに決まってるだろ!」クルッ

レイ「あの、気をつけて」

シンジ「わかった! ありがとう、綾波!」タタタッ

レイ(少女)「まだ、アダムは赤子同然の状態」

レイ「それは碇くんも同じだわ」

レイ(少女)「全ては、碇くんの意思の強さに」

【マヤ宅 リビング】

諜報部A「運べ、急げよ」

マヤ「……」グタァ

シンジ「はぁっ、はあっ」ガチャ

諜報部A「……!」

シンジ「まって、待ってください!」

諜報部A「ちっ、面倒な」

シンジ「マヤさんをどこに連れて行くんですかっ!」

諜報部A「おい、そのまま連行しろ」

シンジ「待てって言ってるでしょ!!」ダンッ

諜報部B「……」スッ

シンジ「質問に答えてくださいよ!」

諜報部A「存じません。本部からの発令です」

シンジ「やっぱり、母さんから……! 母さんに繋いでください! すぐに命令を撤回――」

諜報部A「仕方ない。手加減してやれ」

諜報部B「了解」ガシ ドカッ

シンジ「うっ!」ドサッ

諜報部B「恨むなよ。俺たちも仕事なんだ」ボソ

シンジ「おぇ……おぇぇっ!」

諜報部A「みぞおちにキレイに決まったな」

諜報部B「このまま伊吹一尉の身柄は本部に」

シンジ「まっ、て」ガシ

諜報部B「……」ピタ

諜報部A「おい、小僧。あんまり俺たちを怒らせるなよ。こっちはプロだぞ。ダメージのみを与え苦しめる方法ならいくらでも知ってる」

シンジ「おねが、いします。母さんに、連絡を」

諜報部B「……」

シンジ「マヤさん、起き、て」

マヤ「……」

諜報部A「ほどほどに痛めつけてやれ」

諜報部B「しかし、外傷が残ってしまっては、司令に」

諜報部A「止むをえん。後から報告するしかあるまい」

シンジ「……!」

諜報部B「相手は、子供ですよ」

諜報部A「そうか、お前はガキが産まれたばかりだったな。どけ、俺がやる」

諜報部B「……」

シンジ「マヤさん!!」

マヤ「……」ピクッ

諜報部A「躾のなってないやつには接し方ってもんがある、お前はそこで見てろ」グイッ

シンジ「くっ……!」

諜報部A「歯を食いしばらなくていい。顔に傷をつけちゃ今後の生活に支障をきたすだろうからな」ドカッ

シンジ「うがぁ! う、うぷっ……おぇ……」

諜報部B「隊長、もう充分でしょう」

シンジ「だめ、だ」

諜報部A「……」

シンジ「連れて、行かせない!」

諜報部A「みぞおちに二発。呼吸が困難な中で根性は認めてやる。中学生にしちゃあな!」ドカッ

シンジ「うっ!」ドサッ

諜報部B「隊長!」

マヤ「う……うん……」

シンジ「おぇぇっ……!」

マヤ「あれ……? 私……? シンジくん?」

諜報部A「これで、どうだ!」ドカッ

マヤ「……! あなたたち! なにやってるんですか!」

シンジ「ぐう、マヤさん、目がさめ」

諜報部A「目が覚められましたか。本部より貴殿を連行するよう仰せつかっています」

マヤ「私を? どうして、本部にはまだなにも連絡を――」

諜報部A「ご同行願います。手段は問わないとの通達です」

シンジ「逃げて! 逃げてください! 母さんは、マヤさんの口封じをするつもりで……!」

マヤ「な、なに言ってるの?」

シンジ「僕の秘密を見たでしょ! あれは見ちゃいけないものだったんです!」

諜報部A&B「……」

マヤ「どういうことですか? あの、私を連行する理由は? シンジくんの言ってるのは本当に……?」

諜報部B「我々がそれを知る必要はありません。上の命令に従うのみ。あなたもネルフの一員ならご理解いただけるかと」

シンジ「だめだ! ついていっちゃだめです!」

諜報部A「少し黙れ」ドカッ

シンジ「うっ!」

マヤ「ちょっと! 暴力はやめてください!」

シンジ「けほっ、こんなの、エヴァで戦う痛みに比べたら……母さんから、連行した後なにか言われてるんじゃないんですか」

諜報部A「……」

マヤ「先輩に、赤木博士に連絡させてください」

諜報部A「まったく、本当に面倒になった。おい」

諜報部B「はい。これは仕方ありませんね」ガシッ

マヤ「きゃっ!」

諜報部B「ご静粛に願います。こちらとしても手荒なマネはしたくありませんので」

シンジ「くっ……! このっ! うあああっ」ドカッ

諜報部B「むっ!」

マヤ「し、シンジくん」

シンジ「はやくっ!! 走って逃げて!」

マヤ「……!」タタタッ

諜報部B「この、離せ」

諜報部A「ここまで肝が座ってるなんて思わなかったぜ、なかなか見所があるな。お前」グイッ

シンジ「うっ」

諜報部B「ターゲットが。すみません、自分の失態です」

諜報部A「まだそんなに遠くには行ってないだろう。こんな簡単な任務を失敗したとなっちゃ厳罰ものだ」

諜報部B「応援を呼ばれますか?」

諜報部A「馬鹿野郎。今言ったろ。なに、すぐに解決できる。行き先はわかってるからな」

諜報部B「赤木博士ですか。すぐに連絡をいたします」

シンジ「母さんに……」クタ

諜報部A「ふん、逃がした安堵で気を失いやがった。大方、火事場の馬鹿力ってとこか」

諜報部B「子供だと思っていましたが、やるもんですね」

諜報部A「それに関しちゃ同感だ。お坊ちゃんなりに男を見せやがったな」

諜報部B「サードチルドレンはどうされます?」

諜報部A「このまま布団まで運んでやるか。起きた頃には終わってるよ」

【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「――ええ、了解したわ」カチャリ

マヤ「はぁっ、はあ、せ、せんぱい、よかった、はぁ……はぁ、まだ、残ってて」

リツコ「……」スッ

マヤ「ふぅ、ふぅ、あのっ! シンジくんが――」

リツコ「まずは水を飲みなさい。脳に酸素を送らないと順序立てて説明できないわよ」

マヤ「あ……で、でもそれどころじゃ」

リツコ「シンジくんの手の平にあるものを見たのね?」

マヤ「……!」

リツコ「まさか司令がこういう算段であなたの家にシンジくんを送りこんでいただなんて」

マヤ「せ、先輩? あの、どうして知ってるんですか?」

リツコ「私も知っていたから。知っていて協力していると言えば意味は伝わるでしょう」

マヤ「そ、そんな……」

リツコ「ただし、今回の処置については知らなかったわよ。あなたを生贄にするつもりはなかった」

マヤ「生贄って」

リツコ「皮肉なものね。誰かの為にと思ってやった結果が、苦しめてしまう」

マヤ「どうしてなんですかっ! 私の問題を解決する為だって……」

リツコ「私はもとよりそのつもりだった。でも、司令はそうじゃなかった。それだけよ」

マヤ「シンジくんの手になにがあるかなんて知りません!」

リツコ「……」

マヤ「それでいいでしょう⁉︎」

リツコ「そうね、そうであれば問題ない。でも、あなたに楔を打つ必要がある」

マヤ「……」

リツコ「もし喋れば、あなただけじゃない。血縁関係者全員が死ぬことになるわよ」

マヤ「……! せ、先輩は……」

リツコ「今さら驚いたの? 仕事を一緒にしていても本質がなにも見えていない証拠ね。あなたが抱いていたのは幻想。これが本当の私。残酷?」

マヤ「……」ギリッ

リツコ「これでも恩赦を与えているのよ。諜報部員にあのまま連行されていたら、拷問を受けていたでしょうね。外的ショックで喋ることへの恐怖心を植え付ける」

マヤ「シンジくんは、私を……」

リツコ「彼、頑張ったみたいね。相手が子供だと思って油断していたんでしょうけど」

マヤ「……」

リツコ「マヤの保証人には私がなってあげる。これまでのよしみでね。ただし、これ以上の追求はなし。第三者に喋った場合は言った通りよ」

マヤ「それで、これまで通りってことですか」

リツコ「あなたが望むならね。二十四時間体制で監視がつくけど、荷物をまとめて実家に帰ってもいいわよ。後のことは私がなんとかするわ」

マヤ「……」

リツコ「水、飲んだら?」

あら?ホントだ
途中からずっと一尉になってますね、手直し不可能なのでこのまま続けます

不可能ではないか
レスしなおすしか方法ないのでこのまま続けます

【マヤ宅 シンジ部屋】

シンジ「……う……ここは? 僕、どうして、あ、いっ!」

マヤ「おはよう、お腹、痛む?」

シンジ「いてて……。マヤさん?」

マヤ「まだ、夜中だよ。それと、ごめんなさい」

シンジ「あの後どうなったんですか? それに僕なら平気ですから、謝らなくても――」

マヤ「そうじゃないの。謝りたくないから謝った。謝れなくて、ごめんなさい」

シンジ「……?」

マヤ「どうして……? どうして私が巻き込まれなくちゃいけないの? ねぇ、どうして?」

シンジ「あ……」

マヤ「なぜあなたに助けてもらわなくちゃいけなかったのよ! なにもかもあなたのせいじゃないっ!!」

シンジ「……」

マヤ「優しかった先輩を返して! 私の……日常を……返してよ……」ポロ

シンジ「この手にあるのは」

マヤ「聞きたくないっ!」

シンジ「……」

マヤ「知ってどうしろっていうの⁉︎ これ以上私を巻き込まないで!」

シンジ「すみません、そう、ですよね」

マヤ「今の自分が最低だってわかってる。だから、先に謝ったの」

シンジ「……」

マヤ「ネルフの一員で、私は大人だもの。こんな時、優しい言葉のひとつでもかけてあげなきゃいけないんだろうけど……」

シンジ「……」

マヤ「“なんで私が”って気持ちが強くて。それしか考えられない」

シンジ「わかりました」

マヤ「それで、いいの?」

シンジ「いいんです。慣れてますから」

マヤ「どうして⁉︎ どうして我慢しようとするの⁉︎ おかしいわよ、先輩も、あなたも、ネルフもっ!! 人の命をなんだと思ってるの⁉︎」

シンジ「僕は、少しほっとしてます」

マヤ「え……?」

シンジ「僕のせいで嫌な思いをさせてますけど、こうしてここにいるんですから」

マヤ「そんなの自己満足じゃない。私は望んでなかったのに」

シンジ「すごく、よくわかります。僕もそうなんです。いつも、自分の望む形でいられてない。だけど、今回は違う。僕がマヤさんをそうしてしまった」

マヤ「……そうよ、私は巻き込まれただけで……」

シンジ「すみません、謝ることしかできなくて。僕はなにか力になれますか?」

マヤ「私の知らない先輩に、いつもと種類の違う平坦な表情で言われたわ。シンジくんに関して詮索をやめるように。他に喋ったら血縁者を殺すって」

シンジ「(母さん。……父さんと同じか。目的のためなら手段を選ばないんだね)」

マヤ「私の家は……ううん、これから、ずっと監視の目がつきまとう」

シンジ「……」

マヤ「でも、残ると先輩に伝えた。このまま帰ったら、きっと私は後悔するから」

シンジ「え……」

マヤ「あなたの為じゃない。ネルフの為でも、先輩の為でもない。そう、これは自分のため」

シンジ「やり残したことがあるとか?」

マヤ「悔しい。ただ、そう思うだけ」

シンジ「たぶん、母さんやリツコさんはまたマヤさんを利用しようとすると思いますよ。弱者に変わりないから」

マヤ「……」

シンジ「僕のこの手バレてしまっているので、今まで以上に露骨に要求してくるかもしれません。同居やアルバイトなんて遠回しをせずに」

マヤ「シンジくんは知ってて私の家に?」

シンジ「いえ、知りませんでした。もしかしたら、そうなんじゃないかって思ったんです」

マヤ「……」

シンジ「僕がここから出ていけばいいんです。それすれば、以前と変わらず、は……無理かもしれないけど、新しいことに巻き込まれないで済みます。僕と、接点がなくなるので」

マヤ「だめ、それはだめよ。シンジくんがここにいるのことが私の生命線になる」

シンジ「でも」

マヤ「よく考えて。あなたが出て行けば、たしかに、これから先は巻き込まれないかもしれない。でも、私は用済みにならない? 秘密を知ってしまってるのよ」

シンジ「……」

マヤ「先輩は、保証してくれるって言ってたけど、それもあなたの受け入れ先という前提があってなのかもしれない。そうじゃないと断定できるまでここにいて」

シンジ「わかり、ました」

マヤ「音声が筒抜けかもしれないから、こわくて下手なこと言えないけど、あなたのせいじゃないって。一人だけじゃどうしようもないってわかってる」

シンジ「……」

マヤ「ほんとに、どうして……」グスッ

シンジ「……」

マヤ「私は一人で考えたいから。おやすみ、シンジくん」

シンジ「おやすみなさい」

【ネルフ本部 執務室】

リツコ「諜報部への手引きの件。寛大な計らいに感謝いたします」

ユイ「……」

リツコ「マヤが例の件を漏らした場合は、私を如何様にでもなさってくださって結構です」

ユイ「やはり、情をとるの?」

リツコ「……」

ユイ「とるにたらない職員でしょう。よく面倒を見ていた子で思い入れが強いのね。その有様だと、やはり葛城一尉に――」

リツコ「いいえ、今後、あの子は役に立つからです」

ユイ「と、いうと?」

リツコ「決して軽率に動く子なわけありませんもの。実務能力は私に及ばず、まだひよこですが、だからこそ操作しやすい」

ユイ「……」

リツコ「事情を知っていても尚、抑えこむことが可能であれば……これ以上ない都合の良い駒になります」

ユイ「伊吹二尉の言動を制御できると判断しているのね?」

リツコ「はい」

ユイ「よろしい。では、通達通り伊吹二尉は現状維持のまま技術局一課への配属を認可します」

リツコ「……」

ユイ「ふふっ、これであなたは私にひとつ借りができたわね」

リツコ「この処置は利益になる決定で――」

ユイ「いかに面倒を省くかが重要。あなたは直属の上司であるから、本人が持つ癖をよく把握しているでしょうね」

リツコ「……」

ユイ「しかし、仮にここで私が首を横にふっていたら、あなたはどう思うのかしら」

リツコ「……」

ユイ「血も涙もない外道かしら。それとも、逆張りをして尊敬する? ま、どちらでもかまわないけど。一度、私は彼女を排除すると決めたのよ。結論を覆したのは、伊吹二尉ではない。あなたへの譲歩」

リツコ「はい。感謝しております」

ユイ「これであなたにも楔がついてしまったわね。もし、私を裏切るようなマネをすれば、伊吹二尉もただでは済まない」

リツコ「……」ギリッ

ユイ「いい取り引きだった。用件は済んだわ、下がっていいわよ」

【数十分後 同執務室】

冬月「いささか締めつけすぎではないか」

ユイ「充分に譲歩していますよ。交渉の余地を与え目的を達成させてあげたのですから」

冬月「赤木博士は碇の時同様、キミの側近という立場だろう。部下を大切に扱えば今後の為になる」

ユイ「甘くしすぎてしまえば増長を招く結果になりかねません。赤木博士が必要ならばこそ、時には厳しくですわ。飼い主は手綱をしっかりと握る義務がありますので」

冬月「……」

ユイ「中でも、弱みを掴むのはもっとも有効な手段であると言えるでしょう。伊吹二尉をかばったのは、赤木博士を操作する上でおつりがくるほどです」

冬月「あやつも女だからな。男を失って、なにをしでかすかわからないという危険はあった」

ユイ「人は、立場によって、守るものがあると弱くなります。本当にこわいのは、なにもない人間なんです。予測が難しい」

冬月「今後は、サードチルドレンと赤木博士に伊吹二尉を、いうなれば“人質”として実質的な機能させるわけか」

ユイ「シンジは、甘いですから。セカンドチルドレンを同じダシにして同様に楔を打ち込めるでしょう。……しかし、赤木博士に該当するのは、葛城一尉か伊吹二尉しかいません。それがよくわかりました」

冬月「起爆放置を彼女に持たせたのはそういう理由だったのかね」

ユイ「そうですよ。爆弾を仕掛け、彼女に起爆スイッチを持たせる。そうすることで、葛城一尉を“いつでも殺してやるぞ”、と脅しをかけていたんです」

冬月「……」

ユイ「観察している限りだと、あまり効果的ではないのかと思いはじめていましたが……やはり、私の読みは正しかった」

冬月「……」

ユイ「――土壇場になれば、赤木博士は情に流されます。ふふっ、うふふっ、愚かな」

【ネルフ本部 MAGI配線室】

リツコ「記録を残し続けるのは、もうすぐ終わりになるかもしれないわね」カチ

リツコ(ボイスレコーダー)『――碇ユイ博士の挑発に乗ってしまった。やりとりをしていて気がついた。ミサトの自宅に仕掛けられた起爆装置は、ミサトを危険視しているのではなく、私に無言の圧をかけていたのだろう』

リツコ「……」カチ

リツコ「母さん、どうしたらいいのかしら」スッ

ミサト『そ、ミサト。葛城ミサト。よろしくね」

リツコ「母さんに友達ができたって言ったら、喜んでくれたわね……」

ナオコ(幻聴)『リッちゃん。あなたは自分の幸せを逃してしまわないか心配です』

リツコ「バカ。母さんだって、不幸なまま死んでしまったじゃない」

ナオコ(幻聴)『私はいいのよ。女としての幸せだったんだから』

リツコ「科学者としての自分、女としての自分。男の為にすべてを投げ出して。それが、女の幸せ?」

ナオコ(幻聴)『研究だけの人生はつまらないわ。飽きてしまう。燻るジレンマが、あなたもわかるでしょう?』

リツコ「ふぅ……気持ちはわからなくもないけど。結局、私も母さんと同じ道を歩んでいたんだもの」

ナオコ(幻聴)『でも、リッちゃんは生きてる』

リツコ「ただ時間を無為に浪費してるだけよ。なんの為に生きてるか――」

ナオコ(幻聴)『苦しいのね、生きづらいでしょう』

リツコ「ふふ、とっても。でも、まだ死ぬわけにはいかない」

【翌日 第三新東京都市第壱中学校 昼休み】

シンジ「ふぅ」

アスカ「はぁ」

トウジ「なんや、あの二人。揃って一日中ため息ばっかついとるで」

ケンスケ「こないだのユニゾンの続きなんじゃないか?」

トウジ「今さらか?」

ケンスケ「さぁね、僕が知るわけないよ」

マナ「おはよう」

トウジ「おう、おはよーさん」

ケンスケ「どうしたんだ、荷物かかえて」

マナ「これ? 端末が届いたから、事務室に取りにいってたの」

トウジ「ああ、そういや今日か」

ケンスケ「トウジの妹さんの手術も今日じゃなかったか?」

トウジ「アホ。学校の備品のついでみたいに言うな」

ケンスケ「あれ? 行かなくていいのか?」

トウジ「そのつもりやったんやけどなぁ。連絡がきた頃には終わっとった」

ケンスケ「へ?」

トウジ「なんでも、今日の朝イチでやってくれたらしい。サクラの前に手術を予定しとった患者さんが昨日の夜遅く、急遽取りやめになったそうや」

ケンスケ「そんなことあるんだな。何時からやってたんだ?」

トウジ「昨日の深夜に点滴を開始して、朝の七時にはもう手術台の上に乗っ取ったって聞いとるで」

ケンスケ「だったら、シンジに教えてやれよ」

マナ「ねぇ、鈴原くんの妹さん怪我かなにかしてたの?」

トウジ「ん? ああ、そうや、霧島は知らんかったな。ちと、ひどい怪我でな」

ケンスケ「碇が怪我させたんだよ」

トウジ「ちっ、おい、ケンスケ」

マナ「シンジくんが?」

ケンスケ「隠したってなんになるんだよ。ああ、そうさ。初陣の時にね」

マナ「そうなんだ……」

トウジ「ワシはもうなんとも思っとらん。最初は、殴ったりもしたが、それでもう帳消しや!」

ケンスケ「よく言うよ。その後にシンジに転院を頼んでたじゃないか。あいつだからよかったものの」

マナ「……?」

トウジ「そ、それで帳消しや!」

マナ「ねぇ、経緯を詳しく聞かせてくれない?」

>>348間違ったんでレスしなおし

【翌日 第三新東京都市第壱中学校 昼休み】

シンジ「ふぅ」

アスカ「はぁ」

トウジ「なんや、あの二人。揃って一日中ため息ばっかついとるで」

ケンスケ「こないだのユニゾンの続きなんじゃないか?」

トウジ「今さらか?」

ケンスケ「さぁね、僕が知るわけないよ」

マナ「よいしょっと」ゴト

ケンスケ「どうしたんだ、重そうに荷物かかえて」

マナ「これ? 端末が届いたから、事務室に取りにいってたの」

トウジ「ああ、そういや今日か」

ケンスケ「トウジの妹さんの手術も今日じゃなかったか?」

トウジ「アホ。学校の備品のついでみたいに言うな」

ケンスケ「あれ? 行かなくていいのか?」

トウジ「そのつもりやったんやけどなぁ。連絡がきた頃には終わっとった」

ケンスケ「へ?」

トウジ「なんでも、今日の朝イチでやってくれたらしい。サクラの前に手術を予定しとった患者さんが昨日の夜遅く、急遽取りやめになったそうや」

ケンスケ「そんなことあるんだな。何時からやってたんだ?」

トウジ「昨日の深夜に点滴を開始して、朝の七時にはもう手術台の上に乗っ取ったって聞いとるで」

ケンスケ「だったら、シンジに教えてやれよ」

マナ「ねぇ、鈴原くんの妹さん怪我かなにかしてたの?」

トウジ「ん? ああ、そうや、霧島は知らんかったな。ちと、ひどい怪我でな」

ケンスケ「碇が怪我させたんだよ」

トウジ「ちっ、おい、ケンスケ」

マナ「シンジくんが?」

ケンスケ「隠したってなんになるんだよ。ああ、そうさ。初陣の時にね」

マナ「そうなんだ……」

トウジ「ワシはもうなんとも思っとらん。最初は、殴ったりもしたが、それでもう帳消しや!」

ケンスケ「よく言うよ。その後シンジに転院を頼んでたじゃないか。あいつだからよかったものの」

マナ「……?」

トウジ「そ、それで帳消しや!」

マナ「ねぇ、経緯を詳しく聞かせてくれない?」

マナ「――ふぅん。男の子の友情って感じ?」

ケンスケ「そんなにキレイなもんじゃないさ。トウジが頑固なだけだよ」

トウジ「ぬぐっ!」

ケンスケ「そりゃぁ、怪我させちゃったのは碇にも責任がある。乗ってる理由が望んでも望んでなくてもね。だけど、トウジはその後のやり方がまずい。それはそれ、これはこれって感じ」

マナ「お互いに許してるんだね。いい関係」

トウジ「ふんっ!」

ケンスケ「まぁ、こいつは元々こんなやつだからねぇ」

マナ「なんだか、友達のこと思い出しちゃった」

ケンスケ「前の学校かぁ?」

マナ「うん、子供で、いつも張り合って喧嘩して。いざと言う時助け合って……」

ケンスケ「碇は消極的だからなぁ。わざとぶつからないようにしてる」

トウジ「せやな。たまにこっちから行動おこさへんと。あんな生き方して辛くないんかのぉ」

ケンスケ「本人に自覚ないんじゃない? 自然だから。我慢するのが」

マナ「どうして、シンジくんは我慢するようになったのかな?」

ケンスケ「僕らも碇が転校してくる前の話はほとんど知らないよ。聞きもしないし」

トウジ「興味ないしな」

マナ「……」

ケンスケ「碇のことをどうしてそんなに知りたがるんだ? やっぱり、エヴァの操縦してるから?」

マナ「あ、う、うん……かっこいいなぁって思う」

トウジ「女に人気でるもんかのぅ」

ケンスケ「碇をもっと知りたいんだったら、エヴァパイロットだからって言わない方がいいよ」

マナ「……? どうして?」

ケンスケ「あいつ、嫌がって乗ってるんだよねぇ」

マナ「……」

トウジ「しかたなしやろ。誰でも乗れるわけちゃうからな」

ケンスケ「くぅ~っ! 運命は不平等だよ! 僕なら喜んで乗るってのに!」

シンジ「(やっぱり、こっそり調べるよりも一度母さんと話しなくちゃだめだな)」

マナ「ねっ!」ドン

シンジ「いつっ⁉︎」

マナ「あれ? そんなに強くしたつもりないんだけど」

シンジ「い、いや。昨日ちょっと打っちゃってて」

マナ「そうなんだ? ごめんね、痛かった?」

シンジ「どうしたの? さっきまでトウジたちと話してなかった?」

マナ「……見てたんだ?」

シンジ「まあ、なんとなく」

マナ「本当に?」

シンジ「やだな。それ以外になにがあるっていうのさ」

マナ「ぶっぶー。そういう言い方をしちゃいけませ~ん」

シンジ「……?」

マナ「黙ってジッと見られてるのイヤだけど、見てた?って聞かれた時は少しって答えるのが正解」

シンジ「なんで?」

マナ「全く興味ないって言われてるようでイヤだもの。女の子として見てほしいの」

シンジ「はぁ」

マナ「私って、そんなに魅力ない?」

シンジ「いや、どうかな。そんなことないと思うよ」

マナ「シンジくんってさ、もしかして……ホモの人?」

シンジ「なっ⁉︎ ち、違うよ⁉︎」

マナ「あはは、ムキになってる。かわいい」

シンジ「か、からかわないでよ! もう!」

マナ「だって、シンジくんの浮いた噂聞かないんだもん」

シンジ「そんな……」

マナ「エヴァパイロットってモテるでしょう? 彼女、作らないの?」

シンジ「偏見だよ、そんなの……」

マナ「そうかなぁ。シンジくんがその気になればすぐにできると思うけど。クラスメイトってさ、例えばギターができる、ダンスが上手とか。そんな些細なモノで一気に目立ったりするよね?」

シンジ「うん、まぁ……」

マナ「シンジくんはパイロットなんでしょ? それもみんなを守ってる!」

シンジ「僕は、別に」

マナ「(この反応は。相田くんの言ってたことは本当なのね)」

シンジ「それに、恋愛なんてよくわからないし」

マナ「異性として見れない?」

シンジ「そうじゃないけど……好きってなんだろうって」

マナ「ライクじゃないラヴ。他人を好きになったこと、ないんだ?」

シンジ「そうかも、しれない」

マナ「じゃあ、真っ白だね!」

シンジ「なにが?」

マナ「なにも色がついてない紙と一緒。知ってる? 男の子って、初恋の子は生涯忘れないっていうよ?」

シンジ「あぁ、まぁ、テレビで見たことあるような」

アスカ「ちょっと、マナ」ピタ

マナ「っと、どうしたの?」

アスカ「……」

マナ「アスカ?」

アスカ「(こいつがスパイねぇ)」

シンジ「……?」

アスカ「シンジ、少し話があるんだけど」

シンジ「あぁ、うん。わかった」

マナ「(ヤキモチ? まさかね……)」

【第壱中学校 体育館裏】

シンジ「……? ねぇ、アスカ。どうしてこんなところへ」

マナ「(ふぅ……やけに警戒してるな。重要な情報あるのかも)」

アスカ「バカねえ。日本じゃ壁に耳あり障子に目ありって言うでしょ。いつどこで誰が聞いてるかわからないんだから、用心するにこしたことはないわ」キョロキョロ

マナ「(ふふっ、あるのは木の上なんだけどね)」

シンジ「なにかあったの?」

アスカ「あんたホントに聞いてないのぉ?」

シンジ「なにを?」キョトン

アスカ「くっ、なぜだか拍子抜けしてムカつく。平和ボケもたいがいにしなさいっつってんのよ!」バシ

シンジ「いたっ!」

アスカ「……? なんか大袈裟ね」

シンジ「いっつつ。なんなんだよ、もう。言ってくれなくちゃわかるわけないじゃないか」

アスカ「あの霧島マナって子に気をつけなさい」

マナ「(……!)」

アスカ「これは忠告。あんた抜けてるから、色仕掛けされたらデレデレ鼻の下伸ばしちゃいそうだし」

シンジ「はぁ、どうして?」

アスカ「スパイらしいわ。人は見かけによらないっていうけど」

マナ「(うそっ⁉︎ もう身元が割れてるの⁉︎)」

シンジ「マナが? どこの?」

アスカ「戦自」

マナ「(まずい……どうしよう……アスカはどこから? ううん、もしかしたら校内に既に……まだ死ぬわけにはいかないのに……!)」

シンジ「そうなんだ」

アスカ「はぁ? 感想はそれだけ?」

シンジ「うん。アスカは誰から聞いたの?」

マナ「(……!)」ゴクリ

アスカ「あんたのママ。なに考えてんのかしらね、あの人」

シンジ「……」

アスカ「スパイがいるのがわかってるなら捕まえればいいじゃない? でも、そうはしてないみたいだし」

マナ「(母親。……データによると碇ユイ! ネルフの新指令……! しまった! なにか落ち度があったの⁉︎)」

シンジ「母さんは、きっとマナを利用できないか考えてるんじゃないかと思うよ」

アスカ「あいつを?」

マナ「(私を?)」

シンジ「マナを守らなくちゃ」

アスカ「ばっ、バカァ⁉︎ あんたなに考えてんの⁉︎」

マナ「(へ?)」

シンジ「マナはどういう目的でスパイをやってるんだろう。母さんに利用されないようにしないと……」

アスカ「あ、あんたねぇ! 協力体制だとしても、今回の懸案はそういうモノじゃないのよ⁉︎ 戦自はネルフを調べてるんだから!」

シンジ「うん、だから、マナはどういう理由でここに転校してきたのかな」

アスカ「はぁ?」

マナ「(……そう、シンジくんも私を利用するつもり……?)」

シンジ「なにか事情があると思うんだ。僕たちと同い年でスパイだなんて、普通じゃないよ」

アスカ「そんなのどうでもいいでしょ! あいつは敵……かはまだわからないけど、限りなく敵に近いやつなんだから!」

シンジ「うん、そうかもしれないね」ポリポリ

アスカ「ようやくその足りない頭で事態が――」

シンジ「だけど、決めつけるにはまだはやいよ」

アスカ「……!」

マナ「(も、もしかして、シンジくんってすごくお人好し……?)」

シンジ「アスカ。アスカは、僕がどうしてマナを守らなきゃって言ったかわかる?」

アスカ「知るわけないじゃない! あんたのそのトチ狂った発想なんて知りたくも――」

シンジ「母さんが、こわいんだ」

アスカ「……?」

シンジ「母さん。ほとんど知らない人。顔さえ覚えてなかった。でも、そんな人がある日突然母親だと名乗りでてきたんだ」

アスカ「……」

シンジ「親しげな声で僕の名前を呼ぶ。僕は誰かわからなかったのに。懐かしさはどこかで感じていたよ」

アスカ「それとは話が別でしょ」ボソ

シンジ「同じなんだ。僕の中では。父さんと違う種類のこわさを感じてる。やってきたことを見ても、僕は、こわくてたまらない」

アスカ「はぁ、はいはい。百歩譲って関係あるってことにしといてあげる。で? だから、マナを守るの? あたしたち、ネルフ全体に害をなす存在かもしれないのに?」ビシ

マナ「(……)」

シンジ「うん。まずは話を聞いてみないと。どうやって聞こうかな……」

アスカ「ちっ、司令の判断に納得したわ。あんたに話したってろくなことにならないってことがね」

シンジ「マナってスパイだよね? はおかしいだろうし」ブツブツ

アスカ「あんたの今の言葉、報告しとくから」

シンジ「誰に?」キョトン

アスカ「決まってるでしょ!!」

シンジ「あぁ、母さんか。うん、いいよ」

アスカ「な、なぁっ⁉︎」

シンジ「話はそれだけ?」

アスカ「それだけって……」

マナ「(あは、あははっ。変な子、だめ、声我慢しないと)」

アスカ「だぁ、怒る気も失せてきた。あんたってたまに大物なのか本気のバカなのか判断が難しくなんのね」

アスカ「なんか変に警戒するのがアホらしくなっちゃった。教室に戻るわよ」

シンジ「待って」ガシ

アスカ「なによ。気安く触らないでくれない?」

シンジ「僕が気になってるのはアスカなんだ」

アスカ「うげ、気持ち悪う」

シンジ「(母さんは、どうしてアスカに話したんだろう)」

マナ「……」

アスカ「はぁ、まぁでも溢れ出る魅力にようやく気がついたってところかしらねぇ」

シンジ「(母さんに確認しなくちゃいけないことがまた増えちゃったな……)」

アスカ「お金はとるけど、デートしてあげないことはないわよ?」

シンジ「うーん」

アスカ「煮え切らないわねぇ、冗談にしても男ならそこは女の子を立てるべきでしょ」

シンジ「……? あ、あぁ、うん、そうだね」

アスカ「っとに、あんたは抜けてるのよねぇ」

シンジ「はは」

アスカ「本気でなおそうとしない。すぐに限界を決めて諦める」

シンジ「うん。それはそうだね」

アスカ「身分ってもんをわきまえなさい? デートなんかあと十年は早いんだから。べーっだ」

シンジ「デート……?」

アスカ「はっはーん、とんだ笑いもんだわ。断られたからってなかったことにするとか。ダサっ」

シンジ「(なに言ってるんだろう……?)」

アスカ「なによ? そんなにしたかったの?」

シンジ「したい?」

アスカ「またすぐ誤魔化そうとする。ストーカーになられたらイヤだし。……一回だけなら、いいわよ」

シンジ「えっ。あの……」

マナ「(ぷっ、くっくっ、声でちゃいそう)」

【再び教室 放課後】

マナ「(私の正体がバレてるなら、ろくな情報引き出せそうにないな……それに戦自が事態を把握すれば……ここで終わりだなんて)」

ケンスケ「おい、霧島」

マナ「(それにしても、どうして……? どこから突き止めたのかしら。ううん、今はそれよりも今後の身の振り方が最優先。いっそ、ムサシとケイタに全てを打ち明けて……)」

ケンスケ「おいってば」

マナ「(だめ……! 無駄だわ。あの二人は戦自にマインドコントロールされていて私の意見なんか聞いてくれない。救うには、どうしたら。……ちがう。私は、自分の身でさえ守れないのに……)」

ケンスケ「なぁ」ポン

マナ「なによっ⁉︎」バンッ

ケンスケ「お、おう」

マナ「……あ……ど、どうしたの?」

ケンスケ「機嫌でも悪いのか?」

マナ「ご、ごめんね。ちょっと、嫌なこと思い出してて。なにか用?」

ケンスケ「ファンからの手紙を預かってるよ」

マナ「……?」

ケンスケ「ラブレターってやつ。転校してきてまだ数日しかたってないのになぁ」

マナ「あ……」

ケンスケ「渡しておいてくれって頼まれたからさ。とにかく、渡したぞ」カサ

マナ「(こんなの、受け取れるわけないじゃない)」グシャ

ケンスケ「お、おい。いきなり握りつぶすのは」

マナ「ありがとう。言っておいてくれない?」

ケンスケ「……?」

マナ「手紙で想いを伝える男の子なんて嫌いですって」

ケンスケ「辛辣だねぇ。日時と場所が書いてあるだけじゃないか?」

マナ「それも含めて、ね?」

ケンスケ「……はぁ、りょーかい」

マナ「あっ、ちょっと待って!」

ケンスケ「あん? 気が変わったのか?」

マナ「シンジくんは?」

ケンスケ「碇なら下駄箱じゃないか?」

マナ「ありがとっ!」ポイッ タタタッ

ケンスケ「あーあ。こんなゴミみたいに捨てられちゃって。差し出し人は、碇からなんだけどなぁ」カサ

【下駄箱】

シンジ「(マナ、来てくれるかな。待ち合わせ場所まで急がなくちゃ――)」トントン

マナ「シンジくんっ!」

シンジ「マナ……?」

マナ「今帰り?」

シンジ「うん、そう、だけど……」

マナ「(今すべきことは、保身……! ネルフがいつどういう風に動くのかわからない、接触を待っていてはだめ。昼休みの話を聞く限り、シンジくんは私に敵対心を持ってない、はず……)」

シンジ「あの、手紙、見てくれたの?」

マナ「手紙……?」

シンジ「ええと、ケンスケに渡してもらうように頼んだんだけど」

マナ「――えぇっ⁉︎ さっきの手紙ってシンジくんからっ⁉︎」

シンジ「呼んでないの?」

マナ「あっ、えっと! も、もちろん読んだよ! 嬉しくてすぐに飛び出してきちゃった」

シンジ「嬉しい? ……手紙には、場所と時間しか」

ケンスケ「お、いたいた」

マナ「あ、相田くんっ⁉︎」

ケンスケ「やっぱりまだ下駄箱にいたんだな」

シンジ「うん」

マナ「どうして相手を言わないのよっ⁉︎」

ケンスケ「ファンからだって言ったろ?」

マナ「そんな、シンジくんなんて思うはず――」

シンジ「二人とも、どうしたの?」

ケンスケ「ん? いやぁ、なんにも」

シンジ「僕は先に待ち合わせ場所で待ってるから」

マナ「それなら、一緒に……!」

シンジ「別々に学校を出た方がいいよ」

マナ「(やっぱり、シンジくんはあのことで……!)」

ケンスケ「……いいのか?」

シンジ「うん、手紙見たって言ってくれてるから」

ケンスケ「ふぅ~ん?」チラ

マナ「……!」

ケンスケ「それなら、なにも心配ないな」

シンジ「それじゃ、ケンスケまた明日学校で。頼みごと聞いてくれてありがとう」

ケンスケ「今度! ネルフに連れてってくれるって約束! 忘れんなよ!」

シンジ「わかってる」スタスタ

マナ「手紙」スッ

ケンスケ「なんのことだ?」

マナ「……」ヒクヒク

ケンスケ「あ、しまった! おーい、碇! 霧島からのメッセージが」

マナ「ちょっと!」ガバッ

ケンスケ「ぬぐっ! ふむむっ!」

マナ「……さっきのは、訂正する。だから、お願い。手紙を」

ケンスケ「もご?」

マナ「どこ? 手紙」スッ

ケンスケ「ほしいのか? これが」

マナ「相田くん?」

ケンスケ「霧島、うまい話があるんだけど」

マナ「……?」

ケンスケ「実はさ。霧島の写真をほしいって連中がけっこーいてね」

マナ「……」

ケンスケ「いつもは隠し撮りすんだけど、霧島はなんかガードが堅いっていうか。うまく撮れないんだよな。もしかして、気づいてた?」

マナ「……最低」

ケンスケ「いやいや! そんな! 違うよ! これは霧島に正式に依頼して取り分の半分を!」

マナ「写真のことならとっくに気がついてる。相田くん、転校してきた初日から私を撮ろうとしてたでしょ?」

ケンスケ「ああ、やっぱり――」

マナ「でも、それって盗撮だよ? 良くないことをしてるって自覚ないの?」

ケンスケ「うっ、そ、それは……」

マナ「見て見ぬふりをして黙ってたのは、悪い人じゃないんだって信じてたから。それなのに、手紙をネタに脅迫みたいなマネするなんて」

ケンスケ「そんなつもりは……!」

マナ「同じことだよ! 私が断りにくい状況で話を持ち出してきたじゃない!」

ケンスケ「あ……いや、僕は、霧島に、損はない話だって……」

マナ「手紙、返して。じゃないと大声で叫ぶわよ」

ケンスケ「え?」

マナ「下校中だし、まだ生徒はたくさんここを通る。ほら」

男子生徒A「お、霧島だ。かわいいなぁ、いつ見ても。相田となにしてんだ?」チラ

ケンスケ「うっ……」

マナ「立場が逆転しちゃったね」

ケンスケ「す、すまない、霧島。僕、どうかしてて」スッ

マナ「いいの。でも、これからはこんなマネしないでくれるかな?」

ケンスケ「あ、あぁ。気をつけるよ」

マナ「(余計な手間……それよりも、内容は……)」カサカサ

ケンスケ「あのさ、霧島。写真なんだけど――」

マナ「それじゃ! また明日!」トントン タタタッ

【第三新東京都市 工業団地マンション】

シンジ「……」

マナ「はぁっ、はぁ、シンジくん、待った?」

シンジ「あ、よかった。越してきたばかりだから道がわからないのかと心配してた」

マナ「ごめんね、バスを一本乗り遅れちゃって」

シンジ「気にしなくていいよ。それより、話があるんだけど」

マナ「ふぅ、ふぅ……うん、実は、私も」

シンジ「先に、いいよ」

マナ「シンジくん、私の正体に気がついたんでしょ?」

シンジ「どうして、それを?」

マナ「……アスカと話してるの聞いてたんだ。ごめんね、盗み聞きするような真似して」

シンジ「昼休みの? あの場にいたんだ?」

マナ「うん、会話が聞こえるように。そばに木があったでしょ? 登って聞いてたの」

シンジ「わぁ、すごいや。よく登れたね」

マナ「太い木だったから。掴みやすかったし、ってそうじゃなくて、私が、戦自から出向してるってこと。知ったんだよね?」

シンジ「うん」

マナ「ごめんなさい!」ペコッ

シンジ「……?」

マナ「任務で仕方なくて! こうするしかなかったの!」

シンジ「謝らなくていいよ。なにかされたわけじゃないし」

マナ「どうして……? バレなかったからって罪は軽くならない。もし、バレてなかったら、そのままシンジくんや、アスカたちにひどいことしてたかもしれないんだよ?」

シンジ「でも、行動を起こす前にこうなったじゃないか」

マナ「……」

シンジ「“未遂”だった。あるいは、“事前に防ぐことができた”ってことじゃないかな。僕はなにもしてなくて知らされただけ。マナのやろうとしていた目的に関与すらしてないよ。だって、これからやろうとする所だったはずだから。……違う?」

マナ「そう、だけど」

シンジ「うん。その上で聞きたいんだ。マナはどういう目的で、僕やアスカや綾波、ネルフに近づこうと思ったの?」

マナ「なぜ、知りたいの?」

シンジ「もしかしたら、協力できるかもしれない。話を聞くまではわからないけど」

マナ「……どうして、シンジくんは?」

シンジ「母さんがこわいから」

マナ「……?」

シンジ「このまま流れに身を任せていると、母さんに全て壊されてしまいそうな気がするんだ。知り合い、大切な友達、僕の日常。不思議、なんだ。エヴァに乗って戦う日々がたまらなくこわくて嫌だったのに、それ以上にこわいと思う存在ができたら、なんともないと思う」

マナ「勘違いだったらごめんなさい。もしかして、シンジくんは、ネルフに……うぅん、お母様と敵対しようとしてるの?」

シンジ「それは違うよ、僕は守りたいだけ。僕の大切なものを壊そうとするから」

マナ「……」

シンジ「マナの不安は、僕に話たところで庇護されるか。……母さんに殺されないかって思ってるはず。情報の出所は、僕じゃなくネルフだからね」

マナ「(この子、普通じゃない……。頭が良い)」

シンジ「口約束で申し訳ないけど、ここでの話は誰にも言わないと密約するよ」

マナ「(違う、そんなはずない。資料によると普通の中学生だって……。シンジくんも考えなきゃいけないほど追い詰められてるんだわ。そして、自分の感覚を研ぎ澄ましてる)」ゴクリ

シンジ「どう?」

マナ「取り引きってこと?」

シンジ「うん。お互い、有益になるのであれば協力できると思う」

マナ「(どの道、ここは――シンジくんに賭けてみるしか……!)」

シンジ「――それじゃぁマナは友達の為に?」

マナ「うん。二人ともちょっと血の気が多くて、どうしようもないんだけど、憎めないの」

シンジ「……」

マナ「シンジくんたちに近づいたのは、私に命令が下ったから。“碇一族に関する情報を引き出せ”、“セカンドチルドレンとファーストチルドレンに近づいてほしい”って……」

シンジ「……」

マナ「戦自は、ネルフにつけいる隙がほしいみたい。ないなら、作るつもりなんだと思う。急な人事異動に目星をつけて」

シンジ「マナの任務が終わったら、友達は?」

マナ「前線から遠い情報部に異動してくれるって約束してくれた」

シンジ「(マヤさんみたいなポジションてことか)」

マナ「全部、自分の為。これが、私がここに転校してきた理由……」

シンジ「ありがとう」

マナ「へ?」

シンジ「話してくれて」

マナ「シンジくん、本当に優しいんだね。でも、これは私の為に話してるの。今言ったことだって、作り話かもしれないよ?」

シンジ「信じるよ」

マナ「あ……」

シンジ「ウソだとしても、僕はマナを信じる」

マナ「……」グスッ

シンジ「情報を集めるまでに期限はあるの?」

マナ「……う、うぅん、明確な期限は。進展がなければプレッシャーをかけてくると思うけど。まだ始まって間もないし」ゴシゴシ

シンジ「……」

マナ「シンジくんは、なにかプランは?」

シンジ「まず、マナの安全を確保しなくちゃいけない。マナは戦自に属していて、任務を引き受けた時点で正規の手段を使い抜けることは難しい」

マナ「うん」

シンジ「友達を救いたいんだよね? だったら、逃げられない。戦自を欺く必要がある。まだマナの正体はバレてないって、引き続き任務を続けてる体裁を守らなきゃならない」

マナ「うん」

シンジ「問題は、母さんがいつ仕掛けてくるのか。マナの情報を戦自に漏らさない保証と、マナの身の安全の確保」

マナ「(す、すごい。一般人が、よく、ここまで……)」

シンジ「両親や僕の情報については、定期的に教えてあげるよ」

マナ「ほ、本当っ⁉︎」

シンジ「ただし、戦自に怪しまれない程度に。一度に話してほしいんだろうけど、必要な経緯がないと話に無理がでてしまうだろうから」

マナ「それは、そうかも。間違ってないか情報を精査するには時間がかかる。過程で私の正体がバレてるって疑いを持たれたら……」

シンジ「うぅ~ん」

マナ「……」

シンジ「そうなると、やっぱり、ネルフ側の対応次第だね」

マナ「うん……」

シンジ「これから、母さんと話てみようと思う。……マナのことだけじゃないよ。色々、確認しなくちゃいけないから」

マナ「……」

シンジ「僕に任せる?」

マナ「……!」

シンジ「マナの身の安全、友達のこと。マナがこのままだと、友達も道連れ、だよね」

マナ「いいわ、シンジくんに賭けてみる」

シンジ「……」

マナ「どうせここで終わりだったのかもしれない。どうなろうと恨んだりしない」

シンジ「よく考えなくていいの?」

マナ「時間なんてないもの。こうして話してる瞬間にもネルフか戦自が突入してくるかもしれない」

シンジ「……」

マナ「――私と、ムサシとケイタの運命を、あなたに託します」

【ネルフ本部 司令室】

冬月「なに? ユイくんに会いたい?」

シンジ「はい。今日はシンクロテストがないので、少し話がしたくて」

冬月「キミが自分からとはめずらしいな」

シンジ「母ですし、なにも不思議なことは」

冬月「そうではない。表立って要求をしてくることがだ。父親の時は言った試しがなかったろう」

シンジ「何度か試しましたよ。電話をかけてみたり。忙しいってすぐ切られましたけど」

冬月「ふっ、そうだったのか。碇がやりそうな応対だな」

シンジ「母は忙しいでしょうか?」

冬月「そうだな、いまなら多少の時間はあろう。確認をとるから少しそこでまて」カチャ

シンジ「ありがとうございます」

冬月「――……もしもし、私だ。今、司令はなにをしている?」

シンジ「……」

冬月「ああ、そうだったか。……うん、十分後にサードチルドレンを連れて執務室に向かうと言伝を頼む」

シンジ「(母さん、まともに話するのは僕が麻袋を被せられていた時以来になるのかな……)」

冬月「ではな」カチャ

シンジ「……」

冬月「この後、明日の県議会に出席する為、移動する予定がある。それまでの間、時間を作るそうだ」

シンジ「はい」

冬月「では、降りるとするか」

【ネルフ本部 執務室】

冬月「進みたまえ」

シンジ「失礼します」

ユイ「……」スッ

冬月「(まともに話をしようとしている姿を見るのは、これが初めてか。感動の対面、というわけにもいくまいな)」

シンジ「忙しいのにわざわざ時間を作ってくれてありがとう」

ユイ「気にすることないわ。手の具合はどう? 心配してたのよ」

シンジ「うん、悪くないよ。母さんがコレを僕の手にいれるように指示したの?」

ユイ「ど真ん中どストレートできたわね。駆け引きを楽しむ余裕も必要よ?」

シンジ「どっちみち、僕は母さんに敵うと思ってないし。負けのわかってる勝負なんてつまらないだけだよ」

ユイ「よろしい。実に理にかなった行動です。学習したわね。答えない場合まで想定してる?」

シンジ「選ぶのは母さんだ。答えないという選択だってできる」

ユイ「成長したわ。では、“答える必要はない”と言ったら?」

シンジ「僕は、この手を切り落とす」

冬月「……!」ギョ

ユイ「本気?」

シンジ「試してみる? ほんの二秒あれば手首から先を切り落としてみせるよ……!」

ユイ「交渉テーブルに自らを乗せてきたのね。ふぅん……悪くない。けど、その前にシンジを私たちが取り押さえたら?」

シンジ「もちろん、考えたよ。だから、こうしてすぐ起こせるようにナイフを用意してきた」スッ

冬月「こやつ、正気か?」

ユイ「そんなバタフライナイフで素人が切れるとでも? でも、シンジが怒るのは無理ないわね、あなたの望まない形になっているでしょうから。……それを指示したのは私」

シンジ「……」

ユイ「私からも質問が一点」

シンジ「なに?」

ユイ「覚えてる? 昏睡状態の出来事を」

シンジ「覚えてないって先に報告してあるはず。どうして、これを? 母さんはなにをしようとしてるんだよ」

ユイ「知ってどうするつもり?」

シンジ「僕に関係あるんだろっ!! なにも知らされてないなんておかしいじゃないかっ!!」

ユイ「……」

シンジ「僕には知る権利がある! そうじゃないの⁉︎」

ユイ「あなたは、理解しようとするの? それが、望まない結果になっても、他人を不幸にさせてしまっても受け入れられるほど強くなった?」

シンジ「やらなくて後悔するよりはいいっ!」

冬月「……」

シンジ「なにもかも勝手じゃないか!! マヤさんにしたのも母さんの仕業なんじゃないの⁉︎ どうしてそんなことするんだよっ⁉︎」

ユイ「……あなたの為なのよ……」

シンジ「僕は望んでないよっ!!」

ユイ「シンジ。この世界はね、近い将来、いずれ滅んでしまうの。使徒が来る来ないに関わらず、私たち人類は人口、民族、紛争、食糧危機、未知の病原菌。様々な現実に直面している」

シンジ「……」

ユイ「個人の幸せにかまけている問題ではなくなってしまっているのよ。人類が生き延びる術、全体なの。私たちはセカイを、新しくゼロから仕切りなおさなければならない。それしか方法がないのよ……!」

シンジ「違う、そんな理由じゃないだろ。母さんが望んでるのは」

ユイ「……!」

シンジ「もっともらしいこと言って。そういえば僕が納得するとでも思ったの?」

ユイ「ふふ、男子三日会わずんば刮目して見よ。……本当に強くなったわね。なにがあなたをそこまでステップアップさせたの? アダム?」

シンジ「正直に言うよ。僕は母さんがこわい」

ユイ「……」

シンジ「顔色を変えずに、僕にこんなことを。マヤさんを危険な目に合わせたのがこわいんだ」

ユイ「……」

シンジ「今日の昼休みにアスカから聞いたよ。戦自からスパイが潜り込んでるって」

冬月「ちっ」

シンジ「あの子をネルフで守ってほしい」

ユイ「それに対する見返りは?」

シンジ「僕の協力。母さんの望む働きになれるように――」

ユイ「あなたは優しいもの。あの子ではなくても、鈴原ヒカリ、セカンドチルドレン、伊吹二尉、葛城一尉、排除したとして代わりはいくらでもきく」

シンジ「……」ギリッ

ユイ「代替え案は?」

シンジ「たしかに、母さんにとっては僕がイヤイヤ協力しようが、進んで協力しようが結果は同じこと」

ユイ「そうね」

シンジ「だったら僕は、また自分をかけるしかない」

ユイ「……」

シンジ「この手にあるのは、必要なモノだから。僕も必要なんじゃないの?」

ユイ「……」

シンジ「僕を失うか、目的を達成するまで他に手をかけないか、選ぶのは二つに一つだよ」

ユイ「あなたは私を敵と思ってるのね?」

シンジ「……」

ユイ「及第点を与えましょう。今回は子供の駄々に付き合ってあげます。副司令、霧島マナのファイルを」

冬月「どうするつもりだ?」

ユイ「こちらが証拠を握っているのです。まずは、信頼の証として、それをシンジに渡しましょう」

シンジ「それだけじゃだめだ。データは残ってるはずだ」

ユイ「もちろんね。デジタル化してる現代において、コピーがないなんてありえない。重要であれば尚更」

シンジ「戦自に解放の働きかけはできない?」

ユイ「それは無理よ。大人には大人の都合がある。ネルフから戦自にそんなことをすれば、なにを要求されるかわかったものではないわ」

シンジ「つまり、現状維持」

ユイ「そうね、あなたにネズミの扱いは一任しましょう。それも、シンジが非協力的な態度を見せたらご破算になるけど」

シンジ「……」

ユイ「シンジ。これはあなたに、とっても不利な条件なのよ? わかるわね?」

シンジ「(僕が、協力しなくても、母さんの気が変わっても……だけど、時間稼ぎにはなる)」

ユイ「それを踏まえて発言してるのね?」

シンジ「うん。それならいい」

ユイ「まだまだね。もっと成長しなさい。話は以上どす。副司令、シンジと共にさがってください。原本を渡すのをくれぐれも」

冬月「ああ。こっちだ」

【ネルフ本部 副司令室】

冬月「このUSBメモリーに件の情報がはいっている」

シンジ「本体に保存してありますよね」

冬月「無論だ。科学とは便利な道具だからな。活用しない手はなかろう」

シンジ「(仮に端末の情報を消去してもらって……無理だ。情報は一度公開されれば、一生残ってしまう」

冬月「しかし、短期間でよくぞここまで変貌をとげたものだ」

シンジ「え?」

冬月「キミの話だよ。これまで、ことなかれ主義で生きてきたのではないか? それがたった数日で機会主義へとガラリと変わっている」

シンジ「そうさせたのは、僕じゃありません」

冬月「人は、立場によって求められる分野が違うからな。望む望まないにしろ、盤面の駒のように成るべくして裏返ったか。どうした? 受けとらんのかね?」

シンジ「……」スッ

冬月「サードチルドレン。情報は武器になる。我々がこうして優位性を保っていられるのも、戦自が喉から手をだす勢いで欲しているのも、“生きた情報”に他ならない」

シンジ「……」

冬月「それはなぜか。手札は多い方がいいからだ。勝てるカード、ジョーカーの有り難みをよく知っている」

シンジ「……」

冬月「しかし、切れ味抜群のジョーカーといえど扱い方を間違ってしまえば諸刃の剣。弱みがないわけではない」

シンジ「そう、ですね」

冬月「言っている意味がわかるかね? “一撃で、人生は簡単にひっくり返る”。要は機会次第という話だな」

シンジ「……」

冬月「今日の出来事はキミという人間を若干ではあるが見直した。引き続き精進するんだな」

【マナ宅】

マナ「――シンジくんっ!」

シンジ「不安になってるだろうと思ったから、報告にきたよ。ごめんね、突然」

マナ「上がって? 私のマンションさっき教えておいてよかった」

シンジ「監視は平気?」

マナ「盗聴器、カメラがないか入念に調べてるよ。尾行は?」

シンジ「大丈夫。そんなことをする意味もないだろうから」

マナ「……?」

シンジ「玄関先でいいよ。これ、渡しとく」スッ

マナ「なに、これ?」

シンジ「マナの個人情報が入ってるUSBメモリー。端末に接続して確認する前にウィルスがないかチェックした方がいいと思う」

マナ「えっ⁉︎ もう⁉︎」

シンジ「結果だけを言うと、現状維持。ネルフはマナに関して静観する姿勢になったよ」

マナ「ほ、ほんと?」ヘナヘナ ペタン

シンジ「うん」

マナ「それで、このデータを?」

シンジ「コピーは抑えられてる。原本だって言ってたけど、そんなことになんの意味もないんだ」

マナ「……」

シンジ「信憑性は疑いのないものだから」

マナ「静観するっていつまで?」

シンジ「僕が協力する限りは。でも、それすらも曖昧で。母さんの気が変わってしまえばその限りではないんだと思う」

マナ「……」

シンジ「ごめん。せっかく僕に。もっと良い条件を引き出すべきだったんだけど」

マナ「そんな。シンジくんがいなかったら今頃……。私は、今後どうしたらいい?」

シンジ「戦自のスパイとして、これまで通りだよ。アスカにはバレてるけど、マナはバレてるって知らないって感じで」

マナ「黙認するのね」

シンジ「うん。ただ、アスカはあまり刺激しない方がいいと思う。ネルフに報告されるだろうから」

マナ「私、敵、だもんね。アスカにとって」

シンジ「自分の居場所は守らなくちゃいけない。アスカのこともわかってやってくれないかな?」

マナ「大丈夫」

シンジ「僕に聞きたいことがあれば、教えるから。これで時間稼ぎをして、次の手を考えよう。アダムと同化すれば――」

マナ「え……?」

シンジ「いや、なんでも」

マナ「怯えて暮らさなくてもいいんだよね?」

シンジ「そうだね、近い内にどうこうならなくて済んだよ」

マナ「ありがとう。どうして私にこんなことしてくれるの? 切り離した方がラクなのに」

シンジ「うーん」ポリポリ

マナ「理由なんていい。シンジくんは私を助けてくれた。私になにかできることがあったら言って? なんでも力になる」

シンジ「それだけだから。また明日、学校で」

マナ「あ、うん! もういいの?」

シンジ「マヤさんとも話しなくちゃ」

マナ「あのっ! ……あれ? あれ? ちょ、ちょっと立てない。こ、腰が抜けちゃったみたい。あはは……」

【ミサト宅 リビング】

アスカ「うーん、これとこれの組み合わせは……無難っちゃ無難。ていうか、普通ね」ポイ

ミサト「ただい~……?」

アスカ「これかな?」ポフ クルッ

ミサト「……」

アスカ「いい感じ。やっぱり夏は紫外線が強いし日焼け対策はかかせないわよね。うん、我ならがら見事なもんだわ。だいたいシンジも気づくのが――」

ミサト「シンジくんが、なにを?」

アスカ「うわぁっ⁉︎」ギョ

ミサト「おめかししてるのね?」

アスカ「み、みみみみミサトッ! 帰ってきたら挨拶しなさいよ!」

ミサト「姿見の鏡でファッションショーを開催してるから邪魔しちゃ悪いと思って。テーマは……海?」

アスカ「べ、べつに!」

ミサト「……デート?」

アスカ「ち、ちがっ!」

ミサト「そっか……アスカも色を知る年齢なのね。まぁ、背伸びしてるからそうなっても不思議じゃないけど」

アスカ「……っ」プイ

ミサト「隠さなくたっていいじゃなぁ~い。誰しもが通る道よ。この世の半々は男と女なんだからね」

アスカ「経験してみたかっただけ。普通のデート。いつできなくなるかわからないし。パイロットなんだから。でしょ?」

ミサト「そうね。あなた達エヴァの操縦士は常に最前線。裸一貫で突撃する兵士よりは科学の力で守られているけど、相手は正体不明の使徒。命の危機に晒される機会は多いわね」ゴト

アスカ「そう、だから。一度はね」

ミサト「さぁ~て」ガサガサ

アスカ「またビールぅ? 夜ご飯は?」

ミサト「アスカはほら、これ。じゃじゃーん! ほっ○もっとのお弁当」カサ

アスカ「またぁ?」

ミサト「どうしようかしらねぇ、うちの台所事情」

アスカ「ミサトの安月給じゃ家政婦を雇うお金ないでしょ。節約だってしてるわけじゃないし」

ミサト「うっ」カシュ

アスカ「はぁ……」

ミサト「し、シンジくんに頼もうか?」

アスカ「なんて?」

ミサト「作り置きができる料理ってあるじゃない? 例えば三日もつカレーとか。冷凍保存して後は焼くだけのハンバーグとか」

アスカ「ハンバーグ?」ピクッ

ミサト「シンちゃんの作る料理おいしいわよね」

アスカ「ミサト、味オンチじゃなかったっけ」

ミサト「あたしだってそれぐらいわかるわよぉ~! ツマミなんかサイコーなんだから! あぁ、声をかければ自動でお料理、お酒がでてくる日々……!」

アスカ「まんま扱いが使用人のそれと同じね」

ミサト「よし! そうしましょう! シンジくんには、私から頼んでおく――」

アスカ「いや、待って。あたしから言ってあげるわ」

ミサト「アスカから?」

アスカ「二つ返事でオーケーすると思うし」

ミサト「やけに自信たっぷりじゃない。マヤちゃんの所とここに通うのは、結構手間よ?」

アスカ「ま、このあたくし様の魅力が成せる技ってところかしらね。罪よねぇ、あたしって」

【再びマナ宅】

マナ「(シンジくん、か。一時的にとはいえ、こんなに早く安全を確保してくれるだなんて……。私が想定していたより、ずっと、大人びているのかもしれない)」コト

加持「……」

マナ「(あの落ち着きようは普通じゃない。肝がすわってる? ……私が託した瞬間からこうなるってシンジくんは予想できてたのね、きっと)」ジャー

加持「皿はこっちでいいのか?」

マナ「(どうしたんだろう、私。帰った後も、シンジくんのことばかり考えてる……)」

加持「勝手に置かせてもらうぞ」

マナ「はぁ……」

加持「恋のはじまりのため息かい?」

マナ「いえ、そんなんじゃ……っ! って、てててててぇっ⁉︎」

加持「お邪魔してるぞ」

マナ「ど、どこから入ったんですかっ!」

加持「窓」

マナ「どうやって……? ここ、8階ですよ⁉︎」

加持「隣の部屋からちょいとな。なに、ベランダづたいに渡ればそう無理な話じゃない」

マナ「隣って……まさかっ⁉︎」ダダダッ

加持「そう慌てて走ってかなくても。気がついた通り、このフロアは全て、戦自が貸し切っている」

マナ「(しまった! それじゃぁ、部屋の中で盗聴器をいくら探してもでてこないはず……!)」ピタッ

加持「音波振動って知ってるか? 例えば、壁にコップを当てて音を拾う。あの要領でね、隣の部屋でシンジくんとの会話を聞かせてもらったよ」

マナ「くっ!」ガタゴト

加持「……」

マナ「動かないでっ!」カチャ

加持「USPか。拳銃は携行してたんだな」

マナ「隣の部屋にいるのは何人⁉︎ 本部に連絡したの⁉︎」

加持「まさか、ミイラ取りがミイラになっちまうとはな。キミの魅力で骨抜きにするんじゃなかったのか?」

マナ「質問に答えて!」

加持「誰もいやしないよ。連絡しちゃいない。これで満足か?」

マナ「信じられない」

加持「おいおい、連絡していたら、今まさに、キミはここにいられないだろう?」

マナ「……」

加持「銃をおろしてくれないか? 落ち着いて話がしたいんでね。それとも俺を殺すかい?」

マナ「考えてる」

加持「最善の手段を選べよ。俺の口封じをしたところで、上官にどう説明する?」

マナ「任務中の事故で済ませるわ」

加持「それがうまくいっても、代わりの者が派遣されるだけだ。仕事とはそういうシステムだからな。組む相手が融通の効くほうがやりやすいんじゃないか?」

マナ「どういう……?」

加持「俺がその相手だといってるんだよ。キミの正体がバレたことを、誰かに報告しようと思っちゃいない」

マナ「なに? なに言ってるの? あなたも戦自のスパイでしょ⁉︎」

加持「そうだよ。だが、ネルフのスパイでもある。こう言えば、おわかりいただけるかな?」

マナ「まさか……! 二重スパイ……っ⁉︎」

加持「(三重になろうとしてるところだがね)」

マナ「……」スッ

加持「ようやく話が通じたようだ。助かるよ、理解がはやくて」

加持「まず、ひとつ訂正をしておく。キミがどう聞いてるのかは知らないが、俺の上司は戦自じゃない。政府筋の関係者だ」

マナ「日本政府、直属の……」

加持「ま、頭が違うだけでやってる中身は同じなんだがね。ただ、指揮系統が違う。キミが戦自の意向に従うのと同様に、俺は政府の意向に従うのさ」

マナ「政府からは、どういう命令で?」

加持「ネルフの断面図の入手。構造の把握を図りたいようで、それが俺に下された最優先事項ってとこだな」

マナ「私は、碇一族に関する、組織図……。加持監察官は、ネルフ本部の断面図……」

加持「これの意味するところは、政府と戦自は連携して、ネルフの直接掌握に乗り出そうとしている。――水面下で」

マナ「……!」

加持「俺たちは意外と重要な任務を任されているんだよ。そこで、だ」

マナ「なんですか?」

加持「戦自にキミの失態をバラして代わりの者を補填してもらってもいいが、めんどくさい。関係構築にね」

マナ「……」

加持「俺は俺で、キミとうまくやっていけたらいいと思っている。目的のためにね」

マナ「あなた、なに考えてるんですか? それじゃまるで、任務の他に目的が――」

加持「そういう意味で言っているよ。俺は」

マナ「私になにを?」

加持「追って連絡する。必要になった時にね。それまでは、口裏を合わせよう」

マナ「……」

加持「かわいい顔してたろ? シンジくん」

マナ「……は……は?」

加持「あの手の顔立ちは好きなやつだと思うんだが、マナちゃんはどうだい?」

マナ「な、なに言いだすんですか、突然。……シンジくんは、顔だけの薄っぺらい男性じゃありません」

加持「惚れたか?」

マナ「か、からかわないでください! そんなにすぐに好きになるわけじゃないですかっ! そんな場合でもないし……」もごもご

加持「やれやれ。こうなっちゃおしまいだな。自分の顔を鏡で見てみろ。ほれ」スッ

マナ「え……」

加持「これが、女の顔だ。魅力的だと思う異性があらわれた時の」

マナ「そんな……! 違いますっ!」

【ネルフ本部 執務室】

マヤ「……ご用でしょうか?」

ユイ「シンジにこれを」スッ

マヤ「……」カサ

ユイ「手紙よ。中は見ないように」

冬月「ユイくん、そう圧をかけるな。怯えているではないか」

ユイ「心外です。私はいつも通りですよ。意識して過剰反応しているだけで……そうよね?」

マヤ「は、はい。すみません」

ユイ「あなたの管轄は赤木博士です」

マヤ「あの、先輩は……」

ユイ「居場所? ラボにいるんじゃない?」

マヤ「いえ。そうじゃなくて、先輩は本当に全部知ってて協力を?」

ユイ「その通り。伊吹二尉も彼女の性格はよく知っているでしょう、頭の良さも。黙って利用される女性ではない」

マヤ「……」

ユイ「(例外は男。この様子じゃ、夫との関係は知らないままなのね)」

マヤ「大変、失礼なんですが……脅されてとか?」

冬月「それはないと断言できる。彼女は自分の意識で我々に協力しているよ」

マヤ「どうして――」

ユイ「身の安全を保障する条件に、詮索をするなと伝えられているはず。なぜ、どうして、知りたい、そういった疑問や好奇心は捨てなさい。生きのびたいのなら」

マヤ「……」

ユイ「命はひとつしかない」

マヤ「は、はい」

ユイ「これからは、技術部の仕事の他にこうして用事をお願いするかもしれないから」

マヤ「……」

ユイ「シンジをよろしくね」ニコ

【数時間後 マヤ宅】

マヤ「……」パタン

シンジ「おかえりなさい」

マヤ「た、ただいま」

シンジ「今日は遅かったですね」

マヤ「一人で、仕事してたから。仕事の能率が悪くて」

シンジ「……」

マヤ「手紙、預かってる。司令から」カサ

シンジ「母さん?」スッ

マヤ「そ、それじゃ、私は部屋にいるね」タタタッ

シンジ「あ、あのっ……」

マヤ「ごめんなさい、まだ頭の中で整理できてないの。一人にしてほしい」ピタ

シンジ「……わかりました」

マヤ「ごめんね」スー パタン

シンジ「ふぅ……やっぱり、ショックだよな。手紙、なんだろう」

『伊吹二尉を犯しなさい』

シンジ「……っ⁉︎」ガタッ

『あなたは協力すると言ったわね。まさか、自分の手が汚れる覚悟もなしに? 断れば、どうなるかわかってるでしょう』

シンジ「そんな……」

『アダムの破壊衝動は、いずれ抑えがきかなくなる。それはあなたのせいじゃない。アダムのせいなのよ。したがって、これは必要な通過点』

シンジ「……」カサ

『先ほど、あなたは私にこう言った。選ぶのは二つに一つだと。私は選んだ。次は、シンジの番ね』

シンジ「ウソ、でしょ……続きは? これで終わり?」

マヤ「――シンジくん」

シンジ「……っ!」ビクッ

マヤ「……? なんか、物音がしたけど、平気?」

シンジ「だ、大丈夫です」ガサガサ

マヤ「手紙になにか……やっぱり、いい」

シンジ「……」

マヤ「お風呂はいっちゃうね」

シンジ「ま、まだ洗ってなくて」

マヤ「いいわよ、それぐらい自分でできるし。そういえば、ご飯は食べた?」

シンジ「あ、はい。自分で買ってきて済ませました」

マヤ「そう……。わかった」スッ

シンジ「(母さん……)」カサ グシャ

【数十分後 マヤ宅 リビング】

マヤ「まだリビングにいたの? お風呂、栓を抜いて洗っといたよ」

シンジ「マヤさん」

マヤ「……なに?」

シンジ「お話が――」

マヤ「嫌っ! 聞きたくないっ!」

シンジ「でも」

マヤ「私に何を話そうって言うの⁉︎ 面倒ごとはもうたくさん!」

シンジ「話さなくちゃ」

マヤ「聞きたくないって言ってるでしょう⁉︎」バンッ

シンジ「……」

マヤ「私、明日も朝はやいから。シンジくんもお風呂に入ったら寝て」

シンジ「はい」

マヤ「こんなの、おかしい。納得できない!」

シンジ「……」

マヤ「私が八つ当たりしてると思ってるんでしょう⁉︎ だけど、私だってこんなこと言いたくないのよ!」

シンジ「よく、わかってます」

マヤ「息苦しい……。いつまでこんな生活を続けなきゃならないの……」ギュウ

シンジ「マヤさん」

マヤ「……」

シンジ「勝手な言い草だと自分で思います。だけど、僕はマヤさんのこと嫌いじゃありません」

マヤ「私だって……。!シンジくん個人に対して嫌悪感はないわよ。ただ、状況が」

シンジ「はい、そう感じてます。もっと別の形だったらうまくできてるんじゃないかって。ストレスにならずに」

マヤ「……」

シンジ「多くの人が関わってます。僕だけじゃどうしようもないぐらい」

マヤ「それは、わかってる」

シンジ「これからも、まだしばらくはこの暮らしが続きそうです。だから、お互いにいないモノと考えるか、歩み寄るのか。マヤさんの判断を待とうと思います」

マヤ「……」

シンジ「答えが出ないうちに僕が出て行くことになるかもしれません。でも、それもひとつの結論だと思いますから」

マヤ「このままじゃいけないって、わかってる」

シンジ「マヤさんの望みは、これまでの毎日を取り戻したい。でも、知ってしまって、巻き込まれたからには戻れないとわかってる。そのジレンマですよね」

マヤ「……よく、わかるわね」

シンジ「僕も同じなんです。できれば、使徒との戦いに怯えているだけの日々に。でも、それはできない」

マヤ「……」

シンジ「エヴァに乗ったのだって」

マヤ「あ……」

シンジ「だから、気持ちがよくわかるんです」

マヤ「ごめんなさい、私」

シンジ「いいんです。ひとつだけ、話をさせてくれませんか? マヤさんにつらい現実になります」

マヤ「……」

シンジ「どうしても話さなくちゃいけないんです」

マヤ「わかった……。聞くわ。でも、髪乾かしてからでいい?」

シンジ「はい」

【数十分後 リビング】

マヤ「――そんな、コレって!」ワナワナ

シンジ「……」

マヤ「うぷっ!」ドタドタ

シンジ「……」

マヤ「おぇっ! おぇぇっ!」ジャー

シンジ「ふぅ」

マヤ「はぁっ、はぁ……」

シンジ「手紙に書いてある意味はそのままだと思います。なぜ必要なのかわからないけど、母さんはそう望んで……いえ、僕にやれと命令しています」

マヤ「……」

シンジ「僕は逆らえません。守らなくちゃいけない人がいるから。選ぶのは二つに一つ、最後の文面にある言葉は、僕にマヤさんかもう一人かを選べと言ってきてる」

マヤ「もう一人って、誰」

シンジ「それは言えません」

マヤ「……! あなた、なんなの⁉︎ どうして⁉︎」

シンジ「すみません。できれば、両方守りたい。それが僕の望みです」

マヤ「はっ! この部屋に盗聴器は……っ⁉︎」

シンジ「今は、遮断する妨害電波を流しています。神経をかなりすり減らすので長くは持ちませんが」

マヤ「妨害電波? すごい汗。それに瞳の色が赤く……。シンジくん、あなた、人、なの?」

シンジ「僕の定義も曖昧になりつつあります。でも、そこまで知ってしまうとマヤさんの為にならない。だから、要点だけを話しましょう」

マヤ「私は、イヤよ」

シンジ「はい、それはわかっています。イヤイヤするのなんて許せません」

マヤ「そうよ、こういうのってお互いの意思が重要で」

シンジ「母さんにとってはそんなの関係ないんです。結果だけがあればいい」

マヤ「……」

シンジ「しなければいずれバレます。そうなると他の子が危険にさらされます」

マヤ「だから、私に我慢しろっていうの⁉︎」

シンジ「早とちりしないでください。幸い、今すぐにとは書かれていません」

マヤ「……時間稼ぎをしたところで、司令が納得する成果を見せなくちゃいけないんじゃないの?」

シンジ「正直、それぐらいしか。僕もどうしたらいいかわからないんです」

マヤ「……」

シンジ「どちらも守りたい。いや、そっとしておいてあげたい、僕が関与することで不幸な目に合わせたくない……! だけど、ほっておいたら、道具としてみんな殺されてしまう」

マヤ「……」

シンジ「どうしたら、いいのか」ツゥー

マヤ「シンジくん……泣いて――」

シンジ「打開策を見つけて見せます。マヤさんにどうしても教えておかなくちゃいけないと判断したのは、関係することだからです」

マヤ「う、うん」

シンジ「それじゃ、僕は」フラ

マヤ「……?」

シンジ「ぐっ」ガタ パタリ

マヤ「し、シンジくん! ねぇ、大丈夫っ⁉︎」

【再びネルフ本部 執務室】

冬月「息子との溝は深まるばかりだな。これでよいのか?」

ユイ「できれば、あの子に配慮してあげたかったのですけど。敵は、状況によって逐一変わります」

冬月「……」

ユイ「例えば、戦自がネルフに雪崩れこんでくればシンジは条件を出さずとも協力するでしょう。私もシンジたちを使い対抗せざるを得ません」

冬月「共通の敵になるだろうからな」

ユイ「敵とは、その程度。……符号なんですよ」

冬月「……」

ユイ「時々で共通認識さえ有れば、優先順位によって変化する。……勧善懲悪というはっきりとした図式が成り立つ条件は、一貫してなければならない。不変ではないのです」

冬月「あえて憎まれ役になるということかね」

ユイ「これは証明ではありません。私たちは親子ですから。血の繋がりはそう簡単に断ち切れないという事実です。見直すきっかけさえあればいい」

冬月「感情を軽視しすぎている。取り返しのつかない事態になるやもしれんぞ」

ユイ「あの子は一度、汚れさせる必要があります」

冬月「なせだ? なぜそこまで」

ユイ「痛みを知らない子供は綺麗事を並べたがります。我を通す、その一点のみ。うまくいったと思わせて叩き潰すのです」

冬月「その先の、再起に新たな成長があると?」

ユイ「ふふ、それだけじゃありません。目的がありますもの」

冬月「起きあがれなかった場合は――」

ユイ「必ず起こします。たとえ、電気ショックのような荒療治を使っても」

冬月「あまりに酷すぎやしないか」

ユイ「良心の呵責ですか? まだそのようなくだらない感情が」

冬月「ヒトはロボットではない。生物学で博士号を修得したキミなら重々承知しているだろう。本能、欲求、様々なものが感情となって」

ユイ「それすらも、我々は縛られています。人の限界です」

冬月「き、キミは……」

ユイ「科学と知恵を使い進んでいくだけよ……!」

【マヤ宅 部屋】

シンジ「うっ、はぁ……はぁっ」

マヤ「……」チャポン ギュー

シンジ「うぅっ!」

マヤ「すごい熱。どうしよう、本部に連絡するべきかしら」スッ

シンジ「はぁ……ま、やさん」

マヤ「え? な、なに?」

シンジ「すみません、こんな」

マヤ「……」

シンジ「僕は」

マヤ「今はしっかりと休んで。喋ると体力を使うわ」

シンジ「はい……」

マヤ「(元の瞳の色に戻ってる。なにが、シンジくんをここまで突き動かしてるの)」

シンジ「……」

マヤ「(頑張ってるのはわかる。身の丈を超えてよくやってる。私だと、たぶん……無理。こんな子じゃないと思ってた。でも、本当にそうかしら)」

シンジ「うぅ」

マヤ「(これまでだって、普通の中学生が使徒と戦える? そんな選択をできる? シンジくんを、私は、いえ、私たちは過小評価していたのかもしれない。消極的な少年だって)」スッ

シンジ「……?」

マヤ「(人は、変われるんだわ)」ギュ

シンジ「ふぅ……手を握られてると安心します」

マヤ「――へ? あ、私」

シンジ「自分で自分の手を握ってもなにも感じないのに。誰かに握ってもらうとあたたかい気持ちになれる」

マヤ「そうね」

シンジ「少し、そのまま握っててくれませんか」

マヤ「……」

シンジ「ありがとう、ございます」

マヤ「(このままじゃいけない。私も変わらなくちゃ。だって、ネルフに残ると決めたのは私なんだから。なにか、シンジくんの力に――)」

【翌朝 マヤ宅 部屋】

シンジ「ん……あれ? ここは。そうか、僕は眠って」ムク

マヤ「おはよう、シンジくん」ニコ

シンジ「おはよう、ございます」

マヤ「熱がさがってよかった。もう大丈夫だと思うけど、計ってみて」スッ

シンジ「あ、はい」

マヤ「食欲は? ある?」

シンジ「はぁ、まぁ」

マヤ「お粥がいいかな」

シンジ「あの! ここマヤさんの部屋ですよね。僕がベッドを使ってたら」

マヤ「いいのよ。気にしないで」

シンジ「は、はぁ……えっと、どこで寝たんですか?」

マヤ「それは私の心配? それとも、機嫌が気になって聞いてる?」

シンジ「マヤさんの、心配ですけど」

マヤ「やっぱり、顔色を伺ってるってわけじゃないのね。私たち、まだお互いのことなんにも知らないみたい」

シンジ「え?」

マヤ「私はネルフの職員。シンジくんはエヴァのパイロット。それだけの関係だったのよ。誰のせいとか、どちらが悪いかとかじゃない」

シンジ「……?」

マヤ「うまく、やろうと思う。お互いに歩み寄れるか試してみないとわからないもの。その為に、前向きな気持ちは大事だわ。そう思わない?」

シンジ「まぁ」ポリポリ

マヤ「まずは、こういった価値観の違いから埋めていきましょ。私はこう思ってる、シンジくんはこう思ってる。違いをおそれずに、できる?」

シンジ「大丈夫、ですけど」

マヤ「よし! 火にかけてくるから待ってて!」タタタ

シンジ「な、なんなんだ、一体」ポカーン



【ネルフ本部 発令所】

シゲル「いぇ~い! じゃかじゃかじゃん!」

マコト「おい、うるさいぞ。静かにしろ」

シゲル「ちっ、エアギターぐらい気分よくセッションさせろよ」

マコト「精神年齢が低すぎるんだよ、お前は。いつまでも学生気分が抜けてないんじゃないか?」

シゲル「その言い草は心外だねぇ。やるべきことはきちんとやってるぜ?」

マコト「エアギターのなにがいいんだか」

シゲル「そりゃあ俺だって、本物がいいに決まってるさ。かと言って職場で演奏するわけにはいかないだろ?」

マコト「口でやってちゃ同じことだろう!」

シゲル「はぁ、ああ言えばこう言うってか。いちいち嫌味だなぁ、理屈っぽいやつって」

マコト「俺たちは仕事をしにきてる。遊びにきてるわけじゃない」

シゲル「息抜きって知ってるか? 能率を上がる為に必要なルーチンワーク」

マコト「はぁ……。マヤちゃんを見習えよ、まったく」

マヤ「……」カタカタ

シゲル「ふん、精がでるこって」

マコト「マヤちゃん、浅間山で行われる予定の陽電子砲(ポジトロンスナイパーライフル)の日程は聞いた?」

マヤ「だめ、これは違う」カタカタ

マコト「うん?」

シゲル「……?」

マコト「(なにしてるんだ……?)」ソォー

マヤ「……」カタカタ

マコト「ヒトゲノム計画? DNA配列の解析……? 過去のデータを取り出してなにやってるんだ?」

マヤ「日向くん⁉︎ ちょっと、なに勝手に見てるのよ!」

マコト「いや、さっき呼びかけたんだけど返事がないから」

マヤ「あっ、そうだったの?」

マコト「それで、なに調べてたの?」

マヤ「これ? ……エヴァってA10神経で接続してるでしょ? だから、少し、仮説を立ててみたんだけど」

マコト「どんな?」

マヤ「エヴァに乗れる理由について。……詳しくはまだ言えない。立証できるかわからないから」

シゲル「取り憑かれたような目つきしてたぜ?」

マヤ「もう、茶化さないでよ」

マコト「仕事してたわけじゃないのか」

シゲル「ざぁ~んねん。真面目な堅物は一人だけだったな」

マコト「しかし、どうして突然?」

マヤ「うん、私達ってサポートに回るしかないじゃない? テクノロジーという英知を使って」

シゲル「なにを今更。食い扶持だろ」

マヤ「当たり前って、実感してはじめてわかることがある気がするのよ」

マコト「哲学……?」

シゲル「怪しい宗教にでもハマっちまったかぁ?」

マヤ「だから茶化さないでってばぁ」

シゲル「ま、どっちみち俺には関係ねぇ話だ」

マコト「赤木博士から頼まれたとか?」

マヤ「先輩は――」

リツコ「私の陰口?」

マコト&シゲル「おはようございます」

マヤ「……」

リツコ「おはよう。まだ就業時刻前だから。堅苦しい挨拶は抜きにしてラクにしていいわよ」

シゲル「ひゅ~! さっすが、話がわかる~。葛城一尉といい、部下の扱い方をわかってる上司がいて幸せっすよ」

マコト「はぁ」

シゲル「つーわけで、聞いてくださいよ。日向のやつ、朝っぱらから仕事仕事ってうるさくて」

リツコ「それが彼の性分なんじゃない?」

シゲル「フォローすることねぇスよ」

リツコ「よく飽きないものだと呆れただけよ。マヤ?」

マヤ「は、はい」ビクッ

リツコ「ラボに来なさい。用事があるから」

マヤ「あ、あの。調べ物が終わってからじゃだめですか?」

リツコ「……?」

シゲル「なんでも、パイロットについて論文を書くつもりらしいすよ」

マヤ「青葉くんっ!」

シゲル「あんだよ? サポートに徹するマヤちゃんが立証するって言ってたし間違っちゃいないだろ」

マヤ「どうしてそう軽いの⁉︎ 立証するじゃなく、できるかわからないって……! 裏付けがほしいだけよ!」

リツコ「……」

マコト「だから、精神年齢がガキなんだよ。こいつは」

リツコ「調べ物はいつでもできるでしょう?」

マヤ「……はい」

【第壱中学校 昼休み】

シンジ「これ、なに?」

マナ「お弁当! お昼、惣菜パン食べてたでしょう? だから、作ってみたんだけど」

トウジ「なんや? って、おわぁっ! なんで学校にお重箱が⁉︎」

マナ「えへへ、ちょっと張り切りすぎちゃって」

トウジ「ひゃ~! 朝になんや四角いもん運んどると思ったら弁当やったんかいな! 」

マナ「やっぱり、ちょっと、大きいよね」

トウジ「ちょっとどころやあらへんやろ。何人分入っとるんや……ひい、ふぅ、みー、と。三段重ねか」

マナ「あ、あはは……。いきなり、引いた、かな」

シンジ「あっ、いや。嬉しいよ。ありがとう」

トウジ「おい、シンジ! ワシも手伝ったろか⁉︎」スリスリ

シンジ「トウジは食べたいだけじゃないの」

トウジ「なんや! ワシを卑しいもん扱いするっちゅーんかいな!」

シンジ「うーん」チラ

マナ「……」ニコ コクリ

シンジ「……わかった。一緒に食べよう」

マナ「それじゃ、机ひっつけようか? それとも、屋上で――」

アスカ「はい、そこまで!」バンッ

マナ「え?」

アスカ「シンジ。あんた、今日は私と昼食とる約束でしょ?」

トウジ「……? そうやったんか?」

アスカ「そうよ。ほら、惣菜パン買うんじゃないの? 付き合ってあげるからさっさと立ちなさいよ」

トウジ「買わんでもここに……」

アスカ「それ、どういう目的で作ってきたのかわからないもの」

マナ「(あっ、そっか。アスカは私を警戒してるんだった。いけない、忘れてた……でもっ、そんなつもりじゃ)」

トウジ「なに言うとるんやお前。いちいちそんなもん……いや、待てよ。そーか! さてはやきもち……もが!」ガターン

アスカ「どお~ぉ? ハイキックで味わう上履きのお味は? 堪能した?」

トウジ「いつつ……。暴力ゴリラめ、そんな一瞬で味がわかって」ムク

アスカ「じゃあおかわり⁉︎」ダンッ

トウジ「――もう、お腹いっぱいですぅ」

アスカ「行くわよ、バカシンジ」

シンジ「アスカも、一緒に食べようよ」

アスカ「まだ理解してなかったのぉ」ジトー

マナ「し、シンジくん」

シンジ「せっかく作ってきてくれたのに。無下にしちゃ失礼だよ」

アスカ「ソレ。どういう目的で作ってきてるかあたしにはわかる。昨日話したわよね」スッ コソ

シンジ「構わないよ。それでも。ネルフの情報を漏らさなければいいんだろ」コソ

アスカ「……? あんた、わかってるのに食べるの?」

マナ「あ、あのっ! 私っ!」ガタッ

シンジ「いいんだ、マナ」スッ

アスカ「なに……? その雰囲気。あたしが意地悪ばあさんみたいじゃない?」

シンジ「そんな、アスカの思い違いだよ。僕たちは悪く思ったりなんかしてない」

アスカ「あんたがどう思っていようと! 余計な横槍を入れてるように見えんじゃないのってこと!」

ヒカリ「どうしたの? なんの騒ぎ?」

マナ「ヒカリ……」

ヒカリ「なにそれ……お重箱、よね? 誰が――」

トウジ「そら言わずもがな! 決まっとるやないか! なっ! シンジ!」ポンッ

シンジ「トウジ、そういうのいいから」

ヒカリ「えぇ? 碇くんにマナが?」チラ

アスカ「……」

ヒカリ「(アスカが仁王立ちしてるのはそういう……。こんな大きな箱、どこに置いてたのかしら)」

マナ「あの、いいよ。シンジくん、アスカと食べてきて」

アスカ「バッカみたい。なんであたしが邪魔者みたいな扱いなのよ」

マナ「そうじゃないの。先約だったんだよね? それなら当たり前だし」

シンジ「アスカ」

アスカ「なによ」キッ

ヒカリ「……」ゴクリ

トウジ「しっかし、腹減ったのぉ」

ヒカリ「鈴原っ! 呑気なこと言ってんじゃないわよ!」

シンジ「そんな約束、ないだろ」

アスカ「……っ!」

シンジ「僕たちは友達なんだから。一緒に勉強してる。それだけだよ」

アスカ「へぇ~ぇ。このあたしに歯向かう気? 心配してやってんのよ⁉︎」

シンジ「(どちらか、か。大なり小なり選択肢は日常にありふれてる……これは母さんの言う通り。どちらもと思う僕は、傲慢なんだろうか)」

アスカ「なんとか言ったらどうなの⁉︎」

シンジ「できれば仲良くしたいんだ。マナに対してもアスカに対しても、それだけ」

アスカ「……」

トウジ「まぁまぁ、シンジが優柔不断なのは今にはじまった話やあらへん」

ヒカリ「黙って!」ガバッ

トウジ「ふごっ⁉︎」

アスカ「どうなったって知らないわよ」

シンジ「アスカの期待にこたえる言葉を選べなくて――」

アスカ「それ以上言わなくていい」クルッ スタスタ

ヒカリ「あ、アスカ」

アスカ「……」ガララッ ビシャンッ!

