千歌「カタストロフィ…か」 (263)

ラブライブ!×GANTZパロです。

前作
千歌「GANTZ?」
千歌「GANTZ?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1477559947/)

穂乃果「とあるマンションの一室で」
穂乃果「とあるマンションの一室で」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483797702/)

曜「千歌…ちゃん?」高坂「……」
曜「千歌…ちゃん?」 高坂「……」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491145319/#footer)

原作を読んでいなくても楽しめるように書いていますが、前作からの設定やストーリーを引き継いでいるので
上記の作品を先に読んだ方がより楽しめる内容となっています。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1497714031

~沼津 某マンションの一室~



GANTZ『ヨーソロー 57点 TOTAL98点 おわり』



曜「……終わり」


ラストミッションを無事に生還した曜達

いつもの採点画面には点数の他に『おわり』の文字が表示されていた

長年に続いた異星人との戦闘に終止符が打たれたのだ。


ただ、これにより新たな武器の取得やメモリー内の人間の再生が不可能となってしまった

この部屋で死んでいった人々は、もう二度と生き返らない。




梨子「――これで全員の採点が終わったね」

善子「何だかんだ私達、三年近くこの部屋に呼び出されていたのよねー」

ルビィ「そ、そんなに経ったの!?」

ダイヤ「私達が高校生だった頃から戦っていましたからね……そのくらいはとっくに経っていますわね」


鞠莉「懐かしいわねー、みんなに卒業証明書を渡したのが昨日の事のように感じるわ~♪」

鞠莉「まぁ、果南と曜が同じタイミングで卒業するとは思わなかったケド」ニヤニヤ

果南「もうっ!! そのネタでいじるのは止めてよね!」




理亞「んで、これからどうするの?」

花丸「どうするって…帰るんじゃないの?」

理亞「そうじゃない、ラストミッションが終わったって事は……そう言う事でしょ?」

聖良「……そうね」

果南「次は例のカタストロフィ…か」

曜「もうすぐ来るんだね…“世界の終わり”が――」





~数日後 静岡市 某大学キャンパス~



「おーい、なべ~~」フリフリ

曜「んー? どうしたの?」

「この後、部活ってあるの?」

曜「今日は無いよー」

「お! だったらさ、今夜に他の大学の人と合コンやる事になってるんだけどさー」

「なべも一緒に行かない?」

曜「あー……ごめん、今日は予定入ってるんだよね」

「あらら、それは残念…」ガッカリ

「だから言ったでしょ、曜はそういうイベントには参加しないって」

「分かっちゃいたケド…なべが来るって言えば絶対人集まるじゃん? 前回のミスコンでぶっちぎりの一位だったわけだし」

「ま、仕方ないね。また誘うよ」


曜「……うん、また今度ね」




~~~~~~~~~



曜(さて、メールでは今日鞠莉さんが迎えに来ることになってるけど…)

曜(待ち合わせ場所どころか、時間も知らされて無いんだよね)ピピッ



『マリー:明日、迎えに行くからね(^^♪』



曜「……うん、分からん」

曜「本当に来るのかな?」ムムム



――ガヤガヤ、ヒソヒソ



曜(…なんか、出口付近が騒がしいぞ?)

曜(それに、やたらと視線を感じる……)


「あ、あの~」トントン

曜「はい?」クルッ

「渡辺さんって…実はお嬢様だったの?」

曜「……はい!?」

「校門の前に如何にも執事って感じの人が立っているし、その近くには立派なリムジン……渡辺さんを待っているみたいだよ?」



曜は思わず頭を抱え、大きくため息をつく



曜「あー…迎えに来るってそう言う事か」



曜は校門の前で待っている執事の元へ近づく


曜の姿を確認した執事は丁寧に一礼した



執事「渡辺様、お待ちしておりました」

曜「ど、どうも」

執事「これより渡辺様を浦の星女学院までお連れ致しますので、どうぞご乗車下さい」ガチャ

曜「あ、ありがとうございます……」



――――――



車内には既に梨子と善子が乗っていた

二人とも静岡県から少し離れた大学に通っているので、先に迎えに行ったのだ

車内には栓が開けられたシャンパンが数本転がっていた。



善子「おっそいわよー、よーぅさぁ~ん///」ヒック

梨子「もう、だから飲み過ぎだって言ったのに……」

曜「……どうしてこの子は出来上がってるのさ」ジトッ

梨子「執事の方が、冷蔵庫の中の飲み物は自由に飲んでいいって言っていたのよ」





善子『え!? この高価そうなシャンパンもいいんですか!!?』キラキラ

執事『え、ええ。その中の物はお嬢様が皆様の為に用意したものですので』

梨子『でも、これって相当高いんじゃ……』オロオロ

執事『そうですね…一本数万円はするかと』

梨子『す、数万円!? 流石にそれは――』

善子『う~~~ん、最高に美味しい////』ゴクゴク

梨子『もう飲んでるし……』アゼン




曜「えっ!? まさかここに転がってる空ボトル全部がそのシャンパンなの!?」

梨子「その“まさか”です…」

善子「せっかく飲んでいいって言ってるんだから~、飲まなきゃ失礼でしょおぉ///」ヒック

曜「あ、あはは……」


執事「皆様、これより内浦に出発しますので、席にお座りください」


曜「あ、分かりました。すぐに座ります」



――――――




曜(…それにしても、この執事さん)チラチラ


執事「……(運転中)」


曜(何だか隙が無いって言うか、威圧感があるというか…只者じゃない感じ)ジッ

執事「…渡辺様、どうかされましたか?」

曜「へ!? いや、別に何でもないですよ!!?」ビクッ


曜(ウソでしょ…何で気が付いたのさ!?)


梨子「…この執事さん、物凄いんだよ?」

曜「へ?」

梨子「この車に乗る前、厄介な人たちに絡まれたんだけど――」


――

――――

――――――




梨子「――あの、予定が入っているのでもう行ってもいいですか?」ギロッ


「えー、いいじゃん! その予定はキャンセルしてよ」ニタニタ

「私らと遊んだ方が楽しいからさぁ」



梨子は数人の男女グループに絡まれていた。

自分では地味だと公言しているが、どう見たって地味ではない

それどころか、モデルやアイドルをやっていると言われてもなんら疑問に思われない程の容姿であるのは間違いない。

内浦から離れた土地で暮らすようになってから、そこそこの頻度で知らない人から声をかけられるようになっていた。



梨子(……失敗した、どうして今日に限って下にスーツを着てきて無いのよ!)


「ほら、行こうよ!」ガシッ

梨子「っ!? 触らないで!!」バッ!



肩を掴んできた手を思いっきり叩き落とす

かなり強めに叩いたせいか、叩かれた相手の表情が険しくなった。



「…ってぇなあ! 軽く触っただけじゃん」

「ちょっとぉ……今のは無くない?」ギロッ


梨子「……何、私が悪いの?」

「当たり前じゃん? こっちは手ぇ出してないわけだし」


梨子(いや、思いっきり掴んだでしょ)


「ちょっとこっちが優しくしてるからって、調子乗り過ぎじゃん?」



三人の男がジリジリと距離を詰めてくる

普通の女性ならば筋肉質の若い男に詰め寄られれば恐怖で動けなくなるだろう。


ただ、梨子は“普通の女性”ではない

幾多の化け物との死闘を生き残った彼女にとって、彼らなどただの雑魚だ。



梨子(流石にスーツ無しじゃ力負けするわよね……掴まれる前に急所に叩きこんで即逃げる。よし、これでいこう)グッ



重心を軽く落とし、臨戦態勢に入る

その時――



「――桜内様…でございますか?」



突然、後ろから自分の名を呼ぶ女性の声がしたのだ



梨子「…へ?」クルッ

執事「あぁ、やはり桜内様でございましたか。鞠莉お嬢さまより梨子様をお迎えに上がるよう承りました」

梨子「鞠莉さんが?」

執事「ええ、すぐ近くに車を用意しています。どうぞこちらへ」



「おい、ちょっと待てよ!!」

執事「…何でございましょう?」

「何勝手に連れて行こうとしているわけ? こっちが先なんだけど!?」

梨子(いやいや、勝手に連れて行こうとしたのはそっちでしょ)



男の一人が伸縮警棒を取り出す

武器を目視した執事の顔が一気に険しくなった。



執事「…随分と物騒な物をお持ちで」

「うるせぇ、怪我したくなかったら大人しく帰れ!」

梨子「あなた…自分が何をしているか分かっているの!?」

「やかましいわ! てめぇが素直に従ってればコイツはケガしないで済むんだよ!!」



彼は明らかに興奮状態に陥っている

周りにいる仲間も止めるよう色々と言っているようだが、全く耳に入っていない

いつ襲ってきてもおかしくない状況だ。



執事「お止めなさい。ケガだけじゃ済みませんよ?」

「はっ!! そりゃ済まないだろうな!!!!」ブンッ!



男は警棒を振り上げる

刃物に比べ、殺傷能力は低いものの、打ち所が悪ければ死に至る危険な武器だ

安易に人に向けていい代物ではない。


そんな凶器を躊躇いもなく、執事の頭に振り下ろす



梨子「危な――」

執事「……ハッッ!!!!」キュイィィィン!!




――バキッ!!



梨子は目を疑った

執事が見事な上段回し蹴りを繰り出し、振り下ろされる警棒を弾き飛ばしたのだ。

…それだけならまだ分かる

その弾き飛ばした警棒、地面に落ちた音から察するに金属製だった

にもかかわらず、その警棒、蹴られた箇所がぐにゃりと折れ曲がっているのだ。

凄まじい破壊力だが、当然人間の足で繰り出せる威力ではない




梨子「あ、足……足は大丈夫なんですか!!?」



金属をへし折ったのだ

少なくとも骨にヒビが入っていても不思議ではない

だが……



執事「ええ、この通り大丈夫ですよ」



その場でぴょんぴょんと元気に跳ねる

全くケガは無かったのだ。



「はぁ? ……ちょっ、え??」ゾワッ

執事「どうです? こう見えて私、結構強いのですよ?」

「あ、あぁぁ……」





執事「…もう二度と、桜内様の前に現れない事を誓ってくださいね?」ニコッ





――――――

――――

――



梨子「――っとまあ、こんな事が」

曜「な、何者なの……この執事さん」

執事「あまり暴力は好きでは無いのですが…緊急事態だったので止む追えず」

梨子「何か格闘技をやっていらっしゃるのですよね?」

執事「ええ、若い時に空手を少々。お嬢様のボディーガードも兼ねておりますので、私自身もそれなりに強い必要がありますので」

曜(金属製の警棒をへし折れるのに“それなり”の強さですか……)


梨子「そう言えば、回し蹴りのフォームが鞠莉さんとソックリだった気がしたのですが」

執事「ええ、私が鍛えさせて頂きました」

梨子「やっぱり」

執事「幼少期の頃からずっと一緒に訓練していましたからね……今やお嬢様は、私よりも随分と強くなられましたよ」フフフ

曜「へぇ…だから鞠莉さんはあんなにも強いんですね」

梨子「……」


梨子(でも…いくら空手の使い手と言っても、人が金属の棒を蹴りで折れるものなの? しかも無傷で)

梨子(足に鉄板を仕込んでいた? それとも……いや、まさかね)


執事「……話している間に、到着しましたよ」

曜「いつの間に…結構早く着いたね」

善子「……」

梨子「ん? そう言えば、よっちゃん さっきからずっと黙ってるけど、どうし……」


善子「………………っうっぷ」

曜「ちょちょちょちょっ!?」

善子「ぎぼぢわるい……吐きそ…うっぷ…」

梨子「執事さん!! 袋、ビニール袋おおお!!!!」ゾワッ




~~~~~~~~~



~浦の星女学院 理事長室~


理事長室に入ると、そこには既に鞠莉以外のメンバーが揃っていた。

アルコールと車酔いで顔面蒼白となっている善子を見て慌てるルビィ

事情を説明すると、先ほどとは打って変わり、何とも言えない表情を見せる。



ルビィ「――それで、善子ちゃんはグロッキーなんだね」アハハ…

花丸「相変わらずの酒癖ずら」ジトッ

善子「……う、うるさいわよぉ」グッタリ

梨子「はぁ…さっき散々吐いたから、少しソファーで横になっていれば楽になるでしょう」



曜「理亞ちゃんと聖良ちゃんも来られたんだね。お仕事は大丈夫なの?」

聖良「はい。今日の収録は全て済みました」

理亞「あの人、テレビ局の屋上にヘリを待機させていたのよ? まさか東京からここまでヘリで来るとは思わなかったわ」

曜「さ、流石アイドル……鞠莉さんからの扱いも一味違うねぇ」

果南「いやいや、リムジンで迎えに来てもらった曜達も大概だと思うよ? 内浦在住組はここまで徒歩だもん」

ダイヤ「それよりも、呼び出した張本人がまだ不在というのはどういう事ですの?」イライラ

曜「執事さん、何か聞いていませんか?」


執事「申し訳ありません、もう間もなく到着すると思いますが……」



――ガチャ



鞠莉「Oh!! みんな集まっているようね? 良かった良かった」


ダイヤ「…遅いですわよ!」

鞠莉「Sorry♪ これの最終調整に手こずっちゃってね」ゴトッ


そう言うと、鞠莉は持っていたアタッシュケースを真ん中の机の上に置き、中身を見せる

そこには人数分の腕輪型の装置が綺麗に収められていた。



梨子「これって、私達が付けてる通信機と同じ物……だよね?」

鞠莉「Yes! 今まで使用していたこの通信機の改良型って感じね」

ダイヤ「改良型ねぇ……具体的には何が変わったのです?」


鞠莉「ボディの耐久性と通信可能距離のUPとタッチパネル以外に音声操作が可能になりました~」

聖良「音声入力ですか!?」

花丸「み、未来ずら~」キラキラ


鞠莉「まずマイクが拾える声で、『コンタクト』と言う、その後に通信したい相手の名前を言えば自動的に繋いでくれるわ」

理亞「マイクが拾える音量は?」

鞠莉「周囲が相当うるさく無ければ、日常会話程度の声量で反応するように調整している。口元に近づければ小声でもOKよ」

果南「なるほど、これでいちいち操作しなくてもいいって事か」


鞠莉「驚くのはまだ早いわ」

曜「まだ機能があるの?」

鞠莉「音声操作はただのオマケ、本命はこの機能よ」

曜「?」



鞠莉「な・ん・と、この装置でガンツの転送機能を使用可能となりました~♪」



梨子「……はい!?」

ダイヤ「そ、そんな事が可能なんですか!?」


鞠莉「ほんっと、大変だったんだよ? ラストミッション後、ガンツにパソコン繋いで、毎日毎日一人で黙々と解析していたんだからね! 理事長の仕事もちゃんとしながら」

ルビィ「す、凄い…」

鞠莉「『コール、ガンツ』の掛け声の後に、転送したい対象と場所を言えばガンツが転送をしてくれる」

曜「おお!」

鞠莉「転送出来るのは、この装置を付けた人を中心に3メートル以内の人間とその人が身に着けている物だけよ」

梨子「転送できる場所は?」

鞠莉「一応、地球上どこでも転送できると思う。例えば、この場所に転送して欲しかったら『コール、ガンツ、浦女の理事長室に転送しなさい』って言えば大丈夫だと思うわ」

梨子「なるほど、転送したい場所を言えばいいんですね」


花丸「…あれ?」

ルビィ「どうしたの、花丸ちゃん?」キョトン

花丸「この装置を使えば、ガンツの転送機能が使えるんだよね?」

鞠莉「ええ、そうよ」


花丸「だったら、どうして転送機能でみんなを連れてこなかったの? そうすればわざわざヘリやリムジンなんか使わなくても楽に連れてこられたのに」

鞠莉「それは…」


善子「…馬鹿ね、ずら丸」ムクリ

花丸「善子ちゃん?」

善子「装置を身に着けてないと転送機能は使えないのよ? さっきまでこれを持っていない私達がどうやって転送でここに来られるって言うのよ」

花丸「でもでも、装置を付けた人が迎えに行けばいい話ずら。こんな便利な機能があるなら、使わない理由が無いよ」

善子「……確かに」

花丸の問いかけに、全員が同じ様な疑問を抱く

明るい表情で装置の説明をしていた鞠莉の表情が暗くなった。



鞠莉「そうね…これには二つ理由があるわ」

理亞「二つ?」


鞠莉「まずは、さっきも言った通り今の今まで最終調整をしていたから。装置が未完成だった訳だから、使えないのは当然でしょう?」

花丸「それはまぁ……」

鞠莉「もう一つは……ガンツの転送機能がまだ使用出来ないからよ」


ダイヤ「…使用できないですって? それにしては、随分詳しく説明していましたけど」

鞠莉「それは、ガンツを解析して私が設定したものを説明しただけよ。残念ながらまだ実験はした事がないから本当に転送が出来るか、正直分からない」

果南「うーん…イマイチ理解出来ないんだけど、そもそもどうしてまだ使えないのさ?」

鞠莉「ガンツの機能全てにロックが掛かっているのよ」

果南「ロック? 解除出来なかったの?」

鞠莉「その気になれば無理やり解除出来るかもしれないけれど、下手な事して本当に使えなくなったら困るし。それに……」

善子「それに?」


鞠莉「このロック、解除される時間が設定されていたの。…恐らくこの解除される時間が、カタストロフィ当日だと思う」

果南「……っ」


聖良「……それで、その解除される時間というのは…いつ頃になるんですか?」





鞠莉「――今日の午前0時、カタストロフィは明日訪れるって事よ」





~~~~~~~~~




曜「…ただいま」ガチャ

曜母「あら、おかえり。どうしたの? 忘れ物?」



理事長室でのミーティングを終え、一度実家に帰宅した。

曜は大学進学に伴い、キャンパス周辺のアパートで一人暮らしをしていた

長期休暇や年末以外は実家に帰る事は少ない

何もない平日に戻ってくることは珍しかった。



曜「あー、うん、ちょっとね。教授が急遽出張しちゃってさ、一週間休校になったんだよ」

曜(まあ、ウソだけど)


曜母「そうなの? まあいいわ。丁度お父さんも帰って来てるのよ」

曜「え!? パパが帰って来てるの!!?」キラキラ

曜母「今は出掛けているけどね。もう少ししたら戻ってくると思うわ」

曜「そっか…良かった。本当に…良かった…」

曜母「曜ちゃん? 何か…あった?」

曜「…何でもない、先にシャワー浴びてくるね」

曜母「…?」キョトン




~~~~~~~~~



~沼津市 某マンション GANTZの部屋~


すっかり日が落ち、家の明かりがぽつぽつと目立ち始める。

鞠莉はガンツが置かれたマンションの一室からこの風景を眺めていた。


部屋に置かれたノートパソコンのモニター画面は複数のタブで埋め尽くされ
中央にはロック解除までのタイムリミットが表示されていた。

時刻は18時30分

日付が変わるまで後5時間半といったところだ


機能が解放されたタイミングで装置のアップデートを行う必要がある

なので一足先に部屋で待機しているのだ。



鞠莉「……みんな、これから夕食の時間かしらね」



カタストロフィに一体どんな事が起きるのか、全く想像が出来ない。

ただ、この当たり前の日常が崩れ去るであろう事は間違い無かった。

今日が最後の晩餐になるとは、全人類のほとんどが想像もしていないだろう。



執事「……お嬢様」

鞠莉「あら? あなたも来ていたの」

執事「日付が変わるまで5時間以上ございます。それまで、ご家族で過ごされてはいかかでしょうか?」

鞠莉「……いいえ、戻らないわ」

執事「……かしこまりました」



何故帰らないのか

執事には想像も出来なかったが、鞠莉本人が帰らないと言っているのだ

素直に従うしかない。



鞠莉「そ・れ・よ・り、今は二人なんだから堅苦しい言葉遣いは無しよ! 執事モードはOFFにしてくださーい」


執事「……分かったよ、鞠莉ちゃん」

鞠莉「そうそう♪」



この執事は鞠莉と付き合いが長い

自室や二人きりでいるときはタメ口で会話するようにしているのだ。

最初は抵抗があったようだが、今では随分砕けた口調で会話が出来るようになっている。



執事「…鞠莉ちゃんが前からお願いしていた、地下シェルターの備品の最終チェックが終わったよ。内浦市の人々全員が一か月暮らしていけるだけの備蓄は用意出来た」

鞠莉「そう、ギリギリ間に合ったのね」ホッ

執事「転送機能がちゃんと使えれば、町民全員を安全に避難させる事が出来ると思う。内浦には何人配置するの?」

鞠莉「曜と鹿角姉妹に任せる事になっているわ。残りのメンバーは沼津市や静岡市に行ってもらう予定よ」


執事「……私も一緒に戦っちゃダメ?」

鞠莉「それは前にも言ったでしょ? あなたには避難してきた町民を守ってもらう」

執事「でも……私の使命はお嬢様を、鞠莉ちゃんを守る事だよ」

鞠莉「そうね、確かに貴方が一緒ならとても心強いわね」

執事「だったら!」

鞠莉「でもダメ」

執事「……っ」

鞠莉「私達が思いっきり暴れられる為にも、あなたには後ろでみんなを守って欲しいの」

鞠莉「これは信頼できるあなたにしか任せられない事、分かって頂戴」

執事「……はい」


鞠莉「よろしい♪ あーあ、何だかお腹すいたわね~」

執事「ふふ、これから用意するからちょっと待ってて」

鞠莉「お願いするわ」ニコッ




~~~~~~~~~



~20時30分 黒澤家~


花丸「ぐぬぬ……」

ルビィ「は、花丸ちゃん……お姉ちゃん……!!」

ダイヤ「…さあ、引きなさい!!」キッ


花丸「…よし、これだああ!!!!」シュッ

ダイヤ「ぴぎゃああ!!?」ガーン

花丸「いやったあ!! オラの勝ちずら~!!」

ダイヤ「何故……何故一対一になると勝てないのです!?」

ルビィ「お姉ちゃん、ババ抜き弱すぎだよぉー」ケラケラ

ダイヤ「おかしい…今回は表情に出ていないハズなのに!」

花丸「視線でバレバレずら。ダイヤさんがカードゲームで勝つには手札を見ちゃダメだね」

ダイヤ「きいいぃ!! 悔しいですわ!!!!」プンプン


ルビィ「じゃあ、もう一回……」

ダイヤ「キリがいいですし、そろそろ寝ましょうか」

ルビィ「……え?」

花丸「そうですね…今度ゆっくり休める時がいつになるか分からないですし」

ダイヤ「さてと、じゃあトランプは片付けますね」





ルビィ「……嫌だ…」

花丸「ルビィちゃん?」

ルビィ「嫌だ…まだ寝ないもん……」

ダイヤ「ルビィ…一体どうし」

ルビィ「だって寝ちゃったら明日になっちゃうじゃん!! 明日になったら…もう……」

ダイヤ「……」

花丸「…ルビィちゃん……」

ルビィ「嫌だ…嫌だよぉ……」グスン


ダイヤ「……今更何を言っているのです?」

ルビィ「…だって……」

ダイヤ「この日が来ることは、随分前から知っていたではありませんか。今日いきなり知らされた新事実ではありません」

ルビィ「…うん」

花丸「知ってただけマル達はいい方だと思うよ? ほとんどの人は心の準備も出来ないうちに巻き込まれるんだもん」

ダイヤ「花丸さんの言う通りですわ。それに、もう二度とこの日常が訪れないというわけではありませんでしょ?」

花丸「そうそう♪ またこうしてお泊り会をやって、ダイヤさんをババ抜きでコテンパンに負かせてやるずら!」

ダイヤ「…上等ですわ。返り討ちにして差し上げましょう……」ゴゴゴ

ルビィ「……でも私は…」

ダイヤ「安心しなさい。ルビィは私が必ず守ります。他の方々だってそうです。みんなで助け合えば、きっと大丈夫」

花丸「オラ達の事、信じられない?」

ルビィ「……出来る」

花丸「その為にも、今日はしっかり休もうよ。ね?」

ルビィ「…うん、分かったよ」




~~~~~~~~~



~22時 沼津港~



善子「――んで、こんな時間に何の用なの?」

曜「今のギャグかな? 私が呼んだだけに」

善子「違うわ!! こんな真夜中に、こーんな か弱い女の子を呼び出しただけの理由はある訳?」

果南「か弱いだなんて…そんな事ないよ///」モジモジ

善子「……って言うか、何で果南さんもここにいるのよ。船の最終日はとっくに終わっているハズでしょ」

果南「そりゃ、水上バイクで来たんだよ。自前のね!!」ドヤッ

善子「あ、はい」

果南「あれ……私のボケは全部スルー??」

梨子「果南さんが…プッ か、か弱い……ふ、ふふっ」

果南「おーい、そこ。笑うならちゃんと笑って。ってか、そこまで笑う事じゃ無いでしょうが」ムッ

曜「まぁ、か弱いとは程遠いよね」

果南「じゃあ、私は一体なんなのさ?」

善子「うーん……霊長類最強?」

果南「…ほーう……今のが最後の言葉になるけど、いいよね?」ゴゴゴ

善子「え、ちょ、は? マジなの?? 顔がマジなんですけどおお!!!?」ザワッ


曜「ふふ、良かった」

果南「?」

梨子「何が良かったの?」


曜「善子ちゃんも果南ちゃんも、梨子ちゃんも……明日の事を気にしてピリピリしていたり、落ち込んでいたりしてると思っていたからさ。こうして冗談言い合ったり、笑ったりできているみたいで安心できた」

梨子「曜ちゃん…」

果南「今のは本気だったけどね」

善子「え?」

果南「え?」


梨子「……あ、あぁ! そう言えば、どうしてこの場所だったの?」

曜「あー…ここってさ、私が初めてミッションで死んだ場所なんだ」

梨子「……!」

果南「そう言えばそうだね……なら、善子のデビュー戦の場所でもあるって事か」

善子「その後のミッションで千歌さんも参戦してきたのよねー。まさか、このミッションで果南さんも死ぬとは思わなかったけど」

曜「え? 千歌ちゃんもここで戦ったの?」

果南「そうだよ。あの時の千歌の戦いぶりは驚いたよ…まるで経験者みたいでさ。まあ、本当に経験者だったんだけど」



梨子「思い出の場所……なんだね」

曜「そんないい場所じゃ……ないよ…」

善子「今、千歌さんが居たらどんな事を話してくれたのかしらね……」

果南「そーだねぇ……きっと私達を励まそうと色々気の利いた事を喋ろうとするけど、結果伝わらなくてあたふたするんじゃない?」

梨子「ふふ、なんか想像出来るかも」

曜「……」



――ブブブブ、ブブブブ



果南「ん? 誰かの携帯鳴ってるよ」

梨子「私のじゃないです」

善子「私も違うわ」

曜「あ、私のだ」



スマホを取り出す曜

画面には未登録の電話番号が表示されていた。



曜「……」

梨子「出ないの?」

曜「知らない人からなんだよね。出るべきかな?」

果南「相手の電話番号は表示されているんでしょ? だったら出なよ」

曜「うーん…分かった」ピッ



曜「……もしもし?」

『あ、出てくれたわね♪ やっぱり真姫の調査は信頼できる』

曜「あの……どちら様ですか?」

『あぁ、ごめんなさい、自己紹介がまだだったわね』



『初めまして、私の名前は“絢瀬 絵里”よ。穂乃果達と同じガンツの東京チームの一員。それより、μ’sの一人って言った方が分かるかしら?』




~~~~~~~~~



鞠莉「……そろそろか」



パソコンのモニターの左下にある時計が23時59分を示している

ガンツの機能が解除されるまで残り一分を切ったのだ



鞠莉「流石に、日付が変わったと同時に異変が起こったりは……しないわよね?」

執事「わ、私に聞かれても……」

鞠莉「その時は音量最大にして全員たたき起こせばいっか! それに、この部屋からなら装置を付けていなくてもここに転送出来るし」

執事「あはは……」

鞠莉「転送機能が使えるようになったら、一旦家に戻るわよ。準備しなさい」

執事「……かしこまりました」




まだ、やれる事、足りない備えはあるかもしれない。

どんな事が起こるか分からない以上、完璧な準備をする事は不可能だ。

でも、出来る努力は全てやったつもりだ。

後は自分の、仲間の力を信じるだけだ。


時刻は午前0時を回った


今、運命の一日が、始まったのだ――

お久しぶりです。
前作で完結と言ったのに、また書き始めてしまいました。

今回も不定期更新ですが、コメント等でお付き合いして頂けると幸いです


――――――――

――――



曜「…ん、んん~~ん……」


――ピピピッ、ピピピッ



曜「んあっ? こんな朝から誰なのぉ……」ピッ


曜「は~い…曜ちゃんですよぉ~~」

梨子『あ! やっと出たわね!!』

曜「ほえ? 梨子ちゃん、どーしてそんなに慌てて――」


梨子『今すぐ外に出て空を見なさい!!!』

曜「……っ!!!?」ガバッ



急いでベランダに飛び出す

目の前に広がる風景は異様なものとなっていた。


建物が壊れたり、燃えたりしている……訳では無い

空の色が明らかに異常だったのだ。



曜「――空が…赤い」

梨子『これってやっぱり…カタストロフィの影響だよね?』

曜「他に何か変わった事は?」

梨子『今、テレビでニュースを観ているんだけど……アメリカやロシア、その他の大国と突然連絡が取れなくなったらしい…』

曜「……ウソでしょ?」

梨子『転送機能はもう使えるから! すぐに部屋に集合だよ!!』

曜「うん、わかった」

梨子『それじゃあ、また後でね――』プツンッ



梨子との通話の後、急いでスーツを取り出す。

慣れた手つきで素早く済ませ、パーカーを羽織った。

クローゼットに隠していたZガンやXガンを引っ張りだし武装する


ふと、自分の手に目を向けると、小刻みに震えていた

パチンッと両頬を叩き、気合を入れる
怖がっている場合では無い



曜「……遂に来たんだね。急がなきゃ!!」




