美渡「こらー!バカチカー!!」 (152)

このSSは美渡姉中心で
高海家のifストーリーです。
気軽にどぞ。

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千歌「あー!もーう!分かったから!」

美渡「あんたそればっかりでしょーが!だいたいこの前だってあんたは…」

私は…。

千歌「いちいち怒らないでよ!いつも!いつも!いつも!」

千歌「私だっていつまでも子どもじゃないの!」

美渡「あんたなんかまだまだガキなんだよ!責任の意味をなんも分かっちゃいない!」

千歌にとっての………『敵』。


美渡「そんなんでリーダーが務まるとは思えないわね!」

千歌「はぁ!?」

千歌「今その話が関係あるの!?だいたい美渡姉には関係ないじゃん!余計なことまで首突っ込まないで!突っ込まないでよ…ぐすっ」

千歌「そ、そんなの!私自身が一番分かってるに決まってるじゃんかぁ!うっ…うぅ……」

美渡「怒ったと思ったらすぐに泣き虫?相変わらず弱っちぃ精神だこと!」

また嫌われんな、これ。


千歌「………」

千歌「美渡姉なんて…美渡姉なんて…」

千歌「だいっきらい!!!」

美渡「あ、千歌!話は終わってない…、ったく」

美渡「………」

美渡「あはは。なんだかなぁ…」

ほんと…。


志満「美渡…ちゃん?」

美渡「あ、志満?」

志満「………大丈夫?」

美渡「また千歌に嫌われちゃったな~。しょうがないことか…私が決めたことだしな」

そう…。私が決めた。私の意志で。


志満「美渡ちゃん…」

志満「ごめんね?いつもいつも嫌な役押し付けて…」

美渡「なんだよ、改まって!千歌と私の仲なんて昔とあんま変わらないじゃん?」

そう、決めたんだ。

志満「でも、美渡ちゃんは…!」

美渡「気にすんなって!それより千歌にフォロー入れといてな、志満!」

志満「あっ!美渡ちゃん…行っちゃった」

志満「………こんな弱いお姉ちゃんでごめんね」


美渡の部屋

私は部屋に戻り、ベッドに横たわりながら
天井を見上げる。すると…。

美渡「………」


『うっ……くっ、み、美渡姉のバカ!………だいきらい…きらい……。う、うぅ…』


美渡「(千歌…ごめんな?)」

美渡「(こんな姉ちゃんで…)」


『美渡姉はわたしのこときらい…なんだ…。き、きら…。やだ、やだよぉ…うぅ、きらっちゃやだよぉ……』


美渡「くっ…」

美渡「(でも、ダメなんだよ千歌。私は、あんたの『敵』でなきゃならない)」

美渡「(約束…だから)」


『千歌ちゃん?入るよ?』

『うぅ…』

『もう…お布団ぐちゃぐちゃにして…』

『志満姉…。志満姉!』

『よしよし…』


美渡「(志満にも心配させちまって…でも、志満にはこの役は似合わないや)」

伝った涙を雑に拭い、気を引き締める。

ふと、棚の上に飾ってある写真に目をやる。
そこに写るのは『5』人の笑顔。
あ、しいたけもいるや。
私と千歌と志満、母さん。


そして─────『父さん』。




…ったく、嬉しそうに笑いやがって。
私…上手くやれてっかな?
まあ、参考が父さんじゃこうなるか。
どうせ見てるくせにさ…
助言くらいよこしやがれ!
恨むよ…?なーんて…。
恨むなら父さんが私にかな?
文句は言わせねぇけどな。


『バカ』親父…。



ーーーーー

約10年前…

高海家

千歌パパ「こら!『バカ』千歌ー!!!」

ちか「ご、ご~め~ん!もう!もうやらないから~!」

千歌パパ「泣いて許されると思ってるみたいだが俺は許さないからな!」

ちか「だ、だって!だってぇ…!」

みとしま「………」


千歌パパ「俺の…俺の…!」


千歌パパ「俺の楽しみにしていた!アイツ(千歌ママ)が東京で買ってきたプリン勝手に食いやがってー!!!」


千歌パパ「許さん!許さんからなー!!!」

ちか「テーブルのうえにおいてたから…おやつかとおもって…ご、ごめんなさ~い!うわ~ん!」

美渡「あほくせー…」


千歌パパ「アホくさい…?」

美渡「あ、やべっ!」

千歌パパ「美渡ぉ?いつの間にか生意気言うようになったな~?父さん悲しいぞ~!」

美渡「うっせぇよ!バカ親父!べぇーっ!」

千歌パパ「ほう…?」

志満「み、美渡ちゃん!ほら、お父さんも!二人とも喧嘩はダメだよ~!めっ!」

千歌パパ「志満…!やはり、お前は良い子だなぁ!アイツに似てきたな~!」

志満「えへへ♪」


ちか「あ!しまねぇちゃばっかりズルい!ちかもなでて~!」

千歌パパ「すぐにケロッとしやがって…。将来は大物か?うりゃうりゃうりゃ!」

ちか「あわわわ!おとうさ、かみぐちゃぐちゃになる~」

美渡「………」

千歌パパ「ほら!美渡もこっちに…」

美渡「うっせぇ!!!」

ちかしま「!?」


千歌パパ「おまっ…急にどうした?」

美渡「いっつも志満や千歌ばっかり構いやがって…」ボソッ

千歌パパ「ん?今なんて…」

美渡「だいっきらいだつったんだよ!バカ親父!」

千歌パパ「み、美渡…!」

美渡「くっ…」

ちか「みとねぇちゃ?」

志満「行っちゃった…」

千歌パパ「………」

千歌パパ「あはは、上手く行かんもんだなぁ…」


美渡の部屋

美渡「バカ親父…!ぐすっ、わたしにも…わたしにもすこしは優しくしてくれたっていいじゃんかよぉ…!」

この時の私はとにかく父さんが嫌いだった。
今思えば長女は可愛い
末っ子は心配ってやつか?
まあ、まだ完全に許したわけじゃねぇけどな?
父さんは私のことなんか嫌いなんだって
本気でそう思ってた。
そんな時、いつも優しかったのは…。