男子生徒B「うぅ、すっげー音。教室の引き戸壊れたんじゃないか?」

女子生徒A「修羅場ね。碇くん、どっちを選ぶのかしら」

男子生徒A「ちっくしょおおおっ! なんであいつばっかり!」

シンジ「……食べようか」

ヒカリ「追いかけなくていいのっ⁉︎」

マナ「ご、ごめんなさい」ギュウ

シンジ「いいんだ。誤解は後で――」

ヒカリ「それじゃアスカがあんまりよ!」

シンジ「……」

トウジ「もがっ、ふぅ……おい、イインチョ」

ヒカリ「さっきから空気の読めない発言ばかりしてる鈴原は黙ってて!」キッ

トウジ「たしかにワシはそうかもしれん。せやけど、お前、霧島の気持ち考えとるんか?」

ヒカリ「え? ……あっ」

トウジ「お前がアスカを大事に思うのはわかる。霧島はまだ転校してきて数日間もないからな」

マナ「鈴原くん! いいの!」

トウジ「お前は、友達をそんな扱いするんか」

ヒカリ「違う、そんな……。ただ、今は追いかけるべきだって。だって傷ついてるから」

トウジ「お前が心配しとるんは、霧島やない。惣流や」

シンジ「トウジ、やめなよ」

トウジ「シンジもシンジや。どっちつかずの言い方は、どちらも傷つける場合だってある」

シンジ「……」

マナ「違うの! シンジくんは悪くない! 私がっ」

トウジ「見てみい、シンジ。霧島はお前のせいで尻拭いをしようとしとる」

シンジ「……」

トウジ「おい! シンジ!」グィッ

シンジ「うっ」

トウジ「霧島になんも声かけたらんのか⁉︎ 優しさっちゅーのはなぁ! どっちつかずのもんとちゃうんや! 腹くくらんかいっ!」

マナ「鈴原くん! シンジくんを離して!」ガシ

ケンスケ「さーて、今日のパンはぁ~っと……」ガララッ

ヒカリ「わ、私……。先生を」

ケンスケ「な、なんだぁ?」ポロ ポトポト

シンジ「トウジ!」グィッ

トウジ「おっ」

シンジ「たしかに、トウジの言い分はよくわかる。どうして怒ってるのかも」

トウジ「お前のためやと思っとんのか? 自惚れんなや」

シンジ「違うんだ。信じてほしい」

トウジ「はぁ?」

シンジ「関係にだって波がある。うまく行くとき、行かない時。全てが予測できていたらそんなことなくなるけど」

トウジ「一時的なもんやと?」

シンジ「そうならないかもしれない。僕は僕にできることを精一杯やろうって決めたんだ。今、この状況だけで判断しないでもらえないかな」

トウジ「……」

ケンスケ「どうしたんだよ、これ」

ヒカリ「相田くん……アスカと、その後に鈴原が」

ケンスケ「……惣流? いないじゃないか?」

ヒカリ「もう! 説明がややこしいの!」

シンジ「ごめんよ。きっと、煮え切らないんだよね。僕も同じだから」

トウジ「ちっ」スッ

マナ「シンジくん……」

トウジ「しゃーないわ。黙って待つんも友のあり方やろからなぁ」

シンジ「色々、迷惑をかけてるのは僕だから。マナも、ごめんね?」

マナ「私が……浅はかだったのに。嬉しくて、浮わついちゃって」

シンジ「いいんだ。自分を責めないで」

マナ「……」

ヒカリ「(ちょ、ちょっと。これって……ひょっとして……碇くん、マナのこと……)」

シンジ「昼ごはんは美味しくないと。どうせ食べるならさ。そうだろ? トウジ」

トウジ「それについては同意やな!」

シンジ「うん、僕は少しアスカと話てくるよ。今はどうにもならないだろうけど、追いかけることに意味がある。洞木さん」

ヒカリ「え……? え? なに?」

シンジ「マナのことよろしく。トウジの言う通り、どちらも嫌な思いをしてるだろうから」

ヒカリ「あっ……うん」

ケンスケ「さっぱり意味が。話においてきぼりなのは、また僕なのか……」

【第壱中学校 屋上】

シンジ「アスカ、やっぱりここにいたんだね」キィー バタン

アスカ「……」

シンジ「(やっぱり取りつく暇がない。関係悪化させないようにしないと)」

アスカ「はぁ……田舎よね、ここ」

シンジ「え?」

アスカ「セカンドインパクトが終わってから、陸地が津波と水位上昇で海の下に沈んで、難民で溢れて。土地の低い主要都市は壊滅状態」

シンジ「……」

アスカ「この国は、マシな方みたいだけど。それにしたって、武装都市? だっけ? 一部だけ。開発途中で遠景は森に山」

シンジ「ドイツは、そんなことなかったの?」

アスカ「あんまり変わんない。なんていうか、建物に味わいがあったような気がする……。皮肉ね、住んでる頃はなんとも思わなかったのに」

シンジ「……」

アスカ「それで? なにしにきたの?」クルッ

シンジ「あ、いや」

アスカ「まさか、あたしが傷ついてるなんて思ってないでしょうねぇ?」

シンジ「そうじゃ、ないの?」

アスカ「Natürlich(もちろん)! それこそバカな話! なんであんたが原因であたしが傷つかなきゃいけないのよ。一人でえーんえーんって泣いてるとでも思ったの?」

シンジ「……」

アスカ「戻ってあげたら? 私はもう少し風にあたりたい」

シンジ「本当に、そうかな?」

アスカ「……?」

シンジ「僕は、アスカがさみしいって言ってるように見える」

アスカ「はぁ?」

シンジ「なんとなく、だけど」

アスカ「下々に心配されちゃエリートもおしまいね」

シンジ「違うんだ、僕はアスカのことが」

アスカ「黙って」

シンジ「……」

アスカ「あんたにドイツのことを少し、ほんの少しだけど話たのは、たまたまそういう気分だっただけ。故郷に帰りたいわけでもない。アメリカにだっていたし、一人は慣れっこなの」

シンジ「どうして、そう自分に言い聞かせるように言うのさ」

アスカ「私はっ! あんたに説明してやってんの!」

シンジ「ねぇ、アスカ。人間関係って難しいよね」

アスカ「……」

シンジ「僕の言いたいこと、アスカの言いたいこと。お互いになんでわからないんだろう、どうして伝わらないんだろう。そう思う時がある」

アスカ「当たり前ね。そういう状況を総称して“合わない”って言うのよ。つまり、あんたと私」

シンジ「でも、それだけじゃないと思うんだ。本当はわかってるけど、認めたくないとか、ない?」

アスカ「……」

シンジ「プライドとか意地とか。誰にだってあるものじゃないか」

アスカ「汲み取った対応できないようじゃガキよ」

シンジ「そうだね、僕は子供だ。でも、認められないアスカだって僕と同じ。エリートとか能力があるとか、まったく関係ない話なんじゃないの」

アスカ「なにが言いたいのよ」

シンジ「今はアスカの望んでる、理想像に程遠いかもしれない。でも、僕は……」

アスカ「……」

シンジ「どっちかを選ぶんじゃない、別の道を模索したいんだ。うまくいけるようになったらいいなと思う」

アスカ「マナは戦自に属してるのよ? いくら頑張ってもどうにもならないってこと、あるわ」

シンジ「……」

アスカ「まさか、マナをちょっといいかなとか思ってんの?」

シンジ「――へ?」

アスカ「そういうことね……昨日はあたしにあんなこと言ったくせに。ほんと、男ってのは……まぁ、言い方きつすぎたか」

シンジ「……?」

アスカ「べ、別に。あ、そうだ。あんた、今日の帰り時間あるでしょ? シンクロテストないはずよね」

シンジ「うん……どうして?」

アスカ「あたしんとこのマンションに寄って。用事があるから」

シンジ「は、はぁ……」

【一方その頃 同中学校 教室】

トウジ「こらうまい! こらうまい!」ガツガツ

ヒカリ「きゃ……あー! 米粒が制服に! 口に頬張ったまま喋らないでよね!」

トウジ「むぐっ⁉︎」

マナ「あ、お茶ならあるよ」

トウジ「むごっ⁉︎ んくんくっ! ぷはぁ~! 死ぬとこやったで!」

ケンスケ「よく噛まないからそうなるんだよ」

トウジ「それもそやな。あっというまになくなってしまうし」

ケンスケ「シンジの分残しておかなくていいのか?」

トウジ「センセはちょっとお灸を据えた方がええ」

ヒカリ「そうかな。碇くん、わかってたんだと思うけど」

トウジ「かぁーっ! 委員長がそんなこと言い出しよる! さっきは惣流を追いかけずに憤慨しとったやないか」

ヒカリ「そうだけど……。あの時は動転してて。落ち着いてみると、碇くんにだって考えがあったのかなって」

トウジ「女はずるっこいのぉ。言うことをコロコロ変えよって」

マナ「シンジくんはそんな人じゃないって、私はずっと言ってたよ」

ヒカリ「マナ、さっきは、ごめんね?」

マナ「うぅん、いいの」

ケンスケ「お、この唐翌揚げうまい」

トウジ「おっ! どれどれぇ~?」

ヒカリ「ちょっと、二人とも。碇くんの分が本当に――」

トウジ「かまへんかまへん」

マナ「ねぇ」

トウジ「あん?」

マナ「それ、誰が作ったかわかってる?」

トウジ「そらぁもう! 霧島さま!」

マナ「そうなんだぁ? わかってて食べてるんだぁ?」

ケンスケ「……」ピタ

マナ「えいっ」ギュム

トウジ「なんや? 手の甲になんか……あいだだだだっ⁉︎」

マナ「つねられると痛い?」ギリリリッ

トウジ「チカラこめすぎ、ちょ、ねじるな! ち、ちぎれる!」

マナ「残しとこうね? お箸、もういらないでしょ?」ニコ

トウジ「は、はいぃぃ」ポロっ

ケンスケ「(霧島マナ。こいつは、おそろしいやつ!)」

取りつく島もない、ですね
あと二次創作のキャラなんだから皆落ち着こうぜ

>>402
ご指摘どうもです。暇で覚えてました
そしていつも唐翌揚げが唐翌翌翌揚げになる俺の謎変換&見落としはなんなんだ

あれ?ちょっとテスト
唐翌揚げ

え?からあげをそのまんま変換すると勝手に唐翌揚げになる?

メール欄のsagaテスト

唐揚げ

ググって原因判明したので続けます
唐翌揚げに関してはこの板のコマンド仕様だったんすね

【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「なに考えてるのよ」

マヤ「え? あの……」

リツコ「無用な駆け引きなんてやりたくないし、面倒ごとは御免被りたい。なぜ調べていたのか、簡潔に説明なさい」

マヤ「それは」

リツコ「待って。やはり文句を言わない気がすみそうにない。保証人には私がなってるのよ? 言わなきゃわからないほど不用心?」

マヤ「すみません、でも」

リツコ「反抗する動機は愚痴る相手がいないから? それともストレスが溜まってる自覚があるの?」

マヤ「そんな、違います! 私は、なにか自分で力になれるんじゃないかって」

リツコ「言い訳なんて聞きたくないわ。他人の中で自立した女性になりたいのなら、ぐっと我慢して胸の奥にしまっておきなさい!」バンッ

マヤ「……」ギュウ

リツコ「ふぅ……マヤ。冷静になって。あなたがこれからすべきことは、知らぬ存ぜぬで過ごすこと。パイロットがエヴァになぜ乗れるのか、その真相解明をすることなの?」

マヤ「どうして、縛られなくちゃいけないんですか」

リツコ「……」

マヤ「私、なんにも悪いことしてないのにっ!」

リツコ「答えは簡単よ。これが“現実”だから」

マヤ「……っ!」

リツコ「理不尽だと思う? 巻き込まれた、自分のしたいようにできるはずのことができないって歯痒いわよね。……しかし、選べるモノの中から取捨選択をするしかないわ! 子供じゃないんだからわかるでしょう⁉︎」

マヤ「で、でも。私は」

リツコ「できない状況、どうしてもやるというのなら止めはしないけど。それ相応の覚悟を持ってやるのね。二度、助けはしない」

マヤ「……」

リツコ「前言撤回します。問いただしたのは忘れて。どういう理由があったのか喋らなくていい」

マヤ「……」

リツコ「成人している大人ですものね。自分自身の行動に責任を持ってやりなさい」

マヤ「先輩は……! 先輩はどうして協力なんかしてるんですかっ⁉︎」

リツコ「……」

マヤ「こんなの、おかしいです! 司令が企んでるのってネルフの、組織の私物化に該当しませんか⁉︎ 数式で証明できないことばっかり! 私たち、技術者なんですよ⁉︎」

リツコ「……」

マヤ「理不尽なんてもの通り越してます! 異議を申し立てるなですって⁉︎ 己を押し殺して⁉︎ 奴隷がほしいんですか⁉︎」

リツコ「いい加減になさいっ!」ブンッ パァン

マヤ「きゃっ!」

リツコ「あっ」

マヤ「……!」キッ

リツコ「少し、休みを――」

マヤ「必要ありません! 私は、そんなの! ……先輩には、失望しました」

リツコ「……」

マヤ「そんな人じゃないと思ってたのに」

リツコ「ふ、ふふっ。あなたが勝手に勘違いしてただけじゃなくって?」

マヤ「そうかもしれません。ですけど、期待していたのも事実です。その幻想は崩れてきています」

リツコ「だからなに? 幻想と現実が乖離したから失望したって言うの?」

マヤ「現実を受け入れます。尊敬するに値しないって」

リツコ「底が浅い。それだけじゃない、あなたが学ぶべき点は他にもなにかあったでしょう。私こそ、あなたの将来性を買いかぶっていたよう」

マヤ「業務に関しては話が別です」

リツコ「それならば問題ないわ」

【ネルフ本部 発令所】

シゲル「透析データは終了っと」

マヤ「……」

シゲル「あれれぇ~? どったの? なんか暗いんじゃん」

マヤ「ほっといてよ」

シゲル「もしかして、アノ日か?」

マヤ「……っ!」キッ

シゲル「おやま、ビンゴ?」

マヤ「デリカシーのかけらもない人ね。シンジくんに爪の垢でも煎じて飲ませてもらったら」

シゲル「はぁ、なんでシンジくんが? ……そういやぁ、今は共同生活してるんだっけ?」

マヤ「関係ないことでしょう? プライベートの詮索はやめてもらえる?」

シゲル「まぁそう硬くなんなって。どうなんだ? 彼との生活は。頻繁に顔を合わせてるんだろ」

マヤ「普通よ」

シゲル「へぇ、こりゃ驚いた。俺なら気が気じゃないけどね。マヤちゃんこんなだしさ」

マヤ「どういう意味? バカにしてるの?」

シゲル「いや、別に。見たまんまの感想。でも、中学生だろ? マヤちゃんの下着とか――」

マヤ「いい加減にしなさいよっ!!」バンッ

シゲル「な、なんだよ」

マヤ「私たちになにができるか考えたら⁉︎ 負担を減らす方法とか! あの子達が戦うことしかできないように、私たちには活かせる技術、技能があるでしょう⁉︎」

シゲル「俺だってずっと遊んでるわけじゃねえさ」

マヤ「だったら……!」

シゲル「なんかおかしいな。内面に変化するようなことあったのか?」

マヤ「え?」

シゲル「だってそうだろ? これまでだって俺たちがやってる業務内容に違いはないぜ? 突然そういうこと言いだすのって変じゃないか?」

マヤ「そ、それは……その、人は誰でも問題を抱えてると思うし」

シゲル「はぁん? なんだよこいつ」

マコト「おい、もうそのくらいで――」ブーッ ブーッ

マヤ「エマージェンシーコール?」

マコト「……⁉︎」ガタッ

シゲル「こりゃあ……!」

マコト「各オペレーターに通達! 葛城一尉に連絡を! 大至急だ!」

ミサト「――状況は⁉︎」

マヤ「パターンオレンジ。不規則に点滅を繰り返しています」

ミサト「正体不明? ……使徒じゃないの? 日向くん、どうなってる?」

マコト「微弱ながらも電波を発しています」

ミサト「特定、できる?」

マコト「無理ですね、信号が弱すぎて」

ミサト「使徒じゃ、ない?」

シゲル「断定はできません。MAGIによる可否は賛成が2、反対が1」

マヤ「……! キャッチしました! 受信データを照合! パターン、オレンジから青! 使徒と確認!」

ミサト「あっさり確定したわね。ようやくおでましか」

シゲル「イチイチサンゴウへ入電! 管制塔応答せよ、速やかに警戒態勢へ移行されたし!」

マヤ「ま、待ってください! 信号ロスト! 全てのセンサーから反応がなくなりました!」

ミサト「なにが起こってるの?」

リツコ「……使徒?」コツコツ

ミサト「そのようね。戦自からの連絡は?」

シゲル「巡航中のイージス艦から報告。目標は、完全に消失」

ミサト「どうなってんのよ。赤木博士、見解は?」

リツコ「これだけじゃなんとも言えないわね。使徒が戦術的判断をしている可能性はなくはないけど」

ミサト「使徒にそんな能力が?」

リツコ「使徒も生き延びたいから。私達人類と同じように学習して知恵を身につけていてもおかしくないわ。問題は、この仮説を証明する方法が使徒の出方次第ってこと」

ミサト「見えない、敵、か……」

マコト「どうします? パイロットを待機させますか?」

ミサト「うぅーん。どう思う?」

リツコ「判断を求められるたびに縋らないでくれる? 作戦の指揮権はミサトでしょう」

ミサト「それもそーね。……各員に通達! 警戒態勢を第二種に移行! パイロットは呼ばなくていいわ。そのかわり、いつ使徒が来ても対処できるよう、準備しておいて」

マコト「了解。これよりネルフ本部は第二種警戒態勢に移行! 繰り返す――」

ミサト「もうすぐ、三号機の搬入予定日ね」

リツコ「零号機は凍結命令がでているけど、ことと次第によっては、解除されると思うわよ」

ミサト「間に合わない場合ってことね」

リツコ「そのパイロットもね」

ミサト「……了解。司令に連絡を。今頃は遠方の県議会に出席しているはずだから」

リツコ「ええ、わかったわ」

【第壱中学校 放課後】

アスカ「警戒態勢? 使徒がきたの?」

ミサト「みたいなんだけど。動きがないのよねぇ」

アスカ「なにその煮え切らない感じ」

ミサト「だぁって、そうなんだもの~。ま、どーんとかまえてりゃいいのよ」

アスカ「私はどうすればいいの?」

ミサト「普通に帰ってもらってかまわないわよぉ~ん」

アスカ「わかった。ミサトは? 今夜は遅くなるの?」

ミサト「電話を切ってもう少ししたら帰ろうかなと」

アスカ「防犯意識、低すぎない?」

ミサト「来たるべき時に疲れて動けなかったら本末転倒でしょーが。本部は第二種警戒態勢に移行してるから心配しなさんなって」

アスカ「はぁ、なにそれ?」

ミサト「第一種の前の段階ってことね。外出禁止、帰宅禁止、外部への連絡禁止とか。様々な制限をかけられるけど、第二種は同一種のさらに事前段階」

アスカ「はぁーん。どうでもいい情報」

ミサト「あんたが聞いたわよね! 今!」

アスカ「今日は、シンジに夕ご飯作ってもらうから」

ミサト「おっ、シンちゃんが了承してくれたんだ? やるわねー、アスカ」

アスカ「だから言ったでしょ? 二つ返事でオッケーだって」

ミサト「さよーですか。シンジくんとレイにも伝えといてくれる?」

アスカ「了解。それじゃ、切るわよ」ピッ

トウジ「それにしても、霧島の弁当はホンマうまかったなぁ!」

シンジ「そうだね、僕も驚いた」

マナ「おだてても、なにもでないよ?」

シンジ「本心だよ」

マナ「えへへ! もう、口がうまいんだから」

マナ「あの、碇くん。一緒に――」

アスカ「シンジー!」

シンジ「ん? どしたのアスカ」

アスカ「あいつは?」

シンジ「……?」

アスカ「察しが悪いわねぇ、あたしがあいつって言ったらあんたかもう一人しかこの教室にいないでしょ」

シンジ「綾波?」

アスカ「そ。伝えなきゃいけないことがあるから」

シンジ「えぇと、さっき帰ったと思うけど。なにかあったの?」

アスカ「使徒」

シンジ「え?」

アスカ「だぁーかぁーらぁっ! 使徒が来たのよ! バカシンジ!」

ちと間違ったんでレスしなおし

【第壱中学校 放課後】

アスカ「警戒態勢? 使徒がきたの?」

ミサト「みたいなんだけど。動きがないのよねぇ」

アスカ「なにその煮え切らない感じ」

ミサト「だぁって、そうなんだもの~。ま、どーんとかまえてりゃいいのよ」

アスカ「私はどうすればいいの?」

ミサト「普通に帰ってもらってかまわないわよぉ~ん」

アスカ「わかった。ミサトは? 今夜は遅くなるの?」

ミサト「電話を切ってもう少ししたら帰ろうかなと」

アスカ「国防意識、低すぎない? ちゅーか、人類の未来がかかってんでしょ?」

ミサト「来たるべき時に疲れて動けなかったら本末転倒でしょーが。本部は第二種警戒態勢に移行してるから心配しなさんなって」

アスカ「はぁ、なにそれ?」

ミサト「第一種だと外出禁止、帰宅禁止、外部への連絡禁止とか。様々な制限をかけられ、待機命令を含むけど、第二種はさらにその前の事前段階」

アスカ「はぁーん。どうでもいい情報」

ミサト「あんたが聞いたわよね! 今!」

アスカ「今日は、シンジに夕ご飯作ってもらうから」

ミサト「おっ、シンちゃんが了承してくれたんだ? やるわねー、アスカ」

アスカ「だから言ったでしょ? 二つ返事でオッケーだって」

ミサト「さよーですか。シンジくんとレイにも伝えといてくれる?」

アスカ「了解。それじゃ、切るわよ」ピッ

トウジ「それにしても、霧島の弁当はホンマうまかったなぁ!」

シンジ「そうだね、僕も驚いた」

マナ「おだてても、なにもでないよ?」

シンジ「本心だよ」

マナ「えへへ! もう、口がうまいんだから。あの、碇くん。一緒に――」

アスカ「シンジー!」

シンジ「ん? どしたのアスカ」

アスカ「あいつは?」

シンジ「……?」

アスカ「察しが悪いわねぇ、あたしがあいつって言ったらあんたかもう一人しかこの教室にいないでしょ」

シンジ「綾波?」

アスカ「そ。伝えなきゃいけないことがあるから」

シンジ「えぇと、さっき帰ったと思うけど。なにかあったの?」

アスカ「使徒」

シンジ「え?」

アスカ「だぁーかぁーらぁっ! 使徒が来たのよ! バカシンジ!」

【下駄箱】

シンジ「綾波っ! はぁっ、はぁ。よかった。間に合って。あの、使徒がきたんだって」

レイ「了解、非常召集?」

シンジ「いや、家に帰っていいみたいだよ。僕たちができるのは心構えぐらい。聞きたいんだけど、僕は今後、使徒が来たりしたらわかるようになる?」

レイ「時と場合による」

シンジ「……?」

レイ「アダムの持つ力は万能ではない、ただの個性。使う用途によって応用のきく場面があるか、それはケース次第。ただ――」

シンジ「ただ?」

レイ「会えばすぐわかるようになる。ヒトが人間とその他の生物を区別できるように。使徒が人型をしていて、自らをヒトだと詐称していても騙されない」

シンジ「目視しないといけないってこと?」

レイ「あとは、波長が似ているか」

シンジ「よく、わからないな」

レイ「碇くん、手」スッ

シンジ「……? 差し出せばいいの?」スッ

レイ「なにか感じる?」ギュッ

シンジ「え? いや、あの、暖かいな、としか」

レイ「もっと。胸の奥でなにか鼓動を感じるはず。……ここ」スッ

シンジ「ちょ、ちょっ⁉︎ あ、あやなみっ! 僕の手が!」

レイ「心臓の鼓動をイメージして。魂の揺らぎ」

シンジ「で、できないよ! だって僕の手が綾波の胸に!」

レイ「自分の胸でもいい」

シンジ「そ、それならそう言ってくれれば……」

女子生徒A「なにあれ。今の見た? 碇くん、今度は綾波さん?」ひそひそ

女子生徒B「ひぃやぁ~。三角関係? おもしろー!」ひそひそ

女子生徒A「あんた、相当なゲスね」ひそひそ

シンジ「あっ……!」キョロキョロ

レイ「……」ジー

シンジ「ご、ごめん! 僕っ!」バッ

レイ「……?」

アスカ「――あんた達、こんなところで見つめ合ってなにやってんの?」

シンジ「あ、アスカっ⁉︎」ギョッ

マナ「どうしたの? どういう状況?」ニコ

ケンスケ「おいおい、碇。死にたいのかぁ?」

トウジ「昼休みのさっきの今で次は綾波かいな」

ヒカリ「碇くん、それはちょっとどうかと思う」

シンジ「ち、ちちちちっ、違うよっ! 僕はただ!」

ケンスケ「慌てるのがますます怪しい。放課後、下駄箱とくりゃー、ラブレ――あいっ⁉︎」

マナ「あ、ごめん。なんかイラっときてついつねっちゃった」

ケンスケ「ついでつねるのかよ!」

マナ「写真のこと、言いふらそうか?」コソ

ケンスケ「ひっ! ……いやぁ! やっぱり僕の気のせいだったミタイダー!」

シンジ「違うって。ネルフからの言伝を」

アスカ「はぁ、もういいから。さっさと帰るわよ」

【下校中】

マナ「あの~」

アスカ「だめ、存在を無視できない。どうして並んで歩いてんのよ!」

マナ「だって、私の家も同じマンションじゃない」

アスカ「それは知ってるけど! ちっ、昨日はわざと時間ずらして帰ったのに」ブツブツ

シンジ「(さっきの、聞こえてきた、三角関係って誰のこと言ってるんだろう。えぇと、アスカと、マナのことかな。綾波もいれたら三角にならないし。僕がモテてると勘違いしてるのかなぁ。まさかねぇ)」

マナ「シンジくん、さっきから指折り曲げてなに考えてるの?」

シンジ「え? えぇと、いや、なんでも」

アスカ「算数もまともにできないの? 暗算できないアホの子みたいだからやめてよね」

シンジ「いや、そうじゃなくて。あは、あはは」

マナ「さっきのシンジくんかわいかったな。あんなに慌てるんだね」

アスカ「こいつはいつもこんなもんよ。ビクビクしてるし」

マナ「そう? 私はそう思わないけど」

アスカ「会って数日でしょ? そんな期間でなにがわかるっつーのよ」

マナ「そっか。アスカったらなんにも知らないんだ」

アスカ「はぁ?」

マナ「シンジくんのかっこいいところ」

アスカ「はっ! こいつがかっこいい? マナ、男の趣味悪いんじゃないの? 本心じゃないんでしょうけどねぇ」

シンジ「(そうだよ、マナは自分の立場でそう言ってるだけ。うん、まわりに流されて僕が勘違いしちゃいけない)」

マナ「ちゃんと思ってるよ。どうして私がウソつかなくちゃいけないの?」

アスカ「……っ! マナ、いや、あんた、とんだ狸ね。現在進行系で騙そうとしてるくせに」

マナ「アスカはなにも知らないもの。知らなくていい」

アスカ「なに言ってるの?」

マナ「ねっ! シンジくん」

シンジ「うんと、その……」

アスカ「なんでそこでバカシンジに……はぁ~ん、なるほど。そういう演出ってわけ?」

マナ「へ?」

アスカ「あたしより自分の方がいいってわざとしてるんでしょ? 計算で」

マナ「……そんなんじゃないもん」

シンジ「ちょ、ちょっと、二人とも」

アスカ「残念ねぇ~。これからシンジはあたしの家で……ゴホン……このあ・た・しの為だけにご飯を作ってくれるみたいよー?」

シンジ「……え? ご、ご飯? 用事って」

マナ「なに、それ。どういう意味?」

アスカ「スタートラインが違うって言ってんのよ。50メートル地点がゴールだとしたら、あたしは既に30メートルぐらいかしら。いや、もっとかも?」

マナ「ふぅん、アスカってば、普段はツンケンな態度してるくせに、シンジくんを男だって意識してるんだ?」

アスカ「な、ななななんでそんな解釈になんのよ!」

マナ「だって、ゴールしたいんじゃないの?」

アスカ「立ち位置の話よ!」

マナ「じゃあ、シンジくんと私が仲良くなってもいいの?」

アスカ「だ、だって、あんたは……」もごもご

マナ「(言えないものね。アスカは私が戦自のスパイだって知ってるって。あんまりいじめちゃかわいそうか……)」

シンジ「あの、アスカ。ご飯って、なに?」

アスカ「しっ! あんたは黙っときなさい!」

マナ「……? シンジくん、なにも聞いてなかったの?」

アスカ「……(喋ったら、[ピーーー])……」キッ

シンジ「……」ゴクリ

マナ「シンジくん?」

シンジ「いや、僕が忘れてたみたいだ。たしかに、そんなこと、言ってたような」

マナ「もしかして、言わされてない?」

アスカ「そんなわけないじゃなぁ~い! 昨日デートに誘われたんだから!」

シンジ「デート⁉︎」

マナ「……」

アスカ「しかたなぁくオーケーしてあげたんだけどさぁ」

マナ「アスカ。変だよ」

アスカ「……?」

マナ「甘えてるんだね、シンジくんに」

アスカ「な、なにが? あたしがシンジに?」

マナ「素直になれない自分を。ぶつけることで求めてるんでしょ?」

アスカ「聞き捨てならないわ! 喧嘩売る気⁉︎」

マナ「エリート? それがなに……? 私には、ハリボテの前で威張ってる裸の王様に見える」

アスカ「この! よくも言ったわね!」ブンッ

シンジ「もうやめよう。二人とも」パシッ

アスカ「……っ⁉︎ ちょ、離して!」グィッ

シンジ「マナ、アスカ。喧嘩することに僕は否定的じゃない」

アスカ「(うそっ⁉︎ 振りほどけない⁉︎ なんで、ビクともしない、のっ!)」グィッ

マナ「……ごめん、また、私」

シンジ「暴力って傷つける悪いイメージだけど、わかり合ったり、すっきりしたり、そういう必要な時もあると思うから。ただ、今はそうじゃない」パッ

アスカ「いっつ、もう、痕になったらどうして……あれ? なにも残ってない? 強く掴まれてた気がしたのに」

シンジ「帰ろう。向き合わなくちゃいけない時は、きっと来るから」

青葉シゲルは喋ってる機会の多いPSPとPS2で発売されたゲーム版を参考に性格形成してます
使えそうだなと思ったセリフを織り交ぜていたり(ゲーム中で使用されている)しますが
書いている二次SSに合わせているので見せ方の問題もあると思います

【ミサト宅 リビング】

シンジ「……な、なんだこれ……」

アスカ「よっ、ほっ、と」

シンジ「ど、どうしてこんなことに」ソォー

アスカ「あぁ、そっちじゃないっ! その服まだ着るんだから踏まないでよね!」

シンジ「え?」ピタ

アスカ「そっち通って」

シンジ「脱ぎ散らかさないで畳めばいいじゃないか。それに、食べた後の弁当箱も。こっちはビール缶」

アスカ「やーよ。めんどくさい」

シンジ「アスカ。生活っていうのは、掃除をしないと。洗濯物も。臭くなっちゃうよ」

アスカ「ミサトに言ってよ。なんであたしに言うの?」

シンジ「だって、アスカだってここで生活――」

アスカ「してるけど。そう思うならあんたやって」

シンジ「な、なんで? 自分でもできるだろ」

アスカ「あんた程度でもできるって言ってんの! あたしがわざわざしなくちゃいけないなんてイヤ!」

シンジ「はぁ……」

アスカ「その、デートしてあげるんだし、それでチャラでしょ」

シンジ「あの、それっていつ?」

アスカ「そんなにはやくしたいの? せっかちな男ねぇ」

シンジ「(いつ約束したのって意味なんだけど……)」

アスカ「日時と場所はあんたが決めていいわよ。女の子をエスコートするなんて土台無理な話でしょうけど、まぁ、我慢してあげる」

シンジ「……はぁ、それにしても、どこから手をつけようか。明日の天気予報なんて言ってた?」

アスカ「晴れだって言ってたわよ」

シンジ「それなら、夜干しになっちゃうけど洗濯物からにしようか。炊飯器は……」カチ パカッ

アスカ「あたし、ソファーで雑誌見てるから」ポイッ

シンジ「うっ! あ、アスカぁっ!」

アスカ「なにー?」

シンジ「ご飯いつのだよこれ! 保温切っておいてたの⁉︎ カサカサじゃないか!」

アスカ「あー。えっと、三日ぐらい前?」

シンジ「食べないなら冷凍して釜は洗えよ!」

アスカ「えぇ~」

シンジ「このまま放置するつもりだったの⁉︎」

アスカ「気がつかなかったらそうなるんじゃない?」

シンジ「気に! しろよ!」

アスカ「うっさいなぁ。あんた、小姑みたい」

シンジ「(だめだ。今まで当たり前のように僕がやってたから気がつかなかったけど家事に対する感覚が圧倒的に違う、ミサトさんはズボラだってわかってたけど、アスカもまるで興味がないなんて)」

アスカ「お菓子、お菓子、と」ポフッ

シンジ「ねぇ、なんで自分でやらないの? こんな空間で住みたくないよね?」

アスカ「まぁ、そりゃーね。衛生的なのは良い。だからってなんであたしがやらなくちゃいけないの? 物の置き場所はわかってるし不自由はないし」

シンジ「改善できるから、とか」

アスカ「ただの雑用でしょ? わかる? あたしパイロット。本来はサポートされてるべきよ。監督者の管轄義務であってこっちの問題じゃない。折れてやらなくたって……日本人はこれだから」

シンジ「(海外って、こうなのか。いや、アスカ個人の問題のような……)」

アスカ「はいはい、小言はいいから、さっさとやって」ゴロン

【数十分後 同リビング】

シンジ「食べたらせめてゴミ箱に……」ガサゴソ ポイッ

アスカ「シンジー! お風呂も洗っといてねー!」

シンジ「コップも洗ってないし、このまま二人で生活していたらどうなるんだろう」

アスカ「ちょっと、シンジ! 聞こえてないのー?」

シンジ「やっとくよっ! ……アスカは雑誌読むの飽きたのか部屋に行っちゃったし」

アスカ「……」ガララ トタトタ

シンジ「ご飯ならまだ」

アスカ「じゃじゃーん!」

シンジ「……?」

アスカ「はぁ、あいかわらずポンコツな反応ね。あんたとのデートに着ていってあげようと思った服よ」

シンジ「あ……に、似合ってるよ」

アスカ「もうちっと嬉しそうにしなさいよ! 気に入らなかった?」クルッ

シンジ「(状況が飲み込めてないからなんだけど)」

アスカ「あんた、どんな格好の女の子が好きなの?」

シンジ「……いや、本当に似合ってるよ。ごめん、こんなにかわいいとは思わなかったから」

アスカ「へ? ま、まぁ、そうよね! 当たり前の反応!」

シンジ「その、ハットにアスカがいつもつけてるヘアバンドの形が浮いて猫耳みたいになってるのが気になるけど」

アスカ「あぁ、ヘッドセットつけたままなの忘れてた」

シンジ「それって気に入ってるの?」

アスカ「髪をまとめるのに便利だからつけてるってだけ」

シンジ「え、でも、それだったらヘアゴムとか」

アスカ「いちいち目ざといわねぇ。……昔ね、ママがこの形で二つ、よくリボン結んでくれたの」

シンジ「あ……」

アスカ「エヴァのパイロットっていう証。それをママに見せたいのよ」

シンジ「お母さんって、どんな人だったの?」

アスカ「……」ギュウ

シンジ「アスカ……?」

アスカ「優しい人だった。私はママが大好きで、笑ってくれるのが嬉しくて、とにかく私を見てほしくて。今でも思い出は大切に胸にしまってる」

シンジ「そうなんだ」

アスカ「でも、ある日全てが変わっちゃった。音なんか聞こえるはずないのに、音を立てて崩れるってこういう時に使うんだなって理解がストンと落ちてくる感じ」

シンジ「なにか、あったの?」

アスカ「わかんない。それでも、ママが喜んでくれるように私は必死で頑張ったわ。笑顔になれるなら、なんでもやろうって思って」

シンジ「……」

アスカ「今日はなんだかおかしい。あんたにこんなこと話すなんて。絶対にないと思ってた」

シンジ「アスカ……」

アスカ「間違っても同情なんかやめてよね、ウソくさいから。みんな、みんな、ウソばっかり。上部だけ取り繕っちゃってさ」

シンジ「……」

アスカ「誰でも自分が一番かわいいのよ。パパだって自分を許せないからとか、相手の為とか。変な理屈をつけて正当化しても、結局はそれ。ウソがない人なんかいない。

シンジ「……」

アスカ「もし、“自分はウソつきじゃない”ってやつがいたとしたら、それがウソ。もしくは、気がついてないだけ。だから、私はなんでも自分で出来るようにならなきゃいけないの」

シンジ「わかった、もういいよ」

アスカ「エースでいなくちゃいけないの」

シンジ「アスカ。もういいんだ」

アスカ「感情の波が押し寄せてくんのよ! 自分でもどうしようもないの!」バンッ

シンジ「(触れちゃいけないことだったのか。でも)」

アスカ「ふぅー……。わかってる、あたしが勝手に話ただけ。あんたは、家事に戻って忘れて。私も忘れ――」

シンジ「忘れないよ」

アスカ「……」

シンジ「そうした方がいいなら、そうする。だけど、大事な話だと思うから」

アスカ「好きにしたら」

シンジ「うん。わかった」

【数時間後 同リビング】

ミサト「見違えるようになったわね~! やっぱり家庭はこうでなくっちゃ!」

シンジ「普段からちゃんとしておけば、普通ですよ」

ミサト「普通ってのはねぇ、積み重ねるもんがあってはじめて成立すんの。あたしとアスカにとっては普通じゃない、労力を使うお仕事」

アスカ「まぁまぁね、あんた、もぐもぐ、味落ちてんじゃないの」パクパク

ミサト「リスみたいな顔して頬張ってるのはかわいいけど。説得力ないわよ」グビ

アスカ「んぐっ、ごくり、ミサトは肝硬変になるわよ」

シンジ「……」コネコネ

ミサト「シンちゃんは食べないの?」

シンジ「ハンバーグのタネを作っちゃいます。冷凍しておけばあとは焼くだけなので」

ミサト「あらあら。アスカの好物ぅ? よかったわねぇ~?」

アスカ「ふ、ふんっ」

シンジ「それより、今後どうするんですか」

ミサト「と、申されますと?」

シンジ「生活ですよ。こんなにひどくなってるなんて思わなかったから。野生に帰るつもりですか?」

ミサト「ぶっ、だっはっはっ! ここジャングルじゃないんだけどぉ~」

シンジ「……」ジトー

ミサト「あ、あら? けっこうマジ?」

シンジ「ミサトさんと……アスカはちょっと理由が違うかもしれないけど。誰でもできることです。やってないだけでしょ」

ミサト「あ、あたしは仕事がちょっち忙しくてさぁ~」

シンジ「だったら、協力するとかあるじゃないですか。僕がいた頃ゴミ出しをしてくれたみたいに」

ミサト「うっ、そ、そりはぁ、あくまでついでだったからといいますかぁ……アスカ! あんたもだかんねっ!」

アスカ「あたしに責任転換しないでよ。監督者はミサト」

ミサト「いくらあたしに監督義務があると言っても、自分で作るぐらいできるでしょーが!」

アスカ「イヤっ!」

ミサト「そ、そんなキッパリ」

シンジ「そこまでで。改善するには、どちらかがやるしかありませんよ。話合ってルールを決めれば――」

アスカ「あんたが定期的にここへくればいいじゃない」

シンジ「な、なんで僕がっ⁉︎」

ミサト「おっ、ナイスアイディア~!」

シンジ「ミサトさんっ⁉︎ 冗談ですよね⁉︎」

ミサト「ごめんねぇ~シンちゃん、私も家政婦雇いたいんだけど、生活が苦しくて」

アスカ「イヤなの? 女二人の花園に入り放題になんのよ? ひとりはおばさんだけど」

ミサト「ほっほぉ~う? アスカは後でゆっっくり話をするとして。どう? お小遣いになる程度の時給にするから」

シンジ「はぁ……」

【マヤ宅 リビング】

マヤ「遅いなぁ、シンジくん」

シンジ「……」ガチャ バタン

マヤ「あっ、お、おかえり!」

シンジ「あれ? リビングでなにを……」

マヤ「あのね、シンジくん」

シンジ「はい?」

マヤ「遅くなる時は連絡しなくちゃだめでしょう? どこでなにやってたの?」

シンジ「あ、すみません。ミサトさんの家に呼ばれてて」

マヤ「葛城一位のお宅に?」

シンジ「はい、夕ご飯を作りに」

マヤ「えぇ? なんで?」

シンジ「なんでって、その、ミサトさんもアスカも家事をやらないから」

マヤ「それだけの理由で? 自分たちでやらせたらいいじゃない」

シンジ「たしかにそうなんですけど。ほっとけないっていうか」

マヤ「はぁ……そう。ご飯は?」

シンジ「(ラップして置いてある。作って待っててくれたのか……食べてきたけど)」

マヤ「もしかして、済ませてきた?」

シンジ「いえ。ちょうどお腹が空いてたんです、美味しそうだなぁ。食べていいんですか?」

マヤ「よかった。まだだったのね」

シンジ「鞄を置いてきます」

マヤ「手もちゃんと洗ってね?」

シンジ「わかりました」

マヤ「……」ジー

シンジ「……」もぐもぐ

マヤ「おいしい?」

シンジ「はい、おいしいです」

マヤ「これも食べてみて。得意料理なんだけど」

シンジ「そうなんですか? あむ……うん、大根によく味が染みてておいしいや。いつ仕込んだんですか?」

マヤ「今日。普通は煮込めば煮込むほど味わいがますものだけど」

シンジ「そうですね。短時間でここまで」

マヤ「うん、母さんからやり方教わったの。あなたも将来食べさせる相手ができるだろうからって。そんな相手、まだできる気配すらないけど」

シンジ「お袋の味ってやつですか。いいな、そういうの」

マヤ「あ……シンジくんは司令にそういうの教わった経験は?」

シンジ「なにもありませんよ。父さんとはご存知の通りですし、母さんは生きてることすら知りませんでしたから」

マヤ「そ、そうよね。ごめんね、なんだか重い雰囲気にしちゃって」

シンジ「そんなつもりないですよ。ありのままを言ってる、僕にとっては、それが普通なんです」

マヤ「シンジくんがもうちょっと歳近かったらなぁ」

シンジ「……?」もぐもぐ

マヤ「ねぇ、あのこと、話してもいい?」

シンジ「待ってください……」カチャ

マヤ「(あ、また瞳の色がうっすら赤く)」

シンジ「いいですよ、どうぞ」

マヤ「手紙の内容。期限はいつまでとたしかに書いてなかったけど、いつまでも誤魔化せないと思うの」

シンジ「そうですね」

マヤ「なにか、考え浮かんだ?」

シンジ「ふぅ……正直なところ、なにも」

マヤ「演技じゃだめかな?」

シンジ「それは済ませたということですか? 母さんは確認するかもしれませんよ」

マヤ「どうやって?」

シンジ「わからないけど。どんな手を使ってきてもおかしくないと思います」

マヤ「うーん。ここって監視されてるのよね? 盗聴器だけなのかしら?」

シンジ「どうかな。カメラがあるとしたら、以前のやりとりの時に踏みこんできてもおかしくないと思いますけど」

マヤ「小型化してるし、ありがちな所だと、熊のぬいぐるみの目の中とか。そういうところに隠してるんじゃ?」

シンジ「探しますか? 人力になっちゃいますけど」

マヤ「見つけられればいいけど。天井とか、全部の壁紙をひっぺがすわけにもいかないし……」

シンジ「……どうして、確認を? 見られてるのが嫌だから?」

マヤ「目で見たものは信じる。演技って言ったじゃない?」

シンジ「はい」

マヤ「だから、その、あのね」

シンジ「……」

マヤ「寸前まで、やったらいいんじゃないかって」

シンジ「寸前? それって、どこまで?」

マヤ「や、やだ。シンジくんは、本当にわからなくて聞いてるんだものね……。言わせようとしてるわけじゃない、うん」

シンジ「あの、まさか」

マヤ「そ、そう。その、そ、そそそそそそ挿入する直前まで」

シンジ「……」ポカーン

マヤ「そのっ! あくまで演技よ! 実際にするわけじゃないし! 挿れるのはなし! 太ももに挟んで」

シンジ「ほ、本気ですか?」

マヤ「私だって! 考えたけど! どうしようもないじゃない!」

シンジ「いや、たしかに、方法が浮かばないのはそうですけど」

マヤ「シンジくんは、よく見たら女の子みたいな顔してるし、身体つきだって」

シンジ「マヤさんはそれでいいんですか?」

マヤ「だから、実際にするわけじゃないって……」

シンジ「それでも、身体は密着するわけですし。前に話た時に男が苦手って言ってましたよね」

マヤ「う、うん」

シンジ「いきなりハードル高すぎませんか。僕も慣れてるわけじゃないですよ」

マヤ「勇気をだして言ってるの。このままじゃ。シンジくん、もう一人の誰かを守りたいんでしょう?」

シンジ「そ、それは……」

マヤ「だったら、これしか方法がない。私、イヤだけど、我慢できる、と思うの」

シンジ「やっぱり嫌なんじゃないですか、我慢するってことは」

マヤ「わ、わたしもっ! 踏ん切りをつけなきゃいけないから! もういい歳だし!」

シンジ「は、はぁ」

マヤ「本当に、直前までよ?」

シンジ「それはもちろん、わかってます」

マヤ「いつ、する?」

シンジ「……」

マヤ「台本を用意した方がいいかな? お、犯せって書いてあったし、シンジくんが襲う段取りで」

シンジ「やめましょう、他に方法が――」

マヤ「考えてる時間あるのっ⁉︎」バンッ

シンジ「……」

マヤ「思いつかなかったら⁉︎ そしたら申し訳ない顔して、仕方ないって言ってやるんでしょう⁉︎」

シンジ「……」

マヤ「だったら、せめて勇気が出た時にやらせてほしい。私のペースで。どうにかなるかもしれないって、希望だけをもたせるなんてひどいわ」

シンジ「僕は……」

マヤ「これが、私たちに選択できる“落とし所”なんだよ。失うものはないもの」

シンジ「……」

マヤ「納得、できないよね。苦しいよね。私も一緒。痛いほどわかる。だから、だから、私はシンジくんと肌を重ねる。私のために、自分のためにやって」

シンジ「……わかり、ました」

マヤ「具体的にどうする?」

シンジ「……」ギリッ

マナ「シンジくん、話して。ね?」

シンジ「母さんがどういう意図でこの手紙を渡してきたのか。ある程度、予測がついてるんです」

マナ「そうなの?」

シンジ「はい、といっても文面そのままですけど」

マナ「もしかして、破壊衝動ってところ?」

シンジ「その通りです。あの日、マヤさんを突き飛ばして僕がこの家から出て行きましたよね」

マナ「うん」

シンジ「詳しくは話せませんが、衝動を抑えきれなくて、マヤさんに危害を与える状況だったからです」

マナ「(首を締めてきたのは、そのせい……)」

シンジ「自分の力じゃどうしようもなくて。不定期に波がくる感じなんです。いつくるのか、それはわからない」

マナ「つまり、その解消に私を使えって話ね?」

シンジ「おそらくは」

マナ「ひどい。そんな、私をなんだと思って……!」

シンジ「巻き込んでしまって、すみません」

マナ「待って」

シンジ「はい?」

マナ「その衝動はいつから? 生まれつき?」

シンジ「いえ、最近です。一週間ぐらい前から」

マナ「そ、そんな、うそよね? だったら、シンジくんがここにきたのも、もしかして、全て仕組まれて……」

シンジ「ありえなくは、ありません」

マナ「せ、先輩も協力してるって。わ、わたし、なにも聞いてないのに」

シンジ「……」

マナ「どうして、シンジくんが?」

シンジ「僕もわかることは少ないけど、知っていたとしても話せません。マヤさんは演技を済ませて、母さんを信じさせてさえしまえばいい」

マナ「……」

シンジ「話を続けます。なので、僕が衝動を抑えきれず襲う演技をすれば説得力はでると思います」

マナ「……わかった。私は、思いきり嫌がればいいのね」

シンジ「はい、合意の上ではないという演出が必要です」

マナ「部屋、散らかっちゃうね」

シンジ「そ、そうですね」

マナ「嫌がるのは、たぶん、演技じゃなくて本気でできると思う。シンジくんは平気?」

シンジ「え?」

マナ「私は土壇場になって拒絶感が勝っちゃうだろうから。そのままの私。シンジくんはそうじゃないでしょう?」

シンジ「……」

マナ「一度、はじまったら、途中で躊躇なんかしちゃだめよ。バレたらなんの意味もなくなる」

シンジ「はい」

マナ「今日、やろっか」

シンジ「えっ⁉︎ そ、それは! だって、監視カメラの確認もできてないのに」

マナ「カメラがなくても盗聴器がある。どちらかひとつがあるのは確定してるの。じゃないと、あんなタイミングよくここに諜報部員が来れない」

シンジ「……」

マナ「シャワーだけ浴びさせて。あとは、シンジくんのタイミングにまかせる」

あらら、予測変換でマナと打ってるんでレスしなおし

シンジ「……」ギリッ

マヤ「シンジくん、話して。ね?」

シンジ「母さんがどういう意図でこの手紙を渡してきたのか。ある程度、予測がついてるんです」

マヤ「そうなの?」

シンジ「はい、といっても文面そのままですけど」

マヤ「もしかして、破壊衝動ってところ?」

シンジ「その通りです。あの日、マヤさんを突き飛ばして僕がこの家から出て行きましたよね」

マヤ「うん」

シンジ「詳しくは話せませんが、衝動を抑えきれなくて、マヤさんに危害を与える状況だったからです」

マヤ「(首を締めてきたのは、そのせい……)」

シンジ「自分の力じゃどうしようもなくて。不定期に波がくる感じなんです。いつくるのか、それはわからない」

マヤ「つまり、その解消に私を使えって話ね?」

シンジ「おそらくは」

マヤ「ひどい。そんな、私をなんだと思って……!」

シンジ「巻き込んでしまって、すみません」

マヤ「待って」

シンジ「はい?」

マヤ「その衝動はいつから? 生まれつき?」

シンジ「いえ、最近です。一週間ぐらい前から」

マヤ「そ、そんな、うそよね? だったら、シンジくんがここにきたのも、もしかして、全て仕組まれて……」

シンジ「ありえなくは、ありません」

マヤ「せ、先輩も協力してるって。わ、わたし、なにも聞いてないのに」

シンジ「……」

マヤ「どうして、シンジくんが?」

シンジ「僕もわかることは少ないけど、知っていたとしても話せません。マヤさんは演技を済ませて、母さんを信じさせてさえしまえばいい」

マヤ「……」

シンジ「話を続けます。なので、僕が衝動を抑えきれず襲う演技をすれば説得力はでると思います」

マヤ「……わかった。私は、思いきり嫌がればいいのね」

シンジ「はい、合意の上ではないという演出が必要です」

マヤ「部屋、散らかっちゃうね」

シンジ「そ、そうですね」

マヤ「嫌がるのは、たぶん、演技じゃなくて本気でできると思う。シンジくんは平気?」

シンジ「え?」

マヤ「私は土壇場になって拒絶感が勝っちゃうだろうから。そのままの私。シンジくんはそうじゃないでしょう?」

シンジ「……」

マヤ「一度、はじまったら、途中で躊躇なんかしちゃだめよ。バレたらなんの意味もなくなる」

シンジ「はい」

マヤ「今日、やろっか」

シンジ「えっ⁉︎ そ、それは! だって、監視カメラの確認もできてないのに」

マヤ「カメラがなくても盗聴器がある。どちらかひとつがあるのは確定してるの。じゃないと、あんなタイミングよくここに諜報部員が来れない」

シンジ「……」

マヤ「シャワーだけ浴びさせて。あとは、シンジくんのタイミングにまかせる」

【数十分後 リビング】

シンジ「(昨日、お互いの違いを埋めるって言ってたらかりなのに。マヤさん、焦ってるのかな。不安、なのかもしれない)」

マヤ「シンジくん、あがったよ」

シンジ「あ、はい。僕も」

マヤ「お風呂ためなくて平気?」

シンジ「大丈夫です。食器、洗ってから入りますね」

マヤ「置いておいてくれていいわよ」

シンジ「いえ、悪いですから」

マヤ「わかった。私、今日は警戒警報で疲れてるの。先に部屋にいるね」

シンジ「はい」

マヤ「……」スッ

シンジ「(僕に、できるだろうか。いや、やるしかないんだ。そうしないと、マナが。でも、それすら自分に言い訳してるだけなんじゃ……)」スッ ガタッ

マヤ『躊躇なんかしちゃだめよ。バレたらなんの意味もなくなる』

シンジ「(迷っちゃだめだ。はぁ、こういう時、都合よく衝動がくればな。たった今、アダムの力を使ったはずなのに。……そのせいにしてしまったら、逃げてるだけ、か)」

マヤ『シンジくんのタイミングに合わせる』

シンジ「(最悪なのは、勇気を、覚悟を無駄にしてしまうこと。マヤさんはすごい決断をしてるんだ。それに応えなくちゃ――)」

【数時間後 マヤ部屋】

シンジ「(なりきりるんだ。僕はアカデミー俳優。僕は演技賞受賞俳優、よし、マヤさんを……)」スーッ パタン

マヤ「すぅー……すぅー……」

シンジ「(あ、あれ? ね、寝てる⁉︎)」

マヤ「う、うん」ゴロン

シンジ「(いや、きっとこれも演技なんだ。やるしかないんだ……)」

マヤ「うぅーん」

シンジ「寝てるんですか? それなら都合がいいや」

マヤ「ん……あ、シンジくん……もう朝?」

シンジ「起きたんですね。眠りが浅かったのかな」スッ

マヤ「え、時間……まだ、夜?」

シンジ「だめなんです。どうしても抑えきれなくて」ガシッ

マヤ「きゃっ、いたっ、な、なにっ⁉︎ し、シンジく――」

シンジ「騒がないでください!」ガバッ グッ

マヤ「むーっ!」

シンジ「無理なんですよ、もう……だから!」ブチ ブチ

マヤ「むっ⁉︎ むぅぅーっ⁉︎ ぷはっ、きゃああっ! 誰かっ!」

シンジ「ブラ、見えちゃいましたね」

マヤ「いやっ! くっ、このっ!」ガンッ

シンジ「いつっ」

マヤ「(あ、つい膝蹴りしちゃった。でも、予想してた以上に、こ、こわい……!)」

シンジ「……抵抗しても無駄ですよ」ムク

マヤ「ひっ!」ガタンッ ダダダッ

シンジ「逃げても無駄だって言ってるでしょう!」ダンッ ガシッ

マヤ「いや! 手首を離して! だ、誰か助けて!」ガシャンッ

シンジ「前、はだけてますよ。そんな姿を見せていいんですか」むにゅ

マヤ「あっ、嫌、嫌、気持ち悪い! 触らないでっ!! シンジくん⁉︎ 正気⁉︎ なにやってるかわかってるのっ⁉︎」

シンジ「わかってますよ。それでも、無理なんだ……!」

マヤ「なにが無理なのよっ⁉︎ こ、こんなことになるなんて」

シンジ「……」スッ グイッ

マヤ「いやあああっ!!」

シンジ「マヤさん、ピンク色なんですね」

マヤ「(こ、これ、本当に演技⁉︎ シンジくん、まさか本当に……⁉︎)」

シンジ「こわいんですか? そんなにガタガタ震えて」

マヤ「ひっ、や、やめて。もう。今ならなにもなかったことにしてあげるから……!」

シンジ「そんなこと言って。マヤさんもこういうこと好きなんじゃないんですか?」スッ

マヤ「あっ、乳首、やめてっ。つまんじゃ」

シンジ「敏感なんですね。それとも、弱いのかな。もっともっと反応で楽しませてよ」

マヤ「やめっ、てっ! しつこく、しないで」ビク

シンジ「どうしたんですか? 嫌だって言ってたのに」

マヤ「だめ、本当に、あんっ、ちょっと待って! やめてったらぁっ!」

シンジ「(こ、これは、思った以上に、その、やっちゃいけない感が……)」

マヤ「お願い、もうやめてよぉ」ポロポロ

シンジ「……っ! 乳首、たってきてますよ」パク

マヤ「えっ⁉︎ きゃ! あ、ああっ、そんな、うそ、あぁんっ!」

シンジ「(途中でやめちゃここまでが無駄になってしまう。母さんにも、バレる! マヤさん、もう少しですから!)」

マヤ「あっ、舐めないで。やだ、やだやだやだやだ、気持ち、悪い」

シンジ「……」スッ

マヤ「……っ⁉︎ そ、そっちはだめ!」

シンジ「んっ、壊したいんです。だから、もっと悲鳴を聞かせてください」

マヤ「(そ、そんなっ⁉︎ ただ太ももに挟むだけじゃ⁉︎ や、やっぱり、ちゃんと打ち合わせしておけば!)」

シンジ「……」

マナ「あっ、んっ! 舌でころころ転がさないで、んっ!」キュッ

シンジ「はぁ、急に内股になって……そっか。気持ちいいんだ」

マナ「ち、違うわっ! 今のはただ、条件反射的に反応して……! こんなのひどすぎる! 無理やり!」

シンジ「こっちは?」グィッ

マナ「や、やめてっ! パジャマ脱がさないで!」

シンジ「はぁ、はぁっ」

マナ「ちょっ、ちょっと待ってったら! シンジくん!」

シンジ「あつい。熱がこもってる、もしかして、これが濡れてるっていう」

マヤ「そ、そんなはずないっ! 勘違いしないで! 童貞のくせに!」キッ

シンジ「…‥くっ、くっくっくっ」

マヤ「な、なに? なにがおかしいの。あなた、狂ってる……!」

シンジ「誤魔化してるのがおかしいんですよ。ここをこんなにしておいて」

マヤ「(まずっ……もしかして、本当に濡れてきてるかも……なんで? こんなの、理想じゃない。はじめてはもっと、なのに、なんで体が熱く)」

シンジ「ここから、いやらしい匂いしてますよ」くんくん

マヤ「ひっ、なに、やって⁉︎ 嗅がないでよ! このっ! 変態!」

シンジ「自覚させてあげてるんですよ」

マヤ「(やだ、恥ずかしい。やめて、そんなに顔近づけないでぇ……!)」

シンジ「マヤさん、もしかして、マゾの気質あるんじゃないですか?」

マヤ「ば、バカ言わないでよ! 女性は防衛するためにしかたなく愛液を!」

シンジ「そんな話聞いたことありませんよ。僕が知ってるのは発情してるってだけ」サワ

マヤ「ひゃっ⁉︎」ビクゥ

シンジ「こうやって、指でなぞれば、身体は反応する」

マヤ「き、汚い指で……っ! んぁっ! やだったら、そこは、だめよっ」

シンジ「キレイですよ、マヤさんのここ」ボソ

マヤ「はぁっ、んっ、え? あっ!」

シンジ「ここの、先端のところは?」

マヤ「そ、そこはっ⁉︎ クリッ⁉︎ 」ビクゥッ

シンジ「僕に教えてください」

マヤ「んっ、いや、動かさないで、押しつけないでっ! ぁあっ」

シンジ「……」

マヤ「(か、感じる……気持ちっいい。しん、じられ、ないっ! 私、本気で、感じて……っ! ゾクゾクする……!)」

シンジ「もう、抑えなくて大丈夫みたいですね」

マヤ「んっ、んっ」ビク ビク

シンジ「顔、よく見せてください」

マヤ「(なに、なんなの、この感覚。なんでこんな。屈辱しかないはずなのに。男なんて……粗暴で、不衛生で……)」

シンジ「目がうるんでますよ。泣いているせいだけじゃないですよね」

マヤ「(なのに……! なんでこんなに興奮してるのよぉぉ……)」キッ

シンジ「まだ睨む元気が……もっとですか? 」

マヤ「あっ、ご、ごめんなさっ、やめっ、あっ。小刻みに動かしちゃ」

シンジ「どうなるの?」

マヤ「い、イキたくないっ! イキたくないの! 止めて!」

シンジ「へぇ」

マヤ「ど、どうしてっ⁉︎ やめてって……っ! 言ったぁっ!」

シンジ「さっきから何度も聞いてますよ。でも、僕は?」

マヤ「ご、ごめんなさいっごめんなさいっ、謝ります! やめてください! 指をとめて!」

シンジ「ほら」

マヤ「(な、なんでこんなにうまく……あっ! 波きてるっ! なにも考えられなくなる!)」

シンジ「イきそうですね」

マヤ「だめぇえぇえ~~~~っ!!」ビクゥ ビクゥ

シンジ「……」

マヤ「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

シンジ「変態は、どっちですか?」

マヤ「はぁ、へ? な、なに?」

シンジ「僕、中学生ですよ。わかってますよね」

マヤ「そ、そんなの――」

シンジ「じゃあ、イッたマヤさんはなんなんですか? もしかして、普段から[田島「チ○コ破裂するっ!」]してました?」

マヤ「そんな⁉︎」

シンジ「クリトリスだけでイクなんて」

マヤ「そ、それは……その……」

シンジ「隠れてしてたんだ? なにをオカズに?」

マヤ「(ああ、言わないで。そんなに責めないで。言わされちゃうんだ……言うしかないんだ)」

シンジ「マヤさん?」

マヤ「せ、先輩の、こと」

シンジ「リツコさん? お、女ですよ?」

マヤ「だ、だって、男なんて……」

シンジ「(こ、これは知らなくてよかったな)」



マヤ「あの……もう、やめてくれるの?」

シンジ「そんなわけないじゃないですか」ヌギ

マヤ「(やっぱり、シンジくん、本当に抑えがきなくなっちゃってるんだ。このまま犯されるの? 悔しい……でも、体の奥が熱い)」

シンジ「ここ、こんなになってるんですよ」

マヤ「……っ! それ、男の人の」

シンジ「見たことないんですか?」

マヤ「その、父さんのはチラッと。でも、反り返ってなかったし! そ、それに、みんなそんなにおっきいの⁉︎」

シンジ「(恥ずかしい)」

マヤ「(あ、あんなのはいるの? でも、無理やりされちゃうんだろうな……想像しただけで、ゾクゾクしちゃう)」

シンジ「足、ひろげてください」

マヤ「い、いやよっ!」

シンジ「今さらですか?」

マヤ「(やっぱり……今日、わたし……)」

シンジ「ベッドに戻りますよ」スッ ヒョイ

マヤ「え? わっ⁉︎ わ、私重いよ! ど、どこにそんな力が!」

シンジ「……今は、なんでもできそうな気がします」

マヤ「(これも、瞳の色のせい? 力まで強くなるの? さ、逆らえない。シンジくんに、私が支配されてしまう)」

シンジ「……」ドサ

マヤ「(今から、無理やり犯される……。反り返ったお、おちんぽで私を貫いて、征服するつもり。泣いても、頭をおさえつけて。声をだしたら、ふさがれて……)」トロン

シンジ「こっちに」ギュ

マヤ「(あっ、男の人の、腕。もっと、もっと汚して。なにもかも考えられないくらい)」

シンジ「マヤさん、大丈夫ですか?」コソ

マヤ「……」ポーッ

シンジ「あの、布団かぶせますから。足を閉じて」コソ

マヤ「はい……」スッ

シンジ「ちがっ⁉︎ 開いてどうするんですか! 閉じるんですよ!」コショコショ

マヤ「はい、足を絡め……たらいいの」ガシッ

シンジ「(うっ! ちょ、ちょっと⁉︎)」

マヤ「し、シンジくぅん」

シンジ「んっ⁉︎」

マヤ「もっと、もっと罵ってぇ。私を叱ってぇ」

シンジ「(な、なんなんだよ、これ⁉︎ こんなはずっ⁉︎)」

マヤ「はぇ……どうしたの? うふふ、そんなに戸惑った顔して……あ、そっか。私が変態だから軽蔑してるんだ……そんな目で」

シンジ「マヤさんっ! しっかり!」コソ

マヤ「……? 今から私を犯すんでしょう? んっ」

シンジ「(き、キスっ⁉︎ こ、こんなつもりじゃ)」

マヤ「(ああ、汚い。唾液交換してる。汚い、キタナい。でも、それがいい……!)」

シンジ「んっ、ちゅ、マヤっ」

マヤ「ちゅ、ちょう、らいっんっ、唾液、シンジ、んっ」

シンジ「(アダムのせいなのか⁉︎ なにか他にも⁉︎)」

マヤ「ぷはぁっ、ここ、ほら」シュシュ

シンジ「くっ、マヤさん、握ってこすらないで」

マヤ「軽蔑する? こんな変態なことして気持ち悪いよねぇ」シコシコ

シンジ「ちょ、落ち着いて」グィッ

マヤ「きゃっ! あぁ、やっぱり、犯されるんだ。いいよ、その汚いおちんぽで、さっさとやれば⁉︎」

シンジ「や、やるわけ……」

マヤ「おまんこがわからないの? ぷっ、やだ。さっきは凄いテクだったくせに。やっぱり童貞なんだ」

シンジ「(ど、どうしたら。離れたらバレるし。とりあえず、腕を)」グィッ

マヤ「どうせ抵抗しても無駄なんでしょ⁉︎ どうする気⁉︎ ……私に誘導させる気なの? そんな屈辱。どこまで私を……」スッ

シンジ「……っ? あ、あれ、急に身体の力が」

マヤ「(もっと、もっと、はやく。焦らさないで」

シンジ「(し、しまった。アダムの力を使いすぎた。身体に負担が)」クテ

マヤ「シンジくん……? なに? まさか、私に上に乗れって?」

シンジ「いっ、言ってなっ!」

マヤ「どこまでもひどい……。私、はじめてなのよ? 本当に中学生? この、どS」

シンジ「(口がうまく、まわらない)」

マヤ「し、仕方なくよ。いいわ、私、自分を守るために、やる」

シンジ「(……? 守るため? 正気に戻ったのか?)」ゴロン

マヤ「そうやって、見上げて、私の反応を楽しむんでしょう?」

シンジ「(も、戻ってない! 絶対、戻ってない!)」

マヤ「んっ」ヌチ

シンジ「(本当にはいっちゃ……! さ、さきっぽが)」

マヤ「こ、こわい、こわいよぉ」ポロポロ

シンジ「や、やら……!」

マヤ「あっ、い、いたっ」ヌチュ

シンジ「(くそっ、やっぱり呂律がうまくまわらない!)」

マヤ「んっ……あっ、いつっ、あ、あぁ」ググッ

シンジ「(動け、動け、腕を動かしてマヤさんをどけないと……!)」ググッ

マヤ「あっ! し、シンジ、くん? なにして、足」

シンジ「(よ、よし、もうちょっと)」

マヤ「だめ! 足が踏ん張れなくなる! やめて! ま、まさか、はやくしろって⁉︎」

シンジ「(違うよ!)」

マヤ「きゃっ⁉︎」ツルッ ブチュン

シンジ「……っ!」

マヤ「か、かはっ!」プルプル

シンジ「(え、う、うそだろ)」

マヤ「(は、はいっちゃった)」

シンジ「(女の人の中って、こんな……!)」ピクッ

マヤ「う、動かないでっ!」グィッ

マヤ「きゃんっ! う、うごっいちゃ、くっ、いたっ」

シンジ「(は、はやく抜かないと)」

マヤ「言っても無駄なのね。動けばいいの……? さっさとっ、だして、終わりにっしてっ」ヌチュヌチュ

シンジ「うっ、はぁっはあっ」

マヤ「(やっぱり、凄く痛い! お腹の中にはいってるのがわかる。私、あんなに嫌だった男をくわえこんで)」

シンジ「ま、マヤっ」

マヤ「はぁっはぁっ、んっ、気持ちよく、なんかっ、ないっ」

シンジ「腰、ふり、すぎ」

マヤ「(こんなに、つらい……あれ? でも、なんかフワフワしてきたような。シンジくんのおちんちんの形がよくわかって……)」

シンジ「ぐぅ」

マヤ「はぁっはぁっ、満足? 私の膣にいれて。これが見たかったんじゃないの」

シンジ「(中がウネウネしてて……締まる)」

マヤ「(き、気持ちいっ。……気持ちいい? 指で触ってるのとはまた、全然違う、なにこれ。こんなの、知らない)」

シンジ「(動けぇぇっ!)」

マヤ「あっ、やめっ、下からっ突き上げないでっ! あっんっ、んっんっんっ」

シンジ「(そ、そうじゃないって!)」

マヤ「(入り口、感じて。こ、この子。私を、女にしようとしてる? シンジくんのおちんちんの形を覚えさせようとしてるの?)」

シンジ「ぐっ!」

マヤ「だめ、だめ。今、イかされたら。だめよ、戻れなくなっちゃう!」

シンジ「(そんな、押しつけちゃ)」

マヤ「は、激しくしちゃ……!」

シンジ「(してるのはマヤさんですよ!)」

マヤ「いく、いく、いっちゃうぅぅぅ~~」

【ネルフ本部 執務室】

冬月「やはり、衝動は抑えきれなかったか」

ユイ「……」

冬月「どうした? 指を眉間に当てて。キミが望む結果だろう」

ユイ「いえ。人選を間違えたかなと」

冬月「……?」

ユイ「わかりませんか? 伊吹二尉は喜んでます」

冬月「そうなのか?」

ユイ「会話を聞く限りですが。無理やりだったのは最初だけで後半は様変わりしている」

冬月「そうは聞こえなかったが」

ユイ「電波障害が起こったので、なにか企んでいるのではと思っていたのですが……」

冬月「ならば、計画的だと?」

ユイ「それは杞憂だったようです。私にとって計算外だったのは、伊吹二尉の性癖です」

冬月「……」

ユイ「アレは、男を嫌っているようで男を待っていたんですよ。はぁ、どうしたものかしら」

冬月「想定外の事態というのは理解した。サードチルドレンは契約を守ったことになるぞ」

ユイ「まぁ、私の気が変わったといえば済む話でしょうけどね」

冬月「しかし、女とはそういうものか? その、いやよいやよも好きのうちというが」

ユイ「先生。女性について理解がなさすぎです。言った通り、単なる性癖です。セックスしたら好きになるタイプですね、彼女は」

冬月「そんな者は男だけだと思っていたが」

ユイ「女に性欲がないと?」

冬月「そうは言っていない。だが、しなくてもいい生物だとは思う」

ユイ「気持ちよくない経験をしている場合など個人によりますけど。セックスが好きな人は好き。男女、同じ条件ですよ」

冬月「よく、わからん」

ユイ「(そんなだからその歳で独り身なのよ)」ジトー

冬月「なにかね?」

ユイ「いえ。今後を検討しなおさなければいけませんね」

冬月「この手段にこだわる必要はなかろう」

ユイ「指示した意図は、シンジが自分で手を下すことにあったのです」

冬月「しかし、キミはアダムのせいだと書いていたではないか」

ユイ「例えそうであっても、割り切れたり開き直れる性格ではありません。“アダムのせい”というのは、自分への言い訳として、ジワジワと蝕んでいきます」

冬月「やつが行動を起こしたのに変わりはない」

ユイ「罪悪感が薄くなってしまう。喜ばれては」

冬月「……」

ユイ「むしろ“良かった”と思わせるきっかけを与えてしまいます。相手は望んでいた、これから挽回すればいい、と」

冬月「面倒な」

ユイ「思い通りに行きませんね。ふぅ、失敗してしまったのかもしれません」

冬月「キミが自分の非を認めるのか。めずらしいな」

ユイ「勘違いしないでいただきたい、やり方についてではありませんよ。あくまでも、人選についてです」

冬月「では、別の女を当てがうか」

ユイ「反省点を踏まえ、慎重に動かなければならないですね。次は、更にシンジと薄い関係の者を選ぶか……」

冬月「伊吹二尉とサードチルドレンにこれまで接点はほとんどなかったはずだ。性癖についてまで調べるのか?」

ユイ「必要であれば。シンジには、自分の手で誰かを傷つけ、取り返しのつかない事態に陥ってもらいたい」

冬月「やつの成長、魂の浄化か。穢れを知った時、アダムが本当の意味で目覚める」

ユイ「――ひとつ、案を思いつきました」

冬月「聞こう」

ユイ「セカンドチルドレンを使いましょう」

冬月「やれやれ、付き合いきれんな。……まかせる。使徒はどうする? こちらのタイムスケジュールにないが」

ユイ「昼間の件ですか。それならば、誰の仕業か見当はついています」

冬月「……? もしや」

ユイ「タブリスでしょうね。あちらはしばらくやりたいようにさせておきます」

【翌日 マヤ宅 】

シンジ「(結局、あれから三回も)」

マヤ「う、うぅん」

シンジ「(マヤさんが上になったまま。はぁ……凄かったな。絡みついて。アダムになにか、別の力、魅惑してしまうとかあるのかな……。綾波に確認しないと)」

マヤ「シンジくん……私、あのまま」

シンジ「あ、マヤさん。起きました?」

マヤ「うん。その、もうおさまった?」

シンジ「(大丈夫そうだ。電波を遮断して話をしなくちゃ……あれ、感覚が。力が使えない? なんで?)」

マヤ「……」ギュゥ

シンジ「あの、マヤさん? どうして、抱きついて」

マヤ「やっぱり、いつものシンジくんに戻ってる」

シンジ「はい、そうですよ。よかった。マヤさんも正気に」

マヤ「私、シンジくんどころか、自分自身についてなにもわかってなかったみたい」

シンジ「え?」

マヤ「そ、その、き、気持ちよかった、の。昨日、シンジくんとひとつになって。今は解放されたって気分」

シンジ「は、はぁ」

マヤ「今まで、私、男を生理的に受け付けられなかった。でも、思い返してみれば元からそうだったわけじゃなくって。いつからだろう、高校、大学と勉強ばかりしてたから縁がなくて」

シンジ「……」

マヤ「いいかなと思う人はいたって前に言ったの覚えてる?」

シンジ「はい」

マヤ「でも、拒絶感が強かった。こわかったんだと、思う。他人に踏み込まれるとどうしていいかわからなくて、微妙な空気に耐えられなかった。そう過ごしてる内に、男なんていらないと思いだして、不潔だからとか理由づけして――」

シンジ「……」

マヤ「在学中に提出した論文が先輩の目に止まって。そこからまた自立した女性への憧れを強くしていって」

シンジ「そう、だったんですか」

マヤ「先輩がかっこいいなぁって思った。寂しかったから、私。男の中で孤独でも凛としてる姿が、輝いて見えた」

シンジ「……」

マヤ「昨夜、最中にわかっちゃったんだ。私、白馬の王子様を待ってただけなんだって。嫌悪感をこじ開けてくれる人を」

シンジ「えっと」

マヤ「抱きしめて」

シンジ「は、はい」ギュゥ

マヤ「安心する……。先輩を想って、お、[田島「チ○コ破裂するっ!」]してたって言った時、引いた?」

シンジ「い、いや、その」

マヤ「ほ、ほんとの話なの。たまに、してて。また、抑えきれなくなったら、言って?」

シンジ「へ?」

マヤ「次は、もっとうまく、できると思う。今は、そのまだ入ってるような感じがするから、すぐには、無理だけど」

シンジ「ま、マヤさんっ! あのっ!」

マヤ「幸せ……。私の幸せってこんなことだったんだ」

シンジ「(ま、まぁ、いいのかなぁ?)」

コマンド発動してるんでレスしなおし

【翌日 マヤ宅 】

シンジ「(結局、あれから三回も)」

マヤ「う、うぅん」

シンジ「(マヤさんが上になったまま。はぁ……凄かったな。絡みついて。アダムになにか、別の力、魅惑してしまうとかあるのかな……。綾波に確認しないと)」

マヤ「シンジくん……私、あのまま」

シンジ「あ、マヤさん。起きました?」

マヤ「うん。その、もうおさまった?」

シンジ「(大丈夫そうだ。電波を遮断して話をしなくちゃ……あれ、感覚が。力が使えない? なんで?)」

マヤ「……」ギュゥ

シンジ「あの? どうして、抱きついて」

マヤ「やっぱり、いつものシンジくんに戻ってる」

シンジ「はい、そうですよ。よかった、正気に」

マヤ「私、シンジくんどころか、自分自身についてなにもわかってなかったみたい」

シンジ「え?」

マヤ「そ、その、き、気持ちよかった、の。昨日、シンジくんとひとつになって。今は解放されたって気分」

シンジ「は、はぁ」

マヤ「今まで、私、男を生理的に受け付けられなかった。でも、思い返してみれば元からそうだったわけじゃなくって。いつからだろう、高校、大学と勉強ばかりしてたから縁がなくて」

シンジ「……」

マヤ「いいかなと思う人はいたって前に言ったの覚えてる?」

シンジ「はい」

マヤ「でも、拒絶感が強かった。こわかったんだと、思う。他人に踏み込まれるとどうしていいかわからなくて、微妙な空気に耐えられなかった。そう過ごしてる内に、男なんていらないと思いだして、不潔だからとか理由づけして――」

シンジ「……」

マヤ「在学中に提出した論文が先輩の目に止まって。そこからまた自立した女性への憧れを強くしていって」

シンジ「そう、だったんですか」

マヤ「先輩がかっこいいなぁって思った。寂しかったから、私。男の中で孤独でも凛としてる姿が、輝いて見えた」

シンジ「……」

マヤ「昨夜、最中にわかっちゃったんだ。私、白馬の王子様を待ってただけなんだって。嫌悪感をこじ開けてくれる人を」

シンジ「えっと」

マヤ「抱きしめて」

シンジ「は、はい」ギュゥ

マヤ「安心する……。先輩を想って、お、[田島「チ○コ破裂するっ!」]してたって言った時、引いた?」

シンジ「い、いや、その」

マヤ「ほ、ほんとの話なの。たまに、してて。抑えきれなくなったら、言って?」

シンジ「へ?」

マヤ「次は、もっとうまく、できると思う。今は、そのまだ入ってるような感じがするから、すぐには、無理だけど」

シンジ「ま、マヤさんっ! あのっ!」

マヤ「幸せ……。私の幸せってこんなことだったんだ」

シンジ「(ま、まぁ、いいのかなぁ?)」

sagaでもだめなんだ
テスト

オ ナニー

18禁板なのになぜこのような仕様に
よく見たら昨日のオ ナニーの台詞もそうなってるみたいなんで以降は半角スペースとかあけます

【マヤ宅 リビング】

シンジ「腰大丈夫ですか?」

マヤ「う、うぅん……大丈夫じゃないかも。腰よりも、歩く時、痛いかな。してる最中はホルモン分泌するから緩和され、今は冷静になって痛みがぶりかえしてる、なるほど」

シンジ「……」

マヤ「これが膜を破った状態なのね。あ、ごめんなさい。つい癖で。知識はあったけど実体験を元に改めて分析しちゃって」

シンジ「いや、いいですよ。ご飯は食べれます? なにか作りますか?」

マヤ「体調が悪いわけじゃないもの。食欲はあるわよ。……そうね、簡単なお料理でかまわないなら、お願い」

シンジ「目玉焼きとスクランブルエッグ、どちらがいいですか?」

マヤ「目玉焼き。あ、ちゃんと黄身は焼いて?」

シンジ「わかりました」ガタ カチ

マヤ「ねぇ、シンジくん」

シンジ「はい?」カンカン パカッ

マヤ「あのさ、変なこと聞いてもいい?」

シンジ「どうぞ」ジュー

マヤ「シンジくんって、ほんとに、童貞だったの?」

シンジ「ぶっ」

マヤ「だ、だって。あの、責め方とか、指使いとか。してほしいところにこれ以上ないタイミングできたっていうか」

シンジ「したことありませんよっ!」

マヤ「そ、そうなんだ」

シンジ「はぁ……」

マヤ「(ということは、才能? せ、セックスの才能があるってこと?)」

シンジ「醤油ですよね?」

マヤ「え? あ、う、うんっ!」

シンジ「ヨーグルト、食べます?」カチャカチャ

マヤ「うん、食べる」

シンジ「……」

マヤ「(中学生、かぁ……。はぁ、せめて高校生だったらなぁ……)」

シンジ「ご飯にします? それともトースト?」

マヤ「トースト」

シンジ「はい」ガサ

マヤ「(両親は、ネルフ総司令。経歴は共に博士号を取得。まだ中学生……男としてみると、発展途上だけど。家事全般は完璧、自主性はあるし浮気の心配もなさそう。良い家庭を築けそうよねぇ……。マコトくんやシゲルくんよりも……うぅん、こ、これ以上ない、優良物件?)」

シンジ「……」ジュー

マヤ「(問題は、やっぱり私の歳、よね。倫理的な話じゃなくても、シンジくんが成人する頃に、私は三十路近い。遊びたい盛りに私を見たままでいてくれるかしら……でも、シンジくん、誠実な対応してくれるし)」

シンジ「出勤は何時から?」

マヤ「(待って、何考えてるのよ。昨日は、抑えられなかっただけ。でも、シンジくんが、私の扉を開けてくれて……)」ドッキン ドッキン

シンジ「マヤさん?」

マヤ「(思いだしたら恥ずかしくなってきた。き、昨日、この子と……征服されて、気持ちよかったぁ)」トロン

シンジ「あの」

マヤ「シンジくぅん」

シンジ「……?」

マヤ「ちゅう、し――」

シンジ「はい?」

マヤ「……え? な、ななんでも、ないですぅ」

>>465
それはいい案ですね、そうします

【ネルフ本部 発令所】

リツコ「朝一番で例のプロトタイプが到着するわ。すぐに検証をはじめたいからデータ収集の準備をしておいて」

マコト「おっ、早速ですか。やけに行動がはやいですね、戦自」

リツコ「技術力を固辞するチャンスですもの。最近あそこ、良いところないから」

マコト「ネルフは目の敵ですよ。この前、厚木基地へ視察に行った時だって――」

マヤ「おはようございます、すみません。遅れました」

リツコ「定刻より十三分の遅れね。いつも五分前行動を怠らないよう指導しているでしょう、社会人失格よ」

マヤ「申し訳ありません」

シゲル「こわっ、遅刻は俺もしないようにしなくちゃ」

リツコ「組織に準ずるにあたり、時間を守れないのはご法度。余裕を持って行動をできる、全ての基本だからです」

マコト「まぁ、もうそれぐらいに」

マヤ「すみませんでした、みなさんにご迷惑をかけてしまい……」

シゲル「まぁ、誰にだって寝坊ぐらいあるって」

マコト「これから準備をするところだったんだ。アプリケーションのインストール手伝ってくれるかい?」

リツコ「はぁ……学校のクラブ活動じゃないのよ、ネルフは」

シゲル「了解しておりますとも」

マヤ「本当に、すみません。以降、ないように努めます。あの、今日のスケジュールは」

マコト「ライフルの試作品が到着するみたいだよ」

マヤ「ポジトロンライフルですか。はやいですね」

マコト「同じこと言ってる。必要な部品はこっちで組み立てるんですか? それとも既製品が?」

リツコ「三分割にバラして輸送されてるはず。こちらで行う分には細かい作業を除かれていると考えていい」

シゲル「発射実験は、しなくていいんすか?」

リツコ「MAGIのサポートで威力は理論値で算出してあるけど、精密性に細かい誤差が生じる。忙しくなるかもしれない」

マコト「使徒が潜伏しているようだし、間に合えばいいんですけどねぇ」

リツコ「まずは、装備するにあたり現存するエヴァに最適か否か、そこから計算をはじめましょう。みんな、作業にとりかかって」

【第壱中学校 HR前】

ケンスケ「またな! トウジ」

シンジ「おはよ――」

トウジ「おっ、センセか。今日はちぃとばかし遅かったの」

シンジ「もう帰るの?」

トウジ「妹の見舞いや。午前中だけな」

シンジ「サクラちゃん? ……そうだっ! 手術は⁉︎」

トウジ「うまくいったで。それに関してはシンジのおかげや、ほんま感謝しとる」

シンジ「終わってた?」

トウジ「つい先日な。なぁ~んも心配あらへん。お医者様のお墨つきや」

シンジ「よかった。でも、どうしてわざわざ学校に? 電話連絡でいいよね?」

トウジ「あぁ、新聞配達が終わって暇やったからな。職員室によったあと、ケンスケとダベッとっただけや」

ケンスケ「そーゆうこと。そういうところは神経図太いよなぁ、僕ならまっすぐ家に帰るけど」

シンジ「そっか。気をつけて」

トウジ「おうっ! また見舞いにきたってくれ!」

シンジ「もちろん」

トウジ「ほななっ!」タタタッ

シンジ「(サクラちゃん、手術がうまくいったんだ……はぁ、よかった。肩の荷がひとつ降りた)」

ケンスケ「よいせっと」ゴト

シンジ「ケンスケ、それって――」

ケンスケ「ふっふーん! よくぞ聞いてくれました! 見よっ! この美しい曲線美!」

シンジ「カメラ、なんだね」

ケンスケ「ただのキャメラじゃないぞ! なんと! ワンシャッターで秒間60連写が可能なレスポンスになってるんだ! これなら、ピントの合わせずらい霧島も……! ぐっふっふっ!」

マナ「私がどうしたの?」

ケンスケ「わぁっ⁉︎」バッ

マナ「なに、なに隠したの?」

ケンスケ「い、いいいっいや? なんでも……」

マナ「どうせカメラでしょ?」

ケンスケ「ぎくぅ!」

シンジ「ケンスケ、声に出てるよ」

マナ「無駄だと思うけど」

ケンスケ「な、なんで?」

マナ「私、写真にうつらない幽霊なの」

ケンスケ「……は?」

マナ「ぷっ、あははっ、冗談だよ。本気にした?」

ケンスケ「な、なんだ。冗談か」

マナ「ふふっ、あのね、相田くん」

ケンスケ「……?」

マナ「私の写真撮ってるのわかったら、バラすよ?」ニコッ

ケンスケ「……」ゴクリ

シンジ「ケンスケ、諦めなよ」

ケンスケ「はぁ……いい商売になるのに。とほほ」

マナ「あの、シンジくん――」

レイ「……」ガララッ

シンジ「あ、綾波!」タタタッ

マナ「っと」

ケンスケ「……」ニヨニヨ

マナ「なに?」

ケンスケ「いやぁ? なんかことあるごとにシンジに声をかけようとしてるように見えてさぁ」

マナ「それが?」

ケンスケ「なんでも」ニヨニヨ

マナ「ふぅ……相田くん」

ケンスケ「ん? なんだぁっいてぇっ⁉︎」

マナ「そういう邪推はいけないと思うの」ギリギリ

ケンスケ「いだっ! ちょっ、なんで、僕がこんな目に!」

マナ「ごめんなさいは?」

ケンスケ「だって、事実だ、ろっ!」

マナ「ご・め・ん・な・さ・い・は?」

ケンスケ「ご、ごめんくさい!」

マナ「よし、よく出来ました」パッ

ケンスケ「なんだよ、一体。惣流といい霧島といい、顔がかわいいやつはすぐに暴力を。これじゃあ、碇は綾波に――ひっ⁉︎」

マナ「……」ニコニコ

ケンスケ「無言の笑顔はやめろ!」

マナ「こういう男の子の扱い慣れてるんだ。前の学校の友達で。まだ時間あるし、ちょっと、体育館裏いこっか?」

ケンスケ「や、やだよっ! いだ! いだだっ! 耳引っ張るっ」

マナ「……ね?」ニコニコ

ケンスケ「い、碇っ! た、たすけっ! もがっ⁉︎」

シンジ「……?」キョトン

マナ「あ、碇くーん! 相田くん借りるねー!」

シンジ「あぁ、うん」

ケンスケ「(そりゃないだろ! 友の窮地を見捨て……いや、あの顔はわかってないんだ!)」

マナ「行こう?」ニコニコ

ケンスケ「(し、シンジ~~~っ!! ヘルプミ~~~ッ!!)」ズルズル

シンジ「綾波、おはよう」

レイ「おはよう」

シンジ「今、時間ある?」

レイ「なに?」

シンジ「早急に確認したいことがあって。例のやつ」

レイ「わかった。屋上に行く?」

シンジ「いや、頻繁に二人で抜け出すのはあんまり良くない。変な噂を立てられても、綾波が困るだろうし。ぼかして話そう」

レイ「碇くんがそうしたいなら」

シンジ「その、今やってる“ゲームの話”なんだけど。綾波もやってるんだよね?」

レイ「ええ」

シンジ「装備で最近、手につけるやつとったんだ。それの効果でわからないというか、疑問に思うのが」

レイ「なに?」

シンジ「魅惑したり、催眠にかけたりだとか、そういう効果ってあったりするの?」

レイ「……?」

シンジ「その、僕に……じゃなくて、えぇと、プレイヤーに夢中にさせるとか」

レイ「ないわ」

シンジ「え、ないの?」

レイ「そんなものは存在しない。干渉できるのは限られてる。他のプレイヤーに対してじゃない」

シンジ「(他のプレイヤー……って、他の人間ってことだよな。それだったら、マヤさんはずっと正気だった?)」

レイ「それだけ?」

シンジ「あっ! いや、もうひとつ! 途中で効果が使えなくなっちゃったんだ。原因がわからなくて。使おうとしても、なにも感じない」

レイ「手、かして」

シンジ「あ、うん」

レイ「……」スッ ニギ

シンジ「どう?」

女子生徒A「わぁ、朝から手を握ってるぅ」

女子生徒B「恋愛って楽しいのかな」

シンジ「あっ! えっと! ごめん! なんか手相、僕が見ようとか言っちゃって!」キョロキョロ

レイ「原因がわかった」

シンジ「……! どうして?」

レイ「まだ不完全なのが一番の理由。コレは生まれたばかりの胎児と同じ。これから成長要素がある」

シンジ「成長?」

レイ「育成。プレイヤーが自分の身体の一部として定着させ、装備もまた、安定していく」

シンジ「衝動の波がくる理由と似たような話?」

レイ「あれは装備の個性。……いわゆる“呪われた装備品”」

シンジ「(つまり、アダムの衝動はこれから先もどうにもならなくて、同化が進めば使えないようには……不安定にならないのか)」

レイ「碇くん。昨日、なにかあった?」

シンジ「えっ? ど、どうして?」

レイ「これもひとつの段階手順だから。こうなるには、衝動を抑えるきっかけがあったはず」

シンジ「でも、昨日はそんな兆候はなにも……」

レイ「無意識という言葉がある。もしかしたら、碇くんが自覚してないだけかも。学校が終わったら私のマンションに寄って」

シンジ「なにか話が?」

レイ「……」コクリ

【授業中】

教師「あー、セカンドインパクト以降、このような社会情勢の動きになったわけであります。私はその頃、根府川に住んでましてね――」

シンジ「(生まれたばかりの、胎児、か。生命が誕生したばかり。産声をあげた赤ん坊ですらないんだよね、キミは)」ピピッ

『ねっ、今日終わったら、用事ある? M/K』

シンジ「(端末に、通信?)」キョロキョロ

マナ「こっち、隣だよ」コソ

シンジ「どうやって? この端末、オフラインになってるはずなのに」

マナ「コマンドプロンプトからシステムをちょっといじっちゃった。上書き。えへへ、驚いた?」

シンジ「まずいよ。ログは残るんじゃないの?」

マナ「いくつか余計な手順を加えるけど、そういうのは得意分野。戦自で叩きこまれたから」

シンジ「大丈夫なの?」

マナ「私にまかしといて。それでどう? 終わったら、時間ある?」

シンジ「今日は、ちょっと」

マナ「誰かと、約束?」

シンジ「うん、先約が」

マナ「アスカ?」

シンジ「そうじゃないよ」

マナ「そっか、わかった。ごめんね、無理言って」

シンジ「どんな用事だったの?」

マナ「うぅーん、昼休みなら、時間ある?」

シンジ「うん、それなら大丈夫」

マナ「話を聞いてほしくて――」

教師「今日は偶数の日ですから、えー出席番号順だと、碇さん、答えなさい」

シンジ「え?」

教師「ん? どうした? 端末に問題が表示されとるだろう」

マナ「(あっ、やばっ!)」カチャカチャ ターンッ

シンジ「えっと、その」ピピッ

マナ「(シンジくんごめん! 今切り替えた!)」

教師「おいおい、これは簡単な問題だぞ」

女子生徒D「クスクス、これわからないんだ?」

マナ「……!」キッ

女子生徒D「な、なによ?」

シンジ「あ、Aです。答えはA」

教師「ふぅ、よろしい。次からはもっとはやく解答できるように」

シンジ「ふぅ……」

マナ「シンジくん、ごめんね」

シンジ「先生に見られてるから、もう一度、回線開いてくれる?」コソ

マナ「う、うん、いいけど」カチャカチャ

シンジ「……」カチャカチャ

『僕は気にしてない。マナが当てられなくてよかった。S/I」

マナ「あ……」

シンジ「……」ニコ

マナ「(どうして、そんなに優しくしてくれるの)」

前スレと今スレで大きく書き直してるポイントはそこなんですよ
端折って説明しますが前スレではシンジがカヲルを手にかけてまして、今スレではヒロイン達の出番を目一杯増やし違う展開にしています