~~~~~~~~~



曜「パパ、ママ!!」

曜父「おー、今日は早起きだな!」

曜母「そんなに慌てて…どこか出掛けるの?」


曜「……ニュースは観た?」

曜父「ああ、観たよ。日本中の空が真っ赤なんだってな。今日は変な天気だよなあ」

曜母「アメリカが滅んだ…みたいな事をキャスターが言っていたけど、本当なの?」

曜父「そんな事も言ってたな。変なデマを地上波で流すなって感じだよ、全く」


曜「……違う、多分本当だと思う」

曜父「…曜?」

曜「これから日本、いや世界中を巻き込んだ大変な事が起こるんだよ」

曜母「曜…一体何を」

曜「私は…仲間と一緒に戦わなきゃいけないんだ」

曜父「戦うって…何をわけのわからない事を言って――」


曜「『コールガンツ、パパとママをシェルターに転送して』」



――ジジジジジ



曜父「はあ!? か、体が!!?」ジジジジ

曜母「何、何なの!? 説明しなさい!!」ジジジジ

曜「ごめん、全部終わったら説明するから……今は安全な所に避難していて」

曜父「なら、お前も一緒に来なさい!!」

曜「……」

曜母「曜!!!」


曜「……後でそっちに行くよ」

曜母「必ずよ!! 絶対にき――」ジジジ

曜父「約束だか――」ジジジ



両親の転送が完了した

シェルターに避難さえ出来れば、地球が壊されない限り安全は保障されている



曜「パパ…ママ……ごめん、すぐには行けないんだ」


曜「『コールガンツ、私を部屋に転送して』」



――ジジジジジ



~~~~~~~~~



~GANTZの部屋~


曜「全員集まったね」

果南「朝なのに空が真っ赤っていうのは、気味が悪いよね…」

ダイヤ「“世界の終わり”って感じがしますわ」


ルビィ「……う、うぅ…」ブルブル

花丸「ルビィちゃん……大丈夫?」

ルビィ「へ、平気だ……よ?」

善子「これまで生き残って来たんだから、変に怖がらなければ大丈夫よ」

ルビィ「…うん」


理亞「高海家の人は全員送ったよ。ついでに宿泊客も一緒にね」

曜「そっか、ありがとう」

聖良「半ば強引に転送してしまいましたから…転送先にいる責任者の方には少し迷惑がかかっているかもしれません」

鞠莉「気にしなくて大丈夫よ。その辺はきっちり対応してくれると思うから」

梨子「それで…これからどうするの?」

曜「…日本にあるガンツは全部で47個、都道府県に一個ずつしかない。つまり、静岡県の人々は私達10人で守らなくちゃいけない」

曜「でも、私達が守れる命には限りがある」

ダイヤ「……ええ」

曜「最優先はこのマンション周辺の地域。ここが破壊されたら致命的だからね。梨子ちゃん、果南ちゃん、頼んだよ」


果南「了解だよ」ニッ

梨子「分かった」


曜「次は内浦。ここは私と鹿角姉妹が担当する。よろしくね」

理亞「こちらこそよろしく、リーダー」

聖良「任せてください!」


曜「残りのメンバーは被害が大きそうな地区に行ってもらう。私達も街の人全員の転送が完了したらすぐに向かうね」

ダイヤ「該当しそうな場所となると…静岡市になるのですかね?」

善子「こればっかりは予想できないわね。まだ何が起こるかも分かっていないわけだし」

花丸「鞠莉さんの予想だと、宇宙人の侵略……なんだよね?」

鞠莉「今までのミッションが宇宙人との殺し合いだった訳だし、そう考えるのが自然でしょう」

理亞「ま、これで実際は“人類による全面核戦争”とかだったらお手上げだけどね」



ルビィ「……あぁ!!」

ダイヤ「? どうしたのです??」


ルビィ「そ、外……外を見――」



――ズドドドーーーーン!!!!!



突如、轟音が響いた

余りの衝撃に一同、その場に転倒する



果南「痛てて……一体何なの?」

花丸「………これは」

梨子「どうやら、鞠莉さんの予想は概ね当たっていましたね」

鞠莉「ええ、でも……」

曜「………はは、冗談でしょ?」



目の前には、今まで見た事も無い程の巨大な飛行物体が沼津の空の大部分を覆っていた

先ほどの轟音は、その飛行物体が投下した巨大兵器だった
50メートルを超す大きさのその兵器は、次々と街の建物を破壊している




花丸「こ、こんなのと戦う……の?」

梨子「…いや、あれは無視していいと思う」

鞠莉「そうね、見た所あれは人間を攻撃する事を目的とした兵器では無い。恐らくもう少し小型の兵器が街に降りているハズよ」

ダイヤ「もっとも……実際に行ってみなくては分かりませんわね」


曜「みんな! 今回はいつものミッションとは違う。転送はしてくれるけど、スーツもケガも治してもらえない」

鞠莉「一応、周りの星人の数や心拍数が一定以上に達したら強制的にこの部屋に転送されるよう設定してあるわ」

曜「でも、危ないと思ったら迷わず逃げてね。無理だけはしないって約束して欲しい」



全員無言で頷く



曜「……よし、じゃあ行こう! ――ガンツ!!!」



~~~~~~~~~




――ジジジジジ



曜「転送場所は浦女の屋上か。鞠莉さんらしいや」

聖良「……良かった、内浦にはまだ被害が出ていないようですね」

理亞「校庭に住民が避難してきているわ。この人達も転送していいのよね?」

曜「うん。内浦の人達全員を受け入れられるんだって」

理亞「……金持ちめ」



聖良「曜さん! 沼津市の方角から来ています!!」

曜「…大きいな。この距離でも見えるなんて」

理亞「見えるだけでも5体……どうするの?」


曜「私が相手をするよ。二人は避難してきた人をドンドン転送して!!」

聖良「了解です! お気を付けて」

理亞「頼んだわよ、リーダー!」



鹿角姉妹と別れ、一人で星人の群れに向かう

山を下り、いつものバス停前に出るとそこには異常な光景が広がっていた

普段は交通量がそれ程多くない道だが、たくさんの車でごった返し、大渋滞となっている。

背後から巨大な何かが近づいている事は全員気が付いているようで、前の車が動かないと悟った何人かは自分の車を乗り捨て、走って逃げだし始めた。




曜「皆さん!! そっちに逃げても意味がありません!!! 浦の星女学院に避難してください!!!」

「はあ!? 後ろからあんな化け物が来てるんだぞ!!? この街に居たら殺されちまうよ!」

曜「大丈夫ですから! 私を信じて浦女に向かってください。この事を出来るだけ多くの人に伝えて下さい!!」ダッ!

「ちょっと!! 君はどこに行くんだ!!?」



曜は大声で浦女に避難するように呼び掛けながら走り回る

自分で転送する事も可能だが、今は迫っている脅威を排除するのが先決だった。


星人に近づくにつれ、すれ違う人々の恐怖の表情が色濃く表れていた

星人はもうすぐそこにいる。



曜「――いた!!」カチャ!



そこには全長15メートル程の巨人が5体、小隊を組んで付近の人間を殲滅していた。

手には銃の様な武器が握られており、打ち出される円盤状のカッターで逃げ惑う人々を切り刻む。



曜(全身をアーマーみたいので覆ってる……この武器で倒せるの!?)



星人は曜の存在に気が付いていない。

素早くZガンの射程圏内まで接近、すぐさま引き金を引く。



――ズドン!! ズドン!!



二体の星人を押しつぶす

…が、アーマーの周囲にバチバチと電気が走っているだけで、キズ一つ付かなかった



曜「……くっ! やっぱり硬いな!!」ギリッ



他の星人が反撃に出る。

曜は発射されるカッターを避けつつ、確実にZガンをヒットさせる。



曜(一撃で壊せなくても、動きは止められる! 硬いアーマーに守られているとは言え、あの衝撃は全部防げないハズ!)ギョーン! ギョーン! ギョーン!



あっという間にその場にいた星人を行動不能にする
すると……



曜「……え?」



黒いアーマーから本体が現れた

顔、目、鼻、口などの基本パーツが人間と全く同じ
まるで人間をそのまま巨大化させた様な風貌であった。



曜「何……人間…なの……?」

巨人兵士「――――っ!!? ――!!!!」


曜(聞いた事無い言葉……宇宙語とかかな?)



巨人兵士の一人が指を銃の形に折り曲げ、曜に向ける



――バチッ!!!



曜「うおお!!? 危なっ!!!」バッ!



指先から発射されたのは電撃だった

着弾した場所のアスファルトが大きく抉れる程の威力、スーツの効果も無力だろう。

他の兵士も続けて発射する。



曜(アーマーはZガンで無力化出来る……本体が剥き出しの今ならっ!!)ギョーン! ギョーン!




――ズドドドン!!!




巨人兵士「っ!!!?」ゾワッ

曜「……悪いね、でも先に襲って来たのはそっちだよ」

巨人兵士「――! ―――!!!」


曜「んー…何言ってるか全然分からないや」


曜「――ここら辺にいる仲間全員集めなよ。私がまとめて相手するからさ!!」
(まあ、伝わってないだろうけど)




~~~~~~~~~



「おい! 本当に大丈夫なんだろうな!?」

理亞「大丈夫ですって、安心してください!!」

「きゃあああ!! か、体が!!!?」ジジジジ

聖良「向こうに着いたら、その場にいる執事の指示に従ってください」

理亞「順番に転送しますから、前の人が完了したら前に詰めて下さい!!」



浦女の校庭には避難してきた住民が続々と集まっていた

自分の身体が消えていく様にパニックに陥る人も多少いたが、順調に進んでいる。



聖良「曜さん…大丈夫かしら……?」

理亞「リーダーなら大丈夫よ。……多分」

聖良「いや、曜さんが負けるとは思っていない。ただ……」

理亞「……ただ?」



――ドーン!!!



聖良「…こんな風に、空から来る星人はどうやって足止めするのかなーって思ったんだけど……やっぱ無理よね」アハハ…


「ヤバイヤバイ!! ここにも来たぞおおお!!!?」

「嫌あああああ!!!!?」

「早く!! 早く助けてくれええええ!!!!」


理亞「姉さま!! 皆さんを連れて校舎に避難して! コイツは私が相手する」カチャッ!

聖良「分かった! 任せたわよ!!!」





~~~~~~~~~




曜『みんな、聞こえる?』

曜『ついさっきアーマーを装備した巨人を撃退したよ』

曜『アーマーはZガンで無力化出来る。本体が出てきたらその他の武器でも倒せる』

曜『分かっているとは思うけど、相手の攻撃は全部避けてね?』

曜『それじゃ、切るね―――』ピッ





梨子「……なるほど」


果南「はぁ……」

梨子「果南さん?」

果南「なーんか、今思えば重要な事任されちゃったね」

果南「“私達二人でマンション周辺の巨人を退けろ”なんてさ……曜も無茶言うよね」

梨子「あはは…まあ、このマンションを壊されるわけにはいかない、誰かが守らなきゃいけないですよ」


果南「さて、どうしよっか?」

梨子「今きた曜ちゃんからの連絡では巨人の装甲はZガンで無力化出来るそうです」

果南「へー…」

梨子「へーって…聞いていなかったんですか?」

果南「うん、ボーっとしてたからね!」

梨子「もう! しっかりしてくださいよぉ……」ムスッ

果南「ごめんごめん、次から気を付けるよ~」


果南「んじゃ、梨子は飛行ユニットで空からZガンで無力化していってよ」

果南「私は丸裸になった奴を片っ端からぶった切っていくからさ」

梨子「分かりました、その作戦でいきましょう」


果南「よーし、頑張らなくちゃね!!」



~~~~~~~~~



~襲来から半日経過~


残りのメンバーは静岡県で一番星人が多く襲来している場所に転送された

鞠莉、花丸はXガンやガンツソードと同様に標準装備の一つであるモノホイールバイクで別の場所に移動していた。

善子、ルビィ、ダイヤは近場の巨人兵士を倒しながら人々を救っていたが
既にバラバラにされた遺体が至る所に転がっている



善子「…カオスね」

ダイヤ「何を突っ立ているのです! 早く攻撃しなさい!!」ギョーン! ギョーン!

善子「分かってるって! でも…もうこんなに人が死んでいるなんて……」

ダイヤ「これは侵略戦争です…人が死ぬのは当たり前ですわ」

善子「…赤の他人とは言え、遺体って何度見ても慣れないわね……」ギリッ

ダイヤ「……ええ」




ルビィ「全員倒せたよ!! 次はどこに……ん?」

ダイヤ「どうしました?」

ルビィ「しーっ……聞こえない?」

善子「……この音は、Xガンの発砲音?」

ダイヤ「近くに鞠莉さん達がいる…わけありませんよね」

ルビィ「とにかく行ってみようよ!」

ダイヤ「ええ、行きましょう」






「――おらぁ!! こっちだ!!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!




ルビィ「お姉ちゃん! あれ見て!!」

善子「ヤバイ……囲まれているじゃない!?」

ルビィ「あぁ! う、腕が斬られた!!?」

ダイヤ「急いで助けますわよ! ルビィ、善子さん、Zガンで周りの巨人を無力化してください。くれぐれもあの方に当てないように!!」


善子「そんな初歩的なミスしないわよ!!」ギョーン!ギョーン!

ルビィ「間に合って!!」ギョーン!ギョーン!



――ズドドドドドドン!!!



「はぁ…はぁ……? これって一体……」


ダイヤ「ふぅ…どうやらギリギリ間に合ったようですね。……善子さん!」

善子「すぐに止血するわ! 動かないで待っていて」

「あ、あんた達は?」


ダイヤ「私は静岡チームの黒澤ダイヤですわ。貴女は……他県のチームの方てすわね?」

「あ、ああ……私は愛知チームのイザベラだ」

ダイヤ「イザベラさん…ですわね」

ルビィ「お姉ちゃん! 巨人が立ち上がったよ!!」

善子「この人は一旦あの部屋に転送した方がいいんじゃない? あそこならもう少しマシな手当てが出来るし!!」

ルビィ「お姉ちゃんも一緒について行ってあげて!」

ダイヤ「そうですわね。『コールガンツ! 私とイザベラさんを部屋に転送しなさい!』」



――ジジジジジ



イザベラ「ま、待ってくれ! あっちに仲間を逃がしているんだ!」ジジジジ


善子「何ですって!? ……あ、でもその方角なら大丈夫かな?」

イザベラ「?」




~~~~~~~~~




鞠莉「Hey,Hey!! 飛ばしまくるわよ~~!!!」ブルルンッ!

花丸「あばばばばばばばばば!! 鞠莉さん! 揺れ過ぎてちゃんと狙えないずら!!」ギョーン!ギョーン!

鞠莉「またまた~そんな事言いつつ、しっかりヒットさせているじゃな~い」

花丸「正確性に欠けるんだってば! 常にアクセル全開は危ないずら!!!」

鞠莉「広範囲をカバーするには機動力が必要でしょ? 花丸なら多少の揺れぐらい大丈夫だと思ったから乗せたのよ」

花丸「で、でももう少し安全運転を……」

鞠莉「っ!! 花丸、しっかり掴まりなさい!!!」

花丸「は? え、何、何をするの!!?」



鞠莉「シャイニィィィーー!!!」ブウゥゥン!!!

花丸「ずらああああああ!!?」ゾワッ




――グシャ!!




猛スピードで突っ込んだバイクが小型の獣型の星人をまとめて轢き殺す。

進行方向に背を向けて座っている花丸は何が起きているか全く分からず、バイクから落とされないよう必死に掴まるしか出来なかった。



「な、何なの……?」


鞠莉「おお…結構轢いちゃたわね、人は……巻き込んで無いハズ」ダラダラ

花丸「雑っ! 運転も倒し方も雑ずら!!!! 前で何があって何をしたの!!?」

鞠莉「お、落ち着いて…前方で私達と同じ装備をした人が一般人を守りながら戦っているのが見えて……」

花丸「…それを助ける為にバイクで突っ込んだ、と?」

鞠莉「……That’s right♪」ニコッ

花丸「……」ジトッ



「ちょ、ちょっと! いきなり現れた挙句、妙なコントをしないでよ!」

鞠莉「ん?」

花丸「ずら?」

「ここにはまだ一般の人が…ってあれ? いない?」キョロキョロ


鞠莉「安心して? もう全員星人が居ない場所に転送したから♪」

花丸「い、いつの間にガンツに指示したの?」

「転送? ガンツ?? 一体何の話をしているの?」

鞠莉「あら? あの黒い球の事なんだけど…ガンツって名前が正式名称じゃないの?」

「ああ、あの球ってそんな名前だったんですね……えっ!? あの球の機能が自由に使えるんですか!!?」


鞠莉「んー…色々聞きたい事があるんでしょうけど、後にしましょう」カチャッ

花丸「き、巨人が集まってきたずら……」ブルブル

鞠莉「3…いや5体か。悪いんだけど、あなたにも一緒に戦ってもらうわよ」

エマ「は、はい! 私、エマと申します!!」

鞠莉「私は鞠莉よ。エマ、出会って間もないけどそっちの敵は任せたわ!!」


エマ「ま、任せて下さい!!!」




~~~~~~~~~




ダイヤ「――ひとまず手当はこのくらいで大丈夫ですかね」

イザベラ「驚いた…やってもらえる手当は消毒くらいだと思っていたんだが、まさか縫合に輸血までしてくれるとはな」

ダイヤ「本来なら、専門家に任せるべきなのですが…」

イザベラ「…え? あんた、医者じゃないのか……?」

ダイヤ「ええ、違いますわ」キョトン

イザベラ「………おぅ」サアァァ

ダイヤ「し、処置に問題はありませんわ! 確かに免許等は持っていませんが、その道のプロから指導は受けていましたから!」アセアセ

イザベラ「あ、ああ。助けてもらった身だし、何があっても文句は無いよ」



――ブウゥン…



イザベラ「なあ、黒い球に誰か映っているようだが?」

ダイヤ「あら? どこかのチームからの通信ですわね……って、穂乃果さん!?」



穂乃果『あなたはダイヤちゃん…だよね?』

ダイヤ「わ、わたくしの名前をご存知なのですね! 感激ですわ……!」キラキラ

イザベラ(さっきまでとはキャラが全然違うなぁ…)


穂乃果『そ、それは良かったよ。あははは…』


ダイヤ「…ごほんっ、ご用件は何でしょう?」

穂乃果『今そこに曜ちゃんか千歌ちゃんはいる?』

ダイヤ「………」

穂乃果『ダイヤちゃん?』

ダイヤ「今この部屋にいるのは私だけです。他の皆さんは外の星人と戦闘中です」

ダイヤ「千歌さんは……亡くなっていますわ。再生もしておりません」

穂乃果『そっか……ごめんね』




ダイヤ「いえ、お気になさらず…」


穂乃果『本題に入るね。敵の宇宙船内部のマップデータってもう手に入れた?』

ダイヤ「んな!? そんなものが既に出回っているのですか!!?」

穂乃果『その反応じゃ、まだ持ってないみたいだね』

穂乃果『今から送るデータには宇宙船に捕らわれた人々が収容されている座標が記されている。これでガンツに正確に転送してもらう事が出来るよ』

ダイヤ「なんと……」

穂乃果『私達のチームは今夜、敵の宇宙船に攻め込みに行く。データはすぐに届くと思うから、どうするかはあなた達で決めてね』

ダイヤ「分かりました。貴重なデータ、ありがとうございます」

穂乃果『それとね……』チラッ

ダイヤ「?」


穂乃果『私達のチームから一人、そっちに応援に向かわせようと思っているんだけど……問題無いかな?』

ダイヤ「え、ええ。それは大変嬉しいのですが……よろしいのですか?」

穂乃果『まあ、本来はそっちのチームの子だからね』ボソッ

ダイヤ「ん? 何かおっしゃいましたか?」

穂乃果『うんん、何も言ってないよ。こっちの状況が落ち着き次第、応援を転送するからよろしくね!』

ダイヤ「はい、分かりましたわ」




~~~~~~~~~




善子「だあああ……しんどッ!」ゲッソリ

ルビィ「お姉ちゃんがいないから、ちょっと大変だったね」

善子「取り敢えずここ周辺の敵は倒し切ったかな?」

ルビィ「そうだね…私は近くに逃げ遅れた人がいないか見てくるね」

善子「分かったわ。一旦分かれて探してみましょう」

ルビィ「何かあったらすぐに連絡するね!」

善子「了解よ~~」ヒラヒラ




善子「――さて、探してみ……ん?」



善子は倒れている巨人兵士の異変に気が付いた

突如、大量の煙を上げだしたのだ

他の巨人はZガンで全身を押し潰していたのだが、この個体だけはダイヤのXガンで頭部のみを破壊しただけ、首から下は無傷だった。

その首元から新たに人型の星人が現れた


身長は2メートル前後、多少大きいがそれ以外は人間と完全に同じ見た目だ



善子(巨人が本体じゃ無かったの? 敵は私達と同じ人間なの……?)



現れた星人と目が合う

善子はZガンを構え、引き金を――



――ダッ!!!!



善子(速っ!!!!?)ゾワッ



星人は目にも止まらぬスピードで善子に襲い掛かる

並の人間では反応する事は不可能
善子も目で捉える事は出来なかったが、これまで培ってきた戦闘経験が無意識に体を動かした


ギリギリで躱せたが、持っていたZガンは粉々に破壊された



善子(嘘でしょ!? 巨人の時より強いってどういう事よ!!?)



武器は使ってこないものの、そのスピードとZガンを一撃で破壊する攻撃力は非常に脅威である



星人「ガアアアアア!!!!」ガシッ!

善子「きゃあああ!!」



一瞬、死角に入り込んだ星人は善子の頭部を掴み取り、地面に叩きつける



善子(や…ヤバイ……やられ――)ジワッ



――バンッ!!!