「美渡?入るよ?」


美渡「あ!開けるな…!」

千歌ママ「遅いよ?うふふ、全く。またこんなにお布団鼻水だらけにしちゃって…」

美渡「う、うるさい…。親父が悪い…」

千歌ママ「またあの人か…はぁ」

千歌ママ「ほーら!いつまでもグズッてないでこっちに来なさいな!」

美渡「………いい」

千歌ママ「拗ねちゃって…いいの~?お母さん行っちゃうよ~?美渡~?」

美渡「~~~!」


千歌ママ「あー!取っ手に手をかけちゃった!お母さん出てっちゃうよ~?いいの~?」

美渡「………」

美渡「うぅ…」

千歌ママ「ふふっ…ほーら?」

美渡「かあさ~ん!」

千歌ママ「おっと…!力強くなっちゃって…」

美渡「バカ親父~!うわぁぁぁん!」

千歌ママ「よしよし…」


私が拗ねる度に母さんは私を慰めてくれた。
今でも頭が上がらないのは変わらないや…
あ、いや身長の話はNGだ。
母さんは怒ったら怖いんだよなぁ…

まあ、さておき。

確かこれは私が小2くらいの時の話か…
父さんなんてどっか行っちまえ!
っていつも思ってたなぁ。

そう思ってた次の年だったかな?
父さんの単身赴任が決まったのは…。


翌年

千歌パパ「んじゃ、父さん行ってくるわ!」

千歌ママ「無茶しちゃダメだからね?時々様子見に行くからさ?」

千歌パパ「ああ!」

しいたけ「あうっ!」

千歌パパ「おっ!しいたけ!やっとなついてきてくれたのにな~!俺のこと忘れんなよ~?」

しいたけ「あう…?」


ちか「おとうさ!」

千歌パパ「千歌?急に抱きついてきてどうした?」

ちか「え、えっとね?おけがしちゃダメだよ?あとかぜもひいちゃダメ!あとタバスコもだめ!」

志満「あはは、煙草のことかな?」

千歌パパ「千歌は心配性だな~?気を付けるから…」

志満「お父さん!」

千歌パパ「は、はいっ!」

志満「千歌ちゃんも言ったけど…煙草!は控えめにね!」

千歌パパ「わ、わかりました…」


千歌ママ「さすがのあなたも娘には敵わないか!」

千歌パパ「そりゃあな?」

千歌パパ「………美渡は?」

ちか「みとねぇちゃ…おへやからでてこない…」

志満「私も呼んだけど…『どうでもいい…』って言われちゃって…ごめん、お父さん」

千歌パパ「お前が謝る必要はないよ、志満。悪いのは父さんなんだから」

志満「お父さん…」


ちか「んーっ!」ギュー

千歌ママ「こ、こら千歌?お父さん、電車の時間もあるからもう離れなさい?」

ちか「やだぁ!まだわかれたくないー!」

千歌パパ「弱ったなぁ…じゃ、千歌?父さんからお願いをするから聞いてくれるか?」

ちか「う、うん…」

千歌パパ「お母さんの言うことはちゃんと聞くこと。曜ちゃんや果南ちゃんたちと仲良くすること。あとは…」


千歌「あとは?」

千歌パパ「いや、これはまだいいや!」

千歌「う~ん?」キョトン

千歌パパ「やっぱり言うか…一番大事なことだ!」

千歌パパ「お姉ちゃんたちと仲良くな!」

ちか「わかった!」

千歌パパ「よーっし!約束な!」

ちか「うん!」

千歌パパ「よし!………志満?」

志満「はい?」

千歌パパ「美渡を頼むな?」

志満「わかった…」


ちか「ちかもがんばるからおとうさもがんばって!」

千歌パパ「おう!頑張るよ!」

千歌ママ「気を付けてね?」

千歌パパ「ああ…女将の仕事、従業員の皆さんと協力して頑張ってな?」

千歌ママ「ええ!任せなさい!」

千歌パパ「………」

千歌パパ「………行ってくるな、美渡?」


美渡の部屋

千歌と志満が大きな声出して
父さんに手振ってる姿を
私は窓の端からこっそり見ていた。

美渡「二度と帰って来んな…バカ親父」

その時父さんが不意に私の方を見た気がした。
私はなぜか隠れてしまった。

やっぱり、私は父さんに似たんだろうな…
父さんがいなくなって嬉しいなんて
言葉には出してみたけれど

美渡「ばか…おやじぃ……うぅ…」


私は
千歌よりも
志満よりも
父さんが大好きだったんだって
気付かされたんだよな…

この時、見送らなかったことを
すごく後悔したのを覚えてる。

美渡「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

その日から私は…。


美渡の部屋前

ちか「みとねぇちゃ!おとうさ、いっちゃったよ!」

志満「そうだよ?どうして見送らなかったの?」

ササーッ

美渡「………」

ちか「みとねぇちゃでてきた!」

志満「もう!説明してもらう…」

美渡「うるせぇ…」

志満「から………え?美渡ちゃん?」

美渡「うるせぇんだよ!」


ちか「みとねぇちゃ!けんかは…」

美渡「邪魔!」ドンッ

ちか「ひゃっ!?………うぅ、うわぁぁぁん!」

美渡「泣き虫~!バーカ!」

志満「千歌ちゃん!?………美渡ちゃん?」

ちか「みとねぇちゃがちかいじめたぁぁぁぁぁ!!!」

美渡「ははは!もうバカ親父もいねぇーし、どんだけ泣いてもバカ親父は助けに来ねぇよ!」

志満「こら!美渡ちゃん!千歌ちゃんに謝りなさい!」

美渡「うるせぇよ!『志満』!」

志満「『志満』…ですって?」

美渡「今までめんどくさかったんだよ!少ししか違わねぇのに『姉ちゃん』なんてさ!」

志満「………」

美渡「これからは勝手にやらせてもらうから!」

そう、私はグレる!グレて…


美渡「わかった?志満………あれ?」

志満「美渡ちゃん?」ニコッ

ちか「ひぃっ」

美渡「んだよ?い、いきなりすごんでも怖くなんか…」

志満「謝れ」

美渡「誰があや…」

志満「千歌ちゃんに謝れ」

美渡「うっ…」

志満「早く」

美渡「ご、ごめんなさ…」

志満「私にじゃない。千歌ちゃんに謝りなさい」


美渡「ち、千歌…ごめん、ごめんなさい…」

ちか「う、うん…ちかもなきむしでごめんね…」

志満「………」

志満「はい♪」

志満「仲直りできたね~!良かった~!」

美渡「(志満は今度から怒らせないようにしよ…)」

…やろうとしたけど
その決意はたったの5分でかき消された。
志満には今でも敵わねえや。

千歌ママ「あ、あれ?なんかあったの?」

その時の母さんの顔は面白かったな…。


ーーーーー