【ネルフ本部 食堂】

シゲル「今日はなんにすっかなー。カツ定食もいいし、カツ丼も捨てがたいし」

マコト「カツばっかだな、お前」

シゲル「うめーだろ?」

マコト「卵とじかそうじゃないかの違いしかなくないか」

シゲル「ノンノン、カリッとしてるか、ふわっとしてるか。大きな違い」

マコト「なんでもいいからさっさと決めろよ。食券販売機の後ろに並んでる列が見えてるだろ」

シゲル「はいはいっと」ピッ

マヤ「うどん、ひとつ。お願いします」

シゲル「おっ、あれは」テクテク

マヤ「……」

シゲル「よっ、マーヤちゃん」ポンッ

マヤ「なに?」

シゲル「あれ? 意外だなぁ、すっげー嫌な顔されると思ってたんだけど」

マヤ「期待してたの? そういう趣味が……」ススス

シゲル「い、いやいやっ、違うってぇ。俺に気安く肩に手ぇ置かれるのいつも嫌がってるだろ」

マヤ「あぁ。なんだ、そういう」

シゲル「もしかしてこれって俺に脈あり?」

マヤ「天変地異が起こってもないわよ」

シゲル「きっつー。今はそうかもしれないけどさぁ、ある日突然変わるなんてこともあるもんだぜ?」

マヤ「ないわね。私、青葉くんみたいな人嫌いだもの」

シゲル「おやまぁ。はっきりと」

マヤ「それに、今は恋愛とかしてる暇ないし――」

シンジ『マヤさん』

マヤ「(や、やだ、なんでシンジくんの顔が)」

シゲル「そうかねぇ、恋はいつだってしていいと思うけどなぁ」

マヤ「そう思うなら勝手にしたらいいじゃない」

シゲル「なら、今度、俺とデートしねぇ?」

マヤ「お断り」

シゲル「なんでだよ。相手いないんだろ?」

マヤ「いるわよ、私にだって、相手」

シゲル「へぇ、誰?」

マヤ「教える必要ない」

おばちゃん「はい、お待ち! うどんね!」

マヤ「ありがとうございます」スッ テクテク

シゲル「ちぇ、黙ってりゃかわいいのになぁ」

おばちゃん「ちょっとあんた、しつこい男は嫌われちまうよ?」

シゲル「その内芽がでるかもしれないっすよ。カツ丼お願いしまーす」

おばちゃん「気がつかないのかい? あれはね、恋してる女の顔だよ」

シゲル「は?」

おばちゃん「いやぁ、マヤちゃんは良い子だからねぇ、ようやく春がきたってか。ほら、食券だしな。お邪魔虫」

シゲル「ひ、ひどくねぇすか?」スッ

おばちゃん「デリカシーのない男の扱いにはこれぐらいでちょうどいいのさ」ヒラヒラ

ミサト「だあーっもう! また負けたぁ」

マヤ「葛城一尉。隣、いいですか?」

ミサト「とほほぉ。これで今月も節約生活かぁ」ションボリ

マヤ「あの、葛城さん」

ミサト「あによ?」ギロッ

マヤ「えっと」

ミサト「あらぁ、マヤちゃんじゃなぁ~い! めずらしいわね! 食堂であたしに声かけてくるなんて」スポッ

マヤ「音楽でも?」

ミサト「あぁ、これ? 違う違う! そんなもんたいして聴かないもの!」

マヤ「隣、座ってもかまいませんか?」

ミサト「どーぞどーぞ! 汚いところですけど」

マヤ「失礼します。あの、音楽じゃないならなにを?」コト

ミサト「ラジオ。夏競馬って予想が難しいのよねー」

マヤ「け、競馬?」

ミサト「そぉ。たまにしかやらないんだけど。息抜きにねん」

マヤ「は、はぁ」

ミサト「すっかりはずしちゃった。これで今月も苦しくなっちゃうなぁ」

マヤ「不謹慎じゃありませんか?」

ミサト「へ?」

マヤ「昨日、シンジくんが遅く帰ってきた理由を聞きました。葛城一尉のお宅に伺ってたって」

ミサト「夕ご飯作ってもらっちゃったのよー。シンちゃんの手料理はもう食べた? アスカにして絶品だって評判よ~?」

マヤ「そうじゃなくって。パイロットですし、あまり遅い時間に帰宅させるのは。ホームヘルパーを雇ったりされたら……」

ミサト「そうしたいのはやまやまなんだけどさぁ。シンジくんに時給払う方が安く済むのよねぇ」

マヤ「そんなに相場高いですか?」

ミサト「セカンドインパクト前はけっこう繁盛してたみたいだけど。今って人手不足らしくって。足元見た値段設定してんの」

マヤ「それでも、パイロットの金銭はネルフの管理下にあるので要求できませんけど、葛城一尉は私より高給取りですし」

ミサト「まぁねぇ。その点については否定できませんけども。シンジくんがなにか言ってた?」

マヤ「あ、いえ。私はただ、パイロットの保安上の問題を指摘しただけで」

ミサト「んー、そうね。それなら、あたしが送るってうのはどう?」

マヤ「それなら」

ミサト「よし、それじゃ問題ない? きつねうどん、おいしそうね」

マヤ「まぁ、食堂のおばちゃん上手ですから。話は戻りますけど、シンジくんの――」

ミサト「ねぇ、マヤちゃん」

マヤ「え、はい。なんでしょうか」

ミサト「シンジくんとなんかあったの?」

マヤ「へ?」

ミサト「やけに気にするなぁと思って。深い意味はないのよ? ただ、これまでマヤちゃんとシンジくんって必要以上に接点なかったじゃない?」

マヤ「あっ、そ、それは」

ミサト「一緒に住み始めてから、なにか?」

マヤ「い、いえっ、なにも」

ミサト「……?」

【第壱中学校 昼休み 体育館裏】

マナ「これ、よかったら」パカッ

シンジ「サンドイッチ? マナが作ったの?」

マナ「うん、前回ははりきりすぎちゃって。量が、その、ね」

シンジ「ありがとう」

マナ「一緒に食べよ、えへへ。あ、そこの石段に座ろうよ」タタタッ

シンジ「うん」

マナ「ごめんね、簡単なので」スッ

シンジ「気にしないでよ。こうして作ってきてくれてるんだし」

マナ「私、こんな風に自然に学校生活送れるなんて思ってなかった。全部、シンジくんのおかげ」

シンジ「僕は、なにも」

マナ「そうなんだよ? ネルフにバレて、シンジくんが助けてくなかったら……今頃。だから、凄く感謝してるんだ」

シンジ「僕は、自分にできることをしただけだよ。それに、この生活をいつまで続けられるか」

マナ「気づいてる。いつかは終わりがくるもんね。任務を無事完遂できても、帰還命令がでればそれまで。私は戦自。シンジくんはネルフだから」

シンジ「それに、マナの友達も……」

マナ「うん。私がここにいる意味は、友達のため」

シンジ「……」

マナ「それも全部含めて、任務という枷をはずしてくれたシンジくんに感謝してるんだ。今はもう、なるようになっちゃえっ! って開き直れてる」

シンジ「そうなんだ」

マナ「頼れる人がいるのといないのってこんなに違うんだね。単独潜入って思うとこわかった……」

シンジ「……」

マナ「精一杯、取り繕って笑顔ふりまいて、なんでもないって自分に言い聞かせて。チルドレンに計算して近づかなきゃって内心、必死だったの」

シンジ「……」パク モグモグ

マナ「今は、一人じゃないよ。私」

シンジ「マナが計算でそうしてなければね」

マナ「へ?」キョトン

シンジ「冗談だよ」

マナ「ぷっ、あははっ、シンジくんも冗談言うんだ」

シンジ「うん」

マナ「私ね、シンジくんに色仕掛けしようとしてたの」

シンジ「へぇ」

マナ「あっ、なに? その興味ないって感じ。私、かわいくない?」

シンジ「そうは言ってな――」

マナ「ねぇ……ドキドキしない……?」ズィッ

シンジ「ま、マナ?」

マナ「シンジくん……こうやって近づいても、なにも感じない……?」スッ

シンジ「いや、えーと」

マナ「ぷっ、だめ、笑っちゃう」

シンジ「からかわないでよ、もう」

マナ「あの、それで話っていうのは――」

シンジ「情報がほしいの?」

マナ「(やっぱり、わかってたのね)」

シンジ「一度も伝えてないから。そろそろ話さなきゃいけないと思ってたんだ」

マナ「ごめん。なんだか、催促してるみたいで。これじゃ、計算って思われてもしかたないね」

シンジ「マナが聞いてくる前に僕が言うべきだっただけだよ」

マナ「……」グスッ

シンジ「なにが聞きたい――」

マナ「どうして? どうしてそんなに優しくできるの? 私、利用してるのに変わらないんだよ。やってることと言えば、このサンドイッチだけ」ポロポロ

シンジ「あ……」

マナ「いなくなっちゃうんだよ? 最低な女だと思わないの? なんの見返りもないのに」

シンジ「……」

マナ「シンジくんなら、いいよ」

シンジ「へ?」

マナ「もっと、要求してきても。戦自の情報がほしい? それとも、私を使って――」

シンジ「そんなことはしないっ!」

マナ「……」ビクッ

シンジ「僕がしたいようにしてるだけだから。マナは気にしないで」

マナ「気にするよっ! 無償の優しさなんだもんっ!」

シンジ「マナだって、優しいじゃないか」

マナ「違うの! いたたまれないからラクになりたいだけ! だからっ、私はっ!」ポロポロ

シンジ「なにかしてないと気になるって言うなら。僕はもうもらってる」

マナ「え? なにを?」グスッ

シンジ「友達になれたし。それで充分だよ」

マナ「そんなのっ、私だって、もらってるよ」

シンジ「……」スッ

マナ「シンジくん」

シンジ「あんまり泣いてちゃ、目が腫れちゃうよ。ハンカチ」ポン

マナ「ありがとう……」スッ

シンジ「え、あの」

マナ「どうしよう、私、ムサシとケイタを救う目的できたのに、シンジくんの為になにかしたいって思いだしてる」

シンジ「えぇと」ポリポリ

マナ「でもね、あの二人にも、こうやって手をつないだりしたことない」

シンジ「そ、そうなんだ」

マナ「恋人つなぎっていうんだって。指と指を絡めるの」

シンジ「……マナは、吊り橋効果にかかってる」

マナ「え?」

シンジ「切迫した状況だから。僕に恩を感じて、僕しかいないって思い込んでるんだと思う。いつも以上に頼り甲斐があって見えたり」

マナ「そ、そんなっ! 私! 本当にっ!」

シンジ「この任務が無事終われば、向こうの日常に帰れる。そうしたら遠い思い出みたいになるんじゃないかな」

マナ「違うもんっ! そんなんじゃない!!」

シンジ「答えは、そうなった時にわかるよ」

マナ「(だって、シンジくんみたいな同年代がいるっ⁉︎ この人、自分の価値をわかってない!)」

シンジ「今は、生き延びること。それに集中しよう。それがマナ自身、友達の為にもなるから」

マナ「……っ!」グッ

シンジ「なにを知りたいの?」

マナ「(悔しい。どうしたら伝わるんだろう……)」

シンジ「マナ?」

マナ「ふぅー……。戦自が必要としてる情報は、ネルフの人事に不審な点はないか。なにか、ある?」

シンジ「あるよ。だけど、全てはまだ教えられない。周辺調査はすすんでるの?」

マナ「もう一人、潜入してるの。そっちでも洗ってると思うんだけど……」

シンジ「え?」

マナ「ごめんなさい、誰かは私も教えられない」

シンジ「わかった。無理がないように小出しにしよう。ネルフという組織について、どこまで把握してる?」

マナ「表に出てる一通りは。知りたいのは、裏だから」

シンジ「だったら、参謀である副司令。冬月っていう名前なんだけど、彼に相当の発言力があるっていうのは?」

マナ「どれくらい?」

シンジ「そうだね、人事に口出しできるぐらい」

マナ「え? でも、ネルフは直接的に関われないでしょう? さらに上層組織が存在しているはず」

シンジ「だからだよ。怪しい点を見つけたって報告するんじゃだめかな」

マナ「どうして見つけられたのか、経緯が必要だわ」

シンジ「僕に聞いたと言えばいい。マナは色仕掛けをしようとしてたんだろ? そういう目的で」

マナ「あ、たしかに……」

シンジ「僕と距離が近づいてる。作戦は順調だ、ただし、核心に辿り着くのはまだ時間がかかりそう。こういうのはどう?」

マナ「うん! いいかも!」

シンジ「うん、そんなところかな」

マナ「早速、今夜連絡してみるね」

シンジ「またなにかあったら言って」

マナ「今夜、アスカのところにまた行くの?」

シンジ「昨日に作りおきしてあるから行かないよ」

マナ「作りおき? なにそれ?」

シンジ「あぁ、アスカと、ミサトさんっているんだけど。僕たちの上官にあたる人。その二人、一緒に住んでるんだけど、家事全般なにもしないから」

マナ「へぇ、それでシンジくんが? 大変だね。同じパイロットなのに任務が別って。アスカってそんなに優遇されてるんだ?」

シンジ「あ、いや、これは、任務じゃなくて」

マナ「へ? ま、まさか……」

シンジ「そう、まぁ、普通の、こと」

【教室】

マナ「はぁっはぁっ」キョロキョロ

アスカ「それでさぁ――」

マナ「……!」ズンズン

ヒカリ「へぇ、そうなんだ。あれ、マナ。どうした――」

マナ「アスカぁっ!」ブンッ

アスカ「なに、え?」

マナ「このっ!」バチンッ

アスカ「きゃ!」ガターン

ヒカリ「ま、マナっ⁉︎ いきなりなにやって⁉︎」

アスカ「……」ツゥー

マナ「なに考えてるのよ!」

ヒカリ「アスカ、鼻血……!」

アスカ「……」ムクッ ユラァ

シンジ「はぁっ、はぁっ、マナ、待っ――……アスカっ⁉︎」

アスカ「言いたいことがあんならさっさと言いなさい。遺言は聞いてあげる」

マナ「シンジくんは奴隷じゃないのよ! あんた自分勝手すぎでしょ!」

アスカ「……」チラッ

シンジ「ちょ、ちょっと待ってよ! 二人とも!」ダダダッ

アスカ「あんたにあんたとか言われる筋合いないわよ。演技もここまでくればたいしたもんね」

マナ「アスカが勝手に思ってるだけでしょ?」

アスカ「言っとくけど、先に手をだしたのあんたの方だからね」

マナ「上等よ。黙ってやられると思ってんの?」

アスカ「はっ、とんだ猫かぶりだったわけね。いいの? ファンが減るわよ」

シンジ「ち、違うんだ! 僕は別になんとも思ってなくて」

アスカ&マナ「シンジ(くん)は黙って(なさい)!!」

シンジ「……」

アスカ「最初からどっかソリが合わないんじゃないかと思ってたのよねぇ~。いい機会だわ」ポキポキ

マナ「あら、奇遇ね。私もそう思ってた。エリートだっていつも鼻にかけてさ、嫌みったらしいたらない。存在するのは雑兵のがいてこそじゃないの?」

アスカ「それこそ負け犬の発想よ。いくら束になっても代わりのきかないのがエリート。雑に扱われないもの、読んで字の如くね」

マナ「……っ!」キッ

アスカ「やけに反応するじゃない? あんた、身分の低い雑兵?」

マナ「どうしてそうなのよ! あんただけが特別だと思ってんの⁉︎」

アスカ「はっはーん。思ってんじゃないの。事実! そうなの! っよ!」ブンッ

マナ「くっ!」ブンッ

シンジ「二人とも! だめだったら!」ダンッ

アスカ「ちょっ!」

マナ「し、シンジ――」

アスカ「(無理っ!)」

マナ「(止められないっ!)」

シンジ「うぐっ」バチーーンッ

アスカ「あー」

マナ「だ、大丈夫っ⁉︎」

アスカ「見事に決まったわね」

マナ「て、手加減ぐらいしたら⁉︎」

アスカ「あんたも思いっきり振りかぶっておいてなに言ってんのよ」

マナ「私のせいにする気っ⁉︎」

アスカ「単細胞」

マナ「なんですってぇっ」

ヒカリ「少し落ち着きなさいよ! 今は、碇くんを」

シンジ「いっつ」ムクッ

アスカ「ふん、あたしは謝らないわよ。シンジが勝手に飛びこんできただけじゃない。事前に黙ってろって忠告したし」

マナ「なんて言い草」

シンジ「はぁ、いいんだ。アスカは」

マナ「平気? シンジくん」

アスカ「加害者のくせによくそんなマネできるわねー。プライドないの?」

マナ「……!」キッ

シンジ「二人とも、聞いて。僕は、前にも言ったけど、喧嘩するのに否定はしない。やりたいなら、やればいい」

アスカ「……」

マナ「……」

シンジ「マナが怒ったのは、僕のことを心配してくれたんだ。アスカにいきなり、その、ビンタしたのはマナが悪いけど。それがきっかけ」

マナ「シンジくん……」

シンジ「仲悪くなる原因が、僕だなんて嫌だよ。もちろん、二人はそうじゃないって言うんだろうけど」

アスカ「当然ね、きっかけはきっかけ。その程度で壊れる友情ならいつかはそうなる」

シンジ「うん、それも、もっともだと思う。だけど、僕がいなかったらとも、僕は思うんだ。ボタンのかけ違いなだけなのに」

マナ「……」

アスカ「はぁ」ポリポリ

マナ「アスカ、とりあえず、今日は」

アスカ「その点については同意。しらけちゃったし」

マナ「いきなり、はたいて、ごめん」

ヒカリ「……」ソワソワ

アスカ「謝罪はいらない。いつか、やり返すから」

シンジ「(人間関係って難しい。どうするのが一番よかったんだろう、喧嘩させた方がよかったのか)」

ヒカリ「碇くん、保健室いく? アスカは?」

アスカ「私はいい」

シンジ「僕も平気だよ」

ヒカリ「両頬にキレイなモミジができあがってるけど」

シンジ「え?」

アスカ「ぷっ、くっくっくっ、マヌケヅラ」

チルドレンの衛生面について書かせてもらいます

まず前提としてチルドレンの給料面と衛生管理について原作内でなにも言及されていません

・衛生管理面を理由に解除する場合
原作アニメ、漫画、両方にミサトのズボラな性格上、辻褄が合わなくなります
・パイロットのシンクロ数値重視で解除する場合
アニメ版19話以降のアスカのスランプ時に同居解除などの対応策を模索せずにそのまま放置したのでこれも違う

公式で見解が公開されていませんので黙認していたなど様々な考察の余地があると思います
実際、そこらへんを突っこんで解釈をしている二次創作物を読んだことがあります

自分個人の見解はパイロットはどうでもよかったんじゃないかなと
碇ゲンドウは「初号機さえあればいい」「パイロットを“補填”」と原作内で明確に発言していますし、サードインパクトを起こす際に必要だったのはシンジじゃなく初号機なんです
初号機がダミーを拒絶したので起動するのにシンジが必要になってしまいましたが、これを抜きにして考えると
使徒撃退に対する対抗策、つまり繋ぎの戦力程度ぐらいしか考えてない、と解釈しています

当二次SSではそこらへんはざっくりでいいと思ってるので詳しい理由づけはしません
このSSの世界ではそういうものだと思って読んでいただけると幸いです

【放課後 教室】

アスカ「あー終わった終わったぁ」

ヒカリ「本当に大丈夫? 痛くない?」

アスカ「平気よ。転んだ拍子に鼻打っただけだし」

ヒカリ「マナったら、どうしていきなりあんなことしたんだろう」

アスカ「大方シンジがあたしの家に料理作りにくるのが気に入らなかったんでしょ」

ヒカリ「え? 碇くんが?」

アスカ「そ」

ヒカリ「なんで? ユニゾンの時に一緒に住んでたじゃない。今は別々に暮らしてるの?」

アスカ「そういやヒカリは知らなかったんだっけ。なんやかんやあって、シンジは別のとこ。あたしはミサトのとこのまま」

ヒカリ「そうなんだ。でも、近いんでしょ?」

アスカ「住んでるとこ? そうねぇ、バスで30分ぐらい?」

ヒカリ「……」

アスカ「どしたの? ヒカリ」

ヒカリ「あの、それって。無理やりじゃないよね?」

アスカ「そんなわけないじゃない。あいつがオーケーしたからそうなってんのよ」

ヒカリ「(嫌でも、断りそうにないからな。そっか、マナが怒ったのってそういう理由)」

アスカ「なに考えてるかわかる。嫌だとか無理なら断るべきでしょ。それでもやれって言ったわけじゃないし。本人の自己主張の問題よ」

ヒカリ「うぅーん」

アスカ「シンジだって得がないわけじゃないわよ? あたしの顔を拝める口実ができたんだからさぁ」

ヒカリ「そ、それは。学校でも……」

アスカ「ま、なんにせよ当事者同士で合意が済んでるなら外野は黙ってろって話。第三者があーだこーだ言うと話が大きくなるしこじれる。はっきりした態度を示さないシンジが悪いわ」

ヒカリ「うん、それは、そうかも」

アスカ「優柔不断って良く言えば優しいんでしょうけどねぇ、ナヨナヨしちゃってさ。ああいうとこ直せば少しは」ボソ

ヒカリ「ふふっ、そうだね。たしかに男らしさとは違うもんね」

アスカ「極端なのは嫌だけどね」

ヒカリ「言えてるぅ」

【第三新東京都市 喫茶店】

マナ「アスカったら遠慮って知らないのかしら。普通、友達だったら、大変そうだな、とか考えるもんでしょ?」

ケンスケ「……」ズゾゾー

マナ「シンジくんの優しさに。甘えてるって自覚がないのよ。ねぇ、そう思わない?」

ケンスケ「なぁ、霧島」

マナ「なによ?」

ケンスケ「なんで僕はここにいて愚痴を聞かされてるんだ? 友達じゃないのか?」

マナ「ジュース奢ってるじゃない。相田くん暇そうだったし」

ケンスケ「(こいつはこいつで碇を特別扱いしてるってわかってない……)」

マナ「頭にかーっと血がのぼったのは悪かったけど。でも! アスカだって悪いわ!」プイッ

ケンスケ「はぁ、めんどくさいことになったなぁ」

マナ「相田くんはシンジくんと仲良いんでしょう?」

ケンスケ「たしかにねぇ、だけど、なんでもかんでもってわけじゃないさ」

マナ「どうして? 友達が困ってるかもしれないんだよ?」

ケンスケ「シンジが本当に嫌なら断ると思うし。まぁ、たしかに断りづらそうな感じするけど。惣流は気が強いからなぁ」

マナ「それに碇くん、ほっとけないって言ってた。ダメな子ほどかわいいって言うじゃない? それに似たような感じで、だらしないアスカが悪い」

ケンスケ「誰が悪いってこだわるよりも、それぞれ悪いところはあるんじゃないか?」

マナ「シンジくんが悪いって言うのっ⁉︎」バンッ

ケンスケ「ちょ、落ち着けよ。とほほ、最初はそんな子だと思ってなかったのに」

マナ「誰が? 私?」

ケンスケ「そーだよ。少し大人びて見えたからな」

マナ「今は伸び伸びしてるからね」

ケンスケ「今は?」

マナ「なんでもない! ……あれ? あそこ歩いてるの、シンジくんじゃない?」

ケンスケ「お、本当だ。よく見つけ――むぎゅ」

マナ「テーブルの下に隠れて!」ガッ

ケンスケ「ええい! 頭から手をはなせよ! 僕はテーブルとキスする趣味なんかない!」

マナ「はやく!」

ケンスケ「心配すんなって、窓際の席と言っても店内なんか見ないよ、というか、なんで隠れるんだ?」

マナ「変な誤解されたら困る」

ケンスケ「はぁ……そうですか。あれ? 一緒に歩いてるのって綾波か?」

マナ「ホントだ。先約って綾波さんだったの」

ケンスケ「碇、急に女の子と縁が増えたっていうか。最近はアスカに、霧島、綾波か。この三人のどれかと一緒だよなぁ……ひっ⁉︎」

マナ「相田くん」ニコニコ

ケンスケ「な、なんだよ」

マナ「シンジくんと綾波さんの関係で知ってること全部話して?」

ケンスケ「い、嫌だよっ! 僕は友達を売るようなマネ!」

マナ「……」ニコニコ

ケンスケ「(す、すまん。碇、僕は負けてしまうかもしれない)」

【綾波宅 室内】

シンジ「綾波のところに来るの、久しぶりだね」

レイ「着替えるから、待ってて」ガララ

シンジ「あ、うん」

レイ「……」シュル パサ

シンジ「……? 綾波」

レイ「なに?」スッ パサ

シンジ「ここにあった、父さんのメガネケースは」

レイ「……」スルスル

シンジ「どっか別の場所に移動させたの?」

レイ「もう、必要なくなったから」ガララ

シンジ「必要ない? それって――わぁっ⁉︎」

レイ「……」スタスタ

シンジ「あ、ああああっ綾波っ⁉︎ どうして服きてないの⁉︎」

レイ「碇くん」

シンジ「ちょ、待って! なんで⁉︎ 服きてよ!」

レイ「私がイヤ?」

シンジ「嫌とかそんなんじゃ、状況が突然すぎてわけがわからないよ! とにかく前を」

レイ「必要な儀式」

シンジ「ぎ、儀式?」

レイ「生存、種存、存在。この三つにヒトの本能はわけられる。アダムがなぜ破壊衝動を持つか、わかる?」

シンジ「わ、わからないけど」

レイ「ヒトの概念にとらわれてはだめ。アダムに本能があるとすれば、好奇心。欲求を満たすため、それが突発的発作となって顕著になる」

シンジ「どういう関係があるの?」

レイ「私を壊していい」

シンジ「……っ!」

レイ「昨日、なにがあったの?」

シンジ「そ、それは……」

レイ「いい、今から強制的に呼び覚ます」スッ

シンジ「えっ」

レイ「……」ギュッ

シンジ「あ、綾波っ? ……うっ」

レイ(少女)「リラックスして。なにも考えなくていいわ」

シンジ「き、きみは」

レイ(少女)「アダムと対話しなくちゃ。そう、身体で」

シンジ「だ、だめだ……! そんなこと!」

レイ(少女)「ひとつになる。それはとてもとても気持ちのいいこと。碇くんだって、私とひとつになりたいでしょう?」

シンジ「こんなのっ」

レイ「抵抗すれば魂に揺らぎが生じる。苦痛を伴うツライ思いをするだけ」

シンジ「いいよ……! それでも! 大事なのは僕の意思だ!」

レイ「……」スッ

シンジ「ぐっ、はぁはぁっ」

レイ(少女)「頑固ね」

レイ「どうする?」

レイ(少女)「原子と分子の融合の妨げになってしまう。碇くんの自我が保てなくなってしまうわ」

シンジ「綾波、ちゃんと話をするから」

レイ(少女)「経緯はそれほど重要じゃない。私たちが今日、碇くんをここに招待したのは、アダムの状態が次のフェーズに移行すると判断したから」

シンジ「次の?」

レイ「なにがあったの?」

シンジ「母さんから手紙を渡されたんだ。一緒に住んでるマヤさんを犯せって。それで、昨夜、マヤさんと」

レイ「テレビゲームに例えて話をしている時、碇くんはそういう兆候はなかったと言っていたわ。自分の意思で?」

シンジ「最初は、演技って話だったんだ。でも、途中からマヤさんが積極的で……結局、その、最後までしちゃって。だからアダムにそういう力はないのかと疑問に思った」

レイ「なんにせよ、ひとつになったのね」

シンジ「うん、まぁ」

レイ(少女)「アダムの好奇心を満たす行為は異性に対してじゃないとだめなの」

シンジ「……」

レイ(少女)「複雑な構造、難解な数式。緻密なものを解明するだけならありふれてる。“知恵の樹”の話、知ってる?」

シンジ「うん。旧約聖書だよね」

レイ「蛇にそそのかされて、善悪の知恵を得たアダムとイヴは全裸でいることを恥ずかしいと思うようになり――」

レイ(少女)「イチヂクの葉で陰部を隠した。実際は違うわ。知恵の樹があったのは本当」

シンジ「うん」

レイ「知恵を得て、その目の前にはわかりやすく、女性と男性がいた。だから、好奇心は単純に異性へと向けられたの」

シンジ「そ、そうなんだ」

レイ「お互いを貪るように。いくら続けても飽きることはなかった。神が創りたもうた人体、その神秘に触れ、欲深く望んだ」

レイ(少女)「もっと、もっと、もっとって。終わりのない、新しい発見だらけ」

シンジ「……」

レイ「種を残すため、存在を証明し自己を確立し、群れで生活する十八番目の使徒である人類。ことわりが違う」

レイ(少女)「アダムはいうなれば始祖」

シンジ「よく、わからないよ。なにを言ってるのか」

レイ「碇ユイがどういう思惑で碇くんに指示したのかはわからない」

レイ(少女)「はからずも、アダムは性交で得られる喜びを思い出した」

シンジ「つまり、アダムが目覚めようとしてるってこと?」

レイ「段階があると言ったわ。これからは、衝動の頻度が多くなる」

シンジ「そ、そんなっ! 完全に融合しちゃったら僕どうなるのっ⁉︎」

レイ(少女)「碇くんであり、アダムであるモノ」

レイ「私たちが協力すれば“碇シンジ”という個は残る。その為の私」

レイ(少女)「私たちが望むセカイを教える」

レイ「ヒトの未来。可能性の先になにがあるのか、それが知りたい」

レイ(少女)「アダムとリリスの融合によって作られる新セカイではない。あくまでヒトの意思によって形作られた社会」

レイ「碇くんが消えてしまっては、アダムしか残らなくなる」

レイ(少女)「それでは私たちが望む結果にたどり着けはしない」

シンジ「おかしいじゃないか! だって、それって……! サードインパクトを起こすってことじゃないの⁉︎」

レイ「セカンドインパクトが起こった時点で終焉へと向かっているの。ヒトの科学力ではこの困難を耐えきれない」

シンジ「……っ! で、でもっ!」

レイ(少女)「私と私はあなたというヒトに賭けた。あなたが望むのならなんでもしてあげる」

レイ「あなたが生きられるのならなんでもしてあげる」

レイ&レイ(少女)「私にはなにもないもの。私を捧げたってかまわない」

シンジ「む、むちゃくちゃだ! 僕は嫌だ!」

レイ「碇ゲンドウの死。あの直後、碇くんは夢の中で私に見せられたはず」

レイ(少女)「この世界に蔓延る、ウソ、欺瞞、不完全なヒトの形」

レイ「碇くんは唯一にして、完全な個体となる人類の代表」

レイ(少女)「そして、あなたがセカイを創造する」

シンジ「む、無理だよ、そんな、僕には、無理だ」ガタッ

レイ「あなたは選ばれてしまった」

レイ(少女)「理由なんかないわ。あなたは選ばれたの」

シンジ「……」ゴクリ

レイ「私を使う?」

レイ(少女)「うふふっ、私たちには代わりがいるもの。いくらぶつけてもいいのよ。ヒトの身体では耐えきれないことでも――」

シンジ「い、嫌だ、そんなの、う、うわぁああああっ!!」ダダダッ ガチャ バタンッ!!

レイ「あっ」

レイ(少女)「また逃げた。……大丈夫。碇くんは私たちをきっと頼ってくる。そうするしかないから」

新劇は設定がテレビシリーズとかとまったく別物というのを一応
それらを除けばそんな感じです

【第三新東京市 繁華街】

シンジ「はぁっはぁっ」タッタッタッ

カップル男「うぉっ⁉︎」ドンッ

シンジ「あっ、す、すみませ――」

カップル男「いってぇな! よく見ろよ!」ドゴッ

シンジ「うぐっ」ズサ

カップル女「あ~あ、なにも殴らなくたって。……中学生じゃん。大丈夫? ボク?」

カップル男「こいつが悪いだろうが。人混みでよ」

シンジ「……」ムクッ

カップル女「短気な性格なんとかしなさいよねぇ~」

シンジ「すみませんでした」ペコ

カップル男「ち、ったく」

カップル女「まぁまぁ。事故なんだから。ボクも気をつけてね」

シンジ「はい」

カップル男「たこ焼きでも食って帰るか?」

カップル女「なんでデートでたこ焼きなわけ? 炭水化物のかたまりとか」

カップル男「うめぇだろ――うぉっ⁉︎」ドンッ

マナ「大丈夫⁉︎ シンジくん⁉︎」

シンジ「ま、マナ? どうしてここに?」

カップル男「……」プルプル

カップル女「ちょっと、落ち着きなよ」

カップル男「おい、ガキども」

マナ「殴ることないじゃないですか⁉︎」

シンジ「あっ」

カップル男「なんだとぉ? 社会常識知らねーのかよ?」

マナ「いきなり手をあげるあなたに言われたくありません!」

カップル男「俺はなぁ、女にだって容赦しねぇぞ。カミソリのような男だからな」

カップル女「ふるっ。センスが昭和なんですけど」

カップル男「うっせぇっ! お嬢ちゃんよぉ、歯をくいしばれ」

マナ「いやです」

カップル男「な、なに?」

マナ「警察、呼びますよ」

カップル女「ちょっと。もうそれぐらいにしときなってマジで。通行人も足止めて見だしてるし」キョロキョロ

カップル男「警察やギャラリーがなんだっつうんだ! 世の中なめくさってるガキが!」ブンッ

マナ「……っ⁉︎」ギュッ

シンジ「ま、マナっ! ……がはっ」ドサッ

カップル男「おーおー、かわりに殴られるとはねぇ」

マナ「シンジくんっ⁉︎」

ケンスケ「――おまわりさん! こっちです!」

カップル男「げっ⁉︎ まだツレがいたのかよ⁉︎ はやくねぇ⁉︎」

カップル女「もう! だから言ったじゃん!」

警官「こらぁ! なにやってるんだ!」

カップル男「――だから俺は悪くねぇって! 悪いのはそこのガキどもだろーがよ!」

警官「話は交番でゆっくりな」

カップル男「なぁんで俺が⁉︎ 先に仕掛けてきたのこいつらで」

警官「すれ違いざまに肩がぶつかっただけだろう。そうだね?」

ケンスケ「はい! しっかり見てました!」

カップル男「そいつはツレだろう! 公正な判断をしろ!」

警官「ぎゃーぎゃーうるさい。立派な傷害罪にあたる」

カップル女「はぁ……帰ろっかな」

シンジ「あの」

警官「調書を書く必要があるから。キミも同行してもらうよ」

シンジ「いえ、そうじゃなくて。僕も悪かったですから」

カップル男「あ?」

マナ「シンジくん?」

シンジ「お互い様ってことで。その人、離してくれてあげませんか」

警官「そうはいかない。キミ、擦り傷があるじゃないか」

シンジ「ちょっとだけですから」

警官「訴えを取り下げるということかい?」

カップル男「……」

シンジ「はい。それとも罪を犯したことに変わりないなら、そういうの関係ないんですか?」

警官「いや。警察は法を取り締まる番人といわれてるが裁判官や弁護士や検事のような立場じゃない。捕まえるのが専門の仕事だ」

シンジ「はい」

警官「被害届けというものを申請されはじめて動く場合がある。実際に現場を目撃した場合は別だが、喧嘩はその場で示談になることも」

マナ「ねぇ、こういったのはきちんと罰を与えないと。反省するきっかけになるんだよ?」

シンジ「いいんだ。あの、すみませんでした」

マナ「シンジくんっ!」

ケンスケ「はぁ……」

カップル男「まぁ、悪かったな坊主」

カップル女「ここまでの騒ぎにしたのはあんたが悪いの」

カップル男「ちっ」

シンジ「これで、だめですか?」

警察「こっちとしても雑務に追われていてね。いいなら構わないが」

シンジ「だったら、手打ちで」

カップル男「おい、ガキども」

シンジ「はい?」

カップル男「たこ焼き、何味が食いたい」ブスゥ

【近くの公園】

ケンスケ「いやぁ、あのお兄さんも豪気だねぇ! 一人十パックも持たせてくれるなんてさぁ!」ぱくっ

シンジ「うん、そうだね」ガサ

マナ「……」

ケンスケ「食べきれるかなぁ。まぁ、帰って冷蔵庫に入れておけば」

マナ「なんで、あんな風に許しちゃったの?」

シンジ「ん?」

マナ「だって、シンジくんは肩にぶつかっただけじゃない。殴られるなんておかしいよ」

ケンスケ「(惣流に同じことやってるけどねぇ、ま、シンジに関するとなると見境いつかなくなるってのは理解したけど)」

シンジ「悪いと思ってくれたんだよ。だから、こうやって」

マナ「その場しのぎなだけよ! おごって餌付けしてやったからチャラ! 反省はしない! また繰り返すよ⁉︎」

シンジ「……」

マナ「警官がこなかったらどうなってたと……」

シンジ「一方的に痛めつけられてたかもしれないね。でもそうはならなかったよ。今、僕たちはこうしてたこ焼きを食べてる」

マナ「……」

シンジ「展開ひとつ違うだけで、どうなってたかわからないけど……僕に落ち度がなかったわけじゃないし」

マナ「シンジくん……」

シンジ「正解がわからないんだ。なにを選べばいいのか」

ケンスケ「まぁ、シンジは考えすぎなとこあるよ」

シンジ「そうかな」

ケンスケ「霧島もさ。過ぎたことはおしまい。そう割り切らなくちゃ。常に100パーセント正しい判断ができる人間なんかいないよ」

マナ「それは、そうだけど」

ケンスケ「惣流にもさ、ちゃんと話をした方がいいんじゃないか?」

マナ「なんで、いま、そんなこと……」

ケンスケ「それだって次の展開。将来を考えての話じゃないか」

マナ「うぅん」

ケンスケ「“感情”って、厄介だよなぁ。やっちゃいけないってわかってても制御できない」

マナ「見たいから、盗撮するの?」

ケンスケ「うっ! あ、あくまでビジネスだよ!」

シンジ「ぷっ、あはは、そうだなアスカには、落ち着いたら話てみたらいいよ」

ケンスケ「……さっきは、なにを急いでたんだ?」

マナ「綾波さんとなにか?」

シンジ「どうして、それを知って?」

マナ「あっ、えっと、その」

ケンスケ「たまたま一緒に歩いてるとこ見かけたんだよ」

シンジ「そうだったんだ」

マナ「……」ほっ

シンジ「すこし、ショッキングなことを知ってしまって。それで」

ケンスケ「おぉっ! なんだ⁉︎ 綾波になにか隠された事実でもあったのか⁉︎ これはスクープだぞ、ファンクラブの連中に――」

マナ「こぉら」コツン

ケンスケ「いで」

マナ「女の子を詮索してたら本当に嫌われちゃうよ」

ケンスケ「いや、でも。ほしいパーツが」

マナ「お小遣いがほしいなら別の方法にしなよ」

シンジ「これはケンスケにも話することができないんだ」

ケンスケ「ちぇ」

シンジ「(どうせ信じてもらえないだろうし。いや、話すと危険だから。また無関係な人を巻き込んでしまう)」

マナ「あの、私にも?」

シンジ「……ごめん」

マナ「(なにがあったんだろう……)」

ケンスケ「さぁて、そろそろ帰るか。トウジの家によってっておすそ分けでもしてやるかな」

シンジ「あ、それだったら僕のもついでに頼める?」

ケンスケ「いいよ」

シンジ「ありがとう」

マナ「途中まで、送ってくれない?」

シンジ「え? それなら、ケンスケが同じ方向だし」

ケンスケ「僕はトウジに家によるって言ったろ?」

シンジ「あ……」

ケンスケ「(女に恨まれちゃこわいって言うし)」

シンジ「わかった、また明日学校で」

ケンスケ「またな! 霧島! 碇!」

シンジ「……」テクテク

マナ「殴られて、痛かった?」

シンジ「大丈夫だよ、おかげですこし落ち着けた」

マナ「あんなに慌ててるなんて……どうしても、話せない?」

シンジ「うん」

マナ「そっか。……あの、ありがとう。かばってくれて」

シンジ「いいよ、気にしないで」

マナ「シンジくんっていつもそう言うね」

シンジ「……?」

マナ「“気にしないで“って。よく考えたら、それって自分勝手かも」

シンジ「どうして?」

マナ「だって、こっちが気になってることにたいしてもそうでしょう? 優しいけど」

シンジ「僕は優しくなんかないよ。自分のしたいことをしてるだけだから」

マナ「相手が中心にあるか、自分が中心にあるかでそれは違うの。シンジくんから感じるのは、思いやりの気持ち。……あはは、私が良いように考えてるのかな」

シンジ「そんなんじゃ……」

マナ「複雑だよね、人って。同じものでも、捉え方で見てる景色が180度反転する」

シンジ「……」

マナ「シンジくんの、そういうところ、好き、なんだと思う」

シンジ「え?」

マナ「いや、その……ちょっと、いいかなってっていうか。今まで、ガサツな人しかいなかったから」

シンジ「幼馴染の友達は? マナのこと、思いやってくれてたんじゃないの?」

マナ「もちろん。お互いにわかる部分が多いから。阿吽(あうん)の呼吸って感じで……かけがえのない人。でも、なんていうかな、家族みたいな」

シンジ「家族……」

マナ「小さい頃からずっと一緒にいたから。異性としてよりも、いて当たり前の存在になっちゃった」

シンジ「……」

マナ「部隊に配属されて知り合ったのは女の子ばかりだから。……はじめてかも。異性って思える人」

シンジ「僕は……」

マナ「いいの。なにも言わないで」

シンジ「……」

マナ「今は、こうして、はじめての感情があるだけでいい。大切にしたいだけだから――」

ちと間違ったんでレスしなおし

シンジ「……」テクテク

マナ「殴られて、痛かった?」

シンジ「大丈夫だよ、おかげですこし落ち着けた」

マナ「あんなに慌ててるなんて……どうしても、話せない?」

シンジ「うん」

マナ「そっか。……あの、ありがとう。かばってくれて」

シンジ「いいよ、気にしないで」

マナ「シンジくんっていつもそう言うね」

シンジ「……?」

マナ「“気にしないで“って。よく考えたら、それって自分勝手かも」

シンジ「どうして?」

マナ「だって、こっちが気になってることにたいしてもそうでしょう? 優しいけど」

シンジ「僕は優しくなんかないよ。自分のしたいことをしてるだけだから」

マナ「相手が中心にあるか、自分が中心にあるかでそれは違うの。シンジくんから感じるのは、思いやりの気持ち。……あはは、私が良いように考えてるのかな」

シンジ「そんなんじゃ……」

マナ「複雑だよね、人って。同じものでも、捉え方で見てる景色が180度反転する」

シンジ「……」

マナ「シンジくんの、そういうところ、好き、なんだと思う」

シンジ「え?」

マナ「いや、その……ちょっと、いいかなってっていうか。今まで、ガサツな人しかいなかったのもあって」

シンジ「幼馴染の友達は? マナのこと、思いやってくれてたんじゃないの?」

マナ「もちろん。お互いにわかる部分が多いよ。阿吽(あうん)の呼吸って感じで……かけがえのない人。でも、なんていうかな、家族みたいな」

シンジ「家族……」

マナ「小さい頃からずっと一緒にいたもん。異性としてよりも、いて当たり前の存在になっちゃった」

シンジ「……」

マナ「部隊に配属されて知り合ったのは女の子ばかりで。……はじめてかも。異性って思える人」

シンジ「僕は……」

マナ「いいの。なにも言わないで」

シンジ「……」

マナ「今は、こうして、はじめての感情があるだけでいい。大切にしたいだけだから――」

【マヤ宅 リビング】

シンジ「僕がですか?」

マヤ「たまには、人の作った料理食べてみたいって思って。だめ?」

シンジ「かまわないですよ。なにかリクエストあります?」

マヤ「シンジくんの得意なやつがいいかな」

シンジ「得意な……」

マヤ「和でも洋でも中でも。まかせる」

シンジ「わかりました。早速、とりかかりますね」

マヤ「あっ、ちょっと待って」スッ

シンジ「……?」

『今、電波遮断できる?』

シンジ「(紙に書いてるのは……うーん、あまりやりすぎたら怪しまれちゃうだろうし、どうしようかな。……大事な話かもしれない、よし)」

マヤ「……」

シンジ「ふぅ、今度はうまくできたみたいだ。どうしたんですか?」

マヤ「それって、身体に負担がかかるの?」

シンジ「まったくないってわけじゃありません」

マヤ「手短に済ませるね。聞きたいことがあったの。あの、シンジくんのその瞳。もしかして、ネルフに非人道的な実験で……」

シンジ「言えません」

マヤ「聞きたいの。私の意思よ」

シンジ「でも、これ以上知ってしまえば」

マヤ「危険になる。わかれば司令になにをされるか……それは理解してる。でも、それでも、ネルフが裏でなにをしようとしているか……知りたい」

シンジ「突然、どうしたんですか」

マヤ「考えてみた。どうしたらいいかなって。でも、考えても考えてもなにもわからない。与えられた責務に対して、疑問を抱かず、正しいことをしてるってやってきた」

シンジ「……」

マヤ「――空っぽ、だった。仕事に求めてたのは、安心と安らぎ。業務を通して、ちゃんと人並みの生活ができてるっていう安心感を得られてただけ」

シンジ「僕からは言えません」

マヤ「自分で調べる」

シンジ「えっ」

マヤ「シンジくんが教えてくれないなら。そっちの方が危険よ?」

シンジ「そ、そんな……」

マナ「私だって無駄に歳を重ねてるわけじゃないから。こういった狡猾さを身につけてるのよ」

シンジ「……」

マヤ「あなたの力になりたいのよ。シンジくん」

シンジ「僕の、力になりたいから?」

マヤ「ええ」

シンジ「だったら、こうして一緒に住んでくれてるだけで」

マヤ「相手は総司令という立場にいる人。ひいてはネルフという組織そのものでしょう? シンジくんがなにかに抵抗しようとしてる。そんなの見てれば気がつく」

シンジ「……」

マヤ「味方は多い方がいい、それも絶対に裏切らない人。そう思わない?」

シンジ「そう、ですけど」

マヤ「お願い、話して。ネルフはシンジくんに……なにをしたの? どうして赤い瞳なの?」

シンジ「言えません」

マヤ「そう……ふぅーん、わかった。じゃあ」

シンジ「ただ、全てをという意味です。自分で調べないという条件を飲んでくれるなら、どうして赤い瞳になったのかは教えます」

マヤ「わかった。今一番知りたいのってそこだから」

シンジ「次から次に疑問がでてくるかもしれません。そうなったとしてもですよ」

マヤ「……了解」

シンジ「ふぅ……瞳が赤くなってるのは、力を使ってるせいです。なぜかはわからない。力を使うとこうなるとしか」

マヤ「気がついたんだけど。レイに似てるって」

シンジ「(綾波はリリスの魂の容れ物だからねぇ。アダムに頼り力を発動してる状態の僕と……でも、それを話すことはできない)」

マヤ「シンジくん?」

シンジ「すこし、グロテスクなものを見せます」スッ

マヤ「あ、やっぱりその、手」

シンジ「昨日、包帯をとっちゃいましたから。今はもう任意で出し入れできるようになったんですけど、これのせいです」

マヤ「なに、それ? 胎児みたいな形してる」

シンジ「マヤさんが危険な目にあいそうになったあの日。お風呂場で見ましたね、これを」ニギ ニギ

マヤ「ええ」

シンジ「移植されたんです。ほんの一週間ぐらい前。それからしばらくして、力が使えるようになり、発動するときだけ、瞳がこの色に」

マヤ「移植って? 遺伝子操作を行った改造人間のようなものじゃないの?」

シンジ「そんなんじゃありませんよ。僕という個人に別の異物がはいりこんでる状態です」

マヤ「(DNAからいじってるのかと思ったけど、そうじゃないもの調べてたのね、私)」

シンジ「これだけです」

マヤ「待って。それの正体は?」

シンジ「……」

マヤ「そこまで聞いたらいい。お願い」

シンジ「使徒です」

マヤ「なっ⁉︎」ガタッ

シンジ「……」

マヤ「使徒⁉︎ 使徒が手のひらに⁉︎ う、嘘でしょっ⁉︎」

シンジ「本当の話です。だから、人では使えない力が使えます」

マヤ「し、信じられない。人体への影響は? そんなことが可能なの……」

シンジ「僕は僕のままでいられてます」

マヤ「それじゃあ――」

シンジ「質問はここまで。約束でしたよ」

マヤ「……」

シンジ「自分で調べるなんてマネもしないでください」

マヤ「……わかった。約束、だもんね。でも、平気なの? その、本当に、体調とか」

シンジ「今のところは。衝動もそのせいで」

マヤ「使徒の仕業だったの。だから……でも、司令がそう命令して」ブツブツ

シンジ「そろそろつらくなってきました。お話はそれぐらいでいいですか?」

マヤ「ごめんなさい、つらい思いをさせて」

【第三新東京都市 弐号機 格納庫】

カヲル「赤く染め上げられた拘束具、まるで道化師。……この子の魂は殻に閉じこもったままなのか」

ユイ「キレイでしょう」コツコツ

カヲル「……」

ユイ「夜更けになんのご用?」

カヲル「アダムから産まれたコレを見にきたくて」

ユイ「あなたにとっては、ただの模造品でしょ? デッドコピーと言うべきかしら。構造について興味があるの?」

カヲル「面白い。そんなところかな」

ユイ「好奇心、ね。アダムの魂、生き写しなだけはある」

カヲル「……」

ユイ「昼間の使徒へは静観の構えとします」

カヲル「なぜ?」

ユイ「バカバカしいからよ。過剰防衛をするのが。あなたのいたずら……火遊びだった? 付き合うのなんて嫌」

カヲル「そうやすやすと騙されてくれないね」

ユイ「人は、使徒だけじゃない。多くの脅威に晒されている。それでも、破滅するとわかっていながら尚、歯車を止められない」

カヲル「愚かだ。使徒というわかりやすい外敵が襲来しても、各地で起こる紛争、代理戦争は止むことを知らない」

ユイ「そう仕向けられてるから。情報操作、プロパガンダをばらまいて意図的に大衆を誘導し、操作している」

カヲル「情報化社会の弊害だね。あらゆる方向性から正しいと思うことは歪められ、また、常に変化し、狂う」

ユイ「13年前、葛城調査隊に発見されてからロンギヌスの槍を使用して……バラバラにされた記憶はあるの?」

カヲル「いいえ。目が覚めたら、というよりも意識があるのはこの肉体の中だけ」

ユイ「シンジの中にある、再構築したアダムは?」

カヲル「そのものだよ。使徒のもつ特殊能力、その中でもとりわけ神に近しい存在であるアダムにとって再生など造作もない」

ユイ「初号機もできるでしょうね」

カヲル「あの紫色の機体はリリスをベースに改修しているんだったね」

ユイ「シンジ同様、初号機も実物に近しいモノよ」

カヲル「しかし、オリジナルのリリスはここの地下奥深くに……」

ユイ「……」

カヲル「――……まさかっ⁉︎ そうか、そういうことか」

ユイ「核心とも言える部分を告げたのには理由があります」

カヲル「……」

ユイ「私達の眼前にいる弐号機パイロットであるセカンドチルドレン。彼女を、殺めてほしいの」

カヲル「あなたの権限を使えば赤子の手をひねるよりも簡単に遂行できるでしょう」

ユイ「シンジに悟られるわけにはいかない」

カヲル「……」

ユイ「あくまで、あなたがやったと思わせる」

カヲル「予定を繰り上げるつもりか」

ユイ「局面を分ける一手。そのひとつを打つ時がきたのです」

【翌日 ミサト宅 リビング】

アスカ「ふぁ~ぁ。ねむぅ」

ミサト「どひゃー! 寝坊しちったぁ!」ガタガタ

アスカ「……ごはん、炊飯器」カパッ

ミサト「化粧ポーチどこやったっけぇ! アスカぁ~! 見てない~?」

アスカ「んぁ?」

ミサト「だぁ! だめだこりゃ、えーと、ここでもないそこでもない……あった!」

アスカ「間に合うの?」

ミサト「車の中で化粧するわ! 今日は絶対に遅刻できない日なのよ!」

アスカ「遅刻していい日なんてあんの」

ミサト「言葉のあやでしょーが! っと、いけない! 戸締りあとよろしくぅ!」シュタ

アスカ「おかず、おかず」

ペンペン「クェー」

アスカ「ペンペンのも……」

ペンペン「クェッ! クァーッ!」クイクイ

アスカ「はいはいわかったから。慌てなさんなって。食い物は逃げやしない――」

ペンペン「クェー!」コト

アスカ「あんた! その人形どこから……あたしの部屋に入ったのね!」パチン

ペンペン「……クェー」

アスカ「っとに、油断も隙もあったもんじゃない、シャチの群れの中に放りこむわよ」

ペンペン「クェッ⁉︎」ガタガタ

アスカ「ママ? 大丈夫?」ヒョイ

ペンペン「クェー?」

アスカ「これはね、ママからもらった大切な大切な形見なの。いい? わかった?」

ペンペン「クェッ!」ビシッ

アスカ「返事だけはいっちょまえなんだから。本当にわかってんの? ……ペンギンに言うのも変な話か」

ペンペン「クェー!」

【早朝 下駄箱】

アスカ「……?」スッ

ヒカリ「あっ、アスカも今ついた所? おはよう」

アスカ「おはよ」

ヒカリ「手に持ってるのって、手紙? ラブレター?」

アスカ「下駄箱っていうおあつらえ向きのシチュエーションじゃそうなんじゃない? 中身は読んでないけど」

ヒカリ「わぁ、すごいな。あれ? でも転校してきた頃は連日そうだったような」

アスカ「最近はめっきり数減ったわね」

ヒカリ「それ、読むの?」

アスカ「捨てようかと」

ヒカリ「せっかくだし目を通すだけでもしてあげたら? 気持ちがこもってるのに」

アスカ「なんか、呪われそう」

ヒカリ「そう?」

アスカ「顔もわからない相手に想われてるってだけで気味が悪いもんでしょ、普通は」

ヒカリ「アスカはモテてるから。モテない人の気持ちがわからないんですよーだ」

アスカ「ヒカリは得体の知れない相手からもらって嬉しいの?」

ヒカリ「あ、相手によるかな?」

アスカ「ふぅ~ん」

ヒカリ「恋愛は、してみたいし……」

アスカ「じゃあ、いる? これ」

ヒカリ「なんでそういう話になるのよ! アスカ宛てでしょ!」

アスカ「案外わかんないかも」

ヒカリ「わかるわよ! どう見たら間違えるの!」

アスカ「じょーだんだって」

ヒカリ「もう! 私だって、いいなって想う人、いないわけじゃないし」ボソ

アスカ「なんか言った?」

ヒカリ「ううん、なんでもない。それより、どうするか決めた?」

アスカ「はいはい。読めばいいんでしょ、読めば。こんなの書いてあるのといえば決まり文句よ。どうせお世辞、一目惚れ、告白――」ガサガサ

ヒカリ「読んできちんとお断りすればいいじゃない」

アスカ「……これって……」

ヒカリ「どうしたの?」

アスカ「いつ? いつ下駄箱にいれたの?」キョロキョロ

ヒカリ「アスカ?」

アスカ「なんでもない。ヒカリ、今日の昼休みは一人でご飯食べてくれない?」

ヒカリ「いいけど……大丈夫? 顔色、悪いよ?」

アスカ「平気」グシャ

【ネルフ本部 模擬体室】

マコト「ポジトロンスナイパーライフルの実機データ、入力完了。仮想敵、スタンバイ」

シゲル「了解。シミュレーションシステム、スキャンのプロセスを335までを省略」

マヤ「……」

マコト「おい、マヤちゃん」

マヤ「あっ、りょ、了解です。データローディング開始します」

リツコ「レイ? 調子は?」

レイ『問題ありません』

リツコ「大丈夫、プログラムの指示通りにやればいい。ディスプレイにターゲットがでたら、射撃ボタンを押して。なるべく早く、できる限り直感的にね」

レイ『はい』

リツコ「テストスタート」

マコト「20秒前、テンカウントよりはじめます」

マヤ「了解」

シゲル「15秒前」

マコト「10秒前……9.8.7.6.5.3……――投影開始」

レイ『……』カチ

リツコ「……? どうなってるの? なにも反応がないわ」

マヤ「待ってください。システムコード、エラー。プログラムが強制終了しています」

リツコ「バグ? エラーコードは?」

マコト「E1056辺りで……」

リツコ「躓く箇所ではないはず」

シゲル「だとすれば、物理的なパーツの劣化かな。コンデンサがショートしているのでは?」

リツコ「メンテナンスは怠らないように言ってあるのに。主要製品ラインの部署に至急、確認をとって」

マコト「了解」

レイ『(電子機器に干渉してる。来るのね、彼)』

【第壱中学校 教室 昼休み】

アスカ「……」スッ スタスタ

トウジ「なんか今日はピリピリしとらんか。あいつ」

ヒカリ「鈴原……。やっぱり、わかる?」

トウジ「なんとなくなぁ。眉間にこぉ~んなしわよっせたら誰でも気がつくわい」

シンジ「どうしたの? トウジ。購買のカツサンド売り切れちゃうよ」

トウジ「訂正。シンジ以外はな」

シンジ「なんだよ、いきなり」

ヒカリ「あの、碇くん」

シンジ「……?」

ヒカリ「アスカの、様子がおかしいの」

シンジ「そうなの? 僕は気がつかなかったけど」

トウジ「まぁいっつも顔つき合わしとるからのぉ」

ヒカリ「今朝、下駄箱に手紙があって。それから様子が変なの」

シンジ「手紙?」

ケンスケ「ラブレターかぁ?」

ヒカリ「余計な横槍いれないでよ。うん、なんだか顔色が悪くて」

シンジ「ふぅーん」

ヒカリ「――あの、もしよかったら」

シンジ「……!」キョロキョロ

トウジ「おっ、なんや? ハエでも飛んどったんか」

シンジ「(この感じ。これは、アダムの……)」

マナ「シーンジくん! 一緒にお昼」

シンジ「みんなごめん、僕、ちょっと用事できたから」タッタッタッ

マナ「って……」

ヒカリ「碇くん!」

ケンスケ「なんだぁ、あいつ?」

トウジ「腹でも痛くなったんちゃうか」

マナ「……」シュン

トウジ「ところで霧島さま! そのお弁当はもしかして余ってしまったりするのでしょーか!」

マナ「え? これ?」

トウジ「はい!」

ヒカリ「あ、す、鈴原。もしよかったら」

マナ「あげないわよーだ! べーっ!」

トウジ「そんなご無体な!」

ヒカリ「だから、私の……」

ケンスケ「青春だねぇ」

【体育館裏】

アスカ「どういうつもり⁉︎」

カヲル「……」スッ

アスカ「見ない顔ね……? 別のクラス? 上級生かしら。どうでもいいわ。この手紙!」ブンッ ポイッ

カヲル「気に入ってくれたかい?」

アスカ「“ママについて知りたければ来い”ですって⁉︎ あんた、何者よ!」

カヲル「その質問でいいの?」

アスカ「……?」

カヲル「この場合、目的と動機。この二つに分けられるんじゃないかな。キミが知りたいのは、ボクが何者であるのか。それを知りたいと?」

アスカ「なに言ってんの、こいつ。……さては、戦自? どうりで見ない顔だわ」

カヲル「ボクの質問にまだ答えていないよ」スタスタ

アスカ「そんな必要ないわ。もう我慢ならない、とりあえず、ママを引き合いにだしたあんたは」

カヲル「……」トンッ ビュ

アスカ「――っ⁉︎ なに、はやっ⁉︎」

カヲル「ここまでノコノコとやってきて減らず口ばかり」ガシッ

アスカ「がっ、かはっ⁉︎」

カヲル「驚いたかい? この肉体は容れ物とはいえ、人間相手ならこの程度。キミは最初の質問で“ボクが何者か”ではなく、“ボクがなにをしにきたのか”を聞くべきだったんだ」ググッ

アスカ「(ぐっ、この力、やばっ、首をしめられ)」

カヲル「そうしたら――キミを殺しにきたと教えて逃げられたかもしれないのに」

アスカ「うっ! ぐっ」ブンッ

カヲル「おっと。威勢がいいね、呼吸もままならないだろうに、膝蹴りとは。はやく苦しみから解放されるよう首の骨を折って――」

シンジ「アスカッ!!」

アスカ「し、ん……」

カヲル「そうか、やはり共鳴したのか」

シンジ「か、カヲルくん⁉︎ な、なにやってるんだよ!」

カヲル「見ての通りだよ、待ってて、もうすぐ終わる」ググッ

アスカ「あぁぁっ、うっ」ミシ

シンジ「や、やめてよ! カヲルくん!」ダッダッダッ ドンッ

カヲル「……」ヨロ

アスカ「げほっ、げほっ、おぇ、おぇえっ」

シンジ「アスカ、大丈夫?」スッ

カヲル「急激に酸素を吸い込むからそうなる。それは賢い選択とは言えないな」

アスカ「ぜぇ、ぜぇ」ギロッ

カヲル「シンジくん、無用な情けは彼女を苦しめるだけだよ。ラクに死なせてあげなくちゃ」

シンジ「どうしてこんなこと」

カヲル「ボクはね、彼女を殺しにきたんだ」

シンジ「……⁉︎ き、キミがなにを、言ってるのかわからない、がはっ!」ズザザー

カヲル「まだ回復するまでに時間がかかる。そうだろ? 惣流・アスカ・ラングレー」

アスカ「……」チラ

シンジ「うっ、ぐっ」

アスカ「蹴りだけであんなに飛ぶもんなのね。シンジがいくらヤワといってもありえない」

カヲル「彼に危害を加えるつもりはなかったんだ、ただ、邪魔だからね」

アスカ「(ちくしょう、足に力がはいらない……!)」グッ

カヲル「言ったはずだよ」スッ ガシッ

アスカ「あうっ」

カヲル「キミになにか恨みがあるわけじゃない。だから、苦しませずに送ってあげたいんだ」

アスカ「じょ、じょーだんじゃないわ。私は死なない! 死んでたまるもんか!」

カヲル「残念だけど、ここで死ぬんだ。そして、シンジくん。キミは自分の無力さを呪うがいい」

シンジ「あす、かぁっ!」ググッ

アスカ「なにそれ、当て馬みたいじゃない」

カヲル「聞いていた通り。察しは悪くないみたいだね、残念だ」

アスカ「うっ!」

カヲル「……」ググッ

アスカ「(こんな呆気なく、突然、終わり? 私の人生、こんなとこで……)」

シンジ「……!」

アスカ「(こんな、こと、なら、もっといろ、いろ……やっときゃ、よかった。加持さんと)」

シンジ「アスカ……!」ヨロヨロ

アスカ「(――い、しき、視界、ぼや、け……ま、ママァ)」

シンジ「は、離せ!」

カヲル「……っ⁉︎」ピクッ

シンジ「――アスカを、離せっっ!!」ダッダッダッ

カヲル「くっ」パッ

アスカ「うっ」ドサ

シンジ「そこだ!」ブンッ

カヲル「なにっ⁉︎」ドンッ

アスカ「げほっ、げほっ、うっ、げほっ」

シンジ「はぁっはぁっ」

アスカ「し、シン……ジ?」

カヲル「驚いた。まさかこんなにも同化が進んでるとは。……容れ物のボクと、オリジナルのキミ。肉体の差か。まんまとマウントをとられてしまったよ」

シンジ「……」ガシッ

カヲル「それで? 馬乗りになってどうするつもりなんだい?」

アスカ「はぁ、はぁ、うっ、けほっ」

シンジ「よくも、よくも」ゴス ゴス ゴス

カヲル「……っ! ぐっ、がっ」

シンジ「くっ、クックックッ」ゴス ゴス ゴス

アスカ「ちょ、ちょっと、シンジ」

シンジ「よくも、ヤッタナ! 容れ物の分際デ!」ゴス ゴス ゴス

カヲル「……」ピクッ ピクッ クテ

アスカ「ま、まずい⁉︎ シンジ! やめなさいよ!」

シンジ「取れないんだよ、L.C.Lの血の匂いが!」

アスカ「シンジ! あたしはもう大丈夫だから! それ以上はだめ! シンジったら!」

シンジ「いつもいつもいつも、関係ない人を巻き込んで! なんでいつも僕ばっかり!!」ゴス グシャ ゴス

アスカ「(くっ、足、動け、動け動け動け)」ヨロヨロ

シンジ「もうたくさんなんだ! 誰かが死ぬのは! なんで僕をこんな目に! どうして!!」ゴスッ ゴスッ

アスカ「シンジっ! やめて!!」ヨロリ ドサ

シンジ「はぁ、はあっ……アスカ?」ピタッ

アスカ「そうよ、私よ。大丈夫だから」ほっ

シンジ「いや、違う」

アスカ「……?」

シンジ「ボクは、ダレだ? 僕は、僕は」

アスカ「し、シンジ? あんた、一体、瞳の色……」

カヲル「そのまま衝動に身を任せていればいいのに」

シンジ「……!」ギョ

カヲル「詰めが甘い」グッ

シンジ「がはっ!」

アスカ「う、うそぉっ⁉︎ な、なんで⁉︎ 顔面血だらけなのよ⁉︎」

カヲル「僕にとっては、死はなにもこわくないんだ。生と死は等価値ではないからね。痛みも」

アスカ「こ、こいつ、なんなの」

カヲル「未知の領域だろうね。キミには。だけど、ほら。片割れである彼にとっては――」

シンジ「……」ムクッ ユラァ

カヲル「そう来なくちゃ」

シンジ「――はぁぁぁっ!!」ズザザー

カヲル「(その調子、勢いに身を任せてるんだ。シンジくん)」

シンジ「うぁぁあああっ!!」ゴンッ

カヲル「っ!」ドガシャァ

アスカ「扉が。て、鉄製なのよ、それ。こ、こんなの、人間の力じゃ」

カヲル「ふふっ」

シンジ「はぁっ、はぁっ」

カヲル「冷静に見ればまだ弱い。それでもアダムの鼓動を脈々と感じる」ガシッ

シンジ「うっ」

カヲル「スタミナの面に課題が残るね。まぁ、それもゆくゆくは解消されるだろうけど。どうだい? 人にして人ならざる者へと変わっていく心境は」

シンジ「き、気持ち悪いだけ、だ」

カヲル「手に有り余る力だから? 使いようによっては、リリンが用いる科学よりも強力だよ」ググッ

シンジ「ぐっ!」ミシ

カヲル「もっとも、今のままじゃ単なる強力なイチ兵士といった程度か。うん、気が変わった」

シンジ「な、なにを……言って」

カヲル「ボクを彼女を[ピーーー]。その目的に変化はない。だけど、過程を楽しもうと思う」チラッ

アスカ「……!」

カヲル「シンジくんが彼女を守るんだ」

シンジ「……?」

カヲル「そこのキミ。今後は僕に殺されないように気をつけて。あぁ、ちなみに誰かに喋った場合は即座に[ピーーー]。ボクには契約があるから」

アスカ「脅し?」

カヲル「事実だよ、これは。試してみるかい? 命がけで」

アスカ「……」

カヲル「三人だけの秘密にしよう。さて、そろそろ騒ぎを聞きつけて人が集まってきそうだ」パッ

シンジ「うっ」ドサッ

カヲル「ボクにもシンジくんの可能性を見せてほしい。ああ、今わかった。ボクはキミに会うために生まれてきたんだね、ええと、ハンカチは、と」フキフキ

アスカ「……」

カヲル「また今度会おう」スタスタ

コマンドは発動してるんでレスしなおし

シンジ「――はぁぁぁっ!!」ズザザー

カヲル「(その調子、勢いに身を任せてるんだ。シンジくん)」

シンジ「うぁぁあああっ!!」ゴンッ

カヲル「っ!」ドガシャァ

アスカ「扉が。て、鉄製なのよ、それ。こ、こんなの、人間の力じゃ」

カヲル「ふふっ」

シンジ「はぁっ、はぁっ」

カヲル「冷静に見ればまだ弱い。それでもアダムの鼓動を脈々と感じる」ガシッ

シンジ「うっ」

カヲル「スタミナの面に課題が残るね。まぁ、それもゆくゆくは解消されるだろうけど。どうだい? 人にして人ならざる者へと変わっていく心境は」

シンジ「き、気持ち悪いだけ、だ」

カヲル「手に有り余る力だから? 使いようによっては、リリンが用いる科学よりも強力だよ」ググッ

シンジ「ぐっ!」ミシ

カヲル「もっとも、今のままじゃ単なる強力なイチ兵士といった程度か。うん、気が変わった」

シンジ「な、なにを……言って」

カヲル「ボクを彼女を[ピーーー]。その目的に変化はない。だけど、過程を楽しもうと思う」チラッ

アスカ「……!」

カヲル「シンジくんが彼女を守るんだ」

シンジ「……?」

カヲル「そこのキミ。今後は僕に殺されないように気をつけて。あぁ、ちなみに誰かに喋った場合は即座に[ピーーー]。ボクには契約があるから」

アスカ「脅し?」

カヲル「事実だよ、これは。試してみるかい? 命がけで」

アスカ「……」

カヲル「三人だけの秘密にしよう。さて、そろそろ騒ぎを聞きつけて人が集まってきそうだ」パッ

シンジ「うっ」ドサッ

カヲル「ボクにもシンジくんの可能性を見せてほしい。ああ、今わかった。ボクはキミに会うために生まれてきたんだね、ええと、ハンカチは、と」フキフキ

アスカ「……」

カヲル「また今度会おう」スタスタ

ちょっと前まではsagaで大丈夫だったのにダメになってる

ちょいテスト

殺す

シンジ「――はぁぁぁっ!!」ズザザー

カヲル「(その調子、勢いに身を任せてるんだ。シンジくん)」

シンジ「うぁぁあああっ!!」ゴンッ

カヲル「っ!」ドガシャァ

アスカ「扉が。て、鉄製なのよ、それ。こ、こんなの、人間の力じゃ」

カヲル「ふふっ」

シンジ「はぁっ、はぁっ」

カヲル「冷静に見ればまだ弱い。それでもアダムの鼓動を脈々と感じる」ガシッ

シンジ「うっ」

カヲル「スタミナの面に課題が残るね。まぁ、それもゆくゆくは解消されるだろうけど。どうだい? 人にして人ならざる者へと変わっていく心境は」

シンジ「き、気持ち悪いだけ、だ」

カヲル「手に有り余る力だから? 使いようによっては、リリンが用いる科学よりも強力だよ」ググッ

シンジ「ぐっ!」ミシ

カヲル「もっとも、今のままじゃ単なる強力なイチ兵士といった程度か。うん、気が変わった」

シンジ「な、なにを……言って」

カヲル「ボクを彼女を[ピーーー]。その目的に変化はない。だけど、過程を楽しもうと思う」チラッ

アスカ「……!」

カヲル「シンジくんが彼女を守るんだ」

シンジ「……?」

カヲル「そこのキミ。今後は僕に殺されないように気をつけて。あぁ、ちなみに誰かに喋った場合は即座に[ピーーー]。ボクには契約があるから」

アスカ「脅し?」

カヲル「事実だよ、これは。試してみるかい? 命がけで」

アスカ「……」

カヲル「三人だけの秘密にしよう。さて、そろそろ騒ぎを聞きつけて人が集まってきそうだ」パッ

シンジ「うっ」ドサッ

カヲル「ボクにもシンジくんの可能性を見せてほしい。ああ、今わかった。ボクはキミに会うために生まれてきたんだね、ええと、ハンカチは、と」フキフキ

アスカ「……」

カヲル「また今度会おう」スタスタ

何回か使ってたらアウト?

テスト

殺す
殺す
殺す

あー、わかった!天然ボケかましてました!
ピーがはいった本文をコピペしてたからそのまんまだっただけでした!w

シンジ「――はぁぁぁっ!!」ズザザー

カヲル「(その調子、勢いに身を任せてるんだ。シンジくん)」

シンジ「うぁぁあああっ!!」ゴンッ

カヲル「っ!」ドガシャァ

アスカ「扉が。て、鉄製なのよ、それ。こ、こんなの、人間の力じゃ」

カヲル「ふふっ」

シンジ「はぁっ、はぁっ」

カヲル「冷静に見ればまだ弱い。それでもアダムの鼓動を脈々と感じる」ガシッ

シンジ「うっ」

カヲル「スタミナの面に課題が残るね。まぁ、それもゆくゆくは解消されるだろうけど。どうだい? 人にして人ならざる者へと変わっていく心境は」

シンジ「き、気持ち悪いだけ、だ」

カヲル「手に有り余る力だから? 使いようによっては、リリンが用いる科学よりも強力だよ」ググッ

シンジ「ぐっ!」ミシ

カヲル「もっとも、今のままじゃ単なる強力なイチ兵士といった程度か。うん、気が変わった」

シンジ「な、なにを……言って」

カヲル「ボクを彼女を殺すよ。その目的に変化はない。だけど、過程を楽しもうと思う」チラッ

アスカ「……!」

カヲル「シンジくんが彼女を守るんだ」

シンジ「……?」

カヲル「そこのキミ。今後は僕に殺されないように気をつけて。あぁ、ちなみに誰かに喋った場合は即座に殺す。ボクには契約があるから」

アスカ「脅し?」

カヲル「事実だよ、これは。試してみるかい? 命がけで」

アスカ「……」

カヲル「三人だけの秘密にしよう。さて、そろそろ騒ぎを聞きつけて人が集まってきそうだ」パッ

シンジ「うっ」ドサッ

カヲル「ボクにもシンジくんの可能性を見せてほしい。ああ、今わかった。ボクはキミに会うために生まれてきたんだね、ええと、ハンカチは、と」フキフキ

アスカ「……」

カヲル「また今度会おう」スタスタ

できましたね。お騒がせしました。

【数十分後 保健室】

アスカ「ねぇ」ギシ

シンジ「……ん?」

アスカ「あいつ、なんなの?」

シンジ「さぁ」

アスカ「さぁ⁉︎ さぁと言った⁉︎ 殺されかけたのよ! ついさっき!」ガバッ

シンジ「(アダム。綾波と同じ……手のひらにあるのは魂が空っぽだったのか)」

アスカ「あんたもどーなってんの⁉︎」

シンジ「どう話せばいいか」

アスカ「はぁ……」ポフッ

シンジ「アスカ……?」

アスカ「さっき、本気で終わったと思った、あたし」

シンジ「ご、ごめん。巻き込んで」

アスカ「目的、なんなの?」

シンジ「わからない」

アスカ「またそれ」

シンジ「本当なんだ。目的がわからないのは。どうしてアスカを狙うのか」

アスカ「こういうのは、順序立てて考えてくもんよ」

シンジ「……」

アスカ「助かった。今はそれだけで満足してあげる」

シンジ「うん」

アスカ「でも、思考が落ち着いたら洗いざらい全部話しなさい。バカシンジだけじゃ心許ないから」

シンジ「う、うーん、それは」

アスカ「どうせいつものことだからウジウジ悩んでんでしょ? なに抱えてたか聞くのは」

シンジ「……」

アスカ「それから……ええい、今はいいや。少し眠りましょ」

シンジ「首、大丈夫?」

アスカ「ん。数日ぐらい痕になるかもしれない。湿布で隠しとく」

シンジ「ミサトさんへの言い訳考えなくちゃね」

アスカ「そうね。あいつへの復讐も」

シンジ「ふ、復讐って」

アスカ「やられっぱなしじゃ気が済まない。泣き寝入りなんてごめんよ」ゴロン

【ネルフ本部 執務室】

ユイ「――失敗したですって⁉︎」バンッ

カヲル「はい」

ユイ「どういうつもり⁉︎ 契約を違えるつもりなの⁉︎」

カヲル「いいえ」

ユイ「バカにしてるの⁉︎」カシャン ブンッ

カヲル「万年筆は投げるものではありませんよ」パシ

ユイ「今すぐ戻って息の根を――」

カヲル「シンジくんとアダムの融合速度が想定を上回っています」

ユイ「……⁉︎ シンジの?」

カヲル「そういった事態は伺っていませんよ。あなたの落ち度です」

ユイ「邪魔がはいったのね? 細胞の活性化ができるようになっているの?」

カヲル「間違いなく。どういう仕組みで肉体が強化されるか気がついていないようですが」

ユイ「無意識?」

カヲル「(意図的だよ)」

ユイ「そう。既にそこまで……」

カヲル「誰もが持つ心の壁。A.Tフィールド。法則に辿り着くのも時間の問題かと」

ユイ「まずいわ。それは」

カヲル「リリンを超越した存在になりつつある。精神が未熟な中学生といっても脅威だ。わかりやすく言うと、ボクのような無から造られた人工物と違い、人と使徒のハイブリッド的存在だからね」

ユイ「……」

カヲル「いかように?」

ユイ「話をする必要はありません。あなたは契約を全うしなさい」

カヲル「ボクは自分の役割を――」

ユイ「私は次の手を打ちましょう」

【数十分後 エレベーター内】

ユイ「分子成形、侵食スピードが常軌を逸しています。こちらが予測していた日数よりも遥かにはやい」

冬月「我々は前例にないことをやろうとしている。多少のズレはいたしかたあるまい」

ユイ「……」

冬月「アダムにとっても刺激的だったのやもしれぬな」

ユイ「使徒は学習し、知恵を身につけます。これまで襲来した特徴をとっても、外見、能力、それぞれが失敗と不満点を改善しようとしている」

冬月「自立志向型の考えを元に成り立つ。おかしいのは魂が空っぽであるにもかかわらず、どうやって肉体強化を」

ユイ「人は無から魂を作れない。神ではありませんのよ。“残り香”。魂をタブリスに移したのではありません。――厳密に言えば、“分けられた状態”なのです」

冬月「そうだとしても、サードチルドレンの内にある魂はしぼりカスではないのか?」

ユイ「原初の時代の遺物に確認しに向かっています」

冬月「ふっ、少なからず動揺しているのか。そんなに息子を心配せずとも」

ユイ「急展開になろうとしているかもしれないのです」

冬月「……?」

ユイ「もし、もし、肉体だけでなく、アダムそのものが再構築されているのなら――」

冬月「なに? もしや、魂の再生? そんなことは、まさか」

ユイ「本件は無用なパニックを避けるため、あらゆる角度からシンジの状態を分析する目的があります。パンドラの箱、我々は禁忌の領域を侵害している。忘れないで」

冬月「いかんな。完全な使徒として活動しだすとなれば人の脆弱な自我の容量を超え、ひとたまりもなく決壊する」

ユイ「……」チーン

冬月「セントラルドグマに降りてくるのはいつ以来か。そして――ここに安置してあるリリスと対面するのも」

ユイ「急ぎましょう」コツコツ

リリス「……」

ユイ「リリス。我々人類にとって母なる存在、聞きたいことがあるの」

冬月「ロンギヌスの槍で封印されている。魂でさえレイの中にある状態で、なにも認識できや――」

リリス『おかえりなさい』

冬月「……っ⁉︎」ギョッ

ユイ「黒き月。ファーストインパクトという大災害をおこし地球に降り立った最初の時、外殻は月に、葛城調査隊が発見する西暦2000年までアダムは休眠状態にはいった」

リリス「……」

冬月「ば、バカなっ! このような、ありえん!」

ユイ「生命の実を持つアダム、知恵の身を持つリリス。母さんは人類の元となる生命体に知恵を分け与え、人類はDNAを紡ぐことで継承していった」

冬月「ゆ、ユイくん。キミは一体」ガシッ

ユイ「アダムとリリスの融合。それは究極の生命体を意味する。さらに、ヒトをかけあわされば、どんな願いでも叶う」

冬月「ひ、瞳の色が――」

ユイ「お願い。私を初号機の中から呼び覚ましてくれた時のように、助けて。アダムの共振を感じているでしょう?」

冬月「初号機だと? リリスの助力で……な、なにがあったのだ」

リリス『なにを、望むの?』

冬月「(頭の中に直接言葉が浮かんでくる……)」

ユイ「シンジを、この世界のトリガーにしたい」

リリス『愛しく哀れな我が子。それが願い?』

ユイ「……不可解なの、母さんの肉体にある魂は完全な状態?」

リリス『違う』

ユイ「では、不完全な形での再構築」

冬月「……」ゴクリ

ユイ「ありがとう、母さん。まだもう少し休んでいて。もう少しだから」

冬月「待て。どういうことか説明してもらおう」

ユイ「それよりも――」

冬月「協力できない」

ユイ「……わかりました。この瞳はリリスの影響によるものです。といっても“混ざり”は薄い。レイを原液だとすればさらに水でうすめたもの。力は使えません。こうしてリリスとの対話ができるだけ」

冬月「俺にも聞こえたぞ。言葉がイメージとして浮かび上がった程度だが」

ユイ「私が近くにいることで少なからず影響を与えたのでしょう」

冬月「ユイくんはリリスの声が直に聞こえるのか」

ユイ「生身の人間では、存在の崇高さから自我を保てない。朧げにしか……聞いてはならないと防衛本能が働いてるのかもしれませんね」

冬月「初号機の中でリリスと邂逅したのかね」

ユイ「潜りすぎてとりこまれたあの日。私の肉体は液体状にまで還元され、魂はコアとひとつとなりました」

冬月「そこまでは承知している」

ユイ「その後になにが起こったのか。意識を確立できない狭間で、私はリリスと対話することに成功したのです」

冬月「……」

ユイ「膨大な知識が雪崩れ込んでくる。洪水のように。ひとつひとつの細胞が、まるで電気ショックを与えられているみたいでした」

冬月「脳では到達できない領域」

ユイ「アメリカ心理学の父であるウィリアム・ジェームズは“人の脳は普段、その10パーセントも使用していない”と提唱しました。100パーセントを使うと無理がでて耐えきれないからです。俗説だとする真っ向から否定した発表もあります」

冬月「……」

ユイ「それがどちらであれ、“それほどの量”の知識が私の中を駆け巡ったのです。想像できますか?」

冬月「言わんとする意図はわかる。対話に成功したキミは、コアを通してどうした」

ユイ「孤独を、理解しました」

冬月「……」

ユイ「リリス、アダムという原初の人々でも逃れる術はなかったのです。確立した存在である以上。それと同時に、私が今までどこか虚しいと感じていた理由も……」

冬月「コアから抜けだした方法は」

ユイ「ただ、もう一度、“会いたい”と願ったのですよ。純粋に。気がついたら、初号機の前にいました」

冬月「だが、肉体はサルベージに失敗して既に」

ユイ「科学でさえクローン技術を通して作れるのです。神に創造ができないとでも? 我々は彼らの力を模しているにすぎません」

冬月「うう、む」

ユイ「幸いなことに、私の魂は初号機のそばにありました」

冬月「つまり、その頃からキミはリリスと通じ合っていたのか? これまでずっと?」

ユイ「ふふっ、通じ合う? 概念はそのようなものではない」

冬月「……」

ユイ「もうよろしいですか? シンジの中にあるアダムをなんとかしなければ。覚醒させるには早すぎます」

冬月「よかろう。計画書の見直しが必要だな」

ユイ「修正はまだききます。表面化したのは幸いと考えましょう。私たちが気がつく前に、融合が今以上進んでないと」

冬月「セカンドチルドレンはどうなった?」

ユイ「まだ生きています。ですが、必ず死んでもらいます」

冬月「まずいことにならなければいいか」

ユイ「先生。感謝しています」

冬月「……」

ユイ「あなたがそうやって不測の事態を考慮してくれるからこそ、行き過ぎた行動に対して歯止めがかる」

冬月「ふん、俺は静観しているに過ぎんよ。キミも碇も言ってやめるような奴ではあるまい」

ユイ「サポートしていただいてるのは事実です。これからも、よろしくお願いします」

【第壱中学校 保健室 放課後】

ヒカリ「失礼します。先生。アスカは」

先生「目を覚ましてるわよ。会ってく?」

アスカ「――ヒカリ?」

ヒカリ「あっ」タッタッタ シャ

アスカ「おはよ」

ヒカリ「なにを呑気な……首っ⁉︎」

アスカ「平気だって。ちょっと大袈裟に湿布はってるだけ」

先生「女の子ですものね。手形が残っているのなんて見せられないし。心配ないだろうけど……一応、病院は行くのよ? 碇くんだっけ、彼は、まだ起きない?」

アスカ「まだ眠っています。さっきは、頑張ってくれたから」

先生「そう。疲弊していたのね。まさか、暴漢がここに来るなんて、こわいわ。ネルフに連絡しておいたからすぐに捕まると思うけれど」

アスカ「(それはないわね、たぶん)」

ヒカリ「でも、よかった。本当に」グス

アスカ「泣かないの。女の涙はとっておきなんだから」

先生「言うわね」

アスカ「先生、ここは大丈夫ですから」

先生「そう? それじゃあ、ちょっとタバコ休憩にでも」

ヒカリ「碇くん、気がついて追いかけてくれてたんだ」

アスカ「……? なに? どういうこと?」

ヒカリ「ちゃんと伝えられなかったけど、アスカの様子がおかしいって言ったの。そしたら、突然用事があるからって」

アスカ「そうなの?」

ヒカリ「よかったぁ」

アスカ「そっか。ちったぁ男見せたんだ。こいつ」

ヒカリ「うん、暴漢を追い返したのって碇くんなんでしょう? すごいよね、そんな人だとは夢にも思わなかった」

アスカ「まぁ、よくやってたわよ。人間じゃできないぐらい」

ヒカリ「ぷっ、なにそれぇ?」

アスカ「……」

ヒカリ「碇くん、起こす? 下校時間だし」

アスカ「そうね、もうちょっと」

ヒカリ「えっ、でも。帰らなくちゃ……あ、迎えきてもらうとか?」

アスカ「ううん、違う、よっと」ギシッ シャッ

ヒカリ「やっぱり起こすの?」

アスカ「ヒカリ、黙って」ギシッ

ヒカリ「あ、アス――」

シンジ「すぅー……すぅー……」

アスカ「……」チュ

ヒカリ「え、ええぇぇぇっ⁉︎」ガタッ

アスカ「ばっちい」ゴシゴシ

ヒカリ「あ、ああああっアスカっ⁉︎ そ、それって、き、ききキスっ!」

アスカ「どんなもんかと思ったけど。なにも感じない」

ヒカリ「ほぇー」ポー

アスカ「はぁ……。さっさと起きなさい! ねぼすけシンジっ!」

シンジ「いっ⁉︎ な、なんだ⁉︎ なにが……あれ? ここは」

アスカ「ようやくお目覚め?」ぶっすぅ

ヒカリ「……」ドッキンドッキン

シンジ「アスカがどうして腰に手を当てて立って、洞木さんは」

アスカ「なに寝ぼけてんのよ! 下校時刻! ヒカリは迎えに来てくれたの!」

シンジ「寝たまま――」

アスカ「目は覚めた?」

シンジ「あ、うん。洞木さん?」

ヒカリ「へ?」

シンジ「どうしたの? ぼーっとして」

ヒカリ「だ、だだだって、今、アスカが――」

アスカ「なんでもない」チラ

ヒカリ「あ、うん、そ、そう。ちょっと考え事」

シンジ「アスカ、痛みは?」

アスカ「あんたそればっかりね。別にこれぐらいどーってことないわよ」

ヒカリ「わ、私っ! 保健室の先生に挨拶してくる! 二人で話してて!」タッタッタッ

シンジ「……?」

アスカ「まったく、ヒカリったら。余計な気まわしちゃって」

シンジ「(ふぅ。力が戻ってる。ただ、少しだるいな)」

アスカ「シンジ」

シンジ「なに?」

アスカ「落ち着いたら話、聞かせてもらうって言ったわよね」

シンジ「……うん」

アスカ「帰りに私のマンションに――」

マナ「シンジくんっ⁉︎ ごめん! 遅れて! 日直の仕事があって!」ガララッ

アスカ「またあんたぁ?」

マナ「アスカをかばって怪我したって! どこ⁉︎ どこ怪我したの⁉︎」ガタンッ

シンジ「いや、僕は別に」

マナ「よかったぁっ!」ギュウ

アスカ「ちょっと、なに抱きついてるわけ? あんたじゃなくシンジに用事があんのよ」

マナ「別に誰と誰が抱きついても関係ないでしょ。首、平気?」

アスカ「あんたに心配されたくないわ。離れたら? 苦しそうだし」

シンジ「あの、ちょっと、二人とも」

マナ「なんでアスカにわかるのよ?」

アスカ「怪我してるかもしれない相手によく体重かけられるわね。あんたの体重、5トンぐらいあるんじゃなかった?」

マナ「ご、ごとっ⁉︎ そんなわけないでしょ⁉︎」

アスカ「ほら、シンジ」ガシッ

シンジ「っと、あ、アスカ?」

マナ「いきなり腕掴まなくても! いつも強引なのね」

アスカ「ちっ、あんたにはわかんない話があんのよ」

マナ「あぁ~ら? どういう話?」

アスカ「言えない」

マナ「二人だけの秘密? ……アスカ、あなた」

アスカ「胸糞悪くなる勘違いしないでくれない?」

マナ「わかるよ、私。素直じゃないだけのくせに!」

アスカ「……っ! 言ったわね、このクソアマ。この前の続きがやりたいって――」

シンジ「もうやめるんだ! 二人とも!」

マナ「ご、ごめん」

アスカ「ふん」

シンジ「僕の態度がはっきりしないのがいけないんだ。マナ、アスカと話をする。自分の意思で。いい?」

マナ「あ……」ギュウ

アスカ「ふふん、残念でしたぁ~」

シンジ「アスカも。マナは心配してくれてるだけだよ」

アスカ「(バカシンジ。こいつは女の嫉妬をしてるのよ)」

シンジ「僕なら、大丈夫だから。マナも帰って」

マナ「えっ、でも、方向同じだし! わ、私も一緒に!」

シンジ「今日はアスカと二人にしてほしい」

先生「っとに。最近のマセガキどもは」

ヒカリ「な、なにやってるのよ。もぉ」

アスカ「あ……」

先生「そんだけ騒がれる元気があれば充分よ。とっとと帰りなさい。はぁ……。私なんか数年彼氏いないのに」

マナ「す、すみません」

先生「あわれみは余計みじめになるだけだわ……」

【ミサト宅 リビング】

シンジ「まだ散らかってないみたいだね」

アスカ「二日ぶりでしょ。さて、ここなら誰かに聞かれる心配はない。マナにもね」

シンジ「そんなに露骨に言わなくたって」

アスカ「マナは戦自で、あたしたちを調べてる。シンジにだって、演技に見えなくなってきたけど。……今いい。昼休みのやつ、知り合いみたいだったけど?」

シンジ「カヲルくん?」

アスカ「そう、それ。どこで知り合ったのよ」

シンジ「フォースチルドレンなんだ」

アスカ「あいつがっ⁉︎」ガタッ

シンジ「三号機が配備されるって聞いた。ネルフの通路でたまたますれ違って」

アスカ「戦自じゃなくあたしたちの同僚じゃない⁉︎ どうして狙ってくるの⁉︎」

シンジ「……わからない」

アスカ「あんたの目が赤くなった理由は?」

シンジ「そ、それは……」

アスカ「正直に言った方がいいわよ。隠すのって気づかれないことに前提にあるんだから。あたしはこの目で現場を見てる」

シンジ「(うまく、誤魔化すしか)」

アスカ「あんたとあいつ。動きは素人同然。直線的だし、身のこなしを見ればすぐわかる。格闘技経験じゃない。異常なのは、圧倒的な俊敏さと力強さ」

シンジ「……」

アスカ「蹴りがくるとわかってても、反応できない速さと、鉄製の扉を壊す威力。どうやったの?」

シンジ「僕にもよくわからなく――」

アスカ「……」バンッ

シンジ「……」

アスカ「シンジ。二度は言わない」

シンジ「ごめん。話しをすると危険になるんだ。アスカが」

アスカ「もうなってるでしょ⁉︎ 命を狙うって宣言してんのよ⁉︎」

シンジ「僕が守るから」

アスカ「なにも知らされず? いつ来るかわからないのにのほほんと生活しろって言わけぇ?」

シンジ「う、うぅん」

アスカ「あんたねぇ、共同生活してたんだからさぁ。もう少しあたしの性格ってもんを理解してないのぉ?」

シンジ「だけど……」

アスカ「命ならねぇ! とっくに賭けてんのよっ!」バンッ

シンジ「……」

アスカ「――じゃなきゃ、エヴァになんか乗れないじゃないっ!!」

シンジ「……」

アスカ「僕が守るぅ? あんたが、このあたくしさまを? たった一回うまくいっただけでのぼせんじゃないわよ!」

シンジ「そこまででいいよ。わかった……話すから、座って」

アスカ「……」スッ

シンジ「まず、いろんな人が関わってて」

アスカ「誰?」

シンジ「(加持さんは伏せておいたほうがいいかな)」

アスカ「ひとつ忠告しとく。いや、警告。今からあんたが言ったの、それを無条件で信じてあげる」

シンジ「……」

アスカ「ただし! ウソついたら絶対に許さない。変なごまかしも。……あんたと一生口きかないから」

シンジ「本気、なんだね」

アスカ「あたしとの関係がどうでもいいっていうんならそうすれば? 見殺しにだってできるんだから」

シンジ「……」

アスカ「誰かに殺されるなら、エヴァに乗って戦って死ぬほうがまだマシ。でも、そうなら仕方ない」

シンジ「わかったよ」

アスカ「じゃあ、聞く」

シンジ「順序立てて話すよ。まず、最初は、たぶん、誘拐された時が、全てのはじまりだったんだ」

アスカ「あぁ、そういやそんなことも」

シンジ「やったのは、母さんだったんだ」

アスカ「まじ?」

シンジ「その時は誰かわからなくて。しばらくして、父さんと食事してる時に姿を見せてきて」

アスカ「……」

シンジ「母さんだってその時はじめて知った。父さんは僕に写真は全部捨てたって言ってたから、わからなかったんだ」

アスカ「え、あんた、ママの顔、知らなかったの?」

シンジ「うん。おかしいよね。覚えてたのは記憶の中の声だけ。思い出そうと何度かしたことあったけど、首から上が影がさしてるみたいな感じ」

アスカ「……そう。ろくな思い出ないんだ」

シンジ「それから、またしばらくすると、いつのまにか、母さんが父さんを追い詰めてた」

アスカ「え?」

シンジ「僕はなにも知らなかったんだ! ただ、父さんに認めてほしかっただけだから! ……だから、頑張ろうと思ってた矢先のことだった」

アスカ「碇司令ってアラスカに調査に行ってるって……」

シンジ「(話していいのか、本当に……)」ギュウ

アスカ「……」スッ

シンジ「……っ!」

アスカ「手、そんなに強く握らなくたって。ほら、重ねてあげるから。こうすると安心するでしょ」

シンジ「……」

アスカ「続き、話して」

シンジ「父さんは、父さんは……死んだ」

アスカ「……っ⁉︎」ギョ

シンジ「母さんにとどめをさされた」

アスカ「碇、ユイ司令が⁉︎ ……関わってる人が少なくないって」

シンジ「アスカなら、わかるんじゃないの? 父さんと近しい人達」

アスカ「待って! ……まさか、ミサトもっ⁉︎」

シンジ「ミサトさんはなにも知らないよ。蚊帳の外と言ってもいいぐらい」

アスカ「……」ほっ

シンジ「父さんの側近達は、といっても数は少ないけど、母さん側についた」

アスカ「あんたの両親って殺し合いしてたの」

シンジ「実際にはそうじゃないんだ。父さんは夢にも思わなかったんだよ。母さんを愛していたから」

アスカ「背中から刺したみたいな?」

シンジ「うん、それに近い状況だと思う。母さんは母さんで目的があって、ネルフ総司令というポジションがほしかったんだ」

アスカ「それって普通に殺人事件じゃない!」

シンジ「だけど、罪に問われることはない。不公平だよね」

アスカ「どっかに申告とか」

シンジ「それだけは絶対にしちゃだめだ。ネルフの保安部も、諜報部も、第三新東京都市の旧警察機構だって自由に弾圧できる権限を持ってる」

アスカ「だ、だって、そんなの、ただの独裁者じゃ」

シンジ「ネルフのさらに上の組織がある。そこが母さんの味方をしている以上は、どうしようもできないんだ。ただ、母さんの計画の邪魔をするだけ」

アスカ「あ、あんた……とんでもない状況にいたのね」

シンジ「ふぅ……ジリ貧だって僕もわかってるんだ。このままじゃ誰かを守れない」

アスカ「(碇ユイ司令、ウソくさい人だと感じてたけど、まさか、そんな風になってるなんて)」

シンジ「あんな力が使えるのは……」

アスカ「使える、のは?」

シンジ「その、ネルフに、母さんにあることをされたんだ」

アスカ「なにを?」

シンジ「言いたくない」

アスカ「なんで? あたしの身が危険だって言うのなら」

シンジ「違うんだ。言ってしまうとどうなるかわからないから」

アスカ「……?」

シンジ「僕だってこわいんだよ、アスカ」

アスカ「……」

シンジ「アスカは、真実を知りたい。だけど、それだけで僕がどうなってるのかなんてどうでもいいんだろ」

アスカ「そういうわけじゃ」

シンジ「そうだよ。アスカの身の安全に関することだったら言う」

アスカ「……っ!」バンッ グイッ

シンジ「ちょ、ちょっ」

アスカ「いい? バカシンジ。一度しか言わないからね」

シンジ「な、なんだよ、ていうか、襟から手を離してよ。ちゃんとウソついてないじゃ――」

アスカ「そういうことじゃないのよ。あたしがあんたをどうでもいいと思ってるならこんなこと言わない」

シンジ「……」

アスカ「あんたがバケモノになってても、軽蔑しないって約束する。使徒相手にしてんだしさ」パッ

シンジ「ば、バケモノって」

アスカ「肝心なところを聞いてないもの。あんたの力の理由。くどいようだけどあれは人間技じゃない」

シンジ「……ふぅ。あの力は、使徒の力なんだ」

アスカ「使徒? あんたって使徒だったの?」

シンジ「あはは、そう直に聞かれると笑っちゃうね。使徒を移植されたんだよ、母さんに」

アスカ「えぇえぇぇっ⁉︎」

シンジ「だから、あんな力になっちゃったんだ」

アスカ「てことは、フォースも⁉︎ え? 待って? 最近のトレンド? エヴァのパイロットって改造人間にされちゃうのぉっ⁉︎」

シンジ「そ、そういうわけじゃないよ! カヲルくんと僕が異例で」

アスカ「た、助かった。あたしだったら絶対に嫌だし……でも、それで良い成績残せるなら、ううーん」

シンジ「あ、アスカ。なにも良いことないよ、こんなの。冷静に考えてよ」

アスカ「あたしは冷静よ。まぁ、それはいいけど。見た目的な変化は目だけ?」

シンジ「あと、この手なんだけど」スッ

アスカ「うげっ! キモっ! やっぱあたしはいいわ」

シンジ「……はぁ」スッ

アスカ「へぇ、任意で消すことできるんだ?」

シンジ「うん、まぁ」

アスカ「で? あんたって使徒なの? 人間なの? というか得体の知れないモンをよく移植させるわね」

シンジ「……」ポリポリ

アスカ「わかった。とりあえず、ユイ司令が裏の顔を持ってて、碇元司令が亡くなってること。あんたの力の正体も」

シンジ「(よかった、これで終わりそうだ)」

アスカ「誰が関わってるか、具体的な名前は聞いてない」

シンジ「……」ギクッ

アスカ「教えてよ」

シンジ「ううんと、アスカなら頭がいいから」

アスカ「あんた知ってるんでしょ? だったら、言ってくれたらいいだけじゃない」

シンジ「その、危険――」

アスカ「それは何度も聞いた。その上で言ってるともさっきも言ったわ」

シンジ「……」

アスカ「なにを出し渋ってんのよ」





シンジ「リツコさんと、副司令……」

アスカ「それだけ?」

シンジ「ううんと」

アスカ「違うんでしょ。全部吐いちゃいなさい。カツ丼はセルフサービスだから出前とるならはやくしてね」

シンジ「(た、たかられた経験はないけど、こんな感じなのかな)」

アスカ「……」ジトー

シンジ「アスカ。よく考えてよ。本当に、知りたいの? 今ならまだ」

アスカ「シリタイ。ヨクカンガエタ。オシエテ」

シンジ「考えてないだろっ! なんで棒読みになってるんだよ!」

アスカ「後悔はしない……。これから先、シンジのその力に頼ることはあるかもしれない。自分でいうのもなんだけど、プライドの高いあたしが折れてんのよ。それでも守られるだけは嫌」