星人の頭部が破裂
絶命した



善子「はぁ、はぁ、ヒック……はぁ、はぁ………?」ガクガク

ルビィ「善子ちゃん!! 無事っ!? どこもケガしてない!!?」

善子「はぁ、はぁ……る、ルビィ………大丈夫…大丈夫よ」

ルビィ「良かった……別れた後、なんとなく振り返ったら煙が上がっていたから……気になってすぐに戻って来たんだよ?」

善子「戻って来てくれて助かったわ…ホント死ぬかと思った……」

ルビィ「…一旦部屋に戻る?」

善子「……いえ、大丈夫よ。でも、一緒に行動して欲しい」

ルビィ「そうだね…私もそう思うよ」



ルビィの援護により命拾いした善子

ひとまず二人はこの場から移動を開始した。


だが、二人は気が付かなかった
頭部以外が無傷の巨人兵士は一体では無かった事を……



???(………っ)ギリッ

知っている方もいると思いますが、エマ、イザベラはスクフェスのキャラクターです。
前作ではカタストロフィ編を書く予定が無かったのでセリフ内容や口調が若干異なっています。

今回はここまでです。
申し訳ありません…


~~~~~~~~~



果南『――ああ、巨人から出てきた兵士なら私も戦ったよ?』

善子『えっ!?』

果南『ただ、善子が言うように目で追えない程のスピードは全然無かったよ』

果南『寧ろ私達にビビッてたって感じだったかな』


梨子『敵も私達と同じように個体差があるんだと思う』

花丸『善子ちゃんはいつもの不幸体質でハズレを引いただけずら』

善子『命に直結する不幸は勘弁して欲しいわ……』


鞠莉『結論から言えば、巨人を倒す際は頭だけじゃなくて、首元もしっかり破壊しなきゃダメって事ね?』

善子『ええ、みんなも気を付けて』ピッ





曜(…個体差か。だったら私も“ハズレ”を引いちゃったのかぁ)



曜は善子からの通信をただ聞いているだけだった。

無理もない、目の前には善子が警戒を促した敵が立ちふさがっているのだから。


曜は続々と集まってくる巨人兵士を一人で対処していた

Zガンで装甲を剥がし、出てきた中身をもう一度押し潰す

この戦法に徹していたので、本来ならば善子の言う本体が出てくる事は無いハズだった。


しかし、巨人兵士の一体が自らアーマーを放棄し、さらに首元から出てきたのだ



曜(これが本来の姿なんだね。巨人は私達を一度に大量に処理するための兵器って事か)

曜(両手に持ってるマチェットが厄介だな……切れ味も分からないからスーツで防ぐわけにもいかないし)

曜(それに何より――)ギリッ

星人「――っ!!!!!」ビュン



星人は一瞬で間合いを詰め、連続で斬りかかる

反応できないスピードではないが、少しでも気を抜いたら見失ってしまう


曜はマチェットの軌道を見極め、避け続ける



曜(このスピードじゃZガンどころかYガンも当たらない! …なら!!)



曜「せいやああああ!!!」キュイィィィン!!

星人「!?」



曜の蹴りが手に当たり、マチェット吹き飛ばす



曜「…ねえ、あなたは向こうの兵士なんでしょ?」

星人「……?」

曜「私ってさ、どこかの軍隊に所属しているわけじゃないんだよね」

星人「……」

曜「訓練された兵士でもない、ただの女の子に苦戦するあなたって……案外大した事ないんだなーって思っちゃったり?」クスクス


星人「――っ!!!」ブチッ



曜の安い挑発に乗った星人は猛スピードで一直線に突撃する

…が、どんなに速く動けても、その軌道が丸見えでは全く意味が無い


曜が取った行動は実に単純だった

体を横にズラし、敵が横切る軌道上にガンツソードを置いただけ

自らのスピードにより、星人の胴体はキレイに斬り裂かれた。




曜「挑発に乗ったって事は…向こうは私達の言葉を既に理解しているって事か」

曜「こっちは全く分からないっていうのにさ……恐ろしいや」



曜はZガンに座り、海を眺める



曜(この辺の人は全員逃げたよね。星人も今のが最後だったし)

曜(朝からずっと街を駆け回りながら戦ってたからなー…流石にちょっと疲れちゃった)


曜(あの大きな宇宙船にはたくさんの星人が住んでいるのかな?)

曜(……まさか、最後の敵は“文明”だとはね……しかも、地球より発達した文明なんだもん。スケールが段違いだよ)


曜「……本当に…勝てるの……かな…」



――ザッ、ザッ



曜「ん?」クルッ



聖良「…流石曜さん、これだけの星人を一人で倒してしまうとは」

曜「二人とも…もう転送は終わったんだね!」

聖良「ええ、無事に完了しました」


理亞「何体か星人が空から降ってきたときは焦ったわ」

曜「ええ!? 大丈夫だったの!?」

理亞「あったりまえよ! あんな星人、私の敵じゃないわ」フンッ


曜「へへ…それは心強いよ」ニコッ

理亞「そうでしょー? …だから、リーダーが不安にさせるような事ボヤいちゃダメでしょ」


曜「…やっぱり聞こえてた?」


聖良「今まで勝てないと思った星人ともたくさん戦ってきたじゃないですか。それでも私達は勝って生き残ってきた。みんなと力を合わせてね」

理亞「今回だって大丈夫よ……みんなでまた日常を取り戻しましょう?」



曜「…うん! 後ろ向きじゃダメだよね!!」

理亞「全く…頼むわよ、リーダー?」ヤレヤレ



聖良「それで…これからどうしますか?」

曜「うーん…取り敢えず部屋に戻ろうか」

理亞「了解よ」



曜「じゃあ行くよ…『コールガンツ、私達を部屋に転送して!』」





――ジジジジジ





――――――――


???「――やれやれ、奇妙な武器を使う連中がいるな」



大阪の地に降りたこの星人は、彼らの一族の中では英雄として崇められている。

国民からは“軍神”と呼ばれる彼は、ずば抜けた戦闘力を誇っている。


勿論、大阪にもガンツチームは存在している。
実力は東京チームと遜色無い

現に、攻め込んできた多数の巨人兵士や猛獣を撃退していた


――この軍神が降り立つまでは




その圧倒的な力は、その場に居合わせたガンツチームでは対処出来なかった

軍神の周囲には大阪チームの人間が全員倒れてる
無論、ほとんどが死んでいる。



???「特にこの箱のような武器…巨人の装備を一撃で無力化するとは、なかなかの兵器だ」


「……ぐっ、ぐううぅぅ………」

???「ん? まだ生きていたか。しぶといな」

「ごほっ…お、俺たちが……全滅…やと……?」

???「なあ、この武器は一体どうやって作った? 教えてくれないか?」

「し、知るか……知ってても…誰が……敵の…貴様なんかに……!」

???「……そうか、教えてくれればお前を助けてやろうと思ったんだがな」

「んな!?」

???「どうだ? しゃべる気になったか?」



「……仕組みは…知らない。俺が作った……わけや無いから…な」

「ただ……同じ武器を…持っている……奴は沢山……いる」


???「ほう」

「もしかしたら…その中に……知っている奴が……いるかも………」

???「…なるほど」


「た、頼む……助けて…くれ……!!」

???「ああ、助けてやろう――」ヒュン

「ひぃ……!?」



――グチャ!!




???「……製作者を探すより、現物を解析した方が早そうだな」

???「戦利品としてこの武器は頂いていくぞ。悪く思うな」


???「早く戻って解析させるか……」





~~~~~~~~~



梨子「あ、三人ともおかえり!」

曜「あれ? みんな戻っていたの?」


善子「状況が変わったの…巨人の無差別攻撃から巨大兵器で建物破壊に切り替えたみたい」

ルビィ「街の人は出来るだけ安全な場所に避難してもらったけど…」

鞠莉「かなりの人数が母船に連れて行かれたわ」

曜「……そっか」


果南「沼津はもう大丈夫だよ。星人も兵器も別の場所に移動したみたい」

梨子「一先ず、この場所は安全になったよ」

理亞「なら、ここを守る必要は無くなったって事ね」


聖良「どうします? ガンツを使って母船に転送してもらいますか?」

善子「そんな事出来るの?」

鞠莉「可能だと思うけど…正確な場所が分からないと危険よ」



ダイヤ「それなら問題ありませんわ」

鞠莉「どういう事?」

ダイヤ「先ほど、穂乃果さんから宇宙船のマップを頂きました。人々が収容されている場所も分かっていますわ」

曜「!」

果南「……」

花丸「これでみんなを助けに行けるの?」

鞠莉「ええ、それならいつでも向かう事が出来る」


曜「穂乃果さんは他に何か言っていなかった?」

ダイヤ「あぁ、東京チームから増援を送ってもらう事になっています」

曜「……誰が来るんですか?」

ダイヤ「さあ? そこまでは仰っておりませんでしたわ」



曜「東京からの…増援って事は、そう言う事だよね?」ボソボソ

理亞「リーダー? 何をソワソワしているんですか?」

曜「えっ!? べ、別に何でも無いよ!」ソワソワ


善子「……ねぇ、果南」ニヤニヤ

果南「善子…顔に出過ぎ」ニヤニヤ

梨子「もう…二人とも……」ハァ



――

――――

――――――



曜「――μ’sの絵里さん…ですか?」キョトン

絵里『……あれ? もしかして……知らない?』

曜「す、すみません…」

絵里『(し、失敗した…自分が有名人だと思い込んでいたわ///)』ボソボソ

曜「絵里さん? 何か言いましたか?」

絵里『い、いいえ! 何も言って無いわよ』

曜「ん???」



善子「ちょっと! 誰と電話しているのよ!」

曜「絵里って人なんだけど…」

善子「絵里……ああ、あの人か」

梨子「絵里さん? どんな要件なの?」

曜「いや、まだ本題に入ってないよ」




絵里『――曜さん? そこに誰かいるの?』

曜「はい、同じガンツチームのメンバーが何人かいますよ」

絵里『そうなの? なら、そこにいる人にも聞こえるようにしてくれる?』

曜「ちょっと待ってくださいね……はい、大丈夫です」



絵里『…みんなは明日カタストロフィが来ることは知っている?』

梨子「…はい、知ってます」

絵里『そう、ならこの話はしなくても大丈夫ね』

果南「まさか、この話をする為に電話したんですか?」

絵里『違う違う、一応確認しただけよ』



絵里『そこにいる人で「高坂 千歌」と会った子はいる?』




果南「高坂? 穂乃果さんじゃなくて?」

梨子「……え?」

善子「…誰なの?」


曜「……淡島での合同ミッションに居た子……ですよね?」


絵里『…ええ、そうよ。私はそのミッションの後、千歌さんに再生されたの』

梨子「え、あの子 千歌って名前だったの!?」

善子「ウソ…そっくりな顔だと思ったら名前まで一緒だったなんて……」

果南「そんなに似ていたの?」

曜「似ていた、なんてレベルじゃないよ。本人だって言われたら私でも信じちゃう…」



曜「……まさか」



絵里『――ええ、そのまさか。あの子は正真正銘、高海 千歌さんよ』





――――――

――――

――



梨子「…絵里さんは近々会わせるって言っていたけど、意外と早かったわね」

善子「みんなにも話さなくてもいいの?」

果南「昨日の今日で話すタイミングも無かったからね。本人が来てから説明すればいいんじゃない?」

梨子「そうですね、きっと曜ちゃんが説明すると思いますし…」


曜「……」ソワソワ




理亞「ところでさ、この部屋に見覚えのない人が二人いるんだけど…?」


ダイヤ「紹介が遅れましたわね。こちらはイザベラさんです。静岡で星人に襲われて負傷していたので転送して治療したのです」

イザベラ「イザベラだ。そっちの事は黒澤姉から聞いているから大丈夫だ」


花丸「この子はエマさんずら」

エマ「は、はじめまして!」ペコリ


果南「二人は愛知チームの人なんだよね? どうして静岡で戦っていたの?」


エマ「それは……」

イザベラ「エマの親友がここに住んでいるんだ。その親友と合流する為にメンバー全員でここに来たんだが…」

エマ「私達以外は全滅…親友も行方不明なんです……」

ルビィ「…そうだったんですね」




エマ「これから皆さんはあの宇宙船に行くんですよね?」

曜「そのつもりだよ」


エマ「でしたら……私も一緒に連れて行って下さい!」

エマ「もしかしたら…あの中に親友がいるかもしれない……まだ生きているかもしれないから…だからっ!」


曜「…鞠莉さん、エマさんも連れてく事って出来るの?」

鞠莉「端末のスペアは無いから自発的に転送は出来ないけど、私達と一緒に行動していれば問題無いわ」

曜「なら、一緒に行こうか!」

エマ「…ありがとうございます!!」



曜「――よし、これから宇宙船に捕らわれた人々を救いに行こう」

ルビィ「ドンドン地上に転送すればいいんですよね!」

花丸「頑張るずら!」


鞠莉「宇宙船の中は敵の本丸よ。いつ何が起こるか分からないわ。危ないと思ったらすぐに逃げる事、いい?」

善子「分かってるわ」

梨子「油断しないで行きましょう!」




果南「……ふぅ」ブルッ

ダイヤ「…どうしました?」

果南「…何でもないよ。お互い頑張ろ!」ニッ

ダイヤ「…?」



曜「準備はいいね? ――ガンツ!」




――ジジジジジ






――――――――



???「――戦況はどうなっている?」

「突如船内に現れた例の黒い服を着た原住民との戦闘が激化しております。また、加工工場にも出現し捉えた原住民を脱出させている模様」

???「こちらは押されているのか?」

「若干劣勢であるのは間違いありません…地上で行動中の兵士を至急帰還させ、対処させています。イヴァ様が出る必要はございません」



イヴァ「そうか……俺が持ち帰った武器の解析はどうなった?」

「もうじき完了します。原住民がこの船内に入り込んだ方法も解析できました。間もなく対抗策を講じる予定です」

イヴァ「ならいい」



「……それと、もう一つ報告しなければならない事がございます」

イヴァ「なんだ?」


「弟様の…オートラ様が戦死されました……」

イヴァ「…なんだと?」

「オートラ様を殺害した原住民の把握は出来ております」スッ



イヴァ「……この女が…オートラを…」

「いかがなさいましょう?」


イヴァ「…いや、今はいい。顔が分かれば後でいくらでも探せる」

「かしこまりました」



イヴァ「…覚悟しておけ、貴様はこの俺が必ず葬ってやる……」ギリッ



――――――

――――

――



星人の襲撃から15時間が経過

曜達は船内にいる人々をガンツの転送機能で助け出しつつ、エマの親友を探していた。

ただ、朝から活動し続けていた彼女達の体力は限界を迎えていのだ。


救助活動を一時中断し、部屋での休息を余儀なくされた。




果南「……なーにやってるの、曜」


曜「果南ちゃん…他のみんなは?」

果南「ぐっすり眠っている。疲れ切っていたからね…今起きているのは私と――」

善子「ヨハネよ!」ピョコン

曜「うおっ!? 背中に隠れてたんだ…驚かせないでよ」



果南「曜は休まないの?」

曜「んー…何だか眠れなくてさ」

善子「大丈夫なの? いざって時にぶっ倒れられても困るんだけど?」

曜「えー、その時は善子ちゃんが助けてくれるんじゃないの?」

善子「…勘弁してよね」

曜「あはは、冗談だよ。心配いらない、自分の体調は把握しているよ」



――ブウゥゥン…



穂乃果『あれ? 誰もいない?』


曜「!!? き、来たああ!!」ガバッ



ガンツの画面に穂乃果の姿が映ると、曜は急いで正面に移動した



曜「穂乃果さん! 居ますよ、私が居ます!!」

穂乃果『よ、曜ちゃん…元気がいいね……』アハハ…


曜「ど、どういったご用件で…しょうか?」ソワソワ

穂乃果『あ、え、ええっと…準備が出来たから、増援を送ろうと思っているんだけど……大丈夫?』

曜「はい! 勿論大丈夫です!! いつでもどうぞ!」

穂乃果『…ふふ、じゃあちょっと待っててね?』ブウゥゥン…




善子「ははーん…だから眠れなかったのね」ニヤニヤ

果南「はは、曜らしいや」



~10秒後~


曜「……ぅう、ふぅ…」ソワソワ

善子「むぅ……」イライラ


曜「っ……ふぅ」ウロウロ

果南「……あはは」ヤレヤレ


~さらに10秒後~


曜「うぅぅぅ」ソワソワソワ

善子「だあああぁぁもうっ!! 少しは落ち着きなさいよ!? 穂乃果さんから連絡があってからずっとソワソワしているじゃない!!」

果南「気持ちは分かるけどね」アハハ

曜「だ、だってさぁ……」


善子「そもそも、違う人が来るかもしれないじゃない。凛さんとか真姫さんとか」

果南「確かに、誰とは言ってなかったもんね」

曜「えぇ!? そ、その可能性は考えていなかったよ……」ガーン

善子「ふっ、冗談よ」


果南「でもまあ、どんな感じになっているんだろうね? ちゃんと生き残って成長していれば今は高校二年生になっている頃だよね」

曜「高校二年生かぁ…懐かしいね」

善子「果南さんが出席日数足りなくて留年したのも今は笑い話よね~」ニヤニヤ

果南「んな…/// だ、だって鞠莉がさっさと100点取ってくれなかったから…仕方ないでしょ!?」



――ジジジジジ




曜「!」


――――――

――――

――



ダイヤ「……ん、んん~~~っ」モゾモゾ


ダイヤ「……ふぁ~~、今何時ですの…? あぁ、丁度朝日が昇る頃ですわね」


ダイヤ「朝日を浴びに…って空は赤いんでしたわね。太陽は出ているのかしら?」

ダイヤ「一応リビングで確認して……ん?」




千歌「……」ポケェ


ダイヤ「……いや、まさか。私はまだ寝ぼけているんですわね。千歌さんがこんな所で間抜けな顔をしながら外を眺めているハズが無いですわ」ゴシゴシ


千歌「…あ、黒澤さん、おはようございます」ニコッ

ダイヤ「おはようございます……は? 黒澤さん??」

千歌「あれ……黒澤 ダイヤさん…ですよね? もしかして間違ってました!?」

ダイヤ「いや…確かに合っていますが、あなたは…どちら様ですの?」


千歌「私は千歌ですけど…」

ダイヤ「なんだ、やっぱり千歌さんか……え!!?」




ダイヤ「ピギャアアあああああ!!!!!!? ちちちちち千歌さんんん!!!?」



ダイヤの悲鳴に別室で寝ていた他のメンバが飛び起きる



――ドタドタドタ



花丸「ど、どうしたの!? 敵襲!!? ……え?」

ルビィ「ち、千歌……さ…ん? にしては、雰囲気が違う…?」

花丸「髪も長いし、顔を何だか幼いずら」ムムム


千歌「えー、お二人は国木田さんと……黒澤 ルビィさんですよね?」


花丸「国木田さん!?」

ルビィ「私達を“さん”付け??」


果南「朝からうるさいな……もう少し静かに出来ないの?」

曜「うぅ…耳がぁ」キーン

善子「びっくりして変なところ打ったわ…」イタタタ

梨子「あ、千歌ちゃんだ。来ていたんだね!」


ダイヤ「い、一体何がどうなって…」


鞠莉「…何人かは事情を知っているみたいね? 説明して欲しんだけど…?」


曜「…分かってるよ。実はね―――」










鞠莉「ええっと…つまり、この“高坂千歌さん”は私達の知っている千歌っちとは別人なのね」

花丸「そっか…この千歌さんはマル達の事知らないんだね」

ルビィ「ちょっと寂しいです…」

千歌「す、すみません……」シュン

ルビィ「あわわわ、千歌さんが謝る事無いよぉ」アセアセ

善子「……」モヤモヤ



梨子「また千歌ちゃんと会えるなんて…本当に夢みたいだよ」ウルウル

千歌「桜内さん……」

善子「……むぅ」モヤモヤモヤ




理亞「千歌さんが帰ってきたって事は、この部屋のメンバーが揃ったって事でしょ?」

聖良「良かったですね、リーダー!」

曜「うん!」



善子「……んん」モヤモヤモヤ




果南「善子? さっきから唸ってるけど、何かあったの?」


善子「…ねえ、千歌さん」

千歌「何ですか? “津島さん”??」


善子「……やっぱり、何か違うわ」

果南「はい?」


善子「千歌さんが私達を苗字で“さん”付けするのはなんか違うわ! なんかこう……背中がムズムズするのよ!!」

果南「…一応、この千歌は善子達と初対面なんだし仕方ないんじゃない?」

善子「それでも嫌なの! 千歌さん、今から名前で呼びなさい!! それから敬語も無し!!」

千歌「い、いや…そう言われても……」




千歌(17)「私、まだ高校生ですし……流石に年上の大人にタメ口は無理ですよ…」

鞠莉(22)「千歌っちの言う通りよ。善子だっていきなりそう言われても無理でしょ?」

善子(20)「確かにそうかぁ……」


梨子(21)「その制服って事は、千歌ちゃんは音の木坂に通っているんだね。赤のリボンって事は…二年生か」

千歌「はい!」

果南「そう言えば、千歌に聞きたい事が――」




エマ「あ、あの!」

曜「?」


エマ「み、水を差すようで申し訳ないのですが……あの、その……」

イザベラ「雑談している場合では無いんじゃないか?」

ダイヤ「…言う通りですわ。再開に浸っている余裕は無いです」

曜「そうだったね。話したい事は沢山あるけど、今は後回しだよね」




曜「千歌ちゃん、これから捕らわれた人々を救いに宇宙船内に入り込む。千歌ちゃんはエマさんと一緒に流されている人を引っ張り上げて、安全を確保して欲しい」

千歌「うん、分かったよ」


花丸「イザベラさんは今回もお留守番ね」

イザベラ「ああ、力になれなくてすまない…」

理亞「大ケガしているんだし、仕方ないわ」

エマ「気にしなくていいんだよ?」

イザベラ「……そうか」



鞠莉「全員準備出来たわね?」

鞠莉「――ガンツ!!」




――ジジジジジ



――――――

――――

――



千歌「――想像以上に酷いね…」

曜「千歌ちゃんは加工場に来たのは初めて?」

千歌「うん…向こうではずっと星人と戦っていたからさ」


千歌「いきなり攻め込んで来て、こんな事するなんて……許せない…」ギリッ

曜「…そうだね」



果南「どう? 親友は見つかった?」

エマ「…いえ、ここにもいませんでした……」

善子「これだけ移動して見つからないって事は、まだ街で隠れているのかもしれないわね」

エマ「…だといいんですけど……」



ダイヤ「さて、ここのエリアの人々の転送は済みましたわね。次の場所に……」


ルビィ「…う、うりゅうぅ……」モジモジ

花丸「ルビィちゃん?」


ダイヤ「…まさかとは思いますが」ジトッ



ルビィ「……はい…お手洗いに行きたい…です///」

ダイヤ「……はぁ」ヤレヤレ

善子「頼むわよ…予め済ませておきなさいよね」

梨子「早く戻らないと」

ルビィ「ご、ごめんなさい……すぐに戻るから」モジモジ


ルビィ「『コールガンツ、私を部屋に戻して!』」ジジジジ




千歌「あの、ルビィさんって津島さんや国木田さんと同い年ですよね?」

花丸「そうだよ?」

千歌「…似たような雰囲気の子がクラスにいますよ」


善子「大人の女性には、まだまだなれそうにないわね」


ダイヤ「ルビィ……しっかりして欲しいですわ…」ハァ

果南「あーあ、頭抱えちゃった」





~~~~~~~~~



イザベラ「お? 随分早いな、黒澤妹。他のみんなはどうした?」

ルビィ「いや、お手洗いに……///」

イザベラ「……なるほど」

ルビィ「すぐに戻るのでお気になさらず」




――ビビビビビビッ!!




ルビィの転送が完了した直後、ガンツから奇妙な音が鳴り出す

同時に、不規則な文字列がものすごい勢いで流れ出した。



イザベラ「お、おい! これは何だ!?」

ルビィ「わ、分からないよ! こんなの初めて見る…」



唐突に文字が消える

そして――



イザベラ「……ふざけるなよ」

ルビィ「…そ、そん……な…」ゾッ



小型の生物兵器がガンツにより転送されたのだ

その数は続々と増えていく。


イザベラはすぐさまXガンで攻撃する



ルビィ「う、うわあああああ!!!!!?」

イザベラ「黒澤! 早く攻撃しろ!!!」ギョーン!ギョーン!



――カチッ!



ルビィ「――え?」



ルビィのすぐ近くにいた生物兵器が背負っていた箱から音が鳴る
次の瞬間、小規模の爆発が発生した。

爆風でイザベラの近くまで吹き飛ばされる



イザベラ「ば、爆発しやがった!!? 無事か!?」

ルビィ「はぁ…はぁ……だい、じょうぶ…!」ガクガク


イザベラ(このペースだと数秒後には部屋を埋め尽くされる…その全部が爆発したら……)


イザベラ「こいつら…この部屋ごとガンツを破壊する気か!?」ギョーン!ギョーン!



ガンツの転送は止まらない

イザベラの予想を遥かに上回るスピードで生物兵器が部屋を埋め尽くした




ルビィ「嫌だ…助けて……助けてお姉ちゃん!!!!」ジワッ

イザベラ「ちくしょう! ふざけんなよ、クソ野郎!!!」ギョーン!ギョーン!



――カチッ! カチカチカチッ!!!



爆発の予兆

これだけの数が一度に爆発すれば、スーツを着ていても無事では済まない
確実に死ぬ



ルビィ「あああああぁあぁぁぁああああ!!!!!」

イザベラ「ちくしょおおおおおおぉぉぉぉお!!!!!」





星人の襲来から24時間後
ガンツが置かれていたマンションのフロア一帯が爆発により消滅した


今回はここまで。

所々前作で書いた展開と変わってしまいました…すみません

面白いと言って頂けて幸いです!

皆さんに楽しんで頂けるよう心がけていますが、力不足で申し訳ないです


~~~~~~~~~


~ホテルオハラ ヘリポート~



曜達の働きにより、内浦に住む人々のほとんどがこの施設内に転送されてきていた

ここは本土から離れた小さな島である
それに加え、地下に建設したシェルター内にいれば地上に比べ安全であるのは間違いない。


ただ、現時点で日本全国を探しても安全な場所は存在しない

侵略者は人間が居そうな場所を片っ端から破壊している
この島も例外ではなかった

現にこのホテル周辺にも巨人兵士が数体、襲来していた。

島内にあった水族館やダイビングショップなどはすでに跡形も無い
この避難所であるホテルオハラを除いて





執事「……っ」ゾワッ

小原「どうかしましたか?」

執事「ご、ご主人様……実は――」






小原「――今すぐ行きなさい」

執事「し、しかし……」

小原「私がお前に与えた使命は何だ?」

執事「……」

小原「この場の防衛も確かに大切だ。だが、私が主人である以上私の命令が絶対」

小原「さあ行け……今こそ使命を果たせ」


執事「……かしこまりました」




……あの時、曜は内浦にはもう星人はいないと明言していた。
確かに間違っていない。

ただ、曜は淡島に星人が襲来していた事を知らなかった
内浦防衛組の三人は誰も淡島に行っていない。


にも関わらず、ホテル周辺には出現した三体の巨人兵士や生物兵器の残骸が転がっていたのだった。



~~~~~~~~~


曜「――あれ? 『コールガンツ! 次の場所に転送して!!』


善子「転送されない? どういう事?」

鞠莉「……お、オフラインに…なっている……?」ゾワッ

花丸「調子が悪くなっちゃったの?」

理亞「ついさっきルビィが転送出来たんだし、一時的なものでしょ」


鞠莉「あ、あり得ない! 転送機能は私達にとって生命線よ…一瞬でも機能が使えなくなる事が無いように完璧に調整した!!」

果南「じゃあ……それが使えなくなったって事は…」





鞠莉「――ガンツに何かあった以外……考えられない…わ」




この発言に最も動揺したのはダイヤだった

顔は一瞬で真っ青になり、汗が滝のように流れだす




ダイヤ「………ル……ビィ……?」サーッ

梨子「ダイヤ…さん?」



大声で端末に向かって叫ぶ



ダイヤ「『コンタクト“黒澤 ルビィ”』早く繋ぎなさい!!!!」



――ザザッザザザザ…ピピッ!



『――う、うわあああああ!!!!!?』



ダイヤ「っ!!? ルビィ! 何が起きていますの!?」

花丸「ルビィちゃん!!!」



『嫌だ…助けて……助けてお姉ちゃん!!!!』



ダイヤ「ルビィ!!? ルビィィィィィィィ!!!!!!!」




『ガシャン……ドーン!!!……ザッザーーーーーー――――』




善子「そ、そんな…」

ダイヤ「……あ、ぅぁあ………」フラッ

果南「ダイヤ!? しっかりして!!」ガシッ



聖良「最後の音…あれって爆発ですよね?」

曜「うん…間違いないよ」

聖良「なら…敵襲でしょうか?」

梨子「マンションの周りに星人はいなかったハズよ! 万が一、出現したら強制的に戻されるように設定したんでしょ!?」

鞠莉「…いや、でも……まさか!?」




――ジジジジジ




花丸「転送が始まったずら!」

理亞「これで一旦戻れるわね」

千歌「……」




~~~~~~~~~


~???~


梨子「え……ここ…どこ?」

聖良「廃棄された街…ですかね? 少なくとも沼津ではないですよね……」


曜「…違う……そもそもここは地上じゃないよ!」

梨子「…え?」

理亞「どうしてそう言えるのよ?」


曜「空が…空が赤くない……それに天井みたいなものが見える」


梨子「……じゃあ、ここって……」

曜「まだ宇宙船の中…ここに勝手に転送されって事は、多分敵は私達のガンツを乗っ取ったんだと思う…」

理亞「……は?」ゾワッ





鞠莉「…シット!! 私は……私はとんだ大馬鹿者よ!!!」

花丸「ど、どうしたの?」

鞠莉「考えてみれば当たり前じゃない! ガンツは私程度の技術でも入り込めるシステムだったのよ!? だったら人類より高度な文明を持つ奴らなら簡単にハッキング出来るじゃない!」


鞠莉「認識が甘かった……甘すぎた。ごめんなさい、私のせいで…本当に……ごめんなさい……!!」ポロポロ


果南「…そんなの誰も気にしてないよ。だから、鞠莉が謝る必要は無い」

千歌「そうですよ! そんなに自分を責めないで下さい!」

鞠莉「千歌さん…せっかく来てもらったのに、いきなりこんな事に巻き込んでしまったわ……なんて言って謝ればいいか…」

千歌「……いいえ、それこそ謝る必要は無いですよ。こんな時の為に、私はここに来たんですから」ニコッ




ダイヤ「…ルビィ……ル…ビィ……」ガタガタ

エマ「…妹さんはきっと大丈夫だと思いますよ?」

ダイヤ「……気休めは…いいです…よ?」

エマ「そんなつもりで言ったわけじゃありません」


エマ「あの場にはイザベラさんが居ました。彼女は私達のチームでリーダー的存在だったんです……そんな彼女が簡単に諦めるはずがありません!」


エマ「きっと…いえ、絶対に二人ともあの部屋から脱出して助かっています!」

ダイヤ「…信じても……いいんですか…?」

エマ「…私はイザベラさんを信じます」

ダイヤ「……」






果南「……っ」キョロキョロ

曜「……果南ちゃん」カチャッ



異変を素早く察知した二人は静かに全員へ目で合図する。

…目の前に何かが転送され始めた

その数、18体




曜「全員撃って!! 完了前に倒す!!」ギョーン!ギョーン!