美渡「うがっ…」

美渡「あちゃ~、いつの間にか寝ちまったか…」

美渡「ははっ、懐かしい夢見てた気がするな」

『美渡?いる~?』

美渡「あれ?母さん?いーよー!」

千歌ママ「お邪魔します!………ただいま!」

美渡「お帰り。今回はどれくらいこっちにいるの?」

千歌ママ「う~ん…先方さん次第かな~?」

美渡「そっか…ごめん、母さん。無理させて…」

千歌ママ「娘が親の心配すんじゃないの!だいたい美渡だってウチのために仕事頑張ってくれてるじゃない?」

千歌ママ「親が弱音吐いちゃダメだよ!『あの人』に笑われちゃうよ!」


美渡「そうだね…」

美渡「そう……だね」ポロッ

千歌ママ「え?ち、ちょっと美渡?泣いて…」

美渡「う、嘘…あはは」

美渡「変な夢見たせいだ…」

千歌ママ「ありゃりゃ。身体はおっきくなったくせに心はちっちゃいままかな?」

美渡「うっせぇ…母さんが小さすぎるだけだ…」


千歌ママ「それでも…」ギュッ

美渡「あぅ…」

千歌ママ「お母さんだよ」

美渡「ははっ、懐かしいや…」

千歌ママ「何、ナイーブになってんの!さてはまた千歌と喧嘩かな~?」

美渡「………うっ」


千歌ママ「ま、さっき千歌の部屋に行ったら、目の下真っ赤にして寝てたからわかったんだけど」

美渡「隣なんだから全部聞こえてるっつの…」

千歌ママ「またそんな強く言ってさ」

千歌ママ「千歌が泣くってわかって部屋にこっそり戻るのもクセになっちゃったのよね?知ってるよ?」

美渡「やっぱり志満や母さんには敵わないか、昔っからだけどさ…あはは」

千歌ママ「あなたは優しい子よ?でも…いつまで」

千歌ママ「いつまで『演じ』続けるの?」


美渡「いつまで…か。そうだな~」

美渡「私が千歌が大人になったなって思うまでかな?」

千歌ママ「千歌自身が大人にじゃなくて美渡が決めるんだ」

美渡「そりゃね?」

美渡「………なあ、母さん?」

千歌ママ「なーに?」

美渡「久しぶりに昔の話でもしない?」

千歌ママ「いいけど…。さては、喧嘩だけじゃないな?そんな感じになってるのはさっき言ってた変な夢かな?」

美渡「別にいいじゃん!とりあえず、ここじゃ千歌に聞こえちゃうし場所変えよう?」

千歌ママ「はいはい」

そう言いくるめて、私の部屋を後にした。

千歌ママ「ちょうど夕焼けも綺麗だし…海にでも行きましょうか?」

美渡「りょーかい」


砂浜

千歌ママ「ん~っ!やっぱり海は良いわねぇ!見てて心が洗われるわ!」

美渡「だな~!」

千歌ママ「じゃ、いつからの話をするの?」

美渡「そうだな…じゃあ、父さんが…」


美渡「倒れた日から」


千歌ママ「………」

千歌ママ「はぁ…」

千歌ママ「美渡は意地悪だな~。暗いから楽しい話でもして気分転換するのかと思ってたのに」

千歌ママ「私…泣いちゃうかもよ?」


美渡「ははっ、母さんが泣いても子どもが泣いてるようにしか見えないって!」

千歌ママ「親に向かってそんなこと言って!」

千歌ママ「………」

千歌ママ「あの人が倒れた時か…そういえば詳しく話してなかったわね?」

美渡「細かいことはね?だいたいはまあ知ってるけど」

千歌ママ「確か、美渡が小学5年生の時だったかしら?」

美渡「父さんが単身赴任してから2、3年くらい経ってからだっけな~」

千歌ママ「単身赴任…美渡が見送らなかった時か…」

美渡「それは言わないでよ…後悔してるんだからさ」


千歌ママ「ごめんごめん。確か急に仕事先からあの人が来ないって連絡が来て、なんとか近くの救急と大家に頼んで病院まで行ったんだっけ?」

美渡「まだ千歌も幼稚園生だったし、私と志満は小5と中1で簡単に身動き取れないから母さんだけで父さんのとこに行ったんだよな?」

千歌ママ「あの時は嘘ついてごめんね?さすがに父さんが倒れたなんて言ったらどうなるか分からなかったし、私自身焦ってたし…」

美渡「言わなくて良かったよ…。その時の私、あんま父さんのこと好きじゃなかったし。聞いてても、結局私は行かなかったと思うしさ」

千歌ママ「まあ、順に話していこうか?」

そう言って…母さんは海を見ながら
話していった…


ーーーーー

病院・病室

ガラッ

千歌ママ「あなた!!!」

千歌パパ「うおっ!?びっくりしたなぁ…」

千歌ママ「大丈夫なの!いきなり職場に来ないなんて連絡が来るし…大家さんから倒れてたなんて言われるし…」

千歌ママ「バカぁ…」

千歌パパ「………すまん」

千歌ママ「無事で良かった…」

ガララッ

医師「失礼致します…」


医師「お子さんの方ですか?」

千歌パパ「あ、いや…妻です」

医師「………こほん」

千歌ママ「先生、旦那は…!」

医師「そのことについてお話があります。医務室までご案内するので」

千歌パパ「…」

千歌ママ「はい…。大丈夫…よね?」


診察室

千歌ママ「それで、旦那は…」

医師「…」

千歌パパ「気を使わないでください。なんとなく…分かりますから」

千歌ママ「あなた…?」

医師「分かりました…高海さん、あなたは…」


医師「悪性新生物…つまり、癌です」


千歌パパ「…」

千歌ママ「…は?」

医師「肺癌で手術も難しい肺の裏側に進行が見られ、残念ですが下手に手が出せず…」

千歌ママ「…待ってよ」


千歌ママ「癌って…。旦那はただの栄養失調で倒れたんですよね?そうなんですよね?」

医師「…」

千歌ママ「嘘よ…。嘘よ…!嘘よ嘘よ嘘よ!癌って…早く見つかったんですよね?治るんですよね?」

医師「すみません…。肺だけでなく他の場所にも転移が少し確認されていて、助かる見込みは…」

千歌ママ「そんな…。冗談はやめてくださいよ!なんで…なんで!」ガシッ

医師「…申し訳ありません」ペコッ

千歌ママ「イヤ…イヤよ。信じない…信じたくない…」

千歌パパ「…」


千歌パパ「お前、落ち着け」

千歌ママ「あなた…?」パッ

千歌パパ「先生?私は今からどうすれば?」

医師「延命のため抗がん剤治療を試す…。しかし、ご存じかもしれませんが相性というものがあります。延命のつもりがかえって寿命を縮めてしまうという可能性があります。医者がそういうことを言うべきではありませんが…」