シンジ「……」

アスカ「知りたいのは、知らなくちゃいけないから」

シンジ「ふぅーー。本当に、後悔しないんだね?」

アスカ「しないわ」

シンジ「……加持さんだよ」

アスカ「……」

シンジ「……あ、アスカ?」

アスカ「そ。わかった。それで終わり? ファーストは?」

シンジ「あ、綾波も。その関係してるけど、母さん側じゃないんだ。どっちかっていうと、僕の方」

アスカ「けっこう複雑な相関図になってるのね。戦自のマナもいるし、あいつは、まぁいいか」

シンジ「あの、ショックじゃないの?」

アスカ「加持さん? そりゃショックよ。表にだしてないだけ。あんたとさっき約束したから。無条件で信じるって」

シンジ「そんな……」

アスカ「加持さんがパソコンに向かってなにかしてるのはしょっちゅうだし。仕事だと思ってた。……まぁ、それも仕事だったのかもしれないけど」

シンジ「……」

アスカ「ミサトには、今日のことうまく誤魔化しとくから。あんたは帰っていいわよ」

シンジ「え? でも、ご飯とか」

アスカ「空気読みなさいよ。取り繕ってる内に、帰って」

シンジ「……やっぱり、話さない方が」

アスカ「これは私が知りたいと求めたこと。あんたは話をしただけ。……なにも悪くない」

シンジ「アスカ……」

アスカ「帰って。お願い」

シンジ「わかった……」ガタッ

アスカ「……」ギュウ

シンジ「あ、あれ?」ヨロヨロッ ドサ

アスカ「……? なにやってんの」

シンジ「なんだ、手が、まさかっ」ドクン ドクン

アスカ「シンジ?」ガタッ

シンジ「あ、アスカァっ! は、はやく、逃げて! 衝動が! 言ってないことがっこのっ手には! もうひとつ、厄介なことがあって」

アスカ「なに? なんかあんの?」

シンジ「こ、壊したくなるんだ! だ、だから、走って逃げてっ!」ググッ

アスカ「ちょ、ちょっとあんた、また、目の色が」

シンジ「僕にふれちゃだめだっ!!」バチンッ

アスカ「いたっ」ドサ

シンジ「あ、違うんだ、そんなつもりは」

アスカ「いたぁ、いきなり手を叩かなかったって」

シンジ「だめだ、アスカはだめだ」

アスカ「シンジ、ねぇ」スッ

シンジ「うぅうぅぅっ!」

アスカ「壊したいの? えぇと、なにか壊せるもの、積み木は、ないし。そうだ! コップ!」

シンジ「違うんだ、これはっ、そういうものじゃなくて」

アスカ「違う? じゃあなに?」

シンジ「アスカ、助けて」

アスカ「え……?」

シンジ「僕が溶けてなくなってしまう。アスカの顔が、わからナくなル」

アスカ「ちょっと、どうしたのよ!」ユサユサ

シンジ「……」

アスカ「し、シンジ? 気失ってるの?」ソォー

シンジ「さわるな」

アスカ「あ、だけど」

シンジ「……」パァンッ

アスカ「いたっ! ってぇ! またやったわね! えっ⁉︎
――ちょ、なにっ、汚なっ、舌いれっ、んっ、いたっ」

シンジ「ぷはぁ、はぁーはぁー」

アスカ「このどすけべえっ! 誰がキスしていいっつったのよ! し、舌いれたでしょ⁉︎?」ゴシゴシ

シンジ「……」ググッ

アスカ「くっ、力、つよっ! ちょっと、シンジ! ほんとにどいて! どういうつもり! なにか喋んなさいよ!」ジタバタ

シンジ「……」ガシッ

アスカ「え?」

シンジ「……」ブチブチブチッ

アスカ「きゃあああっ⁉︎」

シンジ「くっ、くっくっくっ」

アスカ「まさか、衝動って……」

シンジ「うぐっ⁉︎」ドサッ

アスカ「(力が抜けた⁉︎)」

シンジ「アスカ、逃げ――うぐっ」ゴスッ

アスカ「とりあえず蹴り一発! さっさとどけ!」

シンジ「うぅっ!」ドサッ

アスカ「これはマジで逃げた方が良さそうね。ああ、まったく、制服破いてくれちゃって! ミサトにどうやって言い訳すんのよ!」

シンジ「そんなことより、今は!」

アスカ「わかってる! でも! 着替え!」

シンジ「もう持ちそうにない! はやくっ!!」

アスカ「えぇと、ええと、たしかこっちに脱いだままのワンピースが。こ、こっち見ないでよ!」

シンジ「み、みてない……」ドサッ

アスカ「え? ちょ、ちょっと、まだ待って。今着てる! 着てるからぁ!」

改行おかしくなったんでレスしなおし

シンジ「僕にふれちゃだめだっ!!」バチンッ

アスカ「いたっ」ドサ

シンジ「あ、違うんだ、そんなつもりは」

アスカ「いたぁ、いきなり手を叩かなかったって」

シンジ「だめだ、アスカはだめだ」

アスカ「シンジ、ねぇ」スッ

シンジ「うぅうぅぅっ!」

アスカ「壊したいの? なにか壊せるもの、積み木は、ないし。そうだ! コップ!」

シンジ「違うんだ、これはっ、そういうものじゃなくて」

アスカ「違う? じゃあなに?」

シンジ「アスカ、助けて」

アスカ「え……?」

シンジ「僕が溶けてなくなってしまう。アスカの顔が、わからナくなル」

アスカ「ちょっと、どうしたのよ!」ユサユサ

シンジ「……」

アスカ「し、シンジ? 気失ってるの?」ソォー

シンジ「さわるな」

アスカ「あ、だけど」

シンジ「……」パァンッ

アスカ「いたっ! ってぇ! またやったわね! えっ⁉︎――ちょ、なにっ、汚なっ、舌いれっ、んっ、いたっ」

シンジ「ぷはぁ、はぁーはぁー」

アスカ「このどすけべえっ! 誰がキスしていいっつったのよ! し、舌いれたでしょ⁉︎?」ゴシゴシ

シンジ「……」ググッ

アスカ「くっ、力、つよっ! ちょっと、シンジ! ほんとにどいて! どういうつもり! なにか喋んなさいよ!」ジタバタ

シンジ「……」ガシッ

アスカ「え?」

シンジ「……」ブチブチブチッ

アスカ「きゃあああっ⁉︎」

シンジ「くっ、くっくっくっ」

アスカ「まさか、衝動って……」

シンジ「うぐっ⁉︎」ドサッ

アスカ「(力が抜けた⁉︎)」

シンジ「アスカ、逃げ――うぐっ」ゴスッ

アスカ「とりあえず蹴り一発! さっさとどけ!」

シンジ「うぅっ!」ドサッ

アスカ「これはマジで逃げた方が良さそうね。ああ、まったく、制服破いてくれちゃって! ミサトにどうやって言い訳すんのよ!」

シンジ「そんなことより、今は!」

アスカ「わかってる! でも! 着替え!」

シンジ「もう持ちそうにない! はやくっ!!」

アスカ「えぇと、ええと、たしかこっちに脱いだままのワンピースが。こ、こっち見ないでよ!」

シンジ「み、みてない……」ドサッ

アスカ「ちょ、ちょっと、まだ待って。今着てる! 着てるからぁ!」

シンジ「……」ユラァ

アスカ「まずっ! ミサトの一升瓶にでも抱きついてなさい!」ブンッ

シンジ「……」パシッ

アスカ「ちっ、逃げなくちゃ」

シンジ「……」テクテク

アスカ「ここの出口はひとつ。その通路を塞ぐってわけ。そんなに私を襲いたいの」

シンジ「……」ジー

アスカ「うっ、気持ちわる。品定めでもしてる気? こんなんじゃ守るどころじゃないじゃない、ほんっと、バカなんだからぁっ!」ブンッ

シンジ「……」パシッ

アスカ「甘い! もういっちょうっ!」ブンッ

シンジ「……っ⁉︎」ゴーンッ ドサッ

アスカ「はっはーん! クリーンヒット! ……なんなのよっ、たく」

シンジ「……」ムクッ

アスカ「もぉ~~まだぁ? いい加減にしてよぉ~~っ!」ブンッ ブンッ

シンジ「……」パシッ パシッ

アスカ「(さすがに学習したか。ええぃ、こうなったら!)」

シンジ「……」

アスカ「し、シンジ~? ほぉら」チラリ

シンジ「……」ピクッ

アスカ「ふんっ!」ブンッ

シンジ「……っ⁉︎」スコーンッ ドサッ

アスカ「こ、こんなマヌケな手にひっかかるなんて。なにが衝動よ。単なるケモノじゃない」

シンジ「うっ、うぅ」ムク

アスカ「まだくるのぉ?」ゲンナリ

シンジ「あ、あれ? うわぁっ⁉︎」

アスカ「ミサトの! 焼酎瓶なら! まだまだ!」ブンッ

シンジ「あぶっ! あぶない! や、やめてっ! やめて! アスカ!」ガシャン

アスカ「……? 正気に戻ったの?」

シンジ「はぁ、たぶん」

アスカ「もう平気? ほんとに? 演技してるだけとか」ガシッ

シンジ「ち、ちちちっ違うよ! だから! 酒瓶を掴むのはやめて!」

アスカ「あんた、なに重要なこと言い忘れてんのよ!」

シンジ「ご、ごめん! 今来るとは思わなくて!」

アスカ「あーあ、部屋の中めちゃくちゃ」

シンジ「あ……うん」

アスカ「その衝動ってやつ。制御できないの? とんだ欠陥じゃない」

シンジ「自分じゃどうしようもできなくて」

アスカ「昼間のやつとあんた、どっちから襲われるかわかったもんじゃないわよぉ」

シンジ「それは……そうだね、ごめん」

アスカ「どーなの? もうなさそうなの?」

シンジ「たぶん」

アスカ「今起こったことは、事故だと思って忘れてあげる。でも、それで昼間助けてくれた借りはなし。チャラ。いーわね⁉︎」

シンジ「め、めんぼくない」シュン

【ミサト宅 数十分後】

アスカ「気持ち悪いったらもー」ガラガラガラッ ペッ

シンジ「そんな、念入りにうがいしなくても」

アスカ「なんか言った?」ギロッ

シンジ「なんでもないです」

アスカ「あのねぇ、雰囲気ってもんがあんでしょーが。無理やりが好きな女がどこにいるっつーのよ」

シンジ「……」シュン

ペンペン「クェーッ」コツコツ

アスカ「駄ペンギンは今更でてきて床舐めようとしてるし。くちばし濡らしてなにやってんだか」ガラガラガラッ ペッ

シンジ「あっ、ペンペンだめだよ」

ペンペン「クェ?」

アスカ「もう言ってないことない?」

シンジ「えぇと、ないことはないけど、さっきみたいな危害を与えるようなのは」

アスカ「それはあるっつーの!」

シンジ「そ、そっか」

アスカ「めんどくさそうだから今日はいい。感傷に浸る暇すらないじゃない」ブツブツ

シンジ「……」フキフキ

アスカ「ミサト、どう言い訳する?」

シンジ「あ……どうしようか」

アスカ「昼間の件は暴漢ってことにしたけど。それすらも怪しまれないか苦しいのに。問題は制服よ」

シンジ「うん」

アスカ「あんたが破いたってことにする?」

シンジ「えっ」

アスカ「二人きりでいたらあんたがあたしに欲情して、抵抗したら破けたって。大目玉くらうだろうけど」

シンジ「うぁ、それは、でも、そうするしかないね」

アスカ「使徒のせいにもできるけど、それ。ミサトに言いたくないんでしょ?」

シンジ「うん」

アスカ「だったら、変に誤魔化すよりは、本当のことを織り交ぜて言った方がいい。こっちも完全な作り話だとボロでちゃうし」

シンジ「わかった。それでいこう」

アスカ「厳罰は覚悟しときなさいよ。少しはフォローしたげるから」

【また数十分後】

ミサト「――シンジくん。今の話は本当なの?」

シンジ「は、はい。すみません」

アスカ「あたしが魅力的すぎるっていうのも」

ミサト「アスカ、黙りなさい。シンジくんはそんなことしない子だと思ってたのに。思春期の性欲を舐めてたわね」

シンジ「本当に、すいません」

ミサト「いい? シンジくん。アスカは、多感な年頃なのよ? この時期に残る思い出って20代、30代の人格形成に大きく影響するの」

シンジ「はい」

ミサト「困ったことに、今だに実感が沸かないんだけど。あの制服を見たらねぇ」チラッ

アスカ「まぁ、そこまで気にしてないし」

ミサト「だめよ。こんなことになってしったのは、大問題だわ」

シンジ「……」

ミサト「このことは、司令はもちろん、同居している監督官の伊吹二尉にも連絡します」

アスカ「ちょっと。当事者のあたしがいいって言ってんのよ」

ミサト「これはね、甘やかしてたらシンジくんの為にならないの。今後に影響するのは、彼も同じなのよ。正しい道徳を身につけさせなくちゃ」

アスカ「ミサトは親じゃないでしょ?」

ミサト「監督者という責務があります。パイロットの管理は私に一任されているの」

アスカ「はぁ……」

ミサト「暫定処置として学校とネルフの往来以外は自宅謹慎処分を言い渡すわ。追加があれば、また連絡する」

アスカ「やりすぎじゃない?」

ミサト「やけにシンジくんをかばうのね」

アスカ「だからぁ、別に気にしてないって」

ミサト「いきなり襲いかかるなんて情状酌量の余地なしよ。却下します」

シンジ「わかり、ました」

アスカ「……」

ミサト「今日はもう帰りなさい。ここに来るアルバイトの件も、白紙に戻すから」

アスカ「いい加減にしてよねっ!」バンッ

ミサト「……?」

アスカ「ぐちぐちぐちと! あたしが水に流すって言ってんでしょう⁉︎」

ミサト「ちょっと、落ち着きなさい」

アスカ「ミサトは親でもなんでもない! シンジがここに来ない理由にはならないわ!」

ミサト「今言ったけど、これはシンジくんの為で」

アスカ「はん、職権乱用よ」

シンジ「アスカ、いいんだ。あの、ミサトさん。僕が悪かったですから、処罰は甘んじて受けます」

ミサト「……はぁ、本当にこのシンジくんが? どうしてもイメージが沸かないのは私も一緒」

シンジ「はい、それは事実です。アスカを見てると……」

ミサト「むらむらぁっときちゃったの?」

シンジ「はい、その、むらむらっと」

ミサト「……」チラッ

アスカ「なんでこっち見んのよ」

ミサト「あたしにも、むらむらぁっときた?」

シンジ「へ?」

ミサト「いや、あたしと、ほら、一緒にいる期間あったじゃない? アスカが来る前は二人きりで住んでたし」

シンジ「いえ、ミサトさんには」

ミサト「あらぁ? だめ? まだまだイケると思ってんだけど。胸とか好きなんじゃないの? ほれほれ」もみもみ

シンジ「えっと」サッ

ミサト「どぉ~~もおかしい。目線を逸らすぐらいウブな子が?」

アスカ「ちっ。やっぱその処罰でいいわ」

ミサト「はぁ?」

シンジ「……」

ミサト「あんた達、なぁんかあたしにウソついてない?」

アスカ「なにも」

ミサト「シンちゃん?」

シンジ「いえ、なにも。み、ミサトさんにはむらっとしなくて、アスカはかわいいから」

アスカ「とーぜん!」

ミサト「処罰は、冗談じゃ済まされないわよ。撤回するなら今のうち。アスカも、シンジくんがつらい目にらあっていいの?」

アスカ「あたしはなにもなしでいいって言ってるじゃない!」

ミサト「だったら違う事実を話なさい。正直に」

シンジ「本当なんです! ミサトさん! 僕がアスカを襲ったのは!」

ミサト「ウソじゃないのね?」

シンジ「はい! ウソじゃありません!」

ミサト「了解したわ。それと、昼間の暴漢の件なんだけど。シンジくんがアスカを助けたんですって?」

シンジ「あ、そうです。体育館裏に行ったら、アスカが襲われてて」

ミサト「アスカ? どうしてそこに?」

アスカ「あたしは、今朝下駄箱に手紙がはいってたの」

ミサト「手紙?」

アスカ「そ。書いてたのは時間と場所の指定だけ。最初はどうせいつもの告白だと思って捨てようと思ったんだけど、クラスメートに行くべきだって言われてさ」

ミサト「それで、行ったら暴漢がいたと。シンジくんはなぜ?」

シンジ「僕は、その見ていたクラスメートから言われたです。アスカが体育館裏に行ったって」

ミサト「よく撃退できたわね?」

シンジ「無我夢中で。アスカの首を締めてたから」

ミサト「体育館の倉庫かしら? 鉄製の扉がひしゃげてたって報告がきてたけど、これは?」

アスカ「それは、その変態が、おっさんだと思うんだけどバイクを用意してたの。逃走用、だと思う」

ミサト「バイク?」

アスカ「シンジに体当たりされて、おどろいて逃げようとしたわ。でも、アクセルを力んだみたいでウイリーしちゃって。突っ込んだ」

ミサト「おかしいわね、部品は見つかってないみたいだけど」

アスカ「当たりどころがよかったんじゃないの? 老朽化でサビてたとか。その後、乗ったまますぐに逃げたし」

ミサト「ふぅーん、なるほど。今の話を統括すると――」チラ

シンジ「……」

ミサト「ねぇ、シンジくん」

シンジ「はい?」

ミサト「アスカのこと好きなんだ?」

シンジ「な、なんでそうなるんですかっ!」

ミサト「だってー、アスカが告白されてるの知って、わざわざその場所見に行ったわけでしょ? それで助けたかと思いきや、二人きりになったら我慢できずに襲っちゃう」

アスカ「そうだったの?」

シンジ「ちょ、アスカ⁉︎」

ミサト「そう考えるのが自然じゃないのん?」

シンジ「うっ、た、たしかに、アスカのことはいいなって」

ミサト「へぇぇ~。いがぁい」

アスカ「しょーがないわよねぇ」

ミサト「ねぇねぇ、アスカのどこがいいの? 好きなら答えられるでしょ?」

アスカ「……」チラ

シンジ「あ、アスカはかわいいし」

ミサト「それはさっき聞いたわよ。顔だけなら一目惚れしてるでしょ? いつから?」

シンジ「最近、かな」

ミサト「じゃあ、別の部分なわけだ。どこ?」

シンジ「(ミサトさん、ウソついてるって当たりをつけてるな。仕方ない、こうなったら、僕がアスカに良いと思ってるところを言えば)」

ミサト「答えられないの? 女なら――」

シンジ「違います。本当に、アスカのことが好きなんです」

ミサト「おっとぉ」

シンジ「勝ち気なところ、そりゃほとんどひどいことばかり言われますけど。優しくないわけじゃないっていうのは、クラスで対応を見てればわかるんです」

アスカ「え……?」

ミサト「……」

シンジ「本当は、すごく優しい子なんじゃないかなって。容姿がいいのも本当です。誰だってかわいいにこしたことないじゃないですか。授業を受けている時もなんとなく見ちゃうものでしょう」

ミサト「そうね、それはあるかもしれない」

シンジ「一緒に過ごしてると、ユニゾンの時なんかはたまに喧嘩しました。張り合って」

アスカ「……」

シンジ「特別になりたかったんです。アスカの」

ミサト「そうだったの……。ユニゾン、か。あれがきっかけなら、作戦行動とはいえ、こちらにも非はあるわね」

アスカ「あんた、本当に……?」

ミサト「だからといって、繰り返しになるけど……襲うなんてやっちゃいけないことよ」

シンジ「ひどいことをしたと反省してます」

ミサト「(急に口調がなめらかになったわね。目つきも。こりゃマジ?)」

シンジ「(ふぅ……。アスカが言うように本当の出来事を織り交ぜて正解だったな。ウソついてるって引け目が少ない)」

アスカ「(シンジ……こいつ本当にあたしのこと好きだったんだ。だから、あんなに必死になって)」

ミサト「わかったわ。話は以上よ。犯人はネルフが総力をあげて検挙するから。アスカは安心して」

アスカ「え? ああ。うん」

シンジ「今日はもう帰ります。アスカ、本当にごめん」ペコ

アスカ「別に、気にしてない」

【マヤ宅 リビング】

マヤ「どうしてアスカを襲ったりなんかしたの⁉︎ 連絡きてびっくりしちゃったじゃない!」バンッ

シンジ「ええと、その、我慢できなくて」

マヤ「我慢できなかったって……。不潔よ! シンジくん!」キッ

シンジ「す、すみません。僕が抑えられたらよかったんですけど、マヤさんにもご迷惑かけて」

マヤ「そう、ちゃんと抑えなくちゃ……抑える?」

シンジ「いくらこの手のせいだと言っても、それを言い訳にできませんし」

マヤ「え? し、シンジくんが自分の意思で襲ったんじゃ?」

シンジ「違いますけど」

マヤ「あっ、そうだった。衝動のせいなのね、やだ、私ったら年甲斐もなく、早とちりしちゃって」

シンジ「どうしたんですか?」

マヤ「ご、ごめんなさい。葛城一尉の連絡を額面通りに受け取ってしまって。つい……。シンジくんは、やむを得ない事情があったんですものね」

シンジ「よくわからないんです」

マヤ「え? やっぱり……」

シンジ「あぁ、いえ、そういうわけではなくて。僕も男ですから。手を言い訳に、女の人相手にそういうことしたい気持ちがどこかにあったんじゃないかって」

マヤ「……」

シンジ「未遂で終われましたけど、アスカが機転を利かせず、やられたままだったら。そう考えると、どうしても割り切れません」

マヤ「シンジくん……」

シンジ「あの時、意識を乗っ取られてしまったのは事実です。……だけど、だけど、その考えが頭から離れない」

マヤ「なに?」

シンジ「本当は、僕がやりたいことを増長してるのかもしれない。お酒を飲んだことありませんけど、大人達はよく言ってるじゃないですか。気が大きくなるって」

マヤ「気分が良くなるからね。お酒の席は無礼講っていうぐらい」

シンジ「それと似たような感じじゃないかって自問自答してみても答えはでてきません」

マヤ「……おいで、シンジくん」

シンジ「えっ」

マヤ「いいから。こっちに来なさい」

シンジ「はぁ、なんですか?」ガタッ テクテク

マヤ「膝をついて座って?」

シンジ「はい?」スッ

マヤ「ラクにして」ギュッ

シンジ「え? ま、マヤさん、あの。む、胸が」

マヤ「頭を抱きしめてるのよ。そうなって当たり前じゃない。どう?」

シンジ「どうって……」チラ

マヤ「シンジくんは、どうして他人の為に考えようとするの?」

シンジ「僕なんかでも誰かの役に立てたら嬉しいから」

マヤ「どうして、“なんか”なんて言うの? 自分に自信がないの?」

シンジ「……」

マヤ「今、電波遮断できる?」ボソ

シンジ「あ、その為に。待ってください」

マヤ「うん」

シンジ「どうぞ。あんまり乱用するのはさすがに。こう頻度が続くと機械の不調だと通せなくなると思うし」

マヤ「碇司令はシンジくんが力を意図的に使用できるとご存じ?」

シンジ「いえ。たぶん、知らないと」

マヤ「だったら、制御できてないってことにできないかしら」

シンジ「……なるほど」

マヤ「騙す必要なんてないのよ。聞かれない限りは。聞かれた時にとぼければいい」

シンジ「いいかもしれませんね。これまで起こっていたことが起こらなくなるのも不自然ですし」

マヤ「身体の負担は平気?」

シンジ「はい。長時間でなければ」

マヤ「つらいかもしれないけど、我慢、できる?」

シンジ「こんなのどうってことないです」

マヤ「さっきの話に戻るけど。私だって自信なんかないのよ」

シンジ「……」

マヤ「他人がどう見られて、どう思われてるかわからない。行動することで傷つけてしまうかも。そう悩んで、一歩が踏み出せない人って多いの」

シンジ「そう、ですよね。みんな同じで……」

マヤ「だからこそね? リーダーシップがある人が輝いて見える。そういう部分があると、強く惹かれてしまう」

シンジ「……」

マヤ「先頭に立つって、思いがけない出来事や未知と真っ先に遭遇するの。対応の如何次第で、どう転ぶか、責任だって伴う」

シンジ「はい」

マヤ「言ってる意味、わかる? 組織という巨大な権力に抗おうとしてるんでしょう? 中学生に求めるのは酷だって、理解してるけど――私の目を真っ直ぐ見て」ガシ

シンジ「……はい」

マヤ「自信がなくても、まわりに悟らせちゃだめ。シンジくんが迷っちゃだめなのよ」

シンジ「……」

マヤ「できなくてもいい。失敗したっていい。あなたがあなたを信じて。守りたいと思う人がいるなら、そうしなきゃ」

シンジ「僕は……」

マヤ「私も力になってあげる。足りないところを補えるように」

シンジ「マヤさん……」

マヤ「よし、ところで衝動って女性じゃなく物を壊すことじゃ満足できないの?」

シンジ「あ……はい。その、女の人のみに限定されるらしくて」

マヤ「……う」ヒクヒク

シンジ「これ、アダムっていうんですけど。性に対する好奇心が強いみたいで」

マヤ「アダム? アダムって、聖書とかでよく知られてる……他の使徒と同じタイプのコードネーム?」

シンジ「いえ、これは本物みたいです。あのアダム――」

マヤ「じ、実在してたのっ⁉︎」

シンジ「みたいです」

マヤ「す、すごい発見よ! それ!」

シンジ「学術的価値はともかくとして、このアダムの衝動はいつ襲ってくるか、予測がつかないんです」

マヤ「力を使える代償ってとこね。もしかしたら、今こうしてる瞬間にも?」

シンジ「はい。極端な話、トイレの中でも、お風呂でも、学校でも、いつでもありえます」

マヤ「法則の原因究明しないと大変だわ」

シンジ「綾波から聞いた話によると、同化が進む上でどうしようもない、と」

マヤ「レイ? レイも?」

シンジ「あ、いえ、余計な話を挟んじゃいましたね。綾波は僕と違います。忘れてください」

マヤ「先輩が関係してるならレイも……おかしくない」

シンジ「マヤさん」

マヤ「ごめん、約束、したもんね。パターンを探りましょう」

シンジ「パターン、ですか?」

マヤ「サンプルが少ないから、断定できるほどのデータを収集する必要があるけど。シンジくんの手にある、アダム。例えば、そうね……刺激を与えてたとか」

シンジ「僕は、なにも」

マヤ「気持ちの高ぶりだとかなかった?」

シンジ「いえ、そんなことは」

マヤ「様々なケースが考えられるわよ。力を使用しすぎていたとか。最悪なのは、気まぐれ」

シンジ「気まぐれ……つまり、使徒の匙加減次第?」

マヤ「そうだったら、シンジくんに打つ手はなくなる。薬剤を投与して、細胞の活性化を抑えるとか、そういう別の手段しか……」

シンジ「……それでも、抑えられるなら」

マヤ「簡単に言わないでよ。そう決意したって、実現できるかどうか。薬剤の入手方法は? なにが有効なの? 様々な実験をして、シンジくんの身体に悪影響は?」

シンジ「あ……」

マヤ「ふぅ……どうしようかしら。あ、まだ電波は遮断してるわよね」

シンジ「もちろんです。聞かれちゃまずいですよね」

マヤ「うん。私、自分で調べてみるけど、期待はしないでね? 研究データがない限りは、ただの理論でしかないし。使徒の衝動を抑える方法だなんて……」

シンジ「でも、調べてるのがバレたら」

マヤ「これぐらいなら平気でしょ? ……まずいかなぁ」

シンジ「用心はした方がいいですよ」

マヤ「抑えられたきっかけは?」

シンジ「アスカがミサトさんの酒瓶を投げてきたので」

マヤ「さ、酒瓶を。それが身体にあたった衝撃で?」

シンジ「はい。なんとか正気に戻れました」

マヤ「アスカは知ってるの?」

シンジ「いろいろあって。今日、話しました」

マヤ「シンジくんの今の状態を知ってるのは、司令達を除けば、私とアスカとレイ?」

シンジ「はい。ミサトさんは知りません」

マヤ「少なくない人数が、知ってるのね。あまり、喋らない方がいいわよ。危険だし」

シンジ「極力、そうしたいと思ってます」

マヤ「うーん。私、薬学方面弱いんだよねぇ、先輩は天才だから心理学も専攻してたけど」

シンジ「あの、無理なら……」

マヤ「私と一緒にいる時間長いのよ? 帰ってきてずっと。衝動が起こったら、その、つい最近みたいに、また……」

シンジ「そ、そうならないようにします! そ、そういえば、マヤさん、あの時、正気だったんですか?」

マヤ「へ? なんの話?」

シンジ「僕、てっきり、アダムがなにか力を使ってると思って。マヤさん、積極的だったし」

マヤ「し、シンジくんっ!」バンッ

シンジ「は、はい!」

マヤ「はぁー……あれは、ちょ、ちょっとだけ、そのぉ」

シンジ「……?」

マヤ「い、言わせようとしてない?」

シンジ「そんなわけありませんよ!」

マヤ「そ、そう、なんだ」ガッカリ

シンジ「マヤさん?」

マヤ「じ、実験、してみよっか?」

シンジ「――え?」

マヤ「刺激与えなくちゃいけないでしょう?」

シンジ「あ、手にですか?」

マヤ「うん。色々、試してみない?」

シンジ「でも、それで本当に衝動がきてしまったら」

マヤ「そんなビクついてちゃ先に進めないわ。一度悪化させみるぐらいの気持ちでやらないと」

シンジ「ううん、わかり、ました。最初は、軽めからで」

マヤ「力って、電波遮断だけ?」

シンジ「あとは、身体能力の強化ができます」

マヤ「へぇ、それ、やってみようか」

シンジ「消耗が激しいです。監視されてる状況だと遮断をしなくちゃいけないし、長時間はとても。なので、別の方法から」

マヤ「了解。それじゃ、手、さわってみる。貸して」

シンジ「はい」スッ

マヤ「……」フニフニ

シンジ「……」

マヤ「どう? なにか感じる?」

シンジ「いえ、なにも」

シンジ「これって本当に意味のある行為なんですか?」

マヤ「“百聞は一見にしかず。科学者たるもの、日常にこそ着目しなさい。ひょんな発見があるかも”」

シンジ「は、はぁ」

マヤ「どうだった? 先輩の口調をマネてみたんだけど」

シンジ「あ、あんまり……」

マヤ「そう、そうなのよ。いつもあの背中を追いかけてるつもりなのに。見えるのは、後ろ姿だけ」

シンジ「憧れ、なんですね」

マヤ「そういう域の人じゃなかったわ。象徴、シンボルだとしても過言じゃない。今は、素直に尊敬できなくなってしまったけど」

シンジ「僕のせいだ」

マヤ「いいえ。それは違う。たしかに巻き込まれたのは、私の意思があったかといえばそうじゃない。……けど、先輩の新たな一面が見えて失望したのって私なの」

シンジ「……」

マヤ「ううんとね」

シンジ「いえ、意味わかりますよ」

マヤ「そっか。だから、責任を感じるのはやめてね。これは、私と先輩の問題だから。私たち二人の間に割って入ってこないで?」

シンジ「……わかり、ました」

マヤ「続けよっか」

シンジ「あの、ちょっと辛くなってきたので、今日はもう」

マヤ「そんなに持続時間短いんだ。まだ30分も経過してないわよ?」

シンジ「そういえば、どれぐらい続けられるか測ったことないや」

マヤ「まず、自分になにができるのかをよく知った方がいいと思うわ。力の使い道に活用できるし」

シンジ「そうですね、やっぱり、限界まで続けてみようと思います」

マヤ「だいたいの目安だけど、今って20分ぐらいよね」

シンジ「はい」

マヤ「了解。そのままちょっと待ってて。ノート端末を取ってくる」ガタッ

シンジ「マヤさんが親切にしてくれる理由って?」

マヤ「……」ピタ

シンジ「……?」

マヤ「正直なところ、気がつけば、いつも思考の中にいる。シンジくんと一緒ね。……自分を認めて、向き合える自信がないの」

シンジ「……」

マヤ「先輩に裏切られたと感じてる、その寂しさを埋めてるだけなのかもって思う時もある。シンジくんに縋って」

シンジ「僕は、感謝してますよ」

マヤ「……」

シンジ「マヤさんがいてくれてよかったと思ってます。それでいいじゃないですか」

マヤ「それ、シンジくんも同じだよ。あなたはエヴァに乗れるっていうだけで満足なの? 自分の価値を見出せる?」

シンジ「……」

マヤ「……励そうとしてくれてるのよね。でも、気になっちゃって頭から離れないの。いろいろな考えがまとまらない」

シンジ「(よく見たら目の下にうっすらクマができてる。いつからなんだろう。気がつけないなんて……僕は、バカだ)」

マヤ「お互いを反面教師にできたらラクになれるかもしれない、私たち」

シンジ「(迷ってるんだ。僕と同じ。だったら――)」

マヤ「どうしたら……」

シンジ「ふぅ、僕は、普段自分の思ってることを言いません。我慢しちゃうんです。とりつくろって」

マヤ「え?」

シンジ「波風を立てたくないから。争いごとや喧嘩が、時には必要なことだってわかってます。でも嫌いなんです。そういうの」

マヤ「それは私も同じ。人ってどうして争うのかな」

シンジ「自分のエリアを守りたいから。常識、社会、価値観の違い。僕らは独立した個だからです」

マヤ「……」

シンジ「あえてそこを突いて操作しようとする人もいます。母さんみたいに」

マヤ「性善説なんて、ありえないものね。悪意をもってる人もいる」

シンジ「それも突き詰めれば、“自分が満足したい”この一点に集約されます。あくまで僕の考えです」

マヤ「続けて」

シンジ「僕が誰かの役に立てるならと思うのは、自分の為でもあるんです。父さんに認められたい、僕はエヴァのパイロットなだけじゃないって、周囲に認めさせる為の」

マヤ「(学生時代、勉強だけと思ってた私と同じなのね)」

シンジ「自分で努力したわけじゃない。棚ぼたみたいに、ある日突然、人類の希望なんて言われたんです。有難いと思う人、調子にのる人もいるかもしれません。だけど、僕はそうじゃなかった。実感がわからなければ嬉しくともなかったんです」

マヤ「……」

シンジ「元いた場所、先生のところにいたときは別段なにか不満があったわけじゃない。ごく普通の日常、それが当たり前だと感じていたし、自分の意思でここにいるわけじゃない。なんで僕がってずっと思ってました」

マヤ「……」

シンジ「それでも逃げられなかったのは、ちっぽけなプライドと……“乗れと言われたから乗る”それだけでした」

マヤ「そう、だったの」

シンジ「誰かが、“僕のおかげで助かった”って言うと、ざまあみろって思うようになってきました。どうだ、僕はできるんだぞって」

マヤ「……」

シンジ「父さんに認められたい気持ちに今も変わりははありません。最終目標は、一番見返したい相手は、父さんなんです」

マヤ「……」

シンジ「(もう死んでしまったけど、恥ずかしくない生き方をしなくちゃ)」ガタッ

マヤ「それで……?」

シンジ「僕は、僕は、父さんとは違います。まだ中学生だし、子供です。なにが正解かなんてわからない、だけど、マヤさん」ガシ

マヤ「な、なに?」

シンジ「僕は、マヤさんのことも大切な人だと思ってます。悩みがあるなら、聞きます。力になれるなら、なんだってしますよ」

マヤ「……」

シンジ「不安、なんでしょう? マヤさんだって、僕を、他人を気遣ってる余裕ないのに」ギュウ

マヤ「あ……」

シンジ「……ありがとう。僕が伝えたかったのは、感謝の気持ち、それだけです」

マヤ「(やっ、やっぱり、胸が高鳴る。憂いを帯びている表情が色っぽく見える)」

シンジ「……」

マヤ「(私、倒錯してるのかな。先輩を想って自慰をしてた時点で、そうだけど……でも、こんな年頃の子にときめくなんて)」

シンジ「マヤさん? 熱あるんじゃないですか?」

マヤ「……」ウットリ

シンジ「顔赤いけど平気ですか?」

マヤ「平気。もう少し、このまま」

シンジ「……はい。わかりました」

マヤ「(この子の喜ぶことがしたい、そう思いだしてる。はぁ……どうしよう。悩みがシンジくんのこともあるって言ったら、どんな顔するのかしら)」

シンジ「うっ」

マヤ「(軽蔑、するわよね。一度身体を重ねたぐらいでって思われるかもしれない)」

シンジ「ま、マヤさん、あの。限界、かもしれません」

マヤ「え? あっ!」

シンジ「このまま力を発動し続けるとどうなるか……!」

マヤ「オーバーヒートしそうなの?」

シンジ「わかりま、せん。ただ、眠くなってしまいます」

マヤ「睡眠をとることで体力を回復しようしてるんだわ……」

シンジ「あの、もういいですか?」

マヤ「いえ、限界までやってみてくれない? どうなるか観察したいの」

シンジ「う、わ、わかりました」

マヤ「待ってて!」ダダダッ

シンジ「(今までは、気がつけば、力が使えなくなってたりしてたから、はじめてだな)」

マヤ「はいっ、体温計! くわえて!」カポッ

シンジ「んむっ!」

マヤ「どう? 体調に新しい変化は?」

シンジ「いぇ、まらなにも。いいんふぇすか、これ、マヤさんの体温計じゃ」モゴモゴ

マヤ「今はいいから! えぇと、ノートパソコンは……」

シンジ「……」

マヤ「シンジくん? 今から本格的にデータを収集するわ。無理をしている状態は、悪化していると同義だけど、あなたの身体に変化が起きやすい状態ってことでもある」

シンジ「ふぁい」

マヤ「頭痛、めまい、痺れ、眠気、なんでもいいの。とにかく身体におこっていることを申告して。本当は心拍数とかも取りたいだけど、設備がないから」

シンジ「大丈夫、です」もご

マヤ「時間はだいたいではかる。何分毎にどういう変化がおこるか。記録を取り続けたいと思うの。できる?」

シンジ「……」コクコク

マヤ「実験、スタート――」

【翌日 ネルフ本部 発令所】

マヤ「昨日採取したデータを検証しなくちゃ」

シゲル「マ~ヤちゃん。あいかわらず忙しそうだねぇ」

マヤ「なに? 邪魔しないでよ」

シゲル「なにしてんの? ライフルの検証?」ヒョイ

マヤ「勝手に見ないでったら!」

シゲル「うん……? なんだこれ? 生態調査とその傾向……なんの?」

マヤ「青葉くん! 公私混合はしないで! この際はっきりさせとく!」ガタッ

シゲル「ん?」

マヤ「私はあなたと仕事以外で関わりたくない!」

シゲル「今は、だろ?」

マヤ「なんで、なんでわかってくれないのよ」

シゲル「まぁそう肩に力をいれなさんなって。怒るにも体力使うぜ?」

マヤ「……」

シゲル「俺はこのとーり適当な人間だしさ。愚痴は言うし、軽口だって叩く。そうしなきゃやってられねぇもん。なんつーか、こう、マヤちゃん見てるさ。変なんだよなぁ」

マヤ「変? 私になにか文句があるの?」

シゲル「いやいやぁ、そうじゃないよ。生きてて楽しいわけ?ってそう見えるわけだ」

マヤ「私のなにがわかるって言うの」

シゲル「わからねーよ? わからねーけど、俺にはそう見えちまう」

マヤ「……」

シゲル「はぁ、なんでこう不器用なのかねぇ。たまには息抜きしなきゃ疲れちまうだろう?」

マヤ「私だって息抜きぐらい! それに、今はやりたいことがある! 集中したいの!」

シゲル「やりたいこと? ってーと、その論文を完成させるのが?」

マヤ「ほっといてよ! お願いだから!」

リツコ「それぐらいにしときなさい」

シゲル「おっと。おはようございます」

リツコ「青葉くん、あまりやりすぎるとセクハラとしてコンプライアンス違反になるわよ」

シゲル「俺はいやらしい発言を誘導したりボディタッチしてるってわけじゃ」

リツコ「嫌がってるでしょう。無作法なマネは自重しなさい。例えマヤを青葉くんが良いなと思っていても」

シゲル「えっ! いや、その」

マヤ「……そんな下心のために、気持ち悪い」

リツコ「マヤ、あなたにもまたお説教しなければならないようね。ついてきなさい」

シゲル「なにも本人にバラさなくたっていいのに。ちぇ」

【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「――明日の電車で実家に療養なさい。司令には私から伝えておく」

マヤ「えっ⁉︎ そんなっ」

リツコ「命令よ。伊吹二尉。本日付けであなたを技術ニ課から解雇します」

マヤ「せっ、先輩っ! 待ってください! どうしてですかっ⁉︎」

リツコ「以前に私は忠告した。あなたの身元保証人には私がなっていると。それ、まだなにか調査しているのね。勝手な振る舞いに対する責任は負いきれないわ」

マヤ「ち、違うんです! これは、使徒の生態調査をしていただけで」

リツコ「使徒?」ピク

マヤ「これまでの使徒の襲来パターンから次の使徒に有効な分析や対策案を練ろうと」

リツコ「なぜ今なの?」

マヤ「あの、この前は先輩とあんな風に口論しちゃいましたし。落ち着かなかったので、なにか気持ちが落ち着くものをしようって思って。作業をしてれば忘れられるじゃないですか!」

リツコ「……」

マヤ「本当に、それだけなんです!」

リツコ「マヤ、見えすいた嘘はやめなさい」

マヤ「えっ」

リツコ「例えそれが本当だとしても、知り得た事実はあなたの負担になっている。これから起こる出来事に耐えきれないわ」

マヤ「わからないじゃないですか! お願いします! 今辞めたくはないんです!」

リツコ「……」

マヤ「先輩! お願いです!」

リツコ「なにが理由? なぜネルフにしがみつくの?」

マヤ「私の目標なんです。先輩が……どういう性格でも、研究に対する姿勢や視点について学ぶべきことはまだたくさんあります。ウソじゃありません」

リツコ「パソコンを貸しなさい」

マヤ「はい」スッ

リツコ「……これは。使徒? いえ、誰のデータ?」

マヤ「シンジくんです」

リツコ「あなた、やっぱり……!」

マヤ「どうしてですかっ⁉︎ 先輩はいつもフラットに物事を見極めていました! 科学者として証明するべきでしょう!」

リツコ「シンジくんに、なにか聞いたのね?」

マヤ「少しだけ。シンジくんは今日こうして先輩に話していることを知りません。私が自分の意思で話してることだからです!」

リツコ「……」

マヤ「先輩……! 目を覚ましてください! 私たちは、シンジくんにこそ協力をするべきです!」

リツコ「あなたを解雇する前にシンジくんに話を聞く」

マヤ「先輩っ!!」

リツコ「黙りなさいっ! どれほどの危険に首をつっこんでいるのかわかっているの⁉︎」バンッ

マヤ「わかってます! だけど、それでも私は! 先輩と……!」

リツコ「らちがあかないわね。もう通常業務に戻りなさい。シンジくんは今学校にいるから、終わったらここにくるように指示する。あなたも同席するのよ」

マヤ「……」ギュウ

リツコ「中学生にほだされるなんて。あなた、恥を知ったらどう?」

マヤ「先輩こそ! やっていいことと悪いことに年齢は関係ありません!」

リツコ「……さがって。さがりなさい。伊吹二尉」

【第壱中学校 昼休み】

マナ「シーンジくんっ」

シンジ「……」ぼー

マナ「あれ? おーい、もしもーし」

ケンスケ「シンジなら朝からずっとこの調子だよ」

マナ「そうなの?」

ケンスケ「霧島は遅刻ギリギリにきたからな」

マナ「今朝は寝坊しちゃって」

トウジ「センセ、飯やぞ。飯」

シンジ「……」

トウジ「なんや、電池でも切れとるんかいな。おいケンスケ、ゼンマイ貸せや」

ケンスケ「人間に使えるネジなんかあるわけないだろ」

マナ「なにかあったのかな? もしかして、昨日のアスカ?」

アスカ「はぁ……あんたねぇ、ことあるごとにあたしに対抗心だすのやめない?」

マナ「噂をすれば。耳がよろしいのね」

アスカ「地獄耳だって言いたいわけ?」

トウジ「まぁまぁ! そないな猿蟹合戦よりも霧島さま! 今日のお弁当は……」

ヒカリ「あの、鈴原、よかったら、これ」スッ

トウジ「あん? 委員長やないか。どないしたんや、これ」

ヒカリ「うち、お姉ちゃんと妹の分も作ってるからあまりすぎちゃって」

トウジ「委員長の料理かぁ~。まずそう――」

マナ&アスカ「黙って食べなさいっ!」バチーン

トウジ「な、ナイスコンビネーション」パタリ

アスカ「シンジ。シンジ」ユサユサ

シンジ「……」ぼー

アスカ「ちっ! バカシンジっ!」ユサユサッ

シンジ「あ、うわ、うわぁっ⁉︎ あ、アスカ? み、みんなも? なに?」

ケンスケ「昼だよ」

シンジ「あぁ、そんな時間。トウジはなんで倒れてるの?」

マナ「気にしなくていいの。どうしたの? 体調、悪い?」

シンジ「(昨日、あれから気絶しちゃったし。力を使いすぎた影響なのかぼーっとしたままなんだよなぁ)」

ケンスケ「なんでもいいけど、さっさと食べちまおうぜ」

【夕方 ネルフ本部 ラボ】

シンジ「碇シンジです。失礼します」カシャ

シンジ「(マヤさんも?)」

リツコ「あら。シンジくん、いらっしゃい。呼び出された理由、察しがついたんじゃなくって? ここは監視されてないから、好きに発言してもらって大丈夫よ」

シンジ「はっ! まさか……!」

リツコ「まずはお掛けなさいな。飲むのはコーヒーしかないけど。いる?」

シンジ「いえ」

リツコ「そう。それじゃ、私も座らせてもらうわね」ギシ

シンジ「……」チラッ

リツコ「ここに呼びだした理由は、マヤに関係していること。だから同席させている。シンジくんはマヤに取り入ることに成功したみたいだけど、部下の暴走まではわからないわよね」

シンジ「取り入る? 僕はそんなんじゃ」

リツコ「命にかかわるわよ」

マヤ「説明したじゃないですか! 使徒を移植されたことしか知らないって!」

リツコ「シンジくんに直接聞きたいの。余計な口を挟まないように」

シンジ「……マヤさんが言ってる通りです」

リツコ「危険だと承知していたわね?」

シンジ「母さんを納得させるためでした。指示が降りていたので」

リツコ「犯せと? それも先ほどマヤから聞いてたけど」

シンジ「はい。合意のない行為を僕は許せませんでした。なので、余計なことを除いて話した上でなにか対策を練ろうと思ったんです。僕からも質問いいですか?」

リツコ「いいでしょう」

シンジ「リツコさんにじゃありません。マヤさん、どうして……」

マヤ「ご、ごめんなさい。最初は先輩に言うつもりなかったんだけど、きっとわかってくれるって」

シンジ「……」

リツコ「このデータ。あなたの内に秘めた衝動を抑えるのに役立てるつもり?」

シンジ「僕じゃありません。使徒です」

リツコ「いずれひとつになる。あなたのものといっても間違いではないわ。ふぅ……どうしたものかしらね」

シンジ「母さんはまだ知らない。そうですよね」

リツコ「自己保身よ。私も厳罰を言い渡されるもの」

シンジ「リツコさんは、なんで母さんに協力してるんですか?」

リツコ「あなたに協力しろと?」

シンジ「そうじゃありません。知りたいだけです」

リツコ「人類はいずれ滅びてしまうからよ。ノアの方舟たる補完計画。舵取りに協力しているに過ぎない。犠牲になるものが何人いようともね」

シンジ「それだけですか?」

リツコ「中学生が生意気な口をきくんじゃありません。あなたは全体像が見えていない子供。綺麗事を並べて個人の生死に翻弄されているだけ」

シンジ「そうかもしれません。でも、勘違いしないでください」

リツコ「よく喋るようになったわね」

シンジ「リツコさんと同じです。僕は僕のやりたいようにやろうって決めてるだけ。その目的意識が、どうなのか。そこに違いは必要ありますか?」

リツコ「ないわ。望むように生きようとする権利は誰にでもあるもの」

シンジ「母さんに協力することを悪いと言ってるわけじゃない。リツコさんが正義だと思う、大義名分がそこにあるんでしょうから。でも、本当にそれだけですか?」

リツコ「(この子……)」

シンジ「誰だって、弱い部分はある。リツコさんは、そんなに完璧なんですか?」

リツコ「シンジくん。あなた、もしや、私の、知ってるの?」

マヤ「シンジくん……?」

シンジ「ふっ、くっくっくっ」

リツコ「なにがおかしいの?」

シンジ「うろたえてるからですよ。誰にだって秘密は……触れられたくないことはある。そうじゃないんですか?」

リツコ「……」

シンジ「僕は、マヤさんを守りたい。リツコさんよりもです」

マヤ「し、シンジ……くん?」

シンジ「もし、マヤさんを殺せば、僕はたぶん抑えられなくてリツコさんを殺します。中学生ですから。ついうっかりってこともありますよね」

リツコ「年齢を言い訳にする気?」

シンジ「子供扱いしてるのはリツコさんの方です。対等に考えてください。僕に取り引き材料はないわけじゃありません」

リツコ「――脅し?」

シンジ「どう受け取ってもらっても結構です」

リツコ「(親に似てきたのかしら。いえ、短期間でそれはありえない。これはある程度の覚悟を持っているわね)」

シンジ「僕としてはゆっくり見守っていただきたいと思っています。マヤさんに危害を加えず」

リツコ「やけに思考が冴えているようね。それもアダムの影響?」

シンジ「いえ。そういうわけじゃありませんよ。僕はリツコさんがこわいので」

リツコ「私が?」

シンジ「はい。母さんの側近で、最も警戒すべき相手の一人だと考えています。そんな人と対峙している。どうなります?」

リツコ「ふふっ、なるほど。よくわかった。マヤは板挟みってわけ。私とシンジくんの」

シンジ「マヤさんは、なにも知らなくてよかったんです。僕達が巻き込んでしまった。そうでしょ? リツコさん」

リツコ「……そうね」

シンジ「今回だけは見逃してくれませんか。僕が使徒の力を自覚している件についても」

リツコ「口約束でしか保証しないわよ」

シンジ「契りは必要ありません。リツコさんを信じます」

リツコ「愚かだわ。大人を舐めると痛い目にあう」

シンジ「自分の都合の良いように振る舞うのが大人だっていうんですか?」

リツコ「それは一面よ。狡猾で、そういう生き方を知っているのも歳を重ねたものに多くなる」

シンジ「だったら、僕はリツコさんの人間性を信じます」

リツコ「あなたが、私を? 信じるという意味をわかってるの?」

シンジ「無条件にじゃありませんよ。マヤさんはリツコさんにとっても大切な部下でしょう」

リツコ「……」

シンジ「人情っていうんですか? こういうの。難しい言葉はよくわかりませんけど」

リツコ「よく言うわ。もしかしたら、あなた、化けるかもしれないわね」パサ

シンジ「これは……? なんですか?」

リツコ「ダミーとその計画書。適格者が存在せずとも、エヴァの起動を可能にするシステムよ。読んで理解できる?」

シンジ「……」ペラ

マヤ「わ、私にも」

リツコ「黙って」

シンジ「……ベースは綾波ですか?」

リツコ「驚いた。一見しただけでよくそこまで考えが辿り着けたわね。やはり、親の血は受け継いでいる、か」

シンジ「無人機にしてどうするつもりですか」

リツコ「その前に、あなたのやろうとしていることはなに?」

シンジ「リツコさんから見れば、駄々をこねてるように見えるかもしれませんが、僕は補完計画を発動させない別の道を模索したい」

リツコ「ナンセンスね。第三の選択肢なんてありえないわ。発動させなければ人類は滅びてしまう。“再生させるか”、“無に帰すのか”。シンジくんはこの二択で終焉を選ぼうというの?」

シンジ「道がなければ作れば良い。人類はそうやって進化してきました」

リツコ「それは何世代も紡いで学習してきた時間があったからだわ。今回は結論をだすまでに一年も……もっと短いかもしれない。そんなに猶予はないのよ」

シンジ「最後まで足掻いてみたいんです。人が人のせいで終わりを迎えるというのなら、それも自然の摂理のはず」

リツコ「私たちのしようとしていることは神の真似事ですものね」

シンジ「いくら大義名分を掲げようとも。困難を前に諦めるのを強要しないでください」

リツコ「では、シンジくんは司令ととことんやりあうつもり?」

シンジ「僕が望むのは現状維持です。母さんは変革を求めている。この国だって他国がしかけてきたら自己防衛するじゃないですか」

リツコ「しかけているのは私たちだと?」

シンジ「その通りです。人類補完計画の発動を止める。その上で計画性がないとしても、愚かだとしても、人類の未来は人類が決めるべきです」

リツコ「あなたに対する評価を改めましょう。見た目を抜きにすれば、中学生が発するとは思えないわね。青臭いだけと言えなくもないけど」

シンジ「母さんもそうですが、リツコさんもですか」

リツコ「……?」

シンジ「採点してる気になってる時点で、上から見てるんですよ。評価って、そういうものでしょう」

リツコ「これは失礼。取り引きに話を戻しましょう。シンジくん、あなたは私がマヤを救いたいと思っているのね?」

シンジ「少なからずは」

リツコ「そうね。でも切り捨てられないわけじゃない、と言ったら?」

マヤ「(先輩、なんだか、楽しそう?)」

シンジ「そうだとしたら困っちゃいます」

リツコ「ふふっ、可愛げ、身につけたの?」

シンジ「ありのままを言っただけですよ」

【リツコ宅 リビング】

シンジ「食材は自由に使わせてもらいますよ。それにしても意外でした、まさか、条件を飲む理由が」

リツコ「なにもなしじゃ遊び心がないわ。口実だけど、シンジくんの手料理はおいしいって評判だし、一度食べてみたかったの」

シンジ「みんなが過大評価しすぎです。レシピ通りにやれば誰だってできる」

リツコ「美味しいものは美味しい。それでかまいやしないわ」

シンジ「電気タイプなんですね。ここのコンロ」ピッ

リツコ「どこまで把握してるの?」

シンジ「言いたくありません」

リツコ「もしかして、夢の出来事も覚えてるんじゃ? タブリスになにか吹き込まれた?」

シンジ「カヲルくんですか?」キョトン

リツコ「(違うのね。タブリスではない、一体誰が……。アダム、使徒からの直接コンタクト?)」

シンジ「……なにを知ったとしてもやりたいと思ってることは言った通りです」

リツコ「特別に教えてあげる。先程渡した計画書。あれは古い物よ。変更される前のね」

シンジ「……」トントントン

リツコ「新しいダミーの研究は既にはじまっている。ベースは渚カヲル」

シンジ「そうですか。やっぱり、やることに変わりはないんですね」

リツコ「補完計画に必要不可欠ですものね。それは、あなたも同様に。……どう? 人類代表に選ばれた気分は」

シンジ「元々、そういう計画じゃなかったでしょう」

リツコ「鋭い。まるで知っているかのよう口ぶりに先程から鳥肌がたってしまう」

シンジ「褒めたってなにもしませんよ」

リツコ「私、おべっか使うの嫌いなのよ。もし本当にシンジくんがなにも知らないままに推察だけで発言しているとしたら、これほど興味深い話はない」

シンジ「そうですか」

リツコ「とっても不自然ですもの。一週間ほど前まで、事なかれ主義だっただけに、不気味だわ」

シンジ「そんな気がするだけです」

リツコ「ふっ、たしかにシンジくんのお父様が提唱していた補完計画は、初号機が中心にあった。なぜだと思う?」

シンジ「なんでもわかるわけじゃありませんから」ジュー

リツコ「想像でかまわないわ。言ってみて」

シンジ「母さんが現れるまでの父さんは僕に興味がなかった。自分の息子というよりも、道具。僕が必要だっわけじゃない。必要なのは、パイロットだったんでじゃないでしょうか」

リツコ「……」

シンジ「そう考えると、ダミー計画を読んでみて納得がいきます。初号機さえあればいいと思ってたんじゃないかって」

リツコ「そこまでは正解。でも、それは碇司令に初号機が必要な理由であって、私の質問に対しての答えではない。補完計画になぜ必要?」

シンジ「見当もつかないや。発動するまでにいくつか条件があるんじゃないんですか? 僕の手にあるアダムがまず第一。そして二番目には初号機とか。そういういくつものピースが重なってる」

リツコ「(おそろしい子なのかもしれない)」

シンジ「おそらくですけど、今は準備段階。その合間に使徒が来てる。準備ができれば、いつでも補完計画を発動したいと思ってる」コトコト

リツコ「そこは違うわ。私たちはタイムスケジュールに沿って準備、行動しているの」

シンジ「(裏死海文書。真実が書かれた予言書のことか)」

リツコ「莫大な国連費がかかっているのよ。億を飛び越えて兆単位の資金。この時点で何人死んでてもおかしくない」

シンジ「お金、ですか」

リツコ「欲をだして人が死ぬなんてしょっちゅうある話でしょう。一億あれば人殺しをする輩なんて万といるわよ。それがネルフにかかっているのは兆。規模の大きを実感できる?」

シンジ「いえ、あんまり」

リツコ「桁が大きすぎるのね」

リツコ「――ほんと。美味しい」

シンジ「どうも」

リツコ「これほどの腕前ならミサトじゃなく私が引き受け人になるべきだったかしら」

シンジ「今はマヤさんですけどね」

リツコ「シンジくん、マヤに頼るのはやめなさい」

シンジ「……」

リツコ「危険だわ。ユイ司令は、必要だと判断すれば容赦がなくなるわよ」

シンジ「わかってます。今は計画の中心にいるのが僕。それ以外は道具、でしょ」

リツコ「ご明察。そこまでわかってるのなら説明する必要はないわね」

シンジ「であれば、同居を解消するように働きかけてください。一緒に住んでいると否応にでも巻き込んでしまう」

リツコ「一理ある」

シンジ「衝動は時と場所を選んでくれません。僕の都合なんておかまいなし」

リツコ「それがマヤに向けられる。そう考えてるのね?」

シンジ「はい。そうなれば僕の望むところではありません。マヤさんに話をしたのはその対応策なんです」

リツコ「……シンジくんから?」

シンジ「そうです。マヤさんになにも非はありません」

リツコ「それはウソね。聞いただけじゃ、動こうとしないもの。あなたに惹かれるなにかがあったはず」

シンジ「曲がったことが許せないだけなんじゃないですか」

リツコ「かばってるつもり? お優しいこと」

シンジ「リツコさんのせいでもあります」

リツコ「私も?」

シンジ「憧れていた先輩が思っていた人ではなかった。現実と理想の違い」

リツコ「幻滅したのが?」

シンジ「気がつかないんですか。マヤさんにとって、リツコさんは心の支えだったんです。それがなくなってしまい、弱ってしまった」

リツコ「あの子、まだ子供ね」

シンジ「子供だとか関係ないと思います。むしろ、歳をとってるからこそ他人のありがたみがわかる。大事な人であればあるほど」

リツコ「あなた、まだ若いでしょう」

シンジ「この一週間、本当に密度が濃かったんですよ。自分の面と向き合うことを余儀なくされました。自分のしたいことで精一杯で、僕はまわりを見ていなかったと実感できるほどに」

リツコ「一時的なものね。人は忘れながらに生きているから」

シンジ「それでも、この出来事を僕は忘れないと思います」

リツコ「あなたの経験則から導きだされた答え。つまり、悟ったからみんなもそうであると?」

シンジ「違います。ただ、若さとは、無謀なことができる期間なんだと漠然と感じます」

リツコ「……」カチャ

シンジ「ワイン、飲まれますか?」

リツコ「シンジくん。将来はウェイターにでもなったら?」

シンジ「僕に将来なんてあるんですかね」

リツコ「自身の死についてまで悟りを開いたの?」

シンジ「いえ、よく、わかりません」

リツコ「もうこんな時間。話すぎたわね。帰っていいわよ」

シンジ「あ、はい」

リツコ「またいつでもいらっしゃい。敵といっても、私はお母様より融通が効くわよ」

【マヤ宅 リビング】

シンジ「ただい……わあっ⁉︎」

マヤ「お父さん、お母さん、先立つ不孝をお許しください」

シンジ「ま、マヤさんっ⁉︎ なにやってるんですか⁉︎」

マヤ「あ、シンジくん、おかえり。ごめんね、いま、準備してるから」

シンジ「ロープから手を離して! そんなの一体どこから」

マヤ「帰りにホームセンターに寄って買ってきたの」

シンジ「いや、そうじゃなくて! 大丈夫ですよ!なにも心配しなくていいんです!」

マヤ「うふ、うふふ。私、失敗しちゃった。先輩ならわかってくれると思ったのに。また裏切られちゃったの」

シンジ「そ、それは……リツコさんもやりたいことがあって……!」

マヤ「私には仕事しかないもの。実家に帰るぐらいなら、生きてたって」

シンジ「そんなことありませんよ! 生きてればなんだってできます!」

マヤ「気力がなくなっちゃったの! シンジくんの力になりたかった、けど、逆に足を引っ張っちゃったね」

シンジ「一度失敗したぐらいでなんだっていうんですか!」

マヤ「取り返せるつまずきならまだいい。だけど、クビなら無理。やり直すにしても、ネルフとは別の場所」

シンジ「仕事が全てだなんて、そんな……」

マヤ「決めたの。先輩に見捨てられて、シンジくんにも迷惑をかけて。ボロボロだわ」ガタッ

シンジ「まって!」ダダダッ

マヤ「うっ」ガクッ ジタバタ

シンジ「くそっ!」ガシッ

マヤ「は、離してっ! シンジくん! 離してよっ!」

シンジ「暴れないでくださいよ! 持ちあげるのに力が……」

マヤ「死なせてよ! 死にたいの!」

シンジ「(こうなったら、力を使うしか……!)」

マヤ「え?」ヒョイ

シンジ「はぁ……。まさかそんなに張り詰めてたなんて」

マヤ「お、重くないの?」

シンジ「今は箸を持ちあげる重さぐらいですよ。使徒の力を使ってますから」

マヤ「そういう……あの、降ろして。お姫様抱っこされるような歳じゃ」

シンジ「もうしませんか? こういうこと」

マヤ「……」

シンジ「だったら、降ろせません」

マヤ「わかった。しないから」

シンジ「一瞬とはいえ苦しかったでしょ」スッ

マヤ「うっ……ぐすっ……」

シンジ「僕が止めたのは、マヤさんが死んだら悲しいからです。ここにいたっていいんですよ。ネルフにも」

マヤ「本当? 私、まだ、やり直せる?」

シンジ「リツコさんの了承は得られました。信じてもいいと思います。危険はありますが」

マヤ「ありがとう、シンジくん、ありがとう」ギュウ

シンジ「(女の人ってみんなこうなのかなぁ)」ポンポン

ちょいすんまへん
読み返すと>>576からセリフ回し荒くなってるんでレスしなおし

【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「――療養の為、実家に戻りなさい」

マヤ「えっ⁉︎ そんなっ」

リツコ「命令よ。伊吹二尉。解雇予告だと思ってもらって結構です。休職期間が明けた後、技術局ニ課より……」

マヤ「せっ、先輩っ! 待ってください! どうしてですかっ⁉︎」

リツコ「ありのままの事実を伝えていたはず。身元保証人には私がなっていると。にもかかわらず、まだ調査しているわね。勝手な振る舞いに対する責任は負いきれない」

マヤ「ち、違うんです! これは、使徒の生態調査をしていただけで」

リツコ「使徒?」ピク

マヤ「これまでの使徒の襲来パターンから次の使徒に有効な分析や対策案を練ろうと」

リツコ「動機は?」

マヤ「あの、この前は先輩とあんな風に口論しちゃいましたし。落ち着かなかったので、なにか気持ちが落ち着くことをしようと思って。作業に没頭してれば考えなくて済むじゃないですか!」

リツコ「……」

マヤ「本当に、それだけなんです!」

リツコ「マヤ、見えすいた嘘はやめなさい」

マヤ「せ、先輩……」

リツコ「知り得た事実が負担になっている。これから起こるであろう出来事に耐えきれるように見えない」

マヤ「わからないじゃないですか! お願いします! 辞めたくはないんです!」

リツコ「……」

マヤ「先輩! お願いです!」

リツコ「なぜネルフにしがみつくの? ここで働いていたという実績があれば、引く手あまたよ」

マヤ「私の目標なんです。先輩が。……どういう性格だとしても、研究に対する姿勢や視点について学ぶべきことはたくさんあります。ウソじゃありません」

リツコ「パソコンを貸しなさい」

マヤ「はい」スッ

リツコ「……これは。使徒? いえ、誰のデータ?」

マヤ「シンジくん、です」

リツコ「あなた、やはり……!」

マヤ「どうしてですかっ⁉︎ 先輩はいつもフラットに物事を見極めていました! 科学者として証明するべきでしょう!」

リツコ「なにか聞いたのね?」

マヤ「少しだけ。彼はなにも知りません。私が自分の意思で話してることだからです!」

リツコ「……」

マヤ「先輩……! 目を覚ましてください! 私たちは、シンジくんにこそ協力をするべきです!」

リツコ「あなたを解雇する前にシンジくんに事情聴取しなくちゃ」

マヤ「先輩っ!!」

リツコ「黙りなさいっ! どれほどの危険に首をつっこんでいるかわかってるのっ⁉︎」バンッ

マヤ「わかってます! だけど、それでも私は! 先輩と……!」

リツコ「らちがあかないわ。通常業務に戻りなさい。シンジくんは学校にいるから、放課後ここにくるように指示する。あなたも同席するのよ」

マヤ「……」ギュウ

リツコ「中学生にほだされるなんて。恥を知ったらどう?」

マヤ「先輩こそ! やっていいことと悪いことに年齢は関係ありません!」

【第壱中学校 昼休み】

マナ「シ~ンジくんっ」

シンジ「……」ぼー

マナ「あれ? おーい、もしもーし」

ケンスケ「シンジならずっとこの調子だよ」

マナ「そういえば、授業中もそうだったね?」

ケンスケ「めずらしーね。霧島がシンジのチェックを怠るなんてさ」

マナ「はぁ、緑化委員になんか立候補しなきゃよかった」

トウジ「センセ、飯やぞ。飯」ポン

シンジ「……」カクン

トウジ「なんや、電池でも切れとるんかいな。おいケンスケ、ゼンマイ貸せや」

ケンスケ「人間に使えるネジなんかあるわけないだろ」

マナ「なにかあったのかな? もしかして、昨日のアスカ?」

アスカ「はぁ……あんたねぇ、ことあるごとにあたしに対抗心燃やすのやめない?」

マナ「噂をすれば。耳がよろしいのね」

アスカ「へぇ、地獄耳だって言いたいわけ?」

トウジ「まぁまぁ! そないな猿蟹合戦よりも霧島さま! 今日のお弁当は……」

ヒカリ「あの、鈴原、よかったら、これ」スッ

トウジ「あん? 委員長やないか。どないしたんや、これ」

ヒカリ「うち、お姉ちゃんと妹の分も作ってるからあまりすぎちゃって」

トウジ「委員長の料理かぁ~。まずそう――」

マナ&アスカ「黙って食べなさいっ!」バチーン

トウジ「な、ナイスコンビネーション」パタリ

アスカ「シンジ。シンジ」ユサユサ

シンジ「……」ぼー

アスカ「ちっ! バカシンジっ!」ユサユサッ

シンジ「あ、うわ、うわぁっ⁉︎ あ、アスカ? み、みんなも? なに?」

ケンスケ「とっくに昼だよ」

シンジ「あぁ、そんな時間。トウジはなんで倒れてるの?」

マナ「体調、悪い? 保健室いく?」

ケンスケ「当たり前のようにスルーするなぁ」

シンジ「(昨日、あれから気絶しちゃったし。その影響なのか倦怠感が凄いんだよなぁ)」

ヒカリ「あの~、鈴原?」チョンチョン

ケンスケ「なんでもいいけど、さっさと食べちまおうぜ。残り時間短くなっちゃうよ」

【夕方 ネルフ本部 ラボ】

シンジ「碇シンジです。失礼しま……す」アングリ

リツコ「いらっしゃい。シンジくん」

シンジ「マヤさんが、どうしてここに? そんな……⁉︎」

リツコ「まずはお掛けなさいな。飲めるのはインスタントコーヒーしかないけど。淹れましょうか?」

シンジ「いえ」

リツコ「そう。それじゃ、私も座らせてもらうわね」ギシ

シンジ「……」チラッ

リツコ「ここに呼びだした理由について、察しがついたんじゃなくって? なぜ同席させているのかも。シンジくんはマヤを従わせるまで成功したみたいだけど、部下の暴走はわからなかったようね」

シンジ「僕はそんなつもりじゃ」

リツコ「言葉を選びなさい? そうしないと、命にかかわる」

マヤ「何度も説明したじゃないですか! 使徒を移植されたことしか知らないって!」

リツコ「彼に直接聞きたいの。余計な口を挟むのは慎んでちょうだい」

シンジ「……マヤさんが言ってる通りです」

リツコ「そう。喋ったら危険だと承知していたわね?」コト

シンジ「母さんを納得させるためでした。指示が降りていたので」

リツコ「犯せと? それも先ほどマヤから聞いてたけど」

シンジ「はい。合意のない行為を僕は許せませんでした。なので、余計な部分を除いて話をした。時間稼ぎをして対策を練ろうと思ったんです。僕からも質問いいですか?」

リツコ「発言を許可します」

シンジ「リツコさんにじゃありません。マヤさん、どうして……」

マヤ「ご、ごめんなさい。先輩に言うつもりなかったんだけど、きっとわかってくれる、希望を捨てきれなくて」

シンジ「……」

リツコ「このデータ。内に秘めた衝動を抑えるのに役立てるつもり?」

シンジ「僕のじゃありません。使徒です」

リツコ「いずれひとつになるでしょう。過程と結果が違うだけであなたのものといっても過言ではないわ。ふぅ……どうしたものかしらね」

シンジ「母さんはこのことをまだ知らない。そうですよね」

リツコ「自己保身よ。私も厳罰を言い渡されるもの」

シンジ「リツコさんは、どうして母さんに協力してるんですか?」

リツコ「質問に質問を返すようだけど、あなたに協力しろと?」

シンジ「そうじゃありません。知りたいだけです」

リツコ「人はそう遠くない未来に滅びてしまうからよ。ノアの方舟たる補完計画。舵取りに協力しているに過ぎない。犠牲になるものが何人いようともね」

シンジ「それだけですか?」

リツコ「中学生が生意気な口をきくんじゃありません。あなたは全体像が見えていない子供。綺麗事を並べて個人の生死に翻弄されているだけ」

シンジ「そうかもしれません。でも、勘違いしないでください」

リツコ「よく、喋るようになったわね」

シンジ「リツコさんと同じです。僕は僕のやりたいようにやろうって決めてるだけ。その目的意識が、どうなのか。そこに違いは必要ありますか?」

リツコ「ないわ。望むように生きたいと願う権利は誰にしもに与えられる」

シンジ「母さんに協力することを悪いと言ってるわけじゃない。リツコさんが正義だと思う、大義名分がそこにあるんでしょうから。でも、本当にそれだけですか?」

リツコ「(この子……)」

シンジ「誰だって、弱い部分はあるんじゃないの。リツコさんは、そんなに完璧なんですか?」

リツコ「シンジくん。あなた、まさか……私の、知ってるの?」

マヤ「……?」

シンジ「ぷっ、くっくっくっ」

リツコ「なにがおかしいの?」

シンジ「可笑しいですよ、うろたえてるのが。誰にだって秘密は……触れられたくない部分はある。そうリツコさんが言ってるのと同じじゃないんですか?」

リツコ「……」

シンジ「僕は、マヤさんを守りたい。リツコさんよりもです」

マヤ「し、シンジ……くん?」

シンジ「もし、マヤさんを殺せば……僕はたぶん抑えられなくてリツコさんを殺します。中学生ですから。ついうっかり弾みでってことが起こるかもしれない」

リツコ「年齢を言い訳にする気?」

シンジ「子供扱いしてるのはリツコさんです。対等に考えてください。僕に取り引き材料がないわけじゃありません」

リツコ「――脅し?」

シンジ「どう受け取ってもらっても結構です」

リツコ「(親に似てきた? ……不自然ね、これはある種の覚悟からきているのかもしれない)」

シンジ「僕としてはゆっくり見守っていただきたいと思っています。マヤさんに危害を与えず」

リツコ「やけに思考が冴えているみたいね。アダムの影響?」

シンジ「そういうわけじゃありませんよ。僕はリツコさんがこわいので」

リツコ「私が?」

シンジ「はい。母さんの側近で、最も警戒すべき相手の一人だと考えています。そんな人と対峙している。どうなります?」

リツコ「ふふっ、なるほど。よくわかった。マヤは板挟みってわけ。私とシンジくんの」

シンジ「マヤさんは、なにも知らなくてよかったんです。僕達が巻き込んでしまった。そうでしょ? リツコさん」

リツコ「そうね」

シンジ「今回だけは見逃してくれませんか。僕が使徒の力を自覚している件についても」

リツコ「口約束でしか保証しないわよ」

シンジ「契りは必要ありません。リツコさんを信じます」

リツコ「愚かだわ。大人を舐めると痛い目にあう」

シンジ「自分の都合の良いように振る舞うのが大人だっていうんですか?」

リツコ「それは一面にしかすぎない。ずる賢く、狡猾で、そういう生き方を正当化する方法を知っているのも大人なのよ」

シンジ「だったら、僕はリツコさんの人間性を信じます」

リツコ「信じるという意味をわかってるの?」

シンジ「無条件にじゃありませんよ。リツコさんにとっても大切な部下ですよね」

シンジ「人情っていうんですか? こういうの。難しい言葉はよくわかりませんけど」

リツコ「よくもまぁぬけぬけと。……もしかしたら、化けるかも。試してみる価値はある」パサ

シンジ「これは……? なんですか?」

リツコ「ダミーとその計画書。適格者が存在せずとも、エヴァの起動を可能にするシステムよ。理解できる?」

シンジ「……」ペラ

マヤ「わ、私にも」

リツコ「黙って」

シンジ「――ベースは綾波ですか?」パサ

リツコ「驚きね。一読したかと思えば瞬時に辿り着いた。やはり、親の血は受け継いでいる、か」

シンジ「無人機にしてどうするつもりですか」

リツコ「その前に、あなたが計画していることはなに?」

シンジ「リツコさんから見れば、駄々をこねてるように感じるかもしれませんが、僕は補完計画を発動させない別の道を模索したい」

リツコ「ナンセンスよ。第三の選択肢なんてありえないわ。発動させなければ人類は滅びてしまう。“再生させるか”、“無に帰すのか”。シンジくんはこの二択で終焉を選ぼうというの?」

シンジ「道がなければ作れば良い。人類はそうやって進化してきました」

リツコ「それは数千年もの間、生命を紡いで反省と学習をできた期間があったから。今は結論をだすまでに一年……もっと短いかもしれない。猶予はない」

シンジ「最後まで足掻いてみたいんです。人が人のせいで終わりを迎えるというのなら、それだって自然の摂理のはず」

リツコ「私たちのしようとしていることに対して弾糾するつもり?」

シンジ「いくら大義名分を掲げようたって。知的生命体である人の可能性がある。どうしてやる前から諦めなくちゃいけないんだよ」

リツコ「ことのなりゆきを見守るだけでは99%の人が死ぬとMAGIの試算がでてる。果てしない暴力が終わった後、石器時代まで文明は退化するわよ」

シンジ「……僕が望むのは現状維持です。母さんは変革を求めている。この国だって他国がしかけてきたら自己防衛するのと一緒です」

リツコ「保守的ね。しかけているのはこちら?」

シンジ「補完計画の発動を止める。その後に計画性がない、愚かな選択だとしても、人類の未来は人という種が決めるべきです」

リツコ「評価を改めるべきかしら。見た目を抜きにすれば、中学生が発している意見と思えない。言葉に酔ってるだけと受け取れなくもないけど」

シンジ「母さんもそうでしたけど、リツコさんもですか」

リツコ「……?」

シンジ「採点してる気になってる時点で、上から見てるんですよ。評価って、そういうものでしょう」

リツコ「これは失礼。取り引きに話を戻しましょう。シンジくん、あなたは私がマヤを救いたいと思っているのね?」

シンジ「少なからずは」

リツコ「切り捨てられないわけじゃない」

マヤ「(先輩? なんだか、楽しそう?)」

シンジ「そうだとしたら困っちゃいます」

リツコ「ふふっ、可愛げ、身につけたの?」

【リツコ宅 リビング】

シンジ「食材は自由に使わせてもらいますよ。それにしても意外でした、まさか、条件を飲む理由が」

リツコ「なにもなしじゃ遊び心がないわ。口実になるけど、シンジくんの手料理はおいしいって評判だし、一度食べてみたかったの」

シンジ「みんな、過大評価しすぎなだけです。レシピ通りにやれば誰だってできるのに」

リツコ「料理人に失礼よ。美味しいものは美味しい。それでかまいやしないわ」

シンジ「電気タイプなんですね。ここのコンロ」ピッ

リツコ「どこまで把握してるの?」

シンジ「また続きですか……言いたくありません」

リツコ「もしかして、昏睡状態の出来事を覚えてるんじゃ? タブリスになにか吹き込まれた?」

シンジ「カヲルくんですか?」キョトン

リツコ「(違う、タブリスではない。だとしたら、一体誰がここまでの変貌に導いたのかしら……。外的要因をくわえなければ不可能なはず)」

シンジ「……なにを知ったとしてもやりたいと思っているのは言った通りです」

リツコ「特別に答えををあげるわ。先程渡した計画書。あれは古い書類よ。変更される前のね」

シンジ「……」トントントン

リツコ「新しいダミーの研究は既にはじまっている。被験体は渚カヲル。進捗状況までは教えない」

シンジ「構いませんよ。やっぱり、やることに変わりはないんですね」

リツコ「補完計画に必要不可欠ですものね。それは、あなたも同様に。……どう? 人類代表に選ばれた気分は」

シンジ「元々、そういう計画じゃなかったでしょう」

リツコ「鋭い。まるで知っているかのよう口ぶりに先程から鳥肌がたちっぱなし」

シンジ「褒めたってなにもしませんよ」

リツコ「私、おべっか使うの嫌いなのよ。もし本当になにも知らないままに推察だけで発言しているとしたら、これほど興味深い話はない」

シンジ「そうですか」

リツコ「とっても不自然ですもの。一週間ほど前まで、事なかれ主義だっただけに、不気味」

シンジ「そんな気がするだけです」

リツコ「シンジくんのお父様が提唱していた補完計画は、初号機が中心にあった。なぜだと思う?」

シンジ「なんでもわかるわけじゃありませんから」ジュー

リツコ「想像でかまわないわ。言ってみて」

シンジ「母さんが現れるまでの父さんは僕に興味がなかった。自分の息子というよりも、道具。僕が必要だっわけじゃない。必要なのは、パイロットだったんでじゃないでしょうか」

リツコ「ガッカリした?」

シンジ「いえ。そう考えると、ダミー計画を読んでみると納得がいきます。初号機さえあればいいと思ってたんじゃないかって」

リツコ「そこまでは正解。でも、それは碇司令に初号機が必要な理由であって、私の質問に対しての答えではない。補完計画にはなぜ?」

シンジ「見当もつかないや。発動するまでにいくつか条件があるんじゃないんですか? 僕の手にあるアダムがまず第一。そして二番目には初号機とか。そういういくつものピースが重なってる」

リツコ「(他人事のようね。冷静に分析してる)」

シンジ「おそらくですけど、今は準備段階。その合間に使徒が来てるのかな。……準備ができれば、いつでも補完計画を発動したいと思ってる」コトコト

リツコ「そこは違うわ。私たちはタイムスケジュールに沿って準備、行動しているの」

シンジ「(裏死海文書。真実が書かれた予言書か)」

リツコ「莫大な国連費で補っているのよ。億を飛び越えて兆の運用金。この時点で何人死んでてもおかしくない」

シンジ「お金、ですか」

リツコ「欲をかいて人殺しなんてしょっちゅうある話でしょう? それが一連の計画にかかっている単位が兆。規模の大きを実感できる?」

シンジ「いえ、あんまり」

リツコ「碇前司令も幾度となく手を汚しているわよ」

シンジ「驚きはありません。やってても不思議じゃないと思います。できましたよ、冷めないうちにどうぞ」コト

リツコ「あら、本当に美味しい。これほどの腕前ならミサトじゃなく私が引き受け人になるべきだったかしら」

シンジ「今はマヤさんですけどね」

リツコ「シンジくん、マヤに頼るのはやめなさい」

シンジ「……」

リツコ「危険だわ。ユイ司令は、冷酷になれば容赦がなくなるわよ」

シンジ「わかってます。今は計画の中心にいるのが僕。それ以外は道具、でしょ」

リツコ「ご明察。そこまでわかってるのなら説明する必要はないわね」

シンジ「同居を解消するように働きかけてください。一緒に住んでいると否応にでも巻き込んでしまう」

リツコ「ふぅん、一理ある」

シンジ「衝動は時と場所を選んでは……。僕の都合なんておかまいなし」

リツコ「それがマヤに向けられる。そう考えてるのね?」

シンジ「僕の望むところではありません。マヤさんに話をしたのは対応策の一環なんです」

リツコ「……シンジくんから?」

シンジ「そうです。マヤさんになにも非はありません」

リツコ「それはウソね。聞いただけじゃ、動こうとしないもの。あなたに惹きつけられるなにかがあったはず」

シンジ「曲がったことが許せないだけなんじゃないですか」

リツコ「かばってるつもり? お優しいこと」

シンジ「リツコさんのせいでもあります」

リツコ「私も?」

シンジ「憧れていた先輩が思っていた人ではなかった。現実と理想の違い」

リツコ「あの子のかかえる問題点は理解しているわ」

シンジ「気がついてないんですよ。マヤさんにとって、リツコさんは心の支えだったんです。それがなくなってしまい、弱ってしまった」

リツコ「(シンジくんのデータ、早急に書き換えなければ……)」

シンジ「この一週間、本当に密度が濃かったんですよ。自分の色んな面と向き合なくちゃいけなくなってました。したいことで精一杯で、僕はまわりを見ていなかったと実感できるほどに」

リツコ「一時的なものよ。人は忘れながらに生きているから」

シンジ「それでも、これまでの出来事を僕は忘れないと思います」

リツコ「経験則から導きだされた答え? 悟ったからみんなもそうであると?」

シンジ「違います。ただ、若さとは、無謀なことができる期間なんだと漠然と感じます」

リツコ「……」カチャ

シンジ「ワイン、飲まれますか?」

リツコ「シンジくん。将来はウェイターにでもなったら?」

シンジ「僕に将来なんてあるんですかね」

リツコ「自身の死についてまで悟りを開いたの?」

シンジ「いえ、よく、わかりません」

リツコ「もうこんな時間。話すぎたわね。ごちそうさま」

シンジ「あ、はい。でも、少し手をつけただけじゃ」

リツコ「料理自体に不満はない、頭の回転が鈍くなるから、少食なのよ。満腹感はどうしても受け付けたくないというだけ。またいつでもいらっしゃい。歓迎するわ」

シンジ「……」

リツコ「(今のあなたなら、ね)」

【マヤ宅 リビング】

シンジ「ただいま。あれ? マヤさん、なにして――わあっ⁉︎」

マヤ「お父さん、お母さん、先立つ不孝をお許しください」

シンジ「ちょっとっ⁉︎ なにしようとしてるんですか⁉︎ なに考えてるんですかっ⁉︎」

マヤ「あ、おかえり。ごめんね、いま、準備してるから」

シンジ「ロープから手を離して! そんなの一体どこから」

マヤ「帰りにホームセンターに寄って買ってきたの」

シンジ「いや、そうじゃなくて! 大丈夫ですよ!なにも心配しなくていいんです!」

マヤ「うふ、うふふ。私、墓穴掘っちゃった。先輩ならわかってくれると思ったのに。また裏切られちゃったの」

シンジ「そ、それは……リツコさんもやりたいことがあって……!」

マヤ「私には仕事しかないもの。実家に帰るぐらいなら、生きてたって」

シンジ「そんなことありませんよ! 生きてればなんだってできます!」

マヤ「気力がなくなっちゃったの! シンジくんの力になりたかった、けど、逆に足を引っ張っちゃったね」

シンジ「一度失敗したぐらいでなんだっていうんですか!」

マヤ「取り返せるつまずきならまだいい。だけど、クビなら無理。やり直すにしても、ネルフとは別の場所」ツゥー

シンジ「マヤさん、泣いて……仕事が全てなんて、そんな……別の幸せが」

マヤ「決めたの。先輩に見捨てられて、シンジくんにも迷惑をかけて。もう、ボロボロだわ」ガタッ

シンジ「まってっ!」ダダダッ

マヤ「うっ」ガクッ ジタバタ

シンジ「くそっ!」ガシッ

マヤ「は、離してっ! シンジくん! 離してよっ!」

シンジ「暴れないでくださいよ! 持ちあげるのにきつくなる……」

マヤ「死なせてよ! 死にたいのっ!」

シンジ「(こうなったら、使徒の力に頼るしか……! こんなに使ったら、母さんに絶対にバレるきっかけを与えてしまう! けど!)