曜の指示でメンバーは一斉に発砲した

Zガン、Xガンの特有の発砲音が辺りに鳴り響く。


数秒のタイムラグの後、破裂し、押しつぶされた星人の屍が18体並ぶ

――ハズだった



エマ「何で…当たらない!?」ギョーン!ギョーン!

善子「違う! 効いてないのよ!!」ギョーン!




転送が完了し、ゆっくりと近づいてくる



梨子「ダメだよ…こっちの武器が通用しないよ!」

ダイヤ「それでも撃ち続けなさい!!」ギョーン!ギョーン!



曜「――まだだよ!!」カチャッ



Zガンを放棄し、ホルスターからYガンを取り出す



鞠莉「っ!! その手があったわね!」

曜「倒せなくてもこれならっ!!」ギョーン!



射出されたワイヤーアンカーが星人に巻き付く



曜「やった! これなら――」



――ブチブチブチッ!!!



善子「んな…ワイヤーが引き千切られた!?」ゾッ

花丸「Yガンでもダメなら完全にお手上げだよ!」

梨子「逃げよう…早く逃げなきゃヤバイ!!!」

理亞「逃げるってどこに!!?」

聖良「逃げ場なんてありませんよ!」


曜(――どうする…)


果南「いいの!? まだ撃ち続けるの!!?」ギョーン!ギョーン!

鞠莉「分かんないよ! でも他に手段がない!!!」ギョーン!

エマ「はぁ……はぁ…!!!」ギョーン!



曜(――どうする……)



千歌「……っ!!」シュッ!

ダイヤ「お待ちなさい!! ガンツソードでの接近戦は危険すぎます!!!」

千歌「銃がダメならこれしかないです! やれることは全部やります!!」

ダイヤ「ですが…!」




曜(――――どうすればいい!?)






~~~~~~~~~


イザベラ「……い、生きてるか?」

ルビィ「………う、うりゅ…生きて、ます」

イザベラ「…ならいい」


イザベラ「…ふぅ、強引に窓から放り投げたから少し不安だったが……お互いスーツの機能に助けられたな」

ルビィ「あの高さから落っこちても大丈夫なんですね。助かりました……」





イザベラ「……ガンツを失った」

ルビィ「っ!? そうだよ…ガンツはどうなったの!!?」

イザベラ「その辺に黒い破片があるだろ? これ全部ガンツの残骸だよ…」

ルビィ「そ、そんな……それじゃあ、宇宙船にいるみんなはどうなったの!?」

イザベラ「分からん…恐らく中に取り残されているだろうな」


ルビィ「『コンタクト!!』……なんで…誰か応答してよ!!!」

イザベラ「故障か…あの爆発でやられたんだな」

ルビィ「…あ……あぁ……」ゾッ

イザベラ「助けに行くにも手段が無い…打つ手なしだ」

ルビィ「そ……そん、な……」






『――シャイニーー♪』





ルビィ「ぴぎぃ!? ま、鞠莉さんの声!!?」

イザベラ「その腕の端末から聞こえたぞ!」

ルビィ「ま、鞠莉さん! 無事なんですか!?」


鞠莉『この音声は録音されたものだから返答は出来ないわ。ごめんなさいね』

ルビィ「……録音なんだ」


鞠莉『…これを聞いているって事は、ガンツに何らかのトラブルが起きたんだよね?』

鞠莉『仮に他の機能が使えなくなっていたとしても、これから伝える指示は問題無く実行できるから安心して』

ルビィ「……」


鞠莉『この端末にはガンツを操作するためのプログラムが保存されているの。ガンツ内部にある端子にこれを繋げば自動的に実行されるようにしておいた』

鞠莉『他の場所にあるガンツ見つけて……頼んだわよ!』ブウゥゥン…




イザベラ「…なるほどな」

ルビィ「まだ…まだみんなを助けられる……!」

ルビィ「あ…でも、他のガンツがある場所なんて知らないよ……」


イザベラ「ガンツならある」

ルビィ「…あ!」

イザベラ「ああ、私達が今まで使っていた部屋に残っているハズだ。それを使えば――」

ルビィ「――転送機能が使える!!」


イザベラ「場所は名古屋市内の高層マンションだ。案内は任せろ」

ルビィ「よし! 急いで――」


イザベラ「いや…その前にやる事があるんじゃないか?」

ルビィ「何? 何があるって言うの?」

イザベラ「あー、その、何だ……黒澤妹は覚えていないのか?」

ルビィ「…何を?」キョトン


イザベラ「だから……お前は何をしに部屋に戻って来たんだ?」

ルビィ「何をしに……戻って来た……?」ウーン




ルビィ「――――――…あっ」サーッ




イザベラ「……まあ、そのなんだ…状況が状況だ。同じ立場だったら私もそうなっていただろう。恥じる事じゃないさ」

ルビィ「~~~~~~っっ////」カァーッ

イザベラ「体調を崩されても困るから、まずは着替えようか。出発はそれからにしよう」

ルビィ「は、はい…すみません///」



~~~~~~~~~



「――オラアァァ!!!!」ガキンッ



歩み寄ってくる敵に、何者かが側面から斬りかかる

それを合図に曜達と同じ装備をした人間が続々と現れた



「おい、大丈夫か!?」

曜「あ、あなた達は…?」

「富山チームの者だ! あんた達も突然ここに転送されたんだろ!?」

曜「は、はい!」

「一先ず、ここは俺らが何とかする! お前らは態勢を整えるんだ!!」



「ぎゃああああああああああ!!!!」ブチブチブチッ



斬り込んだ一人が、星人の攻撃を刀で防いだのだが

上半身ごと引き千切られたのだ



梨子「い、一撃でやられた!?」

エマ「防いだらスーツごと持っていかれる…!」


「クソッ……とにかく早く行け!!」ギョーン!ギョーン!


曜「ごめん! お願いします!!!」ダッ




富山チームに任せ、その場を離れる静岡チーム

改めて周りを見ると、所々で戦闘が行われている事に気が付く

中には救出するはずだったであろう一般人も紛れていた

スーツ組も一般人も次々虐殺されていく





千歌「くっ…また人が死んだ……!」

果南「今は生き残る事だけ考えて!」

千歌「……分かってる! 分かってるけど…」ギリッ



善子「なんか、敵の種類が多くない!?」

理亞「そんな事どうでもいい! よそ見しないで走りなさいよ!」

善子(……あの敵、どこかで…)

梨子「…曜ちゃん、もしかしてここに転送されてきている星人って……」

曜「…うん、見覚えのある星人が何体か混じっている」

梨子「…つまり」



曜「――ここにいる敵は、これまでミッションで出現した星人なんだよ」



善子「なんですって!? 奴らは全員倒したでしょ!?」

ダイヤ「…以前から気になっていた事があります」

ダイヤ「ミッション中に倒した星人の遺体やYガンで転送した星人は一体どこに行ったのか……」

エマ「まさか…全部私達みたいにデータとして保存されていたの?」ゾワッ

曜「ガンツが乗っ取られた今、そのデータも使いたい放題ってわけか」

鞠莉「当然っちゃ当然よね。相手は地球外生命体、研究対象としてこれ程にも魅力的な素材は無いわ」



果南「幸い、最初に現れた敵以外はこっちの武器は通用するみたいだよ!」

聖良「今まで倒した星人か……遭遇したくない奴も結構いますよね」

花丸「私達の知らない未知の星人もいるんだよね…最悪だよ……」



逃げる彼女たちの前に、三体の星人が立ちはだかる

以前、曜が死亡した時に戦った星人である
繰り出される攻撃の中にはスーツの耐久を無視する即死級のものがある強敵だ

迂回ルートはなし
戦闘は避けられない




果南「――早速お出ましか…曜!」

曜「…うん!!!」




果南、曜は前に飛び出す

口から吐き出される水圧カッターをガンツソードで逸らし
反撃の隙を与える間もなく素早く切り伏せた



エマ「は、速い…ほんの一瞬で……」



曜「……あの時、胸を貫いた攻撃は痛かったよ。これで仕返しは出来たかな」

果南「この星人…こんなに弱かった?」

曜「私達も成長してるって事だよ。もっと強い敵とも戦って来たからね」

果南「……出来ればこれくらいの強さの星人とだけ遭遇したいな」ボソッ

曜「…果南ちゃん?」


ダイヤ「二人とも、次が来ない内に行きますわよ!」

果南「行こう、曜」

曜「う、うん…」


曜(妙だな、果南ちゃんにしては随分と弱気な気がする…)





――――――

――――

――


梨子「――星人の姿が無くなったわね…ただ……」

聖良「この場所は戦闘が終わった後のようですね…死体の数が多い。戦闘員も非戦闘員も関係なくやられていますね…」



花丸「血の匂いが凄い…殺し方も惨い……ずら」

善子「こいつら、人の命を何だと思っているのよ!」ギリッ



鞠莉「この死体が着けている装備って」

千歌「はい…100点の武器の一つのハードスーツですね」

曜「これって耐久力がとんでもなく高い装備じゃなかった?」

千歌「そうだよ。そう簡単に壊されるものじゃないんだけど…」

果南「スーツごとへし折られているね…触れられたら即死って訳か……」


花丸「ねえ…もし、最初に遭遇した敵にまた襲ってきたらどうするの?」



理亞「それは…逃げるしかないんじゃない? こっちの武器は全く通用しなかったんだし」

花丸「ずっと逃げるの? そんな事が可能だと本当に思うの?」

理亞「そんな事言ったって仕方ないじゃない!」イラッ

聖良「理亞、落ち着きなさい」

理亞「でも!!」


果南「あの敵に関わらず、敵との戦闘は出来るだけ避けるべきだと思う」

鞠莉「転送で帰れない以上、休息も食事も満足に出来ないし取れない。戦えば体力も使うし、ケガなんかしたらそれこそアウトよ…」


梨子「帰れるのかな…私達……」

曜「……」






エマ「……っ」キョロキョロ

ダイヤ「エマさん? 余り遠くに行くと危険ですよ」

エマ「す、すみません…でも、ここで倒れている人に見覚えがあるんです……」

ダイヤ「なんですって?」

エマ「いやでも…もし私の予想が正しかったら……っ!!」

ダイヤ「エマさん? どうしま――」






エマ「…………あ、あぁ……あああああああああああああ!!!!?」ガバッ





エマはそこにあった一人の少女の遺体を抱きかかえる。

ダイヤは激しく取り乱すエマの様子を見て悟った

この人が、エマが探していた親友なのだと……



エマ「そんな!! どうして…どうしてよおおお!!!!」

ダイヤ「……」

エマ「ねえ起きてよ……もう一度…お願い……だから…」ポロポロ


ダイヤ「エマさん、その方はもう……」

エマ「うるさい!! 私は…私は絶対に認めない!!!!」


エマ「死んでいない……あぁ、これは夢なんだ。悪い夢なんだよぉ…あははは!」ポロポロ

ダイヤ「っ!!」

エマ「あはははは!! ……早く、覚めて――」




――グシャ



ダイヤ「……は?」




ダイヤの目の前に巨大な何かが落ちてきた

丸太の様な腕と特徴的な長い赤い鼻
それは妖怪の本に登場する天狗そのものだった


ダイヤは今起きた状況をすぐに理解出来なかった

今の今まで、自分の目の前にはエマとその親友の遺体があった。
でも彼女達がいた場所には天狗がいるのだ


ダイヤは恐る恐る目線を下に向ける

天狗の足元には、エマとその親友の体だったものがグチャグチャに散らばって――




ダイヤ「――うあ、あああああああああああああ!!!!!!!?」

ダイヤ「エマさん!!! エマさああああん!!!!!」



ダイヤの悲鳴を聞きつけ、駆け付けるメンバー



鞠莉「ダイヤ!! どうし……んな!?」ゾッ

ダイヤ「エマさんが!! エマさんがぁ!!!」ポロポロ


果南「コイツは…秋葉原の時の……!」

梨子「この雰囲気……強いんですよ…ね?」

果南「うん…私は一瞬しか戦ってないけど、曜と千歌が穂乃果さん達と一緒に戦って何とか倒した敵だよ!」

善子「それってかなりの強敵じゃない!?」




理亞「どうすんのよ! 逃げるの、戦うの!!?」

聖良「さっきから敵は私達に目線を合わせません…逃げるなら今だと思う!」

千歌「曜ちゃん! どうするの!!」

曜「……」

千歌「……曜…ちゃん?」



曜は天狗を凝視したまま反応しない。

最初は目を大きく開き、動揺の表情を浮かべていたが
徐々にそれは憤怒の表情へと変貌していった

正確に言えば、曜は天狗を見ていなかった
天狗の右肩の上の空間を凝視していたのだ。



千歌(こんな顔見た事無い……エマさんを殺されたせい? でも、出会って間もない人の死にここまで怒れるものなの?)

千歌(そもそも曜ちゃんは…何を睨み付けているの?)




曜は怒りと殺意が入り混じった、低いトーンで喋りだす



曜「――何となく、そんな気はしていた」

梨子「曜ちゃん?」ゾッ



曜「それはそうだよね、目の前にいる“貴様ら”はどっちも天狗なんだもん」

善子(貴様ら? 曜さんには何が見えているの?)



曜「でもさ…くそっ! 最悪だ……お前なんか二度と会いたくなかったのにさ!!!」

果南「よ、曜…一体誰に向かって喋っているの?」



曜「さっさとステルスモードを解除しろ。姿を見せろよ!!!!」








「――いやー、驚いた。まさか一瞬で見破られるとは予想もしなかったよ」







千歌「……え?」

花丸「この声って…」



「でも、会いたくないんでしょ? 姿を見せてもいーの?」クスクス


曜「すべこべうるさいんだよ……ぶっ殺すぞ?」ギロッ

千歌「!!」ゾワッ



「おー怖い怖い、相変わらず敵意剥き出しだね。姿形は曜ちゃんの大好きな子だって言うのにさ」



何も無かった空間にバチバチと電流が走る

するとそこに、一人の少女が現れたのだ。

曜、千歌、鹿角姉妹を除くメンバー全員は
奴に与えられた恐怖を思い出し、硬直した


セミショートヘアに特徴的なアホ毛
浦の星女学院の制服の袖口や首元には
ガンツスーツ特有のレンズ状のメーターが見える

その顔立ちや姿はまるで――



千歌「――“私”…なの?」

曜「このっ……!!!!」ギリッ!










チカ「あはっ♡ また逢えたね、よーちゃん♪」ニコッ

今回はここまで

遅くなりました。

週一ペースで投稿するよう心掛けていますが
基本は不定期更新なのでご了承ください。




千歌「あれは…一体誰なの!?」

鞠莉「あれが本来この部屋に居るべきはずの…本物の千歌っちよ」

千歌「!? あ、あれが…でもなんで星人側に!?」

鞠莉「星人に身体ごと乗っ取られたのよ……以前、ミッション外であのチカに曜さん以外全員殺されたわ。数年前に静岡県の病院で起きた大量殺人事件、覚えている?」

千歌「…まさか!?」ゾッ

鞠莉「ええ…その犯人がアイツよ」



ダイヤ「なん…で……このチカさんがここにいるのです!?」

チカ「私が星人の精神と一体化したからねぇ。ガンツのデータには星人側として保存したんでしょ」

鞠莉「ここにいた人々は…あなたが?」

チカ「そうだよ♪ あ、でも正確にはこっちの元本体がやったんだけどね」

チカ「今日まで生き残った猛者なだけあって、何十回も倒されてさー。そのおかげでとんでもなく強くなったよ。触れただけで即死だから気を付けてね~」


善子「攻撃を仕掛けてこないのは…何故?」

チカ「え? 攻撃して欲しかったの!? だったら早く言ってよー」ニヤッ

善子「ひっ!?」ビクッ



チカ「……冗談だよ。最初からあなた達と戦うつもりは全くない」

曜「…なんだと?」

チカ「一回殺した相手なんかに興味ないしー、別に私がやらなくても他の同士がサクッとやるでしょ?」

曜「馬鹿にするな!!」


チカ「勇ましいね。でもさ、他のメンバーの様子も気にした方がいいと思うよ?」

曜「!」




善子「…うっ、うぅぅ……」フラッ

梨子「…あ、あぁ……」ガタガタ

聖良「ど、どうしたんですか!?」

理亞「顔が真っ青じゃない!」



メンバーの様子がおかしい
特に顕著だったのが果南だった



果南「うっ、おええええぇぇ」ボトボト

ダイヤ「か、果南さん!?」

鞠莉「落ち着いて! 大丈夫だから!!」



千歌「みんなに……何をしたんだ!!」

チカ「何って…殺しただけだよ? 強いて言えば、出来るだけ精神的に苦しめてからトドメを刺したくらいかな」


チカ「特に果南ちゃんには二度と戦えないように痛めつけたつもりだったんだけど…いやー、凄い精神力だねぇ」

チカ「まあ、私の顔を見て吐くくらいだから、相当無理していたみたいだけど」クスクス

果南「はぁ……はぁ…」ガタガタ



チカ「さっきも言ったように、私に戦う意思は無いよ。さっさと私の前から消えて。なんなら私達が移動しようか?」

曜「ふざけるな!! 偽物のお前がこの世に居続けるなんて…私が認めると思うか!!」


チカ「…偽物ねぇ、どちらかと言えばそっちの子が偽物なんじゃないのかな?」

千歌「……っ!」

曜「いい加減に――」

果南「曜!!」ガシッ

曜「何! 邪魔しな……っ!!?」


果南「…見逃してくれるって言うなら……逃げよう…お願い…ですから……」ガタガタ

曜「……か、なん…ちゃん」


花丸「戦う必要が無いなら…それでいいんじゃないかな」

鞠莉「そうよ…とても戦える精神状態じゃないわ」

梨子「ここは引こう…いいね、曜ちゃん?」


曜「……くっ!」ギリッ

チカ「ま、精々頑張って生き残りなよ~~」ヒラヒラ

千歌「……」ジッ




~~~~~~~~~


ルビィ「――お、お待たせしました」

イザベラ「ああ、ちゃんと綺麗にしてきたか?」

ルビィ「……むぅ!」

イザベラ「…済まない、もうからかわないよ」



ルビィ「それで、今は何をしているんですか?」

イザベラ「移動手段を探しているんだが……質問してもいいか?」

ルビィ「何ですか?」


イザベラ「車の運転は出来るか?」

ルビィ「ええっと、AT車の仮免許なら持っていますけど…」

イザベラ「仮免かぁ…なら、あの部屋のバイクの運転経験は?」

ルビィ「練習で何回か…上手ではありませんが」


イザベラ「ふむ、ならこのバイクの運転は出来るだろう。丁度キーが刺しっぱなしだしな」



イザベラは道に倒れていた赤色の普通二輪バイクを起こし、エンジンをかけた

目立った損傷も無く、エンジン音も正常
使用するのに問題は無さそうだ



ルビィ「ええっ!? 私が運転するんですか!?」

イザベラ「当然だろう。片腕の無い私じゃ運転は無理だ」


ルビィ「で、でも普通のバイクの運転なんてした事無いよ? まだ車の方が…」

イザベラ「あのバイクが運転できるなら大丈夫。それにバイクなら小回りが利いて勝手がいいし」


ルビィ「んー…大丈夫、かな?」

イザベラ「ほら、早く乗りな。いつ敵が来るか分からない。急がないと仲間の命だって危ないだろう?」

ルビィ「…よし! やってみるよ!」



バイクにまたがり、アクセルを回すルビィ



イザベラ「ふむ……」ジーッ

ルビィ「どうしたんですか? 早く乗って下さいよ」


イザベラ「いや、何て言うか…全然似合わないな」

ルビィ「はぁ!?」ガーン

イザベラ「今後はバイクに乗るのはおススメしないよ」ケラケラ

ルビィ「う、うるさいなぁ!! いいから乗って下さい!!」プンスコ




~~~~~~~~~


チカ、天狗のいた場所を立ち去った曜達は数体の星人と鉢合わせていた。



ダイヤ、ルビィ、花丸が初めて参加した時のボス敵だった“ひょうほん星人”

秋葉原戦で千歌と曜を苦しめた“鬼星人”

アメリカ戦で花陽を死に追いやったオオスズメバチベースと凛に重症を負わせたタスマニアン・キング・クラブベースの“キマイラ星人”


どの星人も一筋縄では倒せない強敵だが――




理亞「はあ!? コイツ速過ぎでしょ!!?」ギョーン!ギョーン!


ダイヤ「この星人は見かけ以上に素早い! それと吐き出してくる液体は絶対に避けて!」


花丸「このまま銃で牽制しつつ、囲んじゃおう!」ギョーン!ギョーン!



あの時は初参加だったことと狭い空間の教室での戦闘だった為、苦戦したダイヤだが

敵の行動パターンや攻撃方法が分かっている今、冷静に対処しながら
ひょうほん星人を三人で追い詰めていく。



ダイヤ「よし! 逃げ場を潰しましたわ!!」ギョーン!







鬼星人と戦闘中の果南、梨子、善子

その巨体から振り下ろされる金棒は受ければスーツの耐久値を大きく削る事は明白
しかし避けられない速さでは無い。

それに過去に果南は単独でこの星人を複数体相手取り、撃退している。

仲間の力を借りなくても倒せる敵
…なのだが、今の果南は動きが極端に鈍かった。


避けられるはずの攻撃を刀で防ぎ、防御で空いた隙に拳を叩きこまれる
何とか反撃を試みるも、その攻撃も大雑把でキレがない

逆にカウンターを浴びせられ吹き飛ばされる始末だった。



果南「がはっ!?」ドサッ


善子(どうしたって言うの!? いつもの果南さんの動きじゃない…)


梨子「一旦下がって下さい!! ここは私達が何とかしますから!!」

果南「…ごめん」ギリッ



梨子「私が接近して敵の動きを止める。よっちゃんはZガンで仕留めて!」

善子「任せなさい!!」



梨子は態勢を低くして接近する

金棒が梨子の頭目がけて振り下ろされるも
それよりも早く足元まで潜り込む

そして、鬼星人の右アキレス腱を斬り裂いた


支えを失った鬼星人は態勢が大きく崩れる



梨子「――今よ!!!!」


善子「っっ!!!!」



――ギョーン! ギョーン!






鞠莉と曜はキマイラ星人と戦っていた

鞠莉は得意の格闘戦に持ち込む



――下段前蹴り


――上段後ろ蹴り


――上段回し蹴り


怒涛の足技で反撃の隙を与えずに攻め続ける

だが、表面を覆う甲殻が予想以上に硬く
態勢を崩す事は出来ても、有効なダメージが通らない。


曜による後方からのXガンやZガンの攻撃も同様だった

一時的に甲殻の一部を破壊できるが、すぐさま再生されてしまう。



鞠莉(厄介ね…何発か蹴り込めばヒビは入るけど、すぐに再生されちゃうわ。それに……)

曜「あの蟹の爪みたいなやつ…挟まれたらヤバイよね?」

鞠莉「でしょうね。接近戦は得策じゃない…かと言ってXガンでの攻撃もあの甲殻と再生力の前では効き目が薄いとなると……」


曜「Yガンの出番ってわけだね」

鞠莉「That’s right♪ もう一度格闘で体勢を崩す。決めに行くわよ、曜!!」パシンッ

曜「…うん!」カチャッ!




キマイラ星人「……」

千歌「……っ」ギロッ



千歌と星人は一定の距離を保ったまま動かない

周りでは爆発音や怒号が鳴り響いているにも関わらず
この二人が睨み合っている空間だけ防音室にいるかのように錯覚する



聖良(な、何てプレッシャーなの!? 見ているだけなのに、こっちの精神がゴッソリ削られていく…)


聖良(この勝負は…一瞬で決まる)ゴクリッ




先に沈黙を破ったのはキマイラ星人だった

右腕を前に出す構えをしていた星人は
ノーモーションでその右手から生えていた大きな毒針を発射する

以前、花陽が避けられなかった奇襲攻撃だ
その射出スピードは弾丸に匹敵する

常人では見てから避けるのは不可能

そんな攻撃に対し、千歌が取った行動は――




――ガキンッ!!!




キマイラ星人「!!!?」


聖良「き、斬った!? あのスピードの物体を!?」




避けるならまだ分かる

だが、千歌は寸分の狂い無く弾道を見切り
構えていたガンツソードで斬り落としたのだ。


これには星人も動揺を隠せなかった

すぐさま次の行動に移さねばならない状況で思考が停止してしまう。



千歌「――遅いよ」



――ザシュッ!!!