千歌パパ「そうですか…。先生、私は後どれくらい生きていられるんでしょうか?」

千歌ママ「ちょっとあなた!」

医師「余命は半年。新年を迎えられるかどうか…」

千歌ママ「そんな…」

千歌パパ「そうですか。分かりました。治療の件は時間を頂けますか?」

医師「はい。ですが、早めに伝えてもらえるとありがたいです」

千歌パパ「分かりました。では、失礼します」ペコッ

医師「はい…お気をつけて」ペコッ

千歌ママ「ちょ、あなた!」


病室

千歌パパ「よっこらせっと…いやぁ、参ったな」ギシッ

千歌ママ「ねぇ…」

千歌パパ「癌か。単身赴任したのはやはり仇になったかな?飯も中途半端だし、結局煙草も吸っちまってたし…。はは、志満に怒られるな…」

千歌ママ「ねぇ…!」

千歌パパ「仕事もやめなきゃな。良い職場だったし、ちゃんと礼も言わなきゃな。後は…」

千歌ママ「ねぇってば!」クワッ

千歌パパ「…どうした?」ニコッ


千歌ママ「どうした?…じゃないわよ。なんでそんなに落ち着いてられるの?なんで笑ってるの?バカなの?」

千歌パパ「そうだな…バカかもな?」ニッ

千歌ママ「やめて…やめてよ。笑わないでよ。なに、悟っちゃってるのよ…」ウルッ

千歌パパ「はぁ…。泣くなよ…」

千歌ママ「バカ…!」ギュッ

千歌パパ「…」

千歌ママ「もう私、訳が分からないよ…。あなたがこの世からいなくなる?信じたくない…信じたくないよ!」グスッ

千歌パパ「参ったなぁ…ほんと参ったなぁ…」


………

千歌ママ「会社の方はどうだった?」

千歌パパ「今度見舞いに来てくれるってさ。泣かせてくれるね」

千歌ママ「…お義母様には?」

千歌パパ「………ああ」

千歌パパ「バカ息子だとよ…間違いねぇや」

千歌ママ「ほんとよ…」


千歌パパ「志満たちはそろそろ夏休みか?」

千歌ママ「そうね…」

千歌パパ「無理させるけどさ…3人をこっちに連れてきてくれねえかな?しいたけは…申し訳ねえけど…」

千歌ママ「来るかしら…あの子たち」

千歌パパ「なんかあったのか?」

千歌ママ「言いそびれてたわね。千歌は大丈夫だろうけど、美渡は相変わらず…。それに…」

千歌パパ「それに…?」

千歌ママ「志満が反抗期に…」

千歌パパ「なっ?あの志満がか!?」


千歌ママ「中学に入れば気も変わるのかしら?ピリピリしちゃって…。普段はいつも通りなんだけど少し言い過ぎると言い返してくるようになっちゃって…」

千歌パパ「いや、可愛い方じゃないか?」

千歌ママ「そうかしら?」

千歌パパ「とにかく連れてきてきれ。美渡には…父さんが弱った姿見れるなんて言えば来るだろ!」

千歌ママ「そんな簡単に…」


数日後の病室

美渡「あはははは!ほんとに入院してらぁ!親父、よわっちい!!」ケラケラ

志満「こら!美渡ちゃん!病院では静かに!」

美渡「ちぇー…」

千歌ママ「(ほんとに付いてきた…)」


千歌「お父さんだいじょうぶ?」

千歌パパ「おおー!千歌!しばらく見ないうちに大きくなったなー!」

千歌「うん!」ニコッ

志満「お父さ~ん!」ギュー

千歌パパ「志満!?」

志満「ほんとに大丈夫?早くよくなってね?」

千歌パパ「あ、ああ。ありがとな」ナデナデ

志満「えへ♪お父さんのなでなで久しぶり♪」

千歌ママ「(あれ?態度違いすぎない、志満…)」


美渡「つか、なんで夏休みの宿題一気に終わらさせられて親父の見舞いでしかも退院までこっちなんだよ~。友だちと遊ぼう思ってたのによ~」

千歌パパ「すまんな、美渡。どうしてもお前らの顔見たくてな!」

美渡「千歌と志満のだろ?ふんっ!」

千歌パパ「志満ってお前…!」

美渡「ひっ!」


志満「大丈夫、お父さん。私が許したんだから、呼び捨てでいいって!」

千歌パパ「どうして…」

志満「美渡ちゃん…お父さんがいなくなってから反抗する相手がいなくなっちゃったからさ…。大丈夫だよ、私は気にしてないからさ!」ニコッ

千歌パパ「ならいいんだが…」

千歌「ねえねえ!お父さんいつびょうきなおるの?いつおうちかえってこれるの?」

千歌ママ「あっ…」


千歌パパ「そうだな…。千歌たちの笑顔をいっぱい見れたら早く治っちゃうかもな!」ニコッ

千歌「ほんと!?じゃあチカいっぱいわらう!」ニコッ

千歌パパ「おお!元気がわいてくるぞ~!」

千歌「わ~い♪」

志満「もう!お父さんったら!」ニコッ

美渡「バッカみてぇ…ん?」

千歌ママ「あなた…」シュンッ

美渡「母さん…?ま、いっか…」


母さんに連れられて私たちは
父さんが入院してる病院に来た。
その間は父さんが借りてたアパートで過ごして
毎日、父さんの見舞いに行っていた。
正直、つまらなかった。
でも、今はあの頃の私をぶん殴ってやりたい…
なんて後からなら何だって言えるか。
そういえばあの時は意味も分からずに
ただただ笑ってたんだっけか…。


一週間後

千歌パパ「くっ…まさかこんな姿になるとは」

美渡「あはははは!ハゲ!ハゲだ!ハゲ~!」

志満「美渡ちゃん!これは坊主って…くっ」クスッ

千歌「お父さんピカピカ~!」

千歌ママ「うふふ♪ピカピカだね~」


千歌パパ「く、くそ~!こら!美渡笑いすぎだぞ!」

美渡「だって…、ふ、ふはははは!」

千歌パパ「なめやがって…。気○斬使うぞ!」

志満「ふふっ、お父さんやめてよ~」クスッ

千歌「あー!それ!かめかめはのやつだー!」

千歌パパ「千歌、それはかめ○め波だ」


ガキだった私はなんで父さんが
髪を坊主にしたのか知るはずもないよな。
抗がん剤の副作用で髪が抜けてくんだ。
枕に髪がいっぱいついてたりした。
単純に禿げて来てるのかとか…
そんなはずなくて。
そして、目に見える変化は
それだけじゃなかった。


千歌ママ「ふふっ、ほんとおかしい…」グスッ

千歌パパ「…」

美渡「母さん…?泣いてんの?」

千歌ママ「あ、いや!おかしくてさ!お腹痛い!あはははは!」グスッ

美渡「そ、そう…」


母さんの身体の変化だ。
ちっちゃいのは元々だが
かなり痩せこけていた。
後から聞いたら10kg以上
体重が落ちてたらしい。
こっちにいる間はずっと一緒にいたのに
ほとんど口に何もしてなかった。
母さんは私たちに父さんのことを言えずに
目の前で笑い合う私たちを
見て何を思っただろう。
やっぱり母さんには敵わないや…。


ある日の病室

千歌パパ「はぁー、今日の検査終わり…ん?お前ら何やってるんだ?」

千歌「お父さん!」ギュー

千歌パパ「おー、千歌!何やってたんだ?」

千歌「おりづる!」

志満「ふふっ、早く治るように千歌ちゃんが何かしたいって言うから売店で折り紙買って折ってたの」ニコッ

千歌パパ「そうか…。ありがとな」


千歌パパ「ん?美渡も折ってくれてるのか?」

美渡「い、いや!暇だから折ってただけだよ!」

千歌パパ「それでもだ…。ありがとな」ニコッ

美渡「なっ…」


あの時の笑顔は忘れない。
たぶん、私が見た私に向けた一番最初の笑顔。
でも、ほんとは私が気付かなかっただけで
もっと見せてくれていたのかもしれない。


美渡「う、うっせー…バカ親父//」

千歌「あれ?美渡お姉ちゃん?顔赤いよ?」

千歌パパ「なに!?風邪でも引いたか!?」ササッ

美渡「い、いや!ちげー!ちげーって!」

千歌パパ「大丈夫か?熱ないか?」アセアセ

美渡「ち、ちょっと…」ポロッ

志満「美渡ちゃん…?」


美渡「う、うっせー…バカ親父//」

千歌「あれ?美渡お姉ちゃん?顔赤いよ?」

千歌パパ「なに!?風邪でも引いたか!?」ササッ

美渡「い、いや!ちげー!ちげーって!」

千歌パパ「大丈夫か?熱ないか?」アセアセ

美渡「ち、ちょっと…」ポロッ

志満「美渡ちゃん…?」


その時、自然に涙が流れた。
自分は苦しいのにただ照れた私を心配して。
父さんが私を心配してくれてる。
千歌や志満じゃなくて、私を。
なんか、そう分かってしまったら
自然に涙が出てきて、声出して泣いてた。
そりゃ当たり前だよな。
子どもを心配しない親なんていない。
どんだけ嫌っても憎んでも
親子の縁って言うものは切れないんだ。


美渡「うぅ…ぐす、バカ。バカおやじぃ…」グスッ

千歌パパ「おいおい…」ダキッ

美渡「くせーよ、はなれろ、バカぁ…」ポカポカ

千歌パパ「そうか、父さんくさいか…」ナデナデ

美渡「バカぁ…」


思えばいつだって父さんは私を
心配してくれていたんだ。
目を反らしていたのは私の方。
勝手に反抗して、勝手に拒んだ。
この時久しぶりに父さんに抱き締められた。
周りを見たら…。


千歌「美渡姉ちゃんずるい!チカも!」

志満「ふふふ」


いつも通りの姉妹と…。


千歌ママ「う、うぅ…良かった…」グスッ


泣いている母さんの顔が目に入った。
まあ、照れてたからさ私…


美渡「も、もういいから!折り鶴折るから!どいてよ!」グッ

千歌パパ「そうか?具合悪くないのか?」

美渡「大丈夫だから!」

千歌パパ「あ、ああ…」

美渡「……これでよし!母さん!ちょっと売店行ってくる!」

千歌ママ「え?美渡!?」


………

美渡「ただいま!」

千歌「おりづるできた!」

美渡「げっ、歯切れわりぃじゃん…16羽って」

志満「じゃあもう1つ作って『17』羽にする?ラッキーセブンの7が付くし!」

美渡「しゃーねぇーか」



姉妹三人で折った形のバラバラな折り鶴。
その1羽1羽を私は買ってきた
糸を通していった。
『17』羽の折り鶴を
『1』本にして吊るせるように。



美渡「ほら…ここに付けとくから」

千歌パパ「ああ…ありがとな…」

美渡「ふんっ!」プイッ

千歌パパ「ありがと………な」ポロッ

美渡「え…?」


そして、その日初めて父さんの涙を見た。
私はびっくりして何も言えずにいたが
すぐに父さんは笑顔を見せ
その日私たちは帰った。
それから数日してから私たちは
退院した父さんと私たちの家に帰った。
そう…退院したということは…。


