【デレマス時代劇】城ヶ崎美嘉「姉妹剣 水鏡」 (37)

シリーズ一覧を書くとはねられることがわかった。
読者の方々すまぬ。

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 戦国が終わり、それでも侍達が死に場所を求めていた頃。

 かつての戦場には、取るに足らない野太刀を、

 1つの流派まで成長させるだけの養分があった。

 剣術、武術、兵法の爆発的増加は、

 太平の世では受け止めきれなかった。

 合意の上での果し合い、剣を試すための辻斬りは後を絶たず、

 幕府、各藩は頭を悩ませていた。

 城ヶ崎美嘉は、柳生心眼流剣術の名手であった。

 17歳にして免許皆伝。

 口調と身なりは軽薄な印象を与えるが、

 人となりは至極誠実である。

 これでさらに容貌にも優れているから、藩の男だけでなく

 女らも、きゃあきゃあと色めきたっている。

 そんな彼女には、現在頭を悩ませることがあった。

 藩内で起こっている辻斬り。

 1人目は道場主の桐生つかさ。

 2人目は師範代の藤本里奈。

 3人目は美嘉が目をかけていた門下生の、大槻唯。

 いずれも、美嘉には及ばぬものの、達人である。

 凄腕の剣豪か、

 もしくは複数人による凶行であると見られる。

 しかし時世が時世であるから、

 同心達は下手人に目処を付けられていない。

 しかし、美嘉には思い当たる節があった。

年前、道場から追われた妹の莉嘉。

剣術に対して、異様な執着を見せていた。

幼い頃、美嘉が道場通いを始めた時は、

自分も行きたいと散々喚き、ついには蔵に叩き込まれた。

ようやく道場に入った頃には、門下生達と秘密裏に

真剣勝負を行い、何人もの死傷者を出している。

美嘉が皆伝を受けた時は、

自分にもよこせと師範に食ってかかったが、

“心の眼が曇った輩には、刀を持たせられん”と断られ、

それでも食い下がったので、道場から追放された。

動機は十二分にあるといってよい。

とはいえ美嘉は、この件に関わるつもりはなかった。

先月、馬廻への勤めが決定した。

さらに、口数が少ないが、伴侶をよく立てる嫁を娶った。

今の美嘉の身分は、殿の護衛を務める一家の柱。

個人的な事情で動くことはできないのだ。

美嘉が屋敷に戻った頃には、夜更けになっていた。

つい、他の馬廻役達と飲み過ぎてしまったのだ。

扉を開いた美嘉はぎょっとした。

伴侶が、じっとそこで佇んでいたのだ。

側人を使って、自身の帰りが遅れることを伝えていたはず。

それなのになぜ。

男は面を上げると、安心したような、

それでいて少し傷ついたような顔をした。

美嘉はぷいと顔を逸らした。

どうしようもなく、相手が愛おしかったのである。

美嘉は、酔いでふらつく身体で、

彼をそっと抱きしめた。

もそっと抱き返された。

力が強くて、少し痛かった。

その痛みすらも、美嘉は愛した。

その後、2人は初めて閨を共にした。

下手人のことは同心にまかせて、

今は、この幸せを嚙みしめよう。

美嘉はそう思った。

だが今度は、その愛しい伴侶が凶刃にかかった。

美嘉は確信した。

莉嘉は自分の周囲の人間を襲っている。

理由はおそらく、自分を真剣勝負の舞台に引きずり出すためだ。

美嘉は、憎しみよりも恐怖が先に立った。

吐き気さえ催すような、剣への執着。

全てを敵に回してでも、

自身の強さを証明しようとする、真っ黒な決意。

しかし美嘉は、逃げ出すことはできなかった。

もう藩内には、莉嘉に比肩しうる剣士は自分しかいない。

同心は、莉嘉が下手人だとは露とも思っていない。

美嘉自身の手で、決着をつけるしかないのだ。

藩内の山奥に、莉嘉は現れた。

道場と屋敷に貼っておいた書き置きを、

しかと読んだようだ。

「お姉ちゃん久しぶりっ! 元気だった?」

莉嘉は以前と変わらぬ様子だった。

姉に対してのみ、底抜けに明るい妹の表情を見せる。

「莉嘉…アンタと戦ってあげる」

美嘉は刀を抜いた。

目の前にいるのは肉親ではない。剣の鬼だ。

莉嘉も、嬉々として抜刀した。

構えは中段。

美嘉は不可解に思った。

辻斬りに遭った死体は、

いずれも頭を縦に割られている。

となれば、莉嘉の得意は上段である可能性が高い。

それならば、なぜ中段を使う?