気付いた時にはもう遅い

キマイラ星人の首は跳ね飛び、そのまま地面に倒れて動かなくなった



千歌「ふぅ、同じ敵に二度もやられて堪るもんですか」


聖良「私の出る幕は全くありませんでしたね…」シュン

千歌「気にする必要は無いよ。任せてって言ったのは私なんだからさ」




曜「千歌ちゃん! 終わったの?」

千歌「今終わったところだよ。他のみんなも無事みたいだね」


ダイヤ「ええ、以前倒した星人ですから…それ程脅威ではありませんでしたわ」

花丸「伊達に長年戦っていないずら!」

理亞「この程度の星人なら余裕よ」


鞠莉「誰もダメージは受けていない?」

梨子「それが…果南さんだけ少し…」

鞠莉「なんですって!?」

善子「あのチカさんに会ってから様子がおかしいのよ…暫く戦うのは――」


果南「いや、大丈夫だよ。ちょっと昔の事を思い出しちゃっただけだからさ…」

ダイヤ「ここで無理する必要は無いのですよ?」

果南「分かってる。でも、本当にもう大丈夫だからさ」ニコッ




千歌はみんなの顔を見渡した

戦闘自体は特に苦戦を強いられた様子は無かったようだ

体力の消費も最低限で抑えられていると思われるのだが…



千歌(大した事無かったって言っていた割にみんな汗が凄いし呼吸も荒い……いつ帰れるか分からない不安で想像以上に体力の消費が激しくなっているんだ…)


千歌(この調子だと、未知の強敵と遭遇したら間違いなく誰か死んじゃう…)


千歌「ねえ、みん――」

曜「みんな、聞いてくれる?」


全員「?」


曜「色々考えたんだけどさ…やっぱりアイツだけは倒さないとダメだと思うんだ」

梨子「アイツって、チカちゃんの事?」

曜「……コクン」


果南「!!? ど、どうして!!」

ダイヤ「そうですわ! 相手は私達に興味が無いと言っているのですよ!?」

鞠莉「わざわざリスクを冒して戦う必要は無いと思うわ」

曜「分かってる。だからみんなはここで休んでいて?」





曜「アイツは、私一人で倒す」






花丸「しょ、正気!?」

曜「私だって前に戦った事はある。あの時は負けちゃったけど、今の実力なら勝てる」

善子「だとしても、無傷で済むはずがない! 一人で戦うなんて危険すぎるわよ!!」


曜「アイツの前で怖がらずに立ち向かえるのはアイツと戦った事の無い理亞ちゃんと聖良ちゃん、それと私しかいない」

曜「でも、二人は連れて行かない」

理亞・聖良「……」


曜「この戦いは私のワガママ。誰かを巻き込むわけにはいかないよ」



梨子「千歌ちゃんは…どう思うの?」

ダイヤ「そ、そうですわ! 千歌さんからも曜さんに何か言ってあげて下さい!!」


千歌「……」

曜「止めても無駄だよ。私は本気だから」



千歌「…確認したい事があるんだ」

曜「何?」


千歌「曜ちゃんが戦おうとしているのは、千歌そっくりの星人じゃなくて、本物の千歌の体を乗っ取った奴なんだよね?」

曜「…そうだよ」

千歌「そっか……」




千歌「――なら断言できる。曜ちゃんにアイツは倒せない




曜「なんだって?」ピクッ


千歌「聞こえなかった? 曜ちゃんじゃ勝てないって言ったの」


曜「……言ってくれるね? いくら千歌ちゃんでも怒るよ…?」ギロッ



曜と千歌は睨み合う

二人とその周囲は異様なまでに重苦しい空気が漂っていた

他のメンバーはその空気に圧倒され、何も言えない



曜「私の実力を知らないからそんな事が言えるんだ! 絶対に負けない」

千歌「いいや、無理だね。そもそも実力の問題じゃない」

曜「は?」


千歌「確かに曜ちゃんの実力なら勝利目前まで追い詰められる。でもトドメは刺せない。乗っ取られているとは言え、相手は本物の千歌なんだよ?」


千歌「――本当に殺せるの?」

曜「っ!」

千歌「どうなの?」

曜「……それでも、それでも私がやるしかない! 千歌ちゃんを奪ったアイツを…私は許せないんだよ!!」

曜「例え刺し違えてでも必ず――」

千歌「なら、私が戦う」


曜「…え?」

千歌「刺し違うって言葉出るあたり、確実に勝てる自信はないんだよね?」

曜「ぐっ!」ドキッ

千歌「私なら倒せるだけの実力もあるし、躊躇もしない」




千歌「だから…私がやる」




千歌のこの発言に他のメンバーもようやく反応する



梨子「で、出来るの!? 相手は千歌ちゃん自身と言ってもいい。自分で自分を殺めるようなものよ!!」

千歌「私自身か…それはちょっと違うかな」

梨子「違う?」


千歌「……いや、何でもない。でも、曜ちゃんが一人で戦うよりもずっと勝率が高い」


曜「で、でも! 千歌ちゃん一人で戦わせるわけには……」

千歌「それも違う。別に一人で戦うつもりは無いよ」

曜「…?」



~~~~~~~~~



チカは少し高い場所に腰を下ろし、暇そうにパタパタと足を振っていた

曜達が立ち去った後、すぐに別のガンツチームが現れたのだが
天狗が全て片付けてしまったので、退屈な時間を過ごしていた。


そんな時、目の前に一人の少女が現れる



チカ「へー、てっきり曜ちゃんが来ると思っていたのに」

チカ「初めまして、偽物さん♪」ニコッ


千歌「…その言葉、そっくりそのまま返すよ」

チカ「だって事実でしょ? あなたはガンツに保存されていた旧データの私。イレギュラーで生まれた紛い物だ」


千歌「どこで調べたのさ?」

チカ「さあ? どうだろうねー」ニヤニヤ

千歌「イライラする顔だな…私ってここまで憎たらしいが出来たんだね」



チカ「…それで? 一応聞くけど、何しに来たの?」



千歌は無言でXショットガンの銃口を向ける

やれやれといった表情を浮かべ、ゆっくりと立ち上がった



チカ「……本気?」

千歌「正直言って、あなたの存在は邪魔なんだよ。私が私であるために、ここでキッチリ決着をつけなきゃダメだと思うんだ」


チカ「偽物が本物になるには、本物を殺すしかないって事か…」

千歌「……」


チカ「いいねぇ! そう言う事なら、テストしてあげるよ。あなたが“高海千歌”に相応しいかどうか!!」


チカ「さあ、かかって来――…っ!!!?」



言い終わる直前、チカは身を屈めて近くの物陰に飛び込んだ

直後、先ほどまでチカがいた周辺が連続して爆発する



千歌(この不意打ちを躱すか…!)ギリッ

チカ「はっ! 案外姑息な手を使うんだね!! 一対一と見せかけて、後方の仲間に狙撃をさせるとね」

チカ「でも残念、撃つ直前に殺気がダダ漏れだよ!! 曜ちゃんを選んだのが間違いだったね!!」



無線機で連絡が入る



曜『ごめん! 外した!!』

千歌「問題無いよ! 曜ちゃんはそのまま援護をお願い」

曜『…分かった!』ピッ



チカ「そっちがその気なら……」



そう言うと、チカはパチンと指を鳴らす
すると――



――ジジジジジ



秋葉原戦で鞠莉と善子が最初に戦ったオオカミ型の星人が転送されて来た

その数、五匹



チカ「別に構わないよね?」

千歌「…どうしてこんな雑魚を呼んだの?」


チカ「ははっ! この子達に失礼だよ。まあ、天狗と比べれば単体戦力は劣るだろうけどね」

千歌「その自慢の天狗はどこに行った!」


チカ「さぁーね? ついさっきスーツを着た人間を皆殺しにするように命令して解放したから、その辺にいるんじゃなーい?」

チカ「この近くにガンツチームは何組いるのかなん?」ニタァ


千歌「…なるほどね」ギリッ

チカ「天狗の力は最大まで強化されている。もう再生は出来ないけど、スピードもパワーも桁違いだ。残りのメンバーじゃ倒せない」

チカ「戻るなら今の内だよー」



千歌「!!」ギョーン!ギョーン!


チカ「っ! だろうね!!!」


千歌の発砲により、星人が一斉に襲い掛かる

二人の千歌による戦いが、始まる




千歌「絶対にあなたを……倒す!!!」





『千歌(クローン)&曜 vs チカ(天狗憑依)&オオカミ型星人×5』

今回はここまで

~~~~~~~~~


千歌が戦闘を開始したのとほぼ同時刻

残されたメンバーの前に天狗が姿を現した



天狗「ガアアアアアアッ!!!!」ブゥン!!



接近を試みた鞠莉に殴りかかる

上半身を後ろに大きく反らして何とか回避するも
頬が少し裂けて出血する



鞠莉「危なっ!? 意外と動きが速いわよ!!」

梨子「接近戦は避けてください! 危険すぎます!!」

ダイヤ「相手は一体だけですわ、数で押し切りましょう!!」ギョーン!


善子「で、でも…コイツ!」ギョーン!ギョーン!

花丸「全然当たらないよっ!!!」ギョーン!


果南「っ!!」ダッ!

理亞「!? 果南さん!?」

梨子「ダメ! アイツの攻撃を受けたら――」


果南「うおおおおおおお!!!」

天狗「ガアア!」



果南は二本のガンツソードを操って戦う

以前、短い間ではあったが一緒に戦った海未の剣術を参考にしたこのスタイルは
果南自身も驚くほど自分に合っていた。

ただ、その弊害としてホルスターにはXガンは入っておらず
銃系の武器の扱いは他のメンバーと比較してやや劣る。

鞠莉以上に接近戦に特化しているのだ



果南(いつまでも昔のトラウマを引きずるわけにはいかない! 足手まといには…なりたくない!!!)カチャッ!



――ズババッ!!



果南に向けて振り下ろされた右腕をバラバラに斬り落とす



善子「おぉ!」

果南「もう一撃っ!!!」



ダメ押しに足も斬り落とそうとするが…



天狗「!!!!」ダッ!!


果南「くっ! そっちに行ったよ!!」


梨子「分かってます!」

花丸「ひぃ!」

善子「ずら丸、下がりな――」



飛び掛かってきた天狗は、三人のいる場所の少し手前で落下し
地面に向けて拳を叩きつけた



――ドゴオオオ!!!



善子「んな!? 地面が!」

梨子「こんな場所に落とし穴!?」ゾッ

花丸「き、きゃああああああ!!!」



理亞「マズイ…三人とも落っこちて――」

ダイヤ「よそ見しないで! 今度はこっちに来ていますわ!!」ギョーン!

鞠莉「それだけじゃない…最悪だわ…」

理亞「何が!?」


鞠莉「アイツらよ…最初に遭遇した、武器が効かない星人達が来た!」


理亞「どうするの!?」

果南「戦うしか…ないっ!!」




聖良「な、なんで…これは一体……」

ダイヤ「どうかしましたか?」

聖良「端末のレーダー機能を使ったんだけど、この下に落ちた三人が全然違う所にいる! 端末の故障…?」

鞠莉「三つ同時に壊れるなんてあり得ない…この一瞬で移動したとなると――」


ダイヤ「転送…でしょうね」

鞠莉「落とし穴に何か仕掛けがあったのか…もし自由に使えるなら厄介ね」









果南「理亞、聖良、今すぐ三人がいる場所に向かって」

鹿角姉妹「「っ!!?」」


果南「ダイヤ、鞠莉、天狗の相手をお願いできる?」

ダイヤ「…はい?」

鞠莉「どうするつもり?」


果南「このまま敵を全員相手にするのは無理。それに罠に嵌った三人も助けに行かないといけない」

果南「奥の星人は…私が引き付ける」


鞠莉「…出来るの?」

果南「当然…でしょ? 私はこのメンバーの中で一番強いんだよ。一人で強い敵を複数相手に出来るのは私しかいない」

ダイヤ「し、しかし……」


理亞「ついさっきまでビビッて吐いてたクセに、随分と強気に出たわね?」

聖良「理亞! どうしてそんな言い方を!!!」

果南「あはは、全くその通りだよ」

果南「正直言ってさ…凄く不安だよ。もしかしたら、一瞬で殺されちゃうかもしれない」

果南「だから……早めに仲間を連れて戻って来てね?」ニコッ


理亞「……ええ、分かったわ!!」




果南「――さあ、ついてきな!!! お前たちの相手は私だ!!!!!」


~~~~~~~~~


善子「痛てて…いや、スーツ着てるから痛くは無いか」

花丸「ここは…どこずら?」

善子「一面真っ白でだだっ広い場所ね…まるでどっかの製薬会社の本社みたい」


梨子「…おかしいわ」

善子「何がおかしいの?」

梨子「私達は落とし穴から落ちてここに来たのよね?」

花丸「まあ、抜けた地面に落っこちたのは確かだけど…」

梨子「だったら…どうしてここの天井に穴が無いの……?」


善子「はあ? そんなわけ……ってあれ?」

花丸「どこにも開いてないずら!?」

梨子「私達はここに落っこちてわけじゃない。つまり……」




――ジジジジジ




善子「なるほど、あんな風に転送されてきたって事ね」

善子「ガンツが乗っ取られたなら不思議じゃないか…」

花丸「あれは…うちっちー?」


梨子「あの星人かぁ…スーツ無効系の敵はしんどいよ……」

善子「それだけじゃない、見た事がない星人もドンドン転送されてきてる!」


梨子「やるしかない…か。二人とも、奥に出口があるのは見える?」

梨子「私達で全員倒して、あそこから脱出するしかない」


善子「構えて! 来るわよ!!」



~~~~~~~~~


千歌「はぁ…はぁ……はぁ!!」ギョーン!ギョーン!

チカ「あはは! 走れ走れ! 止まったら噛み殺されるぞー」ギョーン!


千歌(この星人…獣型なのに知性が高い! こっちの武器の特性を理解している)

千歌(倒すには時間が掛かる…結構ヤバイ!?)


オオカミ「バウウウゥゥ!!!!」ガブッ!

千歌「しまっ!? 武器が!!?」


チカ「デカい銃を失ったね! 頼りの援護は全く機能していないみたいだけど、大丈夫なのぉ!!」ギョーン!ギョーン!

千歌(狙撃を警戒して常に動き回っている…この速さじゃ、例え真姫さんでも当てるのは無理!!)



千歌は星人攻撃を避けながら、落ちている小石を拾う



千歌「おりゃあああ!!!」ビュン!



千歌が投げた小石はチカのXショットガンの銃身を貫く



チカ「くっ! そう言えば、投げるのは得意だったね!!」

千歌(これでお互い遠距離攻撃は出来ない…なら!!)



千歌は進行方向を急変更
周りにいる星人は完全に無視してチカに向かって走り出す



チカ「はっ! バカなの!! 嚙み殺されるのがオチだ!!」



五匹の星人は一斉に襲い掛かる



千歌「……ふふっ」ニヤッ

チカ「!?」ピクッ



――バン! バババン!!!



星人は全員空中で爆発四散した



千歌「流石曜ちゃん!! 完璧な射撃だよ!!!」

チカ(なるほど…援護射撃はそっちに……)


チカ「だが! 接近戦は一番得意だ!!」シュッ!

千歌「奇遇だね、私もだよ!!」シュッ!



――ガギィィン!!



凄まじい斬り合いが繰り広げられる
絶え間なく金属がぶつかり合う音が響く

チカのトリッキーな剣術に翻弄されることなく正確に捌き
蹴りや拳による打撃でダメージを与えていく



チカ「やるねぇ!! タイマンで挑もうとしただけの事はあるよ!!」ギン!ガキン!

千歌「当然でしょ? 何年あの人に鍛えられたと思っているの!!」ドゴッ!

チカ「ぐふっ…! ウラアアァァァ!!!!」バキッ!

千歌「痛っ!!!」



実力は拮抗していた

互いにこれ以上ダメージを受ければ、スーツが故障してしまうだろう


二人は大きく距離取った



チカ「はぁ…はぁ……ねえ、偽物さん」

千歌「ふぅ……ふぅ…何?」


チカ「同じ顔の人間と殺し合いするってどんな気分なわけ?」

千歌「…聞いてどうするの?」

チカ「別に、単純に興味があるだけ。殺しちゃったらもう聞けないからさ」


千歌「…いい気分では無いのは確かだね」

千歌「何が面白くて自分と同じ人に刃物を向けなきゃいけないんだよ…」


千歌「――だからさ」



千歌はガンツソードを構え直し、軽く呼吸を整える



千歌「……そろそろ終わりにしようか」ギロッ

チカ「へー…やってみなよ?」ニッ



千歌「行くよっ!!!!」ダッ!




千歌はスーツの力を足に集中させ、一歩踏み出す。

距離は5m弱

次の一手で勝敗は決まる



チカ(さあ、あんたはどこを斬る!? 首、胴、胸、はたまた手足を斬り落とすか?)

チカ(どこを狙おうと、こっちの攻撃の方が一瞬速い! 先にスーツを壊せるのは私だ!!)

チカ(一撃でその首を――…は?)



そこで異変に気が付く

一歩目を踏み出した直後、右手に握られていたガンツソードが消えていたのだ。

いや、消えたのではない
剣先をこちらに向けたまま前方に放り投げたのだ。



チカ(武器を放棄した…?)

チカ(視線誘導? でもこの距離では早すぎる…タイミングを誤ったの? いやこの局面でそれはあり得ない……)

チカ(一体何を――)



千歌「いっっっけえええぇぇぇぇぇ!!!!!!」



二歩目を踏み出した直後

千歌は力を溜めた右足で放り投げたガンツソードの柄を力一杯蹴り飛ばした。
蹴り出されたガンツソードはチカの顔面目がけて一直線に飛んでくる。



チカ(刀を蹴り飛ばすだと!!? 危なっ!!!?)ガキンッ!



間一髪で弾く

この一瞬が命運を分けた


三歩目
蹴りに使ったスーツの力をそのまま前方への推進力にして
チカの懐へ一気に潜り込む



千歌「ッッ!!!!!!!」ダンッ!

チカ「しまっ――」ゾッ



――

――――

――――――


穂乃果『――星人に操られた仲間の救い方?』


穂乃果『うーん…確かに、星人の中には不思議な力で人間を操る奴もいるよね』


穂乃果『他のチームから聞いた話でいいなら教えるけど――…うん、じゃあ教えるね』


穂乃果『確実なのは、その星人に能力を解除させる方法だよね。ただ、力尽くでやらせるしかないし、解除してくれない事がほとんどだけど』


穂乃果『次の方法はその星人を倒す。それで解決するなら簡単だけど、この手の能力のほとんどは倒してもダメな事が多いのが現実なんだよね…』


穂乃果『後は、操られた本人が自力で解く方法かな』


穂乃果『それでもダメだったら? そうだねぇ…』


穂乃果『これは最も確実で最も成功率が低い方法なんだけど……え? 矛盾してるって?』


穂乃果『まあまあ、最後まで聞けばこの言い回しに納得するよ』


穂乃果『その方法はね――』


――――――

――――

――


チカ「かっ……かはっ……こほおっっ!!!!」ドサッ



苦しそうに胸をあたりの服を掴み、その場に跪く



チカ「な、何で…スーツは……まだっ…!!?」コヒューッ、コヒューッ

千歌「知らなかった? このスーツは関節技とか内部に直接力を与える攻撃とかは防げないんだよ」

チカ「内部に…直……接…?」

千歌「この技を習得するの結構大変だったんだよ? 八極拳の達人にボコボコにされながら体で覚えたんだから」



千歌「今の一撃であなたの心臓を止めた。苦しいのはそのせいだよ」

チカ「!? ば…バカ……な…!?」

千歌「勝負はついた。あなたこのまま死ぬ」

チカ「くっ…そん……な……こ…と………が………」



――ドサッ



仰向けに倒れたチカは薄目を開いたまま動かなくなった

口元に頬を近づけて呼吸を確認する。



千歌「――完全に止まっている……条件は整った!」


千歌「待ってて…今助けるから!!!!」




~~~~~~~~~


梨子「このっ! 倒しても倒しても数が減らない!!」ザシュ!ズバッ!


善子「大丈夫よ! 今までは増えていたけど、新しく転送はされていないわ。ここにいる敵を全滅させれば終わりよ!!」ギョーン!ギョーン!


花丸「はぁ……はぁ…や、やっと終わる…ずら……?」ギョーン!


星人「――!!!」


善子「!? ずら丸後ろ!!!!」



――ゴキッ!!!



花丸「~~~~~~~っっっ!!!!!?」ドサッ
(こ、後頭……部…!!!!)



後ろからの不意打ちを受け、うつ伏せに倒れる

善子は花丸を攻撃した星人を撃破し、急いで駆け寄った。



善子「ずら丸! しっかりしなさい! ねえってば!!!」

花丸「…だ、大……丈夫…ずら」

花丸「でも…もう、体力的に……立ち上がれない…や」


梨子(無理もないわね…花丸ちゃんはメンバーの中で一番体力が少ない。寧ろ今まで戦えていた事自体不思議だった)


善子「本当に立てないのは頭を殴られたせいじゃなくて、ただ疲れただけなのね?」

花丸「う、うん……ごめん」

善子「ならいいわ。ずら丸はこのまま休んでいなさい。この場はリリーと二人で何とかする!」


梨子「ええ! もうひと踏ん張りで――」



――バンッ!!



突如銃声が響くと、梨子の持っていたガンツソードが吹き飛んだ

音のした方向に目を向けると拳銃のような武器を構えた人間そっくりな姿をした星人が立っていた。
この宇宙船の兵士である。


いつの間にか他の星人は消えており、部屋にはこの星人と梨子達しかいない。


梨子が次の行動に移ろうとした瞬間
星人は再び発砲する



梨子「ぐ、ぐうぅ!!!」ドスッドスッ

善子「リリー!!」



善子はXガンの銃口を星人に向ける



善子「…は? どこに行っ――」
梨子「目の前!!!!!」



――ドンッ!!!



急接近した星人は善子の腹部に散弾銃を押し付け、引き金を引いた



善子「ごおっ!!?」



被弾による衝撃で空中に浮いた善子の体を蹴り飛ばし、壁に叩きつける



梨子「よっちゃん!!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!

星人「――!!!」ザッ!ザッ!


梨子(は、速い!! 全部避けられた!!?)




Xガンでの攻撃を全て回避
梨子の目の前まで接近した星人はサマーソルトキックで武器を吹き飛ばす



梨子(ヤバイ!! 接近戦じゃ勝ち目は無い!!!)ゾッ



星人はホルスターから新たな銃を取り出し、梨子の額に突きつける。

反射的に銃口を掴み取る梨子だったが…



――ザクッ!!!



梨子「がああああああああ!!!!!?」キュウゥゥゥン

梨子(あ、足……足を刺された!? 銃はフェイクか!!)




太ももに深々とマチェットが突き刺さり、ドクドクと血が溢れ出る

逸らされた銃口を再び額に戻し、引き金に指を掛けた
スーツは壊れ、次の弾丸はもう防げない。



梨子(マズい…撃たれ――)



花丸「ダメええええええええ!!!!」ドンッ

星人「っ!!!?」


花丸「り、梨子…さんは……絶対に死なせない!!」キュイィィィン!!



花丸は星人の脇腹にしがみついて離さない
スーツの力で締め上げているので星人も必死で振りほどこうともがく。

星人「っ!!!」ドンッ!ドゴッ!

花丸「ぐ、ぐぅぅ……」



梨子(このままじゃ花丸ちゃんが星人に殺されちゃう! )



――ガチャン



梨子の目の前に何かが投げつけられて転がってきた



梨子「っ!! ガンツソード!?」


善子「――リリー!!!! 早く使って!!」


梨子「っ!! おおおおおおおおおお!!!!」



――ズバッ!!!



花丸の拘束から逃れるのに手間取っている星人の急所を斬る
スーツのパワーアシストは失っていた為
斬り裂くまでは出来なかったが、致命傷を与えるには十分だった。



星人「……」ドサッ

梨子「ふぅ…ま、間に合った……」

梨子「助けてくれてありがとう。花丸ちゃん、よっちゃん」

花丸「へへ…やっと役に立てて良かった…ずら」グッタリ


善子「痛てて…流石にあの距離で受けたら凄まじい衝撃だったわ」

善子「私のスーツはまだ壊れていないけど…リリーのはもう……」

花丸「足のケガも酷い…早く手当しないと」

善子「これ、引っこ抜いた方がいいの?」

花丸「それはダメ。そんな事したらもっと血が噴き出して死んじゃうよ」


善子「な、なるほど…」

花丸「肩を貸すよ、立てる?」

梨子「ありがとう……痛っ!?」ズキンッ



――ジジジジジ



善子「また敵の転送が始まった!?」

花丸「痛いと思うけど、我慢して!」

梨子「だ、大丈夫よ…」

善子「あの出口まで急いで! 敵は私が倒すから!!」ギョーン!ギョーン!


~~~~~~~~~


果南「……っはぁ、はぁ!!!」ドクンッドクンッ!!

星人「……」ザッザッ


果南(よし! ちゃんと引き付けられた)

果南(星人は二体…銃の類は効かないし攻撃は即死級の威力)

果南(最初に遭遇した時より数が減っている…あの人達が倒してくれた?)

果南(なら、無敵って訳では無さそうだね。そうじゃなきゃ困るけど)

果南(凄く危険だけど…接近戦でやるしかない!!)



果南は星人の脇腹へ斬り付けるが…



――バキンッ!!!



果南「硬っ!? 刃こぼれした!!?」



果南の攻撃に反応し、星人も反撃する
もちろん、当たっても防いでも即死



果南(当たったら死ぬ当たったら死ぬ当たったら死ぬ当たったら死ぬ)ゾワッ

果南「うわあああああああああ!!!?」



攻撃の速度はそれほど速くない
常人でも問題無く避けられる速さだ。

しかし、そんな攻撃を果南はギリギリで回避している。
死の恐怖が果南の動きを鈍らせていたのだ。



果南(何で…何でこんなに怖いの!? 即死級の攻撃をしてくる星人とは何度も戦ってきたじゃん!)


『――分かってるくせに』


果南(!!?)


『私は最初から怖くて怖くて堪らなかった。誰よりも部屋から解放されたいと願っていた』

『他の人より体力や運動神経がいい私は、すぐに戦闘慣れして他の仲間から尊敬されるようになった』

『“果南ちゃんがいれば大丈夫”“果南ちゃんならどんな星人も倒せる” みんなにそう言われるのが心地よかった』

『そして、自分は誰よりも強いと思い込むことで折り合いをつけていたんだ』


果南(…違う)


『部屋の仕組みも一役買っていたよね。多少無理をしても生き残れば再起不能の大ケガをしても大丈夫だし、仮に死んでも頼れる仲間に再生して貰えるんだから』

『でも、今違う。ケガは治らないし死んだら終わりだもんね』

『だから街の人を救うこの作戦だって本当は参加したくなかった。自分の知らない赤の他人なんてどうでもいい』

『でも、他の仲間はそうじゃ無かった。みんながやるから仕方なく参加したんだよね』


果南(違う! 私は……)


『やっぱり自分の命が一番大切なんだよ。本音を言えば鞠莉やダイヤ、仲間がどうなったって構わない。自分が助かればそれでいい』

『それなのに無理してこんな危険な敵を一人で相手をする選択をした。本当に馬鹿だよね』


果南(うるさい!! そんな事思ってない!!!)


『間違えじゃないでしょ? 私はあなたの“心の声”なんだもの』


果南(っ!!?)


『でもいいの? 戦闘中に自問自答なんかしてさ。隙だらけなんじゃない?』




――ポキッ




果南「――――は?」




星人攻撃をかすめた左腕があり得ない方向に折れ曲がっていた

この程度の痛みは何度も経験している
しかし、今の果南の心を挫くには十分すぎる痛みだった。



果南「や…止め……」



――グシュ!!



今度は左足の脛を踏み潰される



果南「あ゛っ、う゛があああああああ!!!」



残った手足で這うように逃げる



果南「来るな……来ないで…来ないでよおおおお!!!!」



以前までの勇ましく戦っていた彼女の面影はもうない

恐怖で顔を歪ませ
ただただ逃げ惑うだけだった



果南「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…もうやりませんから!! おねがいですからやめてください!!」



この星人に言葉は通じない
ゆっくりと近づき、果南の足を掴んで持ち上げる



果南「―――ッ!! いやだああああああああああ!!! だずげで!! だずげでおどうざん!! おがあ゛ざん!! いやだあああああああ!!!」



果南の助けが両親に届くはずがない
無駄だと分かっていても、追い詰められた彼女は必死に叫ぶ

星人はそんな果南の命を絶つため
その手で果南の頭部を握り潰――






鞠莉「―――かぁぁぁぁなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!」




鞠莉の飛び膝蹴りが星人の顔面に炸裂
怯んだ星人は掴んでいた果南を地面に落とした



ダイヤ「天狗がいきなり絶命したので急いで駆け付けたんですが…これは……」


果南「しにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくない」ガタガタ

鞠莉「果南!! 果南ってば!!!」ユサユサ

果南「こんな敵倒せっこないんだよ!! みんなこの敵に殺されるんだ!!! もうおしまいなんだよ!!!」

果南「こんな化け物を短時間で作り出せる敵に勝てるはずがない! 私達は虫けらみたいに殺される運命なんだ…戦っちゃいけなかった、誰かを救う余裕なんて無かったんだ!!」

果南「チカの言う通りだった……私は……」


鞠莉「…もういいわ」

ダイヤ「ま、鞠莉さん?」

鞠莉「果南はもう十分戦ったわ。どのみちそのケガじゃもう戦えない。後は私達が何とかする」

鞠莉「安心して、私達が果南を守るから」ニコッ


果南「ま…り……?」


鞠莉「だからさ…もうお終いなんて言わないで?」

ダイヤ「そうですわ。勝手に諦められてもらっても困ります」

果南「だ、ダメ…こいつと戦っちゃ…!!」

ダイヤ「果南さんはここで見守っていて下さい。必ず勝って見せますから」カチャッ


鞠莉「ダイヤはXガンで敵の足元を撃って。体勢が崩れた所を私がぶん殴る!!」

ダイヤ「Xガンが効かない以上仕方ありませんわね…その作戦で行きましょう」


果南「何で…何で二人は戦えるの!? どうして怖くないのさ!!?」

鞠莉「…愚問ね。果南だって同じ理由でしょ?」



そう言い残すと、二人は駆け出した
生き残る為にはこの敵の撃退は必至
鞠莉がいかに早く弱点を見つけ出せるか
全てはそこにかかっている



果南(同じ理由…? 私は今まで…自分が死にたくないから戦って……)



鞠莉「おりゃあああ!!!」

星人「…!」グラッ

鞠莉(打撃は通じる! 攻撃さえ当たらなければ大丈夫!!!)

ダイヤ「後方にも気を付けて!」ギョーン!ギョーン!



果南(……違う、私が戦っていた理由はそうじゃない)



鞠莉「くっ! 段々と動きが速くなってない!?」

ダイヤ「一旦下がって!」



果南(最初は自分が生き残れればそれでよかった。でも、曜が私を庇って死んだとき思ったんだ…私の目の前で大切な人が死ぬところを見たくないって)



鞠莉「ダイヤ!! 危ない!!!!」

ダイヤ「がはっ!!!?」グシャ!