ーーーーー

千歌ママ「やっぱ色々思い出しちゃうな」グスッ

美渡「やっぱ泣いちゃうか…ごめん」

千歌ママ「ううん、いいよ…。久しぶりにあの人の話が出来て嬉しいし…」

美渡「そっか…」

???「あ、いたいた♪」


美渡「お!志満も来たんだ!」

志満「二人していないし…。定休日で良かったよ、もう!」

千歌ママ「ごめんね?志満…」グスッ

志満「お母さん!?」

千歌ママ「あはは、美渡とお父さんのお話しててね?色々思い出しちゃって…」

志満「お父さんの話か…。美渡ちゃん?」

美渡「うっ…」


志満「やっぱり無理してたんだね…。見てみぬフリしてごめんね?」

美渡「いや!志満が謝ることはねーって!」

志満「そう?まだ無理してない?」

美渡「はぁ…。ったく、二人揃われたら敵わねえや…。じゃ、今から二人にも話してなかった私と父さんの話をしてやる!」

千歌ママ「え?まだなんか隠してたの?」ズイッ

志満「美渡ちゃん…?」ズイッ

美渡「近いから!」


千歌ママ「ごめんごめん…」

志満「お父さんとの思い出は私が一番だと思ってたのに!」

美渡「ほんと志満ってファザコンだよな…」

志満「お父さんカッコ良かったもん♪」

美渡「まあ…否定はしねーけどさ」

美渡「…」

美渡「父さんが退院してからさ…」


そして、私は話し出す。
父さんとの『約束』と
ある『夢』の話を…。


ーーーーー

公園

千歌パパ「げっ、もうこんな時間か…」

千歌「えー!もうおわりー?まだまっくらじゃないし、チカまだあそびたい~!」

曜「ヨウもまだあそびたい~!」

果南「わたしも~!」

千歌パパ「ん~、でもな~…」

千歌「よーちゃん!果南ちゃん!あれをいおう!」

ようかな「うん!」

ようちかなん「『やめる?』」

千歌パパ「ぐっ…」

ようちかなん「…!」キラキラ

千歌パパ「や、『やめない!』やめないぞ!だが、これで最後だからな!?」

ようちかなん「わーい!」


千歌ママ「うふふ♪」

美渡「ガキなんだから…」

千歌ママ「そう?それより美渡は行かなくていいの?」

美渡「わ、私は…」

千歌ママ「美渡?」

美渡「なに?」

千歌ママ「子どもはお父さんと遊べる時はたくさん遊びなさい。大きくなったら恥ずかしくて今みたいな遊びを一緒にすることなんか出来ないからさ?」

美渡「ん?どういう意味?」

千歌ママ「素直に遊んで来なさいってこと!さっきからチラチラあの子たち見て…気付いてるんだぞ♪」

美渡「うっ…//」

千歌ママ「ほーら♪」トンッ


曜「つぎヨウがシュートする~!」

千歌パパ「よしっ!来い!」カマエ

曜「とりゃー!」バンッ

千歌パパ「ぐわー!」

千歌「わーい!よーちゃんゴール!」

曜「やったー!」

果南「次は…」

美渡「果南!選手交代だ!」


果南「あ、美渡姉!蹴りたいの?」

美渡「一発かましてやろうかなってね!」ニッ

果南「オッケー!頑張って!」

千歌パパ「…美渡か」

曜「美渡姉ちゃんがシュートするんだ!」

千歌「美渡姉ちゃんはスゴいよ!きっとチカたちよりスゴいシュートするよ!」

曜「おー!」

美渡「行くぜ…」

千歌パパ「…来い」


美渡「おらー!」バンッ!

千歌パパ「ふんっ!」ガッ

千歌ママ「!?」

美渡「げっ、止められたし…」

千歌パパ「…ふぅ。良いシュートだ!」ニッ

千歌ママ「…」アセアセ

千歌パパ「…」ニッ

千歌ママ「あなた…」ホッ

千歌「お父さんすごーい!」

曜「すごーい!」

果南「美渡姉、惜しかったね」

美渡「ちぇー、勝てると思ったんだけどな」

千歌パパ「さ、帰るぞ~!」

ようちかなん「はーい!」


今思えば無理して
受け止めてくれたんだろうな。
父さんと初めて意識して「遊んだ」。
それから私は千歌たちと一緒になって
父さんと「遊んだ」んだ。
私はやっと父さんに近づいていったんだ。
遅すぎたけど…。
そうやって喧嘩もしつつも
楽しくて温かくて
こんな日々が続けばと思い始めた頃…。

『約束』をした日が来た。


ある日の夜

美渡「ねみ~…」

千歌パパ「おい!おい!美渡!」

美渡「あ?なんだよ~」

千歌パパ「今日は父さんと寝ないか?」

美渡「はあ!?//い、嫌に決まってるだろ!」

千歌パパ「そんな事言わないでくれよ~!やっと美渡とこれだけ話せるようになったんだ!今日だけでいいからよ~!なっ?」

美渡「ぎゃー!抱きつくな!分かった!分かったから!離れろ~!//」


素直に嬉しかった。
私を見てくれている。
この時は強くそう思ってたし今も変わらない。
そして、私は『約束』をしたんだ。


寝室

千歌パパ「はっはー!美渡と一緒に寝られるなんて時代も変わったもんだ!」

美渡「うるせー…寝る」プイッ

千歌パパ「おいおい!少しは父さんとお話しようとか思わねえのかよ!」

美渡「別に…」

千歌パパ「ちぇー…ん?」


『もう!お母さん!うるさいってば!』

『私はあなたのこと思って…』

『私は決めたの!ここを継ぐって!最近のお母さん見てられないもん!そんな痩せちゃって…』

『そ、それは…。でも、私たちはあなた自身に好きな将来を…』

『だから!私が決めたの!私は千歌ちゃんや美渡ちゃんのお姉ちゃんで長女で…。この宿が大好きだから!絶対に守るの!』

『今、決めることじゃないでしょ!あなたはまだ中学になったばかりの子どもで…』

『あーもう!お母さんの分からずや!』

『し、志満!』


千歌パパ「……嬉しい反抗じゃねーかよ」

美渡「志満ってば時々あんなになるの。母さん困らせてさ。そういう所は嫌い…」

千歌パパ「そうか…なら………」


千歌パパ『これからはお前が止めてやれ、俺じゃなくて…お前が』


美渡「は?どういうことだよ?親父がいるんだから止めればいいじゃんか」クルッ

千歌パパ「いや、はは…。やっぱりあの二人怒ったら怖いしさ…勝てる気がしない」ニガワライ

美渡「知ってるから!」


千歌パパ「だが、美渡なら止められる。俺はそう信じてるからよ」

美渡「な、なんでだよ」

千歌パパ「そりゃ…お前が一番優しくて強い、俺の自慢の娘だからだよ」ニッ

美渡「はあ?な、なんで今さらそんな…」

千歌パパ「知ってるさ…。ずっとお前を見てたんだからさ。無視されちまってたけど…」

美渡「なんで…なんで…」ポロッ

千歌パパ「いや、俺が悪いんだ。お前は強く優しい子だから大丈夫とお前に上手く構ってやれなかった。嫌われても仕方なかった…」

千歌パパ「すまなかった…」


初めて父さんの気持ちを知った。
私を信じてくれていた。
私が思っていたことは
全てこの時ぶっ飛んだ。
私は嬉しくて、悔しくて、
涙を止めることが出来なかった。
そして、初めて呼んだんだ。