美嘉は八相に構えた。これは彼女の定石である。

先に仕掛けたのは、莉嘉の方だった。

さらに繰り出されたのは逆袈裟である。

美嘉は完全に、構えに騙された。

それだけ相手の動きは速かった。

しかし彼女も達人、莉嘉の剣を受け止めた。

「莉嘉、強くなったね」

若干押されながらも、美嘉は言った。

妹のことが、素直に誇らしかった。

一方本人は、呆けた顔をした。

「お姉ちゃん。それ、やばい」

莉嘉はざっと剣を下げて、後方に退いた。

それから息を整えて、再び美嘉に斬りかかった。

今度は本気だった。

莉嘉の剣の動きは、もう追えない。

二手どころか、三手四手も先に行っている。

美嘉は左肩と右の瞳を斬られた。

刀がぼとりと地に落ちた時、

彼女は莉嘉に背を向けて逃げ出した。

何が免許皆伝だ。

何が心の曇りだ。

アタシは、怖くてしょうがない。

美嘉は山の中を駆ける。

ただ1人の人間として、生きるために。

見逃して。

たった1人の姉なのだから。

美嘉は心中でそう叫んだ。

追ってくるのは、ただ1人の妹。

追ってくるのは…。

美嘉は山に流れる清流の半ばで、足を止めた。

もう、息が続かなかった。

そこで抜いた脇差を水に晒し、それを鏡として後方を見た。

莉嘉が迫ってくる。必死で追いつこうと。

美嘉は眼を閉じ、ただ音を聞いた。

ぱしゃりと、水が跳ねる音。

そして。

「お姉ちゃん…待って」

それが、莉嘉の最後の声になった。

美嘉は眼をつぶったまま、

脇差を振るい、彼女の首を落とした。

眼を開いた後は、妹の身体を抱いて、

しばらく呆然と座り込んだ。

おしまい

エレ速から完全に嫌われた感ある

「つかみ」が弱いんだよな~
読者が感想を挟む余地と言うか、「こういうことだったのか」って作者と共感覚出来る部分がだんだんわかりにくくなってる
今回の話も「それで?結局どうなったんだ?」って感想だけで何も書けんし、エレ速も厳しくなるわな

>>19
“つかみ”か…自分には難しいですね。
貴重なご感想ありがとうございます。

乙乙。
筆の速さには本当に驚かされる。意図しているんでしょうが、個人的には話の重さの割には文量や描写があっさりしている気はします。「辻車」や「17歳の教科書」くらいの読み応えが好きです。

>>21
ありがとうございます。
デレマス銀河世紀の方を好きだと仰って頂けたのは、初めてです。

「二足歩行の幽霊」も、割とざっくり書いてしまいましたね…。

読者の方々に質問ですが、
シリーズの中で、「分量と内容が適切」であったのはどれですか?

そりゃもう辻車よ

>>25ありがとうございます。
あれは個人的にも力作だと思っています

ただ感想欄を眺めていると、「凛ちゃん死んでなくない?」とか、
「動機が軽い」とか、「なんで嫁は卯月じゃないの」等のコメントがありました。

表現自体も見直した方がよいのでしょうか?

1スレでオムニバス形式の方が追いかけやすいとは思うよ それか週1間隔とか
まとめの基準は知らないけど速筆な作者が速筆ってだけで理不尽に叩かれてるところは見たことある

>>27なるほど。
たしかに「クロスハート(LiPPSの短編付き)」と
「凛ちゃんなう(光の短編付き)」は好評でした。

全体で2万字弱くらいになるように投稿するのがいいですかね?

>>1
が好きなように書くといいと思うよ、たとえ良作でも叩く人はいるんだがら、気にしない事。
個人的には、内容があれなので他の人は不評かもしれないが、美城御前試合は続けて書いてほしいな。

>>32
別人です。

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