鞠莉「このっ!! お前たち! 私を…見ろおおおお!!!!」バキッ



果南(死にたくないって気持ちは嘘じゃない。噓じゃないけど、それ以上に――)グググ




――グラッ



鞠莉「んな!? 足元が!!?」

星人「――!!!」ブンッ!

鞠莉(ヤバ……これ避けられない!?)ゾッ

ダイヤ「鞠莉いいいいいいいい!!!!!」



――ドスッ!!!



鞠莉「……え?」



足場が悪かったせいで体勢を崩した鞠莉。
回避不可能のタイミングで繰り出された攻撃だったが
その攻撃は鞠莉には当たらなかった。

尻餅をつく形で地面に座り込んだ鞠莉の足元には
うつ伏せに倒れている果南の姿があった。
寸前で駆け付けた果南が鞠莉を突き飛ばしたのだ。

一方、ダイヤは鞠莉と果南から敵を離すため
奴らの気を引き付ける。



果南「……」

鞠莉「か、果南! どうして……どうして出てきたのよ!!」

鞠莉「どこ!? どこを攻撃されたの!!?」



抱きかかえるように起こし上げる
果南の背中に手を回すと、ドロッとした生暖かい感触があった。

確認するまでも無い
背中から大量に出血しているのだ。



果南「ま…り……無事?」

鞠莉「何で庇ったりしたの!? 私ならあんなの余裕で避けられた!! 余計な事しないでよ!!!」

果南「えー…決死の覚悟…だったのに……酷くない?」

鞠莉「守るって言ったのに……どうして…!!」

果南「……鞠莉が…死ぬかもって思ったらさ……自然と体が動いたんだ…」

果南「さっきまで無様に…死にたくないって喚いていた…くせに……不思議だよね?」

鞠莉「そうよ!! 果南は生きたかったんでしょ!?」


果南「そう…だよ。でも、それ以上に……鞠莉やダイヤを守りたいと……思ったんだ」

鞠莉「そんなの私やダイヤだって同じよ!! 私達が果南を想っている気持ちを軽く見ないで!!」

果南「へへ…なんか、照れる……な」

果南「それに、私は死なない…よ? 死ぬほど痛いけど…大したケガじゃない、唾でも付けとけば治る…って」ニコッ

鞠莉「果南…」

果南「私は大丈夫…だから、早く…ダイヤの所に……」



ダイヤ「鞠莉さん! 果南さんの容体は!?」

鞠莉「だ、ダイヤ!? 頭をケガしたの!!?」

ダイヤ「ちょっと擦り剥いただけですわ。それより、果南…さん……は…」ゾッ

果南「大丈夫…だってば……!」ニッ




鞠莉「ダイヤ…お願いがあるんだけど」

ダイヤ「お断りしますわ」

鞠莉「えー…断るの早くない!?」

ダイヤ「どーせ、果南さんを連れて逃げろって言うつもりなんでしょう? だったらお断りします。戦うにしても、逃げるにしても、三人一緒ですわ」

鞠莉「…ふふ、ならわざわざお願いする必要も無かったって事ね? 初めからそのつもりよ」


ダイヤ「それで、どうするのですか?」

鞠莉「……逃げよう。このままじゃ三人とも死んじゃう」

ダイヤ「賛成ですわ。ただ、そうやってこの場を逃げるか……」





「――大丈夫、この敵なら私が倒すよ!!!!」




――ザシュッ!!!




星人「!!!?」



一人の少女が後方から飛び出し、敵の肩を斬り落とした。

今までどこを攻撃しても全く効き目が無かった敵に目に見えるダメージが入ったのだ
これだけでも驚愕だったが、それ以上に驚いたのは攻撃した少女の容姿だった。



鞠莉「う、ウソ…でしょ?」

ダイヤ「な…何故、…ええっ!!?」

果南「…はは、久しぶり……だね?」




――

――――

――――――


曜はスコープ越しに戦闘の一部始終を見ていた。

浦女の制服を着た千歌が倒れ込むのを確認した曜は
急いで現地に向かった。

途中、数体の星人と戦闘を余儀なくされた為
駆け付けた時には戦闘が終わってから数分が経過していた。



曜「千歌ちゃん…何を……しているの?」

千歌「見て…分から、ない!?」



千歌は心臓マッサージを施していたのだ



曜「どうして…何の為にそんな事……」

千歌「前に穂乃果さんに聞いたんだ! 星人に操られた仲間の救い方を!!」

曜「!!」

千歌「その中で最も確実な方法を試しているんだよ!」

曜「確実な…方法?」


千歌「精神操作や憑依は生きている生物にしか効果を発揮しない。だから対象者が仮死状態になれば強制的に解除される!!」

千歌「だから、私が戦った。私なら心停止させて仮死状態に出来るから!」

千歌「止まった心臓がもう一度動き出す可能性は高くないのは分かってる…でも、この方法なら千歌を確実に取り戻せるんだ!!」



…曜は喜べなかった。
この事実を知ったタイミングが遅すぎた。
いや、むしろ変な期待をしなくて済んだ分良かったのかもしれない



千歌「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ!」グッグッグッグ!


曜「…千歌ちゃん」


千歌「ふっ、ふっ!」グッグッ!


曜「千歌ちゃん!!」


千歌「なに!! 邪魔しないで!!」


曜「戦闘が終わってから……意識を失ってからもう三分以上過ぎている」


千歌「…だから?」グッグッ


曜「前に講習で習ったんだ…」

曜「仮に今心臓が動き出しても……これだけ無呼吸状態が続いたら…脳に重い後遺症が残っちゃう……」


千歌「……残らない!」グッグッグッグ


曜「そもそも、止まった心臓が心臓マッサージだけでもう一度動き出す可能性なんてほとんど無いんだよ」


千歌「……っ」グッグッグッグ


曜「………だから…だからもう、やめ――」

千歌「やめない! 絶対にやめるもんか!!!!」



千歌は曜の制止を無視して心臓マッサージを続ける

曜の言う通り、再び心臓が動き出したとしても
意識を取り戻す可能性は極めて低い。

心臓マッサージはかなりの体力を消耗する行為だ。
今後の事を考えれば、少しでも体力は残しておくことが重要なのは
千歌自身も重々承知している。


――それでも千歌は、やめない



曜「どうして…」


千歌「はぁ、はぁ……私じゃダメ…なんだよ……」

曜「…?」


千歌「このメンバーにとって“千歌”の存在は私が思っていた以上に大きかった! みんなは優しいから口には出さなかったけど…それでも分かっちゃうよ」

千歌「例え姿形が一緒でも……偽物の私じゃ意味が無い!」




鞠莉『ええっと…つまり、この“高坂千歌さん”は私達の知っている千歌っちとは別人なのね』

花丸『そっか…この千歌さんはマル達の事知らないんだね』

ルビィ『ちょっと寂しいです…』




千歌「――私は…私じゃ“高海 千歌”の代わりになれない!!!!」


曜「…っ!!」


千歌「起きろ…起きてよ!! 目を覚ませばそれでいいんだよ!!」



千歌の体力も限界に近かった
もう一定のリズムでの心臓マッサージは行えず、押し込みも不十分

既に行為として成り立っていなかった。



千歌「……なんで、なんでよ…どうして目を覚まさないの?」ハァハァ

曜「……うぅ」ジワッ


千歌「いい加減帰って来てよ……高海 千歌あああああああ!!!!!!」


千歌「うあああああああああああああああああ!!!!!」




周囲には、少女の悲痛な叫びと
ドン、ドンと拳を叩きつける鈍い音が響くだけだった

高海千歌が、再び意識を取り戻す事は――


















――ドクン…





~~~~~~~~~



善子は壁にあるボタンを見つける度にそれを叩いてシャッターを下す。

負傷した梨子、体力の限界が近い花丸
この二人と一緒に逃げる為には少しでも時間を稼ぐ必要がある。

しかし、追手はそのシャッターを爆破しながら迫ってくる
爆発音はまだ遠いが、その音はどんどん近づいていていた。



善子(このペースじゃ間違いなく追いつかれる……三人で逃げ切るのは不可能ね……)


花丸「はぁ、はぁ……ま、マズいよ……追いつかれちゃう」

梨子「……二人とも聞いて?」

善子「……」

梨子「このまま逃げても、脱出する前に追いつかれるのは目に見えるわ。持っている武器が少ない今の状況じゃ間違いなく三人とも死ぬ」

花丸「そう…だよね……」

梨子「…私は足を怪我しているし、スーツも壊れている。だから――」

善子「リリーを置いて逃げろって言うの?」

梨子「……ええ、その通りよ」

花丸「っ!! それは駄目だよ! 今私達が生きているのは梨子さんが命懸けで戦ってくれたおかげなんだよ!?」

梨子「でも、私のせいで二人も死ぬのなら意味が無いのよ! 逃げ切る体力があってスーツも無事のよっちゃんが花丸ちゃんを連れて行けば助かる。今なら…まだ間に合う……!」

花丸「…い、嫌だ……梨子さんを見捨てて逃げるなんて出来るわけない!!」

善子「……リリーはそれでいいの?」

梨子「…ええ、とっくに覚悟は出来ているわ」


善子「そっか……説得しても無駄みたいね」

花丸「善子ちゃん!? 本気で置いていくつもり!!?」

善子「リリーの言う通り、このままじゃ追いつかれて三人とも生き残れない。誰か一人が犠牲になる必要があるのは間違いない」

花丸「だ、だったら私が――」



善子は花丸が話し終わる前に首根っこを掴み、遠くへ放り投げる
続けて梨子も同様に投げ飛ばした。

スーツが壊れている梨子は全身を強打し、一瞬意識が飛びそうになる



梨子「…がはぁっ……よ……ちゃん……?」

花丸「…え? 何?? 何が起こったの?」



動揺する二人

少し遠くには壁のスイッチを押す善子の姿がある

すると、ガシャンと目の前のシャッターが勢いよく降りた。



花丸「……は? 善子ちゃん!? 何をしているの!!?」


花丸はシャッターに駆け寄る
梨子も少し遅れて追いついた

操作ボタンは善子により破壊されているので開閉は不可能となっている


善子「全く……ここでわざわざみんなで死ぬ必要は無いでしょ?」

花丸「なんで…なんで……」

善子「私がここで追手を食い止める……花丸は梨子を連れて逃げなさい」

花丸「そうじゃない!! 聞きたいのはそれじゃないよ!!!」

善子「…二人を守りながらじゃ無理だけど、私一人なら可能性はある。三人とも生き残るにはこの方法しかない」



梨子「ふざけないで!! よっちゃん一人で勝てるハズないでしょ!?」

善子「……リリー、めっちゃ怒ってるわね? でも顔が全然見えないから、ちっとも怖くないよーだ」ニシシッ

梨子「ここを開けなさい!! 早く開けてよっちゃん!!! ……開けろ善子おおおおおおお!!!!」ドンドン!!!


善子「花丸、力尽くでも梨子を連れて行きなさい。頼んだわよ」

花丸「……でも」

梨子「嫌よ!! 絶対に行かない!!!」



善子「――花丸!!!!」



花丸「……っ」グイッ



花丸は梨子の腕を強引に引っ張る

スーツの機能がまだ残っている花丸の力に梨子は抵抗することは出来ない



梨子「花丸ちゃん!? 何するの!!?」

花丸「早くここから逃げないと善子ちゃんの行為が無駄になっちゃう」

梨子「でも!!」

花丸「信じよう…善子ちゃんは必ず追いついてくる!!」ジワッ

梨子「嫌よ……よっちゃん……よっちゃああああああん!!!!!」




梨子の叫び声がどんどん遠ざかっていく
反対に、爆発音はすぐそこまで近づいていた。

距離的に最後のシャッター前まで迫っているのが分かった



善子(…梨子、花丸、ごめんね? 二人のどっちかを見捨てて生き残るくらいなら、私は二人が生き残る方を選びたかったのよ)

善子(…大丈夫、私なら切り抜けられる。それだけの力は付いているハズ……自分を信じなさい!!)



状況は絶望的だ

武器は僅か
頼れる味方の増援は絶対に来ない
生き残れる確率は極めてゼロに近いだろう

それでも、善子は恐怖に怯える事は無かった


――そして、最後のシャッターが破壊され、大勢の敵が目の前に現れた


敵は禍々しい武器を携えている
どの武器もスーツの防御力以上の威力があるだろう


唯一の武器であるXガンを構えた



善子「――かかって来なさい、あんた達の相手はこの堕天使ヨハネ様よ!!!!」


今回はここまで。次回も不定期更新ですがよろしくお願いします。

~~~~~~~~~


~豊田ジャンクション付近~


イザベラ「おいおいおいもっとスピード出ないのか!? 追いつかれるぞ!!」

ルビィ「無茶言わないで! 障害物避けながら運転しているんだから!!」

イザベラ「クソッ…あと少しで着くっていうのに!!」



T-レックス「GIGAAAAAAAAA!!!!!」



イザベラ「どうして高速道路に恐竜がいるんだよおおお!!!?」ギョーン!ギョーン!

ルビィ「早く倒してよお!」

イザベラ「やってる!! でも、こんな運転で狙いが定まると思うか!?」

ルビィ「でも真っすぐ進むのは無理だって!」

イザベラ「ならこのまま逃げ切るしかない!!」



――ボンッ!!!



イザベラ「ッ!!? 左に避けろ!!!!」

イザベラ「口から火を出しやがった!!」



この恐竜型の星人のブレス攻撃が近くの車に当たり、爆破
その周囲の車も連鎖的しさらに大きな爆発を生み出した。



ルビィ「うわあああああああああ!!!!」

イザベラ「まだ追ってくるか…仕方ない」


イザベラ「しっかりハンドルを握れ! 次の分岐点を右だ!」

ルビィ「み、右!? 高速を降りないの?」

イザベラ「そうだ! 目の前の高いマンションが見えるか?」

ルビィ「あの一番高いあの建物を言っているの?」

イザベラ「あれが目的地だ! 高速を降りて街を走るよりこっちの方が早い!」

ルビィ「早いって…どうやって降りるのさ!?」


イザベラ「……あそこの壁が丁度壊れているな?」ニヤッ

ルビィ「――――ウソでしょ?」ゾッ



イザベラは後ろからバイクのハンドルを乗っ取り、進行方向を固定した
アクセルを全開にして壁の穴から勢いよく飛び出した


ルビィ「ギャアアアアアアアアアア!!!!!!??」ジタバタ

イザベラ「お、おい! その体勢じゃ――」



空中で体勢を整えたイザベラは着地に成功
一方のパニックで冷静さを失っていたルビィは顔面から地面に叩きつけられた



ルビィ「ぐへぇ!!!?」ドシーン


イザベラ「顔面着地って…しっかりしてくれよ」ズーン

ルビィ「う、うりゅ……///」

イザベラ「直ぐ立て! あの恐竜が来る前に――」



――ドスッ……



イザベラ「この……場…から……離れ………え?」

イザベラ「……ごふっ」ボトボト


ルビィ「あ…ああ……」ガタガタ



予期せぬ攻撃だった

背後から何者かの手がイザベラの脇腹に突き刺さる



キマイラ星人「…その服装をした片腕の無い女にはいい思い出が無いんでね。悪いが死んでくれ」ズボッ

イザベラ「……」ドサッ


ルビィ「イザベラさん!!」

キマイラ星人「おいおい、人の心配をしている場合か?」

ルビィ「っ!!?」ビクッ


キマイラ星人(この女…どう見ても雑魚だな。先に片腕の方を仕留めておいて正解だった)

キマイラ星人「下手に抵抗するなよ? 余計に苦しむだけ……」



――ガシッ!!



キマイラ星人「……あ?」

イザベラ「何……勝手に倒した気でいるんだよおおおおおおお!!!!」



イザベラは星人の足を掴み、少し先の自動車へ叩きつけた
すぐさまXガンで自動車を撃って爆発させる。



イザベラ「くっ…痛っうううう」グラッ

ルビィ「私の肩に掴まって下さい! 早くここから……」


イザベラ「…黒澤妹……よく聞け」

イザベラ「この道の突き当りを…右に曲がって、道沿い進め……」

ルビィ「な、何言って…」

イザベラ「暫く進めば正面にマンションの入り口がある……最上階奥の部屋が例の部屋…だ」

ルビィ「…嫌だよ……一緒に行くんでしょ…?」

イザベラ「……私がここで奴の足止めをする」

ルビィ「そのケガじゃ無理に決まってるでしょ! 一緒に逃げるよ!!」



――バチバチッ



イザベラ「ッ!! どけ!!!!」



星人の攻撃を察知したイザベラはルビィを突き飛ばす

直後、高圧電流が彼女の体を襲った
スーツが無ければ一瞬で黒焦げになっただろう。

この電撃を受けてスーツも機能を停止
白目をむいて立ち尽くしていた





イザベラ「……が、……がが……」プスプス

キマイラ星人「……逃がすと思うか?」

ルビィ「ば、爆発に巻き込まれても…死なないの……!?」

キマイラ星人「お前たちに俺は倒せない。諦めるんだな」



イザベラ「――…ルビィいいいいいいいいいい!!!!!!」

ルビィ「ひっ!?」ビクッ

キマイラ星人「ほう…まだ意識があったか」


イザベラ「仲間を…救いたいんだろ! なら、お前は生き残らなきゃダメなんだ!!!」

イザベラ「今すぐ行け…走るんだよ!!!」

ルビィ「で、でも……」



キマイラ星人「ごちゃごちゃうるさい……もう――」



――バンッ!!!



星人の頭部の半分以上が爆発で吹き飛んだ
時間差でその他の部位も連鎖的に爆発し、一瞬でバラバラになった。

Xガンによる狙撃なのは明らか
ただ、攻撃したのはイザベラでもルビィでもない。



ルビィ「だ、誰がやったの…?」


「――間に合いましたね」


二人の背後から、使用人の服装をした女性がXガンを構えながら歩み寄る


イザベラ「……あ、あんた…は?」

「あなたは…イザベラ様ですね?」

イザベラ「どうして名前を…」

「ルビィ様の通信機から声は聞こえていましたので。…遅くなって申し訳ありませんでした」



執事「――ここからは、私に任せて下さい」



――

――――

――――――


鞠莉『――やった…やったわ!! 遂に伊波から一本取れたわ!!!』ワーイ

執事『ふぅ…負けたー。強くなったね、お嬢様』

鞠莉『まあ…“左手しか使わない”“防御不可”“一発でも当てれば勝ち”のルールで10回目にしてやっと勝てたわけだけど』アハハ…

執事『ふふ、本気の私と戦うにはまだ三年早いよ♪』

鞠莉『むぅ…この化け物めぇ』

執事『誉め言葉、として受け取るよ』


鞠莉『それで…約束は覚えている?』

執事『私が何故、鞠莉ちゃんと同じ“黒いスーツ”を持っていたかだったよね』

執事『簡単に言えば、私も鞠莉ちゃんと同じであの部屋のメンバーなんだよ』

鞠莉『…まあ、そうなるわよね』

鞠莉『でも、スーツをまだ持っているって事は部屋から解放されていないんだよね?』

執事『ええ、昨夜もミッションを終わらせてきました』

鞠莉『Really!? 全然気が付かなかったわ…』


執事『――日本に初めてガンツが置かれたのは、北海道、新潟、東京、静岡、大阪、福岡なの。私は、静岡チームに所属していたんだ』

鞠莉『伊波は初期メンバーだったのね』

執事『そうなるね。でも、特別に選ばれたわけじゃないよ。他の人と同じようにミッションが行われる日に偶然死んであの部屋のメンバーになったんだ』


鞠莉『…ん? でもおかしくない?』

鞠莉『伊波は静岡のガンツチームなのよね? だったらどうして今もあの部屋に居ないのよ? 静岡にガンツは二つ置いてあるの??』

執事『うんん。ガンツは東京を除いて各都道府県に一つしか設置されていないよ』

鞠莉『東京を除いて?』


執事『鞠莉ちゃんはこんな事態を想定した事ある?』

鞠莉『?』


執事『ミッションで設定された星人に参加者全員が殺害された場合だよ。出現する星人の強さのランダム性は実感していたでしょ?』

鞠莉『…確かに。目をつぶっても倒せる時もあれば、全滅を覚悟する程強かった時もあったわね……』

執事『それほどの強敵を倒し損ねたミッション……一体誰がその後始末をするんだろうね?』

鞠莉『……考えた事なかった』

執事『そんな緊急事態に対処する為に、ある一定の条件を満たした強者が招集されるガンツの部屋が東京にあるんだよ』

執事『メンバーは大体5、6人ってところだね。いくら強くても死ぬ時は死ぬから、欠員が出ては補充の繰り返しだったからさ』

執事『あー…でも、最後に召集された東京チームの二人は別格だったね。特にサイドテールの子が凄くてさ! 今まで出会ったメンバーの中でもトップクラスの強さだったね』ウンウン


執事『まあ、結論から言えば私は凄く強いんだよ! だから、カタストロフィでは私を上手く使ってね?』ニッ

鞠莉『…頼もしい仲間が身近にいたものね♪』




――――――

――――

――


ルビィ「――い、伊波さん……どうしてここに…?」

執事「皆さんが着けているその端末には、リアルタイムでバイタルチェックする機能が備わっています」

執事「万が一、ピンチに陥った時にガンツの転送機能を使って駆け付ける算段でしたのですが……ルビィ様以外の反応が一斉に消失するという異常事態が発生しました」

ルビィ「それは……」

執事「ああ、大丈夫よ? 事態の経緯は把握済みです」

執事「でもここまで来るのは本当に大変でした…道中至る所で星人や侵略者に絡まれましてね。予定より大幅に遅れてしまいました」



――グチュ…グチュ……



Xガンによりバラバラになった星人の肉片が奇妙な音を立てながら徐々に大きくなっていく。次第に肉片は生物の形となり元の姿を取り戻しつつあった。



ルビィ「!? さ、再生してる!?」

執事「…まあ、想定通りですよ」

イザベラ「お、おい…どうする……つもりだ?」ゼェ…ゼェ…


執事「ルビィ様は今すぐ目的地に向かって下さい。私はあの星人を出来るだけ早く処理して、イザベラ様の治療を行います」

執事「――皆様を救えるのはルビィ様だけです。さあ、行って!!!」

ルビィ「…はい!!」ダッ


ルビィはマンションへ向けて走り出す。

鞠莉の執事である伊波がどうしてXガンを持っていたのか
そもそも、ここまで来るまでに遭遇した敵はどうやって倒したのか

分からない事は沢山ある



ルビィ(それでも…今は信じるしかない! 私は、自分のやるべき事を絶対にやり遂げるんだ!!)



最初の角を曲がり、姿が見えなくなった所で
執事は星人の方向を向きなおす



執事「……さて、そろそろ再生は終わりましたか?」

キマイラ星人「舐めやがって…この俺を処理するだと?」



バチバチと電気を帯電させながら怒りの表情をあらわにする。
そんな星人を見ても執事は顔色一つ変えないどころか、笑みを浮かべていた



執事「貴様“程度”の星人とは何度も戦っている。脅威でも何でもない」

キマイラ星人「――コロスッ!!!!」




激怒した星人は一瞬で執事との距離を詰め、殴りかかる

人間では到底反応できるはずのないスピード
勿論、加減などしていない

そんな攻撃を、執事は避けるのでもなく防ぐのでもなく
その拳に合わせて上段蹴りのカウンター攻撃を繰り出したのだ

スーツのパワーと星人のスピードが合わさり
その蹴りの威力はキマイラ星人の上半身を引きちぎる程


しかし、星人の攻撃は終わらない
引き千切られ、吹き飛ばされる直前に指先から電撃を繰り出す

当たれば即死級の電流
スーツを着ていても無事で済む保証はない
そんな攻撃をほぼゼロ距離で繰り出す



執事「――ふふっ」

キマイラ星人(……おいおい、コイツ本当に人間か!? この距離の電撃を避けるだと!!!?)