美渡「『父さん』の…バカぁ……」

千歌パパ「すまん…」

美渡「遅すぎんだよぉ…」

千歌パパ「すまん…」

美渡「それから…」

美渡「ごめんなさぁぁぁぁい」ギュー

千歌パパ「すまなかったな…美渡……」ナデナデ


………

千歌パパ「なあ、美渡…?」

美渡「なに、父さん?」

千歌パパ「さっきの喧嘩を止めてやれってのさ、やっぱ任せるわ!情けないけど…」

美渡「ふふっ、しょーがねー!借りは返さなきゃなんねえし!」

千歌パパ「バーカ!親に借りなんていくらでも借りればいいんだよ!いずれ利子以上のもんが手に入るんだからよ!」

美渡「よく分からねぇ…」

千歌パパ「分からなくていいさ…んじゃ『約束』だ!美渡!指出せ、指!」

美渡「はいはい」


千歌パパ「指切りげんまん、嘘ついたら…」

千歌パパ「呪ってやる~!指切った!」

美渡「こえーよ!」

千歌パパ「ははは!美渡は意外と怖がりだもんな!」

美渡「うるさい!//」


父さんと仲良くなれて
父さんの気持ちを知って
父さんに撫でられる。
幸せだった。ほんとに。



その3日後の夜、父さんは倒れた。




倒れる少し前…

千歌パパ「ちょっとトイレ行ってくる…」

志満「言わなくていいよ、お父さん…」

ガチャンッ

志満「にしても、美渡ちゃん最近機嫌がいいね?何かあったの?」ニコニコッ

美渡「別になんでもねぇよ…」プイッ

志満「えー?教えてよ?ね?ね?」

美渡「やだ!教えない!」

志満「ということは何かあったんだ?」

美渡「あ…。と、とにかく教えない!//」


千歌「………」ボー

千歌ママ「あら?もう千歌は眠そうね?ちょっと寝かせてくるわ」

志満「うん、分かった!」

志満「…お姉ちゃんにも言えないの?」

美渡「しつこい!」


それから5分くらい質問攻めにあった。
5分過ぎても父さんは帰って来なかった。
母さんが千歌を寝かせて帰って来たのは
その10分後…父さんは戻ってきてない。


千歌ママ「あら?あの人まだ帰ってないの?」

志満「そういえば…」

美渡「力んでんじゃないの?」

千歌ママ「トイレットペーパー切れてたのかしら?ちょっと行ってくるね」

美渡「どんだけたまってんだよ!」ケラケラ

志満「もう!お腹壊しちゃっただけかもでしょ?」


千歌ママ「あなた~?トイレットペーパー切れちゃってたかな~?」トントンッ

美渡「いやさっきあんだけがっついてたし…」

志満「まあ、そだね…」

千歌ママ「おーい!あなた~?」トントントンッ

千歌ママ「…!」


千歌ママ「あなた!ねえ?あなた!?」ドンドンッ

美渡「母さん?」タタッ

志満「ど、どうしたの?」タタタッ

千歌ママ「父さんの返事がないの!あなた!」

志満「お母さん落ち着いて!」

千歌ママ「鍵は…開いてる!あなた!?」ガチャッ

志満「お父さん!」ガシッ

美渡「と、父さん…?」


そこには白目を向いて
ドアによたれかかり
こっちに倒れてきた父さんがいた。
母さんと志満が必死に受け止めて寝かせた。


千歌ママ「あなた!ねえ、しっかりして!」

志満「お、お父さん…え、えと救急車…」アセアセ

美渡「わ、私がかける!」ダッ

志満「お願い…!」


訳が分からなかった。
退院したってことは治ったってことだと
そう、ガキな私たちは思い込んでいた。


美渡「えっと、救急車は119で…」ピッ

「こちら消防庁です。救急ですか?消防ですか?」

美渡「と、父さんが倒れて…!」

「落ち着いてください。救急ですね?ご住所は?」

美渡「住所、住所…えっと!えーっと…!」グスッ

「焦らないで。近くに目印になるものは…」

美渡「と、十千万!ウチは旅館の十千万です!」

「十千万…。確認しました。すぐに向かいます。」

美渡「は、早く…!父さんが…!」グスッ

「分かりました。あまりお父様を動かさないように安静な状態にしてお待ちください」

美渡「は、早く…!」


私は電話を切るといてもたってもいられず
外に飛び出し救急車を待った。
私が救急車の音を嫌いになったきっかけ。
いつもは知らない誰かを乗せて走る車。
そんな認識しかなかった。
その時は遠くから響くサイレンが
私のいる場所に来るのかという
不思議な気持ちと
早く来てくれという気持ちが入り乱れ
なんとも口では説明しづらい気持ちだった。
サイレンは近付いているのか
遠ざかっているのか
やきもきさせられ、涙が止まらなかった。
時間にして5分。
この時の私にはもの凄く長く感じたのは
言うまでもない。


ウチに千歌がいるからということで
私がウチに残ることにした。
救急車に運ばれていく父さん。
母さんと志満が連れ添って乗っていく。
また、サイレンを鳴らしながら
父さんを運んでいく。
私は救急車が怖くなってまた泣き出した。
その日は千歌を抱き締めて寝た。
大丈夫だと信じて…。でも…。


病室

千歌パパ「…」

千歌「お父さんまたびょういんなの~?」

千歌パパ「…」コクリ

千歌「はやくよくなってね?また、よーちゃんたちとあそぶんだから!」

千歌パパ「…」ニッ

美渡「…」

志満「…」


千歌ママ「…あなた?」

千歌ママ「もう限界よ…」グスッ

千歌パパ「…」

千歌パパ「…」コクリ

千歌ママ「ごめんね、ごめんなさいね」グスッ

千歌ママ「はぁ…」フキフキ

志満「お母さん?」


千歌ママ「みんな…話があるから付いてきて」

美渡「う、うん…」

千歌「?」


そう言って私たち姉妹は
病院の屋上に連れてこられた。
屋上に上るエレベーターでの無言が
ひどく苦痛だったのを覚えている。
父さんが喋らなくなったのは
トイレで倒れた時のショックでらしい…。
屋上のベンチに腰掛けてそれを聞き…
しばらくしてから…母さんは重い口を開いた。


千歌ママ「あのね…お父さん。癌なの…」

志満「え?」

美渡「癌?癌って…」


学校の保健の授業で習った言葉。
最悪の病気って先生が言ってた。
父さんが…癌。
志満は聞いて涙を流し、
千歌は悲しいことだと察したのか
声を出して泣き始めた。

その時、私は思い出していた。
あの日の『約束』を…。

千歌パパ『これからはお前が止めてやれ、俺じゃなくて…お前が』


美渡「そういう事かよ…バカ親父…」グスッ

美渡「ぐっ!」フキフキ


私は立ち上がりみんなに向かって
意地を張ってこう言った。


美渡「例え、父さんがそうなっても!父さんはいなくならねぇ!ずっと…ずっと一緒にいる!いるんだよ!」

志満「美渡ちゃん…」

美渡「私はもう本当に悔しいこと以外では泣かない!絶対!絶対に!父さんが悲しくならないように!」

千歌ママ「美渡…」ギュー

美渡「だから…だ…から……うぅ…」グスッ

美渡「泣くのは…今日だけ……だからぁ…」グスッ

千歌「うわぁぁぁぁぁん!!!」ボロボロ


4人の泣き声が屋上に響く。
少し染まった夕焼け空が
もの悲しく私たちを包み込む。
次の日から母さんは胸のつっかえが
無くなったせいか前よりは笑うようになった。
覚悟を決めたんだろうな。
苦しかっただろうな…大変だっただろうな。
やっぱ母さんはすげーや。


それから私たちは毎日毎日
病院へお見舞いに行った。
学校→病院→家→学校のルーティンが
何回も繰り返されていく。

父さんは喋られず、歩けず、食事もできず
ついにベッドに寝たきりになる。
何本も管が繋がれ、点滴や痰を取る管と
なんとも言えない匂いが病室に広がっていた。
でも、もうそんなの気にしなかった。
父さんは私たちが手を握ると笑顔を見せ
私たち姉妹が話すくだらない話を
親身になって聞いてくれていた。