マヤ「え?」ヒョイ

シンジ「はぁ……。まさかそんなに張り詰めてたなんて」

マヤ「お、重くないの?」

シンジ「箸を持ちあげる重さぐらい。これが身体能力の強化です」

マヤ「今の状態が……あの、わかったから降ろして。お姫様抱っこされるような歳じゃないし」

シンジ「もうしませんか? こういうこと」

マヤ「……」

シンジ「答えを聞くまで降ろせません」

マヤ「しないから」

シンジ「一瞬とはいえ苦しかったでしょ」スッ

マヤ「うっ……ぐすっ……」

シンジ「僕が止めたのは、マヤさんが死んだら悲しいからです。ここにいたっていいんですよ。ネルフにも」

マヤ「本当? 私、まだ、やり直せる?」

シンジ「リツコさんの了承は得られました。信じてもいいと思います。危険はありますけど、納得、してるんでしょう?」

マヤ「ありがとう、シンジくん、ありが、とうぅっ……うっ、うああぁっ」ポロポロ

シンジ「(女の人ってみんなこうなのかなぁ?)」ポンポン

【ネルフ本部 執務室】

ユイ「これで何度目?」

諜報部「伊吹二尉のお宅に、ご子息が移られてからですか? 電磁波発生の頻度は――」

ユイ「バカな質問をしたわ。ほぼ毎日ね」

諜報部「いかがいたしますか? その、リユース品ではありませんし、あまりにも」

ユイ「こちらで検討します。疑問を抱かなくていい」

諜報部「はっ! 失礼いたします!」ビシッ

ユイ「シンジったら、もう。安直な手段を選ぶのはよろしくない。あの人に似たのかしら」

冬月「早計すぎるのではないか。やつが意図的に制御できているとなぜ言い切れはしまい。あるいは、垂れ流しているだけとも」

ユイ「魂の同化が促進されている点を憂慮すべきですね。アダムに振り回されているのか、意図的に行使できるようになっているのか」

冬月「直接問いただしてもいいが、素直に口を開くとも思えん。穏便に事を進めるのは難しいやもしれんな」

ユイ「……」

冬月「なに、割り出すのにそれほど難儀はせんだろう。こうまであからさまになっていては」

ユイ「豊富なサンプルを元に科学に頼るとしますか」

冬月「MAGIか。我々もラクな手段を選んでいるのだからサードチルドレンを笑えんな。便利な道具は人を腐らせもする。……おい」

リツコ「ごようでしょうか?」スッ

ユイ「一度帰宅したのに悪かったわね。行き違いだったとはいえ、残るよう通達するのを怠って」

リツコ「お気になさらず。やりかけの仕事を思い出していたので丁度良いぐらいです」

ユイ「データを洗い出してほしい。主に行動記録」

リツコ「承知いたしました」

ユイ「それと、伊吹二尉はどうするつもり? なにか知ったはずよね?」

リツコ「なんのことでしょうか」

ユイ「使徒の能力を使える状態にまで移行してるわ。同居人である彼女が無事な以上――」

リツコ「無用な詮索をやめるようきつく言い含めております。問題ありません」

ユイ「以前に言ったわよね?」

リツコ「はい。いかなる場合を以てしても責任は私が負います」

冬月「おい、それぐらいでよかろう。作業に必要な質問があれば聞こう」

リツコ「日付けはいつまで遡りますか?」

冬月「全てだ。幼少期から今日(こんにち)に至るまでMAGIの演算能力で総当たりにしろ。やつの分析も忘れるなよ」

リツコ「おまかせください。変異点を見つけ次第、逐一報告いたします」

ユイ「ねぇ、赤木博士」

リツコ「なんでしょうか?」

ユイ「どうしたら私に心を許す?」

リツコ「ご質問の意図を計りかねます」

ユイ「わからないから聞いてみたのよ。夫の真実を知って、私の存在を知って……あなたの心は死んだまま。ゾンビみたいに」

リツコ「安い挑発でなにか釣ろうとなさっているのですか。それもまた、以前と同様に」

ユイ「失敗という教訓を活かし鉄仮面を被ったってわけ。……以上です、取り掛かって」

あらら、ちょっとレスしなおし

【ネルフ本部 執務室】

ユイ「これで何度目?」

諜報部「伊吹二尉のお宅に、ご子息が移られてからですか? 電磁波発生の頻度は――」

ユイ「バカな質問をしたわ。ほぼ毎日ね」

諜報部「いかがいたしますか? その、リユース品ではありませんし、あまりにも」

ユイ「こちらで検討します。疑問を抱かなくていい」

諜報部「はっ! 失礼いたします!」ビシッ

ユイ「シンジったら、もう。安直な手段を選ぶのはよろしくない。あの人に似たのかしら」

冬月「早計すぎるのではないか。やつが意図的に制御できていると言い切れはしまい。あるいは、垂れ流しているだけとも」

ユイ「魂の同化が促進されている点を憂慮すべきですね。アダムに振り回されているのか、意図的に行使できるようになっているのか」

冬月「直接問いただしてもいいが、素直に口を開くとも思えん。穏便に事を進ようとする前提にこだわれば、ちと厄介だな」

ユイ「……」

冬月「なに、割り出すのにそれほど難儀はせんだろう。こうまであからさまになっていては」

ユイ「豊富なサンプルを元に科学に頼るとしますか」

冬月「MAGIか。我々もラクな手段を選んでいるのだからサードチルドレンを笑えんな。便利な道具は人を腐らせもする。……おい」

リツコ「ごようでしょうか?」スッ

ユイ「一度帰宅したのに悪かったわね。行き違いだったとはいえ、残るよう通達するのを怠って」

リツコ「お気になさらず。やりかけの仕事を思い出していたので丁度良いぐらいです」

ユイ「データを洗い出してほしい。主に行動記録」

リツコ「承知いたしました」

ユイ「それと、伊吹二尉はどうするつもり? なにか知ったはずよね?」

リツコ「なんのことでしょうか」

ユイ「使徒の能力を使える状態にまで移行してるわ。同居人である彼女が無事な以上――」

リツコ「無用な詮索をやめるようきつく言い含めております。問題ありません」

ユイ「以前に言ったわよね?」

リツコ「はい。いかなる場合を以てしても責任は私が負います」

冬月「おい、それぐらいでよかろう。作業に必要な質問があれば聞こう」

リツコ「日付けはいつまで遡りますか?」

冬月「全てだ。幼少期から今日(こんにち)に至るまでMAGIの演算能力で総当たりにしろ。やつの分析も忘れるなよ」

リツコ「おまかせください。変異点を見つけ次第、逐一報告いたします」

ユイ「ねぇ、赤木博士」

リツコ「なんでしょうか?」

ユイ「どうしたら私に心を許す?」

リツコ「ご質問の意図を計りかねます」

ユイ「わからないから聞いてみたのよ。夫の真実を知って、私の存在を知って……あなたの心は死んだまま。ゾンビみたいに」

リツコ「安い挑発でなにか釣ろうとなさっているのですか。それもまた、以前と同様に」

ユイ「失敗という教訓を活かし鉄仮面を被ったってわけ。……以上です、取り掛かって」

【翌日 ネルフ本部】

リツコ「ミサト、ちょっといい?」

ミサト「ふぁ~ぁ。なぁにぃ? デスクワークが溜まりまくっててさぁ、あんまり寝れてないのよぉ~」

リツコ「髪ぐらい整えたらどう? 監査近いんだから」

ミサト「へいへい。ありがたぁ~いお小言なら耳にタコができるほど――」

リツコ「生活態度があまりにだらしないから逸れてしまったわ。用件は別にある」

ミサト「なんでしょーか」

リツコ「特別プログラムの企画書を用意したの。見てくれない?」パサ

ミサト「文字読みたくないのに~。……わかりましたぁ! 睨まないでよ」

リツコ「現時点での成績はアスカが頭一つ抜きん出ている。誤差を約10パーセントほど離してね」

ミサト「ちょっと、なにこれ? なんでシンジくんがエースパイロットに? 成績からいってアスカでしょ⁉︎」

リツコ「チルドレン達にはまとめ役の人間が必要だわ。いわゆる中間管理職的な」

ミサト「だったら別個でそういうポジションを設ければいいだけなんじゃないの? シンクロ率で上回っているならまだしも」

リツコ「これまでの働きを多角的に分析し、判断しました。まず最初に太平洋上に出現した使徒は同乗。後半に驚異的な伸びを見せているから彼のおかげね」

ミサト「……」

リツコ「次に、日本でのデビュー戦においては、ミサトの命令を無視し、独断専行。無様にも撤退。その数日後、共同作戦を展開しての撃破」

ミサト「ふぅ~ん」

リツコ「いずれのケースもアスカの働きだけでと言える? 実戦においてどちらがエースにふさわしいかしらね?」

ミサト「プライドの高いアスカが認められると考えてるの? 到底ありえないわ。反発は必至よ」

リツコ「シンジくんには積み上げた“努力”という下地がない。それぐらいはわかっています」

ミサト「納得させる手を考えてるってこと?」

リツコ「そうではないわ。危機感を煽る為の競争意識」

ミサト「たしかに、そっかぁ。今のあの子はシンクロ率トップという肩書きの上にあぐらをかいてるものね」

リツコ「チームリーダー、そしてエースパイロットは必ず一致する必要はない。指摘には同意する。パイロット達がだらけきっているのも事実だけどね」

ミサト「それなら――……いっ⁉︎ ぺ、ページめくったらとんでもないこと書いてあるじゃない! こ、これって……シンジくんが耐えられる?」

リツコ「あくまで適正を診断する検証。承認はいかがいたしますか? 作戦司令」

ミサト「う、うぅ~ん。いや、でも、これはさすがに……大丈夫?」

リツコ「案ずるより生むが易しよ。試してみてだめだったら、引き上げればいい」

【ネルフ本部 執務室】

冬月「企画書は既に目を通してある。正気かね、サードチルドレンを」

ユイ「――戦自へ訓練生として入隊させるとはね」パサ

リツコ「不都合はありません」

ユイ「水面下で対立関係にあるのを知らないわけではないでしょう。そんなことを頼んだ覚えはないんだけど」

リツコ「戦自はネルフに鬱憤が溜まっています。国民ではない、うさんくさい組織の下働き。都合の良い召使い的な存在に成り下がっているのですから」

ユイ「言われなくともわかっています。ガス抜きに使う気?」

リツコ「特別扱いをさせては余計に不満を噴出させます。他の隊員同様の扱いであればあるほど望ましいかと」

ユイ「同じ扱い? 不可能よ」

リツコ「葛城一尉からは精神力を鍛えるのに適した環境だと同意を得ています。加えて、アダムの能力を使えるかの検証にも良い兆候を見出せるはず」

ユイ「電磁波だけでなく、身体能力強化、ね」

リツコ「昨夜のMAGIの結果は、賛成1、反対2でサードチルドレンにアダムの自覚はないとの結論がくだされました」

冬月「なに? ならば使徒が暴走しているということか?」

リツコ「賛成が1あります。限りなく0に近い数字ではあるものの、微妙な結果となってしまいました」

冬月「ううむ」

リツコ「つきましては、伊吹二尉との同居解除を提言いたします。戦自への入隊が決まれば、不要になりますので」

ユイ「肉体的、精神的に慣れない環境、追いつめてからの反応……」

リツコ「いかがでしょうか?」

ユイ「悪くない提案です。期間は設けないように」

リツコ「元よりそのつもりです。短い期間になるのは間違いありませんが、本人に告げると“その間だけ耐えればいい”と思わせてしまう。意味がなくなってしまいます」

ユイ「よろしい。承認します」

冬月「ええい、少し落ち着きたまえ。勇足すぎる。やつはこちらの核となる存在だぞ。あの線の細い身体に軍隊訓練なぞ」

ユイ「無理だと判断したらすぐに呼び戻します。ネルフから戦自へ何名か潜伏しているわね」

リツコ「はい」

ユイ「大至急、連絡をとってちょうだい。私は午後の予定をキャンセルしてあちらの責任者と会食を行います」

冬月「ネルフ総司令がアポもなしに突然の来訪か。てんやわんやする姿が目にうかぶよ。またヘイトを溜めるだろうな」

リツコ「(ここまでは順調。変わりようが本物かどうか。働きに期待してるわよ、シンジくん)」

【第壱中学校 昼休み 屋上】

マナ「サードチルドレンが部隊に⁉︎」

上官「こちらも突然の申し出で混乱している。実戦に就くわけではないが」

マナ「配属されるのってどこですか?」

上官「貴様の友人二人と同じ歩兵部隊になる予定だ」

マナ「まさか、そんな偶然……」

上官「我々が慌てふためる事態にならないよう、それを調べるのが貴様の任務なんだがな」

マナ「す、すみません」

上官「まぁいい。任務もとりあえずは解除という形になる」

マナ「えっ? あの、それって、ムサシとケイタを情報室に」

上官「満足に結果を出していないのにか? 考えが甘すぎるぞ、霧島隊員」

マナ「それじゃあ、これまでの話は」

上官「気を急かすな。キミが部隊に帰還した後、サードチルドレンの近くに身を寄せてもらう。解任されるのは潜入であって、情報の引き出し役は引き続きという運びになる」

マナ「あの、いつから?」

上官「明日だ」

マナ「あしたぁっ⁉︎」

上官「いちいちうるさい。電話越しとは言え頭が痛くなる」

マナ「失礼いたしました。急ですね、本当に」

上官「こちらとしても暇なわけでない上にお坊ちゃんのお守りとは。明日から部隊に復帰しろ。学校への必要な申請は済ませておく」

マナ「サードチルドレンは知っているんでしょうか?」

上官「こちらが預かり知るところではない。なにか聞いていないのか?」

マナ「いえ、なにも」

上官「報告について疑問視せざるをえない。本当に距離が近づいていたのか? 良いようにあしらわれていたんじゃないか」

マナ「そんなはずは。まだ知らないだけって可能性もありますし」

上官「至急、確認をとれ。それと、身分を隠す必要もないぞ。どうせ明日になればわかるからな」

マナ「しかし、ネルフに調査していた実態を把握されてしまうのでは」

上官「うまくやれ」

マナ「そんな。どうやって――」

上官「貴様が“女”を使うなりどうとでもしろ。以上だ」ブツッ

マナ「一体、なにがどうなってるの……。シンジくん」

【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「今頃職員室で聞いてるんじゃないかしら。断らないと思うわよ、彼」

マヤ「パイロットなのに、どうして……! 使徒が来たらどうするつもりですか⁉︎」

リツコ「使徒は来ない。まだね」

マヤ「先輩……昨日の件ですか? その当てつけに」

リツコ「私情を挟んでいるわけないでしょう。彼も同じよ。マヤの為に行くわけではない」

マヤ「なんでこんなマネしなくちゃいけないんですかっ⁉︎ 相手は中学生なんですよ! なのに、いい大人がよってたかって」

リツコ「年齢は関係ないと言ったのはあなたもなのよ」

マヤ「正しい行動に対してです! 本来ならば、自分の意思を貫くのも難しい年齢なのに」

リツコ「才能あるものの義務よ。スポーツ選手など様々な分野で突出した活躍を見せている子供達は見てごらんなさい。取材の受け答えとか機会はあるでしょう?」

マヤ「シンジくんは普通の子供でしょう! 年相応の!」

リツコ「それはあなたが枠を決め、限界だと見ているから。行き過ぎた心配は若人の可能性を潰す結果になりかねない」

マヤ「詭弁です!」

リツコ「たしかにほんの少し前までの彼ならば、私はこの発案を思いつきもしなかったでしょう。なぜならば、あまりにもイメージと反り合わないから」

マヤ「……!」ギリッ

リツコ「この一週間、ユニゾンの時と日数はそう変わらないけれど、成長は眼を見張るものがある。そう思わない? あの子が化けるなんて誰が予想できた?」

マヤ「そ、それは……」

リツコ「シンジくんを男として見てるのね。中学生と自分に言い聞かせながら、倫理と恋心との狭間で揺れている。世間一般的な常識では認められない、しかし、着実に胸にある情熱を育みつつある」

マヤ「わ、私はそんなつもり」

リツコ「そう? 大事に、大切にしまっているその想い。もし、と考えた経験があるはず。シンジくんの年齢があと数歳違かったら――」

マヤ「やめて、私の想いを汚さないでっ!」

リツコ「そんなつもりはないわ。四十と二十の結婚なんて世にありふれているのだから」

マヤ「先輩……っ!」

リツコ「(恨まれたかしらね。やはり、まだひよ子)」

マヤ「私をネルフに残していただいたことには感謝しています。ですが、もう、先輩を師とは仰ぎません」

リツコ「それでかまわないわ」

マヤ「どうでもいいんですか⁉︎ 私は、先輩以上にシンジくんに感謝しているからです」

リツコ「たった数日で? 私との数年はなんだったの?」

マヤ「こんな扱いをうけて黙っていられますか⁉︎ あの子は誠実に、私に対して真摯に接してくれます」

リツコ「また勝手なイメージで固定化するつもり?」

マヤ「私の想いを馬鹿にしないでください。たとえ数日しかなくても、あの子の為に尽力してみせます」

リツコ「技術サポートしか能のないあなたになにができると言うの?」

マヤ「結構です。先輩に……あなたに言われる筋合いはありません」

リツコ「私の気を引きたいの? なぜわざわざ宣言する必要が?」

マヤ「……っ!」ギリッ

リツコ「仕事に戻りなさい。伊吹二尉。あなたの居場所はここではなく、デスクのはず」

マヤ「この……っ!」

リツコ「言葉でなく能力で示しなさい。それが最後の教え。以上よ」

【ネルフ本部 執務室】

加持「これはこれは、お早いおかえりで。戦自に、わざわざ敵陣の中に放り込むとは。崖から突き落とす獅子のようなマネをされますね」

ユイ「潜りこめる?」

加持「厳しいでしょう。俺は政府にツラが割れてるもんで」

ユイ「先に潜伏している者達だけでは心許ないわ」

加持「壮絶なイジメが待っているかもしれませんよ。寝食を共に過ごす団体生活な上、シンジくんが厳しい訓練についていけるはずもない」

ユイ「寝込みを襲われる危険性がある。相手は血気盛んな年齢だし、一歩間違えれば殺されるかもしれない」

加持「そいつぁ、ちとすぎると思いますが。辛い状況に陥るのに変わりありませんけど」

ユイ「あの子はパイロットとして行くことになるのよ」

加持「身の丈に合わない玩具を与えられ、ちやほやされていると傍目には見えるでしょうな。……妬み、僻みの対象か。醜いっすね。人間というものは」

ユイ「死んでしまうのは避けなけれれば」

加持「ま、コンタクトを試みますよ。政府の権限を使いこちらからも数名潜伏させておきます」

ユイ「注目度は予想の倍を想定して。鳴り物入りで入ってくる大型新人以上だと」

加持「なにせ、人類を守る英雄ですしね。ところで、そろそろ俺にも餌がほしいんですが」

ユイ「構造の断面図の件? 先生」

冬月「どうせ催促されるだろうと予見していた。既に用意してある」スッ

加持「準備がはやくて助かります。このUSBメモリの中身は?」

冬月「半分正確で、半分は偽のシロモノだ。ハリボテに過ぎんよ」

加持「なるほど。政府に渡すのは、肝心なところを伏せた部分ですか」

冬月「なにもなしではキミの安全が危うくなるからな。譲歩した結果だと思え」

加持「俺を使えると評価してくれてるんでしょ。甘んじて受けますよ」カチャ

ユイ「信じさせるには充分なデータのはずよ」

加持「了解。ご子息の件もこれで動きやすくなるでしょう」

ユイ「明日、シンジは入隊する。急いで」

【第壱中学校 校長室前】

シンジ「失礼しました」

マナ「はぁっ、はぁっ、ようやく見つかった、職員室に行っても、答えられないって言うからっ」

シンジ「マナ? ……なにか連絡があったんだね」

マナ「ほん、となの? ……ふぅ」

シンジ「今聞いたところなんだ。明日、戦自に入隊することになった。期間は設けられてない」

マナ「どうして? なんでいきなり?」

シンジ「僕にもなにがなんだか。思い当たる節がないわけじゃないけど」

マナ「……あるの?」

シンジ「たぶん、母さんが僕が使ってる力に気がついたんだと思う。隠し通ないとは思っていたんだ。でも、僕に直接確認せず、こうくるとはねぇ」

マナ「なんのこと言ってるかわからないけど、他人事みたいな感想を呑気に! 戦自じゃネルフはっ!」

シンジ「訓練ってきつい?」

マナ「こわがらせるかもしれないけど、正直に言うね。身体を鍛えるのが好きな人でも、夜中に逃げ出すぐらい」

シンジ「そんなに?」

マナ「装備って重い物だと数十キロの重量があるの。だから基礎訓練は徹底的に行われる。筋肉痛なんて当たり前、むしろ毎日。入隊間も無く行われるのは、体力作りと仲間意識のイロハ」

シンジ「そう、なんだ」

マナ「撤回できないの? その、貶してるわけじゃないんだけど、シンジくんの身体つきじゃ。……本当につらいと、思う」チラッ

シンジ「うぅん」

マナ「いじめられるかもしれない。四六時中一緒にいるわけじゃないし、かばいきれるかどうか」

シンジ「一緒って?」

マナ「あぁ、そっか。私も明日付けで部隊に復帰するように通達があって。上官、すごく不機嫌だったけど」

シンジ「聞いてないからか。ごめんね、伝えることできなくて」

マナ「私を気遣ってる場合じゃないんだよ!」

シンジ「それなら、マナの友達とも会えるかもしれないね」

マナ「す、すぐに会えると思うけど。なにしろ、同じ部隊だし、って、そうじゃなくって」

シンジ「トウジたちにも伝えよう。別れの挨拶はちゃんとしなくちゃ」スタスタ

マナ「ちょ、シンジくんってばぁ!」

【教室】

トウジ「な、なななななんやとぉっ⁉︎ シンジが、明日っから戦自に入隊っ⁉︎ おまけに霧島までっ⁉︎」

シンジ「うん」

ケンスケ「ふ、二人一緒にって。まさか、駆け落ちなんじゃ」

マナ「そんなわけないでしょ⁉︎」

トウジ「いつ決まったんや!」

アスカ「まじで言ってんの?」

シンジ「ちょっと落ち着いて。決まったことに慌てても仕方ないよ。質問は一人ずつ答えるから。まず、トウジ、さっき」

トウジ「さっきて⁉︎ ネルフはどないするんや⁉︎」

アスカ「ミサトは?」

シンジ「今のところはなにも連絡がない。待ってたらくるんじゃないかな」

アスカ「シンジ、ちょっと」

ケンスケ「お、おい。僕たちの質問がまだ」

アスカ「マナだって戦自に行くんでしょ? 質問したいこと済ませといて。あたしはこいつに大事な用があんの」

シンジ「わかった、いいよ。アスカ」スタスタ

アスカ「……」スタスタ

シンジ「教室の隅でいいんじゃないかな。声は潜めるし、カヲルくんのことだよね」

アスカ「そーよ! どうすんのよ、なんでいきなりこんな事態になってるわけ!」

シンジ「母さんがなにか手引きしてるのは間違いない。わかるのはこれだけ。もしかしたら力を使ったのがバレたのかも」

アスカ「はぁ……やっぱり体育館でのこと、誤魔化しきれなかったの」

シンジ「いや、それだけじゃないよ」

アスカ「他にもなにかあんのぉ? 期限はいつまで?」

シンジ「いや、特に言われなかった」

アスカ「パイロットは続けるの?」

シンジ「うん、そうだね。ただ、アスカと会えるのはこれまで通りとはいかないんじゃないかな」

アスカ「フォースはどうする気?」

シンジ「カヲルくんは僕が手を出せない状況では、たぶん、襲ってこないよ」

アスカ「根拠は?」

シンジ「可能性を見せてくれって言ってた。だから、僕がどう打開するかを試したいんだと思う」

アスカ「不安の残る話だわ。ま、あんな馬鹿力発揮できるんだから余裕でしょ。とどのつまり、筋肉バカの集まりよ。首席とれる成績残してさっさと帰ってきてよね」

シンジ「使徒の力は、使わない」

アスカ「ボリュームが小さくて聞き間違えしたのかしらぁ? もう一回言ってくれる?」

シンジ「正確には、使えないんだ。母さんにバレてるという確証を持てないから」

アスカ「軍隊舐めてない? 米海軍の話してるの聞いたことあるけど、戦自はクレイジーっつってたわよ」

シンジ「そういうことじゃないよ。繰り返しになるけど、入隊よりも母さんがこわいんだ」

アスカ「あんた、これまでろくに身体を鍛えた経験ないんでしょ? あの瞳の色してないときは普通の人間と同じなのよね?」

シンジ「うん」

アスカ「血反吐はくわよ」

シンジ「まぁ、やるしかないね」

【夜 ミサト宅 リビング】

アスカ「はぁ? まだシンジに言ってないの?」

ミサト「うん、まぁ……その、ね。通達は既に。だから、連絡してない」

アスカ「歯切れ悪いわねぇ。あたしたちの上官にあたるミサトが伝えなくて業務連絡だけなんて」

ミサト「なんか、言ってた?」

アスカ「自分で確認したらいいじゃない。そういうところばっかり。ずるいわよ、そんなの」

ミサト「悪いとは思ってるわ。ただ、シンジくんの為になることだとも思うのよ」

アスカ「そういうことを言ってるんじゃないの! ミサト一言、声をかけるべきでしょって!」

ミサト「たまに、何考えてるのかわからないところがあるのよ、あの子。最近は、特にその傾向が強くて」

アスカ「だから逃げるの?」

ミサト「帰ってきたら、ちゃんと話をするわ。だめでも褒めてあげるつもり。行くって即決しただけでもたいしたものよ」

アスカ「はぁ……戦自からネルフに通うようになるの?」

ミサト「いえ、ここからだと距離が離れすぎてるし、レイにサポートしてもらうけど弐号機の出番が多くなる。新兵器のテストもあるし」

アスカ「ってことは、あたし?」

ミサト「そうよ。ちょっち、これ見て」パサ

アスカ「……? なに、これ?」

ミサト「リツコが発案した、パイロットの役割分担」

アスカ「シンジがエースっ⁉︎ なんで⁉︎」バンッ

ミサト「彼が不在の間は、アスカの試験運用期間でもあるの」

アスカ「私の? そんな必要ないでしょ! シンクロ率はトップで」

ミサト「だからよ。いくらテストで成績が良かったとしても実戦で役にたたなければ――」

アスカ「あたしは使徒を二体も撃破してるでしょっ!!」

ミサト「いずれも、シンジくんのサポートがあってよね」

アスカ「……っ!」

ミサト「大きな枠でいえば、私達は全体がチームなんだし、助け合うのは間違いじゃない。むしろ良い傾向だと思うわ。だけど、作戦を立案するにあたり実力差が明確に把握できている方が都合がいいのよ」

アスカ「適材適所って言いたいの? エースも、チームリーダーも」

ミサト「あなたの実力で黙らせればいいだけよ。自信、ないの?」

アスカ「あるに決まってるわっ! あたしは、やるしかないんだもの」

ミサト「私だけじゃない、ネルフ上層部、赤木博士を唸らせる結果を求めます」

アスカ「……」ギュウ

ミサト「(やはり、競争は良い刺激になるみたいね。さすがリツコってわけか)」

アスカ「わかった。シンジよりもあたしがエースにふさわしいって証明してみせる」

ミサト「その意気よ。あたしも期待してるわ」

アスカ「(フォースのことは、とりあえず忘れなくちゃ。シンジのことも)」

【マヤ宅 リビング】

シンジ「あの、マヤさん。お通夜みたいな暗い表情はやめてください。僕なら平気ですから」

マヤ「シンジくん。本当に脅されてるわけじゃないの? 私が、昨日、ポカしたから」

シンジ「違います」

マヤ「今の戦自は、ネルフに良い顔はしないわよ。この前、日向くんが行った時だって、嫌がらせされたって言ってた」

シンジ「……」

マヤ「エヴァが出撃する前、まず軍事力を使って使徒の持つ能力、正しくは戦力を計るの。その為に、戦自は、得体の知れない組織の下働きとして……時間稼ぎをする戦死者を毎回だしてる」

シンジ「そうですね」

マヤ「ネルフの要請が悪いわけじゃないの。高官達は、自分達のメンツを守るために無理だとわかっていても人材を投入してるから」

シンジ「……」

マヤ「でも、当事者である戦自内部はそう思っちゃくれないわ。全部、私達のせい。一番悪いのは使徒がもちろんだけど、ぶつけるところがそこしかないの」

シンジ「はい」

マヤ「……そういった恨みや遺恨がある場所に訓練生として送りこまれる。私、心配だわ」

シンジ「心配してくれて、ありがとうございます」

マヤ「なにかないか、考えたんだけど。オペレーターが主業務の私にできることなんて、明日の準備ぐらいしか」

シンジ「気持ちだけで充分ですよ。マヤさんが感謝して、心配してくれるだけで。僕は間違ってない、そう思えるから」

マヤ「シンジくんっ!」ギュウ

シンジ「わっ! あ、あのっ」

マヤ「無事に帰ってきてね。待ってるから」

シンジ「……はい」

マヤ「帰ってきたら、私の気持ちも、きっち地に足がついてると思う。そしたら、シンジくんに……」

シンジ「え?」

マヤ「今はまだ、天秤がどっちに傾いてるのか見定められない。でも、なにがあっても私はあなたの力になってみせる。ずっと味方よ。約束します」

シンジ「……ありがとうございます」

マヤ「立派よね、本当に。中学生とは思えない」

シンジ「いや、そんな」

マヤ「よーしっ、今夜は腕によりをかけて料理作っちゃうねっ!」

【翌日 オスプレイ内 移動中】

戦自パイロット「今のうちに第三新東京市の景色をせいぜい楽しんでおけよ!」

シンジ「え? なんですか? プロペラとエンジン音がうるさくて」

戦自パイロット「外だよ! 外! しばらくはこいつが見納めになるだろからな!」

シンジ「あぁ」ぼんやり

戦自パイロット「なにをやらかしたか知らないがそんな華奢な身体つきで戦自への訓練生とはな! パイロットなんだろ? お前!」

シンジ「はい」

戦自パイロット「お坊ちゃんのくせしてパイロットに選ばれたんだろ? 俺たちの中からじゃなく! なんでお前みたいなナヨっちいガキが選ばれたんだ?」

シンジ「わかりません」

戦自パイロット「ふん、なんにせよもうすぐ到着する! 覚悟しとけよ小僧! 訓練はきついぞ!」

シンジ「はい」

戦自パイロット「声を張り上げろ! ボソボソと喋ってんじゃねえっ!!」

シンジ「あ……は、はいっ!」

戦自パイロット「(ネルフで使えないからこったきたのか? ちっ)」

マナ「私語は謹んでください! 到着までの予定は?」

戦自「ヒトヒトマルマルだ!」

マナ「シンジくん。ついたら、上官か分隊長から挨拶を求められると思うから」

シンジ「うん、わかった」

マナ「いい? 声は小さくしちゃだめよ? 腹筋にしっかり力いれて。恥ずかしいなんてもっての他。声を枯らす気持ちで」

シンジ「うん」

マナ「慣れてないから、気後れしちゃうと思うけど。できるだけ、理由を与えたくないの」

シンジ「理由?」

マナ「懲罰を与える理由。はぁ、無事に済めばいいけど」

【厚木基地 滑走路】

分隊長「配置につけ!」

ムサシ&ケイタ「はっ!」ザッ ザッ

マナ「シンジくん、手」

シンジ「ありがとう」

ムサシ「ぷっ、なんだあいつ。女に手を引かれてんか」

マナ「ムサシ! 聞こえたわよ!」キッ

ムサシ「久しぶりなのに随分とご挨拶じゃないか」

ケイタ「やめろよ、二人とも」

分隊長「休めッ! 玩具のパイロットというのはキミか?」

シンジ「はい」

分隊長「声が小さい! もう一度ッ!」

シンジ「は、はいっ!」

分隊長「軍曹からはえこひいきをするなとの命令だ。メディカルチェックをまず受けてもらう。おい。奴を敷地内にある施設に連れていってやれ」

ムサシ「こんなやつがパイロットだったのか……いつっ! いってぇなぁっ! 頭叩くなよ!」

マナ「なに威張ってるのよ。ムサシだって入隊間もない頃はビクビクしてたくせに」

ムサシ「俺はこの隊の有望株だからな」

マナ「虎の威を借る狐みたいなこといっちゃって、一人じゃなんにもできないくせに」

ムサシ「こいつよりはできると思うけどねぇ」

マナ「前はそんなこと言わなかったのに。変わったわね」

ムサシ「ふん」

マナ「いい加減にしてよ! みっともない!」

ケイタ「はぁ……それじゃ行こうか。ネルフのパイロットくん」

シンジ「シンジ。碇シンジ」

ケイタ「ん? あぁ、自己紹介か。浅利ケイタ。キミと同じ隊の少年兵だよ。そんで、あっちで威張ってるのがムサシ・リー・ストラスバーグ。僕とマナはムサシって呼んでる」

シンジ「そっか」

ケイタ「でも、本当に大丈夫なの? 訓練に耐えられるように見えないけど」

ムサシ「おいケイタ! はやく済ませてこいよ! しごけると思うとワクワクしてるんだ!」

マナ「ムサシぃっ!」

ムサシ「なんだよ! 人を踏み潰すためにあのロボットに乗ってるんだろ! お前!」

マナ「なんてこと言うのよ!」

ムサシ「宇宙からくる怪獣と戦うって言われてちやほれされてるんだろどーせ!」

マナ「……っ! 」ブンッ

ムサシ「おっと」パシッ

マナ「くっ」

ムサシ「担当は情報室だろ、さっさと行けよ」

分隊長「そこまでにしておけ。焦る必要はない」

ムサシ「はっ!」ビシッ

分隊長「地獄を見せてやる。浅利隊員、なにをぼさっと突っ立っている。腕立てさせられたいのか」

ケイタ「は、はっ!」ビシッ

シンジ「ふぅ……」ポリポリ

【軍事病院】

ケイタ「あ、検査終わった?」

シンジ「うん、これからどうすればいいの?」

ケイタ「僕たちが寝泊まりする場所を紹介するよ。歩きながらでいいからいくつか聞いてもいい?」

シンジ「いいよ」

ケイタ「ここに来るのこわくなかったの?」

シンジ「特には。なにをするのかもわからないし」

ケイタ「へぇ、戦自って海外からも過酷だって評されてるんだけど。ちっとも知らなかったのか」

シンジ「すこし、話を聞いたぐらいかな」

ケイタ「楽しいとこじゃないよ、ここは。すぐに他のことなんか考えられなくなる。きつい、それだけ。ははっ」

シンジ「長いの? ここ」

ケイタ「僕たちはまだそんなに。……数年ぐらいかな。夜中に逃げ出した経験あるんだ、僕。あ、もしかしてネルフじゃもっときつかったりするのかな」

シンジ「肉体を鍛えたりはしないよ」

ケイタ「そっか。それじゃ覚悟しておいたほうがいいよ。予想の三倍、もっとかな。身体が慣れるまで。……あと心も」

シンジ「キミはネルフに対してなにも思ってないの?」

ケイタ「どうだろう。キミがあまりにも普通すぎたから、なんだか拍子抜けしちゃって」

シンジ「……」

ケイタ「ただ、ここには味方なんていない。そう思って間違いないと思うよ。僕も含めてね」

シンジ「……わかった」

ケイタ「どうやってロボットのパイロットに選ばれたの? なにか試験があったの?」

シンジ「なにも。ただ乗れって」

ケイタ「ええっ⁉︎ 技術訓練で良い成績だったからとか、なにか」

シンジ「なにもない」

ケイタ「へ、へぇ」

シンジ「マナとは幼馴染だって聞いてるけど」

ケイタ「よく知ってるね」

シンジ「うん、まぁ」

ケイタ「マナとは小さい頃から一緒だったよ。戦自に入ろうって決めたのはムサシだけど。僕とマナはムサシについてきたんだ」

シンジ「さっきの?」

ケイタ「あいつも昔はこんな感じじゃない気さくなやつだったんだ。世の中が悪いよ。満足に飯も食えない」

シンジ「……」

ケイタ「マナはね、内臓が悪いだ」

シンジ「えっ? そうなの?」

ケイタ「うん、これは本人に言っちゃだめだよ。僕が“また”口が軽いって責められるから。だから、ムサシは余計はりきっちゃって」

シンジ「内臓ってどうして?」

ケイタ「最初はマナもね、実務部隊にいたんだ。僕たちと離れたくない、たっての希望で」

シンジ「……」

ケイタ「でも、訓練の内容が過酷すぎた。連日、吐いちゃって、胃に負担がかかっちゃったんだ。騙し騙し、繰り返しているうちに倒れてしまった」

シンジ「病院に?」

ケイタ「うん、ここだよ。担ぎこまれて精密検査をしたら軍医からストップがかかった。不謹慎だけど、僕はすこしうらやましいと思ったな。もうきつい思いしなくて済むんだから」

シンジ「……」

ケイタ「国のため、国民のため、家族のため、僕はそんな大義があって入隊したわけじゃない。でも、死ななくちゃいけないんだろうね、ここにいる以上は」

シンジ「覚悟、できてるの?」

ケイタ「うん。できてる。僕には、ムサシとマナしかいないから。逃げ出したこともあったけど、今では、そう思うよ」

シンジ「そっか」

ケイタ「ムサシ、最近、暴走してるんだよな」

シンジ「……?」

ケイタ「あぁ、今のは独り言みたいなもん。上官の言うことを間に受けすぎるっていうか、戦地に出たがってるんだよね」

シンジ「戦地って、生身で出ちゃ死んじゃうじゃないか」

ケイタ「感覚がね、麻痺しているんだよ。ここにいると。そういう無謀なのが、勇猛だって思えてくる。キミはも数年過ごしたらわかるようになるよ」

シンジ「……」

ケイタ「さ、敷地内は広いから、この建物をでたらジープが止めてある。他の隊員と相乗りになっちゃうけど……」

シンジ「うん、わかった」

ケイタ「僕は、かばわないからね」ボソ

シンジ「え? なにか言った?」

ケイタ「なにも。碇隊員。戦自へようこそ」

ムサシ、マナ、ケイタの知り合った時期や関係性などは鋼鉄のガールフレンドと似通ったところもありますが当SSではけっこう違ってるんでそこは一応書いときます。
特にケイタはゲーム中でもセリフらしいものがないので背景設定を元に創作してます。

【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「ミサトがきてるのかと思えば、アスカじゃない。ずっと待ってたの? 学校は?」

アスカ「今日は昼まで」

リツコ「そういえば土曜日だったわね。それで、なんのごよう?」

アスカ「ミサトから聞いた。新兵器テストあるんでしょ?」

リツコ「必要になればこちらから声をかけます」

アスカ「焦れったい。なにかないの?」

リツコ「功を焦っても同じことよ。自然体でいるのが一番」

アスカ「負けらんないのよ。シンジなんかに」

リツコ「ふぅ、あなた頭がいいのに」

アスカ「褒めてんの? 貶してんの?」

リツコ「この場合は残念に思っている」

アスカ「ぐっ」

リツコ「試験期間の話、ミサトから聞いたのね」

アスカ「……」コクリ

リツコ「私達は、なにもアスカに失望しているわけではない。ただ、小さなコミュニティの中にも役割が必要でしょう。円滑にことを運びやすくなる」

アスカ「それは理解してる。だからこうしてるんじゃない」

リツコ「わかってないわ。待ちなさい、と言ってるのよ。来るべき時がきたら、最高の結果をだせばいい。小さなポイント稼ぎなんてせこい真似しないで」

アスカ「……っ!」

リツコ「パイロットなのよ。技術部の仕事を手伝えるとおもってるの?」

アスカ「思って、ないけど」

リツコ「回れ右する準備は済んだ?」

アスカ「どうして、ファーストじゃなく、あたしでもなく、シンジなの」

リツコ「一番結果を残してるから。シンクロテストだけではない、実戦も含めてね」

アスカ「シンジだって! 報告書を読んだらヤシマ作戦はファーストと一緒にっ!」

リツコ「その前の二体はシンジくんが一人でやってるわ。特に最初に乗った場合なんて、レイでさえ不可能だったことを成し遂げてる」

アスカ「……」

リツコ「信じられる? レイもアスカも、エヴァに乗るためだけに準備をしてきた。長い間ね。ところが――彼ははじめて乗って、シンクロ率40パーセント。起動指数を叩きだした」

アスカ「……」ギリッ

リツコ「その後の活躍。性格のことはおいておくと、シンジくんこそが、エースにふさわしい」

アスカ「それ、本気で言ってんの? チームリーダーも?」

リツコ「ぐいぐい引っ張っていくタイプではないけれど、面倒見が悪くないところを着目しました」

アスカ「はぁ? そんなんでまとめられると」

リツコ「あなたならできると言うの? レイやシンジくんを頭から抑えつけるだけではなくって? 手柄は全部独り占め」

アスカ「あたしが一番うまくできるんだからその方がいいでしょ!」

リツコ「駄目よ。それじゃ、実力以上を引き出してもらわないと。リーダーは消去法です。彼以外にまかせられる人がいないと言えば正しいかしらね」

アスカ「な、なんですってぇ」

リツコ「この際だからはっきりと言ってあげる。エースに捕らわれているアスカでは、リーダーたる資格はない」

アスカ「ぐっ! もういいっ!!」バァンッ クルッ スタスタ

【ネルフ本部 発令所】

マヤ「たしかなの?」

シゲル「あぁ、葛城一尉が話してるのをちらっと聞いたんだ。なんでも、シンジくんをオフェンスにして後の二人はサポートに回すらしいぜ」

マコト「ケースバイケースなんじゃないのか? エヴァが三体もいるんだし」

マヤ「そうよ。それにエースなんて聞こえはいいけどオフェンスって……。一番危険な役割じゃない」

シゲル「たしかに。先陣、切り込み隊長的な扱いに思えるよな」

マコト「次にくる使徒の能力や戦力がわかってるなら決まったフォーメーションで対応できるけどなぁ。そうじゃないし」

シゲル「競争心を駆り立てようとしてんのかねぇ」

マコト「なるほど。それはありえる」

マヤ「アスカは、反発するでしょうね」

マコト「違いない」

シゲル「当のシンジくんは戦自だっけ。今日から」

マコト「そっちのが驚きだよ。まさか戦自とは。うぅ、想像しただけで震えちまう」プルプル

シゲル「マコトは最近行ったんだろ? 視察」

マコト「物資の点検に。まぁ、陰湿だったよ」

シゲル「あーらま。体育会系ってそういうとこあるよな。さっぱりしてそうで」

マコト「ネルフの関係者ってだけで疎ましい存在なんだろ」

マヤ「……」

シゲル「どったの? 急に深刻な顔して。お通じが悪いの?」

マヤ「ねぇ、日向くん。次に行くのっていつ?」

マコト「どこに……戦自? ちょうどライフルの予備部品を確認しなくちゃいけないから三日後だけど」

マヤ「代わってくれない? なにかおごるから」

マコト「いや、こっちとしてはむしろ……なにか見たい兵器でもあるのか?」

マヤ「そんなとこ。気分転換にもなるかなって」

【厚木基地】

シンジ「はぁっ、はあっ、はぁっ」タッタッタッ

ムサシ「どうしたパイロット! 二周遅れだぞ!」バンッ

シンジ「うっ、はあ、はぁっ」

ムサシ「5キロ走っただけでへばっちまったのか? やっぱりたいしことねーな!」

シンジ「む、胸がっ」

ムサシ「心臓が苦しいだろ? そりゃそーだ! 心拍数が上がってるからな! 自分で脈はかってみな! でも足は止めるなよ!」

シンジ「ちょ、ちょっと、少し、歩かせて」

ムサシ「駄目だ! きついときこそ根性を見せろ! 吐くまで走れ! 吐き終わったらまた走れ!」

シンジ「こっ、これって、オーバーワークじゃ」

ムサシ「甘ったれたことを言うな! 休みたいだけだろうが!」

教官「なにを喋っとるか貴様らぁッ! その場で停止!!」

ムサシ「失礼いたしましたっ!」ビシッ

シンジ「よ、ようやく、止まれ――」

教官「懲罰! 腕立て! 100回!!」

シンジ「……っ⁉︎」ギョ

ムサシ「了解ッ! いち、に、さん、し――」

シンジ「はぁ、はぁっ……」

教官「なにをしとるか碇隊員! 命令が聞こえなかったのかッ!」

シンジ「す、すいません」スッ

教官「なんだそのへっぴり腰は! まだ追加されたいのか!」

シンジ「ぐっ、やります。ちゃんと、やります」ググッ

教官「しっかりと顎先をつけて持ち上げるんだ! 笛吹いてやるから合わせてやれ!」ピッピッピッ

ムサシ「――じゅうはち、じゅうきゅう」

シンジ「ご、ろく、なな」

教官「腕が震えとる!!」

シンジ「そ、それはしかたな――」

教官「つべこべ言うな!! まだ喋る余裕があるのか!」

シンジ「(やっぱり、生身じゃ、きついな)」

教官「どうしたどうしたぁっ! 動きが遅いぞ! 隣を見てみろ!!」

ムサシ「にじゅうきゅう、さんじゅう」

シンジ「(下向いてれば瞳の色に気がつかれないはずだし、少し、頼るか……というか、もう限界……)」

教官「こんなやつがあの紫色の機体のパイロットだったとは、まったく。……ん?」

ムサシ「さんじゅうご、さんじゅろく」

シンジ「10、11、12、13、14、15、16、17、18」

教官「お?」

ムサシ「さんじゅうはち……?」

シンジ「19、20、21」

ムサシ「な、なんだこいつ。急に」

シンジ「(いけない、やりすぎたか)」

教官「な、なんだぁ? 今度はまたプルプル腕が震えだして」

シンジ「に、にじゅうにぃ」プルプル

教官「火事場の馬鹿力か」

【一時間後】

シンジ「はぁっ、はぁっ」

教官「ちっ、もう時間だ。碇隊員、止まれ」

シンジ「よ、ようやく休憩」

教官「勘違いするなよ。残ったメニューは全て、今日中に終わらせる。いいな? 全てだ。それまでは眠れないと覚えとけ」

シンジ「(残り、15キロか)」

教官「第壱隊集合!!」ピーーーーーッ

シンジ「ふぅ、ふうっ」

教官「整列しろ!」

ムサシ「おら、チンタラすんな。さっさと並べ」

ケイタ「……」

シンジ「わ、わかりました」

教官「遅いっ! もっと早く並べ! 戦場でも貴様らはらそんな動きをするのかッ!」

ムサシ「申し訳ありません教官っ! 点呼開始しますっ!」

教官「あぁ、点呼は省略する。なにせお坊ちゃんのせいで時間をおしてるからな」

ムサシ「はっ!」ビシッ

教官「各員、隣にいるやつの顔をよく見ておけ。そいつが貴様らの戦友になる。弾から守り、また敵を倒してくれる」

ムサシ「お前には無理だよな」

シンジ「はぁ、はぁっ、ふぅー」

教官「我々は家族だ! 仲間だ! 最も強い絆で結ばれてなくてはならない! 信用できないものに命を預けられるか⁉︎」

少年兵一同「できませんっ!」

教官「そうだっ! 全員が仲間だ! 志しをひとつにしろ! 一致団結!」

少年兵一同「一致団結っ!!」

教官「我々に倒せない敵はいないっ! 死んでも倒せ! 仲間のために! 家族のためにっ!!」

シンジ「(うわぁ、すごい、な)」

教官「今日から諸君に新しい家族が加わった。紹介しよう。……碇隊員っ! 前へ!」

シンジ「うっ、は、はい」

教官「声が小さいっ!!」

少年兵A「なんだよ、あいつ。あんなのかよ」

シンジ「はいっ!」

教官「手短に挨拶を済ませろ」

シンジ「碇シンジです! よろしくお願いします!」

少年兵B「なんでこんなやつが?」

ムサシ「……」ニヤニヤ

教官「さがれ、碇隊員。貴様らもゆくゆくは一個師団に合流し編成される。そうなったら、この日々がまだマシだと思える戦場が待っている。敵は容赦などかけてくれない」

少年兵一同「……」

教官「この日々を己の糧にしろ! 血にしろ! 肉にしろ! 学んだことが自分を守ってくれる! 家族を守ってくれる!」

少年兵一同「はいっ!!」

教官「一人でも多くの敵を道連れにしろ! 一人一殺で満足するな!! 気合いを叫べ!!」

少年兵一同「うおおおおおっ!!」

教官「よぉーし! 100メートルダッシュだ! 10セットッ!!」

シンジ「(な、なんなんだよ、これ)」

【夕方 トイレ】

少年兵A「おい、新入り!」ブンッ

シンジ「え? うっぷ」ベチョ

少年兵A「トイレ掃除ひとりでやっとけや。できるだろ?」

シンジ「でも、命令では、みんなで」

少年兵B「うるせえ! できるだろって聞いたんだよ!」

ケイタ「……」ゴシゴシ

少年兵A「生意気だな、お前。どうせ体験だとか甘い考え抱いてきたんだろ?」

シンジ「いや、そんなつもりは」

少年兵B「ほらよ、モップ」カラン

少年兵A「浅利、行くぞ」

ケイタ「うん、わかった」

シンジ「えっ、ちょっと待ってよ。集合時間までに僕が全部?」

少年兵A「きちんと磨きあげろよ! あとで教官のチェックがはいるからな!」

シンジ「そんなっ! 終わりっこないよ!」

少年兵B「終わらせるんだろうが!」

ムサシ「おい、お前らなにやって――」

少年兵A「新入りにここのルールを教えてやってたんだ」

ムサシ「ははぁん。俺も仲間に入れてくれよ」ニヤニヤ

少年兵B「なぁ? ホントなのか? 黙認してくれるって」

ムサシ「間違いない。上官たちはこいつを好きにしていいって言ってたぞ。徹底的にやってやれって」

ケイタ「む、ムサシ……」

ムサシ「行くぞ、ケイタ。パイロット、ちゃぁ~んと掃除しとけよ?」

シンジ「(そうか、そういう感じね)」

ムサシ「なんだぁ? その反抗的な目つきは」

シンジ「命令なんだろ。だったら、みんなでしなくちゃ」

ムサシ「ぷっ、おいおい聞こえたかよみんな」

少年兵A「お前が俺たちの仲間に数えられてると思ってるのか? ネルフの犬っころが!」

少年兵B「帰りたくなったんでちゅかぁ?」

シンジ「……そうじゃない。与えられた命令に責任を――ぐっ!」ドサッ

少年兵A「ロボットに乗ってるやつが俺たちに説教するな! 守られた環境で戦ってヒーロー気取りかよっ!!」

シンジ「やったことないくせに」

ムサシ「あ?」

シンジ「乗ったことないくせによくそんなこと言えるね」

ムサシ「乗れねーんだよ! 俺たちはなぁ! 地面這いつくばって生きてくしかねぇ! 雑草の気持ちがわかんのか! 踏みつけてるやつに!!」

マナ「あんたたちっ⁉︎」タタタッ

ムサシ「ちっ、うるさいのがきた」

マナ「――シンジくんっ⁉︎ 大丈夫っ⁉︎」

ムサシ「マナ。そいつに近づくな。雑巾で濡れてるからきたな……」

マナ「汚いのはあんた達の心でしょ⁉︎ 恥ずかしいと思わないの⁉︎ 彼だって国民の為に戦ってるのよ! ムサシ……! どこまで変わっちゃったの⁉︎」

ムサシ「俺はなにも変わっちゃいない!」

マナ「人を[ピーーー]なんて嫌だって言ってたムサシは、どこに。こんな、いじめみたいな真似して」

あらら、saga忘れたんでレスしなおし

【夕方 トイレ】

少年兵A「おい、新入り!」ブンッ

シンジ「え? うっぷ」ベチョ

少年兵A「トイレ掃除ひとりでやっとけや。できるだろ?」

シンジ「でも、命令では、みんなで」

少年兵B「うるせえ! できるだろって聞いたんだよ!」

ケイタ「……」ゴシゴシ

少年兵A「生意気だな、お前。どうせ体験だとか甘い考え抱いてきたんだろ?」

シンジ「いや、そんなつもりは」

少年兵B「ほらよ、モップ」カラン

少年兵A「浅利、行くぞ」

ケイタ「うん、わかった」

シンジ「えっ、ちょっと待ってよ。集合時間までに僕が全部?」

少年兵A「きちんと磨きあげろよ! あとで教官のチェックがはいるからな!」

シンジ「そんなっ! 終わりっこないよ!」

少年兵B「終わらせるんだろうが!」

ムサシ「おい、お前らなにやって――」

少年兵A「新入りにここのルールを教えてやってたんだ」

ムサシ「ははぁん。俺も仲間に入れてくれよ」ニヤニヤ

少年兵B「なぁ? ホントなのか? 黙認してくれるって」

ムサシ「間違いない。上官たちはこいつを好きにしていいって言ってたぞ。徹底的にやってやれって」

ケイタ「む、ムサシ……」

ムサシ「行くぞ、ケイタ。パイロット、ちゃぁ~んと掃除しとけよ?」

シンジ「(そうか、そういう感じね)」

ムサシ「なんだぁ? その反抗的な目つきは」

シンジ「命令なんだろ。だったら、みんなでしなくちゃ」

ムサシ「ぷっ、おいおい聞こえたかよみんな」

少年兵A「お前が俺たちの仲間に数えられてると思ってるのか? ネルフの犬っころが!」

少年兵B「帰りたくなったんでちゅかぁ?」

シンジ「……そうじゃない。与えられた命令に責任を――ぐっ!」ドサッ

少年兵A「ロボットに乗ってるやつが俺たちに説教するな! 守られた環境で戦ってヒーロー気取りかよっ!!」

シンジ「やったことないくせに」

ムサシ「あ?」

シンジ「乗ったことないくせによくそんなこと言えるね」

ムサシ「乗れねーんだよ! 俺たちはなぁ! 地面這いつくばって生きてくしかねぇ! 雑草の気持ちがわかんのか! 踏みつけてるやつに!!」

マナ「あんたたちっ⁉︎」タタタッ

ムサシ「ちっ、うるさいのがきた」

マナ「――シンジくんっ⁉︎ 大丈夫っ⁉︎」

ムサシ「マナ。そいつに近づくな。雑巾で濡れてるからきたな……」

マナ「汚いのはあんた達の心でしょ⁉︎ 恥ずかしいと思わないの⁉︎ 彼だって国民の為に戦ってるのよ! ムサシ……! どこまで変わっちゃったの⁉︎」

ムサシ「俺はなにも変わっちゃいない!」

マナ「人を殺すなんて嫌だって言ってたムサシは、どこに。こんな、いじめみたいな真似して」

ムサシ「なんでそんな肩入れしてんだよ。別任務で離れてるって聞いたが、そいつと一緒だったし」

マナ「必要? その話が今」

ムサシ「なんだよ」

マナ「ねぇ、ムサシ。優しかったあの頃に戻ってよ。おかしいのよ。ここも。私たちも」

ムサシ「はぁ……」

マナ「これしかないって思わされてるだけ! 隊を抜けても、貧しくても、笑い合ってたあの頃に……!」

ムサシ「物乞いみたいなマネしろってのか!」

マナ「仕事ならきっとあるよ!」

ムサシ「俺は嫌だ! あんな生活! 二度とごめんだ!」

マナ「ムサシ……」

少年兵A「おう、ムサシ。先に行くぞ」

ムサシ「ああ、俺もすぐ行く」

マナ「ねぇ、考えなおして? 私も協力するから」グイッ

ムサシ「うるさいっ! ここには家族がいるんだ! 見捨てられるわけないだろっ!」バシッ

マナ「きゃっ」

ケイタ「ムサシっ!」

ムサシ「あっ……くそっ」

ケイタ「大丈夫? マナ」スッ

マナ「私たちはずっと三人一緒だったじゃない。ここの人たちは、みんな、仕方なく一緒にいるだけよ。命令違反をしたら守ってくれるっ⁉︎」

ムサシ「……」

マナ「もしそうなれば、みんなが牙を剥くわよ! そう教育されてるから!」

ムサシ「そんなことにはならない。命令違反なんてありえないからだ」

マナ「気がついてよ! 洗脳されてるの!」

ムサシ「――うるさいっ! うるさいうるさいっ! 命令は絶対だ! 守るべきものだっ!」

シンジ「ほんとにそう?」

ムサシ「なに……?」

マナ「し、シンジくん?」

シンジ「自分の考え、ないの?」

ムサシ「俺の考えがそうなんだ! 命令と常に同じだ!」

シンジ「マナや浅利くんとだったら、どっちを選ぶんだよ」

ムサシ「そ、それは……。お前には関係ないだろう! 気安く呼ぶな!」

ケイタ「……」

シンジ「このままここにいると、戦場にいっちゃうんだろう。浅利くん、死んじゃうかもしれないよ」

ムサシ「俺たちがやらなきゃ、どうせ誰かは死んでるんだ!」

シンジ「だったら、なんでキミ達が行く必要があるんだよ」

ムサシ「な、なに言ってんだ、お前」

シンジ「僕は、逃げたらいいと思う」

ムサシ「このっ! パイロットのお前がそれを言うのかっ⁉︎ 戦うべきだって言うべきだろ! じゃなきゃ死んでいったやつが――」

シンジ「僕が戦うよ。使徒とは」

ムサシ「……くっ、あっはっはっ。雑巾投げつけられたのにか? 頭おかしいんじゃないのかお前」

マナ「なにがおかしいのよっ! 立派じゃない!」

ムサシ「できもしないことを口にするのが立派なもんかっ!」

シンジ「……たしかに、今のは軽はずみだったかもしれない。けど、キミだって苦しいんだろ」

ムサシ「俺が苦しい?」

シンジ「最初は、ご飯が食べられればよかった。こんなつもりじゃなかったんじゃないの」

ムサシ「お前になにがわかる!」

シンジ「素直、なんだね。だから、こうやって受け止めてしまう」

ムサシ「ロボットがあるやつには永遠にわからない! 歩兵部隊のこわさも! 苦しみも!」

シンジ「……いい。わかった。僕がトイレ掃除しとくよ」

マナ「無理よ。時間に間に合わなかったら隊の全員が処罰対象になる。そうなったら、もっと……!」

シンジ「大丈夫。できることからやっていけばいい」

ムサシ「……」

ケイタ「……あの、碇隊員」

ムサシ「やめとけ、ケイタ。どうせできっこねぇ。そしたらまた風当たりが強くなるだけだ」

ケイタ「ムサシ」

ムサシ「行くぞ」スタスタ

ケイタ「ま、待ってよ、ムサシ!」タタタッ

シンジ「ふぅ……よっと」パンパンッ

マナ「シンジくん、私、手伝う」

シンジ「いいよ。ここは男子トイレなんだし」

マナ「ムサシ、あんな人じゃなかったのっぐすっ」ポロポロ

シンジ「あ……」

マナ「どんどん変わっていっちゃって。ケイタも、なにも言えなくて」

シンジ「そうなんだ、うん、大丈夫」

マナ「できれば、恨まないであげてほしい。私が勝手なこといってるってわかってるけど」

シンジ「平気だよ。これぐらい」

マナ「ごめんね」

シンジ「いいんだ。それよりもマナも戻った方が」

マナ「私、シンジくんに近づけって言われてるから」

シンジ「え? まだ続いてるの?」

マナ「うん、だからここに来れたの。きっと、シンジくんが辛い思いをしてる時に手を差し伸べさせたいんじゃないかな。離れられなくなるように」

シンジ「いろいろ考えるんだね」

マナ「汚いよね、大人って。利用して、利用されて。あるのは打算ばっかり」

シンジ「……そうかもしれない」

マナ「掃除、しよっか」

シンジ「いや、そこは僕ひとりでやる。マナは見てていいよ」

マナ「え? でも」

シンジ「僕がやらなきゃ意味がないんだ」

マナ「……うん、わかった」






構成はこれまでの流れの中で無理のないように組み立てているつもりです
たいしたものではないですが戦自パートの導入部位みたいな感じですかね

【数十分後 男子トイレ】

マナ「掃除の効率いいのね。あ、そのタオルは最後にここ。手洗い場で浸しておくの」

シンジ「なんとなく毎日してたら自然とこうなってた。洗剤使うの?」

マナ「うん。水がたまったら洗剤を少量いれて、タオルはこうやって伸ばして浮かせて」トプン

シンジ「へぇ、こんな洗濯法なんだ」

マナ「シンジくんって、ほんと、変わってる。普通かと思えば、そうじゃない思う瞬間もあって……。戦いとかそういう争い事に遠そうな存在に見える」

シンジ「エヴァがなかったら普通に暮らしてただろうからねぇ」

マナ「楽しい? 毎日が。自分のしたいことしてるの?」

シンジ「してるよ。選べる中からだけど。僕は自分の中で満足できればいいんだ」

マナ「やっぱり、戦自は似合わないよ。シンジくんには――」

ムサシ「おいっ! パイロット!」

シンジ「あぁ、おかえり」

ムサシ「ちゃんと掃除は……あ、あ?」

ケイタ「わぁ、すごい。これひとりで? マナも手伝ったの?」

マナ「私はぼーっと眺めてただけ」

ムサシ「ウソつけ! こんな短時間でそんなの無理に決まってるだろう!」

マナ「本当の話。なによ、自分たちだけどっかいっちゃったくせに。疑うなら最初から監視しとけばいいじゃない」

シンジ「疲れはしたよ。ただ、家事全般はもともと慣れてたし」

ムサシ「家事が得意な戦自だと⁉︎ お前は配膳係か!いちいちイラつく! 間の抜けた返事しやがって! まだ訓練メニューは残ってるぞ!」

シンジ「はぁ……ちょっと、聞いてほしいんだけど」

ムサシ「新兵の話なんぞ――」

シンジ「聞けって言ってるだろっ!!」ビターン

ムサシ「な、なん……?」

シンジ「まず、僕が新入りだってのはその通り。ここのルール、習慣なんて知らない。だから覚えるまでの間、こんなことがあっても納得はできる」

ケイタ「……」ポカーン

シンジ「問題は“このやりとりがいつまで続くのか”って話なんだ。ムサシ、くんの話を聞いてると僕がパイロットなのが気にくわないようと言ってるように思える」

ムサシ「当たり前だろ、お前みたいな軟弱者が」

シンジ「キミが僕を認めることはあるの? 今聞いてもないと即答で――」

ムサシ「ないっ!!」

シンジ「……だよね。それは嫌なんだ。僕はネルフの人間でパイロットだけど、そうじゃないと思ってもらえない?」

ケイタ「そんなの、無理だよ……」

シンジ「どうして?ここが戦自で、キミたちは隊員だから? でも、今は僕もそうだよ」

ムサシ「一定期間だけなんだろ! すぐに帰っちまうくせに!」

シンジ「いつかはネルフに戻るとは思う。でも、所属機関を間に挟まなければ、キミたちと僕の間になにもないじゃないか」

ムサシ「お前、頭のネジが一本はずれちまってんじゃねぇのか! そんなのがまかり通るわけねぇだろ!」

シンジ「だったら、どうしたらいい?」

ムサシ「そりゃ聞くまでもねぇだろ、体力テストで良い成績を残せば」

シンジ「(あぁ、やっぱりそうなのか、アスカの言う通り。ここで力を使ったら母さんの思惑通りなんだろうし……うぅーん)」

ムサシ「――それか、俺にタイマンで勝ったら認めてやる」

ケイタ「無茶言うなよ、ムサシ」

シンジ「ん? タイマン? それって負けても誰にも言わない?」

ムサシ「お前がか? いや、言いふらす!」

【昨夜 マヤ宅 リビング】

マヤ「プレゼントがあるの。はい、どうぞ」トン

シンジ「嬉しいな。僕、誕生日じゃないですよ?」

マヤ「いいからいいから」ニコニコ

シンジ「……?」

マヤ「開けてみて?」

シンジ「なんだろう……? え、これって」ガサガサ

マヤ「驚いた? カラーコンタクト。シンジくんには必要でしょ?」

シンジ「あ、瞳の色を隠すために?」

マヤ「外見的な特徴はただひとつ、やっぱりその瞳。普段は黒色なのに、力を使う時だけ赤い色に変化する」

シンジ「なんで今まで見落としてたんだろう」

マヤ「簡単なことほどね。灯台下暗しって言うじゃない」

シンジ「マヤさん……ありがとう」

マヤ「実験してた私が言うのもなんだけど、その力はあまり使わない方針がいいと思うの。特に戦自にいる間は」

シンジ「……?」

マヤ「もし、常人ではありえない身体能力してるってわかれば、とんでもない騒ぎになるはず。だから、力を誇示したいが為になんてしちゃだめ」

シンジ「はい」

マヤ「司令はまだ探ってるのかもしれない。シンジくんのその力について。……言ってないのならだけど」

シンジ「リツコさんは言ってませんよ。そう確信できます」

マヤ「とにかく、その力はここぞって時に使うのよ? 約束、ね?」

【再び 同男子トイレ】

シンジ「(カラーコンタクトはバックの中だったはず、いや、やっぱり……ここで力を使ったら軽率すぎるか)」

ムサシ「どうした! 怖気づいたのか!」

マヤ「もうやめてよっ!」

ケイタ「そうだよ、ムサシ。やるわけないさ」

シンジ「うぅーん」

ムサシ「とんだ腰抜け野郎だな」

シンジ「……うん、言いふらされると困るからやっぱりやらない」

ムサシ「負けるのがこわいのかっ⁉︎」

シンジ「そんな感じ」ポリポリ

ムサシ「はぁ、さっきまでの威勢はなんなんだよ。なぁ、マナ。なんでこんなやつにまとわりついてんだ?」

マナ「ムサシには関係ないでしょ?」

ムサシ「珍しいだけだろ。珍獣みたいな扱いか?」

マナ「なに? ヤキモチ?」

ムサシ「ばっ⁉︎ 俺がなんでっ⁉︎」アタフタ

マナ「悪いけど、ムサシはそういう対象じゃないから」

ムサシ「……っ⁉︎」

ケイタ「告白する前からフラれるってきついね、ははっ」

ムサシ「ケイタッ!! この野郎っ!」バシッ

ケイタ「いたっ」

シンジ「そろそろ集合時間じゃない?」

ムサシ「マイペースすぎんだろ。お前は結局なにがしたかったんだ?」

シンジ「うーん、僕もね、探ってる感じ」

ケイタ「探るってなにを?」

シンジ「なにが一番いいのか」

マナ「……?」

シンジ「遅れちゃうよ。急ごう」タタタッ

ムサシ「勝手に仕切るなっ!」

ケイタ「あぁ、行っちゃった。マナ、僕たちも隊に」

マナ「ねえ……ケイタ」

ケイタ「なに?」

マナ「なんか、不自然じゃない?」

ケイタ「え? なにが?」

マナ「あのさ、シンジくんってこれまでなにしてたの?」

ケイタ「トイレ掃除でしょ?」

マナ「その前」

ケイタ「ええと、ランニングとダッシュ……合間に腕立てと」

マナ「吐いた? それとも倒れた?」

ケイタ「そういえば、まだ……あれ? なんであんなに普通なんだろう? 最中は、かなり遅めのペースでひいひぃ言ってたのに」

マナ「普通ならだるくて死んだ魚の目をしてるはずでしょ? もう回復したってこと?」

ケイタ「う、うぅん。でも、今日はご飯は食べれないと思うよ。飯が喉を通らないくらい、疲れてる、はず……」

【厚木基地 参謀本部】

総長「陸上軽巡洋艦トライデント級か。この作戦計画の立案者は例の?」

軍曹「はっ、我が軍に取り入る為、設計図を持参したかと」

総長「実現できるのか?」

軍曹「本人は必ずや実現できると信じているようです。熱の入りようは生半可ではありませんでしたよ」

総長「――時田シロウ。ジェットアローン(JA)計画の落ちこぼれか。日本重化学工業、通産省、防衛庁の共同計画を頓挫させた男」

軍曹「こちらから質問したら、陰謀だとまくしたてたそうです」

総長「ふん、例えそうだとしても失敗は失敗だ」

軍曹「仰る通りです」

総長「完成までどれぐらいかかると言っている?」

シロウ「失礼しますよ」

総長「お前は……なぜここに入れた?」チラッ

軍曹「し、失礼しました。至急、確認に」

シロウ「その必要はありません。防衛庁の者だと表に立っている衛兵に伝えたらすんなり入れてくれました。この身分証を提示してね」

総長「貴様は解雇されているはずだろう。なぜ持っている」

シロウ「必要だったからですよ……。再就職先に」

総長「ここがそうだと言いたいのか? 早計な」

シロウ「6年です」

総長「なに?」

シロウ「そのトライデントが完成するまでの月日の回答になります」

総長「6年もかかるのか?」

シロウ「なに、最初の使徒が現れたのは今から十数年前ではありませんか」

総長「ペースが早まっている」

シロウ「今が異常なんですよ。いつ現れるのかわからないのなら、次もまた十数年後かもしれない」

総長「だめだ。時間がかかりすぎる」

シロウ「タネを蒔いておかないのですか? やはり、あなた方は無能だ。ネルフの下働きが似合っている」

軍曹「き、貴様っ!!」

シロウ「あなた方が辛酸を舐めているのは、なにもしてこなかったからでしょう? 対人である戦争に明け暮れて、宇宙外生命体に対しての準備をね」

総長「……」

シロウ「このままでは、ずっとやつらに先を越されてしまいますよ? いいんですか?」

総長「口の減らないやつだ。ネルフに赤っ恥をかかされた恨みを晴らしたいだけだろう」

シロウ「はい、もちろんです。それのなにが問題で?」にっこり

総長「……」

シロウ「“ネルフを潰したい”。私達の利害は一致している。そうじゃないのですか?」

総長「……実現できると過程した場合の予算はいくら計上する目算だ?」

シロウ「軽く見積もって1兆ほど」

総長「……っ⁉︎ ば、ばかなっ! そんな財源がどこにある!」

シロウ「税率をあげるなりなんなり手はあるでしょう。この国に住まうものならば当然の義務。嫌なら国から出ていけばいい」

総長「政府の認可が降りるわけないだろう!」

シロウ「そこはあなた方、軍上層部の腕の見せ所というわけです。私は出資を求めているのですから」

総長「話にならん」

シロウ「ふっ、よろしいですか。ネルフはそもそも、世界各国政府容認の元、治外法権化しています。法律的にいえば日本領土内に在りながらひとつの国家なのです」

総長「それぐらいは承知している」

シロウ「無尽蔵とも思える資金もまた、日本だけではない各国の後ろ盾があって成り立っている」

総長「……なにがいいたい?」

シロウ「潰す相手は“世界そのもの”だと言っているのです。1兆で買えるとなれば安いものでしょう? 世界のリーダーになりたくないのですか?」

総長「使徒は本当に現れないのか? 信用できん」

シロウ「その点についての確証は持てませんがね。そういうことではない。芽がでるタネの話なんです」

総長「規模が大きすぎる。提督の前でプランを話せ」

シロウ「では、私を紹介していただけますか? それと、6年後を見据えてパイロットの選定にもご協力いただきたい。もちろん、戦自出身者をね」

総長「話は通してやる。ただし、その後のことは自分でなんとかしろ。軍曹」

軍曹「はっ! 年齢に適齢期はあるか?」

シロウ「そうですね、20歳ぐらいがちょうどいいでしょう。サンプルの時間も大いにとれますし」

軍曹「リストアップする」

シロウ「ああ、勘違いしないでくださいよ。6年後にハタチですからね」

軍曹「……了解した。ということは少年兵からの選抜になるか。ちょうど活きの良いのがいる。次期主席候補でいいだろう」

シロウ「野心は必要ありません」

軍曹「心配するな。扱いやすいガキだ。透明性や言論性の自由も求めない」

シロウ「それはそれは。うってつけですね。モルモットにふさわしい。予備も一名ほしいんですが」

軍曹「問題ない。いつも一緒にツルんでいるやつがいる。そいつをつけよう」

シロウ「これで、パイロット候補生は話がつきましたね。早くて助かります」

総長「まだなにか具体的に決まったわけではない」

シロウ「ええ、ええ。もちろんですとも」

総長「先方の都合もある。日時はおって通達し――」

シロウ「今がいいですねぇ、鮮度が落ちてしまいますので。そこにおいてある衛星電話機を使えば一瞬で繋がるでしょう?」

総長「承認できん。有事の際以外は使用することを禁じられている」

シロウ「今がその時なんですよ。参謀総長」

【夕方 食堂】

シンジ「うん、おいしい。雑かと思ってたんだけど、普通の料理なんだね」もぐもぐ

マナ&ケイタ「……」ぽかーん

ムサシ「それも全部国民の税金なんだ。役立たずのくせに申し訳ないとか思わないのか?」

ケイタ「あの。よく、食べれるね」

シンジ「え?」

マナ「食欲旺盛なんだ?」

シンジ「あぁ、うん、まぁ? どうしたの? なんかおかしい?」

ケイタ「いや、そういうわけじゃないけど……。どうだった? 今日一日終えてみて」

ムサシ「まだ終わってないだろ。これから点検とかやることが山積みだ」

シンジ「部活の合宿みたいな感じなのかな。僕は運動部に入った経験がないから想像だけど」

ケイタ「ぶ、部活の延長上……ね」

マナ「シンジくん、訓練についていけなかったんでしょう?」

シンジ「そうだね。やっぱり、やる量っていう密度が濃いのはそう思った」

ムサシ「当たり前だ。なんていったってここは――」

マナ「ムサシ、ちょっとうるさい。持てないものとか、あった?」

シンジ「いや? 途中で背負ったリュックは重かったな」

マナ「あぁ、装備一式を積んだバックパックのこと? 銃も携行したの?」

シンジ「うん、なんだっけ? M16? 銃も重くて驚いたよ」

ケイタ「そういえば、たしかに。後半はなんなくこなしてたような……」

シンジ「あれをいつも背負ったまま移動するんだよね? 大変だ」

マナ「ねぇ、ケイタ。今日は水泳訓練なかったの?」

ケイタ「なかった。そのかわり、地獄のトンボかけがあったけど」チラ

シンジ「このトンカツもちゃんと揚がってる」もぐもぐ

マナ「な、なんで?」

ケイタ「さぁ……?」

ムサシ「おい! そのカツ俺にも一切れくれ!」

シンジ「自分のあるじゃないか」

ムサシ「やかましい! 俺とお前で貢献してる度合いが違うんだ!」

シンジ「お断りだね」

ムサシ「な、なんだとっ! お前やっぱり!」

シンジ「その漬物、いらないの?」

ムサシ「あ? いや、これは最後に」

シンジ「僕のキャベツとトレードしよう」

ムサシ「なっ⁉︎ 馬鹿言ってんじゃねぇ! 俺は漬け物が好物なんだ!」

シンジ「し、渋いね」

ムサシ「ばあちゃんっ子だったからな、俺は。……ってそうじゃねぇだろ!」

シンジ「そういうことなら、漬け物あげるよ。少し箸つけちゃったけど」ヒョイ

ムサシ「お? お、おう」

マナ「ぷっ」

ムサシ「……っ! なんなんだよお前はっ!」

【夜 戦闘機格納庫】

ケイタ「長いだろ。この階段。運搬用のエレベーターとかつけてくれたらいいのに」

シンジ「うん、これ、どこに? 戦闘機の銃弾って、重い、な」

ケイタ「まとまった数は梱包されてフォークリフトやクレーンをつかって運ぶんだけど。端数は、こうやって、人力でっ、よっと」

シンジ「スピードを要求されるんだね、こういう作業って」

ケイタ「“戦場じゃ敵は待ってくれない”が教官の口癖。出撃にしてもそう、使徒が襲来した時に、誰よりもはやく準備を終えていなきゃいない」

シンジ「……」

ケイタ「ネルフがもっと、僕たちに敬意を払ってくれてたら……。キミは陰でこんな仕事してるって知らなかっただろう?」

シンジ「うん」

ケイタ「魔法じゃないんだ。勝手に出てくるわけじゃないし、色んな人が動いて、ひとつの形になってる」

シンジ「そうだね……」

ケイタ「いつも汚れ仕事さ。華のあるキミみたいなパイロットと違って……雑草は、人のやりたがらない仕事を引き受ける」

シンジ「……」

ケイタ「誰だってできるってみんなそう思うのもわかるよ。肉体労働っていうのは、体が資本で、作業そのものは単純だから。でもやる人がいないと出撃すらままならないってことだけは理解しておくべきなんだ」

シンジ「うん。言い返す言葉もないや」

ケイタ「まぁ、それと組織の体質とは話しが繋がらないんだけど」

シンジ「そこまでわかってるのに、戦自じゃないとダメなの? 別の生き方が」

ケイタ「いったろ? 誰かがやらなきゃいけないんだって。僕は食いっぱぐれがなさそうだからっていう動機だけど、ムサシはそう考えてる」

シンジ「浅利くんは? やっぱりマナやムサシくんと一緒にいたいから?」

ケイタ「そうだよ。いつかは、離れ離れになるかもしれない。そういうことを考えないわけじゃない、だけど、今はみんなで一緒にいたいんだ。死ぬことになってもさ」

シンジ「……」

ケイタ「境遇なんてものはきっかけ。人は平等じゃないんだ。パイロットに選ばれる強運があればな。……のたれ死ぬやつもいるのに、僕なんて友達がいるだけマシな方だよ」

シンジ「……」

ケイタ「急ぐよ。遅れるとまた追加で懲罰が待ってる」カンカン

シンジ「わかった、よいしょっと」

【射撃訓練場】

教官「皆聞け! 今回の座学では、兵站(へいたん)部の者に向けてのものとなる。貴様らは戦自陸軍の配属になる予定であるから、知識もまた重要である!」

少年兵一同「はいっ!!」

シンジ「うっ、重っ。ねぇ、聞くだけなのにわざわざ装備一式を担ぐ必要あるの?」

ケイタ「シッ。静かに」

教官「お前たちが身につけているものは、継戦能力を維持するのに必要な“最低限”の装備だ。ムサシ隊員!」

ムサシ「はっ!」ザッ ビシッ

教官「重いか⁉︎ 陸路を闊歩する場合に困難かっ⁉︎」

ムサシ「問題ありませんっ!!」

教官「よしっ! 各隊員よく聞け。注目すべきは銃弾や軽機関銃ではない。これが標準の総装備だということだ。海に投げ出されたらどうなる!」

ムサシ「重量が増すはずであります!」

教官「その通りだ! 水分を多量に含めば、衣服、火器、防具にいたるまで重さは今の三倍になる……」

少年兵一同「……」ゴクリ

教官「そうなればどうなる! 助かるための命綱ともいえる武器を手放すのか⁉︎ 」

少年兵一同「……」ドヨドヨ

教官「――否ッ! それは自殺行為である! 例え助かったとしても、浮上すれば敵が待っているからだ! 絶対に捨てるな!」

少年兵一同「はいっ!!」

教官「貴様らの誰が死んでも、必ずや突撃し、制圧し、仇をうってくれる! 武器に魂をこめるんだ! 上下一心!」

少年兵一同「上下一心ッ!!」

教官「碇隊員! 前へ!」

シンジ「あっ、はいっ!」スッ

教官「諸君、彼の姿をよく見ろ。……まるで似合っていない。孫にも衣装じゃないか? これでは装備が歩いているようなものだ」

少年兵一同「はははっ」

教官「誰が笑っていいと言った!」ピーッ

少年兵一同「……!」ピタッ

シンジ「(たしかに、厳しいかもしれない。でも、ここまで統率をとれるなんて……ネルフって結構自由なんだな)」

教官「貴様らもまだひよっ子にすぎん!」ドンッ

シンジ「うっ」ドサッ

少年兵一同「……」シーン

教官「どうした! 今のは笑っていいぞ!」

少年兵一同「は、ははっ」

教官「貴様がネルフでどんな鍛え方をしたか知らんが、ここにはここのルールがある! それを現時刻より身をもって体感してもらう!浅利隊員!」

ケイタ「はっ!」ザッ ビシッ

教官「痛めつけてやれ」ポン

シンジ「なっ、なんでっ⁉︎」

教官「他の者もだ! 各員列を作れ。……碇隊員を仲間に迎える儀式だ!」

シンジ「ぎ、儀式っ⁉︎ こんなのがっ⁉︎」

教官「口答えをしたな⁉︎ 軍規の乱れを見過ごすわけにはいかん! 笛の合図で代わり番で鉄拳制裁だ!」ピーッ

ケイタ「誰も味方じゃないって言ったよ。……恨まないでね」ボソ ブンッ

シンジ「グッ……っ⁉︎」ドサッ

教官「よしっ! 次ッ――」

【ネルフ本部 執務室】

冬月「時田シロウ。行方を眩ましていたかと思えば、まさかこんな形で再浮上してくるとはな」

ユイ「内通者からの定時報告によれば、海軍提督に直訴したようですね」

冬月「我々のシナリオにはないぞ」

ユイ「置き土産がまさかこんなところにもあるとは。JA計画潰しは夫の指示で先生も関与されていたんでしたね」

冬月「……」

ユイ「内閣府はどうでると見ますか」

冬月「一度失敗した者に対し、この国は甘くない。しかし、それは国民に信を問うた場合――」

ユイ「利権が絡めば、その限りではなくなりますね。企業体質といいますか、動く可能性はおおいにある」

冬月「然り。政府の連中も金の匂いには敏感だ。投資分以上の金額を回収すると確約できれば銀行も重い腰をあげるだろう」

ユイ「6年という気の長い月日……。黙認してもいいですが、調子づかせるのは嫌な予感がします。消しますか」

冬月「いいのか? つけいる隙を与えるやもしれんぞ」

ユイ「厄介なのは“執念”です。彼は当初の理念を忘れ、復讐という炎を燃やしている。よほどくやしかったのでしょうね」

冬月「輝かしい人生(レール)の汚点だからな。エリートとはえてしてそういうものだ。崇高な理想を掲げても、一度の挫折でこうなる者もいる」

ユイ「ふぅ……」

冬月「時田はいつ暗[ピーーー]る腹づもりだ」

ユイ「タイミングは見極めなければなりません。それによって開く穴は大きく、また、小さくなる」

冬月「研究中の事故となるよう工作するか」

ユイ「焦る必要はありません、障害になれば即座に」

冬月「承知した。決行に必要な準備は済ませるよう連絡しておこう」

オペレーター「司令。内通者より秘守回線が。なにやら変化があっているようです」

ユイ「繋いで」

軍曹『ご子息の件でご報告があります。現在、射撃訓練場にて隊員による集団暴行を目視確認いたしました。いかがいたしますか?』

ユイ「シンジの身体に変化は?」

軍曹『お待ちください。――……だめですね、双眼鏡を使っているのですが、不自然な点は』

ユイ「他には。なんでもいい」

軍曹『し、失礼しました。ここからだと、特になにか……』

ユイ「もう結構よ。怪しまれない程度に仲裁してちょうだい。深夜の監視は充分に警戒して」プツッ

冬月「ふむ。判断をつけずらいな」

ユイ「確認のための行為が覚醒を促すようなことがあってもいけませんし……」

冬月「どちらにせよ、手が出せん、か」

【再び 射撃訓練場】

シンジ「――ぐっ!」ドサァッ

軍曹「貴様ら! なにをしているかッ!」

マナ「シンジくんっ!!」タタタッ

ケイタ「マナ? どうしてここに」

教官「こ、これは、軍曹殿」

軍曹「消灯時間が近いゆえ、見回りだ」

教官「そうでしたか。新入りに軍規を叩きこんでいたところであります!」

軍曹「その辺にしておけ」

教官「まだ一巡しておりませんが」

軍曹「骨を折ってはいないな?」

教官「ムサシ隊員! 確認しろ!」

ムサシ「はっ! おい、立て」グイッ

シンジ「うっ、いつっ」ボロ

ムサシ「打ち身は数箇所ありますが、骨は無事なようです」

軍曹「解散しろ。霧島隊員。医務室まで連れていってやれ」

マナ「大丈夫っ⁉︎」

教官「よーしっ! 皆聞こえたな! 速やかに解散だ!」

少年兵一同「はいっ!!」

軍曹「そこのお前」

ムサシ「はっ!」ビシッ

軍曹「女手ひとつは大変だろう。同行を許可する」

ムサシ「了解! ……肩を貸してやる、捕まれ」

シンジ「うっ、うぅっ」

ケイタ「ムサシ! 僕もついていくよ!」

軍曹「明日のスケジュールはどうなっている」

教官「空挺部隊との合流訓練になっております!」ビシッ

軍曹「ということは、朝が早いな。本日の当直は俺が担当してやる」

教官「よろしいのですか?」

軍曹「たまにはな。デスクにウィスキーを置いてあるはずだ」ポン

教官「あ、ありがとうございます!」ビシッ

【医務室】

医師「うん、頑丈な骨をしているな。湿布薬を貼っておけば腫れは引くだろう。……明日の訓練は見学させるよう私から話をしておいてやる。ではな」ポン コツコツ

マナ「なんで止めてくれなかったの⁉︎」キッ

ムサシ「なんだ、なぜ睨む? これは儀式だと教官は――」

マナ「わかってるはず! なんのために必要なのか!」

ケイタ「ま、マナ……」

マナ「洗脳の手順になってる! こうやって、痛めつけて、精神的に追いやることで次第になにも考えられなくなるわ! 自分の考えを持てなくなってしまうの!」

ムサシ「俺たちは命令を遂行すればいい。自分で判断することは輪を乱す行為だ」

マナ「どうしてよ! おかしいと思わないの⁉︎ 一般人がこんな目にあう場所なのに⁉︎」

ムサシ「命令だからだ。しきたりがある」

マナ「話にならない……。ねぇ、ケイタ。なんとか言ってやってよ」

ケイタ「ぼ、僕が?」

マナ「一度脱走しかけたなら私と同じこと思ってるはずでしょう? なんで口に出してくれないの……?」

ケイタ「だ、だって……」

マナ「黙ってついていくだけが友達じゃないのよ! ムサシを大切に想うなら……!」

ムサシ「黙れッ!! 俺たちは、俺はこれでいいんだ! 望んでここにいる!」

マナ「ぐすっ、うっ」ポロポロ

シンジ「うっ」

マナ「……っ! シンジくん⁉︎ 気がついた⁉︎」ガタッ

シンジ「声で、目が覚めた。いててっ、よく、喧嘩するんだね。三人とも」ムク

ムサシ「お前には関係のないことだ」

シンジ「さっきのパンチ、効いたよ。さすが鍛えてるだけはあるんだと思った。身体の芯に響くみたいな」

ムサシ「当たり前だ。そんじょそこらのゴロツキとは違う、腰の入ったモノだからな」

ケイタ「僕らは空手をやってるから、必修科目で。みんな帯持ちなんだ」

シンジ「やっぱり、努力してるんだね」

ムサシ「悔しいとかないのか、男なら誰だって」

シンジ「これまでの生活とあまりに乖離しすぎてて、実感が沸かないんだ。……痛くないわけじゃないよ」

ムサシ「そういうものか。本当にネルフで訓練してなかったんだな。抵抗もできないとは」

シンジ「普通はするの?」

ムサシ「黙って殴られるバカはお前ぐらいのもんだ。最初は全員にアレが行われる。反発すればするほど制裁はきつくなるが」

シンジ「自分の無力さをしらしめる行為ってことか」

ムサシ「はぁ……。たしかに、その通りだろう。あれをやる意味は、どんなに優れていようと、限界があり、数が束になれば、個なんてものはあっというまに蹂躙されると伝えることにある」