そう、避けたのだ。
放電を認知してから反応しては到底間に合わない
執事は敵の攻撃パターンを出会って直ぐに完璧に把握していたのだ

今まで世界中の残党処理、それも毎回100点級の超強敵との戦闘を何年も繰り返し勝ち残ってきた彼女。その経験と技術は並大抵では無かった。



執事「あなたのその再生能力…脳や心臓といった急所の再生にはかなりの体力を使うようですね? さっきバラバラにした時とは明らかに再生スピードが落ちている」

キマイラ星人「…っ!?」

執事「それに血液からの再生は不可能と予想します。Zガンで全身を肉片も残さず一撃で消滅させれば終わりなのですが……生憎、今は持っていません」


執事「――仕方ない、少々時間はかかりますが再生が出来なくなるまで殺し続けましょう」

キマイラ星人「…くっ」ゾワッ



執事「さぁ…残機はあといくつかな?」ニヤッ

~~~~~~~~~



――ここは深い深い闇の中
目を瞑っていても開いても一面黒一色

どっちが上でどっちが下か
右も左も分からない
それどころか自分が立っているのか、倒れているかも分からない

何も無い空間に私という意識だけが存在していた。


理由は分かっている
外から入ってきた悪者に、私の体を乗っ取られたせいだ。

必死に抵抗した

何度も抵抗した

何度も何度も何度も何度も……


――でもダメだった。その結果がこれだ。

もう二度とここから出られない


曜ちゃんに会いたい

梨子ちゃんに会いたい

善子ちゃんに会いたい

ルビィちゃんに会いたい

花丸ちゃんに会いたい

ダイヤさんに会いたい

果南ちゃんに会いたい

鞠莉さんに会いたい



でも…それは無理なお願いみたい。
ならいっその事今すぐにでも死にたい、誰でもいいから私を殺して欲しいと願い続けた

とにかく早く楽になりたかった…



『――やめな―! 絶――やめ―――か!!』



――声が聞こえた
誰かは分からないけど、確かに聞こえたんだ。
馴染み深いというか…いつも聞いている声だった

それから次第に胸元に痛みを感じ始めた
今まで断片的に外の情報が意識に流れ込む事はあったけど
声が聞こえたり、痛みを感じる事は無かった



『――ろ…起き――!! 目を覚ませばそれでいいんだよ!!』



何も無かった空間に小さな光が差し込んだ
その光が大きくなるにつれて声も痛みもハッキリと感じるようになった


この空間で最後に感じたものは
私そっくりの声で泣き叫ぶ声と
胸骨が折れたんじゃないかと思うほどの激痛だった――


~~~~~~~~~


ダイヤの目の前には奇妙な光景が映っていた

敵との間に立ちはだかるように現れた三人

一人は曜
問題は残りの二人だ

背丈や雰囲気は全く同じ
違うのは髪の長さと着ている制服

片方は東京チームから応援できたもう一人の千歌

では…浦女の制服を着たアホ毛を生やしたこの子は一体誰なのか。



ダイヤ「……千歌さん? あなたは千歌さんなんですか!!?」

チカ「……」

千歌「…色々話したい事はあると思いますが、少しだけ待っててください」

曜「チカちゃん! どうやってあの敵の腕を斬ったの!? 今までこっちの武器は全く通用しなかったのに…」


チカ「肩と膝の関節部分と首の後ろの一点に弱点がある! そこを正確に攻撃すれば倒せる!!」

曜「…了解!」


チカ「正確に攻撃しないと効かないからね。…二人とも出来る?」

曜「ふふ、とーぜんでしょ?」ニッ

千歌「さっきあなたに出来た事が私に出来ないと思う?」

チカ「……へへ、要らない心配だったね」

曜「二人とも、行くよ!!」



星人の数は果南が引き付けてきた二体
骨格は人間そっくりだが
3メートル以上の大きさ
皮膚や肉は無く、骨だけの姿をしている。

一目見ただけでは簡単に倒せると思ってしまうだろう
だが、この敵にはXガンやZガンといった銃系統の武器は効果が無い
ガンツソードも当たり所が悪ければ刃こぼれしてしまう程の強度。

攻撃を受けたり、ガンツソードで防御したりしようものなら
その部位をスーツごと引き千切られる。

そんな敵でも弱点はあった
一撃必殺の攻撃を掻い潜りながら、弱点目がけて斬りかかる。


曜と千歌は余裕をもって攻撃を回避しているが、蘇生してから余り時間が経過してないチカは動きにぎこちなさがあった。



チカ(息が苦しいっ…! これ、肋骨ヒビ入ってるんじゃない?)ハァ…ハァ



そんなチカに敵の手刀が振り下ろされる



チカ(ヤバッ!? これ避けられな――)



後ろから首根っこを掴まれ、強引に引き寄せられる
助けたのは千歌だった




チカ「ぐへぇ!!?」

千歌「ったく…世話のかかる“本物”だなぁ」ハァ

チカ「な、なにさ! ちょっと自分の方が動けるからってバカにして!!」

千歌「変だな~少し前のあなたはもうちょっとマシな動きだったのにね」

チカ「きいいぃぃ!! 自分に馬鹿にされるって滅茶苦茶腹立つ!!!」

千歌「へへーんだ、悔しかった私より――」



そんなやり取りをしている二人の頭を曜は地面に叩きつける
ギリギリのタイミングで敵の薙ぎ払い攻撃が三人の頭上を掠めた



千歌・チカ「「ぶへぇ!!?」」ドガッ

曜「二人ともバカなの!!? どっちも大して変わらないから。大差ないから!!」

千歌・チカ「「ご、ごめんなさい……」」



二人を助けた直後
曜は敵の股下をスライディングで潜り抜け背後に回る

そして素早くジャンプして、弱点である首の後ろを斬り付ける

すると、今までびくともしなかった敵の部位が
豆腐のようにあっさりと斬り落とされたのだ。



曜「よし! 倒せる!!!」




千歌「…私達もやるよ!」

チカ「うん、分かってる!!!」



~~~~~~~~~


ダイヤ「信じられない…本当に千歌さんが帰ってきたの?」

果南「良かった…千歌が……元に戻って…さ」



果南の声が一段と弱々しくなっていた
背中にできた大きな傷からは今もどんどん血が流れ出ている



果南「……ねぇ、二人…とも」

鞠莉「…なに?」


果南「…手を握って欲しいな」



二人は果南の右手を包み込む



鞠莉「…これでいい?」

果南「…へへ、温かいなぁ……」


果南「私…さ、ちょっと……疲れちゃって…こんな時……なのに眠いん…だ」

ダイヤ「……っ」

鞠莉「……」

果南「このまま……寝ても、大丈夫…かな?」

鞠莉「…ええ、果南だって言っていたでしょ? こんなの大したケガじゃないって。眠いのは疲れが溜まっただけよ」

鞠莉「目が覚める頃には…きっと全部終わってる。必ず…起こしてあげるわ」

果南「……そっか、なら安心だよ」

ダイヤ「嫌よ……眠っちゃいけませんわ!!」ポロポロ

果南「ダイヤ…大丈夫だって……少し寝る…だけだから」ニッ

果南「だから……寝るまでは…このまま手を握ってて?」


果南「絶対に…起こしてね? 約束……だ………よ…………」

鞠莉「……おやすみなさい、果南」

ダイヤ「……グスッ! か…なん……さん!!」

果南「……」



果南が眠りについたのとほぼ同じタイミングで戦闘を終えた三人が戻って来た
二人の様子から果南がどうなったかはすぐに判断できた。



曜「――果南ちゃん…」

チカ「……」

千歌「辛いのは分かっているけど…今すぐ移動しないと危険です。いつまた転送されてくるか……」


鞠莉「ええ、そうね……でも、もう少し…だけ……待って…」

千歌「…分かりました」


鞠莉「穏やかな顔ね…本当に……眠って…いる……みたい」ポロポロ

鞠莉「うあぁぁ……ああああああああああああああああ!!!!!」


~~~~~~~~~




善子「――はぁ…はぁ……はぁ」



善子の目の前にはおびただしい数の死体が倒れていた

倒しても倒しても増え続けた敵

その増援もようやく収まったのだ


壁に背中を預け、ずずずと引きずりながら座り込む
その壁には善子の血痕がベットリと付いていた

体には無数の銃傷や刺創、熱傷を負っていたのだ



善子「や…やった……やったわ。私は……生き残った……!」



先の戦闘で塞いでいたシャッターは破壊されている
この先を進めば出口に行ける



善子「二人とも、待って……なさい…今……戻る………か…ら」グググ



善子は立ち上がり、歩き出そうとするが……



――ドサッ



善子「あ……れ……?」


うつ伏せに倒れ込む
善子を中心に円形状に血が広がっていった


善子(うわぁ…これ全部私の血かぁ。この量はやばいわ)

善子(死ぬの…? こんな場所で、たった一人で……?)ゾッ



善子「……あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! い、いやだあ゛あ゛あ゛」



善子(死にたくない…独りで……逝きたく……ない)

善子(お願い…誰か……助けてよぉ……)ジワッ



――グイッ



善子の体を引き上げ、肩を抱えられた




善子「…り、リリー? はな……まる…?」


理亞「……残念だったわね。私よ」

善子「ああ…理亞……か……どうして…ここに?」

理亞「…助けに来たのよ。梨子さんと花丸はお姉さまと合流しているから安心しなさい」

善子「そう……無事なの…ね」


理亞「……ごめん。もっと早く駆けつけられれば――」

善子「本当…よ……お陰で…この……ザマ…よ」

理亞「…ごめん」

善子「…なに…よ……妙に……素直…じゃない……?」

理亞「……うるさい。そんな事はどうでもいいから、一緒に戻るわよ」

善子「……あり……が………」ガクンッ

理亞「…善子?」

善子「…」


理亞「………」

理亞「善子…あなたをこんな場所に絶対に置いて行かないわ」

理亞「みんなの所に…帰りましょう……」ポロポロ




善子の意識は暗い闇の中に沈んでいった
こうして一人の少女の人生にピリオドが打たれる

ただ、その表情は、まるで幸福な夢でも見ているような…そんな穏やかなものだった。





――ジジジジジ





~~~~~~~~~


~ガンツの部屋(名古屋)~


曜「――ッ!!? ここは…どこ!?」キョロキョロ

チカ「あれ…? ここって、どこかの部屋じゃない?」

千歌「帰ってきた…の?」



転送された場所は見覚えのあるマンションの一室
ただ、窓から見える風景は見たことが無かった

正面に置かれているガンツからは転送用のレーザーが絶え間なく照射され
続々とメンバーが帰還している



ルビィ「み、みんなぁ!!! やった…私、やったんだよ!!」ウルルウル

曜「ルビィちゃん!!? 無事だったんだね!!」

鞠莉「…腕輪の指示がキチンと伝わっていたみたいね?」

ルビィ「はい! 鞠莉さんからのメッセージが無かったら本当に打つ手なしでした…」


ダイヤ「――…ルビィ!!」ガバッ



ルビィの姿を確認したダイヤは一目散に抱き着いた



ルビィ「ピギャア!? お、お姉ちゃん…?」

ダイヤ「良かった……生きていてくれて本当に…良かった…!」ポロポロ

ルビィ「お姉ちゃん……私も怖かった…もう二度と会えないかと思ったら……う、うええぇぇえん」ポロポロ

鞠莉「ありがとう…ルビィ」


ルビィ「グスンッ……ねぇ、善子ちゃんと果南さんはどうして眠っているの? それにエマさんも見当たらないけど……」

ダイヤ「……っ!」

梨子と花丸は善子の頬を優しく撫でる
その肌からは体温を感じ取る事は出来ず、まるで氷のように冷たかった



花丸「…綺麗な顔だね。本当にただ眠っているだけみたいずら」

梨子「酷いケガ…そんなになるまで戦っていたんだ……痛かったよね? …辛かったよね? ……怖かった…よね?」

梨子「ごめんね……本当に…ごめんね……!」ポロポロ

花丸「うぅ……善子ちゃん!! よ゛し゛こ゛ち゛ゃん!!!」

聖良「……私達は…間に合わなかったんですね……」

理亞「…うん」ポロポロ


ルビィ「善子ちゃんが……死んだ…? じ、じゃあ…果南さんとエマさんも…」

ダイヤ「…ええ、全員で帰ってくる事は出来ませんでした……」

ルビィ「そんな…私がこの部屋に来るのが遅かったせいで……!」ジワッ

曜「ルビィちゃんのせいじゃない!! 誰のせいでも…無いよ」



鞠莉「梨子、今はその足を治療しないと。少し見せて?」

梨子「お願いします」

鞠莉「んー…太ももをマチェットが完全に貫いているわ。止血は問題無いけれど、抜くのは危険ね…場所が場所だから最悪、後遺症が残るかもしれない」

梨子「そう…ですか……」



聖良「あの、さっきから気になっているのですが……」

聖良「どうして千歌さんが二人いるのですか??」

花丸「…そう言えば」

ルビィ「そ、そうだよ! どういう事なの!?」

曜「あー、それはね――」



――ブウゥゥン…



チカ「あれ? ガンツに何か映った…よ!?」

ダイヤ「こ、これって…」

千歌「――みんなっ……!?」ゾッ


――

――――

――――――


~数分前 宇宙船内 大広場~



にこ「――にしても、終わってみれば呆気ない戦争だったわね?」

絵里「事前の備えと国境を越えた協力があってこその勝利だと思うわよ?」

にこ「そうだとしても、異文明との戦争が数日で終わるものなの? てっきり年単位で続くものだと覚悟していたわ」

希「早く終わるに越した事ないやん」

にこ「そうね。ガンツが乗っ取られた時はどうなる事かと思ったけど」


ことり「あっちでアメリカチームと中国チームが戦っているけど…ほっといていいの?」

真姫「問題無いでしょう? 向こうの残りの兵力はあそこにいる数人だけ。戦っているのは穂乃果並の化け物が揃ったトンデモチームなんだし」

花陽「た、確かに…あの人たち強いよね。敵の方も私じゃ絶対に勝てないくらい強いのに、それをわざわざ一対一で相手しているんだもん」

凛「でも真姫ちゃん、穂乃果ちゃんを化け物って言うのはどうかと思うよー」

真姫「でも事実でしょ?」

海未「凛の言う通りです。穂乃果が化け物ですって? それでは化け物が余りにも可哀想です!」

穂乃果「……海未ちゃん? それって擁護したの? それとも馬鹿にしたの??」




絵里「結構長い事並んでいるけれど、中々順番が回って来ないわね」

真姫「動いているガンツがアメリカチームが持ってきた一台だけだからね。そりゃ時間もかかるでしょ」

凛「もうすぐ家に帰れるのか~」

海未「全員で無事に帰る事が出来るのは幸いですね」

花陽「危ない場面もたくさんあったから良かったよ…」フゥ

希「にこっちなんて何度も死にかけたやん?」ニシシ

にこ「はぁ!? そんなわけ無いでしょう!!」

真姫「…少なくとも私は3回助けたわよ?」

凛「私は2回!!」

花陽「わ、私も……」

にこ「ウソでしょ…私が気付かなかった内にどんだけ死んでいるのよ……」

ことり「ま、まあ…その為の仲間なんだし」アハハ


凛「危ない場面が多かったのは、やっぱり千歌ちゃんがいなかったからかな?」

絵里「うーん…確かに、千歌がいたらもっと楽に倒せた場面も多かったかも」

穂乃果「でも、千歌ちゃんには……」

絵里「あ、別に穂乃果を責めているわけじゃ無いわ。千歌をあっちに向かわせる事は全員納得の上だったんですもの」

希「それでも千歌っちが抜けた穴は大きかったね」

真姫「絵里の次位に強いんじゃない?」

絵里「海未とずっと訓練していたら嫌でも強くなるでしょ……」

海未「ふふ、千歌は私が育てました!」

花陽「むむむぅ…最初の師匠は私なのにぃ……」

凛「仕方ないよ。私達は仕事で忙しかったんだからさ」




――ガヤガヤ…




穂乃果「……ねえ、やけに騒がしくない?」

ことり「言われてみれば…」

真姫「色々な言語が混じっているからよく聞き取れないけれど、焦っている感じがする」

海未「一体どうしたって言うので――」



その瞬間、向こうで戦闘していた方角から断末魔のような叫び声が聞こえてきた

その方向を向くと
一人の星人が立っていたのだ。

身長は2メートル強の人間そっくりな見た目の姿
その星人の手には男性の頭部が握られていた。

周辺にはさっきまで戦っていたと思われるアメリカチームと中国チームの無残な死体が転がっている。

手足にプロテクターのような装備をしている以外、武器らしい武器を身に着けていないので全員を素手で倒したのは明白。

その場にいる全員は知らない
彼がこの文明において最も強い事
彼が軍神の異名を持つイヴァ・グーンドである事を。

そんなイヴァと穂乃果は目が合ってしまった。

そしてイヴァの強さを直感する――




穂乃果「――うあああああああああああ!!!!!!」



体が、本能が死を直感していたにも関わらず
穂乃果はガンツソードを展開し、イヴァのもとへ走り出す



イヴァ「ほう…いい眼だ」ニヤッ



穂乃果の斬撃を腕のプロテクターで防ぐ
その後に繰り出される怒涛の攻撃も巧みに捌き続けるイヴァ



イヴァ「……その程度か?」

穂乃果「…ッッ!!!?」ゾワッ



イヴァから放たれる強烈な殺意を感じ取った穂乃果はとっさに防御の姿勢を取る。
だが、防御をした上半身ではなく、右脛を狙ったローキックが炸裂し骨は粉々に砕ける

叫ぶ間も与えずに穂乃果の頭部を掴み取り、地面に叩きつけた




穂乃果「がっっ!!!!?」

イヴァ「――次は…お前だ!!」ダッ

花陽「……え?」



イヴァの足の筋肉が瞬間的に二倍に膨れ上がると
次のターゲットにした花陽へ亜音速で急接近する。

何が起こっているかまだ理解し切れていない花陽
いや、分かっていてもこの速度では回避も防御は出来ない



凛「――かよちん!!!!!!!」



星人が接近するコンマ数秒前
凛の体は反射的に花陽を守る為に、正面に割り込んだ

腕を体の前でクロスして防御の姿勢を取った。



イヴァ「無駄だああああ!!!!!!」



――ボキボキボキッ!!!!!



凛「ッッッッ!!!!!!!?」

花陽「ガッ!!!!?」ザクッ



イヴァの拳は凛と花陽をまとめて吹き飛ばす
直撃を受けた凛の両腕は勿論、庇われた花陽も大ダメージを受けている事は明らか

そのまま近くの建物の壁を突き破り、消えていった



真姫「凛!! 花陽おおお!!!!」


イヴァ「さあ! 次はどいつに………痛っ!?」ズキンッ

イヴァ(足に刀が突き刺さっているだと? 俺の攻撃を直接受けたあの女は両腕でガードしていた……つまり、後ろで庇われた方の女の攻撃か)

イヴァ「フハハ!! 大した女だ!! ただでは死なないかぁ!!!」



足の痛みで怯んだ隙を、絵里と希は見逃さない

希は素早く背後に回り込んで後頭部をガンツソードで
絵里は正面から顔面へ飛び膝蹴りを繰り出す



――パキンッ!!!



希「んな!? 折れた!!!?」

イヴァ「死角の防御は最大の強度を誇るアーマーを使うさ。当然だろう?」ガシッ

絵里(完全に不意を突いたのに…これを掴み取るの!?)



絵里の足を掴み取ったイヴァはそのまま振り回して背後にいる希へぶつける

体勢を崩した希のこめかみに拳を打ち込んでノックアウトした後
掴んでいた絵里を2、3度地面に叩きつけて放り投げた。

地面に倒れた二人は立ち上がる様子は無い


次のターゲットは海未



花陽のおかげで速度は大幅に減速したとは言え
まだ人間の反応速度でギリギリ対応できるスピードだ

流石の海未もイヴァの攻撃を回避は出来ず、二刀でいなすしか無かった



海未「う、うおおおおおおおおおお!!!!!!」ギギギギッ

海未(お、重い!! 常にフルパワーじゃなきゃ…やられる!!)


イヴァ「お前は二刀流か! 面白い!!」

海未「それはどうも!!!!」



イヴァと海未による打ち合いが始まる。

渾身の力で刀を振るう海未
実力は互角のように思えた。
だが、装備の強度がこの戦いに付いてくることが出来なかった

度重なる戦闘で片方のガンツソードが壊れかかっていたのだ。
運悪く、その故障寸前のガンツソードで防御してしまった為
攻撃を受けきれずに直撃する



海未「がはっ!!?」

ヴァ「次ぃぃ!!!」



イヴァが叫んだ直後、頭上から大きな力で押し付けられた
全身の力を込めてこの攻撃に耐える。

にこ、ことり、真姫によるZガンの連射だ。



真姫「よし! このまま押し潰す!!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!

にこ「このっ! このっ! このっ!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!

ことり「お願い……倒れて!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!



イヴァ「はっ!! ぬるいぞ!!!」



集中砲火を受けていたイヴァの姿が消えた

気が付くと、ことり がいた場所にイヴァの姿があったのだ
反撃するチャンスも与えてもらえず、にこと真姫は他のメンバー同様
頭から地面に叩きつけられる。



真姫「~~~~~~ッッッ!!!?」キュウゥゥゥン…

にこ「ッ!!!!」ザクッ



攻撃を受けた瞬間、にこはホルスターに入れていたガンツソードを花陽が刺した方とは逆の足へ突き刺した。



イヴァ「ああ!? やりやがったな!!!」ドゴッ

にこ「ごほあぁ!!!?」キュウゥゥゥン…



トドメの一撃を腹部に受け、そのまま にこ は動かなくなった。

戦闘時間は一分弱
たったそれだけの時間で世界でもトップクラスの実力を誇る東京チームも全滅してしまったのだ。



穂乃果「み、みんな……みんな!!!」

イヴァ「生きていたか…まあいい」


穂乃果を無視し、イヴァは手元の通信機器を操作する



イヴァ「聞こえるか? 今、この声と様子は地上にある全モニターに表示されているはずだ」

イヴァ「私はイヴァ・グーンド。この宇宙船では最高司令官の地位についている」

イヴァ「我々は貴様ら原住民を征服し、この星を乗っ取るつもりだった」

イヴァ「…だが、我々の予想を遥かに上回る貴様らの兵力に圧倒され、それも叶わなくなった」

イヴァ「――認めよう、この戦争は我々の敗北だ。敗者は潔くこの星から出て行こう」


イヴァ「……と言いたいところだが、私にはまだやる事が残っている」

イヴァ「私にはオートラという弟がいた。その弟もこの戦争に参加していたが、とある原住民に殺された。その敵討ちをしなければならない」

イヴァ「…5分待とう。もし時間内に奴が現れなかったり、私に敗北するような事があれば…この宇宙船を爆破して貴様らも道ずれにしてやる」



そう言うと、イヴァもう一度装置を操作して一枚の画像を表示させた。
それは彼が探しているその人物の顔写真だった

その人物は女性だった

その人物は綺麗な赤色の髪で髪形はツインテールだった

その人物は穂乃果も顔を知っている人物だった

そして、人物の名は――



イヴァ「――クロサワ ルビィ…今すぐこの場に来て俺と戦え!!」



~~~~~~~~~

~~~~~~~~~





ルビィ「…ぁあ……わ、私……? え……はっ……ええ?」

千歌「…う、ウソ……しょ?」

曜「いつ…いつそんな敵を倒したの!?」

ルビィ「……わ、分からないよ……覚えてる訳ないよ……」


理亞「……行くのよね?」

ルビィ「……え?」

理亞「だって…このまま行かなかったら宇宙船が爆破されるのよ!?」

鞠莉「生き残った人類のほとんどが死ぬ……でしょうね」

ルビィ「……ぅぁ、はぁ、はぁ、はぁ」



ルビィの呼吸はどんどん早くなる
過呼吸寸前だ



ルビィ(行かなきゃみんなが死んじゃう…でもルビィじゃ絶対に勝てない……勝てなくてもみんな死ぬ……どうしようどうしようどうしようどうしよう)ガクガクガク



ダイヤ「――ダメですわ……絶対に行かせません!!!」

ルビィ「お、ねぇ……ちゃん……?」

鞠莉「ダイヤ……」


ダイヤ「だって……無理に決まっているでしょ!? μ’sのメンバーでも勝てなかったのですよ!!?」

理亞「無視すればみんな死ぬのよ! それでいいの!!?」

ダイヤ「ルビィが負けても結果が同じならばいいじゃない!」

理亞「でも、もしかしたら勝てるかも――」

ダイヤ「本気で言ってますの? ルビィの実力で勝てるわけないでしょ!!!!」



ダイヤの言う通り、ルビィではどんな奇跡が起こったとしても100%勝つことは不可能だ

ルビィに限った話ではない
この場にいるメンバーで勝算のある人物は……




ルビィ「――行くよ」

ダイヤ「………は? る、ルビィ……?」

ルビィ「わ、私が行かきゃみんなが死んじゃうなら……行かなきゃいけない…よね」

ダイヤ「ダメよ! 行く必要は無いと言っているでしょ? お姉ちゃんの言う事を聞きなさい!!」

ルビィ「お姉ちゃん、私だって成長しているんだよ? どうするかは自分で決められる」


ダイヤ「……嫌よ」

ルビィ「ルビィを……信じてよ。例え100回戦って1回しか勝てない相手だとしてもさ、もしかしたら今回は勝てる1回かもしれないでしょ?」

ダイヤ「………嫌です」

ルビィ「だから……お姉ちゃんに笑顔で見送って欲しいな」ニコッ


ダイヤ「嫌っ! お願いだから行かないで!!! ルビィが死ぬなんて絶対に嫌なのよぉ!!!」ポロポロ

ルビィ「……」

ダイヤ「今までワガママは言わないように努めてきました!! でも……でも今回ばかりは無理です!!! 果南さんや善子さんだけでなくルビィまで失いたくないんです……!!」

ダイヤ「みんな一緒に死ぬのなら…それでいいじゃないですかぁ……!」



ルビィに抱き着き、泣き崩れるダイヤ

ダイヤの気持ちは全員が理解できた
結果が変わらないならば、このまま運命を共にするのもいいかもしれない
そんな事を考え始めるメンバーも出始めたが…



ルビィ「…あはは、こんなお姉ちゃん初めてだよ。さっきまで怖くてどうしようもなかったのに、逆に落ち着いちゃったよ」

ダイヤ「ぅう……嫌よ………嫌…ですわ…」

ルビィ「…ごめんお姉ちゃん、それでも私は行くよ」


ダイヤ「っ!? ルビィ……」



ルビィはダイヤの腕を優しく解いた
妹の覚悟を悟ったダイヤはもう抗う事はしなかった

ガンツの目の前まで歩み寄るルビィ
後はあの場所へ転送するように命令するだけだ

大きく息を吸い込み、気持ちを落ち着かせる

そして――



ルビィ「ガンツ、私を――――」



今回はここまで。
恐らく次の更新で完結…かな?


~~~~~~~~~



イヴァ「…遅い」

穂乃果「……まだ時間はあるでしょ?」

イヴァ「黙れ、貴様が生きているのは私の気まぐれだという事を忘れるな」

穂乃果「……っ」



――ジジジジジ



イヴァ「やっと来たか。……ん?」



イヴァの目の前には二人の人間が転送されてきた

一人は赤髪ツインテールの女の子
イヴァの求める人間に似ているようだが、うつ伏せに倒れていて動かない

もう一人はアホ毛の生えた、高校生くらいの少女
この人間は全く見覚えが無い



イヴァ「……クロサワ ルビィはどうした?」

「…ここにいるでしょ?」


少女は倒れている女の子を指さす


イヴァ「どういう意味だ…?」

「分からない? あなたが探しているルビィちゃんはもう死んでるの」

イヴァ「何?」

「あなたの復讐相手はもうこの世にはいない。でも、それで納得はしないよね?」

イヴァ「当然だ。……まさか、貴様が代わりになるとでも言うのか?」



「……話が早くて助かるよ」ニヤッ


イヴァ「…正気か?」

「じゃなきゃ、この場所にいないよ。このまま、あなたに宇宙船を爆破されるわけにはいかないからね」


イヴァ「…いいだろう。代わりに貴様を殺してやる」

「…ふふ、そう簡単には負けない。仮にも人類代表だからね」

イヴァ「……一応聞いておこう、名は何という」

「……私は」




高坂「――私は千歌、“高坂 千歌”だ!!!」





――――――



ルビィ「――ガンツ、私をてりゅ…………ぁぅ」

花丸「ルビィちゃん?」

ルビィ「わ、わた………きゅぅっ!? てん……こひゅっ!?」
(こ、声が出ない!? 呼吸も上手く出来な………くる……しい)ヒューヒュー



再び震えだす体
乱れる呼吸

…行けば必ず死ぬ
この恐怖がルビィの体を蝕んでいた



ルビィ「あ……れ? おかしい…なぁ……どう…して」ガクガクガク



――ポン



ルビィ「…え?」

チカ「…もう、怖いなら無理しないでよね?」ナデナデ


チカは震えるルビィの頭を優しく撫でた


チカ「100回戦って1回勝てるって? ルビィちゃんじゃ一万回やっても全敗するに決まってるじゃん」

ルビィ「…うりゅぅ」ズーン

チカ「……だから、代役を立てよう」

梨子「…代役?」

チカ「そう、ルビィちゃんが戦える状況じゃない事を分かってもらって、別の誰かが戦えばいい」


曜「どうやって説得するのさ?」

チカ「怖くて無理ですって説明しても聞き入れて貰えないのは明白だよね…なら、納得する理由を示せばいい」

曜「?」



チカ「……ルビィちゃんの死体を見せつければいいんだよ。仇の相手が既に死んでいたら、嫌でも納得するでしょ?」


ルビィ「え!!?」ゾワッ

ダイヤ「このっ!!」



チカに殴りかかろうとするダイヤ
千歌はその腕を掴み、制止させる



千歌「待って下さい、チカの話を最後まで聞いて下さい」

ダイヤ「はあ!?」



そんなダイヤを無視し、話を続けるチカ



チカ「ガンツ、ルビィちゃんの身体データは記録しているでしょ? だったら体だけでも複製出来るんじゃない? 出来るなら今すぐ作って」



すると、ガンツから複数のレーザー光線が照射された
それはみるみる人体を形成し、あっという間にチカの要望通りの死体が現れたのだ



理亞「ウソ…ガンツってこんな事も出来たの?」

聖良「チカさんはこの機能があった事を知っていたのですか?」

チカ「い、いや……まさか出来るとはね……」

聖良「…へ?」

鞠莉「ちょっ…もし出来なかったらどうするつもりだったの!?」

チカ「その時は、どっかからルビィちゃんに似ている死体を転送してもらって変装させるつもりだった。正直それしかないと思っていたし」

梨子「なんて罰当たりな……」


花丸「でも、これで次は誰が代わりに戦うか決められるね」

曜「…僅かでも可能性があるメンバーとなると、限られてくるよね……」

梨子「……ええ、そうね」

鞠莉「どうする…の?」

チカ「あぁ、大丈夫大丈夫。誰が行くかは決まってるからさ」


梨子「…は?」

チカ「わた――」
千歌「私が行くよ」

曜「千歌ちゃん!?」


チカ「!? 何言ってんのさ!? どうしてあなたが!!」

千歌「だって、このメンバーで一番強いのは私でしょ?」

チカ「そうじゃない! どうして“千歌”がいく必要があるの!? 私でいいじゃない、私が適任でしょ!!」

千歌「どうして、そう思うの?」


チカ「……そんなの」

千歌「どーせ、刺し違えてでも勝つつもりなんでしょ? って言うか、そもそも生きて帰る気ゼロみたいだし」ヤレヤレ

チカ「だったら…だったら何だって言うのさ! 私は…生きていちゃいけない人間なんだよ!」

千歌「…どうして?」

チカ「だって……だって私は、あの時たくさんの人を殺してしまった! 操られていたなんて言い訳出来ない!! 私は…みんなを……病院にいた罪のない人を……殺したんだよ!!」