繰り返していく毎日は新年を越えた。
余命も聞かされていた私たちは
もしかしたら助かるんじゃないかと
わずかな希望にすがろうとしていた。

そんなことは起こることもなく
運命の日がやってきた。


ガララッ

美渡「ただい…」

志満「美渡ちゃん!急いで!お父さんの容態が急変したって!」

美渡「わ、分かった!」


志満と急いで母さんと千歌が待つ車に向かう。
向かう途中…


千歌ママ「あなた…あなた…!」

志満「大丈夫…大丈夫だから…」

美渡「…」

千歌「おとうさんどうなるの?」ウルウル

美渡「…大丈夫」ナデナデ

千歌「う、うん…」ウルウル


そして、病室へ着き…

千歌ママ「あなた!」

美渡「父さん!」

志満「お父さん!」

千歌「お父さ~ん!」

医師「高海さん!ご家族が来ましたよ!分かりますか!」

千歌パパ「…」パチッ

美渡「父さん…!」ギュッ


千歌パパ「…ぁ」ジッ

千歌ママ「あなた…」

千歌パパ「……ぁ」ジッ

志満「お、お父さん…」グスッ

千歌パパ「………ぁ」ジッ

千歌「やだ~!やだ~!」ボロボロ

千歌パパ「…」ギュッ

美渡「父さん…」

千歌パパ「…ぁぁあああ!!」

美渡「と、とうさ…………あ」

千歌パパ「…」

美渡「と、父さん?父さん!ねえ!」

千歌パパ「…」

医師「…」

医師「………ご臨終です」


医師「高海さん、よく頑張りました」ペコッ

千歌ママ「あなた…」サワッ

千歌ママ「苦しかったね?痛かったね?」グスッ

千歌ママ「いっぱい…いっぱい頑張ったね?」

千歌ママ「お休みなさい…」ニコッ

志満「お父さん…おとうさん…」グスッ

千歌「なんでそれとるのー!それないとおとうさんいきできないのー!やめてー!」ボロボロ

看護士「ごめんね…ごめんぬ……」ウルッ

美渡「…」

美渡「バカおやじぃ…なんで今日なんだよ…」


その日、父さんは気を失っていたのに
私たちが来て目を覚まし
一人一人と目を合わせたあと
唸り声をあげて、息を引き取った…。

『1』月『17』日

『17』羽の折り鶴を纏めた『1』本の糸は
ウチに帰ったら切れていた。
ほんとに逝ってしまったんだと実感した。
そして、私はこの夜経験した
不思議な出来事を…
もう10年近くも経ってるのに覚えている
『夢』の話を二人に話した。


和室

美渡「…」

千歌パパ「…」

美渡「寝てるみたいなのにな…」

美渡「…」ゴロン

美渡「『約束』守るから…。絶対に…」

美渡「さすがにここじゃさみーから自分の部屋で寝るな?お休みなさい、父さん…」


そう言って父さんを寝かせてある部屋を
後にして私は自分の部屋に戻り目を閉じた。
それから、私はその『夢』を見る…。


─────

美渡『ん?』ギュー

千歌パパ『…』ニッ

美渡『父さん!』ニッ


そこは周りがユリの花で囲まれた
長い長い一本の道。
私たちは手を繋いでしゃべらずに
歩き続けていた。
私はずっと笑顔で父さんも笑ってた。

どれくらい歩き続けていただろう。
急に父さんが止まった。


千歌パパ『…』ピタッ

美渡『父さん?』

千歌パパ『ここまでで良いよ、ありがとう』

美渡『え?』

「美渡~?」

美渡『母さん?』クルッ

美渡『あれ?』


母さんの声に振り返り
また前を見た時、もう父さんはいなくなり…

────────
────
──


美渡「わっ!?」ガバッ

千歌ママ「起きた!何回も呼んだのに…」

美渡「あれ?あれ?」キョロキョロ

千歌ママ「親戚の皆さん来たからご挨拶してきて?懐かしい人たちいっぱいだけど恥ずかしがらずにね?」

美渡「う、うん。分かった…」

美渡「…」ジッ

美渡「えへへ♪やっぱいたんだ…」ニッ


さっきまで繋いでいた右手を見て
思わず笑ってしまって
悲しいということを感じなくなった。
お別れは『笑顔』で…。
そう決めた。
だから、その後の葬儀や納骨も泣かなかった。
強いねって言われた。
違う。父さんはいる。いるんだ。
今も強く思ってる。
だから、私は今強くいられる。


ーーーーー

ザザーン…

千歌ママ「そうだったんだ…」ニコッ

志満「今まで秘密にしてたなんて…ズルい!」

美渡「まあ要するに父さんは一番私を信じてくれてたってことだよ!」ニカッ

千歌ママ「むーっ!だったら私だってその時…」

志満「私も…!」

美渡「まあまあ…!とにかくやっぱ母さんや父さんは…親ってすげーやって思ってさ!」


志満「千歌ちゃんの敵になったのは父さんの代わり?」

美渡「それもあるけど…えと」チラッ

千歌ママ「ん?」

美渡「母さんのため…。もういっぱい苦しんだんだ。私が親になれなくても千歌の反抗する対象にはなれるしさ」

千歌ママ「嬉しいこと言ってくれちゃって!」

美渡「言う気はなかったんだけどなぁ…//」

千歌ママ「ありがとね、美渡」ニコッ

美渡「う、うん…」

志満「これからもお父さんと一緒に頑張ろう?」

美渡「ああ!」ニッ


成長した私が決めたのは
千歌を守ること。
なら味方になるべきって思われるだろうけど
あの子は弱い。強くならなきゃならない。
千歌自体、父さんが亡くなったことに対し
どう思っているかは分からないが
小さい時に訳も分からずに
父さんがいなくなったって現実を
突きつけられた。
父さんがいないことを理由に
いじめられもした。


千歌『どうしてお父さんいなくなっちゃったの?』

言われた時は何も言えず
抱き締めることしか出来なかった。
それからだ。
父さんという意識を減らすために
私が敵になったのは。
辛く当たるくらいしか出来なかった。
けど父さんは私に対して
向き合おうとしてたのに私は目を背けた。
そんな父さんがしてきた苦労に
比べればどうってことない。
私は、だから千歌の敵であり続けるんだ。


母さんや志満と色んな昔話をして
改めて千歌のために演じようと
気を引き締めた。

次の日、いつも通りに千歌は
私を睨み付けて学校に行く。
しばらくしたら、また喧嘩する。
それを繰り返していくのだ。

そして、明日はAqoursのミニライブ。
ちょっとは応援してやろうかな?
にしし。


Aqoursミニライブ会場

千歌「はぁ…はぁ…」

曜「千歌ちゃん大丈夫?」

千歌「うん、大丈夫…。後はアンコールだけだもん。やり遂げるよ、最後まで」

果南「千歌…」

千歌「(それに今日は美渡姉もいた。私がやれば出来るって証明しなきゃ。ちゃんと私だって成長してるんだって)」

千歌「さあみんな!精一杯輝こう!」

千歌「Aqours!」

全員「サーンシャイン!」

~♪

千歌『光になろう~未来を照らしたい~♪』

千歌『今はもう~迷わない~♪』



志満「なんか千歌ちゃん気合い入ってるね!」

美渡「あ、ああ…」

美渡「(なんだろう、千歌のヤツ無理してないか?)」




美渡「なっ!?」

志満「千歌ちゃん!?」

>>122ミス
貼り直します。

~♪

千歌『光になろう~未来を照らしたい~♪』

千歌『今はもう~迷わない~♪』



志満「なんか千歌ちゃん気合い入ってるね!」

美渡「あ、ああ…」

美渡「(なんだろう、千歌のヤツ無理してないか?)」



千歌「(後はみんなの所に戻ってラスサビで終わり…)」

千歌「(あれ?なんかおかしいな?足に力はいらない…あれ?意識が…)」グラッ




美渡「なっ!?」

志満「千歌ちゃん!?」


曜「ふ~ねが…千歌ちゃん!?」ビクッ

果南「やば…間に合え!」ダッ




千歌「(この高さを頭から落ちたら…)」ガクッ

千歌「(ダメだ、力入んない…)」フワッ


美渡「千歌ぁ!」

志満「ダメぇ…!」

美渡「(千歌は私が守らなきゃいけないのに!私が…私が!)」


『じゃ、貸し1つだ。美渡』ニッ


美渡「えっ…」


千歌「(無理しなきゃ良かったな…ごめん美渡姉。ごめん、みんな。リーダー失格だよ)」


『またでかくなったな?千歌!』ニッ


千歌「(ふぇ?)」

ドサッ!