ケイタ「――最強は、強力な個じゃない。情報に基づいた戦略と、数による暴力」

マナ「想像より、実体験は身体に染みこんでしまう。だって、それが現実だから。でも、それは表向きよ。本当の意味は洗脳で……!」

ムサシ「くだらない妄想はやめろ」

マナ「なんで、どうして……」

ムサシ「使徒とかいうバケモンにはいくら束になってもデタラメな盾がある以上、なす術なしだが。……あれは人外だからノーカンだ。俺たちはあくまで対人を想定した部隊」

シンジ「……」

ムサシ「マナ……。俺たちはこの中で生きていくしかないんだ」

マナ「できるよ! 貧しくたっていい! 慎ましく暮らせばそれで……!」

ムサシ「俺は嫌だ。ケイタ、行くぞ」クルッ コツコツ

ケイタ「マナ……ごめん」タタタッ

マナ「ばか……。二人とも、ばかなんだから……うっ、うっ」ポロポロ

【通路】

ケイタ「……なんでマナの為だって言ってあげないの? そうすればきっと」

ムサシ「そんなのは押しつけだよ」

ケイタ「でも! 伝えないよりは!」

ムサシ「マナの性格を考えればわかるんじゃないか。自分のせいだって知れば、自分を許せなくなる」

ケイタ「……っ!」

ムサシ「なにも知らなくていいんだ」

ケイタ「このままじゃ、僕たちの心が離れてしまうよ。ずっと三人一緒だったのに……」

ムサシ「どうせ成人すれば戦地に送りこまれて死ぬんだ。だったら、一人ぐらい幸せになったっていいじゃないか」

ケイタ「なにも知らないままで?」

ムサシ「痛みを分かち合うのが幸せなもんか。嫌われたっていい」

ケイタ「報われなくて、それでいいの」

ムサシ「想いを伝えるだけじゃない。陰ながら支えるのに、相手が気がつく必要なんか……」

ケイタ「ムサシ……」

ムサシ「これでいいんだ」

ケイタ「……」

ムサシ「いつかは、ネルフに帰る。マナを連れていってくれれば。ケイタもそう思うだろ?」

ケイタ「そ、それは」

ムサシ「マナはここに似合わない、やっていけないんだ」

ケイタ「そう、だね……」

ムサシ「だが、あれじゃいくらなんでも軟弱すぎる。やってやろうっていう気概が見えない。俺たちでいっちょ鍛えなきゃな」

ケイタ「うん」

ムサシ「ケイタにも、嫌な役を引き受けさせちまうことになる」

ケイタ「水臭いな。僕は、二人の為になれるならなんだってしてきたじゃないか」

ムサシ「一度逃げだそうとしたやつが言うかぁ?」

ケイタ「あ、あれはっ! その、あんまりにも辛くて……」

ムサシ「毎日だもんな。この暮らしが」

ケイタ「うん、ずっと続くと想像すると、耐えられなくてさ」

ムサシ「せいぜい怪我や病気に気をつけようぜ。除隊されてしまえばなにもできなくなる」

ケイタ「そうだね。その後の生活は保障されないし」

ムサシ「ああ……いっけね、就寝前に点呼があるの忘れてた!」

ケイタ「え? 今日は、別の当番のはずじゃ」

ムサシ「代わったんだよ! 走るぞ!」タタタッ

ケイタ「わっ、ま、待ってよっ! ムサシっ!」

【再び 医務室】

マナ「うっ、うっ、ぐすっ」

シンジ「マナ……」

マナ「あっ、ご、ごめんねっ。見苦しいとこみせちゃって」

シンジ「いや、そんな風には思わないよ」

マナ「ありがとう……痛む? 平気?」

シンジ「平気だよ。そろそろ僕たちも戻らないといけないね」

マナ「ネルフにいつ帰る予定だとか、まだわからないの?」

シンジ「うん。初日だし、なにも連絡がない」

マナ「そっか……そうだよね」

シンジ「あのさ、マナ――」

マナ「うん?」

シンジ「黙ってこうしてるつもりはないんだ。協力、お願いできないかな?」

マナ「……? なにをするつもり?」

シンジ「情報がほしい。戦自の」

マナ「なにが知りたいの?」

シンジ「まず、ネルフと戦自のいがみ合いについての関係性はだいたい理解した。隊員達がどう思ってるのか」

マナ「うん」

シンジ「ただ、ネルフにとっては……悪く思わないでほしいんだけど。戦自ってそんなに重要じゃないんだ。相手にしてないと言ってもいいぐらいだと思う」

マナ「あ……うん」

シンジ「戦自は余計に気にくわないんじゃないかな。それでね、ここって国内の基地だとどれぐらいの規模なの?」

マナ「うーん、そうね、日本で三本の指に入るぐらいは」

シンジ「だったら、重要拠点のはず。戦自はネルフをどうしたいんだろう?」

マナ「えっと、あわよくば潰したい、んだと思うよ」

シンジ「そこまでになると気にくわないだけじゃないよね?」

マナ「……お金。ネルフって莫大な資本をバックボーンにしてるでしょ? それこそ、世界からかき集めてるぐらい。だから、それが狙い。直接掌握も視野にいれてる」

シンジ「ちょ、直接掌握? それって、攻めこんでくるってことだよね。でも、そんなことしちゃ各国政府が黙っていないんじゃ」

マナ「理由があれば、大義名分は作ることができるもの。たとえば、そう……ネルフの私物化とか」

シンジ「――そうか、だから僕と母さんの関係を調べてたんだね?」

マナ「私も全てがわかるわけじゃないけど、そんなところなんだと思う」

シンジ「ここの責任者、ええと、一番偉い人は?」

マナ「参謀総長じゃない、かな。さらに上に陸軍将軍がいるけど、国会議事堂に出頭してるはずだから」

シンジ「マナのここでの任務って?」

マナ「私は、通信士。管制塔の業務もたまにする感じ」

シンジ「さっきの軍曹は? マナと一緒にきたのはどうして?」

マナ「あの人は、いろんなところを兼任してるの。私が廊下を歩いてたら、たまたま呼ばれて。シンジくんに近づけさせようする任務の一環」

シンジ「……なにか行動を起こさなくちゃいけない」

マナ「えっ?」

シンジ「もうすぐ消灯時間だって言ってたよね」

マナ「うん、そうだけど……?」

シンジ「軍曹は今どこに?」

マナ「えっと、当直を代わるって言ってたから、宿直室じゃない?」

シンジ「案内してもらえる?」

【宿直室】

軍曹「おっ、もうこんな時間か。どれ、様子を見に――……お前は、サードチル、ごほん、なんだ?」

シンジ「さっき止めてくれたお礼が言いたくて」

軍曹「気にせんでいい。身体の具合はどうか。なにか変わったところがあったら申告しろ」

シンジ「節々が痛むくらいです。あのままだったら、どうなってたか」

軍曹「霧島隊員はどうした? 一緒じゃないのか?」

マナ「あ、すいません、夜分遅くに」

軍曹「なんだ、いるじゃないか。大丈夫ならそれぞれの宿舎に戻れ」

シンジ「ちょっと話を聞いていただきたいんですけど」

軍曹「話? なんだ?」

シンジ「ネルフに関することです。正直、僕もあの組織には嫌気がさしてまして」

軍曹「はぁ?」

マナ「し、シンジくん?」

シンジ「情報、ほしいんじゃないですか?」

軍曹「なに言ってるのかわかってるのか?」

シンジ「タダでとは言いません。そのかわりなんですけど、軍曹殿に僕の身の安全を保障してもらえませんか」

軍曹「……つまり、その引き換えに?」

シンジ「はい。こわいんです、このままエスカレートするとどうなってしまうかわからなくて」

軍曹「(ふむ、保身に走ったか……どうしたものか。ここで俺が断れば次の取り引き相手を探すだろうな。そうなれば、ネルフの情報が戦自の手に……)」

シンジ「どうですか? だめですか?」

軍曹「いや、分かった。交換条件に応じよう」

シンジ「ほんとですか? 助かったぁ」

軍曹「それで、情報というのは?」

シンジ「なにが知りたいんですか?」

軍曹「そうだな。我々が探っている本丸は碇ゲンドウ、そしてその妻である碇ユイ。この夫婦と上層組織である国連に癒着がないかどうかだ」

シンジ「戦自ではどこまで掴んでるんです?」

軍曹「教える意味はない。まず貴様が持っているカードを切る番だ」

シンジ「いえ、重要なことなんです。お互いに有益にしたい」

軍曹「……しかたない、サービスだぞ。まだろくに証拠をつかめていない。公式発表のあった異動についてな」

シンジ「どうしてですか? 父さんはアラスカに行っていると知ってるんでしょ。会いにいけばいいのに」

軍曹「詳しい所在は極秘扱いになっていてな。国連でも一部のゼーレの名のつく代表団しか知りはしない。しかし、そのいずれもが安全面を理由に硬く口を閉ざしているのだよ」

シンジ「……」

軍曹「さぁ、話せ。なにを知っている?」

シンジ「僕は、あなた方がほしがっている答えを知っています」

軍曹「なに……? それは、つまり」

シンジ「ただし、教えるには僕の安全だけは釣り合わないと判断しました」

軍曹「たしかな証拠があるのか?」

シンジ「はい。あります」

マナ「し、シンジくん、ネルフと戦自の開戦の火種になる、よ」

軍曹「(こいつ、なにを考えてる? ネルフを売って寝返るつもりか?)」

シンジ「戦自はエヴァに勝てるつもりでいるんですか?」

軍曹「あんなものは対使徒に特化しているだけの欠陥品だ。電源ケーブルを狙い撃ちしてしまえば五分で活動限界ではないか」

シンジ「……そうか、それはたしかに」

軍曹「永久機関である使徒と違い、やりようはいくらでもある。本部の直接掌握をしてもいいしな」

シンジ「(やっぱり、そういうことか……ん? あれって、どっかで見たような)」

軍曹「ん? なんだ? どこを見ている?」

シンジ「あっ、いえ。別に……」

軍曹「もったいぶらずにはやく教えろ。証拠とはなんだ」

シンジ「(うぅーん、どこで……はっ、そうだ。たしか加持さんがカフスにしてたボタンと同じ……?)」

軍曹「おい、もしやなにもなしではあるまいな?」

シンジ「あの、その机の上に置いてあるバッジは?」

軍曹「ん? ……あ、あぁっ、これか。ネルフに行った時に記念品として頂いてな」

シンジ「記念品?」

軍曹「そうだ。珍しくもないだろう」

シンジ「……いつ、ネルフに?」

軍曹「先日だ。それよりも、具体的な提示はまだか?」

シンジ「気が変わりました」

軍曹「なに……? 貴様、俺を舐めてるのか?」

シンジ「いえ、迂闊だったんです。母さんが送りこんでたスパイの可能性を考えずに。とんでもない墓穴を掘るところでした」

軍曹「す、スパイ? なにを」

マナ「え……?」

シンジ「それは――記念品なんかじゃないっ!」

軍曹「そ、そうだったか? いや、これはだな」

シンジ「僕に正体がバレたと母さんがわかれば、どうなるかわかりますね」

軍曹「……」グッ

シンジ「お互いにこの話はなかったことに。マナ、行こう」

マナ「えっ? いいの?」

シンジ「なにもせずに見送ろうとしてるじゃないか。それが答えだよ」

軍曹「小僧……。図に乗るなよ」

シンジ「諜報部の人ですか。それとも、保安部からの特殊部隊? どちらでもかまいません、もし、母さんにこの顛末を報告するつもりなら、一言伝えおいてほしい」

軍曹「俺がしないと高を括ってるのか?」

シンジ「そうじゃありませんよ。まだ、はっきりとは伝えてなかったから。僕は、母さんのやろうとしてることを認められないって」

軍曹「なにをするつもりだ? こちらを裏切るつもりか?」

マナ「そ、そんな。うそ……? 軍曹殿が、ネルフからの内通者だなんて……!」

軍曹「ちっ」

【通路】

マナ「待ってよ!」タタタッ

シンジ「(先走りすぎた。まさか、ネルフから潜入工作員がいたなんて……)」スタスタ

マナ「シンジくんってば!」グィッ

シンジ「僕がバカだったんだ。マナの情報が筒抜けだったのも、そう考えればわかったはずなのに」

マナ「えっ? ……あっ、軍曹が流出させてたってこと?」

シンジ「誰がとかそうじゃないんだよ、マナ。一人とは限らない。もっといるかもしれない」

マナ「ごめん、よくわからないんだけど」

シンジ「中学校に転校してきた時、マナの正体は即座に見破られていたよね」

マナ「うん、だから、その犯人が軍曹って話じゃないの?」

シンジ「どうしてあの人だと思うの?」

マナ「だって、ネルフからの工作員って判明したじゃない」

シンジ「なんで一人だけだって決めつけるんだよ。判明したのは、軍曹はネルフから潜入してるのが確定したってことだけ。複数いるかもしれないだろ」

マナ「そっか……二人いたら、もう一人がってこともあるかもしれないものね」

シンジ「……」

マナ「シンジくん? なに、考えてるの?」

シンジ「嘘の情報を渡すつもりだったんだ。次に、母さんを混乱させたらと思った」

マナ「それじゃあ、取り引きを持ちかけたのはフェイクだった?」

シンジ「形だけのね。驚いた?」

マナ「驚くに決まってるじゃない。本当に戦争になっちゃうんじゃないかって思った」

シンジ「ごめん。突発的に思いついたから打ち合わせをしなかったね」

マナ「いいよ。でも、これからは? 軍曹に口止めしなきゃ困らないの?」

シンジ「どうやって? 弱みを握るとしても方法は……」

マナ「ねぇ、シンジくんは何を隠して……ネルフとどうなりたいの?」

シンジ「僕は、ある計画を止めたいんだ。その為に動こうと決めてる」

マナ「ある、計画?」

シンジ「詳しくは話せない」

マナ「……それって、母親と敵対しなきゃいけないの? 総司令だよ?」

シンジ「出たとこ勝負なところだってある。だけど、そうなったとしてもおかしくはない」

マナ「わかった。それ以上は聞かない……軍曹はどうする?」

シンジ「……」

マナ「脅す?」

シンジ「脅すって、脅迫? 材料がどこに――」

マナ「まだろくに調べてないからなんとも言えないけど。家族をネタにするとか」

シンジ「そんな……それに、そうなったら逆に母さんに告げ口をされるきっかけを与えてしまうかもしれない」

マナ「でも、方法を見つけて対等の立場にならないと……シンジくんだけが不利になってしまってるのよ」

シンジ「わかってる」

マナ「時には汚いと思う手段だって必要だよ。すべてが順調なら頼る必要はないけど。失敗した分は取り戻さなくちゃ」

シンジ「落ち着いて考えなきゃいけない。明確なミスをしたのは一度だけなんだ。慌てて判断間違いを繰り返せば取り返せなくなる」

マナ「だけど……っ! 迅速に状況判断をして決断しないと……!」

シンジ「わかってるっ! わかってるよ、もしかしたら、今ごろ母さんに」ギリッ

マナ「……」

シンジ「――……ひと騒動起こすよ」

マナ「えっ?」

シンジ「カラーコンタクトを取りに行ってる暇はないから、範囲がどこまで有効か試したことないけど……力を限界まで使う」

マナ「力って……? なにするつもり?」

シンジ「基地に張り巡らされている電波を丸ごと妨害する。機器を一時的に使えない状態に」

マナ「そんなの不可能よ。軍事施設はサイバーテロのに対する備えだってあるんだから。予備の電源が……」

シンジ「僕がやろうとしてることは停電にするわけじゃないんだ。ただよってる電波に強力な上書きをするだけ。正常に働けないほどのね」

マナ「可能だとして、そんなことしてどうするの?」

シンジ「説明してる猶予はない。はじめるよ」

マナ「は、はじめるって……? どうやって?」

シンジ「ふぅ……」スッ

マナ「シンジくん……? 目を瞑ってなにを」

シンジ「……」キィーンッ

マナ「え、な、なに? これ。突然、耳鳴りが」

【ネルフ本部 初号機格納庫】

カヲル「我慢できなかったのか、シンジくん……」

レイ「……」スタスタ

カヲル「キミは……。やはり行くんだね」

レイ「この初号機は仮初めのもの」

カヲル「……」ジー

レイ「要(かなめ)となるコアはないわ」

カヲル「そうか、そういうことか」

レイ「碇くんが呼んでる。行かなくちゃ」

カヲル「方法は?」

レイ「エントリー、手伝って」

カヲル「向こうにある赤い機体を使ったら?」

レイ「こっちの方がいい。碇くんの匂いがするもの」

カヲル「……わかった。ハッチはボクが開けてあげるよ」

レイ「時間がない。司令が発令をだす前に、行動を開始」

カヲル「やれやれ、人使いが荒いな」

レイ「あなた、ヒトじゃないでしょ」

カヲル「比喩表現さ。太陽のように明るい日差しが指すのか……それとも。ボクはまだシンジくんに希望の光を見出せていないのだけど」

レイ「またひとつの分岐点に到達した。選ぶのは私たちじゃない。見守り、そして、助力する」

カヲル「(この先にあるセカイは、果たして福音をもたらすに値するのか……)」

放送「緊急自体発生! 緊急自体発生! 使徒の反応を感知! 場所は厚木基地方面! 職員は速やかに――」

レイ「エマージェンシーコールが開始された」

カヲル「……」

作業班「ったく! いきなりは勘弁しろって! ……キミたちは、こんなところでやって?」

カヲル「こんばんは」スッ ドンッ

作業班「なんだ? ……か、体に宙にっ⁉︎ がはっ⁉︎」ドサッ

カヲル「急ぐんだ。ヒトが集まってくる前に」

レイ「ええ」タタタッ

【ネルフ本部 発令所】

シゲル「厚木基地方面より半径10キロ範囲にて強力なジャミング波をキャッチ!」

冬月「衛星からの映像は?」

マコト「光波、粒子を遮断してる……す、すごいぞ、これは」

冬月「ろくにモニタリングできんか……ユイくん」

ユイ「暴走か、あるいは――」

冬月「意図的に力を発動しているかだな。……葛城一尉の所在は?」

マヤ「こちらに向かっているはずですが、まだ」

冬月「やむをえんな。到着するまでの間、陣頭指揮は司令部で執る」

マコト「まっ、待ってください! 初号機にエントリー反応!」

冬月「なに? 誰が乗っている?」

シゲル「こちらからの信号を拒絶! 内部をモニターできません!」

冬月「ケイジ周辺の映像を出せ」

マコト「そんな、どうなってるんだ。作業員たちが」

冬月「気絶? 死んでいるのか? 大至急、録画データを解析! 今より30分前にまで遡り怪しい映像がないかチェックしろ!」

シゲル「りょ、了解!」

冬月「現時刻を以って、第一種戦闘配備に移行だ! チルドレン達への通達も忘れるなよ!」

オペレーター「了解! 緊急発令! これより第一種戦闘配備へ移行!ただちに指定の配置につけ!」

マヤ「映像の巻き戻し作業を完了! ……これはっ⁉︎ ダメですっ! ノイズがひどくて!」

冬月「やはりタブリスが裏で暗躍していたか」

ユイ「初号機はどうなってる?」

マコト「独力で第三ロックボルトまで解除した模様!」

ユイ「出撃するつもりね。全カタパルト射出盤にロック。急いで」

マコト「了解! ――第二までのカタパルトロック作業、完了! 続いて第三……っ⁉︎」

ユイ「どうしたの? なにか問題が?」

マコト「ぱ、パターン青っ⁉︎ 第三カタパルト付近で使徒の反応を確認!」

シゲル「本部内部に使徒っ⁉︎ いつのまに!」

ユイ「技術班を至急現地に向かわせて。命を賭(と)して初号機の出撃を阻止するのよ」

ミサト「ぜぇっ……ぜぇっ。だぁ……っ、おくれ、ました」

マコト「葛城さん!」

ミサト「ふぅ、ふぅっ、んっ、日向くん、どうなってるの? なんの騒ぎ?」

リツコ「使徒みたいね」

ミサト「リツコ? あんたも今来たの?」

リツコ「マヤ、信号をキャッチした場所は?」

マヤ「あ、厚木基地方面です。現在、広範囲に渡り電波妨害が行われており、発生源の特定を急いでいます」

リツコ「(シンジくんったら、若いわね。我慢しきれなかったのかしら)」

ミサト「えっ、ちょっと待って。初号機がでてるの? パイロットは?」

マコト「不明です!」

ミサト「不明って……? 誰が乗ってるかわからないの⁉︎ レイとアスカはっ⁉︎」

リツコ「寝ぼけてるの? アスカは一緒に連れてきているのではなくて?」

ミサト「あぁっ、そうだった! セカンドチルドレンの弐号機へのエントリー急いで!」

ユイ「零号機の凍結も現時刻をもって解除。以降の指揮は葛城一尉に一任します」

ミサト「了解! さぁ、みんな、久々の使徒戦になりそうよ! 平和ボケしてんじゃないでしょーね⁉︎」

【厚木基地 宿舎】

ムサシ「――なんだ? やけに静かだな」

軍曹「はぁ、はぁっ」

ムサシ「軍曹殿? 見回りの時間はまだ」

軍曹「全隊員、整列ッ!」ピーーーーッ

少年兵一同「……っ⁉︎」ガタガタッ

軍曹「さっさとせんかっ!!」

ムサシ「――隊員以下23名! 整列を終えましたっ!」

軍曹「現在、参謀本部が何者かにサイバー攻撃を受けている!」

少年兵一同「……」ドヨドヨ

軍曹「静かに! 従って全ての電子機器が使用不可能だ! 発生源の割り出しを急いでいるが、あらゆる可能性を想定して動かなければならない! 出撃準備!」

ムサシ「しゅ、出撃でありますか? しかし、どうやって?」

軍曹「人力に決まっておろう! ヤシマ作戦を思い出せ! さいわい、ガソリンで動くものはかろうじて起動ができる!」

ケイタ「ねぇ、ムサシ。EMP攻撃を受けてるのかな?」

ムサシ「電磁パルスか。ありえる。となると、隣国の嫌がらせか」

ケイタ「人間同士で争ってる場合じゃないのにさぁ」

軍曹「私語は慎め! 作業開始!」ピーーーーッ

少年兵一同「了解っ!!」

シロウ「ちょっと待ってもらえませんか」

軍曹「き、貴様は。まだこの基地に滞在したのか?」

シロウ「そう邪険にしないでくださいよ。面白いイベントに鉢合わせできたようだ」

軍曹「見ての通り急いでいる。引き止めた理由を簡潔に述べろ」

シロウ「ムサシ、くん。でしたか、彼とお友達を拝借したい」

軍曹「なんの為にだ?」

シロウ「急いでいるのでは? 詳しく話をすると余計な手間をとらせてしまいますが」

軍曹「ちっ、おい、ムサシ隊員! 浅利隊員!」

ムサシ&ケイタ「はっ!」ザッ ビシ

軍曹「時田博士に同行しろ。……のこりの物は各担当区域に急げ!」

【厚木基地 執務室】

シンジ「だめだ、これも違う。そっちは――」

マナ「こんなところに忍びこんでもし見つかったら……。それにその瞳の色」

シンジ「悪いけど、まだやる事があるんだ。急がなくちゃいけない。詳しい説明はあとで」

マナ「でも、基地の凄い騒ぎになってるし、シンジくんがなにかしたんだよね?」

シンジ「だから、今は……――あった」ガタガタ

マナ「なに? ……えっ、それって、ネルフの報告書?」

シンジ「……戦自はネルフを調べてるって言ってたよね。だから、調査報告書がどこかにあるはずだと思ったんだ。当てずっぽうでここに来たけど、運がよかった」パサ

マナ「入手してどうするつもり?」

シンジ「あるはずなんだ、きっと、アレが」

マナ「あれって? ねぇ、なんのことだかわからないっ」

シンジ「ここまで大規模に力を使ったら母さんは僕を怪しむ。いや、もう怪しんでいるんだろうけど」ペラ

マナ「それとその書類になんの関係が? 今は軍曹の口封じが先決なんじゃないの?」

シンジ「使い捨ての駒のひとつなんだよ。チェスでいうポーン。僕たちに彼を止める手立てはない。方法は殺すしか――」

マナ「こ、殺さなくてもっ! それなら脅迫する方がまだっ!」

シンジ「僕だってそんなつもりは毛頭ない。かといって、脅迫するつもりもね」

マナ「だったら、どういう?」

シンジ「僕はね、ずっと糸を頼りにその上を歩いてきた。ロープの上を歩く綱渡りの人生とかって言うじゃない?」

マナ「うん」

シンジ「僕の力の正体を隠すには、なにもしないのが一番いいんだ。誰かが困っていても、見て見ぬふりをしてやり過ごす。そう――……“行動”しなければ“起”は生まれない」

マナ「う、うん?」

シンジ「それだけじゃ嫌だったんだ。僕は、自分自信が好きじゃなくてキライだったから。……父さんにも、捨てられたくなくて。必死にこっちを見て、頑張ってる僕を見てってわめいてるだけの子供だった」

マナ「……」

シンジ「やっとそれが理解できそうになった時、父さんは帰らぬ人になってしまった。だから、自分を好きになれるように、父さんに褒めてもらえるように、みんなを守りたいんだ。自分の為にね」

マナ「……」

シンジ「――……あった」

マナ「なにが、あったの?」

シンジ「極秘ファイル。戦自が企んでいて僕たち知らないモノ」

マナ「交渉テーブルの材料に使うつもり?」

シンジ「決断の時がきてる。全てを母さんに曝け出すその時が」

マナ「シンジくん……?」

【ネルフ本部 発令所】

シゲル「安全盤のロックが解除されています! こちらからの制御は不能!」

ミサト「第三カタパルトから強引に上がるつもりか。……本部内における使徒の位置は?」

マコト「同区画にて停止中っ……――ま、待ってくださいっ! 反応ロスト! 消失しました!」

ミサト「消えたっ⁉︎ 使徒がっ⁉︎」

マヤ「初号機は依然として進行中! 技術班の車両と接触……このままじゃ、地上に出られてしまいますっ!」

ミサト「アスカっ! 聞こえる⁉︎」

アスカ『はいはい』

ミサト「準備が済み次第、目標である初号機を追いかけて」

アスカ『追いかけるって。すぐに活動限界になるんじゃないの? アンビリカルケーブルだって繋いでないみたいだし』

ミサト「目的が不透明よ。例え数分でも市街地をむちゃくちゃに破壊しまくられたら被害は甚大だわ」

アスカ『そもそもエヴァってチルドレンしか乗れなあんじゃないの?』

リツコ「そのはず。私たちが知らないだけでなければね」

アスカ『んなアバウトな』

リツコ「パイロットの正体は活動停止してから拝めばいい」

ミサト「使徒の動きに警戒して。消えたなんてありえないわ、どこかに潜伏しているのよ」

冬月「エヴァの存在意義は使徒に対する防御にこそある。人災になることは許されん」

ミサト「はい。とにかく今は初号機停止を最優先――……アスカ? 準備はいい?」

アスカ『このあたしに任せておけばお茶の子さいさいよ。誰がパイロットでも止めてみせる』

ミサト「レイに連絡がつかないから、今はアスカだけよ。頼りにしてる」

アスカ『ふふーんっ! エースとしての腕の見せ所ってわけね! 意外にすぐに機会が訪れたわ!』

マヤ「弐号機、主電源通電! 起動します!」

ミサト「たのんだわよ。エヴァンゲリオン弐号機、発進……!」

【弐号機 プラグ内】

アスカ「――うんと、初号機はぁ~っと。あれ? 地上に出てもいないじゃない。ミサト、どうなってんの?」

シゲル『目標、加速開始! 国道50号線をまっすぐ北上しています!』

アスカ「げぇっ⁉︎ ええっ、ちょっと、それって」

リツコ『追跡するには、弐号機もアンビリカルケーブル接続を切るしかない』

アスカ「ちっ、向こうの電池切れを待ってりゃいいと思ったのにさぁ」

ミサト『市街地の破壊が目的ではないだけ良しとしましょう。ここから北上するにあたり主要な都市は?』

マコト『ほとんど海の底ですよ。あるといったら、軍事拠点の厚木基地ぐらいしか』

ユイ『すぐに追跡を開始』

ミサト『えっ? し、しかし、長距離の移動は。通過するころにはほとんど残り時間が』

ユイ『国外に持ち出されたらとは思わないの?』

ミサト『そうか、そういうパターンもあるのか。失礼致しました。聞こえたわね、アスカ?』

アスカ「たくもーっ! なんで追いかけっこしなくちゃなんないのよぉ!」

リツコ『急いで加速状態にはいって。シンクロ率で速度は上下するけど、マックスで音速を超える』

アスカ「すごいGがきたりすんじゃないでしょうね?」

リツコ『心配いらないわ。プラグ内を満たしているL.C.Lが衝撃を吸収してくれるから』

アスカ「はぁ……よっと」ガコンッ

ミサト『なにやってるの』

アスカ「スプリンターみたくクラウチングスタートした方がかっこいいじゃない。気分よ、き・ぶ・ん」

ミサト『遊びじゃないのよ。スタート』

アスカ「あー、やだやだ、これだから大人ってのは。言われなくても、行くわよっ!」ダンッ ダンッ ダンッ

マヤ『弐号機加速状態に移行!』

アスカ「……ほんとだ。中は全然変わりないんだ」ダンッ ダンッ ダンッ

リツコ『集中して。走ることだけをイメージするのよ。マヤ、アンビリカルケーブルの有効範囲は?』

マヤ『間も無く切れます』

リツコ『初号機と弐号機のタイム差の算出、急いで』

ミサト『追いつける?』

リツコ『ざっとみた感じ、厳しいわね』

ミサト『アスカっ! 真面目にやってる⁉︎ 目標を抑え込んで停止させなくちゃいけないのよ!』

アスカ「やってるわよ! 最高速に移行するまで加速ギアってもんがあるでしょーが!」

リツコ『シンジくんなら、どうするかしらね』

アスカ「……っ⁉︎ なんで今あのバカシンジが出てくんのっ⁉︎」

リツコ『彼はいつも私たちの期待した結果を残してくれたもの。過程は右往左往することはあっても』

アスカ「私じゃ無理って言いたいわけっ⁉︎」

リツコ『ほしいのは結果なのよ。おわかり?」

アスカ「くっ! この……っ!」

マヤ『弐号機、シンクロ率が5パーセント上昇!」

シゲル『――さらに加速! ケーブルの断線を確認! 内部電源に切り替わります!』

ミサト『五分が勝負の分かれ道ね。とにかく全速力で走って! 急ぐのよ!』

【ネルフ本部 発令所】

マコト「内閣府よりホットライン入電。戦自司令室と日本政府が回線に割り込んできています。どうやら、状況の説明を求めているようですが……」

冬月「ハゲタカどもめ。やはり見過ごしはせんか」

ユイ「……」

冬月「どうする? 人為的ミスだと応答するわけにはいかんぞ」

ユイ「全てキャンセル。ネルフ特権十五項を発動して。後に報告すると伝えなさい」

シゲル「了解。そのように返信いたします」

マヤ「到着時刻の解析が終了! 切断後、およそ3分で初号機に追いつけます!」

リツコ「サブタスクで予定時刻を表示」

マヤ「了解!」

ミサト「いい感じよ!そのまま加速を続けて!」

アスカ『ぬぅぅぅおおぅりやぁあああっ!!』

冬月「初号機の目的地はもしや、サードチルドレンではあるまいな?」

ユイ「パイロットがタブリスなら……」

冬月「奴はなにを考えているんだ。こちらとしてもこれ以上、野放しにするわけにはいかんだろう」

マコト「目標、神奈川方面に向け進行中」

シゲル「軍の総合観測所から入電。エヴァを停止するよう言ってきています。……関連施設からの回線が入り乱れてるな、こりゃあ」

ユイ「一時的でかまわない。作戦行動に支障をきたすようであればシャットアウトして」

シゲル「りょ、了解!」

マヤ「目標、活動限界を残り2分を切りました!」

ミサト「弐号機は⁉︎」

マヤ「タイムラグがありますので、残り3分30秒!」

ミサト「アスカ! 追いつければこちらが有利よ、足止めするだけでいい! 待ってれば勝手に自滅するわ!」

アスカ『くっ! もっとラクショーだと思ったのにぃぃっ!』

マヤ「……っ⁉︎ 初号機、さらに加速っ!」

シゲル「音速の壁を突き破ります!」

ミサト「まずいわよ……! とんでもない突風がくる! 近隣に住宅地はっ⁉︎」

マコト「付近半径5キロメートル四方は山に囲まれています!」

ミサト「ほっ、助かった――」

リツコ「安心するのはまだはやい! 弐号機の加速数値はっ⁉︎」

マヤ「初号機の加速率が想定の遥か上になってしまっています!」

リツコ「計算外だわっ! アスカ! もっと速く! 追いつけなくなるっ!」

アスカ『んなくそぉおおおおっ!!』

マコト「ダメです! 弐号機、速度あがりませんっ!」

リツコ「初号機に停止信号を送信!」

マヤ「送信、やはりだめです! 受け付けません!」

リツコ「何度でもトライし続けなさい!」

ミサト「間に合わないか……! アスカっ! 作戦を変更! 初号機が停止した地点に急いで向かって!」

【厚木基地】

マナ「大丈夫? すごい汗かいてる」

シンジ「ちょっと、力を使いすぎちゃって。マナもそろそろ宿舎に戻って。僕に拉致されてたって言えばいいよ」

マナ「えっ? なんでそんなこと」

シンジ「基地内が大騒ぎになってるんだ。そんな時に不在じゃ、理由が必要だろ」

マナ「でも、それじゃシンジくんが……」

シンジ「僕はもうすぐここからいなくなる。綾波がここに来るだろうから」

マナ「綾波、さん?」

シンジ「まだ賭けの途中なんだ。このファイルを手に入れられたことはラッキーだったとしか言いようがないけど、今は良い方向に向かってる」

マナ「……」

シンジ「――だけど、次がどう転ぶかはわからない。こんなに都合よくことが運ぶとは思えないし……。これ以上、マナを巻き込みたくないんだ」

マナ「そんな……そんな、寂しいこと言わないでよ。たしかに、私たち知り合って間もないけど、友達じゃない」

シンジ「友達だから、そう思うんだ。ごめん、僕は自分勝手だよね」

マナ「また、会える?」

シンジ「いつか、生きてたら会えるよ」

マナ「死んじゃうみたいなこと言うのね」

シンジ「……」

マナ「シンジくんと一緒に行きたい気持ちが半分。でも、残り半分はムサシとケイタを残していけない」

シンジ「うん」

マナ「自分勝手なのは私だよ。助けてもらってばかりで、正体がバレた瞬間に……本当なら殺されてもおかしくなかった。今、選ぶことができるのはシンジくんのおかげ」

シンジ「……」

マナ「なにもしてあげられなくて、ごめんね」

シンジ「いいよ」

マナ「シンジくんが抱えてる色んなことを、一緒に分かち合ってくれる人、いる……?」

シンジ「どう、かな……」

マナ「もし、その相手が女の子だったら。自分から話さなくちゃだめだよ」

シンジ「でも、僕は」

マナ「甘えたっていいの。弱さを受け入れてくれると信じなくちゃ」

シンジ「……」

マナ「きっと、その子も待ってるはずだから。絶対、ね? 約束して?」

シンジ「――……わかった」

マナ「うんっ! ぐすっ……色々とごめんなさい。私……っ」

シンジ「マナ……」

マナ「本当に平気? 綾波さんがここに来られるの?」

シンジ「たぶん。力を発動した時点で気がついてると思うから」

マナ「そっか……わかった。私、戻るね?」

シンジ「うん」

マナ「本当に、また、会えるよね?」

シンジ「いつか、きっと」

マナ「デートする約束も守ってもらってないんだからね! きっとだよ……!」ポロポロ

【通路】

ケイタ「あれ、歩いてきてるのは、マナ……? 管制塔はこっちじゃ」

シロウ「お友達かい?」

ムサシ「左様でありますが――……」

マナ「ムサシ、ケイタ」トボトボ

ムサシ「あいつはどうした? そばについていたはずじゃ? 目が腫れて……泣いてたのか?」

ケイタ「なにかされたの?」

マナ「……」

ムサシ「あの野郎……っ!」

シロウ「あいつというのも同じ隊員か?」

ケイタ「あ、いえ、違います。ネルフから訓練生できている奴のことで」

マナ「ち、違うの。シンジくんは……」

ムサシ「……? 違うのか?」

マナ「その、違わないけど」

ケイタ「マナ……?」

シロウ「面白い。実に興味深い反応をしている。キミも我々に同行してもらおうか」

マナ「えっ? あの、なにかするんですか?」

シロウ「実験だよ。簡単な適性審査というべきか」

ムサシ「待ってください! 霧島隊員は情報管理部に所属しており――」

シロウ「発言の許可を許していない。ムサシ隊員は私から質問された場合にのみ答えたら良い」

ムサシ「……っ!」

シロウ「戦自に所属する者ならば理解しているだろう。命令系統の厳しさを」

ケイタ「し、しかし」

シロウ「キミまで口を挟む気か? よほど大切な者のようだな。私にとって些事にすぎんのが悩みどころだ」

ムサシ「……」

シロウ「そうだ、それでいい。霧島隊員といわれていたか? 行くぞ」

マナ「あの、私には任務が」

シロウ「その任務とやらは基地で起きている騒動を無視して許されることか?」

マナ「事情があったんです!」

シロウ「裁定を下せる権限はない。しかし、報告することはできるのだぞ……例えば、サボタージュしていたとかな」

ムサシ「でっち上げでしょう! そんなの!」

シロウ「ウソか真実か。重要な指摘はそこではないのだよ。キミらと私。……どちらが信用するに値するかだ」

ケイタ「(こ、この人……ムサシ)」チラ

ムサシ「……」コクリ

シロウ「アイコンタクトでイカれたやつだと確認しあっているのか? 子供にもわかりやすいよう説明しているだけのことだよ」

ムサシ「発令は絶対です。上官がご所望するのであれば俺たちは兵として、応えざるをえません」

シロウ「なにやら引っかかる言い方だな?」

ムサシ「――ひとつ問題が。博士が所属なされている機関は戦自ではありません」

シロウ「なぜキミにわかる?」

ムサシ「隊がつけているバッジを身につけておられないからであります」キラン

ケイタ「必ず着用するように義務づけられています」キラン

シロウ「んん~?」ジー

ムサシ「したがって、戦自機関でない者からの命令に従う義務は――」

シロウ「これのことかな?」スッ

ムサシ&ケイタ「……っ⁉︎」ギョ

シロウ「すまないね。そのままポケットにしまったままだった」

マナ「当所属の博士殿でありましたか」

シロウ「いかにも。といっても、着任したばかりだが。……あぁ、そういえばまだろくに自己紹介をしていかなったな。本日付けで戦自科学研究室に配属となった、時田シロウだ。以降、お見知りおきを」ニヤリ

ムサシ「(くそっ……なんてこった!)」

ケイタ「む、ムサシ……!」

シロウ「さて――……これで、キミたちが私に従う道理ができてしまったわけになるが、他に気になるところは?」

ムサシ「くっ!」

シロウ「ここに配属となれば悪いようにはせんよ。人類の……いや、日本国の未来に貢献できると約束しよう」ニヤニヤ

ケイタ「マナっ! あいつはどこに行ったのっ⁉︎」

マナ「シンジくんなら――」ズズーンッ!

ケイタ「うわっ⁉︎ 地震? ……違う」

ムサシ「ちくしょう、今度はなんだって言うんだっ!」

ケイタ「滑走路の方角だ! 南!」

【滑走路】

シンジ「はぁっはぁっ」タッタッタッ

レイ『碇くん』

シンジ「綾波ぃっ! ここだっ!!」キッ

初号機「……!」ドンッ ドンッ ダンッ

シンジ「うわっ⁉︎」

初号機「……」プシューッ

レイ「碇くん、スピーカーに切り替えた。どうしたらいいの?」

シンジ「稼働時間が残り少ない! プラグをイジェクトして!」

レイ「了解」ピッピッ

戦自隊員「おーいっ! こっちだ……っ⁉︎ こ、こいつは、エヴァじゃないか⁉︎ なぜ厚木基地にっ⁉︎」

シンジ「(よし、人が集まってきてる)」

初号機「……」ガコンッ

シンジ「僕もそっちと合流する」カチ ピッ

レイ「……」シュー

シンジ「ありがとう、来てくれて。綾波なら、きっと気がついてくれると思ってた」

レイ「トラックが集まってきてる」

シンジ「うん。いいんだ、これで」

レイ「そう」

シンジ「母さんが窮地に立たされるから。結局頼ってしまって、ごめん」

レイ「かまわないわ」

シンジ「ミサトさんたちは?」

レイ「回線を切ってたから」

シンジ「そっか。今頃はネルフ本部も大騒動になってるだろうね」

レイ「弐号機が追走してきた」

シンジ「アスカが? それで、現在地は?」

レイ「わからない。途中で私が速度を上げたから」

弐号機「……!」ビュ シュバッ

戦自隊員「おい! そこの二人! 両手を上げて――な、なんだぁっ⁉︎」

弐号機「……」ズーーーンッ プシューッ

シンジ「なるほど……来たね」

アスカ「やっと追いついた……っ⁉︎ ふぁ、ファーストぉっ⁉︎ なんでここにっ⁉︎ 初号機が暴走してた犯人ってあんただったのぉっ⁉︎」

レイ「よく追いつけたわね。あの速度ではここまで辿り着けないと思ったのに」

アスカ「はっ! あれからすぐにあたしだってマッハに突入したわよ!」

レイ「……」

シンジ「アスカ。一日ぶり」

アスカ「シンジ……? って、今はあんたにかまってる暇ないわよ! そこの人形!」ビシッ

レイ「……」

アスカ「どういうつもりっ⁉︎ あんた自分がなにしでかしたかわかってんの⁉︎」

ミサト『アスカっ! 現状を報告して!』

アスカ「あぁん、もう、ごちゃごちゃうっさいわねぇ! 弐号機のカメラを繋いであげるから自分の目で確認したらっ⁉︎」

【ネルフ本部 発令所】

ネルフ職員一同「……」ドヨドヨ

シゲル「あれって、綾波レイじゃないか?」

マコト「それに、シンジくんも?」

マヤ「シンジくん……」

ミサト「レイが初号機を操ってたってわけ? ……でも、どうして」

リツコ「(焦ったわけでなかった? 企んでたのね、あの子)」

冬月「当てが外れたな」

ユイ「タブリスが協力しているのはまず間違いないでしょう。でなければ、本部内における使徒の反応の説明がつかない」

冬月「まったくの的外れというわけでもないか。……しかし、これは困った事態になったぞ」

ユイ「……」

冬月「ネルフに所属するパイロットがエヴァを私的な理由で使用したのだ。映像で確認できる限り、目撃者の数が多すぎる」

ユイ「もみ消そうにも、相手が悪すぎる。いがみ合う関係にある戦自と政府には都合の良い材料となりました」

冬月「これを機に、キミの責任問題まで発展させ国会で論じるだろうな」

ユイ「葛城一尉」

ミサト「は、はい?」

ユイ「初号機と弐号機を速やかに回収。以降はネルフに帰還させて。パイロット達も」

ミサト「サードチルドレンはいかがなされますか?」

ユイ「事情聴取しなければならない。もちろん帰還よ」

ミサト「はっ!」ビシッ

冬月「これで疑念の余地はなくなったか。やつは力を自覚し、意図的に使用して今回の事態を引き起こした」

ユイ「やはり私に対し牙を剥くようですね」

冬月「ここまで大胆な行動にでられるとは。子供相手だと思って甘く見過ぎていたか」

ユイ「ふぅ……対応が後手後手にまわっていたと認めざるをえません。一本とられました」

冬月「……」

ユイ「ですが、行動には結果がつきものです。これで勝ったなどと思わせるべきではないし、また、そうはなりません」

冬月「報復を与えるか」

ユイ「力関係と立場はなにも変わっていないのです。軽はずみに動けばどうなるか、シンジに身をもって経験させましょう」

リツコ「……」チラ

ミサト「あんた、やけに落ち着いてるわね」

リツコ「驚いてるわよ? 表にだしてないだけで」

ミサト「レイは初号機とのシンクロ率の融和性がそんなに高くないはずでしょ? どうなってるの?」

リツコ「A10神経で接続している以上、体調、気分の高まりによってシンクロ率は上下すると考えられます。一概に低い高いの基準は定められないのよ」

ミサト「つまり、今回だけってこともありうるの?」

リツコ「なくはないわね。今回、高い数値を計測して速度をマックスにまで加速できたのは、レイが強く願ったからじゃないかしら」

ミサト「シンジくんの元に向かうために?」

リツコ「でなければ、初号機を無断で使用なんてすると思う?」

ミサト「……」

リツコ「始末書と抗議文の山が待ってるわよ。仕事ができてよかったじゃない。あなた、いつも暇そうだから」

ミサト「デスクワークが増えるのはかまわないけど。……レイはどうなるの?」

リツコ「(それはシンジくんの交渉次第ってところかしらね)」

ミサト「リツコ?」

リツコ「それよりも今は、回収が最優先事項だわ。事の経緯については、自ずと明らかになるでしょう」

【厚木基地 研究室】

シロウ「薄汚い売国奴どもめ。国に対し背信行為を……得られた資金で好き勝手に研究しやがって。連中、特に赤木リツコに必ず目にものを見せてやる、なにがエヴァだ。欠陥品だ」ブツブツ

ケイタ「博士」

シロウ「――……ん? 失礼。外で騒いでる連中を見て嫌な記憶を思い出してしまった。なにかな?」

マナ「なんの機材ですか?」

シロウ「キミたちが座っている椅子は、ジェットアローン計画の技術を流用して作成した。これから開発基盤を作る上で最初の一歩となる試作品だ」

ムサシ「この椅子が?」

シロウ「正確にはコックピットに設置予定となる。私が立案し戦自に持ち込んだものだよ」

ケイタ「コックピットって? なにを?」

シロウ「私と戦自の共通項は“対使徒”兵器完成。つまり、ネルフにとってかわる役割を担いたいと考えている」

マナ「エヴァみたいなロボットを作るんですか?」

シロウ「そうだよ。キミたちがその栄えある候補生に選出されるかもしれないという話だ。適性の結果次第になってしまうが」

ムサシ「お、俺たちがっ⁉︎」

シロウ「二言はない。俄然やる気が湧いてきたかな?」

ムサシ「(パイロットになれれば、エリートだ。マナとケイタに不自由な暮らしをさせなくて済むかも……!)」

マナ「(ロボット……それって使徒と戦のよね。私が頑張れば、ムサシやケイタはもちろん。シンジくんの助けになれるかも)」

ケイタ「(こ、こわいけど。生身で戦地に行くよりは安全なのかな……)」

シロウ「目に力が宿ってきたな。いいぞ、やはり子供はそうでなくてはいかん」

ムサシ「さ、先ほどは失礼いたしました」

シロウ「なに、気にしていない。私達は知り合ったばかりじゃないか。お互いに知らないことだらけで誤解も生まれよう」

ケイタ「座ってればいいんですか?」

シロウ「ああ。器具をセットするからそのままでいてくれ、まずは浅利隊員から」カポッ カチャカチャ

マナ「いつ頃完成予定なんですか、その、ロボットって」

シロウ「なんとも言えないなぁ。だが、できるだけ急ぐとは約束するよ。次、ムサシくん」カポッ カチャカチャ

ムサシ「ロボットができればネルフに頼らなくても使徒を倒すことが可能でありますか?」

シロウ「もちろんだ。その為に資金を投入するのだから。最後に、霧島くん」カポッ カチャカチャ

マナ「……」

シロウ「――時にキミは、なにか重要な任務を帯びていたそうだな?」

マナ「えっ?」

シロウ「自分で言ったじゃないか。事情があった、と。なにをしていたのか聞かせてくれないか?」

マナ「守秘義務に反します」

シロウ「当てようか。ネルフからきたという訓練生に関連するんじゃないか?」

マナ「いえ、それは違います」

シロウ「嘘はよくない。キミが見せている顔色が物語っている」

ムサシ&ケイタ「……」

シロウ「お友達も興味津々のようだぞ? なぁ、誰にも言わないと約束するから教えてくれないか?」

マナ「できません。例え死んでもお答えするわけには――」

シロウ「おいおい、聞いたかね。やはり興味深い。私は“教えてくれ”としか尋ねていないのに、わざわざ自分から命を賭けるといいだした。重要な機密だと自白しているようなものだ」スタスタ

マナ「……っ⁉︎」

ケイタ「博士、それぐらいで。パイロットの適性テストには関係ないでしょうし」

シロウ「判断するのはキミじゃない、この私だ」ピッ

ケイタ「……? ――……ぎゃああああああっ⁉︎」バチバチバチッ

ムサシ&マナ「ケイタっ⁉︎」

シロウ「あぁ、またうっかり言い忘れていた。ロボットの操縦士になるには過酷な環境に耐えてもらわねばならん。なにしろ、生身の体で戦闘機よりも速い箱に搭乗することになる」

マナ「博士っ!! なにをしてるんですかっ⁉︎」

シロウ「なにを慌てている? 必要なテストだよ。どこまで痛みに耐えられるかの。椅子には電流が流れる仕組みになっている」ピッ

ケイタ「」プスプス シュー ガクン

ムサシ「ケイタっ⁉︎ おいっ!! しっかりしろ! ケイタぁ!!」ガタガタ

シロウ「ふむ。気絶したか。皮膚が少々焦げているな、やりすぎてしまったようだ。はじめてで加減を間違ってしまった」

マナ「ケイタっ!! ケイタぁっ!!」ガタガタ

シロウ「では、質問を再開しようか。キミはあそこでなにをしていたんだね?」

マナ「……っ⁉︎ 申し上げられません!」

シロウ「それは誰のためにだ? 軍かね? それとも――」ピッ

ムサシ「ケイタっ! ケイっ⁉︎ ぐあああああああっ!!」バチバチバチッ

マナ「ムサシっ⁉︎」

シロウ「電圧は浅利隊員より低めに設定してある。かといってつらくないわけではないぞ」

マナ「ムサシっ!! ムサシぃっ!!」ガタガタ

シロウ「訓練生だろう? 関係しているのは」ピッ

ムサシ「うっ」シュー ガクン

マナ「ムサシ!! しっかりして!!」

ムサシ「こ、この野郎ぉっ!!」ガタガタ

シロウ「暴れたところで無駄無駄。その器具は人間の力では破壊できないからな。どうする? 霧島隊員。彼らの命運はキミが握っているぞ?」

マナ「こんなのが適性検査なんてっ! 人体実験じゃないですか!! 上官を呼んでください!」

シロウ「ふむ……まだ理解していないと」ピッ

ムサシ「まっ⁉︎ ぐううううああああっ!!」バチバチバチッ

マナ「ムサシ⁉︎ ムサシぃっ!!」

シロウ「そろそろ喚くのにも飽きてこないか? 私はとっくに飽きてる。まるで作業だ」ピッ

ムサシ「はぁ、はぁっ」シュー

マナ「なんで? なんでそこまで知りたいんですか?」

シロウ「キミが隠そうとするのが悪いのだ。興味が湧いてしまうだろう?」スッ

マナ「わかりました、言います、言いますから」

シロウ「どうぞ」

マナ「私が受けていた任務は、碇シンジくんの身の回りの世話をすることです」

シロウ「それだけか?」

マナ「はい」

シロウ「手間をとらせないでくれないか。ウソはよくない」ピッ

ムサシ「ぐあああああっ!!」バチバチバチッ

マナ「……っ! なんで、こんなひどいこと!!」

シロウ「私はね、科学が好きなんだ。人生を捧げてもいいほどに、文字通り研究だけのために生きてきた」

マナ「(どうしよう、どうしたらいいの)」

ムサシ「くっ、マナ……」

シロウ「だが、ある計画を不意にしてしまってね。みんなが私を責めた。政治的理由、責任問題。それだけ莫大な資金がかかっていたから致し方ないことだが。私はものの見事にスケープゴートにされた」

マナ「(話を引き出して時間を稼がなきゃ。でも、稼いだとしてどうしたら……考えるのよ、マナ)」

シロウ「あんまりだとは思わないかね? ひとつの失敗だけで、この国はそっぽを向いてしまうに及ばず徹底的に叩き潰す傾向にある」

マナ「博士は戦自の為に働くのではありませんか?」

シロウ「勘違いさせてしまったかな? 悪いのは国民性じゃない。ネルフなのだ。やつらさえいなければ、私は失敗する要素がなかったし、人為的被害をださずに済んだ」

マナ「エヴァがなければ使徒は倒せません。有効兵器が。かろうじて通じるのはN2のみで、それでも足止め程度の効果だけです」

シロウ「あの規格外のバケモノどもか。科学が超えるには高すぎるほどに厄介だよ」

マナ「だったら、博士だって必要性を」

シロウ「だからこそ、人類の英知を集結しなければならんのだ」

マナ「エヴァだって科学の力です!」

シロウ「その場しのぎの紛い物。あんなもの。正しい方法でやらねばその後の発展はない」

マナ「あなたは、私利私欲のために。戦自を利用するつもりですか……?」

シロウ「目的と合致していると言ってくれないか? 出資者と開発者。私と戦自の関係はイーブンだ」

マナ「研究達成のためならば、隊員は、モルモットですか?」

シロウ「私とてやりたくてやっているわけじゃないんだよ。これは早期開発にあたり、サンプルを収集するためのデータ。“不慮の事故”がおこったとしても、貢献される。安心したまえ」

マナ「そんな……っ! 上官は⁉︎ ご存知なんですかっ⁉︎」

シロウ「過酷なものになるやもしれないとは伝えてある。内容は……事後報告になるが、まぁ、問題ないだろう」

マナ「いいわけないでしょう⁉︎」

シロウ「キミは自身の価値を過大評価しているようだな。戦地で死ぬのと実験で死ぬのを比べた時、“死”という概念に違いはあるか?」

マナ「(く、狂ってる。この人)」

シロウ「答えは否。大衆が着目するのは、キミたちが志願したという動機と国のためという大義名分だ」

マナ「降ります! 私たち3名はこの任務から!」

シロウ「そうか。それは残念だ」スッ

マナ「……っ⁉︎ ま、待ってくださいっ!! なにをするつもりですか⁉︎」

シロウ「……? なにって、わかってるんじゃないか? 命令を辞退したものには罰が必要だ。戦自の規律だろう?」

ムサシ「はぁ、はぁ、な、なにをしたら、助けてくれますか……?」

シロウ「おお、まだ意識があったのか。さすが主席候補生。耐久力があるな」

ムサシ「おねがい、します……助けて、ください」

マナ「ムサシっ!!」ガタ

シロウ「ふむ、どうやらキミは物分かりも良いらしい。隣の娘に喋らせることは可能か?」

ムサシ「……マナ、頼む。ここで死ぬわけにはいかないんだ」

マナ「だめよ、ムサシ……! こんな人に屈しちゃだめ!」

ムサシ「俺一人なら我慢できる。ケイタの反応がないんだ」

マナ「……っ⁉︎」

ムサシ「俺は、俺は……! マナもケイタも守りたい! けど、今はどうすることもできない」

マナ「……」

ムサシ「安心しろ。俺がこのサイコ野郎を必ず黙らしてやる」

シロウ「それは私がいないところで発言すべきだが、聞いていないことにしてやろう。気骨がないと面白くないしな」

ムサシ「今は機会を待つべきだ。頼む……! 俺を信じてくれ……!」

マナ「で、でも……」

ムサシ「ケイタが死んじまってもいいのかよ!! なんの任務か知らないが、ケイタよりもあいつが大事なのかっ⁉︎」

マナ「……っ⁉︎」チラ

ケイタ「」

マナ「ケイタぁ……っ」

シロウ「火傷を甘く考えない方がいいぞ。手遅れになる可能性だってある」

マナ「(シンジくん、私、どうしたら……)」

ムサシ「マナっ! 頼む! ケイタを助けてやってくれ! 守秘義務を破った処罰なら俺が受けてやるから!」

シロウ「その点については心配ない。喋るつもりはないと言ったろう?」

ムサシ「こんな真似してるあんたを信用できるわけねぇよ!!」

シロウ「いやいや、約束は守る。ルールというのが私にはあるんだ」

ムサシ「ちっ、なぁっ、頼むよ、マナ……!」

マナ「……」ギュウ

シロウ「なんと薄情な娘か。友達が瀕死の状態かもしれないのに、まだ迷っているらしい」ピッ

ムサシ「ま、マナあああああああっ!!」バチバチバチッ

マナ「――……わかったっ!! 喋る!! 喋りますからもうやめてぇっ!!」ポロポロ

シロウ「(やはり、心とはたやすく折れるものだ)」スッ

ムサシ「ぐっ、はぁ、はぁ」

シロウ「なんの任務に服役していた?」

マナ「うっ、うっ、ぐすっ、潜入っ、任務、です」

シロウ「ほう。それはネルフにかね?」

マナ「学校っでしだ。サードチルドレンに、近づけって」

シロウ「なぜ?」

マナ「人事に、うっ、うっ、不審な点はないかと」

シゲル「泣きながらだと声が聞き取りずらいな。もっと普通に喋れんのかね?」ピッ

ムサシ「ぐあああああああっ!!」バチバチバチッ

マナ「……っ⁉︎ しゃ、しゃべりまず! 喋るからぁっ!」

ムサシ「」プシュー ガクン

シロウ「それで?」

マナ「サードチルドレンに対しての、潜入調査でした。目的は、人事異動に不審な点はないか調べること」

シロウ「ああ、そういえば親子だったかな。なにを掴んだ?」

マナ「な、なにも……」

シロウ「いい加減にしろ! そんなわけがあるか!」パァンッ

マナ「いつっ!」

シロウ「まだ頬を叩かれたいのか?」

マナ「……!」キッ

シロウ「口の端を切ったか、血が滲んでいるな。……これが最後の機会となる。本当のことを喋るんだ」スッ

マナ「……」

シロウ「隣の友達を目に焼き付けたか?」

マナ「私の正体は、すぐに、バレました」

シロウ「それは困ったな。どうやって乗り切った?」

マナ「サードチルドレンが尽力してくれたお陰です。私の命は彼に救われました」

シロウ「方法はどうした?」

マナ「詳しいことはわかりません……本当ですっ!! 僕にまかせてって言って、一夜明けると、もう大丈夫だよって言ってくれて」

シロウ「漫画の主人公みたいだな」

マナ「変わらず潜入を続けられました」

シロウ「ふん、身分が明らかになっているのに潜入もクソもあるまい。要するにネルフと結託して戦自を欺いてたのか?」

マナ「違います、そんなつもりは」

シロウ「サードチルドレン、か。中学生の子供だと聞き及んでいるが、やつは母親にそこまでの影響力を持っているのか?」

マナ「……わかりません、ただ、嫌っているっていうか」

シロウ「なんだ?」

マナ「立ち向かうみたいな意思を感じました」

シロウ「ほうほう。そいつは、またなんとも興味深い話だ。ウソじゃないだろうな?」

マナ「はい。誓ってウソじゃありません」

シロウ「ふむ……。ところで、キミは命を救われて、はいそうですかで終わったのかね?」

マナ「……はい?」

シロウ「なにか対価を要求されなかったのかと聞いている」

マナ「シンジくんがそんなことするわけないでしょう⁉︎」キッ

シロウ「どうやらとても紳士的な少年のようだ。キミはどう思った?」

マナ「どうって……いい人だなって」

シロウ「チッチッチッ。いい人なんて表現は適切じゃない。どうでもいい人なわけないだろう? 命を救う活躍をした同年代に対して思春期にありがちな恋心を抱いたのではないか?」

マナ「あなたにっ……! なにがわかるっていうのよ……!」

シロウ「キミが守りたい秘密だったはずだ。そこでぐったりしてる友達と天秤にかけてまで」

マナ「……」ギュウ

シロウ「くっ、くっはっはっはっはっ! まいったな、こりゃ傑作だ。キミは友達を裏切って尚、恋心を抱く相手までをも裏切ったのか?」

マナ「し、仕方なくてっ」

シロウ「中途半端が一番よろしくない。“仕方ない”を使う時は、決まって納得するための言い訳だ」

マナ「……」ポロポロ

シロウ「あぁ、これだ。女は泣けばいいと思っている。お前が裏切ったんだぞ? 友達も! サードチルドレンもっ!!」バンッ

マナ「ち、ちがうっ、私はっ、そんなつもりじゃっ」

シロウ「とんだ茶番だな。寸劇を見ていたような気分だ……あえて聞こう。今だとサードチルドレンと大切な友達。どちらを選ぶ?」

マナ「む、むりですっ、どちらかなんて」チラ

ムサシ&ケイタ「」グッタリ

シロウ「(そうだ、いいぞ。よくみろ。目の前にあるのはリアルだ。……直面している現実だ。選択の余地などない。友達を選ばなければ死んでしまう)」

マナ「ムサシと、ケイタ、です」

シロウ「サードチルドレンを目の前にしても言えるか?」

マナ「はい……」

シロウ「では、霧島隊員。貴様に任務を言い渡す」

マナ「任務……?」

シロウ「これも言い忘れていたんだが、パイロットは一人で足りていてね。浅利隊員は予備でムサシ隊員が本命なのだよ。キミは最初から頭数に入っていなかったんだ」

マナ「それって、ケイタを最初にしたのは……っ⁉︎」

シロウ「もちろん“予備”にふさわしい扱いだ」

マナ「誰かを憎むのは嫌いです。だって、そんなことしたってなんにも生まれないから。だけど、あなたは違うっ!」

シロウ「殺したいか? 私を」

マナ「友達を傷つけるなんて許せないっ!!」

シロウ「力のない者が吠えるな。負け犬の雑草如きが」

マナ「このっ……!」ガタガタ

シロウ「出世街道を突き進んでいた私に敵うわけないだろう。権力も、知恵も、人脈も足りないお前になにができる? ん~?」

マナ「――……殺してやるわっ!!」

シロウ「いい殺意だ。大事に大事にとっておけ。そうなると……やはり、キミは任務を遂行しなければならない。機会を得るためにだ」

マナ「なにをさせるつもり」

シロウ「サードチルドレンをここに連れてこい。私の元へ」

マナ「放送聞いてなかったんですか? 機体の回収作業に入っています。パイロットは先に――」

シロウ「学校に行けば会えるだろう?」

マナ「えっ、また転校させるつもりですか?」

シロウ「バカかね、キミは。目的は潜入じゃないんだ。そんな回りくどいやり方はしなくていい。街中で会ってこい」

マナ「……」

シロウ「これは任務であって任務ではない。人質がいるということをゆめゆめ忘れるなよ」

マナ「シンジくんと会ったら、なにをするつもり?」

シロウ「行動の予測はついている。サードチルドレンに助けてもらえたらと希望的観測を抱いているな?」

マナ「……」ギュウ

シロウ「私をこれまで会ったどの大人よりも有能だと思え。出しぬこうなど見え透いた思惑などお見通しだ。つまり、友達を殺したくないな?」

マナ「は、い……」

シロウ「よろしい。拘束を解いてやろう……っと。その前にいきなり襲われでもしたら大変だ。これを見たまえ」スッ

マナ「そ、それは?チョーカー?」

シロウ「これはね、遠隔操作可能な超小型爆弾だ。火薬を使わず化学反応により誘爆を促すシロモノで、首から上を吹き飛ばす程度の威力はある。……キミたち三人への贈り物としよう」

マナ「いらないっ! そんなのっ!」ガタガタ

シロウ「スイッチはどこにあるだろうな?」

マナ「……!」

シロウ「ここだ。奥歯に仕掛けてある。力をいれてひと噛みすれば――……ボンッ!! だ。……ああ、食事の心配はしないでくれ。私はサプリと流動食しか口にしない。必要な栄養が補給できさえすればいいんだ」カシュ

マナ「そ、そんな……」

シロウ「一度裏切ったんだ。二度目は気が楽だろう? 任務、頑張ってくれたまえ」ポンッ

【ネルフ本部 執務室】

冬月「たいそうなコトをしでかしてくれたな。揉み消せないようご丁寧に大量の目撃者まで。これではメンツが丸潰れだ!」

シンジ「……」

冬月「だんまりでは済まされんぞっ!」バンッ

ユイ「――……シンジ。よく考えついたわね」

シンジ「やめてよ。母さんに褒められる為にやってるわけじゃないんだ」

ユイ「私だって親なんだけど?」

シンジ「……」プイッ

ユイ「副司令。今回の損害は?」

冬月「死傷者はでていないから外部処理的なものだ。各方面から苦情の電話が鳴りっぱなしだよ」

ユイ「世間体が悪くなり、総司令である私の責任能力にまで追求の余波は及ぶ。これがやりたかったこと?」

シンジ「……」

ユイ「狙いは達成できたんじゃないかしら。たしかに私はネルフの代表者で、なにか不都合が起きた場合、真っ先に矢面に立たされる」

冬月「我々がなにもせずただ眺めていたらの話。“トカゲの尻尾切り”をしなかった場合だがな」

ユイ「どう思う? シンジ。想定外の不始末が起こったとして……私は保身のためになにもしない?」

シンジ「わかってるよ、メンツを潰されたことに怒ってるんじゃない。余計な手間をとらせることに怒ってるんだって」

冬月「両方だ。雑務は増えるし金も使う」

シンジ「たいしてダメージじゃないんでしょ?」

ユイ「これといって。転んで擦りむいたぐらいかしら……こういう事件が何回も続けば司令交代を通達されるでしょうけど」

冬月「無策でのこのこと出頭するほどマヌケではあるまい。貴様の到達点は“この場所”ではないだろうからな」

シンジ「はい」

ユイ「当然まだなにか隠してる。どうするつもり……?」

シンジ「綾波の身の安全を保障してください」

ユイ「たしか、戦自の……名前忘れちゃったけど、あの子と伊吹二尉。そこにレイも含めると三人目よ?」

シンジ「綾波は理由が違います」

冬月「なに?」

シンジ「彼女は必要だからです。補完計画の依り代として」

ユイ「……」

シンジ「僕は夢の出来事を覚えているんだ。そして、全てを知った。父さんの死も……!」

冬月「もしやとは思っていたが……我々に告白する理由はなんだ?」

シンジ「意思表示をしっかりとしていなかったからです。僕は、計画の片棒を担ぎたくない」

ユイ「代替え案の提示なしに認められません。あなたは中心なのよ? 守りたい人がいるのならば、協力しないと」

シンジ「人質みたいなことじゃないか……いや、いいんだ。母さんはゴールまで辿り着ければ手段なんてどうでもいいんだろうから。僕はアダムの力を使える」

冬月「どの程度までだ?」

シンジ「そうですね、長い時間は無理ですが電波妨害と肉体強化は」

冬月「アダムの性質が持つ衝動については?」

シンジ「発作みたいなものです。自分ではどうすることもできません」

ユイ「そこまで私たちに教えるにあたって、何か得はあるの?」

シンジ「さっき言ったじゃないか。はっきりとした意思表示したい、それだけだよ」

ユイ「話は終わりなら、周囲にいる親しい者たちの中から何人か殺すわよ?」

シンジ「殺せない」

冬月「えらくもったいぶるな。話をしても大丈夫だと判断しているわけかね」

シンジ「騒動を起こしたきっかけは、僕の失敗に起因しています」

ユイ「シンジの? そこそこ立ち回れていたと思うけど」

シンジ「どこかでアクションを起こさなければいけないとずっと伺ってたんだ。僕の目的と母さんの目的が相入れない以上は」

ユイ「……そのせいでこの騒動が?」

シンジ「軍曹殿、彼に取り引きを持ちかけたんだ。……結果は急ぎすぎだった。見落としを警戒して、慎重に動くべきだったのに」

冬月「肩書きのまま疑うことをせず、ネルフの内通者である奴にまんまと情報提供を持ちかけたのか」

シンジ「内心、焦りました。報告される」

ユイ「口封じをすればもう暫くは時を稼げたでしょうけど、シンジはできないわよね」

シンジ「……隠すのが無理ならいっそバラしてしまえばいい。咄嗟に“ある計画”を思いついたんです」

冬月「欠損した部分には変わりとなる機能。つまり、補填が必要だ」

シンジ「僕はそれを探すため、力を使う賭けにでることとしました。母さんを窮地に立たせられるもの」

冬月「……? エヴァ出動とまた別件か?」

シンジ「そうですよ。騒動は基地内を混乱の渦に巻き込む状況を作るためのものでした。そして、この場所に立つための」

冬月「なに……?」

シンジ「これまで、“母さんに協力するしかなかった”。でも、これからは“僕に手出しをできない”状況になる」ゴソゴソ

ユイ「対等の関係にできる?」

シンジ「僕が探していたのは――」パサ

冬月「なんだ? 一枚の紙切れか?」

シンジ「母さんの個人ファイルだよ」

冬月「どんな極秘ファイルがでてくるかと思えば。個人情報は機密扱いだが優先度は低い」

シンジ「そうですね、最初に行った部屋であっさりと見つけられました」

冬月「ましてや、戦自が握っている情報などタカがしれている」

シンジ「どうして?」

冬月「改竄しているものをダミーとして流しているからだ」

シンジ「本当にそうですか? 言われなきゃ気がつかない?」

ユイ「……?」

シンジ「戦自が探しているものはなんですか?」

冬月「我々とゼーレの癒着だろう」

シンジ「じゃあ、父さんの旧姓、六分儀については」

ユイ「し、シンジっ⁉︎」ガタッ

シンジ「(よし、さすがの母さんも驚いてるな。でも、まだ油断しちゃだめだ)」

冬月「……なんだ? どうした?」

シンジ「改竄されたダミーだと仰いましたね。母さんの経歴について偽の情報が記載されたもの」

冬月「そう言った」

シンジ「でも、改竄しようのないものもあるんです。それは先に情報が公開されていた場合。後付けで訂正してしまうと整合性がとれず疑念を招いてしまう」

冬月「それと碇の旧姓が……そうか、六分儀の性だった頃、碇はユイくんの所へ婿養子としてはいった」

シンジ「どうしてだと思います?」

ユイ「なぜ? なぜシンジがそれを知って……?」

シンジ「答えは言わないでおくよ。もう伝わったみたいだから」

冬月「……? 待て、俺はまだ理解できていない」

シンジ「戦自が知っていて、母さんが知らないもの……気がついていないものがあったんです」

冬月「しかし、碇の旧姓がわかったところで」

シンジ「どんなに情報を改竄しようと、証明できるものがそこにある。戦自や政府に言われたくなければ、手を出さないこと。これが僕の条件です」

ユイ「……ふっ、ふっふっ。なるほど。使徒の力を使い腕力に頼るかと思えば、よく気がつけたわね」

シンジ「ずっと不思議だったんだ。父さんから母さんの話を聞いた機会はないけど」

ユイ「そう」

シンジ「本当に賭けだった」

ユイ「見事、勝ったわけね。二分の一の賭けに。……戦自の訓練はどうだった?」

シンジ「きつかったよ。一日だけだったけど」

ユイ「しばらくは戦自にいたら?」

シンジ「それでもいいけど、向こうよりこっちが心配だし」

ユイ「これからは対等の立場でやっていくんでしょう?」

シンジ「とりあえずはね。でも、抜けがないわけじゃないから」

ユイ「みるみる成長してるわね。ほんと、短い期間なのに」

シンジ「糸が張り詰めてるだけ。切れたらどうなるか……」

ユイ「切れるきっかけとしては誰かの死に直面することが望ましい? やはり殺しておくべきかしら」

シンジ「そうなったら、母さんの計画も」

ユイ「ご破算ね。……わかった」

シンジ「もう帰っていい?」

ユイ「ええ、と言いたいところだけど、部屋がないのよ。どこにする?」

シンジ「コンテナでかまわないよ」

ユイ「好きな区画のものを使いなさい」

シンジ「それじゃ」クルッ

ユイ「待って」

シンジ「……」ピタ

ユイ「シンジ、よく頑張ったわね」

シンジ「……」スタスタ





ゾルディック家吹いた

【数十分後 同執務室】

キール「今回の事件の当事者であるリリスの器への直接尋問を拒否したそうだな、碇ユイ博士」

ユイ「はい。その必要はありません」

ゼーレ03「では聞こう、ネルフ総司令碇ユイ」

ゼーレ05「先の事件、エヴァを使用した理由についての見当はついているのかね」

ユイ「綾波レイを呼んだのはシンジのようです。イレギュラーな事件だと、推定されます」

ゼーレ06「なぜだ?」

ユイ「過酷な訓練に音をあげてしまったようです。我が子ながら情けない限りで……お恥ずかしい話ですが」

ゼーレ04「たったそれだけの理由でエヴァを無断で出撃させたのか? 度し難い」

ユイ「ご存知の通り、綾波レイに喜怒哀楽といった感情はございません。頼まれて仕方なくといったところでしょうか」

ゼーレ06「命令違反についての認識さえなかったというのか?」

ユイ「いえ、そこまでは。赤木リツコからの報告によると、調整不足で情緒不安定なタイミングが重なっていたのが要因として考えられます」

ゼーレ02「証明するものは?」

キール「エヴァのACレコーダーは作動していなかった。確認はとれまい」

ゼーレ05「綾波、レイか。キミの亡き夫の置き土産品である模造品」

ユイ「……」

ゼーレ03「人形が精神、心に興味を持つことなど本当にありえんのだろうな? 周囲の多干渉がリンクする可能性は?」

ユイ「ないと断言できます。なぜならば、魂の概念がリリスの借り物であり、成長の余地がないからです」

ゼーレ05「目撃者が多すぎる。予測されうるは戦略自衛隊と政府が連携して行う組織的動作。……日本国内の騒動について国連から助力は期待するな」

ゼーレ03「さよう。内政干渉になってしまうことはあきらかだ」

ユイ「存じております」

キール「計画に遅延はないか?」

ユイ「はい」

キール「タブリスの動向は」

ユイ「好きに動かせています。操作可能です」

キール「よかろう……。キミに期待するのは補完計画の完遂、その一点だ」

ユイ「御意に。確実に我々は歩を進めています。残された段階は――」

キール「後わずか、と言うことか」

ゼーレ03「明日、そちらの本部に三号機が到着する。色々あって予定より遅れてしまったが」

ユイ「承知いたしました。しっかりと整備、管理をさせていただきますわ」

キール「忌むべきエヴァシリーズ。“約束の時”に備えしかるべき運用を望むぞ」

ユイ「はい、全てはゼーレの皆様方のシナリオ通りに」

ユイ「ふぅ……老人たちの相手は気疲れしますね」

冬月「その枠には俺も含まれていやしまいな?」

ユイ「ご冗談を」

冬月「ゼーレめ。その気になれば外部から圧力をかけるぐらいできるだろうに……キミへの嫌がらせだよ。アレは」

ユイ「かまいません。むしろ深くつつかれなかっただけ好都合です」

冬月「レイに手出しをしないのは、やはり先ほどあった息子とのやりとりが原因か? 器を入れ替える作業自体に問題はなかろう」

ユイ「それもありますが、ご褒美といった感じでしょうか」

冬月「我々がゼーレを欺くのと同じように、サードチルドレンもか。騙し、騙され……人間不信になってしまうよ」

ユイ「先生はこれまで嫌というほど体現なさってきているでしょう」

冬月「だからだ。慣れてしまえば、自分を保てなくなる」

ユイ「ゆっくりと心を蝕んでいきますか」

冬月「常識人とは言い難いよ。キミも、俺もな」

ユイ「所詮、ヒトの作ったルールです。型にはめる、社会を成形するための」

冬月「人間臭さを捨てきれないことを否定したくはない」

ユイ「……」

冬月「私は最後まで看取ると決めている。理想とは程遠い、人の織り成す狂想曲の行く末を――」

【ネルフ本部 作戦課】

ミサト「……」ヒク ヒク

マヤ「よいしょっと」ドサッ

ミサト「まだあんの……?」

マヤ「あとダンボール三つ分ほど。国土交通省、農林水産省から東部電力などの民間企業と」

ミサト「わぁ~かった! わかった!」

マヤ「た、大変ですね。今回は事前に申請されていなかった出撃でしたので」

ミサト「ったく! これだからお役所仕事やってる連中なんか嫌いなのよ! ちょぉっと違うだけで融通なんかききやしないんだから!」

マヤ「向こうも、仕事、ですから」

ミサト「だいたいねぇ! 使徒が絡んだ出撃じゃないからって……はぁ、マヤちゃんに愚痴っても仕方ないわよねぇ」

マヤ「いえ、私なら大丈夫です」

ミサト「そうもいかないのよ。上司が部下に甘えるなんて体面がね、この場合上官が下級の官職にだけどぉ」

マヤ「よかったら、手伝いましょうか?」

ミサト「いいの? 自分の仕事は?」

マヤ「先輩は自分でやった方が能率が上がるからって」

ミサト「あちゃ~閉め出されちゃったか」

マヤ「……」

ミサト「あぁ、リツコだし! 落ち込まないで平気よ」ポンッ

マヤ「気にしてませんよ」

ミサト「そう? それはそれでなんだか肩透かしね。直属の上司から……はは~ん。慣れた?」

マヤ「そう、ですね」

ミサト「……? ま、いっか。手が空いてるようなら手伝い頼める?」

マヤ「私から申し出たことですし、なんなりと」

ミサト「たっすかるぅ~! リツコに話して私の部下にしちゃおっかなぁ~」

マヤ「もう、軽口を叩いてないでとりかかりましょう」

ミサト「はいはいっ、口ぶりがリツコに似てきたんだから。やっぱり弟子は師匠に似るもんね」

マヤ「そうでしょうか」

ミサト「一緒に過ごす時間が長くなるのはもちろんだけど。お手本とするべき相手でしょ?」

マヤ「……」

ミサト「嫌な面も見えてくるもんだけどね。親と同じで」

マヤ「(たまに鋭いのよね、この人)」

ミサト「えーっと、まずはぁ~っと」カサ

マヤ「あの、本部内に現れた使徒の行方は」

ミサト「それがぜぇ~んぜん」

マヤ「技術部から多数の死傷者が出たって聞きました」ペラ

ミサト「そうね。でも、覚悟はしてたはずだから」

マヤ「そんな簡単に割り切れますか?」

ミサト「そうするしかないのよ。ここにいる以上は……いいえ、使徒という災厄が訪れるこの時代にはね」

マヤ「……」

ミサト「人間死ぬときゃ死ぬんだから! どーんと構えましょ!」

【ネルフ本部 女子ロッカー室】

アスカ「どーゆーつもりっ⁉︎ なんであそこに行ったの⁉︎」バンッ

レイ「……」

アスカ「エヴァの無断使用は重罪よ! パイロットだからって許されるわけない!」

レイ「なぜ、あなたに責められなければいけないの」

アスカ「おかしいからよ! 普通の行動じゃない!」

レイ「質問の答えになってないわ」

アスカ「いい? 人形のあんたにもわかるように教えてあげる! 出撃してる間に使徒が本部内で出現してた!」

レイ「……」

アスカ「反応はすぐに消えたらしいけど、唯一の対抗手段である私たちの出番だったでしょ!」

レイ「私たちじゃないわ、エヴァの」

アスカ「どっちでも一緒! パイロットがいなきゃ動かないじゃない!」

レイ「……」

アスカ「私は、有事の際に不在でしたなんてお粗末な結果になりたくないのよ……! 役立たずなんてごめんだわ!」

レイ「……」

アスカ「今度このあたしの足を引っ張ったら、あんたのことパイロットだと認めない」

レイ「そう」

アスカ「シンジに会いに行ったの?」

レイ「……」シュルシュル パサッ

アスカ「シカトはやめなさいよ。あたしだって、シンジから話を少し聞いて――」

レイ「あなたに言う必要はないわ」カチャ

アスカ「……っ⁉︎ いい加減にしろ、この人形っ!!」

レイ「私は、人形じゃない」

アスカ「人形よ! あんたなんか!」

レイ「なぜ、そんなこと言うの」

アスカ「見るからにそのまんまじゃない! 無表情、無感情! 悲しい、楽しい、なんでもいい! 表現方法が他になんかないの⁉︎」

レイ「……」

アスカ「あぁ~イライラする! 会話のキャッチボールがままならないなんてもんじゃない、あんたのその纏ってる空気がムカムカする」

レイ「……」スッ

アスカ「……? なによ……? うつむいてどうかした」

レイ(少女)「私もあなたが嫌い」

アスカ「えっ」

レイ(少女)「本当は寂しくて寂しくてたまらないだけのくせに。強がり。あまのじゃく。わがまま」

アスカ「ふぁ、ファースト……?」

レイ(少女)「背伸びをしているのだって大人達に自分を褒めてもらいたいから」

アスカ「……!」

レイ(少女)「――存在を認めさせたいから。見てもらいたいから。承認欲求」

アスカ「なに言ってるの、よ」

レイ(少女)「脆く、弱い人間。縋っているプライドと虚構を頼りにギリギリの自分を取り繕っている。あの人が言ってたわ」

アスカ「あの人……? 誰?」

レイ(少女)「加持特別監査官」

アスカ「加持さんがっ⁉︎」

レイ(少女)「色々聞いたわ。あなたのこと。……なにも知らない子供だって。背伸びをしている子供。いけすかないガキ」

アスカ「嘘よ! 加持さんがそんなこと言うわけないっ!」

レイ(少女)「本当よ? 話をしてくれた。仕事じゃなければ面倒を見ない、見たくない。うんざりしてるって」

アスカ「デタラメよ、そんなの!」ズリ ズリ

レイ(少女)「どうして後ずさるの? こわいの?」

アスカ「えっ?」

レイ(少女)「自分がいらなくなるのがこわいんでしょう? こわくてたまらないんでしょう?」

アスカ「ち、違うわ、あんたが、不気味で」

レイ(少女)「褒めてもらいたいのも結局はそう。やっとできた自分の居場所を守りたいから。母親と父親がくれなかった、その代わり」

アスカ「なっ⁉︎ な、なんでママのことを⁉︎」

レイ(少女)「全部教えてくれたのよ。加持さんが。あなたはいらないって言ってた。これからは碇くんがいればいいって。用済みなのよ、あなた」

アスカ「そんなわけ」

レイ(少女)「なんで私が知ってるの? 碇くんでさえ知らないのに」

アスカ「そ、それは……」

レイ(少女)「認められない、認めたくない。現実は残酷」

アスカ「加持さんに確認する……! 嘘だったら、どこで知ったか洗いざらい喋ってもらうからね。覚えときなさいよ」タンッ タタタッ

レイ(少女)「ええ」

レイ「もういいの?」

レイ(少女)「ネルフにいないから捕まらない」

レイ「……」

レイ(少女)「赤木ナオコと同じ手段で。少しずつ壊していく。あの女の支えているものが崩壊して死にたくなるように」

【ネルフ本部 中央作戦司令室前】

アスカ「はぁっはぁっ、んっ、くっ」

リツコ「あら、アスカじゃない。そんなに息を乱して」

アスカ「ぜぇ、ぜぇ。か、加持さんの居場所知らない?」

リツコ「彼なら今、出張に出てるはずだけど」

アスカ「それなら……ねぇ、あたしの個人データって第三者が閲覧できる?」

リツコ「当たり前の話だけど権限を持つものに限られる」

アスカ「ファーストは?」

リツコ「レイ? あの子の持っている解除権限はあなたやシンジくんと同じ範囲までだからできない」

アスカ「……」

リツコ「なにかあったの?」

アスカ「いい、なんでもない」

リツコ「加持くんに依存しすぎるのはおやめなさいな」

アスカ「確認したいことがあったの」

リツコ「あなた、いつもそういって加持くんを探してはまとわりついてるじゃない」

アスカ「違うの! 本当に――」

リツコ「今回の出撃データ。後半の伸びはよかったけれど、レイにシンクロ率が負けてたのよ」

アスカ「……っ!」

リツコ「ふぅ、こんなんじゃエースなんてとてもじゃないけど任せられない。男にうつつをぬかしてる場合?」

アスカ「なんで、なんで、ファーストの名前を出すの」

リツコ「なんでって……競争相手でもあり比較対象だからよ。危機感を持ってるの? なぜ最初から本気でやらないの?」

アスカ「やってるわよっ!!」

リツコ「他パイロットと比べられると対抗意識をむき出しているけど、優越感に浸っているんではなくて?」

アスカ「あ、あたしのどこが」

リツコ「あなたは、自信がありすぎる。土台にこれまでの努力があるのは結構だけど、レイやシンジくんが自分より劣っていると見下している節があると思わない?」

アスカ「それのなにが悪いのよ⁉︎?