チカ「どこかでその償いはしないと……ダメなんだよ!!」


千歌「……そういう理由なら、尚更行かせられないな」

チカ「どうして!?」

千歌「ここであなたに死なれたらさ、私が連れ戻した意味が無くなっちゃうじゃん?」

千歌「私は罪を償わせる為に連れ戻したわけじゃない。ここにいる曜ちゃんやみんなの為に連れ戻したんだ」


千歌「ここに私の…“高坂 千歌”の居場所は無い。みんなにはあなたが必要なんだよ」


チカ「…でも」

千歌「それでも罰を受けなきゃ気が済まないって言うなら、私が代わりに与えるよ」

チカ「?」


千歌「あなたはこれからの人生の全てをかけて、殺めてしまった人々の何十倍の人を笑顔に、そして幸せにするの」

チカ「みんなを…笑顔にする……?」

千歌「途中でやめる事は絶対に許さない。もし、やめたら……今度は死よりも苦しい罰を与えてやるから覚悟して」

チカ「……はは、それは遠慮したいな」



千歌「――うん、分かった。約束するよ」

高坂「よろしい♪ 頑張ってね、千歌」ニコッ




曜「……本当に行っちゃうの?」

高坂「…うん、仲間のピンチでもあるからね」

曜「また…会えるよね?」

高坂「それは……」


曜「いや、違うよね。また会いに行くから! 千歌ちゃんもいつでも会いに来ていいからね!!」

曜「……待ってるからっ!」

高坂「…ありがとう、曜ちゃん」


ルビィ「ち、千歌さん……ごめんなさい」

高坂「ルビィさんは悪くないですよ。私はただ帰るだけですから」

高坂「後、ダイヤさんも罪悪感とか持たなくていいんですからね!」

ダイヤ「!」ドキッ

高坂「大切な妹が危険な場所に行こうとしているのを止めるのは当たり前の事ですよ。ダイヤさんは間違っていないです」ニコッ

ダイヤ「千歌さん……申し訳…ありません……」ジワッ



高坂「みんな…短い間だったけど、私を受け入れてくれて本当にありがとう。とっても幸せでした!!」ニッ



梨子「無事に…帰ってきてね!」

鞠莉「頼んだわよ!!」

花丸「千歌さんならきっと…勝てる!」

聖良「…ご武運を!」

理亞「サクッと倒しちゃってよね?」

曜「……いってらっしゃい」



高坂「…うん、みんなありがとう。行ってきます!!」


高坂「――ガンツ、私を転送して!!」





――ジジジジジ




~~~~~~~~~



穂乃果「千歌ちゃん…どうして戻ってきたの……?」

高坂「どうしてって…仲間がピンチなんだから、駆け付けるに決まってるじゃないですか」

穂乃果「…怖くないの? 人類の運命を背負うんだよ……分かってるの?」


高坂「…別にそんな大層な事は考えてないです」

穂乃果「……?」



高坂「人類を守るとか、世界の運命とか、そんな事はどーーっでもいいの」

高坂「私の戦う理由は一つだけ……身近にいる大切な人を守る。その為ならどんな敵にだって立ち向かう。軍神だろうが、文明だろうが関係ない!」


穂乃果「……死ぬ気?」

高坂「まさか、死ぬ気なんて全くありませんよ。だって……」


高坂「だって、約束しましたから……もう曜ちゃんや…みんなを悲しませるような事はしない。――必ず、勝ちます!!」

穂乃果「…そっか」



イヴァ「そろそろいいか? もう待てないぞ」

高坂「…うん、待たせたね。準備は出来たよ」




両者はゆっくりと歩み寄る

千歌はガンツソードを展開し、イヴァは拳を強く握りしめる


そして二人は激突する

――みんなを……みんなとの明日を守る為の戦いが、始まった



――――――

――――

――



高坂「――はぁっ、はぁっ!! くっ!!!?」ガキンッ!



イヴァは高速で動き回り、千歌へ襲い掛かる

先の戦闘でスピードやパワーは大幅にダウンしているとは言え
ギリギリの戦いが続く

千歌は辛うじて防いでいるが、少しでも気を抜けば終わりだ



イヴァ「どうした!! その程度か!!!」ブンッ!

高坂「っっっ!!!!?」ギンッ!!!



刀の防御がギリギリで間に合う
千歌自身、どうして防ぎ続ける事が出来るのか分からなかった



高坂「調子に…乗るなああ!!!!」ブンッ!



攻撃に転じるも、空振り



高坂「っ!! 速過ぎるんだよ!!!」

イヴァ「はっ!! 貴様が遅いんだ!!!」



イヴァの攻撃が続く


――勝てるビジョンが全く見えない

第三者から見れば、千歌が殺されるのは時間の問題だった
その場にいるガンツチームや地球でこの戦いを観ている人類は死を覚悟し始めていた……



~~~~~~~~~


~UTX スクリーン前~


「だ、誰だよあれ!? 画像の女とは別人だぞ!!?」

「あの制服は音の木坂の生徒だよね!?」

「ふざけんなよ……あんな、見るからに子どもの女の子に任せられるかよ!」

「折角生き残ったのに…あんまりだ……」



千歌とイヴァの戦いは全世界で中継されている

現時点で、千歌は全ガンツチームの中でもトップクラスの実力者に成長していた
一対一でイヴァに勝てる可能性があるのは千歌を含めて五人はいないだろう

だが当然、人類の多くはその事実を知らない

見た目はただの女子高校生

さらに常に劣勢の戦況

絶望するなというのが無理な話である

怒号や嘆きが響き渡る


千歌を応援する者は誰も――



こころ「千歌ちゃん頑張れえええええ!!!!!!」

「っ!?」ビクッ

「……嬢ちゃん」


こころ「お願い…お願いだから死なないで!! 帰って来てよ!!!!!」ポロポロ

こころ「負けないで……負けるなあああああ!!!!!」




――イヴァの頬を刀が掠めた

それだけではない。素人目から見ても防御の面でも徐々に安定感が出始めていた

押されている状況は変わらない

しかし、かすり傷程度ではあるものの、攻撃が通る



「…おい! 今、傷がっ!?」

「あの子の攻撃が…当たり始めてる……」

こころ「千歌ちゃん!!」





~内浦 小原家シェルター内~


美渡「…ちょっ、千歌!? どうしてあの子があんな場所にいるの!!?」

志満「…生きていた……千歌ちゃんは、生きていた……っ!!」

美渡「で、でも…あんな化け物に勝てるわけないじゃん!? あの千歌だよ!!?」

志満「……っ」



千歌母「――全く、今までどこに行ってるかと思ったら……あれから三年くらい経ったと思うけど、あんまり変わってないのね」

美渡「何でそんなに冷静なの!? 今まさに千歌が殺されそうになっているんだよ!!」

千歌母「…私達がここで騒いでも、仕方ないでしょ? 大丈夫よ、あの子は死なないわ」


美渡「…何で…何で言い切れるの?」

千歌母「……愚問ね。自分の娘を信じない母親がいると思う?」

美渡「……うぅ」

千歌母「あの子だって馬鹿じゃない、勝ち目があるから立ち向かったのよ」

志満「…信じよう、きっと無事に帰ってくる」


美渡「……このバカ千歌っ!! 散々心配させやがって…絶対にぶん殴ってやるから、さっさとそんな奴ぶっ倒して帰ってこい!!!!」

千歌母(……千歌っ!!)





圧倒的な実力差で勝負は一瞬で決まると、誰もが思っていた

しかし、千歌の必死に食らいつく姿を目の当たりにした彼らの心境は変化し始めた



――あの子…意外と強いのかも?


――当たる……攻撃が当たってるよ!


――ひょっとしたら……いける!?


――勝って!

――頑張れ!!

――頑張れ!!!!!




奇跡を信じて祈る者

声を枯らしながら声援を送る者


千歌の勝利を願い、人々は一つになり始めていた




――グシャ




――現実は甘くない
ルビィや梨子達の実力では何度挑んでも勝つことは不可能だ

それに比べれば、確かに千歌はイヴァに勝つ可能性がある

可能性がある“だけ“なのだ


あらゆる状況が重なり合い、かつ最高のコンディションで挑んだ場合だとしても、千歌が一対一で勝利する可能性は10%未満だろう

そんな都合のいい状況が、このたった一度の戦闘に訪れるハズが無かった


世界中のスクリーンにはイヴァの渾身の一撃が千歌の腹部に炸裂した映像が流れる――




~~~~~~~~~



高坂「~~~~~っっっ!!!!」



後方に吹き飛ばされ、地面に転がる

直後、腹の中で爆弾が爆発したような痛みが襲い掛かった



高坂「ゴホッ……オエェェッ!! あがあぁあッ!!?」ボトボト




口元から大量の血液が溢れ出す

内臓に致命的なダメージを負ったのは明らかだった


その様子は、曜達の部屋でも映し出されていた



梨子「う…そ……」ゾワッ

ルビィ「ち、千歌さんが……千歌さんが……」ガクガク

ダイヤ「あ……ああぁ………」


鞠莉「曜! 今ならまだ間に合うわ!!」

曜「っ!! ガンツ!!! 今すぐ私を転送して!!!」



このままでは千歌が殺される

イヴァの言う決闘はこれで勝敗がついた

ここから先は部外者が乱入しても文句は無いハズだ

急いで助けに行こうとするが……



曜「……何で転送が始まらないの!? 早くしてよ、ねえ!!!!」ドンッ!

曜「このままじゃ……千歌ちゃんが…お願いだから、転送してよ………ガンツ!!!!」ポロポロ




千歌「何やってるんだよ!!!!!!」



千歌の一喝が部屋中に響き渡る



千歌「勝てる自信があったんでしょ……また会うって約束したじゃん…!! だったら、ちゃんと守ってよ! ……守れよ!!」ポロポロ


曜「千歌…ちゃん?」


千歌「立て……立ち上がってよ………立てええええええええ!!!!!」



~~~~~~~~~



イヴァ「……手応えアリだ。即死しなかったのは奇跡的だったな」

イヴァ「待っていろ、今楽にしてやる」


高坂「がっ……まだ……だ……っ!!」ググググ
(お願い…頑張ってよ! ここで負けるわけにはいかないんだよ!!!)



必死に立ち上がろうとする千歌だが、受けたダメージは深刻だ
激痛で力が入らない



高坂「ゴフッ!? ごほっ!!」ビシャビシャ
(や、ヤバイ……痛みで意識…が………飛ぶ……)




イヴァはもう目の前まで迫っていた

拳を固め、大きく振り上げる



高坂(動け…動け動け動け動け、動けえええええ!!!!)ググググ



イヴァ「――死ね!!!」シュッ!







――ガキンッ!






高坂・イヴァ「「!!!?」」



イヴァの振り下ろした拳が弾かれた

千歌が防いだのではない


千歌とイヴァの間に割って入ってきた人物がいたのだ


突然の事態に、思わず距離を取るイヴァ

この絶体絶命のピンチに駆け付けたのは――




花陽「……ゼェ 大…丈夫? ゼェ……千歌ちゃん……!」

高坂「……は、花陽……さんっ!!」



イヴァ「貴様…よく生きていたな?」

花陽「凛ちゃんが…庇ってくれた……から…ね」ゼェゼェ



千歌(頭からの出血がひどい……花陽さんはもう戦える体じゃないのに、どうして!?)


花陽「ち…か……ちゃんは……わた…し……たち……が………ま……」ドサッ



花陽は力尽き、膝から崩れ落ちた

千歌の思った通り、花陽は既に戦える状態では無かった

頭を強く打ち、意識は朦朧
全身もボロボロで何故今まで動けたのか不思議なくらいだ



高坂「花陽さん……花陽さん!!!」

花陽「……」


イヴァ「…死んだか。こいつのおかげで無駄に生き延びたな」


高坂(大丈夫…花陽さんの息はまだある!! でも…せっかく助けてもらったのに……このままじゃ無意味になっちゃう)





海未「――よくやりましたね…花陽!!!」ビュン!

イヴァ「!!?」ガキン



海未が斬りかかる

先ほどの攻撃で両手を負傷し、武器は握られなくなっていたハズなのだが
右手にガンツソードを布で固定して無理やり握っている

目に見えるケガは少ないが、骨折やヒビといった外傷を負っていた



海未「絵里!! 援護をお願いします!!!!」

絵里「任せなさい!!!」



高坂「海未さん…絵里さん……!!」



――プシュ…



背後から首筋に注射をされる
振り返るとそこには、希の姿があった

頭からは大量の血が流れ出ており、目の焦点も合っていない



高坂「の…ぞみ……さん?」

希「へへ……痛覚を消す薬を打った。これでもう少しだけ無理できるやん?」

希「でも…一本しか無かったこれを海未ちゃんと えりち にも使ったから、効き始めと持続時間は極端に短い……すぐに決めてね?」


高坂「……他のメンバーは…どうなったんですか?」

希「大…丈夫や。真姫ちゃん曰く、瀕死の重傷の子もいるけど……まだ間に合う」

希「今はスーツが壊れてないあの二人が戦っているけど…海未ちゃんは握れない右手にガンツソードを巻き付けて戦っているし、えりちに関してはほとんど目が見えて無い……」

高坂「んな!?」

希「だから…二人は命懸けで時間稼ぎをしてるんや……千歌っちの為にね?」

高坂「……」

希「でも……気張らなくてええ…よ。死ぬ時も…生きる時も……みん…な……一緒………や………」ガクッ

高坂「希さん!! ……くっ」



希が気を失うと同時に
穂乃果が近くまで移動してきた



穂乃果「動けるようになった?」

高坂「穂乃果さん……もうすぐ動けそうです」

穂乃果「よし……私が何とかして奴に大きな隙を作る。この足だから作れても一瞬だけしか無理だと思う……チャンスは一度だけ」

穂乃果「……千歌ちゃん、行ける?」



高坂「――…一瞬あれば十分です。必ず決めます……!!」





イヴァ「この……死にぞこないがああああ!!!!」グシャ

海未「ギャアッ!!!!?」キュウゥゥゥン…

絵里「ブグッッ!!!!!!」キュウゥゥゥン…



イヴァの拳で今度こそ戦闘不能となった絵里と海未
流石の彼も連戦続きで体力をかなり消耗していた



イヴァ「はぁ……はぁ、手こずらせやがって」



再度、千歌にトドメを刺しに行こうとする



穂乃果「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!」ドゴッ!!

イヴァ「何いい!!!!?」ゴホッ



穂乃果はスーツのパワーを最大に溜め、体当たり攻撃をしたのだ。
イヴァが回避出来なかったのは穂乃果がステルスモードを使用していたせいだ

イヴァほどの強敵となると、例えステルスモードを使用しても
攻撃の際に本人から発せられる殺気でバレてしまうので、有効な手段にはならない。

だが、今回は違う
この体当たり攻撃には殺気の類は一切なかった
だから回避出来なかったのだ

穂乃果の狙いはただ一つ
イヴァの態勢を大きく崩すこと



穂乃果「――…千歌!!!!!!!」

高坂「いっけえええええええええええええええええええ!!!!」



――――――


どんな人間でも大なり小なり他人とは優れた特技がある

曜で言えば飛び込み
梨子で言えばピアノ
花陽で言えば折り紙
ことりで言えば衣装作り

他には計算が速かったり、大食いだったり、スポーツが得意だったり
何かしら特技がある。

自らを普通怪獣と名乗る千歌にも勿論、特技はあった

沼津港戦、秋葉原戦、自身との戦い

その特技によって何度も窮地を脱したのだ


――千歌の特技はソフトボール
投擲に関しては他の人より優れている自信があった



――――――


イヴァ「――ゴホオッ!!!?」



千歌が放ったガンツソードはイヴァの喉を貫いた
即死とまではいかないが、間違いなく致命傷だ



高坂「はぁ…はぁ……くっ、ごほっ!!?」ベチャベチャ
(もう薬の効果が切れかかってる……)

イヴァ「き、貴様……よくも…!!!」



――ガシッ



イヴァ「!?」



立ち上がった穂乃果は、イヴァに突き刺さったガンツソードの柄を握る
そして、勢いよく引き抜いた。

傷口からは噴水ように血が噴き出し、そのままイヴァは動かなくなった。 



穂乃果「……終わった…みんな、終わったよ……」

穂乃果「千歌ちゃんが世界を……みんなを救ったんだ!! 千歌ちゃん!!!」

穂乃果「………………千歌ちゃん?」








――――――――――――
――――――――――
――――――――
――――――
――――
――


「………すぅ、……すぅ、……すぅ」

「――い、お――よ! ――ゃん!!」

「……ん、……すぅ」



「――…千歌ちゃん!! そろそろ起きてよ!!」

千歌「……ほぇ? なぁーに…曜ちゃん……」ポケー

曜「ほら、もうすぐ着くから降りる準備して?」

千歌「……え!? もう着いちゃうの!?」

曜「そうだよ。千歌ちゃん爆睡だったもんね」

千歌「あはは…昨日の夜は緊張して眠れなかったからさ」

曜「しっかりしてよね? ほら、スカーフ直すからこっち向いて」

千歌「えへへ、ありがとう」


曜「よし出来た! ……この緑色のスカーフを付けていられるのももう少しで終わりなんだよね」

千歌「うん…私ももうすぐ卒業だもん」




~~~~~~~~~


曜「――…じゃあ、私はちょっと用事があるから会場で合流ね?」

千歌「うん! また後でね~」ヒラヒラ



千歌「……さて、確かアキバドームはこの道沿いに進めばいいんだよね?」



曜と別れた千歌が目的地に向かおうと歩き出すが…



――ドン!



千歌「うわ!! ごめんなさ――」ガシャン!

「…あ」

千歌「……え? 腕が落ち……え゛え゛!!!?」

「い、いや…気にしないでくれ。最近義手の調子が悪くて外れやすくなっているんだ。驚かしてしまって申し訳ない」

千歌「ああー…義手なんですね」ホッ



「………」ジーッ

千歌「……な、何ですか?」

「…なぁ、私達って前にどこかで会わなかったか?」

千歌「へ? うーーーん……会いました??」

「気のせい…か。すまん、忘れてくれ」ピピピ

千歌「電話鳴ってますよ?」

「ん? ああ、ありがとう。引き留めてしまって悪いな。これで失礼するよ」

千歌「?」キョトン




「……もしもし? 待ち合わせ時間に遅れるとはどういうことだ?」

「何? 電車の遅延だって? ……なら仕方ないな」

「なら適当に近くをふらふらして待っているよ。着いたらまた連絡をくれ」

「――じゃあな、ルビィ」




~~~~~~~~~


千歌(さっきの人…誰だったんだろう? 義手の女性なんて絶対に忘れないと思うんだけどなぁ)



サングラスの女性「あ、あれれ? どこに落としちゃったのかしら?」アセアセ

千歌「…どうかされましたか?」

サングラスの女性「!」

千歌「ん?」

サングラスの女性「あ、ああ……この辺りに携帯を落としたんだけれど、それが見つからなくてね」

千歌「携帯ですか? それならすぐそこにあるじゃないですか……はい、どうぞ」

サングラスの女性「おお、ハラショー! 助かったわ♪」

千歌「いえいえ……あの、目が見えないんですか?」

サングラスの女性「…ええ、ちょっと前にケガをてしまってね。完全に真っ暗って訳じゃないけど、ぼやけて何も判断出来ないの」

千歌「そうですか……」


サングラスの女性「…あなた、スクールアイドルの高海千歌さんでしょ?」

千歌「えっ……私の事知っているんですか!!?」

サングラスの女性「勿論♪ 今日だってライブを見る為に来たんだから!」

サングラスの女性「こんな目だから衣装とかダンスは見る事は出来ないけれど…その素敵な歌声にいつも元気を貰っているわ」

サングラスの女性「ライブ…楽しみにしている。頑張ってね♪」ニコッ

千歌「っ!! ありがとうございます!!! 精一杯頑張ります!!」ジワッ




サングラスの女性「――…ふふ、流石に声だけじゃ分からないか」

「おーい えりち、待った?」

サングラスの女性「…いいえ? 丁度今来たところ」

「あれ? なんだかご機嫌やん! いい事でもあったん?」

サングラスの女性「まあね? 可愛いスクールアイドルと会えたからね♪」




~~~~~~~~~


千歌「ほえ~~…これがアキバドームか。おっきいなぁ」


曜「千歌ちゃ~ん!! こっちこっち!」

千歌「曜ちゃん! それに梨子ちゃんも!!」

梨子「ふふ、久しぶりね?」

千歌「わざわざ来てくれたんだね! 嬉しいよ!!」

梨子「だって今日は決勝大会でしょ? 見に行かないわけないじゃない」

曜「他のみんなも来るってさ! 全員で応援しちゃうよ~~!」


梨子「それにしても…ラブライブ初出場でいきなり決勝まで進めるとはね」

千歌「えへへ…でも私一人の力じゃない」

千歌「花丸ちゃんに作詞を手伝ってもらって、梨子ちゃんが作曲してくれて、曜ちゃんとルビィちゃんが衣装を作ってくれて、ダイヤさん、理亞さん、聖良さんにダンスを指導してもらって、鞠莉さんが学校全体で応援してくれたおかげだよ」

曜「まあ、現役のトップアイドルに指導してもらうっていうのは若干反則だったと思うけど」アハハ

梨子「あの二人って、今回の大会の特別審査員なんだよね?」

千歌「そうだよ。あとは同じくトップアイドルグループの“にこりんぱな”とピアニストの西木野さんが審査員だった」

曜「審査員といいスポンサーといい…知ってる人が多いね」

梨子「スポンサーにはオハラグループが加わっているんだったよね。後は最近人気急上昇のファッションブランドの“リトル・バード”のオーナーがそうだったハズ」

曜「この二社がいなかったらこんなに早くラブライブが開催されることは無かったんだよね…」

千歌「うん…鞠莉さん達や大会を運営してくれる人たちには本当に感謝してる」




曜「あーあ、私も千歌ちゃんと一緒にスクールアイドルやりたかったなぁ……」

千歌「曜ちゃん…」

梨子「多分、他のみんなも同じ気持ちだったと思うわよ?」

梨子「あの後色々大変だったけど…千歌ちゃんがスクールアイドルを始めるって聞いて、それのお手伝いを引き受けて……まるで高校時代に戻った感じだった」

曜「もし…あの部屋での戦いが無い世界で私達が出会っていたら、多分私達は内浦でスクールアイドルをしていた……うんん、きっとやっていたよ!!」

千歌「……うん」


梨子「でも、この世界に生まれたことは後悔してないんだ」

曜「そうだね」ウンウン

千歌「なんで?」

梨子「だって、ガンツが無かったら…私達は出会う前に死んじゃっているんだもん」

千歌「…確かに。それは困るね」フフ


曜「千歌ちゃんには私達の分までスクールアイドルを楽しんで欲しい。例え優勝できなくても、それで満足だからさ!!」

梨子「楽しんで来てね!!」

千歌「うん! 行ってくるね!!」


――――――

――――

――


「――…5分前でーす。準備お願いしまーす」


千歌「……そろそろだね」



控室で待機していた千歌
スタッフからの指示を受けて、すっと立ち上がる
曜とルビィに作って貰った衣装は当人達曰くこれまでの中で最高傑作
歌詞も曲もダンスも完成度は非常に高い
舞台は整った
あとはベストを尽くすだけだ



千歌(プレッシャーには強い方だけど……命がかかった時とは全く別の感覚なんだよね。こういう時、グループが羨ましいと思うよ)トホホ



「――…ひっどい顔。本当にアイドルなの?」

千歌「……何さ、あなただって同じ顔でしょ? っていうか、どうやって入って来たの?」

「関係者の出入り口から普通には入れたよ? 正しく顔パスだったね」

千歌「…もう体の方は大丈夫なの?」

「うん、もうすっかり治った。元気にやってるよ」

「あの……ありがとうね?」

千歌「何が?」

「あの時、あなたが血とか臓器を提供してくれなかったら間違いなく死んでた……ねえ、どうして本物のあなたが偽物の私にそんな事したの? そのせいであなたは体に傷まで残っちゃったんだよ?」

千歌「人を助けるのに理由がいる? 助けたいから助けたの。ただ、まぁ……」

「?」

千歌「……あなたには見届ける義務があるでしょ? 勝手に死なれたら私が困るんだよ」プィッ

「……」

千歌「…私の歌で、この会場にいるみんなを今日一番の笑顔にしてみせる」

千歌「――だから、観ててね?」

「……うん、分かった。しっかり見届ける」ニッ

「あー、ある人から伝言を預かっているんだ」

千歌「伝言?」


「あーあ、ごほんっ……『千歌ちゃん、ファイトだよっ!!!』」

千歌「…ふふ、あははははは!! 似てないね!!」ケラケラ

「だぁもう!! 早く行ってよ!!///」

千歌「――…うん、行ってきます」ニコッ







「――…続いては、決勝大会最後の出場選手。大会では珍しいソロでのエントリーにも関わらず、その圧倒的な歌唱力とダンスで初出場ながらも見事ラブライブ本戦まで勝ち残りました!」

「では登場して頂きましょう!! 浦の星女学院スクールアイドル部3年、高海 千歌さんです!!!」




――END





鞠莉「――…久しぶりね、果南、善子」


鞠莉「学校の再建とか色々忙しくってね…中々来られなくてごめんね」


鞠莉「あの戦争が終わって……果南が死んでからもう二年も経つのよ? 時間の流れってホントあっという間よね」


鞠莉「街もすっかり元通りになったわ。戦争が行われていた期間が極端に短かったのが幸いして、案外復興も早かった」


鞠莉「千歌っちはもう一度浦女の二年生として再入学して、この春に卒業するの。何だか不思議な感覚だわ」


鞠莉「そうそう、千歌っちスクールアイドルを始めたのよ! しかもその大会であるラブライブの決勝まで勝ち残ってね…今日がその日なのよ」


鞠莉「みんなそれぞれの道に進んでいってね…内浦に残っているのは私とダイヤと千歌っちしかいないわ」


鞠莉「……」



鞠莉「……そろそろ、約束を果たそうと思うの」


鞠莉「苦労したのよ? 伊波が沼津にあったバラバラになったガンツを全部回収して、そこからメモリーとか諸々修復して……それでも足りない外部パーツは一から自作したんだから!!」


鞠莉「名古屋にあったガンツが使えれば楽だったんだけれど…戦争が終わった直後に全世界のガンツが使用不可になってね。その前に壊れていたあれだけが無事だったって訳」


鞠莉「その修理もついさっき終わった。もうすぐ…会えるわ」


鞠莉「二年間も待たせてごめんね……」


鞠莉「起きたら急いで会場に向かうわよ! みんなで一緒に千歌っちを応援しなくっちゃ♪」


鞠莉「……じゃあ、起こすわね?」




鞠莉「――コール、ガンツ…松浦 果南と津島善子を……生き返らせて」




――ジジジジジ






――True End

GANTZ×ラブライブの作品は以上で完結です!

本来書く予定の無かった原作最終章にあたるこのカタストロフィ編
前作でちょこちょこ書いていた展開とは異なる所もあったと思いますがいかがだったでしょうか?

これまで読んでくれた方、コメントで感想や批評をしてくれた方
本当にありがとうございました!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2018年01月18日 (木) 22:17:58   ID: TRP5RD7q

いい作品ありがとうございました!!!!

2 :  SS好きの774さん   2018年03月04日 (日) 18:08:42   ID: MTMQNIka

とても面白かったです!
欲を言えば、何書いてほしいです。

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