きゃあああああ!おいおい!千歌ちゃん!?

果南「う、嘘だ…」ガクッ

曜「千歌ちゃん!」ダッ

ダイヤ「わたくしたちも!」タッ



志満「どうしよう…どうしよう!」アセアセ

美渡「………父さん?」ボソッ

志満「え?」

美渡「まあ今はいいや!とりあえず…」スゥ

美渡「どけええええええええええ!!!」クワッ

ザワザワ…

美渡「よし!行くぞ、志満!」

志満「う、うん…!」


曜「千歌ちゃん!千歌ちゃん!!」ユサユサ

梨子「曜ちゃん!落ち着いて!頭を打ってるかもしれないから安静に…」

曜「でも…でもぉ……!」グスッ

果南「千歌!分かる?千歌!!」

美渡「曜!どけ!」

曜「美渡さん…」

美渡「千歌…!千歌…!」ギュッ

志満「千歌ちゃん…!」

美渡「(父さん…!)」



「………ぇ」

美渡「あ…」



千歌「……とね…」

美渡「千歌ぁ…」ギュー

千歌「ごめ…みと……ねぇ」ウルッ

千歌「わた…し………わ……たし」ウルウルッ

美渡「『バカ』千歌…バカちかぁ…」グスッ

志満「良かった…良かった…!」グスッ


ダイヤ「ふぅ…。皆さん!ライブは中止させます!救急車を!」

「もう、呼んだぞ~!」「千歌ちゃ~ん!」

花丸「みんな…」ウルッ

ルビィ「ありがと…」ウルッ

善子「よし…!さ!ここは曜と果南に任せてリトルデーモンたちを誘導するわよ!」

ルビまる「うん…!」


鞠莉「善子!私たちは南口へ誘導するから、そっちは北をお願い!ダイヤ、梨子!行くわよ!」

ダイヤ「分かりました!曜さん、果南さん!美渡さん!志満さん!千歌さんを宜しくお願いします!」

果南「任せるね…!」

梨子「曜ちゃん!行ってくるよ!」

曜「ぐすっ…うん、任せて!」フキフキ


千歌「あは…ライブ……だいなし…だ」

美渡「千歌、どっか痛いとこないか?」

千歌「今は…からだが痺れて……わかんない」

美渡「そうか…んしょっと、こっちのが楽か?」

千歌「あ…膝枕……えへ…久しぶりだ」

美渡「心配させやがって…」ウルッ

果南「あ!救急車来たみたい!」

曜「私、場所知らせに行く!」タッ

志満「ごめんね、曜ちゃん!」


千歌「美渡…姉?」

美渡「なんだ?」

千歌「落ちる……瞬間ね…懐かしい声が………聞こえた気が…したの。優しい…大好きだった……声が」ニッ

美渡「…!」

千歌「助けて……くれたのかな?」ソラミアゲ

美渡「…そうかもな!」ソラミアゲ

美渡「ったく、貸しがでかすぎるよ、バカ親父…」

曜「連れてきたよ~!」


その後救急車で病室に運ばれ
検査を受けた千歌だったが
腰の打撲だけでそれ以外に目立った怪我はなく
脳にも異常は一切なかった。
状況を説明すると医師は
「その高さから落ちてこの外傷はあり得ない」
と答えた。
実際2m前後から頭側から落ちていたが
気付いた時には千歌は倒れていた。
曜たちも言っていたが
それだけで済む音ではなかったらしい。
骨を打ち付けたはずなのに
骨折はおろかヒビすらいってなかった。
まさに『奇跡』としか言いようがない。


だが、『奇跡』ではないのかもしれない。
千歌も聞いていたようだ。
あの懐かしい声を。
話を聞いて駆けつけた母さんに言うと
間違いなく父さんが助けたんだと
笑顔で答えた。

そして、千歌は検査入院をして
すぐに退院した。


帰って来てすぐにたくさん怒った。
これでもかってくらい。
でも、千歌は私の言葉にちゃんと耳を傾け
最後に…


千歌「美渡姉…。ほんとにごめんなさい」ペコッ
 

しっかりと謝ってきた。
私はなぜか涙が出てきた。
理由は分からない。
でも目の前に妹が確かにいるということに
とてつもなく嬉しかったんだと思う。
たぶん、あの日屋上で母さんが
話した後に胸のつっかえが取れた感覚。
千歌への想いが急に溢れ出した。



美渡「バカ…バカ千歌…」ガクッ

千歌「美渡姉!?」タタッ

美渡「ごめん…ごめんよ……千歌に辛く当たってばっかで嫌な姉ちゃんで…。千歌に強くなって欲しくて…勝手に決めて勝手に千歌を苦しめた…」グスッ

美渡「結果があの様だ…。リーダー失格とか、千歌をそう追い詰めたのは間違いなく…私のせいだ。ごめん…ごめん…」

美渡「別に許さなくていい…嫌ってもいい…。千歌を散々苦しめたんだ…。千歌に任せるよ…」

千歌「…」

千歌「………知ってたよ?」ニコッ

美渡「え…?」


千歌「知ってたよ。美渡姉が私のために怒ってくれてたこと。志満姉よりお母さんより私を見てくれてたこと」

千歌「私が初めてスクールアイドルやるって言った時も、ファーストライブの時も…。真っ向からできない!って否定してさ…」

千歌「でも、あのライブの時、美渡姉はなんだかんだ言って私のために行動してくれてたって志満姉に聞いたんだ」

美渡「あいつ…」

千歌「美渡姉にはいっぱい泣かされた。いっぱい悩まされた。でも、その度に見返してやろうって努力した。今回のはダメダメだったけどさ…」

千歌「私は美渡姉が大好き。どれだけ美渡姉に嫌われていたとしても、絶対に嫌いになんかなってやるもんかって変な対抗心燃やしてさ」ニッ

美渡「なんだよ…それ…」


千歌「えへへ♪」

美渡「はは…ほんとのバカは………」

美渡「私だったって事か…」

千歌「美渡姉!」ギュー

美渡「千歌!?」ビクッ

千歌「今までそしてこれからもありがとう!」

美渡「…!」

千歌「大好き!」ニコッ

美渡「バーカ…」グスッ


その夜、千歌は私の部屋に来て
一緒に寝ようって枕を持って来た。
二人で一緒にベッドに入って。
何年ぶりだろうな…照れ臭かった。
千歌と最近の話をした後、
懐かしい声は誰なのかという話になった。
ははっ。父さん?千歌はどうやら
父さんのことちゃんと覚えてないみたいだぜ?
寂しいって?心配するなよ!
借りは今から返すからさ!
なんたって今日は…。


美渡「ちょっと昔話をするか!寝んなよ!」

千歌「え?なになに?」ワクワク


今日は『父の日』。
1年に1回、父親に感謝する日。

私は大好きで大嫌いだった親父の話を
千歌に聞かせてやった。

棚の上に置いてある家族写真。
父さんはいつもより笑ってるように見えた。

おしまい

過去作です。

梨子「歩こう、一緒に」
梨子「歩こう、一緒に」 - SSまとめ速報
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