リツコ「学歴やテストの結果が社会に出て通用するとは限らない。アスカが培ってきたモノは、“これぐらいは最低できます”という指標程度でしかないとわかってるの?」

アスカ「……」

リツコ「優越感に浸ってないで。あなた達はチームなのよ。一歩引いて物事を見極められるように、違う方面の努力も惜しまないで」

アスカ「――うるさい、うるさいうるさいっ! もぉ! あたしは今そんなお説教をされる為に走ってたんじゃないのっ!」

リツコ「反省点を振り返る気すらないの?」

アスカ「細かいことはほっといてよ! エヴァに乗って結果を出せばいいんでしょ⁉︎」

リツコ「伴ってないから言っているのよ。私が好きで言うとでも? 命令という形でなければできないのならはっきりと言います」

アスカ「……」ギュウ

リツコ「改善を要求します。でなければ、司令と協議してパイロットから降ろす案も含めて視野にいれる」

アスカ「……っ⁉︎」

リツコ「すぐにとは言わないわ。よく、考えて行動しなさい」

ちょい雑になってきてるんでレスしなおし

【ネルフ本部 中央作戦司令室前】

アスカ「はぁっはぁっ、んっ、くっ」

リツコ「あら、アスカじゃない。ちょうどよかった。フィードバックの検証結果を」

アスカ「ぜぇ、ぜぇ。か、加持さんの居場所知らない?」

リツコ「彼なら出張で松代のはずだけど」

アスカ「それなら……ねぇ、あたしの個人データって第三者が閲覧できる?」

リツコ「権限を持つものに限られる」

アスカ「ファーストは?」

リツコ「レイ? あの子の持っている解除権限はあなたやシンジくんと同じよ」

アスカ「……」

リツコ「なにかあったの?」

アスカ「いい、なんでもない」

リツコ「加持くんに依存しすぎるのはおやめなさいな」

アスカ「確認したいことがあったの」

リツコ「いつもそういって加持くんを探してはまとわりついてるじゃない」

アスカ「違うの! 本当に――」

リツコ「今回の出撃データ。最後の伸びはよかったけれど、レイにシンクロ率が負けてたのよ」

アスカ「……っ!」

リツコ「こんなんじゃエースなんてとてもじゃないけど任せられない。男にうつつをぬかしてる場合?」

アスカ「なんで……なんで、ファーストの名前を出すの」

リツコ「なぜって……比較対象だからよ。危機感を持ってるの? なぜ最初から本気でやらないの?」

アスカ「やってるわよっ!!」

リツコ「他パイロットと比べられると対抗意識をむき出しているけど、優越感に浸っているのではなくて?」

アスカ「あ、あたしのどこが」

リツコ「いつも言っているでしょう。あなたは、自信がありすぎると。土台にこれまでの努力があるのは結構だけど、レイやシンジくんが自分より劣っていると見下している節があると自覚しているはずよね?」

アスカ「それのなにが悪いっていうの⁉︎」

リツコ「学歴やテストの結果が社会に出て通用するとは限らない。アスカが培ってきたモノは、“これぐらいは最低できます”という指標程度でしかないとわかってるの?」

アスカ「……」

リツコ「足りない部分を見つけて優越感に浸ってないで、チームで補い合う必要がある。一歩引いて物事を見極められるように、違う方面の努力も惜しまないで」

アスカ「――うるさい、うるさいうるさいっ! もぉ、そんなお説教をされてる場合じゃないの! そのために走ってたんじゃないのよっ!」トンッ

リツコ「あ、こら。待ちなさい」パシッ

アスカ「まだ続ける気ぃ?」

リツコ「反省点を振り返る気すらないの」

アスカ「細かいことはほっといて! エヴァに乗って結果を出せばいいんでしょ⁉︎」

リツコ「伴ってないから……はぁ、私が好きで言っているとでも? 命令されるのがお望みならはっきりと伝えます」

アスカ「……」ギュウ

リツコ「改善を要求するわ。でなければ、司令と協議してパイロットからの降格案を含めて視野にいれる」

アスカ「……っ⁉︎」

リツコ「すぐにとは言わない。よく、考えて行動しなさい」

あらら、日本語がおかしい部分があるので再度レスしなおし

【ネルフ本部 中央作戦司令室前】

アスカ「はぁっはぁっ、んっ、くっ」

リツコ「あら、アスカじゃない。ちょうどよかった。フィードバックの検証結果を」

アスカ「ぜぇ、ぜぇ。か、加持さんの居場所知らない?」

リツコ「彼なら出張で松代のはずだけど」

アスカ「それなら……ねぇ、あたしの個人データって第三者が閲覧できる?」

リツコ「権限を持つものに限られる」

アスカ「ファーストは?」

リツコ「レイ? あの子の持っている解除権限はあなたやシンジくんと同じよ」

アスカ「……」

リツコ「なにかあったの?」

アスカ「いい、なんでもない」

リツコ「加持くんに依存しすぎるのはおやめなさいな」

アスカ「確認したいことがあったの」

リツコ「いつもそういって加持くんを探してはまとわりついてるじゃない」

アスカ「違うの! 本当に――」

リツコ「今回の出撃データ。最後の伸びはよかったけれど、レイにシンクロ率が負けてたのよ」

アスカ「……っ!」

リツコ「こんなんじゃエースなんてとてもじゃないけど任せられない。男にうつつをぬかしてる場合?」

アスカ「なんで……なんで、ファーストの名前を出すの」

リツコ「なぜって……比較対象だからよ。危機感を持ってるの? なぜ最初から本気でやらないの?」

アスカ「やってるわよっ!!」

リツコ「他パイロットと比べられると対抗意識をむき出しているけど、優越感に浸っているのではなくて?」

アスカ「あ、あたしのどこが」

リツコ「いつも言っているでしょう。あなたは、自信がありすぎると。土台にこれまでの努力があるのは結構だけど、レイやシンジくんが自分より劣っていると見下した節の自覚があるはずよね?」

アスカ「それのなにが悪いっていうの⁉︎」

リツコ「学歴やテストの結果が社会に出て通用するとは限らない。アスカが培ってきたモノは、“これぐらいは最低できます”という指標程度でしかないとわかってるの?」

アスカ「……」

リツコ「足りない部分を見つけて優越感に浸ってないで、チームで補い合う必要がある。一歩引いて物事を見極められるように、違う方面の努力も惜しまないで」

アスカ「――うるさい、うるさいうるさいっ! もぉ、そんなお説教をされてる場合じゃないの! そのために走ってたんじゃないのよっ!」トンッ

リツコ「あ、こら。待ちなさい」パシッ

アスカ「まだ続ける気ぃ?」

リツコ「反省点を振り返る気すらないの」

アスカ「細かいことはほっといて! エヴァに乗って結果を出せばいいんでしょ⁉︎」

リツコ「伴ってないから……はぁ、私が好きで言っているとでも? 命令されるのがお望みならはっきりと伝えます」

アスカ「……」ギュウ

リツコ「改善を要求するわ。でなければ、司令と協議してパイロットからの降格案を含めて視野にいれる」

アスカ「……っ⁉︎」

リツコ「すぐにとは言わない。よく、考えて行動しなさい」

【ネルフ本部 コンテナ】

シゲル「シンジくーん。いるかぁ?」ガチャ

シンジ「青葉さん……」

シゲル「今度はコンテナか。遊牧民みたいな生活してていいねぇ、これ、寝袋な」

シンジ「ありがとうございます」

シゲル「しっかしまぁ、こんな不自由なとこに泊まらなくても。職員の仮眠室だったらすぐ先に」

シンジ「いいんです、僕はここで」

シゲル「……そうか。よっと」ドサッ

シンジ「あの、さっき通路で話てるの聞こえたんですけど。初号機が出撃するときに死傷者がでたって」

シゲル「あぁ、そうみたいだな」

シンジ「何人ぐらい……?」

シゲル「そんなこと知ってどうしたいんだ? 自分のせいだって謝りにいくのか?」

シンジ「いえ、知っておきたくて」

シゲル「はぁん? なんでも二十数人死んだって話だぜ?」

シンジ「そ、そんなに」

シゲル「人間死ぬときゃ死ぬんだし、あいつらは運がなかっただけさ。使徒のせいだしな」

シンジ「……」

シゲル「初号機が出撃しなきゃ無駄な犠牲は少なく済んだかもしれないけどよぉ、俺たちは砦として従事してるんだ」

シンジ「……」

シゲル「戦自の訓練に音をあげたからって誰も責めやしないさ」

シンジ「えっ?」

シゲル「シンジくんがレイを呼んだんだろ? 迎えに来てくれって……ぷっ、だからと言ってエヴァを使うのはありえないんじゃね?」

シンジ「(そういうシナリオにしたのか)」

シゲル「今度からは無理な時は無理ってはっきり言えよ?」

シンジ「そう、ですよね。そうします、すいません」

シゲル「俺は別になにか被害受けてるわけじゃねーし、これが仕事。気楽にやれや」ポンッ

シンジ「はい」

シゲル「寝袋かぁ、またバイクで日本一周でもしてぇなぁ。それじゃあ、俺は」

アスカ「――シンジっ!!」バァンッ

シゲル「うっ⁉︎」ゴチーンッ

シンジ「あっ」

シゲル「」ドサッ

アスカ「あれ……? な、なんでここに?」

シンジ「……扉はそっと開けようよ」

ここは少し補足いれておきます

初号機は誰かを踏み潰したり殺したりはしていません
発進の際、カヲルが職員を邪魔にならないよう殺害してまわっていたのです
なぜ足止めではなく[ピーーー]必要があったのかというと自分が使徒だというのを隠すためです
目撃者を生かすという選択肢はありません

なので青葉シゲルは使徒のせいだと言っています
シンジが初号機を呼んだことにより、使徒の対処に遅れが生じ、結果としてろくに迎撃できない状態で取り逃がしていますが
使徒の反応を感知できた時点ですでに多数の職員殺害後で、しかもすぐに反応をロストしています
したがって事前に防ぐことも、対応の遅れを責めることもできないというわけです

※重要
ただし、これらは職員が抱いている一連の出来事への感想であり、シンジが責任を感じていないというわけじゃありません


おわり

ちょと書くモチベがダウンしてるので次回レスまでしばらく時間おきます

【厚木基地】

加持「言っておくが、陣頭指揮にあたっていたのは葛城じゃなく碇ユイ司令だ」

軍曹「だろうな。お前はいつもそう言い訳を」

加持「言い訳じゃなく……事実だ。時田シロウはどうやって政府に取り入った」

軍曹「国の為と言っちゃいるが、ありゃ私怨だよ。こじらせただけ。ネルフと戦自は近々なにかあるぞ」

加持「わかっている。俺の知人も二人消された。潜入中だった」

軍曹「俺もその件は聞いた。上層部の動きが慌ただしい。奴が発案したトライデント級が出来上がる前に、行動するつもりかもしれん」

加持「だが、こういう時だからこそ俺たちが必要とされる」

軍曹「火事が起こらなければ消防は商売あがったりだしな」

加持「……」カチ シュボ

軍曹「サードチルドレンは、なにを隠している?」

加持「知ってるか。好奇心は猫をも殺すということわざを」

軍曹「からかうのはやめろ。この特別任務に就く際に要件は満たしてる。お前とは対等だ」

加持「これは失礼。軍曹殿。なにか気になることでも?」

軍曹「あいつは――……なにか重要な秘密を握っている。取り引きを持ちかけてきた時の目つきが自信に満ち溢れていた。根拠のないモノじゃない」

加持「取り繕ってるだけかもしれないじゃないか」

軍曹「よせ。さっきから言ってるだろう、俺だってこの道のプロだ」

加持「具体的なところをお聞かせ願いたいね」

軍曹「推測の域をでないが、上層部にやつは抵抗しようとしてるんじゃないのか」

加持「……」フゥー

軍曹「動機はこの際どうでもいい。だが……気がついた。司令が知られてはまずいなにかに」

加持「なにか、とは?」

軍曹「そこがわからない、肝心なところで下手をこいてしまってね。ほら、これだよ」カシャ

加持「カフスか」

軍曹「外すのを忘れていた。まさか、お前のを見ていたとは。警戒心の強いガキだ」

加持「ふっ、侮ったお前が悪い」

軍曹「そうかもな」

加持「これからどうする? サードチルドレンにお前の顔は割れてしまっているだろ」

軍曹「とんずらさせてもらうよ。適当な理由をつけて。命はなによりも大事だ」

加持「てことは、ここでお別れか」

軍曹「短い付き合いだったな」

加持「俺たちにとっちゃ日常茶飯事の光景さ」

軍曹「ああ」

加持「ひとつ聞きたい。この後は、どうする?」

軍曹「……? いや、だから」

加持「お前は秘密の片鱗を除いてしまったんだ」スッ カチャ

軍曹「……け、拳銃っ⁉︎ そ、そんなっ! ま、まてっ!」ギョ

加持「警戒心を持つべきはお前だったようだ。プロなら、与えられた仕事をきちんと最後までやり遂げるんだな」パァンッ

【再び コンテナ内】

アスカ「……」ジトー

シゲル「」ピク ピク

シンジ「あの……?」

アスカ「あんたに聞きたいことがあんのよ」

シンジ「(青葉さんこのままでいいのかなぁ)」

アスカ「……」

シンジ「なに? どしたの?」

アスカ「ファースト……あいつって、加持さんと、ううんと、あんたってファーストとのことどう思う?」

シンジ「へ……?」

アスカ「なんかないのぉ? 気味が悪いとか、変なやつだなとか」

シンジ「えっと……綾波は、綾波だけど」

アスカ「だからぁっ! そうじゃなくって! あんたはさぁ、あいつとはあたし以前に知り合ってるんだし! なにか情報ないの⁉︎」

シンジ「情報。情報、ねぇ」

アスカ「……」イライラ

シンジ「あぁ、そういえば」

アスカ「なに?」

シンジ「窓拭きが上手――」

アスカ「ふんっ!!」スパーンッ

シンジ「いったぁ! なにするんだよ、いきなり頭はたいて!」

アスカ「あんたねぇ、どうしてそう察しが悪いのよ! あたしが改めて聞くってなったらなにか理由があるってもんでしょ!」

シンジ「はぁ」

アスカ「聞きたいのはそんなどーでもいいことじゃないのぉ! 来歴とかさぁ!」

シンジ「そんなの知ってどうするのさ」

アスカ「“彼を知り己を知れば百戦殆うからず”!! 敵についても味方についても情勢をしっかり把握していれば、幾度戦っても敗れることはないじゃない!」

シンジ「綾波が敵みたいな」

アスカ「少なくとも味方ではないことはたしかね。このあたしにとっては!」

シンジ「ええ? なにかあったの?」

アスカ「それは……」

シンジ「……?」

アスカ「なんであんたにそんなこと話さなくちゃいけないのよ!」

シンジ「言いたくないなら別に」

アスカ「聞きもしないわけ!」

シンジ「どっちなんだよ、もう……」

アスカ「あいつが加持さんと話してるとこ、見たことある?」

シンジ「加持さん……うぅーん、ないと思うけど」

アスカ「……」ギュウ

シンジ「アスカ……? 本当に、なにがあったの?」






アスカ「――……やっぱり、いい」

シンジ「え?」

アスカ「こんなの、あたしらしくない。バカシンジに頼ろうとするなんてどーかしてる」クルッ

シンジ「ま、待って!」パシッ

アスカ「離してよ」

シンジ「ためこまない方がいいよ。解決策は提示できない、かもしれないけど、誰かに話てラクになれるかもしれない」

アスカ「そう、すっかりチームリーダーのつもり?」

シンジ「……?」

アスカ「あたしは、あんたにだって負けられないのよ。弱味を見せたくない」

シンジ「なんの話をしてるのか、わけが」

アスカ「知らないからなんてことは責任の放棄よ(違う、そうじゃない)」

シンジ「……」

アスカ「あんたも一緒だわ。人に踏み込む勇気なんてないくせに……!(違うの、私が言いたいのはこうじゃない)」

シンジ「アスカ……?」

アスカ「ヒーロー気取り? エース? 自分がちやほやされたいだけでしょ! みんな、みんな自分のため!(違う、それは、私)」ツゥー

シンジ「涙、泣いてるの?」

アスカ「……っ⁉︎」ゴシゴシ

シンジ「あ、あのっ!」

アスカ「ほっといて。一人になりたい」パシッ

シンジ「……」

アスカ「もう行く。また、あした」

【ネルフ本部 第三通路】

リツコ「あら。シンジくん、ちょうどよかった。これからコンテナに伺おうと思っていたのよ」

シンジ「あの、綾波を見ませんでした?」

リツコ「あの子なら先程帰宅させたけど。心配してるのね」

シンジ「……」

リツコ「大丈夫よ。司令からはあなたの要求に応える形でなにも通達が降りてきてない」

シンジ「いえ、そうじゃなくて、アスカが……」

リツコ「……あぁ、そっちだったの。大方予想はついた。チームリーダーとエースの件ね」

シンジ「まさか、また僕の知らないところで」

リツコ「報告する義務はありません。指揮系統での立場でいうとシンジくんと私はこれまでと何ら変化はかいのよ」

シンジ「詳しく教えてください」

リツコ「ええ。いずれあなたにもわかることだし……私もあなたに聞きたいことがあったしね。ついてきて」

シンジ「どこにいくんですか」

リツコ「ここじゃ他の職員の目につく。安全な、私の研究室に」

【ネルフ本部 ラボ】

シンジ「僕達は、チームですか?」

リツコ「つまるところ、競争意識の表面化よ。エヴァはそれぞれ個として強力な力を持つ兵器だけど、戦術的運用を考慮すれば協調性が必要になります」

シンジ「だけど、これまでだってアスカは協力してきました」

リツコ「協力とはいわないわ。従っているというの」

シンジ「それのなにが違うんですか。母さんやリツコさんが好きな結果重視ですよ」

リツコ「完璧ではない。パイロットたち自らが積極的な姿勢を見せるようにするためのテコ入れ」

シンジ「アスカは、エヴァに乗ることにプライドをかけてます」

リツコ「理解してる。だからこそ、あの子は殻を破らなければならない」

シンジ「……」

リツコ「シンジくんにも言えることだけど……あなたの最近の行動を見る限り、余計なことを言う必要はなさそうだから」

シンジ「いい加減にしてくださいよ!!」

リツコ「……」

シンジ「人権をなんだと思ってるんですかっ!! 僕だけじゃなくアスカまで自分達の都合の良い駒として動かすつもりですか!!」

リツコ「当たり前よ」コト

シンジ「……っ!」ギリッ

リツコ「人情なんて生易しいものでは生き残っていけないのよ。合理主義、いらないものは容赦なく切り捨てる。私たちはその渦の中に身を投じているのですもの」

シンジ「……」

リツコ「必要ないと思うものを大なり小なり切り捨てて、取捨選択をしているはず。シンジくんは立派な偽善者ね」

シンジ「そうですよ。僕は」

リツコ「開き直るのが子供だと言ってるのがわからないの……! あなただって綱渡りしているでしょう」

シンジ「……」

リツコ「交渉の材料は?」

シンジ「……言いたくありません」

リツコ「忙しいから余計な時間をとりたくない。司令をうなずかせるに足る提示をした」

シンジ「……」

リツコ「問題は、その“中身”よ。それがわからない」

シンジ「リツコさんはどうしたいんですか。母さんを脅したいんですか」

リツコ「そんなことをすればたちまち私は消されてしまうでしょう。私が今すべきことは、じっと身を潜めて待つ。敵だと認識されることではない」

シンジ「……?」

リツコ「ただし、あなたの味方でもない。伝えるべきはそれだけ」

シンジ「(なんだ? 母さんとなにかあるのか……?)」

リツコ「ヒントは差し出した。次はあなたの番よ」

シンジ「僕はリツコさんと取り引きすると一言もいってません」

リツコ「つれないわね。自分だけ女の秘密を知るつもり?」

シンジ「……」

リツコ「慎重になるのもわからないでもないわ。シンジくんがエヴァ以外ではじめて有利になったであろう情報。ベラベラと喋ってしまっては価値が暴落する」

シンジ「……」

リツコ「けれど、あなたは今も選択しているのよ。私という駒を使うのか、それともこのまま放っておくのか。言っている意味が、おわかり?」

シンジ「協力するかもしれないということですか」

リツコ「状況次第ではね。確約はできない」

シンジ「コーヒー、もらってもいいですか」

リツコ「ええ、インスタントだけど」

シンジ「お互いの手の内を曝け出す、得られるモノはリツコさん、ですか」

リツコ「全てなんて傲慢なお願いをしているわけじゃない。形としてぼんやりと、どれほどのモノかを知りたいだけ。どうぞ」スッ

シンジ「……」

リツコ「証明は、レイを保護し手出しをさせなかった。それだけで重要度を計り知れなくもないといったところかしらね」

シンジ「僕が察することができるなんてたかがしれてますよ。情報の提供をしてほしいと遠回しに言ってるのと同じじゃないですか」

リツコ「機転は利く。このやりとりはあなたがどこまで成長しているのか、その確認でもある」

シンジ「……」

リツコ「心理学の観点から見極めているといえばわかりやすい?」

シンジ「テストを兼ねてるんですね」

リツコ「あまりにも期間が短すぎて、見定めきれないから。中学生として扱うべきか、それとも、対等の相手として見るか……私としても半信半疑なの」

シンジ「わかるような気がします」

リツコ「そう?」ギシ

シンジ「だって、年齢差を考えれば仕方のないことですから。ただ、僕は、子供のままじゃいられないだけで」

リツコ「まわりが許さないし、また、過酷な環境での成長を余儀なくしている。かわいそうね」

シンジ「心にもないことを言わないでください」

リツコ「あなたが冷静でいるのは上っ面だけ? それとも……ホンモノなの?」

シンジ「どうだろう」

リツコ「抗おうとしている流れ。それはユイ司令だけではない、背後にあるゼーレ……ひいては世界そのものを敵にまわす。シンジくんが仕切れる?」

シンジ「……」

リツコ「アスカ、レイ、ミサト、身近な存在が、いつ、誰が死んでもおかしくない状況になろうとしている。そうなったら、守るという行動理念は崩れる。最初から無理なものに挑戦しようとしているのよ、今のあなたは」

シンジ「無理だとは思ってません。やれるだけやってみよう、そう思ってます」

リツコ「巨大な資本に蹂躙された後に、同じセリフを吐ける? “よく頑張った”なんて誰も褒めてくれないわよ」

シンジ「僕は父さんや母さんとは違う。徹底した合理主義者になれないんです」

リツコ「……」

シンジ「個の主張という意味じゃありませんよ。……それが僕なんだ」

リツコ「若さは言い訳にならない。求められているものが違うのならば臨機応変に合わせるべきではなくて?」

シンジ「できないこと無理にをやろうとしていても、できない。またイチからのスタートになります。スポンジのように吸収する天才肌じゃないんです、僕は」

リツコ「……」

シンジ「――ただ、巻き込まれただけの凡人」

リツコ「(自己評価は適正。おごりはない、か)」

シンジ「言っている意味はわかります。必要とされている要素も。だけど、それを実現しようと考えると、残された時間がたりないし、経験値もない」

リツコ「……」

シンジ「だったら、僕はルール無用の殴りあいをしたらどうだろうって」

リツコ「なんですって……?」

シンジ「正攻法じゃ無理。さっき、最初から無理な挑戦をしようとしている、そう言いましたよね」

リツコ「……」

シンジ「でも、それは型にハメてるからだと思うんです」

リツコ「計画があると?」

シンジ「いえ、なにかするのは僕じゃありません。まわりです」

リツコ「あなた、いったい……」

シンジ「流れに一石を投じれば、水は濁るんですよ。小石では一瞬だけで、すぐにまた戻ってしまう。でも、そうじゃない、大きな石だったら……?」

リツコ「流れは、止まる」

シンジ「行き着く先が決まった流れているものに抗おうとするから、大変なんです。外部から圧力を加えるか、変化を待てばいい」

リツコ「その準備があるというの……?」

シンジ「綱渡りしてる、その指摘自体は間違っていません」

リツコ「……」

シンジ「リツコさんの目的と、母さんの目的が相反するものであり、僕の目的と近いものならば、協力はできるかもしれない」

リツコ「それで?」

シンジ「取り引きはこれだけで済むんですよ。お互いに有益になるのは、なにも対価交換のみじゃない、と思います」

リツコ「……」

シンジ「話は終わりです。僕からなにかを差し出す必要はない。もちろん、リツコさんからも。コーヒー、ごちそうさまでした」

リツコ「口ぐらいつけたら?」

【翌日 第壱中学校 校門前】

ケンスケ「ふぁ~ぁ……」

トウジ「おはよーさん」ポン

ケンスケ「ああ、おはよ」

トウジ「朝っぱらからクマ作って。まぁ~た徹夜でカメラいじりか?」

ケンスケ「違うよ」

トウジ「あん?」

ケンスケ「理由を聞いたな? ならば教えよう! これだよ! これこれ!」バッ

トウジ「なんや? かま、コレ?」ピラ

ケンスケ「そう! 今や様々なメディアで取り上げれている大人気コンテンツ!」

トウジ「ちびっこ向けか?」

ケンスケ「はぁ、これだから。いいか? 最近はこういった擬人化が常識になってきてるんだよ!」

トウジ「擬人、化? なんやリュックみたいなの背負ってるだけやないか」

ケンスケ「ノンノン! これはバックパック! このゲームは実在の艦隊がもし女の子だったらっていう設定なのさ!」

トウジ「……」

ケンスケ「僕の趣味とピッタリなゲームがこの世で流行ることがあるなんて! あぁ……生きててよかった……!」ポロリ

トウジ「なぁ、ケンスケ」

ケンスケ「ん?」

トウジ「お前なぁ、もちっと趣味を変えたらどうや? パーっと外で遊んだり」

ケンスケ「時間の浪費先は僕の勝手だろ!」

トウジ「わしはお前と友達でいられる自信がなくなってきた」

ケンスケ「またはじまったよ、いいか、だいたい……あれ?」

マナ「……」ジー

トウジ「こんな女が実在するわけないやろ。どこがええんやこんなん」

ケンスケ「霧島……?」

トウジ「霧島みたいな戦艦女が……あ? 霧島?」

運転手「ばっきゃろー! あぶねぇだろ!」ププーッ

トウジ「うわぁっ⁉︎」

ケンスケ「わぁっ⁉︎」

トウジ「うひー、あぶな……。パンフレット見ながら歩くもんやないな。おい、ケンスケ、信号変わったんならいうてくれや」

ケンスケ「……」キョロキョロ

トウジ「……?」

ケンスケ「(いない。たしかに、霧島が向かいの歩道にいたと思うんだけど)」

トウジ「誰か探しとるんか?」

ケンスケ「い、いや。なんでも」

新劇だと時折向こう見ずな行動力を見せるシンジくんですがあくまでTVシリーズや旧劇場版を参考にして
突飛な行動をさせる予定はありません

ただしそっくりそのままだと原作をなぞるだけになってしまい面白くないので、創作特有の各キャラらしからぬ行動も挟んでいると思います

当二次SSではその点にできるだけ無理がでないように気をつけて書いているつもりです

【厚木基地 管制塔】

オペレーター「ECTA 6-4 NEO PAN 4-0-0。応答せよ。こちら厚木基地管制塔。飛行経路上の天候状況は快晴だ」

輸送機「こちらPAN 4-0-0。確認した。気圧計は危険性がないことを示している。コースをこのまま維持する、予定どおりに到着する」

オペレーター「了解した。長旅お疲れさん。通信をアウト」

参謀官「また玩具が増えるのか。おい、そこの。窓のそばでなにをしてる」

加持「失敬。新鮮な空気を吸いたかったもので」

参謀官「お前もみない顔だな。最近のここは、やたらと人の出入りが激しくて困る」

加持「秘書官に許可はいただいておりますが……。三号機に関する渡航書類を受け取りにきました」

参謀官「二重スパイ。個人資料は読んだ」

オペレーター「す、スパイ?」

加持「衆目に晒すような真似は勘弁していただきたいのですがね」

参謀官「ふん。それで、ネルフ総司令の使いパシリで君を寄越したと」

加持「仰る通りです。よろしければ、承認の判子をいただければ」

参謀官「軍曹はどうした? まだ出頭せんのか?」

オペレーター「はい。飲み過ぎですかね」

加持「……」

参謀官「宿舎に向かい叩き起こしてこい」

オペレーター「はっ」

参謀官「時に、加持監察官」

加持「はい?」

参謀官「ネルフにはどう偽ってここにきている?」

加持「松代でライフルの試験運用が行われる予定になっています。名目はその出張です」

参謀官「兵器実験か。我らが開発した陽電子砲。やつらの研究部が改良を加えて小型化の目処がたったと聞き及んでいるが、たしか……」

シロウ「赤木リツコでしょう?」コツコツ

加持「失礼ですが、こちらは?」

シロウ「これはこれは。自己紹介が遅れて申し訳ございません。この度、戦略自衛隊兵器開発部の特別顧問に就任いたしました。……時田シロウと申します」

加持「お初にお目にかかります。光栄ですよ」

シロウ「これは異な事をおっしゃる。それは皮肉ですか?」

加持「とんでもない。あなたの輝かしい功績を考えれば礼節を欠けません」

シロウ「輝かしい……? ふむ」

加持「……」

シロウ「なるほど。あなたは賢いようだ。尻尾を掴ませまいとするように見えるのは、私の気のせいか、はたまた……」

加持「仕事柄勘ぐられるのは珍しくありませんが、どうです? 今度一杯」

シロウ「良いですね。私もこちらに着任したばかりで話し相手に困っていたところです。上等なコニャックがありますよ」

【第壱中学校 下駄箱】

シンジ「おはよう、トウジ、ケンスケ」

トウジ「あー……おまっシンジやないか⁉︎」

ケンスケ「なんで碇がここにいるんだぁ?」

シンジ「色々あってなくなったんだ」

トウジ「はぁ、なんやそら」

ケンスケ「てことは、霧島も?」

シンジ「マナは……戦自に残った」

ケンスケ「帰ってきてるわけじゃないのか。やっぱり見間違いなのかなぁ……?」

シンジ「……?」

トウジ「まぁ、ネルフ都合っちゅーやつやろ、いつもの。センセも振り回されてばっかやのお」

ケンスケ「これからまた元どおりなのか?」

シンジ「うん、たぶんだけど。しばらくはないと思う」

トウジ「それならまたつるめるな!」ガシッ

シンジ「わっ」

トウジ「なんやかんやわしら三人一緒のがしっくりくるわ」ワシャワシャ

シンジ「ちょっと、トウジ。犬じゃないんだから、頭撫ですぎだよ」

レイ「……」カタ

シンジ「あ。……綾波!」

レイ「……なに?」チラ

シンジ「あの、後で少し話たいんだけど。いいかな?」

レイ「ええ」

ケンスケ「ははぁ~ん。やっぱりシンジの意中の相手は綾波なのかぁ~?」

シンジ「ケンスケ。そんなんじゃないから」

ケンスケ「でもさぁ、霧島だって」

アスカ「……」バンッ!!

トウジ「おっ? なんや」

アスカ「朝からギャーギャーうっさいのよ、この三馬鹿!」

ケンスケ「こりゃまた、ご機嫌ナナメですな」

アスカ「ふんっ!」プイッ

ヒカリ「アスカ、おはよう」

アスカ「おはよー」

ヒカリ「あれ……? 碇くん? 戦自に入隊したはずなんじゃ……?」

アスカ「ヒカリぃ~! 聞いてよぉ~、シンジったら1日で逃げ帰ってきたんですってえ~!」

トウジ「あ?」

ヒカリ「へ? そうなの?」チラ

シンジ「……」ポリポリ

アスカ「きつくてもういやだぁーって! とんだ根性なしよねぇ~!」

トウジ「おい! ゴリラ女!」

アスカ「あぁん?」

トウジ「前々から思っとったが今回ばっかりははっきりと言わせてもらう!」

アスカ「最悪。ツバ飛ばすとか汚いわねぇ」

トウジ「お前男を舐めとるやろ!」ビシッ

アスカ「はぁ?」

ケンスケ「トウジ」

トウジ「だぁっとれ! こないな調子づいた女にはガツンと言ってやらなわからんのや!」

シンジ「僕はいいから」

トウジ「シンジもビシッと言ったらんかい! 甘くした結果がこれやないか!」

アスカ「舐めてるのどっち。男尊女卑」

トウジ「な、なにをぉぅ⁉︎ わしはお前限定で」

アスカ「前時代的。日本が世界からガラパコスだと言われてるのはあんたみたいなのがいるからよ」

トウジ「なんでわしが!」

アスカ「女と男に能力差なんてない。あんた達の行動があまりにガキだから言ってるだけ。言われたくなかったら言動に注意しなさいよ」

ヒカリ「あ、アスカ……」

トウジ「ぐぬぬ、この」

アスカ「ほら、言葉がでなくなりそうになったら罵倒することだけ考えてる。マウントとるのが目的なの? チンパンジー以下ね」

トウジ「ぬぬぬぬっ!」

ケンスケ「頭使うの苦手なんだからやめろって。顔真っ赤になってるぞ」

アスカ「はっ………ゴミ」

ヒカリ「(うわぁ、人を見下した目線させたらすごいな)」

トウジ「ぐ、ぐっ!」

シンジ「アスカ、言い過ぎだよ」スッ

アスカ「……なぁにぃ? 今度はシンジ様が相手になってくれるのかしらぁ? エースで無敵のシンジさまぁ~!」クルクル

ケンスケ&ヒカリ「……?」

シンジ「そんなんじゃないってわかってるだろ」

アスカ「なによ」キッ

シンジ「僕は、エースもチームリーダーも興味は」

アスカ「命令されたら辞退すんの⁉︎」

シンジ「……」

アスカ「しないの……? へぇ、やっぱりあんただって野心持ってんじゃない」

シンジ「ひとつ、ゲームをしない?」

アスカ「あんた……っ! ちょぉ~っと運動神経よくなったからって上から見下してんじゃないでしょうねぇ⁉︎」

トウジ「どの口が言うとるんや! 見下してるのはおまえの――」

ケンスケ「……シンジの運動神経がよくなった?」

シンジ「話がこじれるから。そんなひねくれた捉え方をしないで、ただの遊びだよ」

ヒカリ「あの、碇くん。言いにくいんだけど、この状況は遊びって雰囲気じゃ」

シンジ「負けた方が勝った方の言うことをひとつ聞く」

アスカ「前々からファースト同様、あんたも変なやつだと思った時はあったけど。いや、シンジの場合はバカか。……ヒカリの言う通りよ、遊びに誘うなら状況を」

シンジ「逃げるの?」

アスカ「な、なななぁっ?」

シンジ「勝負事に対して論点をズラすなんてするはずないと思ったんだけど」

アスカ「あ、あんたバカぁっ? あたしはドイツ語じゃなく日本語を話してるつもりなんだけど!」

シンジ「やっぱり逃げてる。負けるのがこわいから乗りたくないんじゃないの」

アスカ「い、いい加減にっ……!」

シンジ「言いたいことがある、不満があるのなら勝負に勝って聞かせればいい。簡単な話じゃないか」

ケンスケ「(おぉ……)」

トウジ「(こいつシンジの言うことはある程度聞くみたいなとこあるな)」

アスカ「……いいわ。そこまで言うならやってあげる。ただし、条件はイーブンになる勝負にすること」

ヒカリ「アスカ」

アスカ「平気。そうね、例えばあたしに有利なのは学力。あんたに有利なのは運動関連。そのどちらも除外したものにしなさい」

シンジ「うん、もちろんだよ。お互いの“素の能力”が試されるゲームにする」

ケンスケ「やったことないテレビゲームにするのか?」

シンジ「ううん、それじゃコントローラーを操作してたことがあるかで有利不利があるから。キー配列だってあるし」

アスカ「あたしならそんぐらい瞬時に覚えるに決まって」

シンジ「まぁ落ち着いて。ゲームの内容は思いついてるんだ。みんなにも参加してほしい」

ケンスケ&トウジ&ヒカリ「わし(私)(僕)たちも?」

【第壱中学校教室 昼休み】

ケンスケ「碇、紙はくばったぞ……なにするんだ? これ」スッ

シンジ「あぁ、まだ見ちゃだめだよ」

トウジ「トランプでもない、ウノでもない……」

ヒカリ「なにかの推理ゲーム?」

シンジ「これは、人狼ゲームっていう嘘つきを暴く遊びだよ」

トウジ「どゆことや?」

シンジ「僕が書いた紙をケンスケにシャッフルをお願いして配ってもらったのはオオカミを誰が所有してるかわからなくする為だったんだ」

ヒカリ「う~ん、それってババ抜きみたいなこと?」

シンジ「ババ抜きは最後にババを持っていたら負け。このゲームはババ=オオカミを言い当てられたら負け」

ケンスケ「つまり、オオカミの所持者は自分が知ってる状態からスタートするのか?」

シンジ「みんな見れるよ。自分の持ち札は」

トウジ「なんや、全員見れるなら誰が持っとるか一発で」

シンジ「だから、“オオカミはウソをつく”」

ヒカリ「あっ、そっかぁ。自分が持っていないって言い張るしかないもんね」

シンジ「そう。僕がこの中に紛れさせた人狼は一枚だけ。その一枚の嘘つきは誰か。それを当てるゲーム」

ケンスケ「ふ~ん」

シンジ「本当はほかのカードにも役割があるんだけど、今回は割愛するよ。説明がめんどうだし」

アスカ「くだらない。あんたとあたしの勝負じゃないわよ、こんなの」

シンジ「一回のゲームにたいして時間はかからないんだ。こうしようよ。もし、僕かアスカに狼のカードがあった場合、言い当てられなかったら勝ちってことで」

アスカ「まだるっこしい方法ねぇ」

シンジ「とりあえず一度やってみよう。ルールを確認しながらでかまわない」

アスカ「初回は説明だったから~なんてのはなしよね?」

シンジ「アスカはどっちがいい? 僕はテレビで見たからルールは把握してる。選んでいいよ」

アスカ「……初回から勝負」

シンジ「うん。わかった。みんなもわからないことがあったらその都度聞いて。それじゃ、持ち札を確認、あぁ、もちろんだけど、隣に見えないように」

シンジ「みんな、確認し終えたね? この中にオオカミがいるのは絶対だ。他のカードは村人と書いてある。これからその一人を炙り出す質疑応答の時間だよ」

ケンスケ「制限時間はあったりするんだろ?」

シンジ「5分にしておこうか。長すぎても意味はないし」

トウジ「わしはかまわへんで、村人やし、あっ」

ヒカリ「もう、言っちゃだめなんじゃない?」

シンジ「いや、言ってもかまわないよ。言わないのもありだけど。ここからは狼だけがウソをついてる。もし、トウジが狼だったら、ウソの申告をしたことになるね」

ケンスケ「なぁ~るほど。だいたい飲み込めてきたぞ」

ヒカリ「えっ、鈴原、ウソつきなの?」

トウジ「わ、わしがウソなんかつくかぁっ! 男のすることやあらへん!」

ヒカリ「なんでどもるのよ」

シンジ「ケンスケはどう?」

ケンスケ「僕も村人と書かれてたよ。ウソをつく理由なんかないからね」

ヒカリ「私も、村人だった」

ケンスケ「てことは……」

トウジ「おいおい、いきなりかいな」

シンジ「まだ慌てる時間じゃないよ。繰り返しになるけどみんなの誰かがウソを可能性がある。そうだよね? アスカ」

アスカ「……」

ヒカリ「あ、アスカ……? まさか、アスカが」

アスカ「質問があるんだけど」

シンジ「うん?」

アスカ「最後に選ぶのは誰?」

シンジ「えっと、指名するのはってこと? それなら多数決だよ」

ケンスケ「えっ」

シンジ「全員で狼だと思う人を指差して多数決で決定される。選ばれた人が村人だった場合はオオカミの勝ち」

アスカ「ふーん。なんだ、簡単なゲームじゃない。あんたの負けよ。バカシンジ」

シンジ「どうして?」

アスカ「だって、私も村人だもの。他の連中がウソをつくとは到底思えないし」

トウジ「なんやそら、ならシンジで決まり」

シンジ「僕も持ってないよ。村人だった」

トウジ「あぁ?」

ヒカリ「えっ、ちょっと待って」

ケンスケ「委員長もトウジもにぶいなぁ。だから、今がまさにウソをついてる状態なんだろ? オオカミが」

ヒカリ「そーなんだ……。でも、それなら誰が」

アスカ「それを当てるゲーム。バカシンジに決まってるわ」

シンジ「根拠がない」

アスカ「あんたはこのゲームのルールを事前に知ってたわよね。それにさっきあんたはこう言ったじゃない。“本来なら他のカードにも役割がある”……それって自分の都合の良いようにルールを改変できるってわけでしょ」

トウジ「うぅ~む、たしかにそれは」

ケンスケ「けど、シンジがオオカミって理由じゃないよな?」

シンジ「僕はただみんなが遊びやすいようにと思って。さっき言ったけど説明が手間だったんだ」

アスカ「どぉ~かしらねぇ? オオカミを炙り出すというのが根幹にあるゲームなら、その他の役割というのがオオカミにとって不利になることだってあるんじゃない?」

ヒカリ「……?」

アスカ「それに、このカードを書いたのは? シャッフルした相田は配り終えるまでゲームの趣旨さえ理解してなかった。こいつは知ってたのよ。自分がオオカミだって」

トウジ「な、なんやとぉっ⁉︎」

アスカ「だから、余計な手間なんて言い訳をして紛れたんでしょ?」

シンジ「さすがだね、アスカ」

ヒカリ「ってことは碇くんが……!」

シンジ「はやとちりしないでよ。ウソをつくのがうまいと思ったんだ。僕はアスカがオオカミだと思う」

アスカ「……シンジ、ルールの変更をしない?」

シンジ「え?」

アスカ「これは元々あんたとあたしの勝負でしょ。ヒカリ達はなんの関係もない」

シンジ「まぁ……」ポリポリ

アスカ「だったら、他の三人には今、カードをオープンにしてもらう」

シンジ「え、えぇっ?」

アスカ「そして、他の三人が村人だった場合、あたしかあんたのどちらがオオカミか決めてもらうってのはどう?」

シンジ「そ、それじゃこのゲーム本来の楽しみ方が」

アスカ「他の役割とかなんらかの要素を削ってるんでしょ? だったらいいじゃない。それとも、自分がオオカミだから乗れない?」

シンジ「はぁ、わかったよ。乗る」

アスカ「聞こえたわよね? カード、オープン」

トウジ「わしは言った通り、村人や」ペラッ

ヒカリ「私も……」

ケンスケ「僕も、と言いたいところだけど――」

トウジ「あ? お前さっきまで村人やってゆうとったやないか」

ケンスケ「このゲームは決められた配役にのっとって全員参加型のテーブルトークRPGだろ。よーするに、腹の探り合いをするゲームってわけ」

シンジ「うん、正解」

ケンスケ「僕は村人だけど、あえて伏せておくよ。じゃないと見ていて面白くないから」

アスカ「あんたが村人かどうか決定すれば、あたしとシンジの一騎打ちを高みの見物できのよ?」

ケンスケ「そうじゃないんだよなぁ。見た目的にはアスカとシンジの一騎打ちに見えるけど。“腹の探り合い”から“聴衆をいかに騙すか”に変化する」

アスカ「……」

ケンスケ「だって、選ぶのは僕たちなんだぜ? 舞台で演技をしている二人の内のどちらかを」

シンジ「ケンスケは、あえて自分に可能性を残したいってこと?」

ケンスケ「ああ、そうすることでアスカもシンジも疑念を抱くんじゃないかと思ってさ。僕がオオカミである可能性……最初のルールから大きく外れないんじゃないか」

アスカ「同じことよ、あたしに迷いなんかない。シンジだと当たりをつけてるんだから」

ケンスケ「なら、伏せていてもなにも問題ないだろ?」

アスカ「……わかった。あんたと相田ってグルなの? 最初から仕込んでた?」

ケンスケ「いや?」

アスカ「小賢しい真似してくれちゃって。シンジの友達だからって」

シンジ「僕はなにも」

ケンスケ「待てよ、碇。アスカが勝手に疑ってるだけだ」

アスカ「相田も引き続き参加するってことね?」

ケンスケ「このカードを伏せておくだけ。あとは黙っておくよ。だって、僕は村人だから」

トウジ「ややこしいやっちゃなぁ。わしらには教えてくれんのか?」

ケンスケ「ゲームを楽しんでるだけ。トウジや委員長にも伏せておくよ」

ヒカリ「えっと……じゃあ、村人だって判明したのはは……現時点で私と鈴原だけ、なのね」

シンジ「僕が気になってるのは、ひとつあるんだ」

トウジ「……?」

シンジ「ケンスケは普段からゲームが好きだから。ルールを尊重した遊び心を持つのはわかる。そうだよね? トウジ」

トウジ「まぁ、こいつはなぁ」

アスカ「(シンジのやつ。まわりを巻き込むつもりね。まずはバカな鈴原からか)」

ヒカリ「そうなんだ……」

アスカ「(ヒカリはこのテの騙し合いに慣れてない。頭は悪くないけど、純粋……まわりに引っ張られる)」

シンジ「なんで、アスカってここまで必死なんだろう? 村人なら、どんと構えてればいいのに」

トウジ「言われてみれば、たしかに。んー? もしかしてお前がオオカミなんか?」

アスカ「判断力の低さに呆れるわ。シンジは今、誘導しようとしてる。友達だからクセを掴んでるのは当たり前でしょ」

ヒカリ「そっか。そうよね」

シンジ「(僕とアスカを除けば、有効票は3票。満場一致の場合、最後の1票が鍵を握る)」

アスカ「(相田が余計な茶々をいれてきたけど、獲得するべき1票の重みは変わりない)」

シンジ「(僕にとって重要なのは――)」

アスカ「(あたしにとって重要なのは――)」

シンジ&アスカ「(委員長(ヒカリ)が持つ1票……!)」

アスカ「ねぇ、時間の延長をしない?」

シンジ「えっ、また後付けで変えるの?」

アスカ「これは提案。オープンのルール改変でようやくイーブン」

シンジ「そうだね……そろそろ5分になるから承諾する」

アスカ「時間はシンジが決めていい」

シンジ「なら、昼休みが終わるまで。具体的には投票の時間を省くとして15分の延長にしよう」

アスカ「それは5分を含める?」

シンジ「うん、昼休みは45分しかないんだよ。それまでに決着をつけよう」

アスカ「(なら、あと10分。余裕ね)」

ヒカリ「な、なんか思ってた以上に真剣な雰囲気になってる?」

アスカ「……ごほん、それはそーとシンジ。なんでいきなり勝負なんて持ちかけてきたの?」

シンジ「アスカのハナをへし折るためだよ」

アスカ「聞き違いよねぇ? あんた、いまなんっつたの?」キッ

シンジ「アスカには敵わない。実際、すごいと尊敬することがたくさんあるんだ。僕ができないことを当たり前のようにやってのけるから」

アスカ「……」

シンジ「だけど、アスカは驕りがある。いつだって勝負に絶対はない。簡単に足元をすくわれることもあるんだって、一人の限界と協力する必要性を教えてやるよ」

トウジ「お、おう」

ケンスケ「ひゅ~」

アスカ「頼もしい限りねぇ。男なら、一度吐いたセリフ、のむんじゃないわよ。負けたら罰ゲームしない?」

シンジ「いいよ」

アスカ「あんたが負けたらエヴァから降りる。二度と乗んな」

シンジ「……」

トウジ「お、おい。そらぁいくらなんでも」

アスカ「外野は黙ってて。できる? できないの?」

シンジ「うん、わかった。そのかわりアスカが負けたら僕も条件を出す」

アスカ「なに?」

シンジ「まわりを、信頼するってのはどうかな」

アスカ「はぁ?」

シンジ「僕から見た印象だけど、アスカは、その、張り詰めた時があるように感じるから」

ヒカリ「……」

アスカ「……わかった。あんたを信頼すればいいってことね」

シンジ「命令じゃないよ。自分からそう思うこと。僕は、罰ゲームなんて手段でそうしたいわけじゃないから」

ヒカリ「碇くん……」

ケンスケ「泣かせるねぇ。それに比べてアスカの血も涙もない要求って」

トウジ「シンジを勝たせた方がええんちゃうか」

アスカ「これは勝負なのよ。そんなくだらない理由で公平な審判を覆えさないでくれる?」

シンジ「アスカが正しい。僕たちはゲームをしてる。だから、みんなはあくまでどちらがオオカミかを見定めるべきだ」

アスカ「ふん、感情に訴えだしたってわけ。あんたがオオカミだから」

シンジ「本心だよ。ウソは言ってない」

アスカ「……」






ヒカリ「……」ソワソワ

アスカ「(ちっ、ヒカリが動揺してる。シンジがあたしのためだっていうテイできてるから……鈴原や相田はただでさえシンジ寄りだっていうのに……!)」

シンジ「僕は村人だよ。みんなはもう気がついてるんじゃない?」

トウジ「なんかあったか?」

シンジ「アスカの目的に」

ヒカリ「目的……?」

シンジ「罰ゲームにしてもそう、これまでのやりとりにしてもそう。アスカの目的は、オオカミを暴くことじゃない。僕を負かすことなんだって」

ケンスケ「そう見えるな?」

シンジ「僕が負ける条件ってなにかな」

トウジ「あー、うーん、シンジがオオカミで、ちゃうか。惣流がオオカミで、シンジを指名させた場合や! それだとオオカミの一人勝ちやもんな!」

シンジ「さすがトウジ」

トウジ「どないや! わしも捨てたもんやないやろ!」

ヒカリ「それなら、アスカが……?」

アスカ「待ってよ。あたしは最初から一貫してシンジが持つ可能性について言及してるだけ」

シンジ「おかしいよ。今もそうだけど、ケンスケだって可能性があるじゃないか。どうして僕に目星をつけたの?」

アスカ「うっ。それは……あんたと相田が最初からグルだって可能性があるから」

シンジ「僕は信じられない。アスカは僕を負かす為に計画してるんだと思う」

アスカ「(こ、こいつ……っ!)」

シンジ「ワンマンプレイなら場を支配できる。だけど、今はそうじゃないんだ。個の力は通用しない」

アスカ「待って待って。勇み足だったのは悪かったと認める」

シンジ「……どういう意味?」

アスカ「さっきあんたが言ったでしょ。驕りがあるって。その自覚は少ならからずある。だからといって、修正しないかとそうじゃないでしょ?」

シンジ「……」

アスカ「もう一度言うわ。あたしは認める。シンジの命令はこのあたしのペースを考えてない、単なる押し付け。そんなのはい・やっ!」

トウジ「こいつはほんま……」

アスカ「なんだって本音は自分のやりたいようにしたいでしょ。それで評価されたい。シンジはサイテーなことをしてるのよ。偽善者」

シンジ「(わかってるよ)」

ケンスケ「うぅ~ん」

ヒカリ「で、でも、それがその人のためになるなら……」

アスカ「抑えつけてもいいって? こいつが今言ったのは、あたしそのものの否定なのよ? 変われっていってるのと同義。望んでないのに。てきるのに」

ヒカリ「……」

アスカ「ふぅ、ゲームから話が逸れたわね。結局、今のでますます確信を持った。こいつはみんなを騙そうとしてる。仮面を被って」

シンジ「(しかたない、こうなったら)」

アスカ「……」ジトー

シンジ「ケンスケ」

ケンスケ「ん?」

シンジ「ケンスケは村人なんだよね?」

ケンスケ「ああ、そうだけど」

シンジ「アスカがケンスケと僕を疑って、天秤の比重が僕に傾いてるのは見ての通りだと思うんだけど、どう?」

ケンスケ「ん? んー」

アスカ「(だいたい読めてきたわ。シンジはどーやってか知らないけど周囲の人間を使う方法を覚えはじめてる)」

シンジ「当人なら僕と口裏合わせしてないって断言できるんじゃないの?」

ケンスケ「あぁ、それなら断言できる。僕は碇と結託してない。だってこれはゲームだからさ、談合なんかしちゃつまらないじゃないか」

トウジ「ケンスケは、せやろな」

アスカ「(……普段の行動からして、この状況はあたしに数的不利。だけど、弱点がないわけじゃない)」

シンジ「その上で、僕もオオカミじゃないんだ。ウソじゃないよ」

トウジ「シンジがそう言うなら……」

ヒカリ「一度整理させて。アスカは、碇くんがオオカミだと思ってる?」

アスカ「可能性は高いわよね」

ヒカリ「碇くんも?」

シンジ「僕もこれまでの発言を考慮したらその可能性は高いと思う」

ヒカリ「あのね、碇くん。疑問なんだけどこれって碇くんにとって有利じゃない?」

シンジ「……?」

ヒカリ「あたしは、アスカぐらいしかよくわからないし。その、普段あまり話さないから。碇くんが一番接点があると思うの」

ケンスケ「ふーん、なるほど」

シンジ「……そうだね」

ヒカリ「あっ、その、碇くんがオオカミだって言ってるわけじゃないのよ? だけど、私以外の性格を熟知してるのって碇くんぐらいじゃないかって」

アスカ「(ちゃぁ~んす)」ニヤ

シンジ「洞木さんぐらいだもんね。ここにいる輪で僕とあまり接点がないの」

アスカ「姑息なやつよね。実は勝負を持ちかけた段階で自分に有利な状況を作り終えてたんじゃない?」

シンジ「……」

アスカ「(否定はなし、か。なら)……沈黙? 肯定と受け取ってもかまわないのかしらぁ~?」

シンジ「そうじゃないよ」

アスカ「(あっさりかかってくれたわね、あんたの弱点は、経験の無さよ! この機に乗じて……!)」チラッ

ヒカリ&トウジ&ケンスケ「……」

アスカ「(オーディエンスに見せつけてやればいい! それで形勢逆転よ!)いいえ! そうよ! そうじゃないならどうして即答できなかったの⁉︎」バンッ

シンジ「……」

アスカ「無実の人間はまずやってないとはっきりと言うわ。躊躇した時点であんたに対する疑いは晴れなくなった」

シンジ「僕は……」

アスカ「言い訳なんてかっこわるぅ~い。自分から素直に認めた方がまだ潔くていいんじゃない? 相田、シンジと結託してるなんて言って悪かったわね」

ケンスケ「いや、別に」

アスカ「これでシンジは私たちをひとつ騙してたのが決定づけられた。それは、勝負が最初からイーブンじゃなくて――」

シンジ「でも、それは僕が勝てるという条件があった場合」

アスカ「……」ピクッ

シンジ「有利=勝利にはならない。そりゃ可能性としては高まるけど、もし自分で有利な状況を作れるなら、僕はそうしないな」

ヒカリ「もっと確実に勝てるようにする?」

シンジ「うん、これまでの流れを整理すると、僕に有利な点は“ルールを事前に知っていた”“みんなとの接点が一番多く性格をある程度掴んでる”、この二点だよね?」

アスカ「ルールの改変ができたってこともね」

シンジ「そこも含めての二点だけど、僕はアスカと公平になるように変更を受け入れてるんだ」

ヒカリ「それも、そうね……」

シンジ「余裕を見せてるって受けとれるかもしれないけど。でもそれは、勝利を確信しないと僕はできない。相手は、アスカだから」

アスカ「当然! あたしはあんたなんかに……」

トウジ「つまり、シンジはそんなつもりなかったってことを言いたいんやな?」

シンジ「うん、このゲームはこうして誰かに疑いの目を向けさせるのが目的なんだ。だから、アスカの行動は正しいといえる。オオカミならね」

ケンスケ「ふぅん」

シンジ「僕は、どうしてここまで必死なのか。それだけが気になって。プライド?」

アスカ「っ⁉︎」

シンジ「プライドにさわったの? 下に見てる僕に負けるのが気に入らなくて」

アスカ「……っ!」

シンジ「支えてるものだろうから。エヴァも。だから負けたら僕に乗るなって条件を出してきたんだろ」

アスカ「(落ち着いて、こいつは今、煽ってるだけ。あたしが平静でいなきゃ)」

シンジ「――僕に負けるのが、こわいんだろ? アスカ」

アスカ「な、ななな、ぬぁんですってぇっ⁉︎」バンッ

シンジ「最初から僕に目星をつけてたんだ。どんなに論点をズラそうともそれは明白」チラッ

ヒカリ&トウジ&ケンスケ「……」

シンジ「全員、最初をまず思い出してみてほしい。勝負の内容を切り出したとき、アスカは僕との一騎打ちだと思ってた。それが蓋を開けてみれば全員参加型のテーブルトーク」

アスカ「……」

シンジ「想定外だったろうね。だから、アスカの目的が“僕を負かすこと”になんの不思議もないはずなんだよ。発端を考えれば」

ヒカリ「たしかに……」

シンジ「だけど、アスカはそれを必死に否定してる。それはなぜ? どうしてなんだろう、僕はずっと観察してた。答えはやっぱり、アスカがオオカミに辿り着く」

ケンスケ「いや、でも、それじゃあ」

シンジ「ケンスケが言いたいことはわかってる。場にオープンにされてるカードは洞木さんとトウジの二枚だけ。僕も村人だから、僕にとって可能性があるとすれば、ケンスケかアスカの二択になる」

ケンスケ「あ……」

シンジ「以上のことから、ケンスケは可能性が低い。選ぶとすれば――」

トウジ「惣流っちゅーわけか? ええい、もう誰かわかるよーに説明してくれ!」ボリボリ

アスカ「(まずい、このままじゃ……! 残り時間は……うそっ⁉︎)」

シンジ「残り5分を切ってるよ。時計を気にしてるようだけど?」

ヒカリ「アスカ? あの、アスカがオオカミなの……?」

アスカ「ひ、ヒカリ? そんなわけないじゃない! どうしてそんな目で見るの?」

ヒカリ「えっ、ご、ごめんね、でも、辻褄が合ってるように思えて」

シンジ「(人を操作して、誘導する。必要だからやらなくちゃいけない。たとえ、やりたくなくても必要なら……――父さんも、そう、だったのかな)」

アスカ「違うわよ!あたしはオオカミじゃない! 信じて! ヒカリ!」

ヒカリ「う、うん……」

ケンスケ「私情を挟んじゃ公平性が崩れるんじゃなかったのか? さっき自分で僕を友達だからって理由で疑っておいて」

アスカ「くっ……!」

トウジ「せやせやっ! 筋の通ったことをせなあかんぞ!」

ケンスケ「こりゃ、アスカがオオカミっぽい。な?」

シンジ「(父さんにも、こうやって、友達と遊んでる日々があったんだろうか……。必要なもの、必要じゃないと思うものを切り捨てて、いつしか、あんな風に――)」

ケンスケ「……シンジ?」

シンジ「あ、ええと、なに?」

トウジ「満場一致で惣流がオオカミで決まりそうや」

アスカ「……こんなの、こんなの……」プルプル

シンジ「……」チラ

ヒカリ「あ、アスカ……」ギュウ

シンジ「(やっぱり、満場一致でも鍵を握るのは洞木さんだ。これは僕の予想の範囲内、感情に流されてアスカを指名しないよね)」

トウジ「ちぃーとばかし時間があまったみたいやけど、投票するか?」

シンジ「まだだよ」

ケンスケ「え?」

シンジ「委員長。誰を指名するつもり?」

ヒカリ「えっ? い、碇くん? それって事前に申告するルールなの?」

シンジ「違う。聞き方が悪かったね、正直に指名してほしいんだ」

ヒカリ「でも……ねぇ、これってゲームなんでしょ? そろそろ、やめない? なんだか可哀想よ」

ケンスケ「まぁ……」ポリポリ

ヒカリ「碇くんの勝ちでいいじゃない。相田くんと鈴原がアスカに投票して、そこに碇くんも加われば3票が集まる。多数決はそれで決まり」

トウジ「それもそうやが……」

シンジ「遊びじゃないんだ。これは」

アスカ「……」ピクッ

シンジ「そうじゃなくしたのはアスカだ。僕に負けたらエヴァを降りるという条件を突きつけた」

アスカ「……」

シンジ「自信があったんだろうね」

ヒカリ「碇くん! あんまりよ!」

シンジ「(エゴでもいい。偽善でもいい。僕はやると決めたらやなくちゃいけない。どんな結果でも受け止める……それが僕の背負った責任だから)」

ヒカリ「ねぇっ! もういいじゃないっ!」

トウジ「……」

シンジ「アスカ、逃げるの?」

アスカ「……なに?」

シンジ「完璧な負け。現実から」

アスカ「……!」ギリッ

トウジ「なるほど! そうか! そーゆうことやったんかいな!」

ケンスケ「トウジ……? なんだぁ?」

トウジ「ワシの天才的な閃きでピーンときたんや!」

ケンスケ「いやぁ~な予感」

トウジ「つまりや! センセは惣流にこれまでの憂さ晴らしをしたいっちゅーことやろ!」どーん

シンジ「……え?」

トウジ「いやぁ、尻に敷かれとると思う時もあったが、なかなかどーして」

ケンスケ「おい、トウジ。今は黙っとこうぜ」

トウジ「あ? 違うっちゅーんかいな! 見てみい! 惣流のうつむき加減! こらぁスカッとするで!」

シンジ「……」

アスカ「もう、いい」ぼそ

ヒカリ「アスカ……? ねぇ、大丈夫?」

アスカ「あんたなんかきらい、嫌いっ、大っ嫌いっ!!」バンッ タタタッ

シンジ「逃げられないよ!」

アスカ「……っ!」ピタッ

シンジ「向き合わなくちゃいけない、自分のしたいようにしたいなら。僕はアスカはそのままでいいと思ってるんだ!」

ヒカリ「……」ゴクリ

シンジ「なにを選んで、なにを捨てるのか。アスカが決めなくちゃいけない。それだけ」

アスカ「……」タタタッ

トウジ「あ~あ。止まったかと思えばまた走っていきおった。変な昼休みやったな」

ヒカリ「碇くん、追いかけてあげ……」

シンジ「いいんだ。アスカにだって自分と向き合う時間は必要だから」ペラッ

ケンスケ「え……っ⁉︎」ギョ

トウジ「そ、そのカードわぁっ⁉︎」

ヒカリ「碇くんが、オオカミだったの……」

【第壱中学校 屋上】

アスカ「……はあっ、はぁっ……はぁっ」

シンジ『逃げるの? 完璧な負け。現実から』

アスカ「……っ!」ガンッ

シンジ『逃げられないよ!』

アスカ「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうっ!」ガンッ ガンッ ガンッ

シンジ『向き合わなくちゃいけない』

アスカ「えっらそーにっ!! バカシンジのくせにっ!!」ガンッ ガンッ

シンジ『アスカ……』

アスカ「あたしはエリートなのよ! なんで……なんでなんの才能もないナナヒカリに負けなくちゃいけないの……」ずる、ずるずる ヘタリ

アスカ父『アスカ。また一番だったのか? えらいね』

アスカ「私は一番が好き! 褒められるから! みんなが私をかまってくれるからっ!」

キョウコ『アスカちゃん……』

アスカ「まま……ママぁ。なんでぇ、どうしてよぉ……」ぽろ ポロポロ

【放課後 教室】

ヒカリ「アスカ……戻ってこなかったね」

トウジ「まぁなぁ」ポリポリ

ケンスケ「シンジに負けたのがよっぽどショックだったんだろ。下に見てたのは事実だろうからな。それに、碇とはパイロット同士だし」

ヒカリ「まだ校内に残ってるんじゃないかしら」

シンジ「僕は帰るよ」トントン

ヒカリ「ねぇ、碇くん。気にならないの? 心が痛くならない?」

シンジ「(決まってるじゃないか。だけど、表には出しちゃいけない)」

トウジ「ほっとけほっとけ! 死ぬわけじゃあるまいし、おーげさなやっちゃ」

ヒカリ「そんな言い方って……!」

ケンスケ「ああいうエリート志向は打たれ弱いからな」

トウジ「このっ、わかったよーな口をっ。ケンスケのはアニメ知識やろ」グリグリ

ケンスケ「いで、いででっ、離せよ! ……ごほん、インテリとはぁ、些細なきっかけで転げおちるものだよ! きみぃ!」ビシッ

ヒカリ「ひどい……茶化すなんて……鈴原、そんな人だと思わなかった。もっと優しい人だと思ってたのに」

トウジ「ちっ、時にはお灸も必要やろが」

ヒカリ「でもっ!」

シンジ「アスカなら、大丈夫だって友達なら信じてあげないと」

ヒカリ「……」

シンジ「数日様子を見て、それでも立ち直れないようなら声をかけるでいいんじゃない?」

ヒカリ「冷たいのね、碇くん」

トウジ「甘やかすだけが友達やないぞ!」

ヒカリ「私、やっぱり、アスカ探してくる!」タタタッ

ケンスケ「女の連帯感ってやつなのかね。ああいう時々の感情だけで動くのはどーも苦手だな」

トウジ「さっすが、わかっとるのー!」

ケンスケ「ま、だから僕らはモテないんだろうけどさ」

トウジ「うっ」タジ

ケンスケ「シンジ。本当によかったのか?」

シンジ「……うん」

ケンスケ「そっか。だったら僕から何も言わない」

トウジ「はぁ」

レイ「……碇くん」

シンジ「ん? どしたの、綾波」

レイ「朝、話があるって言ってたから」

シンジ「あ、あぁ。ごめん、忘れてた」

レイ「明日でも平気?」

シンジ「これからネルフじゃないの?」

レイ「今日は三号機の納品作業に追われているから直帰していいって」

シンジ「メール見てなかったや」

ケンスケ「三号機がきたのかっ⁉︎」ガバッ

シンジ「あ、うん」

ケンスケ「くぅ~っ! いいなぁ! どんなやつがパイロットに選ばれるんだろ! 機体を見てみたいなぁ~っ!」

シンジ「(ミサトさん、今頃忙しいんだろうな)」

これはひどい

とりあえず今日は書きません眠いんで

たまにどこかでガス抜きしないとモチベが保てないのでハルヒはそういう理由ではじめたものです
今の所はこちらを書いてる方が楽しいのでそのまま進めます

【ネルフ本部 発令所】

マヤ「スキャン完了。まもなく三号機の搬入作業の項目を満了します。戦自から出向している隊員が帰投を求めてきています」

ミサト「見落としはない?」

リツコ「やけに慎重ね」

ミサト「そりゃーね。……三号機はまだ試作段階でしょ? 起動実験を行う前に引き継ぎをされたし、何が起こっても不思議じゃないわ」

リツコ「考えすぎよ。肝心のパイロットすらまだですもの」

マヤ「ネルフ技術部と戦自、連合軍のトリプルチェックがはいっていますので。その、あまり慎重になりすぎてもメンツを潰しかねない恐れが」

ミサト「それで無駄な犠牲をださないで済むのなら安いもんよ」

リツコ「体面を軽視しないほうがいいわよ。そこに命をかける人種だっているのだから」

ミサト「プロならば妥協は許されないわ。ポジティブに捉えてほしいものね」

リツコ「技術部の人間なら可能。けれど、外部から派遣されてきてる者は意識が違う」

ミサト「慎重にならざるをえないのは我々の管轄内だからです。石橋を叩いて渡る必要がある。もう一度、チェック」

マヤ「了解。発令所より通達。作業員並びに戦自隊員は――」

リツコ「ミサト。あなた、戦自がうちを良く思ってないの重々承知のはずよね」

ミサト「……」

リツコ「こき使いすぎると上にチクられるわよ」

ミサト「不満は発令する者からすれば常につきまとう問題。必要な処置であれば実行するべき。でしょ?」

リツコ「……」

ミサト「私たちはわけのわからないモノに頼っているというのを忘れたの? 惨事を回避するため……起こってしまってからでは遅いのよ」

リツコ「人は、ロジックではないわ」

ミサト「意識の違いがあるのはわかってる。だからこそ仕事でもあり、任務なの」

シゲル「戦自車両より通信。三号機の予備部品を運搬中。……どうやら途中の高速道路で事故があったようで定刻より遅れそうです」

ミサト「そうらきた。伊吹二尉、リストアップは全て問題ないんじゃなかったの?」

マヤ「す、すみません。書類上は承認の判子が押してあったもので」

ミサト「ケアレスミスは注意していれば必ず防げる。もう一度、最初から。二度手間なんていう輩がいたらクビにしてかまわない」

マコト「気合いはいってますね、葛城さん」

ミサト「ええ……そうね」

リツコ「本当にそれだけ?」

ミサト「(違うわ、怯えてる。……こわいのね、わたし)」

【第三新東京都市 繁華街】

シンジ「(誰かにつけられてる……。母さんが監視をつけたのかな。どうしよう、このまま放っておいてもいいけど)」

カヲル「やぁ、碇シンジくん」ポン

シンジ「……? キミは……カヲルくん?」

カヲル「アダムとの融合は順調のようだね。周囲の気配を察知できるようになっているなんて」

シンジ「カヲルくんだったの?」

カヲル「まだ大雑把にしか使えていないのかい? 神経をよく研ぎ澄ましてごらん。もうひとつ、かわいいネズミがいるはずだ」

シンジ「……たしかに、意識がこっちに向いてるのがまだ」

カヲル「話かけようと迷っていたみたいだね。あんまりにもじれったいから、ボクの用件を先に済ませようと思って」

シンジ「用件?」

カヲル「そう。ボクはボクでずっとキミの起こすアクションに注視していたのさ。キミがなにをしようとして、どう行動し、どんな結果がでるのか」

シンジ「……そう、それで何の用」

カヲル「あまりボクを失望させないでくれないか」

シンジ「えっ……?」

カヲル「ヒトは殻を破る時、吹っ切れたように行動することがある。良いか悪いかは別にして迷いがなくなる」

シンジ「……」

カヲル「本当に正しいことをしていると、胸をはって言えるかい?」

シンジ「わからない。僕だってなにが正解なんて。だけど、失敗をこわがってちゃなにもできないんだ」

カヲル「お父さんに囚われだしているのでは?」

シンジ「父さん……? 父さんは、いない。死んだんだ」

カヲル「だからこそだよ。死んだ人間は、時に美化される。記憶の中では変化が起こらないから」

シンジ「やめてよ、そんなんじゃないんだ。僕は自分の意思で」

カヲル「……ウソはいけない。キミは、お父さんに認められたがっていたじゃないか」

シンジ「なんで、カヲルくんがそれを」

カヲル「本音で話してほしいんだ。キミが思うことを」

シンジ「本当に、そんなんじゃないんだ」

カヲル「父親もこうだったんじゃないか。そう考えた試しが一度もないと?」

シンジ「あるわけないじゃないか。父さんは、僕とは違う」

カヲル「碇ゲンドウはネルフのトップだった。キミは権力も経験もなにもかもが足りない」

シンジ「そうだよ、だから迷って」

カヲル「でも、キミとゲンドウには共通する項目ができてしまった」

シンジ「父さんが、僕と……?」

カヲル「“孤独”だよ。シンジくん」

シンジ「……孤独?」

カヲル「彼は組織のリーダーとして、補完計画遂行の代理人としてただひとつの目的のために生きてきた。抱えていた孤独が解消されると信じて」

シンジ「母さんのこと? でも、僕は、別に」

カヲル「キミも意識せずその道に向かって歩きだしている。アダムという人知を超えた力を手に入れたことによって」

シンジ「……」

カヲル「求めるモノはなんだい? 人類の救済?」

シンジ「そんな大それた話……」

カヲル「これからキミを襲うのは誰であろう、キミ自身だ」

シンジ「……」

カヲル「“行動には結果が伴う”。言うは容易いが、受け入れるのは難しいよ」

シンジ「わかってるよ、そんなこと。僕だってわかってるんだ」

カヲル「……」

シンジ「なにかするつもりなの? まさか、アスカのところに」

カヲル「いや、まだその時じゃないみたいだ。心配せずとも今は手出しをしない」

シンジ「カヲルくんって、使徒、なんだよね」

カヲル「正確には僕も、だよ。リリンはヒトだけど、使徒だから。シンジくんは存在がその理から離れつつある」

シンジ「……なんだろう、話してると落ち着く」

カヲル「それは僕とキミが魂レベルで双子の兄弟に近いからじゃないかな。見た目は違っても」

シンジ「もし、アダムが僕に移植されてなかったらまた違った印象なんだろうか」

カヲル「どうだろうね。そういう場合もあったかもしれない。今はそれすら不毛だ」

シンジ「カヲルくんの目的って一体。……そういえば、ひとつ、嘘をついてた」

カヲル「……」

シンジ「昼間にアスカとゲームをしたんだけど。僕はやらなくちゃいけないことだって思ったんだ。その時、父さんもこうだったのかなって少し、思った」

カヲル「ふふ」

シンジ「笑わないでよ。アスカは僕なんかよりよっぽど強いから。アスカは……」

カヲル「コンプレックスの塊のような人間なんだね、キミは」

シンジ「そ、そうかな」ポリポリ

カヲル「ヒトは、そんなに強くない。僕から見れば、儚く脆い花みたいな生物だ」

シンジ「だって、カヲルくんは」モゴモゴ

カヲル「イメージの固定化はしないほうがいい。キミがそう思っていても、他人の秘密……内面を全てわかり合うなんて不可能だろう?」

シンジ「そりゃ、そうだけど」

カヲル「あの子の魂も殻に閉じこもったままだからね。赤い機体と同じで」

シンジ「……? どういう」

カヲル「聞きたいことは聞けた。またね、シンジくん」スタスタ

シンジ「えっ、ちょ、ちょっと待ってよ! 行っちゃうの⁉︎ カヲルくん!」

マナ「あのっ! シンジくん!」ガシッ

シンジ「えっ……? ま、マナっ⁉︎ さっきの感覚って」

マナ「誰かと話してたみたいだけど、私も、話があって。ずっとタイミングを伺ってたの」

シンジ「迷ってるって言ってたのはやっぱり。カヲルくんは……」キョロキョロ

マナ「まだ終わってなかったの? 一人で歩きだしたからてっきり」

シンジ「……いや、いいよ。きっとまた会うことになるだろうから」

マナ「ご、ごめんね」

シンジ「それより、なんでここに? 戦自は大丈夫なの?」

マナ「そのことで、折り入って話たいことが」

シンジ「……? なにか、困りごと?」

マナ「……うん」ギュウ

シンジ「どうしたの? もしかして、僕と内通してるのがバレたとか」

マナ「うっ、ぐすっ、うっ」ポロポロ

シンジ「マナ……? 大丈夫?」

マナ「どうしたらいいのか、どうしたらいいのかわからないの!」

シンジ「なにが、あったんだよ」

マナ「お願い! もう一度私と戦自に来て!!」

シンジ「えっ? 戦自って、いや、でも」

マナ「引き合わせなきゃいけない人がいるの。そうしないと、そうしないと」

シンジ「まずは事情を聞かせてよ。近くの喫茶店にはいろう」

マナ「(ごめんなさい、シンジくん。私、わたし、今からあなたを騙さなきゃいけない)」

【繁華街 喫茶店】

シンジ「(席についてもう30分か。ずっと黙ったままだし、僕から切り出した方がいいのかな)」チラ

マナ「……」ギュウ

シンジ「昨日は、大変だったね」

マナ「知ってるの⁉︎」

シンジ「いや、えっと。僕のために色々協力してもらったこと」

マナ「あっ、そ、そうよね。うん、いいの」

シンジ「あれから、僕はネルフに帰ったからマナがどうしてたか知らない。軍曹さんからなにか問い詰められた?」

マナ「ううん、軍曹殿は、見てない」

シンジ「(違うのか……)」

マナ「シンジくんにお願いしたいことは」

シンジ「うん?」コト

マナ「会いたいって言ってる人がいるの」

シンジ「理由を聞いてもいい?」

マナ「ムサシとケイタが。短い付き合いだったけど」

シンジ「え? 僕に?」

マナ「当たりがきつかったんじゃないかって気にしてて。シンジくんは気にするような人じゃないって言ったんだけど」

シンジ「それで、さっき泣いたの?」

マナ「うぅんと、その、け、喧嘩しちゃって。あんまり、うまくいってないのは知ってるでしょう?」

シンジ「まぁ。ムサシくんが戦自に傾倒しすぎてることだよね」

マナ「そうなの。だから、それがきっかけでぶつかっちゃって。びっくり、したよね、いきなり泣き出して。えへへ」

シンジ「(おかしいような気がする。そんな理由で取り乱すだろうか)」

マナ「でね、もしよかったらなんだけど、シンジくんに仲を取り持つ橋渡しをしてもらえたらなって」

シンジ「(なにかを隠してるのか、言えないのかもしれない。だったら……)」

マナ「だめ、かな?」

シンジ「……わかった。場所は厚木基地がいいの?」

マナ「う、うんっ! よかった、断られるんじゃないかと思ってた。まさか、こんなにすんなり了承してくれるなんて」

シンジ「僕はマナを信じてるから」

マナ「……っ!」ギュウ

シンジ「(ウソでもかまわない。ウソじゃなくてもそれでいい)」

マナ「う、うん。ありがとう」

シンジ「ただ、すぐにってわけにはいかないと思う。場所が遠いし、時間もかかるだろうし」

マナ「都合、聞いてみる! あの、ごめん」

シンジ「謝らなくていいよ。僕ももっと話してみたいと思ってたから」

マナ「きっと! きっと、ムサシもケイタも感謝するよ。そしたら、いつだって仲良くなれると思うの」

シンジ「……うん、そうだね。あまり長居するとネルフの諜報部に報告されるかもしれない。連絡手段はどうする?」

マナ「シンジくんってこのルートをよく使う?」

シンジ「ネルフに通う時は。あぁ、言ってなかったけどしばらくは本部内にあるコンテナで寝泊まりするようになったんだ」

マナ「そうなんだ。パイロットなのに、大変だね。もっと待遇よくしてくれそうだけど」

シンジ「僕から希望したんだ」

マナ「……携帯電話だと盗聴されてるかもしれないから、用がある時、近くの広場で待ってる」

シンジ「了解。登下校する時は僕も気にかけておくよ」

【洞木宅 部屋】

ヒカリ「お茶、持ってきたよ」

アスカ「……」ピコピコ

ヒカリ「あの、そろそろテレビゲームやめない? 妹が帰ってきちゃうから、私、お話の方が」

アスカ「ヒカリ、今日、泊まってもいい?」バキューンバキューン

ヒカリ「えっ……うちは大丈夫だけど、平気なの?」

アスカ「……」ズドーン ゲームオーバー

ヒカリ「……葛城さんには連絡しようね?」コト

アスカ「ねぇ、あたしらしいってなに?」

ヒカリ「……? 突然、どうしたの」

アスカ「あたしってどんな人間?」

ヒカリ「アスカは、ハキハキしてて、元気があって。ちゃんと自分の考えをもってて」

アスカ「そっか」

ヒカリ「碇くんに負けたの、そんなにショックだった? ごめんね……なんだか、イマイチ実感がわかなくて。だって、今やってるテレビゲームみたいなものでしょう?」

アスカ「自分自身にイラついてるだけ」

ヒカリ「……」

アスカ「みんな、嘘つき。ヒカリはどうしてあたしに優しくしてくれるの」

ヒカリ「それは、友達、だから」

アスカ「いい子よね、ヒカリって。委員長だし、面倒見いいし」

ヒカリ「そ、そう?」

アスカ「(そんなんだから、都合良く扱われるのよ)」

ヒカリ「碇くんも、きっと、心配してないわけじゃないんだと思う。むしろ、心配だから――」

アスカ「シンジの話は聞きたくない」

ヒカリ「でも……ボタンのかけ違いをしてるだけなんじゃないの」

アスカ「あいつはただのガキ。それ以上でも以下でもない」

ヒカリ「そこは、変わらないんだね」

アスカ「ん」

ヒカリ「(今は、なにも言わない方がいいのかな)」

アスカ「お腹、すいた」

ヒカリ「うん、そうだよね、待ってて。もうすぐみんな揃うと思うから。そしたら夕飯にしましょ」

【ネルフ本部 執務室】

ユイ「機体がようやく届いた。三号機は弐号機同様、アダムがベース」パサ

カヲル「……」スッ

ユイ「興味ないの?」

カヲル「喪失した心。それがまた次の飢餓を産み出す。リリンはずっと同じ過ちを繰り返すんだね」

ユイ「エヴァシリーズは道具よ」

カヲル「の割には、心の空白を埋めたがっているように見えるけど」

ユイ「明日に行われるシンクロ率のテスト。実行数値を抑えるように」

カヲル「……」

ユイ「……そんなに不思議? つじつまが合わないだらけで行動することが。合理性だけではつまらないでいいじゃない」

カヲル「リリンは感情の振り幅が激しいからね……A.Tフィールドは、強い“拒絶”。誰もが持っている心の壁。シンジくんはまだ使えないようだけど」

ユイ「可視化できるほどのエネルギーを発生させるには熱量を要する」

カヲル「物理の法則に反するほどの……念じるという行為に限界があるのかな」

ユイ「ヒトは群れなくしては弱いから。組織が力だと考えているシンジではまだ気がつけていないのも仕方ない」

カヲル「融合が進めばどんなにヒトが抗おうとしても不可侵の存在になる」

ユイ「皮肉よね。ヒトの持つ特権、強みである“群れ”を制御するためには優秀な指導者が必要だなんて。結局、個に頼るのと変わらない」

カヲル「……」

ユイ「人類の歴史は、優秀な統治者の歴史でもある。世代交代をして、親から子へ引き継がれる折に、時には文明が退化することすらあった」

カヲル「……」

ユイ「古代から天文学や錬金術などで撒いてきた学問という種が突然変異をし、科学……人類には早すぎる変化、革命をもたらした」

カヲル「世の中はここ百年余りで急速に便利になった。だが、ヒトの心は、群れに必要性を見いだせなくなっていく」

ユイ「IT産業革命はとどまるところを知らず、ネットインフラは進みに進んだ。情報化社会は形を変えて心の隙間を生み出したわ」

カヲル「……」

ユイ「そうした小さな積み重ねが、大きな過ちとなり破綻しようとしている。“流れの変化に人類が追いついていない”。ヒトの限界」

カヲル「便利な道具。知恵の実を手にしたのはリリンだ」

ユイ「過ぎた力は傲慢を招く。自分のセカイの中でなんでもできると勘違いしてしまった。ヒトの犯した罪は断罪しなければならない」

カヲル「淘汰への道を捨ててまで滅びの道を選ぶというのか」

ユイ「夫が生きてたら同じことを言うでしょう。……“人類にとっての救済”よ。あなたには理解できないでしょう」

カヲル「ピースが揃わぬ内に計画を実行するおつもりですか」

ユイ「シンジが真に覚醒すれば、人類など“無”と同じよ。量産機も含めてね」

【ネルフ本部 ラボ】

冬月「将棋には凡夫と鬼才と揶揄される打ち筋がある。一見、捨て駒と見える表に、よも言わぬ裏を持ち合わせている場合」

リツコ「……」コト

冬月「キミは凡夫なのか、はたまた鬼才なのか。それを見定めにきた」

リツコ「驚いております。まさか、静観なさっていた副司令が自らご足労いただけるとは」

冬月「早計がすぎるぞ、動くと決まったわけではない。先に言った通り、見極め、それだけのことだ」

リツコ「いいえ、山を動かしたのです。私一人の力では到底不可能だった」

冬月「フォースの少年、ゼーレが直接送りこんできたというこの内部資料。私にもちかけたのはなぜかね?」

リツコ「碇ユイ司令の行動です」

冬月「……」

リツコ「――ここまで言えばお察しいただけるでしょう。司令は私達を、ゼーレを、セカイですら欺こうとしている」

冬月「どうでも良いことだ」

リツコ「……」

冬月「もはや、亡き者となった碇ゲンドウ。その抹殺に加担した時点で俺は、いかなる結果になろうとも見届けると決めた」

リツコ「愛、ですか」

冬月「ふっ、そんな薄っぺらいものでもあるまいよ。ここに至るまで、十三年間歩んできた道のりは、決して平坦なものではなかった」

リツコ「セカンドインパクト、人類を襲った未曾有の危機」

冬月「左様。我々、真実を知る者にとっては“災害”は“自然発生”ではない。“故意”によるものだと知っている」

リツコ「……」

冬月「いわば、“回避できたかもしれない未来”に他ならない。諦めてしまったのだ。もしかしたら……他にあったはずの道を」

リツコ「自責の念をお持ちになっていたのでしょうか」

冬月「なかったと言えば嘘になる。それすら慣れてしまった。人は与えられた環境でしか生きることを許されないからな」

リツコ「……」

冬月「私は間違えてしまったのだ。とるべき方法を。愛し方を。ユイくんが生還していることを碇に告げなかった。醜い嫉妬心で」

リツコ「……」

冬月「三度の裏切りは許されん。これが私の生きる枷。……罪なのだから」

リツコ「それで満足ですか?」

冬月「ああ、どちらにせよ終わりの時は近い。人類全体を巻き込んだ審判の時になるだろう」

リツコ「もうひとつ、活路があるのだとしたら?」

冬月「なに……?」

リツコ「我々が選べるのは二択です。“再生”か“破滅”か。手を加えすぎてしまい、色が色となりたたなくなってしまった絵画をもう一度真っ白に戻すか、それとも更に手を加える」

冬月「無理だな」

リツコ「でも、まだ手は残されています。もう一枚、画用紙を用意すればいいのです」

冬月「……」

リツコ「シンジくんを主軸として新たな補完を発動する。そうなれば、なにも碇ユイ博士やゼーレの既定路線に乗る必要はなくなります」

冬月「問おう。キミと碇が不倫関係にあるのを私が知らなかったと思うかね?」

リツコ「いえ」

冬月「碇がもつ孤独、空虚、悲しみ。その隙間を埋めようと女の温もりを求めキミに、面影を求めレイに逃げた」

リツコ「……」

冬月「キミは碇に利用されていることを知ってなお、ありもしない希望に縋っていた。女の喜びを甘受していた」

リツコ「おっしゃる通りです」

冬月「ユイくんの生存で音を立てて破綻した。キミは碇に牙を剥いた。裏切られたと自分勝手な思い違いだが、俺と根は一緒の嫉妬。憎悪の炎に身を焦がした」

リツコ「……」

冬月「キミも碇抹殺に関与している一角なのだよ。それが済めば、次はユイくんへの復讐かね?」

リツコ「ふ、ふふ」

冬月「……」

リツコ「失礼。あまりにも思い違いをされているので笑いがこみ上げてまいりました」

冬月「そうは思えんがな」

リツコ「私が望むべきはたったひとつ。それは、あるべき姿に還すことです」

冬月「くだらない御託はよせ。そんな崇高な理想を掲げる理由があるまい」

リツコ「いいえ、これもひとつの愛し方だと考えていただきたい」

冬月「……」

リツコ「私は碇ゲンドウを愛していました。傾倒していると言ってもいい。復讐にかられ幾度でも殺したいと願うほどに」

冬月「……」

リツコ「虚しい、と、考える暇がなかったのです。ですが、ゲンドウが死に、ユイ博士の元に着いても私の心は満たされませんでした。もう終わったはずなのに」

冬月「……」

リツコ「ユイ博士に復讐しようかと一時は考えましたが、頭によぎったのはそれよりも母さんでした」

冬月「母とは、赤木ナオコのことかね?」

リツコ「はい。母さんはある夢を託してMAGIを設計しました。女であることを死ぬまで辞めなかった母さん……私にはなにも残っていない。であるならば、亡き母の夢を叶えよう」

冬月「……その夢とは?」

リツコ「科学者にありがちな、理論だけの、荒唐無稽な産物です」

【深夜 ネルフ本部 コンテナ内】

シンジ「んうぅ、喉が、乾いた」ムク

ゲンドウ「シンジ。久しぶりだな」

シンジ「誰……?」

ゲンドウ「俺だ。お前の父親だったモノだ」

シンジ「と、父さんっ⁉︎ な、ななっ、なんでっ⁉︎ ど、どうして……?」

ゲンドウ「何を迷っている、シンジ」

シンジ「迷って……? そ、そんなことより、生きてたのっ⁉︎ そんな、たしかに綾波からは」

ゲンドウ「お前が為すべきことはなんだ」

シンジ「(……違う、この父さんは……)」

ゲンドウ「答えろ、シンジ」

シンジ「僕が作り出した、幻なんだね」スッ

ゲンドウ「コタえロ、シンジ」

シンジ「父さんも……孤独を抱えながら生きていたの?」

ゲンドウ「……」

シンジ「母さんがいなくて寂しかったんだね」

ゲンドウ「俺に縛られずお前の生き方を選べ。俺のように不器用にはなるな」

シンジ「たとえ、幻覚か夢でも父さんが僕にそんな言葉をかけてくれるなんて」

ゲンドウ「お前の意思は何人にも侵害されることのない、自分だけのものだ。それが自由なのだ」

シンジ「……」

ゲンドウ「間違っていてもいい。犯した過ちから目を背けさえしなければ」

シンジ「父さん……」

ゲンドウ「シンジ、逃げてはいかん。逃げるのは、全てを諦めたときだ」

シンジ「うん」

ゲンドウ「お前のやるべきことはなんだ⁉︎ 答えろっ!」

シンジ「僕の、やるべき、こと……」

ゲンドウ「受け取れ」スッ

シンジ「なに、これ」

ゲンドウ「USBメモリだ。中身は見ればわかる」

シンジ「は、ははっ。きっと、これは夢かなにかなのに、こんなもの渡されてもどうしろって」

ゲンドウ「お前は一人ではない。それを今一度よく思い返してみろ」

シンジ「……わかったよ、ありがとう。夢でも会えて嬉しかった」

ゲンドウ「ああ」

シンジ「父さんっ!! 13年前のあの日、父さんが僕の前から消えたのは、なにか別に理由があったのっ⁉︎」

ゲンドウ「……」スゥー

シンジ「待って! まだ消えないで! ねぇっ、答えてよっ!! 夢なら、僕に都合の良い答えを言ってよ……! ……うっぐすっ……」ポロポロ

13年前ではなく3年前のミス

ちょいレス投稿しなおしときます

【深夜 ネルフ本部 コンテナ内】

シンジ「んうぅ、喉が、乾いた」ムク

ゲンドウ「シンジ。久しぶりだな」

シンジ「誰……?」

ゲンドウ「俺だ。お前の父親だったモノだ」

シンジ「と、父さんっ⁉︎ な、ななっ、なんでっ⁉︎ ど、どうして……?」

ゲンドウ「何を迷っている、シンジ」

シンジ「迷って……? そ、そんなことより、生きてたのっ⁉︎ そんな、たしかに綾波からは」

ゲンドウ「お前が為すべきことはなんだ」

シンジ「(……違う、この父さんは……)」

ゲンドウ「答えろ、シンジ」

シンジ「僕が作り出した、幻なんだね」スッ

ゲンドウ「コタえロ、シンジ」

シンジ「父さんも……孤独を抱えながら生きていたの?」

ゲンドウ「……」

シンジ「母さんがいなくて寂しかったんだね」

ゲンドウ「俺に縛られずお前の生き方を選べ。俺のように不器用にはなるな」

シンジ「たとえ、幻覚か夢でも父さんが僕にそんな言葉をかけてくれるなんて」

ゲンドウ「お前の意思は何人にも侵害されることのない、自分だけのものだ。それが自由なのだ」

シンジ「……」

ゲンドウ「間違っていてもいい。犯した過ちから目を背けさえしなければ」

シンジ「父さん……」

ゲンドウ「シンジ、逃げてはいかん。逃げるのは、全てを諦めたときだ」

シンジ「うん」

ゲンドウ「お前のやるべきことはなんだ⁉︎ 答えろっ!」

シンジ「僕の、やるべき、こと……」

ゲンドウ「受け取れ」スッ

シンジ「なに、これ」

ゲンドウ「USBメモリだ。中身は見ればわかる」

シンジ「は、ははっ。きっと、これは夢かなにかなのに、こんなもの渡されてもどうしろって」

ゲンドウ「お前は一人ではない。それを今一度よく思い返してみろ」

シンジ「……わかったよ、ありがとう。夢でも会えて嬉しかった」

ゲンドウ「ああ」

シンジ「父さんっ!! 三年前、父さんが僕の前からいなくなったのは、なにか他に理由があったのっ⁉︎」

ゲンドウ「……」スゥー

シンジ「待って! まだ消えないで! ねぇっ、答えてよっ!! 夢なら、僕に都合の良い答えを言ってよぉ……っ! ……うっうっ……」ポロポロ

【洞木宅 ヒカリ部屋】

アスカ「ねぇ、寝た……?」

ヒカリ「……」スヤァ

アスカ「はぁ、寝ちゃったか。ごめんね、ヒカリ。優しさにつけこんで。イヤな女よね、あたしって」

ヒカリ「ん、アスカ……?」

アスカ「なんだ、起きてたの……?」

ヒカリ「んん、寝てたけどなんだか話しかけられてる気がして。ねれないの?」

アスカ「……ちょっとだけ」

ヒカリ「そっか。それじゃお話する?」

アスカ「いいわよ、寝てたんでしょ」

ヒカリ「いいの。えへへ、友達同士で、こうして夜中にお話するのって楽しいよね」

アスカ「ノリが修学旅行のそれと同じね」

ヒカリ「なかなかお泊まりする機会がないんだもの」

アスカ「これからあたしが話しをすることはただのひとり言」

ヒカリ「ん……?」

アスカ「いままで、ほしいものはすべて手に入ってきたし、困ったことなんかなかった。同年代のオトコなんて、みんなあたしが右と言えば右に歩いた」

ヒカリ「すごいね」

アスカ「自慢じゃなくてトーゼンでしょ。あたしはかわいいもの。見た目的な話ね、それは理解してる」

ヒカリ「う、うん」

アスカ「だけどさぁ、同年代って……なんていうか、自分のことで手一杯なのよ。精神年齢が低くてまわりが見えてないっていうか」

ヒカリ「子供っぽいところあるよね」

アスカ「そういうのって指摘されても直せるってわけにもいかないのよねぇ。経験がものをいうっていうか、言ってわかる部分とは違う」

ヒカリ「私は、少年みたいな人、いいかな、なんて」

アスカ「まじで言ってんの?」

ヒカリ「え、えっと……。独り言してたんじゃなかったの?」

アスカ「……あたしは、大人の人がいい。あたしの言うことを笑って受け流してくれる人、真面目にならない人」

ヒカリ「……」

アスカ「こわいのよ。自分がキズつくのが、嫌なの」

ヒカリ「だから、適度な距離を保ってくれる人……?」

アスカ「ガキ相手にしてちゃ、あたしのワガママに振り回されちゃうでしょ。なんでも本気にしちゃうしさ。……自分の素直な気持ちは、他人のせいにできない」

ヒカリ「アスカ……」

アスカ「あたしだけのものだから。エヴァに乗ってる時は解放を求めてるの。でも……本当は、ちっとも楽しくない。プレッシャーばかり感じる」

ヒカリ「私、エヴァのことはわからないけど、碇くんや綾波さんをもっと頼ったら?」

アスカ「ファーストは論外。あんなのに頼るぐらいならいっそ……シンジは……」

ヒカリ「ねぇ、アスカ」

アスカ「なに?」

ヒカリ「アスカが体育館倉庫前で暴漢に襲われて、碇くんにキスしたこと覚えてる? ほら、保健室で」

アスカ「あぁ……」

ヒカリ「あぁって、そんな程度なんだ……」

アスカ「で? それがなに?」

ヒカリ「あのね、アスカと碇くんって喧嘩しないわけじゃないけど、うまく付き合えるんじゃないかなって」

アスカ「……」

ヒカリ「やっぱり、その、私じゃわからないことも多いし。パイロット同士なら……もっと助け合えると思うの」

アスカ「……」ゴロン

ヒカリ「碇くん、アスカのこと、心配なんだよ」

アスカ「気に入らない」

ヒカリ「どうして? 誰かが誰かを心配するのって相手を想ってなくちゃ」

アスカ「いつも弱い犬みたいな目をしてたやつが、あたしを心配するなんて」

ヒカリ「……」

アスカ「あいつがどういうつもりなのか、あたしに、本気で踏みこむつもりか確かめる」

ヒカリ「え? 踏みこむって?」

アスカ「……眠くなってきちゃった。そろそろ寝よ」

ヒカリ「え? えっ?」

アスカ「独り言よ。おやすみ、ヒカリ」

【第三新東京都市 ビジネスホテル】

マナ「――というわけで、サードチルドレンの了承を得られました」

シロウ「随分とあっさりだな。怪しむ、警戒すらなかった……?」

マナ「シンジくんは、その、とても素直っていうか」

シロウ「いい、いい。子供のなまっちょろい分析など聞くだけ時間の無駄だ」

マナ「そんな言い方……」

シロウ「ふむ。本当に、下心があるわけではないのか?」

マナ「失礼です」

シロウ「キミは容姿がいいじゃないか。同学年からしてみれば、だが。アイドルの卵といって差し支えない」

マナ「……」

シロウ「そんなメスに、14歳のオスが頼られていい気がしないわけがあるまい? 保護欲が働いているのかもしれんな」

マナ「なにが言いたいんですか」

シロウ「“かよわい女性を傷つけてはならない”という倫理観なのか、という話だよ」

マナ「素敵なことだと思います」

シロウ「ナイト気取りがか? ふん、鼻で笑ってしまう。独りよがりの行動パターンだ」

マナ「……」

シロウ「碇シンジという少年。本当に漫画の主人公なのか……はたまた年相応の“男”なのか。試してみたくなった」

マナ「無駄ですよ」

シロウ「キミに彼のなにがわかる? その絶対的な自信は虚構ではないか?」

マナ「虚構……私が自分で作りあげたイメージってことですよね? 違います。シンジくんは、そんなんじゃ」

シロウ「……いずれにせよ、私の目で確かめる」

マナ「会えばきっとわかります」

シロウ「ネルフに気がつかれてもかまないから都合をつかせろ」

マナ「えっ? ネルフからマークされますよ?」

シロウ「奴らの情報網を甘く見すぎだ。とっくに気がつかれてるよ。私が戦自にいることは」

マナ「了解。いつと伝えましょうか?」

シロウ「こちらから迎えに行くとしよう」

【翌日 第壱中学校】

トウジ「ふぁ~ぁ。おはよーさん」

シンジ「おはよう」パカッ パサ

トウジ「センセ、下駄箱からなにか落ち……て、それわぁっ⁉︎」

シンジ「手紙……?」ヒョイ

トウジ「ま、まさかラヴレターってやつじゃ⁉︎ なんでや! なんでこいつばっかりにおいしいロマンスが転がりこんでくんねんっ!」

ケンスケ「気持ちはわかる……そういうものなんだよ。この世界は理不尽のかたまりさ」

シンジ「あ、ケンスケ。おはよ」

トウジ「シンジっ! 中身をはよあけて確認せんかい!」

シンジ「えっ、トウジも見るの?」

トウジ「……あぁ~、うぅ~ん、みたいところやが、そんなんは男のすることやないな」

シンジ「(たぶん、カヲルくんじゃないかな)」ペラ

トウジ「どうや⁉︎ どんなんが書いてあんねや⁉︎ 甘酸っぱい文字が散りばめられとるんか⁉︎」

シンジ「……」

ケンスケ「あちらから歩いてくるのが見えますのはアスカじゃないか? こりゃ朝っぱらから修羅場かぁ」

トウジ「げっ! ほんまや! シンジ! はよ手紙隠せ」

シンジ「トウジ、ケンスケ。悪いんだけど、ちょっと用事ができた。先生に伝えておいてもらえないかな」

ケンスケ&トウジ「は?」

シンジ「それじゃ」タタタッ

ケンスケ「お、おいっ!」

トウジ「……くぅ~~っ! うらやましい! うらやましすぎる青春!」

アスカ「ちょっと、そこのバカ二人。もう一人のバカは? 走ってどっかいったみたいだけど」

ケンスケ「あ、あぁ、えっと」

トウジ「残念やったのー。一足遅かったよーで」

アスカ「もうすぐHRはじまるってのに。どこほっつき歩きに行ったの?」

トウジ「ほっとけ。お前には関係――」

アスカ「あたし、昨日からずっと機嫌が悪いのよ。素直にゲロった方がいいわよ」グイッ

トウジ「~~ッ! こ、この、暴力女め! お前にシンジの恋路の邪魔はさせへんぞ!」

ケンスケ「あっ!」

アスカ「……恋路?」

ケンスケ「はぁ……」

トウジ「し、しまったぁ……!」

アスカ「どういうわけ?」ギリギリ

トウジ「く、首がっ、えり締められると首があかんて」

【第壱中学校 校舎前】

黒服「碇シンジだな」

シンジ「(黒いスーツ? ネルフ……?)」

黒服「ここから五十メートル歩き、十字路を右に曲がったところに貨物車が停まっている。鍵は空いてる。そのまま乗れ」

シンジ「随分、まわりくどいやり方をするんですね。また母さんの差し金ですか」

黒服「質問は受け付けない」

シンジ「そうですか、だったら帰らせてもらいます」クル

黒服「少女の身柄を確保している」

シンジ「……」ピタ

黒服「同行はあくまで任意だ。しかし、帰ればその少女の安全は保証しない」

シンジ「誰かわからない相手の為に残ると思いますか」

黒服「興味ない。伝えるように命令をくだされているだけだ。帰った場合の処置も」

シンジ「(選択肢は残されてる、試されてるみたいなこの感じ……やっぱり、母さんなのか? いや、でも、母さんとは話がついてるはずだし)」

黒服「今すぐに結論をだせ」

シンジ「ついていった場合は、僕の安全はどうなります?」

黒服「質問は受け付けないと言ったはずだ」

シンジ「(ということは、不確定な材料のまま選ばせるつもりなのか。人質がウソという可能性もある)」

黒服「……」

シンジ「(後悔だけはしたくない。もし、ウソだとしてもアダムの力がある僕なら、簡単に抜け出せるはず……考えるよりまず行動しなくちゃ)」

黒服「行かないのか? なら、そう報告する」スッ

シンジ「待ってください。……行きます」

【第壱中学校付近 車内】

シンジ「マナ……?」

マナ「し、シンジくん……」

シンジ「この手紙は、マナがいれたの? “校舎前に来て欲しい”だけ書かれてたからてっきり……」

マナ「ご、ごめんね。朝早くから、それに、突然になっちゃって」

シンジ「まずいよ。いきなりは」

シロウ「ようこそ、サードチルドレン。声だけで失礼するよ。そちらの姿はモニター越しによく確認できる。私の名前は時田シロウだ」

シンジ「(時田シロウ? 誰だ……?」

シロウ「聞いたことがないという表情を浮かべているな。無理もない。実際に会うのはお互いにこれがはじめてになる」

シンジ「あなたが、僕に会いたいと?」

シロウ「できれば直に会いたかったのだかね。なにしろ私は用心深い。顔が割れることじゃないぞ、そこにいたらネルフの働きアリに殺されかねんからな」

シンジ「(母さんじゃない。戦自か)」

シロウ「さて、碇シンジくん。私はキミに興味がある。なにに対してのコンタクトか、予想はついているかな?」

シンジ「戦自の人たちが興味を持つといったら母さんの情報を僕から聞き出したい」

シロウ「違う。エヴァという玩具を私的理由で持ち出したキミがのうのうと普段通りの生活をおくっている。なぜだ?」

シンジ「……」

シロウ「キミはどれほどの影響力を総司令たる母に持っている? 例えば、“ほしい”といえばなんでも与えられるほどの――」

黒服「お話中、失礼します」ガチャ

シロウ「チッ。なんだ」

黒服「校舎前でもう一名確保しました」

シロウ「そんな命令はしていない」

黒服「申し訳ありません。やり過ごそうと思ったのですが、どこの所属かしつこかったもので。ネルフ関係者のようです」

シロウ「なに……?」

黒服「訓練経験者の動きをしていました。今は布を口に詰め騒がれない対策していますが、いかがいたしますか?」

シロウ「仕方ない。そいつも乗せろ」

シンジ「(嫌な予感がする)」

黒服「開けるぞ」コンコン ガチャ

アスカ「んーっ! んー!」ジタバタ

シンジ「(や、やっぱり……)」

マナ「あ、アスカぁっ⁉︎」ギョ

黒服「いてっ、この、蹴るな! 大人しくしてろ」ドサッ

アスカ「んっ⁉︎ んんっ⁉︎ ふんふ! ふーっ!」

シロウ「そいつは……どこかで見覚えが。そうだ。たしか……セカンドチルドレンではないか? 霧島隊員?」

マナ「は、はい……。どうして、アスカが……」

シロウ「キミが呼んだのかね? 碇シンジくん」

シンジ「違いますよ」

シロウ「ふん……。面白い。霧島隊員。隣に座らせてやれ」

アスカ「んっ!」ギロッ

マナ「アスカ、なんで来ちゃったの。……ごめんね、ちょっと抱えるよ」

アスカ「んー! んーんー!」クイクイ

マナ「布をとってほしいの? あの、時田博士……」

シロウ「そのままだ。サードチルドレンと違い気が強そうだからな。余計な手間と時間は省きたい」

シンジ「(目的は、あくまで僕か。母さんへの影響力。エヴァの私的利用について猜疑心を持ってる。でも、それだと好都合だ)」チラ

アスカ「んふーっ」モゾモゾ

シンジ「(アスカには悪いけど……変に喋るよりはこのままの方がいい。僕に注目を集められる)」

シロウ「……なにを考えている?」

シンジ「え?」

シロウ「セカンドチルドレンを見てなにやら思索していたな?」

シンジ「あぁ、なんでここにいるんだろうって」

シロウ「ふむ。それは私も気になるところではあるが……キミが呼んだのが本当だとしたら教室を出て追いかけてきたか。まぁ、どうでもいい。それよりも――」

シンジ「(よし)」

シロウ「先ほどの質問の答えをいただけるかな?」

シンジ「母さんが僕を特別扱いしてるんじゃないかって質問ですか」

シロウ「そうだな、似たようなものだ」

シンジ「答えるのを拒否したら?」

シロウ「霧島隊員を殺す」

アスカ「むぅ……っ⁉︎」ギョ

マナ「……っ⁉︎ どういうことですか⁉︎」

シロウ「なにを驚いてる。私がどういう人間かの片鱗はムサシ隊員達に行った所業で見えているだろう。同じだよ、キミも」

マナ「連れてくるだけだって言ったじゃないっ!」ギュウ

シンジ「(そうか、マナはこの人に命令されて仕方なく)」

シロウ「彼女の首にあるチョーカーが確認できるだろう? それは、小型爆弾だ。遠隔操作ももちろん可能なシロモノだよ」

シンジ「じゃあ、僕が答えなかったら」

シロウ「即座に起爆する。彼女の役目はキミを呼び出すことにあったのでね。今後使えなくもないが、他でことたりる」

シンジ「(用済みの駒は切り捨て。また、またなのか。どいつもこいつも……みんな、みんな、なんで人の命を軽く扱うんだよ)」

マナ「し、シンジくん……」チラッ

シンジ「心配しないで、僕はマナを見捨てたりはしない」

シロウ「……」

シンジ「僕からの質問は?」

シロウ「質問に質問で返すのは無礼だ。終わってから聞こうか」

シンジ「選べる環境にないのに無礼だなんて。よくそんなこと言えますね」

シロウ「選べなくしているのはキミ自身だ。私は“見捨てる”という選択肢を与えているよ。簡単だ。彼女が死ぬという現実を認めればいいのだから」

シンジ「僕がそうしないとタカをくくってるんじゃないんですか」

シロウ「いいや? 私はキミとはじめての面識になるのだよ。そこも含めてどういう人間か知り合っているところだ。……くっくっ、お互いにね」

シンジ「……ふぅ、わかりました。僕はマナの死を認められない。そういう人間です。だから、答えます」

シロウ「よく考えての答えかね? キミはネルフにとって、母親にとって不利な発言をするかもしれない。それとも、不利になりえないのが真実なのかな?」

シンジ「その通り、簡単ですよ。母さんにとって僕は特別扱いされてる」

シロウ「エヴァの無断使用においても?」

シンジ「場所が場所だから理解を示してくれたんです。ネルフを目の上のタンコブと捉える戦自相手だから」

シロウ「たった1日だ。根をあげるにははやすぎるんじゃないか?」

シンジ「(やっぱり、こんな理由じゃだめか)」

シロウ「どうした? 本当にそれだけか?」

シンジ「それだけ、と言ったら信じてもらえますか?」

シロウ「……」

シンジ「僕にはまだ余裕がある。マナの命を人質にとられてるとはいえ、“僕自身が”切羽詰まっているんけじゃない。そんな状況で話したことを信じられるんですか」

シロウ「ふむ」

シンジ「あなたは自分のことを“用心深い”。そうおっしゃいましたね。それは、安全なモニター越しから眺めているのを考えるとたしかにそうなんだと思います」

シロウ「続けろ」

シンジ「確証を得たいと考えるはずだ。それか、僕を拷問にでもかけて追い詰めてから吐かせますか。“信じられる”と、そう思えるまで」

シロウ「なるほど。さすがは碇夫妻のご子息だ。親のDNAはしっかりと受け継いでるようじゃないか」

シンジ「あなたは、臆病なんですね」

シロウ「なに……?」

シンジ「そうじゃないですか。そんな影に隠れてこそこそと。そんなのは臆病者のすることです」

シロウ「無謀と勇敢は違う。ノコノコと敵地に赴き調べるのは専門外なんでね。私の本職は科学者だ」

シンジ「でも、そんな“守られている環境にいる”あなただからこそ、残虐になる。ためらいなくマナを殺すでしょう。気まぐれでも、もしかしたらあるのかもしれない」

シロウ「……」

シンジ「だからこそ、僕はこれだけは言う必要があります。マナを殺したら、僕があなたを殺す」

マナ「……!」ギュウ

アスカ「……」モゾモゾ

シロウ「く、くっくっ、はは、あーっはっはっはっ! こりゃいい! なんだこの茶番は! まさに漫画の主人公じゃないか!」

マナ「いい加減にしてよっ!!」バンッ

シロウ「うく、くっくっくっ」

マナ「どこがおかしいの⁉︎ どこに人を笑う資格があるって言うのっ⁉︎ 私たちに起こっていることは“リアル”なのよ! 同じ状況になった時に、そんな選択できないくせに!!」

シロウ「ふぅー……黙れ。殺すぞ」

マナ「やれるもんならやってみなさいよっ!!」

シンジ「えっ、ちょ、マナ」

マナ「シンジくん、私のためにこんなやつの言うこと聞く必要ない!」

シロウ「ムサシ隊員達のことを忘れてたのか?」

マナ「……っ!」ギリッ

シロウ「わかったら黙っていなさい。お前はまだ生かしておいてやる」

シンジ「(ムサシくん達も人質にとられてるのか)」

シロウ「さてさて、碇シンジくん。驚いたよ。なかなかに頭がキレるじゃないか、そして、勇敢だ。私と違ってね」

シンジ「……」

シロウ「キミが言ったことも的外れじゃない。私は、自身で確証をもてるまで相手を追い込む。当然だな、真実、つまり、本当のことではないと意味なんかない。嘘だったと気がついてまた尋問するようでは二度手間だ」

シンジ「……」

シロウ「そんなのは時間の無駄だよ。では、どうするか? こうする」

シンジ「……?」

シロウ「彼女のチョーカーを見たまえ」

シンジ「……っ! なんだ?」

シロウ「キミがウソの証言をすることを織り込み済みでないとでも?」

マナ「えっ?」ピピッ カシュ

シロウ「そのチョーカーには機能が二つついていてね。一つは科学反応による爆破。もうひとつは――」

マナ「うっ、かはっ」

シロウ「物理的な締め付けだよ。原始的方法だが、精密機器に組みこむとなるとこれぐらいしかできなくてね」

シンジ「マナっ!!」ガバッ

マナ「うっ、ごほっ!」

シンジ「……くっ!」

シロウ「キミに特別な感情を抱いているのを知っていたか。踏まえて、もがき、苦しむサマを見ているがいい。なに、どうせ他人事だ」

シンジ「(ここで僕がウソをついても、きっと信じてもらえない。だから出し渋らなきゃ、待たなきゃ。僕が追い詰められてると思わせるまで)」ギリッ

マナ「し、んじくん……だ、いじょ、うぶ」ニコ

シロウ「(この状況で気遣って笑うか、いいぞ。相手を思いやっての行動が、圧迫感を強くする)」

アスカ「ぷはっ! ちょっとシンジっ!!」ガバッ

シンジ「アスカ、布とれたの? 小言なら後で」

アスカ「聞きなさいっつーの! この状況もう詰んでんのよ!」

シンジ「詰んでるって?」

アスカ「そのチョーカー! 電子制御なんでしょ!」

シンジ「そうみたいだけど……?」

アスカ「あんたバカァ? ここまで言われてまだわからないの⁉︎ アレがあんでしょーが!」

シンジ「……っ! そ、そうか! さすがアスカ!」

シロウ「なにを言ってる?」

マナ「うっ」ギリギリ

シンジ「マナ、じっとしてて」キーンッ

シロウ「な……だ。――……こ……は」ザ、ザザー

アスカ「はっ、こいつは電波を妨害できんのよ! って、聞こえてないだろうけど。ねぇ、シンジ、そのチョーカー外せないの?」

シンジ「ど、どうしたらいいかわからないんだ。方法が」

アスカ「あんたって機器に干渉できるんでしょ? だったら遠隔操作されてるそれだって」

シンジ「とにかく、やってみる!」キーンッ

マナ「うっ」ピピッ カシャン

シンジ「と、とれた。こんなあっさりうまくいくなんて」

アスカ「考えればすぐわかることじゃないの。あんたのもつその特性……なんか人間に使うかは疑問符がでてくるけど。それを使ってたり、とっくに打開できてたのにさぁ」

マナ「けほっ、けほっ」

アスカ「さて、人質に意味がなくなったらこんな場所に用はないわ。逃げる……ちっ、外から鍵閉められてる。シンジ」

シンジ「……?」

アスカ「ふんっ!」パコーン

シンジ「いたぁっ! な、なんで叩くんだよ!」

アスカ「キョトンとしてるあんたが悪いっの、よっ! とんでもない腕力使ってさっさとドア開けちゃって!」

シンジ「あ……! そ、そうか! っと!」バコンッ

マナ「う、うそ? け、蹴っただけでドアが。ふ、吹っ飛んだ」ポカーン

アスカ「あいかわらず、インチキね。……そいつ、どうすんの?」

シンジ「マナ、一緒に行こう」

マナ「で、でも! ムサシとケイタが!」

シンジ「僕がなんとかする! 僕を信じて!」

【第三新東京都市 公園】

アスカ「そんで、どうすんの? 安請け合いしちゃってさ」キィ キィ

シンジ「ブランコ立ち漕ぎしてたら危ないよ」

アスカ「こんぐらい平気よ。今ごろ、あの音声のやつが血なまこになってマナを探してるわよ」

マナ「……」キィ キィ

アスカ「ま、要するに使いパシリの挙句、捨て駒にされたっていうだけの話でしょっと」トンッ

シンジ「……」

アスカ「あたしは同情なんかしない。人に使われたくないんだったら、それ相応の意識を持ってなくちゃ。自業自得な面もある」

マナ「……なにがわかるっていうの……」

アスカ「個人的な事情なんか知らないわよ。ただ、使う者と使われる者。その二者択一において、使われる側にいる。わかるのはそこ」

マナ「アスカだって! パイロットなんて言ってるけどネルフの犬じゃない!」

アスカ「あたしは自分の才能と努力でこの場所を勝ち取ったのよ! だから、あんたみたいに捨て駒みたいな扱いをされない! 代えがきかないから!」

マナ「……っ」

アスカ「歩兵部隊? そんな有象無象の隊員が一人死んでもまた補填されるだけでしょ? いい? あんた達はね、“個”が優遇されない、“集団”としてはじめて機能する。死ぬのが前提なのよ」

シンジ「アスカ、もうそのへんで」

アスカ「こいつわかってないんじゃないの。それが現実だってこと」

マナ「わかってる! ……わかってるもん! でも、どうしようもなくて……這い上がれない人だっているんだよ……」

アスカ「ふん」

シンジ「マナ、大丈夫だから」スッ

マナ「うっ、うっ」ポロポロ

アスカ「ナイトのシンジ様? これからどうするおつもりぃ?」

シンジ「マナはネルフで保護してもらう」

アスカ「簡単に言うけど、総司令が許すと思うの? あんた、弱みを握られるってわかってないのぉ?」

シンジ「……」

アスカ「戦自がネルフに変わるだけよ。人質の意味が」

シンジ「ミサト、さんはどうかな?」

アスカ「ぶっ、み、ミサトぉっ? ちょっと、あんた、気でもくるった?」

シンジ「相談ぐらいなら。ミサトさんがだめなら、どっちみち、母さんに頼むしかない……いや、もう一人いた」

アスカ「あ、あたしはいやよっ!」

シンジ「……」スッ ピピピッ

アスカ「どこにかけてんだか」



【第三新東京市 工業マンション地帯】

シンジ「よかった。まだ、学校に行ってなかったんだね」

レイ「午前中は検査があったから。一度、帰宅したところ」シュルシュル パサッ

シンジ「実は、お願いがあるんだ」

マナ「……」

レイ「聞いてる」

シンジ「……よかったら、なんだけど。しばらくマナを預かってくれないかな」

レイ「なぜ?」

シンジ「最悪、母さんに預けるとまた道具として扱われそうで。マヤさんか、消去法でリツコさんに頼もうかと考えたけど、それもできれば避けたい」

レイ「……」ガララ

マナ「あ、あの。こんにちは。学校では、あまり話す機会なかったけど――」

レイ「そこ、どいて」

マナ「え?」

レイ「靴下」

マナ「あっ! ご、ごめんなさい。ベッドに置いてあったのね」

シンジ「だめ、かな?」

レイ「いつまで?」

シンジ「僕はこれから厚木基地に向かう。マナが姿を絡ませた以上、真っ先に疑われるのは僕、ひいてはネルフになってしまう。戦自、ネルフの双方からマナを探すような事態は避けたい」

レイ「隠しとおせる?」

シンジ「綾波が、申告しなければ。幸い、この部屋には誰も来ない。マナも悪いんだけど、外出はできないよ」

マナ「私は、それぐらい平気」

レイ「そう。碇くん」

シンジ「ん?」

レイ「基地に行ってなにするの?」

シンジ「……ムサシくんと浅利くんをなんとかしなきゃいけないんだ。拘束されてるんだよね?」

マナ「たぶん、会ってないけど。ねぇ、やっぱり私も一緒に行こうか? 基地施設にも詳しいし」

シンジ「大丈夫だよ。僕ひとりなら、なんとかなると思う」

アスカ「はぁ……なるわけないでしょ」

シンジ「アスカ? 外で待ってるって言ってたのにって、玄関先でなにしてるの?」

アスカ「ドアを開けてたから声が聞こえただけ。あたしはこの部屋には上がらない」

レイ「あなたもいたのね」

アスカ「いちゃ悪い⁉︎ 誰が好きこのんであんたの部屋になんかくるもんですか! あたしはシンジに用があんのよ!」

シンジ「ちょ、ちょっと、揉めるのはよそうよ」

アスカ「あのさぁ、マナの友達? か知らないせど連れだしてどーするつもり?」

シンジ「どうって……」

アスカ「脱走兵扱いになんじゃないのってこと。ずっとレッテルはついてまわるし、戦自から追っかけられる」

シンジ「……」

マナ「……」ギュウ

シンジ「でも、助けなくちゃ」

アスカ「責任、とる気でいんでしょーね? ガキのあんたにできんの? 中途半端に手を差し伸べるのは、なにより残酷ってもんよ」ジトー

シンジ「やるよ……最後まで諦めない」

アスカ「……」

シンジ「まずは安全な場所まで、身柄を確保する。そこから交渉のテーブルにつくにはどうするか、打開策を考える」

アスカ「行き当たりばったりね。もうちょいマシなプラン用意すべきよ」

シンジ「結果良ければ全て良し、だろ? アスカ」

アスカ「……ふん、言うようになったじゃない。以前にあたしが言ったの覚えてる?」

シンジ「覚えてるよ、全部……綾波?」

レイ「……」スッ

アスカ「……? なによ?」

レイ「あなた、やっぱり不快だわ」

アスカ「……! 人形のくせしちゃって、あたしのなにが気に入らないっていうのよ!」キッ

レイ「私は人形じゃない。私はここにいる」

アスカ「ははーん、さては……ヤキモチ? 加持さんから言われたっていうのも嘘なんでしょ?」

シンジ「加持さんって……?」

アスカ「ファースト、シンジのこと好きなの?」

マナ「えっ……?」

レイ「好き? よく、わからない」

アスカ「そんなんじゃ生きてるって実感できてるかどうかすら疑わしいわねぇ」

レイ「……碇くんは絆だから」

アスカ「シンジが? なんの?」

レイ「ヒトとの絆。偽りの身体、偽りの魂。無に還りたかった私に生を与えてくれ、理想のセカイを実現するヒト」

アスカ「はぁ?」

レイ「あなたにはわからないわ。可能性に秘めた道が」

アスカ「わかりたくもないわ。なんで無理してわかり合わなくちゃいけないのよ」

レイ「……脆いだけのくせに」

アスカ「なんか言った?」

レイ「碇くんは知らないのね。あなたの過去」

アスカ「それ以上、喋ったら――」

レイ「母親が自殺した現場を目撃したこと」

シンジ「え……?」

アスカ「……っ!」ダダダッ ブンッ バチンッ

レイ「……」

マナ「あ、綾波さん。アスカ……」

アスカ「あんた……! 人には土足で踏み込まれたくない部分があるって、なんでわからないのよっ!!」

レイ「どうでもいいもの」

アスカ「わかってるってことね! あっそっ!」ブンッ

シンジ「待って!」パシッ

アスカ「シンジ、ちっ、離して、離せってばぁ! もう百発ぐらいビンタしないあたしの気がおさまんないでしょ!」ジタバタ

シンジ「綾波……。今のは、綾波が悪い」

レイ「……」

シンジ「アスカ、僕も聞かなかったことにする。忘れるって約束するよ。だから……」

アスカ「だから? だからなに? かわりに気が晴れるまでサンドバッグになんの? お優しいナイト様ぁ~!」

シンジ「それは……」

アスカ「どいて……! 引っ込んでなさいよ! しゃしゃりでてくんな!」

シンジ「やめようよ。いがみ合う必要なんかどこにもないじゃないか」

アスカ「あたしには現在進行形でできてんのよ! こいつとは、“水と脂”! 見てわかんない⁉︎」ビシッ

レイ「……」

シンジ「綾波、悪いと思ったら、ちゃんと謝らないと」

レイ「必要ない。事実を言っただけですもの」

アスカ「事実? あたしが脆いっていうのが⁉︎」

レイ「母親の死も、たくさんある事実。その中のひとつ」

アスカ「ママを引き合いにださないで! あたしのどこをどー見たらそう思えるのってぇのっ⁉︎ 勝手なイメージの産物よ!」

レイ「いいえ。それはあなたのセカイ。あなたが殻にこもってる証拠」

アスカ「ばっかばかしい! わけわかんない!」

レイ「なぜ、怒るの?」

アスカ「……っ!」

レイ「なぜ、イラつくの? なぜ?」

アスカ「あんたが言われなきゃわからないからよ!!」

レイ「あなたが怒っているのは、あなた自身の心――」

シンジ「綾波っ!!」

レイ「……」

シンジ「もう、やめようよ……。僕たちは、誰でも色んな過去を抱えて生きてる。それぞれ嫌な思い出があって当たり前なんじゃないの」

レイ「……そうね」

シンジ「それに、今は、人の命がかかってるのかもしれない」

アスカ「さっさと行っちゃえば? この話に無関係なんだしさ」

シンジ「心配、なんだ。アスカも、綾波のことも」

マナ「……あ、あの! よくわからないけど、ご飯、食べない?」

アスカ「よくわかんないなら黙ってりゃいいのに。この雰囲気でご飯? 場を和ませるなんて無理だっちゅーの。はぁ……帰る」

シンジ「えっ、あの、学校は? 午後から行かないの?」

アスカ「あんた、あたしの親ぁ? いちいちうるさい! ……そういう気分じゃないってだけ」

シンジ「……」

アスカ「行くならとっとと行って今日中に帰ってこないと、マナの保護とネルフ、色々面倒なことになるわよ」

シンジ「わかってる。行って、速攻でカタをつけるよ」

レイ「力の乱用はバランスを崩すわ」

シンジ「バランス?」

レイ「急激に侵食される。そうなったら、碇くんの自分が保てなくなり、消える」

シンジ「それって、衝動とは別の話?」

レイ「衝動が表面化する内はまだ抑えようとしてる証拠」

シンジ「(そ、それは、初耳だよ……)」ゴクリ

マナ「消える……? それってさっきのドアを蹴破った時の力? シンジくんって一体……」

アスカ「なんでファーストがそんなの知ってんのよ」ボソッ

マナ「綾波さん、それって碇くんが、命を削ってるってこと?」

レイ「違う。バランスが崩れる」

マナ「……わかるように説明してほしいんだけど」

アスカ「ようするに、体に埋め込まれたっていう使徒が乗っ取るってことでしょ。シンジを」

マナ「し、使徒っ⁉︎ シンジくんの身体に使徒がいるのっ⁉︎」

アスカ「……言ってなかったんだ。助けに行くぐらいだから知ってると思ったけど」

シンジ「……はぁ」

アスカ「悪かったわよ」

マナ「そんなの可能なの⁉︎ え? ……ってことは、使徒の力が使える……そっか、それで」

レイ「これまでも、なにか思い当たる節はない?」

シンジ「いや、特には」

アスカ「(カヲルって言ったっけ……フォースと対峙した体育館裏の時も、そういう状態だったと考えれば辻褄が合うかも)」

レイ「衝動はかならず発散させなければいけない。我慢は身体に毒、いつでも言ってくれていい。私なら、碇くんの要求に応えられる」

アスカ「ちょっ! あんた! 衝動がなにか知ってて言ってんのっ⁉︎」

レイ「あなたも聞いてるのね。知ってるわ」

マナ「なにか、あるの? 協力できるなら、私も」

アスカ「マナは黙ってて!」

マナ「私のために碇くんが消えちゃうかもしれないんでしょう⁉︎ 黙ってなんかいられないよ!」

アスカ「うっ。だ、だって、その方法がぁ」

マナ「ねぇ、碇くん! 私にも協力させて! なにかできるなら、ぜひやりたい!」

シンジ「いや、あの……」

マナ「綾波さん! 抑える方法ってなに⁉︎ 教えて! お願い!」

レイ「……性欲解消」

アスカ「だ、だから言ったじゃないの!」

マナ「へ? へ? だ、だって、綾波さんも協力するって言ってるから」ボッ

アスカ「こいつのはね、衝動がくるとところかまわず女に襲いかかるような代物なのよ! あたしだって襲われかけたんだから!」

シンジ「……」シュン

マナ「ほ、ほんとなの? シンジくん」

シンジ「うそじゃ、ないよ」

マナ「そ、そんな……これまでどうやってたの? 綾波さんに?」

シンジ「いや! 綾波にはお願いしたことは、一度も。アスカに襲いかかった時は、その、返り討ちにされて」

アスカ「当然よ! 正当防衛だわ!」

シンジ「それ以降は、表立った衝動は、まだ」

マナ「た、大変だよね……。男の子、だもんね」

シンジ「ち、ちちちっ違うよ! あくまで、僕のは使徒の衝動で!」

アスカ「怪しい」

シンジ「な、なに言い出すんだよ! 事情知ってるだろ!」

アスカ「ほんのちょびっとでもそういう気がないんだったら不能じゃない。男として」

シンジ「だから! そういう話じゃ!」

レイ「今から、する?」

シンジ「するわけないだろ! もう、僕行くよ! なんなんだよ、喧嘩してると思ったら、まったく!」ドテドテ

マナ「あ、あはは」

【ネルフ本部 擬似テスト室】

マコト「フォースチルドレン。到着して間もないというのに、すぐにシンクロテストとは。こりゃ大物ですね」

ミサト「シンジくんだってやってのけたわ。しかも、初陣で。彼の個人情報は全て非公開だって?」

マコト「確認してみたところ、生年月日だけは公開されてました。セカンドインパクトと同一日です」

ミサト「偶然にしちゃできすぎてる気がしないでもないわね」

マコト「誕生日は、深読みしすぎじゃないですか? ただ、まぁ、マルドゥックの報告書も、フォースの件は非公開となっています。その点に関しては、うさんくさい臭いプンプンしてますけど」

ミサト「今日のところは勘ぐるのをやめて、素直に彼の実力、見せてもらいましょ。赤木博士、準備は?」

リツコ「いつでもいけるわよ」

マヤ「こちら制御室。聞こえますか?」

カヲル『聞こえてるよ』

マヤ「通電を確認。システム、オールグリーン。シンクロテスト、開始します」

シゲル「全ての計測システムは、正常に作動。問題ありません」

マヤ「MAGIによるデータ誤差、認められません」

ミサト「(実態のない組織、マルドゥック。そこから送り込まれたという少年。こりゃゼーレが絡んでると見て間違いないわね)」

リツコ「深度は?」

マヤ「1.05。侵食、認められません。バイタルも正常値」

リツコ「これは、すさまじいわね」

マコト「こんなことって、ありえるんですか?」

ミサト「なに? なんなの?」

リツコ「通常、シンクロはエヴァ本体にどこまで近づけるかで計測されます。本来は別々の存在である、エヴァとヒト。それぞれがひとつになることで高い数値を叩き出す」

ミサト「それは説明されなくてもわかるわよ」

リツコ「フォースの彼、その気になればどこまでも潜れるみたいよ」

ミサト「なんですって……?」

マヤ「し、しかし、あまりやりすぎると取り込まれる恐れも」

リツコ「(コアがあればの話だけどね)」

ミサト「原因は? 彼が特別ってこと?」

リツコ「あえてあるとすれば、エヴァとの間に壁がない」

ミサト「壁……?」

リツコ「例えば、ミサトがいきなり私とひとつになったとして違和感、もしくは抵抗感がない? ありえないわ。私たちは個人として確立しているし、成立している。異物が混入すればバランスに支障をきたす」

ミサト「……」

リツコ「“完全なる調和”。方法があるなら、こっちが聞きたいぐらいよ」

マヤ「こんなの、生物的に……。システム上、ありえないです」

リツコ「目の前にあるのが現実というものなのでしょうね。私達計算で動く科学者にとって、最大の敵といえなくもない」

ミサト「……異常性についてはよくわかったわ。事実をまず受け止めてから、原因を探ってみて」

【電車内】

シンジ「なんなんだよ。ああいう時ばっかり息があっちゃってさ」

アナウンス「次は、さがみ野駅。さがみ野駅です。厚木基地ゲートにご用のある方は、こちらです」

シンジ「ついたのか。やっぱり、少し時間かかっちゃったな。はやく済ませないと……あれ?」

シンジ(少年)「……」

シンジ「なんだ……? 乗客が誰も……僕?」

シンジ(少年)「こんにちは」

シンジ「君は……?」

シンジ(少年)「僕だよ。キミも僕。僕はキミの中で生まれた」

シンジ「夢? 夢を見てるのか?」

シンジ(少年)「違う。話をしてみたかったんだ」

シンジ「夢じゃない……なんの? まさか、君は、アダム?」

シンジ(少年)「ヒトは心を失いつつある。機械文明が繁栄を迎える一方で、合理性、無駄なことを切り捨てるのが美徳になってきている。群れを放棄しだした。その枠からは逃れられないのに」

シンジ「……」

シンジ(少年)「個性の尊重。多様性の認可。聞こえはいいかもしれない。でも、失うものは大きい」

シンジ「キミは……」

シンジ(少年)「心と魂をひとつにした先に、キミは何を望むの?」

シンジ「……僕は、そんな大それたこと考えられない。ただ、自然の流れがあるのなら、そうなっていけばいいと思う」

シンジ(少年)「結果、ヒトが滅んでしまっても?」

シンジ「過去は変えられないのと同じように、今も、選べる中から迷いながらでも、最善を選択して生きている。みんなそうじゃないか。それで、滅ぶのなら……」

シンジ(少年)「なぜ、エヴァに乗るの?」

シンジ「……」

シンジ(少年)「身をまかせるだけなら、乗らなければいいのに。結果は変わらない」

シンジ「抗ってみたいんだ。リセットじゃなくて、このまま」

シンジ(少年)「例えこの困難を乗り越えても、数百年、数千年という歴史を人類は紡げない。破滅へと進む」

シンジ「どうしてそう決めつけるんだよ! やってみなくちゃわからないじゃないかっ! 未来は、自分で作るものだろう⁉︎」

シンジ(少年)「キミは言ったよ。過去があり今があり、未来がある。過去を変えられないように、未来も不変的な部分がある」

シンジ「……っ!」

シンジ(少年)「自己犠牲。キミが頑張れば“今”はなんとかなるかもしれない。でも数十年後は、環境が変われば、不確定になる。過去が忍び寄ってくる」

シンジ「……」

シンジ(少年)「ヒトは誰しも心の闇をおそれ、孤独が不安になり、ぬくもりを求め彷徨う」

シンジ「……んだよ」

シンジ(少年)「他人に干渉されてエヴァに乗り出したくせに。コンプレックスに苛まれているくせに」

シンジ「なんなんだよ! なにしに出てきたんだよ!」

シンジ(少年)「お父さんが、恋しい? もっと褒められたかった? 捨てられた嫌な思い出を忘れられるまで」

シンジ「聞きたくない! やめてよっ!!」

シンジ(少年)「なにが怖いの?」

シンジ「自分が、こわ……なんだ、口が勝手に……!」

シンジ(少年)「何が怖いの?」

シンジ「うぐっ! 嫌われる、のが、こわい」

シンジ(少年)「なにガ、こわいの?」

シンジ「父さん……父さんに、捨てられるのが、嫌だ」

シンジ(少年)「なぜ、エヴァに乗ったの?」

シンジ「……だって、ミサトさんが、父さんが乗れって言ったんだ」

ミサト『シンジくん、乗りなさい』

ゲンドウ『乗れ。でなければ帰れ!』

シンジ「せっかく忘れかけてたのに……! どうして思い出させるんだよ!」

シンジ(少年)「なぜ、守ろうとするの? 価値はあるの?」

マナ『シンジくん!』

シンジ「価値は……ある! 僕を頼って、必要としてくれるのなら」

シンジ(少年)「彼女は幻想に恋をしている」

シンジ「僕は変わろうとしたんだ! 変わろうと頑張ってるんだよ!」

シンジ(少年)「過去のキミを知れば幻滅するよ」

シンジ『嫌だ! 乗りたくない! ……なんで僕が、こわいんだ……本当は乗りたくない』

シンジ「これは、また、僕?」

シンジ(少年)「キミの過去。キミの一部。自分を受け入れられ、認められない者に変化は起こりえない。うわべだけ」

シンジ「……」

シンジ(少年)「君のそのコンプレックス。劣っている、逃げ出した過去への自責の念、自信のなさ。それらもすべて認められる? 自分の姿なのだと」

シンジ「それは……」

アスカ『ちっとも変わってない! うまくいってるからって調子のってるだけでしょ!』

シンジ「アスカ、なんで、そんなこというんだよ」

アスカ『あんたがガキだからよ!』

シンジ「自分だって棚に上げてばかりじゃないかっ! アスカはいつもそうだ!」

アスカ『ほら! また他人のせい! あたしがそうだとしても指摘に間違いはあんの⁉︎」

シンジ「……」

シンジ(少年)「言い訳。自分への甘え。誰しも持ってる。言いたくなる」

シンジ「どうしたらいいかわからないんだ! 僕だって一生懸命やってるんだ! 認めてよ!!」

シンジ(少年)「……」

シンジ「なんで急に黙るんだよ……」

シンジ(少年)「始まりの福音。鐘がなるべき時は間も無く訪れる」

シンジ「どういう意味……?」

シンジ(少年)「急激な変化には反動が伴う。それもまた、自然の摂理」

シンジ「……」

シンジ(少年)「覚悟たる想いを胸に、契約の時は近い」

シンジ「意味が、わからないよ」

シンジ(少年)「死ぬのがこわくないの?」

シンジ「……」

シンジ(少年)「こわいでしょ?」

シンジ「こわい」

シンジ(少年)「死んだらそこで終わりだから。みんなの心の中で単なる思い出になってしまう」

シンジ「嫌だ、そんなのは」

シンジ(少年)「キミは死ぬ。消えてなくなるんだ」

シンジ「嫌だ!」

シンジ(少年)「誰かの為に。自己犠牲の行き着く先はそこだと理解しなくちゃ」

シンジ「……」

シンジ(少年)「刹那的な勢いに流されているキミの終わり」

シンジ「いやだ、いやだ、僕を思い出にしないで。僕を、捨てないで……」

シンジ(少年)「うつむいてないで顔をあげて。僕がついてる」

【厚木基地 研究施設】

シロウ「キレイに外されてるな。無理やりこじあけようとした痕跡もない」コト

黒服「瞬時に解析に成功したのでしょうか?」

シロウ「まさか。そんな芸当、できるはずがあるまい。このハイテク技術の結晶の前では、プロのクラッカーだとしても対応できない」

黒服「では、一体どうやって……」

シロウ「通信を遮断したのは、磁場が発生によるもの」

黒服「……」

シロウ「ふむ……。わかるのは、意図的に発生させたであろう電磁波があり、その間にこれを無効化したというだけ……EMPか?」

黒服「EMP……電磁パルス、ですか?」

シロウ「実用段階にある中で思いつくのはこれぐらいかな」

黒服「しかし、だとしても少年達は丸腰でした。隠し持てるとしたらポケットぐらいしか。小型化にまで成功していると?」

シロウ「……」

黒服「常識で考えれば小型化に成功するにはまず落としこみが必要不可欠です。技術がこなれてきた頃に、小型化に成功するのがセオリー」

シロウ「言わんとしていることはわかるよ。技術の進歩を一足か二足、飛び越えていると言いたいのだろう?」

黒服「……」

シロウ「だがね、現に我々の目の前でそのありえないことが起こったのだよ。証明するにあたり、もっとも確率の高いものを導き出しているにすぎない」

ムサシ「う、うぅ……」

シロウ「ん……? おや、目が覚めたか?」

ムサシ「な、にをした。ケイタは? マナは、どこだ」

シロウ「浅利隊員なら集中治療室にいるよ。霧島隊員は……まぁいい。キミが本命なのだから」

ムサシ「マナを、どこにやった⁉︎」ガシャン

シロウ「安心したまえ。今はひと時の逃亡生活だ。ネルフにいるはず」

ムサシ「ネルフっ⁉︎ そうか……逃げられたのか」

シロウ「希望は捨てろ。戦自からの要求があればネルフは霧島隊員をこちらに引き渡すだろう」

ムサシ「なっ」

シロウ「たかが一兵士扱いを保護して何の得になる? それよりも、損をする分が大きい」

ムサシ「……」

シロウ「彼女は必ずこちらに帰ってくる。その時に、迎える居場所があるかどうかはキミ次第というわけだ。わかるかね?」

ムサシ「俺は、なにをすればいい」

シロウ「そうだ。お前は友の為、それしか選択肢がない」スッ

黒服「はっ」カチャカチャ

ムサシ「……」

シロウ「トライデント級の開発にあたり、懸念がいくつかある。そのさしたる例が、搭乗者が耐えられるかどうか、だ」

黒服「……」シュシュ

シロウ「何度試算しても、生身の身体では耐えられないという解に行き着く。人間が耐えられる上限は鍛え、適正があったと仮定しても青天井ではないからな」

ムサシ「……」

シロウ「では、耐えられるマシンスペックに落とすか? そんなことをしてエヴァに勝てなくなってしまっては意味がない。となれば……人間のスペックをあげるのはどうか?」

ムサシ「なんだ? ステロイドでも注射しようってのか?」

シロウ「いやいや。そんな付け焼き刃では如何ともしがたいのが現実でね。もっと、気持ちいいものだよ」

黒服「おとなしくしてろよ。暴れると針が折れる」

ムサシ「なんだ……⁉︎ この注射器にはいってる液体はなんだ⁉︎」

シロウ「液体……そう見えなくもないか。ゲル状だからな」

ムサシ「くっ……!」ガタガタ

シロウ「いやぁハハ。そう怯えなくていい」スッ

黒服「……」ぴた

シロウ「これは、ナノマシンだよ。0.1mm~の極小サイズの集合体。本来は医療に使われる」

ムサシ「俺の体を治すってことはなさそうだな」

シロウ「当たり前だ。非常に人体に負荷をかけるが、本来は持ち得ない能力を引き出す。“スーパーソルジャー”。映画などで耳にしたことがあるんじゃないか?」

ムサシ「……」

シロウ「改良と研究を繰り返した結果、DNAの書き換えに成功した」

ムサシ「DNA? 書き換えだと?」

シロウ「説明するのが面倒だ。寄生虫のようなものだと思いたまえ」

ムサシ「人間に試したことは?」

シロウ「ない。ラットならある」

ムサシ「試作品もいいところじゃねぇかっ!」

シロウ「そうだよ」

ムサシ「くそ、だからどうしたと言う顔しやがって! サイコ野郎が!」

シロウ「戦自に所属する隊員数をキミは把握しているか? むろん、陸、海、空を含めてだ」

ムサシ「知るか!」

シロウ「幹部、非戦闘員を含めるとおよそ30万人にのぼる」

ムサシ「……」

シロウ「多いか少ないかではない。問題は30万人もいるということだ。それだけ多ければ序列もできる。大尉などの階級で枝分かれするようにな」

ムサシ「わかってるよ、んなこと」

シロウ「お前は自分の立ち位置を理解してるか。少年兵の中で主席候補だとしても、せいぜい100人たらずの中の上位。全体からすれば枠自体が最下層。まさにお山の大将てところだ」

ムサシ「……」

シロウ「なにが言いたいか察していただけたかな? 私のように科学者など長所となる肩書きがない者は、地道な努力で這い上がっていくしかない。機会を与えているのだ」

ムサシ「……」

シロウ「戦場にでるか? 裸同然の装備で、弾除けにすらならないヘルメットを被り……運に自分の命をかける」

ムサシ「だから、お前のモルモットして納得しろってのか」

シロウ「いい機会だ。キミに選択権を与えよう。なににも守れられない一兵卒扱いに戻るか、それとも、パイロットとして特別待遇を望むか。このナノマシンは対価と考えるんだな」

ムサシ「(ちくしょう、マナとケイタを守るつもりが……なんのために血反吐はいてまで……)」

シロウ「……どうするね?」

【ネルフ本部 執務室】

ユイ「タブリスの様子はいかが?」

リツコ「皆が顔色を変える程度です」

ユイ「ふふ、やはり加減を知らない」

リツコ「悪びれた様子もなく。当たり前のことを当たり前にやっているだけなのでしょう。日本人が箸を使い料理を食べるのと同じで」

ユイ「彼は我々の常識とはかけ離れたところにいる。それもまた然り」

リツコ「葛城一尉にはどう説明いたしましょう」

ユイ「コアとの親和性が高いとだけ伝えればいいわ」

リツコ「ならば、シンクロにおけるメカニズムの根拠が必要になるやもしれません」

ユイ「やむなしね。判断はまかせる」

リツコ「かしこまりました。では、こちらで処理します」

ユイ「タブリスへは私から注意しておく。聞きはしないだろうけど」

リツコ「彼……あの少年は、アダムがベースであれば自在にシンクロ率を操れる」

ユイ「もちろん。だって、彼もまた、アダムに限りなく近いのだから」

リツコ「オリジナルはご子息の中にあるはず。では、あの少年は一体……」

ユイ「レイと似たような感じと思ってもらってかまわない。彼にも与えられた役割が存在する」

リツコ「それは、“少年”? それとも、“アダム”?」

ユイ「やけに質問が多いじゃない。あなたも真相に辿りつきたくなったクチ?」

リツコ「……」

ユイ「彼は彼です。アダムではなく、“彼に”、役割が存在する」

リツコ「(で、あるならば……)」

ユイ「通常、エヴァ本体のコアにはチルドレンの肉親が埋め込まれています。それはアダムやリリスをベースに作られているせい」

リツコ「存じております。ヒトとエヴァに共依存性、すなわち、本来全く関係のないモノ同士を結ぶパイプライン」

ユイ「“絆”ね。それを頼りに深く潜り、数値を高める。では、零号機は?」

リツコ「レイの期待? 彼女の機体には……」

ユイ「器であるあの子に肉親は存在しない。コアはないの。それでもエヴァは動く。ここで今発言したことへの矛盾が生じる」

リツコ「……」

ユイ「“コアは必ずしも必要ではない”。あくまで、親和性を高めるもの」

リツコ「初号機の中には……まさか……」

ユイ「……まず、私がここにいる時点で初号機のコア内部は私じゃないわ」

リツコ「ダミーは既に実現していたのですか?」

ユイ「正確にはデッドコピーに等しい」

リツコ「……」

ユイ「私の計画は、夫が補完計画を発動し、初号機が依り代になることによって生命の源に還る。初号機に取り込まれた時点で完遂していたの」

リツコ「生命の源……」

ユイ「新約聖書に記された生命の樹ともいう。全ての誕生が母なる海からはじまったと同じく、私の一部が細胞より微細なモノとして大地に、草木に、酸素となって星に息づく。そっと隣合わせで」

リツコ「……」

ユイ「後は夫に任せれば、私に会いたいが為の執念で必ず補完計画を実現する。そう確信していた」

リツコ「恐ろしい人」

ユイ「落とし穴はいつだってあるものよ。私がコアに取り込まれてからしばらくして、初号機を介してリリスの思考が流れこんできた」

リツコ「リリスの? まさか」

ユイ「途方もない情報量と共に。私は母の助力を得て、人知れずこちらに帰ってきた。別の目的ができたから」

リツコ「(意思を持って生きてる? 地下のリリスが……?)」

ユイ「デッドコピーと言った意味がわかった? 初号機のコアにあるのはリリスの協力のもと実現した魂のコピーなのよ。私のね」

リツコ「そんな、ありえない」

ユイ「でも、それも限界。初号機の力を真に解放するにはやはりコアは必要」

リツコ「……?」

ユイ「なぜ、私がここまで話してあげたのかわからない? あなたに早急にコアの書き換えをしてほしいから。私から――」

リツコ「……っ⁉︎ ま、まさかっ⁉︎」

ユイ「――そう。碇ゲンドウ。あの人を初号機のコアへと組み込むの」

加持「そいつはまた、驚天動地たるや、ですな」

リツコ「加持くん?」

ユイ「……遅かったわね」

加持「色々と手間どりましてね。時田シロウ、やつの調査はちぃとばかし骨が折れそうっすよ」

ユイ「使えない駒に用はないのだけど?」

加持「できないと言っちゃいません。ただ、しばらく時間をいただけたら助かります」

ユイ「具体的にどれくらい?」

加持「三日もあれば。目的はネルフへの復讐。それ自体ははっきりしてます。時間を頂きたいのは、トライデント級と……」パサ

ユイ「……」ペラ

加持「ここにきて政府と戦自が連携して支援に動きだしているのはよろしくないかと。ネルフがいくら圧力の及ばない治外法権とはいえ、日本に拠点を構える以上は――」

ユイ「ネルフにおける実行雑務は戦自が担当しているケースが多い。その点ね」

加持「ええ。例えば、戦自が担当している案件のひとつ、物資の補給ラインをストップさせれば……ここは陸の孤島と同じになります」

ユイ「国連(ゼーレ)が許さないわ。逆に日本政府に圧力をかける」

加持「そこですよ、問題は。政府の高官連中もバカじゃない。その上、臆病ときてます。保身に長けた人種の集まりですからな」

ユイ「……」

加持「国連に怯えている連中が、重い腰を上げた。それほど美味しいと感じる提案だったんでしょう。欲に目が眩んだ人間は、恐怖を忘れます」

ユイ「……ここを直接掌握するつもりね」

加持「どこまでの人間が絡んでいるのやら。おそらく……」

ユイ「時間を与える。あなたには期待しているわ」

加持「なにかわかり次第ご報告します。リッちゃん」

リツコ「……え? な、なに?」

加持「ぼーっとしてるなんてらしくないじゃないか」

ユイ「……話は以上です。赤木博士も。頼んだわよ」

【ネルフ本部 ラボ】

加持「本当にらしくないな。ずっと黙りこくるなんて」

リツコ「……私はミサトみたいにベラベラ喋ったりしないわ」

加持「その点は同意するが。会話のキャッチボールが困難になるほど無口だとも思ってなかったよ」

リツコ「あの人、なにをやろうとしてるの……」

加持「……」

リツコ「リリスからの協力? 異常だわ。なにもかもが常軌を逸してる」

加持「何を話したんだろうな」

リツコ「会話が成立するかどうかでさえわからない。わからないのよ、神と対話できたなんて……」

加持「だが、そう証明できるだけの状況証拠は揃っている。初号機にとりこまれ、そして生還は見落とせない」

リツコ「ひょっとしたら……あの人は……」

加持「なにか思いついたことでも?」

リツコ「いいえ、まさか、そんな」ブツブツ

加持「おい、リッちゃん」

リツコ「……加持くんは、どう思う?」

加持「現時点で言えることは……彼女が真実に最も近く、そして動かしている。打ち明けると俺にゼーレから打診がきた」

リツコ「ゼーレから?」

加持「トリプルスパイにならないかとね」

リツコ「つまり、彼女をよく思っていない派閥が存在する?」

加持「キール議長以外は」

リツコ「どうするつもり」

加持「悩みどころだな。勝ち馬に乗るのが妥当な判断だと理解しちゃいるが、オッズの予想をしずらいのが現状さ」

リツコ「身の振り方を間違えば、死ぬわよ」

加持「そうだな」カチ シュボ

リツコ「相変わらずね。まるで他人事みたい」

加持「無関係なやつなんていやしないよ。根っこでは繋がってる。だからこじれるんだろうな、人は」

リツコ「リスキーね」

加持「人生はいつだってギャンブルじゃないか」

リツコ「……」

加持「石橋を叩いて渡ってみたところで、そこが割れない可能性はゼロではない。だろ?」

リツコ「死ぬ気?」

加持「今からメシでもどうだい?」

リツコ「行くならミサトと行ってきたら?」

加持「リッちゃんだって昔馴染みじゃないか。思い残しはないようにしときたい」

リツコ「では、全てのカタがついたら付き合ってあげる。夢見が悪いのは嫌だから」

加持「……こいつは、一本とられちまったな」フゥー

【人類補完計画 特別召集会議】

ゼーレ03「なんだね、このふざけた報告書は」

ゼーレ04「碇ゲンドウを初号機のコアにインプットするだと⁉︎」

ユイ「はい」

ゼーレ04「なぜだ。パーソナルパターンをイジれば今のままでも計画に支障はあるまい」

ユイ「あくまでも予備。使徒襲来に向けての準備は必要です」

キール「既に死海文書には大幅な加筆が加えられている」

ユイ「今回の変更は微々たるものです。私だからこそわかりますが、覚醒する心配もありません」

キール「無論だ。初号機の覚醒及び解放は我々のスケジュールにはない」

ゼーレ06「裏切り者をコアにするのは反対だ」

ユイ「なぜでしょうか。感情論を抜きにして発言を」

ゼーレ03「覚醒の可能性が……」

ユイ「心配はないと断言致しました。限りなくゼロに近いものです。元々、親子の関係が気薄なのは皆様方もご承知のはず」

ゼーレ05「質問を戻す。なぜ、キミのダミーではいけないのかね」

ユイ「“肉入りとそうでないか”の違いです。エントリープラグはいうなれば魂の座。ですが、きちんとしたコアを用意すればまだ伸びる可能性が」

ゼーレ03「伸びすぎても困るのだよ」

ユイ「あくびがでてしまいますわ。そんなに恐ろしいですか? あの人が」

ゼーレ03「なんだと! 貴様ぁ……っ! 創設者の一族だからと調子にのりおって! お前が“碇”ではないのなら……!」

キール「やめよ。此度の変更、背信行為ではないと断言できるか」

ユイ「はい」

キール「信じよう」

ゼーレ03「しかし、それではあまりにも。力を与えすぎでは」

キール「だが、次はない。キミの一族に敬意を評したまで。我々は常に監視していると忘れるなよ」

ユイ「誓って。皆様方のご期待を裏切るようなマネは致しません。我が悲願達成でもあるとご理解していただきたい」

キール「キミが新たなシナリオを作ることには感心しない。保険としてターミナルドグマにある槍は、我々の管理下におく。これを条件にコアの書き換えを承認しよう」

ユイ「ご随意に」

ゼーレ03「……」

ゼーレ05「身分をわきまえ我々の手足となって計画を実行したまえ。そのまま総司令でいたいのならな」

ユイ「発言がすぎました。無礼をお詫び致します」ペコ

キール「近く、ロンギヌスの槍を回収させる」

ユイ「……かしこまりました」ニタァ

【厚木基地 研究所】

シロウ「投与してからどれくらい経った」

黒服「一時間ほど」

シロウ「なにか変化は?」

黒服「おい」ドン

ムサシ「う、うぅ」ダラン

黒服「目は虚ろ、意識はかろうじて保っているようですが、我々を認識できているかどうか」

シロウ「血液サンプルはどうなっている」

黒服「解析が終わったところです。こちらをご覧ください」ピッ

シロウ「……ふむ。この数値は……細胞内の組織がうまく混ざり合っていないな」

黒服「やはりまだ人体に使うとなると、その、早すぎたのでは。ナノマシンは再生を試みていますが、白血球に阻止されています」

シロウ「分裂と再生を繰り返すか。まるでいたちごっこ状態だな」

黒服「少年兵の体内でも同様の現象が起こっているはずです。疲労、意識昏倒はそのせいだと推測されます」

シロウ「友のためと決心したはいいが、最後の壁を超えられないとは。つくづく、稚魚は稚魚か。……ペンライトを」

黒服「はっ」カタ

シロウ「……」カチ

黒服「あの、なにを?」

シロウ「おい、ムサシくん。聞こえるかな? 聞こえているだろう?」カチ カチ

ムサシ「う、うぅっ……ぐっ」ピク

黒服「光に反応しているだけです」

シロウ「少し黙っていなさい。……ムサシ。いいか、よく聞け。お前が死ねば友も死ぬ」

ムサシ「……う」

シロウ「このまま終わってもいいのか? 何のためにお前は生きてきた。最後くらい世の中の役に立って死ね」

ムサシ「ぐっ、う、うぅ」

シロウ「スラム街で育ち、貧困な環境でろくな教育を受ける権利すら許されず、“普通”と“当たり前”を欲していた悔しさはないのか」

ムサシ「う、うるせぇ」

シロウ「なんと言った? 聞こえないな。お前みたいなゴロツキが街のゴミを漁っている頃、普通の子達は暖かい家庭で、ごく当たり前に食卓についていた」

ムサシ「だ、からっ、どうしたぁ」

シロウ「倉庫での生活、そんな暮らしから抜け出そうと戦自にはいったんだろう。友二人を巻き込んでまで」

ムサシ「……」

シロウ「世の中にお前を認めさせるんだ。社会に、“当たり前”を甘受している、クソったれな奴らに崇めてもらえ。これはその機会だ」

ムサシ「……るせぇ」

シロウ「吠えるな」ガシッ

ムサシ「うっ」

シロウ「もう一度、伝えよう。お前が死ねば、浅利隊員を焼き殺し、霧島隊員を拷問した後に殺す」

ムサシ「やめ、ろ」

シロウ「根性論などというスポ根はナンセンスだが、“細胞の働き”にかかっている。あらがえ、立ち向かえ、社会に! 友のために!」

ムサシ「う、うぅ……!」

シロウ「ナノマシンを従えてみせろ! 今を生きない者に未来はない!」ガンッ

黒服「……! は、博士! 心拍数が」

ムサシ「う、うぅ……うがあああああぁぁっ!!」ガクガク

シロウ「どうなっている」

黒服「興奮により心拍数があがり、心臓のポンプが血液を大量に送りこんでいます。ナノマシンが暴走を」

ムサシ「うああああっ!!」ガクガク

シロウ「脳への負担は?」

黒服「……計り知れません。こいつは、もう」

シロウ「そうか」スッ チャカ

黒服「な、なにを? 射殺なさるんですか?」

シロウ「使えないのならば用はない。ここで終わりということだ」カチリ

ムサシ「……」ダラン

シロウ「短い付き合いだったが、最後くらい世の中の役にたってから死ねばいいものを」パァンッ

ムサシ「」

黒服「……脈、ありません。絶命いたしました」

シロウ「ふん」

黒服「優秀なサンプルであると共に、パイロット候補生でしたが」

シロウ「モルモットなど代わりがいくらでもきく。主目的はあくまでパイロットとして機能するか否か。こいつは使えなかった」

黒服「……」

シロウ「我々がやっているのは実験でありショーではない。映画のように乗り越えたりはしなかった、あったのは“あっけない終わり”。ただの現実だ。それだけのこと」

黒服「では、次の候補生を」

シロウ「いや、試してみたいことがある」

黒服「なんでしょう」

シロウ「ムサシ隊員は身体能力、タフネス。反骨心。その点についてはたしかに優秀だった。やりすぎないようにと手心を加えていたとはいえな」

黒服「……」

シロウ「今しがた判明したのは、“活きが良すぎても逆効果”。むしろ、もっと弱らせてから試した方がよかったのかとすら思える」

黒服「……理由は?」

シロウ「細胞の抵抗だよ。ラット(ねずみのこと)では得られない結果だが、人体に投与すると拒絶反応が強い。免疫力を薄くすればうまくいくのではないか?」

黒服「つまり、風邪を引きやすい状態というわけでしょうか」

シロウ「もっとだ。死にかけであれば望ましい」

黒服「ならば、癌末期患者を手配いたします」

シロウ「病原菌に蝕まれている者ではなく、有力な被験者がいるだろう」

黒服「……?」

シロウ「浅利ケイタ隊員を集中治療室から連れてこい」

【厚木病院 集中治療室】

ケイタ「……」シュコー シュコー

黒服「よし」ガタ ブチン

ケイタ「うっ」ピクッ

看護師「浅利くん、回診の時間……きゃあ⁉︎ あなた、なにしてるんですか⁉︎」

黒服「こいつは退院する。機器の補助は必要なくなった」ガタガタ ブチン

看護師「ふざけたこと言わないで! はやく呼吸器を元に戻してください!」

黒服「ふざけてなどいない」ガシッ

ケイタ「……」ダラン

看護師「せ、先生! 誰か!」

黒服「騒ぐな、本件は軍事機密に該当する。軍医のはしくれだろう、貴様も理解しろ」スッ

看護師「特殊任務辞令書……」

黒服「ここで起こったことの一切の他言を禁ずる。担当医にも改めて通達が降りる」

看護師「その子、ケアしないと死にますよ」キッ

黒服「俺もお前も、そしてこいつも与えられた任務がある」

看護師「わたしは命を護るのが任務であり、誇りを持っています。むざむざ死なせるなんて」

黒服「違う」

看護師「えっ」

黒服「俺たち末端の任務は時々によって変わる。やりたくないことでも請け負わねばならない。役職に求められるのは役割、任務とは……お上の都合だよ。こいつは連れて行く」

看護師「待ってーー」

黒服「邪魔するものがいれば粛清対象として良いとの許可も得ている」

看護師「しゅ、粛清?」

黒服「黙っていろ。いいな?」

【ネルフ付属病院】

トウジ「センセ! 手術はうまくいったんやなかったんですか⁉︎」

医師「うまくいったよ」

トウジ「せやったらどないなって!……眼帯とってみぃ」

サクラ「うん」スッ

トウジ「見てみぃ! 片目だけ赤くなっとるやないですか! 充血なんてもんちゃうぞ!」

医師「施術自体に問題があったわけじゃないんだ」

トウジ「問題がないって、そんなわけ」

医師「アルビノ。メラニン色素が薄くなる先天性の疾患があるが、肌の色も髪の色も元のまま、しかも赤くなったのは片目だけ……。キミ、眼科のカルテを」ペラ

看護師「両目ともに差異はないそうです。極端な低下というわけでもありませんでした」

医師「色盲の検査は?」

看護師「それは、まだ……。しかし、血管に異常はなく」

医師「サクラちゃん、片目を手で隠して折り紙の鶴をを見てくれないか」コト

サクラ「はい」

医師「何色に見える?」

サクラ「青です」

医師「もっと、具体的に。濃い青? 薄い青?」

サクラ「真っ青に見えますけど」

医師「では、こっちの鶴は?」

サクラ「赤です」

医師「……色の判別もできている、か」

トウジ「サクラ、目が見えにくいとかないんか?」

サクラ「ぜんぜん。ねぇ、兄ちゃん、あんまり先生を責めんといて?」

トウジ「う……せ、せやけど、後遺症っちゅーんなら」

サクラ「私が怪我してたんは目と関係ない」

トウジ「そんなん、わからんやないか。もしかしたら、目も傷ついて」

サクラ「今までなにもなかったんよ?」

トウジ「そ、それは、そうやが」

医師「ふっ、サクラちゃんは頭がいい子だね。でも、お兄さんが心配しているのも可能性としてある」

サクラ「そうなんですか?」

医師「人体は複雑で、それまで問題のなかった部分が、突然ひょっこり顔をだすケースが往々にしてあるんだ。こういうことを言うのは医師としてどうかと思うが、我々とて限界があって、隠れていたら見過ごしてしまうことも」

サクラ「……」

医師「なにか要因があるはずだ。それを解明できるまで、私も眼科の先生と連携して全力を尽くそう」

看護師「鈴原くん。先生もこう言ってますから」

トウジ「……たのんます。まさか、一生このままなんて」

サクラ「もう、兄ちゃんは大袈裟やなぁ。見た目だけやったら別にええやないの」

トウジ「おまっ、それでええっちゅうんか」

サクラ「うちは気にして……いたっ」ピクッ

トウジ「……っ! やっぱり痛むんか! せ、先生!」

医師「目が痛むのかい?」

サクラ「あ……シンジさん?」

トウジ「シンジ……? なんでシンジが」

サクラ「兄ちゃん、どないしよ。シンジさんが、泣いてる」

【ネルフ本部 三号機 格納庫】

放送「三号機は第3次冷却に入ります。第6ケイジ内は、フェーズ3(スリー)までの各システムを落としてください」

マヤ「先のフォースチルドレンのハーモニクス、およびシンクロテストは異常無し、数値目標をすべてクリア」

シゲル「了解。結果報告は、BALTHASARへ」

マヤ「了解」

マコト「エントリープラグのパーソナルデータは、オールレンジにてMELCHIORへコピー。データ、送ります」

オペレーター「MELCHIOR了解、回路接続。第3次冷却、スタートします」

マヤ「CBL、循環を開始」

シゲル「廃液は、第2浄水システムへ」

マコト「各蛋白壁の状態は、良好。各部、問題なし」

オペレーター「三号機の再起動実験まで、-1500分です」

リツコ「……」

マコト「なぁ、マヤちゃん」コソ

マヤ「え、なに?」

マコト「赤木博士、戻ってきてからずっと上の空って感じだけど。なにかあったのか?」

マヤ「さぁ」

シゲル「聞いてないのか? いつも先輩先輩ってべったりのくせに」

マヤ「やめてよ、そんな言い方」

マコト「めずらしいよな。ぼーっとしてるの」

マヤ「そうね……」

シゲル「あの日かな?」

マヤ「最低」

シゲル「なんだよ、男にはわからないからそう思うゆだろう。生理の悩みってのは」

マヤ「あの人は、そんなことで動じる人じゃない」

マコト「……あの人?」

マヤ「なんだっていいでしょ。私たちは自分の業務に集中していればいいのよ」

シゲル「へーへー。あいかわらずお堅いこって」

リツコ「……マヤ」

マヤ「……」ピク

マコト「おい、呼ばれてるぞ」

シゲル「……? なんで返事しないんだ?」

マヤ「……なんでしょうか?」

リツコ「あとで私の研究室にいらっしゃい。話がある」

マヤ「……はい」

SF映画とか小説にありふれてるセリフ回しなんで難しいとかはないですよ
エヴァの雰囲気を演出する為、合間に導入してる感じで実際にアニメで使用されているやりとりも含まれてます

難しいのはモチベ維持ですね

飽きたとかではなく、きちんと書ききることは約束します

【工業団地 マンション】

レイ「……」ギィー バタン

マナ「えっと、おかえりなさい。学校、どう? 鈴原くんたち元気にしてる?」

レイ「……」スタスタ

マナ「あ……」

レイ「……」シュルシュル

マナ「あの、お世話になるから床の拭き掃除しておいたんだ」

レイ「そう」パサ

マナ「好きな食べ物ある? よかったら、私」

レイ「なぜ、まだここにいるの?」

マナ「えっ、だ、だって」

レイ「碇くんにいつまで甘える気?」

マナ「……っ」

レイ「とっくにいなくなってたと思ってた」

マナ「そんな、私が勝手な行動をして、シンジくんの足手まといに」

レイ「あなたは碇くんを利用してるだけ」

マナ「ち、違うもん! そんなつもり……!」

レイ「なにも違わない。助けてもらって、縋るだけ。待つだけの選択しかしてない」

マナ「それが最善だと、思うから」

レイ「……」スタスタ

マナ「なによ……いきなりそんな」

レイ「……?」ピク

マナ「シンジくんの前では引き受けたくせに」

レイ「だめ。まだアダムの声に耳を傾けちゃ」

マナ「……どうしたの?」

レイ「どいて」ドン

マナ「きゃ」ドサ

レイ「……」ゴソゴソ

マナ「いったたぁ~。ねぇ、どうしたの? 突然。なに探してるの?」

レイ「あなたには関係ない」

マナ「……そうやっていつも私ばっかり! 除け者にして、私だってシンジくんの力になりたい気持ちはあるんだから!」

レイ「……鍵、置いておくから」

マナ「待ってよ!」ガシッ

レイ「なに?」

マナ「わかるように説明して! シンジくんになにかあったの⁉︎ ムサシは⁉︎ ケイタも⁉︎」

レイ「……」グィ

マナ「行かせないよ! ちゃんと説明してくれるまで離すもんですか!」

レイ「碇くんが危険」

マナ「だからどうして!」

レイ「アダムの覚醒がはじまった。干渉を受けてる」

マナ「アダムってなに⁉︎」

レイ「どいてくれる?」グィ

マナ「お願い! 私だって力になりたいの!」ギュ

レイ「……」キッ

マナ「睨んだって……きゃあっ⁉︎ ……なに、今の。見えない、壁?」ペタン

レイ「……」クルッ

マナ「どうして⁉︎ どうして、私だけ! アスカだって知ってるんでしょう⁉︎」

レイ「知りたいのなら碇くんから聞いて」

マナ「私もついていく!」

レイ「……」

マナ「ムサシやケイタが心配なのよ。お願い、綾波さん」

レイ「何があっても碇くんを裏切らないと約束できる?」

マナ「それって、どういう意味……」

レイ「あなたは、敵?」

マナ「敵なんかじゃないよ! そんなわけない!」ブンブン

レイ「状況は変わるわ。仲間と碇くんだったらどっちをとるの?」

マナ「え……」

レイ「今、決めて」

マナ「仲間って……そんなの、選べないよ」

レイ「だったら、一緒にはいけない」

マナ「……っ。ねぇ、なんでそういうこと聞くの? 私には、わからない」

レイ「……」

マナ「向こうにつくまでに結論を出すんじゃだめ?」

レイ「先延ばしにしても意味はない」

マナ「……どっちも。だって、ムサシもケイタも、シンジくんだって大切な人だもん」

レイ「大切? 希望なのよ、あなたにとっての碇くんという存在は」

マナ「え……?」

レイ「現実を打開してくれる人。自分じゃできもしない、ということの」

マナ「……」

レイ「期待が最悪の形で裏切られた時、どうするの?」

マナ「最悪の、形?」

レイ「生は死のはじまり、死は現実の続き。残された者は悲しみを背負って生きなければならない」

マナ「やめてよ、さっきから不吉な感じがする。ムサシは? ケイタは? ねぇ、綾波さんはなにがわかるの……?」

【厚木基地 ゲート駅前】

放送「2番線に、第三新東京方面行き、特急リニアが参ります。危ないですから、黄色い線の内側までお下がりください」

駅員「電車は、4時20分発、厚木行きの最終列車です。工事のため、ダイヤ改正にご理解をいただき……ん?」

シンジ「……」

駅員「キミ、そろそろ最終列車が」

シンジ「はい」スッ

駅員「ちょ、おい、どこに行くんだ、ゲートはもう閉まって」

シンジ「いいんです」

駅員「いいって、帰れなくなるぞ? ……中学生か?」

シンジ「ほっといてくれませんか」

駅員「まいったな……。いいかい? 次の電車が今日の最終電車なんだ。これを乗り逃すと第三新東京都市行きはない」

シンジ「……」スタスタ

駅員「お、おい! だから待てって!」ガシ

シンジ「離してください。急いでいるので」

駅員「いや、だからだね……あぁ、ひょっとして、厚木基地に親御さんがいらっしゃるのか?」

シンジ「……」

駅員「そういうことか。すまない、早とちりして取り乱してしまった」

シンジ「いえ。それじゃ、僕はこれで」スタスタ

駅員「ゲートはしまってるからな! 電話して迎えに来てもらえよ! じゃなきゃ守衛に……ありゃ、無視して行っちまった。ったく、なんだよ、人が親切に」ブツブツ

シンジ「う、うぅ」ヨロヨロ

シンジ(少年)「大丈夫? 目的地はすぐそこだよ」

シンジ「気分が、悪いんだ。悪い夢を見ているみたいで」

シンジ(少年)「理性を保てないの? そうか、脆いんだね」

シンジ「さっきの駅員さんに隠すのが、精一杯だった。どうしたらいいの?」

シンジ(少年)「我慢は辛いものね。それだけでストレスになる、解放されたいと願う」

シンジ「さっき、僕の力になってくれるって言ったじゃないか。なんでもいいから教えてよ」

シンジ(少年)「クスクス。気分が悪いってどんな?」

シンジ「なんだか、モヤモヤする。なにが原因かわからなくて、でも、気分は晴れなくて。言葉ではうまく説明できない」

シンジ(少年)「あそこにカラーコーンが置いてあるよ。試しに蹴ってみたら?」

シンジ「なんで、そんな」

シンジ(少年)「抑えつけようとするから晴れないし、ストレスになるんだ。やっちゃいけないって倫理観が働いてしまうから。“衝動”に身をゆだねて」

シンジ「う……」

シンジ(少年)「ほら、解放は気持ちいいよ? 精を解放するのだって気持ち良かったでしょ?」

シンジ「なに、言って」

シンジ(少年)「ボクはキミで、キミはボク。マヤさんとの情事は気持ち良かった」

シンジ「……っ!」ゾワッ

シンジ(少年)「またしたいなぁ。なんにせよ、解き放つというのは自己の解放でもあるんだ。“したいようにする”。これほどの自由はないし、縛り付けられるいわれもない」

シンジ「だめだ、そんなの」

シンジ(少年)「どうしてヒトは我慢して生きようとするの? 社会に必要だから?」

シンジ「……」

シンジ(少年)「ルールは弱者のためにあるんだ。ボクとキミには必要ない」

シンジ「キミは、まだ産まれたばかりだからわからないんだね。人の気持ちが」

シンジ(少年)「気持ち?」

シンジ「もしかしたら、綾波もそうなのかもしれない。でも、わからないままじゃ」

シンジ(少年)「キミの目標は把握してる。だからボクが力を貸すよ」

シンジ「な、なんだ……っ? 身体が⁉︎」

シンジ(少年)「魂は溶けて混ざり合う」

【ネルフ本部 ターミナルドグマ】

リリス「……」

ユイ「母さん。もうすぐ、もうすぐよ。私の息子が新しいセカイの創造主となる」

カヲル「自分を憎むなんて憐れな生き物はリリンぐらいだ」スッ

ユイ「……」キッ

カヲル「大げさだね。聖域に踏み入られ怒っているのかい? 形だけの容れ物に対して」

ユイ「元がアダムスだからよ」

カヲル「初号機にコアを用意した。あなたの計画通りに」

リリス「……」

ユイ「ヒトは誰しもA.T.フィールドを持ってる」

カヲル「自分の居場所を守るため、拒絶しながら生きているから。呼び方を変えただけ。A.T.フィールドとは“心の壁”。だからこそヒトの形を保てる」

ユイ「産声をあげた瞬間、すでに孤独と拒絶のはじまり。他人と同じはありえない。リリス、アダム、始祖と呼ばれるこのヒト達は数億年、いいえ、もっと長い間、悠久の時を孤独と隣合わせに生きてきた」

カヲル「……」

ユイ「自己の確立……寂しいものよね。希望を信じて終わらない小石を積み上げ続ける。サイの河原のように」

カヲル「そこに幸せを見い出すヒトもいる」

ユイ「“知らなければ”、ね。無知とは罪であり、幸福。知ればすべてが色褪せてしまうから。タブリス、頼みごとがあるの」

カヲル「なに?」

ユイ「シンジの為に死んでくれない?」

カヲル「改めてお願いしているの? 元々ボクの役割はそうだった。シンジくんを完全にアダムとひとつにするため。その先に、リリスとの禁じられた融合がある。委員会の思惑とは別に」

ユイ「全ての使徒と、18番目の使徒(人類)を真の姿に。老人達が求めているのは安らぎ。魂の平穏は与えられるわ……死をもって」

カヲル「シンジくんに“聖痕”を刻む……その時がきたということか……」ピク

ユイ「……?」

カヲル「これは……! 覚醒が、はじまっている⁉︎」

ユイ「そう」

カヲル「なぜ……! まだボクはここに……はっ、ま、まさか」

ユイ「気がつくのはもっとはやくなければ」スッ カチャ

カヲル「ーー……ボクを、19番目の使徒に堕としたのか」

ユイ「あなたはこの為に生まれてきた」パァン

カヲル「うっ」ヨロヨロ

ユイ「化学の力はいかが? 銃弾すら防げない脆弱な序列に成り下がった感想は?」

カヲル「ぐっ、うぅ」ドサ

ユイ「アダムの殻へと還りなさい」パァン パァン

【ネルフ本部 執務室】

ユイ「……」フキフキ

冬月「ここにいたのかね? 探したぞ」

ユイ「すみません、席をはずしておりました」

冬月「日本政府と戦自に関する追加情報だ。目論見は、こちらの心臓部ともいえるMAGIの摂収だな」パサ

ユイ「……無駄なことを」

冬月「加持リョウジに掴ませた抜け道はダミー。この時点で足元から崩壊している。容易に防衛戦を突破できはすまいよ」

ユイ「……」

冬月「とはいえ、松代にMAGIの二号機がある。そちらを占拠されたら厄介だ。ゼーレに報告を」

ユイ「我々で処理した後に」

冬月「こちらの戦力は非戦闘員が多いのだぞ。MAGIは前哨戦に過ぎん。奴らの狙いは本部施設及び残るエヴァ2体。戦自が本気になれば一個大隊の投入も……」

ユイ「シンジひとりで充分です」

冬月「初号機を使うのか?」

ユイ「覚醒したばかりのあの子にはちょうどいい憂さ晴らしになるでしょう」

冬月「覚醒しただと⁉︎ ……先程拭いていたのは、もしや、血か?」

ユイ「タブリスのものです」

冬月「殺したのだな? 俺はなにも聞いちゃいないぞ」

ユイ「今、言いましたので」

冬月「……」

ユイ「先手を打ったのです。どちらにせよ、このままだとアダムは覚醒していました」

冬月「取り込まれるという話は?」

ユイ「なくはありません。ですが、私は信じています」

冬月「信じる? 息子をかね?」

ユイ「子供のもつ可能性を」

冬月「確信がもてないままに渡るには危険すぎる橋だ。まだ、なにかあるのだろう」

ユイ「槍で封印されていたリリスも解放されます」

冬月「なに? こちらのやっていることがバレたのか?」

ユイ「まさか。そうであれば中国と米国から真っ先に潰されてますよ」

冬月「……ふぅ。では、別件か」

ユイ「とりいそいで隠す必要があるのは……もうおわかりですね?」

冬月「隠蔽工作をするか」

ユイ「葛城一尉に連絡を。こちらからシンジのサポートをします」

ボチボチやってきます

【戦自 厚木基地】

シンジ?「……クッ」テクテク

戦自隊員A「なんだお前。今日の一般開放の時間は――」

シンジ?「クックックッ」スッ

戦自隊員A「あ……?」ゴキンッ

シンジ?「人は脆い。首を一回転させただけで、こんなにも簡単にコワレてシマウ」

戦自隊員A「」ドサッ

シンジ『や、やめてよっ! なんてことするんだよ!』

シンジ?「僕の内側から見ていればいい。君の願いをボクが叶えてあげる、クッ、クックックッ」

シンジ『僕の身体を返してっ!! くそっ! どうなってるんだよ、これっ!!』

戦自隊員B「お疲れー、交代の時間だぞー」ガチャ

シンジ?「……」スッ

戦自隊員B「お前、誰だ……? お、おい。そこで倒れてるのって」

シンジ?「邪魔だよ」シュ

戦自隊員B「な、なんだっ⁉︎ き、消えっ、あ、がっ⁉︎」

シンジ?「アハ、アハハハッ!」ググッ

戦自隊員B「がっ、ぎぎっ⁉︎」ジタバタ

シンジ『ちくしょうっ! ちくしょうっ! 動いて! 僕の意思通りに動いて! 僕の身体なのに……っ! なんで⁉︎』

戦自隊員B「……うっ」ダラン

シンジ『……っ! ちょ、ちょっとまってよ。本当に、なにしてくれちゃってるんだよ……。ふ、二人も、首を』

シンジ?「障害物だから」パッ

戦自隊員B「」ドサッ

シンジ『やめてって言ってるだろうっ!! なんでこんなマネをするんだよっ!!!』

シンジ?「僕と君は二人でひとつなんだよ。それが、導かれてきた道」

シンジ『だったら僕の言うこと聞いてよっ!!』

シンジ?「聞いてるじゃないか、こうして」

戦自隊員B「……くっ、く、そ」カチ

「緊急警報! 緊急警報! 非常警戒が発動されました! 隊員は速やかに――」ビィィィィィィィ

シンジ?「まだ息があったんだ?」

戦自隊員B「このっ、ボタンはぁ、当直に、渡されてるもんだ。押したら、瞬時に、警報が発動される……」

シンジ?「あいかわらず、群れだね」

戦自隊員B「ざまぁ、みろ」

シンジ?「ふふ、中指を立てるのが遺言かい?」ゴシャ

戦自隊員B「」ベチャ

シンジ『うっ! うっ、おぇ、おぇぇっ!』

シンジ?「血の赤。頭に穴が開いてしまったね。まだ返事はできる?」グィ

戦自隊員B「」ダラン

シンジ『おぇぇっ!』

シンジ?「意識の中で吐くなんて器用なことをするね、もう一人のボクは。大丈夫、キミがやりたくないと思うのなら――」

戦自隊員C「な、なにがあった⁉︎ 大丈夫か⁉︎」バタンッ

シンジ?「全部、やってあげるよ」ニタァ

【数分後 厚木基地 第四区画】

戦自隊員(伍長)「撃てっ! 撃てーっ!!」

戦自隊員達「くそったれがぁぁっ!」ババババッ

シンジ?「クッ、クックックッ」パキーン

戦自隊員D「だ、ダメです。銃弾は無効! 見えない壁に遮断されています! 伍長! このままでは!」

戦自隊員E「――……そのをどけっ」カチャ

戦自隊員(伍長)「間に合ったか」

戦自隊員E「グレネードランチャー。通路にまで被害が及びますが、本当にぶっぱなしちまっていいんですね」

戦自隊員(伍長)「かまわん、やれ」

戦自隊員E「アイサー。見た目はガキだが……バケモノめ! コイツで終わりだ!」カチッ バシュゥ~

シンジ?「……クックッ」テクテク

ドォォォンッ

戦自隊員(伍長)「やったか」ホッ

戦自隊員E「ひとたまりもありませんって。バラバラですよ」

戦自隊員(伍長)「通信室に繋げ。この区画の換気扇をフルパワー動作させろと伝えろ」

戦自隊員D「は、はいっ!」カチ

戦自隊員(伍長)「……しかし、やつはなんだったんだ? 何者なんだ?」

戦自隊員E「子供、でしたね。どこかで見た気はするんですが」

戦自隊員D「こちら第四区画、第零小隊。応答を乞う。伍長の指示により電力を……?」ポロッ

戦自隊員E「どうした?」

戦自隊員D「そ、そ、んな、ウソ、だろ。こんなこと、あっていいのか」ガタガタ

戦自隊員E「……?」

戦自隊員D「あ、あれぇっ! あれ見えないのかよ! ひ、ひぃ! こっちに、歩いてきてるじゃないかぁっ!!」

シンジ?「……」ニタァ

戦自隊員達「……っ⁉︎」ギョッ

シンジ?「やるべきことは済んだのかい?」テクテク

戦自隊員(伍長)「ば、バカなっ⁉︎ そんなっ⁉︎」

シンジ?「リリンに還れ」シュタッ

戦自隊員D「――ごえっ⁉︎」グシャ

シンジ『動け、動け動け動け動け動けッ!! 動け動け動け動け動け動けッ!!』

戦自隊員E「助けっ、たすけてっ」ゴシャ

シンジ『動け動け動け動けッ!! 僕の意思通りに、動いてよぉ……』

戦自隊員(伍長)「ほ、本部にもっと応援をッ、ぐぁっ」ドサッ

シンジ『なんでだよ……なんでこんなこと……! もう、やめてよぉ……』

シンジ?「アッハッハッハッハッ!!」ゴシャ

シンジ『やめてって言ってるのに……みんな、逃げてよ……僕は、もう、使徒なんだ』

戦自隊員F「こ、こっちだ! うっ、ひ、ひどいなこりゃ。全隊発砲開始っ!!」ピィィィィッ

シンジ『もう誰かが死ぬのはたくさんなんだっ! 見たくないって言ってるだろっ!!』

シンジ?「そう……」ダラン

戦自隊員F「怯むなっ! 撃てっ! 撃てーっ!!」バババッ

シンジ?「うっ」チュンッ

戦自隊員F「お、当たった……? いや、かすめたのか?」

シンジ『や、やめてくれるの……?』

シンジ?「賽は投げられた。あのヒトたちはボクを殺しにくる。躊躇なんかしない。仲間を、家族といっても過言ではない同僚を殺されてるから」

シンジ『……それが……』

シンジ?「生きたい……そう願わないの?」チュンッ チュンッ

シンジ『誰かを殺してまで生きたいなんて……!』

シンジ?「なら、ここで終わりだね」スッ

戦自隊員F「……? な、なんだ? 目の錯覚か? 見えない壁が消えたような……撃てっ!」

シンジ?「ぐはっ」ドサッ

戦自隊員達「あ……当たった」ドヨドヨ

シンジ?「う、うぅ」プルプル

シンジ『ぐっ! お腹? お腹を撃たれてたの? 僕も痛い』

戦自隊員F「なんだってんだ。一体……こりゃあ。見えない壁が消えたと思えば、普通に撃たれて倒れる」

シンジ?「ぐぅ、感覚はリンクしてる、から」ゴロン

シンジ『……そうか、死ぬの? 僕は、僕たちは……』

シンジ?「クックッ、そう言ったっ、じゃないか」

シンジ『そうか……』

戦自隊員N「こ、この野郎! よくも仲間を!」グイッ

シンジ?「うっ」ダラン

戦自隊員N「ちゅ、中学生か? この悪魔めっ!! 化け物野郎っ!!」ゴスッ ゴスッ

シンジ?「うっ、がはっ」

シンジ『うっ、痛っ、ごめんなさい、ごめんなさい。僕のせいで、ごめんなさい』

シンジ?「キミは……どうして、生に対して執着がないの?」

戦自隊員N「……なんだ、こいつ? なに言ってるんだ?」

シンジ『僕がいたら、迷惑をかける。だったらいない方がいいんだ。僕がいなければ……』

シンジ?「くっ、クックッ……他人へ迷惑をかけないのが、優しいとでも思っているのかい?」

シンジ『みんな同じなんだっ! だからっ……僕のせいになりたくない』

シンジ?「ようやくわかった。キミは生に執着がないんじゃない。守る手段がそれなんだ。他人へのコンプレックス。自分を卑下して見てる」

戦自隊員N「イかれてるのか……」

シロウ「そこまでだ」コツコツ

戦自隊員F「あなたは、なぜ……時田博士の管轄下ではないでしょう⁉︎」

シロウ「ドンパチと花火をしているから見に来たのだよ。見物にね」

シンジ『……もう、いいんだ。僕が死ぬのなら、死んで終わるのなら、それで』

シロウ「倒れている子を私は知っている。どうだろう? 身柄をこちらに預けてほしいのだが」

戦自隊員F「ばっ、ばかなことを言うなぁっ!! こいつに何十人ヤラられたと思ってやがるっ!!」カチャ

シロウ「このまま殺してしまうのは簡単だが、裏に誰がついてるのか明らかにできないのではないか?」

戦自隊員F「裏だと?」

シロウ「そいつはネルフ所属のサードチルドレンだよ」

戦自隊員F「な、なにっ⁉︎」バッ

戦自隊員N「こ、こいつが……? たしか、この前、ここに来てたっていう」

シロウ「一日しかいなかったからねぇ。顔を知らないままだった隊員も多いだろう」ゴツン

シンジ?「うっ、はぁっ、はぁっ」ゴロン

シロウ「ふむ……。実に興味深い。さき程まではどうなって銃弾を防いでいた?」ゴソゴソ

シンジ『もう、殺してよ……』

【シンジ 意識の中】

シンジ「……ハッ! ここは……まただ。また、電車の中……」

レイ『碇くん』

シンジ「綾波っ!!」グィ

レイ『』ドサッ

シンジ「ひっ⁉︎ し、死んで……」

アスカ『シンジ』スッ

シンジ「あ、アスカっ! よ、よかった! ここはどこ? ……なんで僕はここにいるの!」

アスカ『……』チラ

レイ『』

シンジ「か、帰りたいんだ! ここにはいたくない! ねぇ、アスカなら知ってるんだろう⁉︎ なんでもできるアスカならっ!」

アスカ『ぷっ、必死ね』ボソ

シンジ「……っ!」ビクゥ

アスカ『そうやって、いつもいつもいつもっ! 自分のやりたいことばっかり! なんで私がここにいるか考えないの?』

シンジ「い、いやなんだ。とにかく、ここには、いたくなくて」

アスカ『あたしを考えないやつに、どうして優しくしなくちゃいけないの……?』

シンジ「そっ、そんなこと言わないでよっ!! 今はいたくないんだっ!! どうしてわかってくれないんだよっ!!!」グィ

アスカ『気持ち悪い』

シンジ「……!」

アスカ『気持ち悪い、気持ち悪い……気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い』

シンジ「ひっ、や、やめてよっ、お願いだから」

アスカ『気持ち悪い……かはっ』

シンジ「やめろって言ってるだろっ!!」ググッ

アスカ『かはっ、い、息が……』

シンジ「……クッ……クックッ」ギリギリ

アスカ『うっ、がっ』キンッ

シンジ「……はぁっ、はあっ……」

アスカ『』ダラン

シンジ「……は、あ、アスカ……? アスカってば、どうしたの? ね、ねぇっ!」

アスカ『』

シンジ「な、なんでっ、首が、折れてるんじゃ……誰がこんなこと……」

シンジ(少年)「キミだよ」

シンジ「ち、違う、僕はそんなことしない。できるわけがないっ!」

ミサト『どうして?』

シンジ「だ、だってっ、僕はただの中学生で、ただの一般人で」

ミサト『一般人だったら、人殺しはできないの?』

シンジ「ち、違うんだっ! そんなつもりじゃ!」

リツコ『犯罪者はみんなそう言うわ。言い訳?』

シンジ「帰りたかっただけなんだ!!」

ミサト『人殺し』

リツコ『人殺し』

マヤ『私のことも利用してたのね! 人でなし!』

シンジ「ど、どうして、マヤさんまでそんなこと」

シンジ(少年)「ねぇ、なぜキミはヒトの常識、社会のルール、道徳観念に囚われているの?」

シンジ「だって、やっちゃいけないことだって」

シンジ(少年)「それはヒトだからでしょ? 群れからはみ出さないための」

シンジ「もう、イヤだ。ジブンが、わからなクなる」

シンジ(少年)「生物としての願いは、もっと単純なんだよ」

シンジ「いやだ、いやだ、誰か、助けてっ、僕に優しくして」

シンジ(少年)「ダメだ」ギロッ

ゲンドウ『シンジ』

シンジ「と、父さん……?」

ゲンドウ『……』

シンジ「な、なにか言ってよ。心細いんだ、もう、僕を置いていかないで。僕を、捨てないで……ね、ねぇっ、父さんっ!!」グィ

ゲンドウ『』ドサッ

シンジ「う、うわぁあああああああッ!!!」

【アデル城 玉座】

大臣「また夜分遅くにこんなところで。歳も歳なんですからご自愛くださいといつも申しておりますにた

王様「ふぉっふぉっ。また、あの時の夢を見てしもうての。ワインを飲み気を紛らわせておったところじゃ」

大臣「もうお忘れなさい。あれは、あの“事件”は仕方ないことだったのです」

王様「悔やんでも悔やみきれなんだ。あれから……勇者は、両親に、ワシに……いや、人間に対する目つきが変わってしまった」

大臣「普段おちゃらけてますのは、その反動でしょうな」

王様「理解者は少ないがおる。アイーダの酒場の店主、城内の兵士達の一部。だが、ワシも含めて、目の奥に宿った恐怖は、ぬぐいされるものではない」

大臣「……」

王様「恥ずべきことよの。王が、たった一人の人間に恐怖し持て余すとは。大臣よ、勇者とはなにか? そう聞かれた時になんと答える?」

大臣「人類の代表であり、女神の代弁者です」

王様「違う、違うのだ。勇者とは“孤高”であり“孤独”である。てっぺんのいただきに立つ瀬に見る景色は、そこに立たなければわからぬ」

大臣「陛下のような……?」

王様「王とはいうなれば、民達の親である。ワシもワシで孤独を感じることに否定はしない。勇者の抱えるものは、それよりもっと、異質なのだ」

大臣「人は、誰しもが心に孤独を感じて生きております。繊細であればあるほど過敏になりましょうが」

王様「だからじゃよ。あの子に対して普通の子と同じように接するべきじゃった。勇者として利用するのではなく」

大臣「……」

王様「(ワシは信じる。おぬしの帰るべき場所を用意して待っておるぞ。勇者よ)」

誤爆です。見なかったことに。。

先にこちらの更新を再開します

シンジ「いやだ。……いやだ、ここにいたくない。僕を、だれか助けて。助けてよ……」

ゲンドウ『シンジ』

シンジ「偽りの父さんなんていらない」

ゲンドウ『なぜだ』

シンジ「アナタは僕が望んだ父さん。本当の父さんは違うから」

ゲンドウ『お前に俺のなにがわかる』

シンジ「わからない。わかるはずもない」

ゲンドウ『では、違うと至るまでの経緯はなんだ』

シンジ「ふ……ふ、ふふっ、あははっ。やだなぁ、笑わせないでよ。僕の気が狂ったのかと思うじゃないか」

ゲンドウ『質問に答えろ』

シンジ「白々しいマネだって言ってるでしょッ!! 父さんが……父さんが、笑顔で……っ! そうやって僕に微笑みかけるわけがないじゃないかッ!!」バンッ

ゲンドウ『……』

シンジ「ヤシマ作戦決行の少し前、父さんが綾波と談笑してる姿をエスカレーター前で見かけたことがあるんだ」

ゲンドウ『……』

シンジ「羨ましい。そう思った。どうして父さんは綾波にそういう表情で話しかけるのか、疑問だった。……でも、それ以上に、父さんでも笑うことあるんだって驚いたんだ」

ゲンドウ『……』

シンジ「僕たちは親子なのに……おかしいよね。日常会話はおろか、笑っているところさえ記憶にない」

ゲンドウ『俺に認めてもらいたかったのか』

シンジ「わからない。ぼくは、僕は、アスカが言うように子供で、まわりなんかなにも見えてなくて……」

ゲンドウ『……』

シンジ「頑張ろうと、背伸びはした。でもうまくいってるか不安で、自信もなくて」

ゲンドウ『人は皆、失敗と過ち(あやまち)を繰り返し、学習する』

シンジ「自分が傷つくのがこわかったんだ。だから、傷つくことから逃げちゃだめだと思った」

ゲンドウ『鈴原トウジの妹を転院させる折、お前は俺に土下座をしたな』

シンジ「……うん、覚えてる」

ゲンドウ『今一度問おう。エヴァに乗り戦い続ける限り、犠牲はつきものだ』

シンジ「……」

ミサト『シンジくん。あなたがエヴァに乗るのよ。あたしに言われたからではダメなの?』

シンジ「ミサトさん……」

ミサト『人類を救うパイロット。希望なの……ごらんなさい。あなたが守った生活を、人々の都市を』

シンジ「……違うッ!!」

ゲンドウ『なにが違う?』

シンジ「人類とか、そんな大それたもののためじゃない! 大義なんて僕にはないッ!」

ゲンドウ『親しい者の為か。それ以外はどうなってもいいか』

シンジ「……」

ゲンドウ『この世に悪行も善行もないと、まだ理解できないのか。強者と弱者がいるのみだ』

シンジ「僕は……僕は……」

ゲンドウ『搾取される側に回ると、他人に利用される。お前の望みを、理想の手段で叶えるなど不可能だ』

シンジ「……」

リツコ『生物。その本能に従えば、“自分”という存在が最上位にくる。余計な倫理観など捨てて、正直にすればいいのに』

ミサト『リツコの言う通りよ、シンちゃん。みぃ~んな、自分が可愛いもの』

レイ『……人でありたい?』

アスカ『あんたの身体の中にはアダムがあるんでしょ? だったらとっくに人じゃないじゃぁ~ん!」

【シンジ 深層意識の中 校舎】

カヲル「……やぁ、また会えたね。シンジくん」

シンジ「君は……カヲルくん……。ここは、景色が……学校……?」

カヲル「魂の部屋で再開するとは思わなかったけど、こうなるのが運命(さだめ)なのかもしれない」

シンジ「父さんっ! ミサトさん! リツコさんっ!」

カヲル「無駄だよ。ここにいるのはボクとキミだけ」

シンジ「うっ……ぐすっ」

カヲル「ガラスのように脆いね。人は。……生命だけじゃない。心が、形作るに値するもの」

シンジ「だれか、だれか……」

カヲル「縋れる他人を探しているのかい? 安心するために。不安をぬぐいさってくれる」

シンジ「そうだよ! それのなにが悪いの⁉︎ 別にいいじゃないかっ!!」

カヲル「そうやって、他人を警戒して攻撃的になる。こわいから」

シンジ「うるさいッ! 僕のことなんかほっといてくれよ!」

カヲル「そうもいかない」

シンジ「なんでだよ、どうして……ミサトさんも、リツコさんも、母さんも……」

カヲル「キミは補完計画の要(かなめ)たるトリガーだから。碇シンジくん」

シンジ「……」

カヲル「さぁ……ボクとひとつになろう。ボクの肉体は碇ユイによって破棄された。シナリオは進んだんだ」

シンジ「ひとつに……? だって、カヲルくんは……まさかっ‼︎」

カヲル「気がついたかい? ボクはアダムの半身たる容れ物。それこそが母君の狙い。さまよえる魂の還るべき場所は、元あるカタチ」

シンジ(少年)『……おかえり』

カヲル「ただいま」

シンジ「そ、そんなっ‼︎ カヲルくんっ! 待って!!」

カヲル「大丈夫。なにも怖がらなくていい。僕たちはこれからずっと一緒にいられる。キミは僕となり、僕はキミなのさ」スゥー

シンジ「ぐ……っ!」ドサ

シンジ(少年)「僕たちはひとつになる」スッ

シンジ「うぷっ、うぇっ、おぇぇっ」

シンジ(少年)「産みの苦しみ、誕生は苦痛を伴う。それは過去を解体し、処分し、新しい息吹に再生」

シンジ「はぁっ……はぁっ」

シンジ(少年)「渚カヲルは肉体という枷から解放され“魂”という不定義な概念へと進化した。還るべきは元あるカタチ」

シンジ「ぐぅっ」

シンジ(少年)「……僕の中にだよ。カヲルくんは、僕。僕たちはキミなんだ」

シンジ「やめ……てっ、なんで、僕の中にっ……はいって……くるんだよっ! 出ていってよ!」

シンジ(少年)「それは違う。入ってきたんじゃない。最初からひとつだったんだよ」

シンジ「そんなのっ、知らないっ」

シンジ(少年)「人は世代を紡ぎ生きている。その過程で“伝説”になり、“神話”として語り継がれ余計な尾ひれまでついてしまった」

シンジ「ぐあぁっ」ドサッ

シンジ(少年)「死海文書に記されていた原典は、神話でも、おとぎ話でもない。太古の昔、数億年前に“実際に起きた出来事”なんだ。その証拠が僕であり、使徒であり、リリス」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年08月19日 (土) 21:16:25   ID: h6-CXeDI

頼むから完結してくれ

2 :  SS好きの774さん   2018年03月07日 (水) 18:45:15   ID: M3OPfuU5

完結してないのに完結タグつけんのやめーや

3 :  SS好きの774さん   2019年07月08日 (月) 18:51:14   ID: rDC1i2aT

完結して。

4 :  SS好きの774さん   2020年02月14日 (金) 06:47:27   ID: _gMa_VbL

前編中編と続いて後編を書く前に一本化の改訂作業に入ってそのままエタ・・・
お前はなろう作家か

5 :  SS好きの774さん   2021年03月28日 (日) 20:21:39   ID: S:HqiB1i

期待

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